Sweet Distress
●甘やかな苦しみ
森の中で開かれているのは楽しくて美味しい、不思議なお茶会。
テーブルに並べられたお菓子は様々。
色鮮やかなキャンディが詰め込まれたまあるいポット。細やかな装飾が美しい箱の中に並べられた愛らしい形のチョコレート。大きな皿の上にはふわふわのパンケーキが何段にも重なっていて、とけたバターと蜂蜜が良い香りを運んできている。それから綺麗に切り分けられた木苺のパイに、フルーツたっぷりのタルト。
花弁入りのジャムをお好みで注げば、甘い香りの紅茶も楽しめる。
そのなかでも一番に目をひくのは、主催者お手製のとっても美味しいクレープ・シュゼット!
カラメルソースをかけたクレープにオレンジジュースと、すりおろしたオレンジの皮を添えて。アレンジとしてイチゴが乗せてあり、甘酸っぱくて少し大人の味がするシュゼットは絶品。
しかし、このお茶会はただ楽しいだけのものではなかった。
「あれ、このクレープ・シュゼット……。甘くて美味しいのに何だか苦い?」
「苦しい……なんで、どうして――」
「あ……いや、思い出したくないのに……! やめて、嫌よ……!」
クレープ・シュゼットを口にしたアリス達は急に苦しみはじめる。蹲るアリス達の胸裏には過去のトラウマが蘇っており、抗えない苦しみは彼女達をオウガ化させるほどのものになっていった。
その様子を眺めているのはお茶会の主催者。
咎忍『覆盆子』と呼ばれる彼女は薄く笑み、徐々にオウガ化していくアリスを瞳に映した。
「ふふ……この私、『イチゴちゃん』のクレープ、とっても美味しかったでしょう?」
自らをイチゴちゃんと名乗る咎忍は席から立ち上がる。クレープめいた衣装を翻した彼女は、まるでお茶会の成功を祝うかのように紅茶のカップを掲げた。
●痛みを乗り越えて
アリスラビリンスに無数に存在する不思議の国。
その中のひとつでは今、アリスをたくさん呼び集めたハロウィンのお茶会が開かれようとしている。
「だけど、お茶会の主催者は変装したオウガなんだ! そのうえ振る舞われるお菓子の中には『食べた者をオウガ化させる』危険なものが混ざっているんだって!」
メグメル・チェスナット(渡り兎鳥・f21572)は今回の事件を語り、仲間達に協力を願う。
既にどのお菓子が危険なものなのかは予知で特定できている。
猟兵は何食わぬ顔でお茶会の会場に紛れ込み、あぶないお菓子――今回でいうならばクレープ・シュゼットを食べ尽くして、オウガをやっつければいい。
「お茶会の場所は緑豊かな森の中で、大きな長いテーブルが置かれているからすぐにわかるはずだ。みんなもハロウィンらしく仮装して入り込めば、オウガも気付かずに迎え入れてくれるぜ」
幸いにもクレープ・シュゼット以外は普通のお菓子だ。
後は同席しているアリスにクレープだけは食べさせないように、猟兵が先に取って食べてしまえばいい。その際、猟兵自身にも過去のトラウマや思い出したくない出来事が襲い掛かってくる。
「トラウマは自分にしか見えないから、抗うのは孤独な戦いになるかもしれない。だけどみんななら乗り越えたり、耐えてくれるって信じてる!」
強い心でトラウマに耐え抜くことができれば、同時にオウガ化にも耐え切れるだろう。
後はオウガ、咎忍『覆盆子』を倒せば解決だ。
「何故かはわからないけど敵はフクボンシって呼ばれるのが嫌いで、イチゴちゃんと名乗ってるらしい。本名で呼ぶとすごく怒らせるだろうから気をつけて!」
そうして、メグメルは仲間達に応援の眼差しを向け、不思議の国への扉をひらいた。
犬塚ひなこ
今回の世界は『アリスラビリンス』
オウガが主催するお茶会にアリス達が招かれています。あぶないお菓子をアリスに食べさせないようにしながら、襲い来るトラウマに耐えて、オウガを倒しましょう!
●第一章
🏠『ハロウィンティーパーティに潜む危険』
リプレイは皆様がお茶会テーブルについたところから始まります。
仮装をしていればオウガに怪しまれることはありません。クレープ・シュゼットをアリスより先に食べていき、襲ってくるトラウマに対抗してください。
アリスとの会話を中心にするか、美味しいお菓子を楽しむことを重視するか、トラウマに抗うシーンを主にするかはお好きにどうぞ! プレイング内容と比率でどれがメインとなるか判断いたします。
どの場合も、どんなトラウマや過去があるかをお書き添えくださると幸いです。
●第二章
👿『咎忍『覆盆子』』
トラウマを乗り越えられたらオウガに戦いを挑みましょう。
アリス達は戦闘が始まると木の陰に隠れてくれるので、遠慮なく戦ってください。
第1章 日常
『ハロウィンティーパーティに潜む危険』
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POW : 精神力を振り絞り、トラウマに耐える
SPD : さりげなく安全なお菓子をアリスに勧める
WIZ : 襲ってくるトラウマを予測し、対策を講じておく
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リュカ・アプリコットティ
◎
「アリス様をトラウマで苦しめるなんて、そんなことボクが許しません!お嬢様、お坊ちゃま、いま参ります!…実はアリス様とのお茶会とても楽しみで…うぅっボクは悪いウサギです」
魔法使いの仮装をして参加するよ。「とても素敵な衣装だね!なんの仮装かな?」「あ、このお菓子美味しそう。一緒に食べよう?」【言いくるめ】で安全なお菓子をアリス様にお勧めするよ。クレープも頑張っていっぱい食べるね。
〇トラウマ
【環境耐性】で耐えながら剣で戦うよ。
ボクには、父親代わりで先生でもある時計ウサギさんがいたんだ。でも、女王さまの大きな愛に耐え切れなくて壊れちゃった。もし再会が叶うならすることはただ一つ、いま楽にしてあげるね。
●時計ウサギの過去と今
「アリス様をトラウマで苦しめるなんて、そんなことボクが許しません!」
猟兵として。アリスを慕う者として。
そして何よりも時計ウサギとして、アリスの笑顔を守るため。
「お嬢様、お坊ちゃま、いま参ります!」
此度の事件を聞き、強い思いを抱いたリュカ・アプリコットティ(アンズの残り香・f38504)はオウガが開くティーパーティーへ挑むことに決めた。
既に何人かのアリスが席についており、これから始まるパーティーに何の疑問も抱いていない。今回の目的は主催者のオウガが振る舞うクレープ・シュゼットをアリス達に食べさせないこと。それ以外のお菓子やお茶はどれだけ味わってもらっても構わない。
幸いにもオウガは動き出していないようだ。まだ危険がないことを確かめながら、リュカはそっと期待を馳せていた。実はアリス達とのお茶会をとても楽しみにしており、此度の機会が光栄だとも感じているからだ。
「……うぅっ、ボクは悪いウサギです」
「ウサギさん、どうかしたの?」
「悲しくても泣いちゃいけません。涙の海が広がっちゃいますもの」
「大丈夫、悪いことなんて何もないわ! お茶会も始まったことだし乾杯しましょう!」
リュカの様子に気付いた少女アリス達は明るく微笑んだ。優しい眼差しを向けてくれた彼女達がティーカップを掲げたことで、気を取り直したリュカもそれに倣う。
「それじゃあ、乾杯!」
「乾杯です!」
音頭が取られたことでリュカも頷き、乾杯が重ねられていく。見ればアリス達もハロウィンパーティーのために仮装してきたらしく、動物の耳やふわふわの尻尾を付けている。
「とても素敵な衣装だね! なんの仮装かな?」
「この前に冒険した国で出会ったお砂糖ネズミさんの衣装を借りたのよ!」
「私はチェシャ猫さんの仮装です。ウサギさんは魔法使いのご衣装なんですね」
「そう! そういえば、お砂糖ネズミって?」
「あのね――」
リュカとアリス達は花茶を楽しみながら楽しく話していった。リュカはアリス達が辿ってきた旅の軌跡や冒険について問いかけたり、自分が旅した国々のことを語る。
そんな中、いつの間にかオウガが用意した蠱惑のクレープ・シュゼットがテーブルに並んでいた。はっとしたリュカはアリス達がそちらに意識を向けないように違う方向を指差す。
「あ、このお菓子美味しそう。一緒に食べよう?」
「まぁ、ウィークエンドシトロンですね」
「ぜひ頂きたいわ。私をお食べって書いてあるみたいに美味しそう!」
リュカの勧めがあったこともあってアリス達は安全なお菓子に興味津々。その間にクレープ・シュゼットを自分の元に引き寄せたリュカは覚悟を決めた。ナイフとフォークで切り分けた生地をフルーツと一緒に頬張る。そして、甘酸っぱい味わいが広がったとき――。
突如として、リュカの精神はトラウマの世界に囚われた。
「――せん、せい……」
零れ落ちたのは途切れがちな声。
気付けば辺りは暗い森の景色に変わっており、目の前には父親代わりで先生でもある時計ウサギが立っている。女王さまの大きな愛に耐え切れずに壊れてしまった、あのひとが――。
唇を噛み締めたリュカは握り締めた剣の切っ先を彼に向けた。あの日から、静かに考えていたことがある。もし再会が叶うなら、することはただひとつ。
「いま楽にしてあげるね」
刹那、鋭い刃が目の前の人影を斬り裂いた。無意識に瞼を閉じていたリュカが目を開いたとき、其処は元あった楽しいお茶会の光景に戻っていた。あの光景が巡ったのは時間にしてたった一瞬のこと。アリス達は仲良く談笑しているままでリュカの異変には気付いていない様子だった。
「とーっても美味しい!」
「ウサギさんもこちらのお菓子を食べてみてください」
「本当だ、すごく美味しい」
勧められたお菓子を頬張ったリュカはアリス達に微笑みを向ける。彼女達が酷い過去や苦しみに襲われなくて良かったと考えながら、リュカは静かな安堵を抱いていた。
大成功
🔵🔵🔵
政木・朱鞠
【化術】と【変装】の合わせで『忍法・火煙写身の術』の分身を拘束役兼飼い主さんに見立てて、自分は大型犬のコスプレで参加しようかな。
毒見…って訳じゃないけど、アリスちゃん達に累が及ばないようクレープ・シュゼットを先に頂こうかな。
問題はトラウマの方か…何の心の傷が投映されるか不安だけど、状況に流されて自我を手放さない様にしないとね…。
過去の残滓として、仕留めた咎人達が命を奪う快感に酔うよう誘いに来る…なんて幻想を見せられたらマズイかもね。
折角のお茶会だもの、暴れちゃったら台無しになっちゃうよね。
拷問具『荊野鎖』をチョイスして自分を拘束する事を優先して、過去の幻想に抗うようにするよ。
アドリブ連帯歓迎
●戒めと荊棘
不思議の森で巡るハロウィンのお茶会。
それは一見すれば普通のパーティーだが、裏ではオウガが糸を引いている。
政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は警戒を抱きつつ、そっと辺りを見渡した。森の中には甘い香りが漂っており、テーブルの周りには楽しげなお茶会の雰囲気が満ちている。
(さて、まずは……)
――忍法・火煙写身の術。
誰にも悟られぬように術を発動させた朱鞠は、狐火で模った分身を出現させていた。
その分身を拘束役兼飼い主に見立てた彼女は静かに頷く。これで自分が大型犬のコスプレで参加すれば、仮装としてティーパーティーに迎え入れられるはずだ。
主催者席のオウガを見遣った朱鞠は自分が溶け込めたことを理解した。お茶会を見渡した時に帽子を重ねて被って姿が見えなくなっているアリスや、全身きぐるみで参加している者もいたので問題はないようだ。
アリス達が仲良く談笑している姿を見つめ、朱鞠はひとまず安堵を抱く。
「さて、毒見……って訳じゃないけど、始めなきゃね」
アリスちゃん達に累が及ばないように、と言葉にした朱鞠は机の上に並べられたお菓子や料理を眺めた。ふわふわのパンケーキタワーやキャンディポット、焼きたてのパイにジャム入り紅茶。
どれもがオウガの用意したとびっきりの美味しいものだ。
正直を言えば食欲をそそられるものもあった。しかし、今は早々に片付けておかないといけないものがある。
「あのクレープ・シュゼットを先に頂こうかな」
朱鞠は数々のお菓子の中にしれっと混ざっているトラウマ料理に目を向ける。クレープ・シュゼットがアリス達の目に触れないよう、皿を引き寄せた朱鞠は意を決した。
(問題はトラウマの方か……)
分身がクレープを切り分けて朱鞠の口に運んでいく。一口目を頬張る瞬間に過ったのは一抹の不安。それでも、罪もないアリス達に苦しみを与えることは避けたかった。
そして、朱鞠がクレープ・シュゼットをそっと味わっていく。
一体、何の心の傷が投映されるのか。予想がつかないだけに不安だが、しかと立ち向かう気概はある。状況に流されて自我を手放さないように。
朱鞠が覚悟を抱いた、次の瞬間。
「――!」
一瞬にして周囲の景色が歪み、朱鞠の心が暗闇に沈んだ。
トラウマ領域とも呼べるものが心の中に広がったかと思うと、過去の残滓が浮かんでくる。
「あなた達は……ああ、そうなのね」
朱鞠の目の前に現れた幻影は、かつて仕留めた咎人達だった。影は妖しく揺らめき、血の匂いを漂わせながら近付いてくる。その姿を見つめる朱鞠は一歩も動けない。
命を奪う快感に酔うように、この闇に浸り続けろと語るように、影達は誘ってくる。
幻想だと頭の中ではわかっているが、トラウマを呼び起こす料理の効果は強い。誘いは強く、抗いがたい感覚が朱鞠を支配しようとしてきた。
(マズイかもね。だけど、今は――!)
こんなことに心を囚われている暇などない。朱鞠は幻影を見据え、動かなくなったと思わされていた身体に力を巡らせていった。旗から見れば眠るように項垂れていた朱鞠は顔を上げ、拷問具を握り締める。
見れば、今もアリス達は平和にお茶会を続けていた。
自分が耐えるだけで彼女達の平穏が守れるのだと思えば、これくらい軽いものだ。
「折角のお茶会だもの、暴れちゃったら台無しになっちゃうよね」
荊野鎖を使うことを選んだ朱鞠は、自分を拘束していく。
こうすることで自らが闇に沈み続けることを止め、過去の幻想に抗えるだろう。咎人に絡み付き、朱鞠と共に在った荊野鎖はその身を縛り続ける。
今はこれでいいと感じながら、朱鞠はアリス達が織り成す和やかな光景を見守った。
そうして朱鞠は、この場の和やかさを密やかに守り続けてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふわぁ、お菓子がいっぱいですね。
この中にアリスさん達をオウガさんにしてしまうクレープ・シュゼットが混ざっているのでしたね。
ふええ、アヒルさんに取られてしまいました。
えっと、それじゃあこれをって、またアヒルさんなんで私の取ろうとした物を先に食べちゃうんですか?
ふえ?最近全然言ってないから忘れているようだけど、
私もアリスだって、そういえばそうでした。
でも、アヒルさんもトラウマを見せられているんじゃ。
ふええ?!その為に私にこの仮装をさせたって、アヒルさんのトラウマは北京ダックやローストチキンだから私にその格好をさせることで恐怖心を消し去ったって、ひどいですよアヒルさん。
これ結構恥ずかしいんですよ。
●甘い恥じらい
キャンディは鮮やかに、チョコレートは甘やかに。
お茶会テーブルにずらりと並んだお菓子はどれも魅力的で、何から食べようか迷ってしまうほど。
「ふわぁ、お菓子がいっぱいですね」
フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)はハロウィンパーティーの会場を見渡し、わくわくした気持ちを抱く。
オウガ主催のハロウィンとはいえ、森の中に置かれたお茶会テーブルは素敵なものに見えた。
仮装をしたアリス達も楽しげにお茶やお菓子を楽しんでおり、とても賑やかだ。フリルもある仮装をして紛れ込んでいるのでオウガに怪しまれることはなかった。
「この中にアリスさん達をオウガさんにしてしまうクレープ・シュゼットが混ざっているのでしたね」
フリルは声をひそめ、隣にいるアヒルさんに確認した。
グワ、という鳴き声には肯定が込められている。その返事を聞いて気を引き締めたフリルは、オウガによって用意されたクレープ・シュゼットに狙いを定める。
今ならば他のアリスは別のお菓子に気を取られているので、フリルが先に食べてしまうことが出来るだろう。
だが――。
「ふええ、アヒルさん!?」
フリルが更に手を伸ばすよりも先にアヒルさんがクレープ・シュゼットを平らげてしまった。
しかし、もう一皿あったのでフリルはそちらを担当しようと決める。されどまたまたフリルよりも先にアヒルさんがクレープにくちばしを伸ばし、さっと食べてしまう。
「アヒルさんに取られてしまいました……。えっと、それじゃあこれを」
フリルは試しにふわふわのパンケーキを取ろうとする。
だが、結果は同じ。美味しそうに、それでいてすぐにアヒルさんが料理を食べきってしまう。
「って、またアヒルさんなんで私の取ろうとした物を先に食べちゃうんですか?」
困ったフリルは直接問いかけてみる。
するとアヒルさんは胸を張り、自分は任務を遂行しているだけだと主張した。
「ふえ? 最近全然言ってないから忘れているようだけど、私もアリスだって……。そういえばそうでした」
そう、つまりはアヒルさんも『アリス』を守っているのだ。
先程のパンケーキは関係ないんじゃ、と疑問が浮かんだが、それ以上に気になることもあった。
「でも、アヒルさんもトラウマを見せられているんじゃ」
「グワッ」
フリルがアヒルさんを心配していると、力強い声が返ってくる。どうやらアヒルさんがフリルに今の仮装を渡したのは、トラウマ対策だったらしい。その衝撃の事実を聞いたフリルは驚きを隠せない。
「ふええ?! 心的外傷に囚われない為に私にこの仮装をさせたって……」
アヒルさんのトラウマは北京ダックやローストチキン。だからこそフリルにこの格好をさせ、恐怖心を消し去る手伝いをさせていたというわけだ。アヒルさんからすれば、ちらりとフリルを見るだけでいい。自分はああならなくてよかったという思いが浮かぶからだ。
「ひどいですよアヒルさん。これ結構恥ずかしいんですよ」
両手、もとい両羽で顔を押さえたフリルは頬を赤くしていく。
その様子を肴代わりにしながら、アヒルさんはどんどんトラウマのクレープ・シュゼットを平らげていった。こうしてアリス達はフリルも含めてしっかりと守られた。
フリルの恥じらいという、ある意味での代償を払うことによって――。
ちなみに後でフリルもトラウマの料理ではない美味しいお菓子を分けて貰えたので、この場は一件落着。オウガの企みは見事に打ち砕かれ、ハロウィンパーティーは楽しく巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵
唯嗣・たから
◎
トラウマ…白くて綺麗なお母さん龍に呑み込まれたとき、いっぱい見たから…多分、余裕(愛織参照)
さあ、クロ、いくよ。今日のおすすめは…甘くて苦いクレープ・シュゼット!これで、アリスさんたちが誤って食べちゃうのを防ぐ…。
あとはスイーツ・バイキング。メニューは一個だけ、だけど…いただきます(もぐもぐ、ぱくぱく)
ああ、殺されたときのことが、鮮明に蘇る。怖い、痛い、より、どうしてーなんで?そんな気持ちがぐるぐるする。クロの手を握ろうとして、たからの手が視界に入る。
……あ。うん。うん。そう。あれがなければたからは女の子のままお洒落できた……コノウラミハラサデオクベキカ(ネガティブなオーラがずもももも…
●乗り越えて、未来へ
心的外傷と記して、トラウマ。
いたいけな少年少女が、騙されたうえで過去の傷を抉り出されるようなことはあってはいけない。
「トラウマ……少し、懐かしいな……」
唯嗣・たから(忌来迎・f35900)は自分が以前に体験したことを思い返していた。あの日、白くて綺麗なお母さん龍に呑み込まれたときに苦しい思いとたくさん向き合った。
かつての出来事は今も忘れておらず、たからの胸にずっと残っている。
「あの日にいっぱい見たから……多分、余裕」
たからはどんなトラウマに囚われても大丈夫だとして、自分を信じた。あのときに感じた思いも、迎えた結末も覚えている。苦しみを乗り越えた先に、新たな世界が広がることがあるのも知っていた。
されど、この場に集まったアリス達は何も知らずに騙されているようなもの。そんな彼女達に苦しみを味あわせたくはないと考え、たからはこの場にいる。
「さあ、クロ、いくよ」
からくり人形のクロにそっと呼びかけ、たからはハロウィンパーティーに挑む。
ふわふわの五段パンケーキに鮮やかなキャンディが詰まったまあるいポット。豪奢なお皿に綺麗に並べられたチョコレートや、フルーツたっぷりのケーキもあるが、今日のおすすめは――。
甘くて苦いクレープ・シュゼット!
これだけはアリスに選ばせず、猟兵が先に食べてしまわなければいけない。
「アリスさんたちが誤って食べちゃわないように……」
あとはスイーツ・バイキングを楽しむ気持ちで挑んでいけば良い。
生憎、たからは無限の胃袋を持っているわけではない。この事情があることでクレープ・シュゼットに専念しなければならず、メニューは一個だけになってしまう。
「だけど……いただきます」
トラウマに襲われることになっても味の心配はない。クレープの皿を引き寄せて自分の前に持ってきたたからは、もぐもぐ、ぱくぱくと料理を味わっていく。
「……おいしい」
けれども、殺されたときのことが鮮明に蘇ってくる。
傍から見れば、たからはじっとクレープ・シュゼットを食べ続けているだけにしか見えないだろう。だが、彼女の裡にはあのときの出来事がぐるぐると巡り続けていた。
怖い、痛い。
そんな気持ちもあった。けれども、それより――どうして、なんで? といった気持ちの方が強かった。
(クロ……)
傍らの人形の手を握ろうとしたとき、たから自身の手が視界に入る。
このまま抗わなければトラウマに沈んでしまう。恐怖よりも強い疑問が自分を支配してしまいそうだ。しかし、今のたからは嘗ての記憶の先を知っている。
父と母に愛されていたことも、世界には悲しみだけしかないのではないと解っていた。
現在のたからが、あの光景を見せられて思うことは――。
「……あ。うん。うん。そう」
一皿目を平らげ、二皿目のクレープ・シュゼットに手を伸ばしたたからはこくこくと頷く。
其処にあるのは怒り。
「あれがなければ、たからは女の子のままお洒落できた……だから、」
――コノウラミハラサデオクベキカ。
今でいう真の姿のまま、もっともっと楽しい女の子らしい暮らしも出来たかもしれない。たからの周囲には怒り混じりのネガティブなオーラが漂っていった。
それは変えられない過去ではなく、このことを思い出させたオウガに向かっていく。
そうして、猟兵の活躍と抵抗によってクレープ・シュゼットはすべて食された。アリスの傷は抉られず、猟兵達は各々のトラウマを乗り越え、向き合うことでオウガ化の罠を無効化できた。
その頃には、流石のオウガもお茶会の異変に気付いていて――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『咎忍『覆盆子』』
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POW : 忍法『アツアツのキャラメリゼ』
【口から噴いた炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【甘い香りの】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 忍法『フワフワのホイップクリーム』
【巨大な絞り袋から放つクリームで】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
WIZ : 忍法『パリパリのチョコスプレー』
自身の装備武器を無数の【チョコレート】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:銅貨
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「政木・朱鞠」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●咎忍、イチゴちゃん
猟兵達の潜入によって、トラウマ料理は平らげられた。
誰もが其々の手段で心的外傷や過去の傷や痛みを乗り越え、お茶会テーブルについている。
咎忍『覆盆子』、もといイチゴちゃんは誰もオウガ化していないことに気付き、声を荒らげた。
「私のお茶会を邪魔しているのは誰!? 出てきなさい!」
突如としてあげられた声にアリス達は驚き、パーティーの主催者から距離を取る。アリスとして冒険してきた者達であるため危険に気付いたのだろう。
恐怖を覚えて木の後ろに隠れていくアリス達とは別に、猟兵達は前に進む。
近付いてきた者達がクレープ・シュゼットを食べたのだと気付いた咎忍は鋭い視線を向けてきた。
「邪魔をした罰は受けてもらわないとね」
クレープめいた愛らしい衣装を翻した覆盆子は強い敵意を巡らせる。アリスの避難は充分であり、お茶会のお菓子もほぼなくなっている。お茶会の時間はもう終わりだ。
後はこのオウガを倒してしまって、おかしなトラウマパーティーを終わらせるだけ。
そして此処から、楽しいハロウィンを取り戻す戦いが始まっていく。
フリル・インレアン
そ、そこまでです、イチゴちゃんさん。
アリスさん達をオウガさんにさせませんよ。
ふえ⁉何故か美味しそうな物を見る視線が…って、
そういえば、私はアリスもそうですけどこんな仮装をさせられていたんでした。
もっとしっかり焼くのがお好みって、私を燃やさないでください。
ふええ、甘い香りの炎は強化効果でも弱体化効果でもないからお洗濯の魔法で落とせないです。
いえ、衣装が燃えれば焦げます。
焦げはしつこい汚れです。
炎の忍法には水のお洗濯の魔法です。
あの、アヒルさん見てないで戦ってくださいよ。
お洗濯の魔法は服が焦げてからの発動なので、どんどん服が無くなって恥ずかしいんですよ。
さっきの仮装も恥ずかしいですけど。
唯嗣・たから
◎
寧ろ、罰を受けるの、貴女。
おいしいお菓子に、悪いことをして…素敵なお茶会、台無しにして…アリスさんたち、危うく、騙されるところ…だった。
食べ物で遊ぶのも、人を騙すのも、ダメなこと。
…それに、たからのお怒りポイントを、思いっきり踏んだので…貴女も、骨になる?
吐き出す言葉は【呪詛】にまみれた呪いの言葉。
コノウラミハラサデオクベキカー
アア、ウラメシイウラメシイー
【ネガティブオーラ】をずももってさせながら指定UCを発動。
今のたから、怨霊さん、みたい。ハロウィンだから、いいよね。
とりっく あんど とりーと!!
お菓子はさっき頂いた、から…あとは、たからが、悪戯します。
腐って腐って醜く崩れてしまえ。
リュカ・アプリコットティ
【POW】◎
「あぁバレちゃった。まだお話したかったから残念だけど…もうお茶会はお開きかな。それじゃあ、お片付けしましょうか。」
宝石チョコレートの剣を使用します。アリス様をあまり不安にさせたくないから、なるべく笑顔を絶やさず花びらのように舞いながら戦いたいな。
【早業】で不規則に素早く動き、時折【斬撃波】を放ちながら接近を試みてみます。攻撃は【残像】で避けるか、大丈夫そうなら【カウンター】で跳ね返します。接近できたら【指定UC】を使用して戦います。
●甘く燃やして
「そ、そこまでです、イチゴちゃんさん」
「あぁバレちゃった。まだお話したかったから残念だけど……もうお茶会はお開きかな」
咎忍、覆盆子が声を荒らげたことで猟兵達が立ち上がる。
フリルはびしりと指先を突きつけ、リュカは至極残念そうに肩を竦める。本当はもっとアリス達と楽しい時間を過ごしたかったのだが、危険が及ぶというのならば致し方ない。
邪魔した罰を、と語る覆盆子に対してたからはふるふると首を横に振ってみせる。
「寧ろ、罰を受けるの、貴女」
「アリスさん達をオウガさんにさせませんよ」
たからは咎忍を見据え、フリルも思いをしかと告げた。覆盆子は少女達を見遣った後、クレープめいた衣装をくるりと翻した。だから何かしら、といった様子だ。
対するたからは攻撃の機を窺いながら、思いの丈を語っていく。
「おいしいお菓子に、悪いことをして……素敵なお茶会、台無しにして……アリスさんたち、危うく、騙されるところ……だった。食べ物で遊ぶのも、人を騙すのも、ダメなこと」
「あら、お菓子は美味しかったでしょうに。それにオウガになれて苦しい冒険もやめられていいじゃない?」
覆盆子はくすくすと笑っている。
此方の思いなど一切、考慮しない我が道を行く態度だ。
何を話しても通じない、平行線を辿るだけだと判断したリュカは仲間達に呼びかける。
「それじゃあ、お片付けしましょうか」
「うん……やろう」
「悪いオウガさんには退散してもらいます」
たからとフリルも思いを同じくしていき、少女達の攻勢が始まっていく。対する咎忍も力を紡ぎ、まずはフリルに忍術を解き放った。
「――忍法、アツアツのキャラメリゼ!」
「ふえ!?」
口から噴いた炎が周囲に巡り、フリルの衣装を燃やした。解き放たれた甘い香りの炎は留まることなく燃え上がり、猟兵を取り囲むように迸る。その際にフリルは妙な違和感を覚えた。
「何故か美味しそうな物を見る視線が……」
「それはあなたの衣装のせいね」
「そういえば、私はアリスもそうですけどこんな仮装をさせられていたんでした」
「ふふ、もっとしっかり焼くのが好みなの」
「って、私を燃やさないでください。ふええ……!」
フリルは自分が美味しそうな格好をしているのだと気付き、ぱたぱたと慌てて駆ける。甘い香りの炎は強化効果でも弱体化効果でもないので、フリルが得意とするお洗濯の魔法で落とせない。しかし、はっとしたフリルは魔法が役立つ瞬間に思い至った。
「いえ、衣装が燃えれば焦げます。焦げはしつこい汚れです」
それならば、炎の忍法には水のお洗濯の魔法が効くはずだ。フリルが対抗していく中、リュカも宝石チョコレートの剣を振るっていく。
剣の閃光で咎忍を斬り裂けば、甘い香りが散っていった。
時計ウサギ然としたとした佇まいでオウガと対峙するリュカは真剣だ。幾重も攻防を繰り広げる間もリュカの意識は隠れているアリスに向けられていた。
(アリス様をあまり不安にさせたくないから、ここは――)
なるべく笑顔を絶やさず花びらのように舞い、凛とした戦いを見せたいところ。リュカが軽く振り向くと、先程にお喋りをした二人のアリスと視線が合った。
きっと彼女達も心配してくれているのだろう。そっと笑いかけたリュカは宝石チョコレートの剣を華麗に振るってみせた。魔法で鉤爪の如く伸ばした両刃の長剣は咎忍の身を貫く。
「見切りましたよ!」
「それで勝ったと思わないことね」
だが、覆盆子も更なる甘い香りの炎を放ってきた。
キャラメリゼされないよう素早く身を翻したリュカは、早業で以て不規則に立ち回った。剣戟に時折混ぜた斬撃波で敵を穿ちながら、リュカは接近を試みていく。
残像を纏うリュカが敵を引き付けてくれている間に、たからも力を巡らせていった。
「く……あなたは何をするつもり?」
「たからのお怒りポイントを、思いっきり踏んだので……貴女も、骨になる?」
覆盆子は痛みに耐えながら警戒を強める。其処に続く形でぽつり、ぽつりとたから吐き出していった言葉は呪詛にまみれた呪いの言葉だ。
――コノウラミハラサデオクベキカー。
――アア、ウラメシイウラメシイー。
トラウマを見せられた先程からも巡らせていたネガティブオーラが広がっていく中、たからは凌遅腐敗ノ刑を発動していく。其処に召喚されたのは地獄よりいずる怨霊の腕。
腐敗した腕が咎忍に迫っていき、キャラメリゼの炎を蹴散らしながら猛威を振るう。
それを操っているたからはまるで怨霊の総大将のよう。そのことに気が付いたたからは軽く首を傾げる。
「今のたから、怨霊さん、みたい。ハロウィンだから、いいよね」
考えたのは一瞬だけ。
後はハロウィンの勢いに乗せて咎忍退治をしていけばいいだけのはず。たからは怨霊を駆使していき、リュカは剣の閃光で果敢に攻め込んでいく。
「アリス様達には指一本触れさせません」
「ふええ、服が焦げていますが……負けません!」
フリルも仲間達に続き、お洗濯の魔法で対抗している。その際、フリルの相棒ガジェットであるアヒルさんはじっと戦いを見つめていた。
「あの、アヒルさん見てないで戦ってくださいよ」
魔法は服が焦げてからの発動なので、どんどん服が無くなって恥ずかしいとフリルは主張する。しかしこの格好はアヒルさんにとってのトラウマなので燃えてもいいらしい。
「ふぇ……さっきの仮装も恥ずかしいのですが……」
しかしきっと本当にピンチの時はアヒルさんが服を投げてくれるはずだ。それに戦いは猟兵の優勢であるためこのまま行けば勝利も近い。
大丈夫、というように頷いたたからは一気に攻め込んでいく。
「とりっく あんど とりーと!!」
お菓子はお茶会で頂いたゆえ、あとはたから達が悪戯をする番。掛け声と共に怨霊の腕に攻撃を願ったたからは、静かな声色で言い放った。腐って腐って醜く崩れてしまえ、と。
キャラメリゼの炎が揺らめき、覆盆子はよろめく。
甘い香りは打ち消されていき、戦いは猟兵のペースとなり、そして――。
終わりの時は近いと感じながら、リュカとフリル、たからはしかと前を見据える。その勇敢で頼もしい後ろ姿を見つめるアリス達は信頼の眼差しを向けていた。
大成功
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政木・朱鞠
「ふふ…私達の楽しいイタズラはどうだったかな?あ~…お菓子を貰ったのにイタズラした事はごめんあそばせ!」
行動
長年、狙っていた獲物がちゃんと釣れたみたいだね…ここが大詰め、不粋なお茶会はお開きだよ。
ワザと思いっきり目立つように【挑発】して、イチゴちゃんこと咎忍『覆盆子』の怒りを逆撫でしてあげるよ。
未来を理不尽で満たすことを是とする貴方の咎をここ潰させて貰うよ…覚悟はよろしくって?
戦闘【WIZ】
縁が繋がった以上は咎忍『覆盆子』ちゃんを骸の海に逃しちゃいけないよね…。
幕引きのため命を賭けるのもまた一興…『忍法・鋳薔薇姫』でほんの数秒だけど動きを封じて隙を作りたいね。
得物は『風狸ノ脛当』をチョイスして、【スライディング】技能を使いバランスを崩して、四肢を思いっきり【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】のキックでダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
●姫忍と甘い咎
鎖に縛られ、耐える時はもう終わり。
己を戒めていた朱鞠は立ち上がり、甘い誘惑を完全に振り払った。
「ふふ……私達の楽しいイタズラはどうだったかな?」
憤りを見せている覆盆子に対し、朱鞠は少し不敵に笑ってみせる。
先程に危険なお菓子を食べたことで見せられた幻影では、これまでに仕留めた咎人達が次々と現れていた。命を奪うことの快感に酔い、闇へと誘う幻影達。
その中には覆盆子の姿もあった。
本物はパーティーの主催者の方であると理解していた故、朱鞠は果敢に耐えきっていた。
元より、朱鞠は邪な異世界の住人と結託する組織や闇の勢力を討つために組織された忍者軍団の出身だ。
頭主候補であるゆえ、いずれは忍軍の上に立つ身でもある。しかし、今はまだ自由に生きたいという願いを叶える条件として、咎忍達を処理する任務を課せられていた。
交換条件で頭の固い長老達を黙らせている今、朱鞠にはやるべきことがある。それは目の前に立っている咎忍、覆盆子を完全に倒すこと。
「トリートに対してのお礼がこの始末なのね」
「あ~……お菓子を貰ったのにイタズラした事はごめんあそばせ!」
覆盆子が語った言葉を聞いた朱鞠は素直に謝った。その間、地を蹴った朱鞠は木々の影が濃い場所に移動する。どれほど美味しいお菓子を提供されようとも、その目的がオウガを生み出すことならば容赦は出来ない。
それに長年ずっと狙っていた獲物が釣れたことは僥倖。
イチゴちゃんと名乗る覆盆子を強く見据えた朱鞠は凛とした眼差しを向け、強く言い放つ。
「ここが大詰め、不粋なお茶会はお開きだよ」
「そうはさせないわ。楽しいお茶会はまだまだ続くの。あなた達を倒してから、ね!」
覆盆子は怒りをあらわにしていき、手にしたクレープをふわりと揺らした。其処から甘い香りが漂ったかと思うと無数のチョコレートの花弁が現れ、周囲に広がっていく。
影を踏んでいた朱鞠は攻撃よりも回避を狙い、再び地面を蹴り上げた。
花弁は彼女が立っていた後ろにあった樹に突き刺さり、ミシミシと音を響かせる。甘い香りと見た目に対して鋭い威力を持っているのは、それが忍法のひとつであるからだろう。
「イチゴちゃん、いいえ――咎忍『覆盆子』ちゃん」
「その呼び方はやめてくださる?」
朱鞠は敢えて愛称ではなく、本当の名で相手を呼んだ。対する咎忍は表情を引き攣らせながら、極力丁寧な言葉遣いで返してきた。おそらく皮肉を込めているのだろう。
オブリビオンに成り果てた者とはいえ、覆盆子と朱鞠には縁が繋がっている。
それゆえに朱鞠は態と、敢えて思いっきり目立つように行動していた。お茶会を邪魔されたこと、愛称ではなく本名で呼ばれたこと、そして宿敵が目の前にいること。
すべての要素で以て、覆盆子の怒りと神経を逆撫でしてやる心算だ。
咎忍を打ち倒すことは忍者軍団からの命でもある。しかし、朱鞠がこの場で戦う理由はひとつだけではなかった。先程のアリス達はとても楽しそうに会話していた。
自分の世界に帰る為の扉を探す冒険をこれからも続けるとも語っていたようだ。
他の猟兵との会話が聞こえてきたことで、朱鞠の心にも彼女達を守りたいと願う気持ちが生まれていた。
それに加えて、オブリビオンは世界の敵でしかない。普通に暮らしたいと願う朱鞠がいる場所すらも、いずれ侵してしまう存在だ。
「未来を理不尽で満たすことを是とする貴方の咎――ここで潰させて貰うよ」
忍者手裏剣の鳳仙花を構えた朱鞠は凛とした声で宣言した。
「……覚悟はよろしくって?」
言葉と同時に投げつけた手裏剣は風を切り、咎忍に迫る。されど相手も黙ってはいない。
「そちらこそ覚悟をした方がいいんじゃないかしら?」
忍法、フワフワのホイップクリーム。
朱鞠の手裏剣を躱した覆盆子は巨大な絞り袋を召喚していき、其処から放つクリームで自分をデコレーションしていく。クレープめいたドレスは回避重視の力を纏い、手裏剣をいとも簡単に躱せるものになった。
されど朱鞠も対抗し続ける。
鳳仙花は小手調べ代わりに止め、次にチョイスしたのは風狸ノ脛当。
これは元より補助の役割を持っていたものだが、威力が強すぎたゆえに武器としての忍具になったものだ。狙うは相手が隙を見せた一瞬。最大の好機が訪れた時に一気に攻撃を叩き込む戦法が有効だろう。
幸いにも他の猟兵達も懸命に戦い、咎忍の気を引いてくれている。
(縁が繋がった以上は覆盆子ちゃんを骸の海に逃しちゃいけないよね……)
考えを巡らせた朱鞠は心を決めた。
覆盆子に覚悟を問うたならば、問いかけ返されたように己も心を決めるべきだ。それが咎忍を完全に葬るために朱鞠自身が背負い、重ねていく意思の証。
それならば、幕引きのため命を賭けるのもまた一興。
ぎりぎりまで相手を引きつけようと決めた朱鞠は素早く戦場を駆けた。その動きに気付いた咎忍も地面を蹴り上げ、ドレスを翻しながら追ってくる。
「追い詰められているからって甘く見ないことね。あなただけでも倒せば私の勝ちよ!」
忍法、アツアツのキャラメリゼ。
狙いを朱鞠だけに定めた覆盆子は口から炎を噴き、甘い香りの炎を解き放った。どうやら朱鞠相手に全力を出そうと決めたようだ。炎が迫る最中、朱鞠は覆盆子の持つフォークが振り上げられたことに気付く。
此方を完全に叩きのめそうとしているのだと分かり、朱鞠は身構えた。
「させない……!」
刹那、忍具とフォークがぶつかりあう甲高い音が響き渡る。鍔迫り合いの如く、間近まで迫った二人の間に敵意が交錯していった。だが、より強い力で跳ね除けたのは朱鞠の方だ。
「くぅ……っ」
弾き飛ばされた覆盆子は苦しげな声をあげ、後ろに下がった。朱鞠は今が好機だと読み、先程に立っていた影が色濃い部分に跳躍する。着地と同時に繰り出すのはただひとつ。
――忍法・鋳薔薇姫。
「ちょっとの間だけ、大人しくしていてくれるかな。大丈夫、痛いのは一瞬だけ」
ほんの数秒ではあるが、動きを封じて隙を作る。
それこそが先程から朱鞠が狙っていた行動だ。踏んだ影からは金属鎖状の触手が現れ、覆盆子へと向かっていく。
体勢を立て直そうとしていた相手は上手く動けず、見る間に触手に絡め取られた。
「駄目、これじゃいけないわ……!」
「ここに終わりを――」
慌てる覆盆子は身動きすら取れず、自分の最期を確信してしまう。
対する朱鞠は一切の容赦をせず、ひといきにスライディングを仕掛けた。そして、相手のバランスを崩すと同時に四肢を思いっきり蹴り上げる。
一瞬後、小さな悲鳴が戦場に木霊した。
金属の触手に囚われた覆盆子は戦う力を失い、そのまま崩れ落ちるように倒れる。彼女が放とうとしていたチョコレートの花弁も地に落ち、ふわりとした甘い香りを残して消えた。
「……さようなら、イチゴちゃん」
鋳薔薇姫の鎖を収めた朱鞠は消失していく咎忍を呼ぶ。その名を彼女が望んでいた呼び名にしたのは、せめてもの手向けとしての思いを宿したゆえ。
これで咎忍『覆盆子』は骸の海に還ることなく、永遠に葬られた。
アリスの未来を。
ひいては世界を理不尽から救った朱鞠は、最後にそっとお茶会のテーブルを見遣る。
其処に並べられていたお菓子は、まるで甘い夢の残滓のようにも思えた。
●進むべき未来へ
こうして、世界の歪みがまたひとつ閉じられた。
リュカにフリル、たからに朱鞠。彼女達の活躍によってアリス達は無傷だ。
お茶会に参加していたアリスは猟兵達に助けてもらったお礼をたくさん告げ、それぞれの冒険へ踏み出していく準備を整えていく。その際、彼女達は覆盆子にも小さな感謝を抱いていたことを語った。
「オウガになるのは嫌だったけど、パーティー自体はとっても楽しかったもの」
「イチゴちゃんに頂いたお菓子の思い出は忘れないわ!」
「それじゃあ皆さん、さようなら!」
何処までも明るいアリス達はきっと、これからも強く生きていけるだろう。それにもし困難に遭遇してしまっても、今回のように猟兵達が救いの手を差し伸べることだって出来る。
「アリス様のご武運を祈ります」
「ふえ、祈られちゃいました。ありがとうございます」
「そういえば……貴女も、アリス……。みんなにいいこと、あるといいね」
アリスの背を見送ったリュカが幸先を願うと、フリルが少し驚きながらもお礼を返した。たからはフリルもアリスだと気付き、可笑しそうに骨を揺らす。
そんな微笑ましい光景を眺めていた朱鞠は静かに笑み、巡りゆく季節に思いを馳せた。
「こんなハロウィンもまた一興ね」
咎忍を屠ってゆく戦いはまだ終わらないが、自由に自分の生活を楽しめる時も同じように続いていく。楽しいこともあれば、苦しいこともある。
それでも、其々が懸命に生きているのだと感じながら――朱鞠は旅立つアリス達に手を振った。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2022年10月28日
宿敵
『咎忍『覆盆子』』
を撃破!
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