12
絶望という名の車列

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●暗夜行
 ダークセイヴァーの夜は暗い。
 ……本当に暗いのだ。
 火は、手元をわずかに照らすだけで、遠くまで届かない。そのわずかの明かりが照らすわずかに残された場所を、人は奪い合って生きている。

 館付の御者を務めるジャコバンは、自分の一歩先までしか照らしてくれない灯りを掲げ、家路を急いでいた。
 背後の同僚たちが、ぼそぼそと冴えない声で世間話をするのが神経に障った。
「今度、領主様の客人として来られるヴァンパイア様がよ……」
「……ああ、聴いてるぜ。なんでも身籠った女の、腹の中の子の性別をあてる賭けがお好きなんだと」
 なぜこいつらはこんな話題を口にするのだろう。卑屈な笑みすら浮かべているのだろう。
「そういやよ、一か月前に集団で夜逃げした連中の話、聞いたか?」
「ああ……『隠れ里』とやらを目指した連中な。でも、いつもと同じだろ」
「同じだな。八つ裂きだ。奴らが辿った道には、ばらされた内臓や手足、それに薔薇の花びらが敷き詰められたって話だ」
「……あの方々は、ほんとうに薔薇が好きだなあ……」
 なぜ俺はこいつらと一緒に歩いているのだろう。夜道が心細いとはいえ、ひとりで帰るという選択はなかったのか。
「馬鹿だよな、逃げられる筈なんてないのに」
「逃げ続けるにも、食い物どうするんだよな。あったとしても、それを狙って獣や野盗が来るに決まってる。……何もかも足りないのに、なんで逃げようだなんて思うのか」
 途切れ途切れに交わされる会話はジャコバンの耳に障り、心に刺さった。
 自宅の扉が見えると、ジャコバンは会釈だけして早々に家の中に引っ込んだ。
 疲れたな、と外套を脱ぐ。仕事道具を仕舞う。
 と、妻のカタリナが無言で彼の側に佇んでいた。
 いつものねぎらいも、時々ある小言もない。どうかしたのか、とジャコバンが尋ねる前に、妻は両手で顔を覆った。
「子どもができたの」
 カタリナは泣いていた。
 ジャコバンは叫んだ。
 意味のない言葉をわめきちらして、家中の食糧を掻き集め、持ちはこべるもの一切合財を荷馬車に積み込み、馬に繋いで、泣き止まない妻を乗せ、御者台に陣取って仕事道具の鞭を振るう。
 準備も何も足りない。覚悟もない。待っているのはきっと、今まで逃げて行った奴らと同じ恐ろしい死だ。だが今は逃げるしか術がない。
 ジャコバンは自分が知る『隠れ里への道』へと向かう。すぐに、夜道に点々と明かりが見えてくる。ジャコバンと似たような境遇の、逃げ出した人々の荷車だろう。
 希望はなく、絶望に打ちひしがれた人々の車列。
 そこにひとつ、あらたな荷馬車が合流していく……。

●逃亡者たち
 グリモアベースの小部屋にて。
 手にした地図を斜めに見つつ、ローズ・バイアリス(ダンピールの咎人殺し・f02848)は説明を始めた。
「ダークセイヴァーの案件だ。圧政に耐えかねて、街を出て湿原をさまよう難民たちがいる。彼らを安全な場所に導いて欲しい」
 言ってから疲れたように溜め息をつく。
「……ダークセイヴァーのどこにそんな場所がある?って話だが。
 緊急の避難場所として『隠れ里』とやらがある、らしい。今回はそこに辿り着くまでの護衛と、もろもろの対処をお願いしたい」
 外敵として野盗や魔獣を撃退すること。食料の調達。逃亡生活にまつわる困りごとへの処置。
「……だいたい『なんでも屋』だな。思いついたことはだいたい何でもしてやってくれ。
 確実にわかっているのは、『オブリビオン本人が追手としてやって来る』ということだ」
 と、ローズは視線をさらに斜め上に向け、誰にとも無く呟いた。
「敵は単騎。……難民を囮として使う手もあるかもしれませんね」
 妙な説明口調で言い足してから、ローズは真面目な表情で猟兵たちに視線を合わせた。
「曖昧な依頼に思えるかもしれないが。難民への対処ついでに、追手の足を遅らせたり、目測を誤らせたり、そんな策を序盤にとってくれると、あれやこれやが後々効いてくる……と、俺は思う」
 よろしく頼む、とローズは最後に軽く頭を下げた。


コブシ
 OPを読んでくださってありがとうございます。コブシです。
 以下は補足となります。

●フラグメントについて
 第1章【冒険】、
 第2章【冒険】、
 第3章【ボス戦】、
 の予定です。

●行動の指針のようなもの
 ・湿原です。荷馬車の車輪は沈み込みやすく、跡もくっきり残ります。
 ・難民たちの人間関係はあまりよろしくありません(急ごしらえの寄り合い所帯です)。
 ・猟兵たちも最初は不審がられるでしょうが、ほかにすがるものがありません。「オブリビオンに楯突く」という利の無い行為に、すぐに感謝しはじめることでしょう。情報収集は簡単なはずです。
 ・難民たちの中には、妊婦さんや子連れの家族が多いです。
 ・ジャコバンはかなり覚悟不徹底です。難民の隊列に参加したものの、皆の士気を挫くことばかり言います。
 このままでは「獅子身中の虫」となりかねませんので、他の人の見てる前でビシバシ注意したり、諭したり、叱ったりしてやってください。
 ・追っ手は確実に来ています。単騎です。

 第1章の時点では以上です。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
57




第1章 冒険 『流浪の民を守れ』

POW   :    建材や食料の調達や運搬をする。

SPD   :    外敵に見つからず、住みやすい環境を整える。

WIZ   :    人々の健康を心身ともにケアする。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ティアリス・レイン
「ティアはようせいのティア!このこはユーちゃんで、あのこはミーちゃんだよ!みんなのごえいにきたんだよ!」
しんようしてくれなくても、めげないよ!
今回は手分けしてにもつをはこぶよ!【怪力】や浮遊まほうのでばんだ!
「まっかせて!ティアたち、ちからじまんだから!」

おもそうなものや大変そうな人は【フェアリーランド】
「このまほうの壺にしまえば、いつでもとりだせるよ!」

キャンプのときは【フェアリーランド】を使用。
「なんと、このなかに泊まることもできるんだよ!」
しんようしてくれないひとはアイテムの【妖精の隠れ家】を【目立たない】ようにせっちするよ!
「そうだ!なら、この家に泊まればいいよ!けっこう広いでしょ!」


ブク・リョウ
怪しまれるのは仕方ないのさ
行動で示すしかないのさ

隊列から付かず離れずで
まずは食料を調達するのさ
空腹は心を荒ませるからね
淡水魚とか鹿とか棲んでるといいな

外敵の気配がしたらすぐに撃退!
気絶させた外敵数名を【ゴースト・リボーン】で操って
運搬の手伝いとかさせられないかな

不慣れな旅でみんなお疲れなのさ
特に妊婦さんやお母さん達は大変だよね
おれでよければ暫く子供達の相手をするのさ
ゆっくり休んで

針金と板で作った即席の【楽器を演奏】
相棒の絡繰には踊ってもらおう
子供達は隠れ里の事知ってるかな

もうすぐ父親になるって人がなんて物言いさ
そんな情けない事言う人には、こうだ!
ジャコバンが降参するまで
くすぐるのをやめないのさ


リーヴァルディ・カーライル
…まずは礼儀作法に則り挨拶を
吸血鬼と、それに与する領主を狩りに来たと告げ
今からその証拠を見せようと存在感を放つ

…私は車列の最前列で【限定解放・血の教義】を発動
普段より時間をかけて限界を見切り
生命力を術式に吸収させて力を溜め、2回攻撃を行う

湿原…淡水で湿った草原…だったら、乾かせば足がとられる事も無い
前方の湿原の水分を“水の上昇気流”で空に巻き上げた後
第六感を頼りに車列を巻き込まず、追手がいそうな後方めがけて
“呪詛の豪雨”を降らせ呪いの沼地を造り車輪の跡を消しておく

…ん。これで足止めと攪乱は十分…
難民達に私達の力を知らしめ、鼓舞する事もできたはず
……全部終わったら、きちんと解呪しておかないと…


ニコラス・エスクード
POW

戦場以外となると、己の非力さが歯痒くなる。
一縷の望みに全てを賭けた人々だ。
人を守るが盾としての有り様だ。
故に出来うる限りで助力と成らねばだが……。

湿地帯か。車輪を取られる馬車など出るやもしれんな。
足が止まれば不安に不満、焦りが増える。
馬車を押すなどの加勢なら俺でも出来るだろう。
俺の【怪力】も活きるはずだ。

出来る事はどうせ限られているのだ。
ならば物運びなど力仕事や外敵の撃退などがあれば、
望まれるが侭行うだけだ。
倒れず立ち続け、働き続ける姿もまた盾。
粛々と、黙々と、力の及ぶ限りを続けよう。


レイン・フォレスト
隠れ里、か…それが本当にあるのなら、そこまで間違いなく送ってあげたいね
まずはだいたいでもいいから方角が合ってるか確認しないとだけど
誰か隠れ里の方向を知ってる人はいるだろうか

方角が確認できたら僕は周辺の調査に出よう
荷馬車の隊列から離れすぎないように気をつけながら
「暗視」と「第六感」を使って追っ手や魔獣の類いがいないか見ていこう
もし何か動物がいるようなら【千里眼射ち】で狙って
余裕があれば料理をしてみんなに振る舞えるかも知れない
ごめんね、君の命は大切に頂くからね

ジャコバンが後ろ向きな時は
助かりたくないなら勝手に言ってればいいと一瞥
希望を捨てたらそこで本当に終わっちゃうよ?


イア・エエングラ
前へゆく気が、あるのなら
僕はそのお手伝いを、するよ
真っ暗闇でも灯りがあるなら、あなたのお顔は、見えるでしょう
だから、どうか泣かないで
落ちる雫が、体も心も冷やしてしまうもの
優しくするより本当は、たたかうほうが、得意なのだけれどね

せめてと大判のストールを持ち込みましょうな
身体を冷やしてはいけないものね
暖かくなさっていてね

先を思うのも大事だけれど
下向くばかりでは言葉に喰われて、しまうよう
生まれてくる子にひとつでも、灯りは授けて、やりたいものな
がたごと揺れるのに
眠りを妨げないのなら、お人形さんと唄ってましょな
夜が優しくあるように朝までゆけるとのぞむため
手伸べて抗うのだとして、先に潰れてはいけないものね


灯璃・ファルシュピーゲル
【SPD:外敵に見つからず、住みやすい環境を整える】

「SIRD」所属員として行動
同所属員とは緊密に連携実施


●移動時
ある程度難民の好感を得られたら、
馬術に長けた人に協力して貰い追跡者への工作開始。
難民隊の最後尾で活動し、なるべく足跡・轍跡を消去し

態と少し探すと発見しやすいように
火が消えて間もない野営跡や消そうとして失敗したような轍跡を
別方角に向けたルートに残して欺瞞し時間稼ぎを狙う


●野営時
前哨狙撃兵としての【戦闘知識】と【スナイパー】で
周辺監視し異常があれば即時に周囲に伝えつつ狙撃で迎撃
戦闘はユーベルコードも使用しこちらの戦力が十分あるのを
難民に知ってもらうよう戦います

「…Tango down」


ンァルマ・カーンジャール
難民の皆様の護衛ですね!
必ず目的の場所までしっかり送り届けてみせますよ!

事前に電脳端末でルートや周辺状況の情報を集めておきます
現地でも身分を明かし情報を集めますよ
野営し易い場所も事前に調査しておきます

私は野営の準備に力を入れましょう!

湿地帯なので土の精霊魔法で野営地の地面を改良です
また水の精霊さんにお願いして土の水分から飲み水を生成しておきます

精霊魔法で微震を起こし返ってくる振動を電脳魔術で分析しソナーの要領で周囲を警戒です
ついでに食料となる小動物もいるでしょうか?
蛇でも食べれば美味しいので、見えない所で調理すれば良質なタンパク源です!
美味しい物を食べて皆さんには健やかに過ごして頂きたいです!


櫟・陽里
2歩、3歩先を照らす光が必要なんじゃないか
バイクの機動力を活かし先導車で役に立ちたい

顔が見えるようヘルメットのバイザーは上げて車列の後ろの方に合流
笑顔で励ましながら先頭を目指す
味方はたくさんいる、必ず守る
ちょっと怪我した位じゃ死なねぇから走り続けろ
後ろは気にしなくていい、視線を上げて先を見ろ!

先頭に出たら
行く先が分かってるのか確認
道が確かなら並走しながらヘッドライトを強く光らせ先を照らす
曖昧なら先行して先の地形を知らせる斥候をやる
サイバーアイで地形解析
通信繋がる猟兵はいるか?

乗り物には詳しいんだ
壊れそうな馬車を見かけたら応急処置をするよう言う
休憩場所があれば手伝う

緊急時はバイクで割り込み庇う


ネリッサ・ハーディ
SIRDとして参加

圧政から逃れる為とはいえ、道中危険な事には変わりません。微力ながら、私達が手助けしましょう。

隠れ里に到着するまで、人々の健康状態や精神状態が悪くならない様努めます。この手の集団は、パニックが起こると厄介ですしね。
同時に夜鬼を召喚して荷馬車群上空を周回させて警戒に当たらせます。
本来は追跡用ですが、その分隠密行動に向いてますし、何より上空からなら敵が接近してもいち早く気付く事ができます。

ジャコバンに対しては、冷静に諭します。
「確かにこの逃避行が必ずしも安全とは言い難いです。しかしこのまま何もせずにいたら、確実に死が待ってます。僅かながらでも希望があるなら、前に進むしかありません」


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの一員として参加

ふん、シケたコンボイだな。ま、無事に隠れ里とやらに到着まで守り切って見せるさ。
護衛時は、荷馬車の中で一番高いのを選んでその上に陣取り、煙草咥えながら周囲を油断なく警戒。
まぁこんだけの荷馬車が集まってるんだ。見つからない方がどうかしてる。
「後方、距離はわからんが・・・確実に追手がついてるな、こりゃ。イヤな雰囲気がこっちにまで伝わってくるぜ」

隠れ里に着いたら、建材の運搬に従事。
女子供が多いってコトだからな。力仕事は引き受けるぜ。
合間見て、子供達には手持ちのレーションの菓子を振舞う。

※アドリブ歓迎


橋本・美夜
難民の人達と合流する前に街で手に入れられるだけでもドライフルーツを調達しておくわ。
逃避行時の妊婦さんや子ども用のおやつね。ただでさえストレスかかる時に子どもとかが泣き出すと余計イライラするじゃない? 甘味は心の癒しです。
まあ、一時的に気を紛らわすにはいいでしょ。栄養もあるし。

後は冷えるようなら温石作って温めたりとか妊婦さん達の体調に気を配りつつ、コミュ力活かして情報収集。些細なトラブルの元は早めに仲裁して潰すようにしておくわ。
あんまり聞き分けがない人の場合は、ちょっとうちの古代の戦士の霊に挨拶させるかもしれないけどね。勿論、脅かすだけだけど。



●挨拶
 その湿地は肌寒かった。
 水音が絶えずどこかから響いている。空気は水分を多く含んでいて、薄くもやがかかった視界は晴れない。……晴れたことがあるのかどうかすら疑わしかった。
 だから湿地を進む荷馬車の列が、思わず停止したのは、その声があまりにも状況にそぐわなかったせいだ。
 ティアリス・レイン(小竜に乗る妖精騎士・f12213)の、底抜けに明るい朗らかな声。
「こんにちは!」
 ちいさな、白と金の妖精が挨拶する。元気いっぱいの声は、小ささなどまるで気にしないようで、荷馬車の中からでもはっきりと聞き取れた。
「ティアはようせいのティア!」
 まず自分が名乗って、次に背後に従えた小竜と、黒猫姿の雷の精霊を紹介する。
「このこはユーちゃんで、あのこはミーちゃんだよ! みんなのごえいにきたんだよ!」
「………」
 車列は息を潜めている。
(「しんようしてくれなくても、めげないよ!」)
 緊張の解けない車列を眺めて、ブク・リョウ(シャーマンズゴーストのスクラップビルダー・f08681)は軽く頷いた。
「怪しまれるのは仕方ないのさ。行動で示すしかないのさ」
 荷馬車の幌が微かに動く。隙間から、いくつもの目が猟兵たちを覗いている。
 その視線に、『不信』や『諦観』などのスパイスが微量に混じっていたとしても、圧倒的に多を占める成分は『恐怖』だった。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は一歩前に進み出た。
 深々と頭を下げ、片手を胸に当てる。……まずは、礼儀作法に則った挨拶だ。
「……吸血鬼と、それに与する領主を狩りに来た」
 リーヴァルディにとってこの世界は馴染みのもの。口上も、難民たちの耳に違和感無く染み込むようだった。
「今からその証拠を見せよう」
 ばさり、と軍隊の制服を思わせるワンピースを翻し、リーヴァルディは車列の最前列に向かう。すべての視線がその背を追った。
 リーヴァルディはすべての視線をその背に集め、車列の最前列に向かう。
 ちいさく一息ついて……リーヴァルディは【限定解放・血の教義】を発動させた。
『……限定解放。テンカウント』
 それは「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する技だ。
『吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!』
 制御が難しく暴走しやすいこの技を、普段より時間をかけて限界を見切り、リーヴァルディはなんとか生命力を術式に吸収させる。力を溜める。
 湿地に点在する流れが生き物のように動きを止めた。リーヴァルディの波動にあわせて一度、二度。
 難民たちは固唾を呑んだ。それは彼らの知る吸血鬼の姿を思わせたからだ。
 しかし制御に成功したリーヴァルディは淡々と湿地を見やる。
「湿原……淡水で湿った草原……」
 その視線はやや上に。
「だったら、乾かせば足がとられる事も無い」
 前方の湿原の水を、“水の上昇気流”で空に巻き上げる。
 自然現象としてはありえぬ水の動きに、難民たちの驚愕の視線もいっせいに上へと向かう。
 リーヴァルディの作業はまだ終わらない。第六感を頼りに、車列の後方めがけて“呪詛の豪雨”を降らせる。地面の水を形を変えて移動させた格好だ。あらたに生まれた呪いの沼地は、これまで難民たちのやってきた車輪の跡を覆い隠している。
 そして前方に生まれた地面は、ある程度の範囲ではあったが、進みやすいものに変わっていた。
「……ん」
 これで一応の足止めと攪乱は出来た、猟兵たちの力を知らしめることもできただろう……とリーヴァルディは振り返る。
 難民たちは鼓舞されるとまではいかないものの、気を飲まれたように「おう」だの「ああ」だのと声を上げていた。
 それが契機になったのだろう。
 難民たちの中で、指導者に近い立場にいるのだろう男性が、荷馬車から下りてくる。ようやく会話が成立しそうな雰囲気だ。
 リーヴァルディは思い出したように先ほどまで向き合っていた地面に対峙する。
(「……全部終わったら、きちんと解呪しておかないと……」)
 まだ、彼女には仕事が残っていた。

 荷馬車から降りてきた指導者的立場の男性には、レイン・フォレスト(新月のような・f04730)が猟兵たちの目的について丁寧に説明をしていた。
 吸血鬼および領主は彼らの敵であること。
 彼らから逃げてきた難民たちを護衛したいということ。
 未だ半信半疑の面差しだったものの、指導者は断片的に彼ら自身のことを話してくれた。
 そこでレインは、疑問に思っていたことを慎重に口にした。
「隠れ里、か……」
 オブリビオンたちに見つからず暮らせる、それはダークセイヴァー世界において楽園のようなところだ。
(「それが本当にあるのなら、そこまで間違いなく送ってあげたいね」)
「……まずはだいたいでもいいから方角が合ってるか確認しないとだけど。誰か隠れ里の方向を知ってる人はいるだろうか」
「………」
 レインの呼び掛けには何も帰ってこない。
(まだ警戒されている。……信頼を得るまで、少し間を置いたほうがいいね)
 出来るだけ早いほうが良い。難民たちの荷馬車は動きだし、猟兵たちもその列に加わった。
 
●糧
 隊列から付かず離れずで、猟兵たちは各々すべきと思ったことに勤しんだ。
 難民たちに足りていないものは山ほどあったが、ンァルマ・カーンジャール(大地と共に・f07553)にとって一番足りないと思われたもの、それはずばり生きるために必要な水および食料だった。
「美味しい物を食べて、皆さんには健やかに過ごして頂きたいです!」
 目を瞑り、心の中で精霊たちに希う。
 仲の良い土の精霊には、野営に適した地面をつくることを。
 水の精霊には、ぬかるんだ土から飲み水を取り出すことを。
 最初こそなかなか上手くいかなかったが、湿地のイメージが掴めてからは、ンァルマの足元からこんこんと清水が湧き出してくる。
「よぅし、この調子で頑張るぞ~!」
 イメージを広げ、湿地全体に精霊魔法で微震を起こす。返ってくる振動を、ソナーのように電脳魔術で分析しようというのだ。
「……います!」
 両生類だろうか、かなりの数だ。見た目はよろしくないが、良質なタンパク源に違いない。
 ンァルマは言い切った。
「良質なタンパク源です! 食べれば美味しいので、見えない所で調理すれば大丈夫です!」 
「そうだね、空腹は心を荒ませるからね」
 まずは食べることさ、とブクは自分の感性の赴くままに作った奇怪な武器で獲物をしとめていく。
 本音を言えば淡水魚や鹿などが理想的だったが、腹におさまってしまえば同じ、貴重な栄養源だろう。
 居場所がわかっているのだ、【千里眼射ち】で狙うレインには獲物が動かぬ的のようだった。
 倒れた獲物を、レインはしげしげと見つめる。硬い鱗で覆われた中型の蜥蜴。湿地のいきものらしく手指の間には被膜がある。面相は良くない。
「ごめんね、君の命は大切に頂くからね」
 野営地で、余裕があれば料理をしてもいいかもしれない。みんなに振る舞えるかな、と、レインの落ち着いた顔にわずかに笑みが浮かんでいた。

●野営
 ……やがて、湿地に分厚い闇が降りてくる。
 夜だ。この世界で逃れようのないもの。
 櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)はバイクの機動力を活かし、車列の先頭を行く荷馬車に併走していた。
 ずっと先頭にいたのではなく、後ろから前へ、何度か位置を変えている。
 陽里は笑顔の効用を信じていた。だから顔が見えるようヘルメットのバイザーを上げて、笑顔で何度も繰り返した。
「味方はたくさんいる、必ず守る」
「ちょっと怪我した位じゃ死なねぇから走り続けろ」
「後ろは気にしなくていい、視線を上げて先を見ろ!」
 今も、速度を緩めはじめた荷馬車を駆る御者に声を掛ける。
「乗り物には詳しいんだ。だからわかる。……壊れそうなんだな?」
 御者は力なく頷いた。
 応急処置を、と陽里は言い、それをきっかけに車列全体が止まった。……野営の支度だ。
 ティアリスは奮起する。
「手分けしてにもつをはこぶよ!」
 小さな彼女に、幌から顔を出した女性があからさまに心配げな顔を見せる。だいじょうぶ?という心の声が聞こえるようだ。
 ティアリスは請け合った。
「まっかせて! ティアたち、ちからじまんだから!」
 ちいさな体が秘める怪力が、火を起こすための燃料や即席のかまどをひょいひょいと荷の中から放り出す。
 驚きと……おそらく猟兵たちに慣れたのだろう、ようやく出てきた好奇心から、難民たちが荷馬車から下りてくる。
 さきほどの女性のお腹は、見事に膨らんでいた。
「大変そうな人は【フェアリーランド】……このまほうの壺の中でやすんでね! いつでもとりだせるよ!」
 ティアリスが差し出す壺をしげしげと見て、女性は考える風だ。ティアリスはさらに畳みかけた。
「なんと、このなかに泊まることもできるんだよ!」
「……そうね。もう少ししたら、お願いしようかしら」
 闇の中、お腹をさすりながら、女性はほんの少し笑ったようだった。
 少しずつほぐれてくる空気に、ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は拳を握りしめた。
 戦場以外となると、己の非力さが歯痒くなる。
(「一縷の望みに全てを賭けた人々だ。そして、人を守るが盾としての俺の有り様だ。故に出来うる限りで助力と成らねばだが……」)
 人々のこころを癒すには、無骨な己に何が出来るのか。
 足元のぬかるみをじっと見て、ニコラスは顔を上げる。
 この湿地帯だ。
「車輪を取られる馬車など出るやもしれんな……」
 足が止まれば、不安に不満、焦りが増えるだろう。彼らにとって移動手段であり緊急の住処ともなりうる荷馬車は生命線だ。
(「馬車を押すなどの加勢なら俺でも出来るだろう。俺の【怪力】も活きるはずだ」)
 と、ちょうど荷馬車の応急処置の手助けを求める声が聞こえる。
 ニコラスは人々のこころを不安や恐れから守る盾となるべく、その声に応じた。

●慰撫
 小さな幕屋がいくつか張られ、煮炊きが済むと、ほそい焚火のまわりに自然と人の輪が出来た。
 小さな子供が多い。どんな状況でも駆けまわり、遊びたがるのが子供というものだ。
(「不慣れな旅でみんなお疲れなのさ。……特に、妊婦さんやお母さん達は大変だよね」)
 お腹の大きい女性が、まだ小さい子供をなんとか抱きかかえようとするのは、こちらも気が気ではない。ブクは横からその子を抱きかかえた。
「おれでよければ暫く子供達の相手をするのさ」
「え、でも……」
「ゆっくり休んで」
 ブクが針金と板で作った即席の【楽器を演奏】すると、最初の一音でさっと子供たちの顔がブクを向いた。
 面白くなって、ブクは相棒の絡繰に踊ってもらう。ケタケタという音も加わって、まだ言葉も少ない子供たちも楽しく足踏みを始める。きゃーきゃーと嬉しそうな声に、大人たちもほっと息をついている。
(「子供達は隠れ里の事、知ってるかな?」)
 尋ねてみたい気もしたが、今のブクの手は楽器を奏でるのに忙しい。
 ブクの絡繰を間近で見た子供の、ぽかんと開いた口には橋本・美夜(人間のシャーマン・f05733)がドライフルーツをひとかけ放り込む。びっくり眼で口を閉じ、そして子供ははっきりとした笑顔になった。甘い。
「あ、ありがとうございます」
 礼を述べる両親を、美夜は軽く受け流す。
「いいのいいの。ただでさえストレスかかる時に、子どもが泣き出すと余計イライラするじゃない?」
 美夜は、なんとか甘いものを、と難民たちと合流する前に、これらを街で掻き集めたのだ。しかしそこはダークセイヴァー、この一袋を得るのにどれだけ苦労したか!
「甘味は心の癒しです」
 妊婦や子供には、よい気晴らしになるだろう。栄養もある。
 美夜はずっと口の中でドライフルーツを大切に味わっている子供に手を振って、竈の側に向かう。湿地は冷える。温石を作って、妊婦達の体調に気を配る必要があった。
「大丈夫? これが必要なら遠慮なく言ってね」
 各荷馬車、各幕屋に声を掛けていく。まだ打ち解けないだろうが、こうして何度も顔をあわせることで、少しずつだが態度が和らぐことを美夜は知っている。これが、情報収集に役立つことも知っている。
(「些細なトラブルの元は、早めに仲裁して潰すようにしておかなくちゃね」)
 美夜が見つめる先には、頑ななまでに幌を閉じた荷馬車が一台。
 灯りも点けていないその中には、ずっと泣いている妊婦カタリナと、暗い表情の夫ジャコバンがいる。
 ……と。外から微睡むような声がかかる。
 イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)だ。
「前へゆく気が、あるのなら。僕はそのお手伝いを、するよ」
 ゆらゆらと、揺れる灯りが外から中へと入ってくる。
「真っ暗闇でも灯りがあるなら、あなたのお顔は、見えるでしょう」
 身じろぎをするジャコバンに目もくれず、イアはカタリナにゆっくりと近づいた。
「だから、どうか泣かないで。落ちる雫が、体も心も冷やしてしまうもの」
 頬を濡らしたままのカタリナは、まだ問いかけに答えられない。しゃくりあげ、何度も唾をのみ込む。ずっと泣いていたので、泣くこと以外を忘れてしまったのだ。
(「優しくするより本当は、たたかうほうが、得意なのだけれどね」)
 イアはその背に、大きくて暖かいストールをかける。
「身体を冷やしてはいけないものね。暖かくなさっていてね」
 カタリナはストールを腹の前で大事そうにかき合わせた。まだ膨らみの目立たない、頼りない体つきだ。
 イアの視線に応えようとしたのか、カタリナは小さく「……四か月」と呟いた。イアは微笑んで頷く。
「これから、どんどん、大きくなるね」
「すぐに捕まっちまう」
 突然、ジャコバンが吐き捨てた。カタリナの喉の奥で、出かかっていた言葉が引っ込む。
「領主の馬は足が速い。今のこんな調子じゃ、すぐに追いつかれる。追い付かれて……殺されちまう……」
 自分で言った言葉なのに、衝撃を受けてジャコバンは黙り込んだ。
 それには構わず、イアはカタリナに向けて言う。
「先を思うのも大事だけれど。下向くばかりでは言葉に喰われて、しまうよう」
 カタリナの手が、ストールの上から腹をさすっている。 
「生まれてくる子にひとつでも、灯りは授けて、やりたいものな」
 そっとイアは荷馬車から下りた。
(「眠りを妨げないのなら、お人形さんと唄ってましょな」)
 ゆるやかな調べが湿地の夜を満たしていく。
(「夜が優しくあるように朝までゆけるとのぞむため」)
(「……手伸べて抗うのだとして、先に潰れてはいけないものね」)
 竈の始末をして、すべての荷馬車に不具合がないのを確かめた櫟は、思わず夜空を振り仰いだ。
 月も星も見えない。
「……ここには、2歩、3歩先を照らす光が必要なんじゃないか」
 ――そして、なけなしの朝が来る。

●調査
(「隠れ里……本当にあるのだろうか?)
 常にレインが疑問に思うのは、やはり目指すばき場所のこと。
 誰に聞いても確かな答えが返ってこない。
 幾人かが、方角を指差すだけ。それでもレインは、荷馬車の隊列から離れすぎないように気をつけながら、とりあえず調査に出てみることにした。
 闇が迫れば「暗視」、もやの中なら「第六感」が物を言うだろう。追っ手の気配はまだ無かったが、蠢く魔獣の類いは時折確認できた。
 ンァルマが電脳端末で湿地周辺の情報を集めた際には、おおまかな地形しかわからなかった。無人の湿地だ。
 ……情報がない、まるでわざと隠されたかのように空白。
 洪水や地滑りなどの危険がないのを地形から判断して、野営の場所を決める。そうやって幾つかの夜を越えた。
 先頭にバイクを走らせ、櫟は御者台の男に声を掛ける。そろそろ難民たちに本当のことを尋ねたかった。
「行く先を、本当に分かってるのか?」
「……あるはずなんだ」
 男の眼は前を向いて、櫟を見ない。
 相変わらずの曖昧な態度だ。櫟はこれまでと同じように、先行して地形を知らせる斥候の役に甘んじる。
 サイバーアイでの地形解析では、谷底のようで、湿地の両脇は山だ。まるで誘い込まれるような地形。
(「通信繋がる猟兵はいるか?」)
 呼びかけは一方通行だった。
 美夜は打ち解けた一家に、何気なく彼らの身上いついて、『隠れ里』について問いかける。
 一家は夢を見ているように言う。
 かつてそこを目指して出発した人々がいたこと。
 方角しかわからない、あてのない旅路だが、手掛かりは彼らの死骸と薔薇の花びらだということ。
 おそらくそこまでしか逃げられなかったのだ。
 その先は? 何があるのだろう。その先にさえ進むことが出来れば、『隠れ里』があるのではないか? 助かるのではないか?
 ……いよいよ、猟兵たちの懸念が現実味を帯びてきていた。

●虫
「隠れ里なんて、本当にある訳ないだろ」
 考え中のレインは、ジャコバンの後ろ向きの台詞に思わず振り向いた。
 珍しく自分の荷馬車から下りてきている。普段あまり周囲に馴染もうとしない彼は浮いていて、さきほどの呟きも独り言めいていた。
「すがりつきたかっただけなんだ。……助かる夢を見たかったんだ」
「助かりたくないなら勝手に言ってればいい」
 一瞥して、レインは取り合わない。皆が見ている前できちんと「それは違う」と示す必要があった。
「希望を捨てたら、そこで本当に終わっちゃうよ?」
 何と言おうが、難民たちの車列に加わったのはジャコバン自身なのだ。そこに希望は、欠片もなかっただろうか?
 もごもご言って、ジャコバンはくるりと背を向け、自分の荷馬車に引っ込む。
 そこにはしかし、カタリナ以外の妊婦や、猟兵たちもいて、肩身の狭いジャコバンは隅の方で小さくなるしかない。
 しかし、「気分が優れない」という妊婦に、カタリナが自分の手持ちの香草を差し出そうとするのを見て、「ちょっと待て」とジャコバンは口を出した。
「人のことに構う余裕なんてないだろう! お前、もうすぐ母親になるんだぞ、自分と自分の子供のことを考えろ」
「もうすぐ父親になるって人がなんて物言いさ」
 居合わせたブクも、これには黙っていられなかった。
「そんな情けない事言う人には、こうだ!」
 実力行使。
 ジャコバンが息も絶え絶えに降参するまで、ブクはずっと彼をくすぐるのをやめなかった……。
 それを美夜は「今は許してあげる」と言わんばかりの表情で見守っている。
 聞き分けがない人間には、古代の戦士の霊に挨拶させるつもりだった。……勿論、脅かすだけのつもりだったのだが。

●SIRD
 緊張が去った後の難民たちの顔には、今度は奇妙な、生気のない明るさがあった。
 その日の野営地が定まって、ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)は運搬していた資材をおろした。
 難民たちの半数以上が女子供なのだ。力仕事は引き受けることにしていた。
「ふん、シケたコンボイだな」
 あらためて車列を見渡して、ミハイルは咥え煙草のまま腐す。難民は力強さや熱意とは無縁の存在だった。
 ……唯一、活力と呼べるものを持っているのは。
 ミハイルは眼だけ動かして、荷馬車の影に隠れている小さな子供を窺う。
 ミハイルの膝下くらいの大きさしかない男の子だった。ギョロ目で、やせていて、口元をへの字にして、こちらの様子を見ている。
「あー、そういえば、こんな物があったんだった」
 わざとらしく言って、ミハイルは手持ちのレーションの菓子を取り出す。ちら、と見ると、子供はじりじりと近づいてきていた。
 差し出すと、ぱっ、と菓子をひったくって物陰に隠れる。まるで野生の小動物だ。
「元気があるのは良いことですね」
 涼やかな声にミハイルが振り向くと、同じ「SIRD」所属員のネリッサ・ハーディ(ナイフ・アンド・コーツ・f03206)が、冷静な面持ちで逃げた子供の背を目で追っていた。
「あいつ、箱ごと持って行きやがった」
「栄養が足りていないのかもしれませんね」
 ネリッサの冷静な指摘に、ミハイルは黙る。
「隠れ里に到着するまで、人々の健康状態や精神状態が悪くならない様努めましょう。この手の集団は、パニックが起こると厄介ですしね」
 ネリッサは視線を上げる。召喚した夜鬼が、荷馬車の群の上空を周回している。その五感をネリッサも共有している。こうして絶えず警戒しているのだ。
 遮蔽物の少ない地形だった。敵の早期発見が鍵になるだろう。
 ミハイルは荷馬車の中で一番丈が高く頑丈なものを選んで、その上にひらりと飛び乗った。そこに陣取って、煙草を咥えながら同じく周囲を警戒する。
「まぁこんだけの荷馬車が集まってるんだ。見つからない方がどうかしてる」
 と。
 ミハイルは、先ほどレーションの菓子(箱ごと)をあげた男の子が、こちらを見上げているの気が付いた。
「なんだ? もっと欲しいのか」
 男の子はだまって握り拳を差し出す。ミハイルが手を伸ばすと、手のひらに握らされるものがあった。木彫りの……熊?
 木片を切りだした手作りの玩具のようだ。大事にしていたのだろう、色に年季が入っている。
「……ま、無事に隠れ里とやらに到着まで守り切って見せるさ」
 ポケットに仕舞って、煙草をふかす。
 そして白煙が消え去るより早くがばりと身を起こした。
「後方、距離はわからんが………確実に追手がついてるな、こりゃ。イヤな雰囲気がこっちにまで伝わってくるぜ」
 ネリッサの夜鬼はまた別のものを認識していた。
「大型、おそらく肉食獣2体を確認。車列を両側から挟みうちにする軌道をとっています」
 「SIRD」所属員の報告に、灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)は頷く。
 前哨狙撃兵としての【戦闘知識】と【スナイパー】により、彼女自身も周辺を監視していた。報告された異常を、即時に猟兵たちに伝える。
 灯璃は獣を遠距離から、サイレンサー搭載のセミ・オートライフルで狙い撃った。これは牽制。難民たちに近づけさせるわけにはいかない。
 そして戦闘となれば、ユーベルコードを使用する。難民たちに、猟兵の戦力を知ってもらうのだ。
 接敵した灯璃が目にしたのは、「おそらく肉食獣」とネリッサが言ったのも頷ける、大きく口元からせり出した牙持つ獣。
 黄色い瞳に、敵意が芽生えているのを灯璃は知った。
『Sammeln! Praesentiert das Gewehr! ……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!』
 漆黒の、森を思わせる霧が召喚され、影の群を生む。影は光を飲み込む狼の形をしていた。
 影の狼達は獣と牙を立てあった。唸りと叫びが交差して、後に残ったのは実体をもつ獣の骸2つ。
「……Tango down」
 淡々と仕事を終えて、灯璃は来た道の方角を見晴るかす。
 ミハイルが感じ得た追手の姿は、まだ見えない。

●偽装工作
 ジャコバンは落ち着かなげにきょろきょろとしていた。
 馬術に長けた人を、と灯璃は難民たちに言った。
 ある程度難民たちの好感を得た感触があったので、今なら申し出を拒否されないだろうと踏んで、言ったのだ。
 馬術に長けた人に協力してもらいたいことがある、と。そこで名が挙がったのがジャコバンだった。
 やるべきは追跡者への工作だ。
 難民の車列の最後尾で、なるべく足跡や轍跡を消す。そしてわざと「少し探すと発見しやすい」くらいの、火が消えて間もない野営跡や、消そうとして失敗したような轍跡を、別の方角に向けたルートに残す。
 追手を欺瞞し、時間稼ぎを狙う方策だった。
 ジャコバンは、真面目に働くことは働いた。常に泣き言と一緒だったが。
「こんなことをしても無駄だ、すぐにばれる」
「生き残れる希みなんてないんだ」
 よくこれだけ同じことを繰り返せるな、とある意味ミハイルは感心するくらい、徹底してジャコバンは腰抜けだった。
 そんな腰抜けを、ネリッサは冷静に諭す。
「確かにこの逃避行が必ずしも安全とは言い難いです。しかしこのまま何もせずにいたら、確実に死が待ってます。僅かながらでも希望があるなら、前に進むしかありません」
 正論だ。それだけに口ごたえも出来ず、慰められもしない。
 よく働いたジャコバンは、まだ泣き言を言いながら自分の荷馬車に帰って行く……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『命の灯』

POW   :    気合で妊婦を励ます

SPD   :    細々とした産婆の手伝いをこなす

WIZ   :    落ち着かない近親者を宥める

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 荷馬車の中で、ひとつの命が生まれようとしていた。
 そこは本来カタリナのための場所だったはずだ、とジャコバンは思う。
 だがそのカタリナは、猟兵にもらったショールを臨月の妊婦の頭の下にやり、妊婦の夫や、お産の手伝いとして来た他の妊婦の相手をしている。
 ジャコバンは隙を見て彼女の手を引き、「もうよせ」と戒めた。
「誰かのことを心配してる余裕なんてないんだぞ」と言った。
 カタリナは、ジャコバンがみたことのないような表情をしていた。
 目元に涙の名残りはあったが、口元には微かな笑みを浮かべている。
「ジャコバン。あのね。これは相手のためをおもって、だけじゃないのよ」
 なだめるように言う妻は、こんな女だったろうか?
「次にわたしが苦しいとき、『あのとき助けてくれたから』って、助けてもらえるかもしれないじゃない? 自分も助けてもらえるかもしれないって。虫のいいこと考えてるの。順番なのよ」
 ジャコバンは、何よりもその言葉に打ちのめされた。ふらふらと荷馬車を出て、湿地のぬかるみの上に膝をつく。
「死体で舗装された道の先に何がある……?」
 つっぷする。額が泥をこすった。
「順番だって? 俺は……後ろに乗せた領主の命令で、馬車の行く手を遮った人の背に鞭を振るいさえしたんだ。もし誰かにしてやったぶんが自分に返ってくるというなら……次に俺に返ってくるのは、肉を裂く鞭の一振りじゃないか……」

 ちいさな男の子が、一番丈の高い荷馬車のそばで遊んでいる。ひとりで遊ぶのに最近慣れた。もうすぐ、弟か妹が生まれる。母も父もお産で大変なのだ。
 大事な玩具はあげてしまったけど、その男の子は想像力でどこまでも遊べる。
 丈高い荷馬車の下に潜りこむ。
 そう、小さい子供だからこそ発見できたのだ。
 それは車体の底に張り付いた、鮮血のように赤い薔薇の花びらだった。

 地響きがする。
 それは馬の蹄の音。
 近づいている。
 騎乗者は少し迷った。『目印』の方向とは別の方向に、轍の跡が続いている。二手に分かれたのか?
 迷いは一瞬だ。どうせ行く先があそこなら、少々遠回りをしてもかまわないだろう。最終的には追い付ける。
 地響きが再び轟きはじめる……。
ティアリス・レイン
産気づいている人がいたら【医術】で
「これは、もうすこしでうまれそうだよ!」
とりあえず【妖精の魔法薬】をお腹に塗るよ!
「せいめいりょくをたかめるまほうやくだよ。少しは効くとおもう」

あと、出産の環境を整えるために【妖精の隠れ家】を人間サイズで召喚する。
「ここのなかに、はこぶよ!」
自分も【怪力】で慎重に、他の人たちと一緒に家の中に。
「きれいな水もあるし、たりなかったらフェアリーランドから汲んでくるよ!」
家の中には水だけでなくタオルや生活に必要な物品は、冒険の前に補充してあるよ!
「だいたいひつようなものは置いてあるから、じゆうにつかっていいよ!」

「ティアは医術の知識があるから、てつだいはまかせて!」



●産屋
 ジャコバンの荷馬車の中は、にわかに慌ただしくなっていた。
 陣痛が始まったのだ。
 【医術】の心得のあるティアリス・レイン(小竜に乗る妖精騎士・f12213)は声をあげた。
「これは、もうすこしでうまれそうだよ!」
 苦しそうに顔を歪めている妊婦は、ティアリスが最初に話しかけた女性だ。ちいさな妖精の姿を認め、苦しい顔のまま無理に笑顔を作ろうとする。
「いよいよ、頑張らなくちゃ、ね……」
 ティアリスは携えていた妖精の薬袋の中身をひっくりかえし、彼女に必要な薬を探す。見つかったのは、フェアリーが作った、少量でも驚異の治癒力を発揮する魔法の塗り薬。
 ティアリスはとりあえずこの薬を選んだ。……この場合、塗るのはお腹になるのだろうか?
「せいめいりょくをたかめるまほうやくだよ。少しは効くとおもう」
 お産は怪我ではないが、だからこそ他人がしてやれることに限りがある。
 ティアリスは一生懸命考えた。
 そうだ!と、荷馬車から飛び出す。
 今こそ召喚魔法、【妖精の隠れ家】の出番だ。出産の環境を整えるために、魔法の家を人間サイズで召喚する。
 しっかりと家が設置されたのを確認し、再び荷馬車の中に飛び込む。
「あのなかに、はこぶよ!」
「何……?」
 彼女の夫――指導者的役割の男性――が不審げな顔つきで荷馬車から顔を出し、ティアリスの魔法の結果を見る。なにか否定的なことを言おうとしたのだろうが、その前に背後から掛かった弱々しい妻の声に言葉を封じられた。
「お願い……するわ」
 しっかりとティアリスを見て、彼女は言った。 
 奮起したティアリスは、自らの【怪力】で妊婦を抱え上げようとした。彼女の夫が慌てて手を貸す。これはティアリスの力を疑ったというより、誰であっても妻と胎内の子を預けるのが不安だったためだろう。
 2人して慎重に、魔法の家の中に彼女の身を運び、横たえる。
 手伝いの妊婦たちもやってきて、家の中は一気に盛況になった。
 ティアリスは屋内の備品をひとつひとつ説明した。
「きれいな水もあるし、たりなかったらフェアリーランドから汲んでくるよ!」
 家の中には水だけではなく、やわらかく清潔な布や、生活に必要なもろもろの品が揃っていた。
「だいたいひつようなものは置いてあるから、じゆうにつかっていいよ!」
 一息に喋ったティアリスのちいさな頭を、臨月の妊婦のあたたかい手がそっと撫でる。
「……すてきなおうち。わたし、頑張って産むわね……」
 ティアリスは胸をそらして請け負った。
「ティアは医術の知識があるから、てつだいはまかせて!」
 ――こうして、彼女たちの命がけの時間が始まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…私は救助活動で培った知識を用いて妊婦の状態を見切り
黙々とお産の手伝いをする

母子に何か深刻な問題が起これば【限定解放・血の聖杯】を使用
吸血鬼化して増幅した生命力を吸収し力を溜めた血の滴を、
指から垂らして治療を試みる

…こんな呪われた血で命を繋いでも嬉しくないかもしれない
それでも、私はその生誕を祝福したい
…だからどうか、この生命に救済を…

…その後、緊急事態だったから了承をとらずに治療した事を本人や家族に謝罪
必要なら容態か落ち着くまで、何度でも使用する

…こんな世界だからこそ、新しい生命の誕生は喜びと共にあるべき
…なんだけど。まさか他の妊婦からも依頼が来るなんて思わなかった…
…ん。母親は、強い


灯璃・ファルシュピーゲル
【SPD:産婆の手伝い】

SIRD所属として参加

話を聞き次第、子供達にゲームを装い薔薇探しをお願いし
どの家族の馬車にあったか調査と回収を実施
回収したら複数袋に詰めた上、肉を括りつけ獣に持っていかせて
時間稼ぎを狙う

その後は元軍人の戦闘知識を活かし
即席かまどを手早く構築、煮沸消毒した布や
ぬるま湯を用意しお産を手伝う

「色々考え込んでる様ですが。奥さん連れて飛び出した時、
あったのは何があっても守りたいって気持ちだけだったんじゃないですか?・・・強い単純な動機を持つのが戦場で生きるコツですよ?(ニコッとジャコバンに視線向け」

落ち着いたら領主屋敷に産婆が来た
あるいは産婆関係の噂を聞いたことが無いか聞き込む


ミハイル・グレヴィッチ
傭兵時代に、負傷したヤツの応急手当とかは経験あるんだが…流石にお産ってのは初めてだぜ。
しゃーねぇ、産婆の手伝いでもするか。
「まずは…お湯沸かさにゃならねぇな。火だ、火を起こせ」
忙しいったらありゃしねぇ。
合間にジャコバンがウダウダ抜かしてるのに喝。
「おら、テメーのカミさんが気張ってんのに、何時まで泣き言抜かしてやがる!テメェは父親らしく、どっしり腰据えてろ!」

お産が無事終わり、一息つこうと煙草咥え、ライター探してポケットまさぐり、ふと木彫りの熊取り出し眺め
「…子熊のミーシャ、ってか」
あのガキが手持ち全てはたいて、しかも報酬前払いと来た。
絶対に守り抜いてやる。クライアントの期待にゃ、応えねぇとな。


ブク・リョウ
こんな成りだけどおれも一応男なので。
妊婦さんが気に障るといけないのさ。
傍で応援するのは女性陣とご家族に任せて、
お湯を沸かしたり物を運んだり
産婆さんの指示に従うのさ。
がんばれ、がんばれ。

妊婦さんが安心して子供を産めるように
【聞き耳】しつつしっかり周囲を警戒しておくのさ。
せめて出産が終わるまで、
どうか敵の馬車の音が近付いてきませんように。

男の子から薔薇の花びらの話を聞けたなら
それを調べてみるのさ
破壊?とかできるのかなこれ
他の猟兵さんたちの意見を聞きたいな

さて、この荷馬車は誰の物だろう
混乱と不和を招きたくないから
誰かにそれとなく聞きたいのさ


ネリッサ・ハーディ
SIRDの面々と共に行動

とりあえず、落ち着かない近親者達を宥めてあげます。
それと同時に、情報収集を行います。
主に収集する内容としては、主に隠れ里について。
どうも、うちの団員にはその信憑性を疑問視する人もいますので、ここらで裏付けを取っておくべきかと。
とはいえ、実際に行った事がある方がいるとも思えませんが・・・

それから、夜鬼の召喚は継続して行います。
早期警戒網は常に維持し、敵の接近や奇襲に備えるべきでしょうね。

※アドリブ歓迎


エメラ・アーヴェスピア
SIRDの一員よ
やはりダークセイヴァーの状況は良くないわね…
とにかく今は目の前の人々を守るとしましょう

それじゃ、私のお仕事をはじめましょうか
猟犬に乗って、と
さすがに集中しないといけないから、移動は任せるわ猟犬
展開、『ここに始まるは我が戦場』
なるべく広いエリアを以下の優先度で空から探すわ
1.追跡してくるオブリビオン
2.周囲の危険要素
3.隠れ里っぽい場所

特に1を重視よ
オブリビオンの現在の距離・方角・追跡速度等が分かれば
先制攻撃、罠、逃走、戦闘準備などが楽になる筈
見つけ次第、仲間や猟兵の同僚さん達に教えておくわね

さすがにこの数の把握は精神的に疲れるけど…
やれなければ、やるとは言わないわ

※アドリブ歓迎


レイン・フォレスト
誰か産気づいた?
こう言う時はどうしたっけ?
昔、じいさんと暮らしてた時の記憶を掘り起こし
隣の奥さんが産気づいた時は、確か……お湯!あとは布と言うかタオルか

火を熾して湯を沸かし、荷馬車を回ってできるだけたくさんのタオルや布類を集めて回ろう
新しい命、みんなで助けるんだ
こんな世界でも産まれてきてくれる命がある事に感謝しよう

僕じゃ出産そのものに役立つとは思えないけど
もし何か手伝える事があるなら喜んで手伝うよ
産婆さん、何か僕にできる事はないかな?

何もなければ妊婦さんの手を握ったり髪を撫でたりして励まそう
頑張って、どうか無事に産んで

僕もこんな風に母さんから産まれてきたんだろうか……


寺内・美月
共同参加【SIRD】
・発信機能のあるマーキング(薔薇の花びら等)を車列から回収する。
・『龍馬『ブロズ』召喚』にて駿馬を調達し、隠れ里があるとされる場所(方向)を道路状況の観察も兼ねて偵察する。
・隠れ里を見つけた場合、猟兵と難民に対する悪感情がなければ、難民の受け入れと産婆などに準備をしてもらい、到着の準備を整える。
・隠れ里が誤報もしくは偽報の場合は、難民とともにいる猟兵に急報を発信する。
・任務を終えた場合はマーキングを破棄もしくは設置し、破棄しない場合は難民とは反対側の場所に駆け抜けてマーキングによる時間稼ぎをはかる。


ニコラス・エスクード
耳朶を打ったジャコバンの独白に足を止める。
その言葉に琴線に触れる何かがあった故に。

助ける事が出来なかった命は数え切れず。
その報いがいつ来るやも知れぬ。
それを怯え諦め自暴自棄に過ごすも良い。
だが、それを良しとするならば此の場に居るはずがない。
故に言葉を吐き出すに否はなく。

「いずれ来るやも知れぬ何かに怯えるよりも、
今、己の為したい事を考えろ。」

妻と、生まれてくる子を護りたいが故、
この逃避行へと来たのだろうと。
ならばその為に必要なことを為せばいい。
その想いを守るべきものへ伝えればいい。

それを邪魔する些事からお前を守るは此方の為す事だ。
篤と護れ、篤と守ってやる。
己の心にも刻み込むように、そんな言葉を。


江戸川・律
特務情報調査局「SIRD」の一員として参加
◆WIZ使用
◆特技 コミュ力 情報収集 

合流後、仲間たちから話を聞き眉をひそめます
コレは…(罠という言葉を飲み込みます)

はぁ、状況から考えて、先に被害者が居る限り
領主側が「隠れ里」のことを知らないわけがない
それをワザと放置しているとなると…

希望を持たせてから退路を断って狩場で狩るつもりか
マジで良い趣味してやがる

となると…
この中に領主側の間者
先頭に立って率いてたのが怪しいか…
もしくは位置を特定する術式があると考えるのが妥当
すべて憶測だけど念の為に洗ってみるか
石橋は叩いて渡れってね

まずは目についた
「ひとりで遊んでいる男の子」に声を掛けます

アドリブ大歓迎です


櫟・陽里
火を熾して湯を沸かす
持ち合わせのタオルを提供
手伝えるのってそんくらい?
親族でもねぇ男があんま近くをウロチョロしても邪魔だろ
手伝いは旦那がやったほうがいいと思うよ?(背中ばーん)

もし火を囲むひと時があれば
猟兵も難民もミーティングをした方がいいと提案
俺はバイクで行ける限り広範囲の情報を発信するから
情報集積担当を誰かに頼みたいし
難民の皆に伝わりやすい合図を決めたい
進め、止まれ、固まれ、馬車から出るな、全力で逃げろ…あたりかな

『目印の花びら』を見つけてくれた子は報告してくれたかな?
すごく褒めてやりたいんだ
俺は馬車の整備で一通り見回っても気づかなかったのに
気づいて偉かったな、皆を守る助けになったよってさ


橋本・美夜
お産って時間かかるよね。しばらくは動けないし、血の匂いや何かで
その辺の獣やら吸血鬼の追っ手が嗅ぎ付けないとも限らないから
周辺を警戒しておくわ
影の追跡者を召喚して、同じように周囲を見回り、警戒しようとする人を
追跡する形で上空から周囲の様子を警戒するわ
勿論その人にはユーベルコードを使うことを断っておくわよ
私個人は出来るだけ馬車の側にいて手伝いしながら、何か動きがあったら
皆に伝えるわ

赤ちゃん、無事に生まれるといいわね



●戦い
 レイン・フォレストがそれに気づいたのは、産屋となった魔法の家から慌ただしく人が出入りし始めたからだ。
「誰か産気づいた?」
 レインと同じ問いが、難民たちの口からも漏れている。出産という大事、しかも逃亡中のそれだ。どんな予測も立たない。
(「こう言う時はどうしたっけ?」)
 レインは昔の記憶を掘り起こす。
(「まだじいさんと暮らしてた時……隣の奥さんが産気づいた時は、確か……お湯!」)
(「あと布と言うかタオル!」)
 頭の中で数え上げながらレインは産屋をちらりと覗いて、布と水の充分あることを確認する。
 必要なのは火だ。火を熾して湯を沸かすのだ。
 思いつくのは皆おなじことで、すでに灯璃・ファルシュピーゲルは即席のかまどを構築していた。湯を沸かし、布を煮沸消毒する。元軍人だけあってこの手のことは十八番だった。
 それに手を貸しつつ、ミハイル・グレヴィッチはぼやく。
「傭兵時代に、負傷したヤツの応急手当とかは経験あるんだが……流石にお産ってのは初めてだぜ」
 「とにかく火だ、火」というミハイルの掛け声に応えるかのように、火と湯気は勢いを増していく。
 熱をものともせず布を絞り、産屋に運び込む。中に充満する汗と血の匂いは、戦場のそれだ。
 汚れた布を受け取ってミハイルはぼやく。
「忙しいったらありゃしねぇ」
 言葉とは裏腹に、表情はまったく嫌そうではなかった。
 ブク・リョウはじたばたするのを諦めていた。荷馬車からも産屋からも離れて、使い走りに徹する。
「こんな成りだけどおれも一応男なので。妊婦さんが気に障るといけないのさ」
 その言葉に櫟・陽里が深々と頷く。
「まったく。親族でもねぇ男があんま近くをウロチョロしても邪魔だろ。だから……」
 右往左往している妊婦の夫の背を、陽里はばーん!と叩く。
 目を白黒させる彼に、親指で産屋を示した。
「手伝いは旦那がやったほうがいいと思うよ?」
「……! あ、ああ。そうする。ありがとう」
 おぼつかない足取りで産屋に向かうその背に、ブクは「がんばれ、がんばれ」と声をかけた。がんばれ、がんばれ、と、その声援はきっと無駄ではない。
 炎の熱を頬に受け、レインは祈る。
「新しい命。みんなで助けるんだ」
 戦いはまだ、始まったばかり。

●疑いの薔薇
 ふらつきながら産屋の扉に手をかけた男性を認め、ネリッサ・ハーディはそっと声をかけた。
「奥さんのためにも落ち着いてください」
「すまない」
 深呼吸を促し、ネリッサは彼を産屋の中へと送り出す。……今、彼に何を聞いても無駄だろう。
 ネリッサは産屋から視線を外し、心配そうにこちらをうかがう難民たちに注意する。うかつに動けない今、追っ手や『隠れ里』について、しっかりとしたことを聞かなければ。
(「とはいえ、実際に行った事がある方がいるとも思えませんが……」)
 それでも情報収集にあたるのは、同じSIRDの団員に、信憑性を疑問視する者がいるからだ。
 その団員……江戸川・律(摩天楼の探求者・f03475)は合流後、仲間たちから経緯を聞いてまっさきに眉を顰めたものだ。
「コレは……」
 と思わず漏らし、続きの言葉を飲み込む。
 罠、だろう。
 飲み込んだ言葉の替わりに、「はぁ」と溜め息が出た。
(「状況から考えて、先に被害者が居る限り、領主側が『隠れ里』のことを知らないわけがない。それをワザと放置しているとなると……」)
 希望を持たせてから退路を断ち、狩場で狩るつもりか。
「マジで良い趣味してやがる」
 律は低く吐き捨てた。
 しかし、だとすれば。律は考えを進めていく。 
(「仮説その1、この中に領主側の間者がいる。先頭に立って率いてたのが怪しいか……」)
(「もしくは、位置を特定する術式がある。そう考えるのが妥当」)
 多くの事件を見聞してきた経験が、律に行動を促す。
「すべて憶測だけど念の為に洗ってみるか。石橋は叩いて渡れってね」
 まずは、と律は目についた『ひとりで遊んでいる男の子』に声を掛ける。
「ちょっと、いいかな」
「………」
 ちいさな、やせた男の子は、不意にかけられた声にばっと振り向いた。警戒しているのか、無言で律を見返してくる。
「このへんで、何かおかしなものを見なかったかな」
 普段なら、そして律のコミュ力なら、難なく答えを得たはずだ。
 だがその男の子は律の声を振り切って走り出した。……そして、何事かと顔を出したミハイルの姿を目にして、迷ったように足を止める。
 居合わせたネリッサは心得たようにその子に歩み寄った。菓子の包みをよく見えるよう掲げ、ゆっくりと手渡す。律の用意していた問いを繰り返す。
「何か、変わったものを見た覚えはありますか?」
 もらった菓子をひとつ丸ごと口の中に納めながら、男の子は無言のまま頷いたのだった。

 男の子が菓子を食べきるまで、律とネリッサ、灯璃、それに寺内・美月(地獄雨の火力調整所・f02790)らは待った。
 無言の子供に案内されたのは、一番丈のある、一番丈夫そうな荷馬車の下。大人であれば四つん這いで進むしかない。
 そこに労せず潜りこんだ子供の、ちいさな指が一点を指す。なるほど底面の継ぎ目に、滲んだ鮮血のような色が見えた。
「これは……」
 触れようとした灯璃は、いったん手を引っ込める。僅かながら力を感じた。こちらを攻撃するほど強くはないが、大人しく回収させてくれないくらいには強い。
 灯璃は男の子を振り返った。
「薔薇探しのゲームをしましょうか。そしてもし薔薇が見つかったら、どの家族の馬車にあったか、教えてくれない?」
「……」
 子供はじりじりと後ずさった。
 ネリッサを見、そして小さく、「ここだけっ」と言って、またどこかへ行ってしまった。
 小さな背中は、物蔭に隠れてすぐに見えなくなる。
「回収は無理なのですか?」
 あらためての美月の問いに、灯璃は思案する様子だった。
「無理ではないでしょうが……」
「回収したのを設置した相手に悟られる、くらいは覚悟したほうがいいかもな」
 律が付け加える。これが予想通り発信機能のあるマーキングならば、それくらいはやりそうだった。
 ……そんなSIRD一同の動きは目立つものだったので、その一部始終を首どころか体全体を傾げて見ていたブク・リョウは、ここで口を出すことにした。
「その薔薇?は、破壊?とかしないほうがいいみたいだけど。ユーたちの意見を聞きたいな」
 ブクは薔薇を隠しもつ荷馬車全体を見上げる。
「さて、この荷馬車は誰の物だろう。混乱と不和を招きたくないから、誰かにそれとなく聞きたいのさ」
「今、お産で戦ってる女のひとが乗っていた荷馬車だな」
 その場の全ての視線がさっとバイクにまたがった陽里に集まる。
「つまり、指導者役の男の荷馬車ってことだ。あと、さっきのちいさな男の子は、その夫婦の長男だぜ」
 陽里は始終難民たちの車列と併走し、先頭から最後尾までを見ていたのだ。家族構成も頭に入っていた。
 律は念のため確認する。
「車列の先頭は誰だった?」
「決まってなかったな。その日その日で、馬の調子がいい荷馬車が先頭だった」
 ……容疑の的は絞られつつあった。
 陽里はバイクから降りて提案する。
「俺たち猟兵もミーティングをした方がいい。情報集積担当を誰かに頼みたいし……俺は、バイクで行ける限り広範囲の情報を発信するから」
 陽里が提案したのは難民への合図を決めることだった。
 進め、止まれ、固まれ、馬車から出るな、全力で逃げろ。後のものになるほど重大な事態に使用されることになるだろう。
 互いに点検しあい、精度を増した情報が共有されていく。
 そして、SIRDはこの時点で、また別の調査に手を伸ばしていた。

●調査
 走る奔るはしっている。
 この世界に由来しない技術による、護衛用猟犬型魔導蒸気兵器。『魔導蒸気猟犬』が湿地を走っている。
 その背に主人たるエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)を乗せて。
 人形のようなエメラの衣装が風になぶられ白い旗のように翻った。
 エメラは猟犬を駆っているのではない。操縦する余裕がない。
 彼女はすべてを調査と索敵に注ぎ込んでいる。
 SIRDの一員としてダークセイヴァーにやってきて、エメラは状況の悪さに可憐な眉をひそめたものだ。しかし仲間から経緯を聞いて、とにかく今は目の前の人々を守ることに専念すると決めた。
「それじゃ、私のお仕事をはじめましょうか」
 軽やかに猟犬の背に飛び乗って――そして今に至る。
 移動に関して全てを猟犬に任せたエメラが行おうとしているのは広範囲の索敵だ。
「展開……『ここに始まるは我が戦場(リコネサンスドローン)』!」
 缶詰のような形をした機械が周囲に放たれる。
 その数、100!
 風に溶けるように姿を消す、否、消えたのではなく変形したのだ。
 【ステルス】属性の偵察用魔導蒸気ドローンに。
 エメラは広く、広く意識を拡げていく。ドローンはエメラの目となり湿地上空を滑走する。100の目が、100の方位に散っていく。
(「さすがにこの数の把握は精神的に疲れる……けど……やれなければ、やるとは言わないわ」)
 エメラの息は長く細くなり、ついに自分の血流の音が聞こえるようになったころ。
 エメラは『それ』を見出した。
 馬上に黒く佇立する騎士。
 エメラは確認する。追手たるオブリビオンの現在位置。その距離と方角。追跡速度。
 ……これで、先制攻撃や罠、逃走、戦闘準備などが楽になる筈だ。
「早く教えてあげなくてはね。……ね、私のお仕事、うまくいったわよね?」
 猟犬の足がゆるやかになる。エメラの身に負担をかけぬよう、猟犬は難民たちの車列へと踵を返す。
 そして、お産のため難民たちが足を止めている中で、美月は一足先に『隠れ里』の正体を突き止めようとしていた。それには足の速さが物を言う。
『旗から戻れブロズ、貴様の姿を敵に見せつけてやれ』
 龍馬『ブロズ』の召喚だ。馬の姿をしているが、名の通りその本性は竜である。美月の身長の倍ほどもある駿馬は、美月と互いに生命力を共有し、戦闘力を強化しあっている。
 美月の意に応じ、いななきの声さえ置き去りに龍馬は疾く駆ける。
 行く先は『隠れ里』。わかっているのはその方向のみ、しかし偵察と通行状況の把握も兼ねている。
 ブロズの速さと、美月の推察、そして運が味方したか。
 湿地はやがて乾いてゆき、草地があらわれ、なだらかな上り勾配の道が見えた。
 その道の果てに、ぽつぽつと家並みが立ち並んでいた。
 十分に警戒しながら美月はブロズを走らせる。
 ……無人、無音の里だった。
「誰か、いませんか」
 家の開いたままの扉に向けて発せられた美月の呼び掛けは、吸い込まれるように消えていく。
 用心しつつ馬から降り、美月は幾つかの家を探索した。
(「これではまるで映画や舞台のセットですね」)
 ただモノを適当に配置しただけ。食糧庫に蓄えはあるものの、使われた形跡はない。最も生活感があってしかるべき台所の竈には、灰ひとつ落ちていない。
「罠、ですか」
 もしくは狩り場。律がそう形容していたのを、今更ながらに思い出す。
 ひとつ、首を振った。先入観を排し見たままを報告することを心がけ、美月は仲間の猟兵たちに報告を発信した。

●警戒
 ネリッサの夜鬼の召喚は、継続して行われていた。エメラからの報告は聞いている。まだ余裕はあるはずだが、早期警戒網は常に維持し、敵の接近や奇襲に備えるべきだった。
 ブクは産屋の近くで周囲を警戒している。主に【聞き耳】でだが、産屋の中からの苦鳴までも拾ってしまい、そのたび首をすくめる。
 安心すれば、出産はもっと楽になるのだろうか?
(「せめて出産が終わるまで、どうか敵の馬の蹄の音が近付いてきませんように」)
 耳はいまだその音を聞かない。
 ブクの頭上から、同じく警戒にあたっているのは美夜が召喚した影の追跡者だ。
「お産って時間かかるよね。しばらくは動けないし、血の匂いや何かで その辺の獣やら吸血鬼の追っ手が嗅ぎ付けないとも限らないから」
 警戒の労を二分するアイデアとして、美夜が提案したのだ。地上からはブクが、上空からは美夜(と五感を共有した影の追跡者)が警戒する、と。
 美夜本体、美夜本人は産屋にいる。何か動きがあれば皆に伝える役だ。
 汚れ物を持っていったん外に出ようとした美夜は、妊婦の夫とすれ違う。
 血の気の失せた顔をしていた。一息入れるために外に出たのに、全然効果がなかったようだ。
「赤ちゃん、きっと無事に生まれるわ」
 美夜の慰めに頷きはしたが、たぶん内容は何も頭に入っていない。
 ……お産は、誰も似た例を思いつかないほど長引いていた。

●刻一刻
 血と汗のにおいの充満するただなかにレインはいた。
 自分が出産そのものに役立つとは思えなかった。しかし、もし何か手伝える事があるなら喜んで手伝う、そう伝えたところ、任されたのは妊婦の手を握ったり、髪を撫でたり、香りのよい草を鼻先に近づけたり、そういったことだった。
「ほかにも何か、僕にできる事はないかな?」
 それが易しい仕事に思えて、レインは尋ねたのだが、産婆役の女性陣……彼女らもまた妊婦である……は口をそろえて言った。
「励ましてあげて。それは本当に大事な仕事よ」
 だからレインは苦しむ妊婦が骨も砕く勢いで手を握っても放しはしない。
「頑張って、どうか無事に産んで」
(「こんな世界でも、産まれてきてくれる命がある事に感謝したい」)
 盥に張られた水は赤く濁り、用意された布は白い部分を急速に減らしていく。
 リーヴァルディ・カーライルは妊婦の状態を検分する。救助活動で培った知識は、これがいつ命を落としてもおかしくないものだと告げている。
 リーヴァルディはある試みを胸に秘め、黙々とお産の手伝いをする。

●覚悟
 いったんジャコバンの元に帰ってきたカタリナは、またすぐに産屋へと戻っていく。
 なんでもカタリナが比較的つわりが少なく、支障なく動けるからだとか。
「それでも腹の中に子供がいることに変わりはないんだぞ……」
 途中まで未練がましく後を追い、産屋の前でジャコバンは足を止める。
 うだうだとした呟きを耳にしたミハイルは、あえて喝を入れた。
「おら、テメーのカミさんが気張って働いてんのに、何時まで泣き言抜かしてやがる! テメェは未来の父親らしく、どっしり腰据えてろ!」
「どうせおれはへっぴり腰だよ。ろくな働きもしねえよ」
 口答えするジャコバンに、ミハイルは本腰を入れようとしたところで、灯璃が落ち着いた言葉を差し挟む。
「色々考え込んでる様ですが。奥さん連れて飛び出した時、あったのは何があっても守りたいって気持ちだけだったんじゃないですか?」
 褒められるのに慣れていない人間のように、ジャコバンは嫌そうに首を振った。
「……強い単純な動機を持つのが戦場で生きるコツですよ?」
 ニコッ、と灯璃に視線を向けられたジャコバンは、鼻先に火を近づけられたように飛びのいて逃げて行く。
「屈折してやがるぜ」
「まだ自分の本当の望みをわかっていないんでしょう」
 あえて暗い方に逃げて行くジャコバンを2人は見守った。
 ジャコバンは。
 闇を掴むように、もがきながら走る。
 背後の産屋のことを考えるのは怖かった。ずっと目を背けてきた『正しく善きもの』がそこに在る。そんなものはない、と思い込むことで、様々なことを許容してきたのに。報いなんてない、と信じてきたのに。 
「順番……」
 ジャコバンの口からうわごとのように言葉が漏れる。
「いつか、俺の番がくる……」
「その通りだ」
 ジャコバンが掴もうとした闇に同化するように、ニコラス・エスクードが立っていた。
 警戒中、耳朶を打ったジャコバンの独白に、思わず足が止まった。その言葉の何かが、ニコラスの琴線に触れたのだ。
「助ける事が出来なかった命は数え切れず。その報いがいつ来るやも知れぬ。それを怯え諦め自暴自棄に過ごすも良い。
 ……だが、それを良しとするならば此の場に居るはずがない。故に言葉を吐き出すに否はなく。いずれ来るやも知れぬ何かに怯えるよりも、今、己の為したい事を考えろ」
 硬い口調で、ジャコバンには耳馴染みのない言い回しも多い。それでも何故かジャコバンにはニコラスの言わんとすることがわかった。
 軽く肩を叩かれる。それを切っ掛けに、ぐにゃぐにゃだったジャコバンの体は輪郭を取り戻したようだった。
「妻と、生まれてくる子を護りたいが故、この逃避行へと来たのだろう?
 ならばその為に必要なことを為せばいい。その想いを守るべきものへ伝えればいい。それを邪魔する些事からお前を守るは此方の為す事だ」
 ジャコバンには激励を、自分には誓いを。
 ニコラスの言葉が自分だけに向けたものではないとわかったのだろう。ジャコバンはゆるゆると言葉を選ぶようだった。
「あんたの言葉はむずかしくて……間違っているかもしれないけど……」
 あんたも、悔やんだことがあるんだな。
 闇の中、ニコラスは己の心に刻み込むように言葉を噛みしめる。
「篤と護れ、篤と守ってやる」
 それは確かにジャコバンの心にも届いていた。

●命
「生まれた!」
 気の抜けた悲鳴、という矛盾したものがあるとしたらこれだった。
 血みどろの中から取り出された赤子の身体を、幾本かの手が素早く布で包み込む。
 そしてすぐに別種の悲鳴が響く。
「息をしてない……!」
 足を持って逆さにして、背中を叩く。もし羊水や血を呑み込んでいるなら吐き出させなければならない。
 リーヴァルディはゆるりと立ち上がった。
 母体のダメージは深いが、今のところは保つだろう。
 目下、深刻な状態なのは新生児だ。
『……限定解放』
 リーヴァルディの容姿が急速に変化する。それはダークセイヴァーの人間がもっとも恐れ忌避するもののすがた。
『傷ついた者に救いを……血の聖杯』
 瞬間的に吸血鬼化し、生命力を凝縮した血液で対象を高速治療するわざだ。
 リーヴァルディの指から血の滴がしたたる。
「……こんな呪われた血で命を繋いでも嬉しくないかもしれない。それでも、私はその生誕を祝福したい。……だからどうか、この生命に救済を……」
 居合わせた妊婦の顔に恐れと迷い、嫌悪が交錯した。
 決めたのは、やはり母だった。
「お願い……」
 レインの手を握り、顔だけ赤子のほうに向けた彼女は、息も絶え絶えの状態で、それでも完全に状況を把握していた。
「その子を……助けて……」
 息をしない赤子に、リーヴァルディの血の滴が注がれる。一滴、二滴。
 皆が息をつめて見守る中、しばらくして「すうぅ」と赤子は息を吸い、それから「ほぎゃあ」と素晴らしく大きな泣き声をあげた。
 外から新生児の父が飛び込んできて、他の妊婦も口々に喋り、魔法のおうちは異様な騒ぎに包まれた。
 リーヴァルディはそっと母親に謝った。
「……緊急事態だったとはいえ……ごめんなさい」
「先にありがとうと言わせて……あの子を助けてくれて、ありがとう……」
 疲労ゆえだろう、白茶けた顔の母親は、リーヴァルティとレインを見て、かすかに笑った。
「呪われてるですって……? そんな子たちが、こんなに可愛らしいわけないわ……」
 ……限界がきたのだろう。その言葉を最後に、彼女は眠りに入る。もろもろの処置に、身づくろいにとレインもリーヴァルディも、他の妊婦たちの指示に従って忙しく立ち働いた。
 眠る母親の顔色が段々赤みを取り戻していくのを、レインは救われた気分で見守った。
「僕もこんな風に母さんから産まれてきたんだろうか……」
 新しい命の誕生。喜びとともにあるべきそれ。
「……ん。母親は、強い」
 難民たちの隊には、まだ妊婦が何人もいる。彼女たちの様子をみるため、リーヴァルディは産屋を後にした。

●余韻
 血の匂いが、夜の風に流されていく。
 お産が無事終わって、難民たちには安堵と祝福が広がった。
 ミハイルは一息つこうと咥え煙草でポケットをまさぐる。と、ライターを探す指先は、別のものの感触を伝えてきた。
 正体の見当はついていたが、ミハイルはそれを取り出した。
 今さっきお兄ちゃんになったばかりの男の子がくれた、木彫りの熊だ。ミハイルはそれをしげしげと眺めた。
「……子熊のミーシャ、ってか」
 自然と口元がゆるんだ。
(「あのガキが手持ち全てはたいて、しかも報酬前払いと来た。絶対に守り抜いてやる。クライアントの期待にゃ、応えねぇとな」)
 紫煙が漂う。
 産屋まわりが落ち着いたのを確認して、灯璃もその場にやってくる。
 ひとときの平穏は貴重なものだった。
 と、ミハイルは産屋から出てきた親子に目を留めた。
 新生児の父と、ちいさな兄だ。父親は気が緩んだのか、浮ついて妙におしゃべりになっている。男の子は無言で父を見上げている。
「よかった、これでなんとか助かった。もう『妊婦』じゃない、もう大丈夫だ」
「……もう、だいじょうぶ?」
 その子の言葉に、はっと父親は表情をあらためた。
「……いいや。自分たちだけ大丈夫、なんて言ってはいけなかった。全員が大丈夫にならなければいけないんだ」
 そこまで聞いて、灯璃は親子に声をかけた。
 祝福と感謝の言葉が一巡し、頃合いをみて灯璃は何気なく質問した。
「奥さんは産婆さんにかかっていたんですか?」
「いや、医者に診てもらったんだ。本当なら下々の者など診てくれないような、館付のお医者さまだよ。だからお産もきっと上手くいくと安心していたんだが……」
 今に至る経緯を思い出したのだろう。言葉の末尾は消え入るようだ。
「まあ、妻のお腹は誰が見ても大きかったからな。この、上の子も『もうすぐお兄ちゃんだ!』と触れ回っていたし」
 固く口元を引き結んで、男の子は下を向いた。

●行方
 白々とした、難民たちの数がひとり増えた朝だった。
 偵察に出ていたエメラと美月が戻ってきて、質量ともに揃った情報を皆に伝えてくれた。
 追手と、隠れ里について。
 律は、猟兵たち皆に自分の憶測を説明した。
 『隠れ里』を餌として、反抗分子などを一か所に集め、処分する。
「分散されるより、一か所に集めた方が鎮圧しやすいだろうからな」
 納得の声がいくつかあがり、また意見の交換が始まる。
 目下、可及的速やかに決定すべきことがひとつあった。
『マーキングたる薔薇の花びらをどうするか?』
 回収を実行し、袋に詰めた上で、肉を括りつけ獣に持っていかせて時間稼ぎを狙う案。
 回収せず、難民とは反対側の場所に荷馬車で駆けて時間稼ぎを狙う案。
 どれも時間稼ぎに違いはなかった。
 そこに、本当にたまたまといった感じで例の男の子が通りがかった。
 その子に目を留めて、陽里はにっかと笑う。
「ぼく、偉かったなあ!」
 無言で物陰に隠れる男の子に、陽里はねぎらいの言葉を続ける。
「俺は馬車の整備で一通り見回っても気づかなかったのに。本当によく気づいた。偉い! 皆を守る助けになったよ」
「………ら」
 ちいさな呟きが、物蔭から聞こえた。
「もう、お兄ちゃんだから!」 
 宣言に、駆けていく元気な足音が重なる。
 それはこの世界ではとても珍しいものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
あれま、沢山押しかけても狭いかしら
僕は荷馬車で具合の悪そな方いないかみているよ
周りが倒れてもいけないものな
参る前にお休みしなければ後が困るもの
地に足つかない長旅は堪えるものな
まあ僕は、お薬得意な方にお願いしにいったりしかできないんだけども

止まっているならリザレクトオブリビオンで呼んだ子に
少し辺り見てきてもらいましょな
行ける範囲で行っておいでね
何かあったら分かるでしょう
追っかけていらっしゃるのを掃って、
根から消えるなら迎えに行ったって良いのだけども
……そうは、いくかしら
行く先でも、通ったものでも、何か変わったことはあるかなあ
窺いつつ聞いてみような



●決意
 においが目に見えるなら、きっと今の自分は血の色の薄物をまとっているに違いない。
 イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は闇の中、舞うように荷馬車の間を移動する。ゆるりと血のにおいが風に吹き戻されてきて、これはきっと分厚い綿布団だ。
 連想が我ながらおかしくて、イアの口元に楽しげな笑みが浮かんだ。
 新生児の産声は断続的に響いていて、後片付けの足をひっぱっている。
 イアも産屋に駆けつけたかったものだが、すこし覗こうとしただけでも人の山、「あれま、」とおとなしく席を譲った。
(「沢山押しかけても狭いしな……僕は荷馬車で具合の悪そな方いないかみていましょ」)
 この騒ぎだ、気を張った誰かが倒れてもいけない。
 そうやってイアがひとつひとつ荷馬車の様子を窺っていたら、自分の荷馬車に戻ってくるところだったカタリナと鉢合わせた。
「あ……!」
 イアを認め、カタリナはぺこぺこと頭を下げる。
「このあいだはありがとうございます、あの、頂いたストール、いま別のひとに使ってもらってるんです」
「ああ、かまわないよ」
 律儀に謝罪する彼女に鷹揚に頷いて、イアはカタリナの様子を窺った。
 疲労の気配はあるが、活気のようなものが感じられた。
「あ、わたし今、休憩しておいで、って言われたので」
「周りが倒れてもいけないものな。参る前にお休みしなければ後が困るもの」
 カタリナは微笑む。その目元に悲哀の色はない。達成感と疲労感がある。
 ……本当なら、難民たちはすぐに出発したいに違いない。
 だが出産を終えたばかりの女性の具合はあまりよくなく、妊婦たちは動かすのをためらった。荷馬車の振動に、弱りきった体が耐えられるだろうか?
 まだ産屋は設置されたままで、中にいる人数も減る気配がない。
 しばらく止まっているなら、とイアは【死霊騎士】と【死霊蛇竜】を喚んだ。
(「行ける範囲で行っておいでね」)
 まだ距離があるので大丈夫だとは思うが、警戒して損はあるまい。
(「何かあったら分かるでしょう。
 ……追っかけていらっしゃるのを掃って、根から消えるなら迎えに行ったって良いのだけども」)
 軽く、首を傾げる。
(「……そうは、いくかしら」)
 単騎での追撃。何の意図あってのことだろう?
 もしくはそういう嗜好なのか。
(「行く先でも、通ったものでも、何か変わったことはあるかなあ」)
 イアはそれとなく聞いてみようと、水を向けようとした。
「地に足つかない長旅は堪えるものな。まあ僕は、お薬得意な方にお願いしにいったりしかできないんだけども」
「すごく助かってます! 本当ですよ、いまわたし、とても……」
 言葉の途中で、「あ、」とカタリナは外に笑顔を向けた。
 ジャコバンだ。難民たちの話し合いに珍しく参加して、珍しくなんの愚痴もこぼしていない。
「おかえりなさい、どうだっ……」
「俺はお前と別行動になる」
 え、とカタリナは意味がわからず口ごもる。
「領主の目印とやらがついた荷馬車に乗って、俺だけ『隠れ里』に向かう。俺が一番早く馬を走らせるからな。お前は他の奴らと一緒に待ってるんだ」
 ……その意味を知るイアはそっと息を吐いた。
「自分から、願い出たのだね」
「ああ」
 ぶるっ、と身震いして、ジャコバンは無理矢理笑顔を作った。
「頼むよ。俺を守ってくれ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『異端の騎士』

POW   :    ブラッドサッカー
【自らが他者に流させた血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮喰血態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    ブラックキャバリア
自身の身長の2倍の【漆黒の軍馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    フォーリングローゼス
自身の装備武器を無数の【血の色をした薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●希み
 長い鞭は、空を切る際にたまに笛のように鳴る。
 その音から機微を察し、意をくむ馬もいるくらいだ。
 よく馴らされた良い馬が、鞭を鳴らす良い御者を乗せたとき、どれだけ速く走れるか。馬車に乗るのがどれだけ快適か。猟兵たちは実感した。
 御者台のジャコバンは、きれぎれに呟いていた。いつものぼやきとは声音が違った。
「俺は腰抜けだから……やっぱり、他の奴らのように他人を思えない。
 もしこれで上手いこと領主を倒せたとして、『助かった』、『でもなんで逃げた俺たちだけじゃなくて、街に残ってる何もしなかった奴らまで良い目をみるんだ』と文句を言いたくなる」
 あけすけに言って、鞭をもう一振り。
「だけど……何もしないまま街に残っていたら……きっと一番最初にカタリナは捕らえられてた。お腹の子といっしょに、きっと帰ってこなかった。
 そして俺たちが街を出たことで、別の逃げなかった妊婦が捕らえられているのかもしれない。俺は別に罪悪感なんて感じないが、他の荷馬車に乗ってる奴らが、心配そうにしていたのを見たよ。奴らが助かるのは、きっとこういう奴らだからなんだ」
 ジャコバンが妙に落ちついているのは、きっと御者台にいるからだろう。そこが彼の場所なのだ。
「合図はあんたたちが決めたもの、俺たちがこれから向かう場所も方角もしっかり把握してる。……最悪、俺たち全員が死んでも、逃げられる……よな?」
 ちら、と目を背後に向ける。
「……俺はカタリナと子供が逃げられるんなら、今死ぬで構わない。死ぬなら最初がいい。カタリナや子供の順番は、もっとずっと、ずっと後だ」
 でも、と前に視線を戻して、ジャコバンは言った。
「カタリナや子供を守ってやりたい俺を、あんたらが守ってくれるんだろ?」
 湿地は乾いた地面となり、車輪は確かな足場となだらかな傾斜を伝える。
 そのタイミングだった。
 敵だ。
「……頼むよ……どうか俺たちを……助けてくれ」

 ――戦いが始まる。

====================
 ここまで読んでくださってありがとうございます、コブシです。
 以下は第3章に関しての捕捉となります。

 ・猟兵たちは特に指定がなければ「目印の薔薇の花びらが設置された荷馬車の中」にいます。そこから戦闘が始まります。
 ・指定があれば、実行可能かどうかマスタリングした上で、サイコロ判定します。
 ・1、2章で描写された行動を踏まえたプレイングであれば、実行の可能性が高まります。
 ・敵は騎乗して目印のついた荷馬車を追ってきます。戦闘における判定の有利不利は特にありません。
 ・ジャコバンも攻撃を受ける可能性があります。
 ・敵は強いです。

 以上です。最終章のボス戦、皆さまのプレイングを楽しみにお待ちしております!
====================
リーヴァルディ・カーライル
事前に馬車と装備に【常夜の鍵】を刻む
…ん。短期間に変身し過ぎた
出し惜しみする訳じゃないけど…これ以上は最後の手段、ね

敵の行動を見切り、
生命力を吸収する呪詛を刻んだ銃撃の2回攻撃で傷口を抉る
…まずは脚を止める

第六感を駆使し攻撃の存在感を感じ【常夜の鍵】で回避、
ジャコバンに向かう攻撃は力を溜めた怪力頼りに大鎌をなぎ払い、武器で受ける
…こちらは任せて。攻撃に集中して

隙を見て【常夜の鍵】を発動
敵に当たった弾丸の魔方陣まで転移し不意打ちを試みる

後は帰還する前に、大量の保存食と救助活動用の物質を馬車に積み込んでおく
…ん。戻るにせよ、新しい集落を築くにせよ、必要になる
役に立ててくれれば、それで良い


ティアリス・レイン
相棒の小竜に【騎乗】し【空中戦】で【勇気】を胸に敵に挑みにいくよ!
「ティア、いってくるね」「だいじょうぶ。みんなのことはまもってみせる!」

「みんなにてだしはさせない!ティアたちがあいてだ!!」
【視力】【聞き耳】で【見切り】小柄な体を生かして【目立たない】【残像】で攻撃を回避する。相手が複数いるなら【敵を盾にする】
「おねがい、ユーちゃん!」

避け切れないときは精霊が【全力魔法】雷【属性攻撃】【マヒ攻撃】【気絶攻撃】【目潰し】【2回攻撃】【時間稼ぎ】
「おねがい、ミーちゃん!」

味方をかばう時は【怪力】【武器受け】
「あぶない!」

【グラウンドクラッシャー】【捨て身の一撃】【鎧砕き】
「ごーらい、いっせん!」


イア・エエングラ
ええ、守るよ
あなたも、あなたの愛しいひとも
その営みのためにある方々を
そのために僕も、いるのだもの
必ず無事で、おかえしするよ

やあ漸く、お出でになった
回り道は如何だったろ、
追った羊に羊に牙を剥かれる、心地は如何
道中の子らは一矢くらいは報いたかしら
動けるように今は呼ばないよう
黒糸威で狙おうな
貫けずとも動きを逸らせるだけでもよいかしら
お仲間には当たらないように気をつけておこ
薔薇は燃しましょ、おうまの脚はは穿とうな
ジャコバンさんはあんまり寄らないでね
無差別の攻撃が向かうようなら盾にでもなろうか

待ってる人らも不安だろうな
だから帰ってやらないとねぇ
逃げる番は、お仕舞だもの
ともる灯りに、安らげる、ように


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動。

おいでなすったな。正直、この先の事は色々問題山積みだが、まずは目の前の脅威を片付けるのが先だ。

異端の騎士と対峙した時に
「聞いたぜ?手前の主だか客人だか知らねぇけど、すんげー悪趣味な賭けに興じてるんだってな。奇遇だな。俺らも賭けをしててな」
(凄みのある笑みを浮かべ)
「・・・手前の腹ぁ掻っ捌いて腸引きずり出して、何色かってのをな!」

戦闘時には前衛として、UKM-2000Pをありったけ乱射、敵の目を引きつける。自分が囮役になっていれば、他のSIRDメンバーが何か仕掛け易くなるだろうからな。敵は強力とはいえ単騎、こちら側は頭数が多いのは大きなアドヴァンテージだ。

※アドリブ大歓迎


ブク・リョウ
うんうん、任されたのさ!
首を縦に振り己の胸を打った後
未来のパパの肩もぽんぽん、と叩くよ
家族のためにも、どうか無理と無茶はしないでね

敵が現れたら荷馬車の外へ。
不意を付ければいいのだけれど。
バラックスクラップで応戦しつつ
ビルドロボットで変形して
ジャコバンへの攻撃を極力防ぎたいな。
でも血を流すのは悪手っぽいので気を付けたい。

他の猟兵さんがジャコバンを護ってくれるようなら
すかさず攻撃に転じるよ。
目には目を、歯には歯を。花びらには花びらを。
鉄屑の舞踏で対抗、毒々しい薔薇には散ってもらいたいのさ。

無事戦いが終わったなら
難民の隊に戻って安全を確認したいな。
生まれた赤ん坊に、改めておめでとうって言いたいのさ。


ニコラス・エスクード
さて、然と守ってやらねばならん。
犠牲にさせてやる訳にはいかん。
誓いを違えるなど許されないのでな。

我が身が盾である事に嘘偽りなど一つなく、
故に我が写し身も正しく。
錬成カミヤドリにて複製する本体たる器物は盾。

ジャコバンと馬車を己が身と錬成した盾達にて守る。
故に馬車に乗る者達への攻撃も止めなばな。
盾たる本分、果たさせて貰おう。

追手を目視出来る位置取りを。
敵の動きを注視し、矛先を見極め庇い盾にて受ける。
此方の足止めを狙うなら車輪か馬か、御者を狙うが常だろう。
ジャコバンには盾を常につけておき、
他の箇所にも身体が間に合わずとも盾を向かわせる。

敵が強敵であるならば守り抜くに全力だ。
頼もしき矛は十二分だろう。


レイン・フォレスト
【SPD】
ジャコバン、男を見せるじゃないか
貴方のその勇気に、僕達は応えるよ
絶対に守ってみせる

御者台に余裕があるようならジャコバンの隣に乗せて貰い
「暗視」「聞き耳」「第六感」を使い、敵が来る方向や距離を測る
敵が見えたら「先制攻撃」【ブレイジング】を使って連射
まず馬を狙おう
次に騎士の目を「目潰し」
攻撃を受けた時は敵の懐に飛び込んでいって「吸血」
こんな奴の血、欲しくはないけど仕方ない

ジャコバンが狙われた時はこの身で庇うよ
カタリナのお腹にいる子を父なし子にするわけにはいかない
奥さんと子供に、大事な夫・父親を絶対に返してやるんだ

僕は親の顔を知らない
そんな辛い想いを産まれてくる子に味合わせたくはないよ


エメラ・アーヴェスピア
SIRDのメンバーよ
…本当に単騎で来るのね
ここまで来た以上、後は仕事を完遂するだけよ

SIRDメンバーの戦闘区域後方に支援用の砲台…『この場は既に我が陣地』を展開
【援護射撃】メインで砲撃するわ
後方に設置する理由は仲間の邪魔をしない為と強行突破されるかもしれない時の障害物とする為よ

私自身は念の為に猟犬に乗って馬車に並走
強行され、接近された時は私の射撃やUCの再展開を駆使して【時間稼ぎ】ね
色々な意味で、こちらの行動を起こす事が無い様に祈るわ

…あ、SIRD戦闘区域にドローンも設置、それを確認しつつ狙いをつけたり状況を確認したりするわ

さぁ、この絶望を止めるとしましょうか


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD所属で参加

車内で小銃構えて迎撃準備
敵を射程内に捉えたら
前哨狙撃兵の経験活かし「戦闘知識」で
相手の強襲突撃にタイミング合わせ
馬の脚狙いで狙撃(スナイパー)
敵の出鼻を挫いて味方がジャコバンを
保護する時間稼ぎを図る

「…歓迎会へようこそ(引き金を絞り」

その後は敵の狙いが散漫になるよう
動きながら牽制射撃を掛け味方と連携して意識誘導

味方に気を取られてるなら
即時にコード使用し狼達を呼び出し
敵軍馬の脚に絡みつかせる様に襲い掛からせ
機動力を削ぎつつ確実にダメージを強いて味方と
連携して圧殺するよう戦います

戦闘後は周囲確認しつつジャコバンを護送
「立派な背中見せてあげてくださいね・・・お父さん(背中をポンと」


江戸川・律
特務情報調査局「SIRD」の一員として参加
◆SPD使用
◆使用特技 
戦闘知識・罠使い・先制攻撃・高速詠唱・早業

◇保護
戦闘時は『幻影の城』を使用
ジャコバンに手帳を触らせ一時的に別世界に避難させます
(他に同系統の能力を使う人がいればその方優先で)

◇援護と攻撃
『ペンは剣よりも強し』で攻撃を先読み
常にタイミングを計りながら
カッン!!と足を踏み鳴らし『レプリカクラフト』を起動

様々な地形を変化させたトラップを作成し
嫌がらせのように攻撃の起点を潰していきます

例:敵の足回りだけを沼に変化
  敵の目前に石壁を作り攻撃を防御
  足元から一瞬で隆起した槍のような岩石で攻撃
  単純に草の輪っか 等など

アドリブ大歓迎です


櫟・陽里
バイクで併走
ジャコバンに見直したぜって言う
頭を押さえつけられたままじゃなく
昨日とは違う選択をして行動した
どんなに悩んでたっていいよ
不満は改善の種になるしさ

数日一緒に行動して分かった
この世界で2歩3歩先を照らす光ってのは
猟兵の道先案内じゃなく
きっと難民各自の成長なんだ

皆はこれから協力し合い生活を作り上げなきゃなんない
だから俺たちも協力する姿をまずは見せられたらいいな

最優先は敵の攻撃に割り込み庇う事
バイクは機動力のある盾
壊れたって直せばいい
そしてバイクは高速の武器だ
敵の馬に体当たりして姿勢を崩す事も狙える
視野を広く取り敵の攻撃を分析
ジャコバン優先で皆を必ず守る

この世界の希望のカケラになれれば幸いだ


ネリッサ・ハーディ
SIRDの面々と共に行動

・・・敵は一体。騎兵ですか・・・恐らく、単騎で追跡してきたのですから、それだけ強力なのか、それともこちらに難民しかいないと高を括ってるのか。
どちらにせよ、排除するしかありませんね。
こちらには、ジャコバンを始めとして避難民を抱えてるのがネックです。
避難民の安全を確保する為、まずは出来るだけ引き離す必要性があります。

炎の精を召喚して、目標を多方向から攻め、避難民達から出来るだけ遠ざける様な方向へ追いやる様試みます。
距離が開いたら、本格的に攻撃を開始。
相手は騎兵ですから、その突進力は侮れません。
炎の精で可能な限り、突進を妨害しましょう。

☆アドリブ、他PCとの絡みOK


寺内・美月
共同参加【SIRD】
・当初は難民本隊を護衛しつつ馬(ブロズ)を召喚して敵騎兵を監視。
・敵騎兵が囮にかかったらジャコバン隊(猟兵主力)に合流して罠を設置する。
・敵騎兵が本隊を攻撃してきた場合はジャコバン隊を呼び戻して敵騎兵へ遊撃を開始して時間を稼ぐ。
・『戦闘団召喚』を使って障害や罠線を張るなどの作業を行う。
・逼迫する場合は罠設置をあきらめ、騎乗戦闘を行い速度の低下に寄与する。
・『完全管制制圧射撃』『剣刃一閃』『SSW式治療レーザー』を状況に応じて使用する。


橋本・美夜
最初からそのつもりで来てるもの。絶対助けるから!

遠距離からサモニング・ガイストの炎で少しずつ削りながら、隙を見て
近付いて槍で攻撃。上手いこと相手に突き刺さったら、その槍を伝わらせて
サイキックブラストの電撃を体内に送り込むわ
少しでも他の人たちが大技を使う時間を作れるといいんだけど
相手の薔薇の花びらでの攻撃も衝撃波で多少威力を削いだり出来ないか
やってみるわ
もしもジャコバンさんが攻撃に巻き込まれそうになった時に近くにいたら
体を張って守るわよ
子どもの顔も見ないうちに死なせたりなんてさせないから

無事に倒せたら、早いところ待ってる人達のところに戻って安心させて
あげたいわね



●視認
 多人数を乗せることになった荷馬車は四頭立て。車体は丈夫で御者は優秀だが、ゆりかごのようとはとても言えない。
 ガコッ、と、小石にでも乗り上げたか、幌の形に切り取られた景色がおおきく揺れる。
 反動で何度か微震する。それでもジャコバンの制御は巧みで、荷馬車は一定の速度を保っている。
 ゆえに……視界の中央に出現した黒い騎影がみるみる大きさを増していくのは、追跡者が速度をあげている証だ。
 そして大きさに関して、その騎影には常ならぬところがあった。馬も人も、通常の倍はある。
 灯璃はかつて前哨狙撃兵だった。こういったことに惑わされず正確に距離を測る術を心得ている。相手の強襲突撃のタイミングを計る。
 小銃を構えて照準を定める。動かず、射程内に入るまでじっと待つ。
 ……ようやくだ。
「おいでなすったな」
 待ちに待った風で、ミハイルが予備動作なく射撃を開始する。軽く、生き物にとって致命的な音が耳を打つ。
 灯璃も迎撃する。狙いは敵の馬の脚。
 銃撃の音が軽く重く重なった。
 それを敵の馬は「ぐい、」と避けた。重力も慣性も感じさせない、馬という生き物としては不自然極まりない動きだ。何らかの力が働いているのかもしれない。その後を荷馬車から弾幕が追いかける。
 猟犬に騎乗し、荷馬車と併走するエメラには、車中の猟兵たちより敵の動きがよく見えた。
「……本当に単騎で来るのね」
 敵は射撃を避けながら、大きく先回りをするつもりか。エメラは荷馬車との間に割り込むように猟犬を走らせる。
(「ここまで来た以上、後は仕事を完遂するだけよ」)
 脳裏に思い描くのは、この広い戦闘区域の後方。そこに支援用の砲台を展開する。
『この場は既に我が陣地(シェリングテリトリー)』
 100を超える小型の戦闘用【魔導蒸気砲台】が形を取り、同じ標的に狙いを定めていく。
 その設置位置は巧みに計算されていて、標的は自然と「ジャコバンの操る荷馬車を追うルート」を辿ることになるだろう。
 ……こちらの激しい攻撃に「一時撤退」となってもらっては困るのだ。あくまで、囮に食いついてもらわなければ。
「ここは既に、私の砲撃陣地よ」
 仲間の攻撃を邪魔することのないよう敵をしっかりと眼中に収め、エメラは攻撃を続ける。
 散発的な砲撃音が波状に近づいてくる。荷馬車の中で猟兵たちはその音を聞く。ものものしい前奏曲だ。
 それぞれが準備行動に入る中、リーヴァルディは屈みこんで荷馬車にある仕掛けを施している。指先を血で濡らし、床板にちいさく【常夜の鍵】の魔法陣を刻んだ。
 くら、とリーヴァルディをめまいのような症状が遅い、その頭が揺れる。
「……ん。短期間に変身し過ぎた」
 魔法陣のほかにも、自らの血で弾丸を作り上げていた。吸血鬼を狩るための、ダンピールの血で出来た弾だ。リーヴァルディはそれを二連装マスケット銃『Kresnik』に込める。
 撃鉄を引き起こし、車体の壁に開けた穴からリーヴァルディは銃先を向ける。
(「出し惜しみする訳じゃないけど……これ以上は最後の手段、ね」)
 迂回する敵の行動の先を見切り、呪詛を刻んだ弾を撃つ。
 まずは、敵の馬の脚を止めなければ。
 ネリッサは敵影の動きを念頭に、新手の存在がないかを確認する。
 なし。敵は一体のみ。
「騎兵ですか………恐らく、単騎で追跡してきたのですから、それだけ強力なのか、それともこちらに難民しかいないと高を括ってるのか」
(「どちらにせよ、排除するしかありませんね」)
 ネリッサが思うにこの逃避行は、ジャコバンを始めとした避難民を抱えているのがネックだった。御者としていまここにいるジャコバンも問題だが、難民たちの護衛をどうするのか?
 結局その役割は、いま、同じSIRDの美月が担っている。
 龍馬『ブロズ』に騎乗し、難民たちの本隊を護衛しながら、つかずはなれずでこちらの様子を窺っている筈だ。いざとなれば遊撃隊の役割を果たすだろう。
(「避難民の安全を確保する為……まずは出来るだけ引き離す……」)
 ネリッサは息を整え、召喚の言葉を紡ぐ。
『フォーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王、その使いたる炎の精を我に与えよ』
 飛来した炎の精は一瞬ひとつの球体の形にまとまり、直後花火のように散じた。宙に奔り、馬上の敵を多方向から追撃する。
 エメラの砲台と同じく、逃げ道をせばめる動き方だ。
 敵はまた何度か非常識な動きで攻撃を避け……突然、迂回の円軌道からはずれ真っ直ぐに荷馬車の側面へ。
 すんでのところをエメラの猟犬と、陽里のバイクが割り込む。機を逸した敵は、やや速度を落とす。
「ふ、ふわあああ」
 間近に急追の気配を感じたジャコバンの口から気の抜けた悲鳴が漏れる。
 おなじみの泣き言だ。御者台のジャコバンの隣に座って敵の攻撃に備えるレインは、強いて軽く勇気付ける。
「ジャコバン、男を見せるじゃないか」
 敵は――オブリビオンたる領主は、彼にとって長年仕えてきた恐怖の源だ。恐れるなと言っても酷だろう。だからレインはこう言うだけだ。
「貴方の勇気に、僕達は応えるよ。絶対に守ってみせる」
 身を乗り出し、視界に入った敵影に向けて先手の【ブレイジング】、仕込まれた射撃術での超高速連射だ。
 弾道が空に線を描いて、荷馬車と敵をつなぐ。
 まだ続くジャコバンの気の抜けた悲鳴を耳にして、イアも思わず微笑んだ。耳に心地よいとはけして言えないが、「微笑ましい」と思えるくらいには認めている。
「守るよ、あなたも、あなたの愛しいひとも。その営みのためにある方々を……必ず無事で、おかえしするよ」
 イアが視線を横に向けると、また徐々に荷馬車へと距離を詰めつつある敵が見えた。また側面からだ。
 イアはすっと指を伸ばす。指先は敵へ。その指を薄靄が包み、次第に硬さと鋭さを備えていく。
 死霊を紡いで出来た黒い槍……黒糸威(セレンディバイト)。
 荷馬車から黒い線がしゅん!と飛ぶ。命中。敵の馬の足が鈍る。
 ……馬上の騎士は姿勢を変えた。
 攻撃を受け続けるのに飽いたのかもしれなかった。
 前傾姿勢を起こし、長剣を引き抜く。これまた桁外れに長い。その刃先を馬車に向け、騎士は長剣をゆっくりと振り下ろし……はしなかった。
 騎士の手の中、剣は別種のものへと変じていた。
 赤く、はかなく、ひらりひらりと。
 血のように赤い、それは無数の薔薇の花びらだった。

●薔薇
 灯璃には見覚えのある色だった。荷馬車の底の目印の赤。
 なるほど、と思う。自身に属する何かを変じさせたものだったか。
 発現した薔薇は、はかなげな蝶の動きで馬車を追い、全体を押し包み、まとわりつく。
 変じても花びらは己の由来を忘れていない。ひとつひとつが、確かに刃だった。
 美夜は荷馬車の屋根を振り仰ぐ。とっさに壁面に触れ、衝撃波を荷馬車の外壁すれすれに走らせる。花びらの刃を完全には防げなくとも、すこしでも威力を削ぎたかった。
「絶対助けるんだから!」
 ぐるりと眼差しは御者台へ、必死の面持ちで鞭を振るジャコバンに向かう。
 赤い刃はそのか弱い男にも襲ってくる。いや、御者「を」狙っているのだ。赤の群れが御者台に集い、色と厚みを濃くしていく。
 レインは体全体でジャコバンをかばっていた。
(「カタリナのお腹にいる子を父なし子にするわけにはいかない。奥さんと子供に、大事な夫、大事な父親を絶対に返してやるんだ……!」)
 ひぃひぃと息を荒げて、それでもジャコバンは己の務めを果たしている。ここで敵を仕留めねば、彼の妻子は助からない。
 陽里は花びらの群れを蹴散らして、馬車の前方にバイクを寄せた。
 泣きべそをかいているジャコバンに笑顔を向ける。
「見直したぜ」
 御者台にいるのは昨日とは違う選択をし、行動した男だった。
 あんなにどうしようもなかった男を、いま皆が守ってやりたいと思っている。
「……さて、然と守ってやらねばならん。犠牲にさせてやる訳にはいかん。誓いを違えるなど許されないのでな」
 御者台を背にしてニコラスは立ち上がる。同胞たる黒い鎧が鳴る。想いは同一。
「我が身が盾である事に嘘偽りなど一つなく、故に我が写し身も正しく」
 ニコラスが手にした盾はヤドリガミたる彼の本体だ。【錬成カミヤドリ】で複製する器物として今、これ以上ふさわしいものはない。
 出現する盾はの数は20。手品師の繰るカードのように次々と空を滑り仲間たちを守る。
 ジャコバンには特別に四方と頭上に。
 自在に動く盾は、荷馬車を包む花びらの赤をそこだけ別の色で塗りつぶす。
 やがて赤い色は薄まる。荷馬車のところどころに切れ込みが見えるが、車輪も車軸も、人を乗せて走るのに必要な部分は無事だ。花びらの数を思えば、被害は軽い。
 幌の隙間から敵の攻撃の緩んだのを確認し、ティアリスは仲間に声を掛けた。
「ティア、いってくるね」
 そしてジャコバンの背中にも。
「だいじょうぶ。みんなのことはまもってみせる!」
 相棒の小竜に【騎乗】して、【勇気】を胸にひらりと荷馬車から飛び降りる。風を翼に受けた小竜は力強く飛翔する。
 赤い薔薇の花びらが、小柄なティアリスを狙って降りかかる。
 空中戦だった。
 【視力】【聞き耳】で【見切り】、小柄な体を生かして【目立たない】【残像】で攻撃を回避する。持てる技能すべてを使って、ティアリスは馬上の敵までの距離を一息で飛んだ。
 振りかぶるのは妖精の戦斧、単純で重く、ゆえに深甚なダメージを与える武器だ。
「ごーらい、いっせん!」
 自分と同じ背丈の武器を、踏み出そうとした敵の馬の脚めがけて叩きつける。
 土埃が舞い、細かな砂礫が周囲に飛び散った。
 馬は寸でのところでティアリスの大技を避けていた。これは敵の運が良かったと言っていいだろう。直撃を食らった地面はえぐれ、その範囲は飛び越すには大きすぎた。
 馬は前脚を高く上げ、後ろ脚で立つことで攻撃を回避した。動きは一瞬、完全に止まっていた。
 止まった的に銃弾の当たらぬ訳はない。
 さらに美夜が召喚した古代の戦士の霊が、炎を放ち、遠距離から敵の命を削りにかかる。
 途切れぬ攻撃に、ニハイルはにやりとした笑みを口元に浮かべた。
(「敵は強力とはいえ単騎、こちら側は頭数が多いのが大きなアドヴァンテージだ」)
 敵の足が止まっている間に、と荷馬車の速度が上がる。
 ……低い唸りと、高い嘶きが後背から聞こえた。
 土煙のなかからより力を増した馬が躍り出て、えぐれた大地をものともせず疾駆していた。

●馬
 嘶きを耳にしたジャコバンは目に見えて震え上がった。
「あ……あの馬は……普通じゃねえんだ……!」
「見たらわかるね」
 御者台までやってきて、律は軽く頷いた。馬が近づいてくるほどわかる大きさと勢い、これは別種の力の働きを受けているに違いない。
「そろそろ本格的に危ないから」
 律は懐から手帳を取り出した。『幻影の城(ゲンエイノシロ)』、触れたものを別の世界へ送り出す。律の取りうる手段の中で、一時退避としては最適解だ。
 ジャコバンも説明は受けていた。その表情の上で、安堵と不安、迷い、そして……猟兵たちへの心配と信頼とが交錯していた。
「すまねえ……頼む!!」
「うんうん、任されたのさ!」
 頭を下げるジャコバンに、ブクは首を縦に振って請け負う。己の胸を軽く打った後、『未来のパパ』の肩もぽんぽんと叩く。
「安全なところにいるといいのさ。家族のためにも、どうか無理と無茶はしないでね」「
「帰ってやらないとねぇ」
 ジャコバンがぺこぺこ頭を下げるさまがおかしくて、イアは笑った。
「逃げる番は、お仕舞だもの」
 心の中で付け足す。
(「ともる灯りに、安らげる、ように」)
 頼む!と言って律の手帳に触れたジャコバンが消え、荷馬車も止まる。
 戦場は車上ではなく地上へと移る。
 御者を無くした馬にとってこれ以上進む理由も義理もない。お役御免だ。
 しかし停止した荷馬車には、これから別の役目がある。
 がん!と物体が軋む音がした。荷馬車が内側に向けて巻き上げられるように形を変えていく。巻きこんでいるのはブクだ。
 無機物を身体に巻き込んで、ブクの大きさは倍になっている。
 敵の正面にブクは身を晒した。
「目には目を、歯には歯を。花びらには花びらを」
 ブクが手にしている武器は、スクラップを組み合わせて作ったものだ。その鉄屑が、生き物のように動いていた。
 ……否、植物だ。鉄屑は花を咲かせていた。咲いて散る。散った鉄屑の花びらは、向かってくる敵に鋭い切っ先を揃えていた。
「……毒々しい薔薇には散ってもらいたいのさ」
 馬は、方向転換も急停止も出来なかった。いくつかの鉄の花弁が肉を抉り、血が流れる。馬には、これまで立て続けに受けていた攻撃による疲労と傷がたまっていた。
 足が止まる。
 休息が必要と判断したのか、馬に無理をさせず騎士は降りた。ゆっくりと猟兵たちを万遍なく睨め付ける。こちらからは騎士の巨躯は鎧に覆われ、顔も見えない。
 発せられた声は、鎧の面頬から吹く隙間風のようだった。
「……罪人たちの逃げ方はおかしいと思っていた」
 猟兵たちを前にして、まだ余裕がある。
 律は言葉で気配を探る。呟きを問答に、少しでも長引かせる。
「罪人? 彼らがいったいどんな罪を犯したと?」
 近づいてくる。一歩が大きい。律の問い掛けへの答えと同じで迷いがない。
「この世界で明日を希った。それが罪よ」
 そう言って、異端の騎士は自らの足で地を蹴った。

●佇立
 狙っていた、と言っては言い過ぎだろうか。
 律には敵の動きが読めていた。
 『ペンは剣よりも強し』、【まるで10秒先の未来を見てきたかのように】対象の攻撃を予想し、回避するわざだ。
 カッン!!
 絶妙のタイミングで律は足を踏み鳴らす。同時に『レプリカクラフト』を起動。騎士の着地点に罠を仕掛ける。それぞれの技に必要なのはわずか数秒。
 自ら「草で結ばれた輪っか」に足を突っ込んで、騎士は大きく体勢を崩した。
 単純ながら効果抜群、騎士にとっては不本意極まりなかっただろう。
 何故なら受け身も防御も間に合わない――バイクで体当たりしてくる陽里に、なす術がない。
 陽里が変形させた宇宙バイクは先ほどまで機動力のある盾。
 そして今は高速の武器だ。
 だが騎士は恐ろしい手練れだった。受け身も防御も出来ない……ならば攻撃あるのみ、か。
 ひとまたたきの間に長剣の切っ先を陽里の顔へ据える。あとはバイクの速度と質量に任せようという腹だろう。
 すれ違うのは一瞬。
 切っ先が、陽里の顎先を通って行く。紙一重だ。
 バイクの速度と質量は、すべて騎士に叩きこまれる。等分の衝撃をくらったバイクは粉々に大破した。転がり落ちた陽里を、ニコラスの複製の盾が追いかけていく。
 爆発こそなかったが、衝撃は伝わる。騎士への被害を測ろうと目を凝らした律は、ふと、相手が手を伸ばせば届くほどの距離にいることに気づいた。
(「なるほど単騎で十分だ」)
 妙に冷静にそう思った。
 目に映る横なぎの一閃は、しかし律に到達する直前で遮られてた。
 ギャリィイ……と耳障りな音が羽音のように響く。
 盾だ。ニコラスだ。長剣と拮抗し、その場に押し留めている。
 守っているのだ。律を、ひいては律が隠したジャコバンを。
「盾たる本分、果たさせて貰おう」
 受け留めた長剣を盾でねじふせようとする。
 切り結ぶ。
 周囲の猟兵たちは迂闊に手出しが出来なくなってしまった。
(「近すぎる」)
 ミハイルはためらった。この位置からではどうあっても射線上に仲間が入る。
 そうして、一瞬攻撃を控えたミハイルの胴を……彼を守るニコラスの分身の盾さえも割って……わずか数歩で位置を変えた異端の騎士の長剣が貫いていた。
 ぐ、と奇妙な声が自分の喉から出てくるのをミハイルは聞いた。
 これはやばい、と冷静に呟く声もあった。込み上げる血で喋れなくなる前に、ミハイルは騎士と対峙する。
「……聞いたぜ? 手前の主だか客人だか知らねぇけど……すんげー悪趣味な賭けに……興じてるんだってな。奇遇だな。俺らも賭けをしててな……」
 血が口の端から零れ、浮かんだ笑みに凄みを与えた。
「………手前の腹ぁ掻っ捌いて腸引きずり出して、何色かってのをな!」
 この状況で何を言うのか、と騎士は思ったのだろう。
 その横腹に、ミハイルが使用するのと同じUKM-2000Pの乱射を食らうまでは。
 それはミハイルが瀕死になると召喚される戦場の亡霊。
 近距離射撃をまともにくらった金属鎧は歪み、一部が弾け飛んだ。騎士の巨躯を抉った弾が、血に相当する何かを飛び散らせる。
「ハ……あんまり……面白くもねえ色だったな……」
 騎士は長剣を引き抜いた。落下したミハイルの身体は、しかし地面に落ちる前に受けとめられている。
「間に合いましたね」
 龍馬『ブロズ』に騎乗した美月だ。
 囮の隊と敵が戦闘中なのを知り、本隊から急遽駆け付けたのだ。
 ブロズの胴に足をからめ上半身を大きく横に乗り出す体勢で、美月は両手にしっかりミハイルを確保していた。いったん後方に下がり、ミハイルの身体をゆっくり横たえる。
 血まみれの胴体を指してミハイルはきれぎれに尋ねる。
「これ……間に合ってるか……?」
「治療します。痛いですよ」
 もう痛えよ、という愚痴は『SSW式治療レーザー』を使用する美月に黙殺された。
 同じ個所に傷を負った騎士は。
 さきほど肉を貫き血を吸った長剣を掲げた。ぬらりと不吉に赤い。
 危険を感じながらも、仲間から注意を逸らすべくネリッサは炎の精を飛ばす。四方から襲いくる炎を、騎士は長剣の一振りで払っていった。

●血
 長剣にとって血がどのような存在か。
 赤く濡れ光るさまを見ればひと目でわかる。
 糧だ。
 糧によって威力を増した武器が、鋭く狙うのは盾――ニコラスだ。
 複製の盾が一撃で破壊され、ニコラスは飛び退る。
「邪魔な盾だ」
 ニコラスが下がった分を、騎士は一歩で縮める。先に盾役を壊そうというのだろう。
 その足がもつれる。くわ、と騎士の面頬の中の眼が赤く光る。下半身にむらがるモノを振り払う。
「いい子らだ。ご苦労さまな」
 イアが先だって派遣した【死霊騎士】と【死霊蛇竜】。ずっと気配を消していたのだ。機を待って、今がそのときだった。
 騎士の長剣の下で儚く消えゆく死霊をねぎらい、イアはからかうような声をかける。
「回り道は如何だったろ、追った羊に牙を剥かれる、心地は如何」
 偽りの轍跡を追う騎士を想像すると涙ぐましいものがあった。しかし領主の地位にある者が、何故単騎での追撃を行うのだろう?
 そこに……風が吹いた。
 行き先からの乾いた風だ。戦っている最中に気にするような風ではない。
 だが一陣の風は土煙をぬぐいさり、遠方に滲んで見える『隠れ里』をあらわにした。
 それを目にした騎士が、あろうことか一瞬手を止めた。一瞬といえど、戦場から注意を逸らした。
 律はここぞとばかり言葉を挟む。この敵はたぶん、意外と話好きだ。
「あの『隠れ里』を作ったのはお前だろう?」
 小癪な罠を思い出したのか、剣呑な光を目に宿した騎士は、それでも律儀に答えた。
「あれは我が慰め、秘したる庭。我よりほかは誰も知らぬ」
「『隠れ里』ならぬ『隠し里』だったわけだ」
 律が時間を稼ぐ間に、手傷を負った猟兵は体勢を整え、また別の猟兵は次の一手を探っている。
 ネリッサは騎士の答えにようやく納得がいった。
 「だから一騎」と。
 しかし配下にも領民にも誰にも知られず、思うことは何なのか?
「囮かな? 抵抗分子を一か所に集めて、潰す?」
「我が自ら手を下すのは、あれを望んだ大罪ゆえ。罪びとどもを、ひとつひとつ我が手でしっかり摘み取るため」
 この世界に望みなどない。
 願いは叶わない。
 夢見た明日は永遠に来ない。
 諦めてこれまで通り、過去に従うという義務を蔑にしたのが罪だと騎士は言った。
 ……誰かに似ている、と皆思った。連想したのはきっと同じ男だ。
 「この世に望みなどない」と、泣き言と文句を繰り返していた。
 イアはそっと首を振る。
(「それでもジャコバンは、カタリナと子供のためなら逃げることができたもの」)
 準備時間は充分だ。もう聞くことはない、とレインは思った。
 面頬からわずかに覗く騎士の瞳をハンドガンで狙う。目潰し狙いだ。
 ガッ、と一度頭部が大きくのけぞらせ、騎士はレインを睨む。口上を邪魔されたのがよほど不満だったか。
 騎士は長剣を振る動作を省き、肩口からの体当たりでレインを急襲する。
 みぞおちのあたりに強烈な衝撃と不快な痛みが広がる。しかしレインは下がらず前に出た。騎士のの懐に飛び込んでいく。さきほど銃撃を受けて鎧が剥がれた部分に牙を立て――(「こんな奴の血、欲しくはないけど仕方ない」)――「吸血」を試みる。
 ばっ!!と騎士は飛びのいた。レインの牙は獲物を見失う。
 恐れからではなく忌みの感情から騎士は牙を避ける。
「ダンピール!!」
 騎士は叫ぶ。いまの彼の主人たる吸血鬼への、何らかの強い感情が、巡り巡ってその一語に乗っている。
 レインはその感情と真正面から対峙した。
「僕は親の顔を知らない。……そんな辛い想いを、産まれてくる子に味合わせたくはないよ」
 はっ、と次の瞬間レインは下がった。気づいたのだ。
 騎士の鎧の背中側に、気付かれぬほど小さい血の痕が。
『……開け、常夜の門』
 それは弾丸に籠められた血で刻まれた魔法陣。空間の転移を可能にする技法だ。
 馬車に刻んだ魔法陣から【常夜の世界の古城】へ――そして敵の鎧に刻んだ魔法陣へ。
 騎士の背中から垂直にリーヴァルディが出現する。
 完全なる不意打ちの大鎌は、剥がれた鎧の内部を易々と切り裂いていた。
「おおおおおお!」
 力任せの反撃の前には、また複製の盾が滑り込む。
 高い音を立てて砕ける。それでもリーヴァルディには傷一つなく、また流された血の一滴もない。盾の本分は確りと果たしている。
「馬よ!」
 騎士は再度の召喚を命じていた。

●火
「ブロズ!」
 こちらも再びの召喚だ。美月は乗り手不在の馬の行く手を阻む。
 せっかくここまで追い込んだのだ。敵を逃がすのも、敵の攻撃力を増やるのも御免だ。
 エメラの猟犬も加勢した。
「さぁ、この絶望を止めるとしましょうか」
 猟犬の牙が馬を狙う。
 乗り手に使づけない馬は襲歩で跳ね、同じ地を駆けるものたちの攻撃を辛くも躱す。
 ――だから、空中からの攻撃は避けられなかった。
「みんなにてだしはさせない! ティアたちがあいてだ!!」
 ちいさな妖精が騎乗するのは小竜、動きの細かさに馬では太刀打ちできない。
 ティアリスが振り下ろした戦斧が馬の眉間に突き刺さる。
 高く悲しげに嘶いて、馬はどう、とその場に頽れた。
 その鳴声を耳にして騎士は失敗を悟った。
 手数の少なさ、技の種類の乏しさ。歯牙にもかけないできたことが今致命的な仇となっている。
 エンジン音がした。陽里のバイクだ。
「壊れたって直せばいい」
 あくまでからっと、湿気分ゼロの声で陽里は言う。再度の体当たりを狙ってバイクにまたがる。
 騎士がそちらに気を取られている隙に、灯璃は素早く影の群れを召喚する。貪欲な狼の姿をした群れは疾走して騎士の周囲に包囲の輪を作る。
 そんな相手に攻撃を当てるのは容易いことで、美夜は別に何かの技を使ったわけではない。
 隙を見て近付いて、槍で攻撃。これだけのことが、猟兵たち皆の連携のもとでは上手くいく。鎧のない、むき出しの傷口。何人の、そして何度の技がここまでにしたことか!
 突き刺さった槍に美夜は手からの電撃を伝わらせる。槍を伝わった電撃は何に遮られることもなく騎士の体内の奥深くを傷つける。
 これすらも、他の猟兵のための時間稼ぎ。
 数の多さ。連携の巧みさ。
 自分にはないこれらの要因によって、騎士は自分が倒されつつあることに気付いていた。
 最後まで呟く呪詛のような言葉は、すがるような響きを帯びていた。
「きのうより良い今日……今日よりもあかるい明日を願うなど……けして許されはしないのだ……」
 オブリビオンとは過去の漏出。
 ネリッサの目の前にいるのは、知識として知っていたことの実証だった。
「あなたの罪は、望みを捨てたこと」
 そしてひとびとに自分と同じように、望みを『自ら』捨てさせようとしたこと。
 ネリッサの放つ炎は静かに騎士に忍び寄り、足元からゆっくりと全身を焼く。
 騎士に反撃の力は残っていなかった。
 断罪の火に焼かれるように、炎はひとつの柱となる。
 ……やがて黒く焦げた炭柱はかすかな風に削られて、どこか遠くへと姿を消した。 

●ゆりかご
 乾いた風が吹き抜ける。
 斜面の草がなびいて波のような紋を描く。
 美夜はふう、と息を吐いた。一瞬前の激闘が嘘のように静かだった。
「……早いところ待ってる人達のところに戻って、安心させてあげたいわね」
「合図を決めてなかったな」
 原型をほぼ留めていないバイクを横たえ、陽里は空を振り仰ぐ。
 ダークセイヴァーは夜と闇に覆われた世界。それでも、わずかに晴れ間が覗く一瞬がある。
「何て合図?」
 美夜はどうでもいいことのように尋ねた。どうせもう使われることはないのだ。
「……『もう大丈夫』」
 それは使いたかったかな、と美夜は笑った。
 陽里は難民たちのことを思う。
「数日一緒に行動して分かった。この世界で2歩先3歩先を照らす光ってのは、猟兵の道先案内じゃなく、きっと難民各自の成長なんだ」
 これから彼らは協力し合い、生活を作り上げていかなければならない。だから猟兵たちの協力し合う戦い方を見てもらいたかった。
「この世界の希望のカケラになれれば幸いだ」
 そう言う先から、ジャコバンが現れる。猟兵たちの戦いの序盤しか見ていない彼は「終わったのか? 助かったのか!?」とやかましい。
 灯璃は念のため周囲を確認しつつ、ジャコバンの背中をぽん、と軽く叩いた。
「立派な背中見せてあげてくださいね………お父さん」
 まだ仕事は終わっていない。これから本隊を迎えに行くのだ。
 それから……。
 リーヴァルディは頭の中のリストをひろげ必要なものを確認する。
 大量の保存食と、救助活動用の物資。それから……。
「……ん。あれも、これも。戻るにせよ、新しい集落を築くにせよ、必要になる。役に立ててくれれば、それで良い」
 怪我人を癒し、処置を終えて、猟兵たちは本隊との合流を目指す。
 ブクは楽しみにしていることがあった。難民たちの安全を確認して、あらためて生まれた赤ん坊に「おめでとう」を言うのだ。
 あの騎士がいなくなった今、『隠れ里』の真実を知るのは彼らだけ。
「罠だった『隠れ里』を本物にしてやるといいのさ」
 自分の足で立って歩いていけるようになるまでの、希望のゆりかごとして。
 猟兵たちの目に、明日へ向かう車列が見えてくる……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月29日


挿絵イラスト