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アルカディア争奪戦㉗〜虚ろなる神

#ブルーアルカディア #アルカディア争奪戦 #虚神アルカディア #アルカディアの玉座

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●それは|憂鬱《ブルー》な……
 黄金の玉座は聖域の果てに存在していた。
 近付けば大気が変化し、蠢いて、猟兵たちの前へと現れた。
 幽気の如き『虚神アルカディア』は虚無の色。
 虚神は奪うことが当たり前であるかのように、猟兵たちに言う。
「吾は肉体が欲しい。生命になりたいのだ」
 ゆえに、
「猟兵たちよ。生命ある者の苦悩、欲望、憎悪を、吾にも見せてくれ」
 それはその者が持つ生命の輝き。付随する抗いは甘味であろうが如く。
 アルカディアは虚無の手を伸ばす。声を轟かせる。

 変化した大気は震えて、剣は容赦なく猟兵の元へと到達するであろう。略奪にまみれた世界は弱き生命を淘汰する。高らかに響き合う剣戟戦はまさしく奪い合いの奏で。

 飛翔するアルカディアから噴出する拒絶の雲海。巻き上げられた遺跡の瓦礫が浮遊する。アルカディアに煽られ弾かれた石礫が飛ばされてくる。彼我の距離があろうといえども油断できぬ戦場。もっとも敵はその距離をものともせずに強烈な遠距離攻撃を仕掛けてくる狙撃戦。

 ふいに近付いたアルカディアの――顔があるべき部分には、猟兵自身の顔があった。
 映された顔は、映された表情は、映された力は紛れもなく自身のもの。
 自身のパターンで動き、攻撃してくるアルカディア。鏡戟戦を降すのはどちらとなるか。

 召喚したアルカディア・オブリビオンが空を覆う。軍勢の鯨波が轟き、大気を震わせた。チャリオットにヒトガタが三体ほど。まとまった軍がチャリオットを走らせて毒矢を放ってくる。近付けば毒が仕込まれた剣の一閃。
 毒はあらゆるものをあっという間に腐食させていくようだ。
 乗じてやってくるアルカディア。ならばこちらは飛空艇艦隊とともに、艦隊戦だ。

 敵から噴出した赤い狂気は、アルカディアを異形の怪物へと変貌させた。
 狂気は猟兵にも与えられる――抗おうとすれば露見する猟兵の真の姿。
 生命の危機。それは生命がもっとも輝く瞬間。
 猟兵から迸る願いや本能は、アルカディアを圧倒できるだろうか? どちらが強者となり弱者を降すのか、狂乱戦。

 拒絶の雲海が猟兵にとっての最悪な光景を彩っていく。
 滅びたもの、滅ぼしたもの、滅ぼすかもしれないもの。
 あったこと、なかったこと。
 アルカディアが求める苦悩や絶望、憎悪が最悪な光景に呑まれた猟兵を抱こうとする悪夢戦。この『最悪』から逃れるには、強き決意。

 アルカディアが「揺蕩う虚無」となってしまえば、剣も魔法も砲弾も通じない。
 物理で打っても響かぬこれは|憂鬱な《ブルー》アルカディア。
 ならば虚無を震わせてみよう。ここは大気に満ちた世界。
 |青き《ブルー》アルカディア。
 感情をこめた歌声は叫び声に、虚神は色を得たように呼応するだろうか? 音響戦だ。

 拒絶の雲海が巨大な「雲海の迷宮」を作り上げる。
 アルカディアが取った行動は逃げの一手――いいや、仕掛けたのは消耗戦だ。雲の鏡から放たれる攻撃はネズミを追い詰めていくもの。
 広範な迷宮に対し、飛空艇艦隊の協力を仰ぐことにしよう。迷宮戦を制するのはどちらとなるか。

 召喚された魔獣の猛った声が響き渡る。
 魔獣は|アルカディア《シェフ》おすすめの肉たちだ。凶暴な獣の肉には魔獣の力が宿っていて、喰らえば一時的に力を奪えるらしい。一瞬捕まえた魔獣の首輪のタグにそう書いてあった。
 とはいえアルカディアも攻撃は仕掛けてくるわけで……。
 目まぐるしい戦場の中で素早く魔獣を食べるため、サッと上手に焼いて食べたいところかもしれない。よし狩猟戦だ。

「久しぶり!」
「会いたかったわ!」
 そんな風に声を掛けてきたのは猟兵の大切な人。
 または、いつもと同じ言葉で話しかけてくる大切な人。
 または、今、隣で一緒に戦っている大切な人。
 アルカディアだったものは大切な人になっていた。
 彼を彼女をその子を倒すのは自らの翼をもぐに等しい片翼戦。

「宜しい。ならば大食い対決だ(大食い)」
「頭突きを極めたい? ならば共に岩を多く打ち砕こうではないか(頭突き)」
「ふ。誕生日か。まあ祝ってやろう。趣向を凝らしたパーティ会場などどうだ?(お祝い)」
 アルカディアが猟兵をスキャンし周囲を「大技能戦場」から、なんか、こう、技能的な場に作り変えてしまった。
 黄金の玉座はポツンとしている。


「技能戦は、とても自由……? コホン。ええと、色々な戦い方で虚神アルカディアは皆さんと対峙してくる(してくれる)みたいね! ガンバッテね!」
 そう言ってポノ・エトランゼ(ウルのリコ・f00385)は猟兵たちを送り出すのだった。


ねこあじ
 一部ギャグにしかならん気がするのは、私の気のせいでしょうかね。
 多彩な虚神アルカディア戦です。よろしくお願いします。

 採用はなるべく頑張るの方針です。ですが、タイミング的に不採用へと流されてしまうこともあるかと思います。
 どの戦いを行うかをプレイングに記入しくださいね。

 プレイングボーナスは、
「https://tw6.jp/html/world/event/032war/032_setumei_5d4f7rt8.htm」
 で見るのが一番かもですが一応書き込み。

 剣戟戦。
 剣戟間合いで戦う/敵の先制攻撃に対処する。

 狙撃戦。
 超遠距離攻撃に対抗する/敵の先制攻撃に対処する。

 鏡戟戦。
 あなた自身の性格の裏をかく/敵の多重先制攻撃に対抗する。

 艦隊戦。
 飛空艇艦隊と協力して、敵の群れに対処する/アルカディアの先制攻撃に対処する。

 狂乱戦。
 真の姿を晒して戦う/自らの願いを敵にぶつける。

 悪夢戦。
 自身にとっての「最悪の光景」を描写し、それを振り払う/雲海の噴出が止む一瞬を突く。

 音響戦。
 強い感情を籠めて歌う、または叫ぶ。

 迷宮戦。
 飛空艇艦隊と協力して、迷宮内のアルカディアを追い詰める。

 狩猟戦。
 魔獣の肉を喰らい、パワーアップして戦う。

 片翼戦。
 大切な人を手にかける覚悟で戦う/大切な人本人と共に戦う。

 技能戦。
「大技能戦場」の形状を指定した後、技能勝負する。
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第1章 ボス戦 『虚神アルカディア』

POW   :    アルカディア・エフェクト
レベルm半径内を【|拒絶の雲海《アルカディア・エフェクト》】で覆い、範囲内のあらゆる物質を【爆発気流】で加速、もしくは【猛毒気流】で減速できる。
SPD   :    アルカディア・インフェルノ
【石の剣】から、戦場全体に「敵味方を識別する【無限増殖植物群】」を放ち、ダメージと【呼吸不能】の状態異常を与える。
WIZ   :    アルカディア・ヴォイド
【万物を消滅させる虚無】を宿した【見えざる完全球体】を射出する。[見えざる完全球体]は合計レベル回まで、加速・減速・軌道変更する。

イラスト:棘ナツ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒城・魅夜
【悪夢戦】
「悪夢の滴」たるこの私に悪夢で挑む愚か者
真なる悪夢の恐ろしさを教えてあげましょう

最悪の光景ですか…
ダンピールにして悪霊という闇の住人である私にとって
輝く太陽のみに満ちた世界が訪れたとしたら確かに最悪
ですが、あの日蝕帝国のように太陽を潰そうとするのはただの臆病者
私の覚悟はこの身を焼く光さえその手に掴むこと
吸血と呪詛で光を喰らいその力を手にして
「輝く闇」とでも言うべき姿になってみせましょう
たとえその矛盾に全身から血を吹き出そうとも
我が微笑みが消えることはありません

そしてその鮮血はそのままあなたへの攻撃です
霧と化した血は無限植物群もろともあなたを覆い尽くし
その体内を八つ裂きにするでしょう



「猟兵よ。弱きを見せよ。強きを見せよ」
 黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)へと対峙した虚神アルカディアが拒絶の雲海を噴出させる。
 アルカディアと同じ色をした雲海は、魅夜の元へと迫り来た瞬間、一粒一粒が普通の雲――氷粒の集合体であったことを思い出したかのように白くなった。そこに映し出されるものは。

 魅夜は微笑んだ。
「ここは――ここが私にとっての、最悪の光景ですか……」
 美しい青い空が広がっていた。
 もくもくとした立派な入道雲は眩しいくらいに真っ白。対比する影部分は少し青みがかった灰色。
 温まった足元には影など入る隙もないかのような白い浜。浜は貝殻が堆積したものだった。打ち寄せる波がしゃりしゃりと浜を鳴らしている。
 魅夜はダンピールにして悪霊。生まれは悪夢そのもの。闇に染めた何かは数知れず、彼女は一分の隙も無く確かに闇の住人である。
 出自や育ちを思えば、輝く太陽を賛美しているかのようなこの場所は魅夜にとって『最悪の光景』だ。
 光は彼女の身を灼き、骨の髄にまで侵食していく。
「この光景……あの日蝕帝国ならば真っ先に潰してしまおうと思うのでしょうね」
 ふ、と零した吐息には僅かな揶揄が含まれている。
「太陽を潰そうとするのはただの臆病者にしか過ぎません」
 ねえ? と拒絶の雲海に沈んでいるであろう日蝕帝国へと柔く尋ねるように言った。
 続ける言葉は虚神にむけて。
「折角ですから、悪夢を悪夢が喰らう瞬間を見せて差し上げましょう」
 彼女の覚悟はこの身を焼く光さえその手に掴むこと。
 光在ればこそ、闇は活路を開く。呪詛めいた魅夜の声色が場に轟いた。
 海をゆく雲の影、浜の影は小さな生き物たちのオアシスだ。安らぎを求める小さきものたち。
 拒絶の雲海――最悪の、美しい、光在る光景は魅夜を消滅させようとし、その身体を解かれゆく魅夜は赤き血を噴きだしている。
 だが輝く太陽の下に揺蕩うは、赤き月の色。
 拒絶の雲海の雲一粒一粒が、赤を反映すれば、それは魅夜の色に染められたのと同義。
 羽衣のような鮮血の濃霧を魅夜は纏い、微笑む。
 悪夢のなかで凝縮されたが如き、深き悪夢。そこは深淵。それが魅夜だ。悪夢の中でこそ放たれる「輝く闇」そのもの。
 ざあっと再び一変した光景は拒絶の雲海そのもの。アルカディアと魅夜を取り巻く雲海のなかには無数に蠢く植物群の影。
「――。強者よ」
 侵食してくる鮮血の濃霧に、その色鮮やかさにアルカディアは声を張った。
 それは歓喜か。
 赤き霧の滴が鎖となり繋がれてゆく――虚空やアルカディアの大気の中で構築される霧鎖。
「『悪夢の滴』たるこの私に悪夢で挑む愚か者。真なる悪夢の恐ろしさを教えてあげましょう」
「強者であれば悪夢こそ絶勝。見事である」
 鮮血の結びが成り、真罪の如き閃赫が大気という大気を――アルカディアを裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリー・マイヤー
自分で諸悪の根源名乗るラスボス初めて見ました。
まぁ、自覚があるというのはいいことです。
それで悪いことをやめてくれるなら、なおいいのですが。

【技能戦】
さて、せっかく付き合ってくれるということなので…
やりましょうか、煙草技。
特別な仕掛けや舞台は必要ありません。
煙草の煙でいかに複雑で高度な立体を描けるか。
求められるのはそれだけです。
あ、煙草がないならこちらをどうぞ。
実体のないアナタなら、吸っても平気でしょう。たぶん。

そんなわけで、私が描くのは等身大虚神アルカディアです。
念動力を駆使して気流を細かく操作しつつ、
大量の煙をため込んでじっくり作ります。
あ、私は時間かかるので、何だったらお先にどうぞ。



「そこのアナタ。煙草、付き合ってくれません?」
 普通に訪れて、普通に声を掛けて、煙草の箱を軽く振りながら普通に誘うエリー・マイヤー(被造物・f29376)。
「吾に煙草か――其方、年齢は」
 大事なことなのだろう、アルカディアは問いかけた。
「二十三ですが」
「良いだろう」
 虚神アルカディアは検めたかのようなしぐさをしたのち、エリーの誘いに応えた。
 続けて、場所は何処にしようかとエリーをスキャンしようとするアルカディアに「そういうの、別に要りませんので」と素っ気なく告げる。
「ならばこれでどうか」
 と虚空に出現したのはくすんだ朱色の一人掛けソファーが二つ。
「まあまあ落ち着く色合いですね」
 そう言ってエリーはソファに掛けた。ふかふかのソファに身が沈む。姿勢を整えながら「銘柄はどれにします?」と幾つかの煙草を取り出し、アルカディアの反応(と言っても大気の揺らぎだが)を見て適当な物を投げ渡す。
 アルカディアがソファに座れば下半身部分の大気がゆったりとたなびいた。
「して、これは勝負なのだろう? どのような勝負にするのだ」
「勿論、煙草の煙でいかに複雑で高度な立体を描けるか、ですよ。煙草技です。アナタお得意でしょう? そういうの」
「情報戦ではないのか。煙草休憩とやらは情報を集めるための一手だと聞いた気がするのだが……」
「まあ、時にはそういう面も確かにありますが、何か情報持ってるんですか?」
「イエ」
「謙虚ですね。そういえば、私、自分で諸悪の根源名乗る敵方を初めて見ました」
「吾、諸悪の根源ゆえに」
 放り渡したライターで火をつけるアルカディア。上手く着火したようで、すぐに煙草の先端が赤くなる。
「……まぁ、自覚があるというのはいいことです。それで悪いことをやめてくれるなら、なおいいのですが」
「吾、肉体が欲しい」
「始めますよ」
 エリーと会話するアルカディアだったが、彼の言葉は最早泣き言にすら聞こえてくる始末。バッサリ会話を打ち切ってエリーは煙を口に含み始める。
 ちらりとアルカディアを見てみれば、敵は人差し指と中指に煙草を挟んでいる。
 ぷか、と輪っかを出してみるアルカディア。「練習だ」とすかさず告げられた。
 顔はないが真面目に吸っているらしいアルカディアの口元(?)から肺(?)にかけて、虚神とはまた違った流煙が下っていく。途中混ざり合って、たなびいていく様子が観察できた。
 ぷか、と球体に近い煙を吐き出したアルカディアはいくつかの細い筋を引きおえた後、どうだ? とエリーに言う。
「クラゲだ」
 若干念動力を扱っているのだろう。そこが海であるかのようにふよふよと煙のクラゲが泳いでいく。
 どやぁとしていそうな虚神に向けて、エリーは親指と人差し指で輪っかを作って見せた。「OK」というよりは「よくやった」という褒めの合図だ。
 エリーの方はといえば、大量の煙を溜め込みながら細やかに気流を繰る。
 時間を掛けて、念動力を駆使して作り上げたもの――。
「こ、これは……」
 ぶぉんぶぉんとアルカディアの喉辺りの煙が動いた。息を呑んだと分かるような、煙の脈動。
「吾」
 そう。虚空に浮かんでいるのは、等身の『虚神アルカディア』。
「如何ですか?」
 無表情ながらも僅かに口端を上げたエリー。アルカディアは等身アルカディアをじっと見つめている。
 煙でありながら、象られた今の神。
「そうか。今の吾はこう見えるのか」
 アルカディアの声は常に平坦なものであるにもかかわらず、嬉しそうだ。
 第三者に視認されている。それは虚ろな神にとって、嬉しき真実だったのだろう。
「勝ちは其方のものだ」
 アルカディアは満足げに告げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミュー・ティフィア
望(f04836)と一緒に音響戦です!

戦闘知識と第六感を駆使して敵の放つ完全球体をスピリトーゾを使った空中機動で回避です!

歌に込めるのは絆と約束と覚悟。
私は昔大事な友達を見殺しにした。

自分を犠牲にする選択をしたのはあの子で、その選択が間違いだったとは思わない。
でも、あの子は泣いていたから。

私は歌う。
貴女ともう一度こうして巡り会えた。その時胸に誓ったんです。
貴女を苛む絶望を全部払い除けて、今度こそ皆で幸せになるって。

さぁ、手を取って!一緒に歌いましょう、望!

いつか悲しみの夜が明けたら もう一度この手を繋ごう 約束だよ 明日は誰にもわからないから 一緒に行こう 歌いながら……♪


七那原・望
ミューさん(f07712)と音響戦。

背中の翼で空中戦。
第六感で敵の行動や見えざる完全球体の軌道を見切り、回避を。

歌に込めるのは愛と希望。
わたしが深い絶望に屈しそうになる度に彼はわたしを何度も救い出してくれた。
わたしにとっての最愛のヒーロー。
わたしにとっての生きる希望。
わたしの比翼。

彼がいるからわたしは今も戦えてる。
そして彼が居たから、旅団の友達や、今隣にいるミューさん、たくさんの大切な人と巡り会えたのです。

えぇ、ミューさん。歌いましょう。一緒に!

わたしに光を教えてくれた あなたに全てを捧げたいの 愛も希望も未来も I wish Eternity with you La la la……♪



 アルカディア・ヴォイドを放ち、虚神アルカディアが告げる。
「強者よ。猟兵よ。吾に全てを与えよ。大気を撫ぜる手の動き、呼気、髪のひとすじまでも。些細な挙動が吾に映るまで――」
 虚神アルカディアの全身が解けていき、周囲の空気に溶け込んでいった。
『揺蕩う虚無』は全てを受け入れる。
 放たれた見えざる完全球体が時間差でミュー・ティフィア(絆の歌姫・f07712)と七那原・望(封印されし果実・f04836)へと迫ってくるのだが、アルカディアの空を飛び回る二人を球体は完全に捉えることが出来なかった。
 結果、避けきったミューと望。光の翼と白き翼が交差しては、対の弧を描き――美しい舞いの軌跡が揺蕩う虚無をたなびかせてゆく。
 けれども二人の飛翔をいなすアルカディア。
 反応を示さない揺蕩う虚無は、本当にアルカディアがそこに在るのか――不安になりそうなほどだ。
 ならば。
 大気震わすものを。

 ミューの翼が明滅し、光と闇の波動を生み出した。
 照らし出す光、深き道を見出す闇。
 奏弓・コンチェルトが紡ぐ奏では、昏き一音。爪弾かれた響きが雨のように寂しく渡っていく。
 ポロリ、ポロリ♪ 一際寂しく奏でられた音色はまるで誰かが涙を零したかのように。
 大気に落ちた音が波紋のように広がっていく。
 その時、ミューの脳裏には昔の記憶が紡がれている最中。
 大事な友人を見殺しにした時のこと。
(「自分を犠牲にする選択をしたのはあの子で、私はその選択が間違いだったとは思わない。…………でも」)
 刹那に落ちた涙を想い、揺らぎの音色。
(「でも、あの子は泣いていたから」)

 望の翼が大気を切る。
 果てなき虚無に、望もまた思い出すのだ。
 深い絶望を。
 何度も、何度も、訪れた光のことを。
(「わたしが深い絶望に屈しそうになる度に彼はわたしを何度も救い出してくれた」)
 それがどんなに嬉しかったことか。どんなに赦しを感じたことか。
(「わたしにとっての最愛のヒーロー」)
 彼がいるから、望は今も戦えている。勇気を貰っている。
(「わたしにとっての生きる希望」)
 彼が見せてくれた希望の先は、とても広くて。
(「わたしの比翼」)
 彼がいるから、たくさんの人と出会うことができた。旅団のお友達や――届く揺らぎの波動を望が辿れば、そこにはミュー。
 虚無の大気のなか、揺らぎの波動とともに広がる音色が望に触れれば、心の琴線が凛と鳴った気がした。
 この想いのままに、素直で、清らかな歌声がいまここに。
「La~♪ La la la~♪ La la la la la~♪」
 透き通った、ほんの少し甘めな、天使の歌声はミューを呼ぶもの。
 揺蕩う虚無の大気が震えて、彼女の声が浸透していく。とろけるような語尾にしっとりとした歌声が重なる。

 ――いつか悲しみの夜が明けたら もう一度この手を繋ごう

 翼を輝かせ、ふわりと舞い降りてくるミューの手が望へと差し出された。
 微笑んだ眼差し、柔く優しく動く唇。
(「さぁ、手を取って! 一緒に歌いましょう、望!」)

 ――約束だよ

 小さな手に重ねる小さな手。共に紡ぐは約束と希望。
 ミューの声なき誘いに、望もまた微笑みを返した。
(「えぇ、ミューさん。歌いましょう。一緒に!」)

 ――明日は誰にもわからないから

 ミューが歌う。
(「貴女ともう一度こうして巡り会えた。その時胸に誓ったんです。
 貴女を苛む絶望を全部払い除けて、今度こそ皆で幸せになるって」)
 ミューは紡ぐ詩にビブラートをかけて、歌い始めた望を優しく包み込むように。

 ……わたしに光を教えてくれた
 ―― 一緒に行こう
 ……あなたに全てを捧げたいの 愛も希望も未来も

 絆はここに。
 約束は共に。
 ミューと望の美しい歌声が重なって、支え合って。

 ――歌いながら……♪
 ……I wish Eternity with you La la la……♪

 覚悟と希望が道を作り出し、育ち実る言霊にアルカディアが震えた。
 降り注ぐ光、舞い降りたなびく闇。
 遠く、近く、螺旋の軌跡を描くハーモニーは輝く明日に向かうもの。
 双星の如きシンフォニアを前に、世界は為すすべもない。
「これが生くる者の感情――幽きを経ても揺蕩わぬ、強き、強き、色」
 轟く声で大気が奮える。揺蕩う虚無が散り散りとなっていき、再びアルカディアが象られてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
技能戦
さほど広くなく、でも建物のある凹凸のある場所

さて。俺はこのペンキの入った銃を持つ
お兄さんはこのモップね
このペンキをぶちまけて、たくさん建物に色を塗った人が勝ちね
俺は、俺たちの間に友情はない派
敵さんは…何か主張、ある?
何にしまとめてぶっ潰して最後は俺が勝つ
それじゃ、戦闘開始!(というと同時にお兄さんの顔面に向かって撃つ
あ、間違えた

制圧射撃を利用し、絶望の福音も交えて相手の動きを読んで先回り/後ろから不意打ちしつつ陣地を広げていく
お兄さんも敵も見かけたら積極的に撃っていく
守るよりもガンガン攻めていくほう。
お兄さんに、威厳ねえ…(あるのかなって顔してた

※勝敗はお任せ


夏目・晴夜
リュカさんf02586と
技能戦
何ですか、この場所

モップを持たせる前に説明して頂きたい
一体何の戦場なのですか、此処は!
このハレルヤを讃える像すら無いとは

あ、なんか唐突に理解しました
制圧射撃の戦場ですね!
え?では私は『ハレルヤは至高派』で…待って下さい友情ないんですか!?
あ、なんか唐突に理解しました
もう友情の枠を超えたマブだよ、という事ですね
で、アルカディアは何派です?

では始めますか
全てをハレルヤの【威厳】一色に塗り潰して圧倒的勝利をゲットです!
ついでに数多の霊を呼んでペンキを触らせ、その手でペタペタ塗りまくらせたり敵をガチ攻撃して倒す
ええ、戦闘開始─(顔面にペンキをくらい
(無言の反撃

※勝敗お任せ



 ここはブルーアルカディア。
 遠くにはポップなサイバーパンクな建物が連なっていて、一見キマイラフューチャーのような錯覚を覚える夏目・晴夜(不夜狼・f00145)。
「成程」
 速攻で納得気に頷いたのはリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)だった。
「え、何がですか?」
 晴夜がそう問う間にも、リュカは目の前に現れた透明な一覧……選択肢画面をパッパッと操作して、ペイントブキみたいな銃を手に入れている。
「なん、それ、何ですか。何処なんですかこの場所」
 戸惑っているのは晴夜だけらしい。リュカと――虚神アルカディアもまた骨のような指で選択肢画面を操作して、傘を手にしていた。服装は何故かつなぎをきている。彼らの理解が速すぎる。年の差だろうか……と思う晴夜。下はともかく(とはいえ違いは二歳ほどだが)、上の方はとてつもなく離れていそうだが……。
「何しているの晴夜お兄さん。お兄さんはこのモップね」
 さくさくと晴夜の前のウィンドウを操作するリュカ。いつの間にか晴夜はクリーム色のモップを持っていた。
「モップを持たせる前に説明して頂きたい。一体何の戦場なのですか、此処は!」
「ふむ。ここは名前を言ってはいけないゲームの戦場なのだ。各自が持つペイントで面を制圧すれば勝ちとなる」
 陣取りゲームみたいなもの。
 虚神アルカディアはくそ真面目に答えて、リュカが「名付ける気皆無だね」と呟いた。
「アルカディア。この場所には致命的な欠落があります」
「?」
「このハレルヤを讃える像が無いのですが……」
 ――そう言った晴夜を、アルカディアは改めてスキャンしたようだ。
 次の瞬間には晴夜を中心に、まるで太陽神をあがめるかのような像が十字に四体配置されていた。現れた像を、リュカはその優れた反射神経をもって撃ち抜く――像は容易に小豆色の絵の具にまみれた。
「リュカさん???」
 何故リュカが晴夜を讃える像に攻撃(?)したのか、晴夜には理解できなかった。
「今、私たちの友情が弾けそうでしたけど」
「……ゆうじょう? ……俺たちの間に友情ってあったけ? ない派を支えるよ。俺は」
 俺たちの間に友情はない派、と主張するリュカ。
 パッキィィィンと像の一体が凍りついた。いや物理的に凍りついていた。アルカディアが傘から水色のペイントを撃ったのだ。晴夜はアルカディアの方を向いた。眼差しに殺気がある。
「アルカディア。ちょっと今取り込み中なので大人しくしていてください」
「エッハイ」
「リュカさん、私たちの間に友情がないと!? ――あっ、いえ、待ってくださいなんか唐突に理解しました。もう友情の枠を超えたマブだよ、ということですね? ところでアルカディアは何派ですか? 私は『ハレルヤは至高派』なのですが」
 落ち着こう、と手をあげようとしたリュカであったが流れるように次へと話が移っていったので、手を下げた。まぶ。とは何だろうか……。リュカは真顔になって考える。
 アルカディアは何派か、既に決まっているようだ。鷹揚に頷いた。
「たい焼きは頭から派だ。吾が勝ったら、其方らの血流をそれぞれ餡子とカスタードクリームに変えていただくことになる」
 いただくは、たぶんいただきますの意だ。
 ……ああ、だからペイントがこの色なのかと二人は理解した。

 技能:制圧射撃戦、start!
 小豆色のペイント弾を地面に建物にと撃ち染めながらリュカが進む。ペイントの中を、イ……じゃなかった、たい焼きになって泳ぎ進むことは出来ないようだ。一帯を染め上げたリュカは敢えて何も塗られていない路地へと駆けこむ。
 ユーベルコードを使えぬこの戦場において、技能と経験がすべて。福音を情報収集・第六感へと置き換えて辺りを探る。
 タンッ! とペイント弾の音が聞こえた瞬間、建物から飛び出したリュカが一瞬で視界に捉えた敵へと撃った。そこにはアルカディアが小豆色に染まっていた。
 四発、五発と続ければ、広範囲にペイントが飛沫していく。

「この戦場をハレルヤの威厳色に染めてしまいましょう」
 晴夜は断言する。断じてこれは『カスタードクリーム』色ではない。『威厳』色だ。
 モップの長柄を振りに振りまくって、路地を威厳色に染め上げた彼は「まさしくハレルヤですね!」と言った。ちなみに例の像はすべて威厳色に塗りつぶしている。
 路地を抜けた先はアルカディアのスタート地点だったようだ。こちらもほぼ条件反射でモップの先を穿ち滑らせた。結果、轢かれるアルカディア。怪力任せなモップ操作に、なすすべもなかったらしい。彼の雲のような身体は威厳色に染まってしまっている。
 順手逆手と長柄を繰って回せば、威厳色が遠くへと飛沫して、飛来したリュカのペイント弾とぶつかり合って弾けた。
 カスタードクリームと餡子が調和した美しいコラボレーション。
「リュカさん、見つけまし――」
 たよ。
 と、晴夜が声掛けることは叶わなかった。
 リュカは言葉も発さずに問答無用でペイント弾を当ててきたのだ。高度を取ったのか、彼は段差の上から眼下一面を塗りつぶそうとしている。
(「お兄さんに、威厳ねえ……」)
 リュカは言葉にはしなかったが、表情にはありありと出ている。
 彼の弾を顔面に喰らった晴夜は小豆色に塗りつぶされた。身体が重くなり、動きが鈍る。
「……こうなれば手数で勝負です……! 芥の罪人を――」
 霊の力を借り、人海ならぬ霊海戦術で攻めようとする晴夜だったが、
「ここはユーベルコードを使うことが出来ぬのだ。すまぬな」
 システムちっくにアルカディアが告げ、告げた瞬間、呪詛めいたガチ眼差しの晴夜モップが叩きつけられた。硬いトコで脳天一撃である。
 鋭く飛沫し、そして一面に広がるカスタードクリーム……色。色が違えば凄惨な殺人現場を披露していたかもしれない。

 アルカディアに支給されたライフは無くなり、結果、虚神をペイント撃破したのは晴夜だったが、戦場を小豆色に制したのはリュカなのであった。
 お疲れさまでした!!! これにて撤収!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
【艦隊戦】

ここがアルカディアの玉座…遂に辿り着いたぞ。命を持たない虚ろの神、それがアルカディアの正体か。

飛空艇艦隊の諸君、ここまで共に来てくれてありがとう。これが最後の戦いだ。
キャバリア「夜の女王」に乗り込み、空へ。【ブレイカーシップ・ブレイブナイツ】を発動し、130隻の自律宇宙船を伴って出撃だ!

《集団戦術》で飛空艇艦隊を守るように展開して、《レーザー射撃》で火力支援だ。我々無人の艦隊が前に出て、攻撃を引き付ける。生命になりたいのであれば、生命の尊さを知るべきだな。力づくで奪い取っていいものではないんだ!
増殖植物群を光剣でなぎ払い、アルカディア本体へ突撃。石剣を見切り、《カウンター》の一閃を!



 ブルーアルカディアの飛空艇艦隊がアルカディアの座する上空へと突入を果たす。青き空の色は渦巻く闇へと変化して、雲では無い瘴気の霧を突き進めば――果てともいえる空間、彼方であり彼方ではない空に黄金の玉座。
「来たか。強者よ。吾に見せてくれ。生命、苦しみ、憎悪、悲しみ、すべてた。すべてを」
 大気を震わせ轟く声は、ただただ平坦。感情もこめられていない、ある意味において無情な色。
 虚神アルカディアの姿にガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は息を呑んだ。
 あれが。
「命を持たない虚ろの神、それがアルカディアの正体か……ある世界においては理想郷とも呼ばれる――」
 アルカディア。
 猟兵が名付けた世界の名は、結果虚神をも示す。|寂寞《ブルー》にして、海の星が纏う|天の真実《ブルー》。
「吾は虚神アルカディア。己が進化の為に諸君を苦しめる、諸悪の根源である」
 彼は彼なりの理想を我が物にしようとしている。だがそれは世界の崩壊へと通ずる道。決して、猟兵は――ブルーアルカディアの住人は同道できないもの。
「グレイローズさん、ここからどうする?」
 飛空艇艦隊を取りまとめる男からの通信が、ブラッドギア「夜の女王」に入る。サイキックタイプのキャバリアは音声ノイズも入らず、動けば滑らかに駆動する。
 中へと乗り込んでいたガーネットはこのブルーアルカディアの戦線において共に戦ってきた彼らへと、知らず微笑んだ。――彼女の微笑みは見えていないだろうが、掛ける柔らかな声音が艦隊の者たちに届く。
「飛空艇艦隊の諸君、ここまで共に来てくれてありがとう。これが最後の戦いだ」
 ここは彼らの世界。彼らの空。彼らの艦隊がなければ容易に辿り着けなかったであろう場所。
 飛空艇の運用というものをガーネットは理解しているのだ。
 彼女の世界の宙。彼女の世界の船。航行するためのエネルギーは、きっと世界に住む者の領分。
 惜しみのない助力を貰った。その気持ちが行動がとても頼もしく嬉しい。
「後方支援を頼みたい。アルカディアの攻撃が一帯の空を抜けていかないように警戒を。――前には『私たち』が出る」
 チャリオット隊のアルカディア・オブリビオンが無数に出現し始めて、夜の女王はテイクオフ。
 JOXフォトンブレイドを抜刀すれば、煌々と輝く剣身が現れた。
「勇敢なる騎士たちよ、今ここに集え!」
 剣を掲げ、夜の女王が鼓舞をする。召喚されるは130隻の小型自律スペースシップ。
 チャリオット隊が放つ毒の一撃を狙わせ散らすために飛翔してゆく。
 後方の飛空艇艦隊を守る陣形は敵の機動力に対応するもの。
 肉迫してくるチャリオットを斬り払いながら、ガーネットもまたアルカディアへと向かっていく。
「強者よ。もっと強くなれ。実ったその生命を吾にくれ」
 アルカディアの宣言と同時に無数の植物群が敵剣から展開されて、空に在る成分を吸収していく――それは死群だ。
 僅かに残っていた雲粒が散り、空気がなくなり、世界は色を失くす。
 迫りくる植物群はチャリオット隊よりも速い。
 ガーネットの血中ナノマシンが鼓動であるかのようにキャバリアを瞬間的に叩く。駆動するためのエネルギーが指先にまで満ちる。
「生命になりたいのであれば、生命の尊さを知るべきだな」
 人を構成するもの、植物を構成するもの、大地を、天を構成するもの。
 世界は生きてきた。ガーネットもまた生きてきた。生命を動かすエネルギーは決して容易に出来上がるものではなく、ひとつひとつが奇跡の集合体なのだ。今この瞬間もまた奇跡のひとつ。
 『ここ』も未来を切り拓くための、一瞬。
「人々が――私たちが生きてきた『軌跡』。それは力づくで奪い取っていいものではないんだ!」
 迫る増殖植物群へと光の剣が喰いこみ、そして払いの一閃。返す刃は数度。縦横となぎ払った光の軌跡は鞠のような球体を描く。
 剣技が連なる果てには強き光の集合体。
 眼前へと迫ったアルカディアが石剣を振るえば、キャバリアが跳ねた。細やかな駆動はガーネットの思うまま、隅々にまで行き渡る。跳ねに伴い振り上げた剣が石剣を弾き返し、流麗な弧を描く光の斬線がアルカディアへと到達した。
 虚神へと与えられた流星の如き鋭き一閃は、神を殺すための一手。ゆえの刹那は、神に生命を感じさせるものなのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シリン・カービン
戦闘手段:狙撃戦

距離があればこそ出来ることではありますが、
見えていれば、当てられる。
アルカディアが放つ無限増殖植物群を、
こちらに達する前に火の精霊弾で爆破します。

瓦礫を遮蔽物にしながら飛び回られるのは厄介ですが、
狩りではよく遭遇する場面。
すなわち。
「追い込みましょう」
超視力でアルカディアの挙動を観察。
移動時の動作のパターンを見極め、次の移動先を推定。
隠れ家となる瓦礫を破壊し、回避するその先に銃弾を
『置いて』おきます。

高速で飛翔されても問題ありません。
時の精霊の加護を得た私には、その動きが手に取るように見える。
ましてこの銃には魔力を宿す望遠照準器が備えられている。
「逃しません。あなたは私の獲物」



「強者よ。吾に生命をくれ、憎悪をくれ、苦しみをくれ、悲しみをくれ」
 果てなき求めを告げながら、拒絶の雲海を噴出する虚神アルカディア。
 彼の存在は大気と同義である。すなわち、世界。世界は強者を欲し、強者を屠る。
 空中に巻き上げられた遺跡の瓦礫が果てなき宙に浮かぶ――どちらが天地とも分からぬ場に、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は降り立った。
 煙の塊とも見えるアルカディア――視認できる虚神を追う緑の眸。
 バンッ! とアルカディアが叩きつけた風が瓦礫を大きな礫として放った。
 空気を喰らう無限増殖植物群が押している。
 何もかもを轢き潰す死群がシリンへと迫っていた。
 苛烈な死風だ。
 けれどもシリンが纏うのは、穏やかな――そう常に冷静な風。
 精霊の加護を得ている彼女の視界は常にクリアなものだ。石礫の動きひとつひとつを捉えた時には既に猟銃を構えている。
 照準をあてての射撃。火の精霊弾が植物群に着弾すれば、突き進む植物を駆けていく火の一閃。
 焔の一筋が破裂したかのようにして燃え広がっていき、発生した上昇気流が岩礫の軌道を彼方に向ける。
 ボルトアクションを起こし、再びの発射。二発、三発と撃っていけば間近で排莢に描かれる弧が赫くなった。
 黒煙とアルカディアを成す大気が混ざり合い、灰雲のような濃霧が満ちる。
 そこを斬るように飛翔するアルカディア。
 瓦礫を遮蔽にして見え隠れする様子はまるで、
(「森の獲物」)
 ここには、森のような噎せ返るほどの清浄な空気はない。
 心癒す鳥のさえずりも、生物の営みも、美しき緑もない。
 ここにあるのは世界を破滅へと導く虚神の大気で、巻き上がった瓦礫で、滅びの一端。
 場所も、状況も違うけれど、ここはシリンの狩場であることには違いない。
 獲物が陰に飛び込みながら駆けていく光景は、狩りではよく遭遇する場面だ。
(「追い込みましょう」)
 猟銃を動かすことなく、シリンは目と意識でアルカディアを追う。
 弧を描く範囲、角度、旋回のタイミング。
 反復する獲物と神は、存在している以上同義――アルカディアは隠れ家とも呼ぶべき大きな瓦礫を点にして駆け回っているようだ。
「……逃しません」
 ――呟きは祈り伴う決意だろうか?
 猟銃が火を噴き、敵の隠れ家的瓦礫に着弾すれば砕けていく破裂音。
 ヒュッと大気が動く。その軌道に刺しこまれるは――新たな銃弾。
 まるでアルカディアが抱え込みにいったかのように、置かれたもの。
「何!?」
 大気を震わせる虚神の声は火の精霊弾の爆破によって掻き消された。
「あなたは私の獲物」
 ――否、呟きは先読みによる確定のものだった。
 時の精霊の加護を受けたエイム。
 虚神の動きをシリンは完全に読み切っており、かつ、『龍眼晶』をレンズに使った望遠照準器はアルカディアの大気魔力を捉え続けていた。
 火群を切り抜けたアルカディアを新たに捉えるは、風の精霊弾。爆風が消えかけていた火を煽り、刹那、アルカディアの空は逢魔時の如き色へと変化するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】技能戦:料理
ここでアルカディアとの死闘を繰り広げる…と思っていたのに
気付けばキッチンとか審査員席とかがあるんだが??
そして察する
そう、この戦場は――料理対決!!

お題は…激辛料理か
辛味というのは味覚ではなく痛覚らしい
痛みへの耐性がやたら高い(ついでに激辛好き)綾は審査員にうってつけか

作るのはキムチ鍋
しっかり煮込んで旨味を染み込ませた熱々の白菜、ニラ、豆腐、魔獣肉…
我ながら良く出来たとは思うが…何となくパンチが足りない気も
(綾にソースを渡され)えっ、これを入れろと…!?
せっかくの料理を劇物に変えるのは抵抗があるが…ええい、ままよ!(どばー

さぁアルカディア……お前にもこれを食べてもらうぞ!


灰神楽・綾
【不死蝶】技能戦:激痛耐性
気付けば審査員席みたいなところに座っている
なるほど、俺は料理対決の審査員役なんだね
梓の美味しい手料理が食べられるなら大歓迎だよ

激辛料理が食べられるなんて楽しみだなぁ
ウキウキ見守っていたら、梓が悩んでいたので
隠し味にこれを使うといいよ
と、愛用のXXXソースをこっそりと手渡す

そしてお楽しみの審査タイム
ん~~っ、やっぱり梓の料理は美味しいっ
辛いだけじゃなくコクや旨味がしっかり伝わってきて箸が止まらない
これは1億点だね

そう、梓はシェフ役、俺は審査員役
ということは、アルカディアはシェフであると同時に審査員でもある
凄まじい痛み(辛味)の中にある確かな美味しさ、お前は味わえるかな?



 ここはブルーアルカディア。
 丘の上に立つ食堂は、飛空艇で世界を旅する住人にとっての穴場だ。その名もスパイシー・ゲイル亭。
「今日は激辛コンテストが開かれる日だな!」
 この世界に住んでそうな人がわくわくとした楽しそうな声で言った。
「シェフ! 頑張れよ!」
「応援してるぜ!!」
 声とともにバンッと叩かれた背中の痛みで、我に返った乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の反応は、一言。
「は????」
 え。ちょっと待ってくれ。
 瞳はサングラスに隠されながらもそんな表情が見え隠れしている。あるぇ? といった様子で飛んでいた仔ドラゴン・焔が肩に降りてきた。
「本日はよろしく頼む」
 声がしてぼやけた骨っぽい手を差し出されて、反射的に握手する梓。よくよく見れば相手は虚神アルカディアであった。
 彼(?)の手を握った瞬間――まるで前世を思い出したかのように梓はいきなり察するのだ。
「料理対決か!!」
「わあ、梓の手料理が食べられるならこんな戦場も大歓迎だね」
 審査員席に座り、にっこにこしながら灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が言った。ちなみに審査員席は爽やかな風が抜けていくオープンテラスだ。
 青い空と、広がる緑の大陸。飛空艇の乗組員がピクニック場所を設置していくのも眺められる絶景だ。
 テラスでは綾と同じく零もくつろいでいる。
 そんな長閑な景色の中、梓はエプロンと三角巾を装着しながらオープンキッチンへと向かうのだった。

 材料の揃ったキッチンを見渡しながら、何を作ろうかと梓は考える。
「激辛料理がお題だったな……辛味というのは味覚ではなく痛覚らしいが」
 呟きながらチョイスしていく調味料。大きなパッケージを手にすれば、それはキムチ。
 ここは相方の激痛耐性を活かした料理としたいところだ。
 白菜、ニラ、豆腐、キノコ、肉は噛み応え、肉汁をしっかりキープするブルーアルカディアの魔獣肉だ。
 それらを濃いめの出汁でしっかり煮込む。食材が持つ味がハーモニーが進化してゆく調理過程。
 料理に手慣れている梓の動きは的確で無駄がない。シャキシャキと美味しい野菜の如き軽快さ。
 くつくつぐつぐつ。
 赤い鍋が楽しそうな音を鳴らして、スパイシーな香りが煙とともに昇ってゆく。
 激辛好き向け――すなわち綾好み――のキムチ鍋はあっという間に出来上がり間近。
 いつも通り、味見もする梓であったが……うん、うん、うーん。という風に小さな唸り声。
「我ながら良く出来たとは思うが……、む。何となくパンチが足りない気も……」
 キッチンにある唐辛子を手に取るが、まあコレジャナイ感がして本格的に悩み始める梓。「キュー?」と鳴きながら彼の頬をつつく焔は「大丈夫?」と尋ねているようだ。一人と一匹の様子はちょっと可愛い。
 ウキウキと見守っていた綾はくすりと笑って、「梓」と声を掛けた。
 近付いてそっと渡す、物。
「隠し味にこれを使うといいよ」
 にっこりと言う綾に渡された物――同じくそっと見た梓は「えっ」と息を呑んだ。
「こ、これを入れろと……!?」
 抵抗感たっぷりの声で、表情で、あーとかうーとか悩みだして、そして一生懸命に調理しているアルカディアを見て……決意する。

 いざ実食。いただきます。
 アルカディアが振舞うは、魔エビチリであった。
 ぷりぷりの身に絡めた赤は灼熱の色。口に含めば熱き血潮が噴出してくるような辛さ。しっかり絡むタレが喉から肺へと同道していく。
「へー、アルカディアのエビチリも美味しいね! 梓が作るやつもめっちゃ美味しいんだけどね」
 舌鼓をうつ綾に「そうなのか!」「そっちも食べてみたいなぁ」と審査員兼ピクニック中の人たちが言う。
「さ、次は梓のキムチ鍋だね。ほら、アルカディアも座りなよ」
 綾が審査員席を指して言えば、アルカディアは素直に座った。
 一人が調理、一人が実食の審査員となれば、アルカディアはどちらも兼ねなければいけない。それが大技能戦場。
「さぁアルカディア……お前にもこれを食べてもらうぞ!」
 と、梓が彼らの前に置くキムチ鍋。
 火からおろしたばかりの鍋は、相変わらずくつくつぐつぐつと歌うように音を立てている。
 こちらもいただきます。
 綾はまず白菜とキノコを箸で摘んで。
 白菜はもちろんのこと、キノコのヒダにも深く絡むタレがスプラッシャーとなり熱く熱く口内を彩る。噛みこめばじゅわりと激辛が付随する食材の味と食感。
 食材の持ち味を殺すことなく、活かし、燃え上がらせる梓の激辛料理の出来は――、
「ん~~っ、やっぱり梓の料理は美味しいっ」
 綾の箸は止まらない。
 辛いだけじゃないのだ。コクや旨味がしっかり伝わってくる。
「これは1億点だね」
 にっこにこと美味しそうに頬張る綾。
「…………いやまあソレ劇物化してるんだけどな。料理っつーか兵器っつーか。…………アルカディア、箸が止まっているぞ」
 先程綾から渡された物――愛用のXXXソース仕込みのキムチ鍋の前で、アルカディアは固まっていた。
 白菜と肉が口の中に入っていったのは確認済みである。
「そっとしておきなよ、梓。美味しさを噛みしめているんだよ」
「……いや、噛みしめすぎて、口から気流吐いてる気がするんだが」
 体内の大気を吐き出している気がする。
 アルカディア、大気過ぎて激辛の宥め方が行方不明になっている気がする。梓は彼(?)を揺さぶった。
「おい、しっかりしろ、アルカディア」
 だが激辛に耐えられなかったのだろう。アルカディアはばたりと倒れた――アルカディアを構築していた空気が飛散する。
「あーあ、この凄まじい|辛味《痛み》の中にある確かな美味しさが分からないなんてね。これが良いのにね」
 じゃあ、お前のぶんも俺がいただくね。
 嬉しそうに、楽しそうに、綾は言うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
【技能戦】
君が今回の真犯人だな!
ふっふっふ、私は名探偵・夏海箱…じゃなかった
柊はとり君様だぞ!
『名探偵属性』(属性攻撃)で私に勝てるかな?
さあ、謎という迷宮の扉を開くんだよ!

戦場は勿論殺人現場!
あっ実際に人は死んでないよ
謎解きゲームみたいな感じだね!
おっと早速名探偵の第六感が発動して
隠された証拠品を見つけたよ!
白い粉…ま、まさかこれは…
小麦粉!
犯人はきっと口に小麦粉をいっぱい詰めて
被害者を窒息死させたんだ!ねえコキュートス!
『すみません 意味がわかりません』

ねえ虚神探偵…
君は気流を操れるんだったね
範囲内のあらゆる粉を操って
被害者を殺した真犯人は君だ!

あっ逃げるな!待てー!
犯人告発キック!(蹴る



「ちょっと無造作すぎるんじゃない? 雑だよね? 私、来ちゃったんだけど。あ、一応感謝してるよ? でもね? そんなんで雑さで神を名乗れると思っているの? 虚ろな神で大気なんだから空気ぐらいちゃんと読みなよ。いやむしろ読んだの?」
 気付けば見知らぬキッチンで、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は怒涛の毒舌を披露していた。もっともその肉体に乗っているのは夏海箱……げふんげふん、はとり君ちゃんなのだが。
 仁王立ちしているはとり君ちゃんに対し、虚神アルカディアは名探偵よろしく、キッチンの椅子に座ってふんぞり返っている。
「吾は吾ゆえに。女子成分を補給したい時もあるのだ」
「………………」
 はとり君ちゃんは真顔だった表情をさらに引き締めて距離を取った。
 無造作に無遠慮にスキャンされた結果が今だ。
 アルカディアは「血も、舌も、皮膚も、無い」といっていた。何もない。肉体もだ。魂は男なのかもしれない。だが女にもなりたいのかもしれない。
「うん、君の思考回路は分かったかもしれない」
 はとり君ちゃんは頷いた。理解を示してみせた。じゃないとこの――キッチンを見回す――密室から脱出できない危機を感じたのだ。
(「はとり君をこんな変態くさいことを言うモノと一緒にさせとくわけにもいかないしね」)
「だってここは殺人現場!」
 はとり君ちゃんの閃く思考に、アルカディアも呼応する。
「そう殺人現場! 死体は無いが、ここで何らかの犯行が行なわれたに違いない!」
 アルカディアはガッとキッチンの棚を開いた。
「例えば! この包丁! 出刃、菜切、中華、パン切り、ペティナイフまで揃っている――これは脅威だ。見るがいい、これだけ揃っているならばあるはずの牛刃がないではないか」
「甘い、甘いよアルカディア」
 ちっちっちっとはとり君ちゃんが舌を鳴らし、ひと指し指を振る。
「シェフが今、調理に使っているのかもしれない。ほら、目の前で捌いたり焼いてくれる魅せ方もあるでしょう? それだよ」
 ぱっと腕を拡げてはとり君ちゃんは辺りを見渡した。
「それに、血痕がない! ここは殺人現場だよ? 包丁による犯行は血で汚れるもの」
「ならば、殺人の証拠となるものは……」
「アルカディア! 名探偵属性は閃き! すなわち第六感が冴えわたるもの――例えばココ!!!」
 今度ははとり君ちゃんが違う棚をガッと開いた。そこには袋詰めされた大量の粉が入っている。
 何が入っているのかははとり君ちゃんも知らなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべた。
「白い粉……ま、まさかこれは……」
「「小麦粉!」」
 はとり君ちゃんとアルカディアの声がハモる。
『小麦粉ですね』
 コキュートスから確定の言葉が放たれた。
「……となれば、犯人はきっと口に小麦粉をいっぱい詰めて、被害者を窒息死させたんだ! ねえコキュートス!」
 そうだよね!? と同意を得たいはとり君ちゃんに対し、
『すみません 意味がわかりません』
 と、コキュートスは無情に返した。ああ無常。

「小麦粉。粉塵爆破」
 あらゆる可能性を思考するアルカディア。彼は探偵であることを証明してみせるかのように行動している。
 だが、それがまた疑わしくも感じてしまうのだ。そう、はとり君ちゃんが名探偵ゆえに。
「ねえ虚神探偵……君は気流を操れるんだったね」
 ハッとするアルカディア。自身の身体を見下ろせば、
「確かに!! 吾、大気!」
「ならば簡単なこと。範囲内のあらゆる粉を操って被害者を殺した真犯人は――君だ!」
 名探偵属性、第六感、瞬間思考力、そしてカウンターと見切りを駆使した推理が、アルカディアを状況的犯人へと仕立て上げてゆく。
「ちっ。バレたか」
 アルカディアは身をドロンとさせようとするが――、
「犯人告発キーーック!」
 と水平飛びに炸裂したはとり君ちゃんのドロップキックが放たれて、アルカディアはその衝撃で飛散した。
 大技能戦場からぱっと元の場所へと戻されるはとり君ちゃん。
「さあ、最後の事件解決といこう」

 つまりは技能戦場を無事解決し脱出したので、あとは改めてこの記憶を代償に帰るのです。無事に帰り、事務所の椅子に座るまでが名探偵の義務ですからね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
戦闘手段:悪夢戦

広がる光景は故郷、ダークセイヴァーの貧民街の一角
見覚えのある少年が倒れている
…フォルク
子供の頃、人狼という理由で疎まれた俺に寄り添ってくれた、掛け替えのない友

そんな友を失った時の光景が蘇る
倒れたフォルクを助ける事も出来ず、冷たくなった友を弔う余裕も無く…
いつの間にかフォルクだけではなく、これまでに親しくなった者まで次々斃れる光景が続く
あの時のように、自分では何も出来ないまま

…最悪の光景か
ああ、これは俺にとって間違いなく“最悪”の一つだ

確かに以前の自分であれば折れて呑まれていたかもしれない
しかしダークセイヴァーの第三層でフォルクと再開した時、歩みは止めないと決意したばかりだ
もう二度と、仲間を失わない為に

迷いなく銃を構え、破壊力を重視した特殊弾倉を装填
毒の気流で動きが鈍れば連射は困難、一撃で大ダメージを与えられるように
雲海の噴出が止んだ瞬間にユーベルコードで反撃する

後悔が消えないなら抱えたままで構わない
力が足りないなら更に鍛錬を積めば良い
悪夢に呑まれて虚神の糧となる等、論外だ



「見せてくれ。与えてくれ。強者よ、此方彼方に在りし苦悩を」
 虚神アルカディアの声が轟いて、拒絶の雲海が満ちていく。
 大気に漂う雲――ひと粒ひと粒が音を立て、何かの色を宿して、降雨の如きノイズがシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)を呑みこもうとしていた。
 ざ。
 とした音はまるで海で聴くような音。この気配は骸の海のものだろうか? 過去の時間がまざまざとシキの前を彩っていく。否、色無き、空。色無き風景。――色は、元々その世界には無いに等しいものだ――そのことをシキはよく知っている。
 ここは闇に覆われた世界、ダークセイヴァー。
 貧民街特有のすえた匂いが人狼の嗅覚に障る。けれども懐かしき匂いですぐに気にならなくなった。
 シキが立つ貧民街の一角は、忘れられない場所だ。
 映し出されるのはうつ伏せに倒れている少年の姿。
「……フォルク」
 ――お前があの時、オレの名を呼んだことを、覚えてる。
 先日、『彼』はそうシキに告げた。死にゆく彼に呼びかけた名。これは友の名。
 大事な『音』の響きだ。
 あの時、シキは倒れたフォルクを助けることが出来なかった。
 人狼という理由で疎まれたシキに、彼はあんなにも寄り添ってくれていたというのに。掛け替えのない友だったのに。
 助けることが出来なかった。
 二度、三度、いや無限に突きつけられる事実。この罪の意識はずっとシキを苛む。
 生命力に満ちていた友は冷たくなって、ああ、そうだ、シキはこの時、友を弔う余裕も無かった。
 フォルクの色が消えて屍となり、魂人のものとなり。
 時の経過に弔う機会をシキは見失っていった。それは泡沫のようなもので次々と湧き出ては消えていく――過去から今――言葉を交わし親しくなった者、友と呼べる者、叶った出会いが再び喪われていく泡沫の光景がシキの前に広がってゆく。
 すなわち、誰もが斃れていく景色。
 ただ一人、シキは立ち竦んでいる。
 否、大事な『音』の響きを再び発した。それは彼らの名。
 だが呼ぶだけだ。
 あの時のように、自分は何も出来ない――。
「……最悪の光景か」
 鼓動の絶えた世界のなか、シキの自嘲じみた声が大気を震わす。ああ、と頷く。認めようではないか。
「これは俺にとって間違いなく“最悪”の一つだ」
 連鎖していった泡沫のなか、またしても彼は何も出来なかった。泡沫を捉える機会は刹那過ぎて、だからシキは覚悟する。この未来もあり得るのだと。
 この未来を叶えないために出来ることは、覚悟して踏み出すこと。
 その一歩が何処へ向けられるのかは分からない。

 シロガネに特殊弾倉を装填し、銃口を彼方へ向ける。
 ざ。
 と、映された光景が歪み、雲粒が乱れた。

 我武者羅に動いた先が吉と出るか凶と出るか――だが、それは確かに明日へと続いている。そのことを既にシキは身を以て知っていた。だって、
(「フォルクと再会することができた」)
 ダークセイヴァーで抗って、生きるために戦って、たくさんの時間を駆け抜けてきたからこそ辿り着いた第四層にフォルクは『生きて』いた。
 シキと呼びかける少年の声や表情は、生命が宿っていた。狼の耳を豊かな『音』が打った瞬間、歩みは止めないとシキは決意したのだ。

「もう二度と、仲間を失わない為に」

 声は言霊。言葉は福音。シキの決意がアルカディアの大気を震わせた。
 シキの圧倒的な意志に虚神は風のような声を轟かせて。
「おお……オォォ……」
 拒絶の雲海が動きを止めて、雲粒が軋んだ音を立てる。すべての気流が示すは虚神アルカディア。
 肉なき血なき神を捉えたシキの銃が火を噴けば、破壊力に長けた特注弾が放たれる。
 激しい反動がシキの腕筋を捩じ上げたが、威力は十分。銃弾の激しい回転が大気とアルカディアの身体を貫き吹き散らした。
 吹き抜けていく風がアルカディアの邪心を彼方へと薄めていく。
「後悔が消えないなら抱えたままで構わない」
 それは決意と覚悟にしてみせよう。
「力が足りないなら更に鍛錬を積めば良い」
 それは未来を拓いていく力となる。
「……悪夢に呑まれて虚神の糧となるなど、論外だ」
 過去に蒔かれた悪夢の種に、眩き声は潤う水であるかのように注がれた。
 成育され、暁の実りを得る未来は、友たちのために。
 シキの意志は、アルカディアの大気を震わせ、淘汰していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
技能戦で行くわ
戦う以外の方法でもこの世界を守れるなら
やるしかないわね!

やっぱりあたしは料理かしら
お腹を空かせた子どもたちにたくさん食べさせてあげたいわ!

ほら、あなたもちゃんとエプロンするのよ?
見た目が怖いって子どもが泣いてる?
くまちゃんとかの可愛いエプロンにしたらいいのよ
ほら、頭に三角巾つけて

子どもが好きな料理といえば…
ふふ、あなたにわかるかしら?
まずはご飯を炊いて
野菜を切っていくわね
じゃがいも、人参、たまねぎ
そう、不動の人気メニュー…カレーライスよ!
食べやすいように野菜は小さめに切って
隠し味はすりおろしたりんご

煮込んでいる間にハンバーグも作っていくわ
あとはオムライスね
このメニューどれも嫌いって子はいないはず!
オムライスにはケチャップで可愛い絵を描いて
楽しんでもらうの

手早く作るのももちろん大事だけど
食べてくれる人へ愛情こめて
下拵えの手間を惜しまず
笑顔を想像して作るのよ

出来上がったらちゃんといただきますって言って食べるのよ?
あなたも生命ある者になりたいのなら
命をいただくことに感謝しないとね



「吾に見せてくれ。与えてくれ。強者よ」
 淡々と希う言葉が渡った。
 ブルーアルカディアの大気が動き、何かを構築していく。
「ここは……」
 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は目を瞬かせて周囲を見回した。
 感じるのは荒野の空気。乾きを伴う建物群に、共用のオープンキッチン。何処かの世界に在りそうな――エリシャが育った世界にも似た風景。
 向こうからきゃあとはしゃぐ子供の声が聞こえてくる。
 追いかけっこをしているのだろう。路地を縫うようにこちらへとやってくる。
「あっこんにちは!」
「今日はあなたたちがご飯を作ってくれるの?」
 孤児院が近くにあるのだろうか? 年端も行かない子供たちの姿に、エリシャは自然と微笑みを浮かべた。
「こんにちは! 挨拶ができてえらいわね。――そうねぇ、あなたたちが喜んでくれるお料理を作ろうかしら?」
 子供たちの視線に合わせて身を屈め、パッと花咲くような笑顔で話しかけるエリシャ。
「ごはん、間に合う?」
 不安そうに子供のケットシーがエリシャを見上げて問うた。空は少しずつ暮れに向かっていくような色の変化を見せている。きっと夜になれば辺り一帯冷えこんでしまうだろう。
「任せて! それに、あったかくて、びっくりしちゃうくらいに美味しいご飯を作っちゃうから。……ほら、あなたも一緒に作るのよ!」
 子供の頭を撫でて、言葉の最後はアルカディアに呼びかけるもの。彼女の言葉に彼(?)は頷きを返す。
「料理。審査員は子供たちというわけだな」
 真面目な声、今のところTPOを完全に察知できていないと思わしきアルカディアは灰の大気をたなびかせる死神の風体。その姿は子供たちを怖がらせているようだ。
 アルカディアが喋った途端、子供たちの身がびくっと震えた。
「あーあ、ほら、すっかり怯えさせちゃっているじゃないの。『審査員』の心証も大事なのよ? くまちゃんの可愛いエプロンとか、着てみたらどうかしら」
 そう言うエリシャは自前の空色のエプロンを着ている。腰には深い青のリボン。TPOなるものを学ぼうとしているアルカディアはエリシャの助言に従い、可愛いくま柄のエプロンを装着した。
「あとは三角巾も忘れずにね」
 にっこり笑ってエリシャは言う。

 とはいえ、それぞれが料理で対決するわけではない。ここは料理の共同戦線となるようだ。
 並んでキッチンに立ったエリシャとアルカディア。
 アルカディアが米研ぎなどの下準備をしていく横で、エリシャは野菜を選び切っていく。
 じゃがいも、人参、たまねぎ。
 子供たちが食べやすいように、小さめに、なるべく均等に切り分けて。
 すいっとアルカディアが移動して同じく少量の肉を炒め始めたので、次に炒める玉ねぎを側に置いておく。
「意外と手際が良いのね」
「それだけ其方の力が優れているのだろう」
 猟兵をスキャンするアルカディアの力は、借り物的なものなのかもしれない。
 肉を取り出して炒め始めた玉ねぎは、香ばしさが漂ってくるとともに美味しそうな飴色へと変化していく。
 手分けして行う料理はサクサクと進み、子供たちも興味津々で二人の様子を眺めている。
「なにをつくるの?」
「美味しそうな匂いだねぇ」
 ワクワクとした声に、エリシャの心もまた弾む。
「ふふ。みんなはカレーライスを食べたことがあるかしら?」
「かれえ?」
「なあに、それ」
 無垢で純粋な反応に、「出来上がってからのお楽しみね」とエリシャはウインクして答える。
 用意した挽肉にパン屑も入れて一緒にこねて。
 手早く作られていく形――次々と並べていくエリシャの動きを、子供たちの目が追っていく。

「さあ、みんなにもお手伝いを頼んじゃおうかしら。テーブルの上を整えて、食事の準備をしてくれる?」
 数々の料理が仕上げの段階へと入ろうとした時、エリシャは子供たちへとそう声を掛けた。はあい、と動き出す子、キョトンとする子。
「ほら、こっちに来て」
「テーブルリネンを用意するのよ」
 分かっている子たちが率先して教えていく光景。どこからともなく現われた小さなリネンは、それぞれ柄や布地が違っている。
「こっちは麻。そっちは羊毛で出来ているのね」
 気になったエリシャがそう尋ねると、
「うん。これはママの得意な柄なのよ」
「おいらの家、ひつじがいっぱいいたんだぁ」
 生まれも育ちも違うように見える子供たち。テーブルリネンや食器の見せ合いっこをしながら盛り上がっている。
 大陸違いの子供たちはブルーアルカディアの雲海に沈んでしまった過去の時間なのかもしれない。きっとひとりひとり、色んな家庭があったはず。
 想いを馳せて、今、エリシャにできることといえば食べてくれる彼らに愛情をこめて作っていくこと。
「……、――さあ、お料理、出来たわよ!」
 盛り付けて、テーブルに並べて。
 わあっと子供たちの華やぐ声。
「みんな、席についた? いただきますは出来るかしら」
 エリシャがそう言うと、揃わない色んな『いただきます』の声が上がった。
「ほら、アルカディアも。ちゃんといただきますって言って食べるのよ? あなたも生命ある者になりたいのなら、命をいただくことに感謝しないとね」
「ふむ。この方法もまた、命をいただくということなのか」
 神妙そうに周囲を観察し、アルカディアが呟いた。子供たちを追うように小さな『いただきます』の声。
「これがカレーライス?」
「いい匂い!」
 隠し味にはすりおろしたりんご。とろとろのルゥが絡むご飯や野菜と肉。じっくり煮込まれたじゃがいもはほろりと崩れるほくほく具合。
 食欲をそそるカレーはいくらでも食べることができそうだ。
「おにく、もっとほしいねえ」
「大丈夫。みんなが喜んでくれそうなハンバーグも用意しているの」
 そう言ったエリシャが配膳していくハンバーグ。カレーがたっぷり残っている子にはカレーハンバーグ風に。
 食べればじゅわっとした旨味が口内に満ち、柔らかな挽肉は程よい噛み応え。ちっちゃく刻んだ玉ねぎと人参の甘みが優しく調和している。
「わあ、このおにく、初めて食べた!」
「美味しい!」
 ひと手間もふた手間もかける料理を食べる子はたくさんの初めてに表情を輝かせている。
 赤みが差した頬、きらきらと輝く瞳。お喋りをしながら食卓を囲む時間。
 それは食事の一瞬一瞬が大切な思い出になるであろう瞬間。
 最後に出したオムライスは黄金の輝きを纏っている。
「これにはね、このケチャップで好きなものを描くのよ」
 ケチャップの容器を押して、艶やかな卵に描かれるエリシャの猫の絵。
「好きなもの?」「描きたい描きたい」「何にしようかなぁ」と子供たちは悩んだり、話し合ったり。
 ふわふわ雲のようなひつじ。覚えたての文字。好きな花。
「おねえちゃん、好きなおうたはどう描くの?」
 子供らしい問いかけにエリシャは微笑んで、子守唄を口ずさみながら猫の絵の横に音符を描いた。
 この時には夜の帳が落ちてきて、一番星、二番星が空に輝き始めている。
 子供たちの好きなものがたくさん溢れていく。
 好きなものを描いた卵の下には、ケチャップライス。甘めの味付けに酸味が少々。スプーンで掬って食べ進めれば、大好きだった時間、楽しかった時間がお腹や心を満たしていく。
「料理とは生命を満たすものなのだな」
 子供たちを見て感じたり、知ったりすることがあったのだろう。アルカディアはしみじみとした様子で言った。
「あたし、この時間が大好きなの。明日も頑張ろうって思えるわ。今を大事にして、明日に向かう生命を育てていくの」
 エリシャは微笑む。彼女の前に広がる光景――食事の時間を楽しんだ子供たちは「ありがとう」と言ったり、「ごちそうさまでした」と言ったり。
 少しずつその身は解けて、星光を宿す雲粒となり、アルカディアの近くで漂い始めていく。
「……うん、おそまつさま」
 エリシャが振舞った料理は生命の輝き。楽しい一時。
 そして返された笑顔たちは、これからも彼女の未来を育んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

剣未・エト
音響戦
「聞け虚ろなる神よ!僕の名は剣未エト!生命ならざるゴーストの親より生まれし者、君が庶幾の体現だ!」
生命を奪おうとする攻撃に傷つき苦しむも、肩のくーちゃんが視肉を分け与えてくれる
「確かに、生命は奪い合う事でしか自己を保てないのは事実としてある…けれどそれは生命の一側面でしかない、僕は知っている!」
UC発動、オペラ劇場の空間に王子然とした衣装でステージに立ち唄う
彼らは奪う為では無く護る為に刃を振るい続け
全てを取りこぼさぬよう選ばぬ事を選び続けた
境界を越えて死(ゴースト)を生命(かのうせい)で満たした

そして
クラスメイトの僕の友人達は僕と共に居て、未来(あした)を語る
秋の予定、冬の予定
この先も僕と繋がってくれる
「支える事、与える事、繋がる事、それも生命のもう一つの側面なんだ、奪う事しかせぬ君は、それに一度でも想いを馳せたか?」
倒す以外の道が無い事はわかっているけれど、それでも生命に憧れる事に共感を覚えずにはいられないから
だから
僕と唄えアルカディア!奪うのではなく繋がって、与えあってみせろ!



 いつしかブルーアルカディアは夜の色を纏っていた。
 猟兵たちが、アルカディアへとぶつけてきた攻撃や思いのたけが空に座したように、固まった大気が点在していた。雲粒の集合体は彼らの生命力を映しているかのようだ。
「吾に示せ、強者よ。吾に捧げよ。その生命を。根源を」
 万物を消滅させる虚無がアルカディアから放出され、たなびいて、『揺蕩う虚無』となってゆく――それは周囲の空気を呑みこみ、侵食していくもの。
 生命が生命であるための大気が枯渇し、例外なく、剣未・エト(黄金に至らんと輝く星・f37134)が顕現するための力をも奪っていこうとする。
 猟兵の言わんとする骸の海へと触れたような気がした――歯を食いしばって耐えようとすると、ミニチュア視肉のくーちゃんがエトを支える。お食べというように自らを千切ってエトの口に突っこんだ。
 その味は何にも代えがたい、つまり美味。
 言葉紡ぐ力が湧いてきて、エトはくーちゃんの頭(と思われる部分)を撫でた。
 そしてアルカディアの大気を吸って、声を張る。
「聞け虚ろなる神よ! 僕の名は剣未エト! 生命ならざるゴーストの親より生まれし者、君が庶幾の体現だ!」
 ――吾は望む。希う。己が進化の為に諸君を苦しめる、諸悪の根源である。
 それは声では無かった。
 大気を震わす音であった。
 そして訪れた静寂は、闇よりも静かな無の気配。幽けき世界。
 この場で叩く鼓動はひとつ。エトだけ。……いや、くーちゃんの蠢く肉の、胎動のようなものは感じた。
 それすらもうらやむように虚無が世界を覆う。エトもくーちゃんも止めてしまいそうな虚無。
 エトは告げる。
「……確かに、生命は奪い合うことでしか自己を保てないのは事実としてある……けれどそれは生命の一側面でしかない、僕は知っている!」
 先程アルカディアは示せ、と告げたのだ。
 ならば示してみせよう――エトの纏う鎖が虚空を鳴らした。
「其れは銀の雨降る時代」
 謳うは彼の時。エトが憧れに胸焦がした日々のこと。
 大気を穿つ鎖が再び鳴れば、無常ですらあったアルカディアの空間を塗り替えていく。
 そこはスポットライトの落ちるオペラ劇場。
 耀くライトの筋はまるで陽射しのよう。
 それを光粒として弾くのはエトの王子様の衣装。真白のサーコートは銀の輝きを持ち、金の飾緒は美しく刹那に煌いた。
 謳いあげるは死と隣り合わせの青春を駆け抜けた勇猛無比なる生命使いたちのこと。
「彼らは奪う為では無く、護る為に刃を振るい続け、全てを取りこぼさぬよう選ばぬ事を選び続けた。そして――」
 目前のひとつを護るための戦い。一戦は希望を生む一粒となり、重ねれば螺旋となり、描いた夢の果てへと繋がっていく可能性となっていった。
 そう、
「境界を越えて|死《ゴースト》を|生命《かのうせい》で満たした!」
 そこは死が希う世界だった。明るくて、温かくて、ようやく誰かの『優しさ』に触れて返すことのできる世界。
 打てば響く、応えのある世界。
 どんなに嬉しかったことだろう。エトは拳を胸に抱き、光へと手を捧げた。
「支える事、与える事、繋がる事、それも生命のもう一つの側面なんだ」
 語りながら想い馳せるのはクラスメイト。エトの友人たち。
 また明日ね、という約束。
 美味しいお菓子を見つければ教え合って、誰かが困っていたら助けたいと思って声を掛ける。
 秋の紅葉を見にいく約束。
 放課後は秋限定のアイスを買い食いして、伸びていく影ふたつ、一緒に追うように歩く。
 冬にライトアップされるツリーを見にいく約束。
 その前に期末テストが来るんだよ、と友人の一人が呟いたことにより、一足はやい寒さを味わったり。
 エトの紡ぐ一音が旋律となって、大気を震わせた。オペラ舞台は無限の四季を彩って、アルカディアの知らぬ世界を魅せていく。
 エトと友人が語る何気ない|未来《あした》は、響き合うものだ。彼らに伝えたい想い、届けたい願い、これは新たに描く夢の果てへと続くもの。
 ――いや、果てではない――これは広がっていくのだから。
 ねえ、とエトは問いかける。
「生命が生む|未来《あした》に、奪う事しかせぬ君は、それに一度でも想いを馳せたか?」
(「倒す以外の道は無い――わかっているけれど」)
 それでも、エトは、生命に憧れることに共感を覚えずにはいられないから。
 だってエト自身がそうだったから。
 アルカディアに渡るエトの唄。
 大気震わすビブラート。
 清涼な旋律が新しい風となり、アルカディアをかき混ぜていく。
「何も持たぬ吾に与える事は不可能だ。支える事も。繋がる事も」
 繋がるための誓いを知らない、支えるための祈りも知らない、アルカディアに出来たことは希うことだけ。
「だったら僕が君に与えよう! その意志は拓くことができるのだから!」
 共に希おう。さすれば|未来《あした》へと繋がる。
 願いを昇華し、誓おう。祈ろう。
「僕と唄えアルカディア! 奪うのではなく繋がって、与えあってみせろ!」
 エトの生命賛歌が木霊する。
 ごう! と大気を散らす風が吹いて、アルカディアが哭いた。
 ――凪ぐことなき暴風。大気の摩擦が雷気を生み出していく。発達した雲がアルカディアをまるごと浚っていく気配を、エトは感じた。
 耳を打つ轟音は慟哭だ。
 幾度、世界の無礙を彼は感じたことだろう。響かぬ世界はあんなにも痛い。エトは目に力を込めた。そうしなければ涙が零れそうだったから。

 アルカディアがエトに預けた旋律を、繋がり生まれた譜を、彼女が忘れることはないだろう。

 虚無の大気が解けていく。
「……アルカディア」
 名を呼ぶ。吹き散らされゆく風は、青く、アルカディアの空を穏やかに翔けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年10月02日


挿絵イラスト