代わりという名の代えられない戦友
サカマキ・ダブルナイン
こんにちは、シナリオではいつもお世話になっております!
文章リクエストが登場しましたので、見てみたいお話のリクエストをさせて頂きます。お忙しいかと思いますが、ご一考頂けると幸いです。
【お話について】
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=42732のシナリオの後日談的エピソードです。
【登場人物】
・サカマキ(メインボディ)
シナリオ時の甚大な損傷状態のままエピソード開始。完全修復までは感情プログラムは停止中。
修復中は修復の進捗を読み上げるが、声帯機能が直るまではシナリオで描写されたような錆びついた声のまま。
修復後は機能チェックを経て感情プログラムを再起動、いつもの元気なサカマキに戻る。
・スペアボディ
ユーベルコードで登場したサカマキのスペアボディ。AIもサカマキからコピーされているが、基本戦闘機能に特化しているため、感情プログラムは使わない。
口調などは感情プログラムをオフにした戦闘中のサカマキと同様。
スペアボディもある程度損傷状態であり、メインボディを社員に預けた後自らもメンテナンスを受けることとなる。
メインボディのサカマキにとっては、自分自身でありながら戦友のような認識。
【あらすじ】
①ボロボロに故障しつつも僅かに機能を残すサカマキ(メインボディ)をスペアボディが回収し、スペースシップワールドの坂巻社事務船(事務所の宇宙船バージョンのイメージ)に帰還。
②スペアボディがメインボディの修復を社員に依頼。
修復を開始されると、メインボディが故障した声帯機能で進捗を読み上げ始める。声帯機能が直ったら元の声に戻る。
スペアボディがそれを確認した後、スペアもメンテナンスを受け、次の出番までスリープモードに入る。
③サカマキ(メインボディ)が再起動。
内部の機能チェックと、手足や耳、尻尾の動作チェックを済ませたのち、感情プログラムを起動。
「いやー、全く酷い目にあったのじゃ……」と先日の激戦を振り返る。
メンテナンス&スリープ中のスペアボディの元へ行き、「ありがとうの、戦友」と礼を述べる所で終了。
【その他お願い】
事務船内の設備や社員さんについてはあまり細かく設定していないので、描写に関してはお任せいたします!
発注文の段階で不明瞭な点はお任せします、アドリブやアレンジも歓迎です。
これまで沢山のサカマキのお話を紡いでくださった沙雪海都様なら安心してお任せできると思っております、良ければよろしくお願いします!
戦場には何人もの猟兵達が飛び交い、その中にサカマキ・ダブルナイン(ロボ巫女きつねのお通りじゃ!!!・f31088)が在った。灼熱の世界で己が身と魂を燃やし、デストロイキングボスなる最強の魔王を討った時、誰しもが満身創痍だがサカマキの損傷は甚大だった。
蒼の巨躯が掻き消える様を見遣るのはサカマキのスペアボディであり、サカマキはその両腕に抱えられた鋼色の夥しい骨格だった。頭部はぐでんと天を仰ぎ、瞳は虚ろ、口は微かに震え今も錆びた声を僅かに漏らす。エラーを吐き出すことさえエラーが生じ、余命幾許もないという言葉が相応しかった。
やがて帰還のための光の扉が現れる。グリモア猟兵は戦火の収束を感じ取った――だがどんな代償が支払われたかは彼らが戻るまで分からない。
グリモア猟兵は酷く狼狽していたと。サカマキは後にスペアボディが観測した記録から知った。グリモア猟兵は即座にサカマキが帰るべき世界への扉を開き、スペアボディは光を潜り抜けていった。
宇宙空間を漂う坂巻社事務船、ゲートフロア中央に光の柱が立ち、人影がカン、カンと高音を鳴らして現れる。社員達がゲートフロアに現れるや、スペアボディが抱えたサカマキの姿に驚愕の叫び声をあげ、一目散に走り寄ってきた。
「これは!?」
「メインボディの損傷率、92%。早急な修復を依頼します」
スペアボディの彼女は社員の一人が発した言葉に求められる答えを返さず、淡々と抱えたサカマキの体を差し出す。
いつも大袈裟に胸を張って他世界へと飛び出していくサカマキの背中を社員達は何度も見送り、時にはボロ雑巾のように傷つき帰ってきたのを出迎えたこともあったが――サカマキの活動を支援すべく船を守り、冷静沈着であろうとした彼らでも一瞬手を差し伸べるのを躊躇った。目の前に立っているのがサカマキと同じ見た目の存在でなかったら、彼らはそれをスクラップ扱いしていたかもしれない。
「……し、至急メンテナンス班に連絡を!」
自分達の使命を思い出した社員達は慌ただしく動き始める。応援を呼ぶ傍らでその場に横たわらせたサカマキへ応急処置を施そうとしたが、未だ高熱を帯びる体のどこに手をつけたら良いか、社員達は眉間に皺を寄せていた。
「意識レベルは……」
一人の社員が、まだ生身の状態を保てているサカマキの瞳を覗く。輝きは水底のように鈍く、周りを手で覆い隠してようやく光の存在が確認できた。体中から小さな火花がパチパチと散っており、瞳まで弾ければ修復は望めない――最悪の事態が脳裏に過り体が冷えてくる社員の後方に、ガラガラと喧しく特殊仕様の担架が飛び込んでくる。
防護服に身を包んだ社員達はサカマキに担架を横付けて、三人がかりでその体を担架に乗せた。剥き出しの接続口へ何本ものコードを繋いでサカマキのバイタルデータをモニターに表示し、またガラガラと猪突の勢いで飛び出していく。
「あなたも早く……」
「活動限界未満――メインボディの修復確認を実行します」
心配そうな視線を送る社員達を余所に、スペアボディのサカマキは、カン、カンと自らの力で歩を進めた。
ガラス張りのメンテナンスルームへ搬入されたサカマキ。冷却ガスが吹き付けられ体温が徐々に下がっていく。それを室外でモニタリングする技師の元に、スペアボディのサカマキと付き添いの社員達がやってくる。
「スペアボディのほうは大丈夫なのか?」
「それが……」
言い淀む社員に構わず、スペアボディのサカマキはガラス越しにメインボディの様子を見つめる。金属のアームが何本もサカマキの体に伸びて修復作業が始まり、進捗をサカマキ自ら読み上げる。
「リペア……プロ、グ……ラム……ヨミ、コミ、チュウ……。ジュウ……ジュウ、ゴ……」
居た堪れない声が聞こえてくる。深刻な表情を見せる社員達の傍らでスペアボディのサカマキはガラスに貼り付くように修復の様子を伺っていた。自身は二の次、一点を見つめて動かない。技師は持ち場に戻り、付き添いの社員達は固唾を飲む。時は過ぎ、サカマキの修復は少しずつ進む。
「リペアプログラム、ロード、カンリョウ。アー、あー、メモリーサルベージプログラム、認識しました。読み込みを開始します」
皮膚構造が再構築される中、修復状態を読み上げるサカマキの声がクリアになった。それは内部的にも修復が無事に進んでいる証拠――社員達が胸を撫で下ろすと同時にスペアボディのサカマキがガラスから離れ、社員達のほうへ向き直る。
「修復は正常に進行しています」
「なら、あなたも……」
ここで社員がスペアボディのサカマキの手を取り主導権を握る。そのまま連れられた彼女は技師へと引き渡され、サカマキと同じくメンテナンスルームの施術台に横たわった。
「感覚センサー、正常を確認。各関節部、稼働確認――」
静かな部屋に響く落ち着き払った声。サカマキは上体を垂直に起こし、首を左右に、耳をパタパタ。両腕をぐるんと一回しし、両足を施術台の横に振り出すと、すたんと飛び降りる。
「感情プログラム、起動します」
声に合わせて瞳に爛々と輝きが増した。そしてすぐに尻尾がぴょんと跳ねる。
「寒っ! うぅ、なんじゃこの部屋……」
そこは見慣れたメンテナンスルームだが頗る寒い。サカマキはふわふわで元通りの肉球で体を擦りながら扉の方へ歩いていったが、二つある施術台のもう一つにスペアボディが横たわっているのに気付いた。
蘇ってくる激闘。体の大部分を損傷しスペアボディに託した後。思案に耽る内、記憶の砂嵐が徐々に晴れて、掴み取っていた勝利がじわりと込み上げてくる。
「勝った、んじゃな。いやー、全く酷い目にあったのじゃ……」
打ち倒した――しかし大戦そのものはどうなったか。
聞きに行くなら今すぐにでもと思ったが、サカマキはその前にスペアボディの側へ歩み寄る。激闘の果て、傷ついた体は細かなメンテナンスを受けて眠っている。
自分の修復作業に注力したためにメンテナンスが遅れてしまったのだろう――そんな気がしてサカマキは、
「ありがとうの、戦友」
そっと柔らかくスペアボディの頬に触れ、感謝と労りを伝えるのだった。
成功
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