昇り竜の如く目覚める食欲
馬県・義透
前回までのあらすじ
『陰海月』と名付けたミズクラゲが仲間になった!
陰海月関連の設定話になります。
まだ『羅針盤戦争中』
メガリス『大きなプランクトン』のおかげで、食事がいらなくなっていた陰海月。
でも、陰海月本人も義透も、そんなこと知らないので。食べ物どうしよう…となった。お腹は空くし…。
なお、運動する場所(巨大水槽設置場所)は『お金貯まったら、隣の土地を買って増築』が決まっていた。
が、一度家に帰って考えつつも休憩しようとしたら…居間のちゃぶ台に『買ってあったお煎餅』があった。
陰海月、気になって掴んで…食べた!食べられた!
ここからいろいろ試してみて、『わりと何でも食べる。ただし、お箸は持てないし、串が苦手』が判明。
手掴みで食べられる物や、フォーク使って食べるものが中心になりました。
…エンゲル係数うなぎ登り。
巨大クラゲ。
それはグリードオーシャンにおいて稀有な存在であり、また同時にメガリスを捕食したことによって変異した生物であるとも言えるだろう。
「ぷっきゅ、ぷっきゅ」
本来ならば海の波間に揺蕩い続けるはずだったのだ。意志もなく、ただ海に在る月のように揺らめき続ける。
時に捕食され、食物連鎖の中に組み込まれるだろう。
けれど、そうはならなかったのである。
「とは言え、困りましたね」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中の一柱たる『疾き者』は首をかしげる。
巨大なミズクラゲ、『陰海月』と名付けた彼が仲間になったのは良い。
共に在りたいと願う心もまたわかるからだ。
まるで捨て犬を拾ったかのような気楽さであったかもしれない。けれど、それ以上にメガリスを捕食した『陰海月』の生態というものは、本来のクラゲとはすでに乖離している。
「クラゲというものは一体何をどうして生命活動を行っているのでしょうか」
「如何に海に揺蕩う者と言えど、生命であるのならば食事は必要であろうな」
『侵す者』が当然のことだろうと言う。
だが、何を食べるのだろうか?
四人で一つの悪霊となった彼らのクラゲに対する知識はそう深いものではなかった。
ぐうぐうと腹の音するように『陰海月』が鳴いている。
「お腹をすかせたままでは可愛そうですよ」
『静かなる者』が『陰海月』の様子を見て言う。『不動なる者』も同意見だった。
とは言え、彼が運動する場所は猟兵としての仕事を完遂した時に出るであろうお金でもって隣の土地を買って増築する予定であった。
しかし、腹の虫はどうしようもない。
あまりにも知識がないのだ。
『陰海月』自身も自分のことを上手く言葉にすることができない。
「きゅうきゅうきゅうっぷ」
「仕方ありますまい。一度家に戻るとしましょう」
拠点に戻れば良い考えが浮かぶかも知れない。
共に戻ってきた家。
その今に『陰海月』は恐る恐る上がる。初めて見る。陸上だけれど、趣が異なるような気がしたからだ。
「きゅ?」
見るもの全てが目新しい。
これはなんだろう? とちゃぶ台の裏側を見たり、畳敷きの編み目を数えてみたりと、枚挙にいとまがない。
それほどまでに興味深いのだ。
「まあ、まずはそこで休んでいてください。少し休めば良い案も……?!」
『疾き者』はお茶でも、と思ったのだろう。
だが、次の瞬間彼が見たのは、ちゃぶ台の上に置かれていた煎餅をぱりぽりしている『陰海月』の姿であった。
触手でうまい具合に掴んで、ぱっきん。
そうすると香ばしい香りが彼の鼻腔……をくすぐったのだろう。思い切って口に入れると、少しの辛さと甘さ、そして塩っぱさが広がっていく。
かりこりと砕く食感も楽しい。
「きゅいきゅい♪」
これ美味しい! とでも言っているのだろう。
気になったものは食べ物であれば何でも食べてしまう。食べてしまえるのだ。
これが一つの契機となったことは言うまでもない。
何でも食べる。興味が惹かれれば、食べてみたいとねだるようになったのだ。
「食事の問題は解決……ですが」
「ああ、これは些か難題を再び突きつけられたような気分であるな」
「でもいいじゃあありませんか。美味しそうに食べていますし」
「いやはや、良い食べっぷり。これは食費が大変にかさみそうでありますね」
四者四様。
違えど、これはこれで大変なことになってしまった。
馬県さんちのエンゲル係数は、それはそれは昇り竜のように跳ね上がっていく。
けれど、元気な鳴き声を響かせる『陰海月』の姿を見れば、仕方ないかと想うのは四悪霊共通の認識なのだった――。
成功
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