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陽だまりの思い出

#ブルーアルカディア #ノベル

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炬燵家・珠緒
◆内容
『ストーム・フロント』シナリオ内で書いて頂いたご主人様との想い出をノベル化希望です
ご主人様とののんびりピクニックの想い出をお願いします

お弁当を食べたり、小川で遊んだり、花畑を満喫したり
戦闘はNG、珠緒の中で「大切な想い出」として残る一日を是非。

◆ご主人様
珠緒を召喚した人
性別・年齢お任せ
ぼかすよりも色々設定を詰め込んでいただける方が嬉しいです
(いろんな人に召喚されているので、ご主人様は複数います、多分)

◆珠緒
良くも悪くも『猫っぽい』性格
のんびりしてて、喋り方もゆっくり
思考回路もゆっくり
器用で大概のことはやれば出来るくせにやらない、ズボラ、雑
ご主人様にお世話してもらうのサイコー~~って思ってる
ご主人様のことは大好きらしい
その他設定追加歓迎です

不明点や迷う点は全てお任せ
アドリブ大歓迎です
文字数余ったら★返還OKです

どうぞよろしくお願いいたします



 空拭き渡る、風。さわさわと亜麻色の髪を揺らし、遠く彼方へ草葉の香りを運んでいく。
 ピンと立つ猫の耳をくすぐられた少女はうすら目を開いて、己がまだ膝の上にいることに安堵した。
 炬燵家・珠緒(まいごのまいごのねこむすめ・f38241)は見渡す限りの空に喚ばれたことを喜ばしく思う。だって風がこんなに気持ちよくて、ご主人様が優しくしてくれるから。
「ん~~……もうちょっとだけ……」
 膝枕のうたた寝から覚めるたび、確かめる召喚士の顔。なぜ自分を選んだかはわからないけれど、ご主人様は出会った時から珠緒を大事にしてくれる。だったら自分もそれに甘えたい。甘やかな思い出が濃くなるほど、いざという時にきっと奮い立てるから。

 いつの間にかすう、すうと寝息を立てていたみたいで、気づけば珠緒はピクニックシートの上に寝かされていた。優しく寝かしてくれたのだとしても、あの柔い腿の感触がないのはちょっと寂しい。
「ご主人様ぁ……どこ~~?」
 眠たい頭で見渡し、見出だすより先に。かぐわしい、フルーツの香りが鼻をくすぐった。

 草原に立てた、キャンピングテーブルとまな板の上。召喚士の男は慣れた手つきでオレンジを切り、バターを塗ったパンの間に挟みこむ。果実とハムの隙間に詰め込むラクレットチーズ。パンごとバーナーで炙れば、芳しい香りが漂った。
「わぁ~~……ご主人様、お料理上手だね~~! 見てるだけでお腹がすいてくるよ~~」
「ん、そうか? まあでも、この世界で生きてくには何でもできないとだしな」
 黒髪をかきあげる青年の腕は確かに術士にしては逞しく、戦士として鉈を振るえそうなくらいだ。術の詠唱に魔獣の解体、装具の製作と彼は多才だ。きっと接近戦とてこなすのだろう。
「お前も手伝ってみるか? ちょっとは手料理覚えた方が元の世界に戻った時もいいだろ?」
「え~~、やだよ~~。わたし、何でも作ってもらうのが好きなんだから~~」
「ったく。そんなんじゃ遭難した時生き残れないぞ?」
 仕方なさそうに笑う青年は、彼女の素性を知らない。窮地に立たされた時の打たれ強さも、隠し秘めたる器用さも。

   ◇    ◇    ◇

 ピクニックサンドが仕上がったなら、出立の時。その場で頬張るのもいいけれど、こんな晴天の下のランチにはもっとふさわしい場所がある。
 さらさらと流れる小川のせせらぎ。お気に入りの紅い下駄を脱ぎ、素足を浸せば、指の間をくすぐる冷たい水にきゅうっと身の縮む思い。
 けれどそれも一瞬の我慢。温度に足が慣れた頃にはちゃぷちゃぷと泳がせ、気持ちよさそうに尻尾を揺らす珠緒の姿。
「ご主人様~~、ご主人様も早く~~。とってもここ、水が冷たくて気持ちいいよ~~」
「わかったわかった、ったく……お前はホント、童心のかたまりみたいだな」
 笑いながら隣に腰掛ける青年召喚士が足を浸けるより先、髪を靡かせ亜麻色の頭部がこつんと青年の肩に乗る。
「……そっちが目当てか」
「あったり~~」
 身も心も楽したい少女にとって、ご主人様の身体はいいハンモック。隙あらば身を預けてくる無防備な猫娘に、良識ある青年もさすがにため息が出た。
「……そんなんで本当に魔獣と戦えんのか? この空には俺より獰猛で悪賢い奴らがごまんといるんだぞ?」
「ご主人様が護ってくれるからへいき~~」
「あのな、それは逆だぞフツー……あ~あ、大枚はたいたクリスタルを砕いて出てきたのがこんなかわい子ちゃんとはなー」
「なんで~~? ご主人様~~、わたしと出会えたとき、とっても笑顔だったよ~~?」
 のんきな珠緒からの思わぬ返しに、召喚士の青年は押し黙る。珠緒と出会えた時、確かに自分は笑っていた。理由を話していないのに、時折この少女は鋭いところを突いてくる。神通力か、あるいは異常なまでに鋭い天性の勘の成せる業か。
(「……あの時の顔、見られてたのか」)
 青年召喚士は回顧する。二人の出会った、あの日のことを。

   ◇    ◇    ◇

 天気雨の降る日の事だった。束ねた儀式用の水晶の透き通る色に比べ、己の顔の鬼気迫ったこと。魔獣狩りを重ねに重ね、貯め込んだ石の量は決意の表れ。青年の矛先は鋭く、屍人帝国に向けられていた。
(「俺は……あんた達を許さない」)
 突如侵攻を開始し、彼の生まれ故郷を戦火に包んだ帝国軍。辛うじて彼のみを船に託した母は、島に置き去りとなり雲海に沈んだ。
 クリスタルサモナー、召喚の秘儀を担う術士の村が狙われたのは、力を脅威と見たからだ。けれどそれは幼かった彼には何の言い訳にもならないし、大きくなったとて怒りを収める道理になりはしない。
 すべては帝国打倒と、復讐のため。彼らの鮮血をぶちまけるためなら、命散らせど胸のすく思いがするだろう。
 水晶とは似つかぬ、真紅の決意。それを鈍らせたのは身近な人でなく、縁もゆかりもない一人の少女だった。
「ふわあ~~……あれぇ、ここ、どこぉ~~?」
 石を割って現れた少女の間の抜けた様子に、きっと自分は目を見開いたろう。毒牙を抜かれたように座り込む己に気づかず、少女はゆらりと尻尾を振って辺りを見渡した。
 大きく伸びをし、卓上に目を向けた少女はふと「この世界にもこんな綺麗なもの、あるんだね~~」と口走る。
 視線の先を辿れば、柘榴石の首飾り――忘れかけていた母の名残が陽光を浴びて輝いていた。心がゆれる。真に必要な時にこそ怒れる子にと育て上げた、優しき母の思いが蘇る。
「あれ~~? あなたがもしかして~~、わたしのご主人様かなあ~~?」
 出会うなり、警戒心もお留守の猫娘に。毒牙を抜かれた青年は、根負けしたように「おいで」と腕を広げた。

   ◇    ◇    ◇

 あれから幾度の冒険を経ただろう。ことあるたび迷子になる少女を連れ戻し、青年は彼女を召喚した自分の宿命に溜息した。
 手間がかかっても面倒を見続けるその意図を、珠緒に悟られたとは思わない。争わぬ性、陽の色をした髪。その風貌に在りし日の母を重ねたなどと、口が裂けても言えまい。
 すべてを見透かす瞳の彼女は何も言わず、疑わずに己についてくる。天然なのか算段づくなのかもわからないが、居心地がいいだけの理由で彼女とはずっと共にいられる気がした。
「……珠緒。珠緒?」
 肩に預けられた頭からは、ふたたび寝息とゆったりした睡眠呼吸のリズム。疑う事を知らない少女は心配にこそなるが、この天真爛漫さにどれほど魂を救われたか。
 煮え滾る地獄の釜を冷まし、いまは陽だまりの心地。真に怒れる時がくるまで、胸のほとぼりは大事にとっておくべきだ。
「お前、召喚される相手はホント選べよな。皆がいい人とは限らないぞ」
「……大丈夫……だよぉ~~……」
 寝言か返事か、それとも別の意味があるのか。真意を図るのが無駄と知っているから、かわりに青年召喚士は少女の髪を指先でかきわけた。
 せっかくのサンドイッチはボックスの中に眠ったままだが、このままもう少し寝かせてみても、味が馴染んで美味しいだろう。少女の髪を慈しみ、風のように優しく撫でてやる。
「……ご主人様は……大丈夫なの~~……」
 とぼけた寝言、赤子のように安心しきった息遣い。青年に身を預けたままで、珠緒は風の中に夢を見る。

 それは、優しい陽だまりの思い出。
 ありふれた、けれどかけがえのない思い出を糧に――少女はどこまでも駆けていける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年12月25日


挿絵イラスト