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アルカディア争奪戦⑨〜夕星への願いと語り部の君

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 ある決まった時期にだけ、夕星が流星群のように降り注ぐその日にシャウエンという新人勇士の壮行会が行われることになった。
「なんでもいいの?」
 やりたいことを聞かれたシャウエンは、ぱっと笑顔を浮かべる。
「ほんとになんでもいいのね? なら、皆さんのお話が聞きたいの! 私より早く戦場に出た先輩方のお話を聞けたらとてもいい勉強になるわ。だって、これから勇士になる私にとっては先生みたいな存在でしょう? 是非、いろいろと知りたいわ。どうして戦うの? 目標は? なにか譲れないことはある? あ――……ッ」
 夕焼けに染まる西空を、最初の流星が翔けた。
「あの夕星に願うと、それはいつか必ず叶うんですって。だから私はあの星に誓うの、素敵な勇士になるんだって! よかったら皆さんも一緒に願いましょう? ふふ、いったい何をお願いするのかな。楽しみね!」

「マグナ聖帝国の侵攻を受けている浮遊大陸のひとつで新たな勇士の壮行会が行われるんだ。よかったら皆も壮行会に参加して、勇士として故郷を旅立つ彼女にいろいろな話をしてあげてくれないかな」
 仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)の話によると、シャウエンは山羊の角を持つ召喚獣。スーパーよいこランドのきのこを食べて育った超人なのだそうだ。
「スーパーよいこランド?」
 聞き返す猟兵に弥鶴が頷いた。
「そう、スーパーよいこランド」
 なんだか、とても……いや、なんでもない。とにかくそこのきのこを食べるとスーパーよいこな超人になって猟兵に匹敵する強さとユーベルコードに目覚めるらしい。

 壮行会が行われるのは西空が黄昏に染まり、たくさんの夕星が流れる僅かな時間だけ。もちろん彼らはスーパーよいこなので客人を喜んでもてなしてくれるだろう。
 なにしろ盛大な壮行会なので、豪華な魔獣料理もたくさん用意されている。食べごたえのある肉の丸焼きから癖のない魚料理のような味のマリネ、綺麗に光る植物型魔獣の実をタピオカみたいに混ぜた甘い飲み物など、自由に楽しめるようだ。

「シャウエンはこれから勇士として旅立つにあたって、既に戦いに身を投じている皆の思いを聞きたいみたいだからそれを話してあげると喜ぶだろうね。何でもいいよ。戦う理由、目的、戦いのなかで得られたもの、悩み……なんであれ彼女にとっては勉強になるはずだから」
 そして、もし願い事があるならば夕星に祈るのもよいだろう。
「それじゃ、いこうか」
 ブルーアルカディアの空が昼から夜へと変わる間の僅かな黄昏時。流れ落ちる夕星が猟兵を歓迎するように長い尾を引いて真白く輝いた。


ツヅキ
 オープニング公開時からプレイングお待ちしています。フォームが締まるまでにいただいたプレイングはできるだけ採用予定です。

●第1章
 勇士として出立する『スーパーよいこ』の壮行会が行われています。一人前の勇士として旅立つにあたって彼女が望むのは先輩戦士の経験談。皆さんが戦う理由・動機や目標などをお聞かせください。

 ご希望があれば、シナリオに登場する『スーパーよいこ』を猟兵化できます。プレイング冒頭に『🍄猟兵化希望』とご記載ください。
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第1章 日常 『夕暮れの空』

POW   :    空を眺める

SPD   :    空を眺める

WIZ   :    空を眺める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘルガ・リープフラウ
🍄猟兵化希望

希望に輝くシャウエンの瞳は、彼女の純粋な心を映しているよう
わたくしの道程があなたの勇気の源になるのなら…

ダークセイヴァーは闇に覆われ、邪神や吸血鬼の支配する世界
わたくしの故郷たる領地も例外ではなく、吸血鬼の戯れに焼かれ
家族や領民は皆無残に殺された

逃げ惑う中、わたくしはある騎士に救われ、共に旅をするようになったの
それが今の旦那様
生来の癒しの力で彼を援護し、時に自ら剣を取る
そうしてついに仇を討つことが出来たの

一人ではとても成しえなかった
愛する彼だけでなく共に支え合う仲間がいたから
辛い旅も乗り越えられた

これからあなたにも、多くの出会いがあるでしょう
どうかその絆を、支え合う心を大切にして


馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

お話ですかー、なるほど。
そうですねー、では…出会いの話を。
さっきから料理を食べてる陰海月と霹靂なんですけど、両方とも戦いの時に出会いました。
陰海月は羅針盤戦争で、霹靂はこの世界の牧場を守るときに。

ふふ、『私(たち)』の戦う理由は、「誰かの故郷を守るため」ですからねー。
『私(たち)』、故郷が滅びたのでー(さらっと。なお、自分達が死んでることは言わない)
ですから、今も全力なんですよー。


陰海月「(お料理もりもりもぐもぐ)」
霹靂「(もぐもぐ)」
連戦してるので、お腹へってた。
二匹が戦う理由は『大切なところを守るため』である


パティ・チャン
🍄猟兵化希望
[コミュ力、誘惑、落ち着き]発動
■会話
え~と、話がしにくいので、ちょっと身体のサイズを変えますね
(【UC】発動)
問題の無い範囲で、食べ物に手を出しつつ色々と頂いてみましょう。
(これをやりたいが為に、UCを使ったのではない……はず)

■何故戦うのか?
元々、近衛騎士の一族に生まれて、世のため人のために、地位や力を奮う
ように育てられました。
私が戦うのは、まさにそのためですね。

■戦いの中で得られたもの
私は「本の虫」で、本読む事が大好きなのですが、いろんな世界や仲間、敵からも得がたい「体験」をしたことでしょうか?

前にアポカリプス・ヘルのイベントで薄い本作った事がありましたが、こちらは追々


栗花落・澪
お話かぁ…
僕が戦う理由は色々あるけど…一番は、自然や人々が好きだから、かな
だからこそ守りたい
あとは恩返し
一人ぼっちだった僕に生きる意味を教えてくれたのは
広大な自然と人々の温かさだったから

でもね、僕にとっては…敵も同じなんだ
救いたい者の一人
全部じゃないよ?
悪い奴にはしっかりお仕置きは必要だけど
でも…苦しんでる子や、戦いを望まない子だっているから
見極めて、そして、救う
退けるだけでいいなら簡単
生かす事自体が出来ない時は…ほんの少しの慈悲をあげるの
悲しみを癒してあげたり、一緒に思い出を作ってあげたり
なんでもいい、自分に出来る事を考えてあげる
心だけでも救ってあげる
それが僕の…譲れないところ、かな


儀水・芽亜
シャウエンさん、でしたか。まずは出征を祝して一曲。
竪琴の「楽器演奏」で『主に向かいて新しき歌をうたえ』を「歌唱」します。
これもまた猟兵の力。逆にオブリビオンが使ってきてもおかしくない力です。心に留めておいてくださいね。

さて、竪琴を伴奏に、少し昔語りを致しましょう。
私が能力者としてゴーストと戦い始めたのは、もう十五年近く昔です。
元々の素質なのでしょうね。夢に入り込んできたナイトメアを逆に捕らえ御すことが出来た。ソレから彼らのようなモノと戦っている学園の話を聞き、馳せ参じた次第です。

やがて戦いは日常になりました。ですが学園が本当の日常を思い出せてくれていました。
帰るべき日常。それを忘れないように。



●闇の世界と光の歌姫
「では、わたくしの生きる世界のことをあなたにお話しするわね、シャウエン」
 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)はおっとりと目を細めて微笑んだ。シャウエンの隣に腰を下ろし、柔らかい声色で語り始める。
 聞き心地のよい優しい声にシャウエンは心地よさそうな仕草で頷いた。
「聞かせて、そこはどんな世界なの?」
「……その世界の呼び名は、ダークセイヴァー」
 まるでいままさに流星が降り注ぐ夕空のようにきらきらと瞳を輝かせるシャウエンにヘルガは自らの生い立ちを語るのだった。
(「ああ、純粋なシャウエン。空の上に生まれ、輝く太陽の近くで生きるあなたにあの闇の世界を想像してもらうことができるかしら」)
 シャウエンは一言一句聞き逃さぬよう、ヘルガの話に耳を傾ける。
 闇に覆われ、邪神や吸血鬼に支配された世界で迫害される人々の嘆きと哀しみ。ヘルガも例外ではなく、戯れに殺し奪う吸血鬼の気まぐれによって家族を含む領民を殺されたのだ。とても無残に、あっけなく。
「……みんな、死んでしまったの?」
 みるみるうちにあれほど輝いていたシャウエンの瞳が涙に潤み始める。ヘルガは哀しみを込めて頷き、けれど新たな出会いがあったのだと続けた。
「逃げ惑う中、わたくしはある騎士に救われ、共に旅するようになったの。運命的な出会いだったわ。やがて心を通わせ、彼の伴侶となったわたくしは共に戦うことを決めた」
 ぽう、とヘルガの手のひらが淡く耀いて癒しの力をシャウエンに見せる。
「きれいね……」
「生まれつきなの。おかげで彼の傷を何度も癒してあげられたた。それにこう見えても剣だって扱えるのよ?」
 少しだけ悪戯っぽく微笑み、ヘルガは星空を見上げた。
「そうやって長い旅路の果てにようやく仇を討つことができたの。一人ではとても成し得なかったわ。愛する彼だけでなく、共に支え合う仲間がいたから辛い旅も乗り越えられたのね」
 いつの間にか、シャウエンの潤んだ瞳は希望の色に変わっていた。ヘルガを通じて彼女に示されたある歌姫の物語が彼女に勇気を与えたのだ。
 これから数多くの出会いが待つだろうシャウエンの旅立ちを寿ぐために、ヘルガはそっとまだ何も知らない指先を両手で包み込んだ。
「どうかその絆を、支え合う心を大切にして」
「――はい!」
 元気よく頷いたシャウエンの瞳にひと際きらめく流星が映え、とても綺麗だった。今宵から始まる勇士としての日々に願わくば幸があらんことを。

●二匹との出会い
 さっきから陰海月と霹靂はがつがつもぐもぐと一心不乱に魔獣料理を平らげるのに夢中だ。なにしろ戦いは腹が減るから、食べられる時に食べておくのは大事なことだった。
「連戦が続きましたからねー」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は鷹揚な微笑みを浮かべ、そんな二匹を優しく見守っている。
「かわいい!」
 シャウエンは一目で彼らを気に入ったようで、「もっと食べる?」「はい、お皿にとってきたよ!」と好んで世話をやいた。
「これはね、うちの浮遊大陸の名物料理なの! 魔獣の卵を固めてつくった特製のパイなのよ」
「なるほど有り難いですねー。お礼に私と二匹の出会いでもお話しましょうかー」
 義透が申し出ると、シャウエンは喜んで言った。
「聞きたいわ! どうやったらこんなにかわいい子たちと出逢えるの?」
「それはですね、いずれも戦いの最中でした。陰海月は羅針盤戦争で、霹靂はこの世界の牧場を守るときに」
「戦争……」
「ええ、この世界と同じような状況になったんですねー。まあそんな感じですので、『私』の戦う理由は『誰かの故郷を守るため』といって間違いありません」
 一人称に含みをもたせつつ、義透は微笑んだ。
 本当はそこに『私たち』という意味がある。だが言わない。さらっと故郷が滅びたことは告げたが、それ以上は微笑みにかくして教えないことを選んだのだ。それでもきっと伝わるだろう。
 今も全力で戦っていること。
 そして、陰海月と霹靂の二匹が戦う利用もまた『大切なところを守るため』であることを。
「うん、うん……!」
 シャウエンは何度も頷き、義透の話に聞き入った。
「私も同じよ。雲海にこの浮遊大陸が呑まれちゃうのは絶対いやだし、家族や友達が死んじゃうのもいや!!」
「ふふ、だから貴女も勇士になるのですねー。ええ、きっといい勇士になれますよー。ほら、陰海月たちもそう言ってます」
 口の周りにたっぷりのソースをくっつけた陰海月が元気よく跳ねた。
「ぷっきゅ!」
「おやおや。まだお代わりが欲しいんですか?」
「私、とってきます!」
 どうやらシャウエンを送るための壮行会はまだまだ序の口らしい。いよいよメインディッシュの丸焼き肉が運ばれてくるのを義透は感心の眼差しで眺めるのだった。

●戦う理由とそこで得た体験
 パティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)は軽くこほんと咳払いしてからシャウエンと話しやすい大きさになって笑いかけた。
「これなら、目線も合いますし……それに食べ物もいっぱい食べられて幸せ! お勧めはありますか?」
「えっとね、これはどう? 百本の足を持つ軟体魔物の肉が中に入ってるの」
 シャウエンが持ってきたのは溶いた小麦粉を丸い形に焼いてソースをかけた料理だった。
「たこ焼きみたいですね。いただきます」
「あとはね、これもおいしいよ」
 そう言ってシャウエンは次々と料理を取り分けた皿を運んでくる。
「今日の主役なんだからシャウエンは座ってて? 今度は私が取って来ますから」
「いいえ! だって嬉しいんだもの。この浮遊大陸に外の人がやってくるなんて滅多にないの。いろいろなことを教えて、パティさん!」
 シャウエンはにっこりと微笑み、綺麗なピンク色のジュースを片手にパティの隣へ腰を下ろした。
「そうですね。私、元々は近衛騎士の一族に生まれたんです。だから世のため人のために戦うことを疑問に思ったことはありません。そのように育てられ、そのように生きてきたので」
「わあ、素敵……! じゃあパティさんは騎士様なのね。品行方正で凛として憧れてしまうわ」
 きらきらとシャウエンが瞳を輝かせる。
「私もパティさんみたいになれるかなあ……。ねえ、パティさんはどういう風に戦ってきたの?」
 パティは無邪気なシャウエンのためにいろいろと話をした。特に熱を入れて語ったのは戦いの中で得られた体験談についてだ。シャウエンも真剣な顔で話に聞き入った。
「本?」
「ええ、私は『本の虫』なのです」
「本が大好きってこと?」
「途中でやめられなくて、気が付いたら朝だったこともありますよ。それくらい好きな本から得られる知識と同じかそれ以上に、自分の体験とは価値があるものでした」
 跡取り娘として育てられたパティが外の世界に飛び出し、仲間を得て敵と戦うごとにどれだけ色々な経験をしたか知れない。
「そうそう、アポカリプス・ヘルという世界のイベントでは『薄い本』を作った事もありましてね」
「『薄い本?』」
 小首を傾げる無垢なシャウエンにパティは詳しい説明をはぐらかした。
「それはまた追々に」
「えー! 気になるわ! それもいつか体験できるかしら」
 夢見るような眼差しで星降る夕空を見上げるシャウエンをパティは応援するように言った。
「ええ、きっと」

●譲れないもの
「お話かぁ……」
 シャウエンと一緒に大きな大樹の枝に腰かけた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は見事な流星群を眺めながら唇を開いた。
「戦う理由なら色々あるよ。だけど、やっぱり一番は……自然や人々が好きだから、かな。守りたくなるよね」
 手元に伸びた大樹の枝を澪は優しく指先で撫で、シャウエンに微笑みかける。
「うん、うん」
 シャウエンはこくこくと何度も頷いた。
「自然は大事。だって、緑や水がなければ私たちは生きられないもの」
「そうだよね。あとは恩返しもある。一人ぼっちだった僕に生きる意味を教えてくれたのは広大な自然と人々の温かさだったから」
「澪は昔、ひとりだったの?」
 素朴なシャウエンの質問に澪は無言で微笑んだだけだった。
「今は違うよ。それに、僕は……僕にとっては、守りたいものの中に敵も入ってるんだ」
「敵も?!」
 シャウエンは本当にびっくりしたようで、ぱちぱちと目を開いたり閉じたりを繰り返した。
「どうして? なんで、だって敵よ?」
「もちろん全部じゃないよ」
 澪は優しく説明する。
 悪い奴にはしっかりお仕置きが必要なこと。
 でも、苦しんでいたり戦いを望まない子だっているということ。ちゃんと相手を見極めて、救う必要があるのならばそうしてあげること。
「退けるだけでいいなら簡単だもの。もしどうしても生かすことができない時はほんの少しの慈悲をあげる」
「慈悲?」
「うん。なんでもいいんだ、自分に出来る事を考えてあげる。シャウエンにだってできるよ。そうやって心だけでも救ってあげる……それが僕の譲れないところ、かな」
 最初、シャウエンは随分と混乱していたようだが、しばらくの間黙り込んだ後でようやく飲み込めたのか澪の袖を小さく引いた。
「私、敵は全部やっつけなきゃって思ってたの。でも違うのね。いろいろな人がいるようにいろいろな敵がいるのね……話を聞けてよかったわ。じゃなかったら、私は敵なんかみんな同じだと思って、違いなんかわかろうとしなかったかもしれないから。ありがとう、大事なことを教えてくれて」
「どういたしまして」
 澪は気負いなく言って、シャウエンの出立を祝った。
「君もおめでとう。シャウエンの旅路が幸運に恵まれるよう、今宵は盛大に祝わなきゃね」

●主に向かいて、昔語りを
 夕空も次第に夜を迎えつつあった。壮行会も次第に落ち着き始め、皆の元には食後のソルベが配られる。
 儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)は頃合いを見て竪琴に指先を滑らせた。シャウエンの出征を祝うための一曲は『主に向かいて新しき歌をうたえ』。まさしくこれから新しい門出を迎える新人勇士に相応しい選曲だ。
「きれいな聖歌……」
 シャウエンはうっとりと芽亜の澄み渡るソプラノに聞き入る。最後の小節の余韻が消えてから我に返る彼女に芽亜がくすりと微笑んだ。
「これもまた猟兵の力であり、同時にオブリビオンが使ってきてもおかしくない力です。心に留めておいてくださいね」
「はい!」
「よい返事です」
 芽亜は頷き、彼女を隣に招いて再び竪琴を奏でる。今度はさきほどよりも音量を抑え、緩やかな伴奏だけを爪弾いた。
「少し昔語りを致しましょうか」
 それはもう随分と前の――芽亜が学生だった時の思い出話。十五年の月日を遡る。あの頃、能力者と呼ばれていた芽亜が戦うのはもっぱらゴーストという存在であった。
「元々の素質なのでしょうね。夢に入り込んできたナイトメアを逆に捕え、御すことが出来た」
 そして彼らのような『モノ』と戦っている存在があることを知る。その名を銀誓館学園。芽亜は流れのままに学園へ入学し、死と隣り合わせの青春を送ることになるのだ。
「やがて戦いは日常になりました。なにしろ学校の教室で事件の発生を知り、依頼の説明を受けて現場へ向かうんですよ。今思えばなんて生活だったんでしょうね」
 芽亜は懐かしそうに語り、「けれど」と続けた。
「そんな学園での生活が本当の日常を思い出させてくれていました。シャウエンさん、忘れないで下さい。あなたが帰るべき日常を。戦いに身を置き、それが日常となってしまっても、それを忘れなければいつでも帰って来れるはずです」
 竪琴の音色は郷愁を誘いながらも温かな優しさと希望を響かせる。芽亜は演奏を続けながらシャウエンの出立を祝う人々の様子を振り返った。つられたようにシャウエンも同じ光景を心に焼き付ける。
「忘れないよ。みんなのこと、ここで過ごした日常を」
 いつか、彼女が立派な勇士となって今日のことを振り返った時、もしかしたら芽亜がさっき話した昔語りと同じような想いを抱くのかもしれない。
 今が過去になったその時、シャウエンの心が優しい気持ちで満ちることを願い……芽亜は竪琴を美しくかき鳴らすのだった。

 シナリオに登場したシャウエンの猟兵化はヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)さんに権利をあげます。ご自由にキャラクター登録を行ってください。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月08日


挿絵イラスト