海でもなく、空でもなく、それは陰に揺蕩う海の月
馬県・義透
義透というか、陰海月の過去エピソードになります。
羅針盤戦争の時期です。
・陰海月
元々はただの、本当に普通のミズクラゲ。
ある日、海で漂っていたら『大きなプランクトン』が落ちてきた。固かったので丸のみみたいに食べたら…それは『メガリス』だったという。
そこから大きくなって、陸に上がれるようになって島を探検していたら、陰海月が食べたメガリスを探していたコンキスタドールにばったり会ってしまった!
泣いて逃げていたら、通りかかった人・義透(黒燭炎を装備した『侵す者』)が助けてくれた!
命の恩人な人にお礼をぷきゅぷきゅ言いつつ。カッコいいので一緒にいきたくて。
歩く義透の後ろをついていったら、止まってしばらく何かを考え(内部会議)、振り向いた義透が『四人で一人の複合型悪霊』だと説明された。
それでもついていきたくて、大丈夫だとぷきゅぷきゅぷきゅとうったえた。
意をくんだ義透が、また何か考えて。そして、『陰海月』という名前をもらって、一緒に冒険することになりました。
流れとしては上記となります。
細かいところはお任せします。
いつだって切欠は些細なことだ。
小さな生命が大海を漂う。
グリードオーシャンは様々なものを内包する。
空より落ちる島は、大海にないものを齎す。
それらの全てを受け入れるだけの器がグリードオーシャンにはあったのだ。
そして、今此処に波間に揺蕩う小さな、小さなミズクラゲが在る。
それに意志があったのかはわからない。
とぽん。
波の音にかき消されるほどに小さな音。
何かが落ちてきた。
その事実さえ理解できなかった小さな生命は、しかし本能に従って『それ』を飲み込んだ。飲み込んでしまったというのが正しいだろう。
『それ』は『大きなプランクトン』であった。
プランクトンそれ自体が小さなものである。人には見分けがつかない。例え、プランクトンらしからぬ『大きなプランクトン』であったとしても、それが如何なるものであったかを知ることはできなかっただろう。
知恵ある者ならば、それが『メガリス』であったことを知るだろう。
しかし、大海に在りてそれを知るものはおらず。そして、『それ』を飲み込んだミズクラゲもまた知らなかったのだ。
膨れ上がる。
体が膨れ上がる。
同仕様もなく膨れ上がっていく。苦しいとも思わなかった。けれど、己の体が陸上に適応したのを知った時、そのミズクラゲが得たものは感情であったのかもしれない。
喜び。
楽しさ。
けれど、感情というものを大別するのならば『四つ』である。
怒りと哀しみ。
それを得ることは傷つくことであった。
陸上に上がったミズクラゲは、その巨体故に追い立てられる。
コンキスタドールに最初に目をつけられたことは不幸であると言わざるを得ない。
「ぷっきゅ、ぴゅきゅ、きゅきゅきゅ~!!!」
鳴くことしかできない。
陸上にあっても、海上にあってもミズクラゲの歩みは遅々たるものであった。
「きっと『メガリス』を飲み込んだんだろうさ。腹を割いて調べれば、すぐに飲み込んだ『メガリス』が手に入る!」
彼等が求めるのは呪われし秘宝『メガリス』。
しかし、彼等は知らなかったのだ。
ミズクラゲが飲み込んだのは『メガリス』であれど、『大きなプランクトン』。一体それが何の役に立つのか、彼等自身も推し量ることはできなかっただろう。
言ってしまえば、生命が無為に喪われるだけでしかなかった。
結果でみれば、そうなるしかない。
けれど、運命はそうはならなかった。
空より飛来した炎纏う雷のごとき鋭き一撃がコンキスタドールを一撃のもとに貫いていた。
「ぷきゅ!?」
何が起こったのかわからなかった。
自分を追い立てていたコンキスタドールが霧消すると同時に飛来するのは、一人の男性であった。
ミズクラゲはきっと目の前の男性が自分を救ってくれたのだと思った。
「これはこれは珍しい。コンキスタドールの気配を感じて見れば……立派に育ったクラゲであることよ。夜空に在りては揺蕩う満月のごとき見事なものであるな」
彼の言葉をミズクラゲは理解出来なかった。
けれど、己の中にある魂というものが告げているのだ。
己の中に湧き上がる感情に従うべきだと。
これはきっと『憧れ』というものであろう。かっこいいと思った。どうしようもなく憧れてしまっていた。
「コンキスタドールに襲われぬよう、陸に在りては気をつけることだ」
『憧れ』の人はそのまま立ち去ろうとする。
ミズクラゲは必死になれぬ陸上を浮かぶようにして、その背中を追う。
此処で離れては、もう二度と会えないだろうと思ったからだ。
「ぴゅきゅ。ぷっきゅ!!」
鳴く声に振り返る背中があった。
付いていきたい! どうしても付いていきたい! その心より溢れる感情が通じたのか、その人の背中が振り返る。
「……言って理解できるかはわからぬが、我らは悪霊。それも四柱……」
「ぷっきゅ!」
それでもいい! なんだっていい! 大丈夫! ついていきたい! 一緒にいたい!
その鳴き声にしかならぬ声が通じたのだろうか。
目の前の人は少し考えているようだった。
どうしたのだろうとミズクラゲの傘のような体躯が揺れる。
「……名は?」
その言葉にミズクラゲは首を再び傾げるような所作をする。
名前?
なんだろうそれは。必要なことなのだろうか。
わからない。自分は自分なのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。生命が在ること以上に必要なことなどあるのだろうか。
その様子に目の前の人はまた何か考える様子を見せた。
心が弾む。
触腕が勝手に揺れてしまう。
何を美味し得てくれるのだろう。何をくれるのだろう。
己の感情に電流が走るようだった。
「名とは体を現すもの。ならば、与えよう」
それはミズクラゲにとって最も大切なものとなった。
名前。
誰かからもらった最初のもの。これから何度も呼びかけられる名。
呼ぶ声が聞こえる。
『陰海月』と。
ならば、自分は応えるのだ。
今日も元気よく。
「ぷっきゅ――!」
成功
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