ハッピー・アンハッピー・B級メリークリスマス!
ロニ・グィー
全てお任せ!
メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!
●荘厳なる大劇場
神の聖名によりて天より舞い降りたる天使たちはその神殿を築いた…
すこぶる嫌そうな顔をしながら!クリスマス当日に!お休み返上で!
メーリメリークリスマースー♪
メリーメリークリマースー♪
うんうん用意は万全だねえ
チキンにポークにビーフにポテト!
忘れちゃいけない炭酸飲料にポップコーン!ジャンクフード!スナック菓子!
そしてクリスマスケーキ!
その他もろもろ!
さあ始めよう――――クソグロホラー鑑賞会!
楽しみだなークソグロホラー鑑賞会!
ね、ナイアルテ!
え?なんでって? …え?なんでだったっけ?ま、いいや!
だってほら、もう、地獄から這い出てきたようなクソ映画マニアフレンズたちも集まってきちゃったし~!
あ、クリスマス当日か近日かはTPOを考慮するよ!
もし予定が無いとかならそれはそれでキミどーかと思うよ…うん…
あ、ボクはこの後、猟兵友達のクリスマスパーティを梯子するから混ざってく~?
メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!
さあ言って!
メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!
だよ!
メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!
それは一種の気の迷いであったのかもしれない。
それほどまでにグリモア猟兵としての仕事というのは過酷を極めていたのかも知れない。
かもしれない、と言うのは第三者が類推するしかないからであり、それが真実であるかどうかは当人の言葉から聞くしかないのである。
しかしながら、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)は微笑んでいた。
ごまかしている、ともいえるし、このまま有耶無耶うにゃうにゃの内にどうにかやり過ごすことができないかと思っていた。
彼女がいるのは荘厳なる大劇場。
天より舞い降りた天使たちに寄る造形。
あまりにも優美。あまりにも華美。
人の手によって生み出されることのない精緻なる装飾。白亜の大宮殿と呼ぶに相応しい石造りの劇場はあまりにも壮麗であったのだ。
これを作り上げた天使たちは、すんごく嫌そうな顔をしていたが、神の名の元に発せられた命令だから仕方ないかーって感じで、素晴らしいお仕事をしてくれたのである。
まあ、それは良しとしよう。
「メーリメリークリスマースー♪ メリーメリークリスマース♪」
そんな大劇場の中でご機嫌な歌を口ずさんでいるのは、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)だった。
彼はクリスマス当日に、天使たちのクソ忙しい時期を狙いすましたかのように、この大劇場の構築という大仕事を発注したのである。
天使たちの顔を見やれば、それはもう一目瞭然であるとナイアルテは、申し訳ない気持ちでいっぱいであった。目があったので、曖昧に微笑んで会釈するしか無く、また天使たちも曖昧な微妙な笑顔を返すしかない。
なんたって神たるロニがご機嫌なのであるから、水を指したのならばこれ以上の面倒事がやってくるに違いないからだ。
「あの……ロニ、さん?」
ナイアルテが呼びかけるとロニはにっこり微笑む。
「うんうん、用意は万全だねぇ。チキンにポークにビーフにぽてえと! 忘れちゃいけない炭酸飲料にポップコーン! ジャンクフード! スナック菓子! そしてクリスマスケーキ! その他諸々!」
聞いちゃいない。
ナイアルテはなんだか嫌な予感を覚えていた。
どう考えてもこの後厄介なことになることは、グリモアの予知を使わないでもわかろうというものであった。
ロニがこういう事をする時はだいたいそういうときであると彼女も薄々感づいていたのかもしれない。
普段の事件に対する時の姿勢を知っているのならば、尚更である。
「さあ始めよう――クソグロホラー鑑賞会!」
「嫌です」
きっぱりと言った食い気味に言った。
ナイアルテはそういうの苦手なのである。
しかし、そんなことは関係ないとばかりにロニは微笑むのだ。
「え? なんで?」
「いい忘れておりましたが、私は苦手なんです! 怖いのが!」
「ふんふん、まあいいや! だってほら、もう地獄からはいでてきたようなクソ映画マニアフレンズたちも集まってきちゃったし~」
そういうロニのまわりにいるのは、彼が言うところのクソ映画マニアフレンズである。
ナイアルテはこれはもう逃げられないアレなのではないかと思いいたり、スン……とした感じになってしまう。
大丈夫である。
大切なのは心を殺されるより先に殺しておくこと……!
そう! 生きていない限り殺されることはないのである! いや、それでいいのかと問われたら、それはそれでどうなんだということになるのであるが!
「あ、もしかしてこの後予定があったりしちゃった?」
「いえ、ないです。ないですけど、ちょっとこういう映画は……」
この期に及んで往生際の悪い。
ナイアルテはふるふる首を横に振っている。本当にダメなんですって! という言葉は、シアターの音響にかき消される。
「いや、予定がないとかそれはそれでキミどーかと思うよ……うん……」
クリスマスぼっちとか。
そんなロニの半眼の視線が痛い。痛すぎる。
「ま! そんなのどうでもよくなるくら、クソ映画のグロホラー見れば吹っ飛ぶってもんだよ!」
いぇーい!
ハイタッチするフレンズたち。
何がどうなってこんな事になったのかはわからないけれど! しかしながら、ロニがナイアルテにクソグロホラー耐性をつけようとしていることはわかる。
なにせ、彼女はそういうのが苦手でありながら、そういうのを予知してしまうグリモア猟兵なのだ。
ならばこそ、一々予知の度に青い顔してたりしなくてすむようになる!
これもまた神々の試練の一つ!
「ええ、ならば受けて立ちましょう! 我が『神月円明』の名にかけて!」
「じっちゃんの名にかけてみたいな言い回し!」
そんなロニとナイアルテのやり取りの合間に響き渡る資料の如きうめき声。
ナイアルテは格好良く決め顔した次の瞬間に、それが崩れ落ちる。
涙目になりながら、けれど、しっかりと見終わるまで終わらないグロホラー映画祭り。
こんなお祭りなんて合って言い訳がないとばかりに叫ぶナイアルテの悲鳴をバックグランドミュージックにしながら、ろにはケタケタ笑い続ける。
この笑い飛ばせるグロホラーこそが、クソ映画の醍醐味!
チャチでチープでトリッキーなありえないの連続。
そんな映画を楽しむメリー・クリスマス!
「メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!」
さあ言って! とロニは笑う。
清きこの聖夜に地獄の底から響き渡る叫びと。
「メリー・クリスマス! ハッピーでピーポーなパーティーナイト! いぇいいぇい!」
やけくそな合唱が荘厳なる大劇場の中から響き渡る。
終わらないグロホラーなんてない。
あるのは、宛もなく、そして尽きることのない好奇心。
故に人々はそんな映画を求める。
ありえないを笑い飛ばせる魅力。それにとりつかれたロニは、今日もスクリーンの前でにこやかに笑い飛ばすのだった――。
成功
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