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銀河帝国攻略戦㉕～不測の邂逅 ―showdown―

作者：苅間　望

●グリモアベース
「銀河帝国。それをご存じでない猟兵はいないかと思われます」
　グリモアベースにて、緑のタブレットグリモアを操作しながら、一人の女性が呟いた。
　彼女はノルナイン・エストラーシャ。ミレナリィドールのグリモア猟兵だ。
「今は正に戦争の真っ最中です。
　既に数々の猟兵たちが、様々な作戦を成功させ、道を切り開いています」
　ノルナインはタブレットから、ホログラムを映し出す。
　そこに映るのは、一つの戦艦だ。

「これは帝国旗艦『インペリウム』。敵にとっては非常に重要な戦艦です」
　旗艦なのだから当然ですね、と彼女は一言呟く。
「まあそれはそれとして。解放軍のスペースシップは、現在このインペリウムと戦闘しています」
　ほほう、と感嘆の呟きを洩らす猟兵もいれば、悩まし気な表情を見せる者もいた。
　旗艦インペリウムは、見るからに強大だ。
　解放軍のスペースシップが戦っているとのことだが、戦力の差は大きいのではないか？
　そんな疑問を感じたノルナインは、言葉を続けた。
「我々の仕事は、インペリウム内部の破壊です。戦力を削ぐための破壊工作ですね」
　ノルナインの言葉に、納得して頷く猟兵たち。
　解放軍のスペースシップとの戦力の開きは重々承知。
　故に、猟兵は解放軍の援護をする為に、インペリウム内部で破壊工作を行う、というのだ。

「まあ勿論、インペリウムは敵の旗艦。敵が居ない訳ではありません。
　皇帝親衛隊なる精鋭部隊が、内部を守っているとされます」
　しかし、とノルナインは一旦言葉を切った。
「そこは私たちグリモア猟兵の仕事。
　親衛隊は強敵なので、出来るだけ戦わずに済む位置に転移させるつもりです。
　あまり消耗するのも良くはないですからね」
　そう言うと、ノルナインはグリモアを操作してテレポートの準備をした。
「さて、依頼内容はインペリウム内部への転移後、破壊工作。
　同意できた方から転移させていきますので」
　そしてテレポートの光が、猟兵たちを包んでいく……。

●インペリウム内部
　無機質な金属の床に壁ばかりの、インペリウム内部。
　そこにふと、グリモア猟兵の転移による光が現れる。
「……成程、皇帝陛下のお言葉は本当だったという訳か」
　光を見て呟くのは……なんと、皇帝親衛隊の一人。

　地獄宇宙人アビ星人であった！

「猟兵の転移をどうやって探知したかは分からないが……しかし事実は明快。
　今ここに、猟兵たちがやってくるという事……！」
　アビ星人は即座に構え、光の方を睨みつけた。
「……猟兵よ、来るが良い。
　貴様らの思惑は今ここで潰えるのだ！」

第1章 ボス戦 『地獄宇宙人アビ星人』

POW   :    宇宙地獄近接格闘術 単純で重い【宇宙マーシャルアーツ 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 SPD   :    宇宙地獄超次元殺法 【短距離テレポートを駆使した近接格闘術 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【超高速連続攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。 WIZ   :    宇宙地獄プラズマ弾 【掌から100,000,000℃の光弾 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●なんで待ち伏せしてたの？
「クックック……さあ猟兵、いつ現れる？」
　グリモア猟兵によるテレポート光を見つめ、アビ星人は呟く。
　インペリウム内部にて仁王立ちする彼は、中々様になっていた。

「はわわ～……ここがインペリウムの内部なんですか？」
「そのようだ、転移は無事に成功したようだな」
「後は破壊工作をするだけですね」
　テレポート光から現れたるは三人の猟兵。
　無機質なインペリウム内部を見て、落ち着かない様子なのは、サラ・メリータティ。
　はわわ、はわわ～と辺りをきょろきょろ見渡し、武器でもあるメイスをぎゅうっと握りしめている。柔らかな色合いの服が、無機質な船内では中々に目立つ。
　一方、実に威風堂々たる姿で光から現れたのは、マスター・カオス。
　本体たる真っ白な仮面に、悪の首魁が好みそうな漆黒の鎧。そして簡素に豪奢、覇王の如き純白の外套。白と黒のコントラストが良く映える。
　もう既に武器を握り、ぶっ壊す準備万全なのは、ニコル・ピアース。
　大変肌色面積の多い簡素な鎧を身に纏い、構える武器は刺々しいバトルアックス。燃えるように赤い長髪を、ポニーテールに纏めている。

「来たな猟兵！
　皇帝陛下のお言葉に従い、貴様らを待っていたぞ！」
　アビ星人は、腕を組み仁王立ちで猟兵たちに対峙した。
　その様はさながら黒き門番と言ったところか。
「私は地獄宇宙人アビ星人……皇帝親衛隊の一人にして、貴様らを葬る者だ！」
　アビ星人は実に堂々と名乗りを上げた。
「はわわ～！？」
　サラはそんなアビ星人の登場に、驚きを隠さなかった。
　任務は破壊工作と聞いていた上、きょろきょろと見渡していて待ち伏せしているアビ星人に気付いていなかったのだ。
「フハハハ……これはご丁寧にどうも。我が名は、グランドフォースに導かれし、世界征服を企む秘密結社オリュンポスが大幹部、マスター・カオス！！」
　そして対抗するかと言わんばかりに、マスター・カオスは名乗りを上げ返す。
「今一度、我が解放軍の刃によって果てるがいい！！」
　伏兵だったアビ星人が現れても臆さず怯まず、自信満々に声を張り上げる。
　元より皇帝親衛隊など解放軍の敵。出会いがどうであれ戦うのが普通である。
「クックック……私をそこいらの雑兵と一緒にしてもらっては困る！
　私は古くから銀河帝国に仕え、解放軍を何度も退けたのだ。
　その実力を適切に評価して、皇帝親衛隊に……ンブベラッ！？」

　ドゴオオオオオオン！！
　気持ちよく自らの経歴をひけらかすアビ星人に、突如としてバトルアックスが叩き込まれた！
　刃物である斧でありながら、その音は重い鈍器そのもの！　破壊力抜群である！
　衝撃を受け止めきれず、アビ星人は床を跳ねながら転がっていった！

「それってつまり、アビ星人さんを倒せば、敵の戦力がぐっと下がるってことですよね」
　バトルアックスをぶち込んだのはニコル・ピアースだ。
　アビ星人は、一人で勝手にしゃべって気持ちよくなる余り、致命的なミスを犯した。
　過去の栄光に目を向けるあまり、現実の戦場から目を離してしまったのだ。
　そしてその隙に、ニコルは力を溜めて重い一撃をぶち込んだ。
　グラウンドクラッシャー。地形ごと吹き飛ばすほどの、凄まじき一撃である。
「というか、待ち伏せしてたなら先に攻撃すれば良いのに。
　何で攻撃しなかったんですか？」
　そしてそこに、ニコルの鋭い言葉が刺さる！

「バ、バカな……有り得ん……！
　こういう戦場では名乗りを上げるのが常識の筈……！」
　頭がへこんでしまったアビ星人は、図星を刺されて弱々しく反論する。
　それが彼の中でのみ通じる常識だという事は、彼も重々承知である。
　今までの彼は、その一方的な常識を振りかざして勝ち、生き延びて来たのだ。
　しかしこれからは？　猟兵たちに彼の力は通用するだろうか？

●宇宙マーシャルアーツ
「それじゃあもう一度」
　ニコルはバトルアックスを振り上げ、アビ星人へと飛びかかる。
　殴る、殴る、そして殴る。相手が倒れるまで殴りつづければ勝ち。ニコルはそう考えていた。
　単純ながら戦闘とはそういうモノである。
「ッグウ！　ただでやられてなるモノか！」
　アビ星人は弾かれたように起き上がり、拳を握り込んで振り上げた。
　拳の先に有るのはバトルアックス。
　素手で斧に対抗しようとは混乱しているのか？　否。

　ギイイイイイイン！
　金属が打ち合ったような甲高い音が鳴り響く！
　これが素手と斧のぶつかった音だというのか？　然り！
　アビ星人の宇宙マーシャルアーツは、素手でも刃物と渡り合う事が出来るのだ！

「小娘の見た目をしているくせに……重い一撃だな！」
「素手で受け止めるとか冗談でしょう。まだまだ行きますよ！」
　二人は無数に攻撃を打ち合い対峙する。
　ニコルの斧は縦横無尽に動き回り、アビ星人へと叩きつけられる。
　アビ星人は宇宙マーシャルアーツの奥義をもって、斧を弾き、或いは受け流す。
　激しい剣戟にも似た甲高い音が、間断なく鳴り響く！
「私を忘れてもらっては困るな、二人共！」
　マスター・カオスの声が響き、突如として空間に穴が開いた。
　黒々と開いた穴は、ブラックホールか何かのようにも見える。
「天より落ちし、原初の火よ！　フェンネルの火口を以って、敵を焼き尽くせ！」
　しかしマスター・カオスの詠唱が終わると、その穴から炎が溢れ出た！
　その炎は、通常の炎よりも遥かに高温で、純粋な光にも似てまばゆく輝いていた。
　それこそは正に原初の火！
　天ヨリ簒奪ス原初ノ焔火（フレイム・オブ・プロメテウス）！
「なっ！？」
「さあお見せしよう、我が秘儀を！」
　マスター・カオスの言葉と共に、原初の火はアビ星人へと襲い掛かった。
　灼熱と言っても地獄の業火と言ってもまだ足りない、凄まじき原初の火が燃え上がる！
「その程度の火……っとアッチイイ！？」
　凄まじき高温ならアビ星人も操れた。故に彼は『受け止めても大丈夫』だと判断してしまった。
　それが普通の火であれば、彼の判断は間違っていなかっただろう。
　受け止められるモノは受け止め、ニコルとの戦いに集中する事を選択したのだから。
　しかし生憎、それは原初の火。彼自身が操る高温とは、そもそも種別が違うのであった。

「ッガアアアアアアア、だがそれならばッ！！」
　アビ星人は原初の火によって燃え盛る拳で、ニコルに一撃を叩き込んだ。
　原初の火が燃え盛る拳ならば、バトルアックスでは受け止められないと判断したのだろうか？
「甘い、火は私の支配下にある！」
　しかしそれは不可能。
　原初の火は全てマスター・カオスの支配下にある。
　故に消火も意のまま、味方に燃え移ることなど元より有り得ない。
　なので彼は、味方に直撃する前に拳の火だけを消し去った。
「…………ガハッ！」
　が、それはブラフだった。
　燃え盛る拳は余りにも目立つ。そこに意識を集中させ、アビ星人は次なる手を仕込んでいた。
　結果から言えば、拳はバトルアックスで受け止められた。
　しかしその直後、足技がニコルへと命中した。
　鈍い音が響き渡る。

「命中ッ……いや、何だ！？」
　足技は間違いなくニコルに命中した。
　しかし、アビ星人は凄まじい違和感を覚えた。
　かなりの衝撃だというのに、ニコルは吹き飛びもせず、出血も無かった。
　攻撃を耐えきった？　否。そうではなかった。
「……助かりました、サラさん」
「もう大丈夫ですよ」
　ニコルの傍には、狐火が浮かんでいた。
　その狐火は、サラが呼び出したものだ。
「まさか……一瞬で回復したというのか！？」
　アビ星人は、ふと理解し驚愕した。
　攻撃を耐えきったのではない。
　キュアライト……サラのユーベルコードによって、一瞬で回復しきったのだ。
「気を取られ過ぎだぞ、アビ星人！」
「グハッ！？」
　驚愕の余り固まったアビ星人に、マスター・カオスが斬りかかった。
　聖刀銀河（ギャラクシーブレイド）の一撃が、アビ星人に直撃する。

「……ッグウウ、猟兵とは面白き存在だな！
　ここまで追い込まれたのは初めてだ！」
　アビ星人はよろめきながらも、猟兵たちを睨み返した。

　待ち伏せでも関係はない。
　猟兵たちは、鋭き一手を打ち込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●待ち伏せに意味は無し
「あらあら、依頼と違いますね」
　転移して目の前に広がる光景を見て言うのは、戦場外院・晶。
　依頼内容は破壊工作。
　しかし立ちふさがるのは、アビ星人。
　既に転移した猟兵によって、かなり痛手を受けているようだった。

「――成程。状況は理解した」
　転移して早々、緋翠・華乃音は呟いた。
　依頼の内容とは違うが、先に来た猟兵たちはアビ星人と戦っている。
　となれば、今優先されるのは、少なくとも破壊工作ではない。
　目の前に居る敵の撃破だ。

「どう思いますか、華乃音様。転移が読まれていたのでしょうか」
「だろうな。こちらから攻撃を仕掛ける理由はない」
　晶の問いに、華乃音は怜悧な声で答えた。
　転移が読まれていた、という事は、彼にとって驚くべきことではなかった。
　予知は此方に出来て相手に出来ない、などと考えている訳ではないのだ。
　故に、華乃音は即座に状況に対応した。

（――目を瞑って、耳を塞いで……それが叶うのなら、どれだけ幸せな事だろうか）

　華乃音は特異体質である視覚と聴覚を活性化していく。
　同時に、それらの感覚を統括する脳の演算機能が向上していく。
　その視覚と聴覚は、常人には到底理解できぬほどに強化されていた。
　そして脳の演算機能向上により、得た情報を正確に受け取り、推理を行う。
　未来予知にも等しい、推理を。
　音亡き夜を好む彼にとって、この戦場は酷く騒がしく猥雑で――。

　――故に、全てが手に取る様に分かるのだった。

「俺は後ろに下がる」
「はい。分かりました」
　華乃音の言葉に、晶は微笑んで頷いた。
　そして内心必勝を祈りつつ、アビ星人と向かい合う。
「何と増援か！？　くう、ここまでは予想してなかった！」
　アビ星人は遅ればせながら、ようやく二人に気付いた様子。
　頭のへこんだ彼は、自分の常識を振りかざし、口上をぶち上げる。
「私は地獄宇宙人アビ星人！　やはりこの宇宙は皇帝陛下に統べられる必要がある！
　貴様ら猟兵に挫かれてなるものか！」
　熱意と気合籠る発言に、晶は柔和な微笑みで以て答えた。
「あび星人様、ですね……戦場外院・晶にございます。
　……どうぞ、よしなに」
「此方こそ。しかし貴様らはここで死ぬのだ！」
　アビ星人はそう叫び、掌を向けた。

　しかし。
　一筋の弾丸が、アビ星人に着弾した。

「――援護する」
　後方に下がった華乃音による狙撃だ。
　構えているのは流星を模した狙撃銃『to be alone』だ。
「感謝いたします」
　晶はそう言うと、静々と前へ出た。

「ッチイ、ならばこうだ！」
　アビ星人は走り出し、晶へと向かった。
　拳を握り込み、足に力を入れ、宇宙マーシャルアーツを叩き込むために。
「宇宙まーしゃるあーつ……堪能させて頂きます！」
　晶はオーラで身を包み、防御態勢を整える。
「ハァァァァアッ！！」
　そしてアビ星人は裂帛の気合いと共に拳を振るう。

　だが、拳は当たらない。
　しかも気付けば、晶の手と握手しているではないか。

「――――何ッ！？」
「手を繋ぐことを、只管磨いているもので」
　晶は微笑み、アビ星人を見つめた。
　やったことは簡単だ。
　拳を受け流し、同時に指を開き、手を握る。
　ただ、一連の流れが余りに早すぎて、アビ星人の理解が追いつかなかったのだ。
　しかもかなりの力が込められており、宇宙マーシャルアーツを極めしアビ星人にすら容易に振りほどけない。
　恐るべきは晶の力である。

「プラズマ……撃てるでしょうか。試してみては？」
　柔和な笑みで晶が言う。
　確かにアビ星人には、掌から超々高温のプラズマ弾を放つという技があった。
　しかしこうも手を握り込まれていては、中々にやりづらいというもの。
　勿論不可能ではない。
　プラズマ弾は彼自身を傷つけないため、撃ち放題である。
「……舐めるなッ！」
　故に彼は挑発に乗り、プラズマをチャージしようとする――。

　――が、その刹那、拳が顔面に叩き込まれた。

「……そこです」
「タブラハッ！？」
　中々奇妙なうめき声をあげ、アビ星人がのけ反る。
　しかし晶が凄まじい力で彼を引き戻し、再び拳を叩き込んだ。
「……いざ、勝負。殴り合いと、参りましょう？」
「ま、待て、貴様ブグハッ！？」
　拳を一つ握られ、封じられたアビ星人は思うように動けず。
　一方で、手を握り慣れている晶は動き放題だった。
　大技を打とうとすれば打撃で乱し。
　身体を動かせば、掴みかかって姿勢を崩す。

　しかも隙間を縫って、弾丸がアビ星人に飛んでくる。
　華乃音による援護射撃だ。
　【No title night.（ムメイノヨル）】を展開している彼にとって、誤射せず撃ち抜くなど容易い事だ。
（……あそこまでパワフルな尼さんだとは、思わなかったけどな）
　そう思いながら、彼は再び引き金を引く。

　もはやこうなってしまえば時間の問題。
　アビ星人は一分も経たずにボコボコにされ、息絶えた。

●次なる一手
　猟兵たちはひとまず皇帝親衛隊なるアビ星人をボコボコに打ち倒した。
　しかし、ここは敵の旗艦『インペリウム』。
　騒ぎを聞きつけて、様々な兵士がやってきた。

　一旦引こう。
　そう言ったのは誰であったか。
　誰でも良い。だが全員その発言に従い、強制転移で離脱したのであった。

　皇帝親衛隊の一人を倒したのだ。戦果としては十分だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月20日