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うたかた蝶々

#アリスラビリンス #お祭り2022 #夏休み

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#夏休み


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●珊瑚の夢のお城
 それはまさに夏の夢。
 不思議の国のひとつに、きらきらと光が瞬く海がある。
 きらきらの正体はたくさんの蝶だ。金銀と虹、眩いばかりの蝶はひらりひらりと城周辺を回遊──飛び回っている。
 呼吸も出来るその海には珊瑚の城がある。
 蝶たちはそこに住んでいるのだという。城には清廉な光が差し込むが故に繊細な影が落ちていて、いっそ荘厳な風情で佇んでいる。大人数名が同時に足を踏み入れてもまったく支障がないその広さは、いっそ迷い込んでしまいそうなほど。
 魚やくらげの愉快な仲間達が教えてくれる。
 年に一度だけ蝶との追いかけっこをするんだよ。
 蝶を捕まえられたら飛び切りいいことが起こるんだよ、と。


●うたかた蝶々
「海底の珊瑚のお城ってすごい!!」
 メーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)は頬に手を添えて歓声を上げた。
「海底って言っても呼吸はちゃんと出来るんだって。泳ぐのもとっても簡単みたいなの。その珊瑚のお城の探検に行きたいなって思って」
 城は珊瑚だけでなく貝や流木等も用いられている。柱や階段、吹き抜けや出窓。どれもが精緻な細工が施されており、見るだけでも楽しい。観光ツアーよろしく探索するのも心が弾むに違いない。
 メーリは人差し指をちちち、と横に振りながら言う。
「でもねせっかくだから、蝶を探しに行こうよ。捕まえたらいいことがあるなんて楽しそうだよね」
 まるで幸せを自ら掴みに行くみたいだ。
 蝶が飛び回る様子はまさに幻想的。
 光がまたたくような様子につい見惚れてしまうかもしれないが、せっかくだからこちらから逢いに行ってみよう。
 銀の蝶はさながら魚群。群れとなって泳いでいくそれらに手を伸ばすのは、きっと難しくはない。手の中に捕まえて、たくさんの幸せに満たされるのもきっと素敵だ。
 金の蝶は悠然と泳いでいくから、見つけるのは簡単だろう。動きがやや速いから、捕まえる時は慎重にかつ大胆に。そうすれば幸せが自ら飛び込んできてくれる。
 そして虹の蝶。そもそも見つけることが稀だ。空にかかる虹のように見るだけでも幸せに浸れるに違いないが、どうせなら捕まえに行ってみたいのが人のサガだ。ただ追いかけるだけでは逃げられておしまいだから、何らかの工夫が必要だろう。
「蝶や魚たちと海中遊泳なんてきっと素敵だね。今からわくわくして仕方ないな。ね、蝶を捕まえられたら教えてね!」
 宝物を見つけた歓びを誰かと分かち合えたなら、きっとそれもまた幸せだ。
 メーリは微笑を咲かせて、「行こうよ」と猟兵たちに手を差し伸べた。


中川沙智
 中川です。
 ふんわりファンタジーな夏休みになりました。

●このシナリオについて
 第1章のみ、【日常】です。時間帯は昼。
 アリスラビリンスでの夏休みをお楽しみください。
 海底の珊瑚のお城です。エントランス、客室、大広間、バルコニー、物見の塔、裏庭、キッチンその他いろいろ。珊瑚で出来たお城を探検しましょう。魚やくらげ等海生生物が案内してくれます。
 今回の宝物は蝶々です。魚のようにふわふわ泳いでいます。数は銀>金>>>虹です。捕まえた時点で泡となって消えてしまいます(きらきらが猟兵の身を包むので捕まえたことは確認出来ます)

 蝶は捕まえられる色によって言い伝えがあるそうです。
 銀:小さな幸せがたくさんやってきます。
 金:大きな幸せがひとつやってきます。
 虹:奇跡みたいな念願が叶いますが、捕まえられるとは限りません(ダイス判定です。捕まえられる前提のプレイングは採用出来かねる場合があります)

 友達と蝶探しの競争をする、珊瑚のお城でお姫様ごっこ、魚と一緒にかくれんぼなどなど。公序良俗に反しない範囲でご自由にお過ごしください。
 未成年の飲酒喫煙は禁止です。

●プレイング受付期間について
 オープニング公開直後から受付開始します。導入文の追加はありません。
 受付期間の詳細についてはマスターページの説明最上部及び中川のツイッター(@nakagawa_TW)にてお知らせします。お手数ですが適宜そちらをご参照くださいますようお願いいたします。受付期間外に頂いたプレイングはお返しする可能性がありますのでご了承ください。
 描写人数は控えめとなりますことをご承知おきくださいませ。プレイング受付期間も恐らく1~2日間くらいです。オーバーロードも含みます。

●ご参加について
 ご一緒する参加者様がいる場合、必ず「プレイング冒頭」に【相手のお名前】と【相手のID】を明記してください。
 大勢でご参加の場合は【グループ名】で大丈夫ですので、「プレイング冒頭」にはっきり記載してください。
 これが抜けている方は迷子になる(場合によっては同行者様含めプレイングのお返しになる)ことがあります。

●プレイングボーナス
 水着の着用。
 イラストがなくてもプレイングで申告して頂ければOKです。

●その他
 お呼びがあれば、中川担当のグリモア猟兵が同席させて頂きますのでお気軽にお声がけください。

 では、皆様のご参加を心からお待ちしております。
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第1章 日常 『夏の夢の国』

POW   :    湖や海に入り、水泳や水遊びを楽しむ。

SPD   :    花や貝殻を集め、お土産にする。

WIZ   :    美しい景色を絵や詩、日記に残す。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鷲生・嵯泉
【相照】
負けず嫌いが2人の宿命だな
自ら幸せを捕まえに、か
互いに其の気概が欠けていたが――此の機会に前向きになってみようか?
競争でも協働でも構わんが……矢張り前者か


探すなら此の先の為に虹色の蝶を
翼使招来――参じ従え
【虹色の蝶を探し出し、私の元へ誘導してこい】
僅かな光の反射、水の揺らぎも逃さぬ様に気を払い
下から上へと探してゆこう

もし見つける事が叶ったならば
そっと追ってニルズヘッグの元へと連れて行こう
――そら、捕まえろ。お前の為の蝶なのだから

1匹たりと手に収まらなくとも構いはしない
生涯を伴を得るという望外の幸せを再び手に出来たのだから

待つのは構わんが……
そういう事ならお互い様だと解っているのやらな


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
去年の夏も捕獲競争してたような……海産物だっけ?
確かに自分から追いかけるってしてないかも
じゃ、先に捕まえた方の勝ちな!

……とは言うものの
家族もいるし友達もいるし大事な奴もいるしで
これ以上望んだらバチ当たりそうだよなー……
――良いこと考えた
仔竜ども。遊びの時間だぞ
蝶々を捕まえるんだ。お前らそういうの得意だろ?
他のは良いけど、虹色のは捕まえないで追い込むんだぞ

上手く見付けて追い込めたら嵯泉にあげよ
って、考えてることまで一緒だったりしてな

……嵯泉と合流してから思い出したんだけど
銀色のにチャレンジして来るな。ちょっと待ってて
そしたらおまえも幸せになるよ
だって、大事な奴の幸せが私の幸せだし?



「去年の夏も捕獲競争してたような……海産物だっけ?」
「負けず嫌いが二人の宿命だな」
 揃って今年新調した水着姿で相対する。
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)が記憶を紐解くのは、去年のキマイラフューチャーの夏空遊泳だ。当然鷲生・嵯泉(烈志・f05845)も覚えていて、口許に淡く笑みを刷く。
「自ら幸せを捕まえに、か」
 嵯泉の呟きにはやや陰りが差す。否を呈するつもりはないが、そういった気概は互いに欠けているように思える。
 言われてみればとニルズヘッグも首を傾げる。確かに自分から追いかけるようなことはしてないかもしれない。
 しかし。
「──此の機会に前向きになってみようか?」
 嵯泉の不敵な挑戦に、ニルズヘッグは口の端を上げた。
「じゃ、先に捕まえた方の勝ちな!」
「競争でも協働でも構わんが……矢張り前者か」
 丁々発止のやり取りを経て、ふたりは珊瑚の城に向かって行った。
 視線を巡らせる。
 光が躍る。
 幻想的な海の世界を泳いでいく。呼吸は気にしないから悠然と進む。魚の銀鱗がきらめいているが、さて、輝きを探すのならば目的は蝶だ。
 探すなら此の先の為に虹色の蝶を。
 そう決めた嵯泉は手を捻る。柘榴の隻眼で前を見据えた。
「翼使招来──参じ従え」
 現出したのは百を超える烏天狗。翻す頭巾はさながら尾鰭だ。
 ──虹色の蝶を探し出し、私の元へ誘導してこい。
 そう命じて、嵯泉もまた水をかき分けて行く。僅かな光の反射、水の揺らぎも逃さないように気を払う。這うような格好で下から上へと探してゆこう。
 一方、ニルズヘッグは珊瑚の裏を丹念に見て探しつつ、吐息を漏らす。吐息は泡になって水面に上っていく。
「……とは言うものの」
 ニルズヘッグには家族がいる。友達もいる。大事な相手もいる。
「これ以上望んだらバチ当たりそうだよなー……」
 競争は楽しいが、どうしても欲しいわけでもない。どうやって蝶を捕まえたらいいだろう。
 ぼんやりと思い巡らせ、はたと気付く。
「──良いこと考えた。仔竜ども。遊びの時間だぞ」
 ニルズヘッグが悪戯めいた言い回しで呼ぶと、傍らの仔竜たちが顔を覗かせた。
 いいか、と飄々とした風情で言い聞かせる。
「蝶々を捕まえるんだ。お前らそういうの得意だろ?」
 仔竜たちに「他のは良いけど、虹色のは捕まえないで追い込むんだぞ」と告げれば、心得たとばかりに鳴き声が返った。
 互いに虹の蝶を見出して、違う角度から追い詰めていたのは後で知った話だ。
 もし見つける事が叶ったならば。
 上手く見付けて追い込めたら。
「やっぱ考えてることまで一緒だったか」
 ニルズヘッグがくすぐったくなって笑う。
 視線が交差した時には、ふたりの只中で虹色が閃いた。
「――そら、捕まえろ。お前の為の蝶なのだから」
 薄く笑みを刷いて、嵯泉は手でそっと虹を押し出してやる。虹の蝶はひらりとニルズヘッグに融けていった。
 嵯泉自身は一匹たりと手に収まらなくとも構いはしなかった。
 生涯の伴を得るという、望外の幸せを再び手に出来たのだから。
 そんな思いをニルズヘッグも何となしに理解して、あ、と呆けたような声を上げる。
「……嵯泉と合流してから思い出したんだけど、銀色のにチャレンジして来るな。ちょっと待ってて」
 そしたらおまえも幸せになるよ。
 その響きは、不思議と嵯泉の胸の真ん中に落ちていく。
「だって、大事な奴の幸せが私の幸せだし?」
 言い残して、ニルズヘッグは軽く手を振り、銀色の群れを追って泳いでいった。
 残された嵯泉は軽く喉を震わせる。
「待つのは構わんが……そういう事ならお互い様だと解っているのやらな」
 嵯泉のその呟きは、泡にならずにゆっくりと海にほどけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メゥ・ダイアー
キラキラできれいで、中でお話もできちゃう海もあるんだね!
メゥ蝶々もはじめて見た! お魚とかびゃくりんちゅう(白燐蟲)とも違うのね。
ひらひらどこに行くのか分かんなくてふしぎ、おもしろいねー

メゥは誰かが蝶々を捕まえるのをお手伝いをしてみたいな。
【スターライト・エアリアル】を階段とかジャンプ台にしない?
メゥでも入れない所はびゃくりんちゅう(白燐蟲)にみてもらったり、一緒に探すよ。

メゥは虹色も見たいけど、蝶々を見つけられたら、捕まえなくてもだいじょうぶ!
今は蝶々にもみんなで、楽しそうに飛んでてほしい。
だってメゥも、今はみんなと一緒にいろんなものが見れていっぱい楽しいからね!



 胸がいっぱいになる、というのはこんな気持ちのことだんだろう。
 メゥ・ダイアー(記憶喪失わすれんぼ・f37609)の橙がかった朱色の瞳が、感激で薄ら潤んだ。
「キラキラできれいで、中でお話もできちゃう海もあるんだね!」
 こうして言葉を発しても苦しさなんて程遠い。
 深海に於いても鮮やかな色を宿す魚たち、ふわふわゆらゆら揺蕩うくらげ。その間を銀鱗めいた蝶がたくさん横切っていく。
 メゥの内側のまっさらな場所のひとつに、今日の色彩を残しておこうと思った。
「メゥ蝶々もはじめて見た! お魚とか|びゃくりんちゅう《白燐蟲》とも違うのね」
 視線を横へ、縦へ、巡らせる。
「ひらひらどこに行くのか分かんなくてふしぎ、おもしろいねー」
 喜色を浮かべたメゥが、そういえばと口許に手を添える。
 誰かが蝶々を捕まえるのをお手伝いしてみたい、そう考えていたのだと思い出した。
 ちょうどよく誰かが来ないものかときょろきょろしていると、メーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)が近くに泳いできた。
 何かが閃く。メゥはメーリの前に舞い降りる。
「蝶々を捕まえるのをお手伝いをしてみたいと思ってたの」
 よければどうかな、という提案を差し出されれば、メーリは満面の笑みを咲かせる。
「ありがとう! すごく嬉しいな」
「【スターライト・エアリアル】を階段とかジャンプ台にしない? メゥでも入れない所は|びゃくりんちゅう《白燐蟲》にみてもらったり、一緒に探すよ」
「したいしたい! じゃあねそうだね、一緒に探しに行こう!」
 たくさんのティンクルスターを心待ちにしているらしいメーリが、メゥの手を取ろうとする。
 ふたりで往くはきらめきで満たされた海の底。
 メゥの朱く焼けた左脚のリボンがゆるりと靡く。金の蝶が追走して、それから軽やかに通り過ぎていく。
「捕まえるなら何色の蝶々がいいと思う?」
 メーリが問えば、メゥは考えに耽って首を捻る。
「メゥは虹色も見たいけど、蝶々を見つけられたら、捕まえなくてもだいじょうぶ!」
 滑り出した答えは明るく、無垢だった。
 今は、蝶々も他のいきものもみんなみんな、楽しそうに飛んでいて欲しいから。
 想像するだけでメゥの頬が綻んで、淡い笑みが灯る。
「だってメゥも、今はみんなと一緒にいろんなものが見れていっぱい楽しいからね!」
「ふふ、それってすごく素敵。ならたくさんの輝きに逢いに行こう!」
 そうしてふたりは再び泳ぎ出す。
 まばゆい光で満たされた海を、どこまでもどこまでも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
トトさん(f20443)と

お店の人にぎゅっと着付けられた今年の水着で
後を追っていた足取りが止まった事に首を傾げて
え?泳げますよ、余裕で
……なんです、そんなに確認をして
まさかハレルヤがカナヅチだとでもお思いですか?
躊躇いなく飛び込んで
トトさんが危うい様子ならば、諸々納得した顔で手を貸しつつ先へ

お互いちゃんと息ができているようですね
では、思い切り楽しみましょう
凄く凄く綺麗ですねえ
あ、はしゃぎ過ぎては迷子になりますよ

これが噂の蝶ですか
勿論、沢山捕まえてこその欲張り兄妹です
銀の群れへ狙いを定め
ハレルヤが一肌脱いで差し上げましょう

一肌と共に脱いだマントを盾にして
銀の群れがトトさんの方へ行くよう追い込んで
ほら、幸せが沢山ですよ!
手を引かれたら素直に一緒に蝶群の中へ
ええ、この上なく綺麗です
ハレルヤがトトさんの為に捕えた蝶ですからね

虹の蝶は、見つけた時はUCで此方へ来ないか試してみます
少々大人げないでしょうが
トトさんが幸せな気持ちになれるのならば
ハレルヤお兄ちゃんは何でもしてみせましょう、という事ですよ


トスカ・ベリル
ハレ(f00145)と

民族衣装風の水着で
跳ねる足取りで海際まで来て、ぴたと足を止める
……ハレ、泳げる?
簡単だって言ってたけどほんと? ほんとに?
ほんと??
(言えない。ほんとは自分が泳げないなんて)
でも見かねたハレが手を貸してくれるかな
何度も確認してから意を決して飛び込む

珊瑚のお城に着いたら息ができることに安心して
エントランスへ降り注ぐ光に駆け出して
綺麗だね、ハレ
……な、ならないもん
ならないようにハレおにいちゃんがいるしね

ちょうちょ、金色とか狙いたい気もするけど
……ちいさな倖せ、たくさん欲しいよね
欲張りなきょうだいだもん
示し合わせなくても銀を狙うお揃いににっこり

ハレが集めてくれた銀の蝶群の中でわぁあって瞳を輝かせる
ハレ、ハレすごい!
そっと手を差し出して、一匹を捕まえたなら
ハレも来て来て、って彼の手を引っ張って、蝶群の中に
ね、ハレ、もっと綺麗だね

虹色、探したいよねって悪戯気に笑い合いつつ、捕まえられなくてもいいの
ふたりであちこち探すこと自体がもう楽しくて倖せ



「……ハレ、泳げる?」
 民族衣装風の水着姿のトスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)が、海際で立ち止まる。
 ついさっきまで心弾んでいた様子だったのにと、言葉の意味を咄嗟に理解出来なかった。マントを着用し王様めいた水着を着ている夏目・晴夜(不夜狼・f00145)が振り返ると、トスカは視線を落としているようだった。
「え? 泳げますよ、余裕で」
「簡単だって言ってたけどほんと? ほんとに? ほんと??」
 ──言えない。ほんとは自分が泳げないなんて。
 トスカは自分が情けなくて、申し訳なくて、押し黙ってしまう。せっかく楽しい日になるはずなのにと思えば心苦しい。
「……なんです、そんなに確認をして。まさかハレルヤがカナヅチだとでもお思いですか?」
 晴夜はわざと飄々と軽口をたたく。
 そして躊躇いなく飛び込んで、大丈夫だと示すように晴夜はトスカに手を伸ばした。何もかもを納得した表情で、だ。
 トスカは何度も大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせ、最終的には晴夜を信じて飛び込んだ。
 一度飛び込んでしまえばそこは楽園のよう。
 澄んだ水、そそぐ光、横切る魚たち。
 呼吸が出来る。
 そう実感出来ればようやく人心地ついて、トスカは緊張を徐々に解き始めた。それを見て、晴夜は嬉しそうに口の端を上げる。お互い息が出来るなら問題ない。
「では、思い切り楽しみましょう」
 ふたりで海底を目指して泳いでいく。
 ほどなくして珊瑚の城が見えてきた。降り立ったなら、トスカは城のエントランスに駆け足で向かう。
 珊瑚越しに差す光があまりに玄妙で、落ちる影の形すら美しい。どちらともなく感嘆の息を零してしまう。
「凄く凄く綺麗ですねえ」
「綺麗だね、ハレ」
 同じことを同時に言ってしまい、ふたりは顔を見合わせて笑った。
「あ、はしゃぎ過ぎては迷子になりますよ」
「……な、ならないもん。ならないようにハレおにいちゃんがいるしね」
 晴夜が冗談めかせば、トスカは意趣返しとばかりに言う。
 この場に優しい時間が満ちる頃、ふたりの視界を、銀色の群れがきらめいた。
「あ!」
 思わずトスカが指差したのは、話に聞いていた銀の蝶だ。
 海の中にいるのに軽やかに飛んでいる蝶は、光を弾いて耀いている。
「これが噂の蝶ですか」
 晴夜は目を見開いて感慨深く囁いた。
 ふたり揃って見惚れていたが、口火を切ったのはトスカだった。
「ちょうちょ、金色とか狙いたい気もするけど……ちいさな倖せ、たくさん欲しいよね」
 だって欲張りなきょうだいだもん。
 まるでいたずらを提案するみたいなトスカの口吻に、晴夜は破顔した。
「勿論、沢山捕まえてこその欲張り兄妹です」
 示し合わせなくても銀の群れに狙いを定め、晴夜は人差し指を突き付ける。
「ハレルヤが一肌脱いで差し上げましょう」
 一肌と共に脱いだマントを盾にして、晴夜は水中を蹴る。
 マントを翻し、銀蝶の群れがトスカの方へ行くよう追い込んでみせれば、ふたりがいる場所に燦然と無数の光が浮かんでいた。
「ほら、幸せが沢山ですよ!」
「ハレ、ハレすごい!」
 トスカは銀の蝶群に歓声を上げながら浅瀬色の瞳を輝かせる。
 そしてそっと、手を伸ばした。
 そこに導かれるように銀の蝶が舞い降りてきて、トスカは手でやんわりと捕まえてみる。
 すると、幸せが見つかったよと示すように、トスカの身体を銀色の光の粒が包んでいく。
 トスカは大切な何かを得たような心地になる。あったかくて、くすぐったくて、何だかとっても愛おしい。
 ハレも来て来て、と晴夜の手を引っ張って、蝶群の中に迎え入れようとする。晴夜も素直に手を引かれてついていった。
 銀の光に包まれる。
 その光はきっと幸福という名前をしている。
「ね、ハレ、もっと綺麗だね」
「ええ、この上なく綺麗です。ハレルヤがトトさんの為に捕えた蝶ですからね」
 晴夜は軽妙に宣えば、トスカの笑みは深まるばかりだ。
 その時。
 視界の隅を何かが通過したような気がした。ふたり揃って視線を向けたその先に、虹色の名残がきらめいていた。
「虹の蝶、ユーベルコードで此方へ来ないか試してみましょうか」
 少々大人げないのは自覚している。ただ、どうせなら飛び切りの幸せにも手を伸ばしたくなる。
 だってふたりは欲張りなきょうだいだから。
「トトさんが幸せな気持ちになれるのならば、ハレルヤお兄ちゃんは何でもしてみせましょう、という事ですよ」
「うれしい!」
 虹色、探したいよね。そんな共通認識を実感すれば、ふたりのいたずらっぽい笑顔が弾ける。
 トスカは思う。
 もし仮に、虹色蝶を捕まえられなくても構わない。
 ふたりであちこち探すこと自体が楽しくて倖せで、最高の贅沢だって知っているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
ライラ(f01246)と
ライラのひれ、おさかなみたい!
ふふふ、でしょう!泳ぐのもいっぱい練習してきたよ

星の海はね、底がなくて
自分の呼吸と生命維持装置の閉ざした音しか聞こえないんだ
あぶくのほうが、おれはすき!

ヤ!いいよ、もちろん!
おれ、スニーキングは得意だよ!

なんて言ったはいいけれど
光学迷彩もない水底で潜るのは結構難しくて
なんとか珊瑚の隙間に紛れ込み

わ、蝶々!
しーっ
だめだよ、ないしょにしてね

みつけてくれるかな
みつからなかったら?

少しだけ胸がそわそわし始めた頃に名前を呼ばれて
照れ隠しに『ばあ!』と飛び出した

すごい、すごい!
ライラはやっぱり、魔法使いだ
ね、ね
もういっかい!今度はおれがみつけてあげる!


ライラック・エアルオウルズ
カーティスさん(f00455)と

今年仕立てた装いで
珊瑚城に尾鰭を揺らし
ふふ、貴方は格好良いね

星の海を旅する貴方は
その底に至ったことはある?
海底より静かな場所、かあ
それは少し寂しくありそうだ

それなら、あぶくのなかを
冒険する――も良いけれど
折角だ、かくれんぼしようか
僕が探すから隠れてごらん

一から二十を数えて
彼方此方、と覘いてみては
此処でもないと首を傾いだ
迎えがなければ不安だろう
はやく見つけてあげたい、が

おしゃべりな蝶々の真下
姿をとらえて、密か安堵し
カーティスさん、みつけた
飛び出す姿には『わっ』と
それから、ふくふく笑って

そう、魔法使いだから
見通す眸があるんだよ
だけど隠れるのは下手だ
――手加減してね?



 蒼穹の瞳を輝かせて、カーティス・コールリッジ(CC・f00455)は言う。
「ライラのひれ、おさかなみたい!」
 衒いのない賛辞を受けて、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は眼鏡の奥の双眸を細めた。
 今年仕立てた装いは人魚にも似ている。ライラックは腰布で拵えた尾鰭を揺らしてみせる。
「ふふ、貴方は格好良いね」
「ふふふ、でしょう! 泳ぐのもいっぱい練習してきたよ」
 カーティスが穿いている、以前仕立てたサーフパンツはポップなカラー。クジラと共に泳ぐ気は満々だ。
 さあ行こう、きらめく海の水底へ。
「星の海を旅する貴方は、その底に至ったことはある?」
 ゆっくりと海底に沈みゆく最中、ライラックはカーティスに問いを差し出す。
 カーティスは首を傾げて記憶を手繰る。
 そして、丁寧に紐解いていった。
「星の海はね、底がなくて。自分の呼吸と生命維持装置の閉ざした音しか聞こえないんだ」
 ふたりは砂の上に降り立つ。こうして、地に足をつけることは出来なかった星の海。静かで、静かで、痛いくらい。
 顔を上げて、カーティスは笑顔を咲かせた。
「あぶくのほうが、おれはすき!」
「カーティスさん……」
 ライラックは胸裏に何かを逡巡させ、眉を下げて言う。
「海底より静かな場所、かあ……それは少し寂しくありそうだ」
 だったら、光注ぐ海で遊ぶ提案をしてみよう。
「それなら、あぶくのなかを冒険する――も良いけれど、」
 ライラックは手を広げ、珊瑚の城の方向を示した。
 城は建物のみならず城門や庭もある凝った造りだ。たくさんの魚や蝶もいるから、寂しさなんて霞んでしまえばいい。
「折角だ、かくれんぼしようか。僕が探すから隠れてごらん」
「ヤ! いいよ、もちろん! おれ、スニーキングは得意だよ!」
 力拳を作って意欲満々のカーティスに、ライラックはつい頬を綻ばせてしまう。
 かくれんぼの開始だ。鬼はライラック。カーティスは水中を蹴って物陰を探す。
 さて、得意なんて言ったはいいものの。
 光学迷彩もない水底で泳ぐのは結構難しい気がする。目当ての場所に行き着くのも、水流のせいか些か難儀してしまう。
 カーティスは何とか珊瑚の隙間に紛れ込み、息を潜めた。
 その時、頭上を何かが掠めていった。
「わ、蝶々!」
 ひらり銀の翅を翻す様はきらきらとして綺麗だけれど、如何せん目を惹いてしまう。銀の蝶だからなのか、それなりに数も多い。
「しーっ。だめだよ、ないしょにしてね」
 唇の前に人差し指を添えてお願いすると、蝶々たちも大人しくしているようだ──少なくとも、カーティスに見える範囲では。
 カーティスは膝を抱えて壁の内側に座る。
 みつけてくれるかな。
 みつからなかったら?
 胸がそわそわし始めたのは、気のせいだろうか。
 一方のライラックは、一から二十を数えた後に泳ぎ出した。
 彼方此方、と覘いてみてはみるものの、カーティスの姿は見当たらない。
 此処でもない、此処でもないと首を傾げながら探して、しばらく。
 迎えがなければ不安だろう。はやく見つけてあげたい、が。
 その時。ライラックの視野の隅、隠れきれない銀の蝶が翅を震わせていた。
 蝶の真下に姿を見つけた瞬間。
 安堵したのは果たして、どちらだろう。
「カーティスさん、みつけた」
 ライラックの優しい声に、カーティスは弾けるように顔を上げる。
「ばあ!」
 と元気に声を上げたのは、きっと照れ隠しで。
「わっ」
 と驚いてみせてから、ふくふくと笑みを灯して。
 顔を見合わせてどちらともなく、満たされる。
「すごい、すごい! ライラはやっぱり、魔法使いだ」
「そう、魔法使いだから見通す眸があるんだよ」
 感激を顕わにするカーティスに、ライラックは眼鏡のつるを押し上げてみせる。
「ね、ね。もういっかい! 今度はおれがみつけてあげる!」
「見つけるのは得意だけれど、隠れるのは下手だ――手加減してね?」
 内緒話を打ち明けるように、やさしく囁く。
 いつの間にか銀の蝶が光を注いで、ふたりを眩く包み込んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
珊瑚のお城に蝶なんて素敵じゃん…!
メーリさん、ご一緒にいかが?

※今年の水着で参加、アドリブお任せ

幸せ…折角なら捕まえてみたいな
あの、ね
僕、結婚の約束してるんだ
でも、やっぱり気持ちも命も…永遠とは限らないものじゃん?
だから、もし言い伝えに縋っていいなら
今の幸せが、1日でも長く続くといいな、って

あと折角なら珊瑚のお城見て回りたい…!
絶対綺麗だもん!
蝶は捕まえたいけど、偶然向こうから飛び込んで来てくれることがあれば
その時に大事に捕まえられたらいいかな、なんて
蝶の群れが泳ぐ様自体も見たいもん

お散歩しよ
エントランスから入って順番に…裏庭は最後のお楽しみかな
あ、と…広いし、良かったら手繋ご?
迷子防止♪



「珊瑚のお城に蝶なんて素敵じゃん……!」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が琥珀色の瞳を輝かせる。
 そして側にいるメーリ・フルメヴァーラに軽く声を掛けた。
「メーリさん、ご一緒にいかが?」
「いいの? ぜひぜひ一緒させて!」
 今度はメーリが水晶の瞳を輝かせる番だった。共に水を蹴って、水底へと向かって行こう。フリルをなびかせ泳ぐ澪へ「その水着って花嫁さんみたいで素敵だね」なんてメーリの本音からの賛辞も入りつつ。
 視界の隅で銀の蝶の群れがちかちかと光を弾いている。
 蝶を捕まえられたら飛び切りいいことが起こる──幸せがやってくる、という言い伝えを思い出す。
「幸せ……折角なら捕まえてみたいな」
 澪が泡のように微かな声で囁いた。
 顔を覗き込んでくるメーリに、澪が一拍の間を置いて告げる。
「あの、ね。僕、結婚の約束してるんだ」
「わあ、おめでとう!」
 やっぱり花嫁さんなんだねとはしゃぐメーリに、澪は眉を下げながら言う。
「でも、やっぱり気持ちも命も……永遠とは限らないものじゃん?」
 どれだけ欲しいと心底思っても、無邪気に永遠を信じられるほど幼くもなかった。
 ある種のマリッジブルーと言えるのかもしれない。
「だから、もし言い伝えに縋っていいなら。今の幸せが、一日でも長く続くといいな、って」
 澪のかんばせに刷かれる憂いの彩。
 そこから翳りを取り除きたくて、メーリはいったん口を噤んでから、祈るように呟いた。
「一日一日を重ねて、幸せが毎日続いたら、いつか永遠になるんじゃないかなあ」
 なんて、結婚なんて程遠い私が言うのもおかしいんだけど!
 冗談めかして取り繕ったメーリだが、声に詭弁の気配はない。
 どちらともなく見つめ合って、笑いがこみ上げてきて、ふたり揃って破顔した。今はこの美しい情景を味わおう、そう思えたから。
「折角なら珊瑚のお城見て回りたい……! 絶対綺麗だもん!」
「賛成! あっちだよ、行こうっ」
 再びふたりは泳ぎ出す。目指すは珊瑚の城、その城門だ。
 門を飾り立てる真珠のオブジェに目を奪われてしまいそう。だがいろんなところに姿を現す蝶々に、興味はすぐに移り変わった。
「蝶は捕まえたいけど、偶然向こうから飛び込んで来てくれることがあれば、その時に大事に捕まえられたらいいかな、なんて」
 宙を見上げる澪の横顔は、透き通るようだ。
 そう、大事に捕まえて、受け止められたらいいと願う。
「そうだね」
 メーリも同じ方向を見て眦を綻ばせる。
「来てくれるといいね」
 話の流れで、自然と蝶の群れが泳ぐのを見ようかと誘い合う。
 澪は金蓮花を揺らして目を細めた。
「お散歩しよ。エントランスから入って順番に……裏庭は最後のお楽しみかな」
「うん。いっぱい見るところあるね、楽しみだね」
「あ、と……広いし、良かったら手繋ご? 迷子防止♪」
「喜んで!」
 手と手を繋げば迷子にならないから、大丈夫。
 ふたりの笑顔は弾けても、うたかたに消えてしまわない。きっとそれもまた永遠のかけらだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァルダ・イシルドゥア
ジェイさん(f01070)と
前に誂えて頂いた水着で参りましょう

不思議ですね
互いの声も聞こえますし、胸が苦しくなることもない
あぶくが弾ける音が耳に籠るのが楽しいです

……まあ、蝶々?水の中で出会えるなんて、

言い掛けて
泡の中に魚とは違う薄羽を見とめて息を飲む

ジェイさん、あれを
すごい、ほんとうに水底にお城が!

降り注ぐ光は雨のよう
あおい影が落ちて、色に溺れてしまいそう

……ご存知ですか?
蝶々は荒々しく捕らえる事も叶いましょうが……ほら、

そっと指先を光の中に差し伸ばす
止まってくれた蝶を驚かさないように
あなたの方へ掲げて見せた
何色でもきっと。今この瞬間の幸いに変わりはないから

ふふ
……しあわせ。訪れそうですか?


ジェイ・バグショット
ヴァルダ(f00048)と

珊瑚の城か…
海中で呼吸が出来るなんて
まるで魚にでもなった気分

帽子とサングラスは外した水着姿

幸運の蝶を捕まえたら良いことあるんだと
虹色は見つけるのが難しいらしい
海中遊泳を楽しみながらの宝探しってワケ

銀の魚群に金の蝶
海底の世界は思ったよりもずっと綺麗だな
さてヴァルダ、どれを捕まえる?

思案巡らせ視線を移した先
指先に止まる蝶に瞳を瞬かせる
優しい所作に口元緩ませ
さすがだな。俺なら考えつかない

ヴァルダに倣ってゆるり指先を差し出す
どの蝶であっても
手にするのは最高の幸運に違いない

…あぁ、お前のおかげだな
とびきりの幸いだ。

こんな時間も悪くないと
その声はどこか穏やかに聞こえたかもしれない



 ひかりの泡沫。
 沈むほどに暗くなるはずの海中で、ふたり揃って光が差し込む水底に降り立った。
 更には海底に聳えるという珊瑚の城。常とは異なる世界の感慨が、少しずつ胸裏に染みていく。
「……海中で呼吸が出来るなんて、まるで魚にでもなった気分」
 ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は息を吸い、吐く。ゆったりとした時間が流れる海に泡が零れて上っていった。
 シンプルでシックな水着姿は、ジェイの居住まいを引き立たせる。ジェイは金の眼差しで周囲を見渡せば、ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)が長い睫毛を伏せていた。白いフリルと青いリボンのワンピース型水着は、ヴァルダに殊の外よく似合っている。
「不思議ですね」
 ヴァルダは耳元に手を添えて、耳を澄ませる。漣の音を聞くように囁いた。
「互いの声も聞こえますし、胸が苦しくなることもない。あぶくが弾ける音が耳に籠るのが楽しいです。……あら?」
 幾度かヴァルダが瞬いたのは、視界の隅を何かが横切ったからだ。それを認識する前に、ジェイが言う。
「幸運の蝶を捕まえたら良いことあるんだと。中でも、虹色は見つけるのが難しいらしい」
 ジェイは口の端に笑みを刻む。
「海中遊泳を楽しみながらの宝探しってワケ」
「……まあ、蝶々? 水の中で出会えるなんて、」
 言いかけて、ヴァルダは息を呑む。
 存在していたのだ。水と泡の中を滑空する薄羽が、明らかに魚とは違う光彩が。
 黄金の蝶が、ひらり。
 そして銀の蝶の群れ。重力なんて無縁だと言わんばかりの幻想的な光景が顕現している。そして、その向こうには瀟洒な珊瑚の城が海底に佇んでいた。
 驚嘆のあまり、思わずヴァルダは口許を押さえてしまった。
「ジェイさん、あれを。すごい、ほんとうに水底にお城が!」
 降り注ぐ光は雨のよう。
 揺らいで、澄んで、満ち溢れ。あおい影が落ちて、色に溺れてしまいそうになる。
 ならば海面に上がろうとする水泡は真珠だろうか。蝶以外にも、銀鱗を翻す魚たちも含めて圧巻の美しさだ。
「海底の世界は思ったよりもずっと綺麗だな」
 吐息が落ちれば泡になる。この光景そのものが何よりの宝物に見えて仕方なかった。
 一拍挟み、ジェイは視線を巡らせ、蝶を捉える。
「さてヴァルダ、どれを捕まえる?」
 どう攻め立てようかと言わんばかりのジェイの口吻に、ヴァルダは蠱惑的に微笑んでみせる。
 そして、ヴァルダは人差し指をそっと持ち上げた。
 光の中に優しく差し出す。さながら止まり木だ。
「……ご存知ですか? 蝶々は荒々しく捕らえる事も叶いましょうが……ほら、」
 じっとしていれば。
 ヴァルダの思惑通り、ひらりと輝きが寄って来た。
 指先に止まったのは金の蝶。
 下手に追いかけて追い詰めるまでもないのだと、今の結果がそう知らしめている。
 止まってくれた蝶を驚かさないように、ヴァルダはそれをジェイに掲げて見せる。ジェイは思わず口許を緩ませた。
「さすがだな。俺なら考えつかない」
「試してみます?」
「ああ」
 ジェイはヴァルダに倣ってゆるり指先を差し出す。
 すると、波打つような銀蝶の群れから数匹やってきた。
 ジェイの長い指先に、指の関節に、手首に。器用に銀の蝶が止まっている。
 色が何であっても今この瞬間の幸いには変わりない。最高の、幸運だ。
 ひかる海、灯るぬくもり。ささやかなのに何よりも眩いものに思えたから、ヴァルダは橙の双眸を蕩かす。
「ふふ。……しあわせ。訪れそうですか?」
「……あぁ、お前のおかげだな。とびきりの幸いだ」
 こんな時間も悪くない。
 そんなジェイの呟きは、穏やかに海にほどけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
(今年の水着着用

サヨ!珊瑚の城があるよ
周りのアレは魚──いや、蝶のようだ
海の蝶々か……美しいね、サヨ
……勿論、いっとうは乙姫の如く水底に咲くきみという桜だが
サヨ?気を確かに!

水嫌いのサヨを宥め支えながら、蝶を探しにいこう
せっかくの散策なのだ……私の巫女が楽しめねば意味が無いからね
歩むのが苦しければ抱えてあげる
私の塞がった両手の代わりになってくれ

果たして海舞う幸を捕まえられるだろうか
銀の蝶を追い、金の蝶へ忍び寄る
きみの桜が舞い散れば桜の蝶が躍るよう
チラと覗くのは虹の
サヨ、虹の蝶だ
幸の化身のようで美しいね
え?捕まえに……?

サヨ、そこだ!

どうだった?
ふふ……捉えられずとも
私の倖は、この腕の中に


誘名・櫻宵
🌸神櫻
(今年の水着着用

私は去年までの私とはひと味違う!
苦手な水にだって慣れて泳げ……カムイが何か言っているけれど、フワフワした心地で気がつけばひょいと抱えられている
私の神様は、ほんに頼りになるのよ

やっと気がつけば、美しい珊瑚の城の中
わぁ……すごいわね!ロマンチック!キラキラしてるのは蝶みたい
カムイ、捕まえにいきましょう!
幸せを捕らえにいくの
任せてー!私があなたの両手になるわ!

いくわよ!走れカムイ!
銀めがけて、金の側へ──そして、遥かな虹へ
歓声と笑顔とが共に舞うのはなんて楽しいのかしら

虹の子も捕まえるわよ
えいっ

泡沫のように消えてしまえど
刻まれ消えない倖はある
笑うカムイの横顔に頷く

ええ
倖は此処に



 天から注ぐ光の梯子は、あたかもふたりを海底へ誘うようだ。
 朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)は黒鳥の紋付き袴の装いに、誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)は神仙の佇まい。どちらも厳かな清しさがあり、透くように美しい。
 髪を手櫛で梳いて後ろに流したカムイは、目の前に聳える珊瑚の城を指差した。
「サヨ! 珊瑚の城があるよ。周りのアレは魚──いや、蝶のようだ」
 目を凝らす。泳ぐのは銀鱗の魚群かと思いきや、同じ銀でも蝶の群れらしい。
 波を織りなす銀は絹布にも似て、光が差せば鏡の欠片のように閃いた。
「海の蝶々か……美しいね、サヨ。……勿論、いっとうは乙姫の如く水底に咲くきみという桜だが」
 カムイが噛みしめるように囁く。
 が、空白が落ちる。その時ようやく思い至って、カムイは櫻宵の顔を覗き込んだ。
 力強くこぶしを握る櫻宵は、震える脚を叱咤して宣言する。
「私は去年までの私とはひと味違う!」
「サヨ? 気を確かに!」
 そうだ。櫻宵は水嫌いなのだ。こうして海中にいるだけである種奇跡のようなものだったのかもしれない。
 呼吸が出来る分幾らかマシと思えればいいのだが──カムイは櫻宵の背を支え、肩を撫でて宥めてやる。せっかくの散策だ、私の巫女が楽しめねば意味が無いからね、とカムイは浅く頷いた。
「苦手な水にだって慣れて泳げ……」
「歩むのが苦しければ抱えてあげる」
 言いかけた櫻宵を身体ごと掬い上げる。抱きかかえる格好で、カムイは櫻宵を見詰めていた。
「ふふ。私の神様は、ほんに頼りになるのよ」
 ようやく櫻宵も人心地ついたのだろう。花脣に笑みを刷き、視線を流す。
 辿り着いたのは珊瑚の城のエントランス。
 櫻宵の表情がぱあっと華やいだ。
「わぁ……すごいわね! ロマンチック! キラキラしてるのは蝶みたい」
 珊瑚の城を住処にしているのだろうか、先程見かけた蝶よりも更に数が多い。群れを成すのはやはり銀の蝶、時折金の蝶が優美に翅を広げて飛んでいる。
「カムイ、捕まえにいきましょう! 幸せを捕らえにいくの」
「ああ。私の塞がった両手の代わりになってくれ」
「任せてー! 私があなたの両手になるわ!」
 意気揚々とふたりはエントランスに踏み入った。
 通路を往く。真珠のシャンデリア、流木の出窓。そんなものを眺めているうち、期待が高まるのも当然のこと。
「果たして海舞う幸を捕まえられるだろうか」
「いくわよ! 走れカムイ!」
 櫻宵が発破をかければカムイが喉を鳴らす。言われるがままに駆けだして、銀の蝶を追い、金の蝶へ忍び寄る。
 手にそっと閉じ込めるたびに歓声が上がり、桜が咲き、笑顔が舞い踊る。桜の蝶がいるみたいで、胸いっぱいに愉しさと歓びが満ち満ちて、はちきれないのが不思議なくらい。
 ──そして、遥かな虹へ。
 ふたりの頭上、光によって虹蝶の輪郭が浮かび上がる。
「サヨ、虹の蝶だ。幸の化身のようで美しいね」
「虹の子も捕まえるわよ」
「え? 捕まえに……?」
 吃驚するも、カムイとてやる気満々の櫻宵を咎めるつもりは毛頭ない。水を蹴って虹の蝶に近付いて、機を見計らう。
 一拍置いて、それから。
「サヨ、そこだ!」
「えいっ」
 間一髪、虹の蝶は逃してしまったものの、きらめきの名残だけは美しく降り注ぐ。
 どちらともなく視線を交えて、微笑みあって。
 幸せに真直ぐに手を伸ばすことがどれだけ尊いことか。海中に在って花開く、爛漫のきらめき。
 だからだろうか。
 虹の鱗粉は優しく優しく、ふたりの世界を包んでいるような心地になる。
 泡沫のように消えてしまえど、刻まれ消えない倖はある。
「どうだった?」
 心理を問うてはいるが、実のところ返事に関わらずこの気持ちは変わらない。
 それは櫻宵も同じこと。笑みを浮かべるカムイの横顔に、櫻宵は頷いてそっと寄り添った。それだけで全部わかった。
「ふふ……捉えられずとも。私の倖は、この腕の中に」
「ええ。倖は此処に」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・八重
【比華】

あらあらまぁまぁ
今年のなゆちゃんの水着の姿も素敵ね
舞を舞う天使
ふふっ、いけない子ね
誰を虜にするのかしら?
いつまでもうっとり見つめてしまうわ
えぇ、誰にも捕まらせないわ
その手を貴女を捕らえるのは私だけ

彼女の手を取り、海の中へ
本当に息が出来るのね
海の中をなゆちゃんと歩くなんて
幸せな事ね
蝶々舞っているわ
えぇ、楽しいわ
このまま時間が止まればいい程に

銀の子、金の子も美しく可愛らしいわね
幸せを運ぶなんて良い子達
なゆちゃんは何処の子がいいかしら?
私のよう?ふふっ、嬉しいわ
でも私はきっと毒のある蝶かしら?

私は……虹色の子を捕まえようかしら?
貴女の幸せが私の幸せ
虹の子を捕まれたら、この蝶の様に貴女を永遠に捕らえられるかしら?
えぇ、終わるのはつまらない
捕らえられないのもなゆちゃんらしい

捕まえても逃げても
私はこの手を離さない
ふふっ、まだまだ時間はあるものね
戯れましょう、いつまで何処までも
愛してるわ、私のなゆちゃん
永遠の時間を共に


蘭・七結
【比華】

此度も麗しいお姿ね、あねさま
あなたの美しさに釘付けになってしまうわ
お褒めの言葉に胸が高鳴るかのよう
ひらり、ふわりと舞い立ててしまいそう
その時は捕まえてくださる?なんて

蝶と魚と、わたしたち
不思議な空間、幻想的なひと時だわ
確と指さきを編んで游ぎましょう
ねえ、あねさま。とっても楽しいわ
あねさまのお心は如何かしら

共に在る幽世蝶――ランとは違う姿の蝶々
わたしは、黄金を纏う黒の蝶を辿ろうかしら
あねさまのようで、目で追ってしまうの

あなたと共に、ずうと在れたのならば
それは甘美で蠱惑的な時間になるでしょうね
ふふ、捕らえ終えてしまえば、つまらないでしょう?

あなたを翻弄できるのは、わたしだけなのだと
言葉に成さない想いと共に含み笑む

――さあ、あねさま
もう少し先まで、共に游ぎましょう?
愛おしい時間が終わってしまうのは、惜しいもの

手を引いてくれた、あなたの手を引き返して
今、このひと時に浸りたい



 マリアベールに透く嫣然と、朱咲かす可憐。
 お互いに、否、誰から見ても麗しいふたりは、光差す海中に在って殊の外目を惹いた。
「あらあらまぁまぁ。今年のなゆちゃんの水着の姿も素敵ね」
 淑やかに舞い踊る天使のようという蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)の感慨は、決して身内贔屓から来る類のものではない。
 あまりに魅惑的で、いつまでもうっとり見詰めてしまって仕方ない。
「ふふっ、いけない子ね。誰を虜にするのかしら?」
 八重の繊手が蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の頬に触れると、七結は柔くはにかんでみせた。
「此度も麗しいお姿ね、あねさま。あなたの美しさに釘付けになってしまうわ」
 八重の賛辞に七結の胸が高鳴る。
 浮足立ってひらり、ふわりと舞い立ててしまいそうで。
「その時は捕まえてくださる? なんて」
「えぇ、誰にも捕まらせないわ。その手を貴女を捕らえるのは私だけ」
 手と手を取り合い、確と指さきを編んで游いでいこう。
「本当に息が出来るのね」
 不思議な感慨に浸って、八重は小さく囁いた。
 群れ成す銀の蝶、横切っていく鮮やかな魚たち。そして、ふたり。
「不思議な空間、幻想的なひと時だわ」
 胸に何かがこみ上げてきそうで、七結は吐息を零す。泡が水面を求めて緩やかに上っていく。
「海の中をなゆちゃんと歩くなんて、幸せな事ね」
 取った手の指を絡める。どちらともなく微笑んで、そっと肩と肩を寄せ合った。
 陸でなくても確かに感じられる絆があって、それがどうしようもなく幸せだった。
「ねえ、あねさま。とっても楽しいわ。あねさまのお心は如何かしら」
「えぇ、楽しいわ。このまま時間が止まればいいと願う程に」
 一緒に溺れてしまっても、なんてことを考えてしまいそう。
 けれどふたりは泳いでいく。手を繋いで向かう先に、きらめきを見出していたから。
 銀の蝶は織物のように棚引いて、金の蝶は縫い針のようにまなうらを刺す。
 共に在る幽世蝶──ランとは違う姿の蝶々を眺め、七結は双眸を細める。
 そんな七結を見て、八重もまた眦を緩めた。
「銀の子、金の子も美しく可愛らしいわね。幸せを運ぶなんて良い子達」
 寄って来た一匹の銀の蝶が八重の指先で泡沫となる。それを見届け、七結に何気なく問いかけた。
「なゆちゃんは何処の子がいいかしら?」
 七結はふと瞬く。間を置くかと思われる一拍の後、迷いなく告げる。
「わたしは、黄金を纏う黒の蝶を辿ろうかしら。あねさまのようで、目で追ってしまうの」
 大切に抱えた宝物を紹介するような響きで言うから、八重は花笑みを浮かべる。
「私のよう? ふふっ、嬉しいわ。でも私はきっと毒のある蝶かしら?」
 触れれば消える光の蝶とは違う。息衝いて、花開いて。黒薔薇は咲き誇っている。
 それを理解した上で、七結は「あねさまはどんな子が良い?」と尋ねてみた。
 ふたりの視線が自然と持ち上がる。
 天から降り注ぐ光に、虹色の輪郭が浮かび上がっていた。
「私は……虹色の子を捕まえようかしら?」
 八重の視線がゆっくりと引き戻され、今度は七結に結ばれる。
「貴女の幸せが私の幸せ。虹の子を捕まれたら、あの蝶の様に貴女を永遠に捕らえられるかしら?」
「あなたと共に、ずうっと在れたのならば。それは甘美で蠱惑的な時間になるでしょうね」
 不意に落ちる静寂。
 それは穏やかで、あたたかで、なのにひどく清冽だ。
 七結は花脣に人差し指をあてて言う。
「ふふ、捕らえ終えてしまえば、つまらないでしょう?」
 あなたを翻弄できるのは、わたしだけ。
 言葉に成さない想いと共に含み笑めば、それを見た八重もまた微笑を刷く。
 |私《わたし》だけ。
 八重の前言が丁寧に繰り返されたような感覚だった。
「えぇ、終わるのはつまらない。捕らえられないのもなゆちゃんらしい」
 だから、八重は繋いだ手に力を籠めて、誓いのように囁いた。
「捕まえても逃げても、私はこの手を離さない」
 七結はそれを聞いて僅かに瞠目し、眩しそうに目を眇めた。
 まるで赤い糸を紡ぐように結ばれるものがある。
 それを断ち切ることなんて永劫ありはしないのだから。
「──さあ、あねさま。もう少し先まで、共に游ぎましょう?」
 愛おしい時間が終わってしまうのは惜しいものと告げたなら、八重は鷹揚に頷いた。
「ふふっ、まだまだ時間はあるものね。戯れましょう、いつまでも何処までも」
 ──愛してるわ、私のなゆちゃん。永遠の時間を共に。
 ──手を引いてくれた、あなたの手を引き返して、今、このひと時に浸りたい。
 光揺らめく海中で、ふたり一緒に咲いていられますよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年07月29日


挿絵イラスト