【旅団】|Enemigo del Sol《太陽の宿縁》
【これは旅団シナリオです。旅団「(太陽の家)」の団員だけが採用されます】
●|日蝕《ひは》え尽きる帝国と悪しき竜の残影
──|日蝕帝国《イクリプス》。
かつて『昏き闇夜の神』を戴き、奉じる神の教義を諸国に押し付けては拒絶した数多くの国家を根絶やしとした悪名高い狂犬国家である。
世界を闇に覆い尽くさんと、日蝕の如く破竹の勢いでブルーアルカディアの大半を支配するに至るものの、ヘリオス王国の『空渡りの巫女』によって導かれた『太陽の勇者』……その名も勇士アルクトゥルス。ふたりと数々の勇士の手により雲海の底へと沈んだ忌まわしき悪の帝国は『|屍人帝国《過去》』として復活し、再び世を闇に陥れんとする。だが、それも猟兵の手によって、骸の海より昏き闇夜の神と融合した守護竜の成れ果て、帝竜『太陽を喰らう者』を討伐した。
帝竜があらゆる願いを叶えるアルカディアの玉座へと到ろうとした思惑は『ヘリオス王国の蘇生と隷属化』。しかし、そんな執念深い野望も帝竜が再び骸の海へと還され、日蝕帝国主領の浮遊大陸も猟兵によって占領された。
もはや六大屍人帝国として現世に名を馳せた日蝕帝国の栄光は見る影もなく失墜し、野盗化した帝国残党軍が散発的にガレオン船を簒奪するにまで落ちぶれているという有様である。だが、邪竜は邪智暴虐の権化でもある。この程度の誤算など『予測内』の出来事でしかなったのである。
『……何とか再臨を果たせたようだな』
日蝕帝国旧領のとある浮遊大陸。そこにあったのは、本領で帝竜が潜んでいた神殿とよく似ているうち崩れた廃墟である。日蝕帝国が奉じる神の教義を『布教』する際に建立した分社とも言える場所に、邪竜『太陽を喰らう者』が骸の海より染み出したのだ。
『こんな事もあろうかと『端末』の一部に意識を移し替えたが……かつての身体だけあって、実に馴染む』
漆黒の邪竜が思わず嗤うのも無理はない。ブルーアルカディアにはふたつの『太陽を喰らう者』が存在しており、昏き闇夜の神と融合する前とした後が居た。だが、本体は『帝竜』側であって、それよりも過去の姿である『邪竜』は下手に動けば身を滅ぼす太陽を喰らった過去の再現で満足に外征もままならない『帝竜』の意思を前線に伝達する『端末』として機能していた。
同時に、これらは『保険』でもあった。仮に自身の身に何が起きようとも、帝竜の姿を捨てて過去の姿である自分自身に戻り、己が復讐心を成就させるために。
しかし、それによって、今まで複数体居た端末は帝竜の意識によってひとつの個体となる両刃の剣でもあった。もしこの状態で討たれたとすれば全ての『太陽を喰らう者』らは骸の海へと帰してしまい、まさに今度は次はない。
故に邪竜は慎重とならざるを得ず、情報が新たなる脅威である猟兵へと漏れるのを恐れて空図にも載っていない小島同然の浮遊大陸を復活の場として選んだのであった。
『今は再び力の定着を図りし時……我は雌伏を甘んじよう』
邪竜はまだ『ヘリオス王国の屍人帝国化』を諦めていなかった。太陽、翻ってそれに準じる生命が放つ輝きを憎むまでの逆恨みとも言える怨恨は根深く、オブリビオンとして蘇った当初にブルーアルカディアの雲海を通じて繋がるアックス&ウィザーズへと自らの端末をヘリオス王国の故地へと遣わしている。
帝竜化したことによる闇の一部である端末とは言え、その戦闘力は猟兵であらざる者たちにとっては脅威の一言であり、たった一夜で蹂躙し尽くしたまでにだ。
『そして……何れまた|太陽《生命》を喰らう存在へと至るのだ』
●太陽の家、広間にて
「……という予知をしたのですが……」
時刻は深夜を下回って普段は同居人の声で賑やかな太陽の家が静まり返る中、耳をすませばかすかに発電機が回る音が聞こえてくる。相談したことがあると家主のヴィクトリア・アイニッヒ(|陽光《たいよう》の信徒・f00408)を呼び止めた秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)は、互いにテーブル越しに向かい合いながら自らが昨夜に予知した内容を打ち明ける。
「その時、視たのです。帝竜……いえ、邪竜の記憶と眼を通しての|過去《ビジョン》を。太陽を喰らう者の一体が滅ぼしたアックス&ウィザーズの王国、そこに居るヴィクトリアさんの姿を……」
信子は恐る恐ると沈黙を続けるヴィクトリアの顔を窺っていたが、それも彼女の過去を詮索するのを憚っていたからである。UDCアースとは異なるアース系の|世界《地球》から猟兵として覚醒した信子であったが、目覚めるとそこは異世界であった。
途方に暮れる彼女に救いの手を差し伸べた恩人こそ目の前で険しい顔をしているヴィクトリア・アイニッヒであり、同居生活もかれこれ4年も続けば自然と家族のような間柄となっている。だが、それでも過去の詮索は互いにしないことが暗黙の了解となっており、実のところ信子はヴィクトリアの過去は彼女の口から語られた一部しか知っていない。
故に、彼女が予知で太陽を喰らう者とヴィクトリアとの間に何らかの宿縁があると考えた信子は、他の同居人たちが寝静まり返った夜中を見計らって尋ねた次第であった。
「……そう言えば信子さんにまだお伝えしていませんでしたね。ええ、あの日あの時……確かに私は神官騎士団として、あのオブリビオンと対峙していました」
ヴィクトリアは深い溜息を吐いて普段の温和な表情に戻ると、ぽつりぽつりと昔話を語っていく。
彼女の故国はこの世界、アックス&ウィザーズの辺境にあった太陽を神体として信仰する宗教を国教とする小国家であった。国民の信仰は篤く、貴族層の出身であった彼女は『貴族の務め』として太陽を主神と崇める国教の神官騎士団として奉職していた。
時折と人里に下りた魔物や野盗騒動がある程度の平和とも言える日々を人々は謳歌していたが、それを灰燼に帰したのが邪竜『太陽を喰らう者』による襲撃であった。まだグリモアベースを発見できていなかった頃もあって猟兵の介入などは無く、人々はただ逃げ惑うことしかできなかった。ヴィクトリアも民を護るために今も愛用しているハルバードを振るい、仲間の神官騎士らと一緒に黒き邪竜を討とうとしたが、逆に返り討ちに合ってしまう。
「……そうして、私の故郷は滅んだのです。生存者は僅かながらでありましたが、私が猟兵と覚醒したのはその後のことでした。もし、私がもっと早く覚醒していれば……」
「あの……ヴィクトリアさんは悪くありません。ヴィクトリアさんが奮戦したからこそ、助かった命は多くあったのだと思います」
ふたりを間に取り巻く空気が重くなるが、信子の言葉がそれを払拭させる。彼女の言葉を受けて、そうですねと、ヴィクトリアの表情が綻びながらも決心を固めた騎士の顔となる。
「信子さん。太陽を喰らう者の居場所は感知出来ていますか?」
「は、はい。何時ものようにグリモアでの転送は可能ですが……」
互いにグリモア猟兵だからこその会話であるが、それ以上の言葉はもはや不要である。
「分かりました。明日、皆さんにこのことをお伝えした後に発ちましょう。太陽を喰らう者を、今度こそ骸の海に還すために」
「そのためにも、英気を養うべくちゃんと寝なければ、ですよね」
「ええ、そうです。ご案内、よろしくお願いしますね」
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
宿縁邂逅シナリオとなりますが、実のところアルカディア争奪戦の最中からご依頼が来ていました。
ですので、一応ながら戦争シナリオと共通している設定がございますが、ご参考程度と見て頂ければと言ったところです。
・アルカディア争奪戦⑱〜Epopeya del Sol
( https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=44812 )
尚、宿縁邂逅シナリオは旅団シナリオでもありますので、採用される方は旅団『太陽の家』に所属している団員だけに限定されます。
既に当旅団で参加者を募るスレッドにおいてシナリオ達成可能なご参加様がお集まり頂いておりますが、もし助太刀したいというお方が居れば当該スレッドへとお書き込み頂ければ対応を可能としております。
またプレイングボーナスですが、帝竜『太陽を喰らう者』戦と同じ『敵の先制攻撃に対処する/自身の「|太陽《いのち》の輝き」を証明する』の何れかです。
両方同時に達成するとプレイングボーナスがふたつ確保できますが、難易度は通常でありますので余裕があればお狙いくださいませ。
それでは、太陽を喰らう者が抱く底しれぬ怨嗟の炎よりも熱いプレイングをお待ちします。
第1章 ボス戦
『邪竜『太陽を喰らう者』』
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POW : 暴虐の一撃
単純で重い【暴虐】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : グラビティ・ストーム
戦場全体に【太陽の光すら吸い込む超重力】を発生させる。レベル分後まで、敵は【超重力と漆黒の闇による心身へ】の攻撃を、味方は【滾る太陽への憎悪と戦意】の回復を受け続ける。
WIZ : 漆黒のブレス
【漆黒に滾る憎悪のブレス】を放ち、命中した敵を【憎悪を煽る漆黒の炎】に包み継続ダメージを与える。自身が【太陽への憎悪を燃え滾ら】していると威力アップ。
イラスト:星月ちよ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ヴィクトリア・アイニッヒ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セフィリカ・ランブレイ
私の先生も、リリアと同じ国の出身だ
リリアの指導もしていたなんて事は、随分後から知った
先生が国を離れている時に、あの竜が惨劇を引き起こした
惨劇に居合わせられず戦えなかったことをずっと悔やみ、瘴気に飲まれた国を元に戻す方法を探すため先生は世界中を旅した
そして最後は、争いに巻き込まれて命を落とした
リリアも先生も、奴がいなかったらもっと幸せに生きられた筈なのに
直接奪われたわけではない私でさえ奴への憎しみがある
けど、リリアが憎しみではなく、未来のために戦うというのだ
なら、妹弟子の私がその思いに応えないでどうする
リリア、護りは引き受けたよ!思いっきりやっちゃって!
私自身は竜の注意を分散させるためにヒット&アウェイを繰り返し
『藍盾の聖女』を呼び出してリリアを支援する
力も早さも私のほうが上なのに、一向に崩す事の出来なかった先生の守り
とてもいなしと逸らしが巧い人だった
それをイメージして作ったゴーレム群だ、龍の巨大な力を受け流してくれる
願わくば先生、リリアが無事であるように力を貸して…!
ヴィクトリア・アイニッヒ
私にとって、彼の邪竜は。
愛する故郷を、家族や親友を奪った、仇敵です。
……ですが、今。その念は、捨てましょう。
屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』の支配者にして守護竜、『太陽を喰らうもの』。
その再臨を見過ごしては、再び世界の危機へと繋がりかねません。
一人の猟兵として。何としても、討ち果たします。
奉じる神へと、誓いを立てます。
この戦いは、私の怨恨による物に非ず。
邪竜により生まれた数多の悲劇、その犠牲者を弔う為の戦いであると。
そして、その弔いの先──今を生きる人々の未来を護る為の戦いでもあると。
この誓いこそが、私の|太陽《いのち》の輝きとなるでしょう。
「太陽の加護を、此処に! 主よ、照覧あれ!」
誓いを打ち立て、真の姿へ。
光の翼を羽撃かせ、中空へと舞い上がります。
私の体に宿る神気は、太陽に由来する力。かつての様に、邪竜もこの力は無視出来ぬはず。
そしてそうなれば、邪竜の側にも隙が生まれるのは必然というもの。
仲間達の攻撃への布石を打ちつつ……神気を込めた斧槍を、突きいれましょう。
アテナ・アイリス
『太陽の家』のみんなにはいつもお世話になっているからね、ここはひとつ借りを返しておかないとね。
しかも、邪竜退治なら喜んで手を貸すわよ。
勇者達と共に歩み続けるのが私の「いのちの輝き」でもあるしね。
太陽を喰らう者の攻撃を、【武器受け】・【オーラ防御】・【見切り】・【ジャストガード】・【第六感】・【残像】を使って躱したり受け止めつつ、【呪詛耐性】【勇気】【狂気耐性】をつかって重力攻撃の影響を軽減させて、UCを使う事の出来るタイミングを待つ。
「私の力を全て貸すわよ、決着をつけるのよ!」
UC『勝利女神の祝福』を使って、ヴィクトリアにPOW+717・ SPD+503・ WIZ+479分能力値を加算させるわ。
肩の上に、幽体化したミニアテナが腰かけて、サポートや応援をするわよ。
ミフェット・マザーグース
太陽の家は、ミフェットの今の故郷
居場所をくれたヴィクトリアのためにミフェットも戦うよ
ミフェットは『太陽を喰らうもの』を見るのは初めて
だけど、猟兵はみんなつながってる
カラダを変えてカタチを変えても、燃えるその瞳をミフェットは知ってる
♪もえるもえるもえさかる 細くすぼめたまっかな瞳
ねらいをつけるのは かがやく太陽 まぶしい命 届かないもの 奪えないもの
ぐるぐる回る炎のうずが 瞳の中で渦巻いて
けっしてとまっていられない 吐き出さずにはいられない!
憎悪を唄に織り込んで、漆黒のブレスをお返しするよ
二つの怒りがぶつかりあって、少しだけ攻撃を止められるはず
…ちょっとつらいけど、みんなのこと信じてガマンするよ
ティエル・ティエリエル
ようし、ヴィクトリアのお手伝いだ!
ボクも一緒に戦うよ♪
お前の相手はこっちだーと「空中戦」で飛び回ってブレスの狙いを引き受けるね!
当たりそうになっても風属性の「オーラ防御」で直撃は防ぐよ!
むむむっ、でもブレスが当たったらなんだかムカムカしてきたぞ!?
でもお守りの宝石から王女たるもの憎悪に身を任せてはいけませんって聞こえてきて……
そうだ、ボクはこんなのには惑わされないぞー☆
憎悪に任せて飛び出したりせず、【小さな妖精の輪舞】でみんなを回復だ☆
ふふーん、ヴィクトリア、やっちゃえー!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
メディア・フィール
WIZ選択
他キャラとの絡みOK
プレイング改変・アドリブOK
自分専用のガンシップ「グリーンフラッシュ」で高速移動で攻撃を回避しながら飛び回り、牽制に徹します。4撃命中すると相手は死ぬ【竜闘死連撃】をすべて喰らう可能性は低く、万一喰らっても強引に死亡のルールを引き剥がしてくるかもしれませんが、それでもそれなりに痛手ではあるはずですし、うっとうしい攻撃でもあるはずだと思います。
「漆黒の邪竜…ボクの故郷の暗黒竜と何か関係あるのかも? いや、今はそんなことはどうでもいい!」
「メインの攻撃は任せたよ! こっちは、対処はできるけど、放ってはおけない攻撃を隙ができるまでひたすら繰り返すから!」
●|Juramento del Sol《太陽の誓い》
浮遊大陸は光さえ呑み込む闇に包まれていた。
何故そうなったか知る者は居るのかも怪しいここは、古来より忌み地として忌避され続けていたために住民など居留していない無人の浮島である。
蠢く闇の中、虚空よりグリモアの光が闇を切り裂いて周囲を照らし出す。それでも夜の帳が降り始めたかのような薄暗い中であったが、彼の地に降り立った猟兵が目にしたのは廃墟となった街並みである。
「誰も居ないのかな?」
ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が翅を羽ばたかせて上空から薄暗い街並みを目を細めながら見下ろすが、人の姿はおろか気配すら感じ得ない。
「随分と長い間、誰も住んでないみたいだよ」
「そうだね。人が生活していた跡は残っているけど、住んでいる気配がまったくない」
崩れたレンガ壁からミフェット・マザーグース(造り物の歌声・f09867)とメディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)が廃屋を注意深く覗くと、そこには朽ちた机と椅子が無造作に置かれているだけである。埃の溜まり具合から相当の年月に渡り人が住んでいないのは確かだ。
「ねぇ、リリア……アレってもしかして……」
「……ええ、|日蝕帝国《イクリプス》が掲げる日蝕を表した国章です」
セフィリカ・ランブレイ(鉄エルフの蒼鋼姫・f00633)が人差し指を向けた先には、丸状の記号がふたつ重なり合っている模様が刻まれている。それを受け、ヴィクトリア・アイニッヒ(|陽光《たいよう》の信徒・f00408)がはっきりと応える。グリモア猟兵として自らが予知してきた屍人帝国『日蝕帝国』が掲げていた紋章が刻まれているとすれば、ここはかつて日蝕帝国が支配していた浮遊大陸に相違ない。
「ねぇ、みんな。アテナが戻ってきたよ!」
ティエルの快活で天真爛漫な声に斥候として偵察活動を行っていたアテナ・アイリス(才色兼備な勇者見届け人・f16989)が出迎えられ、集落を探索していた一向と合流を果たす。
「周囲に敵の気配はおろか野営した痕跡もまったく無し。あるとすれば、この道を真っ直ぐ登った小高い丘の頂上にある闇が更に深い神殿ぐらいよ」
「すみません、アテナさん。危険な役割をひとりに負わせさせてしまって……」
「いいのよ。『太陽の家』のみんなにはいつもお世話になっているから、ここはひとつ借りを返しておかないとね」
彼女から得られた情報はふたつ。ひとつはここまで往来する最中、人はおろか|魔獣《オブリビオン》の気配すら微塵と感じえなかったこと。もうひとつは、彼女が見つけ出した神殿から禍々しいまでなオブリビオンの気配を感じ得たということであった。
ともなれば、猟兵たちが殲滅すべきオブリビオン……邪竜『太陽を喰らう者』はそこへ身を潜めていると見て間違いないだろう。
「私にとって、彼の邪竜は愛する故郷を、家族や親友を奪った、仇敵です。……ですが、今。その念は、捨てましょう」
込み上がってくる復讐心を始めとした様々な負の感情を諌め、ヴィクトリアは今ここに自らが奉じる神へ誓いを立てる。
「この戦いは、私の怨恨による物に非ず。邪竜により生まれた数多の悲劇、その犠牲者を弔う為の戦いであると……そして、その弔いの先──今を生きる人々の未来を護る為の戦いでもあると」
「……私の先生もリリアと同じ国の出身でね。リリアの指導もしていたなんて事は随分後から知ったのだけど、先生が国を離れている時に……あの竜が惨劇を引き起こしたんだ。惨劇に居合わせられず戦えなかったことをずっと悔やんで、瘴気に飲まれた国を元に戻す方法を探すため先生は世界中を旅して……そして最後は、争いに巻き込まれて命を落とした」
──リリアも先生も、奴がいなかったらもっと幸せに生きられた筈なのに。
思わずこの言葉が喉から込み上がりそうになるセフィリカであったが、行き場のない怒りをぐっと堪えるかのように拳を握り締める。
「だからね、リリア。私にも……その誓いを立てさせて。直接奪われたわけではない私でさえ、奴への憎しみがあるけど……」
けど、リリアが憎しみではなく、未来のために戦うというのだ。なら、妹弟子の私がその思いに応えないでどうするのだと、セフィリカは自らに言い聞かせる。
「それなら私も、敵討ちの助太刀じゃなくてひとりの猟兵として乗ってもいい?」
「ようし、ヴィクトリアのお手伝いだ! ボクも一緒に戦うよ♪」
「太陽の家は、ミフェットの今の故郷……。居場所をくれたヴィクトリアのためにミフェットも戦うよ」
ひとり、またひとりとヴィクトリアを中心として自然と輪が作られる。それぞれは薄暗い闇の先で爛々と輝く|異世界《ブルーアルカディア》を照らす太陽を仰ぎ、今ここに誓いを立てる。
──屍人帝国『|日蝕帝国《イクリプス》』の支配者にして守護竜、『太陽を喰らうもの』。その再臨を見過ごしては再び世界の危機へと繋がりかねない。
我らは一人の猟兵として……何としても悪しき竜を彼の地で討ち果たす、と――。
●|Batalla Decisiva《決戦》
『儚き命ほど健気なものよ……』
ヴィクトリアの手を合わせた猟兵たちは、闇そのものから発された地の底まで響く声に顔を見合わせた。
「来ましたね……」
ヴィクトリアの碧眼が睨んだ先では色濃い靄が蠢き渡り、それは次第に竜の輪郭を形成していく。
「あれが……ヴィクトリアの|敵《かたき》……」
息苦しさを感じていた闇が次第に重みを増して行く。身体にのしかかる何とも言いようがない重圧に強ばる身体を奮い立たせて耐えながら、ミフェットは初めて識った。まだ輪郭がハッキリとしていないが、憎悪と戦意が激しく燃え盛る炎のような瞳が自分たちを見下ろしているアレこそが……太陽を喰らう者であることを。
「あら、もしかして付けられちゃってたかしら?」
『痴れたことを。貴様らが我が領に侵入してきた時より感知している。だが……まさか、その正体は何時ぞやの小娘だったとはな』
やっちゃったかしらと、肩をすくめながらも弓を張って臨戦態勢を取るアテナを他所に邪竜はひとりの猟兵を睨んだ。ヴィクトリアである。
「ええ……貴方と相見えるのは、これで四度目でしょうか?」
初めは故国がオブリビオンに滅ぼされ、ヴィクトリアが猟兵と覚醒したあの日。次は天上の世界にて屍人帝国『日蝕帝国』が彼女の故郷と同じく滅ぼした王国の廃都にて。三度目は骸の海より復活した本体とも言える帝竜『太陽を喰らうもの』。
そして四度目は、帝竜が骸の海に還される保険として残されていた過去の姿である端末にその身を宿した邪竜『太陽を喰らう者』。
確かにヴィクトリアはこの手で宿縁たる帝竜を骸の海に還した。だが、それでもなお太陽を喰らう者はブルーアルカディアに留まり続け、再起を果たそうとしていたのであったのだ。この計画を察知したグリモア猟兵の予知が正しければ帝竜という本体があったからこそ、端末として日蝕帝国の前線を担っていた影武者とも言える個体として邪竜が機能していた。それが本体が消滅した今、太陽を喰らう者と呼ばれる|過去《オブリビオン》は遂にひとつの個体に集約された。
つまり、アレを骸の海に還せば……太陽を食らう者と呼ばれたオブリビオンはブルーアルカディアの世界から完全に消滅することとなる。
「……ここで貴方との因縁を断たせて貰います」
『それは我も同じことだ。ムシケラ同然の歯牙にもかけない存在と見過ごした命が猟兵として覚醒し、我が野望を果たす日蝕帝国を崩壊に追い詰めようとは……失態であった。だが、ここですべてを清算すればいいだけのこと。貴様らの内に宿る忌々しい|太陽《いのち》の輝きごと……潰えさせるのみよ!』
──ゴゥ!
闇と一体化した邪竜が地の底にまで響く咆哮を唸らせながら、|腕《かいな》を振り上げて暴虐の一撃を大地へと叩きつける。猟兵たちの周囲には帝竜との決戦でも同じだったように太陽の光すら吸い込む超重力を帯びた闇が纏わり付き、彼らの動きを重々しく阻害させていた。
確かにこの場において自由に動けるのは、帝竜に近しい姿へと再臨するため羽化を待つ蛹とも言える闇その物である邪竜『太陽を喰らう者』において他ならない。生まれにしての暴君とも言えよう竜種としての驕りがこの事態を招いたというのであれば、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすが如く叩き潰すのみであろう。
だが、邪竜の目論見は儚くも崩れ去る。彼女たちの身体には既に|太陽《いのち》の輝きが煌々と燦めいており、その光が今、ユーベルコードの輝きとして闇を斬り裂いたのだからだ。
「リリア、護りは引き受けたよ! 七虹最小にして最硬、防げないものなんてないんだから……思いっきりやっちゃって!」
『ぐぅ……小癪な真似をッ!!』
ユーベルコードが顕現する光の中から召喚された高速飛翔する小型の球体ユニットが更に眩い七色の彩光を放ち、虚を突かれた邪竜は反射的に目を細めてしまう。これにより猟兵たちの一団めがけて振り下ろされた五本の竜爪が逸れた軌道を更に変えるべく、球体ユニットを|核《コア》とすることで強力な全方位バリア展開機能が光のゴーレムを形成させていく。|記録媒体《メモリー》に刻まれているデータは、セフィリカが師と仰いだ藍盾の聖女……その名はクリスティーエ。
あの日、あの惨劇が起きた時、自らの故郷が|邪竜《太陽を喰らう者》に蹂躙された瞬間に居合わせれず戦えなかったことを悔やみ続け、邪竜が残した瘴気に満ちた国を救済すべく世界を旅する最中に戦乱の巻き添えで非業の死を遂げた聖女は、鉄エルフの姫君との最後の別れとなる際に遺した物があった。
それは記憶だ。
(力も早さも私のほうが上なのに、一向に崩す事の出来なかった先生の守り……とてもいなしと逸らしが巧い人だった)
一体何度挑んだのだろうか。鉄壁の守りを崩す妙案を浮かんで再挑戦しても、すべて見透かされたかのように尽く逸らされてしまった。最後の教えでセフィリカは藍盾の聖女の動きをその目でしっかりと焼き付けたが、今でもその域に到達出来ているかと言えば怪しいところでもある。だが、記憶は昨日に見たかのように鮮明であり、それらをゴーレム群に投影させて藍盾の聖女をここに再臨させていたかのようでもあった。
──願わくば先生、リリアが無事であるように力を貸して…!
藍盾の聖女の後悔を晴らせるかどうか分からないが、もし天国と呼ばれる場所があれば先生はきっと自分を、リリアを見守ってくれているかもしれない。まだ視力が回復しきっていない邪竜が次なる一撃を繰り出そうと片腕を振るうが、ゴーレムたちはその身を盾として悪しき闇の竜を押し留めようとする。
「お前の相手はこっちだー!」
その最中、わんぱくな姫君の声が闇の中に響き渡る。太陽を喰らう者が音を頼りに頭を向ければ、今度は別の方角から甲高いエンジン音が接近して鼻先を掠めていく。
「漆黒の邪竜……ボクの故郷の暗黒竜と何か関係あるのかも? いや、今はそんなことはどうでもいい!」
もしも必要となるかもしれないとメディアが持ち込んだフィール王国最新鋭の|小型飛空艇《ガンシップ》『グリーンフラッシュ』であった。超高速の機動力と強大な火力を誇るが制御は困難というじゃじゃ馬な空船であるが、暗黒の竜が生み出す超重力の負荷を物ともせずに天使核エンジンから漏れ出す淡い残光を残して飛行機雲さながらの軌跡を描いていく。
「ボクの秘奥義、受けてみろ!」
邪竜が光のゴーレムに押し留められて満足に動けない中、メディアはユーベルコードの煌めきを拳に宿して炎を纏った拳撃『竜闘死連撃』をすれ違いざまに叩き込む。紅く燃え盛る炎が邪竜の視界を更に遮るものの、決定的な一打とは至っていない。
『ちょこまかと五月蝿い羽虫がッ!!』
このしつこさに邪竜は太陽への憎悪を燃え滾らした怒りが込められた漆黒に滾るブレスを吐く。憎悪を煽る漆黒の炎が上空のティエルとメディアを呑み込まんとしようとしたその時、軽やかな歌声がユーベルコードの光とともに騒然とする戦場内に響き渡る。
♪もえるもえるもえさかる 細くすぼめたまっかな瞳
ねらいをつけるのは かがやく太陽 まぶしい命 届かないもの 奪えないもの
ぐるぐる回る炎のうずが 瞳の中で渦巻いて
けっしてとまっていられない 吐き出さずにはいられない!
その声の主はミフェットだ。
怖い、今でも逃げ出したい。そんな恐怖心に抗いながらも、彼女は仲間を信じて、『一人ぼっちの影あそびの歌』に憎悪を織り込んで高らかに歌い続ける。
すると、闇が蠢いて邪竜を頭部を模した形となって太陽を喰らう者の前に顕現する。それが口を開けば漆黒のブレスを吐き出し、憎悪の炎は互いにぶつかり相殺されていく。だがその余波は激しく、高速機動しているメディアはともかく自らの翅で飛んでいるティエルにまで漆黒の炎が襲いかかってきたのだ。
「むむむっ! 風の護りのお陰で丸焦げにならずに済んだけども、ブレスが当たったらなんだかムカムカしてきたぞ!?」
その漆黒の炎は憎悪を煽るもの。ティエルの内で光り輝く|太陽《いのち》の輝きを侵食し、憎悪によって曇らせようとしてくる。が、その時不思議なことが起きた。
──王女たるもの憎悪に身を任せてはいけません。
大好きなママの声が何処からともなく聞こえたのだ。
「そうだ、ボクはこんなのには惑わされないぞー☆」
彼女は母親から渡されて大事に持っているお守りの宝石が淡く光を帯びていることに気づいていないが、|女王《ママ》の目を盗んで冒険に飛び出したものの母の愛に護られていることにもまだ気づいていない。だが、そんな細かいことに囚われない精神こそがティエルらしいのだとも言えよう。
胸の内で燻ろうとした憎悪の炎はすっかり鎮火させられ、気分を持ち直すべくティエルはユーベルコードの煌めきとともに空を舞って踊る。
「ふふーん、ヴィクトリア、やっちゃえー!」
『……まさか!』
したり顔でティエルが発したその声に、邪竜が始めて気づいた。
防戦一方に見えた猟兵の抵抗は囮であったことを。
「……気づくのが遅かったようね。いい、ヴィクトリア。私の力を全て貸すわよ、あなたの手で決着をつけるのよ!」
セフィリカが呼び出した光り輝くゴーレムたちに護られながら、アテナは跪きながら両手を組んで静かに祈りを捧げていた。すぐ目の前で凛として佇む白銀の勇者へ己の全てを預け、その意識は幽体となって妖精サイズになったアテナがヴィクトリアの肩に腰を掛けながら鼓舞をしている。
「太陽の加護を、此処に! 主よ、照覧あれ!」
そう、彼女たちはこのために時を稼いでいたのだ。ヴィクトリアが身体の内から溢れ出る神気の輝きに包まれると、光の翼を|羽撃《はばた》かせ中空へと舞い上がる。漆黒の空間内の突如とした光は太陽が放つ暖かさを帯びたモノでもあり、目が慣れれば光の中には真の姿と化したヴィクトリアが在った。
『その光は、もしや……!』
「私の体に宿る神気は、太陽に由来する力。かつて帝竜と成ったあなたが太陽の勇者と空渡りの巫女の前に敗れ去り、オブリビオンとして蘇った帝竜も敗れた|太陽《いのち》の輝き。一度でも復活を果たしたのであれば……完全なる復活を遂げる前に神気を込めた斧槍を突き入れるまでです!」
人間如きがこのような力をと邪竜が吠えるが、太陽を神体として信仰する宗教において主神の剣として邪悪な存在を祓う|戦女神《ヴァルキリー》と化したヴィクトリアの耳には届かない。彼女が見据える先は闇と一体化した邪竜の内で脈動するより濃い闇の塊……心臓だ。
一直線に自身の核めがけて強襲しようとする光条に闇が襲いかかるも、|陽光《たいよう》の神威を得た斧槍によって為す術もなく打ち祓われるだけである。そして遂に、ヴィクトリアは光の矢となった。邪竜が激しく抵抗するもそれは叶わず、超重力の闇によって形成された身体を斧槍を貫通させ、闇の心臓が内から溢れる太陽の輝きと熱で融けて弾け散る。
『オオオオオオオッ!!』
|邪竜《太陽を喰らう者》の断末魔が、浮遊大陸内のみならず周囲の空域にも響き渡る。心臓を喪った邪竜の|身体《闇》が崩れていく中でユーベルコードの暴走によるものだろうか、超重力を帯びた闇が異常を来たして浮遊大陸に亀裂が走り始めてくる。用心深い邪竜がもしものためにと用意していた復活の場、三度の復活を遂げた日蝕帝国の新たな帝都となり得たであろう領域が脆くも崩れ去っていく。
『認めん、このような結末を我は認めんぞ! 忌々しい太陽がある限り、再び骸の海より舞い戻ってみせる。それをゆめゆめ忘れるな……ッ!!』
仮に邪竜がただの邪竜であれば打ち倒せばすべてが終わるのだが、相手は骸の海より世界に染み出すオブリビオンである。幾多の強敵は猟兵たちの手によって骸の海へと還されているが、コンクリートの塊となってグリモアベースに厳重管理されている個体を除けば何かを切っ掛けに復活するのは容易いことだ。
現に再孵化という形で、倒したはずの強敵が他世界の存亡を賭けた戦いにおいて確認されるケースが多々ある以上、邪竜の言葉は単なる負け惜しみでは無いのは確かなことだろう。
「それなら、再び骸の海へと還すだけです。何度でも何度でも復活を果たそうならば、この|太陽《いのち》がある限り……陽光の神気で闇を祓うのみ」
その時が何時になるかは誰にも分からない。しかし、これだけは確かだ。邪竜『太陽を喰らう者』とヴィクトリアたちとの因縁は、数多のオブリビオンと同様に断ち切られて決着を迎えた。太陽を喰らう者がこの姿で現れることは二度とない、と──。
遂に崩壊する浮遊大陸が耐えきれなくなり、端々から崩れ去った大地が闇とともに雲海へと沈んでいく。願わくば決着の地が新たな屍人帝国として復活しないことを祈りつつ、薄れていく闇の中で煌めいたグリモアの光とともに猟兵たちは崩壊する浮遊大陸から脱出したのであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2023年03月20日
宿敵
『邪竜『太陽を喰らう者』』
を撃破!
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