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銀河帝国攻略戦㉖～クラッキング・エス・オー・エス

作者：藤川棗

●戦史に綴る一頁
「やっほー諸君、突然だけど人命救助のミッションだよー！」
　グリモアベースに入るや否や、ウィルマ・シャーオゥ（古書のヤドリガミ・f00154）が猟兵達に声を掛けてきた。
「諸君ってば、獅子奮迅の働きでアマルテア情報艦隊とかやっつけたでしょ？　その結果、帝国旗艦インペリウムの端っこに先んじて乗り込めるようになったわけなのです。ところがどっこい、なんとそこには要救助者がてんこ盛り！」
　彼らはスペースシップワールド全域から集められた科学者や技術者であるらしい。ドクター・オロチの研究のために強制労働を強いられ、その結果として様々な知識や技術を共有しているそうだ。研究者が囚われているという科学技術センターは、銀河帝国攻略戦に直接影響する類の場所ではない。しかし、彼らを無事に保護できれば、今後の利益は計り知れないものになるだろう。
「ただいっこ注意があってネー……研究者くんを拘束してる機械があるんだけど。これを強引に壊そうとした場合、装置と連動する対象に危害が及んじゃうみたい。だから、ちょこーっとした情報戦……みたいな感じになるかな？」
　予知によれば、特定の端末にアクセスすることで研究者を安全に解放できるようだ。操作にはパスワードを要するが、その手がかりは端末上に表示されているらしい。謎解きに不安があれば、資料を用意するのも良いだろう。解放軍艦艇の通信室にも、役立ちそうなものがあったはずだ。
「正直、セキュリティとしてはだいぶ変な作りだと思うんだけど……もしかしたら、助けを求める研究者くんが限界まで簡略化した結果だったりするのかもネ。まぁ吾輩の想像だけど！」

●『0　1　0』
　科学技術センターの広々とした部屋に、銀河帝国科学技術研究の要となる巨大コンピューターが鎮座している。
　最初、それは大樹のように感じられるはずだ。ケーブルがうねりながら絡み合い、床から天井に向けて、四方八方で強固に根を張っている。細いケーブルは網状に張り巡らされ、幹に対する枝葉のように広がっていた。並列化された演算ユニットが、果実のように幾つもぶらりと垂れ下がっている。一見すると、それは実り豊かな果樹のようですらある。
　しかし、近づくごとに……猟兵達はそのおぞましさに気が付くだろう。果実のようにぶら下がる演算ユニットには、虚ろな表情をした人間が機械と融け合うように接続されていた。電子の海を漂う眼球は、時折かたかたと痙攣している。常軌を逸した生体コンピューターを支える頭脳の一部と化しながらも、研究者はまだ生きていた。

　予知によって示唆された端末を見遣れば、画面に文字の羅列が広がっている。暗号か何かのようだが……おそらく、規則性があるのだろう。正しい答えを入力できれば、部品として繋がれた者を一人助けられるはずだ。

『10100　00　01010　0100　00　1111　001　01011　01』『0011』
『1011　0110　1110　00　0001』『1010　0011　00101』
『11011　10　10111　000　111　11010』
『10100　01110　10100』『0011』
『010』『0111』『1111　10　10111　11』

第1章 冒険 『中央コンピューターの謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、救出します。 SPD   :    素早く謎の答えを導き出した後、救出した人のケアを行います。 WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、救出します。 👑3 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●『S　O　S』
　暗号や通信符号には様々な形式が存在している。ここスペースシップワールドは、猟兵達が知る世界の中でも高い技術水準をもつ方だろう。通信の暗号化であったなら、高度に複雑化した手法が無数に開発されているかも知れない。
　しかし、今対峙するこれらはそう複雑なものでもないはずだ。
「ふむん。0と1の組み合わせで何らかの文字を表すことができ、かつ組み合わせの長さがまちまち……か」
「あー！　コレ知ってる、知ってるぞ俺！　たぶん『モールス信号』ってやつだ！」
「だな。問題は0と1、どちらが短音と長音に対応しているか、という点だろうか」
　端末を前にして、ディスターブ・オフィディアン（真実を 暴く/葬る モノ・f00053）と亜儀流野・珠（狐の恩返し・f01686）の見解は合致していた。二種類の記号を組み合わせることで、複数の文字表現を可能にする有名な手法だ。そのシンプルさ故に、高速通信が可能になった世界であっても一定の汎用性を誇っているのだろう。
「変換機をお持ちでしたらばビビッとビビッと解読できそうではありますけれど！　一応一応わたくしもサクッと閃きましてでございます！」
　ディスターブの持参した機械を一瞥し、パルミリーリル・アーティルノッド（くるくる少女・f14000）がやや躁気味な様子で手を挙げる。
「おそらく0が短音、1が長音でございますとも形が形が似ておりますし、解かせるために作られた問題であればわかりやすい方がきっとお得でごっざいますよー！」
　そう一息に言ってのけたパルミリーリルだが、唐突にぴたりと硬直する。そうして少女は、冒涜的な知識の大樹を見上げた。表情に恐怖を滲ませながらも……その眼は光を失わない。
「きっと、いっぱい……くるしんでます。少しずつ、でも確実に……たすけていきましょう」
　パルミリーリルの変貌はさながら多重人格者のようだ。しかし、彼女が有する人格は一人分のみ。研究者達の有り様に心を痛める少女も、落ち着きなくまくし立てる少女もすべて、パルミリーリル・アーティルノッドという一人分の精神である。
「おう！　この戦争の中でも悪趣味な装置がいっぱいあった。無差別な恩返しが俺の信条だからな。研究者もしっかり助け……」
「あらあらでもよぉく見ると少々アーティスティックでございますねこれさぁハリーハリーハリー！　ゴーゴーでございます！」
「お、おう……なんだか変わった奴だな」
「では、オレは別パターンを先に試してみよう。文章になりそうだったら教えてくれ」
　振れ幅の大きすぎるパルミリーリルに、思わず困惑する珠。今ひとつ噛み合わないやりとりにちいさな苦笑を溢しつつ、ディスターブはモールス変換機に信号文を入力し始めた。

「てよさけよぬりきた、ふ、かまくよそ……駄目だな、こっちは意味を成しそうにない。そっちはどうだ」
「おー……点と線をずっと見てたら目がしぱしぱしてきたぞ」
　でも当たりっぽいぞ！　と、珠は誇らしげに尾を揺らす。手分けして更なる解読を進めれば、程なくして問いを示す原文が表れた。

『銀河皇帝』『の』『血族』『にのみ』『与えられし』『奇蹟』『の』『名』『を』『答えよ』

「銀河皇帝の血族のみ、というと」
「『ワープドライブ』だな！」
　端末にその単語を入力する猟兵達。すると、目の前の画面と遥か頭上から、同時に電子的な音が鳴り出した。画面には接続解除システムの応答状況が逐次表示され、頭上では次第に重量を感じさせる機械音が混ざり始める。あの高さから人体が降下したら、外傷のリスクも伴いかねない。
「機械様様、開けゴマでございます！　合点承知で予想済みですとも！」
　知識の樹からずるりと落果すると同時、その真下に向けてパルミリーリルが緩衝材を作り出した。クッションと呼ぶには歪な形をしているが、衝撃を吸収する機能には問題がないだろう。次いでディスターブが助け出された研究者の様子を診る。呼吸、脈拍ともに大きな異常はなさそうだ。
「救助成功、といったところだな。衰弱はしているので、引き揚げて専門家に任せた方が良いだろう」
「他の者たちの救助なら、俺たちに任せろ研究者よ！　まずはゆっくりと体を休めるがいい！」
　応急手当と力強い言葉を受け、助け出された研究者は口を開いた。そうしたところで声にもならない弱々しい音が漏れるばかりだが、懸命に何かを伝えようと、かさついた口唇が震えている。
　ありがとう、という言葉を形作るように見えたのは、きっと珠の見間違いではないはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月17日