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泣哭スペルビア

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層

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#ダークセイヴァー
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#ダークセイヴァー上層
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#第三層


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●罪なき罪
 貴女はわたくしへまっすぐに視線を向けましたね。まるで挑発するような野蛮な眼差しだったわ。
 貴女はわたくしの影を踏みましたね。まるでわたくしを踏み躙りたくて仕方がないといった様子でしたわ。
 わたくしの瞳を見てはいけないことすら知らない野蛮な貴女は、この楽園には相応しくないわ。
 わたくしの影を踏んではいけないことすら知らない傲慢な貴女は、この楽園には相応しくないわ。
 いいえ。
 いいえ。
 その汚らしい口を閉ざしなさい。わたくしは貴女の言を望んではいないのよ。おわかり?
 いますぐに息をとめなさい。わたくしの楽園がどんどん穢れていくわ。おわかりにならなくて?
 野蛮な貴女……傲慢な貴女……今すぐ堕ちるがいいわ。
 ――そう言われたところで納得できるものではなかった。無視してしまえばいいだけかもしれないが、それができるほど、つけられた傷は浅くない。
 赦さない。
 高飛車なアレらを見返してやらねば気が済まない。
 それにはもっと――今よりもずっと、もっと、この身に相応しい|者《アクセサリー》を探さなければならない。
 この素晴らしき身に|力《アクセサリー》が必要で、それを引きたてる悲鳴と血の|結果《シタイ》が必要だ。
 一泡吹かせてやるために、力を。
 この身に宿る途方もない力を誇示し、アレらに制裁を。
 この|私《﹅》を罵ったアレらに鉄槌を。

●ほぞを噛む
 腰に佩いた愛刀の柄を指でコツコツと叩いていた鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)の傍らに浮かび上がる蒼いグリモアの中で、|一輪の花《アネモネ》が咲いた。
 蒼い輝きの中にあって、なぜか白花であると判った。
 誉人は重苦しい嘆息を一つ――鋭く尖る紺瞳は、躊躇うように伏せられた。長い睫毛が白い頬に影を落とす――しかし、次の瞬間には、彼の双眼は猟兵たちを見据えた。
「ダークセイヴァーの第三層で、魂人たちの村が滅ぼされかけてる――今すぐ向かって、止めてきてくれねえか」
 今から行けば惨劇を止めることができるだろう。
 それでもすでに村の周辺は、溢れ返った邪悪な|力《﹅》によって『拷問具の森』と化している。
 木々には凶悪な棘がついた鉄鎖が絡み、ヒトを拘束するための鉄具が無造作にいくつも転がり、棘が一面についた拘束椅子は見る者を恐怖させ、肢体を真っ二つに切断できる巨きな鋸が地面に刺さっている。
 そのどれもが、|すでに使用されたように《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》穢れていた。
 森には地下茎が蔓延っていて、それを踏み抜くと――地雷のスイッチが入ったように、地面から鋭い竹槍が爆発的に生え、襲い掛かってくるだろう。
「なんも対処しなかったら、刺し貫かれる。空を飛ぶとかしたって、周囲の木々の枝が槍みてえに襲い掛かってくる」
 後者に捕まれば、無数にある拷問具にかけられることになるだろう。|竹槍《ジライ》の小道を通らず避けようとしても、蔓のように伸びた枝に拘束され、辿り着くのは、凄惨なジゴク。
 地面のどこかには竹槍が生えてこない道はあるが、探し出すことは至難。それを探している猶予はない。
「この森を抜ければ、魂人の村――アルバがある」
 そこを蹂躙するために、『地獄の亡者』どもが主命のもと、集結している。
「アルバの魂人たちだって抵抗する気でいるが、それもいつまでももつワケじゃねえ」
 全個体余すことなく『番犬の紋章』と融合した|亡者《オブリビオン》との交戦となる。
 戦いの中で、アルバの魂人たちは猟兵たちへの《永劫回帰》の使用も厭わない。
 村人を守りながら戦うことになる。容易い戦いにはならないだろう。
 亡者どもには勝てても、アルバを|壊《コロ》そうする領主――『傲慢の姫・プライド』の一撃は、非常に強力なものになる。第四層へと落とされかけているとはいえ、闇の種族だ。
 《永劫回帰》の力を借りて致命的な一撃を無効化しない限り、苦戦することは必至となる。
 それでも。
「お前らに頼むしかねえン――このまま放っておくと、アルバが死ぬ。助けてくれ」
 厳しい地に送り出すことになると判っていながら――それでも。
 冷たい風がひょうっと吹く。
 闇の世界と、繋がった。

●やがて始まる|未来《ジゴク》――『傲慢の姫・プライド』
「もっと私に相応しい姿になりなさい……!」
 恐怖を叫んだ者は、吊った。
 悲哀を見せた者は、突いた。
 虚無に落ちた者は、刎ねた。
 逃げる者はギロチンへ、隠れる者は火の中へ。
 非業の慟哭を聞きながら、傲慢に彼女は嗤う。アメジストを嵌め込んだような双眸を細め、嫋やかに白磁の頬を緩ませて、艶めく紫の長い髪の先を指に巻き付ける。
「そんなものでは私が引き立たない……もっと、理想を追求しないと……!」
 もっとこの身に相応しいモノを見つけ、下層へと落とそうとしたアレらを見返すために。


藤野キワミ
戦闘しませんか。
藤野キワミです。よろしくお願いします。

▼シナリオ概要
一章・冒険「拷問具の森と見えざる竹槍の竹林」:
 虎視眈々と狙う|竹槍《ジライ》の小道を抜けて、魂人の村『アルバ』へと向かってください。
 無策に飛び込むと串刺しになります。

二章・集団敵「地獄の亡者」:
 魂人の村『アルバ』での戦闘となります。すべての個体が『番犬の紋章』と融合している集団敵です。
 断章にて詳細を公開いたします。

三章・ボス戦「傲慢の姫・プライド」:
 アルバのひとたちを脅かす領主。彼らの《永劫回帰》の力を借りなければ、苦戦します。
 断章にて詳細を公開いたします。

▼プレイング受付
・オープニング公開直後〜11/23(水)23:59
・オーバーロードはプレイング投稿フォームが消えるまで受付します。
・二章以降の受付開始時にはアナウンスします。

▼お願い
特定章のみの参加など、どのような参加方法も歓迎いたします。
技能の使い方は明確にプレイングに記載してください。
プレイング採用の仔細、ならびに同行プレイングのお願いはマスターページにて記載しています。

▼最後に…
みなさまのご参加をこころよりお待ちしております。
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第1章 冒険 『拷問具の森と見えざる竹槍の竹林』

POW   :    力ずくで強行突破する

SPD   :    竹槍が伸びるより早く駆け抜ける

WIZ   :    森と竹林を見極め安全な道を見つける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アルバ/混沌に起爆する
 この村の領主は、傲慢だった。彼女は、理想がひどく高く、己の努力に裏付けされた過剰なまでの自信に満ち溢れていた。
 恐ろしかった。
 逆らうことは赦されなかった。
 しかし、それさえ守れば――無残にいたぶられ殺されることはなかった。
 なのに。
 透ける金髪を溌剌と結い上げて、みなの不安を根こそぎ攫う、爛と輝く碧眼の女は――このときばかりは蒼惶として唇を震わせた。
「ティッツィ……どうしよう……」
「どうしようたって……」
 馴染みのニーノの不安そうな声音は、彼女の背を押す。
 長として、みなの取りまとめを執っていたティツィアーナは、碧眼を曇らせる。
「ティッツィにだって困ることぐらいあるだろ」
 ニーノと瓜二つの顔のニーコが、兄の背をばちんと叩いた。
「ティツィアーナ、号令を」
 静かで低い声音は混乱を鎮圧させる――否、爆発的な力に変えるために圧縮されるようだった。
「ジルダ……判った。ニーコ、みんなに知らせて、領主様がご乱心されたと――このままじゃ、私たちは殺されること、アルバのみんなに武器をとるように伝えて」
 ニーコの赤眼が燃えるように煌めいて、首肯、駆け出した。
「ニーノは武器の準備を、ジルダと一緒にみんなに渡して」
「わかった」
 隠し倉庫へニーノは走り出す。今にも泣き出してしまいそうな青眼を不似合いな怒りに染めて。
「ジルダ――」
「大丈夫よ、ティツィアーナ」
 精一杯の抵抗を。
 ジルダに手を取られた。穏やかでも、奥に激しく燃える心をうつす暗い翠が見つめ返してくれる。
 大丈夫。やれる。押し返そう。易くないことを知らしめよう。
 折れて消えそうになる心を、互いに、強く靭く剛く叩き上げた。
 ただで殺されてなるものか。
 熾った火に爆薬を――今に引火して、大爆発するような、覚悟を。
 アルバが、静かに燃える。
クロト・ラトキエ
助けてくれ、と…
ええ。オーダー、承りました。

急ぎなのでしょう?
ならば、回り道などしませんとも。
森に入る前に、石を放り地を刺激。
竹槍の出現・攻撃速度、木々の動き…等、
行く手を阻む物らを、見切り。
また、自身の速さ、一足の幅、悪路の具合…等、
加えて知識に照らし、見極め。
見極めた路を、馳せる。

槍というならば、その軌跡は恐らく点と線。
竹であるならば、植物の特性は持ち得る筈。
地が攻撃に転じる前に駆け退き、
或いは眼前を阻む物は脚は止めぬまま鋼糸にて断ち、
貫かれるより早く次へ行く。伴うは
――拾弐式

この森は、招かぬ為か、逃さぬ為か…
如何なつもりか知りませんけど。
傲慢を謳う割には、何とも
…美学、感じられないですね



「ええ。オーダー、承りました」
 紺色の鋭い双眼を見返して、しかと肯きをひとつ。
 次の瞬間、降り立った地には――見るも悍ましい、拷問具の連なり。
「この森は、招かぬ為か、逃さぬ為か……」
 飢えと歓喜と拒絶と脅しが混然一体となって、森に蔓延っている。
 この状況の真意は想像だにできずとも、彼は凪ぐ青の双眸を細めて、小さく吐息した。
「傲慢を謳う割には、何とも……美学、感じられないですね」
 有り体に言えば品がない。傲慢さとは――少なくとも、このような無粋な力で捻じ伏せ、いたぶることではないだろう。
 乾いた風が、ひょうっと吹いて、外套の裾がはためいた。

 ◇

 助力を乞われて来たクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の手には、小石が握られていた。
 ひとつ、ふたつ。
 手の中で弄んでは、互いに擦れる音がする。
 無造作に放り投げる――なんの違和感もない放物線を描いて、落下。瞬間、地面から竹槍が爆発的に飛び出した。
「――なるほど」
 センサーの感度は、抜群。石ころひとつ転がしただけで、素晴らしい反応を示した地下茎の隙を縫っていくのは、確かに骨が折れそうだ。
 とまれ、クロトは最初から|そのつもり《﹅﹅﹅﹅﹅》だった。
(「急ぐ道です。もちろん回り道などしませんとも」)
 今度は、先よりも高く遠くへ小石を投げた。くんっと木の枝が、不自然に撓む――石を追いかけるように枝が伸びる。だが、鋭く伸びる枝が石を捕らえる直前、他方から伸びていた枝が獲物を横取りする。石を喰らう細い枝(蔓が幾本も結われ、さながらロープのようだった)に喰われた。
「それ、ただの石ですよ?」
 それほどまでに飢え、獲物を渇望しているということか。
 飛翔するものは、あの枝に。
 地を駆るものは、あの槍に。
 八方塞りもいいとろこ――しかし、クロトの演算は終わらない。答えが導き出されるたびに、新たな情報を加えられ、再計算を始める。
 『槍』というからには、それの軌跡は(恐らく)点と線。地への衝撃が引き金となって撃ち出される砲撃のようなもの。
 加えて、『竹』であるが故に、植物の特性は持ち得るはず――例えば、光屈性のような――備わっているとならば厄介な追尾性能だ。
 クロトはすべてを織り込む。
 行く手を阻むように転がる鉄鎖や凶悪な鋸刃が生えた虎挟み(隠されることなく剥き出しのままに落ちている)、どこを踏んでも竹槍が飛び出して来そうな悪路――そこを駆け抜けるクロト自身のスピードと、一足の幅、見えている障害物は躱すためのコースを見極め、さらに持ち得る膨大な知識を掘り当て、照らし合わせた。
 そして、馳せる。
 |森《ジライ》が轟く。クロトの靴裏の衝撃に即座に反応を返す。串刺しにせんと血に飢えた竹槍が瞬時に伸びる。ごあっと地が盛り上がったように感じた。踏み押さえるように蹴り、衝撃を推進力に変える。
(「――《|拾弐式《ツヴェルフ》》」)
 衝撃は伝播して、そこかしこで竹槍が飛び出している。垂直に飛び出すもの、角度がついて、斜めに飛び出すもの、そして、偶然か否か――クロトへと鋒鋩を剥いてくる。
 駆ける脚を止める理由にはならない。
 知覚した、それだけでいい。
 放つ鋼糸は、竹槍がクロトを貫くより前に半分に裂き割った。落ちる残骸にすら反応して、新たな竹槍が飛び出してくるが、研鑽が裏切ることはない。俄かに奔り、いとも容易く竹槍を割り、木っ端に刻む。
 クロトの駆け抜ける小道の轟音は止まずとも、いわば単調な攻撃の繰り返しだ。
 驀地に馳せ、貫かれるより速く。
 迫る危機は、その悉くを、躱し切り伏せた。
「……視切ってしまったので、――もう、僕には通用しませんよ?」
 答える声はあらずとも、飄然として、クロトは森を駆け抜ける。
 やはり、この森のどこからも『美学』を感じることはできなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
竹槍の生えない道はあれど悠長に探す時間はない
一秒でも早くアルバの村へ向かうなら―強行突破、でしょうね

我ながら短絡的と溜息をつきつつUC「神使招来」使用
強行突破を選択したとはいえ甘んじて竹槍の洗礼を受けるつもりはなく

森に足を踏み入れる前に結界で身を守る準備を
これで私達を貫くまでの時間稼ぎになるでしょう
その間にウカは神剣の朱雀の力を用い、兄様の炎を共に竹槍を燃やしてしまいなさい
ウケは弓矢で、月代は衝撃波で木々の枝の対処を
みけさんも援護射撃をお願いしますね

短絡的な上に力技…ですが手段を選んでいる場合ではありません
何よりこの悪趣味な森に遠慮をする気もなく
森を一気に抜けるためにも全力でいきますよ!



 確かに、美学のかけらも感じられない、悍ましく凄惨な器具の森だ。
 この森の意図するところは、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)のあずかり知らぬところではあるが、のんびりと考察し推察し熟考している時間がないことは、承知している。
 安全な道があることも――|あることだけは《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》判っているが、悠長に探している猶予はない。
「一秒でも早くアルバの村へ向かうなら――強行突破、でしょうね」
 我ながら――狐珀は嘆息しつつも、この方法以外を思いつく時間すら惜しむ。
 力を編み、収斂する。干渉を拒絶する結界へと姿を変えていく狐珀の聖性は、竹槍の刺突を拒むだろう。
 突貫することを選択したとはいえ、甘んじてすべてを受けてやる気は毛頭ないのだ。
「いきますよ」
 《神使招来》――狐珀を守護する英霊が降りる。
 黒狐が高く鳴く。神剣に眠る朱雀の力を解放し、ごあっと炎が舞い上がった。
「ウカ、そのまま兄様の炎と共に焼いてしまいなさい」
 燃え上がる炎は拷問具の連なる森の影を濃くさせるほどに燦然と照らし出していく。|竹槍《ジライ》の小道へと踏み入れる前に、狐珀の声は止まらない。
「ウケも、月代もお願いします。もちろん、みけさんも」
 動員出来得る限りの力を動員する。白狐が宿す破魔の力も、仔竜も翼を羽ばたかせれば、空気は掻き混ぜられ、風が巻き起こる。
 その風に煽られる木々が騒がしく揺れ――風に背を押され、喧騒を裂くように狐珀は駆け出す。
 三歩目、地面がうねりを上げたのを感じ取る。足がとられるよりも先に踏みつけて、飛び出す槍は結界に阻まれ、鋒鋩から槍を飲み込む炎が気勢を削ぐ。
 それだけに止まらず、飛翔する月代めがけて、鋭枝の魔の手が伸びた。
「止まってはいけません!」
 狐珀の発破。
 破魔の力が顕現した矢が聖性を散らし、枝を突き破る。月代とて、鋭枝の猛襲に怯んでいない。翼で撃った衝撃波がウケの力を取り込んで、大きなうねりへと変じていった。
 刹那、|森《ジライ》が轟く。
 張り巡らした結界に突き刺さり俄かに罅を走らせた竹槍が、厳炎に巻かれ燃え上がる。とどめをさすのは殿からの容赦ない法撃。
 木っ端に砕けた竹槍の燃え滓は、ひらひらと地に落ちる――さすがにその衝撃では、新たな槍を突出させるトリガーにはならなかったようだ。
 だからどうした。些末なことだ。それは結果だ。狐珀は振り返らない。
「全力でいきますよ!」
 止まる気はない。
 ただまっすぐに突き進む。
 この先で繰り広げられる惨劇を止めるために。
(「短絡的な上に、力技……」)
 自身のとった手ではあるが、省みれば苦笑を禁じ得ない――否、これこそが|策《﹅》だ。
 躊躇いも戸惑いはもとより、目的を最短で達するために、幾重にも張り巡らせる周到な策は棄てた。
 奔る破魔の矢は、突出する竹槍を砕く。
 従者たちの活躍は、森の地雷を捻じ伏せる。琥珀の張った結界は、だんだんと弱りつつあるが、ウカの炎の壁は容赦なく、ウケの放つ矢は精彩を欠くことはない。
 力強い声で月代が鳴いた――士気は高い。戦意は揺るがない。
「こんな悪趣味な森に遠慮はいりません」
 想像で心を殺し、痛みで支配し、恐怖で抵抗を奪う。尊厳は無残に踏み躙られるだろう。吐き気がするほどに嫌悪しか生まない森だ。
 ふつりふつりと、懲悪の火が熾る。
 向かい来る竹槍の先端が結界にぶち当たって、また燃やされた。
 じきに結界は壊れ散るだろう。だったとして、狐珀が足を止める理由にはなり得ない。
 アルバへ辿りつくまで、走り出した足を止めることはない。
 一心不乱に、凄惨な森を驀地に駆ける。
 呼応する従者たちもまた、主から離れることなく、共に駆け抜けた。
(「……間に合って!」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
ったく…むかつくな
とりあえず俺の体重と同等の質量になるように混ぜて、先行させて進める道をあぶり出すぞ

「…あぶねぇな」
剣(皆)で飛び出た竹槍は積極的に切り落として生命力吸収し、体力消費は極力抑える
刺さったキメラは抜いて処分し、確保されたと見える安全地帯を別のキメラに通らせて本当に安全かチェック

ひたすら一直線にまっすぐ進む
どうしても通れないところはキメラを積み上げ竹槍を隠し…と恐ろしいまでの脳筋、ゴリ押しでひたすら真っすぐ最短距離を突き進むぜ

アドリブ連携歓迎



 《刻印》によって蒐集されたモノを捏ね合わせてキメラの群れを喚んだ。
 その異形は、各々の手に刀剣を携える――彼らに命じる仕事はただひとつ。
「進める道を炙り出すぞ、日和んなよ!」

 ◇

 聞けば聞くほどにムカっ腹の立つ話だった。
 尾守・夜野(|墓守《うせものさがし》・f05352)の気は立つ。|竹槍《ジライ》はその数を減らさない。
 【|還元式混沌創造《テキトウコントンメーカー》】にて招いたキメラたちは、夜野の質量とそう大差ないほどの体積を持ち、驀地に|小道《ジライゲン》を突っ走る。無防備な獲物に喜び勇み飛び出す竹槍は、さながら血に飢えた獣で、彼らを刺し貫く――が、ただで終わるわけではない。
 携えた剣は、鋭く疾く竹を斬る。
 信じがたくとも、これは植物だ。しかも爆発的な生命力を宿している――一太刀に宿る力は、容赦なく竹の力を吸い取っていった。
 夜野が失った力は、竹の生命を変換して夜野の糧となる。
「……あぶねぇな!」
 唾棄。着地の瞬間、夜野の足元から突出した槍先を辛くも躱し、発生したエネルギーを殺さないままに剣を振るった。小気味よい手ごたえと、からんと落ちる竹の破片――瞬間、それをまるで新たな獲物であるかのように狙い貫く、二発目の|竹槍《ジライ》。
 地下でどれほどの勢いで生長し続けているかを考えれば、ぞっとしない。
 進める道を見つけ出す――とは作戦名で、その実、夜野がしているのは、『|進める道に変える《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》』ということに他ならない。
(「けどこれが、一番手っ取り早いだろうが」)
 先行した猟兵が通った道へとキメラたちを走らせても、先と同じように竹槍は飛び出し、無惨に刺し貫かれる。
 夜野やキメラたちに斬り砕かれた竹槍の破片が落ちた衝撃は、再度のトリガーとなる。
 確保しきれる安全地帯は、ないのではないか。
「ほんっと……むかつくな」
 易々と安全を確保させてくれない。動かなくなったキメラから竹槍を抜き、《刻印》の裡へと落とし込む。
 こうして――動かなければ森は静かだ。
 ひょうっと吹く冷たい風が、枝葉を僅かに擦り合わせるくらいで、薄気味悪い拷問具の連なりは、一切の悲鳴を上げない。
 トリガーは振動だ。
 地を揺らすと竹槍は飛び出してくる。罠が作動した箇所に留まっていれば、安全だ――それになんの意味がある。
 夜野の赤瞳は炯々と尖った。
 この森の真意は判らない。拒絶と、恐怖と、支配が蔓延る森が、俄かに轟く。大地への衝撃に反応して、加速度的に燃え上がる爆音の中、|疾風《はやて》に駆け抜ける。
 慄くひまはない。
 立ち止まる時間が惜しい。
 飛び出す竹槍が髪を掠めた。翻り振るう剣閃で、それは真っ二つに割れる。
 夜野はもう足を止めない。
 ひたすら一直線に、ただ真っ直ぐに駆ける。
 先行させる|囮《デコイ》も、夜野のぎりぎりの一閃も、前へ進む原動力となる。|小道《ジライゲン》を直走り、轟く竹槍の猛攻の中、不敵に一笑。
 いくら行く手を阻もうとも、いくつも策(たとえそれが強引な手であったとしても)を用意してきた夜野の足を鈍らせるものではない。
 最短距離で――もっともロスの少ないコースを走る。
(「なんとまあ……我ながら、おっそろしいくらい脳筋だな」)
 危機はキメラが吸収する。犠牲は織り込み済みだ。
 それでも、この先で繰り広げられる惨劇を思えば、この程度の脅威は比べ物にはならないだろう。だからこそ――
 アルバよ。今は、耐えてくれ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
誉人のお願いを果たすっす!誉人晩御飯の事でも考えてるっす!

アルバの村に急ぐっす!
絶対に死なせないっす!

香神占いで罠が来る進路を読み躱していくっす

汚れから罠がある場所を予想し
地形を利用して仕掛けられている罠も見抜いて
踏み込む候補から外し
暗殺者の勘を働かせて
周りを分析し罠の少ない道を進んでいくっす

拾っておいた小石を投げ罠を発動させてフェイントをかけ
誘導して同士討ちを狙って敵を盾にして相殺したり地形を利用して躱すっす
躱しきれない最低限の物の破壊に努め体力を温存するっす
どうしても喰らいそうなら被害が少なくなる様に身体をずらすっす
絶対に足を止めないっす
止めてる時間は無いっす!

ここが決戦じゃないっす
序盤で力を使い果たす訳にはいかないっす
この罠だけでもどれだけの人が犠牲になったのか
殺意を溜めて行くっす
道の先に居る敵に向けて
悍ましい景色を壊す為に駆けるっす

それが一番早く抜けられる道なら
わざと罠を発動させたり
少々の回り道をすることは厭わないっす
悲鳴をあげている村へ急ぐっす!



 この力が助けになるならばと駆け付けた。
 難しく辛そうに歪められた顔をした彼には、晩飯の事でも考えておけと伝え――言外に、任せておけと胸を叩いた――、悲痛な願いを果たすと約束をしてきた。
 だから、急がなければならない。
 助けを乞うているのは、真に彼ではなく、瀕しているアルバの民だ。
「絶対に死なせないっす!」
 吠えて、黒瞳を尖らせた。

 ◇

拷問具は、すでに穢れていた。ただの錆とは思えない。生々しくも悍ましいシミ――蔓延る鉄鎖にべったりと纏わりついたソレ。
 合わせた鏡の中に現れるような、ほんの僅かな|勝機《ミライ》を見つめる黒い眸は、凄惨であることを理由に目を背けることはない。
 この眸に映るものすべてが、散りばめられる罠への解だ。些細な残滓は点だが、繋ぎ合わせれば導かれる罠のカタチ。
 拾っておいた小石が、香神乃・饗(東風・f00169)の手の中で、小さな音を立てて擦れ合った。
 駆け出す。
 同時に、手の中の石を弄る――ひとつは親指で弾き飛ばし、続けざまに他方へと投げる。小石が落ちる衝撃ですら、地下茎は反応を示すことは、すでに分かっていた。
 多くの|敵《﹅》が来たと錯覚させるために、小石を投げた。地下茎に、喰らってやる殺してやる貫いてやるという|意思《ココロ》があるのかは、想像するほかない(きっとないだろう)が、それでもセンサーが過剰に反応して、それが隙になるかもしれない。
 視える範囲の未来には、それが饗の不利になることはなさそうだった。
 それでも――すべてを読み切ることは難しい。だからこそ、饗は観察と推察を止めない。暗殺を請け負ってきた勘を働かせる。
 すべてが推測への材料となって、饗は即座にコース取りを修正していく。小石を投げては、竹槍が突出したそこは避け、惨憺たるシミを避け、驀地に駆ける。
 ここが決戦の瞬間ではない、ここですべての力を使い果たすわけにはいかない。
 消耗は最小限に抑えたい――饗の本音に他ならない。生えた竹槍に手をかけ、仮初の足場とし、いっとき大地から逃れる。しかし不安定極まりない、ここにいてはバランスを崩すことは必至、次の着地点へと跳ぶ。竹槍はすぐさま饗の足の衝撃を感知して飛び出す――が、それはすでに|視ていた《﹅﹅﹅﹅》。躱し方は予習済み。
 肩を掠めた竹槍を振り返らず、一瞬の判断を繰り返し、ほんの先の未来を視ながらアルバへの道を急いだ。
(「到底、看過することはできないっす」)
 助けを乞う声が耳に残っている。
 命を弄ばれようとしている人々の声が、彼の声を辛うじて得ただけにすぎない。
 轟く|森《ジライゲン》の終わりは、アルバだ。今に地獄と化す村だ。理不尽を押し付けられ、蹂躙されようとしている村だ。
(「……――大丈夫、絶対に死なせないっす」)
 胸中で、今一度、約束に頷いて。
 二言はない。
 饗を串刺しにせんと飛び出してくる。手にした苦無を思い切り振りきる。小気味よく斬り割られた先端は、饗へ届く前に地に落ちた。
 爆発は連鎖する。
 衝撃は衝撃を呼んで、うねりを上げ饗を飲み込んでいく。研ぎ澄ます感覚は、凛呼として張りつめ、微かな違和を斬り捨てる。
 苦無に斬られた竹の破片が、饗の着地であると|錯覚《﹅﹅》させる。集中砲火となる槍の刺突は、重なれば重なるほどに、無惨に甲高く鳴り合う。
 背負う梅鉢紋へ竹槍が迫る――貫かれる――よりも、もっと速く紅半纏は翻る。大地を踏み躙り、全身の発条の勢いを殺すことなく|竹槍《ジライ》の波にのまれることなく、その先端を駆け抜け、躱し馳せる。
「しつこいっす……!」
 折り重なって木っ端に砕けた竹を踏み、饗は鋭く短く息を吐いた。
 この森に足を踏み入れて、無事でいられるひとは一体どれほどいるのだろう――竹槍に集中し、跳ね躱しながらも、饗は唾棄した。
「でも、――」
 彼の漆黒の双眸に映るのは夥しい罠の数――実際に聞いたわけではない犠牲者の悲鳴が耳に蘇るようだ。
 地の滲みは乾いた血溜まりではないか、枯れ果てた枝に見えたが真偽は判然としない。
 非業の魂が蠢いているように思えた。
 どれほど助けを求める悲鳴を上げたろう。
 どれほど惨たらしい殺戮が行われたろう。
 失意と絶望の末にどれほどの命が終わっていったのだろう。
 考えれば考えるほどに、饗の中で殺意が渦巻く。溜まりゆく激しい感情は、この道の先にいる度し難い敵にだけ向けられる。
 悍ましい光景は、後ろに流れる。足裏に受ける刺激を跳んで躱し、踏んでは跳び、竹槍の突出を避け続ける。僅か先を走る己の姿をなぞるように、駆け続ける。
 一等速く、一等犠牲なく、駆け抜けることができるならば――と、地雷原を突っ走る決意を固めて、饗の黒瞳は、激情を内包して静かに燃える。
 最短のコースを突き進むことで時間をロスするのならば、多少の迂回で時間を短縮することができるならそれすら厭わない。
 己の安否と、アルバの悲鳴を天秤にかけ――苛立ちに騒ぐ胸を抑え、饗は疾る。
 急げども、焦らず。
 焦って下手を打つより愚かしいことはない。
 奔る。
 疾る。
 |ちらっと視えた《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》凄絶な景色を真っ向から否定し、壊し尽くすために。
(「絶対に足を止めないっす――止めてる時間はないっす!」)

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『地獄の亡者』

POW   :    堕落
自身の【欠片ほどに遺されたわずかな正気や人間性】を捨て【紋章の力をさらに引き出した、完全なる亡者】に変身する。防御力10倍と欠損部位再生力を得るが、太陽光でダメージを受ける。
SPD   :    レギオン
【別の亡者】と合体し、攻撃力を増加する【2つ目の紋章】と、レベルm以内の敵を自動追尾する【亡者弾(肉体の一部を引きちぎったもの)】が使用可能になる。
WIZ   :    呼び声
自身が戦闘で瀕死になると【10倍の数のさらなる地獄の亡者】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●プライド/絶望に笑う
 虚ろに吠える|地獄の亡者《オブリビオン》の歪な左肩に、|なにかに噛まれた《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》ような傷がある。否、噛み痕のように見えるだけで、それこそが、『番犬の紋章』だ。
 集結し、指示に従うだけの傀儡のすべてに紋章が刻み込まれてあった。
 |番犬《﹅﹅》――なにを守っているのか、あるいは目的はすでに忘れたか――の落ち窪んだ眼窩に、溌剌と漲る力はなく、言われるがままに魂人たちへと狂気を振るう。
 共に背を守り合う者、背に弱者を庇う者――誰もが無慈悲な蹂躙から決死の抵抗をする。その強い絆は、闇の中で燦然と燃える。
「それでも――だとしても、私を引き立てる光には、まだ足りないでしょう?」
 傲慢に長い髪が、ひょうっと吹いた冷たい風に靡く。冷徹なアメジストは、亡者どもにわずかな牙を立て始めた、アルバの石ころを見定める。
 亡者が押し寄せるだろう。
 今よりももっと、絶望を生むだろう。
 逃げてきたとて、この手で美しいこの身に相応しい|アクセサリー《シタイ》へと変えてやろう。
 耐え足掻いてみろ。
 とっておきの輝きのために。
 凄絶にプライドは、静かに美しく嗤った。
四条・眠斗(サポート)
ぅゅ……くぅ~……あらぁ?
いつの間にか始まってましたかぁ~?
さっさと事件を解決しないとぉ、安心してもうひと眠りできませんからねぇ~。
ユーベルコードは出し惜しみしても仕方ありませんからぁ、
一気に片づけるつもりでやっちゃいましょう~。
案ずるより産むがやすしともいいますしぃ、躊躇うよりはいいですよねぇ~?
こう見えてもぉ、腕には少し自信があるのですよぉ~。
それにぃ、様子を見てる間にまた眠くなっちゃっても困っちゃいますしぃ。
荒事じゃなくてぇ、楽しいことならめいっぱい楽しんじゃいましょう~。
のんびりできるところとかぁ、動物さんがたくさんいるところなんか素敵ですよねぇ~。
※アドリブ・絡み歓迎



「ぅゅ……くぁ~、……んん……もう少し眠っていたかったのにぃ~……」
 |番犬《﹅﹅》は、アルバに迫る。
 その数は、四条・眠斗(白雪の眠り姫・f37257)ひとりの手に負える数ではない。しかし、捨て置くこともできない。
 ぼやくように、小さな唇をむずりと震わせる。
「そんなに大騒ぎされるとゆっくり眠れませんしぃ……」
 ふわりと小さな欠伸を嚙み殺して、とろりと微睡む銀の眸で、迫る危機を見た。
 虚ろに吠えた亡者が、おもむろに傍らにいた個体を喰らい融合する。
 形容しがたい悍ましさで、力は弥増して――その変容を待たず、眠斗は、【|ゲリラ豪雨(枕)《ゲリラゴウウトコロニヨリマクラ》】を喚んだ。思考を重ねるよりも今は、一体でも多くの敵をアルバへ近づけさせないことが優先される。
 亡者にだけ降る枕の大雨は凄まじく、抗い難い猛烈な眠気を齎して、集団の気勢を削ぐ。
「眠いとぉ、ちゃぁんと動けないでしょう~……わかりますぅ……ふぁあ……」
 しかし、眠斗の睡眠を妨げたのは、そちらだ。大変に胸糞の悪い理由で、罪なき魂を蹂躙しようとする地獄の亡者の動きがすこぶる鈍る――動きたくとも動けないだろう、考えたくとも考えらないだろう。その地獄をとくと味わうがいい。
 落ち続ける枕は、安眠へと誘う。ふわりと浮き上がるような眠りに落ちる瞬間の、えも言えぬ安心感に身を委ねてしまえ。
「――――オオオオォォォ……!」
 言葉なき慟哭は、亡者どもが這い寄る眠気から脱するための咆哮か――『番犬の紋章』が亡者どもの肩を食い破った。
 凄まじい痛みに覚める目は、やはり眼窩に彩を持たない。己の腕やら指を引き千切り投げつけてきた。
「こう見えてもぉ、――」
 華奢な眠斗だが、その身に滾る膂力は、伊達ではない。
 とてつもなく大きな《白錘》を担ぎ上げ、
「腕には自信があるんですよぉ~」
 あらぬ軌道を描く肉片が迫るが、彼女はそれを薙ぎ払えば、猛烈な風が生まれる。衝撃波にも似たそれに掻き混ぜられた混沌は、いまだ亡者を支配する強力な眠気を呼び覚まし、四肢から力は奪われ、歪な巨躯は地に倒れ伏す。
「眠ってしまった方が楽ですよぉ」

成功 🔵​🔵​🔴​


●アルバ/熾烈に哭く
 猟兵たちが策を駆使し、駆け抜けた先の地獄にあるのは、魂人が身を寄せ合う村――アルバ。
 乱心の領主の放った狂気が迫る、じきに死ぬ村だ。
 それに真っ向から歯向かい逆らい抗うことを選んだ、生を諦めない村だ。
 長い金髪を乱し、長剣を手に戦場と化した村を走る女と、彼女を守る大盾を掲げる碧眼の女――短いブロンドは、すでに血と汗で汚れている。
「ジルダ、私はいいからニーノについて!」
 敢然と吠えるティツィアーナの肝は据わった。迫る危機に、長としての矜持で奮い立つ。ジルダに守られるだけではいけない。
 荒事が嫌いなニーノでさえ、恐怖と怒りで涙を流しながら鉄槍をとっているのだ。
「ニーノ、だめよ! 一人で対処しようとしないで! ジルダ、お願い!」
「ティッツィ! ニーノは俺のだ、心配いらねえよ!」
 臆病な彼と瓜二つの顔を好戦的に光らせて、同じ鉄槍を構えるのは、彼の双子の弟だ。
「なあ、ニーノ!」
「ニーコがいるなら、僕だってやれるよ!」
 双子はまるで一人であったかのように、阿吽の呼吸で亡者と渡り合う。
 ティツィアーナを守るために動かないジルダの静かな碧眼が、押し寄せる地獄を見つめていた。
「ティツィアーナ、剣を握りなさい。双子より、私より、貴女自身のために」
 むろん、この軍勢がすでに数を減らしていることは知らない――これで総数だと思っている。すでに救いの手が差し出されていることを想像できるほど、彼女らは命を投げていない。
「双子より、村の者より、私は貴女を守るよ。覚えておきなさい」
 あの亡者の群れから。
 左肩に刻まれる|犬に噛まれたよう《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》な傷跡を一様に持ち、虚ろに吠える軍勢だ。
 その中の一体が、ジルダへと奔り寄る。大口を開ければ、びっしりと生える鋭い牙――犬のそれを思い出させた。
「はァっ!」
 発破の咆哮と同時にティツィアーナの剣が閃く。銀閃は亡者の腕を僅かに傷をつけ、返す刃でジルダの大盾を噛み砕かんと牙を立てるそれの頸へと鋒鋩を突き立てた――果たして、それの皮膚は見た目以上に硬く、ティツィアーナの膂力では、通らない。
 ジルダの碧眼が、焦りに瞠られた。
尾守・夜野
「…つい…た!助太刀する!」
ノータイムで戦闘に移行
「こんな見た目だが一応俺が使役してる奴だ
盾かわりにでも使え!」

数が多いほうが厄介なので合体を誘発するぜ
移動力に特化したキメラを呼び出し肉盾扱いに
飛んできた亡者弾を食わせたり、俺が皆(剣)で受け止める際に刻印で取り込んだり

合体してデカくなってから肉体を削っていく
(…あの歯型…)
もしかしたら、元はこの村の誰かの肉体だったのかもしれんが
ならばより一層傷つけさせるわけにはいかん
噛まれるとやばそうだから最優先でキメラでガード
受けたキメラは瞬間的に自壊させ戦力の横取り等が起きないようにしとく

アドリブ連携歓迎



「はっ、……つい、た! おい!」
 乱れた息を整えて、疲労した足を休めて――そんな時間すら惜しい。
 共に|小道《ジライゲン》を駆け抜けてきたキメラを、大口を開けて女を喰らおうとしていた亡者に嗾ける。
 喰われたのは、果たしてキメラだった。喰らっている隙に歪な巨躯に一太刀を浴びせ、二人を背に庇った。
「間に合った、で、いいか? 助太刀する」
「はい……、助かりました」
「こちらはなんとかしてみせよう。ありがとう。――貴殿に頼みがある」
 大盾を構える女は、自己紹介の時間がないことを詫びつつ、鉄槍を振るう双子への加勢を乞う。
 断る理由は、ない。

 ◇

 尾守・夜野(|墓守《うせものさがし》・f05352)の赤い双眼には、魂人の兄弟の奮闘がしかと見えていた。
 瞳の色が違うだけで瓜二つの少年は、互いに守り合いながら鉄槍を操っていたが、それがいつまでも続けられるとは思えない。
 【|還元式混沌創造《テキトウコントンメーカー》】にて喚び出したのは、機動力に優れた姿のソレで――防御に徹するための彼らは、双子の元へと奔る。
「くっそ、増えやがった!」
 その状況に赤眼の少年が、明確な悪態を吐いて、盛大に舌打ちをした。
「こんな見た目だが一応俺が使役してる奴だ」
 確かに敵が増えたと勘違いしてしまっても無理はないか――少しだけ苦笑を漏らす。
「お前たちの盾にはなる! 使え!」
 叫びながら、抜き身の《怨剣村斬丸》を振るった。奔る銀閃は、双子に向って走り寄っていた亡者の背を裂く。
 彼らを守るように展開していたキメラたちが、亡者どもの犬然とした牙の攻撃に耐え、呻き声を低く轟かせた。
「気張れよ!」
「味方……?」
「ニーノ! 気を抜くな!」
 臆病に青瞳を揺らせた彼を一喝した赤眼の少年は、盾として使えと言われたキメラを一瞥して、何度も頷いた。
 その胸中をはかり知ることはできない。
「こっちは任せろ!」
 魂人の双子に声をかける――これ以上亡者どもの数が増えれば厄介極まりない。物理的に対処し辛くなる。余裕がなくなるのは勘弁だ。
 だから、夜野たちの方が手に負えない戦力を有して、純然たる数だけでごり押しできると思わせないために――
(「こっちが立ち止まってるわけにはいかないな」)
 赤の双眸を燃え上がらせた夜野はキメラたちへ、「全力で守れ!」と叫べば、彼らの鬨が上がる。
 眩いほどの絆で結ばれた双子から、切っても切れない縁で結ばれたキメラたちへと亡者は標的を移す。
 引き千切り、投げつけられた肉片は亡者弾となって、激しく醜悪に迫り、執着し追いかけてくる。キメラが夜野の盾になる。辛くも夜野への影響なく、肉片を受け止め崩れていく――ダメージと共に自壊していく背に隠れ、亡者の視界から外れた。一呼吸。研ぎ澄ます赤が光る。次に亡者が夜野を見つけたときには、彼の態勢は整っていた。
 亡者の頸を刎ねんと剣で薙ぐ。噴出する鮮血を浴びて――その|命《﹅》は、余すことなく、《刻印》へと蒐められる。
(「……あの歯形……もしかしたら、……」)
 亡者の肩に刻み込まれた傷を一瞥し、夜野は眉根を寄せる。
 眼前の巨躯は、元はアルバの民の誰かだったかもしれない――こうして取り込まれて、増殖し、また捏ね合わされて――結果的に、夜野の眼前にいる歪な獣へと姿を変えてしまっているだけで。
「……やっぱり胸糞悪ぃな」
 苛立ち交じりに剣を振るい、キメラの盾をさらに厚くさせる。
 もし、この予想が当たっているならば、なおのこと――アルバの民を殺させてなるものか。だからこそ夜野は、|皆《﹅》の力を借りる。
 捏ね合わさったソレの盛り上がった巨躯へと――否、肩に蔓延る『番犬の紋章』へと刃を突き立てた。
「むかつくんだよ、どうしたってな!」
 たとえ、ココではソレが法だったとしても、そんなものを容認できるはずもない。夜野は亡者の躰を蹴って刀身を引き摺り出す。
 その衝撃に、虚ろに吠える獣は、慟哭し苦しみ叫び悶え攣まり、やがて果てる。
 夜野の赤瞳に宿る光は、一層強く烈しく輝いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星羅・羽織(サポート)
魔術師ローブのヤドリガミ。
何世代にも渡って受け継がれてきたローブがヤドリガミになったもの。
その内には蓄えられた膨大な魔力によって疑似的な宇宙が成っている。

見た目は小学生くらいだけれど、年齢は数百歳。
性格は見た目通り幼めで、寂しがり。
困っている人は放っておけないタイプのため、遠回りなことを言いながらも、積極的に手伝ってくれる。
蓄えられた知識は広く深い。それを活用して必要とあらば助言もする。
喋りはたどたどしい。

戦闘は中遠距離からの宇宙魔法を駆使して行う。
セリフや行動は完全にお任せ!
好きに喋らせたり動かしたりしてください。

話し方は読点(、)多め。
「私が、助ける、から。安心して、ね」
みたいな感じ。



 ひょうっと吹いた風に揺らされた深い藍の髪は、夜空。
 前髪の奥でふたつ――揺るがずに輝く金瞳は、星。
 落ち着き払った微笑みを頬に刻んで、地獄の軍勢を見据えた。
 星羅・羽織(星空に願いを・f00376)の性分だった。知ってしまったからには、今まさに困っている人を放っておくわけにはいかない。
 闇色の|外套《ローブ》の裾を冷たい風に靡かせる。
 長い袖から見えることのないブレスレットからは、|煌々《キラキラ》と魔力が漏れ出している。
 落ちる星屑は眩く燦然と、煌然と。
 苦に苦を重ね、なき罪をなすりつけられ、その生涯を弄ばれる命を助けるために、決意に輝く。
「今、助ける、よ」
 戦地と化した村を吹き抜ける風は、羽織の眼差しの魔力を纏い、無尽に舞う――やがて颶風となってアルバを揺るがせた。
 凍える風は羽織の力を孕んで氷粒を生み出して、星の煌きを散らしながら地獄に吹き荒ぶ。
 舞い上がる氷は吹かれ奔るものも、中空に漂い粒を大きくさせるものもあった。
 星のそれにも似て、俄かに眩い|月夜《﹅﹅》が訪れる。
「凍える、夜……終焉の、寒さが、くる、よ……君たちに、耐えられる、かな?」
 アルバを背にして立つ。運命に懸命に抗い戦う彼らを決して巻き込まぬように。
 羽織はふわりと頬を緩めた。
 刹那、ごうっと|星《コオリ》が落ちた。幾筋もの軌跡を描き、凍える風と共に、膨大なエネルギーを発露させながら、亡者たちを凍えさせる。
 それらに抗う術はない。
 ともすれば暴走しそうになる――奔放にあちこちに星が落ちそうになる。落とすのは、アルバへと押し寄せる軍勢にのみ。
 難しくとも構わない。蓄えた知識と経験は、羽織を裏切らない。
 |番犬《﹅﹅》のように鋭い牙を剥き出して、凍えて動かない足を無理矢理に動かそうとし、地に倒れ伏した亡者が、声の限りに叫ぶ。
 《呼び声》が囂々とがなり立てられるが、仲間を増やした途端、落ちる|星《コオリ》に貫かれ、絶対零度の魔力に曝され、凍て果てていった。
「少し――寒すぎた、かな?」
 真っ白い息を吐いて、人差し指を立てた。
「でも、ここは、通さない」
 微笑みはそのままに、静かに囁く。
 《星空のローブ》が揺れはためくたびに、|宇宙《ソラ》の冷気はあふれ、亡者を押し止めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

香神乃・饗
幸福な記憶を代償にする力
転生する過程で記憶を削ぎ落しているとでもいうんっすか
だとしても楽しい記憶から奪っていくのは
生き甲斐を消して死に向かえというんっすか
楽しさが消えたら心は死ぬっす

ここで生き長らえても
生き残ったと言えるんっすか
この世界の仕組みは過酷すぎやしないっすか

世界に支配された運命を変える為に
戦うっす!

アルバの皆、助けに来たっす!
お前等全員、蹴散らしてやるっす!
弱い奴を狙って何になるっすか
強きを倒してこそじゃないっすか!

地形を利用して接近し手近な敵を暗殺し強さを示した後
名乗り上げ俺を敵と認識させおびき寄せ
挑発して弾筋を集めてかばうっす

この弾は追尾だけ必中じゃないっす!
勿論油断はないっす
香神占いで弾道を読み続け
当たるとフェイントをかけ
剛糸で周りの敵を引き寄せ敵を盾にしたり
地形を利用して寸前で躱し命中させたり
弾が当たるまでに近接し斬ったり

幾ら合体しても
弾を当て削り落とせばいいっす

命があればいいだけじゃないっす
楽しい事を沢山積み重ねて幸せになる事こそ『生きる』事っす!
消させやしないっす!



 冷たい空気が荒れ狂う。
「お前等全員、蹴散らしてやるっす!」
 その中で、男の声は鮮烈だった。
「弱いやつを狙って何になるっすか、強気を斃してこそじゃないっすか!」
 |地獄の亡者《オブリビオン》に男伊達を説いても暖簾に腕押しなことは、重々承知の上で。それでも、男の漆黒の双眼は強く尖り、不条理への怒りは沸々と煮え滾る。
 熱き怒りを嗤うこともなく、己が信念に奮い立つこともなく、亡者はオオォォ……と虚ろに哭いた。

 ◇

 香神乃・饗(東風・f00169)の声に呼応したように、俄かに風の温度が下がる。ぞくりと背筋が震えるほどの温度変化が起こって、彼の吐く息は白く濁ってすぐさま立ち消える。
 地獄の亡者どもがどのように戦うかを観察していた――饗は、僅か先の未来を感覚する。重なるように見える不可思議な視界の中で、奔る苦無の軌跡をなぞるように擲つ。柄尻に結わえた剛糸が境界線となる――否、引かれた境界はうやむやに狭まっていく。饗の意思が纏わりついた苦無は亡者の頸へと巻き付いたのだ。
「手出しはさせないっす」
 凍風に吹かれて乱れた金の髪をそのままに、決死の覚悟で盾を構える女の目の前の亡者を引き倒す。
「アルバを助けに来たっす。俺が、守るっす!」
 軍勢になれば死角は増える。まして歪な躰は巨きく、アルバの民ばかりを|見《﹅》ていた。眼窩は虚ろで、光がない。果たして本当に|見《﹅》ているかも判然としない。
 こちらを向け。
 引き倒した亡者の背へと苦無を擲てば、深々と突き刺さる。
 別の亡者がその倒れ臥した肉塊の腕を掴み上げ、躊躇なく喰らう――虚ろな目を饗から逸らさず睨み据え、あっという間に吸収してしまった。すでに視ていた未来をなぞるそれは、あまりに業腹で受け入れ難い。
「俺が相手になってやるっす!」
 金の髪を乱した女たちの前に立ちはだかり、的はひとつだと宣言する。
 この残酷で惨たらしい力の渦からアルバを遠ざけねばならない。早急に、確実に。
 投げつけてくるのは、己の手の指。|番犬《﹅﹅》のようなしつこさで饗に照準を合わせたまま、大勢なるが故に僅かに数を減らしたところで不利にはならないとでもいいたげで。しかし饗に油断はない。その悉くを|視続ける《﹅﹅﹅﹅》。
(「視えた弾は追尾だけ必中じゃないっす!」)
 いくら合体し強力になろうとも、馬鹿の一つ覚えのごとく追尾し続ければ、考えようはいくらでもある。
 操る剛糸で亡者の足を絡めとり縛り上げ、瞬時に放り投げた。果たして饗を捕まえんと迫る|手《﹅》は、肉塊を嬉々として掴み共に弾ける。
 回避したことで気を緩めることはしない。
 投擲された|腸《はらわた》を寸でのところで屈んで躱し、饗を喰らわんと開け襲う|亡者《番犬》の口の中へと吸い込まれ、弾けとぶ。
「できれば! 下がっていてほしいんっすけど!」
 矛と盾をそれぞれに操る二人を庇いながら、立ち回る――まだ動けるうちに前線から退き、隠れていてくれるならどれほど――しかし、いやに落ち着き払った碧眼が饗を流し見て、俄かに笑う。
「ここは我らの、ティツィアーナが興した村だ。その長が戦うかぎり、私たちは退けない」
 剛力でもって閉じられんとする牙を盾でなんとか防ぐ。その鉄盾も、いつまでも持つまい。耳障りな甲高い音が響く中、鉄剣が亡者の|肩《﹅》へと突き立てられた。
「心配はない。覚悟はできている」
「ええ、ジルダのいうとおり。助けてくれてありがとう。でも私たちにも、あなたたちを助けさせてください」
 ジルダの盾に護られながら決死に戦うティツィアーナが、汚れた剣で空を切る――堂に入った血振るいの後、大きく愛嬌のある碧眼は、饗を見上げ微笑んだ。
(「これっすか、アルバの人が助けてくれるってのは……!」)
 【永劫回帰】という恐ろしい力を使うことに躊躇しない彼女らの決意に、饗は唇を噛んだ。
 それがいかな力か聞き知っている。
 幸福な記憶を代償にする諸刃の剣――そんな破滅の力を甘んじて受け入れるという。彼らは、生れ落ちてから今まで想像を絶する苦痛に曝されてきている。
 生き地獄の中で見出した幸福な記憶は、いったいどれほどあるだろう。それが彼女らにとって、生きる糧となっていないのか。耐え凌ぐ原動力たりえないのか。それから奪っていこうという非道に、饗の怒りは燻り続ける。
「――生き甲斐を失って死に向かうというんっすか。倖せが消えたら心は死ぬっす」
「私の生き甲斐は、ティツィアーナが生きているという事実だ。あの子が生きているなら、私は生きていられる」
 彼女は敢然と笑い、傷だらけの盾を構えた。
 この戦いを凌ぎ、生き長らえたとして、それを生き残ったと誇ってもいいのか。あまりに救いがなく、蔓延る悲しさが暗澹と帳を下ろす。
(「この世界の仕組みは過酷すぎやしないっすか」)
 命があるだけが救いではない。生はあるだろうが、活がない。それは、傀儡だ。
 楽しいことを積み重ね、倖せを集め、笑んで咲んで――それこそが|生きる《﹅﹅﹅》ということだ。
 生きる力の燈火を吹き消してなるものか。
 彼女らの力を借りるまでもない――饗は、視えた未来を|なぞらない《﹅﹅﹅﹅﹅》。
 幻影の己とは違う軌跡を描いて、苦無を擲った。
 それは亡者の|まるで犬に噛まれたような痕《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》へと吸い込まれるように穿つ。もう一投。哀しくも腹立たしい世界に支配された彼女らの運命を少しでも変えるための一撃は、亡者をどうっと斃した。
「|アルバ《イノチ》は俺が守る、いくらでも戦ってやるっす……消させやしないっす!」
 どこからでもかかってこい――梅鉢紋が誇らしげにアルバを背負う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
間に合った、と言える状況ではありませんね
状況を確認する間すら惜しいです、皆いきますよ

物言いたげに見つめるウカとウケを横目にUC「狂炎舞踊」使用
これを快く思わないのは重々承知していますが、思考する間すら惜しい状況下でこれが最適解と判断したのです
さ、時間が惜しいと言ったでしょう?
ウカとウケは月代達と一緒にアルバの民を守るのに徹してください
衝撃波や鋭い爪、それに結界は彼らの手助けに十分なります
そこにみけさんの砲撃が加われば容易に手を出すことはできないではず

まだ不満気なウカ達を苦笑しながら見つめた後、盲者へと向直り見据えたまま地踏みしめ、一気に相手の懐へと踏み込み手にした神剣を振り抜き、亡者を一刀の元に溶断
高熱で傷口を炭化させ固定し、再生する余地すらも許さない
もっとも瀕死すら許すつもりはないけれど
斬撃で仕留められないなら即座に焔を手繰り盲者へと
死して尚も苦しむ盲者に瀕死という苦しみを更に与えるつもりも新たに苦しむ盲者を生むなどもっての外
苦しみの連鎖を止めるのは即死しかない
負の連鎖は全て止めます!



 すべての状況を確認することすら惜しい。駆け参じた彼女は、村の状況を一瞥、藍の涼やかな双眸を曇らせる。
 否、この瞬間すら惜しい。
「皆、いきますよ」
 眷属たちが口々に同意する――が、それすらも、僅かな時間だった。

 ◇

 物言いたげな黒狐と白狐は、二対の眸で吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)の決断を咎める。
 決して『間に合った』と言える状況にない今、瞬間的に爆発させられる最大の力を発揮するしかない。
 狐珀の命を燃やす清炎が、ごありと燃え盛った。
「すごい……!」
 戦乙女へと成った狐珀の炎に驚きを隠す気もない少年は、構えた鉄槍をそのままに、歓喜の声を上げた。
「ニーコ、見てるかい?」
「ああ、ニーノ。俺たち、助かるかもしれねえ」
 聞こえてくるのは、途方もない絶望を裂いた希望の光――猛火の輝きに安堵する二人の声。
「油断はしませんが――もう大丈夫です。貴方たちを守りにきました」
 張り巡らせるは、結界。
 強固につくりあげることはできずとも、彼らを守ることならできるだろう。
 【狂炎舞踊】によって、喚び出された神剣が一振り。
 狐たちが咎める理由はよくわかる。琥珀はやはり苦笑を禁じ得なかった。
「さ、時間が惜しいと言ったでしょう?」
 不承不承といった様子を崩さないウケもウカも、それでも狐珀の言葉に逆らう気はなさそうだ。彼らも真っ向から否定するつもりはないのだろう。
 月代が甲高い声で一鳴き、ひらりと空中を駆ける。仔竜は双子の頭上を飛び、もう一度、威嚇の鬨を上げる。
 鋭く尖る爪を亡者の、|左肩《﹅﹅》へと突き立てる。低い叫び声は、虚空に喧しく。
 狐珀の張り巡らせた結界の維持はウケが担う。魂人の双子だけでなく、前線の後ろにいるアルバへと災厄を近づけさせぬように、巻物に封じられる源を発揮させる。
「みけさんの砲撃も加えれば、アルバは容易に落とされることはないでしょう」
 だから、今は狐珀の援護よりも、アルバを護るために力を使ってと、敢然と言い放つ。
 じいっとウカが狐珀を見つめている。もの言わない視線だか、ひしひしと伝わってくる。
「そんな顔をしていないで」
 はっきりと苦笑を漏らして、狐珀は神剣を構える。
「ウカとウケは月代達と一緒にアルバの民を守るのに徹してください」
 狐珀の身を案じていることは、十分にわかっている。
 それは、寧ろ覚悟の上だ。
 過ぎた力であろうとも、己が身を灼く狂炎であろうとも、ひとたび狐珀の身に宿してしまえば、止まることは許されない。策を練る時間ももったいない。
 だからこそ、この力を発揮する。
 だからこそ、信頼たりえる眷属たちに護れと発したのだ。
 だからこそ、狐珀を狂炎の舞を踏む。
(「兄様……!」)
 清かな炎を吐く神剣を輝かせた。
 藍の眼差しは揺るぎなく、眼前の亡者を見据えたまま、一歩踏み込む――反対の足で強く蹴り出せば、一瞬のうちに懐へと入り込む。凄まじくも清冽な身のこなしで、炎が奔った。
 亡者を一刀両断。
 斬傷は聖炎に焼かれ、血肉の焦げる臭いが鼻に突く。
「一思いに終わらせてあげます――瀕死すら許しません」
 神楽を舞うように亡者どもの中を、炎と共に駆け抜ける。冷たく吹いた風は一瞬にして熱されて新たな風を喚び、狐珀の背を押して黒髪を混ぜる。
 死して尚も苦しむ亡者に、死ぬに死ねない苦しみを与えるつもりもない。
 それゆえに新たに苦しむ亡者を生み出すなんぞもっての外だ。
 中途半端に生き残るから苦しみは終わらない。
 誰も彼もが生きることを諦めない――それを否定することは、狐珀にはできない。
 だが、オブリビオン――その存在を認めるわけにはいかない。彼らを苦しみのどん底に突き落とし、今なおいたぶり脅し貪り弄する行いを見過ごすわけにはいかない。
 ウカとウケが狐珀に代わって魂人の双子を守っている。みけさんの演算に抜かりなく、月代の放つ衝撃波に相乗して亡者を蹂躙する砲炎を噴く。外れることはなかった。|番犬《﹅﹅》たらしめる唸り声を上げ、牙を剥き出し、今に赤瞳のニーコへ跳びかかろうとしている亡者を押し返す。
 狐珀の聖性が編み込まれた結界に触れた亡者の躰は焼け焦げ、隙が生じ――それを見逃すウケたちではなかったのだ。
「俺も負けてらんねえ!」
「ダメだよ、ニーコ。みんなの負担を増やしちゃいけない」
「だってよ、ニーノ! みろ! 俺たちのためにあんなにやってくれてる! 黙って見てられるか!」
 赤眼に炎を映し、きらきらと煌かせるニーコは、鉄槍を担ぎ直し、奔らせた鋒鋩がひゅんっと空を突き破る。
 ふたりの会話を聞きながら――彼らの士気が落ちていないこと、生を諦めていないことを改めて知る。
(「その意気を保っていてくださいね」)
 それが原動力になる。
 狐珀はそれを知っていた。
 藍の双眸は、執拗に追いかけてくる亡者を厳然と睨めつける。
 走り続けた足に疲れは溜まれども、それを凌駕するほどの力が燃え上がる。
 一等背の高い亡者の|肩《﹅》へ神剣を突き立てる。凄まじい踏み込みから放たれた刺突に、それは断末魔の悲鳴を上げた。瞬間、巨躯を焼き潰すほどの猛火が噴き上がる。
「静かに逝きなさい!」
 清かな焔は炎々と――炎獄へ誘う浄化の力を発揮して、亡者は炎にくるまれ動かなくなった。
 この連鎖を断ち切るためには、悠長なことはしていられない。とにかく一撃で、即座に死を与え続けなければならない。
「負の連鎖は全て止めます!」
 たとえ、今、刻一刻と、狐珀の命が削られていこうとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
つくづく無粋な姫君でいらっしゃる。
…或いは、この程度が相応の方であるのか。
ええ、ええ。直にそうお伝えしたなら、どれほど楽しい事でしょう?
となれば…
あの狗らは、邪魔ですね。

アルバを慮るよりそんな事を考えている辺り、今日も実にひとでなし
…とは、脳裏を過ぎりすらしないけれど、さて置き。

先ずは見敵必殺。
敵が動く前なら、機動を削ぐべく足狙いか、
又は、そも命脈を絶つ為の頸狙いか。
繰り出せるだけ鋼糸を操り範囲攻撃としつつ、数を屠りたく。

自ら数を減らしてくれて、その上、傷付いてくださる、と。
何とまぁ…好都合なことで。
放たれる肉片は返す糸で斬り、払い、落とし。
追尾というなら、断ち易く並ぶよう直線的に動くなど、逆に利用し軌道を定め。
その手足の挙動、意識や敵意の向き、速度…
見切る凡ゆるを以て回避、カウンターに繋げ、損耗は抑えて。

拡げた鋼糸は、ただ散発的な攻撃の為だけでは無く。
周到に編む、鋼の檻
――拾式

狗風情は、疾くご退場を。
…傲慢?
結構。
研鑽、経験、現在…
これは、積み重ねたが故の自信。
褒め言葉というものですよ



 がなる慟哭。
 さんざめく凍風。
 眼鏡の奥の甘やかな眼差しは、それをどこ吹く風と穏やかさを滲ませる。
「いやはや、つくづく無粋な姫君でいらっしゃる……或いは、」
 虚ろを映したままの眼窩は暗渠然として、見る者に薄ら寒さを覚えさせた。
 このような眷属を従える者ということだ。己の言葉を発するでもない、虚ろを叫び、言外に慟哭をまき散らす――このような。
「この程度が相応の方であると言えましょうか、ええ、ええ。わかっていますとも」
 乱れた金髪の魂人――意思の強そうな大きな碧眼を見返して、これは戯言であると笑ってみせる。
(「|お楽しみ《メインディッシュ》はまだ先ですね……」)
 ぜひとも、この惨状を引き起こした、傲慢なる姫君に一言を浴びせてやろう。
 アルバを慮るよりも、このようなことを考えてしまっているあたり、本日も実に|ヒトデナシ《﹅﹅﹅﹅﹅》――なんて、ちらと脳裏を過ることすらないけれど、それはそれ。さて置く。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の青い双眸は、穏やかな眼差しで巧みに隠した不穏な光を宿らせる。
 亡者の左肩に蔓延るのは、犬に噛みつかれたような痕――それを余すことなく、すべての個体は持っていた。
「あの狗らは、やはり邪魔ですね」
 目指すところは、見敵必殺。
 金髪を乱した獅子奮迅っぷりを目の端に捕らえたまま、傷ついた仲間を喰らい融合した亡者に、冷ややかな感嘆を漏らす。
「何とまぁ……好都合なことで」
 大勢なるが故に――後先を考えている風でもなく、剥き出しの本能(少なくとも理性の元に行動しているとは感じられなかった)と凄絶な獰猛さで隣にある個を喰らう――亡者は共食いをして自身の戦闘能力を底上げさせた。
 力を得るためとはいえ、集団の要たる数を自ら減らし、そのうえ――
「そうして自分で傷ついてくださる、と……少し、いえ、この先は言わないでおきましょう」
 その身に喰らいつく紋章からどす黒い血が噴き出して、呻く亡者は脇腹を引き千切り、投げつけてきた。
 噛み千切った指が。
 引き剝がした頬の肉が。
 煩悶苦悶慟哭泣哭、喧噪喧噪喧噪――クロトを執拗に狙い続ける。
 追尾という厄介な力が遺憾なく発揮される。それを諾々と受け入れてやるつもりは毛頭ない。
 縦横無尽に奔り拡げられた鋼糸が両断し、軌道を逸らし、払い落とす。
 知覚した戦場の条件、敵の状況、意識の向き、味方の位置、アルバのひとたちの位置、動き、すべてを予測して、最低限の動作で、飛来する肉片を一絡げに叩き落す。
「もう追いかけられるのには、飽きましたね」
 反射で飛び出す竹槍も、しつこく追いかけてくる肢肉片も、犬然と牙を剥いて爪を尖らせる亡者にも。
 嘆息を禁じ得なかったが、やるべきことは明白だ。
 クロトに狂爪が届く前に、悉くの軌道を捻じ曲げる。
 力で押し切ってくる亡者の勢いを利用して、軽やかに躱し往なし、損耗を極力抑え立ち回る。繰る糸に亡者の命は削り取られていく。滴る命はそのままに、迫りくる足を引っかけ、臥したそれの頸へ糸が巻き付いた。
「しつこいと嫌われるというのは、あなた方には通用しませんか?」
 頸こそ命脈だろう――苦しげに首をひっかき糸を外さんと暴れ、左肩の|噛み痕《﹅﹅﹅》へ鉄剣が突き立てられた。
「守られるばかりでは、申し訳が立ちませんから!」
「これはこれは……、気丈なお嬢さんですね」
 手短に礼を述べたクロトの双眸は、彼女を一瞥し、絶え間なく襲ってくる狗どもに意識を集中させた。
「そんなに急いで来てくれなくて結構です――ああ、本当に可愛い仔犬なら話は別ですが。狗風情には、疾くご退場を願います」
 拡げた鋼糸は、ただただ亡者の数を減らすだけではない。散発的な攻撃のためだけに展開したわけではない。
 周到に。
 気取られることなく、巧妙に。
 緻密に精密に抜かりなく編み上げたのは、鋼の檻だ。
 遍く鋼糸が亡者どもを飲み込んだ。
(「――|拾式《ツェーン》」)
 多くの亡者を巻き込んで、情け容赦のない断截を。糸の一本一本までにクロトの意思が反映され、手綱を握られている。
 あらゆる方向からの烈しい斬撃が、肉片を散らす亡者を削ぎ落していった。
 上がる断末魔。耳を劈く慟哭。噎せ返る腥血の不快。
 クロトの視界の隅々まで張り巡らされた鋼糸は、蜘蛛の巣のように敏感で、亡者を刻んでいく。
 番犬のように執拗に標的を追いかける性質には、うってつけ――愚かさを丸出しにして、亡者どもは虚ろを窪んだ眼窩に、絶望を垂らし込めていく。

 ◇

 亡者どもの数はあらゆる方法で屠られ斃され目減りした。
 アルバの魂人は、彼らの目の前で喰われ壊されることもなく、守り抜いた。
 彼女らは一様に息は上がっているし、手にしている得物は傷まみれになり、ぼろぼろに刃毀れし、彼女らも怪我をしていたが、命が消えてなくなることはないだろう。

「なんて無様なのでしょう……この程度の抵抗を捻じ伏せることができないなんて――|番犬《イヌ》がきいて呆れます」

 場違いなほどに瀟洒なドレスの裾が血泥で穢れたことにすら気が回らなくなったのか、美貌を歪めて吐き捨てたヒトこそ、『傲慢の姫・プライド』だ。
 艶めく紫の髪が、ひょうっと吹いた風に遊ばれる。
 どこから見ていたのか――生じた疑問を口にする前に、鉄剣を振るっていたティツィアーナが、悲鳴じみた怒号を振り絞った。
「傲慢な……!」
 嫌悪と畏怖に碧眼を曇らせた彼女の、あまりに不用意な言葉に戦慄したのは、他でもないティツィアーナ本人だった。
 嫣然と微笑み、妖艶に瞳を輝かせる|姫君《プライド》がゆっくりと唇に舌を這わせる。
「……傲慢? 結構なことではないですか」
 クロトの声は、一触即発の緊張を削ぐ。ティツィアーナと姫との間に割って入ろうとした盾の、烈しく尖る碧の双眸が咎めるような鋭い視線を刺してくるが、クロトの纏う飄然たる烈気に押し黙り、息を飲んだ。
「研鑽、経験、現在……これは、積み重ねたが故の自信。褒め言葉というものですよ」
 自信は力になる。これまでの成功も失敗も、すべてが自信の源だ。これを誇らず何を誇ればいい。
 しかし。
 アルバのすべてを蹂躙しようとする、傲慢の姫の存在を肯定する気には、なれなかった。
「隠す美徳というものを知った方が、より一層高みへと近づくというのに」
 その先の言葉は言わずに、クロトは吐息をひとつ。
 力の振るい方が違うばかりに、誇れる自信は姿を変え、傲慢に不遜に眷属どもを頤使した|姫《﹅》が可憐な声をあげて笑った。
 アメジストを嵌め込んだような美しい双眸は、クロトを映して――白磁のような頬に、隠しきれない醜悪さを露呈する嘲笑が刻み込まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『傲慢の姫・プライド』

POW   :    相応しき振る舞いを
敵より【自身が圧倒的に優れていると信じている】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
SPD   :    相応しき従者を私に
無敵の【自分に相応しい万能なる従者】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    穢れは相応しき存在へ
状態異常や行動制限を受けると自動的に【圧倒的自尊心に基づく拒絶】が発動し、その効果を反射する。

イラスト:ゆりちかお

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は向・存です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アルバ/嗤うプライド
「|番犬《イヌ》は所詮イヌ。私の求める結果が出なかったところで、イヌの粗相に目くじらを立てても仕方のないことでしょう」
 ただ、とても、残念なだけ。
 そう言い足した艶めく紫の長い髪を指先で遊ぶ女は、穢れた肉片を踏み潰しながら、優雅に歩み寄る。
「イヌは、私に相応しくなかっただけ――それでも、アレを退けた貴方たちの行いを褒めてあげましょうね」
 威勢がいいのは、嫌いではないの。
 くすくすと可憐に笑って、アメジストのような双眸を細くさせる。
「でも噛まれるのは嫌いよ。とても愛らしく踊る|イヌ《アクセサリー》は好き。私に相応しく雄々しく強い|イヌ《アクセアリー》は、とても好ましいわ。
 だけどね。
 残念よ、とても残念。
 今は遊んであげる時間はない」
 滔々と言葉を紡ぎながら、血が滲み込んだアルバを踏み荒らす。
「私には早急に、キレイなキレイな|力《アクセサリー》が必要なの。今すぐに相応しい|者《アクセサリー》が必要なの。
 そうして、それよりももっともっと、キレイな|力《アクセサリー》を見つけて――あの忌々しい……失礼。貴方には、関係のない話だったわ」
 少し、話過ぎてしまったようですから、そろそろ、私のために|死んで《輝いて》くださいね。
 ほんの少しだけ歪んだ柳眉だったが、すぐさま元通りになる。
 秘めやかなる不撓の日々に裏付けされた圧倒的な自信は――傲慢な自尊心となって、彼女の美貌を歪ませた。

「簡単に、死ぬわけがないわ!」

 敢然と声を張り上げたのは、アルバの長たるティツィアーナ。
 得物は損傷激しく、もはや剣として機能することは困難だろう――そこまで戦った彼女は、毅然と背筋を伸ばし、声を張る。
「私たちはおもちゃなんかじゃない……! 生きるためなら、生き残るためならなんだってするわ! ここで、唯々諾々と死を押し付けられるなんて、まっぴらよ!」
 碧眼は轟然と燃える。
「ティッツィだ……聞いたか、ニーノ」
「聞いたよ、ニーコ。ふふっ、ああなったティッツィは止まらないからね」
 くすくすと笑いあう双子の魂人もまた、彼女の決意が伝播している。
「僕らも覚悟してるよ、ティッツィ!」
「あんたはそうでなくっちゃな! アガる!」
 言って、彼らも傷まみれの槍を掲げ、地を穿つ――もはや持っていても槍としての命は終わっていたのだ。
「まあ、目障りで耳障りなこと――」
「その言葉は、そっくりそのまま、貴殿に返そう」
 ジルダの落ち着き払った声音が緊張を強める。
「我々も侮られたままでは、少々不愉快だ。一筋縄ではいかないことを証明してみせましょう」
 歪みきった盾を放り投げ、玲瓏と鳴りそうな澄んだ碧を細めて、頬に笑みを刻み込んだ。
 【永劫回帰】を辞さない彼女らは、一矢報いる。
「ちっぽけな虫けらが、威勢だけは立派……ああ、貴方たちは、自分がこれからどうなるかなんて想像できないでしょうね――いいわ、特別に教えてあげる」
 美貌が歪む。醜悪に歪む。踏み潰した肉片を振り返ることもなく、プライドはゆっくりと歩み来る。
尾守・夜野
「…犬に虫けらねぇ
じゃあそれに負けるてめぇはなんだ?
微生物か?」
嘲笑には嘲笑を挑発には挑発を返すぜ
…予知では《永劫回帰》の力を借り致命的な一撃を無効化しねぇと苦戦するって言ってたっけな…
だがよ
そりゃあねぇだろ!
ここまで来たんだ!
ぶっ倒す!

UCが対応すんのは「空間」
思考をするかどうかというのは個人
後、別に反射されても回復するだけだし

跡形もなく消し飛ぶとかじゃねぇ攻撃はすべて無視
一瞬後には消える些事だ

勝てねぇような相手に挑む俺等はきっと正気ではねぇんだろうさ
だがそれがどうした?

致命傷以外全無視して攻撃に極ふり


※アドリブ連携歓迎



(「……予知では【永劫回帰】の力を借りねえと、苦戦するとか言ってたっけな……」)
 思案していることを悟られぬように、尾守・夜野(|墓守《うせものさがし》・f05352)は顔色を変えることなく、プライドの歩みを見る。
 双子の魂人の、懸命に戦う姿――生きる姿を見た後だ。彼らを気にかけていた、魂人の女たちの戦う声も聞こえていた。
 彼らの力は強大だ。
 だからこその、諸刃の剣だ。
 【永劫回帰】のリスクを、夜野は知っている。なぜ、|無効化できる《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》かを知っている。
 陰湿的な、傲慢に染まった嘲笑を浮かべるプライドを睨めつける。
「……犬に虫けらねぇ」
「他になんと例えるのが相応しいかしら。のろま? 塵? でくのぼう?」
 流れるように溢れる罵詈に夜野の赤瞳は鋭く鋭く――冷たくも熱く燃え尖る。
 頬に刻んだのは、冷笑。
「じゃあそれに負けるてめぇはなんだ? 微生物か?」
「負ける? 私がですか? なぜ? どこから導かれる解ですか?」
「そうだ、てめぇが俺たちに負ける。どこから導き出されるか? んなもん、実力差ってヤツだろ!」
 冷笑には冷笑を。
 嘲りには嘲りを。
 そうして――判りやすい挑発には、挑発で返す。
 実のところ、夜野の腹は煮えている。守ってもらうために護ったわけではない。彼らの力を借りれば、どのような結果になるか、容易に想像できる。
 端的に言ってしまえば、糞食らえだ。
(「ここまで来たんだ、ぶっ倒す!」)
 烈気を迸らせれば、ひょうっと風が|戦場《﹅﹅》を駆け抜けた。
(「死を散じ血を以て餓えを満たさん……!」)
 夜野の生命力が溶け出る――貪欲に生を求める血となって、戦場に降り注ぐ。
 血の雨は、環境を狂わせた。
「どうか終わってくれるなよ!」
 夜野の発破に、ニーノが笑って答え、兄に続いて弟も「死ぬつもりねえよ!」なんて、大口を叩く。
 正気を保とうとすればするほどに、死に近づく。狂気に染まれば、あるいは。すでに狂っているのなら。
 この|雨《﹅》は、慈雨となる。
「穢らわしい」
 白い肌が、血の雨で染まっていくさまに、プライドは柳眉を顰めた。しとりとドレスを濡らす血を払う。
「相応しくない……この|穢《きたな》い赤は私には相応しくないわ」
 夜野の作り出した【|死散血餓《シザンケツガ》】の雨を嫌って、一層眉間の皺を深くさせた女は、傲慢にアメジストじみた冷たい目を細めた。
 赤黒のブーケで口元を隠せば、双眸の冷酷さは際立つ――黒と赤の花弁が舞う。まるで|意思を得た《﹅﹅﹅﹅﹅》ように舞い狂う花弁が、夜野の頬を掠める。ちりっとした痛みが、理解させる。
「その花が武器かよ」
「すべてが私の|力《アクセサリー》……美しいでしょう。この美しさに平伏すなら、――いいえ、そんな甘いことを考えているようでは、私はまだまだ未熟。この私を穢して、簡単に赦されると思っているのなら、躾直してあげないといけないから」
 高圧的に、不遜に、冷徹に――プライドが、|拒絶を示す《ユーベルコードを発動する》。
(「これを、肩代わり……? そりゃあねぇだろ! やらせるかよ!」)
 そのために――発揮する力は考えてきた。跳ね返されたとて、夜野にも、魂人たちにも不利にならない力――それでいて、アレにダメージを与えられるもの――それが、空間そのものへの干渉だ。
 心の持ちようは、個人の自由だ。正気だとか、狂気だとか、不安だとか、快楽だとか、愉悦も欺瞞も悲哀も、なにもかも、なにを感じ、なにに涙を流し、なにに笑うか。それを決めるのは個人だ。
 プライドに『心』を操る力はない。
 ただ、圧倒的な自尊心のままに力を跳ね返すだけ。|それ《﹅﹅》を知っていることは、大きなアドバンテージだ。雨足が強くなったことも、特段気になるようなことではなかった。舞い続ける赤黒の花弁は不規則に夜野を傷つける。だが、これに対処する気はない。好きなようにさせておく。流れ出ていく血はそのままに、赤い瞳は女を睨めつけるまま、彼は口元だけで笑う。
「勝てねぇような相手に挑む俺等はきっと――すでに正気ではねぇんだろうさ」
 見ず知らずの者たちを救うために、自身が傷つくことも厭わず、呼吸を整える時間すら惜しんで、決死の勢いでここまで駆けてきた。
 絶対的な支配者として君臨するプライドへの反旗を翻した魂人たちにも、ある種の狂気が蔓延っているのだろう。
「だがよ、それがどうした?」
 正気でいられなかった。
 悪行を見なかった聞かなかったことにはできなかった。だから、夜野はここにいる。
 呪詛の滲む《怨剣村斬丸》はすでに抜き身――飛び込む、斬り放つ。加護を受けた、もはや必中の一刀が、プライドに迫る。
 夜野が跡形もなく消し飛ぶほどの威力の攻撃以外は、すべてを無視するつもりでいる。不本意ではあるが、魂人たちが、それを打ち消してくれる――大変に胸糞の悪い話だが、一瞬後には消えてしまう些事だ。
 己の【倖せ】と引き換えの、強大な力だ。使わせたくはない。しかし、それを使うのは、彼らの意思だ。身を挺してアルバを救いに現れた猟兵のために動くのは、言ってしまえば彼らの自由――双子は、準備を怠らない。
「正気だったらできねぇことがごまんとあるんだよ!」
 烈々と赤瞳を眇め、返す刃で詛の垂れる剣閃を奔らせる。
 一瞬後、握る柄に伝播する衝撃は、女の肉を斬った感触。耳を劈くのは、女の悲鳴。激しい雨音に掻き消されることのない、耳障りな罵り声。
「化けの皮が剝がれてるぜ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

星川・杏梨(サポート)
『この剣に、私の誓いを込めて』
 人間のスーパーヒーロー×剣豪、女の子です。
 普段の口調は「聖なる剣士(私、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
 時々「落ち着いた感じ(私、~さん、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

性格はクールで凛とした雰囲気です。
常に冷静さを念頭に置く様に努めており、
取り乱さない様に気を付けています。
戦闘は、剣・銃・魔法と一通りこなせます。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


コーデリア・リンネル(サポート)
 アリス適合者の国民的スタア×アームドヒーローの女の子です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、機嫌が悪いと「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。

内気な性格のため、三点リーダーや読点多めの口調になります。
ですが人と話すのが嫌いでは無いため、
様々な登場人物とのアドリブ会話も歓迎です。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


シフィル・エルドラド(サポート)
『皆に元気を分け与えにやって来たよ!』 

ハイカラさんの勇者×国民的スタアの女の子。
 普段の口調:明るい(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)
 嬉しい時の口調:ハイテンション(あたし、あなた、~さん、ね、わ、~よ、~の?)

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

元気一杯で天真爛漫な性格をしていて、ポジティブな思考の持ち主。
困っている人や危機に陥っている人は放ってはおけず
積極的に助ける主義です。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「……私も、手伝いますよ」
 『紫』とひとくちに言っても、濃淡さまざまで――不遜なアメジストの輝きは、傲慢に昏く澱むプライドの双眼。
 一方で、少女の紫はさやけき光を湛えて、魂人の気高き決意を映していた。
 コーデリア・リンネル(月光の騎士・f22496)は、彼女らの想いを託される――救済を。元凶たる、傲慢の姫の|失脚《メツボウ》を。
「この力が役に立つなら、全力を賭して」
 もう一対の紫瞳は、清冽に輝く。静かな煌きは流星のごとき烈しさで、掲げた聖剣を滑り、プライドを射抜く。
 星川・杏梨(聖炎の剣士・f17737)は落ち着き払った呼吸を繰り返し、状況把握に努めた。
「俺たちだって、もう、たくさんなんだ!」
 苦しめられ痛めつけられ弄ばれて脅かされる――気まぐれに、戯れに、道楽的に蹂躙されるのは。
 少年の悲痛な叫びに、彼女の心は決まる。
「|地獄《コレ》が終わるなら、なんだってしてやる」
 透けそうなほどの金髪は、先の戦闘で汚れ乱れているが、彼――アルバの村を守るために必死に戦った双子の片割れで、名をニーコという――の赤瞳は力を失っていない。
 爛々と希望を輝かせていた。
「だったら、この窮地、一緒に打開しよう!」
 からりと明るい声音は、シフィル・エルドラド(ハイカラさんの勇者・f32945)のそれだった。青く強い眼差しは凛として揺るぎなく、天真爛漫に笑めば、それだけでその場は華やぐ。眩く輝く刀身の剣がアルバを照らし、必死に抵抗を続けた魂人たちの心も照らすようだった。
「いくら頭数をそろえようとも、私に敵わないという現実を見るべきね」
 プライドの言下、魂人たちを背に庇う彼女たちの顔を順に見て、嘲笑ともとれる笑みを白磁のような頬に刻む。笑み一つとってみても、女の傲慢さは薄まることはない。
「私にはやらなければならないことがあるのよ。遊んであげても構わないのだけれど、早々に死んでくださいね?――従者たち、私の元に来なさい」
 まずは、これらと|遊んで《コロシアッテ》いなさい。
 ぞろぞろと現れたのは、女を崇拝するような眼差しで見つめる、ヒト型のバトラーどもだ。どこからともなく現れはしたが、非常に不安定な存在であることは明らか。それでも形を保っているのは、ひとえにプライドの揺るぎない『想像』の力だ。
「……それ、まぼろしだけど……辛くないの?」
 それはあなたを慕う本物の従者ではない。それは、あなたが作り上げただけの幻。幻影。嘘。虚像――ぽつりぽつりと、饒舌とはいえないが、的確にプライドの闇を暴く。コーデリアの言葉に、女は眉根を寄せた。
 しかし消えない。バトラーどもは懐から銀の短剣を出し、プライドの命令に嬉々としてコーデリアたちに襲い掛かる。
「想いが力になるなら、僕たちだって負けられない!」
 言い放ったのは、ニーコと瓜二つの魂人――双子の片割れのニーノだった。【永劫回帰】の加護は、バトラーの消滅を意味して、その瞬間に駆け出しプライドとの距離を詰めたコーデリアの左腕が伸びる。
 広げられた左掌は、瞬時に獅子の|顎《アギト》へと変じ、プライドの腹へと食らいつく。
「っ……!?」
 どろりと溢れ出る生命力は、余すことなくコーデリアの力となった。
 リスクとデメリットと隣り合わせだったとしても。
 勝機がそこにあるのなら、その勝機に賭けるのはおかしなことではない。
「くう……従者よ! 今すぐに私の元へ、そして、あの忌まわしき存在に死を!」
 醜い叫び声が響いた。あまりに似つかわしくない声音だったが、女の苛立ちと焦りが顕れていると、確信へと繋がる。
(「――大丈夫」)
 杏梨は覚悟を決めて、大きく息を吐いた。
 攻撃されることは、分かっている。しかし杏梨の躰からは、先の正義感に裏打ちされた闘争心が失せていた。《流星の聖剣》の輝きだけが、地面に向ってさらさらと落ちていく。完全な無防備。一撃のうちに殺されてしまうかもしれないが、|今だけは《﹅﹅﹅﹅》、|そうはならない《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
 杏梨を守るべく【絡繰り】が現れたのだ。杏梨を守るためだけに虚空より召喚された|彼《﹅》は、その衝撃のすべてを吸収してしまった。絡繰りがガタガタと震えて、いま受けた力の強大さに慄いているようだったが、まるで見当違いであることを、シフィルは知っていた。
「そっくりそのままお返しするわ」
 杏梨の言下、絡繰りは受けた凶悪な力を反射する。
「な……!」
 慌て驚く女は、咄嗟の事に対処が遅れた。傲慢であるが故に他者を見下し、己を疑わない。ある種の滑稽さに、しかし杏梨は笑うことなく、プライドを見続ける。
 冷静さを失わない紫の眼差しは、自身の力を己が身に受け苦しむプライドを睨み据えた。
 『傲慢の姫』の華やかさに相応しいバトラーどもは、各々の手に小さくも鋭い武器を持ち、しつこくもシフィルらへと迫る。
「僕たちの村で好き勝手するの、ゆるさない!」
 助けに来てくれたひとたちに痛いことすることも。
 |むらのみんな《家族》が苦しみ、|泣哭《な》くことも、これ以上は見ていられない。
 だからニーノは力を発揮する。
 みんなを守るための力だ――その加護を受けて、シフィルの勘も鋭く閃く。恐ろしく鋭い勘――とはいえ、十分に予測できるほどまでに弱体化させられたバトラーの動きでは、シフィルの《聖剣エデン》の一閃を防ぎきることはできない。
 裂帛の発破とともに、バトラーは斬り伏せられ、消滅した。
「そろそろ諦めてもいいんじゃないかな?」
 プライドの力は強大だが、一矢報いる魂人の【永劫回帰】の煌きを曇らせることはできない。理想郷の銘を冠する銀剣で、バトラーの猛攻を防ぎきる。
 その隙を逃さなかったのは、コーデリアだ。《夢幻槍》による破邪の刺突で、弱体化した『想像』はさらに数を減らし、プライドの顔はどんどんと醜く歪んでいく。
「私に、相応しかった、従者が! ……いいえ、あの程度の従者は、私には相応しくなかったのよ……そう、あれは、不完全だった!」
「傲慢も、そこまでくればただただ憐れね」
 星が流れる。
 清かな光が、穢れを祓うようにプライドの胸へと吸い込まれていく。
「そろそろ眠ってもいい頃合いよ」
 杏梨の静かな声音は、女の怒りに染まった呻き声に掻き消される。
 しかし、もはやそれも哀しき咆哮となる。
 凛と張りつめた杏梨の強さは、魂人に安心感を。
 言葉少なに、それでも優しさに溢れたコーデリアは、魂人に自信を。
 溌剌と笑んで、手を差し伸べたシフィルは、魂人を安堵させて。
 たとえ、【永劫回帰】による喪失があったとしても――その傷は、生きていくための勲章だから。彼らは胸を張って、威風堂々と、敢然と立ち向かう。
「過去は大事だよ、でも――その過去だって、未来がないと、意味がないでしょう? だから、僕たちは生きたいんだ。もっと、みんなで、これからを生きたいから」
 ニーノの言葉は、強くアルバに吹いた風に乗った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
彼方を見上げて悪態吐いて。
焦り余裕も無く探し求めて。
手持ちの駒は活かせずに、無様ばかりは押し付ける…と。

侮辱でも挑発でも無いですとも。
事実、聞こえた言葉を紐解いただけ。
お喋りが過ぎるんです、貴女。
程度、透けてますよ?

やる事は変わらない。
女の、従者の全てを視る。
息遣い、視線に体の向き、手の挙動、歩の流れ…
狙いを、次手を、立ち回りを、得物や技の使い方に癖を。
戦闘の内に用いる凡ゆるを、知識に照らし見切り、回避に用い。

膝をついてやる気は無い。
…が、誉人の言を忘れても居ない。
(他者の代償を厭う事は無い。
感謝はする、けれど。
ひとでなしは、利用し尽くす)

今の内、祝勝会の事でも考えておいてください。

(――傲慢、故に)

傷は付かずとも、鋼糸で足を取り、武器を絡め引き逸らし、
「当たらない」という事実を以て疑念を生みたく。
『万能』を真には想像しきれまい。
未熟と理解している、優劣に囚われているが故に。

攻撃が通るようなれば、UCにて攻撃を。
まずは従者。
プライドは後で。
問題無い。己一人で対峙している訳ではないのだから



「今のうちに祝勝会のことを考えておいてください」
 静かな声音は澱むことなく。
 一瞬の躊躇いも、動揺も、焦燥もなく、(たとえ腹の裡でなにを考えていようとも)実に穏やかに、絶望を背負う魂人に言葉を放つ。
「祝勝……っ!」
「おお、なんと――しかし貴殿なら確かに成し遂げてしまえそうだ」
 ティツィアーナとジルダの表情が俄かに明るくなる。
 先の代償で減った|思い出《キオク》は戻らないのだから、今まさに、この瞬間から増やしておけばいい。
 希望を抱くことができた――たったそれだけのことが、彼女らには大いなる|記憶《オモイデ》になるだろう。
 彼女らの力を借りることに嫌悪はない。憂うことも厭うこともない。
 そうまでしなければ退けられない相手ということは、アルバに足を踏み入れる前――走り抜けてきた森へ到着するよりも前に、すでに聞き知っている。
 必要とあらば、使うだろう。
 すべてを利用し、確実な勝利を。

 ◇

「とっても楽しそうな計画を立てているみたいね。でも、祝勝というのは些か気が逸りすぎていないかしら」
「いいえ? なにを仰っているのでしょう。僕たちの勝利は目前ですよ」
 秀麗な|顔《かんばせ》に、明確な怒りの帷が下りる。
 化けの皮が剥がれている。
 高慢に泰然と罵り嘲り嗤った姫は、抉られた傷の深さに眉を顰める。
「手持ちの駒は活かせずに、無様ばかりは押し付ける……と。それを我々の|世界《﹅﹅》ではなんと呼ばれているか、知っていますか?」
「毛ほども興味がないわ」
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の静かに昏く光る双眼を見返して、プライドは負傷してなお美しくも醜く嗤う。
「貴方の物差しで私をはからないでほしいわ」
「では、貴女の物差しでは、自意識が過ぎて、物事がうまくいっていないこの状況をなんと表すのでしょう」
 彼方を見上げ、悪態を吐き。
 焦り余裕も無く探し求め。
 挙句、足元を掬われ傷つき。
 それでも己の非を振り返らない。
 これを表す言葉が、他にあるというならば、教えてほしい。これは侮辱でもなければ挑発でもなく、プライドの言動を紐解いた帰結に他ならない。
「おやおや、存外、お顔に出やすい? せっかくのお顔が台無し――もっと、淑やかに。お転婆な町娘のように愛らしいキャラクターではないのでしょう? お喋りが過ぎるんです。だから、程度が透ける」
「……! 言わせておけば!」
「冷静に言い返せないなら、図星だったかな?」
 くすくすと肩を揺らす。
 今の彼女に、クロトの目が笑っていないことを見抜けない。己の領地で、支配する魂人の眼前で、さんざ虚仮にされたのだから。
 傲慢故に、自身を顧みることができてないのだが、それでもこれ以上プライドを怒らせ、手に負えなくなれば本末転倒。
(「それでも、やることは変わりませんが」)
 プライドは従者を呼んで喚く。自身に相応しいと思っている万能な従者は――プライドの逞しい想像力の賜物だ。強い願望が顕現した従者は、慇懃に姫へと頭を垂れる。
「私に歯向かうことが、どれほど愚かしいことか教えてあげて」
 従者の所作は、いやにエレガントで無駄がない。そうして、一部の隙もなく姫の言を遂行する。
 隠し持つ鋼糸の鋲を指先で撫でた。従者が現れようが、それが嗤い出そうが泣き出そうが、クロトの為すべきことが変わることはないのだ。
 この場を制圧するために情報を集め、ひとつずつ精査し、クロトの蓄えた知識と照会――最適解を導き出す。
 最終目標は言わずもがな。まずはプライドを取り巻く従者を排除する。
 最初は息遣い。
 これが判れば動作は格段に予測し易い。あとは一見柔和そうな緑色の眸の揺れ、筋肉の軋み、それに伴う動作の前触れ――まわる思考は膨大な知識を巻いて渦となる。
 クロトの頬を掠めた銀閃は、観察対象の投げたナイフ。
 今の挙動も演算に組み込む。判断材料は鼠算式に増えていく。
 熱を発するような眼差しは、眼鏡のレンズが遮ってしまう。彼の頬にあるのは、|いつも通り《﹅﹅﹅﹅﹅》の穏やかな微笑み。
「いつまで笑っている余裕があるでしょうか」
「いつまでも。貴女が斃れるまでは、必ず」 
 躱し、いなし、翻り、沈み込む。
 クロトの蓄積されている経験則が危険と叫べば、その通り――動かねば頚を斬られていただろう軌跡を描いて、従者のナイフが閃いていた。
 肌が裂けていないことを確認することはなく、クトロの双眼は情報を集め続ける。
 次の狙いは、そこへと至る手は、足は、ナイフはどうする――膨大な情報にパンクしショートすることはない。
 すべてを消化し、蓄え、瞬時に力へと変換する。
 それでも。
 涼しい様相を崩すことなく凶刃を繰る従者は鋭く、クロトの命を狩ろうと奔る。
 細かな傷を受けながらも、決して屈することはなく、外套を翻しながらも、隙を見つけ鋼糸を放った。従者の着地した瞬間の足に巻き付ける。その瞬間の崩されたバランスを立て直すことはできず、クロトはさらに糸を引く。果たして従者は派手に転び、弾みでナイフを手放してしまった。
「おや、貴女の従者はこれしきのことで転倒するような軟な者なのですか。なんと……」
 くすくすと笑い、クロト。
「|万能《﹅﹅》とは、これほどに脆弱でしょうか?」
 真に|万能《﹅﹅》を想像することは難しいだろう。なぜなら、プライドは、|己が未熟であると理解している《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》し、それ以上に、|優劣をつけることに囚われている《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》のだから。
 その事実は、疑念を生む。
 万能と信じてやまない従者の攻撃でクロトを斬ることができない。
「……不思議でしょう。何故ですか、考えていますか?」
 |なぜクロトは死なないのか《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
 傲慢故に原因が自分にあるとは考えつかないだろう。
 愚かなのは、一体どちらか。
 ちらと盗み見た紫の眸は、揺らめいていた。その揺らぎを払拭するよう、叫ぶ。
「はやく始末してしまいなさい!」
 その発破に当てられた従者だったが、その力を失う――動かない、息が止まっている、抵抗していた力は失せ、さらりと透け、質量を失った。
 (「ああ、彼女たちか……」)
 【永劫回帰】の風が流れる。
 今までの、どんな記憶を代償にしたかは知らない。それでも、無効化されたことは、必至の事実だ。
 クロトは彼女らを振り返らない。労いはまとめて、終わってから――この戦況を切り抜けてからだ。
 自由になった鋼糸は、未だに控える従者を拘束する。魂人の力のあおりをくらい、プライド自身の疑念のせいで、先の者よりもずいぶんとお粗末な身のこなし。
 クロトの踏むステップは知覚し辛く――振るう剣閃は、まさに瞬く間に光が糸を引いて帯となり、咲くは八重に八重を重ねる豪奢な花。
「薔薇に気を取られている間に、|終焉《おわり》が来ますから――ああ、すみません、もう|斃れ《おわっ》ていましたね」
 従順な従者は最早為すすべなく奔る剣閃に裂かれ斃れる。最期に幻惑の薔薇の花弁が降り積もった。
 まだ終わらない。
 まだいる邪魔な従者を――|本命《プライド》は、満を持して。
(「問題はないでしょう。僕一人で対峙しているわけではないから」)
 ティツィアーナが。
 ジルダが。
 艶めく金の髪を持つ、透き通った儚くも強き民が、思い出を代償にクロトの道を拓く。
 駆る。奔る。疾る。薔薇の花弁が轍を描く。悲鳴がクロトの耳に新鮮だった。むわりと噎せ返るような薔薇に彩られた魂人の記憶がプライドの想像を突き崩していく。
 崩れ落ちて、消失していく、|プライドには相応しくなかった男《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》の躰は、クロトにとって恰好の盾となった。
 隠れつつも素早くプライドへと接近、それを簡単に許した女のなんと愚かしいこと。
 斬り伏せられた従者の屍に、愕然とし驚然とし呆然と憤然と言葉を失っている女の、なんと隙だらけなこと。
「万能の従者は、悲鳴なんて無様な声を上げませんね? 姫?」
 高速で射出された鋼糸はプライドを拘束し、《Neu Mond》の銀刃は、彼女の腹を刺し貫いた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​


●アルバ/決死の泣哭
 失った記憶は、もうわからない。
 どんな思い出だったか、それすら思い出すことはできない。
 思い出せないのなら、それは――むしろ、初めからなかったモノなのではないか。
 【永劫回帰】は凄まじい力だ。だからこと、使うときは自分の納得したタイミングで使ってきた。
 見ず知らずの、アルバのために駆けつけてくれた、このひとたちに、恩を返したい。
 さんざ苦しめられ、それでも耐えてきたが、今また、納得のできない理由で蹂躙しようと、村を襲う領主に一矢報いたい。
 家族を守るためならば。
 大切な|家族《﹅﹅》を守るためならば。
 この力を、大切な思い出を|彼ら《イェーガー》に託してもいいと思えた。
 覚悟は決まった。大丈夫だ。ニーノもニーコも、ジルダも、|他の子たち《アロルド、ミロ、アージアに、サーラ、まだいっぱい》との絆が消えてしまうわけではない。
 家族を守るためなら、いくらでも戦う。
「私もここにいる。ティツィアーナ、ひとりで突っ走ってくれるな」
「ええ、ジルダ。大丈夫」
「大丈夫じゃない……」
「仕方ないよ、ジルダ! だって、ティッツィだから!」
 少しだけ呆れたジルダの嘆息は、ニーコの笑声が吹き飛ばす。
 記憶が代償になるから、発動を持ちまわることは、|すでに決めていた《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
 ひとりの記憶だけが失われ続けるわけではない。誰かの記憶は残る。思い出は、誰かが引き継いで、また分け与える。そうしてきた。だからこそ、ティツィアーナたちは、悲観しない。
 どの思い出がなくなってしまったのだろう。
 思い出すことはできないけれど。
 失った記憶に、心は慟哭しているけれど。
 今はまだ、涙を流してはいけない。
 アルバの民は、|かつての支配者《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》の姿を見つめる。その姿を記憶に刻むように。この出来事が、|最高に嬉しい出来事《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》となるその瞬間のために。
 応援と、【永劫回帰】で手助けをすることしか、最早できないけれど。
 腹を貫かれ、喰われ、斬られ、傷つき衰弱し、自身の未熟さを罵る『|傲慢の姫《プライド》』の紫瞳は、それでも死んでいなかった。
 ともすれば平伏してしまいそうになるのは、今までの恐怖政治の賜物だろう。怒らせてはならない。従順に、唯々諾々と、言われるがままに――しかし、それも終わったから。

●嘆くプライド/最期のスペルビア
 キレイな|力《アクセサリー》が必要だった。
 この私が、階層堕ちなんて、矜持が赦さなかった。大量の魂人を殺し、洗練された力を、あの|高慢ちき《ゲスドモ》に見せつけなければならなかった。
 この私が侮辱されたままで良いわけがなかった。
 この私に相応しい|力《アクセサリー》は、屈してはいけなかった。
 なのに。
 なのに!
 まるで赦すことはできそうにない。
 忌まわしき弱者が群れて、プライドの計画の悉くを潰していったのだ!
「赦せない、赦せない! この高みにあるべき私が! ……どうしてっ!」
 憤怒に醜く顔を歪め、それでも傲慢に叫んだ。
吉備・狐珀
【永劫回帰】の力をお借りした方がいいとの事でしたが…
あれを使って守ってもらうのは…なんて、どの口が言うのかという顔ですね?ウカ、ウケ

もう無茶はしませんから、安心して下さい
そして【永劫回帰】も使わせません
―となると、かなり大変な戦いになりますよ?

望むところだ、と気合十分な顔を見せるウカ達を頼もしく思いながらウカ達の内に眠る近衛兵を再び呼び起こす
防御は私が引き受けます
皆、全力で挑みますよ!

ウケ、御神矢をお姫様に遠慮なく放ちなさい
あぁ、でも相手はお姫様ですから、いつもより加減してあげなさい
そう、この程度ならと思わせるのです
月代、こちらに向かってきたら衝撃波足止めを
もちろん、この位なら問題ないと思わせる程度に加減して下さいね

相手に行動制限されたと思わせてはいけない
且つ、こちらの攻撃の手は止めない
制限されていると気づかせないように、みけさんに超音波で精神を揺さぶる催眠を
まだやれる、余裕だと、この程度だとそう思わせ、追い詰める

追い詰められたと気づいた時は、もう遅い
ウカ、兄様!神剣でとどめを!



 己の劣勢を理解しようとしない女の叫び声に、答えることはしない。
 憤懣やるかたない女は、乱れた紫の結い髪をそのままに、ボトボトと血を地面に落とし、足元を赤黒く染める。
 その姿を、清かな藍の光が見つめ続ける。
「もう無茶はしませんから。そんなに怒らないで、ウカ、ウケ。安心してください」
 命がけの特攻だったから、彼らの心配も頷ける。
 命がけで己の居場所を守る魂人の決意に触れて、発奮してしまったからだが、今なお、諸刃の剣で戦おうとしている彼女たちの心に触れて、大きくしっかと肯いた。
 【永劫回帰】を使わせてなるものか。
 それは、黒狐も白狐も同じことを思っているようであった。
 だからこそ、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は強く微笑んで見せる。
 ウカたちに同意するように、また、覚悟を決めたアルバの民たちに、これ以上の悲劇を見せないように。
「かなり大変な戦いになりますよ?――ふふっ、……そうですね、いらぬ心配でしたね」
 気合十分、どんとこい。そんな自信に溢れた表情のウカとウケ――そして、高い声音で鳴いた月代は、翼で空を掻き、狐珀の頭上を泳ぐ。
 どのような感情を吐露しているか(そもそも感情を理解しているのか――理解していると信じてはいるが)判り兼ねるが、みけさんも腹が決まっているようだ。
 眷属たちのなんと心強いこと。琥珀は、鼓舞され続ける。
「防御は私が引き受けます。皆、全力で挑みますよ!」
 これは、あの人狼の男の提案した戦い方ではない。それをわかったうえで、戦いを挑む。
 ウカたちの裡に眠る近衛兵を再び喚び起こす。
(「状態異常や行動制限を受けると、カウンターを放ってくる……そういう話でしたね」)
 しかも相手は手負い。
 己の信じるところの従者たちが斃され、豪奢なドレスも、白い肌も、赤黒く汚れた傲慢の姫は、怒りが心頭に発している。
 嫋やかに笑むことも忘れ、己の美しさを際限なく求めることもなく、息も絶え絶えに、今にも膝を折りそうになりながらも。
(「その執拗さは感服します。でも、オブリビオン……しかも恐怖を与えるだけの災厄の根源……!」)
 これを討たなければ、アルバに平穏は訪れない。
 怒れる姫に、安らかな|眠り《サイゴ》を。
「ウケ、御神矢をお姫様に遠慮なく放ちなさい。あぁ、でも相手はお姫様ですから、|いつもより加減してあげなさい《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》」
 あからさまな言は、姫の怒りの炎に油を注ぎ入れるだけだ。紫の目は、醜悪に吊り上がり、|手加減された《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》屈辱は、彼女のよりどころたる、傲慢さに拍車をかける。
 それが、狐珀の計略だと気づくこともなく、姫の自尊心は一層高く聳えることとなって――女の肩をウケの御神矢が刺し貫く。急所らしい急所を|外し《﹅﹅》、女の肌を掠めるような、|惜しい《﹅﹅﹅》軌道を描いて射られる矢に、女は恐らく狐珀らを侮るだろう。
 それこそが狐珀の狙いだから、大いに侮り見下し嗤っているがいい。
(「今のうちですから」)
 狐珀らの実力が|この程度《﹅﹅﹅﹅》であると思わせる。ある種の暗示だ。ただし、これが、あの『行動制限』に含まれてしまうかは、一か八かだ。
 狐珀も確信が持てなかった。だからこそ、慎重に、丁寧に言葉を選ぶ。
「月代、あの方がこちらに向かってきたなら、容赦はいりません」
 そう言いながらも、狐珀の真意は月代には伝わっているだろう。
 容赦のない攻撃という印象操作――実際に受けた攻撃が肩透かしだったときの愉悦は、プライドに勝利を確信させ、大いに油断させることになるうだろう。
 |この程度《﹅﹅﹅﹅》なら問題はないと思わせる。暗示をかけ、誘導し、思考を単純化し鈍足化させ、直情的に、傲慢に拍車をかけるように。
(「悟られてはいけません」)
 狐珀の印象操作によって、思考と行動の選択肢のカードは、枚数を減らしている。
 月代の放つ衝撃波を隠れ蓑に、みけさんが姫の精神を揺さぶる超音波で、暗示を深くさせていく。
(「まだやれる、取るに足りない相手であると、往なすことも退けることも容易だと――」)
「ふふっ、たくさんの|ペット《イヌ》を連れて、どれほどのものかと値踏みしたけれど……」
 尊大に言い放つ。
 狐珀の聖性を織り込み展開した結界を崩さない。招かれた衛兵の魂も密かなる号令を待ちながら、姫への攻撃の手を緩めない。
 蓄えられる清浄なる神力に、姫が気づいていないとは思えない。しかし、女の不遜な態度は崩れない。小さな御神矢を肩の肌を掠め、神剣の切っ先をひらりと躱せば、――しかし。
 大きく開いた傷から血が噴き出した。
 蓄積されている傷が癒えてなくなっているわけではないのだ。
「はっ……っ! この私が、血を吐く……なんて、穢らわしい!」
 絶望にも似た悲鳴を上げて、プライドは赤黒く濡れる地面を見つめ、すっかり彩を変えてしまったドレスを握り締める。
「おねえさん……、僕たち、手伝うからね!」
「いつでも言ってくれよ」
 慟哭の合間にそっと囁かれたのは、震える声音。強がるニーノと、彼と同じ容貌のニーコだった。
 狐珀は彼らの強さに、決然と頷いた。
 その心意気だけはしっかりと受け取る。【永劫回帰】は使わせない。大丈夫だ。これ以上、彼らから希望を失わせることはしない。
 収斂していく聖性は、張り巡らせる祓除の結界の護りをより強くさせる。
 弱り切ったプライドは、狐珀の策に気づいていない。
 尊大だった。不遜であった。傲慢にして驕り高ぶり、自己の非を軽視した。非は自分にあらず、取り巻くモノが低俗であると切り捨て吐き棄てた。
 そして、いま、さらなる愚を犯す。狐珀たちは弱者であると――相対し、重なる|加減された《﹅﹅﹅﹅﹅》攻撃を真に受けて、躱し、侮った。
 月代は陽動に空を駆ける。衝撃波に紛れる思考を揺さぶる超音波は放出され続けている。翻ったところへ御神矢が射られる。攻撃の手を緩めているわけではない。
 だから彼女は、こちらに近づけないのだ。
「こんなにも私を傷つけた代償をっ! 払わせないと気がすまない!」
「遅かったですね」
 動きそうな魂人の兄弟を制しながら、眷属の名を叫ぶ。
「ウケ!」
 抱える宝珠の輝きは燦然と網膜を焼き、照射される御神矢は驟然として奔る。まったく容赦をしない鏃はプライドの躰を射抜いた。
 月代の甲高い声――|加減を忘れた《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》衝撃波が姫を圧し潰し、出力を上げたみけさんの超音波は躰の内側から壊し始める。
 平衡感覚を奪われたようにふらついた瞬間を見逃さない。
「兄様! とどめを!」
 五神の力を宿した宝玉から力が溢れ出す。猛然と騒ぐ炎のように、神剣が光った。
 爛々と憎しみに塗れたアメジストが血色に染まる。

●歓喜のアルバ/なみだ
 断末魔は、息を詰めたようなくぐもった一瞬のものだった。
 |穢れを反転させる《ユーベルコードで反撃する》こともできなくなった傲慢の姫は、躰から神剣を生やしたまま斃れ臥した。
 傲慢故に己の身を滅ぼした姫は、骸の海へと堕ちていく。
 耳を劈くような轟音は、突然無音になったせいだ。爆音を招く静寂は、呼吸を繰り返すうちに、アルバに広がる。
 そろりと息をついたのは、狐珀ではない。
「りょうしゅ、さま、が……」
「たおれた……?」
「……ほんとに?」
 目の当たりにした光景の処理が追い付いていなかった魂人たちが、圧政の|最期《オワリ》を理解し、その烈しい歓喜に叫び、彩とりどりの瞳に涙を浮かべるまで、もう少し時間がかかるだろう。
 ひょうっと強い風が吹いて、戦場の興奮を宥めていく。
 結界を霧散させて、狐珀はやっと一息つく。
「では、余韻の邪魔にならないように、帰りましょうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月17日


挿絵イラスト