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泡となりて消ゆ

#UDCアース

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#UDCアース


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●彼女だけが気付いてしまった
 少女、水島裕理は息を呑んだ。
 彼女はクリーム色に塗られた壁へぴたりと背を付け、角から覗き込んでいた。
 そこでクラスメイトの男の子が、数人の同じ制服を着た女生徒に運ばれている。
 行き先は旧体育館の入り口だった。そこに保健室なんてないのだから、救護目的で運ばれたのではないことはすぐにわかった。
 この学校では人が消える。
 ある日突然ぱたりと見かけなくなって。机やロッカーや持ち物、写真が残っているのに、すべての人の記憶から消えてしまう。
 ねえ〇〇さん最近見ないね、と友達に話したときのことをとても後悔している。
 〇〇さんって誰?と言われてしまったのだ。その子は、あなたの友達だったでしょう!
 ずっとおかしいと思ってたんだ。
 人がひとりずついなくなって、そしていないのが当たり前になってしまう。そんな狂った学園に、絶対何かがあると思ってた。
 いま、その答えを見つけてしまった。
 水島は壁に背を付けたままへたり込んだ。その目尻が膨らむ。
 さして会話したことのないクラスメイトだった、あの男の子もきっといなくなってしまうのだろう。家族はどうするのだろう。失踪届けを出すのだろうか。いつまでも帰らない子を待ち続けるのだろうか。それとも、初めからそんな子はいなかったと忘れてしまうのだろうか。
 水島の頬を雫が伝う。
 とても恐ろしかった。
 人を失踪させてしまう集団の目的が。人の記録を完全に消してしまえる得体のしれない力が。人が消えても誰も気付かない明日の教室が。
 クラスメイトを助けなくちゃいけない。あの、お腹が痛くてゴミ袋を捨てるのが辛かったときに何も言わず重いほうのゴミ袋をふたつ持って行ってくれた人を。
 膝の上で手がぎゅっと拳を作り、しかしすぐに脱力した。
 だって。
 自分にできることなんて何もない。
 いま飛び出して止めたところで、きっと失踪する人間が二人になるだけだ。警察に通報したって、誰も知らない失踪事件なんて相手にされない。人を連れ去る生徒たちの背景に何がいるのかわからないから、教師に相談することもできない。
 水島は声を殺して嗚咽を漏らした。
 彼女は弱い少女だった。クラスメイトを見捨てるしかできない。
 彼女は非力な少女だった。この事件を解決する術を持たない。
 ただすすり泣きながら、学園に潜む得体のしれない悪意が取り除かれることを祈るのみだった。

●グリモアベースにて
「UDCアースで事件が起きています」
 開口一番、グリモア猟兵は状況を口にした。
 薄金色の髪を持つヴィル・ロヒカルメ(ヴィーヴル・f00200)という少女が、集まった猟兵たちをひとりひとりじっと見つめる。
「とある郊外の高校で、生徒が失踪しているようです」
 毎月、ひとりずつのペースで生徒が消えてしまう。だが誰もそれを感知せず、家族から失踪届けが出ることもない。
「ただの誘拐事件ではありません。UDCが関与しています」
 連れ去られる場所が旧体育館というのは判明しているが、すぐに踏み込むことはできない。
 少なくとも先に、誘拐事件に関与している人物を特定する必要があるだろう。場合によってはその排除も。
「気を付けてください。敵はひとりやふたりではありません。グループを作っています」
 それも、生徒たちで構成されたグループだ。
 その生徒は泥人というオブリビオンらしい。色彩を持つブラックタールの変種であり、人格は一般人と変わらず、人間に擬態して生きている。お人好しが多くて、臆病で騙されやすい傾向にある種族なので、あるいはグループのボス格に騙され良いように使われている可能性があるが、学園の生徒の連れ去りの実行犯ならば容赦はしなくていい。
「まず、事件の概要を調べて、泥人を探しましょう」
 ヴィルは両手をぐっと握って言った。
 それからよろしくお願いしますと頭を下げ、猟兵たちを見送るのだった。


鍼々
 鍼々です。今回もよろしくお願いします。
 今回はUDCアースの郊外の学校が舞台になります。生徒は私服で通学しています。
 第一章の開始はオープニングの翌日の放課後になります。クラスメイトの男子は助かりません。
 情報収集の主な舞台は校内になります。校外での情報収集も可能です。
 情報収集のやり方は生徒を対象にしなくても、出席簿などの記録から調査することも可能です。キャラクターに合った方法でどうぞ。
 ただし、旧体育館へ踏み込むことはできませんのでご注意ください。
 また、連れ去りの現場を目撃した生徒の水島と接触して、話を聞くことも可能です。放課後の教室でクラスメイトの机を見て放心しています。

 最後に注意事項があります。
 本シナリオに登場する泥人はたとえ二章で猟兵に倒されなかった個体がいたとしても、三章のボス討伐とともにすべて消滅します。例外はありません。
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第1章 冒険 『高校潜入調査』

POW   :    放課後、運動系の部活動に励む学生を対象に調査

SPD   :    学外、バイトをしたり遊んでいる学生を対象に調査

WIZ   :    校内、生徒会活動や勉学に励む学生を対象に調査

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 どうして人が消えてしまうのだろう。
 どうして消えてしまった人を自分だけが覚えているのだろう。
 世界がおかしいのか、自分がおかしいのか、わからなくなって。気が狂ってしまいそうだった。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携歓迎】

人が痕跡含め全部消えるってのはぞっとしないね。
保護を兼ねる目的で、その水島って子に接触を試みる。
ちょっと無理目だけどそこの制服を着込み、
最上級生に『変装』して潜入するよ。
えっ、老け顔ですね?……ほっとけ!

こっからは『コミュ力』フル動員。
まずは軽く声をかけて緊張をほぐす。
そして、アタシ達が水島さんを助け、
事件を解決するために来たことを力強く告げる。
とにかくこちらを信じてもらう事を最優先にするよ。
じゃないと有効な『情報収集』……話が聞けないしね。
もしも彼女に同様に接触を試みてる子がいたら、
アタシは教室外で人払い役に徹する。

どちらにせよ、【超感覚探知】で索敵は切らさないよ。


萬場・了
俺は放課後、水島に会っておきたいと思う。
俺も同じだ。俺が探しているのは兄だけど、ずっと探しているってことでこちらからも話題を出しつつ話を合わせて〈情報収集〉するぜ。
連れ去られたヤツがどんなヤツかもうちょい詳しく。あと、直前の状況とかも。
女子相手はちょっと苦手だけどよ、歳も近いだろうし〈コミュ力〉もあるつもりだぜ?

最後に聞いておきてえんだけど。
なあ、水島。忘れたいか?
〈記憶消去銃〉を使えば記憶を消して、他の忘れてしまったヤツと同じように、恐れず、疑わず、苦しまず、普段通りに過ごせんじゃねえか。
水島がどう答えても、俺のカメラからは絶対消させねえよ。
今回も真相、このカメラに収めてやるぜ!


城石・恵助
机を見ている水島に声をかける
その子は助けてあげられないんだ。ごめんね
でも、被害を止めることならできる
協力してくれないかな

事件の解決に来たことを説明して、彼女から話を聞こう
連れ去った生徒達の心当たりや、制服の特徴
他に気づいたこと
漏れる不安や憂いも、うん、うんと頷きながら聞く

嫌がられなければ〈手をつなぐ〉
君が悪いわけじゃない。おかしくなんかない
君が覚えているなら、無かったことにはならない
彼らは確かに居たんだ
必ず解決するから
これ以上怯えて、嘆く必要なんてない
大丈夫。大丈夫だよ

柄じゃないな。お腹空いたなぁ
でも、放っておきたくはないんだ
その孤独も無力感も、よく知ったものだから
今だけ、正気だった頃のように




 時計の短針は既に4を示す頃だった。
 それまで学業に勤しんでいた学生たちは部活動や委員会、また遊びに行くなどして教室を出てゆく。だが、ひとりだけ桜色のボレロを着た娘だけが立ち上がらず教室に残った。特に何をするでもなく、ぼうっと視線を一点に固定したままだ。不審に思った友人がその娘に話しかけるが、娘はというと困ったような表情で首を振り、友人を先に帰す。
 あれがグリモア猟兵が現場を目撃したと言っていた生徒なのだろう。
 半開きの扉に背を預けて腕を組む数宮・多喜(疾走サイキックライダー・f03004)には、娘の見せた困ったような表情が泣き顔に見えていた。
「えっと…最上級生?」
 そんな彼女へどこか戸惑ったような声が掛けられる。声の主は廊下に立つ萬場・了(トラッカーズハイ・f00664)で、制服を着た多喜を見ての発言だった。16歳の了に対して、多喜は21歳である。
 彼女は了の飲み込んだ言葉を察したらしく、顔を背けて、ほっとけと小さく言った。
 そんなやりとりを二人がしているうちに、いつの間にか娘に話しかける少年がいた。
「その子は助けてあげられないんだ、ごめんね」
 16歳ほどの青年は一見、高校の生徒に見えたが猟兵のひとりだ。3月という暖かくなってきた時期であるにも関わらずマフラーを深く巻いている。城石・恵助(口裂けグラトニー・f13038)は話しかけながらマフラーがずれないよう手で押さえた。
「君が水島裕理さんだよね?」
 娘は目を丸くする。顔に宿った感情は驚きと困惑と、恐れか。話しかけただけでそうなったのは、知らない異性に話しかけられたからかもしれないし、事件のせいでナイーブになっているのかもしれないし、別の理由があったからかもしれない。
 水島は肩口で切り揃えられた青緑の髪を持つ、大人しい少女だった。潤んだ緑の瞳と体つきはどこか瑞々しい印象を他者に抱かせる。
「その子って…?」
 水島の呟きに、恵助は指差して応じた。そこは彼女がじっと見ていた場所、昨日から失踪している男子生徒の机だ。
「な、何か知ってるんですか!?」
 上擦った声で立ち上がる水島に話しかけるのは了だ。
「彼が昨日から行方不明なのを知ってる」
 了は僅かに目を伏せた。女子を相手にするのは少し苦手だ。瞼に浮かぶのはひとりの男の姿。その人ならこういうときどのように話すのだろう。
 ひとつひとつ言葉を選びながら、了は続ける。
「俺は、失踪事件の解決に来たんだ」
「――…」
 水島の腰が、すとんと椅子の上に落ちた。
 緑の瞳は見開かれ、目尻が涙で膨らむ。
「初めてだった……。あの人がいなくなったことに気付いたの、あなたたちが初めてだった……」
 誰に行ってもそんな人知らないって。誰も覚えてなくて。
 顔を覆って、途切れ途切れに言葉を零す。そんな水城の背に手が置かれた。
 多喜の手だ。
「不安だったね。誰かに相談もできなかったんだね。人がいなくなるなんて、大事件なのにさ」
 肩を引くつかせ、手の隙間から雫を零して水島は頷く。何度も、何度も。
「アタシたちは助けに来たんだ」
 優しい手が丸まった背を撫でる。すると小さく、嗚咽が聞こえてくるのだった。
「苦しかったこと、悲しかったこと、何でも言いな。アタシたちがいる」
 嗚咽が大きくなった。
「最初は、隣のクラスの子だった……。次は、部活の後輩の子だった。いないの。学校に来なくなったの」
 恵助は頷く。少女の感情をひとつひとつ受け止めてゆく。
「机も写真も残ってるのに、みんな、そんな子知らないって言うんだよ…?」
 机を指さしても机が認識されない。写真を指差しても認識されない。ただ怪訝な顔をされるだけ。
「君がおかしくなったわけじゃない」
 恵助の言葉はそっと慟哭を包み込む。
「君が覚えているなら、なかったことにはならない」
 彼らは確かにいたんだ。そう言えば、水島も力強く頷いた。
「あの子たちにもみんな、家族がいたのに、大切なひとがいたのに。誘拐するなんてひどいよ……」
 水島の手が顔から離れた。机の上でぎゅっと拳をつくる。その手を、恵助は握った。
 大丈夫だよ。必ず解決するから。
 やがて水島の泣き声が大きくなった。止むまで、しばらくかかった。

 空いた椅子に猟兵たちが座り込む。水島も泣き止んでいて、意思の篭った緑の瞳を彼らに向ける。
「連れ去られたヤツがどんなヤツかもうちょい詳しく教えてくれ」
 了の言葉に水島は頷いて。それから真剣な表情で口を開いた。
 水島にとって、交流のあまりない男子生徒だったが、少なくとも傍目から見る限りにおいては特別素行が悪いということはなく、運動についても何か噂を聞いたことはないらしい。
「それじゃ、直前の状況とか」
 質問を変えた了に、水島は目を閉じてしばらく考え込むが、やがて申し訳なさそうに首を振った。
 隣のクラスの女子も、部活の後輩の女子も、どちらにも特筆すべき要素はなく、共通する要素もないらしい。
「被害にあったヤツの傾向とか、あればいいんだけどな」
「学年性別、部活に委員会。全部バラバラだね」
 了が嘆息すると、恵助は腕を組みながらマフラーを押さえた。
 そこへ多喜が思案顔で呟く。
「こりゃ無作為で選んでるみたいだね。それか、わざと偏らないようにしているか」
「つまり狙いは誰でもよかったわけだ。実際、いなくなったことが認識されないから、誰がいなくなっても騒ぎにはならない」
 意見を交わす多喜と了を見て、水島は俯いた。失踪した人たちには家族も友達もいたのに、犯人にとって狙いは誰でもよかったのだという。
 やるせない想いに握られた手へ、恵助は手を置く。その孤独も無力感も、彼にとっては身に覚えのあるものなのだから。
「じゃあ連れ去ったほうの特徴は? 着ている服とか」
 すると、しばらく記憶を掘り起こすように虚空を眺めたのち、水島は気付いたように口を開く。
「みんな制服を着てた。うちの制服を」
 恵助は僅かに目を細める。ここまではグリモア猟兵の予知の通り。
「ただ、うちの高校って制服を着る子はとても少ないの。みんな私服だから」
 そういう彼女の服は、黄色のセーターの上から桜色のボレロに袖を通している。スカートは白で、とても制服のようには見えない。
 水島が多喜を見た。この場で多喜だけが制服を着ていた。
 了も多喜を見た。
 恵助も多喜を見た。
 多喜は咳払いした。
「いつも制服を着てるような人はいる?」
「いないと思う。ああでも……」
 部活で学校の外に出るときは着なさいって校則で決まってる。水島の口からはそう語られた。
「部活か…」
「つまり、事件の犯人グループは特定の部を隠れ蓑にしてるってわけね」
 であれば次に調査するのは前日に活動していた部か。猟兵たちの間で話が纏まりかけると、了は不思議そうな表情を浮かべる水島に気付いた。
「どうした?」
「ええっと。……みんな、なんでこのことを解決しようとしてくれてるのかなって、気になって」
 猟兵たちは顔を見合わせる。猟兵とオブリビオンのことを話すべきか、否か。
 すると、ややあって了が口を開いた。
「俺はさ、兄がいるんだ」
 でも、いなくなった。そこまで告げれば水島の顔色が変わる。
「兄がいたんだぜ。でも、親はそのことを知らない。俺だけが覚えてるんだ」
 ずっと兄を探している。語られた内容に水島は今回の事件と結びつけたのか、哀しみと労わりを表情に浮かべて、それから強く口を結んだ。
「必ず、見つけようね…!」
「そうだな」
 あるいは。今回の水島への接触の最大の収穫は情報ではなく、水島の協力する姿勢のほうかもしれない。
 了の話を聞いた水島はすっかり意気ごみ、事件解決のためなら何でもするという雰囲気だ。
 しかし、それは彼女にとって厳しい選択ではないのだろうか。
「なあ、水島」
 了は懐の記憶消去銃を意識しながら、問う。
「いなくなった人たちのこと、忘れたいか? もし忘れられたら他のヤツと同じように、恐れず、疑わず、苦しまず、普段通りに過ごせんだろ。忘れたいか?」
 その問いは、彼女にとって不意打ちだったかもしれない。もし何もかも忘れられたら、きっと明日から笑顔で登校できるだろう。水島の瞳が了から外れ、多喜へ向く。
 多喜は笑顔で応えた。
「あなたがどっちを選んでもワタシは守るよ。事件も必ず解決する」
 失踪した友人を持つ多喜にとっても、ここで起きた事件、語られた内容は他人事ではないのかもしれない。なぜなら、彼女も未だにその友人を探しているのだから。
 次に、水島は瞳を恵助に向けた。
 彼は何も言わない。彼自身、自分で柄ではないことをしているなと思っていた。だが、彼の先ほどの言葉は水島に強く響いている。
 君が覚えているなら、なかったことにはならない。
「ううん、忘れたくない」
 だって、あの子たちは確かに居たんだって私が覚えていてあげないと。
 そう言った水島の笑みに、猟兵たちは静かに頷くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

霧生・真白
🔎弟で助手の柊冬(f04111)と
WIZ

UDC絡みの誘拐事件とは穏やかじゃないね
しかも既に被害者が出ている状況ときた
――面白い

僕は外部から、柊冬には内部から調査してもらう
予め指示はしてあるから上手くやってくれるだろう
逐一スマホで連絡を取り合い情報を照らし合わせ
外部と内部で情報の差異があれば注目しておこう
人の記憶は弄れても記録になら残っている場合もあるだろうしね

僕は学園のデータベースを調べるとしよう
侵入出来そうならより深いところまで潜ってハッキングしてみようか
消えた生徒がどういう扱いになっているかが知りたいね
それと裏サイトも当たってみよう
案外こういうところに情報の原石が眠っている場合もあるのさ


霧生・柊冬
姉である真白(f04119)と一緒に
SPD

生徒の誘拐事件…UDCが関与しているあたり、単なる誘拐事件ではなさそうです。
僕は校内から調査する方針です
互いに得た情報はスマホで連絡を取りあいます

高校へは学校見学という名目で潜入し、校内の生徒に色々話を伺ってみましょう
あまり怪しまれないようにしつつ、学校内でよく聞く噂話として事件の事を探ってみよう

放課後は水島さんにも声をかけてみます
水島さんは記憶が残っているように見えますし、なぜ記憶が残っているのか、何か他の人とは違った事をしたとか…些細な心当たりがあるなら教えてほしいです
消えたのが何人だったのか、消えた生徒の共通点を知っていたらそれも尋ねてみましょう




 小さく白い指がキーボードを叩く。紅玉の瞳が液晶モニタの文字列を追ってゆく。それは個人情報の海であった。霧生・真白(fragile・f04119)はノートパソコンを用いて、高校のデータベースへと侵入していたのだ。
 動画配信者兼探偵である彼女ならば、電子機器を利用した情報収集は慣れたものである。
 現地の調査は助手に任せている。外部と内部からの同時調査、役割分担。彼女が引きこもり少女であることを踏まえれば、適材適所と言えよう。
 助手には学校見学という体で潜入させてあった。
「それで、件の机はあったかい?」
 蕾のような唇がスマートフォンに寄せられる。
 通話の相手は助手であり弟でもある、霧生・柊冬(frail・f04111)だ。
「あったよ。でも、誰も存在に気付かないみたい」
 真白が最初に調べたのは出席表だ。学校中の生徒の出席状況が一目でわかる。今日まで連続で出席していない生徒がいれば、すなわち失踪者というわけだ。
「具体的には?」
 そして柊冬へ出した指示は、失踪者の痕跡の調査。いま、助手は机を調べている。
「机は撤去されずにそのまま。人によっては鞄とか出しっぱなしだね」
 そうであるにも関わらず、生徒も教師もそれの存在を認識できない。指差して質問しても誰もがまるで虚空を示されたように怪訝な表情を浮かべた。鞄を持ちあげても気にされず、試しに軽く人をぶつけてみても、ぶつかったことにさえ気づかれない。
「遺留品すべてが?」
「そうだね。写真も靴もみんな同じだった」
 パソコンの前で椅子の背もたれへ体を預けながら、真白はまるで、認識に迷彩を掛けられているようだなと呟く。
「正確には忘れられているんじゃなくて、存在が認識されなくなったということか」
 電話の向こう側に頷く気配があった。
 失踪者の出席表には、欠席と書かれておらずに空欄が続いていた。認識されないからチェック自体がされなくなったと見るべきか。
「どうして水島さんは認識できてるんだろうね」
「そのことなんだがな」
 真白の指がキーを叩けば、表示されるのは幾分か過去の出席表だ。
「数か月前に生徒が十数名、出席簿に登場するようになっていてな」
「転校生にしても十数人というのは多いね。するともしかして」
 ああ、泥人に違いないと真白は言う。彼女が調べる限り、転入に関する記録はない。学校のデータベースに存在しない。ある日突然、十数人もの生徒が学校に登場するようになったということだ。
「生徒の失踪に誰も気づけないなら、生徒が突然増えたって誰も違和感を抱かないだろうね」
 同じ魔力が人々の意識に作用していると考えるのが自然だろう。ふたつの原理は同じだと真白は推理する。
「一般人に対する認識迷彩だ。事件を正しく認識できるのは猟兵かオブリビオンくらいだろうさ」
「待って。それじゃ水島さんは」
 柊冬の言葉はそこで区切られた。だから、その先を真白が拾ってやった。
「水島裕理は泥人だ」
 数か月前に突然現れた生徒のひとつに、彼女の名前があったのだ。

 スマートフォンを持つ手が小さく揺れた。少年の持つ青玉の眼もまた、驚きから瞬きをした。
「僕…僕は水島さんに接触してみるよ」
「そうしてみるといい。どうも水島は他の泥人とは立ち位置が違うようだ」
 少年はトイレの個室にいた。携帯電話で連絡を取り合う都合上、校内の人目のある場所には難があった。トイレを出ると、そのすぐそばに目当ての教室がある。水島裕理の在籍しているクラスだ。
「こんにちわ。僕にもお話を聞かせてもらえますか」
 極力平静を装った。水島には既に他の猟兵たちが接触して、事件解決のための協力を得ている。話を聞かせてほしいと言えば、大層乗り気な様子で、はいと答えられた。
「僕も、事件解決のために動いている者です。霧生柊冬と申します、よろしくお願いします」
「私は水島裕理。何から言えばいいのかな」
 では、と言って少年はまず水島がどこまで認識しているかを問うことにした。なぜ彼女だけ記憶が残っているのか、何か他の人とは違った事をしたのかと。
「些細なことでも、心当たりがあるなら教えてほしいです」
 柊冬の宝石のような瞳と、水島の水面のような瞳が交差した。彼女はひとつ頷いて口を開く。
「どうして私だけ覚えているのか、本当にわからないの」
 他の人とは違った事をしたかもわからない。人よりお茶を飲むのが少し多いかも、茶道部だから。
 でもこんなこと関係ないよねと首を振る相手を眺めながら、柊冬は顔に出さず情報を整理してゆく。確か姉が出席表で調べた泥人はほぼ全員が写真部の所属だ。例外は目の前の水島だけである。
「消えてしまったのは、何人ですか?」
 そう問えば娘はクラスメイトの机にちらりと視線を送り、ややあって三人と答えた。
「私が知る限りは、三人。でももしかしたら、もっと多いかも」
 そうですね、という言葉を少年は飲み込む。姉から聞く限りでは失踪者はもっと多い。つまり三人しか把握していないのであれば、彼女は事件についてほとんど何も知らないということになる。
「ありがとうございます」
 柊冬は手帳にペンを走らせた。水島の証言、彼女の様子。自身の所感と疑問点。それぞれを分けて記載してゆく。いずれ姉に伝えるためだ。
 そのとき。あ、と水島が声をだした。少年はペンを止めて顔をあげる。
「他の人と違ったことはしてないけれど、最近変わったことはあったかな」
「…というと?」
 長く探偵の元で助手をしていたからだろうか。これから重要な情報が来るという確信があった。
「前に写真部の勧誘を受けたことがあるんだけど、一ヶ月くらい前にまた勧誘されたの。それも二回」
 こんな時期なのにちょっと変わってるよねと、水島は眉をハの字にして笑った。
 写真部、姉から聞く限りでは泥人のほぼ全員が所属している。
「勧誘は断ったんですか?」
「もう既に茶道部に入っていたから」
 兼部する気はなかったし。茶道部に入ってなかったら入部してたけれど。
「最初は誰から勧誘されたんですか?」
 柊冬はペンを持つ手に力を込めた。一字一句聞き漏らすまいと気を張る。
「最初は…神崎さんかな。生徒会長をやってる人だよ」

 その後しばらくして、柊冬はラインの通知を見る。そこには姉からの情報があった。
『神崎春奈という生徒に警戒しておけ。その高校の生徒会長だ』
『数か月前に彼女が突然学園に現れて、数日してから十数人の生徒が現れるようになった』
『おそらく彼女がリーダー格だ』
 柊冬が水島から得た情報を伝えると、やがて彼女は一つの結論を出す。
『おそらく泥人はすべて自由意志で行動しているはずだ。それを神崎が個別に誘いを掛けてグループに加えてるに違いない』
 泥人は騙されて利用されやすい種族だから。
 もしそうだとすれば、水島の記憶の謎とグループの正体が全て説明できるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

狭筵・桜人
◼️WIZ

潜入捜査ならおまかせください。
なんたって現役高校生ですからね!

【情報収集】
前日に消えた男子生徒の名前とクラスを確認。
私は転校生を装い生徒会の人達に近付いてみますね。

屯ってる女子生徒に声をかけましょう。
こんにちは。生徒会室ってここであってます?

ところでこの人を知りませんか、と件の男子生徒の名前を訊ねて。
中学の同級生なんですよ。
昨日も電話で話をして。
おかしいですね、この学校に通ってるはずなのに。

聞いて回って、潜む敵に目をつけられるように。
そうでした私、職員室に行かないといけなくて。
どなたか案内していただけると助かるのですが!

さてさて釣れますかねえ。

障害は排除、とまあUCでオーダー通りに。




 生徒会室をノックする音がした。鳴らした手の主は狭筵・桜人(f15055)だ。扉の奥から声がして、手応えを感じながら琥珀色の瞳が周囲を見回す。
 日頃からUDCアースで活動し、さらに学生を本分としている桜人にとって高校への潜入は得意分野だ。緊張のない自然体な様子で廊下を歩けば、生徒の誰もが疑問を抱かずに擦れ違う。
 潜入だけなら彼にとってとても簡単だった。だが調査もするとなると話は別だ。適切な相手から有用な情報を引き出し持ち帰らなくてはいけない。
 そこで、彼が考えたのは転校生になりすまし、失踪した生徒の友人として振る舞い聞き込みをするというものだ。
 がちゃり。生徒会室の扉が開かれるなり、桜人は用意した言葉を放った。
「こんにちわ。生徒会室ってここであってます?」
 じいっと自分に視線が集中するのを感じる。室内にいる生徒は四人か五人といったところか。男子生徒はいるが女子生徒のほうが多い。彼らは一様に何の用かと問いたげな表情を浮かべて、桜人の言葉に頷いた。
 そのなか、ひとつだけ混じる異質な視線に気づかぬ桜人ではない。
 生徒会長なのだろう、豊かな水色の髪をハーフアップに纏めた娘が口を開いた。薄い笑みを浮かべていた。
「どうしました? 何か御用ですか」
「ええ、実はですね」
 そう言って桜人はひとりの男子生徒の名を挙げる。昨日失踪した生徒だ。その人を探していると言った。
 だがやはりその生徒に掛けられた認識迷彩の魔力が、生徒会室の生徒たちの首を振らせる。皆が口々に言った。そんなひと知らないと。もしかして卒業生なのかと。どれも本心からの言葉だ。
「中学の同級生なんですよ」
 だから卒業生ではありえないと桜人が首を振れば、生徒たちは困ったように顔を見合わせる。
「この学校に通ってるはずなのに」
 昨日も電話で話をしたんですよと言っても彼らの反応は変わらない。
 だが、ただひとり、生徒会長だけは無言のまま桜人を見据えていた。変わらず薄く笑っていた。
「ねぇ」
 桜人が笑みを作る。生徒会長へと真っ直ぐ向いて。
「――知ってますか?」
 その視線に狂気が乗った。精神を汚染する恐るべき力が生徒会長に注がれる。彼女は表情こそ変えないものの指先をぴくりと動かした。机の上で組んだ手、その痙攣を隠すように手が降ろされる。
「知らないですね」
 そして彼女は笑顔のまま最後まで受け切った。緩く弧を描いた目元から放たれる恐るべき威圧感が桜人を貫く。
 一見して和やかな、しかし敵対者へ向ける笑みが室内で交わされていた。
 桜人は思う。想像以上の大物が釣れたなと。泥人などというオブリビオンに利用される存在ではありえない力を相手から感じる。おそらくこれがリーダー格だ。
「誰も知らないようですね。残念です」
「お役に立てなくてすみません」
 あちらとしても一般人を巻き込んで戦うつもりはないようだ。この場で何かを仕掛けてくる様子はない。
「そうでした私、職員室に行かないといけなくて」
 いかにもいま時計に気付いた風を装って、青年はその場を後にする。
 案内しましょうかと生徒会長から申し出があったが、丁寧に断っておいた。
「……だって」
 ひとり、廊下を歩きながら桜人は呟く。
 ふたりきりになったらすぐに始末するつもりだったでしょう?

成功 🔵​🔵​🔴​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
人が消されちゃうなんて、怖い……ううん、怖くない、怖くないわ
マリアは猟兵だもの、お仕事はきちんと出来るんだから

部活の人達が怪しい、のよね?
クリスタライズで姿を消して、校内の部室を見て回るわ。
いつも制服なら、文化系かしら?

次の犯行の相談とかしてるかもしれないし、そうでなくても何か手掛かりが見つかるかもしれないわ。
資料とか見つけたら、そのまま一緒に透明化して持ち帰りましょう。
一応、見つかって襲われたときのためにオーラ防御と念動力でいつでも逃げられるように準備もしておけば安全ね。

誘拐された人達、助けられると良いんだけど……




 確か写真部と、言ってたはず。
 仄かな光を纏い、瞳に煌く桃色の光を湛え、豊かな髪と布を揺らして歩くアヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)は、自身の力によって体を透明化しながら歩いていた。
 ここは文化部の部屋のある区画だ。そこを、目当ての部室を探してアヴェロマリアは歩く。幼く小さな体だが、道行く生徒にぶつからないよう道を開けながら。
 アヴェロマリアが水島と会ったとき、彼女は気を持ち直してこそいたが、また誰かが消えてしまうかもという恐怖と、自分では何もできないという無力感を抱いていたのを感じ取った。
 だから安心するよう言ったのだ。マリアがきっと、全部救ってみせるからと。
 それでも、アヴェロマリアが恐怖を抱かなくなるわけではない。異世界の地で人が消される事件を追う、その心細さは、まるでふとした拍子に自分すらも消されてしまうのではないかという不安で心が捩じられるようだった。
 だけど。
 ――マリアは猟兵だもの、お仕事はきちんと出来るんだから。
 決意を新たにする。救わなくてはいけない人がいるのだ。

 ややあって、彼女は目当ての部室の前にたどり着く。すると、前方から女子生徒がやってくるのが見えて、壁に張り付くように道を譲った。だが、生徒の目的が写真部であることに気付くと、彼女は扉が開かれるタイミングに合わせて体を滑り込ませる。
「ねえ、彼の病気、治るかな」
 写真部の部室は手狭な会議室といった造りになっていた。縦長の部室に、長居テーブルがふたつ。壁にはいくつかの風景写真が飾られていて、奥にはロッカーを少し大きくしたようなものがあった。暗室なのだろう。
「きっと治るよ。前のときの子、だんだん良くなってきてるって神崎さん言ってたし」
 そんな場所に三人の女子生徒がいた。椅子に腰かけたまま談笑している。
 病気、という単語がアヴェロマリアは気になった。
「最初は写真部に入ってと言われて、どうしようかと思ったけど」
「実は神崎さんが重い病気の人をこっそり助けるための部だなんてね」
 なんだろう、これは。
「病気を治す魔法のこと、隠さなきゃいけないからみんなには秘密にしてと言ってたけれど…」
 生徒の話からは全く悪意や害意を感じない。
「こっそり旧体育館に運ぶの、いけないことしてるみたいでドキドキするよね」
 善意しかない。
 ――ああ。
 そのとき、アヴェロマリアのなかで断片的に聞いた情報が次々と繋がり、やがて涙が溢れそうになった。
 ――なんてこと。
 彼らはあくまで病気に侵された生徒を治すという名目で、失踪事件に関与しているようだった。
 ブラックタールの変種、泥人は一般的にお人好しが多く、臆病で騙されやすい性質があるという。オブリビオンに利用されやすい種族であることを、アヴェロマリアが知っているかどうかはともかくとして。彼女にとって一番大事なことは彼ら泥人が病気の生徒を秘密裏に治すためだと言われて犯行に及んでいることだった。
「ねぇ、そろそろ旧体育館に集まる時間じゃない?」
「ほんとだ。神崎さんも来るし、制服に着替えておこう」
 リーダー格が来る。そう聞こえて目元を拭い、口を手できゅっと抑えながらアヴェロマリアは出口を探した。ドアは閉まっていて、自分で勝手に開けるわけにはいかない。誰かが開けるのを待つのでは、脱出に失敗する可能性がある。
 アヴェロマリアの大きな瞳が部屋をぐるりと見回して、やがて窓が開いてるのを見つけて体を滑り込ませるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イェルクロルト・レイン
ガッコウ。
前にガクエンサイに来た時に、少しだけ興味を持ったから。
たまには真面目にするのも悪くない。
"学校"がどういうものなのか、知りたい。

集団で動いてるんだっけ。
なら、集団でいても怪しまれないような集まりがあるんじゃないか。
制服なんてガラじゃないし、そんな歳でもない。
外から見える所から中の様子でも窺うか。
入れそうな所があれば入ってみてもいいかな。
怒られたら出ればいいだろ。言いくるめてもいいな。

運動してる生徒を中心に観察。
ついでに物が沢山ある場所も見て行こう。
勘に頼りつつあちらこちら。
不審な動きがあれば追跡、接触を図る。
手癖は悪い方だ。何か手がかりになりそうな物は盗んでいく。


富波・壱子
もう被害が出てるならせめて次の犠牲者が出ないよう急がなきゃ!頼んだよ!
チョーカーに触れ日常人格から戦闘人格へと交代します
任されました。調査を開始します

時間も無いですしやむを得ません。端から順に撃ち殺していきましょう
そのまま死んだら人間。そうでなければオブリビオンです
ではまずあなたから

という想定でユーベルコードを発動、実際に試した結果を予知します

もしも対処が遅れれば、次に被害に遭うのは今目の前にいる人物かもしれません。ならば手段を選んではいられません
自分が目の前の人間を撃ち殺す光景を何度見ることになっても一切揺らがず調査を進めます

あなたは違う
あなたも違う
…………見つけました。あなたですね
撃ちます




 富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は焦っていた。
 もう失踪事件の被害者は出ている。早く解決しないとさらなる被害が出てしまう。階段の壁に背を預けたまま壱子は目を伏せる。目の前を通り過ぎてゆく生徒たちは友人と楽しげに会話していた。昨晩見たバラエティとか部活だとか、彼らが口にする話題に行方不明などという単語は出てこない。一見してなんの変哲もない平和な高校だ。
 だが、彼らは認識していないだけで、この場所では次々に人が消えている。次に消えるのは、笑って下校後の約束をしている彼らかもしれないのだ。
 ならば。手段を選んでいられない。
 壱子は眼を閉じたまま自らの首筋に触れる。革製のチョーカー、その下の肌にはバーコードがある。特殊な墨で彫られた個体識別用バーコードは、彼女がかつてカルト教団と因縁浅からぬ関係にあったことを証明する。
 ――急がなきゃ。頼んだよ。
 やがてオレンジ色の瞳が開かれる。
 ――任されました。調査を開始します。
 およそ温度を感じさせない表情で、壱子はホルスターへ片手を伸ばす。大型の自動拳銃は少女の手には大きく、しかし不思議とよく馴染んだ。
 平凡な高校で突如現れた凶器に、生徒たちからどよめきが上がった。あれはモデルガン? そういえばあんな人いたっけ? こんなところにオモチャなんか持ち込んで何を――。
 ばん、と銃口が火を噴いた。
 すぐそばにいた男子生徒の頭が咲く。悲鳴が上がるのは、骸が倒れて数秒してからのことだった。
 ここに事件の解決を急ぐ明るく人懐こい少女の壱子はいない。いるのは冷徹な暴力装置となった兵士の壱子だ。
 銃声が連続する。逃げようとした生徒から順に。死んだら人間。そうでないものはオブリビオン。時間を掛けないシンプルな判別方法。
 あなたは違う。あなたも違う。
 屍を量産して、壱子は口を開いた。そうでしたか、みんな人間でしたか。その呟きに言葉を返せる者はもういない。

 壱子は階段に背を預けたまま、ホルスターを服の上から撫でる。
 発砲は現実には起きていなかった。人を撃った光景は未来予知を利用して垣間見たIFの世界。眉ひとつ動かさず、壱子はその場を離れる。廊下に出てそして近くの教室に入っては、予知を通して射殺される生徒を見てゆく。
 あなたも違う。
 ここにもいない。
 やがて彼女が校舎裏側の階段の踊り場まで行きついたとき、ひとつ深い呼吸をした。予知に感あり。
 ――見つけました。
 人気のない場所で佇む男の背へ、壱子は銃口を向けた。
「ちょっと待って」
 そして男は振り返る。イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)、猟兵だ。
 動きに合わせてよく目立つ耳からピアスが揺れる。気だるげな眼差しが壱子へ向いて、なに? と問うていた。

 屋上の扉が開かれると。爽やかな風が髪を浚った。陽光を照り返すコンクリートの眩しさに、イェルクロルトは眼を細める。多くの学校の屋上は安全性の問題から閉ざされていることを、彼は背後の壱子から聞いていたが、咎められたときに出るかあるいは言いくるめてしまえばいいと考えていた。
 琥珀色の瞳が左右に向き、屋上を一望して壱子へと振り返る。
「それじゃ建物の中にはいなさそうだ」
 それは壱子の調べ方を聞いての判断だ。と言っても学校は彼にとって未知の世界である。建物にいなければどこにいそうなのか、彼には思い浮かばない。
「いまはジュギョウが終わった時間。だから生徒はバラバラに行動している、と」
 道すがら聞いた話を反芻して、思考を整理してゆく。
「どういう活動があるの?」
 それに壱子は淀みなく答えた。生徒によって委員会活動があると、また部活動というものがあると。何もない生徒は帰路につき、それぞれ自由に過ごしている。
 イェルクロルトは回答を聞きながらグリモア猟兵の説明を思い返していた。敵は集団である。集団で行動をしている。それならば、集団でいても怪しまれない集まりがあるのではないか。
 コンクリートを踏みながら彼は柵へと近づき、眼下に広がるグラウンドを眺めた。球を追いかけて走り回る青年が見えた。広い土地を縦横無尽に、球を蹴っては追いかけている。青年たちの動きはどれも真剣で、祭りのように見えた。
「これもブカツ?」
 彼女から返る反応は肯定。思えば、このブカツとやらもガクエンサイで出店していたのだろうか。例えば、射的とか。
 ふぅん、と彼はそのまましばらくグラウンドを眺める。外縁を走り回る生徒もいた。
 同じくじっと生徒たちを見る壱子が校舎のときと同じ方法で調べてないことはないだろう。彼女が無反応ならグラウンドにいる部活の生徒に泥人はいない。
「運動してるもの以外にブカツはない?」
「文化部があります」
 ブンカブ。新しい単語だ。ブが共通するから、残りの部分が活動内容に関わる語句なのだろう。
 気だるげな眼差しが白いアスファルトを避け、なんとなしに反対側へ向く。正確には屋上の柵の奥、校舎と隣接する建物に。小さな部屋がいくつも詰まったような建物だった。
 その建物の前を歩く数人の女生徒たちに目が留まる。全員同じ服を着ていた。
「ブンカブってああいうの?」
 問われた壱子がイェルクロルトの視線を辿る。眇められる視線は予知の力が伴ったものだろうか。
 ややあって、彼女は冷たい表情を保ったまま口を開いた。
「当たりです」
 大当たりです。
 自然と、二人の脚が階段へ向いた。追跡が始まる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夷洞・みさき
泥人達が他人を犠牲にする、ね。
僕の知る泥人は己を犠牲にする事を業にしていたけど、
その行為の功罪がどうであれ、現世の人を犠牲にしたのなら、如何しようもないね。

これもボスとやらの影響なのかな。

まさかと思うけど、行方不明になった人達全員、泥人だったってオチはないよね。

【WIZ】
グループで他人の嫌がる仕事をしている集団を訪ねて回る。
生徒会活動なら、なおさらそういった仕事を振る相手というのも心当たりがあるんじゃないかな。

水島にも接触。法の外の存在であることと、咎人殺しであることを示し、
事の始まりの時期や、前後の出来事

あ、そうそう、君もこの近くの生まれなのかい?
昔からこんな事件があったりしたのかな。

アド歓




 すべてのオブリビオンは猟兵の存在を知らなくとも、それをひとめ見れば己を殺しうる敵であると理解するという。
 であれば、泥人である水島裕理が猟兵を最初に見たときに抱いた恐怖は、その理解に起因したものに違いない。
 だが、ヒレにもウロコにも似た黒衣の裾を僅かに揺らして佇む、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)を見て息をのんだ理由はきっとそれだけではなかった。彼女の纏う、濁った水底の気配に圧倒されていた。
「ご存知のとおり、僕も猟兵だよ」
 水島の背を冷たいものが伝う。眼を数回瞬かせて、居住まいを正す。そもそも彼らが猟兵であることはひとめ見たときから悟っていたことだ。その上で、水島は事件解決のためなら何でも手伝うと言ったのだ。
「…もっと聞きたいことは、ある?」
「うん。いくつかね」
 みさきがピンと立てた人差し指に、水島の目は吸い寄せられる。鱗の生えた手先。動作のひとつひとつから目を離せない雰囲気がみさきにはあった。
「昔からこんな事件があったりしたのかな」
「ない、と思う」
 回答したのち、しばらく考え直し、やはり心当たりがなかったようで首を振る。続けて事件の始まりの時期や前後の出来事について確認したが、水島の知っている情報はない様子だった。
「あ、そうそう」
 もしかすると、これはみさきにとって何気ない質問だったかもしれない。
「君もこの近くの生まれなのかい?」
 水島の過去に関する質問。それは泥人の娘に大きな衝撃をもたらした。
「え……」
 緑色の瞳が丸まる。

 水島の反応を眺め、みさきは泥人について思案する。
 そもそも違和感があったのだ。
 みさきの知る泥人とは、生来の臆病さと善性をつけこまれやすく、儀式の生贄に使われやすい種族だ。多くの場合において、泥人達は彼女が望む望まないに関わらず、犠牲になってきた。
 それが、今回の事件では他者を犠牲にしている。人並みの正義感を持つ泥人達がそれを受け入れられるだろうか。
 これもボスのとやらの影響なのかなとみさきは思う。
 一番考えやすいのは、泥人達は何も知らされておらず、他者を犠牲にしているという自覚なく利用されてるパターンだ。ただ生徒たちを拐かすためだけの手駒として呼び出された存在なら。
「私…何も覚えてない…?」
 生まれや幼少時の記憶などわざわざ設定されてないのかもしれない。
「私って一体なに…? どうして記憶がないの…?」
 これまで普通の生徒のひとりとして違和感なく過ごしてきただろう少女は、猟兵の質問によって初めて自身に疑問を抱いた。
 怯えと驚愕の混ざる視線を受け止めながら、みさきはやや目を伏せた。彼女の疑問に答えることは、情報の揃った猟兵にならできる。答えるかどうかは猟兵の自由だ。いかなる回答をしたとしても、水島が猟兵の敵に回ることはないだろう。
「僕は猟兵の、咎人殺しをやってる」
 みさきはこの場では何も答えなかった。その代わりに、これからの行動を予告する。
「これから咎人を倒しに行くよ」
 つん、と教室に淀んだ海の匂いが混じった。みさきの背に、六人の男女が陽炎のように現れ、そしてすぐに消える。およそ年の頃十から十八の、彼女の同胞達だった。
 みさきの予告を受けて、水島は猟兵たちの目的が失踪事件の犯人の打倒であると正しく理解する。勢いよく立ち上がり、それまで座っていた椅子が倒れた。
「私もついていく! 私も知りたい。どうして人がいなくなっちゃったのか、どうして私が昔のことを覚えてないのか」
「きっと危ないよ」
 みさきの忠告に水島は怯まない。危なくてもいい、迷惑はかけないからと食い下がる。
「わかった」
 やがて猟兵たちの誰かが許可をした。
「写真部のところへ行こう。そこに咎人がいるはずだから」

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『泥人』

POW   :    痛いのはやめてくださいぃ…………
見えない【透明な体組織 】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    悪いことはダメです!!
【空回る正義感 】【空回る責任感】【悪人の嘘を真に受けた純粋さ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    誰か助けて!!
戦闘用の、自身と同じ強さの【お友達 】と【ご近所さん】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵たちがまとめた情報を並べると以下のようになる。
 まず、失踪事件を起こした者たちはすべて写真部に属するグループとなる。
 そして彼女らは生徒会長の神崎春奈が召喚した存在だ。すべての泥人は己が召喚された存在だという自覚を持たず自由意志によって行動し、騙されやすい性質を利用されグループに加えられている。
 水島裕理もまた召喚された泥人のひとりであるが、彼女のみグループに加わらず、事件について何も知らなかった。だがオブリビオンであったため失踪した生徒の存在を認識していられた。

 かくして、猟兵たちの探す写真部の一団は部室棟と旧体育館を繋ぐ道にいた。立ち入り禁止になって久しい旧体育館ならば近づく生徒などいないだろう。この場では一般人を気にすることなく戦えるはずだ。
 旧体育館へ向かう様子だった彼女たちのなかには、生徒会長の神崎春奈の姿もある。神崎は猟兵に気付くと泥人の生徒たちに耳打ちして、旧体育館へ駆ける。
 対して制服姿の泥人の生徒たちは敵意を剥き出しにして猟兵へ向いた。ここで足止めし神崎を逃がすつもりなのだろう。

「神崎さんの言ったとおりだ!」
「神崎さんの魔法を狙う人が来たよ、みんな神崎さんを守って!」
「私たちは病気の人たちを助けようとしてるだけなのに!」
 空回る正義感。空回る責任感。悪人の嘘を真に受ける純粋さ。
 それは失踪事件の主犯格の捨て駒に利用される泥人たちの特徴であり、またそうと知らず事件の被害者を増やし続けてきた特徴でもあった。
 彼女たちは、自分たちがは神崎に召喚されたものだということを知らない。無知ゆえに命がけで猟兵へ立ち向かう。
 泥人は召喚主の神崎が死ねば自動的に消滅するだろう。だが、神崎と戦うためにはここで倒す必要がある。

「これは、なに…? あの人たちは何を言ってるの…?」
 そして現場についてきた水島は、理解できないといった表情でその場に立ち尽くすのだった。


【補足】
 水島が同行していますが戦いには参加しません。また彼女は一章で猟兵たちが得た情報をほぼ知りません。
 彼女へ真実を伝える、守るように戦う、戦いへ参加するよう呼びかける、あるいは何もしない、それ以外の行動をする。
 敵は弱いです。どうぞ自由にプレイングを書いてください。
富波・壱子
動きを止めます。皆さんはその隙に攻撃を
味方にだけ聞こえるよう小声でそう言ってから、後ろから水島裕理の首に腕を回し頭に銃口を突きつけ泥人達に告げます
動くな。少しでも動けばこの女子生徒の頭を吹き飛ばす

本当に撃つつもりはありませんが、騙されやすいというならそれでも十分でしょう
少しでも彼らの動きが鈍ったり、こちらに意識を集中させることができれば他の猟兵も動きやすくなるはずです

それでもこちらに向かってきた場合は彼らに向けて水島を突き飛ばし、意識がそちらに移った所でユーベルコードによる瞬間移動。背後から拳銃で攻撃します

人間と変わらない見た目でも、騙されているだけでも、一切躊躇しません。殺します

アドリブOK


狭筵・桜人
連れて来ちゃったんですねえ。

水島さんに矛先が向く事はないと思いますが
万が一があればお守りしますよ!
敵からも、味方からもね。

こんにちは写真部の皆さん。
少し落ち着いてお話ししませんか。
私は神崎さんの魔法を狙ってなんていませんって。

武装解除の意思を見せて、

だって病気の人を助けようとしているんでしょう?
それってとっても良いことですよね。
違いますよ。私はただ、

――あなたたちを殺しにきただけです。

UC発動。討ち漏らしは任せますよ。

とまあ、ご覧の通り彼女らは人間ではないわけですが。
人を拐かし消してしまう化物と
無垢な少女を殺戮する私たち。
さてさて、どちらが悪者でしょうねえ。

どうします、一緒に来ます?




 琥珀色の瞳が泥人の女生徒たちを眇め、ゆっくりと猟兵たちの後方に位置する水島へと向いた。
 連れて来ちゃったんですねえ。
 困惑に支配され顔を蒼白にした少女。事件の関係者とも猟兵とも言えない存在だが全くの無関係とも言えない娘だ。彼女に攻撃の矛先が向くことはないだろうが、万が一があれば狭筵・桜人は守るつもりでいた。
 その万が一が敵と猟兵のどちらから起こされるとしても。
 だから、富波・壱子が彼女を後ろから首へ腕を回し、後頭部に銃口を押し付けたとき、桜人はそこへ全神経を集中した。
 直前に壱子から言葉がなかったら体が動いていたかもしれない。
 動きを止めます。皆さんはその隙に攻撃を。
 声を抑えて放たれた言葉は猟兵にしか届かなかったはずだ。
「動くな」
 そして次に堅く冷たい声が、十六歳の若い娘の口から出る。
「少しでも動けば」
 この女子生徒の頭を吹き飛ばす。非情の兵士が告げた言葉は泥人の少女たちをその場に縫い留めた。
 少女の手に収まるにはいささか大きい拳銃から、人質にした少女の怯えと緊張が伝わってきた。壱子の声も意図も彼女には伝わっている。だがそれでも怖いものは怖い。泥人の少女たちも同様で、初めて目にする本物の拳銃と、銃口を向けられている人がいるという状況に恐怖していた。
 これはずいぶんと有効でしたね。
 水を打ったように静まりかえる泥人たちを、オレンジの瞳が冷静に観察する。本当に撃つつもりなどない。狙いは泥人の騙されやすい性質を利用した足止めである。彼らを鈍らせ、時間を稼げれば他の猟兵が手を打ちやすくなるというものだ。
「まあまあ、ちょっと落ち着きましょう」
 そして桜人が後を引き継ぐ。あたかも猟兵の突然の行動に驚いたように、壱子と泥人の少女たちをなだめるように、場をとりなすような言葉を出した。
 相手は敵意と恐怖を剥き出しにしてこちらを睨み付けている。だがよく見れば指先が小さく震えていた。自分たちの存在を恐怖しているのだろう。
 だから桜人はあえて。
「こんにちは、写真部の皆さん」
 努めて穏やかな調子で声を出した。
 少しお話ししませんか、と投げかければ、彼女たちの表情には怪訝な表情が浮かぶ。生徒を人質にしておいてと言いたげで、何を言われても騙されまいと皆一様に口を結んでいた。
「私は神崎さんの魔法を狙ってなんていませんって」
 桜人は言葉を続けながら武器を捨てる。からんと転がる銃に相手の視線が突き刺さった。壱子が人質に向けるそれと記憶消去銃は運用が違うが、この場では同じものに見えるだろう。
 一方で人質をとりながらも一方で対話を呼びかける。猟兵のちぐはぐに見える行動に、泥人たちは疑問を抱くしかない。
 彼女たちのリーダーの神崎は猟兵を魔法を奪いに来た者たちと言っていたが、その認識がいま揺らいでいた。
「だって病気の人を助けようとしているんでしょう?」
 続く、隙間にするりと入り込むような言葉。
「それってとっても良いことですよね」
 泥人の少女たちは思わず頷いてしまいそうになって、慌てて首を振った。もう何が何だかわからない。
 そう、わからない。疑問と混乱はどこまでも膨らみ伝播してゆく。
「でも神崎さんはあなた達を魔法を奪う人だって――」
「違いますよ」
 桜人が言葉を遮った。
「私はただ」

 あなたたちを殺しにきただけです。

 ぞろ、と紫色の球体が猟兵の前に生み出される。宙に浮かぶその表面は蠢き、よく見れば細長いものが無数に絡みあっているのがわかるだろう。桜人にとっては見慣れたものだが、泥人たちには未知の存在である。
「なに、これ…」
 怯えを孕んだ呟きが零れ落ちるのをきっかけに、触手の塊は一気にほどけ目標へと殺到した。
「きゃああああッ!?」
 絹を裂くような悲鳴が響く。異形の存在はそれまで学び舎のなかにしかいなかった少女たちへ大きな衝撃をもたらした。ましてや襲い掛かってくるならなおさらである。先頭にいた一人が触手に絡めとられ手足を首を絞めつけられると、泥人の少女たちはたちまち恐慌状態に陥った。
 ただ悲鳴をあげるもの。仲間を助けるため触手を引き剥がそうとするもの。そして、怒りに猟兵へと走り出すもの。様々な反応がそこに生まれ、壱子は己に走り込んでくる泥人の少女を認める。
 壱子の対処は早かった。微塵も迷いはない。腕を首に巻き付け人質としていた水島を即座に解放、迫ってきた相手へ突き飛ばす。
「うわっ」
「えぇ!?」
 声が重なった。両者とも予想外の展開に驚き、泥人に至っては慌てて立ち止まろうとする。
 ぶつからなくてよかったと胸を撫で下ろす泥人の前で、水島はあることに気付いた。
 後頭部へ突きつけられていた銃口の感触がない。
「……え?」
 そしてその銃口は、いつの間にか泥人の頭へと押し付けられていた。冷徹な兵士の少女は既に水島から離れ、敵の背後に立っていた。それは泥人が人質へ意識を向けた、一瞬のことだった。
「あ、うそ…」
 消えた猟兵の姿。後頭部にある硬い感触。それが何を意味するか相手が理解するよりも早く、壱子は静かに引き金を絞った。
 ぱん。
 頭から飛沫をあげ、力を失った少女の体が倒れる。死したオブリビオンはすぐに液状化して原型を失い、やがて泡に包まれて消えていった。
 見下ろす壱子の瞳は、無情。
 相手が人間と変わらない見た目でも、騙されているだけだったとしても。引き金へ添えた指に一切の躊躇はなかった。
「人間じゃ…、ない?」
 人質にされていた水島は、ただ呆然と泡の消えた場所を見下ろすしかない。
「ええまあ、ご覧の通りなんですが」
 そこへ桜人の緊張感を欠いた声が滑り込んだ。
「人を拐かし消してしまう化物と、無垢な少女を殺戮する私たち」
 まるで囁くように。そして言葉で人を玩ぶように。
「さてさて、これはどちらが悪者でしょうねえ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イェルクロルト・レイン
誰かが言ってた。正義の反対は、また別の正義だって。
あんたらは、世界から弾かれた存在なんだ。その時点で、あんたらのその正義は悪になる。
あんたらにとっての悪になろう。真実に気付いてしまう前に。
ユリだかユーリだか知らないが、そいつのケアは誰かするだろ。
どうせ、消えるんだ。そいつも。好きにしたらいい。

泥人。知ってる、それを。その性質を。
そして自分がかつて彼女らに何を齎したのかを。
今更自分が逃げる道理もない。斃すさ。他がやらずとも、俺が。
熾すは白き耀きの焔。ナイフは今必要ない。
痛みを感じる間もなく感覚を焼ききって殺してやるよ。
皆で逝けば怖くないさ。眠れ、オブリビオン。




「うそ、死ん……っ、いやああ!!」
 誰かが言ってた。
「どうして…この人殺し!」
 正義の反対は、また別の正義なのだと。
「私たちは、ただ病気の人を助けようとしただけなのに!」
 ああ、だが正義と悪は同質のものだ。泥人の少女たちがどれほど他者の幸福を願って行動していたとしても。彼女が世界から過去の存在として棄てられた次点で、抱いた正義は悪へと裏返ってしまう。
 いまこの場では、どうしようもないほどに、オブリビオンを討つことこそが正義であった。
 ――だから。あんたらにとっての悪になろう。
 泥人のひとりが突如、白い炎に包まれ燃え上がる。絶叫することなく、暴れることもなく、瞬く間に燃え尽きて液状化し、泡すら残らなかった。
 ――斃すさ。他がやらずとも、おれが。
 イェルクロルト・レインは眼を細める。
 泥人の少女たちは狂乱を極めた。触手の群れが華奢な体を捉えて捩じ切ろうと襲い掛かっている。そして銃殺された仲間がいる。たったいま燃え尽きた仲間がいる。残る泥人の悲しみと怒りが眼から雫となってあふれだし、たちまち猟兵を狙う針となって飛ぶ。死して泡になった仲間にも、ユーベルコードを使う自身にも違和感を抱く様子はない。オブリビオンとしての本能によるものか。
 だが、その攻撃がイェルクロルトに届くことはない。
 涙の針は白い焔に呑まれて消えた。イェルクロルトが投げなく上向かせた手のひらにそれはあった。陽炎にも蜃気楼にも似た炎は、骸の海から掬い上げられたものである。
 細められた琥珀色の眼が泥人の少女たちを見る。彼らについて全く知識がないわけではない。かつてグリモアを通して観たことがある。彼らの何気ない営みも。怪物の餌として集められるところも。そして猟兵が手に掛けるところも。
 何のことはない。前は自分が始末を依頼する立場だった。いまは始末を実行する立場なだけだ。
 いまさら逃げる道理もない。
 斃す。
 できるはずだ。
 おれたちの手は、とうに沢山のものを奪ってきたはずなのだから。
 ナイフはいらない。ただ白い焔だけあればいい。それならば感覚を焼き切って、痛みを感じさせる間もなく海に送り返せるはずだ。
 泥人の怯えが濃くなった。骸の炎からなにか感じ入るところがあったか、涙を頬に張り付けながら、正義感と責任感で奮起した娘が踏み込んでくる。
「眠れ、オブリビオン」
 猟兵の手から炎が溢れ、飛び出した。たちまち少女たちを呑み込んでゆく。抵抗も悲鳴も何もかもすべて覆って、自らが死ぬことにすら気付かないように。それは攻撃であると同時に、手向けでもあるのだ。
 皆で逝けば怖くないさ、眠れ。
「せめて真実に気づく前に」

成功 🔵​🔵​🔴​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
※アドリブ歓迎

お姉さん達も、助けたくて頑張ってたのよね。
それは、とっても素敵なこと。とっても尊いこと。とっても、大切なこと。
だから、ごめんなさい。
マリアはお姉さん達を救えないけど、居なくなった人達は、必ず救うから。

UCを発動して、念動力で押さえつけながら
せめて苦しまないように、光の速さで撃ち抜くわ。
自分達が騙されてたことは、知らないままでいい。
お姉さん達は、心から誰かのために頑張って、戦って、それで、おしまい。

裕理お姉さん。あなたも、覚えていてあげて。
あのお姉さんたちは、本当に心から人のために頑張ってたんだって。
マリアも忘れないけれど、お願いね。短い間でも、きっと意味はあるはずだから。




 悲痛な声が響く。
 仲間が次々と死んでゆく。ある者は全身を締め上げられ砕かれ、ある者は銃弾に貫かれて、またある者は白い炎に焼かれていく。骸は残らず、いずれもが液状化し泡となって消えた。
 平和な学園生活を送ってきた泥人の少女たちにとって、死とは現実感のない、液晶画面の向こう側にのみ存在する概念だっただろう。
 それがいま光に貫かれ、穴を空けられながら死を押し付けられた。
 魂を失った体は虚ろな眼を晒し、やがてそれも泡となり何も残らなくなった。
 ――ごめんなさい。
 視線の先には褐色の肌の小さな少女がいた。両手を組み、海へと還されてゆく泥人たちの冥福を祈る、アヴァロマリア・イーシュヴァリエだった。
 自ら放つ輝きに包まれながら聖者はただ想う。
 彼らには善性があった。嘘の病を吹き込まれたが、救命のために行動をしていた。それを、アヴァロマリアは素敵なことだと思う。尊く、とても大切なことだと思う。
 だから、ごめんなさい。
 マリアが貴女たちを救わない。そのことに、ごめんなさい。その代わり必ず最善を尽くすから。
 小さな聖者は瞑目し祈りを捧げる。体の光はますます強まり、泥人のあらゆる攻撃がすり抜けてゆく。もはや彼女の体は光そのものと言っても過言ではない。
 敵の放つ透明な体組織も、あるいは手足も、もうアヴァロマリアには届かない。
「どうなってるの!?」
「か、体が…!」
 それどころか体が動かなくなってゆくではないか。金縛りというよりは、周囲の空気が固形化したかのようだった。泥人たちの顔に焦りが浮かぶ。眼前で輝く少女が仕掛けているのはわかるが、なにが起きているのか全く分からない。
 ――どうか。
 アヴァロマリアは祈る。せめて苦しまないように。せめて残酷な真実に気づかないように。彼女たちは心から誰かのために頑張った、そして戦った、それでお終いとしよう。残酷な真実に彼女たちの心が苛まれる前に。
 自身の未来を代償に光の化身へと至った小さな聖者は、その光を真っ直ぐ天へと伸ばした。一本の直線だった眩いばかりの光は、するりするりとほどけて無数の光の束へとほどけて。
 そして、花弁のごとく咲く。
 光は曲がり、うねり、アヴァロマリアの意志のもとに狙いを定める。
 ――せめて苦しまないように。
 果たして光は泥人の体を貫いた。頭を、胸を。即死だっただろう。
 善性を否定せずに眠らせる。それこそが彼女たちに残された唯一の救いなのかもしれない。
「……」
 目を開け祈りを解いた猟兵は、やがて水島へ振り返る。
 そして裕理お姉さんと呼んだ。
「あなたも、覚えていてあげて。あのお姉さんたちは、本当に心から人のために頑張ってたんだって」
 猟兵たちの戦いに。そして眩い光に。何も知らないまま目の前の光景が呑み込めず呆けていた水島は、現実に引き戻されたような顔をした。アヴァロマリアのピンクの瞳が、エメラルドの瞳と絡み合う。水島は無知のまま頷いた。少女の言葉と瞳に真摯な想いがあったから。
「マリアも忘れないけれど、お願いね」
 きっと意味はあるはずだから。それが短い間だとしても。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携・絡み等大歓迎】

とりあえずは、だ。
どんだけ茶化されても制服姿は通すよ。
なんでかって……まぁ、なんとなくさ。
ところで裕理。
アンタは聞く覚悟のいる真実を知りたいかい?
YESなら全てを真剣に伝え、
NOなら何も言わないさ。
アタシは約束したはずさ、必ず助ける、って。
それはこの際、どんな理由があってもだ。
少し下がってな。でもあまりアタシから離れるなよ?

写真部の連中の突破も目的だけど、
とにかく裕理の護衛に専念する。
【超感覚探知】で周囲の衝動を探り、
彼女に攻撃を仕掛けようとする相手からガードするよ。
……もし仮にそれが猟兵だったとしてもね。
『グラップル』と『属性攻撃』で専守防衛さ。


城石・恵助
ひとまず水島を安全な所まで下がらせよう

今ならまだ引き返せるよ
この先はきっと見たくない、聞きたくないことばかりだ
この事件に気付いた時より苦しむかもしれない

それでも真実を望むなら、僕は話す
他に語る人が居れば任せよう

どちらを選んでも
君の真実が何だとしても
君が『水島裕理』であることに変わりはないよ

消えた人を、その周りの人達を想って泣いた
忘れたくないと笑ってくれた君を
無かった事にはしない。絶対に

正直、オブリビオンは嫌いだけれど
僕にはそれが嬉しかったんだ

真実は彼女にとって受け入れ難い話だろう
僕に当たってくれて構わない

大丈夫だよって言ってあげられたら良かったのに
せめて最後まで、『水島裕理』として彼女を守ろう




 水島は見ていた。
 狂乱する写真部の少女たちを。不思議な力を用いる猟兵たちを。倒れた死体が泡になって消えていくのを。そして、自分に背を向け守ろうとする制服の女性を。
 すべて見ていた。しかし意外なことに、眼前の光景を、あまり大きな驚きを抱かずに受け止められている。
 次々と仲間が死んで数が減っていき狂乱して抵抗する少女たちから、無色透明な液体が飛ぶ。その先端はたちまち鋭くなり、敵を貫く形状を成した。作られた槍の向かう先は滅茶苦茶で、何もないところへ飛んだかと思えば、仲間同士で傷つけあっているものや、あるいは猟兵へ飛ぶものもある。
 そしてそのうちのひとつが、水島へと飛んできた。
 水島が身を縮こませるより早く、数宮・多喜が踏み込み回し蹴りにて薙ぎ払う。迷いのない見事な動きだった。少女たちの混乱と敵意を完全に読み切った未来予知のような軌跡があった。
 多喜はそのままじろりと周囲を見回す。敵意を抱く存在を探している。傍目にはわかりにくいが、これも彼女の猟兵としてのなんらかの力が働いているのだろうなと水島は思う。
 そこへふと、袖を引かれる感触。水島が振り返ると、マフラーを深く巻き付けた青年がいた。城石・恵助だ。
「少し、安全な所まで下がろう」
 水島の瞳が恵助の表情を見る。鉄火場を視界に入れても特に動揺した様子は見られない。彼も猟兵の一員で、こういうことには慣れてるのか。
「そうだね。ここはアタシ達がいなくても大丈夫そうだ」
 振り返った多喜が同調する。彼女は背後を見もせず体を捻り、そのまま流れ弾へ回し蹴りを浴びせ砕いていた。
「……はい」
 水島の返事を待って、恵助は袖を引き歩き出す。労わりの篭った優しい手だった。

「驚いた?」
 乱れ飛ぶユーベルコードの届かない距離、それでいて戦いの様子を視界に収められる位置。そこへ着くなり恵助は言葉を発した。
 何がといえば、きっと戦いや少女たちの死のことだろう。
 水島は問いに口を開いて、そのまま噤む。肯定しようとしたけれど、それは間違いのような気がした。猟兵達を見たときからなんとなくいまのようになる予感があったのだ。
 だから回答は。
「意外と驚かなかった、かも」
 こうなる。
 恵助はやや目を伏せて、そっかと小さく応える。
「この先はきっと見たくない、聞きたくないことばかりがあるよ」
 だから引き返すなら今のうちだと言った。猟兵達が知った残酷な事実は、きっと水島にこの事件に気付いた時より大きな苦しみをもたらすかもしれない。
 水島は恵助の眼をしっかり見返す。そして多喜を見て、再び視線を恵助へ固定する。
「何が起きてるのか、二人は想像ついてるんだね?」
 多喜は強く、そして恵助は重々しく頷いた。
「アンタは真実を知りたいかい? 知る覚悟はあるかい?」
 今度は水島が頷く番だった。予感めいたものを覚えながら、二人の眼をじっと見て頷くのだった。
 そして二人の口から語られる、猟兵とオブリビオンのこと。平穏に隠れた狂気というUDCアースの世界。贄を求める邪神と、暗躍する邪教徒たち。そして、泥人という種族。
 今回の事件の裏にも邪教徒がおり、泥人を呼び出し失踪事件に利用していること。邪教徒の討伐が猟兵の目的で、倒せば泥人はすべて消えると説明するまで、水島は無言で聞いていた。口を開くのはその後、水島も泥人のひとりであるとどうやって伝えようかと二人が考えたときである。
「じゃあ、私もその泥人なんだね」
「アンタ、気付いてたのかい」
 さらに真剣味を帯びる多喜の声に、水島もまた真剣な表情で頷く。
「あの写真部の泥人の子たち、不思議な力を使ってたけど。……たぶん、私にもできると思うから」
 同種の存在だと本能的に察したということだろう。
「私はオブリビオン…」
 世界を破滅に導くもの。猟兵たちから聞いた情報を反芻して、自分がそうであると自覚して目尻を下げる。
「君は『水島裕理』だ」
 恵助が口を開いた。声はマフラーに阻まれて籠ったようなものになってしまったが、しかし熱が入っていた。
「私がオブリビオンなら、遠い昔に死んだ存在なんでしょう? きっと違う名前だったよ」
「それでも君は『水島裕理』だ」
 首を振る水島に恵助は言葉を重ねる。
 君の存在が何だとしても。
「消えた人を、その周りの人達を想って泣いて、忘れたくないと笑ってくれた水島裕理が、僕には嬉しかったんだ」
 恵助はオブリビオンが嫌いだった。事実、彼は過去にUDCの絡んだ事件で友人を失くしているのだ。彼の腹の底には食欲と怒りが混ざり、常に渦巻いている。
「その水島裕理が、もうすぐ消えちゃう存在でも?」
「うん」
「水島裕理が実は、ちょっとわがままな子でも?」
「うん」
「わがまま、言ってもいい?」
「いいよ」
 消えちゃう前にこの事件を起こした人に会いたい、と水島は言った。わかった、と恵助は答えた。
 けれど。本当はそんな言葉より、泣くような表情で笑う彼女にもっと別の言葉を言ってあげたかった。

 ――少し後ろにいな。でもあまりアタシから離れるなよ?
 かくして、三人は戦場へ舞い戻る。事件の首謀者のもとへ辿り着くためだ。戦場は相変わらず混乱に包まれ、無我夢中で攻撃を乱れ飛ばす泥人たちと、ひとりずつ的確に討ち取ってゆく猟兵たちがいた。
 そこで多喜は前衛の如く水島の前に出て、攻撃の余波のことごとくを打ち払う。この瞬間、彼女は護衛だった。水島を事件の首謀者まで送り届けるための無敵の盾だった。
 炎に焼かれる泥人の少女、その欠片が火の粉のように降りかかるのを拳で叩き落とす。獅子奮迅と表現するべきか、サイキックエナジーを込め熱と電撃を纏わせた手足が、縦横無尽に動き護衛対象を守り続ける。
 目の前に転んだ泥人の少女がいても手は出さない。多喜が体現するのは専守防衛だ。
 なぜなら、泥人を倒すよりずっと大事なことがあるのだから。
「どうしてそこまでしてくれるの…?」
 背後から投げかけられた言葉に、彼女は口角を持ち上げて振り返る。
「アタシは約束したはずさ、必ず助けるって」
 あのとき、あの教室で。多喜は確かに言ったのだ。
「でも私――」
「何があってもだ」
 多喜のウェーブのかかった髪に、ぱちりと電撃が弾ける。
「裕理、アンタが何者でも。アタシは味方だよ」
 猟兵とか年上とかそんなこと関係ない。今を生きて西へ東へ奔走する、そんな活動力にあふれた女性。
 水島には、それがひどく眩しく見えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夷洞・みさき
君達に一つ確認しておきたいんだ。
病気になった人は家に帰ったのかい?

知らぬとは言え片棒担ぎ、そして、君達は骸の海の住民。
だから現世で君達は咎を積んではいけないんだ。
それは現世の人の権利なのだから。

だから、僕は君達の咎を禊ごう。
次はもう少し良い所だと良いね。

とは言うが、痛みを与える気はない。
即殺を狙う。

【WIZ】
【UC】の冷気と【恐怖を与える】事による意識低下と、自身の強化を合わせて一撃の効果を増す。
相手の数が増えても大丈夫なように、主武装は車輪による範囲と一撃の重さを最大限利用する。

水島が真実を望むなら教える。
君が何時か現世で咎を積んだのなら、僕の車輪は君に向かうだろうけどね。


アドリブ絡み歓迎


萬場・了
水島が同行…ふひひっ。
ああ、何だ。すげえ面白いことになってるじゃねえか。
信じるかどうかはさておき、観客を蚊帳の外ってのはよくねえ
いや、客じゃあねえか。ここにいるヤツら全員がメンバーだからよ!

「神崎さん」みたいに、俺らも面白い魔法が使えんだぜ
何、安心してくれ。出し惜しみなんてしねえよ。
いつものように撮影を続けるだけだぜ、俺もな。
戦闘が始まったら【強制記録媒体】で“お友達”の動きを鈍らせる。
これが俺の演出だ、じっくり見ていってくれよッ!

ここまで来て、できることが何も無いなんて言うなよ
見えないものは映らない。見せねえと、撮れねえんだ
水島が何であろうと、俺はそれをお前の最高の演出だって笑ってやるぜ!




「どうして、どうしてこんなことをするの!?」
「私たちは神崎さんの魔法を手伝って…!」
 ただ人を助けようとしていただけなのに。
 混乱は悲しみに。悲しみは怒りに。やがて怒りは憎しみに。
 泥人の少女たちにとって猟兵たちはこの上ない悪だったのだろう。仲間が倒され減っていくにつれ、理不尽な暴力に抵抗する体だった彼女たちは、やがて明確な攻撃の意志を持つようになっていた。透明な体液を伸ばし、先端を鋭利にして貫かんと猟兵を狙った。それが大きな車輪に弾かれようと、何度も。何度も繰り返す。
「ああ、いいね」
 それにカメラレンズを向ける者がいる。眼鏡の奥には興奮を湛えた青い瞳があった。萬場・了だ。
 もっとダイナミックな戦いを見たい。そして大いに感情を発露して欲しい。いいよ、被写体さんその調子だ。ビデオカメラがズームする。重点的に撮影するのは泥人たちの表情。あらゆる感情がないまぜになったその顔が、B級映画では良いスパイスになる。
 カメラの先ではひとりの猟兵が泥人たちへ切りこんでいた。その人が注意を引き付けてくれているから、了はじっくりと撮影を続けることができる。
 ところが。
「……ん?」
 ふとカメラレンズが水を捉えた。泥人たちの飛ばす体液とは比較にならないほど大量の、水だった。
「うわ、なんだこれ」
 了は慌てて水源を探す。見えるのは泥人たちの驚いた顔。ならば泥人の仕業ではなく。
「ふひひ、あの猟兵…学校を海にするつもりかよ」
 夷洞・みさき。巨大な車輪を振り回す猟兵こそが水源であると理解した。
 鱗の浮いた手先は魚を想起させるだろう。深海の淀みの匂いを帯びるその猟兵は、濃厚な死の気配を生み出していた。彼女の足元からは夜の海のような、光を呑み込む昏い水が溢れ出し、戦場を海へと塗りつぶす。海水に溶ける呪詛と刺すような冷たさに、泥人たちの顔が青ざめていった。
「君達に一つ確認しておきたいんだ」
 そして海の主が口を開く。
「病気になった人は」
 その瞳は。
「家に帰ったのかい?」
 咎人を映しだしていた。
 ざあ、と戦場に満ちる海水が波打つ。
 泥人たちは目を丸くしたまま沈黙した。何も言わず、何も答えらえない。震える手足は彼女たちの恐怖をありありと表現し、カメラを回す了には彼らが哀れな被食者に見えた。
「いやぁ、ここでだんまりはないぜ」
 カメラを構えた口元が歪む。
「犯人グループの背景を明らかにする大事なシーンなんだから」
 喋ってもらうぜ。出し惜しみはなしだ。
「俺も面白い魔法が使えんだぜ」
 了のカメラに力が宿る。放たれるのはユーベルコード、強制記録媒体だ。果たして一斉に体を硬直させて恐怖を顔面に貼り付ける泥人たちは何を見たのか。端的に零れる言葉から伺い知れるかもしれない。
「ああ、あなたは昨日の…!」
「嫌…! 私たちに復讐しに来たの!?」
 一斉に怯えだす少女たちが瞳に映すものは、猟兵には見えない。幻影は彼女たちにしか知覚できない。だが、ひとりの猟兵が呟きを拾った。
「復讐される心当たりがあるのかい?」
 みさきだ。
「病気の治療のためと連れ去った人は誰も家に帰ってない。それどころか他の生徒から忘れられている」
 さすがにおかしいと思ったでしょ、と彼女は告げる。
「ああ、ああ…!」
 泥人のひとりがぎこちなく、震える手で顔を覆った。
「おかしいと思ってた…! もしかして、本当は病気じゃないかもと思ってた…!」
 だって、どんな病気か聞かされてなかったから。神崎に魔法が見せてもらった。治療がとても困難な病気だけど、魔法でなら治せると言われた。見せられた魔法に感動して信じてしまったけれど。
「でもッ! もし病気じゃなかったとしたら、私たちのやってたことって」
 ただの誘拐になってしまう。
 だから泥人の少女たちは考えないようにしてきたのだ。
 騙されたままでいなくては、とても罪の意識に耐えられなくなってしまうから。
 すうっと、みさきの青白い指先が泥人に向く。
「君達は骸の海の住民。現世で咎を積んではいけないんだ」
 騙されたとはいえ彼らは片棒を担いでしまった。
 咎を積むのは、生きた人の権利なのだ。
「だから、僕は君達の咎を禊ごう」
 そのために来た。みさきは衝撃から立ち直っていない少女たちに車輪を振り上げる。彼女の首元まである高さの車輪だ。直撃すれば命はない。
「次はもう少し良い所だと良いね」
 そして、振り下ろした。びしゃりと弾ける音がして、液体になった泥人は海水に混ざっていった。きっとそのまま、骸の海に還るのだろう。

 泥人が残らず倒され、土地から海水が消えたあと。みさきは旧体育館の入り口を見、そして振り返る。
 他の猟兵に護衛された水島裕理がそこにいた。口元を強く結んで旧体育館を見据えている。
「どうして人がいなくなったのか、どうして君が昔のことを覚えてないのか。もうわかったかい?」
 みさきが問えば、最後の泥人の少女は重々しく頷く。あの反応だと自身がオブリビオンであることも理解したのだろう。
 そうか、と短く応えながらみさきは瞑目した。そして宣言する。
「僕は君の味方じゃない。僕は咎人の敵だ」
 そして続ける。
「この先に咎人がいるから倒しに行くけど…」
 目を開けて水島を見据えた。車輪を握る手に力を込め、掲げる。
「もし、君が何時か現世で咎を積んでいたのなら、やがて僕の車輪は君に向かうだろうね」
 私も行くという水島の答えを受けて、みさきは笑みを浮かべながら先導するように背を向けた。
 水島も後を追うように進んでゆく。
 そんな彼女たちの様子を治めて、一旦カメラを止める青年がいた。了だ。
 ふひひと笑って、面白いことになってきたと呟く。
「同行すんのか、そうか」
 笑みは止まらず、たまらずカメラを撫でた。
「ここまで来て水島だけ蚊帳の外ってのはよくねえよな。アイツも今回の事件の登場人物だからよ」
 きっとオブリビオンである彼女は、きっともうすぐ消える。だがそれが何だというのだろう。
「見えないものは映らない。見せてくれねえと、撮れねえんだ」
 そして彼も後を追う。事件の顛末を収めるためにカメラを構えなおした。
「だから見せてくれ。水島が何をしようと、俺はそれをお前の最高の演出だって笑ってやるぜ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『敬虔なる邪神官』

POW   :    不信神者に救いの一撃を
【手に持つ大鎌の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    出でよ私の信じる愛しき神よ
いま戦っている対象に有効な【信奉する邪神の肉片】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    神よ彼方の信徒に微笑みを
戦闘力のない【邪神の儀式像】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【邪神の加護】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天通・ジンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 神崎の駆けた方向に旧体育館はあった。塗料が剥がれ、錆びの浮いた大きな建物だ。
 入口の薄く開いた扉と奥に覗く闇は、見る者に怪物の口のような印象を与えるだろう。隙間から漏れる生ぬるい空気は怪物の吐息か。重い鉄扉に手を掛ければ、耳障りな音を立ててゆっくりと開く。
 臭気。
 生臭さと、腐敗臭。
 それは、事件の犠牲者の末路を予感させる。
 窓はすべて暗幕で覆われているようで、館内は塗りつぶされたように暗い。猟兵が中へ踏み出すと、木製の床はぎしぎしと鳴る。
 水島はというと後方を恐る恐る歩き、闇で懸命に失踪者の影を探そうとしていた。
 声がしたのはそのときだ。
「ようこそ」
 館内に明かりがつく。
 やや頼りないが周囲を見通せるだけの光量が、ひとりの少女を浮かび上がらせた。事件の元凶、神崎春奈である。
「なに、これ…」
 同時に水島が、周囲のものに気付いた。十数個のプランターが間隔を開けて、円を描くように並べられていた。
「お探しの生徒なら、すぐそこにありますよ」
 ぴちゃん、ぴちゃん。水の滴る音がする。音の発信源はプランターのひとつで、赤黒い液体が底から零れて大きな水溜まりを作っている。聡い者ならすぐに気づくだろう。プランターこそが汚臭の原因に違いないと。
「こんな――」
「主はあまり血を好まれない。なんでも塩辛いのだそうで。ええ、ですので」
 御覧のように贄の血抜きをする必要があるのですよ、と邪神官は言った。
 むごい。震える声を出しながら膝をつく娘がいる。水島だ。彼女は膝が粘ついた液体が付着したことに気付き、喉の奥からひきつった声を漏らしながら尻をついて後ずさる。頬を滴が伝い、怒りと悲しみの混ざる声にならない悲鳴を出した。
 邪神へ肥料として捧げられる贄。それが失踪者たちの今の姿だ。
「主は間もなく芽吹きます。ですが、肥料はいささか心許ない。泥人もいずれ肥料にするつもりだったのに」
 残念です、と形の良い眉をハの字にして、困ったような笑みを猟兵に向けた。神崎は美しい娘だったが、自らが崇めるもののために臓腑に塗れるおぞましい存在でもある。
「泥人を、肥料に……?」
「ですが、猟兵が来たことで良しとしましょう。極上の肥料になるでしょう。きっと主は喜んでくださいます」
 噛み合わない。
「許させない。 人を攫って、殺して。騙して利用して、殺すつもりだったなんて、許せない! 人の命を何だと思ってるの!?」
 彼女たちの会話は噛み合わない。神崎は泥人の少女なぞ眼中になく、視線も言葉も猟兵たちだけに投げかけていた。
「彼らにも、大事な人はいたのに! 死んでいい人なんてどこにも…ッ」
 声を荒げて詰め寄る水島だが、神崎がどこからともなく取り出した鎌の柄を叩きつけられ、床に転がされる。
「私はうるさい肥料は嫌いです」
 そして邪神官は笑みを濃くした。人懐こい笑みだった。
「静かな肥料、うるさい肥料。猟兵のみなさんは果たして、どちらでしょうか?」

【補足】
 水島が同行していますが戦いには参加しません。生きています。
 彼女の扱いは自由です。何かしても、何もしなくても構いません。
 どうぞ好きなようにプレイングを書いてください。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

神崎の言葉には答えず、裕理に駆け寄り助け起こす。
『医術』で怪我の程度を確認し、応急手当するよ。
後は他の誰かに裕理を任せて、
そこから先は無言のまま神崎へ歩み寄る。

裕理があれだけ『勇気』と『覚悟』を見せたんだ。
アタシが気張らないでどうするのさ。
攻撃を受けるだろうけど、
『オーラ防御』しながら『激痛耐性』でなんとかする。
神崎をまっすぐ見据え、ゆっくりと前まで進む。

小細工も何もナシだ。
サイキックエナジー全開で行く……!
無言のまま、神崎のテンプルを狙いすますように
【暁を拓く脚】を蹴り抜く。
囀ってんじゃねぇ、肥料未満風情が!

後は、裕理の最期を見届ける。
アンタの事、忘れるもんかよ。


萬場・了
…俺なんだ、水島の演出で力を貰ったのは。
あの水島が。先の恐怖を感じても。
立ち上がり、向かっていった。感化されないわけがねえよ!
負けねえパフォーマンス、見せねえとな!

無事を確認できたら、カメラを直ぐに次の被写体…敵へ向け〈生命力吸収〉と〈恐怖を与える〉ことで判断を鈍らせる。

舞台は最高だ!【愉快な仲間達】で盛り上げてやるぜ!
テメエの大好きな邪神さんともちょっと似てんじゃねえか?
死人に口無し……いや、ちょっとばかり呻きはするが、お前らも気に入ってもらえるといいなア!!

儀式像が現れているなら、ゾンビの〈存在感〉でそっちへ〈おびき寄せ〉
その隙に〈特撮用起爆装置〉でド派手に〈吹き飛ばし〉てやらぁ!


アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
アドリブ歓迎

マリアも、裕理お姉さんも、肥料じゃないわ。
貴方の信じる神様なんて知らないし、貴方は何も届けられない。
病気の人達を助けたくて、一生懸命頑張ったお姉さん達が居たの。
そんな優しい人たちのお話に、貴方はいらない。

よく切れそうな鎌だけど、届かなければ関係ないでしょう?
一歩も動かさせない、何も口には出させない。
これ以上、何も許さない。
サイコキネシスで捕まえて、止めるわ。身体も、意思も、命も、全部。

裕理お姉さん、気付いちゃったのね。
ごめんなさい、マリアには、助けてあげる力がないの。
どうしたらいいか、わからないの。
せめて、覚えてるから。とっても優しくて強い人のこと、絶対、忘れないから。
さようなら




 誰かが敵の言葉に反応するより早く動く者がいた。数宮・多喜だ。
 彼女は倒れた水島のもとへ駆け寄り、胸部を押さえたその手をどける。
 多喜は息を呑んだ。鎌の柄の部分を叩きつけられた場所は肌が変色しているものの、骨が折れた様子はない。内臓に異常も見られない。命に別状はなく、蹲って呻く程度に留まっている。むしろ、あえて立ち上がれなくなる程度に加減されていた。
 手心を加えたのではない。あとで肥料にするため生かしておいたのだ。
 ぎり。奥歯が軋む音がして、いつの間にか己が強く噛みしめていることに気付く。
「お疲れ様。頑張ったね」
 それを隠し、努めて穏やかな言葉を投げかける。水島は脂汗を浮かべながら薄眼を開けていた。息絶え絶えといった様子で何とか頷き返す。
「ゆっくり休んでな」
「あの…」
 抱えた体を床に寝かせ、敵へと向こうとした多喜を弱々しい声が呼び止めた。
「大丈夫」
 水島の不安を読み取って笑みを作る。そしてぐっと握った拳を見せつけるのだ。
「アタシは死なないさ」
 安心したように体から力を抜く娘から視線を外す。すぐそばには萬場・了が膝をついていた。彼女をよろしくと目で伝えれば、彼は片手にカメラを構えたまま頷いて返した。これで危険はないだろうと、多喜は娘に背を向ける。
 拳が内心の怒りを代弁するように、ばちり。紫電を迸らせた。
 そして了は多喜を見送って、水島へカメラのレンズを向けた。荒い呼吸で胸を上下させている。戦いとは無縁そうな顔が、恐怖を振りほどきながら邪神官へ立ち向かっていったのをよく見ていた。
「…最高の演出だったぜ」
 事件に怒り、犠牲者を悼み、利用された者を悲しむ。単純で飾り気のない言葉にこもった勇気に、了は力を貰った。
「ああ、そうだよ」
 それと引き換えに彼女は叩きのめされてしまったが、きっと後悔はないのだろう。
「これに感化されないわけがねえよな」
 了は立ち上がる。片手のカメラで体育館を広く映し、両目で打倒すべき敵を見据える。戦う力のない少女ですらあれだけやれたのなら、猟兵の自分が負けるわけにはいかない。
 カメラ持つ手に力を込め、頬を釣り上げた。ふひひと笑ってみせれば、不敵な映画監督の出来上がりだ。
 空いた手を懐に入れ、リモコンのようなものを取り出す。とっておきの舞台装置をひとつ。
「今度は俺の番だ。ド派手なパフォーマンスを見せてやるよ」

 人間を肥料と言い切った邪神官へ、静かに反発する者がいる。
 桃色の宝石の瞳に臆病さを隠し、はっきりとした意思を眼差しに乗せた10歳の少女。
 体育館の暗がりが、満ちる臭気が、敵の残酷さが手足を震わせそうになる。だが、アヴァロマリア・イーシュヴァリエは小さな手を握った。
 ――怖くなんかないわ、マリアは聖者だもの。
 彼女は思う。囚われてしまった人達を。騙され利用され、散っていった泥人達を。そして、敵に抗弁し、叩きのめされてしまった娘を。ここで彼らの代弁をせずして、何が聖者だろう。
「マリアも、裕理お姉さんも」
 両手をぎゅっと握り、足を肩幅に開いて、アヴァロマリアは毅然とした態度で啖呵を切る。
「学校にいる人達も、泥人のお姉さん達も、肥料じゃないわ」
 それを、神崎は目尻を下げて柔和に眺める。子供のわがままな主張を受け止める母親。そのように包み込む雰囲気がある。
「主の前にはすべて同じものです。同じ役割を持ち、同じ価値を持つのです」
 だから、すべては等しく肥料なのである。優しく言い聞かせる声色がこの場にはおぞましい。
「貴女の信じる神様なんて知らない」
 聖者の瞳に煌きが宿った。紡がれる感情が涙となって溢れたか、あるいは。
「病気の人達を助けようと一生懸命だった優しいお姉さん達のお話に、貴方なんていらないわ!」
 身体に満ちるサイキックエナジーが光を放っているのか。
「これ以上何も奪わせない!」

「そうだね」
 ゆっくりとアヴァロマリアの後ろから歩いてくる女がいる。多喜だ。
 だらんと垂らした両手には煮えたぎるマグマのような力が漲っている。視線はまっすぐに神崎を向いていた。
「手間なんですよねぇ」
 それを真っ向から浴びて邪神官は困ったように笑う。戦場へ変化してゆく場においてなお余裕を崩さず悠然と構える。
「うるさい肥料は、静かな肥料にするために、ひと手間掛かるのが困りものです」
 神崎は空いた手を持ちあげ握り、そして開く。手のひらに浮かぶのは種子。この世のものとは思えない、毒々しい色を持つものだ。それを多喜へ向けてふぅっと息を吹きかければ、飛散した種子はたちまち発芽し蔓となり茨となり、地に這い多喜へと伸びてゆく。
 多喜の歩みが止まった。どくどくと脈打つ異形の茨が足に巻き付いていたのだ。無理に動かそうとすれば棘が肉を抉り、血を垂らす。
 だが、それが何というのだろう。
 多喜の歩みは再開される。ぶちぶちと茨を引き裂き血を流しながら痛みに耐える。全身をオーラで覆ってもなお傷つけてくる植物だ。邪神の力の一端に違いない。
 傷を負いながら進む猟兵の様子に神崎はくすりと笑った。遅々とした歩みだ。わざわざ射程に入ってやることもないと後退しようとする、が。
「……っ!?」
 動かない。まるで身体を取り巻く空気が急に硬くなってしまったかのように、指の一本も動かせなくなってしまった。
「――!」
 これは、と声を発しようとしても、まるで自身の口の所有権を取り上げられてしまったように動かせない。辛うじて動くのは眼球。異常事態の原因を探す神崎は、燐光を帯びながらこちらへ手を翳すアヴァロマリアを見つけた。
「一歩も動かさせない」
 びきり。より拘束が強まったのを感じる。
「何も口には出させない」
 不可視の牢獄に閉じ込められた神崎は、多喜の接近を許すしかない。彼女は初めて笑みを崩し、アヴァロマリアを睨み付けた。
 多喜の射程まであと三歩。
「……っ」
 放して、そう言いたいのだろう。神崎は唇を僅かに震わせる。
「放さない。身体も意思も、貴女のすべてを捕まえるわ」
 あと二歩。
 神崎はより鋭くアヴァロマリアを睨み付けた。拘束に全力で抵抗しているのだろう、体が痙攣したように震える。みしりと関節が軋んだが、対してアヴァロマリアも眉を顰めながら汗を垂らしていた。こちらも全力で抵抗を抑え込んでいるのだ。
 あと一歩。
 みしり、めきり。鎌を握る手が徐々に持ち上がる。接近する多喜を切り裂くべく、神崎は恐るべき力で念力を押し返していた。
「いいえ…いいえ!」
 もはや叫びに近い声で聖者は宣告する。
「これ以上、何も許さない!」
 あとゼロ歩。
 両足を棘に切り裂かれた多喜がついに辿り着き、傷をものともせずに勢いよくその場で背を向けた。姿勢を傾け動いた重心を利用し片足に勢いをつける。全身の筋力を振り絞り力を一点に集中させながら爆発的に加速し足を振り上げれば、それは即ち後ろ回し蹴り。足技でもっとも威力があるとされる蹴りが完成する! それもただの蹴りではない。多喜の煮えたぎったサイキックエナジーが集中した、全力の蹴りである!
「ぐ、この――!」
 ついに声を発せる程度まで抵抗を広げた神崎だが、遅い。遅すぎる。鎌を振るえず防御することもできず、無防備な姿勢でこめかみに恐るべき破壊力を叩きつけられた。
 木製の床に人体が転がり、軋む。
 はあ、と息を吐き多喜は倒れた敵を睨み付けた。
「囀ってんじゃねぇ、肥料未満風情が!」
「いいぜ、最高のキャストたちだ! ここからは俺が盛り上げてやるよ!」
 多喜の怒りに了が呼応した。カメラを構えた映画監督が合図すれば、たちまちずらりとエキストラが湧く。
「それは…」
 思わず振り向いたアヴァロマリアの目に飛び込んでくるのは、ボロボロの服装に土のような肌、剥がれた皮膚から組織が覗く、所謂ゾンビ兵である。
「どうだい?」
 一度に大量の戦力を呼び出した了だがしかし、床から体を起こした神崎は眉をハの字にして控えめに笑う。
「床が汚れてしまいますね」
「テメエの大好きな邪神さんともちょっと似てんじゃねえか?」
 途端。神崎の目から温度が消えた。力強く蹴られた床がぎしりと音を立てる。邪神官は豹のように先頭のゾンビへと跳躍し乱雑に鎌を揮った。ごとりと転がるゾンビの首が、枯れた呻き声をこぼす。
「死人に口無し。私は、死人は静かなほうが好みです」
「ちょっとばかり呻くほうがチャーミングだろ?」
 了の言葉に神崎は無言を返す。先ほど呼び出した蔓に手を翳すと、やがてそれらはいくつかの塊となってオブジェを作る。人の腰ほどにもない高さの、柱のようなもの。猟兵にはそれが墓標に見えた。
「主よ。どうか微笑みをください。貴方の微笑みひとつで私は――」
 墓標に、花が咲く。
 スカートの裾が翻った。彼女へ近づいていたゾンビが不意に腹へ大穴を開け、仰向けに倒れた。
「どこまでも強くなれます」
 ゾンビ兵を蹴り抜いた姿勢のまま神崎は軸足だけで加速。押し寄せる腐乱死体の悉くを素手で挽肉へと変える。
「仲良くしてくれて嬉しいぜ」
 邪神官の笑みを了は撮影していた。彼女の顔が真っ直ぐこちらへ向き、飛び込んでくるのを察した、が、それは叶わない。墓標へ群がるゾンビに気付いて彼女は了よりゾンビの駆除を優先する。
 腐乱死体の手が墓標の花に触れるより早く、神崎は鎌で薙いだ。一振りで四体。ゾンビの頭がボールのように落ちる。
「俺の演出、気に入ってもらえるといいなア!!」
 何を、と神崎が振り向く間もなく、了が掌中のボタンを押す。それは特撮用起爆装置だった。演出用に使用される火薬がゾンビの頭の中で一斉に点火し、墓標もろとも敵を爆風で包み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

富波・壱子
やはり攫われた生徒達は手遅れでしたか。その事実にも周囲の血を流すプランターにも、顔色を一切変えません
水島の言う通り死んでいい人がいないとしても、死なない人もまた存在しません。こういうこともあるでしょう

まだ贄が必要ということはプランターを壊されれば困るのでしょうか。試してみましょう
対物狙撃銃『フィリー』を取り出しユーベルコードを発動
調査の時と同様に予知を用いてプランターを撃った場合の神崎の反応を試験します
有効であるならプランターを人質に戦闘を有利に
逆に神崎が気にする素振りを見せなければ直接神埼を狙った後方からの射撃で味方を援護
標的が触手や儀式像を召喚しても予知により出現と同時に撃ち抜きます


夷洞・みさき
まだ生きている人はいるかな。
神崎君とやら、とりあえず無視して生存者の確認をしよう。

生存者には応急処置。

さぁ、同胞達、ここに咎人が現れた。
信心も咎も、僕等が禊潰そう。
泥人だけで満足できなかった時点で見逃すことはできないからね。

あぁ、でも。
君が肥料になる分には止めはしないよ。

神様が来る事は止めるけどね。

【POW】
鎌の攻撃を真の姿になる事で回避。

僕は手足の三本や四本切れた所で死ねないからね。。

同胞たる六の大怪魚が主力【恐怖】【目潰し】【傷をえぐり】相手の冷静さを欠く。
本体は犠牲者の【呪詛】をまき散らす。

水島:
骸の海に還るならUCの船にて船出を見送る。
海に逝くのに船は必要だからね。

アレンジ絡み歓迎




 プランターにはいくつか種類がある。血だまりを作るものから粘ついた生臭さが、そして血の乾いたものからは腐敗臭がする。おそらく肥料の鮮度が違うのだろう。夷洞・みさきは最も新しいプランターの中身を見て、そうかいと短く呟いた。
「泥人を使っている時点で、良くない事をしているとは思っていたけどね」
 中身は赤黒く染まり、そして等分された人体がある。
「やはり手遅れですね」
 そう声を掛けるのは富波・壱子だ。抑揚のない声に相応しく、彼女の顔色は一切変わっていない。それはみさきもまた同様であったが。
「これで本当に病人を救っているなら悩んだ所だけど」
 悩まなくて済んだよ、と壱子へ振り返りながら言う。
「死んでほしくなかったと?」
 問われ、静かに瞬きをした。
「死なない人は存在しませんよ。こういう死に方する人も少なからずいるでしょう」
「いいや」
 みさきは大きな車輪を持ちあげ、続けて口を開く。
「僕等には咎の有無こそが大事なんだ」
 壱子は変わらず、そうですかと答える。その手には彼女の身長ほどもありそうな長く巨大な銃がある。詳しい者なら、対物狙撃銃と気づくだろう。彼女は何をするでもなく、ライフルを自身に立て掛け、腕を回しながら会話に付き合っていた。
「ところで戦いはもう始まっていますが」
「知ってるよ。でも大事な確認だったからね」
 それで、とみさきは水を向ける。
「君は戦いに参加しないの?」
「私はあなたがプランターから離れるのを待っているのです」
 果たしてキマイラの咎人殺しは笑った。笑って、ああそういうことならと数歩離れた。
 間髪を入れず、壱子は対物ライフルを構えて引き金をひく。自死した同期の形見だった。

 至近距離で爆発を受け、焦げ付いた服から埃を払う神崎は、いままさにプランターを破壊した弾丸の主、壱子を見やり眉を顰める。
「あまり散らかさないでほしいんですが」
 これに兵士は反応を返さず、再び引き金をひいた。轟音が体育館を走り抜け、プランターの破片と屍肉が散乱する。
「鉢を壊されると困るのかな」
 みさきの質問に彼女は頬を釣り上げる。口元だけの笑いだ。目は怒りを湛えギラギラと輝く。
「主の降臨なさる場所が、散らかったままではいけないでしょう?」
 再三の発砲音。衝撃が古びた壁をビリビリと鳴らす。
「鉢に人質の価値はないようだけど」
 とはみさきの言。しかし手応えはあった。横目に見る邪神官の表情が、静かな怒りに染まってゆく。
「そうでしょうね」
 兵士が抑揚のない声で応える。散乱した屍肉が事件の被害者のものであっても微塵も気にしていない。すべては合理性を優先すればのこと。
「ですが、肥料を散らせば、大きな落とし子を呼ばれることはないので」
 敵を映すオレンジの瞳には、幾度も試行された未来予知の結果が刻まれていた。
「――…」
 もはや邪神官に言葉はない。彼女の中で壱子の優先順位が跳ね上がり、鎌の切っ先が向いた。重い衝撃が神崎の足元で炸裂する。加速だ。邪神官が恐るべき身体能力を以って弾丸のように跳ぶ。それをすぐさま本物の弾丸が迎え撃つ。壱子が操るのは重機関銃で使用される大口径弾を発射する暴力装置だ。邪神の加護を受けた少女の体すら容易く打ち砕くに違いない。
 だが、邪神が神崎にもたらしたのは単なる筋力向上などではないのだ。
 白く細長い指先が鎌の先端をずらした。銃弾の軌道を逸らす位置である。交差しさらに加速しながら、神崎は嗜虐の笑みを浮かべた。対物ライフルで連射はできまい。次弾が発射されるまでに壱子の胴を両断できる確信があった。
 が、確信を叩き潰す存在が割り込んだ。みさきだ。手にした巨大な車輪を振り下ろし進路を叩き潰す。神崎とて素早く反応し反撃に移るが、それは装填を済ませた弾丸が許さない。
 人間の身長に等しい大きさの車輪は邪神官の鎌と互角のリーチを誇るが、質量からもたらされる破壊力は桁違いだ。神崎は振り抜かれる車輪を決して鎌では受けず、回避を選択し続ける。敵の狙いは変わらず壱子であったが、みさきが立ちはだかり、援護射撃が加わればそれ以上の接近は不可能となる。離脱も接近も許さず、さらに反撃すら許さず牽制をし続ける壱子の射撃は、まさに死神の檻に違いない。
「仕方がないですね」
 乱れた呼吸の合間から意味のある言葉が滴った。鎌を片手に持ち、空いた手を握る。そこから溢れ出すのは毒々しい色合いの種子である。
「種を撒くつもりかな。肥料は随分と散らかっているようだけど」
「ええ、肥料はあとで集め直すしかないようです」
 神崎が乱雑に手を振れば、撒かれた種が肥料へと落ち、発芽してゆく。人体が次々に苗床にされてゆく。発生した蔦は茨は膨張するように見る見る体積を増し、体育館の床を伝い覆ってゆく。
 腹に響く轟音。大口径弾の纏う衝撃波が茨を引き千切るが、損害より成長のほうが速い。汚液を帯びた茨がみさきの脚に巻き付き棘を突き刺してゆく。
「ああ、なんて痛ましい。十分な栄養を得られずこんなに痩せてしまって」
 神崎の指が茨を撫で、こびりついた粘液を唇へ運ぶ。ぺろりと舐めとった口は笑みを作った。
 両足を固定されたみさきが上体だけで車輪を振りかぶる。が、それより早く鎌が一閃した。白刃は鱗の浮いた右腕を通り抜け、切り飛ばす。返す刃で両脚。
「ですがご安心を。貴女の手足は肥料として大事に使わせていただきます」
 倒れたみさきを越えて邪神官は残った猟兵へ近づく。機械の如く冷たい兵士は味方の被害に動揺していなかった。
 歩きながら両手で鎌を握りしめた神崎はしかし、足を止める。
「さぁ、同胞達、ここに咎人が現れた」
 ゆっくりと邪神官は振り返る。信じられないという表情が貼りついていた。
「あなた……」
 果たしてそこに、両脚を失ったはずのみさきが立ち上がっていた。再生したのではない。真の姿によって書き換わったのだ。切り飛ばされた右腕と両脚は腐り青ざめ幾多も筋の浮かび上がったものへと置き換わる。車輪を背負った彼女を一言で表すとするならば。
「車輪に結ばれて海へ捨てられた経験がおありで?」
 水死体そのものだろう。
 再度の轟音。対物ライフルから放たれる暴力の化身が神崎を狙う。振り向きざまに鎌で薙ぐ彼女はしかし、みさきへ致命的な隙を晒すこととなった。
「信心も咎も、僕等が禊潰そう」
 ずるり、ずるり。薄暗い体育館内で大きくうねる影に彼女は気付く。
 魚だ。
 しかし常人が想像するただの魚ではない。深海の、沈殿した動物の死骸に棲むような、全く異なる常識から発生した造形である。神崎には魚の鰭や鱗のそれぞれが拷問器具のように見えた。
 ずるり。幾重にも編まれた茨を強引に引き千切り、大怪魚が神崎へ突進した。押し潰された肺から呼気が絞り出され、壁へと叩きつけられる。殺到するように新たな大怪魚が体当たりをし、振動は合わせて6回続いた。
「――…」
 壁へと貼りついた邪神官は、己が崇めるものへ助力の祈りを捧げる。だが祈りが言葉となるより早く、銃声が響き。
 腹を弾丸が貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
やあどうも。またお会いましたね生徒会長さん!

あなたと初めて会ったときからずっと
不思議な感情が胸にくすぶっていましてね。
これってやっぱり恋だと思います?
うるさい肥料?
ひょっとして今フラれました?ンッフフ!

前に出て敵の気を惹きエレクトロレギオンを展開。
味方と水島さんへの攻撃にはレギオンを物理障壁として消費。
私自身は【見切り】で対処します。

やっぱ違いますねえ。
この感情は恋じゃなくて、何て言ったかな。
ああ、そうでした。同族嫌悪。

静止の【呪詛】。レギオン全機による【一斉発射】。

さて水島さん。
世界にはこんな風に知らない方が良いこともありますが――。
それでも伝えたい言葉があるならどうぞ。
安全は保障しますよ。




 銃弾に貫かれた腹部を押さえながら緩慢に立ち上がる神崎へ、一人の青年が声を掛けた。
「やあどうも。またお会いましたね生徒会長さん!」
 戦場に似つかわしくない、朗らかな声だった。そんな狭筵・桜人を認め、彼女もまた挨拶を口にする。
「どうも、転校生さん。職員室はこちらではないですよ」
 潜入時の設定を揶揄した返しだった。口から赤黒い液体を溢しながらも、変わらぬ調子で言葉を放つ彼女に、桜人は思わず口元で弧を作る。さて前のときはどういう設定にしたのだったか。
「いえいえ、実は別の用事で来ておりましてね」
「中学の同級生をお探しのことでしたね。見つかりました?」
 そうそう、そんな設定だった。彼の表情が作る笑みの春色がいっそう濃くなる。
「ええ、それはもう! 感動の再会を果たしましたよ」
 両手を広げて舌を転がす。神崎の言葉を肯定しながらも、でも用事はそれではないのですと両手を広げながら続けるのだ。
「神崎春奈さん。あなたに会いにきました。あなたと初めて会ったときからずっと、不思議な感情が胸にくすぶっていましてね」
 桜人の前面で光が弾ける。中から生まれ出でるのは小型の機械兵器群。その数は150を超え、猟兵の前に整列してゆく。
「あら。何か素敵な言葉が聞けそうな雰囲気ですね」
 対する神崎は背筋を伸ばして鎌を持った。構えとは裏腹に桜色の唇から零れる声は夢見がちで可憐な少女そのものだ。
 桜人は手を掲げ機械兵器へと指示を下す。すると軍団は一斉に銃口を光らせ銃弾の嵐を浴びせるのだ。
「これってやっぱり恋だと思います?」
 まさに絨毯爆撃。鉛の暴力が体育館の床を耕していくがそこにもう神崎の姿はない。床を踏み砕く勢いで加速した娘は嵐の進路を避けて横に飛び、さらに壁を蹴って桜人へ向かう。鎌が水平に走ると、数体の機械兵器を両断した。
「そこは恋だって言い切らないと」
 神崎はさらに踏み込む。眼前の兵器へ大上段から振り下ろし。鎌を床へ叩きつけるとすかさず棒高跳びの要領で桜人の頭上へと舞い上がる。
「女の子にもてないですよ」
 そして、落雷めいた勢いで鎌が一閃した。
 刃は仰け反った桜人の髪を僅かに切り、鼻先を掠めていく。琥珀色の瞳と紫色の瞳が交差して、神崎は着地と同時に体を捻り、全力の回し蹴りを放つ。対応する時間すら許さない殺意の連撃。
 鈍い衝撃と破砕音。
「でも、そうですね。私の好みで言えば、男性は無口な人がいいですね」
 その場へひしゃげた機械が崩れ落ちる。桜人の盾となったものだった。遮るものがなくなり、変わらない笑みを浮かべた青年の姿が覗いた。
「それ、肥料の好みですよね?」
 ひょっとして今、フラれました? とおどけて言う桜人に、神崎は花の咲くような表情を向けた。
「ンッフフフ」
「うふふふ」
 二人分の笑い声が弾んで、そして。
 再度、機械兵器の斉射が神崎を襲った。しかして真横に回避。片手をつき、三つ足の獣のように恐るべき機動で壁に張り付く。神崎はそのまま壁を駆け巡った。連続する射撃音が壁に次々と穴をあけてゆくがそれが敵の速度に追いつくことはない。壁をネットを、そして古びたバスケットゴールを足場にしての三角跳び。
 鎌を高く持ちあげながら飛び掛かってくる神崎を見上げ、桜人は思案するように口を開いた。
「やっぱ違いますねえ」
 何が、という質問の代わりに少女は鎌を振り下ろす。だがそれが桜人に届くことはない。彼の目と鼻の先でぴたりと固定されていた。
「この感情は恋じゃなくて、何て言ったかな」
 呪詛である。強烈な静止の呪詛が数秒、鎌の動きを止めた。視線を斜め上に逸らしながら桜人は変わらず暢気な話を続ける。
「これは――!」
 神崎の動揺をよそに彼の手は小さく挙げられ、機械兵団へと合図を放つ。するとたちまち静止の呪詛は解かれ、しかし同時に豪雨の如き銃弾が少女の体に叩きつけられる。
 銃声が数秒続いて、止む。
「ああ、そうでした」
 静寂を取り戻す館内に青年の声が響いた。血を流し倒れた敵になお彼は笑みを向けていた。
「同族嫌悪ですね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

城石・恵助
水島の無事を確認してから、敵を殴りに行くよ
きっと制服の似合う彼女が守ってくれるだろうから

だって腹が立つじゃないか
敵の行いは勿論
水島が今日まで苦しんだこと
このまま消えなければならないこと

もっと怒って、嘆いていいのに
他人のためにばかり怒って
自分の悲しみに笑って

だからその分僕が、なんて彼女の望みではないだろうけど
僕もね、ちょっとわがままなんだ

ついでに消えた生徒達の記憶は戻るか訊いておきたい
戻るならば一つ、心残りが無くせるから

片腕くらいはくれてやる。もう片方は譲れない
これからお前に【叩きつける】んだから
〈捨て身の一撃・覚悟〉

そして叶うなら
最後にもう一度手を繋いで伝えたいな
今までのありがとうとさよならを




 青年は佇んでいた。
 薄暗い旧体育館には倒れている少女が二人いる。
 一人は事件の元凶である邪神官、神崎春奈である。彼女は猟兵との戦いにより無数の銃弾を浴び、出血しながら倒れていた。特に両脚の損傷が酷く、スカートから伸びた細い足には赤黒い穴が無数にあった。
 もう一人は邪神官に呼び出された泥人の少女、水島裕理だ。鎌によって殴られたのが相当に堪えたのだろう、脂汗を流しながら蹲っている。命に別状はないと他の猟兵は言ったが、それがあとで生贄にされるためだと皆が気付いていた。
 腹が立つ。
 敵は依然として癇に障る笑みを浮かべているのだ。神崎は傷ついた体で立ち上がっていた。銃弾の傷口からは赤紫色の芽が生えていて、彼女はそれを愛おしそうに撫でている。邪神の種子を自身に宿したのかどうか定かではないが、相変わらず笑っているのがとにかく気に入らない。
 どうして今日まで苦しんで、これから消えなきゃいけない人がまだ苦しんでいて。その元凶がまだ笑っているのか。
 いつの間にか、垂らした腕が拳を作っていた。
 城石・恵助は煩わし気にマフラーを引き下げる。両頬の傷口が露わになっても、このときばかりはどうでもよかった。それに泥人の少女からは見えない角度だ。
「ひとつ、訊いておきたいんだけど」
 神崎の視線がこちらに向いた。
「消えた生徒達の記憶は戻るのかい?」
 対して彼女は一度咳き込み、口元を拭いながら笑う。
「知りません。興味がないので」

 恵助は神崎へ向けて走り出した。途中に召喚された毒々しい色合いの茨が這い回るが、構わず踏み越える。鋭い痛みが足に走った。それがどうした。
 神崎の言った言葉に、どうしようもなく叫びたくなる。口をついて出そうになる感情が怒りなのか恐怖なのかわからない。ただ、いなくなった人たちのことを覚えていたいと言った彼女まで消えてしまったら、いったい誰が事件の被害者を覚えているのだろうと思うと、真っ赤なエネルギーのようなものが体を走り回った。
 他人のためにばかり怒って、自分の悲しみに蓋をして笑っていた少女の分まで、自分が感情を叩きつけてやろうと思った。
 ――僕もね、ちょっとわがままなんだ。
 茨の道を踏破した恵助は右腕を振りかぶる。鎌を振り回す力はもうないくせに、防御のつもりなのか神崎の体を茨が覆った。
 構わず拳を叩きつける。
 腕が敵の胸へめり込み、肉の裂ける感触と潰れる感触がした。裂けたのは自分の右手だ。茨が食い込んだ拳は血塗れになっていた。
 躊躇なく再度拳を叩きつけた。
 床がひび割れ、骨のひしゃげる感触がした。どちらの骨が砕けたのかわからない。のた打ち回りたくなるほどの激痛が右手を苛む。
 続けて腕を振り上げると、どこからともなく伸びた茨が巻き付く。
「く……ッ!」
 歯を食いしばり、力任せに引き千切った。棘がざりざりと肉を引き裂いてゆく。
「やつあたり、ですか?」
 胸部を真っ赤に染めた神崎が掠れた声を投げかけてきた。恵助は肯定も否定もしない、できない。返答の代わりにまた拳を突き立てた。
 筋線維の千切れる音がした。
「片腕くらいはくれてやる」
 右腕の感覚がない。だが動く。動けばそれで充分。あと一回で事足りる。
 心臓を叩き潰せば敵は死ぬだろう。彼女が呼び出された泥人の少女も共に、消えるだろう。
 最後に水島に礼を言う時間があればいいなと思って、恵助はとどめの一撃を振り下ろした。

 邪神官の少女の体は一度大きく痙攣して、それきり二度と動かなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



 あ、と小さな声がした。
 残された泥人の少女が発したものだった。
 体を起こした水島は己の脚をまじまじと見る。外見の変化はまだないが、自らの消滅を悟ったのだろう。
 うるんだ緑の瞳は傍らに立つ青年に気付いた。桜人だった。
 さて。朗らかな声が静寂を打つ。
「世界にはこんな風に知らないほうが良いこともありますが」
 何か猟兵に伝えたいことはありますかと彼は言う。水島がいずれ消える運命にあったとしても、死期が早まった原因の一つは猟兵達だ。問いかける表情から彼の真意は伺えない。気まぐれのようにも遊んでいるようにも見える。
 水島は口を開いた。が、言葉は出てこない。彼女自身何を言えばいいかわからない様子だった。
 だが、時は待ってくれやしない。刻一刻と泥人の体は溶けてゆく。見れば足の先が泡になっていた。
「ごめんなさい」
 ふいに謝罪が飛んだ。アヴァロマリアだった。
「マリアには、助けてあげる力がないの」
 どうしたらいいか、わからない。言葉を紡ぐ幼い娘は己のスカートをぎゅっと握りしめる。
「せめて覚えているから」
 真摯な眼が泥人の泡を映す。忘れないこと。あるいはそれこそが、骸の海に捨てられた過去の存在であるオブリビオンにとって、最大の救いなのかもしれない。
「忘れるもんか」
 アヴァロマリアの言葉を多喜が拾う。水島へと歩み寄れば、傷ついた足から血がこぼれる。
「そのあし…」
 かすれた声で目を見開く少女に、多喜は首を振って安心させた。見ての通り、生きてるから大丈夫だと。
「アンタのこと、忘れるもんかよ」
 短い言葉に、消えゆく少女は思い出した。誰かが覚えていれば、存在はなかったことにはならない。それは、誰の言葉だっただろう。
 多喜を見上げているうち、自分の視点が随分低くなったことに水島は気付く。もはや下半身が泡になっていた。
「君はこれから骸の海に還る」
 つん、と海の気配がした。みさきがこちらに向いている。その背後には幾重にも帆の張られた巨大な船があった。何かの紋章が描かれているが、その正体はみさきしか知らないだろう。もう少し水島の視点が高ければ、船に事件の被害者の亡骸が運ばれていることに気付いたかもしれない。
「海に逝くなら船は必要だと思うけど、乗っていくかい?」
 意外な申し出に、水島は目を丸くした。それはみさきなりの優しさだったのかもしれない。だが、泥人の少女はしばらく俯き、首を振った。震える手が胸に置かれる。一人で逝くのは、なんだか無性に寂しかった。
 だからだろうか。その手を包む手があった。
 恵助の手だ。マフラーを深く巻き直し、戦いによって傷ついた手を後ろに隠し、残った綺麗な手で水島のそれを取る。
 あのとき言えなかった言葉をいま言おうと思う。
「大丈夫だよ」
 ふと、手の中の震えが止まった気がした。
「最後の瞬間まで手を繋いでるから」
 丸く見開いた水島の目から徐々に力が抜ける。もう胸まで泡になっている。
「…ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
 そして、さようなら。
 彼の手の中から肌の感触がなくなり、泡が残る。
 その泡もやがて溶けていき、こうしてすべての泥人は消えたのだった。

 ビデオカメラの電源が落とされる。事件が収束して、撮影は終わった。
 はあ、と了がため息をつく。好きな映画はB級映画だ。ド派手でスカッと演出があればなおいい。
 悲しい物語は、苦手だ。
 体育館の戸を開けて出ると、すっかり暗くなった空が見える。ひとつ思い出したことがあった。まだ彼女に労いの言葉を掛けていなかったなと。
「お疲れ様。最高の演出だったぜ」
 するりと風が吹く。呟きは風に浚われ、砕けて消えた。
「戻りましょう。じきにUDC組織が来ます」
 スマートフォンを仕舞いながら壱子がその背を追い抜かす。組織に依頼すればすぐに事件の始末をつけてくれるはずだ。旧体育館も何もかも、元通りにされるに違いない。敵がいなくなったいま、兵士の人格もやがて役目を終える。学校の門を出るころには明るく人懐っこい女の子が代わりに歩いてくれる。

 こうして事件を解決した猟兵達は、めいめいの帰路についた。

最終結果:成功

完成日:2019年04月26日


挿絵イラスト