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アルカディア争奪戦⑲~花になりたかった皇帝

#ブルーアルカディア #アルカディア争奪戦 #オーデュボン #『皇帝』パッセンジャー

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 死にたかった。

 或いは、俺は草木になりたかったのかもしれない。
 だが俺は俺として、“オーデュボン”の皇帝として此処に居る。
 草木になりたいなどと、叶わぬ願いだ。

 故に、俺がアルカディアの玉座にかける望みはただ一つ。
 “俺を殺す事”。
 ――だが、思わぬ乱入者のせいで、玉座への道は困難を極めている。
 他の屍人帝国の皇帝たち。そして、猟兵だとかいう存在。

 だが、其れで良い。
 俺の望みは、阻まれても「俺の勝ち」だ。
 俺が玉座に辿り着き、俺を殺すという願いを叶えても。
 俺が玉座に辿り着く前に、他の皇帝か猟兵に斃されても。

 結局のところは――俺の勝ちだ。



「他のグリモア猟兵と少し話をしたんだけどね」
 ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)は片手に持ったコンパス(しかしこのコンパスが使用されたところを誰も見た事がない)を揺らしながら、猟兵を見た。
「オーデュボンへの潜入任務が以前あったらしい。其の際に判った事なのだが、これから赴くオーデュボンの皇帝“パッセンジャー”は、どうも弱点があるらしいんだ」
 知ってるのは一握りの猟兵だけらしいんだけどね、とヴィズは言う。
 飛空艇は進路を順調に進んでいる。この空域を抜ければオーデュボンへと辿り着く。そして其処には『|拒絶の雲海《アルカディア・エフェクト》』を発生させた六大屍人帝国の皇帝が一、パッセンジャーが待っている筈だ。
「其れがどんな弱点か、を聴く前に通信は切れてしまったんだけど……オーデュボンを追っていた猟兵なら知っているのではないか、と思う。取り敢えず、今の時点で判っている事について説明するよ」

 ヴィズが言うところによると、パッセンジャーは無敵機械と接続された“不死身の皇帝”なのだという。
 猟兵たちがみた予兆の通り、彼の望みは“死”、ただそれのみ。
 恐らく死ねぬ要因は無敵機械にあるだろう、とは推測なのだが――其の無敵機械の能力の一つに“周囲のあらゆる生命やエネルギーを吸い上げる”というものがある。
 つまり、其処に立っているだけで生命力を、エネルギーを吸われ続けるという訳だ。

「不死身というか、無敵とも言えるな」

 とは、余りに冷静過ぎるヴィズの言である。そして其の吸い上げられたエネルギーが、パッセンジャーの生命力となっているのだろう。

「故に、パッセンジャーを破るには|奴が吸い上げるエネルギーより強烈な一撃を叩き込み続けるしかない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》のだ。まあ、下手なギミックよりは簡単だ。兎に角手持ちのカードの中から、常に最強のものを選択すればよいのだから」

 だが、言うは易し行うは難しとはこの事で。
 生命力を吸われながら、吸われている以上の一撃を叩き込め、という事になる。

「逆に……そうだな。こちら側から生命力吸収を仕掛けるのも良いかもしれない。少しは取り戻せると思うし、良い一撃になるだろ? ……そうだ。もし弱点を知っている者がいるなら、其れを利用するのも手だと思うよ。戦場での情報共有は難しいとは思うが、兎に角相手に手痛い一撃を食らわせ続けるのが大事だからね」

 ただ、とヴィズは言い置く。

「パッセンジャーがアルカディアの玉座に望む願いは“己の死”だ。――どのみち奴が得をするというのも、なんだか癪だな」

 島が見えてきた。
 グリモア猟兵はゆっくりと振り返ると、其処に座す皇帝を、死を待つ者を見つめるように黙した。


key
 こんにちは、keyです。
 己の死を願う皇帝。

●目的
「“パッセンジャー”を斃せ」

●プレイング受付
 このシナリオには断章はありません。
 オープニング公開直後にプレイング募集開始です。
 🔵が十分集まり次第〆切を設定し、タグでお知らせ致します。

●プレイングボーナス!
「無敵機械の無限吸収に対処する/敵の『隠されていた弱点』を突いて戦う」

 パッセンジャーを包んでいる機械は“無敵機械”といい、周囲のエネルギーと生命力を耐えず吸い上げ続けるという特性を持っています。
 猟兵はこの吸収に耐えながら、吸収を上回る一撃を繰り出し続けなければなりません。
 また、『オーデュボン』関連のシナリオでパッセンジャーの弱点に言及されている箇所があります。ご存じの方はそちらを狙ってみるのもありです。


●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
 迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。
 また、アドリブが多くなる傾向になります。
 知らない人と共闘する事なども在り得ますので、ソロ希望の方はプレイング冒頭に「🌼」を添えて頂けると助かります。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『『皇帝』パッセンジャー』

POW   :    パッセンジャー・ケイジ
レベルm半径内を【急激に狭くなる光の檻】で覆い、[急激に狭くなる光の檻]に触れた敵から【檻を構成するエネルギー】を吸収する。
SPD   :    パッセンジャー・レイ
着弾点からレベルm半径内を爆破する【魔導砲撃】を放つ。着弾後、範囲内に【攻撃型魔導ドローン】が現れ継続ダメージを与える。
WIZ   :    インビンシブル・チェンジ
自身の【無敵機械】を【抹殺形態】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。

イラスト:ふじ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シモーヌ・イルネージュ
勝手にこっちのエネルギーは吸い取るし、死なないしと来たら、呆れて言う言葉もないね。ホント皇帝すげぇ。
でも、それで終わらす訳にはいかないんだ。

とにかく、相手の吸い上げるエネルギーを超える攻撃を与え続けるしかないんだろ。
ならば、ひとりひとりの攻撃は小さいかもしれないけど、合わることでそれを越えることを選ぶよ。

やってやろうじゃん。

UC【聖衣着装】を発動。今回は『紫水晶のガントレット』を選んで、力をかさ上げ。
さらに【怪力】【電撃】【気合い】を加えて、黒槍『新月極光』で戦おう。
力任せだけど狙いは【鎧砕き】からの無敵機械壊し。

パッセンジャー、楽にしてあげるよ!


終夜・日明
【アドリブ連携歓迎】
どちらに転んでも奴の勝ちなのは確かに癪ですが、
"望まぬ生を送る苦痛"が存在するのも事実。

望み通り引導を渡して差し上げましょう。
どんなに歪でも、それが"生命"であるならば――
僕の《蠱毒》は死ぬまで決して逃さない。

無限吸収を利用して攻撃を行います。
【指定UC】で《蠱毒》の力を引き上げ、わざと生命を吸わせ
【継続ダメージ】を付与。
他の攻撃は【見切り/盾受け】で最小限に留めつつ、
UCの力を絡めた【砲撃】や【レーザー射撃】で攻撃してダメージの加速も試みましょう。
元々死にかけで戦ってますので【継戦能力】で意地でも立ちますよ。

今まで吸ったもの諸共、その生命を喰らい尽くして差し上げます。




 全く、と心中でシモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は悪態をついた。
 其の場に立っているだけで脚の力が抜けていく。エネルギーがパッセンジャーを包む人型の機械に吸い取られて、パッセンジャーの力になっていく。
 其れを終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)も同じように感じていた。蟲毒によるものではない、慣れない力の吸われ方だ。

「勝手にエネルギーは吸い取るし、死なないし……呆れて言う言葉もないね。皇帝ってすげぇな」
「ならどうした。此処で終わるのか、猟兵とやら」
「いいえ。……まあ、どちらに転んでもあなたの勝ちなのは確かに癪なんですが……あなたが“望まぬ生を送る苦痛”から解放されたいというのなら」

 望み通り引導を渡して差し上げましょう。
 槍銃を構えて、日明は其の照準をパッセンジャーに定める。

「ふん。……俺自身が終わらせられなかった命を、お前達が終わらせられるというなら――!!」

 無敵機械が組み変わる。不気味なフォルムをした其れは意味不明な音を立ててがちがちと組み変わり、砲台の形を形作る。其れは余りにも巨大だった。余りにもいびつだった。

「終わらせてみろ!!」

 パッセンジャーの慟哭に合わせて、砲撃が放たれる。
 力を合わせるよ、とシモーヌが手短に言った。其の肌には汗が伝っているが、表情は戦を諦めていなかった。
 紫水晶の欠片がきらりきらりと煌めいて、シモーヌの両腕を包んでいく。強化された両手で黒槍を握り、シモーヌは一気に駆ける。砲台からの一撃は恐ろしいが、直線だと考えればそう恐れる事もない。斜めに駆ければ砲台は真っ直ぐ日明へと向かっていき――

「全く、……僕に囮になれって言ってるようなものじゃないか、ッ!!」

 砲撃を盾受けした日明だが、其の衝撃がぐわん、と頭を揺らす。
 更に其処にエネルギーを吸われていく感覚がして……日明は、笑った。吸ったな、と。日明の血には、其のエネルギーには、「蟲毒」と呼称される魔性の力が備わっている。其れは内側から宿主を蝕む程の、いわば生命特攻を有した武器だ。だから日明は敢えてエネルギーを吸われる事で、内側からパッセンジャーを蝕む方策を取ったのだ。

「ええ。……もっと吸っても構いませんよ、死にたいのならね……!」

 ――脚が。
 思うように動いていない、気がする。
 武器が重くて、手放したくなる。

 其れでも、其れでも。シモーヌも日明も武器を手放す事はしなかった。パッセンジャーを斃さねばならないと、何より其れがパッセンジャーの望みであると、判っているから。
 シモーヌは駆ける。後ろの日明が援護してくれていると信じて、前だけを見て、駆ける。

「パッセンジャー!」

 名を呼ばれて。
 少年が、笑ったような気がした。

「今、楽にしてあげるよ!」

 シモーヌの黒槍が力任せに叩き付けられて、其処にいなづまが奔る。ばちばちばち、と無敵機械が力任せに砕かれて侵食された所に、更に日明のレーザーが寸分違わぬ狙いでぶち当たり、べきん、と無敵を誇る機械の一部が破壊された音がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・タタリクス
さて、オーデュボンとの因縁のここまで、といきましょう
自殺願望にも貴方の願いにも興味はありませんが
貴方の戦いに付き合うことが
主人様の世界の平和につながるならば
メイドの本領お見せしましょう!

最大火力を叩き込むというのなら!
【ガレオンチェンジ】で飛空艇形態に変身
その状態で【テールム・アルカ】起動!
デストロイドリル召喚&船首に装備
さあ、嵐の槍の一撃食らいなさい!
【テンペスタース・クリス】突撃いきます!!!

光の檻は貫き破るつもりですが
それでも吸われそうですね
『エネルギー・イン・天使核』
お手軽チャージでフルエネルギー
これも全部持っていけ!
の勢いで突撃継続です!


国栖ヶ谷・鈴鹿
◎アドリブ連携OKです

ユーベルコヲド、新世界ユウトピア!
もしかしたら!桜の花吹雪を結界術に転用して!

防ぎ切ったら、次はあの吸収能力……!吸収能力を改変で逆転、ぼくの改変で作り出した幻朧桜で、体力を吸収して、オブリビヲンとしての力を慰めて、転生に送ってしまおう。

この花は桜の樹、ぼくの世界に一年中咲く花さ。
そこから生まれてくる桜の精が傷ついた霊を慰めて、次の生に送るんだ。
君は死を望むけれど……せめて正しい輪廻の元にかえってくれることを願っているよ。




「さて……」

 “オーデュボン”との因縁も此処まで、といきましょう。
 ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は片手の手袋をしっかりと嵌め直し、パッセンジャーに向き合う。

「そうしよう。お前ら猟兵を吹き蹴散らし、俺がアルカディアの玉座へと至る」
「――そうして、己の死を願うと? 自殺願望にも貴方の願いにも興味はありませんが……」

 貴方の戦いに付き合う事が、主人様の世界の平和に繋がるならば。
 メイドの本領お見せしましょう。

「使用人如きが俺の前に立つなッ!」
「あッ、いまこの人メイド全員を敵に回したよ! パーラーメイドがいないと店は回らないんだ、其れを知らないな!」

 国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ|乙女《ハイカラさん》・f23254)が言い、頭上の光輪を輝かせる。

 ――新世界ユウトピア。

 其のハイカラさん特有の後光は、全ての摂理を改変して鈴鹿の理想を具現化する。
 ふわり、と桜が舞った。もう春は過ぎたというのに。……気付けば周囲には桜の樹が林立し、花弁がふわりふわりと風に舞う。まるで春に時が戻ったかのように。

 パッセンジャーは先程の言を翻しはしない。しかし苦い顔をした。――ばちばちばち、と音がして、雷で造られたかのような光の檻がステラの周囲に現れる。
 其の光に囲まれた瞬間から、ステラの身体から急激に力が抜けていく。常人ならば数秒で行動不能になる吸収量。……だが、生憎彼女は常人でもなければ、今の大きさが本来という訳でもない。

「打ち破ります。テールム・アルカ!」

 ステラの身体が輝き、其の質量を大きく増していく。
 其れは人よりも、ケモノよりも、大きい。無敵機械を接続したパッセンジャーに匹敵する其れは……一隻のガレオンだった。

「こいつ……! ガレオノイド!」
「其の通りです。そして……貴方に相応しい武装でお相手しましょう」

 じゃこん、と船首に取りつけたのはデストロイドリル。
 ――さあ。
 嵐の槍の一撃を喰らいなさい!

「ぼくが援護する、遠慮なくやっちゃって!」
「了解しました!」
「小賢しいッ! 大きさだけで圧倒できるような俺だと思うなよ!」

 無敵機械の砲台が、ステラに狙いを定める。後ろで援護している鈴鹿は――狙えば“あれを傷付けてしまう”恐れがあったから。
 鈴鹿は其の間に世界を作り替える。作り出された“幻朧桜”は桜の花びらを舞わせ、逆にパッセンジャーの力を奪っていく。

「この花はサクラ。ぼくの世界に一年中咲く花さ」

 ぼくの世界ではね、そこから生まれて来る桜の精が傷付いた霊を慰めて、次の生に送るんだ。
 ――君は死を望んでるんだね。なら、せめて……ただしい輪廻に還れるように、僕らの手で送ってあげるよ。

「テンペスタース・クリス……!」

 ステラが――ガレオンが、光の檻を引きずるように突進する。
 ……私は此処に来る前に、エネルギー・イン・天使核で数秒チャージしてきました。
 つまり判りますね? 私のエネルギーは120%!
 幾らでも持って行って下さって構いませんよ!

「ぬ、あああああああ……!!」

 ガレオンの突撃というものは恐ろしいものだ。
 だがパッセンジャーは動く事はなかった。|動いて避ける《・・・・・・》などと皇帝としての矜持が許さなかったし、なにより……何かを期待していたのかも知れない。
 ステラは突き進む。パッセンジャーの砲撃が唸ったが、それしきで怯む艇ではない。突き進み、突進し、光の檻が負荷に負けてぱりんと砕けて、そして船首にあるランスが無敵機械の首部を捉えた。がりがりがり、と削る。まるで少年を包み込む母のような無敵機械が何処か無表情を苦し気に歪め、……そうして、其の頸はついに削り切られ、雲海へと落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
共闘、アドリブOK。

良いではないか、死を望むのであれば、最高に美しく散る最後を捧げよう。
初撃は草木を背に逃れる。しかしこういう手段は好むところではない。火中へ跳びこみ接近する。さらに自らの腹を刺剣で貫く姿を皇帝はどう見るだろうか。UCを発動し赤刃と化した長剣を振り下ろす。返り血を浴びれば吸収し、さらに刃を鋭く、長大にさせていく。さあ、花開くが良い。




 光の檻がまるで突き立つ杭のようにネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)を取り囲んでゆく。
 完全に囲まれる前に――ネフラは其の地に根付いていた木々の影へと身を隠す。

「ッ! ちッ」

 パッセンジャーが舌打ちをして、光の檻を解除する。もしかすれば、木々を傷付けてしまうかも知れなかったからだ。

「……私としても、こういう手段は望むところではない」

 だが、其の檻に捕まるのは御免だったのでな。

「卑怯者め」
「そう罵ってくれるな、言ったろう? 望むところではないと」

 檻に囲まれていないというのに、身体が全力疾走したかのように疲労していく。これが生命吸収か、とネフラは内心で舌を巻きながら木々の影から身体を覗かせ、一気に奔った。
 そう。ネフラは火中に飛び込む。木々に隠れながらヒット&アウェイだって出来ただろう。だが彼女は其れを良しとしなかった。
 そんな戦い方で有利に立っても、面白くないだろう?

「我が血の刃、受けると良い!」
「!?」

 パッセンジャーはネフラを目で追い、……目を見開く。
 ネフラが持った剣で、“己の腹を貫いた”からだ。そして直ぐに引き抜く。返しのついた先端が肉を引っ掻いて更に出血し、剣が真っ赤に染まる。引き抜いた剣を持った彼女を、無敵機械の腕が拒むように薙いだ。
 ネフラは傷付く事に慣れているかのように跳んで下がり、腕が薙ぎきった隙を縫い走り込む。其の間に剣は血を吸って……白銀が真紅へと変じていく。機械の腕を飛び越えて、血潮を振りまきながら、封印を解かれて禍々しい形状へと変わった其れをネフラは振るう。
 ぱ、と血の花が咲いた。其れはネフラのものではない。パッセンジャーの白い膚に刻まれた傷だった。
 そして、長剣がまた一つ鋭くなる。また少し、長くなる。戦いが続けば続く程、ネフラの剣は有利になっていく。

「さあ、花開くが良い……!」

 赤く、そして美しく。
 機械の腕がもう一度、ネフラを薙ぎ払う。ネフラは思い切り懐に入り込む事で其れを避け、更にパッセンジャーに向けて真紅の一閃をお見舞いした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リアラ・アリルアンナ
たとえ死が彼にとって幸福だとしても、そうではない市民を巻き込む事は決して許されない行為!
反逆者の望み通りになるのは癪ですが…抹殺します!

周囲のエネルギーを無限に吸収するというのは厄介ですが、
それが装置を介して行われているのならば、付け入る隙はそこにあります
UCによって味方につけた周囲の植物達はリアラを身を挺して守ることでしょう
それを見て攻撃の手が緩んだ反逆者に対し、
ハッキングによるパラメータ改竄、ジャミングやデータ攻撃による負荷をかけて不具合を誘発し、装置を機能不全に陥らせます
これで完全にとはいかずとも、こちらが即座に干からびる事はないでしょう
このチャンスを逃さず、最大火力を叩き込みます




 リアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)は思う。
 例え、死が彼にとっての幸福だとしても。

「そうではない市民を巻き込む事は決して許されない行為!」
「……そうだろうな。ならばどうする?」
「判っていて問いますか! 性悪ですね! 望み通りにするのは癪ですが……抹殺します!」
「そうか。やってみろ。……俺にとて矜持はある……そう簡単に殺せると思うなよ!」

 パッセンジャーが六大屍人帝国の皇帝たる所以が此処に在った。
 其の覇気にリアラは一瞬気おされて、……いけません、と頭を振った。あまねく市民は幸福であるべきなのです。今この世界に生きる民に「幸せですか」と問うたところで、きっと「不安です」としか返って来ません! そんなのは、世界の在り方ではないのです!

「さあ、周囲の草花たち! リアラと手を取り合いましょう! 其れこそが幸福、幸福とは手を繋ぎ合う事なのですから!」

 ぎ、ぎ、ぎ。
 パッセンジャーを包む無敵機械の爪先が鋭くなっていく。其の腕が無慈悲に振るわれて、リアラの柔肌を切り裂こうとした其の時――草花がふわり、と彼女の方へ傾いた。

「ッ! やめろ!!!」
「……!!」

 宿主たるパッセンジャーの命令に、無敵機械は逆らえない。
 爪はリアラに当たる直前に其の動きを止め、無理な制動によってばちり、と火花が散る。何故、と問うような機械の沈黙。しかし皇帝は応えない。

「そうしますよね。草木の幸福の為に。……リアラはあなたを抹殺します。其の為になら、搦手だって使わせて頂きますよ!」

 ハッキング。
 見ているだけで目が疲れてしまいそうな膨大なデータをめちゃくちゃに改竄する。データを直接攻撃し、負荷を掛けていけば……ほら!
 其の鋭い腕、動かしてみてください。出来ますか? 出来ないでしょう! 其れは草花があるからではなく、リアラが機械のデータをめちゃめちゃにしたから!

「腕が……チッ!」

 パッセンジャー本人は、無敵機械にほぼ全身を接続しているために無力と言っても良い。
 彼はいつ無敵機械と接続したのだろう。其れとも望まぬ接続だったのだろうか? いずれにせよ、この機械がエネルギーを吸い続ける限り、彼は死ねないという事だ。

 ――其れが、あなたの幸福ではないのなら!

 リアラは銃を構える。抹殺します、という言葉の通り――最大火力に其の光線銃を調節すると、パッセンジャーへと一撃を放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミア・ミュラー
簡単には死ねないって、まるで呪いみたい、だね。辛いかもしれないけど、関係ない人たちを巻き込むのは、だめ。

草花や木に当たる攻撃はしない、だっけ。気が引けるけど草木の近くを進めばある程度近づける、かな。もちろんわたしも、傷つけない。
後は一気にダッシュで、接近。魔力の砲撃なら予兆を見える、かな。着弾点の前に出て、ソリッドダイヤで身を守ってあえて爆破に巻き込まれて向こうへ吹き飛ばして、もらおう。これでドローンも、逃れられる。
そのまま【闇弾】を当てて、太陽の光を受けた闇で体を覆ってエネルギーを、もらうよ。奪ったエネルギーで弾を強化してさらに、もらう。この闇は草木の命は奪わない、から。安心して眠って、ね?




「あなたは、簡単に死ねないの?」

 ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は問う。
 パッセンジャーは静かに、其の問いに応える。

「そうだ。俺はこの無敵機械によって死ねない。お前とて、既に命を吸われているだろう」
「うん、感じる。少しずつ疲れてる。……まるで呪いみたい。辛い?」
「もう慣れた。……辛いと思うには、時間が経ちすぎた」
「そう。……でも、関係ない人たちを巻き込むのは、駄目」

 ミアはそっと、草木の傍に寄る。
 パッセンジャーは草木を傷付けない。事前に仕入れた情報の通り、パッセンジャーは相手は猟兵であると砲台を構えたが、砲を撃つようには見えなかった。

「大丈夫だよ。私も草花を傷付けるような事はしたくない」
「口ではなんとでも言えるだろう」
「本当だよ」
「……」
「今から、ちゃんと近付くから」

 まるで自殺行為のような宣言。しかし其の通り、ミアは草木から離れ、パッセンジャーへと向けて駆け出した。

「――嘘を吐かない其の姿勢は評価するが……死に急ぐか!」

 草木から離れてしまえば、砲で狙わない理由はない。
 無敵機械の砲台がミアを狙い、光弾を放つ。ミアは其のチャージの瞬間を見計らう。光が砲台に集まる其の瞬間を見極めて、着弾点の前に出ると……呼び出したのは|ダイヤのスート《ソリッドダイヤ》。
 わたしは諦めないよ、だから護って!
 ダイヤが赤く輝いて、シールドを形成する。光の砲弾は其れで何とか防ぎ切ったが、此処に更にドローンによる追撃が来るはずだ。ミアは敢えて自ら吹き飛ぶ事によって、其の追撃を逃れた。

 ――疲れている。

 生命力を吸い続ける無敵機械。
 ミアは頬を伝った汗を拭った。まだ、まだ寝てはいけないの。ふかふかのベッドも、優しい夢もまだ此処にはない。この悲しい王様をなんとかしなければ、わたしは眠ってはいけないの。
 ミアの周囲から光が一瞬消え失せた。かと思えば、さきほど無敵機械が湛えたのによく似た、しかし真っ黒な闇の弾を其の両手の間に構え――

「……撃ってみろ。俺を殺せるなら」

 パッセンジャーは、防禦の姿勢を見せなかった。
 だからミアは撃った。しかし、防いだのは……無敵機械の腕。ばちん、と飛び散った闇が粘質のように無敵機械に、パッセンジャーに貼り付く。

「……?」

 無敵機械の腕が鈍る。
 稼働エネルギーを奪われて、其の動きが重くなる。エネルギーはミアへと流れていく。

「この闇は、草木の命は貰わない、から」

 ミアは再び闇を構える。貰ったエネルギーで闇を凝らせて、撃つ。

「だから、安心して眠って。大丈夫、……この闇は優しいから。もう、眠る時間だよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

隠された弱点ねぇ、ふむ、|多重詠唱、第六感、読心術、情報収集《サイコメトリー》っと。なるほどなるほど『草花、木に当たるような攻撃をしようとしない』のね。そして、死にたい或いは草花になりたいと。
よろしい、その願いを私が叶えましょう。
リミッター解除、限界突破、オーバーロード!我こそは|舞台装置《デウス・エクス・マーキナー》、|御都合主義な《願望を叶える》欲望の|化術肉体改造《大樹》なり。
欲望の大樹たる我が汝の願いを叶えよう。クーリングオフは受け付けぬ。
対価として|大食い、早食い、捕食、エネルギー充填《魂と生命力を頂こう》。
|多重詠唱化術肉体改造《その身を草花に変じ》、|息止め、盗み《魂を抜き取る》ことで眠るような死を与えよう。
無限吸収に関してはこちらも|多重詠唱結界術、大食い《エナジードレイン》で対抗しよう。|継戦能力《願いを叶えるまで持てばいい》。ああ、でもそうだ。|高速詠唱早業先制攻撃《タイムフォールダウン》で時間質量操作して時短するとしようか。




「花になりたいの?」

 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔王少女・f05202)はパッセンジャーに問う。
 其の隠された弱点をいとも簡単に読み取れたのは、パッセンジャーが彼女の“|多重詠唱と第六感、更に読心術と情報収集《サイコメトリー》を用いた”事に抵抗をしなかったからだろう。

「……さあ、どうだろうな」

 けれど、知られていると判っても、パッセンジャーの答えは明るくない。

「俺は確かに草花を傷付けない。だが、花になりたいのかは判らない。俺は或いは、死んで闇の中に放られるだけかも知れない。軽々と願って良い身分ではないんだ、俺は」
「そう。――でも、私がいるわ? 貴方の願いを叶えてあげる」

 どうやって?

 こうやって、よ。
 「――其の時、|不思議な事《・・・・・》が起こった。」
 そうして舞台を動かす事も、時には必要なの。

 アリスは全てを解き放つ。リミッターを解除し、限界を超え、己を縛る枷を全て解く。我こそは|舞台装置《デウス・エクス・マーキナー》、ご都合主義な欲望を叶えるものなの。
 アリスは根差す。アリスは芽吹き、息吹き、枝を広げる大樹となる。そよそよと場違いに緩やかな風に其の葉を揺らした。

「……化術か。だが……」
「ええ。大樹に殺される、其れも悪くないでしょう、あなたなら」

 我は欲望の大樹。汝の願いは果たされる。ただし、クーリングオフは受け付けぬ。其の魂と生命力を、余すところなく頂こう。

 其の身を草花へと変じよ。
 魂よ、闇ではなく輪廻へと還れ。
 そうして、汝に訪れるのは眠るような死だ。

 アリスの甘やかな誘いに抵抗したのは――無敵機械だった。
 頭部を失い、損傷してなおパッセンジャーを護ろうとコードで護る。
 けれども、パッセンジャーの表情は静かだった。

「良い」

 ――何故。

「もう良い。俺の勝ちだからだ」

 ――これは敗北だ。

「いいや。敗北じゃない、……俺の身が、草花へと成るのなら……これは其れ以上ない勝利なんだ」

 エネルギーを食い合うパッセンジャーとアリス。しかしアリスは更にエネルギー吸収の速度を上げる。詠唱を重ね、逃げない獣を囲い込み、更に貪欲にエネルギーを喰らい続ける。

「――……ああ」

 眠い。
 俺は、眠れるか?

「……眠れるわ」

 あなたがそう望むなら。

「眠りたい。もう醒めない眠りに、……俺は」

 パッセンジャーは目を閉じ、笑って……無敵機械に其の身を預けると……其の白い脚から花へと変わって行く。
 オブリビオンらしからぬ、幸せな終わりだった。突如舞台に舞い降りた神が全てを解決するように、――パッセンジャーは静かに散った。
 残ったのは主を失い機能停止した無敵機械の残骸と、“彼女”が抱く花たちの塊だけであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月21日


挿絵イラスト