アルカディア争奪戦㉑〜Mirrors
●最大の幻想
「悲劇の連鎖を断ち切る。そのためには敵の力すら利用せねばならん」
冬のアスタルシャは、ひとつ呟くと姿見サイズの鏡の前に立つ。
「希望の象徴、世界の歪みを正す者、猟兵──俺に詠めるのは悲劇。だが、猟兵たちは悲劇の未来を変えてきた。ならば奴らの力はまさしく、悲劇を断ち切る力」
ならば、とアスタルシャは鏡の前で決意する。
「俺の配下、天帝騎士団はこれより、|猟兵となる《・・・・・》。最大の幻想、それは猟兵の力だ。この『映した相手となる鏡』によって、天帝騎士団は猟兵そのものとなる。学ばせてもらおう……悲劇の断ち切り方を!」
●自分自身との戦い
「さて、ミッションを説明しましょう」
グリモアベースで、居並ぶ猟兵たちにジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/Mechanized Michael・f29697)がブリーフィングを開始する。
「ミッション・オブジェクティブは、天帝騎士団の長、『天帝』冬のアスタルシャです。『己の悲劇を詠む能力』と『幻想武装群の創造能力』を駆使する難敵です」
アスタルシャは己の悲劇を詠む能力によって猟兵による襲撃を察知。そこでアスタルシャは悲劇を詠む能力によって最も有効である幻想武装のひとつを創造、配下の天帝騎士団に装備、運用させることにした。
「その幻想武装というのが、『映した相手となる鏡』。映し出した相手の姿形、能力、思考、記憶を完全に自分に投影します。即ち、我々がこれから戦うのは我々自身です」
何もかもが同じであるため、自分と同じユーベルコードも当然行使してくる。思考も記憶も同じであるから、自らのユーベルコードや装備の運用を理解していないことに起因する運用ミスによって自滅することもない。自分自身を打ち倒し、然る後にアスタルシャを倒す。非常に厄介な相手だ。
「なお、自分自身とは言いましたが、交渉によって味方につけることは不可能です。鏡で投影された自分自身は自らが正当な存在と認識し、投影元となった存在を否定します。平たく言えば、向こうはこちらを偽物認定して殺す気で向かってきます」
如何にして自分自身を打倒するか、ということがこの戦いの鍵だ。加えて厄介なことに、投影された自分自身はアスタルシャを志を同じくする同志と認識、連携を行う可能性もある。
「コピー先の自分はアスタルシャをオブリビオンと認識していないということですね。なので、純粋に猟兵VSコピー猟兵&アスタルシャという図式を変えることは難しいでしょう。我々自身を真正面から打倒するしかありません」
自分自身との戦い。これをどう攻略するのかは各々の猟兵に託された。
「アスタルシャは恐らく、グリモアの予知によって様々な破局を回避してきた我々の力そのものに目をつけたのでしょう。彼の目的は悲劇を断ち切ること。そのための力として我々猟兵を欲したのです。自らがオブリビオン、猟兵によって打倒される存在であるにも関わらず」
だからこそ、打倒せねばならないのだと。言わば猟兵という力の濫用を行うつもりであるアスタルシャは間違いなく倒さねばならない敵だ。
「我々の存在そのものを彼の好きにさせるわけにはいきません。困難な戦いとなりますが、確実な撃破を」
ジェイミィはブリーフィングを終えると、ポータルを開き猟兵たちを送り出す。最大の敵、自分自身との戦いを制すべく猟兵たちはポータルを潜り抜けた。
バートレット
どうも、バートレットです。
アスタルシャ戦のシナリオをお届けします。自分自身との戦いを制し、アスタルシャを打倒しましょう。
今回のプレイングボーナスは以下のとおりです。
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プレイングボーナス:敵の「幻想武装群(※オープニングで毎回形状や性質が説明されます)」に対処し、天帝騎士団の守備を突破する。
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幻想武装群のひとつ、「映し出した存在となる鏡」は、対峙する猟兵の存在を完全コピーします。ユーベルコード、アイテムも全て行使可能で、記憶や思考もオリジナルを引き継いでいるため使用ミスによる自滅が発生することもありません。このコピーされた自分自身との戦いを制することができれば、プレイングボーナスの条件が満たされます。こちらを殺す気で向かってくる自分をどう打倒するかを考えてください。
OP公開直後からプレイング募集を開始します。締切はタグにてお知らせします。全員分のリプレイの執筆は確約しかねること、予めご了承下さい(オーバーロードをご使用していただければ採用確度は高まります)。MSページに諸注意がございますので、ご一読頂きますようよろしくお願いいたします。
それでは、皆さんのアツいプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『『天帝』冬のアスタルシャ』
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POW : 絶凍剣
【自身の持つ絶凍剣】からレベルmまでの直線上に「神殺しの【天帝の凍気】」を放つ。自身よりレベルが高い敵には2倍ダメージ。
SPD : 白雪剣舞
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【氷属性の魔法剣】で包囲攻撃する。
WIZ : 氷獄凍土
戦場全体に【五感を奪う魔の吹雪】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【吹雪と共に飛来する幻想武装群】による攻撃力と防御力の強化を与える。
イラスト:仁吉
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エリー・マイヤー
同じ遺伝子の姉妹なら何度か見ましたが、完全なコピーは初めてですね。
…人類の模造品のそのまたコピーですか。業が深いというかなんというか。
さて、ひとまずお互いの有利な点を考えましょう。
あちらの有利な点は仲間がいる事。
仲間の攻撃が直撃すれば私は死ぬので、
私の行動を妨害するだけで勝てる可能性が高いです。
こちらが有利な点は、仲間がいない事。
周りを気にしないで済むので、範囲攻撃が使い放題ですね。
ああ、簡単な話でしたね。
私は敵を滅ぼす手段は沢山持ってますが、自身や仲間を守る手段が乏しい。
こちらは【念動プレス】を撃てますが、あちらは撃てない。
ということで、念動力で敵の攻撃を全力回避しつつ、隙を見て潰す方向で。
●「オリジナル」なき戦い
「同じ遺伝子の姉妹なら何度か見ましたが、完全なコピーは初めてですね」
エリー・マイヤー(被造物・f29376)はフラスコチャイルドだ。自身のオリジナルは誰が作ったのか、未だ定かではない。遺伝子をコピーされた「姉妹」は量産されていたのか、見かける機会も多かった。だが、よもや自分自身と全く同じ存在が目の前に現れるとは。
「ええ、思考や記憶に到るまで完全に同一とは。……この場合、『オリジナル』とは何かを考えさせられますね」
「人類の模造品のそのまたコピーですか。業が深いというかなんというか」
自身のコピーと言葉を交わす。だが、自分という個体で存在が許されているのはただ一人。どちらともなく戦闘態勢に入るのは必定だった。
「行けるか」
「えぇ、ですが巻き込まれないように。私の攻撃は加減が効きませんので」
「承知している」
アスタルシャと言葉を交わす自分のコピーを見て、エリーは考える。あちらの優位性は単純にアスタルシャがいることだろう。アスタルシャの攻撃が当たるだけでも自分は斃される。連携しながら攻撃を仕掛けてくるのは単純に厄介だ。片方はこちらの妨害に徹すれば良いだけなのだから。
一方で、こちらの優位性は仲間がいないことにある。仲間と敵の区別をつけないタイプの範囲攻撃は、仲間がいると下手に撃つことができない。同士討ちの危険性を冒すような性格ではないことは自分も理解している。だが、逆に言えば味方がいないなら容赦なく範囲攻撃を撃ち込むことができる。
「……あぁ、簡単な話でしたね」
この状況の攻略法に、エリーはすぐに思い至った。自分は敵を滅ぼす手段こそ豊富だが、その一方で自分や仲間を守る手段には乏しい。故にあちらが選ぶ行動は──。
「サポートします」
「了解だ、オフェンスは任せろ」
念動アーマーでアスタルシャを強化すること。もちろん自分は防護がない。で、あるのならば簡単だ。
「こちらは避けて潰すことだけ考えればいいわけです」
あちらは念動力のリソースをアスタルシャの念動アーマーの維持に使っている。つまりこちらを攻撃してくることがない。アスタルシャの攻撃だけ対処するのが最適解なのだ。
「奴に念動力を撃たせるわけにはいかない」
氷の魔法剣が次々と舞い、エリーに襲いかかる。エリーのコピーを守るために、エリーの行動を縛る気だ。だが、念動力でそれらを全て跳ね除け、距離を取る。
「ここですね」
再度攻撃を仕掛けようとアスタルシャが構えを取った瞬間、凄まじいGがアスタルシャとエリーのコピーに襲いかかる。念動プレスによる擬似重力だ。
「私は念動プレスが撃ち放題、しかしそちらは守るものがあっては撃てません。時には1人の方がやりやすいんですよ」
「えぇ、ですからアスタルシャだけを生き残らせる方法を考えましたが……やはり、そう来ますよね」
念動アーマーも、自分ごと攻撃されては意味がない。
「っ……護るべきもの、背中を預けるものは、時に足かせとなるということか……」
「違いますよ」
「えぇ、違います」
2人のエリーが、共にアスタルシャに声をかける。
「単に私が、仲間を護りながら戦うことに不向きであっただけです」
「その意味では、むしろアスタルシャ……あなたが私を護るべきだった」
「なるほど……学ばせてもらった」
潰され行くエリーのコピーと、対峙するコピー元のエリーの言葉に、アスタルシャは頷く。コピーはやがて重力に耐えきれなくなったのか、雲散霧消してしまった。
「……自分の弱点を分析できる、という意味では、良い機会だったのでしょうか。むしろ学ばせてもらったのは私の方かもしれませんね。……私のオリジナルは、こんな時どうするんでしょう」
コピーが消えた一点を見ながら、エリーは一人呟く。その答えを持つものは、「オリジナル」なきこの場にはいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…こんな状況で無ければ、何処まで同じなのか互いの業を競っても良かったんだけど…ね
…あまり時間は残されていない以上、最初から奥の手を使わせてもらうわ
分身と互いに同じUCを発動して魔力を溜めた「過去排出の精霊結晶」を乱れ撃ち、
戦場に充ちる"過去を世界の外に排出する自然現象"が分身や天帝だけを捕縛して生命力を吸収し、
天帝のUCも過去の存在に特効するオーラで防御しつつ切り込み大鎌をなぎ払う世界属性攻撃を行う
…たとえ、どれだけ私を模倣したところで|過去の存在《オブリビオン》である以上、この力から逃れる事はできない
…そして当然、お前の力や存在も過去の物である以上は同じこと。消えなさい天帝、この世界から…。
●過去を殺す存在
「……こんな状況で無ければ、何処まで同じなのか互いの業を競っても良かったんだけど……ね」
「同感。でも、時間は残されていないでしょう? お互いに」
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は自分のコピーと言葉を交わす。やはり思考は同一、立場の違いを除けば同じことを考えているようであった。
「えぇ、だからこそ──」
「──最初から奥の手を使わせてもらうわ!」
オリジナルとコピー、2人のリーヴァルディが放つのは同じ一手、吸血鬼狩りの業・|残光の型《カーライル》。
「「精霊結晶弾、魔力充填──一斉発射!!」」
過去排出の精霊結晶が次々と撃ち出されてはぶつかり合う。そう、あちらは自分をオブリビオンと認識している。過去の存在を殺す者として、過去排出の精霊結晶を撃ち込むのは当然のこと。つまり──。
「っ、しまった!! その手はマズい、リーヴァルディ!!」
この後起こる事象が「詠めた」アスタルシャが焦り、コピーのリーヴァルディを制止しようとする。だが、すでに遅かった。
戦場に満ちていく"過去を世界の外に排出する自然現象"。それはアスタルシャから急激に力を奪っていく。そしてその事象は、コピー側のリーヴァルディにも牙を剥いた。
「……何故、私が……!?」
「その意味は、私だからこそよくわかるでしょう?」
膝をつくコピーのリーヴァルディに、オリジナルのリーヴァルディが告げる。その言葉に、コピーリーヴァルディはひとつの真実に思い至った。
「私も……共闘する『彼』も……オブリビオンと成り果てていた……!」
「どれだけ私を模倣したところで過去の存在オブリビオンである以上、この力から逃れる事はできない」
生命力が奪われ行く中、アスタルシャはまだ抵抗を止めない。
「させるか……!」
氷属性の魔法剣が空中に浮かび上がり、オリジナルのリーヴァルディに襲いかかる。だが、すでに精彩を欠いた攻撃。過去の存在を拒絶するオーラを身にまとったリーヴァルディには届かない。
その時、リーヴァルディは気がつく。真実を知ってなお、コピーのリーヴァルディはユーベルコードの手を止めない。
「……そうね、私ならそうするわね」
「えぇ、私が過去の存在と成り果てたのであれば、私自身を殺すまで。それが私」
それが猟兵、リーヴァルディ・カーライルなのだと、コピーは告げる。
「どこまでも同じ、か……」
アスタルシャへと迫る。アスタルシャはすでに生命力の多くを奪われていたのか、立っていることもやっとの状態だ。
「……過去殺しをコピーするということは、そういう事だったか」
「お前の力や存在も過去の物である以上、私はそれを滅ぼす。それだけのことよ」
「消えなさい天帝。私とともに、この世界から……!」
コピーのリーヴァルディが放つ過去排出の精霊結晶が、アスタルシャについに膝をつかせると共に、オリジナルのリーヴァルディが薙ぐ大鎌が、アスタルシャへ致命の一撃を与える。もちろん、コピーの自分諸共。
「……もしも私がオブリビオンに堕ちたとしたら、私が選ぶのは自己犠牲、か」
コピーが消失した先を見ながら、オリジナルのリーヴァルディは一人呟く。その意味では、自分自身に助けられたのだろう。たとえ自己を滅ぼすことになろうとも、使命を全うせよとコピーに教えられたような気がした。
「……言われずとも、やってやるわ」
ため息と共に呟き、リーヴァルディは戦場を後にした。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
相手が自分のコピーなら言葉での説得は不可能
生き残った方が本物として一発でも多く撃ち込んだほうが得策か
拳銃での攻撃には特に警戒
射線から外れる為、常に走り続ける
立ち止まればワイヤーでの拘束の危険もある
余計な道具を使わせる余裕を与えないよう撃ち合いに持ち込みユーベルコードで反撃
走りながらコピーと共に天帝も射程に収め、両者を狙って射撃を撃ち込む
出し抜いて天帝へ攻撃が通れば良し
だがコピーは天帝を守ろうとすると予想
同じ立場に立たされた場合…仲間の命を狙われた場合、俺ならそうする
天帝を守る行動を取った瞬間、コピー自身は無防備になる
その隙を突いてコピーへ重点的に追撃して撃破を狙う
天帝の凍気は自分と天帝の間にコピーが入り込むように誘導し対処
コピーが範囲に居る間は凍気での攻撃では同士討ちの危険がある
使用頻度の低下を狙い、危険を減らしたい
天帝一人になったら、凍気を放つ前に畳み掛けて少しでもダメージを稼ぐ
使えるものは敵の力すら利用する、その選択には同意だ
だが敵すら利用するのはこちらも同様
容易く負けるつもりは無い
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎!
HAHAHA! またワタシ自身とバトルできるとは!
(以前、他所でドッペルゲンガーと交戦記録がある)
はてさて、完全なるコピーということは……ワタシと同じことを考えて動く訳デスネ。
まともに戦おうとするなら、アスタルシャ殿をカバーして連携攻撃を仕掛けてくるはず。
捨て身で突進したら……アスタルシャ殿に前衛を任せて、遠距離からUCしてきマスネー。
……うん、負けマスネ!
ならば、今回はまともに戦うのはやめマショー!
せっかくの機会デスガ、これは戦争。ワタシの楽しみだけで戦況に穴を開ける訳には参りマセン。
緊急展開、バルタン・クッキング!
ハーイ、猟兵のエブリワン!
敵と全力で戦い抜くための料理を用意しマシター!
さっと飲めるお味噌汁と、腹に貯められる一口サイズの羊羹デース!
雪にも負けず、自分自身にも負けず、頑張ってくだサーイ!
こっちに攻撃が向かってきたら鍋で受け流しつつ、キッチンを引いて逃走!
ワタシを追い狙うならば、その間にフリーになる方がおりマスネ!
兵站を維持し、戦況を支えマース!
●自分を知るということ
「HAHAHA! またワタシ自身とバトルできるとは!」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は上機嫌であった。まさかもう一度自分自身との戦いを演じることができようとは。
「自分自身との戦いなどやりづらいことこの上ないぞ。手の内がお互い全て知り尽くされているのだから」
そんな上機嫌なバルタンを見てやれやれと肩をすくめるのはシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)。コピーされた自分たちに目を向ければ、あちらは自分たちの排除に積極的と来ている。
「言葉での説得は不可能……生き残った方が本物として一発でも多く撃ち込んだほうが得策か」
「そういうことだ。シンプルな形で決着をつけるのが俺たちらしいだろう?」
一方のバルタンはというと。
「こちらの方が人数的には有利デース。アスタルシャ殿と連携して戦いマース! 行けますネ?」
「もちろんだ。歴戦の猟兵の力、宛てにさせてもらう」
コピー側のバルタンはアスタルシャとの連携を前提にして動くようだ。対峙する本物のバルタンはというと、まともにぶつかりあった際のバルタンの動きを考える。アスタルシャのカバーをしながら連携攻撃、こちらが捨て身で向かえば向こうはアスタルシャにオフェンスを任せて遠距離攻撃に徹して確実に殲滅。
「……うん、負けマスネ!」
結論は早かった。まともにぶつかり合うのは愚策と判断できる。であれば、そもそも相手との戦闘は避けるのが一番だ。
と、いうことでバルタンはシキのサポートに徹する。
「せっかくの戦況に穴を開ける訳には行きまセーン。シキ殿! 敵と全力で戦い抜くための料理を用意しマシター!」
「……自分との戦いを演じなくて良いのか?」
「心配ご無用! 向こうもワタシであれば同様の事を始めるに違いありまセーン」
「料理対決でありますか! ならばこちらも緊急展開、バルタンクッキング!」
なんと、アスタルシャ側のバルタンも料理をアスタルシャとコピー側のシキに振る舞い始めたではないか。料理人としての対抗心が疼いたのである。
「なるほど、これもある意味自分との戦いか」
ふむ、と頷きバルタン手製の味噌汁と羊羹を口にするシキ。みるみるうちに身体に活力が湧くのを感じる。もっとも、あちらもバルタンの料理を口にしており、条件は結局のところ互角。ただし、凍気と吹雪による五感喪失は回避できている以上、アスタルシャの手はひとつ封じられている状況だ。
「やってくれる……だが、これで条件がイーブンになったに過ぎん」
「あぁ、そして人数では俺たちが有利だ!」
「どうかな、人数差など俺には関係ないだろう?」
どちらからともなく射撃戦が始まる。2人のシキはほぼ同時に地を蹴り飛び出したかと思うと、拳銃を構えて相手の射線から外れるように走りつつ、互いに拳銃による射撃の応酬を始めた。
(足を止めればワイヤーで拘束される可能性もある……だからこそ、動き続ける必要がある……!)
照準はきっちりと動き続けるシキに合わせつつ、アスタルシャをいつでも狙える状況にしてある。チャンスは一瞬。自分自身の行動原理を考えれば、その一瞬こそが唯一の勝機だ。
そのチャンスはすぐに訪れた。アスタルシャが凍気を放つべく剣を振るい近寄ってきた。
「そこだ……!」
アスタルシャの脳天目掛けて銃弾を放つ。果たして、オリジナルのシキは自らの賭けに勝ったことを知る。そう、射線上にコピーのシキが割り込んできたのだ。
「っ……!」
「同じ立場に立たされた場合……仲間の命を狙われた場合、俺ならそうする。お前もその意味では明確に『俺』だったようだ」
アスタルシャは剣を構えたまましばし立ち尽くす。彼にも「詠めて」しまったのだ。コピー側のシキが自らを犠牲に自分を守ることを。
「お前も……かつての我が国民と同様に……俺を置いて逝くのか……!?」
「お前はそれを悲劇と認識しているのだろうな」
コピーのシキは骸の海へと消えようとしながら、アスタルシャに告げる。
「言い換えれば、お前にはそれだけのカリスマ性があったんだ。民たちもお前を守ろうと散っていった、それだけの名君だったんだよ。ちょうど今、俺がそうしたように」
「猟兵の力があれば悲劇を変えられると、俺はそう信じていた……」
コピーのシキが消える。その瞬間、アスタルシャは膝から崩れ落ちた。
「使えるものは敵の力すら利用する、その選択には同意だ」
生き残ったオリジナルのシキは頷く。だが、と続ける。
「敵すら利用するのはこちらも同様。容易く負けるつもりは無い」
「デスネー。猟兵も必要とあらばオブリビオンの力を借りるものであります」
「骸式武装もその一環デース。さて、アスタルシャ殿……我輩たちはどうやらここまでのようであります」
シキとバルタンがアスタルシャに向き合う中、コピー側のバルタンが戦況の不利を悟って声をかける。
「バルタン……」
「もう、良いのではありませんか。これ以上悲劇を詠み続けるのは」
オブリビオンに身をやつしてまで、これ以上の悲劇は詠むべきではないと。あるいは、この後待ち受ける特大級の悲劇──アルカディアの玉座にて待つものの真の狙いも、薄々気づいているのだろう、と言外に示す。
「……あぁ、そうだな。アルカディアの玉座に至っても、待つのは滅び……気づいていたさ。だからこそ、俺なりのやり方で足掻こうとは思ったが」
「結果的に、悲劇を重ねてしまったわけだ。皮肉なことだが」
シキは淡々と告げる。アスタルシャはその言葉を否定すること無く、ただ首肯した。
「……そうだな、もう、終わりにしよう。だが、そうだな……最後の頼みだ。バルタン……俺に、最後の晩餐を」
「請け負いましょう。手伝ってくれますな、もうひとりの我輩」
「もちろんデース。あ、せっかくだからどちらの料理が美味しくできるか勝負デース!」
「望むところデース! 勝ったほうが本物デース!」
2人のバルタンは競い合うように料理を作り始める。アスタルシャの最後の晩餐を彩るため、その辣腕を振るってみせた。シキも含めて食事を終えた後に、アスタルシャは一発の銃声と共に骸の海へと還っていく。最後に、共に闘ったサイボーグのメイドも伴って。
彼は、猟兵とともにした晩餐の中でこの言葉を残していた。
「俺が果たせなかった悲劇を断ち切る悲願を──猟兵、お前たちに託す。最期の頼みだ」
バルタンとシキは託された悲願を胸に、ポータルへと歩み寄る。このブルーアルカディアで繰り広げられる戦争、その決着の時が迫りつつあった。
大成功
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