ちょっと森まで資源調達!
●海原に島、ならば当然開拓です
世界は実に雄大なり。いざ征かん、開拓者の道へ――。
ここはアルカディーテ島と名付けられた未知なる島。遥か彼方まで水平線を望む浜があり、その程近くにある平原をいくらか開拓して作られた始まりの拠点には、開拓者精神に燃える者達が集っていた。
「お集まりでしょうか、皆さん!」
最初に持ち込まれた資材で作られていた作戦伝令室。開拓とは何ぞや、それを示すべく案内人のロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)は木製の踏み台に乗り、後方の者達まで顔が見えるようにすっくと立って声を上げた。
「私は、これから皆さんと共にこのアルカディーテ島を冒険していくロザリア・ムーンドロップといいます! よろしくお願いします! さて皆さん、とりあえずの拠点は確保したものの、これから何をしていこうか、迷われている方もいるかと思います」
アルカディーテ島が存在するオーシャンフロンティアという世界には無限の自由が広がっている。何を為すのも自分次第、しかし秩序の整った社会から一転、全くの自由に放り込まれると人は案外動けないものだ。そんな時に、彼らにいくつかの指針を示すのが案内人の役目。ロザリアは未だ少女ながらも大役を背負っていた。
「そこで、私がこの世界で『見た』ものの中で、皆さんの行動のきっかけになりそうなことを目標として、お伝えしていきたいと思います。そして、記念すべき最初の目標は――ずばり、『拠点作り』です!」
高く振り上げられたロザリアの右手に力が籠る。開拓には拠点が付き物。時に出発点となり、時に休息地となる拠点は大事。ロザリアの爛々と輝く眼差しが訴えている。
「拠点を作る、と一口で言っても、やるべきことは多々あります。それらは皆で分担してやっていきましょう。私が皆さんにお願いしたいのは『近隣の森からの資源調達』ですね。ここから少し歩いたところに森があります。方向は後で外に出てお知らせしますね。それで、森と言えば植物が鬱蒼と生い茂っていますから、今後の生活に必要なものがきっとあるはず! 具体的には……ロープとかに使えそうな蔓状植物、食料となる果実や野草、きのこ類、道具へ加工したり、焚き火の薪材になったりしそうな枝、倒木などでしょうか。皆さんに集めていただいたものは集計して資材置き場に纏め、また別の活動で使っていくことになると思います。頑張れば頑張るほど皆さんの明日は広がります! ですので皆さん、張り切っていきましょう!」
沙雪海都
沙雪海都(さゆきかいと)です。
もう夏ですね。夏と言えば海と島と大冒険です。
その第一歩のお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします。
●フラグメント詳細
第1章:日常 『プレイング』
アルカディーテ島に作られた最初の拠点には、ひとまずの簡素な住居、焚き火が数個、資材置き場に、ちょっとだけ作りの良い作戦伝令室があります。
しかしそれだけです。きちっとした炊事場もなければ、日々の汗を流すお風呂もないです。それらはこれから皆さんの手で作っていくことになるでしょう。
その為の資源、持ち込まれたものもあるようですが、限りがあります。というわけで現地調達のために近くの森に向かう、というのが今回のお話。
序盤のため、そこまで深くには入りません。戦闘なしの冒険シナリオのようなものです。
OPにて、「道具として利用価値のある蔓状植物の収集」「食料となる果実や野草、きのこ類の収集」「枝、倒木といった木材の収集」の三つを提示させていただきました。この中から一つ選んでそれを軸にプレイングを考えてみてください。
なお、本シナリオの結果はシナリオ完結後、ホームにある「資源リスト」に反映されます。蔓状植物と果実の収集では🔵の分だけ「草花」が、木材の収集では「木材」が加算されますので頑張りましょう。
(「蔓状植物の収集」で「大成功」すると「草花+3」とかいう感じです)
プレイングボーナスは「技能やスキルを活用する」です。
(この世界ではユーベルコードを『スキル』と称します。これらの効果は「本来の身体能力の3倍を越えない」とします)
それでは、良きオーシャンフロンティアライフをお楽しみください!
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
相沢・友子
【探索隊】
今足りてないのは、草花だね。今回は、つる植物の群生地を探しに行くよ。
友子は沢蟹取りに行こうとしてたけど予定変更だよ。
1日がかりに成るから仮拠点を設営。優茂さんに集中線が見えるよ。
スキルで、寝ず見たちを増やして、手数をカバー。
その後は、アレクサンドラさん達と茂みを散策。その途中で、私は沢に寄り道。
対岸の崖下の表層を削って、粘土を削り出して仮拠点に運ぶ。その間は寝ず見たちが、葉っぱや根の形から食べられるお芋探し。役割分担だよ。
合流して、銀治朗さんから購買パンを受け取る。
食欲を誘う。
群生地で、私も一緒にお芋掘り。
寝ず見たちが、次々掘り返してるので、猫車持って来るね。
西行寺・銀治郎
【探索隊】
「よぉし! 今日は皆で開拓の為の探索を頑張るぞぉ!」
俺は優茂さんから指示を受けて仮拠点のテントを張るか。
「植物探しの人が多いが、俺の分担は茸探しだな。
……キラリン☆ 大木の下で群生する多様な茸達を発見!」
スキル「ヴァリアブル・ウェポン」で命中率強化した
「サイバーアイ」で探した大量の茸を袋詰めにして拠点へ持ち帰るぞ。
「学園購買の特製で美味しい奴、皆で食べませんか?」
休憩時間になったら俺は皆に「烏賊焼きそばパン」を配る。
前半の探索が大変だった分、森の中で皆で食事すると美味だよな。
お芋掘りになったら俺も力仕事は手伝うぞ。
パワー型サイボーグじゃないが、偶には力仕事も悪くない。
アレクサンドラ・ヒュンディン
【探索隊】
開拓、スタート、です…
優茂さん作成の仮拠点から出発し、森へ行きます
移動中は人狼らしく鼻をきかせ、目的となりそうなもののにおいを探ります
休憩中の烏賊焼きそばパン、学校に行った経験がないので、ちょっと珍しいです…でも、おいしい…
採取面の主な仕事は木材や蔓状植物の伐採
よさそうな木を自前の骨割り鉈を使い断ち割っていきます
素材になりそうな蔓ですと、それなりに太く丈夫でしょう
鉈でも難しければ【裁剞貫髪】で素早く【切断】します
あれ、足元で友子さんの寝ず見が何か…
あ、これ、お芋の蔓だったのですか…
私が蔓を切り、寝ず見がお芋を掘る、共同作業です…
終了後は、【怪力】を活かし戦利品を多く担いで帰還します
濱城・優茂
【探索隊】
この森の中は特に獣とか出たりせんと思うけど、用心せな。
というわけでスキル使用や!ここをキャンプ地とする!
さあ、皆が探しに行っている間に僕は手頃な枝と倒木を探しに行くで!
拾ってはキャンプ地に戻り……繰り返したら汗かいたわ。ん?
銀治郎くんがキャンプ地におる。
烏賊焼きそばパンくれるん?ありがたく頂いておくわ!
さて探索再開や。お、何か見つけたんか?……これは……芋やな!
抜くの手伝うで!こう、上手い事力を加減して、ふんっ!!(ぐき)うっ!
(腰軽くいってもうたけど整体後で行けば平気なレベルや!)
うんうん、いい成果や!木材も集まったで!
●探索隊よ、森を征け
開拓者が現れたことでアルカディーテ島、オーシャンフロンティアという世界の歯車は少しずつだが回り始めていた。資源を集め、備品を作る。生活基盤が生まれつつある。
そんな折――アルカディーテ島を訪れていた相沢・友子(水使いの淡水人魚・f27454)、西行寺・銀治郎(国立希島学園の一般的な残念男子学生・f38167)、アレクサンドラ・ヒュンディン(狗孤鈍狼・f25572)、濱城・優茂(サバイバルおじさん・f32495)の四人は、ひょんなことから「探索隊」を結成し、拠点のために動くべく資材置き場を訪れていた。
案内人たる少女からはいくつか方針の提示があった。さて、その中の何が今、最も求められているのか。
「なんかさ……緑っ気? って感じのものが足りないよね。こんなに自然が溢れてるのに、色が寂しいよ」
沢蟹でも獲りに行こうかなー、とぼんやり思い描いていた友子だが、ちょっと偏り気味の資源収集状況を憂う。色とりどりの草花なんかがもう少しあってもいいのではないか、と。
その言葉に神妙な面持ちだった優茂が、顎に添えていた右手で、ぽん、と左手を叩いて言うには、
「せやな……ほな、決まりや! 蔓草ぎょーさん集めに行くで!」
「おぉ、いよいよ、開拓、スタート、です……!」
「よぉし! 今日は皆で開拓の為の探索、頑張るぞぉ!」
まさに鶴の一声……蔓だけに。それはさておき、優茂は開拓者でありながら案内人としても活動しており一目置かれる存在だ。アレクサンドラと銀治郎も乗り気になって、早速四人は近隣の森へと向かっていった。
樹木がまばらに増えてきて、日光が柔らかい木漏れ日となって差し込んでくる。四人の先頭になっていた優茂は辺りを適度に見回して、すっと立ち止まり振り返った。
「この森の中は……特に獣とか出たりせんと思うけど、用心せな。というわけで――ここをキャンプ地とする!」
優茂の柔和な表情が、この時ばかりはキリッと引き締まる。いっぺん言ってみたかった――優茂は細やかな夢を叶えていた。そんな優茂に、三人は迫真の集中線を見ていたという。
「うん、いいね……沢山集めるんだったら、一日がかりになるだろうし」
「優茂さん! 俺は何をすればいいですか!?」
「銀治郎くんはテント張りやな! 皆が休めるテントを頼むで!」
「私は、鼻が利きますし……蔓草探しが良いでしょうか?」
「手数があるから……私は、どっちも手伝えるよ。テントを張って、その間に蔓草探しも」
「なら、アレクサンドラさんは蔓草探しで、友子さんは二人のバックアップや。そしたら僕は別のことをしたほうがええな……よっしゃ、そんなら僕は、木材になりそうな枝や倒木でも探してみるわ」
適材適所の役割分担。四人は「えいえいおー!」と掛け声かけて各々の持ち場へと移っていく。優茂に期待を込めて託されたテント設営、銀治郎は早速荷物を解いていく。
「寝ず見たち、出ておいで」
その傍らに友子がしゃがみ込んでそっと呟く。銀治郎には友子が地面に話しかけているように見えていたが、そこには不可視の硝子の「寝ず見」達が現れていたのだ。
「これで大丈夫。半分は私と一緒」
そして友子はアレクサンドラについていく。キャンプ地に残ったのは銀治郎と、実は銀治郎の周りをちょこまかと走り回っている寝ず見達。見えないため多くの援軍がいるとの実感は湧かない銀治郎だが、兎にも角にもテント設営を開始する。
「四人で休めるでっかいテントだもんな。えぇと、骨組みは……っと」
細紐で括られて束になった金属棒、両端に凹凸があって接合できるようになっている。銀治郎が一つずつ繋ぎ伸ばしていくと、その反対側で金属棒がひとりでに動き出し、カチカチと長く連なっていく。
「お、手伝ってくれてるんだな」
ここでようやく寝ず見達の存在が分かって銀治郎は安心感を覚えた。見えない相手との不思議な交流を経て、萎んだ気球のように横たわるテントへ金属棒が通っていった。
それを立体的なテントに仕立て上げるのは銀治郎の作業。
「うおぉ……重いけど、俺なら、できる……!」
アーチ状に起こすには腕力が必要だ。寝ず見達はきっと応援してくれている――そんな気がして。
「よぉぉ……っしぃぃ!」
銀治郎は目一杯の気合を込めた。テントがドーム状に膨らんで持ち上がる、その端を地面に固定して、銀治郎はふぅっと大きく息を吐いた。
所変わって女性陣。アレクサンドラがふんふんと森の中の匂いを辿り友子を導く。
「こっちのほうに……蔓系の植物が多い気がします」
「分かるんだ……」
森の香りは今のところ土気と湿っぽさしか感じない友子にはさっぱりで、アレクサンドラに尊敬にも似た眼差しを向ける。人狼の嗅覚は伊達ではない。そうこうしている内に樹木に蔓状植物が網のように絡んだ景色が見えて、友子は目を丸くした。
「この辺りでいいと思います。ささっと、やってしまいましょう」
「りょーかい」
友子と示し合わせた後、アレクサンドラが取り出したるは自前の骨割り鉈。相手はそこそこ太さのある蔓だ。そこらの手斧よりも馴染んだ鉈が良い。骨を割るくらいが丁度良いのだ。
「ばらばらに……あぁ、でも適度な長さは必要でしょうか……」
アレクサンドラは大木に飛び掛かり鉈を一振り。がすん! と蔓ごと纏めて叩き斬りにいった。その切断力は幾多の戦いで鍛え上げられたものがある。蔓は断面がまるで磨かれたようにすっぱり斬れて、大木も幹の中央付近まで鉈の刃が食い込んでいた。
「一旦切り倒してから、運びやすい長さに……」
鉈を抜き、抉れた幹へもう一振り――手応えはあったがするりと逃げるような感触。それは一気に刃が突き抜けた反動で大木が浮いてしまったのだ。
ずぅん、と大木がよろめき沈んでいく。その様を見届けた後、アレクサンドラはまたざくざくと鉈を振り上げ蔓を斬っていく。
アレクサンドラと比べれば友子の行動は繊細だ。茂みをがさがさと散策して回り、ちょっと寄り道。なんか凄いことやってるなぁ、と倒れていく大木に思いを馳せながら。
寝ず見達のお陰で探索範囲は広がっていく。アレクサンドラに負けじと湿っぽい空気を辿っていって、草を分け踏み入った先には。
「……あった」
見つけたのだ、小さな沢を。頑張れば何とかなる、なんて自信をつけて、友子は飛び石を渡って対岸へ。そしてまたしゃがみ込み、今度は土の香りを嗅いでいく。
「この辺、べたってしてる。粘土だね、これ」
見た目にも周辺の土より浅い茶色のそれを指で掬って。意識はしていなかったが、友子の顔はご満悦だ。削り出しに夢中になっている傍らで、賢い寝ず見達はさりさりと土を掘っていく。地表、あるいは地下の様子は、より地表に近い彼らのほうが分かるのかもしれない。
もこっと掘り返された、丸々太った地下茎。一般的には芋に呼ばれるであろうそれの正式名称は不明だが、寝ず見達はきちんと食用のものを掘り分けている。地面から浮いて運ばれていく様は若干奇妙に映るが、友子は見慣れたように粘土を抱えてついていく。
「……?」
とは言え見えないものは見えないので、別行動状態だったアレクサンドラ視点では謎の行列だ。土をぽろぽろと零しながら移動する不気味な植物の群れ。
「……あっ、友子さん」
「粘土が集まったよ。寝ず見たちは、お芋見つけてくれた」
「あぁ、寝ず見さん達でしたか……お芋の蔓、長いですねえ」
「切ってもらえると、寝ず見たちも助かると思う」
「そういうことでしたら……」
アレクサンドラが鉈を持つと、芋の蔓がぺたんとアレクサンドラの前に置かれる。そこに寝ず見達はいないと分かって、ざくざく、ざくざく、芋の蔓が短くなっていく。
アレクサンドラが集めた太い蔓、寝ず見達が集めた芋に細い蔓、それから粘土と――切り倒された大木には手が回らなくて、一旦後回し。
収穫はあった。アレクサンドラの嗅覚を頼りに二人はキャンプ地へと戻っていく。
優茂は豊富な運動量を武器にキャンプ地周辺を歩き回っていた。枝は無いか、倒木は無いか――視界に入る枝葉を手折るのは忍びなく、なるべく自然に折れ落ちたものを。
「お、あるであるで」
激しい風雨に晒されたか、はたまた動物達の仕業か。小枝、大枝は目を凝らして探せば見つかるもので、優茂は半屈みで拾い集めながら行動範囲を広げていく。初め片手に掴める程度の量が、小脇に抱えるようになり、それでも持ちきれなくなったところでキャンプ地へと引き返す。その間にキャンプ地ではテントが着々と組み上がっており、優茂はまるで張り合うかのように枝の小山を作っていく。
優茂の行き先はどんどん外側に向いていくため、出向く距離も自然と長くなる。それでもペースは落とすまい、と途中から小走りになり、枝が見当たら無くなれば、
「……僕も頑張らなあかんな」
両手で抱えねばならぬような倒木にも手を掛ける。一見重量感のある苔むした倒木。しかし優茂が倒木と地面の隙間に両手を差し込んで持ち上げると、すんなりと持ち上がってしまった。
「中から腐ってもうてるんかなぁ……でもま、薪の代わりにするには丁度ええか」
芯がしっかりしていれば即席のベンチにでも、と考えていた。見込みは違ったが優茂は前向きだ。使い道を見出して、えっさほいさと運んでいく。度々の往復で気付けば汗が目に染みていたが何のこれしき。優茂はひたすら我武者羅だった。
「……よっ、と……ふー……お、銀治郎くん! テントできたんやね」
枝の小山の横に倒木をどすっと置いて、汗を一拭い。そうして改めて眺めるキャンプ地は少し雰囲気が変わっていた。立派なテントがキャンプ地中心に完成しており、銀治郎が腕組み満足げに頷いている。
「……あ、優茂さん! 戻ってきてたんですか……うわ、凄いですね、この枝の量。それに、でっかい木まで」
中に焼き芋が10個くらいは転がっていそうな、特大落ち葉焚きのような枝山。その横には振り回して武器にできそうな大木だ。両端が酷くギザギザしていて殺傷力が高そうな印象がある。
「意外と軽かったで。多分中身すっかすかやと思うけど……こんだけの枝と倒木があれば火には困らんな。しっかし、結構汗かいたわ……」
全身に籠った熱を逃がそうと優茂の顔には汗が滴る。服の中もぐっしょりで、体に貼り付いてくるのが何とも嫌な感触。
「だったらテントで休んでてくださいよ。俺、休憩の時にと思って持ってきた物があるんで」
全員揃っているのが一番良かったが、生憎、友子とアレクサンドラはまだ戻っていない。それでも目を見張るほどの量の木材を集めてきた優茂のためにと銀治郎は「とっておき」を荷物の中から持ってきた。
「こっちに来る前に学園に寄って皆の分を買ってきたんですよ」
「おぉ? なんや……『烏賊焼きそばパン』、へー、面白いもんがあるんやなぁ」
「もし二人が戻ってきたら、一緒に渡しておいてください。俺、その間に茸かなんか採ってくるんで!」
「分かったで。気ぃつけてやー」
未だ元気が有り余っているという風で腕をぐるぐる回す銀治郎は、三人分の烏賊焼きそばパンを抱えた優茂に見送られて飛び出していった。
優茂が枝を集めて回ったせいか、銀治郎が訪れる森は妙に小ざっぱりしていた。落ち葉やら石っころやらが脇に寄せられて道のようなものができている。
「森なら茸があるってもんだ。よぉし……ヴァリアブル・ウェポン起動! キラリーン☆」
銀治郎はサイボーグ、その体には無数の内蔵兵器が詰まっているが、今回はサイバーアイの命中率を強化して探索力を上げていく。銀治郎の眼光は鋭い。
「――そこだ!」
カットイン演出でも入りそうな目敏さで銀治郎は大木の下に駆け出していく。ずしゃっと大仰にブレーキをかけた後、腕を突っ込み落ち葉を掻き分ける。指先に当たる、ぐにっとした感触。ほっそりとしたその根元を掴み、引っこ抜いた――それはまさしく、茶色の傘を持つ茸。
「うおぉぉ! たくさんあるぞぉ!」
銀治郎のサイバーアイは、手にした茸と同じ形状の物体を周囲に多数観測していた。視界に広がるそこはまさに宝の山だ。手当たり次第にむんずと掴む。茸、茸、茸――袋には茸がこれでもかと押し込まれていき、風船のようにどんどん膨らんでいく。
「……こんなところだな!」
夢中になって茸を採り続けた。結構長く居たような気もするし、あっという間だったような気もする不思議な達成感。銀治郎が手にする袋は口の間際でぎゅっと掴んでようやく袋状を保っているほどで、銀治郎の顔より二回りは大きい。
それをどう食すか。単純に焼いても旨そうだし、鍋にして食うのもいいな――ワクワクが止まらないといった風で、帰途に就く銀治郎の足取りは頗る軽かった。
「あ、銀治郎さん、帰ってきました……」
キャンプ地、テントの傍で簡易的な敷物の上に座っていたアレクサンドラが最初に銀治郎の帰還に気付く。
「皆戻ってきてたんだな!」
「ん……先に頂いてるよ、これ。なんかちょっと、癖になる味……いいね」
友子が右手を振りながら銀治郎を出迎える。左手には半分ほど齧られた烏賊焼きそばパンがあった。
「へへっ、なんたってうちの学園の特製だからな!」
そんじょそこらには売られていない一種の名産品。褒められれば銀治郎も鼻高々で、三人の前に座り込み収穫を広げた。
「はー、えらい量やね。なんていう名前の茸やろ……」
優茂が茸を一つ手に取って見定めんとする。馴染み深い椎茸に似ているようだが、それよりはすらっと細長いように見える。果たして食用になるか否か、そこが肝心。
「変な匂いはしないと思います……」
「……食べられるみたいだって、寝ず見たちが。名前は分かんないけど……この世界にしかない新種、とか?」
「可能性ありそうやね。こんな量やとこの場では食べきれへんし……拠点に持ち帰って保存食にする分と、何の品種か調べる分、ちょっと分けとこか」
優茂が目分量で茸をより分け、小分けして戦利品の山に加える。そこには長さも太さも様々な蔓植物と、ごろごろっとした芋の山。それから粘土が堆く山を作って、木材も十二分に。
ちょっと森まで資源調達、と言うにはこれ以上ないほどの戦利品だ。しかし――彼ら四人のフロンティアスピリットがそこで収まるはずがない。
「もう少し休んだら、今度は芋堀りに行くで! 良い穴場を二人が見つけてきてくれたんや!」
「切り倒した木も、回収しに行かないといけませんし……」
「今度は沢蟹、いるかな?」
「芋かぁ! 力仕事でも何でも来いっ!」
やる気に満ち溢れた四人の探索活動は一昼夜続き、様々なことが起こった。意気揚々と芋掘りに励んだ優茂がちょっとやる気を出し過ぎて腰が悲鳴を上げたとか、友子が芋の山の乗った猫車を押している時に沢蟹に脇見して危うくひっくり返りそうになったとか、アレクサンドラが両腕に大木を担ぎ上げ、さらに上乗せしていくものだから月見団子みたいになっていたとか、銀治郎が掴んだ芋蔓が長すぎて、掘っている内に迷子になりかけたとか、とにかく様々で笑いに事欠かない。
あっと言う間、とにかくあっと言う間。焚き火を囲んで拠点の未来の話もして、四人並んでぐっすり寝て――。
こうして、資源調達は大成功のうちに幕を閉じた。それから少し月日が経って、四人が作ったキャンプ地は「探索隊キャンプ場」と呼ばれるようになり、ログハウスがいくつも建った。
そこは今尚、アルカディーテ島の更なる未知を求める開拓者達が集う拠点になっているのだとか。
大成功
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