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憧憬演武

#アルダワ魔法学園 #【Q】 #戦後 #ダンジョンメーカー

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#アルダワ魔法学園
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#【Q】
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#戦後
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#ダンジョンメーカー


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●憧れのダンジョンメイキング
「新しい世界が見つかったとこではあるんですけどね。アルダワ魔法学園の地下に、まだ災魔がいるんですよ。……ってこれ前も言ったな」
 セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)はそう言って、青い鳥の羽の形のグリモアを右手の上に浮かべた。
 その表情に迷いも曇りもない。
「あー……だから、もうみんな識ってるかもしんねーですし。焼き直しんなりますが」
 大魔王が封印されていた『ファースト・ダンジョン』に隠し階段が見付かり、その先に『最初の魔法装置』たる『ダンジョンメーカー』が発見された。そして大魔王を倒したことにより、その装置は本来の役割を取り戻した。
「その本来の役割ってのが、強大な災魔を一体強制的に召喚して、その周りに『迷宮』を作っちまう、ってこと。だからコイツを利用しましょうってな話です」
 それを使用すれば、地下迷宮のどこかに潜む災魔をひとり、強制的に引っ張り出せるということだから。
 セロはそう言うと集まった猟兵たちへとラフタッチの肖像画を1枚見せた。
「おれの予知で見えた災魔はコイツ。『未完の』イーディス。ある人形師が娘として造り上げ……ようとして、途中で人形師の命が尽きちまったらしいです。羨望と憧憬から、足りねー部分を別の人形で補い動く存在です」
 ミレナリィドールであるセロも思うところがあるのか、語調は微か弱くなる。
 けれど、だからこそ彼は笑顔を向けた。左頬のハートのペイントが歪む。

「……あんたの憧れはなんですか?」

 ダンジョンは思念反応型で形成される――つまり想像するだけで創造されるということだ。
 だから憧れの場所や憧れの姿を想像すれば、その気配に災魔・イーディスは惹き寄せられるはず。
 「あとは」セロは人差し指を立てて片目を瞑って見せた。焼き直しというからには、同じ仕掛けが必要だ。
「良けりゃ、『新しいユーベルコードを使うためのダンジョン』を考えてみませんか? いえ、もちろん好きなダンジョンを創ってもらっていいんです。けど、考えるだけで生み出せるなら……思い掛けねー技を使えるかもしんねーですよ」
 まあ、その技を『ちゃんとモノにしねーと』、敵にゃ通じねーでしょうけど。
 相変わらずあっさりとそう告げて、彼は締めくくる。
「そんじゃ、良い冒険を」


朱凪
 目に留めていただき、ありがとうございます。
 ワクワクハテナボックス2、朱凪です。

※まずはマスターページをご一読ください。

▼第1章について(冒険)
 『憧れ』をテーマに、『こんな場所でUCを生んだなら』というスタンスでダンジョンに思いを馳せてみてください。
 それは『過去』で『あの時の俺に別の力が……』でも良いですし、それは『在り得ない世界』で『この世界ならこんな力が……』でも構いません。

 『00』~『99』の数字を記載していただければ、朱凪側で用意したリストに則り新しいユーベルコードを作り出します。
 ダイスを転がすのと同じような感じになりますので、思い掛けないような形になるかもしれません。アイテムとか性格とかを見てそれらしい感じで整えたいと思います。
 もちろん、『絶対こういうユーベルコードを生み出す!』という意志のプレイングも歓迎です。(その場合数字は不要です)

▼第2章について(ボス戦)
 第1章で作ったユーベルコードは、『システム的に作成された場合を除き』使えませんので普通に戦闘をどうぞ。
 あくまで2章はお遊び的な取り扱いなので、ユーベルコードの作成を強要するものでは決してありません。新しい一面探しの一助にどうぞ。

▼進行
 タグにて募集期間等を記載します。
 無理ない範囲の採用にしようと思うので、全員採用はお約束できません。すみません。

 では、憧れ詰めたプレイング、お待ちしてます。
200




第1章 冒険 『ダンジョンメーカー』

POW   :    肉体や気合で突破するタイプのダンジョンを創造してみる

SPD   :    速さや技量で突破するタイプのダンジョンを創造してみる

WIZ   :    魔力や賢さで突破するタイプのダンジョンを想像してみる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アルクス・ストレンジ
憧れは何かって問いに
思わず足止めて来ちまった
他の世界のことはよく知らんが
まあ、何かの経験にはなるだろ

必要なのは想像だったか?
新たなUC、曲…ああ、心当たりが一つある

【ヘリオライト】
オレはこの曲の演奏はできるが
UCとしては発動できない
たぶん、光の意志と希望ってやつを
理解しきれてないんだろう

なら、新曲を作っちまえばいい
聴衆を圧倒するなら
別の想いだっていいはずだ

ギターを手に
定命化に繋がったイメージを呼び起こす

モノクロがカラーに変わるような
鈍色の雲が捲れて晴れていくような
人形に心が宿るような
地球への憧れが起こした、不可逆の変化を

具現したダンジョンにて
心の赴くまま弦を掻き鳴らす
たとえ、どんな光景の中でも



●アダマス
 長身からの視線をきょろと巡らせ、アルクス・ストレンジ(ドラゴニアンのミュージックファイター・f40862)は肩に担いだギターケースの帯を握った。
 周囲はがらんとした空間ではありつつ、あちこちで歯車の軋む音が聞こえる。『地球』ではない世界。彼にとっては馴染みのない場所ではあるが。
 憧れを問うグリモア猟兵の問いに、思わず足が止まった。
「……まあ、何かの経験にはなるだろ」
 呟き、ギターケースから相棒を取り出した。彼はミュージックファイター。放つのは音楽。それは戦うためのものではないが、戦うための力に相当するほどまで昇華された音色。
 全ての経験は、音や詞を紡ぐための糧となる。
 ぽん、と弦を一本弾いた。必要なのは『想像』だったか?
──新たなユーベルコード、曲……ああ、心当たりがひとつある。
 『ヘリオライト』。ケルベロスディバイドにて広く巷間に聴かれている名曲だ。もちろんアルクスも演奏はできる。けれど。
──オレはこの曲を、ユーベルコードとしては発動できない……。
 曲に篭められた光の意志と希望に、圧倒された対象全員にダメージと畏怖を与えるその一曲。すぐ脳裏に旋律が浮かぶ。アルクスは静かにかぶりを振った。
──たぶん、光の意志と希望ってやつを理解しきれてないんだろう。
 ケルベロスディバイドに、ヘリオライトは存在しない。なのに魂に刻まれたみたいに伝わる、その名。まさしくそれが、アルクスが理解できないと感じている『それら』そのものなのだろうとぼんやりと判る。
 だからと言って、諦めはしない。

──なら、新曲を作っちまえばいい。
「……聴衆を圧倒するなら、別の想いだっていいはずだ」

 一旦ネックを握り、瞼を伏せる。定命化に繋がったイメージを呼び起こす。あの、痺れるような。あの、鮮やかな。
 あの、胸が締め付けられるような。
 |螺旋忍軍《デウスエクス》だった彼が、離反してまで求めた憧憬。
 虚しさすら覚える空虚だった場所が、彼の意識に応じて変化していく。
 それはモノクロがカラーに変わるような。
 鈍色の雲が捲れて晴れていくような。
 人形に心が宿るような。
 雲の形は同じになることはなく。空から射し込む陽光。無数の色彩を孕んだ柔い黄金の輝き。彼の眼前には、地球の象徴たる蒼い海の水平線が広がった。
 地球への憧れが起こした、不可逆の変化。巻き戻すことはもう出来ない……それが故に愛おしい。
 だからこそ護る。だからこそ、侵させない。征服、させない。
 自然と指先が走り出す。旋律に合わせて歌が喉を滑り出す。
 大地の広がりが故に反響は難しくても、吹き付ける潮風の中、彼は歌い続けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウ・リバーサイド
88

最初に思うのは大劇場
でもこれは『好き』なだけだ

憧れ…か
俺は役者で
何色にでも染まれて
でも何色も持っていない

だから色(自分)を持つ人に憧れる

舞台の上に組み上がる喫茶店のカウンターのセット
衣装が白ワイシャツに黒ベストへと
未だ朧な記憶の底から覗く影

演じてみせろってことか
言葉を仕草を真似ながら思い出していく

「接客を教えてくれって?
…君は茶葉に詳しかったよね
代わりに俺に教えてくれないか
それで講義料は無し、でさ」

「次のイベントにお出しする鴛鴦茶の試作なんだ
味見いいか?」

「俺は裏方作業が好きなんだろうな」

人懐っこくて
フットワーク軽くて
人を楽しませることが大好きで

「俺の城…ていうのはちょい違うな
ここは共有空間なんだ
訪れるお客様の一人一人の想いの
俺は時折、珈琲でそれを彩らせてもらうだけだよ」

「誰でも帰って来れる場所として
ここを守っていきたい
お前もそうだ
俺にとっての最初の弟子なんだぞ
守りたい
大切な存在だよ」
子供(当時の俺)の髪をくしゃっと撫でて

…先輩、やっと思い出したよ
叶うならあの珈琲色を思わせるUCを



●|珈琲色の感応《ファースト・カラー》 
 歯車の音がそこかしこから軋むがらんどうの空間に辿り着いたユウ・リバーサイド(壊れた器・f19432)は、静かに息を吸って、吐いた。
 目の前に一瞬にして現れたのは、大劇場の舞台だった。深い紅の緞帳。幾多と並んだ照明。そして舞台の前に整然と並ぶ客席。
 演じることが好き。
 試行錯誤の不器用に過ぎる生き方の中で、それでもずっと失わなかった『好き』。複雑な思いを胸に、軽くユウは首を振る。
──これは、『好き』なだけだ。
 必要なのは、『憧れ』──。
「俺は役者で」
 ぽつりと零した言葉は、客席に向けて広がる形の舞台の上。自然と半身を並んだ座席へと向けた。だから何色にも染まれて、でも何色も持っていない、……モノクローム。芯まで役者の己に苦笑する。
「……だから|色《じぶん》を持つひとに憧れる」
 それは独白。脳裏に過るのは、白いワイシャツと黒のベストの……。
「!」
 気付けば自らの服が、衣装が、それと同じものに変化していることに気付いて思わずユウは目を見開いた。周囲にはいつしか見事に磨き抜かれた一枚板のカウンター。並んだコンロに掛かるやかん。並んだ珈琲豆の袋。鼻腔をくすぐる芳ばしい薫り。
(接客を教えてくれって?)
 軽く眉を上げた、未だ朧な記憶の底。その声を聴いた気がした。
──演じてみせろってことか。
 引っ張り上げる、覗く影。言葉を、仕草を。ひとつ、ひとつ、思い出して。カウンターの奥へと落ち着いた足取りで回り込んだ。ああ、そう。……いつだって、笑顔で。
「接客を教えてくれって?」
 少し悩むように小首を傾げて。カウンターに乗り出すように腰を折る。ああそう、|視線《ヽヽ》を合わせたんだ。
「……君は茶葉に詳しかったよね。じゃあ代わりに俺に教えてくれないか。それで講義料は無し、でさ」
 共に過ごした日々。
 カウンターにグラスを置く。からんと氷の音が鳴る。
「次のイベントにお出しする鴛鴦茶の試作なんだ。味見いいか?」
 お前にはこれが要るかな? なんて揶揄う口振りで練乳を添えて。
「俺は裏方作業が好きなんだろうな」
 偽りのない声で、珈琲豆を挽くまた別の日を再現する。再演する。足取りは軽く。笑顔は人懐こくて。……ひとを楽しませることが大好きだって、見ているだけでも伝わるような。
 ん? と、小首を傾げる。そう、訊かれたんだ。んー……、と、少し視線を上にやって、それから下ろして。
「俺の城……ていうのはちょい違うな」
 喫茶店の内装を、いとおしげに見遣る。今は居ない客が座るカウンターの椅子を、穏やかに見つめる。
「ここは共有空間なんだ。訪れるお客様の一人一人の想いの。俺は時折、珈琲でそれを彩らせてもらうだけだよ」
 嬉しそうに。流れるようにカウンターにひとつ、珈琲カップを置いた。
「誰でも帰って来れる場所として、ここを守っていきたい。……お前もそうだ」
 悪戯っぽく、見つめる高さ。大人の目線にしては低い場所。
「俺にとっての最初の弟子なんだぞ。守りたい、大切な存在だよ」
 そして手を伸ばして、くしゃっと撫でる黒髪。──あの頃の、……俺の。
「……」
 視界が潤む気がした。役者の意地にかけて頬には流さない。声は震わせない。それでも胸に満ちる温かさと、間違いようのないあの香り。

「……先輩、やっと思い出したよ」

 そっと触れた|カウンター《対象》に、暖かな珈琲色の光が宿った。それは見た者にとっての思い出の幻影を模り──懐旧の念を懐かせることだろう。その懐旧を克服するまで、ユーベルコードを使用することはできないだろう。
 忘れた過去を、取り戻すための一歩。
 過去を見つめて、先に進むための。
 ユウはカウンターから手を離し、静かに指を握り込んで、己の胸に添えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

風花・ゆきみ
ダンジョンの広がる学園地下……
なんだかワクワクする冒険の世界なのでありますね!
故郷は勿論、様々な世界で経験を積みたいですし
私も迷宮に向かうのであります!

自分で作れるとしたら何にしましょうか
どうせなら思いっきり夢物語の世界にしたいのであります
猟兵の向かえる世界にはお伽の国もありますよね
あのようなイメージです!

みんなが銃じゃなくて魔法を手にとって
怪我や病気を治せる魔法もあって
綺麗な花が咲いていて、住民達は手を取り合って……
ファンタジーな部分は難しくとも、そういう理想はいつだって追いかけたいのであります
そしてそんな世界を実現できるよう、私も精進したいのであります!

※数字は「24」
なんでもお任せします



●|本当にしてみせる《ユメミルセカイ》
 ぱたたたた……と羽ばたき、学園地下に広がるダンジョンを風花・ゆきみ(戦場の綿雪・f39971)は進む。きょろきょろとつぶらな瞳で周囲を見回し胸を躍らせた。
「なんだかワクワクする冒険の世界なのでありますね!」
 軋む歯車。想像するだけで創造される迷宮。彼女が生まれ育った世界とはかけ離れた場所。でも、怯むことはない。だって様々な世界で経験を積みたいから。
──私も迷宮に向かうのであります!
 ととっ、と地面に降り立ち、さてとゆきみは小首を傾げた。想像する、憧れ。
「……どうせなら、思いっきり夢物語の世界にしたいのであります」
 戦場に立つ前に見た、絵本のような。猟兵になって世界を渡り歩けるようになって知った、お伽の国のような。
「わぁ……!」
 絶対に生えるはずのない無骨な空間へ瞬く間に、にょきにょきと緑が芽吹き、色とりどり、形も様々な花が咲いた。木々も青々と葉を茂らせ、温かな陽光が届く。花が笑い、かかしのような姿がゆきみに対して手を振る。
「やあ、迷子?」
「ち、違うのであります! 私はこの迷宮を探索に」
「そう! 困ったなら呼んでよ! 手伝うからさ」
 ぴぴっと翼を顔の前で振って見せたゆきみに、かかしが大きく手を広げ、花々もそうよそうよと口を揃えた。森の奥から現れた狼もゆきみを見て「どこに行きたい? 乗っていくか?」と訊ねるし、ゆきみよりもずっと大きな姐御肌のとんびは、
「手が足りないなら声を掛けな」
 と笑って嘴を上げて見せた。
 その光景に。少し、ゆきみは唖然としてしまった。
──こんな、世界もあるのでありますね……。
 みんなが銃じゃなくて魔法を手にとって、怪我や病気を治せる魔法もあって、綺麗な花が咲いていて、住民達は手を取り合って……。
 ゆきみは顔を上げる。故郷をいきなりファンタジーな世界に塗り替えることは難しくとも。そういう理想はいつだって追い駆けたいのであります。
 そして、そしていつか。

──そんな世界を実現できるよう、私も精進したいのであります!

「では、お喚びした際には、支援をお願いしたいのであります!」
「いいとも。きみの羽根を風にお流し。そしたら馳せつけてあげよう」
 これは契約ではない。彼女と異世界のお友達の、羽根を介した約束だ。幻想世界の、技能のひとつを極めたお友達を喚ぶことのできる|約束《ユーベルコード》だ。
 その使い道はきっと、戦場だけじゃないから。
「心強いのであります!」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜乃院・藤
【黄昏双子】
おれ達はふたりで一つ
姉さんと最強のUCを作るんだよ……

おれ、廃墟探索したい(きらん)
森の中にある廃墟館とか浪漫だと思うんだよ
ざざざと変わる視界におめめぱちくり

おー、こうなるんだ…
若干の不気味さも覚えるね…
……姉さん、尻尾尻尾
ん、離れないようにしようね
手を繋ぐと安心
いつだって姉さんはおれに勇気をくれる

柱に絡まった草花に歴史を感じる
上に登って、カンカンと足音を聴きながら嬉しくなる
音楽会だね…いーよね、自然の音
ガラクタ大好きでコレクトする
歯車とかの小さなパーツとか小物とか好き

発見におめめきらきら

UCは出来るなら
出来たガラクタを有効活用する系もしくは探索に強くなる系でお任せ

【84】


杜乃院・楓
【黄昏双子】
ふたりでひとつの双子
さぁどんなUCが飛び出すか楽しみである

森の廃墟
べ、べ別に怖くなんてないのだ(尻尾膨らむ
わぉ!床がキィっていったのだ!
迷子にならぬよう手をつなぐである…

ホントは怖がり臆病猫
でもトウとならどんな冒険にも飛び込める
これもホントなのだ
辛い時も寂しい時も二人で一緒に乗り越えてきた
大人になったけどこの手は離したくないな…

瞳をキラキラさせるトウにつられ破顔
もう怖くない
トウの足音にあわせステップ
カンココン
ひゃー大音楽会であるな♪
蔦はくねくね踊る賑やかし
崩れ壁からの空気も心地良い
良き
おお!箱からキラキラ発見
好き:ひかりもの、しゃかしゃか、おさかな

UC『回復のみ×』でお任せ

【83】



●|噛み合う歯車《ギアズ・メッシュ》
 いつも通り、仲良し双子。
 初めましての世界も、ふたり並んで踏み出した。きり、きり、と回る歯車の壁。だだっ広い無骨な空間は、想像するだけで新しい景色が創造されていくのだそうだ。
「姉さん、おれ、廃墟探索したい」
 きらん、と杜乃院・藤(狼纏ノ羊・f40933)の眠そうな目の奥に悪戯気な光が宿った。
「森の中にある廃墟館とか浪漫だと思うんだよ」
「も、森の廃墟」
 大切な弟の科白に、ぴくりと三角の耳が跳ねた。杜乃院・楓(気紛レ猫ハ泡沫夢二遊ブ・f40934)の脳裏に思い描かれた、藤と同じ光景──。
「わわっ!」
「おー、こうなるんだ……」
 ざざざざざ……ッ! と足許から滑り出すみたいに世界が変わっていく。ふたりのブーツは背の高い下草に潜り込み、目の前には壊れて片方の扉が外れ掛けている洋館の入口が、薄暗い闇を覗かせている。
「若干の不気味さも覚えるね……」
「べ、べ別に怖くなんてないのだ」
 ぱちくり、瞳を瞬いた藤の呟きに、尻尾をぶわわと膨らませた姉が必死な様子で胸を張った。
「……姉さん、尻尾尻尾」
「わっ我輩の尻尾は元々こうなのである!」
 そっかと藤は追及をやめ、歩を進めて欠けてぼろぼろの玄関の石段を上がった。蝶番の壊れた扉から中を窺うと黴臭い空気が鼻腔に届く。奥の壁は崩れているのか、光が見える。なにかが動く気配はない。
 ぎぃと扉を押して、廊下に一歩。
「わぉ! 床がキィっていったのだ!」
 尻尾どころか耳の毛も逆立てて身を竦める楓。廊下は擦り切れた赤絨毯だが、その下は木材らしい。腐り果ててはいないようで、体重を乗せても今のところ抜け落ちることはなさそうだ。「……」ぷるぷると震えながら、そっと楓は藤へと手を差し伸べた。
「ま、迷子にならぬよう手をつなぐである……」
「ん、離れないようにしようね」
 そこに伸びて来るのが当たり前みたいに藤はその手を繋いだ。
──ほ、
 と。
 息を吐いたのは、胸にあたたかさが灯ったのは、ふたり同時。
──いつだって姉さんはおれに勇気をくれる。
 そっと前を向いて更に歩を進める藤の斜め後ろ、いつの間にかほんのり下がっていた楓の耳がぴこりと跳ね起きた。本当は怖がりで臆病だけど。
──でも、トウとならどんな冒険にも飛び込める。……これもホントなのだ。
 つらい時も寂しい時もふたりで一緒に乗り越えてきた。世界を救う、その瞬間も。
 言葉通りに浪漫に瞳を輝かせるその横顔。それを見ていると、怖いと感じた気持ちも潮が引くように消えていく。きゅ、と楓は握る手に力を籠めた。
──大人になったけど、この手は離したくないな……。

 廊下に規則的に並ぶひび割れた石柱には、蔦が絡まり喰い込んでいる。
「すごい……歴史を感じるね」
 辿り着いた屋敷の奥は想定通り一方の壁が大きく崩れて、周囲を取り囲む森の木漏れ日が射し込み、清しい風が吹き込んできていた。
「うぅん……、良き!」
 館の最奥では、壁に沿ってぐるりと鋼の階段が上へ上へと続いている。最初はおっかなびっくり爪先を乗せた双子は、安全を確認すると跳ねるようにそれを駆け上がった。カンカン、ココン。
 どちらからともなく顔を合わせたなら、相手の嬉しそうな笑顔がそこにある。
「音楽会だね……いーよね、こういうの」
「ひゃー、大音楽会であるな♪」
 崩れていない壁沿いの石段では、ふたりの足音が反響し谺する。カンコンコココン。だって塔の上には『宝物』がお約束。足取りが跳ねるのは仕方ない。
 想像が創造される場所だ。果たして階段の端、森を俯瞰することができる狭い展望室には、絵に描いたみたいな『宝箱』があった。
「開けて、開けるのである、トウ!」
「ん、……あ、わ」
「おお! キラキラ発見!」
 中には箱いっぱいの……ガラクタ。黄金の歯車や、鋼の小さな鍵、螺子。そうしたものが好きなトウは、我知らず口許に笑みを浮かべてその中に掌を差し入れた。その感覚。ああ、そう、新しいユーベルコード。
 気付けばそのガラクタは歪な形に組み上がり、黄金の歯車や鋼の螺子の魚を、言わば喚び出すことができた。ぎりぎりと音を立てながらも、魚は空を泳ぎ上がった。
「おお!」
 目を丸くする楓の前でガラクタの魚は大きな窓から塔を脱け、無数の歯車を放つ。いくつもの枝が落ち、その着弾点には巨大な歯車が浮かび上がった。ぴん、と楓の尻尾が立つ。ほとんど無意識に窓枠に足を掛け、楓は空へと飛び出した。
「姉さん!」
 藤の悲鳴。けれど楓の踵は浮かんだ歯車を確かに踏んで、空を走った。短杖を差し伸べたなら、弟が放ったガラクタ魚の散らした歯車が寄り集まり、振り抜けば鋭い斬撃が奔り抜けた。

 ふたりでひとつの双子。
 きみがいるから放つことができる技。

 歯車の足場が消える前にくるんと太い樹の枝に降り立って楓は塔の藤へと満面の笑みを向け、藤は安堵の笑みを浮かべたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロム・ハクト
⁸⁹
憧れか。
今ある自分が研鑽を積み行き着いた先を指すなら、猟兵として、咎人殺しとしてより確実に務めを果たす姿、そのための力(UC)になるだろうか。
それとも自分が持たない物に惹かれるのを憧れというなら、戦う力とは異なる物、仲間や自身を助けるものになるか、例えば、癒す力とか。

生み出されるダンジョンはトラップ型。
敵の攻撃を想定しても良いだろうし、補助的なもの―癒しや身体能力の向上を試すにも良さそうだ
もしかしたら普段拘束具なども駆使して戦う自分のいつもの無意識が影響したのかもしれない。
ここで新たに生み出すとしたら、…これだな。

表立っての活動にブランクあるためこの機会は好都合と感じている
アドリブ、絡み可



●柩彩る白き花
 目の前に広がっていくのは、歯車が噛み合い組み合わさった迷宮。クロム・ハクト(黒と白・f16294)はゆらりと尾を揺らして天井まで壁の伸びた迷路を覗き込んだ。
 なにが待っているのだろう。
 表に出る感情はやや乏しく見えたとしても、元より彼の好奇心は旺盛だ。相棒のからくり人形と共にクロムは一歩を踏み込んだ。途端、
「!」
 地響きを立てて床の一部が崩れ落ちた。もちろん跳んでクロムは難を逃れた。しかし降り立った瞬間には巨大な鉄球が迫り、それも瞬時に壁・床・天井、隙間の有無を確認して滑り込み避けた。
「……矢継ぎ早だな」
 軽く息を吐き、ほんの僅か瞼を伏せ、開く。久し振りの肩慣らしとしては丁度いい。クロムは楽しみつつも冷静に、罠だらけの迷宮を駆け出した。
 ひょいとトラバサミを避けた先で、己自身もよく用いる手枷が飛んで来る。いつもの自らの戦闘方法が無意識の想像に反映されたのかもしれない。それは、クロムが咎人殺しとしてオブリビオンと向き合うために得た力。
「憧れか」
 それが今ある自分が研鑚を積み、行き着いた先を指すならば。
──咎人殺しとしてより確実に務めを果たす姿、そのための力になるだろうか。
 先の戦争で、彼の故郷たる闇の世界のオブリビオン・フォーミュラは撃破した。しかしすぐにオブリビオンがすべていなくなるわけではないし、なにより世界はひとつではないのだ。
「く、」
 食い込んだ拘束ロープに気を取られた途端、飛んで来たナイフの群れに裂かれた皮膚。致命傷は避け、鋭く走らせた与奪の糸でロープを斬り、たたらを踏んだ。
──それとも……俺が持たないものに惹かれるのを憧れというなら。
「いや、」
 むしろ、それこそが本当の憧れだったのかもしれない。彼が欲しているのは咎人を屠るだけの力ではなく。

 誰かを護るための力。

「生み出すとしたら、……これだな」
 意識を集中し掌を差し伸べる。中空にざらざらと漆黒の粒子が縒り集まり、柩が喚び出された。がごん、と仰々しい音がして蓋が開くと、中から雪崩るように溢れ出たのは──魔法で生み出された白い花弁。サクラソウ。
 それが身に触れると傷が消え、肉体自体も強化されたのを感じる。意識を失ったとしても、回復することさえできるだろう。
「なるほど、な」
 クロムは指を握り込む。新たな一歩を踏み出すために、誰かの手に背を押された気がした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
55
七結/f00421

きっと僕はどの世界でも、月を見ちゃうと思うんだ。月に焦がれない僕が想像できない。
七結は想像できた?月に焦がれない僕。

もし、もしも、月が見えない世界なら、僕は……色んな所に旅に出るかも。旅するの好きだし。
その土地でしか知らない食べ物だとか建物や景色だとか、そこで出会う人とか、沢山見て、世界を渡って、それからもう一度月に焦がれるんじゃないかな。

あと七結とも会う。色んなところ行ってたら七結とも出会えるでしょ?
なんだから楽しみになってきたな。
いいな、七結今度旅行行こう。

あ、UCを作るって話だった。うーん。
旅先でのアクシデントならなりふり構ってられないだろうし、腕か足に頼りそう。
顔や手に傷つけるのも怖いし、足、かな?

七結のいいね。七結はどんな色を作るのかな。僕たちの色は何色だろう?
今の僕らとはきっと似ていて、でも異なる色なんだろうな。


蘭・七結
46
ともえさん/f02927

仰る通りだわ、ともえさん
あなたを思い浮かべる時
自然と、あの月の姿を連想するもの
わたしが出逢ったあなたと、月
何方も切っても切り離せない存在だわ

――まあ、ステキ
如何なる景色の下で巡り逢えるのかしら
もしも……“もしも”の世界
常夜に堕ちる切っ掛けがない、枝分かれ
わたしは今も尚、あの和国に居るのでしょう

希薄な娘……無し色のわたし
あなたに触発されて、おんなじように旅路を歩むのかしら
そうして、旅の中で様々な色彩を識ってゆくの

可能性の世界も、とても愉快ね
そちら側のわたしたちを、覗いてみたい程に
もちろん、喜んで
あなたの好きな場所、わたしの好きな場所
わたしたちの知らない場所
様々な景色を、観に往きましょうね

新たなる力を授かるのならば……
――物質の持つ色彩を操る力、かしら
その場所で出逢ったものたちに、心を寄せたいの



●|潮汐《ネ・ウィウァム・スィ・アビス》/|にじ紅の情操《ニジクレナイ》
 憧れと聞いたなら。
 五条・巴(月光ランウェイ・f02927)の脳裏に浮かぶのは、空に寄り添う星だ。隣の親友へと悪戯気に告げる。
「きっと僕はどの世界でも、月を見ちゃうと思うんだ。月に焦がれない僕が想像できない」
 歯車軋む階段を、地下へ地下へと進んでいく。
「七結は想像できた? 月に焦がれない僕」
 頬に指添えくてりと細い首を傾げて、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は「仰る通りだわ、ともえさん」。
「あなたを思い浮かべる時、自然と、あの月の姿を連想するもの」
 わたしが出逢ったあなたと、月。何方も切っても切り離せない存在だわ。そう呟く七結の脳裏にはその光景が今なお鮮やかに蘇るのだろう。
 彼女の返答に巴も満足気な笑みを唇に刷く。「もし、もしも、」とん、と辿り着いただだっ広い空間で、彼はその無骨な天井を見上げた。もちろん、そこに憧憬の星はない。
「もしも月が見えない世界なら、僕は……色んな所に旅に出るかも」
 旅するの好きだし。そう呟く彼の足許から、迅速に創造が始まっていく。それは夜の世界。けれどダークセイヴァーのように底冷えのする夜ではなくて、あたたかい春めいた夜。ただやはり月は、無い。
「その土地でしか知らない食べ物だとか建物や景色だとか、そこで出会う人とか、沢山見て、世界を渡って、それからもう一度、月に焦がれるんじゃないかな」
 足許でささめく草に混ざる、嗅いだこともない花の香り。ああ、夜なのに甘く香る花があるんだ。
 歌うようにそこまで告げて、巴は腰を折って親友と視線を合わせた。
「あと七結とも会う。色んなところ行ってたら、七結とも出会えるでしょ?」
 ひたと据えられる藍色の双眸。ぱちぱちと瞬いた紅紫が、……少ししてからふぅわと和らいだ。
「──まあ、ステキ」
 もしも。
 “もしも”の世界。
──常夜に堕ちる切っ掛けがない、枝分かれ。
 希薄な娘。無し色の“七結”。戀に染むことのない牡丹一華を冠したまま、“彼女”は今もなお、あの和国にいるのだろう。そうと己のまなくれなゐに指先触れて、七結は傍らの夜色の瞳へ微笑んだ。
「“わたし”たち、如何なる景色の下で巡り逢えるのかしら。あなたに触発されて、おんなじように旅路を歩むのかしら」
 想像してみる。白い牡丹一華を髪に揺らし、常夜の世界とはまた違う夜の世界で、月を探してずぅっと空を指さす彼の隣で、共に顔を上げて。
「そうして、旅の中で様々な色彩を識ってゆくの」
 可能性の世界も、とても愉快だった。
──そちら側のわたしたちを、覗いてみたい程に。
 想像し創造されていく世界も、薄暗い中にいくつもの彩りが浮かび上がる。それは花であったり星であったり、あるいは草木の緑や、あたたかな色した屋根瓦であったり。
「いいな、七結、今度旅行行こう」
 なんだか楽しみになってきたと素直な期待をぶつける巴に、「もちろん、喜んで」七結は一も二もなく首肯する。
「あなたの好きな場所、わたしの好きな場所。わたしたちの知らない世界。……様々な景色を、観に往きましょうね」
「ああ、約束だ」
 いつも通りの綺麗な笑顔で、なんてことでもないみたいに巴は応じる。眩しいと感じるのはきっと、誤りではない。
 すっかりふたりで新しく広がった世界を旅行の予行演習みたいに彷徨して、それでも月が出て来ない空を見上げた巴が「あ、」はたと声を零した。
「ユーベルコードを作るって話だった。うーん」
 見知らぬ世界、旅先でのアクシデントならなりふり構っていられないとは思うけれど、仕事柄、顔や手に傷を付けるのは怖い。
 そうね、と七結も改めて世界を見回した。「この場所で、新たなる力を授かるのならば……」彩を探す旅だ。振り返ればいくつもいくつも、世界の色は増えている。
「──物質の持つ色彩を操る力、かしら。その場所で出逢ったものたちに、心を寄せたいの」
「いいね。七結はどんな色を作るのかな」
 他者が見れば芝居がかった態度で、巴は大きく手を広げた。
「僕たちの色は何色だろう? 今の僕らとはきっと似ていて、でも異なる色なんだろうな」
 見えない月を探して、歩き回った世界。指を握り締め、巴はそっと開いた。そこから迸るのは、時に冴えて時に淡く輝く、月光のオーラ。
 ああ。そうだ。
「殴る蹴るじゃ、ないね。……僕は、惹き寄せたいんだ」
 そのオーラに触れたものが彼へと寄せつけられるその光景に、七結は肯く。
「そうね。そちらの方が、ともえさんにお似合いよ」
 引き付けられて、動きが止まったならお手伝いをしなくては。七結の触れた牡丹一華から漂う、淡い香。それだけではなく、周囲の物体の色彩が泳ぎ出して──それを吸い込んだ生物の視界を自在に染め上げた。
「ああ、ともえさん、この香りを吸わないでね」
 視界の色彩を七結に掌握された生物は形代と化し、彼女の意のままに動き始めた。戦うこともできる。けれど、“白”のままでもいられるユーベルコード。
 なんの色にでも染まれる技だ。
「まるで、……月のよう」
「確かに。とてもいいと思うよ!」
 複雑な心境がなかったとは言わない。けれどそんな思いさえ吹き飛ばしてしまいそうな親友の科白に、つい釣られて七結も咲った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神野・志乃
【33】

随分変わった舞台ね。“憧れ”の気配に呼応するなんて……

そうね……
夜、月、雨といった陰の気に係る術式を基盤とした魔術を幼い頃から叩き込まれた私は、
今はそれをベースとしつつも、本来月光の魔力などを元にするところを無理やり太陽光の力を用いて魔法‪──‬UCを行使しているけれど

もし私が、元々『太陽の力を基盤にした』魔術を学んでいたとしたら……
あの大きな大きな明るい太陽を愛し焦がれる気持ちを、押し隠す必要がなかったとしたら……
夜闇に紛れて魔術の鍛錬をするような子供時代ではなく、大いなる陽の光の下で育っていたとしたら……

一体私は、どんな魔法を……どんなUCを生み出していたかしら
過去のif。自分でも想像がつかないし、そもそもこんな性格や好みに育っていなかった可能性もある、けれど
耐え切れず家を飛び出してきた私の“憧れ”は、きっとそういった過去だったのでしょう、ね

いえ、そもそも、
太陽そのものが、私の“憧れ”……なのかしら



●ひまり
 いつかの空。
 空はどこまでも青く、雲は洗い立てみたいに白く。
 そして太陽は力強く、温かく。
 世界はあまりに鮮やかで。
「随分変わった舞台ね。“憧れ”の気配に呼応するなんて……」
 瞬く間にがらんどうの空間が描き変わったのを目の当たりにした神野・志乃(落陽に泥む・f40390)は、その世界の眩しさに思わず目を細めた。
 自然と建物の物陰を、あるいはカーテンの閉じた窓の向こうへと意識を向ける己に、志乃は気付いた。
 夜闇に紛れて魔術の鍛錬を強要され続けた幼少期。それも、彼女に許されたのは夜、月、雨など陰の気に係る術式を基盤とした魔術だけだった。
 日々、隠れるみたいに影に潜りながら押し隠し続けた、大きな大きな明るい太陽を愛して焦がれたあの気持ちは、長じてなお志乃の中に在り続けている。だからこそ今はそれをベースとしつつも、太陽光を用いる術式に無理やりに組み替えた。
 本来なら月光の魔力などを元にするところを、魔鏡の力も借りながら太陽光を縒り、編んでユーベルコードとして用いている。
「もし私が、元々『太陽の力を基盤にした』魔術を学んでいたとしたら……」
──一体私は、どんな魔法を……どんなユーベルコードを生み出していたかしら……。
 この鮮やかな世界で制限なくのびのびと陽光の元で育った“志乃”。そんな過去だったなら、そもそも今の志乃とは性格も好みも違っていた可能性はもちろんある。それでも、考えてみたいと感じた。
「耐え切れず家を飛び出してきた私の“憧れ”は、きっとそういった過去だったのでしょう、ね」
 ほんの少しだけ、唇が笑みを象る。
 あたたかい光。
 つないだ手のような。
 明るい色。
 ──憧れ。
「いえ、そもそも、」
 結んだ手をそっと開く。それは花が咲くように。
 途端に鮮やかな青い空へと、陽光を縒った魔法で生み出された向日葵の花弁が舞い上がった。志乃が望むならそれは斬撃を生んで敵を斬り裂くことができると、教わらなくても判った。
 そして、眩いほどの太陽光が降り注いだ。悪意持つ者が立ち塞がったなら、その視覚を奪うほどの痛烈な光。
 優しいばかりではない、強烈な剛さと容赦の無さがそこにはあった。
 だが同時に──それらにはすべて、あたたかさがあった。
 無差別ではない、寄り添う者には害を与えないあたたかさが。

「こういう太陽そのものが、私の“憧れ”……なのかしら」

 どこにいたってその姿を追い続ける向日葵のように。
 彼女の黒い制服に、黒く長い髪に、ひなた色の向日葵の花弁がよく映えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『未完』のイーディス』

POW   :    錆びついた憧憬(ラスト・リゼントメント)
攻撃が命中した対象に【過去への未練】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【未練の強さに比例した威力の数多の人形の腕】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    軋む再動(ラスト・リコメンス)
全身を【半ば朽ちた人形のパーツ群】で覆い、自身が敵から受けた【あらゆる行動に対して抱いた羨望と憧憬】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    失われし夢想(ロスト・レヴェリー)
自身の【視界を塞ぐように周辺の空間に広がった亀裂】から【触れている間何も感じとれなくなる闇】を放出し、戦場内全ての【能動的行動】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アリス・レヴェリーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それは眩しくて
 少女が辿り着いたのは、それはダンジョンと呼ぶに相応しい場所だった。
 青い海が広がる方向。あるいは大舞台の劇場があって、傍らには色とりどりの花が咲く森が広がり、その森の奥には廃墟の洋館。更には先の見通せない迷宮があり、抜けた先には月のないあたたかな夜の世界。陽は昇り、明るい光の方へ進んだなら、向日葵咲く現代日本の住宅街へと繋がっていく。
 憧れの世界。
 あるいは、憧れを想起する舞台。
 それらは少女にとってとても“馴染む”ものだった。
 いくつかの人形から奪った左足──数本の腕を軋ませ、少女・イーディスはうっとりと胸に指先を添えた。
「素てキ」
 発声も半端だけれど、彼女は気にする様子もない。彼女は『未完』であり、そして、それで『「未完の」イーディス』として完成している。
「姉サま達、ドこ? こコでわタし、憧レの姿になれタわ。姉サま達と、同じ姿ニ……」
 
ユウ・リバーサイド
いらっしゃいませ、イーディス

衣装はそのまま
革命剣を右手に声掛け

君は憧れになれて
今も憧れに囲まれてきっと幸せなんだろう
でも

イーディスのような哀しい存在がいる、そんな世界を革命する意志で革命剣を輝かせ

亀裂からの闇はダンスのようなステップを踏んで避けるか
革命剣の光で打ち消す

きっと骸の海の向こうに君のお父さんがいるよ
お姉さん達だって

UCを革命剣に宿し
その光を珈琲色に染めて

「もしよければ訊かせてくれないか
君が生まれた頃のこと
お父さんとの大切な日々を」

今、この時だけは俺が先輩の代理で
この場所があのカフェだから
君の想いも存在も
本当に還るべき場所にきちんと送り届けるよ

彼女の関節部などの急所を狙い、突き砕く



●人形の想い出
 ブロンドの髪の『少女』は劇場に辿り着いた。
 ──否。劇場の上の、喫茶店に。
「マあ。かわイいお店」
 からんとドアベルを鳴らして『少女』が店へ入ると、カウンターの向こうには穏やかな笑みの『マスター』が居た。
「いらっしゃいませ、イーディス」
 白いブラウスに黒いベスト姿のユウ・リバーサイドの右手には、銀の革命剣──Esprit blanc。口調はどこまでも柔らかく。なぜならここは、訪れるお客様一人一人の想いの共有空間だから。
──今、この時だけは俺が先輩の代理で、この場所があのカフェだから。
「もしよければ訊かせてくれないか。君が生まれた頃のこと。……お父さんとの大切な日々を」
「オ父サまのはナし? 大切ナ日ビ……? ナいわ。だッテ、目ガ醒メたトキにハ……もウ、お父サまハ朽ちテいたノだもノ」
 呟く彼女の背後の空間に、ばきん、びしッと亀裂が入った。失われし夢想──ロスト・レヴェリー。溢れ出した闇に触れるとなにも感じとれなくなり、戦場すべての能動的行動を無効化するそれ。
──哀しい存在だな……。
 ゆっくりと瞬きする。“能動的”とは“自分から他へはたらきかけるさま”。銀の革命剣は、皓き陽光をただ放つ。イーディスのような存在がいる、そんな世界を革命したいと願うユウの意志に応じて。
「──!」
 光は闇を食い、亀裂の翳へと追いやった。
 それに抵抗できる者は居なかったのだろう。ぱちりと目を瞬くイーディスへユウはあくまで優しい声音で告げる。
「いいや、きっとそんなことはないんだ。忘れているだけ……」
 さっきまでの、モノクロームだった俺のように。
 ひたと見据える。歪な左足。なのに整った美しい笑み。
「君は憧れになれて、今も憧れに囲まれてきっと幸せなんだろう。……でも」
 革命剣を握り直し、穿刺に特化したその剣を自らの胸の前に立てた。温かな珈琲色の光が刃から広がった。
 イーディスの瞳がその光を見留め、……囚われる。それは珈琲色の感応──ファースト・カラー。見た者の想い出の幻想を纏わせる。そして。
「……オ、……父サま」
 人形の意識がいつからあるのかなんて、ユウは知る由もない。
 それでも、娘として生み出そうとしてくれたはずの親との想い出が、イーディスの中に全くないとは思えなかった。いや、思いたくなかった。
「きっと骸の海の向こうに君のお父さんがいるよ。……お姉さん達だって」
 この喫茶店の『マスター』として。
──君の想いも存在も。
「……本当に還るべき場所にきちんと送り届けるよ」
 球体になった人形の関節部を狙って、ユウはただ真っ直ぐに繊細な切っ先で穿った。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

アルクス・ストレンジ
こいつがオブリビオンか
デウスエクスとそう違わないな

外見や危険な匂いだけじゃない
羨望と憧憬からとはいえ
他者から強奪して存在する者ってとこもだ

要は、倒す以外の選択肢は無い
ちょうど一曲できたとこだ、聴いてけよ

【影縫】発動
【アダマス】併用

手裏剣投げて敵の影を地面に縫い止め行動阻害
その場で大人しく演奏を聴いてもらうぞ

曲に込めたのは不屈の魂と決意
オレ自身のものでもあり
オレが焦がれた惑星に住まう人々のものでもあり
…きっと、生きてる奴ら皆が持ち得るもの

アンタに響くか?
焦がれ、求め、進む
何者にも征服されない、できない、魂の衝動を乗せた音が!

※防御・回避必要なら
『オーラ防御』『ダッシュ』にて
敵と距離を保つ方針で



●彩
「あア、イいなア……」
 その人形が白波立つ砂浜に辿り着いたとき、その左膝から下、右肘から下の部位は喪失していた。
 アルクス・ストレンジ(Hybrid Rainbow・f40862)の前に辿り着くと、その人形は壊れた笑みを浮かべた。
「ハやく攻撃を繰リ出せルウで……ホしいなア」
 それは、アルクスよりも前に戦った猟兵との戦闘の記憶を羨んでいるのだろう。憧れているのだろう。
 ぶつぶつと零す彼女・イーディスの周囲にいつしか半ば朽ちた球体関節人形たちの腕や足のパーツが浮かび上がり、彼女の身体を覆った。
 幾多の掌に顔を覆われた指の隙間から蒼い目がアルクスを見つめ、いくつもの腕や指で喪われた四肢を補った人形の姿を目の当たりにして、アルクスは「こいつがオブリビオンか」誰にともなく呟いた。
「……デウスエクスとそう違わないな」
──外見や危険な匂いだけじゃない。
 羨望と憧憬からとはいえ、他者から強奪して存在する者だというところも。
 彼女を覆うパーツたちによって彼女の戦闘力が増強しているのは一目瞭然のこと、それだけではなくなにか触れられてはいけないという直感があった。──奪われる、という直感が。
「オ待たセ。さあ、遊ビましョ?」
「要は、倒す以外の選択肢は無い。ちょうど一曲できたとこだ、聴いてけよ」
 イーディスの言葉を敢えて無視して、アルクスは手にしていた棒手裏剣を放った。螺旋の力を内包したそれは砂浜にざふざふと音を立てて突き立ち、パーツたちで無様に膨張したイーディスの影を縫い止めた。
「! 動けナい?」
「ああ、動くな。大人しく演奏を聴いてもらうぞ」
 それは影縫。他のユーベルコードを併用することのできる技。大切な相棒──バイオレンスギターの帯を回転させて身体の前に移し、軽くいくつかの弦を弾いた。軽い音が潮騒に混ざる。
 一度瞼を伏せ、そして強く見据えた。
「アンタに響くか? 焦がれ、求め、進む……誰にも征服されない、できない、魂の衝動を乗せた音が!」

 喉を開いて、歌い上げる。

 その曲に畏怖を与えるほどの圧倒的な“なにか”。地球を愛す想いに裏付けされた──不屈の魂と決意。
 それはアルクス自身のものでもあり、
「響け、届け──アダマスの誓い……! 誰一人として砕けやしない」
 侵略され続ける中でも青く輝き、諦めず、抵抗を続ける、彼が焦がれ続ける惑星に住まう人々のものでもあって。
──……きっと、生きてる奴ら皆が持ち得るもの。
「無数の|色彩《ひかり》」
 曲の名は『|アダマス《征服されざる者》』。
「ッ眩、シ、い……!」
 音は無数の波動となり、幾多の煌めきを纏ってイーディスの身体を叩き付け裂いた。彼女が“誰か”から奪ったはずの四肢は再び粉々に砕け、潮風が攫っていった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

杜乃院・藤
【黄昏双子】
∑お人形さんだー!
お尻尾けばぁ。過去にダモクレスに酷いことをされてる
でも姉さんを守るんだよ

自分のありのままの姿を誇れないの…?
おれは今のおれが好きだし
傍に姉さんがいてくれるから何も怖くない

先制攻撃狙い
獣のように体勢を低く
スナイパーで命中率を上げ
速さは正義。早撃ちも狙うよ

折角だから腕試しさせてよ…
歯車の魚を召喚する
それらは群れになって、敵の廃人形パーツを突っついて武装解除を狙う
心を落ち着かせて、手に風を纏わせて、鎌鼬のように人形へ

姉さんに言い忘れてたけど、おれ、風が使えるようになったよ……
姉さんの魔導書を読んだよ
プレゼントしたのおれだし

姉さん、仕上げ仕上げ
∑めっちゃ物理!!


杜乃院・楓
【黄昏双子】
尻尾ぶわっ
トウにひどいことしたのも人のフリした人形だったのだ

UC使用
トウが有利に攻撃できるよう歯車の足場を次々作る
そちらに集中しすぎて闇攻撃を喰らう
パラパラ落ちる歯車
「!」
両親と離れた後
無気力で引きこもりになった己を思い出す
トウはそんな吾輩を見捨てずお世話してくれた
迷惑かけた
弱虫の自分はキライ
「うぅ…もうトウの後ろに隠れてばかりの仔猫さんじゃないのだ!」
闇を黄金の歯車で埋め尽くし飛び乗る
びゅんと吹き抜ける鎌鼬に吃驚
おおすごいぞトウ
勝手に漫画読んでも怒られなかったから、吾輩も怒らないのだ
こほん
ここで吾輩が魔導書の正しい使い方の手本を見せるぞ
歯車ジャンプで飛びかかり魔導書でぶん殴る!



●違いと同じ
「お人形さんだー!」
 塔の傍でその姿を目視した途端、羊の短い尾がけばぁ、猫の尻尾がぶわっ。
 ふたりの反応に、這いずるようにしていた『お人形さん』は「いイなア……」呟いた。ビシッと軋む、壊れた手足。
「アなた達、きョうダイ……? いイなア、いイなア、わタしも、姉サま達と、同じニ……」
 周囲に浮かび上がる、幾多の人形達の腕や足や耳。それらは組み合い重なり合って、『お人形さん』ことイーディスの欠けた四肢を補い、造り上げる。
「同じハいイわよネ? ねェ?」
「……ッ!!」
 思いがけず『再会』した言葉。無意識に蒼褪めた杜乃院・藤を庇うみたいに、杜乃院・楓は一歩前に出る。
──トウにひどいことしたのも、人のフリした人形だったのだ。
 目と髪の色は全然違う。それでも黒と紅を基調にした姿に、嫌でも想起する。壊れかけた口調も、彼女の最期を思い出させた。絶対に、もう、繰り返させない。
「ビウム!」
 あのときと同じように。あの日と同じように。今はバディペットとして楓の傍にいるビウムが、顔の画面の短い眉をきゅっと上げた。
 その心強いふたりの姿に、藤は。
「……」
 少し、笑った。
 そう。自分とて、あのときと同じではない。大切な白いリボルバー銃を握り締め、銃口をひたと据える。
「自分のありのままの姿を誇れないの……?」
 とん、と身を低く駆け出す。羊は他者を狩る狼の牙を剥く。彼の踏み出す一歩を感じたときには既に「トウ!」楓は大きく掌を差し上げていた。
 弟が進む先に現れる、黄金の歯車。弟はそれを当然のように踏み、高く跳んだ。
「おれは今のおれが好きだし、傍に姉さんがいてくれるから何も怖くない」
 重力の速さも借りて撃ち墜とす。狙うは同じを人形だ。次々と姉が生み出す歯車クッションを利用して、射出の角度を捉えられぬよう、跳び回る。
──姉さんを守るんだよ。
 強い決意。
 けれど、幾多の銃弾を受けながらもイーディスは藤を睨めつけた。
「アなたガアなたを好キなのハ、アなたノ傍にきョうダイがいルカらでしョう?!」
「!」
「姉さん!」
 届かないなら、届くものに手を伸ばすだけ。
 イーディスの周囲から広がった空間の亀裂から溢れ出た闇は、弟への支援に集中していた姉を包み込んだ。当然藤を支えていた歯車も落ち、消え、彼はくるりと身を翻して叫ぶ。
「姉さん!」
 焦点を失った黒い瞳。楓の視界に映るのは闇ばかり。
(……もう、どうでもいい……)
 両親と離れた後、すべての気力を失ってうずくまってばかりいた己の姿と声が、脳裏を埋める。
(ねえさん、)
 呼んでいた声。
 あれは。
 ずっと。
 変わらずに。
「姉さん!」
「!」
 共に生まれた片割れ。弱い猫を支え続けた、強くならざるを得なかった羊。迷惑をかけた。世話をし続けてくれた。今もずっと、変わらずに呼び続けてくれる、大切な弟。
 闇が揺らぐ。両の手を開いた藤の掌から泳ぎ出した歯車の魚が組み替えられ、武装よりも優先して楓を包み込もうとする闇を食っては能動性を失って、代わりにごとごとと落ちて沈黙していく。
 お蔭で楓に触れる闇は薄まり、彼女は奥歯を噛んだ。
「うぅ……っ、も、もう! トウの後ろに隠れてばかりの仔猫さんじゃないのだ!」
 振り払い、彼女は再び黄金の歯車で闇を塗り潰した。高く空へ駆け上がった楓の姿に藤も安堵の息を吐いた。そして逸りそうになる鼓動を落ち着かせ、手に意識を集中する。
「そうだ。イーディス嬢、あなたと吾輩たちは違う。でも吾輩たちも、同じではないのだ。同じだから傍に居たいのではないのである!」
──弱虫の自分はキライ。
 変えたいと思わせてくれる違う存在がいるから、傍にいても恥ずかしくない自分で居たいと願うから。
「!」
「キャあ!」
 びょうッ、と風の斬撃が楓の横を抜けてイーディスを裂いた。楓が急いで振り返ると、いつも通りの少し眠そうな目で藤はやわく笑った。
「言い忘れてたけど、おれ、風が使えるようになったよ……」
「おおすごいぞトウ!」
「姉さんの魔導書を読んだよ。プレゼントしたのおれだし」
「うむ! 勝手に漫画読んでも怒られなかったから、吾輩も怒らないのだ」
 これぞ姉の度量、と胸を張る楓に「姉さん、仕上げ仕上げ」呆れを隠さない声で藤が囁く。「こ、こほん」恥ずかしくなんかないぞ。楓は咳払いをひとつ。弟が勝手に読んだのだと言う分厚い魔導書を手にした。
「ここで吾輩が魔導書の正しい使い方の手本を見せるぞ。──こうだ!」
 飛び降りた彼女の魔導書。

 その硬い表紙が、……イーディスの頭蓋をぶん殴った!

「めっちゃ物理?!」
 目を見開く弟に、振り返った姉は鮮やかな笑みを向けるのだった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神野・志乃
憧れたものに惹かれたの?
それとも、憧れそのものに惹かれたの?

口に出して問うでもなく、人形を見据える
憧れそのものに惹かれているなら、それは認めきれない過去を埋めているだけ
「貴女は、……」

いいえ、問答は無意味ね
「さっさと終わらせましょう」

陽光を閉ざすような亀裂からの闇
身体に触れてしまえば、五感の全てが消え失せるような感覚に陥るけれど
でもね‪‪──‬どんな闇も、私の心の中の陽光だけは奪えないわ
こう見えて【負けん気】だけは一級品なのよ

陽光の【オーラ防御】で敵の攻勢を削いで機を待つ
……どうもその闇、ずっと出し続けてはいられないようね

先程の光景を思い出しながら、魔鏡に魔力を込める

もしも私の過去が太陽に満ちていたら、そうね……きっと向日葵の魔法を使っていたでしょう
けれど、私は、そうじゃなかったから
憧れは憧れのまま、未来に据えて追い続けるの

「おいで、“せんか”」
今の私が扱うのは、太陽の花にして『別離の悲しみ』の花言葉を持つ
金盞花の|魔法《ユーベルコード》

過去を埋める必要なんて、無い
陽は明日もまた昇るのよ



●其れは眩しく照らし出す
 人形の歪な足は、いつしか住宅街の珍しくもないアスファルトを踏んでいた。
「コこ、は」
 イーディスは憎らしいほどに青く澄んだ空を見上げた。地下の空間にずっと居たオブリビオンたる彼女にとって、それはあまりに眩しい光景だった。
 空と同じ色をした大きな瞳が空に釘づけになる姿を、神野・志乃は静かに見据えた。
──憧れたものに惹かれたの? それとも、憧れそのものに惹かれたの?
 『完成した』人形に? 補っても『完成』には程遠い姿でなお、彼女はなにを望むのか。あるいは。
──憧れそのものに惹かれているなら、それは認めきれない過去を埋めているだけ……。
「貴女は、……」
 口を衝き掛けた言葉の先は、志乃自身の喉を真綿でゆるりと締めた。イーディスが志乃を見るのに、志乃は黒い髪を軽く乱して「……いいえ、問答は無意味ね」かぶりを振った。
「さっさと終わらせましょう」
 自己完結して言い切った彼女に、イーディスはどこか胡乱気な視線を遣った。
「アなたも、そウなの?」
 ばきん。ビシッ。音を立てて、志乃の周囲の空間がひび割れ、亀裂が走った。そこから溢れ出す、這い寄る闇。志乃の視界を覆うように伸びてきたなら、眩しいほどの光が遠のいていく。
 咄嗟に避けられなかったのは、無意味と切り捨てたはずの問答を、イーディスの方から投げてきたからだ。
 次第に光だけでなく、色だけでなく、皮膚を撫でていたはずの空気の流れさえ判らなくなった。自分が立っているのかどうかさえ、覚束ない。
「アなたモ、自ブんは持ッテる癖ニ、わタしにハ憧レるナと言ウの?」
「……」
 聴こえなくなり始めた耳に、恨みがましい人形の声が聴こえた。なにを言っているの? 私が、陽光を既に?
 だったらこんなに憧れたりしない。そう思う胸中で、──けれどひとつ納得する己がいることに志乃は気付いた。
 そうね。
 口にしたはずの声は、志乃の耳には届かない。舌が、喉が、動いたのかどうかも判らない。

 ──どんな闇も、私の心の中の陽光だけは奪えないわ。

 放つ、陽光のオーラ。能動的行動だ。もちろん無効化される。それでも志乃は陽光の輝きを放ち続ける。放つ意志を棄てない。すると、僅かに闇が揺らぐのが|見えた《ヽヽヽ》。
「……どうもその闇、ずっと出し続けてはいられないようね」
「っ、シ方ナいじゃナい……! わタし、死ンだら、意味ガナい……!」
「なら根競べね。こう見えて負けん気だけは私、一級品なのよ」
「ッく……!」
 確かに聴こえた応酬。
 再び闇が包み込み、志乃は陽光の輝きを胸に描き続ける。万物を照らす陽光。その輝きが……闇そのものに呑まれることはない。
「ッ!」
 再び聴こえた、悔し気な声。吐息を乱し悔し気に口許を歪めるイーディスに、志乃は大切な魔鏡を差し向けた。困惑する少女人形の顔が映った。
「そう……確かに私は、既に憧れを手にしているのかもしれないわ。……いいえ。正確に言うなら、憧れの欠片を」
 魔力を籠めると、煌々と光の粒子が鏡面へ集まり始めた。
「でも、……それは貴女もではないの?」
 欠片を持ち、欠片しかないからこそ、憧れるのだ。
 もしも志乃の過去が先程の光景のように、陽光に満ちていたら。太陽と共にあったなら。そうしたら向日葵の魔法を使っていただろうと思う。
「けれど、私は、そうじゃなかったから」
 憧れは憧れのまま、未来に据えて追い続けるの。おいで、“せんか”。彼女の囁きと共に鏡は割れ散り、輝きと共に無数の赤橙色の花弁と化した。それは太陽の花。けれど持つ意味は『別離の悲しみ』の──金盞花。
 舞い上がった花弁は浄化の陽光を纏い、人形へと襲い掛かる。
「過去を埋める必要なんて、無い」
 悲鳴を上げるイーディスへ聴かせるでもなく、志乃は胸の前で指を握り込み、呟いた。
「だって陽は明日もまた昇るのよ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

風花・ゆきみ
未完の人形さん
とても悲しい方だと思います
だからといって放置は出来ないのであります
せめてしっかり向き合って、倒すのが私の役目です
……行くであります!

【オーラ防御】を展開し闇に触れない工夫を
同時に作り出したUCを使い、【情報収集】の力を高めた光る妖精達を呼び出します
妖精達にもオーラを施し闇から守りましょう
大丈夫、皆がいれば暗闇だって怖くないのであります!

能動的行動が封じられなければ戦えるのであります
妖精さん達に敵の様子や弱点を探ってもらい、それを元にライフルで射撃していきましょう!

ここにいても貴方の会いたい人には会えません
せめて彼女を送った先に大切な人が待っているよう
祈りを籠めて戦うのであります!



●祈りを貴方に
 継ぎ接ぎのパーツはあくまで寄せ集めだ。
 猟兵たちの攻撃によるダメージが蓄積し、イーディスが風花・ゆきみの前に現れたとき、人形は既に満身創痍だった。
「……、」
 胸が締め付けられる気がして、ゆきみは翼の先を胸元に添えた。
 ちょんと両足で跳んだゆきみがイーディスの前に立つと、イーディスはぎりと歯を鳴らし、途端に周囲の空間に亀裂が走った。溢れ出る闇が、ゆきみの小さな身体を包み込まんとする。
「!」
 戦場に生きる者として咄嗟にオーラによる防御を展開し、闇が身体に触れぬ一瞬の隙を作り出した。同時に、羽根を数枚払って喚ぶ、おとぎの国の仲間たち。幻想世界の友達──此度は情報収集の力に秀でた光る妖精たちだ。
「お願いであります、少しだけ時間を稼いで欲しいのであります」
「任せて、ゆきみ!」
「頼ってくれて嬉しいよ」
 めいめいに言って、妖精たちは闇を払いイーディスの情報を集めていく。ゆきみは礼を述べつつ、妖精たちにも自らのオーラを纏わせることも忘れない。
──大丈夫、皆がいれば暗闇だって怖くないのであります!
 闇から逃れる時間を、空間を生んでもらいながら、ゆきみは長いライフルをじゃこ、と構えた。
「足よ。関節をやればいいわ」
「胸を撃つのが良さそうだ」
 次々と齎らされる情報を元に、ゆきみはスコープ越しの人形を見つめた。ぼろぼろの手足の、未完成のお人形さん。綺麗なのに。
──とても悲しい方なのです……。
 だからと言って、放置はできない。彼女はオブリビオン。世界の脅威だ。息を吸って、吐いて。
──せめてしっかり向き合って、倒すのが私の役目です。
「……行くであります!」
 彼女の羽根は、引鉄を絞る。既に聞き慣れた轟音に紛れて、彼女の口が動くのを、ゆきみは見た。
 『ひとりに、しないで』。
「……ッ!」
 ゆきみは小さな嘴を引き結び、銃口をまっすぐ据えた。

 もう銃弾は要らない。妖精からの情報を得て、戦場のシマエナガはもはや動かすこともできないイーディスの手の指をそっと翼で握った。
「ここにいても貴方の会いたい人には会えません。せめて、貴方が向かう先に大切な人が待っているよう、祈っているのであります」
「……ホ、ん……と……ウ?」
 ほんの少し和らいだ、人形の蒼い瞳。ゆきみは力強く首肯を返す。

「たとえ夢物語でも、……信じれば、本当になるのです……!」

 未完の人形はその姿にやっと少し、安心したように微笑んで、そして崩れるように消えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月05日


挿絵イラスト