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冬の陽だまり

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霧沢・仁美
猟兵として活動している時以外はごく普通の女子大生として生活している仁美。
そんな彼女の日常生活を描いたノベルをお願いします!

●シチュエーション
「普通の女子大生の日常」というテーマで思いつく範囲にて自由に描いて頂けたらと。

●補足情報(必ずしも遵守する必要はありませんが執筆のご参考に)
・家族構成は両親+中学生の弟
・実家住まい
・通学は電車を使ってます
・大学の学科は文系ということ以外未設定
・講義は真面目に受けてます
・学内に何人か友人もいます(男女とも)
・バイトしてます。バイト先はカフェを想定(服装イメージは麻月叶絵師様のBU参照)
・基本的に一般人のように振る舞ってますが、念動力などの超能力系技能をバレないようにこっそり使ったりはします
・ユーベルコード等の猟兵としての力は使いません

●他
お色気展開は入れるとしても匂わす程度で。
ステシにも上記補足情報にも無い部分は全てお任せ。
解釈違いでもそれはそれで良し、の精神でおります。



「――ん、よし……!」
 自室の鏡の前でひとつ笑うと、霧沢・仁美(普通でありたい女子大生・f02862)はリップグロスの蓋を閉めた。
 このあいだ買ったばかりの、お気に入りの色。発色も良いし、ケースも透明感があってデザインが可愛い。これでお手頃価格なのだから、最近のプチプラは本当に侮れない。
 コートとバッグを手に部屋を出る。玄関で靴を履いたところで、母親の声が響いた。
「仁美、これ持っていくんじゃなかったの?」
「……あ」
 ありがとう、と、差し出された紙袋を受け取る。いけない。友人に借りていた本を忘れるところだった。
 気を取り直してコートを羽織り、最後に立ち鏡の前で今日のコーデを確認。
 アイボリーのオフタートルネックに、深緑のチェック柄ラップスカート。キャメル色のチェスターコートは前を開けて、バッグとブーツは同系の茶色で合わせてみた。
 髪型良し、忘れ物なし。
「じゃあ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
 いつものように家族へと声をかけ、家を出る。
 ひんやりとした朝の空気に身を竦めながらふと空を仰げば、澄んだ水色の中に淡く浮かぶ名残月があった。

 ✧   ✧   ✧

「仁美ー。おっはよー」
 午前中の授業を終え、構内のカフェで昼食を取っていたところに後ろから声を掛けられた。そのまま隣の席へと座った友人へ、仁美は苦笑しながら視線を向ける。
「おはよーって。あっちゃんってば、もうお昼だよ?」
「仁美は真面目過ぎなんだよー。1限からとか、よく授業取ったねー」
「うん。面白そうだったから」
 他意はなく素直に感心している様子の友人は、仁美の答えを聞きながら早速リゾット――日替わりプレートBメニューに匙を入れて食べ始めた。悩んだ末に仁美はAのほうにしたが、Bもなかなか美味しそうだ。次にまたメニューに出てくることがあったら、選んでみるのも良いかもしれない。
 そうして他愛のない話しをしながら食事をし終え、借りた本を返していれば、幾人かの友人たちからも声がかかる。
「あっ、霧沢さん! 良ければまた、うちのサークルの助っ人に来てよー。この間の試合、すっごく助かったからさ!」
「霧沢ー。次の飲み会のメンツ足りねーんだけど、参加してくんね?」
 ――オブリビオンとは無縁の彼らと話すこのひとときは、仁美は確かに"普通の女子大生"なのだ。

 ✧   ✧   ✧

 午後の講義が終わると、仁美はその足で駅へと向かった。
 電車に乗り、数駅先で下車し、アルバイト先であるカフェへと続く道のりを歩きながら、気づけばいつの間にか通い慣れていたルートになっていることに気づいて笑みが洩れる。
「お疲れ様です!」
 裏口から入り、丁度キッチンから出てきた店長に元気良く――来店者には聞こえない程度に――挨拶をすると、男も柔和な笑顔を返した。
「お疲れ様、霧沢さん。寒かっただろう? まだ少し時間もあるし、1杯飲んで一息ついてよ」
「ありがとうございます! じゃあ、着替えてきちゃいますね」
「ああ。珈琲、休憩室に置いとくよ」
 店長へと笑顔で頷きながら更衣室に入り、自分に宛がわれたロッカーの扉を開けた。荷物を入れる代わりに、いつもの制服を身に纏う。服装が変わるだけで身が引き締まるのは、どこか真の姿に変わるときと似ているかもしれない。
 淹れたての珈琲で温まりフロアへ出ると、カフェの壁掛け時計がひとつ鳴った。
 時刻は15時半。昼時に続き、カフェという場所が再び混み始める時間帯だ。
「いらっしゃいませー!」「ご注文はお決まりですか?」「オーダー入りまーす。ラテ1、ブレンド1、チーズケーキ2です」「珈琲のお代わり、お持ちします」
 決して広いフロアではないが、ホールスタッフも多いわけではない。仁美は他のスタッフたちの動きを見ながら、時折どうしてもの場合に限ってこっそり超能力も使いながら、手の回らない箇所を埋めるように立ち回る。「気が利くね」とよく言われるけれど、それが猟兵の経験に寄る部分もあるとは、よもや彼らも思わないだろう。
 忙しないながらも、仁美はこの時間が好きだった。
 チェーン店のように混んでいるわけでも、かといって閑古鳥が鳴いているわけでもない。適度に人が訪れ、ゆったりとした時間を過ごせる居心地の良い空間と仲間たち。猟兵でしか見られない景色があるように、ここでしか見られないそれも、ある。

 窓の外の空が、茜から紫、そして紺青へと移り変われば、ありふれた、けれどかけがえのない今日も終わりの顔を覗かせる。
「色々助かったよ。お疲れ様」
「お疲れ様でした!」
 店長と仲間たちへ別れを告げて、頬に触れたひんやりとした夜気にひとつ身震いしながら仰いだ空には、眩く煌めくオリオン座。
 次の電車は、10分後。
 さあ、早く帰ろう――皆の待つ、あたたかい我が家へ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年12月23日


挿絵イラスト