レポート:『亜麻色の髪の男』
新田・にこたま
ティタニウム・マキアに関連する予知で幾度となく影が見え隠れする亜麻色の髪の男…『メリサ』。
ただの愉快犯なのか、ティタニウム・マキアに敵対するメガコーポの手の者なのか、はたまた正義の人なのか…。
グリモア猟兵さんの予知があって尚、後手に回ってしまっている状況が気になりますね。
確かに奴の動きでティタニウム・マキアの力を少しずつ削ぐことができているのも事実ですが…やはり不安感は拭えません。少し、奴について調査してみるとしましょうか。
『安心安全』を売る|巨大企業群《メガコーポ》、それが『ティタニウム・マキア』である。
新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)はこれまでいくつかの事件に置いて、その巨大企業群に関わってきた。
警察上層部は腐敗を極めているが故に、『ティタニウム・マキア』には触れない。
どれだけ重大な事件が起ころうとも、知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
それほどまでに『ティタニウム・マキア』は巨大であり、強大そのものだった。
「……亜麻色の髪の男……『メリサ』と言っていましたか」
にこたまは、その男の存在がこれまでの事件に幾度となく影をちらつかせていることを気にかけていた。
グリモア猟兵の予知を持ってしても後手に回ってしまっている状況。
それがどうにも彼女には気になってしまうのだ。
言うまでもなく『ティタニウム・マキア』の上層部はオブリビオンで占められていることだろう。
だが、そんな『ティタニウム・マキア』関連の事件の裏で見え隠れする男。
その存在が、にこたまを不安に駆り立てる。
「『メリサ』……殺し屋『メリサ』……いくつかレポートはでてきますが……」
どれもが決定打に懸ける。
曰く、尋常ならざる握力で標的を握りつぶして殺す。
曰く、サイバースペースの情報を鯨のように飲み干すように奪っていく。
曰く、伝染病を媒介する蚊のように人知れず中毒死させる。
曰く……。
「いくつもの証言に出てくる『メリサ』……『蜂』ですか。これが符丁なのか渾名なのか……」
にこたまはレポートを片付け、棚に書類を戻す。
サイバーザナドゥにおいて、こうした紙のレポートは電子化されるものが常である。けれど、電子化されているがゆえに改竄され、また隠匿されやすいものでもあるのだ。
だからこそ、紙でのやり取りは信憑性が高い。
「とは言え、何もわからないことがわかった、というのが現状なのでしょうか」
にこたまは息を吐き出す。
徒労に終わってしまったのかと思うと、気が重たくなるかもしれない。
けれど、にこたまは正義の武装警官である。
正義の前にはあらゆる障害は意味を為さない。例え、『メリサ』と呼ばれる業界最高峰の『殺し屋』の情報であってもだ。
「確かに奴の動きで『ティタニウム・マキア』の力を少しずつ削ぐことができているのも事実……」
瞳を閉じる。
瞬間、にこたまは己の義体に怖気が奔るのを感じた。
ぞわり、とした感触。
己の生命に触れられているような感覚。
ひたり、と首筋に触れる手。
「アンタが嗅ぎ回っているのは、きっと俺なんだろうな。わかるよ。チラチラ見えると正直鬱陶しいものな」
声。男の声。振り返れば、其処にいると解るが振り返ることを許さぬ雰囲気がにこたまと資料室の中に満ちていく。
「ああ、勘違いしないでくれ。俺はアンタを殺したいとか、仕事で、とかそんなんじゃないから。いやほんとほんと。だからさ」
これはサービスだと、声が言う。
にこたまの眼前に置かれる紙片。
それは一枚の写真だった。
画像をプリントアウトしたものではなく、今どきポロライドで現像した写真。
「それってばなんだと思う? アンタたちなら理解るかな? まあ、また遭うこともあるかもしれないからさ。そん時は見逃してくれよな」
笑って遠ざかる声、気配。
にこたまが銃を構え振り返った時、そこにはもはや影もなかった。
残されたのは写真。
たった1枚の写真だった。
「鋼鉄の巨人……?」
青い鋼鉄の巨人。
三面六臂たる鋼鉄の巨人が、その写真の中に映っていた。手にとった写真を裏返せば、其処には走り書きで綴られた文字。
にこたまが得たのは、それだけだった。
『セラフィム』――。
成功
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