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銀河帝国攻略戦㉖～彼らを救うカギは何色ですか？

作者：宮下さつき

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　帝国旗艦インペリウム、科学技術センター。絶え間なく情報の収集と解析を行うコンピュータがひしめく部屋の中央に、それはあった。
　枝葉のように広がるチューブとパイプ、根のように床を這う無数のケーブル、それらが複雑に絡み合って大樹の幹を形作り、枝先には果実までがぶら下がっている。見ようによっては悪趣味なオブジェにしか見えないそれこそが、中央コンピュータ――ドクター・オロチの研究に使われている生体コンピュータだ。
　果実のように見えるコンピュータユニットはスペースシップから拉致された有能な科学者や技術者を内包し、彼らは既に生体コンピュータの一部と化してしまっている。彼らを救出しようにも、無理矢理引き剥がせば直結している彼らの意識は焼き切れ、最悪死に至るだろう。

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「うわあああんわかんないんだよーっ！」
　インペリウムに拉致された科学者達を救出すべく、解除コードを探っていたカー・ウォーターメロンは来てくれた猟兵に縋りついた。
「彼らの接続を解除するには正規の手段……コンピュータユニットから提示される謎の正答を入力しないといけないんだけど、ボクには答えが全然わかんないんだよぉ」
　失敗すれば囚われている人達の生死に関わる。答えを導き出し、彼らを助けてきてくれとカーは頭を下げ、一枚のメモを渡した。
「こういう小さい子の書いた日記みたいな文章が出てきてね、カッコの中に当てはまる文字を入れろってさ。ねえ、みんなはこの子のおうちの鍵、何色だと思う？」

　お　ほし　さまがかくれんぼして、お　ひ　さまがかおをだしました。
　みずうみがきらきら　かがや　いて、ふう　しゃ　がくるくるおどっています。
　お　はな　をつんだら、　くさ　のじゅうたんでおひるねです。
　そのあと　ゆめ　からさめたら、　ゆう　がたでした。
　おうちの　かぎ　は、『　』いろです。

第1章 冒険 『中央コンピューターの謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、救出します。 SPD   :    素早く謎の答えを導き出した後、救出した人のケアを行います。 WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、救出します。 👑3 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　転送されるなり真っ先に目に飛び込んできたグロテスクな巨木を見上げ、猟兵達は小さく溜息を吐いた。閉塞感を覚える程に太い幹からは、無機物が脈動しているような、不可解で不愉快な印象を受ける。ひっきりなしに明滅するランプは、未だ目の前のコンピュータが働いている証拠だ。恐らくは昼夜問わず、果実に囚われた人々の脳を酷使しながら。
「ＵＤＣアースでこのような絵画を拝見した事がございますが、いやはや現実で目にする事になるとは露ほども思わず！」
　パルミリーリル・アーティルノッドは映画で異星人のデザインをしたアーティストの作品を思い出しながら、果実の数を数える。部品となる事がどれ程の負担になっているかはわからないが、ある程度の衰弱は免れまい。レプリカクラフトを活かし、彼らを連れ出す為の車椅子を作り上げる。
「救えるといいな……いえ、救いましょう。絶対に」
　命あるものを部品扱いする馬鹿げた行いに柳眉をひそめ、太刀緒・朔は自分に言い聞かせるように宣言した。
　猟兵達が大樹の前に立つと同時に、黒光りする幹の中央に長方形の明かりが灯る。電脳魔術士の能力を持つ君ヶ依・飛白が丸みのある特徴的な手で器用にタッチパネルを操作し、生体部品の解除画面を開くと、例の問いが表示された。
（「なんだこれ。おれもこどもだけどこんな『ぶんしょう』書かないぞ！」）
　怪訝そうにぼやいた身体の持ち主である飛白に、ヒーローマスクの君ヶ依はからかい半分で答える。
（「ばぁか、おまえがわかんなくたってオレはわかるぞ。黙って手だけ動かせっての」）
「ふむ」
　ヘンペル・トリックボックスはシルクハットを脱ぐと、中が空である事を見せつけるようにくるりと回し、おもむろに手を入れた。すると何の変哲も無かった帽子の中から、筆とメモ帳が現れる。
「これは――一見平仮名ばかりで子供のかいた文にも思えますが」
　彼が解決の糸口を見つけたとでも言いたげに、大仰な素振りで何やら書き込んでいくと、隣に居たクーナ・セラフィンもくりくりした瞳をモニターの一点へ向け、口を開いた。
「この文章、空白がまず怪しいね」
「不自然に空いた単語がポイント……って事だよな」
「それも規則的に、ですね。文章の一文ごとに二つずつ、隔離された部分があります」
　彼女にグァーネッツォ・リトゥルスムィスとネオン・エルバイトも同意すると、パルミリーリルが首をひねる。
「単語……他はなあんとなく共通点がございますが、『かがや』『しゃ』は異色でございますね！」
　中途半端に区切られた部分に着目し、まずはここから考えようと提案した。
「light……shine……car……？　ああ、いえ、違いますね！」
　頭に浮かんだのは居を構えるＵＤＣアース、日本で使われている文字。
「そうです。答えのカギは漢字のようですね」
　仲間が同じ考えに至った事で、ヘンペルは満足そうに微笑んだ。泰然とした態度の裏で「はずれてたら恥ずかしいなぁ」などと思っていた事は、ここだけの秘密である。
「星の字には日、輝くの字には車。オレたちの名前も漢字なんだ、割と考えやすかったな」
「残りも花と草、夢と夕……という風に前者の漢字の一部が後者の漢字となっているようですね」
　自信満々に目を細めた飛白の言葉を継いでネオンが頷くと、朔が申し訳なさそうに小さく手を挙げた。
「そうすると、花と草の所がちょっと自信無いですねー……」
「うん、この法則だと、花と草が合わない気が――あ、でも花を華だとすれば……うん、分かり辛いけど一部になるね」
　同じ箇所で引っかかりを覚えた事をクーナが言えば、ネオンも顎に手を当てて考える。
「ここだけくさかんむりを草に返還している事になるので、一抹の不安がありますね……」
「それ！　くさかんむり……部首、じゃないか？」
「部首、かぁ。ひへん、くるまへん、くさかんむり、ゆうべ。うん、間違いなさそう」
　グァーネッツォがあくまでも世界の加護による知識だけで出身は漢字圏でないから詳しくないと前置いて、右の漢字は左の漢字の部首ではないかと尋ねれば、朔も得心が行ったと手を叩いた。
「この法則に当てるのであれば、問題文の最後の行は『鍵』の部首ですね」
「あとは元の文面に合わせてひらがなに戻して……」
　疑問が解消した事でネオンとクーナも話を進め、七人全員が同じ答えへと辿り着く。
「じゃあ、入力するぞ」
　猟兵達が固唾を飲んで見守る中、飛白がモニターに指を滑らせる。

　――おうちの　かぎ　は、『きん』いろです。

「解除コード確認。生体部品ヲ外シマス」
　機械的な音声が流れ、果物で言うところの果柄にあたる部分のケーブルがずるりと伸びた。人型の果実がゆっくりと下がっていき、次々と床に横たえられてゆく。
「各種回路ヲ遮断、装置トノ接続ヲ解除。生命維持装置ヲ取リ外シマス」
　ややあって果実が柘榴のように裂けて囚われていた人達が露わになり、初めて猟兵達は肩の荷が下りたように息を吐いた。
「それにしても、解除コードがなんでこんなクイズ形式なんだろうな」
「案外こういう謎々みたいなのが苦手なのかもね。……ドクター・オロチの考える事なんて、想像もつかないよ」
　答える事さえ出来れば誰でも解除出来るというのはセキュリティとしてはいかがなものかと首を傾げる飛白に、クーナは肩を竦めて答えた。悪趣味としか言いようのない兵器を生み出す者の思考など到底理解し得ないし、お人好しな彼女の性格的には理解したくもないだろう。
「大丈夫ですか？　意識ははっきりしてますね」
「もう大丈夫だ、助けに来た。パルミリーリル、こっちにも車椅子を頼む！　念の為、解放軍の医療機関に連れていくぞ！」
「はいはいただいま参りますよー、科学者様がたを運ぶのでございますよ！」
　朔が一人一人丁寧に意識の有無を確認し、グァーネッツォは状況を飲み込めていない者達を安心させるように声を掛け続ける。存外落ち着いた者が多く、健康状態も決して悪くはないが、部品として休みなく働かされていた彼らの表情には共通して疲労が浮かんでいた。極力彼らに負担をかけまいと、パルミリーリルは車椅子を押して忙しなく駆け回っている。
「さ、お手をどうぞ。無理はなさらないで、今、肩を貸しますから」
「……あり、が……とう」
　慇懃丁重な振る舞いで何かと世話を焼くヘンペルに、車椅子に腰掛けた科学者もようやく笑みを零した。何処となく疲れを押し隠した微笑に、猟兵達は胸を締め付けられるような思いを抱く。朔は妙なる空気を纏った大太刀を掲げ、せめて今後は彼らが悪縁と繋がる事がないようにと祈祷を捧げた。
「これで、スペースシップワールドの停滞した技術にも影響が出るでしょうか」
　運ばれてゆく科学者達の背を見送り、ネオンが呟く。帝国に奪われ続けてきた有能な科学者や技術者達の帰還。故郷の記憶はおぼろげだが、彼らの無事が大変喜ばしいという事だけははっきりとわかる。
「それにしても銀河帝国、本当にひどいな」
　喜びに溢れた明るい世界で強く成長する事を理想とするグァーネッツォとは、決して相容れない。
「因果応報、ひどいした報いは後で必ず受けて貰うぞ！」
「ほんと、作ったやつは一回殴りに行かないとね」

　帝国科学技術センター、制圧。この戦争に必ず勝利すると決意を新たに、猟兵達は次の戦場に向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月19日