Plamotion Holiday Actor
月夜・玲
いつも素晴らしいリプレイの作成ありがとうございます。
楽しく参加させて頂いています。
折角ノベルのリクエストが始まりましたので、なかなかリプレイ中には出来なさそうな感じの事をリクエストしてみます。
舞台はアスリートアースの五月雨模型店。
折角だから休日を利用し、新作のプラクト用プラモを作りに来たという設定。
細かい描写はお任せします。
最終的に完成したのが人型プラモの手の込んだジオラマで、プラクトに使えないじゃん!
といった感じのノリでお願いできればと思います。
本当に完全お任せ!
楽しい休日って感じにして頂けたら、幸いです。
アスリートアースのとある街……その商店街の入り口には大きなモニターが設置され、その中ではアニメーションさながらに光条や爆発が飛び交う戦場であった。
モニターカメラの前を通り過ぎる影。
それは所謂ロボットアニメに登場するメカであった。
『憂国学徒兵』シリーズと呼ばれるアスリートアースで長く親しまれているロボット戦記に登場する機体であり、そのモニターを見上げる子供らが歓声を上げている。
その純白のロボットが斬り結ぶのは同シリーズのものではなかった。
どちらかというと細身のシルエットの『憂国学徒兵』。それと戦っているのは、体高がまるで違う力強いシルエットの人型ロボット。
それだけではない。
モニターの中では恐竜型のメカであったり、回転する独楽のようなシューティングホビーの主役ホビーや、はたまた怪物のような有機的なシルエットのものも同じように駆け巡っている。
そう、これこそが非公式競技ながらも多くの人々に注目されるホビースポーツ。
『プラモーション・アクト』である。
「おーおー、やってるね」
同じようにそれを見上げているのは、黒い長髪をなびかせる年若い女性であった。
彼女の名前は、月夜・玲(頂の探究者・f01605)。
一房の青い髪を耳に掛け、赤い瞳が興味深そうにモニターの中の戦いを見つめている。
彼女にとってアスリートアースの、この商店街は馴染みのある場所であった。
というより、彼女のような見目麗しい女性がいれば、嫌でも目を惹く。
彼女はすらりと伸びた足で少年たちの横を通り過ぎる。彼女が目指すのは、商店街にある『五月雨模型店』だ。
普段はオブリビオンが引き起こす事件解決のために足を踏み入れる模型店であるが、彼女はサブカルチャーに傾倒する猟兵の一人である。
特に事件がなければ、日がな一日映像ソフトや動画配信などを楽しむことだろう。
けれど、今日は違う。
用向き、と堅苦しく言うほどではない。
ただ折角の休日だから新作の『プラクト』用のプラスチックホビーを作りに来たのだ。
この『五月雨模型店』はとても品揃えが充実している。
それだけではない。
作業スペースや道具の貸し出しなども行っているため、よく猟兵たちはこの『五月雨模型店』で共に戦うための『プラクト』用ホビーを作成するのだ。
「お、玲のねーちゃんじゃん! どうしたんだ、今日は!」
「こんにちは、玲さん」
「よく参られた!」
「こ、こんにちは!」
店内に入れば、すぐに見知った少年少女が駆け寄ってくる。
「今日もまた揃っているね。遊んでばっかりじゃあダメだよ」
玲は少年少女たちの顔をそれぞれ見る。
『アイン』、『ツヴァイ』、『ドライ』、『フィーア』。
彼等はアスリートアースのオブリビオン絡みの事件の折にダークリーガーに狙われたチームのアスリートたちである。
彼等と挨拶を交わせば、後ろにちょろちょろとくっついてくる。
もう毎回恒例のことになっているのだろう。
「今日は新作を作ろうと思ってね。お、新商品。やっぱり入荷してたかー……おっと、見逃しちゃうところだったね、再販!」
此処に来るとどうしても財布の紐が緩くなってしまう。
やはり新作アニメのプロモーションをかけた商品展開は見逃せない。
もしも、次なるダークリーガーの襲来があった場合を考えて息抜きと趣味、そして実益を兼ねて作成しようと思っていた玲のモチベーションはぐんぐん上がっていく。
「これオススメだぜ!『憂国学徒兵』シリーズの最新作! 『エースの宿業』の主役機!」
『アイン』が示しているパッケージには青いロボットが勇ましくポージングを取っている姿が描かれている。
「へぇ……シリーズ最新作の商品だけあって、造形もいいね。よし、今日はこれにしよっか」
「おー! いいじゃんいいじゃん! 私もな、ライバル機の赤いやつ買ったんだけどさー!」
そんなふうに『アイン』たちと語りながら会計を済ませ玲は作業スペースに足を踏み入れる。
此処は模型製作に必要な道具類が揃っている。
ニッパーや金属ヤスリや紙やすりはもちろんのこと、エポキシパテや粉塵を吸い込む集塵機、それに加えて防じんマスクもある。
ちゃんと健康被害にならぬように配慮されているのだ。
「さて、と……そうそう。説明書のね、最初の機体の設定とかポージングを見るの楽しいよね。想像力が膨らむよ」
ふむふむ、と玲はプラモデルの箱の底から組立説明書を引っ張り出す。
まずはともあれこれからである。
息を吸い込む。
新作プラモデルを作る時の体操その一というやつである。
「稼働もばっちりだし、装甲を引き出すギミックもついてていいよなぁ」
「それでいてパーツを抑えて価格帯を手の届きやすいものにしている……企業努力の賜物ですね」
「うむ! シールも最小限! しかし、手を加えればぐっとよくなる!」
「だからぁ! 邪魔しないでってば!」
散った散ったと玲は『アイン』たちを追っ払う。
こういうのは趣味であるからいいのだ。一人でじっくりと何に気兼ねなく、そして誰かの顔色を伺うでもなく。
自分だけのものを作るという楽しみ。
パチン、パチンとパーツを切り離す。
ヤスリを当てる。
少し舞う粉は集塵機に吸い込まれていく。
組み立て、形を一つ一つ丁寧に作り上げていく興奮。バラバラだったパーツが塊になり、役割を持っていく。
「この時間がいいんだよね……」
丁寧に。一つ一つパーツの意味を考えながら、想像しながら組み上げていく。
楽しい。
何かを作ることの楽しさ、その根源に今、玲は触れているようでもあった。
「うん……いいね」
エアブラシを握り、塗料を撹拌させてカップに注ぐ。
コンプレッサーの音さえ心地よいと思えてしまうだろう。
想像を形に。形から新たな物語を創造する。
吹き付けられる色もまた玲のセンス一つで意味合いを変えていく。ゆっくりとだけど確実に作られていく世界。
「さあ、これで完成だよ。聞かせてよ、君の起動音!」
出来た、と万感の思いを持ってつぶやく玲。
目の前にあったのは世界で唯一だけの、玲だけの『プラクト』用プラスチックホビー……!
ではなかった。
「こ、これ……! 一話のラストシーンの再現ジオラマです!?」
『フィーア』の驚嘆する声が響き渡る。
そう、そこにあったのは天使の羽が舞い散り、主役の青いメカが空より舞い降りてくる印象的なシーンを切り取った情景ジオラマ作品であった。
「ジオラマにしちゃったら『プラクト』で使えないじゃん! 玲のねーちゃん、いつもこういうことする!」
「ええい、一話の出来栄えがよすぎたのがいけないんだよ! あんなの見たら作らないわけにはいかないじゃない!」
「それはそう!」
玲は塗料の付いた頬を緩ませて、少年少女たちと笑い合う。
確かに新作『プラクト』用ホビーを作るという目的は達成できなかった。横道に逸れたと言われてもしかたないかもしれない。
「横道も道の内ってね」
けれど、本来ホビーとはそういうものだ。
横道に逸れることほど楽しいものはない。
心の底から楽しいと思えること。
それが一番大切なことなのだ。いつだって大切なことはホビーが教えてくれる。
それじゃあまたね、と店の外に出ると玲は一つ伸びをして、凝り固まった体を解し、心地よい疲労感と共に呟く。
「良い一日だった」
心からそう思い、玲は休日の一日を締め括るのだった。
成功
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