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アンタッチャブル・フラワー・ブライド

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #第三層

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#第三層


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●触れ得ぬ
『魂人』の青年は思う。
 人は己を美しい人であるという。己の顔立ちを、姿を見て、口々にそう言った。
 だが、青年にとってそれは意味のないものであった。
 美醜に意味はない。
 彼にとって己の美しさは、草花の見せる可憐さや木々の色づく深い色合い、それらが織りなす自然の調和には何一つ勝るところのあるものではなかった。
「いいわ! とても! その黒髪! その美しい瞳! 白磁のように透き通った肌! どれもが私の『花嫁』に相応しい! 是が非でも!!」
『闇の種族』――『強欲の姫・グリード』はそう叫んだ。
 己を見て欲したのだ。

 意味のないことだと『魂人』の青年は思った。
 己が持つという美しさなど、まるで意味がない。いや、意味ならばあるのかもしれないと彼は思った。
『闇の種族』と呼ばれる強大にして邪悪なる者たち。
 彼等は自分たち『魂人』を虐げ、玩具とする。そして、今『花嫁』を求める『強欲の姫・グリード』の意識は己に向かっている。
 自分が彼女の意識を引きつけ続けているのならば、他の『魂人』たちには目もくれないだろう。
 それだけの欲望の発露を彼は感じていた。

『戦いに際しては心に平和を』というのならば、これは戦いなのかもしれない。
『己の闇を恐れよ』と己の中の恐怖が言う。
『されど恐れるな、その力』と己の中の何かが叫ぶ。

 だから、『魂人』の青年は顔を上げる。
「いいわ、よく見せて頂戴。その顔を、その姿を、私の『花嫁』たるあなたの顔を! ああっ! ああ! 欲しい! その色も、形も、何もかもが私のものにしたい!! 永遠に私のそばにあって『永劫回帰』の力を擦り切れるまで、美しくなくなるまで使い続けるの!」
『強欲の姫・グリード』の言葉に『魂人』の青年は、しかして表情を動かすことなく告げる。
「理由になってない」
 そう、お前など恐れるに値しないと――。

●花嫁
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回私が予知したのは、ダークセイヴァー上層における事件です」
 ダークセイヴァー上層の状況は未だ好転していない。
『魂人』たちは転生した後に強大な『闇の種族』の玩具にされてしまっている。
『闇の種族』は今の猟兵をして撃破の難しい存在だ。その力の源がなんであるのかさえもわかっていないが、ナイアルテは予知で見た事実を猟兵たちに告げる。

「『闇の種族』は『魂人』を『永劫の生贄』として、より強大なオブリビオンへと『羽化』する為の儀式を行おうとしているのです」
 今でさえ撃破困難な『闇の種族』たち。
 さらなる力を得る儀式に必要なのは『魂人』の持つユーベルコード『永劫回帰』。その力を持って、さらなる強大な存在に至る者が出ることは防がねばならない。
 だが、どうやって。

「『羽化の儀式中』ならば……あるいは、という可能性があります。ですが、それはか細い希望であるかもしれません」
 以前猟兵達が『闇の種族』の『楽園』の如き村から救い出した『魂人』たちが移住した村に『闇の種族』が迫っている。
 彼等は『美しい魂人』を求めている。
 無論、『魂人』たちは抵抗するだろう。けれど、一人の『魂人』の青年に執着する『闇の種族』の求めに応じて、彼は自ら『花嫁』として彼等に運ばれようとしているのだ。

「『花嫁』と一言に言っても女性である必要はないようなのです。『闇の種族』が求める条件に一致するのならば男性であろうと関係がないのです。『魂人』の青年の彼は、自ら進んで他の『魂人』に手を出さぬことを条件に犠牲になろうとしています」
 そんな彼をむざむざ生贄にさせることはできない。
 だが、その『花嫁』たる青年を連れ去ろうとする上層にある『闇の種族』の配下であるオブリビオンとの戦いは困難を極める。
 ダークセイヴァー上層にあって、雑兵の如きオブリビオンであっても、『番犬の紋章』の力を一体一体が有している。
 ユーベルコードとは他に『番犬の紋章』が付いている部位以外への攻撃はまるでダメージを負わないという特性を持っている。

 それはダークセイヴァーにおいて『地底都市』の門番であるオブリビオンが持っていた力だ。
『番犬の紋章』そのものを攻撃しなければダメージを負わぬ強大なオブリビオンが雑兵の如き数で迫りくるのだ。
「『魂檻人形』と呼ばれる『番犬の紋章』を持つ雑兵オブリビオン。彼等を退け、『花嫁』たる青年を救い出しましょう。彼は時にみなさんが致命的な窮地に陥ったのならば『永劫回帰』の力を使うことをためらいません」
 助けてくれるのはありがたいが、『永劫回帰』は暖かな記憶をトラウマに変えてしまうユーベルコードだ。
 なるべくならば、その力は使わせたくないかもしれない。

「敵集団を蹴散らしたのならば、そのまま『闇の種族』が今まさに『羽化の儀式』を行っている館へと向かいましょう」
 だが、『闇の種族』である『強欲の姫・グリード』の館の周囲には幻覚を見せる瘴気発する黒百合の花が咲く森へと変貌している。
 奇妙な幻覚を見せる迷路の如き森を突破し、『羽化の儀式』を行っている『強欲の姫・グリード』をお倒さなければならない。
 この『羽化の儀式中』は如何に『闇の種族』とは言え、十全な力を発揮することができないようである。

「ここが『闇の種族』を撃破できる最大の好機なのです。十分な力を発揮できないとは言え、腐っても『闇の種族』。『強欲の姫・グリード』の力は強大そのもの」
 だが、それでもナイアルテは送り出さなければならない。
 戦いがどれだけ厳しくとも、どれだけ危険であったとしても。それでも予知した未来を回避できるのならば、猟兵たちを送り出さなければならない。
 犠牲になる生命。
 それを一つでもすくい上げることができるのならば、猟兵は誰ひとりとして躊躇わないことを知っているから、彼女は申し訳ないと思う感情を押し殺して頭を下げる。

 見送る猟兵たちに恐れはあるか。
 どれだけの恐怖が襲ってくるのだとしても、それでも一歩を前に踏み出す勇気こそが、きっと篝火のごとき輝きでもって闇の世界を照らすのだ――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 ダークセイヴァー上層に存在する闇の種族が求めるのは『美しき魂人』――『花嫁』。
 その美しき『花嫁』を使って、さらなる強大な存在へと『羽化』せんとしている『闇の種族』を打倒するシナリオになります。

●第一章
 集団戦です。
『花嫁』として『闇の種族』に見初められた『魂人』の青年は、転移したみなさんの前で上層オブリビオンによって連れ去られようとしています。
 この上層オブリビオン『魂檻人形』たちは全てが『番犬の紋章』を持っています。
『番犬の紋章』の効果は、『番犬の紋章』意外の部位にダメージを負わせられないというものです。
 逆に言えば『番犬の紋章』が弱点そのものとなっています。

 また『花嫁』である『魂人』の青年はある程度の戦闘能力を持ち、必要ならば猟兵に『永劫回帰』を使うこともためらうことはりません。

●第二章
 冒険です。
『花嫁』の青年を助けた皆さんは、そのまま『闇の種族』、『強欲の姫・グリード』が『羽化の儀式』を行っている館へと向かいます。
 青年も同行を申し出ています。彼はある程度自分の身は自分で守れるだけの力を持っています。

 館の周囲には『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』へと変貌を遂げており、この幻覚を見せる森を突破しなければなりません。

●第三章
 ボス戦です。
 館へと辿り着いた皆さんと『強欲の姫・グリード』との戦いになります。
 館の中心に鎮座する『強欲の姫・グリード』の周囲には『強制的に永劫回帰を使わされ、闇の種族の死を打ち消し続けている魂人達』が因われています。
『闇の種族』である『強欲の姫・グリード』は極めて強大な存在ですが、『羽化の儀式の最中』であるためか、十分な力を発揮できていません。
 撃破出来る可能性があるのだとしたら、この機を逃すわけにはいきません。

 それでは、己のためだけに『魂人』たちを使い潰す『闇の種族』と、他のために己を犠牲にする『魂人』、彼等を取り巻く状況に介入する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 集団戦 『魂檻人形』

POW   :    こんな事したくないのに、身体が勝手にっ!
単純で重い【武器】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    お願い、避けてっ!
予め【意思に反し、今から攻撃するのを警告する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
WIZ   :    もう…楽にして…
自身の【生きる気力】を捨て【るが、逆に簡単に死ねない呪われた体】に変身する。防御力10倍と欠損部位再生力を得るが、太陽光でダメージを受ける。

イラスト:バスター

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『魂人』の青年は一歩を踏み出した。
「殊勝な心がけです。そうすれば、私達も手荒な真似をしなくてすみます。いたずらに傷つけたいわけではないのです」
 上層オブリビオン『魂檻人形』たちが囁いた。
 嘘だと、青年は思った。
 彼女たちは自分たちのことしか考えていない。
 自分たちの魂が人形に封ぜられ、哀れな魂をもって憐れみを誘うように、そのような言動や行動を組み込まれただけに過ぎない虚の如き存在であるゆにしか青年には思えなかった。
 胸に輝く紋章。
 それは『番犬の紋章』である。

 紋章以外の部位には傷一つ付けられない強大な力。

 青年は恐れていなかった。
 オブリビオンも、これから起こるであろう拷問の如き時間も。
 ただ、彼が恐れるのは己の心の中で叫ぶ何かが己自身の恐怖によって汚されることだけが恐ろしいと思ったのだ。
「意味のない言葉は響かない。アンタたちの言葉は、何一つ俺の中の何かを奪うことはできはしまい。誰かのためにと願う心が、それだけが、俺の今を推し進めている」
 青年の言葉に『魂檻人形』たちは理解できぬものを見たような顔をしただろう。
「意味がわかりません。そのまま進みなさい。我ら主は、傷一つないあなたを求めておいでなのですから」
 せっつくように『魂檻人形』たちが青年を促す。

 もしも、少しでも抵抗するのならば、背後に在る村を滅ぼすと言わんばかりであった。
 そんな彼等の元に猟兵たちは転移する。
 全てを救うことができなくても、全てを救おうとする心を否定することなどできない。
 それを示すように猟兵たちは『魂檻人形』たちを疾く滅ぼさなければならないのだ――。
七那原・望
転移と同時に果実変性・ウィッシーズアリスを発動し、ねこさん達の全力魔法範囲攻撃の幻覚を敵に掛け、わたしや魂人達が魂檻人形に、魂檻人形がわたしや魂人に見えるようにして同士討ちを狙いましょう。

更にアマービレでねこさんを大量に呼び出し、ねこさん達の魔法攻撃やセプテット、オラトリオ等で的確に紋章を狙い撃ち、敵の数を迅速に減らします。

警告わざわざご苦労です。

第六感も駆使して敵の攻撃を見切り、回避しつつカウンターで的確に紋章を撃ち抜きましょう。

頑張って生きてるようで何よりです。
そしてあなたと会うのは三度目ですね。
自己犠牲も程々にしておかないとロクな事にならないのですよ。策があったなら話は別ですけれど。



 常闇の世界ダークセイヴァー。
 その暗闇に包まれながらも、生きることをやめない者たちは『魂人』と呼ばれている。暖かな記憶を代償に死を否定し続ける力。
 それが『永劫回帰』。
 しかし、その『永劫回帰』の力は上層オブリビオンである『闇の種族』にとっては、己の力を高めるためのものでしかない。
『魂人』は玩具。
『永劫回帰』は力を得る為の贄。
 いずれにしても猟兵たちは『闇の種族』の横暴を許すわけにはいかなかった。

 転移と共に七那原・望(封印されし果実・f04836)は願う。
「わたしは望む……ウィッシーズアリス!」
 ユーベルコードによって現れる4匹の猫たち。
 その瞳が輝くのは望の願いを叶えるため。果実変性・ウィッシーズアリス(トランス・ウィッシーズアリス)は、そのための力だ。
 強力な幻覚の魔法によって、オブリビオンである『魂檻人形』たちの視界をジャックする。
「攻撃しますから、避けてくださいね。ええ、私達は望んでこんなことをしているわけではないのです」
 彼女たちの言葉は空虚そのものであった。
 望んでいない。
 自らは操られた哀れな存在であるというように、『魂檻人形』たちは、その手にした巨大な槌を揮う。

 だが、その槌が叩きつけられるのは望の呼び寄せた4匹の猫が見せる幻覚。
 望や『魂人』は味方である『魂檻人形』に。『魂檻人形』は敵である猟兵に。そのように同士討ちを誘う幻覚によって、さらに白いタクトを揺らす。
 鈴の音が響き渡り、猫たちが溢れる。
 合体銃から放たれる弾丸が、『魂檻人形』たちの胸にある『番犬の紋章』を撃ち抜く。
「警告わざわざご苦労です」
 望にとって『番犬の紋章』は障害にはなりえない。
 紋章は確かに強大な力をオブリビオンにもたらす。だが、『番犬の紋章』の効果はすでに猟兵たちの知る所であった。

 紋章以外の部位に攻撃してもダメージが与えられない。
 与えられるのは紋章だけ。
 ならば、合体銃の弾丸は紋章を的確に狙う。幻覚の魔法に寄って望が味方に見えているのならば、隙だらけである。
 無防備に晒した胸の紋章に叩き込まれる弾丸が、撃ち抜き、その体を霧消させていく。
「アンタは……」
「頑張って生きているようで何よりです」
 望は『魂人』の青年に向き直る。
 彼のことはすでにグリモアベースで聞き及んでいる。

 他の『魂人』たちの為に自身が進んで犠牲になろうとしていることも。
 だからこそ望は混乱満ちる戦場に立ちながら青年に言う。
「あなたと会うのは三度目ですね。自己犠牲も程々にしておかないとロクなことにならないのですよ」
「他に道はなかった。俺が自身の保身を望むのならば、他の者たちが傷つく。それがどうにも俺には正しいことのように思えなかったのだ」
 その言葉に望は嘆息するかもしれない。
 なにか策があったわけではないらしい。自己犠牲、と望は言ったが、青年にはその意識もなかったようである。

 自分の身を守るよりも他者のことを気にかける。
 この常闇の世界にあっては、そうしなければ他を活かすこともできなかったのかもしれない。
 けれど、望は頭を振る。
 その自己犠牲をこそ否定するために彼女はやってきたのだ。
『魂人』の犠牲は出させない。『闇の種族』は打ち倒す。
 そのために望は戦場にあって溢れるお友達たる猫と共に『魂檻人形』たちの紋章を撃ち抜くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…その人形の中に本当に捕らわれた魂が宿っているのか否か、私には分からない

…だけど、お前達がどのような存在であれ、今を生きる生命を脅かすならば容赦はしない

…お前達を破壊し、その不本意な生から解放する
それが、私がお前達にしてやれる唯一の慈悲よ

事前に大鎌に武器改造を施して手甲剣に変型させつつUCを発動
光学●迷彩術式により周囲の風景を映す●残像を自身に被せて不可視化を行い、
戦場の●足場に習熟した●忍び足により体勢を崩す事無く無音で駆け、
敵武器のまぐれ当たりにだけ注意しつつ超絶技法の●軽業で胸元に切り込み、
火属性攻撃の魔力を溜めた手甲剣で紋章ごと敵を貫き●暗殺して回る

…眠りなさい。今度こそ、永遠にね



『魂檻人形』は哀れさを誘う姿をしていた。
 人形の体躯に魂が封じられている。だが、『魂人』の青年にとって、それは虚のような存在にしか思えなかったのである。
 しかし、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)には、それが本当かどうかわからない。
 その人形の中に本当に魂が因われているのかもしれないと思った。
 誰も否定はできないだろう。

 目に見えるものばかりが真実ではない。
 けれど、目に見えるものをおろそかにする者もまた真を見据えることなどできはしないだろう。
 だからこそ、リーヴァルディは告げる。
「……お前達がどのような存在であれ、今を生きる生命を脅かすならば容赦はしない」
「どうしてですか? 生命を脅かして生きるのが人なのに。他の生命を脅かさない生命などあるのですか? 私達は哀れな存在。ただ命じられるままにしか体が動かせない。傷つけたいとは思っていないのです。この槌だってそうです。貴女に振るわなければならないこと、それがどうしても辛いのです」
 つらつらと言葉がよどみなくあふれだす。
『魂檻人形』たちは次々に槌を振るい上げる。

 攻撃の意図を見せることによって、攻撃力を高めているのだ。
 哀れな言葉で、相対するものに攻撃を躊躇わせておきながら、自分たちが生き残るための力は溜め込む。
 そこにどんな真実があるだろうか。
 目を背けず、見据えるからこそリーヴァルディにはそれが見えたのだ。
「……お前たちを破壊し、その不本意な生から開放する」
「望んでいないのです。私達はこのまま、哀れなまま、他者から憐れまれ続けながら生きていたいのです。可哀想な私たちを、あなた達は……」
「嘘だ」
『魂人』の青年の言葉が響く。

 誰も憐れまれ続けて生きていたいと思う者などいない。
 自らの足で立ち、自らの手で掴み取る未来こそを人は求めるものだ。そこにあるのは偽りの魂。虚ろなる存在。
 ならばこそ、リーヴァルディの大鎌が手甲剣へと変化し、その瞳がユーベルコードに輝く。
「私がお前たちにしてやれる唯一の慈悲よ……」
 吸血鬼狩りの業・刃心影の型(カーライル)。
 リーヴァルディの姿が消える。

 いや、違う。
 彼女の体に投射されるのは周囲の闇に満ちたダークセイヴァー上層の光景だけだ。
 自身の残像をかぶせ、さらに己の動きを追わせない。捉えさせない。
 一瞬の踏み込みは、まさに熟練たる狩り人の力。
「――、速い、っ」
『魂檻人形』たちはリーヴァルディを目で負えない。
 気配で知ろうとしても、それ以上にリーヴァルディの気配遮断は群を抜いていいた。
「来るなッ、こないで! 来ないで!!」
 やたらと振るわれる槌の一撃をリーヴァルディは躱しながら、その手甲剣を閃かせる。

 一瞬の交錯。
 姿すら見せぬ斬撃の一撃は『魂檻人形』たちの胸に埋め込まれた『番犬の紋章』を切り裂く。
 炎の魔力が手甲剣の刀身から立ち上り、その炎のゆらめきの中にリーヴァルディの顔が僅かに見えたかもしれない。
 その表情にあったのは慈悲。
 報われぬ魂。その檻たる躯体より開放される魂。それを信じる彼女ができる唯一。
 振るわれた斬撃が『魂檻人形』たちを霧消させる。

「……眠りなさい。今度こそ永遠にね」
 炎揺らめく闇の中、リーヴァルディは次々と迫る『魂檻人形』たちの胸に輝く紋章を切り裂き続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーベ・ヴァンパイア
ーー悪いが、彼を渡すわけにはいかない。そもそも彼は君達のものではない。彼は彼自信のものだ。それを脅かすというなら

ーー分からせる| 必要 《 Notwendigkeit 》があるな?

作戦
到着と同時に【ダッシュ】で彼と敵の間に入り、神封じの鎖で| 【先制攻撃】 《 牽制 》を放ち、奴等を後ろに下がらせる

敵を下がらせたら、青年も後ろに下がらせる。ここは君が戦うべき場面ではない。君が戦うべき時はーーまだ先だ

敵の攻撃を【戦闘知識・盾受け】で凌ぎながら、チャンスを伺って、敵の懐へと入り込んで、【Blood blow】を打ち込むー!


番犬なら番犬らしく、主人を守りにいったらどうだ。これからーー倒しにいくからな



「どうしてこんなことをするのです。私達の邪魔を。私達はただ、命じられるままに行動しているだけなのです。こんなことをしたいとは――思わないのです!」
『魂檻人形』たちの揮う槌の一撃が大地を割る。
 凄まじい衝撃が走り、その一撃の重さを知らしめるのには十分過ぎる光景であった。ともすれば、恐怖で縛るような行いであったことだろう。
 こんなことをしたいわけではないのだと言いながら、その力を振るう腕にためらいはなかった。

 哀れなる魂を封じた人形。
 それが『魂檻人形』である。その姿は確かに憐れみを誘うだろう。その言葉は不本意を伝えてくるだろう。 
 だが、リーベ・ヴァンパイア( Notwendigkeit ・f37208)は理解している。
 目の前のオブリビオンたちの言葉は全てが自身のためのものだ。
「――悪いが、彼を渡すわけにはいかない。そもそも彼は君たちのものではない。彼は彼自身のものだ。それを脅かすというなら」
 リーベは外套を翻しながら転移したダークセイヴァー上層の戦場を駆け抜ける。
『魂人』の青年と『魂檻人形』の間に割り込み、その黄金の鎖でもって牽制の一撃とするのだ。

 放たれた黄金の鎖は神封じの鎖。
 それに触れたのならば、ことごとくを捉えるだろう。だが『魂檻人形』の胸に輝くのは『番犬の紋章』。
 絶大な力をもたらす力の象徴である。
 牽制でもって『魂人』の青年との距離を取らせるつもりであったが、『魂檻人形』たちは槌を振るい、大地を叩き割りながらリーベという邪魔立てをする障害を取り除かんと迫っている。
「アンタ……!」
「いいや、君の心配は尤もであるし、ありがたいが。ここは君が戦うべき場面ではない。君が戦うべき時は――まだ先だ」
 リーベは己の背後に青年をかばうようにしながら、その瞳をユーベルコードに輝かせる。

 踏み込んだ。
 否、違う。
 その踏み込みは震脚。大地を震わせる一撃は大地を揺らし、『魂檻人形』たちの足を止める。
 一瞬の間。
 ただ、刹那にも似たその時間こそがリーベにとって最大の好機であった。
「――打ち込む!」
 放たれるは、Blood blow(チノイチゲキ)。
 掌底の一撃。だが、それでは『番犬の紋章』は砕けない。だが、リーベの瞳は未だユーベルコードに輝いている。

「この程度の打ち込みで私達を止められると。この哀れなる行進を止められると!」
「ああ、できるさ。番犬なら番犬らしく、主人を守りにいったらどうだ」
「なにを!」
「これから倒しにいくからな」
 掌から放たれるのは血の杭の一撃。それは紋章に打ち込まれた掌底によって打ち込まれた楔を叩くかのような一撃であった。

 ひび割れた紋章を貫いた血の杭。
 それが『魂檻人形』の背から突き出し、紋章を砕く音を響かせる。
「戦うと決めた者を止められるものか。こと、ここダークセイヴァーであればなおさらのことだ。時の歩みを止められぬように、人の歩みだって止められない」
 リーベの血の杭が引き抜かれ、霧消していく『魂檻人形』たちを尻目に、リーベは走る。
 彼の背後には守るべき者がいる。
 力があるから戦う。
 単純なことだ。けれど、それも違うのだとリーベはしる。

 必要なことだから戦うのだ。
 守るべきものが居て、己にはそれをなそうとする心がある。受け継ぎ、灯されてきたヒーローとしての気位がある。
 故にリーベは打ち込む血の杭をこそ、『魂檻人形』たちに墓標であると示すかのように次々とこれを打倒すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塔・イフ
アドリブ連携歓迎

思い出す
わたしを何度でも助けてくれようとしたあの人を
きっとその記憶さえも、幾つかは改竄されているであろうことを

だから、だめ
あなたの心の傷を悲しむ人が
いまか、未来か、どこかに必ずいるの
永劫回帰があるとはいえ、簡単に使ってはだめ

平気よ、わたしたち猟兵は、そう簡単にあきらめたりしない

極力強力な攻撃は【ダンス】の応用で避けて
どうしても当たる攻撃や余波は【激痛耐性】と【かばう】で多少の攻撃は厭わず耐えつつ
相手を観察して番犬の紋章のある部位に【誘導弾】と【指定UC】を撃ち込むの

わたしだって『永劫回帰』できるもの、多少の怪我も死ぬことも
恐れてなんかいない

大丈夫よ、お人形さん
楽にしてあげるわ



 いつだって心のなかにあるのはあの人のことばかりであった。
 彼女にとって、それが寄す処であったし、寝ても覚めてもあの人のことが頭から離れず、他のことに手がつかなくなるほどに身悶えするような心そのものであった。
 だからこそ、それが塗りつぶされていることに彼女の心という心が痛む。
『永劫回帰』は暖かな記憶をトラウマへと変えることによって、死を否定する力。

 その絶大な力の代償は言うまでもない。
 ならばこそ、塔・イフ(ひかりあれ・f38268)は風と共に転移した戦場に舞い上がる。
 眼下にあるのは『魂人』の青年と『魂檻人形』たち。
 彼は己を犠牲にして他を助けようとしている。ともすれば、それは尊い自己犠牲であったことだろう。
 けれど、どうしてもイフは彼に『永劫回帰』を使ってほしくなかった。

 思い出す。
 己を何度でも助けてくれようとしたあの人のことを。
 きっとその記憶さえも、いくつかはトラウマに改ざんされていることだろう。

 だから。
「だから、だめ」
 イフは舞い上がった空から急降下し、『魂檻人形』の胸に浮かぶ『番犬の紋章』へと風の刃をまとった蹴りを見舞う。
 彼女とともに放たれた誘導弾の一撃が風刃の蹴りによってひび割れた紋章に叩き込まれ、これを砕く。
「あなたの心の傷を悲しむ人が、今か未来か、どこかに必ずいるの」
 イフの背後より振り下ろされた『魂檻人形』の槌の一撃が彼女を襲う。それは決定的な一打になりえるものであったことだろう。
 悟る。
 あの一撃は避けられない。
『魂人』の青年はきっと自分に『永劫回帰』の力を使う。けれど、それを彼女は良しとしない。

「簡単に使ってはだめ」
「なぜだ」
 槌の一撃がイフの背中を打ち据える。体が大地を跳ねて、青年の元まで吹き飛ばされる。
「ああ、どうしてこんなことに。私達はこんなことをしたいわけではないというのに。傷つけたいわけではないのに。あなたが私達と彼との間に割り込んでくるからそうなるのです」
『魂檻人形』の言葉に青年は顔を向ける。
 虚なる存在。
 その言葉のどこにも悲哀はない。他者から憐れみを乞うためだけに、その表情も言葉も形作られているのが『魂檻人形』だ。

「平気よ。わたしたち猟兵は、そう簡単に諦めたりしない」
 イフは立ち上がる。
 痛む背中。けれど、その痛みは己の心の痛みに比べれば大したことのないものであった。
 痛みを厭わない。
 彼女にとって、それは死に至るほどの激痛ではなかった。
 こんな痛みは心の傷よりへっちゃらなのだというようにイフは立ち、その瞳をユーベルコードに輝かせる。

 風が吹く。
 La Sylphide(ラ・シルフィード)。舞うように踊る風が彼女の体を空へと舞い上げる。
「なぜ、と言ったわね。簡単なことなの。人の心の痛みに敏感な人は痛みを知るから。あなたが誰かのためにと思ったのならば、あなたは誰かの痛みをこそ自分の痛みのように感じる人。だから、その暖かな記憶を守るためにわたしは何度でも、そう何度でも立ち上がるの」
 イフがそうしてもらったように。
 あの人がそうしてくれたように。
 今度は自分がそうする番だというように彼女は舞い上がった空から風の刃をまとった蹴撃の一撃を『魂檻人形』へと見舞う。

「大丈夫よ、お人形さん。楽にしてあげるわ」
『番犬の紋章』を蹴り砕きながらイフは、また跳ねるように飛び立つ。
 風清の舞手は傷つかない。
 塗りつぶされて痛む記憶の奥。その傷すらも愛おしく思いながら抱いて、イフは進む。
 たった一人ではないことを知るからこそ、彼女は誰かが痛むことを、それを強要することを許さないのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
おれが彼の立場に居たら、同じことを選択するよ。おれに永劫回帰はできないけれど、おれ一人で多くが無事を送れるならその方がいいと思えるからだ
そして彼と同じくして恐れないし、屈しない。むしろ、どうしてやろうかと抗拒を考えてしまう

お互いに目を見て話そうか。それは本心で言っているのか? 一体何を見ているんだ、したくない事をするなよ。落ち着くんだ
竦んでくれるなら単純な一撃一撃はよく見える。だが止まらないだろう
鉄槌が振われる地形に細工を。水を打ち。氷を貼って属性攻撃で受け流す。氷水を撒く為なら掻い潜るさ、番犬の猛攻を!
太陽、おれよりきみの方が怪力があって魔力もある。おれが釣ってる間に紋章を殴り壊せ。道はある



 もしも、とギヨーム・エペー(f20226)は考える。
 それは考えても詮無きことであった。
 どうしようもないことであったし、何をおいても優先されるべき事柄であるように思えた。違う答を出すのだとしても、それを責めることのできるものはいない。

 だからギヨームは、もしも、と考えるのだ。
 己が彼の、『魂人』の青年と同じ立場だったのならば。
 彼と同じことを選択するだろう。
 今の己には『永劫回帰』の力はない。
 けれど、自身一人の身でもって多くが無事に生命を送れるのならば。
「きっとそのほうがいいと思えるんだ」
「そんなことをいえるのは強者だけです。私達のような哀れなる存在には意味のない考え方」
 揮う槌。
 その一撃は重たく、振り下ろされるだけで大地を砕く。

『魂檻人形』たちは、己たちを哀れなる存在であると口にする。
 魂は人形に封じられ、意に沿わぬ行動を取らされ続けている。『闇の種族』たる『強欲の姫・グリード』が力を得るために、『魂人』たちを連れ帰る。
 そうしなければ、己達が玩具そのものとなるのだと言っている。
「だが、それも嘘だ」
 青年が言う。彼女たちの魂、その虚なる形をした言葉に真はない。あるのは虚実そのものであった。

 だからこそ、ギヨームは頷く。
「恐れないし、屈しない。彼はな。むしろ、どうしてやろうかと抗拒を考えてしまうのが、おれなんだ」
 ギヨームの瞳がユーベルコードに輝く。
 その紫の瞳にあるのは狂気の閃光。
 それが彼のユーベルコードである。
「お互い目を見て話そうか。それは本心で言っているのか? 一体何を見ているんだ、したくないことをするなよ。落ち着くんだ」
 だが、その言葉も虚しく響く。
 どれだけ『魂檻人形』にギヨームが憐憫の情を抱くのだとしても、彼女たちは関係ない。そうあるように振る舞う。そうするように組み込まれただけの存在であるからだ。

 槌を振るい上げる。
 ああ、とギヨームは嘆息にも似た息を吐き出したことだろう。
 放たれた一撃。
 自分たちを見ているようで見ていない。その視線にギヨームは息を吐き出したの。
「――ッ!?」
 彼女たちは理解しただろう。
 ギヨームの言葉はお願いでもなければ、投げかけたものでもなかった。
 それは命令である。
 こちらを見ろと命じる言葉。それを破ったものは体温を奪わる。だが、元より人形である彼女たちにはそれがない。

 けれど、彼女たちは何一つ判断できなくなっていた。
 虚の如き存在であることを見破られ、ギヨームの紫眼から目を逸らし、そして彼女たちは自分たちがなぜそのような行動をとっているのかさえ理解できなくなってしまう。
「よく見えるよ。だが、止まらないだろう」
 がむしゃらに振るわれる槌。
 その一撃をギヨームは周囲の水を集め、凍りつかせて統べるようにして躱す。振り下ろされた槌の一撃が氷ごと大地を砕くが、それすらギヨームは蹴って飛ぶ。

「太陽、おれよりきみのほうが怪力があって魔力もある。おれが釣ってる間に」
 ギヨームが『魂檻人形』を蹴り上げる。
 上体をそらすように宙に蹴り上げられた『魂檻人形』たちの胸に輝くは『番犬の紋章』。
 絶大な力をもたらう紋章でありながら、それこそが急所。唯一の弱点。
 其処にめがけて飛ぶのは契約精霊『太陽』。
 宝石を好む悪食たる存在は、宝石のような紋章めがけて、その流動体を走らせ、噛み砕く。
 美味しいのか、それ、とギヨームは笑う。
 宝石であればなんでもいいのだろう。砕けた紋章。霧消していく『魂檻人形』たち。

 己の選択を今もなおギヨームは間違いであるとは思わない。
 そして、青年の選んだ選択もギヨームは正しさであると知る。人間とはそういうものだと、そうあることが尊いのだというようにギヨームは青年の瞳に恐怖を抱えながらも、一歩を踏み出す強さを見たのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月夜・玲
うーん、花嫁とは
いや、むしろ魂を見ているんだからある意味真に迫っているのかもしれない…
深い…深いか…?
ま、どっちでも良いか
まずは目の前の脅威の排除が優先!
変に同情を誘っても無駄無駄
敵である以上、加減はしないからね


《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
接近して、紋章を狙って剣で攻撃しよう
固くなるなら、何度でも斬り刻む!
『なぎ払い』『串刺し』の連撃で削っていこう
距離がある敵に対しては【光剣解放】を起動して対応
周囲に光剣を展開して物量押し!
紋章を狙い撃ちにして撃破していこう
胸元なんて、狙いやすい位置に付けてるのが悪い!
防御が追い付かなくなるくらい、連続して攻撃して破壊してあげよう



『闇の種族』の求める『花嫁』。
 それはなにも女性だけを示す言葉ではない。
『羽化の儀式』――強大な存在へと変貌するために『闇の種族』は己の死を否定し続けるために『魂人』たちを集める。
 そのために必要なものは、『闇の種族』によって異なる。
 美醜が基準になるものもいれば、髪の色、容姿、様々である。
「うーん、花嫁とは」
 疑問に思う。
 どんな価値基準があるのかわからないが、むしろ魂を見て判断しているのならば『闇の種族』の価値基準は過ちではないのかも知れない。
 むしろ、ある意味で真に迫っているのかも知れない。
「深い……深いか……? ま、どっちでもいいか」
 まずは目の前の脅威を振り払わなければならない。
 月夜・玲(頂の探究者・f01605)は戦場に飛び込み、抜刀された二振りの模造神器を振るって『魂檻人形』の持つ槌の一撃を切り払う。

「どうして。私達はただ命令されているだけなのに。死ねない体にされ、ただ傀儡のごとく生きなければならない。そんな私達に剣を向けるのですか」
 硬い。
 やはり『魂檻人形』はダークセイヴァー上層にあって雑兵といえるレベルなのかもしれないがダークセイヴァー第五層に存在していた『番犬の紋章』を持つオブリビオンと同等の力を持っていた。
 胸に抱いた紋章。
 その力は、紋章以外の部位にダメージを与えられないという特性を持つ。
 だが、玲にとって、それは困難とはかけ離れているものであった。
「連中の体は傷つかない。あの胸の紋章を」
『魂人』の青年の言葉が聞こえる。
 玲はそれに頷く。確かに『番犬の紋章』は恐るべき力である。けれど、その仕組さえわかっているのならば、恐れるに値しない。

「変に同情を誘っても無駄無駄。敵である以上、下限はしないからね。光剣解放(セイバー・リリース)――機能解放、光剣よ舞い踊れ!」
 ユーベルコードに輝く玲の瞳。
 周囲に放たれるは光の剣。
 数千に及ぶ数の光の剣が、常闇の世界を照らす。その威容は雨のように。
 逃げ場など無い圧倒的な物量で持って、相対する『魂檻人形』へと迫る。どれだけ強固な体になるのだとしても、胸の『番犬の紋章』が力の源であり弱点であるというのならば、押し切るまでである。

「胸元なんて、狙いやすい位置に付けているのが悪い!」
 迸るように。
 奔流のように。
 止めようのない光の剣たちが一斉に空を駆け抜け、『魂檻人形』たちを貫く。
 部位など関係ない。
 一本の切っ先が『番犬の紋章』を撃ち抜けば、それでいいのだ。物量の前に強固な体など意味をなさない。
 どれだけ硬い石であっても、川の、水の流れによって角を削られ丸くなるように。光の剣の奔流は『魂檻人形』たちの紋章を砕くのだ。

「私達は、ただ」
「その虚の如き言葉に意味はない」
「生きて、死んで、その無意味な生に」
「それを決めるのは自分でしょ。無駄だってば。そんな言葉で止まったり躊躇ったりはしないよ。君たちはオブリビオンなのだから」
 玲の言葉と共に光剣が迸る。
 闇夜を照らし、切り裂くような光景。
 ダークセイヴァーに生きる者たちが願う光がそこにあった。煌めくユーベルコードの輝き。

 いつしか、憐憫の念も。
 きっと光の彼方に消えさるのならば、玲は模造神器を納め、憐れみを誘う虚の如き人形たちが霧消する光景に背を向けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
ごめんなすってー!
人攫いと聞いて飛んで参りましたわ
折角苦労してお助けしたお魂人ですのに!
いけませんのよ〜!

いきなりやる気ねぇですわね
生きるのがつらたにえん?
おいたわしや!
いま楽にしてさしあげますわ
王笏ハンマー!
…かってぇですわね!
お手々がびりびりしますわ!
元からの頑丈さが益々お増しになられて攻撃が全然効かねぇですわ
やはり紋章を狙うしか…でもわたくし小さな標的を狙うのはイライラするので苦手ですわ〜!

あ、そうですわ
丸ごと焼いてしまえばよろしいのですわ
そうすれば紋章も勝手に焼けてしまいますわ
本日のわたくしは冴えておりますわね!
エルネイジェの光で真夏の太陽光を浴びせて差し上げますわ〜!



『魂人』の青年を狙うオブリビオン、『魂檻人形』たちは見えぬ糸に操られるかのように次々と迫っている。
 猟兵達が退けても、雪崩のように攻め込んでくる。
 彼女たちは『闇の種族』に隷属を強いられているのかもしれない。
 一様に浮かべる表情は絶望そのもの。
「ただ、生きているだけなのです。なのに、こんなにも私達は、苦痛を強いられている。生きるのが辛いのです」
 彼女たちの言葉は憐憫を、同情を誘うものであったかもしれない。

 けれど、意味はない。
 彼女たちの言葉は、そういうふうに出来ている。
 組み込まれたものである。敵の同情を誘い、それによって撃滅する。ただ、それだけのための反応でしかないのだ。
 虚の如き言葉は響かない。
「ごめんなすってー! 人攫いと聞いて飛んでまいりましたわ」
 メサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)は転移直後に振るった王笏の一撃でもって『魂檻人形』を吹き飛ばす。
 だが、彼女たちは『番犬の紋章』を有している。

 紋章以外の部位にはダメージを与えられない。
 それどころか、彼女たちの絶望の言葉によって死ぬことの出来ぬ体へと変わり、打撃が意味をなさないのだ。
 ビリビリと手に衝撃が走り、メサイアは思わず顔をしかめていた。
「いきなりやる気ねぇですわね。生きるのがつらたにえん? おいたわしや!」
「辛いのです。意に沿わぬ生に。私達が、ただいたずらに存在し続けているという事実が。私達の生に意味などないのです」
 振るわれる槌の一撃をメサイアは王笏で受け止める。

 腕に痛みが走る。
『魂檻人形』たちは、絶望の言葉を紡ぎ続けている。
 確かに同情すべき存在なのかもしれない。けれど、メサイアはそんなことよりも、苛立つのだ。
 やはり王笏の一撃では有効打を与えられない。
 元より死にがたき体である彼女たち。さらには『番犬の紋章』によって強固な体を得ている。
 あの胸元の紋章を砕く以外にはダメージを与える術はないのだ。
「やはり紋章を狙うしか……」
 だが、メサイアは小さな標的を狙うのはイライラするので苦手なのである。

 これまでの彼女の戦い方を見ているのならばわかるかもしれない。
 格闘戦か最大出力でぶっ放すか。
 極端であると言われたのならば、そのとおりかもしれない。けれど、それがメサイアの猟兵としての力の長所でもある。
「哀れなわたし達が、もう生きていたくないと言っているのです。悲しみと苦しみにみちた生を終わらせたいと思うのは、当然のことだとは思いませんか。わたし達を開放するために、あなたがたには」
 死んで頂かなければならないと彼女たちは言う。

 自分たちの敵。
 猟兵を滅ぼす。
 魂に開放はない。けれど、その言葉は人によっては心に突き刺さるものであったことだろう。永遠に続くかの如き束縛。
 けれど、メサイアの頭上に豆電球が閃くようであった。
「あ、そうですわ」
 彼女は虚の如き言葉に惑わされることはない。
『魂檻人形』たちの言葉が真実だったのだとしても、開放するためには、その悲しみと苦しみが哀れなる感情に因われぬようにするためには、滅ぼすしかないのだ。

 だからこそ、彼女の瞳はユベールコードに輝く。
「わたくしの光は万物を照らすのですわ!」
 掲げた王笏より放たれるのは、エルネイジェの光(セイントシャイニング)。
 ちまちまと紋章を狙い撃つことができないのであれば、まるごと焼いてしまえばよろしい。
 光は万物を照らす。
 ならば、紋章もまた照らすのである。あらゆるものを照らし出す光は強烈な熱となって『番犬の紋章』を焼き滅ぼすだろう。

「本日のわたくしは冴えておりますわね! 真夏の太陽光を浴びせて差し上げますわ~!」
 暗闇の世界、ダークセイヴァーに強烈な光が満ち『魂檻人形』たちの紋章が溶け落ちるようにして霧消していく。
 鮮烈なる光は、時としてあらゆるものを滅ぼす光となるだろう。
 メサイアの掲げた王笏。
 その輝きは、常闇を詳らかにするように放たれ、『魂檻人形』たちの哀れみを誘う言葉ごと滅ぼすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『幻惑森迷宮』

POW   :    力技でどんどん突き進む

SPD   :    幻覚に対処しながら進む

WIZ   :    幻覚を無効化する方法を探る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『花嫁』たる『魂人』の青年を救った猟兵たちは、急ぎ『闇の種族』、『強欲の姫・グリード』の館へと急行しなければならない。
『羽化の儀式』が執り行われているのならば、今こそが『闇の種族』を打ち倒す機会なのだ。
 このような機会が何度も訪れるとは思えない。
「待ってくれ。アンタたちの力を見誤ることはない。けれど、そこには俺以前の『花嫁』たちが因われているのだろう。ならば」
 己も征く。
 青年の瞳がそう言っていた。
 猟兵たちは彼が自分自身の身を守れるだけの力を持っていることを知っている。

 だが、これから先は危険な道行きとなるだろう。
「伝え聞いている。これより先にあるのは『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』だ。だが、幻覚を見せるということは、奴にとって時間を稼ぎたいという意図でしかない」
 青年の言葉の通りであろう。
 直接的に排除する必要はない。何せ『闇の種族』は『羽化』すればさらなる強大な力を得る。
 現時点でも猟兵達が『闇の種族』を滅ぼす事自体困難なのだ。
『羽化』されてしまえば、逆にこちらが滅ぼされてしまうかも知れない。

「アンタたちは進まねばならない。最短で、最速で。なら、オレの力が役立つこともあるだろう。『永劫回帰』はそのための力だ。死を否定する。恐れを否定せず、内包するからこそ、人の人生というものだろう」
 猟兵たちは見るだろう。
 自らが進まねばならぬ『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』を。
 一歩踏み出せば黒百合の香気が猟兵たちの平衡感覚を失わせ、さらには見えぬものが見えてくる。

 絶望の象徴。
 恐怖の象徴。
 過去の象徴。
 どれもが猟兵たちを苦しめるものであるかもしれない。けれど、進まなければならない。
 幻覚は確かに人の足を止める。
 けれど、意志によって踏み越えることができる。それを証明するように猟兵たちは危険な森へと、『闇の種族』の館を目指して踏み込むのだ――。
七那原・望
そのための力?くだらない。
自ら進んで無駄死にして、幸福な記憶をトラウマに変え続ける事の何が人の人生なのか。

この世界では違うとしても本来死は全ての終わりなのです。死を恐れるから人は懸命に足掻くのです。

好き好んで無駄死にするデコイなんて不要です。死なずに戦える戦闘能力がないならただの足手まといです。

それでも着いて来るなら止めませんけど。


視界を閉ざしていても関係なしですか。

脳裏に浮かぶのはもう二度と会えないたくさんの大切な人達。
死に別れたり、引き離されたり。
その度にわたしの心は何度も壊れ、それでも彼の支えもあってなんとか立ち上がってきた。

仕組みはわかりました。

癒竜の大聖炎で香気を無力化して進みます。



 青年の言葉を七那原・望(封印されし果実・f04836)は切り捨てる。
 隠された瞳はどのような色に染まっているだろうか。
『魂人』の青年にはわからなかった。
 けれど、望が切って捨てた言葉にこそ己の自己犠牲の感情が乗るのであれば、彼女の言葉はおそらく優しさから出たものであることは理解できた。

『永劫回帰』。
 それは暖かな記憶を代償にして『死』を否定する力である。
 確かに役立つだろう。理解も出来る。
 けれど、望が何のために戦うのかと問われれば、その暖かな記憶こそを守るために戦いに赴くのだ。
「そのための力? くだらない。自ら進んで無駄死にして、幸福な記憶をトラウマに変え続けることの何が人の人生なのか」
 望にとって、それは受け入れがたきものであったことだろう。
 死とは本来全ての終わりなのだ。
 死を恐れるからこそ人は懸命にあがくのである。

 だからこそ、死を否定する『永劫回帰』の力は、その人の本質をも削る行いであった。
 故に彼女は不要であると切り捨てる。
 青年は、望の言葉に返事をするための言葉を持たぬようであった。優しさから出た言葉。痛烈な言葉。
 痛みを感じるのは己がまだ人である証左であろう。
 故に、望は背を向ける。
「好き好んで無駄死にするデコイなんて不要です」
 冷静な言葉。
 それでも青年はどういったものかと思案しているようであった。足手まといはいらない。

 勝手にすればいいと望は背を向けて『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』へと足を向ける。
 言うべきことは言った。
 ならば、此処からは自分の為すべきことを成さねばならない。
 そんな望の背中にようやく自分の言葉を見つけたであろう『魂人』の青年は口を開く。
「アンタは優しいな。だから、俺はアンタの優しさに身を寄せる。人の憂いに寄り添うからこそ、優しさであるというのならば、尚更」
 それに望は答えないだろう。

 それでも着いてくるのならば止めないと、そのまま森の中に足を踏み出す。
 一歩を踏み出した途端に襲いくる幻覚。
 ぐらりと揺れる。
 いや、視界を閉ざしているはずなのに、それでも関係なく幻覚が望の視界を埋め尽くしていく。
「……関係なしですか」
 二度と会うことのできない沢山の大切な人たち。
 もしも、望に優しさがあるのだとしたら、おそらくそれは彼らから得たものであろう。

 全てが幸福な出会いであったかもしれないが、別れは幸福でなかったかもしれない。
 死に別れ。
 引き離され。
 別離はいつだって心に傷を作り出す。その度に自分が何度も壊れたことを望は自覚している。

「それでも」
 それでも望は支えを得た。支えてくれる人がいた。やさしい手の感触を今でも覚えている。何度だって立ち上がるのだ。
 己は傀儡師に操られる『魂檻人形』ではない。
「仕組みはわかりました」
 彼女のユーベルコードに寄って放たれるは、癒竜の大聖炎(ユリュウノダイセイエン)。
 邪悪を祓い、毒を浄化する炎が『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』を燃やしていく。

 どんな幻覚も望には意味がない。
 どれだけ己の記憶の中にある別離の傷を刺激するのだとしても、仕組みさえわかってしまえば彼女の道を阻むに値はしないのだ。
 故に彼女は進む。

 ただの一歩も立ち止まることなく。幻覚に惑わされることなく。
 進む道を定めたがゆえに惑うこと無くまっすぐと『闇の種族』の館へと向かうのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーベ・ヴァンパイア
(この森がどういうものかは、此処に出向く前から聞いて、知っていた)(ゆえに今こうして、目の前に現れた人物、彼女はーー幻覚だ)

……だが、それが分かっていても、……またこうして会えて、嬉しいと思う俺がいる。

(目の前にいる彼女はあの頃と変わらない、黄金のような長髪靡かせ、穏やかな笑みを浮かべ、俺へと労いの言葉と共に近寄ってくる)

(ーーああ、懐かしい。彼女と過ごしたのはほんの数ヶ月。だが、それは俺にとって、最も満ち足りた日々だった)

ーーそして、それは終わった日々だ。(身体に宿るソレが、嫌でも俺に終わりを思い出させる。なら、いいだろう、この力で此処を通る)

……また、さようならを君に言う時が来るなんてな。



 リーベ・ヴァンパイア( Notwendigkeit ・f37208)は、自分の目の前にいる存在が本物ではないことを知っている。
 何故かと問われるのならば、それを最初に知っていたからだ。
 グリモアベースの予知によって得た情報は、リーベを少しだけ冷静にさせるものであった。
 けれど、その冷静さも僅かなものである。
 とめどなく湧き上がる感情をリーベは持て余すだろう。

「……」
 この森は『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』だ。
 全ては『闇の種族』の時間稼ぎ。
 自分たちを足止めし、自身の『羽化』の時間を稼ぐための悪あがきにすぎない。
 だからこそ、今目の前にいる黄金のような長い髪をなびかせ、穏やかなほほ笑みを浮かべる存在を否定する。

 わかっているのだ。
 幻覚だ。
 これはどうしようもなく幻覚なのだ。おそらく自分の記憶が見せる影法師でしかない。
 自分の中で彼女の存在がどれだけ大きいものであるのかを見せつけられるようでも在った。
 偽物で、幻覚で、気の迷い。
「……だが、それが分かっていても……またこうして会えて、嬉しいと俺は思っている」
 自覚する。認めよう。

 これを弱さだと言う者もいるかもしれない。
 あの穏やかな笑みの前には全てが些末なことであった。自身に向ける労いの言葉。
 一歩、また一歩と近づいてくる。
 自身もまた歩むだろう。もどかしいほどの時間。

 ――ああ。

 ため息のように言葉が胸から溢れてくる。
 彼女と過ごしたのはほんの数ヶ月だった。だが、それでもリーベにとって、それは人生のおける最も満ち足りた日々であったのだ。
 そこに偽りはない。
 これが幻覚なのだとしても、この優しさとぬくもりの中に溺れたいと願ってしまうかも知れない。

 だが、そうはならないのだ。
 時が逆巻くことがないように。失ってしまったものは、二度と戻らないのだ。
 リーベは知っている。
「――」
 彼女が何かを言っている。
 理解できない。どんな言葉を自分に向けてくれたのか。ねぎらいの言葉はわかる。だが、それ以外がわからない。
 なぜならば、リーベは知らないからだ。

「――そして、それは終わった日々だ」
 己の中にある『それ』が、己の中に封じている『悪神の力』が否が応でも己に終わりを思い出させる。
 消失と傷。
 消えぬ痛みが走り抜ける。
 体の中に狂おしいほどの力の奔流が満ちていく。どうしようもないほどの痛み。失った痛みまで失いたくはない。
 故にリーベの瞳はユーベルコードに輝く。

 憎き力の解放 (ヤミノカミガノコシタモノ)は未だ成らず。
 ささやく悪神の言葉も、リーベは振り払う。
 愛おしい彼女の言葉も、ヒーローは振り払う。
「――」
 微笑む彼女の顔を一瞥する。
 もう二度と交わることはないのかもしれないけれど。それでも。

「……また、さようならを君に言う時が来るなんてな」
 痛みは絶望を呼び込むのかもしれない。
 けれど、リーベは別離の痛みをこそ忘れない。痛む心は、すなわち進むことである。
 摩耗が人の存在に寄って起こるのならば、きっと彼女を失った痛みは通り魔の如き傷をつける悪意であったのかもしれない。
 リーベは前を向く。

 幻覚には振り返らない。
 もう二度と戻らぬを悲しむことはしない。
 溶けて消えていく、さようならは。
 リーベの背中を押すものとなって、彼を一歩とまた戦いの場へと進ませるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塔・イフ
アドリブ連携歓迎

ありがとう、一緒に来てくれるのね、お兄さん
…やっぱり、あなたは優しい人
だからこそ、無理はしてほしくないの

進む忌まわしい花園の中

見えるのは、いとしいあの人が、何度も死んでいく景色
わたしを守ろうとして、あるいはふとした事故で
赤にそまるあなたの姿

かなしい?

いいえ、私はこれが塗りつぶされた幻の記憶だって知ってる
だって死んだのはわたし、わたしなのだから

その場にいたのは、あの人ではなくわたし
それを、ちゃんと気づいてる
だって、目覚めた私を、涙に満ちた目で見るあなたを見た
だから、確かに胸は痛むけれど――怯みはしないわ

一つだけひときわ光る、苦しい幻
焼け落ちる館の中、わたしとあなたは、永遠を誓って、そして死んだ
これだけは、ほんとうにあったこと
しあわせだけれど、いとおしいけれど、
何より苦しい記憶に違いないのだから
記憶は奪わせても、死にさえ、この記憶は、この想いは奪わせない

風の刃で花を散らしながら、館を目指して進むわ



『魂人』の青年は猟兵と共に『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』へと足を踏み入れる。
 彼の言葉は静かであるが、どこか力を感じさせるものであった。
 自らを犠牲にして他を助けようとする自己犠牲。
 確かに尊ばれるものであったかもしれない。けれど、それは時として他者を傷つける棘となるだろう。
 だからこそ、他の猟兵の言葉を前に青年は己の中に、それを否定する言葉を持ち得なかった。

 けれど、塔・イフ(ひかりあれ・f38268)は微笑む。
 確かに危険な道行きになるだろう。けれどイフは頼もしいと思うのだ。
「ありがとう、一緒に来てくれるのね、お兄さん」
「ああ。俺以前に因われたであろう者たちがいるのなら。それはためらう理由にはならないだろうから」
「……やっぱり、あなたは優しい人。だからこそ無理はしてほしくないの」
 イフの言葉は猟兵たちの総意であったことだろう。
 確かに『永劫回帰』のちからは凄まじい。
 死を否定する力。
 決定的な死すらも覆す力を持っている。けれど、だからこそ『闇の種族』は、その力を利用しようとする。

 他者のために、その力を使おうとするのではなく。自身のためだけに搾取しようというのだ。
 イフは森の中に足を踏み入れる。
 幻覚が目の前に、視界に映し出されていく。
 忌まわしい花園。
 この黒百合の咲く森は、幻覚を見せる。グリモア猟兵から伝えられていた情報の通りであった。

「……ああ、いとしいあの人」
 イフの目の前にあるのは、何度も何度も何度も何度も何度も。そう、何度も己を守ろうとして、あるいはふとした事故で、赤に染まるあの人の姿であった。
 埋め尽くしていく赤。
 鮮血は濁った赤色に変わっていく。
 生命の色が濁っていく。
 それがどうしようもなく。

「哀しいのか」

『魂人』の青年の言葉が聞こえる。
 イフは自分が今どんな顔をしているのかわからなかった。けれど、その言葉を受けてイフは、頭を振る。
「いいえ」
 短く告げる。
 目の前に広がる光景が偽りであると彼女は知っている。
 なぜならば、あの場にいたのは、愛しいあの人ではなく。

 ――わたし。

「ちゃんとわたしは気づいてる」
 なぜならば、目覚めた自身を涙で満ちた目で見るあの人を見た記憶がイフの中にはあるのだ。
 幻覚とは言え、心は痛む。
 痛みがどうしようもなく胸の奥をえぐる。けれど、怯むことはしない。

 歩むことは止められない。
 偽りの幻覚ではイフを止められない。けれど、そんな彼女の歩みを止めるものがあった。
 ひときわ光る苦しい幻。

 焼け落ちる館。
 これは誓いの記憶だ。
「わたしとあなたは、永遠を誓って、そして死んだ」
 いつかの記憶。
 魂人である彼女にとって、いや、彼女たちにとっての最期の記憶だ。
 偽りではない。
 本当にあったことだ。

 幻覚と知ってなお、幸せだと思う。
 愛おしいと思う。
 けれど、何よりも苦しい記憶そのものだ。『魂人』は転生した存在である。ダークセイヴァー、常闇の世界にあって苦しみと悲しみばかりの人生であったかもしれない。
「それでもわたしにとって、あの人にとって、そればかりではなかった。わたしにはあの人が。あの人にはわたしが。きっと永遠の中にわたしたちは生きるのだと思ったのだから」
 けれど、死の果に続く道がある。

 今なお『魂人』としてイフが存在するのが、青年がいることが証明である。
 記憶は奪わせても、死にさえ、この記憶は、この想いは奪わせない。奪わせてはならない。
 あの日、炎の中で誓った永遠は、きっと『永劫回帰』ですら奪うことができないだろう。

 瞳に輝くは超克の輝き。
 震える吐息は風を起こし、その風は悲しみも苦しみさえも舞い上げて。
 風の刃は切り裂くように黒百合の香気を吹き飛ばし、道を示す。幻覚も何もかも、この愛は、この誓いは止めるに値しないのだ。
「いきましょう」
 その言葉は自身にも、青年にもかかるものであった。

 きっとそうすることが、強大な『闇の種族』に抗うたった一つの武器であると知る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
おほほ!
初めからお幻覚が見えると分かっていれば恐れるに足らずでしてよ〜!
このような趣味の悪いお花畑などさっさと抜けてしまい…あら?
何か踏みましたわね
これは…体重計!?
どうしてこんな所に?
はっ!?数字がどんどん増えてまいりますわ!
50…60…70…ちょっと!お待ちになって!
確かにこの間Tボーンステーキを骨ごと食べたり揚げバターをいただいたり致しましたけれど!幾らなんでも急激に増え過ぎですわ〜!
それに!わたくしはちゃんと運動しておりますのよ!
先程だって王笏ハンマーをぶんぶん振り回しておりましたわ!
いやー!もう見ていられませんわー!
お魂人の方!得意の永劫回帰でなんとかしてくださいまし!
このままではわたくしの女子力がお亡くなりになられてしまいますわ!早く!お急ぎになって!
こうしている間にも数字が百…千…万点…
んんん?万は流石におかし過ぎますわよね?
これは…!幻ですわ!そうに違いありませんわ!
よくもわたくしに恥をかかせてくださいましたわね!むきー!
体脂肪ごと光におなりなさい!ディバインハンマー!



 グリモアベースで得た情報によれば、目の前に広がるのは『闇の種族』が作り出した迷宮の如き『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』。
 確かに何も知らずに足を踏み入れれば、その見せる幻覚によって惑わされてしまうことだろう。
「おほほ! はじめから幻覚が見えるとわかっていれば恐れるに足らずでしてよ~!」
 メサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)は、恐れずに森の中に足を踏み出す。
 はっきり言って、趣味が悪いと思える。
 こんな黒い百合ばかりの森なんて、さっさと抜けてしまうに限る。

 けれど、メサイアは自身が何かを踏みつけたのを感じて視線を下に下ろす。
 そこにあったのは体重計であった。
 しかもデジタル。
 表記されているのはキログラム。数字がくるくると変わるようにして、カウントを始めていた。
「どうしてこんな所に?」
 メサイアは驚く。世界観に似つわしいものである。ここはダークセイヴァー上層である。どう考えてもデジタル表記の機械があるとは思えないのだ。

「はっ!? 数字がどんどん増えてまいりますわ!」
 あれ!? とメサイアはそのデジタル表記に白目を剥きそうなる。
 50……60……70を超えたあたりから彼女の顔色がおかしなことになっていく。どう考えても乙女の体重ではない。
 というか、ちょっとした男性以上になってきている。
 やべーですわよ。

 しかも、そこでカウントが止まることはない。どんどん増えている。
「確かにこの間Tボーンステーキを骨ごと食べたり、揚げバターを頂いたりいたしましたけど!」
 夏だからね。仕方ないね。
 とはいかんのである。結構食べてるな、このお姫様。
 だが、それはそれとして、増えすぎである。ちょっとやばい数字である。そんなものばっかり食べているからそんなことになるのだと執事がいたらどやされているところであろう。
 幸いなことに、いや、不幸なことに執事は此処にはいない。
 彼女を厳しく躾けてくれる執事なんていねーのである。放浪の皇女殿下は、その自由さ故に食事もまた自由なのである。

 ハイカロリーがなんぼのもんじゃい。
「わたくし、ちゃんと運動しておりますのよ! プロポーション維持は必須教育! 義務教育でしてよ」
 だって、だって、だって! とメサイアは顔面蒼白通り越して、なんだか愉快な顔色になっている。 
 涙目になっているところから見ると、その数字が見せる悪夢は思った以上にメサイアの心に打撃を与えたようである。
「先程だって王笏ハンマーをブンブン振り回しておりましたわ! って、いやー!? まだ増えておりますわ!? もう見ていられませんわー!」
 悲鳴が森に響き渡る。

 そこに『魂人』の青年がなんだとばかりに近寄ってくる。
 この幻覚を見せる森の中にあって平気なのだろうか。しかし、メサイアはそれどころではないのである。
「得意の『永劫回帰』でなんとかしてくださいまし! わたくしの、その、えっと、あ、いや! やっぱりご覧にならないでくださいまし!!」
 どっちだと言わんばかりに途方にくれる青年。
 無理もない。
 体重というのは乙女にとってトップシークレットである。
 簡単に見せていいものではないのだ。

 しかしながら、メサイアはそうも言っていられない。
 このままでは女子力がお亡くなりになってしまう。手段なんて選んでいられない。『永劫回帰』の力も、こんな理由で使われるとは思ってもいなかっただろう。
「……いや、これは……」
「早く! お急ぎになって! ハリーアップですわ~! こうしている間にも数字が百……千……万点」
 点って今言った?
 いや、違う。メサイアはデジタル表記のおかしさに目を止める。
 そこにあったのは正気の光。

「んんん?」
「万単位だな」
「流石におかしすぎますわよね? これは……!」
 こくりと青年が頷く。メサイアは漸くにして気がついたのだ。
 これが!
 この体重計表記は!
「幻ですわ! そうに違いありませんわ!」
 メサイアはこれが幻覚だと理解する。そもそもおかしいのだ。いくらなんでも、万単位なんて!
 あーよかったよかった。いや、何一つよくない。
 今までの醜態の全ては青年に見られてしまっている。お忘れになって? とメサイアが王笏ハンマーを持ったのをみて、青年は首を縦にふる。横に振るという選択肢はない。答えは、ハイかイエスしかない。

「よくもわたくしに恥をかかせてくださいましたわね! むきー! 体脂肪ごと光におなりなさい!」
 きらめくユーベルコード。
 体脂肪は吹き飛ばないが、黒百合の香気は彼女の王笏の一撃、超天極光断罪神罰聖皇姫槌(ディバインハンマー)によって吹き飛ばされる。
 程よく運動。
 やはりこれが大事なのである。
 メサイアは、振るった光の粒子を駆け抜ける。

 とてもじゃないが許せない。
 超克の輝きに満ちる彼女の瞳が見据えるのは、『闇の種族』の館。
 恥をかかされたのならば、何事においてもこれを払拭する。舐められたら終わりなのである。
 メサイアは、皇女としてのプライドを……否、乙女としての矜持をもって館に殴り込みをかけるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…幻覚で垣間見たのは自身の宿敵、異端の神の狂信者だった母様

…波打つ銀糸に澄んだ蒼い瞳、赤い髪飾りと赤黒のドレスが良く似合っていた………やれやれね

森に入る前にUCを発動し「御使い、魔動鎧、雨避け、毒避け」の呪詛を付与
自身や魂人を●防具改造術式により風の精霊を降霊した旋風の●オーラで防御して覆い、
森の香気を強化した●毒耐性と●環境耐性で受け流しつつ先に進む

…事前に罠があると解していて何も対策せず突っ込むのは、拙速では無く無謀と云う物よ

…その死を否定する力は確かに強力だけど、だからこそ使い処は見極めないと…。

…仮に永劫回帰を使うにしても今では無いわ
この先の闘い、更にその先の未来の為に取っておきなさい



 波打つ銀糸の如き髪。
 澄んだ蒼い瞳。
 赤い髪飾りが煌めき、赤黒のドレスが、その気品を示す。
 よく知っている姿であったとリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は黒百合の香気が見せる幻覚を前に息を吐き出す。
「……やれやれね」
 彼女が見ていたのは、自身の宿敵にして、異端の神の狂信者であった母親。
 よく識る姿だった。

 宿敵でありながらも、その赤黒のドレスがよく似合うことをリーヴァルディは複雑な思いで見ていたかもしれない。
 彼女の瞳は今、ユーベルコードにきらめいている。
 森に踏み込んだ瞬間に吸血鬼狩りの業・千変の型(カーライル)によって、彼女の術式は換装されている。
 風の精霊による旋風のオーラで自身と『魂人』の青年を覆い、黒百合の香気を防いでいるのだ。
「ありがたい。だが、いいのか」
「……何が?」
 リーヴァルディには、青年蓋碗としていることがわからなかったかもしれない。

 彼は自分にもこうして力を分けていることがリーヴァルディの負担になっているのではないかと思っているのだろう。
 けれど、リーヴァルディにとっては、この程度のことは造作もないのである。
 事前に、この『幻覚を見せる黒百合の咲く森』によって『闇の種族』が時間稼ぎをすることはわかっていたのだ。
 罠があると理解していて、何も対策なしに突っ込むのは拙速ではなく無謀というものである。
 勇気と無謀を履き違えることは、すなわち、その生命を死に至らしめるものでしかないのだ。

「……それを言うのならあなたもそうでしょう」
 リーヴァルディは『魂人』の青年を見やる。
 彼もまた同様である。
 確かに『永劫回帰』のちからは凄まじい。死を否定する力。だが、強力な力には代償が伴う。
 暖かな記憶をトラウマに変える。
 それが代償だ。
 青年にどのような記憶があるのかわからない。けれど、その暖かさこそが、彼を彼足らしめているというのならば、リーヴァルディは、自己犠牲を否定はしない。

「……その死を否定する力は確かに強力だけど、だからこそ使い処は見極めないと……」
「それはそのとおりだ。ためらいはない。俺はそう思っているが……アンタたちには叱られてしまったがな」
 先に往く猟兵に青年は言葉でもって窘められていた。
 暖かな記憶は失えば取り戻せない。
 戻らないのだ。

 死を否定するために自身をすりつぶすような行いを望んでする。
『魂人』の青年の心は清らかなのかもしれないし、その力は猟兵たちにとっても有益そのものだ。
 けれど、リーヴァルディも、他の猟兵も、それを望まない。
「……仮に『永劫回帰』を使うにしても今では無いわ」
 リーヴァルディはやはり頭を振る。

 そう、今ではないのだ。
 近く使用するかもしれない。この先、館での戦いで使うかもしれない。
「……この先の戦い、その先の未来のためにとっておきなさい」
 失えば取り戻せない。
 取り戻したいと願うことすら奪われてしまう。だからこそ、リーヴァルディは青年の前を征く。
 これより先にあって、戦うのは自分たちだけでいいと言うように。
 その背中に負うものが他者には理解できなくても、

 それでもリーヴァルディは見せつけられた幻覚、その宿敵たる母の姿を越えて、人類に再び繁栄をもたらすために、さらなる上層を目指さなければならないのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
そうか、花嫁とは一人とは限らない……もっと急がないとだな! 危険も承知ならバイクで一気に駆け抜けていこう
大丈夫。怖いものが見えても、おれの後ろに乗っている限り、見えるのはおれの背中だよ

さあ運転に集中だ。香りは風に乗ってくるだろうが、おれたちはどちらも突っ切って前に進む。時間稼ぎが目的の森は早く進めば進むほど意味を無くすし、一度通った道は轍が教えてくれる!

(絶望した事はない。恐怖した事も。猟兵になっても、それ以前も。苦しんだ経験は、わしには無いに等しい
何も苦ではなかった。だから先程の彼女等もわしを強者だと言った)
今、物思いに耽るのは幻覚の影響か。よそ見運転はしたくねえなあ。事故るのはごめんだぜ!



『闇の種族』にとって『花嫁』とは唯一無二の存在ではない。
 ただ使い潰すだけの消耗品似すぎない。
『魂人』たちは『永劫回帰』の力を持っているが、それすらも彼らは玩具かもしくは、己の力を高めるための消耗品としてしか見ていない。
 生命ですらないのかもしれない。
 だが、そんな彼らに抗うことも『魂人』たちは許されない。

 苦しみと悲しみだけが充満する世界に生まれ落ちて、開放されてもなお続く辛苦。
 どのような言葉を紡げばいいかわからない。
 だが、ギヨーム・エペー(f20226)は己が此処で立ち止まることこそ避けなければならいとオフロードバイクのエンジンを始動させる。
「そうか、『花嫁』とは一人とは限らない……もっと急がないとだな!」
 ギヨームは『魂人』の青年の言葉に頷く。
 彼が誰かを助けたいと願うのならば。
 その強い想いに答えなければならないと、ギヨームは彼を己のオフロードバイクの背に載せて疾駆する。

『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』を飛ぶようにして走る。
 黒百合の花の香気は己たちに幻覚を見せるだろう。
 ぐらりと視界が揺れる。
 だが、ギヨームにはそれだけであった。

 己に絶望はない。
 恐怖もない。
 猟兵になっても、それ以前も。ないのだ。己が心から恐怖したことも、絶望したことも。ダークセイヴァーに生まれ落ちた者ならば、必ず味わうそれをギヨームは一度たりとて味わったことがない。
 だからこそ、あの『魂檻人形』たちは己のことを強者だと言った。

 何の苦も味わったことのない真の強者。
 その言葉の意味を考える。
 ぐらりと体が傾ぐ。
「アンタ、しっかりしろ。アンタが今見ているのはなんだ」
 青年の言葉が響く。
「俺にはアンタの背中しか見えない」
 その言葉にギヨームは、はっとするだろう。彼の言葉は己の言葉だ。
 恐怖は、時に人の視界を狭くする。

 見たくないものも運んでくる。
 それはどうしようもないことだ。生命である以上、それを感じることができるのならば、生きているということだ。
 ならば、自分はどうなのだとギヨームは己自身に警鐘を鳴らす。
「―――ッ、この物思いに耽るのも幻覚の影響か」
 この森を切り抜けるのではなく、突き進む。
 早く進めば進むほどに敵の意図は意味をなくす。轍が見える。惑わせる幻覚があれど、オフロードバイクの轍はギヨームに進むべき道を知らしめる。

 そうだ。
 何度失敗したとしてもいいのだ。失敗こそが糧となる。成功から得られる糧などたかが知れている。
 ギヨームはハンドルを握りしめる。
「悪かったな。よそ見運転。事故るのはごめんだぜ!」
 此処からは本気だと言うように、ギヨームの瞳がユーベルコードに輝く。
 ゴッドスピードライド。
 オフロードバイクが変形し、森を突き抜ける鏃のように駆け抜ける。
 香気も、幻覚も。
 何もかも置き去りにする速度でギヨームは、笑う。

 恐怖は笑い飛ばすに限る。
 いつだってそうだ。
 笑うのならば、ギヨームは、己自身を見失わない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月夜・玲
人を惑わす幻覚ね
ふーん…ふむ…
…で、出来ればネタバレ無しで進みたかった…
絶望も恐怖も、種が割れてたらそれはもう茶番だよね
畜生、ネタバレ駄目!絶対!!

だからこの森は最速最短で行こう!
お望みどおりに!!

EX:I.S.T[BK0001]に騎乗
森の中を一気に駆ける
ぶつからないよう操作はオート操作にセット
手を添えるだけにしておこう
平衡感覚も狂うらしいしね、事故はノーサンキュー
出来る限り速度を出しつつ、安全運転で行こう

絶望も恐怖も最初から来るのが分かっていれば、所詮は虚構
こうなったら、エンタメだと思って楽しむしかないかなあ
うーん、ホラーやサスペンスは当たり外れが大きいからな…
今回は外れという事で…残念



 サブカルチャーーというものがある。
 文化の中にありて独自性を持つもの。謂わばカルチャーのガラパゴス化である。
 月夜・玲(頂の探究者・f01605)は、それを愛する。
 どんなものにだって刺激はある。
 けれど、その刺激に人はすぐに慣れてしまう。

 ときにそれは幻覚も同様である。
 人を惑わす幻覚。
 黒百合の花の香気は『闇の種族』が生み出した迷宮の如き罠である。だが、グリモアベースでの説明を受けた時、玲は僅かに耳をふさぎたい思いであったかもしれない。
「……で、できればネタバレなしで進みたかった……絶望も恐怖も、種が割れていたらそれはもう茶番だよね。畜生、ネタバレ駄目! 絶対!」
 叫んでいた。
 心からの慟哭であった。

 エンタメとは緊張と弛緩の連続である。
 すでに『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』は玲にとってエンタメでもなんでもない。ただの現象でしかない。
 模造神器を納めた特殊バイクが唸りを上げる。
 蒼い残光を刻むようにして森の中を走り抜ける。幻覚は確かに玲の視界を埋め尽くしている。
「あー、ね」
 襲い来るのは数字の羅列であった。
 いや、違う。正確に言うのならば、ある特定の数字が並べられた光景である。

 彼女にとっての絶望と恐怖は、どのようなものだっただろうか。
 目の前に広がる光景は、おそらくそういうものなのだろう。
 サブカル好きとしては、出費がかさむものである。邂逅は一瞬。一期一会なのである。
 ならば、彼女にとっての恐怖とは、月末にやってくる支払いの書類だろうか。
 それとも不正利用されていると思ったら、全部思い至る節があった時だろうか。どのような形であっても、玲はそれをスン……とした顔で受け止めている。
「……絶望も恐怖も最初から来ると分かってれば、所詮は虚構」
 ある意味でホラーであるけれど、と玲は特殊バイクの自動走破能力でもって、ほぼハンズフリーで森の中を疾駆している。
 幻覚で平衡感覚を失いかねないからこそ、幻覚の通じぬ機械、特殊バイクのオートパイロットモードで彼女は悠々と突き進む。

「うーん、ホラーやサスペンスは当たり外れが大きいからな……」
 玲は、なんとも味気ないものだと息を吐き出す。
 味のしないガムを噛んでいるような気持ちになってしまう。吐き出せるのならば吐き出しているところであるが、森はまだ続く。
 一直線に走る特殊バイク。
 なんとも他愛のない罠であることだろうか。

 もっとこう、アトラクション的な罠とかないだろうかと玲は期待したが、そういうものはなかった。
 がっかりである。
 ネタバレをくらっているのに、席を予約しているからキャンセルするのも勿体ないから見に行った映画を見ているような気分。
「今回は外れということで……残念」
 森を抜ける頃には、玲はげんなりしていた。

 だが、最速で森を抜けたことには変わりない。
 目の前には『闇の種族』の館がある。禍々しい雰囲気が漂い、その中で行われている儀式の存在を知らしめるだろう。
「さて、ネタバレくらったし、その憂さ晴らしでもさせてもらおうかな――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『強欲の姫・グリード』

POW   :    あなたのすべてはわたしのもの
自身が【欲しいという想い】を感じると、レベル×1体の【従者】が召喚される。従者は欲しいという想いを与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD   :    あなたはわたしのために
【強欲姫の好奇の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ   :    あなたのものはわたしのもの
【強欲の大罪】を解放し、戦場の敵全員の【大切なもの】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。

イラスト:ヒダリウデ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は向・存です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『闇の種族』の館の内部に猟兵たちは突入する。
 そして見ただろう。
 不気味な粘液の糸で覆われた内部を。

 まるで繭だ。
 その例えは正しい。不気味な粘液の糸が絡まり球体を作り上げる館の中心に『闇の種族』、『強欲の姫・グリード』は座す。
「レディの着替えに飛び込んでくるだなんて、なんて不躾な……ああ、ああっ! 私の『花嫁』! あなたならば歓迎するわ!」
 己が欲する美しさを持つ『魂人』の青年の姿に『強欲の姫・グリード』は歓喜する。
 周囲にあるいくつもの小さな繭から僅かに呻く声が響く。

 それは『強制的に永劫回帰の力を使わされ彼女の死を打ち消し続けている魂人達』であった。
「……アンタ、自分の死を打ち消し続けているのか。そのために、他者の生命を使い潰すというのか」
「ええ、そのとおり。私が求めるものは力。強大な力は美しさを宿すもの。あなたも、私の一部として、私の美しさとして永劫に生き続けるの。素敵なことでしょう」
『強欲の姫・グリード』が微笑む。

 繭の中から這い出した彼女の半身は破れている。
 いや、『羽化』が完全に終わっていないのだ。破れた内部は未だ定まっていないかのように流動している。
 それは『羽化の儀式の最中』であることを示していた。
 ならば、この機を逃すわけにはいかない。羽化しきっていなくても強大な力を持っていることに変わりはない。
 油断などできない。
『闇の種族』は今の猟兵でも撃退困難な存在である。

 そして、猟兵たちは気がつくだろう。
『死を打ち消し続けている』というのならば、『羽化』とは『死の連続』であると。
 周囲にある繭。
 それが『強制的に永劫回帰の力を使わされている魂人』たちだというのならば、これを助けることで敵の力を削ぐことができるかもしれない。
「だから、美しきあなたにたかる蝿を排除してあげる。あなたの美しさは、望まざる存在も引き寄せてしまうものだから」
「理由になってない。アンタは俺の何を知っている。俺の何を見て、俺の何を持って美しいと称した。俺はまだアンタに何も見せてはいない。俺の中にある恐れも、闇も、何もかもだ」

『魂人』の青年が初めて表情を変える。
 激高。
 他者の生命を使い潰すことにためらいのない、玩具以下と謗る存在に怒りを滲ませる。
 猟兵たちはその怒りの声を聞きながら、迫る『強欲の姫・グリード』の強大な力に相対する――。
リーベ・ヴァンパイア
……死を恐れる気持ちは分からないでもない。だが、死から逃れられない。誰にも訪れるものだ

ーーだからこそ、人は生きていると言える。逃れられない死へと進みながら、必死に生き、人生を世界へと残しながら

……彼等の| 命 《 人生 》は貴様のものではない

返して貰うぞーー!

作戦

この感じ……奴の瞳には人を惑わす力があるようだな。ならば、奴と視線を合わせず、戦うとしよう。(昔、似たような相手と戦った戦闘知識と功夫で得た相手の気配を感知する力で駆使して、ガン&ブレードで戦う)

敵を引き付けてる間に青年を【swordparty】でサポートしながら囚われた人達を救出する

救出を終えたら、剣を全て合体させ、奴を【切断】する



 死を否定し続けるのが『永劫回帰』であるというのならば、それは先延ばしに過ぎないのかも知れない。
 暖かな記憶を代償にして否定されるもの。
 戦う者にとって、それは驚異的な力となる。
 だが、その『永劫回帰』は使ってはならない。使えば、守ろうとしたものが何で在ったのかさえわからなくなってしまうから。
「……死を恐れる気持ちはわからないでもない。だが、死から逃れられない。誰にも訪れるものだ」
 リーベ・ヴァンパイア( Notwendigkeit ・f37208)の言葉に『強欲の姫・グリード』は笑う。

「いいえ。私には訪れないもの。幾度、幾千、幾万の死が私に訪れたのだとしても。それでも私は今ここに在る。私という美しさを存続させるためには、その『永劫回帰』の力が必要不可欠なの。わかるでしょう? ただ無為に、刹那に生きる者の力を私は有効的に使ってあげているだけなの」
 彼女の視線を躱すようにリーベは走る。
 敵の視線を受けてしまえば、その途端自身は敵に有効的な行動をとってしまう。

 だが、その視線を一手に引き受けるのは、『魂人』の青年であった。
 彼女の興味を引くのは、今この場において青年のみ。
 リーベの瞳がユーベルコードに輝く。
 放たれるは宙に浮かぶ赤い剣。
 swordparty(ツルギヨマエ)は百を超える刀身でもって、青年の姿を覆い隠す。
「私のモノよ、それは! 私を前に覆い隠すなんて! そんなことさせない! その美しいモノは私の!! モノ!!!」
 破れた半身ながらも、『強欲の姫・グリード』は青年を覆い隠す赤い剣を引き剥がそうと館の不気味な粘液の糸が張り巡らされたタイトロープの如き足場を跳ねるようにして迫る。

「死なんて、そんなもので私の美しさを否定させはしない!」
「いいや。お前にも訪れるものだ。死というものは。逃れ得ぬものだ――だからこそ、人は生きているといえる。逃れられない死へと進みながら、必死に生き、人生を世界へと残しながら」
 リーベが赤い剣の刀身を盾にしながら、『強欲の姫・グリード』へと迫る。
 走る刀身が次々と繭を切り離していく。
 其処に捉えられた『魂人』たちの『永劫回帰』によって『羽化の儀式』に訪れる連続した死を打ち消し続けていた『強欲の姫・グリード』の力を削ぐのならば、彼らを救うことが戦いに勝利することに繋がる体。

「刹那の輝きなんて、そんなもの! 私は永遠を生きる。永遠のままに、美しいままに! 私のモノなのよ! それは!!」
 咆哮と共に迫る『強欲の姫・グリード』にリーベは告げる。
 手にしたのは赤い剣。
 己の血液によって生み出されたそれが、一気に『強欲の姫・グリード』へと浴びせかけられる。

 血潮は視界を染め上げた。
 彼女の視線はまぶたと血潮によって覆われ、そのユーベルコードの力を阻害する。
 青い結晶のような翼が羽ばたく。
 それは『魂人』の青年の力。砲身のように形成された翼の銃口が『強欲の姫・グリード』を撃つ。
「……彼らの|生命《人生》hじゃ貴様のものではない」
 リーベが駆け抜ける。
 もはや視界は開かないだろう。真正面から己の血液出できた剣が揮う。

 赤い一閃が『強欲の姫・グリード』の体を切り裂く。
「返して貰うぞ――!」
 これまで奪ってきた生命。
 そして、代償として刻まれてきたトラウマ。
 その全てを精算させるかのように合体した赤い剣が重なり合い、極大の一撃となって『強欲の姫・グリード』の半身を切り裂く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
即座に鏡映変性・ウィッシーズミラーを発動し、あなたのものはわたしのものをクイックドロウ限界突破連続発動。

確かに強大な力ですけど、とても醜い力。使い手の性根も声も臭いも醜いし、きっと見た目も醜いのでしょう。
そして戦場に在りながら彼の美しさとやらにうつつを抜かす慢心と、わたしの戯言に意識を引っ張られるようなプライドがお前を滅ぼすのです。

お前の大切なものを全て奪い尽くします。花嫁も、美しさとやらも、窮地を脱するための力も。お前がこれまでしてきたように。

苦しんで、絶望しながら滅びなさい。

とはいえ彼らの痛みの一雫程度も味あわずに自壊するでしょうし、一度奪われたものはもう二度と取り戻せないのですけどね。



 人に欲というものがあるのであれば、その生き様は奪うことである。 
 何一つ奪わずに生きてきた者など存在しない。
 故に罪ありきという。
 ならば、強く欲することは罪であったことだろうか。
 欲することは願うということである。
 願いは強くありすぎれば、他者を傷つけるものとなる。故に、大罪。

 猟兵の斬撃が見せる軌跡が赤く煌めき、『強欲の姫・グリード』の身を引き裂く。けれど、その死を否定し続ける『永劫回帰』のちからは、周囲にある繭に因われた『魂人』たちから強制的に発動し、それを否定する。
「私の美しさは私自身のもの。私は美しい。故に美しいものを求め続けなければならない」
 その姿、その声、その性根、その匂い。
 あらゆるものが七那原・望(封印されし果実・f04836)にとっては耐え難いものであった。
 見えなくてもわかる。
「確かに強大な力ですけど、とても見にくい力。わたしの視界は閉ざされていても、その性根も声も、匂いさえも醜いとわかってしまう」
「私が醜い? 私が? この私が!!」

 美醜。
 その価値観に因われた存在の醜さは言うまでもない。
「わたしは望む……ウィッシーズミラー!」
 鏡映変性・ウィッシーズミラー(リフレクト・ウィッシーズミラー)によって、彼女は『強欲の姫・グリード』と同じ姿となり、そのユーベルコードを発露する。
 大切なものを奪い続け、己のものとする力。
 それは『強欲の姫・グリード』にとっては、美しさそのものであったことだろう。
「戦場に在りながら、彼の美しさとやらにうつつを抜かす慢心と、わたしの戯言に意識を引っ張られるようなプライドがお前を滅ぼすのです」

 奪い尽くすのは全て。
 美しさが『強欲の姫・グリード』の全てであるというのならば、その全てを奪い取る。
 それが『あなたのものはわたしのもの』という強欲の権化そのもの。
 大罪たる強欲の発露は、戦場に存在するものを全て根こそぎ奪い去っていく。
「お前の大切なものを全て奪い尽くします。花嫁も、美しさとやらも、窮地を脱するための力も」
「私から奪う? この美しい私から? 何一つ奪うことなどあってはならないのです。なぜなら、私は美しいから! 美しさの前には何人たりとて抗えぬもの。屈するしかないの!」
 放たれる大罪たる強欲。

 だが、今目の前にいるのは鏡合わせの存在。
 互いに互いの美しさを奪い合う不毛なる戦い。
「苦しんで、絶望しながら滅びなさい」
 これまで『強欲の姫・グリード』がしてきたように。
 他者に犠牲を強いることを続けてきた報いを受けさせなければならない。奪い、奪い、奪い尽くす。

 不幸であったのは、猟兵達が『羽化の儀式』の最中に間に合ったこと。
 もしも、羽化が終わっていたのならば、猟兵など何の問題にもならなかっただろう。あの幻覚すらも足止めにはなりはしなかった。
 彼女にとって、その幻覚こそが恐怖。
 恐怖に人は足を止めると思っていたからこその、誤算。
 人の歩みを止めるのは恐れや絶望なのではないのだ。
「一度奪われたものはもう二度と取り戻せないのですけどね」
 望が奪い尽くす美しさ。

 二度と戻らぬを悲しむ時間すら与えぬと望は相対する『闇の種族』、『強欲の姫・グリード』と鏡合わせの姿のまま、静かに奪い続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メサイア・エルネイジェ
そう!パワー!
力だけが、わたくしを満たしてくれる…!
ですけれども貴女とは趣味が合いそうにないですわ
というかきったねぇお部屋ですわね!
女子力の欠片もございませんわ〜!
こんな事だからご結婚相手がお逃げになられるのですわ
それと先程はよくも恥をかかせてくださいましたわね?
借りをお返し致しますわよ〜!

女子力は最低ですけど気迫は十分ですわね
わたくしの大切な女子力が奪われている気がしますわ!
こうやってお魂人達からエネルギーを横取りしておりましたのね?
やる事もきったねぇですわねぇ
では根源をお断ち致しますわ
本日二度目のメサイアフラーッシュ!
照り付ける真夏のサンシャインでお繭を焼き尽くしますのよ〜!
ついでにその血色の悪いお肌も丸焦げにしてさしあげますわ〜!
もし、お魂人の方
お怒りなら1発ぶん殴るとよろしいのですわ
あのご婦人はおゾンビみたいなものですし、わたくしのご加護が籠った神聖パンチがよく効くに違いありませんわ!
ささ、遠慮なさらず
貴方のその手が真っ赤に燃えている内に!
何事も暴力で解決するのが一番ですわ〜!



『闇の種族』、『強欲の姫・グリード』との戦いは未だ終わらない。
 元より強大な存在である彼女の力は、『羽化の儀式』の最中であっても衰えることはない。
 絶え間ない死の連続。
 それこそが『羽化の儀式』。その死を乗り越えた先にこそ、『闇の種族』はさらなる強大な力を得るのだ。
 そのために必要なのは『永劫回帰』。
『魂人』の持つ暖かな記憶を代償にして死を否定する力。

「小賢しいわ。全ての死を否定しおわれば、お前たちなど。取るに足らない存在であることを教えてあげられるというのに。私の美しさの前に、力の前に屈する権利を与えてあげるわ!」
 周囲にある美しさを奪い去りながら、『強欲の姫・グリード』が叫ぶ。。
「そう! パワー! 力だけが、わたくしを満たしてくれる……! ですけれどおも貴女とは趣味が合いそうにないですわ」
 というか、きったねぇお部屋ですわね! とメサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)は神性なる大型機械鎧『アインビシオン』の放つ光背の如き光を受けて王笏の一撃を見舞う。

 振るった一撃は館の内部を破壊する。
 不気味な粘液の糸があちこちに張り巡らされ、『強欲の姫・グリード』は人体ならざる動くで持って飛び跳ねるようにして王笏の一撃を躱す。
「女子力のかけらもございませんわ~! こんなことだからご結婚相手がお逃げになられるのですわ」
「この美しさが理解できないとは、教養のない低俗な者がよく言う」
 せせら笑う『強欲の姫・グリード』の態度にメサイアの癇に障るかもしれない。
 しかし、それ以上にメサイアの心の中を占めるのは、そんなことではなかったのだ。彼女の心に渦巻いているのは『幻覚を見せる黒百合の花が咲く森』での出来事であった。

 あのデジタル体重計。
 あれだけは許しがたいものであった。
「先程はよくも恥をかかせてくださいましたわね? 借りをお返しいたしますわよ~!」
「なんのことかしら?」
「よくもまあ、そんな白を切れるものですわね! お体重のことでしてよ! しらばっくれるのもいい加減にしてくださいます!?」
 ああ、とメサイアはどうにも言葉が汚いことに気がつく。
 こうやって『強欲の姫・グリード』は奪ってきたのだろう。
『魂人』の暖かな記憶を代償にして得られる死を否定する『永劫回帰』。
 自分の大切な女子力も奪われている。気のせいかも知れないが、自分が大切に思うものが奪われているという感覚だけがメサイアの心に虚を生み出す。

 けれど、その虚を埋めるのは怒りだった。
「やることもきったねぇですわねぇ!」
 煌めくはユーベルコード。
 掲げた王笏より放たれるは、エルネイジェの光(セイントシャイニング)。
 常闇の世界にあって光をもたらすユーベルコード。
 それは強烈な光故に『強欲の姫・グリード』の身を灼くだろう。だが、それだけでは彼女の、死を否定し続ける『魂人』たちの『永劫回帰』によって全てが水泡に帰す。

 しかし、メサイアの放つユーベルコードの輝きは、謂わば照りつける真夏のサンシャイン。
 光はこの館に因われた『魂人』たちを縛る繭を焼き尽くしていく。
「――! これならば」
『魂人』の青年が、メサイアの放つユーベルコードの光によって得られた神性属性によって焼き切る繭から因われた『魂人』たちを救い出していく。
「私の! 私のよ、それは!! 私のための『花嫁』だというのに!!」
『強欲の姫・グリード』が叫ぶ。
 繭に入っているからこそ、『永劫回帰』の力を強制的に引き出すことができるのだろう。

 追いすがる彼女をメサイアは光放つ王笏の一撃で押し止める。
「ついでにその血色の悪いお肌も丸焦げにしてさしあげますわ~!」
 王笏の一撃がオーバーロードを経て、強力な光と共に放たれる。打ちのめす『強欲の姫・グリード』の体が勢いよくバウンドして館の壁面に打ち付けられる。
 それを見やり、メサイアは掲げた光の元に青年に告げる。
「お怒りなら一発ぶん殴るとよろしいのですわ」
 にこやかにメサイアは言う。
 体重計のことは忘れていないと言わんばかりである。それに、あの『強欲の姫・グリード』はゾンビみたいなものであるとメサイアは結論づける。
 自身の光が宿った拳なのならば、よく効くに違いないと笑うのだ。

「ささ、遠慮なさらず」
「アンタはそれでいいのか。むかっ腹に来ているのは、アンタも同じだろう」
「それもそうですわね。まあ、いいのですわ! 貴方のその手が真っ赤に燃えている内に!」
 それもそうだとメサイアと青年は頷く。
 掲げた光。
 照らされた『強欲の姫・グリード』は目をむくだろう。美しいと、欲した存在が己に牙をむく。
 これまで全てを手に入れて来たというのに。

 こんな所で失うのかと彼女は、その顔を歪ませる。
「何事も暴力で解決するのが一番ですわ~!」
「や、おやめなさい……!」
「止めても無駄なのですわ~! 振り上げた拳は振り下ろさなければならないのですわ~!」
 メサイアの王笏と青年の拳の一撃が逃げ場など無い『強欲の姫・グリード』に叩き込まれる。
 万物を照らす光は、女子力の敵を打ちのめす。
 どれだけ美しさを誇るのだとしても、どれだけ力を得るのだとしても。
 それでも失ってはならぬものがある。

 それは力に対する理解である。 
 あらゆる事象をねじ伏せるかの如き暴力の一撃が、『強欲の姫・グリード』の全てを否定するように彼女をどん底まで叩きのめすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…っ。まさか、闇の種族が…これほどの力を、持つ…なんて…ッ

…この私を操ろうなどと…ぁ、だめ、逃げて…私は…わたし、は……。

……強欲の姫君、貴女様を煩わせる害虫は全て討ち果たしました

…お求めの『花嫁』です。どうぞ、貴女様の糧になさってください

左眼の聖痕「代行者の羈束・時間王の鏡」に限界突破した魔力を溜めUCを発動
…する瞬間に敵UCの精神属性攻撃により自身を含む猟兵の一部が魅了され、
同士討ちの末に魂人の青年を捕え羽化の儀式が完遂し強大な闇の種族が誕生する


…という可能性を自前の狂気耐性と敵への殺気により超克する事で魅了から脱し、
敵に"自身の望み通りになった未来"を暗視させる事で意識を捕縛している隙に、
魂人の青年と共に大鎌をなぎ払い周囲の繭から花嫁達を救出して回るわ

…敵の動きは封じたわ。今の内に他の魂人を救出しましょう

…なに、ちょっとした意趣返しよ。不愉快な幻を見せてくれたお礼に、ね

…この手の術は欲深い者ほど良く掛かる。強欲を冠する輩が逃れられる道理は無い


…遅いお目覚めね、良い夢は見れたかしら?



『強欲の姫・グリード』は欲する。
 あらゆる美しきものを欲する。
 時に人を、時に宝石を、時に芸術品を。
 欲するのだ。あらゆる美しきものを。そこに貴賤はない。そういった意味では純粋な存在であったのかもしれない。 
 欲することだけしかできないとも言い換えることができる。
 だからこそ、彼女は理解できないだろう。
 人がなぜ生きるのか。欲するがゆえに生きる者であるのならば、彼女の言葉もまた真実であろう。

 人が食すことだけで生きることができないように。
 欲するだけでもまた生きることができないのだ。
「それでも私は欲する。全て、美しいもの全てを欲するのよ!」
 彼女の瞳そのものがユーベルコードである。
 その視線を受けてしまえば、彼女に対して友好的に振る舞ってしまう。
「……っ。まさか、『闇の種族』が……これほどの力を、持つ……なんて……ッ」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、『強欲の姫・グリード』の瞳を真っ向から受け止めてしまった。
 それ故に、彼女の体は彼女の意志に反して『闇の種族』である『強欲の姫・グリード』に対して隷属しようとしている。

 抵抗していても無駄であった。
 どんなに強靭な意志であったとしても、『強欲の姫・グリード』の視線は強制的に彼女を従えさせる。
「無駄よ。抵抗なんて。そんなの美しくないわ」
「……この私を操ろうなどと……ぁ、だめ、逃げて……私は……わたし、は……」
 リーヴァルディの瞳から光が消えていく。
『魂人』の青年も、他の猟兵も、何もかもどうでもよくなっていく。
 己の手にした力は吸血鬼狩りのためではなく、あの御方のために。そう思うのが自然であるというかのようにリーヴァルディは頭を垂れる。

「……アンタ」
 青年の言葉ももう届かない。
 ゆらりと揺れる大鎌の刃の光が、剣呑なる輝きでもって閃く。
「ああ、それは殺しては駄目よ。美しいのだから。私の『花嫁』として『永劫回帰』の力をずっと使い続けるの。私のそばでね」
 その言葉と共にリーヴァルディは駆ける。
 疾駆し、刃を振るい、ユーベルコードの輝きを持って、他者を駆逐していく。
 彼女の左目の聖痕が輝いている。

 あらゆる可能性が世界には満ちている。
 常に猟兵がオブリビオンを打倒できるとは限らない。未来とは不定形。過去に定まることが必然であるとしても、それでも未来を見通すことなどできるはずもない。
「……強欲の姫君、貴女様を煩わせる害虫は全て討ち果たしました……お求めの『花嫁』です。どうぞ、貴女様の糧になさってください」
 リーヴァルディが抱えるのは『魂人』の青年。
 彼女の力は圧倒的であった。あらゆる障害を排除し、彼女の新たなる主の求めるものを献上する。
「いいわ。気に入ったわ、あなた。猟兵と言えど美しいものは私の欲するところ。あなたは生かしておいてあげる」

 微笑み『強欲の姫・グリード』。
 彼女の『羽化』は滞りなく完了し、さらなる強大な『闇の種族』が誕生する。
 満ちる力は笑みをこぼれさせ、高く響く声は、ダークセイヴァーの第三層に木霊する。
 闇が満ちていく。
 あらゆるものが飲み込まれる。光さえも。世界さえも……。

「アンタ。あれは何をしたんだ」
『魂人』の青年がリーヴァルディに告げる。
 困惑している様子でもあった。
「……なに、ちょっとした意趣返しよ。不愉快な幻を見せてくれたお礼にね」
 リーヴァルディはなんでもないというように、こともなげに言う。
 彼女は『闇の種族』に隷属させられたのではなかったのか。答えは否である。彼女の左目の聖痕は今もなお輝いている。
 それは代行者の羈束・時間王の規範(レムナント・クロックワークス)。
 在り得た可能性を見せ続ける偽りの未来。
 その光景がまさに今、『強欲の姫・グリード』の瞳に映り続けている。あったかもしれないという未来への分岐点。その分かたれ、剪定された未来を彼女は見続けているのだ。

 自分の望み通りになった未来。
 彼女にとって、それは常なることであったことだろう。それが偽りであるということすら疑わない。
 思い通りに成らなかったことなど無かったがゆえの弊害。それ以前に強欲である以上、己に都合の良い未来を否定することなどないのだ。
「……敵の動きは封じたわ。今のうちに他の『魂人』を救出しましょう」
 リーヴァルディは周囲にある繭の一つを切り裂き、中から捉えられていた『魂人』を救い出す。
『羽化』が死の連続であるというのならば、『永劫回帰』の力を強制的に使わされている彼らを救い出すことで『闇の種族』は死を否定できなくなる。

 そうなれば後は。
「……この手の術は欲深い者ほどよく掛かる。強欲を冠する輩が逃れられる道理はない」
 だが、それも時が経てば終わりを告げる。
 そう、見果てぬ夢。
 現実という悪夢が強欲の姫に襲いかかるのだ。

「――ッ!?」
 混乱する『強欲の姫・グリード』にリーヴァルディは告げる。
「……遅いお目覚めね、よい夢は見られたかしら?」
『闇の種族』を滅ぼすのに、己たちの刃は必要ない。
 リーヴァルディは『魂人』たちを開放し続け、多くが繭から開放されている。そうなれば、死を否定できなくなってしまう。
「……あなた……!!!」
「……己の死を否定できずに惨めたらしく滅びなさい――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

月夜・玲
死んでも再生を繰り返せばそれは死んでいない…か
うーん、オブリビオンの考えは分からんね
死のない生に意味を持つなんて、どうかと思うけど
まあ、価値観が違うから仕方ない…か
けど強欲はいつか、身を亡ぼすよ
適度に損をしないと、損をさ


《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
剣戟と『斬撃波』で召喚された従者達を『吹き飛ばし』ながらグリードに接近しよう
攻撃も剣で『武器受け』するか、『オーラ防御』でシールドを張って受け止めよう
ある程度接敵したら【断章・機神召喚〈極限熱量〉】起動
機械腕を召喚し『念動力』で浮かせて行動を制御
グリードに大質量の一撃を喰らわせて蒼炎での追撃!
さあ、後どれだけ死ねるかな?



 猟兵が多くの『魂人』たちを繭から救出しつづける。
 『羽化の儀式の最中』であるに関わらず、『永劫回帰』によって連続する死を否定できなくなりつつあった『強欲の姫・グリード』の表情が凍りついていくのを見ただろう。
『羽化』とは即ち連続した死によって己を違う存在へと変えていくことである。
 だが、死すればオブリビオンであっても滅びる。
 ならば、『永劫回帰』でもって死を否定しつづけ、回避すればいい。
 そうすることによって『闇の種族』は強大な力を得ていくのだ。

 けれど、それには『魂人』が必要なのだ。
 彼らがいなければ、『闇の種族』は死を否定できない。
「真でも再生を繰り返せば、それは死んでいない……か」
 月夜・玲(頂の探究者・f01605)は理屈が理解できても、オブリビオンの思考を理解することはできなかった。
 死のない生に意味を持つ。
 それがオブリビオンにとっての倫理であったのかもしれない。
 けれど、玲はあくまで生命である。
 死こそが終着であるというのならば、それこそ意味のない生であることを理解している。

「まあ、価値観が違うから仕方ない……か」
 抜刀された二刀の模造神器の煌めきが、怒り狂う『強欲の姫・グリード』から放たれた従者たちを吹き飛ばす。
「私の邪魔を! 美しいものになるために必要な儀式なのよ、これは! そのためには死だってなんだって乗り越えていくのが当然でしょう! 永遠こそが美しきもの。真に美しいものは普遍にして不滅なの!」
 従者たちが殺到する。
 刀身を振るい、これを吹き飛ばしながら玲は進む。

 それには意味がない。
 普遍。不滅。
 どれもが『今』という刹那を生きる玲にとっては些細なことであった。
「強欲~……けど強欲はいつか、身を亡ぼすよ」
「それを否定しているというのよ!」
『魂人』の青年と猟兵達によって救出された『魂人』たちを逃さぬと『強欲の姫・グリード』が手を伸ばす。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。永遠のごとく変わらぬ美しさが欲しい。
 彼女の欲望はとめどなく溢れ、従者たちは、それに応えるように洪水のように玲へと迫っていた。

「適度に損をしないとさ、損をさ」
 煌めくユーベルコード。
 従者の波を切り裂きながら玲の背後に巨大な機械腕が召喚される。その手にした剣が、振るい上げられる。
「偽書・焔神継続起動。断章・機神召喚の章、深層領域閲覧。システム起動」
 唸りを上げる機械腕。

 出漁の上がった力が蒼炎となって発露する。
 暗き闇の世界にあって、その蒼炎は冷たく輝く。『闇の種族』に滅びをもたらす輝き。
 ユーベルコードを前にして『強欲の姫・グリード』は笑う。
「美しいわ! その炎の輝き! 炎なのに冷たささえ感じさせる! なんて美しいの!」
 玲の念動力によって制御される機械腕が振るわれる。
 一閃された一撃が従者たちを一気に吹き飛ばし、走る蒼炎が『強欲の姫・グリード』の体を灼く。

 破れた半身。
 その不定形なる流動するなにかすらも蒼炎は燃やしていく。
「さあ、後どれだけ死ねるかな?」
 玲は走る。
 手にした模造神器の刀身が十字に『強欲の姫・グリード』の体を切り裂く。さらに振るわれる機械腕の一閃が死を否定し続ける彼女の死を重ねていく。
 否定できぬ死は、真の死である。

「今が損切の時だと思うけれど?」
「私が、死を超越するのよ!」
「――なら、言うことはもうないね。惨めたらしく自壊していくといいよ」
 立ち上る蒼炎。
 それは『強欲の姫・グリード』をその場に縫い留める回避できぬ死の連続となって、轟々と燃え盛る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギヨーム・エペー
おれが闇の種族を引き受けるからさ、青年には魂人の救出をお願いしたい。大丈夫、きみが闇の種族によって傷つくことなんてのはない。遠距離からならおれもサポートできるし、きみも永劫回帰を使わないでおれを助けられる。どうするかって? 声掛けさ。野次も声援も胸を張れば必ず届く。だからきみも囚われた者には大丈夫って言ってあげてほしい!

きみも目で訴えるんだなー、おれと一緒だ。おれは目を合わせて会話をするのが好きだけど、それを友好を示したいからだ
きみは自身の美しさに自信を持ち、誇り、その気高さは美しいと言えよう。だがその美しさとやらは誰にも見向きされない。誰もきみを求めていない
でも、友好的に振る舞おう。きみはずっと閉じこもっていたほうがいいから、その場に押さえつけよう。動くなよ。羽化の途中なんだろ。じっとしてろよ此処で

おれは、きみたちには陰険でありたいんだ。きみたちが魂人にそうであるように、知らないなら教えてやりたいんだ
上で見下す者たちより、下で見上げていた者の方が同じ土俵に立った時は視線が上だってことを



 誰かのために戦うことは誇らしいことだとギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)は思う。
 この場に集った者たちはみんなそうであると思えた。 
 何よりも、誰かのために怒りを燃やす『魂人』の青年に好感を覚えたかも知れない。だからこそ、自分ができることをしなければならない。
「おれが『闇の種族』を引き受けるからさ」
 君は彼らを救出してやってくれと、ギヨームは『魂人』の青年に告げる。

「大丈夫。君が傷つくことなんてない」
「アンタが危険だ。あいつはどう見ても……」
 その言葉にギヨームは笑うだろう。
 きっと『魂人』の青年は己に『永劫回帰』の力を使おうとするだろう。それはためらいのないものだ。
 けれど、それをギヨームは頭を振って否定する。
 使う必要など無いのだと。
「だが、どうする?」
 無謀だと。それは勇気と履き違えていると青年の瞳が言っている。ギヨームはまた笑う。
 よく笑う男だと思われたかもしれない。

 けれど、こんな窮地に在っても、ギヨームは笑う。
 そうすることが理不尽を強いる者へと一矢を報いることであると識る体。
「声掛けさ。野次も声援も胸を張れば必ず届く」
「こんな時に?」
「こんな時だからこそさ。だからきみも因われた者には大丈夫って言ってあげて欲しい!」
 行った行ったとギヨームは青年の背中を押して『闇の種族』と向き直る。
 蒼炎に縫い留められ、死を否定し続ける『強欲の姫・グリード』。彼女の半身は破けている。
 内部に見える流動するなにかは、否定し続けることに寄って羽化する何かの原型。

「私の美しさは損なわれない。私は美しいもの。この世で最も美しいものなのよ!」
 その言葉をギヨームは否定する。
「きみも目で訴えるんだなー、おれと一緒だ。おれは目を合わせて会話するのが好きだけど、それは友好を示したいからだ」
 ギヨームは頷く。
 視線は彼に突き刺さっている。
 だから、その手にした氷銛を大地に突き立てる。

 戦う意志はないと告げるように笑むのだ。
「きみは自身の美しさに自信を持ち、誇り、その気高さは美しいと言えよう」
「そのとおりよ。私は美しい。美しいからこそ、何をしても許される。そうでしょう? 美しさの前には罪も肯定されるのよ」
「だが、その美しさとやらは誰にも見向きもされない。誰も君を求めていない」
 その言葉に凍りつくものがあった。
 びしり、と罅が走るように『強欲の姫・グリード』の自尊心が傷つく。

 己が美しいという事実は疑いようがない。
 けれど、目の前の猟兵は美しさを否定せずとも、そのあり方を否定する。
 美しさとは時に孤高である。
 誰も手を伸ばせぬほどの圧倒的な美しさは、目を背けさせる。と求めない。
「でも、おれは友好的に振る舞おう。きみはずっと閉じこもっていたほうがいい」
 突き立てた氷銛から放たれる冷気が『強欲の姫・グリード』の足を縫い留める。蒼炎が立ち消えても、氷が彼女の体をその場に縫い止め続ける。

 彼の背後で『魂人』たちが次々と救出されていく。 
 ギヨームの耳にはきっと届くだろう。開放された者を励ます声が。あの暖かさが、人を人足らしめていると理解する。
「――私の! あれは私のモノ!」
「動くなよ。羽化の途中なんだろ。じっとしてろよ此処で」
 氷銛から放たれる冷気は、そのまま彼女を押し止める。
 引きこもっていた方がいいというのは本当だ。彼女のことを友好的に思うからこその行動。
 何も猟兵と相対しなくたっていい。
 美しいものはそのまま、其処に入ればいいのだと諭すようにギヨームはいう。

「私の移しさを理解するのならば、この氷をほどきなさい」
「おれは、きみたちには陰険でありたいんだ。きみたちが『魂人』にそうであるように、知らないなら教えてやりたいんだ」
「何を――」
「上で見下す者より、下で見上げていた者のほうが、同じ土俵に立った時は視線が上だってことを」
 理解できなかったかもしれない。
 ギヨームは見下す者ではなかった。
 常に見下ろすだけではなかった。
 確かに自分には辛苦はない。なかった。けれど、分かっている。同じ立ち位置で立っていたからだ。

 見下される者たちが見ていた視界を、世界を見てきたから解るのだ。
 上に在りて、上を見る者は、自分の足元が瓦解していることにも気が付けない。故に。
「きみは其処で滅びる。仕方ない。前に進んで痛い思いをして滅びるより……そのまま痛みも感じずに滅びるほうがいいだろう?」
 たとえ、それが死を否定できなくなったことによる惨めなる最期であったとしても。
 ギヨームは陰険でありたいと屈託なく笑い、『強欲の姫・グリード』の凍りつく体と表情を見上げるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塔・イフ
おじゃまするわ
あなたが、グリード
……ヒトの姿をしていても、話が通じない相手っているのね
ヒトの姿をしていなくても、分かり合える相手だっているっていうのに

永劫回帰の力を、こんなかたちで……
繭の中の魂人さん達は、どんな夢を見させられているのかしら
なんてむごいことを
あなたのことは、絶対に許さない

運命を喰われ、死に続けるわたしを助けるために
『永劫回帰』を繰り返したあのひとの姿が脳裏に浮かぶ
これは――|むごいこと《同じこと》をあなたに強いた自分への怒りでもあるのね

グリードにスカイステッパーと指定UCでの直接攻撃――をおとりにして
風の刃と【誘導弾】で魂人さんの繭を攻撃するわ
繭を糸を切り裂き破って、強制的にグリードとのつながりを断つ
少しでも、あとに続く人たちの助けになれば幸いよ

さあ、おにいさん
今のうちに!
未来を切り開くために…だれかの憂いをぬぐうために
きっとわたしたちの力はあるの
その手で、踏みにじられた他の人たちの分まで
グリードをやっつけてあげて!



 蒼炎、氷結。
 あらゆる力が『闇の種族』たる『強欲の姫・グリード』をその場に縫い止め続ける。
 館の中心。
 不気味な粘液が糸引き、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
 戦いの場となったそこに塔・イフ(ひかりあれ・f38268)は踏み込む。
 半身が破れたようになっているのは『羽化の儀式』の最中であるからだろう。連続した死を否定し続けることに寄って、内在する不定形たる流動を形に変えていく。
 それが『強欲の姫・グリード』が新たなる力を得るために必要な工程であったのかもしれない。
「おじゃまするわ。あなたが、グリード」
 イフは、きっと同じ姿をしていたとしても、相互理解などできないことを悟る。

 同時にそれは失望でもあった。
 人の姿をしていなくても、解り合える相手だって存在しているというのに。
 だというのに。
「あなたは『永劫回帰』の力を、こんなかたちで……」
「私の美しさを保つためなのよ。新しい次元へと私の美しさを証明するためなのよ。光栄に思うべきだわ」
 氷結を砕きながら、破けた半身と共に『強欲の姫・グリード』が足を踏み出す。
 イフの瞳に映っていたのは、『強欲の姫・グリード』ではなかった。
 見ていたのは、繭の中で悪夢にさいなまれるように苦悶の表情を浮かべる『魂人』の顔であった。

「なんてうごいことを」
「むごい? 意味のない生命に意味を与えてあげているだけじゃあない。感謝こそすれ、そしられる謂れなんてないわ!」
 相互理解など無意味。
 できようはずもないことを求めても仕方ない。
 イフと『強欲の姫・グリード』は猟兵とオブリビオンであるのだ。滅ぼし、滅ぼされる間柄でしか無い。

 故に、イフは毅然とした態度で相対する。
「あなたのことは、絶対に許さない」
 今もなお、連続する死を否定するために『魂人』たちの『永劫回帰』の力が繰り返し使われている。
 脳裏に浮かぶのは、あの人の姿であった。
 確かに彼女は怒りに突き動かされていた。
 けれど、その怒りは、『強欲の姫・グリード』に向けられる以上にイフ自身へと受けられたものであった。

 あの人。
 愛おしいあの人。
『永劫回帰』を繰り返すあの人の姿が浮かんいる。そう、これは――|むごいこと《同じこと》を強いた自分への怒りでもあるのだ。
 イフはそう自覚する。
 自分自身への怒りが、己の足を前に進めさせる。強大な敵。言うまでもなく個としての力は及ばない。

 けれど、退いてはならぬと己の中の怒りが言う。
 空を舞う踊り手は、純白のワンピースを翻し、トゥシューズでもって大地を蹴る。空に舞う姿は大輪の白い花のようでもあり、また同時に夜空に煌めく星のようでもあったことだろう。
「無駄なことを。私の美しさを上回ることなどないのに。あの星だって私は落として、貶めてみせるというのに!」
「どうか、どうか、わたしに抱かせて」
 何をと思うだろう。
 愛しいあの人の思いを、あの人の記憶を。暖かな記憶を。それら全てが苦しみと悲しみだけではないことを知っている。
 苦しみと悲しみを内包するのが喜びであるというのならば。

 彼女が示す星の如き輝きは、その真理がゆえに。
 放つ誘導弾と風の刃をまとった蹴りが『強欲の姫・グリード』に迫る。けれど、それは防がれてしまうだろう。
「無駄! そんな無駄なことは美しくはないわ!」
 叩きつけられる蹴撃を受け止められる。
 傷一つ付けられない。
 けれど、それでいいのだ。
 泥の沼でもがくように生きてきた。けれど、咲く花々は泥の如き大地であっても美しく咲くのである。

「それは囮……さあ、おにいさん。今のうちに!」
 その言葉と共に『魂人』の青年が走る。繭の様に因われた『魂人』達、その最後の一人を青年が助け出す。
「これで最後だ。アンタの戦いは何一つ無駄ではなかった。無駄と罵った者の言葉は、何一つ正しくないことを証明してみせた。なら――」
「ええ、なら、この力は」
 イフは高く舞い上がる。
 華麗なる跳躍は、見る者に息を呑ませただろう。それほどまでに美しい。言葉はいらない。何一つ説明されることなく、その動きは如実に語るものであった。

「未来を切り開く為に……誰かの憂いをぬぐうために」
 きっとそのために自分たちの力はあるのだと、イフの瞳が超克に輝く。
 これまで踏みにじられてきた生命があった。
 どうしようもない悲しみと苦しみが襲いかかり、理不尽の前に生命をちらしてもなお、玩具の如き運命しか待ち受けていない。
 それがダークセイヴァー上層たる第三層に転生した『魂人』の定めなのだとしても。

「その手で、踏みにじられた他の人たちの分まで、『グリード』をやっつけてあげて!」
 放つ蹴撃。
 La Sylphide(ラ・シルフィード)は、此処に舞い、咲き誇る。
「その美しさを! 私は得るために! 永遠のように! 永久に続くものを! だから、私は他者から奪い続ける運命を持った選ばれた者なのよ!」
 その言葉に青年は告げる。
 端的な言葉であった。
「理由になってない」

 放つイフの一撃と青年の一撃が重なって『強欲の姫・グリード』を吹き飛ばす。
 死を否定する『永劫回帰』。
 されど、猟兵達が全ての『魂人』たちを繭から救い出したが故に、その力は最早『強欲の姫・グリード』には届かない。
「あ、あっ、あ、ぁ……死が、私に死が迫ってくる……! どうして、どうして! 私、こんな所で、終わるわけがないのに! どうして、否定できないの! 死を、私――!!!!!」

 絶叫が迸る。
 否定できぬ死。その逃れ得ぬ死を前に『強欲の姫・グリード』は涙し、取り乱し、もがくように手を伸ばしながら、自壊していく。
 砕け、霧消し、その美しさのかけらも残さぬまま、今此処に『闇の種族』の一人は滅びるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年08月27日


挿絵イラスト