きみだけのテンダー・クロケット
黒影・兵庫
下記のような内容でノベルの執筆をお願いします!
UDCアースで猟兵としての仕事を終え、へとへとになった黒影・兵庫は
大好きなクリームコロッケを食べて疲れを癒そうと近場にあるコンビニ、スーパーを
見て回ったがどこも売っておらず、へとへとな上にイライラが重なり
蜂蜜色のオーラがどんよりと暗く濁るほど精神が汚染されてしまう。
そんな黒影を見るに見かねた脳内寄生虫の教導虫(せんせー)は
今は抜け殻となっている、かつての自身の身体(身長3m弱のスーツ姿の金髪の女性)を
念動力で遠隔操作し、四苦八苦しながらも黒影のためにクリームコロッケを作ろうとする…。
以上です!
大まかな内容なのでお好きにアレンジを加えてくださっても全く問題ありません!
猟兵としての役目は大変なものである。
世界をまたぐことからも、それは承知の上であった。けれど、物事には限度というものがあるのだ。
いつだってそうだけれど、人の精神というものは限界を超えると己が限界値に達したことを忘れてしまう。
時にそれは人の持つ能力以上の力を発揮するものであったりもするが、それがそう何度も続いていいものではない。
精神が限界を迎えれば、体もまた限界を超えていく。
肉体という器が壊れるのならば、器に満たされた精神もまた形を変える。
こぼれ出るかもしれないし、目減りしたそれは継ぎ足されたとしても、元のものとは異なるものへと変容してしまう。
それを黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の脳内に寄生している教導虫『スクイリア』は理解していた。
だからこそ、今の兵庫の状態はあまりよろしくない。
いつもは天真爛漫たる彼の顔は今やどんよりと曇っている。
蜂蜜色のオーラすらもくすみ始めている。
「ない……全然ないです、せんせー……」
彼が何を捜しているのかと言うと、彼の大好物のクリームコロッケである。
衣のサクサク感と中のとろっとクリーミーな、俵型のコロッケ。
兵庫はそれが大好きなのだ。
どんなに辛い仕事でも、どんなに厳しい戦いであっても、クリームコロッケを一口食べれば疲労が吹っ飛ぶ。
今日の仕事もそうだったのだ。
UDCアースに跳梁跋扈するUDC怪物は強力な一体だけでなく、無数の怪物を湧出させる。
その対処に追われて兵庫はへとへとだった。
「いつものお店も今日に限っては売り切れだなんて……」
『寒くなってきたからじゃないかしら。温かいものが恋しくなれば、ああいった食べ物を欲しがるものだもの』
「うう……これで四軒目ですよ。こんなことってあります?」
よほど堪えているのだろう。
それがわかるほどに兵庫のオーラはくすんでいる。
「いえ! ここで諦めてしまったら、クリームコロッケはてにはいりません! 今日は隣街まで足を伸ばしましょう!」
諦めないことが兵庫の良いところだ。
諦めなければ手に入らないものなどないのである。
しかし、現実というものはあまりにも残酷であった。
ないものはないのである。
そこになければないですね、と言われてしまったのならば、もう何も言えない。
「ごめんねぇ……今日は売り切れちゃって……」
「さっき最後の一個が売れてしまったよ……」
兵庫のあまりの落胆ぶりにお店の人も申し訳ない気持ちになってしまっていた。それほどまでに兵庫の顔は暗かった。
教導虫として『スクイリア』はなんと声をかけるべきか迷っていた。
下手に慰めてもクリームコロッケは手に入らない。
現実は非情であると言ってしまえば、それまでだ。
あれだけ今日も猟兵としてがんばってきたのだ。
世界はどうして彼に報いてくれないのだろうかと思うほどであった。
世界を守ったのだからクリームコロッケの一つくらい当たり前のようにあってもいいというのに。
『黒影……』
兵庫はもうヘトヘト通り越してイライラしはじめていた。
どんどん濁っていくオーラ。
これはまずい事態になってしまっている。教導虫として、いや、彼の絶対的な守護者として、これは見過ごしてはいけない事態だ。
「……次、次です。次はきっとあります。クリームコロッケ……さくさくとろっとくりーみー……」
うわ言のように兵庫は街をさまよう。
世界を救うほどの力を持っている猟兵がクリームコロッケ一つで此処まで疲弊している。
いや、違う。
今は違うのだと『スクイリア』は己を叱咤する。
兵庫たちの家には己の抜け殻がある。
魂は兵庫の脳に寄生しているが、念動力を使えば家の中でも操作することができる。
『黒影、あなたのクリームコロッケは私がなんとかするわ』
彼女は念動力で己の抜け殻を操作し始める。
キッチンには一通り揃っている。
こんなこともあろうかと冷蔵庫に諸々用意してあるのだ。いつだって彼を導く『スクイリア』は用意を怠らぬのである。
『とは言え……遠隔操作で何処まで細かい作業ができるものかしら……』
クリームコロッケは調理が難しい。
俵型のコロッケを破裂させてしまう失敗が起こりやすいのだ。
『まずはホワイトソースを……』
結局の所油であげることによって強烈な温度上昇が起こって、ソース内の水分が膨張し弾けてしまうのが破裂の原因だ。
ならばこそ、ホワイトソースの材料である小麦粉の水分を飛ばすことが肝要である。
サラサラした小麦であれば水分が抜けており、ダマになりにくいのだ。
なめらかな口当たりがクリームコロッケの魅力の一つでもあるのだ。
『ソースは十分ね。今度は整形なのだけれど……』
ある意味ここからが本番である。
寝かせたソースをタネにして冷やしておくのは十分。けれど、整形するのに時間がかかってしまうと手の温度でホワイトソースのクリームが溶けて形が崩れてしまう。
できるだけスピーディーに。
そして綺麗な俵型に。
難しいがやるしかない。あれだけ曇った兵庫を『スクイリア』は見ていたくないのだ。がんばったのならば報われて欲しい。
例え、現実ではなく、それが理想なのだとしてもだ。
『さあ、揚げましょう! 油の中で動かすのは最小限に……でも火を通しすぎると熱が通り過ぎて破裂してしまうから……余熱で火を入れて……』
言葉で言えば簡単だ。
けれど、じっさいにやてみればわかる。
これが一番難しい!
さらに言えば、温度調整が困難だ。念動力で遠隔操作しているからなおさら。
もたもたもしていられない。かと言って急いてもダメ。
中庸というのが一番難しいのだと『スクイリア』は改めて思い知らされたことだろう。
そして……。
「ただいま……」
兵庫の声が聞こえる。いや、帰ってくるのはわかっていた。脳内でずっと見守っていたからだ。
蜂蜜色のオーラはどんより曇りに曇っている。
もうびっくりするくらい手に入らなかったのだ。何処に言ってもないのである。
愛しのクリームコロッケが!
「今日はもう……」
ベッドに直行したいと思うほどにしょぼしょぼ顔をしていた兵庫の鼻が、油と小麦の匂いに反応する。
ひく、ひく、と動く鼻。
え、と兵庫の曇った目が徐々に光をとりもどしていく。
「……こ、これは!!」
『おかえり、黒影。たくさん作ったから、たんとお食べ?』
そこにあったのは焦がれにこがれたクリームコロッケの山!
作りすぎちゃった、と『スクイリア』は反省していたが、兵庫の顔を見れば、その思いも吹き飛ぶ。
それほどまでに彼の顔は明るく、花が咲いたようにキラキラしていた。
「本当にいいんですか!? こんなに!?」
『ええ、いいのよ。今日は一日がんばったのだから。街から街に渡り歩いて疲れたでしょう。好きなだけ食べましょう』
普段ならば節制が大事だと言うところだ。
けれど、今日くらいはいいだろう。
ときには心の開放も大切なことだ。
キラキラした兵庫の顔を見ていたら、そんなふうに思えてしまう。
サクッと、とろっと。
良い音が聞こえる。
そして何よりも。
「せんせー、これ美味しいです! 今まで食べたクリームコロッケの中でいっちばん! ほんとうに!」
そんなふうに嬉しそうな顔をする兵庫の顔を見るのが『スクイリア』の救いであったのかもしれない――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴