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アルカディア争奪戦⑨~きみはよいこにできるかな?

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「10年間、よいこでいておめでとう!」

 ぱちぱちぱちぱち!

 拍手が響き渡りました。
 ここはスーパーよいこランド。よいことキノコがすくすく育つ、とっても健やかな国です。
 しかし、此処にも屍人帝国の暗雲は立ち込めていました。「マグナ聖帝国」――其の国の信仰を受けているのです。
 けれど!
 スーパーよいこランドには“スーパーよいこ”がいます。彼らは猟兵に匹敵する強さと、ユーベルコードを使う事が出来るのです。そうやっていまお祝いされている9歳の“よいこ”も、村を守ってきました。
 そうして、奇しくもこの折に10年という節目がやってきました。10歳とは思えない体付きをした青年は、ケーキに立てられた蝋燭を、ふう! と一息で消し――ついでに風圧で蝋燭をへし折り――、にこにこと笑ってみせるのでした。

「えへへ、ありがとう! これからは皆を……この国を守る為に、力いっぱいがんばるよ!」

 彼はもう10歳。村を護りたいという気持ちが、彼を突き動かしていました。マグナ聖帝国からこの村を、この島を護りたい。樹木がざざざ、と揺れる音。風がひゅう、と耳をくすぐる音。花畑の香り、夕食の匂い。其れ等の日常を守る為、戦いへと出立するのです。

「じゃが、よいこよ。お前には“名付けの儀式”がある」

 島の長老が言いました。
 青年は表情を引き締めます。そうです。彼が異例の若さで出立するにあたり、村は一つ、彼に試練を越えるようにと課していたのです。
 其の内容が――



「お買い物ってわけ」
 ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)は理解しがたい、という顔で言った。
 此処は飛空艇の上。集まってくれた猟兵の顔を覚えるように見回しながら、其れでね、とヴィズは話を続ける。
「此れから向かう“スーパーよいこランド”には、悪い子はいないんだ。敵のオブリビオンも今のところ見付かっていない。だが、マグナ聖帝国という屍人帝国が常にこの国を狙っていてね。今回面倒を見て貰う“よいこ”は彼らと戦う兵士になる! と、声をあげた訳さ」
 村は決して彼を止めはしなかった。
 実力は十分にある。美味しいキノコを沢山食べて育った彼はとても強く、ユーベルコードに匹敵する力も持っている。
「だが、されどよいこ。10歳でたった一人送り出すのは忍びない。という訳で、長老に頼まれたんだよね。“試練を課すから、猟兵には其の見極めをして貰いたい”って」

 ――えっ? 自分達、そんな用事で呼ばれたの?

 そんな視線を受ける。ヴィズは知らぬ顔をしている。
「兎に角、堂々とでもこっそりとでも良いから、今回試練を受ける“よいこ”を助けてあげておくれ。彼は森で育った健康優良児だ。――試練は“ハニエスタという街へのお使い”。街への道で迷う事もあるだろう。美味しいお菓子に惹かれる事もあるだろう。或いは直接彼を誘って、猟兵としての経験談を語ってあげるのも良いと思う。助け方は色々あると思うよ」
 そして、其の経験は必ず彼がこれからマグナ聖帝国と戦う為の糧になる筈だ。
 ま、こういう息抜きみたいな依頼もたまにはいいものだろ?

 頑張れ、先輩。


key
 こんにちは、keyです。
 よいこランド! よいこばっかりってなんか善人酔いしそう。

●目的
「よいこの試練を手伝ってあげよう」

●プレイング受付
 オープニングが公開され次第プレイング募集開始です。
 アオマルが足りるくらい集まったら〆切を設定します。

●出される試練
「迷わずに蜂蜜の街“ハニエスタ”へと向かうのだ!」
「お持ち帰りは家族の為! スイーツの試練に耐えるのだ!」
「ワークショップで蜂蜜リップを作るのだ!」
「スイーツ以外なら食べても良し! お客さんと話して経験を積むのだ!」←緊急追加

●プレイングボーナス!
「よいこが勇士になれるよう応援する」
 よいこには名前がありません。
 彼が名前を得るには、長老たちから課せられた厳し~い試験を乗り越える必要があります。
 なので彼が試験を全部終わるまでは、彼を好きな名前で呼んで構いません。
 よいこがちゃんと蜂蜜の街でおかいものをして帰れるように、猟兵はそっと手伝ってあげて下さい。大きくとも彼は10歳。色んな誘惑に弱いお年頃です。

●さらに!
 シナリオ終了時に参加者のどなたか1名にこのよいこの猟兵化を許可する場合がございます。
 猟兵化希望の方はプレイング冒頭に「??」を添えて下さい。
 こちらでキャラ作成はしませんが、希望がありましたらキャラをお渡し致します。
(告知はシナリオ完結時のリプレイで行います。複数人いた場合は抽選です)

●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
 迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『空の花蜜カフェ』

POW   :    甘い蜂蜜スイーツ食べ放題!

SPD   :    ワークショップに参加。作れる物は蜂蜜リップ・石鹸・練り香水などなど。

WIZ   :    蜂蜜キャンドルに火を灯し、軽食とお話。写真家が撮影してまわっている。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「この森の向こうがハニエスタだ」
 試練はこれじゃ。
 そう言って長老から渡された紙から視線を上げて、“よいこ”は目の前に佇む大きな森を見上げました。
 幹がながーく伸びて、上の方にこんもりと葉が茂っている様は、まるでキノコのようです。
 “よいこ”は蜂蜜というものを知りません。とてもとても小さい頃に、両親が買ってきてくれたのは覚えているのだけれど。とてもとても甘かった事は覚えているのだけれど、数年前の事だから、半分忘れかけていました。
「はちみつ。……」
 でも、甘かった事は覚えているから。
 ごくりと鳴った喉。食べたいなあ、とくるくる主張するおなか。

 ――だめ! だめだめだめ、だめだぞ僕!

 ぶるぶると“よいこ”は頭を振って、つまみぐいしたいという邪念を払います。

「おやおや、ぶるぶる震えているのかい?」

 其処に、声が降ってきました。
 誰だろう、と見回せど、声の主は見えません。ああ、もしかしたら上にいるのかも? と“よいこ”は木の上を見上げましたが、木の葉がさらさら揺れるばかりでした。

「震えてなんかないよ。だって僕は、これから街を護る戦士になるんだ!」
「へえ。戦士になるのかい。じゃあお使いくらいは、ちゃんと出来るようにならなきゃね」
「! ……なんで知ってるの?」
「知ってるさ。だってあたしは、魔女だから」

 魔女。
 其の言葉を、“よいこ”は御伽噺の中でしかしりません。
 林檎や櫛に呪いをかけて、最後にはやっつけられる悪い女の人のこと。

「な、なんで魔女が此処にいるんだ!」
「さあね。其れは言えないよ。――この森には、ハニエスタの蜂がいる。良いかい坊や、蜂を見付けても、殺しちゃあ駄目」
「なんでお前にそんな事いわれなきゃいけないんだ!」
「さあね。あたしが魔女だからかな。ハニエスタに入ったら、きっと甘い香りがする。でも、惑わされてはいけないよ。つまみ食いは悪い子のする事だ」
「ぐ、……」

 悪い子。
 其れは“よいこ”が一番なりたくないもの。
 蜂蜜を食べたい。沢山お金なら渡された。つまみ食いする余裕はあるのですが――おわかりですね? 勿論これは、長老たちからの試練です。

「ふふ、ふふ、ふふ。ねえ坊や、お前を助けてくれる人を拒んではいけないよ。戦士になりたかったら、うまい“助けられ方”を覚える事だ。――さあて、あたしは行かなきゃ。魔女はこう見えて忙しいんだ」
「……何処へ行くの?」
「さあね。次の戦場かな」

 さあ、と風が吹いて、其れきり。魔女はいなくなっていました。
 森を抜ければ直ぐにハニエスタに着くでしょう。
 “よいこ”は気を取り直し、森の中へ――さあ、試練の始まりです!

°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°
ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ歓迎

良く言えば素直、悪く言えば世間知らず
今この子に必要なのは精神的な修養と力の使い方ね

とりあえずよいこちゃん……でいいのかしら?
これから試練が終わるまでの間、よろしくね

甘い蜂蜜の香りは心をくすぐって
少しつまみ食いしたい誘惑にかられるけれど
駄目よ駄目。これは家族へのためのものでしょう?
思い出して、おみやげを見てみんなが喜ぶ顔を
今は我慢して、帰った後のために取っておきましょう

蜂蜜リップの素材の蜜蝋はとても柔らかいもの
潰してしまわないようにそっと扱って
……そう、上手ね

これからの旅路でどんな困難や誘惑が待ち受けても
大切な人のことを思い出して
それがきっと、あなたに「本当の勇気」をくれるから




 ――よくいえば素直。悪く言うなら世間知らず。

 其れがヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の、“よいこ”に対する評価でした。そして其れは間違ってはいません。“よいこ”は人の悪意を未だ知らず、狭い島の中しか知らないのですから。
 これからきっと、悪い事や悲しい事を知っていくのでしょう。ならば、とヘルガは考えます。もしそんな悪い事や悲しい事、許せない事に出会った時……耐え抜けるだけの心の修練が必要なのではないかと。力の正しい使い方を、教えるべきではないかと思ったのです。

「うう……」

 “よいこ”はハニエスタに無事に着いたものの、あちこちから漂う蜂蜜の匂いにすっかりとお腹を空かせていました。
 お使いの資金はたっぷりとあります。――いいえ、だめ、だめ、だめ! これは試練の為のお金。自分がお腹を満たすために使うなんてとんでもない!
 けれど……ちょっぴりなら、使っても怒られないかな。
 お腹が空いたら何にもできない。強い勇士になりたかったら沢山食べる事だ、ってお母さんは言っていた。……強くなるために食べるのは、悪い事じゃないなら……

 ふらりふらり。
 蜂蜜パンの屋台へと“よいこ”が向かった、其の時でした。

「まあ、そこのあなた」

 ヘルガがタイミングを見計らい、声を掛けました。このままでは“よいこ”が蜂蜜パンを買ってしまうだろうと判断したからです。
 “よいこ”は最初、誰に声が掛かったのだろう? と周囲をきょろきょろ見回して……やがて其れが自分に対するものであると気付くと、不思議そうに振り返りました。

「――お姉さんが、僕を呼んだの?」
「ええ、そうよ。あなたがつまみぐいをしそうだったから」
「な、なんでわかるの?」
「ふふ、何でかしらね? おねえさんは、少しだけ物知りなのよ」

 ヘルガはくすくすと笑います。其の様は少しだけ幼く、愛らしく見えて、“よいこ”は初めて見る“綺麗なお姉さん”にドキドキとしていました。

「パンが食べたいの? でも駄目よ」
「どうして?」
「だって、あなたが持っているお金は家族へのためのものでしょう? さあ思い出して、お土産を見て皆が喜ぶ顔を」

 湖面のような瞳に見つめられて、“よいこ”は思い出します。そうだ、今は試練の最中だ。このハニエスタで買い物をして帰るのが僕の使命。蜂蜜のお菓子を幾つかと、蜂蜜の口紅。そうだ、だから、此処で自分の為にお金を使う訳にはいかない。

「思い出せた?」
「うん。……お姉さん、ありがとう!」
「いいのよ。お腹が減って辛いかもしれないけど、今は我慢して、帰った後のために取っておきましょう? 持って帰ったらきっと、皆がお菓子を分けてくれるわ」
「……! そうだね!」

 そう、きっと皆は優しいから。
 ハニエスタから戻った“よいこ”に、頑張ったね、とお菓子をあげる事でしょう。其れは一人で食べるより、ずっとずっと美味しく感じる筈!

「おねえさん、蜂蜜で口紅を作る場所って知ってる?」
「場所は知らないけれど、コツなら一つだけ教えられるわ」
「コツ?」
「そう。素材の蜜蝋はとても柔らかいから、潰してしまわないようにそっと扱うの。其れが綺麗に作るコツよ」

 ヘルガはぱちん、とウィンクを一つ。
 さあ、目的地は決まったわね? と、言葉で“よいこ”の背中を押します。

「貴方の旅路にどんな困難や誘惑が待ち受けていても、……もしそれに出会ってしまったら、さっきみたいに大切な人の事を思い出して」
「え?」
「それがきっと、あなたに“本当の勇気”をくれるわ。蜂蜜パンを我慢できた時みたいに」
「……」

 この人は、僕が勇士になろうとしている事を知っているのだろうか?
 本当に物知りなおねえさんだ。
 不思議そうに見つめて来る“よいこ”にヘルガは僅かに首を傾けて微笑むばかりでした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・焔
アドリブ・連携歓迎

●心情
よいこちゃんが試練を成し遂げる為のお手伝いかぁ、
新たな仲間が加わってくれるなら、焔も頑張ってお手伝いするよ。

●行動
焔は陰ながらこっそりとお手伝いするね。
フォックス・アシスト(UC)を使用してぬいぐるみを召喚して
よいこちゃんが可愛いぬいぐるみに興味を示す様にして
ぬいぐるみに道案内をさせるよ。

ワークショップでは、よいこちゃんが焔のぬいぐるみに付いて来ている事を確認しつつ
焔も蜂蜜リップ作りを楽しむね。
オイル、バター、みつろうを入れ、湯煎し
全部溶けたら蜂蜜を加え更に湯煎。
その後、精油を入れてよく混ぜて、容器に入れて完成だね。

よいこちゃんは、上手く試練を達成できたかなぁ。


栗花落・澪
オルトさん(f01477)と

ふふ、オルトさんも気になる?
全部終わって時間があれば、少し街中回ってみたいね

背後に気配を感じたらハンカチを落とし
気付いて拾ってくれるように誘導

え?
あぁ、ありがとう
すぐに拾ってくれるなんて優しいね
ところで…何か困ってる?
そう見えるよ

蜂蜜の見本として
瓶に入った★飴を炎魔法で溶かして水飴に
見た目はこんな感じで、ほんのり黄色
折角だし、お店まで一緒に買いに行こうか

メイク道具…化粧水とかなら自作した事もあるし
蜂蜜リップの作り方も覚えれば二人にコツとか教えられるかも

別れ際に魔力で編んだ糸をよい子君の小指に
家に着くまでがお使いだから
誘惑に負けたら切れちゃうお守り
頑張ってね


オルト・クロフォード
澪(f03165)と一緒に、ハニエスタに向かう客のフリをしてよい子を導くゾ!
しかし蜂蜜の街カ……どんな所なんだろうナ(そわ
ア、目的は忘れないゾ!

よい子には街への道を教えたり、一緒にワークショップで蜂蜜リップを作ったりしようと思うゾ。一緒になって楽しむ相手も必要かと思うシ、やっぱり私が気になるからナ!

ワークショップで何かを作るのもはじめてなら、リップを作るのもはじめてダ。楽しみだが上手く作れるだろうカ……
よい子も物作りがはじめてなら、一緒に試行錯誤しながら作っていこうと思うゾ。はじめてな人が近くにいるなら、不安とかもなく楽しめると思ウ。
おおッ、澪が教えてくれるのカ?! 助かるゾ!




 物知りなおねえさんに口頭で道を教えて貰って、ハニエスタを歩く“よいこ”。
 けれど、ハニエスタはとても栄えている街。建物は全て同じに見えて、どこもかしこも蜂蜜を売っているものだから、目印に出来ません。

 ――困ったなぁ、このままじゃ迷子になっちゃうぞ。

 “よいこ”が不安に立ち止まりそうになった時、ふと、少し先をとことこあるく何かを見付けました。
 そう、それは四王天・焔(妖の薔薇・f04438)のぬいぐるみ。大きな其れはよく目立って、人の目を引いていました。

 ――あれは何かしら?
 ――何かの催しかな?
 ――着ぐるみだろうけど、可愛いなあ

 人々がざわめきます。
 “よいこ”もつられてそのぬいぐるみを見ていましたが……ふとぬいぐるみは立ち止まると、ちらりと“よいこ”を振り返った……ような気がしました。

「?」

 そして、再びとことこと歩き出します。
 まるでついてこいと言っているかのようでした。きっとそうに違いありません。もしかして、蜂蜜リップのお店のマスコットでしょうか?
 “よいこ”は素直にぬいぐるみについて歩く事にしました。とことこと歩くぬいぐるみ、其の後ろを歩く“よいこ”。けれど“よいこ”は良い子ですから、目指す道の途中でも、困っている人を放っておけません。

「あ」

 隣を歩きすぎていった人が、ハンカチを落としたのが見えました。
 天使のような羽に、栗色の髪。愛らしい花柄のハンカチを“よいこ”は拾い上げて、あの、と声を掛けました。

「これ! 落としましたよ」
「え?」

 振り返ったのは栗花落・澪(泡沫の花・f03165)です。隣を歩いていたオルト・クロフォード(クロックワーク・オートマトン・f01477)も、つられて“よいこ”に振り返ります。
 ――実は、わざと落としたのだけれども。

「あぁ、ありがとう。気付かずに過ぎていくところだったよ」
「危なかったナ、澪!」
「うん。……君、優しいんだね」

 にこり、と澪に微笑まれて、“よいこ”は嬉しくなって笑みを浮かべました。人助けをしてお礼を言って貰える。其れのなんと心地良いことか!

「ううん、拾うくらいなんてことないよ!」
「とても大切なハンカチだったから、拾って貰えて嬉しいよ。……ところで……」

 じい、と。
 澪の瞳が“よいこ”を見詰めます。何かしてしまったのか、と“よいこ”が緊張していると、澪は首を傾げます。

「何か困ってる?」
「え?」
「そんな風に見えたよ。ねえ、オルトさん」
「うム。迷子になっているように見えたガ、どうかナ?」
「わあ! すごいね、お兄さんお姉さん! 今日は物知りな人によく会う日だなあ」

 そうして、“よいこ”は素直に彼らに話しました。
 頼まれごとがあってこのハニエスタに来ている事。蜂蜜リップを作れるお店を教えて貰ったのに、街並みに迷いそうになった事。そして、ぬいぐるみの後をついて歩いていた事。
 なるほど? と、澪とオルトが見ると、白狐のぬいぐるみは立ち止まっています。じっ、と三人を待っているようでした。

「実は僕たちも、蜂蜜リップを作りにいくところだったんだ。どうせなら一緒に行ってもいいかな?」
「そうだナ。一人より二人、二人より三人と言うしナ! 一緒に作れば、あんまり失敗しないで済むと思うゾ!」
「本当? 嬉しいなあ! 僕、口紅なんて見た事もないからちょっと心配だったんだ!」

 じゃあ、一緒に行こう!
 “よいこ”がそう言うと、先導するようにぬいぐるみが歩き出します。
 ――成る程、あれは恐らく他の猟兵のものでしょう。この“よいこ”を助けようと思っている人は、澪とオルトだけではない様子。
 そうして三人はぬいぐるみの後をついていき、こじんまりとした店へと入って行きました。


°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°


 ――用意するのは、オイルとバター、そして蜜蝋。

 其れ等を湯煎して、全部がとろりと溶けたら蜂蜜を加えて更にじっくりと湯煎。
 とろとろに煮詰まってきたら、お好みで精油を少々。
 硬さを調節したいなら、蜜蝋とオイルの比率を変えてみると良いでしょう。蜜蝋を減らしてオイルを増やせば柔らかく。逆に蜜蝋を増やせば硬くなります。
 入れ物も選ぶことが出来ます。其のまま塗れるスティックも、指で掬うのが素敵な缶も、混ぜた材料を流し込んで固めれば出来上がり。なんにも難しい事なんてありません。

 焔はスティックの入れ物にリップを流し込み、そうして入り口を見ました。
 すると、ぬいぐるみに先導された“よいこ”と――恐らく猟兵でしょう。付き添いが二人、入って来るのが見えました。
 さて、あとは固めるだけなのですが……片付けをする焔の手つきがゆっくりになります。もし判らなかったら、教えてあげよう。蜂蜜リップを作る機会なんてなかなかないだろうから。そう思って、三人を見守るのです。


「化粧水とかなら作った事はあるんだけど、蜂蜜リップは作った事ないなぁ……」

 店員さんがくれた、使い方の書かれた紙をじっと見詰めながら澪が言います。少なくとも“よいこ”には、教えてあげないといけませんから。

「キミは何かを作るのは初めてカ?」

 オルトが“よいこ”に聞きました。

「うん、初めて……かな。蜂蜜を食べたのも1度か2度だよ。あ、でも、木工くらいならやった事はあるかも」
「そうカ! 私はリップどころカ、何かを作るという事自体が初めてダ! じゃあ、キミは私の先輩だナ」
「せんぱい?」
「ふふ」

 不思議そうに首を傾げる“よいこ”と、堪えきれずに笑う澪。
 “よいこ”は先輩後輩の概念を知りません。みんな同じくらい偉い、あ、でも、長老は皆よりちょっと偉い。そんな村で育ってきたので、優劣の概念がまだ薄いのです。
 勇士になれば、きっと嫌でも思い知るでしょう。先達の知識に後進は及ばないという事を。けれども、後進は先達から教わり、進歩させていくのだという事を。
 何事にも、大事な事は素直である事。
 其れは天賦の才だと澪は思い……そうして、紙の中身を粗方頭に入れて二人を見ました。

「じゃあ、作ってみよっか。でも其の前に」
「?」

 そっ、と澪の細い手が“よいこ”の手を取ります。
 修行を積んだのでしょう。武骨な小指をとんとん、と叩くと、するりと何処からともなく現れた糸が結ばれました。

「? これは何?」
「お守りだよ。誘惑に負けたら切れちゃうお守り。――頑張ってね」
「??? ……うん!」

 頷いた“よいこ”に、澪とオルトは微笑みを返します。
 さあ、蜂蜜リップを作りましょう。村できっと、待っている人がいますから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディル・ウェッジウイッター
10歳でお使いとはえらいですね
彼の儀式を成功させるべく私も頑張りましょうか

少年…ひとまずエリヤ君とお呼びしますか。見つけたら声をかけましょう
成程スイーツを食べたいと。美味しそうですものね
そんなあなたに紅茶のティーバッグの詰め合わせをお渡ししましょう
お茶のある無しでスイーツの美味しさや食べられる量が変わると言っても過言ではありません
ですが残念、ここにはお湯が無いので美味しいお茶は淹れられません
ここでスイーツを食べるのはぐっとこらえて、お家でお茶と一緒に食べるのをお勧めいたしますよ

彼が行ったら自分用のお茶を飲んで一息
さっきのお菓子本当に美味しそうでしたし、私もお土産に買って帰りましょうかね




 10歳でお使い。成る程。
 私は15歳で故郷を出ましたから、ある意味5年先輩という事になるのでしょうか。
 ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)は片手に紙袋を持ち、お土産を探して歩いている“よいこ”にそんな感慨を抱いていました。

「もし」
「?」

 おやおや、今日2度目のきょろきょろです。
 誰に声を掛けたのだろう、と“よいこ”は周囲を見回して、ディルを振り返るのでした。

「……僕?」
「ええ、そうです。何かお探しですか?」
「今日は沢山人に声を掛けられる日だなあ。あのね、お土産を探しているんだ」

 もしハニエスタの人なら、おすすめのお店を教えて欲しいんだ。
 そう言う“よいこ”に、成る程、とディルは頷きました。そして、私はハニエスタの人ではありませんが、と前置きをします。

「此処は少し見て回っただけですが、とても甘いものが多い。きっと何を買って帰っても喜ばれると思います」
「本当?」
「ええ。……ええ、と」

 呼ぶ名を探して口ごもるディル。
 其れを察したのでしょう。申し訳なさそうに、“よいこ”は困った顔をしました。

「名前、かな? あのね、僕はいま故郷で長老の試練を受けていて……試練を乗り越えたら、名前を貰えるんだ。だから今は、名前がなくて」
「そうですか……普段は何と呼ばれているんですか?」
「え? ……ええと、坊や、とか……おい、とか……」
「私がそう呼ぶわけにはいきませんね。……そうですね。エリヤ君とお呼びしても?」

 ディルの素敵な提案に、知らず知らず“よいこ”の瞳が輝きました。
 名前を呼ばれなくても支障のない村で育ったけれど、でも、名前というものに憧れていたからです。エリヤ! なんて素敵な響き!

「うんっ! 其れで構わないよ!」
「ありがとうございます。ではエリヤ君。お菓子のおいしさを引き立てる、素敵なものを知っていますか?」
「素敵なもの?」
「ええ。其れは――お茶です」

 ディルの目は真剣でした。
 彼はティーソムリエです。茶を語らせれば彼に敵う者はそういません。

「お茶のあるなしでスイーツの美味しさや食べられる量が変わると言っても過言ではありません。例えばお菓子が甘いなら、お茶の甘さを控えめにしたくなるでしょう?」
「……確かに! 僕、お団子を食べながら渋いお茶を飲むのが好きだ!」
「そうでしょう、そうでしょう。なので、エリヤ君にこれを」

 出会った記念の印です。
 そう言ってディルが手渡したのは、紅茶のティーバッグの詰め合わせ。ストレートで楽しめるものから、フルーツの香りがするものまで。様々なフレーバーの紅茶が楽しめる素敵なセットです。

「ここで食べるのはこらえて、お家で紅茶と一緒に食べるのがきっと美味しいですよ」
「わあ、ありがとう……! 今日は沢山助けて貰う日だ! ありがとう、お兄さん! ……ええと」

 此処で、“エリヤ”は名を聞いていなかった事を思い出しました。
 何と聞けばいいのか判らずまごまごしていると、ああ、とディルが苦笑します。

「すみません。お茶の事になるとつい……私はディル。ディル・ウェッジウイッターといいます」
「ディルお兄さん?」
「ええ、それで結構ですよ」
「ディルお兄さん! ありがとう! このお茶、大事に持って帰るよ! きっと皆「予想してなかった」って言うと思うんだ」

 蜂蜜のリップを入れていた袋に、ディルから貰ったティーバッグの詰め合わせを大切に入れます。
 大事に持って帰ろう、と嬉しそうに笑う“エリヤ”を見て、残念です、とディルは零しました。

「此処にお湯があれば、エリヤ君とお茶を楽しむ事が出来たのですが。お使いの途中だったんでしたね」
「あ! うん、そうなんだ! だから僕、このお茶に合うお菓子を捜す事にするよ!」

 何にしようか迷っていたんだ、ありがとう!
 そういって、太陽のように“エリヤ”は笑うのでした。

°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°˖✧˖°

 “エリヤ”が去って行ったあと。
 そうですねえ、とディルは独り言をぽつり。

「この街は美味しそうなものが沢山あって、私も迷ってしまいますね……何かお土産に買って帰りましょうか」

 折角だから、エリヤくんが言っていた渋いお茶と一緒に戴くのも悪くないでしょう。
 緑茶の葉はまだ残っていたでしょうか。
 甘い香りが鼻をくすぐる中、ディルはこれからに思いをはせるのでした。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年09月09日


挿絵イラスト