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エフェメラの花宵

#アックス&ウィザーズ #お祭り2022 #クリスマス

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●たった一度きりだけど

その神さまは生きたのは たった一日だけ

冬の寒い日に 凍えるわたしたちを憂いて
その身をあたたかな贈り物へと変えた
優しくてはかない神さま

だからあの日から繰り返し
たった一日だけ ほんの一晩だけ
逢えない悲しみを拭うように
尽きせぬ感謝を捧げるように
しろく淡く咲く花を

わたしたちは あなたと同じ名前で

――エフェメラと よぶの


●たった一度きりだからこそ
「《皆様、メリークリスマスですわ。》」
 無機質な電子音声に祝いの言葉を乗せて、セラフィム・ヴェリヨン(f12222)が淡く微笑んで見せる。
「《今年も何かと事件に見舞われたでしょうが、今回のお声かけは労いを込めたお祭りの誘いです。》」
 場所はアックス&ウィザーズのとある街。そこには毎年冬の一日だけ花を咲かす、不思議な樹木があるそうだ。その名を『エフェメラ』。伝承では、人々の為にその身を捧げ、たった一日の命を終えたと言う神様の名前に準えたらしい。確かにその薄く透ける淡白の花弁に、朝にはとけるように咲き終えてしまう姿は、儚い神の逸話に沿うものだろう。そして身を捧げてくれた神への感謝を込めてか、この街で行われる祭りに並ぶ品物はみな“儚いもの”ばかりだ。

たとえばそれは、一度きり空を賑わす魔法の花火。
書かれた文字を言の葉に乗せれば消えてしまう綴り花紙。
あまやかに香りだけ残す紙香水。
エフェメラの花に灯り添えた一夜燈。

 そんな数限りなくある、けれどどれも明日には残らないものばかり。そんな祭りらしい『なにか』を探すのはいかがだろうか。
 他にも屋台にはチキンやプディング、ハッシュポテトやホットココアと言った季節らしい食べ物もたくさん並ぶが、中でも皆が求めるのは――『花宵の杯』だ。
 エフェメラに魔法を掛けてグラスにし、屋台を渡りながら少しずつ中を満たしていく伝統の飲料。
 ある屋台では果物飴を砕いたきらきらの砂糖を、次の屋台では花蜜を発酵させた炭酸水を、最後にはリボン形の飴細工を飾ったならば、手元にはオリジナルの飲料が出来上がる。中には温かい紅茶に甘さを廃したジンジャエールや果実水、自慢のワインや秘蔵酒を振る舞う店もあり、トッピングも果物にシナモンやクローヴ、貴重な薬草と数限りない。だからこそそれは一夜限り、あなただけが知るレシピとなる。同じ味はきっと二度と味わえない、儚くも幸せなひとときの記憶。

 真白く花咲く樹を見上げ、雪降る祭りの喧騒に浸り、明日とは残らぬものを愛しむ。

「《この祭りで残るのは、きっと記憶だけです。ですが、儚いからこそ憶えていようと、深く残る何かが、あるのかもしれません。――どうか、向かうあなたに良き日でありますように》」

 祈るように祝福の言葉を乗せて、セラフィムがそっと白い貝のグリモアを差し出した。
 


吾妻くるる
こんにちは、吾妻くるるです。
今回はアックス&ウィザーズにて
儚い神様に感謝を捧げる祭へご案内致します。

●基本説明
『エフェメラ』を祀る冬の祭りを楽しむ
(選択肢は気にしなくて大丈夫です)

 エフェメラの花は両手で包めるくらいの大きさをした、薄く透ける白い花です。(山荷葉(サンカヨウ)をお調べ頂くとイメージに近いです)街のあちこちに白い幹の樹が植っていて、枝を埋めるように咲き誇っています。

こちらのシナリオでは

・今日限りで消えてしまう品物を買い求める
・食べ歩きや『花宵の杯』を楽しむ
・エフェメラを眺めながら街を散策する

 上記を体験頂けます。基本花を愛でられるクリスマスマーケット、くらいの感じで気軽にお楽しみください。OPに書いた以外にも、趣旨に沿う内容でしたら自由に品物を増やしたり、オリジナルのトッピング
を考えたり、広場や水辺を指定頂くのも歓迎です。

 いつも通り飲酒喫煙の年齢と公序良俗にはお気をつけください。それでは、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『美しく遠きミルキィ・ウェイ』

POW   :    大の字になって星空を見上げる

SPD   :    星空を見上げて物思いに浸る

WIZ   :    のんびりと天の川を眺める

イラスト:みささぎ かなめ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鳥栖・エンデ
友人のイチカ君(f14515)と
雪のように溶けてしまうお祭りみたいだねぇ
明日には残らないもの色々見つけて
ふたりで覚えておこうじゃないか

気になったのは伝統飲みものな『花宵の杯』
屋台を渡り歩くなら丁度よいかも
ボクはワインが良い気がするなぁ
トッピングは果物にして、
星形の飴細工を飾ったならば
…はい、ボクだけのレシピ作をイチカ君にあげよう
お返しなネコ型飴細工の最高傑作には
トラなんだけどなぁ…と思いつつ
隠し味なシナモンが効いてて美味しいよー
覚えてたならまた作れそうかな、とも

途中の屋台で見かけたチキンや
ハッシュポテトも齧りつつ
偶には儚いものに思い馳せるも良いのかも
白い花の景色を目に焼き付けて、帰ろうか


椚・一叶
友のトリス(f27131)と
気に入ったもの程、ずっと在れば良いと願う
短い時を受け入れられるか、些か不安だが
探そう
覚えておく…そう、記憶には残るか

花宵の杯、良い香りする
貴様が作ったの、儂が飲んでいいのか?
目瞬かせながら受け取り、ひとくち
しゅわしゅわと、口の中で泡と甘さが弾けて
…うま
礼に儂も特製の花宵の杯をやろう
秘蔵の酒とやらに果物飾り、少しだけシナモンかける
貴様に少し似た猫型の飴細工で出来上がり
今夜しか飲めない最高傑作
美味いか?美味いか?
と反応が待ちきれない

思えば、ずっと在るもの等なかった
儚いもの思えば、当たり前のことを思い出す
チキン丸齧りして、他にも色々食べたら
あの花を目に焼き付けて帰ろう



 一日ばかり。一夜限り。この街の人々が祀る神さまは、有り様がとてもよく似ている気がする。今もこうして深々と降り積もる、白い――
「雪のように溶けてしまうお祭りみたいだねぇ」
 はぁ、と吐く息の白さを見つめて、鳥栖・エンデ(悪喰・f27131)が喩えを口にする。雪も花も美しく、祭りの喧騒は華やかだが、讃えられる儚さを思うと、連れ立つ椚・一叶(未熟者・f14515)の表情にはひと匙の苦味が残る。
「気に入ったもの程、ずっと在れば良いと願う。短い時を受け入れられるか、些か不安だ」
 美味い店があれば足繁く通い、愛づる物があれば買い求める。そうしてお気に入りを長く側に置きたがる者は多いだろう。なのに、ここではどれほど気に入ったものがあっても、明日には持ち越せない。その一抹の寂しさに悩む一叶を見て、ならさ、とエンデが明るく声を掛ける。
「明日には残らないもの色々見つけて、ふたりで覚えておこうじゃないか」
「覚えておく…そう、記憶には残るか。探そう」
 淡いひかりも、ひとつふたつと重ねれば眩くうつる。なら、思い出の輝きが一層増すようにと、二人が街へと繰り出して行く。

 綴り紙、一夜燈、エフェメラの花束と並ぶ屋台を冷やかしながら、どれを手にしようかと迷う。色々と気になりはしたが、やはり一番瞳に留まったのは、行き交う人々が手にし、店の数も最も多い花宵の杯。
「屋台を渡り歩くなら丁度よいかも」
「花宵の杯、良い香りする」
 ほぼ同時に呟いたなら顔を見合わせ、これに決まりだと笑い合う。店先に置かれたエフェメラの杯を手に、裡を満たすものを探していざ進む。
「ボクはワインが良い気がするなぁ」
 と、エンデが選んだのはしゅわりと泡の立ち上る淡い金のワイン。次に色とりどりの小さなベリーを選んで、泡を逃さぬよう静かに底へ沈めていく。最後に淡く光を帯びた星の飴細工を飾り、ちょうど同じように選び終えたらしい一叶の目の前へ、ひょいと杯を差し出した。
「…はい、ボクだけのレシピ作をイチカ君にあげよう」
「貴様が作ったの、儂が飲んでいいのか?」
 一応は尋ねる口調だが、すでに一叶の目は期待でいっぱいに瞬いている。エンデの良いよ、を後押しにそっと杯を受け取り、ひとくち。
――しゅわしゅわと、口の中で泡と甘さが弾けていく。果実が立ち上る泡に踊って爽やかな酸味を届けてくれて、その喉越しは飾りも相まってまるで、流星のよう。
「…うま」
 短く、その分これ以上ないくらい分かりやすい賛辞。それを満更でもない様子でエンデが受け取ると、今度は一叶が自らの杯をぐい、と手渡してきた。
「礼に儂も特製の花宵の杯をやろう」
「それじゃあ、ありがたく」
 受け取った一叶の花宵は、やわらかな橙色を湛えていだ。杯にまず注がれたのは、とある店の秘蔵の酒。ラムに似た香りに果実を浸し、最後に飾るのは猫型の飴細工。「貴様に少し似てた」と指差すのには、トラなんだけどなぁ…と思いつつ、エンデが口にするのは言葉でなく花宵の杯。
「今夜しか飲めない最高傑作、美味いか?美味いか?」
 待ち切れなさを隠しもせず、乗り出すように尋ねる一叶にくすりと微笑んで、エンデが素直に感想を述べる。
「隠し味なシナモンが効いてて美味しいよー」
 実際酒精と相まってオレンジや皮ごとの林檎の香りもよく、雪降る中でも体が暖まる心地がする逸品だ。それに味を覚えれば再現も出来そうな気がした。たとえ全く同じには作れなくても、なぞった味を肴に今日を思い出すのはきっと楽しいだろう。
「偶にはこうして、儚いものに思い馳せるも良いのかも」
「思えば、ずっと在るもの等なかった」
 命はやがて地へ帰り、受け止める大地もまた雨風に形を変えていく。儚いもの思えば、そんな当たり前のことを思い出す。なら、今はきっと憂いよりも、楽しさを重ねて過ごしたい。

「次は食事も買おっか。あっちに確かハッシュポテトがあったよ」
「食べる。それと大きなチキン丸齧りもしたい」

共に歩いて、飲んで、食べて。形ある土産はなくても、満たされた心地は何よりの思い出だから。最後には、

――あの花の景色を目に焼き付けて、帰ろうか 。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリエ・ヘメトス
※■■■■(使役する死者:マリエの元幼馴染で婚約者、名はマリエ以外に聞き取れない)と共に祭りを回る
周囲が死者に驚かないよう彼は視認できない形

ただ一日の命を、人の子の幸せのために使った神様…
すごく尊いお話、わたしもこの世界の住人として祈りを捧げたいわ

お店を色々見て回って、お菓子なんかを買いたいな

ねえ■■■■、覚えてる?
わたし貧乏だったから、お祭りの日もご馳走なんて食べられなくて
お菓子を分けてくれた時もいらないって意地張っちゃったよね
一番好きな貴方だからこそ、憐れまれたくなかったの
こうして一緒に楽しめるなんて奇跡みたい

人は儚いものだけど、思い出の中では生きられる
形だけ残るよりも、もっと大切なことよ



「ただ一日の命を、人の子の幸せのために使った神様…」
 さくり、さくりと雪の降り積む道を歩きながら、マリエ・ヘメトス(祈り・f39275)が感嘆を込めてほぅ、と白い息を吐く。
「すごく尊いお話、わたしもこの世界の住人として祈りを捧げたいわ」
 信じる神は違えども、人々に讃えられる逸話が尊いことに変わりはない。菓子の詰まった袋を手に、隣を駆け抜けていく子供達の笑みを見れば、これこそがエフェメラの願った光景だろうかと、胸の奥がほのかに温かく感じる。
「せっかくだから、わたしもあの子達みたいにお菓子を買いたいな。お店を見て回ったら、良いものに出会えるかしら」
 まるで語りかけるかのようなマリエの口ぶりに、最後尾を走っていた少年がふと不思議そうな表情を浮かべる。一瞬何か尋ねられたのかとも思ったが、どうにも違う。マリエの瞳は明らかに|誰もいないはずの《愛しい人の佇む》隣へ向けられている。そのことに首を傾げながら、遠ざかって行く友達たちの呼び声に、まぁ良いかと少年が再び駆け出していった。

「ねえ■■■■、覚えてる?」
 マリエが傍らに顔を向けて、どこか懐かしそうに語りかける。けれど確かに呼びかけたはずの名は、音が形を結ばずに、雪混じりの風へ流されていく。
「わたし貧乏だったから、お祭りの日もご馳走なんて食べられなかったでしょう」
 思い返す日は未だ鮮やかで、そのせいか、腹の虫が胃壁を噛む感覚まで蘇るようだった。
「それなのに…お菓子を分けてくれた時に、いらないって意地張っちゃったよね」
 優しさからだと分かっていたのに、差し出されたお菓子を受け取ることは出来なかった。だって、それを受け取ってしまえば、施しを受けたことになる。それだけは、どうしても嫌だった。
「一番好きな貴方だからこそ、憐れまれたくなかったの」
 例え生きるに貧しくとも、立場は対等で有りたかった。貴方を好きだと思う気持ちは、なんの貴賤も区別も無いのだと、示したかったのだ。
「でも不思議ね…今はこうして一緒にお祭りを楽しめるなんて、奇跡みたい」
 それでも当時は、超え難く隔たる現実が横たわって居たけれど、今となってはもう、|そんなものは何も無い。《貴方さえも消えてしまった》それは一夜の贈り物と化した神さまのように、寂しくも得難い奇跡だ。
「人は儚いものだけど、思い出の中では生きられる。それは形だけ残るよりも、もっと大切なことよ 」
 真摯にそう思っていることがわかる声音で、マリエが静かに告げる。例え返事がなくとも、そんなことは些細なことだ。だって、ほら、貴方はいつだってここに居る。わたしの側に、ずっと変わらず居るのだから。

――ねえ、■■■■。

 そう甘く問いかける名は、エフェメラの花にさえ届かずに、夜闇へと溶け消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
一夜限りの思い出
夢幻のような、それでも確かな、記憶

とりあえず花宵の杯は飲みたいな
ベースは紅茶にしてみたい
果物飴の砂糖も
紅茶に溶かせばフルーツティー風になるかな
トッピングにも果実を添えて甘く爽やかな感じに

それからエフェメラを見にゆっくり街を散策したい
買い物もちょっと気になったけど…
それよりも今ある景色を大事に
心に、記憶に刻もうと思ったから
ゆっくり歩いて、広場などの座れそうなところでそっと一息

すごく綺麗…まるで大きな雪の花のよう
カメラでも持って来れば良かったかと少しだけ考え
けれどそれは無粋かなと思い直す
儚いから良いのだもの
語れる言葉はあるのだから
誰かに記憶を共有するのなら、僕が居ればきっと充分



 夜の帳が下りた空から、深々と雪が降り積もる。染まりゆく街の灯りを前に、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)がはぁ、と白い息を溢す。お祭りの話を聞きつけて足を向けてみたけど、どうにもここは気になるものが多くて。はたと向かう先に迷ってしまい、雪の上にぐるりと丸い足跡が残る。花をじっくり見るもよし、街並みをゆっくり堪能したい。でも、まずは――
「とりあえず、花宵の杯は飲みたいな」
 冷えた体を温めるにも、街の名物を味わうにも、花宵の杯はうってつけだ。そう最初の目的を決めたなら、並ぶ屋台へ足取り軽く歩み寄る。まずベースには紅茶を選んで、果物飴の砂糖を加えよう。あえて香りの淡いシンプルな紅茶に溶かせば、きっと飴が解けていくほどフルーツティーの様に変わっていくのが楽しめそうだ。さらにトッピングにも飾り切りされたオレンジを添えて、甘く爽やかな感じに纏めたら。
「…できた!」
 出来上がったのは、こっくりと深い飴色を讃えた紅茶の花宵だ。杯の中を果物飴が踊り、時折きらきらと光を溢すのがうつくしく、その度ふんわりフルーツが香る楽しい品に仕上がった。その出来に満足し、今度は杯を片手に街の散策へと繰り出して行く。本当は買い物を楽しみたい気もしたけど、今ある景色を大事に記憶に刻もうと思う気持ちの方が勝って、自然と足が喧騒から離れていった。

 さくりさくりと雪を踏んで、ゆっくりと煉瓦道を歩いて。見つけたのは、屋台の通りから一本外れた所にぽっかりと開いたちいさな広場だった。穴場なのか人の気配は少なく、けれどぐるりとエフェメラの樹が取り巻く光景は、とても――美しかった。
「すごく綺麗…まるで大きな雪の花のよう」
 一夜咲けば明日に散ると言う花の命は、ぬくもりに溶ける雪によく似ている。こんなにも綺麗なのに、あまりにもはかなくて。でも――

一夜限りの思い出。
夢幻のような、それでも確かな、記憶。

 たった一日で終えた遠い昔の命も、今日こうしてその名を知れるのは、記憶が語り継がれて来たからだ。だから、本当はこの景色をカメラに撮ろうかと少し悩んだけど、結局はやめた。何だかそれは無粋かな、って気がしたから。
「儚いから良いのだもの、ね」
 ひらりと落ちてきたエフェメラの花びらを、そっと手のひらに乗せる。この花びらを持ち帰れずとも、目にした美しさを語れる言葉はある。誰かに記憶を共有するのなら、自らが居ればきっと充分だ。

だから、帰ったなら会いに行こう。
想う人々へ、この記憶を届けるために。

そんな何よりの土産を胸の内に秘めて、澪が温かな花宵の杯を口にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬崎・霞架
【陽翼】アドリブ◎

一日だけ花を咲かすのも、儚いものばかりの祭りも変わってますね
…ええ。僕も一緒に居られて嬉しいですよ、マリアさん

微笑むマリアを見て、同じく微笑み
では行きましょうか、マリアさん
その手を優しく取る

エフェメラの一夜燈を灯りに屋台を見て回り
おや、いい香りですね
ふふ。ありがとうございます
…物は儚く消えるとも、香りや色は思い出として残る、ですね

『花宵の杯』ですか?
いいですね
では僕はマリアさんを思って作りましょうか

温かい紅茶をベースに、色取り取りの果物糖や果実を加え
飾り花も添えて
――甘く、華やかで、暖かな
そんな愛しい人をイメージして

…ええ。これからも、貴女と伴に
優しく抱き寄せ、髪に口付けを


マリアドール・シュシュ
【陽翼】アドリブ◎
髪型はサイドテール

エフェメラのお花、素敵ね(煌く一夜燈を見て
マリアね、あなたと聖夜を過ごす事が出来て
とても嬉しいのよ
今年も
たった一度きりだから

(この気持ちも
互いに想い重ならなければ
儚きものとなるわ
けれど)
霞架となら
伴に歩んでゆけるもの
これからも(自分の指輪を見て微笑

彼と指絡めて屋台楽しむ
花火に蜜金の眸は瞬く
花香に似た紙香水を購入

良い香り(手首につけ
霞架はどう?好き?
見て、霞架!花宵の杯ですって
マリアは霞架を思って作りたいわ!
作ったら飲んでくれるかしら?

飲料の色は黄色系
後味は仄かな甘み
他お任せ

綴り花紙には「来年も大好きなあなたと伴に」
心に残す

彼との思い出がまた一つ
彼の額に口付け



「一日だけ花を咲かすのも、儚いものばかりの祭りも変わってますね」
 ふわふわと舞い落ちる雪を眺めて、斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)が素直に祭りへの感想を述べる。どうにも不思議な催しな気はするが、街の様子や花姿は確かに美しい。それになにより――
「エフェメラのお花、素敵ね」
 連れ立つマリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)の顔に、笑顔を咲かせてくれるのだから、良いものには違いない。
「マリアね、あなたと聖夜を過ごす事が出来てとても嬉しいのよ。今年もたった一度きりだから」
 ひらりと落ちる花びらを拾うと霞架へ向けて、霞架だけにしか見せない微笑みを浮かべる。その微笑みへ返すよう霞架も柔らかな笑みを湛えて、今の気持ちを口にする。
「…ええ。僕も一緒に居られて嬉しいですよ、マリアさん」
 同じ思いだと告げられて、マリアドールが嬉しさの中に、ほんの少しの寂寥を感じとる。――過ごす日々も、この愛しい気持ちも、互いに想いが重ならなければ、消えゆくばかりの儚きものだ。けれど今はこうして側に、隣に、居られるのだから。
「霞架となら、伴に歩んでゆけるもの。これからも」
 儚くとも積み上げて、消えゆくとも織り重ねて。並んで歩く日々は全てが尊く、星のように輝く想い出となっていく。それはこれからも変わらないと告げるマリアドールが、証である指輪を見てあたたかに咲らう。その姿が愛しくて、指輪を嵌めた手をそっと包み込みように握り、エスコートすべく霞架が一歩前へと進み出る。
「では行きましょうか、マリアさん」
 今日と言う日も寄り添って、新たな記憶の一つにしよう。伝わる意図に笑みと頷きを返して、マリアドールが足音も軽やかに踏み出した。

 配られるエフェメラの一夜燈を導の灯りに、絡めた指の温もりを感じながら屋台を見て回る。賑やかな歓声の上がる店先では星を散らした花火が上がって、マリアドールの蜜金の瞳がパチリと瞬き、紙を羽にした蝶が霞架の肩に留まれば、甘やかな香りに足が止まった。
「おや、いい香りですね」
「お店、ここみたい!」
 たたたとマリアドールが駆け寄れば、そこは紙香水を扱う店だった。花の香水を染み込ませた紙を一枚買い求め、くるりと腕に巻き付ければ、体温にあぶられていっそう甘い香りが立ち上る。
「良い香り…霞架はどう?好き?」
「ええ、とても。…物は儚く消えるとも、香りや色は思い出として残る、ですね。」
 きっとこの香りがするたび、マリアドールのことを思い浮かべるだろうと、霞架が目元を和らげる。
「見て、霞架!花宵の杯ですって」
「『花宵の杯』ですか?いいですね」
「マリアは霞架を思って作りたいわ!作ったら飲んでくれるかしら?」
「勿論。では僕はマリアさんを思って作りましょうか」
 次に興味を移したのは、祭りの花とも言える花宵の杯。それぞれが互いを思って重ねる杯は、完成までのお楽しみに。暫し別々に屋台を巡ってから、近くの広場でせーの!でお披露目をする。

マリアの作る杯は、瞳の色を思わせる淡い黄色。しゅわりと弾ける微炭酸のジンジャエールに、砕いた檸檬飴を遊ばせて。喉を過ぎる仄かな甘みは、きっと胸を締める想いに似ているはずだ。

霞架の重ねる杯は、温かな紅茶をベースに。細かく刻んだベリーに柑橘の果実飴を加えて、仕上げに飾るエフェメラ模した飴細工は華やかに。――甘く、華やかで、暖かな。そんな愛しい人のイメージ通りに仕上がった。

乾杯を経て交換し、口に含めば浮かぶのは小さな驚きと、幸せにほどける笑み。想い溶かした杯の、なんて美味なことだろう。霞架から贈られるありがとうに、マリアドールがひそりと買い求めた綴り花紙を見せる。そこに書かれていたのは、心からの願い。
「『来年も大好きなあなたと伴に』」
「…ええ。これからも、貴女と伴に」
 髪に、額に口付けて、ふたりがそっと身を寄せ合う。読み上げられた花綴の紙は、ふわりと風へ溶けていくけれど。温もりと共に今日と言う日を心へと残す。

過ぎゆく日々を、いつまでも。
――ずっととなりに、いられますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と
ラナさんには敬語混じりで

煌めく屋台を巡って作ってもらった
少し甘めでスパイスをきかせた花宵の杯を手に
一夜限りの真っ白な花を見つめる
綺麗なこの花も、手の中にあるグラスも
明日にはもうないのだと思えば
何だか寂しいような気もするけれど
…でも、だからこそこうして
たくさんの人の記憶に残るんでしょうね

…寒くないですか?
何となく聞きながら繋いだ手に少し力を込めれば
傍らにあるぬくもりをより一層感じられる気がして
俺は、大丈夫です
ラナさんがいてくれるから
…なんてちょっとカッコつけ過ぎかな
それなら…俺にもラナさんの杯を一口下さい
そうして交わす、今宵だけの貴女の香り
その甘さに、酔いしれそうになる


ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)

掌を温める花宵の杯の紅茶
鼻をくすぐる花の香りとスパイスに包まれながら
消えゆく儚さも
命を捧げた神様のお話も
全てが切なくて、苦しくて
でも、蒼汰さんの言葉に
そうですね、きっとこの先も皆さんの心に残ります

はい、大丈夫です
蒼汰さんを心配すれば
返る言葉に頬が熱くなる
わ、私も
蒼汰さんの手が温かい、ですから…
ほんの些細な言葉と熱でも
雪のように想いが積もる

形に残る思い出は無いからこそ
この温もりと、香りは一生心に残る
その…、私にも蒼汰さんの杯を一口頂けますか?
なんて、はしたない気もしながら
貴方だけを、私にも分けて欲しいと思った

杯を交換して
こくり喉を鳴らせば
さっきよりも身体が熱くなる気がした



 しんと冷えた空気を湛えて、とめどなく雪が降り積もる。ふいに吹いた風の冷たさに白い息を吐いて、月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)が花宵の杯をそっと握り込む。ともすれば凍えるほどの寒さだが、煌めく屋台を巡って重ねた杯はポカポカと温かい。鼻をくすぐる花の香りとスパイスに包まれながら、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)も蒼汰を真似るようにきゅっと杯を包む。杯を持たない手を互いにそろりと絡めて、少し喧騒を離れた広場で見上げるのはエフェメラの樹。今は枝を埋めるほどに咲き誇っているのに、これが全て明日には消えてしまうと言う。手の中にあるグラスも、祭りで売られる品物も、なぞったように夜明け迄の儚いものばかり。
「明日にはもうないのだと思えば、何だか寂しいような気もしますね」
「はい…本当に。」
 語られる話を尊いと、雪の中に咲く花を美しいと思う気持ちは確かにある。けれどその影で、消えゆく儚さも、命を捧げた神様のお話も、全てが切なくて、どこか苦しく感じてしまう。
「…でも、だからこそこうして、たくさんの人の記憶に残るんでしょうね」
 けど、そっと拾い上げるような蒼汰の言葉に、知らず雪上の足跡を見ていたラナの視線が上がる。そこに語り継がれてきた温かさが籠っているようで、不思議と何処か――救われた心地がした。
「そうですね、きっとこの先も皆さんの心に残ります」
 寂しくとも、儚くとも。命を繋いでくれた感謝を込めて、この祭りはきっといつまでも続いていく。その聲が、花の名の神様にも届けば良いと願って、ラナが僅かに瞳を伏せる。
「…寒くないですか?」
 その仕草にふと心配が過ぎったのか、少し顔色を伺うようにして蒼汰が尋ねる。合わさった視線にぱちりと瞬くも、平気だと伝えるようにラナがにこやかに笑う。
「はい、大丈夫です。蒼汰さんも、寒くはないですか?」
 答えると、返すように自然と心配が口に上った。気遣わしげなラナの視線に、蒼汰も安心させるよう淡く微笑む。
「俺は、大丈夫です。ラナさんがいてくれるから」
 ――なんて、と。気恥ずかしさを誤魔化すように付け足して、蒼汰が繋いだ手をきゅっと強くする。思わぬ返しに頬が熱くなるのを感じながら、同じ思いだと伝えるように手を握り返す。
「わ、私も。蒼汰さんの手が温かい、ですから…」
 繋ぎあった手が、さっきよりもずっとずっとあたたかく感じる。そんなほんの些細な言葉と熱でも、雪のように想いは胸の底に積もっていく。目には見えなくても、形に残る思い出は無いからこそ、今こうして感じる温もりと香りは、一生心に残るだろう。――だからだろうか、残るのならもうひとつ、憶えていたいと欲が湧いた。
「その…、私にも、蒼汰さんの杯を一口頂けますか?」
 はしたないかな、と躊躇いを感じはしたけれど、どうしても自分だけに、|貴方《蒼汰》を分けて欲しいと思って、おずおずと願い出る。
「それなら…俺にもラナさんの杯を一口下さい」
 同じ願いを込めた返事には勿論と微笑んで、互いに花宵の杯を交換する。

 こくりと飲み込む花宵は、あまく、あたたかく、やさしい香りがして。繋いだ手よりもいっそう、体が熱を帯びるよう。

美味しい、と視線を合わせて、笑い合い。
交わし合ったあなたの香りに酔いしれる。
例えそれが、花ととけるひと時だとしても。
この胸に広がる甘さだけは。
――|ずっと、忘れないから。《どうか、憶えていて》

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バードナー
【天誅】

アンリさんアンリさん!
沢山屋台あるっすよ!ね、行ってみましょ!

え、俺とのデートは?!
ちぇ…まぁ、でも
ここでサプライズプレゼントとか、してみるのもアリかもな〜♪

アンリさんは綺麗な物が似合うから
エフェメラの一夜燈に!

もー折角俺とのお祭りなのに!
まぁ許しますけど!

おわっ?!まじっすか?!
全然!俺黒好きなんで!
アンリさんがくれた物なら何でも嬉しいっす!

あ、俺からもあるんすよ!
朝になると終わっちゃうみたいですけど…
でも思い出は積み重なる物なんで!
これからも沢山、思い出増やしてましょうね!

…?なんでダメなんですか?
だって俺、アンリさんの事、めっちゃ大好きですよ♪
アンリさんは俺の事、嫌いなんですか?


アンリ・ボードリエ
【天誅】

どれも記憶にしか残らないなんて残念だけど折角だし見て回ろうか

…なにかプレゼントしたいな
けど、渡したいものは買えるようなものじゃない気がして

あっ、向こうに友達が…ちょっと行ってくるね。
…って、逃げてきちゃった

“La décadence”に一生に一度のわがままを。
彼と共に過ごす日をほんの少し伸ばしてはくれませんか?
宝石の色は…黒。自分勝手な願いに怒っているに違いない。

ウィリアム君、急にいなくなってごめんね。
これ、プレゼント。色は仄暗いけど...君に似合うと思って…なんて、こういうのって本当に好きな人にしかやっちゃ駄目だよね。

嫌いだなんて…!ボクも君が大好きだよ。心から信頼できる大切な人。



「アンリさんアンリさん!」
 それはまさに、雪の中を駆け回る犬のように。尻尾があればぶんぶんと風を切る音が聞こえそうに喜び浮かべた様子で、ウィリアム・バードナー(堕天したワンコ・f31562)が声を上げる。
「沢山屋台あるっすよ!ね、行ってみましょ!」
 そう元気いっぱいに誘われれば、アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)が笑みと共にウィリアムの隣に並んだ。
「どれも記憶にしか残らないなんて残念だけど、折角だし見て回ろうか」
 お祭りとあれば、共に楽しみたい気持ちは勿論あった。だから初めは素直に頷いたのだが、歩いているうちにふと、アンリには思い立つものがあって。

――…なにか、プレゼントしたいな。

 共にいてくれる人へと、感謝の気持ちを贈りたい。けど、渡したいものはこの祭りで買えるようなものじゃない気がして、悩んでしまう。叶うなら、イメージに沿って、その手に残る――
「あっ、向こうに友達が…ちょっと行ってくるね。」
「え、俺とのデートは?!」
 思いついたことを実行すべく、ウィリアムの叫ぶ声も置き去りに、アンリの背中が人混みへと消えていく。突然のことに流石に少々しょげたものの、すぐにパッと切り替えて顔を上げる。
「ちぇ…まぁ、でもここでサプライズプレゼントとか、してみるのもアリかもな〜♪」
 事態を至極ポジティブに捉えて、ウィリアムもまた宝を求めて屋台の波へと軽快にかけて行った。

「…って、逃げてきちゃった」
 ウィリアムからの視線が切れただろうあたりまで来て、アンリがふぅと息を整える。平時の通りに戻った所で、わざわざウィリアムから離れた理由を――“La décadence”に一生に一度のわがままを、告げる。

「彼と共に過ごす日を、ほんの少し伸ばしてはくれませんか?」

 儚い日々を、過ぎゆく時間を、どうか僅かでも長くしたくて。祈るように口にすれば、コロリと宝石が転がり出る。色は、黒。ああ、これはきっと自分勝手な願いに怒っているに違いない。でも、それでも――

「ウィリアム君、急にいなくなってごめんね。」
「もー折角俺とのお祭りなのに!まぁ許しますけど!それと、はいこれ!」
 暫しの離別の後、ようやく戻って来たアンリの謝罪もそこそこに、ウィリアムが手渡してきたのはひとつの贈り物。
「アンリさんは綺麗な物が似合うから、エフェメラの一夜燈買ってみた!」
 サプラーイズ!と手渡される灯りはあたたかくて、うつくしくて。それが似合う、と言われたことがとても嬉しかった。
「ありがとう…!あのこれ、僕からもプレゼント。色は仄暗いけど...君に似合うと思って…」
「おわっ?!まじっすか?!俺黒好きなんで嬉しいっすよ!」
「なんて、こういうのって本当に好きな人にしかやっちゃ駄目だよね。」
「…?なんでダメなんですか?」
 手渡しながらも、一抹の罪悪感を感じて俯くアンリに、ウィリアムが宝石を包み込むように受け取りながら、心底不思議そうに首を傾げる。
「だって俺、アンリさんの事、めっちゃ大好きですよ♪アンリさんは俺の事、嫌いなんですか? 」
 てらうことなく、ただ心のままに、素直に。ウィリアムがありのままの思いを告げて、アンリに確認のような問いを投げかける。
「嫌いだなんて…!ボクも君が大好きだよ。心から信頼できる大切な人。 」
 思わぬ問いかけに、とんでもないと今度はアンリが真摯な答えを返す。その言葉に満足して、ウィリアムがひときわ人懐っこい笑顔を浮かべた。
「なら何も問題ないっすね!これ、大事にしますよ♪」
 貰った宝石を掲げてから、大事そうに懐へと仕舞い込むウィリアム。その幸せな微笑みを見て――アンリが、どこか泣きそうにも見える笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ドルデンザ・ガラリエグス
【響納さん(f13175)と共に】

儚き神話ですが、美しい
折角ですから“花宵の杯”を楽しみませんか?
本来今日この素敵日なら、貴女に贈り物をするべきなのでしょうが、生憎消え物ばかりの許される店が多い様子…
いえ、今宵の催しがそのようです
です
が、この杯ならば思い出にもなりましょう

グラスへ最初は花蜜の酒を
おや、美しい色だ…響納さんは?
ふと目についた紫
これは果物なのですか?へえ、飴…ではそれを加え
あとは後味の爽やかになる薬草を足し
最後にエフェメラの花の砂糖漬け飾って

響納さん、今宵のお誘いにご了承くださりありがとうございます
と乾杯を

雪で冷えそうならジャケットをお掛けして
あまり女性が体を冷やしてはいけませんよ


響納・リズ
ドルデンザ(f36930)様と一緒に『花宵の杯』を楽しむ

まあ、こんな素敵な催し物にお誘いいただけて、嬉しいですわ。
今日一日だけの杯だなんて、素敵ですわね。
では、私も炭酸水に……そうですわね、紫の花びらや紫色の果実を入れて、作ってみましょうか。
金粉も入れれば、雰囲気はバッチリですわね。

あら、ドルデンザ様はいつもそのようなお店を?
ふふ、たまには形あるものをお送りできる方が現れるといいですわね。
私もそんな素敵な殿方にお会いできると嬉しいのですけど……。

いえいえ、こちらこそ、誘っていただいて、楽しかったですわ。
私からも乾杯、ですわ。

……あ、いえ、これくらいどうってことは……(慣れてなくてあたふた)



 ともすれば、身が震えそうに冷え込んだ夜。街の人々は皆エフェメラの花を見つめ、手にして、感謝を口にする。賜った命を、たった一日で人々へと捧げたと言う神様の話は、とても――
「儚き神話ですが、美しい」
 手のひらに溶け消える雪を眺めて、ドルデンザ・ガラリエグス(拳盤・f36930)が感じたままに感想を口にする。
「まあ、こんな素敵な催し物にお誘いいただけて、嬉しいですわ。」
 明るく灯るエフェメラの一夜燈を目にしながら、響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)が声を掛けてくれた礼を述べる。
「こちらこそ、足をお運びくださって嬉しいですよ。では折角ですから、“花宵の杯”を楽しみませんか?」
「今日一日だけの杯だなんて、素敵ですわね。」
「本来今日この素敵な日に、貴女に贈り物をするべきなのでしょうが、生憎消え物ばかりの許される店が多い様子ですから…」
「あら、ドルデンザ様はいつもそのようなお店を?」
「いえ、今宵の催しがそのようです。ですが、この杯ならば思い出にもなりましょう」
「ふふ、そうですね。でもたまには形あるものをお送りできる方が現れるといいですわね。」
「これはこれは…つれないと言うべきか、素直に感謝を述べるべきか」
「つれない…?」
「いえ、お気になさらず。では参りましょうか」
 一歩前に出てそっと雪除けに回るドルデンザに、リズが和かに連れ立って。ふたりが賑やかな祭りの喧騒へと踏み出していく。

 花宵の杯は祭りの花とあってか、並ぶ屋台は数限りない。暫くあちこち楽しみながら冷やかした後、ドルデンザの鼻に心惹かれる香りがふわりと届いた。
「おや、花蜜のお酒ですか。では初めはこれで杯を満たしましょうか。」
 注文を入れればすぐにもエフェメラの花杯は、こっくりとした金色を讃えた酒に満たされる。街明かりに透かせばきらきらと光を零し、目を楽しませてくれた。
「美しい色だ…響納さんは?」
「では、私は炭酸水に……そうですわね、紫の花びらや紫色の果実を入れて、作ってみましょうか。」
「良いですね。おや、これは果物なのですか?…へえ、飴…ではそれを」
 菫に葡萄、無花果の飴。屋台に並ぶ様々なきらめきから、リズが淡く深く紫の色を重ね合わせ、最後に金粉をはらりとひと匙。ドルデンザも倣って無花果の飴をひとつ選び、あとは後味の爽やかになる薬草と、最後にエフェメラの花の砂糖漬け飾って杯を満たす。出来上がったのなら屋台からは少し離れて、エフェメラの咲き誇る小さな広場でふたりが向かい合う。
「響納さん、今宵のお誘いにご了承くださりありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ、誘っていただいて、楽しかったですわ。では…」
「「乾杯」」
 カチン、と硬質な音を立てて花宵の杯を傾け合う。揺れた拍子に登る甘やかな香りを楽しんでから、互いに一口。リズの杯は果実も花も踊るように華やかに、紫の濃淡が美しく。ドルデンザの杯は甘く爽やかに駆け抜けて、喉越しに残す余韻が忘れ難く。良い仕上がりになったと互いの杯の感想を述べていると、ドルデンザが急に上着を脱ぎ始めた。意図を測りかねてきょとんとするリズが、そのまま肩にふわりと掛かる重さに驚き視線を送ると、気負わぬ笑みが返ってくる。
「あまり女性が体を冷やしてはいけませんよ 」
「……あ、いえ、これくらいどうってことは……」
 慣れない扱いに、思わずあたふたと居住まいを崩す。けれど暖かさが心地良かったこともあって、結局はそのまま羽織ることに。
「……その、ありがとう、ございます。」
「いいえ、こちらこそ」
 ぎこちない礼には微笑んで、杯を掲げればもう一度乾杯を交わし。――あたたかな夜が、静かに過ぎて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】
儚さも寂しくはなく
寧ろ特別が増すようだと
そう紡ぐあなたの詞と想いが
心あたため頬緩ませるの

あなたはやっぱり
妾の素敵な魔法使いね
絡める指をきゅ、と握って
ふたりだけの特別を

出逢いを手繰る虹の色
ないしょに証にブーケにと
縁多き薔薇はきっとお喋り
可愛い海月は“初デート”の面映さ
ひとつひとつ想い出に重ね

“忘れないで”と足すのは
ふたりを結ぶ勿忘の花蜜と
ふたり色な淡紫の琥珀糖
あなた色に抱かれ溶けて
幸せばかりが詰まってる

それはね
妾にとってのあなたも同じ
けれど
ねぇ、ライラック
“隠し味”と足すのなら
傍に置くだけじゃ駄目でしょう
杯より先にくちづけて?

ふたり飲み干す一杯は
酔う程に甘く溺れる
ふたりだけの永遠のレシピ


ライラック・エアルオウルズ
【花結】
過ぎゆくひとときだって
未だ深く刻まれているから
儚さを寂しくは思わないし
ふたりだけに刻むレシピも
特別が増すように思えるな

ふふ、君がね
僕をそう在らせてくれるのさ
指を絡めて、片に花宵の杯
ふたりの秘密を訪ねようか

砕いて煌めく虹色の飴
白と赤の薔薇のチョコ
小さな海月の砂糖菓子
僕色湛えるホットミルク

君の足す勿忘と淡紫が
真白に沈んで溶けても
それが抱いたしあわせは
“忘れないよ”と微か笑み

最後の隠し味は“君”だね
ティルが傍に居るときだけ
とびきり甘さを感じるもの
それは恋う詞にも増すようで

ああ、それなら
ひとくちめは――君を

唇重ねれば、何より甘くて
そのひとときに酔い痴れる
飲み干せばそれきりだけど
僕たちには永遠だ



ただ一日だけ生きた、神様のはなし。
儚く消えゆく、いのちの童話。
美しくとも、とても切なく思える物語。
だけど――

「――儚さを、寂しくは思わないよ」
 語りかける息を白く染めながら、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)がそう口にした。どれほど些細なことでも、過ぎゆくひとときだって、未だこの胸の裡深く刻まれている。花宵の杯も今日限りだと言うけれど、それすらもきっとこの雪のように降り積むのだろう。だから、寂しくはない。
「ふたりだけに刻むレシピも、特別が増すように思えるな」
 ね、と優しく笑みを湛えて見つめる先には、視線を受けてやわく綻ぶティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)の姿。本当は、逸話を聞いた時にはほんの少し胸の痛む思いがしたのだ。だけどライラックの紡ぐ詞と想いが、そんな心をそっとあたためて、溶かしてくれる。強張る頬を、優しく緩ませてくれるのだ。いつだって、そして叶うなら――これからも、ずっと。
「あなたはやっぱり、妾の素敵な魔法使いね」
「ふふ、君がね、僕をそう在らせてくれるのさ」
 離さぬように伸ばされる手を、きゅっと握って。しんしんと降り積もる雪の道を歩いていく。片手にはあなたを、片手には花宵の杯を手にして。
――さぁ、ふたりだけの|秘密《とくべつ》を尋ねに行こう。

屋台を巡って、選んで重ねて。杯は満たされるたび、まるで今までの|軌跡《奇跡》をなぞるように色めいていく。

砕いて煌めく虹色の飴は、はじまりの出逢いを手繰る色。
白と赤の薔薇のチョコは、ないしょの証とブーケに寄せて。
小さな海月の砂糖菓子は、“初デート”の面映さを甘さにそっと隠して。
縁多き薔薇はきっとお喋りねと言い添えれば、ほら、また笑みの花がふえていく。

 最後に選ぶのは体が冷えぬようにと、温かなミルク。その真白を杯に注ぐ前に、ティルがそうと足すのは、ふたりを結ぶ勿忘草の花蜜と、ふたり色をした淡紫の琥珀糖。甘やかに、華やかに、とろけながらホットミルクが愛しい人の紫へと染まっていく。“忘れないで”と添うティルのゆびに、“忘れないよ”とライラックが微かに笑む。勿忘と淡紫が真白に沈んで溶けても、あなた色に染まっていけば、杯の裡には幸せばかりが詰まってる。
「最後の隠し味は“君”だね」
 ようやく完成したふわり香る杯を前に、ライラックが秘密を明かすようにこそりと告げる。
「ティルが傍に居るときだけ、とびきり甘さを感じるもの」
「――それはね、妾にとってのあなたも同じ」
 それなのに、ティルは小さく“けれど”、と付け足した。その響きにほんの僅かライラックの瞳が揺れるのを見て、悪戯っぽさを滲ませてわらう。
「“隠し味”と足すのなら、傍に置くだけじゃ駄目でしょう」
 あまいもにがいも、舌で味わうもののはず。ならもっと側に、うんと近くに寄せてくれなくちゃ、わからないでしょう?

――杯より先にくちづけて?

 弧を描く月に白指を滑らせれば、疑問のとけたライラックが瞬きの間に笑みへと変えて、身を屈める。合わせて背伸びをしようとしたティルに、意趣返しとばかりにライラックが膝裏を掬って抱き上げる。高さが反転し、ティルの長い淡碧の髪がカーテンのようにさらりと溢れて、まるでふたりだけが世界から切り取られたよう。少しでもそばに、触れるほど近くに。そうしてひとくちめは――君を。やわらかな唇が重なり合って、あまく、あまく。ほんの少し触れただけで、溺れるほどに胸が満たされていく。どんな砂糖よりも、スパイスよりも、あなたの口付けこそ何よりの|隠し味。《すてきなもの》離れた切なさは花宵の杯で満たして、頬を染める熱に咲い合う。

――ふたりきりの秘密のレシピへと酔いしれる、この心地は永遠のもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
セラに声かけて

セラは物知りだな
俺こんな神様の話、知らなかった……優しい、いい神様だな
感謝されて慕われてるのがわかる
憶えていてくれるのはきっと、神様も嬉しいだろうな
教えてくれて、ありがと
な、一緒に見に行こう
またなんか、いいものみつかるかも

せっかくだから花宵の杯つくってく?
ちょっと楽しそうだ
魔法でグラスになる…ほんとだ、すごい
俺はあんまり甘いの、得意じゃないけど…でもきらきらしてる果物飴はいれたい
セラは?
炭酸水にレモンいれたらそんな甘くならないかな…
最後はリボンの飴細工

そうだ、セラ、あれしよう
写真とろう、一緒にできたのもって
今日のこともきっと忘れないから
せっかくだし写真たても、飲みながら探そ



「セラは物知りだな」
 しんしんと雪が降り積もる静寂に、終夜・凛是(無二・f10319)がそっとつぶやきを落とす。自らの名を挙げられたことに、並び歩いていたセラフィムが不思議そうにことり、と首を傾げてみせる。
「俺こんな神様の話、知らなかった……優しい、いい神様だな。」
 祭りのどこを見ても、街の人々の顔には笑顔が満ちている。そして咲き誇るエフェメラの花に触れる手は、どれも慈しむように優しい。時を隔てた今も感謝をかさね、誰からも慕われてるのがよくわかる。その様子を共に見つめて、セラフィムがはい、と音を乗せない唇で笑う。
「憶えていてくれるのはきっと、神様も嬉しいだろうな。教えてくれて、ありがと」
 その言葉に、セラフィムが銀の瞳をぱちりと瞬かせる。雪降る中では指が悴むせいか、上手く文字を打ち込めない。身振り手振り頼りになって、どうにももどかしい。でも、どうしても伝えたくて、少し前に出て凛是の視界に入る。
(わたしも よんでくれて ありがとう)
 誘ってくれたこと、見つけてくれたこと。普段の丁寧さを取り去って、ゆっくりと感謝を口にする。それに、ん、と短く返して凛是が街明かりを指差した。
「な、一緒に見に行こう。またなんか、いいものみつかるかも」
 そんな心踊る誘いにはめいっぱい頷いてみせて、屋台へ向かうふたりぶんの足あとを雪道に刻んだ。
 
「せっかくだから花宵の杯つくってく?」
 店先に並ぶ色とりどりの飴を見て、ちょっと楽しそうだ、と凛是の尻尾が揺れる。それに思わず微笑んで、ちょうどその先でエフェメラを杯にする瞬間が見れそうだと、セラフィムが服の裾をつんと引く。
「魔法でグラスに…ほんとだ、すごい」
 店主が開いた花にそっと杖を振るだけで、柔い花びらがみるみる重なって杯の形を取り、キンと硬質な音を立てる。そのまま手渡された杯を片手に、次は中身選びに移る。
「俺はあんまり甘いの、得意じゃないけど…でもきらきらしてる果物飴はいれたい」
 それなら、と勧められたのは檸檬味のもの。甘さを控えた分香りが良く、それに炭酸水とリボンの飴細工を飾れば、きらきらときらめく花宵の杯が出来上がる。セラは?と尋ねられれば、丸ごとの苺飴を浮かべた紅茶ベースの杯を見せてにこりと笑った。ちょっぴり自信作のようだ。
「そうだ、セラ、あれしよう」
 乾杯を、と杯を掲げかけたセラフィムに、凛是がその前にと待ったをかける。
「写真とろう、一緒にできたのもって。そうしたら、今日のこともきっと忘れないから」
 素敵な提案には一も二もなく目を輝かせて、セラフィムが懐からいつもの電子デバイスを取り出し、フレームに収めるべく構える。
「せっかくだし写真たても、あとで飲みながら探そ 」
 重ねてくれる約束が嬉しくて、はい、の返事に思わずガラス器の声が混ざる。これからもまた写真立てが増えるなら、専用の場所を作ろうかしら、なんて楽しい想像をしながら。当たり前のように次を願っていることには、まだ気づかないまま。

――はいチーズ、とふたり並んでシャッターを切る。
その表情はどこか、前よりも少し和らいで見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御簾森・藍夜
【朱雨】

心音、おいで
…なぁ、クリスマスの乾杯は今日だけの一杯にしないか?
酒…も気にはなるが…

うん、やっぱり俺は一番好きなものにする
心音の眸が一番好き
世界で一番綺麗なそれを、グラスに

ベースはジンジャエールを少しに、果実水の濃度が異なるものをそうっと入れて層に
綺麗だ
俺の朝を、この一杯に

心音は―…ううん、甘い
蜜みたいな味…いや、香り?繋いだ手を握って、考えて
そうだ、旬なら洋ナシ、柚、苺、クランベリーと…やはり葡萄の飴を砕いて
落せば自然と淡くも層に
甘さを廃したベースだからこそ、心音らしく甘くした

これなら乾杯して分け合えば心音も楽しめるだろう?
メリークリスマス。今宵をお前と共に迎えられて良かったよ、心音


楊・暁
【朱雨】

おいでって呼ぶ声は特に好き
微笑み寄添い
今日だけの…ああ、花宵の杯か
いいな

藍夜はどんなのにするんだ?
一番?…っ、それは…褒めすぎ(嬉しい&照れ

俺は、俺が唯一安らげる夜―藍夜モチーフで
繋いでない側の手に杯持ち店で素材分けて貰う

淡青い花を煮出したお茶少しに
ビターチョコの傘そっと沈め
黒葡萄のジュースに、雫に見立てた柘榴の果肉散らし
上層にはより濃青のブルーベリー浮かべ夜空のグラデ
満月風に柑橘果実の輪切りを縁に添え

眸きらきら選び
手に力籠れば瞠目&見上げ柔く笑み

―できた!
爽やかで、裡は甘く優しい…そんな味
ノンアルにしたのか?
理由聞き
ほら―やっぱり甘くて優しい

メリークリスマス
俺も…藍夜と一緒で、幸せだ



話す時、必ず視線を合わせてくれるとこ。
時折見せる、気恥ずかしげに顔を逸らすとこ。
見上げるほど高い背も、優しく触れる手も、夜色の瞳も、数え上げたらきりが無い。
でも――やっぱり。

「心音、おいで」

――おいでって呼ぶ声は、特に好き。

 御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)が、ただひとりと教えられた名を口にして、そっと手を伸ばす。その声に誘われて、楊・暁(うたかたの花・f36185)――心音が、微笑んで手を取り隣へと添う。
「…なぁ、クリスマスの乾杯は今日だけの一杯にしないか?」
「今日だけの…ああ、花宵の杯か、いいな」
 祭りの屋台を冷やかせば、あちこちに花宵の杯を満たすものが並べられている。きっとこれだけあれば、ふたりだけの、今宵限りの乾杯に相応しい杯が作れるはずだ。
「藍夜はどんなのにするんだ?」
「ん…酒…も気にはなるが…」
 言った端から、酒蔵のとっておきと謳う酒を見つけたが、透明な色のそれを見て藍夜が首を振る。
「うん、やっぱり俺は一番好きなものにする」
 そう言って、不思議そうな表情の心音に顔を寄せて、いっとう眩く微笑んだ。
「心音の眸が一番好き。世界で一番綺麗なその色を、グラスに入れたい」
「一番?…っ、それは…褒めすぎ」
 思わず赤くなった顔を背けて、小さく呟く。照れてしまったけど、やはり嬉しい気持ちが勝って、自らの杯の色は唯一安らげる夜――藍夜モチーフにしよう、と決意した。

 それからは暫し、手を繋いでの散策を兼ねた、あまい思案の時間。

 藍夜はまずベースはジンジャエールを少しに、果実水の濃度が異なるものをそうっと入れて。少しずつ移り変わる暁を、心音の美しい色を映しとるように層に重ねていく。

――心音は―…ううん、甘い。
蜜みたいな味…いや、香り?

繋いだ手を握って、何が良いかと考えこんで――そうだ、と旬の洋ナシに始まり柚、苺、クランベリーを選び、最後にやはりこれは、と葡萄の飴を砕いた。落せば自然と、淡くも先に作った層に重なっていく。甘さを廃したベースだからこそ、心音らしく重ねる飴は甘くして。藍夜の杯が完成を見た。
 心音の方はベースに、淡い青を湛えた花で煮出したお茶を少し。そこにビターチョコの傘そっと沈めて、黒葡萄のジュースに雫に見立てた柘榴の果肉をぱらりと散らす。上層にはより濃青のブルーベリーを浮かべれば、優しく帳を引く夜空のグラデーションが出来上がる。最後に満月を装ったこくりと深い蜜色檸檬の輪切りを縁に添えれば、心音の杯もようやく出来上がる。

「完成だ」
「―できた!」

 悩んで、選んで、重ねて、見つめて。ありったけの想いを込めた杯を見せ合えば、色味に相手の意図が読み取れて、どちらともなく幸せに溢れた笑みが溢される。
「そう言えば、ノンアルにしたの?」
「これなら乾杯して分け合えば、心音も楽しめるだろう?」
 当然のように告げられる言葉に、ほら―やっぱり甘くて優しい、と杯の裡に満たした想いが重なって心音が綻ぶ。
「メリークリスマス。今宵をお前と共に迎えられて良かったよ、心音 」
「メリークリスマス。俺も…藍夜と一緒で、幸せだ 」

 カチリと杯を合わせて、色を重ねる。繋ぎ合う手の温もりに、あなた想う杯に、甘く甘く酔いしれるよう。

――夜を超えて、暁を迎えて。
例えこの杯がとけてしまっても。
飲み干すあなたの香りは、心に深く刻むから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と花宵の杯を楽しみに
花弁を閉じ込めた花砂糖、黄金樹に実る林檎酒、泡沫に揺れる炭酸水
こがねいろに輝く杯に、ほう、と感嘆の息を零して
喧騒から少し離れて星々に照らされる花を仰いだ

成人してから酒精を含んだお菓子を口にすることはできたけれど
ちゃんとお酒を飲むのははじめて
なんだか背筋が伸びるような心地であなたと杯を重ねた

ふふ、ちょっぴり緊張します
でも……とっても良い香り
せっかくのおまつりですから
私もディフさんと同じように口にしてみたくて

触れたらこの一夜も越えられずに溶けて消えてしまいそうな気がして
星空を透かす淡い花を見つめるまま、そっと花宵の杯に唇をつけた

……甘くて美味しい、お酒ということを忘れてしまいそう

貴方の柔らかな声に交換しましょうと応えたけれど
なんだか急に恥ずかしくなってしまって
鼻に抜ける葡萄と香辛料の香りに目を瞬かせ
火照る頬を誤魔化すようにお酒のせいだと嘯いて
あなたの肩に凭れかかった

ふわふわしていいきもち
白昼夢をかたちにしたら、こんなふうに甘くてあたたかいのかしら


ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と

形に残らず、思い出だけ残すもの
儚い花になぞらえた穏やかな祭りに目を細め
ならば一夜の思い出を作りに行こうか、ヴァルダ

求めるのはやはり花宵の杯
店主自慢の白ワイン、花蜜と、砂糖化粧纏うドライフルーツに少しの香辛料
うん、いい香り
透明の花に似合う酒精になったろうか

花の傍に腰掛け、乾杯しようかと誘い
今日はアルコールは飛ばさなくていいの?
なんて笑った
ふふ、そうか
ならばたまには酔ってみるのもいいさ
酔い知らずのオレが傍に居るのだから

透明の花、触れるのは躊躇われたから
そっと見上げ
一夜限りは切ないけれど、こんなに長く人々の記憶に残り続けるのなら
記憶だけを残すのもいいかもしれないね
この味と今宵を忘れぬように

喉を滑り落ちる芳しさを楽しみながら
ああ、折角だから
貴女が作った杯も一口飲んでみたいなんて
願ってみたら、叶えてくれる?

甘い林檎酒に目を細め、はたと
(ああまずい、オレのは度数が高すぎるかも)
気づいた頃には遅い
肩に乗る重みと頬の赤さに眉下げ笑いつつ
そうだねと微笑んで
儚い一夜を慈しもうか



――形に残らず、思い出だけ残すもの。

 一夜だけの命を生きた神様の逸話を準えて、その名を与えられたエフェメラが、今日を盛りと咲き誇る。尊び笑い合う街の人々に、儚い花になぞらえた穏やかな祭りに、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)が柔らかに目を細める。この祭りを思うならば、やはり求めたいのは趣旨にあったもの。
「一夜の思い出を作りに行こうか、ヴァルダ」
「…はい、一緒に。」
 そう言って手を伸ばせば、名を呼ばれたヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)が嬉しそうに咲って手を取る。花のように華やいで、けれど隣り合えば決して消えることのない笑みを互いに湛えて、足取り軽く暖かな店並の灯りへ踏み出していく。暫しあちらかな、こっちも良いね、と屋台を覗いては選んで、悩んで、重ねて。ヴァルダは黄金樹に実ると言う林檎から作られた酒をベースに選び、そこへ花弁を閉じ込めた花砂糖を、それこそ花びらのようにはらりひらりと落として遊ばせる。最後に泡沫に揺れる炭酸水を静かに注げば、こがねいろに輝く杯に、ほう、と感嘆の息を零した。ディフの方はまず初めに選んだのは、声をかけてきた気のいい店主が自慢だと進めた白ワイン。そこにとろりと落とすこの街特産の百花蜜と、砂糖化粧を纏ったドライフルーツ。仕上げに香りと変化をつけるべく、ほんの少し香辛料を忍ばせて。
「うん、いい香り」
 これならきっと、透明の花に似合う酒精になったろうと仕上がりに満足したなら、今度は味を確かめに。せっかくならゆっくりしたいと、ふたりで少し喧騒を離れるように足を運んだ。暫く散策を楽しむと、周りをぐるりとエフェメラの花樹が囲い、柔らかな星あかりが降り注ぐ小さな広場が見つかった。人のいないベンチを指差し、雪を払って並んで腰を下ろす。そうしてひと心地ついたところで、改めて見つめるのは互いの花宵の杯。
「ヴァルダの杯は綺麗なこがね色をしているね」
「ディフさんも淡い蜜色が綺麗です。それに香りがとっても素敵で、花宵の名によく合ってます」
「そうかな…うん、ありがとう。…そう言えば、お酒にしたんだね」
「はい。……ふふ、ちょっぴり緊張しますけど」
「なら、今日はアルコールは飛ばさなくていいの?」
 緊張、の言葉にディフが柔らかい笑みへとほんの少しからかいを混ぜて尋ねかける。するとまぁ、とヴァルダが花宵の杯の色にも似た蜜色の瞳を瞬かせてから、ふわりと笑む。
「せっかくのおまつりですから、私もディフさんと同じように口にしてみたくて」
 成人を迎えてから、酒精を含んだお菓子を口にすることはできた。でもちゃんとお酒をお酒として飲む機会は、これがはじめてだ。意識するとなんだか背筋が伸びるような心地がして、改めて手に持つ杯を星明かりに翳すよう掲げたら、まるで流星のように泡がこぽり、と上って消える。
「ふふ、そうか。ならばたまには酔ってみるのもいいさ。酔い知らずのオレが傍に居るのだから」
「……頼りにしています」
「なら、乾杯しようか」
「はい、では――乾杯」
 笑みを向け合って、杯を傾けあって、キン、と硬質な音を奏でる。そのままそれぞれに一口花宵の杯を口にすると、喜びに満ちた驚きに目が僅かに見開かれる。
「…爽やかで美味しい。この白ワイン、さすが店主が薦めるだけある」
「……甘くて美味しい、お酒ということを忘れてしまいそう」
 重ね溢れた感想に微笑を浮かべていると、ふと頭上からふわりと何かが舞い落ちる。何気なくディフが手を伸ばすと、そこには樹から零れ落ちたらしい一輪のエフェメラの花があった。透明の花に触れるのは躊躇われたから、眺めるだけのつもりだった。けれどこうして降ってきたのなら、と花形が損なわれないように、ヴァルダの髪へそうって飾った。柔らかな金の髪に添う透明な花は、まるでひかりを湛えたようで。明日には残らぬ瞬きの間のことでも、これほどにうつくしく、瞳に焼き付いて離れない。
「一夜限りは切ないけれど、こんなに長く人々の記憶に残り続けるのなら、記憶だけを残すのもいいかもしれないね」
「私もそう思います。きっと今日のことも、花宵の杯の味も、ぜんぶ憶えています……ずっと」
 共に歩いた道を、柔らかく触れる手を、時折交わる視線を。きっと忘れることはないのだろうと、ヴァルダが目を伏せて自らの胸をそっと押さえる。まるで大事に仕舞い込むような仕草に、ディフがああ、とひとつ思いついて声を上げる。
「記憶と言うなら。折角だから貴女が作った杯も一口飲んでみたい――なんて」
 優しく細めた目に、叶えてくれる?と乗せたディフの珍しいおねだりに、ヴァルダが杯を傾けて答える。
「なら、交換しましょう」
 応じるのに絡めたのは、貴方の杯を味わいたい、と言う小さな願い。勿論とディフが頷いて杯を交換し、互いに互いの花宵の杯を口にする。あまく華やかな味わいに、|らしさ《・・・》を感じてホッとしたのも束の間、思ったよりも軽い口当たりの林檎酒に、はたとディフが焦りを覚えた。
(ああまずい、オレのは度数が高すぎるかも)
 その危惧は止めるより早く、気づいた時にはヴァルダが頬に朱を登らせ、ことりと肩に顔を乗せる重みを感じた。――ほんとうは、杯を交わしたことが急に気恥ずかしくなって、酒精のせいにしたのは秘密のまま。飲み下した熱に甘えて、ヴァルダがふわりふわりと眩暈にも似た心地に揺られる。
「ふわふわしていいきもち。白昼夢をかたちにしたら、こんなふうに甘くてあたたかいのかしら 」
「きっとそうだね。なら、この儚い一夜を慈しもうか 」
 ゆるゆると感想を口にするヴァルダを支えながら、ディフが眉尻を下げて微笑む。赤くは染まらぬはずの頬も、この距離に、今ばかりは同じ色をしていやしないかと思いながら。

花の宵に、花へ酔い。
けれど甘い夢は、酒精のせいだけじゃなくて。

――あなたの隣、だからこそ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨絡・環
【雲蜘蛛】

人々の為に
ただの一日で命を終えた神
まあ、何と……

穏やかさが廻る祭りのなか
慙愧の念が湧いてしまう
己の欲のため
悪霊となって生きながらえ
今だ彷徨うわたくしとは真逆の存在ですもの

……嗚呼
申し訳ございません、アルフィードさん
益体もないことを考えておりました
わたくしが凄い?……ほほ
死に損なっているだけ、とも言えますよ
あなた様こそ
もう奪う役割を降りたのなら
次の生があるのではなくて?
アルフィードさんは正に生きておられるのだから
あらあら
わたくしがお役に立てますかどうか
でしたら……ええ、宜しいでしょう
わたくしも楽しゅう御座います

さ、『花宵の杯』を作りに参りましょうか
まあ、これが器ですの
うつくしいことね
気の向くままにお店を巡り
白の葡萄酒、生姜に肉桂
椿の飴細工と白の金平糖をぽとり落として
ほほ、この様になりました
アルフィードさんの方は如何でしょう?
あら、果実と洋酒の好い香り

このひとときもいつか
儚さと共に思い返すものとなるのでしょうか
あら素敵なことを仰る
ならばこの儚い永遠に、乾杯と参りましょう
はい、乾杯


アルフィード・クローフィ
【雲蜘蛛】

その人の為に1日だけで命を終えた神様
そんな神様っているんだね!
神様も我儘な人もいるけど、その人は本当に優しい神様だ!

環ちゃんどうしたの?
何か真剣に考え事してるけど、気になる事があるのかな?
環ちゃんって凄いよね!
こうやって1日だけの命の人もいるけど
環ちゃんの様に次の生を生きる人もいる
次の生でも生きようって思うのはとても強くて凄いなぁと思う
俺は、その生を奪っちゃう人だから
今はしないけどねー!
そうかな?
んー、俺の次の生か
じゃ楽しくなれるように環ちゃん付き合ってくれる?
一緒楽しいもの!!

うん!『花宵の杯』を作ろう!
何にしようかな
ふむふむ、環ちゃんの美味しそう!
椿なんて環ちゃんらしい!
俺は、果汁を発酵した炭酸水に沢山の果物入れて
薔薇の飴細工、ブランデーを数滴垂らして
出来上がり!!

儚いものでも記憶に残るなら永遠だよ!
環ちゃんとの想い出は!
うん!じゃカンパーイ!!



人々の為に、ただの一日で命を終えた神。
儚く、然しだからこそ今も語り継がれる神様。
その有り様は、まるで――

「まあ、何と……」
「そんな神様っているんだね!」
 街に祀られる神の逸話へ、雨絡・環(からからからり・f28317)が何事かを述べようとして躊躇った後を、アルフィード・クローフィ(仮面神父・f00525)がハイテンションに拾い上げる。
「神様も我儘な人もいるけど、その人は本当に優しい神様だ!」
 古今東西、数多に世界を跨げど、己が欲のままに振る舞う神はどこでなりと語られる。然し人を想い、生かす為に身を捧げた神は成る程、確かに“優しい”、と言えるだろう。アルフィードの言葉に同意をかえそうと環がはくりと紅唇を開いて、そのままなんの音を乗せぬままそろりと閉じる。――穏やかさが廻る祭りのなかだと言うのに、皆が幸福そうに歩いていると言うのに。からからと脳髄が巡れば、どうしても慙愧の念が身の裡にふつりと湧いてしまう。己の欲のため悪霊となって生きながらえ、今だ彷徨う自らとは、どこまでも真逆の存在のような気がして。
「環ちゃんどうしたの?何か真剣に考え事してるけど、気になる事があるのかな?」
 そんな環の様子に気づいたのか、アルフィードがはたと首を傾げて尋ねた。その気遣う声に沈み掛けていた意識を引き戻し、環がころりと笑みを履く。
「……嗚呼。申し訳ございません、アルフィードさん。益体もないことを考えておりました」
 口にしても詮無いこと。空気にそぐわぬことを上らせまいと、何でもないことのように取り繕う。
「そうなの?…にしても、環ちゃんって凄いよね!」
「わたくしが、凄い?」
 けれど、思いもよらぬアルフィードの言葉が耳に届いて、環がぱちりと瞳を瞬かせた。
「こうやって1日だけの命の人もいるけど、環ちゃんの様に次の生を生きる人もいる。次の生でも生きようって思うのはとても強くて凄いなぁと思う」
「……ほほ。死に損なっているだけ、とも言えますよ」
 魂を喰らい損ねて、訳もわからず逃がされた、あの時から。ただただあるかも分からぬ|なにか《こたえ》を探して、生きるともなく永らえた。その自覚ははっきりとあるけれど、何故だろうか。アルフィードの偽りや屈託の見えない言葉に、昏く沈み掛けた内心が少し洗い流されたような心地がした。
「それにほら、俺はその生を奪っちゃう人だから。今はしないけどねー!」
「…なら、あなた様こそ。もう奪う役割を降りたのなら、次の生があるのではなくて?アルフィードさんは正に“今”を生きておられるのだから」
 あっけらかんと言い放つアルフィードに、自らへの肯定への返しとばかりに、環が新しい提案を口にする。
「そうかな?んー、俺の次の生か」
 悩むそぶりを見せたのもほんの僅か、にっこりと笑みを浮かべてアルフィードが環へ手を差し伸べる。
「じゃ楽しくなれるように環ちゃん付き合ってくれる?」
 それは、ここに居てと求める、率直な言葉。飾らず、曲げず、素直に“欲”を口にしたものだ。けれどそれは身を引き摺るような重いものではなく、ただただ明るくて、暖かくて。
「あらあら、わたくしがお役に立てますかどうか」
「役とかじゃなくても、一緒だと楽しいもの!!」
「でしたら……ええ、宜しいでしょう。わたくしも楽しゅう御座いますから」
「やった!」
 差し出す手に一瞬だけ手を重ね、知らず下がっていた位置を一歩前へ。並ぶように隣へと立てば、街明かりを指さして僅かに咲く。
「さ、『花宵の杯』を作りに参りましょうか」
「うん!『花宵の杯』を作ろう!」
 楽しいを増やす為、新たな思い出を紡ぐ為に。歩幅合わせて踏み出せば、赴いた時よりも不思議と――足取りが軽いような気がした。

「まあ、これが器ですの。うつくしいことね」
「キラキラしてる!」
 屋台の並びに入り、まず手渡されるのはエフェメラの杯だ。花の形をそのまま活かした杯を前に、何を重ねようかと店先の品を横目に思案する。気の向くままに巡り歩き、環がまず選んだのは白の葡萄酒。次に香りを織り込むように生姜に肉桂を、最後に椿の飴細工と白の金平糖をぽとり落として完成させる。アルフィードの方は果汁を発酵した炭酸水に、オレンジや冬苺など沢山の果物入れて彩りを満たす。更に薔薇の飴細工を飾り付け、ブランデーを数滴垂らせば――
「出来上がり!!」
「アルフィードさん如何でしょう?…あら、果実と洋酒の好い香り」
「でっしょう!環ちゃんはどう?」
「ほほ、この様になりました」
「ふむふむ、美味しそう!椿なんて環ちゃんらしい!」
 互いに互いの杯を眺め、その色と香りに感想を述べる。弾む会話の合間、掲げた杯越しにひらりと舞い落ちるエフェメラの花びらを見て、環がふと先のことを思った。
「このひとときもいつか、儚さと共に思い返すものとなるのでしょうか」
「儚いものでも記憶に残るなら永遠だよ!環ちゃんとの想い出は!」
「あら素敵なことを仰る。ならばこの儚い永遠に、乾杯と参りましょう」
「うん!じゃカンパーイ!! 」
「はい、乾杯 」
 カチリと硬質な音を立て、花宵の杯を交わし合う。

この香りも、味も、酔いしれる心地も。
飲み干して仕舞えば、ただそれまでの。
けれど、共に過ごした今宵のことは。
――何一つとて、忘れやしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ゼロ・クローフィ
【まる】

へぇ、他人の為に1日だけ生き、命を捧げる神
神らしい神もいるもんだ
はいはい、何がしたいんだ?

『花宵の杯』
オリジナルの飲み物を作るのか
そうだな、甘さ控えめの酒がいい
お前さんは相変わらず甘そうだなぁ
何個飴細工入れるだ?

出来た杯をただただ見詰める姿に
何か想いに馳せいるんだろう
傍で黙って時を待つ

ん?あぁ、わかったと後ろを向く
後ろにいる円の空気が変わるのがわかる

俺の前で魅せるいつもと違う姿
まるで宇宙《そら》の様で吸い込まれそうな

その姿もなかなか良いじゃないか
といつもの口調、変わらない会話

真の姿を見せるのは勇気がいっただろう
俺に記憶を、伝える希望を、願って
包帯を解き隠れた瞳を開ける
いや、瞳など無い
真っ黒な空洞、まるでブラックホール

コイツは何でも吸い込む
記憶も映像も映したモノ全て
確かにそれが零かもな

お前さんが欠片というなら
そこが地獄でも欠片ひとつ残さず拾ってやる
まぁ、この瞳じゃなくても
沢山の欠片からお前さんを見分けられない訳ないけどなと笑って

あぁ、乾杯するか
この一時を記憶を
一滴も残さず飲み干して


百鳥・円
【まる】

儚い神様に感謝を捧げるお祭り、ですって
さ、おにーさん。行ってみましょ!

わたしは『花宵の杯』が気になります
おにーさんは甘さ控えめでオーダーしますか?

飴に果実に、花に
満たされてゆく杯を眺めながら
そっと思いに耽けましょう

(一日限りの出来事
記憶だけが残る、儚い時間
わたしが潜め続ける本音も
他でもないあなたに暴かれたい心も
今、この時だけ。解いても、いいですか)

おにーさん
少しだけ、向こうを向いていて下さい

夢魔を象るかたちが揺らぐ
白茶の髪が漆黒に染まり星空を宿して
真の姿を曝して、あなたを見据える
もう、いいですよ

……ねえ、ゼロのおにーさん
その眼でわたしを視て
わたしの声を、聴いて
どうか――あなたの記憶に焼き付けて
これが、ほんとうの|欠片《わたし》なんです

おに、いさん……?
包帯の下に拡がる無限の闇に
思わず言葉を失う
何もか呑み込まれてしまうから
だから、あなたは零のままなの?

……ふふ、頼もしい言葉
必ず“わたし”を見つけてくださいね

乾杯、しましょうか
このひと時限りの出来事を
注がれた飲料と共に飲み干しましょう



はらはらと、|宙《そら》から雪が舞い落ちる。降り積もり、街を白く染め上げ、けれど熱にとける儚さは、祀られる神様によく似ている。ああ、だからエフェメラの花はこの季節に、この1日を選んで咲くのか、なんて考えながら。雪道に足跡を残して、くるりと振り返った百鳥・円(華回帰・f10932)が語りかける。
「おにーさん、儚い神様に感謝を捧げるお祭り、ですって」
 祭りの趣旨を聞かされて、連れ立つゼロ・クローフィ(黒狼ノ影・f03934)がへぇ、と軽く声を上げて街並みを見つめる。
「他人の為に1日だけ生き、命を捧げる神。神らしい神もいるもんだ」
 今や神は種族として実在すると証明されたが、やはり逸話と共に語られる遠い存在というイメージは強い。そしてエフェメラの奇跡を伴った有り様は、確かに“らしい”と呼べるものだろう。軽く頷くゼロの姿に、お話が飲み込めたなら、と切り替えるように屋台の並を指差し円が手招く。
「さ、おにーさん。行ってみましょ!」
「はいはい、何がしたいんだ?」
「わたしは『花宵の杯』が気になります」
「『花宵の杯』?…ああ、オリジナルの飲み物を作るのか」
 疑問を呈すると、すぐさま円からこれこれこうこう、と説明が入ってゼロが納得する。数多ある店先の品から、悩んで重ねて、杯を満たす。そうして飲み干して仕舞えば、レシピも味も記憶にしか残らない。なるほど、今日限りを祝う祭りには似合いの催しだろう。
「おにーさんは甘さ控えめでオーダーしますか?」
「そうだな、甘さ控えめの…酒がいい」
 チョイスに悩みは尽きなくとも、味加減も香りも自分の好みに、思い通りに出来るのは花宵の杯の利点だ。甘さを求めないゼロはシンプルに、すっきりとした飲み口の白ワインに、ハーブ酒に漬けたエフェメラの花を落として杯を満たす。早々に出来たところで、連れの様子はと隣を見ると、顔を寄せずとも甘い香りが漂って来た。
「お前さんは相変わらず甘そうだなぁ。何個飴細工入れるんだ?」
「んふふ、数えてみます?」
 そう、控えることが可能なら、逆もまた然り。円は対極のように甘く仕上げようと、様々に砕いた飴に、寒空に干して味をぎゅっと詰めたドライフルーツに、砂糖塗しの花を重ねていく。そうして満たされてゆく杯を眺めながら、出来上がりを楽しみにしていたはずの心が――ふいに、ゆっくりと物思いに耽っていくのを感じた。それはもしかしたら、杯の底へと混じり合い、とけあいながら落ちていく、小さく砕かれた飴がそうさせたのかもしれない。

――言いたくて、言いたくなくて。
奥底へと潜め続けている本音が、ある。
でももし今日が本当に、一日限りの出来事、記憶だけが残る儚い時間と言うのなら。
他でもないあなたに暴かれたい心を。
今、この時だけ。解いても、いいですか。

 決意にも似た、沈め隠していた気持ちを拾い顔を上げると、黙して待っていたゼロと視線が合う。何か想うところがあるのだろうと、じっと静かに待っていてくれた姿が、すっと染み入るように円の背を押した。そのまま何も言わずに手を引いて、喧騒を離れた広場まで導いて、一呼吸置いてから切り出す。
「おにーさん。少しだけ、向こうを向いていて下さい」
「ん?あぁ、わかった」
円が歩き出しても、願い出ても、ゼロは尋ねることなく聞き入れる。きっと、この先に何か|見届ける《瞳に映す》べきことがあるのだろうと、未だ形のない予感を感じながら。ゼロがくるりと背中を向けると、“それ”は始まった。

|夢魔《まどか》を象るかたちが、揺らぐ。
陽を透かす柔らかな白茶の髪が
――するりと漆黒に染まり、裡に遥かな星空を宿す。
赤に青にと分たれた宝玉のような瞳が
――ぐるりと混ざり合い、明けとも暮れともつかぬ紫影へと|変じる。《もどる》

そうして真の姿をあらわにして、未だ振り返らないゼロの背中を見据えて。
「もう、いいですよ」
静かに、呼びかけた。

 踵を返して、初めて目にしたカタチに、ほんの僅かにゼロの瞳が見開かれる。けれどそこに乗せられたのは、先と違う姿をしているなという、ただそれだけの感慨。――いいや、むしろいつも魅せるのとは違う姿に、まるで|宇宙《そら》へと吸い込まれそうな心地もしたけれど。すぐに常と同じ表情に戻ると、気負いなく声をかける。
「その姿もなかなか良いじゃないか」
 返す言葉には、なんの揺らぎもない。いつも通りの口調に、変わらない普通の会話。それに少しほっとして、円が心の内の願いを告げる。
「……ねえ、ゼロのおにーさん。その眼でわたしを視て、わたしの声を、聴いて。どうか――あなたの記憶に焼き付けて。」

――これが、ほんとうの|欠片《わたし》なんです。

 囁くように、密やかに。秘密を明かす円の言葉に、ゼロがひとつ頷いて、自らの片目を隠す包帯へと手をかける。きっと、真の姿を見せるのは勇気がいっただろう。だから記憶を、伝える希望を、願って――包帯を解き、隠れた瞳を開ける。けれど瞼を押し開いた先に、本来ある筈の瞳は、無い。昏く黒く、ぽっかりと孔があるだけ。ただただ真っ黒な|空洞《がらんどう》は、まるでブラックホールのようだ。
「おに、いさん……?」
 星明かりのもとに晒されたゼロの秘密に、包帯の下に拡がる無限の闇に、思わず円が言葉を失う。
「コイツは何でも吸い込む。記憶も映像も映したモノ全て」
「…何もか呑み込まれてしまうから。だから、あなたは零のままなの?」
「確かに、それが零なのかもな」
 言い得て妙だと肯定して、改めて真の姿の円を、ある筈もない瞳でゼロがつぶさに見つめる。
「お前さんが欠片というなら、そこが地獄でも欠片ひとつ残さず拾ってやる。…まぁこの瞳じゃなくても、沢山の欠片からお前さんを見分けられない訳ないけどな」
 他の誰に姿が似ていようと、共に過ごし、語り合い、並び歩いた記憶があるのはたった|ひとりだけ《ひとかけら》だ。甘いものが好きで、着飾るのが好きで、こうして秘密を明かしてくれた円を、見間違うはずもない――そう、ゼロが迷いなく断じて笑う。
「……ふふ、頼もしい言葉。必ず“わたし”を見つけてくださいね」
 いつか回帰の呪いが巡り来るとしても。今日の約束がきっと、|わたし《かけら》を手繰り寄せてくれる。きっとそうだと、信じたい。その気持ちを汲むように、杯を掲げて円も笑みを浮かべる。
「それじゃあ乾杯、しましょうか」
「あぁ、乾杯するか」
 交わした約束の渇かぬうちに、杯を交えて、飲み干して。花の香りも飴の甘さも、喉を過ぎれば消えてしまうとしても。

――どうか、何もかもを憶えていて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
聞くと少し寂しい気持ちになるけど、それ以上に
…うん、あったかい
隣のアレスを見れば
もっとあったかい気持ちになってゆるり頬笑む
そうして二人屋台の方へ

話を聞いたときからずっと気になってたんだよな!一夜燈!
優しく照らしてくれるとこがアレスみたいで…ってことは内緒のまま
俺はこれにする!
アレスのは…星?
それならあっちの樹の下で聞いてみようぜ!
コレも、ゆっくり飲みたいし

ひとつの灯りをお供に樹の下へ
歌う星を眺めながら
…この子『も』ってことは、他はきっと俺だよな
歌に自信はあるけれど、アレスの中に俺の歌が根付いてる気配を感じてもっとあったかくなった
ご機嫌で一夜限りを堪能していたら…
アレスが、歌ってる…
あんま歌いたがんねえから聞けるとすごく嬉しい気持ちになる
邪魔をしないように、じっと見つめて歌を堪能して…しまった、バレたか
いいじゃん
歌、もっと聞きたいと
視線にこめて訴える
一緒に歌うなら喜んで
返事と一緒にアレスの髪にも花をお返し
一夜限りの合唱隊の制服だ

たった一晩だけどきっと、俺の中では永遠だ


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

少し寂しさもあるが…
あたたかい想いが伝わるお祭りだね

二人で屋台へ
一夜燈かあ…優しい色の灯火だ
僕も何かをと見回せば
きらきらしゃららと澄んだ音
見れば一夜限りの“歌う”魔法の星のお店
…うん、僕はこれにするよ
ついでにホットミードを渡して
共にエフェメラの樹の下へ

花を眺めながら魔法の星を浮かばせよう
この子も上手に歌うね
(―星を見つけた時
セリオスの歌が心に浮かんだ
僕にとって大切で、好きな歌が…
だからだろうか
無意識に小さく星に合わせて歌を口ずさんでいた
それに気づいたのは隣と目があった瞬間)
…?どうかしたのかい…え、歌?
…。
…ッ!?
き、気が緩んでいたのだろうか…
…頬が熱い
その視線に照れ隠しも込めて
指の背でそっと撫で
花を彼の髪に飾り、囁く
…じゃあ、一緒に歌ってくれる?
僕だって君の歌が聴きたい
今度は僕も花を飾られ瞬き一つ
…ふふ、制服かあ
では、一夜限りの音楽会と参りましょうか。|我が青星の歌姫殿《セリオス》

…この歌はきっとこの魔法のアルバムには記録できない
けれど、僕の心の中で…いつまでも永遠に



自らの命を贈り物へ変えた神様。
たった一日の命を惜しまず与えた神様。

街の人々は感謝を持って神様の名前を語り継ぎ、今宵限りの祭りを笑顔で過ごしている。話を聞くと少し寂しい気持ちになったが、それ以上に――
「少し寂しさもあるが…あたたかい想いが伝わるお祭りだね」
 アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f1488)――アレスが、まるでセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)の思いを代弁するように、そんなことを口にする。驚いて顔を上げると、アレクシスのこちらを伺うような笑みの浮かぶ視線に、胸がふわりと暖かくなるのを感じて。
「…うん、あったかい」
 きっと神様も、こんな気持ちで人の子へ手を差し伸べたのかな、と遠いいつかに想いを馳せながら。セリオスが、ゆるりと頬を緩めてアレスへ笑いかけた。そのまま足音も軽くあかりを目指して共にかけていき、並ぶ店先で“この祭りならでは”のものを探しに回る。甘やかに香る紙香水も、夜空を彩る魔法の花火も、中々に気になるところではある。然しセリオスのお目当てはすでに決まっていて。
「話を聞いたときからずっと気になってたんだよな!一夜燈!」
「一夜燈かあ…優しい色の灯火だ」
 それは店先に並べられた、ただ一日しか咲かないエフェメラの花に灯りを添えた一夜燈だ。透明な花びらがひかりを通して、ふんわりと淡く辺りを包み込む。その優しく照らしてくれるところが、まるでアレスみたいだ――と思ったことは、胸の内に秘めたまま。
「俺はこれにする!」
 悩むことなくひとつ購入し、セリオスが灯りにも負けないくらい輝いた笑みを浮かべる。その姿をアレスが微笑ましげに眺めて、さて自分は何を選ぼうかと思った時にふと、きらきらしゃらら、と澄んだ音が耳に届いた。流れてくる方を追いかけて見れば、そこにあったのは、星空を切り取ったような暗幕に星が流れる屋台。一夜だけ“歌う”という、魔法の星を売るお店だった。興味を惹かれて、店主に断りを入れてから手を伸ばすと、ヒョイと手のひらに星がひとつ転がり込んでくる。小さく輝きながら、シャラシャラと動き回る姿が愛らしくて。
「アレスのは…星?」
「…うん、僕はこれにするよ」
 尋ねられた時には、この星にしよう、と気持ちが決まっていた。ついでに隣の店にあった、貴重なエフェメラの蜜を落としたホットミードも2つ買い求め、冷えていた手を温めるようにセリオスへ手渡した。
「その星って歌うんだ。それならあっちの樹の下で聞いてみようぜ!コレも、ゆっくり飲みたいし」
「良いね、せっかくだから花もちゃんと見たかったんだ」
 手招き誘うセリオスの明かりを道標に、アレスが星を連れて後を追いかけた。

 程なくして、たどり着いたのは街の中でも一際大きなエフェメラの樹が聳える広場だった。雪を積もらせながら咲く花を眺め、近くのベンチへ腰掛けながらふたりが並んでホットミードを口にする。甘く華やかな口当たりを堪能し、程よく体が温まったところで、アレスがふわりと手の中の星を浮かばせる。雪空に放たれたことを喜んでか、鈴にも似た音をシャララ、と楽しげに歌う姿に。
「この子も上手に歌うね」
 アレスが、そう何気なく口にした。きっと本人は気づいてないだろう言葉に、セリオスが思わずソワソワと視線を逸らす。
(…この子『も』ってことは、他はきっと俺だよな)
 歌に自信はあるし、それを褒められることもすごく嬉しい。けどそれ以上に、アレスの中に自らの歌が根付いてる気配を感じると、ミードを口にしたよりもずっと気持ちがあったかくなった。そうしてセリオスがアレスを想うと同じように、アレスが星を見つめて考えたのは、セリオスのこと。――この輝く星を見つけた時、真っ先にセリオスの歌が心に浮かんだ。自らにとって大切で、好きな歌。

だから、だろうか。意識しないうちに、シャラシャラと舞う星に合わせて、アレスが小さく歌を口ずさんでいた。
(アレスが、歌ってる…)
 欹てていないと聞こえないくらいに静かで、けれどやわらかく響く優しい歌。普段あまり歌いたがらないぶん、こうして聞けることがすごく嬉しく感じた。せっかくだから邪魔をしないように、じっと見つめて歌を堪能し――
「…?どうかしたのかい…」
 ――たかったのだが、どうやら見つめすぎたようで、アレスがはたと首を傾げて尋ねて来た。
「…しまった、バレたか。いや、アレスが歌ってんなって、聞き入ってた」
「え、歌?……。……ッ!?き、気が緩んでいたのだろうか…」
 自覚した途端、ブワッと音がしそうなくらいにアレスの頬が赤くなった。もうやめよう、と口を閉じたところで。
「いいじゃん。歌、もっと聞きたい」
 じっ、と熱を帯びた視線を向けて、続きを聞きたいとセリオスが見つめる。その視線に、暫く悩んだあと観念したように息を吐いて、アレスが頷いてみせる。そして照れ隠しも込めて、指の背でそっとセリオスの美しい宵闇の髪を撫で、舞い落ちるエフェメラの花を一輪、髪に飾って囁いた。
「…じゃあ、一緒に歌ってくれる?僕だって君の歌が聴きたい」
「一緒に歌うなら喜んで」
 寄せられた顔に、とびきりの笑みを添えてもちろん、と答えた。それと一緒に、今度はアレスの陽光の髪にもエフェメラの花をお返しに、と飾る。
「一夜限りの合唱隊の制服だ」
「…ふふ、制服かあ。では、一夜限りの音楽会と参りましょうか。|我が青星の歌姫殿《セリオス》」
「喜んで、|俺の暁星の騎士様《アレス》」
 向かい合って両手を繋ぎ、ふたりが歌声を重ねて咲う。その合間を嬉しそうに、チリリと星が行き交って彩りを添えた。

ただ一日、今宵限り、ふたりと星だけが知る聖歌。
それはきっと、魔法のアルバムにだって記せない。
だからこそきっと、心の中でいつまでも。

――永遠に、憶えているんだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月07日


挿絵イラスト