視線、今はまだ燻る憧憬を
嘸口・知星(清澄への誘い水・f22024)はブリーフィングに集まった猟兵に頭を下げ礼を言った。デスクに備え付けられていた(なぜ?)ゴングに頭を打ち付け(なぜ!?)、痛そうに頭を擦っている。
「……集まってもらったのは他でもない。競技者たちの世界アスリートアースにて事件が起きる。未然に対策し、これを防いでほしい」
野球、テニス、サッカー、数多の超人が汗を流すスポーツ世界において、どのような事件が起きるのか。猟兵たちは続く言葉を待ち――。
「事件が起きるのは『超人プロレス』の興行である」
今度の今度こそずっこけそうになる。前もってわざわざブリーフィングルームに手製らしいゴングを準備していたのはそのためか、というツッコミ待ちもさることながら、寡聞にして聞いたことがない。超人……プロレス?
知星が説明するには、どうやら先に挙げた競技と異なり公式競技にはなっていないとのこと。この世界に巣食う謎の組織ダークリーグ。その先兵の邪悪な『ダークリーガー』は、『ダーク化』させたアスリート達を率いて、様々な競技に乱入してくる。それは非公式競技であっても例外ではない。悪逆無道の手段も厭わなくなるダーク化は、ダークリーガーを倒しても元には戻らない。超人スポーツで正々堂々と勝利することだけが、ダーク化を解除する唯一の手段なのだ。これも、非公式競技であっても同じ!
「そこであなた方にはレスラーとして、悪玉、悪党派……すなわちヒールたちと戦っていただきたい。さぞかし興味を持ったことだったろう」
今回の事件の解決にあたり、超人プロレスとは何か、ということについて触れなければならない。
あいにく非公式競技のため公的なルールは存在しない。把握しておきたいのは「リング上に何人上がってもOK」「飛び道具の使用は禁止」「勝敗を決めるスリーカウントやKO、規定時間以上のリングアウトはUDCアースやシルバーレインのプロレスと同じ」「殺人は禁止」あたりだろう。
精神的な攻撃や、非物理攻撃は格闘技とセットで使用するなど、一見それとわからないように使わなければ反則負けになってしまうようだ。また、武器も使用時に使用者の体に接触している限りにおいては肉体の一部も見做される。
「つまるところ、見よう見まねでも格闘技を体得してもらう必要がある。あくまで競技の上でダークリーガーを倒してもらわねばならないからな。そこで、今回ダークリーガーに狙われている超人プロレス団体『ビブリオバトラーツ』の公開練習に参加し、体験入門してもらいたい」
非公式競技だからといって過疎気味なはずもない、どころか積極的に入門者を歓迎し、希望を募っている状態だ。猟兵であるならば素質は問題ないだろう。
格闘司書団ビブリオバトラーツ。
レスラー達は男女問わず、新進気鋭の若者たちが集う。団長をはじめ団体の主要人物は二十代そこそこ、団長の千愛に至っては弱冠十八歳である。この世全ての格闘武芸を「編纂する」ことを目的に設立された団体で、あらゆる知識で苦境を跳ね除けるクレバーなレスリングスタイルをウリとしている。態度や気質は気さくそのもので、所属レスラーたちもあたたかく猟兵を迎えてくれるだろう。もちろん、距離を置いて一人ストイックに練習するのも構わない。一通りの設備は揃っている。
「団員を技の練習台にしたり、逆に徹底的にされたりするのも勉強になるかもしれないな。ここでのトレーニングが実際の試合での機転につながるだろうから」
衣装も用意してある、とグリモア猟兵は笑うが、その辺りが冗談でないことはすぐに知ることになる。
さて、運命の興行の日、対戦相手はもちろんダーク化したアスリート、その名も邪拳会の面々だ。敵方の先鋒は『燃焼系アスリート』。驚くべきことにダークリーガーの影響で全身から発火しているが、本人たちはいたって物腰丁寧に競技に臨んでくる。もっとも暑苦しいことこの上ないが……。
「リングは防火性だがあなた達はそうもいかない。引火はくれぐれも気をつけてほしい」
『燃焼系アスリート』を退けると満を持して『ダークリーガー』である陸の競技者もとい超人ダークレスラー『キング・デカスリート』がリング上に上がってくる。
その名の通りサディスティックな「王」さながらの尊大な性格のダークレスラーで、歯向かうものを徹底的に痛めつけ辱める試合展開を好む、根っからのヒールだ。本職は陸上種目のようだが、圧倒的な力と恵まれた体格から生み出される破壊力はリング上でも遺憾無く発揮される。単純で重い一撃は避ければ地形破壊を起こしリングアウトによる相手の反則を誘発し、ジャンプからの機動性も申し分ない。手に持ったまま使ってくるハンマーや陸上器具も脅威的だ。
「奴も相応に頑丈だからよほどのことがない限り命を奪うことはないだろう。だが、正々堂々打ち倒してマットに沈めてこその真の勝利だ! そうだろう?」
未だ公式化ならず、燻る熱量がいつか大きな火となるまで……その日までその他スポーツと言われどもダークリーガーの侵略を許すわけにはいかない。
「――以上だ。武運を祈る。あなた方に勝利の栄光を!」
知星がゴングを高らかに鳴らすと、転移が始まるだろう。集う力が苦難の果てに勝利に辿り着くと信じて、猟兵たちは進軍する――!
地属性
こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
改めましてMSの地属性と申します。
以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
今回は格闘家たち集うリングにて、ヒールレスラーに立ち向かっていただきます。信じられるのは自分の身体だけです。腹に力入れていきましょう。
この依頼はバイオレンス系となっております。
そのため、興行的には美味しい、あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。こう、お腹にぼこっといくのも、お腹をぼこっとされるのも歓迎です。
続いて、登場する超人プロレス団体とその団長について補足をば。
格闘司書団「ビブリオバトラーツ」。非公認団体ながら粒揃いのレスラーが集います。団長の牧志・千愛は身長150㎝の小柄な女性でありながら頭脳派らしい試合運びに定評があり、代わりに耐久力に難ありです。ちなみに丸眼鏡と、お腹を隠すように手にしたルールブックがチャームポイントです。今回のダークリーガーと因縁があるわけではないですが、猟兵に憧れている様子。第一章内にて交流も可能です。
では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 冒険
『その他スポーツを練習しよう』
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POW : 体当たりで果敢にチャレンジする
SPD : 器用にコツを掴みながら練習する
WIZ : ルールや戦術の理解を深める
イラスト:十姉妹
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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「…….ようこそ、体験入門の方ですね? 見学! どうぞ、どうぞ、きっとすぐに始めたくなりますよ」
深々とお辞儀をし猟兵を出迎える『ビブリオバトラーツ』団長・千愛。
リングや練習設備、そして自慢の団員たちを紹介していく。どんな理由があろうとも興行を中止するつもりはない、と自信満々に言った。公式非公式に関わらず、競技の興行を中止するなどスポーツマンの名折れ。鍛え上げた筋肉と磨いた技がどんな苦難をも乗り越えると信じて疑ってない。
「どんな打ち込みをなされるのか、どんな力をお見せになるのか……どんな、どんな、ですかね」
辛抱ならない様子でそろり、と割れた腹を撫でる。
服の下には生傷や青痣が、手指関節も巧妙に隠しているが突き指の治療痕が、矮躯の筋肉質な体に刻まれている。だが鉄は打てば鍛えられるようにアスリートの体は頑健そのもの。眼鏡や前髪で隠していても顔にまでついた傷は隠せない。団長ほどでないにしろ、団員いずれもがボロボロである。
「ああ、焦ってはいけません。今はまだ……新品の美本。もっと、もっと、使い込まなければ」
視線が猟兵たちに向けて、真っ直ぐに向いている。
自身の体を一冊の本に見立て、あらゆる技と経験とを刻み込み、やがては「聖典」とする。己の身体に打ち込ませることも時には厭わない。無論、技を体得するためには必要以上に相手を痛めつけることもまた、厭わない。かくいう千愛も前団長を打ち倒し、今の地位に立っている。擦り切れてボロボロになるまんで読み込まれ、書き記した一冊。かけがえのない逸品を管理する格闘司書たち。
その名とは裏腹に誰よりも武闘派な集団は、皆が皆猟兵へアツい視線を送っている。どうやら、熱烈なトレーニングを所望らしい。
「では、では、そろそろ、ヤりましょうか……?」
菫宮・理緒
まずはコスチュームだよね。
わたしはもちろんメイド服で戦うよ。
練習だし、団長の千愛さんに、「力を見せろ」と命令してもらって【マスターズ・オーダー】を発動させ、
『ビブリオバトラーツ』のみんなに力を見せたら、練習に参加させてもらおう。
マスターズ・オーダーがないと、だいぶへたるの早そうだけど……そこはUC込みってことで許してー!
練習は、もちろん受け身からだよね。基本をしっかりと覚えてから、攻撃に技にうつろう。
力にはさすがに自信ないから、投げ技より打撃や関節技でいこうかな。
……でもわたしとしてはヒールにはヒールで対抗したいんだけどね!
レフェリーがみてなかったり、5秒以内ならなにやってもいいんだもんね!
左腕のコンソールが眩しい電脳メイド服に身を包んだ少女が、スカートの端をちょんと掴んでゆっくりと一礼する。その仕草があまりに優美だったため、千愛はしばらくクロノスタシスの如くその仕草を幻視してしまう。菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は生まれながらのメイドであり、ともすれば戦いに不向きなのでは? と錯覚するほどには、完璧な所作であった。
「ご命令を」
「命令、命令? ……いやそんな、ですね」
「たとえば、力を見せろ、とかねー」
「そういうものでよろしいので? では、では、力を見せろ」
「御下命、仰せつかります」
ごくり、と。
ただ返答をしただけにも関わらず滲み出る闘気に生唾を飲み込む。早く打ち据えてほしい。その漲る覇気を拳に込めて、思う存分打擲してほしい。バトルマニアの団長は理緒の勇姿を目の当たりにしてわきわきと手の指を折ったり伸ばしたりして。
「……とりあえず、受身の練習をしましょう。これが肝心です」
プロレスにおける受身はバンプとも呼ばれる。ぶつかることや衝突を意味するだけでなく、車でいうところのサスペンション、さらには上昇、場の空気を盛り上げることも意味する。緩衝材でありながら適度に場を盛り下げず維持するという観点からも、魅せる格闘技・スポーツとして欠かせない基本のキだ。
超人プロレスであればなおさらである。超人プロレスラーほど危険な投げ技を日常的に受け続けるため、このアスリートアースであれば極めて高いレベルの受身習得は必須なのだ。そして、《マスターズ・オーダー》を拝受した理緒の能力は、文字通り達人級に達している。
受け身が過剰であればそれは演技っぽくなってしまい、しかし少なすぎても迫力に欠ける。「わたしとしてはヒールにはヒールで対抗したいんだけどね!」と息巻く理緒も、その重要性は認識していた。何をなすにもまず基本的な事柄から。ゆえに《マスターズ・オーダー》だ。打撃と同時に打撃された箇所を後方に退く、さらにオーバーに打撃にあわせてダウンする、はためくメイド服さえも演出の一環として芸術に昇華すれば、瞬く間に団員の面々も手を止めて光景を見守った。
相対すればわかる、完成度の高さ。スカートを摘んで上げるちょっとした佇まいさえも、優れた技量を思わせる。
「ほとんど教えることはなさそうですね」
「力を見せろ、って言われたからだよ」
「……そういうもの、でしょうか?」
リングの裏で行われる過酷な戦い、主にレフェリーの目を盗んだり、目にも止まらぬ早業で繰り出したり、を想定していた彼女の食い気味な姿勢は、団員を実践的な練習に促す。
力を見せ切るまではタフでエネルギッシュな理緒。腕利きの団員が束になる程度でむしろスパーリング相手としてはちょうどいいくらいだ。促されるがままに千愛がリングに上がり、理緒と相対した。ヘッドドレスを直しピンと指で弾く。ふわりと揺れるフリル。きゅっと締めたカフス。蛍光色に瞬く緑のラインを空中に残して、理緒の掌底が顎にクリーンヒットした。メイドらしい仕草に気を取られていた、全くの一瞬の出来事であった。
――ズダァン……!
「(うまい……)」
「いや、いや……お見事です。できれば、ゴングを鳴らしてからだとなおよかったのですが」
「あ。ごめんなさい。そうだよね」
顎にクリーンヒット、したように姿勢をズラし、受けると同時に体を引いて命中箇所を逸らしながら勢いをも殺す。理緒としては不意の一撃もいいところだったのだが。
手首をぽきぽきと鳴らしつま先でマットの感触を確かめながら、ファイティングスタイルを取る。
立ち上がって逆撃に繰り出された拳をすんでのところで躱し、屈んだ体勢で肩から突進する。ロックアップする、と見せかけた実戦的な動きだ。戦いとはいかに相手の思い通りにさせないか、狙いを壊すかで流れが決まる。そして流れは一度乗ったらそうそう押し返せるものでもない。
いかに基本を収め体幹を鍛えていようと崩される、理緒のカウンター。体格差もある。相手を押し倒すとテーブルセッティングよろしく手際よく組み伏せていく。
「(けど、だからこそ惜しいよねー)」
おそらく並々ならぬ努力と、研鑽・鍛練を積んできたに違いない。そして本職のアスリートでもある。他の世界にはその技を修行や才能でユーベルコードまで昇華させているものも少なくない、が、しかし目の前の矮躯の少女は、そこまでの域に達していない。おそらくオブリビオンであるダークリーガー相手は荷が重いか。
とはいえ……。
それと、己を客観的に見れていない、ということはまた別問題。
「(マスターズ・オーダーがないと、だいぶへたるの早そうだけど……そこはUC込みってことで許してー!)」
「なあっ?」
「どんどんいくね」
そう。時間制限有りだからこそ、この練習では容赦はしない。手加減してはバーチャルダイバーの名が廃るというもの。どんな現実や事象でもそこが世界であるならば没頭してみせよう。
団長の上腕部を両脚で挟んで固定すると同時に手首を掴み、自身の体に密着させる。理緒が繰り出したのは有名な腕肩への関節技、腕挫十字固である。覆いかぶさるような姿は決まっている腕が見えない、見せない。苦悶に満ちて痛みに堪える表情が想像を掻き立てる電脳メイド殺法! 腕を反らさせてしまえば肘を曲げることもかなわず、バリッバリッと異音を奏で始める。
手を伸ばしてロープを掴むことも、ここまで綺麗に完璧に命中した関節技の術中ではままならない。
「あぁあっ……?! ぎ、あ、あ、あの、ひとついいですか?」
「そろそろギブアップなのかな?」
「こちらの親指、向きがこちらだと肘にダメージ入りませんが……」
「えっ」
「よいしょ!」
当然ダメージは「入っている」。完全に技は「決まっている」。指導という名目での組み合いだからこそできる言葉巧みさで隙を作り出し、理緒の完璧にも思えたクロスアームロックか脱出してみせたのだ。
「いっ……だぁ、ふふ、ふふ、また刻まれました一頁」
「千愛さん……変わってるねー」
「それほどでも。ただ、ただ、強いて言うならば、今はまだ誰よりも新品に近い真っ新ですから……もっともっと力を見せてもらいたいところですね」
さらに激しく、と求められれば、純真のメイドは電脳世界に飛び込むように体ごと突っ込んでいく。再びの直線的な動きに、わざとらしく大きく倒れ込むと、団長は目配せする。
すると、模擬とはいえ控えていた団員がゴングを鳴らす。どうやらここまでで打ち切るらしい。ようやく体が温まってきた具合にも関わらず、だ。
「と、言いたいところですが、練習時間も限られているので一旦はこの辺で。いかがでしたか? インプットした知識は役立ちそうで?」
「それはまだわからないよ。意外だね。もう休憩なんてちょっと張り切りすぎたかな」
「いえいえそんなことは。技の編纂はここからの反復練習、読み返して、なぞることにコツがあります」
ならば座学だろう。口ぶり的には、録画の検証でもしかねない調子である。
理緒はこの後、楽勝だーと己の見せた余裕を飲み込む羽目になる。なにせ、ここから自然体にロックアップから受け身までを取れるようになるための反復練習さえも実戦形式なのだ。誰が真っ新かは言うまでもない。その体にクセがつくまで練習は終わらない、何時間かかったとしても。
「その他」スポーツのアスリートとはいえ、打ち込む情熱は猟兵に比肩するものだ。熱中すれば、時さえも忘れてしまうだろう。言い換えれば、楽しい、とも言うべきで、理緒は暫しの間練習を楽しんだのであった。
成功
🔵🔵🔴
草剪・ひかり
POW判定
シャーロット(シャロちゃん、f16392)と共同参加
お色気、キャラ崩し描写、即興連携等歓迎
愛用の白黒ゼブラ模様のリングコスチュームを着用して参加
なかなか面白いギミックの団体だね
プロレス団体も、ただ「良い試合」をしてれば売れるわけじゃないっていう現実をしっかり見てるんじゃないかな
これまで色々な世界でプロレスに取り組んできた私なので、このアスリートアースでも、プロレスを人気競技にするために尽力するよ!
シャロちゃんと(場合により他参加者氏を含め)基礎トレーニングで汗を流したら、リングに上がり派手なスパーリングを魅せつけてアピール
アスリートアース外のプロレスラーも、ちょっとは凄いでしょ?
シャーロット・キャロル
草剪・ひかり(師匠、f00837)と共同参加
お色気、キャラ崩し描写、即興連携等歓迎
いつものヒーローコスチューム風リングコスチューム姿で参加
アスリートアースでの新たな団体の皆さんですね、これは私も参加して盛り上げていかないとです!
それに今日は日頃教わってるプロレスの師匠ことひかりさんも一緒ですからねこれは心強いです!
ビブリオバトラーツの皆さんに挨拶したら師匠と共に基礎トレーニングだったり、リングに上がってのスパーリングで私達のことをアピールですよ!
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
こういうルールも有るのですねぇ。
参りましょうかぁ。
衣装の方は『FTS』から状況に合いそうな品(お任せ)を着用しますねぇ。
そして【繙壅】を発動、『格闘攻撃無効』の『波動の膜』で全身を覆い、実地訓練を行いましょう。
この『膜』で打撃は当然、投げ技は『膜』がアンカーとなることで、関節技は『膜』により力の伝達を防ぐことで、其々防げますねぇ。
古流の『剣術』には『合気』の元となった技巧も有りますから、格闘戦も可能では有りますが、『刀』や[砲撃]程得手とは言えない以上、敢えて『素手の格闘』を行えば『不利な行動による身体強化』も得られますぅ。
色々と試しつつ、此方のルールを教わりますねぇ。
「んん、んん、まさかまさかの?! ……マイティガール?!」
「はい! アスリートアースでの新たな団体の皆さんですね? 共に高め合いましょう」
シャーロット・キャロル(マイティガール・f16392)が差し出した手を震える手で掴む千愛。緊張で滲む手汗を抑えることができない。こんなことなら化粧の一つでも覚えておくべきだった。曇った眼鏡のまま固く握手を交わし「今夜は手を洗わない……!」と恍惚の様子。
「なかなか面白いギミックの団体だね」
「はぅおあ?!」
草剪・ひかり(次元を超えた絶対女王・f00837)が腕組みしながらその様子を見ているのに気づけば、少女はもはや息も止まりかねない勢いである。
「その他」スポーツという括りをされている超人プロレスを一躍大人気興行に押し上げかねない期待の新星にしてホープ、綺羅星の如く燦然と輝く猟兵の中でも、とりわけ格闘技、パフォーマンスアートを愛してやまない師弟である。何度記録映像を見返したことか。今はまだ燻る憧憬を、どれほどの熱意の視線で見つめたことか。
憧れが、目の前にいるだけで、こんなにも熱くなるものか。団長は息も絶え絶えに訴えかけた。
「……ぜひ、ぜひ、お二方、特に絶対女王の“女神の戦斧”……いやさ、あらゆる技をこの身に、この身に刻み込んでこの身を聖典に昇華をっ、ッひ!」
「……おや、ここは私が、参りましょうかぁ」
「ああ、体を引かないで! そんな、後生ですから……んん、んん、いや、この身に視覚を以て刻み込むこともまた、鍛錬の一環。耐えろ、耐えろ、千愛! 己は一団体を導く者ですから……ッあはぁん」
……あまりにも前のめりすぎる。というか倒錯的すぎる! このままでは聖典とやらを作る前に技を受けて受け続けてそのまま満足して昇天しかねない。というか、練習でノックアウトされる目的なのは、当人耐えてはいるけれど正直どうかと思う。
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)が名乗りと共にリングに上がり、団員に披露する派手なスパーリングを遂行することを提案する。ひかりとシャーロットもそれに同意し、異色の二体一の練習を承諾した。
団員からすれば夢にまで見た光景だ。まだ黎明期であるプロレス団体「ビブリオバトラーズ」にこれほどの有名人や有志が訪れるなど、それだけでアスリート冥利に尽きるというもの。垂涎! 見学でも学べることは無限にある。
「この子は落ち着きのない様子だけどそれはそれ! このアスリートアースでも、プロレスを人気競技にするために尽力するよ! 準備はいいよね?」
「もちろんです、ひかりさん」
「私も準備完了しました。師弟のお二方にご協力いただくのは気が引けますが、代わりに存分に打ち込んでくださいねぇ」
ゼブラ模様のリングコスチュームに身を包んだひかりはニッと笑う。存分に、と言われてしまえば、さまざまな技を見せたくなるというもの。その風体からなんとなく「仕掛け」はありそうだが、シャーロットもとい愛弟子シャロに目配せする。
裂帛の気合いを込めつつ、胸板目掛け片腕を叩きつける。ぶつかるダイナミックな肉音に、隙間を開けた五指で目を隠しながら団長は悲鳴を上げた。
「堅牢ですね……!」
打ち付けた腕にビリビリとした感触を感じながら、シャロは満足気に漏らす。対するるこるは微動だにしない。その代わり、拳圧で脱げさった衣装が練習リングの外に吹っ飛んでいく。
手早く乳白色のプロレスコスチュームを『FTS』から取り出して早着替え。ユーベルコードなしに波動の膜にこれほどの衝撃を与えるとは、おそらく聳える山を殴ったほどの感触に違いない。
「あるいはシャーロットさんの一振りなら、山くらいは砕いてしまうかもしれませんねぇ。猟兵でプロレスラーの方ならではの腕力ですぅ」
「いえ、私のパワーなど“女神の戦斧”に比べればまだまだ。それこそ全力でもないと、ですよね? 師匠!」
「また腕を上げたみたいね。これは私もうかうかしてられないよね。それにしても……」
プロレス団体も、ただ「良い試合」をしてれば売れるわけじゃないっていう現実をしっかり見てるんじゃないかな、と、まだまだ発展途上の団体の面々の表情をひかりは観察していた。
すでに基礎トレーニングでバッチリ体は仕上げている。多次元プロレス連盟の代表の名と、その姿はアスリートアースに轟きつつあるようで、団員の羨望の眼差しは基礎トレの間中も突き立っていたが、ひかりもまた彼らを期待しているようである。一度は前線を退いた身としても、後進育成の重要性は熟知している。こうしてわざわざ練習パートナーに立候補してくれた子もいる手前、やる気も燃え上がるというものだ。
「いいね! 私もアツくなってきたよ」
練習リングに根付いた大樹の如くどっしり構えていたるこるに近づくと、シャロがそれに合わせてるこるを両腕で投げ上げた。空中で天地逆さになったるこるの頭部をひかりのの両腿が挟み込む。そのまま胴を両腕でクラッチし、脳天からマットに突き刺した。シャロの剛腕とひかりの卓越したプロレス技術が組み合わさった即興のパイルドライバーである!
重力に従って豊満な肉体がぷるぷるっと揺れ、スローモーションのようにマットに大の字に横たわった。そのままスライム状になってしまうんじゃないかと思わせるくらいに美しいクリーンヒットである。が、女神の器であるるこるの体は、大技を受けてなお、むしろ技を受けても維持した美が魅力を一層引き立てる。
「なるほど、この手応え、ユーベルコードなのよね?」
「その通りですぅ」
むくりと起き上がって艶っぽい後ろ髪を流すと、るこるはこくりと頷いた。
《豊乳女神の加護・繙壅》は体を『特定攻撃無効』の膜で覆うものだ。この膜がまた規格外の代物で、打撃は当然、投げ技は『膜』がアンカーとなることで、関節技は『膜』により力の伝達を防ぐことで対応可能だという。
「細かい説明は割愛しますがあえて素手で格闘すれば、身体強化もすることができますぅ」
「あえて、というところがポイントなんですね、心強いです! そのコスチュームも似合ってますよ。一緒に正義のために戦いましょう」
シャロは両の拳を胸の前でぐっと握る。これから戦うのは健全なアスリートの肉体がダークリーガーの力で変異強化された難敵たちだ。しかもヒールレスラーであり、おそらく演出の内外問わず反則行為をしてくるものと予想される。るこるとしては本職のレスラー、それも猟兵のそれに耐え得ることが確認出来たことでも大きな収穫だった。が、それ以上にシャロの闘魂に触発された部分も大きい。
悪役をルールに則って正々堂々倒すから意味がある、ひかりはそんなプロレス魂を語った。ひかりが伝導しているのはプロレスの「技術」だけじゃない。現に伝導するまでもなく色々な世界にプロレスを志す存在は萌芽している。
相手を否定したり、そのルールを捻じ曲げたり思い通りにさせないことは簡単だ。圧倒的な力で以て叩き伏せればいい。そもそも同じ土俵に上がらなかったり、番外戦術を仕掛ける策もある。
圧倒的な力に魅入られる者もいる。力量差に絶望する者もいる。自分の全力をも通用しない相手を前にした時に、心折れて邪道に堕ちる、特にこの世界ではままあることだ。
「素晴らしい、素晴らしい! すンばらしいぃ……この身に受けてみたい、パイルドライバー!!」
感嘆する団長。格闘司書の面々も、おおむねそんな調子である。
ともかく己に今までの結果や経過を感じられれば、というのは地に足がついている考えではある。現実逃避ならぬ現実主義。
「でも千愛さんたちは『これから』ね」
「というと、あの方たちのいう聖典の完成はまだ先と……?」
「それもあるけど……シャロちゃん! ちょっとスパーリング!」
「はい!」
両者は前に飛び出す。最初はパンチの差し合いが行われて互角に渡り合うも、シャロのパンチをひかりがブロックした際に、その威力に押されて彼女が後退すると、形勢はシャロが押し気味になる。
だがそれが思う壺、カウンターの左フックでシャロの頬を打ち抜き、彼女の顔が右側に跳ね飛ばされる。足が一瞬止まるほどの、強烈な右フックであった。
その様子をニュートラルコーナーに向かうるこるは横目に見て微笑した。ぷるぷると体を揺らしながら、こういうルールもあるものかと得心する。冷静なトレーニングの空気を活気と熱気が上書きし、瞬く間にリングの周りに人だかりができるほどの興奮を与える。
「本当にいろいろなルールがあるんですねぇ」
浮世離れした肉体を持つるこるをして、なるほどと思わせる「一体感」。パフォーマーと観客の垣根を破壊しするのは、圧倒的な力はもちろん、苦境やダメージを演出するパフォーマンスも不可欠だ。ひかりやシャロの姿勢は大いに学ぶ点がある。試すことが増えてしまったがるこるはむしろ満足げだ。
それは現地人にも同様であるはずなのだが、今はまだ敵や己を痛めつけることに終始している。現実を見、地に足をつけるばかり、己を仕上げることだけが目的となっている。結果としてアスリートアースの人々の本懐ではあるけれど、プロレスを「その他」の括りから脱させるにはまだまだ力不足。
己を痛めつける「自己満足」を戒めるべく、るこるは最初に団長を練習リング外に引っ張り出してみせたのだ。結果的には練習にただ混じ入るよりもよほど大きな功となったことは言うまでもないだろう。
アピールに立った戦功者、ひかりには英雄に送るべき賛辞と羨望の眼差しが突き刺さる。その様子に満足そうだったシャロも共に立って手を振っている。るこるも呼応して【繙壅】を全開にし、スパーリングに割って入った。強健にして意気も十二分、ますます唆られる戦意は天を衝く勢い。これから待ち受ける苦難を、猟兵が現地アスリート共に乗り越えるために、有志を牽引する。
「さぁ! 気合い入れ直して、どんどん鍛えていっちゃうよ!」
「はい! ひかりさん、るこるさん、ビブリオバトラーツの皆さんも!」
「大いなる豊饒の女神、どうか照覧ありませ。そして、私たちの道行に祝福を」
魅力あふれるリング状の女神の共演に、天もきっと微笑みかけるだろう。和気藹々とトレーニングは続いていくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
美国・翠華
【バイオレンスOK・漏れNG】
『俺ガ思ウニ、オ前ニハモット頑丈ニナッテモラッタホウガイイ』
「…え?」
体内に存在するUDCは思いつきのように答えた。
そして彼女に告げた。
『コイツラノ攻撃ヲカタッパシニ喰ラエバ、チョットハ頑丈ニナルダロ。
ナニ、死ナナインダカラ、死ヌホド受ケレバイイ』
「私は…抵抗禁止ってこと…?」
UDCは団員には「敵を死ぬ一歩手前で留める力加減を覚えるためのトレーニング」という名目で彼女を徹底的に練習台にして良いと告げた。
致命傷を負った場合はUDCが修復を行い、復活させられる。
翠華の地獄のようなダメージ地獄が無限に襲いかかる。
果たして彼ら、彼女らは力加減を覚えるのだろうか?
久尾・心愛
「今回はここ!ここで私の戦いを皆に見せていくよ!」
小型のビデオカメラを持って彼女は立っていた。いつものようにライブ配信をするためである。
「んじゃ、団員の人とスパーリングでもしようかな?」
適当に見てから自分と同じくらいの背丈の男性を見つけて駆け寄り一言。
「私とスパーリングしてください。本気で!」
体格差はあれど、そこは男性と女性。勝てるかは分からないが彼女はとても楽しそうにしている。
武器と装飾を外し、靴をリングシューズに履き替え、軽く運動をして男性の元へ歩いていった。
【アドリブ歓迎です】
【相手を変えても大丈夫です】
【バイオレンスはいいぞ…】
よろしくお願いいたします。
●
「ふふ、ふふ……歯ごたえのあるトレーニングをご所望の皆さんには、うちきっての『乱読家』の相手をしていただきます」
鳩が豆鉄砲を食らったような様子の美国・翠華(生かされる屍・f15133)と、インカムマイクの調整を念入りにしていて手持ちのビデオカメラに夢中だった久尾・心愛(street on live・f38562)は、そんな言葉をかけられて首を傾げた。
たしかに心愛からしてみれば「私とスパーリングしてください。本気で!」と、男性平均で言えば低身長の、しかして筋骨隆々の男に頼み込んでいたから、格闘司書団「ビブリオバトラーツ」団長・千愛に目をつけられたのは、わからなくもない。
翠華は、といえば、どちらかといえば無気力そうな雰囲気を醸しており、傍目にはやる気十分! どんなトレーニングでもバッチリ! なんて様子には思えない。心愛でさえ、「見た目で人を判断してたかしら?」なんて感じてしまっている。
「まさか、力加減を覚えるためのトレーニングに付き合っていただけるとは……感動、感動。自分らがその機会ありがたく使わせていただきましょう!」
「…え?」
「では、では! 練習リングに上がってください」
……それは、スパーリングと言えるのだろうか。抗議したが、団長はそう提案された、当の翠華の方から、と言って聞かない。
『ヨカッタナ。コイツラノ攻撃ヲカタッパシニ喰ラエバ、チョットハ頑丈ニナルダロ。ナニ、死ナナインダカラ、死ヌホド受ケレバイイ。ヒ弱ナオ前ニトッテモイイ訓練ニナル、付キ合ッテヤレ』
「あ、あなたまで……」
相棒であるUDCも楽観的にそう嘯き、嗤っている。とはいえ翠華に力を貸すUDCは気まぐれで露悪的なのはいつものこと。
いい画が撮れるかな? と、さわやかな練習風景に期待を寄せる心愛と、不安げな翠華の様子に、団長は善意に満ちた笑顔を浮かべる。彼女からしてみれば「これから何をするか、されるか」わからないのはストレスだろう、と、すなわち不安を取り除き期待感を増してあげようという心づかい。
前面に構えていたルールブックを後ろ手に持ち、もう片方の手でぺろんと己の衣装を捲り上げた。小さな体にこれでもかと詰め込まれた密度の高い筋肉がシックスパックで主張している。しかしそれ以上に目を奪われるのは生々しい傷痕だ。青痣や鬱血、腹が割裂かれたような傷、股関節の脱臼痕、元の肌の色がわからないくらいにぼこぼこに痛めつけられたような打擲痕。出来たばかりの傷も、癒えてなお痛ましい古傷もある。二人は思わず血の気の引いていく感覚を覚えて、何か言い出そうとして。
「二人はもっと頑丈でしょうから……さぞ書き込み甲斐がありそうですね」
屈託のない笑顔に返す言葉さえ失ってしまうのであった。
●
――ボゴォ! ドゴオオ、ドズゥ……ボゴッ!!
それから、練習リングに上げられた二人は、脇の下から屈強な男たちに両腕を通され、そのまま腕を挟み込まされて頭の後ろで手を組まされていた。ネルソンホールド、いわゆる羽交い締めである。腕ではなく首に負荷が掛かるため、力技で振り解くことも抵抗することもできない。
ご丁寧に武器も装飾も外し身を守るものは何もない状態にされた心愛は、もたれるように体を後ろの男に預けていた。その上ホールドまでされていれば衝撃を背後に逃すこともできない。
「ほぉお゛……ぐぅうう゛ぅううウ……ッ?!」
首を絞められ、呼吸が困難になり頭部に熱量が蓄積する。熱い、たまらなく熱い。なのに意識はすうぅっと、逆に落ち着きを取り戻すかのように急速に希薄になっていく。頭の中に霞がかかり、ぼやけた視界の中で構える男の姿が見える。
なんとか腹筋に力を込めなければ、そう思っても酸欠で意識が飛びかけたところで込められる力など微々たるもの。ふ、と、万力のような拘束が緩む。大きく肩で呼吸し、必死に酸素を取り入れる心愛。大きく息を吸いこんだその瞬間、殴られた。男の拳が半分沈むまで、鳩尾にクリティカルに殴り込まれる。
――ズ、グドンッ……!!
「グぅっ……っ……ッ゛
……?!」
拘束が緩み、息を吸って横隔膜が下がる瞬間を見計らっての殴打。人体構造上、腹腔の逃げ場がなくなるため、臓器を直に殴られているかのような強烈な苦痛になるのだ。言葉らしい言葉はおろか、呼吸もままならない。
前髪を掴まれ自賛したビデオカメラにばっちりと顔が録画される。足が崩れ、地面に倒れようとする、笑みの眩しい朗らかな女子、その紛れもないリアルな苦痛が余すことなく記録されるのである。生理反応として体が跳ねた表紙に拳が脇腹に当たる。ごりっと骨に当たる感触がし、さらには骨を砕くような生々しい音と衝撃が響いた。
真っ青な顔、眉間に寄った皺、瞑られた目、滴る汗と涎、そのどれもが苦痛を訴え、団員らをして「興行として見る価値のある表情」だと信じて疑わなかった。
「いい表情、それにいい痕がついたァ!」
「次は俺だ! 俺の番だ!」
ふるふると心愛は首を振る。これはスパーリングなんかではない。たしかに試合に近い形かもしれないがレフェリーもいなければ人数差だってある。プロレスラーとしては真っ当な抗議の意思表示だ。
その辺りは「名状しがたき加虐者」に巻き込まれた心愛が不幸だったという他ないが、ダーク化したアスリートは大人数であったり、レフェリー泣かせな場合も多々あるので、ある意味真に実戦に迫っているというのは不幸中の幸いだったろう。
いずれにせよやりすぎではある、が、今回そういう趣旨のトレーニングに賛同してくれた有志、ここで手加減したり、やめたりしては失礼だ。アスリートとして、全力をぶつけることは、当然!
「くゥ……ぅあ?! ひっ……もぅ、やめ゛……んンんん゛ッ!?」
――ドゴォっ……!
「かっ、あアっ……!? げほっ、がはっ……!」
――ずんっ……!
「がはっ……!? ぎっ、んぐあああアアッ……!」
鉄の味と酸っぱい味が混ざった毒味が口に広がる。殴られた箇所だけでなく、痛みが上へ上へ拡大し、体が浮き上がるほどの衝撃の余波にクラクラする。臓器を喉元から吐き出すんじゃないかと思われるほどの異質な嘔吐感。
あるいは……すでにその臓器もぐちゃぐちゃになってしまっているかもしれない。
「は、ぶ、ぶ……うぅうう……!」
特に苦しいのは、鼠径部をに沿って骨のないところを狙われた時である。電流のような痛みが円をかくように流れ続け、ひくひくと下腹部を痺れさせる。その麻痺と痛みの感覚を男のそれに例えるならば、そう。男なら誰でも金的蹴りの恐怖が近似する。内臓を直接殴打される感覚なのだから、それよりもさらに激痛を味わうことになる。
お腹全体から胸部にかけて代わり番こに、滅茶苦茶に殴打する。
そして、より酷い……赤紫か青紫の痣に肌が染まっているのは翠華だ。致命傷を負った場合はUDCが修復を行い、復活させられる。裏を返せば致命でなければ傷はそのままということだ。肋骨はもう無事な本数の方が少ない。臓器は圧迫に耐えきれず、ところどころ機能停止している。
「いだいぃ………ぐうぅ゛ぅ……! いだい……いだぃい……」
ぼろぼろと落涙している。絞め上げられたまま失神したため寝業に移行し、リングに仰向けになっていた。啜り泣く翠華に対し、それが責務であるかのように勢いよく右腕を高く振り上げ、そして、ヒクヒク震えている痣だらけの腹部めがけて、全力で振り下ろす。
ボチュッ! と嫌な音が響き、お腹に拳の跡がくっきりへこみ、翠華はコップ一杯分の血を吐いた。
「がは……ッ、も、これでも、私……し、ねない……ごぷっ」
「滅多なこと言うものじゃないよ!」
「そのあたりは加減してるさ。といっても全力だけどね!」
――ドゴッ……!
「げふッ?! か、ひ……ひゅ、ぃ……っ!? 〜〜ッ?!」
酸素を求めるように何度口をパクパク開閉させても、一向に空気が入って来ない。生命維持に支障が生じるようなレベルで何度も痙攣もしている。
事実心臓が止まってしまったかもしれない。だが「死ぬことはできない」。そして「死んでいないからこそ」「さらに加減なしに」技や力をぶつけることになる。命を奪うことは反則になるが、反則にならない限りは派手で目を引くパフォーマンスなのだ。翠華からすれば、地獄の負の連鎖、UDCからすればこれほど心躍る環境もない。乱暴に、男が丸くうずくまろうとする翠華の横腹を蹴る。
「んはぅっ!? くぅんん゛?!」
仰け反った腹部目掛けて、肘で思いっきりエルボーのようにして打ちつけられた。
「っっひっぐううううゥ……ぉお……ッ゛!?」
男の全体重が乗った、強烈な一撃。狂ったように頭を振り、なんとか体内の痛みを取り除こうと無駄な努力を続ける。それが、UDCの不興を買った。
『抵抗シタナ?』
「ひっ」
自分の口がひとりでに、自分らはまだまだ余裕だと訴えかける。口は災いの元というが、身から出るのは錆は錆でも血の味だ。そして戦慄が二人の心を支配する。心愛も引き攣った笑顔のままぶんぶん顔を振っているが、男たちは合点と頷くばかり。
リング上にひっくり返される心愛と翠華。苦し気に上下するたわわな胸。痣まみれのお腹。そのお腹を、的に見立てて一斉に放たれた拳の先が、次々に奥までめり込んだ。
「いだぃ、ぐえ゛……ひゅ……!」
「ぐぼっ……は、がは………待っ、で!」
大きく痙攣させ、血を吐きかねない勢いの二人。しかし、団員たちは容赦しない。今度は胸を、腕を、太腿を、脚を、抉るように、刺すように、掌底と殴打とを繰り返す。のたうち回っても、打ちのめし叩きのめす。ぴくぴくとお尻を突き出さてダウンし反応が無くなればその首を蹴り上げ、髪を鷲掴みにして立たせ、胸や腹を殴り飛ばした。
永遠にも思える訓練の時間……少なくとも、彼らが、このトレーニングで「力加減の塩梅」を覚えるというのはいささか無理というものだろう。だが、闇の競技者に勝るとも劣らない暴虐的な力を得たことは言うまでもない。
そして、失ったものも、何もない。そう、何も……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
山神・伊織
皆さんよく鍛えられているんですね。修行好きの私としては大変共感します!
せっかくだから、いろんなレスラーさんと交流してみたいです。
UCを使用した上で、私が青龍拳を披露する代わりに、相手のレスラーさんの技を見せてもらう、と言う技術交換をお願いしましょう。どちらの技も、お互いの身体で受ける感じで。
私が見せる技は、青龍拳の連続打撃がメインですね。素早い連続蹴りからボディへの掌打に繋げたり、コンパクトな打撃で間合いを離した所に蹴りを入れたり。
技と技の繋ぎの隙を最小限にした、まさに流れるような連携こそが青龍拳の真髄です!
相手の技も、強烈なのとか恥ずかしいのとかも多いでしょうけど、しっかり耐えてみせますよ!
カシム・ディーン
UC常時発動
プロレスなんぞ趣味じゃねーですが…少し思うところがあるので挑みますか
「メルシーもそういうのは嫌いじゃないぞ♥」
ぶっちゃけると僕は避けて戦うスタイルなんですよね
唯…被弾した場合に危ない気がしたので一つ練習しようと思いましてね
何より…貴方達の今まで記したその叡智…味合わせてもらいましょう
【戦闘知識】
基本的に彼らの技を全力で受け止める
ぐうううう…痛ぇ…だがまぁ…死んでなければ問題ねー…!
彼らの技で痛めつけられ悲鳴を漏らしながらも何度も立ち上がる
倒れたらまぁ…死ぬような生活してましたしね?
「うへへへへ♥もっとこいよ♥」(こっちはめっちゃ嬉しそう。怖い!
反撃
飛び回っての空中殺法を叩き込む!
『ビブリオバトラーツ』団長・千愛は何名かを見繕い乱れ稽古を提案する。乱取り、といえばスポーツを嗜む一般的な世界では柔道のイメージが強いが、スポーツのいいところどり、乱入は日常茶飯事である。テニスとサッカーが同居し、フェンシングと相撲が同じ舞台で競い合う。競うことで高め合い、その熱狂の渦で巻き込むことこそ誉れなのだ。剛毅一本でもしなやかさ一本でも成り立たない。剛と柔、そういう意味では坩堝の中でも広い視野を千愛は持つように意識している。
閑話休題。彼女の提案には理由がある。と、いうのも。
「プロレスなんぞ趣味じゃねーですが…少し思うところがあるので挑みますか」
カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)はれっきとした盗賊である。
こと「戦い」において正々堂々、ルールを守ることに価値を置いていない。そして苛烈な本性ゆえに格闘技を娯楽として見る習慣もない。グリモア猟兵や周りに視線がある手前言わなかった心中を、言葉の端々から漏らしている、そんな様子である。
「おや♪ ご主人サマはご機嫌ナナメかな?」
「……いや」
「さすがは万物の根源を操る、数多の世界の知識や魔術を網羅するルーンシーフサマ♪ それでは思うところというのをあちらに向かってサン、ニ、イチ」
「言うかっ」
「あんっ♪ ご主人サマったら大胆なーんだ!」
まずあちらってどっちだよ、とこづき回す様子は傍目には仲睦まじく(いちゃいちゃしているように)見えるだろうが、カシムの傍らの界導神機『メルクリウス』は異界の機兵サイキックキャバリア、「賢者の石」で構成された機神! 人型、等身大に収まっているが存在感や質量は、見る人が見れば並ではないとわかるだろう。
そんな黄色い声を聞いた山神・伊織(飛龍乗雲・f35399)は、パシっと手のひらに拳を打ち当てる。銀誓館上がりで鍛錬漬け、日夜努力を続けてきた生真面目な拳士は、己が力の奮い時であると眼光を燃やした。
「千愛さん!」
「はい、はい……?」
「高め合いましょう!」
短いフレーズに《修行の心構え》の意気を込めて、気合いを高める。燃える視線に射抜かれて、応えないわけにはいかない。団長は選りすぐりの屈強な技自慢を揃えて、三人を練習リングに上がらせた。カシムは根性の見せ時だ。この「修行の場」で試されるのは鍛錬の効果が高まる代わりに他者を害することに制限がかかる。「あれ? バリアがが、がーん」なんて明後日を向いてリアクションをしている一名を除いて、真剣な表情そのものだ。
「教えて差し上げますよ、超人プロレスの醍醐味を……!」
「うわっ!?」
空中で迎撃されないよう軽くきりもみしながら、カシム目掛けて掴みかかる千愛。プロレス素人に対する容赦ないぶちかましだ。こういうのは体験者に先手を打たせるものとか、余裕とかを感じさせるのが通常だろうが、獲物を前に舌なめずりせん勢い。もはや激る「技をぶつけたい」欲が先行している様子。いつもの調子を出せないカシムへ四つん這いになったマウントポジション。
カシムの両足へ彼女は覆い被さったまま、外側から両脚を素早く絡ませると筋肉質な美脚でホールドしていった。いかに彼女が人体の関節部位を熟知してるのか、そしてどう技を読み込ませるか。
――みしっ、めキィ……!
「う……ぁ?!」
無理やり八の字に拡げられたカシムの足に、アオダイショウがとぐろを巻くように籠絡する。その体勢のまま、彼女は頭部のすぐ真上で両手首を押さえ付けると、しっかりとホールドされた両足はカシムの股関節をギリギリと最大限に広げていく。
だが技の本質は下半身ではなく、上半身。四つん這いの体勢。可憐な拳士のバスト部分にカシムの荒い呼気が当たる。鞭のような筋肉繊維の呻きを間近に感じながら、その谷間の中心が、カシムの顔面を勢いのまま覆っていった。
「ぶふっ、ぶ……ぐ、んむ?!」
両腕を真っ直ぐ上方に伸ばしきった両肩。その両方の肩を全て、脇の下から、丸ごと抱き締めるよう覆い被さる姿勢をより堅固にする。深く密着させた 肉体で抑え込み、自身の両手を固く握る、死の抱擁の完成である。両肩の関節も、肘の関節も動かせない。すなわち振り解いて呼吸をすることもできないというわけだ。酸素を取り込もうと押し付けられた谷間に吸い付くことしかできない。
「窒息しそうになったら言ってください、もっとも、もっとも……!」
両足をホールドしたまま、脚の先の、その先である爪先に絡め、フックをさせながら強引に彼の股先をゴリゴリと力尽くで開いていく。可動域を無視した開脚に脂汗が浮かぶのを堪えられない。
「ぐうううう……!」
「そちらの皆さんにも見舞ってください! いざ、いざ……!」
――ボゴォ!!
「ふグッ?!」
「あヒン?!」
リング上に飛び入ってきた屈強な団員たちが、カシムの様子に呆気に取られていた二人に横回転しながらの回し蹴りを見舞う。バリアを張っていたメルクリウスもといメルシーはなんとか踏ん張るも、伊織はその衝撃に空中でのけぞり、リングロープにバウンドした。
別の男が伊織の頭部を掴み、そのままリングに叩きつけ……ようとして、すんでのところで両腕をついて追撃を回避、両足による目にも止まらぬ連撃を加え、逆に男たちをリングアウトさせた。
「なにっ」
「まだまだ、こんなこともできます。はアッ!!」
一度の掌底で二度三度、走る衝撃に大の大人の男が体をくの字に折る。その剥き出しの弱点目掛けて、ローリングソバッドのお返しにと、足の曲げ伸ばしの反動に体重を乗せる。伊織が繰り出す青龍拳の極意は素早い連撃と大技のコンビネーション。高速の掌底や連続蹴りで生み出した隙の前で有れば、力任せのケンカキックや拳での殴りつけも有効打になり得る。
達人が目を凝らせば、薄く拳に纏う青い闘気が見えることだろう。
「おそろしくはやい手刀! ひゃっはー⭐︎ 真似しちゃうゾ♪」
見よう見まねでメルシーも手刀を放つ。45度の角度で、すこーんと命中する。寝業の真っ最中のご主人サマに。
というか、器用どころではなく屈んで狙って当てにいっている。果たしてどちらがキチクゲドーか。おいメルシー! とツッコミが入る。胸元で窒息間近なのにきちんと叱るあたり、良好な関係の中に明るいムードも忘れない。
「さらにも一発、どかーん!!」
「う、おお、おおッ?!」
キャバリア顔負け、改めてキャバリアそのものの張り手が、鍛え上げた筋肉そっちのけで、ゴリゴリの力押しで弾き飛ばした。
何かの間違いだ、とばかりに寄ってたかって拳や蹴りを加えるが、メルシーは涼しげな表情だ。自分の膝にも満たない大きさの存在に蹴られ殴られして喚くのは「大人気ない」。こういう時の正しいリアクションをメルシーは知っている。
「うへへへへ♥もっとこいよ♥」
「うわぁ!?」
面食らって後退りした拍子に団長を踏み、連鎖的に緩んだ拘束からカシムは立ち上がる。こちらの表情は、顔色から感情が見えない。
こうなるから避けるべき、初撃も、できれば継戦する限りにおいては「避けて戦う」べき。長く体に染み付いた盗賊としてのサガが、己の正しさを証明していた。冷たくも溶け落ちた瞳で、面々を見遣る。
「練習してみようと思い立ったのですが、気が変わりました。貴方達の今まで記したその叡智…味合わせてもらいましょう」
「それって……病みつきになったってコト?」
「おいメルシー! 反撃といくぞ!」
「やだー無視ー! とうっ」
その場で逆立ちしたメルシーの足へ踏み台がわりに乗ってリングの上遥か高く跳躍したカシム。煌々と輝くライトを背負うことで、濃く落とされる影と、直視できない眩さ。団長をして思わず細目に、メガネ越しに見た視界に映るのは。
空中から伸ばした足で踵を振り下ろしてくるカシムと、逆立ちの勢いで体を大きく前に回転させて空中から打撃の姿勢に入るメルシー流空中殺法。
――ボゴ! ……メゴォオ!!
「が、が……見事、です」
右手で頭部を、左手で前身の急所を固めて、元から小さい的でありながらなんとか踏みとどまった千愛。絞り出した声はか細く、称賛の声も消え入るほどに小さい。それでも、その視線は勝ち誇る二人の笑みを見逃さない。
「(まだ、くる
……!?)」
「我が真髄、その一端お見せします。『龍顎拳』ッ!」
本来ならば連撃から放つ迫撃の大技、今回は味方に初撃を任せ、青龍の力を拳へ一点集中したボディブローを千愛の脇腹へお見舞いした。ボギュッ! と肉に混じって骨へ衝撃が達する音が響き渡る。浸透する青い闘気が全身を駆け巡るたび、さらにくの字、逆くの字にと体が折れて、その場に崩れ落ちた。
「いい修行でした。次はこちらが技を受ける番、そうですね?」
「ええっ、そういう感じ?」
「でしょうね」
カシムの視線の先には、蓄積したダメージで子鹿のように足を痙攣させながら、ギラつく瞳で睨み笑いかける団長が佇んでいた。
「がはっ、ゴホッ! ……もちろん、もちろん、全てはこの身を聖典にするため……もう一度お願いします!」
「そうだな。死んでなければ問題ねー」
先ほどの熱烈なホールドを思い出しつつ、第二ラウンドとばかりに再びリングど真ん中でロックアップする。再びリング上に上がってきた男たちも今度は連撃を喰らうまいと徒党を組んで押し寄せ、伊織を羽交締めにしてしまった。
「あ、ぐウッ?! や、やる気は十分……のようですね、が……あっ!」
「その強気がいつまでもつかな?」
「たっぷりと我らの技、刻み込んでやるぜェ!」
鍛え上げられた腹筋にめり込むように拳が打ち込まれる。もはや言葉は必要ない。ぶつかり合う肉の音、リングに叩きつけられる打擲音だけが唯一のコミュニケーションだ。団員たちも同調し、熱にうかされるようにエスカレートしていく。
そうして、二人と一機は、満足いくまで強烈な技を食らわせ合い、地獄を垣間見るのであった。――その先に、闇のアスリートたちとの死闘を乗り越える活路が拓けるのだと信じて。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マスクド・サンドリヨン
(ソロ希望)
超人プロレス……興味があったのよね。正義の覆面レスラーとして頑張るわ!
「私達もプロレスを楽しみましょう、姫華」
千愛さんと、実践形式のスパーリングをする事になった私。
一見大人しそうな見た目に少し油断していたのが、命取り……徹底的に、関節技の実験台にされてしまうの。
猟兵として闘って来た頑丈な身体は、「とても書き込み甲斐のある本」。どこがどう極まってるか分からないから、ピジョンも私に何もアドバイス出来ない。
たまらずギブアップしたら技は解いてもらえるけど、すぐに次の技、ギブアップ、次の技、ギブアップ――。
最終的には白目を剥いた私の上で、千愛さんが悠然と腰掛けている事でしょう。
格闘司書団「ビブリオバトラーツ」団長、牧志・千愛はUDCアース出身のアリス『灰崎・姫華』に目をつけた。朗らかに声をかけ、正義を熱弁し、言い回しをあえて選ばないのであれば「言葉巧み」に実践形式のスパーリングを提案したのだ。正義に燃えるマスクド・サンドリヨン(仮面武闘会のシンデレラ・f19368)でもある姫華は、全幅の信頼を置くヒーローマスク、ピジョンの後押しもあり、練習リングに上がることを快諾した。同い年くらいの見た目、低身長、手にした厚手の本。そのどれもが「大人しそう」という印象である。
プロレスを楽しむ、という意義のもと、千愛が姫華にお願いしたのはたった二点だけだ。より技を綺麗に、クリティカルに刻み込むために、攻撃を受ける瞬間に脱力すること。そして、受けたダメージさ大げさに痛がることである。どちらもパフォーマンスアートとしては、ごくごく当たり前な事柄である。そういったアピールでピンチを演出して、そこからの逆転をドラマティックにする。正義は興行というパフォーマンスにおいても必要不可欠な要素なのだ。根っからの正義のプリンセスの姫華は、一抹の不安を感じつつも、頷いた。
――それが、過ち、とは言わないまでも、致命的な思い違いであった。
自分は、団の中ではまだまだ真っ新な「新刊」で、だからこそ丁寧に、刻み込みたいんです。自分にだけでなく、戦う相手にも。
敬意と、誠意を込めて。猟兵として闘って来た頑丈な身体は、「とても書き込み甲斐のある本」だから。大切に、大切に読み解いて、手垢をつける。読み癖をつける。マーカーを引いて何度もなぞり、時にはページを折ったり栞を挟み込んだり、これでもかと読み手であり繰り手の存在感を刻印する。
――ドズッドズッドズッ……ズダンっ!!
「つゥッ?!」
太股に痛烈な蹴り。顔色を窺っていたところからの強烈なローキックの連打。姫華の体勢が崩れると、すぐに踵落としで、後頭部へ利き足の凄まじい蹴りを入れ、マットに這いつくばらせたのだった。同じくらいの体格の存在が、相手の頭部を下げさせて踵を叩き込んでくるなど、想定していない。片目を瞑って眼裏に散る火花に視界が明滅して。
――ギチっ、ぎちぎちぎちぃッ……!
「あ゛っ゛!? あああああああああ
……!!」
……マットに蹲り目を擦る姫華の、美しい黒髪を鷲掴みにして引きずり起こすと、背後に回って素早くコブラ・ツイストを決める。いわゆるアバラ折りと呼ばれるもので、背筋を伸ばすように仕掛け手が伸び上がることでダメージを与える技だ。首の後ろに回った腕と、自分の足が仕掛け手と同じ足に絡みつかれている点から、対処法を即座に導き出すのは難しい。姫華は胸を上下させてただただ苦痛に甘んじることしかできない。
肋をぎりぎりと締め上げられると、姫華は掠れた声でギブアップを宣言した。
「はい! ではそのまま、次に移行します。キツければすぐに、すぐに! ……言ってくださいね」
語調こそ穏やかだが、団長はその『コブラ・ツイスト』をやめると、今度はすかさず姫華の右足に、自分の左足をフックし、次に右手でサリーの左腕を絡め取ってフックする。「このままでは先ほどの二の舞ですよ」とピジョンの助言も虚しく、姫華の後頭部に自分の右足の膝裏を掛けて、のしかかる様に決め、卍固めに移行した。
――ギリリリィ……ミシッ、ミシィ……!
「……あ、ぐぐ、ぉ……おお……ギ
……!?」
「ギブアップします?」
コブラ・ツイストをさらに複雑にしたような技をあっさりと決められてしまう。先ほどの肋と腕の負荷に加え、今度は首にまでも強烈な圧を受ける。
せめてロープにじりじりとでも近づくことができればまだ解放されるのだが、そこまでの対処法を編み出すのは難しいだろうという気遣い。千愛はそのあたりはわきまえて技を仕掛けている。猟兵であるというアドバンテージをうまく殺されている現状である。
事実、絶対に逃れられない体制に固められた姫華は、ただ苦しげに呻くことしか許されず、首と腰と両腕を極限まで絞り上げられているのと、その苦しさそのものの為に、少しずつ意識が朦朧として来るのだった。それでもなんとか、喉奥から魔法の言葉を捻り出す。
「ギ……ぎ、ぶ……うぅうう……!」
「はい! 引き際は肝心ですね。読み手にも繰り手にも、優しいのが健全です」
「は……ひ」
揺さぶりをかけられるたびに身体が振るえ、汗が飛び散る。着込んできた正義のコスチュームもぐっしょりと濡れて、色が変わり始めていた。
なんとか反撃しなければ、と、単調なキックを繰り出す。痛んだ首を無意識に庇ったがゆえの、精度の低い蹴りだ。高く掲げた姫華の片脚を抱えるように捕縛、さらに足首を脇腹に押し付けるようにしてクラッチする。
千愛は素早く回転して倒れ込み、つられて姫華の身体はその回転力に巻き込まれて振り回される。マットにそのまま叩きつけられると腰と、後頭部とを強打して無様に悶絶した。適切な受け身はダメージが蓄積したままだと取れるはずもない。加えて「綺麗に決めたんですから、治療費したらもったいないですね……」と嘯いている始末。
まずい、まずい! と、練習リングの外になんとか一度転げ出ようとする。マットの上をいみじくも這い回る姿はなんとも見窄らしく、そして絶好の仕掛け時であることは疑いようもない。
――ギヂィ!! ギリッ、ミチミチミヂィ……!!
「あンギャァああ?! おっ、あぁあ!?」
素早く先回りした千愛が仰向けの姫華の両足を脇に挟み込んで、身体を跨ぐようにステップオーバー。そして背中を思いきりそらして腰と背中を極めた。超人プロレスにおいてもポピュラーなボストンクラブ、または逆エビ固めである。
堪らずギブアップを繰り返す。もはや技を止めて欲しいのか、それとも練習を切り上げて欲しいのかわからない、うわ言のように同じセリフを繰り返す。
「まだまだです。次、行きますよ」
「ギブ、ギブ……ぎぶうぅう……!」
「まだかけてませんってば、次!」
そして、今日、姫華は椅子となった。格闘女王を志す若き拳士専用の、ただただ腰掛けられるだけの「椅子」に。それでも白目を剥いて涎を垂らすその表情は、どこか幸せそうに見えたという……。
成功
🔵🔵🔴
メアリー・ベスレム
超人プロレスなら知ってるわ
だって経験済みだもの
とはいえまだまだ経験不足?
知らない事も多いけれど……メアリ、本って嫌いなのよね
まるで
悪役がそうするように、わざと【挑発】してみせる
そもそも字が読めないんだから、嘘ではないのだけれど
だから……ねぇ、あなた達が直接
教えてくれる?
どう痛めつけてどう恥ずかしめるのか
「こんなの知らない」って言うような戦い方を
身体に直接、
教え込んでみせて?
まるで【誘惑】するように
復讐ナシでアリスを好きにさせてあげるだなんて
こんな機会、滅多にないんだから
ただの好奇心もあるけれど
いざという時の為に一度経験しておいた方がいいでしょう?
わざと受けたけれど返せない……じゃ試合も興醒めだもの
もちろん、無様な犠牲者をこそ眺めたい
悪趣味なお客さんもいるでしょうけれど
それとも……無抵抗の相手を痛めつけるのは気が進まない?
まぁ、なんて意気地なし!
せこせこ知識を貯め込んだっていうのに
せっかく壊れない玩具を与えられても
独り遊び一つ満足にできないだなんて!
「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」
白い豊臀が、揺れている。
「……あら? ふふ」
「ん……?」
「いや、ね。鬼さんって、今日のロールは『こう』じゃなかったかしら。だってメアリはアリスで、アリスはメアリだもの」
これがメアリー・ベスレム(WONDERLAND L/REAPER・f24749)の哲学である。コーナーポストの上に器用に上って蹲踞の姿勢のまま、本当におかしそうに笑ってぷるんっと尻を揺すっている。
彼女がおかしそうなのは、今日の己の立場が
悪役のそれであるにも関わらず、練習リングに並み居る団長はじめ、全員を鬼さんと呼んでしまった滑稽さゆえだ。面々に瑕疵はない。彼女自ら言い出したことだ。手っ取り早い「教育」のために、腕自慢の団員を、団長含め全員練習リングに上げるよう指示したのは。餓狼の眼光に射竦められ、あるいは魅了されたのか、団長権限で集められた。
少女の前に、メアリーの前に。
自己なんて曖昧で適当なものだ。だから自分を書物と定義しようと、獣やアリスと定義しようと、ふとした拍子に反転して然るべき。メアリーにとって「復讐」が絡まないならば、なおさらだ。
「練習『なんか』に躍起になってたら、それこそおかしいものね」
「おい嬢ちゃん、それは違うんじゃねェか」
「そう。まだまだ経験不足? それとも知ってるのは全部おままごとだったのかしら。知らない事も多いけれど……メアリ、本って嫌いなのよね。そういう分厚い本は、特に」
人差し指をぷにっとした頰に当て、んーと思わせぶりに上向き視線で唸ってみせる。ポール上で腰を落としたまま、尻を、すなわち背を晒しているわけで、それでも器用に横顔を見せてそんな仕草なのだから、いくら子供の戯言とはいえ団員たちは見過ごせないだろう。彼女の挑発的な態度は天性のものだ。
指さされ名指しで煽られた団長・千愛はメアリーと歳近いが、それでも「嫌われたものですね……」と苦笑気味だ。
そもそも、団員たちは己が体を一冊の本に見立てているわけで。
たっぷりと肉のついた洋尻をタイトなコスチュームで抉り出し、期待に満ちて揺れる耳をフードの下でぴこぴこと起き畳みしながら、続きを待つ。メアリーは知らなかった。文字を、そこから読み解く感情や情景の機微を。ただ、続きを待ち遠しく思う読者の期待感はまさしく同じく体感していた。
――グワッ……!
屈強な男がメアリーの腰をクラッチして、一気に後方に反り投げた。ブリッジしつつの反り投げ、いわゆるジャーマンスープレックスである。
難易度の高い技ではある。が、それなりにメジャーでありおよそどんなダメージがくるかは想像に容易い。ポストの上から抱え上げられたとはいえ、腕の自由がある。リングへの衝撃に備え、手を突っ張ろうとし――!
「なるほど、なるほど……口先だけではない様子。多少荒っぽく書き込んでも問題なないです……ね!」
――ずんっ……!
「うっ、げっ……!」
上半身に意識を集中しマットに叩きつけられた、その瞬間を見計らって千愛がメアリーの尻たぶを横から思い切り蹴り上げたのだ。後ろ目に背部の衝撃に気を取られていたところでの奇襲に、はしたない声をあげてのたうち回る。
やがて、思う存分にダメージを体外に逃したあと、マット上に大の字になったまま、言った。
「……おままごとっていうのは訂正するわ。でも、まだまだお人形遊びね」
「おにん
……!?」
「うん。でもさっきのあんよは上手だったかも?」
この場の誰よりも低い視線で、低い姿勢で、しかしこの場の誰もを見下す。仮想敵でもなければ、互いを高め合う切磋琢磨の対象でもない。自分の身体を痛めつけるのも、他人の肉体を傷つけるのも、人形を用いた自己満足の延長でしかない、と。言外に伝えたのだ。アスリートになりきるおままごと、以前の問題。サンドバッグ相手の技の試し打ち……というオブラートに包むことすらない。
「こちらも、多少という言葉は撤回します……徹底的にヤらせていただきますよ」
「ふぅん……ねぇ、あなた達全員、一人一人、直接
教えてくれる? ……どう痛めつけてどう恥ずかしめるのか、身体に直接、
教え込んでみせて? 今日はアリスがお人形になってあげる。言っておくけど、特別だから。だから……ねえ、『見せて、見せて
……?』」
最後の口調は団長を真似たものだ。ご丁寧にかけていない眼鏡をくいと指で摘みあげるモーションまでつけて、とりわけ媚びて、あざとく、そして頭でっかちな様子を、見せる。
くっきりと浮かんだ鎖骨に白く細い華奢な肩、しなやかな腕と小さな手のひらと指、肋骨の浮くようなスレンダーな肢体、贅肉ひとつない、それでいて柔らかいお腹、肉付きのいいデリシャスヒップ、それを支える脹脛と太もも、小さくて可愛らしい、それこそ人形の如き足の裏。真っ白の肌が熱り立つ視線に刺され、朱色に染まっていく。何をされるかわからない状況に置かれ、メアリー自身、身勝手に興奮を高めていった。
来たるダークアスリートに対する使命感、味気ない試合運びへの忌避感、それもあるが、一番は好奇心だ。怖いもの見たさ、そのためなら時には無様に喘いでみせよう。ニセモノをホンモノ以上に怖がってみせよう。ゆえに、「人形遊び」。
――ぐいっ……ぎりりッ!
仰向けのメアリーの体を蹴転がしてうつ伏せにすると、男は右足首を右腕で挟み込んで固定し、左手で爪先を掴んで足首を捻り始める。
アンクル・ホールドと呼ばれる関節技で、メアリーはうつ伏せで足元に立たれているためポジショニングの関係で反撃が難しく、男の両腕で抱え込まれているので振りほどくのも難しい。それはあくまで常人であれば、という話だ。足首だけの力でも人狼の脚力をもってすれば脱出も不可能ではない。
――パシン!
「ひっ?!」
繰り返しになるが、この技が決め手になることはない。だが極めるなら極めるほどに有利な体勢だ。例えばホールドした足を引き上げれば掛けられているメアリーは片足で吊るされるような体勢になり、股関節、太ももにもストレッチが極まる。すなわちぷりぷりとしたヒップがこれ以上ないくらいに剥き出しにされるわけで、取り囲んだ団員たちはその臀部を凝視する。狙いは定まった。
団長が先陣を切るように真っ白なお尻に向けて広げた手のひらが振り下ろされれば、張りの良い尻肉が場違いなくらいに景気の良い音を立てた。
――パシン! パシン! パシーン!!
「はっ……?! はひっ……ヒッ、はひぃっ……!」
叩いていた手を一度止めて、すでに割り開かれた股ぐらにそっと撫で擦る。指先に感じるヌメッとした液体の感触の正体は、誰が明言するまでもなく詳らかである。同性の千愛が股の間から離した手は汗を含んだ混合液でぐっしょりと濡れていて、指を開くとそれぞれの間に粘液の橋が架かる。
――ギリギリッ……ぐぐ、グきっ!!
千愛が言おうとした下品な言葉をなんとか喉奥に収めると、代わりに団員たちに下知しさらにホールドを強めていく。てこの要領で加速度的に強まっていく刺激に、この練習リングでは機動力を封じたも同然であった。軽快なフットワークを絶ち、この後の技の威力をさらに強める、そんな算段であろう。
「は……ぁ! あし……おしッひ、ぃ゛……あ?! ん゛……ぁああッ!?」
「超人プロレスのさまざまな技を刻み込んであげます。望み通りに、さあ、さあ! 体格差を思い知るのです」
とりわけ巨漢のレスラーが腰砕けになったメアリーの体を掴んで無理やり立位対面に持ち込むと、そのままクリンチする。両腕がメアリーの細い体に巻きついて、骨が軋むミシミシという音が小気味よく響き始めた。
小さな口を目一杯広げ、断末魔の雄叫びを上げる。
「ぐっ、い゛……っ! あ、ぎ……ッ、がッ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
叫びを捻り出す唇の端からは泡が溢れ、顎から首へと伝い落ちた。
プレス機に押し潰されるかのような外部圧力に晒された臓腑が、ありとあらゆる内容物を溢れさせる。
「や、え゛……て、ぇ……はぅ゛っ?! ……ォ゛……っ!!」
安定した足腰の上で力の入らない足首をバタつかせても、ベアハッグから逃れる術はない。身体の内部に浸透し、内臓に直接響くプレス。みるみるうちに男の腕が腹の中に沈み、尋常で無い痛みと、吐き気に襲われた。喉元までせり上がる胃液をなんとか飲み込み、嘔吐を回避するが、痛みは引かず動くことができない。微動だにできない以上、さらに拷問のような圧迫は続いていく。元より抵抗しないと明言していたが、捩るのは生き物の生理現象だ。
――ドズンッ!!
「んぎぃいいいイぃンっ゛!?」
秘部を蹴り上げられ、秘部を押さえた無様な態勢で再び倒れ込む。複数人という数の利点、そしてマナーや作法を無視して突き上げられ、ヒップをビクンビクンと震わせることしかできない。
「くぅぅ……っ! うう、あぁっ、ぁ、ん……ッ」
「なんだ、おねんねかァ?」
浴びせかけられる怒声。痛みにより立ち上がることもできない。元々の身体能力が高いのもあり、感覚も人一倍鋭いメアリーの、本来なら避けるべき急所への蹴撃。悔しさに顔を歪ませるが、蓄えられた尻肉がぷるぷる揺れるのみでかえって「被害者」メアリの惨めな側面を助長するだけであった。
ゴギン! と、うつ伏せになったメアリーの体に巨漢が上からのし掛ると、自分の左腕を彼女の肘の下に入れ、手首を右手でロックする。腕関節技のストレートアームバーである。メアリーのしなやかな右腕が男の乱暴で破壊されたのは、あっという間の出来事であった。両足に続いて腕までも……唾液と涙と鼻血で汚れた顔は、ゾクゾクする背筋と脳の奥のじんとする感覚に恍惚している。
――びゅぅんっ……ズぱぁンッ!!
「あぎゃ?! ヴあ゛っ……ああああァ゛ア゛!」
――ぱしん! バチっ、ペチィ!! バヂィ! バヂィん!!
風切り音。打擲音。衝撃。熱。痛み。
制御できない感覚の連続に、ふらつく頭が数多の視線を意識して、怜悧に、笑う。嗤う。
「ア゛――は、あは、あははははは! あははははははははははははッ!」
「じ、嬢ちゃん
……?!」
「こんなに、こんなにこんなにこォんなに! おかしなことって、『ない』わ! 一言一句の読み聞かせなんて、もうたくさん! せこせこ知識を貯め込んだっていうのに、せっかく壊れない玩具を与えられても、独り遊び一つ満足にできないだなんて!」
腹を抱えて滂沱の涙と共に笑い出す。
その笑顔をかき消すように、ぐしゃっ、と耳を覆う破砕音と共に、メアリーの腹筋が陥没した。ぱかっ、と開いた口から、栓を開けたソーダ水のように饐えた臭いが奔騰する。撃ち込んだ拳を抜きながら、男は呆れたように言い捨てた。
「お゛え゛、ぇ゛……あ゛?! ……や……め゛……」
「ありがとな……もうやめねェよ」
――ド、ズ……ンッ!
赤黒く変色した腹部が、ヒクヒクっと痙攣する。みししっ、と体の内部が歪に軋む音が響く。だらっ、と開いた口から、血の混じった涎がぼたぼたぼたっと滴り落ちる。眉間にしわを寄せ、笑顔が顰め面に変容していく。
ごほごほと咳き込みながらそれでも誰も止めようとはしない。賽は投げられた。瀕死の腹筋が、ずどむッ、と音を立てて陥没する。男の剛拳が、鳩尾にめり込んだ。後先を考えない力に、アリスは意識を取り落としかける。
――メリリッ……!
「はあ゛ッ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛……ッ?! おなかがッ……おな、がア……ッ!」
強引に覚醒させられた。ひくひくと眦が歪む。釣り上げられた魚の方がまだまともな動きをするだろう。しかし、哀れなアリスが上がった練習リングはすでにまな板の様相で、返しのついた針を喉笛に打ち込まれてもう二度と海には戻れはしない。
――ボグッ!! ボゴォ! ドズッ、ぶちっ、ボゴォッ!!
「がっ?! げ、お?! オ゛! お……おっぎょオォオオォ゛オ゛オ゛……ッ゛!!」
体の芯を貫く鋭敏な殴感に、ぐるりと裏返った濁眼から涙が垂れ落ちる。
「あッ!? ぎいいいィッ……! ふぬッ、おおお゛ッ! おお゛お゛ォオ゛ッ!!」
どす黒く変色した腹を、追い討ちするように何度も何度も爪先で蹴り上げた。
蹴り上げすら生ぬるい。跳ね上がろうとする体を、杵で餅を突くように、何度も何度も踵を振り下ろして哀れな獲物を踏み付ける。腹筋がブチブチと千切れていく感触が男たちの踵に伝わるが、団長は首を振る。
血と興奮で赤黒く染まった大きな尻は、まだまだ刻む余地がある。血管の浮き出た眉間が、はち切れるその時まで、拳を、足を打ち込まなければ。
よろよろとなんとか立ちあがろうとポストにもたれるメアリーの耳元で、がつ、と鈍い音が鳴った。側頭部に強い衝撃を受け、弾かれるようにマットへ倒れこむ。シャイニング・ウィザード、脳に煮え激るような揺れを叩き込む飛び膝蹴りであった。
口からは胃液が、股間からは大量の蜜が、黄金水のようにとめどなく溢れる。分泌された脳内快楽物質だけが、メアリーの意識をリングに繋ぎ止めていた。
「あ、……い、だぁ……あ、アリスは……メアリ、だも……の――」
「何を譫言のようにぶつぶつと……」
「――まだ……わかった、って言ってないけど」
ゾクン! と……。
取り囲む男たちの語彙を失わせる、冷たい声音。
どちらが鬼で、どちらがアリスなのか。肉切り包丁をびたりと首筋に突きつけられたかのような、悍ましく、そして、血生臭い。
肉が裂けるブチブチという音も、骨が折れ軋む音も、両者望んでたものであるはずなのに。人形の手足を捥いで中身の綿を繰り出しただけのような。
浮腫み、膨らんだ箇所に千愛は、つま先で小突きながら言う。
「では、では……続けましょう。ギブアップをこちらが言うのは筋違いというもの」
「……ええ、その通りよ」
首根っこを掴んで持ち上げる。力の入らない四肢は抵抗することができず、新鮮な酸素が届かない頭部はマグマのように赤く煮え滾り、痛めつけられた箇所がトマトに見えるほどに膨れ上がっている。鬱血した箇所や青あざは数えきれず、嬲られた結果の満身創痍という他ない。
だから、何?
「……だから何だと言うのです。技を全然受けられていない。これでは失敗です、が、その分書き込みは念入りにできました。まだ足りないですが、その分は埋め合わせしていただきましょう」
そう、何の理由にもならない。団員が手を止める理由には、微塵にもなりはしない。
団長はリング脇の担架の布地を引きちぎると、いわゆる茶巾のような形でメアリーの上半身を包み込んだ。上半身を、顔をも隠し、逆に下半身を丸出しにしているという実に情けない、恥ずかしい姿が現出する。
「気分はいかがでしょう……?」
「むーっ、むぅ、うーっ!!」
「結構」
脚をジタバタを振り回し、身体をくねらせて抵抗するメアリー。今は顔こそ隠れてはいるが、恐らく真っ赤に紅潮しているであろう。
不意に強い衝撃がメアリーの股間を襲った。殴り上げられたのか蹴り上げられたのかはわからないが身体が浮き上がるほどのものである。次に尻を思い切り引っ叩かれる。ただでさえ大きな尻は立て続けに加えられた刺激で大きく腫れ上がっており、無残な有様であった。
しばらくサンドバッグとして過ごすといいでしょう、そんな声が無情にも掛けられる。しかし、全身に無残な打撃痕を刻まれ、脱力したまま痙攣しているメアリーに、届くはずもない。団員たちが疲れ果ててリングを降りるまでの十数時間。嵐のような暴力に晒された彼女の表情は、もはや誰にも窺い知れないのであった――。
成功
🔵🔵🔴
八咫烏・みずき
【バイオレンスOK/漏れNG】
トレーニング…で、こんなやり方してたら
絶対体が持たない気がするのだけど…
私の手足は機械だから、圧倒的に頑強だけど
それでもやる…?
とりあえずひたすら飛びかかってくるであろう
団員たちを攻撃して倒して、疲れるまでずっと続けさせられそう…
私は武術の練習なんてしたことないから
正直動きは素人くさいかもしれないわね…
(団員たちは段々とみずきの動きの素人臭さに苛立ってきて
今度はこちらに指導を行うと宣言!)
(仕掛けられる様々な技!機械の腕すらへし折りそうなほどの
圧倒的な戦闘力!たしかにそれはプロである。)
(そしてラストはみずきの体を用いたパンチ・キックトレーニングをするというのだ!)
(彼女の体をサンドバッグのように吊り下げてひたすら顔以外を殴る蹴る!)
…これぐらい耐えられないといけない…。
お姉ちゃんはきっと…もっと辛くて、ひどい目に合わされても
弱音は絶対に…吐かなかったはず…!
●
『ビブリオバトラーツ』団長・千愛をひと目見るなり、八咫烏・みずき(静かなる復讐鬼・f36644)へ「うちきっての乱読家を相手していただく」と、彼女を練習リングの上に誘う。団長も年若いがみずきはそれを下回る年齢で、体格も団長の方が上回っている。それを知った上で、目の当たりにしてむしろはっきりと、みずきは確信していた。
「トレーニング…で、こんなやり方してたら絶対体が持たない気がするのだけど…」という危惧である。
そもそもグリモア猟兵の説明からして疑問符を浮かべる話だ。この依頼に参加している面々も世界を股にかけるプロレスラーだとか、UDCやユーベルコードで理外の再生力、防御力を持つ面々が揃っている。そんな猟兵たちと同じことをしていては命がいくつあっても足りないじゃないか。
「私の手足は機械だから、圧倒的に頑強だけど
それでもやる…?」
「それは、それは……我々を心配してくださってるので」
「う、うん」
「あいにくと人体とは、人が思ってるよりも頑丈にできているものです。ご心配には及びませんとも、うっふっふ」
握りしめたルールブックを傍らに放りながら、バキバキに割られたシックスパック、そしてそれを覆い尽くす無数の傷に、みずきは息を呑んだ。ぺろんと捲れたコスチュームの下にこんな生傷、古傷が隠されているとは思わなかったからだ。「共に聖典を目指そうではありませんか
……!?」と、肩を叩く千愛。メガネのグラスの下のギラつく眼光に気圧される。やばい、やばいやばい、やばい! 亡き姉がいたら嗜められそうな言葉遣いの焦燥が脳裏を駆け巡ったところで、みずきは練習リングに引き倒された。乾いたゴングの音がカーンと響き渡る。
「百人組手と参りましょう。……もっとも、もっとも、うちに百人も団員はいませんから、気持ちだけ……ですがね!」
「本気なのね。私も、手加減はしない……」
「おやおや! ですが、ですが、本当は機械の腕もそうですが、その体の中身に秘密があると見ました。隠してますね。隠してますよね。なぜですか? いえ、その答え暴いて、内部の奥にまで刻み込んで差し上げましょう。我ら超人プロレスの真髄を!」
●
それから、どれほどの時間が経っただろう。
「はあっ、はあっ……はあっ……!」
ぐい、と手の甲で顎を拭う。
ふらつく足をなんとか踏み締めて、死屍累々のリングに倒れ伏す男たちをぽいぽいと外へ投げ飛ばす。先ほど掌底や蹴りやらを加えて薙ぎ倒した男たちだ。意識を失うまで殴り倒すのは流石に気が引けた、という暇もないほどに次々と押し寄せ、かえって頭の中がクリアになっていくようだ。
気が遠くなるような疲労の中で、みずきは己が心臓のあたりに手を当てる。ぱるんっと揺れる、年齢離れした胸の下で、静かに命脈を維持する、機械の臓器。隠していたつもりはない。むしろハンディキャップのつもりだった。伝えたことで浴びせられる周囲の反応を予想して、それが無性に怖かった。
……疲弊した頭の蒙昧な考えのせいで、自分の決心が、揺るぎそうになった気がした。瞼の裏に大切な人の笑顔が浮かんで――。
――ボグッ!!
「げ!? ……ウッ、ぉ……ぉ?!」
「もうおねむかい、嬢ちゃん?」
苛烈な現実に引き戻された。
「ま、ま……だ」
めり込んだ拳が腹からゆっくり引き抜かれる。ぐいと機械の腕が持ち上げられた。生身の肉体から放たれた技を受け止めているだけなのに、凹んで歪んでしまったかのように着実にダメージが蓄積している。
そのまま浮き上がった体、無防備な頭部が男の無骨な手で抱え込まれる。みずきが抵抗する間も無く、首を激しく捻られながら後頭部と背中をマットに叩きつけられた。メリッと骨肉の軋む音を耳奥に聞きながら、激しくバウンドする。肺の中の空気を余さず吐き出して、溜まらず目を閉じる。
体の中に緩衝材がない状態で次なる攻撃を受け止められるはずもない。彼女を覆い隠す影。フライングボディプレス、それもコーナーポストから後方転回しながら放つ渾身のムーンサルト・プレスである。大の大人の全体重と重力がみずきの肉体にダメージとして襲いかかる。単なる威力はもちろん、大技のクリーンヒットはみずきの戦意をへし折るには十分だった。
――ぼっごオォオオォオオ……!!
「んごぉ?! ……オ、ほぉ
……?!」
「そのタフさは認めるけど、興行的にはどうかねェ」
「さっきから呻いてばっかりじゃないか。受け身も取れない、リアクションもできない素人さんに指導するとしよう」
「げふっ……えふ、し、指導……?」
――がすっ!
「がは?!」
そんなに不服そうな表情をするなよ、といかにも不機嫌そうな声音で男たちは話しかける。脇腹に突き立つ膝を感じながら、呼気の当たる距離で敵意をジリジリとぶつけられる。もはやリスペクトの精神は感じられない。
元より武術の訓練を積んできたわけではない彼女にとってプロと同じ動きをしろというのが無理な話。それでも気骨を買われて練習リングに引っ張り上げられたわけだが、あまりの素人っぷりに唖然としてしまう。とはいえ団長に不平を言うわけにもいかず、こうして切磋琢磨から一方的な指導に切り替えたわけである。
機械の腕をワイヤーで縛られると、両股を開いて浅めに腰を落としたスクワットの途中のような蹲踞……ガニ股姿勢でコーナーポストに括り付けられる。固定されたまま胸を突き出すポーズに、己の惨めな有り様も相まって顔から火が出るようだった。汗で湿った黒い前髪を掴まれ、顎を無理やり上に向けさせられる。ギラつく明かりに逆光になって男たちの笑みが一層不気味に映った。
それでも、己が身を包んでくれる姉の温もりに恥じることのないよう、全うしなければ。ここでギブアップするのは敗北に等しい。何より、こんなところで首を垂れて指導を求めるのは、姉を慕う己を否定することになる。
自分には頑丈さしか取り柄がないのだから。
「指導……指導して、いいよ」
――……ドゴオオッ!
「いッ?! いぎ、ぃいいいッ
……!?」
「指導してください、だろ?」
痛い、痛い痛い痛い……!
歯を食いしばって、顎を胸の谷間に埋めるように体を捩ってなんとか痛みを逃そうとする。きりきりとワイヤーが腕と擦れて耳障りな音を奏でた。ゆさゆさと胸を揺らしながら、いかにも殴ってくださいとばかりにお腹を突き出してしまう。ボタンひとつしか止まっていない、体を守るにはあまりにも心もとない、血サビの白装束。上着代わりに被ったブレザーがワイヤーロープに絡みついて、その姿は蜘蛛の巣に捕まったカラスアゲハを思わせる。
――ドゴッ! メリメリ……グリュっ!
「……はッ……んぐッ?! ……お……ッ……おッ!? おッ……!」
気道、ならびに動脈と静脈の閉塞による呼吸不全。首にあてがわれた五指。別の男が繰り出した拳が中指を臍の穴に突き立てる。また別の男が前髪を掴んでぐらぐらと頭を揺らし、その全員が一斉に空いている手で狙いを定めた。当然。彼女の頭部よりも大きい、双房。狙ってくださいと言わんばかりの、重量級。身を揺すると、いやらしく弾んだ。
卑しい。なんて、違う。
「ち、ちが……今の声は……ッ」
「なにが、違うんだ、よォ〜っと!」
――メキメキ……っ、ブりんッ!! メリィ! ゴリ゛りィっ……!!
がくがくがくと、みずきの体が不規則に痙攣した、その後。
「おッ……おッ……おッおッおッお゛ぉ!?」
発育を遂げた豊乳をたっぷんたっぷんと揺らし、悶絶した。
四方から繰り出された手刀打ちや掌底、先端を摘みひねり上げるような抉り込み、張り手。その全部の刺激がみずきを腰砕けにする。
ぼたぼたぼたっと谷間に唾液の池が出来上がる。口腔から漏れる澄んだ透明な噴水は、彼女があげたい悲鳴を代弁しているかのようだ。だらしなく開かれた股は、少しでも下腹部から力を抜けば洪水してしまいそうな様相である。豊満な胸に刻まれた傷跡が、衣装以上に痛々しい。胃も波打ち、荒い呼吸と共に飲み込むのに必死で、まだ殴られてこそいない顔面が青く染まっている。
表情を確認するように搾るがごとく激しく乳房を揉みしだかれると、唇を歪め、細い眉を八の次に曲げて耐えるような表情だ。再び手刀を胸の根元から抉るように突き込んだ。
「おっご……ぐっ、うぅうっ……がっ?! あ゛っ゛
……!?」
「今のはいいのが入ったなァ」
無表情でいようと必死に歯を食いしばっていたが、顎を限界まで背けて突き出した舌を噛まないようにしているだけで精一杯。
可憐な鉄腕、静かなる復讐鬼の姿はどこにもなかった。ただ胸を嬲られて喘ぐだけの、か弱く、年相応な、歯を食いしばりながら男たちを睨みつけるだけの、少女。
「(…これぐらい耐えられないといけない…。お姉ちゃんはきっと…もっと辛くて、ひどい目に合わされても弱音は絶対に…吐かなかったはず…!)」
「だいぶいい表情になってきたな」
「こういう顔を拝みにくる客もいるんだぜ、なあ?」
「違いねェや」
「……は、ぇ……?」
物静かに、精悍に、平常のように男たちに睨みを効かせていたはずだ。少なくとも当人はそのつもりである。縛られてなお気高さと、忍耐を兼ね備えている。
実際はどうだ? 今は頬をぐにぃと掴まれ、突き出された舌を指で掴まれ揉み込まれている。一層溢れるとめどない唾液、自然と荒くなる鼻息、窄まった頬を無理やり弄ばれ、緩んだ表情をみずきだけは自覚できない。やわやわと外頬と口内を揉まれると、じんわりとした快感が広がった。舌を引っ張られれば反射的に涙が込み上げてくる。
「うぅ……えぇ……れ……ぇお」
「だから練習で顔に怪我させちゃいけねェ。相手さんがどうくるかはわからんが」
引き抜いた指がむんずと掴みやすい巨房を握り、そのまま引っ張りながら、勢いよく膝を打ち当てた。
――メリィ……!!
「おひゅっ――?」
一瞬、全ての衝撃がみずきの小さな体の中に叩きこまれて正常な反応が停止したのか、呆けた顔を晒して。
ぱくぱくと口を開閉させるが、もう何を言ってるのか分からないし、本人も何が起きているのか分からないのだろう。めり込んだ膝が突き立ち、臓腑を直接揺蕩わせる。ワイヤーで腕を縛られていなければ鳩尾を抱えながら崩れ落ちていたに違いない。
――めりっ゛!
「お゛ッ゛?!」
いちいち騒ぐな、と躾けられるかのように、もう一発殴られる。べごん、と凹んだみずきの腹部。不規則な気息と共に自身の腹部が着々と、打撃に弱くなっていくのがわかる。呼吸を止めたり歯を食い縛ったり、どうにかして力を込めようとして、それが無駄な努力だと打ちひしがられることになる。それでも「お姉ちゃん」への誓いから、許しを懇願する選択肢はない。最初から断たれている。
ぶるんぶるんと大きく揺れる三桁超えの爆乳を乱暴な手つきでぐにゅりと鷲掴まれ、ベチベチと痛めつけられながら、どすどすと腹部に拳を打ち込まれながら、凄まじい熱を帯びる自身の体をどうにか落ち着けようと、息を吐く。
「ふ、――――ぎゅ?!」
ズン、とみずきの華奢な腹部に何度めかわからない拳が深く突き刺さる。一瞬、みずきの身体は宙に浮かび――緩んだ口からは大量の涎を吐き、ぐりんっと白目を剥いた。明滅する視界、虚ろな瞳で自身のお腹を見る。悍ましく腫れ上がり、青とも黒ともとれない不気味な色合いに染まりながら、ひくっ、ひくっと震える腹部の、己のものとはおよそ信じ難いくらいの「完成度合い」である。団長はほくそ笑むだろう。この仕上がり具合は一朝一夕ではなし得ません。やはりこの目に狂いはなかった、素晴らしい素材であり書き込み甲斐がある、と。
――ばごっ!! ばごっ、ばごぉっ! ごぢゅっ、ゴギン゛ッ゛!
「ぉ~~ッ゛ッ゛ッ゛……!? おご、ぉっ、ご、ぉおお?!」
細いお腹がメキッと潰れ、体内で循環していた空気は全て吐き出され、どぼどぼどぼ、と滝のような涎を垂らす。
そうだ。完成を待たずして果てるなど許されるはずもない。体幹も骨もへし折れてなお、むしろ折れてからこそが本番というように掌底と足とが交互に腹部に襲いかかる。みずきの反応など二の次だ。ただ、彼女は諦めて、折れてなお良い書物になってくれるだろうという淡い期待だけが、団員たちの原動力である。受け止める筋肉が千切れへしゃげ、ついに骨にまで響くダメージが蓄積され、いよいよ彼らは手抜かりなく急所への攻撃を繰り返す。
吐いた涎は水溜りのようになり、そこで団員たちがタップダンスするようにびちゃびちゃと踏み散らかす。その「これくらい」と、自分たちを格付けするような目つきを変えさせたい。そんな不純な動機も見え隠れする。練習リングとはいえ神聖な場所を汚す者が、下に見るのだ。この場にいる全員を、自分より下だと決めつけている。
機械の腕か、あるいはそれ以上の手品じみた能力か。別の団体の興行を見学した。その時に飛び入りした猟兵は、たしかに取り分け強靭ではあった。
「『これぐらい』ってことは、ないよな?」
「は……い、これ……ぐらい……ッ!」
もっと打てと胸を張る。誇りあるレスラーたちと、姉に誇りを持つ復讐鬼の歯車が、奇妙に噛み合いの良さを見せた時、更なる殴る蹴るの猛襲が降りかかる。
蹲踞の姿勢でぐったりとしていたみずきの体の、腹部を何度も殴り上げて腰を浮かすと、片目を瞑って顰める彼女の様子をよそに急所を思い切り蹴り上げた。股ぐらに鍛え上げられたおみ足が食い込む!
――バキィイイイイ!
「あ゛ぐ……あああ゛ァ゛ーッ?!」
恥骨から嫌な音が響き、みずきの整った顔が崩れた。相手がヒールレスラーならこの程度じゃ済まされねェぞと、よくわからない理論を振りかざされながら、今度はもっと足を後ろへ引き、より威力の高い蹴りを放とうと身構える。人体として鍛えようのない箇所への攻撃に、ギブアップの五文字が咄嗟に口から溢れそうになる。もはや降参しないのは姉への使命感というよりも強迫観念に近い。頭の中はみるみる冷えていくのに、お腹の辺りは溶けた熱を流し込まれているかのように熱く燃えている。
みずきの生存本能か、はたまた素質があるのか、決して薄くない装束を内から浮かび上がらせるほどにはっきりと浮き出ており、痛覚以上を感じてしまっていることはこの場にいる誰の目にも明らかだった。もはや胸を張る気力もなく、白く大きなメロンのような膨らみが、先端を高く屹立させたまま、重力に負けてぷるぷると揺れている。支えを失った重量級の巨大房はもはや拘束具のようなものだ。
「あっ、あぁ?! ……もう、ダメぇっ、はぁあ……ンンっ!? おご……ぉ、うぅう……!」
この感情は怒りだけではない。この程度の苦難も乗り越えられない自分への、無念の怒りだけではないのだ。それがたまらなく恐ろしい。この時間が早く終わってほしいような、あるいはもっと続いてほしいような、複雑怪奇な心情である。祈るような心地の今のみずきには、唇を血が出るくらいにまで噛み締めながら、これが本番でなくてよかったという、甘い安堵感に身を預ける他なかった……。
成功
🔵🔵🔴
日和見・カナタ
ちょ、超人プロレス……? 話を聞いた感じだと、素手や武器で戦う競技なのでしょうか?
未経験の競技ですがダーク化させられたアスリートの皆さんは助けたいですし、頑張って戦い方を覚えなきゃですね!
体験入門したところ、男性レスラーの方が面倒を見てくれることになりました! 屈強な体つきと至る所に刻まれた傷跡から、相当に鍛えていることが分かります!
さて、今回の練習は「受け」が中心になるみたいです! 彼曰く「超人プロレスでは技を避けず、代わりに上手に受けきることが何より大事」だからなのだとか!
そんなわけでダメージを減らす受け方のコツを教わりつつ、数々の技を掛けられることになるのですが……素人の私に最初から実践できるはずもなく。身体を痛めつけるための技を、一切の手加減無しで受け続けてしまいます。
「痛みに耐える覚悟を身に着けることも、それはそれで良い練習になる」と彼はは言いますが、このままだと先に私が潰れちゃいそうな気がします……!
【NGなし、アドリブ歓迎】
日和見・カナタ(冒険少女・f01083)は己の行動を振り返って、特に過失はなかったと内心頷く。アスリートを助けるという大義に燃え、練習リングに上がって《飛腕》で次々に挑んでくる団員を薙ぎ倒していたのが、つい先ほどまでの話。
「飛び道具……もし使うなら、体にくっついたまま使うか、レフェリーにバレないように使うといいですね。本番では、本番では、ですね!」と窘める団長も妙に上機嫌だ。団員たちがボコボコにされているにも関わらず、奇妙に笑みを浮かべている。しかし、ちょこんと鼻に乗っけたメガネのせいで、目元から感情は読み取れなかった。
笑いながらカナタへ語りかける。彼女はふと、まるでその場で思いついたかのように男を呼んでカナタの前に相対させた。屈強で傷だらけの男だ。彼は団員の中でもとりわけ乱読家なのだという。
「超人プロレスとは受け。受けに始まり受けに終わると言っても過言ではない」
「受け……止めるということですか?」
「ははは、まぁ実際にやってみよう。技を避けずに上手に受け切ること、これだけだからね」
『ビブリオバトラーツ』団長・千愛は彼にやり過ぎないで、とか、相手は初心者だから、とか、そんなことは言わなかったと記憶している。ただ、聖典作り……あらゆる技を体得し、それを体に刻み込み合い体に残すことを意義としている集団。それを束ねる者として、彼女はリングに上がらずとも「書物」の「編纂」の仕方を会得している。
――ぐりっ……!
「い……い゛ッ?!」
「寝てるばかりじゃ練習にならないぞ。さては、心ここにあらずだな?」
「く、あぁっ!!」
「おっと」
今は。
リングに仰向けに寝そべっているところを、その相手に向かって剥き出しの鳩尾を踵で踏み抜かれている。なんとかその足を振り払って両足で立ち上がる。魔術で強化された衣服の上からでも抑えきれないほどの肉体ダメージに、自然と立ち上がった足が内股気味になってしまう。体を痛めつける技巧の応酬。といってもカナタがやり返すことはできていない。あまりに一方的だ。
そして、それは先ほどまでの団員が巧く「受け」ていたことを意味していた。一方的な試合運びを好むものもいれば、拮抗や逆電、そんな展開を好む観客だっている。飛んでくる《飛腕》を叩きつけられるパイプ椅子が如くに捌き、あしらった。
「まぁ痛みに耐える覚悟を身に着けることも、それはそれで良い練習になる。続けよう」
「(ギブアップします……とは言いづらい雰囲気ですね)」
待ったなし、望むところだ。元よりそんな選択肢は毛頭ない。
ここで「冒険」しなければ超人プロレスの何たるかを知らないままダーク化したアスリートと戦うことになってしまう。今までの経験からオブリビオンに無策で挑むことの愚かさを知っていたカナタは、ぐっと鉄の拳を握って気合を入れ直した。
男が踏み出した足とは反対の肩を前に出すように踏み込んできた。対するカナタは両腕を顔の前で揃えるピーカブー・スタイルで受けて立つ。正面衝突なら自動車とぶつかったとしてもものともしない。体格差はあるが、側面やボディを狙われたら屈んで懐に飛び込み、正面切ってぶつかれば持ち前の堅牢さで突破できる、カナタにとって最善の「受け」。覆せない差を猟兵の実力でねじ伏せる、そんな気概も見え隠れする。
「きました、正面っ」
――ぐいっ……!
え、と声が出る前に、体が前のめりに揺れる。正面からと意気込んで押し返そうとしたところを、手首の部位パーツを掴まれて引っ張られたのだ。跳ね返すつもりの力加減であれば当然前につんのめる。
超人プロレスで言うところの「受け」は剛と剛のぶつかりだけではない。崩れたバランスはあっという間にさらに乱されて、リングロープに背中を預けてしまう。「あっ」と驚いた時には遅い。
――ボグゥ!
「げ、ふ……っ!? うぅうう……っ!」
身体を寄せ、背後と正面の隙間、もとい逃げ場を潰して、肘を曲げたフック気味のボディを脇腹に打ち込まれる。痛い! 濁ったえずき声とともに溜め込んでいた息を肺から漏らして、片目を閉じて悶絶する。四肢こそ蒸気機関に置換しているものの、胴体に関してはまだ十代の、しかも女性のそれ。迫撃には魔術で強化された繊維もそれほど効果的ではなく、結果的に相応のダメージが体に蓄積していく。
打撃の応酬。しかし、一度防戦一方になってしまえば立て直すのは難しい。
次はどこから、どう来る? 刻一刻と落ち着きを失いみるみるうちに「受け」る体勢を放棄したカナタは、体得する前に自分が潰れてしまうかもしれない、という恐怖を覚えながら、縮こまることしかできない。
その覚悟の眼差しを受け取った男は、防ぐ手立てを知らないカナタに嵐のような攻撃を浴びせかけ始めた。まるで、彼女が疲弊しきった今からが本番だとでも言うように。
――メギっ!
「い゛ッ!?」
「どうした? 背中を向けたら練習にならないが」
再びの蹴りで脇腹に受けたダメージから、がくがくと震える膝に必死に力を入れて体をなんとか起こそうとする。崩れた体幹のまま体をぐるりと回して、リングロープに倒れかかるように全身を支える。背中を晒したその姿に攻撃を加えるのは反則だろうが、今は練習、どんな醜態を晒していたとしても攻撃の手が緩むことはない。
――ひゅっ……ズドッ!
「あっ゛……ぐゥッ!」
風を切るような音を立てる勢いで、蹴り上げられるヒップ。恥も外聞まなく蹲ると、尻を押さえながらその場で転がりまわる。涙を目に浮かべる足を掴んで無理矢理、そして蒸気脚にもかかわらず容易く持ち上げ固定すると、もはや少女の聖域を差し出すように開かれた両足の付け根に狙いを定める。
「ま、あっ、これやだ、まッ――」
――ドゴオォッ……!
「あ……かひっ……ァ゛……ッ!」
思い切り蹴り上げる。男の鍛え上げられた暴力が恥骨にヒビを入れかねない勢いで繰り出されたのだ。股布にはじわりと染みが浮き出すが、カナタはそれどころではない。ジンジンとした鈍い痛みが秒ごとに重さを増し、やがて大きな波紋となって襲いかかる。
「な……なに、が……お゛、あ゛あ゛あ゛あ゛っ?!」
「今のはいい受けだ」
――ヒュッ、ドゴッ! ボゴッ! メギメギ……ズドッ!
「ひァ゛ッ?! あ、あ、あぁ、ウゥッ……?! ひっ……痛! ぎいぃっ、ヴう゛う゛ヴ゛ッ……!」
弱点を見定めた眼差しは目を逸らすことなく急所狙いに集中する。ガクガクと不規則に痙攣する体と、力のない蒸気四肢、何より股間から漏れ出る悲鳴にも似た粉砕音に、男はダメージの蓄積を実感し豪快に笑う。笑ったまま足は止めない。
体の芯まで制圧されるような感覚に被虐性感に似た雑念がゾクゾクとくすぐられる。なんとか足を閉じようとすれば尻が、少しでも両足に隙間が生まれれば股ぐらが必要な蹴り上げに晒され、阿鼻叫喚の心地だった。カナタはそれでも叫喚はしない。耐えて、耐えて、耐えるのも練習。歯を食いしばり、目だけが妙な光を帯びたまま、震える体を押さえつける。
否、押さえつけられている――?!
男の屈強な手が首を軽く絞める。それから、緩やかに腹部へと手を当て、ぐいっと無理矢理に腰を前に突き出す姿勢へ密着させられた。
次の瞬間。
――ドゴゥ!!
「うごぉっ……!? おっ……おぉっ?! お、ぇお……ら、め、ですぅ、こぇ……」
細いお腹がメキッと拳の形に潰れ、体内で循環していた空気が全て吐き出さた。遅延して訪れる鈍痛と安堵と、未曾有の快楽に似た感情に悶え、どぼどぼどぼぉと滝のような涎を垂らす。
首筋も、脇腹も、鼠径部も腹部も背中も、普段はゴーグルで隠している整った顔立ちさえも、この拳に晒されるリスクを孕んでいる。耐えられるだろうか。いや、耐えなければならない。今更ながら感じる超人プロレスのスリルに身震いを抑えきれない。これは武者震いだと言い聞かせて。
「ま、まだ……れす!」
――バチンっ!
「い、だぁ!」
「ふんッ、どうした、言葉だけか、殴ってくださいと言ってるみたいだぞ!」
――ズンっ! メリメリ! ズンッ……ベキィ! ドゴシャあァ!
カナタの頬を叩く。胸あたりを叩く。腰を叩く。
「がッ! ん゛っ! ん゛ぐう゛っ! ん゛がっぁんっ!」
次々に送り込まれ体内に留まった衝撃がピンボールのように駆け回り、柔らかな臓腑をずたずたに痛めつけ、想像を絶する痛痒を与える。柔らかな腹部に拳が大きくめり込むたびに悶えるため、ついに男は首に左手を当て、思い切り締め上げた。五指が細い首に突き立ち、無理矢理に気管を束縛する。
――メギメギ……!
「ん゛ぐう゛ッ! え゛ぇェァ゛っ
……!?」
酸素を求めてだらしなく口を開閉させる。男の手で握られた首は容易に振り解くこともできず、腹筋を力ませられないから、モロに柔らかい腹部が打撃されてしまう。もはや力の入らないカナタのは、その握りこぶしに抗する術を持てなかった。
「う゛、おぉ゛ーっ!?」
無慈悲な拳が何度も打ち付けられる。終わることのない、耐えられるはずもない殴打の連続に、忍耐力をすり減らして立ち向かった。何度も蒸気ロケットパンチによる反撃に転じる機会はあった。だが、それはこの世界のルール、すなわち絶対の、競技の規則に反するものだ。そんなことは練習であろうと、この世界に住む人々を嘲り冒涜するに近い。未知の世界に希望を馳せる少女は、世界の不文律を否定することはしない。己と、他者の人生を否定するくらいなら冒険に身を投じることすらしないだろう。
しかし、我慢の限界はある。その時、前踏れなくぶるり、と少女の躰が震えた。そして。
――しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ……!
びちゃびちゃッと、不浄の場で聞きなれたような水濁音を上げて、カナタの足元に湯気の立つ小さなスポットができあがった。
それは当然リングの上。練習リングとはいえ、超人プロレスラーたちには神聖な場所である。汗と情熱と、時に血を流して燃え上がる闘争の場である。まかり間違っても排泄を甘んじるところではない。男の眦と共にボルテージが上がり、首に巻き付いた指に力がこもる。自分の仕事場に唾されて笑顔でいられる者などいるまい。不躾には相応の教えを施さなければ。ぐっと指先に込めた力が熱を帯びた。
男の山のような三角筋が盛り上がり、巨大な拳を唸らせてくる。 ドンッという小気味良い音が鳴り響き、訓練に勤しむ団員が振り返るほどの衝撃が伝わった。カナタの方は気が気ではない。生理現象で漏れ出たものと自分の不甲斐なさに反狂乱になりながら、ダメージを流そうと身を捩るばかり。
――ボゴォオオオ……ッ!!
「ぐぅお゛おぉぉ――お゛、お゛ッ!?」
濁った声が喉奥から搾り出される。低く汚らしい叫び声。 すぐさま咳き込む。それも、げはっ、げえはっ! という強く吐き出す息の音と、おえッ゛、ううヴおぉえッ! と嘔吐く音の繰り返しでおよそ少女らしい声をなさない。
そんなカナタの姿を、屈強な男はまるでゴミを見るかのように見下す。
訴えかけるような視線を向けた刹那、再び男の拳が腹部を抉り上げた。
――ぼっゴォおおおッ゛ッ゛!!
「ごぉあああぁ゛あ゛っ!」
低く汚らしい濁った悲鳴が、ぷしぷしと同時に湿った排泄音が練習リングに鳴り響く。 冒険少女らしからぬ粗相に、男も冷笑を禁じ得ない。その張り付いた笑顔のまま、顎を掴み、美しい唇をへし曲げさせる。 この状態では歯を食いしばることさえできない。これからさらに降りかかるダメージに背筋が凍った。男は、練習に託けて己を撲殺するのではないか? そんな邪推が膨らんでいく。思考を途絶させる、口を開かされた状態で上がる、カナタの悲鳴。おもむろにその腹を殴りつけたのだ。どの攻撃もこれから殴るという予告をしたわけではないが、普段他人に触られない顔を拘束されながらの破壊力は、格別だった。
立て続けにバスッ! バズンッ!! と、鈍い音が殴打された無残な腹から溢れる。その度に泡を口端に吐きながら必死に身悶えする。
衝撃で腹筋の溝に張り付き、余すところ無く衝撃を伝播させる。 怒れる男の拳の破壊力を過小に見積もっていた。これを食い続けるわけにはいかない。まずは首を掴む手をなんとか振り解かなければ。焦りが言葉を、心持ちを矛盾させる。思考が思うようにまとまらない。そんな呆けた口から銀色の飛沫が殴られるたびに飛んだ。
「うぉ゛、お……ヴォー……ろろぉ
……!?」
「ハァ、おい……それはないだろう」
涎だけでは飽き足らない。下唇を突き出す無様な顔を晒し、何度目かもわからない、男の太い腕が腹から引き抜かれる瞬間、 それを追う様にして胃の中の物を溢れさせてしまう。 小水、愛液などの混合液に加わり胃液が混ざり合って、男の更なる怒りを助長する。赤紫色に変色した肌へも覚えるのは怒張だけだ。
筋肉が眼前の女を痛めつけて懲らしめたいという欲望に漲っていた。側頭部の血管がぶちぶちと切れてゆく。恐怖混じりのバリバリという耳鳴りが、己の錯覚ではないとカナタは直感した。
――ぐいっ……ゴシャ!
「おゲ!?」
「掃除はしてもらうからな? ああ……あとで団長になんて説明するか……!」
「やめ゛……わ゛ぁあ゛んっ!?」
悲鳴か、さもなくば鳴き声に似た声が漏れ出る。本来なら数々の技巧に凝らした技を繰り出すが、怒り心頭の男はただただ暴力まがいの殴打を続けるばかり。かろうじて耐えるのも練習という文言こそ踏襲しているものの、苦しみが募るばかりである。
「ごええ゛っ……!」
隠すまでもなく、股の辺りが大きく逆三角を描くように濃い色に変色している。 膝下の辺りまでも滴らせ、漂う匂いが悲壮感を誘った。
あまりの苦痛にずるうッと白目を剥いてしまってなお、それでもなけなしの意地で瞳を戻して睨む。ギヂッ、とロープが痛々しく軋んだ。そこでようやく男は、カナタを押しつけてしっちゃかめっちゃかに殴りつけていることに気がついた。手を離そうとして……その離れていく手を逆に掴み返す。
「ごぼ……お、ゲ……」
「ん?」
「げ、ぎ、ブアップし、ますか……?」
「こ、この……こいつ!」
感情的に、再び頬が叩かれる。その拍子に家畜のように情けなく喚くカナタ。痛い。痛い、痛い痛い! 本能的に避ける対象であるはずの饐えた刺激が、ふっくらとした頬を責め、鼻と目にじんわり沁みこんでいく。
反射的に流れた涙が混じり合い、意識が混濁する。酸素の回っていない脳が痛覚を遮断したならば、すぐさま昏倒してしまうに違いない。
首を絞められたまま反対にリングの上へ叩きつけられ、馬乗りの姿勢を許してしまう。
「その自信は一人前だな!」
「ぐぶ……う、ぉ……ぇ゛」
咄嗟に胸あたりを守ったがために、がら空きになった腹に思いっりパンチを振り下ろされると、カナタの身体がビクんと陸上の魚のように揺れる。何発かパンチを浴びせるとぐったりしてしまったが、こんなものではもう男の気が済まされない。大体、片手では足りなかったのだ。今度は両腕をカナタの首に食い込ませると、彼女の眉が吊り下がり、いよいよ弱々しい呻き声が漏れてくる。
もはや抵抗する力はなく、口からはぶくぶくと泡を吹きながら、腕もいつのまにかだらりと地についている。
男は両手を合掌するようにがっしり握り合わせて、ガードの解けた胸へ狙いを定める。いわゆるダブルスレッジハンマーである。
―― ず ごぎ どぢュ ッ゛ …… !
「ン、げえええっ……!? あ……ぎ、ぉ、がッ、はァッ
……!?」
骨と肉の砕ける感触。ぴくぴくと指先だけ動き、ばたりと動かなくなった。痛みで再覚醒するほんの数秒の間、カナタの意識は幸せな微睡の中にあったかもしれない。すぐに呻きと共に現実へと引き戻されることになる。結果がわかっていてなお、究極のスリルを求めて再びファイティングポーズをとってしまうことだろう。男はそれに応じるだけだ。
……その後、周囲からストップがかけられる丸一日ほど、凄絶な「練習」に明け暮れたカナタは、痛いほどに、その体へ、超人プロレスの何たるかを教え込まれたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『燃焼系アスリート』
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POW : できますできます、あなたならできますッ!
【熱い視線】が命中した敵に、「【ユーベルコードを封印して競技に熱中したい】」という激しい衝動を付与する。
SPD : もっと熱くなりましょうよッ!
【見せれば見せるほど熱く激るアスリート魂】を見せた対象全員に「【もっと熱くなりましょうよッ!】」と命令する。見せている間、命令を破った対象は【耐久力】が半減する。
WIZ : どうしてそこで諦めるんですかそこでッ?!
対象への質問と共に、【拳や口、または競技に使用している道具】から【レベル×1体の火の玉マスコット】を召喚する。満足な答えを得るまで、レベル×1体の火の玉マスコットは対象を【殴打、および熱疲労の状態異常の付与】で攻撃する。
イラスト:kae
👑11
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トレーニング、そして紆余曲折を経て運命の興行の日を迎える。リング上でスタンバイしているのは対戦相手であるダーク化したアスリートたちだ。
「邪拳会、ファイオーッ!」
「燃えろ燃えろ、燃えましょーッ!」
「もっと熱くなりましょォー!」
『燃焼系アスリート』は燃え盛る拳を振り上げて、熱気を振り撒いている。レフェリーを焼かれるわけにはいかない。判定をしなければならない都合上焼却されることはないだろうが、フェアな判定は期待できまい。やはり命あっての物種と言える。
しかし、同時に興行であることにも違いない。格闘司書団「ビブリオバトラーツ」の面々は臨戦状態だ。だが、結果は「火を見るより明らか」。
「先鋒戦は……任せてほしい? 結構、結構ですとも!」
「でも、いいのか?」
「俺たちの出番は!」
「黙らっしゃい!! 団長権限です。共に、共に……汗を流した皆さんなら、きっとあの炎も吹き消してくれることでしょう。ですよね? 託しましたよ……!」
猟兵たちは晴れて先兵を蹴散らす役割を担うことになる。
あらゆる熱を浴びせかけられる、ラフファイトを臨む闇の武芸者に、相対する。ゴングが高らかに鳴って、形式上は一対一でも、乱入するのが当たり前の激闘の火蓋が切って落とされる――!
「火の鞭を、炎の首枷を!」
「熱い抱擁と、盛りだくさんの殴打を!」
「死を望むような、燃え盛るような連撃を!」
「えっ耐えられない?! できますできます、気合いさえあれば! あくまでフェアプレー精神で、きっちり受けてくださいね! よろしくお願いしまァす!!」
美国・翠華
【バイオレンス希望・単独希望・アドリブOK】
無理やりUDCによってリング状に立たされる。
「私には逆らえないみたいね…」
翠華にとって生身での戦闘では頼りになるナイフだが
リング状では反則とされ、出すことを禁じられた。
やむなく直接攻撃を仕掛けようとするが
あまりの熱さに触れようと居た腕が焼け、激しく痛む。
怯んだスキに敵は激しいパンチを腹部に見舞われ
そのまま内臓を焼かんばかりの勢いでねじ込まれる。
更に、ベアハッグのように抱きしめられ
悲鳴で開いた口に激しい熱を口移しで口内に流し込まれ
内臓を焼き尽くさん勢いで弄ばれる。
その姿を観客に見せ付けられ、観客の興奮のコールは止まらない。
最終的に翠華は観客に捧げられた
――じゅわあああッ……!
思わず飛び上るほどの熱さだった。ベアハッグのように抱きしめられ拘束されていなければ、翠華はリングの上でのたうち回っていたことだろう。燃焼系アスリートの魔手に拘束され、得物のナイフを彼女に不利なルールを突然告げられ取り上げられ、万事休すの状態。
喉が直接の燃えていると感じさせるほどの熱気が口腔の入り口から気管をじわじわ焼き、あろうことかその奥にまで侵入してきた。空気が通れる程度の狭い隙間を、翠華の内側を、肉の焼ける音を立てて蹂躙していく。
「あづッ゛! あ゛ッづ……! あづいぃい?!」
それもこれも、準備がほとんどできないまま彼女をリング上に押し上げ、開始のゴングと共に嘲笑しか浮かべなくなったUDCのせいだ。寡黙な相棒の狙いがどこにあるかもわからないまま、翠華は生かされる屍にふさわしい生きながら焼かれる責め苦を味わう。
「見てくださいッ! 見ろ、見てほら!」
「んぅううヴ……ッ!?」
「観客の皆さんはこの光景を、イコールあなたの痴態を待ち望んでいたようですよ? いやはや! いろんな方がひっきりなしにこの興行を見に来てますからねッ。多彩な趣味嗜好、エクセレントッ!」
マイナースポーツでありながら向けられる凄まじい熱気にうっとりと微笑する悪役レスラー。その微笑の影から射るように翠華へ注がれる視線が、翠華のユーベルコードによる反撃の意志さえ燃やし、融解させる。反攻に転じられなければ、武器の、それもナイフの強化を施す必殺の技も使い手のダメージの受け損にしかならない。
そうこうもがいているうちに、腹や太もも、胸のあたりにまで、火の粉が散って灼熱を見舞った。
「熱ッ゛、いっ……たっ……ぎいいい!?」
――ドジュゥ!! ぐりりぃっ……!
「あぐっ、がっ、ハッ……はんそ、くウッ゛
……!?」
「あ。あっ、これは体から伸ばしているのでセーフです、よね? オッケーオッケー! 気合い入れ直しましょうッ」
「燃焼系」の名にそぐわない、吹き出した炎が拳の形になって、至近距離に密着していた翠華の腹部に強烈な掌底を繰り出したのだ。
くの字に折れかかった体を悪役レスラー自身の手足で焼きながら拘束し、磔に等しい苦痛の連鎖に落とす。髪が焦げ、皮膚が爛れ、視界の端から濁っていく。咳き込むたびに喉がちぎれそうだ。
「(どうして、何も言わず見ているだけなの
……?)」
「何か探されているんですか? 困りましたね。でも気合い入れて探せば見つかりますよッ!」
熱の抱擁をしたまま体を持ち上げ、ポストの上で立位の姿勢を取らされる。
着衣を燃やされ得物を奪われ、丸出しの尻と背中を晒し蠱惑的に揺らしながら、熱に喘ぐことしかできない。悪役の悪役たる所以を演出するには打ってつけと言えども、あまりにも酷薄非情。
観客は見ることが仕事であり、UDCもまたこの状況の観測をよしとしている。普段なら「ツマラネェナ」と悪態の一つでも吐きそうなところだが、よほど嬲られる姿が衆人環視に晒される状況がお気に召したらしい。現に、その突き立つ視線に、沈黙を守る相棒と熱狂に渦巻く観客に、翠華は恐怖していた。悲痛な叫びは歓声にかき消されてしまう。なぜこんな光景を見て、笑っているのか、恨めしげに目尻に涙する。あるいは、悔し涙を流した時点でプロレスラーとしては勝負に負けていたのかもしれない。
「なんで、ぇッ、どう……してッ゛?!」
「呆けてる余裕はありませんよ? よい、しょっと!」
そり投げでリングに叩きつけられる翠華。
焼け爛れた全身が悲鳴をあげるが、死ぬことのできない、「やりすぎ」の存在しない翠華は心なしか安堵する。熱からやっと解放されたという安堵感。それはジェットコースターでいうところの最高到達点までゆっくり焦らされているに過ぎない。無情な事実を知らないのはリング上の翠華ただ一人のみである。
「ぐ……えぇ……。で、でも、やっとこれで……!」
吐き溢した酸素を体内に取り込もうと胸を上下させ、残ったエネルギーを振り絞らんと瞳に赤い力を宿す。
――みしっ……!
「お、げ……ェ」
「どうですか? 呼吸器官を締め付けられる苦痛の味は。気合いで振り解かないと、ほら反射的に伸ばした指も……!」
――ジュウッ……!
「ぎゃ、ギャアアッ?! げほっ」
「あははは! あまりの熱さに触れようとするだけでこの有り様でした。あとはこの開いた口に……気合い、注入ですッ」
――じゅるむ……じゅううう!
「ふっぐっ
……!?」
派手に喀血した瞬間を見計らい、燃焼系アスリートの舌が伸びて翠華の口腔を執拗に狙い撃ちする。先ほどのベアハッグとは違い仰向けに押し倒され、組み伏せられている中での高温攻撃。触れている箇所が肉の焦げていく臭いを漂わせると共に、抵抗しようと手指を伸ばそうにも接触もままならない。
流し込まれる熱も不定型だったのがやがて粘性を帯びて蝋かマグマかのように喉に張り付いて呼吸を妨げる。一度力を覚醒させた赤い瞳が、無様にぐるんと白くひっくり返り、口から噴いた泡が蒸発して煙を立てた。
酸素が足りずに脳が白く染まり、熱さと痛みで赤い火花が弾ける。はっきりと焼け爛れ、悪役レスラーの非道な攻撃がオープニングを飾っていると認識していなければ、目を背けたくなるような無惨な様相を呈していた。
――ぼゴンっ……!
「かッ?! はァ……あッ゛ァ゛!?」
お腹が留守でしたね、失敬ッ、と笑いながら、炎の塊のような拳を腹へ打ち込む。そのせいで彼女もほとんど人のフォルムを保てていないが、立つ頃に元の姿に戻ればいいと判断したのだろう。拘束するには足りない四肢を、吹き出した炎を拳や足の形にして補う。先ほどの不意打ちにも使えるほか、こうして拘束する際にもと用途は多彩だ。
何より密着して攻撃を加えられるのがいい。気合いの入った叫び声が耳元で聞こえるのだから。
「……ぁ……ぉ゛……」
「あれ? もしもし?」
「……」
「もーしもーし! あ。喉が焼けて喋れないと? む。足りてませんね。全く足りません」
くっきりと拳型に焼け跡のついた剥き出しの腹部。痛めつけられた箇所を重点的に舐るように熱していく。舌を出し白目を剥いて気絶していたのを強制的に目覚めさせられ、霞む視界の中で翠華は愕然とした。炎の拳が次に狙いを定めている部位が、割り開かれて固定された己の股ぐらだったからだ。リングの上で大股を広げているのだって相当に恥ずかしいのに、下からも熱を加えられたら。
無意識の内に、目を閉じる。耐えられない。耐えられる、わけがない……!
「これが……私の、避けられない運命……? いやっ、いや、いやァア!!」
「邪拳会の勝利の礎になってもらう。たしかに敗者にふさわしい運命かもしれませんね!」
炎の拳をねじ込みやすい冒涜的な形状へと変形させ、翠華を串刺しにする。
――ずぼぼぼ……ぼぼぉ……ごおっ、ごじゅっ、ごじゅううう!!
「いやぁいやっ……あ、ヅッ、あああああ! ギいいいいいっ!?」
敗者の運命。それは彼女の言う通り、股ぐらから口へと逆行する炎による磔刑である。勝利を祈願する、天を焼き尽くす勢いで燃え上がる炎の柱。神聖なるリングに屹立する、生きながら焼かれ続ける猟兵の先鋒の姿はショッキングであった。最前列で見守る観客は食い入るようだ。火の粉散らして揺れる胸も、焦げる舌先も、ちりちりになっていく髪も、顕となった秘すべき箇所も、この一方的な試合展開を彩るのに一役買っている。次に挑むものもこうなるのだと、生贄のように彼女を指差して笑い、一層翠華の惨めさを助長させて。
永遠とも思われるくらいの燃焼の果てに、観客に捧げられた彼女がかろうじて人の形を保っていたことは、奇跡的だった。もっともその奇跡も性悪な相棒によって人為的にもたらされたものかもしれないが……。
成功
🔵🔵🔴
山神・伊織
なかなか厄介なユーベルコードを持っている相手ですね……でも、ユーベルコードの封印に敢えて乗り、身体能力だけで真っ向から挑ませてもらいます。今必要なのは強さではなく熱さですね!
当然、不利にはなるでしょう。炎を纏った打撃や関節技で、苦しめられる事になると思います。でも、気合と根性で耐えてみせます。どんなキツい技だって、耐えられると思えば耐えられる! そして確実に反撃を叩き込んでいきます!
こちらが耐え続ければ、相手はいずれ痺れを切らしてフィニッシュホールドを繰り出してくる筈。ですがそれを耐えきれば、もう、相手に打てる手はないはず。ユーベルコードを解禁してフィニッシュ、3カウントを奪ってみせます!
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
さて、何とかやってみましょう。
『興行』の面を踏まえ、派手に参りましょうかぁ。
開始前に口内に仕込んだ『秘薬』を嚥下し【沃貌】を発動、『巨人姿』に変身しますねぇ。
『生体祭器』の指定は『取込んだ祭器の肉体再現』、全『祭器』が収められた『FCS』を取込み、その力を使いましょう。
『炎』は『FES』の対火炎結界を纏い無効化、『視線』は嘗て妲己さんの魅了も防いだ『FXS』で干渉を遮断しますぅ。
後は『FMS』のバリアの硬度で打撃を無効化しつつ適度に受け、『FGS』の重力操作で重量を増し相手の投げ技を防ぐと共に『振り下ろしの打撃や投げ』で圧し掛かる様[重量攻撃]、KOに追い込みますねぇ。
カシム・ディーン
UC常時
おねーさんとプロレスとか最高じゃねーか!
「でも物凄い燃えてるよ!?」
何…手がねーわけじゃねーだろ?
【情報収集・視力・戦闘知識】
アスリート達のプロレススタイルを冷徹に分析
【属性攻撃・念動力】
炎属性を己達に付与
存分に熱い抱擁を受け止めてやる!
「ひゃっはー☆」
という訳で存分にくんずほぐれつしてやるのです
【二回攻撃・医術】
とはいえ打撃には打撃を
とはいえ僕はあまり力は強くはありませんが…
蹴り技なら相応にいけますよ?
膝蹴りや速度を乗せた回し蹴り
倒れたなら寝技へと持ち込む
千愛の技を試してみる事にも
人体構造の把握は僕も心得は有るんでな?
「メルシーも張り切っちゃうぞ☆」
締め技で落としにかかる!
「どうしてそこで諦めるんですかそこでッ!」
「もっと熱くなりましょうよッ!」
「お米食べましょうッ!」
「シジミが取れるって頑張ってるんですよッ!」
カシムはこんなに残念そうな、ミーム汚染という名の闇の力を手にした悪役レスラーたちを前にして、それでもグッとガッツポーズをしていた。おねーさんとプロレスできるなんて最高じゃねーか! と今にも叫び出しそうな勢いである。
「それで僕のパートナーはっ、と」
「ご主人サマ、はい、はい! ひゃっはーい☆」
「お前じゃねえ!」
夫婦喧嘩に花を咲かせる二人のそばでウォーミングアップを終えたのは4メートル近い大サイズの巨女と、闘気漲らせる女性である。
「私が真っ向勝負で体力を削ったところで」
「業を煮やした皆さんを押し潰しましょうかぁ」
片やユーベルコードに頼らずとも戦える強靭な肉体の持ち主・伊織と、片や秘薬の力により事前に『祭器』の特性を全て体に取り込んだるこる。それに空中殺法を得意とするメルシーまで控えている。オーバーキル間違いなしの面々と相対する燃焼系アスリートたちも気の毒というものだ。同情すら感じるほどである。
よもや苦戦する余地のない試合展開の予想ではあるものの、さて、蓋を開けてみれば――。
「タッチです! ほら、お前も外に出る!」
「暴れ足りないぞ☆」
ポニーテールを揺らしながらリングインした伊織を待ち受ける、奇襲のドロップキック!
――ボグッ!
「……この程度ですか。気合いが足りないのでは?」
「む。ぐぐぎぎぎ!」
それを、両腕をクロスさせて受け止める。もちろん腕にはくっきりと足の形に焼け跡が残るが、後退りこそすれ仰反りもしない。顔はむしろ厄介な相手と認めた闘争心で自然と綻んでいる。対するアスリートは焦燥の汗が蒸発して軽く煙を上げた。
なんとかそのガードの上からジャブを繰り出し堅牢な構えの綻びを見いだそうとするが、なかなかその牙城を崩せない。
「何という気合い、いや痩せ我慢は体に毒ですよッ!」
気合いと共に飛びかかりまとわりつくように後ろに回れば、首を焼き尽くして呼吸困難を引き起こそうとヘッドロックを仕掛ける。熱の篭った、吸い込めば深刻な火傷を引き起こしそうな高熱を押し付けられても、眦をつり上げて不敵な笑いを色濃くする。どんなキツい技だって、耐えられると思えば耐えられる! 不撓不屈の精神で受け切る覚悟を決めた拳士は強い。首周りが焼け爛れようと、息を止めているうちに殴り倒せばいい。単純明快だ。
「ぐ……うぅうう……」
「さあ負けをッ……おブ!?」
ニヤつく顔面に回し蹴りがクリティカルヒット! 涙を浮かべ折れた鼻を擦るアスリートに、熱をものともせず肉薄する。拳先が焦げ付くのも厭わず、そのまま必殺の一撃を叩き込んだ。
『龍顎拳奥義』、意識がブラックアウトする直前、悪役レスラーはその拳に吠え猛る龍の姿を見る。そして頭から喰らわれるような迫力に、熱気に、かえって背筋が凍るほどの恐怖を覚えて。
「おぉおンギャアアッ!?」
喉奥から絞り出した悲鳴を断末魔にリング外へと弾き飛ばされる。
「流れるような技の連続こそ武の骨頂。勝負を急ぐとは未熟でしたね」
所定のカウントを数え上げられるまでに意識を取り戻すことができず、一人が反則負けを献上することとなった。そのままハイタッチするように飛び上がり、巨肉を湛えるるこるへバトンタッチする。
「お願いします」
「任されましたぁ」
突き立つ視線に目もくれず、唸る迫力でリングにのこのこと上がってきたアスリートの頭を掴む。燃焼系アスリートの驚くことには、リングに上がってからなお体が巨大化していることだ。自分が催眠か何か術式に陥っているのではないか。睨みつけるがレフェリーは首を振る。正確なジャッジの通り、彼女は間違いなく「大きく」なっている。
知恵持つFESの布が如き皮膚の前には炎の拳を叩きつけられようと全くの無意味。視線も干渉を遮断し、おまけに打撃や投げ技のセットアップも無効にする。嚥下した薬を吐き出させるか、さもなくば時間遡行でもできればまだ勝負の舞台に上がれそうだが、一介のアスリートにそんな芸当ができるはずもなく。
「気合い、気合いですよッ」
「諦めない! なんのそのですッ」
――ズン……!!
「「げフ?!」」
ぷるぷると揺れた豊満な体が一様に微細動し、翳した指の端から空間が捩れるような感覚に襲われる。すると燃焼系アスリートたちは頭や胸を抱えながらうつ伏せにリングに叩きつけられた。
重力を通常の四、五倍、否、それ以上に増やしたのだ。自重で潰されないように体の形を保つのがやっと。体に纏う炎は揺らめいてもはや一定の高温を保つことすらままならず、苦悶の表情を浮かべながら視線を向けることしかできない。本来なら精神に作用する目配せのはずなのだが、封殺されれば可愛らしいもの。
「気合いで振り切れないよう、念には念を入れさせていただきました。KOに追い込みますねぇ」
「ひッ」
「ま、まて、まってエ!」
二人がかりで挑んだ卑劣さを棚に上げて、ギブアップさせてほしいと懇願する始末。スポーツマンシップもなければ潔さのかけらもない命乞い。るこるはぷるぷるとさらに豊満に肉付いた巨体を震わせながら頭を振る。興行的にも心象的にも情け容赦を施す理由がない。まして彼女らを解放するには競技の形に則るのがもっとも確実なのだから。
空中へ飛び上がり、その肉厚な尻で炎をもみ消すようにのしかかる。いわゆるフライングボディプレスもといヒップドロップである。
「まだまだ、いきますねぇ」
スポットライトを席巻する巨軀を存分に使ったダブルスレッジハンマー。他の世界には馴染み深い巨人の一撃も、この世界の住人たる悪役レスラーには刺激が強すぎたか、半ば失禁する勢いで怯える顔面に、るこるの両手の指を組んだ状態の殴打が気持ち良く命中した。鼻血にも似た炎をボッと吹き出しながら二人仲良く気絶の深淵へと旅立つ。
重力操作の強化が乗った一撃は格別の威力だ。小指に付いた火の粉をぱっぱと叩くと、戦意を燃やしてリングインしてくる新手に目を向けた。
「次々と乱入してくるのはどの競技でも同じようですぅ」
「メルシー! 魔力を回すからお前も手伝え!」
掟破りのツープラトンを乱入したての新たな燃焼系アスリートへ見舞うカシムとメルシー。ぷるぷると体を揺すりながらるこるがリング外に出たのを確認し、関節をポキポキ鳴らす。試合展開で彼女たちの火力や膂力は推し測れた。目には目を、炎には炎を、だ。
「あ、熱い! 熱い熱い熱いッ!?」
「なぜこちらが熱を感じて、まさか気持ちで押し負けて……ッ!?」
「ちっちっち。ご主人サマの属性攻撃がそんな弱火に敵うと思ったかな?」
「それでもわざわざ言うことはないだろ!」
鋭い回し蹴りを次々と急所へヒットさせながら、鋭いツッコミも忘れてはいない。メルシーという暴れ馬を乗りこなせるのはカシムだけだろう。両腕で二人のアスリートのそれぞれの首を絞める強引なヘッドロックに、悶絶を余儀なくされる。振り解こうにも機会の巨腕に圧搾されているかのようなプレッシャー。見た目の可愛らしさとはかけ離れた膂力に燃焼系アスリートは混乱する。
「げ。ぐ、おお、ぐぎぎ……」
「口をぱくぱくさせてかわいいね。一人二人持ち帰って……ずっこんばっこんしちゃうぞ♪」
「観客の前で何言ってんだお前は!」
一瞬、それも悪くないかな、という邪念を振り払って、拘束された敵にさらに蹴りの連撃のコンビネーション。逃れる手段はない。
リング上でぐったりとしてしまった敵に追撃の八の字固めを放った。練習で受けた技の完璧な模倣に、外でそれを見守る団長・千愛もご満悦だ。
「トドメ……だっ!」
「うおりゃ〜っ!!」
大きく飛び上がった二人は全体重を乗せ、相手の首に自分の膝を落とす! 首周りがメキメキと嫌な音を響かせて、リング上でくの字に体を折った悪役二人。衝撃を逃せず、余さずその体で受けてしまった彼女たちの意識は試合中戻ることはない。
「どんなもんだい☆ このまま締め技で……」
「そのワキワキした手! 下心丸見えじゃねえか!」
大技が決まったのをリング外から観戦していた伊織は、時間経過とともにさらに高まる青いオーラを昂らせて、リングへと上がってくる。
片手には場外乱闘を仕掛けてきたダークアスリートの、脱力しきった肢体がある。日々の修練を重んじる彼女らしく、歯ごたえがありませんね! と眼差しが雄弁に訴えかける。これが試合中でなければ、後日の練習を持ちかけそうな、そんな威風堂々の佇まいである。
結果に異議不服を申し立て、リングや観客をも燃やそうと暴れていたレスラーたちはるこるの巨体の餌食になった。文字通りの生体兵器と化した彼女の前では、暴れているとはいえ稚児同然。赤子の手をひねるが如く瞬く間に鎮圧し、危害を加えかねない火種を吹き消した。
四人の視線が交錯し、同じ考えに思い至る。修行になるようもっとハードに、興行的にはもっと派手に、そしてもっと激しく絡み合いたいと。
「残りの戦意ある方全員に上がってもらいます」
「ではこちらもそろそろ本腰を入れましょうかぁ」
「うん! メルシーも張り切っちゃうぞ☆」
「今度は僕も締め技か? ごほん、それなら存分に熱い抱擁を受け止めてやる!」
戦々恐々、阿鼻叫喚。そして、後の祭り。
――蓋を開けてみれば。
まさしく、予想通り。猟兵たちの完勝で、燃焼系アスリートたちを爽快に蹴散らしたのであった!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
シャーロット・キャロル
草剪・ひかり(師匠、f00837)と共同参加
お色気キャラ崩し描写即興連携等歓迎
いよいよ試合開始ですね。相手も多いですしここは師匠とは別々に対応していきますか
相手は見るからにこう燃え盛ってますね、でしたらこっちはこうするまでです!
UCマイティスーパーブレスの冷気を相手にぶち当てますよ、これで相手の炎を抑えてやります!
ですが私もまた相手のUCが命中してしまいスーパーブレスが封印されてしまいます……
更に競技に熱中したいという激しい衝動も付与
「さぁここからはお互いプロレスでの真っ向勝負で戦いましょう!」
構えてにらみ合いからの、パワーレスラーらしく正面から相手と組み合って力比べ
先程のブレスで勢いは弱めたといってもそれでも相手の体からはやはり吹き出す炎が徐々に私の身を焦がしていきます
ですがレスラーがこの程度で怯んでられません!
構わず怪力で相手を持ち上げるとそこから一気にマットに叩きつけるボディスラム!
そこから相手の足を掴んで海老反りに締め上げる逆エビ固めでギブアップに追い込んでいきますよ!
草剪・ひかり
SPD判定
お色気、キャラ崩し、過激描写、ピンチ演出、即興連携等歓迎
シャーロット(シャロちゃん、f16392)と共同参加予定
さすがダークレスラーだけあって、やり口が少々レアかもね
でも、プロレスには電流爆破デスマッチもあるし想定内
※火炎耐性あり
私は王道、正統派レスラーだけど
プロレスラーが戦場や相手を選んでちゃ半人前
そんなわけで、燃える身体のアスリートちゃんと真っ向勝負
身体以上にリングコスチュームがやばそうだけど、まぁ相手が相手だし、事故よ事故w
まぁ物理的に熱いのは熱いけど、私の魂の熱さに比べれば然程でもないんじゃない?
だって、貴女達の炎の温度は計れても、私の魂の熱さは計れないからね!
そんな訳で、魂はこの上なく熱く、理性はこの上なく冷徹に
ロープリバウンドを十二分に乗せたドロップキック
コーナートップで大きくアピールを魅せてからのダイビングボディアタック
そして燃える相手を背後から捉え、コーナーポストへの投げっ放しジャーマンスープレックス!
まぁ多少てこずったけど、私を沈めるにはもう少し足りないかな!
背筋の凍るような冷気の中で不敵に笑った燃焼系アスリートの一閃。カチカチの凍傷になった指先で放つ、致命傷には程遠いジャブ。その一振りで胸先と、股ぐらを炎が舐めて、青いコスチュームを焦がし焼き尽くしたのだ。同時に視線が交錯する。狙いが的中したゆえの、思わせぶりな視線。
乱入有りの大混戦は《マイティスーパーブレス》の放射により優位に進む、かのように見えた。たしかにこれを禁止するのは「呼吸をするな」と命じられることと同義。反則にはあたらない。
「シャロちゃん……!」
敬愛する師匠の声がやけに遠く、耳奥に響く。
「あ。あちらにカメラがありますねッ。気合い入れて、まいりましょう!」
「……はッ、ん?!」
視線、そう、観客の突き立つ視線、カメラ越しにシャロに向けられる視線。レンズの煌めきに眩しげに目を細め、ふと、反射的に胸と股間とを両手でそれぞれ隠した。羞恥心は無論のこと、師とお揃いのコスチュームがダメージを受けた、そのショックが否応なしにその行為に及ばせたのだ。師弟愛ここに極まれり。それも、油断とも呼べないほどの、僅かな隙。
打算、思惑、それらが混ざり合った瞳の光が燃焼し、凍りついた拳でそのまま鳩尾を殴り抜いたのだ。
――ずぐンッ……!!
「い、ッっ……ガっ
……!?」
最初に鈍痛。ゆっくりと到来する、皮膚が凹まされた感触。シャロの唇から涎が溢れたが、すぐにそれどころではなくなった。
殴った側の拳もただでは済まないが、砕けたはずの拳が、凍傷の指先から炎の手を模って緩やかに再生していく。豪腕がみぞおちを抉り、シャロの体を浮かせたという結果だけが残った。
「諦めないでくださいッ、死にものぐるいで戦って、戦って、前のめりに倒れてこその試合でしょう!?」
「誰が諦めるものでしょうか。さぁここからはお互いプロレスでの真っ向勝負で戦いましょう!」
「ふっ」
いい試合にしよう、というスポーツマンシップに決定的に欠けているのが闇のアスリートだ。ユーベルコードを封印する情動の付与も、己は肉体それ自体が武器になり得るとわかっているためである。勝てる試合が好きなのだ。不屈の闘志を促し、それを焼き尽くすのがたまらなく好きなのだ!
ゆえに、嗤う。
一方の、フェアプレイの鑑とも言うべき超人。金髪をピンと指で弾き、焦げたコスチュームから露出するのも知らず、ただ師と、観客と、それらの期待に応えんがため胸を張る。サイボーグの肉体が唸りを上げる。どんな形であれ真剣勝負の場を作ってくれたことに感謝し、ぶつかる!
ゆえに、笑う!
「おおぉおおおッ!」
「だあァアッ、しゃらァア!!」
――ドゴッ! ずんっ! ドゴォォッ……!
ロックアップの姿勢から、腹部ににょきりと炎の複腕を作り、シャロの腹部に三発打ち込む。にちり、と炎の手型がくっきり焼き付いて、思わずよろめいた。
――しゃっ……メリメリッ……!!
「おっ、ぎゅ
……?!」
振り上げた足の先端が、微かに肉裂をこじ開ける。脱力した足の合間に割って入った燃焼系アスリートの足が、急所蹴りを敢行したのだ。文字通りの熱の塊を股間に押しつけられ、鮮烈な痛みがシャロを悶絶させる。内股になりながらもまだ立ち続けていることが奇跡的な根性だった。
「う、ア゛……!? これっ……つぶ、れっ……ま! ぐ、えっ
……!?」
「こんなんじゃ、ほらァ! 潰れ、おらっ! ませんからッ!!」
――どすっ、どず! ドヂュ、ドズッ!!
「ぜぇっ、はっ……うぅ、ぐ……」
なんとか両腕を前に構えて、絶えず吹き付けられる炎を払い除けながら、弱々しく内股になってガードを固める。黒鉄の肉体も燻されれば形なし。ひび割れたように痛い。籠った熱が抜けていかない。
助走をつけてのドロップキックが追撃に放たれる。炎の余波で下がったガードを掻い潜り、食い込む足。グリュッと、音を立てて、内臓や大事な箇所がへしゃげ、濁った体液が喉をせり上がってみるみる溢れる。
「ぶッ……げぇえええぇええぇ――~~!?」
超人的な耐久力を誇るマイティガールの、はじめて人前で見せる圧倒的なダメージの苦悶。観客のボルテージも上昇し、その歓声にうっとり悪役レスラーは人差し指を上げる。
その丸出しの胸掻っ捌いて、正義の在処とやらを晒してあげましょうッと、喜悦を色濃くする。
笑顔のまま、彼女の体がふわりと浮かんだ。
「は。は、は。はひぇッ?!」
「ふうぅうう……お返しですッ!」
股と、肩とを両手で抱え込む。先ほどまで立ったまま喪神していたとは思えないほどの俊敏さ。人を嗤う油断が招いた、取り返しのつかない隙。燃焼系アスリートの体がぐいんっと上下ひっくり返る。
「ぜあっ!」
――どゴォおお!!
背面からリングに叩きつける強烈なボディスラム。首の骨が折れたかと思うほどのインパクトに、カエルが潰れた断末魔の悲鳴が漏れた。
ぴくぴくと、燃える瞳が白目を剥いて、だらんと舌がまろび出ている。
「好機よ、シャロちゃん!」
「っ?! はい! 師匠!!」
熱中と衝動の、理性のタガが外れた中では聞こえていなかった、的確なアドバイス。攻めるタイミングを見誤らなければ、早々遅れを取る相手ではない。ユーベルコードが使えなかったとしても!
自分には筋肉がある。そして、その鍛え、練り上げられた成果を応援しに来てくれた人々がついている。負ける道理などない。そう断言できるぐらいに積み上げてきたものは心強かった。
燃える体に組み付いた結果、己の肉体に引火してメラメラ炎を上げても、髪が焦げついても、皮膚が爛れて嫌な臭いを醸しても、勝敗が決するまでは一歩も退くわけにはいかない。燃えているのは体ではなく使命感だ。使命感がシャロの体を動かす。
内股が灼熱に見舞われるのを覚悟で、悪役レスラーの頭を股の間に挟み込むや否や、そのまま高々と持ち上げて、パワーボム!
――バギッ……!!
「ん、ご……お゛ッ゛?!」
そして、背中を強く打ち付けて悶絶する悪役レスラーの両足を両腋に抱え込み、勢いのまま裏返して、いわゆる逆エビ固めを繰り出す。
大きく股を開き、ドッシリと彼女に跨るシャロの堂々たる極めに、悲痛な悲鳴が木霊した。
「ぐおぉおおっ、き、きあ、きあヒィいい……ッ!」
体をカタカナのコの字にひん曲げられた、アスリートの口ではなく、体の方からメキメキと、哀れにも、悲鳴が上がる。気合いも、割れた風船から空気が漏れるように、萎び、炎が鎮火していく。
突き降ろした尻の重さが一層伝わるよう、ガニ股気味に両足を開き、一呼吸一呼吸するたび、ぐいっ! ぐぃいっ! と、力強く、尻のスライド――抽送運動を始めるシャロ。
その度に、燃焼系アスリートの腰骨がミシ! ミシ!! と音を立てる。
「気合い、きあ、ひ……ンぎっ!」
「マイティホールドッ!」
正義と壮健の冠を戴く、海老反りに締め上げる。やがて、跨がる場所を悪役レスラーの背骨付近から、後頭部へと移行し、胸を張るようにして、ぐいっと跨がり直した。
完全に涙腺が崩壊し、滝涙のような火の粉を流しながらマットを叩く。背骨と、腰骨と、首骨とを、同時にへし折らんばかりの、想像を絶する跨がり方だ。尻に体重を乗せ直しながら、勝者にふさわしい賞賛を一身に浴びた。望んだ通りの、プロレス技のみでの圧倒。美しいまでの勝利に、乱入気味にひかりが飛び込んでいく。
「さあ、もう相手はいない……なんてことはないよね?」
『プロレスラーはリング内でも外でも強い! 絶対女王草剪ひかり、戦場を縦横無尽に駆ける! 飛ぶ! 蹂躙するっ!』
ぽかんと、一体どこからそんな声が……と、腰砕けの敗者をつまみ出して、キョロキョロ周囲を見回す燃焼系アスリート。
「おほん。気を取り直して……もっと熱くなりましょうよッ!」
「乗った! シャロちゃん、今度は私の戦いを見せて、いや、魅せてあげる」
「はい! 師匠の戦いぶり、勉強します!」
カメラも自然、ひかりへと焦点を合わせる。リング中央でのロックアップ。手を組み合っての力くらべは、単純な膂力を観客に見せつける上で重要なファクターだ。そして、力のみならず伝わることもある。
「(さすがダークレスラーだけあって、やり口が少々レアかもね)」
「どうしましたッ! 力比べはこちらの方が上のようですねッ?!」
ぐ、ぐぐ、ぐ、と徐々に押し込まれていく。熱の塊を押しつけて、悦に浸られても、などと泣き言は言ってられない。ここで押し負けられること、すなわち試合の趨勢に影響すると言っても過言ではない。
接した皮膚の端が焼け焦げる。爛れる前に決着にしなければ。
「なんとォ!」
「お。おおッ!」
驚きの響めきが観客席を埋め尽くす。一度押し込まれかけたひかりが持ち直し、逆に燃える身体のアスリートを折ったのだ。
「“女神の戦斧”持つ女王が、腕っ節で負けるわけがないよね! そんな姿を見たい人は、今日ここに来てないから!」
意気軒高に叫べば、その視線が行き着く先は必然、突き上げられた拳と――。
「おっと」
胸先が燃え尽きた、艶やかなスタイルのリングコスチューム。一瞬、隠そうと腕を下げかけて、そのまま腰に手を当てて存分に胸を張った。事故よ事故、と朗らかに笑う。女王がこんなことで恥じらうなどと、あってはならないと己を戒めたのだ。数多の視線と劣情を向けられて肌が、それこそ燃えるように上気するが、そうも言ってられない。羞恥心何するもの、人前に立つ者はスコポフォビアを克服しているのだ。
とはいえ、妙齢……というか、人並みの気恥ずかしい気持ちは湧き上がってくるのも自然な話。
「も、もっと鍛え直そうかな……? はは」
「う、おぉおおッ」
「おっ」
狂瀾怒濤の勢いで立ち上がり、直線的に向かってくる。実況風に言うのであれば、絶対女王、なおも余裕を崩さない! 胸の前でボディタックルを受け止める。
しかし、ひかりはその前の動作も見逃してはいなかった。押し負け、曲げられた右腕をクルクルと回す動き。一見すると腕の調子を確かめているかのように見えただろうが、プロレスファンならわかる次の行動へのパフォーマンスだ。
「おおっ」
単なる突撃ではない。しっかり、見せつけるように腕をクルクルと回しながら、ゆっくりと近付いてくる。そして、間合いに入った刹那の踏み込みラリアット。
闇の力に魅入られたアスリートとはいえそのあたりの研究はしていてらしい。あえて得意技を真似ることで、力負けした分の意趣返しをしようという魂胆なのだ。当然、ラリアットのガードの仕方もひかりは熟知している。
「が、甘ァい、おりゃあ!」
「ぶげ?!」
勢いのまま背後に一度体を預けつつ、ロープリバウンドを十二分に乗せたドロップキックを放つ。両足が燃焼系アスリートの胸あたりに命中し、逆撃に思わず倒れ込んだ。気絶こそ避けたものの軽い脳震盪を引き起こしたようで、立ち上がってなおフラついている。
「ちっちっち、そう言うのを付け焼き刃って言うのよね」
「な、なにをぅッ」
ひかりのラリアットであったならば空中を一回転半はしながらマットに沈められたことだったろう。だが、十八番を奪われたままで黙っていられるほど出来上がってもいない。お誂え向きにふらつき、棒立ちしてくれている。
コーナーポスト周りを綺麗に「掃除」してくれていたシャロに目配せすると、頷いて一際大きな歓声を呼びかけた。
「女王! 女王! 女王! 女王!」
腕を振り上げ口に唾する勢いでひかりの大きな背中に賛美の声をぶつける。びりびりと震える空気の心地よさを全身に感じながら、その空気を根こそぎ引き裂く全身全霊のボディアタックをポストの上から放つ。
――ず、ドォン!!
本来ならクッションが担うべき緩衝の役割を、代わりに受け止めることで担ってしまう大ダメージ。今度こそ昏倒しかける闇のアスリート。ぷすぷすとその全身の炎は鎮火間近で、肺どころか全身が空気を取り込むことに必死になっている。
うわ言のように何かを言おうと、口をぱくぱく開閉させるのみである。
「も、もえ……も、もひィッ……」
「逃すかってのよ……っと!」
ぐいんとアスリートの視界が、反転世界のように床と天井が接続される。シームレスかつスローモーに、這ってリング外に逃れようとした体を、後ろから近付かれ、腹に手を回されクラッチされたことを認識した。闇の力に脳髄を侵食されようと、わかる。全身をけたたましく鳴り響く警戒アラート。
ぶっこ抜かれた体を叩きつける場所など一箇所しかない。
「ま、まっと、まって、ま!?」
マットにぶつかる衝撃に備え、半狂乱に茹だる頭をフル回転。導き出した結論はジャーマンスープレックスへの受け身! 目を閉じ、急所に炎を纏わせて衝撃を殺す算段を土壇場でつけた。
だが、所詮それまで。気炎ならいざ知らず、振り絞った炎が冷や汗を蒸発させる程度なら、温度もたかが知れているというもの。考え及ばず、自身が放られた場所さえ正確に認識することができない。
――ゴッ
……!!!
「ぉ゛ッ゛?!」
コーナーポストへの投げっ放しジャーマンスープレックス! 一瞬の判断ミスが意識の有無を切り分けた。
ブリッジの状態から腹筋を使って、ぱるんと胸を揺らしてひかりのみが起き上がる。そして観客の方に向き直った。
がっしと肩を組んでくる、いかにも興奮しきった様子のシャロを受け止めながら、続いて勝利パフォーマンスを叫んだ。
「たしかに燃え盛る体温は見事なものでした。ですが結果は見ての通り!」
「だって、貴女達の炎の温度は計れても、私たちの魂の熱さは計れないからね!」
悪役を一網打尽にし、盛り上がっていく会場の中心は、紛れもなく超人プロレスの英雄である師弟二人であった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マスクド・サンドリヨン
「炎の身体を持つレスラーなんて、厄介ですね……姫華、気をつけて」
あの地獄みたいな鍛錬を潜り抜けたんだもの。負けはしないわっ!
と、意気込んだは良いものの、相手の仲間に背後からの急所攻撃を受け、一撃で瞬殺されちゃう私。
当然のように強制的に覚醒させられて、正義のヒロインの無様な即落ちを嘲笑われちゃう。
屈辱に震える私だけど、相手は当然のように試合を続行……ギブアップしても「もっと頑張れる」って言われる地獄が待ってるの。
1対2じゃどうしようもなく、執拗にお腹へ打撃を受けたり、関節技で全身痛めつけられたり、何度も投げられて叩きつけられたり。
恥ずかしい格好を強いられたり、お尻に挟まれるような屈辱技も使われ、コスチュームも焼け焦げ、肌を晒して。
心身ともにボロボロにされて……それでも「まだ出来る」って。
最終的にはもう無理です、許してください、って土下座する事に。
仕方ないとばかりに謝罪を受け入れて貰えるけど、それは「トドメを刺してくれる」と言う意味。ツープラトンでリングに串刺しにされ、犬神家状態に……。
恥じらいを感じる瞬間は多種多様である。クラスメイトに過ちを揶揄された時、家族に知らない一面を暴かれてしまった時、上司に大勢の前で叱責された時。中でも屈辱は、大きな恥じらいを感じさせると共に、対面者に圧倒的な優越感を付与する。
マスクド・サンドリヨンとして正義のリングインを果たした彼女を瞬く間に昏倒させ、そのマスクを剥いでありのままの姫華としての姿を現出させる。マスクレスラーの素顔を観客の前で暴かれるというのはさぞ甘美な、負の感情を摂取できるだろう。
案の定、姫華は助言を聞く余裕も奪い返す胆力も発揮できず、ただただ呻くばかりである。
「マスクを燃やすのだけは勘弁して差し上げましょうッ」
「ですが、代償にもっと恥ずかしい姿になってもらいますがねッ!」
二人がかり、しかも片方は背後からの攻撃など、スポーツマンシップの欠片も感じられないというのが素直な感想だが、この世界において「乱入」は日常茶飯事。姫華は股間を摩りながら、なんとか腕を前に構えファイティングポーズを取る。
それから十数分、ともすれば観客からは退屈に思えるような一方的な試合展開が繰り広げられる。常にどちらかが背後にまとわりつき、反撃や回避を行おうとすれば背中や脇腹といった防ぎにくい箇所への攻撃を加える。特に厄介なのは常に周囲を取り巻く熱気。文字通り肺を火傷させ器官を焦がす熱気から逃れることができない。少しでもガードを下げたり、戦意のない様子を見せれば、容赦ない掌底や蹴りを浴びせられる。
「もちろんギブアップしても構いませんが、その時はそちら様方、全員の降参と受け止めますからねッ!?」
「わざわざ言ったのは念押しです。あとで文句は受け付けませんという意思表示ッ! 万が一その黒髪をリングに擦り付けたら考えてあげますよ?」
そんなことを周囲には聞こえないように囁かれれば、もはや天秤に掛けるまでもなく試合を続けざるを得ない。痛ぶられ続ける屈辱、これもまた恥じらいを催すシチュエーションである。
正義が跡形もなく燃やされ、それでも正しいと思われることに縋り付くしかない。姫華はぐいと口元を拭った。すでに溢れた血が乾いてこびりついている。
「ま、まだまだ……ううっ、くふっ」
「両腕をだら〜んッと下げて睨みつけられても、怖くも痒くもありませェんッ」
「我らを倒すにはそう、頑張りが足りませんよッ。もっと熱くなりましょうよッ」
めいめいに口を開き呟く。だが言葉は本質ではない。姫華は、身体をひっくり返され、臀部を上にぱるんと突き出した格好を強制された。俗に言うエビ固めを取られたような、仰向けになった両脚を頭の近くで固定され、恥部が持ち上げられた体勢。
観客の前で大きく股を開かれてしまうという、女性レスラーにとっては最も恥ずかしく、嫌がられる技だ。姫華の情けない悲鳴が観客の声でかき消されたのは不幸中の幸いであったろう。普段なら秘すべき下衣の内が、完全に露出して丸見えにされる。その上、両脚をほぼ180度に近く開かれてしまえば、ここが新体操か何かの競技でなければ、恥ずかしさに顔を背けたくなるに違いない惨状だった。
――ギリッ、ギリィいい……ッ!
「いっ、ぎ……ううぅううう……っ!!」
逃げたくても、身を捩りたくても、二人がかりの万力のようなパワーでガッチリと固められてしまい、脱出は困難。その上、観客には聞こえないように耳元で屈辱的な言葉責めを仕掛けてくる。
「『ここ』は……ふ。まるで、まるで赤ん坊ですねッ……?」
「随分と、まあ、これで正義の味方とは笑わせてくれる。ですが、いい気分ですねッ」
揶揄という言葉ですら生半可な、耐え難い侮辱。
熱気でチリチリになってしまった黒い前髪を無理やり掴まれて立ち上がらされる。瞬く間に背後に回られ、彼女の脇の下から腕を通されてしまう。姫華は羽交い締めにされながら『ピジョン』の無事を求めて懇願した。答えとばかりに握りしめた拳が、姫華の無防備な腹へ突き立つ。
――ドズゥッ!
「うッ゛?!」
拳が引き抜かれたあとも焼きついた痛みが消える事は無く、苦痛に顔を歪めた。
浮かび上がった苦悶の汗が、舐めるように這った火の舌先で拭われ、真っ赤な痕を残す。
「がぁあ……ッ?!」
――ドムンッ! ドゴォッ! ドズン゛ッ……ズムンッ!!
「ンぐ?! あ、が、ウぶふっ?! お、ぇええ……」
「あ。ヒトの心配なんかしちゃダメですよッ!」
「その通り、最後のやつ、いいところに入りましたね。もっと醜く喘いでみせてください!」
めり込ませた拳をグリグリと捻りながら、そう口を揃える二人。話が通じないどころか、どうしても土下座をさせたい悪意の不興を買ったらしく、不機嫌であるということを隠そうともしない。正義の二文字を口にすらできないように徹底的に虐め抜く魂胆なのだろう。くっきりと拳型の痕が残った箇所を、ぐりぐりと指の腹で押す。
「ヴっ!! んんっ……んぉ……」
「敗者の烙印に相応しいですねッ!」
「吐いたらもったいないですよ?! 我慢我慢、根性根性!」
吐き気を催し前屈みになりかけた姫華をうつ伏せの姿勢にすると、レスラー自身の両脚に姫華の両脚をフックさせてきた。そして素早く、姫華の両手首を掴んだ。 嫌な予感が胸に去来する。
そのまま後方へと倒れ込み、寝るようにしての姫華の体を吊り上げた。
――メギメギメギ……ビキッ!!
「ギャァあッ?! あっ、ああっ、いやぁぁぁ!! 痛いぃい゛イ゛っ゛?!」
ロックした両足を相手を吊り上げた状態で開くと、まずふくらはぎに、そして股間に大ダメージが入る。これは拷問技ロメロ・スペシャルだ。強制的に股を割り開かせられるため、女子レスラーにとっては羞恥技でもある。
すでに着衣を焼き切られ、心もとない姿を晒している姫華が感じる羞恥は、並大抵のものではなかった。何せただでさえ身体を吊り上げられてしまうのでも恐怖を覚えるのに、観客の前で大股を開かれてしまうのだ。観客の下卑た視線を浴びせられ、心身のダメージはズンズン高まっていく。
視線を向けられていると意識するだけで、むき出しの果実が炎の熱とは別の温度を帯びて天井へ向かって硬く屹立した。加えて、ロメロ・スペシャルは、先ほどの股を開かれるだけの固め技とは違い、全身の関節を締め上げる強力な拷問技の一面もある。節や骨、それに肩まで外されてしまい、全身あらゆる方向から激しい苦痛が襲いかかり、身体を蝕まれていく。抵抗する意志も風前の灯であった。熱いのと痛いのと情けないのでついには嗚咽してしまう。
涙や涎、それに汗、蒸発すれば芳しい香りを漂わせ、艶かしい吐息を漏らせば姫華の口元から視線を下げていくと、細長い白い首から鎖骨まで見えるほどに焼き切れた襟元にかけて、点々と、河のようにじんわりコスチュームへ伝っているのがわかる。この斑点は、姫華が漏らした屈辱の証左。もはや流した涙も乾ききってしまうが、震える体の悪寒までは抑えきれない。
感情の発露さえも、嘲笑われて。
「泣けば許されるとでもッ!?」
「大丈夫、大抵のことはここから気合いでなんとかなりますよッ! ここに、気合を、込めろォ!」
一閃、炎のナイフハンド・ストライクが、痛めつけられた股間へ垂直に突き入れられる。
粛清というにはあまりに無慈悲、解かれてリングに叩きつけられてなお、轢かれたカエルのような体勢で仰向けになっている。舌を突き出した無様な呆け顔を晒し、ぴくぴくと震えるばかりである。
それも、振りまくフェロモンを色濃くする、扇情的な雰囲気を醸すだけ。雌蕊を振り乱し、観客に見せつけながら、身震いする。
「さて、お次は……」
「ハァ、ぜぇッ、も、もういい加減に……」
「え。何?」
「認めない認めない認めませェんッ!!」
ゴキっ、ごギッ、バチュッと無防備な股ぐらに蹴り上げながら、狂気的なまでにサディスティックな笑みを色濃くする。
肩は外れ、皮膚や髪は焼け焦げ、呼吸するたびに痛んだ内臓が悲鳴を上げる。審判も炎に呑まれるのを恐れてか過剰な攻撃も意に介さない様子だ。降参が団体全体の敗北と判断されてしまう以上、打つ手も見当たらない。霞む視界の中で活路を見出そうと首だけでも動かす。地獄のような状態が続く中でも思考だけは続けなければ、と右へ、左へ。
燃焼系レスラー二人の姿が、忽然と消えていた。
「えっ、え?!」
違う。
己の体が、浮き上がって、どころか宙を舞って。
視界が反転して――?
――ドォ、スゥウウッ!!
「げ、ばぁ!?」
次の瞬間、リングに向かって叩きつけられていた。虚な目線が背後にに回っていた燃焼系レスラーの笑みを見てとる。肺の中を吐き出して意識がくらぁと遠くなり、強打された全身の骨が歪な悲鳴をあげる。
死ぬ。殺されてしまう。このままでは、本当に命を落とす。
「……げ……ゲ、ブ……アッ」
「う。うわ、焼き切れた肌から血が滲んで、リングが汚れてしまいますッ」
「ですが、あえて言いましょう。もっと頑張れますよ。火山は燃え盛っているからこそ大きく聳えるというもの!」
――ドズッ、ドス! ボゴォ!! ぼっごおおお!!
「いだ、アツっ?! やべで! おでがっ……おでがいだがらお腹やべでっ!」
「なんだ。まだ、元気じゃないですか!」
「は。よかった。よかった!」
戒めをかけたまま、何度か腹へ殴打を打ち付けて、悲鳴と懇願が溢れたことで状態を確認する。
もはや皮膚に熱を叩きつけられるだけで涙が溢れ出てくる。痛みと苦しさの絶え間ない衝撃に、血反吐を噴いて首を振る。視界の確保のため、ではもうない。自らが、一刻も早く、一秒でも長く、苦難から逃れたい、その一心に雑念なく、駄々っ子のようにイヤイヤと首を左右するだけだ。
そして、そんな様子を、燃える体とは裏腹に冷ややかな視線で見つめる。燃焼系アスリートは一笑した。まだわからないのか、まだ理解していないのかと。拒否する心算なら態度で示さなければ、示すつもりがないなら継続するだけだ。
――ギリッ……ギチ、ギリリッ゛!! ゴリ!!
「イい、だ、だだッ゛……ァア!! や、なに、なにィッ?! こんど、は、なに゛ッ゛!?」
「なにっ……て」
瞭然である。聞くまでもない。
絡みついて拘束し、炙りながら、炙ることで抵抗力を削ぎ落としながら、足に組み付いているのだ。炎の鞭が巻きつくよりなお募る苦悶の雁字搦め。しかし痛みの本質は熱ではない。無理やりに捩じ切ろうとする、二人がかりの拷問技。上半身を固定したまま、捻り、捻り、捻り。
――ゴリッ、ゴ、ギ……メリィ!!
「あがっ……! や、べっ……また、おガあああああアアアアアーッ!?」
股関節が悲鳴をあげる。肩の脱臼とは比較にならない、骨盤からの大腿骨のズレが生む痛み。ヘソから臓腑を引き摺り出される方がマシに思うほどの、あるべきものがあるべき場所から離れていく苦痛の程度。
メリメリと肉が引き裂け、関節がもげ落ちていく音。
それを必死に耐えて、やがて無念の悲鳴に変わっていく瞬間。
「耐えましょう、耐えましょう耐えましょう?」
「我慢して我慢して、我慢して……」
「そしてその我慢が解き放たれた時……」
やだっ、やだぁと、力の入らない体を捩る涙ぐましい抵抗を熱でへし折って、右の股関節を、ついで左の股関節を次々に脱臼させた。
姫華の絶叫が観客の歓声にかき消される。絶望の声を聞きにきた悪趣味な衆愚が、まろび出ている秘処を食い入るように見つめながら怒声を浴びせる。涙も涎も垂れ流し、失禁さえしながら震える体を起こして姫華は自然とある姿勢をとっていた。
「も……」
手を合わせ地に置き、体を折りたたんで平身低頭する。
「もう無理です、許してください……」
「聞こえない!」
「許してください! ごめんなさいぃ……!」
頭を擦り付け、神聖なリングを粗相で穢した報いを己の汚辱で雪ぐ。雪辱ではない。埋め合わせだ。美しい黒髪が滲み、それも炎で乾いて汚らわしい不快な臭いを漂わせる。
そんな姿を目に収めることさえもはや許し難いと、燃焼系アスリートは二倍の膂力で姫華を持ち上げた。そのまま頭から一直線に、ツープラトンでリングの中央に叩きつけた。
――ボギゅうウうウッッ……!!
「んっぎいいいいいーッ、ぉぎょ!!?」
出来上がったのは首でリングに直立した、無惨なオブジェ。正義の成れの果てにしても悍ましい、敗北を凄惨に醸す屈辱的な姿だ。正義の在処はここではない。あるのは力、力が打ち立てた燃え上がるほどの勝利、否、敗北である。
「あ、ひひ……お……へぇ」
それでも、猟兵と、レスラーたちの全体の敗北にはならなかった。それだけを、四肢を壊されながらも死守した姫華へ惜しみない賞賛の拍手が送られるのであった……。
成功
🔵🔵🔴
八咫烏・みずき
【バイオレンス・アドリブOK/漏れ禁止】
敵が全力でたたかうというなら私も…全力で倒すしかないわね…
あいにく私はサイボーグよ…
多少の熱で倒せると思わないことね!
しばらくの殴り合いで敵と互角の勝負を挑む。
悔しいが、あのときのスパーリングで確かに打たれ強さは学んでおり
殴り合いでは圧倒的に有利だった。
しかし突然の敵側の乱入で一気に状況が変わる。
あっという間にみずきが追い込まれる結果になった。
ユーベルコードを発動させ、限界以上の力で再び優位になるが
首枷をはめられ、動きを制限されたことであと一歩で時間切れとなった。
その後の敵の動きは苛烈なものとなった。
炎の枷で首と四肢をそれぞれのリングの四隅に繋がれ、浮き上がる形で
リングに磔にされてしまうこととなった。
その姿はカメラを通して大勢の観客に見せつけられる。
敵はそのまま浮き上がった体を次々に殴りつけ、
観客のリクエストに答える形で嬲り続ける。
それでもギブアップの言葉を言うことなく耐え続けるみずき。
その戦いは興行的には大人気のようであった。
――ゴギィッ!!
みずきの視界が不意に、しかし取り返しのつかない形に歪む。相手へ組み付き、完全に優位に立っていた最中での、首への蹴りだった。
殴り合いでは圧倒的に有利だった。ビブリオバトラーツの過激とも言える訓練の成果、賜物が結実し、並み居る燃焼系アスリートをタイマンで次々に撃破していく。その猟兵の勇姿をよく思わないのが闇の競技者の邪念だ。狂い果てるほどの妄執が、猛攻を繰り出すみずきと燃焼系アスリートの間に割って入る飛び蹴りという暴行に結びついた。
「がハッ?!」
遠景に、愛する姉の後ろ姿が過ぎる。脳裏に警鐘が鳴り響き、首の軋みが、それを応えてはいけない呼び声なのだと払拭させた。
数瞬のうちに遠ざかった意識を覚醒させると、衝撃の正体を掴みリング外へ投げ飛ばした。勢いよくかっ飛んでいく卑怯者へ、吠える。
「ぐ……あいにく私はサイボーグよ……多少の熱で倒せると思わないことね!」
「負け惜しみを!」
「ですがその負け惜しみ、むしろ素晴らしい根性ですッ。小細工抜きにして、燃え上がりましょうッ!!」
熱い視線がみずきの全身をザクザクと射抜いた時に、異変は起こった。
女神の力を宿した心臓が、四肢へのエネルギーを増幅させていないのだ。言うなれば不完全燃焼の状態。行き場を無くしたエネルギーに逆に苦しめられるかのように、呼吸するのも困難な様子で膝を折ってしまう。怪訝な顔をするレフェリーを嗜めて、乱入した燃焼系アスリートを束ねた悪の手先たちは、苦難に喘ぐみずきの胸ぐらを掴んだ。
「これが限界でしょうか?! その頑張り認めてあげなくもないですがねッ」
「う……あああっ」
「く。まだ動けますか!」
「アレを使いますッ、早く!」
忍び寄る魔の手、あの手この手を払い退けて、二、三人を瞬く間に薙ぎ倒す。だが燃焼系アスリートたちは不敵な笑みを崩さない。むしろ数に任せて物量差で押しつぶす算段に、見事に乗っかってくれているみずきを嘲笑う体たらくである。
第一、払い退けるだけでもダメージを負いかねない、凄まじい熱量を常時放っているのだ。その上でユーベルコードを封じられるまでじっくりと加熱しながら、勝機を完全にモノにするまで時間稼ぎをしている。レフェリーも熱に呑まれるのを嫌って消極さを槍玉にあげることはしない。だからこそ闇のレスラーたちに千載一遇のチャンスが訪れる。
女神の心臓がいよいよ不調をきたしたその時、首に炎の枷を縛り付けたのだ。
「ヅッ?!」
圧倒的に有利な状態からの苦境。それだけでも屈辱的なのに、よもや物量差で圧力をかけてくるような小物に、まさかの拘束を許してしまった。首に焼け付く熱の痛みが迸る。そのままでは鉄の腕さえも焼き切りそうな容赦ない温度に思わず呻いた。奥歯が擦りあったかのような、悲鳴を噛み殺す。
だが、噛まぬよう舌を巻いた拍子に、リングに頭部を叩きつけられる勢いで引っ張られた。頬でリングの上をなぞると、擦り上げられた衣服が火の粉を浴びて焦げ臭い香りを漂わせる。
「そのコスチューム、よほど大切にしているんですねッ」
「綺麗に剥ぎ取って差し上げますよ。感謝してください!」
あれよあれよという間に姉の形見をひん剥かれ、リング外に投げ捨てられる。リングに横たわりながらコスチュームを奪い取られる屈辱に歯軋りしながら睨みつける。
第一乱入ありのルールとはいえ、一人に対して何人も寄ってたかっての乱暴狼藉。
「……許さない、スポーツマンシップはどうしたの」
「だから『全力』で戦うと言った!」
ニヤニヤと、みずきの最も嫌う下卑た笑みを情熱の表皮で隠しながら、嘯く。
全力を手段を選ばないやり方で引き出し、灰にするまでじっくりと加熱するのが闇の力に溺れた燃焼系アスリートの好む方法だ。ともすれば拷問に近い戦況を構築する。レフェリーも何か物申そうとすれば炎で取り囲んで熱気を取り込ませ、完全に試合を手中に収めていた。コントロール下にあるのは試合だけでなく、首枷に呻くみずきの行く末もだ。
よく見れば首枷にはリードが繋がっている。これを引っ張るだけで炎で首を焼き切られるか、這い這いの視線で頭を垂れて屈服するかの択を迫れるといった寸法だ。
――ボウォオオウ……ぐいっ!
「い゛ッ?!」
「お散歩の時間ですよッ!」
時折無防備な脇腹に蹴り上げを加えながら、ぐるーりとゆっくりリングの上を一周する。
「ふーっ……ふーっ、ふぅううう……」
「どうやら人工臓器の時間切れの様子」
「ですがここからが頑張りどころですよ、もっと熱くなりましょうよッ!」
息を荒げるみずきの苦悶がサディスティックな気分を一層高揚させる最高のスパイスだ。コーナーポストのそばで両手をつく彼女に更なる屈辱を与えるべく、片足に新たな炎の枷が取り付けられる。首の戒めだけでも相当に苦しいのに、新たに足先までが灼熱に包まれる。やがて枷がゆっくりとポストの先端まで動いた。意図しない開脚を強要される。
「この姿勢……そんな、これ、まるで……いやっ、見ないで……!」
「は。見ないでだなんて烏滸がましいッ」
散歩中に粗相をする愛犬の姿勢を人間がとっている。恥ずかしさの極致のような状態でしばらく静止し、突き立つ観客の視線と怒声に力の流動を止めた胸の辺りがじぐじく不穏な熱を帯びる。
「見られると興奮してしまいますか? こんな変態に生まれてご家族もさぞ苦労したでしょうねッ」
「なっ、姉は関係ない……っ!」
「……姉?」
「いやっ、あ、ちが……」
「ともかく、聖典だかなんだかほざいてる皆さんに、思い知らせてやらないと。つまり好都合ッ、見せしめにしてあげますからねッ!!」
反射的にそう口走ってしまったが、燃焼系アスリートは軽く聞き流したようだ。待っていても一向に用を足す様子のないみずきを見かねて、更なる拷問にかけようと残りの四肢にも炎の枷が掛される。
みずきの体が空中へ浮き上がり静止する。枷を外そうと手をかけるも炎で反実体化した枷が鉄腕の力技で外せる道理はない。むしろ抵抗すればするほど首は強く絞まるようで、息苦しさにぱたぱたと足をバタつかせる様子は陸地に打ち上げられた魚のように見窄らしい。四肢を換装し、臓腑を女神の祝福に守られても、鰓呼吸になるわけではない。いつの間にかこのリングは、競技をする場から、小生意気な復讐鬼に対する公開拷問場に変じていた。
――ゴリっ……!
「――ぎいッ!? ……!」
薄皮一枚にも劣る心許ない支えに揺られ、重力に逆らってハリと弾力を保つ胸部の神経に、硬く重い炎の拳が打ち付けられる。目を白黒させながら、わらわらと集まってきたアスリートたち。全員がヒソヒソと小声で話しどこを痛めつけようかと相談している様子だ。悪趣味……! 義憤が燃え上がるが、四肢に首まで拘束されていては噛み付けない。
興奮に息を荒げながら広げた手のひらの小指でみずきの股の間を軽くなぞる。一番敏感な箇所に突きつけられた激る死刑宣告を、目を見開いて怯えながら凝視する。急所を燃やされる痛みを覚悟して息を呑むみずきだったが、それを燃焼系アスリートの提案が遮った。
「先に断っておきますが、ギブアップしても構いませんから! しかし、その時は試合自体の放棄と見做しますッ! つまり、おたくら団体は敗北、解散、二度とリングには上がらせませんッ」
「ッ、そんな無茶苦茶……!」
「我々の本気を甘く見ていたそちらの落ち度でしょうッ、ではせいぜい耐えてください、根性見せてくださいッ!!」
感度を確かめるように股間を恥骨が軋むほど強く握られ、みずきは苦悶の声を漏らした。
来る、とわかっていれば耐えられないことはない。訓練してきたし、静かに闘志を燃やして反撃の機会をうかがうのは慣れっこだから。自分の武器は頑丈さ、それに裏打ちされた折れない心だから。
――ヒュッ……ズゴっ!!
「ふごっほぉおおっ!?」
彼女の身体を激しい衝撃が突き抜ける。闇のレスラーは勢いよく拳を突き出し、両脚の付け根、股間を殴りつけたのだ。鍛えられるはずもない箇所への強烈な打突に、たった一撃で決心が揺らぎそうになる。
――ガスっ!!
「んっ……があっ?!」
「どうしました? 根性見せましょう? 見せるまで殴ってあげますからッ」
両脚を掴まれて股を限界まで裂かれ、その無防備な股間に二度三度の拳を打ち込む。身体が浮き上がるほどの衝撃を逃しきれず、胸がゆさゆさと揺れて顔にはみるみるうちに堪えきれない苦痛が見え隠れする。
弱点を見つけたとニヤつく悪のアスリートは、180度広げられた下半身の方を少し持ち上げると、その無防備な股間にストンピングを繰り出す。恥辱を与えられても抵抗ままならず、汗を流しながら顔を歪めることしかできない。
「あひっ……! お゛お゛っ、は……」
――メギっ……ゴリッ、ゴリュ、グリリッ……!!
「ひっ……むぐっ、んむ、んぅ……!」
「襟を噛んで声を出さないようにしていますッ! 素晴らしい!」
「今のうちに観客皆さんの熱意を回収しましょう。この方がどんな目に遭うか、期待の中身に応えるのがレスラーですからッ!」
がっちりと歯噛みして少しでも悲鳴を出さないように全身に力を入れて堪え続ける。ぶふーっと鼻息まで荒くなってしまい全身の毛穴に至るまで、注力してなけなしの女神の力を巡らせた。
特に晒されて視線の突き立つ胸へ力を込める。母乳を生産するために、女性の胸には他の組織よりも多くの血管が集まっている。その血管や乳腺を守るために、分厚い脂肪が覆っているのが人体の構造だ。いわば急所中の急所を守るべく防御を集中しているといえる。そして、悪役レスラーにとって目につくそこは格好の的でもあった。
剥き出しの腹部、胸、それは股間以上に垂涎の極上の獲物。人参を鼻先にぶら下げられた駄馬の如くみずきの腹部目掛けて猛進し、拳を握った。
――ずんっっ……!!
「ぶっ、げえええええーッ?!」
深く深く臓腑を抉られる。当たった瞬間拳が捻られ、体内が炎でシェイクされ、ぐりんっと裏返ったかのような気さえした。目眩と同時に、猛烈な吐き気が襲いかかる。首の向きすら変えることもおぼつかず、ただただ動かない手足をジタバタさせた。お腹に浮かんだ痛々しい拳の痕と、飛び散る汗の量が加速度的に増え、返り血めいて飛び散った汗を拭って、ふぅと蒸発させる。
「また弱点を発見ですッ」
「全身弱点だらけで、お姉さんに申し訳ないと思わないんですかッ!?」
繰り返しになるが、嬉々として騒ぎ立てるアスリートたちも特にその身辺調査を念入りに行ったわけではなく、単なる揚げ足取りのひとつにすぎない。いわゆる口撃、それもお粗末なものだが、結果的にはみずきに一番の大ダメージを与えた結果となる。カメラを通して大勢の観客に見せつけられる痴態は、しかしまだまだ降参の文字を口にしない。
できないのだ。どれほど辱められても、したくても己だけの敗北でない以上、甘んじて受け耐える以外の手立てがない。
「黙って……!」
――ドボ、ぢゅぢゅンッ……!!
「お゛ぁ……!? あ゛ーっ……! う゛ーぅ゛~っ……!」
炎の拳がみずきの腹部にめり込み、手のひらの形の焼け跡を刻んだ後、体内に熱量を送り込む。貫通していく焦げるようなジワジワ広がる痛みが、まともな言葉さえ発せなくなるほどの苦痛へと変わり、やがてその苦痛も地獄を思わせる絶望感に変じる。腹の皮に血管が浮き上がり、皮膚がみちみちと今にも張り裂けそうだ。
――ずんっ……! どすんっ……! ぼぐぎゅっ……!!
「ぐエ゛、あ゛っ
……!?」
それがなんだというのか。肉体の悲鳴など聞き飽きた。もっと猟奇的な、血が燃え盛って蒸発するような苛烈な戦況を観客だって望んでいる。スプラッタでバイオレンス、この握りしめた炎の塊を何度も、何度も腹部に打ちつけてこそ得られる歓声――ただただを屈服するまで殴り続ける。暴の力で、心の矜持やらプライドやら正義感やらが折れるまで、圧倒し続ける。数も時には暴力だ。闇の力に魅入られた燃焼系アスリートはいくらでもいる。
ついに、炎の枷で首と四肢をそれぞれのコーナーポストに繋がれ、浮き上がる形でリングに四隅から磔にされてしまうこととなった。少しでも身を捩れば丸焼きにでもなってしまいそうな緊迫感に、爪でリングを引っかけるようにして、ほとんど死に物狂いだった。それでも届かない。そんないじらしい様子を嘲笑う数多の視線、蔑視の嵐だ。
「諦めなければなんとかなりますよ。まさか降参なんてしない……ですよね?!」
「ぐ……く……ッ!」
振り翳されるのはあまりにも強権的な理論。言葉での反抗も封じられ、できることといえば爪が食い込むほど強く拳を握りしめ、とにかくその場から動かないように耐えるくらいだった。
形のいい小鼻が豚のように歪んで、その入り口をぴったりと塞がれた。犯人は決まっている。炎の指で器用に掴んでゆさゆさと顔を揺らしてみせる。
「あががががっ?! あ、がぁ……ッ?!」
「皆さんもこの子が虐め抜かれて、耐えるところが見たいですよねぇッ?!」
「うんうん。いいリアクション! では続けましょうか」
裏を返せば、彼女らにみずきへの決定打がないこともまた事実。いかに高い火力といえど鉄塊を融解させるほどの温度を放つことは難しい。ギブアップを引き出す他勝つすべがない以上、これは心を手折る戦いに主目的がすり替わっている。あくまで観客の、それもごく一部の過激な観客の声を汲み取ったという体裁で、みずきをめちゃくちゃに蹂躙する。
鼻血を垂らし、頬や瞼を腫らし、全身を火傷に晒されながら、それでもギブアップの言葉を言うことなく必死に耐え続ける。燃焼系アスリートが根負けするまでの途方もない時間、熱狂に包まれた興行は、きっと大成功であった――と、言えるだろう。
成功
🔵🔵🔴
菫宮・理緒
NGなし、アドリブ・ハード大歓迎。
これが本番の雰囲気……(飲まれ気味)
気合いは十分だったけど、ダークとはいえさすがは百戦錬磨のレスラーたち、
試合開始、ロックアップに行こうとしたところをスかされて、相手にペースを握られてしまうね。
組んだけど、綺麗に投げを決められ、
素早く立ち上がってみせたけど、そこに打撃をもらってしまうね。
強烈な打撃を何発も喰らって、ダウンしたところでグラウンドにもちこまれると、
関節技を極められ、タップ寸前で外されることを繰り返されて、鳴かされ、
グラウンドの打撃を腋や股に叩き込まれて、いろいろ滲んでしまったところを
さらに恥ずかし固めや吊り天井で、アソコや胸をモロ見え状態で晒されてしまうね。
『攻め』というより『責め』な攻撃を受け続けて、熱さと痛さに生来のMッ気から痙攣してしまいそうになるけど、
セコンドから「勝ってみせろ」と命令され、【マスターズ・オーダー】で覚醒。
相手のサブミッションから抜けだし、スタンディングに持ち込むと、
打撃を躱してからのサブミッションで、反撃に転ずるね。
燃える炎の顔面に空いている空間のスキマが、ニヤつく嘲笑なのだと、理緒の洞察眼はすぐさま気づいていた。「相手の、相手のペースに惑わされることはないですよ」「必要に応じて合図してください」と、格闘司書団「ビブリオバトラーツ」団長、千愛は言って理緒をリング上へ送り出した。
正直、闇の力に魅入られてしまったアスリートの邪悪さを甘く見てしまっていたところではある。まさに最初のロックアップをいなされて、倒れ伏してしまったところである。勢いよくつんのめって尻を突き出す屈辱的なポーズ。見上げた先にある表情。
「こう見えて……したたかなんだねー」
人を見かけで判断してはいけない。燃焼系アスリートがスポーツマンシップに則る戦い方、筋書き通りに運ぶかなんてわかるべくもない。頬で味わうリングの感触が、帰って意識を鮮明にさせる。意識してはいなかったがこの逸る気持ちは、興行に立ったという本番独特の雰囲気に呑まれていたのかもしれない。
だが、甘く見てしまったが、実は無類の辛党だ。ラフな戦いでも心得ているし、弁えている!
――ぶわっ……!!
「え?」
「どぅりゃーッ!」
立ち向かい今度こそ組んだ! と思った次の瞬間、捻りあげられ投げ飛ばされていた。言葉にすると今の通りだが、理緒らしい見識ある解答には全くならず、頭言葉に「わけもわからないまま」とつけても差し支えなさそうな、綺麗な投げ技で叩きつけられてしまう。今度は首から落ちたため受け身をとっても痺れでジンジンする。脳を揺らさないようにしながら、苦しみに後頭部を抱えた。
「ぐ、ううっう……!」
「どうしましたッ。気合いで立ち上がってください! もっと熱くなりましょうよッ! 気持ちよく倒されるために、この炎の拳にッ!!」
ばうんっとバウンドして立ち上がる、が、ストレートに繰り出される、燃焼系アスリートの掌底。立ち上がったばかりの柔らかい腹にめり込んだ。
――ズドッ……!
「ふ……ん゛ぉうッ!」
「もう一発!」
――どすゥッ!!
「あぉお゛ッ
……?!」
眉がひっくり返りそうな程に忍耐と苦悶のない混ぜになった感情を露わにする。感情が背筋を駆け上がり喉をこじ開け、何か言いたげに、垂れた汗に濡れた唇が歪んだ。それでも叫び出さず堪える。
「ご、ほ……くぁッ! はぁッ、はぁッ……ゲホ!」
「そんなに熱くて痛くて苦しかったですかッ。筋肉だけではガードできない、貫通する熱量が直接臓腑を焼いて抉っただけですのに! そう、耐える方法は気合いしかないということですよッ!」
燃焼系アスリートの下卑た視線は、なんとか体を縮こめて隠そうとしているが、はっきりと爛れた痕を残している理緒の腹を見てご満悦だった。
ただ熱く、競技に熱中すること、例えば敵愾心だったり怒りだったり、競技の熱中の妨げになるようなことを考えている対象は耐久力が激減する。猟兵といえど、削られた防御のまま鍛えようのない臓腑を燃やされるのは我慢できない苦しみのはずだ。
――ドスゥッ! メリメリ……!
脳髄が痺れで破裂しそうになり、両足の関節が小鹿のように悪寒を訴える。理緒の足は、たちまち愛らしい内股姿勢にさせられてしまう。本来なら耐えられるはずだという自負とのギャップが集中力を奪い、鈍った考えは反撃の機会さえも喪失させる。
「え、おッ……はァ゛! ン゛ッ……くふぅ……ッ!」
「まだまだッ! おらッ、無様に泣いてもらいますよッ!」
――ゴスッ、ボゴッ……メリメリィッ!
「なっ、あぁっ、あはァああアっ!?」
「ん。今の感触は……こうですかッ!」
「うあぁっ、あぁアッ……!? む、むねぇ……んんはぁああああっ
……!!」
熱した棒を押し付けられるように入念に胸板を殴られ、スレンダーな乳肉に熱塊の鉄拳が沈んでいく。身体を未知の激感が駆け巡り、痛みとも快感とも取れる感覚に絶叫することしかできない。
「ははっ、いい反応ですね。焼け焦げて大切な部分が丸見えになっていますよッ、まさか興奮したのですか、興行の真っ最中、観客皆さんの目の前で!」
「ち、ちが……っ、わたし、はっ、あぁはぁあっ!? あんっ! はぁっ、はぁっ……」
――ゴスッ! ゴツっ!! バチン、ベジっ……じゅううぅうう!!
「ぎいッ?! あっ、んぁああ?! あ゛ァ゛ーッ?!」
必死に抵抗と反論を試みたが、もう片方の乳を力尽くでガツゴツと殴られると理緒は反論すらできず、自らの胸を抱いて喘ぐことしかできない。
痛みを和らげようと手を添えても、激感が高まるばかりで何の意味もなく、むしろ火傷でジンジンと疼く敏感さは増す一方であった。
引き裂かれた悲鳴を取り繕う間もなく、ぐい、と間合いを燃焼系アスリートの元に引き寄せられる。意識を、主導権を握られたまま、脚に引っ張られて彼女の方向へと身体が傾く。もはや均衡も何もない。ただ、ただ理緒を屈辱の極致に味合わせる準備が瞬く間に整えられる。
まるで狩り、蟷螂が獲物を引き寄せるような、いわゆる「マンティス・ヒール」の動きをしつつ、そのまま理緒の肩に脚を乗せたままぐいと跳び、彼女の身体を巻き込むように後転する。
「おらッ」
「ぐ、うぁ?!」
その勢いのまま背中から叩きつけられる。肺の中身を存分に吐き出すと、灼熱の腕が理緒の足を持ち上げたまま直立していることに気がついた。持ち上げたまま笑って、静観している。まるでこの足を己の胸先三寸で自在にできるのだと誇示するかのような、澱んだ心意気が見て取れる笑みだ。
「うぐッ?!」と呻く声が漏れる中、むんずと右足を取り、持ち上げる。その顔の喜色はますます濃くなっていく。ひたすらボルテージの熱量を上げつつ、ただただ次なる悲鳴の理由を求めるままだ。
「ど、どうするつもり?!」
「焦らずとも体に教えてあげますよッ」
目視したのは自身の右脚を抱えて立つ燃焼系アスリートの姿……いや、正確には立って「いた」というべきか。後方に、地面へと倒れ込もうとしていたのだから。持ち上げた足と、その姿勢を見遣る。
理緒の右脚を抱えたままだ……!
――メキメキメリ゛ッ゛!!
「オ゛ッ゛、ふォ゛ぉぉっ゛!?」
倒れ込んだ闇のレスラーはそのままの勢いで理緒の右脚を開脚させるように広げつつ、彼女の右脚、膝を猛烈な勢いで極めていく。
「止めてほしいですかッ?!」
「はぁ……ぜェ……えっ」
「答えはどちら?! さあさあッ」
「んギッいぃいい?!」
べきべきっ、と嫌な音を右脚から響かせつつ、理緒は唇を尖らせて悲鳴を上げて、答える間もなく、激しく震える。
関節技を極められ、タップ寸前で外されることを繰り返されて、制止されるギリギリを見極められ、鳴かされる。もっともジャッジを下す人物を炎で意図的に話しているのだ。実質独壇場である。数分が永遠に引き延ばされるほどの鮮烈な苦痛だ。大きく開脚された理緒の股間、その体に密着したコスチュームに覆われた恥部が、激しく激痛に上下する様はとてつもなく情欲を掻き立てるものだ。観客たちの食い入るような視線に、ずんくずっくと下腹部が別の熱さを帯びてしまう。
――ギリリッギジ……メギッ!!
「あギん?!」
やがて理緒の右脚を掴んだまま立ち上がり、股間部の秘布を綺麗に焼き払うと、そこへさらなる追撃を加える。燃焼系アスリートは己の右脚を上げ、その足底を剥き出しの股間近く、左脚の内腿へと捻る。
理緒の狂乱の悲鳴をよそに、無慈悲に内腿に叩き落される足。そうして全身の体重をかけると同時に、理緒の右脚を引っ張りながら捻り上げた。
当たり前のことだが人体構造上絶対に取り得ない姿勢である。あらぬ方向を向けさせられた脚が向かえる末路は一つしかない。
――ゴキャッ
…………!!
「あああ゛あ゛あ゛ンっ!!」
無理やりに外された音。当の本人の理緒でさえ、自身の股関節が外されたことに気づくのに、痛みを以て気付かされたほどであった。あまりに鮮やかで、現実離れした痛み。まるで、夢心地の、全身を抱擁する疼きに語尾が蕩けていく。
「い゛ああ゛あ゛ァ゛ァッ゛!?」
血、鼻水、涙、唾液、あらゆるものを撒き散らして激痛に泣き叫ぶ。
炎の万力による強制開脚と股関節外しという、残虐な関節技のオンパレードだ。熱と恥辱の二重奏で理緒の尊厳は破壊され、体に力が入らない。
隙だらけの腋にするりと手が差し込まれる。乱入した控えの燃焼系アスリートが理緒の体を持ち上げたのだ。もはや自分の足で立ち上がることすら困難な状態で、抵抗できるはずもない。だらしなく広げられた大股が、一人目の燃焼系アスリートの膝立ちした足に叩きつけられることになる。
――ボグァ!!
「うがっ……があああああ!」
不自然な方向に力を加えられて皮膚が歪み、内部はぐしゃぐしゃになってしまっている。襲いかかるのは再び恥骨を強打したことによる鈍痛。
「あっぢゃああッ?! あぁ゛ああ゛ンッ゛!!」
さらに熱! 灼熱! 文字通り、隠すものも守るものもない恥部に待ち受ける、変則的な膝突きだ。
三角木馬に腰掛ける方が幾分かマシかと思わせるほどの、豪炎の腰掛け。痛みだけでなく熱が急所を襲った。
薙ぐように舐めた炎が次いで胸元を焦がしていく。生暖かい会場の熱気が直に当たる。理緒の秘すべき箇所を守るコスチュームはついに焼き払われてしまった。原型をとどめつつ胸と秘処とだけを綺麗にまるっと晒している姿がかえって淫靡な雰囲気を助長させた。両方をかき抱きながら、喘ぐ。
「お、ぉ……お……ほぉお゛……っ」
普段の、物語に思いを馳せる、瀟洒な電脳潜航者の姿はどこにもなかった。興行に託けて痛めつけられ観客の前で辱めを受け続ける、悲劇の被害者。好意的に見てもそんな形容がせいぜいで、ただただ惨めというほかない。
そして、そんな苦境が、理緒の倒錯した感情を沸々と刺激する。口元からたらんと垂れた涎を拭い、どこか期待に満ちた視線で燃焼系アスリートを睨んだ。観客には視線に秘めた期待や羨望の画像は見とれなかったことだろう。単なる闘志に見えたはずだ。
ゆえに、差し支えなく、試合は続行される。
「低俗で下品なその本性、燃える炎で詳らかにしましょうッ! もっと熱くなりましょうよッ!!」
燃焼系アスリートの猛攻は止まらない。動けず呻き、うつ伏せに寝転がっている理緒を、無理やり立ち上がらせ、リバースフルネルソンの体制を取る。
そのまま後転しお腹の上に乗せ、逆さまの理緒の足の内側に己の灼熱の足を入れ、理緒の足に引っ掛けて開脚をさせた。いわゆるNEOマシンガンズ式と呼ばれる、恥辱技を鮮やかに決める。
――ビキビキィッ……めぎっ、ぶぢっ!!
「いっ、いやァア!?」
コスチュームのスカートが捲れ上がり下着全開の状態ならまだしも、生まれたままの姿をその場の全員に晒される。慌てて閉じようとするが、少し身を捩る程度で足を閉じることができない。何より関節の外れた足は無理に動かそうとすると激痛が走り、それだけで目尻に涙が浮かぶ有り様であった。
やめるよう懇願する理緒をしり目に、燃焼系アスリートはさらに足を開き、限界まで開脚させる。
「やめっ、やめぇえ゛エ゛エ゛ッ゛!? んぁあぉおおッ!!」
そこからは更なる地獄への一本道だ。苦し紛れにタップしたり解かれたところを再び恥辱技をかけられる。
中でも苦しいのは後方にそれぞれ四肢を拘束され、胴体を吊り上げられるような苦しい体勢、いわゆる吊り天井固め、ロメロ・スペシャルである。
押し上げられている太ももと固定されたつま先との間で、ふくらはぎが極まる至極の拷問技だ。筋繊維が密集している秘部が衆目に晒され、内から溢れる蜜がとろとろと湧き水のように迸る。体を支える腰、背中、極められている腕、負担が全身に及び、その責めに受け手は苦痛を軽減する工夫の余地を与えられず絶対的な支配下に置かれるのだ。
――めぎり、ごりゅ、ゴギン!
「はぅぅん!」
「どうやら声が甘くなってきた様子、ギブアップしますかッ! 結構、その場合そちら方全員が勝負を投げたものと見做します。いいですねッ」
やがてずしんとパワーボムめいて投げ出される。崩れ落ちた理緒はひくひくと、下半身を痙攣させながら無様に喘ぐのみである。
「おぉお……ほぉ……んんっ!」
「ああ……」
たまらずタオルを投げ込もうとして、その手を己の手で止める。セコンドもまた必死だ。その代わりに声を張り上げた。届くかもわからない声を必死に、恥も外聞もかなぐり捨てて叫んだ!
「勝ってみせろ……立って、勝ちましょう!」
かっと理緒の瞳が見開かられる。声は届いた。受託。それがトリガーである。再び関節技のセットアップに入っていた燃焼系アスリートは、その体のどこから膂力が溢れるかと生唾を飲んだ。恐ろしいと恐怖さえする。
その足でなぜ立てる? と問う。何を吹き込まれた? と怯える。
「――御下命、仰せつかります」
ぎらりと、煌々輝く瞳が突き出される拳を掴み、文字通りに「捩じ伏せる」。断末魔の叫びすらない、瞬殺であった。
「ぎアッん!?」
「……油断したねー。最後まで立ってるのはわたしだよ」
反撃の狼煙は、時に静かに上がる。変わった流れは傾くことなく、また一人、静かに猟兵は勝利を手にしていくのであった。
成功
🔵🔵🔴
メアリー・ベスレム
正々堂々とした勝負?
子供の火遊びの間違いじゃない?
それに厭だわ、あなた達焦げ臭いったら!
……あら、お気に召さなかった?
せっかくお望み通り、もっと
熱くさせてあげたのに!
そう【挑発】してから試合に臨む
燃える敵に触れられないよう
【逃げ足】活かして立ち回り
頭はあくまで冷静に、反撃の機会を伺うけれど……
気付けば熱と酸欠で、朦朧として隙を晒してしまう
【誘惑】するように身を捩れば
敵はまるで熱に浮かされたよう
一方的に攻め立てられる
……ああ、だけれどお生憎様
そうやって
熱に呑まれてペースを崩すのは
メアリのスタイルじゃないの
復讐するその瞬間まで冷静に、冷酷に
【継戦能力】【激痛耐性】耐え続ける
それでこそ甘美な復讐が味わえるんだから
ねえ、あなた達……
ちょっと
頭を冷やした方がいいんじゃない?
メアリが【凍てつく牙】で急速に冷やしてあげる!
これできっと敵も命令を破った事になるでしょう?
次はメアリが復讐する番!
もちろん殺しはしないけど
熱を。さらに熱を。激る情熱を。
そう思うほどに、嬲る手足に力が籠る。
――ぐにっぐにぃいい……ジュウウ!!
「オ゛ッ!?」
――ぐに゛ゅ! グジュウウッ!!
「オ゛……エ゛ッ! オ゛オ゛っ! グェえッ!」
燃焼系アスリートの指がメアリーの口に突っ込まれてしまい、満足に話すことすらままならない。そのまま彼女の舌を指で挟んでぐりぐりと握りつぶしたのである。
その指は、煌々と燃えていた。
あまりの痛みに彼女は、嗚咽をもらす。
「先ほどまで小生意気なことを言ってたのは、この口ですかッ?」
「あン゛あひ、おへ……!」
彼女の声を聞いてより熱狂したのか、高温の指に力を入れて舌を引っ張る。人体構造上引っ張ることができるさらなる異物感に彼女はけたたましい声を吐き続ける。
燃焼系アスリートの指はベチャベチャになっていたが、構わず彼女の口内へと侵入していく。
「ア゛ヴェッ?! えェ゛ゥ゛ッ!?」
正々堂々とした勝負?
子供の火遊びの間違いじゃない?
そう言って、笑い、やぁだ焦げ臭いったら! と鼻を摘んで、もう片方の手で立てた手を振る「これ見よがし」のジェスチャーに、燃焼系アスリートは憤懣冷めぬ心地で吠えた。「もっと熱くなりましょうよッ!」と、叫喚した。あくまでこれは命令だ。そして競技に託けて嘲笑う弱い兎を駆り立てる宣言でもある。
炎が立つ。顔面が熱い。メアリーの目の前に細い線煙が立つ。乱れて、けばだった青白い前髪が、燃焼し煙に変わってく。
「ほら。新しい白煙がもうもうとッ」
「んぁあう! このっ」
無理やり引き剥がして距離を取る。燃え立つ肉体相手に身軽さで立ち向かうが、鼻をえぐるような強烈な焦げ臭さに視界が滲むばかり。爛れた舌は戻すこともままならずアヒアヒとだらしなく垂らしている。
視界には燃え盛る闇のアスリートが幾人もいる。
「ハアッハアッ……なぁに? よってたかって捕まえようって魂胆かしら」
「ふ。さてどうでしょうかッ!?」
はてと首を傾げる。カサカサの唇が糾弾しようとして、やめた。本当に複数人リングに上がってきているのか、無意識のうちに熱と酸欠で頭がぼうっとしているのか今のメアリーには判断つかなかったからだ。
しかし、スピードで撹乱する戦い方に対し、放熱により持久力を奪い、問いかけにより耐久力を削ぐやり方は相性が悪い。見た目とは裏腹にクレバーな戦い方もいやらしい。
トップロープの弾力を活かし、果敢にも飛びかかる。
「おかえし!」
「がふッ?!」
強烈なヒップアタックを顔面へお見舞いする。脳震盪気味にふらつく燃焼系アスリート。怯んだのはもちろん、燃え盛る炎へ臀部を押し付けるという強心臓ぶりに気圧されたのだ。同時に、フェロモンじみて捩りつつ距離を再び取れば、果たしてどちらが熱に浮かされたと言えるのやら。
思わず口汚い言葉がこぼれ出る。
「このガキがッ! 根性焼きしてやりますよッ」
そのまま倒れこみそうになるのを見事なブリッジで耐え、押し返す。リングにバウンドするほどに叩きつけられたメアリーを尻目に、コーナーポストへ素早くよじ登る。
ぐんと手を後ろに振り抜いた後、戻る勢いそのままに全身をメアリーに叩きつけた。
――ゴオシャァ!!
「いッ?!」
見事な弧を描き宙を舞う燃焼系アスリート。いわゆるダイビング・クロスボディーが炸裂する。
焼かれた鉄の巨槌で殴り抜かれた衝撃に、背中と腰に強烈な痛みが走る。
「ハァ……げほッ……アリスをそのまま料理しようって魂胆かしら。お生憎様、簡単に食べられてあげないから」
「ここを料理ショーか何かと勘違いしていませんかッ! 雑魚をじっくり料理している暇なんてありませんよ、観客が退屈してしまうッ」
火遊びと嘲った手前、なかなかの火力にメアリーのコスチュームは背中から尻にかけて焼け焦げて、前から見れば着込んでいるのに背後は綺麗に丸出しという滑稽極まりない姿を晒している。素肌に炎で化粧してあげましょうかッ、と完全に調子に乗ったアスリートに対し、黙したままそのつるんとした臀部を見せて、ふりふり振って「魅せ」る。
ぶち、と血液が沸騰し、目にも止まらぬスピードで掴みかかっていた。
「上の次は、下ですねッ」
「あっ、ダメよそこは……っ!」
――ぐりっ……ぐぼっ、グりりッ!!
「あッ!? あ゛ッああッあッ、あぁアッ?!」
燃え盛る太指が潜り込み、メアリーの尾てい骨を指で強引に圧搾したのだ。
もたれ掛かられる熱などもはや関係ない。灸を据えるという言葉があるが、彼女がされているのは生きた体が全身で仕掛けるそれだ。その苦痛と快感に甘い悲鳴が反響する。悶えれば悶えるほどに、反抗すればするほどに、メアリーの華奢な体がガクガクと激揺する。同時に白い太ももは汗に濡れながらぶるりと震え、握りしめられた掌が何度もリングを殴りつける。
……動かなくなった。否、痙攣しながら、可憐な唇は涎を溢しながら震えて、目からは涙を滂沱と流している。
――びくんっ、びく、びくんっ!!
「らめッそこらめっ! アリスのしょこ、穿らないれえ……!」
「狸寝入りとは……バカにしてッ」
気に食わない態度だったのだろう。矯正させようとする暴力に、何度も何度も海老反りしながら、メアリーは悲鳴をあげた。しなやかな半裸身は汗を弾き飛ばし、露わになった秘処はとろとろと垂れ流しになってしまう。
イヤイヤをするように頭を振り、しなやかな背中をこれでもかと見せつけながら、這いつくばる。脱力した体は関節技を仕掛けるには絶好だ。
メアリーはなんとか下腹部を抱えるようにして防御姿勢をとるが、狩人の狙いは、抱えているそこではなく機動力の要であるこの脚。燃え盛る自身の左脚をメアリーの左脚に絡め、彼女の足首を抱えて引っこ抜くように反り返りながら……極める!
――ビキビキビキッ!!
「あっ、あぁああぁゥッ゛?!」
一瞬、電撃が走ったかと錯覚した。足首にかけられた関節技に、痛みで口内にしまうこともできない舌を噛んでしまって無様に悶絶する。普段なら転がり回る勢いのまま立ち上がって反撃するのだが、左足に力が入らない。火傷だけでなく、熱を帯びているにもかかわらず、体の奥底は冷え切っていく感覚。
生意気な尻だ。だらしない肉だ。焼き払いじゅうじゅう音を立ててのたうちまわるまで、わからせてやらなければならない。世界の広さを、その媚肉に思い知らせる責務が、敵対者にはあった。
関節技責めは、終わらない。身悶えするメアリーの右足の付け根を両足でしっかりロックすると、その足をまっすぐにすると同時に腰を出していく。体ごと後方へ反り返るような抱きかかえに、逃れる術はない。完璧な膝十字固めであった。
――ぼ……ギュ゛ッ!!
「ア゛っ゛……ぎゃあああ゛ア゛っ!!」
技が極まれば、相手の膝が可動域の反対方向に折れ曲がる形になる、非常に危険な技だ。それを加熱と同時に与える、まさしく必殺の域に達している。アリスは自らの生命の火を陰らせ、生命の危機に直面していた。可動域の遥か逆方向へ折り曲げられる膝、黒に近い紫色に染まってしまった足首……べえと垂れ出た舌に、眼光だけが煌々と輝き、哀れというよりは不気味な様相と成り果てている。
異様ではあるがバトンタッチするほどではない。リング外の身内はすぐに応援できる。己の燃える魂はこれでもかと誇示している。
「ふ。ふん、どうにか言ったらどうですかッ」
「あは、えは……アリスの足、こわれちゃったぁ……」
「……確かに! 足だけでは不恰好、今度は正面も壊しておきましょう」
きらりと邪な感情が沸々芽生える。止めに入ろうとするレフェリーに火を噴いて適当にあしらいつつ、メアリーの貧相な胸板をがちっと掴んで固定すると、しゃにむに打突を繰り出し始めた。
拳を握り込んだパンチではない。熱がより伝わるように、面積を広げた、まるで張り手のような猛打だ。
――パァン!!
「おブ?!」
芯に響く鈍い衝撃が、くらりとメアリーの意識を冷たい闇の奥底へ突き落とさんとする。強烈なビンタである。
――がすっ! ゴシャ、ベチっ、メリメリ!!
「こにょ、まって……や、あっぐ
……!?」
「待ってもいいですが、止めて欲しいならこの試合そのものを投げ出してもらうこととしましょうか。さあ根性見せどきですよッ」
「そんにゃ、やりゃ、やめ、やらぁ!!」
――ドッ! ばぢん、ばぢん、ばぢんっ……!!
待ったなしの連打が胸板、きゅっと引き締まった腹部を次々焼いていく。ガードしていても痛打になりかかねない、掌底打ちと同じのほとんどクリティカルヒットの打撃が命中! 命中! 命中! 燃え盛る無慈悲な指が柔肉へと食い込み、体が外側と内側の両方から悲鳴を漏らす。特に腹は重点的に、同じ箇所を何度も何度も張り手する。
全身が灼熱に蝕まれているのに、背筋に猛烈な寒気が走る。彼女がただ、弱いだけのアリスであれば、その痛みにたちまち白目を剥き、おちょぼ口のように唇を歪ませ、口内からぶくぶくと泡を噴き出して失神してしまったことだろう。
しかし熱を浴びせられるほど、鍛え上げられる鉄のようにしなやかな体をくねらせ、ぷるっと白桃の尻を揺らして、さらに笑みを凄惨なものに変えていく。
もはや闇夜に蠢く怪光が如きルビーの輝きを目に宿し、全身赤く燃える燃焼系アスリートの方が帰って怖がる始末である。言うなれば、寒気。
「はぁ、はぁ……はぇ、はぁ」
「もうおわり……ああ、そう。だけれどお生憎様。そうやって
熱に呑まれてペースを崩すのは――」
「黙れッ」
今度は握りしめた拳がメアリーの顔面を打ち抜く。鼻の折れた感触が確かに伝わった。
であるのに、その妖艶な美はますます色濃く深まって。
事実、無傷同然の様子である。先ほどまでの行為が、ほんの火遊びであったかのように。
遊びにもルールがあった方が刺激的だ。ルールがあるからこそ真剣になれるし、加害者はどんな舞台であれその色を自分好みに染め上げる。
「メアリのスタイルじゃないの。ねえ……ちょっと
頭を冷やした方がいいんじゃない?」
「ヒッ」
この寒気を振り払いたい。焼き尽くしてしまいたい。焦がれるような思いに突き動かされて、踏み出してはいけない一歩を易々と踏み越えてしまった。熱く激るアスリート魂は霧散し、例えるなら、追い詰められた犯人が発砲するのに近い。
「それは無鉄砲ね。だからちゃんと聞いてあげる。ねぇあなた、アリスを温めてくれる?」
「あ、あば、あたた……め……?」
開閉した口が言葉らしきものを呟こうとしてぶくぶく泡吹く。火を放つ高温の肉体が、不用意に触れたメアリーの体にぴったりくっついて離れない。冷や汗が接触してすぐさま凍りつくほどの、極低温。《凍てつく牙》が牙剥いた結果、嬲るはずだった熱と燃え盛る意志は、かき消されてしまった。
――べりべりべり!
「いぎゃ?! ゆ、ゆびが」
「指だけで済むかしら。だって、次はメアリが復讐する番!」
すなわち、倍返しでは済まさないという宣言でもある。完膚なきまでの報復は、薄皮一枚では済まされない。
「世界は夢のように広くて、際限ないけれど、あなたは知ってる?」
「な、なにを、やだ。さ、さむ……っ」
「あなたの思う世界よりも、ずっとずっと『世界』は冷たい場所の方が多いってこと」
例えば深海、例えば高空、例えば宇宙。およそ知識の知り得る「世界」よりもずっと遠い遥か彼方の地。自分たちがぎゅうぎゅうに身を寄せ合って住まう世界よりも、広大な面積を占める、場所もとい空間。何もないという点でいえばむしろ空閑であるかもしれない。とにかく、彼女らが知る世界を超えて、夢の果てまで覆うような情熱でないのならば、魔が微笑めばたちまちに火はか細く消えてしまうものだ。他人から焚べてもらったものならなおのこと。その意志は、はるか銀河の彼方まで届くほど燃え上がっているものか? 今から吹き付けるのは、そんな宇宙の真理にすら反する「魔」。理解すれば逆に狂ってしまう、狂気の極致。
ある騎士はそれで、氷河期を産んだ。
無慈悲で無惨で、酷薄で酷刑。
そんな言葉でさえ生「温い」――想像だにしない仕打ちは夢想に過ぎない。だからこそ、メアリーは笑いながら手を引くのだ。踏み越えてはいけない一線の、さらにその先へ、無邪気に笑いながら。
「夢の世界へご招待」
――ピキッ……!!
魔氷の呪詛が、氷の城を作り上げた。
城の主人は相対するアスリート。小間使は助けに入ろうと乱入しかけたアスリートたち。まさしく雑魚に対する一網打尽。または、飛んで火に入る夏の虫か。
「もちろん殺しはしないけど。いい夢を♪」
背を向けて、くいと腰を揺らして、蠱惑の狩人は高らかに勝利を謳うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
幸・桃琴
控室で《蒼炎航路》を使用するね
巨人から通常サイズの空手ガール
「紅の流星」になってリングインだ!
ビキニの上に黒帯をきっちり締めて
燃焼系アスリートと相対するよ
攻撃を受けるのもプロレスだったね…
だからきっちり受ける!その上で勝つっ
打撃で頬を打たれれば悲鳴を上げてポニテが揺れ、
おなかをぼこっとされても呻きは上がるけれど
割れた腹筋は伊達じゃないよっ。
きっちり受けきり、カウンターの功夫の一撃!
動きを止めたところで空手技で打ちのめす
私の空手、どう?
相手はまだ立つようで、今度もきっちりボディで受け止め…
と思ったけど、今度の割れたお腹の上、双丘をぼこっと
「ぐぅ、ぇ……っ☆」
流石にそこを打たれると動きが止まっちゃうかな
そのまま打ち込まれ、技をかけられていくと大ピンチ!
でも、逆転するのも……プロレスだよねぇっ!
真の姿ならではの熱血の意思を見せ技を外し、
相手の体勢を崩したところで空手の正拳突きで撃ち抜くっ
なんとか勝てたかな。
夢中で気が付かなかったけどビキニブラが落ちそうになってたら
恥じらって庇うよ
※アドリブ歓迎
「ん。んん、相手がいないようですが……不戦勝でよろしいですかッ、根性無し相手では興行がなきましょう!」
燃焼系アスリートはきょろきょろと辺りを見回したのち、大笑し勝利宣言をしようとした、直後――。
――ドンッ……!!
「とうっ!」
「な。なにッ?!」
控え室から飛来した閃光、否、赤き姿を目の当たりにして面食らった!
控室から飛び出して、車輪のように回転しながら現れるインパクト抜群の登場もそうだが、それが少女であったことも驚きだ。幸・桃琴(桃龍・f26358)は、その存在感は人間大に押し込めていても「巨人」のそれに近い、と燃焼系アスリートは闇の力で曇った瞳を凝らす。実際、いわゆる巨体のレスラーとはまた違った存在感なのだが、そしてそれは慧眼ではあるのだが、気を取り直した。
「人は桃を、空手家・紅の流星と呼ぶ! 私のせいいっぱいで戦い抜くよ。さぁ、勝負だッ!」
「ならばここを巨星の落ちたクレーターにしてあげましょうッ! もっと熱くなりましょうよッ」
桃琴が派手な登場をしたのも、挑発的に時間をかけたり言い回しをしたのも、攻撃を苛烈にするため。ひとたび攻めに回れば勝ち切れる自信があるからこそ、あえて全て受け切るという選択肢をチョイスしたのだ。そして、それは生半可な欲では相手を制御できないと踏んだ燃焼系アスリートも同じこと。赤い髪と、髪のように燃え盛る形状の炎とが熱風で絡み合うくらいに近づいて、火蓋が切って落とされた。
先制攻撃は燃焼系アスリートの方から、狙いは当然剥き出しの腹――ではなく!
――ばぢん……ッ!
「ぐぅ、ぇ……っ☆」
右と左を払うように、両方、すなわち二度、乳房だけでなく体全体が震えた。ぷはぁッと閉じていた唇から、熱く、甘い吐息が漏れてしまう。当然顔か、さもなくば腹かが狙われて然るべきところを、真っ先に胸部を狙ったのは同性のサガか。あるいは白いビキニの上に黒帯という誇示した肉体美をへし折る算段か。
炎の腕で叩かれるという、覚悟していた以上の熱刺激に目を白黒させて、なんとか絶叫を堪えて呻く。
――メリメリィ……じゅうっ!!
「ん……ぎゅウ?!」
「くれぐれもリングの上で吐き散らかさないでくださいねッ」
「お゛ほオっ?! げはっごほっ!」
握りしめた炎の拳が桃琴の胸部に深々とめり込む。桃琴がえずいている間も、ぐるぐると腕を回して着々と彼女を追い詰める手筈を整えていく。
さらに一閃、一閃、手首のスナップを利かせて振り抜かれた胸へのビンタが食い込み、柔らかい肉全体に衝撃が伝播する。跳ね上がった胸がぶるんっと揺れ、熱でじんじんと腫れ上がっていく。
お次はこれで、と膨張した胸に、がばと両手を広げた。その五指は肌の上をみみずがのたうち回るかのような生理的な嫌悪に加え、絡みついて蝋のように離れない拷問の役割を果たす即席の器具でもある。
「おらッ!」
――グニュン……! じゅううううッ!!
「ひぎゃぁぁあああ!? あ゛ひ……っ☆」
火傷に塩を塗り込まれる様な神経に響く痛烈な痛みが襲う。桃琴のその悲鳴が嗜虐心をくすぐったのか、大きく手を振り上げ、火傷で腫れて、膨らみ真っ赤になった乳を五指を押し付け見せつけるように握りつぶした。
普段の、ハリのある健康的な美体ではなく、水風船のような重々しいぶるんぶるんとした揺れ方で、火傷による腫れ痕の無惨さが際立つ。
それをまざまざと見せつける。そう、これは「見せしめ」だ。邪拳会に逆らう者どもを焼き滅ぼす、生け贄の末路を観客に見せる。次は誰がこうなるか、敵対すればどうなるか、わからせるのだ。いかに「紅の流星」といえど歯向かえばこうなるのだ……!
「つ、づい、てはーっと……」
「ふぅー、ふうっふうっ……まけないっ」
《蒼炎航路》に果てはない。燃焼系アスリートへ向かって言い放つというよりは、自分に言い聞かせるような桃琴の様子。コスチュームを焼き切れなかったのは残念だが、ガードを胸周辺で固められてしまった以上、次の的は腹部。ひけらかすような黒帯を引きちぎってやろうか。それとも――。
只でさえ腫れ上がったたぷたぷと豊満な胸が突き出され、其の圧倒的な存在感がより強調される。そしてその舌、もっちりとしつつも割れた腹部には、炎の五指による烙印での化粧が似合うだろう。
繰り出す拳は燃焼し続けているおかげで、痛痒に伴い醜い焼け痕を残す。どれだけ鍛え抜こうと耐えられるはずのない超高温で焦がし尽くす。
――どむんっ!
「ぐ……あ゛ぉ゛ぉ゛っ! う……あぁ゛っ☆」
負けないと克己の意志を喋りかけた桃琴の鍛え抜かれた下腹部。それまでだ。炎という圧倒的自然の摂理には勝てない。
捻り穿つように放たれたボディブローは、剛健さとしなかやさを併せ持ちカメラの向こうの観客まで魅了する美腹に減り込み、わずかな皮下脂肪と内臓が打拳を包み込んだ。痛みを追って、体の内側を浸透しながら責める追撃の加熱に、口端がへの字に歪んで両目をきゅうっと閉じる。
一打で終わるような生半可な攻撃ではない。ここから怒涛のラッシュが幕を開ける。抵抗も回避の隙も与えない、無呼吸の痛烈な連打である。
――ドスっ! ドゴッ!! ドゴオオ!! ドゴッ! メリメリメリ……ジュアッ!!
「あづ、あん゛ぁ゛っ?! がはぁっ……ん゛ふぅ゛っ?! あづい……ん゛お゛ぉ゛っ☆ ☆」
閉じた目の裏で星と火花がチカチカ飛び散り、漏らす苦悶と、嬌声じみた悲鳴が混ざり合ってさらに連打を加速させる。
拳を飲み込むたびに吸収しきれない熱が腹部の下の子部屋まで貫通しているのか、水袋を叩くようなリズミカルな打撃音に合わせて内股にくねらせる。
――メリメリ……じゅううう!
「ヒぐっ……ぐぁッ☆ 桃、ンのッオ゛?! おなかばっか……ゥ゛ぁっ?! な、ね……グぉ、オ゛んっ!」
「もっと重いのいきますよッ!」
――ガッ!!
先程とは比べ物に為らない重たい鈍痛を加えようと、拳が唸る! あわや星が落つる時か、臓器が絶叫を上げ、痛痒に伴った強い熱にダウンし……とはいかない。いかせない。大ぶりな拳が捉えたのは腹ではなく脚。狙いが逸れたのではなくガードしたのだ。
そのままぐりんと足を、傍目には幾何学模様のように動かし――技法的には、外側から内側に円を描き、足の内側を使って蹴りつける。大きく円を描く大旋の里合脚、いわゆる功夫の掛面脚である。内外の内、開閉の閉じる意味合いがあり、見た目以上に強力な脚技である。
――ズドッ!!
「ほギッ?! よ、よくも……」
「……手の動きが止まってるよ? それっ☆」
――バキィ……!
手の甲で、踏み込んだ勢いのまま鞭のようにしなやかに燃焼系アスリートの顔面を穿つ。顔面を両手で支えたところに追撃の肘打ちを喰らわせた。
どおッともんどり打って、倒れ込む。割れた腹筋は伊達じゃないよっ、と腕組みして笑ってみせる桃琴。その耐久力もさることながら、動きを止めて主導権を握ったところでの裏拳、猿臂の流れるような連撃は、一挙に観客の心を鷲掴みにした。割れんばかりの歓声が彼女の闘志に燃料を足す。
「私の空手、どう? おかわりはいるかな」
「ぐうぅうう……こちらも技をかけさせてもらうとしましょうかァッ、根性、根性、根性ッ!」
噴いた鼻血を拭うこともせず、下がった半歩を埋めるよう大きく踏み込んだボディブローが、腕組みする桃琴の鳩尾に大きくめり込んだ。
同時に指先の炎を伸ばしてヘソ周りを豪快に燃やしていく。黒帯への引火こそ防いだものの、今度こその直接内蔵を焼く火力に大ダメージは必至。
――ズッムっ……じゅううッ!!
「が……っぐっはぁっ!? がぁ゛っふ゛ふっ☆」
「なんだしっかりキいてるじゃないですか?! キてるじゃないですかッ、このビビらせやがってッ!」
ダメージが入る、無敵でないとわかったのであれば、空手にはない、超人プロレス技で沈めるとしよう。
胸や腹部への打突で着実にスタミナを削り、ジリジリとリングの端まで追い込んでいく。すんでのところでクリティカルヒットを避けたとしても、熱された空気はリングの上に滞留し、吸い込むだけで肺や気管を痛めつける。長期戦にもつれ込めば、あとはスタミナ切れで棒立ちになる瞬間を待てばいい。波打ち際でサマーベッドに横たわりながら夕焼けを待つ、優雅な時間だ。
それでも、このまま呼吸困難で倒れましたなんて幕切れを許してやるものか。先ほどの初志を貫き、超人プロレスの恐ろしさを骨の髄まで刻まねば。
――ギリッ……ギヂィ!
「ぐ……ッ。はな、してっ」
座して待てないのが燃え盛る炎のアスリートの短所でもある。リング上では魔手が桃琴を捕らえていた。覆いかぶさった桃琴の首を、下から、両脚で挟んででいる。当然全身が燃焼しているわけだから、その拘束力も相まった死のトラバサミ。獣が噛みつくように、腋の下から挿入って、頚動脈を肩ごと絞めあげている。
「ぐうう、あんっ……ひぐっ、このぉ……ああんっ!」
三角絞めだった。桃琴が呻く。絞めは、がっちりと極まっていた。掴もうとしても炎を振り解くことなどできはしない。むしろ、蟻地獄のように深みへとハマっていく。もがけばもがくほど、引きしまった太ももが、美しいポニーテールごと焦がして、桃琴の首へと食い込んでゆく。
同時に、下腹部にキュッと力が込められる。というのも強烈な呼吸困難が、桃琴の股間を、一気に潤ませたためだ。
「ギブアップしますかッ」
「だ、れ……があっ」
「ふん。その時は、そちら側全員が試合放棄したものと見做しますからねッ! ふふふふー!」
悪魔にも似た笑みを浮かべて、ギブアップさえも封じながらじわじわと攻め立てる。太ももへ一層力を込めつつ腕を引きこみ、首裏にあった僅かなスペースさえ絞め上げて潰す。降参宣言どころか発語さえ、できなくなっていった。
ジタバタと手足を動かし逃れようとするが、炎が蛇の如く絡みついて離れない。紅みを帯びた顔はだんだんと青くなり、口からは涎が、少しずつ溢れ 始めた。
「あ……あぁ……ごぼッ」
唇が震え、膝ががくがくと激しく揺れる。見ようによってはその姿が最も艶やかで美しく思えるかされない。
しかし、それは油断でもある。勝利を確信するような瞬間にこそ、逆風は吹くもの。ましてや流れる星は風などでは押しも押されもせぬ、逆さまに風邪を巻き起こすものだ。
「ッ……おっ☆ おおぉオオオッ゛!!」
咆哮びながら、無理やりに身体を起こす。そして首を絞められたまま立ち上がると、鋼のような腕で、強引に燃焼系アスリートを抱え上げた。
「な、にぃいいっ?!」
投げ落とし式の、いわゆるブレーンバスターである。これには歴戦のアスリートも観客も驚愕した。人間であれば、通常、脳への血流が滞れば、その意思に関わらず肉体は機能を停止する。まず視界が狭まり、次いで意識は遠のき、そして手足の自由も利かなくなる。絞めているのはもちろん、ただでさえ空気を熱している過酷な状況下だ。そうした中で、相手を腕力のみで持ちあげるというのは、子犬が象をひっくり返すことよりもなお難しい。
「持ち上げようといきむだけで失神するほどの苦痛のはずッ、まさかこれが本物の根性ッ?!」
「げほ……ッ。さぁ、いっくぞー!!」
――ドゴォ!!
「おゲ?!」
その答えは全身に走るダメージという形で返されることになる。
鋼の豪腕が、燃焼系アスリートをマットへと叩きつけたのだ。衝撃に、リングが揺れる。背中から落ちたダメージは大きく、受け身を取ってもなかなか立ちあがることができずにいる。そんな彼女を無理やりに立たせた上、笑い返した。ふらつく体、歪む視界、ぼんやりと迫る危機感が、鬼気迫る笑みで具現化する。まずい。やられる。
燃え上がるアスリート魂を鎮火させるほどの、その笑みにカチカチと奥歯が鳴る。
「言ったよねっ。全て受け切って……この拳で打ち勝つって! 桃の本気、行くよっ」
「ま、待って降参こう……!」
――ずどんっっ……!!
「ぶっッ……げっっ
……!?」
正拳突き。
未熟ゆえに高らかに叫ぶ技名はないけれど、威力は折り紙つき。
事実、一瞬、呼吸が止まった。
脳に酸素が行き渡らなくなり、足の指から頭のてっぺんに至るまで、ふと力が抜ける。その脱力しきった体に流星が尾を引くように遅れてきた衝撃が突き立ち、燃焼系アスリートをリング外遥か外にまで吹き飛ばしたのだった。
「なんとか、桃の勝ちだね。あっ、えへへ」
その可愛らしい勝利宣言は、吹き飛ばされたアスリートの行方を目で追う観客が多かったため掻き消える。
が、それの方が幸せだったろう。次にカメラが向けられた時には、いそいそと胸元を隠してはにかむ、勝利の女神の姿が映し出されていたのだから――!
成功
🔵🔵🔴
ユーフィ・バウム
控室で《不屈の蒼翼》を使用!
真の姿であるレスラー:蒼き鷹となりて
ここから参加させていただきますね
気合十分にリングに上がりましょう
闘魂が肌にまで現れている、見事といいましょう
私もまた気合十分、オーラの焔を燃やし
攻撃を受け切り、勝利いたしますわ!
ゴングが鳴り試合が始まればグラップルを生かし
組んでの投げをメインに試合を進めましょう
相手が燃えている?それがなんというのですか、
各種耐性のあるレスラーの肌です、耐えて投げを打ちますとも!
打撃で頬を張られても、
おなかをぼこっとされても悲鳴こそ上げると思いますが、
きっちり耐えますよ!
胸をぼこっとされたら呻いて動きを止めるかもしれませんが
相手のラッシュに悲鳴を上げ、KO寸前に見えたところで
さぁ、受けきってからの逆転ですわ!
打撃をかいくぐりしっかり組み付いて
ボディスラムの態勢に相手を抱え上げ、
相手が垂直になったところから垂直に落とします
勿論命に危険が及ばない程度に加減しますね
勝利を収めたら撃ち込まれた
ボディ、胸をあえて晒すように立ちつつ
勝ち名乗りをしますわね
●
燃焼系アスリートは「蒼き鷹」の姿を眼前にしてあんぐりと口を開けていた。目の前での早着替えにではなく、闘志がオーラの焔として具現・可視化されたその覇気に驚愕を隠せなかったのだ。
レスラー「蒼き鷹」ことユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)はいい勝負をしましょうと優美に微笑みかける。
「くっ……できますできます、あなたならできますッ!」
「あなた……? 試合は二人でつくるものですわ」
燃焼系アスリートの熱い視線も見るからにあまり「効果的」ではない様子だ。その効果とはそのものズバリユーベルコードの封印という強力無比なものなのだが、こればかりは視線を重ねがけして効果を蓄積させていくしかない、という判断に至る。
どんな強者、熟達者でも視線を避けられる身のこなしの者はいない。視線さえ浴びせ続ければやがて心情発露に屈服し、自らユーベルコードを封じるという地獄の一丁目に差し掛かることになる。あとは持ち前の灼熱の肉体でいかようにも料理できる。
完璧なタクティクスだ。それも、燃焼系アスリートはその熱意によりいくらでも増員をかけることができる。量と質の両立こそ、彼女たちが自信満々に勝負を仕掛けられる根幹の理由なのだが。
「(おかしい……ッ)」
「どうされました? どこかお身体の具合でも?」
「髪と肌の色も変わっている……ですが、根性ッ!」
「ふふん。まずは見事な突撃と言っておきましょう。ですが単調な動き、本当のレスラーの動きはこう、です!」
――がしっ……ぶおっ!
「は? ……うげャ?!」
まず一人。突っ込んできた燃焼系アスリートを迎え撃つ。
彼女よりもさらに低い体勢で潜り込むと、腰を掴み、その勢いのまま「放り」投げた。体が燃焼しているとはいえほとんど体重は変わっていない、筋肉質なアスリートを「そのまま」コーナーポストに叩きつけたのである。ゴンッと一際鈍い音を立てて、首の辺りを叩きつけられた女性はあえなくリング外に崩れ落ちた。早業も早業、これが通常の試合なら呆気ない、スピーディーに過ぎる試合展開。
「バカなッ。燃えている体をいとも容易く投げ飛ばすとはッ」
「相手が燃えている? それがなんというのですか。ご覧なさい。それ以上に私は燃えているのです。気合いという焔によって!」
「くぅううう! 何が鷹ですか、あんなのゴリラじゃないですかッ」
大きな空色の瞳を爛々と輝かせ、子供じみた雑言にも笑ってみせる。白い肌は火に炙られたにも関わらず微塵の火傷痕もない。
ユーベルコードを封じることができていないからかァ……と独りごちる。といっても細かいトリック、というほどのものでもない、見抜けた仕組みはそこまで。
おそらく、何かしらの対抗策で耐炎防御を取得している。根っから燃焼系を公言していても、口で言うほど根性とやらで何から何まで解決できるとは燃焼系アスリート自身思ってはいない。どれほど根性を発揮しようと高温の炎を吹きかけ続ければ火傷するし焦げるし灰になる。
気絶した彼女に代わって(闇の力に魅入られたレスラーは数多いる!)新手の燃焼系アスリートが乱入し啖呵を切る。
「気合いなどねじ伏せる我らが火力、その身で受けていただきましょうッ」
「望むところですっ! 受け切る、それがレスラーですわ。勝負ッ!」
気を取り直して、次なる一戦が幕を開ける。先ほどの瞬殺ぶりを見ていた新手は、炎で空気を熱しスタミナを奪う作戦を諦め、物量作戦で追い込む方法れと切り替えた。耐熱性だけでは打ち込まれるパンチやキックの質量は無視できないだろうという判断である。
しかし、待てど暮らせど一向に、受け止めるユーフィは汗ひとつかかない。これは端的に言って異常なことだ。
繰り出した炎の掌底で肉の焼ける臭いが、その全身から漂う。放っている燃焼系アスリートの方が、大きすぎる熱量に、無意識のうちに上半身を反らすほどである。でも傷ひとつない――!
「おかしいでしょう生物としておかしいでしょうッ」
「それはあなたが決めることでは、なくってよ!」
「大アリでしょ……がアッ?!」
振り翳された強引なエルボーを腕の外側で弾くと、緩んだガードの奥底に潜り込み、両手を組んだ渾身の一撃をお見舞いする。口調こそお淑やかだが、いわゆるダブルスレッジハンマーに頭部を強かに打ち付けられ、ひどく悶絶してしまう。
頭を抱え涙を浮かべているところで当然視界は下に下がるわけで、頭部を前に突き出した隙だらけの姿勢を晒すことになる。いかにも大技をかけてくださいと宣言しているようなポーズ。鷹の慧眼はそんなタイミングを見落とすはずもない。
――ぐいんっ!
ロープに飛んで、乗る。リングに張られたロープにもたれかかって反動で動く、と文字にすれば簡単だが、ロープを構成する鉄のワイヤーもまた撒き散らされた火炎により大きく熱されており、普通に身を放れば文字通り火の海に身を投げ出すかのような苦痛を伴う。
そんな苦痛をものともしない低空ドロップキックが、屈んだ肉体に突き刺さった。
――ボギィ!!
「ぐ、おおぉお!!」
「これが蒼き鷹が誇る鋭爪でしてよ!」
観客席にまで聞こえるほどの、インパクト音。倒れ込む姿がゆっくりとスローモーションに映る。
たまらずノックアウト。二人目も難なく撃破し、ふうと汗を拭う。
自信に満ち足りたようなポーズで己こそ主役と胸を張れば、さらに割れんばかりの歓声を一身に受ける。どれほどの熱があったとしても、そんな疲労感はこの高揚で打ち消されることだろう。汗ひとつかいていない。
ではユーフィは本当に疲れ知らずの――怪物スタミナの持ち主なのだろうか? どんな炎どころか各種耐性のあるレスラーの肌だというのだろうか? その説明は誤ってはいないが、正しくはない。正確にいえば、正しく説明をしていない箇所――秘匿している部分がある、と言っていいだろう。
彼女はダメージを無効にしているわけではない、ということだ。燃焼系アスリートの行為もまた徒労に終わっているというわけではない。
肉を打つ音も、肉同士がぶつかるダイナミックさも、焔と炎のぶつかり合いによる熱も、今はただこの試合を盛り上げるためだけに弾け合っている。
「たあっ、とうっ!」
「ぐぬぬぬ……もう何人挑んでいるのやら、視線を浴びせても一向に……ッ!」
オーラの焔が明々と燃え、次々にと挑戦者たる燃焼系アスリートを打ち倒していく。負傷も、疲労も、一切ない。まるで焔に守られているかのよう。
この焔が彼女の生命線だ。「蒼き鷹」のリングコスチュームを纏った彼女はそれを着ている間一切のダメージを受け付けない。そして、いつかこのコスチュームを脱いだその時に受けた負傷や疲労……致命傷さえもまとめて引き受けることになる。
今また燃焼系アスリートの足を掴み、ぐるぐると回り始めた。相手の両足首を脇の下に挟み込んで一気に抱え上げる筋力もさることながら、それを振り回すことで平衡感覚を乱す、投げの大技、いわゆるジャイアントスイング。回れば回るほどに遠心力が働き、振り解きや退避を阻む。
回転力が増した極点のタイミングでは天を仰ぐことしかできない闇のアスリートは、あぁあ〜っと情けない声を絞り出すことしかできない。
足を掴むユーフィの手も、火傷は試合が終わってからだ。火に手を突っ込めば腫れるか焦げるが自然の道理。《不屈の蒼翼》が羽ばたくのをやめた時、失墜した分のダメージもまた計り知れない。指先から炭化し、髪は燻り、目が濁るほどの煙に晒され、生きながらに炙られ……そんなダメージが待ち受ける未来は、ユーフィにとって不安材料ではない。今、この自信に溢れた面持ちはこの一戦で不覚を取ることだけを恐れる。あとでツケを払うことを恐れて羽ばたけるものか。高みを求めて飛ぶ鳥が、降りることを考えながら空を翔けるものか。
裂帛の叫びにも気合いが込もる。
「おうりゃあっ!!」
「あああぁああッ……ぎゃヒン!!」
千切っては投げ、千切っては投げという言葉にふさわしく、死屍累々、挑んだことすら後悔する炎の屍(実際に命を奪ったわけではないがレスラーとしての戦意喪失は必至だ!)の山が積み上がる。
目くら鉄炮に等しいパンチが、頰を掠める。否、あえて顔を狙ったのか。思わず身構える。
「こんのぉッ」
――ばちんっ!
「ひゃ、びっくりしちゃいましたわ」
「び……びっくりって」
「お返し、ですよっ」
――ビターン!!
目には目を、レスラーの流儀らしく、顔に向けての張り手を受けると、返す片手で思いっきり張り飛ばす。通常ビンタ返しをすると何かしら呵責や抵抗感がありそうなものだが、その上燃焼系アスリートは顔面まで燃えているのだから、触れるのも気が引けるはず……なのだが、ユーフィの勢いは止まることを知らない。右に、左に、手を往復させる始末。
――びたんっ、ばちん、ばちーん!!
ビンタの連打、連打、連打! みるみる腫れ上がった頬が痛ましい。火の粉が涙のように飛び散り、心がバリバリと音を立てて崩れていく。
負けじと奮い立った燃焼系アスリートは拳を握りしめ、カウンター気味に叩き込む。顔を狙うと見せかけて、ガラ空きのボディ! 塊と化した炎は表皮を焼くに収まらず、ガードを貫通して熱が臓腑を焦がす。はず、だった。
――ごッ……!
「あっ」
「ふ。ふふー、流石にこれは効いたでしょうッ。ガラ空きのところに腹パンぶち込まれれば……は、え……?」
「あぅ……」
可愛らしい悲鳴をあげるのみ。可愛らしい悲鳴、のみ?! 愕然とする。燃焼系アスリートは知る由もない。変身を解けばその痛みに腹を抱えてのたうち回ってもなお癒えない苦痛だが、変身中は全て受け切って余りある余裕。
何せ先送りにすればほとんど無敵と言って差し支えないコンディションである。ルールを無視して直接命を奪う勢いでもリアクションひとつ取らせられない、圧倒的すぎる「力量差」。驚くやら悲しいやら悔しいやらでもう感情がぐちゃぐちゃだ。
むしろユーフィも、悲鳴くらいはあげてしまうかも、とやや過剰に見積もっていたくらいで、言ってしまえば拍子抜けである。
手段を選んでいる場合ではない。ヒールらしく手をチョップの形に変えて振り下ろし、今度は心臓めがけて、もといバストに打撃を加える。怒涛のラッシュだ。叩かれるたびにぷるんたゆんとゴム毬の如く面白いように形を変える。
これにはダメージを受けたか、と、呻いて動きを止めたユーフィに肩で息をしながら睨みつける燃焼系アスリート。
一矢報いたにしてはあまりにも品性に欠けた所作。女性の、最もデリケートな部位の一つを焼きごてのような手で殴りつけたのだ。下劣な行いに観客からはブーイングが起こりそうな始末である。
しかし、すぐに後悔をすることになる。肩を震わせて拳を握りしめて、ぐぐぐと顔を上げたユーフィはダメージではなく羞恥に震えていた。その顔はダメージの苦痛ではなく怒りと恥じらいが入り混じって真っ赤になっている。大勢の前で見せ物にされたことが恥ずかしいのだ。笑顔にするのと笑い物にされるのでは、扱いが天と地ほど違う。
「ひゃ! やりましたねっ。もう許しませんっ、あんまりお腹や顔ばっかり……!」
「ま、まて、待て待て待って……!」
お仕置きです、とボディスラムの態勢に相手を抱え上げ、相手が垂直になったところから有無を言わさず垂直に落とした。抱え投げと見せかけた脳天杭打ち、いわゆるパイルドライバーである。
一度セットアップに入れば逃れる術のない、これまた投げの大技。打ち付けられた頭部にヒビが入るほどの衝撃は、叩きつけられたリングの方さえ無事では済まない。
抱え込んだまま綺麗に後ろに倒れ込み衝撃を逃しつつ、ちらりと見ればリングに頭から突き込まれて直立した燃焼系アスリートの姿。命に危険が及ばずとも、リングにもう一度上がるにはそれなりのリハビリが必要なのは疑いようもない。……まあ、不届きものにはこれぐらいしなければと内心舌を出しつつ、一礼する。
「……もう私に挑む方はいませんのね? では、勝者はこの、蒼き鷹ですわ」
ボディと胸とをあえて晒すように見せつつ、両腕を上げる。傷も火傷もない、真っ新な素肌は観客の視線と歓声を浴びるたび、ますます美しく、艶っぽく輝くのであった。
●
さて。前哨戦が終わった後、あるいは試合が終わったその後――控え室から響き渡る悲鳴が獣のようだったとか、控え室の床が血溜まりになっていたとか、そんな「怪談」が実しやかに囁かれるようになったが、それはまた別の話である。
成功
🔵🔵🔴
日和見・カナタ
想像していた以上に厳しく激しい指導(?)でした……!
いろいろ申し訳なかったり恥ずかしかったりな事はあったものの、お陰で苦痛に耐える
技術と
精神は鍛えられましたよ!
今日はいよいよ本番です! 練習のダメージはまだ残っていますが、頑張って勝利を収めてみせます!
とはいえ、超プロ歴は相手の方が上。正面から華麗に打ち負かす、なんてことは難しそうです。
それでもダーク化を解除するためには正々堂々と勝つ必要がありますから、泥臭く勝ちを拾っていくしかありません。
ですので、相手の攻撃を耐えながら反撃の機会を伺う作戦でいきます! どんな攻撃を食らっても相手を観察し続けて、ここだという瞬間に【ヒートインパクト】を叩き込みましょう!
【NGなし、アドリブ歓迎】
「ううっ……まだ身体が痛むような、あっ試合ですね。よろしくお願いします!」
――すっ……ドゴォオ!!
「お゛っ゛?! ……げ、ッ……えっ……?」
それは唐突にカナタの腹を貫いて背中まで抜けていった。灼熱の拳が握りしめられ、握手のために差し出した脇をすり抜けての鳩尾先制パンチ。内臓を痛めつけていく衝撃は熱を帯びて、カナタの肺や胃が焼き尽くされていく。皮膚を超えて貫通した熱が内側を焦がしたのだ。くらっと脳髄に重い違和感がのしかかる。
ごぼっと息を吐くと、頭の中を直接かき混ぜられているような不快が走り抜ける。腹部を抑えると共に悪寒が体を下りていき、カナタの無二の子部屋にまで、熱と痺れがじわじわ落ちていくと、そこでギュウゥッ! と萎縮するのが分かった。
「は。よろしくお願いしますッ、しかし、まずは握手の前に根性試しといきましょうッ! 我々が交わすべきは握手や言葉ではなく、根性ッ!!」
「れ、練習のダメージが残ってるお腹をぉ……! で、でも何のこれしき」
「お。いい根性です。よいマッチにしましょうッ!」
巻き上がる熱気が吹き付けられた。目潰しのように作用したそれは、眼球が細い針で突き刺されたかのようで、脳の奥まで激痛が走る。
内股気味になりながらも、胸元に腕を構えて襲いかかってくるであろう衝撃に備えた。
「苦痛に耐える
技術と
精神は鍛えられましたよ……どんな攻撃も、耐えて耐えて、耐えてみせますっ」
「その自信ごと焼き尽くしてあげましょうッ。まずは小手調べのご挨拶です。おらッ!」
ぞくっ、とカナタは背筋に冷たいものを感じた。それでも修練の成果を信じて、最大限の力を、腹筋へと集中させた。下から掬い上げるような拳の軌道。燃え上がる拳が迫る瞬間が、カナタの目にはやけにスローモーションに映った。
「(あれ、これって、何でしたか。確か走馬――)」
恐怖、焦燥、驚愕、さまざまな感情が去来した結果わずかに弛緩したカナタの腹部を突き上げた、風を切るほど引き絞られた熱の右拳。貫通した熱気がコーナーポストをぐにゃりと凹ませてしまう。
――ドボォオオ!!
「がはッ?! う……ぶ……! ぐぅうううッ!?」
そんな熱量に肉体が耐えられるわけもない。飲み込もうとした悲鳴が喉奥から噴出した。驚異的な威力によって腹部の肌に断裂が起きるほどの威力。熱の拳がカナタの腹筋を一瞬で崩壊させ、腹膜内に衝撃を轟かせ、それでも収まらない破壊力が150センチの小さな体を駆け巡った。
それでも、蝕むような加熱は終わらない。
目が溢れ落ちそうなほどに見開かれきゅっと瞳孔が狭まり、喉が脈動して頭が跳ねる。押し上げられた胃から逆流した液体を必死に飲み込みながら、殴られた箇所を見遣って呻いた。燃焼系アスリートの容赦ない拳は離れることなくそのままズブズブと腹肉を軋ませて、奥へ奥へとめり込んでいく。
――メリメリメリィ!!
「ぐ……ブ……う゛ぅ゛ッ!?」
「いかがですかッ、燃え上がるボディアッパーの味はッ!」
問いかけに答える間もなく、ほんの瞬きする刹那に、無慈悲な拳はカナタの腹に、手首まで沈み込んだ。実際にめり込んでいたように、少なくとも殴られた当人は思ってしまう。
体の中で内臓同士が打ち付けられ、浸透する熱の痛みと重なり、彼女の身体をびくびくと痙攣させる。体が小さい分内臓たちも狭く密集しているため、全体のダメージも甚大だ。
空気が薄い。肺の酸素もとっくに叩き出されているうえに、呼吸もできない。押し返すことも抵抗も許されず、触れた拳が与える熱で体内が「ぐちゃぐちゃ」になる苦痛に、ただ悶絶するしかなかった。
「これだけでは終わらないですよ。根性、捻り出しなさいッ!」
カナタの体に突き刺さっている腕が、半回転ほど「捻られ」た。
――グリュ!!
「ンぐう゛う゛ッ!? やめ、げっ……!! ごッぷァ
……!!」
瞬間、どぱッ! と端正な唇から、濁った液体が迸った。
「がっは! ヴぅ゛え! げほっ……ごほッ……うっぷ
……!!」
粘ついた胃液を垂れ流しながら、苦しげに咳き込むと同時に、熱でクラクラする頭は必死に吐き気を訴えかける。
益々もって息が苦しい。呼吸をするだけで喉や気管が痛む。実際に焼けついて火傷したのだろう。しかし被害が大きいのはそこではない……!
拳が引き抜かれると、コスチュームが焼き切られ晒されている腹筋には、赤い打撃の痕が痛ましげにくっきり残された。焼印だ。すっと拳が引き抜かれた拍子に、内臓が元の形に戻ろうと震えたことを感じると、カナタは胃液交じりの唾液をゴポリと吐き出す。胃が大きく振動したせいだろう。
そこへ襲いかかる追い打ち! 息つく暇を与えない、先ほどと同じコースの、鋭い角度のボディアッパーだった。マーキングは済ませてある。すでに陥没している腹部へと吸い込まれるように、拳を模った炎の塊が突き刺さる。拳の形に捻られひしゃげていた胃袋は、追撃によってさらに大きく抉られた。
「ぐっぷッ……!? おぼォッ?!」
衝撃でコスチュームの背の部分まで弾け飛んで、貫かんばかりの熱エネルギーによって背中の皮膚にまで裂傷が入った。ぷしと殴られた箇所と逆の、あらぬ所から出血する。同時に覚える、違和感。
――ミシリ……!
「(い……い、今の音……な……に?)」
ミシリ、とカナタは体内の音を聞いた。くの字に曲がりそうな体が推測できたのは、音の発生源は「背骨」だったということだ。なんて圧倒的な暴力。炎の拳は胃袋ごと、背骨にまで到達したのである。
勝ち誇ったような闇のアスリートは、哄笑と共に、再びめり込ませた拳を強く押し込んで捻った。グシゃぁ、と、体内で、決してあってはならない音――すなわち、拳の形に捻られていた胃袋が、呆気なく潰された音が響いていた。
他ならない自身を制する声が、内で木霊する。無理ですっ。このままでは壊れてしまいますっ! と、意識レベルが急速に低下していく脳内で、必死に自分を奮い立たせる。それでも膝から崩れ落ちてしまう。
「ごぼェ……ッ」
腹に穴が空いたのではないか、と感じるほどの衝撃と痛み。いきんでも腹筋と呼べるものはもう消え去っている彼女の腹は、火傷と殴られた衝撃で赤黒くなっていた。
その腹が――再び殴られやすい位置に晒された。膝から崩れ落ちた体を燃焼系アスリートが片腕を掴んで吊るしたのだ。
「終わったと思いましたかッ」
「ふ……うぅっ」
「素晴らしいメンタリティを見せていただきましたッ。そのまま消し炭にしてあげますよッ、火力全開でねぇーッ!!」
「ひっ、やです、やだっ……ごぶう゛う゛ッ……!?
」
――ずんっ……!
「がっはあああっ
……!?」
観客たちは息を呑んでその様子を見守っていた。先ほどまでの熱狂が嘘のような、しんと静まり返った会場の静寂の中で、カナタの悲鳴と、肉や骨が打ちひしがれる音だけが大きく響いた。
吊るされた北京ダックのように脱力しきった体めがけて、太い杭のような炎腕が爆速で突き、埋まった。万全の状態でも凄まじい痛みを伴ったボディブローが、力の入らなくなったお腹を抉る。
――ドズッ! メリッ! ドボッ……ミシッ! ドグウゥッ! グチャッ……!!
「がはっ、げっ……。ごぁ……ぶ、ぇ……ぇ」
殴られるたびに、腹肉が音を立てて、肋骨は軋み、内臓も捩れる。片手で吊るされて殴打されるその姿は、スパーリング、まさにサンドバッグだった。掴まれている片腕も炎に手を突っ込んでいるのに等しく、蒸気機関も刻一刻と熱を帯びていく。内臓が耐えたとしても四肢が熱暴走で動かなくなればその時点で勝利だと燃焼系アスリートは踏んだのだろう。見た目の印象とは裏腹に周到である。
一方のカナタの表情も尋常ではない。目は、その目だけは力を失っていなかったが、それも次第に白目を剥いてしまっている。
辛うじて彼女の意識がまだ保たれていたのは、不幸中の幸いか、はたまた不幸であるというべきか。体内はもうグチャグチャで、ほとんどの内臓器官を損傷したのに、意識を保っているのは執念というほかない。何度目かもわからない一瞬で彼女の体に炎の怪腕が手首まで埋まると、再び濁った液体が飛び出した。叩かれてすぎてすっかり柔らかくなってしまった腹部を執拗なまでに何度も、何度も殴られ、それを堪えるのを繰り返す。
「は、ひゅう……ほひ、は……ま、まだです……泥臭く勝ちを拾っていくしか……ないんれす、からっ」
「ふ。何のためにそこまで頑張るのやらッ、いや……愚問でしたね!」
そもそもその道のプロに、ダーク化を解除するため正々堂々と勝つなんて話が、至難の道なのだ。わかって切り開くと誓った獣道。
痺れを切らしたように燃焼系アスリートは肩からぶつかってカナタを薙ぎ倒すと、堪えてなお踏ん張るカナタを仰向けになるように思い切り蹴り飛ばす。バウンドしながら転げる彼女の両足を掴んだ。
――ギリギリッ……!
「くぅあッ……は、なしてっ」
「さてさて、どうしたものでしょう」
炎のバイスで挟み込む姿勢でがっちりホールドしつつ、悲鳴を前に舌なめずりする。身悶えして震える姿もこうして獲物と捉えれば可愛いものだ。茶色の瞳が涙に潤むのを燃焼系アスリートは見逃さない。もっと甘美な悲鳴を響かせるには何をしたら良いか。
両足を掴んで開脚させながらカナタの股間部を思いきり踏みつけた。
――ぐりぐり……ジュウウウッ!!
「イギっ?! いっ、ギャアアッ!!」
「ふ。あはははッ! なんとも根性のない悲鳴! ここは鍛えてないのですか。相手としてはいささか不甲斐ないですが、観客も大喜びですよッ」
身を捩って熱の責苦から逃れようとすれば、足を掴んだ手を引き込んで更なる苦痛の淵へ誘う。熱い。熱い熱い熱い……! 弱りきった体を下から上へ貫き、さらに苛む炎の竜巻。
そんなカナタの反応を楽しむかのように、何度も何度も足の裏をカナタの女性の部分にギュウウと強かに押し付けた。当然そこも蒸気機関に変わっていない生身の部分。あまりの苦痛に耐え切れず一際大きな絶叫をあげるが、そんなことは燃焼系アスリートをより喜ばせる結果にしかならない。そして物好きな観客たちもまたカナタの痴態を見て喜色を露わにする。
最低な気分のカナタは灼熱と激痛に苛まれていたものの、痛めつけられる股間部は先ほど弄られた反動か、爪先が勢いよくぶつかるたびに、グショグショと淡い水音を立てる始末。耳聡く聞き逃さなかった闇のレスラーは、より足を鋭く引くと、サッカーのシュートの要領で蹴り上げる。
――ボグッ!!
「ひンギぃ?!」
甲高く吠えた後、渇いた喉はまともな声も既に出ず、しばらく身体を小刻みに震わせ、虚ろな目のまま荒い呼吸を繰り返していた。
ひゅうひゅうと肺の中身を吐き出した後、それを確認して満足そうに頷いた燃焼系アスリートは足の動きを再開させた。今度はさっきまでとは違い、踵で下腹部と、股ぐらとを交互に、グリグリッと押していく。鉄の硬さと筋肉のしなやかさを併せ持った豪脚。
同性ならではの的確な、痛みと屈辱と羞恥に責め苛まれ、そんな状況に追い込まれている自分自身の惨めさに心臓がドクンと脈打つようだった。しかし、茹だるような熱はそんな怒りの感情さえも蕩けさせていく。やがて真っ白な、燃え尽きた後のような頭の中に残るのは、断続的な刺激の中の、一抹の昂揚だった。
疼き……ともいう。女の芯の薄皮を剥がれていくかのような「未知」の感覚。
――ドロッ……ぐじッ、グジュウウウッ!?
「な、なに、ヒッ?! なにかがあッ、な、流れ込んできて……ッ?!」
炎の足指を伸ばしてコスチュームを卑猥にくり抜くと、触手状に細く伸ばしてさらに熱を送り込む。下腹部から毛穴に至るまで、絡みついて、目についた穴という穴に潜り込むのは、もはやレスラーの所業ではない。楯突いた存在を公衆の面前で辱めたいだけの変態である。刻一刻と濃くなっていくサディスティックな笑みがそれの証左だった。
物理法則を無視して、孔を穿るように纏った炎で、観客席にまで聞こえるようにわざと音を立てて嘗めながら、溶けた鉄か蝋でも塗りたくるような調子で激しい攻撃を続ける。ストンピングを繰り返す足は的確に女体の弱点を蔑ろにし、ヒクヒクと震えて股ぐらに水溜りを作る姿は痛ましい。
「熱の籠り切った腕も足ももう動かせないでしょうッ。あとは焼き加減を決めるだけです。恥ずかしいところまで焼き爛れさせてあげますッ」
「そんなのぉ゛ッ、根性じゃない、れ゛すからッ゛……ぎゃ?! もっ、やめてェ゛あヅイのッ! い……イダイィいいッ!!」
「ここはどうなってますかねッ? ほら、カメラあるならもっと酔ってくださいッ」
――ぐいっ……!
「やだっ、やああぁ……ああ……ッ」
全身に力が入らなくなってしまうほどの過量の熱を受け続けたのだろう、カナタの四肢はすっかり項垂れてしまっている。
生命の危機に対する生理現象か、焦がされた媚肉が窄まり大っぴらに広げられた亀裂の奥は潤んで蠢き、カナタの意識を追い落とすほどの羞恥心と、冒険心とは名ばかりの白色の悦楽色に塗りたくられている。栗色の髪を振り乱し、思い出しように薄ピンク色の唇が微動させ、目は見開いているが瞳は観客を見ているようで見ていない。
そこに、アスリートとして、闇に魅入られてなおアスリートの経験値として、燃焼系アスリートはその視線の先を訝しむ。
「ど……こを見て
……?!」
「……い……ぅい……っ」
「何?」
視界が紅色に染まる、前触れなく。
高温の熱は、着火の際も静寂を保つためだ。
その熱の由来は生体エネルギー。文字通り命を燃やして生み出した力の原動力が、立ち上がろうと、抗おうとするカナタの背中を後押しする。
「なッ……にぃいいいいイッ?!!」
気づき、怯え、絶叫しても遅い。己が撒き散らした炎で退路は絶たれ、踏み込むのに躍起になって崩れた体勢が、跳ね起きて放つ《迫撃! 超熱発勁!》を避けられるはずもなく。
「はあああああッ!! 喰らって吹き飛べぇっ!」
肢体から裂傷が走る。カナタの体は明らかに限界を超えていた。
そんな亀裂から溢れんばかりの生命力の奔流。
―― ず ん っ ……!
「あぎッ?!」
――ドゴォッウゥゥ……ゥゥウン!!
「お、あ…………ギャアアァああッ
……!?」
耳を聾する音を奏でながら、リング外へ勢いよく吹き飛んだ。
「……えっへへ、私の……勝ち、ですから……っ」
どさっ……と。
ゆっくり、やり遂げた満面の笑みで、前のめりに倒れるカナタ。一際大きく会場が鳴動する。割れんばかりの勝利を讃える歓声も、疲れ果てたカナタには聞こえない。
ぬう、と、大きな影が近づくが……今はひとまず、安らかに勝利の余韻を噛み締めて――。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『キング・デカスリート』
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POW : アイ・アム・キング
単純で重い【肉体から繰り出される空前絶後】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : キング・ハイジャンプ・アタック
【跳躍からの肉弾戦】による素早い一撃を放つ。また、【バーベルをちょっと横に置いておく】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : キング・アンリミテッド・スロー
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【陸上競技用の槍・円盤・ハンマー】で包囲攻撃する。
イラスト:カス
👑11
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「勝った! 我々の、我々の勝利です! やりましたね……!」
猟兵たちが炎のアスリートを薙ぎ倒したのを見るや、団長・千愛をはじめとした『ビブリオバトラーツ』団員の面々は勝利の歓声に沸いた。
「喧しい」
そのムードがほんの一瞬で壊された。
一転して御通夜の状態になったのは、累々と横たわる燃焼系アスリートを踏み越えてやって来た巨躯の男の存在が理由だった。身長は二メートルどころか下手すると三メートル近くありそうだ。
「伏して敗北を待て。王の御前である」
並のアスリートならそれだけで失神しかねないプレッシャー。腹の底から響く、静かだが確かな威厳と脅威は、浮き足立つには十分な迫力だった。事実、戦意を失った団員の一部は平伏しかけている。
「……ここで、ここで立たねば編纂は終わってしまいます。でしょう、皆さん!」
「しかし……」
「あぁ……」
「それに、共に汗を流した戦友がいるではありませんか!」
燃焼系アスリートを倒した実力を買われた猟兵たちは、王の御前に立つ。奇跡は二度はないと言外に宣言する『キング・デカスリート』は、構えを取った。もはや待ったなし。ついに、決戦の火蓋が切って落とされた!
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
成程、相当な強者の様ですねぇ。
此方を試すには、丁度良さそうですぅ。
【闢華】を発動、全身を『
特異物質』である『絶対物質エンケロニ』に変換しますねぇ。
此方は『先日の戦争』で『破壊不可能』と明記された物質、『キング』の一撃でも破壊されることはなく、内臓もこの物質と化せば『内部への衝撃』等も含めた物理的な攻撃は意味を持ちません。
そして、この体で行う攻撃は『エンケロニ製の打撃武器』で殴打する様なもの、相応の打撃力が得られますぅ。
後は『古流剣術』に含まれる古武術の技法、打撃主体の戦い方でお相手しますねぇ。
今後を踏まえ、四肢の何れかを[部位破壊]したい処ですが。
白く輝く不思議な物質に、相対するるこるの姿が変じていく。かつて遥かなる空の帝国が名を冠したエンケロニ。絶対物質とも呼ばれたそれは城塞を築けば金剛不壊、強固さは絶対に壊せないとされる未知の単一原子でできたブラキオンに匹敵する。
全身表皮どころか内臓までもこの物質に変換してしまえば、いかに剛腕といえどダメージを与える手段は皆無。
「大いなる豊饒の女神、その象徴せし欠片の一つを我が身へ。さあ、覚悟はよろしいでしょうかぁ」
ぷるぷると視覚的には揺れたように見える豊満な肢体。しかしてそれは存在の揺らぎ、軽くでも当たれば、壊れる可能性のあるものはなんであれ粉砕できることだろう。王を自称するキング・デカスリートも、その唯ならぬ変身に笑みを返す。
惜しむらくはここが超人プロレスの試合であるということ。祭器の数々を持ち出すにはいささか観客の目が気になってしまう。
「成程、がむしゃらに向かってこないとは、相当な強者の様ですねぇ」
「余を誰と心得る? 覚悟はいいかと聞いたな。その不遜は敗北でのみ償えると知れ」
《アイ・アム・キング》――その力と権威を誇示するが如き、ストレートの一撃。
受け止めれば逆に繰り出された拳を破壊することもできるかも知れない。るこるにとって、先々の展開を考えれば早々にその手の一つは再起不能にしておきたいところだ。一見すればぽやんとした雰囲気の彼女だが、本質はクレバーな使徒である。
そんな彼女が神からの啓示の如く、繰り出された拳を「回避」する。
――ぶぅん!
空前絶後の重い殴打。
それをリング目掛けて放つことはしないだろう。そんなことをすれば試合の継続が困難になる。いかに悪役レスラーといえど興行の妨害は本意ではないはずだ。
そして、本意ではない、というのはるこるにも当てはまる点がある。
「避けたか」
再び拳を握りしめ、王の一撃を見舞う。
るこるはその腕撃を、放ち手の予期しない方向へ体を捩ることでギリギリ躱す。古武術の要領だ。しなやかな動きで相手の拳をいなす柔の技術。
放たれた拳圧だけでびりびりと空気が震え、るこるでさえ想像だにしない威力であることが窺える。
己の変じた『絶対物質エンケロニ』の頑丈さは、先の大戦で自分も身に染みてるところ。豊乳女神の与える加護もまた、絶対! その拳は、己にダメージを与えるという点では全く恐るるに足りない。
「えぇ」
「余の拳の威力に恐れたか?」
これ見よがしに挑発してくるのがいい証拠。るこるが危惧するのは、拳を一度受け止めて、その後のことだ。破壊されない物質が受けた衝撃は、そのほとんどを外に流すことができる。避雷針が感電しないように、エネルギーを外部へ放出するのだ。
しかし、るこるはリングに固定されているわけではない。るこるが殴られれば、キングへの相応のダメージと引き換えに、肉体は衝撃そのままに観客席へと打ち込まれるだろう。
「さあどうでしょうかぁ」
ぷるぷると体を揺すりながら、さて、と思案する。
己が不壊の弾丸と化して観客の元に撃ち込まれるのだけは避けなければならない。内部への衝撃は全くなく、当然それに比類して己へのダメージもなく、つまり『キング・デカスリート』が観客をそのまま殴りつけるに等しい。
闇の使徒たるダークアスリートたちは、その競技の感動を悲劇に変えることを厭わない。
厄介だ。
「なら、攻めるか?」
嫌な展開だ。まるで心中を言い当てられたか、あるいは手のひらの上で転がされているかのような、ささくれだった不快感。
ざらざらとした心の表面を逆撫でされる感覚に身震いしながら、気を練った手刀を繰り出す。
――ガィン!!
肉体で受けることを嫌った敵は、リング外に置いていたバーベルを引き寄せてそれで受け止める。硬い音を立てて、その迫力に観客たちは両手をあげて歓声を叫んだ。
悪役レスラーが凶器を取り出すのは展開的に不思議なことではない。
「ぬぅん!!」
「はぁっ」
剣術家同士が鎬を削る勢いで、金属同士の激しい打擲音が響き渡った。打ち合いは望むところといったところか。
永遠にも感じるような途方もない打ち合いの末、不壊の物質に強かに撃ちつけられ、ぼろぼろになったバーベルを見て、『キング・デカスリート』は吐き捨てる。リングゴングが鳴らされたのだ。
「面白き趣向だった。褒めて遣わす」
「えぇ、いいマッチでしたぁ」
それなりの消耗と、武器であるバーベルの破壊。戦果としては上々だが、試合の駆け引きの奥深さを噛み締めたるこる。猟兵たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
成功
🔵🔵🔴
嗚吼姫・ナエカ
あの巨体と馬鹿力、まともに組み合うのはかなり危険だろう
『転身・雪祈化生』で本気の姿へ!
速度と俊敏さで勝負を仕掛け、足を止めず打撃で攻め続けるよ。
けれど、あたしはもっと早く気付くべきだったんだ。
あたしが過去の戦いで幾度も味わった苦痛と恐怖から、無意識にお腹を庇うような動きをしてしまっていること。
暴力に慣れた強大な
男が、そんな
獲物の姿を見抜くくらい容易いだろうってことを。
どれほど蹂躙されようと、変身が解けようと、絶対に自分から敗北を認めはしない。
ああ、でも、身体を破壊されていく中であたしは…心まで砕けてしまわずに、いられるだろうか。
(NGありません・アレンジや過激な描写歓迎)
「……かかさま。あたしに、力を貸して下さい。――速攻で決めさせてもらうね」
「余に挑むか。よかろう、せいぜい戯けてみせろ道化」
「抜かせッ」
嗚吼姫・ナエカ(雪狼牙忍・f26098)は《転身・雪祈化生》による速攻を仕掛ける。青白い炎に身体を包まれるや否や、四肢を純白の餓狼に変ずる。掴みかかる勢いは振り払うも容易でなく、先の燃焼系アスリートなら瞬く間に鎮火霧消していたことだろう。それだけの気迫と、並々ならぬ意気があった。
しかし、言うなれば、それだけである。暴力に慣れた強大な
男が、
獲物の真姿を見抜くのは容易い。自明の結果さえ、血気に逸る狼には見定められなかった。
筋肉がしなり、唸る打擲音のダイナミックさにしばし観客は魅了されていたが、王たる男はいかにもつまらなさそうに何度目かに繰り出された爪牙を掴んだ。
「な、な……にっ
……?!」
「腹部に攻撃が繰り出された時に必要ないほど過敏に避ける癖があるようだ……そんなことも気づかないのか」
「コイツ……あたしの動きの癖まで、こんな短時間で?!」
「やはりそうか」
ぐいと手首を捻られる。過失はなかった。動きの中での微かな違和感を、カマをかけるように口にしたのだ。結果的に確信を得られ、ますます意識してしまう動きは達人から見ればガタガタ。
王とは、名ばかりの肩書ではなかったらしい。筋力だけでなく、その筋力を押し通す技術や話術がずば抜けている。ナエカは、反攻に備えて奥歯を噛み締めて腹筋に力を込める。
「嬉しい限りだ。道化とはいえ歴戦の士をこうして殴打できるとは。教えよう、殴るとはこうやるのだ!」
みぞおちを真下から拳で叩く。
「おっぐぅぅ……!」
血液交じりの嗚咽を洩らして宙に浮くナエカ。
体格で言えば倍近くの差がある、ゆえに、掬い上げるような一打は予想外で、響き渡る肉音が殊更に高く響いた。インパクトの瞬間に腕の筋肉がめりめりと隆起し、爆発寸前のような膨張を見せる。あり得ない。悲鳴にも似た声を残してナエカは舞い上がる。
――メゴォォッ……!!
「いっ゛ッ゛……あ゛あ゛あ゛あアぁア゛ア゛ッ゛?!」
頭からリングに叩きつけられる。
爪の先から見る見るうちに収縮し、力の励起が収まっていく。神狼の血の覚醒は相応のリスクを伴うもの。制御する胆力を寿命で補い、生命の炎を燃やして白き勇狼に変ずるナエカの切り札だ。当然、損傷した肉体は端々から力が漏れ出ていく。穴の空いた風船か、はたまたそこに穴の空いた瓶か。
「ぶげっ、お゛ッ!? おぼっ……お゛ほ、げッ
……!?」
――メゴォォッ……メリメリっ!!
「おごロォ゛っ……」
――ズッドォォッ……!
無言の掌底が、二度、三度と襲いかかる。拳で足りなければ膝を。折り曲げた膝先がちょうど鳩尾に食い込み、堪えきれないナエカの苦悶を誘発させる。
「おヘッ、お……げぇ……」
「拳を捻り、膝を突き立てると内臓が裏返るような心地がするだろう? それが殴られるということだ。ゆめゆめ忘れるな。王たる余の一撃を噛み締めて、果てるがいい!」
高速の一撃。変異が解けかけた足の跳躍で、なんとか身を捩りつつカウンター気味に蹴りを繰り出す。
――ゴギ……ンッ!!
「つッ……うぅうううッ!」
「はっはあ! どうした!? もっと楽しませてみせよ!」
結果は火を見るより明らか。ぶち当たった足が奇妙な音を立てて曲がり、ふらふらとよろめいたナエカはリングの上で片足立ちを余儀なくされる惨状だ。手足は年齢相応のものに戻り、残されたのはぼろぼろの四肢と疲れ果てた体。今なおピンピンした様子で仁王立ちする男の姿。
もはやこれまでか、覚悟を決めた眼差しのナエカは、吠えた。
「はぁっはぁっ……楽しませる? あいにく、勝つのはあたしだ……っ!」
――どちゅんっ!
返す言葉もない。無味乾燥な、吠え猛る闘志への報復。ただただ語るのは拳と言わんばかりに、全くの無防備であったナエカのレバーにその剛腕をめり込ませたのだった。
激痛による苦しみが未だ癒えない左の脇腹を庇いながら、ファイティングポーズを歪な姿勢で維持することが彼女にできるせめてもの抵抗だった。体躯はすっかり元通りになり「かかさま」どころか天に見放されてしまったように感じる。
「こンのおッ!」
「ぐ……」
握り込んだ拳が顔面に突き立つ。取り掛かりながらの体重を乗せた、振り抜きざまのストレート。飛び散る血、煌めく汗、殴った際のぬるりとした感触まで闘志漲らせるアクセントになる。
「疾ィッ!」
――ドッ、ドスンッ、ドゴォッ!
アイアンクローで頭を固定し、もう片方の腕でめちゃくちゃに殴りつける。足は動かない。それでも上半身に組み付いて果敢に攻め立てる。
「う……煩い小蝿がッ」
――ドボンッ!
水っぽい衝撃音とともに王の剛腕が手首の辺りまでめり込むと、ナエカは唾液と吐瀉物の混ざった濁り色の体液をポタポタと、己の腹筋を完膚なきまでに破壊した王の腕へと垂らしていく。それが堪らなく不興を買ったらしい。眦を吊り上げて血管を浮き立たせ、嘔吐くナエカの柔腹を突いていく。
「はぁ、あっ! も、立てなっ……お゛っ……」
「汚い体液を撒き散らしたと思えば、余の拳に善がるか! まだまだダウンするなよ。存分に蹂躙し力の差思い知らせてくれる」
「ゲフ……も゛っ、げんか……いいぃ゛い゛いっっ゛?! いぎい゛っ!?」
ポストに押し付けられ無理やり腹を突き出させ、そこへと容赦なしに見舞われる殴打の数々。プロレスらしいテクニックや技の見せ合いもない。吹き荒れるのはただの暴力の嵐だ。
その度に嗚咽を上げるも、むしろはそれはキング・デカスリートの嗜虐心と隆起した筋肉を煽るだけだ。ちょろちょろと決壊した股から雫を零し、足を小鹿のように震えさせても救いの手など伸ばされない。ばるんばると殴りつけられるたびに痛ましいほど胸が暴れ、腫れ上がったせいかさらに巨大房となってしまった。コンプレックスをより辱めるような所業。王の強権であると彼は嘲笑う。
――ぎゅううううっ!!
大蛇のような五指がナエカの首に絡みつく。頸動脈を圧迫されて、何度も口を開閉し、目を見開く。脳へと十分な酸素が行きわたらず、舌をだらんと伸ばし、酸欠で顔色を真っ赤にさせる。濃厚な死への予感に、心だけは折られてなるものかと踏ん張り、踏ん張り、踏ん張り続けて……。
――ミシッ……!
「こひぅっ……お゛ンッ?!」
涎を垂らし、眼球を上ずらせ、股からぬるぬると生理的危機を訴えながら、同時に首の骨が限界の悲鳴をひび割れと共に叫喚する。
痛めつけられた肉体に心はついてこない。負けを認めることはないにせよ、精神は限界を迎えていた。早く楽になってしまいたい。奴隷として王に完全な屈服という敗北を認めたい。そう悪魔が耳元で囁く。
――ボゴッ! ゴスッ、ドスッ!!
自然と腰を引いて、屈服を待ち望むかのように青痣だらけの腹を晒す。その姿勢は王の寵愛という拳の連撃を待ち望むものだ。全く、ナエカの意志とは反して体が「そう」あることを欲したかのように、すっかり柔らかくなった腹部に嗚吼姫八彌籠宮紋が輝く。
「ほひゅ、ひゅっ………ッ……っぇ゛……っ!」
涎とも涙ともつかぬ液体をぱたぱたと流し、胃の中身をすっかり吐き出した様相。不屈の狼忍の懊悩は続く。爪折れ牙抜け落ちても、気高き姿は狼狽えない。
それが幸せなのか、はたまた彼女にとっては不幸だったのか。その答えは勝利の女神だけが知っている――女神はまだ、どちらにも微笑まない。
成功
🔵🔵🔴
カシム・ディーン
おいおい…最後はデカブツかよ
それに王だぁ?
てめーが王なら僕は盗賊神だ馬鹿野郎
「メルシーは盗賊の守護神だぞ☆」
【情報収集・視力・戦闘知識・医術】
肉体構造を分析
更に戦闘スタイルとパターンも把握
力自慢が強みらしいが
非力でもやり方ではてめー以上に力持ちになれるって事を教えてやる
【念動力・空中戦】
さて…ぶっちゃけ僕らもヒールみてーなもんだから
「二人がかりでボコっちゃうぞ☆」
念動障壁を全身に展開
【属性攻撃・迷彩】
光水属性を己達に付与して存在を隠し
武器攻撃はヒールの醍醐味だよなぁ?(短剣じゃきり
「大鎌もそうだよね☆」(鎌剣
【二回攻撃・切断】
連続斬撃で切り刻み
姿を現せば
上空から神速突撃して叩きつけ!!!
「さて…ぶっちゃけ僕らもヒールみてーなもんだから――」
『――二人がかりでボコっちゃうぞ☆』
「まさか、数の有利不利を今更ブー垂れないよな王様よ!」
王を嘲るは神の所業。随神を携えてリングインするカシムと、メルシーことメルクリウス。
凄まじきは膂力、気迫、それに無二のコンビネーション。加えてマッハ8を超えるスピードと、光の屈折を利用した迷彩と念動力による不可視を付与し、キングへと襲いかかる。
「分析完了! あー……力自慢が強みらしいが、非力でもやり方ではてめー以上に力持ちになれるって事を教えてやる」
『ラジャったよご主人サマ♪ さらに三倍の速度で撹乱しちゃうぞ☆ きりきり舞いになっちゃえっ』
言葉だけを虚空に残し、二人はさらに速度を上げる。ギアを上げた様子で、もはや目で追う追わない以前の問題だ。新幹線の九十倍以上、ライフル弾の七倍以上と、人智を超えたスピードで猛撃する。
視力や医術で反射神経や思考速度を強化していなければ、到底制御不可能な盗賊流の蹂躙術。この速度で動いた時に発生する衝撃波も念動障壁を全身に展開することで消し、観客へのフォローも万全だ。
『どうだ見たかっ。ぼっこぼこだぞ☆』
「ぐ……! ふん……っ」
巨大なバーベルが瞬く間に輪切りにされる。浮き上がった体を空中から叩きつけられて、強かにバウンドする。その巨体が宙に舞ったことで、観客からは驚嘆の声が上がった。
だが相対する闇の『キング・デカスリート』は、その攻撃を喰らってなお不満げな、不遜の態度を崩さない。良くいえば堂々と、悪くいえば物足りないとでも言いたげな、そんな様子である。
「余の体を持ち上げるのは褒めて遣わす。だが、その動きが客に捉えられると思っているのか」
「あ? なんだ急に。殴られすぎて頭がおかしくなったのか?」
曰く、魅せる戦いこそ超人プロレスの華だとか、観客にもアスリートの「王」と「それ以外」の戦いを見届けさせる義務があるとか、いかにもこの世界の「悪役」らしいことを説く。その口ぶりや眼差しがあまりにも熱がこもっているため、聞き入るカシムはかえって冷ややかになる。
「じゃあ言わせてもらうが」
『言っちゃえ言っちゃえご主人サマ! やっちゃえやっちゃえご主人サマ!』
「うわっ急に踊り出すな。ったく、まず、そもそも本業がプロレスラーじゃない奴が何言ってんだ」
王たるもの口プロレスも技の一つ、ということかもしれないが、格好こそプロレスラーのそれっぽくても本業は陸上競技者なのはカシムの眼力を駆使しなくても一目瞭然。それがプロレスの何たるかを語るのでさえヘソが茶を沸かすのに、観客を慮る発言。
「てめーの都合しか考えてない奴の、てめえの正義を押し付けんな。それに王だぁ? てめーが王なら僕は盗賊神だ馬鹿野郎」
『メルシーは盗賊の守護神だぞ☆』
貫きたい正義や美学を真っ向から否定し、打ち破る。それが許されるのは圧倒的な力を誇る、まさしく神業だろう。
ゆえに、ヒールは神を自称する。
相手のルールに則り相手のルールの中で相手を凌駕する。それは、できなくもないが、カシムからすればお行儀が良すぎる。ヒールの醍醐味は、ルールの外からの攻撃だ。なんならルールを変えても、独自に解釈してもいい。王が我が物顔で語るルールとやらも、容易く捻じ曲げる。騙る、と言った方が正しいかもしれない。
「というわけであばよ筋肉ダルマ!」
「ぐゥアッ?!」
おしゃべりは終わりだ。姿が残像のみを残しながら旋風と虚空の中にかき消えて、空中飛翔からの鮮烈な飛びかかり斬りで、リングの上に鮮血の花を咲かせる。満開のそれは時に、どんな口先だけの美学よりも美しく見えるだろう。手品が如き神業に、会場はこれ以上ない活気に包まれるのだった。
成功
🔵🔵🔴
篁・綾
アドリブ連携歓迎(顔面攻撃と膨体等以外は概ね可。ブレインクローとかは攻撃しているのが頭なので可)
無駄に何処かの方面を【誘惑】しそうなJCのエロニンジャスーツで参戦。
さて、遅れ馳せながらやらせて貰うわ。
受けはする気なく、攻撃を【見切り】、【残像、空中戦】を駆使して攻撃をかわしつつコーナーポストを飛び回るわ。攻め手は【鎧無視攻撃】と飛ばさない【斬撃波】、指先からの【催眠術、生命力吸収】(南斗水鳥拳と鳳凰幻魔拳的なノリ)。
(ただし殺害も捕食もしない格闘戦は不慣れなので、攻撃時の動きは若干ぎこちない(=何かの拍子で捕まる)。捕まった場合、物理的に打たれ強いわけではないので、打撃で普通に弱らされ、関節技だのバストクローだのレッグスプリッドだのを喰らい、ロメロスペシャルで関節をやられKO。色々まろび出るか破られるかして惨憺たる状態のコスチュームのまま、頭を掴まれ高々と観客席側に掲げられる。判定的に勝つ目がある場合は指定UCでリングの一部を犠牲に復活、倫理観0故殺してもいいかという感覚で襲ってくる)
桜の花弁のような薄桃の結晶の塵が、リングに煌めく汗を反射して舞い散る。旋風をその身に纏う篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)がコーナーポストの上に立ってポージング。スポットライトと観客の前のめりな視線を一身に受ける、薄手の鎖帷子が身体のラインにフィットした艶かしい肢体。
一際野蛮な視線に、さらに獰猛な威嚇の眼差しを送る。周囲を支配する一触即発の緊迫感。
「余の前に立ち、見下ろすか」
「遅参の段、御免。お礼に速攻で決めさせて貰うわ」
天にワイヤーでも張り巡らせたかのような、宙とリングロープとを蹴って加速しながらロープワーク、攻撃を躱しざまのドロップキックで『キング・デカスリート』に襲いかかった。弾け飛ぶような衝撃に結晶の硬度と己の速度が上乗せされ、巨漢は体が反らされブリッジで耐える。
耐えた勢いのまま乱暴にボディスラムでマットに投げつけ、腰を天に突き上げながら、悶絶する綾。
「ぐ、あぁ……っ?!」
巨漢はうずくまる綾の背中にのしかかり、手首を掴んでアームロックをかけながら、無防備な綾の下腹部に手をかけ、わざとらしく弄ってみせる。
――ぐりっ、ぐにッ……!
「ばッ……さわ……るなっ」
「笑止。プロレスをしに来て触るなとは」
ついいつもの調子で振り払おうとしてしまった。己の中にメラメラと燃え上がる嗜虐心。繰り出せば相手の血肉どころか魂魄ごと喰らい尽くす《刻蝕狂桜》の秘奥。
狂気と狂喜に染まりし色が赤い瞳に灯っては、明滅する。
殺害。捕食。己の欲望を御し、王たる闇のアスリートを屈服させる。そんな危うい精神の均衡を保つために腐心する綾を、簡単に挑発する手段を王は心得ていた。すなわち女を攻めること。下卑た視線の先を敏感に感じ取った妖狐は、掴み掛かって喉笛を噛みちぎりたい欲望を抑えながら、咄嗟に急所を結晶装甲で覆う。専守防衛。相手のペースに飲まれてはいけない。特に相手は、王を自称するほどの老巧な男。
――ぼ……ギョッ!
「おご
……?!」
頭部を殴りつけられ、その瞳を驚きの色へと染め上げる綾。予想だにしない箇所へまともに受けてしまった打擲の鋭さ、その威力もさることながら、殴打は的確に側頭部を射抜いた為に、綾の身体は、一瞬硬直した。こめかみは骨の厚さが薄く、顎先と並んでの人体の急所。そのためか、そこに打撃を受ければ脳震盪を受けやすい。
衝撃で横隔膜が瞬間的に停止して呼吸困難に陥る。
「は……ッ、ヒゅ……」
「余を見下ろした罪、超人プロレスを蔑ろにした罪は、この程度では償えん」
男は休む隙を与えず、アーモンドカラーの耳を鷲掴んで強引に立たせ、腹目掛けて膝を突き上げた。
――メリメリッ!!
「ごがあっ!?」
触れた指先やわずかな皮膚接触からの生命力の吸引により、即座に意識を手放すことはない。だがそれは綾の苦しみをいたずらに長く引き延ばすことにつながる。
「ほう……? どんな小細工かな」
「調子に乗らないことね。それがお前の敗因よ!」
命を刈り取「らない」一撃、その攻撃は確かに鋭くとも、達人の目からすればぎこちない、欠伸の出るような単純な攻撃だ。
それは、その強気な口ぶりが滑稽に聞こえてしまうほど。まずは小生意気な娘を躾けんと、繰り出される攻撃よりなお早く腕を前に突き出し、そこを潰さんばかりに鷲掴む。
――ぎりぎヂいいいいッ……!!
「があ……あ゛ア゛ぁあ゛ッ!?」
両手をいっぱいに広げ綾の巨乳を握り締めた。否、握ったというよりは、爪を立てて思い切り上から体重をかけたのだった。巨軀の体重に重力が加わり、万力に締め付けられたかのようにくびり出た胸が傷ついていく。表面からとめどなく伝わってくる熱が、体に夥しい量の脂汗を浮かせ、喉奥から溢れる悲鳴を堪えることもできない。
ただでさえ重荷になる巨房が無理やり変形させられ赤みどころか赤黒みを帯びるバストクロー。
「うげっ、むねえ゛っ……! おおおお゛っ
……!!?」
胸を掴んで引き寄せてからの、追い討ちとばかりに鳩尾のあたりに強烈なボディブローを加える。それも一度ではない。折れそうな体を胸を掴んで引き寄せ、胸だけ体から剥離するのではないかと錯覚する連打。
衝撃で背中がぼこぼこと隆起し、潰れた蛙のような呻き声が洩れた。
屈辱や羞恥を感じる余裕もなく、げえげえと喘ぐしかなかった。
綾もその声が自然に漏れてしまったもの、鳩尾のあたりをぐりぐりと捻じられ、殴られたという事実を痛覚で遅れて理解している、そんな有り様だ。
「や、め゛ッ……げえっ、お゛っ……?! げっ、おっ……げえええぇえ――~~ッ
……!?」
「ははははは! 痛いか、恐ろしいか? そうだろうな、ここは王の御前であるがゆえ」
視線を落としただけで意識が飛びそうだ。
疲弊した体に鞭打って喉を反らすようなポーズを取り、痛みに呻く喉のせいで唇がだらしなく半開きになってしまう。
「はぁ……ゼェ、お、お前は……王なんかじゃない、この世界の、敵、悪……ッ」
震える唇から漏れる、呪詛。元より自身の倫理観やら理性やらを打ち捨てて、驚異的な力を纏っているのが今の姿だ。多少のダメージを被ろうとも、そうそう戦意は挫けはしない。痛い? 恐ろしい? 今は意識を失って戦いを放棄することが何より恐怖心を煽る。
それから途方もない時間、といっても時の流れでいえば十分にも満たない時間ではあるが、サンドバッグのように殴られ、蹴られ、体の向きと跳ねる胸がまるで違う方向を向くような凄まじい衝撃が、何度も何度も襲いかかる。
必要以上に強調された四肢と肢体が何度目か、通常の肉体では耐えられない尋常ならざる刺激を与えられた時、彼女は両目を見開く。この一撃が決定打になったのか、綾の全身から力が抜け、彼女は失神してしまった。
それでも、膝を折って倒れはしない。白目を剥いたまま立ち尽くしている。
――ボグゥウウッッ!!
「ッ……あ゛?! ぁ、ア゛ッぎぃィーー〜〜ッ!?」
「寝るな。惚けるな。立ったまま眠りこけるなど案山子でもできる」
「ほぉッ……おぉお……あっぎゃぁぁぁぁッッ!!」
ついに膝をついて尻を突き上げた状態で意識を手放しかけた綾は失禁し、小水が負け犬ならぬ負け狐の下半身を汚しながら、床に広がっていく。人目を引く魅惑のヒップは無惨に震えていた。
急所攻撃の激痛で断続的に意識が立ち戻るが、痛みで立ち上がれない彼女は股間を押さえている。悶えながら激痛に耐えるのが精一杯で、殴打の連続で破損したコスチュームから露出している下半身を気にする余裕はなかった。
「……混ざれ、交ざれ――」
「遅い遅い。そんな準備を待ってやれるほど余は寛大ではない」
キング・デカスリートは距離を詰めて近づくと彼女の股間に目をつける。抵抗するまもなく牛蒡のような五指が彼女の股ぐらに狙いを定め、力一杯握った。それも、ただ股間を握るだけではなく、未だ震えながらも立ち向かおうとする綾に更なる屈辱と苦痛を与えるため、人差し指と中指を秘奥に突っ込みながら急所を握っていた。
――ごりっ、グリュウッッ!!
「……お゛ッ?! ゆ……指、入って……!? 痛いっ!! あぎゅぅッッ!!?」
緋色の両目が飛び出そうなくらい大きく開く。女子の外性器を鷲掴みして握りつぶす、いわゆるグレープフルーツクローである。アイアンクローと同じく、握力で相手を締め上げる攻撃を弱り切った少女に放ったのだ。
当然、綾は激痛のあまり内股になり、汗に濡れた髪を振り乱す。彼女が悶えている間も王の掌は、容赦なく股間を握り潰そうとしていた。ゴリッ、ギヂィ、と地獄へのカウントダウンが高らかに響き渡る。
内奥に指を入れて引っ掛け、恥骨結合の上際に他の指をかけて握り潰す。言葉にすれば簡単だが、かけられる側からすれば堪ったものではない。内臓を直接握り締められるよりなお苦しい生き地獄。足を閉じて目を瞑って苦悶する姿が観客の興奮を掻き立てる最高のスパイスだ。
「い……だいいだいッ痛いッッ!? やめっ、いっ……ぎゃぁぁァアッッ!?」
「あまり暴れるなよ。万一この手に小便を引っ掛けた時には、縊り殺めてくれる」
グチャ……グチャッ! と血肉の砕け、骨と混じるような音に耳を塞いでしまいたくなる。股間から脳天まで打ち上げられるようなとてつもない激痛にも決して無様な悲鳴をあげまいと飲み込み、唾液や涙を流す前に見上げる。嗤う男を睨んだ。
足をピンと張った状態で尿の海を広げて、びくん、びくんとうつ伏せになって激しく痙攣する――そんな媚態を晒してしまった方がどれだけ楽だったろう。もはや振り上げた拳を下ろすには遅すぎる。
朦朧とする意識の中、片腕が不意に持ち上がる。びきびきっ、と、綾の腕と、その肩と繋がった皮膚ごと引っ張られて吊り上がる。ぶちっ、ぶちっ……と筋肉が引き千切られる虐めの果てに、音色が変わる。ベリベリベリッ!! と、肩が、骨が、肉が、無理やり剥がされる音、そして――喉から噴き出される、新鮮な悲鳴。
「ッ……ふッ゛ーー〜〜?! んぁ゛……ぁぁ゛ぁ゛っ゛?!」
「悲鳴を我慢することもできなかったようだな。どうだ。王の御技の味は。光栄に思うとよい」
「よくも……よくもこんな……許さないっ、絶対に、この悪党っ……ううぅうっ」
もはや関節技とは名ばかりの、強引なアームロック。脱臼だけではなく、筋肉に靭帯、へし曲がり具合からおそらく軟骨も損傷したに違いない。
あり得ない方向にねじ曲がる腕を無理やり装甲結晶で覆い、振り払おうと大ぶりに横薙ぐ。苦痛に歪む顔。無理もない。無理やりに動かせばかえってダメージは綾の方が甚大だとわかっていても、嫌悪感から体が勝手に動いてしまったかのようだった。
そして、それはまだ彼女の闘志が消えていないことを意味する。続け様に放たれる、今度は足へ向かっての仕掛け技を必死に片腕で躱しつつ、戦線が膠着する。しばらくの丁々発止のやり取りの後、キングは余裕の笑みで宣言した。
「その手を借りよう。何、極上の屈辱をくれてやる!」
狙うは足、闇のアスリートは足払いで体勢を崩すと、倒れ込んだ彼女の太もも裏を踏み、立ちあがろうとするつま先を自分の足に引っかけて先んじて固定!
危機感を覚え無理繰りで突き出す拳、男はその結晶装甲ごと両手を掴み取る。
瞬く間に四肢を拘束すると、手を引いたまま、体を後ろに倒す。自然、張り出されるように綾の上体が引き起こされ、重力を無視してばるうんっと胸が弾んだ。
度重なるダメージで表情もろくに作れなくなった、悲痛な顔が同時に晒されてしまう。
「く、屈辱……ッ!?」
「期待で潤んでいるのか? その下卑た本性を世界に晒すがいいッ」
完全にキングが後ろに倒れ込んでしまえば、それに釣られて、いや「吊られ」てしまうように、綾の身体が持ち上がり、マットから離れ、吊り上げられる。
同時に、桜の花汁を思わせる、涙と汗の混合液がリング上に飛び散った。
――ミギ、ミキミギメギィイイ……!!
「あああああっ、ガっ……! か、はっ……おおおおおっ
……!?」
晒されているとわかっていても表情や声を取り繕うことは、いよいよ不可能だった。
蛙が潰れたような低い声と甲高い悲鳴の交互で呻く。顔中の穴という穴から涙や涎が垂れ、リングに広がる水たまりに音もなく溶けていく。
股間を隠す動きもできない公衆面前での羞恥。何より、脹脛が極まることで選択肢を与えるのだ。無防備な股ぐらを揚々とさらし続けるか、あるいは体を庇う、すなわち極まった腕やら腰やら背中を守るかだ。ただでさえ片腕は使い物にならないのがわかりきっているのに「我が身可愛さ」などと揶揄されたらたまったものではない。一見、ただ四肢を拘束して持ち上げているだけに見える、いわゆるロメロ・スペシャル。自身の体重を支えるだけで精一杯だ。逆に、これらから力を抜けば、壊れかけの手足への極めに、重くはないといえど全身の自重を加えることになる。
「くゥアッ゛?! あ゛、お……おあぁッ?!」
身を捩る。しかし、全身丸ごと男の膂力で持ち上げられているから、捩っても捻っても、暴れてもがいたとしても、どこにも逃げ場がない。
体を持ち上げ空中に磔にして支配するという、受け手に苦痛を軽減する工夫の余地を与えない絶対的な決め技。それこそこの技が易々放ってはならない拷問技に準えられる所以。
「その股ぐらを開閉し、ギブアップする余地をやろう。これは最後通牒、慈悲である。返答を聞こう」
「……くそっ……」
「ではこうだ」
――グイッ、ギリリッギチギチ、ギヂィ!!
「あがっ、ぎ、ぐ……ひィ゛、う……あ゛……ッ゛!?」
狐の脚力を担保する、筋繊維が密集している脚がブヂブヂとこれ聞こえよがしに断裂していく。
それでも、致命的な敗北を避けるためには、技を受け続ける必要があり――すなわち消耗した体力をすり減らし、全力で、自分の身体を支え続けなければならない。
脱臼した片腕と、足の付け根を存分に「破壊」された後、たっぷり五分はかけて念入りに五体を痛めつけられる。自重を支えきれなくなってリングに叩きつけられた後、朦朧とした意識ではギブアップ宣言すらできなかった。いや、しなかった、と彼女の名誉にかけて言うべきだろう。
逃れようとして動かした足を掴まれて股関節も脱臼させられ、ミミズのようにリングをのたうち回る、惨憺たる状態。頭を鷲掴みにされ、王は戦果を観客に見せつける。
「見ろ。余に逆らうものは、こうなるのだ!」
ヒールのヒールっぷりを見せつける、生贄のような役割を担わされてしまった綾。一矢報いる心持ちで王の生命力を啜ると、苦痛の果てに意識を手放してしまうのだった……。
成功
🔵🔵🔴
美国・翠華
【バイオレンス希望】
体はUDCに修復されるもすぐには動けない翠華
次の戦いが始まるまでの間
翠華は観客に弄ばれていたが
最後の敵が現れたところで
無理やりUDCにリングへと引きずりあげられる。
ナイフを使えない状況で絶望的な身体能力差を持つ相手になど
勝てるはずもない。
それがわかりつつも彼女は必死で攻撃する
あっという間に暴力の宴がはじめられるが
今回の翠華は
たとえ動けなくなっても無理やりUDCに体を動かされながら
戦うことになる。
万が一再起不能な損傷を体に受けても
無理やり治され、復活して攻撃を促される
業を煮やした王が次に行うのは
自身の体で四肢をすべて固定しての絞め上げだった
筋骨隆々の男に締め上げられれば
華奢な少女では逃げられない。
最後には四肢をくくりつけられるような形で
男の胴体に磔にされる。
敗者認定された翠華は
その状態で観客たちから再び思うがままに
リンチを受け続ける事となった…
UDCはこのヤラレ具合に満足しているようだった。
「ファンサービス」は済んだのか、と相対するキング・デカスリートからの問いかけに、視界を茫洋と泳がせていた翠華の頰がカアッと熱を帯びた。
相棒たるUDCの、意図の読めない行動のせいでたっぷりとダメージと屈辱を負った後、授けられた力は「武器の殺傷能力を引き上げる」もの。副次的にはUDCの解放状態となり体の動きを「補助」する。半死半生ともいうべきダメージの疼痛に苛まれた今、この副次効果の方がありがたいくらいだ。
「はぁ……はぁ……ッ! これが私の運命だとしても……!」
補助された体の動きが付き従うように操作され、キングへ向けて延髄斬りを放つ。直立から飛びかかるような蹴りは意表を突き、その威力は普段ならセーブしてしまう理性の埒外。一般人がモロに受ければ首の骨を折られてしまうほどの強烈さである。
しかし、それも相手が一般人なら、の話。
――ガシッ!
「くっ……!」
「余の目は節穴ではないぞ。そうら!」
相手に力の差を歴然と見せつけたいキングと、言外にだが相棒を痛めつけたいUDCの利害は、翠華にとって最悪な形で一致してしまっている。
体格差、実力差のある相手に徒手空拳で突ける意表は限られている。望む結末が同じ同士なら、呉越同舟どころか半ば進んで手を組む形で翠華へ悲劇を見舞うことだろう。首筋には届かない。何があっても、絶対に。
そう、「絶対」。世にあるとするならば、それが無二の法律であるとされる、不可逆のルール。力。圧倒的な力である。
無理やり引きずり上げられた翠華の覇気のない足がガッシと掴まれる。キングは翠華の足を掴んだまま、風車のように掲げ回転運動で、頭の上で何度も振り回す。
股関節が脱臼しそうな痛みに、耐えるように顔をしかめていたが、その反動はすぐに「真下」へと向かった。
――ボ……グ、ンッ!!
「ガっ……ハアッ
……?!」
床へと背中から叩きつけられると、逃せない威力で陥没する。そのエネルギーは全て翠華の体へと集まっていき、充填された威力が体の中で弾けた。
その手は未だがっしり脚をホールドして離しはしない。バウンドし、シェイクされ、体の中身がかき混ぜられると同時に意識が混濁する。毛細血管が裂けたせいで視界が真っ赤に染まり、開かれた口から吐き出された血塊がそのまま落ちて顔を濡らす。
「ま……まずい……このままじゃ……!」
「このままでは何だ。それは手立てのある者のセリフに聞こえるが?」
どろどろとした鮮血に塗れた顔は、鼻腔から鉄錆の臭いを取り込ませ、流れる汗と振り回される風と、激痛による涙が少しだけ血の赤を洗い流す。抵抗虚しく、キングの動きは止まらず、体が持ち上げられた体が再び頭上で振り回される。
――ギリィ、ご……ギン゛ッ゛!!
「ぎぃ……あぁああッ?!」
股関節だけではなく、全身が引き裂かれそうになる。
千切れてはならない致命的な筋肉や血管だけは傷つけられながら半端に少しずつ修復し、絶え間なく走る激痛が気絶スレスレで意識を繋ぎ止められる。足を掴まれ、手は万歳の体勢で伸びる。腕はとうに肩口から外れそうだった。掴まれている右足の股関節からもビキビキッと靭帯が伸びる音が、骨を伝って耳へと届く。
「タリネェナ。モット、モットダ……」
幻聴のような悪魔の囁きが聞こえる。まるで自分が面前で苦悶の表情を浮かべ悲鳴を漏らすことを望んでいるかのような――。
違う。それは恐怖する己が生んだまやかしだ。事実、外からは風の音が耳孔を嫌というほど埋め尽くし、視界はもうどこを向いているのかさえ分からないのだから。
回転し続けて三半規管もぐちゃぐちゃにかき乱され、吐き気で気持ち悪くなった頃を見計らって、彼女の足を掴む手が不意に離れた。
――ゴォシャッ!!
「ぐ、がギャボッ?!」
宙空を飛んでいった勢いがコーナーポストに激突したことで翠華に還元される。頭から突っ込んだ勢いで少しの間だけ貼り付いていたが、ずる……ずるずるぅと、頭部から床へと落下した。
尻を突き出した間抜けな姿勢のまま、ひゅうひゅう息を漏らしている。頭頂部をぶつけた衝撃で脳震盪を起こし、横に倒れて痙攣することしかできない。全身を駆け巡る激痛。股ぐらあたりももちろん、頭をぶつけた拍子に骨が軋みひび割れたらしい。口の中も切ったのだろう。血の味が気持ち悪い。
震える腕で上半身を持ち上げて、キングへと視線を向けた。視界もグラグラ揺れて巨体が二重に見えていた。
「うぐっ……が、げほ……ぉええ……」
「神聖なリングを――」
――グオォォッ……!
「ま……まっ――!」
「穢すな痴れ者がッ」
霞む視界を裂いて、ドグ、ん、と叩き込まれた一発の拳。濁った泥水の如く破裂しかけの被虐欲求が鎌首をもたげる。ひび割れた奥歯を、がちっと鳴らしながら、翠華は身体を捻りながら悶えた。
同時にぼとぼとっ、とコスチュームから滴が零れ落ちる。べごん、と凹んだ翠華の腹部。あろうことか体はぐ、ぐ、ぐと勝手に動き、ダメージの蓄積した腹部をさらに「狙われ」やすくするかのようにひとりでに動くではないか!
「ん゛ふーッ……ふ〜ッ……な、に゛ぃッ……なん、でぇ……」
足が意思に反して勝手に動く。体が服従すべき王に向けての、精神的屈服とでもいうべきか。自分の視界とは思えないほどぼんやりし、左右の外側に投げ出すようにされている自分の両腕だけが、見えていた。
ふりふりと腹を振ってみせる。窪んだ、生傷残る血と汗の滲んだ腹部。凝り固められた負の感情が一斉に集っている。視線だ。己の嬲られる姿を期待する、決して少なくない量の期待。そして、それに応える殴打を今から、この身にぶつけられるのだ。
口をかぱぁと開いて、唾液に塗れた舌を突き出した。
「モ……ユルシテ……」
「服従するか。いいだろう」
「ちがっ、私……服従なんか……」
王の手が、足が、ぴくりと動かせない手足に纏わりついてくる。それは象の鼻のように、あるいは獲物を前にした大蛇のようにしなやかで筋肉質で、容赦がない。筋肉の荒縄により膝より下が完全に固定され、太ももも締め上げられていく。硬く締め上げられてるせいで膝を曲げることもできないが、触れ合ってるところはみしみし軋んで、めり込むほど痛い。
「ゔあああああッ?!」
筋骨隆々の男に締め上げられれば華奢な少女では逃げられない。
そんな当たり前の事実を男は丁寧に教えているのだ。観客に向かって誇示している。リングの上の絶対王者の栄光を、敗残の、生かされる屍を踏み台に、高らかに叫ぶ。
「このまま締め落とすぞ」
翠華の顔がみるみるうちに朱へと染まっていく。必死の形相で腕を外そうとするが、渾身の力で締め続ける男の腕は動かない。それでは足腰はというと、脱臼はそのまま中途半端に治癒したせいで、力は入らないのに痛覚がアラートを鳴らしている。
括り付けたように絡みついたまま、体重をかけてダイブするように虜の翠華を再び、すでに歪んだコーナーポストに叩きつける。呼吸がままならず、力が入らないため、深くダメージが抉りこまれる勢いで蓄積していく。かっと目を見開き、涎を溢す姿から、誰がどう見ても深いダメージを受けていることは明白だった。
見守る面々はその傷痕が刻まれる姿をまざまざと目撃するだろう。そして、その傷が治っていくことは彼女の戦意が喪われていないからだと思ったはずだ。
「がんばれっ」
「負けるなーっ!」
頸への締め上げが続くうち、顔が上向き、唾液が泡となって口の端から流れ落ち始める。抵抗する力も弱まり失神も間近と思われた。
薄らぐ意識の狭間に突き立つ激励の声。嗚呼、純粋にスポーツを見て楽しむ人たち、応援者たちのなんと残酷なことだろう。よもや体の回復もひとりでの動きも彼女の気持ちとは関係ないことを知る由もない。
踏ん張りがきかず、締め付けの度にバランスを崩してしまい、今やリングの隅へと追い詰められてしまっている。絶体絶命のピンチ。押し付けられ、挟み込まれ、ポストと肉の壁に軋む全身を挟みこまれた衝撃は外へとまるで逃がすことができず、内へ内へと向かう破壊力が倍増する。
「おぶぅっ! つぶれ、ひゃ……う……ぁ……やめぇ゛ッ!?」
服の下に隠れた肌は元の色の面影を失い、痛々しい赤紫の痣がへそを中心として広がっている。折れ、裂け、千切れ、その破片が締め付けられることでさらに内部を傷つける。リング上も、衣服にも、自身の体液による斑な模様が刻まれていた。
「お゛ごッ?! お゛ぶッ……えぃっ!」
無茶苦茶に振った拳がぺちと当たる。気管ごとゴリゴリ締め上げられ、しなだれかかる体はもはや男に寄りかかるほどの密着感と焦燥。にも関わらず、ましてや一度は屈服した女の、反抗。
粗相も、許してやったのに。無礼で、愚図で、鈍間にも程がある。キング・デカスリートは先ほどまでファンサービスに勤しんでいたこの女をいかに締め付け、オトすか。思考を巡らせ、至る。
「ごぼ……ッ! げェほエフぅッ! お゛ぇ゛え゛ぇぇッ!?」
リングの上にオブジェのように括り付けられる。肉の十字架に磔されたかのように、大股をくびり出して晒され締め上げられる翠華。本当の意味で勝負を降りるタイミングはこれまでにいくらでもあったはずなのに、予想外の噛み合いを見せた饗宴の結果、四肢をくくりつけられるような形で男の胴体に磔にされる、人としての尊厳をかなぐり捨てた惨状を晒す羽目になる。
「ククク……」
敗者。負け犬。苦しみをより甘美にするスパイスとしてこれほど刺激的なものはない。浴びた応援が無に帰し、呆れられ、やがて観客にもリンチされる始末。もちろん王の醸す闇の力に魅入られてしまったせいもあるだろうが、なるほど、単に命を奪うところまで痛めつけるだけでなく、こんな方法もあるか。
「モット楽シマセテモラウ……死ヌマデナァ」
無論、死なせる気もない。第一「試合」で死ぬわけがないじゃないか。このヤラレ具合に満足したのか、歓声にかき消されてなお、くぐもった笑い声が静かに響き渡るのだった……。
成功
🔵🔵🔴
八咫烏・みずき
【バイオレンス系希望】
圧倒的暴力でダメージが大きいみずきだが
損傷急速回復剤を浴びるように飲むことによって
どうにか体中の損傷の修復に成功した
「どっちにしろコレで終わりね
全力勝負で行くわ…
パワーでは叶わなそうだから
スピードで翻弄させてもらうわ」
両手からフォトングラッジクローを展開して
ハイスピードで攻撃する。
敵のしぶとさに辟易しながら一気に急所を狙いに行く
狙いは鍛えることができない脳幹…!
首の後ろを全力で叩こうとしたところで
不意に足を掴まれる
相手もアスリート
パワーに劣る相手が勝つ方法が急所への一撃だとわかっていたのだ
足を掴まれ何度も何度もリングに叩きつけられ
宙吊りにされたまま強烈なパンチを何度も打ち付けられる。
サイボーグの体でなければ即死しかねないほどの一撃を何度も食らった後は
強烈なベアハッグで体を押しつぶされる
ひしゃげそうになる体を必死に震わせながらも
決して負けを認めずに睨み返す
意識を失いそうなほどの攻撃を受けてなお
反撃の機会を伺う…
持てる力のすべてを振り絞って急所への一撃を狙う。
「今までのお返しを…させてもらうから…覚悟してね…」
「覚悟か? フフフ、ハハハ! 半死半生の分際で強く出たものよ、この余の圧倒的な力の前に!」
振り下ろされるチョップ。風を切り唸る手に、当たれば骨肉が粉砕される強烈な予感、否、悪寒を感じさせる。当たれば即、再起不能。みずきはそれを喰らいぐらりと体勢を崩した――わけではなく、大きく肩を引き、相手の大振りを誘って隙を窺う。
「確かにパワーでは叶わなそうだから、スピードで翻弄させてもらうわ」
低い体勢から手を錐揉み回転させながら、フォトングラッジクローを繰り出す。血の霧に黒い粒子が飛び散り、リングの上に歓声を響めかせた。
一度の攻撃の間に二度三度と反撃を加える。ダメージと同時に攻撃を誘うことで消耗を強制させ、試合展開を有利に運ぶのがみずきの狙いだ。
「小賢しい」
とはいえ対価を払っていないに等しい爪の攻撃では急所を抉ったとて薄皮を剥ぐのが精々。決定打にならない攻撃の応酬は王を苛立たせる。鍛えることのできない、すなわち首の後ろ。後背部に回りつつ必殺の攻撃を浴びせるのが勝利への道筋である。
「苛立ちが手に取るようにわかる……私はあなたみたいなのに負けるわけにはいかないの……!」
コーナーポストを駆け上ると、宙を舞い、その豊満な肢体を揺らしたサマーソルトキックを放つ。流星の如く閃いた脚が死神の鎌のように王の首に迫る。爪を意識させての、脚! 不意打ち気味に撃たれた必殺の一撃が、王の首級を刈り取る……!
しかし屈強な僧帽筋がそれを阻む。浅いか、と逡巡した隙。一転して無防備になったその脚を、王はガッシと掴むと、コーナーに投げつける。堪らずコーナーに背中から叩きつけられるみずき。
そこへ王が助走をつけて低い体勢で肩から突進する。
――ズドォん!!
「うぐぅあッ!? ゲッホ、ォ...…ぅ
......!」
いわゆるスピアーの衝撃はコーナーによって分散することなくみずきの内臓に響く。わかりきってる通り、そして狙ってた通りの「真逆」に、臓腑や身体の中身を鍛えることはできないのだ。
さらに王は、みずきの突き出た胸部に膝を何度も埋めた。
――ズンっ!! ズドォッ、ドムゥッ!!
「うッ?! ぐむぅ! おッご……ォ! お……エェげぇ……」
コーナーに逆さ大の字で絡みつくように磔にされて、胸とコートと黒髪とが重力に従って垂れ下がる。目を見開き呻く姿はただ男なら誰もが嗜虐心を唆られる極上の獲物のそれである。しかし相対する男は、王の中の王、キング・デカスリート。油断もなければ容赦もしない。トップロープに両足を引っ掛けて放心状態の、捲れ上がって力もろくにこもっていない足に拳を添えた。再び掴み上げる心算か。
「余に歯向かった塵は、このリング上で掃除せねばなあ!」
「や……やめっ――?!」
足をリングへ戻そうとばたつかせるが、太腕でガッシリと掴まれていては足を引くことも満足に動かすことすらできない。
「く……っ! は、放し……あぐぅぅゥっ!? あ、あし、が、やっめぇ……!」
足を強く握られ、みずきの端正な顔が歪んだ。機械と生身の境目の部分に負荷がかかり全身が軋んだ。
苦しむ顔を観客へ堪能させたキングはそのままみずきをジャイアントスイングの要領で振り回した。
――ブゥンブゥンブゥン!!
「あっ、あぁああああっ! アぐぅッ、があぁッ?! とめ、とめてェええええっ!!」
汗に塗れたセミロングを靡かせながら、黒髪美少女の身体がぐるぐるぐると回る。
遠心力で足に負荷がかかり、みずきの足から全身へと痛みが走る。キングその勢いのまま、リングの中心へみずきを叩きつけてしまった。尻だけでなく全身を強打しのたうち回る。頭も打ったせいで意識まで朦朧し、立ちあがろうとしても内股になって膝をつき、プルプルと身体を震わせて耐えることしかできない。
「んあああ……ぐ……かはぁ」
「まずは、その足癖の悪さを正してやろう」
――ボギョッ!!
「あ゛っ゛ぁぐうううぅぅぅ!?」
内股になった脚を無理やり開かされ、股間に強烈な衝撃が突き抜けた。
持ち上げられた体は重力に従って固い膝を受け止め、みずきは膝をつき、崩れるように倒れ込む。
横たわった上半身は衆人環視の面前で野晒しにされ、苦悶に悶えている。隠すこともできない下半身は、小刻みに震えながら臀部を突き上げて倒れ込み、下着にじわじわと拡がる滲みと共に、内股になった太腿を小水が伝っていく。堰を切った勢いは腹部に力を込めて息んでも止められない。
「うっあぁあ……み、みるな……みないでよ……!」
「そんなことを言っても唆るだけだぞ変態サイボーグが!」
「んああっ……ぐぅ?!」
突き出されたお尻を強く蹴り飛ばされ、みずきの身体は激しく回転しながら吹き飛ばされる。
仰向けに転がり、びくびくと痙攣する股間から勢いよく小水が溢れ出ている。これ以上ないほどの屈辱的な姿を晒しても、絶対王者を自称する者は言葉とは裏腹に不機嫌そうだ。その眼差しが、義肢から噴出する攻性粒子の量が増えていることを目ざとく見つけていることからも窺える。どこまでも小細工ばかりを弄する存在。己の攻撃を全て受け切る魂胆。確かにアスリートとしては見上げた根性だが、キングの面目としてはいささか苛立たせてくれる。
――ぐりっ……ぐじゅ!
失禁している股間を激しく踏みつけられ、黒衣に包まれたみずきの身体が大きく跳ねる。
無防備な股間に強烈なストンピングの連打を行い痛覚を確かめると、ドボッ、と嫌な音が聞こえ、みずきの腹筋が崩壊した。内臓までダメージが浸透し、無様な悲鳴を上げることもできない。
再び持ち上げられてコーナーポストに押し付けられながらの殴打である。足を掴まれての宙吊りでただでさえ感覚がめちゃくちゃ、反転した意識をさらに苛むように鉄拳が腹部を襲うのだ。
――ドボゥ!!
「ぐぅ……ぁ、んッ! また……も……いい、かげ……あぐぅぅッ!!」
涎を垂らしながら喘ぐと、みずきは反射的に腹を押さえてしまう。それもまた思う壺。今度は、無防備になった胸へと強烈な打撃が打ち込まれ、柔らかい乳肉がなすすべなく潰された。サイボーグの体でなければ即死しかねないほどの一撃を腹、次に胸と繰り返し受け止める。体、それも女神に愛された臓器までもが呻き声を漏らしているかのようだ。
「それを決めるのは余だっ。限界を決めるのは余だけなのだ、断じて下賤な塵では、なぁい!」
「あ……ぁ゛……ひゃめふぇ……きゃあ゛っ゛……ぶふぅ゛ッ!?」
大きな掌が顔の側面にめり込み、逆流して流れていた半透明な液体に、ぴちゃッと赤い霧が混じり合う。
男の掌先がチョップの要領でみずきの急所を抉り抜いた。空中で足だけが固定され全く衝撃を逃せなかったみずきは、肢体を観客の前に無様に揺らしては腰をへこへこと動かし、尻肉を震わせた。下腹部と上半身のコンボはまだ続く。再度腹を殴られ、大量の飛沫を吐くサイボーグ少女。
苦悶の表情を観客用スクリーンで映し出され、更に握り拳の振り下ろしが顎に綺麗に叩きこまれた。
「ひぐぅッ゛?! も……ぅ゛、ぁ……あ゛ぁ……」
骨と骨がぶつかる鈍い音が響き、ぶらんぶらんと身体は振り子の動きで揺れる。岩の塊で殴り付けられたような鈍痛。みずきの体はもはや限界だった。いつ稼働が止まってしまってもおかしくない。
柔らかく、そして弾力のあったみずきの胸が、そして腹部が、殴打が打ち込まれるたびにぺちゃんこにひしゃげては戻り、そしてまたぺちゃんこにされる。血を吐き散らしながら、その瞳の光がぼんやりと明滅する。虚ろで儚い、王好みの瞬きだ。
「なに……無理やり立たせて……もう満足……?」
もはや棒立ちで身動きも取れないみずきの身体をその太腕で捕らえると、そのまま腰に腕を回す。みずきの柔らかな身体の感触を味わいながら、腕ごと抱え込むように抱き締めた。キングは自らの胸板でみずきを押しつぶすように重心をかけ、その太い両腕で腰をグイグイと絞めあげていく。
――メキメキメリッ! メギッ!!
「うっ、ぐぅ……っ! おぶっ、くあぁっ!?」
「そうだな。これに耐えられたのなら一撃受けてやろう。褒美を取らすぞ、ハハハハ!」
同時にみずきの痛みの熱を帯びた下腹部のあたりに股間を押し当て、ガクガクと腰を上下に揺すっていくと、みずきの身体はビクンビクンと面白いように反応を示した。そして、抵抗するみずきをキツく締め付け突き上げる動きを繰り出すたび、彼女は汗で濡れた髪を振り乱しながら、激しくのけ反り淫靡な声を上げる。
「こ……ぉ゛あ゛ッ?! ど……どこまで馬鹿にする気なの?! 絶対許さない……! ふゥッ……ああああアッ!!」
赤子が玩具を手放したがらないように弄ばれ、みずきは嫌悪感と苦痛から、絶え間なく荒い喘ぎ声を洩らし続けた。その口元からはとめどなく唾液が溢れ、だらだらと糸を垂らしている。
――ギシッ……ギヂギヂ!!
イヤイヤと首を振りながら、必死に活路を求めて脚をバタバタと暴れさせる。しかし、悲しいかな、抵抗というより、この地獄から逃れるための、反射的な行動である。消耗しきったみずきのそれは、圧倒的な力を持つキングにとっては、無意味に身体を震わせているだけの余興に過ぎなかった。
「先ほどの身のこなしはどうした?」
「誰のせいで……っ、んはぁああああぁんっ!! あっ、あぁん……っ」
散々痛めつけられ過敏になっていた乳肉からは、肉の鉄壁に押し付けられると、痺れる激感が走るのだ。鉄腕はともかく何度も殴られた肢体は潰れかかっていた。媚熱に似た感覚だけが敏感になって、だんだんと吐く息が悩ましげになっていく。
キングはみずきの抵抗を嘲笑って、さらに腕に力を込めていく。化け物じみた怪力を前に、少女は何も、なす術がない。
締め上げたままみずきの顔や胸、腹、そして尻が、全ての観客に見えるよう、ゆっくりと回ってみせる。この地獄のような苦しみから逃れることができない中では、ゆっくりとした回転でさえ地獄のメリーゴーランドに錯覚した。
「あ、あぐ……ぁ、ああ……ごほッ」
キングは彼女の反応が薄くなり抵抗力が弱まったのを感じると、右手でみずきの黒髪をみと、そのまま無理矢理引っ張り上げ、背骨を折りにかかる。
力強く締め付けられながらの容赦ない責めに、いよいよあらゆる骨が、限界のミシミシと軋んだ音を立てる。言葉を発することもままならず、身体を大きく仰け反らせて苦悶するみずき。
そんな状態で失禁を抑えられるはずもなく、またもや流れ出した尿は、やがて勢いを増し、観客席まで届きそうな音量で漏れ続けてリングに黄色い水溜まりが出来上がっていく。両手両足をだらんと垂らし、鼻からは鼻水が溢れ、瞳からは涙を流れ、股間からも垂れ流す。あらゆる穴から液体を溢れさせる敗者の噴水がここに完成してしまった。
――ばきっ!
「あヘッ?!」
一層強く締め上げられ、バキッ、と乾いた音が響いた。壊れる時は呆気ないものだ。身体を限界まで反らしたままビクビクと震え始めた。胸、腹、肩、顔、足、あらゆる部位を殴られ、時には蹴りを受け、全身の肉を震わせてきた。それが徹底的に壊され、元に戻らなくなってしまう、超えてはいけない最後の一線を超えてしまった音がした。
肉を切らせて骨を断つという言葉があるが、嬲られ続けては反撃する余力も残せない。失われていく意識。人生を掛けて築き上げてきたみずきの誇りは、キングの闇の力による暴力という「理不尽」によって粉々に打ち砕かれてしまった――かのように見えた。
――ざくっ!
「ぬ、う?!」
「い……ったから。お返し、覚悟しても、う……」
あわや頸動脈を掻き切りそうな、一本延びた爪。王が後退りし、冷や汗をかく。それがみずきの最後の反撃だった。負けを認めない視線は、しかし、確かに王を射抜いたのだ。
リングの上に燦然と輝く、機械仕掛けの黒く丸い星。どちらが勝者かは言うまでもなく明らかだった。
成功
🔵🔵🔴
ユーフィ・バウム
さて控室では地獄を見ましたが――
戻ってきたときは何食わぬ顔で
引き続き真の姿で勝負ですわ!
手四つから力比べ、体格では劣ろうが、
怪力を生かしてけして競り負けずに押そうとします!
隙を見て背後に回り、腰をクラッチして投げ!
グラップルの技量も存分に生かし試合を進めます
打撃で頬を張られても、
おなかを打たれても胸を打たれても――
覚悟を決めたレスラーの歩みは止めません!
悲鳴をあげて苦しもうと
打撃を打ち返し、けして攻め負けませんっ!
試合が進んできたらキングから繰り出されるは、
空前絶後の一撃
勿論、逃げません。あえて受けるっ
ぐぅ、ぅぅぅぅぅうぅ……☆
強烈な一撃に悶絶しぐったり這う私
そこから動きの止まる私の体を嬲るような
パフォーマンスを受けると思われます、が
けして私の中の勇気は消えた訳ではありません
最後にトドメを刺そうとするキングに――すんでで切り返し、
投げでマットに叩き付ける!
キングに見舞うは、力を、オーラ全開で繰り出す
《トランスクラッシュ》のヒップドロップ!
臀部をめいっぱい減り込ませKOを奪ってみせますわ!
観客席が沸く瞬間。それは勝負の行方が予想するまでもなく明らかな時、その明確な結果が裏切られること。例えば――!
――ダアァンッ!
「ぬううっ!?」
ユーフィは相対する敵の背後に回り、腰を両腕でクラッチする。そのまま、後方から相手の腰に腕を回しクラッチしたまま、後方に反り投げる、いわゆるジャーマン・スープレックスの要領で投げた。自身の重量が、マットに衝突した後、頭骨や首、頚椎、肩に背中にかかり『キング・デカスリート』は詰まった声で呻き声を上げた。
手四つから力比べ、怪力で力をいなして競り負けずに、体格差の不利を覆し、回り込むんだ勢いで投げ込んだのだ。
そのまま固めようとしたところで無理やり筋肉の力のみで振り解いてみせる。
「疲労困憊といった様子に見えたが……余を楽しませてくれるのか? フ、ハハ!」
「『蒼き鷹』のクラッチを易々と振り解くなんて! 骨が折れそうですわね……」
不敵な笑み。その様子にユーフィは唾を飲み込む。
膂力を見せつけるように、あるいはやり直しを求めるかのように、今度は強引にユーフィの手首を捻じ上げにかかる。単純な膂力での勝負は完全にキングに軍配が上がるだろう。そのまま手首を痛めつけながら身体を離す。
――ドボォオ……!
「おえぇぇッ……はぉぅッ!?」
両手を掴んだままユーフィの下腹に、いわゆるト-キックを見舞う。つま先を立てたコンパクトな足の振り、威力が高いだけの単純な技に近いが、一発、二発とつま先がユーフィのボディを責めるたび、逃れる術がないことを実感させる。脅威度を体に刻みつけるには打ってつけである。
「先ほどまでの威勢はどうした!」
――ドムウゥウウ!
「あッ……くぅッ!? あああぁぁッ!?」
勢いづいたキングは、十六文キックよろしく、大きな足の裏でユーフィの右の乳房を踏み潰すように蹴りあげた。本来なら顔面に打ちつける蹴りを、より女性としてダメージの高そうな箇所へ狙い澄ました形。真っ直ぐ立って相手を蹴る体幹の強さが、そのまま衝撃に加算される。
同時に手を離した。ゆっくりと、スロ-モ-ションで後ろに倒れるユーフィ。
思わず両手で右胸を押さえて苦しむ。目に涙が浮かんでいる。のたうち回るのも無理のない話だ。両手を使い胸部を守る姿勢で抱え、膝と頭をマットにつけていた。自然と小ぶりでない臀部を宙に突き出している。
――ガツッッ!
「ぐっぅぅ?! あああ……ぐうぅあぁぁ
……!?」
突き上げられたとはいえ尻の箇所は下に位置するので、蹴り上げるというよりも、サッカーのシュートのように蹴り飛ばすという体である。そのまま悶絶して丸くなる。蹴られた尻から痺痛がじんじんと伝わり、全身を骨折したのではないかと錯覚するほどに凄まじい苦しみを下背部から全体へ伝播させる。
しかし、そんな苦しみは知ったことではない。戦うものの姿勢を取れなくなっても容赦ない蹴技が襲いかかる。足の甲が無防備な尻を叩くたびに、ユーフィの豊かな肉がブルブル震える。
「フフフ、ハハハ! 立てぬ下半身なら必要ないな!」
「ま……待ちなさい。そこはちがうっ、おやめ……くうっ?!」
――グイッ……メリメリメリメ゛リ゛……!! グシャ……!
「んっぐううううぅう〜ッ!!?」
それは凄まじい痛苦ゆえの悲鳴だった。
抵抗する下腹部を押さえつけると、股間に右手を伸ばした。犬のような姿勢のまま、割れ目を、キングの無骨な人指し指と親指が襲う。『蒼き鷹』の女の部分、特に突起物を集中的に握り潰している。外陰部を鷲掴みにされて、あまつさえ握力任せに激しく揉み込まれ、締め上げられる屈辱。屈辱の中いいようにされるしかないという恥の上塗りと、敗北感。戦意を燃やしつつもその勢いが急速に弱まっていくのが見て取れたろう。
そのままリフトされるかと思うくらい強く、持ち上げられる。浮き上がった腰を下ろせばさらに深く食い込み、しかし持ち上げ続けるのも負荷がかかる。逃げようと腰を上げかけ、その足を力任せに踏みつけられた。押さえつけられた足と膝が、伸びきり、ユーフィの顔が引き攣る。
「はぁっ、ぜっ……はっぎっ……!? ん゛ッ……ふぅ、んッ、う゛ッ
……!!」
「どうした。腰が引けているぞ虫けらがッ」
「わたしは……鷹っ、誇りある、翼持つ、鷹……虫では……ありませんわっ! ふ……ううっ!」
無理やり片足で蹴り上げて苛めから抜け出した。震える足腰。それを自分の腕で持ち上げるようにして、なんとか視線で闘志を示す。蒼き鷹は健在だとその目で訴えかける。
だが鷹の、猛禽の魅力は強靭な爪やくちばしもさることながら、やはり大きく広げた翼に起因するもの。スピードと空中線を担保する大事な下半身を執拗に責められた結果、その雄大さには大きな翳りが見えていることだろう。
再びキングの魔手に捕まり、リングに引きずり倒される。
「いいや虫だ。その足もがれてのたうち回る姿などはまさにそうだ。認めるがいい、己の矮小さをっ! 余こそが唯一の、王だっ!」
両手は真上にまっすぐ挙げた状態で押さえつけられ、片足にのしかかられる。巨躯の体重を受け止めれば、もう1ミリも動かせないほど強固な枷に固められたかのようないましめ。もう片方の足をむんずと掴むと、両足をピンッと横一直線に広げた形で無理やりに押し広げる。
――メキッ!
「ぐぎっ……ひぎぃぃ……!」
――ミチミチミチ……ブチっ!
「あぁっ……ンぎぃぃっ……あぁぁっ
……!?」
両足の角度を少し緩めては、また身体が裂ける寸前まで股を開かせるという、いわゆる連続股裂き。
四肢を拘束された状態では、ばすんばすんと何度も何度も尻をリングに叩きつけて抵抗するほかない。両足の開閉を幾度となくくり返しながら、己の尻を上下に振る、無様な求愛行動のような牝のアピールを繰り出してしまう。
――ゴ……ギンッ!!
「あ゛あ゛あ゛っ?! あ゛ぁ〜っ!? い……ぎ、ひいいぃぃっ……!」
右太ももに手をかけたかと思えば、人体構造を把握しきっている様子で、右足を無理矢理に股関節脱臼させ、ユーフィに苦痛を与えた。首を反らせて空を裂かんばかりの悲鳴を上げる。
「はあぅ、ぜっ、ぜはっ、ヒィ……」
「片足だけではバランスが悪いか」
「待っ、もう……いやですわ、離し――」
――ゴリンッ!!
「ひンぎい゛い゛ぃ!? あヅ……ンいぃい゛ィィ゛ッ?!」
歯を食いしばったまま、くぐもった悲鳴を上げた。左足も股関節から外されてしまう。既に両足からほとんど感覚は失われ、筋繊維が反射的に痙攣する以外は一切動かすことはできなかった。無惨に青黒く腫れ上がった足は唯一残った感覚、触覚という痛みのみを訴えている。
食いしばった歯の間からポタポタと赤い唾液が垂れ、動かせない両足の代わりに両腕をばたばたと動かして痛みを逃がす。その様子に意地らしさを感じたのかキングは拘束を解くと仁王立ちで見下ろした。
聳り立つ男の陰で青い横髪が不安げに揺れる。腕の力だけで体を支え、動かない下半身を引きずってでもなんとか体勢を整えなければ。膝立ちになるにも支えがいる。夢中で掴もうと、もがく手先。
「なんとか、膝立ちになりませんと……ぐッ……せめてあなたの足だけでも……!」
前髪を鷲掴みにされ、リングに顔から叩きつけられる。その拍子にぶちぶちと青髪が抜け落ち、衝撃でユーフィの意識は一度ブラックアウト仕掛けた。
「かハッ……」
――パァン! パァンッ! パシィンッ!
ぶちぶちとコスチュームを引きちぎられ、今度は露出した臀部に直接張り手を叩きつける。
「あッ、くぅ! ふぅッ……! おしりは……やッ、うあぁんっ!? ぐぅ、ぅぅぅぅぅうぅ……☆」
柔らかな尻肉が露出し、そこに股関節を外された時はまた別の刺すような鮮烈な痛みが降り注ぐ。屈辱的なスパンキングに、白かったユーフィのお尻は完全に赤く腫れ上がり、汗や血が滴るだけでじんじんと疼痛を催した。
その暴力から必死に逃れようとするが、両足が満足に動く自由をほとんど失った状態では、ぐったりと這い、もぞもぞと蠢くことしかできない。
これでは本当に芋虫だ。顔を押さえつけられているため顔色は窺えないが、キングのそれ見たことかという表情は見なくても容易に想像できた。
掌の連撃はさらに勢いを増していく。ただ耐えることしかできないユーフィ。手が六本になったかと錯覚するようにほとんど同時の連打に、四肢が不規則に揺れ動き、上下左右から尻を突き刺されるかのような立体的で激しい痛みが襲いかかる。
「お゛ほォンッ?! あ゛ぁ゛ぉっ、もうおやめにしなさ……ヒィッ゛!?」
まさしく空前絶後の、過重の一撃に、体が仰け反り、視線が上空へブレると、視界に己へ無言の応援の眼差しを向けるリング外からのサポーターの存在を感じる。ユーフィは心の内側がざわめいていく感覚に戸惑いと、確かに興奮を覚えた。
尻には赤い手形の痕が無数に浮かび、くびり出た箇所とそうでない場所のコントラストが無惨な有り様を余計に演出している。その肢体と技で魅了した蒼き鷹の姿とは全く結びつかないぼろぼろの状態。ただ瞳の奥に燃える蒼焔だけが、変わらず光を放ち続けている。
あたまがぼーっとする。こわくて、あつくて、いたくて、みっともなくて、はしたなくて、なさけなくて、はずかしくて――断続的に打ち付けられる掌と尻が打ち付けられる音の合間で様々な感情が渦を巻いているけれど、それは再度の飛躍を狙わないという理由にはならない。
「ゆ……ゆる……も……」
「今更許しを乞うのか。フフフ、ハハハ!」
「もう……許しませんわ」
「な、にっ」
我慢、我慢、我慢……恥ずかしさも、屈辱も、されて当然の義務のように噛み殺す。ただの一言が本当に虫けらの羽音であるならば、こうも逆上したように男が手を振るうはずもないのだ。
膝を立て、こうべを垂れ、両手を突き、恥ずかしいポーズをしながらも、目を逸らさない。動く手が取るべき手段はもはや一つ。
――だぁん!
両手の力だけでリングに逆立ちし、さらにオーラを込めて己の体を跳ね上げる。
無重量になったかのような軽やかな動きに、リングの上で頭上を奪われる不覚ながらも、キングは呆気に取られてしまった。あまりに美しく羽ばたいて、次に何を仕掛けてくるのか、期待を隠せなかった。両肩を掴まれ、ユーフィは力任せにリングへ彼を投げ落とす。ほとんど押し倒すくらいの力技だ。
「ぬおっ」
「鍛えられた肉体を、めいっぱい叩き込みますっ! これがわたしの、全力ですわっ!」
さらにぐるぐると空中で回転し勢いづくと、キングに見舞うは、力を、オーラ全開で繰り出す《トランスクラッシュ》のヒップドロップ! 車輪の如く回転し空中で突進する、力技で物理を捻じ曲げる強引さ。時にはそんなパワープレイこそが観客を、相手を、試合展開を支配するただ一つの摂理になる。
強烈な肉弾攻撃がキングの顔面を捉え――!
「ぐ、おおおぉおっ?!」
「ごめんあそばせ、ですわっ!」
腫れ上がるお尻へ凄まじいダメージのフィードバックを負い、ぺたんと座り込みながら、ぐっと拳を天高く突き上げ、歓声の中で高らかに勝利を謳うのだった。
成功
🔵🔵🔴
マスクド・サンドリヨン
まあ、リングに刺さってKOされた私が試合続行出来る訳もなく。引き抜かれ、場外に投げ飛ばされた私。気絶している所を、ビブリオの女子練習生達に救出されるわ。
そのまま医務室に運ばれる――筈が、何故か連れ込まれたのは人気のない倉庫。マットの敷かれたその部屋で、彼女達は、私をリンチし始めるの。
まだデビュー前で、普段は先輩にシゴかれてる彼女達は、人に技をかけたくて仕方ないみたいね。
1人1人は未熟でも、みんな複数人がかりや反則技を躊躇わないし、私はダメージのせいで抵抗出来ないし。好き放題に技の練習台にされて、助けを求めても誰も来ない。
スマホでキングの試合映像を見ながら、その技を真似されたりとかもして。失神しても水をかけられて、無理やり覚醒させられて。
まあ、彼女達も私を殺すつもりじゃないから、ロクに動かなくなったら技を止めてくれるわ。代わりに、電気あんまとか顔面騎乗とか、エッチだったり屈辱だったりする技に切り替わるだけだけど。
最後は、ついに水をかけても目覚めなくなった私を中心にして、みんなで記念撮影ね。
「ごほん。余の拳の威力に恐れたか!」
「王たる余の一撃を噛み締めて、果てるがいい! ばーん!」
「余の目は節穴ではないぞ。もっとこうポーズ……腰を、こう?」
「う……うぅん……?」
むせ返るような濃厚な闇の力と瘴気に、マスクド・サンドリヨン、もとい今はただの姫華が目を擦り、覚醒する。
格闘司書団「ビブリオバトラーツ」の団員のようだが、何やら様子がおかしい。控室の倉庫で試合中継を観戦しながら、姫華をここまで運んできたのだという。名目上は治療……のはずだが、その目は爛々と黒く輝き、先ほどの燃焼系アスリートに似た熱気を湛えている。アスリートが闇の力に囚われることはこの世界特有の現象で――見習い団員が負った途轍もない心の闇を姫華は触発させてしまったのだ。
それほどまでに今の姫華はか弱く、儚く、無力だった。
「ふ、ふふ。私たちはあの王様に弟子入りしようと思いますっ」
「何を馬鹿なことを……まだ間に合います。考え直しましょう!」
「嫌です。さ、そのために手土産、いや練習台になってもらいますよっ」
「悪く思わないでくださいねっ。さあ熱く、熱く絡み合いましょう!」
ぐ、ぐぐ、と体を起こす。万全の相手だとしてもなお厳しい相手。加えて倒すべき本筋の対象でもない。今も他の猟兵は必死にリング上で戦っている真っ最中。穏便でなくともさっさと無力化したいが、大怪我をさせては団に迷惑がかかってしまう。団が存続しても団員が裏で怪我していました、というのは……ヒーローマスクの『ピジョン』もはぐれたままで、そもそも生来は気弱な性格だ。やむなく、力尽くではなく説得を試みる。
しかし、そもそもこの世界においての「正義」とは競技。口先だけでなんとかしようとしてもうまくいくはずがない。姫華は誰もが知らず知らずのうちに、孤独な絶体絶命の危機を迎えていた。
――ベキイッ!
姫華は太ももを押さえたまま、たまたま敷かれていたマットに倒れ、激痛にのた打ち回る。
「がはぁっ?! やめて……私さっき、まで……試合して……けが、っ、し……てて」
足を振り上げて蹴り倒したアスリートが、他の二人の顔を見合わせて、おかしそうに笑う。もはやその精神性はアスリートのそれではない。過激で、善良で健全な魂とかけ離れた闇の力に魅入られ正気を失っている。
おそらく我に帰れば凶行の記憶もないだろう。それだけが彼女たちにとっては救いかもしれない。
「は。いえいえ、やめませんよっ」
「余は王! 王の技は無比無敵っ!」
反射的に逃げようとしたが、首尾よく回り込んだ後ろから、長い両腕が姫華の首に巻きついてきた。
前腕部を、もろに喉に食い込ませて窒息させようとする。頸動脈を極めるスリーパーホールドでは、ない。超人プロレス団体の団員とはいえ、研鑽中の身であれば絞めているのが頸動脈か気管かは判別つくまい。ちなみに常人なら頚動脈洞反射が起こって七秒ほどで失神すると言われている。肉付きのよい腕が姫華の首を絞め上げた。
「ぐううぅ゛う!? あ゛ああぁああ゛あ゛?! ぐぅ……かはっ……」
三人組の中でも長背の、姫華と比べ頭一つ分ほど背の高いアスリートに、立ったままスリーパーホールドを極められる。しかも、その力はどんどん強くなっていく。やがて足をバタつかせるうちに姫華の抵抗も虚しく、彼女の足は徐々に床からマットから離れ完全に持ち上げられた。
「かひッ?! はーッ、へっ、ほ……ひッ!」
「何か様子がおかしいですねっ」
「殴り続けるのも王権! 王たるもの余裕を見せないと、ほら」
『余を見下ろした罪、超人プロレスを蔑ろにした罪は、この程度では償えん』
「……これは違う気がしますね? 生中継ですからねえ。まあいいでしょう、せーのっ」
――ズダンッ!!
何とかもがいて彼女の両腕を外そうとするが、彼女の更に後ろから新たな両腕が伸びてきて、姫華の腕を引き剥がしガッチリ掴まれた。
三人がかりの後ろ手の極め技。そのまま持ち上げた勢いで、マットに力任せに叩きつけた。
「ごォへっ?!」
それが止めとなった。
無論命を奪うつもりではないので追撃こそないものの、意識を刈り取るには十分な衝撃! 圧迫!! 怪我の功名とも言えるが、いわゆるチョーク・スリーパーホールドは極めても後遺症が少ないことから、相手にダメージを与えずに行動不能に陥らせるには効率的な方法である。三人掛で抵抗する余地を与えたないことは大問題だが、オーバーキルにはならない。満身創痍の体をびくびくびくっと痙攣させ、泡を吹いて悶絶昏倒する黒髪の美少女。
「イッエーイ!」
「水持ってきましょう水! 心が折れるまでがトレーニングですよっ」
「傷を残しても禍根は残すな。団長のお言葉ですっ」
バケツに塩水を作ると、全身に浴びせかける。爛れるほどに鮮烈な痛みによる覚醒。痛めつけられた体が、さらに激しく燃え、痛みだす。五感が敏感になり、痛みで呼気や空気の流れさえ感知できるようになる。まるで、肌に砕いたガラス片を擦り付けられたかのように、全身の痛みが活性化した。
「こ、ひュッ?! いだいいいぃいいい……ッ……うぅ……」
「いい。今の悲鳴っ。もし、もしも……我々が聖典を作れたら、団長を超えて……ふ。ひひっ」
「よし! さあお付き合い願いましょうか! 防音施錠済なので! 助けを求めても無駄ですから、さ、起きて起きてっ」
嬉々としたアスリートの一人がが、目覚めたててで朦朧とした姫華の頭に上段回し蹴りを食らわせ、その細い首を折る勢いで蹴り上げる。姫華の口から歯の破片のようなものが飛んだ。眼下にちらちらと星が舞い、戻った意思がまたも飛びかける。
体をくねらせ、戻って来た痛みに震える。もはや正義に燃えるプリンセスの姿はどこにもない。助けを求めようにも喉が強張り、己が置かれている理不尽な状況を恨むかのような眼差しが、明滅する瞬きを見据えている。
その目線が、キングの試合映像とたまたまかち合わせる。アスリートはさらに悦に浸って頷いた。口を開けば尊敬しているはずの団長と、今の超人プロレスを貶しては、キングと呼ばれる男を賛美する言葉が飛び出してくる、
「やはり……理性が……。お願い、なんとか正気に戻って……みんな、待っているよ……だから――」
――ボスゥッ!!
「おおごおオオぉオ゛ッ?!」
喉元を駆け上がる胃液を抑え込むこともできず、思わず吐き出す。
唾液混じりの胃液の糸を垂らし、懸命に気絶を耐える。もう塩水を頭からかけられるのだけはごめんだ。その一心でなんとか目を見開く。
闇の走狗たちは、悶える姫華の手足を思い思いに押さえて、マットに大の字に張り付けようとしていた。一人は腹の上で全体重かけて座っている上、両腕を握り込んでいわゆるアームハンマーの要領で胸を殴ってくるため、衝撃も並大抵ではない。
「でもなんか、空前絶後の一撃! って感じではないですね。ちょっと上半身だけあげてもらえます? 髪掴んで……あっそうそういい感じですっ」
「せーのっ……!」
無音でゆっくりとバックスイングに入り、パワーを溜めていく。殴りつけられて脱力した体に衝撃を馴染ませる要領はさながら嵐の前の静けさ。背骨や骨盤に直にダメージのいく姿勢だ。そのまま豪快にアッパースイング気味に振り抜く。姫華の胃袋を、下から上へと、強烈に揺さぶる豪快な一撃。
――ずんっっ……!!
「ぶっげええええ〜ッ!!?」
「も一発ですっ」
――ずんっ……!!
「おッ、ぐっ……!? お……ヴグッ……ぉオオォォォ……」
二発目で浮き上がった身体が、押さえつけていたアスリート二人ごと吹き飛んで、姫華は衝撃で背中から倉庫の壁に勢いよく激突。ずしゃ……とそのまま顔面から豪快に倒れ込んだ。
人の身体が壁に叩きつけられるという衝撃の現場に遭遇した二人は、暫し言葉を失う。団での鍛錬の成果ではなく、闇のアスリートの影響が関節的に彼女らを強化しているのだろう。
前髪を引きずってマットの上に再び横たわらせると、握り込まれた拳は姫華の散々地面に打ち付けられた顔に深くめり込んだ。そのまま、姫華に跨って、両手で顔めがけて、一切の躊躇なく殴り続ける。残りの二人は下腹部をめちゃくちゃに足蹴にする。大腿骨もヒビが入り、骨折は全身に及び一桁では足りない。青と紫と赤に彩られた痣が、互いに干渉しあって体中の激痛を誘発させ、臓器が引き攣らせる。
――ばしゃっ!
「ア……ぉぉぉ……ぉぐ……うぅえ
………!」
再び立ち上がらせては、ふらふら呆然としている彼女へ、追撃とばかりに思い切り左足を踏み込み、彼女の腹筋、ど真ん中を撃ち抜く。防御も忍耐も、心構えもない。生肉サンドバッグは腹を折り曲げ、ちょうど「くの字」と化して後方の壁に吹き飛ばされ、再度、激しく背中から打ちつけられた。打擲の気持ちいいほどのインパクト音が響き、倉庫の壁がひび割れるのではないか錯覚するほどの衝撃。
またも前のめりに倒れ込もうとする姫華へ、追い討ちする形で猛進し、そしてそのまま勢いをつけたまま膝蹴りを、腹に強烈に突き刺した。
「ぐほっ! うぼぉおおェ……ア……」
「そう言えば団長にも稽古つけてもらってましたよね」
恐怖に引き攣った姫華の顔に冷や汗が流れる。只でさえ効果抜群の関節技を、この疲弊しきった状態で、また三人がかりで喰らえばひとたまりもない。本当に殺されてしまう。命を奪うことまでは本意ではないので、そんなことはもうしませんよ、と笑うその代わり。
「う。ふふ、そのまさかですよ」
「団長にも止められてた技、耐えられますかね? 電気あんま」
「う、う、あぁ……!」
両足を脇にガッチリ固定する。そして、固い靴底が股間へ改めてセットされた。
「やめて、やめ……いやっ、無理ッ」
足裏が同時に股間へ押し当てられ、身体が跳ね上がった。アスリートたちはその反応を見て小さく笑うと、そのままストンピング、いわゆる電気あんまを開始した。
――ズムッ……ゴリュゴリュグリュ!
足裏が姫華の股間、割れ目を強く踏みつける。
苦悶とそれ以外の感情で歪む表情。期待以上の威力が証明され、笑みが抑えきれない長身アスリート、まるで子どもがやっと買ってもらった玩具で無邪気に遊ぶように、満面な笑顔で踵を見せつけ、軽く振りかざす。
「あっ……ひゃ……ひ、ほ……」
「簡単には逝かせませんよ」
このまま踏みつけるだけで逝ってしまうだろうが、闇のアスリート見習いたちはそれを許さない。そのまま服越しに秘所を擦り、激しく振動させ始めた。
筋肉質ながら細身の足は服越しにでも姫華の割れ目を抉っていく。粘液で濡れそぼったコスチュームは股間にピタリと張り付き、足の刺激をダイレクトに伝えていく。
「おほおおっ!? おっ、おっ、ああっ?! ああああァア゛あ゛ぉ〜ッ!?」
染み出す粘液がグチュグチュと鳴り、姫華の身体ごと揺らすほどの激しく揺さぶっている。背が仰け反り、白目を向いた瞳は、逆さに倉庫の暗がりを映す。跳ね回る身体は力任せで抑えられ、脚はバイブレーションし、腕はびたんびたんマットを叩く。最後の抵抗と言えるだろう。徒労に終わることではあるが、最後の力を振り絞って逃れようとする。必死に声を張り上げて説得を試みる。
やがて、ぷしぷしっと、とうに断裂しかけた彼女の思考を爆発させ、真っ白な光に包まれるような衝撃をもたらした。体の我慢は限界だったのだ。
何度目かわからない、身体が仰け反り歪なまま、痙攣しながら固まる肢体。白目は戻らず、大口を開けた状態で、卑猥で恥辱的な有様を叩きつけられる。それはもう何度もバケツで塩水をかけられても同じだった。時折、不気味な程に全身が震えるのみで、グシャッと音が立てるほど水湧地を踏み抜いても、開けっぱなしの口は泡がブクブクと発生させるまま。
「大丈夫、息はありますっ」
「この人の端末で記念写真といきましょう。我々の記憶のメモリにはバッチリ残ってますので」
「はいチーズ」
フラッシュが瞬く。
足を離され、大の字に寝転がる姫華を見てアスリートたちは笑う。股間のそれはもう湖のようで、愛液と汗、尿が混じり異常な臭いを発している。その臭い立つ光景が画面越しに伝わるような異常な一枚の自撮りだった。そして、顔は悲惨そのもの。あらゆる体液が混じり水浸し。本来ならヒーローマスクを身につけてリングに立つはずだった。勝利の栄光を飾る機会は、ついぞ姫華には訪れない。
それは、つまり、この光は絶望そのものだった。身を預けるには眩しすぎるくらいで、姫華は目を閉じたまま絶望に魘されていた。
苦戦
🔵🔴🔴
山神・伊織
凄まじい筋肉量ですね。それに凄い迫力です。
攻撃を喰らったらひとたまりもない……けど、それを敢えて喰らうのがプロレスラー、ってモノですよね!
10倍不動龍鱗と真の姿(見た目そのままで青龍のオーラを纏う)で受けの体勢を取り、相手の技をその身で受け止めましょう。打撃であろうと投げや関節技であろうと、この身一つで受け止めてみせますっ。
もちろん防御10倍でもキツいのは間違いないでしょう。でもだからこそ、受けきれば相手の心を揺らがせるはず。ダウンしてもゆっくりと立ち上がって挑発し、より大技を誘いつつ、相手の攻撃の呼吸を掴んでいきます。
相手は重量挙げの選手、リフトアップ系の技を得意とするはず。何度か受けて呼吸を掴んだら、頭上に持ち上げられた時に肩の上で逆立ちするように逃れ、延髄に膝を落としていきます。
相手に膝をつかせる事が出来たら、不動龍鱗を解除。相手の頭部に、倒れるまでの連続回し蹴り・龍尾脚を叩き込みます。攻撃力10倍が解除された分、手数を叩き込んで華麗にフィニッシュっ。
体固めでフォールですっ!
『キング・デカスリート』は開戦一番、伊織に密着するように距離を詰める。その勢いに飲まれることなく、深く息を吸い込んで臨戦体勢。勝負は瞬きの間に決着するか?! 見るからに巨漢と俊敏な拳士、好カードを固唾を飲んで見守る観客たちの息遣い。興奮のボルテージが否応なしに高まる。
王の本質である攻撃性が顔を表す。密着、そのまま首相撲に捉えたまま挨拶がわり、連続のニーアップ!
――ドボッ、ドスウッ! ズムッ……ゴッ!!
「んぐぅっ! すーっ……ふーぅうう……」
「この感触……他の選手も用いていたな?」
耐久力の底上げを行うユーベルコードは数多い。防御力、生命力、不死――数多いる猟兵の扱うそのどれもが協力無比な力を備えるが、共通事項は、メリットの大きい技ほどデメリットもまた際立って大きいことが挙げられるだろう。射程に難がある、寿命を奪う。これもまた数え出せばキリがない。
「ンっふうぐっ……なかなかの……威力。けど、それを敢えて喰らうのがプロレスラー、ってモノですよね!」
「ほざいたか、小娘」
伊織の取る《構え:不動龍鱗》は青龍拳士の纒うオーラを全身に張り巡らせ強化するまさに鉄壁。
ゼロ距離からのボディアッパーが鳩尾を強烈に突き上げる。堪らず涎を噴き出す伊織。ついで膝先を丸々飲み込ませるほどの膝蹴りを叩き込む。うっすらと割れた腹筋の表面が赤く染まってきているからダメージはあるようだが、その防御力はオーラの堅牢さを相まって普段のなんと十倍! 十度殴ってようやく一度分のダメージに相当するわけであるから、当然頑丈だと王も唇を舐めるわけである。
当然、伊織も代償を支払っている。俊敏さが十分の一になっているのだ。だから普通に殴り合っていれば一方的にボコボコにのされるのは自明の理。だからキングが避けられない状態を作る。幸いここは超人プロレスの舞台。放たれれば受け、避けず受け切るのが美学の世界。
「(相手は重量挙げの選手、リフトアップ系の技を得意とするはず。自分の耐久力にも自信があると見えます。この試合の主導権を握るのは私です)」
数分語、伊織はキングの胸ぐらに顔を埋められ呼吸できなくなっていた。
「むぐううう!? むうううぅうッ!」
頭上で呟く伊織の抗議もほとんど聞こえない。彼女の頭は胸板に吸い付けられるようにして完全に捕らえられてしまっているからだ。
視界は真っ暗。目も口も鼻も密着して塞がれている。ギュウギュウに詰まった重い肉の圧迫感が、谷間で濃縮された汗のスメルが、暗く閉ざされた感覚の中で否応なしに充満する。無論、呼吸もできず、必死で吸おうとしてもそこにあるのは分厚い肉の壁だけ。それがずっと続いていた。
何かを得るために何かを切り捨てなければならない。例えば脅威となる毒牙のような剛腕からの回避力も、半ば棒立ちの姿勢で受けなければならない。
「苦しいか。ならば息もつかせぬ連撃を繰り出してやろう」
「んっぐゥ!?」
クリンチ状態で力を込めて胴回りを抱き締める、いわゆるベアハッグを繰り出す。胸がキングと密着し、胸郭がミシミシと悲鳴を上げた。同時になけなしの肺の空気が無理やりに押し出される! カエルの脚部に似た姿勢で股を開きながら、びくびくと痙攣する伊織。息苦しさにパクパク口を開けるが、思ったように酸素が入ってこない。全身の関節が力んでピンと張り詰め、ぷるぷると震えた。
それでもオーラで跳ね上がった防御力は胸郭や背骨を守り通す。代わりに悲惨な酸欠状態に陥り、伊織は顔を真っ赤にしながら、金魚のように口をぱくぱくと開閉し続けていた。
「なるほど、余の腕力でヒビすら入らん……!」
――ドムッ!
「ぬう! それにこの強靭な肉体」
「はっ……ぜっ、たまらず、離しましたか……」
間一髪のところだった。酸欠で卒倒など目も当てられない。
おおよそ、肉体の奏でる音とは思えないような、むしろゴムを殴ったかのような、そんな打擲音。仕切り直しと放ったボディブローは確かに、シックスパックへ突き刺さっていた。ただ、分厚い腹筋を貫くには至らなかったのだ。キングは己が失策を歯噛みする。忍耐が足りなかった。己を王と位置付ける、空前絶後の一撃を放つ好機でもない。失策!
「この余が省みるだと?! 馬鹿な、ありえん、ありえんぞぉ!」
しかし、構えを取るわけでもなければ、何か仕掛けてくるわけでもない。それもそのはず、伊織もまた機を熟すのを待っているのは同じことだ。じっくり、攻撃の呼吸を読んで反撃に転ずるが吉。
いわゆるボディスラムやリフトアップ・スラムを仕掛けてくるが、これがフィニッシュ・ホールドたり得るのは遥か昔の話というのが通説。伊織としてはさらに大技をかけてもらい、さらなる疲弊を誘発するが吉か。
「全くノーダメージというわけでもないですが……青龍拳士の真髄を見せるにはまだまだ」
「ぬうぅうう……ならばこれならどうか!」
腰を掴まれて、ぐっ、と一際強く力が入ったかと思うと、伊織の足はリングから離れて、ブラブラと宙に浮いてしまう。この強制的に与えられる浮遊感というものは苦手だ。手足をばたつかせて抵抗すると、己の汗が飛び散る。尋常ならざる――汗。
防御を担保されていてもスタミナが削れ疲弊しているのは己も同じことか。ぞくりと戦慄する。もし反撃に転じる間もなく、こちらの体力が尽きてしまったら? そんな考えを払拭すべく大きく深呼吸する。
じたばたと開いた足が、丸太のような感触を挟みこむと、そのまま尻が乗せられていく。己の身体が腰かけていた。箇所としては腕あたりになるだろうか。肩車する姿勢で括り付けられて、密着している。
「見えたっ、たあっ!」
――べきい!
脳と首の境目に膝が突き当たる。蹴られたキングは一体全体何がどうしてそんな攻撃を受けたかわからなかったろう。頭上に持ち上げられた時に、ちょうど肩の上で逆立ちするように逃れ、重力に従い落ちながら逆撃の蹴りを見舞ったのだ。軽業師の要領で一か八かの攻撃に賭けたが、命中箇所としては及第点からクリティカルの間くらいか。
「き……かんなぁ」
「な、不死身なのか!?」
膝をつかせるには至らない。伊織はぎりっと歯噛みして、深く呼吸した。反撃が……くる!
――ズドオォオオオッ!
「ゔッ?!」
渾身の右ストレート。伊織の反り上がった身体が一転、空中でくの字に折りたたまれる。鳩尾に正確に突き刺さった拳。メリメリと、さらに腹筋を抉っていく。回避力が下がったところに、空中で喰らう無防備な姿勢。目を見開き口から涎を吹き出しで硬直してしまう。
力も入らず構えも取れない致命的な隙。そしてキングにそれを見逃してやるつもりはない。
「今のはいい一撃だった。しかし、余は倒れんんん! その首いただくとしよう、フフ、ハハハ!」
掬い上げるように伊織の首根っこを掴むと、そのまま一挙にロープ際まで押し込まれる。筋肉ダルマのような体型ながら、陸上競技を修めた瞬発力は伊達ではない。半ば反射神経で動いた凄まじい反応速度から、伊織にチョーク攻撃を仕掛ける。トップとサードロープに絡みつけられ、上下逆さまのままいわゆるコブラクローを喰らわされる姿は、龍というよりは蜘蛛の巣にかかった蝶のそれであった。
喉を掴み、ギリギリと絞め上げていく。
「苦しいか? ならばさらに苦しめようぞ!」
「ふーっ……ふん! ぐ、ぐぎ……い」
腹筋が浮かぶ伊織の腹に、キングの右手の指先が埋まる。今度はストマッククローである。
自動車と衝突したのかと錯覚してしまうほどの痛みと圧迫で、肺の空気を全て吐き出したまま呼吸が出来なくなる。
両手の同時攻撃による苦しみで顔を顰めていた青龍の拳士だったが、直ぐに余裕の笑みを取り戻した。息苦しさにも慣れてきたところだ。そして、咄嗟の判断で《構え:不動龍鱗》を継続している。慣れた苦悶に耐えられないようであれば拳士失格。汗と涎が逆に垂れて、頬や額、前髪を濡らした。
首から手を離し、捕らえたままの腕をひねるキング。オーラを放つ、鍛え上げられた、大切な腕。その右腕が捻られている感覚に、びくんと身体が動いてしまう。
――ひゅっ……ズッッドオオッ!!
「しまっ、ガードを……ごォへ?!」
待ってましたとばかりに胸を貫く。胸板を打ち抜き、ぶるんと胸房を揺らす衝撃。肺まで到達する重い一撃。
前のめりにリング端に崩れ落ちる。今にも消えそうな意識がなんとか顔だけでも上げようと悶える中、キングの追撃の一手が彼女に迫る。
「あがあっ!! あ゙あ゙ぁあ゛ッ?!」
キングの手が伊織の顎を掴んで持ち上げ、そり上げる。いわゆるキャメルクラッチだ。キングの巨躯の全体重で圧するように腰に乗ったまま、頭を反らさせる。背中と腰に大きなダメージを与えるプロレス技。めきめきと腰を破壊していく音に、さらに今の伊織が嫌う呼吸困難まで引き起こす感覚。キングにもその呼吸法が何らかの秘密であると見抜かれていた。
「あぎゃああああっ?!」
腰が激しくそり上げられる。激痛とともに、呼吸も難しくなり視界は一瞬真っ暗な闇に沈むほどに、激しく肺が酸素を求める。
しかし。
しかし、死中に活を求めるのが、青龍拳士の真髄であるとも言える。死に物狂いの馬鹿力は、王をして逆鱗に触れたことを刹那、後悔させるほどの迫力があった。腹筋で跳ね起きれば、空中で横回転し、力を溜めた。オーラが尾の形をかたどり、ドラゴンテールに形状を変じる。
「これで終わりっ」
「とっくに瀕死の小娘があ!」
「青龍拳の極意を受けてもらいます! はあァアっ! 龍尾脚ッ!!」
執拗な、あるいは狙い澄ましたというべき抉る蹴撃。今度こそ延髄を完璧に捉え、さらにそこにダメージを集中すべく、蹴った勢いでさらに回転力を増して青い竜巻となって攻撃を繰り返す。その勢いは蹴っても蹴っても加速するばかりで止まることはない。
「ぐおぉおオごぉおっ?!」
ず、ずん、と音を立て倒れ込むキング。黒い瞳を爛々と輝かせ、勝者たる伊織は片足で着地すると、拳を突き上げる。これが、真髄。勝利の女神はただ一人の青龍拳士に微笑んだのだった――。
成功
🔵🔵🔴
日和見・カナタ
ひとまず勝利を収められたものの、私の身体はもう限界を迎えています。
先ほど戦った方よりなお強大な、あのダークレスラーを相手に満足な試合はきっとできません。
しかしそれでも、まだやれることはあるはずです。残りの力を振り絞って、今の私にできることを頑張りましょう!
身体が限界である以上、私に残された手段は限られています。身体を使わない手段──まだ辛うじて動く
蒸気機関の部分を使った攻撃。それに全てを懸けます。
ふらふらになりながら立ち上がり、ダークアスリートの前へ。当然マトモに戦えるはずもなく、一方的な蹂躙を受けることになりますが、それでも意識だけは手放しません。
動かなくなった私を晒すように掴み上げ、持ち上げた瞬間。彼の顔に触れられる距離。そこで義肢のギミックを起動して【指弾】を彼の眼に撃ち込みます。
……ビブリオバトラーツの方が言っていました。飛び道具は、身体にくっついたまま使うなら良いのだと。
その教えを今、ここで実践させていただきましょう!
【NGなし、アドリブ歓迎】
「どうした? ふらふらではないか。一思いに倒れれば楽できるものを、余の寛大さを不意にするか!」
「勝負は……これからですよ」
カナタは勢いよく突っ込んでいってはたたらを踏み、弄ばれるような試合展開で苦戦を強いられていた。先ほどはひとまず勝利を収められたものの、彼女の身体はもうとっくに限界を迎えている。それでも残りの力を振り絞って、限界のその先まで戦い抜く気概だけが、彼女を突き動かしているのだ。
「戦う気でいるのか、笑止」
「あなたこそもう勝った気でいるんですか? 私の歯車はまだ止まっていませんよ! 行きますっ」
――ガッ……!
「ぬう! その義肢は厄介よ……」
それでも頭部を超える大きさの巨腕や凄まじい馬力の機脚は、キングも攻めあぐねるところである。そこへの打突や関節技は通用しないのは言うまでもなく、逆に攻撃した側がダメージを負うことになる。必然狙うべきは顔か、胴体かになるが、カナタもそこをわかった上でガードを固め突進してくる。
――ズガアアアッ!!
「だが肝心の本体がこうではなあ!」
「ぐ、ガードの上からこの威力
……?!」
「フフ、ハハハハ!」
顔面ど真ん中を打ち抜くはずだった右ストレート。容赦の一切ない全霊の一撃は、腕で受け止めたカナタの身体を吹き飛ばす程。無意識に体勢を持ち直すカナタだが、背中がコーナーポストにぶつかり、ほとんど直立状態で固まってしまう。厄介というだけで対処できないというわけではないのか。冷や汗を拭う間もなく、全身から痺れが抜けない。
「これが全力だと思っているのか。片腹痛いわ!」
「なっ、はや……ッ?!」
バーベルを放ると、跳躍しながら追撃を放とうとしてくる。これは早すぎる。避けられない。ポストを背に受け止める覚悟を決める。来るなら来い、自分は不退転だと視線でキングを射抜いて――!
――ゴッッ!!
「ぶっ!?」
右肘を後ろへ引き、勢い良く右手を突き出した。相撲の突っ張りのような打撃が、カナタの顔面に打ち込まれる。
大きく背中を反らし、痛みと衝撃で無理やりに、頭がリングの外へ飛び出した。続いて、左手の突っ張りを無防備になったカナタの腹部へ放つ。
――ドゴッ!!
「ごほぉ……お、ぐ?!」
腕の力だけで放たれた力任せの打擲だったが、それでも十分な威力。カナタは体を貫かれるような痛みに襲われた。殴られるとわかって飛び込んでなければ、耐えられなかったろう。これが不意打ちだったらと思うとゾッとする。
頭か、胴体か、二本しかない腕でどう守りを固めるか。その逡巡が勝負を分ける。キングの渾身の力を込めて、握りしめた結果、何かが軋むような音が脚から鳴っていた。
「脚いっ?! ぐぅああぁっ?!」
キングは背筋を伸ばして、思いっきり腕を振り上げる。脚を掴まれたままのカナタは空に浮き、逆さの状態で持ち上げられた。元の体重に蒸気義肢の重量があるにも関わらず、片手で持ち上げるその埒外のパワー。そのまま思いっきり腕を振り下ろし、カナタをリングに叩きつけた。
――ズドォォッ……!
「ぐっっ、え゛
……!?」
大きく弧を描き背中から沈み込むカナタの肢体。リングにめり込む身体。一瞬呼吸が止まるほどの激痛と、全身を駆け巡る衝撃に悶える。
だがそれでも攻撃は終わらない。ブンと腕を振るってカナタを放り投げる。空に浮き、やがて無防備に落下するカナタの身体。空中の彼女はなすすべなく、キングもまた跳躍の後、渾身の力を込めて拳を握り、その腹部に《キング・ハイジャンプ・アタック》を放った。
――ずどんっっ……!!
「ぶっげええぇ゛え゛〜ッ!?」
悲痛な叫びが会場に反響し、リングがびりびりと震えていた。
破壊音を立て、スローモーションのように徐々に、腹に拳がめり込んでいく。カナタの腹筋を容易く貫通し、密集した内臓を押しのけ、波が押し広がる要領で頭頂から足先へと全身に衝撃が伝播する。鮮烈な痛みで意識が途絶と覚醒を行き来し、目を見開き涙を、口からは涎と胃液を散らす。身体はくの字になってピンと硬直。そしてその威力のまま減衰することなく背中から吹っ飛んでいった。
コーナーポストに叩きつけられ、跳ね回るようにしてようやく止まる。しかし、嫌らしいことに、キングは攻めの手を緩めるどころか、執拗に腹ばかりを狙う技を繰り出す。キングはカナタを両手で持ち上げそのまま地面に投げ下ろしたかと思うと、自分は片膝をついて、落下してくる相手の腹部を突きだした膝に打ちつける。投げ捨てられながら腹部を蹴り上げられる、いわゆるガットバスターである。
――ズドッ! メゴォ!
「ひギッ……うぅ……ぐうう、い……たいぃ……」
痛めつけられるあまり、再び倒錯した悦びが舌先を覗かせる。それは冒険心でもなんでもないと頭ではわかっていても、痛み続ける体から心をプロテクトするために誤認させる物質が脳内から分泌されているのだろう。一方のキングといえば筋肉が鋼の鎧のように体を守り、絶対強者の自負のもと多少のダメージを怯まずに襲いかかってくる。
まるで勝者と敗者が最初から決まっているかのような体たらくだ。結果がわかりきっていることの何を冒険と呼べようか。未知への探究心が彼女に再び戦意の炎を灯す。ここで燻ってなんかいられない。痛みがなんだ。苦しいからどうしたというのだ。手はある。頼るべきは身体を使わない手段──まだ辛うじて動く
蒸気機関の部分を使った攻撃。それに、全てを懸ける。
茂みに身を隠しじっと獲物が隙を見せるのを待つように、狩られるのではなく狩る側の鋭い眼光が、キングを睨みつける。
――ぐいっ!
「ひぅ、ぐっ?!」
今度は両脇から腕を通され、背後から持ち上げられ宙へと浮かされてしまう。そしてキングは後背からカナタを掴んだ手に力を込め、その状態で彼女をいわゆるジャイアントスイングのように振り回し始める。激しく回転させられながら、クレアは全身に満遍なく圧力が加えられることで、筋肉や臓腑までもが引き伸ばされていくのを感じた。
「だめぇッ! 全身、ばらばらになってしまいますっ」
「では、離してやろう、そらっ」
グルグルと何度もマットの上で回転しカナタの身体を振り回していたキングが彼女の身体を手放し、吹き飛ばされた彼女は狂った重心で不規則に回転しながら、大きく股を開いた状態でコーナーポストに叩きつけられてしまった。
――どゴッッ……! ずずず、どちゃっ……!!
「お゛っ!? おオ゛……ぉ゛……ア゛……」
たまたまか狙い澄ましてか、股を強かにコーナーポストで打ち、リング上に大の字に倒れたクレアは、焦点の定まらない瞳で天上を見上げながら、艶めいた吐息を漏らす。
そしてキングの慧眼は目ざとく気づくだろう。義肢の関わらないところで弱さを露呈している股ぐらを重点的に責めることが、彼女を屈服させる最短経路であるという事実に。
髪を持ち上げて無理やり立ち上がらせると、朦朧とした意識で覚悟もできていないカナタの、股間を膝で蹴り上げる。突き上げる衝撃。蹴ったキングの膝頭が痺れくらいである。
当然カナタは耐えられるものではない。蹴られた後もじんじんと股間が痛んだ。それだけではない。衝撃で下腹部が刺激され、急激に別の意識が小水壺にこみ上がってくる。ほぼ無意識に、太ももをすりあわせ痛みと尿意を耐えようとしていた。
「ひゅぎぃっ……ひーっ、ひゅうう……っ」
――ボグッ、メキメキッ……!!
「ん゛ギィ゛〜ッ?!」
同じコースで膝蹴りがカナタの股間に再び直撃する。下半身から衝撃がこみ上げてきて、全身に駆け巡る。いよいよ耐えられなくなると股に力が入らなくなってきた。衝撃が逃げる場所は一切なかった。めり込んだ膝で、股ぐらから内臓が飛び出してしまっているのではないかと錯乱したほどであった。叫び声を抑えるように両手で口をおさえたまま、脊椎を駆け上がる苦痛に体を痙攣させる。
――グシャッ、メギッ……メリメリ!!
「が……ア゛ァ゛……ヴ……!」
とどめの一撃として、一際強い蹴り上げがへそより下、子宮のある下腹部にダイレクトに伝播するように垂直に撃ち込まれた。子宮が突き上げられ直接嬲られる痛みにより、大きな絶叫が周囲に響き渡る。
骨盤がひび割れただろう。立つのは精神力で保たせてなお不可能のはず。それでも、まだ己が脚を掴もうと、手がもがくのを見たキングは、苛立たしげに攻撃を再開する。王が「コレがとどめ」と定めた一撃で倒れないのは不敬なのだ。立ち上がり続けているというその無礼は、更なる屈辱と苦しみを受けてなお償いきれない大罪!
鼠蹊部の間の子宮を目掛けて拳を打ち込んだ。そこから、リズムが単調にならないようにキングは狙いを変え、コーナーに押さえつけたカナタの鳩尾に貫手を放っていく。指先がズブリと鳩尾に埋まり、カナタの細身な身体がびくりと跳ねた。キングはそのままギュッと手首を捻り、鳩尾を抉る。
「ひ、おグッ
……?!」
臓器までも全て蒸気器官に差し替えているわけでもない。人体なら誰しもの致命の急所を突かれ、身体が大きく跳ねる。汗と涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにしたまま、意識が途切れて全身が弛緩した。
無事なところが見当たらないくらいめちゃくちゃに傷ついた腹は散々殴られたために腹筋と内臓が痙攣し、ぐるぐるぐると音を立て蠢いている。
全身、特に腹は完全に弛緩し、まるでつきたての餅を殴っているような感覚をキングの腕に返してくる。返すカナタは失神したまま喘ぎ声に似た悲鳴を発し、止まらない涙を流してら身体を捩る。
「えうっ……えっ……ぉ゛……」
白目に近いほど瞳が裏返り、だらしなく赤い舌を出した先から、唾液が糸を引いてリングに垂れる。ぺたんと座り込んだ足元にはじわじわと緩い水たまりが広がっていく。足腰とと同時に気まで緩んだのか、カナタは腰が抜けたようにその場に座り込んだまま動けない。側頭部を蹴り抜くと、ぐらぐらとバランスと支えを失い、青白い顔をしたまま倒れ込んだ。
呼吸困難になり、嘔吐いている最中も王の攻撃は止まず、カナタはエビのように背中を丸めたまま、なされるがままに殴られ蹴られ、喘ぎ、悶えた。やがて白目を剥いたまま、吐くものもなくなり、透明な胃液が自分の意思に反して口端から逆流することに身を任せた。半覚醒のまま理性らしきものは失われ、体は冷たくなっていくのに、どうしてかあたたかい温もりに包まれている感覚。このままずっと眠りこけていたくなる甘い誘惑。超えてはならない一線が後一歩先に広がっている。
顔面を鷲掴みにされ、そのまま持ち上げられる。決着の時は近い、そう思った時には決着を迎えているものだ。カナタは今までと同様ろくに抵抗もできずに、今度はリングへと顔から叩きこまれた。
「ぶっ?!」
「フフフ、ハハハハ! そうだ。見せてみろ、今潰れた顔を!」
リングにめりこみ、顔に激痛が走ったはずだ。受け身を取れる体勢でもなかった。運良く顔に損傷は見られなくとも、鏡などなく自分の顔を確認できない彼女は、一人の少女としての尊厳を砕かれたような激しいショックに打ちのめされているに違いない。顔から叩きつけられて負けた、その屈辱感に満ちた表情が、王を勝者として認識させる勝利の美酒である。
――ぶしゅうっ!!
「おっ」
顔を覗き込むのももどかしく、動かなくなったカナタを晒すように掴み上げ、持ち上げた瞬間。油断で弛緩しきった彼の顔に触れられる距離。その時だけを待っていた。勝利を確信した相手ほど脆いものはない。宝箱に潜むクリーチャーのようなものだ。彼が不用意に顔を覗き込む、そのタイミングで義肢のギミックを起動して《指弾》を彼の眼に撃ち込んだのである。周囲を突きこむように巻き上がる高熱蒸気、鍛えようもない眼球に、パイルバンカーの要領で一打与えてやれば、王を名乗っていた道化アスリートの間抜けな悲鳴が耳に心地よい。
「目ッ゛、やげ、ガっ……!? ひぎげぎゃああっ?!」
のたうち回る彼の姿は視界が霞んでよく見えないし、力を振り絞った上義肢を射出したため立ち上がることすらできなくても――彼女は教えを守り、リスペクトし、それが力になることを証明したのだ。
「(……ビブリオバトラーツの方が言っていました。飛び道具は、身体にくっついたまま使うなら良いのだと)」
やってやりましたよ。
そう。今、ここで、実践したのだ。それはカナタが彼女たちと共に戦ったのと同じことだろう。つまりこれは、皆で掴んだ勝利なのだ。その口元は笑っていた。
成功
🔵🔵🔴
幸・桃琴
元気十分、引き続き真の姿で挑ませてもらうよ!
パワーでは相手には負けるかな
スピードを生かし功夫を生かした打撃で立ち回る
でもプロレスだから!受ける時は真向受けるよ
フゲッ……ぇ☆
真の姿では割れれている腹筋も、
キングの攻撃もは撃ち抜かれ悶絶して――
でも、負けん気を見せて倒れるもんかっ
プロレスのリングに上がっても紅の流星は空手家、
打撃で屈するのは許されないよっ!
そんな気持ちと共に覇気乗せた拳で、蹴りで
確実にダメージを与える!
でもキングの責めに足は笑い、
お尻を持ち上げる形でダウン。敗北寸前になるけど
脚が十分踏ん張れなくても
窮地での閃きは最後の武器を思いつく!
それは、通常時の姿でよく行うUC――
《幸家・桃龍/未完成》!
倒れているところに背後から迫るキングに対し
覇気を十分に乗せたヒップアタックで、逆転を狙うよ!
決まればダウンしたキングへ
最後の力でフォールを決めて勝つっ
決めきれなかったら逆にフィニッシュを極められ、
白目を剥いたところにパフォ―マンスを受けるかな
(※最後の勝敗はお任せ)
でも、勝ってみせるよ!
メアリー・ベスレム
王様、それじゃあイケないわ!
そんなのあまりにつまらない!
なんて、諫めるメアリは道化師かしら?
あなたも王様なら、もっと
政治が上手くなきゃ
伏して従う民を治めるだけの治世なんて!
反乱を力で
鎮圧して
見せしめに処刑して
それでこそ歴史に名の残る王様ってものじゃない?
もちろん、あなたにその器があればだけれど!
そう【挑発】を兼ねた【パフォーマンス】
のろまな筋肉ダルマを馬鹿にするよう【軽業】【逃げ足】立ち回る
……ああ、だけれどそんなの勘違い!
予想以上の素早さに捕らえられ
圧倒的なウェイト差と筋力に
逃れる事なんてできやしない!
まるで
民衆に見せつけるよう
身体も精神も壊すように痛めつけられ
いくら【誘惑】するよう身を捩っても
責め苦は強く激しくなるばかり
……だからこそ、この後の
反乱は甘美なものに
【雌伏の時】はもうお終い!
逃れてみせて【ジャンプ】から
首を狙ったギロチンドロップ!
民衆を苦しめた王様は、首を刎ねられてお終いね!
膝をつき、ぱたぱたと汗を流して突っ伏す桃琴。桃龍の空手家、今は「紅の流星」は最大の危機を迎えていた。
何度目かの渾身のボディブローが鳩尾を直撃した。女の腹部というのは柔らかく、いかに鍛え上げようとも男のそれとは違う。臓器を保護する腹筋の量は男のそれとは比較にならない。加えてキングが放つのは「空前絶後」の一撃。普通の女であれば、彼のパンチを一発受ければもう立ち上がることはできなかっただろう。それを、桃琴はもう何発も受けている。
右腕を捕まれ、キングの強烈な拳を、身体の最も柔らかい部分に何度も叩き込まれていく。何度も何度も、何度も何度も何度も叩き込まれる。
「フゲッ……ぇ☆」
この……間の抜けた声は、己が喉から出たものだったか。それさえも――朦朧とした意識では、桃琴自身判別できなかった。痛いとか苦しいとか、そういう根源的な感情が星の舞う宇宙に浮かぶようで、自分自身の体もそこに漂うように身を預けている。
開戦からこうではなかった。覇気を乗せた拳や蹴りにより幾度となく反撃を試みたが、それ以上のダメージの蓄積が祟り、今は満足な動作もできない。積み上げた功夫がひび割れ、崩れるのも時間の問題だろう。
腕でガードを固め、腹筋に力を入れて必死に耐えるが、我慢ももはや限界に近い。もはや桃琴の腹部は、拳を受けるたびに紙粘土のように柔らかく変形し、内臓を拳で直接殴られているも同然であった。
「でもプロレスだから……! 真向、受け……ぇフ! おほんっ」
「フン。息も絶え絶え、余の拳をよく耐えたが、まだ続けるか? それとも、降るか?」
「もちろん! 桃は……はぁっ、ぜえ……負けないよっ」
舞台が違えど、争う場は異なれど、流星は輝く場所を選ばない。俯けば暗がりだが、見上げればなお輝くステージが広がっている。苦戦は必至。勝利は約束されていない。しかし持ち前の反骨心から諦めることは選択肢にない。何も歌合戦や料理対決を挑んでいるわけではないのだ。負けん気を見せて「倒れるもんかっ」と己を鼓舞して、再び構えを取る。
一方のキングもまだ攻めの手を緩めるつもりはない様子。己の寛大な提案を足蹴にしたことを、目の前の小娘を命を奪う寸前まで痛めつけて後悔させなければ気が済まない。……彼女の普段の姿を見ればさしものキングも驚くだろうが、リングに上がった彼女は間違いなく「小娘」である。
「ぐうぅ……お、ゲ……」
桃琴の両脚の爪先はぷらんと浮いていた。キングの太い指により首をぎっちりと掴まれてしまっているためである。直後、桃琴が藻掻く。掴んでいる手を、届かない足を、じたばたと暴れて、男の手を自由を取り戻そうと必死になるが、足掻いてもそれは叶わずに余計に体力を消耗してしまうだけであった。
動脈と静脈、ならびに気道の閉塞による呼吸不全。酸素不足。脳裏で警報アラートを鳴らして意識の危険を知らせるが、桃琴にはどうしようもない。オちたらその時点でゲームオーバー。それがわかっているだけに、焦りから、さらに余計な力がこもって、逆に頭は回らなくなっていく。
「王様、それじゃあイケないわ!」
空中でくるくるとコマのように回転しながら、強烈な回し蹴りを見舞う白い影。
「喧しい」
――パチィィィンッ!
「きゃンっ!」
それを裏拳で、たかる小蝿を追い払う要領で薙ぐキング。
肉を打つ乾いた音が響くが、結果的に両手をフリーにしたことで桃琴はリングへと落下し、拘束から逃れることができた。もっとも蹲って激しく咳き込んでいる彼女に、その礼を言う余裕もなかったが。
「いっ、つつ……あなたも王様なら、もっと
政治が上手くなきゃ。だって、そうよ。それはあまりにつまらないから。見てる方も退屈な三文芝居の、大根役者」
「ほう……?」
「チープだって言ってるの!
伏して従う民を治めるだけの治世なんて! だからアリスがゲストになってあげる。もっともアリスはメアリで、メアリはアリス――」
再びリングに両手をついて、逆立ち状態で蹴り抜こうとするメアリー。
が、彼女の足先がキングの不敵な顔面に届こうとした瞬間に、サッと退いてしまった。それと入れ替わりに、肉薄するメアリーの方へ一直線に向かってきたのは、掬い上げるようなキングの握り拳だった。
王座から引き摺り落とす反撃の狼煙が立ち上るはずだったその瞬間には、彼女の腹部に、強いアッパーがめり込んでいた。
――ボゴおッ!
「ぐっ、ぐええぇッ……! ごほっ、お……おええぇっ……!」
「ふん。何を言い出すかと思えば、余の王権は健在! 道化師の言葉に耳を貸す道理はない」
「げほっ。道化師! 役不足もいいところ。なら王様は、反乱を力で
鎮圧して、その『道化師』を見せしめに処刑してそれでこそ歴史に名の残る王様ってものじゃないかしら?
民衆もそれを期待してるはずよ」
渋々と言った口調で、早口に、そのロールでもいいかしら、なんて嘯くあたり、表面上はまだまだ余裕そうに見える。
しかし、体には脂汗が浮かんでいる。鳩尾のあたりに一発もらったのだ。息苦しさにしんどくなるのも当然である。
「よく回る口よな。が――その割にはもうだいぶ参っているではないか。ちょうどいい。まとめて処刑といこう」
「い……いくよっ! たあっ」
「ほら。アリスを食べたいならまず捕まえないと!」
掴み掛かるような鋭い貫手と、死神の鎌を思わせる脚技の、両側から攻め立てる桃琴とメアリー。即席のコンビネーションであるが合わせた息は完璧に近い。
それを力任せにねじ伏せるのが王道だと言わんばかりにまず、メアリーを踏みつけにした。攻撃の軌道がまんまとへし折られる。
――グシャッ!
「か……は……イっ?!」
動けない。上から大きな万力でぎりぎりと締め付けられているようだ。全身に力を入れて身体が潰れないようにしているのに、それでもじわじわ圧迫されて締め付けられて潰れている。
両脚はリングの上で無様なバタ脚を披露してしまう。くびり出される形で腰が上がりきって、ぷるぷると桃尻が上下する。その媚肉が牙を剥けば大ダメージを与えられただろうが、今は収穫を待って実っているようにしか見えない。
目を伏せて、歯を食いしばって悲鳴を上げるのを耐えようとした瞬間、尻たぶを握りつぶされる激痛で悲鳴が漏れる。体格に不釣り合いな程に大きな尻を引っ張られれば、身体をまともに動かすことさえ難しい。
「あ、がッ……アリスのお尻、とれちゃう……っ?!」
まるで手綱のように、尻たぶを引っ張られて上に後ろにと引き摺られる。既に地に伏せたメアリーを無理に動かす必要なんてない。雌の部分を握り潰して、家畜のように引きずって、貶めるだけの動き。
その尻を掴んだまま持ち上げ、殴りかかる桃琴の前に盾にするように放り投げた。走り出した勢いは止まらない。スパァンと景気のいい音を奏でて、メアリーの股ぐらから臀部にかけてを桃琴が叩いてしまう。
「ひうッ。もうっ、コレじゃ復讐にならないから!」
「言ってる場合じゃないよっ、お……ごヘッ☆」
ゴチン! と固い部分同士がぶつかって、二人分の鮮血がぱたぱたと散る。
続け様に倒れ込む桃琴とメアリーが折り重なって横たわると、仰向けの身体の下にキングの爪先が差し込まれて、当然のように蹴飛ばされて、無理矢理に下を向かされる。
――ドスッドスゥドスッドズッドズン!
「ゔぶッ?! ぐふッ! いやっ……ぶふッ! ゔぶぁッ!」
「つ、はうッ〜、ゲッ☆ お、あ――はっ、はァッ……!! あぁ
……!!」
衝撃が全身をバラバラに砕いた。身体が繋がっていない、手と胴と頭と足を繋げる神経が全てバラバラにされてしまったかのようだ。重い音とともに、強烈な一撃が次々とメアリーの背にめり込んだ。ほっそりした彼女背骨に固い踵が触れる。
「うっ、ぎぃいいいッ?!」
あまりの衝撃と苦痛にメアリーはついに仰け反って絶叫した。まろび出た尻がたぷんたぷと別の生き物のように揺れ動く。
挟まれたメアリーがこうなのだから、桃琴は白目を剥いて息ができない、指一本さえ動かせない。生きたまま標本にされた虫のように踊り狂う桃琴をキングは満足そうに見下ろしてニヤリと笑う。
「ぐう……!? ふ、グ……っ、踏んでコシを出そうって魂胆……かしら、んォが?!」
べき、べき、と鈍い音が響く。どちらかの骨が折れたか、少なくともひびが入った音だ。ミチ、ミチ、と音をたてて肉が裂ける。骨の破片と断裂した筋が擦れ合って、神経が内側からズタズタになるまで踏み砕かれていた。目に火花が走る。鼻から血が噴き出る。
感触が違う。「増え」ている。ついに片足ではなく両足を乗せたのだ。キングの全体重が、尻を突き出して喘ぐメアリーの背に、そのメアリーの体重までもが桃琴の全身にのしかかる。ほんの少し息を吸うだけで、痛みのあまり意識せずに喉奥から悲鳴が溢れる。その悲鳴が、更なる痛みを呼ぶ。
「がぎ、ぐ、ぐぎ……☆ こんの、おっ!」
歯を食いしばる、呼吸を絞る。唇を自分で噛み切って意識を逸らす。痛みに負けないために、あえて別の痛みを己に付与し鼓舞する。重いだけだ。重いだけなのに、潰されてなるものか。修行だと思えばまだ耐えられる。まだイける。まだ、まだだ!
不意に重しがなくなり、浮遊感が体を覆う。投げられる。目を瞑りマットの衝撃を耐えようと、全身に力を込める桃琴。
「あ……れっ?! ちがうっ、これっ?!」
桃琴が目を閉じるまで怯ませたキングは、そのまま彼女の四肢をむんずと拘束し、寝るように倒れ込んで吊り上げ、そのままいわゆるロメロ・スペシャルの体勢に移行、さらに顎を掴み股間を浮き上がらせるチン・ロックで呼吸器を攻め立てる。
仰向け状態で吊るされた桃琴の無防備な腹、胸、股間、尻、鼻。その全てが観客に晒され抵抗意欲を削いでいく。耐えず息苦しく、朦朧とする意識はぼんやりとずっと霧に包まれているようで明確な判断ができない。押さえつけられた顎首を意識するあまり、浮遊している影にも気づけないのだ。
――ボゴォォオオオンッ!!
「あぁああッ、アリスぶつかっちゃうから! だめっ、避けてよ、いだァッ?!」
「そんなこほいっはへ……ぶぎょっ☆ ぼぉお゛おおおっ?!」
空中で臀部同士の正面衝突! 脱力状態で真上に投げ上げられたメアリーが落下する地点に吊り上げで待ち構えていたキングが、桃琴の無防備な体で受け止めたのだ。当然二人は受け身が取れず、痛む体をさらに味方同士で打ち付け合う結果となる。
どちゃ、べちゃと崩れ落ちる桃琴、メアリー。首を垂れ、腰だけが浮き上がった姿勢は平伏しているように見えなくもない。そんなうつ伏せの二人めがけてキングは跳ぶ。腕を高く持ち上げてから振り下ろすその形は、いわゆるフライングエルボーに近い形だ。
――ドゴッ! ゴ、ゴギッ!! ドガががァアアアッ!!
「んほっごぉお゛おっ?!」
「くびぃ?! ふん、ゲッ……ェ☆」
断頭台に首を捧げる姿勢で、神経の束が肘手刀で痛めつけられる。
後頭部が圧迫されたことで目眩が引き起こされ、内臓が掻き回され、背骨が軋むより、なお強烈な、意識を根こそぎ刈り取ってしまう殴打。その打擲のせいかメアリーは鼻口から泡を吹いて、尻や下腹部を生あたたかく濡らし、桃琴もまた白目を剥いたまま情けない格好で腰をヒクつかせている。
意識のある方が痛めつけがいがあるか、そう判断したキングは桃琴を蹴転がして馬乗りになると、鈍器の様な拳が桃琴の鳩尾にダメ押してま突き込まれた。
「ゔぶッ! ん……んぐおぉぉおおッ☆」
「おっと。かえって覚醒してしまったか」
鳩尾を強かに射抜かれたため、桃琴はまともに呼吸ができず、涙と涎を垂れ流しながらメアリーの顔を焦点の合わない瞳で見つめた。メアリーも満身創痍ではあるがその闘志は燃え尽きておらず、最後の復讐の機会を待っている。そんな面持ちに見えた。あるいは、もうとうに絶えた希望に縋らなければ意識を保てないほどに衰弱しているのかもしれない。
それでも反撃までの時間を稼ごうと、桃琴は首を上下に振って抵抗を試みる。キングの身体が僅かにぐらついた――。
否! 肩を落とすようにして桃琴を担ぎ上げた。全くキングは堪えていない。化け物のようなスタミナ、耐久力。今の桃琴を絶望させるには十分な、健在の姿……!
腕を股の間に突っ込んだまま持ち上げ、そのまま仰向けに肩に担ぐ。いわゆるアルゼンチンバックブリーカーのセットアップだ。体を大きく反らせる。
――ボキボキボキメギッ!
「ゴおっ、ぶほっ☆ ブホォ?!」
鼻口からは血と、さらに泡が噴き溢れ、そしてついに、股ぐらを生温く湿らせる。王の顔への粗相。キングは一瞬顔をしかめると、桃琴を担いだまま横向きに高くジャンプ。そのままゴミ袋をゴミ捨て場に叩きつけるように、桃琴を頭から地面へと打ちつける。
「ンぎゅぶぶぅヴッ?! う……う、ヴぅ〜っ☆」
終わった。
そう思った。
コレはキングの感想だ。
この瞬間がたまらなく好きだ。
コレは、キングの感想ではない。メアリであるメアリーは、嗤う。……耐えて耐えて、耐え抜いたからこそ、この後の
反乱は甘美なものなのと。
今度は自発的に跳んだメアリーは《雌伏の時》に終止符を打つと、キングの頭、側頭部から両側を足で挟み込む。重力に足の筋力、相乗の凄まじいインパクトが両肩にかかる、いわゆるギロチンドロップ。両肩の骨が陥没したのではないかとキングは錯覚し、喚き、叫んだ。
「何ぅを?! ごぉあ?!」
しかし――それだけではない。これはメアリ流の拘束、処刑台だ。ならばいるのは白は白でも兎ではなく白蛇。少女たちに幸運をもたらす蛇。しなやかさで、首に巻きつき、下半身の肉厚でキングを絡めとる。これが褥であれば完備だろうが、ここはリング、すなわち地獄。
その顔を、首を、徹底的に攻めて、首級を取る。
復讐譚は、いつだって、そう。
「民衆を苦しめた王様は、首を刎ねられてお終いね!」
「さぁ、いっくぞー! 覇気、充填! 渾身のぉッ!」
――ズドォ!! ぼ、ギンッ!
両手足をリングに着けてからの、勢いつけた跳躍。後背を向けたままロケットのように飛び出し、臀部でキングの顔面を強打するヒップアタック! 渾身の《幸家・桃龍/未完成》は、天高く雲を掴む龍のようにぐんぐん伸び上がって、首が折れたキングをそのままノックアウト!
臀部で挟み込むようにして二人がかりのフィニッシュ・ホールドを極めにかかる。片や腕、片や足を掴み上げ、腰を落として押し付けるように顔を埋める脅威のホールディングだ。既存の丸め込み技に似たものはないが、功夫と処刑技術を生かした合わせ技なのは疑いようもない。
「どう? ちゃんと、勝ってみせたよ!」
「ね! 甘くて素敵な復讐、ごちそうさま」
龍と兎のコンビネーションが王を打倒する、完璧なストーリーテリング。時には台本がない即興の物語が、観客の心を鷲掴む。超人プロレスを体現した二人は、手と腰とを合わせて立ち上がり、浴びせられる勝利の歓声の雨あられに打ち震えるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
菫宮・理緒
NGなし、アドリブ・極ハード大歓迎。
応急処置を施して立ち上がったけど、なんてプレッシャー……。
それでも戦わないわけにはいかないよね。
UCでみんなとの絆と能力を強化しつつ立ち向かうよ。
でもさすがに『キング』。
わたしの打撃は全て受けきられ、サブミッションは力で剥がされるよ。
こうなったら、と、相手の力を利用して投げにいこうとしたら、
逆にスープレックスで投げられ、一瞬意識を飛ばされたら、そこからはもう相手のターン。
腹パンで涎とともに蜜を噴き出してしまうと、
「お前、目覚めてるな」と言われ、嘲笑われて、さらなる打撃で動きを封じられると、
ラフレシアやコブラロックで苦痛と快楽を与えられ、
リバースティーチャーロックからの股間責めでついにイかされてしまいます。
その後も観客に見せつけられるようにコスチュームを破かれてから打撃やサブミッションでイかされ啼かされ続け、
最後はとどめの駅弁固めでお腹の奥に【アイ・アム・キング】を叩き込まれて、
声も上げられないほどの絶頂にリング上で痙攣し、大きく潮を噴き上げていまうよ。
ぞわっ、と毛穴が開くような寒気。焦り、緊張、そして、恐怖。互いに応急処置を施し、満を持してリングに上がった、ヨーイドンの五分の状態。なのに、理緒は《Logistic Support》の後方支援を受けてなお、すでに気持ちで必敗を喫していた。
打撃、極め、投げ技、そのどれもが決め手にならず、いたずらに試合展開を間延びさせ、消耗へ繋がっていく。
――バチンッ!
「うッ?!」
逆撃で理緒は、衝撃でリングに身体を投げ出されて茫然自失としている。おそらくスープレックスか何かで放られ、意識を失ったところを叩かれて目覚めたのだろう。頭はぼーっとして、頬がじんじんする。そんな理緒の腹の上に跨ったキングはその勢いのまま、更に強く頬を叩いた。
――バチンッ!
「痛っ !? はなしてよ……っ!」
だが、圧倒的な体格差に加えて上下の位置関係、振り払うことも逃れることもできるはずがない。完全にマウントを取る形になったキングは、次は衝撃を逃がせないように左手で理緒の顎を掴み、顔を動かせないように固定した。
そのまま右手をゆっくりと振りかぶって、震えながらこちらを睨み続ける理緒の頬へ、手のひらを打ちつけていく。恐怖と痛みを結びつけ、さらにその先への扉を開くため、まずは抵抗意欲を決定的に削ぐつもりのようだ。もっとも、呆然とする理緒にはその狙いまでは読めない。
――バチィンッ!
「つゥ……っ!! やめ――!」
――バチィィンッッ!
「ひっ、ひ、ひぃ、ひぐ……! ふぐっ……はぅう……」
理緒は左頬を痛々しく真っ赤に腫らしながら、咽び泣いていた。溢れてくる涙の止め方がわからず鼻を啜り、その鼻の中は鉄っぽい血の臭いがするため、ひゅうひゅうと口で浅い呼吸を繰り返している。
それが悲泣でないことを、キングは確信した。
その確信に従い、キングが放った肝臓打ちが、腕だけの力ではあるが、薄い胸板の脇を抉るように突き刺さる。べきっと、枯れ木が割れるような音と激痛が理緒を襲う。鉄の拳が理緒の肋骨を容易くへし折ってしまったのだ。
「おっ……お゛ぉぉぉォ……!」
「ふん、潰れたカエルでもまだマシな声を出すぞ」
ぐったりする彼女の脇に座り込むと、キングの腕には、どんどん力が込められ、血管がミキミキと浮き立ってくる。その逞しく太い腕は、闇のアスリートが誇る力強さを雄弁に物語る。理緒の首に腕を回して引き寄せる。柔道で言うところの裸絞、絞めた腕を己が手で持ち上げて理緒の喉を破壊する、いわゆるチョークスリーパーである。
口の端からとろとろと唾液を噴き溢していく。言葉らしい言葉を呟くこともままならず、必死で口を動かして酸素を求める。しかし、それが許されることはない。どんどん呼吸を奪われ、顔を真っ赤に染めていく。
――ボグッ!
「ごぶッ
……!?」
片腕で首を絞め上げたまま、もう片方の腕で下腹部に巨大な拳が振り下ろされていた。
狭まった気道、ますます強張り萎縮する体、細っていく生命力。
「(息……でき、な……ぐ、るじ……ぃ……)」
――ドゴッ! メリィッ!!
「ひぁ゛ぃ……っ、かひゅっ、こぉ……えぅ」
肺を潰され、息が無理矢理外に出される。呼吸困難に陥り、声にならない声を絞り出す。否、絞り出すことを強要されていた。吐息もままならない。生殺与奪を文字通りキングの剛腕に握られている。
――ドズッ、ドスッ、ドゴッ、メリメリ……ぶるる……プシィィィッ!
何度目かの拳の振り下ろし。コスチュームの上からではわからないが、その腹部にはキングの握り拳ほどの大きさの凹みができており、それは理緒の腹筋が完全に破壊されたことを示していた。
両足は勝手にガニ股に開き、情けない姿を晒している。痙攣したように震える下腹部は脱力した拍子に失禁……否、蜜音を立てて噴き出してしまう。
既に腹筋が機能しないほどのダメージを受けている理緒の腹が思い切り殴りつけられると、逆流した胃液が塞がれている喉元で止まる。そして、重力で肺の方へ落ちて行く。胸元がジュンと熱くなるのは、そんな人体構造と、彼女自身の倒錯した、被虐の心持ちとが混ざった結果であろうか。
「お前、目覚めてるな」
「あ……ぁあ……ッ」
口から酸っぱい臭いを垂らしながら、同時に、股間からは放物線を描いて黄金水が噴き出した。「こちらの口はよく喋る」と侮蔑と嘲笑を浴びせる。カーッと熱帯びる頬。こんなのは生理現象だよっ、と脳裏で思っていても抗議するセリフも吐けない。朦朧とする中で、破裂したように感覚する下腹部の違和感だけが妙に心地よい。
殴る、殴る絞める、絞めたまま殴り、殴って殴って殴りつける。更なる打擲による疼痛で、背は限界までしならせてブリッジを決めてしまう。もう耐えられない。耐えていたくない。甘い感覚に舌を突き出し、顎を傾けながらエグい喘ぎ声が漏れ出る。潮とも何ともつかない代物も堰を切ったように溢れ続けている。
「いっ……ぐっ?! いだっ、ぐっう?! んぐぉおぉぉ~っ!?」
「まだイかれても困る。もっと楽しませてやれ、観客が見ているのだからな。フフ、ハハハ!」
理緒の股関節を後ろから開かせると、ローリングしながら太い脚を内股に差し入れて、がっちり固定した。困惑する理緒をキング自身の腹の上に乗せ、相手の股関節を無理やり開脚させるこの技はルチャリブレにおける複合極技、いわゆる恥ずかし固めに近い体勢。
ほとんどM字に股を開いた格好を晒すのはあまりに恥ずかしく、理緒は躍起になって脚を閉じようとする。しかし、両足が内側から掛け、そのまま開脚させられているためキングの脚はビクともしない。
男の分厚い掌が理緒の柳のような華奢な腰周りをすりすりと撫でる。やがて湿り気の発生地に辿り着くと、太い親指がコスチュームの下に秘めた局部の中心を軽く圧した。
「やあ……ぐちゅぐちゅっ……て、しなっ、しないでよ! 反則、これは反則だからっ!」
理緒の秘部は彼女当人が危惧した通り、着衣越しに圧迫されただけで粘液が弾ける水音を立てた。その痴態を余すところなく、見世物にされてしまう。
なんとかもがいて這ってリングの外に出ようとすれば、うつ伏せのまま理緒の頭部に尻を向けるようにして跨り、理緒の両足首を極めながらU字に広げていく。
――ぐぎ……ぎち、ぎぎぎ、メギ!
「おひっ?! んほお゛オ゛ヴ……はぁ、はああああ?! でるっ、でちゃうぅ……っ!」
跳ね上がる足腰はいやらしく上下にへこへこ空腰を振り、太腿をわななかせて喘ぐ。快感の暴風が脳内で荒れ狂い、双眸は快楽に負けて蕩けていた。そう、潤んでいるのは悔しさや恥ずかしさゆえではない。キングの言った目覚めている、という言葉がぐるぐる脳内で回って、自分自身が正真正銘変態に沼なってしまったのではないかと錯覚してしまう。
違う。自分は決して変態なんかじゃない。せめて唇を噛んで下腹部に力を込めてこれ以上の媚態を晒してやるものか。腹筋はボロボロでも、もう好き勝手にはさせない。無反応を貫いてみせる、と関節技を極められながらも決意を新たにする。
「んぎ、ぐぐぐ、ぎぎ……ワンパターンだね……!」
――メギメギッメギャ……ごろん……!
「あがッあがががごッ?! 手ェ、あ、足いい!? な、なにかな……ぁ゛、これぇ゛マズっ?!」
理緒の手足を絡めて、屈腕屈脚固定縛りを作り出すとその姿勢のまま仰向けに転がした。
キングが見下ろしている。
ダルマのような姿勢で転がされて、見上げる視界にキングが覆い被さる。それほどまでに存在感のある足の裏が、腹を踏みつけにした。
――ドスッ!
「お、ブェ?!」
徹底的な腹責めでグロッキーなところに強烈なストンピング。今度は自分の手足が折りたたまれているせいで余計に四肢に負担がかかり、致命的なダメージが蓄積していく。踏まれている限り身を捩って回避することもままならない。理緒の瞳孔はグングンと眼中の上へ上へと上って隠れ、白目の割合が増えていく。彼女の唇からは引っ切りやしに濁った唾液が漏れて顎を伝い、首を流れ、衣装に沁み入る。
「いい顔だ。褒美に……次はここにくれてやる」
踏みつけた足をグリグリ動かす。足先が狙いを定める。当然次の場所は女性の弱点。鍛えようもない恥骨あたり。そこを足先で蹴り抜けば、彼女は「崩壊」する。股間への重い衝撃を予感しただけで、理緒の下腹部は歪な熱を帯びて腰砕けになってしまいそうだ。今すぐ逃げてしまいたい。元より本やバーチャルの世界の方が性に合っている。こんなに苦しい思いをするくらいなら背を向けて走り出した方がマシだろう。引きこもって殻に篭るのが、今の亀みたいな姿勢の自分にはお似合いじゃないか。
「や……」
「なに?」
「……やってみれば、いいよ。多分時間の無駄だと思うけどねー……!」
いーっ、と舌を出し顔を顰めてみせる。
意地もあった。それ以上に、この試合は己のものだけではないのだから。
――どぢゅっ!
「ひンぎぃ?!」
男と違いアレはないものの、急所であることに変わりはない。そのため大ダメージは避けられない。守りを固めることも鍛えることもできない無防備な部位に攻撃され、激痛に襲われるかと思った理緒だが……サッカーボールキックの要領でつま先を突き立てられた股間から全身に奔り抜けた感覚は、痛みというよりは鮮烈な快感であった。
着衣の湿る感覚に恥ずかしさを覚え、必死に下腹部へ力を込めようとするものの、股間からくる刺激で全身が痺れて痙攣するばかりで、溢れる感覚の勢いは増してゆくばかりである。下着も太ももも完全にびしょ濡れになり、擦ったり拭いたり、押さえて悶絶することもできない。
――どぢゅっどずっどぢゅゴスッ!!
「んぁっあっ、アッ?! ん゛っん゛……ンぉ゛〜ッ!?」
ビシャっと、水風船を割ったように血が溢れ出した。すでに蹴られている箇所の感覚はない。代わりに脳内麻薬のような快楽中枢神経ばかりが刺激されて、被虐の悦びが彼女の意識を試合に縫い止めていた。
ぼたぼたと血の混ざった液体が股間から零れ落ちるたびに、噛み締めた口から淫靡に嗚咽する。
やがて、限界が来る。
――ぶちゅっ……! ぐちゅ! ぶちゅぐちゃぐりっ……!! ぷし、ぷしゅうううう!!
「ひっっ、キっ……!? む、り゛イっ……んグッ゛うううぅぅぅううう~っ
……!!?」
すでに反り切ったと言えるほどに丸められた肢体から、どうしてこの声量が絞り出せるのかと思えるほどに高らかに絶頂し、股座から透明な淫蜜が間欠泉の如く溢れる。それは見事なまでの放物線を描き、観客席に届く勢いで瞬く間にリングを汚していった。
ぶるぶるぶるうっ、と細い腰が打ち震えた。確認するまでもなく、衆人環視の前で絶頂している。その哀れな有り様を誰もが嘆息して見守っていた。少なくとも、決壊したダムが元通りになることはないのだ。
そこからの理緒の試合の顛末は、実に無惨極まりないものである。
腹腰の内臓を痛めつけられ吐血、両手足の骨や筋、関節を粉砕され、まともに動かせないところに、取り残された快楽神経だけが痛みと紐づけられ過敏にされてしまった。そのせいでどれだけ耐えても終わらない地獄のショーが開幕してしまったのだ。
観客に見せつけられるようにコスチュームを破かれるのは序の口、露わになった急所が赤どころか青黒く染まるまで続けられた公開連続打撃や、局部や血の滴る生傷の傷口を晒すように極め続けられるサブミッションの数々。ついには全裸で土下座させられるに近い形で頭を下げ、その頭を踏み抜かれてしまう。端正な顔立ちは見る影もなく、血と汗と涙と涎でズタボロで、そもそも生きているのが不思議なくらいだった。
「余の寵愛をくれてやる。泣いて喜べい!」
「や゛ら゛ぁ! わたひッ、しょこだけは、らめひぇえ、らっ……メえぇ゛〜ッ!?」
ダブルアームで首を極めて抱くような形で持ち上げる。持ち上げておいて投げずに自分の腰を落として相手の足を引っ掛けてかけられる、いわゆる風車吊りである。
両足を支える坐骨や恥骨がひび割れ、両肩から腕にかけての骨も足の骨も折れてる今、首と腕を同時に極められれば、それは拷問! それが「空前絶後」の一撃に昇華される時、そこから突き上げられる未知の――股ぐらから身体の内部を突き抜ける感覚に、理緒は忌避感を覚えた。栓をされ、満たされるという身の毛もよだつ苦楚。
「いッ、ギっ!? いあっ!? ひっぐうううう〜!!?」
突き抜ける殴打、悲鳴、絶叫。耳を塞ぎたくなるような嗜虐の三重奏が、終わる気配もなく、延々と繰り返された。いつしかリングの上には、理緒の潮で虹がかかっていた。
やがて、キングの勝利を宣言する声が少しずつ遠くなり、痙攣して震える体が眠りにつく。瞼がゆっくりと閉じていく。
暴虐の嵐はたっぷり数時間の拷問劇を経て、ようやく過ぎ去ったのであった――。
苦戦
🔵🔴🔴
シャーロット・キャロル
POW判定
草剪・ひかり(師匠、f00837)と共同参加
他キャラとの連携NG
お色気キャラ崩し描写即興連携等歓迎
師匠とお揃いの白黒ゼブラコスチュームで参戦
さてと今回のメインイベントですね
『超プロ師弟コンビ』としてリングイン!
「私と師匠のタッグが最強だと貴方にも教えてあげますよ!」
「そしてプロレスの素晴らしさをもっともっと皆に知ってもらうんですから!」
……先程の試合でちょっと思う所もあったので健全なプロレスを魅せつけてやりたいですね
プロレスはもっと楽しい物です!
そしてゴングが鳴りますよ
タッグを組んでるので二人同時に仕掛けるのは自重
あくまでプロレスでのタッグルールを守ります
ちゃんとルールを守ってのカットやタッチ時の連携、合体攻撃は狙っていきますけどね
事前の打ち合わせ通り基本は怪力で相手と渡り合える私が前を張り
師匠がテクニカルな攻めで相手を弱らせる試合展開で進めていきます
師匠の猛攻でキングのパワーに陰りが見えたらチャンス!
トドメに私のフェイバリット【マッスルマイティバスター】をぶちかましますよ!
草剪・ひかり
POW判定
シャロちゃん(シャーロット・キャロル、f 16392)とタッグ参加
他キャラとの連携NG
被ダメ/劣勢/服破れ/お色気描写等は歓迎
愛用の白黒ゼブラコスチュームで参戦
肩慣らしも済み、いよいよメインイベント
『超プロ師弟コンビ』出撃よ
チャンピオンはタイトル戦で防衛できれば
普段は勝敗で負けても内容で圧倒すればOK
猟兵達とやり合って消耗する程生易しい「王」でもない筈
でも、ここではっきり甲乙つけるよ
「知らないなら教えてあげる。『帝』は『王』より格上。つまり……」
「伏すのは貴方。敗北するのも、貴方」
「そして、強さだけなら私よりこの子(シャーロット)の方が上。やれば、わかるよ」
では試合開始
1対1では体格、能力とも不利
けどルールを守り原則として二人同時攻撃は自重
一方カットやタッチ時の連携、合体攻撃は効果的に挿入
パワーで拮抗できるシャロちゃんが主軸
私は打撃や関節でキングの四肢を執拗に狙い、徐々にパワーを弱らせる
UC【QAA】が変幻自在の仕掛けの秘訣
とどめはシャロちゃん主導
今と次の女帝の力、魅せつけるね
「神といい帝といい、肩書きよりもまず語るべき言葉があるのではないか?」
憮然とも平然とも取れる尊大な態度の男、仁王立ちする『キング・デカスリート』は『超プロ師弟コンビ』に向かってそう言い放った。
度重なる猟兵との戦いで応急処置を受けている間、シャロことシャーロットとひかりのマイクパフォーマンスを座して聞いていた。そして立ち上がってからの第一声である。要旨としては強さの何たるか、そしてプロレスの素晴らしさとは何か。
「超人プロレスにおける言葉は口先ではない、と言っている。どうだ。待たせた分二人がかりで来るといい。余は寛大であるからな」
試合展開と内容で圧倒したかといえば十二分に猟兵に軍配が上がりそうなものだが、あくまで倒した数を誇示し、その数で勝利するのは己だと、そう言いたいらしい。ましてや最強のコンビを自称した二人、それも異性! 彼女らを打ち倒して勝利を声高に叫びたい、そんな思惑が透けて見える。
その浅さが嗚呼、なんとも涙ぐましいものだ! 百戦錬磨のひかりにとって、往々にして裏切られてきた試合への期待。思うように試合展開が行きすぎる。リング上における輝きが己のみになってしまう、強者ゆえの孤独である。一方で勝利のため手段を選ばない素ぶりは、シャロが首を傾げるところである。標榜する正義とはかけ離れた行動は、敵味方とはいえ、共に興行を盛り上げる存在として許し難い蛮行。観客も多様ゆえあまり公言は差し控えるが、楽しく健全に汗を流したい、少なくともこのタッグと戦っている間だけでも、とは思う。
ゆえに。
「いえ遠慮しておきましょう。ね、師匠!」
ひかりは呼応して力強く頷く。二人がかりでタコ殴りなど、愛用のお揃いコスチュームも泣こうというもの。そもそも最初からその気なら、ほんの少しでも消耗をしている彼に応急処置の時間など与えなかった。
「ふん。後悔することになるぞ。二人がかりなら余の命に届いたかもしれないものを」
「……いらないわよ、そんなの!」
あなたなりに認めてくれてる発言かもしれないけど、女帝はそんな独り言を漏らしつつ、シャロの背中を押す。
ゴングと共に堂々たるロックアップ。レスラーたちが組み合いながら力比べをする序盤の攻防……と見せかけ、キングは人工的な質感の筋肉を一目見て組み合いを嫌ったか、するりと抜けて足を繰り出す。
――どごっ!
「くッう?!」
にやりと笑うキング。その顔色が急変する。がっしり掴み返す感触。叩き込んだ足首を捕まれ、今度は攻撃をしたキングの方が驚きの声を上げる。
「鋭い、良いキックでした。でも、私をKOしたいのでしたらもっと本気を出す必要があるでしょうか」
「王を……余を評するか、小娘が!」
口端に唾し、苛ついた態度を見せる。
手加減などしてなかったつもりだ。先の展開と同様猟兵であろうとダウンを奪い、あわよくば後ろの女を引き摺り出す気で蹴りを叩き込んだ。現に、その蹴りは当たれば、対策をしていないのなら猟兵でも沈められる威力だ。しかし、それを喰らって平然としているとは、普通の選手とは体の作りが違うか、またぞろ小細工を弄しているか。
男は激昂しながらも、こと王権を守るためであれば冷静さを併せ持っている。
足を引きつつ、この金の長髪の弱点は何処かと観察する。女だてらの筋力自慢を手折るには、やはり力任せが最短の道であろう。揺れるブロンドの髪をぐいと引っ張って体勢を崩しにかかる。
――ギッ……ぐいっ! メリィ!
「あグ!?」
「フフ、ハハハ! 掴みやすかったのでなあ!」
待ち構えていた片膝にシャロの背中を強打させると、怯ませたその隙に持ち上げ、キングの肩の上にシャロを強引に乗せてしまう。
背骨と腰が砕けそうなほどの背骨折りの痛み。
ゴギリッ、と嫌な音がして、シャロの身体が激しくビクビクと痙攣する。たまらず赤い舌を出すと、でろぉと涎を吐いて苦悶に喘いだ。
「くっ……うううぅ……ぐぁッ!?」
百七十に迫るしなやかな身体を弓なりに限界まで反らし、苦悶の喘ぎをリング上に響かせるシャロ。突き出された美巨乳が激しく揺れてなお、顎と腿を掴んで離さない。いわゆるオーバーヘッド・バックブリーカー、アルゼンチン式背骨折りとも呼ばれる、掛け手にも負担がのしかかる分ダイナミックな破壊力のある大技だ。
リングに乱雑に投げ捨てられる。シャロとしては、ショルダータックルやらチョップを五体で受け止めてたっぷりとタフネスを見せつけるのがセオリー。肺の息を吐き出して、膝の力で立ち上がる。
「とと、やってくれましたね。師匠の見ている手前、その気なら付き合いますよ。パワー勝負!」
最初はスかされてしまったが、初志と本分を全うしようと肩から突っ込む。ぐらりと体勢を崩したように見えるだろう。
しかし、猛突されたキングはその身をもってそれは違うと断ずる。「象か、戦車か
……!?」そんな感想を抱いたことだろう。そしてこうも思ったはずだ。背骨かそれに準ずる部位が折れたのではないかと。先ほどの感触は嘘ではないはずだと!
――グイッ……!!
「ぬぅおおぉおッ?!」
左の手で頭を鷲掴む、肩を入れ込んで右の手は相手の太腿の間へ差し込んだ。惑乱するキングの頭を百八十度ひっくり返して、背中から全身を叩きつける。揺れた。沸いた。キングの巨躯がぐるんと回った時に、本日、一番、会場が踊った。
騙すつもりではなかったんですよ、でも私サイボーグですから……勘違いするのも無理はありません。それと、もう一つ、断っておきます。
――グオッ……ドズッ!!
「がァアッ!?」
叩きつけられ、カハッと息の塊を吐くキングに覆い被さるように跳ぶ影。
それは紛れもない、プロレスラーの姿。この世界に新たに生まれる、星。
「超新星っ……ええ。ええ!」
団員の憧憬の眼差しが、熱く燃える。激る期待が、眩しく映る光の塊から目を逸らさせない。握り拳を上げて、彼女が舞う姿を視線で追った。
仰向けに倒れるキングに後追いして、ひかりが片肘を振り下ろしながら倒れ込んでいく。ギロチンのような鋭利さと、バラストのようにリングへと沈み込ませる重さを兼ね備えた右肘での攻撃。いわゆるダイビング・エルボードロップがキングの厚い胸板に突き刺さった。そのままフォールを奪いにかかる。
「先達としてお手本にならないとね。キングさん、胸を貸してもらうよ。ああ、安心して? 強さだけなら私よりこの子の方が上だから」
「余を実験台にするか!? 不敬の極みだぞ、ヌゥおおおおッ!」
背筋で無理やり引き剥がし、タッチで入れ替わったひかりに喰らいついていく。
追撃のラリアットを食らい、ひかりの身体が半回転した。受け身を取りつつも、リングに大きな音を立てて倒れてしまう。ロープでの跳ね返りもない、キングにしてはお粗末な技。それでも持ち前の筋量は十分な威力を担保し、ひかりはしっかりと「受け」ることができた。
「師匠!」
「ふうん。魅せてくれるね。でも最後に伏すのは貴方。敗北するのも、貴方」
シャロちゃん、とどめは任せるね。そう言い残して、力の限りにぶつかっていく。余裕綽々の態度を崩さないが、決して身体能力に大きく差があるわけではない。シャロのそれと比べれば、むしろひかりとキングは拮抗しているとさえ言える。「強さ」はひかりの方が劣る。決してリップサービスなどではない。
少し未来の話、プロレスラーが猟兵に生まれたとするならば間違いなく最古、最長の経験を持つのがこの“絶対女帝”である。
効かんわ! と吠えるキングのガードに、自分の拳が痛むのも構わず、連続で打擲を繰り返していく。ゴッ、ガツっ! 肉と骨とがぶつかり合うことでしか奏でられない二重奏。指先からみしみし言いつつも、果敢な攻め手は緩むことがない。むしろどんどん激しさを増していく。
「だぁあああッ!!」
「ぬぅおおおゴゴゴッ!」
狙うは関節。打撃や極め技で四肢への攻撃を繰り返し、ダメージを蓄積させていく。これは詰将棋だ。王のプライドを刺激し、大ぶりな攻撃を誘ってはスタミナを奪い、強靭な筋力に翳りが見えるまでじっくり料理していく。
今再び手四つに誘ってくる。先ほどのと同様、これも見せかけだろう。冷静であれと心掛けつつも、頭に血が上ったキングのワンパターン戦法。予期していた通り、キングはそれに乗ると見せかけてひかりのバックに回り込み、腰の捻りを使った高速のバックドロップで投げ捨てる。
わかっていれば受け身を取るどころか、反撃に移るのも容易い。投げ捨てられたのをバック宙で立ち直ると、そのままの勢いでロープへと走って反動をつけて跳ぶ。立ち上がったキングの太首に両脚を掛けた。
「どらアッ!」
――ゴシャッ!
そのまま後方へと体を回し、頭から落としてフォールに入る。両太ももで相手の首を挟んで後方に回転し、頭から落としてそのままフォールを狙う、いわゆるフランケンシュタイナー。脳天からマットに叩きつけられたキングの頭部に、パッと赤い血の花弁が咲き乱れる。
キングは朦朧とする意識を取り戻そうと頭部を激しく上下に振る。ヘッドバットの要領でひかりは下腹部を守ると、すぐさまフォールを解く判断。仕切り直しに向かい合う。キングは以前座り込んだままもたついている。
「よく返せるね」
「師匠、ここは私が行きますっ」
コーナーから身を乗り出し右手を伸ばす。タッチを受けるのももどかしく、リングインと共に雄叫びを上げる。
狙うは一点突破! 膝も曲げずに、準備動作なしの状態から一気に攻め立てる。使える身体のバネを全て突っ込んだ、瞬発力勝負である。リング中央で長座姿勢のキングの胸板を全力で蹴り飛ばさんと飛び込んだ。
立ち上がり、拳を振り上げようとするキング。空中で正面衝突したシャロは、結果的に、飛び蹴りからいわゆるセントーンのようなヒップアタックに切り替えようとして、マットに倒れ込んだ。
「ぐぅエっ?!」
「焦らないで! 練習を思い出すの!」
ひかりのアドバイスをよそに膝を立て、そして、立ち上がる。キングの反撃が始まった。
シャロの腹筋にキングは全体重をかけた踵を落とし、勢いそのまま胸元に爪先も叩き込んだ。呼吸が詰まりげほげほと咳き込むシャロ。
――ボグッ! ドゴッ!!
「こフッ?!」
さらに平手を打ち込むと、ばちーんと、派手な音を立ててシャロの胸が揺れ、後退る。
その退いた姿勢がまずかった。腰の引けたところで首根っこを掴まれ、筋力によるゴリ押しでリングへと叩きつけられる。腹と胸を地面に思いきり打ちつけられれば、強烈な衝撃に横隔膜の動きが瞬間的に停止。わずかに呼吸困難に陥るとともに、痛みと苦しみに、シャロは咳き込みながらリングの端で悶える。
「く、くそぉ……くっそぉ……」
「シャロちゃん、タッチして!」
「いえっ。私だってプロレスラーなんですっ、私が決めます。決めさせてくださいっ」
強引に、左手一本でキングの身体を持ち上げた。あえて力でこの試合と、王に引導を渡すのがシャロなりの礼儀だと感じたからだ。
このまま背中から落としてリングに叩き付けてやろうかとも思ったが、持ち上げられ、宙にあってもまだ一切締める力を抜かないキングは、きっとその程度では離してくれないだろう。
「ならば、私の必殺技で!」
「やめろォ! 余を誰と心得るかッ!?」.
落とすなら、背中ではなく後頭部から。そのドデカく肥大化した頭でっかちを、かち割ってやる。
「必殺のォ! これが――マッスルマイティバスターですッ!!」
――ごぉアッシ!!
微塵の躊躇ない叩き落とし! それも飛び上がり、倒れ込む姿勢でいわゆるパイルドライバーに近づけた、急角度パワーボム!
リングに首だけで突き立ち、埋め込まれるようにして直立。やがてスローモーションのような動きで倒れ込み、そのまま動かなくなった。
試合終了を告げる鐘が掻き鳴らされる。ゴツっと握り拳同士が突き鳴り、二人の女神たちは勝利の喜びを分かち合った。観客の惜しみない、万雷の拍手。歓声。感動を告げる黄色い悲鳴と、ひっきりなしに切られるシャッター音。
「ふうっ、やりきったやりきった! でもまだブランクを感じる動き……よね?」
「師匠……ストイックすぎますっ」
伝家の宝刀を抜かずともキングの首を取れたのは、ひとえにシャロの成長あってのおかげなのだが、今はそれを伝えることはしない。せっかくもぎ取った勝者の特権を、今は二人で味わっていたいから。
この世界を渦巻く、超人プロレスを応援する声は鳴り止まない。むしろ際限なく大きくなっていく。その立役者として、今と次の「女帝」をはじめとする猟兵たちの活躍が語られたことは言うまでもなく、同時に……とある一つの団体がコレを機に躍進を始めるのは、また別の話。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴