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ウォッチュ・ゴーン・ドゥ

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層

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#第三層


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●幸せ
『魂人』たちは皆、心に温かいものを持つ。
 それは幸せな記憶。
 ダークセイヴァー世界の記憶はどれも辛く厳しいものばかりであった。けれど、暗闇の中でこそ光が強く輝くように、ひとしずくのごとき尊くも温かな思い出が彼らの死を否定する。
『永劫回帰』。
 それがダークセイヴァー上層にありて『魂人』たちが存在できるたった一つの理由であった。

 だが、死を否定するなど容易なことではない。
 死を否定するには彼らの持つ温かな記憶をトラウマに変える必要がある。記憶をすり減らして彼らは生きる。
 何かを失い続けるのが生命であるというのならば、正しく彼らは失い続けていた。
「理由になってない」
 そう呟く。
 一人の『魂人』の青年が呟く。
 生きるのに困難なのは、いつだってそうだ。変わらぬ現実だ。
 けれど、湧き上がる言葉がある。

「『戦いに際しては心に平和を』。その言葉の意味を俺はもう知っている」
 青年の黒髪が風に揺れていた。
 白磁のように白い肌は、『闇の種族』ですら羨む美しさを持っていた。
 翡翠の如き瞳は暗闇の中であっても輝いているように思えた。
 彼の心に温かな記憶は形のないものとして存在していたのだろう。それを誰かのために擦り減らしてしまうことに躊躇いはない。

「己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力」
 不思議と心から湧き上がるものがある。
 意味などわからなくてもいい。
 彼は周囲を見回す。此処は『魂人』たちの集落だ。かつて『楽園』と呼ばれた集落から落ち延びてきた人々と、これまで『闇の種族』にあらがっていた者たちが集まってなんとか城壁を築き上げた場所。
 彼はゆっくりと息を吸う。
『闇の種族』たちは誤解をしている。
 此処に生きる人々は温かな記憶をすり減らすばかりではないのだ。失い続けているばかりではないのだ。

 彼らは生きている。
「生きているということは、失うことじゃあない。湧き上がるものがあるはずだ。温かな記憶はすり減らすものじゃあない。『今』から『未来』に作り上げていくものだ――」

●祝福
「幸せなんだろうな。わかるよ。生まれてきたこと、その喜び」
 一人の『闇の種族』が下層より這い出すようにして上層たる第三層に現れたヴァンパイアの一団を見やる。
 近くで見ているわけではない。
 はるか遠くから見ている。
 彼らは自分に謁見しようとしているのだ。彼らは上質な『魂人』たちを第三層から送り出してくれた。
 恐怖は僅かな幸福を鮮烈なものに変えてくれる。
 不安は不確かな未来を強烈なものに変えてくれる。
 そうすることによって『魂人』たちは転生し、その『永劫回帰』のちからを振るう。

「上質なものを養殖してくれたんだ。労ってやらねばならないからな。どんなものにも報酬は与えなければならない。それも此処までたどり着ければの話だが」
 その『闇の種族』の口元が裂けるようにして歪む。
 それは狼の顎。
 歪んでいるのは笑っているからだ。
 彼は笑っている。これから起こるであろう欺瞞と傲慢が綯い交ぜになった者たちが起こす悲劇に笑うのだ――。

●永劫回帰戦線
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はダークセイヴァー上層。ですが、皆さんが相対するのは第四層……つまり、今まで私達が地上であったと思っていた地下から第三層に上がってくるオブリビオンです」
 ナイアルテの言葉に猟兵たちは頷く。
 ダークセイヴァー世界は積層世界である。
 今回の事件が予知された第三層は、通称『ダークセイヴァー上層』と呼ばれている。

「『魂人』の皆さんは、強大なオブリビオン『闇の種族』によって迫害されていますが、皆さんはユーベルコード『永劫回帰』のちからによってどうにか村落や城塞を築くことができています。ですが、『魂人』の皆さんがやっとの思いで築いた城塞を『下層からやってきたオブの軍勢』が攻め落とそうとしています」
 第三層と第四層のオブリビオンが結託している、ということであろうか。いや、違う。第四層のオブリビオンは何らかの功績によって『上層を訪れること』を認められているようなのだ。
『魂人』の城塞を攻め落とそうとしているのは、『闇の種族』に面会する際の手土産にしたいのだろう。

「『魂人』の皆さんは確かにある程度の強さを持っています。ですが、それは『永劫回帰』在りき。このままでは全ての幸せな記憶を破壊され、発狂してしまうでしょう。そうなる前に下層よりやってきたオブリビオンの軍勢を撃破して頂きたいのです」
 下層のオブリビオンたちは、この上層に招かれるだけあって精鋭と呼ぶにふさわしいものたちである。
 同時に『魂人』たちも自分たちの領域を守るために『永劫回帰』のちからを使って迎え撃とうとしている。
 その戦力は馬鹿にできたものではない。
 ときには彼らの力を借りることもあるかもしれない。

「そして、このオブリビオンの軍勢を率いている下層のオブリビオンは、どうやら『第五の貴族』と呼ばれる難敵である可能性が高いようです。恐らく『紋章』を有し、強大存在のはずです」
 だが、ナイアルテは頭を振る。
『紋章持ち』とは言え、弱点はある。
「かの『第五の貴族』が持っている『紋章』は『月狼の紋章』である。その紋章はオブリビオンを超強化する力であるが、理性を失っている、という弱点を持つ。
 このオブリビオンと戦う時は、『理性を失っている』という点に留意すれば、攻略の緒が見えてくるはずだ。

「……私の予知は此処までです。ですが、『第五の貴族』を迎え入れようとしている『闇の種族』がこのまま彼らを見捨てるとも考えにくいものです。どうかお気をつけになってください」
 ナイアルテはひどく嫌なものを感じるようで、猟兵たちに注意を促す。
 それが如何なるものであったとしても、猟兵たちは踏み出すことをためらわないだろう。
『魂人』たちを救うため。
 無辜なる者たちがこれ以上理不尽に奪われないためには、時に危険を承知であっても飛び込まねばならぬ窮地があるのだ――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 ダークセイヴァー上層に訪れる下層のオブリビオンの軍勢。『第五の貴族』たるオブリビオンが持つ『紋章』は『月狼の紋章』。
 強大なる力でもって『魂人』たちの仮初の安息を引き裂こうとしているオブリビオンたちを打倒するシナリオになります。

●第一章
 集団戦です。
『魂人』たちが築き上げた城塞を取り囲む下層オブリビオンの軍勢、『マージナル・ビースト』との戦いです。
 第五層から第三層に訪れることを許されるだけあって精鋭です。
『魂人』たちも戦おうとしています。また彼らはユーベルコード『永劫回帰』によって頼れる戦力として期待もできます。

●第二章
 ボス戦です。
 下層オブリビオンの軍勢を率いている『月狼の紋章』を持つ『ヴァンパイア』との戦いとなります。
 この『ヴァンパイア』は『第五の貴族』でり、寄生型オブリビオンである『紋章』のちからを有しています。
『月狼の紋章』は、『ヴァンパイア』の身体能力を超強化しています。
 ですが、『理性を失っている』ため、このことを利用すればプレイングボーナスとして戦いを優位に進めることができるでしょう。

●第三章
 ボス戦です。
 第二章で対峙した『ヴァンパイア』は皆さんの活躍でもって打倒したかに思えましたが、どこか遠くに存在してるであろう『闇の種族のひとり』が戯れに『ヴァンパイア』に力を注ぎ、圧倒的な力で皆さんに襲いかかってきます。
『紋章』は喪われていますが、前章よりも遥かに強いです。
『魂人』たちのユーベルコード『永劫回帰』のちからを借りなければ、到底勝利することはできません。結果も芳しくなく、最悪の結果を招く形になるかもしれません。

 それでは美しき地獄、更に続く地獄、その中で尚生きることを諦めない『魂人』を救うために戦う皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 集団戦 『マージナル・ビースト』

POW   :    黒の剛腕
単純で重い【岩をも砕く強靭な剛腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    冷たき炎
【強靭な顎を開き吐き出す、凍える炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【冷たき】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    血に猛る獣
攻撃が命中した対象に【濃厚な血の匂い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と群がる仲間のビースト】による追加攻撃を与え続ける。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 狼頭の如き獣人たちが第四層から第三層へと這い出してくる。
「ウウウウゥ――」
 唸るようにしながら彼らは進む。
 理性などない。あるのは目の前の生きとし生けるもの全てを虐げなければならないという歪んだ嗜虐心のみ。
 彼らが求めるのは『魂人』たちの血肉。
 それを手土産に『闇の種族』との謁見に臨まなければならない。彼らの主が求めたことだった。

『マージナル・ビースト』たちは進む。
 狼頭の口元、ぞろりと並ぶ牙の間からよだれをこぼしながら、血に飢えた眼光を走らせる。城壁が見える。真新しい城壁だ。あそこに人がいる。『魂人』がいると直ぐに知ることができるだろう。
「ウウウウォ!!!!!」
 咆哮が轟く。

 だが、その咆哮を前にして『魂人』たちは誰もが恐れを為すことをしなかった。
「もう、うんざりなんだ。何かに怯えるのは。何かを恐れるのは。俺達がお前たちにどれだけ痛めつけられたと思っている」
『魂人』たちは、その手に次々と武器を取って城壁から『マージナル・ビースト』を睥睨する。
 かつては殺されるしかなかった。
 自分たちの生命は塵芥と同じだった。
 けれど、今の彼らには力がある。『永劫回帰』。死を否定するユーベルコード。
 その力によって彼らは生きることを諦めない。

 例え、ここが永劫に続く地獄であったとしてもだ。
「諦めてなるものか! 俺達は、俺達の生を生き抜く。お前たちが奪おうとしても、最後の最後まで抵抗してやる。お前たちの思い通りになるものなど、此処には何一つない――!」
七那原・望
上層にいようと下層にいようと、更にその下にいようと、お前達のやることなんて少しも変わらないではありませんか。
対象が魂人か生者かの違いだけ。
なのにわざわざ昇って来るなんて理解に苦しみますね。

果実変性・ウィッシーズモノクロームを発動したら第六感で敵の行動を見切り、こちらに攻撃が来たタイミングで空間跳躍で回避しつつ、カウンターの全力魔法、くろとしろの早業や乱れ打ちによる連携攻撃で追撃を狙う他のビースト共々蹂躙します。

また、魂人を攻撃から護るためアマービレで呼んだねこさん達の多重詠唱結界術も展開しておきます。

また会いましたね。希望を捨ててないようで何よりです。

その力はちゃんと恐れてほしいのですけどね。



 常闇の世界、ダークセイヴァー。
 それは積層世界。もしも、階層が意味を持つのならば、上層と下層を隔てるものは一体なんであったことだろうか。
 意味があるのか。
 それともないのか。どちらにせよ、七那原・望(封印されし果実・f04836)は眼帯の奥の瞳をユーベルコードに輝かせる。
 果実変性・ウィッシーズモノクローム(トランス・ウィッシーズモノクローム)。
 彼女のユーベルコードは彼女と瓜二つの双子を召喚する。
「わたしは望む……ウィッシーズモノクローム!くろ、しろ、力を貸してください!」
「くろにおまかせですっ!」
「しろにもおまかせですぅ!」

 彼女と瓜二つの双子たちは、一斉に駆け出す。
 迫るはオブリビオン『マージナル・ビースト』。狼の頭を持つ獣人たちは、血に飢えていた。
「ウォオオオ――!!!!」
 狂えるように彼らは咆哮する。
 獣の口元からはよだれをたらし、『魂人』たちの築き上げた城壁を乗り越えんとしているのだ。
「上層にいようと下層にいようと、更にその下にいようと、お前たちのやることなんて少しも変わらないではありませんか」
 望はくろとしろと共に空間跳躍する。
 それは三位一体の奇襲。

 くろの振るう妖刀が煌めき、しろの歩兵銃から弾丸が走る。
「対象が『魂人』か生者かの違いだけ」
 望は白杖を振るって、猫たちを呼び出す。
『マージナル・ビースト』たちが何を求めて上層に、第三層に這い出してきたのかなど望には関係のないことであった。
 倒さなければならない。
 オブリビオンが、ヴァンパイアが今を生きる人々を苦しめるのならば、彼らを救わなければならない。
 猫たちが奏でる泣き声は多重詠唱の結界術となって城壁に取り付いた『マージナル・ビースト』たちを弾き飛ばしていく。

「結界……援軍か」
「また会いましたね。希望を捨ててないようで何よりです」
 望は城壁の上に立つ『魂人』の隣に降り立つ。
 青年。黒髪と翡翠の瞳を持つ白い肌の青年。彼とは何度目かの邂逅であった。彼の言葉に望は頷く。
 戦うことは生きること。
 絶望に屈することなく、今まで『魂人』として生きているその時間は猟兵たちが守ったものだ。

「恐れるのをやめただけだ」
「その力はちゃんと恐れて欲しいのですけどね」
 望は『永劫回帰』のことを言う。
 それは『魂人』たちにとって必須のユーベルコードだ。それがなければ、この第三層では『魂人』たちは生きていくことができない。
 だが、その力には代償が伴う。

 死を否定する力は、温かな記憶をトラウマに変える。
 それがどんなに恐ろしいことなのかを望は知っている。代償にする記憶がなくなった時が『魂人』の死である。
 だからこそ、使わないでほしいと願うのは当然のことだった。
「正しく恐れるのならば、恐れもまた力の内だろう」
 だから、と青年は前を向く。
 望は頼もしいと思っただろうか。

 しかし、彼女の猟兵としての勘が告げている。
 第四層から這い出してきた、登ってきたヴァンパイアならば問題にはならないだろう。けれど、それらを凌駕するものが後ろに控えているのならば。
 望自らの力では足りないかもしれない。
 敗北することも在り得るかもしれない。
 その時、彼らは、『魂人』は躊躇わず『永劫回帰』を使うだろう。望は、それを望まないかもしれない。

 共に戦う意思があるのならば。
『魂人』は守られるだけの存在ではないだろう。
 望は、この先選択を強いられるだろう。今は、まだ。けれど、いつか必ず――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
何が来るとしてもやることは変わらぬ

状況は『天光』で逐一把握
守りは煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し害ある全てを世界の外へ破棄
要らぬ余波は『無現』にて消去
全行程必要魔力は『超克』で骸の海すら超えた“世界の外”から常時供給

天楼にて捕獲
原理を編み「迷宮に囚われた」概念で縛る論理の牢獄に閉じ込める
対象は戦域のオブリビオン及びその全行動
それ以外は対象外ゆえ影響皆無
構築した迷宮を『再帰』で無限に循環させ無数の迷宮の多重拘束で速やかな排除を図る

出口は自身に設定
万一辿り着く個体があれば白打で
破壊の原理を乗せ無限加速した打撃で討つ

※アドリブ歓迎



 咆哮が襲い来るようであった。
『魂人』たちが築き上げた城壁。それはユーベルコード『永劫回帰』がなければ成り立つことのなかった城壁だった。
 彼らは死を否定する。
 例え、生前の温かな記憶をトラウマに変えたとしても。
 そうすることでしか、この転生した地獄であるダークセイヴァー上層は生き抜くことができぬと知っているからである。
「ウォオオオ――!!!」
 狼頭の獣人『マージナル・ビースト』たちが一斉に城壁に取り付く。

 けれど、『魂人』たちもただ無抵抗であるわけがない。
 自分たちが守らねばならぬのは尊厳である。戦わなければ生きることができないというのならば、彼らは躊躇わない。
「何が来るとしてもやることは変わらぬ」
 蒼い淡光が戦場を席巻する。
 纏う十一の原理は、無限に廻る。 
 害意在るものを全て消去するユーベルコードの輝きは、天楼(テンロウ)たる迷宮となって『マージナル・ビースト』たちを取り込んでいく。

 それは、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の言葉であり、力であった。
 原理は、十一。
 原理を編み『迷宮に囚われた』概念で縛る論理の牢獄。
 存在を消去する自壊の原理が『マージナル・ビースト』たちを蝕んでいく。
「惑え」
 小さくアルトリウスは呟く。

 彼の言葉は『マージナル・ビースト』たちに届くことはなかっただろう。
 構築したユーベルコードの迷宮は高い硬度を持っている。例え、『マージナル・ビースト』たちが強烈な攻撃手段を有していたとしても、永遠に続くかのような迷宮の中では、拘束されているのと同義であった。
 そして、存在を消去する自壊の原理は彼らを逃さない。
「惑え、そして悟るがいい。此処より逃れるためには出口を探さねばならぬことを」

 そう、破壊できないのならば迷宮を突破するしかない。
 アルトリウスは己を出口に設定している。
 己を打倒することができれば、この迷宮は踏破できる。そして、彼らが求める『魂人』たちの血肉にありつくことができるだろう。
 けれど、それは為し得ることのできない事象。
「無駄だ」
 アルトリウスは踏み込む。
 放つ一撃が『マージナル・ビースト』の体をしたたかに打ち据える。
 破壊の原理を乗せ、無限加速した打撃の一撃は、自壊仕掛けている『マージナル・ビースト』たちをたやすく撃ち抜くだろう。

「お前たちがどんなに狂っていようとも、どんなにこの道の先に求めるものがあるのだとしても。決して辿り着くことはできない」
 膨大な魔力がアルトリウスに流れ込んでいく。
 世界の外側から組み上げる魔力は尽きることはない。
 ただの一体たりとてオブリビオンは『魂人』たちに近づけさせない。

 彼らの目的がなんであれ、第三層に生きる彼らに害しかなさないことはアルトリウスも理解している。
 だからこそ、この迷宮の中で『マージナル・ビースト』たちは朽ちていくしかない。
 この戦いで『魂人』たちの戦いは終わりではないのだ。
 切り抜けた先にこそ、本当の戦いが待っている。それを猟兵であるアルトリウスはどうすることもできない。
 それらをどうにかすることができるのは、いつだって当事者たちだけだ。
 だからこそ、アルトリウスは彼らに降りかかる災厄、即ちオブリビオンの脅威をこそ払うのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・バルダーヌ
魂人の皆さんの城塞……第三層にもこのような場所があるんですね!
これまで何度繰り返したかわかりませんけど、彼らの暴虐が続くなら、そして諦めない方々がいるのなら、これからだって何度でも言いましょう。
そこに希望がある限り、必ず護ってみせます!

敵の攻撃をサイキック【オーラで防御】しながら、前面に出て味方を【かばう】ように立ち回ります。
標的がこちらに集中するなら、護る上では好都合です。
【A.C.ネメシスブレイズ】によるその名通りの【カウンター】で、一体残らず燃やして差し上げましょう。
(元は暴走時用のUCですが現在は制御可能)

耐久力には自信がありますから、『永劫回帰』はそう簡単には使わせませんよ。



 ダークセイヴァー第三層。
 いわゆる上層と呼ばれる場所である。常闇の世界は、太陽昇らぬ世界ではない。
 ただ、天と思っていた空は天井でしかなかった。
 此処は地下。
 かつて地上だと思っていた世界ですら第四層。
 さらに上に三層の世界が広がっている。そして、その第三層こそが第四層にて生命を全うした人々にとっての美しき地獄。

『魂人』たちは絶望しただろう。
 弄ばれるだけの人生であったはずだ。だが、死がそれを救済するはずだったのだ。
 だが、待っていたのは、新たなる地獄。
 生命弄ばれることが彼らの宿命であったのならば、彼らの身に宿るユーベルコード『永劫回帰』は死を否定する力。
「『魂人』の皆さんの城塞……第三層にもこのような場所があるんですね!」
 レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は、オブリビオン『マージナル・ビースト』たちが群がる『魂人』たちが築き上げた城壁を見やる。

 彼らは生きることを諦めていない。
 一体どれだけの失敗を積み重ねたのだろう。何度繰り返したのだろう。
 けれど、彼らは諦めない。
 第四層で『闇の救済者』たちがヴァンパイア支配に抗うように、この第三層においても『闇の種族』の支配に打ち勝とうという意思があるのだ。
 ならば、レナータは躊躇わない。
「そこに希望が在る限り、必ず護ってみせます!」
 その言葉はこれから何度だって告げる言葉であった。
 決して違えてはならない言葉だった。守ると決めたのならば、レナータは飛び込む。
「ウォオオオ――!!!」
『マージナル・ビースト』たちの咆哮は恐ろしいものであった。

 まるで目の前に生きとし生けるもの全てを許さぬとばかりに、血肉に変えるべく強靭な拳を振るう。
 その一撃をサイキックオーラで受け止めながらレナータは戦う『魂人』たちをかばう。
「……ッ! なんで、俺達をかばって……!」
「俺達なら大丈夫だ!『永劫回帰』の力がある!」
 けれど、それは万能の力ではない。
 死を否定する力ではあるが、代償に彼らの温かな記憶をトラウマに変えるものであった。だからこそ、レナータは彼らにそれを使わせるわけにはいかなかった。

 簡単に使わせてはならない。
 この戦場においてレナータはそれを決意している。
「ウォオオオ――!!!」
「どんなに恐ろしい咆哮だろうと!」
 彼女の瞳がユーベルコードに輝き、『マージナル・ビースト』を見やる。
 己の身に突き刺さる害意。
 それは殺意ともいえるものであったことだろう。彼らにとってレナータは『魂人』よりも優先すべき敵であった。
 オブリビオンにとって猟兵とは不倶戴天の敵。滅ぼし、滅ぼされる間柄でしかないからこそ、彼女に攻撃が集中する。
 だが、レナータの瞳は輝き続ける。

 本来ならば、そのユーベルコードは制御できない暴走する力であった。
 けれど、彼女はそれを制御している
 燃える。
 燃える。
 燃やすのは、己の中にある心だ。
「一体残らず燃やして差し上げましょう」
 A.C.ネメシスブレイズ(オートカウンター・ネメシスブレイズ)。本来は害意を向けた者に対するカウンター。
 今は、己が敵と定めた者に対する念動発火。

『マージナル・ビースト』たちは困惑しただろう。
 自らの身体より発せられる炎。噴出する炎を止めることができない。燃え盛る。血の一滴すらも焼き尽くすほどの炎が、彼らの体を燃やしていく。
「わたしの後ろに下がってください。此処はわたしが引き受けますから」
 レナータは微笑む。
 耐久力には自身があるのだ。
 彼らの力はまさに切り札だ。死を否定する力。けれど、その切り札を切る時ではない。今は。

 レナータは立ち続ける。
 決めたことだ。決心したことだ。どうしようもない未来を。転生して尚、弄ばれる生命を守るために立ち向かうために彼女の力はある。
 ならばこそ。
 彼女の力は正しく制御されている。
 もう二度と彼女は彼女自身の力に翻弄されることはない。制御してみせる。そうすると彼女が決めたのだからこそ、暗闇の世界に篝火のように彼女の炎は立ち上る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・スペルティナ
ふふん、ここが何層だろうが結局関係ありませんわ
「ここの支配者のやり方が気に入らない」、それだけでじゅーっぶん、ですわ!

魂人たちの手出しは無用ですわ。想いで己を支える魂人には、恐らくこの血は毒と同じ
下手に巻き込めば「命」の保証はありませんもの

前に出てUCを使用、呪血の竜鎧を纏い、新兵器「ヒルフェ」を取り出して起動!
攻撃は第六感に従い見切って回避、避けきれなければ……我慢ですわ!
流血で敵が集うのも好都合ですし、負傷しても呪血を周囲に撒き、呪詛を浴びせ、冥呪の強化を得たヒルフェで叩き切り、生命力を吸収して戦闘続行ですわ!

さあ、かかってきなさいな
その想いも命もこの冥呪が全て飲み込んでしまいますわよ!!



 人が戦うのには理由がいる。
 誰かのためであったり、自分のためであったり。
 その理由があれば人は戦い続けることができる。猟兵、メリー・スペルティナ(暗澹たる慈雨の淑女(自称)・f26478)は一体なんの理由で戦うのであったか。
「ここの支配者のやり方が気に入らない」
 それはシンプルな理由であった。

 ここがダークセイヴァーの何層であったとしても関係のないことであった。
 気に入らない。
『闇の種族』の『魂人』たちを玩具にして弄ぶやり方が気に入らない。
 戦うのには、それで
「それだけでじゅーっぶん、ですわ!」
 メリーは咆哮轟く戦場に飛び込む。
『魂人』たちはオブリビオン『マージナル・ビースト』たちと戦っている。
 彼らはもうダークセイヴァー第四層で虐げられるだけの無力な人間ではなかった。皮肉なことに、この美しき地獄ともいえる第三層に転生することによって死を否定するユーベルコード『永劫回帰』の力を得たのだ。

「『魂人』さんたちは、手出し無用ですわ」
 メリーの言葉に『魂人』たちが動揺する。
 自分たちも戦えるはずだと言っている。メリーもそれがわかっている。だが、自らの力は、想いをもって己を支える彼らにとって毒と同じなのだ。
「だが……!」
「恐らくこの血は毒と同じ。下手に巻き込めば『命』の保証はありませんの」
 だから、離れていてくれ、とメリーの体を取り囲むのは呪詛と負の感情を喰らう呪血。

「汝死者の想いを貪り、そして終末の刻までその呪いを背負う者……さあ起きるのですわ」
 ユーベルコードに輝く瞳が告げる。
 そう、それは、告死呪装:血の底に澱む冥呪(ニーズヘグ)。
 竜鎧をまとったメリーは『マージナル・ビースト』たちに負けぬほどの唸り声を上げる新兵器『ヒルフェ』――そのチェーンソー剣を振るう。
「ウォオオオ――!!!」
『マージナル・ビースト』たちもまた負けてはいない。
 どれだけメリーが負の感情を喰らう鎧を纏うのだとしても、彼らは第三層に上がることを許された精鋭。
 負ける理由などないとばかりにメリーに襲いかかる。

 だが、彼女の瞳は輝く。
 拳に、牙に、爪に。
 どれだけの傷を追うのだとしても、彼女は一歩も引くことはなかった。
 血潮が飛ぶ。だが、その血潮は呪詛。
「|好都合《我慢》ですわ!」
 満ちる。
 満ちていく。己の体の中に力が満ちていく。メリーに掴みかかった『マージナル・ビースト』たちは、次々と倒れ伏していく。
 何が起こったのか理解できなかっただろう。

 彼女の身にまとう呪詛は、生命力を吸収し続ける。
 どれだけ傷を追うのだとしても、彼女の|竜鎧《ニーズヘグ》は、彼女に敵対する者も、彼女の周囲にあるものも全て飲み込まんとする。
 だからこそ、彼女は『魂人』たちを遠ざけたのだ。
「さあ、かかってきなさいな。その想いも命もこの冥呪が全て飲み込んでしまいますわよ!!」
 手にしたチェーンソー剣を振るう。
 それは慟哭の如き駆動音を響かせ、迫る『マージナル・ビースト』たちを切り裂き、打倒していく。

「わたくしが気に入らない。理由なんてそれだけでいいのですわ!」
 呪詛を撒き散らし、そして、その呪詛でもって強化されたメリーを止められる『マージナル・ビースト』などいなかった。
 負の感情、呪詛、それらが彼女の力へと変わっていく。
 回転する結晶刃が『マージナル・ビースト』たちの咆哮を絶叫に変え、さらなる獲物を求めるように、血風荒ぶ戦場を舞い踊るように振るわれるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・アルブス
【ステラさんと】

ス、ステラさん、ほんとにここに匂ったんですか?
なんだかわたしたちとても場違いなテンションなんですが……。

ステラさんの犬レーダーに感知された場所に来てみたら、
みんなすっごくシリアスな雰囲気。
ステラさんとは真逆の意味で、やべー気がします。

こ、これは真面目にやらないとダメな感じですよ?
ステラさんできますか? わたし自信ないです!

なんだかだんだん勇者的にあるまじき発言が増えてる気もしますが、
そこはもう得意不得意の世界なので、諦めてください(誰が)

諦めてくれないステラさんに|リードして《放り込んで》もらい、
歌で『魂人』さんを含めたみなさまを支援。

ステラさんの|叫び《愛》はUCですし……。


ステラ・タタリクス
【ルクス様と】
ルクス様、落ち着いてください
場違いなのは百も承知です
ですが……『戦いに際しては心に平和を』
こんな|言葉《『ステラほいほい』》を聞いてしまったなら
|メイド《犬》としては駆け付けないわけにはいかないのです

いいですか?ルクス様
あなたは光の勇者なのです
このような|危機《シリアス》を乗り越えられなくて
|世界を救え《借金を返せ》ますか?
というか早く戦闘態勢
敵の群れに放り込みますよ?

ルクス様の支援を受けて私は突っ込みます
懐に飛び込めばこちらのもの
【スクロペトゥム・フォルマ】で超接近戦
回避しながら打撃と銃撃の連撃を叩き込みます

やかましい!吠えるな!
叫んでいいのは愛だけです!
誰がやべーメイドですか



 ダークセイヴァー上層。
 それは美しき地獄。常闇の世界ダークセイヴァーより繋がる上層世界は、正しくそう形容するのがふさわしい地獄であった。
 第四層たるダークセイヴァーより死して転生した人々は第三層に至り『魂人』として生まれ変わる。
 それは苦しみや悲しみからの解放ではなかった。
 支配者が変わる。
 ただそれだけのことであったのだ。
『闇の種族』たちは『魂人』たちを弄ぶ。その魂に宿ったユーベルコード『永劫回帰』を持って、死を否定する彼らを弄び、温かな記憶をトラウマに変えてすり減るまで弄ぶ。
 謂わば、頑丈な玩具そのものであったのだ。

「す、ステラさん、ほんとうにここに匂ったんですか? なんだかわたしたちとても場違いなテンションなんですが……」
 ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)はとても動揺していた。おちゃらけていい雰囲気じゃないと察していたのかも知れない。
「ルクス様、落ち着いてください。場違いなのは百も承知です」
 承知だったんだ、とルクスはちょっと半眼になる。
 しかし、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は構わず続ける。握りこぶしさえ握っていた。
 何がそこまで彼女にさせるのだろうか。

「『戦いに際しては心に平和を』こんな|言葉《『ステラほいほい』》を聞いてしまったなら、|メイド《犬》としては駆けつけないわけにはいかないのです」
「えぇ……」
 ルクスは半眼を完全に閉じていた。目も当てられないとはこのことである。
 ステラの犬レーダーに感知された場所に来てみたら、みんなすっごくシリアスなのである。
 ステラとは別の意味でやべー場所に来てしまったと後悔しきりでした。
 そんでもって、これは真面目にやらないとダメな感じだと遠く聞こえる『マージナル・ビースト』の咆哮に肩を震わせる。
『魂人』たちの勇ましい声も聞こえる。
 どう考えてもコメディ畑の人が来ていい世界じゃないとルクスは思ったのだ。

「こ、これは真面目にやらないとダメな感じですよ? ステラさんできますか? わたし自信ないです!」
 思わずぶっちゃけてしまった。
 できそうもない。こんな重たく冷たいシリアスな空気! 体に絶対に良くない! とルクスは思ったのだ。
 けれど、ステラは神妙な顔で言うのだ。
「いいですか? ルクス様。あなたは光の勇者なのです。このような|危機《シリアス》を乗り越えられなくて|世界を救え《借金返せ》ますか?」

 ルビでいちいち台無しな顔である。
「というか早く戦闘態勢。敵の群れに放り込みますよ」
「どう考えても諦めてもらえない感じですね!?」
 ルクスは此処の所勇者的にあるまじき発言が増えている。気がするのではない。増えているのである。如実に増えているのだ。
 だがしかし、ルクスは諦めてもらおうと思った。
 どう考えても不得意。
 ルクス的に不得意。得意不得意は誰にだってあるもの。諦めて、と言っても状況がそれを許してはくれない。

 狂乱するように咆哮しながら『マージナル・ビースト』たちが突っ込んでくる。
 あーもー、どうしようもないやつである。
「私が突っ込みますから支援を」
「支援? 支援って、えっと、えっと、あーと、えーと!」
 あれでもないこれでもない。なんだっけ! と大慌てでルクスは、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
「サウンド・オブ・パワー! これで勇者ですから! 皆さんの希望を背負って立つのが役目です!」
 その声は歌声に成り代わる。
 勇者とは、その存在そのものが人々を鼓舞するものである。
 故に、ルクスは謳う。

 生命を謳歌するために。弄ばれるだけではないために。
 その歌声を受けてステラは『マージナル・ビースト』たちに飛び込んでいく。
「撃つだけが銃の使い方では無い、そのことを教えてあげましょう」
「ウォオオオ――!!」
「やかましい! 吠えるな! 叫んでいいのは愛だけです!」
 ステラの両手にある拳銃が凄まじい勢いで弾丸を放ち、打撃を打ち込み、さらに『マージナル・ビースト』たちを吹き飛ばしていく。
 銃を手にしていながら接近戦を行う彼女の姿は暴風そのものであった。

「ステラさんの|叫び《愛》はユーベルコードですし……」
「誰がやべーメイドですか!」
「言ってませんよ!?」
 思って入るけど、とルクスは思った。
 ステラのやる気のボルテージはマックスである。これが愛。これがメイド。
 ちょっと普通のメイドは奉仕の心とかそういうののはずであるが、紫メイドはそうではないのである。
 彼女が敬愛するご主人さまのために。
 ただそのためだけに、とステラはこのシリアスなダークセイヴァー上層の世界に嵐を巻き起こす。

 その中心にありてルクスはもう、この空気から一生逃れることができないのだなと、諦観するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
うん。生活は捨ててない。いいな。それはいいことだ
おれはきみたちの歩みを止めはしないよ。きみたちは未来を恐れない。永劫回帰にも臆さない。それは強さだ。それは力だ。だが、使うのはまだだ。今じゃない
城塞の下には家屋が建ち、村落は都市となる。此処を守って、先に進んでも、また帰ってこないと。拠点の点検管理は大事だからなー

へえ、下層からきた奴等は上に憧れているのか? この世界に太陽を求めて進むおれと似ているなー。炎だってそうだ。道を阻むなら退ける、も一緒だろう。ようこそ、其処はきみの終着点だ
手始めに氷槍を投擲してみるけど、どうかな。相性が悪そうなら炎の魔術に切り替える。とにかく前に出て、後方を魂人に頼みたいな! 後ろが危ないと思ったら、下がってカバーにいくよ
おれに火炎耐性はないが、反撃する意思はある。それにカウンターってのはタイミングが重要だからなー
反射ができれば、鈍りは生じる。おれごと相手を貫いていてくれたら御の字だ
身から出た結晶体は魔力の塊。一度触れれば最後まで反抗は終わらないし、終わらせねえぜ



 ユーベルコード『永劫回帰』。
 それはダークセイヴァー上層に転生した『魂人』たち全てが備える力であった。死を否定する力故に彼らはこうして城壁を築き、この美しき地獄を生きている。
 ダークセイヴァーにおいて人間の生命は塵芥と同じであった。
 支配者であるヴァンパイアから虐げられるだけの存在であった。
 敗北とはそういうことである。
 生命を生命とも認識されない。勝者の自由にされてしまう。それが敗者というものである。
 故に彼らは苦しみと悲しみに苛まれていた。
 死は救済だった。
 それらから逃れることのできる唯一。だが、違ったのだ。死して尚、苦しみと痛み、悲しみ、恐怖から開放されることはなかった。

「うん。生活は捨てない。いいな。それはいいことだ」
 ギヨーム・エペー(f20226)は城壁の上で『魂人』たちを見る。
 彼らは生きている。
 あらゆる艱難辛苦が彼らを襲うのだとしても、彼らは逃げるのではなく立ち向かうことを選んだのだ。
 例え、それが失う続けることになるのだとしても、それでも彼らは立ち向かう。
 その勇気が、心が、ギヨームの胸を打つ。

「おれはきみたちの歩みを止めやしないよ。きみたちは未来を恐れない。永劫回帰にも臆さない。それは強さだ。それは力だ」
 だが、とギヨームは『魂人』の青年を手で制する。
「だが、使うのはまだだ。今じゃない」
「じゃあ、いつだというんだ」
 その言葉にギヨームは笑う。
 そう、これからだと言うのだ。城壁の中には家屋が立ち並び、村落は都市となる。此処を守ることで先に進む道がある。
 それは帰路だ。
 それはとても大事なことなのだとギヨームはやっぱり笑っていうのだ。

 この美しき地獄に似つかわしい笑顔であったことだろう。
 彼は走る。
 冷たき炎を噴出させ、咆哮する『マージナル・ビースト』の群れへと飛び込むのだ。
「ウォオオオ――!!!」
 咆哮は、『魂人』たちの血肉を求めている。
『闇の種族』に謁見するため、その手土産にするために『魂人』たちの血肉を求めているのだ。
「へえ、下層から来た奴らは上に憧れているのか?」
 放つ氷の槍が冷たき炎と激突して溶けて消えていく。
 炎と氷。
 温度の差はあれど、やはり相性は悪い。炎の魔術に切り替え、ギヨームは走る。

「この世界に太陽を求めて進むおれとにているなー。炎だってそうだ。道を阻むのなら退ける、も一緒だろう」
 炎の魔術がほとばしり、冷たい炎と激突する。
 だが、迸る咆哮は炎を後押ししてギヨームの体を包み込むだろう。
 その炎は彼の肉体を焼く。
 だが、いつまで立ってもギヨームが滅びることはなかった。何故ならば。

「ようこそ、其処はきみの終着点だ」
 炎が吹き荒れる。
 冷たい炎も、魔術に寄る炎も綯い交ぜとなって彼の周囲を吹きすさび『マージナル・ビースト』たちを焼滅していく。
 彼の皮膚より現れているのは氷結晶の鱗。
 あらゆるものを反射する結晶の鱗は、如何なる攻撃も無意味にする。

 反射された炎は『マージナル・ビースト』たちの咆哮を飲み込んでいく。
 皮膚を突き破って飛び出す鱗は、その結晶体は魔力の塊そのもの。
 反射し続ける。
 どれだけ炎が、その爪が、牙がギヨームを襲うのだとしても、全てが須らく跳ね返されていく。
「もはや最後まで反抗は終わらないし、終わらせねえぜ」
 踏み出す。
 一歩を、前に、ただ前に進む。
『魂人』がそうであったように、ギヨームもまた前に進む。

 ヴァンパイアたちが上層を目指すのと同じだ。
 進み続けなければならない。
 荒れ狂う炎と共にギヨームは空を見上げる。この第三層でも同じだ。空はない。太陽はない。
 あるのは天井だけだ。
「なら、そこまで必ず征くさ」
 求めてやまないもの。
 太陽。
 この世界にもきっとあるはずなのだ。その求めてやまぬものを得るために、ギヨームは歩みを止めない。

 どんな困難が満ちているのだとしても。
 どんな悲しみが待ち受けているのだとしても。
 それを乗り越えていく者たちがいるのならば、ギヨームの心が折れてしまうことなどあってはならないのだと言うように、冷たい炎も、何もかも巻き込んでギヨームは超克、その先へと一歩を踏み出し、オブリビオンを焼き尽くすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。

イラスト:伊藤あいはち

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 胸に輝くは『月狼の紋章』。
 寄生型オブリビオン。それが紋章であり、その紋章を持つオブリビオンは強大な力を有する。
 第四層から第三層に登ることを許された『第五の貴族』たる『ヴァンパイア』もまた、同様であった。
 強大な力。
 圧倒的な身体能力。
 強力なユーベルコード。
 どれをとっても強敵難敵と呼ぶにふさわしいものであった。
「グオオオオオ――!!!!」

 だが、その瞳に理知はない。在るのは狂気だけであった。
 今の彼はただ狂おしいまでの衝動に襲われ続けている。超強化を果たす代償として、『ヴァンパイア』は理性を失っている。
 目につく全てを鏖殺する。
 ただそれだけのために彼は己の力を振るう。
『魂人』の血肉などどうでもいいのだ。ただ殺し尽くすことができればいい。己の中にある衝動を満たせればいい。
 故に彼は狂ったように咆哮する。
「殺す。殺す。殺し殲す! 生命在るもの全てを殺し殲す!!」
 暴風のように吹き荒れる殺気が、戦場に満ちていく。

『魂人』たちは、そのおぞましき姿に転生する前の凄惨なる記憶を刺激されたかもしれない。
 だが、猟兵達は躊躇わないだろう。
 前に進むことも。
 傷つくことも。
 自分ではない誰かが徒に傷つけられることを嫌うものならばこそ、目の前の殺戮を齎す装置に成り下がった狂乱の『ヴァンパイア』を許してはおけないのだから――。
アルトリウス・セレスタイト
貴族と称す割に高貴さが足りんぞ

状況は『天光』で逐一把握
守りは煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し害ある全てを世界の外へ破棄
要らぬ余波は『無現』にて消去
全行程必要魔力は『超克』で骸の海すら超えた“世界の外”から常時供給

破界で掃討
対象は召喚物含む戦域のオブリビオン及びその全行動
それ以外は「障害」故に無視され影響皆無

原理を廻し高速詠唱を無限に加速、循環
瞬刻で天を覆う数の魔弾を生成、斉射
更に射出の瞬間を無限循環。戦域を魔弾の軌跡で埋め尽くす

創生し最古の理に例外はない
凌げるなど夢にも思わぬことだ

通過点に時間などかけておれぬ
早々に退場しろ

※アドリブ歓迎



 胸に輝くのは『月狼の紋章』。
 寄生型オブリビオン。それが紋章である。紋章つきのヴァンパイアは強大な力を振るう。それはこれまでダークセイヴァー世界で戦ってきた猟兵であれば知ることができた事実であろう。
『月狼の紋章』を持つ『ヴァンパイア』もまたそうであった。
 じりじりと相対するだけで肌を焼くような殺気。
 迸る咆哮は、敵意に満ちている。
「殺す」
 短く告げる言葉。
 理性など何処にもない。
 あるのは目につく全てを鏖殺せずには居られないという狂気のみ。

 走る影のコウモリが『魂人』たちを捉える。
 彼にとって『魂人』とは動く血肉でしかない。これより謁見する『闇の種族』に対する手土産でしかないのだ。
「お前たちの生命に意味などない。玩具、それ以上の意味など」
 咆哮と共に『ヴァンパイア』は走る。

 速い。だが、『魂人』たちもむざむざやられる気はない。
「貴族と称す割に高貴さが足りんぞ」
 その言葉とともに『魂人』に襲いかからんとしていた『ヴァンパイア』に放たれるは蒼光の魔弾。
 それは障害を無視し万象を根源から消去する破界(ハカイ)の力。
「グルゥオオオオ――!!」
 それは痛みか、それとも怒りか。
『ヴァンパイア』が咆哮し、魔弾を放つアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の姿を捉える。

 放つ魔弾が『ヴァンパイア』のはなった影の蝙蝠を打ちのめし、消滅させる。
「創世し最古の理に例外はない」
 アルトリウスの周囲に浮かぶのは蒼光の魔弾。
 満ちていく魔弾。それはこの常闇の世界にあって青空の如きまばゆい輝きを放つものであった。
「凌げるなど夢にも思わぬことだ」
 放たれる魔弾の雨。
 それが『ヴァンパイア』を打ちのめしていく。
 超強化された肉体は魔弾の一撃を受け止める。だが、その強化された力を万象を根源から消去する魔弾は打ち消していく。

 穿ち、吹き飛ばす。
 けれど、再生する『ヴァンパイア』の肉体。だが、それすらも打ち消すように魔弾の雨が降り注ぐ。
「通過点に時間などかけておれぬ。早々に退場しろ」
 にべにもなくアルトリウスは告げる。
『第五の貴族』とて、この第三層においては伺いを立てる者である。
 その存在が今も何処かで見ているのならば、これを警戒しなければならない。ダークセイヴァー世界で猛威を奮った『第五の貴族』。
 その力は本物だ。

 だからこそ、それ以上の力を持つという『闇の種族』に打ち勝つことができなければ、『魂人』を救うことなど夢のまた夢である。
「だからこそ通過点」
 アルトリウスにとって、目指すべき道筋があるのならば、全てが通過点になるだろう。
 魔弾の雨に撃たれながらも咆哮する『ヴァンパイア』。
 それを聞くつもりなどないアルトリウスは圧倒的な物量でもって『ヴァンパイア』をその場に釘付けにするのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
やはり理解に苦しみますね。理性もなく目の前の生き物を殺し尽くしたいだけなら、わざわざ此処に来なくても先の獣とでも共食いしてれば満足でしょうに。

敵の紋章の位置は胸ですか。
第六感で敵の行動を見切り、回避を。

魂人は先と同様にねこさん達の多重詠唱結界術で護ります。

理性がないならユニゾンに魔力を溜めながらセプテットとオラトリオで少し牽制でもすればすぐにこちらに注目が行くでしょう。

もちろん回避は優先ですけど正直あの敵のユーベルコードなら怖くない。死ねなんてルール、無茶振りすぎて殆どダメージないでしょうし。

限界を超えて魔力を溜めたら速やかに敵の胸元目掛けて全力魔法のLux desireを放ち紋章を貫きます。



 魔弾の雨が『ヴァンパイア』を戦場に釘付けにする。
 かの『ヴァンパイア』は『第五の貴族』。
 その胸に輝く紋章は『月狼の紋章』であり、肉体を超強化していた。
 恐るべき身体能力である。例え、強化の力を削がれても尚、その肉体は再生していく。強靭な肉体を誇示するように『ヴァンパイア』は咆哮する。
「生命など我等の、『闇の種族』の玩具に過ぎない。力あるものだけが、全てを手に入れられるのだ!!」
 それは己もそうでありたいという歪んだ願望であったのかもしれない。

 その瞳にあったのは狂気。
 ただ目の前の生命を鏖殺するためだけに。そのためだけに力を振るう者。
「やはり理解に苦しみますね。理性もなく目の前の生き物を殺し尽くしたいだけなら、わざわざ此処に来なくても先の獣とでも共食いしてれば満足でしょうに」
 七那原・望(封印されし果実・f04836)は、心底理解できなかった。
 ただ殺し殲したい。
 生命を。ただ徒に殺したいと願うだけの存在。それは『魂人』とも第四層に生きる人々にとっても相容れぬものである。

 だからこそ、望は怒りでもなく、ただ呆れ果てるのだ。
「『月狼の紋章』……位置はやはり胸ですか」
 望は眼帯に覆われながらも、その位置を気取ると襲い来る『ヴァンパイア』に顔を向ける。
 振るわれる拳。
 ユーベルコードですらない拳ですら、凄まじい速度を持っている。多重に張り巡らされた結界が砕かれる音がする。
 理性無く。
 ただ狂乱のままに目の前の生命を殺す。それが『月狼の紋章』によって理性を失った『ヴァンパイア』の至上命題であった。

「理性がないのなら」
 手にした黄金のりんごに魔力を籠めていく。
 影が放たれ、大型合体銃が分離して『ヴァンパイア』を取り囲む。牽制の射撃であったとしても、自らを攻撃するものに対して理性無き存在は反応する。
 囮、誘導であると理性があるのならば理解できたかもしれないが、理性無き『月狼の紋章』を持つ『ヴァンパイア』にはそれができない。
 引き離すようにして分離した合体銃と影が『ヴァンパイア』をひきつけていく。

「誓約書のユーベルコードも意味がない。身体能力は脅威ですが、それだけ……」
 ルールを付与し、破るとダメージを与える誓約書。
 それは理性なき者にとっては無意味な力。
 だからこそ、こんな単純な誘導にも惹きつけられてしまう。そして、望が魔力を籠めるユニゾンにも気がつくことができない。
 煌めくユーベルコードの輝きが満ちていく。
『魂人』は四層で救済を求めた者たちの転生した姿だ。

 苦しみ、悲しみ、痛み、恐怖。
 あらゆる負の感情が彼らの生を蝕んだ。死は解放でも救済でもなかった。この上層においてさえも、彼らの生命は己たちの生命ではなかったのだ。
 上位たる存在の玩具。
 弄ばれるためだけに転生したかのような状況。
 世界は何一つ生命に優しくはない。
 けれど、彼らは望んでいるのだ。望はそれを知っている。だからこそ。
「全ての望みを束ねて……!」

 煌めくユーベルコードは、Lux desire(ルクス・デザイア)。
 真核たるユニゾン、黄金の果実より放たれる膨大な光の奔流が『ヴァンパイア』を捉える。
 今更気がついた所で襲い。
 分離した合体銃から弾丸が放たれ、影たちが『ヴァンパイア』の足元に縋り付くようにして、その場に縫い止める。
 圧倒的な光の奔流が『ヴァンパイア』を飲み込んでいく。
「――!!!」
 声ならぬ咆哮が聞こえる。
 生命を奪うことだけに力を使う者と、生命を守るために力を使う者。
 その何よりも深き溝を埋めるものなど、此処には何一つない。

 在るのは、滅ぼすか滅ぼされるかのみ。
 望は、『魂人』たちの生命が理不尽に奪われぬためにこそ戦う。放つ光の奔流は、その礎となるように暗闇の世界をましろに照らすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
理性は保てよ。それじゃあ、此処に辿り着く意味も無くなってしまう。どうでもいいならこっちに来い。此方に来ずともおれから向かう。きみが行く先におれは居る。立ち塞がる壁をきみはどう破壊する?
彼の誓約書よりも先に、彼自身と目を合わせる。けども、おれのは遅効性だ。狂気も劣る。だが理性では勝っているし、劣るだけで負けているとは思わない

きみが敷くルールとはなんだ? もう宣告したのか? おれにもわかる言葉で言えたのかそれは。言葉と共に、細剣を突き立てていく。きみの気に障らないようにするのがきみのルールなら、おれはとうに破っている事だろう。それが何だ。壁はまだ倒壊などしていない
きみも生命だ。おれにとってはな。ならばきみが言った全ての内に入るだろ。其処を退け



 放たれた光の奔流の中から咆哮が聞こえる。
『第五の貴族』たる『ヴァンパイア』に理性はない。
 何故ならば、彼は強大な力と引き換えに理性を失っている。それが『月狼の紋章』の力であった。
 その力で彼はこれまで下層において暴虐なる行いを意のままに行ってきた。
 即ち殺すこと。
 殺し殲すこと。
 生命あるものすべてを鏖殺することこそが、彼の目的。
 理性など必要ない。かなぐり捨てていいものであった。理由などないのだ。生命を殺すことに意味などない。
 喰らうことでもなければ、生きるためでもない。

 ただ殺し殲すことに快楽の如き喜びを覚えているのだ。
「理性は保てよ」
 ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)は、光の奔流の中から飛び出す『ヴァンパイア』をみやり告げる。
 彼の瞳に映る『ヴァンパイア』はどのような存在であっただろうか。
 ギヨームはダンピールである。人と交わったヴァンパイアの落胤。
「それじゃあ、此処にたどりつく意味もなくなってしまう」
「どうでもいいことだ。殺すことに比べれば!」
 迫る『ヴァンパイア』の速度は凄まじいものであった。
 身体強化される『月狼の紋章』は理性を喪わせる。だが、それを補って有り余る超強化された身体能力がギヨームに迫る。

「どうでもいいなら――」
 ギヨームは前に踏み出す。
 自分を狙わなくても、自分が前に進めばいい。
『ヴァンパイア』が求めていたのは第三層に登ることであったのだろうか。その目的のために彼は生きていたのだろうか。いや、生きとし生けるもの全てを鏖殺しようとしていたのか。
 そんな思考は意味がない。
 何故ならば。
「きみが行く先におれは居る。立ちふさがる壁をきみはどう破壊する」
 己は立ちふさがる壁だ。
『第五の貴族』が求めた上へと至るための道筋に立ちふさがった壁一枚。

 ばらまかれる誓約書。
 だが、それに意味がないことをギヨームはしっていた。これは目くらましにのもならない。
「顔を上げて、前を見るんだ」
 ギヨームの瞳に、その紫の瞳に在るのは狂気の閃光。
 その閃光はユーベルコードの輝き。満ちる光は、命令の言葉。単純な言葉だった。
「落ち着いて、目をそらさないで、此方を見ろ」
 その言葉は先程の言葉と重なるだろう。
 戦いにおいて何の役にも立たない言葉であった。だが、ギヨームの言葉は、力ある言葉。言葉とは感じることができたのならば、言葉以上の意味を持つ。
 狂気など『ヴァンパイア』にとってはどうでもいいことだった。

 狂気そのものに染まっているから。
 同じ色に染まっているからこそ、遅れたのだ。判断が。ギヨームのユーベルコードはゆっくりと『ヴァンパイア』の体を蝕む。
 だが、狂気でいうのならば、ギヨームに『ヴァンパイア』は勝っている。だが、紫瞳をユーベルコードに輝かせるギヨームは負けてはいないと思った。
「劣るだけだ」
 けれど、負けない。
 人は殺されてしまう。たやすく強大な力の前に屈するだろう。殺されてしまうだろう。けれど、負けるようにはできていない。

 半分が人間。
 混じったもの。それが自分だ。けれど、半分は、そう。負けるようにはできていない。抗うように出来ている。
「きみが敷くルールとはなんだ? もう宣告したのか? おれにもわかる言葉で言えたのかそれは」
 ギヨームは走る。
 放つ細剣の一撃と『ヴァンパイア』の振り下ろした腕が交錯する。
 刀身が串刺しにするように『ヴァンパイア』の掌から腕を貫いている。滴る血があれど、それすらも気にする様子もない。
 痛みもないのか。それとも気にすることもないのか。
 どちらにしろ、ギヨームは笑う。

「何を笑っている!」
 命のやり取りに。いや、笑うのは己だけの特権であると『ヴァンパイア』は咆哮する。 
 だが、それでもギヨームは笑っている。
「きみがルールを敷くのならば、おれはとうに破っていることだろう」
 だが、ギヨームは走る。
 細剣を引き抜き、『ヴァンパイア』の視界から消える。それは単純な命令の不履行。目をそらさず己を見ろという命令。
 それに反した存在は、そのルール故に奪われるのだ。
 体温を。
 運動能力を。
 判断能力を。

 その一切合財を剥奪したギヨームは『ヴァンパイア』の肉体を蹴り飛ばす。
「それがなんだ。壁はまだ倒壊などしていない。きみも生命だ。おれにとってはな」
 ならば、とギヨームの瞳は輝く。
 手にした細剣が暗闇の世界に刹那の輝きを齎す。

「ならばきみが言った全てのうちに入るだろ」
 ギヨームが踏み込み、細剣の剣閃が走る。それは『ヴァンパイア』の首元を切り裂く一撃。
 鮮血が迸る。
 その血に意味はないのかも知れない。
 けれど、たしかに『ヴァンパイア』が奪ってきたものがある。生きとし生けるもの全ての生命。
 鏖殺することだけが彼の目的であるというのならば、ギヨームは壁としてではなく、一人の猟兵として言うのだ。
「其処を退け」
 振るう斬撃が『ヴァンパイア』の体を刻む。

 奪い続けたのならば、奪われ続ける。
 それを証明するようにギヨームの剣閃が血潮を受けて煌めき続ける――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・アルブス
【ステラさんと】

ステラさん、どんどん|シリアス《苦手分野》になっていってますよ。
このままだとわたしたちの存在が世界に拒否されるのも時間の問題です。

って、なんだか物騒な人がいますね。
『戦いに際しては心に平和を』とは真逆な感じです。

まずはあれをなんとかしないといけないですね。
勇者レーダーに引っかかるんですよ!

たぶんあれは闇の者です。
光の勇者として放っておけません!

ということにしておいてもらえませんか?
どうにも最近勇者感薄くて。

無駄にイケメンであぶないこと叫んでますし、
そういうことにしてくださいよぅ。

わたし、光を纏ってピアノで殴りますから!

タイプ?
わたし、ちっちゃくてかわいくてぺったんがいいです。


ステラ・タタリクス
【ルクス様と】
ルクス様落ち着いてください
確かにこの世界は私たちが生きていくには厳しい
しかし私は何でもできるクールなメイドでもあるので
意外と適応していると自負しています
あれ?私もそちら側ですか?
アレ(ヴァンパイア)よりは理性があると思うのですが

いえ、その直感信じましょう
ここはルクス様の出番ですね
ああいう方が好みのタイプだとは思いませんでした
お任せします

とはいうものの、さて
改めて見てみると
私、支援系のツールやユーベルコード無いですね?
メイドとしてこれは問題なのでは?
とりあえず【メイドズ・ホワイト】からの
『ニゲル・プラティヌム』乱れ撃ち制圧射撃で援護射撃しましょう
今ですルクス様
そのピアノで圧殺です!



「ステラさん、どんどん|シリアス《苦手分野》になっていってますよ」
 ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は動揺していた。それはもう明らかに動揺していた。
 もうびっくりするくらいに動揺していた。
 彼女にとって、このダークセイヴァー上層世界の雰囲気は肌には合わなかったようである。拒絶反応こそでていないが、どうにもこうにも慣れないのである。
 今までがびっくりするくらいコメディ色が強かったものだから、その温度差にやられてしまっているのかもしれない。
「このままだとわたしたちの存在が世界に拒否されるのも時間の問題です」
「ルクス様落ち着いてください」
 ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)はメイドとして、また同伴者としてルクスの肩を掴む。

 思いの外その力は強いものであった。
「確かにこの世界は私達が生きていくのは厳しい」
 いや、誰であってもダークセイヴァー上層は生きるのが難しい世界である。強大な『闇の種族』。
 悪意と狂気が渦巻く美しき地獄にあって人々は『永劫回帰』の力無くば死を否定する事もできないだろう。 
 だが、ステラはうなずく。
 なんだか自信たっぷりな表情にルクスは首をかしげる。
 何を持ってそんな自信が湧き出てくるのだろうか。無根拠すぎると思ったかもしれない。
「しかし私は何でもできるクールなメイドでもあるので、意外と適応していると自負しています」
 え、とルクスは思った。

 だが、同時にそれをかき消す咆哮が轟く。
『第五の貴族』たる『ヴァンパイア』の咆哮だ。猟兵たちの攻勢によって傷を負っているがそれでも尚吹き荒れる重圧は本物であった。
 あの紋章、『月狼の紋章』の力故であろう。
「オオオオオ――!!!!」
 迸る力はユーベルコードとなって豪奢な刀剣を宙に回せる。
 空を埋め尽くす刀剣が一斉にルクスとステラのコメディを断ち切るように振るわれるのだ。
「なんだか物騒な人が居ますね」
 ルクスとステラ。どちらも『ヴァンパイア』にとっては打倒すべき存在である。ステラ的には自分もルクス側と認識されたのがなんとなく気に食わなかった。

 いやまあ、『ヴァンパイア』よりは理性があると自負はしている。いやあるかなぁ。ないような気がするなぁ。特定の何かが絡んだ時のステラはちょっと理性的とはいい難い気がするんだけど。
「まずはあれをなんとかしないといけないですね。勇者レーダーに引っかかるんですよ!」 
 なにそれ初耳。
 そんなんあったっけ、と思った。だが、ルクスの胸にも宿るものがある。『戦いに際しては心に平和を』。その言葉の意味をルクスは理解しているだろう。
『ヴァンパイア』が齎すのはそれとは真逆なる未来だ。
 ならばこそ、ルクスは確信するのだ。

「たぶんあれは闇の者です。光の勇者として放ってはおけません!」
 多分初出の勇者レーダーにステラは懐疑的であったけれど、その直感を信じずにはいられなかった。こういう時のルクスは直感タイプであるがゆえに、その判断にまちがいはないのだから。
「ここはルクス様の出番ですね」
「ということにしておいてもらえませんか! どうにも最近勇者感薄くて」
 最近の活躍を思い返す。
 勇者。
 勇者……勇者、とは? 宇宙の深淵を覗いたかのような気持ちになってしまうものである。だがしかし、ルクスは、その瞳をユーベルコードに輝かせる。

「無駄にイケメンで危ない雄叫びをあげていますし、そういうことにしておいてくださいよぅ」
 無駄にまばゆい光と集中線をまとったルクスは、光の勇者、ここに来臨!(ユウシャトウジョウ)と叫ぶ。
 叫ぶだけでいいのだからお手軽と言えばお手軽である。
 しかしながら、彼女の勇者としての力はユーベルコードに寄って確実に発露している。光り輝く力は、兎にも角にも勇者であった。

「支援するのはメイドの嗜み……」
 ステラは宣言する。
 メイドってなんだっけと思わないでもない。ルビに犬と振っていたりするところからして、もうなんていうか、それ違うやつじゃないかなぁって疑惑が噴出しているかもしれないしそうでないかもしれない。
 ともあれ、ステラのユーベルコードは黒と白金の2丁拳銃が『ヴァンパイア』に向けられる。
 乱れ打たれる弾丸は、制圧射撃。
 されど、『月狼の紋章』によって超強化された『ヴァンパイア』は、尽くを躱すだろう。
 なんたる身体能力。
 だが、それすらもステラにとっては、織り込み済みであった。

 今の彼女は超有能なスーパーメイドなのだ。誰がなんと言おうとスーパーメイドなのである。
 異論は認めない。
「しかし、以外でした。ああいう方がタイプだとは想いませんでした。おまかせします」
 ステラは、『ヴァンパイア』のことをイケメンだと言ったルクスに感心する。
 やっぱり面食いでしたか、と。
 だが、ルクスはピンと来ていないようであった。
 なんのことだろうかという顔をしながら、光纏いながら巨大なピアノを振り上げている。

 勇者感。おい、勇者感。どこに行ったんだい。
 勇者っぽいのは集中線と光だけであった。振るうピアノはもはや楽器ではない。ただの鈍器である。
 理性を失っている『ヴァンパイア』にとって、それは突っ込みを入れることなどできない迫力であった。
「タイプ? わたし、ちっちゃくてかわいくてぺったんがいいです」
 到底勇者とは思えないセリフを言いながらルクスはされど、その勇者のちからの発露の証明たる一撃でもって『ヴァンパイア』を圧殺するように光るグランドピアノの一撃を叩き込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メリー・スペルティナ
あの様子ではUCより警戒すべきは単純な戦闘能力
さっきのダメージもありますし、意識を集中させ第六感と闇に紛れての回避と迎撃、血晶石による罠を中心に戦いますわ
血晶石の罠、わたくしの負傷による流血、一つでもそこから呪詛が届けば、それを起点にUCを!

わたくしのような高貴さの欠片もない戦い方ですけど(※ツッコミ禁止)、
紋章持ちの第五の貴族というからには相応の“成果”を挙げてきたのでしょう?
……貴方が記憶さえしていなくとも、相手が既にこの世の者でなかろうとも、想いは時に死をも超越して、確かな力となるのですわよ?

貴方へと向けられた敵意、怒り、恨み……その全てを紅き刃と成し、その紋章、貫いて差し上げますわ!



「ウォオオオ――!!!」
 圧殺されるかの如き一撃を受けながらも『ヴァンパイア』は立ち上がる。
『第五の貴族』と呼ばれ『月狼の紋章』によって超強化された身体能力は凄まじいものであった。猟兵たちの攻勢を受けて尚、彼は立ち上がり咆哮を迸らせる。
『魂人』たちを血肉に変えるまで、彼は戦いをやめることはないだろう。
 ただ殺し殲すためだけに彼は存在しているのだ。
 狂気に駆られた『ヴァンパイア』は、己の体がぼろぼろになっても立ち上がってくるだろう。

「やはり警戒すべきはユーベルコードではない……あの単純な戦闘能力」
 メリー・スペルティナ(暗澹たる慈雨の淑女(自称)・f26478)は痛み走る己の体、その傷口を抑えながら『ヴァンパイア』を見やる。
 咆哮が傷口に触る。
 痛みが走る。
 けれど、意識はハッキリとしている。今メリーが何をしなければならないのかを、痛みだけが教えてくれる。
 虐げられる者を救う。
 彼女は自身を語る。淑女であると。ならば、淑女に求められるのは気品。彼女は、持つ者であるからこそ、その勤めを果たすべく戦場に踏み込む。

 闇に紛れ、『ヴァンパイア』の振るう腕を躱すのだ。
 敵も消耗している。
 猟兵たちの攻勢によって傷を負い、またそれを塞ぐ時間もない。
 ならばこそ、メリーは血晶石をばら撒き、罠とし、時に防ぐ手立てとして『ヴァンパイア』を相手取る。
「邪魔だ、退け!!」
 咆哮が響く。 
 明らかに小手先。メリーが放つ攻勢の全てが『ヴァンパイア』にとっては小手先のものでしかなかっただろう。
 だが、小手先と言えど、煩わしいことに変わりはない。

 そして『理性を失っている』からこそメリーの狙いに気がつくことができないのだ。
 彼女は血晶石をばらまいている。それは使い捨てであれど、メリーの血を呪法で固定化した結晶。
 今は『ヴァンパイア』の攻勢を防ぐ手立てである。
「これだけ時間を稼げれば十分でしょう」
 メリーの瞳がユーベルコードに輝く。
 同時にばら撒かれた血晶石が一気に消滅する。
 それは使い捨てであるがゆえに、時間の経過によって消滅し、呪詛を撒き散らすのだ。
 迸る呪詛が『ヴァンパイア』を取り囲む。
 逃げようのない呪詛。それは『ヴァンパイア』が『理性を失っている』のではなく、一欠片でも残っていたのならば、その狙いに理解が及んだことだろう。

 だが、そうはならないのだ。
 強大な力によって己の理性すら溶かした者に、メリーの戦術は見破ることなどできはしない。
「わたくしのような高貴さの欠片もない戦いですけど、紋章持ちの『第五の貴族』というからには相応の“成果”を挙げてきたのでしょう?」
 それは謂わば殺戮の記憶である。
 殺し、殺し殲す。
 ただそれだけを持って『ヴァンパイア』は第三層に招かれたのだ。多くを殺し、多くの『魂人』をこの地に送り込んだ。

 ならばこそ、彼の身を取り巻くのは呪詛。
「何を言っている!!」
「……貴方が記憶さえしていなくとも、相手が既にこの世の者でなかろうとも、想いは時に死をも超越して、確かな力となるのですわよ?」
 力とは、即ち形になるもの。
 負の感情さえも力となる。メリーはそれを知っているのだ。膨大な命を奪った『ヴァンパイア』であるのならば、その恩讐は計り知れないものとなるだろう。

 メリーの瞳はユーベルコードに輝き続けている。
『ヴァンパイア』は見ただろう。己に向けられた紅い血の刃の切っ先を。それは大地を叩き割るほどの強大さ。
 それ故に、彼がこれまでどれほどの生命を屠ってきたのかが伺い知れる。
「貴方へと向けられた敵意、怒り、怨み……その全てを紅き刃と成し、その紋章――」

 そう、それは。

 呪縛血界:怨讐の血刃(ブラッドカース・ヴェンデッタ)。

 怨恨と復讐の刃。
 奪い続けてきた報いは今。
 メリーの手が強大な紅き血の刃を形成し、『ヴァンパイア』へと振り下ろされる。
「貫いて差し上げますわ!」
 放たれる一撃は確かに『月狼の紋章』を貫き、『ヴァンパイア』の体を大地に釘付けにする。
 晴れることのない呪詛が世界に満ちるのだとしても。
 それでも、めぐるように報いは受けさせなければならない。大地を穿ち、割るかのごとき一撃を放ち、メリーは『ヴァンパイア』を今打ち倒すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『忌獣『葬炎のスコル』』

POW   :    灼炎魔狼
【狼のあぎとに似た炎の怒涛】を放ち、命中した敵を【呪詛の炎】に包み継続ダメージを与える。自身が【対象を獲物に】していると威力アップ。
SPD   :    葬炎爪牙
速度マッハ5.0以上の【爪牙の連撃】で攻撃する。軌跡にはしばらく【灼熱の波動を放つ炎の鎖】が残り、追撃や足場代わりに利用できる。
WIZ   :    葬炎咆哮
戦場全体に【凄まじい炎の嵐】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【全身を炎に変えること】による攻撃力と防御力の強化を与える。

イラスト:うぶき

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アイン・セラフィナイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『ヴァンパイア』の紋章が貫かれ、砕ける。
 勝敗は決した。
 猟兵たちは、強大な『ヴァンパイア』を打倒したのだ。巨大な紅き血の刃が、彼の肉体を貫き大地を砕いた。
 だが、猟兵たちは知るだろう。

 まだ戦いが終わっていないのだと。
「ここまで招かれるほどの者をも打倒するのか。面白い。その力、まだ底が知れないと見える。なら――」
 その声は何処か遠くから響いた。
 笑っているような声だった。
 楽しげな空気すらはらんでいるようでもあった。

 遠雷のように轟く音と共に猟兵達によって打倒された『ヴァンパイア』の体に力が注ぎ込まれていく。
 圧倒的な力の奔流。
 それは『ヴァンパイア』の体に満ち、形を変えていく。
 白き狼。巨狼たる姿となった『ヴァンパイア』は咆哮する。いや、喜びに、歓喜に満ちた咆哮を上げるのだ。
「これが! これが!! ああ、なんと素晴らしき力。やはり私は間違っていなかった。あらゆる生命に意味はなくとも、この力には意味がある!!」
 白き巨狼、忌獣『葬炎のスコル』は笑う。
 生命全てを嗤う。
 強大な力の前に生命という言葉は意味をなさない。ただ、須らく己の牙に斬り裂かれ、その血潮でもって喉を潤すのみ。

「たしかにそうかも知れない。生命に意味はないのかもしれない。風に揺れる草花よりも価値がないのかもしれない。無意味であるのかも知れない」
『魂人』の青年が言う。
 彼は、いや、彼だけではない。
 多くの『魂人』たちが猟兵たちに、その隣に歩み寄る。彼らは戦う。どれだけ凄惨な未来が待っているのだとしても。未来に地獄しかないのだとしても。
 それでも、彼らは戦うのだ。

「だが、俺達の心には平和が在る。お前たちに奪えないものがある」
 煌めくユーベルコードは『永劫回帰』。
 死を否定するユーベルコード。それは、猟兵たちを圧倒的な『闇の種族』の力による死から救うだろう。
 それを否定しては、猟兵たちは勝つことができないだろう。
 それほどまでに強大な力。

「抜かせ――!!」
 巨狼の咆哮が轟く。
 だが、『魂人』たちはその咆哮に怯むこと無く真っ向から告げる。

「温かな記憶は確かに喪われる。別のものに変わる。傷に変わる」
「けど、温かな記憶は与えられるだけじゃない」
「生み出すことだってできる。隣に誰かがいれば、その誰かの憂いに寄り添うのが人だっていうのなら」
「共にあれば温かな記憶は尽きることなんてない」
『魂人』たちの言葉を猟兵たちは感じただろうか。
 言葉は言葉でしかない。
 けれど、感じることができたのならば、それは力へと変わるのだ――。
七那原・望
分かりました。もう止めません。けれどこれだけは言っておきます。
もしわたしの為に永劫回帰を使ったなら、どうかわたしの事を憎んでください。
結果で言えば自分の命を繋ぐ為にあなた達の思い出を踏みにじる。それはあなた達を裏切り殺すも同じこと。
その時点でわたしは花嫁に永劫回帰を強いた外道と同類なのですから。

Laminas pro vobisで呼ぶのは呪詛と炎に高い耐性を持つ防御力の高い礼装と呪詛の炎を打ち消す浄化の水を纏う大鎌。
込める望みはただひとつ、出来るなら魂人の思い出を殺すことなく決着を。

第六感で敵の行動を見切り、浄化と水属性の全力魔法の結界で身を守りながら素早く接敵し、浄化の斬撃波で薙ぎ払います。



『魂人』たちの言葉は『闇の種族』には届かない。
 どれだけそれが尊ばれる言葉であったとしても、それが『魂人』たちを玩具にしか思わない彼らにとって、羽虫の羽ばたきと同じであったからだ。
 故に白い巨狼、忌獣『葬炎のスコル』へと変じた『ヴァンパイア』は咆哮でもって、それらを塗りつぶす。
 顎の如き炎が吹き荒れる。
 すでに白い巨狼は見定めた。
 己の獲物となるべき存在を。眼帯によって目元を覆った少女。猟兵。あれこそが己の獲物。あれを滅ぼさなければならない。
 その小さき体を。
 白い肌を、銀髪を血に染めなければならない。
「全て、尽く、殺し、殲す!」

 炎が吹き荒れ、七那原・望(封印されし果実・f04836)めがけて放たれた炎は、過たず彼女の喉笛をかき切る一撃であった。
 しかし、それは否定される。
 ユーベルコード『永劫回帰』。
 温かな記憶をトラウマに変えて死を否定するユーベルコード。

「わたしは望む……」
 何を、と白き巨狼は思っただろう。
 この期に及んで何を望むというのか。
 彼女は望む。己を憎むことを。
 そう、『永劫回帰』は彼女にとって忌避すべきこと。もしも己にそれを使ったのならば、己を憎んで欲しい。

 難しいことであったのかも知れない。
 誰かを憎むことは、簡単なことであったかも知れないけれど、誰かのためにという思いから発露したものは、彼女の望みを叶えるものではなかったのかもしれない。
 だが、それでも望は願ったのだ。
 憎んでほしいと。

 ただ結果だけ見るのならば、望の、自身の生命を繋ぐために『魂人』たちの思い出を利用したに過ぎないのだ。
 どうしても彼女自身がそれを許せなかった。
 憎んで欲しい。
 その憎しみの炎こそが己を推し進める。

 赤い光から生まれる武器と礼装。
 振るう力は、籠められた望みが強ければ強いほどに増していく。
 故に望む。自罰的だと誰かが言うかもしれない。けれど、それでも望は思ったのだ。結果そうなったのだとしても、かつて『闇の種族』が『魂人』の『花嫁』にさらなる進化を得るために強いたことと同じ。
 それをしてしまえば、あの外道と己が同じになってしまう。

「憎まれることも、望まれることも。何もかも」
 あれと同じになりたくない。
 そうありたくない。
 だからこそ、望は願うように望むのだ。己の身を苛むかのような憎しみを。そうあって叱るべきであるという痛みを根がう。
「Laminas pro vobis(ラミナスプロヴォヴィス)――」
 呪詛の炎を打ち消す水を纏う大鎌を振るう。

「――打ち消す……! この炎を、強大な炎を、『永劫回帰』なしで!」
「望む。唯一を。出来ることなら|『魂人』《あの人達》の思い出を殺すことなく決着を」
 それが叶わぬのならば、己を憎んで欲しいと願う。
 放つ水の斬撃が炎を切り裂く。
 浄化の力が呪詛を振り払い、一気に白い巨狼へと迫る。その喉元を見やる。咆哮は人の心を不安にさせる。恐怖に陥れる。

 ダークセイヴァー世界のオブリビオンたちはいつだって恐怖と不安で人々を縛り付ける。
 許しがたいことだ。
 誰もが救いを求めている。
 死が救済でなかったのならば、続く地獄で生きていく、歩んでいく強さが必要なのだ。だからこそ、望は『永劫回帰』を使わせてしまったという悲しみを、己の体で憎しみによって痛めつけながら踏み込む。

 誰かのためにという願いは、いつだって純粋で強烈である。
 他の何者にも代えがたいものであると思える。
 だからこそ、望が振るう水纏う大鎌の斬撃は、白い巨狼に満ちる呪詛の力を切り裂き、薙ぎ払うのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・バルダーヌ
生命に意味はありますよ。
ないと思うならそれは、まだ答えを見つけていないだけです。
そして、他人に望まぬ答えを押し付けようとする方から生命を護るのが、この力の意味です!

【真の姿】
力の代償として心に傷を負わざるを得ないのなら、せめて体の痛みはわたしが引き受けましょう。
【∀.D.アライズ】で魂人の皆さんの心にある平和、その力をお借りします。
この法則を打ち破らない限り、害しうるのは生命の埒外たるわたしと、相手のみです。
敵の攻撃はサイキック【オーラで防御】、『永劫回帰』の力をお借りするとしても最低限に抑えたいです。
こちらは、受けた傷から噴出する炎で【焼却】し反撃します。
炎に変化した相手に効果は薄いでしょうが、狙いはわたしの炎が混ざった状態で変化を終えたとき、傷や異常なく元の姿に戻れるかどうか。
ここまでして確実な戦術がとれないのは情けないですけど、たとえ万に一つの勝機でも諦めません!



『闇の種族のひとり』によって力を注がれた瀕死の『ヴァンパイア』が変じたのは、忌獣『葬炎のスコル』と呼ばれる白き巨狼であった。
 力を注ぎこんだ『闇の種族』の写し身の如き姿は、『ヴァンパイア』にとって栄誉以上のものであったことだろう。
 漲る力。
 紋章の力は失えど、その力が尋常ならざるものであることを相対する猟兵たちは知る。
 己達でさえ、その力の前には敗北を喫するであろうと理解できてしまう。
 故に白き巨狼は嗤うのだ。
「生命に意味などない。どれだけ私を追い込もうが! この強大な力の前にはお前たちもまた屈するしかないのだ!!」

 荒れ狂うように凄まじき炎の嵐が周囲を取り囲む。
 レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は静かに言う。恐るべき力の奔流。どうあがいても己たちの敗北しか頭をよぎらない。
 それほどまでに力の差は圧倒的であった。
 だが、彼女の瞳は絶望に染まらない。あるのは超克の輝き。
「生命に意味はありますよ」
「ほざくな。力の前に屈するしかない者の言葉など、聞くに値しない」
 吹き荒れる炎がレナータを取り囲む。
 だが、それ以上に彼女の身を包み込む黄金の翼が煌めく。それは真の姿。生命の埒外たる存在。
 法則性はなく、猟兵の数だけ真の姿がある。

 その姿を晒しながら、レナータは言うのだ。
「ないと思うならそれは、まだ答えを見つけていないだけです。そして、他人に望まぬ答を押し付けようとする方から生命を護るのが――」
 彼女を包み込んでいた黄金の翼が羽撃く。
 それは人々の潜在意識に共通する平和を具現化する力。
 彼女の瞳がユーベルコードに輝く。

「この力の意味です!」
 ∀.D.アライズ(アヒンサードミニオン・アライズ)。
 それは世界を交換する力。
 世界は『生命を害する行為禁止』する法則を持つ。例え、強大な力でもってこの法則を打ち破ったのだとしても、その者は大きく己の行動を叶える可能性を失墜させるだろう。
「だからなんだというのだ! そんなものを護ったところで!」
 炎が吹き荒れる。
 嵐となってレナータを包み込む。成否を大きく傾けて尚、白き巨狼の攻撃はレナータを襲う。
 恐るべき力だ。
 あまりにも膨大すぎる力の差。

 それが炎となって彼女を襲う。
 死に至る一撃。
 だが、それを否定するものがある。きらめくユーベルコード。『魂人』達がレナータの死に至る一撃を否定するのだ。
 レナータは、己の力が借り物であると理解している。
 この身より湧き上がる力の源は、『魂人』たちが持っている平和を思う心であるとわかっているのだ。
 だからこそ、レナータは黄金の翼を羽撃かせる。

 もう誰も傷つけさせはしない。
 例え、『永劫回帰』で温かな記憶をトラウマに変えるのだとしても。せめて体の痛みは己が引き受ける。
 戦うことだけしかできないのではない。
 戦うことで示せる未来があるのだ。
 だからこそ、彼女は飛ぶ。サイキックオーラで炎を受け止め、さらに飛び込む。
 死に至る一撃を否定する『永劫回帰』をそう何度も使わせたくはない。
 その思いから彼女は、身に刻まれた傷跡から噴出する炎で炎を吹き飛ばす。
 炎と炎が混じっていく。

「炎で炎に対抗するか! より大きな力に飲み込まれる定めよ!」
「ええ、そのとおりでしょう。わたしの炎はあなたに効果が薄い。わかっていますとも。ですが――」
 そう、レナータが狙うのは此方の炎を混ざり変化を終えた時、その炎を取り込むがゆえの異常を踏み潰すことができるかどうかである。
 彼女の炎は白き巨狼にとって異物である。
 本来ならば吐き出さねばならぬものだ。だが、それをしない。それが『闇の種族』より注がれた力を持つが故であったのならば、レナータにとってそれは不確実な手段であった。

 けれど。
 そう、けれど、レナータは諦めない。
『魂人』たちがこの美しき地獄で生きることを諦めなかったように。彼女もまた万に一つの勝機を手繰り寄せることを諦めない。
 勝敗の天秤はいつだって残酷なまでに平等である。
「わたしがいる限り、『魂人』さんたちには手出しはさせません」
 思う心は同じだった。

 誰もが平和を求めている。この地獄にあってさえ。
「『戦いに際しては心に平和を』――だ。頼む、俺に、彼らに、生命は尊ぶべきものであるということを、信じさせてくれ!」
『魂人』の青年の、彼らの言葉がレナータの背を押す。
 成否の天秤は傾いた。
 それは『永劫回帰』在りきではない。レナータと『魂人』たちが明日を望むからこそ、天秤は傾く。

 レナータは飛び込む。
 己の傷口から噴出する炎と共に黄金の翼を羽撃かせ、白い巨狼へと迫る。
 万が一の勝機は手繰り寄せるもの。意思が、叫びが、願いが、祈りが、その全てが、レナータを推し進め、噴出する炎でもって白い巨狼に交じる炎を荒れ狂わせる。
「な、に――!?」
「これが! この力の意味です!」
 超克の道を征くレナータの手に白い巨狼に混じった炎が巻き取られるようにして引きずり出されていく。
 それはまるで臓腑を引きずり出すのと同じであったことだろう。
 炎は混じる。けれど、レナータとの力の綱引きは、彼女の背を押す黄金の如き意思と祈りと願いとでもって、力の均衡を突き崩し、白い巨狼の体を引き裂くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・スペルティナ
し、仕方ないですわね、そちらの意志を無下にする訳にもいきませんものね!……正直、今のわたくしでは彼らに頼らねばUCを発動させるまで凌ぐことはきっと難しい。
だからこそ、その時間を無駄にはしない
“二撃目”など許しはしませんわ

彼らは覚悟を、この世界で生き抜くという意志を示した、
なら、それに応えない訳にはまいりませんのよ!

UCを発動させ世界を紅い雨降る戦場へと上書き、全ての味方に「肉体の不死」と生命力活性の加護を与え、次の「致命傷」を阻止。そのまま爪牙も炎の鎖も、|加護による力業で《意志の力で無理やり我慢して》突破しますわ!

加えて紅い鎖を放って拘束を試み、そこに手首を切り裂き呪血を鎖へと伝わらせ呪詛によるダメ押し、血の力でその歓喜も高揚も、怒りも敵意も侮蔑も全て奪い去って差し上げます
いくら体が残ろうとも意志と想いが、「自分」が消えてゆく感覚、好きなだけ堪能なさい!

安心なさいな、この鎖とヒルフェが、その|葬炎のスコル《からだ》もすぐ|そっち《骸の海》へと送ってやりますわよ!!



 猟兵たちの多くが『魂人』たちにユーベルコード『永劫回帰』を使わせたくないと思っていたことだろう。
 使うということは彼らの持つ温かな記憶を代償に死を否定するということ。
 それがどんな意味を持つのかを理解できぬわけではなかった。
 だからこそ、猟兵たちはギリギリまで『魂人』たちを戦わせようとしなかった。猟兵にとって、メリー・スペルティナ(暗澹たる慈雨の淑女(自称)・f26478)にとって、彼らは守るべき者であったからだ。

 けれど、彼らの言葉を聞いたメリーは思い直す。
「し、仕方ないですわね、そちらの意志を無碍にする訳にはいきませんものね!」
 メリーは正直なところを言えば、『闇の種族』のちからを注がれた『ヴァンパイア』――今は忌獣『葬炎のスコル』としての姿を持つオブリビオンの攻勢を凌ぐことは難しいことであると考えていた。
 事実、それはそのとおりであった。
 音速を超える速度で爪の連撃を放つ白き巨狼は、さらに爪の軌跡が残した波動放つ灼熱の鎖の上を跳ねるようにしてメリーに迫っている。
「無駄だ! 何もかも! この力の前では!!」
 躯体を引き裂かれても尚、白き巨狼は咆哮する。
 臓腑を撒き散らすかのように炎を噴出させながら、メリーに迫っているのだ。

 躱せないと直感的に理解する。
 その爪は鋭くたやすくメリーの生命を奪うだろう。だが、メリーは瞳を閉じる。
 己の中にある信念が言う。
 彼らの、『魂人』たちの言葉を信じるのだ。『永劫回帰』は死を否定する。それは温かな記憶を代償とした力。
「“二撃目”など許しはしませんわ」
 無駄になどさせない。
 使わせるのは一度だけ。振るわれる爪の軌跡はたしかにメリーを捉えた。だが、その爪が彼女の生命を奪うことはなかった。

「死を否定するか!」
「彼らは覚悟を、この世界で生き抜くという意志を示した。なら、それに応えない訳にはまいりませんのよ!」
 見開かれた人に輝くはユーベルコードの輝き。
 さらに超えて輝くのは超克。
 オーバーロードに至りて、彼女の輝く瞳が示す。

 冥想血界:果てなき永劫の戦(ヴェルトート・ヴァルハラ)。

 戦いは続く。
 生命が続く限りずっと続く。安息はあれど終わることがないのが生命という戦いであるならばこそ、彼女は世界を上書きする。
 紅い雨が戦場を染めげていく。
 それは過去の存在を捉え、骸の海へと引き戻す紅き鎖となって白き巨狼に絡みつく。
「……さあ、死んでる暇なんかありませんわよ!」
 メリーは走る。踏み込む。その手に唸りを上げる回転刃、チェンソー剣を振るい上げる。紅い刃の軌跡が走る。

「この程度の拘束など!」
「“二撃目”は許しませんわといいました!」
 メリーの手首が斬り裂かれ、そこから噴出する呪血が鎖へと伝わり、白き巨狼を捉える鎖を呪詛で持って強化し、さらに押さえつける。
 迸る波動。
 灼熱の力を放つ鎖をメリーは力任せに引きちぎりながら、一気に迫る。どれだけ鎖が彼女の道を阻むのだとしても、メリーは止まらない。
 痛みなど関係がなかった。
 彼女の歩みを止める理由になどなっていなかったのだ。

 彼女が今足を踏み出しているのは、ひとえに意志の力故。
 痛みも、苦しみも、恐怖も、不安も。
 何もかも等しく『魂人』たちと同じくメリーにもあるものだった。だからこそ、解る。この世界で生きるということの意味。その困難が。
「ええ、そうですとも!」
 血が迸るように。
 それは歓喜でもあったし、高揚でもあった。それは全てを飲み込んでいく。怒りも敵意も侮蔑も全て奪い去っていく。

 彼女の道は、困難なものである。
 どんなものであっても彼女を阻むものとなるだろう。
「こ、の……!」
「いくら体が残ろうとも意志と想いが、『自分』が消えてゆく感覚、好きなだけ堪能なさい!」
 走る爪がメリーの体を引き裂く。
 だが、彼女は止まらない。紅き雨が振る戦場にあって、彼女の体は不死となっている。生命力が活性化するがゆえに、彼女は爪の一撃を受けても瞬く間に再生する。
 傷がふさがり、鎖を食いちぎるようにしながら突き進む。

 唸っている。
 手にしたチェンソー剣が唸りを挙げている。血を求めているのではない。敵を求めているのではない。
 確かに託された想いに咆哮するようにメリーの手にある『ヒルフェ』が咆哮する。
 血潮は鎖となって白き巨狼を捉える。
「安心なさいな、この鎖と『ヒルフェ』が、その|葬炎のスコル《からだ》もすぐ|そっち《骸の海》へと送ってやりますわよ!!」
 灼熱の波動を振り払い、ちぎれ果てる鎖。
 メリーの呪血によって生み出された鎖も、白き巨狼の放つ爪が生み出した鎖も。
 何もかも振り切ってメリーは唸りを上げるチェンソー剣の一閃を叩き込む。

 それは紅い雨振る戦場に、新たなる鮮血を迸らせた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・アルブス
【ステラさんと】

『戦いに際しては心に平和を』

『魂人』さんたちの想い、たしかに受け取りました。
わたしも勇者として目の覚める思いです!
今日はもう、朝まで眠れそうにありません!

ステラさん、この思いを無碍にはできません。
わたしたちも行きますよ!

いくらシリアスが苦手でも、2分くらいは保つはずです!

勇者の|本気《シリアス》をいまここに!
生命を嗤うもの、あなたの存在をわたしは許しません!

めいっぱいの大きさの【光の音叉】を取り出し、
【リミッター解除】し【限界突破】して……。

ステラさんのこれは雷光の剣! 古来より雷とは神の槌!
つまり神と勇者のコラボアタックです!

神の力を借りた【世界調律】を叩き込みますね。


ステラ・タタリクス
【ルクス様と】
『戦いに際しては心に平和を』
いつ誰が此処にもたらしたのか……それは今は置いておきましょう

ええ、過去が傷に変わろうとも未来はこれから紡ぎ出せる
まことに不甲斐ないのですが、その力お貸しください
幸いにして此処に勇者がいます
勇者、もうちょっと頑張って3分くらい

|やる気《シリアス》になったルクス様は最強なので心配ないですね

さて
真面目にパッセンジャーと戦って以来考えていたのです
私には力が足りない、と
威力の話ではなく、ある意味『覚悟』と言えばいいのでしょうか
これは辿り着いた答えのひとつ
【トニトゥルス・ルークス・グラディウス】
この一撃を平和と未来を切り開くために振るいましょう!
くらいなさい!



『戦いに際しては心に平和を』
 その言葉はいつからか存在しているのか。
 誰が紡いだ言葉なのか。
 それはもはや意味をなさぬ意味であったのかもしれない。誰が言ったのかなど意味などない。それは結局の所、言葉でしかないのだ。
 言葉は何も生み出さない。
 何も作り上げない。
 その言葉を聞き、感じた者だけが言葉に意味を見出し、意味は力へと変わっていく。

 故に、思うのだ。
「ええ、過去が傷に変わろうとも未来はこれから紡ぎ出せる」
「『魂人』さんたちの想い、たしかに受け取りました。わたしも勇者として目の覚める思いです!」
 ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)とルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は『魂人』たちの言葉にうなずく。
 彼らが傷を厭わぬというのならば、応えなければならない。それだけが彼女たちに出来る唯一であった。
 不甲斐ないと思う気持ちもあるだろう。
 けれど、ステラは思うのだ。言葉には意味がある。例え、どれだけ無意味な言葉であると言われたとしても、人は言葉によって前に進む。背中を押されることだってあるのだ。

 今だってそうだ。
『魂人』たちの言葉は、唯の言葉で力がないなどとは言わせない。
「今日はもう朝まで眠れそうにありません!」
 無碍にはできない。
 ルクスの奮起する顔を見れば解る。だって、こんなにも|真剣《シリアス》なのだから。とても苦手な空気。けれど、それでもルクスは二分くらいならがんばれると拳を握っている。
 そこはもう一声でもう三分がんばってと、ステラはルクスの背を押す。

「戯言を! 貴様たちの言葉は無意味だ! 生命に何の意味ももたせることはできない。できることは、上位たる存在に玩具として扱われることのみ!!」
 咆哮する忌獣『葬炎のスコル』。
 それは『ヴァンパイア』が『闇の種族』によって力を注がれたことによって発露した姿。死に体であった彼が盛り返したのは、その力があってこそ。
 力があれば、と思うのは誰もが同じことであった。
 だからこそ、その言葉に意味を見出したものは、いつだって純粋な力に勝るものを身の内側から発揮する。

「勇者の|本気《シリアス》をいまここに! 生命を嗤うもの、あなたの存在をわたしは許しません!」
 ルクスの手にした音叉剣が輝く。
 限界を超える。ユーベルコードに輝く瞳が、極大にまで膨れ上がっている。世界調律(セカイチョウリツ)の力でもって成される剣と白き巨狼の爪が激突する。
 力の奔流が走り、ルクスを吹き飛ばす。
 迫る爪の一撃がルクスの生命を奪うだろう。だが、それは否定される。『魂人』たちの『永劫回帰』がそれを為す。
 彼らの中の記憶がトラウマに変わる。

 だが、それでも彼らは躊躇わない。
 言葉が彼らの背中を押している。戦うだけではダメなのだと。戦いの先にある平和を思うからこそ、戦うことに意味が生まれる。
 誰もが明日を願っている。
 止まることも、永遠に続くことも望んでいない。明日を。今日よりもより良い明日を求めている。
「なら!」
 ルクスの音叉剣が白き巨狼を吹き飛ばす。

「無駄だ! どれだけ言葉を弄しようとも、結局の所それは詭弁だ!」
「天使核、コネクト。ブレイド、形成」
 ステラは己の心臓である天使核からのエネルギーを代償に迸る雷光の剣を想像する。イメージだ。
 結局の所。
 それしかないのだ。力は足りず。届かず。痛感した記憶が頭の中をよぎる。力が足りないと。それは『ヴァンパイア』がそうであったのと同じであった。
 何かを押し通すためには、力が必要なのだ。
 綺麗事ではない。単純な話だ。だが、ステラはそれを他者に求めない。『ヴァンパイア』のように誰かに授けられることも、奪うこともしない。

 身の内側からあふれる力でもって彼女は雷光の剣を生み出す。
 それは創造である。
 疑念はなかった。
「これはたどり着いた答えのひとつ。この一撃、軽く見ないことです!」
 トニトゥルス・ルークス・グラディウス。
 迸る雷光の剣に音叉剣の光が重なる。
「古来より雷とは神の槌! つまり神と勇者のコラボアタックです!」
「この一撃を平和と未来を切り拓くために振るいましょう!」
『魂人』たちが言っていたのだ。
 誰かの憂いに寄り添うことができるのが優しさだと。ならば、どれだけ温かな記憶が傷に変わるのだとしても、それは尽きることのないものであると。

 故に力を追い求め、そのために多くの生命を犠牲にしてきた、省みることのなかった『ヴァンパイア』では届かぬ境地がある。
 煌めき続けるユーベルコードの明滅。
 それは一つ一つが『魂人』たちの『永劫回帰』。
 届かない。ステラとルクスには決して死が近づくことはなかった。

「世界を正しき姿に! それが光の勇者の役目です!」
 雷光の剣が白き巨狼に叩き込まれ、それを押し込むように音叉剣が十字に叩きつけられる。
 極大まで膨れ上がった力。
 その光の奔流が白き巨狼を切り裂き、そして未来を掴むための一撃となって大地に穿たれる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
理解したつもりかよ、それ。……きみが興味を持っていたのは、上層でも闇の種族でもない。力なんだな
きみたち魂人が思い出を削るならおれは未来を削る。帳尻は取れないだろう。だが、記憶と生命は何かと釣り合わせるものじゃあないし、そも計る事自体が烏滸がましい
おれを助けてくれないかな。あのヴァンパイアだった狼へと否定の意味を叩きつけてやりたんだ。遠くでおれたちを見る誰かに会う為にも、借りるよ。『永劫回帰』

おれはきみたちから熱を奪う。おれ自身からも熱は失せていく。だが日は昇る。日没が来てもおれたちという火を灯す事のできる石柱が地に刺さり立つ限り、我らは不動。我らは不屈。歩を進めるは自ずから前へ。前へ
蝋人形だと思い込んでるがいい。木偶の棒だと罵るがいい。だがな、どちらも呪火に包まれても決して燃え尽きず灰に成らず。戯れに応えてやろうと真摯に立ち向かう。その想いは誰よりも強い。その思いは誰よりも強い。強いよ、彼ら魂人は。眩しい程に。その眩さにおれは答えるんだ。日出は来ると
壊れた紋章にでも吠えてろ、ヴァンパイア



 臓物を撒き散らすように炎が噴出している。
 穿たれた光の十字。それは猟兵達による攻勢であった。強大なる『闇の種族』の力を注がれた『ヴァンパイア』は、その力によって死に体から此処まで強大な存在ヘと変貌を遂げた。
「巫山戯るな!! この力が、これだけの力があってなお、否定などされるものか!『魂人』! 玩具風情が!!」
 咆哮する。
 忌獣『葬炎のスコル』たる白き巨狼の姿へと変貌した『ヴァンパイア』が吠える。死を否定するユーベルコード、『永劫回帰』。
 その煌めきが明滅するように常闇の世界に広がっている。

「理解したつもりかよ、それ」
 ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)は呟く。
「……きみが興味を持っていたのは、上層でも『闇の種族』でもない。力なんだな」
 結局の所、力でしかなかった。
 上に登ることも、強大な力を持つ存在も。何もかも『ヴァンパイア』にとってはどうでもよかったのだ。力を得ること。階段を登るように自然にそれを行うだけの存在。
 だから、『魂人』たちもただの玩具としてしか見えていない。
 彼らは玩具ではない。
 生きているのだ。例え、ここが美しき地獄であるのだとしても、生きることを諦めぬギヨームにとってまばゆいまでの存在だったのだ。
「力こそが全てだ! 力がなければ、理想も、何もかも貫き通すことも出来ない。どんな高尚な言葉も、力の前には無意味なのだ!」

 その咆哮を真っ向からギヨームは受け止める。
 振るわれる爪と顎にも似た炎がギヨームを襲う。避けようがない一撃。死が目前に迫っている。
 だが、それを『永劫回帰』の力が霧散させる。
 ギヨームの死を今、彼らは否定したのだ。己の中にある温かな記憶を代償に、トラウマに変えてまで。
「きみたちが『魂人』が思い出を削るなら、おれは未来を削る。帳尻は取れないだろう。だが、記憶と生命は何かと釣り合わせるものじゃあないし、そもそも計ること事態がおこがましい」
 だから、助けてくれないかとギヨームは言ったのだ。
 否定を叩きつけてやりたいと。その意味を教えたいのだと。

 そして、この光景を何処か遠くで嗤いながら見ている何者かにも見せてやりたい。
 生命の意味を。
 否定の意味を。
 釣り合わぬものを釣り合わせるためじゃあなく。
「La nuit du coucher du soleil arriva.」
 それは伝承にまつわるかのような歌。
 Sang Vampire(ヴァンパイア・ブラッド)は響き渡るように自身の血液に混じる氷魔さえも焼べる冷炎へとギヨームを覚醒させる。
 紫瞳が超克に輝いている。
 狂気はいつも見つめている。吸血鬼としての姿。ギヨームは奪う。
 熱を奪う。
 そして、己自身の中からも熱は失せていく。冷たき血は、めぐる。それは日が昇るのと同じように。また日が沈むのと同じように。

「何を、言っている。貴様は!」
「我等は不動。我等は不屈。歩を進めるは自ずから前へ」
 そう、それは灯火。
 石柱が如く大地に突き刺さり、踏みとどまる。どんな濁流にも、どんな悪意にも流されぬものがあると知らしめる篝火。
 だがしかし、生命たる彼らには足がある。歩むべき道も照らされている。ならば。
「前へ」
 ギヨームは前に進む。

 玩具だと思っているがいい。
 彼には『魂人』が蝋人形であるようにか思えないのだろう。『永劫回帰』という火を灯す蝋人形。でくのぼうだと罵ってさえいるだろう。
「そのとおりだと思っているだろう」
「貴様たちは何を」
「だがな、どちらも呪火に包まれても消して燃え尽きず、灰に成らず」
 振るわれる一撃がギヨームの体を噛み砕くかの如き炎となって撒き散らされる。
 だが、それでもギヨームは前に進む。
 真摯と呼ぶにはあまりにも愚直すぎたのかもしれない。
 けれど、彼の心の中にある想いは誰よりも強い。いや、とギヨームは思い直した。

 死を否定する『永劫回帰』の輝きが明滅している。
 これは『魂人』たちの心の輝きだ。まばゆい。まぶしい。
「彼らは誰よりも強い。強いよ、彼ら『魂人』は」
 だから、ギヨームは応える。踏み出す。一歩を踏み出す。どれだけ困難に満ちた道であっても、だからこそ正しいのだと胸を張っていえる。

 紫瞳に白き巨狼はたじろいだだろう。
 狂気すら常。
 踏み出すギヨームの拳が振るい挙げられている。白き巨狼は直感しただろう。これが力であったのならば、明確な差がある。
 ただ一人と、唯一つの力しか己は持っていない。持ち合わせていない。
 されど、猟兵たちは違う。
 彼らと、『魂人』たちの力が今の己を穿つ力へと変わっている。あの拳は唯一人の拳ではない。
「その眩さにおれは応えるんだ。日出は来ると」
 どんな暗闇の如き人生にも。
 かならず来るのだと。

「それが一体なんに――」
「壊れた紋章にでも吠えてろ、ヴァンパイア」
 振るわれた拳の一撃が、これまで刻まれた猟兵たちの攻勢、その一撃一撃に連鎖するように亀裂として走っていく。
 振り抜いた拳の背後で白き巨狼は炎に包まれ消えていく。

 きみが困難を目の当たりにした時、きみはどうする。どうしたい。

 その問いかけに『魂人』たちは応えるだろう。
 逃げるではなく。立ち向かうのだと。
 いつだってそうだと。正しいのは、いつだって辛く険しい道であったのだと。だからこそ、この美しき地獄で生きることから逃げることはないと。
 その意思に答えた猟兵達は、知るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年10月20日


挿絵イラスト