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強き想いは狂気に転じて

#UDCアース

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#UDCアース


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 UDCアース世界、極東の島国、日本。世界有数の経済大国であるこの国は、様々な娯楽も発展している。
 例えば、音楽。様々なジャンルの音楽が日々世の中を彩り、人々の耳を楽しませている。
 例えば、文芸。活字のみならず絵を取り入れた漫画文化は、この国のみならず世界でも評価の高い芸術と言えるだろう。
 例えば、スポーツ。様々なルールに基づいて優劣を競うそれは、時に多くの人々の心を震わせ、時に嘆かせる。
 そしてそんなスポーツの持つ魅力に取り憑かれ……狂気に堕ちた男がいた。

「……くふっ、ふひっ……なにが、勝利、だ!」

 暗い部屋の中、並ぶ二つのモニターに向き合う男がブツブツと言葉を零す。黄色を基調としたシャツを着る男の見る画面の片側には、男が情熱を注ぎ愛してやまない、とあるプロスポーツチームのホームページが開かれていた。

「あんな無様な結果で、二部に落ちたクラブが……監督をちょっと変えた位で変わる訳がねぇじゃねぇか!」

 男の言う通り、彼の愛するチームは昨年度の成績が振るわず、プロリーグの一部から二部に降格する屈辱を味わっていた。チームの試合の度に、地元の試合も、遠征先にも足を運び続けた男もまた、強い無念を味わっており……

「……あぁ、そうだよ。やっぱり、俺達のクラブは強くなくっちゃ。一部どころか、世界でも一番……その為には、いっぱい、捧げなきゃ……くふっ、くふふっ……!」

 狂ったような、いや実際に既に狂ってしまっているのだろう。引き攣るような声色で笑う男。眼の前の画面のもう片方には、何かの設計図が記されていた……



「お集まり頂き、ありがとうございます」

 グリモアベースに集まる猟兵達を、銀髪の女性が出迎える。口元に笑みを讃えている彼女の名は、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)、グリモア猟兵だ。

「今回皆さんに赴いて頂くのは、UDCアース世界、日本国。その首都近郊の都市です」

 その街は、この国で盛んなとあるプロスポーツリーグに所属するクラブが本拠地を置いている都市なのだという。
 数あるスポーツの中でもトップクラスの競技人口を抱えるそのスポーツは、観戦者も非常に多い。そんな愛好家の中には、地元クラブをこよなく愛する者達……『サポーター』と呼ばれる者達がいるそうだ。
 サポーター達はクラブを象徴する衣類や装飾を身に纏い、楽器で、声で、フィールドで戦う選手達を支える者達だ。愛するクラブと選手達の為なら、声が枯れる事も厭わないという、心強い存在なのだが……

「そんなサポーター達の内の一人が持つ、その強すぎるクラブへの愛情が、UDC……オブリビオンによって、捻じ曲げられてしまったようなのです」

 事件の舞台となる街にあるクラブは、昨年は上位争いを期待される戦力を保持していたが、まさかの二部降格の憂き目にあったのだという。
 その結果に納得が出来ず、さりとて愛するクラブを見捨てられず。思い描く理想と現実のギャップが強い苦悩を生み……そこを、邪神に漬け込まれてしまったのだ。

「事件が起きる日は、シーズン開幕前のチームの出来を占うプレシーズンマッチが行われる日。場所は、件のクラブのホームスタジアムになります。皆さんには事件当日、現場に赴き対処して頂く事になります」

 犯人となる邪神に魅入られたサポーターの男は、スタジアムの各所に何らかの仕掛け……恐らく、爆発物だろう……を設置する。その仕掛けを起動する事で多くの犠牲者を生み出し、邪神への供物にしようと企んでいると言うのだ。
 猟兵達の任務はその日、現場に入りその仕掛け発見し、封じるのが最初の仕事なるとヴィクトリアは語る。
 発見した爆発物は自分で対処しても良いが、対処法が判らなければ現地組織の人間が待機しているので、そちらに預けても良いだろう。

「スタジアムの作りについて説明します。このスタジアムは……」

 スタジアムは約2万人を収容するスタジアムであり、
 ・『メインスタンド』貴賓席などのあるエリア。選手の控室や医務室や記者席などは、このエリアにある。他にも小規模な売店やトイレなどの設備もある。
 ・『バックスタンド』メインスタンドの真向かい側。客席以外にはトイレや売店などの設備がある。
 ・『ホームスタンド』ホームチームの応援席。スタンド裏手には売店や屋台などが軒を連ねる、一番賑わうエリア。スタジアムへのメインの入場ゲートも、このスタンドの側に存在する。
 ・『ビジタースタンド』ビジターチームの応援席。ホームスタンドより規模が小さく、入場ゲートも独立しているのでホーム関係者は此方には立ち入れない様になっている。
 ……以上の4エリアで構成される小規模なスタジアムだ。
 調査の際は現地組織が用意した警備員の肩書を使っても良いし、観戦客を装い会場を散策しつつ探しても良い。猟兵達の考えに任せたいと、ヴィクトリアは語る。

「爆発物の起動時間は、試合開始の直前です。その時間までに何事も無ければ、犯人の男は異変を察して会場を後にしようとしますので……追い掛けて、この場所まで追い詰めて下さい」

 スタジアムの側には公園がある。そこまで広くは無いが、樹々も多く通りを行く人の目には触れ難い場所だ。戦闘をするには打って付けだろう。
 逃げようとする男を見つけ、なんとかしてそこまで誘導すれば……事件の殆どは解決したような物だ。

「狂える程に何かに愛を注ぎ込む。それは悪い事では無いはずですが……そこに目を付けた邪神を許す訳には参りません」

 皆さんの奮闘を、お祈りしています。ヴィクトリアは深く頭を下げて、猟兵達を見送るのだった。


月城祐一
 今年も、長く厳しい戦いの季節がやってくる……!
 どうも、月城祐一です。今年も太陽王子と共に戦っていく所存。
 さて、シナリオの補足説明です。

 1章は冒険フラグメント。重要人物……訪れる観客や、クラブ関係者の命を守って頂きます。
 本文中にある各エリアを調査し、仕掛けられた爆発物を発見、無効化するまでが猟兵の任務となります。
 素人製作の爆発物ですので無効化に労力は必要ありませんが、対処法を思い浮かばない場合は現地組織の人間が近くにおりますので預けて頂ければ問題ありません。
 行動例に囚われず、それぞれの出来る事を自由にやってみてください。

 2章も冒険フラグメント。異変を察した犯人を追い掛け、誘導して頂きます。
 ひたすら追い掛けるも良し、何か策を講じて誘導するも良し。こちらも思いつくまま、ご自由にどうぞ。

 3章で追い詰めた犯人との戦闘になります。
 犯人の男は邪神に精神を歪められてはいますが、まだ助かる段階ではあります。
 何か思いつく事があれば、声を掛けて見てください。その結果次第では、邪神の束縛から逃れる可能性も……?

 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!
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第1章 冒険 『重要人物を守りきれ』

POW   :    肉体言語は万国共通の優れた言語です。おはなし(脅迫)しようよ。

SPD   :    話術等の技術で相手の心を揺さぶる。

WIZ   :    相手立ち居振る舞いや言葉尻から推理し、確信に迫る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●午前10時45分

 2月某日、日曜日。やや強く冷たい風が吹くが、天気は晴れ。午前中はやや冷えるが、午後からは暖かくなるという、絶好の蹴球日和と言える環境である。
 そんな日に、都内近郊の住宅地に建つサッカースタジアムに、多くの人々が詰めかける。その表情は皆、『今年もこの季節がやってきた』と言わんばかりに明るい。
 今日は、シーズン開幕前に地元に存在する二つのクラブが競い合う、プレシーズンマッチが行われる。24回目を数えるこの催しも毎年恒例の物として定着し、国内でも知られる試合となっていた。

 ……だが、この場に集まる人々は、知らない。集まる者の中に、その精神を邪神に狂わされた者がいることを。このままでは、多くの人々を巻き込んだ悲劇となる事を。
 ……そして。その悲劇を起こさぬ為に。人知れずこの場に集まった者達の事を。

 ──ホームゲート、開場します!

 スタジアムDJの声がスピーカーから響き、人々が動き出す。
 試合開始予定時刻は、午後1時4分。猟兵達は、悲劇を食い止める事が出来るだろうか?
轟・富士王
おじさん野球ファンだからサッカーはあんまよくわかんないんだよね。
まあそれでも少しは共感できるけどさ、よわよわのよわなBクラスチームファンだから。
で、避難誘導や警護は別の猟兵に任せるよ、おじさんはそういうの向いてなさそうだし。
やることは爆発物探し。
おじさんは警備員に扮してビジタースタンドを主に調べよう。
理由は消去法だね。
メインスタンドは一介のファンが入り込むには大変そうだし、ホームスタンドは贔屓チームが不利になるかもしれない。
相手チームに被害を与えるならビジタースタンド爆破が効率的だからね。
あとは普段着の観客の挙動を気にするよ。
相手チームのユニを着るとは思えないんだよね、熱狂サポならさ。



●午前11時

 ホームゲートの開場から遅れること10分少々、ビジターゲートが開き、ビジタースタンドにはビジターチームのサポーターが着々と集まり始めていた。
 客席を見れば様々な行動を取る者達がいる。席を確保し友人に連絡を取る者。記念の撮影を行う者、応援で使う太鼓を用意する者、選手の名が記された弾幕を張り出すもの……
 その誰もが、また新たに始まるシーズンの到来を待ちわびていたようで。実に賑やかで、活気溢れる光景だった。

(……おじさん、野球ファンだからサッカーはあんまよくわかんないんだけどね)

 そんな光景に、眩しい物を見るような視線を向ける者がいる。警備スタッフ用のベストを纏った中年の男性……轟・富士王(テキトーおじさん・f03452)だ。良く分からない、と言いつつも。富士王はどこか、彼らの表情に共感を覚えていた。
 ……今日ビジターとしてこのスタジアムに来るチームは、同じ県に本拠地を置く名門だ。だが約10年ほど前に二部に降格してから、浮上できずに苦しんでいるクラブでもある。
 だがそんな苦境の中であっても、集まるサポーター達はクラブを見捨てず、声を枯らして声援を送り続ける。そんな姿が、富士王が愛する野球チームと応援するファンに被って見えていたのだ。

(おっと、いつまでも見物もしてられないね、っと……)
 
 やることはやらなきゃね、と。富士王は『ビジタースタンド』周辺の調査に取り掛かる。
 ……彼がここに来たのは、消去法の結果だ。『メインスタンド』の内部は一介のファンが入り込むのは困難だろうし、『ホームスタンド』で騒ぎを起こせば贔屓のチームが不利な立場になるはずだ。
 ……チームに勝利を齎したい。なら一番手っ取り早い手段は、相手チームにダメージを与えることだろう、と。『ビジタースタンド』の方に網を張ってみたのだが……

「……空振り、だったかな?」

 目立った異物も無く、不審な観客も見当たらない。参ったね、と言わんばかりに肩を竦める富士王である。
 ……どんなプロスポーツでも言える事だが、対戦相手のホームグラウンドに態々乗り込んで応援しよう、というのは中々力のいる事である。
 つまり、どういうことかと言えば。このスタンドに集まる者は、多くがビジターチームのレプリカユニフォームを身に纏い、普段着の者も大なり小なりチームグッズを身に纏って居る者が、殆どだったのだ。
 熱狂的なサポーターが、相手チームのグッズを身に纏っているとは思えない。と、言うことは。このスタンドに集まる者の中に、犯人がいる可能性は限りなく低いと言っていいだろう。

「しかし、そうなると……例の熱狂サポ君は、自分の贔屓チームの所でやらかそうっていうのかな?」

 だとすると、中々業が深い……いや、邪神に狂わされてその辺りの判断力すらも曖昧になってしまっているのか。
 何にせよ、このスタンドは問題ないという確証を得られたのは大きい。爆発物こそ発見できなかったが、富士王の調査は一定の成果を示すことには成功したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミニステリアリス・グレイグース
邪神の仕業とはいえ、狂う程には強い愛ですか
なればこそこの事件は好ましくありません
試合を楽しみにしている人達の為にも穏当に済ませたいものです

私は爆発物処理に専念
流石に警備員は無理があるので観客として行動します

供物に、と考えるならビジター側の人を優先するでしょうか?
最初は『ビジタースタンド』に向かい
「普遍を探る灰塵の徒」によって爆発物を探索
発見したら出来る限り中身の「爆薬」だけ分解
下手に動かして犯人に気取られたくないので
場所を現地組織の方に伝えておいて当座は放置します

後は
『メインスタンド』
『バックスタンド』
『ホームスタンド』の順で同様に作業し
余裕があれば並行して犯人と思しき人物も探っておきましょう



●午前11時15分

 『ビジタースタンド』の方へ向かおうとしていた猟兵はもう一人いた。ミニステリアリス・グレイグース(夢に囚われし灰塵の徒・f06111)だ。
 彼女もまた、邪神の供物にすると考えれば、相手チームの方が相応しいのでは無いか……と考えていたのだが、先に調査を終えていた猟兵の姿を見て、方針を転換。『メインスタンド』の調査に取り掛かる事にした。

(狂う程に、強い愛ですか)

 観客としてスタジアムに入場し、多くの人が笑顔で試合を心待ちにしている姿を見て、ミニステリアリスの心は使命感に燃えている。
 きっと、件の男も……クラブを愛する心は本物で、今日この場にいる観客と同じ様に、この試合を心待ちにしていたのだろう。
 だがそれも、邪神に魅入られ心を狂わされた結果、こんな騒ぎとなってしまった。好ましい事では、無い。

(出来るならば、穏当に済ませたいところです)

 決意も新たに、『メインスタンド』に辿り着く。物陰に隠れ、喚び出すのは探査用のナノマシン群だ。

「これなるは探り、求め、索る群団。さ、行ってください」

 探査物として指定するのは、爆発物だ。『メインスタンド』周辺を対象に、ナノマシンを操っていく。
 ミニステリアリスは、ヤドリガミ化したナノマシンという出自を持つ少女だ。この手の物の操作は、お手の物と言える。彼女自身の自己評価が低いのが玉に瑕、ではあるが。

(……反応、見つけ……えっ、動いてる?)

 操作する事、数分。『メインスタンド』の売店付近を動いている反応を補足。
 ……これは、つまり。

「犯人が、すぐ側にいるということですか? ……きゃっ!?」

 物陰を飛び出し、反応源へ駆け出そうとするが……時間が経つにつれ、入場する観客の数が増え続けている事に気付かなかった為に、彼女の小さな身体は人とぶつかり身動きが取れなくなってしまう。
 その間にも、反応は動き、停止し……放置、されてしまったらしい。犯人も、恐らく既にその場を去ってしまっただろう。

「……あと少し早く気付けていれば、犯人の姿も……」

 そこまで口にして、ミニステリアリスは首を振る。二兎を追うものは、という言葉もある。まずは目の前の事を、確実に対処するべきだろう。
 反応源に足を運べば、そこにあるのは人目に触れぬ様に隠された小さな黒いバック。ナノマシンで中を探ってみれば、素人の手製感溢れる簡単な作りの爆発物だと判るだろう。
 ミニステリアリスは荷物を動かすことで犯人に気取られるのを避ける為、内部の火薬のみを分解し、付近に待機していた現地組織の者に後を託す。
 ……犯人の直接の手掛かりは、惜しくも掴めなかった。だがミニステリアリスは、その仕事を立派に果たしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

釘塚・機人
【SPD】『ホームスタンド』を探索

…仮にもここで見つかったら、いくら賑わってるとはいえ、同じクラブを応援する仲間を殺そうとしてるってか…ひでぇ話だ…

観客としてスタンドに入って、観客等と話し込んでみるか
事前にクラブの情報は確り頭に入れて、【優しさ】をもって親しみやすそうに近づくぜ

うまく馴染めたら、さりげなくスタンド内の違和感なんかを聞き出して、それを基に探索するつもりだ

爆発物を見つけたら…下手な被害の出ない所まで運んで、簡易的に解体してみるか。【メカニック】の技術も駆使してな

火薬が黒色火薬なら、ガジェットから出る蒸気を直にあてて無力化できるかもしれねえし

無力化が難しそうなら、ブツは組織に任せるぜ



●午前11時30分

 『ホームスタンド』裏、『メインゲート』や『メインスタンド』への分岐となる、いわゆるコンコースと呼ばれるエリア。試合開始1時間半前であったが、この場所に多くの人が集まっていた。新年最初の試合であるこのプレシーズンマッチから使用する、新たなチャント(応援歌)。そのお披露目会が行われる為だ。
 群衆の視線の先には、壇上に登り身振り手振りで説明するサポーターグループのリーダーの姿。集まるサポーター達も、それぞれに声や手拍子のタイミングを確認するなど、熱心に確認作業を進めていく。
 そんな彼らの輪の中に混じって、観客に扮して潜入した釘塚・機人(ジャンク愛好メカニック・f02071)はさり気なく周囲を確認する。どのサポーターの表情も明るく、時に笑い声も響き……皆が、この時間、この場所に居ることを楽しんでいる事を、彼は感じ取っていた。
 だが、もし。この場所で。彼が探す者……邪神に精神を狂わされた男が持ち込んだ、爆発物が見つかったのなら……

(こんなに楽しそうに、同じクラブを応援する仲間を殺そうとしてる、ってか……)

 開場後、機人は既に何人かのサポーターと交流を持っていた。
 男性も、女性も、大人も子供も老人も、一人でも、友人同士でも、家族連れでも。機人が交流を持てたサポーターは、皆笑顔で彼との会話に応じてくれた。
 それは、機人が親しみを持てる様に振る舞ったからというのもあるが……事前にクラブの事について学び、同じクラブを愛する仲間だと、受け入れられたから、というのが大きいだろう。
 それだけ、サポーター達の連帯感は強いのだ。そしてその連帯感を、きっと件の男も持っていたはずなのに……

(邪神の仕業で、こんな事になっちまうなんて。……ひでぇ話だ……!)

 愛するクラブを思う気持ちを捻じ曲げられ、その先に待つのは仲間をその手に掛けるという悲劇的な結末だ。
 この場で笑う人達を、そんな悲劇の贄にする訳にはいかない。件の男を狂わせた邪神の目論見は、何としても挫かねばならないと、機人は胸の内で決意を新たにする。
 ……気がつけば、時刻は間もなく12時。お披露目会も終わり、後は本番で……と、群衆が三々五々に散っていく。
 そんな時だった。一人の男が、足早にその場を去ろうとする。年の頃は20代後半、中肉中背で特に目立った特徴の無い男である。
 男は人の波を縫うように擦り抜けていくが……頭一つ小さい機人に気付くのが遅れて避けきれず、肩と肩がぶつかりあった。

「痛ッ!? おい、気をつけ……って、もういねぇ……」

 不意の痛みに思わず顔を顰め、抗議の声を上げる機人だが……男は既に、その場を後にしてしまっていた。あまりの速さに、機人も呆れるしか無い。

「……あれ? こんなとこに鞄置いてあるけど。誰か、知らねぇか?」
「いや、俺のじゃないけど……」

 直後、機人の背で交わされる会話に振り返る。振り返った先では、二人のサポーターの男が黒い鞄を手に首を傾げていた。
 ……さっき、ぶつかった男はあっちの方から来ていた。まさか……!

「……あのっ! それ、俺が届けてきますよ!」
「おっ、そうかい? じゃあお願いしようかな」

 機人の声に、これからちょっと打ち合わせがあるから助かるよ、と語りながら。疑いも無く荷物を預けてくれるサポーターの男。持ってる人が見つからなかったら、インフォメーションはあっちだから預けると良いよ、とアドバイスもしてくれる。
 ……無論、機人はインフォメーションに預けるはずもない。二人組と別れ、すぐに物陰へ身を隠し……鞄の中身を見てみれば。

「……やっぱり、か」

 素人のお手製感溢れる、簡単な作りの爆発物がそこにはあった。
 ……この程度なら、火薬を少し湿らせれば簡単に無力化出来るはずだ。無力化した後は、現地組織の人間に預けてしまえばいいだろう。

(本当に、こっちに仕掛けるなんてな……!)

 昨年度モデルのクラブのレプリカユニフォーム、ノンフレームのメガネ、血色は良いのに目の下に浮かぶクマ……
 言い様のない不快感を胸に抱えながら、機人はさっきぶつかった男の一瞬だけ見えた横顔を思い出すのだった。

 爆弾を見つけ、更に犯人の男に繋がる一手を、機人は得る事が出来た。
 この成果は、最良の行動を取った彼に、天も味方したのだと……きっと、そういう事なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミニステリアリス・グレイグース
ああ、もう……!
私はどうして一人で何でもやろうとして取りこぼすのやら

しかし他の皆さんの捜査もあってある程度は推察できました
この犯人、身勝手な連帯感を仲間に押し付けてはいますが
その連帯感故に自身すら生贄に捧げて心中する気では?
……どの道絶対に止めます
このままじゃ目覚めが悪い

次は『ホームスタンド』に絞って捜索
推察通りならこの期に及んで別の場所へは行かないでしょう
今回も「普遍を探る灰塵の徒」を使用
『捜査で得られた特徴・服装を持つ男』と
『黒い鞄・バッグ等の中身』に重点を置き
『爆発物』を探し本体で分解します

犯人が分かれば他のサポーターに話を伺えたかもしれませんが……
いえ、もう欲張りはやめておきましょうか



●午後12時25分
 時刻は正午を過ぎ、12時25分。予定されている試合開始の時刻まで、1時間を切った。
 グリモア猟兵が予知した爆発物の発生時刻は、試合開始の直前……つまり、猟兵達に残された時間も、同じだけしか残されていない。

(ああ、もう……! 私はどうして、一人で何でもやろうとして取りこぼすのやら……!)

 ミニステリアリスは当初、一人でスタジアム全てを捜査する気でいた。その為に使えそうなユーベルコードも、彼女にはあった。
 だがこのスタジアムがいくら小規模とは言え、2万人近い人員を収容するキャパシティはあるのだ。そんな場所を、限られた時間で、隅々まで捜査しようというのは……生命の埒外にいると言われる猟兵であっても、困難極まる事だろう。
 その事実に気がついたからこそ、彼女は自責するのだ。その自責の念は、彼女の責任感の強さの表れでもあるはずだ。
 ……欲張りすぎの失敗は、自らの行動で返す。僅かな反省の後、ミニステリアリスは、『ホームスタンド』に足を運んだ。

 その『ホームスタンド』では、多くのサポーターが総立ちになり、今か今かと何かを待ち侘びていた。
 辿り着いたミニステリアリスはそんなサポーター達の様子に怪訝そうな表情を浮かべて観察する。試合開始の時間までには、まだ余裕があったはずだが……?
 そう思った瞬間、サポーター達がわっ! と歓声を上げる。視線は一点に向かい、口々に選手の名を叫ぶ。
 そんな彼らの様子に、釣られるようにミニステリアリスも視線をそちらへ。その先に居たのは、一人の青年選手。ピッチをジョギングしながら、『ホームスタンド』前に設置されたゴールへと向かってくる。
 統率も何も無く、選手の名を叫ぶサポーター達。だがそんな彼らを制する様に、サポーターグループのリーダーがメガホンを手にするとざわめきが収まり……今度はドラムのリズムに合わせ、一斉に彼の名を叫んだ。
 多くの群衆が、一つの対象に向けて、一つの切欠で、一つの名を同時に叫ぶ。その様子の、なんと勇壮な事か。そしてその乱れのない統率、『連帯感』の強さ足るや!

(……『連帯感』。犯人は、この連帯感によって突き動かされているのでは?)

 そんなサポーター達の行動に、ミニステリアリスの脳裏にふと過る考え。
 犯人が、『ビジタースタンド』の側へ爆弾を仕掛けなかったのは、彼がホーム側の人間故近寄り難いという事情もあったのだろうが……多くの人を巻き込む、というのならそちらに仕掛けない道理は無いはずだ。
 それなのに、彼はあちらには仕掛けなかった。今の所爆弾が発見されている場所は、『メイン』と『ホーム』の二箇所だけ。ホームチームサポーターが多く集まる場所だけなのだ。
 彼も持っていたはずの、チームへの強い愛。それに由来する連帯感。邪神によって心を捻じ曲げられているのなら、その連帯感も変質してしまうはず。

(……その『変質した連帯感』故に、自身諸共に仲間達を生贄に捧げて、心中する気では……?)

 その推理、想像は。犯人が何故この事件を引き起こそうとしているのか、という理由として、奇妙なまでに納得出来る物で。

(だとするならば、ここには必ず……絶対に止めます)

 サポーター達の視線がゴール前で試合前のウォーミングアップを始める選手に向いている隙を見て、ナノマシンを展開する。『メインスタンド』で見事に仕事を果たした、探査用のナノマシンが、『犯人の男』と『爆発物』を探して飛んでいく。
 ……犯人の男に対する探査は、昨年モデルのユニフォームを着る者の数が多く特定する事は出来なかったが、主の目的である爆弾の捜索の方は上手く行った。『ホームスタンド』の両端、その座席の下に放置されていたビニール袋の中に、反応を見出したのだ。

(目覚めの悪い結果は、お断りです)

 しゃがみ込んで目立たぬ様に、爆発物を分解しながらミニステリアリスは思う。
 犯人の男の用意した爆発物が、あといくつあるか。一人の人間が持ち込める荷物を考えれば、あと一つが限度と言ったところだろう。
 猟兵達は確実に犯人の目論見を潰しつつ……その尻尾にもまた、手を掛けようとしていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
観戦客を装い散策しつつ『バックスタンド』を探索
応援初心者にお勧めって話も聞いたし
スポーツに馴染みのない俺でも動きやすいかな
残された時間はあまりないけど焦らない、ペースは崩さない

観に来たのははじめてなんだけど現場の空気は違うね
なんかやっておいたほうがいいこととかお約束とかある?
応援初心者であることを遠慮がちに伝えつつ【コミュ力】を使って
バックスタンドの観客と馴染んで【情報収集】
…嘘はついてない
一体感が心地よいのだって本当のこと

妙な行動の人物、所有者不明の荷物…疑わしいものの情報は逃さないよう注意、迅速に爆弾か確認

爆弾を見つけたら何食わぬ顔で現地組織の人に任せる
爆弾の存在だけは絶対に悟らせるものか



●午後12時45分

 試合開始前のウォーミングアップ中、ホーム・ビジター両チームのゴール裏からは愛するクラブの勝利と選手達の奮闘を願うチャントが途切れる事は無かった。
 時に拳を振り上げ、時に手を叩く両チームサポーター。そんな彼らの様子が一望に望める場所、『バックスタンド』にサンディ・ノックス(飲まれた陽だまり・f03274)はいた。
 サポーター達の様子、挙動。スタンドから見えるスタジアムの風景……それらを写真に収めながら散策する彼の姿は、周囲の一般人からは『物珍しさに写真を撮る、スポーツに馴染みのない応援初心者』としか映らないはずだ。

(この『連帯感』。一つの目的に向けてみんなが意識を集中させていく感覚……)

 場内を満たす陽性の活気を肌に受けながら、サンディは今日の事を思う。
 彼もまた、観戦客として入場して以後、多くのサポーター達と交流を持っていた。
 応援初心者である事を遠慮がちに伝えつつ、やっておいた方が良いことや約束事などについて周囲に尋ねれば……衣類の事、選手の入場時に関する事、応援スタイルについての事、何より声を出す事を恥ずかしがらない事……
 サンディの関わったサポーター達は皆、新たな仲間を優しく迎え入れようと快く様々な事を教えてくれたものだった。
 ……そうした行為はきっと、サポーター達全員で一体となって、愛するクラブを盛り上げようとする思いの発露だ。愛するクラブ、仲間達と共に、勝利の喜びを分かち合いたいという熱意の現れだ。
 そんなサポーター達の思いに、サンディは好感を覚える。彼らと感じる一体感を心地よい物だと感じていた。
 だからこそ……

(焦らずに、ペースを崩さずに……サポーター達に、爆弾なんて『非日常』の存在だけは、悟らせるものか……!)

 ウォーミングアップを終えた選手達が、観客席からの声援に答える様に手を振りながらロッカールームに引き上げていく。選手の入場、そして試合開始時刻まで、残り僅かとなった。
 選手達は試合直前の集中を迎える時間だが、観戦するサポーター達にとってはトイレを済ませたり、観戦の友となるスタジアムグルメを買い求めに動くなど、慌ただしい時間となる。
 そんな空気の中を、サンディは動く。スタンドを探りながら、目に、耳に、鼻に。感じ取れる全ての物を、疑わしきものを見逃さないように、その神経を研ぎ澄ませば……ふとした違和感に、気が付くはずだ。
 『バックスタンド』と『ホームスタンド』その境目辺りの座席。そこに放置されたままの手荷物がある事を。その手荷物は、先程散策した時と位置がまるで変わっていないことを。
 自然体のまま、まるでその荷物の主の様に振る舞っいながら、サンディは荷物を手に取ると、スタンドを抜けて物陰へ駆け込む。鞄の中を確認すれば、そこには果たして、彼が探していた爆弾が収まっていた。
 ……もしサンディが、バックスタンドに網を張らずにいたら。周囲を散策せずにいたら。ふとした違和感に、気づけなかったら。きっとこの爆弾は、多くの人々の命を奪う事に成功しただろう。だがその悲劇は、今この瞬間に回避されたのだ。

 処理の手段を持たないサンディは、発見した爆弾を近くに居た組織の人間に任せると何食わぬ顔で再びスタンドへ戻る。
 そうしてまた観客を装いながら、今度は妙な行動を取る人物への警戒を続けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『チェイサーズ・ドリフト』

POW   :    攻撃や進路妨害で相手を邪魔する。

SPD   :    加速や機動力で追い抜きをかける。

WIZ   :    知識や装置などで最適解を見つけだず

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

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●午後1時00分

 スタジアムDJのアナウンスが場内に響き、電光掲示板がホームチームのスターティングメンバーを発表する。
 ホームサポーターも、ビジターサポーターも、皆が選手の入場を心待ちにして、その時を待っていた。
 だが場内で一人だけ、今の状況に不満を覚えている男がいる。

 皆が総立ちになった『ホームスタンド』の人影に隠れるようにしながら、時計を睨む男。おかしい、設定した時間はもう過ぎているはずだ。
 ふと、『バックスタンド』のとある座席に目を向ければ……置いてあったはずの鞄が、片付けられている事に気がついてしまう。
 ……まさか、防がれた!? 一体、どうやって! 男は目を見開いて、その事実を認識する。その直後、周囲がわっ!! と歓声を上げる。選手達の入場を後押しするチャントが響き、タオルマフラーが振り回される。

 誰が防いだかは知らないが、俺達のクラブの為に、次こそ……あ、あれ? 次は、どうするんだっけ……?
 ここ数日、自分を突き動かし続け、今また一層強まった謎の衝動に頭を抱えながら。その騒ぎから逃れる様に、男は小走りにホームグラウンドを後にする。
 ……そんな不審な動きをする男の姿を、猟兵達は確かに目撃した。

 猟兵達は男を追い詰め、彼の意思を捻じ曲げた邪神に迫る事が出来るだろうか?
サンディ・ノックス
衝動的に動いているなら今良くない事をしていたことも手伝って
見つかりたくないという心理が働きやすいはず
街中よりは人目がないであろう公園、目に留まれば向かう可能性は高いかな
共に追いかける猟兵の位置も見て自分はどちらから追い込むか決める

動きも読みやすいだろうけど
正気ではないから突発的な進路変更も起きうることも念頭に置く
進路変更されたら体当たりなど仕掛けて一時的に足止め、向かわれたくない方向に立ち
方向修正させる

所詮人だから体力も長続きはしないと思うけど
…無我夢中でも疲れはわからなくなるから、歪まされた相手に早期決着を期待するのは危険かな
体力枯渇したら戦闘のとき有利に働くかもしれないしそれはそれでいいや



●逃げる男を追い詰めろ

 『ホームスタンド』のみならず、どの客席にいる観客も総立ちになり入場する選手達へ視線を向ける。
 そんな中を、人の山を縫うように動く男の姿。そんな男の様子に、一般の観客達は目もくれない。
 ……そう。一般の観客達は、だ。不審な男の様子を確かに見た者達が、ここに居たのだ。
 彼らは、『猟兵』。過去より迫る世界の危機を防ぐ者。今を生きる人々とその未来を護る者。

(相手が衝動的に動いているなら、見つかりたくないという心理が働きやすいはず……)

 そんな『猟兵』達の中、真っ先に動いたのはサンディだった。逃げる男を見逃さぬ様に、その背に近づいていく。
 戦闘に向く、人目につかない公園……追い込む場所の位置は、グリモア猟兵が示してくれている。後は他の猟兵と協力して、男を誘導するだけだ。

(……とは言え、相手は『正気』ではないからね)

 相手は一般人だ。普通なら、動きを読むのは簡単だろう。だが、今の相手は邪神に魅入られ『正気』を失っているのだ。
 それはつまり、普通なら考えられない、突発的な行動もしかねないということであり……特徴の薄い相手の事も考えれば、誘導の難易度も上がるという事だ。
 そんな相手に対する時に必要な事は……不足の事態が起きても動じない事と……

(いざとなったら、『体当たり』なり何なりして、足止めも考えないとね)

 物理的な手段も辞さない覚悟が必要だと、サンディは考えていた。
 ……そしてその覚悟が示される時は、すぐに来た。

(……あっちは、確か封鎖されてる門……!)

 観客席を抜け、男が足を向けたのは試合終了後に開放される退場専用のゲート。いるべき警備スタッフは別の仕事が入ったのか、その場を離れてしまっている。猟兵達の展開もまだ間に合っていないようで、サンディの視界にはそれらしい姿は見当たらない。
 男にとって、絶好の好機……そこにサンディがいなければ、男は逃げ果せることが出来たはずだろう。

「……っと! ごめんよ!」

 男が足を進めた瞬間、サンディは一息に男との距離を詰め、追い抜く……その瞬間。わざと肩と肩をぶつけ、ついでにその足を包む靴の紐を踏みつけ、解いてやる。
 相手の男はサンディよりほんの少し大柄とは言え、背中の側から不意にぶつかられては対処は難しい。バランスを崩し、転倒。靴紐が解け、靴も脱げてしまう。顔を上げた男が抗議の声を上げるより早く、サンディは近くの物陰に姿を隠し男の様子を伺った。

(これで時間稼ぎと、方向の修正は出来たかな?)

 サンディが稼いだ時間は、ほんの数十秒という短い時間。だがその間にゲートの警備スタッフは戻り、男は舌打ちをして本来の出口……メインゲートの方へと足を進めていく。そして何より重要なのは、この僅かに稼げた時間でスタジアム内に散る猟兵達もその準備を進める事が出来たはずだ。
 ……逃走する相手、その出鼻を挫いたサンディ。彼はしっかりと、その務めを果たしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミニステリアリス・グレイグース
……ようやく見つけました
後は、公園へ誘導するだけですね

「万能錬成カミヤドリ」で人形を作成します
一般人に疑問を抱かれない程度には世間に溶け込める見た目で
一般人に疑問を抱かれない程度には念動力で人間らしく動作させられる
そんな人形を

その人形を犯人の進路を塞ぐように、あるいは退路を断つように配置し
無表情で、じっと、犯人を見つめさせ続けます
……犯行がばれたと焦っている心境であれば
行為を見透かされたかのような視線を嫌って空いた道に逃げ込むでしょう
そうして人形たちの配置をどんどん変えていき、公園まで追い立てます

……彼自身もどうにか救いたいところではありますが
さて、こちらの試合結果は一体どう転ぶ事やら



●感情の篭もらぬ瞳が見るモノは

(……ようやく、見つけました)

 恐らく、今回のスタジアムの捜索活動で最も広い範囲を捜索したミニステリアリスの視界には、ホームグランド裏手、屋台通りを行く男の姿が映っていた。
 周囲を伺う様に、しかし小走りで急ぐ男の姿。その姿をミニステリアリスはじっくりと観察する。

(犯行がばれた、と言う焦りは覚えてはいるようですね)

 会場内の一般サポーターはすでに観客席に付き、屋台通りに人通りは少ない。その全てを警戒する様に、男の視線はキョロキョロと動き、不自然極まりない。
 そんな相手を、誘導するのに有効である策は……

(んー……今回は、人形でいきましょうか)

 自身の万能工作プログラムが生み出すのは、人形だ。とは言え、ただのカカシやマネキンとは訳が違う。
 一般人が一目見ても不審に思わぬ程に精巧で、かつ世間に溶け込める見た目。更にミニステリアリス自身が持つ念動力で、怪しまれぬ様に人間らしい動作を行える、そんな人形だ。
 彼女は、ナノマシンのヤドリガミ。先に見せた探査用のナノマシンの制御技術があれば……その程度人形を作るのは、造作も無いことだ。

(相手が焦りを覚えているのなら、きっと……)

 本体であるミニステリアリス自身は、物陰から人形たちをコントロールする。人形たちは彼女のコントロールの通りに歩みを進める。
 ……そして一体の人形が、小走りに走る男の道行きを妨害する様に、立つ。避けようとする男をただ、ジッと見つめる人形。その無表情で、無機質な瞳を受けて……何かを感じたのか、男は一歩下がって別の道を行こうと……したところで、ドンっと背に何かがぶつかる。
 振り返った男の前に立っていたのは、また別の人形だ。その人形も、何をするでもなく。ただジッと、男に視線をくれるだけ。何の意思も感情も無いはずなのに、その視線を受けて男は狼狽えた様に怯え……人形を振り切り、歩みを早める。目指す先は、メインゲート。スタジアムの外だ。

(後ろめたい事がある、と思っているのなら……無機質な視線であっても、行為を見透かされているかのように錯覚する物です)

 相手が一目でわかる人形であるなら、その効果は薄かっただろう。だが、ミニステリアリスの作る人形の精度は、先に触れたように非常に高い。
 だがいくら精度が高くても、人形である以上はその視線は無感情かつ無機質だ。しかし、相手の心境次第では、受け取り方も変わってくる。
 ……ミニステリアリスの策は、人の心理を突いた素晴らしい策であると言えるだろう。

「……出来れば、彼自身もどうにか救いたいところではありますが……」

 人形の配置を動かし、犯人をスタジアムの敷地外へ出さぬように人形を配置しながら、ミニステリアリスは呟く。誘導する先は、スタジアムに隣接する公園だ。
 邪神に狂わされた男を巡る、『もう一つの試合』。その試合結果はどう転ぶのか。現時点では、まだ判らなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
・WIZ行動
彼女は流石にスタジアムの中に「コレ」を持ち込むのは憚った為、スタジアムの外で待っていた
そして手筈通りに目標となる男が躍り出て、その顔、体格、特徴を目に焼き付ける
残念ながら自身には男を追うほどの脚力や体力はない
ならば「彼ら」に指定されたポイントまで追い立てて貰うまでである
ショットガンに暴徒鎮圧用の【ゴムスタン弾】を装填し終えると、ユーベルコード【影の追跡者の召喚】で自身が手に持つショットガンのコピーを携えた影らを召喚する
「影よ…あの男を追って……可能な限り取り押さえること、わかった?」
影らは了解の意思を表すかのように、ガシャンと影で作られたショットガンをコッキングして答えたのだった


ティエル・ティエリエル
「あーっ!あいつがスタジアムを爆破しようとしたヤツなんだね!」

【妖精姫と子狼の鬼ごっこ】で呼び出したオオカミくんに犯人を追跡してもらうね。
共有した五感からの情報をつかって、その間にボクは犯人の逃走先に先回り!
【地形の利用】で周りの地理は把握して、逃走先が公園の方になるようにピンポイントで道を封鎖していくよ☆

封鎖は現地組織の人にお願いして警備員のフリをしてもらおうかな?
人目につきたくないだろうし警備員の前とかは避けていくよね?



●猟犬は追い立てる

 メインゲートを飛び出した男を、物陰に潜んだ二人の猟兵の少女が目撃した。秋月・信子(魔弾の射手・f00732)とティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)だ。

「あーっ! あいつがスタジアムを爆破しよもごごっ!?」
「てぃ、ティエルちゃんっ!? そんな大声で叫んじゃ気づかれちゃうっ!?」

 持ち前の無邪気さと正義感の強さからか、犯人の男を見つけて突撃しそうになるティエルを慌てて抱き抑える信子。幸いにも、今のティエルの行動はスタジアムから響く大歓声に打ち消されたようで。気にする者が周囲に居ないことを確認すると、信子は安堵の溜息を溢す。

「もう、ダメよティエルちゃん。気付かれちゃったら、せっかくの準備が……」
「ぷはっ! ……えへへ、ついつい、だよっ☆」

 窘める様に抱き締めた小さな妖精姫に語りかける信子に対し、信子の胸の内に埋もれていたティエルはその柔らかな拘束から抜け出すと明るく反省した。
 ……信子が語ったように、二人は犯人を追い立てる為の準備を終えていた。メインゲートから公園以外への抜け道となりそうな場所を、警備員に扮した現地組織の者達の手を借りて封鎖したのだ。
 犯人の男は、後ろめたい事があるという事を自覚し、人目に付きたく無いと考えて行動している。故に警備員の姿を見れば、それを避ける様に行動するはず。つまり、警備員の配置次第で犯人の逃走ルートを誘導する事が出来るはず。
 ティエルの発案したそのプランは、見事にハマる事になる。裏道を抜けようとする犯人は、警備員の姿を見て舌打ち一つ。狙い通りにその進路を変える事になるのは……もう少し、先の話。
 今はまだ、男はメインゲートを飛び出して……信子とティエルが潜む物陰の側を、小走りに駆け去っていく。そんな場面である。

「……」

 そんな男の姿を、ジッと観察するように信子は見る。中肉中背、短髪。フレームレスの眼鏡に、細い目に光は薄く、血色は良いが目の下の濃いクマ……男の特徴を、しっかりと目に焼き付けた。
 ……信子は、自身が大人の男を追える程の脚力も、体力も無い事を自覚している。学業優秀ではあったが、元々は普通の女学生だったのだから仕方のない事だ。
 だが、信子は猟兵だ。超常の力を操る存在だ。普通ならば出来ない事も、達成できる手段を持っているのだ。
 つまり、どういうことかと言うと……

「……影よ、あの男を追って……!」

 信子の足元の影が伸び、人型を作る。本体と五感を共有し、指定された対象を追跡する、影の追跡者だ。
 ……自身の力が及ぶのなら、及ぶ者を呼び出せば良い。そしてこの影に、目標を追い立てて貰えば良いと、信子は考えたのだ。

「ティエルちゃんと協力して、追い立てる事。わかった?」

 信子から与えられた命に了承の意思を示す様に、影で作られたショットガンをコッキングする影人形。
 その影人形の足元には、いつの間にやら一匹の漆黒の毛並みの子犬……いや、子狼が待機している。

「んっ、しょ、っと……! オオカミくん、お待たせっ!」

 信子の腕から脱出したティエルが、子狼の背に着地する。子狼の方もティエルを待ち侘びていた様な目をしていた。
 ……この子狼は、森の守護者である漆黒の大狼の仔。ティエルの喚び出した、友人だ。

「オオカミくん、ボクと一緒にアイツを追跡だよ! 信子の影くんも、よろしくねっ!」

 言うや否や、物陰を縫うようにティエルと子狼が地を走る。影人形もまた、その背後をフォローするよう駆け出していく。そんな去りゆく一団の背を、信子は期待を込めた視線で見送ると……スタジアムの方に向き直る。
 ……スポーツは、政治や武力とは無関係であるべきだとは良く言われる事だ。この世界と縁のある信子にもまた、その考え方が根付いているのだろう。だから信子は、自身の武装をスタジアムに持ち込む事を厭い、外で待機していたのだ。
 そんな場所を壊そうとした男。そしてその背後に潜む邪神。その尻尾を捉える為の策は、きっと上手く行くはずだ。後は、相対するのみ……
 
 試合に何か動きがあったのか。スタジアムから、また一段と大きな歓声が上がる。
 その裏で静かに続くもう一つの戦いも、また新たな段階に突入しようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒装の破壊者』

POW   :    砕け散れ
単純で重い【拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    贄となれ
自身の身体部位ひとつを【異形の大蛇】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    磔になれ
レベル×5本の【物理】属性の【邪神の肉で作った杭】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は麻生・大地です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●邪神、降臨

 スタジアムを巡る爆破テロは、猟兵達の活躍によって未遂に終わった。多くの命が、人知れずに救われた。
 そして今、その犯人も……追い縋る猟兵達は、捉えようとしていた。

 スタジアム側に存在する公園。スタジアム開場前はこの辺りにまで入場待機の列が伸びるが、試合の始まった今ではこの周囲に人影は見当たらない。
 すぐ側には交通量の多い道路もあるが、木や遊具が道路からの視線を遮ってくれる。……戦闘には、打って付けの環境だ。

 そんな場所に、犯人の男は追い詰められた。様々な妨害や直接的な追跡を受け、既に肩で息をする程に消耗している男。

「なんなんだ……なんなんだよ、アンタ達は! 俺はただ、クラブを支える為に皆一緒に……!?」

 迫る猟兵達に怯えたような声を上げる男が、声を詰まらせる。瞬間、その瞳の色に精気が戻る。
 ……企みを阻止され、追い立てられ。心身ともに消耗した事で、邪神の支配から理性を取り戻したのだろうか?
 だが理性を取り戻した事で、自身が一体何をしていたのか。その事実を正常な心で認識し……男の表情が、絶望に染まった。

「俺は……俺は、なんて事を……あ、あアぁああアぁアァッ!?」

 自身の犯しかけた罪の重さ。その絶望は、邪神に取っては何よりも素晴らしい餌だったのか。
 頭を抱え蹲る男から瘴気が溢れ、空間を乱す。その瘴気は迫る猟兵達を物理的に弾き返す様に荒れ狂うと、男に纏わりついて……

『……』

 収まった先には、その身を漆黒の鎧へと変えた男がいた。その身から感じ取れるのは狂気そのもの。
 だが、本来の計画では数千人単位を犠牲にして降臨する予定だったはず。その力は、本来の物よりも弱体化しているはずだ。
 そしてその核となった男も、ほんの一瞬とは言え己を取り戻していた。その意識を取り戻させる事が出来れば……!

 邪神は取り囲む猟兵達に順に視線を巡らすと、人の身では聞き取れぬ声無き咆哮をあげる。
 遠方から響く歓声を背に、猟兵達の戦いは最終局面を迎えようとしていた。
サンディ・ノックス
…状況も立場も違うのに俺自身を見ているみたい
だから止めたい
これは善意じゃないんだろうな、ただ自分の未来を否定したいだけだ

男性に呼びかける

被害は出ていない、事件は起こってない
事件への罪悪感はいらないんだ
もし、応援の仲間達を巻き込もうとした自分に絶望しているのなら……
ここで「飲まれる」ことが一番の裏切り行為だよ!

無反応なら
同類の声は届かないのだろうと受け入れ、せめて他の猟兵の声が届くように
少しでも声が届いたようなら
彼の抵抗を助けるためにも邪神を弱めるため
戦闘開始する

真の姿ではなく
あえて黒騎士(全身黒甲冑)姿に変身
命中率を重視した『解放・宵』で斬りつけ
男性の意識が顕在化したらすかさず声をかけ続けるよ





 男の纏う漆黒の鎧として、この世界に顕現した一柱の邪神。その立ち姿から漏れ出る狂気は、只の人がその姿を見れば瞬く間に正気を失うのではないかと思われる程の濃厚な物だった。
 そんな邪神の姿に、サンディはどこか複雑そうな思いを込めた視線を送る。

(……状況も、立場も違うのに。俺自身を、見ているみたいだ)

 サンディの猟兵としての力、その本質は『黒騎士』……呪われた武具を纏い、自らが討ち滅ぼした敵の魂を啜る。呪われた騎士の力を振るう者だ。
 見方によっては、負の側面の強い印象を受けるその力。そんな力を日々振るうサンディだからこそ、重なって視えてしまったのだろうか。
 邪神の力と狂気に操られ、飲み込まれた哀れな男の姿が。いつか来るかも知れない、自らが振るう呪いと狂気の力に飲まれてしまう、自分自身の姿に。

「……被害は、出ていない。事件は、起こってないんだ」

 だから、罪悪感を感じる事は無いんだと、サンディは男に呼びかける。
 ……サンディ自身が感じた様に、サンディと男とでは、多くの物が違っている。だが、敢えて共通する物を挙げるのならば……

「もし、共に応援する仲間達を巻き込もうとしてしまった、自分に絶望しているのなら……」

 自身の持つ、呪いと狂気の力が共に戦う戦友達を傷つける事に絶望してしまうような未来が来てしまったのなら。

「ここで諦めて、『飲まれる』事が! 一番の裏切り行為だよ!」

 自分はそうはならない、と強く心に刻む様に。サンディの言葉に込められた決意と覇気は、強い。
 ……サンディの呼びかけは、男を助けたいという善意よりも、自己への決意表明と言う方向に力の向いた物だった。
 だから、サンディの言葉は響かなかったか。黒装の邪神は地を蹴ると、サンディとの距離を瞬く間に詰める。
 拳を振りかざす邪神の姿。その光景にどこか無念さを感じながら、サンディもまた漆黒の鎧を展開。その身に纏いつつ、愛用の黒剣を抜刀。拳の先を叩く様に、その刃を振るう。

「……ッ!?」

 剣に弾かれた拳はサンディの身体を捉えずに、その足元の地を叩く。爆ぜる地面、立ち上る土煙。その煙を裂くように、サンディは飛び退いて距離を取る。
 ……一瞬感じた、違和感。一瞬で距離を詰める脚力、地を粉砕する腕力。それにしては、拳を振る速度が遅かったような……?

(……まさか! 抵抗、しているのか!)

 届かなかったと思われた、サンディの言葉。自身に向けた言葉、同類の声は届かないのだと、サンディは半ば諦観しつつその事実を受け入れかけていた。
 だが、事実は違う。己の引き起こしかけた事件に打ち拉がれ、邪神の狂気と存在感に潰されそうになりながらも。サンディの言葉、決意は。確かに男に届いていたのだ。
 そして言葉が届いていたからこそ、邪神の振るう地を砕く拳は、ほんの僅かに鈍ったのだ。

(……彼も、抗っている。戦っている)

 ならば、自分に出来る事は。

「少しでも、彼の抵抗を助ける……!」

 彼を救い、自分の未来を否定する為に。漆黒の刃を、邪神に向ける。
 ……戦闘は、少しずつ激しさを増していこうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミニステリアリス・グレイグース
ようやく、ですね
私は救出に専念します

「未来を彩る灰塵の徒」を発動
敵を「感染」させ、私が望む未来を押し付けます

『黒装の破壊者
猟兵達に攻撃が当たらず、振り回され酷く疲弊し
依代の意識が目覚める程のダメージを負った』

131秒で望むのはここまで
その間味方にどう攻撃が来るか伝え
触手切断に重点を置いて、鋼糸で全身を切り刻みます

犯人の意識が戻ったら声掛け
助け出せそうなら即実行
「多少魔が差したのだとして、影で操っていたのはその化物です」
「仲間や愛するクラブ共々、そんな姑息な奴に負けるつもりですか?」
「私はそんな奴に負けたくない。貴方は私達が必ず助けます」
「だから信じてください。貴方と私達が勝利するその瞬間を!」





(……ようやく、ですね)

 今回の依頼。その一連の任務でもっとも動いた猟兵は、ミニステリアリスだったと言えるだろう。
 それ故に、彼女の使命感は他の誰よりも強い。この混乱を招いた邪神は、滅ぼさねばならない。だがそれ以上に、邪神に囚われた男を助けたい。
 その決意を胸に、ミニステリアリスは動き出す。

「これなるは望み、叶え、導く群団……!」

 ユーベルコード、未来を彩る灰塵の徒(アルビトリウム・グレイグース)。
 感染した相手に、ミニステリアリスが望む未来予想を押し付け、具現化する様に導くというその異能。
 相手が万全の状態で顕現したのなら、その技は届かなかっただろう。身に纏う圧倒的な瘴気と狂気で、ミニステリアリス本人も飲み込まれたかもしれない。
 だが、現実は。猟兵達の奮闘で生贄となる者は一人も出ず、男も僅かながら自我を取り戻す事で今も邪神の内側で僅かな抵抗を見せているのだ。

『黒装の破壊者。貴方の攻撃は猟兵達には当たらず、その力に振り回され酷く疲弊し……依代の意識が目覚める程のダメージを負った!』

 故に、ミニステリアリスのユーベルコードは通じる。邪神の放つ肉の杭は見当違いの方向へ放たれ、猟兵達を傷つける事は無い。
 思い通りに運ばぬ状況。内部からの抵抗と外部からの干渉に振り回される戦況に、邪神は苛立ちを隠さない。明らかに、集中を欠いている。
 そんな敵へ鋼糸を放ち蠢く触手を切断し、その四肢を拘束しながら。ミニステリアリスは、邪神の中で抗う男へと呼び掛ける。

「多少魔が差したのだとして、貴方の行動を影で操っていたのは……貴方に取り憑く、その化物です」

 男の意識を、強く浮き上がらせる様に。

「貴方の愛する仲間やクラブ共々、そんな姑息な奴にそのまま負けるつもりですか?」

 男が本来抱いていた『連帯感』、『自尊心』を刺激する様に。

「私は、私達は、そんな奴に負けたくない」

 今の自分達は、共に邪神に抗う仲間なのだと、訴える様に。

「……だから、信じてください。貴方と、私達が、勝利するその瞬間を!」

 ミニステリアリスの訴えを遮る様に、邪神が人の耳には聞こえぬような咆哮をあげる。まるで彼女の訴えを遮るかのように、内部で抗う男の耳を潰すかのように。
 その様子に、猟兵達は確信する。自分達の声は、邪神の内に取り込まれた男に届いていると。

 ……131秒を時が刻み、邪神の行動を干渉していたミニステリアリスの技が効力を失う。
 131秒。言葉にすればたったそれだけの短い時間。だがその時間に得た物は、この戦いの結末を大きく左右する物となるはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

釘塚・機人
※連携、アドリブ等OK

誘導は他の奴らに任せてた分、こっちの方はきっちり働くか


大方、「ファンの命を捧げ、愛するチームに力を与える」ってのを、邪神にふきこまれたんだろ

けどよ…本当に必要なのは、応援する人達の生の声援…チームへの信頼、チームが好きだっていう「生きた思い」じゃねえのか?

それを分かってるから、自分が許せねェんだろうが…そう思ってんならあんたはまだ戻れる

あんたは自分の行動を反省できる…十分やり直せると俺は思うぜ


だからこそ…テメェは邪魔なんだよ!

男を正気に戻すべく、【鎧砕き】の要領で最大出力蒸気鉄拳を、鎧と化し男に纏わり付く邪神を引き剥がすつもりで放つ

敵の一撃は【武器受け】で確りと受け止める





 戦いは猟兵側に優位に進んでいた。
 顕現した邪神の火力は恐ろしい物があった。その耐久力も、中々な物だ。だが、邪神の振るう狂気は猟兵を捉えるに至らず、その防御も薄皮を剥ぐが如く、徐々に削られているのが現状だった。
 ……もし、邪神の目論見通りに。スタジアムに集う多くの人々……邪神に取り込まれた男の、サポーター仲間達が生贄となってしまっていたら。この状況はきっと逆転していただろう。
 その事実をしっかりと認識できているが為に。機人の胸には邪神への嫌悪感が、怒りの念が、沸々と燃えていた。

(大方、『ファン、サポーターの命を捧げれば、愛するチームに力を与えられる』ってのを、邪神に吹き込まれたんだろ)

 機人の想像は、正しい。
 かつてはリーグを制覇し、世界の舞台に打って出たこともあるクラブ。だがどこかでボタンを掛け違えてしまったのか、去年は無惨な結末を迎えてしまった。
 ……そんなクラブの支えになりたいと願い、声を枯らす事も厭わず声を張り上げ続けた男。だがいつまで経っても結果は上向かず、理想とのギャップに苦しんだ結果、邪神に漬け込まれてしまったのだ。

 だが。もし、仮にだ。邪神の言葉通り、本当に、『多くの生贄と引き換えに、愛するチームを強く出来る』等と言う事が実現出来たとしよう。実現できたとして……多くの犠牲の上に成り立つ力、勝利など。それは本当に、必要な事なのだろうか?
 機人は、そうは思わない。本当に必要なのは……応援する人達の、生の声援。チームへの信頼、チームを好きだと、愛していると叫ぶ『生きた思い』なのではないか、と。
 爆発物を探す傍ら、多くのサポーター達と交流を持った機人は、そう考えたのだ。

 男も、きっと判っていたのだ。どんな時でも、クラブを愛し、支え続ける事こそが、サポーターである者なのだという事は。
 だが一時の疲れ、気の迷いによって邪神に心を捻じ曲げられて。そうして衝動のまま行動した結果を許せないと感じてしまったからこそ、邪神を顕現させてしまう程に、男の心は絶望に支配されてしまったのだ。

「あぁ、だけどよ。自分のした事が許せねぇ……そう思ってんなら。あんたはまだ、戻れる」

 男が自らの行いに絶望してしまったのも、自らの行いが一体何を引き起こしてしまうのかという現実を、しっかりと振り返り、見つめ直せる……反省できる事が出来たからだ。
 そうして反省が出来るのならば……自らの有り様を改めて、良い方向に進める事も出来るはずだ。十分やり直せるはずだ、と。機人は訴える。

「だからこそ……テメェは! 邪神は、邪魔なんだよッ!!」

 機人が、吼える。まだどこかあどけない少年の色が濃い年齢の彼の顔が、一人の戦士の顔つきへと変わる。
 邪神の身から溢れ出る瘴気を真正面から乗り越えて、接近を阻もうとする地を砕く豪拳を受け止め、いなし。遂に邪神の懐へと潜り込むと……その腕に纏う、ジャンクの山から組み上げられた愛用の籠手型ガジェットの出力が、最高潮に達する。

「これで、決めてやるぜッ!!」

 その一撃は。邪神が本来の力で顕現していたならば当たる事は無かっただろう。いや、邪神が完全な力を持って顕現したのなら、そもそも機人がまともに攻撃に移る事すら不可能であったかもしれない。
 だが、現実は違う。猟兵達が邪神の目論見を挫き、男の意識に呼び掛け続け、攻守に渡り手を尽くし続けた結果……機人の渾身の一撃は、届く!
 裂帛の気合と共に、最高出力の蒸気機関のアシストを受けた拳が邪神の胸へ叩き込まれる。戦場に金属が拉げる甲高い音、衝撃が響く。
 強烈な一撃を受けてぐらつく邪神の膝。その胸部の黒装は無惨に破壊され、内に取り込まれた男の着ていた黄色いシャツが顕わとなっていた。

 ……強烈な一撃を受けて、邪神はその身に大きな傷を負った。戦闘は、最終局面を迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
・WIZ行動

先ほどからユーベルコード【影の追跡者の召喚】で顕現させていた影らが手に持つ複製された影の【ショットガン】で肉の杭の迎撃を試みる
そして影を通して鎧の隙間、膨らんだ肉腫を認識し、【銀の弾丸】を装填した【スイーパー】を構える
男もまた邪神の被害者であるが、今後はUDCという法の監視下に置かれる生活を強いられるだろう
「…悔い改め、生涯十字架を背負う気持ちがあるのならば、神は貴方を赦してくれるでしょう」
静かに撃鉄を起こすと、消えゆく男の自我が叫ぶ魂の懺悔に耳を傾けながら応える
意識を集中し蒼く輝く瞳は心の闇に巣くい完全な実体化を遂げようとする邪神の核を視ると、浄化の魔弾で射貫くべく撃鉄を落とした





 邪神が遂に、膝を付いた。その胸を覆った黒装は無惨に剥がされ、飛び散る破片が虚空へ消える。
 そんな相手を前にして、信子は静かに、一歩、また一歩とその距離を詰める。
 手に携えるのは、彼女の華奢な腕には似付かわしくない、無骨なマグナムリボルバー。装填された銃弾は、純銀製だ。
 ……銀は、高い滅菌作用と毒物に反応し変色するという性質を持つ物質だと知られている。西洋ではその性質を元に、病を齎す未知なる存在、人の理解の及ばぬ怪異への対抗手段として信仰され、多用されてきたという。一般的ではない知識ではあるかもしれないが、信子は自身の経歴からその事を知っていたのだ。
 故に、信子はこの銃弾を選んだ。邪神を仕留め、目の前の哀れな男を止める為に。

 ゆっくりと歩み距離を詰める信子に対して、邪神は膝を屈したまま動けない。本来の力は取り戻せず、猟兵達の度重なる攻撃を受けその力を大きく減じてしまっているからだ。
 だがそれでも、従容としてその身の滅びを受け入れる様な存在であるならば、邪神などとは呼ばれない。迫る信子を迎撃せんと、残る力を肉の杭に変えて放つが……尽く、迎撃されることになる。
 迎撃したのは、信子が先程から喚び出していた影達だ。手に構える影で出来たショットガンにより撃ち落とされる肉の杭。

 影による迎撃で飛び散る肉片を視界に捉えることもなく、信子はゆっくりと瞳を閉じると、犯人の男の事を思う。
 男は今回の騒動の犯人ではあるが、邪神にその心を捻じ曲げられた被害者でもある。通常の法で裁かれる事は恐らく無く、今後は猟兵達と協力関係にある組織、UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)の監視下に置かれる生活を強いられるはずだ。今までと比べれば、窮屈さを感じる事になるかも知れない。
 ……だがそれも、男が邪神の支配から逃れて、生き残る事が出来てからの話だ。

「……悔い改め、生涯十字架を背負う気持ちがあるのならば。神は、貴方を赦してくれるでしょう」

 懺悔し、許しを請う信徒を教え導く司祭の様に。瞳を開いた信子の口から溢れる呟きには、自然と聞き入り、居住まいを正してしまう様な……不思議な力があった。
 だからだろうか、邪神は膝を付いたまま、ゆっくりとその視線を信子へ向ける。邪神の目に移るのは、静かに撃鉄を起こし、自らの胸へその銃口を向ける信子の姿。その瞳は常の柔らかな黒では無く、強い決意を秘めた蒼い色をしていた。心の闇を見定めて、邪なるものだけを撃ち抜こうと言う、強い力の発露だった。

 ──俺がした事は、赦されるのか。赦されないのか。
 ──どちらにせよ、止めてくれた人達には、感謝をしたいな。

 邪神の頭部から漏れる、ほんの僅かな声なき声。その意味を、猟兵達はきっと理解出来たはずだ。
 ……撃鉄が、落とされる。浄化の力を込められた魔弾は放たれて、邪神の体を貫くのだった。

 スタジアムからは、大きな歓声と歌声が響いてくる。まるで猟兵達の活躍と……この戦いの最中、邪神に抗い続けた男を称える様に。
 浄化の魔弾に貫かれた男は、生きていた。衰弱はしていたが、日常生活を送れる日は遠くはないだろう。その時、改めて自身の犯した罪と向き直った時にどんな道を選ぶのか……それはまだ、誰にも判らない。
 確実に言える事があるとすれば。
 猟兵達は見事に邪神の陰謀を打ち砕き……多くの人々を、守り切ることに成功したという事だけだ。

 戦闘の終わりを見届け集まってきた現地組織の者達に、男の身柄を預けて猟兵達はそれぞれの帰路に着く。
 オブリビオンとの戦いの日々は、まだ続く。彼らの活躍を必要とする者達は、多くの世界にいるのだ。全ての世界の危機を救い、何憂う事無く日常を謳歌する日々を迎えるまで……猟兵達がその脚を止める事は、きっと無いだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月08日


挿絵イラスト