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銀河帝国攻略戦㉑~敵は黒騎士・過去たちの狂宴

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦 #黒騎士アンヘル

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●帝国秘匿宙域
 闇の中、漆黒の騎士が一人佇んでいる。
「よもや、我が喉元にまで辿り着くとは。解放軍は……いや」
 瞑目。
「我らの天敵、猟兵。その力を認めなくてはならないか」
 怜悧な声音である。だが彼の周囲を、赤黒いオーラが揺らめく。
 呪剣たちが震え、呻くような音が暗闇に響いた。

 瞠目。
「来るがいい、私の首を求めて。過去に塗り潰され、朽ち果てる覚悟があるならば」
 まだ見ぬ天敵たちへと言い放つ。
 それは、決然たる宣戦布告であった。

●解放軍某艦艇
 少年めいた見た目の賢者、ムルヘルベル・アーキロギアが本を閉じた。
「いよいよ大物相手の戦いである。然様、黒騎士アンヘル。
 銀河帝国の二大巨頭、その片翼に手が届いたのだ。オヌシらの働きによって」
 幾多もの艦隊と障害を乗り越え、解放軍はついにここまで到達した。
 敵はいま、傘下にある無数の艦艇のどれかに潜伏しているという。
「グリモアの力があればその位置を導き出せる。だが、敵は帝国の大玉だ。
 これまでのオブリビオンと同じと嘗めてかかれば、痛い目を見るであろう」
 敵は1体。それは黒騎士にとって最大の実力を発揮できるということでもある。

 相手はこちらの接近を知っている。つまり、確実な先制攻撃を受けるということだ。
 体力や腕力。
 速度や技量。
 知力や魔力。
 ユーベルコードは、大別すればこの三種類のいずれかに属するものだ。
「黒騎士アンヘルは、オヌシらの攻撃に合わせて手の内を変えてくるであろう」
 力ならば、虚空より蘇る過去の斬撃を。
 速度ならば、過去を蘇らせあるいは封印する三つの呪剣を。
 知恵ならば、過去の傷跡や病毒を甦らせるという搦め手を。
「それら敵の先手をどのように凌ぎ、どう反撃するか。作戦や行動が必要となる。
 無策で飛び込めばおそらく一撃だ。手数を増やせばいいというものではない。心せよ」
 賢者の表情は固い。それだけの強敵なのだ。

「加えて言えば、一度倒したとて彼奴は滅びるわけではない。
 骸の海にて力を取り戻し、また舞い戻ってくるはずなのだ」
 つまり猟兵は、復活するアンヘルを其処此処の艦艇で叩き、倒さねばならない。
 銀河皇帝を討滅する上で、割ける戦力には限りがある。だが。
「彼奴を野放図にしておけば、戦後に新たな災いをもたらすのは確実。
 オヌシらには、これまでの戦いで彼奴に思うところもあろう。
 ワガハイはそれを手助けする。ゆえに、決して油断するでないぞ」
 そしてこう続けた。
「"未来に対するもっとも良き予見は、過去を顧みることで得られる"。
 ……とある軍人の言葉だ。オヌシらの健闘を祈る」
 過去を乗り越え、未来を掴むために。
 決戦が始まる。


唐揚げ
 唐揚げです、まずはいつものから。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 では以下まとめです。

●目的
 黒騎士アンヘルの撃滅。

●敵戦力
 黒騎士アンヘル(1名。非常に強力)
 ただし敵は撃破されたとしても復活し、別地点に潜伏する。

●備考
 普段よりはそこそこ厳しめの裁定になると思われます。
 対策があればいい、というわけでもありません。じっくり考えてみて下さい。
 作戦が重要になるため、基本的に合同プレイング以外は単独採用する予定です。
 リプレイは潜伏先の艦艇に突入したところから描写します。

 では前置きはこのへんで。
 皆さん、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『黒騎士アンヘル』

POW   :    消えざる過去の刃
【虚空から現れる『空間に刻まれた斬撃』】が命中した対象を切断する。
SPD   :    過去喰らいの三呪剣
【過去の鍛錬の経験を封じる白の呪剣】【過去の戦闘の経験を封じる黒の呪剣】【戦うに至った過去を封じる灰の呪剣】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    記憶されし傷痕
【対象の肉体】から【過去に刻まれた傷跡や病痕】を放ち、【一度に再現され肉体を蝕む出血や疾病】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●秘匿領域内:某艦艇
 明かり一つない暗闇の中、赤黒い闘気を纏う敵が一人。
 ただ一人。……にも関わらず、充満する殺気はそれ自体が致命的である。
「……そろそろ頃合いと見えるが、さて」
 黒騎士アンヘル。帝国の双翼、過去を操る強大なオブリビオン。

 彼の予測は、まさにその直後に現実となった。
エミリィ・ジゼル
先制攻撃ですか。はあ、面倒ですね
では時間止めますね

というわけで開幕早々に《時を止めるメイドの術》を使用。
相手がどんな素早い攻撃をしてこようと、時間を止めてしまえば意味がありません。

そして時間を止めたら距離を取り《黒歴史を暴くメイドの術》でアンヘルの恥ずかしい過去を暴露します。
シリアスキャラってギャグ堕ちさせたくなりますよね。

相手が動揺したら《サメを呼ぶメイドの術》でサメの群れをけしかけてフィニッシュ
おら!サメの餌食になって死ね!

黒歴史がなかったら?
そうですね、仕方ないので時間停止中の無抵抗な間に《とじこめるメイドの術》で更正施設送りにでもしましょう。



●エミリィ・ジゼルの場合
「なるほど」
 黒騎士は感心したように言った。まことユーベルコードとは多彩である。
「時間を止める。そのようなユーベルコードもあるのが何より驚きだ。
 いかな使い手であれ、そもそも動かないのでは攻撃も防御もしようがない。
 ふむ、過去を蘇らせ封じる私の剣術とは、ある意味で似ているようでもある」
 顎に手を当て、思案しながらもそう語る。
 天敵たる猟兵の襲撃、いやそれどころか当人を前にして、長々と語る余裕……。
 いかに黒騎士と言えど、そんな余裕は普通はありはしない。

 戦闘が成立していれば、だが。

「さて。色々と興味は尽きないのだが、私はもはやそんな立場にない。
 追い詰められている、というべきかな。君たちには常に本気で臨むつもりだ」
 滔々と語る。その目線の先、血溜まりが生まれていた。
「どうか私を恨まないでくれ。……ところでまだ喋れるのかな?」
「かは……」
 エミリィは何かを言おうとした。"なぜ"、あるいは"どうして"だろうか。
 黒騎士は小首を傾げる。血溜まりはエミリィの足元に広がる。
 彼女の胴体には、併せて三本の呪わしき剣が突き刺さっていた。

 時間を止める。なるほど、さもありなん。彼の感心も納得できる。
 どれほど素早い剣でも銃でも、それこそ光線ですら、時間が止まれば意味をなさない。
 だが黒騎士は単独であり、これが彼にとって最優の領域であり、以て彼は油断を捨てている。
 いかなる攻撃が来ようと先手を取れるよう、気力を漲らせ殺意を充満させている。
 その相手に『攻撃が放たれ命中する前に時間を止められる』という確証はない。

 なかった。
 その結果がこれである。
「アゴニーフェイスに関する君たちの戦いぶりは私の耳にも届いている。
 あれを凌駕するほどの猟兵の生存本能。迂闊に藪をつつきたくはないものだ」
 ゆえに。
 黒騎士は残る言葉の代わりにエミリィに手をかざす。
 呪剣がさらに深く突き刺さり、彼女の身体を空中に浮かび上がらせた。
「が……っ!?」
「誘い出されても困るのでね。手荒くなるがどうか許してくれ。では、さらばだ」
 そして呪剣は、エミリィの身体もろともまっすぐに外へ飛んでいった。
「……いやまったく。ユーベルコードとは実に、多彩だ」
 はるか彼方で、エミリィの身体が地面を転がる音。
 黒騎士は瞑目し、殺意を張り詰め意識を研ぎ澄ませる。
 静寂とともに、再び闇が訪れた。

 待機していた猟兵に救出されるエミリィ。
 彼女は反撃としていくつものプランを練っていた。
 だが黒騎士は練達である。アドバンテージは圧倒的にあちらのものだ。
 状況に応じ、手の内を変える……その自由は、彼の手中にある。

失敗 🔴​🔴​🔴​

ユエイン・リュンコイス
戦闘は機人メインで…とは言っていられないね。こちらも体を張ろう。

選択UCは【SPD】。対応する敵UCに対して、こちらも【叛逆せよ~】で相殺を狙うよ。最悪、呪剣のどれか一つに狙いを絞ってそれを封じる。全て命中すれば、こちらの手札を縛られかねない。使えそうな技能は全て使おう。
無論、それだけでは抗しきれないだろうからね。機人を前に出して【絶対昇華の鉄拳】での押し込み、【ミレナリオ~】での相殺も試みる。本当に最悪の場合には【オペラツィオ~】で一か八かのカウンターだ。

攻撃面では【ガジェット~】で武装し攻めたてる。繰糸を切られぬよう注意。切られた場合、ガジェットなり腕を突っ込むなりして直接機人を操作する。



●ユエイン・リュンコイスと黒鉄機人の場合
 いまほど、自分が人形でよかったと思ったことはないだろう。
「……生身の人間だったら、とっくに心臓が破裂していただろうね」
 ユエインは、傍らに立つ機人を見上げ苦笑した。
 緊張、不安、恐怖。それらが綯い交ぜになり少女を包んでいた。
 だが己は一人ではない。黒鉄機人がいる。
「そして、斃れた人々の力がある。……大丈夫、やれるさ」
 ユエインは己に言い聞かせるように呟く。そして首を刎ねられ死んだ。

「え」

 いや、錯覚だ。"首を刎ねられ死んだ様"を幻視するほどの、殺気。
 『奴』だ。黒騎士アンヘル、奴が来た。
 これほどの殺意を放射しながら、あれは悠然と歩いているのか。
 どこだ、どこに居る。神経を尖らせろ、心を強く保て。臆するな!
「黒鉄機――」
 糸を手繰ろうとした。その片腕に白の呪剣が突き刺さっていた。

 ――過去を封じる。それが一体どういう現象なのか。
 実際のところ、それを完璧に想像出来ているものは殆ど居ないだろう。
 ユエインもまたその一人。だから、彼女は最初、安堵を覚えた。
 ダメージは大きい。激痛もすさまじい。
 だがこれだけなら耐えられなくもない、彼女はそう思考し――。
「……あ」
 無事なもう片手で糸を手繰ろうとした時、真にその意味を理解した。
 あれほど学習し、鍛錬し、繰り返してきた糸操りが。
 身体に染みついた動作があまりにも覚束ない。
(これか。これが"過去を封じる"ということなのか)
 背筋が凍る、という言い回しはこういう時に用いるのだと彼女は識った。
 そして恐怖を識った。これならば悪夢のほうがまだマシだ!
「う、あ……あああああっ!」
 少女は吠えた。結果としてそれが功を奏した。
 背後から現れた黒の呪剣が片足を串刺しにする。
 すでにその時、彼女の力は解き放たれていた。

 少女の形をした人形の叫びは、いくつもの残響と重なった。
 闇の中に放り出されたような恐怖は、いくつもの残滓と混ざりあった。
 虚空より無数の武具が現れ、少女の周囲を荒れ狂った。
「黒鉄機人――頼む。頼む、動いてくれぇっ!!」
 少女は祈った。まるで力なき、か弱き生娘のように。
 応報を願いし者達の祈りがそれを後押しした。そして奇跡を起こした。

 ゴォウウウン――!

 真正面より来たる灰の呪剣。黒鉄の機人がそれを迎え撃つ。
 無我夢中で糸を手繰る。技術も経験もない。想起できないからだ。
 刺突。拳で弾く。
 横薙ぎ。左腕を犠牲に防ぐ。
 逆回転からの袈裟懸け。あえて受け――峰を、右腕で握る。
 絶対昇華の鉄拳。右拳が赤熱化し、灰の呪剣を熱する。
 熱して――そして、砕いた。
 砕いた! 二刀を受けど三の太刀、これを凌いだ!
 そして見た。悠然と来たる孤影。形持つ暗黒の如き騎士。
「黒騎士……」
 ユエインは乾いた喉で呟き、恐怖を怒りで塗り潰す。
「黒騎士、アンヘルッ!!」
 ――敵は、目元をにこりと緩めた。少女の怒りは限界を超えた。
「ぐ、ぅう……ああああっ!」
 足に刺さった呪剣を無理矢理引き抜き、少女は跳んだ。
 機人と無数の残骸がそれに続き、心の炉に残滓と残響が焚べられた。
 応報を。外道に叛逆と報復を。我らの祈りよ届きたまえ!
「白き指先、繋がる絹糸! 振るわれるのは――」
 再び昇華の鉄拳が煮え滾る。この怒りを、憎悪を叩きつけねば!
 黒騎士は佇みそれを見返した。少女と機人はともに吠え、肉薄する。

 そして、不可視の斬撃が彼女達の全身と絹糸を切り裂いた。

「……かはっ」
 吐き出した血が黒騎士の相貌を汚す。
 あと数センチ。たったそれだけ、しかしあまりに遠すぎる距離。
 右拳はだらりと下り、担い手もまた膝を突きうなだれた。
「いい貌だった。戦士の貌だ。造り物の体に魂の気迫、実に面白い。
 彼が――白騎士ディアブロが知れば、きっと称賛しただろう」
 怜悧な声が言い、指先が己の顔を拭う。黒騎士は無傷である。
「そして過去に散った者達の力を、その慙愧を借り受ける、か。
 同じ過去に由来しながら、私と君はまったく正反対というわけだ」
 呪剣たちがアンヘルのもとへ集った。灰剣の欠片もまた同様に。
「私なりの敬意を表しよう。見事だ人形君、名前を聞けないのが残念だな」
 ただそれだけ言い、黒騎士は再び歩みを始めた。
 足音が遠のいていく。

 少女の意識は、そこで途切れた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ピート・ブラックマン
過去に囚われるなんてまっぴらゴメンなんでね
さっさとテメェを片付けて行かせてもらうぜ

【バウンドボディ】を使って、近くの壁や床に身体の一部を貼りつけておく

突入は相棒のバイクに跨って派手に
勢い任せで隙だらけにみせるために、全速で宙を跳ぶように突入するぜ

相手は空中で動きがとれない俺を狙うだろうが、敵が剣を放った瞬間、
バウンドボディで伸ばした身体の一部を引き戻して、
進行方向とは真逆の方向に飛んで回避するぜ

回避だけじゃ終わらねぇ
バイク毎引っ張られながら、右腕のサイコキャノンで敵を狙う撃つぜ
【スナイパー】ってほどじゃねぇかもしれねぇが、これでも射撃に自信はあるからな



●ピート・ブラックマンの場合
『未』だ『知』らぬと書いて"未知"。嗚呼、いい言葉だ。
 ロマンに溢れている。だからピートは、未知が大好きだ。
 聞いたこともない知識が好きだ。
 見たこともない景色を想像すると血が滾る。
 食べたことのない味を堪能するのは至福の時間だ。
 嗅いだことのない花の匂いを想うこともある。
 触れたことのない風と、その行く末を考えるのは物寂しい。
 未知が好きだ。未来が好きだ。どこかを目指して旅することを愛している。
 彼はそういう男だった。今までそうして生きてきた。
 ゆえに。
「さっさとテメェを片付けて、次の戦場へ行かせてもらうぜッ!!」
 エンジン音を大きく吹かせ、ライダーは派手にやってきた。

「ほう」
 黒騎士はそのフォルムを認めたとき、短く吐息を漏らした。
 猟兵とは実に個性的だ。真正面からこうも潔く突っ込んでくるとは。
 ブラックタールはただでさえ理解が難しいものどもである。
 それがバイクを駆ってこちらへ突っ込んでくる。推察は困難を極める。
 ――と、思ったが。ああ、なるほど。
「よくわかった。君はいわゆる"大馬鹿野郎"というやつだ」
「言ってくれるじゃねえか帝国野郎! お礼に轢き殺してやるぜッ!」
「バカにしたわけではないのだがね」

 ギャリギャリギャリギャリッ!!

 古女房のジェーンが唸りを上げた。両者の間合いは瞬く間に縮まっていく。
 呪剣たちが浮かび上がった。すでに欠片が縫合し再び灰剣を形作る。
 マシンごと縫い止めてあげようか――いや。
 黒騎士の視線が先んじて上へとめぐった。そこにピートが追いついた。
(野郎、俺の動きは手の内かよ)
 減らず口を叩きながらも、バイクごと跳躍したピートは内心で舌を巻く。
 猛スピードで来たるマシン、ヤツはその脅威に些かも揺らいでいない。
(だがな――"こっちを見てる時点で術中"だぜ)
 ライダーは笑む。騎士は訝しむ。すでに剣は放たれていた。
「――っぐぅう!!」
「何」
 ピートは苦悶を漏らした。しかし黒騎士もまた疑問を漏らした。
 不可解である。攻撃が命中したことを疑問に思う戦士など、普通はいない。
 然り、普通は。つまり尋常でない事態が起きていたということだ。
 黒騎士はバイク諸共ピートを槍衾にするつもりでいた。
 そのために三刃を放った。そしてまず白が彼を貫いた。
 だが。『なぜ奴とマシンは真逆の方へと飛んでいる』?
 黒と灰が空を切った。黒騎士の視線がピートを――否、彼の跳んだ先を追う。
 ピンと張り詰めたゴムのような黒い一条の糸。否、喩えるならロープか。
 吸盤のような形で壁に張り付いている。ではその根本は――。
「貴様ッ!!」
「遅いぜ黒騎士ィッ!」
 すでに右腕は変異していた。串刺しにされたままの左腕で付け根を抑える。
 狙いを定めるには何もかも最悪の条件だ。速度、構え、ダメージ、そして過去の封印。
 だが。ああ、だが。鉄火場を潜り抜けた経験が彼を導く。
 彼の放つ弾丸を導く。敵のもとへと!
「――捉えたぜ」

 ZAAAAAAAAAAAAAAAPッ!!

「ぐうっ!!」
 奇しくもサイコキャノンの光条が貫いたのは、ピートが穿たれたのと同じ左腕。
 黒騎士は呻いた。然り、呻いた。
 ピートの放った超常の弾丸は、帝国幹部、双翼の片割れ、黒き騎士に届いた!

 ギャリ、ギキキキ――ガガガガッ!

 古女房が床にこすれて悲鳴と火花をあげる。ピートの半身もガリガリと削られる。
 構わず思考のトリガを引く。ひとつ、ふたつ、みっつ!
「やるじゃあないかブラックライダー、してやられたな……!」
 呪剣をたぐりよせ、サイコキャノンの追撃を切り払う。
 再びピートとアンヘルの視線が交錯。
 ロマンチストは己を強いて微笑んだ。
 過去の封印者は屈辱をこらえて睨めつけた。
 そして――退いたのはアンヘルである。
 ZAP! ZAPZAPZAP!! ……サイコキャノンの追い打ちは闇へと消えた。

「チィ、仕留めるとこまではいかなかったか……」
 スリップ事故めいた有様でなお、無骨な男は吐き捨てた。
 もとより捨て身、一撃に賭けた策である。これで殺(ト)れる確信などない。
 だが。
「こういう時ハ強がらなきゃあ、カッコがつかねえからなあ」
 遅れてきた痛みに顔をしかめ、煙をあげる相棒を叩いてピートは笑った。
 すでに傷口から呪剣は消えている。残された血痕はふたつ。

 黒騎士アンヘルに、猟兵たちの牙が一矢報いた瞬間である。

成功 🔵​🔵​🔴​

天御鏡・百々
過去を操るとは何たる力か
しかし、それでも戦後への禍根を残すことはできぬ
我が全力をもって、骸の海へと送り返してやろうぞ!

我はヤドリガミであり、この身は仮の体だ
その仮の体は過去の猟兵としての戦いにて刻まれた傷を再現されてしまうだろう
しかし、本体たる神鏡は神社に大切に祀られていたものだ
一筋の傷すらない本体まで縛ることはできぬはずだ

我が本体たる神鏡を敵が出現するであろう方向に向けて待ち伏せておけば
我が仮の体は戒められたとしても
本体から放つ「天鏡破魔光」によって反撃はできるはずだ

我を大事に扱ってくれた神社の者達に感謝するぞ

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、絡み歓迎



●天御鏡・百々の場合
 100年。
 ヤドリガミが生じるために必要とされる年数だ。
 その事実、そして時間に想いを馳せるたび、彼女は厳粛な気持ちになる。
(あるいは、このためにこそ我は生じたのやもしれぬ)
 うら若き乙女……否、幼子の姿を持つヤドリガミ、百々は考える。
 想いと過ぎた日々に報いることこそ、神と崇められた己の本分だと。

 そのためならばこの身とて惜しくないと。

「――ふ」
 童女の姿を捉えた時、さしもの黒騎士とて失笑をこらえきれなかった。
 待ち伏せていたのは子供である。年頃にして9、いや8といったところか。
 無論、女子供だから手加減するような手合ではない。
 ましてや相手は猟兵。穿たれた傷に関わらず、慢心や油断もなし。
「相対する我が口にすることでもないが」
 一方の百々はそう言い、顔を顰めた。
「なんたる殺気、なんたる邪気か。力も凄絶ながら、真に恐ろしきはその血臭よ。
 黒騎士アンヘルよ。貴様、その名を得るまでどれほどの屍を積み上げた?」
「数え切れぬほどに」
 手傷を負ってなお、黒騎士は怜悧に応えた。
「……やはり、貴様はここで滅さねばならぬ」
 いまさら口にするまでもない。オブリビオンを討つことこそ猟兵の本懐。
 だが、この男は。ともすれば銀河皇帝そのものよりも悪辣な禍根となりかねぬ。
 百々はそれを再認識し、端的に告げた。黒騎士は笑いもせず、ただ頷いた。
「さもありなん。であれば、私がどう応えるかもわかるはずだ」
 それこそ、百々は口にするまでもない。だからこそ二人はこうして言葉を交わしている。
 互いに必殺の圏内である。百々は物神なれどこの男を出し抜くほどの腕前はない。
 にも関わらず、奴がこうして口を叩いているということは――。

「ぐ、かは……っ!?」
 百々は目を見開いた。おお、これはいつかの百竜殺しの際に負ったもの。
 彼女の白い肌におびただしい数の傷が一気に現れ、血を吹き出している。
 しかし、彼女を真に苦しめたのは"疲労"だった。
 疲れ、と書くと些か拍子抜けにも思える。それが一時のものならそうだろう。
 されど彼女はヤドリガミ。未来を映す鏡と崇められた聖者である。
 代償を支払い、他者を癒やす光を振りまいてきた。
 ダークセイヴァー、見放せばすぐに滅びる村を癒やすために。
 あるいは別の世界で。それだけではない、神楽の舞を見せもした。
 それらの代償が一気に、一瞬で、同時に彼女を襲った。
「ああ、ぁ、ぐっ!!」
 記憶されし傷痕。黒騎士の力は触れずして対手を病ませ、傷つけ殺す。
「これまでの猟兵たちは果敢に挑んできた。ゆえに私は呪剣を以て相対した。
 だが見たところ、君はこれまでとは何か違う感じがしたのでね」
 アンヘルは淡々と言った。結果として、それは百々をして呻かせるほどの苦痛を齎す。
「君は私を禍根と言った。であれば私にとってもそれは同じ。
 皇帝陛下を悩ます者は一人でも減るべきだ。はじめはリスクを鑑みていたが――」
 呪剣の鋒が百々へと向けられた。
「私は黒騎士。ならばその名の通りに、君達を処刑すべきだろう。まずは君からだ」
 もはや黒騎士に獲物を逃すつもりはない。そして呪剣が彼女を貫くと見えた……が。

「ところで、君は一体どんな仕込みをしているのだね?」
「……!!」
 百々は地獄の中で呻いた。そこまで読んだ上で、あえて問うというのか。
 傲慢? 否である。自負だ。そして事実、奴はそれだけの腕前を持っている。
 仮にここに罠……たとえば爆薬でもあったとしよう。おそらくヤツには通じぬ。
 はたまた誰かが隠れて機会を伺っていたとしようか。これも通じまい。
「まったく何たる男だ、貴様は……」
 今にも命を失いそうな苦痛と病毒の中、百々は呟いた。悪鬼とはまさにこれ。妖魔の如き黒き騎士。
 だからこそ。
「……礼を云うぞ、者どもよ。お前たちのおかげで、我は役目を果たせる」
 黒騎士は訝しんだ。この小娘の他に気配などない。罠もない。
 いや、待て。気配はない? "この娘の他には"?
 ……この娘が"一人きり、一つきりの存在"だと誰が確言した!?
「まさか――」
「我が破魔の力、たっぷりと味わうがいい、悪しき者よ!」
 少女は叫んだ。そして光が黒き騎士を包み込んだ。天鏡破魔光!
 隠されし御鏡に、百年を閲してなお一縷ほどの傷も病もなし。

 光は強く強く輝いた。百々はその中で眠るように意識を失う。。
 やがて光が消えた時、悪鬼たる騎士の姿はどこにもなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紅呉・月都
お前何したらそんな呪詛塗れになんだよ
ま、こんなことばっかしてればそうなるか

【戦闘知識】を活かし放たれる刃の位置を予想、【見切り・残像】にて回避
回避不可能な場合は【怪力】による【武器受け・なぎ払い】にて相殺を試みる
反撃中の敵からの攻撃も同様に対応

【戦闘知識】を含む【鎧砕き・マヒ攻撃・気絶攻撃・2回攻撃・串刺し】等の技能をフル活用して反撃

【戦闘知識】が封じられれば【野生の勘】で対応
過去の経験に頼りっきりじゃ…どうにもなんねぇこともあんだよ!!
俺は猟兵だ…で、元“猟犬の牙”だ
この身体が動かなくても…支障はねぇ

・柄に三日月の飾り、赤みを帯びた刀身には細かい彫の入ったナイフのヤドリガミ
・アドリブ歓迎




「ぐ……」
 黒騎士の心中に渦巻く感情は筆舌に尽くしがたい。
 強敵への敬意、感服、憧憬。
 それらを抱くことの屈辱、羞恥、怒り。
 そして銀河皇帝への忠誠と、戦士としての挟持……枚挙にいとまがない。
「これが猟兵、か……我が艦隊の尽くを撃滅しただけは、ある」
 白騎士ディアブロも、おそらくすでに、あるいはこれから対峙するだろう。
 ドクター・オロチはどうだ。そしてきっと。
「皇帝陛下……」
 ありえぬ夢想と切って棄てるべき懸念である。だが出来ない。彼は痛感したからだ。
 猟兵の底力。一矢報いんとするその恐るべき執念と覚悟。
「なんとしてでも、なんとしてでも私は戦い続けなければならぬ」
 オブリビオン・フォーミュラたる銀河皇帝在る限り我が身はほぼ不滅。
 いや、そういう問題ではない。帝国の騎士、宣誓を立てし者として。あるじの下僕として……!

「……外道の者らしく、足掻かせてもらうとしようか」
 黒騎士は待ち伏せに気づく。そして目の前に青年が現れた。

●紅呉・月都の場合
「お前、一体何をどうしたらそこまでの呪詛まみれになるんだよ」
 赤髪の青年は開口一番にそう言った。
「詳らかにするにはいささか数が多すぎるものでね、語りきれないのだよ。
 ……なるほど、君もあの少女と同じ、人ならざるものか」
 満身創痍である。黒騎士の全身は焼け焦げ煙を上げている。
 だがなお彼奴は悠然と言った。纏う呪詛、殺気の重圧たるや。
「ああ、そうさ。猟兵であり、元・猟犬の牙。それが俺さ」
 黒騎士は月都の視線、口ぶり、わずかな身じろぎから伏兵や搦め手を思案する。
 ――なし。彼にはそもそも何かを隠そうという気概すら感じない。
「私と正面から渡り合うつもりか」
「あれこれ仕掛けるのは性分じゃねえんでな」
 しゃらん、と日本刀を構える。美しい刃紋を描く刀身と、赤い装飾が特徴的だ。
「私を相手に剣を、か。フ――いいだろう」
 黒騎士の周囲がどろりと濁った。そんな錯覚をもたらすほどの殺気である。
 両手に二刀、白と黒。残る一振りは灰色。 併せて三呪剣がカタカタと呻く。

(……とんでもねえ使い手だ)
 やりとりの間、彼は全神経を尖らせて隙を探ろうとしていた。
 皆無。それどころか"隙を探る"ために意識を割くこと自体が、己の隙になりかねない。
(伊達じゃねえなぁ。だが)
 あの手傷。あれを負わせるために何人の猟兵が斃れた?
 ならばここで臆してはならない。己の全てを活かして挑め。

 静寂が流れた。5秒か、10秒か、はたまた1分か。

 ぴしり、と。床に刻まれた罅が一寸伸びた。

 月都が先を得た。彼の意思に呼応し、周囲に現れる17の短刀。
 赤み帯びた刀身にはきめ細やかな彫り。柄になびく三日月の飾り。
 これこそ彼の本体。かつて猟犬の牙であったその証、その名残り。
 対手へ殺到させようとした。彼は返す刀で己が死ぬ様を刀身に視た。
「――なろォッ!」
 背後! 黒騎士が振り向きざまに黒剣を振るう。複製7つを犠牲に回避!
 敵の片目が緩んだ。――刺突。狙いは左脇腹、いや肋骨の隙間!
(刃を寝かせるたあえげつねえ!)
 像を残し、半身をずらしてこれを避ける。然り、彼は二刀を捌き切った。
「ほう」
「上から目線してんじゃねえぞッ!」
 好機! 彼は紅華焔諸共複製十振りを突き出そうとした。

 そこでふと思った。
(――なんで俺はここで戦ってんだっけ?)
 いや。否否否、この疑問は違う。これはこれがまさかいや自分は確かに先の先を――。

「が、はっ」
 腹部から灰剣が突き出していた。月都は瞠目し、呻く。
「化物、が……」
 相対する理由そのものを封じられてなお、刀の如き青年は睨めつけた。
 念動。複製十振りが同時に四方から黒騎士を襲う。
 今度は黒騎士が瞠目する番である。二刀で切り払う。だが一つが彼の肩を貫いた。
「ぐ、ぬ」
 野獣じみた凄絶な笑みで、月都は笑った。黒騎士は冷淡に見下ろす。
「名は」
「……紅呉、月都」
「刻みつけておこう。見事だ」
 黒騎士は剣を振り上げた。そこで月都の意識は途切れた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)

"砂嵐"と残像のデコイに紛れつつ速やかに敵に肉薄。敵に近ければ近いほどいい。
【迷彩+フェイント+ダッシュ+早業】

――迫る剣のうち、他の二本は刺さろうと一本だけは命を賭して避ける。痛みは耐える。
【激痛耐性】

(ザザッ)

兵士としての腕前と、過去の戦闘経験を封じられても。

……忘れない。
『僕』は、忘れるものか。

(この形を得た理由を。
お前達の様な虐げる物に反逆する為に得た身体を。
そして、約束を。
『もう一度だけ、勝負しよう』と言った彼の約束を。

こんな所で、僕は踏み止まらない。)
【覚悟+勇気】

……引き金(ボタン)は便利だ。
例え戦った事のない子供だって、簡単に引ける(おせる)から。
【零距離射撃】




 やはり猟兵は殺さねばならぬ。
 黒騎士は確信した。此奴らを生かしておくのは世界のためにならないと。
 然り、世界である。この世界は遍く銀河皇帝の威光に照らされねばならぬ。
 確定事項なり。己はその影として動く。それこそ黒騎士たる己の役目。
「まずは一人。我が天敵よ、さらば!」
 騎士は傲然と言った。そして剣を青年の頸へ振り下ろそうとした。

 その時、砂嵐が一陣吹き抜けた。

●ジャガーノート・ジャックの場合
 黒騎士は剣を振り下ろさなかった。代わりに旋風と化した。
 ぐるりと、すさまじい速度で反転。まず白剣を投擲する。
 砂嵐が吹いていた。その向こうにいくつもの像がある。
 否、デコイである。視えている。本体はその三つ向こう――命中。
「ぬん!」
 黒剣を擲った。灰色剣はすでに彼の背後を回遊している。
 砂嵐が濃くなった。いじましきかな、やはり視えている。10時方向距離50。
《――!!》
 ザリザリ。ノイズが漏れた。黒騎士は灰剣を――擲たず、己の手に取った。
 背後で斃れた者を見やろうと……否、無用。どのみち介錯は不能か。
 チ、と舌打ち。意識から彼を消し去り、砂嵐へ自ら飛び込んだ。

 時間はわずか8秒前に戻る。
《――…………》
 鋼の豹が蹲っていた。彼は見ていた。戦友が一矢報いながらも倒れる様を。
 鉄の鎧は微動だにしない。だがその内側は如何ばかりか。彼はただ見ていた。
 好機。好機を探らねばならぬ。彼奴の心の臓腑を撃ち抜く好機を。
 それが訪れようとしている。2秒経過。奴は剣を振り上げ、何かを言った。

 1秒後、身体が動いていた。
 "砂嵐"、展開。デコイ高速複製、即生成。2秒経過。
 剣が振り下ろされようとしている。豹は己でも驚くほどの速度で地を蹴った。
 1秒経過。騎士が此方を振り向いた。彼は鋼を纏っていることを今日ほど心強く思ったことはない。
 焼け焦げ、肩を腕を穿たれ、疲労してなお。あの眼光。あの殺意。
 1秒経過。迅雷の如き速度で擲たれた剣が、デコイごと己に突き刺さる。
 兵士としての鍛錬の過去が消えた。記憶に砂嵐がかかったかのように。
 1秒経過。すでに二刀目。避けようとした先に、置かれていたかのように刃があった。
 受ける。これまで積み重ねたいくつもの戦闘経験が砂嵐に呑まれた。
 脳裏にノイズが走る。ザリザリ。ザリザリザリザリ。

 ザリザリザリザリ。
 ザリザリザリザリ灰色剣がザリザリザリザリ彼の頸をめがけザリザリザリ。

《――忘れない》
 0.3秒経過。兵士は、否……豹は、否。少年は、言った。
『僕は、忘れるものか』
 この形を得た理由。こう在ろうと決めた理由。その根源、その根底の絆。
 約束を。あの日交わした言葉を。悪夢をすら乗り越えたその音を。

 ――もう一度だけ、勝負しよう。

 0.7秒経過。相対距離はいくつだ。5か、10か。まだだ、まだ。
 まだ!!
『本機(ぼく)は踏みとどまらないッ!』
 0.5秒経過。刃が迫る。0.4秒経過。刃が鎧を――否否否、踏み込む。そして!

 ZZZZZZAAAAAAAPPPPPP!!

 引き金(ボタン)はいい。自分のような、弱くて経験のない子供でも。
 ただ押せばそれで済む。こんなふうに、人殺しの牙を剥き出すことができる。
 それがとても便利で、快適で――そして、嫌だった。

 灰色の呪剣は、彼が『居た場所』を薙いでいた。
 一瞬。本の一瞬だけ彼は己の鎧を脱ぎ去り、そして纏った。ボタンを押した。
 熱線はアンヘルの腹部を劈き、騎士は驚愕に目を見開いた。
 任務完了(オーヴァ)。これで黒騎士はまた一人……。

 ――す、ば、ら、し、い。

 黒騎士のマスクから、そんな声が漏れ出した。
 同時に、鋼の豹は三本目の剣に鎧を貫かれた。
 振るわれた剣は、騎士の手を離れ背後から彼を貫いたのだ。
 兵士ならばその油断がなかっただろう。だが彼に兵士たる過去はない。

 彼は命を賭した。賭けに勝利し、チップは払い戻された。
 それでも、二度目のディールには勝てなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ロク・ザイオン
(健やかに育った。森の外に出るまで、ただの一度も病に体を冒されたこともない、が)
(それでも負ってきた小さな傷が、全身を苛むのだろう)

(【地形利用】。なるべく全体が見渡せて、攻撃の当たらなそうなところに陣取る)
(自分と周囲に向け全力で「生まれながらの光」。
自分が力尽きて光れなくなるまで。または目立った自分が墜とされるまで、己の、皆の傷と病を相殺する。出来る限り多くの者が動けるように。
長くは保たないだろうけれど。
一瞬だけでも、好機を)

おれは、ここにいるから。
キミたちの傷はおれが預かる。
だから、
(今度こそ。)
……任せた!


ネグル・ギュネス
チーム【アサルト】で参戦

【SPD】
黒騎士か。
悪いが、これ以上好きにはさせんさ!

ユーベルコード【勝利導く黄金の眼】を使用
放たれる剣の軌道、軌跡の未来を見極め、また周囲の風景に溶け込む【迷彩】と、自らの姿の【残像】で敵を欺く

剣を引き抜き、剣技勝負───は分が悪いのは理解している。
だから、隠し球さ!

隠し持った【ソリッドブラスターα】を向け、敵の手に氷の【属性攻撃】で固めて、さらに懐に忍ばせていた、桜の槍【カガリ】で敵の懐を打ち抜かせて貰おう!

最悪二発は貰ってやる、だが!
3発目は、私の一撃───いや。

『俺たちの』一撃だ。



【連携・アドリブ大歓迎】


ヴィクティム・ウィンターミュート
【アサルト】

さて…行くか。今回の敵は強い。油断はできねえ…気張って行こうぜ、チューマ

先制攻撃対策はユーベルコード。挑発はせず、ごくごく短時間の脳への【ハッキング】で思考を盗み見る。得られた情報は短い言葉で即座に味方に伝達。【ダッシュ】【早業】【見切り】を併用した高速機動で回避してやる。
全員が回避できりゃ、御の字ではあるが………。
もしも、誰かが食らってしまいそうになるんなら……俺は回避を放棄して、攻撃を庇いに行く。身体強化サイバネをフルに使用して、カバーリングだ。

そりゃ、俺だってな…くたばりたくはねえよ。けど、主役がいねえと舞台はそこで終わりだ。端役の犠牲一つでチャンスが作れるなら…やってやるさ


鳴宮・匡
【アサルト】


個人的な恨みはないけどな
立ち塞がるなら、それが「敵」なら、殺すだけだ

先制攻撃に対しては「回避」を試みる
【確定予測】で常に相手の動きを注視
【見切り】と【聞き耳】、【戦闘知識】も駆使し
僅かな目線の動きや呪剣の向き、相手の体勢から狙う箇所を予測
加えて、攻撃を放つ瞬間を狙っての狙撃で
狙いを逸らせるよう、やってみよう
早撃ち(クイックドロウ)も、できないわけじゃない

食らいたくはないが、二発までは当たってもいい
最悪、灰の呪剣だけでも回避する
……戦う理由さえあれば、俺はまだ銃を握っていられる

凌げればあとは、相手から目を切らないよう留意しつつ
僅かな隙を見切り、確実に「当たる」瞬間を狙って攻撃を




 鋼の豹は一つ思い違いをしていた。
 彼は戦友を見殺しにしかけた――出来なかったが――。ただ独りで。

 それは否だった。
 彼の孤独を、あの時口にした言葉の通りに見つめる者が居た。
 悲鳴(うた)が届いた時、彼女は立ち上がっていた。

●ロク・ザイオンの場合
「うう」
 文字にすれば端的な唸りであった。だが黒騎士は眉根を顰めた。
 そして見やる。己を見下ろす位置に立つ、緋髪の少年……いや少女を。
「好機を逃してわざわざ立ち上がるとは。ふむ」
 こほ、とアンヘルは咳き込んだ。マスクから血の飛沫が散る。
 重傷である。これまでの猟兵たちの戦いは、一縷とて無駄ではない。
 たとえ奴に一撃を与えられなくとも、立ち合いそのものが負担を強いてきた。
 ゆえに奴は傷ついていた。穿たれ、裂かれ、劈かれている。
「……うううう」
 ロクは唸った。足が震える。あれはなんだ、あれは人なのか?
 病葉であり、病であり、人……わからなかった。あんなモノを森番は知らない。
 それでもなお。ロクは唸る。唸りながら敵を見る。
「うううう……がぼっ」
 呪わしき喉の唸りは遮られた。彼女は動脈血を滝のように吐き出していた。
 触れられてなんていない。そのためにこの位置を選んだのに。
 ただ見られた。それだけなのに。彼女は拳大の血をまた吐き出した。
「っ、が」
「ずいぶんとおぞましい声だ。一体どうすればそんな声が出せるのかね?
 ……まあいい。君の傷と病は十分なようだ。死にたまえ」
 端的な言葉。
 ロクは赤黒い血の濁流に背筋を凍らせたが、それも赦されなくなった。
 傷である。全身いたるところ、無数の傷が開き、彼女を苛んだ。
「――――ッ!!!」
 悲鳴が漏れた。黒騎士はまたも煩わしげに眉根を顰める。
「まるで焼け焦げた鋼に人の骨をこすりつけているかのようだ。
 耳障りな。二度手を下すのは私の信条に反するのだが――」
 彼は呪剣を差し向けようとし、そして少女はかすかに、か弱く、瞬いた。
 哀れで、か細い光だった。それは傷を癒やすにはあまりにも弱い。
 倒れ伏したジャック達を、己を癒やすにはあまりにも。だが。
「ぐ、ぶ……っ、おれ、は」
「黙りたまえ」
「おれ、は……が」
 血を吐きながら少女は云う。笑わば笑え、嫌わば嫌え。言わねばならぬ。
 彼らは命を賭けた。ならば己もだ。この光を、言葉を、声を叫ばねばならぬ!
「おれは、ここにいる、から」
「……黙れ」
 舌打ち。黒騎士はよほど彼女の声が気に召さぬと見えた。
「みんなの傷は、おれが……あず、がる、から」
「黙れ!」
 剣を擲とうとした。輝きが増した。
 少女は咳き込み、目から血を流しながら、言った。
 ――だから。今度こそ。
「……任(まが)せ、た!」

 金。
 青。
 そして蒼が。
 その声に、応えた。

●ネグル・ギュネス、ヴィクティム・ウィンターミュート、鳴宮・匡の場合
 そもそも、その刹那に対応できた時点で、黒騎士アンヘルの技量は程が知れる。
 無論、悪い意味でだ。彼奴はそれに、その不意打ちに、襲撃に対応してみせた。
 誤算があるとすれば、まず一つ。敵は三人いたことだろう。
 二つ。彼らは一様に、呪わしき刃をいかに避けるかを黙考していた。
 三つ。結果は同じながら、それらのユーベルコードは異なる原理を有していた。
 超高速演算による近未来予測。
 神業的なハッキングによる思考盗聴。
 絶人たる五感を用いた読心術。
 それらは練達の技なれど、アンヘルならば後の先を取るのは可能であった。
 四つ。彼らは三方、まったく異なる方角から同時に行動を開始した。
 ……驚くべきことに、これでもまだ足りぬ。
 帝国をまとめし双翼、黒き呪いの剣士を討つにはまだ二手足りぬ。
 一手は猟兵たちが埋めた。彼らの戦いが、斃れた犠牲がそれを埋めた。
 では最後の一手は? それは如何に?

 六つ。
 彼らは。激怒していたのだ。

「これ以上、好きにはさせん! 黒騎士ィッ!!」
 轟と吠えたける亡霊よりもなお熱く、雄々しき咆哮だった。
 金の瞳は勝利を導き出した。ネグルは己に飛来した白き剣を避けてみせた。
「ああ、畜生畜生畜生! くたばりたくねえなあッ!!」
 冬寂を名乗るにはあまりにも騒がしく、けれど勇敢なる声だった。
 カウボーイは黒騎士の思考に触れた。そして黒を避け、灰めがけて走った。
「――任せた」
 彼は五感をフルに用いて、予測に予測を重ねて結論づけた。不可能だと。
 凪の海は呟き銃口を向けた。彼に来たる灰剣は、灰色髪の男が自ら受けた。

 バカな。
 黒騎士は生前、否、オブリビオンとなってからも一度とて口にしたことなき言葉を呟いた。
 ありきたりな言葉である。まるで古びた三文芝居の悪党のようじゃあないか。
 我は黒騎士、文句あるか。我こそは帝国の重鎮アンヘルなり。
 我が呪いの剣は獲物を過たず、たとえ避けられようと過ぎて去りしものを穿つ。
 あり得ぬ。万の兵とて、いかに巨大なる砲とて、我を捉えられはせぬ。
 皇帝陛下の他に置かれては。わが君、わが主、いと高きお方の他におかれては!
「バカな!」
 ゆえにアンヘルは再び叫んだ。それはあってはならぬ映像だった。
 彼に慢心はない。油断も隙もなく、己の力量への自負は適切であった。
 強者として振る舞うに十二分な諸々を揃えていた。築き上げたものがある。
 過去は我が味方であり、我がしもべであり、我が獲物。我こそは過去の支配者。
 穿つも封じるも、抉るも病ますも意図次第。控えよ、我こそは――。
「黒騎士アンヘルぞ。私は! 皇帝陛下より守りを任されし騎士なるぞ!」
「だからどうした」
 金色の瞳の男が言った。煮え滾り――冷えて固まった泥の下、なおも滾るマグマのような声だった。
 剣は彼方へ。アンヘルは不可視の斬撃を放とうとする。遅い。スピードが先んじた。
 だが彼も流石の一言。轢殺を避け呪剣を呼び戻さんとした。
 ――血反吐を吐きながら、か細くか弱く瞬く光が金の瞳を輝かせた。
 敵は剣を引き抜いた。否、フェイントである。黒騎士はそれを見抜いている。
 ゆえに。彼が引き抜いた、風変わりな銃に十分な警戒を置いた。
 BLAM。氷の礫。傷の深い左手をかざし盾とする。懐影から桜の槍の一突き。
 哀れなり。然様な種火に我は貫けぬ。再びの不可視斬撃、以て鋒を払い鋼体を抉る。
「ぐうッ」
 交錯が終わる。金の瞳は苦痛に呻き、されど燃え上がるほどに輝いた。

 何故。黒騎士は戸惑い、そして気づいた。うなじを突き刺すような鋭く細い殺意。
「お前はただの敵だ」
 凪いでいた。だが蒼の奥底に、黒き騎士は当人すら識らぬ澱みを視た。
「立ちはだかるなら殺す。俺は感情で引き金を引きはしない」
 BLAM。放たれた弾丸は3。ひとつ。凍った左手で受け、以て片腕が砕け散る。
 ふたつ。呼び戻した白剣が切り払う。だが凪の海に些かの揺れもなし。
 彼は守り抜いた。否、守られたのだ。おぞましき灰色の刃から。
 カウボーイは土手っ腹を串刺しにされ、しかしニヒルに笑っていた。
「痛え」
 血を吐いた。それでもヴィクティムは己を強いて笑う。耳と目から溢れる血。
「ああ痛え、畜生。死にたくねえ」
 たった一瞬、コンマにして刹那に等しい一瞬。彼は黒騎士という男の脳を視た。
 触れた。嗅いだ。味わった。聴いた。それが彼の脳を焼き切りかけた。
 たった一瞬ではない。一瞬"も覗き込んだ"のだ。なんだあれは、なんだこいつは。
 虚だった。黒き騎士の名にふさわしき虚があった。攫えたのはたった一つきりの事実。
「――奴は、灰色剣を引き戻せねえ」
「ああ」
 ヴィクティムと匡のやりとりはそれだけだった。
 匡は、己をかばった青年の犠牲に眉一つ動かさない。常通りに仕事をするだけ。
 そのはず、そのはずだ。だがまたしても……いや、いいか。今回ばかりは。
 引き金はすでに引いた。だから信条には反しまい。もう十分なのだから。
「俺は」
 凪の海がそよいだ。蒼が揺れた。
「お前のことが、嫌いだね」
 3つ目の弾丸が本命。そこに、その軌跡、通るべき道筋を遮るものはない。
 不可視の斬撃。躍る呪剣。弾丸を蝕む病毒などありはしない。
 見返す黒騎士の視線が匡を害した。彼は心臓が脈打ち、胃を血が駆け上るのを感じた。
 それでも視線はそらさない。スローモーションじみて、銃弾はあるべき道筋を通る。

 ――バカな。
 三度。黒騎士は呻いた。けして口にすることなどありえぬはずの陳腐な台詞を吐いた。
 けれどそれは口から放たれることはなかった。なぜか? ……道理である。
 彼もまた視ている。極度集中の中、迫り来る弾丸を視ている。
 黒騎士アンヘルに油断はない。慢心も増上慢もありはせず、天敵への歴然たる殺意がある。
 常に警戒し、いかなる攻撃にも先んじる技量と胆力がある。
 誰もがそれを認めている。斃れたものも、倒すものも、誰であれ。
 他ならぬ彼自身が。――だからこそ彼にはわかった。黒騎士アンヘルは確信した。

 私は。
 死ぬのだ。
 このちっぽけな銃弾で、脳を抉られかきむしられて。
 ああ、見ろ。皮に触れたぞ。螺旋が皮を灼き、肉を巻き添えに骨に来た。
 頭蓋骨がごりごり削られるのが解る。なんたる痛み。なんたる屈辱。
 骨が穿たれた。憎らしや、脳を――おお、おお。我が大脳皮質よ。さらば。
 憎らしや。憎らしや我が天敵! 我らの天敵! 我らの仇敵!
 大脳がこそがれ混ざり合い飛び散る。小脳が煽りを喰らい吹き出す。
 次こそは。次こそは次こそは次こそは次こそは!!
 必ず。必ず殺してくれるぞ猟兵。猟兵ども。敵は猟兵、我この存在に刻みたり!!
 覚えておくがいい、我は黒騎士アン――弾丸が突き抜けた。

 静寂。
 ゆらりと魔剣士はゆらぎ……そして、どうとあっけなく斃れた。
 まるで幻か何かのように、呪剣も何もかも跡形もなく消滅する。
 残されたのは血と脳漿。倒れ伏した何人もの猟兵たちと傷と病。
「……恨んでもいいぜ。だが、次もその次も、お前には何度だって死んでもらう」
 匡は言った。足元に倒れるカウボーイが、咳き込みつつ安堵のため息をついた。
「ざまあみろ、クソ野郎(Wilson)。テメエの思考を諸共ぶち抜いて(Assault)やったぜ」
 ネグルが静かに言い捨てた。
「これが、我らの一撃だ。……骸の海の奥底で、存分に歯噛みしろ」
 そしてか細き光を見上げる。咳き込みながら、少女はゆるく微笑んだ。
 ――だいじょうぶ。だっておれは、人だから。
 声すら出せずに彼女は言い、気絶した。

 黒騎士アンヘル、ここに討滅。されど彼奴は再び蘇り。
 それがかの敵。強敵にして仇敵にして怨敵なり。
 次の相手は次の猟兵たちが請け負うだろう。
 だが。

 彼らはたしかに、この手で。彼らの手、その歩みで。全員の力で。
 帝国の双翼を、いま一度地に伏せさせたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



 闇が再び凝る。

 黒騎士アンヘル堕つ。
 それは多くの猟兵たちの、たかが一つ、されど確なる勝利。
 そして彼奴は再びこの世に舞い降りた。骸の海より現れた。

 だが猟兵たちは居る。それを迎え撃つ者達がここにいる。
 今一度、彼らの戦いぶりを垣間見てみるとしよう。
北条・優希斗
……俺の過去、か。
丁度良い、俺も知りたかったんだ。
偶に夢に見る『月下美人』、『蒼月』、『月桂樹』に刻まれた朧気な俺の過去の記憶をな。
アンタになら分かるんだろ?
白の呪剣は受けるのを覚悟で全技能を駆使して一気に敵の懐に飛び込み裏切りの短剣でその鎧を貫く
黒の呪剣は全神経を張り詰めてその軌道を見切って躱す
最も俺の戦闘経験はオブリビオン『戦神』の呪いに蓄積されている
喰らえば逆にアンタが傷つくかも知れないがな
灰の呪剣には『蒼月』を
それは朧気だが俺の中に眠る記憶……ある娘が闇に墜ち、その子を救えた筈なのに救えず殺した罪を背負って進む決して揺るがぬ覚悟が封じられた刀だ
お前に封じられる程安くはないよ




 誰もが己の過去を、全て識っているわけではない。
 意図的に、あるいは無意識に――はたまた、外的要因で。
 忘れ去り、場合によっては奪われてしまうこともあるだろう。
 彼の垣間見る夢は、さながら水月に似た。
 水面に映る、映えど揺らぐうつろなる影の如く。朧で断片的で。
 同じ月の名を冠した刃がそれを刻むのは、皮肉と言えた。

 過去を封じ、蘇らせる。三の呪剣を振るう鬼。
 結構だ。この身、貫かれようと――過去(それ)を知れるなら。

●北条・優希斗の場合
 いずこかの艦艇。黒騎士アンヘルは濃密なる殺意を纏いて歩いていた。
 その視線の先に男が居た。ふむ、と思案の吐息を漏らす。
「正々堂々が性分なのかね? 私としては構わないが」
「なあ、アンタ。過去を甦らせることができるんだろ?」
 優希斗は一方的に言った。じりじりと焦げ付くような執着を込めて。
 ――だが、なんと虚ろな。まるで幽鬼か。
 黒騎士は心中で呟く。無論、軽口に付き合う理由はない。
「俺は俺の過去を識らない。だからちょうどいいと思ったんだ」
「私の剣を便利な道具かなにかと勘違いしているようだな」
 ふ、と鼻で笑ってみせる。だがアンヘルに、慢心はない。
「……とはいえ、その身のこなし。私を前にして慄かぬ胆力。
 相応の覚悟を有していると見た。名を聞いておこうか」
「北条・優希斗」
 じわりと。両者の間の空間が歪む。殺意と殺気がぶつかり合い、凝(こご)る。
(――荷が勝つな)
 優希斗は冷えた思考で結論づけた。
 もとより尋常の手合ではない、確率だけで見れば五分と五分。それも希望的観測か。
 されど彼は己が持つ全神経を尖らせる。もとより、必殺の為なら寿命すら擲つ修羅である。
 暗中模索。あの呪剣の軌道を予測――手は一瞬浮かんだだけで五十を超えた。
(その場その場の状況判断を信じるしかない、か)
 夢に、過去の残滓を水月めいて視ることがある。彼はそのたびに呪われ、慟哭してきた。
 罪の意識は晴れない。それに比べれば、この緊張はいっそ心地良い。

 ふわりと両者を風が吹き抜けた。然り、剣士が保ち得る気のそよぎである。
 一秒。互いに動かず。
 二秒。遠くで星が流れる。
 三秒。呪剣の呻きが止まる。
 四秒――優希斗が動いた!
「――」
 そして彼は、いっそ驚嘆すら通り越して当然のようにそれを受けていた。
 踏み出した瞬間、そこに読んだかのごとく……いや、事実読んだのか。白呪剣が在った。
「……く」
 鍛錬の経験が喪失した。それは水月が波紋に飲まれて消えるように。
「ぅ……はっ」
 どくん。心臓が脈打つ。距離、およそ残り5歩ぶん。

 踏み込み一つ。白剣がぐるりと肉を抉る。血を吐く。
 踏み込み二つ。黒剣がゆらぎ、そして消えた。五感が張り詰める。
 踏み込み三つ。予測した手は八手。非致死的な三手を消す。残りはカンに賭ける。
 踏み込み四つ。夢月蒼覇斬、発動。刺突。横薙ぎ。再びの刺突――見せかけての逆袈裟。
 一手目、遠間ゆえ空振り。これはよい、フェイントだ。
 二手目、ここで黒剣が介入した。ぎきん、と刃が火花を散らす。
 三手目、刺突からの移行が、黒剣を切り払う軌跡を描いた。呪剣が地を抉る。
(残るは一つ。蒼き月の舞を、いざ)
 斬影はその名を再演した。虚空を薙ぐさまはまさに蒼き月の如き孤影。
 灰の呪剣が打ち合う。凛、と刃と刃が鳴り響きあい、音叉を刻んだ。
 此れなるは悲劇の刃。罪業を刻みし呪いの、覚悟の一振り。
 それだけはわかる。ゆえに呪剣とて、折れたるはずなし。取った!

「……私が言えた義理ではないが。猟兵であろう者が、なんとまあ禍々しい」
 黒騎士は耳元で囁いた。優希斗は目を見開き、血を吐いた。
「……自分、から」
「私にも覚悟が必要だと理解したのだよ。実に底冷えする瞳だったのでね」
 然り。黒騎士は自ら踏み込んだ。踏み込み、月桂樹の刃を非致命的部位へと反らした。
 奴は白剣を握っていた。それを以て、彼の肉体をさらに深く、抉った。
「ぐ、ぅ」
「やはり名は最初に聞いておくべきだな」
 密着した体が離れる。互いに手負い、されど傷の多寡は一目瞭然である。
「……本当に禍々しい。君が立つべきは本当にそちらなのだろうかね」
 黒騎士の片目を血の涙が伝う。
 そして奴は、闇に紛れるようにして姿を消した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

セゲル・スヴェアボルグ
あれだけの殺気をはなっているのであれば暗視は不要か。

剣がこちらに届くまで多少の距離はある。その間に溟海ヲ征ク水師で高水圧の水壁を作り、奴の3本の呪剣を止める。止まらなかったとしても、動き自体は鈍るはずだ。盾受けで凌げれば理想だが、白と黒だけは確実に回避せねばな。灰色は最悪刺さっても構わん。
たとえここに至った理由がわからなくなろうとも、今現在、敵意を向けてくる者に戦意喪失するなどあり得るはずもない。要は気合いだ。
一応、防戦時も力溜めで攻撃力を補えるようにしておこう。
次の攻撃が来る前に盾を構えながらダッシュで駆け寄り、奴を鎧無視攻撃と鎧砕きで貫く。再びUCを発動し、体の中から水攻めといこうか。




 彼と対峙した時、多くのものは"灰色"をこそ危険視し、恐れる。
 かの刃が奪うのは、理由。己がそこに在るべき経緯を封じる呪いの剣。
 しかし、龍にとっては違う。そんなものはどうでもいい。
 たとえそこにいる理由が喪われたとて、あれだけの殺気を振り撒く悪鬼を前に戦わぬはずもない、と。
 道理であった。だが彼は逆に、それより前に来たる白と黒をこそ警戒した。
 敵を討つために、であろうか? 理屈としては通る。鍛錬も、戦歴も忘れてはならぬ糧だ。
 されど人々は知らぬ。豪胆にして豪快なる龍人の心の裡、その過去、垣間見た悪夢を知らぬ。

 かつて一人の王がいた。王は人であり、そして彼には盟友たる龍がいた。
 誰も知らぬ世界の文字のみがその痕跡を伝える。記録と呼ぶにはあまりに儚く。
 おそらくはこの世界でただ一人、それを記憶として識る龍人は想う。
(もはや俺は、いかなる嵐にも屈すまい。この身を壁として立ちはだからん)
 錨の如き誓いであった。
 そして龍の前に、嵐が現れた。

●セゲル・スヴェアボルグの場合
「まるで霧笛だな。待ち伏せを知るなら普通は殺気を隠すものだろう」
 現れた黒き影に、恐れなき戦士は呆れた顔で言った。
 一方、濃密な呪詛と闇を纏う影は、うっそりとした瞳で見返す。
「隠れ潜むのはそちらのほうだろうに。私とわかっていて姿を晒すか」
 ぐる、と蒼き龍の喉が鳴った――嗤笑が七割、緊張が三割。
「性に合わん。そも船乗りが逃げるだの隠れるだの、空に滝を落とすようなものだろうが。
 なによりも、俺はお前さんを討ちに来たのだ。正面から迎え撃たんでどうする」
 黒騎士の瞳がゆるく三日月を描く。おそらくは笑っているのだろう。
 そして奴は、周囲を回遊する呪剣――白と黒とを両手に取った。
 セゲルは再び唸る。――警戒十割。
「では参ろうか。正々堂々と、押し通らせて頂く」
 じわりと全身が重くなったような感覚。まるで暗澹たる凪の夜が如し。
 重圧である。敵手が向ける重圧が、筋骨の隅々までを覆っていた。
(これだけの距離があれば、と見ていたが……間に合うかは五分か)
 心中でセゲルは嘆息した。なるほど、絶対先制とは斯くあるものか。
 己に赦されたのは一手という厳然たる事実。穂先を斜めに地面へ向けた。
 ぎちぎちと筋肉が張り詰める。それは波高き日の帆船に似た。

 であれば、前触れもなく姿を消した彼奴は、さながら嵐の前触れか。
「ぐぅ、ぬん」
 呻いた。されど穂はすでに地を抉っていた。かくて大波来たれり。
 セゲルを、正しくは穿たれた地点を中心とした波濤が溢れ、大気なき世界を洗う。
 波を割り、灰色剣が来た。――避けぬ。濤鎧が紙くずのように貫かれた。
 己がここにあるべき理由が喪われる。皮肉にも、黒騎士の重圧が喪失を埋めた。
(やはりな。要は気合だ、俺は恐れんぞ。来るならば来い!)
 金眼が勇猛に細まる。そこでふと、ちり、と逆鱗がざわめいた。
「正々堂々とは笑わせる!」
 龍は吠えた。槍が応え、己が穿った地面諸共波を断ち割る。流れは背後へ。
 然様。敵は波に紛れ背後を取っていた。まず白剣が石突に弾かれる。
(――ひとつ)
 黒が来たる。龍は己の心の臓腑を穿たれる幻を視た。喉を鳴らす――嗤笑、十割。
(とっくに一度死んだ身だ。さて、海路の日和整えり!)
 セゲルに恐れはない。恐れる理由がない。
 己はもはや――否、此度に懐旧は不要か。
「これは」
 黒騎士は瞠目した。鳩尾を抉るはずの黒剣が、妨げられている。
 灰剣が戒めるように鱗を裂き抉り込んだ。呻きながらセゲルは笑う。
「波が教えてくれたぞ、お前さんの航路をな。さあ、今こそ出航の時だ!」
 機、得たり。あるいはそれは、蒼き月の戒めがもたらした間隙か。
 穂先が敵を貫く。そこから再び水が生まれ、波が彼奴を吹き飛ばした。手応えあり!
「……おのれ、油断も隙もありゃせんな……!!」
 両者いずれも手応えあり。激流が溢れた時、灰色剣は動脈に到達していた。
 意識が靄に包まれ、膝を突かせる。だが確かに一撃を打ち込んだ、重いはずだ。
「体の裡からの水攻めだ、さぞかし効くだろう、よ!」
 波濤の中、彼奴が退く気配があった。
 追えぬ。追えばおそらく死ぬ。
 屈辱と充足の中、セゲルは傷を抑え息を吐いた。重圧はそこで消えた。

 後に残るのは、嵐の後の静寂のみ。

成功 🔵​🔵​🔴​

プリンセラ・プリンセス
【SPD】
相手が対応した攻撃をしてくるということは逆にいえば相手の攻撃を指定できるということ。
三呪剣。うち2本までを受けていいラインとして設定。一番回避すべきは灰。

出ている人格はヴィルヘルム。長兄にして全うな騎士らしい騎士。
この人格で攻撃を受ける。
2本まで回避しきったところでペルソナ・チェンジで人格をプリンセラに切り替え。
プリンセラには鍛錬した経験も戦闘経験も猟兵になってからの数ヶ月分しかない。影響は軽微だ。
そして
「ユーベルコードを発動するだけなら私でも出来ます。そしてこの距離でなら、過去の鍛錬も経験も必要ありません!」
ウィザード・バレットの弾丸百発を至近からぶち込む。




「がはっ」
 黒騎士は膝を突き、喀血した。額に刻まれるのは紛うことなき渋面。
 重い。斯様な一撃を許した、それ自体が彼にとっては不快だ。
「あれほどの呪いを帯びた剣士に、これほどの力を持つ聖騎士、か。
 わが皇帝陛下を脅かすことさえなければ、私も羽を伸ばして愉しめただろうに」
 ゆらりと赤黒の気配が立ち上がる。おお、天敵ども。汝ら罪ありき。
 黒騎士は修羅である。生死の境目におのが命を置く愉悦を知っている。
「教訓にせねばならぬか、業腹ではあるが……」
 強敵との死合の充足、これに浸ることは赦されまい。
 ――そして彼は感じ取った。己を待ち伏せる新たな気配を。
 再び眉根が顰まる。しかしそれは屈辱によるものではなく……。 

●プリンセラ・プリンセスの場合
 オブリビオンが滅ぼすのは未来である。そこに大小の区別はない。
 ゆえに、国一つが亡ぶということもままある話だ。ことによっては亡国の王そのものが――などという話も、まあ、場所によってはあろう。
(だから仕方ない、などと私は諦めたくはありません)
 諦めさせてくれない、というべきかもしれぬが。
 少女自身も、諦観の安寧に浸るつもりはない。ゆえに猟兵としてここに居る。

 そんな彼女にとって、滅びていく帝国の有り様と、滅びても立ち戻りし孤影への思いは如何ばかりか。
 たしかなのは一つ。――お姫様ではあれに敵う道理がない。

 お姫様『だけ』ならば。

「ふむ。猟兵というのはどこまでも個性的だな。君の中には何人いる?」
 出し抜けな問い。プリンセラは強いて動揺を押し殺した。健気な努力だ。
「さあ。私にもわかりません。お父様は多産でしたので」
 多重人格者。己の裡に、他者とも言える別人格を飼いならすもの。
 プリンセラにとって、自身以外の人格者はかつて在りし国の兄姉たちである。
 彼らもまたそう振る舞う。それが事実なのかどうかは他者には解らぬ。
 まあ、そういうこともあるのだろう。黒騎士はそれ以上の思索を控えた。なぜなら。
「君はどことも知れぬ国の重鎮と見た。それにふさわしい気品を感じる。
 ゆえに私は一度だけ忠告しよう」
 声音こそは騎士そのもの。されど悪鬼の如き殺意を外套のように羽織りながら、言う。
「どきたまえ。その白肌を切り裂きたくはない」
 憫笑すら浮かべていた。さしものプリンセラとて、眦が吊り上がるのを抑えきれなかった。
「どういう意味ですか」
「見逃して差し上げる、という意味だよ。姫君殿」
 優しい声音であった。それがなおさら、彼女の逆鱗に触れた。

 ……プリンセラは己が未熟であることを知っている。
 国を再興しようにも、何もかもが足りぬことを知っている。
 無知の知というやつだ。ゆえにこそ彼女は兄姉の力を頼るのだ。
 だがこの男は。この男の憐憫、情けばかりは受けてはならない。
 兄姉たちも言っていた。ここで退いてはならぬ。立ち向かわねばならぬ!
 ――だのに何故だ。足がまったく動かない。

「では失礼する」
 そして黒騎士は悠然と歩き出した。そこに構えらしきものは見当たらない。
 己の脇を通り抜ける。そう全身に書いてあった。さながら、宮廷の通路ですれ違う廷臣のような面持ちだった。
「待ちなさい」
 応える声はない。
「待ちなさい! 誰ぞ来よ、戦いの――」
 兄姉を呼ばう声は途切れた。かふ、という吐息と、鮮血が漏れた。

 伐られている。プリンセラが自覚したのはおよそ3秒後。
 彼女にもわかった。"伐られたことを自覚するまでの間に、もう一度伐られるだけの時間があった"と。
 情けをかけられたのだ。二度も!
「私の剣は過去を封じる。だが」
 呪剣の血を払い、振り向きもせずに歩きながらそいつは言った。
「君には封じるべき過去すらないようだな。では」
 足音が去っていく。脳内で反響する兄姉たちの絶叫、憤怒、悲嘆、憎悪。

 ――わたしは。
 プリンセラは何かを言おうとした。それすらもままならぬまま、前進を朱に染め姫は斃れた。

失敗 🔴​🔴​🔴​

バラバ・バルディ
【WIZ】
(右足に激痛が走り、服に隠れたところから血がうっすらと滴り落ち、地に落ちる)
っぐぅ…………っふ、はははっ!ぬぁっははははっ!おぉっ、いや懐かしくてのう。つい笑ってしもうたわ!うむ、もちろん痛くないわけではないぞ。むしろ、痛い!とてもとても痛い……が、耐えられぬほどの痛みではない(『激痛耐性』)そも、お主を倒すのにわしが動く必要などないからのう。戦いに支障なしじゃ!(『呪詛』を込めたからくり人形を喚び寄せ、自分を『かばわせ』ながら戦わせて『時間稼ぎ』)

……なんての!実の所、血が流れすぎてキツいんじゃ。ゆえにお主、早う倒れてくれんかのう?
(『高速詠唱』『全力魔法』『属性攻撃』でUC発動)




 黒騎士の足取りは悠然である。己の気配を隠すことなどしない。
 なぜか? 彼には力量がある。それに見合うだけの自負がある。
 傲慢、されど油断なし。敵としてもっとも厄介な手合と言えるだろう。
 ……もっとも、理由はもう一つある。

 骸の海より来たりしときから、彼は己の存在の根底に刻みつけられているものに苛まされていた。
 猟兵への、たゆまなき憎しみに。

●バラバ・バルディの場合
 シャーマンズゴースト。UDCでありながら人類に味方する正体不明の者たち。
 バラバはその血を引くものである。彼の装いはいかにも道化師めいていた。
 歩くサーカスのようでもある。そして事実、彼は飄々として陽気だった。
「ふふん、なんとまあ呑気に歩いたもんよのう」
 眼前より来たりし闇のごとき騎士を前にしても、それは些かも衰えない。
 黒騎士は訝しげな顔をした。奇矯な種族もいたものだ、と。
「君も猟兵か。まったくどこまでも……それで?」
 達人でないことは一目でわかった。然り、バラバの得手は術と懸糸傀儡だ。
「それで、とな。はっはははは! 余裕綽々じゃのう!」
 ペースの掴みづらい相手だ。黒騎士の片目は不快げに歪み、頭を振る。
「じゃがお主、五体満足ではあるまい。消耗はそれなりと見た。
 さて、わしが挑んで勝てるか否か。わっははは、これはスリリングじゃ!」
「私を戯れの道具に使うかね。不愉快だな」
「そう言うでない、わははは!」
 嘆息。狂人なのかあえてそう振る舞っているのか知らぬが無益と判断した。
 とはいえ指摘は事実である。これまでの連戦は彼に少なからぬ消耗をもたらした。
 ゆえに黒騎士は手間を惜しむことにした。瞳が細まる。

 バラバは己を強いて笑う。
 彼は愉快だから笑うのではない。愉快にするために笑うのだ。
 シャーマンズゴーストは孤独である。
 彼らは人類に友好的だが、人類が彼らを受け入れるかどうかは別の話だ。
 そして残念なことに、バラバはそれに恵まれなかった。少なくとも、過去には。
 過去を封じる。その権能を見知った時、バラバは想った。
(なんと贅沢なことよ。そして愚かなり)
 UDCからも、人類からも受け入れられず、排斥され、追われ、石を投げられた。
 彼は己の生の、待ち受ける未来の凄惨さに気付いた。
 どうにもならぬことだった。……だから、笑うことにした。
 笑え。笑い、おどけろ。誰もが驚くような派手さと華やかさで己を彩れ。
 たとえどれほど、過去が己の枷となろうとも。どれほど重みになろうと。
 笑えば救われる。自分も、誰かも。きっと未来も。

 だからバラバは笑った。己の古傷が、右足から蘇った時も。
「ぐぅっ」
 呻きは一瞬。笑う。大きな声を上げて。
「ふっははは! ぬぁっはははは! いや懐かしい!」
「……なんだ、君は」
 黒騎士はいよいよ剣呑さを帯びた。なんだ、こいつは。
「なんじゃ、面白くないか? わしはこうしてお主の力で傷ついたというに!
 わっはははは、その渋面もまたおかしいのう! ああ、実に痛い。だが」
 笑みの形の仮面が、彼を嘲弄した。
「その渋った顔を見ていると、おかしくておかしくて仕方ないわ」
「不愉快だな」
 黒騎士の姿が消えた。その時すでにバラバのからくり人形は現れていた。
 剣と傀儡が打ち合う。少なからぬ呪詛の気配を彼は感じた。
「その笑い声をやめたまえ」
「あいにくそうはいかん、ぬぅわっははははは!」
「やめろと言っている」
「どうした帝国の騎士殿、わしのような雑魚を相手に焦れておるのか?
 面白い面白い、わっははははは!」
「黙れッ!!」
 激高が傷口を拡げた。無論右足だけではない、彼は猟兵なのだから。
 おびただしい傷といくらかの病毒に苛まれながら、それでもなお。
「はっはははは! さあどうした、動けぬわし相手にいつまで手間取る!」
「貴様……ッ」
 黒騎士は眼を血走らせた。猟兵。我らの天敵。此奴ら、やはり。
「生かしては、おけぬッ!」
「――それはこちらの台詞よ、阿呆」
 両者のど真ん中で、あり得ざる自然現象が炸裂した。
 バラバは一目見たときから確信していた。まともに渡り合えば勝てないと。
 むしろ死の危険を幻視した。総身が震える感触に泣き叫びかけた。
 ……だから笑った。笑って、嗤って、痛くても怖くても笑い続けた。
 己の身も厭わずに、ユーベルコードの力を解き放ち――。

 彼は、見事に時間を稼ぎきったのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィアラ・マクスウェル
ジョン・ブラウン(f00430)と連携して挑みます
病はありませんが傷なら……痛いでしょうけどやるしかない
荒っぽい手ですが、エスコート任せますよジョン

ユーベルコードは【我が戦場に輝く精霊月光】を動けるうち、動け次第使用
一度蝙蝠を放てば、私自身が動けなくても精霊たちの判断で攻撃してくれます
でも本命は攻撃ではなく、作り出す赤い月
月の魔力で体力を回復し、再び攻撃に転じます。一度止まったなら、もう一度踏み出せばいい

「鍛錬も経験もない、今回が初披露」
精霊を闇のレイピアに変え、接近戦
「戦う理由は過去じゃない。今、大事な家族たちがいるからです!」
敵の動き、自分が取るべき行動。全てジョンの予測を信頼して動きます


ジョン・ブラウン
フィアラ・マクスウェル(f00531)と連携

「ワオ、せっかちさん。キミもしかして朝はイザベラみたいにパン食べながら学校行くタイプ?」
「オーケイ、キミがソフィーみたいに記念日とか昔のことにすっごく拘る子だってのはよくわかった」

先制攻撃に対して回避を試みるよ
僕のユーベルコード、これ要するに
過去に出会った女性ならどう動くかって一種の経験則なわけで

何年も同じ寮で暮らして来たフィアラの動きがわからないわけがないよね!

「あーあー女の子の扱いがなってないなぁ」
「お手をどうぞ。レディ?」

動けないフィアラの手を取って舞台が整うまで回避のサポート

「今僕をジョンと呼んでくれる人がいる」
「戦う理由には十分すぎるさ」


ソラスティベル・グラスラン
我々は人間、過去を振り返ることもありましょう
しかし過去は過ぎ去りすでに終えたもの!
学びさえすれど、塗りつぶされるなど、わたちたちの勇気に停滞はあり得ない!
黒騎士よ、貴方を倒します
例え何度復活しようともッ!

先制攻撃は他の猟兵と連携し、死角を埋めます
【オーラ防御】で斬撃の威力と速度を軽減、
【盾受け・火力】で強大な力を受け止め、
【見切り】で逸らし、受け流します!
その防御に籠めた力を【力溜め】し、反撃の予備動作に
そして大斧による【鎧砕き】の一撃を!
以上全ての行動を、全力の【勇気】で補います!!

未来を斬り開くために、只管に前へ、前へ
勇者とは未来を見据え、誰より前に立つ者なのだからッ!!


スクリプトゥルー・オーヴァン
──再構築完了。過去のデータはバックアップとして体外に排出。
「今の私に『過去は無い』デスよ。」

【やること】
サポートメインの後に繋げる戦い方。
データ体である自身を戦線に出る前に自身を再構築して。過去を一時的にまっさらにしていく。
「過去がなければ、過去を操られても意味は無いデスよね?多分。」

戦闘開始する直前に辺り一体の空間を【ポケット電脳空間】で上書きし、空間に刻まれた斬撃を消去する。

全攻撃を耐えれたら【未知数の飽和増殖】を使い出来る限り長く相手のユーベルコードを封じる。

「まぁ、純粋に戦闘力足りないと思うデスから、防御は私がするデスから他の人に攻撃してもらいたいデスよ……」




 結論から言えば、黒騎士アンヘルは再びの滅びを迎えた。
 ……言葉にすれば単純だ。そこに流れた血と繰り広げられた死闘の色はない。
 ゆえに垣間見よう。誰が、どのようにして、最後の一撃へと繋いだのかを。

●スクリプトゥルー・オーヴァンとソラスティベル・グラスランの場合
 まず最初に、黒騎士は強烈な違和感を覚えた。
 まるで周囲がこの世ならざるなにかに変じたような。
 銀河帝国でも兵役プログラムとして奨励されているVRシミュレーター。あれに近い。
 いや、そのもの……か?
「面白い。空間を洗浄(ロンダリング)するとは」
 どうやら自分は待ち伏せを受けていたらしい。否、それは語弊があるか。
 先のあのシャーマンズゴースト。あれの時間稼ぎはこのためらしい。
「気づいたところでもう遅い、デスよ?」
 そしてまず、緑色の髪の少女が現れた。

 ――これでいい。仕込みは終了した。過去というのが文字通りを指すのなら。
(これで私に、余計なデータはないデスね)
 スクリプトゥルー・オーヴァンは電脳生命体である。
 すなわちバーチャルキャラクター。データより現れしモノ。
 だからこそ取れる戦術がある。されど、それが決定打にならないことはわかっていた。
 ゆえに。
(防御は私がするデスから、あとのことは任せたいのデスよ)
 彼女はそう言った。
 それを一番に請け負ったのは、きらきらと光る青い瞳の少女だった。
(もちろんです! ただしひとつだけ訂正させてください)
 彼女――ソラスティベルはこう言ったのだったか。
(いかなる手を使えど、『過去が余計』などということはありません。
 なぜなら我々人間は、過ぎ去ったものを振り返りながら前に進むのですから!)
 ……言葉のアヤというのがわからないのか、生真面目なのか。
 苦笑したのを、憶えている。

 記憶は現在に戻る。
 姿を見せたスクリプトゥルーへ、黒騎士の視線が滑る。
 そして眉根を顰めた。一方で、スクリプトゥルーもまた驚愕に目を見開いた。
 両手を見た。ボロボロとささくれるように、指先から肉体が少しずつ崩れている。
「こ、れって」
「ふむ。どうやったかは知らぬが見事だ」
 黒騎士はどうやら、その指先からの崩壊が気に入らぬらしい。
「過去を洗い流す、そんなユーベルコードも――いや、そもそも別の技術体系なのか?
 なんでも構わんがね。それでも過去というのは無に出来るものではない」
 スクリプトゥルーは己のデータを刷新し、バックアップとして放逐した。
 つまり『再構築した』という過去がある。それを想起されるということは。
「期待したほどの速度ではないが、それもまたよし。
 じっくりと崩壊までの時間を味わいたまえ」
 スクリプトゥルーは足元がふっと消失した感じを覚えた。――いや。
 臆するな。臆してはいられない。まだ猶予はある、ならば!
「だったら邪魔者(ノイズ)なりに嫌がらせしてやるデスよッ!」
 がくん、と黒騎士が、黒騎士の頭が揺れた。ハンマーで打ち付けられたように。
 彼の視点からは、周囲に不明瞭なブロックノイズがいくつも生じたように世界が見える。
 未知数の飽和増殖(ワーム・オブ・アンノウン)。文字通り命懸けの妨害だ。
「味な真似を――」
「はぁあああっ!!」
 裂帛の気合が轟いた。二人目! 現れたのはドラゴニアンの少女だ!
 不可視の斬撃を繰り出そうとする。
 視界の橋でスクリプトゥルーがにやりと笑うのが見えた。
 舌打ち。呪剣を恐るべき速度で振るい、笑みもろとも彼女を切り裂く。
 ――間隙。ソラスティベルは内心で、彼女の勇気を称賛した。
(お見事です。あなたこそ勇者そのものですよ!)
 形を得た暗黒が彼女の前に立ちはだかる。ソラスティベルに恐れはない。
「これぞ我らの勇気の証明、来たる戦渦の最前線!」
 蒼空色の巨大斧が、バチバチと同じ色の稲妻を纏う。
「応えなさい、勇者の大斧よ! "我が名は――」
「ちいッ!!」
「――神鳴るが、如く"ッ!!!」

 神鳴る雷、ここに顕現せり!!
 すさまじい轟音を伴った、超接近距離での肉厚斬撃。
 反撃を恐れぬ一直線の飛び込み、湧き上がる恐怖は無理矢理にねじ伏せた。
 30cm圏内は文字通り必殺の間合い。ただそこにあるだけで息が詰まる。
 だが。ああ、だが。彼女は、否、彼女たちは!
「黒騎士よ、貴方はここで倒れるのです! たとえ何度復活しようともッ!」
 ついに一撃を届かせた! 黒騎士の片腕は、胴体まで斧は食い込み――。
「おのれがァッ!!」
 "刻みつけたばかりの"不可視斬撃と、残る片腕での呪剣の乱舞。
 ソラスティベルの一に対して、合わせて五。
 五の剣戟が、オレンジ髪の勇気ある少女を切り伏せ、吹き飛ばしていた。

 想像を絶する苦痛を与えられ、地を嘗めながらもしかして勇者は莞爾と笑う。
「言ったはずです、貴方はここで倒すと……! わたしが、わたし"達"が!」
 すさまじい憎悪の視線で黒騎士は見返した。隻腕、胴を半ば断たれなお殺意は色濃く。
 その片目が訝しめられ――そして意図を理解した。
「新手かッ!!」
 待ち伏せはまだあったのだ。二段構えとは小癪なり!


 赤毛のギーク。アメリカの片田舎、何の変哲もない街で育ったお調子者の15歳。
 それが彼だ。そうである。そうでなければならない。それ以外のなんだというのだ?
 違う、お前は████████だ。あの時、あの鏡像はそう言った。そう言ったのだ。
 過去を封じ、その傷を甦らせる。恐るべき力だ。あってはならぬ力だ。
(残念だけど、僕じゃああれには敵わない。なにせただのギークだから)
 赤いくせっ毛(ジンジャー)を指でいじりながら、少年はおどけてそう言った。
(なら、エスコートを任せましょう。私もきっと勝てないだろうから)
 黒髪の少女は言った。赤毛の少年は、きょとんとした顔のあとにわざと笑う。
(嬉しいね。その申し出、まるでプロムのときのレイチェルを――)
(違います)
 黒髪の少女は言葉を遮りこう続けた。
(あなたは私の家族だから。あなた"も"、ですけれど)
 だから信頼して任せるのだと、そうはっきり言ったのだ。少年は今度こそ言葉を失った。

 少しだけ、してやったりな気分になったのを憶えている。

●ジョン・ブラウンとフィアラ・マクスウェルの場合
 新手を視認した時、黒騎士を襲ったのは極度の屈辱と状況判断であった。
 片腕を断たれたことは業腹である。斯様な一撃は戦場でついぞ受けたことなどない。
 直撃。黒騎士と呼ばれし己にあってはならぬ醜態である。
 だが。いま来たるあの小娘と小僧。彼奴らにいかにして対応するか――それを吟味しなければならぬこともまた、とてつもないほどの怒りを彼に齎した。
 イニシアチブを握るのは己。いかにして殺すかも己の胸先三寸。
 だのに空間は洗浄され、この有り様では病を蘇らせられるのも一度に一人だろう。
 斃れ、腕まで崩壊が進む電脳生命体を一瞥した。……コンマゼロゼロ秒での逡巡。
 必ず殺す。捨て台詞めいて吐き捨て、彼女へのユーベルコード作用を終了。
 再び視線を新手ふたり――フィアラとジョンへ向けた。
 まずフィアラの傷跡を呼び起こす。彼女の白い肌にぷつぷつと傷が現れた。
「、ぐ」
 短いうめき声。心地よきかな。だがまだ足らぬ。
 ――ワオ、せっかちさん。
 凝視を受けた時、ジョンの減らず口は引っ込んだ。頬を冷や汗が伝い汗から落ちた。
 相手は、そんないつもの調子を効かせられる敵ではない。おぞましいまでの重圧。
 三色の呪剣に貫かれ、己が惨死する幻影を見た。此方を見返す黒騎士の瞳の表面に。
 ――いいさ、それでも。
 と、かつての彼なら言ったかもしれない。けれど。
「僕はジョン・ブラウンだ」
 彼は呟いた。己を鼓舞するかのように。
 過去を封じるというなら好きにしろ。だが。
「この生命まではくれてやれないな、黒騎士アンヘルッ!」
「ほざけ、ガキが!」
 余裕もかなぐり捨て、黒騎士は吠えた。呪剣がそれに応じる。
 圧倒的速度、圧倒的殺意が二人を叩いた。けれども二人はきゅっと手をつなぐ。
 生娘同然、うぶな少年同然に。さりとて固く、離れないようしっかりと。
「お手をどうぞ、レディ」
 少年は笑った。
「信頼していますよ、ジョン」
 止まり木の少女も笑った。
 そこへ剣と病が降り来たった。

 だが。
「何故だ」
 二人は死ななかった。
「何故生きている」
 黒騎士は呻いた。応報の蝙蝠が視界を覆う。
 あの小娘に与えた、蘇らせた傷跡は動きを奪うに十分だったはずだ。
 なのになぜアレは動いている。頭上に昇るあの赤い月はなんだ。
 呪剣が、三色の風が二人を切り裂いた。それでも止まらぬ。
 彼らは躍るように、散歩でもするかのように、嵐の中を突き進む。
 灰剣が少年を串刺しにした。赤毛より濃い血が傷から吹き出した。
 フィアラは悲鳴をあげかけ、こらえた。信頼がある、ならば心配は不要。
「行きますよ、ジョン。未来を開くために」
 暗色のレイピアを構えた。ジョンは嬉しそうに微笑み言った。
 ここになぜいて、何故戦うのか。泥が詰まったようにわからない。けれど。
「キミが僕をジョンと呼んでくれるなら」
 戦う理由は、それで十分だ。

 黒騎士は悲嘆した。嗚呼、我が身は斯様なガキどもに討たれるというのか。
 年端も行かぬ小娘小僧。あまつさえ練達ともいい切れぬたかが細剣の一撃で。
 あな口惜しや。あな狂おしや。猟兵、猟兵、猟兵。我が天敵!
 彼は呪剣を引き戻し、一人でも多くくびり殺そうとした。
 剣は応えなかった。まるで男を裏切ったかのように。
 記憶に蘇る、あの蒼き月のような孤影。呪いを浴びし罪人の一撃。
(――このためか。おお、おのれ。おのれ裏切りの剣。これこそ貴様の呪いか!)
 屈辱の泥がいよいよ彼を戒めた。

 彼はそこで思い出した。忘却の名を持つ異形は、還るたびにそれを失うゆえに。
 これで何度目だ。この敗北は私にとって何度目だ。あと何度私は死ぬ?
 ――いいさ、いいとも。ならば私は何度でも蘇ろう。そして。
「次こそは、必ず」
 オブリビオンに"次"などない。悪鬼の心の臓を、闇色の剣が串刺しにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 そしてまた闇は凝る。

 黒騎士アンヘルは不滅である。限りなく不滅に近い不死である。
 ゆえに彼奴はまたしても骸の海より還り、勇気ある者たちがこれを迎え撃った。

 今一度、その戦いは続く。未来のために。
リネットヒロコ・マギアウィゼルーク
「エミリィさん……あなたが最初に倒した猟兵はわたしのチームメイトです」

駆け出しの自分が敵う相手ではないと分かっている。
それでも。
じっとして居られなかった。
いつも賑やかで飄々とした彼女が
あんな姿で戻るのは見たことがなかったから。

実力差は圧倒的。
敵(かたき)が討てないなら――布石を打つ。
最後に自分以外の猟兵(だれか)が勝つために。


「眼魔光」(WIZ)で
脅威と感じた灰の呪剣の破壊を狙う

敵の先制攻撃には手持ちの
「特製まじかるポーション」
(今回は麻酔にも似た鎮痛剤)
を頭からぶっかけ限界まで耐える

自分の回収は後続に任せ
魔力切れか気を失うまで
灰の呪剣へ眼魔光を照射し続ける


この一発に、今の自分の全てを込める。




 グリモア猟兵の呼びかけに集まった者達のなかで、最初に倒れたバーチャルキャラクターがいた。
 彼女は自分にとっての仲間だった。同じ艇、同じチームとして戦う仲間。
 だから気がついたら志願していた。止まれるわけはなかった。
 きっと、未来を守るとはそういうことなのだろう。
 おそらく自分は奴と相対した時、震えて動けなくなるのだろう。

 それでも。

(彼女をあんな姿にしたことを、私は許せない)
 女には、意地があった。

●リネットヒロコ・マギアウィゼルークの場合
 ……認識が甘かったと、言わざるを得なかった。
 むしろリネットヒロコはこう思った。
(あの人は、"こんなもの"に率先して挑んだんですか)
 と。

「駆け出しか。震えを抑えきれてはおれんようだ」
 優しげな声音で騎士は言った。リネットヒロコからすれば化物にしか見えない。
 纏う闘気。穏やかに見えながら彼女にすら感じられるほどの血の臭い。
 可視化されるほどの、呆れんばかりの濃密な呪詛。そして隙の無さ。
「無駄とはわかっているが、私も騎士と呼ばれる身なのでね。
 一応忠告しておこう。そのままじっとしていれば、私は何もしない」
 かつん。一歩。
「、っひ」
 リネットヒロコも一歩退く。
「横にどいたほうがいい。追わんよ」
 さらに一歩。かつん。
「……~~~~っ」
 リネットヒロコが下げた右足は、やや横にずれていた。
 かつん。一歩。じり、とまた下がる。斜めに。
「…………では、さらばだ」
 かつん。かつん、かつん、かつん……。
 リネットヒロコは、もはや完全に横にずれ、彼の道を空けていた。
 黒騎士は一瞥すらなく、いっそ優雅に彼女を通り過ぎて歩いていく。
(……何よ)
 震える手首を抑えながら、彼女は心中で思った。
(何よ、何よ、何よ何よ何よ何よ!)
 なんだあの余裕綽々は。なんだあの、可哀想なものを見る眼は。
 そんなに自分は弱いか。敵と見えぬほどに。ああそうとも、己は駆け出しだ。
 ふんぞり返りやがって。偉そうにしやがって。けれど。
 けれど一番憎らしいのは。
(何を言うとおりにしているのよ、私は!!)
 それに怯えて一度は從った自分自身。腹が立つ、煮えくり返る。我慢できない!
「……う」
 ぎゅうう、と強く強く手を握る。震えを押し殺す。やぶれかぶれと笑わば笑え。
 それでも!
「ここで屈したら、私は――私は、みんなの仲間ですらいられなくなってしまいますっ!!」
 叫んだ。叫び、己の中に充満した恐怖を押し殺す。
 眼鏡を外す。滅多に人に晒さない赤い瞳が顕になった。睨みつけるは敵――否。
 次へ繋げねばならぬ。回遊する呪剣を睨めつける。
「収束――発」
 ごぼり、と。言葉が途切れ、彼女は間近で気味の悪い音を聞いた。
 何? ……ぼとぼと、びちゃびちゃという嫌な水音が響いた。
 彼女は足元を見た。己の口から、驚くほどの血を吐き出していた。
 敵がこちらを見ている。なんて底冷えする眼差し。あれのせいか。

 ――だが。痛みはとうに殺している。まだ耐えられる。
「……射っ!!」
 血を拭い、言葉を紡いだ。そこで黒騎士は瞠目した。そして光線が呪剣を……砕いた!

 やった。
 快哉は出せなかった。今度は彼女の全身に傷が開いて意識を刈り取った。
 それを見下ろし、黒騎士は言う。
「悪くない気概だった。私としたことが驚くほどには」
 砕け散った灰剣の欠片が浮かび上がり……かちゃり、かちゃりと組み合わさっていく。
 呪剣はユーベルコードの産物である。ゆえに破壊は一時的なものだ。
「だがやはり君は駆け出しだ、戦士ではない。私が出し抜かれたのもそのためだよ。
 その一撃、私自らに狙いを定めていれば話は別だったかもしれないが――」
 灰剣が組み上がった。彼はそれを一瞥し、踵を再び返す。
「その勇気に免じよう。敗北という過去に呑まれるかどうかは君次第だ」
 そして一瞥すらなく、去っていった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

百目鬼・明日多
突入の際、本体は入っていない大量のメダル「だけ」を投下して貰います。
その上で、そのメダルの背後から青年型アバター「だけ」を出し拳で一撃。
それもフェイクとした上で、敵がアバターへと視線を向けた瞬間に
本体が『遊技場への招待』で中に入ったメダルをダミーメダルと共に
投下してもらい、そこから飛び出して『電脳化身の拳』で攻撃します。

『記憶されし傷痕』については
①これまで一般人として過ごし、猟兵になってからも戦闘はアバターで行ってきたので傷は無いです。
②バーチャルキャラなので病気になった事も無いです。
なので大丈夫ですが、動けなくなった場合は
メダルに入ってアバターに持たせ『融合する刃貨』を投げつつ撤退します。




 母は人間に恋をしたのだという。
 真実を聞かされた時、少年はまず戸惑いを感じた。
 自分の出自。自覚した力。それによって為すべき使命。
 わずか10歳、電脳の海に起源を持つ少年はいまでも迷い、模索を続けている。
 それはどんなゲームより、どんなパズルよりも愉快なひとつの謎だ。
 オブリビオンとの戦いもまた同じ。ゆえに彼は戦場へ赴く。
 今回もそうだった。これまでと同じように戦うつもりでいた。

 そして少年は、真の恐怖を識った。

●百目鬼・明日多の場合
「それで?」
 黒騎士アンヘルは、傲然とした眼差しで見下ろしながら言った。
 両手には呪剣。周囲には灰色の刃が――いまだ縫合途中で――回遊している。
「次は何を見せてくれるのかね、若き猟兵くん。
 出し物としては悪くないのだが……残念ながらここは戦場でね」
 それは傲慢だったが、どこか言い聞かせるような色を含んでいた。
 然様、すでに黒騎士は明日多のことを敵とはみなしていない。

 なぜなら彼はすでに戦闘不能に陥っている。

「お前……がふ」
 少年は己を強いて敵を見上げようとした。傷がそれをさせない。
 全身を朱に染める鋭い刀傷。言わずもがなもたらしたのは呪剣である。
 若き少年の戦闘経験も、積み重ねたゲームの練習も何もかも封じられていた。
 ここに至る理由までは封じられていないのは、僥倖と言うべきか不幸と言うべきか。
「先ほどの彼女と言い、そういう策略なのかそれとも独断専行なのか……。
 なんとも歯がゆいな。私はVRシミュレーターの教官でも、練習相手でもないのだが」
 嘗めている。敵は己を嘗めきっている。
 新兵の訓練相手か何かに選ばれたのか、と迂遠に皮肉っているのだ。
 己は力量すら届かぬ新米(ガキ)だと。ぎりりと奥歯を噛み締めた。

「あああああああっ!!?」
 その柔い体を刃が貫いた。
「私は追われている身だ。常に神経を尖らせていなければならない。
 ゆえに……君にかかずらうだけでも、消耗は避けられないのだよ」
 ぐり、と体内で刃がひねられた。明日多は、己がこれほどの大声を出せるのかと驚いた。
 灼けるような痛みが臓腑を焦がす。もう一つの刃が突き刺さった。
「――――ッ!!」
 黒騎士はサディストではない。そういう下卑た趣味を持つ手合ではない。
 が、少なからぬ屈辱と、苛立ちがあった。悲鳴はそれを十分に和らげてくれた。
 殺すか? ――そうしたいところだ。だが否。近づいてくる気配を感じる。
 刃をもう一度ひねった上で引き抜いた。激痛が明日多をなおも苛む。
 プランは完璧だった。攻略は出来るはずだった。
 ……ただ、彼の思っていた以上に黒騎士は上手だった。
 二手三手の戦略を許してくれるほど甘くはなかった。結論付ければそれだけだ。
「しばらくは気も失えないだろう。ではさらばだ」
 闇が消えた。熱病のような心地のまま、少年は静寂に苦悶を叫び続けた。

 闇はいまだ健在である。

失敗 🔴​🔴​🔴​

明石・真多子
今度の相手は剣だけ?なら軟体魔忍にアタシに任せて!なんたってタコ焼きの具材として切られ慣れてるからね!
事前にタコの保護色能力で「迷彩」しておくよ。姿を消すことが目的じゃなくて気配を頼りに切らせることが目的なんだ。
触手くらいなら【アシキリダコ】でいくらでも生えてくるからへっちゃら!切った手ごたえで油断させるよ!
黒騎士の間合いはアタシの間合い!一発でも多く相手に拳を喰らわせるために全力で【タコ殴りの術】だよ!
鍛錬経験も戦闘経験も過去も関係ない!触手切られて怒らないタコなんていないからね!切られても止まらずに腕の数にまかせて殴りまくるよ!どうせすぐ生えるしね!




 黒騎士は艦艇内を我が物顔で歩く。
 彼は己の位置を隠すようなことはしない。必要がないからだ。
(テレポートとは実に忌まわしい。皇帝陛下の臥所にすら奴らは入り込めるのかもしれぬ)
 妄想だな、と切って捨てる。奴らが陛下のもとへ辿り着くなど……。
(……ありえぬとは、もはや言い切れぬか)
 敵も我々も、神秘の力ユーベルコードの使い手。
 ならば奇跡は起きよう。そう、たとえば――。
「相手をしよう。そろそろ出てきたまえ」
 姿を見せぬまま、尾行を続けるといったふうに。

●明石・真多子の場合
 その瞬間まで声を上げることなく耐え続けられたのは、ひとえに彼女の豪胆さ、そして辛抱強さがあらばこそだ。
 いつ斬られてもおかしくない。極限の緊張の中、しかし真多子は迷彩を維持し、慎重に間合いを計りながら尾行を続けていた。
 だがもとより、それに乗じて不意打ちを仕掛ける……などというつもりは毛頭ない。
 そして今のでわかった。奴は焦れている。
(アタシたち猟兵に狙われているっていうコト自体が、プレッシャーになってるんだ)
 勝てる。そのためには少しでも、一発でも多く打撃を叩き込まねばならない。
 絶対先制を覚悟し、真多子はじりじりと緊張の糸を張り詰めさせる。

 1秒。
 2秒。
 3――来た。自ら触手を切りはずし囮に。呪剣がこれを串刺しにする。
「軟体忍法、タコ殴りの術ッ!!」
 迷彩を保ったまま敵左側面へ。黒と灰色の呪剣が待ち伏せしていた。
 野生の勘に頼り即座にしゃがみ込む。拳の形に握りしめた触手がばっくりと横薙ぎに裂かれた。
(疾い。けど敗けない!)
 どれほど過去を封じられようが、キマイラとしての本能を解き放てば関係ない。己を害するものに立ち向かう、それが野生というものだ!
「オラオラオラオラオラァ!!」
 拳を10発放つ。その間に敵の斬撃は20降り注いだ。
「がふっ」
 触手によるデコイを切り抜け、合わせて6つの斬撃が彼女の肉を裂いた。
 血を吐き溢しながらもさらに一歩踏み込む。届かせてみせる!
「ま、だまだぁっ!!」
 極限の緊張がアドレナリンを吐き出させ、全身の血管内を駆け巡る。
 呪剣の軌跡が見える。拳1に対して剣は2、いや3倍の量で彼女に応報する。
 それでも踏み込みラッシュを叩き込む。敵は回避しない。相対距離1メートルを切った、ここなら!
「もらった! イヤーッ!!」
 右。左。右左右左右左右左!
「ぐ、がはっ」
 黒騎士は血反吐を吐いて一歩たたらを踏んだ。効いた!
 畳み掛ければいける。――真多子はその判断が間違いであったことを、直後に理解した。
 三本の呪剣が、まったく同時に彼女を串刺しにしたからだ。
「げふっ!? なん、で」
 ありえない。今までの速度なら今のはかわせていた。
 触手を犠牲にして、最悪でももう一度ラッシュを叩き込めたはず。なのに……。

「いや実際」
 マスクの内側から血を一筋吐き出しつつ、黒騎士は呻いた。
「驚嘆すべきことだ。私を尾行し、被弾を確保にこれほどまでに打撃を繰り出すとは。
 なので、私も今の自分がどこまでやれるのか計らせてもらった」
 ――手加減していたのか。あれで。
「そのツケは大きかった、がな……チ、やはり慢心は己のためにならんな」
 彼女に突き刺さった呪剣がぐるりと円を描いた。
 激痛が真多子に極限の苦しみをもたらした。
 それでも彼女の意思と無関係に、本能に支配された体は敵に襲いかかろうとする。
「――これがアゴニーフェイスを破壊せしめたしぶとさか」
 忌々しげに見下ろし、吐き捨てると黒騎士は姿を消した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

神酒坂・恭二郎
「さぁて、こいつは強敵だねぇ」
黒騎士アンヘルは手強い相手だ。

あの初撃は防げない。
虚空から飛来する空間に記憶された斬撃は防ぎようがない。
本当に?

「楽しくなってきたねぇ」
知らず笑みが零れた。
もろ肌を脱ぎ、脱力して黒騎士に歩み寄る。
無防備に生死の境に身を置いて、ただそんな己に身を委ねた。
死ぬなら死ねと言う心地だ。
何とも気楽で血が滾る。

「…………せやぁぁっ!!」
不意に虚空に抜刀し、青の光を閃かせたい。
読みが当れば、初撃を斬り潰している筈だ。
余波で全身が血塗れだろうが、死ななければ安い。
己に息があれば、すかさず刀を投げて黒騎士に突き立てよう。

「神酒坂風桜子一刀流・連流星(つらねながせ)……ってなもんか」




 この日――正しくはこの艦艇に現れてから、初めて。
 黒騎士は嗤った。然様、愉悦に微笑んだ。
「噫。君も来ていたのか。これはいい」
 視線の先。着流しの男がひとりきりで佇んでいる。

●神酒坂・恭二郎の場合
 ――こいつぁとんでもねえ強敵だ。
 スペース剣豪は心中で述懐した。
 一目見て、否、その殺意の兆しに触れただけで全身が総毛立った、というやつだ。
(いいじゃアねえか)
 男は笑う。神酒坂・恭二郎は生来、無頼の気質である。
 生死の境にあって笑ってしまう、物狂いとも言われかねぬ悪癖だろう。
 されどかつてもそうして勝利を得た。ならば。
「俺をご存知ってかい。こいつは光栄だねぇ」
 恭二郎は飄々と答えた。騎士はむしろその反応に驚いた。
「心外だな。ヘロドトスの戦いにおける君達の活躍は我らの耳にも入っている。
 無論、"彼女"の強さもね。それを正面から打ち負かした、ともなれば」
 す、と目が細まる。それは鬼の貌だった。
「我が剣は如何ばかりか、試してみたくなるのも道理ではないかな?」
 心の臓腑を内側から握りしめられるような圧迫感を覚えつつ、剣豪は笑う。
 そしてやおら上半身を晒した。腰を落とし、柄に手をかける。
「楽しくなってきたねぇ」
「……私にも同じ流儀で差し合うと? これは、これは」
 すり足一つ。制空圏が近づき、火花めいて殺意がせめぎ合った。
 こらえきれず、周囲の壁という壁がみしりときしむ。
「名を問うておきたい」
 黒騎士は言った。
「神酒坂風桜子一刀流、神酒坂・恭二郎。人呼んで――スペース剣豪だ」
「銀河帝国が双璧の一、黒騎士アンヘル。お相手仕ろう」
 とはいえ。黒騎士はいちいち斬りかかるような真似はしない。
 消えざる過去の刃。空間に打ち込んだ過去の斬撃を即座に呼び出す必殺の一撃。
 その太刀筋不可視にして不可知、無音にして刹那。
 斯様に不条理な剣技、あっていいものかと剣豪は思う。
 いいのだ。だからこそ面白い。生死の境に己を置いてこその勝負師なり。
 混ざりあった殺意は煮凝りじみて空間を歪ませ、ぎちぎちと音ならぬ音が響いた。
 不思議と力が抜ける。聞こえぬはずの風桜子の囁きが聞こえた気がした。

 5秒。両者は動かぬままに向かい合う。
 1分。いまだ動かぬ。恭二郎はおろか、黒騎士の頬を一筋汗が伝う。
 ……そしてマスクを伝い――ぴちょん、と床を跳ねた。

「――せやぁあアッ!!」
 キン! という涼やかな音。伐った。恭二郎は確信を得る。
 青い光の刃は見えざるそれと打ち合い、ともに砕け散り破裂した。
「ぬうっ」
 黒騎士が退く。礫めいて溢れたそれらは両者の全身をいたく傷つけた。
 どちらのものかも解らぬ血があふれる。すでに剣豪は動いている。
 なぜ読めたのか? 彼に必勝の策があったとでも?
 ――そんなものはない。彼はただ生死の境に身を置き、己自身に身を委ねた。
 死ぬならば諸共、いやさいっそ死ね。そんな視点で己を見ていた。
 死中に活あり。極限の緊張にあって剣豪は、しかし気楽に己の生き様を預けた。
 それがたまたま噛み合った。それだけの話だ。なぜなら彼は『読みを当てたことがある』のだから。
 対手の刃が過去のそれなら、それを打ち払ったのもまた剣豪の過去なり。
 黒騎士は恭二郎の過去を封じるべきだった。その時点でこの勝負は決していた。
「疾――ッ」
 銀河一文字。名匠・銀河流星の大業物。刀身二尺余の実体剣なり。
 男はこれを擲った。黒騎士はそれを呪剣で切り払おうとした。されど刃が貫いた。
「が……は」
(逸らされたか)
 わずかにずらされた。恭二郎は敵の身のこなしに驚嘆を覚えた。
 神酒坂風桜子一刀流・連流星。命は取れず、されど機は得たり。
「黒騎士アンヘル。その首級、頂戴仕るぜ」
 凄絶な笑みである。黒騎士は己の最期が迫りつつあるのを理解した。

 ――そして、それを為す者たちがここへ現れる。

成功 🔵​🔵​🔴​

春日・釉乃
【POW】【連携・アドリブ改変可】
今回こそ、この目でと向き合わなくちゃいけないんだ、あたしは
…黒騎士アンヘル、あなたが『過去に起きた事象』を操るというのなら!

まずは[コミュ力]で近くにいるPOWの猟兵を半径5m以内へ集め
左目の魔眼を完全解放し【ラプラスの瞳】を最大限まで発動

[第六感]を駆使して、アンヘルが操作する【消えざる過去の刃】の攻撃位置を逆探知
猟兵に攻撃が当たる前に[早業]と[先制攻撃]で攻撃が命中するという因果を書き換えて軌道を逸らすよ

アンヘルの過去操作へ全力の現在改変で立ち向かうから、あたしは動けない
けど、囮になって皆を守護すればきっと背中にいる仲間が反攻してくれると信じてるからね!


マハティ・キースリング
逃げ回っていた小娘ではない
もう過去など怖くはない

まず目的として
他猟兵様への攻撃を庇ってでも瀕死になりたいと思う

銃や熱には耐性があるが斬撃は相性が悪い
…コイツを試してみるか

アームドフォート、戦車、窒素大気の壁、これらを組み合わせ
即興の機械盾を生み出し致命打を防ぐ
内臓兵器の牽制弾を放ちながら
盾・壁・バリケードをその都度、生成し続け
凶悪な斬撃を受け躱しやり過ごす
だがそれは仮初の防具に過ぎない

本命は体に纏わせた液体金属、切断部分を防具改造で無理矢理結合させ
粉微塵にされようとも強引に戦闘継続させる

紺碧の炎にて知らないご厳父様を呼び出し強襲、挟み撃ち
視界すら怪しいがいい仕事をする猟兵達だ…後で酒でも奢ろう


レトロ・ブラウン
…ウーン。こノ闇、何か奇妙ナ予感がシますね…?
先ずハ防御!単純にユーベルコードで防げルとは思エませンからアイテムを使いまス!
接敵前にセーターで自分ノ姿は消シつつ分身!マフラーで逆ニ大音量で足音ヤラを出して反響さセ、何処かラ聞こえるノかわからなくシます!
そしテ…オーバーフロー・スターズ!
攻撃ノためでハなく!滞空させて照明としテ使います!
これデあの剣達ハ見やすクなり、回避モ不可能でハなくナルはずでス!
そしテ分身其々が持っテいるアイテムを使っテ攻撃シます!モチロン本物ハ一体なのデ通る攻撃ハ一個デスが攻撃できタといウことが重要ナノです!
一対多も訓練していルでしょウが、こレだけの情報ノ洪水ならば或いは!


黒城・魅夜
【第六感4】【見切り3】【残像3】により回避を試みつつ接近します。私の108本の鋼鎖を全方位に乱れ撃ちながら。すなわち、単なる回避だけではなく攻勢防御をも同時に行います。

ええ、それでもあなたの剣は私の身を貫くのでしょう?
でもね、実は興味があるのです。
この身を縛る鎖は、確かに過去から繋がる呪い。しかし同時に、未来のあの方へとつながる希望の絆でもあるのですよ。
たかが過去にしか手を出せないあなたの剣が、過去であるとともに未来でもある私の鎖を、どう防ぐのでしょうね。

串刺しにされ血みどろになりながらでも【激痛耐性2】【覚悟】で歩み。
そして静かにささやきます……緋色の弔花は悪夢の深淵に狂い咲く、と。




 黒騎士にとっての誤算はいくつもある。
 猟兵の生命力、そして生存本能の強さはその最たるものと言える。
 だがそれを刺激し、引き出すような艦隊を率いていたのもまた彼だ。
 もっとも、かの異形の悪夢機械までは別の話だが……。
 なんにせよ、黒騎士は敵に塩を送ってしまったとも言える。
 ゆえに彼らがここに来、また黒騎士を滅ぼすに至った一因は、間違いなく――。

 奴自身の、自業自得でもあった。


●春日・釉乃とマハティ・キースリングの場合
 まず最初に現れた女は二人。
 一人は刀を佩いたラフな格好。もう一方は迷彩外套を纏う災厄じみた砲兵である。
「ここまでよ、黒騎士アンヘル。あたしたちに、あなたの力は通用しない」
 刀を佩いた女、釉乃は決然たる足取りを緩めぬままに言った。
 その左目がにわかに赤く輝き、黒騎士にとっては不吉な色を帯びる。
「さんざっぱら好き勝手やってきたんだ、もう一度死ぬぐらいわけないだろう?」
 どこか枯れた雰囲気を纏う女もまた、アームドフォートを撫でつつ言う。
 立会の間に不意を打てたやもしれぬ。だがそれでは通用しないと彼女らはわかっていた。
 ゆえに彼らは姿を見せた。黒騎士は刀を引き抜き、苦痛に呻きながら睨め返す。
「威勢の良さは十分だな。それでどのようにして、後ろの二人を私に到達させると?」
 二人の女にわずかな動揺があった。然り、彼女らは正しくは四人組でここへ現れたのだ。
 ……やはり不意打ちは通用しない。その点で猟兵たちの判断は正解だった。
「そんなこと、言うまでもないでしょう?」
 けれども釉乃は毅然と睨み返し、じわりと力をにじませながら笑った。
「ああ、逃げるのはもうやめにしたんでね。私も、みんなも」
 マハティもまた、しっかと地を踏みしめながら腰を据えて答えた。
 ――真正面から突き崩すというのか、笑止。
 黒騎士の周囲が、どろりと濁った。それは絵の具が混じり合うさまにも似た。
 女二人は、全身からどっと脂汗が吹き出すのを感じる。これと単独で対峙したのか、これまでの猟兵たちは。
(けれどその意味はある。あたしたちがそれを繋ぐ)
 釉乃は心の中で呟き、あの忌まわしい悪夢の内容を敢えて再び思い出した。
 打ち砕かれた心を拾い集め、再びつなぎ直した。もはや魔眼を前に退きはしない。
(……過去なんて怖くないね。ああ、死ぬことだって)
 マハティもまた、過去の残影に思いを馳せた。光炎が彼女を苛んだ。
 己が災厄を解き放ったと言うならそれもまたよし。命は仲間たちに預けた。
 ……じりじりと戦意がせめぎ合い、黒騎士の傷跡から血が零れた。
 それが地面をしとどに汚した瞬間、戦端は開かれた。

●レトロ・ブラウンと黒城・魅夜の場合
 ……一方で、矢面に立ったふたりの女の背後。そこにもまた女がひとり。
 同じように男のテレビウムが一人。攻撃は彼らが届かせる手筈である。
(お二人ハ、本当に大丈夫デしょウか?)
 作戦会議をしたあとも、レトロ・ブラウンは何度も不安がっていた。
 むべなるかな。あの黒騎士を相手に、四人がかりとはいえ正面から挑もうと云うのだ。
 それでも己よりも他者を慮る。レトロはそういう手合だった。
(さあ、わかりません)
 魅夜の答えはあっさりとしたものだった。彼女もまた、己の命に重きを置かないタイプだ。
 かといって人に執着しないのかと言えばそうではない。むしろ逆である。
(ただ……そうですね。あのお二人は)
 若干の思案のあと、悪夢を味わい尽くした女は言った。
(――黒騎士を通して、自分自身の過去を乗り越えるつもりなのではないかと)
(自分自身ノ過去、でスか……)
 だいそれた話だ。相手は帝国の重鎮、嘗めてかかれば死は必定。
 いや、だからこそか。ゆえにこそ、彼奴が操る過去という力を乗り越えられねば。
 ……克服できたのだと示せねば、どのみち未来は潰えてしまう。
 それはレトロたちも同様である。彼らは四人とも、悪夢に囚われかけた猟兵。
 黒騎士アンヘルをその手で打倒する。それこそが己にとっての確固たる証明であり――。
(ボクたちの敵ハ、まダ奥に居ルのデスかラネ!)
(そういうことです。ああ、それと……鎖が当たったら、ごめんなさいね?)
 などと軽口を叩いていた覚えがある。

 そして殺意のカーテンをくぐり、二人は濃密な闘気に呑まれ……。
 震えを屈服させ、ここへ来た。戦端が開かれた瞬間に、二人もまた動いた。

●戦闘開始
「――では死にたまえ」
 瞬間、黒騎士の周囲を回遊していた呪剣がわっと空へ浮かび上がった。
「来るよ、みんな集まって!」
 最初に檄を飛ばしたのは釉乃である。レトロと魅夜はそれに応じ、彼女の周囲へ駆け込んだ。……といっても、レトロは光学迷彩じみた発明品により、自身の姿を可能な限り歪曲して見えづらくしているのだが。
 ともあれ驚くべきはそこから二点。一つは、黒騎士による不可視の斬撃が同時に繰り出されたこと。
 ――もう一つは、マハティの行動だ。
 彼女は釉乃の警告を無視し、あえて前に出た。正気の沙汰ではない。
 だがこれが釉乃を救った。彼女が魔眼の力を解き放つわずかコンマゼロ秒前、斬撃は彼女を襲おうとした。
 絶対先制とはかくあるものだ。ユーベルコードを発動できる保証などどこにもない。
 ゆえにマハティが動いた。釉乃を押しのける形で斬撃軌道に入り、己に向けられたそれを含めて両方を受けた。
 血が迸る。釉乃は瞳を見開き――己を強いて眦を釣り上げ、力を解放した。
「みんなを守護るためなら――もう二度と、あたしはこの瞳から、逃げないッ!」
 かくてラプラスの瞳は開かれり。
 ドーム型に拡張歪曲した、因果律を自在に操る概念空間。
 たった5メートル。されど5メートル。支配下に置かれた灰色の庭。
 二度三度と続いた斬撃の嵐をその法則改変を以てねじ伏せた。
 驚くべき速度と凶悪な軌道を伴い、ミサイルじみて飛来した呪剣を反らした。
「貴様――」
「今よ、行って!」
 釉乃は左目からおびただしい血の涙を流しながら叫んだ。
 ――なんて奴。一瞬でも目をそらしたら、あたしの脳味噌が焼き切れる。
 握りしめた掌が汗ばむ。これほどの張り詰めた緊張を彼女は知らぬ。
 法則改変は相応の極度集中と魔眼の酷使を要する。無敵ではない。
 いわば存在格の戦いだ。敵の攻撃、その殺意の重圧の重さやるや!
「任さレまシタよッ!」
 けたたましい騒音とともに、まずレトロが跳んだ。
 5メートルのドームを切り崩せぬとみた呪剣は、歪むシルエットの中心を捉えんとその出口でレトロを待ち構えようとする。
 これを戒めるかのように、荒れ狂う鎖の群が呪剣を打ち据えた。
「おどきなさい、道を遮るのは騎士として失礼でしょう?」
 魅夜である。その口許には薄い笑み、荒れ狂う鎖鞭たちに敵味方の区別はない。
 されど法則改変の庭は絶対安全圏だ。彼女の攻撃にそこまでの存在格はないのだから。
 ゆえに魅夜は思う存分に鋼鎖を解き放ち、振るうことで突撃路を確保した。
「邪魔立てするな、女ァッ!」
 黒騎士が咆える。然り、鎖は彼をもすら襲うのだから。
 これを避け、打ち据えられた呪剣を引き寄せて両手で掴み取る。
 妨害のつもりか、耳をつんざく轟音に顔をしかめながら、黒と白とを構えた。
 この時、レトロは跳躍し頭上アドバンテージを取っていた。
 光学迷彩が解かれ、途端に無数のテレビウム――それはほとんど分身だ――がわっと戦場を圧倒する。
 小癪。分身たちに紛れて己に来たるマイクロミサイルを迅雷の如き刀捌きで切り払う。
 視線が対手どもを見やる。鎖の雨を抜け、轟然と突き進むマハティの姿を見た。
 いかにしてか致命打を凌いだか。ならば死ね。
 後方の釉乃ともどもに不可視斬撃の雨。灰色の庭の中心で、釉乃は膝を突いたのが見えた。
 耐えられるとしてあと一度か。マハティも全身を朱に染め――しかし突き進む。
 この女、死ぬ気か? 黒騎士はわずかに訝しみ……ちり、とうなじに痺れを感じた。
 背後に何かがいる。この気配、おそらくはウォーマシンか。
 ……然様、これこそはマハティにとって未だ姿を見たことなき増援である。
 山羊頭を持つ奇怪なる幽鬼。彼女にとっては忘れざる過去の残影。
「挟撃は戦場の常だ、あんたならご存知だろう?」
 女は鮫のように笑った。黒騎士は絶え間ない屈辱に歯を鳴らした。
 弾幕が貼られ、鎖が荒れ狂い、血反吐をこぼしながらも戦鬼は突き進む。
 彼らを送り出した魔眼もまた健在。灰色の庭は揺らぎながらもそこにある。

 どれだ。どれから殺す。どのように殺す。
 黒騎士は屈辱と怒りの中で高速思考し、ふと気づいた。
 考えるべきはそれではない。己が真に考えるべきは――。
 "どうすれば死ななくて済むのか"、であるということに。

「ご、ぼっ」
 然様、一手目を凌がれた時点で黒騎士の命運は定まっていた。
 四人の行動は互いの連携をもって、多くの傷と消耗を敷いられながらも、その短く果てしないほどに長い道程を埋めていた。
 致命的な傷が黒騎士に穿たれた。辿り着いた女が耳元で囁く。
「"緋色の弔花は悪夢の深淵に狂い咲く"。――さあ、どうぞ美しい鋼の血華を咲かせてくださいませ」
 黒騎士はこれを悪夢だと己に言い聞かせた。
 苦痛と絶望が、それは否であると厳然に知らしめた。

 そして奴は、憤懣を抱いたままさらなる滅びを迎えたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



 されど、また闇は凝る。

 骸の海は再び闇を生む。かくて星界へと黒騎士は立ち返れり。
 あと何度滅びるのか。あと何度滅ぼせばいいのか。あと何度戦えるのか。
 黒騎士は傲然と笑う。我は過去、汝は死すべき定めなりと。

 ならば何度でも滅ぼそう。お前が諦め潰えるまで。
 我らは未来を守る者。過去はねじ伏せ踏破するためにある。猟兵たちはそう返す。

 そしてまた、戦いが始まる。
神元・眞白
【SPD】
攻撃に合わせて先制してくる。…ユーベルコードに合わせて?
1つ仮定は立った。あとは上手く実戦に組み込めるか、だけど
仮定を信じすぎないのは大事。

奇襲はせずに、まずは正面から。人形として変装はしておくけど挨拶を。
仮定;対ユーベルコード カウンター攻撃
相手の動きに合わせて符雨でけん制しつつ、飛威を攻撃に。
私自身はあまり動かずに。符雨に銃を借りておくのもいいかも。

来るとしたら3本の呪剣。集中して受けるとまずいから1本ずつ担当。
攻撃を受けた時の痛みは人形として動く想定にして、耐えよう。頑張る。

ユーベルコードは使うタイミングがないかも?保険としては準備。
実地勝負だから使うにしても過程の検証後に




 かたしろの女は魔を喰らう妖玄の子。敵を鏖殺する四番目の子。
 その身に刻まれた業はどれほどのものか。彼女はそれを知りなお胸を張る。
 否、だからこそか。主をその手にかけたという罪もあるが、けれど。
 姉たちが自分を守り、見ていてくれる。ならば背筋は張らねばと。

 死地にありても、少女は己の身を晒すことを厭わない。

●神元・眞白の場合
 ユーベルコードに対する絶対先制。
 攻撃を凌がねば、攻撃すらままならぬというあまりにも高く分厚い壁。
(……なら、ユーベルコードを使わなければ?)
 眞白の仮定は道理と言える。だが机上の空論なのも確か。
 ゆえに彼女は自らそれを検地することにした。並大抵の覚悟で出来ることではない。
 ミレナリィドールとはいえ、基幹部を破壊されれば死ぬ。
 壊れる、ではない。死ぬのだ。一度死んだ命は絶対に蘇らない。
(……それでも、私が頑張らなきゃ)
 少女は常日頃から心の中で続けているように、無表情でそう言い聞かせた。
 それが、四番目の戦術器として出来ることなのだと彼女は信じている。

「……ふむ」
 某艦艇。己を待ち伏せていた三つの影に、黒騎士は得も知れぬ吐息を漏らした。
 然り、三体である。どれも人ではないことは一目で看過できた。
「ウォーマシン、いや電脳生命体でもあるまい……人形、か。
 私が来ることを察知していながら、隠れ潜まない度胸は見事なものだが」
 中央の人形は、いかにも淑女然とした瀟洒な衣装に身を包んでいる。
 傍に控える二体は、いわば給仕か。この時点で銃とナイフの仕込みを看破している。
 だが黒騎士を訝しませたのは、人形たちが言葉なく立ちふさがったことではない。
「怯えもせず、さりとて戦意も見せない。これはどうしたものか」
 人形たちにこれといった闘志が見えないのだ。
 かといって震えているのか? 否である。出方が読めない。黒騎士は思案する。
 無論、このままつかつかと歩み寄り、通り過ぎるのは簡単だ。
 そこで不意打ちをかけてくるとして、その瞬間に三体とも縊り殺すのは容易だろう。
「はじめまして、黒騎士アンヘル」
 そこでふと人形が口を開いた。給仕に扮した眞白である。
「残念ですが、ここを通すわけにはいきません。お覚悟を」
 抑揚のない言葉である。いかにもプログラムされたそれを出力しているかのような。
 たどたどしさが余計に人形らしさを強める。とはいえ、黒騎士に油断はない。
「所詮は木偶人形、か」
 ふ、と冷笑があった。直後、その姿がかき消えた。
 来る。とてつもない殺気がぞわりと空間を撫でた。眞白は叫ぶ。
「飛威、符雨ッ!」
「噫。やはり君が操り手か」
 背後からの声に、眞白は目を見開く。――誘われた。
「あ、がはっ」
「私を試そうという気概は褒めよう。だがいい気分はしないな」
 土手っ腹を串刺しにした白剣を引き抜き、無感情な声音でアンヘルは言った。
 残る二体の戦術器たちも動いていた。だが黒と灰がそれらを串刺しにした。
 認識が甘かったと言わざるを得まい。敵は絶対先制を約束された強敵である。
 戦場で策を試し、そのあとに動くなどという悠長な手を許してはくれない。

 呪剣が彼の手元へ戻る。とどめとばかりに黒と灰が突き立てられた。
 眞白の悲鳴が、おそらくこの世界に来て初めて大気を震わせた。
「……驚いたな、これで死なないか。猟兵だからなのか、人形だからなのか」
 たいして驚いていなさそうな顔で奴は云う。いっそバラバラに切り飛ばすか?
 手間がかかる。彼はリスクを取り、剣を引き抜き踵を返した。
 人型の闇が去っていく。眞白は何かを言おうと手を伸ばし――そこで、意識を闇に落とした。

失敗 🔴​🔴​🔴​

トルメンタ・アンゲルス
本当に、いくらオブリビオンとは言え、過去を引っ張ってくるのが好きですねぇ。
――こちとら未来に進んでるんだ。いつまでも構っていられないんですよ!

高々数本の剣で、俺を捉えられると思うな!
ブースター全開!
第六感、見切り、残像、早業、視力、ダッシュ!
使える技能を有りっ丈使い、スマッシュ・エアも使った出鱈目な軌道で、最高速で攻撃の隙間を駆け抜ける!

過去という凝り固まった貴方に、この蹴りが読めるか!?
物理法則を無視した、この俺の、追撃のブリッツランツェをォ!!

剣を振るうなら、こちらもブレードで武器受けして反らします!
そのまま肉薄し、鎧を無視する程の火力を込めたグリッタービームの零距離射撃を見舞いましょう!




 過去なんてものは、疾さを信条とする者にとってしがらみ以外の何者でもない。
 ゆえにオブリビオンは敵である。打ち砕かねばならぬ天敵であり――。
 越えねばならぬ壁なのだ。

●トルメンタ・アンゲルスの場合
 黒騎士はただ一人、リラックスさえして歩いていた。
 極度のオーラを放射し、己の位置を晒すような真似をしながらも五体は脱力。
 されど緊張と殺意は張り詰め、そして隙の無さは鉄壁。矛盾である。
 その矛盾を可能とする域に到達しているのが、この男である。
 ゆえに。
「――ほう」
 超絶的速度で来たりし者、その大気の揺らぎすら奴は感じ取った。
『オオオオォオオオッ!!』
 像を残すほどの速度で回避・攻撃を行う猟兵は、皆無というほどではない。
 だがトルメンタの速度はもはや、絶無の域に到達していた。
 なにより恐るべきはその軌道だ。狭く限られた艦艇内を縦横無尽に飛び回る。
 さながらそれはクォークの世界、目に見えぬ微小な原子たちのランダムに似た。

 ……だが、心胆を寒からしめられていたのはトルメンタのほうである。
(これほどとは、これが黒騎士アンヘル)
 動揺を表に出さなかっただけでも、彼女の冷静さは随一と言えよう。
 奴はこの不意打ちに対応した。あまつさえ呪剣さえ解き放っていたのだ。
 彼女の軌道は敵を幻惑するためではなく、全て回避のための行動である。
 もしも一直線にやつを狙っていたら……考えたくもない。
 だが三条の刃は避けきった。相対距離は十分に縮まった!
(最高速を維持できている。いける!)
 己を鼓舞するように天使は叫んだ。
 そしてユーベルコードの力を解き放った瞬間、彼女は物理法則からすら解放された。

「過去を操るその力! それに凝り固まった貴方に――この蹴りが読めるかッ!?」
 嵐である。ジグザグ軌道を越え、時に歪曲しときに反転する軌道は嵐のごとく。
 色のある風、否、光となった緑の燐光と、それを貫かんとする三条の刃。
 時に交錯し時に打ち合い、トルメンタと呪剣は黒騎士の周囲を超高速で渦巻きあう。
 然様、嵐である。嵐の目は黒騎士そのもの。彼は泰然と佇んでいた。
(攻め込めない!? 俺の動きを読んでいる……!?)
 黒騎士は視線で追うことは諦め、彼方を見ながら言った。
「それで? 自慢の蹴りはいつ届くのかね。大道芸人殿」
 ぶちり、と。トルメンタの脳裏で何かが切れた。
 いいだろう。代償なしに攻めきれぬというのなら。
 一撃だけでも届かせてみせるとも――。
「決して逃さんッ!!」
 ブレード展開。白剣黒剣を打ち払い両足をたわませる。コアマシン最大出力!
「追撃のォ! ブリッツ――ランツェッ!!」
 シュパ――ッ、擬似重力を切り裂き渾身の一撃!
 そしてここからだ。ゼロ距離でのグリッタービームを――。

 "甘い。"
 たしかに奴は、マスクの下でそう呟いた。

 ――KRAAAAAAAAAASH!!

 超スピード炸裂の余波により艦艇の壁が床が天井が砕ける。
 もうもうと土煙が立ち込める中、瓦礫を払い黒騎士が現れた。
 重い一撃であった。全身のスーツとマスクに罅割れ、頭から血が一筋。
「ぐ……ふん、誇るだけはあったようだ」
 想定以上の被弾である。だが苦渋はない。なぜなら。
「覚悟の上の一撃、か。感服したよ、最初の非礼を詫びよう。
 ……まあ、聞こえていないだろうが」
 三呪剣に串刺しにされ、変身を解除させられたトルメンタに語りかけた。

 彼女は一撃に全霊を注ぐべきであった。ならばあるいは、その蹴撃で彼奴を仕留めきれた可能性すらあっただろう。
 黒騎士は強敵である。布石はむしろ逆効果となる場合もある。
 皮肉にも、彼女はそのスピードゆえに凄絶な反撃を許したのだ。

 新たな猟兵の気配を感じ、黒騎士は介錯を諦めて姿を消した。
 嵐の後には凪が来る。天使の胸中、いかばかりか。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ゼイル・パックルード
さて楽しみだ…無駄口叩かず楽しめそうだな
敵の攻撃、相手の動きがあって発生するのか、それこそ刻まれて触れればトラップのように発生するのか
【第六感】で分かれば苦労はしないが、不確定な勘よりは【見切り】たいし相手から目を離さない
鉄塊剣を持って突っ込むフリして敵の動きを見る
トラップのようなものなら剣の感覚でわかるだろう
相手の動きによるものやそうでなくても任意で発生するものと判断できたら、鉄塊剣は相手目がけて投げる
ダメージを受けたりはしないだろうが、その隙にできるかぎり一気に近づく
後は敵の動きに注意して致命傷は回避
最悪傷や欠損は炎で補う。
間合いに近づけたら、【捨て身の一撃】の気分でユーベルコードを放つ。




 この世にはどうしようもない人間というものがいる。
 人を殺さずにはいられないもの。
 誰かを苦しめずにはいられないもの。
 ダメだとわかっていても、それをなさずにはいられないもの。
 法律。道徳。規範。倫理。常識。
 人は誰しも多かれ少なかれ、己の裡に獣を飼うからこそそれを定める。
 ルールを。逸脱してはならじ、という法則を。

 男とて人だ。それをわきまえ、できるだけ尊重している。
 それでもやはり。男はどうしようもなく逸脱していた。

●ゼイル・パックルードの場合
 ――楽しみだ。
 黒騎士との死合を前にしたとき、男は最初にそう思った。
 尋常の人間が持ち得る感覚ではない。いかにも彼は修羅である。
 傭兵として戦場を歩き、冒険者として処方を旅した。
 戦い、争い、奪い、奪われ……やがてそこに充足を見出した。
 自分は人でなしだ。ああそうとも、平穏に己の居場所はない。
 死すべきさだめとはいえ、生きたいと願う者たちに躊躇なく刃を振り下ろせる者が。
 止むに止まれぬ事情があるとはいえ、子供を笑顔で地獄に送れるような輩が。
 まともであるはずはない。まともであっていいわけがない。
 ――さりとて、この性分を捨て去るつもりもない。ゆえに。
「君はなぜそこにいる?」
 黒騎士に問われた時、ゼイルはきわめて不愉快そうに顔を顰めた。
「無駄口を叩く手合じゃあないと思ったんだが」
「純粋な興味だよ。君のような輩が、猟兵として私に相対するということがね」
 ハ、と鮫のように笑った。ああ、そうか。さすがは黒騎士様、お見通しか。
 だがいちいち言葉にして応えるつもりもなかった。ただ燃えるような瞳で笑ってみせた。
「……本当に、君のような人間が我々に歯向かうのは興味深いことだ」
 声音には一種のシンパシーがあった。ゴメンだね、とゼイルの側は吐き捨てる。
 問答はそれで終わりだ。じりじりと熾火のような時間が両者の間に流れる。
 もはやゼイルは獲物しか見ていない。敵をいかにして殺すか。
 不可視にして不可避の斬撃、消えざる過去の刃。これをどう防ぐ?
 いかに超常の力とて、その引き金を引くには同じ意思を持つ存在だ。
 であればその攻撃には必ず"起こり"がある。それを見抜かんとする目論見は見事。
 鉄塊剣を構え、時折フェイントめいて腰を落としてみせる。黒騎士は不動。
(そう簡単にはしっぽを出しちゃくれねえ、ってか)
 敵は手負いだ。いつまでも待っているはずはあるまい。
 無論ゼイルとて、対手の想像以上のプレッシャーに全身の神経が悲鳴を上げていた。
 ああ、だからこそ楽しい。けれどいつかは終わらねばならぬ。
 ぱらり、と天井から瓦礫の欠片が落ちた。それが合図となった。
「おらッ!」
 やおら、ゼイルは巨大な鉄塊剣を思い切り擲った。黒騎士はわずかに瞠目する。
 博打である。罠の類ではないと見た。敵の任意で引き起こされる事象だ。
 ならばやりようはある。視線、身のこなし、僅かな所作から狙いを読み取れ。
 つい、と少しだけ黒騎士の姿がぶれた。鉄塊剣を最小の動きで回避したのだ。
 地獄の炎を拳に纏わせる。相対距離約5メートル。
 4メートル。
 3メートル。
 2メ――ここか。狙いは喉元!
「ぐ、うッ!」
「何」
 黒騎士は今度こそ瞠目した。頸を切断するつもりで放った斬撃である。
 だがゼイルは握りしめた側と逆の腕でこれを受けた。炎が吹き出す。
 男は野卑に笑った。
「お返し行くぜ――一足先に、地獄を味わいなッ!!」
 相対距離30cm。腰を落とし、抉りこむような烈破灼光撃が鳩尾を撃つ!
「がはッ!!」
「ぐお……ッ!?」
 苦悶は共に。捨て身の一撃はたしかに叩き込めた、その返礼もついてきたが。
(――ざまあみろ、クソ野郎め)
 血と炎にまみれ、意識を薄らがせながら、己を睨めつけ吹き飛ぶ黒騎士を嘲笑った。
 ゼイル・パックルードは逸脱者だ。殺しと戦いを楽しむどうしようもない人でなしである。

 だが。
 なによりも、いい気になった輩には一矢報いねば気に入らない。
 彼は、そういう手合でもあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シーザー・ゴールドマン
【POW】
ふむ、強敵だ。

『消えざる過去の刃』対策
先制攻撃は防ぎ様がない、となれば耐えるしかないね。
[オーラ防御]を一撃で致命的な個所にのみ集中させて初撃を受ける事を覚悟。
『消えざる過去の刃』を受け、生きていれば『シドンの栄華』を発動。
「一撃で私を殺せなかったようだね」
[創造の魔力]でとりあえず傷口を塞ぎ[維持の魔力]でそれを維持
(とりあえず戦闘続行可能レベルで)
そのまま[破壊の魔力]を込めたオーラセイバーを振るいます。
先制を乗り越えれば条件は同等。
再度の過去の刃は[第六感][見切り]を駆使して回避しつつ戦闘を続行。
「とはいえ、最初のダメージ分、不利だ。どこまでやれるかだね」




 地獄の炎が延焼し、黒騎士の罅割れた鎧を灼いた。
 それを壁に床になすりつけ、ふらつきながら闇はそぞろ歩く。
 忌々しい。忌々しきは我が天敵ども。
 これは何度目の戦いやら。我は奴らに何度滅ぼされたのやら。
 これまでの私はおそらく同じように苦しみ、同じように思い、同じように決めたのだろう。
「敵は猟兵、敵は猟兵だ」
 殺す。
 奴らを殺す。
 必ず、殺す。

●シーザー・ゴールドマン
「来たか」
 待ち伏せポイントを覆うおぞましいまでの重圧。
 五感を痺れさせる殺意の嵐を感じ、されど平然と男は呟いた。
 この鉄火場に合わぬ瀟洒な着こなしである。
「強敵とは覚悟していたが、なるほどこれはすさまじい闘気だな」
「……」
 黒騎士のぞっとするような瞳が、シーザーを見返した。
「ところで、あのアゴニーフェイスとやらを構築したのは君なのだろう?」
「だとすればなんだ。非道を諌めるとでも?」
 シーザーはくつくつと肩を揺らした。金の瞳にはたしかに怒りがある。
 されどそれは非道への義憤ではない。魔王然とした……憤懣だ。
「私の行動は、私の意志によって定められる。あれはそれを害した。
 赦されざる暴挙だ。ゆえに私が君を討つ。それだけだよ」
 黒騎士は憎々しげに睨み返し、しかし鼻で笑った。
「大言壮語もここまでくれば笑い話か。いいだろう、身の程を教えてやる」
 パキパキパキ! と大宇宙を映し出すガラスが罅割れ、砕けた。
 大気が放出され、ごうごうと風が吹き荒れる。されど両者のむき出しの殺意はそれよりなお荒々しく。
 呪剣がきりきりと渦巻く。オーラの刃がぎらりと輝く。
 ともに身構えた。――そして両者の姿が同時に消えた!

 ギンッ!!
「ぐおお……っ!」
 さしものシーザーとて苦悶を隠しきれなかった。
 さもありなん、不可視の斬撃は彼の腕・脚・頸を狙って同時に現れたのだ。
 だが防いだ。オーラ防御は、そのすべてが動脈を掻き切るのを防いだ。
(手負いの獣は凶暴、か。――いいじゃあないか、私としても面白い)
 ぞくりという悪寒を愉悦に変え、魔王は笑う。魔力が傷を塞ぐ。
「救世主の言葉に曰く――」
 "栄華を極めたかの王さえ、野の花一つすら着飾っていなかった"とかの者言いけり。
 おお、シドンの栄華よ。傷を塞ぎ、ひととき彼に力を与えたもう。
「私に勝てるかね? 黒騎士!」
「増上慢を切り捨ててくれるわ!」
 殺意が刃となってぶつかり合う。剣戟を繰り出し合う!

 刺突/武器受け。
 横薙ぎ/唐竹割り。
 逆袈裟/袈裟懸け。
 巻き上げ/切り下ろし。

 両者の耳と目から血が溢れ、傷を開き、増やし、負いながらも止まらない。
(この男、何者だ)
 黒騎士は呻いた。なぜここまで奴は追従してくる。
 我が身の不足か? 覚悟の違いだとでも? 否、否否否。
 気に入らぬ。この男ここで殺す! 何があろうと確実に!!

 一方のシーザーの心中、如何ばかりか。
 時折襲い来る過去の刃をかろうじて回避し、剣戟のラリーを強制する。
 何秒保つ。5か。10か。重畳だ、ここで仕留められるとは思っていない。
 一縷でも。彼奴のスタミナ、体力を削る。あとは猟兵たちの仕事だ。
(業腹だがね。言ったはずだ、君を逃すつもりはない)
「ぬうッ!」
「かあッ!」
 鬼と鬼とがにらみ合い、喰らいあい、切り結んだ。
 経過した時間は38秒。たったの、されど致命的な38秒だ。
 果たして剣戟の結果がいかなるものだったのか。どちらが一撃を浴びせ、どちらが逃げたのか。
 それは定かならぬが、たしかなことがあれば一つ――シーザーの食い下がりはヤツの命を大きく縮めた、ということだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アシェラ・ヘリオース
「アンヘル殿か。無傷では無理だな」

ここに来る時点で覚悟を決めていた。
二大騎士の一角を相手では、並大抵の覚悟では無理だ。
両掌の間にフォースを超圧縮し、ブラックホールじみた虚無の塊を仕上げておく。
突入に合せ、ゆったりと歩み。
迷いなく黒騎士殿と目線を合わせる。
言葉は不要。

絶対先制の虚空よりの刃に対し、黒渦を掴む右掌を突き出し受ける。
空間爆砕。
刃の刻まれた空間ごと地形破壊を狙う。
自身も爆砕に巻き込まれ、右腕を失い血塗れになる。
だが、死ななければ安いものだ。

黒の外套を翻し、倒れこむような前傾で疾走。
ナイフ程に小さくなった赤光の剣で、その心臓を穿ちに行こう。

「アンヘル殿……帝国の夢はもう終ったのです」 


メイスン・ドットハック
【SPD】
攻撃はされるのー、ならば防ぐ他ないのー
ユーベルコード、封じられるのは覚悟かのー

300の守護神兵を3体に分けて召喚(11、8、7)
領域に入る前に3体を盾を構えさせて、3本の呪剣を防ぐようにする
また自身の感覚と仕草を読み、呪剣がスパルタ兵を掻い潜った時の備えとする(情報収集、第六感、視力)

ユーベルコードが封じられるなら、電脳魔術で幻影を展開
さらにワイヤーで時限式の爆弾を近くに飛ばして爆発させてダメージを狙う(破壊工作)
もう一つの爆弾は感覚を惑わせる神経系ガスを炸裂させるもので、少しでも感覚が狂えば儲け物

電脳スパルタ兵が生きていれば、合体して最大攻撃の槍突撃を狙う



●メイスン・ドットハックの場合
 彼女は面倒事が嫌いだ。
 しかし、面倒事を放置しておけばさらなる面倒が起きることを識っている。
 彼女は聡い。そして――非道を見て見ぬふりができぬ程度には善人であり。
 自分がそこそこの労力(場合によっては全力だが)をかければ、だいたいの面倒事を解決できることを知っており、理解している。
 ゆえにメイスンは、いつもいつもため息をつきながら問題解決に挑む。
 ただ、今回のはさすがに度を越えていた。

(来なければよかったかもしれんのー)
 らしからぬ思考である。自慢の守護神兵を呼び出そうと神経を尖らせながら思った。
 トラップの準備は済んだ。とはいえ設置したところで相手には通用すまい。
 出来るのは戦闘中の投擲。ワイヤーを用いればそれも可能だ。
 電脳スパルタ兵たちが隊列をなす。敵予測戦力を計算した上での合体だ。
 ……だがそれだけの準備を経てなお、メイスンはいまだ浮かない面持ちである。
 なぜか? ……そもそも、絶対先制などというものが嫌なのだ。
 彼女の得手は電脳戦と搦め手である。
 驕慢をくすぐり、罠に誘い込んで敵を破滅させる。それがメイスンの戦い方。
 ゆえに一撃を確実とされ、それを凌がねばならぬということ自体が不満だった。
 とはいえ。
「僕がやらにゃーいかんけんのー、はあ」
 やっぱり、彼女はそのぐらいには善人だったのだ。

 そして。ふと、メイスンはすさまじい殺気と重圧に呑まれた。
「うおうっ!?」
 素っ頓狂な声が漏れ、集中をかき乱されるほどだ。
 これがヤツの気配か。否応なく集中を強要される。引きこもりがどうだ言っている場合ではない。
「三人共盾構えー、なんとしてでも止めるんじゃぞー!」
 そして、暗闇が吠えながら現れた。メイスンですら息を呑んだ。
「どけェッ!!」
「ずいぶんと色男になったようじゃのー!」
 己を強いて減らず口を返す。奴は手負い、消耗も激しい。
 仕留められるか? コンマゼロ秒でその甘えを棄てる。不可能だ。
 煌めいてすら見える速度で呪剣が浮かび、錐めいた軌道で襲いかかった。
「止めぇっ!!」
 兵団がそれに応えた。直前で歪曲的軌道を描き、くぐり抜けようとするが――否!
 強化された兵士たちはこれを押さえ込み、あるいは自ら犠牲となって呪剣を凌ぐ。
「おのれがァ――ッ」
 血走った目で黒騎士は走る。守りなきメイスンを己の手で処刑しようと。
 ユーベルコードは封じられなかった。だが兵士たちは三体とも消滅した。
 爆弾を使うか? いやあるいは――いや。メイスンは思考をやめた。
「あとは任せたけんのー!」
 新たな闇がなだれ込んだ。

●アシェラ・ヘリオース
 無傷であれを仕留めることはできぬ。
 ここに来たるより前、仕事の内容を聞かされた時点でアシェラは即断した。
 尋常の敵ではない。無論、傷を覚悟すればいいというものでもない。
 己の五体を欠けさせ、ことによっては命を天秤に載せて五分と五分。
 それも些か慢心が過ぎるか。それほどの敵である。
 ゆえに彼女は己の虚無的な真の姿に由来する、フォースを極限まで練り上げた。
 さながらそれは暗黒の球体。引力すらもたらしかねぬ虚無である。
 あるいは彼女が孤影であるならば、一対一でその眼差しを見もしただろう。
 だが、そこかしこで響く戦闘の楽騒と、息が詰まるほどの血の臭いが考えを改めさせた。
(焦れているな、ならば拙速を尊ぶべし)
 待ち伏せポイントを外れ、残された気配を読んでアシェラは艦艇を駆け抜けた。
 見つけた。見たことのある顔を襲わんとする黒騎士の姿を。
 じろり、と黒騎士がアシェラを見返した。鬼の貌であった。
(オブリビオンとは、かくも――)
 アシェラの眉根が悲嘆に顰まる。その理由を余人は知らぬ。
 無論、彼女とて語るまい。死地にあって理屈は不要。ならば!
「帝国の夢は潰えた。その命脈もまた同様!」
 獣じみた唸り声が応えた。遅れて呪剣がすさまじい波濤となってアシェラを襲った。
 だがそれよりも早く、不可視の斬撃が来ることを彼女は知っている。
 ゆえに飛び込んでいる。掌の中には虚無の球体。
「――手荒く、参ります」
 空間が爆ぜた。

「ぐ、ぉおおおおっ!!」
 黒騎士の絶叫は苦痛と屈辱と怒りと憎悪にまみれていた。
 ノイズに軋んだえも言われぬ咆哮であった。おのれ猟兵、おのれ天敵ども!
 己の身を顧みぬフォースの炸裂。ことここに至って黒騎士は再び出し抜かれた。
 体の二割……否、三割がこそげ、滂沱の血を流しながら彼奴は闇を駆ける。
 殺す。今は逃げるが必ず殺す。殺す殺す殺す殺す殺す――我らの君の敵。猟兵。殺す!!
 何より屈辱なのは、心の安寧を深めるためにこうも『殺す』と叫び続けなければならぬことだ。
 我が剣が唯一つの命も奪えていない。何が黒騎士か、おのれ猟兵!
 おお、我らの陛下。我が君。銀河皇帝よ、唯一つにして帝国たる御方よ。
 我はいずれ滅びましょうぞ。ですがここで敵どもを一人でも道連れにいたしましょう。
 ゆえに陛下よ。わがあるじよ。どうか照覧あれ!

 外道の滅びは、目前に迫っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月宮・ユイ
過去を封じるね…確かに幸福に満ちたものではなかった
けれど、共に歩み託され受け取ってきた思いがあり、私は今ここにいる
そうそう簡単に打ち負けるわけにはいかないでしょ…

放たれる呪剣に対し、こちらも【縛鎖】の鎖で対抗
黒鎖で鈍らせ、銀鎖で捕らえる
刺されようとも”耐性”と金鎖で耐え抑え、3種で縛り効果を封じる

たとえ鎖を弾かれ砕かれようと、無理をしてでも止め切れるまで”高速詠唱、全力魔法”で”早業”のように鎖を召喚し続ける”覚悟”
”戦闘経験、視力、暗視、聞き耳、情報収集、第六感”
感覚と知識、今持てる全てを使い呪剣の動きを”見切り、ロープワーク”で縛り動きを封じる。
一本でも良い、その力封じてみせる


フェルト・フィルファーデン
常時使用:激痛耐性

まず【先制攻撃】でUCを使い騎士達に力を与え斬撃に対処するわね?
視線で【フェイント】をかけ【野生の勘】で剣の軌道を読み【盾受け】で攻撃を受け流すの。
最悪、白と黒の呪剣は当たってもいいわ。
でも灰の呪剣だけは何としても防ぎなさい。私の過去は私だけの物。何人たりとも触れる事は許されない!

……ふふっ、たとえ一流の黒騎士様でも一切の隙が無いなんてありえない。例えば、攻撃の直後とかね?
攻撃後の僅かな隙を突いて【カウンター】で心臓狙いの【鎧無視の2回攻撃】よ。
でもこれは陽動。
本命は【スナイパー】で剥き出しの眼を弓矢で狙い撃つこと!

――世界を滅ぼす者に加担する騎士なんて、わたしは認めないわ。


蒼焔・赫煌
ふんふん、必ず先手を取られる……つまり、頑張って一撃耐えれば反撃のチャンスがあるってことだね!

とはいえ、そのまま斬られたらタダじゃすまないし、防御はしたいとこ!
とゆーわけで、可愛いボクは駆け出すのと一緒にありったけの【ブラッドダート】をそこら中に【投擲】!
飛ばした方向に斬撃があれば、ボクより先に斬られるはず!
全部無事ならそこ以外から斬撃がくる!
場所に当たりを付けたら、あとは【第六感】と【野生の勘】で【見切り】できたらいいなぁ!
防具を構えて斬られる場所を守るよ!
ダメだったら致命傷だけは避けるように防御を固める!

斬撃を耐え抜いたら後は【カウンター】で【捨て身の一撃】!
いっけー、ガシャ……ドクロー!




 あれはダークセイヴァーでのことだったか。
 ある共同体を己の餌場とするヴァンパイアは彼女に問いかけた。
『私に世界をどうこうしようという気概はない。必要なだけの血袋があればよい。
 そんな私に、命を賭けて挑む理由。あの血袋どもに、それだけの価値があるのか?』
 と。
 少女は答えた。
(誰かを助けるのに価値とかいるの? ボクそーいうのわかんないや。
 ボクは可愛い正義の味方、誰かのためになるのが楽しくて嬉しいの!)
 だからそうするのだと。そこに理由などないのだと。

 少女はおそらく知らぬ。己の血、それがもたらす真の姿のおぞましさを。
 他ならぬ黒騎士の配下、苦痛の悲鳴が引き出した哀れな暴食のさまを。
 無知は罪か。知らぬは幸いか。それを求め論議するのはさておこう。
 たしかなことはただひとつ。彼女にとって、過去は乗り越えるものでも忘れるものでもない。
 ただそこにある。だからこそ突き進むものなのだ。

●蒼焔・赫煌の場合
「待ってたよ黒騎士アンヘル! ってうわ、ボロボロじゃんか!」
 満身創痍の黒騎士を待ち伏せていたのは、青髪の明るい少女であった。
 されど異形の鎧を纏う。そのさまは天真爛漫な様子とアンバランスだ。
「…………フ。私を、仕留めに来たか」
 どろどろとした殺意と憎悪を赤黒いオーラとして纏いながら、鬼は言った。
「その通り。だってボクは可愛い正義の味方だから、ね!」
「くだらんな」
 笑いすらせず切り捨て、目を見開く。殺意が波を打った。
「……それだけボロボロで、ずいぶん物騒だね」
 さしもの赫煌とて冷や汗を一筋垂らした。黒騎士は並の敵ではない。
 行けるか? 思案する。そしてすぐに切り捨てた。楽観からではない。
 "行かねばならない"。針の穴であろうが、ラクダを通してやらねばならぬ。
 じとりとした殺意である。ともすれば呑まれかねぬプレッシャー。
 彼女の天真爛漫さが功を奏した。少女は自然に微笑み――。
「いっくぞぉー!!」
 やおら駆け出し、同時に無数の黒杭を擲った。ブラッドダートと呼ばれる武装だ。
 グールドライバーにしてダンピールたる彼女の血、これを以て敵を討つ礫である。
 されど赫煌の目論見は攻撃ではない。いわば弾幕!
「なるほど。私の斬撃を読むつもりか」
 いじましきかな。黒騎士の視線がわずかに緩みかけ――否、鋭くなった。
(この小娘。投げる方向に指向性を持たせているな)
 ただ単にばらばらと散らしただけならば、その間隙に残る斬撃で切り殺す。
 そのはずだった。だが赫煌は知っていたのだ。
 斬撃が来るとしたら、ダートはそれによって断たれるだろう。
 では全てのダートが無事であったら? そこに斬撃はない。つまり――。
「私を計るか、下郎ッ!」
「残念、見え見えだよー!」
 不可視の斬撃がざうっ!! と大気を薙ぐ。赫煌はそこを避けている!
 然り。ダートの投擲には一定の法則をもたせた。そして彼女はそのひとつひとつを仔細に捉えていた。
 であれば『ダートがない空白を避ければいい』のだ。黒騎士は激高する!
「おのれ、小娘――」
 驚愕。疾い。この女、移動があまりに決断的すぎる。恐れはないのか!?
 いや違う。まさか伏兵――。
「まずはボクからの一撃……あぐぅっ!!」
 ざくり、と不可視斬撃が彼女の肩を裂いた。黒騎士の追撃である。
 だがこれは悪手。奴は退くべきだった。見ろ、赫煌はすでに間合いの裡!
 そして足を止めても居ないッ!
「ボクの刃は、折れない! 何度だって立ち向かってやる!!」
 決然たる輝きが赤に灯る。吹き出した血は、僥倖にも骨刃を延ばす燃料となった。
「貴様ァッ!」
「いっくぞォ! "矢尽きれども……我が刀は折れず"ッ!!」
 からからと骨刃が鳴いた。粉骨再刃ここに顕現せり、一撃が彼奴の胴を裂く!
「ごぶ……ッ!!」
 赫煌は追撃を――否、退く。彼女はそれで不可視斬撃の三段目による致命傷を裂けた。
「こいつッ! ふたりとも、あとお願い!」
 新たに裂かれた傷口を抑えて膝を突きながら、赫煌は叫ぶ。
 黒騎士は呪った。新たな影は二つ見えたからだ。


 ヤドリガミであるからには、道具として相応の年月を過ごしている。
 そして道具であるからには、誰かがそれを用いている。
 神として崇められるものもいる。
 多くの人々の手を渡った者もいる。
 たったひとり、これと決めた所持者を忘れぬものもいる。
 少女にとって、忘れ得ぬ悪夢は担い手の最期であった。
 ああ、忘れられるわけもなし。なぜならこの身は器物なれば。
 おそらくこれからも、この意思尽きるまで悪夢(きおく)はついて回るのだろう。
 結構だ。幸福でなくとも、同じように受け継いだ想いがある。
 それが自分を、今ここに――そしてこれからの未来に立たせるなら。

 それを封じる刃を壊すことこそ、きっと己の使命なのだ。


 彼女は、それが騎士と呼ばれることを何より嫌い、憤った。
 騎士とはもっと素敵なもの。人々を守る高潔なもので非ねばならぬ。
 世界を支配し、人々を虐げ、あまつさえ蚕食する。
 斯様な暴君、暴虐に仕え、宣誓をなすものを彼女は騎士とは認めぬ。
 それが騎士だというのならば、それを砕くことこそ我が使命。
 己も識らぬまま、鮮血にまみれた心で、されど気高く彼女は決めた。
 なぜならば彼女はお姫様で。高潔たる騎士たちを従えるもの。
 貴きものは、その在り様を人々にしろしめす必要がある。
 そのためならばこの技この鍛錬、いっそ戦いの記憶もくれてやろう。

 だが。
 私が私である過去だけは、誰であろうと触れてはならぬ。
 それは姫の――いや、か弱い少女の強がりにも似た。

●月宮・ユイとフェルト・フィルファーデンの場合
 鉄火場である。
 決戦の場である。
 かつ、敵は瀕死なれど意気軒昂、荒ぶる獣じみて憎悪を撒き散らす。
 退かねば。逃げねばならぬと怯える己がいた。少女二人のどちらにもいた。
 だから彼女らは飛び出した。そうはならじと己に示して。
「さあ行くわよ、わたしの騎士たち! そしてわたしの仲間たち!」
「いいわ。守りは任せて」
 フェルトの気高き宣誓に、あやつりの騎士たちとともにユイが応えた。
 糸を通し、フェルト自身の命を薪に騎士たちが真に高潔たる意地を示す。
 いい子だ、とユイは思う。彼女は少女なれど、道具としては百年を閲すがゆえに。
 傷つけてはならぬと感じた。どこか脆く、危なげに思えたから。
 ゆえに。
「黒騎士アンヘル。その呪いの刃、永久の縛りにて戒めよう」
 対する鬼は言葉ならぬ唸り声で応えた。そして剣たちが從った。
 おぞましいまでの殺人的軌道を伴い、呪われた刃が彼女たちを狙う。
 ユイは悲鳴を聞いた。呪剣たちの悲鳴を。
 ……ああ、嘆かわしきかな。かの刃たちは悲鳴をあげど、それは悲嘆からではない。
 我らの主を害なす天敵、これ一刻も早く討たねばならぬという悪逆の咆哮である。
(――させない)
 来たるは白・黒・灰。
 ならば繰り出すは黒と銀と金。いずれも捕縛・減衰・封印の魔力を宿す。
 発動は敵が疾い。当然だ、絶対先制というアドバンテージは揺るぎない。
 だから彼女は自ら軌道に身を投げ込んだ。まず白がこれを貫く。
(絶対に、させない。たとえ一本でも)
 黒がフェルトを狙う。銀と黒がこれに絡みつかんとし――そこでフェルトが叫んだ。
「いいわ」
 ユイは耳を疑った。
「いいのよ! 灰(あれ)を、止めなさいッ!」
 気高き君の言葉であった。問うより先に彼女は動いた。
 鎖たちは蛇じみた動きで黒を諦め灰を絡め取る。フェルトは覚悟の上での宣言である。
 30cmに満たぬフェアリーの矮躯。刃はそれ自体が致命傷である。
 騎士たちがこれを妨げた。貫かれ、砕け、勢いを押し留め――。
「が、ふッ」
 黒の呪剣が姫君の肌を切り裂いた。ぞっとするほどの血が迸る。
 だが。
「わたしの命は――あなた達とともにあるのよッ!」
 彼女は最初から、騎士たちにおのが命を預けている。ゆえに止まりはしない。
 人形たちは殺到する。黒騎士は呪剣を即座に引き戻し(ここでユイは灰剣をなんとしてでも縛り上げた)、二刀を以て応じる。
 一体。二体。三体。四体。悪魔的速度の斬撃が切り払っていく。
 フェルトはこころを痛めながら、されど構えた。騎士を名乗る外道がそれを見た。

 ――貴様、はじめから。

 おそらく奴はそう言った。フェルトはええそうよと唇の動きで応えた。
 奴はそれすら切り払おうとした。ユイの鎖二条がそれを妨げた。
 かくて矢は放たれた。不可視斬撃が心臓狙いの一撃を撃ち落とし。

 悪鬼の驚愕と憎悪に見開かれた片目。それ諸共、本命が頭蓋を脳をぶち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月20日


挿絵イラスト