過去の歌姫の遺産を辿って
●グリモアベース
「『時間質量論』という単語に聞き覚えはないだろうか」
集まった猟兵達を前に飲み物を振る舞いながら、グリモア猟兵藤崎・美雪(癒しの歌を奏でる歌姫・f06504)が口にした言葉に、心当たりのある猟兵達が三々五々に頷いた。
――アポカリプスヘル最高峰の歌姫『マザー』が残した膨大な著書『時間質量論』。
アポカリプス・ランページにて判明したその理論を解き明かすべく、猟兵たちは世界各地に点在するマザーの『隠された研究所』からデータを回収し、解析を続けていた。
「理論を解明するためにはもっとデータが必要そうだが、私のグリモアが『隠された研究所』の場所をひとつ明かしてくれたよ」
その在処は、アポカリプスヘルの日本、鈴鹿山脈の麓に位置するブレイバーの拠点『ソウインベース』の近くに穿たれた鍾乳洞の奥だとか。
「そこで、皆に頼みがある。鈴鹿山麓の『隠された研究所』に向かい、遺されているデータを持ち帰ってほしい。引き受けてもらえないだろうか?」
頭を下げる美雪に、猟兵たちは其々の想いを抱きながら頷いた。
「さて、今回向かってもらう『隠された研究所』の入り口は、鍾乳洞の最奥部にある」
山脈全体が石灰岩質の鈴鹿山脈を穿つように形成された鍾乳洞を探索しつつ、研究所の入り口を探してもらうことになる。
「ただし、オブリビオンストームが世界を分断した際、大地に大量に傷を穿ったため、ただでさえ脆い地層がさらに脆くなっており、鍾乳洞の至る所で崩落や地層のズレが発生している。注意して進んでくれ」
この鍾乳洞は、ソウインベース所属のブレイバーたちも数度探索を試みたが、その都度崩落し、探索を断念している。
猟兵ならば知識や技能、ユーベルコードを駆使すれば突破できるだろうが、油断は禁物だ。
「鍾乳洞を突破し研究所の入口に辿り着いたとしても、扉は厳重に閉ざされている。扉を開くためには特定の行動が必要となるだろう」
どうやら『マザー』ないしは『マザー・コンピュータ』が厳重に封を施したらしく、力づくで開けようとすると、鍾乳洞ごと研究所が崩落する危険性すらあるらしい。
「扉を開くためのカギはわからなかったが……『マザー』が歌姫として名を馳せていたのが手掛かりになるかもしれぬ。不完全な情報で申し訳ないが、なんとか鍵を解き明かして開けてほしい」
己が不甲斐なさを噛みしめながら、美雪は申し訳なさそうに再度頭を下げた。
「研究所内に潜入したら、警備を担うオブリビオンへの対応をお願いしたい」
撃破しても構わないが、どうもこのオブリビオンは何かを訴え続けているらしく、望みを叶えてやれば最小限の労力で骸の海に還せる可能性があるらしい。
「今回の最優先は『マザー』の遺したデータだ。データさえ無事に持ち帰ってもらえれば、オブリビオンに手を貸しても撃破してもどちらでも構わない」
だからこそ、より良き結末を求めてほしい、と静かな声で付け加えながら。
美雪はグリモア・ムジカ内の音符を展開し、猟兵たちを鍾乳洞の入り口へと誘った。
●アポカリプスヘル・鈴鹿山麓――隠された研究所
――白き石灰岩をくり抜いた空間を、無機質なリノリウムで覆った研究所にて。
四方を灰色の壁と床に囲まれた研究所内は、大地に穿たれた傷により至る所で損壊し、床には大量のデータディスクとコンピューターの残骸が散乱している。
そのうちの一室、サーバーやコンピュータの残骸が散らばるサーバー室の中央には、茶色のクマのぬいぐるみを抱えた少女が静かに座っていた。
――ねえ。
――誰か、あたしをさがして。
――だれか、あたしをみつけて。
少女が上げる『声』は、寸断された『通信網』に阻まれ、決して外に届かない。
だが、それでも少女は、誰かに届くと信じて健気に呼びかけ続けている。
――だれか、あたしにうたをきかせて。
――そして……あたしがだれか、おしえて。
顔無き少女は、今日も閉ざされた研究所でひとり待ち続ける。
……己に確かな『個』を与えてくれる相手が、現れるのを。
北瀬沙希
北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
よろしくお願い致します。
アポカリプスヘルにて、『時間質量論』に関する大量のデータが隠されている研究所の在処が判明いたしました。
猟兵の皆様、至急研究所に急行し、遺されている大量のデータの回収を願います。
●本シナリオの構造
冒険→ボス戦の【2章構造】となります。
第1章は冒険『地下を行け』。
隠された研究所に繋がる鍾乳洞を抜け、研究所に向かって下さい。
ただし、鍾乳洞内は至る所で崩落や地層のズレが発生しており寸断されているため、抜けるには一工夫必要となるでしょう。
そして、鍾乳洞を突破し研究所に辿り着いても、ある行動を行わないと決して扉の鍵は開きません。「ある行動」のヒントはオープニングに隠されています。
POW/SPD/WIZは参考程度でOKです。どうぞ、御心のままに行動なさってくださいませ。
第2章はボス戦『フェイスレス・テレグラム』。
データを持ち帰るためには倒すしかないように思われますが、もし彼女が求めているものを見抜ければ、戦闘なしで骸の海に送れるかもしれません。
詳細は第2章断章にて。
●ソウインベース
アポカリプスヘルの日本・鈴鹿山麓付近にある拠点のひとつ。
文明崩壊で放棄された都市や山麓に隠されているお宝を求めて、ブレイバーたちが集まり形成された、今はまだ小さな集落です。
●プレイング受付について
1・2章ともに、断章執筆後からプレイング受付を開始。
締切はMSページとTwitter、タグにてお知らせいたします。
なお、本シナリオのリプレイは執筆できそうな時に執筆していきますので、プレイングが失効で戻った場合は再送をお願い致します。
全章通しての参加、気になる章のみの参加、どちらでも大歓迎です。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『地下を行け』
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POW : 目的地までの最短距離を力技で突き進む
SPD : 遠回りでも安全かつ確実に進む
WIZ : 隠された通路もしくはショートカットできそうな道を探す
👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●アポカリプスヘル・鈴鹿山麓――研究所に続く鍾乳洞
転送された猟兵たちが目にしたものは、鈴鹿山麓の地中に広がる鍾乳洞。
気の遠くなるような年月をかけて雨水や地下水に侵食され、少しずつ広げられた洞窟は、かなり奥まで広がっていそうだ。
この鍾乳洞の奥に、目的の『隠された研究所』があるという。
――だが、オブリビオン・ストームの傷痕は、この鍾乳洞にも深く刻まれている。
少し奥に進むと、至る所で天井や壁、そして地面が崩落し、瓦礫や大穴で寸断されているのが目に入る。
不可視の傷が穿たれた地面は、一部が見た目以上に脆くなっており、迂闊に足を踏み入れると簡単に崩落するだろう。
天井や壁も同様で、少し震動を与えれば新たな崩落を引き起こすだろう。ひょっとしたら天井からとがった鍾乳石が落下し、頭を直撃するかもしれない。
……ブレイバーたちが探索を断念したのも、やむを得ないだろう。
そして、数々の障害を乗り越え鍾乳洞を突破し研究所に辿り着いた猟兵たちの前には、「ある行為」を鍵として開く研究所の分厚い扉が立ちはだかることになる。
データ回収の為にはこの扉を開けなければならないが、力ずくでこじ開けると鍾乳洞ごと研究所も崩壊し、データは回収できなくなってしまう。
だが、裏を返せば、力に頼らずとも開ける方法が必ずある、ということになる。
――出立前、グリモア猟兵は何と言っていただろうか?
とにかく、今は鍾乳洞を突破し、研究所に辿り着くのが先決だ。
猟兵たちは意を決し、危険に満ちた鍾乳洞を進み始めた。
※マスターより補足
第1章は鍾乳洞を突破し、研究所に向かっていただきます。
鍾乳洞の至る所に存在する崩落や地層のズレ、脆くなった地面等に対処しながら、最奥部にある研究所を目指してください。
なお、研究所の扉を開くための「ある行動」は、簡潔に記していただければ大丈夫です。正しい開け方のヒントはオープニングに隠されています。
もし間違えてもペナルティはありませんので、思いついた方法を積極的に試してみてください。
(ただし「力ずくでこじ開ける」と記してあるプレイングは、鍾乳洞全体の崩落を招くため採用しません)
――それでは、よき探索行を。
フィルバー・セラ
【アドリブ連携歓迎】
見事に崩落やら何やらが酷ェな……だが逆に言えば、中のモン傷つけたり衝撃与えねえ範囲なら何をしてもいいってことだろ?
何とかなると思ってやってみるか。
狙いを定めた位置に【結界術】を展開。
それに魔弾を撃つことで【指定UC】の軸にして、最低限の衝撃で済むように風の【属性攻撃】魔術を応用しての【推力移動】で緩やかに移動していくぜ。
鎖は命綱代わりのようなもんだ。
で、そのマザーとやらは元歌姫だったんだろ?
なら歌、あるいは音に関する何かで封印をしてる可能性は否定できねえ。
適当に剣を叩くなりで音出して反応を見るか。
多少でも反応がありゃ、俺で開かなくても他の奴が開ける時のヒントにもなんだろ。
●魔弾と剣身が行く手を示す
――天井から滴る水滴の落下音が、途切れることなく響き渡る鍾乳洞の中で。
「見事に崩落やら何やらが酷ェな」
無数の罅が入った入口の壁と、うず高く積もった鍾乳石の山が至る所に散見されるのを見て、フィルバー・セラ(|霧の標《ロードレスロード》・f35726)は、思わず眉を顰めていた。
――オブリビオン・ストームの傷痕は、地下深くにあるこの鍾乳洞にも深く穿たれている。
外からの光が差し込む入口から見える範囲でも、地割れや崩落で既に何か所か寸断されており、迂闊に衝撃を与えると崩落しそうな地点も沢山ありそうだ。
(「だが逆に言えば、中のモン傷つけたり衝撃を与えねえ範囲なら、何をしてもいいってことだろ?」)
ならば、何とかなると思ってやってみるしかない。
フィルバーは息を整え、そっと鍾乳洞に足を踏み入れた。
鍾乳洞の奥から漂う冷気に誘われるように、フィルバーは地割れや崩落で寸断された道と崩れそうな鍾乳石の山を避けながら、ひたすら奥へと進む。
自然の力で踏み固められた道をひたすら歩いていると、やがて足裏に伝わる感触が柔らかいスポンジを踏んだようなそれに変化した。
(「危ねェ、床が脆くなってやがる」)
咄嗟に足を止めたフィルバーは、踏み抜きかけた脆い床に右人差し指を突き付け、床を覆うように結界を展開しながら呪を紡ぎ始める。
「簡単に逃がすと思ったか? 甘ェな」
大気中に漂っていた魔力が冷徹なる呪に導かれ、フィルバーの指先に集束しながら凝縮し、小さな魔弾へと変化。
それを結界越しに床に撃ち込み、床に広がるヒビを『拘束』しながら己と魔弾の間を魔力の鎖でつないだ。
鎖を何度か軽く引き、魔弾が抜けないことを確認した後、フィルバーは床や天井に伝わる衝撃が最低限のみですむように、風の魔術を応用した推力移動で地面を滑るように奥へ移動する。
時折、方向転換の為に脆そうな床や壁を軽く蹴るが、フィルバーの狙い通り、結界と術式で強化された床は、軽く蹴った程度では崩落することはなかった。
行く先々に結界を広げながら魔弾を撃ち込み、鎖を命綱代わりに繋ぎ直しつつ緩やかに移動しながら、フィルバーは思考を巡らせる。
(「もし首尾よく奥に辿り着いたとしても、入口には封印が施されているんだったな」)
グリモアはその封印を解く方法を語らなかったが、この研究所を造った『マザー』とやらは、元歌姫だったらしい。
(「なら歌、あるいは音に関する何かで封印をしてる可能性は否定できねえ」)
フィルバーが翠の瞳を周囲に巡らすと、天井と地面を繋いでいる太い鍾乳石の柱が目に留まった。
鍾乳洞全体を支える支柱のように堂々とそびえ立つ鍾乳石には、不思議なことに全く罅が入っていない。
(「ま、適当に叩いて音出して反応を見るか」)
多少でも反応があれば、仮にフィルバーが開けられなくとも、他の猟兵が開けるためのヒントになるだろう。
フィルバーは剣を抜き、軽く鍾乳石に振り下ろした。
――カーン……。
剣身で軽く叩かれた鍾乳石は、澄んだ金属の様な音を響かせる。
気が遠くなるような時間をかけ形成された鍾乳石の柱は、何度叩いてもびくともしないだけでなく、欠片のひとつすら零さなかった。
崩落の危険がないと確信したフィルバーは、今度は剣身ではなく、柄頭で軽く叩いてみる。
――ドンッ……。
柄頭で軽く叩かれた鍾乳石は、先ほどとは異なり、太鼓のような音を響かせた。
(「不思議なもんだな。これも自然の神秘、とやらか?」)
感心しつつ、フィルバーはなおも剣身と柄頭で交互に鍾乳石を軽く叩き、音を出し続けた。
鍾乳石とフィルバーの剣から奏でられる音が鍾乳洞全体に広がったその時、最奥部から微かな振動音が響き始めた。
――ズズズ……。
鍾乳洞全体が微かに震える中、重い扉が少しだけズレるような音がフィルバーの耳に届く。
(「おっと、音はビンゴのようだな」)
おそらく、研究所の扉が音に反応し、微かに開いたのだろう。
その情報を頭の片隅に留め置きつつ、フィルバーは再度結界を展開しながら魔弾を撃ち込み、さらに奥へと進み始めた。
大成功
🔵🔵🔵
レパイア・グラスボトル
鍾乳洞とはまた珍しい所に造った物だな。
これならガキ共の社会見学にも良かったか?
研究所から研究データを回収するということで久しぶりにまともなお仕事である
家族と共に研究施設を漁りに来た
データを理解できる家族がいるかもしれないが盗むと面倒なのでやらないつもり
昔、地質学者だったレイダーが鍾乳洞の蘊蓄など語るが誰も聞いちゃいない
ただ反響する音が面白く歌い出すのはご愛嬌
ようこそ、この狂った時代へ
狂気と希望と幻滅はびこる黙示録の地獄をタフに生きる少年たちに贈る歌
昔、歌手だった、軍人だった、研究者だった、政治家秘書だった、無職だった
そんな昔のことはもうどうでもよくて
今の自分が楽しく生きられるか
それが重要なのだ
●『家族』とレイダーにとっての過去
――天井から滴る水滴の落下音が、途切れることなく響き渡る鍾乳洞の中で。
「鍾乳洞とはまた珍しい所に造った物だな」
これならガキ共の社会見学にも良かったか? と呟きながら、レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は、自身の『家族』たるレイダーと共に、地上より幾分か涼しい鍾乳洞の中を歩いていた。
今回は、研究所から研究データを回収するという、久しぶりにまともなお仕事。
だから、今回は『家族』たちと共に研究所をしっかり探索し、可能な限り大量のデータを持ち帰りたいところ。
ひょっとしたら、遺されているデータを理解できる『家族』がいるかもしれないけど、盗むと面倒なのでやらない。
(「……というより、やらさないつもりだが」)
あらかじめ『家族』にはデータを覗かないよう頼んでおいたが、携帯可能なコンピュータを持っていない限り、その心配はないだろう。
レパイアと『家族』たちは、手分けして崩落や寸断している箇所を報告し合い、迂回しながら奥へと進んでいく。
たまにレイダーの誰かがうっかり床を踏み抜いて落下したり、鍾乳石を折ったりして天井が崩落したりするが、その都度皆で救出し、誰一人取り残さない。
「ヒャッハー! 急いで奥へ行くぜー!!」
「あっ、こら!! 抜け駆けするんじゃない!!」
競い合って奥へ先行しようとするレイダーたちの貪欲さに、レパイアの口から笑みがこぼれる。
いつの間にやら、『家族』の集団にレパイアの【レイダーズ・マーチ】で召喚された世紀末レイダー53人が合流し、大所帯と化していた。
召喚されたレイダーたちは今日しか目にすることはないだろうが、今はその存在そのものが心強かった。
「おそらく、このあたりも遥か太古の昔には海の中だったのかもしれないな」
レパイアのすぐ後ろでは、世紀末レイダーのひとりが鍾乳洞の蘊蓄を語り始めている。
おそらく、彼は昔、地質学者だったのだろう。
だが、彼の話の内容は他のレイダーには難しすぎるのか、誰も聞いちゃいなかった。
――ドタドタ、バタバタ。
――ジャラジャラ。
難しく聞こえる地質学者の話や『家族』たちの足音、それにレイダーたちが身に着けるアクセサリなど、鍾乳洞内には数々の音が反響している。
そんな統一感もへったくれもない音が、いつの間にか複雑に絡み合ってひとつのメロディとなり、鍾乳洞全体が面白おかしく歌い出したように聞こえるのはご愛敬だろうか。
――ようこそ、この狂った時代へ。
レパイアの何気ない呟きすら歌詞の一部に織り込まれ、鍾乳洞内に反響し面白おかしく奏でられる歌は、オブリビオン・ストームで狂気と希望と幻滅が蔓延る黙示録の地獄をタフに生きる少年たちに送る歌。
どこか懐かしく、しかしどこか軸がズレたような歌を聞きながら、レパイアの『家族』や世紀末レイダーたちが、それぞれの過去を口にし始めていた。
「俺は昔、歌手だったんだぜ。信じられないだろうけどよ」
「オレは軍人だった……その国はもうズタボロにされちまったが」
「それを言うならわたしなんて、ずーっと研究所にこもりっきりだったわよ?」
「儂が秘書として仕えた政治家先生は息災かのぅ?」
「……おれ、世界が壊れる前は無職だったんだ」
――それは、彼らにとっては大切な過去の一部。
だが、オブリビオン・ストームによって文明が崩壊し、明日をも知れぬ生活を送る今、昔のことは誰もかれもがどうでもよくなっているのも、また事実。
そしてそれは、フラスコチャイルドたるレパイアも同様で。
過去の純粋さを懐かしむより、しがらみに囚われ苦しむより――。
「――今の自分が楽しく生きられるか、それが重要なのだ」
それをレパイアに教えたのは、『家族』たちだけど。
そうだろう? と『家族』やレイダーたちに向けたレパイアの言の葉は、賛同するレイダーたちの笑い声とともに、入口から吹き込む風に乗って静かに鍾乳洞に広がっていた。
レパイアの言の葉は、最奥部の研究所にいる誰かに手向けたものなのか。
それとも……単なるレパイアの気まぐれなのか。
いずれにせよ、レパイアの言の葉と少年たちに送る歌は、涼し気な風に乗って最奥部まで運ばれる。
やがて、最奥部にあるらしい扉にまで歌が届いたのか。
――ズズズ……。
最奥部から何かが引きずられるような音が、振動を伴って鍾乳洞内に微かに響き始めていた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「時間質量論…」
マザーの軌跡を追いたかったので意気込んで参加
以前マザーが歌姫として残したサルベージ済みのデータを再度全確認
全て自分で歌えるようになってから参加する
鍾乳洞内は暗いと思うのでヘッドランプも装着していく
蛍光塗料のカラースプレーも持っていく
鍾乳洞に着いたらUC「精霊覚醒・風」
回避率上げ天井にも床にも壁にも触れないよう注意深く飛行し進んでいく
分岐や崩落は第六感で回避・選択して進む
選択した分岐はカラースプレーで矢印
間違って戻った場合はスプレーで✕つけ新たな進行方向をまた矢印で書き、後続や今後の探索者が分かりやすいようにする
「此処で、少しでも貴女に繋がる何かが見つかれば良いのですが…」
ルゥ・グレイス
【アドリブ歓迎】
鍾乳洞入口から、中にアンテナを向けて設置、ドローンを飛ばす。エコーロケーションで内部を精査しつつ、中継アンテナを置きながら、更に内部へドローンを飛ばしていく。
エコーロケーションに引っかかる不自然な音は他の猟兵達のものだろうか?それだけではなく、機械的な振動音も感知している。
音声入力が鍵なのだろうか?
エコーで研究所らしきものを見つけ、そのそばの安全な場所を見繕って、転移。
「さて、この封印だけど…」
セントメアリーベースで回収した歌姫の楽曲データ。
スピーカーに乗せて流してみる。
これで反応があればよし。なくても情報が取り出せれば御の字だ。反応の見落としがないよう慎重に試していく。
●『マザー』の足跡をたどって
――少しだけ、時は遡る。
「時間質量論……」
鍾乳洞の最奥部から漂う冷気に軽く身を震わせながら、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は持参したデータを再度全確認していた。
どうしてもマザーの軌跡を追いたかったので、意気込んで参加した桜花が確認しているデータは、セントメアリー・ベースにてサルベージした、『マザー』が残した音楽データ。
全て歌えるように何度も何度も練習したつもりだが、それでも桜花は再度全確認すべく、データを片っ端から再生していた。
おそらく、このデータ……歌に何らかの鍵があるのだろうから。
一方、ルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)は、鍾乳洞の入口から中に向けてアンテナを立て、情報収集ドローン『彷徨の蝶[rhetenor]PDBCInt.接続式超小型観測機』を鍾乳洞内に放っていた。
0.1mm以下の空気中に散布する形式の情報収集ドローンは、桜花やルゥの目ではとらえられない。
だが、光学探知も魔術的な探知も可能な高性能ドローンの群体は、入口から鍾乳洞内に吹き込む風に乗り、鍾乳洞内部に散開していっているようだ。
それを見た桜花は、ルゥに軽く微笑みながら、頭に装着したヘッドランプのスイッチを入れる。
「私は先に進みますが、あなたは?」
「僕は別に向かう手段があるので」
「では、研究所の前で落ち合いましょう」
「くれぐれもお気をつけて」
鍾乳洞内に足を踏み入れる桜花を見送りながら、ルゥはドローンが寄越すデータに目を向け始めた。
●桜花精と精霊が道程を照らす
ヘッドランプで行く先を照らしながら、桜花は鍾乳洞内を慎重に歩いてゆく。
オブリビオン・ストームが大地に深く傷を穿ったとしても、鍾乳洞内に外からの光は届かず、常に薄暗い。
時々立ち止まり、ヘッドランプで周囲を照らすと、否応にも崩落している床や、天井や壁に穿たれた無数の罅が目に入った。
文明崩壊を招いた嵐が鍾乳洞に刻み込んだ傷をまざまざと見せつけられ、桜花も軽く眉を顰めざるを得ない。
(「このまま進めば、脆い箇所を踏み抜いてしまうかもしれません」)
故に桜花は、桜の精としての権能の一部を解放する。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
全身に渦巻く桜吹雪を纏った桜花精に変身した桜花は、罅が入る地面をゆっくりと蹴り、地面から足を離し浮き上がる。
床はもちろん、天井にも壁にも触れないよう細心の注意を払いながら、桜花は注意深くゆっくりと飛翔し、先へ進み始めた。
途中の分岐点では、己が第六感に耳を傾け、此の地に潜むであろう精霊らしき存在の声を拾い、正しい道を探る。
選択した分岐にはカラースプレーで矢印を、逆に間違って戻った分岐にはスプレーで×印を描き、後続する探索者への目印を残しておいた。
こうやって目印を残しておけば、猟兵たちはもちろん、ソウインベースのブレイバーが再度探索する際にきっと役に立つはず。
何度も何度も分岐を選び、時に行き止まりから戻りながら、桜花は鍾乳洞の奥へと潜ってゆく。
精霊化した桜花の耳には、先行した猟兵が奏でたらしき歌や音が微かに届いていた。
凡そ乱雑に奏でられるそれは、決して綺麗な歌や音色とは呼べないかもしれない。
だが、桜花の興味は、歌や音に紛れるように響く、重い何かを引きずるような音に向けられていた。
――ズズズ……。
最奥部から響き続ける音は、微かな振動を伴いながら、他の音に紛れるように響き続ける。
桜花はその音の源を辿りつつ、さらに奥へ向かってゆっくりと飛翔した。
●ドローンの反響定位が構造を暴く
一方、桜花が耳にした数々の歌(?)や音は、ルゥが飛ばしたドローンも拾っていた。
ルゥはドローン自体から発した音の反響で物体の大きさや構造、距離を把握する「エコーロケーション」と呼ばれる手法で鍾乳洞内を調査し、研究所の位置を突き止めようとしていた。
鍾乳洞の奥までは電波は届かないため、ある程度構造を把握したら床が頑丈な箇所に適宜中継アンテナを追加で立てつつ、さらに奥へ向かってドローンを展開し、少しずつ鍾乳洞の全容を解明して行く。
ドローン展開と情報収集、そして中継アンテナの追加を繰り返し、凡そ半ばまで解析し終えたその時、ルゥはドローンが拾ったと思わしき音に、明らかに不自然な音が紛れ始めていることに気が付いた。
水滴が地面や水たまりに落ちる音ならともかく、金属で鍾乳石を叩いた音や大人数の足音は、さすがに鍾乳洞自身が発する音ではないだろう。
(「不自然な音は、他の猟兵達のものだろうか?」)
一方、不自然な音に紛れるようになっているらしき機械的な振動音の存在が、ルゥの興味を引く。
振動音が発せられる間隔を解析してみると、不自然な音に反応し発せられているようにも思えた。
ドローンに機械的な振動音の発生源を探らせつつ、不自然な音との関連性を解析してみたところ、機械的な振動音は不自然な音の強弱に合わせて発生していることが判明。
(「音声入力が鍵なのだろうか?」)
音声なら何でも良いのか、それとも特定の音声パターンに反応するのか。
ルゥが考え込んでいるうちに、ドローンが明らかに人為的に造られたと思しき空間の情報を寄せてきた。
情報によると、複数の立方体を組み合わせたらしき空間の内部に、大量に散乱している金属製の何かがあるという。
(「研究所の可能性は高いな」)
ルゥは研究所付近に頑丈で安全な地点を見繕い、ユーベルコードを発動。
「緊急回避プログラム、スタンドアウト。座標送還開始!」
ルゥが瞬きひとつする間に、彼の身体は見繕った安全な地点に瞬時に転移していた。
折しもほぼ同じ頃、桜花も研究所の場所を突き止め、ルゥが見繕った安全地帯に辿り着いていた。
虚空から突然現れたルゥの姿に、一瞬桜花も目を丸くするが。
「そういうことでしたか」
「ご無事で何より」
微かに笑みを零したルゥと共に、桜花は最奥部へと足を向けた。
●最奥部――隠された研究所前
ルゥと桜花が最奥部に辿り着くと、既に先行していた猟兵やレイダー達の姿があった。
彼らが視線を向ける先には、頑丈な研究所の扉がある。
ガヤガヤと騒ぐレイダーたちの声に反応しているのか、研究所の扉は微かに震えているが、一方で扉を開く鍵ではないらしく、開く様子は全くない。
「さて、この封印だけど……」
ルゥは扉前にスピーカーを設置し、セントメアリー・ベースで回収した楽曲データをセット。
それを目にした桜花は、事前に確認した楽曲の記憶を辿り、ある歌詞を思い出していた。
「一緒に歌わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
ルゥの了承を得た桜花は、息を整え、歌い出す。
それに合わせて、ルゥも楽曲データを再生した。
――~♪ ~♪ ~♪
――~♪ ~♪ ~♪
ルゥのスピーカーから流れる歌姫の楽曲データに、桜花が歌う『マザー』の歌が重なり、美しいハーモニーを奏でる。
厳か、かつ透明感すら抱かせるその歌を耳にしたレイダーたちは、自然と歌の邪魔をせぬよう口をつぐみ、成り行きを見守っていた。
やがて、ふたりが奏でるマザーの歌は、微かに震え続けている研究所入口の扉に吸い込まれていく。
――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
猟兵たちが見守る前で、微かに震えるだけだった研究所の扉がゆっくりと開き始めた。
(「やはり、歌が鍵でしたか」)
ほっとする桜花をよそに、ルゥはドローンを回収しスピーカーを片付ける。
「なくても情報が取りだせれば御の字と思っていたけど」
結果的に最良の結果を引き出せたことに内心ほっとしつつ、ルゥは露わになった研究所内部に視線を向ける。
その視線の先には、研究所内に散乱するコンピュータやディスクの一部が顔を覗かせていた。
「此処で、少しでも貴女に繋がる何かが見つかれば良いのですが……」
己の希望をそっと虚空に零しながら、桜花はルゥと顔を見合わせ、頷き合う。
「行きましょうか」
「ああ」
その言の葉を合図として、桜花とルゥ、そして猟兵たちは、開いた扉を潜って研究所内へ足を踏み入れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『フェイスレス・テレグラム』
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POW : ブレイン・インフェクション
【端末のぬいぐるみ】から【微弱な電波】を放ち、【脳を一時的に乗っ取ること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ゴースト・ペアレント
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身を守ろうとする信奉者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ : ロンリネス・ガール
【端末のぬいぐるみを通して孤独を訴える電波】を披露した指定の全対象に【誰よりも彼女だけを愛したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:こがみ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠無間・わだち」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●アポカリプスヘル・鈴鹿山麓――隠された研究所
研究所内部に潜入した猟兵たちは、その荒れように思わず息を呑んでいた。
石灰岩質の地層から内部を保護するリノリウムの壁と天井、床は、所々大きく引き裂かれており、床一面にはデータディスクとコンピュータの残骸が大量に散乱していた。
オブリビオン・ストームが穿った大地の傷は、地中深くにあるこの研究所にも甚大な被害を与えていたのだ。
――ねえ、だれかいるの?
突然、猟兵たちの頭の中に少女の声が届く。
耳ではなく頭に直接届いた声に猟兵たちが戸惑っていると、奥のサーバー室から、くまのぬいぐるみを抱えた顔のない少女が姿を現した。
――ひさしぶりのおきゃくさん? こんにちは。
丁寧に頭を下げ、挨拶する少女に、猟兵たちはさらに深く戸惑う。
警備を担うオブリビオンがいるとは聞いてはいたが、それにしては少女からは敵意が全く感じられなかった。
――ここは『まざー』のデータがおさめられているけんきゅうじょ。
――ここをまもるのが、あたしのおしごと。
――もしデータをぬすもうとするなら、あたしがおいだすから。
戸惑う猟兵たちを前に、少女は無邪気さを見せながら話し続ける。
顔のない少女は、とある街でソーシャルディーヴァとして産みだされ、この研究所に配置されたフラスコチャイルド――『フェイスレス・テレグラム』。
研究者たちからヒトではなくモノとして扱われ続けた少女に求められたものは、『通信網』の維持と研究所の警備のみ。
終ぞ個を与えられなかった少女は、オブリビオン化した今、『通信網』にアクセスしようとしつつ、曖昧な自己を他者に求めている。
だが、『通信網』は既に寸断されており、少女の声が『通信網』を介して誰かに届くことも、少女に『通信網』を通して誰かが呼びかけることもない。
……『マザー』の声が少女に届くことは、もはやないのだ。
――ねえ、おにいさん、おねえさん。
敵意を見せない少女は、猟兵たちにゆったりと近づく。
それはまるで、何かを求めるように、誰かに縋りたいようにも見えて。
――さっき、おそとで『まざー』のうたをうたっていたよね。
――あたしに、もっともっとうたをきかせて。
――そして、あたしがだれか、おしえて。
久方ぶりに遭遇した他者に対し、自己を求めるオブリビオンの少女に対し。
猟兵たちが示した選択は……。
※マスターより補足
第2章は、『フェイスレス・テレグラム』とのボス戦です。
この章は解決法が2通りございますので、いずれの方針で対応するか、プレイングの1行目に【A】【B】の何れかを記してください。未記入の場合はプレイング内容で判断します。
(なお、「撃破せずにデータだけ持ち帰る」ことはできません)
【A】戦闘で解決
猟兵が敵意を見せた場合、『フェイスレス・テレグラム』は敵意を見せた猟兵を研究所を荒らす敵と判断し、襲い掛かります。
この場合、通常のボス戦ルールに従って判定し、解決いたします。
【B】望みをかなえて解決
『フェイスレス・テレグラム』は、機能していない通信網を介し、猟兵たちに何かを求めています。
彼女が求めているものを見抜き、望みに応えてあげれば、戦闘なしで骸の海に還るかもしれません。求めているもののヒントは、オープニング、及びこの断章に。
仮に間違っていた場合でも、ペナルティは基本的に発生しませんので、思いついた方法があれば積極的に挑んでいただけると幸いです。(何らかの理由で少女を怒らせた場合のみ【A】戦闘に移行します)
なお、こちらを選択する場合でも、判定の都合上、ユーベルコードの指定だけは忘れずにお願い致します。
参加者間で方針を統一する必要はございませんが、参加者間で方針が割れた場合は、多数決で結末を決めさせていただきます。(同数の場合は🔵獲得数の多いほう。それも同数の場合はMS判断)
よって、プレイング通りの結末にならない可能性もございますので、その旨をご承知いただいた上での参加をお願い致します。
――それでは、最善の結末を目指して、良き判断を。
レパイア・グラスボトル
自分の欲があるなら自分が何者かなんて考えるだけ無駄な話だよ。
歌が聞きたいなら歌好きなフラスコチャイルド。それだけで十分。
あとはテキトーに生きてりゃ色々、瘤みたいにくっついてくるさ。
一緒にいる壮年のレイダーが20年前のオマエそっくりだとレパイアを揶揄う
実際はレパイアよりマシかもしれない
コイツラの汚い声は子供の耳に悪いしな。
ガキの相手はガキが一番か。
子供達も呼ぶ
大人共や猟兵もいるし危なそうなら彼等を盾すればいいと考えている
聞くだけでよいか?
なんなら一緒に歌ってみるのも楽しいかもしれないぞ。
どんな歌でも笑って歌って楽しければそれで十分な話さ。
なお、研究所で悪戯するガキの尻は叩く
大人共も殴る
●欲は個の証明足り得るか
――あたしがだれか、おしえて。
無邪気に、しかしどこか縋るように懇願する『フェイスレス・テレグラム』に対し、レパイア・グラスボトルは豪快に笑い出す。
「自分の欲があるなら、自分が何者かなんて考えるだけ無駄な話だよ」
え? と続きを聞きたそうに身を乗り出した少女に対し、レパイアは豪快に言い放った。
「歌が聞きたいなら歌好きなフラスコチャイルド。それだけで十分」
――あとはテキトーに生きてりゃ色々、瘤みたいにくっついてくるさ。
そう言い放つレパイアと首を傾げる少女を見比べながら、ひとりの壮年レイダーが軽口混じりにレパイアを揶揄い始めた。
「この子、20年前のオマエそっくりじゃねえか」
目の前のオブリビオン少女の純真無垢さが、20年前、さる研究施設にいたレパイアを発見し保護した際の記憶を壮年レイダーに想起させたのだろう。
「は? どういうことだよ?」
「オマエだってよ、自分の名前を決めてくれって俺らに頼んできたじゃねえか」
「いや……この子はレパイアよりましかもしれないぞ?」
別のレイダーもまた、便乗するようにレパイアを揶揄うが、その声音に悪意は全くなく、むしろ懐古するようなそれ。
(「あの頃は、レパイアがここまでヒャッハーに育つなんて思ってなかったからな……」)
発掘されたグラスボトルに閉じ込められていたフラスコチャイルドが、ヒャッハーなレイダーたちの環境で育ったら立派なヒャッハーになるとは、あの時誰が想像しただろうか。
閑話休題。
揶揄われながらも、レパイアはレイダーたちに向かってはぁ、と大仰にため息をつきながらぽつりと一言。
「ま、ガキの相手はガキが一番か。コイツラの汚い声は子供の耳に悪いしな」
「なんだとぅ!?」
大人レイダーたちが半ば激昂するのを笑って流しつつ、レパイアは拠点からレイダーの子供達を呼び寄せた。
「わぁ!! お宝だ!!」
「こらこら、大人しくしろ」
目を輝かせながら研究室内を走り回ろうとする子供レイダーたちを、レパイアは慌てて引き止める。
……確かに、こういう場ではまず金目の物をあされと教えた覚えはあるが、今やるべきは略奪ではないのだから。
「オマエら、ここで何曲か歌ってくれないか?」
子供レイダーたちは、レパイアの頼みの意図を察し、「もちろん!」とキラキラした笑顔を見せながら頷いた。
子供達を危険にさらすかもしれないが、ここには大人のレイダーたちも、何より他の猟兵もいる。
もし、少女が子供たちに危害を加えそうなら、彼らを盾にすればよい。
――~~♪ ~~♪
子供たちの透き通るような声が、研究室内のリノリウムの天井や床に反響し、レイダーやレパイアの耳を癒しながら少女に届く。
愚かな未来を生き抜く子供たちは、未来への悲壮感を見せることなく、むしろ未来への希望を籠めて歌い上げていた。
そんな子供たちを、オブリビオンの少女は食い入るように見つめていた。
――いいうた。
――まざーのうたじゃないけど、きれいなうただね。
「聞くだけで良いか? なんならいっしょに歌ってみるのも楽しいかもしれないぞ?」
え? と首を軽く傾げる少女に、レパイアは笑いながら話し続ける。
「どんな歌でも笑って歌って楽しければ、それで十分な話さ」
レパイアの目を盗んでそっと棚から薬品をかすめ取ろうとした子供レイダーを取っ捕まえ、尻をペシペシと叩きながら、レパイアはどこか懐かしむように語りかけていた。
余談だが、子供レイダーたちが歌を歌っている最中、別の子供レイダーたちがレパイアに黙って大量にデータディスクを運び出していたのだが、それをレパイアが知ったのはホームに帰ってからの話。
もちろん、悪いことをした子供レイダーたちはお尻ペンペンの刑に処した上で、型式が特殊過ぎて読めなかったデータディスクは全てグリモアベースに預けることになったのだが。
大成功
🔵🔵🔵
フィルバー・セラ
【B】
【アドリブ連携歓迎】
こんなところに子供が独り、か。
とはいえ、オブリビオンであることにゃ変わりはねえが……
(裾を引っ張られる)
うん?
何だ、歌が聴きたいって?歌、か……歌ねえ……
……そのマザーとやらの歌は俺は知らねえぞ。
だが、それじゃなくてもいいならアテがなくもねえが、どうする?
いいんだな?
ならちょいと拵えてやっから待ってろ。
『Ms.Elsa』をガキんちょに向かわせておく。
できるまでそいつと遊んどけ。
その間に俺は【指定UC】で蓄音機と適当なレコードでも作って流してみるか。
満足いかねえんならあとは他の連中に任せるぜ。
敵意を見せたら撃つしかなくなるが……
今回はそうならずに終わって欲しいもんだ。
●郷愁は故郷を思い出すだけか
――大勢の子供レイダー達による大合唱が終わり、研究室内に幾分か静寂が戻った後。
「こんなところに子供が独り、か……」
少し楽しそうに、だが寂しそうな雰囲気を漂わせているオブリビオンの少女『フェイスレス・テレグラム』を眺めながら、フィルバー・セラは考え込んでいた。
見た目は顔のない、儚げな印象すら受ける少女。
先ほど、別の猟兵や子供ライダーたちが歌う歌に聞きほれていた時は、楽し気な雰囲気を醸し出していたが、そもそも彼女はオブリビオンなのだ。
(「オブリビオンであることにゃ変わりはねえが……」)
さてどうしたものか、とフィルバーが考え込んでいた、その時。
――くいくいっ。
突然、少女がフィルバーの服の裾を引っ張って来た。
「うん?」
思考を中断させられたフィルバーは、裾を引っ張る少女を見下ろす。
長身のフィルバーに見下ろされても、少女は全く意に介することなく、無邪気にフィルバーに念を送って来た。
――ねえ、おにいさん。
――もっともっと、おうたをきかせて。
「何だ、歌が聴きたいって?」
(「歌、か……歌ねえ」)
フィルバーが考え込んでいると、少女はねだるようにさらに念を送ってきた。
――『まざー』のおうた、きかせて。
少女の要求に、思わず憮然としてしまうフィルバー。
「……そのマザーとやらの歌は、俺は知らねえぞ」
これが初依頼のフィルバーにとって、世界最高峰の歌姫かつ研究者たる『マザー』の情報は、他の猟兵からの伝聞しか知り様がない。
(「だがよ、歌なら何でもよさそうだよな?」)
マザーの歌でなくても問題ないのは、先の猟兵が証明している。
「それじゃなくてもいいならアテがなくもねえが、どうする?」
フィルバーの問いに、少女は軽く頷いた。
――うん、いいよ。
「いいんだな? ならちょっと拵えてやっから待ってろ」
フィルバーは黒猫の『Ms.Elsa』を呼び出し、少女に向かわせる。
「にゃぁん」
フィルバーを下僕認定している黒猫は、何故か偉そうにひと鳴きした後、少女にじゃれつき始めた。
――このねこさん、かわいいね。
――きゃっ、くすぐったい。
猫にじゃれつかれ子供らしい反応を示す少女に、フィルバーの口端から思わず笑みが零れた。
しばらく少女の相手を黒猫に任せることにしたフィルバーは、床に腰を下ろした。
「こう見えて大分歳だからなあ、最新の技術とかよりこういうモンの方が馴染むんだわ」
フィルバーが何気なく呟いた言の葉に導かれたのか、無機質なリノリウムの床の上に、水仙の花のようなスピーカーがついたアンティークな蓄音機と適当なレコードが現れた。
今やこの世界でも骨とう品……どころか稀少品に分類される品を前にしても、フィルバーは驚かないどころか手慣れた手つきでレコードを蓄音機にセットし、慎重にレコード針を落とし、レバーを回す。
しばらくの沈黙の後、蓄音機のスピーカーから柔らかい音が流れ出した。
――~~♪ ~~♪ ~~♪
蓄音機から流れ出した音に、少女は黒猫を撫でながら耳を傾ける。
スピーカーから流れるのは、故郷を想う複雑な感情を透明感ある歌声で表現した郷愁歌だった。
(「さて、どうなっかな……」)
もし、これで満足いかないなら他の猟兵に任せるしかないし、仮に敵意を見せたら躊躇なく撃つしかない。
だが、少女の反応はそのどちらでもなく、興味津々なそれだった。
――こきょうにもどれない、って、かなしいね。
歌の意を解したのか、どこか寂し気に意を伝えてくる少女に、ぎくっとするフィルバー。
限りなく不老不死に近い肉体を持つフィルバーも、アンティークな蓄音機と流れ出すメロディに思うところがあるのは否めないけど。
「……さぁな」
迫害と憎悪に塗れた過去を、そっと心の裡に押し込めながら。
フィルバーは軽く少女の言を受け流しつつ、無機質な研究所の天井に目を向けていた。
大成功
🔵🔵🔵
ルゥ・グレイス
【アドリブ歓迎/B】
わかりきっている。ここで殺すことが最善策。
…とはいえ。
私は誰かおしえて、なんて問いで情がわいた。
僕と同じ瓶詰の、使い捨ての資源だ。
「マザーの歌が知りたいのかい?ここに歌のデータがある。教えてあげるよ」
スピーカーから音声データを流す。
僕らは、ただの瓶詰だよ。つまり。
自分の歌を世界へ送信する権利がある、という事さ。
少女の歌は僕の脳の、ひいては終末図書館の電子アーカイブの一つとして記録されちいさな歌姫として世界に名を遺す。
きっと君は誰かにとっての歌姫になるのさ。運が良ければいつか、ね。
戦闘になったら崩落を招かないように慎重に
もし崩落したら侵入に使った転移ポイントから脱出
●フラスコチャイルドは名を刻むか
初めて聴くはずの歌の意を解し、素直な感想を漏らすオブリビオンの少女『フェイスレス・テレグラム』の姿を見て、ルゥ・グレイスは戸惑いを隠せずにいた。
目の前の少女は、『マザー』ないしは『マザー・コンピュータ』からこの研究所の警備を託されている。
もし、ここでルゥが敵意を見せれば、彼女は躊躇なくぬいぐるみを通して孤独を訴え、愛情を抱かせる電波を発し、ルゥたち猟兵の敵意を削ごうとしてくるだろう。
(「わかりきっている。ここで殺すことが最善策」)
――彼女は既に、オブリビオンと化しているのだから。
だからこそ、ルゥは攻撃の気配を察したら即座に蒼い光の柱を落とし、躊躇なく少女を殺すつもりだったが、少女のある問いかけがルゥに情を抱かせたのだ。
――あたしがだれか、おしえて。
終ぞ自我を得られず、自分たる証を求める少女を前に、ルゥは息を呑みながらも、どこか己と重なるものを感じ取っていた。
(「彼女は僕と同じ瓶詰の、使い捨ての資源だ」)
ルゥ自身も少女と同じく、フラスコの中で生を受けたフラスコチャイルド。
終末図書館の併設研究所で『設計』された、グレイズコーズの名を持つ量産型のひとり。
ルゥ自身は量産型という自覚はあるが、少女は存命中、使われるだけの資源という自覚は全くなかったのだろう。
……その少女が今、己が存在意義を求めている。
それを察したルゥの口から、思わず問いが漏れていた。
「マザーの歌が知りたいのかい?」
ほぼ確信に近いルゥの疑問に、少女ははっきりと首を縦に振った。
――うん、しりたい。
――まざーのうた、もっともっとききたい。
「なら、ここに歌のデータがある。教えてあげるよ」
ルゥは頷きながら、歌のデータを収めたスピーカーを持ち上げる。
それを見た少女の顔無き顔が、ぱっと明るくなった気がした。
――おにいちゃん、ありがとう!
ルゥはスピーカーを床に設置し、扉の前で流した音声データを再生し始める。
それを耳にした少女は、歌に合わせて身体を楽し気に揺らし始めていた。
――うん、まざーのうた。
ずっと耳にしたかった歌を聞かせて貰えた少女は、満足そうに聞き惚れていた。
万が一、少女を怒らせた場合に備え、ルゥは侵入に使った転移ポイントの位置を再確認しておいたのだが、少女の姿を見ている限りでは怒ることはなさそうだ。
一通り再生し、少女が満足したところで、ルゥはそのまま歌を流し続けながら少女に話しかける。
「僕らは、ただの瓶詰だよ」
びんづめ? と聞きたげに小首を傾げる少女を見て、ルゥはさらに語り掛ける。
「つまり、あなたは――」
――自分の歌を世界へ送信する権利がある、という事さ。
少女が呼びかけていた『通信網』はとうの昔に断絶し、もはや誰も反応しないが、少女の歌は今ここで耳にしている誰かの記憶に残る。
そして、少女が満足して骸の海に還っても、少女の歌の記憶はルゥに、ひいては終末図書館の電子アーカイブの一つとして記録される。
遠い未来、人類が絶滅する可能性に備えて人類の記録を貯蔵する『終末図書館』に記録が残るということは、少女は数万年先の未来にまで『ちいさな歌姫』として、世界に名前と確かな痕跡を遺すだろう。
この少女がいたという痕跡が『通信網』に刻まれることはもはやない。
だが、今この場で、少女がいた証は、ルゥを通して世界に刻まれているはず。
――~~♪ ~~♪
ルゥの言葉に触発されたのか、少女はスピーカーから流れ続ける歌に合わせて、マザーの歌を口ずさみ始めていた。
己が証をルゥに刻み込むように、楽しそうに念に歌を乗せる少女に、ルゥは軽く微笑みながらそっと言の葉を手向けた。
「きっと君は、誰かにとっての歌姫になるのさ」
――運が良ければいつか、ね。
ルゥの願いを代弁するかのような言の葉が、現実となるか否かはわからない。
だが、少女に願いと未来を抱かせるような言の葉は、確かに少女に届いていた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
B
「こんにちは、マザーの愛し子さん。私は歌姫マザーの残した歌を持って来ました。聞いていただけますか」
UC「魂の歌劇」
覚えてきたマザーの歌を何時間掛かろうと全て歌う
「私は歌姫マザーが時間質量論に取り組むようになったのは、人を救い癒す方法を求めたからではないかと思いました。歌姫マザーが時間質量論を求めるようになった軌跡を、私は追いたいのです。此処のデータを探させて貰えませんか」
「マザーが貴女を此処に残したのは、貴女に歌姫だった自分を継いで貰いたいと、マザーがマザー足ろうとした原点を知って貰いたいと思ったからではないでしょうか。貴女はマザーの願いで愛だと思うのです」
「貴女の名は…愛又は記憶では?」
●顔無き少女が『名』という顔を得る時
――オブリビオンの少女『フェイスレス・テレグラム』が求めているものは。
――『歌』、ないしは『自我』ではないだろうか?
猟兵たちはその推測のもと、戦闘ではなく少女の求めに応じる方法を選び、確実に成果を上げていた。
そして、最後に少女に呼びかけた御園・桜花もまた、『歌』で少女に応じると決めたひとり。
ずっと『マザー』の痕跡を追い続ける桜花は、手掛かりを持つと思われる目の前の少女に対しても、丁寧に接していた。
「こんにちは、マザーの愛し子さん」
こんにちは、と頭を軽く下げる少女に、桜花は己が目的を告げた。
「私は歌姫マザーの残した歌を持って来ました。聞いていただけますか?」
――うん、ききたい、すごくききたい。
桜花の声が、研究所の扉前でマザーの歌を奏でた声と同じだと気が付いたのだろう。
はやく、はやくと身を乗り出す少女を押しとどめながら、桜花は覚えてきたマザーの歌を歌い始める。
しかし、その数はあまりにも膨大で、全て歌い切るまでに何時間かかるか、桜花にもわからない。
だが、それでも少女のことを想いながら、桜花は喉だけでなく、感情をも震わせながら全て歌い切った。
――やっぱり、まざーのうた、きれいだね。
くまのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、数時間にわたりずっと桜花の歌に耳を傾けていた少女は、素直な感想を念で漏らす。
最後まで清聴してくれた少女に感謝しながら、桜花は息を整え、水で口を湿らせながら話し始めた。
「私は、歌姫マザーが時間質量論に取り組むようになったのは、人を救い癒す方法を求めたからではないかと思いました」
セントメアリー・ベースに残されていた大量のデータに触れ、マザーの歌を知ったからこそ、桜花はそう思う。
「歌姫マザーが時間質量論を求めるようになった軌跡を、私は追いたいのです」
『マザー』が『時間質量論』を研究し始めた理由は、未だ判明していないが、ここのデータにその軌跡の一端が記されている可能性は、低くないだろう。
「だから、此処のデータを探させて貰えませんか?」
そう願う桜花に、少女は首を縦に振っていた。
――うん、いいよ。
それは、少女の存在意義を否定し、骸の海に送る一言ではあるけれど。
少なくとも、少女が桜花に寄越した念からは、後悔している様子はうかがえなかった。
少女の同意を得た桜花は、他の猟兵たちとともに研究所内を手分けして捜索し、大量のコンピュータとデータディスクを回収していく。
もっとも、一部は手癖の悪い子供レイダーの手で既に持ち出されていたが、そちらは後で保護者(?)が雷を落として回収してくれるだろう。
床に散乱したコンピュータから記憶媒体を抜き取る桜花に、少女が疑問を向けてきた。
――どうして、まざーはあたしをここにのこしたの?
「それは、ですね」
桜花は少し考え、少女に告げる。
「貴女に歌姫だった自分を継いでもらいたいと、マザーがマザー足ろうとした原点を知ってもらいたいと思ったからではないでしょうか」
――まざーの、げんてん?
小首を傾げる少女に、桜花は頷きながら話し続けた。
「ええ、マザーの原点です」
桜花の言の意味を今一つ測り兼ねているのか、再び小首を傾げる少女に、桜花はゆったりと語り掛けた。
「貴女はマザーの願いで、愛だと思うのです」
――ねがい?
――あい?
少女が、興味深そうに身を乗り出したのを見て、桜花はさらに畳みかける。
「貴女の名は……愛、または記憶では?」
それを聞いた少女は、どこか寂し気に桜花に伝えてきた。
――あたしには、ねがいもあいもなかった。
――あたしには、だれもなまえをつけてくれなかった。
名すら与えられなかった少女は、でも、と前置きし、続ける。
――いっぱいまざーのおうたをきいて、うたって、うれしかった。
――ねえ、なまえ、もらっていい?
「ええ、構いません」
桜花はにこりと笑いかけながら続けた。
「でしたら、『愛』を意味する『アムル』はいかがでしょうか?」
――うん、きれいなひびき。
――そのなまえ、もらうね。
『アムル』と名付けられた少女は、それで満足したのだろう。
やがて、名と自我を得た少女は、他の猟兵たちも見守る中、ゆっくりと消えていった。
――おにいさん、おねえさん、たのしかったよ。
――じゃあね、ありがとう。
少女がいた場所に遺されたのは、少女が手にしていたくまのぬいぐるみ。
桜花はそれをそっと手に取りながら、名を得て骸の海に還った少女に、いつまでも想いを馳せていた。
大成功
🔵🔵🔵