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銀河帝国攻略戦㉖～機械への挑戦

作者：一ノ瀬崇

「やーやーお待たせしましたー」
　依頼主はいつもの巫女。
　しかし望月・鼎に普段の元気さは無く、どこか疲れた様子を見せている。
　とは言え、抜けっぷりは普段と変わってない様だが。
「いやー、今回の敵と言うか相手は一味違いまして。まずは此方を見てくださいなー」
　そう言ってホワイトボードに何やら書き始める巫女。
　台の上に線が延び、更に棒人間が吊るされている。
　ナニコレキモイ。
「我ながら怖ろしい程の画力の冴えです！まぁこんな感じで良いでしょう！」
　良いらしい。
「さて、先のアマルテア情報艦隊で得た情報から、スペースシップから拉致された有能な科学者や技術者が、帝国旗艦インペリウムの科学技術センターで働かされている事が解りました！今回の作戦目標はこの方々の救出です！」
　棒人間に矢印で『救い出せ！』と書き加える巫女。
　絵で見る限りはえらい猟奇的なビジュアルなのだが大丈夫なのだろうか。
「しかし！何とそのままでは助け出す事が出来ません！彼等は生体部品として接続されている為、無理矢理引き剥がすと脳が焼き切れてバッツンなのです！コワイ！そこで皆さんには安全に彼等を救出する為に接続を切り離してもらいます！その方法とは！」
　ホワイトボードに赤いインクででかでかと『クイズ！！』と書く。
　はて、何ぞやと首を傾げる猟兵達に鼎は言った。
「クイズが出題されるとの事です！コンピューターのクイズに正解するとロックが外れ、彼等を救出する事が可能になります！ちゃっちゃと正解してさっさと救助ですよーぅ！」
　鼻息荒くふんすふんすと意気込む巫女。
　が、その勢いは唐突に萎む。
「ですが失敗すると……敵性勢力が解除を目論んでいると判断してコンピューターが生体部品、つまり彼等を処分してしまいます。くれぐれも！くれぐれも勘違いやケアレスミスで間違えない様にお願いします！」
　まさかたかがクイズに人命が掛かるとは、と何人かの猟兵達は表情を苦いものに変える。
「肝心のクイズですが、こんな内容でした！」
『鍛冶屋・神父・商人・兵士の四人が草原・荒野・山麓を駆け抜ける勝負をした。彼等の話を聞き、それぞれの順位を正しく答えよ。鍛冶屋「荒野で商人を抜いて、その後は終着まで商人には抜かれていない」神父「草原でも荒野でも順位は同じだったが、山麓で二人に抜かれてしまった」商人「荒野で調子を落として最後尾に居たが、最終的には草原と同じ順位で終わった」兵士「草原では三番手に居たが、終わるまで三番手より上になった事は無かった」』

第1章 冒険 『中央コンピューターの謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、救出します。 SPD   :    素早く謎の答えを導き出した後、救出した人のケアを行います。 WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、救出します。 👑3 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　帝国旗艦インペリウム、科学技術センター。
　此処では中央コンピューターの生体部品として、スペースシップから拉致されてきた人々が無理矢理働かされていた。
　中央コンピューターには伸びたケーブルが血管の様に張り巡らされており、遠くから見ると表皮を剥がされた肉の大樹を思わせる外観となっている。
　そこへ果実の様に人々がぶら下げられており、何とも奇怪で悪趣味な風貌だ。
　その異様な姿に辟易しつつ、降り立った五人の猟兵は大樹の根元にある端末へと向かった。
「如何にも悪趣味なものだ」
　そう言い捨てるのはトレーズ・ヘマタイト。
　彼は今回、ユーベルコード【イリュージョン・オブリビオン】を使って設問の状況を再現して見落としや間違いが無い様に思考の手助けをする。
　突破後はそのまま幻影を救出時の人手として使う心算だ。
　彼等が端末に近付いた所で、ユニットから音声が流れ出す。
『問：鍛冶屋・神父・商人・兵士の四人が草原・荒野・山麓を駆け抜ける勝負をした。彼等の話を聞き、それぞれの順位を正しく答えよ。鍛冶屋「荒野で商人を抜いて、その後は終着まで商人には抜かれていない」神父「草原でも荒野でも順位は同じだったが、山麓で二人に抜かれてしまった」商人「荒野で調子を落として最後尾に居たが、最終的には草原と同じ順位で終わった」兵士「草原では三番手に居たが、終わるまで三番手より上になった事は無かった」』
「うっ、こ、こんなの簡単だー！！！」
　流れ出した音声に強気な態度を崩さない多重人格者ハンドレッド・コール。
　そんな彼の脳裏に、少女の落ち着いた声色が響く。
『……冷や汗かいてるよ、ハンドレッド』
「き、気のせいだろ！うん！」
　少女人格であるフローラへ強がって見せるハンドレッド。
　実は彼、こういった謎解きは大の苦手だったりする。
　宇宙冒険家を自称し日夜未知を求めて流離う彼だが、頭を使って如何こうと言う作業は不得手だ。
「おぅけぃロジックファイト！こういうのはボクの出番さ！」
　テンション高くふわりと浮かぶのはユース・アルビトラートル。
　裁判官としての一面を持つ彼は、こう言った論理的思考を求められるものは得意だ。
「ではトレーズさん、今一度整理する為に幻影をお願いします」
「あぁ。剣を交え、打倒し、血肉を喰らい、魂を啜り、己の一部となった災魔よ、今一度その力、この場にて示せ」
　呼応する様に幻影が現れる。
　その姿は昔、トレーズが魂と肉体を取り込んだ災魔と同じものだ。
「それじゃ整理していこう。結論から言えば、答えは一位から順に「鍛冶屋、商人、神父、兵士」だね。此処までは良いかな？」
　ユースの言葉に皆が頷き、幻影がそれぞれの位置に付く。
「文面から最終結果は「鍛冶屋は商人よりも上の順位」で「神父と兵士は三位以下」ということは解る。つまり鍛冶屋が一位で商人が二位であるのは確実。次に草原時点で商人は二位、神父は山麓まで二位以上かつ順位一定であったことが解る。山麓で二人に抜かされているのであれば、神父は一位から三位に転落したとしか考えられない」
「兵士が神父を抜いていたなら、山麓で抜かれた人数が合わなくなります。となれば、兵士は最下位でしょうね」
　シズホ・トヒソズマが捕捉する。
「道中のレース結果は草原で『一位神父、二位商人、三位兵士、最下位鍛冶屋』荒野で『一位神父、二位鍛冶屋、三位兵士、四位商人』山嶺で『一位鍛冶屋、二位商人、三位神父、最下位兵士』となります。これが答えですね」
「おぉ、そうだな！……良かった、正解してた」
　びしっとサムズアップして全力で同意するハンドレッド。
　顎から冷や汗が一滴流れ落ちる以外は実に堂々とした振る舞いだ。
「では答えを入力しましょう。一刻も早く皆さんを自由にして差し上げねばなりません」
　ロア・ネコンティは解答を携え、端末へと向かう。
（人間を部品として扱うなんて帝国軍は何処まで非道なのでしょう。必ず、安全に救出しなければなりません）
　打ち間違えない様に注意しつつ答えを入力するロアは、静かな怒りに燃えていた。
　最後の文字を打ち終え、答えを送信する。
　画面に浮かぶ照合中の文字を見詰めていると、ピーンと言う音と共にアナウンスが流れた。
『認証完了。解除コードを入力』
　音声が途切れると同時にあちらこちらから電子音が聴こえて来た。
　一番近くに居た研究員らしき人を見ると、頭に装着されていた帽子型のデバイスと繋がれていたケーブルが離れていた。
「無事解放されました！皆さん、救助をお願いします！」
　その声に弾かれた様に動く四人。
　トレーズは幻影を使い低い位置に繋がれていた人々を助け出していく。
「謎解きというかなんというかだな、まあいい、救うのは変わらん」
　口調はぶっきらぼうだが、救出する手際は素早く、それでいて負担にならない様気配りされている。
　次々と人々を運び出し、衰弱の激しいものはロアの元へと運び込む。
　連れられて来た白衣の女性の横に膝を付いて、ロアは祈る様に手を組んだ。
「蠍の火よ灯れ」
　ユーベルコード【カムパネルラ】が発動し、空から光が降り注ぐ。
　柔らかな光に照らされた女性の顔に血色が戻り始めた。
　それを見てもう大丈夫だと判断した彼は次の人へと光を降らせる。
　ユーベルコードの代償として疲労が蓄積されていくが、意に介さず静かに治療を続けていく。
（この方々の苦痛に比べれば、この程度……！）
　治療を受けていた一人の男性がうっすらと目を開く。
　戸惑ったように視線を動かす彼へ、ロアは優しい声色で告げた。
　「拉致されてからさぞ辛かった事でしょう。でももう大丈夫です。解放軍が再結成されました。僕達はその仲間です。帝国の支配はもうすぐ終わります」
　その言葉を受けて、男性は安心した様に目を閉じる。
　すぐ安らかな寝息が聞こえて来た。
　それを見て微笑みを浮かべ、ロアは治療を続ける。
「暫しお目覚め下さい、共に在りし着用者！」
　シズホはユーベルコード【眠りし朋よ、共に歩もう】を発動する。
　現れたのは自身の現在着用者の意識を持つ分身。
　単純に人手は倍になった。
　だが彼女の強みは別に有る。
　軽快な身のこなしと、普段は巻く事に使っているストリングスを巧みに操る事で、高所や遠方に居る人達を助け出していく。
　分身として動き回っている装着者は救命講習を修了した事の有る人な為、実に手際良く助け出した人の状態を確認して応急処置を施していく。
「よっし、オレ達も！フローラ、頼んだぜ！」
　ハンドレッドも人々の状態を確認して、大きな外傷が無いかを探っていく。
　生体部品として扱われていただけに目立つ怪我は無さそうだったが、中には拉致された時の抵抗の証なのか、打撲痕や小さな引っ掻き傷の様なものが付いている人も居る。
　そう言った人を、人格交代で表に出たフローラが治療していく。
「未来へ紡ぐ希望を、あなたに」
　ユーベルコード【緑薔薇の息吹】で生み出された光り輝くライトグリーンの花びらが、それらの傷を癒していく。
　回復した人々も、幾人か目を覚まし始めた。
　大方の治療を終えて引っ込んだフローラに代わって、ハンドレッドが起きた人達に声を掛けて回る。
「アンタらは、自由だ。生きて帰るぞ！」
　その声に希望を取り戻し、涙を溢れさせる人々。
「死霊騎士くん！全部任せたよ！」
　フェアリー故に自身が動き回る事の叶わないユースはユーベルコード【リザレクト・オブリビオン】で召喚した死霊騎士に救出を任せて、端末を操作して何かしらの情報が無いかを探していく。
「んー……んふふー……おっ、いいものみっけ♪」
　指をパチンと鳴らして皆へと向き直る。
「脱出に使えそうな連絡機を見付けたよ！動ける人はまだ倒れている人を助けてあげて、ボクが先導するよ！」
「良し、動けぬものは幻影に背負わせよう。取り残されている人はいないな？」
　トレーズが幻影に指示を出し、まだ眠っている人達を背負っていく。
　立ち上がれる人は足元の覚束ない人へ肩を貸し、二人三脚の様に歩き出す。
　先頭をユース、次にトレーズ、助け出された人々、後方と左右をロア、ハンドレッド、シズホが固めて進んでいく。
　幸い敵に遭遇する事も無く、彼等は連絡機に辿り着き脱出する事が出来た。
　久し振りに見る宇宙空間。
　周囲にはまだ銀河帝国が展開している為に人々は不安そうにしていたが、戦闘領域を抜けて遂にスペースシップの姿が見えてきた時、連絡機の中に歓声が響き渡った。
　見事、救出作戦成功である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年02月18日