可塑性ゾンビ・マーチ
●ゾンビ化オブリビオン
『ゾンビ化オブリビオン』――それは黒き竜巻『オブリビオン・ストーム』によって破壊された死骸がオブリビオンへと変貌したものである。
黒き竜巻に飲み込まれ破壊されたものは須らくオブリビオンへと変貌する。
特に死体。
文明崩壊したアポカリプスヘルにおいて死体とは、多く存在するものである。
かつては拠点であった場所も、奪還者が文明の残滓から食料などを見つけ出すことができなければ人々は飢えて死ぬしかなくなる。
飢えて死ぬことができたのならば、まだ平和であったことだろう。
少ない食料を奪い合い、骨肉の争いが巻き起これば、その終わりはいつだって凄惨なものであったはずだからだ。
そうして生まれた死体は、黒き竜巻『オブリビオン・ストーム』によって破壊され、ゾンビ化する可能性が高いと言われてきた。
そして、また一つの拠点を飲み込んだ黒き竜巻が生み出したゾンビ化オブリビオンたちは群れをなして行進する。
どれもが若い女性の死体であった。
それは如何なる理由からかはわからない。『ネクロメイデン』と呼ばれた体の欠損部分を機械パーツや廃材で補ったゾンビ化オブリビオンたちは、ゆっくりとだが着実に行進を続けていた。
「ア、オウ、ア、ア、ア、ァ――」
声ならぬ声。
ゾンビ化する前から壊れていたのだろう。肉体は壊れ果て、心もまた壊れていたのだろう。どれもが同情に値する。
もう二度と彼女たちはもとの姿に戻ることはない。
その衣装はかつての文明で言うところの花嫁衣装のようでもあった。
かつて白無垢であったであろう色は埃と煤、あらゆる汚濁で汚れ黒く染まっている。ヴェールの奥で彼女たちは崩れ落ちそうな顔を歪ませている。
「ア、ア、ウ、オ、アウ、ウ、――」
まるで何かを誓うように。
残された左腕を大事そうに抱え、守るようにしている。そこにかつての|誓約《エンゲージ》があったのかもしれない。
そう感じさせるのもまた感傷であったのかもしれない。
そのように感じるのは相対する者が生きているからだろう。
『ネクロメイデン』たちは、そんな生者を殺す。
知性はなく。
ただ生命を感知して襲いかかるゾンビ。その瞳に映るのは生者の眩さ。彼女たちが目指しているのは『救世主の園』。
かつてオブリビオンによって生み出され、今は人の手によって多くの者の希望となった拠点。だが、そのまばゆい輝きは、生きる者だけを引き寄せるものではない。
そう、彼女たちもまた惹きつけられる。
まるで誘蛾灯のように。
『ネクロメイデン』たちの薄汚れた花嫁衣装が、羽のように羽ばたき、かつての願いを鱗粉のように散らしながら生命を己たちと同じ残骸へと変えようとしていた――。
●救世主の園
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回はアポカリプスヘルにおいて『ゾンビ化オブリビオン』の群れが襲撃しようとしています」
ナイアルテが告げるのは、人類の拠点の一つである『救世主の園』。肥沃な大地を持ち、清浄なる空気で満ちている拠点だ。
そこに『ゾンビ化オブリビオン』が襲撃する。
『救世主の園』は一度『ゾンビ化オブリビオン』によって襲撃されている過去を持つ。
如何なる因果か、再び『ゾンビ化オブリビオン』の群れが襲いかからんとしている。
バリケードは構築されているが、『救世主の園』はこれから冬を迎えようとしている。即ち、収穫に忙殺されているのだ。
如何にバリケードが構築されているのだとしても、オブリビオンの襲撃以上に肥沃な大地を耕し、収穫することは急務。ここで『ゾンビ化オブリビオン』によって襲撃されてしまえば、冬を越すことができるほどの蓄えを得ることはできないだろう。
「そのために救援に向かって頂きたいのです」
どのみちバリケードだけでは『ゾンビ化オブリビオン』を撃退することは不可能だ。『ゾンビ化オブリビオン』は知性を保たぬ代わりに通常のオブリビオンよりも強力な存在である。
如何に凄腕の奪還者たちがいるのだとしても、彼らでは敵うべくもない。
だからこそ、猟兵たちの出番である。
「今回の『ゾンビ化オブリビオン』、『ネクロメイデン』たちは特に『視覚に相当偏った形で周辺状況を感知している』ようなのです。つまり」
ナイアルテは、にこし、と微笑んだ。
意味ありげな微笑みであったと言えただろう。彼女がこういう顔をするのは珍しいことであるが、なんともあれである。
「ええ、ご理解いただけているようですね」
何一つ説明がないのだが。
「もうっ、わかっていらっしゃるのに! そうです、時期も良いことに仮装です!」
ばーばーん!
ナイアルテは事態の緊迫さとは無縁の笑顔で、ハロウィン衣装を広げる。だが、その衣装はところどころボロボロであった。
そして、彼女の手にはコスメグッズがある。
どういうことだと猟兵たちは困惑したかもしれない。一体何がどうつながればそうなるのか。
「今回の『ゾンビ化オブリビオン』は『視覚に相当偏った形で周辺状況を感知している』のです。ならば、皆さんも仮装をすれば『ネクロメイデン』は敵味方の判別を容易にできなくなってしまうでしょう」
そうすれば戦いが優位に進められるというわけだ。
そして、そのために必要なのは!
「即ち! ゾンビメイク! ぼろぼろな衣装! その他諸々! 皆さんの工夫! テクニック! ええ、それを遺憾なく発揮していただけたらと思うのです」
ナイアルテはそっちのが重要そうな顔をしているが気の所為であろうか。
しかしながら、それは有用であるように思えるだろう。
敵がこちらを敵と認識できなければ、攻撃を叩き込みやすい。被害も最小限に抑えることができる。
「戦いが終わった後は、『救世主の園』で収穫祭です。夜通し行われるそうで、皆さんこのときばかりは徹夜でパーティを楽しむそうですよ」
せっかくだから少しの間拠点にお邪魔して楽しむのもいいだろう。
それにせっかくの収穫祭。
ちょっとしたお菓子やパーティグッズを差し入れしてあげると、拠点の人々も喜んでくれるはずだ。
「かつてそうであったように、この季節は来る冬、実りなき季節を乗り越えるための準備期間。明日を望むアポカリプスヘルの皆さんの厳しくも険しい未来を、僅かでも守ることができるように、どうかお願いいたします」
ナイアルテは言葉をそう締めくくって頭を下げる。
『救世主の園』は他の拠点に比べて潤沢な資源を有する。
けれど、それは他に比べてというだけだ。荒廃した文明の中では危ういものがある。
だからこそ、守らなければならない。
明日を望んだ彼らの道行きを阻む黒き竜巻、オブリビオン・ストーム。その尖兵たる『ゾンビ化オブリビオン』を打倒することによって――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はアポカリプスヘルにおける『ゾンビ化オブリビオン』の襲撃を防ぐシナリオとなっております。
またこれはハロウィンシナリオに該当しています。
※これは2章構成のアポカリプスヘルのシナリオになります。
●第一章
集団戦です。
拠点『救世主の園』に迫る『ゾンビ化オブリビオン』の群れをバリケードの前で迎撃します。
『ゾンビ化オブリビオン』は知性を保たない代わりに通常のオブリビオンよりも強力な攻撃を放ってきます。
今回襲来した『ゾンビ化オブリビオン』、『ネクロメイデン』は『視覚に相当偏った形で周辺状況を感知している』ため、皆さんがゾンビメイクやボロボロの仮装などで偽装を施すことで欺くことができます。
皆さんの仮装で敵味方の判別のつかないオブリビオンを此処で掃討しきりましょう。
●第二章
日常です。
『ネクロメイデン』の群れが無事に掃討されれば、平穏が訪れます。
またこの日は『救世主の園』の収穫祭です。
この日ばかりは羽目を外すように盛大に期限が切れそうな物資などを徹夜で消費します。
皆さんも少しの間お邪魔して楽しむのもいいかもしれません。
せっかくのハロウィンですので、ちょっとしたお菓子やパーティグッズを差し入れすることで拠点の人々を楽しませるのもいいかも知れません。
それでは『ゾンビ化オブリビオン』による襲撃を防ぎ、これより暗黒の冬に突入するアポカリプスヘルの拠点『救世主の園』を救い、徹夜の収穫祭を楽しむ皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『ネクロメイデン』
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POW : バンシーの嘆き
【精神を侵食する悲痛な金切り声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : ペルセポネの果実
自身からレベルm半径内の無機物を【自身の欠損部位を補う追加パーツ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ : イザナミの呪縛
自身の【生前の記憶】を代償に、【絶対に死にたくないという生への執着】を籠めた一撃を放つ。自分にとって生前の記憶を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
イラスト:夏屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
荒野に奇妙な音が響く。
何かを引きずる音。何がかこすれる音。何かが当たるけたたましい音。
どれもが奇妙な音であったが、一定のリズムで刻まれていることがわかるだろう。
「ウ、オ、オ、ア、アア、オ――」
声にならぬ声が響く。
それは『ゾンビ化オブリビオン』である『ネクロメイデン』たちの口腔が奏でる音であった。
意味はない。
そこに嘆きや哀愁を見出すことができるのは生者の特権であったことだろう。生きているがゆえに、彼女たちのすでにもう意味のない残滓の如き姿に感情を見出すのだ。
そう、彼女たちに感情という色はすでにない。
かつては純白の衣装であった姿も。
欠損を補うように配された機械の部品や廃材も。
何もかも意味がない。ただ、腐り落ちていくのを待つのみ。
だが、彼女たちは生者を襲う。最も生者の集まる拠点を襲う。己たちと同じにするために。意味のない残骸にするために。
「オオ、オオ、オ、アアアア――」
咆哮のように。
生きる者を憎むように、その口腔より発せられる音は拠点『救世主の園』へと向けられる。
意思はなくとも、明確な目的があるように。
実りの秋を終えて、暗黒の冬へと差し掛からんとする人々の営みをこそ引き裂かんと、その骸の如き体は生者の営みの破壊をこそ求めて、歩みを止めることなくバリケードへと迫る――。
ニィナ・アンエノン
うーん、なんとも悲しい感じのオブリビオンだけど……ここはまだ生きてる人の為!
やっつけちゃわなきゃね!
とゆー事でゾンビっぽい格好するぞ☆
お化粧もしておけば大体だませるかな?
にーはおにーはお、アイアムチャイナなゾンビーアルヨ?おーけい?
……なんて言っても通じないかも。
上手い事ゾンビの群れに紛れたら、なるべく真ん中に行ってからユーベルコードで攻撃だ!
一足お先に、派手な花火でハロウィンのお祝いしちゃうぞ☆
倒し切れなかった敵には持ってる銃火器を【乱れ撃ち】!
【メカニック】の知識で追加パーツのどこが弱いかを見極めて狙い撃てば、きっとすぐにやっつけられる!
でも……頭撃った方が早いかもね☆
それは咆哮というよりも物悲しい呻き声のようにも思えたかも知れない。
少なくとも、『ゾンビ化オブリビオン』、『ネクロメイデン』の声を聞いた時、ニィナ・アンエノン(スチームライダー・f03174)はそう思ったのだ。
どれだけ生きる者を妬み、羨み、嫉むのだとしても。
彼女たちが望むものはもう二度と手に入ることはない。薄汚れた花嫁衣装は、もうもとの純白に戻ることはないのだ。
だからこそ、彼女は思う。
「ここはまだ生きてる人の為! やっつけちゃわなきゃね!」
ニィナはゾンビメイクを己に施す。
目の周りはクマを做るように厚く、色濃く。
傷跡のシールや青ざめた肌を表現するように青いファンデーションを塗りたくる。後は仮装に身を包めば完成なのだ。
そう、今のニィナはチャイナゾンビ。
キョンシーだとかそういう類の仮装を身にまとう。スリットが大胆に入っているのが、道士服らしくていい。
「にーはおにーはお、アイアムチャイナなゾンビーアルヨ? おーけい?」
少し茶目っ気を出して『ネクロメイデン』たちの群れへと紛れ込む。
こんなことを言っても彼女たちには通じないだろう。
なぜなら『ゾンビ化オブリビオン』は『視覚に相当偏った認知』を行っているからだ。見た目がゾンビっぽいのであれば、ニィナが生きていようが関係ない。
熱や呼吸などで判断している様子はない。
やはり視覚情報。それに頼り切っている。ニィナのチャイナゾンビ姿は、すぐに『ネクロメイデン』たちの群れに溶け込むだろう。
「よしよし。バリケードまではもう少しある。余裕もってできてよかったアルヨ☆」
語尾までチャイナ風味になっているのはご愛嬌である。
群れの中心に入り込めば、ニィナの瞳がユーベルコードに輝く。
放たれるのは無数の高機動マイクロミサイル。
それは己を中心に100mを越す範囲を無差別の攻撃するユーベルコード。ミサイルカーニバルと名付けられた、まさしく今回の戦いにおいて最も威力を発揮し、また『ネクロメイデン』の行進を止めるにはうってつけの力だった。
「目標、射程範囲全部ろっくおーん!カーニバルだよ、れっつだーんす!!!」
放たれたマイクロミサイルが乱舞するように『ネクロメイデン』の群れの中で炸裂する。
爆発が荒野に吹きすさぶ。
吹き飛ぶ『ネクロメイデン』たちは何が起こったのかわからなかっただろう。
まるで地雷を踏み抜いたかのように吹き飛んでいく体。
「ア、オ、アア、ウウ、オ……――」
バラバラに吹き飛ぶ体。
そう、彼女たちは視覚情報に頼り切っている。
ニィナがゾンビメイクをしているがために、まるでわからないのだ。本来なら対峙するだけで猟兵と理解できるはずなのに、今はそれができない。
視覚に頼りすぎているため、猟兵とニィナを認識できないのだ。
「一足お先に、派手な花火でハロウィンのお祝いしちゃうぞ☆」
さらに爆発の中でチャイナゾンビ、道士服の裾から重火器を取り出し乱れ撃つ。弾丸がミサイルと同様に乱舞し、さらに彼女のメカニックとして勘が告げる。
『ネクロメイデン』は腐敗してはいるものの、欠損した部位を機械や廃材で補っている。
そのつなぎ目を撃ち抜くことができれば、容易に攻撃を無力化できるのだ。
「そこと、そこと、そこ! 追加パーツで欠損を補填しているんだろうけど、そこをねらい打てればすぐにやっつけられる!」
でも、とニィナは思う。
もっと簡単に倒すなら頭を撃った方が速いかも、と。
でもいいのだ。
こうやって群れの中心で敵を惹きつけていれば、拠点である『救世主の園』のバリケードに到達する『ネクロメイデン』を大幅に遅らせることができる。
今あの拠点では収穫の忙しさに追われている。
少しでも多くの物資を蓄え、冬を越すためには、今の時期は少しの時間も無駄にはできないのだ。
「だから、にぃなちゃんに注目☆」
ばら撒く弾丸。ミサイル。爆発物の大盤振る舞い。
ニィナはある意味チャイナゾンビーことキョンシーらしい重火器をもって、いつものように注目を集め、ド派手に戦うのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
徳川・家光
視覚情報ですか……ならば仕方ありませんね
僕も男です!必要とあらば女装もためらいません!
そういう訳で、大奥にいる沢山の嫁達からアドバイスを受け、ぼろぼろの白無垢(結納前に死んだ女の幽霊という設定らしく、わざわざ最高級の白無垢を裂いていい感じに……倹約!)&江戸時代風病みメイク(肌青白い系)で、柳の下から出てくるかの如き静かな足取りで、メイデンの群に混ざります。そして、ところどころで「大奥の叫び」から嫁達に所作のアドバイスを受けつつ、背後から刀で一体づつ仕留めていきます。哀れな存在ではありますが、オブリビオンに躊躇は無用。一通り片付けたら、再び柳の足取りで、闇の中に帰ります。
『ゾンビ化オブリビオン』、『ネクロメイデン』の脳裏に浮かぶのは生前の記憶。
だが知性を失った彼女たちには、脳裏に浮かぶ映像がなんであったのかを理解することはできなかった。
欠損した部位を機械や廃材でもって挿げ替え、それでもなお死にたくないという思いだけがこだまする。
「オ、ア、オオオオ、アアア――」
口腔より放たれる言葉は意味をなさない。
空気がかすれるように放たれるだけであった。彼女たちは前に進む。目指すは拠点。『救世主の園』。
この荒廃した世界にあって清浄なる空気と肥沃の大地が広がる拠点は、人類の希望でもあった。
バリケードが築き上げられ、レイダーたちの侵入を阻んでいるが『ゾンビ化オブリビオン』たちには意味をなさない。
彼女たちは、ただその瞳に映る生者を殺すためだけに行進するのだ。
「視覚情報ですか……」
徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)は、大奥の叫び(ラブ・コール)が映像デバイスから聞く。
大勢いる妻たちの応援は、この状況を如何にして好転させるかの助言でもあった。
事前に聞いた話では、『ゾンビ化オブリビオン』たちは『視覚に相当偏った形で周辺状況を感知している』というのならば、『ネクロメイデン』たちと同じような衣装に身を包めば良いことになる。
そう、徳川家の男児として、将軍として家光は必要とあらば女装も躊躇いはしないのだ。
彼が手にしたるは最高級白無垢。それを惜しげもなくいい感じに引き裂くのだ。わざわざボロボロにするところが、凄まじい。
一体どれくらいの金額がするのか、多くの者は耳をふさぎたくなったかもしれない。
「……倹約!」
倹約とは一体。
さらに家光は江戸時代風病みメイクを施す。死に化粧の逆を行く青白い化粧は、家光の肌艶良いお顔を病み病みの病みにしてしまう。
さらに柳の下から出てくるかの如き静かな足取りで『ネクロメイデン』たちの一群に入り込む。
「ウ、オ、ア――」
その行動に『ネクロメイデン』は一瞬視線を向ける。
ある意味で此処が正念場である。大奥への映像デバイスの向こう側で妻たちもかたずを飲んでいる。
いや、行けるはずだ。
家光のメイクはばっちり病み病みで、まるで死人みたいであった。
だからこそ、『ネクロメイデン』はなんだ仲間か、と言わんばかりに興味を失って顔を家光からそむける。
その瞬間、家光の手にした名刀の一閃が『ネクロメイデン』を背中から切り裂く。
「哀れな存在ではありますが……オブリビオンに躊躇は無用」
日が落ちていく荒野に刀の剣閃だけが翻る。
足取りは音もなく。
響く音は刀が宙と『ネクロメイデン』の躯体を切り裂く音ばかり。
大奥の妻たちも応援の声は小さめに。けれど、的確に家光の行動をサポートしていくれる。
『ネクロメイデン』にも嘗ては、死にたくない、生きたいという願いが在ったのだろう。
けれど、それは『今』ではない。
もはや『過去』になっているのだ。彼女たちがオブリビオンとなった以上、家光は収穫祭の準備に忙殺される拠点『救世主の園』の住人たちに気が付かれることなく、『ネクロメイデン』の一群を片付ける。
黄昏時に、再び家光は一群に紛れた時と同じように柳の如き緩やかな足取りでもって沈みゆく太陽の影に消えるように立ち去るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
ゾンビの仮装ねぇ。ぶっちゃけ素で殲滅出来るけど、ナイアルテがあれだけ推すんだし、言う通りにしてみましょうか。
アヤメ、死体っぽいメイクをお願い。髪も適当に乱しちゃって。
羅睺は持ってきた手頃な服をボロボロにして。ゾンビ相手に見られて減るものでもないけど、肝心な部分はあなたたちだけのものなんだから、ちゃんと見えないように。
さて、ふらりふらりとゾンビの群れに交じりましょう。
内側に入り込めたら殲滅開始。詠唱は「目立たない」ように。
「結界術」「範囲攻撃」「全力魔法」酸の「属性攻撃」「浄化」で紅水陣。
あたしは「環境耐性」「毒耐性」で身を守る。
あなたたちの生前をこれ以上穢さぬように、|永久(とこしえ)に葬る。
『ゾンビ化オブリビオン』は知性を失う代わりに強力な力を振るうオブリビオンである。
腐敗した肉体を繋ぐ機械や廃材を引きずるようにして荒野を征くのは『ネクロメイデン』たち。
彼女たちの嘗ては純白であったであろう衣装はすでに泥や土埃によって黒く染まっている。それが二度と戻らぬことであることを彼女たちは理解できなかっただろう。
「ア、ウ、ウ、ウ――」
言葉ならぬ言葉。
ただの音を響かせるばかりの口は、何を言わんとしているのか。
もう戻らぬ生を嘆いているのか。
それとも、今を生きる生者に対する妬みか。
どちらにせよ、彼女たちの行進を止めなければならない。
「ゾンビの仮装ねぇ」
村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)は、本当にそれが必要なことなのかと訝しむ。
そんなことで本当にオブリビオンの目をくらませる事ができるのだろうか。確かに言葉だけで聞けば納得しづらいものであったかもしれない。
いくらハロウィンの季節だからといって、それで躱せる相手であるのならば与し易い。
「あれだけ推すんだし、言う通りにしてみましょうか。アヤメ」
そう言ってゆかりは式神であるアヤメに告げる。
彼女にメイクを手伝ってもらうのだ。死体っぽいメイク、と一言に言っても難しい。傷があった方がいいだろうか。それとも死体のように青ざめた色を使うのがいいのだろうか。
アヤメは少し困ったようであるが、いろいろな色を使ってゆかりをメイクしていく。目の周りにくまを深く塗り込めば、不健康そうなゆかりの顔ができあがる。
「……なんだか嫌かもしれません」
「いいから。髪も適当に見出しちゃって。羅喉は、持ってきた手頃な服をボロボロにして」
「えー、いいの? これ?」
「いいのよ。綺麗な服を来ているゾンビというのも締まらないでしょう?」
そりゃあ、新鮮なゾンビというものもあるだろうが、大抵のゾンビはボロを着ているものである。
ボロボロのほうがいいし、こういうのは思いっきりやったほうがいいと相場が決まっている。だがしかし、羅喉の気持ちもわかる。
ボロボロにするということは、それだけ肌を顕にするということだ。
「ゾンビ相手に見られて減るものでもないけど、肝心な部分はあなたたちだけのものなんだから、ちゃんと見えないようにね」
そうして、ゆかりの仮装が終われば彼女は『ネクロメイデン』たちの一群に紛れ込む。
ふらりふらりとした足取り。
決して早くはないが、けれど素早く群れの中に合流しなければならない。
「ア、ゥ、オア……――」
案外あっさりと、とゆかりは思っただろう。
グリモア猟兵の情報通りだ。
これならば殲滅は簡単だ。目立たぬように小さな声で詠唱を始める。彼女の瞳がユーベルコードに輝けば、もう『ネクロメイデン』の一群は、紅水陣(コウスイジン)の虜となるだろう。
真っ赤な血のような、全てを蝕む強酸性の雨が戦場に降り注ぐ。
それは全てを腐食せる。
どれだけ『ネクロメイデン』たちが『ゾンビ化オブリビオン』であったとしても、どれだけ腐敗していようとも、関係ない。
この赤い靄の中で適正のある者だけが生き残ることができる。
「ア、ゥ、アァ――」
嘆くような声が聞こえる。
『ネクロメイデン』の中心にありて、ゆかりは思う。
彼女たちの身にまとっているのは、恐らく花嫁衣装であろう。かつて叶うことのなかった願いの残滓。
きっと幸せの絶頂であったのかもしれない。
そうでなくとも、これより訪れる幸せを夢見ていたに違いない。だが、それも全てが黒き竜巻の中に消えていった。奪われていった。
そして、オブリビオンとして『今』に蘇り、生者を妬むように『救世主の園』に迫っているのだ。
「あなたたちの生前をこれ以上汚さぬように、|永久《とこしえ》に葬る」
ゆかりにできるのはただそれだけだ。
そうすることでしか救われぬ魂があるのならば、この赤い血のような雨は、薄汚れた黒をせめて鮮やかなお色直しのドレスに変えて、霧散させるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
空桐・清導
POWで挑む
アドリブや連携も大歓迎だ
「収穫祭の邪魔はさせられないな。
彼らの街はオレが守ってみせるぜ!
それに、ネクロメイデン達もほっとけないしな。」
さて、仮装か
マスクは外してゾンビメイクして、
ブレイザインの上からボロボロの布を沢山巻いて、と
「名付けるなら、ゴーストフォルムだな。
よし、これで接近するぞ!」
フラフラと自分なりに幽霊のように歩きながら、
ネクロメイデン達の群れに後ろから近づく
近づけたら、オーラのように光焔を展開
光焔に触れたネクロメイデンの姿は生前のものへと変える
そして、浄化されるように光の粒子へと変わっていく
ゆっくりと、ゆっくりと歩みを続ける
そして、彼女たちをオブリビオンから解放していく
秋は冬に移り変わる。
それは四季があれば当然のことであった。秋の実りは暗黒の冬を乗り越えるためには必要不可欠な蓄えであった。
故に人々は、この季節こそが総決算であった。
文明の崩壊した世界、アポカリプスヘルにおいて食糧事情は逼迫した問題だ。いつまでも文明の残滓から物資を調達しているだけでは何れ限界が来る。
だからこそ、拠点『救世主の園』では清浄なる空気と肥沃な大地でもって、この問題に立ち向かっている。
何も武器を手にとって戦うだけが戦いではないのだ。
生きること。
ただそれだけであっても人々は戦っている。理不尽な現実と。襲い来る飢えと。
そうした人々に迫る脅威があるのならば、空桐・清導(ブレイザイン・f28542)はもう大丈夫だと言うのだ。
「収穫祭の邪魔はさせられないな。彼らの街はオレが護ってみせるぜ! それに――」
清導、ブレイザインは思うのだ。
オブリビオン、『ゾンビ化オブリビオン』である『ネクロメイデン』たちも放ってはおけなかった。
彼女たちは確かにオブリビオンだ。
だが、それ以上に彼は彼女たちの姿に嘗ての願いを見た。
マスクを外し、清導は血色の悪いゾンビメイクを施す。さらに機械鎧の飢えからボロボロの布を巻きつけていく。
それはさながらマミーのようでもあったし、ボロボロな姿はきっと『ネクロメイデン』の『相当視覚情報に偏った状況認知』を逆手に取ることができたはずだ。
「名付けるなら、ゴーストフォルムだな。よし、これで」
ゴーストフォルムとなった赤い機械鎧のゾンビめいた化粧を施された清導が、フラフラとした足取りで『ネクロメイデン』の一群に近づく。
幽鬼のような出で立ちであり、またその歩みはゆっくりとしたものであったからこそ、『ネクロメイデン』たちは背後から近づく猟兵であるブレイザインに気がつくことは出来なかった。
彼女たちの生前に何があったのか、ブレイザインは知らない。
知ることなどできようはずもない。
けれど、彼女たちの姿を見る。
埃と煤によって黒く染まった花嫁衣装。ヴェールは黒く、その奥に在るであろう腐敗した顔は希望を見出すことなどできはしなかった。
欠損した部位を補う機械パーツ。
廃材はまるで松葉杖のように彼女たちの歩みを支えている。一体何が彼女たちをそこまでさせているのだろうか。
「オレは誰かを助けるヒーローだ。それはキミたちも例外じゃない」
そう呟く。
ヒーローがヒーローであるために必要なものは何であろうか。勇気か。力か。友情か。それとも慈しみか。
いずれにしてもブレイザインの瞳がユーベルコードに輝く。
“無敵”のヒーロー(セイヴァーズ・フレイム)であるためにという願いと誓いを籠めた光焔が『ネクロメイデン』たちの背をそっと押す。
肉体を傷つけるものではなかった。
触れた彼女たちの躯体は冷たく、脆かった。
ゾンビ化しているせいもあるのだろう。光焔は、彼女たちの幸せを妨げるものを、その悪意を浄化するように光に粒子に変えていく。
「だから待ってな。今、開放してやる」
ブレイザインは歩みを進める。
ゆっくりと、ゆっくりと、彼女たちの一群の中を歩む。彼が歩んだ後には『ネクロメイデン』はいない。
光の粒子となって消え去っていった。
行進は止まらない。
このまま行けば必ず拠点『救世主の園』に彼女たちは害をなすだろう。それはどんなに願っても手を伸ばすことのできない彼女たちだからこそ。
それを止める。
光の粒子は『過去』という彼女たちの願いから解放していく。妄執ともいえるだろう。花嫁の姿が薄汚れてしまった。だが、それを濯ぐことのできるものはもういない。
ブレイザインだってできはしない。
だからこそ、開放するのだ。
悪意を、それだけを光焔は燃やしていく。解放が彼女たちの救いになることを願いながら、一歩、一歩を踏みしめ、ブレイザインは『ネクロメイデン』の一群を霧消させるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、胸が大きくて忍べてないとかそんなことないもんっ!
あれ?にゃいあるてさんの姿が見えなかったのですが……?
ネコミミと猫の手グローブはどうしました?
まぁとりあえず仮装ですね
私、常日頃から忍んでいるので見つかる可能性は無いと思うんですけど
どう思います?
ゾンビゾンビっと
外見はボロボロのローブを羽織って露出を減らしてっと
小麦色の肌は隠すより有効活用
傷のメイクをしたり血のりで染めたりしますね
ちょっと不健康メイク系
後は髪を振り乱して不健康なカタメカクレ決行
さて、これで仮装はバッチリ
後は接近して【疾風怒濤】(手数重視)でなぎ倒していくだけですね
「手数こそ正義!参ります!」
荒野に蠢く影がある。
それは『ネクロメイデン』。薄汚れてしまった花嫁衣装を纏う『ゾンビ化オブリビオン』である。
彼女たちが求めるのは生者の生命を奪うこと。
これから冬を越そうと収穫に忙殺される拠点『救世主の園』を襲おうとしているのだ。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、胸が大きくて忍べてないとかそんなことないもんっ!」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は久方ぶりに噛むこともなければ、邪魔が入ることなく前口上をしっかりと言えたことに感動していたかもしれない。
だがしかし、彼女はあれ? と思った。
仮装。
そう、仮装である。ハロウィンと言えば仮装。そして、今回の事件において仮装はとても重要な意味を持つ。とても。
『ネクロメイデン』たち『ゾンビ化オブリビオン』たちは『相当に視覚情報に偏った認知』を行っている。
ゾンビメイクを施し、ボロボロの仮装をすれば彼女たちは猟兵を猟兵として認識できない。即ち、敵の群れの中に潜むことができるのだ。
ネコミミと猫の手グローブがうんたらとか言っている場合ではないのである。忍ぶチャンスなのである。名実ともに忍びであることをアッピールできるチャンスなのである。
「まぁ、とりあえず仮装ですね」
サージェにとって、それは今の所第一優先目的でなくなっているようであるが、彼女は楽観的であった。
「私、常日頃から忍んでいるので見つかる可能性はないと思うんですけど」
――。
ノーコメントである。
「ゾンビゾンビっと」
ふむ、とサージェは考える。
ゾンビらしいものと言えばなんだろうか。血色の悪い肌。傷口、ただれた特殊効果。あとはそう、ボロボロの服装であろう。
「ボロボロのローブを羽織って露出が減るっていうのもなんだかおかしな話ですが……」
小麦色の肌に傷の特殊メイクをサージェは施し、血糊でローブを染めたりしている。ちょっと不健康そうなメイクは、目元にくまをつくったり。
後はそう、髪の毛を振り乱せばいいのである。
ほら、何処からどう見ても不健康カタメメカクレ!
これはこれで需要があるやつなのでは? と思いながらサージェは『ネクロメイデン』たちの一群に近づく。
こっそり近づくまでもない。
彼女たちはサージェを己の同類と見ている。
視覚情報に頼り切った認知は、サージェが猟兵であっても関係ないようである。
「でもここまで簡単っていうのもなんだかクノイチとして気が引けますが、アンブッシュしてる時点で気が引けるというのもおかしなお話! さあ、そにっくぶろー!! 手数こそ正義! 参ります!」
ユーベルコードに輝くサージェの瞳。
手にしたカタールが疾風怒濤(クリティカルアサシン)の勢いで連撃を放ち、『ネクロメイデン』たちを背後からなぎ倒す。
彼女たちが気がついたとしても、もう遅い。
「ウ、オウ、ア――」
呻き声のような、意味のないような。
そんな口腔から空気が漏れ出る音を立てながら彼女たちは霧散していく。嘗てはこの世界で生きていたであろう花嫁たち。
過去の化身。
死した体は黒き竜巻によって破壊され、そして再び『ゾンビ化オブリビオン』として現実に現れる。
それはあまりにも不毛なる存在であったのかもしれない。
彼女たちが求めるものは何一つ彼女たちの手に戻っては来ない。在り得たはずの幸せな未来も。何もかもだ。
だからこそ、サージェはユーベルコードの連撃を振るう。
その不毛なる行いが『今』ある実りを汚さぬように。ただそれだけのために彼女はカタールの一撃をもって『ネクロメイデン』たちの空しき声を断ち切るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ワルルーナ・ティアーメル
(魔王軍第7冠の淫魔や第4冠のスライムメイドさんのメイクと助言を受け、後は肉体改造と変装でどうにかした結果、上半身はボロボロのゾンビ状態、下半身が何故か白骨化したモンスター「わるるんゾンビ」が完成!ゾンビなのに白骨なのはおかしい?気にしちゃだめだと思うよ)
よし!まずはUCを使用、我が魔王軍第1冠の浮遊城塞とそこに駐留する部隊を呼び出す
今回は堕天使隊長と衛生兵たちは城塞に下がらせ雷を降らせて援護をさせ、
竜の口から時折幻覚見せるブレスを吐きつつ、のしのし歩きながらアンデッド兵を引き連れてどんどん蹴散らし永眠させてやろう!
(そして最後に時間切れで城塞が墜落、部下たち諸共巻き込まれる)
仮装というものは、いつだって創意工夫で出来ている。
仮初の装いであるがゆえに、本物である必要はない。偽物、贋作、偽り。そう呼んでけなす者だっているかもしれない。
けれど、偽物の装いが本物に迫らぬという理由もまたない。
重要なのは、その仮想を持って如何にして楽しむのか。
そこに真贋は必要ないのである。あるのは本人が楽しんだという思い出と事実のみ。
故に、ワルルーナ・ティアーメル(百胎堕天竜魔王(自称)・f31435)は割と本物であった。
何が、と問われれば、彼女が本物のラスボスであるということ。
世界によってはなんだ仮装かぁって流される所の姿であるが、彼女の多頭多翼の竜の体躯から堕天使少女の上半身という姿は紛うことなき本物なのであった。
「うむっ! よろしく頼むぞ!」
ワルルーナはラスボスである。
多くの配下を従える百胎堕天竜魔王である。
魔王軍第7冠の淫魔と第4冠のスライムメイドたちがせわしなく彼女にメイクを施していく。それはもうただのメイクというより、特殊メイクの分類であった。
血色の悪そうな上半身。
少女の姿はボロボロで貧相であった。さらに下半身の多頭の竜たちは白骨化している。それどうやったの!? と関係各所からお問い合わせが殺到しそうである。
「『わるるんゾンビ』の完成である!」
ゾンビなのに白骨であるのは、それはもうスケルトンとかそういう類のものではないだろうか。いや、それは野暮というものであろう。いいのだ。仮装とはそういうものである。
クオリティの差、解釈の違いなどあれど、そこにある仮装だけが真実なのである。
「くっくっく、我が魔王軍でも最も軍団戦に長ける第1冠、その秘密兵器を見せてやろう!」
魔王軍第1冠所属:天空魔王城塞(フハハヒトガゴミノヨウダ)がごうんごうんって音を立てながら暗雲と共に禍々しい雰囲気でアポカリプスヘルの空を征く。
落雷が『ネクロメイデン』たちの頭上から振り落とされる。
あ、今回堕天使隊長と衛生兵たちは城塞でお留守番である。
『わるるんゾンビ』は白骨化した竜の口から幻覚を見せるブレスを吐き出し、のっしのっしと歩き出す。
「さあ、征くぞ。アンデッド兵たちよ! あの拠点に迫る『ゾンビ化オブリビオン』たちを蹴散らしてくれよう! 永眠させてやるのだ!」
次々と『ネクロメイデン』たちは蹴散らされていく。
暗雲の中にある浮遊城塞からは援護とばかりに落雷が落ち続けている。派手である。とても派手である。
轟音と稲光。
それは時に実りに繋がる輝きであったかもしれない。
恵みの雨を呼ぶかのような予兆でもあった。
しかし、今回のこれは違う。ワルルーナのユーベルコードであり、浮遊城塞から放たれる落雷なのだ。
「盛大だな! あんなに雷落として大丈夫か! エネルギー的なのは!」
後先考えずに落雷が落ちまくっている。
ワルルーナはちょっと心配になった。
雷光は即ちエネルギーの奔流である。雷のエネルギーはそれはそれは膨大なエネルギーを使うのだ。
その分、威力もすごいので『ネクロメイデン』など落雷の一撃で次々と霧消している。
ただ、ペースが問題なのだ。
「消費電力どれくらいなのだろうか」
ふとそんな疑問がワルルーナの頭に浮かぶ。幻覚のブレスをぶっぱしながら、彼女は考える。いや、考えてもどれくらいものかちょっとわかんなかった。
なにせ、そういうことは配下に任せっきりである。
テンション上がったようにバンバン落雷落とす堕天使隊長と衛生兵達を見て、あー楽しそうだなーとかそんなふうに彼女は考えていた。
「けっこうけっこう! それでこそ我の配下……って、んんっ?」
ワルルーナは見た。
浮遊城塞が徐々にでかくなっているのを。
いや、違う。でかくなっているのではない。高度が下がって、自分たちの方に落ちてきているのだと回避不可能な状況になって漸く気がつくのだ。
「って、エネルギー切れだとぉ!? 待て待て! なんで浮遊するためのエネルギーまで攻撃に回してしま――」
その声は届かない。
落下してきた浮遊城塞に『ネクロメイデン』と配下もろともワルルーナは巻き込まれ、轟音のもとにぶっ飛ぶのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
す、するのか…?
ゾンビメイクを?
元々ゾンビなのに?
地獄すぎだろ…このままでいいよな
(鏡を見る
うわ無理だこれ…
なんかもう傷跡も特殊メイクに見えてきたわ
しんど
ファンデ塗って血の気のない肌色作るか…
あと青白いリップとか塗っとこ
これで俺も立派な死体に見える筈だ
なんでだよ
普段着大体ボロボロなんだが
確か西洋風の青いコートあったな
貰い物だが敵に合わせるならこれか
今の俺は著しい精神的苦痛を受けている
敵を一網打尽にもできるが
我慢して第八の殺人を使う…
別に俺も積極的に戦いたい訳じゃないし
花嫁なら結婚指輪でも付けてやれば
成仏してくれんじゃね
死ぬ訳じゃないし記憶も消えない
これも生きてる奴の勝手な願いだろうが
せめて、な
柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は名探偵である。
だが、それ以前にというか、それ以後にというか。デッドマンである。
一度死して蘇生した存在。
こう言っては元も子もないのだが、もともとゾンビなのである。
それは、はとり自身も思っていたことだった。
さらにここからゾンビメイクをしなければならないのかと、本気で疑っている。このままでいいだろ、とも思っていた。
だがしかし。
そう、だがしかしである。如何にデッドマンと言えど、その首や頬に走る縫合の痕だけでは足りないのである。
「地獄すぎるだろ……このままでいいよな」
二度目である。
いいけど、良くないのである。手渡されたコスメバッグを開く。
そこにあったのは、様々なゾンビメイクに必要そうな諸々ばかりであった。このままでいいはずだ、と鏡をみて、はとりはもう一度うなずく。
だが、こうしてコスメバッグを手渡されて何もせずに突き返すは良心の呵責というものがあったのだろう。
物は試しとファンデーションを頬に塗る。血の気のない肌色。それは青ざめており、はとりの肌をさらに病的なものに見せるだろう。
唇が血色良いのもよくない。
青いリップを塗ってしまえば。わあ……っ。ってな具合である。誰の、わあ……っ。なのかは言明しないでおく。しないでおくったらしないでおく。
「これで俺も立派な死体に見える筈だ。なんでだよ」
セルフノリツッコミ助かる。
さらに、はとりは普段着ボロボロであるのに合わせてコートを羽織る。貰い物であるが、『ネクロメイデン』たちに合わせるのならばこれが一番いいと思ったのだ。
というか、すでにもう大分精神的なストレスを受けている。
すごい。ひどい。かなしい。
これならば敵を一網打尽にできるのだが、腐っても探偵である。彼の瞳に映る『ネクロメイデン』たちは生前の記憶さえも最早思い出せないほどに『ゾンビ化オブリビオン』となっている。
「ア、ウ、ア――」
声ならぬ声を聞く。
言葉にもなっていない。意味も通らない。はとりには少なくとも、そう思えた。
理解できなかったかも知れない。
何故花嫁衣装を着ているのか。何故泥と埃に塗れて黒ずんでいるのか。そして、どうしてそこまでして左手を隠しているのかも。
いや、それはきっと嘘だ。わからないわけがない。察してやれないはずがない。
「別に俺も積極的に戦いたいわけじゃない」
だから、第八の殺人『倖せな匣』(シアワセナハコノサツジン)を思い出す。
誰だって心的外傷から開放されたいのだ。乗り越えたいと思っているのだ。傷を傷のままにしていたいという思いはあれど、かさぶたはいつか剥がれて落ちていく。
それが生きているということ。
けれど、『ネクロメイデン』たちはそれさえできない。すでに『ゾンビ化オブリビオン』となっているからだ。
だからこそ、彼はその手にした偽りの指輪を手に『ネクロメイデン』たちに近づいていく。
彼女たちの左腕はただれたように、それこそ腐り落ちる寸前であった。
廃材と機械で体をつなぎ合わせ、支えているのだとしても。その左腕だけは守りたかったのだろう。
これで成仏してくれるとは思うのは、はとりの願い出会ったのかも知れない。
「死ぬ訳じゃないし、記憶も消えない。これも生きている奴の勝手な願いだろうが」
けれど、せめて、と思うのだ。
ユーベルコードに寄って想像された指輪。
嘗て彼女たちが夢見た瞬間。
腐敗している指は指輪をはめるのにも苦労しただろう。
けれど、それでも救われるものがあると信じたい。信じるしかないのだ。誰かの花婿にはなれない。けれど、たったそれだけ救われるものがあるのかもしれない。
「ア、――」
その音は何を告げようとしたのか。
『ネクロメイデン』たちは、霧散し消えていく。
開放されたのか。それとも満たされたのか。
「どちらにしたって、これも俺の勝手な願いだ――」
大成功
🔵🔵🔵
サイモン・マーチバンク
ゾンビ案件ならゾンビハンターの出番です
そのために俺もゾンビの格好をしなきゃいけないのは不思議な感じですが……
仕事ですからね、頑張りましょう
ボロボロの衣装を纏いそれっぽく化粧もしていきます
兎の耳もちゃんとメイクで汚しますよ
白くてふわふわしてたら不自然ですからね……
『ムーンストライク』を引きずりながらそれっぽい雰囲気でいきましょう
あとは上手く敵に接近し攻撃していくだけです
孤立している個体があれば優先的に狙いたいですね
UCを使ってどんどん攻撃しましょう
発生する足場は……使うと不自然ですし無視します
……この方達も骸の海で会いたい人に会えるといいのですが
少なくともここにいるべきじゃないですね
さよならです
『ゾンビ化オブリビオン』――それはアポカリプスヘルにおいて現れる黒き竜巻『オブリビオン・ストーム』に死体が飲み込まれることによって生まれる奇怪な存在である。
腐り落ちかけた肉体を知性無き『ネクロメイデン』は機械や廃材でもってつなぎとめ、支える。
彼女たちは荒野を歩む。
のろのろとした足取りであったが、確実に拠点である『救世主の園』を目指していた。
「ア、ウ、ウウオオオ――」
咆哮ですらない口腔より溢れる音。
言葉にならぬ言葉を発しているように思えたのは、きっと生者の視点故であろう。
「ゾンビ案件ならゾンビハンターの出番です」
サイモン・マーチバンク(三月ウサギは月を打つ・f36286)は垂れる兎耳を揺らしながら、アポカリプスヘルの荒野に向かう。
彼は今まさにゾンビのような風体であった。
ボロボロの衣装を纏い、化粧も施している。白くてふわふわだった耳も、今はしおしおのように薄汚れている。
なんともな状況である。
ゾンビハンターはゾンビを狩ることを目的としている。
だがしかし、そのために己自身もゾンビの格好をしなければならないのは、不思議な感じであった。
「でもこれも仕事ですからね、頑張りましょう」
そう自分に言い聞かせるのだ。
手にした杵の如き金属製のハンマーを引きずりながらサイモンは『ネクロメイデン』の一群に近づいていく。
メイクと衣装も相まって、そのハンマーを引きずる姿は『ゾンビ化オブリビオン』そのものように思えたことだろう。
『ネクロメイデン』たちは、その『相当に視覚情報に偏った認知』しか保たない。
サイモンの姿、所作に己と同じ『ゾンビ化オブリビオン』であると判断したのだろう。近づく彼を気に留めた様子もなく、その行進が続く。
行進が続く先は言うまでもなく拠点『救世主の園』だ。
バリケードはあるにはあるが、彼女たちを前にしては意味をなさないだろう。すぐに破られてしまうだろうから。
それに今、拠点の中は収穫の真っ最中だ。
この後に控えている収穫祭の準備もあるだろう。文明が崩壊してなお、この拠点には文明の残滓を持って文明を再興しようとしている兆しがあるのだ。
それを守るためにサイモンは手にした杵の如きハンマーを音速を超える速度で振るう。
自分を仲間だと思っている『ネクロメイデン』に叩きつけるのだ。
それは三日月型の衝撃波を解き放ち、周囲にあった『ネクロメイデン』たちを吹き飛ばし、孤立させる。
「行きますよ……!」
月のスタンプ(ステップ・スタンプ)が次々と放たれていく。
『ネクロメイデン』たちは、そのたびに吹き飛ばされ砕けて霧散していく。彼女たちの散り散りになって砕けていく姿をサイモンは見るだろう。
「……この方達も骸の海で会いたい人に会えるといいのですが」
そう思う。
彼女たちの姿は薄汚れた花嫁衣装だった。
花嫁には花婿が必要だ。必ず隣にいるはずだったのだ。これから長く続くはずだった人生において、隣にいる者がいたはずなのだ。
けれど、死した彼女たちの隣には、彼らがいない。
文明が崩壊したからか。それとも他の要因かはわからない。知る由もない。けれど、サイモンは思うのだ。
彼女たちは。
「少なくともここにいるべきじゃないですね」
此処ではない何処かできっと待っている人がいるはずだ。きっとそうだと思いたい。
願うことは生きている者の特権だ。
ならばこそ、サイモンは杵の如きハンマーを振るい、『ネクロメイデン』たちを打ち倒す。
そうすることしか今はできない。
だからサイモンは告げる。
「さよならです」
また会うことがないように。
そして、骸の海の中で、過去になった先で、隣にいつか立っていてくれた誰かのもとに辿り着けますようにと祈ったかもしれない――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
IC風の仮装して
ハロウィン♪ハロウィン♪
ハロウィンナイト~♪
とりっくおあとりーと!
お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ~♪
ほらほら~見えてきたよ~♪みんなでいっぱいお菓子をもらおうね~♪
あれ?もらっちゃダメなんだっけ?そっかー
じゃあイタズラしよう♪え、それもダメ?注文が多いな~
でもハロウィンは~♪みんな楽しくいいよね~♪
『ねえ?みんなそう思わない?』
UC『神心』使用
なんかいい感じにハロウィンを盛り上げようと提案していこう!
そして彼女たちには夢の中とかハロウィンワールドとか、
なんかそんな感じの愉快で楽しい世界に行ってもらお!
ハロウィン♪ハロウィン♪
ハロウィンナイト~♪
「ハロウィン♪ハロウィン♪」
歌う声が荒野に響き渡る。
それは軽快なリズムであったかもしれない。まるでスキップするかのような響きであったかもしれない。
けれど、そのどこか楽しげな雰囲気を『ネクロメイデン』たちは理解しないだろう。
彼女たちがオブリビオンだからというだけではない。
『ゾンビ化オブリビオン』として、腐敗しながらも荒野を進むからでもない。
もはや彼女たちに知性はない。
あるのは生者に対する妬み、嫉みだけであったのかもしれない。
「ハロウィンナイト~♪ とりっくおあとりーと! お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ~♪」
そんなふうにロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は笑いながらフランケンシュタインのような継ぎ接ぎの仮装でもって『ネクロメイデン』たちの一群に加わる。
「ア、ウ、アア、ア――」
答えはない。
あるのは口腔が響かせる意味無き音だけだった。
まあ、いっか、とロニは笑う。
「ほらほら~見えてきたよ~♪みんなでいっぱいお菓子をもらおうね~♪ あれ? もらっちゃダメなんだっけ?」
どっちだあったかな、と思ったがまあいいやとロニは切り替える。
お菓子がもらえないのならイタズラしちゃおう。
そんなふうに思った。
だってハロウィンはみんなが楽しく大騒ぎするのだ。
どんな世界にだってあるはずだ。
人にとって冬とは暗黒の季節だ。実りはなく、これまでの一年で蓄えてきた食料だけで乗り越えなければならない。
だからこそ、実りの収穫を終えた後、このハロウィンの夜だけは来る冬に備えるのではなく、英気を養うのだ。
無事に又一年乗り越えることができますようにと。
「楽しいね。ねえ? みんなそう思わない?」
その言葉は神心(ゴッドウィル)となって荒野に響く。
隣征く『ネクロメイデン』に話しかけても答えはない。知性はすでにないのだから。
「んも~どうせなら楽しんでしまえばいいのにね。誰かを妬んだり、嫉むんじゃなくさ」
もっと愉快で楽しい世界にいってもらおう、とロニは願いをもって呼びかける。
争いなどなく。
ただ楽しいだけの世界。
そんな誰もが夢見る世界を思う。果たしてそんな世界があるのか。
それさえもわからないけれど。
それでも荒唐無稽さに拍車が掛かっている。『ネクロメイデン』たちは『ゾンビ化オブリビオン』だ。
ただ生者を殺す。
己たちがそうでなかったように。誰かを不幸に陥れるために。
もはや知性はないのに。それでも叶えられなかった幸せを受け入れられないからこそ彼女たちは、今を生きる人々の希望たる『救世主の園』を破壊しようとしている。
「あのときも、海を知らない子どもたちの前でボクは両手を広げていた」
今日は収穫祭だ。
ロニは両手を広げて『ネクロメイデン』たちの前に躍り出る。
ここよりもきっと。妬むよりもきっとより良いことがあると言うようにロニのユーベルコードの輝きが『ネクロメイデン』たちを包んでいく。
「ハロウィン♪ ハロウィン♪ ハロウィンナイト~♪」
歌うように光の中に霧散していく『ネクロメイデン』達。
どこかに行ったわけではない。けれど、此処ではない何処かにたどり着いたかも知れない。人の願いはいつだって幸せのためにあるべきだ。
誰かを陥れるでもなく。
誰かを憎むでもなく。
きっといつか、彼女たちも報われるときが来るはずだ。そう思いながら、ロニは楽しげに収穫祭の夜をステップ踏むように跳ねるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『夜明け』
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POW : 軽く運動する
SPD : 仲間に声をかける
WIZ : 眠気に耐える
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
拠点『救世主の園』に迫っていた脅威、『ネクロメイデン』たちは猟兵たちの活躍に寄って退けられた。
バリケードの向こう側では人々が収穫祭の準備に明け暮れている。
インディゴの帳が完全に落ちれば、夜が来る。
拠点の中心は廃材をもって篝火となし、人々が集う。彼らの手には多くの物資があった。
期限が切れそうなもの。
とっておきのもの。
誰かと分かち合うためのもの。
そうした物資が多く集まっている。人々は今年一年を思い返す。
多くの困難があっただろう。
例え此処が清浄な空気に満ちて、肥沃な大地を持つ拠点であったとしても、問題は山積していただろう。
「だが、一年乗り越えることができた」
拠点に住まう人々は、疲れ果てていたがこの日を待ち望んでいたのだ。
今日は収穫祭。
年に一度のお祭りだ。疲れも吹き飛ぶ。夜を徹して行われる収穫祭は、日頃の節制した生活からは考えられないほどに盛大なものとなるだろう。
篝火を囲み踊ってもいい。
親しい者たちと一年を振り返って飲み食いするのもいい。
訪れる暗黒の季節。
されど、今このときだけはそれを忘れるのだ。いずれ訪れる春を待ちわびるために夜を徹する、それが『救世主の園』の収穫祭――。
村崎・ゆかり
これだけ盛大にお祭してたら、守ってよかったって思えるわね。
これは言うなれば、『勤労感謝の日』。収穫が実り多かったことを言祝ぐ一日よ。
皆楽しそうにしてるわね。アヤメに羅睺、混ざりましょう。でもはぐれないよう手を繋いでね。
大人達はお酒か。あと一年我慢しないとな。アヤメは飲めるの?
はい、ジュースお願いね。そうね、あと串焼きのお肉もらえるかしら?
必要なだけ食べ物を受け取ったら、ちょっと離れた場所に腰を落ち着けて、篝火を眺めながら食べましょ。
お祭が下火になったら、どこかに宿を取ろう。あなたたちの働きにはいつも感謝してるわ。こんな日だもの、しっかり伝えないと。
さあ、ベッドの中で目一杯愛してあげる。
拠点『救世主の園』で行われている収穫祭の光景は、此処が文明の荒廃した世界であるアポカリプスヘルであるということを一時忘れさせるものであったことだろう。
人々は篝火を囲んでいる。
これまで多くの困難があった。
この地に辿り着くまでもそうであったように、人々は残り少ない物資を奪い合っただろうし、文明の残滓から奪還者たちが見つけ出してきた物資すらも、レイダーたちによって脅かされてきた。
それがアポカリプスヘルの習わし、理であるというのならば致し方のないことであったのかもしれない。
けれど、人々は明日を願う。
どんなに辛く厳しい困難が待ち受けているのだとしても、生きることを諦められないのだ。だからこそ、オブリビオンによって生み出された『救世主の園』は人々の希望であった。
かつてはオブリビオンによって支配されていた大地。
けれど今は人々が助け合いながら生きる大地に変わっている。
「これだけ盛大にお祭りしてたら、護ってよかったと思えるわね」
村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)は篝火の明かりに照らされる頬を僅かに緩ませていた。
穏やかな表情であったといえるだろう。
謂わばこれは『勤労感謝の日』でもあると彼女は思っただろう。
収穫の実りが多かったことを言祝ぐ一日。そうした日は再び文明が再興した暁にはまた取り戻すことができるだろう。
人々が次々と期限の近づく物資を開封している。
誰も彼もが笑顔だ。
こんな日に沈んだ顔は似合わないと皆わかっているのだ。
「楽しそうですね、みんな」
「うん、いい笑顔してる。辛いことがあっても皆こうして笑いあえるのはいいことだよね」
「そうね。せっかくだからふたりとも混ざりましょう。でも」
ゆかりはそう言って式神の二人の手を取る。
彼女たちの小さな手は今自分の中にある。彼女たちがあればこその自分であると思えるからこそ、共に在りたいと思うのだ。
「はぐれないよう手を繋いでね」
そう言ってゆかりは、ゆっくりと開封された物資を見やる。誰も彼もが分け与えられている。
これらの消費期限は近いが故に、今夜は夜を徹して篝火がたかれ、消費しきらなければならない。
「大人たちはお酒か。あと一年我慢しないとな」
「でも、その一年が大切なものですよ。はい、果実のジュースみたいですけど……」
「うん、あっちで配っている人がいたよ。期限がもう近いんだって。りんごかな、これ?」
羅喉とアヤメが三人分の缶を手に持っている。ゆかりの分もあるのだろう。恐らく缶の絵柄的にりんごジュースなのだろう。
これならアルコールなどの心配はしなくていいだろう。
「あっちには串焼きだって!」
「ああもう、慌てないで」
羅喉が腕を引く。三人と手を繋いでいるから、必然ゆかりとアヤメも引っ張られるようにして拠点の人々が催す串焼きの火まで移動する。
何の肉だろうか?
これもこの荒野の周辺で取れた獣の肉なのだろうか? それとも物資の中にあったものだろうか?
「よくわからないわね……牛のような豚のような」
「でも野性的な味ですね。ああ、これイノシシなのでは?」
そんなふうに串焼きを堪能して、三人は篝火を眺める。
多くの人々が踊ったり、語らったり。
平穏な時間だ。これまでのことを考えればなおさらにそう思えるだろう。どこか休めるところがあるといい、とゆかりは拠点の中を見まわす。
だが、今夜は収穫祭だ。
夜を徹するまつりは、きっと眠ることを許してはくれないだろう。
「あなたたちの働きにはいつも感謝してるわ」
ゆかりはこんな日だからこそ伝える。日頃の思いでもあったし、偽らざる言葉であった。
彼女が見つけた一室はベッドがあった。
アヤメも羅喉もピンと来るものがあったが、今夜は収穫祭だ。ずっと起きていないといけないということは、つまり……。
これ以上は言うのも野暮であろう。
「さあ、ベッドの中で目一杯愛してあげる」
そんなふうにゆかりは微笑んで、今日という一日を朝日が昇るまで楽しむのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ニィナ・アンエノン
よーし、終わったー!
ここからは【宴会】タイム、ゾンビよりも似合う仮装が……あったあった、ウサギさんとかどうかな☆
拠点の皆にお酌してみたりお料理してみたりして、目一杯盛り上げながら遊んじゃうぞ!
ここの人からあんまり食料を貰ったりするのも気が引けるけど、ちょっとお酒にお呼ばれするくらいならいいかな?
どれどれ……うわっ、きっつ!
でもその分……気持ち良くなってきちゃった☆
こうなったらもう皆を巻き込んで踊っちゃうしかないね!
任せといてよ、にぃなちゃんが【誘惑】したらどんな恥ずかしがり屋さんも一緒にダンスしてくれるはずだから!
後はもう止まらない!参加者耐久、オールナイトでダンスパーティーだぞ☆
『ネクロメイデン』との戦いは終わりを告げる。
拠点『救世主の園』を守りきった猟兵たちは、息を吐き出すだろう。
収穫に忙殺されていた人々はあの戦いを知らないだろう。いや、知らなくていい。平穏無事な一日を猟兵たちが守れたのならばそれでいいのだ。
「よーし、終わったー!」
ニィナ・アンエノン(スチームライダー・f03174)もまた、そう思う猟兵の一人であったことだろう。
彼女はメイク落としでゾンビメイクをきれいさっぱりに落とせば衣装チェンジのお時間だ。そう、こんな収穫祭の日にふさわしい装いがあるのだ。
「ゾンビより似合う仮装……それは!」
彼女が篝火の中心に躍り出る。
それは金色のバニースーツ。ぴょんと跳ねるたびに頭に付けた兎耳カチューシャが揺れるし、腰元の兎尻尾が可愛らしく跳ねる。
文明が崩壊する前は、ニィナのような装いをする者だっていただろう。けれど、アポカリプスヘルには、もはやそのような文化はない。
喪われてしまっている。
けれど、ニィナがいれば話は別である。
彼女はバニースーツをまとった兎さんになって、拠点の人々の間を跳ねるようにしてお酌をしたり、料理をしてみたりと大忙しである。
「すまないなぁ。こんなにお酌してもらったりして。あんたもゆっくりと楽しんでくれよ。今日は無礼講だし、物資だって期限切れギリギリのものばかりなんだ。遠慮はしないでくれ」
そんなふうにニィナは言われてしまえば断る方が悪いと思ってしまう。
アポカリプスヘルにおいて物資は貴重なものだ。
如何に収穫祭だからといっても限りがある。けれど、拠点の人々は笑顔で物資を進めてくれる。
気が引けているニィナに気にしないで、というように様々な物資を分けてくれるのだ。
「うさぎさんもどーぞ」
小さな子供も同様であった。
何やら乾パンのようなボソボソとしたクッキーをニィナに手渡す。
「いいの?」
いいよ、と子供が笑っている。それが何よりの報酬であったし、ニィナはこれ以上遠慮するのも悪い気がした。だから、お呼ばれするのも悪くないと思って、お酌する代わりに人々からお酒の杯を受け取るのだ。
「こっちも中々風味があっていいぞ」
「どれどれ……うわっ、きっつ!」
ニィナの舌にはまだアルコールの味はきつかったかも知れない。けれど、ふわふわとした心地よい気分にはなってくるのだ。
アルコールのせいだけじゃない。
この収穫祭の場の雰囲気にニィナは気持ちよくなっているのだ。誰も彼もが明日を願っている。今日よりも良い明日を。
そして、その明日はこの文明の荒廃した世界においては保証されていない。
だからこそ、彼らの笑顔は何物にも変え難く価値のあるものに思えたのだ。
「ひゅー☆ 踊っちゃうよ! ほらほら、坊やもこっちにおいで~!」
ニィナは篝火の前に躍り出る。
拠点の皆を巻き込むように次々と手を引いて、引っ張り出すように篝火の周りに人を集めていく。
踊りなんて、ダンスなんてやったことがないという人々の手をニィナは取っていう。
「見様見真似でいいんだよ☆」
ステップを踏むのもいい。
上半身を動かすだけだっていい。
ジャンプするだけであったっていいのだ。
どんな動きにもニィナは合わせる。次々と相手を変えてニィナはウサギさんのように跳ねて跳ねて、跳ね回って人々を篝火の前に引っ張り出す。
そうすればできあがるのはダンスの環だ。
「参加者耐久、オールナイトでダンスパーティだぞ☆」
ニィナの陽気な声に誘われるように多くの人々が篝火を囲んで踊る。でたらめな踊り方ばっかりだった。
けれど、皆思い思いに体を動かす。
ニィナはそれが楽しくて仕方ない。どんな恥ずかしがり屋さんだってニィナは一緒にダンスを踊る。
ぴょんぴょんと軽快に。
笑い合いながら、不格好に。けれど、明日への活力たる思い出になるように、ニィナは踊り続ける。
踊らない人生なんてつまらない。
そういうように、朝日を浴びるまでニィナは疲れ果てることなくアンストッパブルに収穫祭に跳ねるのであった――。
大成功
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