●白昼堂々の犯行
「お嬢様ー! クラウディアお嬢様ー!!」
仕切なしにサングラスをかけた黒服姿の男たちが上げた情けないような叫び声が、日が高くなりつつあるトリアイナの港町に響き渡った。その声に国民であり企業国家の社員でもある人々は、またかと苦笑いしつつも日常へと戻っていく。
「……どうやら、追手を撒いたようですわね?」
黒服達の声が遠くなったのを見計らい、栗毛の髪を結い上げた少女が路地裏に打ち捨てられたダンボール箱の中から出ると、仕立てが良い服に付いた汚れを払いながら周囲を見渡した。
彼女の名はクラウディア・トラヴィス。この海洋貿易国のトリアイナを代々取り仕切るトラヴィス家の者であり、現|CEO《国主》の孫娘である。トラヴィス一族の殆どはトリアイナの要職に就いているが彼女も例外ではなく、遠からず入社した矢先に他国の支店へと異動となった兄や姉たち同様に経営へ携わることになるだろう。その為に日々商売の勉学を叩き込まれているのであるが、まだ遊び盛りで多感な年頃なのもあってかこうして屋敷を抜け出しては街に繰り出している。屋敷に軟禁されている訳でもないので外出は自由に出来るのではあるが、CEOの孫娘、社長である父の娘という立場から先程の黒服が護衛として付き纏うのだ。
常に見張られているのがほとほと嫌になった自由人気質なクラウディアが、こうして警護の者を撒くことは日常茶飯事のことであり、トリアイナの社員でもあり国民でもある市井の人々からすれば『お騒がせなお嬢様』でもあり、たまには匿ってくれたりと協力的でもあった。
「トリアイナの近くに出来ましたエリュシオンへとお忍びでと思いましたけども……こうもバレてしまうと先を読まれていますわね?」
先程に彼女を探し回っていた黒服の連中はともかく、小さい頃から自らの世話をしてきた執事であるセバスティアヌスの目はどうしても誤魔化せない。何処に行くかは一言も告げていないが、考えていることはお見通しとばかりに目的地へ先回りされていたことは何度もあるのだ。
そうなれば、トラヴィス家のプライベート・ボートが繋がれた埠頭は元よりエリュシオンとの連絡船乗り場も抑えられているだろう。となれば、どうやって海を渡るか思案する中で、再び遠くからこちらへと近づいてくる石畳みを駆け回る足音が聞こえてくる。
(あら、もうこちらへ戻ってきましたの?)
折角振り切ったのに見つかってなるものか。クラウディアは眉根を寄せながら再び先程隠れていた人気のない路地へと戻ろうと後退りしたが、その矢先に背後から伸びた黒革手袋の手が彼女の鼻と口を覆ったのだった。
「あ、あれは……クラウディアお嬢様!?」
念のためにと戻ってきた黒服たちが目にしたのは、麻酔液でも嗅がされたのか意識が消えてぐったりとなったクラウディア。そして、彼女を抱えてワゴン車へと連れ込む『スイカ頭』の覆面を被った男たちの姿である。黒服たちは白昼に堂々と置きたトラヴィス家令嬢の誘拐を阻止しようと拳銃を抜き撃つが、それを嘲笑うかのように車はタイヤを滑らせながら急発進する。海鳥の鳴き声が聞こえる港町に突如として置きた銃声に、人々が振り向く中をクラウディアを乗せた車がエンジンを唸らせながら走り抜けるのであった。
●グリモアベースにて
「ハロウィンにのみテロ活動をするハロウィン・ドールズを、皆さんはお覚えでしょうか?」
グリモアベースに集まった猟兵たちを前に、シグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)が問いかける。
ハロウィン・ドールズ。共通しているのは『カボチャ』で素顔を隠しているという、何ぞの昨年のハロウィンに合わせて各国で同時多発テロを起こそうとした謎のテロリスト集団である。トリアイナも各国の要人を招いたハロウィンパーティーに被害を受けようとしたが、猟兵たちの活躍により事なきを得た次第であった。
「その殆どが捕縛されたのですが、首謀者と思わしき者にまでには至りませんでした。なので、その残党がハロウィンを待たずにして要人誘拐という手段を用いて活動を再開させたようです」
シグルドが観測した予知によれば、『スイカ頭』の集団がトリアイナCEOの孫娘、クラウディア・トラヴィスを誘拐したとのこと。ハロウィン・ドールズといえばカボチャ頭であるが、夏季に合わせてかそれともカボチャ頭を用意できなかったからか、カボチャに似ているスイカを代用したのかもしれない。
「彼女が連れ去られた先は、トリアイナと隣国ヘキサの国境地帯に位置する廃墟の工場なようです。まだトリアイナ側は市街地に非常線を張って車両や列車を検問にあたっていまして、そちらへの捜索はまだ行われていません。ともなれば、大事へと至る前に我々がお救いしようという次第であります」
このような要人誘拐はクロムキャバリアでは|日常茶飯事《よくある事》であり、猟兵は出る幕ではない。それでもクラウディア嬢の救出に当たるということは、オブリビオンマシンの存在があってのことである。
「予知で朧気にですが、彼らのアジトである廃工場に強力なオブリビオンマシンの反応を捉えています。そして、その周辺にはかなりの装備とハロウィン・ドールズ残党のオブリビオンマシンが配備されています。この誘拐事件が突発的犯行であったのか、あるいは綿密に計画された犯行なのかまだ分かりませんが、ここに去年トリアイナで行われたテロの首謀者が潜伏されている可能性が非常に高いです」
思えば、昨年のハロウィンでは警備の目を掻い潜り多数のオブリオンマシンがトリアイナの港へと持ち込まれていた。そうなれば、外部の者ではなく内部の者による手引……それもかなりの権限を持つ者による仕業であったとすれば、様々な不可解な点にも納得ができる。
「ただの活動費を捻出するためな身代金目当、であれば良いのですが、オビリビオンマシンに魅入られた者がそれだけで済ませるかは大いに疑問であります。事が更に大事へと至る前に、華麗に解決へと導きましょう」
そう締め括ると、シグルドは静かに念じてフォースを集中させ、彼の内から顕現したグリモアが辺りを白く照らした。猟兵たちは激戦が予想されるトリアイナとヘキサの国境地帯へと転送されたのであった。
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
連日続いていた酷暑日が嘘のように和らぎ、いつも通りの夏ですが涼しく感じるのは不思議であります。
とは言え、これから残暑が厳しくなる季節ですので、熱中症に気をつけてこまめな水分補給を心がけねばなりませんね。
●シナリオ解説
第一章は【集団戦】フラグメントです。
転送されてすぐに誘拐犯たちであるハロウィン・ドールズ残党の支配領域へと乗り込み、まずはボス配下の軍勢を蹴散らします。
かなりの装備とオブリビオンマシンを実戦配備しており、今回の犯行が突発的なものでない、計画的あるいは『誘拐産業』のようなものである事を想像させる陣容です。
第二章は【ボス戦】フラグメントです。
今回の事件を引き起こし、オブリビオンマシンに操られた黒幕との決戦です。
断章内において「黒幕の動機」や「元々の正義感」が首謀者が語りますので、猟兵側がそこを突くようなプレイングにはプレイングボーナスが発生します。某ロボットシミュレーションRPGの説得コマンドのようなやりとりを想定していますが、余裕があったら狙ってみてください。
第三章は【日常】フラグメントです。
救出した要人を小国家に送り届けるまでの間、猟兵たちは要人と会話や交流をする事ができます。
いろいろと思うところがある彼女の心を慰めてください。
第二章と第三章については、現時点で開示出来る情報はありません。
章が進展する毎の情報開示となりますので、ご了承下さい。
また、OP内でも語られた経緯は以前出したシナリオの設定が入っていますが、特に知らなくても楽しめるようになっています。
もしお気になるようでしたら、下記のリンクから過去のシナリオをご参考くださいませ。
( https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=38428 )
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『ガザニア・マリーネ』
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POW : 対艦・対要塞ミサイル
【対艦・対要塞ミサイル】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : ガトリングシールド
レベル×5km/hで飛翔しながら、【ガトリングシールド】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ : ビームライフル
【素早く銃口】を向けた対象に、【ビームライフル】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:Matsuhisa
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヘキサとトリアイナの国境付近はヘキサ統合前までしていた紛争の余波を受けた影響が色濃く残っており、近辺に住んでいたであろう住居は無人の廃墟と化している。ここに住んでいた住民の殆どは戦火から逃れるべくトリアイナの港町へと移り住んだと伝えられており、その名残は緑の侵食によってかろうじて残っているだけであった。
近隣の街へと生活物資を供給していたプラントが破壊されればそれは尚更のことであって、とても肥沃とは言えない痩せた土地で採れる作物がごく限られるのであれば、生きるために街を捨てた者たちを非難できないだろう。今は野生動物が人間に置き換わり支配する街の奥に同じく打ち捨てられた廃工場群があったが、ここだけは周囲と明らかに異なっていた。
まずは生活の痕跡があること。無造作に捨てられている|携行食《レーション》の空き箱や缶詰などは最近に作られた物のようで、車両やキャバリアが通過した痕跡も真新しいものばかりだ。これらの痕跡はこのゴーストタウンに何者かが居ることを何よりも雄弁に物語る痕跡であり、目を凝らして付近を見渡すと侵入者対策であろう罠線に引っかかると手榴弾の安全ピンが抜けて爆発する警報装置を兼ねたトラップがあちらこちらへと仕掛けられている。それらを避けるか罠線を切って無力化させるなどして、奥へ奥へと進むと一際大きい工場が姿を見せた。
その周辺には頭部をカボチャではなくスイカ柄にペイントし直された、軍用の量産型キャバリア『ガザニア・マリーネ』が四周を隈なく警戒している。積み上げられたコンテナの横には予知で誘拐現場を捉えたグリモア猟兵の証言と一致するワゴン車が停められていた。そうなれば、ここがクラウディア嬢が監禁されている場所であり、ハロウィン・ドールズ残党のアジトとなろう。
問題は、如何にして彼女を救出するかである。工場付近は完全武装したガザニア・マリーネによってネズミ一匹も入り込めない厳重な警戒態勢が敷かれていて、工場内部の様子は外部から伺うことはできない。下水や排水溝などから地下から侵入しようとも、先程あったブービートラップ同様の罠が仕掛けられている可能性が高く、何よりも今回の誘拐事件を計画した首謀者が搭乗するオブリビオンマシンの姿は見えない。
そうなれば、クラウディア嬢は首謀者と一緒に居ることが予想され、迂闊に潜入して救出しようとすればオブリビオンマシンに狂った者が激昂して彼女の身に危険が及ぶのは何とも避けたいところである、
そうなれば……取るべき行動は一つに限られる。この場に居るオブリビオンマシンによって汚染されたガザニア・マリーネを残さず破壊して搭乗員を無力化させた上で、首謀者が操るオブリビオンマシンの出撃を誘うという作戦である。一見するとクラウディア嬢に危険を及ぼすように見えるが、ハロウィン・ドールズのメンバーを狂わせるオブリビオンマシンさえ破壊すれば後は全て解決するのだ。テロリストと言えども、彼らもまたオブリビオンマシンによって人生を狂わされた被害者なのであるのだから、可能であれば命を奪うことなく更生の機会を与えて置きたいところである。
現地での偵察活動で得られた詳しい情報を確認し終えた猟兵たちは、各々と人質奪還に向けた奇襲戦の準備に取り掛かるのであった。
メディア・フィール
POW選択
他PCとの絡みOK
アドリブ・プレイング改変OK
2連装ビームキャノンで砲撃した後で、白兵戦で殴りこみます。ロングレンジアーム・焔で敵をなぎ倒しつつ、大乱戦を繰り広げます。途中、オーバーヒートで少し危うくなる場面もあるかもしれませんが、最終的には相当数のガザニア・マリーネをマシン同士の白兵戦で撃破します。
「ビームキャノンはっ! 牽制だけどっ! これだけ数がいればっ! どれかには当たるはずっ!」
「一気に殴り込むよっ!」
「ボクのロングレンジアームは特別性だから! 当たるとアツいよっ!」
「くっ! 連続して炎を使いすぎた! 氷炎魔拳で冷却できるか?」
「だいぶ片付いたな! 他のみんなは順調かな?」
『敵襲か!?』
終始無言で警戒に当たっていたハロウィン・ドールズ残党が搭乗しているガザニア・マリーネへと、一筋の光が静寂を切り裂くように放たれた。奇襲を受けたことにより胴体部分がビーム兵器特有の痕跡を大きく残すもコックピットの直撃は避けられた僚機がかく座する中、相棒の仇を晴らそうと残されたガザニア・マリーネが素早い動作でビームライフルをビームによる砲撃予想点へと向けて引き金を絞った。
「ビームキャノンはっ! 牽制だけどっ! これだけ数がいればっ! どれかには当たるはずっ!」
メディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)が搭乗する格闘専用型クロムキャバリア『KRO-10 ネオン』は、反撃として放たれたビームを搭乗者の動きを機体に直接変換するダイレクト・モーション・リンクシステム特有の機動性で躱す。そして再び、お返しとばかりに初弾を放ったことによる熱で砲身がまだ冷めきっていない2連装ビームキャノンを撃ち放つ。
初弾は相手は止まっている的であったが、いざ戦闘が始まるとなるとそうは行かない。原型機となったガザニアの海兵隊仕様機であるガザニア・マリーネは高機動強襲用として設計された量産機であり、膨らんだ脚部には限定的な飛行能力を生み出すホバーユニットが仕込まれており、機体背部には大型のブースターユニットが新たに増設されている。拠点攻略用に特化された機体は拠点防衛には不向きではあるが、逆に侵入者を果敢に追撃するとなればそうとも言えない。
地面を滑るようにホバー走行で滑走するガザニア・マリーネは、メディアの照準を狂わせるように不規則な軌道を描きながら2連装ビームキャノンが放つ二条の光を躱しつつ、ビームライフルを連射させながら砲撃させない距離にまで詰めていく。
「引っかかったね。ネオンが得意としているのは、砲撃じゃなくて殴り合いなのさ。ボクのロングレンジアームは特別性だから! 当たるとアツいよっ!」
だが、この場合まんまと引っかかったのはハロウィン・ドールズ残党の方である。スイカ頭でペイントされた頭部が牙を向かせてネオンを強襲しようとしたが、砲撃型キャバリアに見せかけるべく縮ませていた伸縮する腕を伸ばしたメディアは、ネオン本来の姿を拳とともに相手に見せつけた。
両肩に取り付けられたビームキャノンの砲身がくるりと後部へと回転して遠距離攻撃モードから近接攻撃モードへと変わったネオンを前に、ハロウィン・ドールズの残党がしまったと思う頃には時すでに遅し。遠距離まで伸ばせるキャバリアの腕ユニット『RXS-Aロングレンジアーム・焔』の火炎を纏った拳がガザニア・マリーネの頭部へ、胴体へと容赦なく打ち込まれたのだ。
『相手は白兵戦型だ。迂闊に近づけるな!』
時を立たずに立て続けで二機のガザニア・マリーネが撃破されれば、相手はただの侵入者でないとハロウィン・ドールズ残党たちは確信したのか、次第に連携した動きと変わりつつある。四方から放たれるビームライフルの応射を受けて、再びビームキャノンを展開させるために一旦仕切り直しを図ろうとするメディア。だがそんな最中、人体の動きに同期されたことによる激しい駆動とRXS-Aロングレンジアーム・焔が生み出す炎によって機体に蓄積された熱が溜まったことによるオーバーヒートが近いことを告げる警告音が、ネオンのコックピット内に響く。
『相手の動きが鈍って来ている。一気に畳み掛けるぞ!』
先程までにはホバー機動する相手を翻弄する機動性であったネオンだが、前回の反省を生かして急停止させないべく設けた機体の冷却を促すリミッターが働いたことによって動きに鈍りが見え始めてきた。そんな些細な兆候を見逃さなかったハロウィン・ドールズの残党は、コレを好機として逆襲に転じ始める。
「くっ! 連続して炎を使いすぎた! 氷炎魔拳で冷却できるか?」
まるで自身の動きがワンテンポ遅れて伝わる動きとなったことで攻守逆転して防戦を強いられるメディアであったが、自らのUCを用いることでこの危機を脱しようと機転を利かせた。
UC『氷炎魔拳』。武闘勇者として炎を操る拳を放つ彼女を模したかのようなRXS-Aロングレンジアーム・焔から機体を伝ってUCが顕現し、超低温の氷の炎が噴き上がる。
「熱を操れば、こういうことだってできるんだ!」
オーバーヒート直前に陥る寸前であったネオンは、両腕から放たれる冷たく輝く氷の炎を纏うことで機体の表面から内部に溜まった熱を冷却させる。そうしてリミッターが解除されたことで本来の機動性が戻ると、再び伸縮する拳を迫るガザニア・マリーネへと叩きつけようと展開させた。
『くっ、散開だ!』
突如として動きが戻ったネオンが放った拳をハロウィン・ドールズ残党らは避けようとするも、相手に拳が届くまでの距離感を鈍らせるロングレンジアームがガザニア・マリーネの一機に打ち込まれてしまう。回避行動に伴い外部の損傷は軽微であるものの、超低温な氷の炎に呑まれるとみるみると機体が凍結されていく。それは駆動系にも及び、制御不能に陥るまでに凍りつくガザニア・マリーネは廃墟に激突することで停止へと至った。
『なんだ、どういうことだ!? 外気が急に氷点下を下回っただと?』
運良くロングレンジアームを躱したハロウィン・ドールズ残党が驚くのも無理はない。センサーが観測している外気が、急激に氷に閉ざされた極地と思わせる氷点下を叩き出してるのだからだ。そして、ネオンを中心として大気中に漂う氷の炎の残滓を吸い込んだガザニア・マリーネの脚部に内蔵されているホバーユニットが、突如として爆発音とともに炎を噴き上げた。内部のホバーエンジンが完全凍結したことによる爆発であり、脚部を喪ったガザニア・マリーネは勢いを落とさぬまま倒れ込むと、火花を散らしながら凍結した地面を滑っていく。だが、幸いにも上半身は無事であり、摩擦熱によって生じる熱により駆動部が凍結されていないのか、果敢にもネオンへとビームライフルを撃ち放って抵抗を止める気配を見せていない。
「これで、フィニッシュだよ!」
照準が定まらないビームライフルが放つビームを持ち前の機動性で避けつつ、ネオンが高く跳び上がる。全身に纏わせた氷の炎により内部に生じる熱は相殺されており、普段なら3分を待たずにしてオーバーヒート状態に至ってしまうフル稼働状態でも機体の熱量計は一定の数値を保ったままだ。上空へと跳躍したネオンに向けて、下半身を喪ったガザニア・マリーネがビームを撃ち放ったが、虚しくも一筋の光条はネオンの装甲を掠めるだけだ。何故ならば、落下の勢いを乗せながらも氷の炎を推進力と変えることで軌道を調整した強烈な飛び蹴りをお見舞いしようと迫っていたのだからだ。キャバリアの巨大さと重量に推進力が生み出す速度が加わった数百トンにも匹敵するキック力が炸裂し、ガザニア・マリーネの胴体は砕かれた地面とともに残骸として果てるのだ。
「だいぶ片付いたな! 誘拐されているお嬢さんを巻き添えにしないよう随分離れたけど……他のみんなは順調かな?」
周囲には遠距離から砲撃してきたネオンを追ってきたガザニア・マリーネの残骸がコックピットブロックを残して散らばっており、ここまでハロウィン・ドールズ残党のアジトと距離が離れていれば、あとは放って置いても問題ないだろう。思えば遠くまで引き離してしまったが、首魁であるオブリビオンマシンはどのようなキャバリアなのか。そして、そのオブリビオンマシンを操る黒幕がクラウディア嬢を誘拐した真意を確かめるべく、|姫《おうじ》は囚われの姫君を救出せんと|鋼鉄の騎士《キャバリアを疾走らせるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
トゥウェルブ・ツヴェルグ
【WIZ】※アドリブ、連携歓迎
■心情
なるほど、オブリビオンマシンによってまともな思考力を失った連中か……
かわいそうだが、悪事には違いない。しっかりとお灸を据えねばな。
では、出撃する。
■行動
キャバリア"魔笛"にて出撃。向こうの射程外(スナイパー/不意打ち)からの射撃にてUCを撃ち込み、被害を与えます(重量攻撃/鎧無視攻撃)。
相手からの攻撃に対しては、高出力の重力障壁(オーラ防御)で防御、無力化を狙います。
このサイキックキャバリア、"魔笛"の威力と防御力をなめてもらっては困る。
さて、手駒は重力に囚われた。首魁はどう出るかな……?
ミハイル・グレヴィッチ
誘拐ってーのは、この手のテロ組織にとっての常套手段だな。組織の力を誇示出来る上、身代金もたんまり入る。一石二鳥だ。ま、お陰で俺みたいな傭兵の食い扶持も救出で稼げる訳だが。
そんじゃま、スイカ割りと洒落込もうぜ。
ストラーウスに搭乗し、正面から進撃して一点突破を図る。更にUCで召喚したヘリ部隊で上空から攻撃してエアカヴァーを展開。状況によっては、工場周辺にスペツナズをヘリボーンさせて周囲の制圧を試みる。最悪制圧はできなくても、工場一帯の地形や構造位は把握できる筈だ。
こちとら伊達に戦歴積んでねぇんだ。連中に、|空地立体攻撃《エアランド・バトル》ってのを、教育してやる。
アドリブ・他者との絡み歓迎
「なるほど、オブリビオンマシンによってまともな思考力を失った連中か……」
「そうだ。変な被り物をしちゃいるが、それもこれもオブリビオンマシンの影響で、頭がイカれてしまえばテロ組織もホイホイ作っちまうわけだ」
時を同じくして、歩哨としてアジトを周辺に警戒にあたっているハロウィン・ドールズ残党が乗るキャバリアからの熱源探知から逃れるべく、トゥウェルブ・ツヴェルグ(熱心教の『魔笛』・f30175)とミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)は互いのマシンを瓦礫を盾に身を隠していた。電波が四方八方へと拡散してしまう無指向性の電波通信とは異なり、交信相手を常に追尾する必要があったり大気の気象条件によっては到達距離が著しく低下するなど制約が多いが傍受されにくいレーザー光通信で暇つぶしの雑談を始めたのは享楽的なミハイルからであった。当初はトゥウェルブ自身、つっけんどんな返答で返していたものの、やはりオブリビオンマシンについての話題となれば会話が弾んでしまう。
「とは言え、誘拐ってーのは、この手のテロ組織にとっての常套手段だな。組織の力を誇示出来る上、身代金もたんまり入る。一石二鳥だ」
ミハイルが言う通り、確かに誘拐とは身代金を要求する以外にも今回のケースのように小国家要人ともなれば、国内外問わずに注目を浴びることがあげられる。警備の目を掻い潜り、時には戦闘における民間人被害や政治的にやむを得ない犠牲で新たな敵を作りかねない|巻き添え被害《コラテラル・ダメージ》による風評のマイナスイメージが伴う破壊活動と比べれば、人の口には戸が立てられない人間の心理を巧みに利用できる誘拐はテロ組織にとって世間への効果的な誇示及び売名行為の一環として常套な手段である。
本来ならば身の周辺の警備が強固で場合によっては国民から良く思われてもいない政府要人よりも、世間的な同情を買いやすい女子供や民衆に慕われている者といった|狙いやすい標的《ソフトターゲット》が誘拐対象となっている傾向が強い。だが、今回は大商人である国家運営にあたる頭目の孫娘でありながら、外出するにも籠の鳥という窮屈な生活が嫌で警備の目を振り払うお嬢様となれば話は別だ。相手にふっかけて引き出せる多額な身代金、海運という広大な情報ネットワーク、国民にも広く愛されている象徴。これら全てが取り揃うとなれば、テロ組織にとってはこれと言ってないネギを背負ったカモだ。
ましてや、彼女の脱走癖はトリアイナの人々にとっては一般認識になるまでのものとなれば、国内のテロ組織だけでなく国外のテロ組織であるハロウィン・ドールズに目を付けられるのも何ら不思議なことではない。
「かわいそうだが、悪事には違いない。しっかりとお灸を据えねばな。しかし、あなたはやけに詳しい。もしかしてだが、元はそう言った犯罪組織にでも居たのか?」
「冗談はよしこちゃん。古巣でそんなテロ組織と散々やりあった口だぜ。ま、お陰で俺みたいな傭兵の食い扶持も救出で稼げる訳だが……ん、動いたな」
今まで剽軽だった口ぶりのミハイルが、相手を凄ませる思い声色と変わりつつある。無線越しで顔は見えないが、どうやら口だけの男ではないとトゥウェルブは前髪を指で弄りながら認識する。
「陽動は上手く行ったか。では、出撃する」
「相手は面白いまでに食いついたな。そんじゃま、スイカ割りと洒落込もうぜ」
トゥウェルブが搭乗するサイキックキャバリア『|魔笛《マジアシビルス》』の|炉《エンジン》に火が灯り、重厚な装甲に護られた巨躯が宙へと浮かび上がる。徐々に高度が上がるに連れて眼下に望むは、せわしなく動くガザニア・マリーネの姿。そして、はるか遠くで二条のビームを撃ち放つキャバリアの姿である。陽動で囮となった猟兵という餌に食いついたようだが、残ったガザニア・マリーネは他方からの襲撃に備えて警戒に当たっているようである。そして、太陽と見間違わんばかりの巨大な熱源を放つ魔笛がその姿を見せれば、残存するガザニア・マリーネは一斉にビームライフルを構えて新たな侵入者を迎え撃つ。
『くそ、やはりまだ居たか!』
異様な存在感を放つ魔笛へと、ハロウィンドールズの残党らは一斉にビームを撃ち放つも、重力の壁に護られたサイキックキャバリアがそれらの軌道を反らした。直進する光の粒子が逸れると、光の雨の如く地上へと降り注ぐ。だが、魔笛は反撃する素振りを一切見せず、悠然と彼らの反撃は無駄であると誇示するばかりに空に聳えている。
「こちとら伊達に戦歴積んでねぇんだ。連中に、|空地立体攻撃《エアランド・バトル》ってのを、教育してやる」
ガザニア・マリーネの火線が魔笛へと集中する中、ミハイルが駆る歩兵支援用のマシンウォーカー『XPT-11B<ストラーウス>』が正面からの一点突破を敢行する。その背後には、ミハイルがUC『|Подкрепление товарищей《リインフォースメント・オブ・カムラッド》』にて召喚した、兵員輸送能力と対戦車戦闘能力を兼ね備えたMi-24攻撃ヘリコプターが耳を劈く甲高いエンジン音を奏でながら上空を騎行する。
強力な武装で地上を制圧しつつ搭乗させた歩兵部隊を展開してヘリボーン任務を行うことを想定された、攻撃ヘリコプターでは異例の大型機であるMi-24。しかし、戦闘と輸送というふたつの役割を一機に担わせる設計により、攻撃ヘリコプターとしては鈍重で火力も乏しい。それらを補うべく、地上からはストラーウスに搭載された30mm連装機関砲による咆哮を唸らせながら、空に聳えている魔笛と突如として出現した攻撃ヘリコプター群のに気を取られたガザニア・マリーネの上半身と下半身を蜂の巣へと変えて行く。
二足歩行型マシンウォーカーは云わば大型の武装アンダーフレームといったもので、キャバリアが持つ高い機動性こそは無いが搭載されている火器はキャバリアが装備するものに匹敵する。更にガザニア・マリーネは機動性と強襲性を高めるべく、全体的な装甲は一般キャバリアよりも薄くなっている。ともなれば、攻撃ヘリに搭載された火力や30mm口径の機関砲だとしても軽装甲の相手では威力は十二分に発揮されるのだ。
『デカブツとヘリは囮だ。アンダーフレーム野郎を先にヤれ!』
立て続けに不可解な現象が起きるも、軍人崩れや傭兵崩れが混じったテロ組織なのか鈍重なストラーウスへと次第に火線が切り替わりつつあったその時、沈黙を続けていた魔笛の胸部に黒い光が生み出される。
「このサイキックキャバリア、"魔笛"の威力と防御力をなめてもらっては困る」
UCの顕現に伴い、魔笛のすぐ下に広がる廃墟に転がっている瓦礫も重力の乱れによって浮かび上がり、細かい欠片は重々しい黒球へと吸い込まれては砕け潰される音が鳴り止まない。
「射出」
程なくして放たれた黒球、UC『|重力砲《ブラックホールカノン》』。
僅かキャバリアの頭部ぐらいの大きさしかない黒き物体は、ガザニア・マリーネには直撃することなく後方へと着弾した。誰もが外したかと思った瞬間、着弾とともに解放された小型のブラックホールが大地を穿ちながら周囲にある物すべてを貪欲に取り込もうとばかりに吸い込んでいく。同時に一時的な重力崩壊が起こり、ガザニア・マリーネらが関節部を砕かせながら天に聳える王に平伏すかのようにかく座してしまう。
それを見逃さないとばかりに、ミハイルが召喚した戦闘ヘリがロケット弾を地表めがけて撃ち放ち、周囲には炎が立ち昇った。
「ヒュー、申し合わせ通りスゲェ破壊力だ。さて、俺たちも仕事に取り掛かるか。頼んだぜ、|Товарищи!《同志》」
周囲のガザニア・マリーネらは中破ないし大破となり、大地を削って小さなクレーターを作り出したブラックホールが消滅すると、コックピットからスイカ頭を模したヘルメットを被ったパイロットが脱出しつつある。彼らを逃さないとばかりに兵員運搬能力を兼ね備えたMi-24から、ミハイルがかつて所属していた|特殊部隊《スペツナズ》の亡霊がヘリボーンを行って次々とホールドアップをしていく。中には抵抗を試みる者いたが、物理的に大人しくさせた特殊部隊の亡霊が、安全が確保された着陸したMi-24へと積み込んでいく。
「さて、手駒は重力に囚われた。首魁はどう出るかな……?」
そして、ひとまず戦闘の被害が及ばない安全圏まで輸送するべくヘリが飛び立てば、特殊部隊はハロウィンドールズのアジト周囲やまだ捕縛していないハロウィン・ドールズ残党を狩るために、ミハイルの指揮の元で廃墟へと展開していく。それらを上空から見やったトゥエルブは、未だ沈黙を続けるアジトを睨んだのであった。
大成功
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ルイン・トゥーガン
アドリブ&絡み歓迎
はん!世間知らずのお嬢ちゃんの尻拭いとはねぇ
まぁ金になるならいいさね
……しかし、ガザニア・マリーネとは懐かしい機体だね
アマランサス・マリーネ配備前に使ってたねぇ、そもアマランサス開発後もズィガ帝国の主力は変わらずガザニアだったからねぇ
ガザニアがいい機体なのは否定しないけどねぇ、あくまで量産型キャバリアさね
後発の上に量産型キャバリアではなくクロムキャバリアとして開発されたアマランサスが性能が上回るのは当然だよ
あのカボチャ頭共、残党がまだいたのかい
しかも今度はスイカかい、普通に顔隠せばいいだろうに何故そんなウリ科に拘るんだい
ガザニア・マリーネまでスイカ頭にして、自己主張の強い奴だねぇ
そういやあのカボチャ連中、古巣の奴が混じってたね。使ってるガザニアといい、今回もかい?
まぁ動きを見れば分かるか
はん、乗ってるのが古巣の人間でも限りその機体のことはアタシのが詳しいさね
向こうのセンサー半径外から狙撃して、その混乱中に各部のスラスターを吹かしてアマランサス・マリーネで強襲するよ!
アンネリース・メスナー
アドリブ&絡み歓迎
テロリストがガザニア・マリーネとは不愉快な!
アマランサスがズィガ帝国の技術の粋を集めた誇りならば、ガザニアは主力にして顔ですわ!
今はズィガ共和国を名乗る傀儡国家が恥知らずにも売り払っているようですが、それでもテロリストがガザニアを使うなど我が故国に対する侮辱ですわよ!
オマケに去年、戦犯も参加したカボチャ共の残党がそれを使うなど許せませんわ!
もし戦犯の生き残りが乗っているとするならば、このわたくしが裁いて差し上げますわ!
囚われたクラウディア嬢は、こちらも不快ですわね
その血と自らの価値を理解できない。いいえ、理解しようとしないとは
相応の血と生まれを持つならば、それに応じた責務がありますわ!
わたくしのアマランサス・ラピートで出撃し、ガザニア・マリーネの索敵範囲外でロングビームライフルによる狙撃態勢を取りますわ
マリーネ型は通常のガザニアよりもセンサー系が強化されていますが、アマランサスには劣りますわ
ましてや、それだけの攻撃的な思念を発していては狙うのも避けるのも容易ですわよ!
「はん! 世間知らずのお嬢ちゃんの尻拭いとはねぇ……しかし、ガザニア・マリーネとは懐かしい機体だね」
まぁ金になるならいいさねとルイン・トゥーガン(B級戦犯指定逃亡者・f29918)が鼻で軽く笑うと、電子双眼鏡越しに覗いたキャバリアの姿をふと思い出す。
彼女、ルイン・トゥーガンはかつてズィガ帝国と呼ばれていた国において暗部を担う特務隊に所属していた。そこに転属される前は海兵隊に所属しており、このガザニア・マリーネは後の後継機であるアマサランスシリーズへと転換されても、建造数の多さによって最新機の穴埋めに事実上の主力機として第一線を張っていた。
「ガザニアがいい機体なのは否定しないけどねぇ、あくまで量産型キャバリアさね。後発の上に量産型キャバリアではなく|高級量産型キャバリア《クロムキャバリア》として開発されたアマランサスが性能が上回るのは当然だよ」
そもそもアマランサスシリーズとは、旧来の主力機で基本的に集団行動である軍隊という組織において『組織に居る者なら誰でも扱える』ことを前提としたガザニアとは異なり『エースパイロットや指揮官クラスが乗る普及型を上回るスペックを持つ』ことを前提とした設計である。所謂、高額高性能な兵器と低額低性能な兵器を組み合わせて戦力を構成させる『ハイローミックス構想』にあたり、アマランサスがハイとすればガザニアはローとなる。
だが、一見すると適材適所で合理的にも思えるハイローミックスにも落とし穴がある。
確かにアマサランスはルインを始めとした選りすぐりのエースパイロットに優先されて充てがわれたが、その一方で国威発揚を目的とした皇帝の縁者や親衛隊に配備されたアマランサスは綺羅びやかな装飾が施されていた。仮に、もしアマランサスがズィガ帝国の威光を国内外に至らしめる名目で皇帝に親しい者としての証として配備されれば、事実上実権を握っている総統部や軍部の不満感情を燻ぶらせる要因となりかねない。となれば、軍事面においての『ハイローミックス』というでっち上げのキーワードをぶち上げ、例え貴族の出自ではなく庶民の出自であっても本人の能力次第で皇帝の縁者が乗っている機体を賜われる。即ち帝国栄光の片翼を担う存在に成り上がれるともなれば、国民の戦意高揚が期待できよう。敢えて露悪的に言ってしまえば、『並の量産機とは一味違うがワンオフ機ほど派手でない』ことを通すための『口八丁』『出まかせ』の類であるのだが。
しかし、ローはローのままではない。元々は低コストを求められていても長年に渡り運用され続けて屋台骨がしっかりと組まれていれば、少し弄るだけで数多くのバリエーションが作ることができる。単に新規開発するのが面倒とも言えるが、完成度が高ければ例え旧式化してもパーツ単位で最新の物へと換装することで長期に渡る運用も期待できる。その最もたる例がガザニア・マリーネであり、自身が今もズィガ帝国在籍時代から愛用するアマランサス・マリーネから得られたデータをフィードバックされたガザニア・マリーネは強襲力という能力としては最新鋭機であるアマランサスにも劣っていない。
「しかも今度はスイカかい。普通に顔隠せばいいだろうに、何故そんなウリ科に拘るんだい。ガザニア・マリーネまでスイカ頭にして、自己主張の強い奴だねぇ。……そういや、自己主張が強い奴は他にも居たねぇ」
「くしゅん!」
別の地点で作戦開始予定時刻を、愛機『アマスランス・ラピート』のコックピット内で待機中であったアンネリース・メスナー(元エリート親衛隊・f32593)は思わずクシャミをあげてしまう。
「誰かわたくしの噂話でもしていらっしゃるのかしら? まぁ、わたくしほどの腕前を持って各地で活躍しているパイロットとなれば、思わず噂話をしてしまうのも無理はありませんわね。それはともかく、テロリスト如きがガザニア・マリーネとは不快な! アマランサスがズィガ帝国の技術の粋を集めた誇りならば、ガザニアは主力にして顔ですわ!」
アンネリースが感情的となって怒りを露わとさせるのも無理はない。確かにアマランサスはズィガ帝国の威光を世に知らせんために開発されたが、将が本機だとすれば兵はガザニアとなる。軍とは云わば『国の顔』であり、その主力を担うガザニアはまさしく長年に渡りズィガ帝国を支えてきた礎であろう。
今は敗戦によって解体された帝国の後継としてズィガ共和国を名乗る傀儡国家が、かつて存在していた帝国の象徴を塗りつぶすかのように外貨を獲得するのも兼ねて放出していると聞き及んでいる。今となってはズィガ帝国の同盟国や占領統治した|自治領《属州》に供していた|機体《ガザニア》も、クロムキャバリア全体へと拡散しつつある。
更に亡国の皇姫の機嫌を損ねるのは、ガザニア・マリーネの頭部に施されたスイカを模したフェイスペイントである。テロリストがガザニアを所有するのは百歩譲って許すとして、道化のようにふざけた姿と至らしめていること自体が祖国に対する侮辱的行為として他ならない。昨年にトリアイナでテロを起こそうとしていたハロウィン・ドールズの構成員にズィガ帝国の名を地に落とした戦犯が参加していたのは記憶に新しいが、カボチャ頭の残党ともなれば今も残っている可能性は大いに高い。今なおも帝国の名を汚して共和国の正当性を語らさせる要因の戦犯たちを裁くべく、再び彼女はトリアイナの地へと降り立ったのだ。
「それにしても、クラウディア……でしたか。その血と自らの価値を理解できない……いいえ、理解しようとしないとは相応の血と生まれを持つならば、それに応じた責務がありますわ!」
この誘拐騒動を引き起こしたクラウディアの経緯を聞いてアンネリースが怒るのも無理はなく、トリアイナを取り仕切るトラヴィス家の孫娘という存在がズィガ帝国の将軍と第三皇女の娘の間にもうけた自身と重ね合わせたのかもしれない。当然ながら、アンネリースとクラウディアの性質は真逆そのものであり、自由を欲している彼女とは対照的で自身の身体に流れる皇族としての血筋と誇り、|貴族としての社会的責任と義務《ノブレス・オブリージュ》の精神がアンネリースの|存在証明《アイデンティティー》ともいえよう。
この誘拐劇を起こした黒幕共々戦犯らを裁いた後には、奔放すぎてお騒がせすぎるまだ顔も合わせていないクラウディアへ高貴な血を持つ者の責務と義務を叩き込み、しっかりとお灸を据えねば。感情的な気性が災いして次第に頭の血が昇りつつある中、アンネリースが深く深呼吸をすると同時に作戦開始予定時刻を告げるアラームがコックピット内に鳴り響く。
「お時間になりましたわね。わたくしの手で、そのふざけた再び頭を吹き飛ばして差し上げますわ!」
アンネリース専用の高機動型エースとしてカスタマイズされたアマランサス・ラピートが、機体を秘匿させながら高出力・高収束を誇る大型ビームライフル『BSロングビームライフル』を構えている。既に狙いは付けており、他の猟兵も活動する作戦開始時刻に合わせての狙撃だ。幸いにも周辺を索敵して警戒するガザニア・マリーネはこちらの存在に気づいている素振りを見せていない。
このまま頭部ごとオーバーフレームを破壊して無力化させようと、引き金を引くべくコックピットの操作レバーに備え付けられたボタンを指で押し込もうとした……その時、別の方角から一条の光がガザニア・マリーネのオーバーフレームを穿ち貫いた。
「な……っ!?」
それに遅れて同じくアンネリースがBSロングビームライフルを撃ち放ったが、既に無力化されたガザニア・マリーネに残されたアンダーフレームの一部分を蒸発させるだけに留まる。だが、アンネリースは自らの手柄を横取りされたこと以前に、ガザニア・マリーネに与えられた痕跡に目が向けていた。ビームの口径といい出力による熱量が生み出す装甲が融解している様がこちらと同じであるということは、明らかに|同型機《アマランサス》によるものにおいて他ならないからだ。
そう確信を得られれば、思い当たるのはひとりしか居ない。神経を研ぎ澄まして攻撃的な思念が寄り集まっている地点を、サイキッカーの超感覚や直感力を増幅される『EPサイコセンサー』より送られるイメージを感知するとその場へと急行したのだった。
「ビンゴって奴かい。まさか当時の部隊暗号無線周波数をそのまま使ってるだなんて、とんだマヌケな古巣のご同輩が居たってもんさね?」
『その声は、まさか……ぐわぁ!?』
ノインの読みは見事に当たった。ハロウィン・ドールズ残党の多くは元ズィガ帝国の海兵隊や特務隊といった、現ズィガ共和国政府が旧帝国時代が行ってきた数多くの犯罪行為を根拠に粛清同然な茶番劇である軍事裁判によって国を追われた軍人くずれであった。彼女同様に表の世界では大手を振って生きていけない彼らは、身分や名を偽って裏社会や傭兵稼業に出た者が多いと風の噂で聞き及んでいる。ともなれば、彼らの特性から鑑みればテロリストの思想に共感された訳ではなく、ただ単に『金で雇われた』に過ぎないかもしれない。
だが、自身もそうだが、軍隊時代で身体に染み付いた癖というものは無意識に出てしまう物である。その最もたる例が、彼らが使っていた暗号化された無線周波数帯である。デジタル化された周波数帯に書けられた|符号と暗号《パスワード》によって秘匿され、周波数帯を合わせただけではザーッとした雑音の状態だ。
しかし、裏を返せば符号と暗号さえ分かれば傍受は容易く、軍事演習においては対抗部隊の中隊に居たものが部隊内で使い回されているパターンを照らし合わせて盗み聞きすることはままあることである。当然ながら相手がかつて同じ組織に在籍していたご同輩であるからこそ出来るものであるが、元ズィガ帝国の軍人であったノインであるからこそ出来たものである。そして、彼らの会話内容は彼女に筒抜け状態であった訳で、ガザニア・マリーネの索敵有効距離を熟知していたのも相まってアウトレンジからの狙撃を受けた事実。それと他の猟兵たちが行動を起こしたことによる混乱に乗じ、高機動強襲型であるアマランサス・マリーネの背部に増設された各スラスターが生み出す加速力と機動力を持ってして逆に強襲を仕掛けたのだ。
「同じ古巣のよしみに免じてコックピットは狙わなかったよ。せいぜい感謝するんだね」
同じズィガ帝国出身者ならでは誰でも知っているアマランサスの出現、それと見知った顔の声が突如として無線越しに聞こえれば狼狽えるのも無理はない。機体の加速を落とさぬまま機体背部の懸架装置を兼ねたサブアームが展開され、『RSダブルサブマシンガン』から霰弾の如く放たれた対キャバリア用の高初速貫通弾がガザニア・マリーネの装甲を容赦なく蜂の巣へと変えて行く。当然ながらこのアマランサス・マリーネへ|機種転換《乗り換え》する以前に海兵隊に在籍していた彼女もガザニア・マリーネに搭乗していたのもあって、装甲が厚い箇所と薄い箇所は誰よりも熟知している。穿たれた穴々から炎が噴き上がるが、これでもパイロット自身がが潔く自決でもしない限り脱出可能な範疇である。
火だるまとなったガザニア・マリーネを尻目に新たな獲物を見定めると、流石に元軍人だけあってか烏合の衆という訳でもなく統制が整いつつある。ガザニア・マリーネの特徴とも言える背面に増設された大型スラスターから噴き出したアフターバーナーが青白い跡を描き、アマランサス・マリーネの追撃を開始させた。
「へぇ、中々良い腕してるじゃないか。けど、こちとら|強襲戦《殴り込み》は慣れたもんさね!」
複雑に入り組む廃墟の路地に風が吹き抜けた。アマランサス・マリーネとガザニア・マリーネが噴出するスラスターによって舞い上げる熱風だ。無人の街に転がるガラクタは熱せられた塵風によって四周へと吹き飛ばされていく。振り切ろうとしてもなおもガザニア・マリーネはルインへと食いつき、直線が続くメインストリートへと躍り出ると盾に束ねられた銃身が取り付けられたガトリングシールドが硝煙混じりの咆哮を上げさせる。所々にヒビが入ったアスファルトで舗装された道路が、アマランサス・マリーネを追ってガトリングシールドから放たれた弾丸によって湧き立ち、大地を剥き出して行く。
広い路地に出たことによって旋回半径を確保したルインが弾倉交換済みのRSダブルサブマシンガンを唸らせながら牽制射撃を行い、自機を追撃するガトリングシールドの射線を逸らさせる。だが、ガザニア・マリーネに搭載された装備はガトリングシールドのみではなく、両肩部に本体を剥き出しとして搭載されている対艦・対要塞ミサイルもある。当然ながら追尾性はあるにしても機敏に絶えず動き回るキャバリアを追うほどの能力は備わっていないが、その破壊力をもってして場を仕切り直すには十分な威力がある。
「はん! そう来たか!」
ミサイルが射出されれば両機の間に爆轟が起き、爆ぜた瓦礫がツブテとなってメインカメラへと叩きつけられる。幸いに防弾ガラスカバーによってモノアイは無事であるが、無数に入ったヒビが鬱陶しい限りだ。シールドによって礫から身を守ったガザニア・マリーネが再びガトリングシールドを回転させたその時、背後のバーニアユニットが爆発を起こした。ガザニア・マリーネが振り返ると同時に立て続けに銃創が穿たれ、的確にオーバーフレームとアンダーフレームの駆動系を破壊された機体は制御を失い廃ビルへと衝突して静止したのであった。
「……やはり、あなたでしたか。|B級戦犯《ルイン・トゥーガン》!」
「何だい、姫さんじゃないか。噂をすればなんとやらさね」
「それはこっちのセリフですわ!! ここで会ったが百年目、覚悟しなさい!」
ミサイルによって舞い上げられた土埃が収まれば、ガザニア・マリーネが居た場所の先に機体の随所が金の装飾で飾られたアマランサス・ラピート……元ズィガ帝国親衛隊所属をこれでもかと誇示するアンネリース専用機である。
同じ猟兵である彼女たちであるが、その関係は依然として追う者と追われる者、狩る者と狩られる者という間柄だ。それを示すように、ガザニア・マリーネに向けて撃ち放った『RSキャバリアカービン』は今はアイドリング状態で停止しているルインのアマランサス・マリーネへと向けられている。
「そうピリピリしないで、少し待ちなさね。あたしにソイツをぶっ放す前にこの周波数帯と暗号を無線機に打ち込んでみな?」
「ふん、良いですわ。最後に言い残した言葉として受け取りましてよ」
コックピット内でロックオンアラートが鳴り響く中で怖気もせずにそう言い放ったルインの言葉を受けて、アンネリースはモニターを注視して不穏な動きを見せたらすかさずトリガースイッチを押し込む態勢の元でコンソールに彼女から言われた周波数帯と暗号を入力する。
すると、アマランサス・ラピートの機体に男たちの罵詈雑言が響き渡る。思わず驚いてトリガースイッチを押し込む寸前となってしまうが、何とか堪えてアンネリースは通信内容に耳を傾ける。
「これは……?」
「元ズィガ帝国の軍人くずれ、それも海兵隊や特務隊の関係者ならだーれでも知ってる無線の周波数と暗号のひとつさ。あんた、賞金稼ぎまがいなことを続けていただけあって、相当恨みを買ってるようだねぇ……?」
「ぐっ……!」
通信内容はこうだ。やれ裏切り者だの、やれ同胞狩りだの。アンネリースは|亡国《ズィガ》の皇女であるが、その皇女自身が『祖国の名を穢した不届き者』として、現ズィガ共和国による軍事裁判で定められた真偽が不確かな戦犯を共和国の犬に成り下がって裁いていると。
「ま、オブリビオンマシンの影響で連中は妄執に取り憑かれてそうだから、本当のことはアタシも知らないさね。で、アタシをここで始末したら……。姫さんはひとりでアイツらを相手にすることになっちまうが……いいのかい?」
「もしかして、共闘を願い出ている……と受け取ってよろしくて?」
「ああ、そんなところさね」
暫しふたりの間に沈黙が続き、耳には市街地戦による喧騒のみが聞こえてくる。その静寂を先に破ったのはアンネリースであった。
「……分かりましたわ。あなたの提案を受け、ここは一時休戦として共闘としましょう。ですが、すべてが終わったら……」
「分かってるさね。出るところに出て貰う、だろ? だけど、姫さんのとの鬼ごっこも悪くないとアタシは思っていてね。終わったら何時ものようにトンズラさせて貰うよ」
「あら、そうはさせませんことよ? そうなる前に、あなたの首根っこを押さえるだけですから」
「はん! 黙ってりゃ美人なのに、相変わらず口が減らない姫さんだ。それなら、アタシの動きにしっかりと付いてくるんだよ」
「それはこちらの言葉ですわ。あなたこそ、わたくしの華麗な操縦に遅れを取って足を引っ張らないで貰いたいですわ」
喧嘩するほど仲が良いとはいうが、互いにパイロットとしての腕が確かな者同士の会話が続く。その流れを断ち切るよう、再びズィガ帝国関係者系の傍受無線に男たちの叫び声が両者のコックピットに響く。
『居たぞ! 裏切り者の女狐どもめ!!』
『コックピットを潰すな。引きずり出して八つ裂きにしてやる!』
『おいおい、相手は女だ。八つ裂きにしちまう前に楽しもうじゃねぇか。ハハハ!!』
追撃してきたガザニア・マリーネが大通りへと躍り出ると、ガトリング・シールドを、肩部のミサイルを次々と撃ち放つ。流れ弾により廃墟の通りは瓦礫と化していくが、二機のアマランサスは互いの考えや癖を嫌というほど知っているのもあって息の合った連携に打って出る。
「右は任せた。姫さんは左を頼むよ」
「あなたの指図を受けなくとも分かっていますわ」
互いに高機動型のアマランサスは同等の性能であり、パイロットの腕も互角。ズィガ帝国が誇った技術の粋を集められたクロムキャバリアのカメラアイが力強く灯ると、互いにスラスターを吹かして高機動戦へと移行させる。そして互いにかつての同胞が操るキャバリアへと狙いを定めれば、銃声が重なり合って今回の事件を引き起こしたオブリビオンマシンを引きずり出す戦いの再開を告げるのであった。
大成功
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祓崎・千早
人質奪還の為には敵を全機破壊しなければならないけど命は奪わないようにする。中々難しいミッションね。
私の搭乗している『機神兵』は対邪神用、武装兵器は殺傷力の高い物ばかりだしどうしようかしら。
そうだ、本来は必殺技の【骸海撃】を使って無力化すればいいのよ。
適当な大きめの廃墟に機神兵の腕を叩き込んで…オブリビオン・ヴォイドオオオオッ!!
廃墟を爆砕させた時の余波を戦場全体に放出させ、敵パイロットに恐怖を与えて行動を無力化してやるわ。
オブリビオンマシンの狂気には、それ以上の狂気をぶつけてやればいいのよっ!
後は『月光』で無力化に成功した敵機体のコクピット以外をバラバラにすれば完璧ねっ!
【アドリブ歓迎】
「人質奪還の為には敵を全機破壊しなければならないけど、命は奪わないようにする……中々難しいミッションね」
作戦開始時刻となり、祓崎・千早(魔を断ち闇を砕く少女・f38100)は自らの乗機で構造がキャバリアと酷似しているUDCアース産兵器『対邪神決戦兵器【機神兵】』を疾走らせる。
機神兵とは、その正体すらも語るも憚れるおぞましき邪神が封じられた機神兵コアエンジンを動力源とする人造邪神とも言える、古くからUDCを狩ってきた一族である祓崎家の本家で建造された来るべき邪神との決戦に備えて建造さた。その性質上、搭乗者の心身を蝕んで使い潰すことから、この世界においてはオブリビオンマシンに相当するものである。だが猟兵として覚醒している千早にとっては何ら問題もなく、寧ろ人体実験さながらに彼女へ機神兵を充てがった『本家』の思惑とは裏腹に適合しつつある。
「可能な限り、上半身か下半身に攻撃を当てないと……!」
だが、邪神殲滅を目的に設計された機神兵に搭載されている武装兵器はどれも殺傷力の高いものである。右腕にはひとつひとつに破魔の力が宿ってる邪神特効のチェンソーブレードが仕込まれたアームチェーンソー『|月光《げっこう》』、左腕にはエンジンに封じられた邪神が今なおも撒き散らす呪詛を質量ある弾丸に変換して放つガトリングキャノン『|呪雨《のろいさめ》』が固定されている。
毒は毒で制するとはよく言ったもので、これらの兵装は邪神の力を持って邪神を滅する兵器なのであるが、ただの人間に向けて使えば精神を蝕み廃人同然と化してしまうおぞましいものだ。オブリビオンがキャバリアを操縦していれば気兼ねなく使用できるものの、オブリビオンマシンによって狂わされた人間が操縦しているというクロムキャバリアならではの事情が攻撃を躊躇わさせてしまう。
しかしながら、相手はそんなことは知ったことはなく、機神兵が相手を邪神の力で汚染させない唯一の兵装であるアームチェーンソーによる白兵戦を阻止すべくビームライフルを撃ち放つ。
「ああ、もうじれったい!」
邪神との戦闘に耐えうる装甲を有している機神兵ではあるが、如何なる分厚く硬い装甲であろうとも高速の荷電粒子を撃ち出すビーム兵器の直撃を受ければ危うい。またガザニア・マリーネはガザニアをベースにして強襲力を高めたキャバリアである。脚部に仕込まれたホバーユニットと背部に増設された大型スラスターが生み出す機動力を前に、千早は翻弄されてしまう。
半ばオブリビオンマシンと化しつつあるガザニア・マリーネを操られているパイロットたちは、見慣れぬキャバリアもどきが左腕のガトリングキャノンを使わずにチェーンソーブレードでの接近戦に固執していると見破るや否や、距離を取って攻勢を強める。
このままでは嬲り殺しにされてしまうと千早が周囲を索敵し、何か起死回生の一手を与えれないかと隈なく見渡すと一際と大きな廃墟が目に留まる。
「そうだ、オブリビオンマシンの狂気にはそれ以上の狂気をぶつけて、無力化すればいいのよっ!」
再びチェーンソーブレードを爆音で唸らせ、機神兵が突出する。ガザニア・マリーネたちは再び距離を取って機神兵を迎え撃つべく、千早が狙いを定めた廃墟の影へと隠れた。これこそ、彼女が待ち望んでいた状況である。
「この廃墟に機神兵の腕を叩き込んで……オブリビオン・ヴォイドオオオオッ!!」
鋼のように強固な邪神の外皮さえもズタズタに斬り裂くアームチェーンソーが、難なく廃墟の鉄筋コンクリートを破断させる激しい音とともにすっぽりと食い込んでいく。それと同時に、千早は瞳にユーベルコードが発現したことを示す煌めきを浮かばせながら力の限り叫んだ。
UC『|骸海撃《オブリビオン・ヴォイド》』。本来は攻撃対象へと叩き込まれた機神兵の腕を介して骸の海を流し込むというものなのだが、これをキャバリアではなく建造物へと転換させたのだ。機神兵コアエンジンから機体を通して骸の海が解き放たれ、廃墟がそれで満たされると爆散するとともに、一目見れば発狂してしまいかねない邪神の狂気を孕んだ衝撃波が四周へと解き放たれる。
幸か不幸か、ガザニア・マリーネたちは膨大なエネルギー反応を感知して爆ぜて崩れた廃墟の残骸の下敷きにはなっておらず、熱源を探知して機神兵へと再度ビームライフルの照準を重ねた。が、骸海撃による見えない狂気に晒されたパイロットたちは目を見開かせながら操縦桿のトリガースイッチを押すのを躊躇う。いや、忘れてしまうほどの恐怖に襲われていた。
まるで、そう。機神兵に封じられているおぞましい邪神の姿を見てしまったかのように……。
「作戦成功! お返しは倍にして返させてもらうわ!!」
立ち竦むガザニア・マリーネの前に|月光《アームチェーンソー》を振りかざし、機神兵が反撃に転じる。迫る恐怖を前にパイロットたちは、デッドウェイトにしかならない武器を捨て逃げようとするが、その背後からチェーンソーブレードが振り落とされる。
激しい火花を待ち散らしながら寸断されたガザニア・マリーネのオーバーフレームは地面へと崩れ落ちる。追撃として振るわれた鈍く光る回転する刃はバランスを崩したアンダーフレームをも裁断して、次々と敵機をダルマへと変えさせた。
成功
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第2章 ボス戦
『人喰い天使『アクラシエル』』
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POW : 大型貫徹杭『ロンゴミニアド』
自身の【燃料となる人間】を代償に、【空間を歪めるほどの威力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって燃料となる人間を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : オブリビオンパルスエンジン『セファーラジエル』
【燃料となる人間を絶えず消費する】事で【周辺地域を汚染する天使の如き形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 大型光学斬撃兵装『アスカロン』
【燃料となる人間】のチャージ時間に応じ、無限に攻撃対象数が増加する【大出力のレーザーブレード】を放つ。
イラスト:落葉
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ジェイ・ランス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
クラウディア嬢が幽閉されていると思わしき、ハロウィン・ドールズの残党アジト周辺を警護すべく展開されていたガザニア・マリーネ。その大半は尽く猟兵たちの手によって|無力化《スイカ割り》された。
アジトの周りでは修復不能にまで大破し、物によっては炎上しているガザニア・マリーネの残骸から立ち昇る黒煙が無言のまま降伏を勧告しているようでもある。だが、相手はオブリビオンマシンによって狂った思想を植え付けられたテロリスト集団のハロウィン・ドールズだ。猟兵たちが普段相手にしている小国家の正規軍とは違い、彼らは国家に所属していない。国家に所属する軍隊であれば、民主的国家であれば戦争を指導する政治家が国民の信頼を失い、独裁国家であっても指導者が失脚するか国土の主要部分を占領された時点で戦略的敗北が決定してしまう。
しかし、|彼ら《テロリスト》は違う。『国家』に所属していない時点で明確な敗北条件が存在していない以上、自分たちが勝利しない限りテロを止めることは基本的に無い。テロリストには守るべき国土も国民も無ければ、遵守しなければならない法律も存在しないのだ。
更には指導者の号令で動くような『組織』の体すらなしていない場合も多く、例え『現状の指導者』との停戦協議が為されたとしても、それを不服とする分派が指導者達から離反して勝手に闘争を継続する場合もある。いずれにせよ平和と秩序を破壊する犯罪者でしかない彼らだが、当人たちは非道な行いに疑念を抱くこともなく自らが掲げる『正義』であることを認識しているので、厄介極まりない相手なのだ。
故にテロ組織を壊滅させるには、徹底的に叩き潰すしかない。以前にハロウィンの日に起きた蜂起で彼らの指導者が逃れたのであれば、当人を捕縛ないし殺害して禍根を断たねばならないのだ。
『ああ、もう! 貴方がたらはどこまでわたくしの邪魔をすれば気が済みまして!?』
猟兵たちが固唾を飲んで、今回の誘拐騒動を主導したハロウィン・ドールズの指導者が出撃するのを身構える中、共通の無線チャンネルへ|癇癪《ヒステリック》でも起こしたかのような若い女性の声が届けられる。それと同時に、強大なオブリビオンマシンが起動したことによる余波か、ハロウィン・ドールズ残党のアジトである廃工場の一角が崩壊した。
『このわたくし、”クラウディア・トラヴィス”と知った上での狼藉か!』
その言葉を受けて猟兵たちは俄然とする。それもそのはず、誘拐された令嬢のクラウディア・トラヴィス自身がオブリビオンマシンに搭乗しているのだから。
もしや、ハロウィン・ドールズが人質である彼女を無理やりオビリビオンマシンに乗せて洗脳したのかという疑問が浮かぶ中、彼女はなおも猟兵たちへ恨み辛みをぶつけるべく独白を続ける。
『名家として相応しい振る舞いを物心がついた頃から強要される忌々しい血筋に生まれてしまい、わたしくは心の底から自由を渇望しておりました……。いくらお屋敷を抜け出そうとしても、結局は戻される哀れな籠の鳥であったわたくしでしたが、運命的な出会いをしました。そう、組織へのご勧誘を。その思想に感服し、このトリアイナをわたくしの手で破滅へとお導きすべく手を回しましたのに、貴方らは台なしにしてくれましたわ』
その口ぶりからして、どうも操られているような素振りはない。寧ろ、今までのすべてが合点が付く。各国の要人を招いた厳重なハロウィンパーティー警備体制の中、如何にしてあれ程の巨大な船が入港できていたのか。あれ程のキャバリアをどうやって準備できていたか。それも海運企業国家であるトリアイナを統べる華麗なる一族、トラヴィス家の者であれば証拠を揉み消すことなど造作ないことなのだからだ。
『各地で行動を起こした組織のご同包の殆どは壊滅に至りましたが、この地をお任されされましたわたくしが残っている以上、まだ終わっていませんわ。海賊退治の一件でお困りだったお祖父様とお父様へわたくしがご進言してエリュシオンを作って貰い、丸腰な各国のお金持ちをまるごと人質にして活動資金を得ようとしましたのに……これもセバスティヌスのお節介が邪魔立てしてくれましてね。そこで、このわたくし自身が自作自演いての偽装誘拐をすることで国家予算規模の身代金をふんだくろうと急遽計画変更しましたのに、それも貴方がたの手でご破算でしてよ。折角ポケットマネーで悪名高い元ズィガ帝国の傭兵をお雇いしていましたのに、その損失でわたくしが真の自由を得るための計画はもう不可能となりましたわ』
次から次へと出てくるスキャンダルの数々。まさかひとりの少女が、軍人でもない非力な少女が『金の力』で壮大なる我儘をしようとは誰が想像できようか。
だが、残党は既に猟兵たちの手によって壊滅的な被害を受けた。如何に彼女が世界的な富豪の孫娘だとしても、人目を盗んで再軍備できるなど到底出来るはずもない。
『ですが、貴方がたらのお陰でわたくし自身の甘さを認識できましたわ。最初から組織からお賜りされました|キャバリア《オブリビオンマシン》で、わたくしだけで行動を起こせば良かったのですもの。人喰い天使の異名を持つ、”アクラシエル”。わたくし自身の命を|燃料《エネルギー》に強大な力を振るえるとお聞きしていましたので、最後の手段としてお残していましたが……ええ、とても心地の良い気分でしてよ。これなら、わたくしひとりだけでもトリアイナを滅ぼせる気がしますわ。アハハハハハハ!』
崩壊した廃工場の一角に舞い上がっていた粉塵が収まると、そこから頭部にカボチャを模されたスカルフェイスペイントが施されたオブリビオンマシン・アクラシエルが姿を現す。猟兵が乗るキャバリアに搭載されたセンサーが観測するエネルギー反応は、底を見せない状態でなおも増大の一途を辿り、それに比例するようクラウディア嬢の狂気を孕んだ嗤い声が廃墟の都市に響き渡る。
しかしながら、オブリビオンマシンに搭乗したことで昂ぶられた感情から吐き出された言葉が真情だとすれば、名家ならではの厳しいしきたりと伝統を重んじる閉ざされた世界に辟易し、港街から一望する海の果てに広がる何者にも束縛されない自由な世界を夢見た少女の心の隙間を組織が付け込んだのかもしれない。即ち世界的な富豪の末娘と知っていた組織にとっては格好のパトロンであり、金づるでしかない捨て駒だったのだろう。
そうでなければ、一国の計画を任される幹部待遇とは言え世間知らずの小娘相手に、自らの命を代償に 比類無き力を発揮するキャバリアを預けようか?
如何にしろ、クラウディアもまた利用された者に過ぎないということになる。そうなれば、この騒動をさらに拡大させないためにも、彼女を無事に保護せねばならない。なおもクラウディアはオブリビオンマシンの狂気に蝕まれ操られつつあるが、まだ完全に支配下へ置かれていないようにも思える。
そうであれば、恵まれてた環境に生まれたが故に孤独であり、若さ故に過った道へ走ってしまった彼女へ説得を試みる価値がありそうだ。パイロットとして素人同然であろうが、オブリビオンマシンから発せられる力は並大抵の物ではない。上手く行けば、オブリビオンマシンの誘惑から解放されれば正気へと戻り、救出の一助となり得るかもしれない。
『その前に、昨年のハロウィンに計画を台無しにしてくださいましたゴミ共は、わたくし直々に始末して致しますわ。お覚悟はよろしくて?』
そうとなれば、事が終わればお騒がせなお嬢様にお説教のお時間だ。燃え盛る憎悪に駆られるクラウディアの命の灯火が燃え尽きるのが先か、それともオブリビオンマシンを破壊して彼女を引きずり出すのが先か。
ひとりの自由奔放な少女のワガママから始まったお騒がせな騒動に終止符を打つべく闘いが、今始まろうとする。
メディア・フィール
WIZ選択
他PCとの絡みOK
プレイング改変・アドリブOK
大出力のレーザーブレード『アスカロン』の間合いと、ロングレンジアーム・焔の間合いが同じくらいなので、ぎりぎりの駆け引きの戦いを繰り広げます。【空中機動】などを駆使して、『セファーラジエル』の形態も紙一重で躱しますが、超高速の戦闘のためにお互い回避しあい、決定打を決めかねます。そこで、氷炎魔拳をあえて敵オブリビオンの燃料となる人間に使い、防御力を上げることで燃料になるタイミングを引き延ばすことによって優位に立とうとします。
「そんなに自由になりたかったら、自分ではっきり言えばよかったんだよ! 人に頼った時点で真の自由なんか得られるものかっ!」
「そんな身勝手な理由で、みんなを困らせてっ!」
クラウディアとは歳が近いせいか、そんなあまりにも身勝手極まりない犯行動機に対してメディアが怒気を含んだ声で一喝する。
「そんなに自由になりたかったら、自分ではっきり言えばよかったんだよ! 人に頼った時点で真の自由なんか得られるものかっ!」
『どこの馬の骨か存じませんが、言ったって耳を貸して貰えないのでしてよ!? 子どもだからという理由で、何も知らないからと言って! だから、あの方々から頂いた力をもって実力行使あるのみですわ!!』
言葉の応酬は平行線を辿り、思春期真っ只中なお年頃であるクラウディアの感情がコントロールを失うと同時に、オブリビオンマシン『アクラシエル』は反発心のまま昂ぶる彼女の生命力を燃料へと換えさせる。機体の背部に搭載されたパルスエンジンから禍々しくも|紅《くれない》に輝く堕天使と形容すべき翼が展開され、反重力を応用した揚力を持ってしてメディアが搭乗するネオンへと加速しながら接敵する。
その軌道はあまりにも直進すぎて、ただ単にアクセルを目一杯踏み込んだようなものでクラウディアのパイロットとしての技術はあまりにも低い素人同然のものである。だが、彼女の若い生命力を糧としたオブリビオンマシンから溢れ出る無限の力が、十分にその差を埋めていた。通常のキャバリアような人間の指の形をしていない|左腕《マニピュレーター》の下部から、クラウディアの身体を通して供給される余剰された生命エネルギーを排出するかのように高出力のレーザーブレード、大型光学斬撃兵装『アスカロン』が眩い光とともに迸る。
「うわわっ!?」
通常の近接用に用いられるものであれば、中距離攻撃にも対応できる伸びる腕ことロングレンジアーム・焔を用いて|反撃《カウンター》の一打を叩き込めただろう。だが、クラウディアの生命力を持ってして|限界《リミッター》まで展開されたアスカロンの輝きは謂わば『巨大レーザーブレード』とも言うべきものであり、キャバリア数機分にまで匹敵するリーチを誇っていた。それをただ振るだけで周囲の廃墟は軽く薙ぎ払われ、溶断された切断面が赤々とさせている様が周囲が焼け野原となった錯覚を覚えさせる。
とは言え、クラウディアの未熟さが功を奏して、力のままに大ぶりで振られれた巨大なレーザーブレードのひと薙ぎを、ネオンの靭やかで軽やかな機動性をもってして回避してみせる。仮にアラクシエルに乗っているパイロットが素人同然のクラウディアではなく、先程に相手していた彼女から金で雇われていた傭兵のように手練であったとしたらと考えると、メディアは背中に冷たいものが走る感覚に襲われた。
「……そうだ!」
しかし、若さ故の力ではメディアも負けていない。オブリビオンマシンが見せつけた圧倒的な破壊力を前にして覚えた恐怖の感情で寒さに似た感覚を、若いならではの柔軟な発想力を持ってしてヒントに変えてみせたのだ。
『お猿さんのようにちょこまかと……お里が知れますわ!』
オブリビオンマシンの影響もあるだろうが、メディアの動きをそのままトレースして反映させているネオンに苛立ちを募らせるクラウディア。今は反撃のチャンスを伺うべく防戦に徹しているネオンを追って、アスカロンの巨大なる光刃が廃都市を、打ち捨てられているガザニア・マリーネをも闇雲に破壊していく。互いに決定打を決めかねる攻防が続いたが、クラウディア側がついに痺れを切らして行動に打って出る。
『そうですわ! リーチを短くさせて振りやすくすればいいのでしたわ!』
先程までは力の赴くままにオブリビオンマシンを操縦していたクラウディアだったが、ようやくコツを覚えたのか自身の生命エネルギーの供給量を抑えることでアスカロンの刃を収束させる。確かに通常サイズのレーザーブレードとなれば、振りやすくなってネオンを補足できよう。
だが、それはメディアも同じこと。圧倒的なリーチ差がなくなった今、反撃のチャンスが訪れたのだ。
「残念だったね。今度は立場が逆転だよ!」
『アハハハハ! 面白いことをおっしゃいますのね? 後で負け惜しみをおほざきになられても知りませんわよ!』
已然としてアクラシエルの機動力は衰えていない。それを前にしてメディアは自らのユーベルコードを発現させて、冷たく輝く氷の炎で機体全体を覆った。
そんな子供だましをとクラウディアが叫びながら、ネオンが繰り出したロングレンジアーム・焔の伸び切った蛇腹状の腕を切り落とし、追撃を仕掛ける。
『チェックメイトですわ!』
アスカロンの斬撃が人型に燃え盛る冷たく輝く氷の炎を切り裂いた。しかしながら、それこそメディアが死中において閃いた起死回生の一手であることを、クラウディアは目にすることとなる。
『え……氷ですって?』
そう、氷だ。先程までにクラウディアが相手にしていたのは、メディアのユーベルコード『氷炎魔拳』によって創り出された|囮《デコイ》に過ぎない。
「そうさ! 熱を操れば、こういうことだってできるんだ!」
メディアの声とともに、アクラシエルは新たな熱源反応を捉える。冷気を覆ったことで熱源探知センサーの目から逃れ、囮として作り出した動く氷塊には機体が放つ熱量と同等の炎を纏わせていたのだ。
『この……っ! お猿さんのように小賢しいマネを……ッ!!』
「|逆上《のぼ》した頭を少し冷やすんだねっ!」
アスカロンの反撃は間に合わず、氷を纏った拳の一打がアクラシエルに打ち込まれる。コックピットに襲いかかった衝撃とともにクラウディアが小さな叫び声を上げ、凍結は外装のみならずコックピットにも及んでくる。そうしてオブリビオンマシンは廃墟へと叩きつけられたのだが、カボチャ頭の塗装から覗かせるカメラアイの光は未だに衰える気配をみせていないのであった。
成功
🔵🔵🔴
祓崎・千早
ひ、人騒がせなお嬢様ねっ!
それにあんな子供を利用する組織には反吐が出るわっ!
何はともあれ、先ずはオブリビオンマシンからあの子を引き摺り降ろさないと。
大出力のレーザーブレードが厄介ね。なら遠距離から攻撃よ。
機神兵の左腕のガトリングをパージ、【ヘビーレールキャノン【雷轟】】を転送して左腕に換装。
ヘビーレールキャノンの銃口をオブリビオンマシンのコクピット以外、四肢や武装などに向けて発射、粉砕してやるわ。
後は距離を取りつつ撃ちまくってやるわよっ!
距離を詰められてレーザーブレードを振るわれたら『月光』で武器受けして、ゼロ距離で【雷轟】をくらわせてやるから。
【アドリブ歓迎】
「ひ、人騒がせなお嬢様ねっ!
仲間の猟兵が操るキャバリアによる一撃によって|人喰い天使《アクラシエル》の外装が凍結したものの、クラウディア自身を炉心とした生命エネルギーの熱によって解凍が進められる。いっそのこと、このまま凍り続けてくれていれば手を煩わされないものと、千早は眉を潜めながら人騒がせにも程があるお嬢様を|人質《パイロット》としているオブリビオンマシンを睨みつける。
「それにあんな子供を利用する組織には反吐が出るわっ!」
とは言え、これもクラウディアが抱えていた悩みに付け込み、言葉巧みに利用した『組織』が諸悪の根源となろう。仮に彼らと出会わなかれば、名家の子女とは言えオブリビオンマシンによる狂気の伝播が引き起こすこのような事件にまでには至らなかったはずだ。せいぜい家出癖のある世間知らずのお嬢様であっただろうが、トリアイナの国民から広く周知されているまでの有名っぷりでは普通の誘拐劇が起きていたかもしれないが。
「何はともあれ、先ずはオブリビオンマシンからあの子を引き摺り降ろさないと……っ!?」
少々手荒なことになってしまうが、まずは厄介極まりない武装を破壊して無力化しないとこちらの命が幾らあっても足りない。
ガトリングキャノン『呪雨』の砲口を僅かに反らして流れ弾がコックピットに当たらないよう微調整させていたが、駆動系を凍結させていた氷が完全に融解して再起動を果たしたアクラシエルが再びレーザー光の刃を展開させたのだ。
『よくもやって……くれましたわねッ!!』
「っ、それはこっちのセリフよ!」
咄嗟に回避して機神兵の脚部に搭載されているスラスターを噴射させて機体が真っ二つとなる自体は避けられたが、重くかさばる長い砲身が仇となってガトリングキャノンが溶断させてしまう。
『これで飛び道具は使えませんわね?』
アクラシエルの紅光の翼が再び展開されると、リーチ差を生かした攻撃を前に唯一の攻撃手段である右腕のチェーンソーブレード『月光』では届かない。これで対抗しようとも|白銀の堕天使《アクラシエル》の機動性が機神兵に勝っているというところで、迂闊に踏み込めば攻撃範囲が変幻自在のレーザーブレードによって破壊されてしまうのが目に見えている。
だが、彼女、千早は猟兵だ。生命の埒外たる存在ならではの|隠し玉《ユーベルコード》を持っているのだ。幸いにクラウディアは『ただの人間』である。猟兵の活躍は世界的な海洋交易国であるトリアイナにおいて船乗りたちから住民へと伝わり、世間知らずなお嬢様の耳にさえ届いているだろう。
仮に彼女を唆した組織が猟兵が行使する|超常現象や奇跡《ユーベルコード》を扱う話をしたとしても、正直半信半疑なところかもしれない。オビリビオンマシンもユーベルコードを行使するが、クロムキャバリアにおいてはマシンの一機能と認識されているのが関の山なのかもしれない。であれば、そこを付くのは大いに有効だろう。
「まだ勝負は終わってないわ、お嬢様!」
一か八かと腹をくくった千早が、砲身が斬られたことで今はただの重しとしかならないガトリングキャノンを左肘部の接続部から|分離《パージ》させる。大破したガトリングキャノンを捨てて身軽となった機神兵がチェーンソーブレードを唸らせ、アクラシエルに向けて吶喊を敢行したのだ。
『諦めが悪いお方ですわ!』
今度は右腕を切断しようとアスカロンが振るわれたが、機神兵コアエンジンより供給される邪神から抽出されるエネルギーをチェーンソーブレードの刃に宿る破魔の力を増幅させたことによる力場で受け止める。しかし、これでもう千早には反撃の手は残されていない。
『ほら、ご覧なさい。悪あがきする様がとても惨めですわ。アハハハハ!』
お互いに剣刃をぶつけ合い、反発するエネルギーが眩い光を放つ中でクラウディアが右腕に装着されている大型貫徹杭『ロンゴミニアド』を機神兵へと突き付ける。パイルバンカー状の先端部から膨大な熱が発生しつつあり、このままではコックピットごと破壊されかねない状態だ。
「……残念でした。騙しててごめんね? この『雷轟』からは逃げられないわよっ!」
勝ち誇った笑い声を上げているクラウディアへ千早がそう呟くと、ユーベルコードが展開された。機神兵の追加装備が空間転送され、肉厚な砲身のヘビーレールキャノン『雷轟』が左腕へと装着される。必殺の弾丸が即座に撃ち放たれ、ゼロ距離と言っても良いほどの至近距離でアスカロンのユニット分が大きく凹み、その衝撃によってアクラシエルは再び地に足をつけることとなったのであった。
成功
🔵🔵🔴
ミハイル・グレヴィッチ
あー、つまり何だ、全部あの嬢ちゃんの|自作自演《マッチポンプ》だったワケか?ったく、金持ちの考えるコトはワカランね。
まぁ過保護な点は否めないが、裏を返せばそれだけ嬢ちゃんを大事にしてるってコトだし、それに自由ってのは、実際に経験すると、口で言う程いいモンでもないんだがな。
まぁいずれにせよ、あのマシンから嬢ちゃん引きずり出してブッ壊すコトにゃ変わりはねぇがな。
他の猟兵と交戦している隙に、気づかれない様敵の背後に回り込み、射程内に入り次第急所や関節等を狙ってUCで攻撃。
悪い事したんだから当然お仕置タイムだ。そしてお仕置きといえば、昔からケツ引っ叩くってのが相場だぜ。
アドリブ・他者との絡み歓迎
トゥウェルブ・ツヴェルグ
【POW】※アドリブ、連携歓迎
■心情
なるほど、組織の手引きがあったとはいえ、所謂、自作自演という奴か。なるほど。
……お嬢様はオイタが過ぎたようだ。お灸を据えねばならんようだな。
その前に、危ない玩具は取り上げねばな!
■行動
敵機の攻撃に真っ向から立ち向かいます。
相手のUCに対し、【カウンター】としてUCを発動。殴り合います。
また、それを囮にしつつ"GEF"を使用して、【シールドバッシュ】を不意打ちとして狙って”重力波砲”を叩き込まんとします。
『キャっ!?』
ゼロ距離からの大口径質量弾を撃ち込まれた|紅刃の魔剣《アスカロン》のユニットが損壊し、展開されるレーザーブレードの光輝が乱れる。丁度、尻もちを付くような形で再びバランスを崩して倒れたアクラシエルのコックピットが大きく揺れ、搭乗しているクラウディアは小さな悲鳴を上げた。
だが、それによって既に発射準備態勢が整えられていたアクラシエルの右腕部そのものと言っても過言でもない大型貫徹杭『ロンゴミニアド』が作動してしまう。幸いにもコックピットで揺さぶられていたクラウディア自身が謝って発射ボタンを押し込んだことによる誤射であったが、その破壊力は驚異的である。パイルバンカー状の先端部がクラウディア自身の生命エネルギーをトリガーとして撃鉄が落とされれば、爆発に似た破裂音とともに杭が激しく振動する。同時に斜線状の空間が捻じ曲げられ、次元反発作用を応用した広範囲に渡って廃墟の都市が瓦礫と化してしまう。
「コイツぁ、トンデモねぇ玩具をお嬢様は貰ったもんだ」
激しいキャバリア戦の攻防に巻き込まれないよう、|マシンウォーカー《ストラーウス》を散乱していた瓦礫の盾とすることで支援攻撃の機会を伺っていたミハイルは、その光景を前にすると思わず肝を冷やしてしまう。コレほどまでの破壊力をもってすれば、確かにキャバリアひとつだけで大型の都市でさえ更地に変えるのも容易い。
しかし、それはパイロット自身の|生命《いのち》と引き換えにである。今はまだ気丈さを振るっている彼女であるが、これを連発させれば流石に命の危機に直面しよう。そういう意味では、確かに『組織』はクラウディアへ自由へ道を指し示したのかもしれない。尤も、それは『死』という名の自由なのであろうが。
「……お嬢様はオイタが過ぎたようだ。お灸を据えねばならんようだな」
「オマケに全部あの嬢ちゃんの|自作自演《マッチポンプ》だったワケか? ったく、金持ちの考えるコトはワカランね」
「なるほど、組織の手引きがあったとはいえ、所謂『自作自演』という奴か。なるほど」
彼の上空には重厚な外装である|サイキックキャバリア《魔笛》のコックピットにて、コンソールと連結して仄かに青く光る有機光ファイバー製の髪に照らされながらトゥエルブは、ミハイルが下した『自作自演』という言葉の意味を噛み砕いていく。
彼女、いやオブリビオン時代の前世では『彼』であった存在はフラスコチャイルドとして世に再臨した。そのため知識としては知っているが、いざ理解しがたい人ならではの複雑さに直面すると、かつて人間が消えた世界において治安を維持していた身として理解しようとする。これも彼の『善性』によるものだろうが、同情や憐れみといった感情以前にまず湧き上がるのは『理不尽』による憤りだ。
果たして無謀とも思える彼女の計画がすべてうまく行っていたとすれば、そのワガママでどれほどの無辜の民衆が迷惑を被るか。オブリビオンマシンによって溜まっていた負の感情が増幅されたとは言え、操られている人間性が浮き彫りとなるとすれば幼稚にもほどがある。
「まぁ過保護な点は否めないが、裏を返せばそれだけ嬢ちゃんを大事にしてるってコトだし、それに自由ってのは、実際に経験すると、口で言う程いいモンでもないんだがな。まぁいずれにせよ、あのマシンから嬢ちゃん引きずり出してブッ壊すコトにゃ変わりはねぇがな」
「同感だ。その前に、危ない玩具は取り上げねばな!」
人間的欲望の本質は自由である。ただ動物的な本能に赴くまま生きるのが獣あれば、それとは違い人間は自由に生きたいと渇望する。だが、自由とは時に平等を破壊するものであり、自由と平等とは|ニ律世反《アンチノミー》でもある。
自由と言うと、人はまず『何でもやりたい放題できること』や『あらゆる束縛から解放されること』と言ったことを思い浮かべよう。だがそれらは頭に思い浮かべられただけの現実にはあり得ない『自由』なのだ。
人間は誰もが多種多様な欲望を持っている。そしてまさにその故こそ、すべての欲望を叶えて『やりたい放題』ができることも、またこれらすべての欲望から『解放』されることも不可能なのだ。
さらに言えば、人の欲望は時に対立し合う。美味しいものを食べ続けたい、でも太りたくはない。人に愛されたい、でも自分を曲げたくはない。夢を叶えたい、でも努力したくない。こうした対立し矛盾し合い続ける欲望を持ってる。自由とはやりたい放題のことでも、一切の束縛からの解放でもない。
クラウディアが思い浮かべた自由とは、単に頭に思い浮かべられただけの、現実にはあり得ないものなのだ。自由とは、様々な用公方の制限の中であること自覚しつつ、なおその制限を乗り越えた時に実感されるものであり、『欲望という諸制限』を乗り越えた達成感とも言えよう。
だが、ミハイルが言うように、これらは他者が持つ自由と如何に折り合いを付けるかである。恵まれた環境で生まれた故に世間知らずに育ったお嬢様。その純粋さ故に誤った道に足を踏み入れてしまったが、これを導いて道を示すのが人間としての役割かとトゥエルブが自らの考えに一区切りを付けると、魔笛を体勢を立て直しつつあるアクラシエルへと強襲させた。
『今度は上空から……? 次から次へと、鬱陶しいでしてよ!』
今まで猛威を振るっていた左腕のアスカロンは損傷を負って、先程のように薙ぎ払えれない。それならば、鈍いお疲労感を感じるものの絶大な威力を発揮させたロンゴミニアドを持ってして迎撃しようとクラウディアは魔笛を迎撃すべく飛翔した。
両者はお互いに直進し合い、徒手空拳の魔笛めがけて赤熱化させれたロンゴミニアドが貫こうとする。
「―――ハアッ!!」
だが、それは叶わなかった。魔笛の|奏者《パイロット》は既に|超常《ユーベルコード》を発現させており、空間を歪めるほどの重力衝角が拳と共にアクラシエルへと叩きつけられる。これによりロンゴミニアドの|杭《パイル》は大きく逸れ、無防備同然となった頭部へと重い一撃が与えられる。
『くっ! やりましたわね!!』
これによってクラウディアもこの一打に自らの内に宿る闘争心が激しく燃え上がり、ロンゴミニアドの先端部がより赤々と輝きを強めさせる。だが、|超重連撃《ラッシュパイル》の連撃は初手のカウンターから衰えを見せず、互いに決め手を欠ける激しい応酬が展開された。
「さぁて、悪い事したんだから当然お仕置タイムだ。そしてお仕置きといえば、昔からケツ引っ叩くってのが相場だが……背中にビンタも中々だよなっと!」
魔笛との殴り合いに気を取られている隙を見計らい、ハッチから身を乗り出したミハエルは自身のユーベルコードを乗せた|RPG-7V2《対戦車擲弾発射器》の弾頭を発射する。発射装置はロシア製対戦車ロケットランチャーその物であるが、弾頭部は有効射程と装甲貫徹力等の改良が施されている。キャバリアの装甲はおろかも重厚な超重戦車も破壊可能な弾頭がロケットモーターから噴射される噴煙の軌道を描きながら向かう先は、アクラシエルの背後にある『|オブリビオンパルスエンジン《セファーラジエル》』である。
『何が起きまして!?』
眼の前の敵に集中しきっていたクラウディアに戦場仕込みの巧みな隠蔽術で身を隠していたミハエルの存在を確認する術などなく、吸い込まれるようにセファーラジエルが展開している堕天使のような紅翼を発生させている基部が爆煙に包まれる。成形炸薬弾の着弾によって充填されていた成形炸薬が液体のような金属を含んだの爆轟波となり、モンロー/ノイマン効果によってメタルジェットを前方に集中して吹き出す。歩兵ひとりでも戦車を撃破できる兵器によって、生命エネルギーによって強固な装甲となったオブリビオンマシンを貫き、胸部からは貫通した爆風が噴き出した。
これによりオブリビオンパルスエンジンの一部機能は損失し、セファーラジエルは停止に至る。今でアクラシエルの高速機動を実現させていた非実体の翼は消え去り、重力の赴くままにオブリビオンマシンは落下する。
『まだ、|槍《ロンゴミニアド》は打てましてよ!』
しかし、他の兵装への生命エネルギー供給を止めることは出来ていない。赤熱化している杭の先端部を魔笛に向けると、廃墟を瓦礫の山へと変えた一撃を再び繰り広げようとするクラウディア。だが、トゥエルブはそう動くと既に予測済みだ。
「行け、G.E.F.!」
トゥエルブの命令が下れば、密かに展開させていた盾状の|空飛ぶ円盤《フライングソーサー》がアクラシエルの体勢を変えるべく激しく衝突する。
『照準が、ブレて……ッ!』
その振動でコックピットが揺れ、思うようにスイッチも押すこともままならない。機体と右腕が大きく離れた瞬間、魔笛の胸部に膨大な魔力が瞬時に集約した。
「これはお前を死に至らしめる危ない玩具だ。残念だが、この世から抹消させて貰う!」
重力波砲による不可視の波がロンゴミニアドを砕き、圧潰させてる。G.E.F.の軌道修正によって接続部ギリギリに巻き添えを喰らわなかったアクラシエルだったが、重力波が生み出す衝撃によって弾き飛ばされて廃墟を流れる大型の河川へと着水する。
戦いは決着の時を迎えようとしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルイン・トゥーガン
アドリブ&絡み歓迎
呆れてものも言えないねぇ
それだけ恵まれておきながら自由がない自分は不幸だなんて主張も不愉快極まりないね
古巣連中もよくもまぁこんなのに雇われたもんさね……貧すれば鈍するってかい?
……しかし、これは依頼どうなるんだい?
こいつぶちのめして連れて帰っても根本的な解決にならないだろう、正気に戻ったとこでねぇ?
事件の首謀者として首晒すのか、諸々無かったことにして幽閉からの病死コースか……まぁそこはアタシらの知ったこっちゃないか
だが、本当にこいつを連れて帰らなきゃ駄目かい?
……ハァ、面倒な上にやる気も出ないね。今回も貧乏籤さね
こいつはカボチャ頭なのかい、カボチャなのかスイカなのかぐらいハッキリさせて欲しいさね!
ハン、幾らマシンが良くてもパイロットが性能を引き出せなければねぇ!
スラスターを吹かして素人の嬢ちゃんを翻弄するように動いて、サブアームのサブマシンガンで牽制して素人に撃たれる恐怖を教えてやるさね
そうすりゃ素人なら我慢できずに現状打破を狙って大技を出すはずさ、その隙を狙い撃つよ!
アンネリース・メスナー
アドリブ&絡み歓迎
不愉快が過ぎますわ!
自由が欲しい?自由と我儘の区別も付かない小娘が笑わせますわね!
名家の血筋の力を我儘に振るっておいて、その家から自由になりたいなどと!
そんなに自由になりたいならば、その機体を破壊した後に貴女をトリアイナから遠く離れた国に運んであげてもいいですわよ
ただし、その身一つで縁も所縁もない土地で生きていけると豪語できるのならば、ですが
あぁ、ちゃんとトリアイナの手が及ばないように紛争中で戸籍管理もあったものではない国を選びますのでご安心を
その所為で治安最悪ですが裏を返せば何をしても自由な国ですわよ、喜びなさいな!
それが嫌なら、わたくしが名家と血筋に相応しい在り方というものを教育してあげますわ!
人を燃料にする、そのような不完全で無様な機体で!
サイコセンサーが、不可解な現象を引き起こしてわたくしの思念を力に変えてラピートが思念のオーラに覆われますわ
ロングビームライフルとビームソードから放たれるビームが思念で異常強化されて巨大なビームとなってアスカロンに対抗しますわよ!
「はぁ……呆れてものも言えないねぇ。それだけ恵まれておきながら、自由がない自分は不幸だなんて主張も不愉快極まりないね」
「ええ……不愉快が過ぎますわ! 自由が欲しい? 自由と我儘の区別も付かない小娘が笑わせますわね!」
二機のアマランサスが共闘をした廃墟には激しい戦闘の痕跡が生々しく残されており、多数のガザニア・マリーネが半壊した状態で瓦礫とともにかく座されている。
ルインは道を違えたかつての同胞へ、アンネリースは無き祖国の名を今も貶める戦犯を自らの手で裁き終えたが、その直後に共通チャンネルの回線帯に半狂乱となった少女の嗤い声が聞こえてくる。まさかの攫われた本人が黒幕であったとの自明に近い種明かしを受ければ、ルインは呆れ顔となって深い溜め息を吐き、アンネリースはと言うと抜けるような白い肌をみるみると赤くさせて怒りを露わにしているといった次第だ。
と言ってもルインにしてみれば、顔を合わせる度に突っかかってくるアンネリースの怒りの矛先が自身ではなく、一時的にとは言えクラウディア嬢へと向けられていることに多少なりの有り難さを感じてはいるのであるが。
「古巣連中もよくもまぁこんなのに雇われたもんさね……貧すれば鈍するってかい? 食い扶持を稼ぐには仕事を選んでいられなかったとして……これは依頼としてどうなるんだい? ぶちのめして連れて帰っても根本的な解決にならないだろう、正気に戻ったとこでねぇ?」
「私に尋ねられても知りませんわ! ……そもそも、子供の不始末は親の責任。トラヴィス家へ事の顛末を一部始終お伝えし、お高い口止め料をご請求されては如何?」
「ま、それが妥当な線さね……。そうなりゃ、事件の首謀者として首晒すのか、諸々無かったことにして幽閉からの病死コースか……まぁそこはアタシらの知ったこっちゃないか……。この近くだね」
ふたりの目の前には、この街が廃墟となってからも流れを止めていない河が広がっている。岸壁には激しい水しぶきによって濡れている箇所が点々と残されていることから、ここが先程に上空から失落したオブリビオンマシンが着水したポイントだろう。
「辺りを見渡す限りですと、機体を捨てて上陸はしていないようですわね」
「河も濁っていて、姿も熱源も探知できないねぇ。このまま逆上せた頭を冷やして貰ったら嬉しいんだけど……さね!」
だが、そうとは行かない。河の奥底で何かが仄かに赤く光ったの察知したふたりがスラスターを吹かして散開すれば、水蒸気爆発特有の破裂音と白い靄が辺りを包み込む。それを切り裂くように伸びる赤い光は、大出力のレーザーブレード『アスカロン』において他ならない。
『ああ、上手く行くと思いましたのに!』
騙し討ちが失敗に終わるや否や、再びアクラシエルがクラウディアの生体エネルギーを糧に飛翔して川底から姿を見せる。純白の装甲は川底の|堆積物《ヘドロ》によって所々と汚れているが、右腕の槍は仲間たちの戦闘によって使用不可な状態にまで破壊されている。現在展開しているアスカロンも損傷が激しく、かろうじて抵抗しているようにも思える。だが、オブリビオンパルスエンジン『セファーラジエル』は損傷を受けているものの尚も健在であり、周辺の放射線汚染度合いを示す計器が異常域にまで達しているモニターの警告を横目で確認したルインが舌打ちをする。
「ハン! 幾らマシンが良くてもパイロットが性能を引き出せなければねぇ……ガキが考えそうなことなんてお見通しだよ!! こいつはカボチャ頭なのかい、カボチャなのかスイカなのかぐらいハッキリさせて欲しいさね!
機体の随所に増設されたEPアサルトスラスターで重心を傾けながら地面を滑るように滑空しつつ、ルイン機がサブアームに装着されたRSダブルサブマシンガンを激しく射ち鳴らす。しかし、禍々しく可視化されたクラウディアの生命エネルギーが障壁となり有効打とは行かないが、元より牽制の意味合いが強いので揺さぶりをかけるには十分だ。
『あははは! そんな豆鉄砲なんて効きませんし、ちょこまかと動き回って鬱陶しい虫ですわ!!』
一見するとオブリビオンマシンが齎す狂気と力に溺れているように聞こえるが、よく聞くとクラウディア自身の声がどこか上ずっている。その正体は『恐怖』だ。如何に強固な装甲や障壁で機体が守られていようとも、衝撃だけは機体へと伝播する。頭の中では安全だと分かっていても、激しく揺さぶられたりガンガンと音が鳴り響けば人間というものは本能的に恐れてしまう。それを克服するのが訓練なのだが、クラウディアに関してはそのようなものを受けているとは到底考えられない。
故にルインは鎌をかけるつもりも兼ねての牽制射撃であったのだが、これで疑念は確証へと変わりつつある。今回の大騒動の黒幕だったお騒がせな令嬢、クラウディア。彼女を説き伏せる余地がまだあるということを。
「おい、姫さん。まだこのガキに言いたいことがありゃ、今この場でぶつけてやりな」
「はぁ? ルイン、あなた何を呑気なことを……」
「いいから、胸の奥に溜め込んでる怒りを残らず吐き出しな! アタシの弾が尽きちまう前にねぇ!!」
何をわからないことを申すのかと思った直後に叩きつけられる、怒声にも似たルインの命令口調にアンネリースはカチンと来る。今は成り行きで共闘をしているとは言え、立場上は彼女が『上』であり、由緒正しい血筋と栄えある親衛隊である自分がとても口にできない数多くの任務を担ってきた元海兵隊如きに指図を受ける筋合いなどない。
だが、状況が状況だ。やり場のない怒りが彼女の感情をわなわなと更に昂ぶらせ、激しい剣幕で共通チャンネルのまま捲し立てた。
「あなた! 確かクラウディアと申しましたわよね……? そんなに自由になりたいならば、その機体を破壊した後に貴女をトリアイナから遠く離れた国に運んであげてもいいですわよ!!」
『あははは……え?』
(お、思った以上に手応えはアリかい?)
ちょうどRSサブマシンガンが|弾切れ《カンバン》となったところで始まった、感情の赴くままにどこかヒステリックなアンネリースからの罵声にアクラシエルから溢れ出している光が弱まりつつある。とは言え不測の事態もありえるので、ひとまずは兵装を換えて共通チャンネルの無線から聞こえてくる彼女の叱責に耳を傾けつつ、様子見と洒落込むルイン。それを知れば更に怒りが上がるだろうが、アンネリースはそんな事を知る由もなく容赦なく言い放ち続ける。
「ただし、その身一つで縁も所縁もない土地で生きていけると豪語できるのならば、ですが……。あぁ、ちゃんとトリアイナの手が及ばないように、海から遠く離れた上で紛争中で戸籍管理もあったものではない国を選びますのでご安心を。その所為で治安は非常に最悪ですが、裏を返せば何をしても自由な国ですわよ。喜びなさいな!」
『い……嫌ですわ、そんな……! お気に入りのお洋服屋にカフェ、潮風と波の音が聞こえない場所だなんて……!! それに、今は海外に行っていて優しくしてくれるルキウスお兄様のお帰りを……あれ? 何でわたくし、トリアイナを破壊しようと……』
(ハン、いい感じだねぇ。その調子だよ、姫さん)
クラウディアは個人の自由などない家柄の格式に辟易はしていたが、その実はトリアイナという国を愛している。だが、愛は時に憎しみへと変わるものでもあり、オブリビオンマシンが与える狂気が彼女をその様に仕向けたのかもしれない。
アンネリースの反撃の余地を与える暇もない容赦ない口撃によって、徐々に狂乱した声色に落ち着きの色が見えつつあり正気も戻りつつもあるクラウディアの様子を伺う限り、後は何とかしてオブリビオンマシンから降ろすだけだ。
「それが嫌なら、わたくしが名家と血筋に相応しい在り方というものをこの場で『教育』してあげますわ!」
「って、おい! 何でそうなるんさね!?」
だが、そうは問屋が卸さない。あとは投降を促すところを、アンネリース機のアマランサス・ラピートがビームソードを抜いたところで、ルインが突っ込む。
確かに、アンネリースの癇癪が功を奏して説得には成功した。だがしかし、クラウディア嬢が戦意を喪失しつつあると逆にアンネリースの闘争心が上がりに上がり、それがキーとなって本来はサイキッカーの超感覚や超直感で機体操作補助をする機構である『EPサイコセンサー』が|不可解な現象《ユーベルコード》を誘発させた。
本来はキャバリアの半分程度しかない非実体の刀身が、高々と天に向けられたことで『サイキックオーバーロード』によって溢れ出る思念のオーラが機体も兵装も、そしてアンネリース本人も激情に身を任せきった結果、我を忘れ暴走しているのだ!
「人を燃料にする、そのような不完全で無様な機体で! 此処からいなくなってしまえばいいわ!」
『ひぃいいいいいッ!?』
「バカ! やりすぎだよ!!」
これが決め手となってか、クラウディアが戦意を喪失してオブリビオンマシンからの束縛から解き放たれ、徐々に機体が降りていく。だが、それはクラウディア本人がオブリビオンマシンの制御下から離れたことを意味しており、機体は沈黙状態となっている。
このままでは依頼通りに表向きはハロウィン・ドールズの残党から誘拐されたクラウディアを救出したことが果たせず、報酬など到底望めなくなる。何より、落ちぶれに落ちぶれた自身の元同僚たちの戦闘は元より、オブリビオンマシンに牽制射撃を行った銃弾やミサイル代もバカにはならない。これまでの苦労が無駄働きとならないためにルインはスラスター出力を最大限にまで引き絞る。猟兵たちとの激しい戦闘によるダメージとクラウディアからの生命エネルギー供給が断たれて機能停止したアクラシエルへと、巨大ビームセイバーが躊躇いもなく振り下ろされた――。
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「……あら? わたくし、一体何を……?」
アンネリースの身体から『怒り』が消え去ると、EPサイコフレームが起こしていた不可解な現象は止まって彼女の意識も我へと戻る。カメラアイを上空に向ければ、先程までに浮遊していた|白き人食い天使《オブリビオンマシン》の姿は消えている。
それもそのはず、機能停止したアラクシエルはを暴走したアンネリース機が繰り出した巨大化ビームソード|《ハイパービームソード》の被害から免れるべく体当たりをしたルイン機によって、今は半ば余波で飛び散った瓦礫に埋もれている。
どれほどの威力だったかは、廃墟の街並みに高出力のビームを撃ち放ったかのような『道』がぽっかりと開いている様が全てを物語っていた。
「……ハァ、面倒な上にやる気も出ないね。こりゃ、今回も貧乏籤さね」
すべてが終わったことを確認すると、ルインはコックピットから這い出てパイロットヘルメットを外して新鮮な空気を胸いっぱいに吸い、そして深い溜息を吐く。
目一杯撃ちに撃った弾代に機体の修繕費、その他諸々の諸経費の計算で頭を悩ませつつも、愛機の隣で倒れ込んでいるオブリビオンマシンのコックピット付近にある外部ロックレバーを脱力した身体をなんとか奮い立たせて解除させる。
「ハン、呑気に寝ちまって。足元の隅々まで見てふっかけないと割に合わないさね」
プシューと外部と内部の気圧差によって小気味の良い音とともに、白い装甲に守られたコックピットハッチが開く。その中には、衝撃によって眠っているかのように気を失ったクラウディアの姿がある。ルインはお騒がせな令嬢に悪態を尽きながらも、狂気のマシンから何とか引きずり出して『人質救出』のMISSIONを果たしたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『猟兵相談室』
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POW : 大声で喝を入れ、気合を入れ直させる
SPD : 的確な相槌や返答で相手の話を引き出す
WIZ : 静かに話を聞き、共感を示す
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「う、ぐっ……ひっくっ……グスッ……ごべんなざい゛……ごめ゛んな゛ざい…………」
クラウディアは猟兵たちの手で破壊されたオブリビオンマシンから引き出された後、程なくして意識を取り戻した。そして、オブリビオンマシンの狂気に取り憑かれていたとは言え、正気に戻ったことで自分が今まで何をしていたかを理解したのか……。自責の念に駆られた彼女はその場にへたり込み、咽び泣きじゃくってしまう。年端も行かない少女の小さい両目からは大粒の涙が止め処なく溢れ、『ごめんなさい』と謝罪の言葉を繰り返しながら頬を伝って涙が落ちれば乾いた地面を濡らしていく。
既に彼女を救出した一報は|依頼者《クライアント》であるトラヴィス家へと伝えられ、急いでクラウディア嬢の迎えにヘリを向かわせているとのことだ。あと数十分もすれば到着する予定だが……。猟兵たちの視線は自然とまだ泣き止む気配が無い彼女の元へと集まる。
思えばクラウディアの幼く自由奔放でワガママな性格が招いたこととは言え、彼女もまた『組織』の手によりオブリビンマシンを通して利用されていた被害者でもある。
その事実に憐れんで罪の意識に共感を示すか、または厳しくも叱咤激励の言葉を掛けて彼女が進むべき道を示すか。『組織』についての詳しい情報も引き出したいところだが、まずはクラウディアが抱えていた|寂寥《せきりょう》たる心の闇に|惻隠《そくいん》の情をもって尋ねなければ、今の彼女の状態では満足に引き出すことは難しいだろう。
果たして、このままそっとして時が解決してくれるのを待つべきか。それとも、それぞれ思い思いに慰めの言葉を送るべきか……すべては猟兵個々の判断に委ねられる。
メディア・フィール
WIZ選択
他PCとの絡みOK
プレイング改変・アドリブOK
どう反応していいのかわからないので、ただただ黙って話を聞いています。
下手に口を出したり諭したりしても感情を逆なでしたり心を閉ざしてしまうだけだと思うので、クラウディアが吐き出せることをすべて吐き出すまで、じっと聞いています。
「……………………」(黙ってうなづいている)
(……どうしよう。どんな言葉を掛けてあげれば良いんだ……)
メディアは予め転送後のブリーフィングで謎の武装集団に誘拐された救出対象とされていたクラウディア嬢の写真を見ており、また交戦中で繰り広げた言葉の応酬で彼女を知っていたつもりであった。だがしかし、オブリビオンマシンから与えられる狂気によって半狂乱となっていたとは言え、通信越しで聞こえた相当な跳ねっ返りで強気と思えていた性格は眼の前の姿とは程遠い。
オブリビオンマシンに操られた人間は、操られていた際の記憶は消えること無く覚えている。いつ誰がオブリビオンマシンと化したキャバリアに乗るか分からないこの世界の住人は事情を知っているので割り切れる者が居る中、本意では無かったにしても取り返しが付かないことをしてしまったとして過剰なまで罪の意識に苛まれ、中には自ら命を断つ者も居る。世界を破滅へと導く悪魔のマシンによる悲劇は新たな悲劇を引き起こし、破壊されて尚も登場者に悔悟の念とともに|呪い《自責の念》を終生に渡って与える続けるのである。
「わたくし……そんなつもりなんて、なくて……ただ、皆を少し困らせようと……思っただけで……」
そして、クラウディアは少なくともオブリビオンマシンに一年近くも正気を失わされ続けられ、その間に心も囚われ続けていた。まるで悪夢にうなされていた子どもが夢から目覚めても、夢と現実が錯綜し続けて記憶が混乱している。冷静に分析すればこのような状態であると判断できようが、それでもメディアには声を掛けることすら出来ない理由がある。
(……彼女の姿は、無力だった頃のボク自身だ)
メディア・フィールはブルーアルカディア辺境にある浮遊大陸諸島のとある王国の姫君である。だが、その男子のような快活な性格から幼き頃から武闘を修練し、|姫《おうじ》勇者の異名で民からも讃えられてる。
そんな折に起きたオブリビオンによる王国の襲撃で彼女は果敢に立ち向かったが、奮戦も虚しく刀折れ矢尽き、死して罪禍の汚名を残さないことすら儘ならず生きて虜囚の辱めを受けることとなる。当初は姫勇者としての誇りを失わないようにとしてきたが、口に出すのも憚れる凄惨な拷問を前に精神を摩耗させ、クラウディアのように泣き崩れてオブリビオン相手に許しを乞い、遂には奴隷の身へと堕ちてしまう。
その後は猟兵たちによるオブリビオン討伐で救出されたが、今も尚もメディアの心にはその際の記憶の片隅に暗い影を落とし続け、当時の記憶が悪夢となって蘇るのも珍しくはない。
だからこそ、そんな惨めな自分とは同じ苦しみを味あわせたくないと思いつつも、自分自身にそれを言う資格があるのかという自責の念が邪魔をして、出かかった言葉が喉に詰まって出て来ない。
「……そうだったんだ」
故に、何とか言葉を絞り出したメディアが出来ることは相槌だけだった。同じオブリビオンによって癒えない心の傷を生涯に渡って背負い続けて行かねばならない身として、下手に口を出したり諭したりしても感情を逆なでしたり心を閉ざしてしまうだけだと、彼女は心の中で自分なりの答えを導いたのだ。
「だから……わたくし、わたくし……」
「うん……うん……」
メディアとは年齢が近いのもあるのか、クラウディアの本心とも言えよう贖罪と後悔の思いを上手く言葉にすることも考えを纏めることもない錯乱とした精神状態で、支離滅裂ながらにも嗚咽混じりに吐き出され続ける。それら負の感情すべてを彼女の胸から吐き出せようと、吐露された言葉ひとつひとつに対して理解を示す。
例えそれが慰めにしかならなくても、何もやらないようにはマシである。それとメディアはもうひとつ知っている。心の傷は治らないが、時間が癒やしてくれることを。だが、人間は忘れることが出来る生物として時間で解決されるのは事実であるが、その過程でどのように時間を過ごしていくかも重要であることを。
今も心に巣食うオブリビオンの幻影が自分自身を嘲り嗤おうとしているが、邪念を振り払い新たな悲劇を引き起こさせないためにも猟兵として、姫勇者としてメディアは手を差し伸べ続けるのだ。
大成功
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祓崎・千早
色々あったけど『組織』に利用されてたお嬢様を無事救出成功ってところね。
彼女を抱きしめて頭を撫でつつ諭すわ。
今回あなたの我が儘で色々な人に迷惑をかけたのは分かるわね?それはしっかり反省しないといけない。
あなた位の年なら間違いは幾らでもあるわ。大事なのはそれを反省して同じ間違いを繰り返さないことよ。
我が儘もこれからは程々にしないとね?
まあ、お説教は他の猟兵からも嫌と言う程されるだろうから私からは程々にしとくわね。
それに本当に赦せないのは、こんな年端も行かない少女を利用した『組織』よ。
次、遭遇したら徹底的に潰さないと……っ!
【アドリブ歓迎】
「色々あったけど、『組織』に利用されてたお嬢様を無事救出成功ってところね」
まさか攫われたと思った相手と戦うことになるなんてね、と千早は腰を静かに降ろす。今までは取り付く島もないまでに泣きじゃくっていたクラウディアであったが、他の猟兵によって促されるまま贖罪の言葉を吐き続けたお陰で落ち着きを取り戻しつつある。
「……はい。わたくしが皆様にご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」
まるでイタズラがバレて叱られたように、しゅんっと彼女は顔を俯いたまま謝罪の言葉を述べる。もし自分に妹が居たならば、きっと彼女ほどの年頃なのだろう。
今は両親が事故死したことによって本家へと身を寄せることになった千早ではあるが、もし妹が居て両親に襲いかかった事故も起きずに猟兵へと覚醒することもなければ、イタズラでもして両親に叱られた妹を慰めたりもしていたかもしれない。……このように。
「……あっ」
まだ失意が残っているクラウディアの身体が引き寄せられ、シャンプーの香りが優しく鼻腔をくすぐる。千早は彼女を抱きしめながら、落ち着いた声で諭すように語りかける。
「今回……あなたの我が儘で色々な人に迷惑をかけたのは分かるわね? それはしっかり反省しないといけない。あなた位の年なら間違いは幾らでもあるわ。大事なのはそれを反省して同じ間違いを繰り返さないことよ」
仮に彼女の立場が自分であれば、『本家』の人間など『分家』である自分自身にこのような言葉をかけず、有無を言わず『教育』と称して折檻するだろう。千早は自分が置かれた立場をよく理解して反目することなく甘んじ、枕を涙で濡らした回数はもう数えるのを止めている。
だが、自分は『本家』の人間とは違う。だからこそ、このようにクラウディアへ寄り添う形で自然抱きしめたのだ。
「……はい」
胸から再び熱いものが込み上がり、再び声が上ずり始めた彼女のさらさらとした栗毛色の髪を、千早はよしよしと撫で上げながら更に諭していく。
「我が儘もこれからは程々にしないとね? ……ほら、お迎えが来たわ」
遠くからヘリの音が聞こえてくる。徐々に甲高いエンジン音が高まるに連れ、不安感からクラウディアの身体が強張ってしまうが、千早は大丈夫よと落ち着かせながら再び抱きしめる。
程なくして着陸した機体から降りてきたのは、壮年の男性とその妻と思わしき女性。そして執事であろうと思わしき者に支えられながら、杖を片手に歩んでいく厳格そうな顔持ちの老人である。
「お父様、お母様……。セバスティアヌスに、お祖父様……」
「ほら、皆も心配していたのよ? さ、行きなさい」
彼女は初めて自分が大きな存在に守られて生きていたことを痛感すると、涙を零し始める。だが、家族たちに余計な心配をさらにさせまいと涙を拭い、千早に背中を押されると駆け出していく。
「やれやれ、雨振って地固まるかしら。あの様子だと大丈夫そうね……でも」
クラウディアの無事を確かめ合うトラヴィス一族の様子を眺め終えた千早は、慈愛に満ちていた目を細めて残骸となったオブリビオンマシンをキツく睨みつける。
「本当に赦せないのは、こんな年端も行かない少女を利用した『組織』よ。次、遭遇したら徹底的に潰さないと……っ!」
クラウディアを唆した『組織』の手がかりは掴めなかったが、このような大掛かりな仕掛けをする組織ともなれば、いずれは猟兵たちと相まみえるだろう。もしそうなったとすれな、徹底的に叩き潰すと彼女は誓ったのであった。
大成功
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