炎と霧の間にあるもの
●炎の憧憬
炎は形を変える。
普遍にしてプロメテウスたる灰色の炎は揺らめき続けていた。
片時も同じ形はなく。
一度たりとて同じ形に戻ることはない。そして、水を含んだ大気が急激に冷やされ、霧へと変わる。
凍れる灰色の炎が揺らめいている。
それは邪神の一柱であった。
邪神でありながら、彼もしくは彼女は……いや、彼は思うのだ。
「私の炎は触れたもの全てを凍りつかせる。炎の名を持つプロメテウス。されど、燃やし尽くすのではなく、凍てつかせる」
その炎、『邪神・凍れる灰色の炎』の周囲に在る『邪神封印柱』は彼の凍てつく炎に寄って成されたものである。
どうして自身がそれらを封印したのかはわからない。
理由さえ思い出せぬ理由があったのだろうが、今の彼にとってそれはどうでもいいことであった。
「これは力。だが、私が知りたいのはそういうことではない。あの煌めきを私は知りたい」
彼が見やるのはUDCアースの遍く地表に点在する生命であった。
動物。
いや、人間だ。
なぜだか、どうしようもなく、その生命の煌めきに心惹かれてしまうのだ。
満天の星のように点在する生命。
人の生命。
人間。
「ああ、どうしてだろうか。私は『人間になりたい』。どうすれば私が人間になれるのか、私の中の叡智は教えてはくれない。ああ、この渇望こそが願いそのもの」
彼は呻くようにして揺らめく炎の体の中で決して知り得ぬ物を今、得たのだ。
苦しみだ。
彼自身は強大な力を持つ邪神である。
彼が封印した邪神封印柱の中には、彼自身よりも強大な存在さえいる。だが、彼等を封じてもなお、彼の心には満ちるものばかりであった。
欠けることのない心があった。
「だが、私は人間を知ってしまった。不完全で愚かしく、どうしようもない存在。それに私はどうしてもなりたい。満ち足りるを知ったのだから、満ちたらぬことを知りたいのだ」
彼は手を伸ばす。
あの生命の煌めき。あのように生きてみたい。生きて、生きて、そして懸命に死にたいと願うのだ。
ならばと彼の叡智は『人間になる方法』を模索する。
人とはなにか。
知らねばならない。観察し、実験し、こねくり回し、かき回し、その細胞の一粒全てにおいてまで審らかにしなければならないのだ――。
●霧の中の危機
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はUDCアースにおいてUDC怪物『邪神・凍れる灰色の炎』が確認されました」
ナイアルテの示した情報は恐るべきものであった。
彼女が予知したのはUDC怪物である『邪神・凍れる灰色の炎』が『人間になりたい』と願い、その実現のために配下である『パープル・フリンジ』と呼ばれる怪物を放ち、儀式のために人間をさらおうとしているのである。
「どうして『邪神・凍れる灰色の炎』が『人間になりたい』と願ったのか、その理由はわかりません。ですが、おそらく彼の言うところの『人間になる方法』とは、狂気と妄想の産物でしかなく、その儀式を通じて彼が人間になることは有りえません」
きっぱりと告げるナイアルテ。
となればやることは一つである。
一般人が犠牲になることがわかっているのならば、人々が攫われ儀式の犠牲となる前にUDC怪物である『邪神・凍れる灰色の炎』に引導を渡すことである。
「『パープル・フリンジ』は体調1mほどの怪物です。『邪神・凍れる灰色の炎』の配下であり、その命令ゆえに人を殺すことはしていませんが、そもそも彼等に一般人が攫われれば、末路は同じこととなるでしょう。数が多い上に、彼等が襲う街は今、深い霧に包まれており、視界が大きく制限されています」
怪物から人々を守らなければならない。
けれど、視界は悪く敵がどこから襲ってくるのかもわからないというのだ。とは言え、こればかりは現地に赴いた猟兵たちに頼らざるを得ない。
現地で判断し、行動し対処するしかないのだ。
「『パープル・フリンジ』たちがあふれかえる場所が、おそらく『邪神・凍れる灰色の炎』の巣窟であると思われます。霧の中からこれを探し出し、突入する必要があるでしょう」
街中にUDC怪物の巣窟が在るというのは異常事態だ。
これまでUDC組織にすら捕捉されていない所を察するに、敵は霧に紛れて巣窟への場所を巧妙に隠し、また妨害する術を持っているのかもしれない。
霧中を進み、本拠を暴き出さねばならない。
「『邪神・凍れる灰色の炎』は言うまでもなく強大なUDC怪物です。人間に憧れ、人間になりたがる理由はわからないのですが、それでもその憧憬は本物であるように思えます。人を知ろうとする術は狂気に満ちていますが、純粋さとは何処か狂気に通じるものがあるように、彼もまた偽りを持たぬ存在……」
それは少し哀しいものですね、とナイアルテは浅く微笑むしかなかった。
理解したいと願いながら、真に理解できぬ存在。
それが『邪神・凍れる灰色の炎』。
人によって造られた存在である自身と分かつのは一体何であったのか。
彼女自身も答えを出しあぐねているのかも知れない。
「ですが、放置すれば多くの人々が得られぬ答え、そのために殺され続けてしまうでしょう。どうかお願いいたします」
彼女は頭を下げ猟兵たちを送り出す。
相容れぬ者同士。
されど、理解したいと願う心に偽りはなく。それでもなお滅ぼさねばならぬ敵と猟兵たちは相対するのだ――。
海鶴
マスターの海鶴です。
今回はUDCアースにて強化された予知、『グリモアエフェクト』によって見いだされた『大いなる危機』、その一つである『人間になりたい』と願うUDC怪物に引導を渡すシナリオとなっております。
●第一章
集団戦です。
霧が立ち込める市街地に放たれた『パープル・フリンジ』が『人間になるための儀式』の素材として一般人をさらい集めるように命令されています。
皆さんは、この現場に急行し霧の中から人々を襲おうとしている『パープル・フリンジ』を駆逐しましょう。
●第二章
冒険です。
『パープル・フリンジ』を撃破していくと、どうやら霧の中の市街地の何処かに『邪神・凍れる灰色の炎』の本拠があることに皆さんは気がつくでしょう。
これを突き止めるために霧の中に潜む認識阻害の術式や、隠された道を見つけ出さなければなりません。
どれもが巧妙に隠されており、何かしらの術が必要となるでしょう。
●第三章
ボス戦です。
人間に憧れ、人間になりたがり、けれど決して『人間とは何か』を理解できない『邪神・凍れる灰色の炎』との戦いとなります。
『邪神・凍れる灰色の炎』は強大なUDC怪物です。
倫理観や死生観はどれもが皆さんと相容れぬものでしょう。
けれど、それでも『人間になりたい』という願い、憧憬だけは偽りなく本物です。答えが決して出ることのない戦いとなるでしょう。
堂々巡りにもなるでしょうし、互いに譲れぬと理解することしかできないかもしれません。
これを打倒し、決してたどり着けない『人間になりたい』という願いのために散らされるかもしれなかった人々を救いましょう。
それでは、UDCアースにおいて『人間になりたがる』UDC怪物に引導を渡す皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『パープル・フリンジ』
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POW : 狩り
【視線】を向けた対象に、【群れ】が群がり【鋭い牙】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 存在しえない紫
対象の攻撃を軽減する【位相をずらした霞のような姿】に変身しつつ、【不意打ち】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 「「「ゲッゲッゲッゲッゲッ」」」
【不気味な鳴き声】を発し、群れの中で【それ】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
イラスト:オペラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『邪神・凍れる灰色の炎』は揺らめく体のままに配下であるUDC怪物『パープル・フリンジ』たちに命じる。
「人を、人間を。多く。より多くの種類を集めてくるのだ。性差、年齢、人種。少しでも違っていたのならば、それが捕獲対象だ。殺してはならない。相違があるのならば、その全てを連れてこい。私が多くを理解するために。多くの人間を知るために。そして、私自身が『人間になる』ために」
その言葉に『パープル・フリンジ』たちは奇妙な鳴き声で答える。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
体長1mほどの怪物たちの頭にあったのは、人間を狩り、腹を満たすことだけであった。
けれど、上位存在である『邪神・凍れる灰色の炎』の命令は絶対であった。
彼は触れたもの全てを凍結し封印する力を持っている。
確実に彼よりも強大な存在である邪神すら封じるのならば、その圧倒的な力を晒されれば、『パープル・フリンジ』など数の内にすら入らないように凍結されてしまうだろう。
本能的な恐怖に突き動かされて『パープル・フリンジ』たちは霧中の市街地へと飛び出していく。
濃く白い霧が満ちている。
ビルも、何かもが濃霧の中に消えていく。
こんな時にあってさえ、人間は不本意なる勤勉さでもって道を歩いている。彼等の羽音すら気にする余裕はなく、ただ今を生きることだけに懸命であった。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
「……? なんだ、今妙な音が聞こえなかったか?」
「いや? いいから早く行くぞ。ただでさえこの濃霧で電車止まってるんだから。少しで早く行かないと」
『パープル・フリンジ』たちは人間というものに興味がない。
彼等が何に急いでいるのかもわからない。
でも、それでいいのだ。何せ、目の前の彼等は『パープル・フリンジ』にとって、ただ捕食するための肉でしかないのだ。
よだれを垂らし、空腹にあえぐようにしながら、濃霧の中を静かに飛び、人々を攫おうとしている――。
村崎・ゆかり
|紫《パープル》ね。こんなガラクタの名前に使われてると思うと、気分が悪いわ。
アヤメ、羅睺。あたしの死角をフォローしてね。あたしも黒鴉の式を打って、なるべく全域を把握するけど、万が一があるから。
あたしも「式神使い」で『鎧装豪腕』を呼び出して、「盾受け」でしのぐから。
街中故に十絶陣は無し。雷撃もちょっと難しい。となると、久し振りに使いますか。
「全力魔法」炎の「属性攻撃」「衝撃波」で不動明王火界咒。
一体ずつ討滅していく感覚は久し振りね。怪物たちを確実に討滅しながら、ゆっくりと先へ進む。
式たちがあれを見つければ、そちらへも火界咒を放って。
霧に覆われた街。観光で来たならさぞ楽しかったでしょうに。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
奇妙な音が濃霧の中から聞こえる。
けれど、人々は気にもとめない。多少の違和感だというのならば、日々の喧騒の中に紛れていくものである。
これだけの濃霧が発生すれば交通機関は麻痺する。
日々の糧を得るために、濃霧程度では彼等は止まらない。その勤勉さは時として賛辞されるべきものであったけれど、今は違う。
明らかな違和感。
その源はUDC怪物。
『パープル・フリンジ』と呼ばれた異形の怪物が鳴らす音であった。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
「|紫《パープル》ね」
村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)はその音に忌々しげな顔をする。彼女にとって紫という色は特別なものであったし、思い入れの在るものであったのだろう。
濃霧の中にまぎれて飛ぶUDC怪物の影は認められても、その全容を捕捉することは難しかった。
気分が悪い。
ただその一点につきる。
「アヤメ、羅喉、あたしの死角をフォローしてね」
ゆかりが放つは黒鴉の式神。
けれど、それは即座にUDC怪物によって引きちぎられてしまう。集団という点において、この濃霧の中では『パープル・フリンジ』の方に軍配が上がるだろう。
式神である『鎧装豪腕』を呼び出した瞬間、ゆかりの眼前に現れたのは『パープル・フリンジ』の牙であった。
視線を向けられた、と理解するよりも早く『鎧装豪腕』が牙の一撃を受け止めるのだ。
「……ッ! アヤメ!」
「こちらも! 敵は視えているようです」
ゆかりたちは包囲されている。
敵にとって猟兵も人間も得物に変わりない。ゆかりは市街地故に多くのユーベルコードを封じられているも同然であった。
威力が高すぎても街への被害が及ぶ。
UDC怪物たちにとっては取るに足らない障害であったとしても猟兵としてのゆかりはそうではない。
十絶陣や雷撃も使えない。
となれば、と彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
「となると、久しぶりに使いますか。ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
その手にした白紙のトランプがばらまかれる。
『鎧装豪腕』にかじりつくように迫る異形の怪物に白紙のトランプが張り付き、その体が炎に包まれる。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!?」
「不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)。不浄を灼く炎は消えはしないわよ」
ゆかりはアヤメや羅喉が自分の死角をフォローしてはくれてはいるものの、この濃霧の中では立ち回ることが難しいことを承知していた。
だからこそ、ばらまいた炎が一気に濃霧を晴らしていく。
冷却されることに寄って大気の水分が結露するのが霧だ。ならば炎に寄って乾燥させてしまえばいい。
「霧に覆われた街。観光で来たならさぞ楽しかったでしょうに」
ゆかりにとって濃霧に包まれた街とは、そういうものだ。
非日常。
現実の中に生まれた日常とは異なる時間。
それを楽しむことができるのもまた彼女の特権であったことだろう。だが、今は違う。
この濃霧にまぎれて飛ぶUDC怪物たちから人々を守らねばならない。
「確実に討滅しながら進みましょう。敵の巣窟が何処にあるにせよ、この怪物たちを放置はしておけないわ――」
大成功
🔵🔵🔵
真木・蘇芳
アドリブ協力OK
小蝿がうじゃうじゃと、ったくたしかに始末屋だが害虫駆除は勘定に入れてねぇぞ
煙草を吸いながら愚痴る、まあいい片っ端から潰す
ぶんぶん煩い上に品のねぇ声で鳴く
飛んでいるからさぞ俺に寄らなければ勝てる
そう履んでるな、すまねぇ推進力と空中戦闘で実際少し飛べるんだわ
浅知恵ご苦労だったなぁ蝿
拳は敵を倒せば倒す程威力が上がる
お前等が集団戦をする事で、このUCは破壊的な力を持つんだよ
数が仇になったな間抜け
感情を弾倉に込めて打ち込む拳は赤熱する
濃霧の中に羽音と奇妙な音が響き渡る。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
何かを打ち鳴らすようでもあり、また痰がからむ喉を鳴らすような音でもあった。
どちらにせよ、不快きわまりない音であることに変わりはないだろう。
少なくとも、真木・蘇芳(Verrater・f04899)にとってはそうであった。
白霧の向こう側に影が飛ぶ。
それを認めて、蘇芳は赤い髪を揺らす。
「小蝿がうじゃうちゃと」
濃霧で視認性が難しい上に、奇怪な音を経てて飛ぶUDC怪物『パープル・フリンジ』は位相をずらしたかのような靄と共に己の存在の認識を難しくさせていた。
厄介な、と思うのも当然であろう。
「ったく確かに始末やだが、害虫駆除は勘定に入ってねぇぞ」
加えた煙草の先に火が灯される。
くゆる煙。
ゆらめくそれを見やりながら愚痴をこぼしてしまう。蘇芳にとって面倒事、厄介事というのは、掃除と同じなのだろう。
やらなければならないが、楽しいと思えないもの。
「ぶんぶん煩い上に品のねぇ声で鳴く」
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
自分の周囲を飛び回る『パープル・フリンジ』。それは得物を見定めているようでも有り、またオブリビオンであるがゆえにこちらを敵と認識もしているようである。
彼等の上位存在は人間を攫ってこいといった。
ならば、これは違う。
喰ってもいいものだと理解したのだろう。
だからこそ、集団で仕留める。
囲い、取り囲み、一斉に牙を突き立て、その血肉を吸い上げる。赤き髪よりも赤い血をすすることに彼等の空腹はさらに凶悪さを増していく。
「浅知恵ご苦労だったなぁ蝿」
蘇芳が軽く踵を打ち鳴らした瞬間、彼女の体が空へと舞い上がる。
『パンツァーパトローネ』と呼ばれる拳を覆う手甲の如き武器が排莢し、弾丸を打ち出すことに寄って得られる推進力で彼女の体が空に向かって打ち出されるのだ。
何ものも打ち砕く意志。
そして、彼女の拳たる戦車への鉄拳(パンツァーファウスト)の一撃が『パープル・フリンジ』の眼前に迫る。
単眼の奇妙な体躯。
それを見定め蘇芳は拳を打ち込む。
弾丸を推進剤としての飛翔と拳の一撃は、『パープル・フリンジ』の頭部を叩き潰しながら地面に叩きつける。
「排撃の――」
さらに蘇芳の体が空中でぐるりと回る。拳の一撃をさらに推進力に変えて、迫る『パープル・フリンジ』を捉える。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!!」
「――パンツァーファウスト!!」
叩きつける拳の一撃。
華麗なる空中線であったことだろう。赤い髪がひるがえるたびに大地に叩きつけ荒れる怪物たちの体は醜くひしゃげる。
止まらない。
拳を打ち込むたびに体は翻り、威力をまして乱打のように怪物たちを穿つ。一撃、一撃、重なっていくたびに砕ける怪物の体のいびつさはましていく。
「数が仇となったな間抜け」
拳に込める感情の色は赤熱。
赤く燃える感情と共に蘇芳は拳を叩きつけ続け、濃霧の中弾丸を打ち出す音と肉がひしゃげる音を響かせる。
人々は見たかも知れない。
その音の中心にひるがえる赤い髪のたなびくを――。
大成功
🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
いや人間になりたいのにそんな非人道ルートから始めるってやる気あるんすか
……まあ「そんな事すら解ってない」って事なんだろうけど
さて。これもいつものお仕事っすね
スカートの中から足元へと漆黒の粘液状UDC「暗く昏い黒い沼」を滴らせ広げて迎撃態勢
離れた相手には銃からワイヤー射出、絡めてから通電して墜とし、
接近してきた相手には足元から「沼」の触腕を出して武器(?)受けしそのまま捕縛して対応するっすよ
で、地面に墜とした奴とか捕縛した相手をそのまま沼の中に引き込んで処理しつつUCを
さっき引きずり込んで処理した奴から得た因子を基に粘液状のUDCの一部を変化模倣させ、あいつらと同じUCを使い“狩って”いくっすよ
『人間になりたい』
その言葉だけを聞くのならば、人間に有効的なUDC怪物のように思えたことだろう。
けれど、かのUDC怪物『邪神・凍れる灰色の炎』のとった行動は非人道的と言われてもしかたのない手段であった。
人を晒し、その粒さを観察する。分解し、解きほぐし、審らかにする。
異なる全て。
相違の全てを明らかにし、そして、然る後に理解する。
生命という大前提すら彼にはない。
あるのはただ理解したいという欲求を満たすためだけの願いだけだ。
「いや人間になりたいのにそんなんで、やる気あるんすか」
黒沼・藍亜(人■のUDCエージェント・f26067)はUDC怪物の取った手段に呆れ果てるしかなかった。
価値観も倫理観も死生観すらも異なる相手に理解を求めるのは、端から無理であったのかも知れない。
彼女にとって『邪神・凍れる灰色の炎』は、『そんなことすら解ってない』相手であると断定する。そう理解するには十分過ぎる。
目の前の市街地は濃霧に包まれている。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
奇怪な音が響き、濃霧の向こう側を忙しくなく飛んでいるのだ。
それだけ奇妙な現象が起こっていたとしても、人々は日々の糧を得るために、ルーティンワークの如き日常に没頭する。
たとえ、今まさに自身がUDC怪物『パープル・フリンジ』に恐れるのだとしても、彼らはきっと顔を上げないだろう。
だが藍亜にとっては仕事のやりやすい環境であった。
彼女のスカートの中から漆黒の粘液状の何かがどろりと滴り落ちる。
それはUDC。
UDC組織に登録されている名を『昏く暗い黒い沼』。
異界の門にして異形の母体、滴る粘液たるそれが、沼のように広がり濃霧の中に飛ぶ『パープル・フリンジ』を捉え引きずり込む。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!?」
己の体を捉えた触腕。
それはどうもがいても振り切れぬものであったことに驚愕しただろう。だが、その驚愕すらもはや遅い。
もがいても、もがいても、藍亜の足元の沼から放たれた触腕は『パープル・フリンジ』を逃さない。
引きずり込む沼の中でもがくような音が聞こえたが、それももう聞こえない。
「ワイヤーガンで絡めて落とすまでもなかったっすね」
藍亜の漆黒の瞳がユーベルコードに煌めく。
実り絶え、果てに孕め(ミノリタエハテニハラメ)と体の、胎の奥底から響くような声が聞こえた気がした。
同じ食べる行為であったとしても、それは藍亜の生命を活かすためのものではない。新たな生命ですらない。
ただ、食べたものの模倣そのもの。
捕食された『パープル・フリンジ』そのものたる残骸のような模倣物が沼より這い出し、飛び出していく。
彼女の沼は引きずり込んで『処理』したものから得た因子を基に沼から模造物を吐き出す。
吐き出された模造物は嘗て『パープル・フリンジ』と呼ばれたものであり、その怪物の使う力すら模倣する。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
奇怪な音を響かせる怪物が足元の沼より這い出し続ける。
それらを見る藍亜の瞳は漆黒のままである。
ただUDC怪物を処理するいつものお仕事。ただその断片でしか無い。
「捕食ですらないっす。ただ“狩って”いくっすよ」
藍亜の言葉と共に次々と沼より這い出す模倣物たちが白霧の向こうで、奇怪な音を響かせ続ける。
反響し、砕け、落ちる音。
だが、日常に生きる人々は、この非日常を濃霧の向こう側に置き去りにし、ただ己たちの変わらぬ日々を生きる。
藍亜にとって、それは如何なる意味を持つのだろうか。
白き隔て理の向こう側で藍亜は滴り落ちる黒き粘液から飛び出す触腕と共に、人の目すら届かぬ濃霧の奥に進むのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第四『不動なる者』盾&まとめ役武士
一人称:わし 質実剛健古風
武器:黒曜山
ふむ、連れ去られるわけにはいかぬな。
守るは我が領域であるが。さて…深い霧なのよな。
が、わしには関係ない。黒曜山にて未来視が可能であるしな…UCは置き斬撃であるから、向こうから勝手に範囲に入る。
それに…わしに噛みつこうとしてもだな、内部三人が四天霊障にて援護してくれておるから…牙を砕き、潰してくれるのよ。
はは、『我ら』は一人にあらず。
…なんか内部の一人(『疾き者』)が純粋ゆえに残酷にもなれる、といっておるが。
まあ、たしかにな…。恐れがないともいえるからな…。
白い霧の中に沈む市街地に奇怪な音が響き渡る。
だが、人々は気が付かない。
気づいているのかもしれないが、それよりも優先されるべき日常があるのだ。それを愚かしいものであると言うつもりはない。
人にとって見たいもの、聞きたいもの、それだけが現実であるからだ。
そこに貴賤はない。
彼等は現実という日常を生きている。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
UDC怪物『パープル・フリンジ』の鳴き声が響く。
羽音が人々の頭上にあり、彼等を獲物として狙っているのだ。彼等の上位存在である『邪神・凍れる灰色の炎』は彼等の生命を奪うことを禁じていた。
人を知るために、人を分解するためだ。
死んでいては意味がない。彼が『人間になりたい』と願った結果、その生命が失われるのだとしても、彼にとっては意味のないことであった。
そこに倫理も何もない。
あるのは願いだけだ。
「ふむ、連れ去られるわけにはいかぬな」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は白い霧の中から人々を襲わんとしていた『パープル・フリンジ』へと迫る。
こちらから彼等の姿は視認できない。
けれど、あちらからはそうではないだろう。確実にこちらを見ている。視線を感じるのだ。
それも一つではない。
無数の視線が『不動なる者』の肌に突き刺さる。
「数は無数……だが、守るは我が領域である」
その手にした未来を写す漆黒の剣が煌めく。
四天境地・山(シテンキョウチ・ヤマ)。振るう斬撃は空を斬る。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
その空を切る斬撃に『パープル・フリンジ』たちは笑うように鳴く。
猟兵と言えど、こちらの存在を視認できていないのならば攻撃など届けることもできない。空を斬る剣。
彼等は一斉に『不動なる者』に襲いかかる。
その牙で、爪で、その血肉を引き裂きすすろうとしているのだ。だが、霊障がそれを阻む。
内部に在りし、三柱が『不動なる者』を援護してくれるのだ。
牙が砕け、潰れていく。
「はは、『我ら』は一人にあらず。そして、我が斬撃は未来への斬撃ゆえ」
彼に組み付こうとして霊障に阻まれた『パープル・フリンジ』たちが不可視の斬撃によって切り裂かれる。
一体何が起こったのか理解もできなかっただろう。
確かに『不動なる者』は何もしていない。けれど、その斬撃は未来への一撃。
空を切っていたのは、斬撃をその場に置くためである。
敵である『パープル・フリンジ』たちは、未来に放ち、置いた斬撃に寄って切り裂かれたのだ。
「純粋故に残酷にもなれる……」
内なる者の言葉に『不動なる者』はうなずく。
切り裂かれ、地面に落ちていく『パープル・フリンジ』たちの屍を越えて進む。
確かに、と思うだろう。
純粋であるということは恐れがないとうことでもある。
過ちを犯すかもしれないという恐れさえなければ、どこまでも自分の本位によって動く事ができる。
『邪神・凍れる灰色の炎』はそうした存在であるように彼等には感じられただろう。
それが正しくとも間違っていようとも、その存在を許してはおけない。
放置すれば数多の生命が無為なるままに散ることになる。
なんとしても防がねばならない。
『不動なる者』は霧の中を進む。
この奥にこそ、此度の事件の元凶が在るというのならば、その所在を突き止めなければならないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
ヒトという動物は一括りにするには
個体毎の変異が細分化されすぎているね
異種族である邪神が只眺めただけでは
同定で躓くのも無理はないだろう
霧に身を隠して待ち伏せを狙おうかな
敵の鳴き声や羽音に耳を澄まし
UCで標本針を投擲
串刺しにして先制で一撃必殺を狙う
撃ち漏らして霞化された時は
逃走して別個体を倒しながら寿命切れを待つよ
皆出社できたかな
僕もヒトの顔の判別は不得手だ
多数のサンプルから共通点を見出し
言語化を試みて自分なりの落とし所を見出す
膨大な時間をかけ観察眼を養う事で
漸く僕らは『ヒト』の視点に近づける
研究者としては真っ当な姿勢だし
好奇心に罪はないけれど
出勤を妨害するのは良くないよ
ヒトには重要な習性だからね
「ヒトという動物をひとくくりにするには、個体毎の変異が細分化されすぎているね」
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、『人間になりたい』と願うUDC怪物『邪神・凍れる灰色の炎』の引き起こそうとしている事件の解決にUDCアースへと赴いていた。
市街地は深い霧に沈んでいる。
人々は現実を生きている。
どれだけ白い霧に街が包まれていたとしても、日々の生活を止めない。止めようがないのだ。
異常な気象であることに疑いはない。
けれど、彼等は街中を歩む。日々の糧を得るために、構わずに歩く。それを愚直と呼ぶことはあまりに短慮であったのかもしれない。
「異種族である邪神がただ眺めただけでは同定で躓くのも無理はないだろう」
霧中を道行く人々ですら、UDC怪物は異なる存在として認識てしまうだろう。
間違ってはいない。
けれど、章はそれが正しくないことを知っている。
人間という動物。
それが如何なる存在であるのかを知りたいと願う心があればこそ、その最初のくぼみにUDC怪物は足を取られ、足を取られたことすら理解できぬままに全ての人間を違う種族として差異を埋めようとして『理解できない』ことを理解できぬままに鏖殺の道に走る。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
奇怪な音が章の思索を切り裂く。
『パープル・フリンジ』が白い霧の中を飛んでいる。
自分たちの獲物ではなく、上位存在からの命令によって人々を捉えようとしているのだ。
章は霧の中に身を隠し、羽音を響かせる『パープル・フリンジ』に標本針を放つ。
その針の一撃は早業でもって一斉に彼等の急所を貫く。
万有引力(バンユウインリョク)が全ての存在に与えられるものならば、彼等が大地に失墜するのは当然の帰結であったことだろう。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ?!」
彼等は気がついただろう。
この霧中に在りて獲物を狙っているのが自分たちだけではないことを。そして、自分たちもまた地上にありし人間と同じ様に狙われていることを。
「皆出社できたかな」
章は道行く人々の顔を覚えられない。
判別ができないというより、苦手なのだ。
人間とは何か。
己の中にある柔らかく不定形なものを言葉という形に変えていく。
それがどんなに愚かしいことかを人は知るだろうし、知らないままに死ぬかもしれない。
永遠にも似た思索の果てに何が待ち受けるのかを悟ることもできないかもしれない。
章もまた『邪神・凍れる灰色の炎』と同じなのかもしれない。
もしも、相違点があるのならば、章は多数のサンプルから共通点を見出すところにある。
邪神は相違点から理解しようとしている。
章は共通点から自分なりの落とし所を見出すのだ。
どちらも膨大な時間がかかる。
「研究者としてまっとうな姿勢だし、好奇心に罪はないけれど」
それでようやくにして彼等は『ヒト』の視点に近づける。
観察だけしていればよかったのだ。
見ているだけで良かったはずなのだ。
なまじ、自分との相違を理解できてしまったことが不幸であり、幸いであったのかもしれない。
違うからこそ、そうありたいと願う。
欠落しているからこそ、欲する。
「でもね、出勤を妨害するのは良くないよ」
それはヒトにとって重要な習性であるのだからと、章はつぶやく。
その呟きが届くかはわからない。
理解されるかもわからない。決して相容れぬ存在として相対するだけかもしれない。
どちらにせよ、章は猟兵である。
共感の後に理解が及ぶのだとしても、滅ぼし、滅ぼされる間柄という大前提が現実の前に横たわる――。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
人間になりたい、ですか。その言葉に私はどこか同意してしまいそうになる。
人でありたかった。人として生きたかった。私の中で、でも遠くでそういう声がする。
視線を向けられたのならすぐさま鳴神を投擲しいずれかの一匹に攻撃をしましょう。あたったらそのまま周辺の数匹を巻き込むように竜王さんの雷撃を。それでもなお向かってくるものは青月を抜いて迎え打ちましょう。
あの人も、過去の私も人として生きて死にたかったのかしら。
でもそれでも誰かを犠牲にしてまで叶えたかったわけじゃないと思います。
ただそうありたかっただけじゃないかしら。
憧憬は止められない。
どんな理屈をつけようとも、どんな障害があろうとも、それらに憧れ、それになろうとするのを止められない。
もしも、それを止められるものがあるのならば、諦観だけだろう。
諦めはヒトにはつきものである。
ともすれば絶望の象徴の如き言葉であっただろう。
諦めこそが人の歩みを止める。
「人間になりたい、ですか」
夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は、その言葉に同意してしまいそうになる。
人でありたかった。
人として生きたかった。
彼女の中で、けれど自分から最も遠い場所でそう言う声がするような気がしたのだ。
白い霧は深い。
日常の中にある非日常の全てを覆い隠すかのような濃霧の中に奇怪な音が響き渡る。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
UDC怪物『パープル・フリンジ』の発する音。
羽音と鳴き声のような奇妙な音は確かに日常に生きる者たちにも届いているだろう。けれど、彼等は明日も続くはずの一日の轍を刻むことだけに集中している。
それが良いことか、悪い子とかを藍は判別できなかったかもしれない。
「あの人も」
彼女は自身に視線を向けた『パープル・フリンジ』とかち合う瞳で見据え、手にした黒い三鈷剣をすぐさま投擲する。
放つ一撃は『パープル・フリンジ』の一匹の単眼を貫き、その体を地面に叩きつける。
さらに彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
彼女の中には今は稲妻煌めくユーベルコードよりも、思索が満ちていたことだろう。
過去の己も、人として生きて死にたかったのだろうかと思うのだ。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!?」
「でも、それでも誰かを犠牲にしてまで叶えたかったわけじゃない」
それだけは確信できる。
藍にとって、それはそういう願いであったのだ。
諦観ではないものが己を止めたのならば、それこそが人たらしめるものであったことだろう。
竜王招来(リュウオウショウライ)によって召喚された嵐の王たる竜王の咆哮が轟く。
それは雷鳴と雷撃。
白い霧の中に響き渡る突然の轟音に人々は肩をすくませ、また空を見上げる。
濃霧の向こう側に揺らめく影を見たかも知れない。
けれど、人々の足を止めるに値しない。
ただ、その歩幅を広く、そして足早にさせるのみ。
だが、それでいいのだ。
濃霧の向こう側は非日常。
ならば、その非日常と日常が交わることを藍は防ぐために戦う。誰かを犠牲にして叶える願いに意味など無い。
ただそうありたいと願ったからこそ、藍はほのかに青白い激高を放つ刀を抜き払い、白霧の中に駆け出していく。
かつての己が願ったこと。
諦めたこと。
捨てたこと。
その全てが今の自分を突き動かすのならば、彼女はためらうことはないだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
霞・沙夜
【路子さんf37031)と】
狂気を伴うほどの憧憬……。
人なんてそこまで憧れるほどではない、と思ってしまうのだけど、
でも、わたしの好きな人たちのことだと考えれば、少しは理解できるかな。
……って、わたしたちは猟兵だから、もともと埒外ね。
なににせよ一般の人たちに犠牲を出すわけにはいかないわね。
霧に隠れた相手は厄介だけど、
路子さんがなんとかしてくれるみたいだから、わたしは虫担当ね。
ええ、わかったわ。
任されるわね。
霧をなんとかしてもらったら、
そのあとに残っている敵や、襲ってくる敵は、
わたしが【雑霊弾】で撃ち落としていくわね。
え?
路子さん、応援してくれるの?
んー……着替えてくれるならお願いしようかな。
遠野・路子
【沙夜(f35302)】と
シルバーレインから出るのも久しぶり
たまにはいいね
人間になりたい…という気持ちはわからなくはない
私も人間ではないからね
でもヒトを知るために暴力は必要ない
悲劇を起こす必要もない
悲しいすれ違いはここで終わらせよう
沙夜、いける?
霧は私がどうにかする
後はよろしく
霧も霞も雨の中ではその形を保てない
【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】
銀の雨があなた達を打ち、落とす
…とか思ったけど、甲虫類だと雨は弾かれるという
まぁ霧は打ち消せるし
霞になっても雨があたるなら場所は特定できるし
ダメージも無いわけじゃない
沙夜がんばって
私はミコと見学してる
チアが必要なら踊る
待って、着替え?
チア衣装は…実はある
人であるからこそ、人に失望する。
人ではないからこそ、人に希望を見出す。
両者の間に分かつものがあるのだとすれば、それは一体どのようなものであっただろうか。
少なくとも人間とゴーストという垣根は、銀の雨降る世界にあっては取り払われているように思えた。
シルバーレイン。
その一つの世界に生きた者たちは、UDCアースにおいて『人間になりたい』と願う『邪神・凍れる灰色の炎』の行動にどのように向き合うだろう。
狂気を伴うほどの憧憬。
「人なんてそこまで憧れるほどではない、と思ってしまうのだけど、でも――」
霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)は、吐き出した言葉を否定する。
自分が好ましいと思う者たちもまた、憧れるほどのものではなかったのかと。
そんなことは無いはずだ。
あの死と隣り合わせの青春の日々。
その中で得たのは、失望だけではけっしてなかったはずだ。
ならば、紗夜は幾ばくかは『邪神・凍れる灰色の炎』の言うことを少しは理解できたのかもしれない。
「私も人間ではないからね」
わからなくもない、と遠野・路子(悪路王の娘・f37031)は言う。彼女は新世代のゴーストである。
人間ではない。
人の世俗に触れ、人に満ちた世界を歩む者である。
彼女の路に幸いがあればと願う者に寄って彼女は今も人と共に歩んでいる。
「でもヒトを知るために暴力は必要ない。悲劇を起こす必要もない」
「……って、わたしたちは猟兵だから、もともと埒外ね」
路子の言葉に紗夜は自身達が猟兵として覚醒したことで得たものを実感するだろう。
世界をまたぐ力。
それは確かに生命の埒外と呼ぶに相応しいものであったことだろう。
だからこそ間に合う手もあるのだ。
「何にせよ、一般の人たちに犠牲を出すわけにはいかないわね」
「哀しいすれ違いは此処で終わらせよう。紗夜、いける?」
「霧に隠れた敵がやっかいだけど」
白い霧が市街地に満ちている。濃霧は日常と非日常を覆い隠しているように思えたかもしれない。
『ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ』と奇妙な音が響く。
それがUDC怪物『パープル・フリンジ』の放つ音であり、彼等が人間を攫おうと狙う音でも合った。
霧の中から襲いくる怪物から人々を守るのは至難の技であったかもしれない。
けれど、路子の瞳がユーベルコードに輝き、戦場となった霧中の市街地に銀色の雨を降り注ぐ。
いや、違う。万色の稲妻が『パープル・フリンジ』たちの体に落ちる。たとえ、姿が視えなくても、このヘブンリィ・シルバー・ストームの中に在る限り敵味方の判別はつくのだ。
放つ稲妻は違わず『パープル・フリンジ』たちを貫き、その体躯を地面に叩きつける。
「後はよろしく。紗夜がんばって」
路子は自身の仕事をした、とミニチュア視肉と共に応援する。その姿に紗夜は微笑ましいものを感じてしまう。
「ええ、わかったわ。任されるわね」
万色の稲妻が打ち据える『パープル・フリンジ』に視線を据えて、紗夜の指先がユーベルコードの輝きを灯す。
雑霊弾(ザツレイダン)。
周囲の残留思念を集め、弾丸として打ち出す。
万色の稲妻に打たれた『パープル・フリンジ』たちは次々と、その弾丸に撃ち抜かれ動きを止める。
イージーな戦いだと思っただろう。
ただ、数が多い。
未だ人々を襲おうとしているUDC怪物は絶えず。何処からか湧き出してきていることは明白だ。
この元凶を突き止めねば、もぐらたたきもいいところだ。
「ふれーふれー」
応援といえばチアガール。チアガールと言えばチア衣装。
路子は世俗に触れて、いろいろなものを学んでいる。こうしたらがんばれる。人との接し方はそれぞれである。
路子のように人にとっての平和的なアプローチだってあるのだ。
「応援してくれるの? ありがとう、でも……」
紗夜はなんとも否定しづらいと思ったかも知れない。
せっかく着替えてくれたのだから、それを止めることもないだろう。
自分の役割を終えてぽんぽんを手に軽快に踊る路子の姿を背に紗夜は雑霊弾を打ちながら、できれば応援だけじゃなく元凶の湧き出す場所を特定してほしいなと思わないでもなかった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐伯・晶
邪神って一体なんなんだろう
未だによくわからないね
邪神の仔みたいに人間として生きているのもいるし
UDCでもUDC-Pやシャーマンゴーストみたいに
人間と共に歩めるものもいる
分霊はこの辺り話す気なさそうだし
本体はそもそも何考えてるのかわからないし
一緒にいても理解できるとは限らないんだよなぁ
…それを言ったら人間も一緒か
まあ、今答えが出せる問題でもないし
目の前のを何とかしようか
幸か不幸か倒す事を悩むようなのでは無さそうだし
群れで襲ってくるなら全部撃ち落せばいい
火力は正義だよね
ガトリングガンの範囲攻撃で攻撃しよう
霧が面倒を隠してくれるのはありがたいね
万が一見られるような事があったら
職員さん達に対処を頼むよ
『邪神・凍れる灰色の炎』は『人間になりたい』と願った。
その願い事態は善悪によって分かたれるものではない。
けれど、その手段が人の生命を奪うのならば、世界を滅ぼす願いであるというのならば、猟兵はそれを止めなければならない。
世界を守ること。
それが猟兵に課せられたたった一つの使命であるのだ。
だからこそ、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は己の体に融合した邪神を含め、『邪神・凍れる灰色の炎』に対して理解を深めることができなくなっていたことだろう。
理解したと思った瞬間に、自分の中にあったもの全てがひっくり返る。
付かず離れず。
もやもやとした掴めぬものをつかもうとしているような。
そんな思索の中に晶は常にいたのかもしれない。
「邪神の仔みたいに人間として生きているのもいるし、UDCでもUDC-Pやシャーマンズゴーストみたいに人間と共に歩めるものもいる」
白い霧に沈む市街地に潜むUDC怪物たちは、そうではない。
人を襲い、その血肉を啜り、貪ることだけに存在している者たちだ。
晶の中にある邪神は答えない。
解無き問いかけであるのかもしれないし、そもそも語るつもりもないのかもしれない。
分霊も本体も。
晶にとっては隣に在るものであったとしても、基本的に何を考えているのかわからない。共に合ってもなお理解できるとは限らない。
ただその事実だけを晶は長い時間を掛けて理解するに至ったのだ。
「……それを言ったら人間も一緒か」
ガトリングガンを構え、晶は己に視線を向けた『パープル・フリンジ』たちが霧中から自分めがけて飛んでくるのを見た。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!!」
一斉に無数の牙が自分に迫っている。
だが、晶の手にしたガトリングガンの砲身が回転する。
回転式多銃身機関銃全力稼働(スウィーピング・ファイア)によって放たれるガトリングガンの斉射は凄まじいものであった。
怪物たちが神秘の塊であるというのならば、これは鉄によって神秘を殺す技術の結晶である。
秒速にして数百は降らぬ速度で弾丸を撃ち放つ。
己に向かってくる者全てを討ち滅ぼしながら、晶は頭を振る。
「まあ、今答えが出せる問題でもないし、目の前のをなんとかしようか」
幸いか不幸か。
目の前の『パープル・フリンジ』たちは倒すことに悩むたぐいの存在ではない。人の血肉をすするだけの怪物。
ならば容赦など晶にはない。
霧の中であるからこそ、晶は盛大にガトリングガンを撃ち放つことができる。
面倒なことは霧が覆い隠してくれる。
人々はこの非日常に取り囲まれた日常を生きるのに精一杯だ。
「ま、見られたのなら職員さんたちに対処を頼もう」
戦うことだけに集中する。
問答は今することではない。人ではないものと人を分かつこと。その異議を問いかけることこそ、今は時間の無駄であった。
その間に失われるかもしれない生命と秤に掛けることすら必要としない。
晶はガトリングガンの砲身が回転し赤熱するのを見やりながら、この事件の元凶を求め、霧の中に消えるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
ゲッゲッゲッゲッッゲ!
これが最近流行りのミストシャワー?
ちがう?そっかー
●索敵【第六感】
あっち!
あとあっち!
それとこっち!でそっちも!
と[ドリルボール]くんたちを彼方此方に飛ばそう
ギャリンギャリン音を立てて引き寄せてもらって
そして群がってきたところで掘削刃の大回転!
粉砕し、破砕し、大爆砕!
そしてボク自身もドリルボールくんに群がってくる相手に『|神撃《ゴッドブロー》』をドーーーンッ!!
満ち足りるを知って欠けざるを欲すってやつだね
きっとそうなったらなったで次は逆になるんだろうけどねー
まーそれはよくあること!
それが無理だってこと、ちゃんと教えてあげないとね!
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!」
それは奇怪な音であったが、『パープル・フリンジ』の出す鳴き声ではなかった。
神性を模したのが人であるのならば、その喉が出せる音は人の声帯と同じであったのかもしれない。
白霧の中に佇むのはUDC怪物ではなく、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)であり、彼が奇怪な鳴き声を真似て発していたのだ。
けれど、それはあくまで真似である。
どうしたって、本物の『パープル・フリンジ』とは異なる。
「これが最近流行りのミストシャワー? 違う? そっかー」
濃霧に沈む市街地。
この夏の日にあっては珍しい光景である。気象条件を考えても白昼に発生するものではない。
この異常な気象。非日常にありても人は日常を泳ぐように街を往く。
それが勤勉さであるというのならば、どこか履き違えているようにも思えただろう。
けれど、ロニにとっては些細なことである。
彼が今しなければならないことは唯一。
「あっち! あとあっち! それとこっち! でそっちも!」
彼は自身が手繰る球体を飛ばし、掘削機の如き体表を持つ球体から発する音でもって『パープル・フリンジ』たちを引きつける。
かのUDC怪物たちは、視線を向けた対象に牙と数でもって襲いかかる。
だが、掘削機を模した球体は近づく全てを削り取り、粉砕し破砕する。
「ギャリンギャリンってね!」
ロニの瞳が白霧の中に煌めく。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ!?」
UDC怪物である『パープル・フリンジ』たちは驚愕しただろう。
たった一人の存在が、こうも容易く数で勝る己たちを屠る。空腹に耐えかねるように彼等は猟兵の血肉を求めていた。
けれど、ただの一匹ですら、その血の一滴すら得ることはできなかったのだ。
そんな空腹でよだれを撒き散らしながらも己に迫る者たちをロニは握りしめた拳で持って迎え撃つ。
球体に群がってきた『パープル・フリンジ』たちを一気に神撃(ゴッドブロー)で上空に吹き飛ばすのだ。
「満ち足りるを知って欠けざるを欲すってやつだね」
それが有史以来、人の営みとして刻まれてきたことである。
満ち足りることを知るからこそ、欠けていないものを求める。また逆を言えば、次は逆を欲する。
『邪神・凍れる灰色の炎』はきっと、その類なのだろう。
よくあることだとロニはうなずく。
『人間になりたい』
その願い事態は善悪で判別されるものではない。
邪神が求めるのは人間。
憧憬は過ちではない。人から見れば邪神は万能たる存在だろう。欠けざる者であったかもしれない。
けれど、欠けざる者が欠けた者になることはできない。
「それが無理だってこと、ちゃんと教えてあげないとね!」
ロニは白霧の中、何処に存在するかもわからぬ『邪神・凍れる灰色の炎』の巣窟を求めて市街地を往く。
UDC怪物がどれだけ群がろうとも、彼の道行きを阻むことはできない。
どれだけ数を誇り、溢れるようにして迫りくるのだとしても、止めることはできない。
なぜならばロニは神性であるからだ。
そうすると決めた以上、其処にためらいはなく。また変更もない。立ちふさがる者全てを薙ぎ払い、その拳でもってあらゆるものを吹き飛ばすのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『霧が晴れるまで』
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POW : 霧に隠れた事故を防ぐ
SPD : 霧に紛れる悪意を防ぐ
WIZ : 霧に烟った原因を探す
イラスト:YoNa
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
市街地を包み込む白い濃霧は未だ晴れず。
すでに白昼と呼ぶに相応しい時間帯であるはずなのに、一向に霧は晴れないのだ。
明らかにおかしいと誰もが思ったかもしれない。
けれど、同時にこのようなことが起こるのかも知れないとも人々は思っていたのだ。何が起きても不思議ではない。
それは愛すべき能天気さであったかもしれない。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
未だ『パープル・フリンジ』たちは市街地にあふれようとしている。
出処を見つけようとしても霧の中に巧妙に張り巡らされた術式がそれを阻んでいるのだろう。
猟兵たちは、この術式をかいくぐり、またUDC怪物たちの襲撃を退けながら『邪神・凍れる灰色の炎』の巣窟へと至らなければならない。
確かに迷宮じみた白霧に沈む市街地は厄介であった。
けれど、わかったこともある。
『パープル・フリンジ』たちが湧き出す場所を特定させないのは、この霧のせいだ。だが、確実に湧き出している。
これだけの数が何処から?
猟兵たちは非日常に取り囲まれた日常を生きる人々を見やる。
「電車止まってるっていうから、地下鉄使おうとしたのに、地下鉄も駄目なのかよ」
「霧が多いからって話だったけど……なんか地下鉄も不具合起きて車両が来てないみたいだぜ」
人々の営み。
それ妨げているもの。
『パープル・フリンジ』たちは空からやってきているのではない。
自分たちの足元。
地下より来襲しているというのならば、この迷宮の如き白霧を駆け抜け、地下鉄への入り口を探さねばならない。
きっとそこが『邪神・凍れる灰色の炎』の巣窟――。
真木・蘇芳
アドリブ協力OK
この霧がもし攻撃だったらカウンターで殴れるんだがな
煙草を取り出し吸いながら考える
霧の中の敵を潰しながらさがすか
一人では難しいな、UDCで会った事ある神に頼むか
運良く応えてくれれば御の字
でなければ、虱潰しにいかないとな
鹿の角の欠片を置き│刻印《ドライバー》を差し込み鍵に見立て回し扉を開ける
もし思いに応えるならば門より出でよ「緑の王」
扉を開け運命に任せる
束の間の命でも邪神を呼び出す行為は人に見られる訳には行かない
霧で見えなくて良かったと心から思う
濃い霧が全てを覆い隠す。
人の日常も、営みも。何もかも。
霧中にまぎれて飛ぶ奇怪な羽音は今もなお響いている。けれど、人々は己たちの営みを滞りなくすすめることにばかり気をかけるが故に、この霧中で何が行われているのかに興味を抱く者はいなかった。
それが幸いであると感じるのは、真木・蘇芳(Verrater・f04899)であった。
赤い髪の猟兵である彼女は、紫煙をくゆらせながらどうしたものかと考える。
「この霧がもし攻撃だったらカウンターで殴れるんだがな」
煙草の煙は、そんな考えが有効的ではないことを伝えるように霧中へと消えていく。
この霧は敵の術式のようなものだ。
自身の所在を隠し、他者に知らせぬようにしているもの。
『邪神・凍れる灰色の炎』にとって、これは自分だけのものであったからだ。彼は『人間になりたい』。
ともすれば、それは他の邪神からすれば奇異なるものに映っただろう。
上位存在が普段ならば家畜かそれ以下のモノに対して、憧憬の念を抱くのだから。だが、それ以上に隠すのは猟兵の存在があるからである。
己の憧憬が世界を滅ぼすと理解しているのだろう。
「だから、隠す」
蘇芳にとって、それは暴き出し潰さねばならぬものである。
一人では難しい。
ならば二人だと彼女は手にした鹿の角のかけらを起き、|刻印《ドライバー》を差し込み鍵に見立てる。
外道、神憑(ゲドウ・カミツキ)。
それが彼女のユーベルコードである。
「もし思いに応えるなら門より出でよ『緑の王』」
彼女のユーベルコードに寄って現れるのはUDCアースで出会った神。
その存在がもしも、この状況を打開できるというのならば、その力によって『邪神・凍れる灰色の炎』の所在を示すだろう。
扉を空けるように光が満ちる。
本当に此処が濃霧でよかったと蘇芳は思っった。
つかの間であったとしても邪神を呼び出す行為を人に見られるわけにはいかない。
自身が猟兵であるからこそ、邪神との邂逅は耐えられる。
だが、ただの人が邪神の姿を見れば、精神に、肉体に、どのような影響を及ぼすか知れたものではない。
「――」
『緑の王』は答えない。
だが、示すのは地面と、方角。
霧の中、その色濃ゆい場所を示す。
「そちらにあるというのか」
「――」
うなずく邪神。ふわりと消える姿を見送り蘇芳は首を鳴らす。
なるほど、とも思う。
確かに地面を指差していた。ならば敵の所在は地下。そして、この市街地の地下には張り巡らされた地下鉄道がある。
その何処かに巣窟があるのならば、示した方角にこそ入り口が存在しているのだろう。
蘇芳が一歩を踏み出すと、それが正解であると示すようにUDC怪物たちが群れをなして迫る。
「霧で視えなくて良かったと心から思う。おまえたちをぶん殴るのもな、誰に見られる心配をしなくていい」
赤い髪が流れるように霧の中へと消えていく。
殴打する音、ひしゃげる音。
どれもが遠く木霊するように残響して、そのまま誰に聞かれることなく消えていく。
蘇芳は『緑の王』が示した先を目指し走る。
UDC怪物の多い場所へ、とひた走り、彼女は敵の巣窟へと至る道筋を己の拳で切り開くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
…ふむう…この霧に認識阻害の術式が隠されている事は確かだな…
…解析すれば霧の術式が隠している場所を絞り込めるな…?
…【輝ける真実の光】を発動…これにより意図的に隠している物が輝いて見える…
…(視界内に入れば)地下への入り口は勿論、術式痕も輝いて見える…これを解析して…ふむ…
…術式の解除は…解除したときの敵のリアクションが読めないな…最悪あのフリンジ達が一斉に暴れるかも知れない…
…ん…あいつら…人を攫って主に運ぶなら術式の影響範囲外か…
…魔術的なハッキングで霧の術式にアクセス…隠匿している場所を特定…
…更に自分を影響範囲から外すように密かに改竄…道すがらフリンジ達を倒しながら向うとしようか…
市街地を包む白い霧は色濃く、日が高く昇った今でもなお満ちている。
通常では在りえぬ光景だ。
ここが山岳地などであればガスが溜まったり、標高の高さゆえに気温が上がりきらず霧が晴れぬということもあるだろう。
だが、ここは市街地だ。
標高が高いわけでもなければ、谷間のように霧が溜まることもない。
「……ふむう……この霧に認識阻害の術式が隠されていることは確かだな……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)はUDCアースの市街地に降り立ち、考える。
術式に寄る認識の阻害。
『邪神・凍れる灰色の炎』が対する猟兵達の認識を阻害して何を隠したいと思っているのか。
それは自分の巣窟で間違いないだろう。
ならば、この霧はその場所に至るための入り口を隠す行為だ。
「……解析すれば霧の術式が隠している場所を絞り込めるな……?」
ただ闇雲に探索しても埒が明かないとメンカルは、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
「輝く塵よ、踊れ、纏え。汝は白日、汝は天照。魔女が望むは秘め事許さぬ誠の灯」
輝ける真実の光(グリッター・ダスト)は、隠蔽されているものにまとわりつく光の粒である。
戦場となった市街地に降り注ぐ光の粒は、意図的に隠されているものが輝く空間へと変わる。
それはメンカルという猟兵を前に隠蔽という手段は意味がないことを示していたことだろう。
「……ふむ」
メンカルは光粒が地下鉄の入り口にまとわりつくのを見ただろう。
そして、その光粒が示す先にUDC怪物の巣窟があることの正しさを証明するように、奇妙な怪物である『パープル・フリンジ』たちが溢れ出すのを見た。
「ここであたりか……術式の解除は……解除したときの敵のリアクションが読めないな……」
メンカルは溢れ出しては這い出す『パープル・フリンジ』たちを見て術式を抹消することを思いとどまる。
この手の隠蔽に長けた存在が、隠蔽した場所を悟られ、また解除された時に罠を張っていないという可能性を考慮する。
「いや……待てよ。あいつら……人を攫って主に運ぶなら術式の影響を受けていないということになる……」
確かにそのとおりである。
この霧の術式が認識阻害をしているのなあらば、配下である『パープル・フリンジ』たちもまた影響を受けてしまう。
その影響を取り除くための権限、またはパスのようなものが霧にあるのならば、メンカルは一つうなずく。
「……なら、このパスを掛けている術式にアクセスして……」
メンカルは術式の中に自分の術式を走らせていく。
解析すれば、『パープル・フリンジ』たちには術式の影響を受けぬ刻印が成されていることがわかるだろう。
「……これで私は霧の術式の影響を受けない……さ、行こうか」
メンカルは霧の中でも進むべき道筋がはっきりとわかることを確認する。『パープル・フリンジ』たちは地下鉄の入口から溢れ出している。
そこが出入り口であることは疑いようがない。
たとえ、認識阻害の術式の影響を外れたとしても、『パープル・フリンジ』はこちらを正しく猟兵と認識するだろう。
「……戦いは避けられない、か。でも、入り口は見つけた。後は踏み込めばこっちのものだよ……」
メンカルは術式を展開しながら『パープル・フリンジ』たちを倒しながら地下に張り巡らされた鉄道への入り口へと踏み込む。
おそらくこの先に続くのは地下鉄道ではないだろう。
『邪神・凍れる灰色の炎』が作り出した亜空間。
そこがどれだけ危険な場所かは語るに及ばず。されど、メンカルは意に介することなく階段を下っていく。
『人間になりたい』と願う邪神。
その願いと憧憬事態は善悪で分かたれるものではない。
けれど、そこに人の命と世界の危機が合わさるのならば、猟兵として戦わなければならない。
好奇心故にとお題目がつくのならば、あらゆるものに禁忌など存在しないのだ。
メンカルは薄暗い地下にて、その憧憬を宿す存在と邂逅する――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
邪神の巣窟は地下か。確かにそれなら、UDC組織が見つけられなかったのも納得できる話。それじゃあ、しらみつぶしに探していきましょうか。
「式神使い」で黒鴉召喚!
この街の霧が覆っている範囲を、隅から隅まで洗いざらい、黒鴉の目と耳で探り尽くす。
佐志がに全力使うと、自分の身の回りが疎かになるわ。アヤメ、羅睺、あたしの身体を見てて。
いざとなったらあたしも目覚めるはずだから。
パープル・フリンジの残党が、まだいてもおかしくないものね、
地下鉄駅を見つけたら、黒鴉を一旦終結させてそこから地下へ送り出す。路線の分岐のたびに群を分けて、全走査よ。
何を見ても大丈夫なよう、「狂気耐性」「呪詛耐性」を自身に付与しておくわ。
『邪神・凍れる灰色の炎』の巣窟は地下。
それも地下鉄道である可能性が高いことを人々の言葉によって村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)は理解した。
UDC組織の目を躱したのは、地下という立地もあるがそれ以上に認識阻害の術式であったことだろう。
強力な術式を霧によってさらに覆い隠し、人々を攫う際におおっぴらにことを荒立てることをしないのは、巧妙であると言えた。
「それじゃあ、しらみつぶしに探していきましょうか」
ゆかりは、『邪神・凍れる灰色の炎』が『人間になりたい』と願う以上、それが叶うことがないことを知っている。
上位存在たる邪神と人間。
生命としての構造が致命的に違うこともさることながら、その倫理観や死生観すらも異なる存在との間に横たわる溝は深く、昏い。
「急急如律令! 汝は我が目、我が耳なり!」
黒鴉召喚(コクアショウカン)によって飛びたつ鳥型の式神が霧中の市街地を飛ぶ。
ゆかりはこの市街地を覆っている霧こそが認識阻害の術式の範囲内であると検討をつけ、隅から隅まで洗い浚い黒鴉の目と耳で探りつくそうとしているのだ。
それは彼女の全力であるといえるだろう。
集中すればするほどに他のことに意識が向けられない。
特に自身と五感を共有しているからこそ、視覚と聴覚以外は疎かになってしまう。
この霧中に蔓延るUDC怪物への対処がおざなりになるのも当然であった。
「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッゲ」
あの奇妙な音が聞こえる。
『パープル・フリンジ』だ。あれだけ打倒したというのに、まだ存在している。いや、違う。
術式に寄って巧妙に隠されてはいるが、地下鉄の入り口から『パープル・フリンジ』たちが湧き上がっているのだ。
おそらく其処が巣窟の入り口。
だが、入り口はいくつもあるように思えた。
「認識阻害でいくつも在るように見せかけているってわけね……」
己の式神たちに自分の護衛をさせて、ゆかりは術式の範囲を見回す。
どれか一つが入り口になっているのだろう。
ならば、ゆかりが取れる選択肢は多くはない。
そう、最初に決めていたことだ。しらみつぶしにすると。
「気をつけてくださいね、敵は邪神なのですから。人の心では、精神では受け止められないようなことがあるかもしれません」
式神であるアヤメの言葉にゆかりはうなずく。
もしも、入り口が一つでなく、多数あった場合、飛び込んだ式神から伝わってくる情報の量もまたゆかりの脳に多大な影響を与えるだろう。
「何を見ても大丈夫なようにね」
ゆかりは自分自身に狂気と呪詛に対する耐性を上げる呪いを付与して、黒鴉たちを突入させる。
敵は巧妙だ。
これまでの『パープル・フリンジ』たちの行動を見てもわかる。
統制はしていないようであるが、一定の指示は与えている。
敵を見つけたのならば集中的に当たるように。
そして、敵をこの市街地から引き離すように。
どれもが自分の願いである『人間になりたい』という欲求を満たすためだけに行われていることだ。
「どうしたってそれは叶わないのだから、諦めてくれればいいものを……」
だが、それがどうしたって諦めきれぬ強い願いである以上、自分たちと邪神との激突は必至である。
ならばこそ、ゆかりは黒鴉が突入した先にある光景を見るだろう。
地下鉄道。
その奥は異空間。邪神のテリトリー――。
大成功
🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
あー……これはもうアレに頼るしかないか
流石に通行人を守りながら虫退治して仕掛け解除して本拠地探すのはやる事多すぎるっすよ
それじゃ、時間足りなかったら他の人お願いっすよ
UC【どこでもないどこにもない、どこにもいけない】を使用
あ、足元のUDCの海は粘性を抑えて弾性増加し、人が普通に上を歩けるようにしとくっす
で、後は通行人は普通に歩かせつつ、羽虫は足元から黒い海の触腕で襲い、
同時に純白の空が降らせる「敵による全痕跡を塗り替え抹消する雨」で敵の仕掛けにアタック掛けるっすよ。この霧が認識阻害とかの状態異常なら上から全部塗り潰せるし
ダメなら……まあ虫退治と味方の治癒ぐらいはできるっすから
白い濃霧に飲み込まれた市街地を見やり、黒沼・藍亜(人■のUDCエージェント・f26067)はもう諦めていた。
何を、と思うだろう。
別に人々を救うことであるとか、事件を解決するであるかとか、そういったことを諦めたわけではない。
藍亜がこれからしないといけないことは三つある。
一つは何も知らない一般人を未だ残る『パープル・フリンジ』から守り、退治すること。
そして、この市街地に掛けられている認識阻害の術式を解除すること。最後に『邪神・凍れる灰色の炎』の本拠地を探し当てることだ。
どうにもこうにもやることが多すぎると藍亜は己自身のキャパシティを越えていることに気が付き『アレ』に頼るしかない現実を認め、使わないことを諦めたのだ。
「さ。楽しくない時限イベントの始まりっす」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
スカートの中より滴る黒い粘液が海のように広がっていく。弾性が増加し、たとえ一般人が黒い粘液が広がる地面を歩いたとしても沈み込むことのないように配慮するのだ。
どこでもないどこにもない、どこにもいけない(セカイヲヌリツブスモノ)。
今まさに藍亜のユーベルコードは異界を発生させる力である。
文字通り、どこでもない場所であり、どこにもないものであり、この異界にある限りどこにもいけないのである。
純白の空が広がっている。
黒と白。
明暗分かたれる世界。まるでオセロの盤面のようであったし、実際に此処まで盤面が二極化することはないだろう。
めまいを覚えるような光景が濃霧の中に生み出されるのだ。
「……存在も痕跡も、何一つ残さず世界にさようならっすよ」
黒い粘液の沼より飛び出す触腕が『パープル・フリンジ』の飛ぶ体を掴み、引きずり込む。
それは捕らえ、啜り、嬲り飲み込む海。
そして、空にある白い空からは全ての痕跡を塗り替え抹消する白い雨が降り注ぐ。
それはまるでインクを流しこむように世界を寝食していく。
「これで術式を塗り替えれば。ダメで元々っす」
藍亜にとって、これはそういう試みなのだ。
認識阻害の術式が市街地全域に掛かっているのならば、これを塗りつぶせば認識阻害されていなければ感じるであろう違和感を彼女は感じるだろう。
白い雨が塗りつぶす世界。
その中で藍亜は確かに感じただろう。
大地と霧の間に揺らめく炎。
それは炎の色をしていなかった。灰色の炎。それが白い雨に触れた瞬間、あらゆるものが凍結する。
全てを存在の痕跡すら塗り替える抹消の白い雨すら凍結し、地面に落ちる。
力が凍結されると感じる。
怖気を走るような冷たさが異界を通じて藍亜に流れ込むだろう。
「この感じ……!」
あたりだと藍亜は理解しただろう。
全てを塗り替える。
術式は確かに塗り替えた。だが、その塗り替えた下地から白を侵食するような凍結の力が蝕む。
それは白い世界に一点の灰色の染みを作るようなものであった。
どれだけ認識を阻害されようとも、藍亜の感覚にはそれが残っている。
「地下、それも一点の入り口だけっすね。ボクには感じられた。そこに居るっすね」
藍亜は駆け出す。
自分が感じた凍結の感覚。
それを頼りに彼女は地下鉄道の入り口を目指す。
階段を飛ぶように降りていく。
近い。あの凍結の力はあらゆる力の封印を為すものである。踏み込んだ先は己の生み出した異界と同質のもの。
邪神のテリトリー。
ならば、そのあたりを引き当てた藍亜は『邪神・凍れる灰色の炎』と邂逅を果たすのであった――。
大成功
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エリン・エーテリオン
蘇芳さんに連絡をもらってグランドユニオンでこの街に来たが…はい、霧だらけです…エキドゥーマどうだ?
『前のピラミッド野郎よりは位は高いね、あいつは人間になりたいくせに人間のことを何一つ理解しようとしない半端者で有名だったからね。』ああ…邪神の世界ではそうなのか…『認識阻害もしているね。これは見つけられないかもね…「邪神龍(私達)」じゃなかったら…』邪神スマホ龍が変化し、白い邪神龍が降臨する。『やれやれ、どうせ猟兵相手に隠れるならUCを使用した場合無条件即死とかつけるべきだよ。』『オマエニシカデキネーダロ…』『マスター、見つけたよ』おう、じゃあ向かうか!そうして私はその場所に向かったのだった。
猟兵同士の繋がりというものは、どれほどまでに広がっているのだろうか。
グリモア猟兵による予知を受けて転移する猟兵たちは、世界の危機に応じた戦士たちである。
世界を守ること。
ただその一つのためだけに世界をまたぐのだ。
時に猟兵たちは共に並び立ち戦うこともあるだろうし、手を取り合うこともある。
基本的にオブリビオンは個としての力が猟兵よりも上だ。
単体としての力では敵うべくもない。
けれど、これまでそうであったように猟兵たちは自分たちよりも勝る強大な敵を打倒してきた。
それは繋ぐ戦いをするからである。
「『エギドゥーマ』どうだ?」
エリン・エーテリオン(転生し邪神龍と共に世界を駆ける元ヤンの新米猟兵・f38063)は邪神艦龍『グランドユニオン』と共にUDCアースの白霧立ち込める市街地を見下ろす。
他者から見れば形がダサイと言われるであろうスマホ『エキドゥーマ』に呼びかける。
『前のプラミッド野郎よりは位が高いね。あいつは人間になりたいくせに人間のことを何一つ理解しようとし兄半端物で有名だったからね』
エリンはAIである『エキドゥーマ』の言葉に納得する。
邪神の世界ではそういうものでるのかと。
眼下に見やる白霧に沈む市街地の様子は、異常気象だ。
昼を過ぎてもなお、霧が立ち込めている。気温が上昇すれば霧は消えるはずだ。けれど、まだ霧が消えていない。
人々は非日常に包まれていても、日常を求めるようにして街中を歩む。
人の営みとは弛みないことによって紡がれていくものであるが、ここまで濃霧に無関心出るのは、『邪神・凍れる灰色の炎』による認識阻害の術式のせいであろうことは容易に推察できる。
「連絡を受けたときにはどうなるかと思ったが……」
『これは見つけられないかもね……|邪神龍《私達》じゃなかったら……』
ユーベルコードに煌めき、スマホが白い邪神龍へと姿を変える。
『やれやれ、どうせ猟兵相手に隠れるならユーベルコードを使用した場合、無条件即死とかつけるべきだよ』
それが容易ならざることであるのは言うまでもない。
猟兵とは生命の埒外たる存在である。
果たして殺すことができるのであろうかという点においても疑問である。
真の姿すら個々人において相違があるのだ。そうした意味では人間以上に異なる部分が多いだろう。
『マスター、見つけたよ』
「おう、じゃあ向かうか」
邪神の叡智によって術式を見つけ、その術式が阻害しようとしている箇所を見つける。
当然ながらUDC怪物たちがはびこっているが、エリンたちを止められる戦力ではない。
蹴散らしながら突き進む。
「なんだ、ただの地下鉄の入り口じゃねーか」
エリンは首をかしげる。
『邪神・凍れる灰色の炎』が潜む巣窟が地下であるというのに別段疑問はわかない。だが、一歩踏み入れれば、そこがすでに邪神の領域であることを知るだろう。
地下鉄道の網目のような空間ではない。
もっと広く、歪に広がっていると思える。エリンは理解するだろう。
此処こそが邪神のテリトリー。
これから自分たちが戦わなければならない存在が、あらゆるものを凍結させて封印する脅威なる邪神であることを――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『不動なる者』にて
さて、出所を探らねばならぬか…。地縛鎖を介して術式をジャミング。少し乱し、ハッキングするか。
で、『パープル・フリンジ』たちを見つけたら…UC使って憑依する。今回は一体だけでよかろう。
そう、あやつらは認識阻害をされていない。なれば、そういう者に乗り移った方が早いのよ。
気づかれて攻撃されようが、それは乗っ取った身体の方にダメージがいくでな。
そして…壊れる前に憑依をとく。以降は、四天霊障で防衛しつつ進むがよいであろう。
UDC怪物『パープル・フリンジ』たちは猟兵に寄ってあらかた撃破された。
だが、その奇妙な鳴き声と羽音が未だ白霧の中より響いてくる。
「さて、出処を探らねばならぬか……」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱である『不動なる者』は地縛鎖を地面に突き立て、この白霧の中に沈む市街地に展開されている認識阻害の術式をジャミングしようとする。
だが、この術式は容易に破れるものではなかった。
乱し、介入する。
それが地縛鎖の本領ではなかったけれど、ここまで強固であるのは敵である『邪神・凍れる灰色の炎』の力が強大であることを示していた。
「……乱せぬか」
情報を吸い上げる地縛鎖であったが、この状況では多くを知ることはできないだろう。
人々の営みの言葉から察するに、どうやら地上だけではなく地下の交通網もまた麻痺しているようである。
ならば、当然『パープル・フリンジ』たちが何処から湧き上がってくるのかを考えれば理解が及ぶことだろう。
「悪霊としての手段」
四悪霊・『開』(シアクリョウ・ヒラキ)によって『不動なる者』は飛び出してきた『パープル・フリンジ』へと憑依する。
それは個体としての『パープル・フリンジ』の活力を削り取り、その個体を操り、記憶を読み取る。
なるほど、と理解できる。
確かに市街地全体を覆う認識阻害の術式は厄介極まりないものであった。
けれど、考えてみればわかるものだ。
認識阻害をしなければならないのは、敵対者である自分たちや獲物である人間である。
だが、配下である『パープル・フリンジ』たちにも認識阻害が掛かってしまえば、人々を攫っても本拠地である巣窟へと運び込むことができない。
「そう、あやつらは認識阻害をされていない。なれば……」
その『パープル・フリンジ』の肉体に憑依したまま巣窟へと侵入すればいい。
だが、認識阻害の影響を躱したとしても、地下鉄道の入り口へと差し掛かった瞬間ん、『パープル・フリンジ』に肉体から弾かれる。
「ぬ……やはり気がつくか」
一瞬の出来事であった。
UDC怪物の体が凍りつく。
とっさに憑依を解除していなければ、そのままUDC怪物の肉体という檻によって『不動なる者』は凍結封印されていたことだろう。
「……こちらを感知し、見分けるか。いや、当然であるな。こちらは猟兵。対するはオブリビオン。知識なくとも即座にそれと理解できるもの」
『不動なる者』が降り立ったのは、地下鉄道の入り口。
地下へと続く階段の先は暗闇で見通すことができない。認識阻害の術式の影響を逃れて此処までやってきたのだ。
進まぬ理由などない。
一歩踏み出すたびに自分が邪神のテリトリーへと踏み出していることを実感させる。
地下鉄道であっても、今さに異空間へと入り込んでいるという感覚がある。
此処は謂わば邪神の腹そのものだろう。
自分たちが相対する者の強大さを知る。
だが、引き返すことはできない。ここで自分たちが引き返せば、それだけ失われる生命は多くなる。
一つでも多くを守らばならぬと思うのならば、踏み出すことを躊躇ってはならない。
「いざゆかん」
『不動なる者』は霊障でもって己に迫る重圧をはねのけながら、その異空間たる巣窟へと踏み出すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
遠野・路子
【沙夜(f35302)】と
第一波は防いだ
この間に対処しないとね
地下への侵入口……地下鉄の入り口は探せば見つかりそうだけど
霧の中を探索する術がないね
沙夜、何か良い案ある?
チア衣装を脱がないで……?
なぜ……?
私より沙夜の方が日本人形みたいで人気が高いはず……
とりあえず歩いて探すしかないね?
うん、私はエアシューズあるけど(すいー)
下から無限に湧き出ているなら
一時的な銀の雨では対抗しきれない、ということだと思う
それでも無いよりはマシ
【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】は使い続けておこう
虫もだけど、霧の出口もしっかり塞がないと
この街の人たちにも被害が残ってしまう
沙夜のコミュ力に期待
あとファンなどいない
霞・沙夜
【路子さん(f37031))と】
地下鉄の駅への入り口を探すにしても、
この霧だと土地勘のないわたしたちには少し厳しいかな。
そうね。歩いて探すしかなさそうね。
ああ路子さん、チア衣装、まだ脱がないで。
もしまだまわりに一般の人がいるなら、
避難を促しがてら、場所を聞いてみよう。
いまの路子さんなら、男の人捕まえやすそうよね。
もしいなければ、案内板を探して、
それを確認するのがいいかしら。
街の地図っぽいのならあるかもしれないしね。
それにしても路子さんの力でも、晴らしきれない霧か。
なかなかしぶとい相手なのかな。
虫も湧いてでてくるし、
【雑霊弾】と【繰り糸】で路子さんは守り切らないと、
あとでファンに怒られそうだわ。
UDC怪物である『パープル・フリンジ』の猛攻をしのいだ猟兵達。
けれど、それは第一波を防いだに過ぎない。
遠野・路子(悪路王の娘・f37031)と霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)の二人は、濃霧に沈む市街地を見やる。
未だ奇怪な羽音と奇妙な鳴き声が雑踏の中に響いている。
『パープル・フリンジ』たちは機会を伺うようにして霧の空を旋回しているようである。
「この間に対処しないとね」
「でも、この霧だと土地勘のないわたしたちには少し厳しいかな」
路子の言葉に紗夜がうなずく。
とは言え、彼女たちはこの市街地のことをよく知らない。
『邪神・凍れる灰色の炎』の巣窟である地下鉄道に目星が付いたとは言え、認識阻害の術式は入り口をひた隠しにしている。
「地下への侵入口……地下鉄の入り口は探せば見つかりそうだけど………この認識阻害の霧が邪魔。紗夜、何か良い案ある?」
「そうね、歩いて探すしかなさそう。ああ、路子さん、チア衣装まだ脱がないで」
紗夜が何故か路子が着替えようとしたのを止める。
往来で着替えるのはマナー違反だったね、と路子はうなずく。
だが、紗夜の思惑はそこにはない。
着替える、という行い自体が紗夜にとっては困ることだったのだ。しかし、路子は紗夜に深い考えがあるのだろうと理解する。
新生代ゴーストとは言え、未だ自分は人間の世俗の全てを理解しているわけではない。
紗夜の言葉に従った方がただしいだろうと路子はうなずく。
「えっと……あの、ちょっといいですか?」
紗夜は濃霧の中をせわしなく歩くサラリーマンを捕まえて、話を聞く。サラリーマンからすれば和服美人とチアガールという二人の組合わせに目を向くことだろう。
目を引く、ということはそれだけ意表を突くことができるということだ。
それに紗夜は今の路子ならば男の人を捕まえやすそうだと思ったのだ。
「……疑似餌的な?」
「そういうのじゃないけど……地下鉄の入り口ってわかりますか?」
「い、いや……あ、ああ、地下鉄ね。その筋を真っ直ぐって左にいけばすぐあるよ。わかりにくかったら、ほら、この案内板も」
そういってサラリーマンの男が教えてくれる。
路子はなんとなく、ぼんやり立っていただけであるが紗夜の手腕に感心する。やはり日本人形のような紗夜の姿はひと目を引く。
なっとくしつつ、路子はサラリーマンに教えられたとおり、道をゆく。
すぃーと地面に平行に移動しているのは、エアシューズを履いているためである。
「ちょっとまってまって……やっぱり、この霧が術式なんだ」
「うん、こっちの力が凍結されてる。認識阻害を消そうとしても、力事態を凍結してくる。封印されているといった方がいいかも」
路子は自身のユーベルコードの力が凍結され、効果を成さないことに気がつく。
とは言え、何もしないよりはマシだと銀色の雨を降らせ続ける。
「それにしても路子さんんお力でも、晴らしきれない霧か。なかなかしぶとい相手なのかな」
「タフな戦いになりそう」
紗夜は霧の中より襲いくる『パープル・フリンジ』を雑霊弾でもって撃ち抜きながら、進む。
この認識阻害の術式が掛かった霧の中を歩くのは、それだけで困難なものであった。
「虫も湧いてでてくるし、路子さんは守りきらないと。あとでファンに怒られそうだわ」
「ファンなどいない」
路子は頭を振る。
とは言え、紗夜の言葉が真実かどうかは今は知りようがない。
『パープル・フリンジ』たちは未だ波状攻撃のように襲いくる。雑霊弾と銀色の雨が降りしきる中、これらを退けつつ、二人は怪異湧き出し続ける地下鉄道の入り口を見やる。
「此処だね。準備って大丈夫?」
「ええ、大丈夫。ここから先は邪神のテリトリー。何が起こっても不思議じゃないよ」
まるでゴーストタウンのようだと紗夜は思っただろう。
あの死と隣合わせの青春の日々。
幾度挑んでも気持ちは変わることはない。これより先にあるのはあらゆる力を凍結させる邪神。
戦いはいつだって死を運ぶ。
これより先にはそうした気配が充満している。ならばこそ、二人は互いに頷いて一歩を踏み出すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜鳥・藍
失せ物探しは得意とするところだけどもこの手が通じるかどうか……。いえやって見なくてはわかりませんね。
邪魔をされないようできれば敵から身を隠せる場所で、鞄から愛用のタロットカードを取り出して占います。元々感が良い方だと自負しておりますが、カードがあれば補完補強しよりもっと見定める事が出来る。
集中しカードの束を軽くノックしてお伺い。シャッフルは私の意識を広げ収束し、宙にある扉をノックする事。その扉の向こうに求めるものがある。
人生も街も時に霧に閉ざされ壁に阻まれることもあるでしょう。ですが回り道になったとしても先に進めぬ事は無い。
どんなカードが出てもそれが意図するものを判断し先に進みます。
認識阻害の術式の掛けられた霧。
これが『邪神・凍れる灰色の炎』の持つ力であるというのならば、容易く街一つを飲み込む力の奔流そのものだということだ。
怖気が走るほどの圧倒的な巨大な個としての力。
しかし、それで立ち止まるほど猟兵たちは修羅場をくぐり抜けてきていない。
自分たちより個として優れる存在をこれまで幾度となく打倒してきているのだ。
「失せ物探しは得意とするところだけども、この手が通じるかどうか……」
夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はわずかに弱気になっていたのかもしれない。
敵である『邪神・凍れる灰色の炎』の強大な力のせいであったかもしれない。けれど、それでも藍は被りを振る。
「いえ、やってみなくてはわかりませんね」
この白霧に沈む市街地はところどころにUDC怪物である『パープル・フリンジ』が飛び交っている。
彼女が今からしようとしていることは集中力を必要とする。
屋内ならば、と彼女は一つのビルの中に入りかばんから愛用のタロットカードを取り出す。
認識阻害されているのならば占いによって自分の辿るべき道を示して見せようというのだ。
「……広げ、収束する」
勘が良いほうだと自身で思う。
カードはその勘を補完、補強するものである。
道具の一つであれど、藍はそこに意志を込める。一つのルーティンのようなものであった。
カードをシャッフルする。
切る音が自分の意識を拡張していくのを感じさせる。束ねたカードに軽くノックして伺いを立てる。
結果は収束していく。
宙にある扉をノックするのと同じことであった。
視えぬ扉。
けれど、あると実感すれば力となるものである。
「人生も街も時に霧に閉ざされ壁に阻まれることもあるでしょう」
だが、それもまた一つの道のりにすぎない。
壁を乗り越える者もいれば、穴を穿つ者だって居る。そして、時に迂回という遠回りこそが正解であることもあるのだ。
どれ一つとっても前に進めぬことはないのだ。
「大切なのは意志」
進まねばならぬと決めたの己の意志が示す道行きを藍は受け入れる。
引き当てたカードの示す先を藍は見やる。
逆位置の皇帝。
共感。そして敵への困惑。障害。未熟さ。
どれもが今回の事件に対して、ネガティヴな意味合いに取れてしまうかもしれない。
けれど、藍は一歩を踏み出す。
どんなカードが己の目の前に現れようと藍は進むと決めたのだ。たとえ、これより待ち受ける運命が過酷なものであっとしても。
「それでも私は進むと決めたのですから。障害があるのだとしても、未熟さが私に危機を招くのだとしても」
敵への共感と困惑が胸を占めるのだとしても。
進む道先にこそ藍は求める者があるのだと言うように地下鉄道の入り口を目指す。
足を踏み入れれば邪神のテリトリーだ。
抗えぬ戦いの気配が、藍の目の前に横たわる――。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
会社に行けないなら家に帰ればいいのに
人間って不思議だ
ともあれ地下鉄に関しては
彼らが誰よりも詳しいだろう
僕も出勤したい人のふりをして話しかけ
大まかな出入口の場所を聞き出しながら進もう
今日は大事な会議があるんだと言ってね
毎日通る道は自然と覚えているものだし
人によって違うだろうね
今の街が本来あるべき姿から変容していても
多くの情報を集めれば
どこがどう歪んでいるかは解るだろう
総当たりしても意味が無さそうなら
さっきの怪物くんを見つけ次第UCで針を刺し
巣まで案内してもらおうかな
動物会話が通じるならなお良い
邪神様が一旦帰ってこいって怒ってるよ
最初からこうすれば良いって
それもそうだけど
僕もヒトに興味があるからね
人々の営みを見る。
そこにあったのは勤勉さという名の愚直さであったかもしれない。
強制されたわけではないはずだ。生きることも、働くことも。どれもが生命として自由のはず。
けれど、人は縛られることを臨む。
地位に、立ち位置に。環境に、境遇に。名に、性差に。あらゆるものが人を縛る。
それが人を人たらしめるものであったというのならば、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、やはり人間って不思議だと思うしかなかったのである。
「ともあれ地下鉄に関してはね」
自分よりもこの地で生きている者たちのほうが詳しいだろう。
ちょっと、と章は道行く務め人たちに尋ねる。まるで自分も出社したいが、どうにうもいかないというような風を装っている。
「地下鉄の入り口が知りたいんだけど、この霧だとスマホも役に立たなくってね。わかるかな? 今日は大事な会議があるんだ」
「この霧だものな。地下鉄も麻痺しているみたいだけど、この霧だし、地下鉄のほうがまだ望みがあるかもしれない」
章が訪ねた男性は同類を見るような、それでいて憐れむような表情を浮かべている。
同情と言ってもいいかもしれない。
「ありがとう。地下鉄のほうをあたってみるよ」
章はそれから多くの人々に道を訪ねた。
今の市街地は濃霧に包み込まれ、道すら定かではない。本来あるべき姿から変容していると言ってもいいだろう。
けれど、多くの人々から情報を集めれば、歪みが浮き彫りになる。
毎日通る道を人は覚えているものであるし、普段と違うのならば違和感として彼等に感じられることだろう。
それを集約していけば、自ずと歪みの中心がわかるというものだ。
「……とは言え、総当たりしても意味がないな、これは」
章は違和感にあたりをつけることはできたが、どうにも精確な位置ががわからない。やはり認識阻害の術式は『邪神・凍れる灰色の炎』の力に比例して強大なようであった。
ならば、と章は標本針を己の背後から迫っていたUDC怪物『パープル・フリンジ』に放つ。
「同調圧力(リアリズム)。きみは、巣に戻らなければならない。きっといつまでたっても人間を連れてこない君たちに怒っているよ」
彼のユーベルコードは標本針を打ち込んだ対象を、無意識のうちにこちらに有効的な行動を取らせる。
すなわち、章にとっては『パープル・フリンジ』が上位存在である『邪神・凍れる灰色の炎』の元に戻ることである。
「最初からこうすれば良かった」
そんなふうに思うけれど、章は仕方のないことだと『パープル・フリンジ』の後を着いていく。
帰巣本能であるのだろう。
認識阻害の対象から除外されている『パープル・フリンジ』の後をたどれば、自ずと邪神のテリトリーへとたどり着く。
『パープル・フリンジ』が一つの地下鉄の入り口の中に消える。
同時に章は感じただろう。
自分の放ったユーベルコードの効果が、『パープル・フリンジ』ごと凍結し、消えたことを。
「……凍結封印されてる。遠回りしてしまったみたいだけど、答えには辿り着いたんだ。遅い、とは怒らないでほしいな」
章は肩をすくめて、地下鉄の入り口へと歩みをすすめる。
一歩下るたびに重圧が体にのしかかってくるようだった。
「わかるよ。僕もヒトに興味があるからね」
絶対に交わらない理解。
不理解ではなく、不寛容でもなく。
ただ、存在として相対せざるを得ない。
それがオブリビオンと猟兵であるとうように、同じものに好奇と憧憬をいだきながらも、滅ぼし滅ぼされるしかない現実に向き合う――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
地下鉄の中か
視界が悪いのは厄介だね
ゴーグルの赤外線視野も利用して進もう
何かしらの力が働いているだろうから
UCを使用して電子式の魔除けで影響を減らそう
隠されている事を知らなかったから気づけなかったけど
隠されている事がわかったなら対処しようはあるからね
まあ、UDC組織の人達の英知を借りてるだけなんだけど
自分でできなくても誰かと協力できるのは人間の長所だね
ああ、身の内の邪神が今のところ大人しいのも
自分だけではどうにもならない状況を経験したからかな?
最初は少し権能を揮うだけですぐ石化していたから
力技でどうこうできる状態じゃなかったし
脱線はこれくらいして
邪神の戯れも利用して目立たないようにしつつ進もうか
「地下鉄の中か」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は『邪神・凍れる灰色の炎』の所在が地上ではなく、地下にあることを知ってゴーグルの赤外線視野の機能をオンにする。
視界が悪くなることが想定される。
それは厄介であるし、何より踏み込まねばならぬのが邪神のテリトリーであるということに対して、脅威を感じていたことだろう。
自分の内側に内包する邪神。
融合し、意識を通わせることはできても、完全に理解出来ない存在。
掴んだと思っても、指の間からすり抜けていくかのような感覚。
どれだけの時間を共にしたとしても、決して交わらぬものがあるのかもしれない。
2つのものが一つの器にある。
その状態がどれだけ危険なことであるのかを晶は理解しているだろう。
「この霧はやっぱり認識阻害……複製創造支援端末(ブループリント・ライブラリ)、助かるな」
電子式の魔除けは、UDC組織で設計された機器である。
隠された場所を探り当てるために造られたものであり、晶本人が作ったものではない。
猟兵に協力してくれるUDC組織が全面的にバックアップしてくれたからこそ晶は今もこうして霧の中を進むことができるのだ。
「隠されていることを知らなかったら気づけなかったけど、隠されていることがわかったなら対処しようはあるね」
とは言え、これはUDC組織の手柄であろう。
人の英知は捨てたものではない。
確かに邪神は人の上位存在であろう。人の英知などちっぽけなものでしかないのかもしれない。
けれど、人の特性はそこにはない。
英知は結局の所、理でしかない。
そこに人の意志が介在し、束ねられるからこそ発露する力というものがある。
「自分でできなくても誰かと協力できるのは人間の長所だね」
そう言葉にする。
霧中を進んでいけば、電子式の魔除けに寄って認識阻害の術式は中和され、正しい道のりを晶は辿るだろう。
道中言葉にしているのは、内なる邪神に対してのアプローチでもあったのだが、どうにもおとなしい。
いつもならば一言二言小言のようなことを言ってくるのであるが、今日はそれもない。
もしかしたのならば、と晶は思う。
自分だけではどうにもならない状況を経験したからこそ、内なる邪神は黙っているのかも知れない。
思い返せば、自身も少しでも権能を揮うだけで石化していた。
力技でどうにか出来る状況でもなかったし、それを許されるほどの力が自分にはなかった。
けれど、それでも今自分は此処にこうして生きている。
停滞と永遠。
それを司る権能を曲がりなりにも使いこなしている。
「……さて、これだけの力を持つ邪神か……」
どのような相手なのだろう。
『人間になりたい』と願う邪神。
それは上位存在として在りえぬ憧憬であったことだろう。
人は弱く、もろく、愚かだ。
あに一つ邪神より勝るものはない。だというのに、『邪神・凍れる灰色の炎』は人に憧れる。
人を知り、人になりたいと願う。
その意味不明さは、晶自身が未だ人間であるからかもしれない。
決して相容れぬ存在を目の前にした時、晶は何を思うだろうか。
そして、この戦いの中、内なる邪神が何を告げるのか。何も告げないににしても、晶は戦うしかないのだ。
その憧憬が世界を滅ぼすというのならば、それを止めるのが自分の使命なのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
●ぎりぎりセーフ?
ゲッゲッゲ~♪
ゲッゲゲゲゲ~♪
●あっちかな?こっちかな?
探検開始~!
あややや~、|ボクの勘《【第六感】》でなんとなく方向は分かるけど近づけないぞ~!
こういうの、いい冒険のアクセントだね!
じゃあちょっと遠ざけよう!
と霧だけを押しのけるよう設定した[白昼の霊球]くんにボクを包んで霧対策バリアになってもらおう!
むむ~!これでも足りなかったらついでにUCも使おう!
ばーーーっと同設定の[霊球]くんに巨大化してもらって一帯の霧を押しのけよう!
大丈夫大丈夫!一瞬だけ!一瞬だけだから!
みーつけた!
さーって!ダンジョン攻略開始だー!!
待っててねMVPボスのキミ!
「ゲッゲッゲ~♪ ゲッゲゲゲゲ~♪」
ギリギリセーフであろうとロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は思っていただろう。
何が、とはあえて言うまい。
諸々が危険であるため。
UDC怪物である『パープル・フリンジ』の奇怪な鳴き声と羽音は未だ濃霧の中に響いている。
未だ霧は晴れず、『邪神・凍れる灰色の炎』の所在は地下であることしかわかっていない。
この霧は認識阻害の術式であり、地下……すなわち張り巡らされた地下鉄道こそが巣窟であることを示していながら地上より地下に入るための入り口を猟兵の目から遠ざけ続けていた。
「あややや~なんとなく方向はわかるけど、近づけないぞ~!」
ロニは現状に憤るでもなくただ楽しげに笑っていた。
探検のようでもあるし、こういうのはいい冒険のアクセントだとポジティヴに考えていたのだ。
「じゃあ、ちょっとこの霧遠ざけよう!」
霧を押しのけるように設定した球体がロニを包み込む。
認識阻害の術式がロニの認識に介入するというのならば、その介入を阻害するバリアのように球体を使うのだ。
球体一つ分霧を押しのけたロニは周囲を見やる。
霧に包まれた市街地は、まるで水中ゴーグルを付けたようにクリアな視界が確保されている。
「これじゃあ、水中探検と変わらないね!」
それでもまだ霧の向こう側を見通すには足りない。
球体をさらに巨大化し、一帯の霧を押しのけるようにして拡大する。だが、ある点に触れた瞬間、球体が凍結されてしまう。
いや、凍結じゃあない。
「封印ってところかー。でも大丈夫大丈夫! 一瞬だけだしね! 一瞬だけだから!」
ロニは自身の手繰る球体が凍結した点を探り当てる。
言ってしまえば簡単なことだった。
たとえ、球体によって押しのけられた霧、その認識阻害の術式の影響を逃れられるのが僅かな範囲であったとしても、拡大した球体が触れた瞬間に凍結封印されたというのならば、その接点こそが『邪神・凍れる灰色の炎』の所在である。
方角がわかれば後はロニにとってはイージーなダンジョンでしかないのだ。
「みーつけた! 待っててねMVPボスのキミ!」
ロニは一気に街中を駆け出す。
霧の中の市街地は、走りづらいかもしれない。通行人に電柱、様々な障害があるだろう。
けれど、それらの尽くをパルクールのようにロニは躱して走り続ける。
目指すは球体の封印凍結された接点。
そこにあったのは地下鉄への入り口。
溢れるようにしてUDC怪物たちが湧き出し続けている。まるでロニを阻むように迫る『パープル・フリンジ』たちを前にロニは笑うだろう。
「ダンジョン攻略に怪物はつきものだよね! でも、ザコ敵には興味ないんだ!」
目指すはボスのみ。
『邪神・凍れる灰色の炎』。
人間になりたいと願う上位存在。
憧憬が在るからこと言って、全てが許されるほど世界というものは広くはない。
たった一つの望みが世界を滅ぼすことだってあるのだ。
ロニは、『パープル・フリンジ』たちを蹴散らし、駆け込むようにして地下鉄道へと降り立つのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『邪神・凍れる灰色の炎』
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POW : 邪神封印柱
【邪神封印柱】で攻撃する。[邪神封印柱]に施された【邪神】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
SPD : 凍れる灰色の炎
【全身から灰色の炎】を放ち、命中した敵を【永久氷結効果と共に、名伏し難き狂気と悪寒】に包み継続ダメージを与える。自身が【邪神封印柱から力を引き出】していると威力アップ。
WIZ : ハイパーボリア・モンスター
戦場全体に【生きた氷河】を発生させる。レベル分後まで、敵は【あらゆる氷の自然現象】の攻撃を、味方は【病的で有害な青白き燐光】の回復を受け続ける。
イラスト:あなQ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ポーラリア・ベル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
炎は不定形。
如何なる形にも変わる。そして一定ではない。
同じ形になることは二度とない。似通ってはいても、それは決して異なる存在である。
故にプロメテウスたる灰色の炎は揺らめき続ける。
「私は『人間になりたい』。ただそれだけなのだ。あの煌めきを放つ生命のようになりたい。私のような永遠に続く灰色の如き炎ではない。あの虹色の煌めきの刹那に私はなりたい。そのためには知る必要がある。私の全能なる英知を持ってしても、人間になるために必要な儀式には、その相違の全てを知る必要がある。分解し、観察し、かき回し、つなぎ合わせ、元通りにして、さらにもう一度解体しなければならない。知るとは全てを審らかにするということ」
その言葉は狂気でしかなかった。
『邪神・凍れる灰色の炎』にとっては、これこそが倫理の果てであったのかもしれない。まっとうなる手段。まっとうな行為。
失った生命は回帰しない。
二度と戻ってくることはない。
「意味のないことだ。あの煌めきは刹那に満たぬからこそ輝かしいのだ。私のような灰色ではない。元より私は炎の名を持つプロメテウス。人の輝きをこそ愛し、人になりたいと願う者」
対するものは、その僅かな希望すら摘み取る世界に応える戦士たち。
すなわち猟兵である。
邪神のテリトリーは、鏡が乱舞する異空間。
揺らめく炎は人型を形作る。
粗雑な模倣。
されど、それが『邪神・凍れる灰色の炎』の人に対する憧憬の答えであるというのならば、そのいびつさを証明するものであった。
故に猟兵は滅ぼさねばならない。
「私は何が私を私にするのかを理解している。故に、私は憧れる。虹色の輝きの刹那、その煌めきこそを私は渇望する――」
村崎・ゆかり
『人間』になりたがりのおかしな邪神。だけど、手段を違えている以上、永久に『人間』には慣れないわ。所詮、邪神は邪神ね。プロメテウスの莫迦者ども。
せめて討滅されて、『人間』に転生できればいいわね。
それじゃ、あなたが憧れた『人間』の力、見せてあげる。
邪神と相対する以上「狂気耐性」は必須。アヤメと羅睺にも。
絶陣展開。「全力魔法」「レーザー射撃」「精神攻撃」「破魔」「弾幕」「仙術」「道術」で落魂陣。
『人間』とは根本的に異なる精神とはいえ、心がある限り落魂陣はそれを削る。
アヤメと羅睺は、まだパープル・フリンジが潜んでいないか警戒していてね。
あたしは絶陣で一気に畳みかける。
さあ、『人間』の力、味わいなさい。
『邪神・凍れる灰色の炎』の周囲に浮かぶのは、氷柱であった。
それは封印されし邪神たちの力の源。
そこにあったのは『邪神・凍れる灰色の炎』以上の力を持つ邪神たちの力。
恐るべき事に『邪神・凍れる灰色の炎』は自分よりも強大な敵を封印する力を持っている。それがどんなに規格外なことであるのかを猟兵たちは知るだろう。
「『人間』になりたがるのおかしな邪神。だけど、手段を違えている以上、永久に『人間』にはなれないわ」
村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)は無数の鏡が反射する異空間にありて、『邪神・凍れる灰色の炎』と対峙する。
目の前の邪神は確かに『人間』というものに憧れているのだろう。
自分もそうありたいと願っている。
その憧憬に偽りはない。
そして、願いにもまた。
けれど、致命的であったのは『人間』を知るためには『邪神・凍れる灰色の炎』は高次の存在過ぎた。
「所詮、邪神は邪神ね。プロメテウスの莫迦者ども」
「その言葉は正しくはない。私の叡智は疑いようのないものである」
氷柱より封じられし邪神の力が『邪神・凍れる灰色の炎』に流れ込む。不定形の炎は、人型を保っているが、それは意味のないことであった。
迸る炎は触れた瞬間に、あらゆる力を凍結さ封印させる。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。心身支える三魂七魄の悉くを解きほぐし、天上天下へと帰らしめん。疾!」
ゆかりの瞳がユーベルコードに輝き、落魂陣(ラッコンジン)が輝く。
魂魄を吹き飛ばす呪詛を込めた呪符の光線が『邪神・凍れる灰色の炎』へと疾走る。
その光線は肉体を傷つけない。
魂魄のみを攻撃する光線だ。目の前の『邪神・凍れる灰色の炎』は肉体を持たない。
不定形の炎。
されど、そこに『人間』に憧れる精神性、すなわち魂と呼ぶに相応しいものあがるのならば、その光線は意味を成すだろう。
「アヤメ、羅喉、まだUDC怪物が潜んでないか警戒ッ、あたしは絶陣で畳み掛ける」
「ユーベルコード。その煌めきは私の望むものではない。その輝きは人の輝きではない。人の輝きは虹色をしている。この輝きを私は求めない」
光線と凍結の力が拮抗している。
「せめて討滅されて、『人間』に転生できればいいわね。これがあなたの憧れた『人間』の力よ」
『邪神・凍れる灰色の炎』にとって、それは人の輝きではなかった。
確かにゆかりは人間である。
だが、それ以上に猟兵なのだ。『邪神・凍れる灰色の炎』の求めるものとは違うのかも知れない。
それを理解できなかったとして、ゆかりに落ち度はない。
何せ、目の前に対峙しているのは邪神。
死生観も倫理観も異なる存在。
決して相容れぬ者である。滅ぼし、滅ぼされるだけのことしか理解できない。どれだけ否定されようともゆかりにとって、これこそが『人間』の力だ。。
「否定も肯定も何もかも内在する一つに過ぎない。結果だけを見ているから、そうなる。あなたの見た『人間』の刹那の輝きは」
「虹色。永遠の灰色ではない刹那の虹色。私にはないものだ。私のように定まることを知らぬ存在では決して見出すことのできない輝きだ」
光線が凍結を越えて、その不定形たる炎を撃ち抜く。
魂を吹き飛ばす呪詛は、その魂そのものたる『邪神・凍れる灰色の炎』の力を削ぎ落とすだろう。
凍結の力を押し切る力技。
「さあ、『人間』の力、味わいなさい」
決して届かぬ高みに手を伸ばす。
たとえ、永遠になることがなくとも、その煌めきこそが意味を成す。
そして、高次の存在には、その意味が理解できない。低次へと降りることも叶わず。さりとて、高みにのぼれば理解できるものでもない。
放つ光線が幾条もの力の迸りとなって、炎を揺らがせる。
「生命は回帰しない。あなたが求めた『人間』はそれを理解しているからこそ、懸命に生きるのよ――」
大成功
🔵🔵🔵
真木・蘇芳
アドリブ協力OK
f38063と共闘
煙草を吸いながら、エリンの姿を見付ける
「久しぶりだな、呼び出してすまねぇ」
煙草を形態灰皿に仕舞い、奥の神に向かう
人になりたいにしては無法者の神
「無関係な人を集めて欲望を満たすなんて偉く出たもんだよな」
エリンに人の尊厳ってのを叩き込んでやろうぜと右腕を回す
そして知ってるかどうか知らないがチャゲアスの歌の一部を歌う「今からそいつをこれからそいつを殴りに行こうか!」
後は滅茶苦茶なに暴れるだけさ
喧嘩ってのはそういうもんだろ?
エリン・エーテリオン
共闘あり
『やあやあ、相変わらず何も理解してないね、結果ばかり見ているからだよ?』エキドゥーマめっちゃ煽ってるじゃん…
まぁいいか…虹炎魔王、変身!
自由の力でぶっ飛ばす!っていきなり
攻撃を…ヴァルカライナーでふっ飛ばす!このままじゃジリ貧だな…『デモオクノテガアルダロ?』ああ…見せてやる!【虹炎魔王の転身】!
モード虹炎土蜘蛛…この姿は飛び回っていた奴を捕まえるための姿!土蜘蛛のような髪型や触手も土蜘蛛の爪のようになっていた。捕まえろ!エリンの手や周りの触手から虹の炎の糸が出てきた奴は抵抗しようにもUCを無効化する糸もはや詰みだった。わりとあっけなかったなじゃあ消えろこの世から、【虹炎次元天消拳】!
邪神封印柱は、『邪神・凍れる灰色の炎』の強大な力の源でもあった。
これまで彼が封じてきた邪神は数知れず。
その中には明らかに今の彼よりも強大な存在もあったことだろう。
だが、その尽くが封印されてきた。
規格外の力であると言わざるを得ないだろう。打倒するのではなく封ずる。その一点に置いて、『凍れる灰色の炎』は他の邪神を圧倒する。
ただその行為だけを見るのならば、他の邪神を害する善なる行為に思えたことだろう。
だが、それ自体に『邪神・凍れる灰色の炎』の意志は介在しない。
そうできるからしただけのことだ。
無理矢理に邪神封印柱より力を引き出しながら、彼は魂魄を削る光条を受けながら、猟兵と対峙する。
「久しぶりだな、呼び出してすまねぇ」
真木・蘇芳(Verrater・f04899)は共に地下鉄道……邪神のテリトリーたる異空間に飛び込みながら、エリン・エーテリオン(転生し邪神龍と共に世界を駆ける元ヤンの新米猟兵・f38063)に礼を告げる。
「まあまあ、袖振り合う……なんだっけ、まあ、そういうやつだ」
気にするなというように手をふるエリンを見やり、蘇芳は煙草を携帯灰皿に仕舞いながら視線を向ける。
不定形の炎。
灰色の炎。
全てを凍結する炎。
どのように名を示したとしても、その姿形は一定ではない。人型を真似てはいるものの、不格好なカカシのようにしか視えないだろう。
「人になりたいにしては無法者の神。無関係な人を集めて欲望を満たすなんてえらく出たもんだよな」
『やあやあ、相変わらず何も理解してないね、結果ばかり見ているからだよ?』
蘇芳の言葉。『エキドゥーマ』の言葉。
それぞれが異空間に反響する。
だが、そのどれもが『邪神・凍れる灰色の炎』に届くことはなかった。
「意味のない言葉だ。私の憧れた刹那の虹色には程遠い色ばかりが私の前に訪れる。力を持つものに興味はない。私にとって、それは価値のないものだからだ」
膨れ上がる炎。
あの炎に触れてしまえば、確実に封印されてしまう。
「めっちゃ煽るからじゃん……激おこじゃん」
「人の尊厳てのを叩き込んでやろうぜ」
蘇芳の右腕が回る。肩を鳴らすように。
ある歌の一節を口ずさむように蘇芳は、踏み出す。『邪神・凍れる灰色の炎』が知らぬ歌の一節。
知っているはずもない。
『人間になりたい』と願いながらも、人間のなんたるかを理解していない彼にとって、その歌は意味のないものであったからだ。
結果だけを見ているからと、『エキドゥーマ』は言った。エリンにその言葉の意味はわかったかもしれない。
『邪神・凍れる灰色の炎』が見ていたのは、人の生き死に。
一生。
邪神から見れば一瞬の出来事だろう。
永遠の如き灰色の時間を生きる彼にとって人の死生は、まばゆく輝く。故に生命の埒外たる猟兵には興味を示さない。
「まぁいいか、自由の力でぶっ飛ばす!」
虹炎魔王の転身(エーテリオン・チェンジ)によってエリンの姿が変わる。
モード虹炎土蜘蛛。
あらゆるものが土蜘蛛のようになったエリンの姿に蘇芳は拳を合わせる。
「ああ、今からそいつを」
「これからそいつを」
「――殴りに行こうか!」
エリンのユーベルコードは他者のユーベルコードを無効化する。反射する土蜘蛛の虹の炎は、灰色の炎を反射する。
全てを凍結封印する炎を反射すれば、その力は『凍れる灰色の炎』に向けられる。開放した『邪神封印柱』の力は氷の柱の中に戻り、その力の発露を見せない。
「私が求める叡智とは程遠い。おまえたちの言うこと、なす事、その全てが無意味に見える」
放つ糸が不定形の炎たる『凍れる灰色の炎』を捉える。
だが、その実体無き体は捉える糸をすり抜けていく。しかし、エリンにとって重要なのはそこではない。
あの凍結する炎さえ防げているのならば、後は己たちの拳で叩きのめすだけであったからだ。
「喧嘩ってのはそういうもんだろ?」
互いの意地がぶつかり合うもの。
引くに引けぬ意地。
それを愚かと呼ぶのならば、それが正しい。愚直である。道理も、真理も、法も、何もかもが、その意地によって粉砕される。
蘇芳の揮う拳とはそういうものだ。
戦場の死神(パンツァートート)は、此処に居る。
放つ拳の一撃が不定形の炎を叩き上げる。
わりとあっけなかったな。じゃあ、消えろ。この世から」
エリンは見ただろう。
蘇芳の打ち上げた炎の体が、また人型になっていく。何も人型にこだわらなくてもいいだろうと思ったかも知れない。
その気になればどんな姿にもなれるはずだ。
けれど人型にこだわったのが『邪神・凍れる灰色の炎』の欠点であった。
願望を叶えたいと願うがゆえに、その形に執着する。形を寄せれば、理解できるとでも思ったのだろうか。
真に愚直であったのははどちらか。
『人を理解しないで、形ばかりなぞっているからだよ』
その言葉は『エキドゥーマ』の言葉であったかもしれない。
無理解の先にあるものは、破滅でしかない。蘇芳の拳、エリンの拳。
その二つの拳が不定形の炎を捕らえ、その一撃でもって恐るべき『邪神・凍れる灰色の炎』の体を邪神のテリトリーに在りながら、吹き飛ばすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜鳥・藍
そしてズキズキと心の奥に痛みが。人の元であっても人として生まれず、それでも人として生きたいと願い生きたあの人の。
この身は人間とは違いですが産み育んでくれた両親がいる。色彩は違っても慕ってくれる弟がいる。あの人より一歩人に近づいた私。
差異を知れば知るほど今すぐには同じになる事は出来ない。
そして来世以降だとしてももし本当に私が人間になる事が出来たとしてもきっと私は他者との違いに悩むのでしょうね。
心のままに呼び出すもの、それは白き虎。
彼女の咆哮は凍り付かそうとする氷河そのものを破壊するでしょう。だって彼女は風の申し子。凍り付く以上の勢いなのですから。
胸の奥が痛む。
いや、これは肉体の痛みではないと夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は知っている。これは心の奥の痛みだ。
ズキズキと痛む。
誰かの願いで転生するのが影朧であるというのならば、彼女はいつかの誰かの願いによって今此処にある存在である。
自身が人ではないことは理解できている。
クリスタリアン。
宝石の体をもつ生命。
この身は元より人とは違う。
けれど産み育ててくれた両親がいる。彼等は己を暖かく迎えていれてくれていた。色彩が異なっていても慕ってくれている弟がいる。
いつかの誰かよりも人に一歩近づいたのが自分だ。
吹き荒れる灰色の炎を藍は見た。
「――」
言葉は出ない。
「無意味だ。おまえたちの行いは全てが無意味だ。私の叡智は知らしめる。おまえたちは生命の埒外たる存在。根本的に人とは異なるもの。私が憧れた人間とは違う。刹那の輝きですらないのに、その色を知るお前たちは」
荒ぶ氷雪の嵐。
きらめくユーベルコード。
その力の奔流は圧倒的だった。異空間は生きた氷河へと変わり、藍を蝕む。
凍結封印の力は強大な邪神すら封じて見せる。
「差異を知れば知るほど今すぐには同じになることはできない。私は人間ではない。もしも、私が人間になるのだとして、それは来世」
藍は生きた氷河が荒ぶ氷の礫を受けながら、痛みにあえぐ。
だが、それは今も変わらず胸の奥の心の痛みに。
「そして来世以降だとしても、もし本当に私が人間になることが出来たとしても、きっと私は他者との違いに悩むのでしょうね」
未来が見えるわけではない。
困惑だけが心のなかに広がっていく。
この心のささくれたものはいつになったら、なめらかなものになるのだろう。どうあれば人を傷つけずにすむだろうか。
思い悩む心は白虎の咆哮(ビャッコショウライ)をもたらす。
藍の瞳がユーベルコードに輝いている。どれだけ心の痛みがあろうが、肉体に刻まれる礫の一撃が重たくあれども、それでも藍は叫ぶのだ。
「それでも」
青白い光を纏て『邪神・凍れる灰色の炎』の不定形の炎が満ちていく。だが、その端から白虎の咆哮が、その肉体を吹き飛ばす。
氷河を破壊する。
かの白虎は自身の攻撃の意志。
それを司る百kの咆哮は風の申し子たる力を発露させる。
心が凍りつく暇なんて与えてはもらえない。
疾風のように白虎の咆哮が駆け抜けていく。あらゆるものを凍結封印する炎すらも吹き飛ばし、『邪神・凍れる灰色の炎』は苛立つように、その炎を燃え盛らせる。
「何一つ持たぬ身でありながら、私の求めるものに近しいもの。それがお前達であるというのならば、狂おしいほどの嫉妬が私の体を形作っていく」
「人に憧れながら、人を理解しないもの。それがどんなに意味のないことか。人になりたいという願いは同じ。けれど、私とあなたは違う」
藍は叫ぶ。
人との違いは、いつだて自分を苦しめる。
だが、その苦しみは自分だけのものではない。
人間から見た己だって、自分とは異なるものだ。人の見る自分はどのように映っているだろうか。
その強迫観念の如き思いは、対する者たちもまた抱くものである。
そこに大きさの違いはあるのかもしれない。
「その差異を知るか、知らぬか。それが私とあなたの違い」
吹きすさぶ風が冷たい風を吹き飛ばす。
白虎は藍の胸の奥の痛みを解するか。疾風はあらゆるものを置き去りにして駆け抜けていく――。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
皆違って皆良い
ナンバーワンよりオンリーワン
何か解るかな
人間が好きな言葉だ
そして一つの真理でもある
人も殺せばただの肉塊だよ
僕も例外ではない
きみのやり方で人間らしさを追求すると
必然的に現人類は滅ぶ事になるな
その時きみは地球上に独りきり
誰も人間性を保証してはくれない
それは少し可哀想だから
きみを人間に近づけてあげよう
UCを発動し鉈を構える
まず邪神封印柱を早業で解体
逃げ足を活かして炎から逃れながら
隙を見て接近し攻撃して退避を繰り返す
邪神の本体も徐々に削り取り
精神的に追い詰めていこう
きみのやり方だよ
命の輝きは刹那
誰もが逃れ得ぬ死を恐れて
日々を懸命に生きている
きみにも理解できたなら
最期に煌めきは見えるかもね
迸るは名状しがたき恐怖をもたらす灰色の炎。
『邪神・凍れる灰色の炎』の不定形の体が噴出する炎は、触れたものを永久凍結によって凍りつかせ、封印する力を持つ。
例外はない。
その規格外の力によって、彼は自身よりも強大な邪神を封じてきたのだ。
「私の望み。私の願い。私の憧憬。その全てが、私の叡智によって為し得ぬものばかりである。全能であるがゆえに、全能ではないことを望む。万能など無意味である。全てを手に入れるなど不必要だということが、万能になりて初めて理解できるものである」
邪神の言葉だ。
彼にとって、やはり人間とは不可解でありながら、どうしようもなく憧れるものなのだ。
永遠に近しい灰色の如き悠久を生きる者にとって、刹那に生きる人間は眩いばかりに彩ろに満ちていることだろう。
虹色の如き輝き。
「みんな違ってみんな良い。ナンバーワンよりオンリーワン。何か解るかな」
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は静かに告げる。
異空間での戦いは、『邪神・凍れる灰色の炎』の溢れ出る力の発露によって、拮抗していた。
猟兵のユーベルコードが迸り、消耗させてなお、この力。
自身よりも強大な邪神を封じて己の力と為してきた存在。その力はやはり侮ることなどできなかった。
「唯一などいらぬ」
「人間が好きな言葉だよ。そして一つの真理でもある」
キミのように、と章は浅く微笑むしかなかった。
『邪神・凍れる灰色の炎』がしようとしていることは、ただの鏖殺である。
「人も殺せばただの肉塊だよ。僕も例外ではない」
疾走る炎を躱しながら、章は告げる。人を理解しようとして分解する。それはともすれば、機械をばらして仕組みを解明しようとする行為に近いだろう。
人と機械の違いは、ばらした後、元に戻るか否かである。
だが、機械と違って人間は一度ばらしてしまえば元に戻らない。生命は回帰しない。
「キミのやり方で人間らしさを追求すると必然的に現人類は滅ぶことになるな。その時、きみは地球上に独りきり。誰も人間性を保証してくれない」
異なることを認められない。
他があるから個を、個があるから自我を。
されど、『邪神・凍れる灰色の炎』はそれを理解できない。その倫理観では、死生観では、人間を理解することなどできようはずもない。
次元の違う存在が、他の次元を理解できないように。
「それは少し可愛そうだから、きみを人間に近づけてあげよう」
模範解答(マインドコントロール)で詭弁だ。
鉈。解体用のそれは、軽い。
生命を屠るよりも軽い。炎を躱しながら、揮う。一撃が『邪神封印柱』を破壊しようとして弾かれるのを見ただろう。
けれど、弾き飛ばせればそれでいい。
揺らめく不定形の炎。
人型ばかり取ろうとしているのは、『人間になりたい』という願いの発露であろう。どうしたってできないことだ。
邪神が人になろうなどということは。
翻りながら、章は笑むしかない。
「生命の輝きは刹那。誰もが逃れぬ死を恐れている」
「意味のない言葉だ。死とは甘美なる眠りそのもの。恐れる必要など無い。終わりは来る。かならず訪れる安らぎだ。何を恐れる必要がある」
「けれど、人は恐れるのさ。どれだけの言葉を、悟りの言葉を先達から伝え聞いたとしても、その本質を理解できない」
だから、と章は鉈を揮う。
その一撃は確かに軽いものであったかもしれない。
けれど、生命以上に重たいものがあるだろうか、いやない。
だからこそ、章は自分の胸より溢れる言葉でもって応える。たとえ、模範的な回答であっても、当たり障りのない言葉であったとしても。
章の心の内側から溢れたのならば、それこそが真の言葉である。
「日々を懸命に生きている。きみが理解できず、きみが知り得ず、きみが手に入れることのできない煌めきだ」
だけれども、と章は鉈の一撃を振り下ろし、不定形の炎を両断する。
「その時が本当に訪れるのならば、最期に煌めきは見えるかもね」
優しさがもたらすのは、一つの幻視であったのかもしれない。ありえぬを見せる鈍色の輝きの一閃。
人になりたいという憧憬が見せた僅かなほころび。
章は、そうであればよいと願うばかりであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『不動なる者』にて
『まずは形から』という言葉もあるが。そういうのは…向いとらんのよ、人間というのは。
人間というのはな、一つきりではないのだよ。ゆえに難しく、すれ違いも多々起こる。
我らでも、互いを深く理解したのは今のようになってからである。
UCにて斬撃を置いていく。しかもその斬撃に、衝撃波と重力属性を帯びさせておるからな。
凍れる炎であっても、削れるであろうよ。
その柱も、置いた場所に斬撃あるからの。封印解く前に斬れるということだ。
しかし、凍れる灰色の炎な…『侵す者』と『静かなる者』が参考にしそうよな。
全てを凍りつかせる灰色の炎。
叡智のプロメテウスたる名の炎は、邪神を封じる。『邪神・凍れる灰色の炎』は、自分よりも格上の邪神すら封じてみせる。
触れれば凍結する炎。
その矛盾したかのような力を体現する彼は、その不定形の炎を人型に保とうとしている。
「私の望み。私の願い。私の色。永遠ではない刹那においてこそ、その輝きがあるのならば、私は『人間になりたい』」
その言葉に偽りはない。
ただ純粋に人間に憧れている。
しかし、その憧憬が世界を滅ぼす。
「『まずは形から』という言葉もあるが。そういうのは……」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は、その一柱たる『不動なる者』は言う。
「向いとらんのよ、人間というのは」
人間を晒し、差異を審らかにするために分解する。
それは玩具を分解する幼子のようでもあった。
知りたいという願い。
そうありたいという願い。
二つの願いが混ざりあえば、そこからうまれたのが狂気以外の何ものでもないと知るだろう。
けれど、『邪神・凍れる灰色の炎』は止まらない。
邪神であるがゆえに。その倫理観は人のそれとは違う。
「人間というのはな、一つきりではないのだよ。故に難しく、すれ違いも多々起こる」
それは自分自身たちであっても同様であったことだろう。
生前の、と言う言葉もわずかに悲しみがあるかもしれない。
深く、深く理解するためには肉体という器は不必要であったのかもしれない。けれど、分かたれたものがある。
もう二度と目に触れることのないものがある。
故に、矛盾している。
分かり合うこと。触れ合うこと。
そのどちらもが、もっとも理解から遠くなる。4つの柱たる魂が混ざり合って、ようやく理解できること。
「だからこそ知ろうというのだ。全てを私の叡智で審らかにしてみせる。もとに戻してもみせよう」
「意味のないことだ。ひとの生命は回帰しない」
手にした剣から斬撃が振るわれる。
だが、それは未来への斬撃である。今すぐに振るわれるものではない。
「四天境地・山(シテンキョウチ・ヤマ)。技のように紡がれていくものであればこそ、ひとは生きているのであるよ」
放たれたユーベルコードは『不動なる者』の父親のものだ。
再現したもの。
全てが同じであるとは言わない。けれど、それに人は練磨という名の連綿たるを紡ぐ。
その結果が邪神にすら届き得る剣技となるのだ。
「未来からの斬撃……否、置いている、か」
邪神封印柱を切り裂く斬撃。
視えぬ斬撃は、無数に展開され、衝撃波と重力の属性を持って切り裂いた邪神封印柱を地面に落とす。
「その封印は解かせぬよ」
揮う斬撃は不可視。
不定形の炎すら切り裂く衝撃波は、『邪神・凍れる灰色の炎』を囲う。
これより先には行かせないとばかりである。もしも、これより先が『邪神・凍れる灰色の炎』にあるというのならば、それは人間の鏖殺という未来だ。
その未来をこそ『不動なる者』はさせない。
人の生命は、人の手によってこそ回るものである。ならば、邪神の介入などさせぬと、本来在りし未来を守るために過去の技でもって、切り裂くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
霞・沙夜
【路子さん(f37031))と】
あなたが人間に憧れるのは構わないのだけれど、
あなたのやり方では『人間』を理解することは無理ね。
命はひとつとして同じものはないわ。
バラバラにして、元通りにして、を繰り返したくらいでは、理解できないし、
それでできるのは、人間まがいの肉の塊よ。
それがわからない内は、どんな煌めきにも届かないわ。
……あなたがそこにたどり着くことは、もうないけれどね。
路子さんの【心魂賛歌】の援護を受けて、雪斗といっしょに突っ込むわ。
「ゆきちゃん!」
【終の一閃】を使って、糸でプロメテウスを捕縛し、
雪斗の鎌で一閃させていただきます。
路子さんの歌、こんどはユーベルコードなしで聞きたいわね。
遠野・路子
【沙夜(f35302)】と
なんだ、残念
そんなことで人間を知ろうとしていたなんて
炎は燃える温度で色を変える
燃やすモノを変えたところで煙が出るだけ
灰色がとてもお似合いだね
プロメテウス、人に炎をもたらした神の名
あなたが輝くためには人間を知ろうとするのではなく
人間とともに在るべきだった
沙夜、援護する
人間の生命が虹色に輝くのは、その中に強い|魂《こころ》があるから
刹那を駆け抜ける|魂《いのち》があるから
ゆえに私は謳う
【心魂賛歌】
輝く銀の光があなたを阻み
あなたを討つ私達の力となる
生成された詠唱銀の槍で邪神封印柱を沙夜の分まで迎撃
生きた氷河からの攻撃は詠唱銀の指輪の効果でしのげるはず
沙夜、雪斗、決めちゃって
分解、解体。
細胞の一つ一つまで審らかにし、その差異をもって知る。
言葉にしてしまえば『邪神・凍れる灰色の炎』のやろうとしていることはそういうことであった。
邪神から見ればそうであっても、人間からすればそれは鏖殺に他ならない。
生命を奪うことは人間の本質である。
奪い、奪われることをこそ生命の命題とするのならば、それは間違いではないだろう。知るために奪う。
「なんだ、残念。そんなことで人間を知ろうとしていたなんて」
遠野・路子(悪路王の娘・f37031)は首をかしげる。
それが意味のないことであるのを彼女は知っていた。いつもそうだ。新世代のゴーストである彼女にとって、人間は襲わなければならないものではなかった。
視肉を食べていれば、人間は襲わなくていい。
その必要性すら路子は感じることはなかっただろう。人間でなくとも路子は人間を知っている。
「あなたが人間に憧れるのは構わないのだけれど、あなたのやり方では『人間』を理解することは無理ね」
霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)は言い放つ。
生命は一つとして同じものはない。
生命は回帰しない。
「私ならば理解できる。正しく理解できる。私ほど人間を見てきた者もいないはずだ。永遠の灰色のごとき時間の中で私は見てきたのだ」
だから、できる。
その理屈はあまりにも稚拙であったことだろう。
「バラバラにして、元通りにして、を繰り返したくらいでは理解できないし、それでできるのは人間まがいの肉の塊よ」
紗夜は言い放つ。
路子もまたうなずく。
「プロメテウス、人に炎をもたらした神の名。あなたが輝くためには人間を知ろうとするのではなく、人間と共に在るべきだった」
二人を襲う凍結の炎。
格上の邪神すら封じる永久凍結の力が二人に迸る。
「紗夜、援護する」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
「人間の生命が虹色に輝くのは、その中に強い|魂《こころ》があるから。刹那を駆け抜ける|魂《いのち》があるから」
路子は謳う。
今もその歌は響いているか。
路子はうなずく。ならば、響け。心魂賛歌(タマシイアルイハイノチヲタタエルウタ)。
蒼銀の宝石が破壊され、解き放った銀色の光が紗夜を包み込む。
「その虹色の輝きこそ私の求めたもの。私がたどり着くべき場所」
「……あなたがそこにたどりつくことは、もうないのだけれどね」
紗夜の言葉は、それだけであった。
「ゆきちゃん!」
糸繰り人形『雪斗』が疾走る。紗夜の手繰る糸が『邪神・凍れる灰色の炎』を捕縛する。
だが、彼は不定形の炎。
炎を囚えることなどできようはずもない。けれど、その炎を縫い留めるは、銀の槍。
路子の放つ詠唱銀の槍が糸を絡め取りながら、『邪神・凍れる灰色の炎』を捕らえたのだ。
その歌はまだ聞こえている。
新たな歌だ。あの青春の日々に聞いた歌。けれど、その歌さえも未来に進んでいる。紗夜は、その歌と共に死と隣り合わせの青春を駆け抜けた。
青春は終わる。
けれど、人生は続くのだ。
「輝く銀の光があなたを阻み、あなたを討つ私達の力となる――紗夜、雪斗、決めちゃって」
「あなたは理解しない。理解できない。あなたの中にあるものでは『人間になりたい』という願いは祈りに昇華しない」
ユーベルコードに輝く紗夜の瞳。
終の一閃(ツイノイッセン)。
その一撃は雪斗の手にした大鎌の一閃。
不定形なる炎を切り裂く一撃は、痛烈なる斬撃となって『邪神・凍れる灰色の炎』を切り裂く。
痛みなどないはずだった。
けれど、その痛みに喘ぐように『邪神・凍れる灰色の炎』は咆哮している。
決して届かぬがゆえか。
それとも、今も響く生命の歌に狂おしいほどの羨望を抱くからか。
二人を襲う生きた氷河すら寄せ付けぬ力。
幾度となく歌われてきた讃歌は、今も響いている。
問う声が聞こえた気がしただろう。
君はまだその歌を歌えているか。
二人は頷く。生きているのならば、その歌は歌えるのだと――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
……最早どこから指摘すれば良いのやら…人間に憧れているくせに人間のことが何も見えていない……
…だから願いはともかく手段を致命的に間違えてるね…
…なんにせよ…人の害になるなら倒れて貰うよ…
…【尽きる事なき暴食の大火】を発動…生きている氷河を暴食の白い炎に喰わせて…
…浄化復元術式【ハラエド】を付与した術式組紐【アリアドネ】で結界を構築…青白い燐光の影響を防ぐよ…
…そして氷河を喰らって大きくなった白い炎を凍れる灰色の炎に向かわせよう…
…それにしても…何をもってして『人間』と定義するのやら…輝きさえあれば良かったのか…そこから考える必要があったかも知れないね…
「私が私のまま滅びることなどあってはならない。私は永遠の灰色。刹那の虹色ではない。いやだ。このまま滅びたくはない」
猟兵たちのユーベルコードの煌めきが、不定形の炎を吹き飛ばしていく。
『邪神・凍れる灰色の炎』は、幾度吹き飛ばされようとも、切り裂かれようとも、その炎の形を人型に保とうとしていた。
それは哀切なる願いのようであった。
『人間になりたい』
唯一つの願いのためにあらゆる生命を犠牲にすることを厭わぬ倫理。
永遠すらかなぐり捨てて刹那を求める生死。
どれもが人間という枠組みの中では異質であったし、意味のないことだった。永遠にたどり着くことのできぬ回廊の中に迷い込んだものであった。
「……最早どこから指摘すれば良いのやら……人間に憧れているくせに人間のことが何も視えていない……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は理解するだろう。
『邪神・凍れる灰色の炎』は、人間のは放つ刹那の虹色の如き輝きに目がくらんでいるだけだ。
ただそれしか視えていないから、全てをかけちがえたように間違えてしまう。
「……だから願いはともかく手段は致命的に間違えてるね……」
メンカルの瞳がユーベルコードに輝く。
生きた氷河が迫ってきている。
おぞましき氷河。全てを凍結させる封印の炎。恐るべき力であろう。この力で『邪神・凍れる灰色の炎』は格上の邪神すら封じてみせてきた。
まさにプロメテウス。
その行い事態を見れば、それは人間のためになることであったのかもしれない。本人のそのつもりがなくとも、そうあるように視えてしまう。
「……何にせよ……人の害になるなら倒れて貰うよ……」
「私が滅びるのならば、それは刹那の虹色を手に入れてからだ!」
迸るは白色の炎。
尽きる事なき暴食の大火(グラトニー・フレイム)があらゆるものを燃料する暴食の炎となって走る。
迫りくる生きた氷河すらも燃やしていく。
「私は願う。私は願う。『人間になりたい』と。それだけが私の永遠の意味だ」
「……願ってばかりだから、そんなことになる。人間を見ていたのならばわかるはずだよ……」
メンカルは浄化復元術式『ハラエド』を付与した術式組紐『アリアドネ』で結界を張り巡らせる。
それでも生きた氷河は白色の炎と拮抗していく。
哀しい抵抗だと思っただろう。どんなに『邪神・凍れる灰色の炎』が望んだとしても、その願いは届かない。祈りにすら昇華しない願いは、必ず滅びる。
あの邪神封印の炎は厄介極まりない。だが、暴食の大火は、それすらも燃料にする。
「全てを燃やす炎。私の、私自身を燃やす炎。暴食、貪欲、それが」
「……人間だよ。大罪を抱えて、それでも生きていく。お前の言うところの虹色とはすなわち、その大罪の見せる光でしかない。光も闇も、内在するからこそ、光のスペクトルを認識できるように……」
メンカルの瞳がユーベルコードに輝いている。
生きた氷河を飲み込んだ白色の炎が、灰色の炎すら凌駕していく。
「……何をもってして『人間』と定義するの……輝きさえあればよかったのか……」
「あの刹那の輝きは美しいからだ。私の灰色の炎ではない、あの豊かな輝きが、それこそ私が欲するものだ! ならば!」
「……ならどうして手をのばす。触れてはならない美しさも、その叡智があるのならば、理解できたはずだよ……なぜ、そこを飛ばして手をのばす……そこから考えなければ……」
ボタンの掛け違い。
それが起こってしまう。
致命的な間違い。だからこそ、メンカルは、その間違いによって奪われる生命を守るために大罪の炎でもって永遠の如き灰色の炎を飲み込むのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
邪神が今回口を挟まないのは
趣味じゃないからかなぁ
あんまり美しくは無さそうだし
まあ、美しいから永遠にすべきと
相手に議論仕掛けられても困るから良いけどね
人間が刹那を生きるからこそ美しい
という主張は理解できるけど
人間になるためという行動が看過できないから
止めさせて貰うね
向こうからみたら僕は人間のような邪神に見えるのかな
そうならちょっと凹むなぁ
実体が無さそうなのは厄介だね
手持ちに良い武器が無いから
邪神の力を使わせて貰うよ
UCを使用し神気を籠めた弾で攻撃しよう
実体をもった氷の攻撃は神気で防御
低温による攻撃は…悲しいかな凍るのには慣れてるからね
凍ったまま体を動かそう
回復するならそれ以上の勢いで削るだけだよ
いつもならば口を必ず挟んでくる身に融合した邪神が今回に限っては沈黙を守っている。
それを佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、趣味じゃないからだろうと思っていた。
灰色の不定形の炎。
『邪神・凍れる灰色の炎』。
そのゆらめきは、確かに美しいと呼ぶにはあまりにもいびつなものであった。とは言え、晶はよかったとも思うのだ。
あれは美しいとは思わない。
自分自身が邪神の価値観に毒されているからかもしれないとは思わなかったかも知れない。
永遠の如き灰色。
「相手に議論仕掛けられても困るから良いけどね」
美しさが内なる邪神の価値基準であるというのならば、刹那を永遠にしたいと願うだろう。
だが、『邪神・凍れる灰色の炎』は刹那の輝きをこそ得て滅びたいと願っているようにも思えたのだ。
根本が似通っていたとしても、方向性が真逆。
「私の願い。私が『人間になる』こと。それのどこが過ちであるというのか。美しさも、輝きも、あの色彩も。全て、私が願ったことだ」
「人間が刹那を生きるからこそ美しいという主張は理解できるけど、人間になるためという行為が看過できないから」
晶の瞳がユーベルコードに輝く。
女神降臨(ドレスアップ・ガッデス)によって、晶の宵闇の衣が可憐なドレスへと変わって、異空間にひるがえる。
浮かぶ鏡には、晶の姿が捕らえられない。
魔力の翼が羽ばたき、迫る生きた氷河から逃れる。手に携えたガトリングガンから放たれる弾丸が、絶対凍結の炎を撃ち抜く。
「お前は違う。お前は刹那を閉じ込めようとしている。色褪せることのないようにと言いながら、全てを手に入れようとしている。お前は結局の所、私と同じだ」
その言葉に晶はわずかに心を打ちのめされたような気持ちになるだろう。
すなわち、それは内在する邪神と晶が変わらぬようになっているということである。同じ邪神から見て、晶の現状は、そのように映っている。
「だとしても、それでも僕は元に戻りたいと思っているし、まだ人間のつもりだよ」
「いいや、お前は違う。お前には私と同じ灰色の如き永遠のくすんだ色しか見いだせない」
ガトリングガンから弾丸が撃ち放たれ、嵐のように氷河を砕いていく。
周囲に満ちる冷気は肉体を強張らせる。
けれど、悲しいかな。凍りつくことには慣れている。晶の肉体に宿る邪神もまた停滞という名の力を持つ。
その権能の代償として石化するのならば、晶はためらうことなく冷気の中を飛ぶ。
魔力の翼さえ凍りつく空間。
「君には僕がそう視えているのかも知れない。けれど、でもね、それでも歩みを止めないのが『人間』というものなんだよ」
突きつけたガトリングガンの砲身が回転する。
凄まじいまでの弾丸の連射が『邪神・凍れる灰色の炎』を撃ち抜いていく。
「灰色を内包しながら、それでも虹色の輝くいびつさ。そのいびつさが……!」
「そのつもりはないよ。僕の価値観と邪神の価値観は違う。だから、混ざり合わない」
不定形の炎を吹き飛ばし、それでもなお互いの権能がせめぎ合って力の奔流を異空間に満たしていく。
これが邪神同士の戦いであるというのならば、まさしくそのとおりであったことだろう。
時は止まらない。
人の歩みが止められないのと同じ様に。
ならば、晶は未だ自分が人間であると証明するように凍りつく体のまま、その力の迸りを持って否定の弾丸をプロメテウスの炎に打ち込むのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
みんな違ってみんないいのに!
なんで形の違うものに憧れるのか
まあそこがかわいいんだけれど!
●全ての肯定は衝突を是認する
おらっしゃー!喰らい付け![餓鬼球]くんたち!
同じ邪神仲間に負けてないってとこ見せろー!
と【第六感】が囁く最高のタイミングで封印柱に[餓鬼球]くんたちに喰らい付いてもらってー
ボクも封印柱に、もしくは灰色の炎くんにUC『神撃』をドーーーンッ!!
んもー
そんなことをしなくてもボクたちだって欠けているっていうのにね
悲しいかなキミは|プロメテウス《オブリビオン》
それに気付く事もないんだね
いつかキミの刑期を終わらせるヘーラクレースが現れることをボクも祈ってるよ!
猟兵たちの攻撃は不定形の炎を吹き飛ばしていく。
どれだけ力を削がれようとも、何度でも『邪神・凍れる灰色の炎』はその炎の体を人型へと変える。
二度と同じ形になることのない炎。
されど、何度でも求めてしまうのだ。
『人間になりたい』
ただその願いのためだけにいびつな願いは、まるでその姿を現しているかのようでもあった。
「なぜ邪魔をする。なぜ阻む。なぜ願いを退ける」
『邪神・凍れる灰色の炎』にとって、それは理解できぬことであった。
己の欲望が世界を滅ぼすのだとしても、それは世界の滅びでしかない。世界は必ず滅びる。
滅びぬものなど存在しない。
故に、永遠を生きる彼にとってそれは些細な問題であったはずだ。
「みんな違ってみんないいのに! なんで形の違うものに憧れるのか、まあそこがかわいいんだけれど!」
ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は肯定する。
否定はしない。
だが、肯定と肯定があるのならば、そこには矛盾が生まれる。
どちらも、はない。
あるのは衝突だけである。
ロニにとって邪神も人も違うものである。だからいいのだという。
彼に追従するように球体たちが飛ぶ。邪神封印柱から強引に力を引き出し、『邪神・凍れる灰色の炎』は漲る炎でもってあらゆるものを凍結させていく。
球体たちも例外ではない。
「喰らいつけ! 餓鬼球くんたち! 同じ邪神仲間に負けてないってところを見せろー!」
ロニの言葉に球体達が一斉に飛び込む。
邪神封印柱に食らいつくために、どれだけの球体が凍結させられたかはわからない。
それほどまでに『邪神・凍れる灰色の炎』の力は邪神同士であっても優位に働く。
あらゆるものを凍結封印する炎は、格上の邪神であっても封印してしまうのだから。
「私の願いを叶えるために私は人間を知りたいと願う。知るということは審らかにするということだ」
「んもーそんなことしなくてもボクたちだって欠けているっていうのにね」
ロニは飛び込む。
球体たちが開いた道を、押し広げ邪神封印柱すらも引き離した不定形の炎たる本体へと拳を振るいあげるのだ。
「悲しいかなキミは|プロメテウス《オブリビオン》。それに気づくこともないんだね」
どんなものであれ欠けている。
永遠であるからこそ、刹那がないように。
那由多の先にあるのが灰色であると思うように。
「いつかキミの刑期を終わらせるヘーラクレースが現れることをボクも祈っているよ!」
煌めくは、神撃(ゴッドブロー)。
それは願いではなく。
祈りであったのかもしれない。願いが昇華した先にあるのが祈りであるというのならば、『邪神・凍れる灰色の炎』の願いもまた昇華するであろうか。
いや、それはないのかもしれない。
願いは願いのまま。
振るわれる拳は、その永遠の如き今を終わらせるために振るわれる。
停滞した時は世界を滅ぼす。
ならばこそ、ロニは神々しさを感じさせるほどの拳でもって、その停滞を破壊する。
「いつか、と願うボク自身もまた同じなのかもしれないけれどね!」
でも、それでもいいのさとあっけらかんと笑ってロニは拳を振り抜いた――。
大成功
🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
……あのさ、人間になりたい割にアンタずっと「邪神の価値観と立ち位置」からしかモノ言ってないんすけど?
そのままだとなれるのは「人間のフリが上手い邪神」止まりっすよ
……それももうない未来っすけどね
足元より「沼」を広げて触腕を出し、邪魔な鏡とかは触腕で|沼の底《異界》へ沈め廃棄処分
ところでさ、人と歩みたいんじゃなく、|自分とは何もかもが違う存在《にんげん》になりたいなら、当然、今の自分の何もかもを捨てる覚悟、在る筈っすよね?
相手の攻撃より前に、最悪発動されても触腕を出し切り離して盾替わりにして早いうちにUCをぶち込むっすよ
……これは邪神としての姿も思考も能力も、全てを削ぎ殺し神を“ありふれた何か”へと引きずり落とす為のUC。
さて、気分はいかがっすかね?まあ、どうでもいいんすけど
後は銃よりワイヤーを射出、通電したのち引き倒して触腕で締め上げ生命力吸収っすよ
……体も、精神も、魂も変わればそれはもう|同じ自分《アンタ》じゃない
アンタがアンタのまま人間になれる可能性なんて最初からないんすよ
『邪神・凍れる灰色の炎』は力を振り絞る。
猟兵たちの攻撃は苛烈であった。
『今』を存続させるために彼等は力を揮う。たとえ、『今』がいつしか『過去』になるのだとしても、時が過去を排出して進むように弛みない歩みを続ける。
別段、猟兵だけが特別であるわけではない。
人間だって、同じように歩んでいる。
歩みを止められない。
時は待ってはくれない。止まらない。逆巻くことはない。
けれど、悠久の時を生きる『邪神・凍れる灰色の炎』にとって、その時間は停滞にも等しいものであったことだろう。
全てが灰色に見える。
「だから虹色に憧れるのだ。あの光が見せる多彩な輝きに、私は目を奪われる。美しきものにあこがれて手を伸ばすのと同じ様に、なんらお前たちと変わらぬ願いでもって」
『邪神・凍れる灰色の炎』は言う。
けれど、黒沼・藍亜(人■のUDCエージェント・f26067)は頭を振る。
「……あのさ、人間になりたい割にアンタずっと『邪神の価値観と立ち位置』からしかモノ言ってないんすけど?」
藍亜にとって、それは無意味な願いであると断じるに値するものであった。
人を理解したいと願うのならば、同じ立ち位置にいなければならない。高次から言葉に誰がうなずけるだろうか。また低次の言葉を聞き入れることがあるだろうか。
人の理屈は邪神にとって理解不能であったのかも知れない。
「そのままだとなれるのは『人間のフリが上手い邪神』止まりっすよ」
その言葉は辛辣だったかもしれない。
けれど、事実だ。
『邪神・凍れる灰色の炎』は、決して『人間にはなれない』。
どれだけ憧れようとも。
その憧憬が本物だとしても。偽り無いものだとしても。
「……それももうない未来っすけどね」
彼女の足元から広がる沼。
黒い粘液が異空間を侵食していく。鏡が満ちる異空間を取り込み、|沼の底《異界》へと沈めていく。
淡々としたものであった。
何一つとして世界に『邪神・凍れる灰色の炎』の痕跡を残さぬと言わんばかりであった。
「私は願う。願ったのならば叶えなければならない。人とはそういうものだろう。願望実現のために歩む生き物だ。ならば、私もまた、それに――」
「ところでさ、人と歩みたいんじゃなく、|自分とは何もかも違う存在《にんげん》になりたいなら、当然、今の自分の何もかも棄てる覚悟、在る筈っすよね?」
噴出する灰色の炎。
その炎はあらゆるものを凍結封印する炎。
格上の邪神すら容易く封印せしめる炎を前に藍亜は触腕を盾にして、切り離す。
「アンタの異形も、狂気も、異能も、「異常さ」なんて何一つボクらは許してあげない。全部、平凡でありきたりな“正気”で塗り潰してあげるっすよ」
幻影が疾走る。
狂気が汚染する。
異常を許さぬ神罰が迸る。
藍亜が獲得したのは、非常にして非情なる現実。それによって、知ったのだ。
かみさまなんていないんだね(カミモアクマモミナシンダ)、と。どうしようもないことばかりが日常を非日常にしていく。
塗りつぶしていく。
「――……!? 私の炎が」
「……これは邪神としての姿も思考も能力も、全てを削ぎ殺し神を“ありふれた何か”へと引きずり落とす為のユーベルコード」
藍亜の言葉を『邪神・凍れる灰色の炎』は理解できなかったかもしれない。
自分が何者であったのか。
自分が何を願ったのか。
唯一すら失い欠けているという異常性すら理解できぬまま、『邪神・凍れる灰色の炎』は自分自身を見失っていく。
ゆっくりと藍亜は歩み寄り、その不定形の炎にワイヤーを放ち引きずり倒す。生命が奪われていく感触を得ている。
生命。
煌めく虹色。
自分の生命は生命であるとさえ思えなかった『邪神・凍れる灰色の炎』にとって、それは今までの自身を慚愧することすら越えて、未知なるものを得ることに他ならなかった。
「……体も、精神も、魂も変わればそれはもう|同じ自分《アンタ》じゃない」
それは一つの解答であった。
藍亜にとって、目の前の不定形の炎はすでに邪神ですらない。
力の発露すら封じた完全凍結の炎は、ゆらめきすら起こさない。固定された炎は、すでに炎ですら無い。
炎であるように見せかけた何かでしかないのだ。
「アンタがアンタのまま人間になれる可能性なんて最初からないんすよ」
自分を自分といえる自我があるのが人間であるというのならば。
今の『邪神・凍れる灰色の炎』は、それにすら及ばない。
邪神に狂わされた生命の道があった。
もう元には戻らない。
生命が回帰しないように、歪んだ道もまた元には戻らない。刻まれた轍は消すことはできるかもしれないが、時は止まらず逆巻くこともない。
否応なしに自身という轍は刻まれていく。
否定もできない。
ならば、藍亜は自身の平凡でありきたりな何かでもって異常を塗りつぶす。
瞳に輝くは超克。
超常なるを否定する超常。
灰色の炎すらも輝くことを許さぬ昏く暗い黒い沼は、いびつな願いすら否定する。
異空間が解け、地下鉄道のプラットフォームの中、藍亜は佇む。
炎のひとかけらが空に消えていくのを見た。
「可能性の一欠片すらなかった。アンタがアンタのまま人間になろうとしたのが、最初のつまずきっす。だから」
可能性を掴むのならば、己の全存在を欠けて手を伸ばさねばならないのだと藍亜は告げるのだ――。
大成功
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