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あなたが望むなら

#UDCアース

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#UDCアース


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●望まれたもの
 天を見上げれば人工的な日の光が眩しい、どこか乾燥した空気が流れる白い空間。
 そこには大量の……様々な植物の鉢植えが並べられ、見るものが見れば節操がないとすら思わせただろう。あるいは、何のために? と思っただろうか。
 何のためにと思ったものは、この空間を俯瞰してみればその答えに行きついたかもしれない。
 何らかの模様のように並べられた植物と、その合間に転がる手足を縛られて人間たち。そしてそれらを取り囲むように円を作る何人かの若い男女。
「さぁ、王よ! 現れたまえ!」
 まるで趣味の悪い方陣のような、それらの中央で骨のように痩せた男が両手を広げると……忽然と男の目の前に、それは現れる。
 それは毛の長い体毛を持ち、頭に王冠のような立派な角を持つ動物のようで、
「「おぉ!」」
 何の前触れも無く姿を現したそれに、周りを囲んでいた男女が驚きと歓声が混じった声を上げる。
 人々の声に気が付いたのか、それは声の主たちを確認するように顔を上げると、その姿を見た者たちは息をのむ。
 毛の長い体毛のように見えていたのは、女の髪。
 嘗ては包容力に溢れていたであろう体はつぎはぎだらけで、腹から下の肉に至っては溶けたように骨だけとなっている。
 そして下半身は、鹿のような動物となっているが、大地を踏みしめるための足も半ば骨と化し、その役割を果たさないのだと感じさせた。
「ハハハ! 素晴らしい! これで我らは自然と一つになれる!」
 自分たちが呼び出したものを前に言葉を失う人々とは違い、方陣の中央に居た男は目の前の存在に歓喜の声を上げるが、
「――!」
 呼び出された存在が咆哮を上げると、その男は小石のように弾かれ。周りの植物たちを巻き込んで転がって行く。
 それから呼び出された存在は何かを訴えかけるように口を動かし、立ち上がろうとするも、その足は地面を踏めず……体制を崩したそれは力なく床に手を突く。
 そんな滑稽ともいえる、異形の姿を前に茫然とする男女と、転がって力なく呻き声を上げるだけの人間たちのもとへ、呼び出された存在の腹からあふれる真っ黒な液体が広がり……、
「っツ! なに?!」
 それを見つめていたものたちは、足元に走った激痛にようやく我に返る。
「聞いてねぇぞ、こんなアアァァァ!」
 だが気が付いた時にはもう遅い。真っ黒な液体は人々の足を溶かし、自らが呼び出した存在と同じように、立ち上がることすらできなくさせる。
「イヤアァ!」
 激痛に襲われながらも手を地面についたものは自分の手が溶ける様をまざまざと見せつけられ、さらには床に転がっていた人間たちの……白骨と化してゆく末路と自分たちの末路を重ねて絶叫する。
 絶叫する人々に手を伸ばし、呼び出された存在が這うように近づこうとするも、近寄ろうとするそれを人々は恐怖の眼差しで見つめて、狂ったように骨だけとなった手を振り回しては、自分の手を見て絶叫するばかりだ。
「王ヨォオオ! 緑の王よオオ! これで我ハァァ貴女とトモニイイイィ!」
 人々が絶叫し、恐怖し、もだえ苦しむ中。ただ一人、骨のように痩せた男だけが最後の最後まで高笑いを上げていた。

 ――そして再び沈黙が訪れる。
 やけに白い空間の中、黒い液体の中央に座する王は、痛いほどに無機質な人工の光をじっと見上げた。

●望んだもの
「ちょっといいかしら? UDCアースで邪神が復活するわ」
 グリモアベースに集まっていた猟兵たちに、八幡・茜が話しかける。
 唐突に話しかけられた猟兵たちは一度顔を見合わせてから、続きを促すように茜へ目を向け……それを待っていたように茜は頷くと、話を続ける。
「呼び出される邪神の名前は、緑の王。無限に湧き出す消化液で何もかもを溶かしてしまう存在よ。放っておけば町一つが地面に沈むわね」
 緑の王の消化液は、地面をも溶かす。
 無限に湧き出す消化液で地面を溶かされ続ければ、当然その上に成り立つ町も崩壊していくだろう。
 そうなれば被害はどれほどのものとなるか……そんな事態は放っておけないでしょう? と、茜は猟兵たちを見つめ、
「邪神を呼び出すのは……がりがりに痩せていて白い服を着た男の人。他にも何人か見えたのだけれど、他の人たちはただ利用されているだけのようね」
 自分が見た情報を並べる。
 首謀者の男は邪神を崇拝する狂人だろう。救う価値もない愚か者だ。
 そして、利用されたとはいえ邪神復活に手を貸すものたちも愚かだが……その男と他の者たちには、愚かとも言い切れない関係性があるのかもしれない。
 いずれにしても、そのがりがりに痩せた白い服の男と接触できなければ、何も分からないが。
「そうね。儀式が行われる場所には沢山の植物と、何処かから攫われたような人たちの姿もあったから、それをどこから集めているのか調べれば男の人へ繋がると思うわ」
 男への手掛かりは? と問う視線を受けて茜は答える。
 植物だけであれば、どこから大量に仕入れている可能性もあるが、人もとなるとろくでもない手段を用いていることだろう。
 ろくでもない手段を用いていれば、それだけ足がつきやすい事件なりが起こっているはずだ。それを調べれば手掛かりとなるだろう。
「召喚自体を止められれば良いのだけれど、それはもう不可能だわ。だから緑の王とは必ず戦闘になる。それと、首謀者の男の人だけど、力ずくでどうにかするのは止した方が良いと思うわ……その場合、全ての秘密を抱えたまま喜んで死ぬ、そういう人よ」
 最後に首謀者について一言付け加えた上で、茜は猟兵たちをじっと見つめ、
「放っておけばみんな死んでしまうし、何も生み出されないわ。だからどうか……どうか、なるべくみんなを救ってあげて」
 お願いねと目を閉じて、祈るように胸元で手を合わせた。


八幡
 舞台はUDCアースのどこかの町。
 オープニング冒頭は、猟兵が関与しなかった場合の未来となります。

●話の流れ
 ・第一章
  町で起こっている強盗事件に接触したり捕えたりして、首謀者の情報を集めます。
  首謀者の情報があれば解決となりますので、強盗団についてはどのようにしても問題ありません。

 ・第二章
  一章の結果次第ですが、首謀者を突き止めて儀式を妨害することになるかと思います。
  一章をどう解決したかによって、状況が大きく変わります。

 ・第三章
  邪神との戦いになります。
  二章の解決方法次第で、開始の状況が大きく変わります。

 一章は数日間をかけた行動となります。
 二章、三章については前章までの流れ次第で状況が大きく変わりますので、追加OPが出た後にプレイングをかけていただけると間違いないかと思います。

 各章、良い感じにまとまりそうな単位でリプレイを返せればいいなと思っております。


●傾向
 皆様のプレイング次第ですが傾向としてはダークから冒険活劇の間位だと思います。
 ※話の流れ次第では、多くの一般人が死にますのでご注意ください。

 探索や戦闘などについては、以下のシナリオで雰囲気が掴めると思いますので良ければ参照してください。
 https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=3059
 ※戦闘描写は血みどろなことが多いですのでご注意ください(オープニングは比較的マイルドにしています)

 フラグメントの行動はあくまで参考ですので、やりたいことをご自由に指定されるのが良いかと思います。

●その他
 あまりに活躍させられないなと判断した場合や日程が厳しい場合、プレイングを採用できない可能性があります。
 最初のプレイングをもらってから二日後くらいに手を付けるので、タイミングによっては返却が早い場合と遅い場合があります。
 結果に対して、結果に至る過程をアドリブで作る事が多いので、アドリブが多くなる傾向があります。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『窃盗事件の調査』

POW   :    強引な手段を用いた現場調査や、気迫のこもった聞きこみで情報を得る

SPD   :    フットワーク軽く現場を回ったり、多くの人から話を聞くことで情報を得る

WIZ   :    わずかな手がかりから、推理力や論理的思考力、魔法力を駆使して情報を得る

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●強盗団
 深夜の町の中。
 裏通りでひっそりと営んでいた花屋の中から、数人の男たちがいそいそと荷物を運び出している。
「こんなん、何に使うんですかねー?」
「知らねぇよ。なんだって高値で買ってくれりゃぁ文句ねぇべ」
 荷物を運ぶ男たちへ指示を出していた額に一文字の傷がある体格の良い男に、赤い髪の軽薄そうな男が声をかけるも、体格の良い男は知らねぇと肩をすくめるだけだ。
 物を盗んでも売る先が無ければただのゴミだ。
 だが、売る先が予め決まっており、尚且つそこから労力やリスクを上回る対価が出るなら何の文句も無い。
「そりゃそうなんすけどねー。こんなものまで買うとなれば気になるじゃないっすか」
 何の文句も無いんっすけどねぇと呟きつつ、軽薄そうな男は床に転がっていた女性の前にかがみこむ。
 転がっている女性は遅くまで作業をしていた、この店の店員だろうか。本当のところは知らないが、居たので捕まえた、その程度のものだ。
「あんたも運が無かったな。あの人は生きた人間も買ってくれるんだよ。あんたで何人目だったか忘れちまったがな」
 両手両足を縛られ猿轡をかまされた女性は目を潤ませながら、男たちを見上げるが……体格の良い男はその視線を鼻で笑う。
 何かのおまけ程度の感覚で身を売られる羽目になった女性を前に、軽薄そうな男はにやりと笑い、
「売る前にちょっと遊んでもいいっすかね?」
「駄目だ駄目だ。値段が下がったらどうする。それに女は玄人に限るだろう」
 頬に指を這わせながら遊んでもいいかと問うも、体格の良い男は首を横に振る。
 売り物に手を付けられて値段が下がってはたまらないし、こんな場所で好き勝手を許しては収拾がつかないという判断だろう。
「先輩はホント、プロ志向っすねー。たまには、一緒にナンパとか行きましょうよ」
「くだらない話はここまでだ。さっさと撤収するぞ」
 男たちは全ての荷物を運び終えると、最後に床に転がっていた女性を肩に担いで外に出て行き……そのすぐ後に大きなエンジン音が聞こえてきたのだった。
ヒカゲ・カタワレ
わけの分からない邪神を復活させるのも迷惑だけど
強盗も迷惑だよねーというわけでPOW判定
ちょっと強引に調査しますか
「目立たない」から張り込んで現場を押さえたいところだね
この容姿だから標的にされるかも そしたら「騙し討ち」させてもらおうかなー
ま、ちょっと痛い目にあってもらおうかな


マカ・ブランシェ
邪なものに心を奪われてしまうのは、事故のようなものかもしれない。
けれど、他人を巻き込むなんてこと、絶対に許してはいけないのだよ。


街の地図を用意して、『まだ強盗の被害に遭っていない花屋』で『近くに大きな道路がある店』をピックアップして、夜に現地へ偵察に行くのだよ。
移動手段は、UDC組織に頼んでバイクを用意して貰おう。

植物と人間を運ぶのだ、大きなワゴン車……それも無個性なものが、強盗の目印になると思うのだ。
お店の車なら店名が入っているだろうからね。

もし強盗犯と思しき車を見つけたら、他の猟兵へ連絡をしてから、バイクで一定の距離を保って追跡するのだよ。

(アドリブ・連携大歓迎です)


河南・光
あぁ、誘拐して生贄にして邪神召喚の流れね
一番ありがちで、私にとっては一番憎くて許せないやつだわ
邪神が絡む時点で全て例外なく許せないけど
首謀者も邪神も絶対にぶち殺してやる
……なに、首謀者殺しちゃ駄目なの?
何か話したい事や聞きたい事があるならそれくらいは待つわ
……多分ね

で、まずは情報収集ね
他の猟兵からの情報とか、聞き込みで得た情報を元に強盗団と接触
既に車で動いてるなら狙撃で足止めもいるかしら
で、金の為に動いてるような連中でしょ?
【殺気】出して拳銃突き付けて【恫喝】してやれば口割るんじゃない?
情報聞き出したら用は無いわ。誰か警察に突き出しといて

「あぁ、お望みならショットガンもあるけど?」

アドリブ歓迎


雷陣・通
おっとー、悪い子だーれだ?
詳しいこと聞かせてもらおうか?

車に飛びついて、手刀一閃
中に入らせてもらおうか?
「ねえねえねえ、色々と聞きたいことはあるんだけど」
邪魔するであろうと思って、先制攻撃と二回攻撃で早めに片付ける。
その後は尋問タイム

「おじちゃんさー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……これ、どこに行こうとしてるの?」
「勿論、お仕事なのは分かってる、だからそうだね安全と報酬を引き換えに話してくれないか?」
 猟兵なのを良いことに金とコミュ力で買収を計る。


向坂・要
強盗団、ですかぃ

まずは情報収集、ですかね
コミュ力、礼儀作法などで最近失踪者や行方不明者、もしくは見慣れない車や人の姿を見ていないか聞き込みますか

動物と会話、も使って野良猫や犬、カラスたちからも話を聞いてみたいもんで

とはいえ、あんまし調査してる、て感じが出てもあれなんでこっちに知り合い(大切な人)が越してくる予定。ここらへんの治安はどうなのか気になって、とか話しておきますかね。

怪しげな話やらなんやらである程度候補絞れたら錬成カミヤドリで作り出した分体を忍ばせるなどして様子を伺い

絡み
アドリブ歓迎ですぜ


ベモリゼ・テモワン
強盗団だか窃盗団だか知らないが、犯行には必ず証拠がつきまとう
関連を疑う事件を精査して、どんな店が対象になっているかを調査しよう

共通項があるはずだ
・店で扱う/盗まれた植物の共通特徴
・店に襲いやすい条件がある(人通り、店員の状態など)
・一定範囲内に襲撃地点が集中してる
あたりでひっかからないか

情報をもとに「次に襲撃を受けそうな店」に目星をつける
あとは襲撃を見過ごせば、相手がアジトに案内してくれるだろう
追跡するよ。移動に長けた猟兵がいたら頼りたいもンだ

(もしいれば)
仲間が誘拐を妨害しようとしたら、一度は止める
それ以上は止めない
ただし、強盗団の面々は必ず逃がすぜ
道案内してもらわないとな

アドリブ/連携歓迎


矢来・夕立
※アドリブ/連携可
イイ仕事ですね。一枚噛みたいくらいですよ。
ウソですけど。

昼間はネットを中心に【情報収集】をしておきましょう。
他の方にも共有します。

夜が正念場ですね。
昼間の情報と照らし合わせながら【暗視】と【忍び足】で強盗を探します。
見つけたとしてもすぐに手は出しません。【聞き耳】で首謀者に関する情報を聞ければイイですね。

捕まってる方、助けます? オレはどっちでも……
あ。コレで邪神が強くなるなら、そうですね。後が面倒なので助けます。

あとは【式紙・導紙】。
こいつを強盗のうち誰かか、移動手段。
車なんかがあればそこにくっつけておきます。
追跡が得意な方の目印になるでしょう。GPS代わりですね、要は。


嶋野・輝彦
●POW
まずはオブリビオンが手下に使ってる連中を見つけてって所か?
悪ぶってる連中が溜まってそうな見つけて
「オラァ!ドチンピラどもがぁ!ぶっ殺すぞゴラァ」
ヤクザ騙ってボコボコにして動けない様にして
全員から話きけりゃ最高なんだが
【怪力】で襟首掴んで最低一人は確保
【恫喝】【存在感】【コミュ力】【殺気】で
「最近、強盗やら人攫いやら出てるだろう?これ以上続くと警察の介入があってシマが荒れるって話でな」
「急に金回りが良くなった連中知らんか?
知らなくても横のつながりでもSNSでも調べようは幾らでもあるだろが
あのなぁ、これだけ何人も居なくなってるとなぁ痕跡とか消しやすい訳よ
必死でやれや追加の一人に勘定すんぞ」


ピオニー・アルムガルト
行動【SPD】
植物を奪うだけでなく、花屋の店員さん等の人を攫う極悪人どもはキッチリ締め上げ情報を聞き出し懲らしめてやるわ!
というか物の価値を知らずに犯罪なんかするんじゃないわよ!

個人商店のお花屋さんはそう多くないし、【世界知識】すまーとふぉんやでんわちょう?で【情報収集】場所を調べられると思うから犯行現場を中心に捜索の範囲を広げて行くわね。
捜索の範囲が広そうなら他の猟兵さんと協力したいところね。
適当に当たりを付けたお花屋さんを張り込み。複数のお店があったら深緑の隠者を店員さんに付けて監視をさせて動きがあればすぐ行動に移せるようにしておくわ!


空廼・柩
SPD
邪神、緑の王
流石に町を消されるのは笑えない
後始末させられる身にもなれっつの

大量の植物が盗まれているならば
事件現場周辺で聞き込みして怪しい連中を割り出す
現場近くで気になる集団や車を見ていないか
持ち前のコミュ力で人々に接触、情報収集
時間が時間だから出歩いている人は限られているだろうけれど
根気強く話を聞き、その時間帯に傍に居た知人が居たらその人からも情報を貰えるか交渉を試みる
…多少ならば賄賂も渡せるしね
どんな集団だったか、彼等を乗せた車がどの方面へ向かったか
小さい情報でもこつこつ集めたら強盗団を追い詰める大きなファクターになる
後は…花屋に監視カメラがあれば
其処からも特徴とかの情報を得られるかな


多々羅・赤銅
なんもかんも胸糞悪ィ臭いがプンプンだ。
心の臓がジリジリする。
緑の王だか胃液の王だか知らんが、逢いに行ってやろうじゃねえか

_

とりあえず事件に関しては新聞読むよか現地で聞く方がはえーわ。よぉおっちゃん儲かってる?私最近ここらに越して来てさー、美味い飯屋とか知ってたら紹介してよぉ。あ、あと治安とかどう?女独り暮らしだからその辺知りたい知りたい。
ってな具合でざくざく聞き込んで、出た情報から次の被害先を洗い出す。植物園とかかな。

目星つけたら屋上から張り込んでこ。上の方が不自然な車とか見えやすいし。
見つけたあとは?物理と恫喝で聞き出す。喋れねえ舌なら要らねえよなあ、舌切り雀ちゃんになってみまちゅん?


三岐・未夜
……人と顔合わせて調査するの、苦手だなあ……。
……うん、でも、まあ。
やれなくはない、はず。
ひと引っ掛けるのだけは、慣れてる。

問題の花屋の周辺で聞き込みするよ。
何か見てないか、何か聞いてないか、そういうの。
怪しい車が何方に去って行ったとか、変な奴を見たとか、誰か知らないかな。
【誘惑、催眠術】で信頼や親愛を抱いて貰って、口を軽くして、自分から話してくれると良いな。……僕、あんまり手荒なことしたくないし。

【祈り、おびき寄せ】で、情報を持ってるひとに行き会いますようにっておまじないでもしとこうかな。
出来ることは何でもやっとかないと、ね。
もし他の猟兵が情報に近付いてたら【援護射撃】出来たら良いな。



●空虚な一室
 何もないマンションの一室。
 何も置かれず、何も敷かれていないフローリング、それから何もかかっていない広い窓。
 その窓を開いて眼下に広がる景色を見渡せば、そこには灰色の建物と、ところどころに植えられた緑色が織りなす不思議な世界が広がっている。

「わけの分からない邪神を復活させるのも迷惑だけど、強盗も迷惑だよねー」
 どこもかしこもが小さな少女は窓から半身を乗り出して、その不思議な世界、自分たちが守る町を眺める。
 一見平和に見える町に忍び寄る邪神復活の危機と、それに手を貸す強盗の一団……それらを考えれば、この町が薄氷の上に成り立っているのではないかと、錯覚を覚えてしまうほどだ。
「とりあえずやれることをやるしかないよね」
 小さな少女、ヒカゲ・カタワレは足元が揺らぐ錯覚を打ち消すように一言呟いてから、今度は部屋の中へと目を向ける。
 ヒカゲのアンニュイな黒い瞳で見つめられた、向坂・要は何か意見を求められているのだろうかと少し考えてから、
「強盗団、ですかぃ。まずは情報収集、ですかね」
 紫の眼を細めた。
 何を始めるにしてもまずは情報収集が重要だ。情報を集めて精査すれば、思いもよらない相手の裏側や核心を掴める可能性があるのだから。
「何か掴めっと良いんですがね」
 そして何より要自身の知識欲も満たせるし、一石二鳥というものだ。
 何処か掴みどころのない要の微笑みに頷きを返しつつ、ヒカゲが要の横に居た青い髪の活発そうな女性を見やれば、
「植物を奪うだけでなく、花屋の店員さん等の人を攫う極悪人どもはキッチリ締め上げ情報を聞き出し懲らしめてやるわ!」
 怒り心頭と言った様子で早口にまくしたてた。
 柔らかそうな毛並みの尻尾、を怒りで忙しなく動かす女性の名前は、ピオニー・アルムガルト。
「というか物の価値を知らずに犯罪なんかするんじゃないわよ!」
 普段は穏やかな印象を与えるピオニーだが、好きな植物や花を侮辱しているともいえる強盗団のやり口に、人の命を何とも思っていないその精神のあり方に、怒りを覚えたのかもしれない。
「絶対捕まえてやる!」
 犬歯を覗かせつつ怒りに喉を震わせる様はまさに狼。まぁまぁと要が静止して居なければ今にも駆けだして行ってしまいそうだ。
「あぁ、誘拐して生贄にして邪神召喚の流れね。一番ありがちで、私にとっては一番憎くて許せないやつだわ」
 そんな動の怒りを見せるピオニーと対極に、ただ呆れたように首を横に振るのは河南・光だ。
 光が首を振るたびに、その動きを追うように柔らかそうな黒髪が揺れるが、
「邪神が絡む時点で全て例外なく許せないけど。首謀者も邪神も絶対にぶち殺してやる」
 その柔らかそうな黒髪とは真逆の言葉が、光の口から飛び出してきた。
 怒りも憎しみも、すぐに発散するピオニーとは違い。光はどす黒い何かを心の中に抱えているようだ。そう考えてから見ると、光の美しい紫の瞳にさえ、心の闇があふれ出してきているようにすら見える。
「殺すなとは言わないが。先に色々と聞かなきゃならないこともあるんじゃないか?」
 放っておくと全力で突っ込んでいきそうな光をとりあえずは宥める、筋肉隆々の男。ごつい肉体に似合わぬ笑顔を浮かべ、似合わない眼鏡をかけるその男の名前はベモリゼ・テモワン。
「何か話したい事や聞きたい事があるならそれくらいは待つわ……多分ね」
 紫の目を細めてじっと観察するように自分を見つめてくる光にそいつはどうもと返しつつ。ベモリゼは何の変哲もない眼鏡をくぃっとする。眼鏡をくぃっとする人物は大体重要なことを話し出す。なのでベモリゼのそれも自分の話を聞かせるための仕草の一つだろう。
「首謀者に会うためにもまずは窃盗団だか強盗団だかを割り出さないとな。犯行には必ず証拠がつきまとう。関連を疑う事件を精査して、どんな店が対象になっているかを調査しよう」
 眼鏡をくぃっとしたベモリゼに仲間たちの注目が集まると、実際に首謀者に会うためにも強盗団の痕跡を追うべきだと主張する。
 予知を聞いた限りでは結構派手にやっているらしい、ならば強盗団の証拠や足取りなどの共通事項は調べれば分かるだろうとベモリゼは考えるようだ。
 ベモリゼの考えに要はもちろん、他の猟兵たちも同意を示す。それぞれ調査の方法や対象は違うが、痕跡を追うと言う点では大半のものが同様の行動をしようとしていたのだし、
「強盗団。イイ仕事ですね。一枚噛みたいくらいですよ。ウソですけど」
 矢来・夕立に至っては既にタブレットで有用な情報がないかを検索し始めている。
「何かわかりそう?」
 タブレットで次々と色々な情報を調べている夕立の後ろから、そのタブレットを興味深そうにピオニーが覗き込みつつ聞いてみると、
「はい、面白い情報があります。ウソですけど」
 特に表情も変えず、目も合わせずに夕立は嘘か本当か判断のつかない返答をして、ピオニーはどっち?! と狼の耳を震わせていた。
 そんな夕立たちの様子を眺めていたベモリゼが、いまだに自分をじっと見つめている光の視線に気づいて、ん? と目を合わせれば、
「その眼鏡、似合っていないわよ?」
「そこが良いんだよ」
 光は先ほどから気になっていた似合っていない眼鏡について指摘するも、ベモリゼは似合っていないのが良いのだとさわやかに笑った。

 マンションの一室から外に出て、各々の目的地へ向かう途中。
「邪神、緑の王。流石に町を消されるのは笑えない。後始末させられる身にもなれっつの」
 血色の悪い不健康な肌色をした男が肩をすくめる。
 肩をすくめるとぼさぼさの頭が揺れて、何ともだらしない見た目なのだが……注意深く観察すれば、その男、空廼・柩の眼光の鋭さや整った顔立ちに気づいただろう。
「仕事が増える前に何とかしねぇとなぁ」
 整った顔立ちを隠すようにぼさぼさと前髪をかき乱して柩はためた息を吐く。町一つ消されたらUDCエージェントたる柩に降りかかる仕事の量はとんでもないことになるだろうが、
「邪なものに心を奪われてしまうのは、事故のようなものかもしれない。けれど、他人を巻き込むなんてこと、絶対に許してはいけないのだよ」
 荘厳にまるで聖者のような言葉と、自分の肩に感じた手の感触に柩が後ろを振り返れば……本当は町の人たちを助けたいんだろ? 知ってるぞ。とばかりにマカ・ブランシェが大きく頷いていた。
「だが、私たちが来たからには、安心なのだよ」
 柩がマカに対して何も言わずにその緑色の瞳を見つめると、マカは続ける。マカの言葉には、そんな未来を覆してやろうという意思と、その結果を疑わない強さがあった。
「まずは首謀者が手下に使っている連中を見つけてってところか?」
 表面上の態度はともかく根は真面目そうな柩と、マカのやり取りを横目に、ずかずかと歩みを勧めながら嶋野・輝彦は考える。
「悪ぶってる連中が溜まってそうな場所か……まぁ、心当たりはあるが」
 手下に使われている強盗団。ああいった権力者になり切れない悪ぶっている連中は何故か一定の場所に集まる傾向がある。過去の経験からか、輝彦にはいくつかそういった場所になりそうなところに心当たりがある。
「悪ぶってるだけなら可愛いもんだ」
 さっさと目的地に向かうためか地か、大股で歩きながら輝彦はどうやって、手下どもから情報を聞き出してやろうかと考え、
「悪い子を探しに行かないとなー」
 大股で去っていく輝彦の背中を見送りつつ、炎のような髪の毛に覆われた頭の上に両手を乗せる少年。
「……人と顔合わせて調査するの、苦手だなあ……」
 何にも思いつかないぜと、悪戯っ子のように笑う少年、雷陣・通とは対照的に、帽子を深々と被ってぽつぽつと話すのは、三岐・未夜。
 苦手なのにそれをしようとする未夜には何か譲れないものがあるのだろうか? それは分からない、分からないが、
「まぁ、為せば成るか!」
 自分に気合を入れるためか、通が自分の頬をぺちんと両手で挟んで大きな声を上げ、だよな? とでも言いたげに未夜に向けてにっと歯を見せて笑う。
 通の行動に深い意味はないのだろうが、その笑顔を見た未夜は一瞬びくりと狐の耳を動かすも、
「……うん、でも、まあ。やれなくはない、はず。ひと引っ掛けるのだけは、慣れてる」
 胸を押さえながら、俯きながらも自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「だから……僕もやろう」
 それから意を決した様に、一歩目を踏み出して……成すべきものを目指して歩みだした。

 それぞれの行動を開始した仲間たちの背を見送り、多々羅・赤銅は空を見上げる。
 青い空は清々しいまでに晴れ渡り、大きく息を吸い込めば、まだ冷たい空気が肺を満たして心を落ち着けてくれる……そう、落ち着けてくれるはずなのだが。
 ずくりと胸元がざわついた気がして、思わずそれを手で押さえる。
(「なんもかんも胸糞悪ィ臭いがプンプンだ。心の臓がジリジリする」)
 復活する邪神、その首謀者、繰り返される強盗事件。何もかもが胸糞悪いが、胸元に感じるざわつきの正体は、それらとは別のところにある気がした。
 きっとこれは避けられない何かなのだろう……赤銅は今一度大きく息を吸い込むと、自分の胸を強く叩いて、
「緑の王だか胃液の王だか知らんが、逢いに行ってやろうじゃねえか」
 ならばその何かを喰らってやろうじゃないかと、にやりと笑って見せた。

●情報収集
 マンションの一室に残った夕立はタブレットを手に検索を続ける。
「強盗事件……植物……面白い記事はありませんね」
 植物に関する強盗事件を検索してみても、今回の事件に関するようなことは載っていないようだ。まだ事件が表面化していないのかもしれない。
 となると、これは暇になりましたねなんてタブレットを本来の使い方……つまりはあまりよろしくない使い方にしようかなと考えていると、
「自然科学の有識者が娘を殺す?」
 なんとなく目に留まった関連記事をタップしてみる。
 それは、大島健司と言う自然科学の教授の娘が死亡したという記事。
 大島健司の娘、当時6歳は治療困難な病に侵されるも、大島健司は化学療法を拒否。独自の理論による自然科学を用いた治療を娘に施すも、最後には娘を死亡させてしまう。死因は公表されていないが、警察は事件性が無いと発表している。
 その記事のコメント欄には娘がかわいそうだの、変な宗教にはまっていたんじゃにの? だの、心無いコメントが羅列されている。
「これはつまらない記事ですね。ウソですけど」
 夕立はそのコメント欄に自分も適当なコメントをつけ足してから、別のサイトへ移動した。

「個人商店のお花屋さんはそう多くないし、簡単に場所を調べられるはずよ!」
 だからそういうところを探せば次の襲撃場所が分かるはずよ! とすまーとふぉんを取り出したピオニーは慣れない手つきで、周囲の花屋の情報を検索する。
「確かに、大人数のところは狙えないだろうな」
 同じく次の襲撃場所を探そうとしていたベモリゼはピオニーの言葉に頷く。
 小さな花屋ならば働いている人数が少い。人数が少なければ最悪見つかったとしてもどうにかできるし、何ならそのまま拉致すればいい。
 その視点でこの事件を見ると何か共通点が見えるかをベモリゼが考えていると、井戸端会議をしている女性たちに未夜が向かって行くのが見えた。
「……あの、何か怪しいものをみたり、何か珍しい話、聞いてないかな?」
「って急に聞かれてもねぇ? あ、でも最近カラスが減ったわね、嬉しいけどちょっと不気味だって佐藤さんと話していたのよ」
 あ、佐藤さんって言うのはお隣のね? なんて続いていく女性たちの話。いえ聞きたいのはそういう話じゃなくてと未夜が戸惑っていると、
「最近、夜に変な物音を聞いたり、怪しい集団を見なかったか?」
 未夜と女性の間に柩が割って入って、話しかける。未夜と柩の二人から怪しいもの……と聞かれて女性たちは興味深そうに、何々何かの事件? と身を乗り出してくる。
「ちょっと手に入りにくい植物を探していて、売っている店を探している」
「他にも、買いに来てる人が居ないか気になっちゃって」
 身を乗り出してきた女性を手のひらで押し返しながら、柩はさらりとそれらしい理由を述べ、未夜もまた柩の理由に乗っかる。
「では、この花屋で変わったことは?」
 理由を聞いた女性はつまらなそうに、怪しいことは特にないわねと答えるが、柩はさらに質問をぶつけると、
「そういえば今日は開けていないのね。風邪でも引いたのかしら? あ、最近あっちの花屋も店を閉じっぱなしねぇ」
「あっちの花屋ってここかしら?」
 別の花屋も閉まっていたと話し始め、ようやく町の中の花屋の地図を検索し終えたピオニーが女性にそれを見せる。
 地図を見た女性は、そこで間違いないわと答え……一行はその答えに頷き合った。

「答えてくれて、ありがとう」
 通りすがりの男性から情報を聞いていた未夜は、その男性に礼を述べてから戻ってくる。
「ここも、数日前から閉じてるって言ってた」
 慣れないことをしているせいか、声に疲れのにじむ未夜に、ベモリゼが飲み物を渡してやり、
「間違いない。強盗団はこの町に土地勘がある」
 今の報告をもって、そう結論付ける。
 ピオニーの地図を見ながら回った花屋の数々。道の大小にかかわらず夜も人通りところは全て無事で、人通りの少ないところはほぼ全滅していた。
 しかも強盗団の目撃情報が無いし、店内の監視カメラもテープが抜かれていた。これはもう事前にその店を知っていたとしか思えないだろう。
 それでも、何日も時間をかけて張り込めば目撃情報を得られるかもしれないが……時間をかけて居る間に次の事件が起こる可能性もある。
 次の事件が防げないリスクを背負うよりは、今の情報をもって次の襲撃場所を想定し、そこに張り込んだ方が良いだろう。
「なんて奴らなの!」
 ベモリゼが出した結論に、ピオニーがスマートフォンを握る手に力を籠める。地元の、それも人々に癒しを与える花屋を襲撃する……そんな愚行にピオニーは腹を立てるのかもしれない。
「となると、次はここかここか」
 ピオニーの握力でみしみしと音を立て始めたスマートフォンの中にある地図を、柩は冷静に示す。
「二者択一か」
「根気強く情報を集めるしかないな」
 今までの情報を解析すれば当然そうなるよなとベモリゼは唸り、一択にするために柩はもっと根気よく情報を集めるしかないと考える。
「情報を持っているひとに行き会いますようにっておまじないをしとこうかな」
 そんな二人をみて未夜が祈りとかおびき寄せでおまじないをしようと呟くと、
「それだ」
「なるほど」
 大人二人はとても含みのある顔で未夜を見つめたのだった。

 窓も無く甘い煙が充満する喫茶店。
 お世辞にも綺麗とは言い難い、その喫茶店の中に数名の男女がたむろし、怠惰な時間を過ごしている。
「オラァ! ドチンピラどもがぁ! ぶっ殺すぞゴラァ」
 そんな怠惰な時間も、怒鳴り声と共にドアを蹴破って入ってきたガラの悪い男……輝彦によってぶち壊される。
 オーダーメイドで作られた鼻につく高級感のあるスーツに身を包み、いかにもな蟹股で男女が集まっているテーブルまで近づき、茫然と自分を見つめている男女の目の前でテーブルを片手で持ち上げて投げ捨てる。
 結構な質量のあるテーブルは綺麗な弧を描いて、誰も座っていない席のテーブルに直撃すると豪快な音を立てて砕け散る。
「な、何の用でしょう?」
「なかったらこんなところに来るかボケェ!」
 輝彦は自分の怪力っぷりに震えながらも聞いてきた男の目の前で、さらに別のテーブルに蹴りを入れて破壊し、苛立っている様子を見せてから適当な椅子を持ち上げ、
「まぁいい。最近、強盗やら人攫いやら出てるだろう? これ以上続くと警察の介入があってシマが荒れるって話でな」
 ドア付近にその椅子を置いて腰かけながら話しかける。
「急に金回りが良くなった連中知らんか?」
 それから金回りが良くなった奴が居ないか問うてみるも、男女は必死に首を横に振るだけだ。
「知らなくても横のつながりでも何でも調べようは幾らでもあるだろが」
 首を横に振るだけの男女に対して、輝彦は苛立ったように椅子から立ち上がり、
「あのなぁ、これだけ何人も居なくなってるとなぁ痕跡とか消しやすい訳よ。必死でやれや追加の一人に勘定すんぞ」
 一番近くに居た男の首根っこを掴んで眼前でそう脅してやると……その男女たちは一斉にあちこちへ電話をし始めた。
 その男女たちが集めた情報によると、金回りが良いのは運送屋の連中だそうだ。
 最近あそこの若大将が複数人の商売女をはべらせて遊んでいる姿が目撃され、その子分に話を聞いたところ、乗客を見つけたんすよと言っていたらしい。
「そいつらで間違いなさそうだな。手間かけさせやがって」
 泣きそうな顔で報告に来た男の襟首をつかんで放り投げてから、輝彦は今からそいつらを始末しに行くかのようにその場を後にした。

「怪しいというか変わった先生なら前に居たんだけどねぇ」
「どんな人だったんですかぃ?」
 失踪者や行く不明者、または見慣れない車や人の姿、それらを見たことが無いかと聞き込みをしていた要に一人の男性が答える。
 男性の話によると、植物を研究している変わりものの先生がこの町に住んでいるらしいのだが、ここ最近姿を見ないという。
 それは果たして今回の強盗団と関係があるのかないのか……それは判断がつきませんねと要が考え込んでいると、今度は男性の方から質問される。
「でもなんでそんなことを?」
「こっちに知り合いが越してくる予定でねぇ、このあたりの治安はどうなのか気になったんですよ」
 怪しい奴が居ないかなどと聞かれれば当然の疑問。当然の疑問故に、要もまた答えを用意してきている。つまり知り合いのために調査をしているのだと。
 ただ普通の知り合いのためにそこまではしないわけで……そこらへんを察した男性は憎いねぇこのとか笑いながら去っていった。
 去っていく男性に丁寧に礼を述べてから、要は近くの公園に移動すると、今度は動物たちから情報を集めようとする。
 要は、おもむろに取り出した油揚げを、近くの電柱にとまっているカラスに向けて振って見せると……カラスはあっさりと要に向かって飛んできた。
 カラスの話では、白い箱の中に、餌がいっぱいあったが、ある日を境に白い箱に入れなくなった。
 入れなくなる時に仲間が沢山閉じ込められた。仲間が心配だ。あの肉はとてもやわらかくてうまかった。
「白い箱ですかぃ」
 動物から聞いた話なので要領を得ないのは当然として……何か妙に引っかかる話だったなと要は考える。
 だが、いずれにしても今回の強盗団と何か関係があるのかと言われると、判断がつかなかった。
「何が役に立つか分からないし、報告はしておきますか」
 要はそう結論付けると、一度仲間たちのもとに戻ることにした。

 新聞とか読むよりは現地で聞く方がはえーわと、ピンク色の髪を赤銅は揺らす。
「よぉおっちゃん儲かってる? 私最近ここらに越して来てさー、美味い飯屋とか知ってたら紹介してよぉ」
 それから近くを歩いていた男性の方にいきなり手をまわすと、美味い店は無いかなんて気さくに話しかけて見るが、
「お? 姉さんがさっきの人の大切な人かい?」
 男性の反応が想定外で思わず、え? と返すと、男性はいやいや何でもないよと照れたように笑っていた。
「まーいいけど。あ、あと治安とかどう? 女独り暮らしだからその辺知りたい知りたい」
 一人暮らしをするからと言う理由で話を聞いてみると、男性はさっきも別の人に聞かれたんだけどねぇと前置きしてからいろいろと教えてくれる。
「あ、そういえば変わり者の先生が住んでいる建物の中で大量の植物が栽培されていると言う噂があるんだよ。珍しいものもあって危ないから近づいちゃいけないよ」
 そしてその中の最後にふと思い出したように、小さな子供に危ないから近づいてはいけないよと教えるように、そんな噂を口にした。
「へー、泥棒とか入ったりしないのかねぇ?」
 何が危ないのか、それは謎だが噂話などそんなものだろう。だが珍しいものがあるのであれば泥棒に入られる可能性もあるわけで、そのあたりを赤銅は聞いてみる。
「聞いたことがないねぇ……まぁ、肝試しで侵入した若者が帰って来ないと言う噂はあったけど、運送屋が良くものを運びにくる今でも普通に使用されている建物だよ」
 そこまで話すと男性は、おっと遅れてしまうと慌ててその場を後にして。
「近づいたら危ないのに普通に使用されているって」
 赤銅は、走り去っていく男性に大きく手を振りつつこの矛盾について考えるのだった。

 夜の町をバイクで走る。
 夜の町を走ることにより、昼間では分からないことも分かってくる……例えば、意外と人通りが途絶えないこととか、人の目に触れないように行動することの困難さなどだ。
「異常はなさそうなのだよ」
 ピオニーたちから聞いた、まだ強盗にあっていない花屋で、近くに大きな道路がある店をピックアップして現地偵察を行っていたマカだが、大通りに面した店を狙うのは難しそうだ。
「また、あのワゴン車かい」
 だが、大きなワゴンあたりと目をつけていた強盗の車については収穫があった。町中を走る24時間営業の運送業者のワゴン車。それがあちこちで目についたのだ。
 もしあれが強盗団の移動手段だとすれば、人々の目についても気にする人はあまりいないだろう。
「最終確認はできたのだよ」
 蓄積された情報をもとにした仮定は、マカの夜の偵察によって確証に至ったと言って良いだろう。
 マカは一つ頷いてから、バイクを反転させて仲間たちのもとへと戻るのだった。

●強盗団
 店の外から車のエンジン音が聞こえてくる。
 その音が近くまで来たかと思うと……続けてガチガチと軽快な音と共に何かが引きはがされる音が聞こえる。
 それから何人かの人間が床を踏む音が聞こえてきて、
「暴れなければ痛い目を見ずに済む」
 何が起きたのか分からないと言った様子で立ち尽くしていた少女に手を伸ばして……少女、光はその手を汚らしいものを払うように弾いた。
「やっぱり無理です。死んでください」
「ちょっとちょっと、首謀者の情報聞くまで我慢してくださいよ」
 そんな光に対して、部屋の裏で待機していた夕立が計画と違うじゃないですかーと出てきて、さらにいつの間にか強盗団の後ろに回り込んでいたヒカゲが姿を見せる。
「なんだ嬢ちゃんたち正義の味方ごっこか?」
 そんなヒカゲたちを見た強盗団はたっぷり余裕を持った態度で、笑って見せる。
 相手の人数が想定外に増えた時点でもっと警戒するべきなのだが……盗賊団は警戒どころか獲物が増えて喜んでいるようにすら見える。
「慣れって怖いね」
 そんな強盗団の様子を見たヒカゲは目の前に居た強盗の懐に素早く潜り込むと、身を屈めて……下から抉りこむように拳を突き上げた。
 ヒカゲの拳を顎に受けた強盗は軽く宙に浮いてから仰向けに倒れ、続けざまに何か細かいものがパラパラと落ちてくる。
「お前たちはな――」
 それが砕け散った歯だと気づいた瞬間、慌てふためいた強盗団がヒカゲたちに問いかけようとするが、その言葉すら光が放った銃声にかき消される。
「金のために動いている連中でしょ? こうした方が早いわ」
 強盗団などと会話をする気が全くない光。その手に持つのはどう見ても人を簡単に殺せる道具。
「そうなんですけどね。ウソですけど」
 その道具を前に口をつぐんだ強盗団を面倒そうに一瞥してから、夕立は足元に転がる強盗と視線を合わさないように様子を確認する。
 ヒカゲに顎をやられて口から赤いものを噴き出している強盗……これは助けたほうが良いのだろうか、死なれたら邪神が強くなりそうだし、などと夕立が考えていると、
「こ、こいつら頭おかしいっすよ!」
 軽薄そうな男がそんな捨て台詞を吐きながら逃げ出し、体格の良い男と数人の男たちがそれに続く。
 この状況、大の男たちに囲まれて平然としているどころか素手で顎を割り、あまつさえ武器も所持しているとなれば逃げだすのも当然だろう。とはいえ、
「強盗団に頭がおかしい呼ばわりされるのは心外ね? あぁ、お望みならショットガンもあるけど?」
「首謀者のこと聞きたいんだけど、もうちょっと痛い目にあってからでいいよね?」
 強盗団に頭がおかしい呼ばわりされるのはとても心外である。
 逃げようにも腰が抜けて動けなく、その場に座り込んだ強盗を前に光は対UDC用にカスタマイズされたショットガンを構え、ヒカゲはボキボキと拳を鳴らして……壁まで後ずさり、もう後の無い強盗たちの前に立つのだった。

「おい、早く車を出せ!」
「今やってますってば!」
 ワゴンに乗り込んだ男は、軽薄そうな男を急かすも慌てれば慌てるほどにエンジンはかからないようで、軽薄な男も何でだよぉ! と悪態をつきながらもキーを回す。
 そうこうしている間に別の男たちが後ろのワゴンあったもう一台のワゴンに乗り込んで……、
「おっとー、悪い子だーれだ? 詳しいこと聞かせてもらおうか?」
 乗り込んでドアを閉めたのを見計らったように……否、実際に見計らっていたのだが。通がワゴンの屋根の上に飛び乗ると、手刀一閃。
 あっさり裂けたワゴンの上部をさらに蹴破ってワゴンの中へと侵入する。一見子供に見える通だが、あっさり屋根を裂くなど最早人間の技ではない。強盗たちはホラー映画で、最初の方で死ぬ人よろしく肩を抱き合って怯えるばかりだ。
「逃げるなんて釣れないじゃないか」
 そこにさらに花屋の屋根の上で待機していた赤銅が飛び降りてきて加わり、ひっひっひとわざとらしく笑いながら唇を舐める。
 そんな赤銅を見た強盗の一人が混乱したのか、何かが切れたのか、奇声を上げながら突っ込んで来ようとするが……ここはワゴンの中、自由に動けるはずも無く、通が素早く左右で二度の正拳を突くとあっさりシートの隙間に挟まって倒れた。
「おじちゃんさー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……これ、どこに行こうとしてるの?」
 残った男は恐怖で荒い息をつくばかりだ。
 散々悪事を働いてきたくせに、自分の番となるともろいものであるが、
「勿論、お仕事なのは分かってる、だからそうだね安全と報酬を引き換えに話してくれないか?」
 ならばと通は身の安全と、金銭での交渉を持ちかけて見る。
 まともな状態であれば、受けない理由の無い交渉材料だが、相手は軽く錯乱しているのか、ただただ首を横に振るばかりだ。
「喋れねえ舌なら要らねえよなあ、舌切り雀ちゃんになってみまちゅん?」
 そんな男の姿に埒があかねえなーと、赤銅がシートの隙間に挟まった男の口を押え、はさみで切るような仕草を見せてみると……男は牝鶏のような声で悲鳴を上げて、それと同時にもう一台のワゴン車が発進していったのだった。

 結局この場に残された強盗たちは、ただ命令されるままに動いているだけで首謀者については知らされていなかった。
「それにしても、よく場所が特定できたね」
 もう一台の方が当たりだったかなぁと言いつつ通が、輝彦に話しかけると、
「ちょっとお友達に頼んだだけさ」
 輝彦は携帯電話とふりふりと見せながらそんな返事をする。
 どっちに来るか分からないのならば誘導してしまえばいいだけの話だ……とは柩の意見だったか。もともとは未夜が考えたことだとか言っていたが。
 幸い犯人にも当たりがついていたし、その知り合いともお友達になれていた。となれば後は都合の良い情報を流してやれば良い。
 念のためもう片方の店にも未夜やピオニーが待機しているが、上手く嵌ってくれたようだ。
「計画通りってわけだね」
 輝彦の回答に、なるほどねと通は頷いてから、頭の後ろで手を組んで……ワゴン車を追っていったバイクを思い出していた。

「あの式神がついたワゴン車を追えばよいのだね?」
「そのはずだ」
 花屋近くのわき道で待機していたマカとベモリゼは、ワゴン車が発進するのと同時にその後ろを追っていた。
 ワゴン車の後ろには、夕立が飛ばしたヒトガタの式神がついている……つまりあれがリーダー格の男が乗っているワゴン車で間違いない。
 そして、ここまで手ひどく失敗したからには首謀者に対して報告、と言うよりも泣きつきに行くことだろう。そうであるならば、あとはあのワゴン車を追っていけば首謀者の元へとたどり着けると言うことだ。
「しっかりつかまっているのだよ」
 夕立のヒトガタの式神もそろそろ効果が切れる距離だろう。
 前を走るワゴン車を見失わないように、マカはギアを上げたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『教団員を探せ』

POW   :    自分が怪しいと思った相手に力を見せつける

SPD   :    容疑者の情報や証拠から教団員を特定する

WIZ   :    会話して得られた情報から教団員を推理する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●とある動画
 誰しもが最後には自然に帰る。焼こうが、海に撒こうが、放置されようが行きつく先は自然の中だ。
 懐深く、慈悲深く、すべてを包み込む、始まりにして終演の安らぎの場所、それが自然と言うものだ。
 君たちも山や海などの大自然に触れたときに、安らぎを感じることがあるだろう? それは君たちの体が、魂が、自然を求め、帰りたがっているからだ。
 私は自然科学の研究課程で、この自然そのものが一つの大いなる意思によって成り立っていると認識した。
 認識した意思。それを俗人的に例えるのならば、神あるいは女神と例えるべきだろう。
 この神の意思に接触することによって、現在の医学では到達できない領域の治療や、精神……そう魂をも救済できるに違いないのだ!
 己が身の理不尽に俯く君たちよ。
 不幸な出来事を運命だと耐え忍ぶ君たちよ。
 悲しみに膝を折ってしまった君たちよ。
 君たちの嘆きも悲しみも憤りも、自然の意思によって必ずや救われるだろう。
 研究はもう少しで完成する。そのための施設も用意した。
 さぁ、救いを求める君たちよ……ともに研究を行い、苦しみ無き大自然へと帰ろうではないか。

 骨のように痩せた男の演説を映していた動画は最後に、白い大きな建物……窓すらない四角い建物を映して終わり、動画のコメント欄には以下のようなものが並んでいた。

 完全にやべぇ宗教。
 あの建物墓石みいだな。
 女神の懐に飛び込みたい。
 私も自然に帰りたいからちょっと行ってくるわ。

●追跡の先
 ワゴン車は町の裏道を猛スピードで走り抜ける。
 運転手の動揺をそのまま反映したように右へ左へと後部を揺らし、時折車体を壁や電柱にこすりながらもワゴン車は爆走を続ける。
 その後ろを一定の距離を保ちつつバイクで追跡する猟兵から見れば、大きな事故にならないのが不思議なくらいの暴走だが……土地勘のなせる業だろうか、ワゴン車は裏路地を駆け抜け――その先にある真っ白な建物に向かって真っすぐに走っていった。

 目的地を確定させた猟兵は、しばらく間をおいてからその建物を訪ねる。
「こんな夜分にどうしましたか?」
 出迎えてくれたのはがりがりに痩せた男と、人の良さそうな若い女。
 あまり清潔ではない白衣に身を包み、いかにも研究者然としたその男に、猟兵はこの場所に怪しい男たちが訪ねてこなかったかと問うも、
「怪しい男たちですか? それは危険な人たちなのでしょうか?」
 男は逆に、その男たちがどんなものなのかを尋ねてくる。それは本当に知らないのか、白を切っているのか……男の表情からはその真偽を読み取れない。
 猟兵は男に対して、その怪しい男たちは強盗団なのだと説明をすると、
「ここには私と、私の研究に賛同してくれる八人の若者たちが住んでいるのですが、そんな危ない人がこの近くに居るのならば不安でしょうがありませんね」
 男は自分の後ろにある真っ白な建物を示しながら言う。
「あなたたちはその男を追ってきたのでしょう? 協力は惜しみませんので早く捕まえてください。何なら泊っていってください。ね? 先生」
 人が住むにはあまりにも無機質な建物を猟兵が訝しむと、男は研究施設を兼ねた住居なのですよと説明し、説明する男の袖を引っ張って若い女は懇願するような視線を男と猟兵に交互に向けてくる。
「ああ、そうしていただけると心強い」
 その言葉を聞いた男は猟兵たちを招くように両手を広げたのだった。
●招きを受け入れて
 先生と呼ばれた男と、その横に控える女に対して、猟兵たちは顔を見合わせる。
 どう考えても怪しいこの状況……だが、相手の懐へ飛び込まなければ進展はないし、次の行動も決められない。
 猟兵たちは無言のままに頷き合うと、男の提案に乗ることにする。
「おお、ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
 猟兵たちの意思を確認した男は、仰々しく真っ白な建物に手のひらを向けて……猟兵たちを招き入れた。
 そして、先行して行動した猟兵と男のやり取りを見ていた別の猟兵たちは、男と共に歩き出した仲間に追随して情報を集めるのか……それとも、仲間たちが持ち帰る情報を待ってから動くのかを思案するのだった。
ピオニー・アルムガルト
行動【WIZ】
うーんワゴン車がここに入って行ったのは間違いない事だし、そこの住人が全く知らないっていう言葉はなかなか信用できないわよね…。迎え入れてくれるのは楽だから良いけど罠を張っている可能性もあるから気を付けて行きましょう!

女性には深緑の隠者を付けて、先生と呼ばれた男性とは会話をして【情報収集】をするわ。宗教の事はよく分からいけど自然の事に関しては好きだし興味があるわね!なんの研究をしているのかしら?と話の切っ掛けを作りたいわね。動画まで作ってる所を見ると意外と喋りたがりっぽいし。


矢来・夕立
▼SPD
その方に見覚えがある気がします。
“大島健司”さんじゃありません?
そうであってもなくても、そのあたりの情報は共有しておきます。
当時から怪しげな宗教……?との関連が疑われていたことも含めて。

さて。
こっちの正しい人数がわからない間に【紙技・化鎮】を使用。
オレと同じように隠れて調査する方がいるなら、式を渡しておきます。レンタル料くださいね。

【忍び足】で建物の奥まで行ってきます。
そのまま逆走する形で一通り見て来ようかな。
道中【聞き耳】でクリティカルな情報を得られたら、場所を覚えておきます。

簡単な見取図が作れればよりイイんですけど、一人では難しいかもしれません。
……努力はしてみます。一応。


空廼・柩
怪しい事ばかりだけれど、変に刺激しないよう注意
一応協力は得た事だし研究に賛同する八人にも会ってみよう
情報共有で得た強盗団と特徴が一致するかもだし
…他の猟兵に動揺する姿を見られたりしてね

そうだね、此処は世間話っぽく
此処で一体どんな研究をしているのか尋ねてみよう
俺も研究者の端くれだから気になって…とそれらしい理由も付けて
後は先生と呼ばれた痩せた男の事も話を聞きたいし
それに気になるのは若い女性の存在
彼女も研究員の一人なのかな
一体、先生とどんな関係なんだろうね
…不審な点があれば【影纏い】で様子を窺うのも手かも知れない
聞きたい事は山程あるけれど警戒は怠らず
此処は敵の本拠地
いつ寝首を掻かれても可笑しくない


マカ・ブランシェ
虎穴に入らざれば虎子を得ず、と言うからね
ここは遠慮なく泊めて貰うのだよ

出迎えてくれた男女に、施設について「何を研究しているのか」「こんなに無機質で自然が恋しくならないか」興味がある風に装って質問してみよう
「私も、いつか死ぬのだと思うとたまらなく不安で……時々眠れない夜を過ごしているのだよ」
研究内容に賛同するように振る舞って、秘密を引き出せないか試みながら二人の注意を引き付けておくのだ
他の猟兵の調査が捗るようにね

もしも他の猟兵と離れて単独で彼らについていく必要が生じたら
指を切って壁に血で矢印を書いて仲間に知らせながら進もう

(アドリブ・連携大歓迎です)



●建物の中
 両手を広げた痩せた男の顔を、赤茶色の目でじっと見つめる。
 それからその目をすすすと横にずらして男から視線を逸らすと、矢来・夕立はニュースサイトに出ていた写真を思い出す。
「あの人に見覚えがあります。大島健司さんですね」
 自然科学の有識者が娘を殺すそんなタイトルだっただろうか。そこに出ていた写真と目の前の男の顔は確かに同じものだと、夕立は小声で他の猟兵たちに伝える。
「大島さんは、娘さんを亡くしていますが――」
 それから続けて大島が娘を亡くした際の行動についても説明し、自然科学の力で娘を治すとした大島の行動は、今思えば宗教染みていたともいえると夕立は考察を加え、
「それじゃ」
 夕立ちの言葉を聞いた猟兵たちは無言で頷き、大島が白い建物に向かって歩き出すと同時に、夕立は素知らぬ顔で自身と自身の装備を透明にして行動を開始した。

 痩せた男……大島健司に案内されて一行は、白い建物へと向かう。
(「虎穴に入らざれば虎子を得ず、と言うからね。ここは遠慮なく泊めて貰うのだよ」)
(「怪しい事ばかりだけれど、変に刺激しないよう注意しよう」)
 大島の後ろを歩きながら、マカ・ブランシェと空廼・柩は頷き合う。大島たちの誘いはどう考えても怪しい。
 行き成り訪ねてきたものが言うことを鵜呑みにし、あまつさ泊っていって欲しいなど、なかなかあり得ない行動なのだから。
 それでも猟兵たちが大島たちの誘いに乗ったのは、マカが思うように虎穴に入らざれば虎子を得ずという想いからだろう。結局のところまずは行動を起こさな得れば何も得られないのだから。
(「ここは敵の本拠地、気を付けて行動しよう」)
 しかし、だとすればここはまさに敵の本拠地。柩は寝首を掻かれないように気を付けようとマカと視線を交わし、マカもまた頷く。
 そうこうしている間に、猟兵たちは外から見た白い建物……窓すらない四角い建物はまるで墓石のようで、どこか不気味な建物の近くまで移動していた。
「大きな建物だが、こんなに無機質で自然が恋しくならないのかね」
 その建物を間近で見たマカの第一声はそんな言葉だったが、
「いえいえ、そんなことはありません。中を見ていただければわかりますよ」
 大島はマカの言葉にニコニコと笑って答える。中によほどすごいものがあるのだろうか? そう考えるマカだが、ここは素直に中の様子を楽しみにするのが良いだろうと、
「楽しみなのだよ」
 そう言って頷いて見せた。

「大きな入り口だね」
 資材搬入用のためだろうか建物の入り口は、大の大人が五人手を繋いでも余裕があるくらいに大きく、それ見た柩が感嘆したような声を漏らす。
「ええ、色々と運び込まなければならないものがあるので、大きく作っているのです。あ、人用の入り口はこちらですよ」
 柩の言葉に、どこか嬉しそうな声で大島は答えて大きな入り口の横にあった普通の扉を開くと、猟兵たちに中へ入るよう促す。
 猟兵たちは大島に促されるままに、建物の中に入って、
「すごい設備ね」
 その建物の中の様子に、ピオニー・アルムガルトは声を漏らした。
 天井から煌々と降り注ぐ人工的な光。施設を横断するように伸びる搬送用の大きな通路。通路の左右には様々な植物が植えられ、各植物の手前には見たこともない薬物や機械が丁寧に整理されて並んでいる。
 それらも見るものが見れば興味深いものだっただろうが……何よりもその奥、
「あの奥の扉は何かしら?」
「倉庫です。危ないものもあるので入らないでくださいね」
 中央通路が繋がる一番奥。入口と同じようなシャッターがあり、それについてピオニーが訊ねてみると大島は、笑顔のままに近づかないようにと言う。
(「うーんワゴン車がここに入って行ったのは間違いない事だし、そこの住人が全く知らないっていう言葉はなかなか信用できないわよね……」)
 大島の言葉にピオニーはふさふさした狼の耳をぴくぴくと揺らして考える。
 ワゴン車がここの敷地に入って行ったのは間違いない。だが、ここに来るまでの間、ワゴン車はどこにも見当たらなかった……となれば建物の中に隠されている可能性が高いだろう。
 現在最も疑わしいのはあのシャッターの向こうだが……、
(「迎え入れてくれるのは楽だから良いけど、罠の可能性もあるわね」)
 罠の可能性も考えると迂闊に踏み込むのは避けたほうが良いだろうか。
 それに後ろめたいことがあるにもかかわらずに、見ず知らずの人間を迎え入れるからには何か裏があると考えるのは正しいだろう。気を付けて行動するに越したことは無い。
「そうなのね。近づかないようにするわね」
 ピオニーは大島の言葉に分かったわと、頷いてから周囲を見回して、
「私も植物を育てたことがあるけれど、室内で育てるのは大変でしょう?」
「ここは何を研究しているんだい?」
 周りの植物たちを感心した様に眺めて、どうやって育てているのかと興味深そうに質問し、マカもまたこの植物たちを使って何の研究をしているのかと尋ねてみる。
「別のところにビニールハウスもありますけど、ここでは成長促進や植物の声を聞くための実験を行っています」
 二人の質問に、大島は笑顔で答える。
 動画まで作っていたのだから大島は意外と喋りたがりなのだろうと考えていたピオニーの考え通り、大島は自分の研究について嬉しそうに語る。
「植物の声が聞こえるの? それはぜひ聞いてみたいわね」
 植物の声を聞く。それは植物や自然が好きなピオニーとしては興味深い一言であり、そう返すのは当然とも言えたが、
「そうなのですよ! この装置を付けていると、植物の声が……大自然の声が聞こえるのです。そしてその意志を間近で感じることができるのです! そして、そして私はあの声を――」
「先生、それは機密事項ですよ」
 聞いてみたいと言ったピオニーに、大島はどこか恍惚とした表情で、まるで演説のように天井に向けて両手を広げて語り出すも、傍にいた若い女が大島の言葉を遮る。
 言葉を遮られた大島はつい夢中になってしまってねと誤魔化すように頭をかき、女の方も仕方がありませんねと笑っているが、
「我らが古き盟友、隠者よ、私を導きなさい」
 その様子に違和感を覚えたピオニーは自身と五感を共有する自然に溶け込むものを呼び出して、若い女を追跡させる。
「何かおっしゃりましたか?」
「ううん、何も言ってないわよ。それよりも私たちが泊まる場所はどうなるのかしら?」
 そして小首を傾げる若い女に、小首を傾げて返しから自分たちが泊まる場所について確認するのだった。

●賛同者たち
 大島とマカたちが話をしている間に、夕立は階段を上がって二階へと移動する。
 そこには数人の若者たちが集まっており、何やらひそひそと話をしていた。
(「内緒話はいけませんね」)
 ウソですけどと心の中で独り言ちながら、夕立は若者たちの後ろへそっと回り込む。そして透明になっていることを良いことに、特に仲がよさそうな男女の間で聞き耳を立てると、
「いよいよ明日だな」
「ええ、ついに私たちも大自然に帰れるのね」
 本当に楽しみだと言った様子で、その二人は実に楽し気に、期待に瞳を輝かせていた。
 大自然に帰る……そうすることで苦しみから解放されるのだと、そんな戯言を本気で信じているのか、それともそうなれば良いと願っているだけなのかは、夕立には分からなかったが少なくとも若者たちが強い信念で持って行動しては無いように思えた。耳触りの良い、都合の良い言葉だけを信じている、そんな印象だ。
「それにしても……無理やり連れてきた人たちはどうするつもりなのかしら」
「さぁ? 儀式には人数が必用らしいからな。終わったら解放するだろう」
(「それは無いでしょう」)
 続けて聞こえてきた若者たちの会話に、夕立ちは小さく息を吐く。強盗団が攫ってきた人たちについても若者たちは認識しているようだが、考え方があまりにも甘い。
 無理やり連れてこられた人間をそのまま解放したらどうなるのか? 想像するだけで恐ろしいが……あるいは、どうなるのかを知らしめてやるのも良いのだろうか。
「おい、誰か来るぞ」
 などと考えている間に下の方から話声が聞こえてくると、若者たちは黙ってしまったため、夕立はその場を離れて施設の中を調べて回ることにした。

「二階に沢山部屋があるので、皆そこに住んでいるんです」
 若い女は一行を建物の二階へと案内する。
 二階にはまず大きなロビーがあり、そこに数人の若者たちが集まっていた。夜中に現れた部外者を興味津々に見つめる彼らに、若い女が経緯を説明すると、
「強盗団……私怖い」
 一人の女性が自分の肩を抱いて大げさに怖がっている。
「大げさすぎるのだよ」
「そうね、ちょっと白々しいわよね」
 その姿を見たマカとピオニーが若者たちに聞こえないように囁き合う。
 案外こういった事件は、我が身に降りかかるまで他人事なものだ。それを大げさに怖がったら関係者だと宣言しているのも同じだろう。
 それを知らないのは若さゆえか、愚か者だからか……一言多い二人を横目でたしなめながら柩はぼさぼさの灰色の髪の毛に手を当てて、
「俺たちは、その強盗を捕まえるためにここに来たんだが、何か知っているかい?」
 もっともらしいことを聞いてみるも、若者たちはお互いに顔を見合わせて首を傾げるばかりだ。
 どうやら話す気はないらしい。柩が息を吐いていると、若い女はお茶を取りに行ってきますと言って奥の方へ移動していった。
「――じゃ、宜しく頼むよ」
 出ていく女によろしくと片手を上げつつ柩は女の後ろに影を纏った蝙蝠を召喚する。極めて発見され難いそれは女の後ろを追跡して行き、
「あんたたちも植物の研究を?」
 影を纏った蝙蝠の姿が完全に見えなくなってから、柩は残った若者たちに質問する。
「はい、先生のお手伝いをしています」
 それは下の階で大島から聞いた話だが、このものたちからは別のことも聞けるかもしれない。
「そうなのか、俺も植物のではないが研究者の端くれなんだ。だから研究と言われるとどうしても首を突っ込みたくなってね。一体何を研究しているんだ?」
「自然律の解明……と先生はおっしゃっていました。なんでもこの研究が成功すれば、自然そのものと一体になれるのだとか」
 柩が自分も研究者だと語りつつ、さらに詳しい内容を問うと、若者の一人が少し自慢げに語ってくれる。
 自然と一体になる……と言ってもこの場合は、森林浴を楽しめるとか、全裸でビーチを楽しめるとか、そういった可愛いものではないのだろう。
「自然と一体になると、どうなるの?」
 ではどうなるのか? 当然の疑問をピオニーがぶつけてみると、
「全ての恐怖から解放されて、全能の力を手に入れられるんです」
「つまりそれって無敵になれるってこと。この世の不条理をぶっ飛ばせるんだよ」
「おいらを馬鹿にしたあいつらに仕返ししてやれるだよ」
 若者たちは口々に言いたいことを言い始めた。
 この場所に来る前によほど嫌なことがあったのだろうか、若者たちの言葉には力だとか、仕返しだとか、不条理だとか、そういった単語が多く含まれていた。
 若者たちの言葉の数々に柩は鼻白む。こういった人間だからこの場所に集まってきたのか……それとも、こういった人間を選んだのか。
 確かに死んでしまえば解放されるが……いっそその事実を突きつけてやれば目が覚めるのだろうか。
「分かるぞ。私もとても怖いものがあるのだ」
 柩の漆黒の瞳に呆れの色が浮かぶのとは逆に、マカは緑色の瞳の瞳に涙を浮かべる勢いで、若者の一人の手を取る。
「そう、いつか死ぬのだと思うとたまらなく不安で……時々眠れない夜を過ごしているのだよ」
 それから、今自分が恐怖していることを真摯に訴えかける。
 死の恐怖。それは原初的なものだ。故に、いつだれがそれにとらわれても不思議ではない……不思議ではないのだが、毎日じゃなくて時々なのかと柩はマカを見つめる。
「だから、全ての恐怖から解放されるという、その研究に興味があるのだよ」
 そんな柩の視線を全く気にせず、マカが迫真の演技で若者たちに訴えていると、
「話してしまったのですね」
「あ……すみません。佐藤さん、つい調子に乗っちゃいました」
 佐藤と呼ばれた若い女性がお茶を手にロビーに戻ってきていた。
 奇抜な研究は宗教などと揶揄されるからあまり語ってはいけませんよと佐藤は若者たちをたしなめつつ、猟兵にお茶を配り、
「明日、集大成とも呼べる実験があるのです。皆さんもお時間がありましたら是非ご参加ください」
「それは是非参加したいのだよ」
 マカはそのお茶には手を付けずに、緑色の目を細めたのだった。

●向こう側
 二階には鍵のかかった部屋が複数あり、そのいくつかから人がすすり泣くような声が聞こえていた。おそらくそこに連れ去られた人たちが監禁されているのだろう。
 鍵のかかっていない部屋は若者たちがそれぞれ住んでいるのだろうか、それなりに広い部屋にトイレとシャワーがついていて住み心地がよさそうだった。
 もっとも、全ての部屋が外からロックできる機構だったので、とても住みたいとは思わなかったが……それから夕立は、建物に入ったところで見えた大きなシャッターの前に移動する。
(「さて、どうしましょう」)
 シャッターを無理やり開けることは出来そうだが、そうした場合大きな音が出てしまうだろうと夕立が思案していると、中からこそこそと話す声が聞こえてきた。
「どうするんっすか、あにきぃ。てか、この地下に降りる階段なんなんすか」
「うるせぇ、しらねぇよ」
 どこか聞き覚えのあるその声……どうやら強盗団が中に逃げ込んだのは間違いないようだ。
 さて、無理やり中に入れば強盗団を確保できそうだが……夕立はしばらく考えた後、一度情報を持ち帰ることにした。

 様々な実験道具が散らかる部屋の中。
「この時期に部外者を招き入れてしまってよかったのかい?」
 この部屋の主だろうか……ギシギシと嫌な音を立てる椅子に腰かけながら大島が問いかける。
「部屋は中からは開きません。閉じ込めてしまえばあとは何とでもなります。今までもそうだったじゃありませんか」
 大島が問いかけた相手、佐藤はにっこりと笑いながらそんなことを言う。
 まず閉じ込めてしまえば、そのまま弱るまで監禁しても良いし、準備を整えてから扉を開けても良い。いずれにしても主導権は握れるのだと。そしてそれは今まで通りだと。
「ああそうか、それもそうだな。しかし、これでようやく再び娘に会えるのだな」
 佐藤の言葉を聞いた大島は納得した様に頷き……恍惚とした表情で天を仰ぐ。
「君のおかげで、神に、王にお会いできる。感謝しているよ」
「先生のお役に立てて光栄です」
 それから佐藤の方を見もせずに大島が感謝の言葉を並べると、佐藤はその大島の様子に口の端を歪めてただ笑った。

 ロビーの端、若者たちから少し離れたところ。
「あの女、最低ね!」
 若者たちと明日の実験について話し込んでいるマカを他所に、深緑の隠者によって佐藤の様子を探っていたピオニーは牙を見せていた。
「ああ、首謀者はあの女か」
 ピオニーと同じく佐藤を追跡させていた柩も小さく頷く。
 佐藤が教団員で大島の心を揺さぶる何かを使い、邪神召喚の準備を進めさせた。そう考えるのが妥当だ。
「どうやって阻止しようかしら……」
 必要な情報は揃ったと言えよう。あとは、この情報を元にどうやって儀式を阻止してやるかだ。
 口元に手を当てて考え込むピオニーを横目に、柩はそうだな……と呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

向坂・要
彼ら(鴉達)の言ってた白い箱、てのはこれですかねぇ…

建物の内部へ潜入を試みますぜ

必要なら眼帯の下、右目の傷跡の事もあり片目を事故で失いここの理念に共感した者、といった風を装い

暗闇に紛れ放つは八咫影戯
影から影へと音立てず移動し建物内部の様子を探りますぜ

救済を求めたものはどうなるのか
礼儀作法
コミュ力
情報収集
場合によっては催眠術も使用して探りを入れると共に自身やほかの猟兵達に注目を晒し
目立たないように八咫影戯でも情報収集
こちらは建物の奥
大量購入されたという植物の行方や囚われた人がいないかなど

常に視野は広く保つよう心がけ
何かあれば仲間と共有

アドリブ
絡み歓迎



 がりがりに痩せた男に案内されるままに、敷地内に入った猟兵たち。
 その猟兵たちの後ろの方を歩きつつ向坂・要は、がりがりに痩せた男……仲間の情報によると大島健司と言う名前の男と、仲間たちのやり取りを見つめている。
 そして徐々に近づいてくる墓石のような白い建物を、その紫に色の瞳に映し……、
(「彼らの言ってた白い箱、てのはこれですかねぇ……」)
 カラスたちから聞いた話を思い出す。
 カラスたちは美味い餌とか、仲間が閉じ込められたとかカラスは言っていた。それがこの建物のことならば、中には一体何があるのだろうか?
 白い建物の入り口を前に、要は口の端を僅かに緩めて……仲間たちの後を追うように、その中へと足を踏み入れるのだった。

 建物の中には多くの植物と見たことも無いような機械があり、その一つ一つを手に取って確かめたくなるようなものばかりだった。
 植物の声を聞く実験なのだと大島が語ったそれらを要が眺めていると、
「興味がおありですか?」
 大島が笑顔で話しかけてくる。自分の実験に興味を持つ人間が居るのは研究者として嬉しいことなのだろう。
「ええ、お前さんの動画を見たことがありましてねぇ。自然の意思に触れてみたいと思っていたんでさ」
「なんと、あなたも何か悩みを抱えているのですか?」
 ましてやそれが自分の共感者となりうる可能性を秘めているのであればなおさらだ。
 ずいっと身を乗り出してくる大島に、要は右目の眼帯を見せると、大島は初めて要の眼帯に気づいた様子で目を丸め……、
「さぞ辛い思いをされたでしょう。ですが自然と一つになれば、そんな思いなどすることもないのです」
 ぐっと拳を握りしめてから、自然と一つとなれば苦しみから解放されるのだと熱弁する。
 恍惚とした表情で、何処かうすら寒い天井を見ながら紡ぐ大島の言葉……宗教家じみたその言葉だが、少なくともの要には本気で言っていると感じられた。
「それは素晴らしいですね。自然と一つになるとどうなるんで?」
 だから要は大島に問う。救済を求めたものはどうなるのか? と、紫色の瞳で真直ぐに大島を見つめて……それは、邪神に関する有益な情報を得るための行動に違いないが、要自身の興味もあったのかもしれない。
 要の紫の瞳を食い入るように見返してきた大島は、まるでそこに本当に神が見えているかのように、それを迎え入れるかのように、両手を天井に向かって広げて、
「言葉通り自然と一つになるのです。そうすることにより自然の偉大な力を得て、何でもできるようになります……さらには、思いを同じくする現在過去未来全ての人々とも一体化することができるのです!」
 狂気じみた笑顔を見せたのだった。

「さ、行きなせぇ」
 長話をしてしまいましたねと照れたような顔を見せたあと、まだ作業があるのでと奥のシャッターの方へ向かう大島の背中を見つめ、要は影から生まれた闇色の鴉達を召喚する。
 召喚された鴉達は、天井からあふれる光によって作られた植物や機械の影から影を移動して大島の後をつけて行く。
 自分の後をつける鴉達に気づいた様子もない大島に、一つ頷いてから要は二階へと向かった仲間たちの後を追った。

 シャッターを少しだけ開けた大島が腰をかがめて中へ入る。
「先生! 俺たち大丈夫っすかね?!」
「大丈夫です。すぐに彼女が何とかしてくれるでしょう。それよりも明日の実験、ぜひお二人も参加していってください」
 入るや否や軽薄な感じの男が、大島に縋りつくように寄ってくるが、大島はそれに笑顔で対応する。
 よほど彼女とやらを信頼しているのか、その顔には一切の迷いが無く。それを見た軽薄な男も少しだけ落ち着きを取り戻すが、
「ああ、気が向いたらな」
 明日の実験と言った部分には体格の良い男が難色を示した。
 難色を示す男に対しても大島は笑顔を崩さず、気が変わったら教えてくださいねと答えて、そのまま地下へと降りていく。

 二階で若者たちと雑談をしながら、その様子を見ていた要は大島から男たちへ意識を、闇色の鴉達を向ける。
 大島を追っていた闇色の鴉達はワゴン車の影へと身を潜めていると、
「なんでっすか、せっかくだから見学していきましょうよ」
 先生の機嫌を損ねて追い出されたらどうするんっすかとばかりに軽薄そうな男が、体格の良い男に抗議の声を上げた。
 その抗議を受けた体格の良い男は、闇色の鴉達が影に潜むワゴン車に背中を預けてから大きく息を吐いて、
「下の植物園を見たか? あれは俺たちが盗んできた植物で作られているようだが、その中のいくつかにカラスの死体が埋まっていやがった」
 自分が見てきたものを軽薄そうな男に教えてやる。
 それはまるで子供が考えたいたずらのようでもあり、何かの儀式めいた行動のようであり、たちの悪い迷信の具現のようでもあった。
 深く調べれば理由もわかるかもしれないが……、
「おえ、まじっすか」
「何の意味があるのか分からねぇが……とにかくぞっとしたぜ。関わるべきじゃあねぇ。先生が聞いた声って言うのももしかすると……」
 想像して嗚咽する軽薄な男に肩をすくめて、体格の良い男は関わるべきじゃないと断言した。

 ロビーの端、若者たちから少し離れたところ。
「こっちで見えたのはこのくらいですぜ」
 そこに集まって話をしていた仲間たちの混じって、要は自分が見聞きした情報を共有する。
「自然と一つとなる。その真実に気がつけばあの人たちは逃げていきそうですけど」
 覚悟も無く集まった若者たちは、それで離れるかもしれないが大島については、信仰そのものを揺るがす事実でも突きつけなければ難しそうだ。
 いずれにしても現在調べられることはこのくらいだろうか。
「思いを同じくする人々との一体化、ですかぃ」
 暫しの沈黙の後、要は呟くように言葉を紡いで……大島が熱弁していた言葉を今一度思い出したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

多々羅・赤銅
泊まりなんて大方私らもズバッと供物にする気とかじゃねえの?そうなら全く強欲で精が出るぜ。
わーいお泊りする。

「どーせなら8人からの話も聞きてえんだよね。隠れた強盗団の手掛かりとかたまたま見てるかもしれねーしさ。ど?」

八人に会えるなら説得を試みる。
お前ら本当にこの施設で自然に帰れるなんて思ってんの?
自然だ何だ言う前に、ここは墓か牢獄みてえだぞ。窓がないの普通におかしいだろが。自然だ何だかんだ言うなら日光は積極的に取り入れろよ。

自然が人間様に都合よく働いた試しなんざあるかよ 奴等はいつでも天災だ
騙されるな

説得に乗ってくれるなら逃走経路の確認
儀式が起きたらマジ逃げろ
だめならふん縛って外に積んどくかな〜


三岐・未夜
……話聞いて回ろうかなあ。
んー……だってどう考えてもこの建物怪しいし……。

強盗が敷地内に入り込んだなら、言いたくないけど手引きしたひとがいるかもしれないってことだから危険だよって話してみよう。
出入りの権限持ってるひととか、建物自体の所有者とか、昔からこの建物にいるってひととか聞けるかな。
こっそり鳩型ドローンの「おまもりぽっぽくん」を【操縦】で飛ばして、上空から映像と音声で周辺を探るのも忘れずに。

【おびき寄せ、祈り】で情報を知るひとと行きあうようおまじないをしつつ、【第六感、破魔】が反応するひとを探して【誘惑、催眠術】で話を聞くよ。
……ていうか、【破魔】が反応する時点でちょっと怪しくない……?



 がりがりに痩せた男……大島健司に誘われるままに、一行は白い建物へと向かっていく。
 何人かの仲間たちが大島と話をしながら歩き、その横を静かに歩く若い女の後ろを、どこか危うい印象を受ける青年と、豪快そうな……それでいて人を寄せ付ける何かを感じさせる女性が肩を並べて歩いている。
「泊まりなんて大方私らもズバッと供物にする気とかじゃねえの?」
 それから静かに歩く女の言葉……泊っていってくださいと、初対面の自分たちを誘ったその言葉を思い出し、豪快そうな女こと、多々羅・赤銅は唇を尖らせて軽口をたたく。
 赤銅の右目に映る女の姿にこれといった特徴は無い。強いて言うなら清楚な容姿だと言えるくらいだろう。
 しかしそんな凡庸な、強いて言うなら清楚な彼女が、大胆不敵にも自分たちを懐へ招き入れ、ズバッと供物にしようなどと考えているのであれば、
「そうなら全く強欲で精が出るぜ」
 目的のために手段を選ばない豪胆さと、その原動力たる強欲さに感心するねと赤銅は肩をすくめる。
「……供物になるのは、嫌だけど……話聞いて回ろうかなあ」
 肩をすくめる赤銅の横で少し考えこんでいた、青年……三岐・未夜は若い女に視線を感知させないためか、帽子を目深にかぶりつつ風の音にかき消されそうな声を漏らす。
 話を聞いて回るなど、あまり人と接するのが得意ではない未夜としては避けたい行動だろうが……話を聞いてみなければ分からないことがあるし、言葉を交わすことによって浮き彫りになる事実があるだろう。
 そう考えれば、まずやるべきは話を聞いて回ることに他ならない。
「そーだな。どーせなら八人からの話も聞きてえんだよね。隠れた強盗団の手掛かりとかたまたま見てるかもしれねーしさ。ど?」
 そして未夜の考えは赤銅とも同じである。
 相変わらず帽子を目深に嬲ったまま顔を上げない未夜を横目で眺めつつ、一緒にどうよ? とばかりに赤銅が問いかけると、
「んー……だってどう考えてもこの建物怪しいし……住んでいるなら何か知っているかもしれないし」
 未夜は今一度、本当に話を聞いて回るべきかを考える。
 強盗団の逃げ込んだ先。そこに住んでいる住人たち。お泊りのお誘い。怪しむなと言う方がおかしなこの状況。
「うん……その人たちの話を聞いてみよう」
「わーいお泊りする」
 やっぱり話を聞いてみるしかないよねと、未夜は少しだけ顔を上げて……そんな未夜に赤銅はニヤリと笑って見せた。

 それから一行は大島の後について白い建物の中に入り……さらに二階へとたどり着く。
 二階についた仲間たちは早速若者たちに自分たちが来た事情を説明し、ついでとばかりに若者たちに大島の研究について質問すると、若者たちは力だとか、仕返しだとか、不条理だとかの誇大妄想を語り始めていた。
 仲間たちと若者たちの会話を後ろの方で聞きながら、未夜は携帯端末に目を向ける。
 携帯端末には建物に入る前にこっそりと飛ばしていた鳩型ドローンのおまもりぽっぽくんから送られてくる情報が映し出されており……この建物を上空から見下ろした映像がそこにはあった。
 未夜の行動に気づいた赤銅は横から、どれどれ? と覗き込む。
 映し出された建物の様子。上空から見たこの建物は、林の中にポツンと存在し周囲に人が住んでいる様子はない。
 そしてこの建物自体には窓やベランダが無く光すら漏れておらず……、
「……要塞みたい」
「檻にもみえるな~」
 それはまるで外部からの侵入を阻む要塞のようにも……内側に何かを閉じ込める檻のようにも見えた。
 未夜は眉を顰め、赤銅はどこか茶化した様子でその映像を見つめていると、
「明日、集大成とも呼べる実験があるのです。皆さんもお時間がありましたら是非ご参加ください」
 自分たちに泊るように誘った若い女……佐藤と呼ばれる女が是非にと仲間たちに向かって微笑みかけていた。
「いよいよ強欲で笑えないぜ」
 想像していた通り供物にする気満々じゃないかと、笑えないと言いつつも赤銅は笑みを浮かべ、
「……いくら何でも怪しい……」
 未夜は狐の耳を押さえながら佐藤を見つめる……動物が危険を察知するような、そんな得も言われぬ何かを未夜は佐藤から感じたようだ。
 佐藤の方も未夜に対して何かを思ったのか、軽く会釈をして奥の部屋へと消えて、
「あの様子だと、向こうから来そうだな」
 その様子を見た赤銅は未夜の顔を覗き込んで、にっと歯を見せた。

 ロビーで赤銅たちが若者たちと話をしていると大島が一階へと降りて行き……その暫く後に佐藤が姿を見せる。
 佐藤はきょろきょろと周囲を見回して……端の方で疲れたように椅子に座っていた未夜を見つけると、その隣に座る。
「あなたも救いを求めてやってきたのでしょう?」
 それから人の好さそうな笑顔向けて、未夜に救いを求めてきたのだろうと話しかけた。
「……そうなんだけど、強盗団が逃げ込んだって聞いて」
 どうやら自分を勧誘する気らしい……佐藤の意図に気づいた未夜は、その言葉を肯定しつつも強盗団が逃げ込んできたなら怖いから辞めようかなと、一歩引いて見せる。
「安心してください。ここは安全ですよ」
「……でも、敷地内に逃げ込んだのなら誰かが手引きをしたんじゃ……危ないよ。それに助けて欲しいって……」
 一歩引かれた佐藤は得物を逃すものかと言わんばかりに、やたらと自信たっぷりにここは安全だと言い切るも、それだとそもそも自分たちを誘い込んだ理由が破綻する。
 そのことについて未夜が怯えた様子を見せつつ問うてみると、
「彼らは既に捕まえています。皆さんには明日の実験を手伝って欲しくて、つい嘘をついてしまったのです」
「……ほんとう?」
 この段階で既におかしなことを口走っている佐藤だが、彼女は自分の矛盾に気づかない。
 まるで何かに操られているかのように、酩酊の中にでもいるかのように……上目遣いオレンジ色の眼で見つめてくる未夜の質問に、今まで押し通してきた理屈が破綻する答えを並べる。
「嘘って言うのは、この施設でやってること全部じゃねーの?」
 様子のおかしい佐藤に若者たちがざわつき、佐藤の目の前に立った赤銅は、砂糖を見下ろしてそう言い放つ。それから佐藤が何かを言い返す前に、若者たちへ振り返り、
「お前らも本当にこの施設で自然に帰れるなんて思ってんの? 自然だ何だ言う前に、ここは墓か牢獄みてえだぞ」
 この建物のおかしさについて、未夜のおまもりぽっぽくんが撮影した映像を見せつけながら指摘する。
「窓がないの普通におかしいだろが。自然だ何だかんだ言うなら日光は積極的に取り入れろよ」
 何ごとも中からと外からでは見え方が違うものだ。実際に外の、それも上空から映された建物の異常さに、若者たちはお互いに顔を見合わせる。
 そもそも異常性には気づいていたはずだ。だが、それを自分の都合で捻じ曲げて見ないようにするのもまた人間と言うもの。
 赤銅はそれに目を背けられない現実を突きつけてやる。
「自然と一つになるってのはどういうことだ?」
「王を復活させる養分となることによって――」
 そしてさらに彼らの渇望の象徴たる自然と一つになることについて言及すると、佐藤は思わずと言った様子でその言葉を口にして……、
「……っ!」
 ハッと我に返ったように口に手を当てて、鬼のような形相を未夜に向ける。
「……残念」
 その顔を見た未夜は少し疲れたように息を吐いてから目を伏せ、佐藤は小さく舌打ちをしてから脱兎のごとく駆けだす。
「自然が人間様に都合よく働いた試しなんざあるかよ。奴等はいつでも天災だ」
 一階へ降りていく佐藤の後を追って仲間たちも駆けて行き……あとに残された赤銅は、若者たちを見据えて言い放つ。
 優しいだとか、癒されるだとか、偉大だとか……そんなものは人間側の勝手な解釈に過ぎない。
 ただそこにあり、ただ役割を全うする。それが自然と言うものだ。人間の都合が介入する余地など元より存在しないし、その大きな歯車に人の想いの介在する余地はない。
 それから赤銅は若者たちに背を向けて……、
「騙されるな」
 一言だけ告げてから仲間たちの後を追ってゆっくりと歩きだして、
「あ、儀式が起きたらマジ逃げろ」
 階段の途中で言い忘れたとばかりに、一言だけ付け加えて不敵に笑って見せたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『緑の王』

POW   :    暴食
【決して満たされぬ飢餓 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【辺り一帯を黒く煮え滾る消化液の泥沼】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    巡り
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【消化液 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    慈悲深く
【激しい咆哮 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々羅・赤銅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 吹きすさぶ雪の中に一人佇む。
 目の前に広がるは、無限の泥濘……それから、喜びと、後悔と、虚ろな眼で、その泥濘に身をゆだねる者たち。
 或いは、恍惚と身をゆだねる一人の女。
 それらが手の中で白く、白く、雪の色のように真っ白に、溶けて、混ざって、己が一部となっていく。
 生命は生まれ、死んで、朽ちて、それからまた新しい命となる。それが自然の法則だ。当たり前の事象だ。
 だからこれもきっと……その身が体現するただの自然律に過ぎないのだろう。けれど――。

「ハハハ! 素晴らしい! これで我らは自然と一つになれる!」
「ええ! やりましたね先生! 緑の王を呼び出せましたよ!」
 唐突に目の前に現れた巨大な角を持つ生物……緑の王を前に、男女が手を取り合って喜びあっている。
 喜び合う男女の様子を……緑の王は夢でも見ていか、ぼんやりと緑色の瞳で見つめていたが、
「――!」
 近づくなと言わんばかりに緑の王が咆哮を上げると、男女は小石のように弾かれ。周りの植物たちを巻き込んで転がって行く。
 転がっていった男女は、壁にしたたかに頭をぶつけてそのまま気を失ってしまう。
 それを見た緑の王は、骨となった脚で立ち上がろうとするも……骨となった脚では床を踏みしめることもできない。
 姿勢を崩して床に手をついてしまった緑の王の腹からはどす黒い液体が流れだすが、不完全な状態で召喚されたからだろうかその勢いは緩やかなものだ。
 緑の王が床に手をついていると、奥にあった扉が開くと何者かが真っ白な部屋の中へと入ってくる。
 それを見た緑の王は目を細める……何時かの記憶、或いはただの感か、緑の王は確信する。
 あれは強者だ。
 自分を滅ぼす可能性を秘めた者たちだ。
 この手では成しえないことができる者たちだ。
 ならば、もう安心だ。ああ、少なくともこの場は安心だ。
 けれど……ヘラジカはでかい。でかいは強い。強いは偉いから王と呼ばれる。そして、王はナニモノにも負けない。
 だから緑の王は泥濘の中で挑戦者たちを待つように佇まいを直して――ヘラジカはただ偉そうに胸を張った。
マカ・ブランシェ
まるで骸の海に下半身だけ浸かったまま、って感じなのだよ……骸の海を実際に見たことはないけれどね。
なんだか気の毒だ。早くあるべき所へ還してあげるのだよ。
それにしても、自然は人の手が入ると不自然になってしまうのだね……共存の難しさを感じるのだ。

戦闘前に余裕があれば研究員の男女2名を部屋の外へ放り出そう。
無理そうなら……流れ弾に巻き込まないように気をつけてあげるのだよ。

相手はあまり動けないようだし、【血統覚醒】で身体能力を上げて素早く移動、相手の死角から【彼岸の果て】で攻撃していこう。
消化液を踏まないように注意。
咆哮を放ちそうなら身構えて、姿勢が崩れないように踏ん張ろう。

(アドリブ・絡み大歓迎)


ピオニー・アルムガルト
こちら側から呼んどいてなんだけど、素直にお帰りになられると楽だし嬉しいのだけれども。まあ、そんな事言っても無理かしら!
私達は元々自然と一つ。自然の営みで生まれ、旅立ち、旅の終着には自然に還るのものよ!それを無理やり消化液で溶かされたらたまったものじゃないわね。

黒の花装を纏い【ダッシュ】で真っ直ぐ行ってぐーぱん!
【地形の利用】や【野生の勘】で回避、消化液の影響をどれだけ抑えられるか分からないけど花弁を足元に集めて足場にしてみたり試してみるわね!
消化液の泥沼は面倒だからみんなと協力していきたいわね!

緑の王、貴方の強者としての矜持しかと見届けたわ!だから安心して還りなさい。


雷陣・通
あんたが何故生まれたのか、何故生きているのか、俺は分からない。
けど、今打ち倒さないとならないという事とアンタがそれに抗おうとするのはわかる。
だから!
「ここでアンタを倒す!」

細かい技なんていらない、正面から行くのが多分礼儀

酸の沼を走り抜け激痛耐性頼りに痛みに耐え、背中の日本刀を抜けば距離を詰める。
咆哮には足に力を入れて、その場に耐えてじりじりと距離を詰めれば刀を振るう
『雷刃(ライトニングエッジ)』

これが、今、俺に出来る最大限の事だ!



 こぽこぽと心地いいとすら思える黒き沼の真ん中。
 自らの腹から零れ落ちた黒い泥の中に座して、緑の王と呼ばれる存在は静かに猟兵たちの出方を待つ。
 それは愚者の余裕か……王者の貫禄か……あるいはもっと別の意思をもってのことか。

「こちら側から呼んどいてなんだけど、素直にお帰りになると楽だし嬉しいのだけれども」
 黙ってこちらを見つめてくるだけの緑の王に会話の余地があると判断したのか、ピオニー・アルムガルトは「まあ、そんな事言っても無理かしら!」と冗談めかしつつ提案してみるが……緑の王は何も答えない。
「お帰りいただくのは難しそうなのだよ。こちらは簡単だけれど、もっ」
 近未来っぽいジャケットのところどころから陶器のように美しい肌を覗かせつつ、マカ・ブランシェは気絶している大島と佐藤を部屋の外へと放り投げる。
 一般人である二人に、万が一にでも流れ弾が当たれば気まずいことになるし……自分と同じ色の瞳を持つ、あの王もそれは望まないだろう。
 なぜ望まないと思ったのか、それはマカ自身にも分からないが……自分たちの行動を静観している王の姿こそが、その思いを裏付ける何よりの証拠にも思えた。
 それからマカは自分から動く気のなさそうな王の姿をまじまじと見つめる。
「まるで骸の海に下半身だけ浸かったまま、って感じなのだよ……骸の海を実際に見たことはないけれどね」
 真っ黒な泥の沼はとても虚無なものに見えて……それに浸かる緑の王は骸の海に下半身だけ囚われているかのようにも見えた。
「なんだか気の毒だ。早くあるべき所へ還してあげるのだよ。それにしても、自然は人の手が入ると不自然になってしまうのだね……共存の難しさを感じるのだ」
 あるべき姿を捻じ曲げられたかのような……人の望みや意思によって歪んでしまったようにも見えるその姿。それは何とも気の毒に見えて……マカは首を小さく横に振りながらも手にしたフリーダム・ファイターの感触を確かめるように両手で握る。
「賛成だわ! けれど……」
 マカの言葉にピオニーはふさふさした狼の尻尾を一振りして応じてから、目の前に真っ黒な境界を作り出す。
 作り出した境界にピオニーが一歩足を踏み入れると……踏み入れた端からピオニーの服装が黒と赤を基調としたものへと変異し、髪の色が、毛並みの色が銀色に変わって行く。
 そしてその境界を抜けたときには、黒と赤の炎が宿りし鎧ドレスを纏う銀狼へと姿を変えていて……さらには周囲の空間に漆黒の花吹雪を舞い散らせる。変わらぬのは金色に輝く琥珀のような瞳だけだろうか。
「自発的にお帰りいただけないのなら、倒して還すしかないかしら!」
 変わらぬ金色の瞳で緑の王を見据えつつ、握りしめた拳をピオニーが突き出すと……その横に燃え上がる炎のような赤い髪の毛を持つ少年が並ぶ。
 少年……雷陣・通は獣の骨か角の一部を加工したものであろうペンダントを握りしめてから、胴着の中にしまい込んで、
「ああ、やることはたった一つ」
 自分の意思を確認するように、俺の言葉を聞けと訴えるように言葉を紡ぐ。
 あの王が何故生まれたのか、何故生きているのか、通には分からないことだ。けれど、やることは分かっている。今、自分自身で言葉にしたように、それはたった一つだけのこと。
 通は大きく息を吸い込むと、
「ここでアンタを倒す!」
 アンタは抗うだろうけれど、それでも俺はアンタを倒すよと強く笑って見せた。

 かかってこいとばかりに胸を張る緑の王の、その胸元へ向けてピオニーと通が駆ける。
 緑の王に近づけば近づくほど、腹から溢れる消化液の影響を受ける。
 足を守る靴はあっという間にその役割を果たさなくなり、露出された肌に泥のような黒い粘液が絡みつく。絡みついた粘液によって肌を溶かされる痛みが、火傷のような激痛が二人を襲うが……そんなものはどこ吹く風とばかりに、二人は王の元まで一息で近づく。
 王の元まで踏み込んだ通が背中の日本刀に手をかける刹那、ピオニーは王の目の前で思いっきり右手を引いて、
「受けて見なさい!」
 握りしめた拳を王の顔面に叩き込もうとする。
 腰の入ったピオニーの拳……だが、それを見た王は頭を仰け反らせて、ピオニーの動きに併せるように額でその拳を迎え撃つ。
 拳と額がぶつかった瞬間、周囲に重い陶器同士がぶつかり合ったような鈍い音が響いてピオニーの拳が弾かれ、王の体も再び仰け反る形となる。
「必殺! ライトニングエーッジ!!」
 弾かれたピオニーの右腕の下をくぐりながら、通は背中から抜いた日本刀に雷を纏わせて……そのまま右斜め上から王の頭へ向かって振り下ろす。
 ピオニーの拳で仰け反るような形に姿勢を崩していた王は、雷を纏う刀身を視界にとらえると、首を右に振ってヘラジカの角で通の一撃を食い止めた。
 受け止められはしたものの、通の一撃は雷を纏う一撃だ。電撃は王の体を駆け抜け確実な傷を負わせるし、そもそもの振り下ろしの一撃も普通の生物であれば脳震盪を起こさせる程度には確かな手ごたえはあった。
 だが通の一撃を止めた王は、緑色の瞳で目の前にいるピオニーと通を見据えると、大きなヘラジカの角を左右に振るう。
「……っ!」
 目の前で振るわれた角を二人は思わず手で受け止め……二人が角を受け止めた瞬間、王はそれを待っていたかのように首をぐるりと回すと、二人の体は角に絡めとられて木の葉のように宙を舞う。
 その上で、王は辺り一帯を黒く煮えたぎる消化液の泥沼に変えて……宙を舞った二人は消化液の沼に落ちて行く。
「この辺りでよいのだよ」
 沼に落ちて行く二人を救う手立てはないが、猟兵であれば行き成り骨になると言うこともあるまい。
 ピオニーと通が正面から突っ込む中、王の死角……真後ろまで回り込んだマカは二人が沼に落ちて行く様を目視しつつフリーダム・ファイターのグリップを握りしめる。
 手のひらに感じる鋭い痛みと共に、フリーダム・ファイターに自らの血が装填される確かな感触がある。
 マカは装填される血の量に呼応するように激しい駆動音を鳴らす銃を緑の王に向けて、
「君も血を流し尽くしたくなければ、全力で抗いたまえ!」
 無数の白い熱線を撃ち放った。
 迫りくる熱線に気が付いた王は、完全な脱力によってその威力を受け流そうとするも……先の通の一撃に平衡感覚を狂わされていたのか、二人を吹き飛ばした反動か、思わず腕に力が入ってしまう。
 脱力に失敗した王の左腕は熱線によって焼き切られ、さらに空虚な腹に無数の穴をあけたのだった。

 消化液の沼に落ちた通は、すぐさま手をついて体を跳ね上げると、宙を返りつつ床に着地する。
「いたたた!」
 それから猫のように身を震わせてまとわりつく消化液を体から弾き飛ばしていると……、
「私達は元々自然と一つ。自然の営みで生まれ、旅立ち、旅の終着には自然に還るのものよ! それを無理やり、こんな消化液で溶かされたらたまったものじゃないわね」
 緑の王を挟んで反対側で、通と同じように身を震わせて消化液を飛ばしていたピオニーが落ちた消化液の沼を示しながらそう主張していた。
 自然と一つになるなどと言っていた大島などなら、この状況を喜んで受け入れるだろうが、ピオニーからしてみれば消化液で溶かされるなど自然ではない、無理やりな行為なのだろう。
 そんなピオニーをじっと見つめていた王が大きく口を開いて、
「くるぞ!」
「――!」
 咆哮を上げる。
 王の上げる咆哮、それは確かな威力となって、三人の体を吹き飛ばそうとするが……通とマカはその場で踏ん張って咆哮を耐える。
 そして通に至っては両手を顔の前で交差させて咆哮の威力を削ぎながら、じりじりと王へと進んでいく。
 一歩進むごとに消化液の泥沼が、通の足を蝕み、大の大人でも悲鳴を上げたくなるような痛みに精神を侵されるが、それでも通は歩みを止めない。
 何故なら……それが今、通にできる最大限のことだからだ!
 ついには王の眼前まで進んだ通は雷を纏わせた日本刀を大きく振り上げ――、
「雷刃!」
 ライトニングエッジ! と叫びながら日本刀を振り下ろした。王は通の日本刀を再びヘラジカの角で受け止めようとするが、
「おおおおおお!」
 渾身の力を込めて振り下ろされた通の日本刀は、受け止めようとしたヘラジカの角を切り取り、勢い余って地面に食い込む。
 切り取られた自分の角が、消化液の泥沼に落ちる様を驚いたように見つめる王の目の前に、黒い影が現れる。
「最後まで油断しない事ね……!」
 一部分とは言え角を切られて咆哮を止めた隙に、近くに合った植木鉢を放り投げて、木と花弁で足場を作ったピオニーが眼前にまで接近していたのだ。
 ピオニーは王の真横に左足を踏み込み右の拳を大きく引くと……それを突き出す。
 再び放たれたピオニーの真直ぐな右拳。
 王はそれに反応できず。否、わずかに反応するも通が放った雷の一撃で体が痺れたのか、反応しきれない。
 反応しきれない王の様子などに構わず、ピオニーは拳を振りぬき……王の首はみしりと音を立ててあらぬ方向へ曲がる。
「緑の王、貴方の強者としての矜持しかと見届けたわ! だから安心して還りなさい」
 拳を振りぬいたピオニーは通の手を掴んで、そのまま王の横を駆け抜け、
「お返しなのだよ」
 二人の体が王から完全に離れたところで、マカの熱線が再び放たれた。

 マカが放つ無数の熱線に紛れて、ピオニーと通は緑の王から距離をとる。
「しぶといわね!」
 そんなピオニーたちを追おうともせず、緑の王はねじ曲がった首を右手で無理やり戻し……再び偉そうに胸を張る。
「効いてないぞってことかね?」
 その姿にマカは少し首を傾げるが、効いてないと主張するということは少なからず傷を負っている証拠でもある。それは間違いないだろう。
 だがマカたちも無傷と言う訳では無い……マカとピオニーは頷き合うと、後のことを他の猟兵に任せて地下室の入り口まで下がったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

向坂・要
お前さんもヒトの欲に利用されたひとり、なのかもしれませんねぃ

今まで得た情報とそして相手から感じる空気にそんな感想を抱きつつ
それでもここはあんたの居場所じゃありやせんぜ

導いてやれるほど偉そうな事ぁ言えませんが見送りくらいなら、ってね

基本全体を【第六感】なども生かし俯瞰で把握する様に心がけ
何かありゃ声かけ

エレメンタル・ファンタジアで呼び出すは焔を纏い真空を内包した八咫烏
咆哮に散らされる様に態と分裂し群れとなり
送り火、ってもんでもありませんがね

自然の偉大なる力、か…
自然はそんな都合よく使えるもんじゃありませんぜ
ヒトも自然の一部
共存していくもんですぜ

それに全ての人と一体化、とはまたつまらなさそうで


ヒカゲ・カタワレ
前回サボったから大物退治は頑張るよー!
さーて、悪食ってんなら私とジャンル同じだなー
ここはPOWで勝負!
足元が泥沼になろうと触手で壁と天井を突き刺して移動するよー
「空中戦」活かしてスウィングアクションだ!
「目立たない」から「騙し討ち」を狙いたいところ…
情勢を見つつ、隙を見つけたら「捨て身の一撃」で突っ込んで
UC「極大消滅光」をぶち込むよ
触手の先から放たれる破壊光線で泥沼ごと焼き尽くしちゃる!


空廼・柩
やあ、緑の王
召喚されて早々悪いけれど
あんたには此処で倒されてもらうよ
…まあ同じ化け物同士、仲良くやろうじゃないか

灰色の毛皮、膨れ上がる体
醜悪で歪な狼男…俺の真の姿
【霄化】で更に強化を施し
身を青く染めて王と対峙
擦り切れる理性、全身の痛みに耐えて正気だけは失わぬよう咆哮を上げる
あらん限りの力をもって蹂躙
消化液の泥沼?
…ああ痛いよ、凄く痛い
それすら激痛耐性で耐え、皆の盾として立ち塞がる
攻撃されてもただでは起きない
カウンターを叩き込んでやらないと
王にだって感情があるならば
恐怖だって与えられる筈

全てが終ったら男女を組織に引き渡さないとね
後の対処はそっちで何とかしてくれる筈
…え、もしかして俺も手伝う流れ?



 切り取られた角の一部と、左腕があった場所に黒い液体がずるずると這いより……見る間にその部位を再生する。
 緑の王は、再生された左腕の感触を確かめるように何度か手のひらを動かして……次の挑戦者を真直ぐに見据える。

「やあ、緑の王。召喚されて早々悪いけれど、あんたには此処で倒されてもらうよ」
 ぼさぼさの灰染めの髪をかき上げて、空廼・柩の前に立つ。野暮ったい眼鏡の奥で、獣のような鋭さを持つ漆黒の瞳に映る王の姿はどのようなものか? 哀れな王か。美しい女性か……それとも、ただの化け物か。
「……まあ同じ化け物同士、仲良くやろうじゃないか」
 答えは三つ目。柩は緑の王を自分と同じ化け物だと言い切る。化け物と言われても緑の王は眉一つ動かさないが、仲良くしてやるからかかってこいとばかりに胸を張る。
 そんな緑の王を見つめながら柩は考える。化け物だったとしても、悪いことばかりじゃない。それで手に入る何かだってあるはずだ。それが仮初のものであったとしても。
 だとしたら、あの王は自分と同じように何かを手に入れたのだろうか。
「お前さんもヒトの欲に利用されたひとり、なのかもしれませんねぃ」
 化け物となったことで何を得たのかは分からないが、この状況と王の様子を見る限り今回はただ利用されているだけのように見える。
 銀色の狐の耳を持つ男、向坂・要はどこか優し気な何時もの笑みを浮かべて、そんなことを言う。
 そもそも自ら化け物となったのか、誰かに望まれてそうなったのか……もし、弱き民を守るために、彼らの願いを叶えるためにそうなったのだとしたら……その結果がこれならば、弱き民の命を刈り取る装置として使われているのならば、あまりにも救いが無い。
「ここはあんたの居場所じゃありやせんぜ」
 黙して語らぬ緑の王から答えを聞き出すことは不可能だろう。
 だが、少なくともあの存在がこの場所に居て良い存在ではないことは確かだし、本人もそれを望んでいないだろう。
 だから、「導いてやれるほど偉そうな事ぁ言えませんが見送りくらいなら」と、要は王に対して笑いかける。
 そして、送り返す方法は一つだけ。結局やれることも一つだけ。
「悪食ってんなら私とジャンル同じだなー」
 ヒカゲ・カタワレは普通の女子高生っぽく間延びした声を出して、両手を頭の後ろで組む。
 UDCを喰らうグールドライバーたる自分と、何もかもを消化してしまう王とで共通の部分を見つけたのだろう。
 ただ、ヒカゲは喰らった相手を力に変えることができるが、王はただ溶かすだけだ……その先には何もない。だからこそ邪神と呼ばれるし、この世界に存在してはならないのだ。
 ヒカゲは柩と要の前にぴょんと飛び出して、
「大物退治はがんばるよー!」
 やるべきただ一つのことを改めて口にしたのだった。

 前に出たヒカゲが背中を丸めると、その背中がもこもこと動き出す。
 そしてその動きが激しくなってきたかと思うと……服の間から触手のようなものが飛び出してくる。
 飛び出した触手は天井まで伸びてヒカゲの体を吊り上げる。どうやら、ヒカゲは触手で天井を這うことによって消化液を避ける算段のようだ。
「始めよう」
 そんなヒカゲの様子に器用だなと息を吐きつつ、柩も己の力を解放する。
 柩にはヒカゲのように器用な技は無い。だから、真正面から王と対峙するのみだ。
「……青く、青く」
 そう呟くたびに柩の体は膨れ上がり、柩の体表が灰色の毛皮で覆われていき……数秒を待たぬ間に醜悪で歪な狼男へとその姿を変貌させる。
 普段のどこか気怠そうではあるが、美しいとすら思える面影は、獲物の血を求める凶暴な狼のものとなり替わり、その状態でさらに柩は霄化によって身を青く染めて、
「ゥゥウウルウアアアアアァァ!」
 吠える。
 変化によって全身に走る痛みのためだろうか。あるいは擦り切れる理性を繋ぎとめるためだろうか。または、両方だろうか。
 いずれにしても柩は、狂気じみた瞳で緑の王の姿を見据えて真直ぐに駆ける。王の前まで続く消化液の沼、それすら目に入らぬかのように真直ぐに駆ける。
 だが消化液は確実に柩の体を蝕んでゆく。一歩を踏み出すたびに空色の体毛が解け、まとわりつく黒い粘液は焼けるような痛みを柩に与える。
 しかし、その痛みさえ理性を繋ぎとめるための材料とするかのように、柩は耐えて……ついには王の目の前に辿り着くと、右から薙ぎ払うように鋭い爪を振るう。
 振るわれた渾身の一撃……だが、王はその爪を左腕で受け止める。
 爪を受け止められたと見るや柩は狼の牙を王の首筋を喰らわんとするが……王は柩の頭を右手で掴んで止めた。
 それから柩の眼前に顔を近づけて、その瞳を真直ぐに見据える。王の瞳には何の感情も無い。ただ、生きとし生けるもの全てをその圧倒的な力でねじ伏せ、敵わないと思わせるだけの圧力があるように思えた。
 柩がその正体に気づく前に、跪けとばかりに王は柩の頭を目の前の泥沼に叩きつけ、
「それ以上はやらせませんぜ」
 一瞬何かの気配に気づいて上を見ようとした王の右手。柩を掴むその腕に、要はtoguz tailsを絡みつかせて引く。
 だが大の男の力をもってしても王の右手はびくともせず……これがどうしたと訝し気な視線を向けてくる王に要はにっこりと笑みを返すと、王の周囲に真っ赤な三本足の烏が出現した。
 それを見た王は、耳をつんざく咆哮を上げる。
 咆哮に煽られた三本足の烏、炎の八咫烏たちは弾けて――弾けると同時に周囲の空間を巻き込んで消滅する。
 巻き込まれるのは当然空間だけではない、その中心にいた王の肌が、肉が、髪の毛が巻き込まれて次々と消滅していく……だが、王は咆哮を止めない。
「送り火、ってもんでもありませんがね……おっと、こいつは想像以上に激しいや」
 抉られた箇所から黒い血を垂れ流しながら、真直ぐにこちらを見つめる王の視線。それから次々と八咫烏を破裂させながら迫りくる咆哮の圧力に、いよいよかと要が身構える。
 だが咆哮の圧が要に届くことはなかった。
 泥沼に押し付けられていた柩が、立ち上がり王と要の間に入ったからだ。
 その棺に対して、退けとばかりに咆哮を上げ続ける王に一歩も引かず、体中を溶かされているためか全身から白い煙を上げながらも、柩は王に圧し掛かり、その喉元に牙を立てる。
 それから思いっきり首を振って王の喉を喰いちぎると、やっと王の咆哮が止まる。
 柩が喰いちぎった肉片を泥沼の中に吐き捨てる姿を、喰いちぎられた喉元から真っ黒な血を噴き出しながらも王が冷たく見つめていると……、
「背中が、がら空きだよ?」
 ぼとり。と、天井から落ちてきたヒカゲが王の背中に取り付き、両手を首に回し、背中から生えた触手で胴体を絡めとる。
「下がってくだせえ」
 それを待っていたかのように要は柩へ声をかけ。要の声を聞いた棺は反射的に後ろへ大きくとんだ。
「みんなまとめて消してやるッ……!」
 そして緑の王がヒカゲを振り払うために大きく角を動かす前に、ヒカゲを中心に全方位へ光が伸びて――辺り一面を超高エネルギーの炎で包み込んだのだった。

 炎に包まれた緑の王から、小さな影が吹き飛ばされてくる。
 その影は空中でくるくると回ると、触手を振り回して器用に体勢を立て直して、消化液の沼の端に居た要と、人の姿に戻った柩の横に着地した。
「爆弾かあんたは……」
「女子高生っぽいでしょ?」
 姿を変えたことによる疲労のためだろうか、肩で息をしながらも危うく巻き込まれるところだったよと鋭い視線を向ける柩に、ヒカゲはひらひらと手のひらを振って応える。
「……雑だね」
 確かに、女子高生はある意味爆弾みたいなものだけれど、その女子高生像は雑過ぎやしないか? と柩は大きく息を吐く。
「それはともかく……」
「これでも倒し切れませんかい」
 戦場全体を俯瞰してみていた要には、王の真上で様子をうかがうヒカゲの姿が見えていた。それ故に、最高の場面で、最高の一撃をお見舞いできたはずなのだが……体の大半をまっくろに焦がされながらも、王の緑色の瞳は真っすぐに自分たちへと向けられている。
 ここまでやれば体をくの字に折りそうなものだが……決して折れることのない意志こそがこの王の強さなのだろうか。
「わたしたちはここまでかな」
 だが確実に傷を負わせることには成功した。ヒカゲの言葉に頷いて、三人は一度後ろに下がることにしたのだった。

 部屋の外。
「ところでこいつらはどうする?」
 気絶しているこの事件の首謀者と、それに踊らされた哀れな男を前に、柩は首を傾げる。このまま放置する訳にもいかないし、どうするかねと。
 柩の言葉を聞いた要は、その二人をじっと見つめる。
 自然と一つになることを望んだものたち……否、自然と一つになると言いながら、結局は自然の力を自分の都合の良いように利用しようとしていたものたち。
(「自然の偉大なる力、か……自然はそんな都合よく使えるもんじゃありませんぜ。それに全ての人と一体化、とはまたつまらなさそうで」)
 その結果があの王の召喚。なんと愚かしいことだろう。それに、もし仮に個を捨てて全ての人と一体化できたとして、それに何の面白みがあるというのだろうか。
 痛みも、悲しみも、苦しみも無い。それは裏を返せば、喜びも、達成感も、感動も無い死んだのと同じ世界ではないだろうか。
「UDCの組織に引き渡すしかねえですね」
 思うところは色々とあるが……言っても始まらない。要は至極全うな答えを柩に返し、
「なるほど、後の対処はそっちで何とかしてくれる筈……え、もしかして俺も手伝う流れ?」
 要の回答に頷きかけた柩が、自分がUDCエージェントだと思い出したところで、要は柩に頑張ってくだせいと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴラディラウス・アルデバラン
炎に巣食われてからは便利と思うこともある我が身、しかし私とて、何時内側から喰い破られるか。それは明日か、数十年後か。分かりはせぬ。
辿るかもしれない成れの果て。王の器を持つ者。
とはいえ感傷に浸る様な精神は元より持ち合わせておらず、故に躊躇なく、淡々と。
幾度目かの邂逅にも油断することなく、予備動作や攻撃を見切り、出来る限り避けんとしながら得物である剣を振るう。

民間人は他の者が何とかするだろう。
自身は王を、ただ迅速に骸の海へ還さんと。
けれど、もし。戦闘を楽しんでいるかのような様子を彼女が見せたのであれば、私も多少は楽しんでしまうだろうか。
敵ならば斬る、容赦はない。
ただ、強者との戦闘は昂るもの故にな。


三岐・未夜
……おっきな、鹿
角、きれい
…………また逢った、ね
前も逢ったことある、この王さま
何度でも出て来る
やっぱりオブリビオンなんだなぁ……
前は怒らせちゃったけど、今回はどうかな

接近戦、得意じゃないし
消化液に溶かされるのもやだから弾幕張るよ
前に出るひとのための目くらましにもなるでしょ
だって赤銅さっきいたし、絶対前出るじゃん……

火矢を生み出して【属性攻撃】で強化、【操縦、誘導弾、破魔、範囲攻撃、援護射撃、全力魔法】で可能な限り消化液ごと蒸発させちゃえ
【誘惑、催眠術、おびき寄せ】で王さまの狙いは自分から外して、それでも飛んでくる奴は【見切り、第六感】で回避

あのね、鹿の王さま
そろそろ還ってゆっくり寝なよ【祈り】



 まっくろに焦がされた王の体にずるずると黒い液体が這っていく。
 そしてその黒い液体が王の体を包み込んだかと思うと……緑の王の体は元通りの姿となっていた。

「かかってこいと言わんばかりだな」
 座して動かず、こちらを見つめる王の緑色の瞳を見返す紫の瞳。
 美しくあれと願われ、雪と氷で作られた人形のような姿の女は、自分は生きているものだと主張するように薄い唇から小さく息を吐く。
 女……ヴラディラウス・アルデバランは、黒い液体によって再生された王の姿を油断なく見つめつつ……王が垂れ流し続ける黒い液体にも視線を向ける。
 ヴラディラウスにはあれと同じように、地獄の炎が宿る……その炎に巣食われてからは便利と思う我が身だが、地獄の炎はいつの日か内側から自分の体を食い破るかもしれない……それは明日か、数十年後か。
 いずれにしても、こちらを見つめるあの存在は、辿るかもしれない成れの果て。王の器を持つものの成れの果てだ。
 その王の姿に思うことはある。だが、それは感傷ではない。否、元より感傷に浸るような精神は持ち合わせていないのだと、ヴラディラウスは緑の王をじっと見つめる。
「……おっきな、鹿。角、きれい……」
 淡々とした様子のヴラディラウスとは逆に、王の王たる証のようなヘラジカの角を見つめて黒い狐の耳を少年は動かす。
「……また逢った、ね」
 それから再びまみえたことを喜ぶように……あるいは哀しむように、目深にかぶった自分の帽子に手を添える。
 帽子の奥から王を見つめる少年、三岐・未夜が王と出会ったのはこれが初めてではない。冬の山……その山頂で出会っている。その時はとても、とても哀しい状況だったし誰もが何かを救おうとしていた。
 だからだろうか、その時は王を怒らせてしまったけれど、今回はどうだろうか? また怒らせてしまうだろうか、それとも……、
「終わらせよう」
 考え込んでいる未夜にヴラディラウスは声をかけて、Istirを持つ手に力を込める。
 何度目かの対峙と言うのであればヴラディラウスも同じ。ただヴラディラウスに迷いはない。ただ油断なく、迅速に、彼のものを骸の海へ還すだけだ。
「……そう、だね」
 燐と言い放つヴラディラウスに、未夜は頷く。
 何度倒しても出てくる。それは彼女がオブリビオンであることの何よりの証明で……だから、終わらせよう。終わらせてやれば、きっともうあんな泣き顔をしなくて済むのだからと。

 真っ黒な泥濘の中で挑戦者を待つ王へ未夜は一歩近づく。
 そして消化液でできた水たまりの端で、黒い九尾扇を広げると、それを真横に振るう。
(「接近戦、得意じゃないし」)
 振るわれた九尾扇の軌道を追うように無数の炎の破魔矢が出現し……黒いレェスで作られた夜空に浮かんだ星のごとき煌めきは、誰かが駆ける足跡のように未夜と王の間にある消化液の水たまりに次々と突き刺さりながら王へと迫る。
 王は、真正面に飛んできた炎の破魔矢を右手で掴み取り、それ以外の破魔矢は払う訳でもなくその身で受け止めて見せる。
 それからこれがどうしたとばかりに、未夜を見つめるが……次の瞬間、王の周辺が白い霧で覆われる。
 消化液の沼に突き刺さった炎の破魔矢が、それを蒸発させたのだ。
「――!」
 だがそれも一瞬のこと、王が吠えると周囲の水蒸気は吹き飛ばされ、咆哮に煽られた消化液が飛び散る。
 飛び散った消化液を嫌うように未夜は後ろに飛びのいて……賢しいその狐に追撃をかけんと、今一度大きく息を吸い込んだ王の視界に、銀糸のようなものが映りこむ。
 王がその正体に気づくよりも速く、銀色の髪を持つ女は細身の片手剣を王の顔面へと突き出した。
「浅いか」
 未夜の目くらましの効果は十全だった。だが、ヴラディラウスの片手剣は……その美しい刀身の彫刻を覆うように、王の眼前でその手に掴まれてしまっている。
 戦いに、あるいは我が身を犠牲にすることに慣れているのだろうか、王は我が身が傷つくことに一切の迷いが無い。
 王は刀身を掴んだまま、ヴラディラウスの腹へ空いた方の手の拳を叩きこむ。
 ヴラディラウスは膝を盾に、その拳を受け止めるが……殺し切れなかった威力にその身が宙を舞い。さらに王が床に手を付けると、再び周囲一帯が消化液の泥沼に変わる。
 このまま消化液の沼に落ちれば、猟兵といえども無傷ではすむまいが、
「……消化液に溶かされるのは、いや、だよ……」
 ヴラディラウスが吹き飛ばされた先、消化液の沼の端に黒い狐は立つ。そして再びゆめのはしと名付けた九尾扇を振るうと、空から落ちる流星群のように炎の破魔矢が降り注ぐ。
 消化液の沼に突き刺さるたびに周囲は白い湯気に包まれ、あっという間にヴラディラウスの姿を覆い隠す。
 そして、自分自身にも降り注ぐ無数の破魔矢を、王は両腕を盾にして受け止めて、
「隙だらけだぞ」
 両腕を交差させて顔を覆う王の胸元、腕の間から垣間見えるは紫色の瞳。それからその手に光る銀色の得物。
 未夜の作り出した煙幕の中を迷わず駆けてきたヴラディラウスの姿。その姿を見た緑の王は堪らずと言った様子で口の端を吊り上げて――次の瞬間には、その喉元に銀色の刃を生やすこととなったのだった。

 ヴラディラウスの刃は王の喉を貫く。
 貫いた銀色の美しい刀身に、王のどす黒い血が伝わり、持つ手をも真っ黒に染めていく。
 だが、その状態にあっても王は変わらず緑色の瞳でヴラディラウスを見下ろし……再び王の周りに集まりだした真っ黒な消化液を確認したヴラディラウスは刃を引き抜いて大きく後ろへと飛ぶ。
「強者との戦闘は昂るものだな。だが――」
 王を中心に立ち昇る水蒸気を糸のように引きながら、下がってきたヴラディラウスの言葉に未夜は頷く。
 王に与えた傷はかなり深いものだが、自分たちもそろそろ限界だろう……けれども、終わりの時が近づいてきていることだけは、はっきりと分かった。
「あのね、鹿の王さま。そろそろ還ってゆっくり寝なよ」
 そして、後ろからゆっくりと近づいてくる足音。その足音の主には目を向けず、未夜は王に祈りを捧げるように……そう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

多々羅・赤銅
嫌悪があった。同情されて、侮辱も同然の手を伸ばされたような、うろ覚え
ねえ、あれ、お前?

御機嫌よう害獣様
何そのちっぽけな胸
頭でっかちのツノ
やたら真っ直ぐに、私達を見る目

斬撃と風圧で消化液ごと抉り飛ばし路を作る
溶けるくらいまあいいわ
死ななけりゃ
私が崩れない所さえ見せつけられりゃ良い
咆哮も、怪力と激痛耐性で耐え
一閃、斬り裂く真空で
声すら阻んでご覧入れる
てめえにできる精一杯の反抗は、たったのそれだけか

てめえは王でも何でも無い
一から十まで出鱈目だ
私はてんで信じていない
けれども

てめえの美しさだけは信じてやる

怒りと、清涼な信仰めいた諦め
そうじゃなきゃなあ
嘘だよなあ

斬り落とす
そしたら

帰るかぁ
泣きそうな顔で笑う



 水蒸気の向こう側。
 歪で、大きな影は、白い煙によって誇張され、それこそ山のように大きなものとなって映る。
 その姿はそれこそ自然そのもののようで……否、こ思いは勘違いだ。所詮、あれは立ち上がる力も失った自然律の成れの果てに過ぎない。
 己から零れる消化液を止める術も知らず。居場所すら失った、ただの厄災に過ぎない。

 羅刹の女は一歩一歩、その厄災……緑の王に向かって歩みを進める。
 一歩を進むたびに、毛先に青色の混じる桃色の髪の毛が揺れ、心の蔵がずくずくと嫌な音を奏でる。
 可笑しな音だと、羅刹は自分の胸を掴んで鼻で嗤う。可笑しな音だが、原因は分かっている。あれだ、あの王……あの存在を見ていると、どうしてもこの音が治まらないのだ。
 ふと、何時もと様子の違う自分を、窺うように見つめる黒狐の存在に気づいて、にっと歯を見せて笑って見せる。
 ありがとう。お前の気持ちは分かっているよ。でも、どうしてもあれとは真正面からぶつかって決着をつける必要があるのだよと。
 それは王も同じだろうか。王の心臓もまたずくずくと痛むのだろうか。
「――!」
 何かに耐えかねたように放たれた咆哮は、周囲の水蒸気を霧散させ、羅刹の体を四方から押しつぶさんと圧力をかけてくる。
 まるで巨大な手で無造作に掴まれたかのようなその圧力。
 だが、羅刹は刀を両手に持って上段に構えて――真直ぐに振り下ろす。
 刀は愚直に、真直ぐに振り下ろされた。ただそれだけ。ただそれだけなのに、その銀色の軌跡は王の咆哮を切り裂き、消化液の沼をも両断して道を作る。
 すなわち、王までの間にある全ての邪魔者を一刀両断にして見せた。
 だが、それも当然だろうか。その刀は羅刹が自分で打った刀、我が腕も同じだろう。その腕と猟兵の技をもってすれば、空間を切断するなど造作もないことなのだから。

 自ら切り開いた道をゆっくりと歩いて、羅刹は王に近づく。
 道を作ったと言っても、徐々に消化液の沼は元の形に戻ろうとする。足元にまとわりつく消化液は羅刹の履物を溶かし、素肌に焼けるような痛みを与えてくる……しかし羅刹は死ななけりゃ良いと、そんな痛みを気にすることなく歩みを進める。
 そしてついには王の目の前に辿り着き……羅刹は王を見下ろし、王は羅刹を見上げる。
「御機嫌よう害獣様」
 自分をやたら真直ぐに見つめてくる王に、羅刹……多々羅・赤銅は剥き出しの嫌悪をぶつける。
 赤銅が見下ろす王の姿は、ちっぽけな胸で、頭でっかちなツノで……害獣と呼ぶにふさわしい姿に見えた。
 だが、嫌悪の理由はそれだけではない。
 同情されて、侮辱も同然の手を伸ばされたような、うろ覚えな記憶。
「ねえ、あれ、お前?」
 この害獣によく似た彼女の記憶。それがこの害獣なのかは分からない……だが、本質的には同じもののように赤銅には思えたのだ。
 害獣と呼ばれた王は、思いっきり右手を振るって赤銅の頬を殴りつける。
 その拳を赤銅は避けるそぶりすら見せずに、まともに受けると、
「てめえにできる精一杯の反抗は、たったのそれだけか」
 平然と言ってのける。座したままの一撃にしてもあまりに弱弱しい。もうそろそろ王の力も限界が近いのだろうか。

 それでも王はただ偉そうに胸を張り……そんな王に赤銅は言葉を紡ぐ。
「てめえは王でも何でも無い。一から十まで出鱈目だ。私はてんで信じていない」
 何が王だ。誰かのためにと、弱きを守るのだと戦い続け。自然律を守るのだと、その力を使い続け。立ち上がる力すら失い。挙句の果てに、守りたいと願ったものすら自分自身で傷つけて……それの何が王だと言うのだ。
「けれども。てめえの美しさだけは信じてやる」
 けれども、けれどもだ。
 どれだけ傷つけられても立ち続けようとしたその姿を、決して折れることのない不屈の精神を、誰かを守るためにとその身を差し出す美しさを、信じてやろう。
「そうじゃなきゃなあ。嘘だよなあ」
 そうでなければ、その願いの結末が、この王だとしたら……願いの先にあり得る未来の一つだとしたら、あまりにも報われないではないか。
 けれども、同時にこうも考えてしまう――ああ、良かったと。この結末は、きっと願いが叶った末のものなのだと。
 怒りと、清涼な信仰めいた諦め。色々な感情が綯交ぜになり、溢れ出てきそうになる。
 そんな赤銅に対して、彼女は、ヘラジカはただ偉そうに胸を張る。
 真直ぐに見つめてくる彼女の瞳は、役割を果たせと命じているようでもあり、お前はどうするんだ? と問いかけているようでもあり、次はお前の番だぞと告げているようでもあった。
 彼女の瞳に、赤銅は小さく頷いて、刀を真横に一閃すると――その首がごとりと、つぎはぎだらけの腕の中に落ちた。

 最後に見た彼女の顔は、相変わらず偉そうで、ぼんやりとしていて……けれども、その口元は僅かに綻んでいるようにも見えた。
「帰るかぁ」
 自分の首を抱えるように、消化液の中に消えて行く彼女に背を向けて赤銅は笑う。
 上手く笑えている自信はなかったけれど、俯いたら大切な何かが零れ落ちそうだったから……彼女は上を向いて笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月24日
宿敵 『緑の王』 を撃破!


挿絵イラスト