●正気の沙汰じゃない|最高《さいてい》な夜に
重低音が水面に響く。ハートや星型の浮き輪がぷかぷかと浮かんでいる。
ここはサイバーザナドゥのとある超高層ビルの屋上。
パリピ達が音楽に任せ身体を揺らす。
DJもっと|アツい《hotな》|曲《beat》をかけてくれ!
この狂気に充ちた|夜景《neon》は|世界一《cool》なんだって!
ゴンフィンガーで空を撃てばレーザー光線のようにネオンサインが飛んでいき花火のように爆ぜた。
ネオンの火の粉がホログラムの蝶をすり抜けていく。
プールの水は時に水より水色に、赤に黄色に|七色《ジャンキー》に。
四角?三角?なんでもいい。よく分からんがイカした照明係のおかげでプールの色や柄は思うがまま!
イチャつくヤツらが隅でこっそりドットのハート模様を浮かべてる。
こんなんじゃ|正気《まとも》なままでいられるわけがない!
おいおいそこのお嬢ちゃん。|カシスオレンジ《おみず》はそろそろ飽きた頃?
ブルーハワイ、モヒート、テキーラサンライズ。
サングリア、ワインクーラーに傘を立てたっていい。
見ろよ!アイツなんて氷菓をそのままグラスに入れてサワーにしてやがる!
酒は苦手?ならテキーラボールはどうだ?
フルーツ味のテキーラゼリーは甘くするりと喉を通りやすく、簡単にアガれる。
一滴たりともアルコールが飲めなくたって俺たちは仲間ハズレになんてしない。
コーラやソーダももちろん冷えてるし、あのバーテンはモクテルだって作ってくれる。
このドラッグは合法だっけ?まあいいさ、溶かして飲めば全部一緒。
そうした熱も一旦引いてChillしてエモくなったら語り合おうぜ。恥も|外聞《みえ》もとっくのとうに流れ落ちた。
そしてこの|最低な街《ジャンキータウン》に2人だけの|秘密の約束《チープなやくそく》をしよう。
だってこの夏は人生最高の夏だから。
この夜をきっとボクらは一生忘れないから。
●こんなのオレの役目じゃねぇだろうがよォ!!!「うるsssssssss!!!▷✕☆!〇b#n!!!!」
グリモア猟兵の晒部ちぃと(この《バーチャルキャラクター》は通報対象です・f34654)は暑さと労働と爆音で遂にバグってしまった。
空に自由に絵が描けるネオンサインも、映えるホログラムも、ホットな曲を流すのだって裏でプログラミングやら何やらしてるのは全部|晒部ちぃと《照明係》だ。
普段から猟兵らしからぬ生活をしているお咎めである。特有の気にする必要は無い。
「gggg…ァア、えっと?なんだっけ?…あーそうそう。適当に盛り上げてっけど、なんかココやべー奴らが仕切ってるビルらしいんだわ。まー、人身売買とか悪いことするためにやってんじャねぇの?」
『知らんけど。』
オブリビオン絡みではないので猟兵が助ける義理はありません。本当に。サイバーザナドゥの日常風景だから。マジで。
「そういうの気になるヤツはちょっと見張ったりしてればいいんじゃね?まぁ、それ以外の奴らはオレの負担になんねぇ程度にジャンキーな|パリピ《アホ》共に混ざって羽でも伸ばしてこいよ。」
どっかの国じゃ労働は罪らしいからなァ。
そう言いながらコーラ片手に勝手にサボろうとした晒部ちぃとに|制裁《電気ショック》が与えられた事は言うまでもない。
ミヒツ・ウランバナ
オープニングをご覧頂きありがとうございました。夏って楽しいですね。
ミヒツ・ウランバナと申します。
ナイトプールをとことん楽しもうぜって感じのシナリオです。
プールやホログラムで遊んでも良し、アルコールを嗜んでも良しです。合法薬物も違法薬物もあります。
成人済みの方にはアルコールの提供もできます。未成年の飲酒喫煙については絶対禁止です。
また、本シナリオはプレイヤーの皆様自身の違法・合法薬物の使用を推奨する意図を持って作成されたものではありません。
●補足
本シナリオは一章で完結する期間限定シナリオです。
受付開始は断章追加後です。
会場では人身売買などが行われる可能性はありますが猟兵が絶対に介入しなければならない案件ではありません。あまりこの事を気にせず純粋にナイトプールを楽しんでいただければと思います。
●プレイングボーナス
『水着の着用』
基本的に今年度の水着がある方は今年のものを着ていると想定しリプレイを書きます。
昨年以前の水着のみ持っている方はそちらを着ていると想定しリプレイを書きます。(複数着ある場合はプレイングで何年のどれを着ているか教えて頂けるとありがたいです。)
水着イラストが無い方でもプレイングに水着を着ている描写があれば参加が可能です。
以上に当てはまらない場合でもプレイングで教えて頂ければ執筆の参考にさせて頂きます。
●参加人数
グループ参加は2名まで。ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけるとありがたいです。
●その他
ミヒツ・ウランバナのグリモア猟兵である晒部ちぃとがDJやら照明係やらしてます。何かお声がけ頂ければ一緒に行動できます。呼ばれなければ出てきません。
第1章 日常
『いけないナイトプール』
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POW : 絡んできたチンピラを返り討ちにする
SPD : 悪事の気配を嗅ぎ付け、さりげなくその出端を挫く
WIZ : パリピらしく夏を楽しむ
イラスト:high松
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
全く|貧民街《掃き溜め》を見下しながら嗜む紙は最高だね。
セロトニンが溢れ出しこんな夜中まで働いている|巨大組織群《メガコーポ》の|社畜《イヌ》達が生み出すビルの鬱憤とした窓灯りも、我が身を包む暖かい聖母の後光のような有難いものに感じる。
シラフに戻る前に次は何に使用か。もったりと420を燻らすか、クリスタルを砕いてプールに飛び込んでみようか。
それとも…それとも…あぁ、ありとあらゆるドラッグがありやがる。なんて有難いんだ。
この夜に感謝。この世の全てにありがとう。
ジャンキーから視線をホログラムの泳ぐプールへ移すと、ホログラムと色形様々な浮き輪で賑わっている。
きゃあきゃあとドーナツ柄とユニコーン型の浮き輪に乗って相手をプールに落とそうと押して引いての乙女達。|セレブ《ほんもの》もセレブ気取り《にせもの》も見分けがつかないサイバーザナドゥでは珍しい光景だ。
少し離れた場所では貝殻型の浮き輪にカクテル片手にエモい雰囲気。
パシャリ。友人が写真の出来を確認する。
ここでレンタルされてる人魚の尾ひれのような水着を着れば簡単に映える写真が撮れる。
カクテルをプールサイドに置くと、本物の人魚のようにプールに飛び込む。
周囲の人々が息を呑むのが水の中でもわかる。
こんな高い水着を借りるのも、使いこなすのも貴方達には無理でしょう?
ようマスター“いつもの”。
お客様の顔は決して忘れませんよ、ここに来るのは初めてですよね。
さあ、何をお飲みになりますか?今日は幸運なことにいいお酒がたくさん入っているんですよ。
ビールは氷点下まで冷えているし、ウイスキーの種類も全て飲む前に潰れてしまうほどに。
フルーツを使うカクテルは少々お高めになりますが…見てください、こんなに瑞々しく輝く苺を見たことがありますか?
マティーニは私の得意なカクテルです。最も、どんなカクテルを作るのも得意ですがね。
“これ”といった物がないのなら貴方のイメージで作りましょうか。
貴方はどんな味が好きですか?どんな気分ですか?
普段飲むお酒は?嫌いな味は?友人にはどんな人だと言われることが多いですか?アレルギーは?好きな色は?お酒は強い方?
そして|隠し味《おくすり》はどうします?
私は貴方に完璧な一杯を提供いたします。きっとそれが貴方の“いつもの”になるでしょう。
重低音が響き脳を震わせる。
嗚呼、誰が見ても今夜は完璧で素晴らしい最高だ。
|有害物質《骸の海》を浴びながら思う。
この夜の事をいつまでも忘れないだろう、なんて青い事を。
龍巳・咲花
【ワイハン】
わーい、ナイトプールでパリピでござる!
こういう所凄く憧れていたでござるよ!
プールで初々しさを醸し出しつつ、にこたま殿にエスコートされながら水を掛け合ったりして遊び、上がったらノンアルカクテルで乾杯してみたいでござるなあ
なんか今拙者ら、凄く大人な感じではないでござるかあ?(嬉しそうにきゃっきゃと)
どらっぐでござるかあ?
気分アゲアゲで大人のレディになるでござる?
楽しそうでござるなあ!
なんて騙されたフリをしてホイホイついて行くでござる
秘密の場所に案内されて現物を確認したら、現行犯で地面から生やした龍脈鎖でグルグル巻きにするでござる
地獄の沙汰は此方の|女王様《にこたま殿》が下すでござるよ?
新田・にこたま
【ワイハン】
はい、ナイトプールでパリピですよ。
私はこういう大人の遊び場にも慣れていますから今日は私が龍巳さんをエスコートしますね!
ちょっと馴れてる感を出した小娘と初々しい小娘のペアはちょうどいい鴨葱でしょう。ナイトプールについてテキトーな薀蓄を垂れながら龍巳さんとプールで遊びますよ。一息ついたらノンアルカクテルで乾杯。
ドラッグ…まあ、それも大人のレディになるための勉強?的な?
という感じでイキりながらついて行きます。
連れ込まれた場所で龍巳さんが悪い大人を捕縛してくれたら沙汰を下しますよ。
今すぐ死ぬか、全部ゲロって臭い飯を食べるか…選ばせてあげます。
…龍巳さん、私の呼び方に違和感があったのですが?
●鴨と葱とおとり捜査と
キラキラとネオンを瞳に映す龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は“私はナイトプールに初めて来ました!”と言わんばかりの初々しさが全身から溢れている。
ナイトプール。それはパリピの世界。
ナイトプール。それは大人の世界。
ナイトプール。それは…拙者の憧れ!
「こういう所凄く憧れてたでござるよ!わーい!ナイトプールでパリピでござる!」
「はい、ナイトプールでパリピですよ。龍巳さん。」
対して新田・にこたま(普通の武装警官・f36679)は既にナイトプールという大人の雰囲気に馴染んでいた。
ヤクザ組織のご令嬢であったにこたまは、こういう所謂“大人の社交場”には家族に連れられて何度も足を運んだことがある。
そして、警官となった後にも何度も足を運んだ。
無論、客としてでは無く、ヤクザ組織の塒であるそこを潰すために。
「私はこういう大人の遊び場にも慣れていますから今日は私が龍巳さんをエスコートしますね!」
にこたまは、未だに憧れの地に足を踏み入れジーンと心を震わせている龍巳の手を引いて歩き出した。
(初めてのナイトプールなのだから、まずはBARや音楽よりも純粋にプールを楽しんでもらいましょうか…。)
そう考えながらホログラム浮かぶプールへ足を進めるにこたま。
一方龍巳は、にこたまにエスコートされている…つまり、パリピ空間で“ぼっち”ではないことにまた胸を熱くするのであった。
───────────
ぱしゃり、ぱしゃりと水しぶきが舞う。
龍巳の周りに赤、黄、橙の小さな手裏剣柄のホログラムがいくつも浮かぶ。
プールに体を沈め、思い切りにこたまに水をかける。
弾けた水飛沫がまるで小さな手裏剣のようだ。
お返しとばかりに、にこたまは浮き輪の上から龍巳に水をかける。
ホログラムは浮き輪と同じ、黒白黄色の星柄だ。
流星群は|空《プール》に溶けていく。
そうして水を掛け合って遊んでいると、龍巳の視界にプールサイドのBARが目に入った。
BAR=The 大人
龍巳は其方を指さしキラキラと目を輝かせる。
その2つの赤い双眸はBARとにこたまを行ったり来たりしている。
にこたまはその様子を見て、くすりと笑うとプールから上がり龍巳に手を差し伸べた。
───────────
オレンジジュースとレモンシロップ、隠し味に柚子の果汁をほんの少し。
シェーカーで混ぜて、サワーグラスに注ぐ。
オレンジの皮を手裏剣の形に切って、縁に飾れば龍巳・咲花のノンアルコールカクテル「ニンジャ・ガール」の完成だ。
手錠のチェーンの付いたマドラーは先に入れておく。
よく冷えたパイナップルジュースをシャンパングラスに注ぎ、黒スグリのシロップをバースプーンでゆっくりと注ぎ入れる。
黄色と黒の層に分かれたらお好みでミントを飾る。
これが新田・にこたまのノンアルコールカクテル「ポリス・バケーション」の作り方。
「乾杯!」「乾杯」
ジュースとシロップを混ぜただけなのに“ノンアルコールカクテル”と呼び名を変えるとこんなにも心が踊ってしまうのはどうしてなのだろう。
それはきっと、プロのバーテンダーに作ってもらったからという理由以外にもきっと何かあるはず。
龍巳はノンアルコールカクテルを一口飲むと
「なんか今拙者ら、凄く大人な感じではないでござるかあ?」
と嬉しそうに笑う。
「ふふっ!そうですね龍巳さん…そういえば、何故ナイトプールがこんなに人気なのか、龍巳さんは知っていますか?」
このナイトプールも若い女性を中心に多くの人で賑わっている。
その様子を一瞥して、にこたまは小首を傾げ龍巳に問う。
「ええ〜、なんででござろうなあ…」
うーんうーんと腕を組んで龍巳は考える。
カラン、とノンアルコールカクテルの氷のひとつが音を立てた。
「龍巳さん。わかりましたか?」
「こう…きらきらとしているから…でござるか?」
「答えは、“夜”だからです。」
龍巳の頭には、はてなマークが浮かんでいる。
にこたまは一口ノンアルコールカクテルを呷ると語り出した。
「夜は太陽が出ていないから肌が焼ける心配がありません。日焼け止めを塗る必要もないですし、日焼けで痛い思いをすることもありません。美白も保てます。なので、若い女性を中心にナイトプールが人気になっているのだとか。」
「なるほど、そうだったのでござるか!にこたま殿は博識でござるなあ!」
きゃっきゃと笑う龍巳につられてにこたまもほほ笑む。
────その様子を影で誰かが見ていた。
───────────
見ろよ!鴨が葱背負ってやってきやがった!
何も知らなそうな大人の世界に憧れてますって感じの女と、私は大人の世界を知ってますよーって顔した女!
絶好の鴨!しかも見た目もかなり良いときた!
鴨が葱背負ってやってくるどころじゃねぇ!
鴨が葱背負って鍋に入ってどうぞこれで煮てくださいってガスコンロ渡すレベルだろこれ!
ヤク漬けにして奴隷市に流したら一体いくらの儲けになるだろう。
俺達もこの組織で一目置かれる存在になっちゃったり?
嗚呼!想像するだけでヨダレが出てきやがる!
にやけ顔を隠して少女達に声をかける。
なるべくフレンドリーに。
「よぅ、嬢ちゃん達楽しんでるか?ここに来んの初めてだろ?」
「えっ!なんでわかったでござるか?」
「見りゃわかるよ!嬢ちゃんは初々しすぎ!そっちの嬢ちゃんはちょっと固い!悪い奴らにナンパされちまうよそんなんじゃ!」
俺達みたいな悪い奴らにな!
「…なぁ、ここで1番楽しい遊び知ってる?」
「1番楽しい…なんでしょう」
「ドラッグに決まってんだろ!」
“ドラッグ”という言葉に彼女達は反応する。
片方は目を輝かせ、もう片方は興味がないフリをしてそわそわとしている。
「どらっぐでござるかあ?気分アゲアゲで大人のレディになるでござる?」
「アゲアゲどころじゃねぇよ、もうぶっトんじまうよ!」
「楽しそうでござるなあ!」
こっちの方の女はもう大丈夫。ちょろすぎて笑えてくる。
「なぁ、そっちの嬢ちゃんもどうだい?実は下の階に普段出回らねぇやべぇやつがあんだよ。ここは俺が奢ってやっからさ、どう?」
「ドラッグ…まあ、それも大人のレディになるための勉強?的な?」
「そうそう!これやったら直ぐに大人の仲間入りよ!」
イキリやがって。まあいい。
「よっし!じゃあ着いといで!なぁに心配すんな!トんでる間に危ない事されねぇように俺の仲間も着いてっから」
彼女達は何も疑いもせずホイホイ着いてくる。
これだから若い女は!まんまと騙されやがって!
まさに鴨だな!
───────────
(…なんて、思ってそうですね。)
男の後ろに続きながらにこたまは思う。
もちろんこれはおとり捜査だ。
龍巳もにこたまも薬をやる気などさらさらない。
エレベーターは数階下がると停止した。
そこはまさにお薬をキメる所といった感じの場所でギラギラとした照明にソファが数個、怪しいダンボールが乱雑に置かれている。
そこに男が十数人、こちらの様子を獲物を見る目で伺っている。
「すごいアゲアゲになれるどらっぐはどこでござるかあ?」
「まあまあそう慌てんなって…じゃーん!これだ!」
男はダンボールから小袋を取り出した。
中にはカラフルでハート型やら星型やら可愛いキャラクター型の錠剤が数粒入っている。
恐らくダンボールの中身は全部それだろう。
完全にアウトだ。
「現行犯逮捕でござる!」
赤い鎖がジャラリと音を立て地面から生える。
「なっ、あ…!?」
チンピラ共が反応する間もなく龍脈の力を帯びた鎖は一人、また一人とぐるぐる巻きにしていく。
「テメッ…騙しやがったな…!クソっ!外れねぇ!」
炎龍ムシュマフの眠る龍脈の力を帯びた鎖がそんじょそこらのチンピラに外せるわけが無い。
むしろ暴れれば暴れるほど強く締め付けチンピラ達を苦しめる。
「ぐっうぅ…クッソ…このアマァ!テメェらこんな事してどうなるかわかってんだろうな!」
「うーん、拙者達がどうなるかはわからないでござるが、少なくとも今回の件の善し悪し…地獄の沙汰は此方の|女王様《にこたま殿》が下すでござるよ?」
龍巳はにんまりと笑う。
その視線の先には左手に力を込める新田にこたま。
一見生身に見えるその左手にはチンピラの肉体を傷つける力は無いかもしれない。
しかし握った拳にはバヂヂヂと音を立てる電磁パルスが宿る。
ふぅ、と息を吐くとその拳でチンピラを殴りつける。
バチンッ、バヂヂヂッ!
チンピラの機械化された生命維持機能義体から、機械から鳴ってはいけない音が鳴った。
これが新田流ガンマ掌。
人を傷つけず、確実に致命傷を与える。
まさにサイバーザナドゥ殺し。
同様に他のチンピラ共も、一人残さず殴っていく。
殴られた順番にどんどん顔色が悪くなり呼吸が荒くなっていく。
「ドラッグビジネスに人身売買…全部ゲロって臭い飯を食べるか、今すぐ死ぬか…選ばせてあげます。」
───────────
結局チンピラ共は“どうかお命だけは”と自らの悪事をゲロゲロと吐き出したので、直にやってくるパトカーに連行され、生命維持機能義体の修理ののちに豚箱に入る事になるだろう。
サイレンが聞こえてくるまで、万が一にも逃げないようにと全員まとめてぐるぐると、仲良く鎖で縛っておく。
「ふう!完璧でござる!」
ひと仕事終えていい汗をかいている龍巳の元へにこたまが歩みよる。
「お疲れ様でした龍巳さん…ところで、先程私の呼び方に違和感があったのですが」
|女王様《にこたま殿》
そう呼んだのを覚えているのかいないのか。
とぼけているのかいないのか。
どちらともとれる顔で龍巳はただ微笑むのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ベティ・チェン
「…モクテルってなぁに?」
首傾げ
「じゃあボク、モクテル」
ロングアイランドアイスティー風ティーソーダやティファナコーヒー風ウィンナーコーヒーをスツールにちんまり座り込んでチビチビなめる
「ちぃとの言ってた悪い人来ないなぁ。このままじゃお腹ガボガボになっちゃうよ」
トイレ行きがてらバックヤードに忍び込んで誘拐犯探し
自分も誘拐されかけたら潰せばいいじゃんと安易に考えた
「おっちゃん達、誘拐犯?…ドーモ、誘拐犯=サン。インガオホー、コラァ」
偽神兵器巨大化し敵を一撫で
「これなら死なないよね、きっと。…オタッシャデー」
「ザナドゥ=スラング、難しいなあ。戻ったらまたモクテル頼もっと」
しっぽふりふりカウンターに戻る
●モクテル、そしてザナドゥ=スラングとは
右から左へ注文が飛ぶ。
左から右へ酒をサーブしてやれば、次は奥から次は斜め右前からとパリピ達は血肉求めるゾンビのようにバーカウンターへと群がる。
「うぇ〜い!とりあえず生!全員分!」
「え〜私カシオレしか飲めなぁい」
などとのたまうヤカラ共が興味をバーカウンターから移せばようやく本当のBARの雰囲気というものが現れてくる。
安価なビールの在庫を確認しているバーテンダーの目の前に銀色の三角耳がぴょこりとカウンター越しに現れた。
「…モクテルってなぁに?」
ベティ・チェン(迷子の犬ッコロ・f36698)はこてん、と首を傾げた。
「モクテルは|Mock《模倣する》と|Cocktail《カクテル》を合わせて作られた造語ですね。」
「…ふぅん?」
「…まぁ、要するにノンアルコールと同じものです。ジュースやシロップを混ぜて作るのでお嬢さんにも提供する事ができますよ」
ベティはその言葉を待っていたらしい。
「じゃあボク、モクテル」
そう言うとスツールにちょこんと座ってバーテンダーの事をじぃっと見つめた。
数秒間の沈黙が流れる。
これ以上の注文は無いらしい。
「お嬢さんは…そうですね、紅茶は好きでしょうか?」
「嫌いじゃないよ」
「それは良かった。では、甘い紅茶はお好きですか?」
こくり、頷く。
「コーラや柑橘類はどうでしょう?」
こくり、頷く度に銀色に輝く獣耳と髪の毛が揺れる。
「なるほど、少々お待ちください」
こちら、お通しです。とベティの目の前に皿が置かれる。
双眸の琥珀が輝いた。
お通しの“鴨肉のロースト”は余分な脂と筋を丁寧に取り除き、強火で全面に火を通した後は、じっくりと余熱で火を通し柔らかく仕上げたマスターの自信作。
鴨の旨みが移ったオリーブオイルに赤ワインと醤油、隠し味にほんの少しわさびを加えて作ったソースを垂らしたものだ。
ゴクリと涎を飲み込むのが先か、最後の一枚を飲み込むのが先か。
「コレ美味しかった、おかわり」
バーテンダーが“ロングアイランドアイスティー風ソーダ”を提供した時に、待ってましたと言わんばかりにそう言った。
──────
鴨肉のローストをつまみにゆっくりチビチビと“ロングアイランドアイスティー風ソーダ”を飲んでいたが、今のところ悪い人は見当たらない。
「ねえ、違うの作ってよ。今度は生クリームが入ってるやつがいいな」
空になったコリンズグラスをカウンターの奥の方へ追いやり、両手で頬ずえをつくとバーテンダーを見つめる。少し高めのスツールで浮いた足をわくわくと揺らしていた。
マスターはニコリと笑うと空のグラスを下げ新しい鴨のローストを置き、モクテルを作り始めた。
──────
生クリームとコーヒーは相性のいい組み合わせだということは周知の事実である。
ティファナ・コーヒーはコーヒーの苦さと生クリームの甘さのハーモニーが味わえるカクテルで主にホットコーヒーとして提供される。
今回はモクテルなのでコーヒーリキュールを抜いて作成する。
温かいコーヒーをホットグラスに注ぎ、軽くホイップした生クリームを加えてステアする。
後はシナモンパウダーを加えれば完成だが、これではあまりにもウインナーコーヒーすぎる。
かといって大胆にアレンジを加えるとコーヒーの味と合わず不味くなってしまうかもしれない。
ここはやむなし。
生クリームの上に3個マシュマロを置いてチョコレートソースをかける。
仕上げにシナモンパウダーを加え、シナモンスティックを横へ添えたら“ティファナコーヒー風ウィンナーコーヒー”の完成だ。
──────
ベティは不思議そうな顔でシナモンスティックをしげしげと見つめ、齧った。
苦い、ビリビリする、美味しくない。
「なにこれ。美味しくない…」
しょんぼりと耳もしっぽも下がってしまった。
「これは飲み物を混ぜるためのもので、食べるものじゃありませんよ」
マスターは慌ててシナモンスティックを取り、モクテルを混ぜた。
ふわりとシナモンの良い香りがする。
警戒しつつベティはモクテルを一口なめる。
芳醇なコーヒーの香りとシナモンの香り。
濃厚な生クリームと奥深いコーヒーの苦味が口に広がる。とろりと溶けたマシュマロも、シナモンの香りはちょうどいいアクセントになっている。
ちびちびと、しかし確実に一口ずつモクテルを飲むベティの姿を見てマスターはホッとするのであった。
──────
“ティファナコーヒー風ウィンナーコーヒー”も空になってしまった。
しかし、待てど暮らせど我こそは悪人でございといった人物は現れない。
「ちぃとの言ってた悪い人来ないなぁ。このままじゃお腹ガボガボになっちゃうよ」
流石に一旦トイレ、とベティは鴨のローストの最後の一枚をつまみ、バーカウンターを後にする。
水の流れる音。
尿意が無くなったことによって頭が冴えたのかベティの頭には良い考えが浮かんでいた。
『自分も誘拐されかけたら潰せばいいじゃん』
安易かもしれないが少なくともバーカウンターでモクテルを飲んでただのんべんだらりとしているよりも確実に早く“悪い人”を見つける事は出来るだろう。
──────
“staff only”
なんて書いてある方が悪いんだ。
扉を開けて、いざバックヤードで誘拐犯探し。
こういう安易な考えが幸をそうする事は珍しくない。そう、サイバーザナドゥならね。
「…んで、その時のガキがあんまり高く売れねぇでやんの。けっ、あのジジイ俺を舐めやがって」
扉の奥ではグラサンにオールバック、背中に昇り鯉と歌舞伎役者の刺青、煙草をふかしながら仲間達と悪い事を話す男達がいた。
やあやあ我こそは悪人なり。
渡りに船とはまさにこの事。
「おっちゃん達、誘拐犯?…ドーモ、誘拐犯=サン。インガオホー、コラァ」
アンブッシュはアイサツ無しが当たり前だがベティ=サンはスゴイ・テイネイ!
まずアイサツをしてから偽神兵器に手をかける!
「あ?なんだこのガキ」
と言い終わる前に誘拐犯=サンの一人は巨大化した偽神兵器に一撫でされ爆発四散!
アイサツにはアイサツで返すのがレイギ!
誘拐犯=サンはスゴイ・シツレイ!
「ア、アイエエエ…」
他の誘拐犯=サン達は腰を抜かした。ミアモト・ヌサシであれば「皿の上のスシ、醤油をつけて食べられるのみ」とコトワザを詠んだであろう。
「インガオホー、コラァ」「イヤー!グワーッ!」「インガオホー、コラァ」「イヤー!グワーッ!」
「インガオホー、コラァ」「イヤー!グワーッ!」
「インガオホー、コラァ」「イヤー!グワーッ!」
オブリビオン=サンでは無い一般誘拐犯=サン達はしめやかに爆発四散!
誘拐犯スレイヤー=サン…もとい、ベティの一撃は一瞬にして誘拐犯達を屠った。
これでも一般人相手にだいぶ手加減した方である。
「これなら死なないよね、きっと。…オタッシャデー」
そう言うと“おそらく”気絶してる誘拐犯達に手を振って、バックヤードの扉を閉めた。
「ザナドゥ=スラング、難しいなあ。」
何故あの様な話し方をするのか。
何故あの様な話し方になってしまうのか。
ベティはサイバーニンジャであるが、まだまだザナドゥ=スラングを理解するには時間がかかりそうだ。
──────
誘拐犯を軽くひねって身体を動かしたらまたあのバーカウンターが恋しくなった。
マスターの味が気に入ったのか、それともただ単に喉が渇いただけなのか。
ベティにとってはどっちでもいいことだった。
「戻ったらまたモクテル頼もっと」
次は何を作ってくれるのかな。
まだあの鴨のヤツあるかな。
なんて考えながらしっぽをご機嫌にふりふりと揺らし、ナイトプールの外れからバーカウンターへと帰るのであった。
成功
🔵🔵🔴
秋月・充嘉
ナイトプール…いい響きっすね。
それじゃ、マスター。俺をイメージした|強め《ヤバめ》な奴を一杯。
なるほど、こんな感じの味っすか。悪くないっすね。
ねぇ、マスター。とっておきとかないんすか?
例えば、裏メニュー|《売春夫》とか。いやぁ、ちょっと入用でね。
一つ|《ひとり》じゃ足りないんで、いくつか|《二人三人》欲しいんすけど。
わからない?あ、そうだ、マスター。お菓子|《チップ》好きっすか?
奥のVIP部屋にあったかも?行っても構わない?そりゃどうも。
さてと、二人を呼んで軽く人身売買の現場を伸してから、奥のVIPに入ろうかな。
裏メニュー|《お楽しみ》、何人いるっすかね?こういうのは楽しんだもの勝ちっすよ。
●裏メニューとお菓子
ギラつく照明が肌を焼く。
夜の蝶たちは誰も彼もが鼻をつく塩素の匂いに酔い、くるりくるりと手を回し、誰とも知らぬ相手との一夜限りの逢瀬を楽しむ。
「ナイトプール…いい響きっすね。」
秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)はカウンターチェアを回し、後方の狂騒の渦を眺めそう呟く。
「ええ全く、私もそう思います」
カウンター内でカクテルグラスを拭きながらマスターは充嘉に言葉を返す。
あの蝶の何羽が、今夜法を犯さずにいられるだろう。
あの蝶の何羽が、今夜肌を重ねずにいられるだろう。
あの蝶の何羽が、今夜熱気に飲まれず正気でいられるだろう。
充嘉にとってそんな事などどうだっていい。
だって充嘉自身もその蝶の一羽なのだから。
チェアを回し充嘉は再びカウンターへと向き直る。
「それじゃマスター。俺をイメージした|強め《ヤバめ》な奴を一杯。」
それを聞いてマスターはニコリと笑う。
「かしこまりました。」
そう言うとマスターはグラスを手に取る。
何も質問する事なくカクテルを作り始めたマスターに充嘉は困惑する。
「…えっとマスター?」
「…はい?」
リキュールをメジャーカップに入れようとしたマスターを呼び止めた。
「こういう時って普通は相手の味の好みとか酒の強さとか…さりげなく聞いてみたりするんじゃないっすかね…?」
「…あぁ、聞きますよ。“普通は”」
どんな味が好き、とか。
普段何を飲むか、とか。
「でも、貴方は|強め《ヤバめ》な奴をお求めとの事だったので…あえて私の主観で見た貴方を表現するのが良いかと。」
『最も、あくまで“私がイメージした貴方”ですのでお口に合わないことも、|強すぎる《ヤバすぎる》事もあるかもしれませんが、そういう事も含めて“ヒリつく”ことはお好きな方かと思いまして』
「…まぁ、バーナム効果のように誰の口にでも合うようなものは提供しないので、その点はご心配なく。」
そう言うとマスターは少々お待ちください、と充嘉に背を向けてカクテル作りを再開した。
充嘉はマスターの背中を眺めながら
「まっ、お手並み拝見っすかね」
と口角を上げて笑った。
──────
90mlのショットグラスを用意する。
ショットグラスなのでそれぞれの配分に十分注意すること。
ウォッカ15mlとベイリーズ20ml、アマレット15mlとコーヒーリキュール20mlをそれぞれシェイクする。
それぞれが混ざらないように十分気をつけ、二層になるように注ぐ。
砂糖を入れてホイップした生クリームをこんもりとのせる。
これで秋月・充嘉のカクテル「CHIMERA」の完成だ。
──────
「どうぞ“CHIMERA”です。」
ことり、とショットグラスがカウンターに置かれる。
充嘉のがっしりとした体躯に比べるとそのグラスは幾分小さく見える。
「おそらく飲み方はご存知だと思いますので…」
どうぞ、とマスターは充嘉に促した。
「…マスター、わかってるっすね!」
充嘉は舌なめずりすると、ショットグラスを|口《マズル》で咥え、そのまま上を向いて一気にカクテルを飲み干した。
どろりとした生クリームの甘みと、カフェオレのほろ苦い味が舌の上で混ざり、バニラの風味が鼻に抜ける。
非常に甘く飲みやすい。ゴクリ、と充嘉なら一飲みにできるだろう。
しかし飲み下した瞬間、一気にアルコール特有の熱さが喉から、耳から、身体に広がる。
かなりの度数のカクテルのようだ。
一気に飲み込んだせいか頭がくらりとする。
ズンズンとフロアに響く重低音が身体の中心から響いているように感じた。
「なるほど、こんな感じの味っすか。悪くないっすね。」
「お口にあったようで何よりです」
マスターは微笑みを浮かべて充嘉に一礼する。
──────
「ねぇ、マスター。とっておきとかないんすか?」
「とっておき…と言いますと?どのカクテルも私の自信作ですが…あぁ、フードメニューのことですか?」
でしたらこちらに、とメニュー表を取り出そうとするマスターに充嘉は少しカウンターに身を乗り出して囁く。
「例えば、裏メニュー|《売春夫》とか。いやぁ、ちょっと入用でね。一つ|《ひとり》じゃ足りないんで、いくつか|《二人三人》欲しいんすけど。」
「…すみませんが、私には何を言っているかさっぱり」
マスターは肩をすくめる。
「わからない?あ、そうだ、マスター。お菓子|《チップ》好きっすか?」
カクテルのお礼にあげるっすよ、とマスターの手を取り、札を握らせる。
サイバーザナドゥでは滅多に見ない厚さのお菓子|《チップ》だ。
マスターは確かにそれを確認し、バーカウンターの裏へ隠した。
「…裏メニュー|《売春夫》なら、確か奥のVIP席にあったような…今VIP席を使っている人はいないので好きに使ってもらって構わないですよ」
「そりゃどうも」
「…あぁ、そうそう。奥に行くまでにもしかしたらこっそり忍び込んだ“悪い子”達に会うかもしれません。|悪戯《人身売買》を懲らしめてくれたら、VIP席に備え付けの|お菓子《ドラッグ》を|苦い《合法》のも|甘い《非合法》のも、好きなだけ召し上がって構いませんよ」
にこり、とマスターは笑う。
充嘉もそれに笑い返す。
「カクテル、ごちそうさまっした!」
充嘉はバーカウンターを離れるとナイトプールの奥へと足を進めるのだった。
──────
「それじゃ二人とも悪い子退治に行くっすよ!」
『ちっ、なんで俺が人身売買の摘発なんて面倒な事を…』
『Haha!まあまあ、後に楽しみがあるから良いではないか!』
ナイトプールの奥の奥、VIPルームへと続く道。
よりアングラな場所なせいか照明も薄暗く、人通りも少ない。
所々にあるドアは“個室”といったところだろうか。
充嘉は狼お兄さんとプレジデントを呼び出し、人身売買の現場を探していた。
「にしても静かっすねぇ…このままVIPルームに着いちゃいそうっす」
『流石はセレブが集まるナイトプールだね。防音もしっかりと為されているようじゃないか』
壁をコンコンと叩いてプレジデントは呟く。
元大統領だった事もありこういう上流階級の社交場には知見が広いのだろう。
『おいおい、じゃあ一個一個個室を調べるしかねぇって事か?』
「まあ、そういう事になるっすね!」
『冗談じゃねぇって…くそっ!あーあ、“悪い子”が向こうから来てくれたらな!』
その時だった。
前方のドアが勢いよく開き、泣きながら両手を拘束された少女が飛び出してくる。
次いで
「待てコラクソガキがぁああああああ!!!!!!」
銃を片手にいかにもチンピラ風の男が部屋から現れる。
「来たっすね!」
『Haha!来てくれたね!』
『嘘だろ…』
渡りに船。日照りに雨。Timely offer.
「あ?なんだぁテメェらは!!!!!ぶっ殺されてぇのか!!!!退きやがれ!!!!!」
そうしてしっかり因縁をつけてくれる。
『冗談きついぜ…』
『見たところオブリビオンではなさそうだ。それに銃を持っているとはいえ貧相な肉体だ…ギャングやヤクザではなく半グレや素人と見て良いだろう』
「じゃあ、マスターに言われた通り軽く懲らしめるとしますか」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!!!!!どかねぇんだったらぶっ放すぞゴラァ!!!!!」
この後チンピラが銃の引き金を引く前に叩きのめされたことは勿論言うまでもない。
──────
「いやー、準備運動にもならなかったっすねぇ。」
『これでVIP席と薬が使い放題とは、ここはサービス旺盛だな!』
「さて、裏メニュー|《お楽しみ》、何人いるっすかね?」
目の前には、まさしくVIP席といった上品で分厚そうな扉が一つ。
扉を開ければ、そこには裏メニュー|《売春夫》であろう男が6人。
|飴玉《媚薬》は既に飲み込んだ後なのか、頬は紅潮し息が荒い。
しかし何も始まっていなかったということは、充嘉達が来るまで“待て”をされていたのだろう。
「いいっすねぇ、悪くねぇっす。これなら影達も楽しめそうっすね」
追加でそれぞれの影を充嘉は召喚する。
『おい、こいつらともするのか?』
「6人と3人じゃ溢れた子が可哀想っす。それに…こういうのは楽しんだもの勝ちっすよ。」
その声を最後にVIP席への扉は閉まった。
狂乱が、ナイトプールが終わるまで、その扉は開かなかったという。
成功
🔵🔵🔴
久澄・真
【五万円】
労働が罪、ねぇ
働かなくとも金が入るなら有難い事この上ない
女に手を振る連れを横目に
すり寄り耳打ちしてくる女との約束を適当に取り付けあしらって
こんな浮かれた場であっても自身の頭の中は
お仕事と言う名の金蔓探し
酒に煙草っつー愛人ねぇ
なら金は俺の恋人ってとこかぁ?
度数の高いウィスキーを一杯
ああ、“おくすり”は要らねぇよ
薬でトんでへろったガキのお守りが控えてるんでな
傍らから寄越される視線にお前の事だとクツリ嗤い
止まぬ喧騒に絡んでくる女や阿保共も
露払いはちゃあんとしてやるから
精々Highな夜を愉しめよ、ジェイ
今夜のナイト代はきっちり後日請求するつもり
タダ働きなんて、この俺がするわけねぇだろ
ジェイ・バグショット
【五万円】
どっかの国じゃ労働は罪なんだとさ
それでも世界が回るってんなら
なんてイイ国なんだ
その国じゃあ俺もお前も
きっと重罪人になるんだろうぜ
ネオンカラーをぶちまけたプールから
手を振る女に視線でイイ顔しつつ
興味なんて微塵もない
最高にトベる酒をくれ
狂った世界がマシに思えるようなヤツ
琥珀の酒と紫煙燻らす煙草だけが
いつまで経っても手放せない俺の愛人
そりゃお前も一緒か
あぁ、それから俺の"お守り"を
虚弱でバケモノ飼い
文字通りの"薬漬け"には
欠かせない違法な必需品
痛みも何もかもブッ飛ぶ
最高に優しい«おくすり»を頼むぜ?
こんな最高の夜にさえ
金集めにご執心とは…
お前は相変わらずだなァ真
俺は精々楽しませてもらうぜ?
●金と薬、酒と紫煙
ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)はグリモア猟兵の言葉を思い返していた。
「どっかの国じゃ労働は罪なんだとさ」
「労働が罪、ねえ」
久澄・真(○●○・f13102)は深く煙草の煙を肺に入れた。
ここじゃ誰も喫煙も、歩き煙草も気にしない。
サイバーザナドゥのナイトプールなんて場所に来る奴らなんて全員“頭が悪い”か、“ジャンキー”か、“頭が悪くてジャンキー”のいずれかに分類されるからだ。
だから遠慮無く煙と共に言葉を吐き出す。
「働かなくとも金が入るなら有難い事この上ない」
「ああ…それに、それでも世界が回るってんなら、なんてイイ国なんだ」
そんな国があるのなら永住してしまいたい。
しかし、“金”というものに取り憑かれた二人はきっと、そんな理想郷でも罪を犯すのだろう。
毎日。
毎日。
罪を重ねる重罪人となるのだろう。
『はたらけど はたらけど 猶』
そう詠ったのは誰だったか。
──────
ひそひそ、と言う声の方をジェイが振り返れば黄色い声が飛ぶ。
プールの中から女達が姦しく声にならない声を発しながらこちらに手を振っている。
(あぁ、女だ。)
そんな感想しか出てこない。
ゴンフィンガーで描いたネオンピンクのハートに、ニコリと微笑んで手を振ってやる。
先ほどよりも煩い黄色い声。
一体何を期待しているのだろう。
そちらに行くわけでも、こちらから声をかけるわけでもないのに。
ただ“微笑んで手を振った”だけで興味なんて微塵もないのに。
強いて湧いた感情といえば
(ピンクの色が下品だな。)
くらいだ。
──────
連れを横目に久澄は、紳士的に対応してやっていた。
「今度二人で会いたい?×日はちょっと“仕事”の都合で…」
勝手に身体を擦り寄せて耳に言葉を吐きかけやがってアバズレが。
金蔓以上の価値を持たない女を相手にいくら搾り取れるか金勘定。
「○日ならどうでしょう?ええ、じゃあ○時に。××で。」
一瞬女の顔が強ばったのを見逃さない。
ちょっと高級ブランドの多い通りで待ち合わせするだけでこの顔だ。
ハズレ。使えねぇ女。
絡めてくる腕の熱も気持ち悪くてしかたない。
あくまで自然に見えるように身体を女から離す。
自分を良く見せる為の言葉はもう聞き飽きた。
ていうかまだ喋ってたのか、貧乏人が。
罵声を甘い紫煙で飲み込み、思考を“いつまで搾り取れるか”から約束の日に“どれだけ搾り取れるか”へシフトさせる。
生憎、鴨を捌くのは得意なもんで。
あとは何羽、どう捌くか、頭の中はそれだけ。
──────
「最高にトベる酒をくれ、狂った世界がマシに思えるようなヤツ」
「度数の高いウィスキーを一杯」
退屈なプールサイドの先のバーカウンターがオアシスに見えた。
カウンターに腰を落ち着けると、連れとの会話の前にマスターに注文を通す。
「…お二人とも“隠し味”を御所望ということでよろしいでしょうか?」
「ああ、“おくすり”は要らねぇよ。薬でトんでへろったガキのお守りが控えてるんでな」
くつり、嗤いながら久澄はジェイに視線をやる。
ジェイはそれで思い出す。
俺の“お守り”も注文しておかなくては。
畏怖と侮蔑の意で付けられた“虚弱”
刻印に潜む|バケモノ《UDC》飼い
医者を求め、効かない薬を嫌う文字通りの"|薬漬け《ジャンキー》"
そんな俺に欠かせない|違法な《甘い》必需品
「マスター。痛みも何もかもブッ飛ぶ、最高に優しい«おくすり»を頼むぜ?」
「かしこまりました。」
ジャンキーにも分け隔てなく他と同じように微笑むマスターは聖母か、死神か。
──────
マスターが酒の用意をしている間、二人は静かに煙草を燻らす。
二本の狼煙が夜空へと溶けていく。
プールサイドから熱い視線が飛んでくる。
「お前をお呼びのようだ」
そう久澄がくつくつと喉を鳴らして言うまで、ジェイは視線の元が先程手を振った相手だと気づかなかった。
「あっそ」
視線を無視してチョコレートフレーバーを深く吸い込む。
枯れ草の焼ける音がする。
「あーあ、お前が手なんか振らなかったら熱に犯される事もなかったのに。可哀想にな、せめて愛人にでもしてやったらどうだ?」
なぁ。
久澄の目が細くなり、ククッとまた喉が鳴る。
「生憎、愛人は間に合ってるんで。琥珀の酒と紫煙燻らす煙草だけが、いつまで経っても手放せない俺の愛人…そりゃお前も一緒か」
吸い終わった煙草の未だ赤く燻る火を灰皿で潰して、さっさと次の一本を取り出す。
火、と一言だけ言うとジェイは身体を傾ける。
煙草から煙草へと火が移る。
「酒に煙草っつー愛人ねぇ…なら金は俺の恋人ってとこかぁ?」
「ふはっ、違いねぇ」
熱を帯びた視線も、黄色い声も、もうそこへと届かなかった。
──────
一体なぜサイバーザナドゥのこんな所にあるのだろう。
混ぜ物無しというだけでサイバーザナドゥでは貴重だというのに、一対の鹿の角をラベルに印するこのウイスキーは一瓶で奴隷が数十人ほど手に入るほどの値打ちもの。
琥珀色の液体をリムの薄いストレートグラスに注いで二杯提供する。
一方はストレートで。ウッディな香りとチョコレートを思わせる甘い香り。蜂蜜を思わせるとろりとした風味。
舌を刺激するアルコールは少なく、しかし後からくる風味はスパイシー
。度数が70に到達するウイスキーでしか感じることのできない味わいだ。
もう一方はLSDを一枚、アヤワスカを煮詰めた汁を1,2滴混ぜ込む。LSDは脳神経系に作用し、セロトニンを分泌させる。
セロトニンはノルアドレナリン、ドーパミンを抑え、うつ症状に効果をもたらす物質だ。“適正量”ならば。
アヤワスカの煮詰め汁はLSDの100倍の効果を持つと言われている。開く瞳孔、曲がる床、色鮮やかな世界。
くれぐれもバッドトリップにご注意を。
処方箋は、ジョイント5本、LSD、マジックマッシュルームの詰め合わせ、スペースケーキ。
ジョイントは混ぜ物無し。暖かな多幸感と心地よい重圧感に身体は包まれる。
LSDもマジックマッシュルームもこんなクソみたいな世界を有難いものに変えてくれる。この世の真理を、宇宙を、教えてくれる。
スペースケーキはマスターのオマケ。ブラウニー風。
──────
高い酒が出たと。純度の高い薬が出たと。
噂はどこから湧いたのだろう。
すぐさまナイトプールのあちらこちらへと、噂は広がっていく。
すると、湧いて出てくるのはどこぞの阿呆共。
「すっげ!ばかたけぇ酒じゃん!俺にも一口味見させてくれよ、な、一口で良いからさ!」
「なぁこっちはそれに薬入れてやがるぜ!しかも純度高くてヤベェやつ!ヤベェって!」
小蝿のようにどこからともなく現れ、鬱陶しく、数が多い。そして人語を理解するらしい。
それがこの阿呆という生き物の生態だ。
折角の酒も薬も、脳無し共に囲まれ騒ぎ立てられれば台無しというやつだ。
「悪いがこれは俺の酒で、こいつは俺の連れなわけだ…一口分の金と見物料はキチンと払って貰わないと困るなぁ?」
“ホンモノ”の気迫で凄んでやれば足りないネジも少しは締まったか。
ノリわりぃ、だのなんだのぶつくさと言いながら阿呆共は群れの中へと帰っていった。
「露払いはちゃあんとしてやるから、精々Highな夜を愉しめよ、ジェイ」
そう言いつつ金蔓を見定める目はしっかりとフロアへと注がれている。
「こんな最高の夜にさえ金集めにご執心とは…お前は相変わらずだなァ真。俺は精々楽しませてもらうぜ?」
そう言うとジェイは一口、ドラッグカクテルを煽る。
「ああ、今夜のナイト代はきっちり後日請求するつもりだからな。」
折角の一口目の味を味わい損ねた。
「…今そんな無粋な事言うなよ。お前のより混ぜ物の分高ぇんだからな。」
じとり、ジェイは久澄を睨みつける。
「おっと失礼。でもな、タダ働きなんてこの俺がするわけねぇだろ」
久澄は美味そうに一口目を飲み込んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シン・クレスケンス
水着→ラッシュガード+レギンス、サーフパンツ。露出無し
―――
闇色の狼の姿のUDC「ツキ」を、仔狼くらいの大きさにして連れています。
僕の影に同化するように潜み『チカチカしてるし、随分うるせーな。何だ、ここは』と呆れ声のツキに苦笑いして。
せっかくですので、僕のイメージでカクテルをお願いしましょうか。
お酒は何でも呑めますし、強い方かと思います。「隠し味」は丁重にお断り致しますが。
こう見えてもあまり治安のよろしくない地域で裏の仕事をしていたこともあるもので、良からぬ事を考えている方々の手口は熟知しております。
魔術や銃を使うまでもありません。
たとえハッタリでも堂々としていれば意外とバレないものですよ。
●知恵の実
12時を過ぎても、ナイトプールの興奮は冷めない。
踊れや踊れ。騒げや騒げ。
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
暗い景気なんて、先の見えない人生なんて、凄惨な過去なんて
今日だけは忘れてとにかく騒げ!
──わぁわぁ、と騒ぐパリピ達を見つめる金の獣の瞳が闇の中に揺れていた。
──────
『チカチカしてるし、随分うるせーな。何だ、ここは』
闇色の狼の姿のUDC「ツキ」は呆れた声でそう言った。
身体は子供の狼程度しかなく、ちんまりとシン・クレスケンス(真理を探求する眼・f09866)の影に潜んでいた。
「はは…そういう場所なんですよ、ナイトプールは。」
ツキの言葉にシンは苦笑する。
「楽しく音楽にのったり、プールで泳いだり…その為に、少々大きく音楽をかけたり、照明を強く光らせたりするのはしょうがない事なんです。」
『にしてもよお…そもそも、お前はあの騒がしい奴らに混ざって騒いだり、踊ったりしてないじゃないか。その服装も、今から泳ごうって奴の服装に見えないぜ。』
実際、シンの服装は周囲の人間から比べるとかなり落ち着いている。
グレーのサーフパンツは無地だし、その下に黒のレギンスを履き、上半身には同様に黒色のラッシュガードを着ている。
装飾といえば、ラッシュガードのジッパーがぼんやりと青白く光ったり、光の当たり加減で黒い部分がこれから暮れる夜空の星のようにきらりと疎らに瞬く程度だろうか。
「まあ、そうですね…」
『じゃあ、お前はなんの為に来たんだよ。』
ツキは高音のビートでキーンとしてしまった耳を前足でぐしぐしと掻いている。
「僕はあちらに興味がありまして」
そういうとシンはBARの方向を指差す。
「どうやら良いお酒が揃っているようで…それに、マスターはその人に合わせたイメージカクテルも作ってくれるそうですよ。」
『ほおーん?』
なるほど、とツキも合点がいったようだ。
「では早速行きましょうか、ツキ」
『ちょっ、お前!急に動くな!』
颯爽と歩き出したシンの影に合わせるように、ツキはちょこちょこと走り出した。
──────
「こちらの席、座ってもよろしいですか?」
「ええ、勿論。いらっしゃいませ。」
グラスを拭きながらマスターは柔和な笑みを浮かべた。
「こちらではイメージカクテルを作っていただけると聞いたのですが…」
「イメージカクテルなんて大それたものではありませんよ。ただお客様の好みを聞いて、私の主観でカクテルを作っている…それだけのことでございます」
「来客する方は初対面の方が多いでしょう。その方の好みのお酒を作れるなんて素晴らしいことだと思います」
マスターは照れたように、嬉しそうに笑った。
「よろしければ、僕をイメージしたカクテルを作っていただけますか?」
「勿論、喜んで。では、貴方の好みをお聞きしても良いですか?」
「お酒は何でも呑めますし、強い方かと思います。なので、マスターの好きなように作ってください。」
「これは…腕がなりますね」
シンの注文にマスターは既にあれやこれやと思考を巡らせている様だった。
「あと、“隠し味”は丁重にお断り致します。」
「おや…そちらもご存知でしたか」
マスターの瞳が三日月のように弧を描く。
「ええ。ナイトプールの皆さんがイメージカクテルと共に噂していましたから」
そう言ったシンとマスターの間に男が割って入った。
「ならそんな勿体無い事しないでさぁ、入れちゃえば良いんじゃねぇの?」
The パリピといった様な出で立ちの男はシンの隣に勝手に座って喋り出した。
足元に座っているツキが唸り声をあげた。
「お兄さんナイトプールだってのに硬くなりすぎ!ほらリラックスしてさぁ」
「いえ、違法薬物は禁止されているので」
「合法なら良いってことね?新しいすげーぶっ飛べるまだ合法のドラッグがあってさぁ、今日ならお兄さんに特別安く売っちゃうよ?」
そう言うと男は小袋を取り出した。
にっこり笑顔の錠剤がこちらに微笑んでいる。
「こんなしけたBARのと違ってずーっとよく効いて、ぜーんぜん依存性なんて無いんだから。とりあえず一回、どう?」
「なるほど…」
ふむふむ、とシンは頷き、そして息を吐いた。
「僕が警察と知っても、まだ勧誘を続けますか?」
「…へ?」
「現在ドラッグの摘発強化週間でして、こうやって潜入捜査をしているわけですよ。」
「うっ…嘘だろ」
「警察手帳をお見せしましょうか?ああ、もう応援なら呼んでいますから。」
そろそろサイレンが聞こえてくる頃ですよ、とシンが言い終わる前に男は慌てて逃げ出した。
「…ふう」
「まさか、刑事さんでしたか…じゃあ、うちの店に来たのは…」
「いえ、警察と言うのは全て嘘、ハッタリです」
シンはマスターを落ち着かせるために、微笑んでそう言った。
「こう見えてもあまり治安のよろしくない地域で裏の仕事をしていたこともあるもので、良からぬ事を考えている方々の手口は熟知しております。おそらく、僕を依存症にして金を巻き上げようという魂胆だったのでしょう。」
「いやぁ…お若いのに随分と堂々としていらっしゃる」
「たとえハッタリでも堂々としていれば意外とバレないものですよ。」
嘘でもあくまで落ち着いて普段通り発する。
オブリビオンでもない小悪党程度、魔術や銃を使うまでもない。
「あの…お礼と言ってはなんですがお代はいりません」
「お礼だなんて、僕は何も」
「いえ、営業の邪魔をしてくる方を追い払ってくれたじゃないですか。それにあの男はここを、“こんなしけたBAR”と言いました。ハッタリで追い払ったと聞いた時…正直スッキリとしました。だから、これは私からのほんの気持ちです。」
ありがとうございました、とマスターは頭を下げると、お通しの鴨ローストを“ソースをかけてあるシン用”と“ソースをかけていないツキ用”の2皿をカウンターに置いてカクテルを作り始めた。
「なんだか逆に申し訳ないような…」
『まあ、良いんじゃねーの?あいつの気分が良くなったおかげで俺もこれにありつけるみてえだし』
そう言うとツキはシンの膝に飛び乗り、自分用の鴨ローストを頬張るのだった。
──────
ダージリンの茶葉のリキュール45mlと生クリーム60mlを氷を入れたシェーカーで良く混ざる様にしっかりと混ぜる。
隠し味の林檎のリキュールを20mlをアンティーク調の切れ込みの入った底の広いソーサー型シャンパングラスに注ぎ、先程混ぜた液体が林檎リキュールと混ざらないように慎重に注ぐ。
仕上げにほんのり香る程度のシナモンパウダーを振る。
シン・クレスケンスのカクテル「DARWIN」のレシピ
──────
シンはじっくりと味わうように自身のイメージカクテルを一口飲み込んだ。
「美味しいです。ほんの十数分僕と会話しただけでこのように新しいカクテルを作り出すことができる…素晴らしいですね」
「お褒めいただき大変ありがとうございます」
シンはもう一口カクテルを飲むと真剣に材料の考察を始めた。
「生クリームと…これは、ダージリンでしょうか?舌に残るほのかな酸味と甘味は…林檎ですかね。度数がほどほどにあるということは、ダージリンと林檎はリキュール由来ですね。」
「素晴らしい…おっしゃる通りです。」
材料まで言い当てられ、マスターは感服している。
「これは興味本位でお聞きするのですが、先程お酒は強いと言いましたがなぜ度数の強いお酒は使わなかったのですか?」
「お酒が強い方のカクテルにただ強いお酒を入れるというのがあまり好きではありませんので。」
「なるほど。素晴らしい考えだと思います」
しばらくマスターと酒に関する話をかわしながらシンは「DARWIN」を飲み干した。
「ご馳走様でした。本当にお金はいいのですか?」
「ええ。貴方がBARを訪れてくれて本当に良かったです」
「こちらこそ、カクテルとお酒のお話ありがとうございました」
シンが席を立つとツキはあくびをしながら立ち上がった。
『気はすんだか?』
「ええ、とても楽しい時間を過ごせました」
『じゃあそろそろ帰るぞ。もうすぐ日が出てきそうだ』
「そうですね、帰りましょうか」
そう言うとシンは明け方の、人がまばらになり始めたナイトプールを一瞥してその場を後にするのだった。
────────────────────────────────────
明けない夜はない。
あんなにギラついていた光も太陽の光の前に少しずつ霞んでいく。
有害物質の雲。汚染された街。
今日もこの世は荒廃している。
今夜もきっとどこかのビルの屋上で当たり前のようにナイトプールが開かれるのだろう。
記憶は霞み、褪せていく。
それでもふとした時に思い出す。
あの夢のような、狂騒の一夜を。
成功
🔵🔵🔴