4
金の足跡

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0




●金貨の足跡
 雪色の髪が楽しげに揺れる。少女は薄い唇で弧を描き、微笑んだ。
「ええ、お迎えがくるんでしょ。知ってるわキシュト」
 キシュトと呼ばれた白髪の少年は、岩塩の塊を袋へ詰めながら耳を傾けている。
「姉さんもテレスも、前の年にそうして旅立ったもの。楽しみよっ」
 そう声を弾ませた少女に、キシュトはまた始まったと言わんばかりに肩を竦めた。
「心許ない金だけど、家族の食器を新調できるし、穴があいていない鍋だって買えるわ」
 自らの身と引き換えに、家族へもたらされる恵み。
 毛皮とは違う素材の寝具や服、子どもたちに人気の菓子、谷では採れない食材や石鹸。
 そうしたものを得るための金貨は、彼女たちにとって正に宝であり、夢でもある。
「奉公先では綺麗な服も用意してもらえて、髪も整えられるんですって」
 人づてに聞いた話にも夢を見て、少女は雪色の睫毛を震わせる。
「ここじゃ、破れた服とか、蔓で編んだ髪紐ばっかりだしね」
 キシュトが相槌代わりに応えると、少女が白皙の頬に紅を浮かべた。
 綺麗な恰好をして、水汲みや料理をして、主人のために働く。
 少女はそんな日々を待ち望んでいた。
 僕も、とキシュトが控えめに想いを紡ぐ。
「僕も同じ気持ちだよ、マートル。御者さんが来るの、楽しみなんだ」
 約束の日は、次に太陽が昇るとき。
 それまでに心残りを無くし、冷たい川で身を清めておく必要がある。
 御者は数年ごとに代わり、今回からはまた新しい御者が来る。
 どんな人が迎えに来るのかも、楽しみのひとつだった。
「でも少し来るのが早いわね、人手がすぐにでも欲しいのかな」
 いつもならもう少し暖かくなってから来ていたのに、とマートルが首をかしげる。
 特段、その疑問を追及する者はいない。彼女たちの胸にあるのは、輝きだけ。
 自分たちは金になる――それはとても、素敵なことだと。

●グリモアベース
 アックス&ウィザーズのある地方。
 死の谷とも呼ばれる深い谷が広がる地の周辺に、ティスクランという遊牧民がいる。
 移動を常とし、家畜を追い、有毒植物の花粉が漂う死の谷をも遊び場にして育つこともあって、彼らは精強だ。
 そんな集団だからこそ、『買い手』がいる。
 ティスクランは、とある商業都市と契約を結んでいる。それは商業都市がまだクランのひとつだった頃、首長と首長の間で交わされた厳正なもの。ゆえに身柄を引き渡された者の経歴は抹消され、新たな主の元で新たな人生を歩む。
 都市の商人やティスクランにとって、その契約は公然の秘密でもあった。

「それで、何をお願いしたいかというと」
 ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が、本題を話し始める。
「今回の売り買いには、モンスター……オブリビオンが一枚噛んでいるのよ」
 何者なのかはわからない。何が目的なのかもわからない。
 わかるのは、若者を集めようとしていることだけ。
 たとえば戦を起こすなどの大それた企みではないにせよ、若者たちの未来が閉ざされてしまうことだけはわかる。
 だからモンスターの居場所を突き止め、撃破してほしいのだと、ホーラは告げた。
「まずは、当事者である男の子と女の子を探してほしいの」
 二人の無事が確認できたら、どうにかして次につながる情報を得たい。
 少年の名はキシュト。少女はマートル。どちらもティスクランの民で、幼馴染だ。
 ふたりは迎えに来た馬車で、既に出立している。
 馬車が向かう先は、死の谷から近い――馬車で2日はかかる――小さな港町だ。
 商人やその関係者が多い街で、昼夜を問わず人通りも物も多く、賑わっている。
 反対に、二人の馬車が行く道中に広がるのは、枯れた野原や岩地、心許ない林ばかり。
 港町へ続く大通りにさえ出れば、行商人や旅人も多いが、そこまでは静かだ。
 どこで少年少女を探すか、二人に合流するのか、探し出したあとにどうするか。
 そういった判断は、現場へ向かう猟兵に委ねられる。
「……いろいろと、思うところがある人も少なくないと思うわ」
 躊躇わずに、ホーラは口にする。
「だから私からはこれだけ。いってらっしゃい、お願いね」
 猟兵へ笑顔を向けて、ホーラは転送準備にとりかかった。


棟方ろか
 お世話になります、棟方ろかと申します。
 シナリオの主目的は『オブリビオンの撃破』です。
 一章、二章でオブリビオンの居所を突き止め、三章で撃破します。

 まずは少年少女を見つけて、情報収集などしていきましょう。
 単に「情報収集する」と書くよりも、どのように動くかが大事かと存じます。
 オープニングも参照しつつ、やってみたいことがあれば、思い思いにどうぞ!

●一章で探し出す対象(NPC)
 マートル(女・15歳)
 キシュト(男・14歳)

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
147




第1章 冒険 『少年少女を探せ!』

POW   :    大声を上げたり障害物をなぎ倒したりして捜索する

SPD   :    身軽さを生かして広範囲や危険な場所を捜索する

WIZ   :    魔力を追ったり子供の行動を予測したりして捜索する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カルナ・ボーラ
このご時世だ、道中で野盗や野良犬にでも襲われるのも珍しくもない。
そして谷から引き渡されたものはその経歴を消される。
つまり、どこで居なくなってたとしても誰も探しはしない。
人攫いをするにはとても都合の良い状況だな。

それじゃ、俺はそっちの線で探させてもらおう。
道中の人通りの少ないところを駆け回って、まるで何者かに襲われたような痕跡がないか調べるとするか。
それが自作自演だとしても突然消えるより何者かに襲われた結果に仕立て上げた方が、よくあることだと誰も不思議に思わないだろうからな。

見つけられればその付近で捜索を続けるが、何もなければそれはそれで。
ここには居なかったという情報を他の猟兵に持ち帰るだけだ。


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

私は辺境を周る巡回神父、という設定で、林入口に待機していましょう。
力技ですが通りがかる馬車1つ1つに「旅の無事をお『祈り』するので、少し止まって」等適当な事を伝えて乗客の確認を行います。
無事に目的の二人を見つけましたら、港町までの相乗りをお願いしてみます。
難しい場合、貨幣の入った小袋で取引してみます。道中の甘味等の購入代金に充ててはと促してみるのも良いかもしれません。

無事に相乗りできましたら、お二人の旅の目的や目的地について質問『情報収集』したいですね。
余裕があれば、他の旅立った方々についても聞いてみたいです。
逆に私の事を聞かれましたら神の言葉を広めにと、それらしい事を口にします。


矢来・夕立
【アドリブ/改変/連携歓迎】
人さらいじゃありませんか。実家の家業ですよ。滅びましたけど。
初めての仕事でこれに当たるのは……いや。
人生って面白いですね。

▼行動
まず捜索ですね。危険度が高い場所から探します。手遅れだけはあっちゃだめですよ。売り物なので。
御者さんに対する他の人の出方が気になるな……オレは同業っていうか、傭兵のフリします。

「どうも。稼げそうな荷物ですね」
ハイ。【コミュ力】使っておきます。まずは悪印象さえ持たれなければいい。


……そうだな。キシュトさんにだけ聞いてみます。
「あなたのままでいられる未来を考えたことはありますか?」
ハイかイイエで構いませんよ。詳しく話してくれるなら聞きます。



●枯れた地
 鼻につく砂埃の匂いも、踏みしめれば滑る土塊も、乾き切っていた。
 いつか戦場で嗅いだものに似ている気がして、カルナ・ボーラ(アルバラーバ・f14717)は開けた荒野を見回す。振り返れば、谷が遠く霞む。
 街から離れるほど人間独特の匂いは消え去り、緑と土に獣のそれが混ざりだすのを、カルナは知っている。
 冒険者を見かける可能性もあるが、跋扈する獣や野盗と遭遇する確率の方が格段に高い――賊に身をやつした旅人の場合もあるが。
 巡る思考は、カルナの経験から来るものだ。なにせこの時世。道中で襲われてもおかしくない。
 ――谷から引き渡された者の経歴が消される、か。
 つまりは道中や街で行方知れずになると、探し出す手段が無くなってしまう。
 人攫いをするには都合が良い状況だと、カルナは駆けながら唸る。
 馬車が通過しただけにせよ、何者かの襲撃を受けたにせよ、道を辿れば痕跡は見つけられるはず。そうカルナは考えた。
 ――俺はそっちの線で探させてもらおう。
 胸騒ぎにも似た感覚を嗅ぎ分けながら、カルナは砂塵たなびくでこぼこ道を進む。
 谷から街までは、みじかいようで長い道のりだ。
 港町への途次で詰襟姿の少年――矢来・夕立(友達の友達・f14904)は、人馬の行き交わない場を歩いていた。
 捜索の最優先は、危険度が高い場所から。夕立に流れる血が、それを促す。
 だから彼は、獣も人も身を潜めやすい岩場を中心に捜索を始めた。捜索と言っても岩の窪みを探すのではなく、馬車が通れる幅の道沿いをゆく。
 ――さて、他の人はどう出るでしょうか。
 いざ馬車が通りかかった場合、他の猟兵が同乗しているか否かも気にかかる。夕立自身が接触するまでに、いくつか接触があった場合、御者が警戒する可能性もあった。
 足は止めないまま耳を澄ましていた夕立は、ごく自然な振り向き方をしてみせる。近づく馬蹄の軽やかな音と、車輪の軋みが夕立の耳にも入ってきていた。
 元々、大して速くはない馬車だ。急ぎ言葉を向けずとも問題ないと認識して、夕立は悠然と会釈を示す。
 どうも、という夕立の声に、痩せこけた御者は目を合わせずとも同じ反応を返した。そこで夕立は徐に口を開く。
「稼げそうな荷物ですね」
 手綱を握る御者の骨ばった手の甲が、ぴくりと動いたのを、夕立は見逃さない。
「野犬を見かけました。手遅れだけはあっちゃだめですよ。……売り物ですしね」
 暗号のごとく単語を紡いだ。
 伏せた意味を、御者の男がどう受け取ったのかは分からない。しかし夕立を同業者か、それに関与したことのある者と判断してくれたのだろう。目深なフードの下、光を宿さない御者の双眸が、漸く夕立を視界に入れる。
「そりゃ危ないな。……アンタも港町まで乗ってくかい?」
 容姿に見合わない優しげな声音で、御者が夕立を誘った。
 ――目的地に変わりは無いようですね。
 御者が暗に込めた意味を察し、夕立は浅めに頷く。
「ハイ、街が見える手前まで乗せてもらえたら、有り難いですね」
 あくまで仕事の邪魔はしないと含んで、彼は素っ気ないつくりの幌馬車へ足を踏み入れた。

●痩せた林
 隙間風どころの話ではないと、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は心許ない林を見渡して思った。
 林の中は、ほどほどに陽が射している。茂みこそ多いが、大勢が身を隠すには向かないだろう。
 先で道が分かれているためか、目当ての馬車が訪れるまでの間、アリウムは幾度か馬と人を見かけた。そして今度は、くすんだ幌をかけた馬車が通ろうとしている。
「失礼します。どうか旅の無事を、私に祈らせていただけませんか?」
 アリウムが呼びかけると、御者は彼の足元から頭までを一瞬で眺めた。
 青のコートを纏った清潔な身なりの青年は、聖職者として御者の眼に映ったのだろう。特に訝しむ様子もなく、御者は頷いた。
「ぜひ。中にいる人間にも頼めるかい?」
 御者からの胡乱な視線も無く、中へ招かれた。警戒もしない御者にアリウムは疑問を抱く。
 ――疚しいことをしている自覚が、もしかしたら無いのかもしれませんね。
 考え込みそうになった時間を掻き消すように首を振り、幌をめくる。
 木箱や袋と一緒に、少年と少女、そして先に乗り込んでいた夕立の姿がそこにはあった。
 旅の疲れなども無いらしく、幌の下にあっても少年と少女の顔色は良い。やや白が強すぎる気もしたが、ほのかな紅を孕んでいる分、健康的だ。
「よろしかったら、港町まで相乗りをお願いできませんか」
「あなたは?」
 雪色の髪を揺らして首を傾いだ少女に、アリウムは微笑む。
「神に仕える身です。今は巡回をしておりまして」
 街や村を転々とする神父であると告げると、まあっ、と明るい声を少女があげる。
「神父さんですってキシュト! 私、初めてお会いしたわっ」
 声を弾ませた少女に呼ばれて、少年も物珍しそうにアリウムを見つめる。
 詳しく話が聞きたいと、少女はすっかり歓迎する状態だ。彼女の様子もあってか、アリウムが御者に一声かけても特に抵抗の気配もなく同乗が許可された。
 アリウムは、暫くは神父らしく旅の話を紡いだ。
 そして少女の興奮も落ち着いたのち、控えめな声で話を切り出す。
「お二人は如何して旅を?」
 さりげない質問に困惑するかと思いきや、怯みもせず少女が口を開く。
「知り合いに会いに行くのっ。今は大きな街に住んでるんですって」
「僕もマートルも長旅は初めてだから、ドキドキしてるんだ」
 気も漫ろな二人の発言に、ある意味で偽りはないのだろう。
 契約や売買の話はせずとも、旅の最中に出会っただけの相手から深く追及はされないと、故郷で言い聞かされているのかもしれない。
 だからアリウムも、慎重に言葉を選ぶ。
「……では、手土産もご用意されたのですか?」
 御者の耳に入らぬよう、音量を控えつつ尋ねる。手土産、という単語にマートルとキシュトが揃って首を傾げた。
 知り合いに会いに行くときは、何か手土産を持っていくと心証が良いのだとアリウムが付け足せば、二人とも素直に受け入れる。
 ほぼ手ぶらで来たに等しいのだろう。港町で買い物しようか、どうしようか、などと話し始めた二人へアリウムはそっと小袋を差し出した。
「僅かばかりですが、甘味等の購入代金に充ててはいかがでしょう」
 慈しむ心を態度で示した彼に、世界をまだ知らない少年と少女は礼を告げて、袋を受け取る。
 一部始終を眺めていた夕立は、少し考えるように顎を撫でて。
「……キシュトさん」
 少年の名を呼んだ。
「あなたのままでいられる未来を、考えたことはありますか?」
 夕立の静かな質問に、キシュトの白い睫毛がぱしぱしと瞬く。
 問われた意味を、少年もすぐに理解できなかったのだろう。短い沈黙が流れた。
「僕が、僕のまま……?」
「ハイかイイエで構いませんよ」
 促す夕立に、キシュトはマートルを一瞥してから、いいえ、とだけ答えた。

 火点し頃の薄闇は、幌の白さえも暗く包み込んでいく。
 暗闇の中で馬車を走らせるのは危険だと、少しばかり開けた場所で夜を明かすことになった。
 マートルたちが数えるほどの木の実で胃を満たす間に、夕立は野営地を離れた。
 後ろを警戒しなくても、アリウムが彼らについている。向こうも向こうで、離席する夕立を咎めはしない。
 人目を避け、林へ踏み入った夕立は、そこでしゃがみこみ周囲に気を張るひとりの青年――カルナを見つけた。彼は真新しい轍を追跡してきたのだ。
 馬車での出来事を要約して話すと、カルナが徐に唇を震わせる。
「潜んでいる賊や獣の影はなかった。今も無い」
 カルナの報せに、そうですか、と短く夕立が応える。
「それでもまだ……可能性が潰えたわけじゃない」
 彼が辿ってきた道中に、異変は無かった。
 轍も一車分で、護衛をする馬の蹄や、追う靴跡なども見つからなかった。
 だが、そこで安心しきらないのがカルナだ。暗がりをも見通すほどの大きな瞳を、ゆっくり瞬く。
 到着するまで距離を保ちついていくと告げ、カルナは再び闇へ姿を晦ませた。
 気配が消えた頃合いを見計らって、夕立は焚き火の赤のところへ戻っていく。
 ――初めての仕事で、これに当たるとは。……いや、人生って実に面白いですね。
 疾うに滅んだ家業を思い起こしても、情に揺さぶられはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
どんな契約だか知らねぇケド
知らぬ間にオブリビオンに手繰られていたとあっては
先には不幸しかねぇじゃナイ

港町に入る前に二人へ接触したいトコ
普段はとらぬ銀毛の狐姿
獣の足の速さで追い夜闇に紛れ馬車に忍び込む

夜が明け再び動き出して以降
御者から見えぬ位置なら二人に懐く素振りで姿見せ警戒解き
話できる機を狙い人の姿へ戻り事情を告げるヨ
契約に添わない存在が介入している事
このまま行けば命が危ない事
その存在を暴く為動いている者が他にもいる事
同時に
今回コレまでと違った事はなかったか確認
金品等の保証はするので機を見て身を隠してほしい、とお願い

上手くいく、いかない問わず
密かに二人と御者に【黒管】を貼り付かせ動向を追うネ


鴛海・真魚
二人がどこにいるのか探すのよね。
探すことなら得意だから、きっと大丈夫。

まずは街で情報を探すの。占い師の仕事を生かして占いをしながら聞き出すわ。
そこの方、占いはいかがかしら?
きっと素敵な事柄起こるの。

人だけではだめ。嘘をつく人だっているわ。
鳥、家畜、野良犬や野良猫とか人の暗い部分も知っていそうな子たちに
動物と話すで聞いてみようかな。
口のかたい子には取引をしましょう。
この食べ物をあげるから情報をいただけないかな?
足りないのならもう少しご飯をあげるわ。

近くに仲間がいたら情報を共有しましょう。


赤星・緋色
ほむほむ、二人は馬車で既に出立しちゃってるんだね
じゃあ追いかけるよ
ひっさつ、ノリモノ!
人数乗った馬車ならそんなにスピードでないからね

馬車がどんなルート通るのか聞いておくよ
第六感、失せ物探し、視覚技能も駆使して、ある程度行ったら馬車の車輪の跡で新しいものが見つかれば技能で追跡
追いついたらコミュ力技能で御者さんに詳しい行き先を聞いておこ
依頼人についても聞けたらいいかな
情報聞けたら追い抜いて先に目的地を目指す感じ

これからどうするかなんて自分で考えるといいんじゃないかな
今行こうとしているところは輝かしい未来に向かってないっていうのだけは言えるけどね
他の人になんやかんや聞いてみるのもいいのかも


ソラスティベル・グラスラン
ふむ、情報が少なすぎて何も分かりませんね…
ならば勇気を持って行動あるのみ!勇者の前に常に道はあるのです!

事前に港町を、特に美味しいものやお店の情報を調べておきましょう

竜の翼で空を飛び街の入り口から馬車を中心に捜索
白い髪をした子が顔を覗かせれば、見逃しません!

真っ白なお二人とは年齢も近いですし、
【コミュ力・優しさ】でお友達作戦です!

ふふ、お買い物でしたら案内しましょうかっ?
わたしですか!わたしは世界を旅する、勇気ある冒険家ですっ!えへん

案内とお買い物、
特に深く考えず、お二人と一緒に楽しむ気で!
わたしの冒険の話も交えて心の距離をつめていきます

ところでお二人はどうしてこの町へ?
これから何かご予定が?



●夜
 涸れて美しい模様を刻む大地の夜を、一匹の狐がゆく。
 広大であるがゆえに砂塵が鳴き、岩や乾いた土に反響して、遠く狐の耳まで音が届いた。
 それは獣の唸り声だったかもしれない。隠れた賊のいびきかもしれない。果ての無い大地だ。存在してもおかしくない音だが、しかし狐は狼狽えず走り続ける。
 少なくとも音の主は遥か彼方で、懸念する要素にはならないと本能で覚った――警戒の代わりに、銀の毛並みを風に打たせる。
 月明かりを映しこんだかのような冴えた銀狐は、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が姿を変えたものだ。
 日頃は晒さぬ己の身。見目のみならず本心さえも長く柔らかい銀の毛で覆いこめば、コノハの輪郭は紛うことなき狐となる。その姿は孤影にあらず、ただ幾つもの影を取り込んで、ひっそり艶めくだけだ。
 ――契約なぁ。どんな契約だか知らねぇケド。
 広い世界にごまんとある掟やしきたりと同じものだと、コノハは捉えていた。人が集えば規則が生まれ、別の集団と出会えば契りが交わされる。
 そうして一族として強大になるか、街や大都市に発展するかはそれぞれだが、いずれにせよコノハは契約に関して気にかけているのではない。
 ――知らぬ間にオブリビオンに手繰られていたとあっては。
 彼らがまだ見ぬ先を、まだ見ぬ未来を、オブリビオンによって壊されるのは忍びない。だからコノハの足は速い。
 ――不幸しかねぇじゃナイ。
 低い姿勢で風を切り、抜けた荒野の向こう、林の中で漸く目的の馬車を見つけた。野営のため焚かれた火へ、誰かが薪をくべている。
 絶え間ない赤に身が染められぬ裡に、闇に紛れた銀狐は馬車に忍び込んだ。
 それは、先日の夜の出来事。

●港町で
 潮鳴りが眼下から昇ってくる。
 青い光の絨毯が波打つ度、上空を飛ぶソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は景色を網膜に焼きつけた。
 竜の翼で羽ばたいた彼女は、大小さまざまな船が青に浮かぶ様や、橙と白が目立つ街並みを見下ろす。潮風にくすんだ屋根を陽が淡く照らし、任務でなければ眺めて過ごすのに適した絶景だろう。
 だからソラスティベルはゆるくかぶりを振る。景色に心奪われてばかりもいられず、指先で顎をトントンと叩いた。
 ――小さな街とはいえ、活気に満ちているんですね。
 数多くの明るさに紛れた情報を、どのようにして探し出すか。それを暫く悩んだ。
 ――情報が少なすぎて、何も分かりませんね……。
 胸の内でのみ呟いて、口先を僅かに窄ませた。
 そして風に乗った翼を傾け、上空からより街へ近付いていく。喧騒が間近に迫り、頭ばかり見えていた人々の表情までわかってくる。
 ――常に行動あるのみ! 勇気を持つ者の前に、道はあるのです!
 笑顔に気合いを入れ直し、ソラスティベルは勇ましく地上へ舞い降りていく。
 彼女の両足が大地を踏みしめる頃、鴛海・真魚(恋心・f02571)は街なかで占いの店をオープンした。
 未来を視ずとも心は見たい。占いの力で道行く人々を眺め、占い師らしく声をかけていく。
「そこの方、占いはいかがかしら?」
 陽をも透かす指先で手招き、水の粒を転がしたかのような澄んだ声で言葉を紡ぐ。
 占い師は真魚の本職だ。占術の流れや仕草も当然慣れている。店がずらりと並ぶ通りの片隅であれば、不審に思う客も少ないだろう。
 やがて占いへの関心を抱いた客人が、ぽつりぽつりと真魚へ声をかけにくる。
 ――思ったより、占ってほしい人が多いのね。
 占いに交えて尋ねて行けば、少しずつ話も聞きだせるはずだ。そう真魚は考えて。
「大丈夫。きっと素敵な事柄が起こるの」
 訪れる人の不安をやさしく撫でながら、真魚の占いは続く。
 ふと視線を逸らせば、通りの先、遠く船着き場が望めた。そこでは、上がった網を整え修繕する漁師たちの周りで、おこぼれに与ろうと猫や海鳥が餌を探し回っている。港町では日常風景なのだろう。
 少年と少女――キシュトとマートルに危険が及ぶ手前だとは思い難い空気で、真魚は目を細める。
 直後、魚を咥えた猫が、足早に真魚の前を過ぎて行った。

●夜を越えて
 ほむほむ、と頷きと同時に声を洩らして、赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)はガジェットに跨っていた――ガジェットが変形した馬に。
 一筋の光を走らせた真鍮製の馬だ。丸みを帯びた身と、しなやかに地を蹴るための細かいパーツの数々が、生きた馬を思わせる。軽やかに駆ける蹄の音さえ心地好い。
 そして凄まじい俊足は、陽を浴びてもなお黄朽葉に似た色の道を、小刻みに震わせる。
 緋色の行く手では、風に吹き上げられた砂埃が景色を曇らせていた。ぼやけた視界の先に、まだ馬車の影は無い。
 街へ急ぎたくても、荷の多い馬車では大したスピードも出せないはず。緋色はそう考え、ただただ前方の地面を見つめた。
 ――だから私は速さで追いつけばいいよね。
 緋色は失せ物を探すように轍を辿る。
 後背に妙な気配がないことを、小さな背で感じ取りながら。

 金の光が世界の果てから滲みだす頃、再び馬車は動き出した。
 痩せ細った御者に不穏な気配もなく、マートルとキシュトにもまだ疲労は見えない。旅先への期待を話題にしながら、幌馬車は今日も進む。
 やや起伏があるのか、揺れが僅かに大きくなる。道の先も確かめるため、御者の意識が前方へ集中した頃合いを見て、荷物の陰に隠れていた銀狐――コノハが、音もなく姿を現した。
 はじめこそ驚いたマートルとキシュトだったが、コノハが人懐こそうに頬をすり寄せてみせれば、その愛らしさにすぐ打ち解ける。
 そしてコノハは、御者の様子に変わりないことをちらりと確認した後、元の姿に戻ってみせた。
 幸いにも悲鳴をあげたりはせず、マートルたちは目を丸くするだけにとどまった。そんなふたりへコノハが伝えるのは、此度の売り買いの件だ。
「今回はネ、契約に添わない存在が介入しているヨ」
 本来の契約とは関係の無い売買が為され、それを企てた存在がいる。
 流れに乗ってふたりが行きついた先は、あるべき目的地と違うことも、ひとつひとつ丁寧に話した。
「……違う場所? どこに連れてかれるの?」
「ソレはまだ解らないんだ。ウン、でも、このまま行けば命が危ないのは確かだネ」
 マートルの冷静な質問に応じていると、おずおずとキシュトが口を開く。
 少しばかり、怪訝そうに。
「どうして知ってるんだ。契約のことも、その……僕らがそうだってことも」
 心なしか、震えた声音は不安げだ。
 怯えさせまいとして、コノハは調子を変えず話を続ける。
「何か違うナ、と感付いた関係者がいてネ。ふたりの身の安全を確保したいんだヨ」
 静かな言葉の運びと薄氷の瞳に射貫かれて、そうなんだね、とキシュトは腰を落ち着かせた。
 コノハとキシュトのやりとりを見ていたマートルが、顔をしかめる。
「ねえ、それって、あの御者さんにも言っちゃ駄目なのよね?」
 事態を察したのか、少女から投げかけられた問いは慎重だ。
 御者については、コノハをはじめ猟兵たちも把握しきれていない。だが、だからこそ外部に猟兵たちの動きが漏れるのは避けたい。コノハは深く首肯する。
 そっかあ、とマートルがため息交じりに呟いた。
「乗る船もなんだか違うらしくて、あれっ、とは思ったの」
 船、という単語が耳に引っかかり、コノハが疑問形で返す。
 するとマートルは何の気なしに告げた。
「姉さんたちからお手紙で聞いてた船も楽しみだったから、よく覚えてるわ」
 白亜色の船は、ティスクランから売りに出された若者だけが乗る贅沢な船。
 医術の心得がある者が同乗し、商業都市で人気の果実を絞った飲み物やパンも存分に味わえる。
 決して大きくはないが、大海原に包まれて素敵な船旅ができるのだと、マートルはそう話した。
 すると今まで押し黙っていたキシュトが、緩やかに声を紡ぐ。
「……今回は、クランの出身じゃない人たちも乗るんだって」
 話を聞き、コノハは眉根を寄せる――そのとき。
 不意に、馬蹄の音が徐々に近づいてきた。慌ただしいとまではいかないが、急いでいるのがわかる音だ。
 コノハは振り向く御者に発見されないよう、咄嗟に隠れる。マートルとキシュトも彼を庇うように、座る位置をずらした。
「ちょっといいかな!」
 幌越しに声が弾ける。
「この馬車、どこまでいくの?」
 すぐそこの港町だよ、と答えた御者へ質問が連なる。
「依頼人はどちらさん? 話がしたいんだけどっ」
「依頼人? 人を運ぶだけが自分らの仕事なもんで、そういうのはわからないなあ」
 はぐらかしたのか、本当に知らないのかは、短い問答では覚れない。
 とりあえず声を張って礼を告げた騎乗者――ガジェットの馬に乗る緋色は、幌馬車を追い抜いていった。
 駆け抜けた賑やかさも静まれば、潮の匂いが鼻を掠めていく。
 そろそろ降車した方が良いと判断し、コノハは気付かれないよう、ふたりと御者へ指先ほどの管狐をそっと這わせる。
 機を見て身を隠してほしい、と最後に願いを向けて、コノハは揺れる幌の隙間をすり抜けていった。

●街
 馬車は港町の入り口に停められた。
 他にも馬車が行き交い、街に入る前から賑やかさが溢れている。
 他の荷馬車を軽く見回せば、幌をかけた荷台に木箱や農作物を山盛りで積んでいる馬車もあれば、旅行く人たちの乗り合い馬車もある。
 どの荷馬車が、どこから来たのか。
 それを想像する者も、深く追究する者も、この小さな港町にはいない。大抵の人が、港から船に乗るためか、商品と情報を求めるためだと考える。
 この港町から発つ船の行き先は、漁師の船で無い限り商業都市だ。
 幌馬車に同乗した人々へ別れを告げ、マートルとキシュトは店が軒を連ねる大通りを訪れていた。
 七色の飴玉に動物を模った砂糖菓子。宝石の形にカットされた透明度の高い氷砂糖。焼きたてのパンや温かいスープ。
 子どものみならず、多くの人の視線と心を釘付けにさせる大通りだ。
「どうしましょうキシュト! 選り取り見取りで迷うわっ」
 声も心も弾ませるマートルに、キシュトも答えを決めかねているのか、ううん、と唸る。
 喧騒に溶け込む前の二人の背へ、声をかけたのはソラスティベルだ。
「ふふ、お買い物でしたら案内しましょうかっ?」
 すっかり港町の観光情報を得たソラスティベルの双眸は爛々としていて、声も張りがある。
 元気なアプローチに目を瞬かせたマートルとキシュトは、晴れた空を連想させる彼女の顔をじっと覗き込む。
「えっと、どちらさま??」
「わたしですか! わたしは世界を旅する、勇気ある冒険家ですっ!」
 えへん、と胸を張るソラスティベルの発言に、真っ先に喰いついたのはマートルだ。
「ひとりで世界を旅してるの!? 冒険家!? すごい!」
 そうでしょうそうでしょう、と言わんばかりに胸を逸らしたソラスティベルも、話を続けるべく姿勢を戻し、コホンと咳払いした。
「そしてこの街の美味しいものにも詳しいのです!」
 ふたりが到着するまでの間に、下調べという名の試食は済ませている。
 自信あふれる笑顔を目の当たりにして、突然キシュトが何事か思い出したらしく、懐から小袋を取り出す――別の猟兵がふたりへ手渡した袋だ。
「僕たち、お土産にお菓子を買いたいんだ。案内してくれる?」
「はい! お任せをっ! さあさあ、あちらへどうぞっ」
 ふたりの背を押しながら、潤う大通りを進みだす。
 わずかに振り返り、ソラスティベルは姿なき仲間へ頷いてみせた。
 そうしてソラスティベルが消えた雑踏を、物陰から緋色が確かめる。
 ――これからどうするかなんて、自分で考えるといいんじゃないかな。
 少年少女の心が定まっているのか、そうでないのかはわからない。だがふたりはまだ、世界を知り始めたばかりなはずで。
 緋色は名と同じ色の瞳を伏せて、街なか特有の喧騒へ耳を傾けた。そこかしこから落ちる息遣いまでもが、常に変化しつつも、人の生を彩っている。
 それはきっと、少年少女にも等しく与えられたもの。
「輝かしい未来に向かってないところへ、行かせるつもりもないけどね」
 緋色の耳には、濤声はまだ少しばかり遠い。

 きらきらと、潮騒に光の粒が鏤められている。水とは違う、湿った薫り。
 真魚の胸を弾ませる音と薫りの真っ只中に、賑わいはある。
 占い師として港町で動いていた真魚は、商人や漁師、観光客に声をかけていた。
 ――でも、人だけではだめ。嘘をつく人だっているわ。
 商いに関する話の詳細は聞けず、漁師は魚と酒の話ばかり。観光客が知る情報は、どの飲食店が美味しいかといった案内に近いもので。有力な情報を得るには、きっかけがどうにもつかめていなかった。
 どうしようかしら、と首を傾いでいた真魚の前を、先ほど魚を咥えていた野良猫が軽い足取りで通過していく。
「ねえ、野良猫さん」
 甘い声で、真魚が猫を呼んだ。
 人の暗い部分も知っていそうな動物と話すことで、別の角度からの情報を得られないかと考えたのだ。
 たらふく食べた後らしく、猫は満足げに尻尾を立たせて、真魚のところまでトトトと歩み寄った。
「いつもは居ない船とか、あまり見かけない服の人とかいないかな?」
 変わったことは無いかと尋ねるよりも、動物にもわかりやすいように話す。
 耳の向きを頻繁に変えながら、猫は真魚の顔を覗き込む。
 落ち着いた声で鳴く猫に相槌を打っていた真魚は、一通り話し終えた猫へ乾燥した小魚を差し出す。
「はい、取引。ね?」
 成功報酬をしかと咥えて、猫は人垣へ消えて行った。
 ――ちょっと変わった船が停まってるのね。
 知った情報を胸に抱き、真魚は空気に溶けるかのように人混みから離れた。

 活気のある大通りを、ソラスティベルは進んでいく。
 すれ違う靴音や話し声の中で、美味に頬を膨らませる姿を目に留めながら。
 世間にあふれる菓子もジュースも、マートルとキシュトには新鮮そのものだった。
 しかし店を案内し、おすすめ商品を差し出すソラスティベルにとって、万遍なく喜んでくれるふたりの反応こそが新鮮で。
「ふう、だいぶお腹いっぱいだわ」
 腹部をさすりながらマートルが笑えば、雪色の髪も嬉々として揺れる。
 美味しさのあまり睫毛を濡らしていたキシュトも、すっかりソラスティベルから教わった砂糖菓子が気に入ったらしい。彼の鞄がそろそろ破裂しかねない。
 食べ歩きも兼ねて港町を堪能したふたりへ、ソラスティベルはもう一押しの笑みを浮かべる。
「これから何かご予定とか、ありますか?」
 ソラスティベルがさりげなく尋ねると、ふたりは顔を見合わせて。
「しばらくは何もないわ。ねえ、可愛い布のお店があったの。そこ行きましょ!」
「……僕も。いったん家に戻る馬車も探さないとだしね」
 返ってきた声はとびきり花が咲いたようで、ソラスティベルも相好を崩した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『奴隷船の行く先は』

POW   :    奴隷のふりをして船に乗り込み、村人の解放に奔走する。

SPD   :    誰にも見つからぬよう隠密行動をとり、船内部の情報を収集する。

WIZ   :    奴隷商のふりをして船に乗り込み、取引先の情報を探る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●港
 船がひしめき合う港は、常にひと気がある。
 漁師たちの船が停泊する場所も、商船が停まる場所も、小さい港町ながらしっかり定められていた。
 網の修繕に勤しみ、次の漁に向けて準備する漁師たちが、まだ港に留まっている。
 そして商船や輸送船は、大抵は同じ船が行き来するのみだった。
 なにせ、ティスクランの契約対象がいる商業都市とも繋がっている港町だ。
 小さい船からそこそこ大きな船まで、一定期間ごとに出入りは決まっている。
 だが最近は違った。
 ほんの数日前から、見慣れぬ輸送船が停泊している。
 商業都市から出航したのだと、乗組員は躊躇いも迷いもなく告げるばかりだ。
 しかし新規の船も、港町の人々にとって大騒ぎする出来事ではない。
 たとえ馴染みのない船でも――真偽はともかく――商業都市から来ているのだと、乗り手が言うのだから。

 猟兵たちは、その一隻を探り当てた。
 外から内部が見えないよう、黒い覆いまでされた中型船だ。
 時折、人の出入りがある程度で特別騒がしい気配も無い。
 遠目で窺っていた猟兵たちは、あることに気付く。
 船にはマートルやキシュトと同じぐらいの歳の子どもたちや、働き盛りとも言える若者が数名乗っている。
 おそらく、何処からか集められた人々だろう。
「今日の出発は? そろそろだろ」
 目深にフードをかぶった人物が、船の入り口に立つ監視役へ尋ねる。
 どうやら、馬車でマートルたちを運んできた御者ではないようだ。猟兵からは距離があり、顔まではわからない。
「予定じゃ、もう何人か来るはずだが……時間も押してるしな。ボスんとこ急ぐか」
 もうすぐ出航するらしい。
 マートルとキシュトは、すでに街なかで安全が確保できている。
 残るは、妙なことを企てているオブリビオンの居場所を特定し、倒すだけ。
 そのためにも先ず対処すべきは、猟兵たちの視線の先に停まっている、あの船だ。
矢来・夕立
※アドリブ/連携/改変歓迎
陸路の次は海路ですか。大がかりですね。想像以上に社会的な影響力を持っているかもしれない。

行動はSPD準拠。補助に徹します。
船内の構造・見張りの位置・交代時間あたりを調べますよ。『忍び足』で『聞き耳』を立てつつですね。
直接の解放や商談相手の調査は他の方が適任でしょう。
オレは集めた情報を逐次お伝えしますので。
離れた場所への伝令には『式紙・導紙』を使用します。
ヒーロー役は皆さんにお任せしました。

……他の生き方ができるとしても、本人が何も考えていないなら目的を見失って辛いだけ。ってこともあるのですけど。
様子を見るに、あまり心配はなさそうだ。
街を楽しめていたようで何よりです。


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

奴隷を買いに、又は売りに来た貴族に扮して乗船します。
もし可能であれば、他の猟兵さんを主人や付き人、奴隷に見立てて乗り込むのも良いかもしれません。
無事に乗り込めましたら、乗船している船員に行き先等をそれとなく聞いて『情報収集』します。
「目的地にはもっと良い奴隷がいるのか」「ボスと直接取引したい。どんな人物なんだ?」等と。

もし暴行を受けている奴隷がいましたら極力『かばう』様にします。
商品に傷がつく、価値が下がる等で誤魔化して穏便に済ませたいですね。

偽りとはいえ自らを奴隷商人として名乗る日が来るとは。……心が痛いです。
年端も行かない子供達を横目に、巨悪を討つ事を密かに誓います。


ソラスティベル・グラスラン
ややっ、見るからに怪しい船ですね…黒い覆い中は一体
集められた方々は無事なようですが、悠長にはしていられません
……いざ勇猛に、行きましょうっ(こそっ

武器は置いていきプレリエ(子竜)だけ肩に乗せて
何も知らない無警戒なふりをして
【勇気・コミュ力】で奴隷のふりをして船に乗りましょうっ
ふふふ、こういう展開もまたドキドキしますねっ
虎児を得るにはなんとやら、悪(推定)の組織へ突撃ですっ

【情報収集】
白いお二人と一緒に買ったお土産を持って
船中の人にお話を聞いていきますっ
船員さんにも、船長さんにご挨拶したいですっと朗らかに接しながら
不真面目な方には、少しお金をお裾分けしたり…ふふー、ハードボイルドですっ


コノハ・ライゼ
あの二人は安心として
御者の方は念の為仕掛けておいた【黒管】で動向を探っておくネ
都市まで付き添う筈だったなら船に戻る前に、急ごう

フード等被り連れられてきた者の振り
街で迷ってた、この船と聞いてるケド合ってますよね等言って乗船試みる
売買目的なら人相を検められる事もない、デショ

潜入出来たら
連れてこられた人複数にそれとなく話しかけ情報探るネ
「船を降りたら何処へ行くかとか、聞いてる?
皆同じトコかな
どんな場所、どんな人物の所へ
この先を知って、彼らを逃がす隙を見付けておきたい
もし皆の話がばらばらだったり騙されている気配があれば
そこをついて、それとなく不安感を煽っておくヨ
「おかしいネ、聞いてたのと違わないかな


カルナ・ボーラ
働き盛りも数名、そして数日ほど港町に停泊している。
……どこからか噂を聞きつけてきても問題ないな。
一山当てようと目論んでいる振りでもして見張りに頼み込むか。
噂を聞きつけた程度で詳しく知っていても怪しいな。
「よくわかんねーけど、この船に乗れば稼げるんだろ? だから俺も乗せてくれよ。すげー働くから」
と、頭の悪そうな感じで。
抜けてるほうが自分たちに都合よく動かせそうで歓迎されやすいだろ。

乗り込めたなら何かが起こるまで働きながら待機を。乗り込めなくても身を隠して待つか。

何かが起こったら集められた人を救出するか、マストや舵などを壊してそもそも出航できなくするか。
救出が終わるまでは沈めないように注意だな。


赤星・緋色
おっけー、なるほどね
作戦は完全に理解した(たぶん)

私達バーチャルキャラクターに代々伝わる隠密方法があるよ
それはね、ダンボール箱!
伝説の傭兵がコレを被って潜入捜査をしていたんだって
この世界でダンボール箱は目立っちゃうから私は代わりに木箱を使うのでいいかな

技能の迷彩、忍び足を使って船内に侵入
乗組員の行きそうな場所で荷物に擬態して情報収集
スマホの撮影機能とボイレコも使って怪しいやつらからの会話とか物品証拠の情報収集
帳票とか航行ルートとか分かればいいかな
他の猟兵達とも情報共有していきたいかな
元の電波がなくても近接無線でデータは送れるし

もし近くに他の猟兵がいたら協力して任務を進めたい感じ


鴛海・真魚
ここは隠密行動をとってみようかな。
ただでさえ目立つから、これが一番良いかも。

クリスタライズで透明になって船に忍び込む。
ここにはさすがに動物はいないかしら……。
いたら話を聞きたいのだけど。

クリスタライズをしたまま息を潜めておくの。
船内のどこかの部屋に入る人がいればそっと後ろを着いていったり
何か良い情報を得ることができそうなら一緒に入ってみる。
入った先で動物がいたらこっそりと話を聞きたいな。

もし見つかったりしたら衝撃破や誘導弾で攻撃している隙に逃げて
またクリスタライズを使って気配を消すの。
誰かと協力が出来そうならそれも惜しまない。



●港町
 店が並ぶ賑やかな通りを抜ければ、そこは船着き場だ。
 潮騒や海鳥の鳴き声を音楽にして、荷を市場へ運び、上がった網を整え修繕する漁師たち。その周りで、おこぼれに与ろうとうろつく猫の群れ。
 そんな市場の片隅、木箱から港を望むひとりの少女がいた。
「ややっ、これは見るからに怪しい船ですね……」
 船室が覗けないよう覆ってある黒布をじっと睨みつけてソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)が呟く。
 悠長にはしていられないと、水色の小さなドラゴン、プレリエを肩に乗せた。
 彼女の肩を、プレリエではなく別の何かがとんとんと叩く。
 鴛海・真魚(恋心・f02571)だ。クリスタリアン特有の光さえ透かす笑みを浮かべ、真魚は自らを抱き締め身を透明にする。
 輝き総身を空気に溶かした彼女へサムズアップで合図し、ソラスティベルも気合いを入れ直す。
「……ではっ! いざ勇猛に、行きましょうっ」
 ソラスティベルはそう告げながら、こっそり出ていき、真魚も彼女の後ろにくっついていった。
 一方、黒い覆いがされた船の前では。
 出発の頃合いを尋ねたフード姿の人物と、監視役らしく常に船の入り口から離れない男が相変わらず雑談に興じていた。
 彼らの前を素通りする漁師や商人も多い中、一人の青年――カルナ・ボーラ(アルバラーバ・f14717)が声をかける。
「なあ、俺も乗せてくれよ」
 話し掛けてきた青年が、あどけなさの残る顔立ちだったこともあってか、値踏みするように足から頭の天辺まで視線で舐めたあと、監視役が片眉をあげる。
「随分唐突だな。確かに、その辺の奴よりだいぶ動けそうなナリだが……」
 何か迷いでもあるのか、監視役が渋る。
 船に集められているのは働き盛りや子どもたちが数名。そして港町には数日停泊している船だ。
 噂を聞きつけ、一山当てる目的で訪れた若者になりきるのは、カルナにとって困難ではなかった。
 だからカルナは真っ直ぐ男を見つめて、言い募る。
「よくわかんねーけど、乗れば稼げるんだろ? 俺、すげー働くから」
 言い回しから滲み出るのは性格だ。小難しい知能を持たぬ人物を演じたカルナに、彼らが顔を見合わせて頷く。
 押し迫る時間と定められた数との狭間で揺れたのか、やがて監視の男が顎で船を差した。
「ちょうど数が足りなくなりそうだったんだ、いいぞ。すぐ発つ」
 促され、舷梯を踏んで乗船していったカルナの後方、一拍の間を置いて、今度は別の青年が監視役へ近付いていく。
 小奇麗な装いのアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)だ。彼は気品を雰囲気に纏い、会釈をする。
 そんな彼と共にいるのは、フードを被り大人しく佇むコノハ・ライゼ(空々・f03130)とソラスティベルだった。
「……街で迷ってた」
 先にコノハが、乗船する予定だった者を装い、口を開く。アリウムは静かに時を待つ素振りを示すのみだ。
 そうして数人に男たちの視線が集まっている間に、船へ移った少年がいる。
 ――陸路の次は海路、ですか。
 随分と大がかりな計画に、密かに跳び移りながら矢来・夕立(無面目・f14904)はわずかばかり眉根を寄せた。
 社会的な影響力を持っている可能性を危惧しつつ、夕立は船員に気付かれないよう、荷物の陰に潜む。
 新たな乗客に感付くはずもなく、監視役の男たちはコノハたちと向き合うままだ。
「この船と聞いてるケド……合ってますよね?」
 コノハの確認する物言いに、ああそうだ、と監視役が返す。
「意外とこの街、人も物も多いからな。迷うのもしょうがない。ほら、出発するから乗りな」
 そう続けた監視役には、コノハについて詳しく聞き出そうとする気配も無かった。乗船する人物の詳細までは、行き届いていないのだろうか。
 難無く乗り込むコノハを穏やかな眼差しで見送ってから、アリウムがやおら口を開く。
「……品の売買に来た」
 小声で告げたのち、ちらりとアリウムがソラスティベルを振り返る。
 事情を理解しない若者の振りを続けるソラスティベルは、アリウムからの視線にも首をかしげて見せた。
 アリウムの発言の意味を察したらしく、男たちが顔を寄せ合った。何事か囁き合ってから、監視役の男が薄く笑みを浮かべる。
「掘り出し物があるかはわからんぜ、旦那」
「構わない。ああ、それとこれも」
 次にアリウムが振り返ったのは、ひと一人が入る大きさの木箱だ。
「手土産が詰まっている」
「そうか、なら仲間に運ばせよう。おい! 誰か暇な奴!」
 手土産と聞けば、男たちが難色を示すこともない。
 監視役の声を受け、帆を確認し終えたばかりの乗員が二名、足早に寄ってきた。
「今から暇だぜ。どうした?」
「そこの木箱も積んでやってくれ。……手土産らしい。慎重にな」
 船員二人がかりで木箱が運ばれていく。アリウムも客人として、船の中へ誘われた。
 多くの言葉は口に出さずとも、ソラスティベルは内心そわそわしながらタラップを踏む。
 ――ふふふ、こういう展開もまたドキドキしますねっ。
 虎児を得るにはなんとやら。英雄譚か、物語から飛び出したかのような状況に、胸も膨らまずにいられない。
 ――さっ! 悪の組織へ突撃ですっ。
 ソラスティベルは興奮を心に秘め、船内へ駆けていく。
 そして。
 赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)は木箱のなかにいる。
 緋色の小柄な身で入り込んでも余裕がある木箱だ。
 揺さぶられた際に頭をぶつけたり、声を洩らさないよう注意を払いながら、スマートフォンを握り緊める。
 ――これぞ、私達バーチャルキャラクターに代々伝わる隠密方法!
 彼らにとって隠密とはすなわち、ダンボール箱という名の携行アイテムに身を隠す行為でもあった。
 さすがにここでもダンボール箱というわけにはいかず、世界観に沿って木箱を選んだが。
 ――伝説の傭兵が被って潜入捜査をしていたって言うけど。
 ダンボール箱の脆さと、木箱の硬さと、どちらがより動きやすいのか比較してみたい気も疼かせて、緋色は暗闇を見渡した。
 とりあえず荷物が置かれるまで静止を試みる緋色の耳に、手土産ねえ、と木箱を運ぶ男の呟きが落ちる。
「食いもんかな。財宝……にしては軽いし」
「俺ら宛てならともかく、ボスへの手土産なら食いもんの線はないだろうよ」
 別の運び手が迷いなく答えた。
 ――ボスに食べ物の差し入れはあり得ないって?
 緋色は思わず唇を尖らせて考え込む。
「いくらあっても困らない丈夫な矢とかだと、有難いんだが」
「ああ確かに。それなら奴隷連中に作らせずに済むしな」
 緋色は木箱の中で、声に出すことなく納得して、スマートフォンを弄り続けた。

●船内
 船員たちの四方山話は、乗客のいない船室で交わされる。
 最下層にある船倉も例外ではなかった。積み込んだ木箱と樽を椅子や背凭れにして、船員たちが嗜好品や金の話をしている。
 彼らが発する下卑た笑い声の他に響くのは、波に揺られ軋む船の音だけだ。
 綺麗じゃない、と真魚は眉尻をさげた。
 宝石のように輝く身を透明にした彼女は、船員に咎められることもなく、船倉の様子を窺えている。だからこそ物音を立てないように注意を払い、息を潜めていたのだが。
 耳朶を打つ音色が美しければ良かったものの、届いたのは卑しい心根が透けて見える言葉ばかり。せめて色恋に纏わる話であればと真魚も願ってはみたが、彼らの性格からして、たとえ恋愛が絡もうと爛れた話にしかならないだろう。
 真魚は淡い期待を捨て置き、船倉からぞろぞろと上がっていく船員たちを見送った。
 ――あのひとたちに、家族はいないの?
 ひと気が無くなったため一旦クリスタライズを解き、真魚は細い息を吐く。
 長いこと潜んでいたが、家族どころか故郷の話でさえ、一度たりとも交わされなかった。偶然か否かは真魚にも判らないが、故郷や家族への想いがあったとしても優先度は低いのだろう。
 考えていた真魚の近くへ、音もなく夕立が舞い降りる。
「食事時みたいです。乗組員が上に集まり始めました」
 床へ目線を落として夕立が告げた。
 得意の忍び足を活かし、一頻り船内を探っていた夕立は、確認できた船の構造と見張りの位置を真魚へ伝える。
 中型の船は部屋数も少ない。若者たちの集まった大部屋が一番広く、綺麗に作られていて、船員が寝泊まりするはずの船室は見当たらなかった。停泊中は、港町の宿を拠点にしていたのだろう。
 そこまで話して夕立は一度、船倉の上へ意識を向ける。足音はまだ遠い。
「乗組員に、仮眠用の部屋が用意されていないのは妙です」
 夕立の言葉に、真魚が睫毛をぱしぱしと瞬かせた。
「恐らく、日を跨がず着くのでしょう。もしくは……」
 続けた夕立だったが、言葉を切る。
「……オレからは以上です」
 想像より先に報告を他の猟兵にも届けるべく、彼は紙人形を折りはじめた。
 ふと夕立の脳裏を過ぎったのは、港町で保護が叶った少年と少女のことだ。
 ――他の生き方ができるとしても、本人が何も考えていないなら、目的を見失って辛いだけ。
 猟兵の数だけ人型に紙を折りながら、夕立は船の軋みに耳を傾ける。
 上層の気配を肌身で感じ取りつつ、指を動かした。街を楽しむふたりの様子を、思い浮かべて。
 ――ってことも考えたのですけど。様子を見るに、あまり心配はなさそうだ。
 人型の紙を用意したところで、ゆっくり瞬きをする。思考を切り替えるのに丁度良かった。
 その間に真魚が、船を棲み処にしていた鼠から話を聞いていた。
「鼠さんたち、目撃されても執拗に追われたりしないみたい」
 夕立の準備が整ったのを視認し、真魚も鼠からの情報を伝える。
「猫とかもいないから、そこそこ快適な船みたいよ」
 静かに立ち上がり、真魚は手近な木箱の蓋をずらしてみた。中には港町で漁ったらしい食糧も積まれている。
 しかし辺りを見回しても、鼠除けの罠などは確かに見当たらない。
「なるほどねーっ」
 突然、二人の耳朶を明るい声が打った。
 別の木箱の蓋がぱかっと押し上げられ、中から緋色が軽々と飛び出してくる。彼の小さな手には、スマートフォンが握られていて。
 撮影と録音機能を駆使して情報収集を続けていた緋色は、木箱が運び込まれる際に聞いた話も保存していた。それを夕立と真魚にも再生して伝える。
 そして緋色はくるくると大きな瞳を動かして、周りの荷物を見た。
「人集めに重点を置いてるから、鼠とかどうでもいいのかなって思ったりもしたけど」
「それだけにしては杜撰ですよね」
 夕立が付け足すと、緋色も頷いて。
「うん、それで私、思ったんだ」
 緋色の話に、夕立も真魚も耳を向ける。
「船員の人たち、船旅に慣れてないのかな、って」
 長い船旅を知らないか、そもそも航海に疎いか。
「……悪さを最近始めたのなら、可能性はありそうね」
 真魚もゆっくり意味を噛みしめていく。
「船を動かせてはいますから、全員がそうではないのかもしれませんね」
 そう呟く夕立の掌の上では、やや崩れてはいるが紙人形が人型を保っている。
 ――ヒーロー役は、皆さんにお任せしましょう。
 そして彼は、かさりと紙特有の音を零して天井へ紙人形を張り付かせ、滑るように船内をゆく式神を目で追う。
「引き続き、録音をお願いします」
「おっけー」
 夕立に頼まれ、緋色は片目を瞑ってみせた。

 同じころ。コノハは管狐と繋いだ五感から、御者の動向を探っていた。
 ――あの二人は安心として。
 御者も都市まで付き添う予定かと思ったが、どうやらただの運び屋だったらしい。港町の酒場で次なる仕事を求めているのが窺えた。
 ならば残るは、同乗している人々からの情報収集だ。コノハは静かに、壁から背を離し、傍に座っていた青年を覗き込む。
「船を降りたら何処へ行くかとか、聞いてる?」
 静けさを湛えた問いに、青年はきょとりとする。
「場所は知らない。なんか、工房が用意してあるってだけで」
 今度はコノハが微かに眼を見開いた。
「……もしかしてだケド、職人さん?」
 コノハが質問を重ねると、青年は躊躇いなく首を縦に振る。
「遠方の町で建築と家の修繕をやってた。でも、こっちのが金になるからって誘われて」
 青年とコノハの話を聞きながら、近くではカルナが待機していた。神経だけは研ぎ澄ませたまま。
 少しばかり唸ってから、コノハは別の少女へ、故郷で何をしていたかを問い掛ける。そして知ったのは、少女が織物で生計を立てる一家の大黒柱だということだ。
 コノハたちの話題に興味を示した他の青年たちも、次第に距離を詰めてくる。
 何処から来たのか、何をしていたのか。そうした話が盛り上がり始めた彼らの好奇を活かして、コノハは再び疑問を口にする。
「皆、同じトコに行くのかな……」
「どうなんだろ。大きな街に行くってのは聞いたよ。街の名前はわからないけど」
 ひとりの青年が、そう言葉を挟んできた。船内のざわつきが強まる。他にも数名、大きな街だと聞いた者はいるようだ。
 ――あのふたりは、商業都市に行くのが本来の契約だったハズ。
 商業都市も分類としては恐らく、『大きな街』だろう。
 たとえマートルたちが乗船していたとしても、若者たちの話と辻褄は合ったのかもしれない。
 ――港に数日停まっていたぐらいだし……出航まで怪しまれないようにしたのかな。
 目的地が嘘だったとしても、下手に疑いを持たれて船から降りられては元も子もない。わざわざ話を揃える程度には、人数を減らしたくないのだろうかと、コノハは眉間を狭めた。
 若者たちがどのような場所へ、どんな人物の元へ運ばれるのかを知りたかったが、なかなか話題には上らない。
 がやがやと雑談が伝播しはじめた室内で、カルナは脱出口を一瞥する。扉は、入ってきたときのものがひとつだけ。外を覗ける穴はすべて、黒の覆いで遮られていた。
 ――ここの人たちの無事が確保できるまで、沈められないように注意しないとな。
 証拠の隠滅を図るかもしれない。覚られてはならないと、カルナは黙して時機を待つ。
 そこへ、人型の紙人形がするりと入り込んできた。
 宛て先を間違えず、紙人形はコノハとカルナの手元へ潜り込む――夕立が放った式神だ。そして式神からもたらされたのは、船倉で交換されていた情報の数々。
 カルナたちは、それとなく視線を合わせて頷いた。

「お裾分けですっ、どーぞ!」
 一方ソラスティベルは、若者たちが集められた船室を出てすぐのところにいた。若者たちの世話係りを兼ねているらしき船員へ、声をかける。
 片手に持った砂糖菓子を差し出し、港町で買ったんです、と続けて。
 持ち前の明朗さで接するソラスティベルだが、船員から邪険にされる様子は無い。
 暇つぶしになるとでも考えているのか、丁重に扱うよう指示されているのか。部屋へ戻れと叱られることもなく、ソラスティベルは話をしていた。
「あっ! あと船長さんにも、ご挨拶したいですっ」
 船であるからには率いる者がいるはずで、ソラスティベルはそこに目を付けた。
 するとまだ若い船員は、やめときなよ、と菓子を受け取りながら片手を振る。
「仕事の邪魔はよくない。そんなに時間かからず到着するから、後にしなよ」
 正論じみた理由を告げる船員に、なるほどっ、とソラスティベルもすんなり応じた。
「ではではっ、後でにしますっ。ありがとうでした」
 敬礼の真似をしてみせたソラスティベルに、気をよくしたのか船員も笑いながら同じ仕草で返してくる。
 一先ず船室へ踵を返したソラスティベルは、頬を高く上げて。
「ふふー、ハードボイルドですっ」
 ふくふくと楽しそうに笑った。
 その頃、船室へ戻ったソラスティベルから離れた船外通路では、アリウムと別の乗組員が並んで立っていた。
 奴隷商人として乗船したアリウムは、乗組員の男と海を眺めながら、商売の話をしている。
「目的地には、もっと良い奴隷がいるのか」
 アリウムが尋ねると、そうだなあ、と男が顎を撫でて唸る。
「まだ集めたばっかで、実際に見てもらわんことには何とも」
 集めたばかり、という言葉が引っかかり、アリウムは僅かに眼を細める。
 その顔つきに気付いたのか、男は慌ててかぶりを振った。
「ああいやいや、どっちにしても働き盛りしか居らんよ、金にはなる」
 男の様子に、そうか、とアリウムは短く答えた。追い詰めて面倒な事態に陥るのは避けたい。
 話の方向性を変えるべくアリウムが続けたのは、ボスと直接取引がしたいという旨だ。代表となる相手に近づければ、オブリビオンの撃破も容易くなる。
「そいつは……まあ、やってみればいいんじゃねぇかな」
「……どんな人物なんだ?」
 ぎこちなく言い淀む男へ尋ねると、難しそうに顔をしかめてしまう。
「気前がいいな。だから俺らもイイ思いさせてもらってんだが……おっと」
 持ち時間を切らしたのか、男はそこで片手を揺らし、アリウムへ背を向けた。持ち場へ戻る男の前方から、別の男がやってくる。交代の時間だったようだ。
 もうひとりの男が距離を縮めてくるまでに、アリウムは大海原へ視線を放る。
 ――偽りとはいえ、自らを奴隷商人と名乗る日が来ようとは。
 海よりも深く、水底よりも澄んだ青の瞳を震わせてから、そっと睫毛で閉ざす。
 弱き者を守り、彼らがゆく未来を案じて戦うアリウムにとって、名乗った職はあまりにも辛い。
 ――心が、痛みます。

 こうして船は茫々とした大海を行く。
 仄暗い世界に、小さな金色の灯りをひとつだけ揺らして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ゴブリンキング』

POW   :    ゴブリン親衛隊の召喚
戦闘用の、自身と同じ強さの【杖を持ち、炎の魔法を放つ、ゴブリンメイジ】と【剣、盾、鎧で武装した、ゴブリンナイト】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    王の激励
【王による、配下を鼓舞する言葉】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    ゴブリン戦奴の召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【奴隷ゴブリン】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルル・アークライトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●船着場
 波間に軋む船の音が、若者たちの肌を粟立たせる。
 星降る夜なら幾許か安心もしただろうに、頭上に広がるのは厚い雲がひしめく空。
 昼には見えていた波の形も、青に輝く海面も、そこにはない。
 ただひたすら暗く、重たい闇が広がるだけの大海だ。
 船旅に慣れていない若者たちは、外気を吸いに船室を出てもすぐ逃げ帰ってくる。
 いくつか船に灯りを吊るそうとも、人と灯りの多い船室の方が落ち着くようだ。
 長い時間にも思えた航海だが、彼らが夜を明かすことはなかった。

 カンカンと鐘が鳴り、猟兵のうち数名は真っ先に船外を確認する。
 切り立つ山々を背にした上陸地は、浜を除けば森ばかりだ。
 そして浜には数隻、様々な形状の船が停まっている。
「皆さん、遠路遥々ようこそおいでくださいました!」
 潮騒に負けぬ声が響く。
 若者や猟兵を浜で出迎えるのは、船乗りたちに似た服装の男たちと、そして。
「ここが皆様の、そして我らの新天地です!」
 挨拶を叫ぶのは、悪趣味に着飾り、言語を操る魔物――ゴブリン。
 冠に外套という見目から、王にでも扮しているのだろうか。
 闇夜に慣れた若者たちの目も、招いているのが人間ではないのを確と捉える。
 さすがに若者たちも不安にどよめくが、船上では逃げ場がない。
 そんな彼らに船員たちが、大丈夫だ、安心してくれ、などと声をかけている。
「ボスは見てくれはアレだが、イイ人だぞ」
 船員のひとりが、連れてきた若者たちへ告げる。
「さあ、降りるぞ。働いてはもらうが痛めつけたりはせんよ」
 猟兵たちには判っている――船と浜辺に居る男たちは、オブリビオンではなくただの人間で。そしてゴブリンは間違いなくオブリビオンであると。
 浜の男たちは松明を手にしているだけで、武器は所持していない。
 船乗りも同様だ。港町で監視役をしていた男だけが、護身用らしき短剣を腰に携えている。それも綺麗な鞘と柄で、使った形跡はない。
「ここを我らの楽園にしましょう! さあ、足元に気を付けて上陸してください!」
 猟兵がいるにも拘らず、オブリビオンのゴブリンは、人々を招き入れることに意識を向けている。機会を窺っているのかもしれない。
 何にせよ猟兵たちの為すべきことは変わらない。オブリビオンを倒すことだけだ。
 すでに船から浜めがけて、タラップがかけられようとしている。

 ――さて、どう動こうか。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

標的自ら出て来てくれるとはなんという僥倖。
王、新天地、奴隷、そしてオブリビオン。単語の端々からは、あまり良い想像はできませんね。
戦力が整う前に、ここで彼らの計画を破綻させましょう。

「あなたがボスですか。折り入ってお話が――」
通用するとは思いませんが、『全力魔法』のホワイトブレスの『範囲攻撃』で奇襲を仕掛けます。
奇襲を仕掛けつつ、中衛に位置を取り、もし前衛が危うい場合は、ホワイトパス、ホワイトマーチを使用して近接戦に挑みます。
私は前衛の壁となり、他の猟兵さんや奴隷に攻撃が及ばないように立ち回りたいですね。

船員には離れている様にと伝え、害を為す場合のみ弱めたホワイトブレスで威嚇します。


カルナ・ボーラ
……状況を見るに先に手を出しても面倒だな
んじゃ、さっさと飛び出して口だけ出して手は向こうから出してもらうか

出処の定かでない武具がどこからか流れている
それで本来得るはずの利益がかすめ取られている
商業都市から調査の依頼を受けていた

そんな感じで向こうの王様に問いただしてみるか
他人のシマで勝手にやろうってんだ。それなら納得のいく説明がなきゃどうなるかわかんだろ?
とはいえ猟兵とオブリビオンの関係だ、どんな説明をした所で結局は潰すしかないだろ
それを利用して向こうが手を出すまで難癖をつけるとするか

護衛の一般人が仕事をするなら咆哮も交えて引っ込んでろと
後ずさりさせる程度で怪我しないように、加減はしっかりとだな


コノハ・ライゼ
新天地、ねぇ

タラップ掛かる前に乗降口塞ぐよう前へ
「どう見たってバケモンじゃん
騙されてンのか分からんが先ずは現状をハッキリ認識してもらう

ナルホド
足が付かねぇ子らを横から掻っ攫うとは頭イイねぇ
人を手足に使う悪知恵も働くときた
さて大きな街とやらは見えはしないが
今から国でも作って王様気取るおつもりで?

ホントのトコはどうだってよく
そこに居る人らが疑問持ち逃げる気になって貰えれば

まあ新天地は諦めるンだネ
オブリビオンなら還すしかない
『高速詠唱』で【月焔】を分散させ人と敵を遮り且つ退路を断つ方向へ
同時に距離詰め『2回攻撃』での至近距離からの焔
基本は本体を狙うが小型ゴブリンへは分散させた焔で対処

(アドリブ歓迎)



●細波
 ――新天地、ねぇ。
 薄闇の幕がかけられた空の下、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は胡乱な者の言葉に目を細めた。
 遠路遥々ようこそ、とまるで歓待を施すかのような発言は、その異形がオブリビオンだと理解しているからこそ、怪しさが増す。
 異形――外套や王冠で着飾ったゴブリンは、振る舞いや言葉遣いこそ人間に似せているが、悪辣が顔に滲み出ていた。そしてここを楽園にしようと声を張る様は、恬として恥じない。
 だからコノハは呟く。
「……どう見たってバケモンじゃん」
 船と陸をしかと繋げてしまうタラップがかかるよりも一足先に、コノハは乗降口を塞いだ。
 狼狽えたのは乗組員たちだ。今までおとなしく船室に籠っていた人々の中から不意に、コノハが迷わぬ態度を示してみせたことで、船員たちは戸惑いが隠せずにいる。
 ――難無く事が進むと思っていたなら、動揺してもおかしくないかな。
 船員たちが、ボスと呼ぶ相手のどんな口車に乗せられたかを想像して、僅かに肩を竦めた。
 顔を見合わせている乗組員の心理状態を利用するべく、 カルナ・ボーラ(アルバラーバ・f14717)もすぐさま動き出す。
 ――先に手を出しても面倒だな。
 船の上から、偉そうに王冠を被ったゴブリンへ呼びかける。周りの乗組員たちにも聞こえるように、明瞭な発音で。
「商業都市から調査の依頼を受けている」
 カルナの端的な一言に、周囲もざわついた。聞き捨てならないらしく、ゴブリンもカルナへ耳を傾ける。
「出処の定かでない武具がどこからか流れているんだ」
 あどけなさを残そうとも、カルナの眼差しはしっかり標的を捉えていた。
 誰がとあえて言わずとも知れる。そんな素振りで彼は話を続けて。
「おかげで、本来得るはずの利益がかすめ取られている」
 商人が見逃すはずも無いと暗に告げれば、周りの船員が纏う空気も強張った。
 帯びた緊張を垂れ流す彼らは、カルナからしてみれば素人同然だ。だからこそ容易い。
「……何が言いたいか、わかるだろう?」
 王の様相を呈するゴブリンへ向けたカルナの問いは、オブリビオン当人よりも、悪事に加担した男たちを委縮させた。
 はて、とオブリビオンが首を傾いではぐらかす。
「その調査とやら、我らが創る楽園を妨げたいようにしか思えませんな」
 返ってきた言葉に、カルナはゆるくかぶりを振る。
 そしてすぐさま、放言して憚らないゴブリンを眼光鋭く射貫いた。
「何せ、他人のシマで勝手にやろうってんだ」
 敵が想定していたであろう寸法に呆れを含んで、カルナが話を紡ぐ。
「納得のいく説明がなきゃ、どうなるか……わかんだろ?」
 今度は少しだけ語調を荒げて。
 ぴり、と張り詰める船員たちの空気をもカルナは気に留めず、敵の出方を窺う。
 流れを見守りつつ機を窺っていたアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)が、そこで一歩踏み出した。
「あなたがボスですか。折り入ってお話が……」
 商談に入るときの口振りにも、オブリビオンは応じない。
 アリウムは船も海も覆う冷えた空気を吸い込んだ。鼻孔を抜けて喉を過ぎる冷たさは、まだ彼にとって凍えるほどのものではない。ゆえに冴えた空気で息を募らせていく。
 僅かなその間にも、オブリビオンは数度頷いて。
「わかります、よくわかりますとも」
 王の形をしながらもみすぼらしく、敵は緑の頬を歪ませた。
「あなた方が、我らの未来を邪魔したいということが、ね」
 事も無げに言い切った遺物――オブリビオンへ、カルナもコノハも眉根を寄せる。
 結局、オブリビオンにも譲る気はさらさらない。ただ猟兵も譲らない。
 頑固な敵の意志を折るため、アリウムは強大な魔の氷を纏った。練り上げた魔術の素が、凍てつく波濤を起こす。
 凪いだ大海からは想像もつかぬ冬の荒波は、船員たちを驚愕させた。
「案ずる必要はありません! めくるめく春も生活も、すぐそこまで来ています!」
 大自然の猛威を思わせる勢いに負けじと、オブリビオンが船員たちへ激励をかける。
 困惑を表情に塗っていた船員たちも、疎らにボスの言葉を受け取り始める。
「先ずは排除しましょう。我らの楽園を阻む者たちを!」
 歓呼の声をあげる船員も未だ多い。
 アリウムは蒼氷を映した双眸を、静かに閉ざす。
 ――彼らの冬は、いつまで経っても終わらないのかもしれないね。
 だから新天地や楽園という言葉に、船員たちは心惹かれたのだろうか。嘆くにも嘆き切れずアリウムが息を吐く。
 しかし騙して集めた子どもや若者を傷つけるのを、アリウムも是とは認められない――ゴブリンに与した男たちが、たとえ心身の寒さから逃れたかっただけだとしても。
 ただでさえ、新天地や楽園、奴隷といったおぞましい単語の並びで、アリウムの心の船は揺れているというのに。

●荒波
 ナルホド、とコノハは捕らえられた若者たちを見遣り、唸る。
 大空を取り込んだかのようなコノハの瞳には、怯え、あるいは困惑に固まる子どもや若者たちが映る。
「足が付かねぇ子らを横から掻っ攫うとは……頭イイねぇ」
 コノハは声音に不敵さを秘めた。
 ゴブリンだからと侮るつもりはコノハにも無い。見目はどうあれオブリビオンに違いないのだから。
 しかし言葉を認識するだけでなく、程度はともかく悪知恵の働く相手だ。選ぶ手段にも幅が出る。
「さて。大きな街とやらは見えはしないが……」
 だからこそコノハが張り上げた声は、波音よりも強く、風音よりも鮮明だ。
「今から国でも作って、王様気取るおつもりで?」
 滑稽さを突きつけたコノハに、ゴブリンの唇が戦慄く。
 そして王の威厳を知らしめたいのか、すぐさま語例ゴブリンの群れを召喚しはじめた。
 突如として姿を現した奴隷ゴブリンの一団に――おそらく奴隷ゴブリンを目撃してこなかったであろう――船員たちが足踏みする。
 内心に流れるコノハの想いは、国造りや新天地の真偽など、どうでもよかった。
 ――どんなに鈍くても、疑問を持つぐらいはするよね。
 コノハの煽りは確かに、彼自身に刻まれた紋のごとく、現場に居合わせた人々へ雷を落としたのだ。
 どよめく人の波をよそに、猟兵たちは武器を構えた。
 尚も王気取りのゴブリンに傾注する男が居れば、カルナが鋭い爪を見せつけ咆哮する。
「引っ込んでろッ!」
 夜気をも震わす猛りに、オブリビオンでもない男たちは竦みあがった。
 ぴりぴりと走る叫びの余韻を、ゴブリンの王が掻き消そうとする。
「我らが平穏のため! 戦うのです!」
 活を入れるための言葉だが、応じたのは奴隷ゴブリンのみだ。すでに男たちは、共感を得るには遠ざかりつつある。
 その一部始終を目撃したコノハが、肩を竦めて。
「まあ、新天地とやらは諦めるンだネ」
「小癪な……!」
 苛立ちを隠せず、ゴブリンが杖の先端で砂浜を突き乱す。
 そうして意識がコノハへ逸れた隙に、離れているようにと船員へ伝え終えたアリウムが、夜にも浮かぶ青白い光を滑らせた。刃をゆく一閃は彼の精神を集中させ、いかなる闇にも挫けぬ吐息と化す。
 ――標的自ら出て来てくれるとは、なんという僥倖。
 慎重さに欠いたオブリビオンへも、抜かりなくアリウムはブレスを仕掛ける。
 海の底よりか明るく、湖面にたなびく冷気よりは低い温度の魔の呼気を吹きつければ、奴隷ゴブリンたちが縮こまったのちに消滅し、親玉のゴブリンも揃わぬ歯をガタガタと震わせた。
 そして勢いやまぬ裡、凍えた範囲の真っ只中へ、月の焔をコノハが寄せる。
 白く掲げた天の月――今でこそ雲で望めぬはずの冷たい白光が、コノハの呼び声に応じて雲間から射しこんだ。
 照らした月明かりから生じたのは無数の炎。いくつかはオブリビオンの後背へ並んで退路を断ち、残る白炎はコノハの道筋を作った。
 無言で凌ぐはずもなく、オブリビオンは再び奴隷ゴブリンの群衆を生み出す。
「ほら、あたためてあげよう」
 懐へ駆け込み与えた連撃もまた、月焔によるもので。
 至近距離で揮われた白銀の炎は、ゴブリンの杖を焼き、飛び散る火の粉で戦奴たちを焦がす。
 おのれ、と怒りに掠れた声を落とし、王の姿をしたゴブリンが船員たちをねめつける。
「役立たずばかりというわけですか……夢を達成する前に怖気付くなど!」
「よく言う」
 言葉で斬り捨てながら、カルナがオブリビオンをじっと見据える。そして。
「ひとりで何も出来ないのが、丸わかりだ」
 咆哮と共に、屈辱感を敵へ贈りつけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
※アドリブ/連携歓迎

ここまでは絶対にオレのほうが上手くやれる自信がありました。ここからは分かりません。何を考えてるのか。

……オレがまだ隠れられているなら、あちらはもう一人猟兵がいることを知りませんよね。
とすれば援護が得策でしょうか。
『忍び足』で位置取り。そこから『援護射撃』。式紙で牽制・撹乱をします。
まず一般人の方。悪事に不慣れなら足に当てるくらいで戦意を殺げそうですけれど。どうでしょう。

ボスのほうはこれに加えて、もう少し仕事をします。
『紙技・紫煙』。必要そうなときに必要そうな人へ千代紙をそのまま投げます。いっとう気紛れな式紙ですから、何が出来るのか分かりませんが。

丸投げです。文字通り。


赤星・緋色
出てきたね、ボスキャラ
あれ、でも手下を強化するっぽい能力だけど手下がいない……?

んー、一般人が何やかんやすると邪魔だから、そっちの抑え役がいなかったら一般人の対応にあたろうかな
そうじゃなければ戦闘するよ
技能コミュ力で一般人の注意をひきつけ
もっともらしい理由(嘘)で説得して敵から離しておきたいかな
「あのゴブリンは町や国家の転覆を狙うお尋ね者で、討伐対象だよ。今からあちら側に協力すれば同様に罪人、手出しをしなければ今までのことは不問になるよ」

何か色が緑っぽいし草とかみたいに燃えそうだよね
ガトリングの弾は属性炎をセット
フェイントや誘導弾を織り交ぜながら撃ち抜くよ
近くに他の猟兵がいたら援護射撃かな


鴛海・真魚
あれが王様かしら…?とても、そう……とても悪趣味。
サモニング・ガイストで素敵な人を召喚。
あなたの方が、比べられないくらい素敵で強いと思うの。
あの勘違いな王様をなんとかしましょう。

素敵な人は前衛、私は後衛から攻撃をするの。
親衛隊に囲まれないように後ろから戦況も見極めておかなきゃね。

敵の攻撃はオーラ防御で防御をするの。
見極めるけど瞬時に避ける自信はないから……。素敵な人、あなたならできるわ。

味方との協力も忘れずにするの。私に出来ることと言えば誘導弾や衝撃破で攻撃をすることだから
隙を作ることとかできないかな。力になりたいの。


ソラスティベル・グラスラン
貴方が何を企んでいたのかは知りません
悪行らしい悪行を、まだしていないのも事実
故にわたしに怒りはありません
ただ使命を持って、貴方を討ちます!
此処に連れてこられた彼らの未来を護る為に!!

【勇者理論】(防御重視)
プレリエの槍と盾を構え、いざ突撃!
ただし狙いはゴブリンキングのみ!
攻撃を【盾受け・見切り】で受け流し
炎魔法には追加で【オーラ防御】
【怪力】で強引に、只管にキングへ一直線
以上全ての行動を全力の【勇気】で補いますっ!

新天地……ボスさんはゴブリンの楽園を作りたかったのでしょうか
船員さんから負の感情は感じられなかった、本当に良く接していたのでしょう
例えそれがただの甘言だったとしても…少し、悲しいです



●溟渤
 風浪さらす船の上。男たちの足元へ、式紙が舞い降りる。
 身を隠していた矢来・夕立(無面目・f14904)による援護だ。
 ――オレのほうが上手くやれる自信がありました。
 悪事に手を染めようにも、まだ不慣れなのがあからさまな男たちだ。
 これぐらいで戦意も喪失しそうだと考えた夕立の策が、徐々に染み入っていく。
 人型の紙人形がぺたぺたと音を立てて両足に纏わりつけば、男たちの顔が青ざめ、ひぃ、と悲鳴まであがる。
 ただでさえ闇が支配する夜の時間。与する男たちを牽制するに充分だった。
 ――ここまでは、絶対に。
 夕立が積み重ねてきた想像から、現実は外れていない。
 いわば筋書き通りに事が進んでいる。
 しかし諸悪の根源である敵が出現してからは、どうなるのか夕立にも判らない。
 ともあれオブリビオンの考えることだ。猟兵として為すべき役目に変わりは無く、夕立は千代紙をいつでも放てるよう指に挟む。
「出てきたね、ボスキャラ」
 バーチャルキャラクターらしく、段階を思わせる言葉を紡いで、赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)は敵を見据えた。
 ――その割に、手下らしい手下がいないっぽいけど。
 まだ招く手前であるがゆえ、猟兵側にとって好機でもあった。
 緋色は戦闘が滞りなく進むよう、近くにいた男たちへ言葉を投げる。
「あのゴブリンは、町や国家の転覆を狙うお尋ね者。言うまでもなく討伐対象だよ」
 喋々と伝える緋色に、男たちの顔色が強張る。
「今からあちら側に協力すれば、同様に罪人」
 指差し確認しながら、緋色は続けた。
「手出しをしないなら、今までのことは不問になるよ」
 彼らの置かれた状況を知らしめれば、男たちの足も自然と戦場から遠退いていく。
 素直でよろしい、と緋色は頷いた。
 そうしている間も夜空は暗い。
 空を覆う低い雲が、どんよりと海面に圧し掛かっている。
 薄闇の下、腕を広げ堂々と立つオブリビオンの輪郭は、鴛海・真魚(恋心・f02571)に訝る心証を与えた。
「あれが……王様、かしら……?」
 真魚は嫌悪感から目を細める。
 敵をあまり長く視界に入れたくなくて、古代の勇士を召喚した。
 頼もしい仲間が増えたことにゴブリンの王を装った相手は不快感を露わにし、奴隷ゴブリンたちを呼びだす。
 真魚は奴隷のゴブリンと戦士を交互に見た。
 かつてを生きた霊であろうとも勇猛な後背は、彼女の透明な睫毛を震わせる。
「あなたの方が、比べられないくらい素敵で強いと思うの」
 そっと戦士の背を押せば槍と炎が、押し寄せた小さな奴隷ゴブリンの群れを蹴散らしていく。
「……あの勘違いな王様を、なんとかしましょう」
 古の戦士へ囁く真魚を遠目に、オブリビオンがふんと鼻を鳴らした。
 そしてゴブリンキングは親衛隊を招く。
 杖を握るメイジと、武装したナイトは王の護衛のため立ちはだかった。
「貴方が何を企んでいたのか。わたしは知りません」
 ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)が声を振り絞る。
 明るい笑顔と前向きさが常より彼女を構成していても、いざ戦いとなれば勇敢さが上回った。
「悪行らしい悪行を、まだしていないのも事実。故に、わたしに怒りはありません」
 びしりとオブリビオンへ指先を突きつけて、彼女は宣言する。
 たとえ夜の闇で双眸が隠れようとも、揺るぎない信念のままに。
「ただ使命を持って、貴方を討ちます!」
 彼女が織りなす理論は、勇者の理論。
 攻めるときは勇気を持ち、守りは気合で充たして、進むときは根性を滾らせる。
 そうして溢れた力で防御を固め、ソラスティベルの炯々たる眼光は標的を定めた。
「此処に連れてこられた彼らの、未来を護る為に!!」
 彼女の果敢な発言に、オブリビオンが苦々しく顔をしかめる。
 小憎らしいものですね、と吐いたオブリビオンの声は酷く嫌忌に満ちていた。

●波音
 風濤ざわめく陸の端。
 ゴブリンキングは無数の奴隷ゴブリンを召喚し、したり顔を浮かべた。王に似た風貌の群れが、猟兵たちの勢いを阻む。
 数の多さは厄介だと、真魚は呼び寄せた古代の戦士を見上げる。
「素敵な人、大丈夫、あなたならできるわ」
 真魚はどっしりと前に立つ古の戦士へ、青く透き通る声でそう告げ、王気取りのオブリビオンへ視線を呉れる。
 戦士の炎と槍は、奴隷ゴブリンを一掃しながら召喚主へ食らいついた。ギリッ、と敵が苛立ちを噛む。
「賢しらに口を開く者など、我らの楽園に相応しくありません!」
 己ではあると考えているのか、王者の風格を崩したくないらしく、緑の魔物が低く吼える。
 気味が悪い有様を前にして、真魚は哀れむように唇を動かす。
「……とても悪趣味」
 喉を駆けあがってきた本心は、明快ゆえに鋭利な刃となって王の心へ突き刺さる。
 ぐっ、と悔しげに見せた態度さえも、真魚にとって正視に耐えない。
 とんとん、と靴先で地を叩いて緋色は銃火器を構えた。
 ――何か草とかみたいに燃えそう。色も緑っぽいし。
 考えながら配る緋色の視界に、プレリエ、と愛竜を呼ぶソラスティベルが映った。
 だから緋色は機関銃の連射機能だけ抑制し、砲撃を開始する。
「よーし、ひっさーつ!」
 連なる装填と射撃による震動を極力削いで命中精度を高めた炎弾は、敵の眼を晦ますほどの弾道を描き、撃ち抜いた。
 バーチャル世界に於いても、物語の展開は至ってシンプルだ。
 悪事を働くキャラがいれば、その被害に遭うキャラがいて、悲嘆に暮れる彼らを助けるキャラがいる。
 そして終いには。
「ボスキャラってのは、倒される宿命にあるからね」
 緋色の言葉に、苦悶を顔に刷きゴブリンの王が喘ぐ。
 血走る敵のまなこに、もはや生気は無い。
 晴れた空に近い体色のドラゴンがくるりと旋回し、ソラスティベルの手へと吸い込まれるように舞い降りる。
 そうして彼女が握り緊めたのは、大空をも切り裂く勇ましい槍。
「いざ、突撃ですっ!」
 援護射撃の狭間を、ソラスティベルが駆ける。咄嗟にゴブリン親衛隊が身構えた。
「奴らを撃ち滅ぼしなさい!」
 王が配下を鼓舞する。
 その光景を目撃した夕立が、千代紙をつまむ。
 くゆる紫煙にも似た、いっとう気まぐれな千代紙を海風に遊ばす。
 一方、杖を掲げたゴブリンは闇夜を炎で照らし、剣や盾で武装したゴブリンはソラスティベルを押し返そうと盾を突きつける。
 しかし行く手を阻まれようとも、ソラスティベルの速力は落ちない。
 ――狙いはゴブリンキングのみ!
 華奢な体躯で構えた盾は、余りある膂力で敵の盾を叩き、揮う剣を滑らせる。
 親衛隊のゴブリンが引き戻そうとした剣も、別の角度から古代の戦士が放った炎に流される――真魚が戦士の力を伝い、誘導した炎だ。
 ――力になりたいの。
 密やかに思う真魚の意志に沿い、ゴブリンの握る剣はソラスティベルを傷つけることも叶わない。
 剣士を凌ぎ、連なり飛び込んできたゴブリンメイジの炎の球まで受け身が取れずとも、ソラスティベルは真っ直ぐ駆け抜けた。
 焼かれると予想した彼女だが、しかし炎は強風に煽られ標的を見失う。
 潮風ではない人工的な風。それを生み出したのは、紙製の団扇だ。やや歪な折り方ではあるものの、効率の良い大きさに作られた団扇が、炎の着弾点を逸らした。
 おかげで炎に苦しむことなく、ソラスティベルはオブリビオンの元へ踏み込めた。
 すかさず精一杯の勇気を矛先に乗せ、突き出す――短い沈黙が戦場を支配する。
 竜槍の矛は、守勢に回るゴブリンの王を容赦なく貫いた。
 背中だけではなく、王者の威厳として纏っていたらしき外套をも。
 そうしてゴブリンの王は、虐政を領くこともないまま潮風に溶けていった。
 跡形もなく消え去った場から、突いた槍を引き戻し、ソラスティベルは振り返る。
「千代紙、一枚」
 そこには、折り紙の団扇を呼び戻す夕立の姿があって。
「……貸しですよ」
 眼差しを地へ落としたまま、彼は告げる。
 多く礼を寄せても視線は重ならぬ気がして、ソラスティベルは、助かりましたっ、と朗らかに笑うだけに留めた。

●航跡波
 新たに掛け直されたタラップは、戦いのためでも悪事のためでもなく、人々を乗船させる足場としての役目を果たす。
 上陸していた男たちに続いて、船から降りた猟兵たちも乗り込む。
 そうして浜辺にしじまが返り、船上に人の賑わいが戻る。
 ソラスティベルは想い馳せた。
 彼女が接した乗組員からは、負の感情など伝わってこなかった。少なくとも彼らの言うボスは、彼らに良く接していたのかもしれないと、想像が走る。
 ――たとえそれが、ただの甘言だったとしても……なんだか少し、悲しいです。
 思考を振り切るべく、ソラスティベルはゆらゆらと行き先を見失った舵を見遣る。
 彼女はふと、船の先端に立つ緋色へ声をかけた。白んできた果ての明るさを浴びて、緋色の名に違わぬ赤が煌めいて見える。
「目指す方角はどっちですかっ」
 ソラスティベルの問いに、緋色が金に滲む水平線を指した。
「あっち。あっちだね」
 港町のある方角は鮮明に記録している。
 しかしデータを取り出すより早く、緋色の眼差しは遠方の街を思い起こしていた。
 息吹く人の挙動を辿るのは、彼にとって造作の無いこと。
 導き手のごとく指差した緋色に応え、ソラスティベルが大きく息を吸い込んだ。
「わかりました! さあ、面舵いっぱいですっ!」
 船首が押しのけ波を生み、突き進む。
 行きは船倉に潜んでいた夕立も、すっかり式紙たちと共に潮風を浴びていた。
 縁に貼り付き、ぱたぱたと手足を靡く紙人形たちと並んで、うねる波の果てをぼんやり眺める。航走する船の先で、金波が滲んだ。
 ――オレたちが戦っても戦わなくても、この景色は変わらないんですよね。
 事態がどう転ぼうとも世界はありのまま続く。
 時間が経てば陽は昇り、やがて沈む。その繰り返しだ。
 しかし思うところあって、夕立は船の上を一瞥した。
 オブリビオンの片棒を担いでいた男たちの反応は、様々だ。
 途方に暮れる男もいれば、諦めきって項垂れる男もいる。若者に励まされ複雑そうな面持ちの男とは反対に、じゃれつく子どもの無邪気さに心救われている男も居る。
 ――でも、この光景は確かに、オレたちの起こした結果、なんですよね。
 落ち着かず視線を流した先、二粒の紅に映す波の狭間は、光を受けつつあってもまだ暗い。
 夕立はやり場なく、陽の昇りくる方角へ背を向けた。
「まあっ」
 船尾で不意に、真魚が声をあげる。
 船の通過により生じた波のうねりで、きらきらと光の粒が踊りだす。
 海の果てで滲み出した金の輝きが、船の後ろまで届くようになったのだ。
 眺めれば自然と、若者たちや猟兵の表情も綻ぶ。
 そうして彼らは、大海原を揺られていった。
 船のひく金色の澪が、新たな始まりの朝に消えるまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月10日


挿絵イラスト