1

第二次聖杯戦争②〜慢心こそ最大の毒

作者：メリーさんのアモル

●シルバーレイン - 日本石川県金沢市 - 竪町商店街
「防衛線が突破されたか」
　最初にそれを検知した時、騎士の心にあったのは驚きだった。
「まぁ、湧き出る木っ端だけでは厳しいのは必然か」
　騎士は槍を構える。
「ならば俺自らが出よう！　猟兵とやらが如何なる奴かは知らんが、まさか当時の銀誓館より強いということは無かろう。ならば勝てる！　クハハハハ……！」
　騎士はさらなる防衛線を張るのではなく、前に出ることを選んだ。

●グリモアベース
「先程は竪町商店街の防衛線突破、ありがとうございます」
　グリモアベースに集まった猟兵に挨拶するのはムゲン・ワールド（愛に生きたナイトメア適合者・f36307）だ。
「防衛線を突破した結果、背徳のラダガストは自らが前に出ての戦闘を選んだようです」
　つまり、我々が直接竪町商店街に陣取る敵部隊の首魁を叩ける状態になった、ということだ。
「前回の作戦の折に話したとおり、本当ならこんな短絡的な人間ではなかったはずなのですが、予知で言動を見る限り、かなり慢心した性格になっているようです。逆に言えば、そこに付け入る隙がありそうですね」
　とムゲンは続ける。
　相手の主武装は槍。生前の記録の通りなら、清廉騎士カリストから与えられた槍だ。
　槍術自体、慢心するだけのことはあり、かなりの腕前らしく、うまく慢心を利用しないと難しいかもしれない。
　その他、非常識な行動を囁くドクター・オロチの幻影から指示をもらい、それに従うと行動成功率が大幅に高まったり、ゴーストウルフと合体することで、攻撃力を増加させる咆哮や追尾式の十字架型紋様で攻撃してきたり、勝利への確信度合いによって強さが変動する無敵の狼獣人に変身したりするらしい。
「相手は自信過剰ですから、勝利へはかなり確信しています。最後のユーベルコードを相手取る時は精神攻撃は必須かもしれませんね」
　とムゲン。
「それから、引き続き土蜘蛛オブリビオンが支援してくれるそうです。と言っても、相手は強敵。単なる土蜘蛛オブリビオンでは荷が重いということで、眞由璃さんが直々に支援に来てくれるそうですよ」
　眞由璃は猟兵が同盟を結んでいる奈良県五條市の土蜘蛛オブリビオンの女王で、様々な事情からメイド服を着ているのが特徴だ。
　眞由璃は相手を殴って爆破させる「紅蓮撃」や、相手の腕力を奪う蜘蛛の巣を張る「土蜘蛛の檻」などの攻撃を使って支援してくれるそうだ。
　ただ、自分がやられれば、土蜘蛛オブリビオンは崩壊してしまうため、自分の命をあまりに危険に晒すような提案には乗ってこない可能性がある。
　とはいえ、先日の虹野・美空の件で感謝しているため、結構な無茶でも付き合ってくれるつもりはあるようだ。
「説明できる事は以上です。引き続き頑張っていきましょう」
　ムゲンはそう締めくくると、仕込み杖をすらりと抜き放ち、空間を切り裂くように、転送ゲートを開く。その先は、竪町商店街だ。

第1章 ボス戦 『背徳のラダガスト』

POW   :    背徳の十騎士 常識的な行動を囁く【生前の自分の幻影】と、非常識な行動を囁く【『ドクター・オロチ』の幻影】が現れる。［『ドクター・オロチ』の幻影］に従うと行動成功率が8倍になる。 SPD   :    旋律のヴァンパイアハンター 【召喚したゴーストウルフ】と合体し、攻撃力を増加する【人狼騎士の咆哮】と、レベルｍ以内の敵を自動追尾する【十字架型の紋様】が使用可能になる。 WIZ   :    呪装ライカンスロープ 【無敵の狼獣人】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【勝利への確信度合い】に比例し、［勝利への確信度合い］が損なわれると急速に弱体化する。 イラスト：木田 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

「慢心駄目！　絶対！　と味方になら言うんだろうけど…敵ならば良いぞもっとやれ！　ってなるやつ。良いぞもっとやれ」
　などと呟きながら商店街に降り立つのは月夜・玲（頂の探究者・f01605）だ。
「……クハハハ、現れたな猟兵」
　玲を視認し、武器を構えるラダガストに、玲は相手の使うユーベルコードについて触れる。
「君ほどの騎士だ、きっと幻影の助言に従わなくても強いんだろうな」
「ん？　当然だ。俺は助言などなくとも強い」
　その言葉に首肯するラダガスト。
「まあ、従った方が確実に勝てるから従うんだろうけど」
「確かに、俺は俺は勝てる戦いが好きだ！　幻影の助言も使い、確実に勝つ！」
　ラダガストはユーベルコードを発動させ、生前の自分とドクター・オロチの二体の幻影がラダガストの左右に出現する。
「けど……君自身の強さを見てみたかったなー、助言に従うような君じゃなくて！」
　その様子を見て、ここぞとばかりに玲は挑発する。
「これは挑発です。落ち着いて下さい。冷静さを保つのです」
「ムシュムシュ、ここは敢えて挑発に乗るのが良いんじゃないかな。怒りに任せてやっちゃおうよ」
　生前の自分とドクター・オロチがそれぞれ助言するが。
「ええい、うるさい。私は自分自身の強さを証明してやる、ユーベルコードの使用はキャンセルだ」
　どうせ挑発に乗るのなら、ドクター・オロチの助言に従っておけば良かったものを、わざわざラダガストはユーベルコードの使用自体をキャンセルし、玲に向けて踏み込む。
　それを狙い通りとばかりに、玲は《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀。
　踏み込んで放ってくるラダガストの突きを確実に《RE》Incarnationで受け止め、一気に踏み込んで、Blue Birdで攻撃する。
　ラダガストはこれを後ろに下がることでダメージを最小限に抑えるが、ここで距離を取ったのは失策だった。
「出力上昇、雷刃形成」
　玲は即座に、『Code:T.S』を起動。ラダガストの槍より長い雷刃を出力し、二本の剣で連続攻撃を開始する。
　距離を取ってしまったラダガストに対し、槍の射程外ギリギリから玲の連撃が突き刺さる。
「悪いけど……間合いは此方の方が上！　さあさあ、君自身の力をもっと見せてよ。他人任せじゃなくてさ！」
　ラダガストは何度となく踏み込む、攻撃を敢行するが、それにあわせて玲が距離を取り続ければ、もはやラダガストに攻撃の機会はない。
　慢心せしラダガストは初戦から大きく猟兵に圧倒される結果になった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

（さてー、慢心とは。感心しませんねー。まあ、敵なので指摘しませんが）
　そんな事を考えつつ降り立つのは四人で一人の複合型悪霊、馬県・義透（死天山彷徨う四悪霊・f28057）だ。現在は『疾き者』外邨・義紘の人格が前に出ているようだ。
　――因果は巡りて回る。どこまでも。
　義紘は商店街に降り立つと同時、全身を四悪霊の呪詛で多い、戦闘力を向上させていく。
「クハハハ！　早速強化とはいきなり全力だな。どれ、俺も付き合うとしよう」
　背徳のラダガストは笑いながら無敵の狼獣人へと変身する。
「さぁ、こうなった俺は無敵だ。かかってくるがいい」
「もちろん、さっくりと私に勝てるんですよねー？」
「当然だ！」
　かかってくるがいいと言っていたのに、義紘の簡単な挑発に乗り、あっさりと自分から前に出て攻撃を始める。
　しかし、ラダガストの恐るべし槍による連続攻撃は確かに義紘を飲み込んだはずなのに。
　与えたはずの傷を含める全身が四悪霊の呪詛により再構築され、義紘は五体満足の姿を維持したままだ。
「な、なんだと……」
　恐るべし再生力の思わず驚愕するラダガスト。
　義紘はそこに追い打ちをかける。
「ええ、まあ……一つ指摘しますと。さっき負けてましたよね？」
「ぐ……」
「勝てませんよね？　私にも勝てませんよね？」
「そ、そんなことは……」
「だって……私を殺すこともできてないんですから。いえ、傷を付けることすらね？　どうやって『勝利』するというんです？」
「ぐ……、そ……それは……」
　鋭い義紘の指摘にラダガストは堪らず黙り込む。
　勝利への確信度合いが損なわれ、急速に弱体化していく。
　直後、四人の無念の集合たる四天霊障が弱体化したラダガストを押しつぶしはじめ、同時に生命力を吸収していく。
　あまりに良いところがないまま、ラダガストの猟兵との二回戦は終わろうとしていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「……ラダガスト。生前の彼を私は知っていますが。全くの別人になってしまったかのよう、ですね……」
　そう呟くのは銀誓館学園の第二期卒業生であり、かつての戦いの全てを見届けた一人、ニーニアルーフ・メーベルナッハ（黒き楽園の月・f35280）だ。
「へぇ、記憶を失う前の俺を知ってるのか。でも、オブリビオンになった今の俺のほうが強いだろ？　クハハハハ……！」
　それを聞き楽しそうに笑う背徳のラダガスト。
　ニーニアルーフはそれに対して静かに首を振りながら、隣に立つ仲間を見る。
「……そして、眞由璃さんと共闘する日が来ようとは」
　そこにいるのは国見・眞由璃。土蜘蛛オブリビオンの女王である。かつての戦いのすべてを見届けた一人。それはつまり土蜘蛛戦争にも関わったということだ。様々な思いがあることだろう。
「あなたは土蜘蛛……？　いえ、何かが少し違うようですね……。なんにしても猟兵であるのならば、猟兵の皆さんに頂いた恩の分、最大限に戦わせて頂きます」
「ええ、頼りにさせて頂きます」
　二人は軽く作戦を伝えた後、ラダガストと交戦を開始する。
　速さも重さもかつて以上のラダガストは、歴戦のニーニアルーフをしても強敵。
　まして、ドクター・オロチからの非常識な助言を受けての非常識な攻め手は防御を優先するニーニアルーフや眞由璃に対して、その防御を上回り、ダメージを与えていく。
　ニーニアルーフはこれを持ち前の激痛への耐性で耐えながら好機を待ち続ける。
　眞由璃もまた、ニーニアルーフの提案を信じ、耐える。
「えぇ、流石に速さも重さもかつて以上……」
　先程の「オブリビオンになった今のほうが強い」という言葉に返事をするように呟くニーニアルーフ。
「……ですが彼は、己の弱さを知っていたからこそ強かった。それを忘れたあなたが、勝てる道理なんて無いのです……！」
　防戦一方の二人に気を良くして、大振りの攻撃を仕掛けるラダガスト。
　その瞬間こそが、ニーニアルーフの待っていた好機。
　ニーニアルーフの脚部から槍のごとき蜘蛛の脚が生え、ラダガストを突き刺す。
「捕まえました……その身その力、私の糧とさせて頂きます……！」
　ユーベルコード『｜生命侵蝕《シュピンネンバイン・シュピーア》』。体のどこかから槍のごとき蜘蛛の足を生やし、突き刺した相手から生命力を吸収し、呪詛を侵蝕させるもの。
「ぐっ」
　動きを封じられたラダガストに、事前の作戦通り、眞由璃の赤手が振るわれる。そして、ラダガストの体に凝縮した精気が流し込まれ、内部から爆発した。
　流石にオブリビオン。それだけで死ぬことはないが。二人の見事な連携は間違いなく大ダメージを与えたことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「慢心ね……。以前の銀誓館にはいなかった、この世界の戦争を経験していない能力者の技は怖いかな？」
　そう言って戦場に降り立つのは国栖ヶ谷・鈴鹿（命短し恋せよ｜乙女《ハイカラさん》・f23254）だ。
「ほう？　まぁ俺はどうせ記憶を失っているから、銀誓館の能力についてもほとんど覚えてはいないがな」
　背徳のラダガストは即座にユーベルコードを発動。召喚したゴーストウルフと合体する。
「咲花、ユーベルコヲドを借りるよ！」
　そう言って、鈴鹿が発動したのは、ほっとけない相手である猟兵から送られたユーベルコード『｜災龍召喚《ムシュマフアシスト》』。
　その効果によって、龍脈を伝い、ムシュマフの首が現れた。それはまさに鈴鹿の言ったとおり、銀の雨降る時代にはいなかった能力者、龍陣忍者の能力だった。ラダガストには覚えていないので関係のない話ではあるが。
「少しの間、捕縛して！　足止めできれば十分！」
　鈴鹿の指示に従い、ムシュマフの首が火炎放射しながら、ラダガストに接近、噛み付いて巻き付いて、その動きを阻害する。
「くっ、この……」
　ラダガストは人狼騎士の咆哮を放ち、攻撃能力を向上させ、ムシュマフの首を振り切らんと全力を振り絞るが、それでより、鈴鹿の動きのほうが早い。
　鈴鹿は速やかに次なるユーベルコードを発動。
　ハイカラさん特有の後光の照らす領域から、敵味方を識別する理想世界再構築型ハイカラさん御光が放たれ、戦場全体を鈴鹿が自在に改変できるように変更していく。
　戦場の改変により、ゴーストウルフは湧き出てこなくなり、ラダガストは槍の使い方すら忘却していく。
「さぁ、終わりにしよう」
　双式機関銃ナアサテイヤと双式機関銃ダスラを構え、一斉に射撃を開始する。
　その攻撃は動くことを封じられた、ラダガストを確実に飲み込んだ。
「ぼくの友達の力、甘く見た結果だよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

「猟兵に覚醒してまだ日が浅いのになのにこんな明らかに強そうな人と戦わなきゃいけないなんて……」
　そんな事をぼやくのは、シルバーレイン世界のサキュバス、小鳥遊・トト（｜愛《快楽》も知らず・f39451）だ。
「貴様、リリスか。なるほど、ゴーストでさえ猟兵になりうるのだな。……こちらももう後がない。全力で行くぞ」
　ここまで様々な猟兵にやられ、大きなダメージを受けている背徳のラダガストは速やかに、ゴーストウルフを召喚し合体。即座に咆哮を放ち、その攻撃力を上げる。
　流石にピンチになり、若干慢心を捨てたと見える。
「ヒョェー！　スゴい、ヤバい、エグい、怖い〜！」
　自信もなく臆病な彼女の前に立ちふさがるラダガストがよりによって最大の弱点だった慢心を捨てつつあるとは何たる不運か。
　槍を抱えて踏み込んでくるラダガストから身を守るため、トトはユーベルコード『ヘヴンリィ・シルバー・ストーム』を発動。
　戦場全体に｜銀色の雨《シルバーレイン》を降らせ始める。
　とはいえ、トト本人は泣き叫び、逃げ回っており、攻撃のための万色の稲妻もどちらかと言うとラダガストの攻撃を防ぐ防御的な発動に留まっている。
「クハハハ！　どうした、リリス！　ここで詠唱銀に返してやろう！」
　トトの意識とは全く関係なく、その様はラダガストからせっかく消えていたはずの慢心を再度引き出した。
「死にたくないー！」
　そして、「詠唱銀に返す」というその言葉が、トトにさらなる恐怖を与え、その感情により、無数のバロックレギオン達が飛び出してくる。
　攻撃として脅威ではなく万色の稲妻とバロックレギオン達。しかしそれは、少しずつ、ラダガストの視界を妨げていく。
「眞由璃さんお願いしますうぅぅ」
　そして、その言葉を契機に、様子見していた戦力が動き出す。
「なるほど、そういうことでしたか」
「ぐはっ！」
　ガツン、とラダガストの視界の外から、赤手がぶつけられる。
　そこから凝縮した精気が流れ込まれ、とうとうラダガストは完全に爆散して消え去った。
「未熟ながら戦いに出された哀れな戦士かと思いましたが、いやはや、見事な囮作戦でした」
「うへへ、囮ぐらいしか今のボクに出来そうな事がありませんでしたから……」
　褒められると嬉しいトト。眞由璃から貰った思わぬ褒め言葉に、「たまたまそうなっただけ」とは言えず、ただただ照れるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2023年01月02日