銀河帝国攻略戦㉒~誰が草薙たり得るか
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『アマルテア情報艦隊』および、『オロチウイルス突撃艇群』の無力化に成功した猟兵たちの活躍により、解放軍は、とうとうドクター・オロチのいる実験戦艦ガルベリオンを発見、攻撃を開始した。
攻撃は命中し、ガルベリオンは航行不能に陥ったかと思った、が――。
「ムシュシュ、そんなの効くと思った?」
ガルベリオンは即座に損傷を修復する。
こんな芸当が可能なのはドクター・オロチをおいて他にあるまい。
ドクター・オロチのオブリビオンとしても並外れた知力・策謀は一般人では対応が困難なことは明白だ。
誰がやる? 知れた事。
猟兵たちが、やらねばならぬ。
斯くて猟兵たちは、覚悟を決め、ドクター・オロチ討伐へと向かうのであった。
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「っと言うワケでぇ、ドクター・オロチを倒してきてほしいんスよ」
カラフル仕様のブラックタール、ノ・ノ(ノーナンバー・f05650)が猟兵たちへと向かい、言う。
「ウイルスばら撒いたり、船修復したり、器用なヤツですけどねー。放っといたら、めっちゃ危なさそうじゃん? じゃんじゃん??」
戦争の勝敗自体にはあんまり関係ないっぽくはあるんだけどねぃ。
補足して、くるくると傘を回す。
「奴さんとはガルベリオン内部の、実験室の一つで待ち伏せ、待機することになるぜ」
ドクター・オロチは、常に1体のみしか存在しないが、その力が尽きるまでは何度でも骸の海から蘇る性質を持っている。
しかし、短期間に戦力相当の回数だけ倒されれば、復活はできない『筈』なのだ。
ここでドクター・オロチを撃破する事が出来れば、『スペースシップワールドで再び蘇る事は無い』。
「筈、とか、スペースシップワールドで、とか、一々いやらしい言い方だよね。わかる、わかる。ンでも、ボクらもぜぇんぜん確証持てないから、そこは許してほしいって感じ~★」
ベチャチャとブラックタールは笑い。
ぴたりと、その笑いを打ち切ると、猟兵たちを振り返った。
「あ、忠告しておくよ。ドクター・オロチの正体が気になるヤツもいるだろうけど、それに気を割いて勝てる程、温い相手じゃぁなさそうだから」
戦うなら、自分の身を守ることと、奴に一撃喰らわせてやること。それだけに注力した方がきっといいぜ。
予知とは別に、そう告げた。
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●特殊ルール
ドクター・オロチは、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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夜一
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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お世話になっております。夜一です。
折角なので一つぐらいは乗っかっておくかと思い、戦争シナリオを出させていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
こちらのシナリオは、難易度で言えば【やや難しい】に相当するシナリオです。
場合によっては失敗する可能性もありますので、十分な備えで挑んで頂ければ幸いです。
●ご注意
普段は連携・アドリブ多めですが、今回は戦争シナリオという性質上、連携・アドリブ薄めになるかと思います。
ご了承の上、ご参加いただければ幸いです。
それでは、皆様の個性あふれるプレイングを楽しみにしております。
第1章 ボス戦
『ドクター・オロチ』
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POW : ジャイアントカルシウム
自身の身長の2倍の【恨みの叫びをあげる骸骨巨人】を召喚する。それは自身の動きをトレースし、自身の装備武器の巨大版で戦う。
SPD : カリスティックボディ
自身の肉体を【あらゆる生命体を溶解し取り込む緑の粘液】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ : ビャウォヴィエジャの森のフェンリル
【水晶剣が変形した門から『フェンリル』】の霊を召喚する。これは【炎の体を持つ巨大狼で、爆発を呼ぶ咆哮】や【瞳から放たれる魔炎光線】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
宮落・ライア
研究も出来て戦いも出来るって多才だなー。
【ダッシュ・見切り・激痛耐性・野生の感】で骸骨巨人の攻撃しにくい足元まで一気に接近する。
その時、致命傷(一撃打てなくなる)になる様なもの以外なら我慢する
骸骨巨人に近づいたことで死角から攻撃が来るようになると思うから
それは野生の感で対処(風切り音とか)
一撃叩き込める瞬間になれば、もう回避とかいらないね。
【怪力・覚悟・捨て身の一撃・薙ぎ払い・衝撃波・鎧砕き】【グラウンドクラッシャー】を叩き込む。
強いなー。
きっとボクはまた来るからな!
●VSジャイアントカルシウム
「ふ~、ひどいことするよねぇ、猟兵も」
過去の澱みが集積し、もう幾度目になるのか異形を形作る。
熊をモチーフにした真っ赤なポンチョ。その頭部は脳が露出しており、手足は機械のような装甲で覆われている。研究室内の薄がりの中、手に持った水晶がきらりと幽かな光を反射した。
ドクター・オロチはやれやれと首を振って、歩き始める。
カチャカチャと床を叩く硬質な音が響いた。
「研究も出来て戦いも出来るって多才だなー」
声に、音が止む。
異端の研究者の前に姿を現したのは、齢16歳程度の少女。
こんな状況でありながら、相手の実力を認める言葉を口にして、にかりと笑みを浮かべるその表情。言葉に、皮肉や揶揄の色はない。素直に相手の力量を認めているのだろう。
「あ~あ、まーた君達かぁ」
うんざりとした声が響く。少女は、屈託なく、シシシと笑った。
「ヒーローだからな! 何かを守るためなら、どこにでも現れるよ!」
少女――宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)は胸を張って応じる。
「ムシュシュ。ヒーローと来ちゃう? じゃあ、ヒーローくん。ボクを見逃してもらえるとうれしいんだけどな~?」
「まさか!」
少女が、自身の拳で手のひらを打ち鳴らす。パァンと乾いた景気のいい音が響く。
「お前を見逃すと、後々“守れないもの”が出て来るかもしれない」
少女の表情から、一瞬、笑みが消える。
快活だった真っ赤な瞳が、燃えるような、英雄のそれへと気配を変える。
「だから、ボクはお前を見逃さないよ」
深く、静かな呼吸。
すぅとヒーローの眼光が鋭さを増し、それがピークに達するや――ライアは地を強く蹴り、ドクター・オロチへと駆けだした!
「ま、知ってるけどね~」
しかし、猟兵の攻撃を予測したドクター・オロチはそれに先んじて、水晶剣を閃かせた。ライアを斬り裂くためではない、時空を斬り裂くために。
ぱっくり割れた空間の裂け目から、異形の倍の体躯を持つ骸骨の巨人が現れる。その手には、主と同じ形、けれどその大きさは幾回りも大きくなった水晶剣を持ち。
巨人の怨恨を詰め込んだ咆哮が、船内の空気をビリビリと震わせた。
(聞いていたとおりだ……でも、プレッシャーは予想以上だな)
巨人の剣の一振り。風圧ひとつで周囲にあった培養槽のガラスが一度に砕けて飛ぶ。
それはさながら散弾のように、ライアの体を斬り裂いていく。
「っ、このぐらい……平気だ!」
痛みに耐える。にかりと、傷ついたときでも英雄は笑みは絶やさない。
彼女の脚は決して止まることはない。
ライアの接近を得て、ドクター・オロチはジャイアントカルシウムの後ろへと下がる。こわいなぁ等と軽い口調で言いながらも、その様子はどこか楽しげですらあって。
返す腕で、二度目の巨大な剣が振るわれる。迫る轟音はいかに雑多な音に満ちた戦場であると言えど、聞き逃しようはずもない。
ライアは音を頼りに、攻撃の距離と速度を察し、振り返ることなく身を屈めて攻撃を避けた。
少女のしゃがむスピードについてこれなかった長い結い髪の先が幾らか短くなり、風圧で後ろに引っ張られそうになる。
だが、既に足元。
偶然にも、巨人の攻撃を堪えようと力を込め反らした体には、敵の攻撃の分まで勢いが上乗せされている。……決して、少女の体の負荷は易しいものではないが。
「いっ……く、ぞぉおおぉぉお!!!!!」
全身をバネのように、溜め込んだエネルギーの全てを掛けて、ライアは大剣を振り下ろす!
踏み下ろした起点となる足元の床が砕けた。
次いで、大剣を叩きつけた巨人の脚が粉砕され、バランスを崩した巨人は堪らず片膝をつく。
「……っはは、強いなー」
一瞬、少女の表情に戻り、ライアが笑う。
衝撃の反動が、彼女自身の体をも蝕む、が、
「きっとボクはまた来るからな!」
「ムシュ!? もう来なくていいよっ」
爽やかに一時後ろへと退く少女に、ドクター・オロチが思わず叫んだ。
成功
🔵🔵🔴
ナミル・タグイール
脳みそにゃーグロにゃー
オロチ…蛇要素はどこなんだろにゃ?
ウイルスでひどい目にあったからそのお返しをしてあげマスにゃ!
・行動
突撃にゃー!
UC【幸運を呼ぶ黄金の爪】で行くにゃー!
幸運バトルにゃ!技を盗まれてもお宝パワー【呪詛】までは真似できないはずにゃ?
相手の攻撃は気合で耐えるにゃ!何かが追加で来るって覚悟ができる分有利なはずにゃ。
狙えそうなら【捨て身の一撃】で相打ち覚悟で飛び込んで爪を当てるにゃ!
ナミルの爪はお宝パワー【呪詛】ましましデスにゃー!
きっと良いことが起きてくれると信じるにゃ!勝負デスにゃー!
●幸運のバトンタッチ
「次はナミルの番デスにゃ!」
入れ替わるように前に出たのは、ナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)だ。
金色混じりの黒い毛をふさふさと靡かせて、キマイラは両手の黄金に輝く爪を光らせた。
金と紫の目が、ドクター・オロチをじっと見る。
その脳内では、見た目が脳みそでグロにゃーと思っていたかと思えば、オロチという名前なのに蛇要素はどこなんだろにゃ? 等と、ネコ科らしく気まぐれにころころと思考が移り変わっていっているのだけれど。
さておき、今はそちらに気を取られている場合ではない。
彼女にはドクター・オロチに対する恨みがあり、今回はそれを晴らしに来たのだ。
「ウイルスでひどい目にあったからそのお返しをしてあげマスにゃ!」
先のエンペラーズマインドのコアマシン破壊作戦で、ドクター・オロチが作成したオロチウイルスに苦しめられたその恨み。ここで果たさでおくべきか。
猫を殺せば七代祟る。死んではいないが、猫の恨みとは恐ろしいものなのだ。
「突撃にゃー!」
ナミルは、輝く両爪を構えると、巨人目掛けてライアに続き突撃を掛ける。
力、戦いの場数、ともに修練を積んでいる彼女だ、自信があったのだろう――或いは、その自信が裏目に出てしまったのかも知れない。
敵の先制攻撃が来るという情報。それを、耐えられると踏んでの至極シンプルな特攻。
気合、覚悟、根性論も大いに結構ではあるだろう。これが通常のオブリビオン相手ならば。
だが、しかし――
「足はなくなっても、攻撃は健在だよ~?」
ドクター・オロチがナミルの方向へ向かってヒュイと剣を振るう。
ほぼ一直線に駆けたその軌道は、二度は通じない。巨大な剣の横薙ぎが、ナミルの柔らかな体を捉え、軽々と叩き飛ばした。
「に゛ゃ……っ!!」
壁に強かに打ち付けられて、キマイラの女は、ごほりとせき込んだ。口の中にじわじわと鉄の味が広がる。
並みのオブリビオンではない。
黒騎士アンヘル、白騎士ディアブロに純粋な戦闘力こそ叶わないまでも、この銀河帝国の執政官兼科学技術総監にまで成り上がった存在。それこそ、このドクター・オロチなのだ。
「ムシュシュ! ちゃ~んと使わないとだめだよ、こ・こ」
ドクター・オロチが自分の顔面を指さし、煽る。
晒され、生々しい色に艶めくそれが、どくりと蠢いた。
「……っ」
ナミルの猫目が、ぎっと、細められる。
――痛恨。恨みを晴らしに来て、更に恨みを募らせるなんてと、顔を歪ませる。牙で下唇を噛む。
だが、それで終わらせられるほど、潔くもないのだ。
ナミルは、よろめきながら立ち上がる。
確かに手痛い一撃だったが、体の柔軟さと毛皮は彼女の身を守り、培ってきた体力と体の強靭さは、紛れもなく彼女自身の修練の賜物なのだ。
それらが奪われたわけではない。だから、まだ、立てる。
「まだまだ……、ナミルの攻撃は終わってないデスにゃ!!」
ナミルの瞳が獰猛な獣じみた色を浮かべ、今一度、骸の巨人へと立ち向かう。
特攻、というより、突貫と言うべきだろう。
捨て身の一撃、それを確かに感じさせる気迫で、猫は敵の喉を斬り裂こうと手を伸ばす。
今度こそ、決死の覚悟をもって飛び込んだ敵の懐で、だが、ナミルの爪はドクター・オロチの身に軽い傷をつけただけに留まり、代わりに水晶の剣がナミルの脇腹をざくりと斬り裂いた。
「ざーんねんでしたっ」
言うオロチに、だが、ナミルの表情は決して悔しさの滲むそれではなかった。
「ウ、ヘヘ……」
よろめきながら、後退し、ナミルはじりじりと巨人と異形から距離を離す。傷口を押さえた手の隙間から、赤が滲む。
「ナミルの勝ち、デスにゃ」
当てれば、良いのだ。
当てればそれで、彼女の攻撃は決まっているのだ。ダメージの大小に関わらず。
「これで、きっと良いことが起きてくれマスにゃ……」
だから、
「後は――」
「任されました」
「任されたっす」
ぽすんと、倒れるナミルの体が抱き留められた。
苦戦
🔵🔴🔴
ビスマス・テルマール
●POW
○先制ユーベルコード対策
オロチのユーベルコードで召喚される存在の攻撃を物理的な遠距離範囲or範囲UCと仮定して、わたしのユーベルコードで
『武器受け』『大食い』『範囲攻撃』『オーラ防御』『見切り』『カウンター』を併用し、ディメイション・チョップスティックで『ジャイアントカルシウム』を掴んで食べ尽くします。
これで自己強化して鎧装を
ドクターオロチフォームに変形させて反撃に移ります
仲間と連携しつつ
『誘導弾』『一斉発射』『属性攻撃(なめろう)』『料理』『鎧無視攻撃』『鎧砕き』『早業』『2回攻撃』を併用して、ご馳走のお礼に、なめろう味の砲撃をオロチにお見舞いし続けます
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
未不二・蛟羽
【POW】
恨む…って、わかんないけど、恨む相手も違うしそっちは恨む側じゃ、ないっす!
パワーにはパワー、っす!
【野生の勘】でタイミングを計って、【怪力】で骨を真っ向から受け止めるっす
多少の怪我は【激痛耐性】で我慢っす
一瞬でも止まればいいっす、直ぐに【ブラッド・ガイスト】を発動
右腕を【捕食形態】である虎の爪に変えて、骨ごと喰らってやるっす!少しでも競り負けたら負け、【捨て身】のカウンターだからこそ、この一撃に賭けるっす!
相手に隙を見つけたら、ガチキマイラも合わせて食べ尽くすっす!
…何度も再生するってことは、何度でも食べれるってことっすよね?俺も、この刻印も、【大食い】っすから、思う存分暴れるっす!
●大物喰らい
「ナミルさん、もう少しだけ我慢しててください。すぐに後ろへ連れて下がりますから」
ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)がナミルに告げる。素早く彼女を手近な培養槽の陰へと一時的に避難させ。ナミルがか細く、にゃぁと鳴いた。
巨人の咆哮が再び響き、未不二・蛟羽(絢爛徒花・f04322)は顔を顰める。
「恨む……って、わかんないけど、恨む相手も違うしそっちは恨む側じゃ、ないっす!」
仲間を酷いめに合わされて恨んでるのはこっちっすよ! と、少年は叫び、ぐわんぐわんと振動の残る耳を片方押さえた。
「ムシュ、次から次に新手が来るねぇ」
二人の姿に、ドクター・オロチは水晶剣をポンポンと自身の手の上で弾ませて。
そんな偉業を振り返り、二人は堂々と言ってのける。
「そりゃもうとーぜん!」
「あなたを倒すまで!」
息の合った言葉に、ムシュシュとおかしげにオロチが笑う。彼のどこから発声が可能なのか、それは分からないが……。
「それで君達はちゃーんと策は持ってきた?」
先のキマイラのことを踏まえた揶揄に、二人の顔つきが厳しくなる。
両者、片足を一歩分前へ。腰を落として構えるその姿勢は、
「策なら、あります」
「決まってるっすよ」
疾駆するためのもの。ビスマスと蛟羽が同時に駆け出す。
「パワーにはパワー、っす!」
異形が大げさに、はぁ~と息を吐いた。
「猟兵の脳みそって解剖してみたら筋肉ばっかりだったりする~?」
駆ける二人の軌道は同じ。左右二手に分かれれば、まだ攻撃の手を分散させると言う目もあるだろうが、なぜ――。
敵としては願ってもないことだ。何せ、当てる的が一つで済む。
ドクター・オロチは、何気ない仕草で、ひょいと剣を高く掲げ、振り下ろす仕草をする。異形の行動をトレースして動く巨人もまた同様に……つまりは、ビスマスと蛟羽の頭上から、二人を押し潰さんと剣を叩きつける。
その真下を駆け抜けていく度胸は、並大抵のものではない。けれど、二人は横道に避ける予兆ひとつも見せはせず、ただ、只管真っすぐに……と、突然、
「ビスマスさん! 今っす!!」
蛟羽が声を上げる。
ギュイィッ!! 床と靴との摩擦音が響き、二人は同時に足を止める。摩擦による熱の匂いが仄かに立ち上った。
振り下ろされた剣を受け止める絶好の場所。蛟羽の野生の勘が探り当てたそこに寸分違わず立ち止まり、すぐに頭上を見上げ、二人は間を置かずに姿勢を整える。
ビスマスは手に装着したグルメツール【ディメイション・チョップスティック】を、蛟羽は素手そのままに。
鋭い剣は、直に受け止めれば、「痛い」ぐらいで済むはずもない。流星のようなスピードで、柱が自分たちにたたきつけられているようなものだ。
ビスマスの鎧が、二人の体中の骨と言う骨が、悲鳴を上げる。
「っく……!!」
「んの……っ!!」
それでも、その剣が二人を斬り裂かなかったのは、ビスマスのオーラ防御がその切っ先の鋭利さを和らげたからだろうか。
そして、重量の増した剣を受け止めることができたのは、二人がかりで挑むことができた【幸運】によるものが大きかったことは間違いない。
敵の攻撃が停止した一瞬の隙を逃さず、蛟羽がユーベルコード《ブラッド・ガイスト》を発動した。
【No.322】、その刻まれた刻印が捕食形態へと姿を変じる。現れたのは、虎の爪だ。
「骨ごと喰らってやるっす!」
捕食形態と化した刻印が、ベキバキと派手な音を立てて、巨人の武器を、そして巨人自身を喰らいに掛かった。
続くビスマスも、蛟羽からさほどの時間を空けず、受けた攻撃のカウンターとして自身のグルメツールで掴んだその剣を、水晶であっても関係ないとばかりに、喰らい始める。
「ムシュ!?」
さすがにこれには面食らったのか、オロチが驚愕の声を漏らした。その声にもお構いなしに、ビスマスと蛟羽は次々に敵のユーベルコードを喰らっていく。
ある程度喰らったところで、ビスマスが、手をぱちんと叩き合わせた。
まるで、いただきます、あるいは、ごちそうさまでしたとでも言うように。
「これがフードファイトの極みですっ!」『UC Armored!』
ビスマスの声に合わせて、機械音声が答える。その瞬間、ビスマスの鎧装が見る見るうちに禍々しいフォームへと姿を変える。
鎧の変化が終了したとき、そこには先ほどまでのビスマスの美しいマゼンタ色の鎧は白い、骸骨をモチーフとしたような鎧へと変じており。
「そして……これが新たな力! ドクターオロチフォームです!」
「おぉ! なんすか、それ!?」
ガツガツと巨人を喰らい続けていた蛟羽が一瞬、ビスマスの方を振り返り、瞳を輝かせる。
変身フォームといえば、何と言っても男の子の心を擽るギミックだ。ちょっと気になってしまうのは仕方がない。
「ドクターオロチフォームです!」
自信満々にビスマスが再びその名を繰り返し、
「それ、どっちかというとカルシウムジャイアントフォームじゃない?」
「あなたが技主だからいいんです! さぁ、ご馳走のお礼をお返ししますよ!」
ビスマスの鎧についた砲台がオロチへと向けられる。
喰われ掛けとはいえ、まだ半身程度は残っている巨人を盾にしながら、異形は何とかその砲弾の雨霰から逃れ。
「新フォーム、いいっすね。でも、俺も、この刻印も、大食いっすから、負けてらんないっすよ!」
思う存分暴れる気持ちが高まって、蛟羽が更に食べる勢いを増そうと、追加のユーベルコード《ガチキマイラ》を発動させようとする――気付いたビスマスが、叫んだ。
「蛟羽さん!! いけない!!」
「えっ?」
ドクター・オロチの特殊能力。
猟兵がユーベルコードで攻撃を行う際、彼は『先制攻撃』を打って来る。
「しま……っ!!」
“何か”が、蛟羽の脚を捉えた。
瞬間、焼き付くような痛みが、蛟羽を襲う。
「蛟羽さん!!」
ビスマスが叫び、蛟羽を捕らえたものと打ち飛ばした。解放された蛟羽が地面に落ちる。
多少備えていた激痛への耐性で何とか堪えているものの、掴まれた脚はずぶずぶと爛れ、酸をぶちまけられたような酷い悪臭を放っている。
「ぐぅ……っ。すみません、俺……!」
激痛よりも失敗に、蛟羽が顔を歪める。
「謝るのは後です。それよりも今は一度退きましょう!」
ビスマスが彼に肩を貸して、退く態勢へと入った。蛟羽はその手をそっと押し戻し、首を振る。
「俺は自分だけで大丈夫っす。ビスマスさんは、ナミルさんをお願いするっす」
退くときに連れて戻らなければならないのは、自分だけではないと青年は言う。その目に宿る意思の強さに、ビスマスはただ静かに頷いた。
「いや~、猟兵たちの何でもアリっぷりにはびっくりさせられるよねっ」
二人に食い尽くされた巨人が、ガラガラと緩やかに崩壊していく。
その足元に立って、そいつは二人に向かって首を傾げた。
「ムシュシュシュシュ……」
「さて、次は誰の番かな?」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リア・ファル
【心情】
ドクター・オロチ…危険な相手だ、逃がすつもりも無いよ
【事前準備】
実験室なら、防御に使えそうなモノを仕込もうか
消火栓やスプリンクラーをハッキングして、遠隔制御できるようにしたり
予めUC【銀閃・次元斬】で艦の装甲板とか、切り取っておいて
爆発範囲を限定するように、複数バリケードにしておこう
UC【召喚詠唱・楽園の守護者たち】で召喚した機械兵器達を
作ったバリケード毎に分散させて配置
【行動】
「フェンリル…! 凌いでみせる!」
炎には、水や消化液を使って妨害、爆発咆哮は、バリケードを利用して防御に徹しよう
なんとか凌げるなら、残っている機械兵器達で一斉攻撃
「さあみんな! 反撃開始だ!」
●VSフェンリル
仲間たち四人の戦いを眼前にして、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)はこくりと喉を鳴らした。電脳世界の住人として、プログラム以外で掻くはずのない汗が、つぅと背筋を流れるようにすら感じ。
(ドクター・オロチ……危険な相手だ)
心の中で、その想いを強くする。
可能であれば事前に様々用意をできればと思っていたリアだが、転送から、敵出現までの時間はそれほど長くはない。
消火装置やスプリンクラーの多少のハッキングまでしか手は回らず、バリケードまでは組むことができなかった。予定していた準備から考えれば万全と言うのは難しいだろう。リアは軽く、自身の艶やかな唇を噛んだ。
(でも、逃がすつもりは無いよ)
今からでも、バリケードを張れる。そう、仲間たちが身を挺して異形と骸骨巨人を食い止めている今ならば――、
それが仲間の、そして自身の助けになると判断し、リアが【銀閃・次元斬】で装甲を切り取り、バリケードを築きあげようとしたその瞬間、
「ん~。何か細工中?」
ドクター・オロチが能の顔を傾けて、覗き込むような仕草を取った。距離とすればまだ多少の余裕はあっただろう、しかし、彼の動きに合わせて、崩れかけの巨人がぐらりと傾ぎ、倒れ込む。
リアが準備した諸々の装置の半分を、ぐしゃりと潰した。バーチャルキャラクターと言えど、思わず息を飲む。
「ムシャシャ。ボクにも教えてよ」
オブリビオンは愉快げな様子で言った。
重ねてになるが、自身がユーベルコードを使う猶予があるということは、敵も同様、先制攻撃を行う機会があるということだ。
それは例えその攻撃の矛先が、敵そのものに向いていないのだとしても同じこと。
また、事前にユーベルコードで準備することが可能であれば、皆、戦闘前に強化や召喚等のユーベルコードを使うことができるはずだが、それはできない。
リアが認識を誤ってしまったとするのならば、そこだろう。
ドクター・オロチが水晶剣をタクトのように振るって、剣を門へと変え、リアの方へと歩み寄る。
カツン、カツン。
近づいてくる小さなはずの足音が、鼓膜に残るような気持ちになって、少女はぐっと自身の胸元を押さえる。
(だめだ! 気を強く持たなくちゃ……!)
普段はおっとりとした柔らかな表情を、きっと凛々しく引き締めると、リアは衣装の裾をひらりと翻し、残ったバリケードの陰へと身を滑り込ませる。
本来ならユーベルコードで召喚した小型戦闘兵器たちを隠す場所に使う予定だったが、どう足掻いてもドクター・オロチの先制攻撃を避ける術はない。今はとにかく、自身を守り、そこから反撃に転じるしかない。
足音が増える。
出現した門から召喚された炎の体を持つ魔狼『フェンリル』の爪が、硬質な床を叩く音だ。
冷え切った宇宙空間に浮かぶ船。その一室の熱量が跳ね上がる。
強敵だ。けれど、ここで退くわけにはいかない。
ぐっと、強く手のひらを握りしめる。
「フェンリル……! 凌いでみせる!」
神経を研ぎ澄ませて、その時を伺う。
フェンリルの脚が止まる。続く動作は二つに一つ、位置のバレているこちらに向かっての魔炎光線か、さもなくば――、
発声するための空気を吸い込む微かな、そして待ち焦がれていた音を、リアは聞き逃さなかった。
魔狼が声高く吼える瞬間に、リアは潜んでいたバリケードから跳び退いて離れ、ハッキングしていた消火装置とスプリンクラーを起動させる!
戦場にそぐわない優しい音を立てながら、雨のように水が降り注ぎ始める。
ただの散水装置では、魔狼の炎を消すのは難しいが、その攻撃を弱めるぐらいの効果はある。爆発の余波で、想定よりも遠くへ吹き飛ばされてしまったが、リアは怯むことなく起き上がる。寝てなどいられない。
「おいで、みんな。……今、ボクがやらなきゃいけないんだ……お願い! 力を貸して!」
同時に、ユーベルコード《召喚詠唱・楽園の守護者たち》で小型の戦闘用動物を召喚し、一斉にフェンリルへと向かわせる。
一人でドクター・オロチとフェンリルを凌ぐのは、決して容易いことではない。
だが、リアは逆境に追い込まれた中で、精いっぱいのできることを行ったと言えるだろう。
少女が、声高に仲間を呼んだ。
「頼んだよ、みんな! 反撃開始だ!」
苦戦
🔵🔴🔴
グルクトゥラ・ウォータンク
分かるなドクター、こいつは早撃ちじゃ。コイントスはない、正真正銘の早撃ちで、殺し合いじゃ。…抜くといい。抜いてみせろよドクター!!
そして邪悪なドクターとの勝負に見事勝ったわしは荒野の風を纏いつつ立ち去るのであった…。これ今度自伝に書くかの。
さて、オロチの攻略法じゃが、わしはウォーバイクの召喚で対抗するぞい。バイクと侮るなかれ、ビッグガジェットボールズを素材にしてるお陰で完全に自身を覆い密閉形態になることも出来る。生命体を溶かす攻撃でもガジェットは早々溶かせんじゃろ。あとは召喚までの隙じゃが、ガジェットアームズで【盾受け】するぞい。初撃じゃ、初撃を受け止めバイクを召喚することに全てを賭けるぞい。
●VSドクター・オロチ
「おう、次はわしじゃ!」
リアを追撃しようとしていたドクター・オロチの注意を引き付ける大声が響き渡る。
それは魔狼の咆哮にも匹敵するような、けれど、魔狼の声に溢れるような禍々しさは一切ない、快活で、天空震わす雷のような男の声。
グルクトゥラ・ウォータンク(サイバー×スチーム×ファンタジー・f07586)が、単身、前へ。
遠慮も躊躇もなく、ずかずかと進んで行く。まるで魔狼の遠距離からの攻撃など怖くはないと言うように。
ドクター・オロチは、一度ちらりとリアの逃げる姿を目に留めたものの、追撃の手を止め、グルクトゥラの方へ向き直る。
「分かるなドクター、こいつは早撃ちじゃ」
対峙した異形に向けて、グルクトゥラは徐に言う。
「正真正銘の早撃ちで、殺し合いじゃ。……抜くといい。抜いてみせろよドクター!!」
挑発。
グルクトゥラの言葉は、どう聞いても誘導だ。オロチはケタケタと笑い声をあげる。
「ムシュシュ、早撃ちね。君達が必ず負ける早撃ちなわけだけど……策はあるのかな?」
「それはどうかのう。結果は何れ出すわしの自伝に乗る予定じゃ、後日確認するといいぞい」
ドワーフの青年はニカリと歯を見せて笑いを返す。
他愛なく聞こえるこのやりとりの内に、既に戦いにあるべき火花の散るような緊張が生じ始めていた。
早撃ちのカウントは既に始まっている。
「自伝。ムシュ。それも興味はあるけど、生きて帰れなきゃそもそも書けないってことは――分かってるかな!?」
来る!
グルクトゥラがユーベルコードを発動する!
だが、ドワーフがウォーバイクを召喚しきるより早く、変幻自在と化した異形の両腕がグルクトゥラ本体を融解させようと一瞬の間に伸び迫った!
「ぐっ、ぬぅ!!」
自身の右腕を盾代わりにし、コンマ数秒の差でグルクトゥラ自身のユーベルコードもその効果を完全なものとする。
《ガジェットボールズウォーバイク》、場に無骨な、彼自身の持っていたガジェットのデザインによく似た戦闘用バイクが出現する。
電脳妖精がグルクトゥラに催促するより早く、グルクトゥラは力づくで絡みついてくる触腕を振りほどき、バイクに飛び乗った。
手慣れた操作でガジェットを操作し、密封形態へと変化する。完全な防御態勢だ。だが――、
「ムシュシュ。確かにこれを崩すのは骨が折れそうだね。それで、その後は?」
振り解かれた腕をそのまま防御形態となったガジェットに一瞬纏わりつかせ、融かせないか試した後……確かにそれは難しいと判断したオロチが、ドワーフに球体の外から問う。
「知れたことよ!!」
駆動音も高らかに、グルクトゥラはハンドルを握りドクター・オロチへと一直線に突き抜けんとする。
召喚自体は成した。では、それからどうするか。
そう。防御に全力を傾けるグルクトゥラだったからこそ、攻撃に転じるための反応が一歩遅れたと言えるだろう。
ただその一歩は、この強敵との“早撃ち対決”にとって大きいものであることに違いはなかった。
異形は慌てず、研究施設の中に張り巡らせられたパイプの一つに自身の腕を伸ばし、絡め、収縮する。自身目掛けて猛スピードで迫るウォーバイクを、寸でのところでかわした。
上方から笑い声がこだまして……バイクが行き過ぎたところで、またしゅるりと蛇のように床に降り立とうとしたオロチは、
「ムシュ!?」
スプリンクラーの水で濡れていたせいか、パイプから触手が外れてしまった。
ずるりと滑り落ち、尻餅をついた。
苦戦
🔵🔴🔴
ヴォント・ヴィーヴィス
相手の正体も気になるところですが……こちらの手が読まれている(先制攻撃)のが厄介ですね
けれど。ここで引いたら失うものがありますから、僕も頑張りましょう
敵の間合いに入ったら、とにかく立ち止まらないことを意識
敵の攻撃も全力で避ける
もし宇宙バイクなど借りれたら借りたいけれど、どうだろう……
なるべく死角に入り込むよう移動
ナイフで敵を防ぎつつ、振り切ってから
魔力でできた蜂『バット・デイ』で反撃
狙うのは撹乱
「いいかい、敵の次の攻撃を妨害してきて下さいね」
蜂の群れを半分にし、半分はオロチ、片方はフェンリルが居たらそちらへ
口に飛び込む、毒針を刺すなどして毒に犯すことで仲間の支援になれば…
負傷の際は無理しません
(相手の正体も気になるところですが……こちらの手が読まれているのが厄介ですね)
ヴォント・ヴィーヴィス(人間の死霊術士・f00914)が、長い前髪に隠された目でドクター・オロチとフェンリルの様子を覗う。
スプリンクラーの水気で、長い前髪はぺたりと肌に張り付いて、引っかくように指で最低限邪魔にならないよう整える。
この一見大人しそうに見える青年は、先のドワーフが敵の注意を引いている間も、物陰を移動しながら慎重にドクター・オロチとフェンリルの死角へと回り込もうとしていたのだ。
(……フェンリルの対応も何とかしないといけませんね)
一体の死角に潜り込むことも容易いわけではないが仲間との連携で何とかなる。けれど、二体の死角に潜り込むことは困難さが段違いだ。
しかし、幸いにも音と影の幾割かは、起動した消火装置が紛れさせてくれたお陰で、ここまでの接近の機会を得ることができた。
そして、青年は思う。
ここで引いたら失うものがあると。彼は知っている。それは何れ、もしかしたら、彼の隠された瞳に映る光景となるかも知れないのだから。
「僕も頑張りましょう」
培養槽の陰、対象への距離およそ6m。既に敵の間合いギリギリの位置。
一度、二度、深く呼吸を繰り返してタイミングを見計らい――、
「行きます……!」
縁の下の力持ちを好む青年は、この時ばかりは縁の下から飛び出した。
「ムシュシュシュ。今度は追いかけっこかな?」
触腕がヴォントを捕えようと伸ばされ、後を追う。
水で足を取られそうになりながらも、ヴォントはオロチの周囲を大きく回り込むようにして駆け。
上半身に向かってオロチの腕が迫れば、身を低くしてかわし。
崩れかけた態勢への追撃がくれば、横に転がって更にかわす。
生命の埒外の存在たる猟兵であっても、徐々に徐々に、蝕まれるように脚は重くなっていくが、それでも青年は一瞬たりとも動きを止めない。
手にしたダガーで、迫る触手を斬り払い、紙一重で攻撃を凌ぐ。
先の戦いが瞬間の勝負であったとすれば、青年の戦い方は忍耐の勝負だと言えるだろう。
ほんの一瞬の、蜘蛛の糸のような、いつ生じるとも……あるいは生じないかも知れない機会を待つ。それは並大抵の精神力では耐え難い時間だ。
けれど、青年の覚悟が、決意が、ついにその瞬間を呼び込んだ。
迫る触手を払おうと青年がダガーを閃かせると、角度、敵の手の伸縮の度合い、様々条件はあったろうが、一際、ざくりと深く刃が肉を斬り裂いた。
「あいてっ!」
間抜けた声をあげて、ドクター・オロチが腕を引き戻す。
凌ぎ、耐え、捥ぎ取った完全な好機。ヴォントは瞬間的に速度を上げて敵の死角へと入ると、間髪入れずに《這い寄る蠱毒の怖い影(バット・デイ)》を呼び出した。
「いいかい、敵の次の攻撃を妨害してきて下さいね」
言葉かけは最小、最低限に済ませ、黒い毒蜂を飛び立たせる。
「ムシュ!? いたたたたっ、泣きっ面に蜂ってやつ!?」
スプリンクラーの水影に紛れて飛ぶ蜂たちは、期せずして異形とその従者への奇襲にもなった。
攻撃・毒ともに大きなダメージは与えられずとも、だからといってその存在は無視できるものでもない。体に纏わりつく虫たちを払おうと、触腕はそちらへと振るわれる。
十分な支援となるだろう。……とは言え、切り結んだ際に、あるいは自身を掠めて行った際に、じわりじわりと敵の粘液もまたヴォントを蝕んでいた。
(長居は無用ですね)
これ以上戦場に残るのは得策とは言えまい。
青年は素早く見切りをつけると、後を仲間に託し、速やかに後退した。
成功
🔵🔵🔴
バル・マスケレード
先制攻撃への対策は、俺の……〝俺達〟のUC。
軌道を先読みして、とにかく最初の一手を躱す。
が、伸縮自在の攻撃は初段を避けても軌道を変えてくる可能性があらァな。
だから初段を躱したら、まず伸びてきた粘液自体を狙う。
……粘液っつーコトは、液体だろ?
避け様に魔法剣『トリニティソード』を雷属性に切り替え
粘液に剣を突き立てて【属性攻撃】で電撃を流し込むぜ。
無機物までは簡単に溶かせやしねェだろ?
コレが効いたならそのスキに
【ロープワーク】で『久遠の《棘》』を敵本体に伸ばして巻きつけ
引き戻すことで一気に肉薄。
「ヒハハハッ! 伸縮自在が、テメエだけの芸かと思ったかよ!?」
雷の剣を、今度は直接その身にブッ刺したらァ!
三寸釘・スズロク
ボス級相手なんてガラじゃねーケド…
あのウイルス作っただとか、妙なワザも使うし興味あるんだよな。
何とな~く長い付き合いになりそうな気がするし、顔くらい見とくかってな。
まあ最初から人形遣わねーとムリだよな。しゃーない。
『エレクトロワイヤー』スイッチオン、『バーゲスト』起動…
…
何なんだよそのアタマに身体…気色悪ィな。
けど「生命体」じゃないモノなら溶かせねぇだろ?
緑の粘液はバーゲストを盾にして避ける。
多少取り零して喰らっても『俺』は構わねえ、『スズロク』は嫌がるだろうが…
射程距離まで近づくための一瞬の隙間ができりゃいい。
そのまま押し返して【首なし人形の戯れ】…ミンチにしてやるよ!
望むなら何度でもな。
「ボス級相手なんてガラじゃねーケド……」
先のオロチウイルス解析に関わった一人として……また、魔術と技術に関わる者として、『死』という概念そのもののウイルスを作り出した『ドクター』の称号を冠すオブリビオンに興味がないとは言えない。
三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)は、毒蜂に追われてわーわーやっているドクター・オロチを見て首を掻いた。
人を茶化すような言動。悪ふざけのような外見からは到底そんな大物には見えないが、これまでの戦いでその底知れない力は嫌と言うほど分かっていて。
(何とな~く、だけど)
スズロクが、トランクを床に置き、
(長い付き合いになりそうだな)
自身の指に装着している【エレクトロワイヤー】のスイッチを入れる。
「まあ最初から人形遣わねーとムリだよな。しゃーない」
この場面で出し惜しみするほど、スズロクは命知らずではない。仲間が稼いでくれたこの時間の内に、スズロクは目を閉じて速やかに準備を済ませる。
「【バーゲスト】起動……」
その言葉を唱えるや瞬時に全長2mを超える機械人形が組みあがり、姿を現す……と同時、スズロク自身の気配も変化した。
目を開いた男は、不機嫌そうな顔で目の前の赤い敵、そして炎の狼を見る。
丁度、二体は黒蜂をある程度振り払い終わったところのようだった。
「ムシュ~、ひどいめにあった! う~ん、毒は人にプレゼントする方がボクの性に合ってるんだけどっ」
ぶんぶんと頭を振り、そうして、現れた新たな人物に「今気づいた」とでも言いたげに、こてと首を傾いだ。
「それで、君が次の相手?」
気色悪ィアタマと、床に唾を吐き捨てて。破壊狂は人形と横並びに、ドクター・オロチの問いかけに応えようと立ち上がった、が――、
「おう、「そうだ。俺達がテメエの相手だ」
その言葉は、途中で遮られた。
多重人格者と異形の合間に割って入ったのは、仮面をつけた女だった。
「っはぁ!?」
思わず、青年が叫んだ。眉間に深々と皺が寄っている。
「あァ!?」
女の……恐らく、マスクの方だけが、スズロクの別人格へと返す。負けじと青年も食って掛かった。
「後から来て何横入りしてんだ、てめェ!!」
「横入りィ!? んなこと知るか!! チンタラしてる方が悪ィんだろォが!!」
マスクが言い返し、その宿主たる女はおろおろとしているという非常にシュールな図だが……ドクター・オロチはムシュムシュと笑いを零し、ぽんぽんと手で水晶剣を遊ばせながらその光景を眺めている。やがて、
「ん~。ま、ボクとしちゃどちらでも……二人一緒でも構わないけどねっ!」
がなり合う二人に向けて、同時に左右の腕を触手に変えて攻撃を始めた!
怒鳴り声が瞬時に止む。猟兵二人は、即座に左右の触手へと向きを変え、弾かれたように臨戦態勢に入る。
一人は自身の人形……無機物を盾に。触手がぶつかった衝撃で、粘液が飛散する。頬から、ジュゥと嫌な音が起き、青年はチッと舌打ちをした。
もう一人は、宿主の持つ未来視で見た攻撃の軌道からするりと身を離し、危なげなく。
(予想通り、「生命体」じゃないモノなら溶かせねぇみてぇだな)
青年はそのまま、人形を盾に半ば強引に距離を詰めていく。狙うは本体、ドクター・オロチだ。
マスクと女のコンビは走りながら、更に負い迫って来る触手に雷の属性を宿した魔法剣【トリニティソード】を突き刺した。
雷自体は想像よりも効いているように思えるが、何分、ユーベルコードを使用していない通常の攻撃だ。
(やっぱり直じゃねェと致命的なダメージは出せねェな)
ヤツに近づく必要がある――。
バルは、魔力を操り【久遠の《棘》】を顕現させる。鞭のように自在に撓り、魔力によって伸縮するそれを、ロープのように操り、ドクター・オロチの腰へと絡みつける。そのまま茨を巻き取り、一気に距離を詰めに掛かった!
「ヒハハハッ! 伸縮自在が、テメエだけの芸かと思ったかよ!?」
迫る。その切っ先が、届くかと思われた瞬間――、
刃と異形の間に、炎が飛び込んだ。魔狼フェンリルだ。まだ残っていた獣が、召喚主を庇おう動いた。
「チィッ……!! 犬が!!」
足りない。
オロチを仕留めるには、一人と一体では、手が。
では、更に一人と一体が加われば、どうか。
「まとめてミンチにしてやるよ! やれ、バーゲスト!!」
破壊狂の人格を宿した青年とその人形【バーゲスト】は、既にその塊を射程に捉えていた。
青年の声でバーゲストは両手についた鉤爪を大きく広げ、高速で回転を始める。回転により増した速度と勢いのまま、複雑に絡み合う敵味方の中へと踊り込み、フェンリルを激しく斬り刻んだ!!
魔狼が弾き飛ばされても尚、その勢いは止まらない。そしてバルも、また、《終焉》を施すために、宿主の手を前に……前に、伸ばす。
「ムシュ……!」
ドクター・オロチに焦りの色が浮かんだ。
雷と竜巻が迫る。
だがまだ、捕らえられたわけではない。オブリビオンは、回避しようと軟体化した体を後方のパイプに伸ばして、床を蹴り、後方へと飛び下がろうとする……。しかし。
“不運”とは、得てして起きてほしくない場面で起きるものである。
猫の呪いによって生じた理不尽なそれは、電脳の少女が撒いた水により発生し、ドワーフとの戦いの折に、既にその兆候は見えていたと言えよう。
“水浸しになった床は、よく滑る”。
異形の足元、不吉な音が、ギュイと鳴いた。
「あ。やば」
それは、結末にしてはあまりにも軽い声で。
「喰らっとけやァ!」
吼えるような言葉とともに、バルの剣が深々とその身に突き立てられた。元々頭から水を被っていた身に、電流はよく通り、体は麻痺し、一瞬身動きが取れなくなる。
そこに追撃がかかる。何重にも体を切り刻む、鋭い人形の爪――、
まずは一撃、
「か、はッ……」
蛇が呻く。更に、二撃、三撃と……ミンチに、屑に、塵になっても、その攻撃は止む事なく。
ようやく人形の回転が収束した頃には、誰が見ても明白に、戦いには決着がついていた。
青年は息を吐き、頬を拭う。体のあちこちに、融解液の付着した跡が残る。
それは、女とマスクも同様だった。
ともに戦った仲間たち含め、こちらの被害も決して少なくはないが、その上で何とか掴み取った綱渡りの勝利。
ドクター・オロチという謎多き存在は、猟兵たちの胸に何れまた相まみえるかもしれないという予感を残すが。けれど、それを感じて尚、彼らは皆こう言うだろう。
「いいぜ。好きなだけ蘇って来な。その度に俺達がくれてやるよ。テメェに、《終焉》を」
「望むなら何度でもな」
脳細胞の一欠片とて残さずに、
大蛇は骸の海と消ゆ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴