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聖なる夜に鍵をかけて

#UDCアース #お祭り2022 #クリスマス #プレイング受付締切

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●クリスマスツリーに南京錠
 UDCアースのとある場所。
 赤いレンガがトレードマークの倉庫では毎年恒例のクリスマスマーケットが開かれていた。

 蜂蜜とりんごのホットワインを片手にトロトロのパイシチューを頬張る人や、背伸びしてほんのり苦いホットチョコレートにチャレンジする子供。たっぷりのホイップとアラザン、それにトナカイとサンタのマシュマロの乗ったエッグノッグを二人で飲むカップル。

 ガラス専門店の手がけるテーブルサイズのクリスマスツリーは、店頭の光を反射してキラキラと輝いている。
 チェック、ボーダー、シンプルな無地のテディベアは一つ一つ手作りで同じものは二つとない。
 店主が世界を旅して一つずつ集めたキャンドルホルダーはまあるいステンドグラスのようだ。

 どのお店も魅力的だけど、一番の賑わいを見せているのはクリスマスマーケット公式が開いている“手作り南京錠”のコーナーだ。
 四角、丸、三角、ハート、星、雪だるま、様々な形の南京錠がずらりと並んでいる。
 色も様々。シルバー、ゴールド、ピンク、マットな赤、などなど虹じゃ例えられないほど数多くの色の南京錠をお客は手に取り、シールやラメ、ビーズやお花、宝石にリボンにベル…思い思いの飾り付けをしていく。

 出来上がった南京錠をクリスマスツリーの前に持っていくと何やらみんな目を閉じて祈っている。そして、南京錠をクリスマスツリーに飾ると、大事そうにそれを開けるための小さなカギをしまってクリスマスマーケットの雑踏に消えていくのだった。

●南京錠におまじない
「…なんでも、とある言い伝えがあるようです。」

『南京錠に願いを込めて飾ると願いが叶う』

 だからみんな真剣にクリスマスツリーの前で南京錠に祈っていたのだ。そして小さなカギをお土産に大切に持ち帰る。誰も鍵を開けてしまわないように。

「そして…これはあくまで来場客の間で囁かれている噂なのですが」

『鍵を交換しあった人たちはずっと一緒にいられる』

「…なんて、噂もあるらしいですよ。ふふ、なんだかロマンチックですね」

 アンリはくすくすと笑う。

 小さな鍵を大切に持ち帰っていた理由はこちらの方が強そうだ。
 大切な友達と、恋人と、家族と、相棒と。決して鍵を交換して無くさないように。おまじないが解けないように。

「みなさんもよろしければ行ってみてはいかがでしょう。願い事を叶えに。大切な人との絆を深めるために。」

 そういうと、彼は特別招待チケットを猟兵たちに手渡した。


ミヒツ・ウランバナ
 メリークリスマス!ミヒツ・ウランバナと申します。
 オープニングご覧いただきありがとうございました。

 南京錠に願いを込めて、クリスマスマーケット内のクリスマスツリーに飾りましょう。
 色や形、飾り、道具などは基本的になんでもあるのでお好きに飾り付けてください!

 POW/SPD/WIZはあまりお気になさらず、クリスマスマーケット内で出来ることならなんでも好きにお楽しみください!
 全年齢対象ではないプレイングは採用いたしません。

 お声がけがあれば、私の『イラストがある』グリモア猟兵を一人呼ぶ事が出来ます。
 どなたも面識の有無に関わらず、一緒に過ごしたいと思ってくださったらお気軽にどうぞ〜。

●参加人数
 グループ参加は2名まで。ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけるとありがたいです。
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第1章 日常 『きらめく星の舞台』

POW   :    輝く星を捜す

SPD   :    煌く灯を探す

WIZ   :    瞬く光を示す

イラスト:葎

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

栗花落・澪
【鯱兎】
晃君との関係:同居人の1人兼友人
服装:南瓜SD2021参照。ケセランパサランの仮装を冬服として着用

パイシチュー美味しそう…
少しくらいはいいよね
晃君も食べる?
すいません、パイシチュー2つ
んん、美味しいー♪

丁度食べ終わる頃に手作り南京錠のコーナーへ
凄い、可愛いのがいっぱいだぁ
僕と言えばやっぱり花かなぁ
色はオレンジゴールドで、ラメやリボンで飾り付けを

ん、なに……?
これ人に付ける用じゃないんですけどぉー
でもチョーカーでならちょっと可愛いかもね

南京錠を選んだら2人でツリーに願いを
僕の願いは、晃君の願いが叶う事
言わないけどね

鍵の交換はしない
ずっと一緒になんて、きっと晃君も望んでないと思うから


堺・晃
【鯱兎】
澪君との関係:同居人の1人兼友人
服装:暗色の長袖長ズボンに黒のロングコート

そうですね、僕もいただきましょうか
今日は冷えますからね

手作り南京錠のコーナーでは
少し悩んだ後に紫のシンプルな星形の南京錠を
…なんとなく、ふと澪君の首元に南京錠を当て

…いえ、別に
澪君なら首輪も似合いそうだなぁと思いまして
ええ、ツリーに飾るんですよね
と肩をすくめ
半分本気だった事は黙っておこう

ツリーに南京錠を飾り
願い、ね…
遠い故郷にいる母の幸せを
僕が願うのも烏滸がましいですが

鍵の交換はいたしません
澪君も結婚すればきっと家を離れるのでしょうし
本音を言えば、誰も手放したくは無いけれど
この感情は僕の心の中だけに秘めて



●本音に鍵をかけて

クリスマスマーケットの会場では、灰雪がその名の通り舞うようにヒラヒラと来場客の頭上に降り注いでいた。

栗花落・澪(泡沫の花・f03165)のハロウィン用の“ケセランパサラン”衣装は今日のような淡い雪が降る日にはまるでその淡雪の精のように、しかしフワフワとして可愛らしくも暖かそうにも見えた。歩くたびに胸元で白く丸いポンポンが揺れるのもまた愛らしい。

反対に堺・晃(元龍狼師団師団長・f10769)の服装はダークなカラーでまとめられており、ロングコートを身に纏った姿は色とりどりの輝きや真っ白な雪の中で締め色のように洒落ていてシックであり、爽やかな笑顔も相まってすれ違いざまに振り返る人も少なくなかった。

「手作り南京錠のコーナーってこの先だよね?」
「ええ、多分もうすぐ見えてくると思いますよ」

二人の目的はもちろん手作り南京錠のコーナーだった。

ふと、シチューの香りが澪の鼻をくすぐる。

沢山のフードを売る店の一角に、その匂いの出所はあった。
大きなビーフシチューの鍋をかき混ぜる店主の姿。ごろっと切られたにんじん、じゃがいも。そして大きな牛肉がぐるぐると鍋の中で踊る。
レードルで掬われたシチューは大きめのマグカップにとろぉり注がれていく。
ココットの上にパイ生地を被せられて、均等に天板の上に並べられたシチュー達はオーブンの中で焼かれていく。
店頭に並ぶパイシチューは焼きたてこんがり狐色の焼き色。

「パイシチュー美味しそう…少しくらいはいいよね」

ケセランパサランの衣装は暖かいけれど冬の寒さで指先が悴んできた頃だった。

「晃君も食べる?」
「そうですね、僕もいただきましょうか。今日は冷えますからね」

澪の寒さを見透かしているのだろうか。
くすりと笑って晃は澪に同意し、二人はシチュー屋の列に並んだ。

「いらっしゃい!ご注文は?」

太陽のような笑顔の恰幅のいいおかみさんが列の先頭まで到達した二人に声を掛ける。

「すいません、パイシチュー2つ」
「あいよぉ、パイシチュー2つ!」

澪が二本指を立てると、おかみさんはニカっと笑って注文を繰り返した。

ちょうどその時オーブンが焼き立てを知らせるベルの音を響かせた。
調理場の店員は手際よくオーブンからパイシチューを取り出して店頭に並べ始めた。
火傷しないように分厚い紙の器にすっぽりとおさめてから、二人用のパイシチューをおかみさんは晃に手渡した。同様に澪に二人用のプラスチックスプーンを手渡して微笑む。

「はい、パイシチューお待ちどう!火傷に気をつけてね!」
「ありがとうございます」

分厚い紙の器越しにココットに入ったパイシチューの暖かさを感じる。
うっかりすると紙の器越しでさえも火傷してしまうかもしれない。

「はい、澪君。火傷に気をつけてくださいね」
「ありがとう。はい、晃君のスプーンだよ」

シチューとスプーンを交換こ。
スプーンでパイ生地をつつけばサクっと音を立ててパイは崩れる。
破片は暖かなビーフシチューの中へ。
白い湯気が赤茶のビーフシチューから立ち上り、ドミグラスソース独特の甘い香りが辺りに漂う。
ふやける前にパイを口へ運ぶと、サクサクと口内で砕けて香ばしい焼き目とバターの味が口いっぱいに広がる。柔らかく煮込まれた人参の甘さ、ほくほくとしたじゃがいもとシチューはそんなパイとよく合って。

「んん、美味しいー♪」
「赤ワインの風味がよく効いていて美味しいですね」

大きく切られた牛肉はスプーンで切ることができるほどに柔らかく、口に入れた瞬間その脂の甘さとシチューの塩味が舌の上で混ざり合う。噛めば噛むほど牛肉の繊維がほぐれて旨味が口内に染み出す。
ふやけたパイはトロトロのシチューを全身に纏い、パイ自体もとろけ出しそうだ。
熱々のシチューに気をつけていたはずなのに、あっという間にパイシチューは胃に収まってしまった。

───────────────────────────

ちょうどパイシチューを食べ終わる頃に、二人は手作り南京錠のコーナーに辿り着いた。

「凄い、可愛いのがいっぱいだぁ」

種類ごとに木箱へ納まった南京錠の数々は、色と種類共に数えきれないほどの量がある。
ハートや星、まん丸の南京錠も可愛いけれど。

「僕と言えばやっぱり花かなぁ」

木箱を一つ一つ見ていくと色とりどりの花の南京錠が並んでいる。
けれど色は迷わずオレンジゴールドを選んだ。金蓮花に、自分の毛先と似ている色をしたそれがとても可愛らしく見えたから。

(…僕はどの錠にしましょうか)
少し悩みながら晃は木箱を見て回る。雲の形、四角、三角、赤に青にシルバー。
ふと、紫のシンプルな南京錠が目に入った。
それを手に取ると、なんとなく装飾を選んでいる澪の首に当ててみる。

「ん、なに……?」

ヒヤリとした感触に眉を少し寄せて澪は晃を振り返る。

「…いえ、別に。澪君なら首輪も似合いそうだなぁと思いまして」

サラリとそう言い放つ晃に澪は頬を膨らませる。

「これ人に付ける用じゃないんですけどぉー」
「ええ、ツリーに飾るんですよね」

と肩をすくめる晃。
でもチョーカーでならちょっと可愛いかもね、そう付け加えると澪は花のように微笑んでみせた。

(半分は本気だったんですけどね)
その言葉は口から出さずに、花のような微笑みにこちらもニコリと微笑んで返した。

───────────────────────────

大きな大きな籾の木。
そんな籾の木でできた大きなクリスマスツリーに花と星の南京錠が隣り合って飾られた。

花の南京錠はオレンジゴールド。
金色のラメがキラキラと光を反射して瞬いている。
大ぶりな白いリボンはまるで一対の天使の翼のようだ。

星形の南京錠は紫色。
多くの南京錠が飾られたクリスマスツリーの中で装飾がないのはこれ一つくらいだろう。
静かに異彩を放っている。

クリスマスツリーに南京錠を飾った二人はその前で静かに目を閉じる。

(願い、ね…)
ほんの少しだけ思案して、晃は遠い故郷にいる母の幸せを願った。
虐待から守るためとはいえ、父に手をかけた自分が願うのも烏滸がましい事かもしれない。
けれど、母に安寧が乱される事がないのに越した事はない。

目をつぶって願いを込めている晃の姿を澪は横目でちらりと見る。
(僕の願いは、晃君の願いが叶う事)
真剣そうに願いを込める友人の願いが叶いますように、と心のそこから願う。
きっときっと、大切な願い事だから。
(…言わないけどね)
恩を着せたい訳でもないし、純粋に叶ってほしいと思っているから。

───────────────────────────

「澪君は何を願ったんですか?」
「言ったら叶わなくなっちゃうから内緒!」
「ふふ、じゃあ僕も内緒ですね」

二人はそんな言葉を交わしながらツリーから離れてクリスマスマーケットの雑踏の中へまた戻っていく。
ツリーの周りでは、鍵を交換している人が沢山いた。
二人もあのクリスマスマーケットで流れている噂は知っていた。

『鍵を交換しあった人たちはずっと一緒にいられる』

だから、二人は鍵のことを口にしたりは決してしなかった。

(ずっと一緒になんて、きっと晃君も望んでないと思うから)
(澪君も結婚すればきっと家を離れるのでしょうし)

各々が各々の心づもりがあって、鍵は交換しなかった。
交換しよう、とも言わなかった。

ずっと、だなんて晃を縛り付けるようなことは言い出せなかった。
だから自分の鍵をポケットの中でぎゅっと握って絶対に離さない。

(本音を言えば、誰も手放したくは無いけれど)
どろり、と本性が顔を覗かせる。
愛情ゆえの歪んだ感情。誰かのものにもしたくないという思い。
決して口から出てしまわないように、澪との会話の言葉を紡いだ。

白く染まった金蓮花。
拷問具のような歪な黒。

覆い隠すようにクリスマスマーケットには雪が降り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベリザリオ・ルナセルウス
【白と黒】
人を閉じ込め苦しめるための物だと思っていた錠前と鍵がロマンスのアイテムになるなんて、世界が変われば変わるものだね

おや、この錠前の模様鍵が締まっている間は三日月、開けたら満月になるのか…これにしよう
色は月の模様が映えるように夜空の色、飾り付けはビーズで星空にしよう
願いは一つ。月が満ちるように織久の未来が怨念ではなく平穏に満たされる物でありますように

織久もできたのかい?君にしては珍しい物を作ったね
薔薇とリボンに…これ、もしかして私の花?
…この花は私が何のために生まれたかの証であり、それを叶えられなかった証でもある
けどこれからはこの花を見た時に思うのはこの日の事になるだろう
ありがとう織久


西院鬼・織久
【白と黒】
呼称:ベリザリオ(f11970)に同行

クリスマスの行事に参加するのもこれで三年目。それもこれも俺がベリザリオと共に在る事を拒まぬせいですが
あと少し、あと一度と、俺も随分愚かになったものです
関われば関わる程、我等が怨念を覗き見る事になると言うのに

【行動】
ベリザリオと過ごす事をやめない自分に呆れつつ錠前作り
紫の薔薇の錠前に白いリボンを葉の形に整える
なければ明るい金の錠前に紫の薔薇の飾り
未来を望まないため願いも込めず、ただベリザリオが納得できればそれでよしとして鍵を交換する
彼が自分の未来を望んでいるのは理解しているが西院鬼の定に行きて死ぬことを譲る気がないため気付かないふりをしている



●白と黒は混ざらない

白い雪はふわりふわりと天から舞い降りて、人々の頭の上に着地すると人肌に溶かされて消えていく。
贖罪の白い天使と戦に狂う黒い騎士にも例外なく、クリスマスは雪と共に訪れる。

ベリザリオ・ルナセルウス(この行いは贖罪のために・f11970)の柔らかな羽根に真白の雪が一粒落ちるのを眺めながら西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は思う。

(クリスマスの行事に参加するのもこれで三年目。それもこれも俺がベリザリオと共に在る事を拒まぬせいですが。)

一年目は、“日常を感じてもらうため”なんて理由で共に晩餐を共にした。
料理の味と、感想を聞くベリザリオの笑顔。今でもあの夜のことは鮮明に思い出せる。

二年目は、アップルサイダーとワインの香り。
晩餐の思い出を香水瓶の中に閉じ込めてベリザリオへと贈った。

そして今年は──────────

赤いレンガの倉庫の前には多くの雑貨や食事の店舗が軒を連ねている。
UDCアースではこれを“クリスマスマーケット”と呼ぶらしい。

眼前には大きなモミの木。
これに南京錠をかければ願いが叶うという伝説がここにはあるようで。
今年もまたベリザリオに誘われ、共にクリスマスの催しに足を運んだのだ。

「人を閉じ込め苦しめるための物だと思っていた錠前と鍵がロマンスのアイテムになるなんて、世界が変われば変わるものだね」
「そうですね。ここには殺気も血の匂いもありません。これから戦闘が始まる気配さえ、微塵も。俺たちの世界とは根本が違うようです。」

ヴルスト片手に子供が二人の傍を駆けていく。

それを見て微笑ましそうに笑顔を零すベリザリオの横顔をじっと見つめる。

(あと少し、あと一度と、俺も随分愚かになったものです)

ベリザリオには悟られぬようにため息を一つ吐く。

関われば関わる程“西院鬼”が、“我等”が怨念を覗き見る事になると言うのに。
常に殺意と狂気が渦巻く“我等”の残忍さをそのヴァイオレットに映す事になるというのに。

織久は己自身に呆れ再びため息を吐く。
それでも、足は着実に南京錠の元へ向かっているのだった。

────────────────────────────────────────

ベリザリオは所狭しと並べられた木箱の中の錠を一つ一つ見て回る。

「おや、三日月模様は先程見た気がするけど…」

四角い南京錠に三日月模様。
一つを木箱の中からつまみ取ってしげしげと見つめると、どうやら何かしらの技巧が施されていることがわかった。
刺さったままになっている鍵をかちゃり、回すと鍵が開き、三日月の形は欠けのない満月へと模様が変わった。

「なるほど、鍵が締まっている間は三日月、開けたら満月になるのか…これにしよう」

色は月の模様が映えるように夜空の色を選んだ。
小さなゴールドやシルバーのビーズを慎重に、丁寧に取り付けていく。

(月が満ちるように織久の未来が怨念ではなく平穏に満たされる物でありますように)

心の中にある大切な願いを錠前に込めながら、一つ一つ丁寧に。

西院鬼の怨念については嫌になるほど織久から言って聞かされている。
それが織久の根幹を作るものである事も、そんな生き方を変えるつもりがない事も。

それでもその生き方に心を痛めることは止めることができない。

だから願いを叶える錠前に、欠けのない月に、欠けてもなお美しい月に、輝く星に願いを込める。

本当に叶って欲しいと思っている事だから、ずっと共にありたいと思うから。

────────────────────────────────────────

織久は己の在り方に呆れながら、木箱の中の南京錠をぼんやりと眺めていた。

未来を望まない、故に込める願いもない。
だから南京錠作りなど織久はする必要がないのだ。

ふと、一つの錠前に目が止まる。

紫の薔薇の錠前。ヴァイオレットの瞳。
微笑みを浮かべるベリザリオの顔が脳裏に浮かぶ。

思わず手に取って、それに似合うリボンを探し始める。
紫の錠前に似合うのは赤でも黒でもなく、柔らかな白いリボン。

捻って結んで、薔薇の葉のように括り付ける。

出来上がったその南京錠を眼前に掲げる。
白い葉を持つ可愛らしい小ぶりの薔薇のようだ。

(…嗚呼、やはり、随分と俺は愚かになったものです)

今日はなんだか呆れてばかりだ。

────────────────────────────────────────

ベリザリオはモミの木に南京錠をかける。
カチリ、と音を立てて錠前に鍵がかかる。満月が三日月へと変わる。

どうか、どうか、と最後に念を入れてモミの木に祈る。

「随分と念入りに祈りますね」

錠前を完成させた織久がモミの木に祈るベリザリオの隣に立つ。

「それだけ大事なお願い事だからだよ」

真剣な顔でじっと織久を見つめる。

(きっとまた俺に平和に生きてほしいなんて願っているのでしょうね)

それは無理だと、未来なんて望んでいないと、いつも言って聞かせる言葉。
それでもベリザリオは己の平和を望み続けているらしい。

「織久もできたのかい?君にしては珍しい物を作ったね」

そう言って、織久が手に持っていた南京錠を不思議そうに眺める。

紫の薔薇に白いリボンの葉。

「薔薇とリボンに…これ、もしかして私の花?」
「…差し上げます。込める願いもないので、この木に飾る必要もないでしょう。」

パァッとベリザリオの表情が明るくなる。受け取った南京錠を大事そうに手で包む。

「…この花は私が何のために生まれたかの証であり、それを叶えられなかった証でもある。」

ぽつり、言葉をベリザリオは零す。
それを織久はただ黙って聞いていた。

「けどこれからはこの花を見た時に思うのはこの日の事になるだろう。ありがとう織久。」

ベリザリオの後悔と贖罪を象徴していた紫の薔薇。
その象徴は今日塗り替えられた。織久から貰った大切な贈り物と思い出として。

「君は嫌がるかもしれないけれど、よかったらこの錠前の鍵を交換してほしいな。」

“鍵を交換しあった人たちはずっと一緒にいられる”

これは誰が言い出したかわからない、根も葉もない噂にすぎないおまじない。
それでも、そんなおまじないでも織久と共にいることができるのならば。

そんな気持ちでベリザリオは小さな鍵を織久に差し出す。

「…貴方がそれで納得できるのなら」

そう言って織久も南京錠の鍵を懐から取り出してベリザリオへと同じように差し出す。
ベリザリオは目を丸くして驚愕した。

「ほ、本当にいいんだよね?」
「貴方が納得できるならいいと言っているでしょう」

織久はベリザリオが自分の未来を望んでいるのを理解していない訳ではない。

(こんな鍵程度で消えるものではないのですよ。“我等”の怨念は。)

随分愚かになったと、今日は己自身に呆れるばかりであったが西院鬼の定に行きて死ぬことを譲る気がないその気持ちは変わっていない。

だからベリザリオの願いにはまだ気付かないふりをして。

ベリザリオ・ルナセルウス。物腰柔らかで愛情深い贖罪のオラトリオ。
西院鬼・織久。殺意と狂気が渦巻く怨念の黒騎士。

鍵の取り替えをしてもその胸の中は相容れない。

それぞれが別の思惑をその胸中に持ちながら、二人は小さな鍵を強く握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月06日


挿絵イラスト