●噂話
誰かが言った。それは紙飛行機なのだと。
誰かが言った。ある日コツリと紙飛行機が背中に当たるのだと。
誰かが言った。真っ白な紙飛行機には『貴方の気に入る絵、有り〼』の文字と住所のみが書いてあるらしい。
どのような絵が飾られているのか、はたまたそこは美術館なのか画廊なのか。
紙飛行機に導かれた人は、誰も教えてくれない。
だからこれ以上のことは誰も知らない。
ただ一つ、紙飛行機に導かれて行った人は変わってしまう。
『生まれ変わったかのように生き生きとしている』
『気がついたら成功をおさめている』
『高嶺の花だった人と付き合った』
嘘かほんとか知らないけれど、そこまで言われてしまったら行ってみたくて仕方がない。
──────────────────────────紙飛行機の示すその先へ。
●動転
『貴方の気に入る絵、有り〼』だってさ、いけすかない。
紙をクシャクシャに丸めてズボンのポケットへ押し込む。歩道の真ん中で大きく欠伸をして、いつも通り馴染みのパチンコ店へ向かう。
絵になんて興味はないし、『有り〼』なんて気取った文面が気に食わない。
道端で渡されるティッシュの広告のようにすぐに忘れるものだと思っていた。
しかし、パチンコを打っている時も頭の中では“紙飛行機”、“貴方の気に入る絵、有り〼”がぐるぐると思考を飲み込んでいる。
気がつけば、あっという間に一万円が機体に飲み込まれてしまった。
やってられっか。
パチ屋を後にして向かうのは件の絵がある場所。どうせろくな絵じゃない。どんな風に馬鹿にしてやろうか考えながら歩を進めた。住所を見ずとも足をどちらに進めればいいかは何故かわかった。
真っ白な、少し大きな建物だった。
入り口が空いていたので勝手に入ると、中はがらんとしていて誰もいないようだった。
建物の中も真っ白でこれがアーティスティック(笑)というやつかと鼻で笑う。
奇妙なのは、飾られている絵がどれも人の背丈よりも大きく、真っ黒に塗りつぶされていることだった。
何が『貴方の気に入る絵、有り〼』だ。どれも一緒じゃねぇか。
そう思いながら次の絵に近づいた。真っ黒な背景に小さく人が描いてある。
もう少し近づくと、絵の人物も近づいた。
これは絵じゃない。鏡だ。
だけど、鏡写しになっているはずの俺の様子が変だ。
笑っている。金メダルを持って、大勢の人達に囲まれて、笑っている。
ああそうか。理解してしまった。
あの時ほんの小さな怪我で体操をやめていなかったら、こんな惨めな生活をする自分じゃなくて──────鏡の向こうのあいつが、俺だったんだ。
そう思うと、なんだか悲しくて、悔しくて、羨ましくて、思わず鏡に縋りつきそうになった。
一歩踏み出したところで足が止まった。いや、すくんでしまった。
射るような、身を割くような、今すぐ死んでしまいたくなるほど恐ろしい視線を鏡の中の俺はしていた。
惨めに叫びながら、蟾蜍のように這いずり跳ねるようにそこから逃げ出した。
恐ろしくて恐ろしくて、誰かに話を聞いてもらわなければ気が狂いそうだった。
今すぐ誰かに話して“鏡の前に戻れ!触れろ!”と頭の中で叫ぶ自分を止めたかった。
●理想を映す鏡
「皆さんには、その鏡を破壊してほしいのです。」
予知の内容を告げた後、アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)はそう言った。
感染型UDC。人間の「噂」で増殖し、その広まった噂を知った人間全ての「精神エネルギー」を餌として、大量の配下を生み出す新種のUDCだ。
勢力を増せば、鏡の中の“理想”と本人の入れ替わりが頻発し、町中にUDCで出来た“偽物”が溢れる事になる。
それを防いでほしいのだと彼は言った。
「…しかし、人々が鏡の中の理想に惹かれてしまう気持ちも理解できます。鏡は元々魔の出入り口とも呼ばれますし…ボクだって、今の自分が理想通りかと言われればそうではありませんから。」
きっと皆さんの理想も鏡に映ってしまう事でしょう。それは自然なことです。
抗えず鏡に触れてしまう人もいるかもしれません。それも決して悪いことではありません。
彼はそう言うと胸に手を当て、皆に祈りを捧げた。
「…ただ…どうか負けないでください。鏡に。鏡の中の理想に。本物の自分は、今ボクの目の前にいる貴方だと。偽物相手に、証明してください。」
伏せた双眸を開き、猟兵達を見て彼は微笑んだ。
「大丈夫、貴方達ならできますよ|猟兵《イェーガー》」
グリモアは輝いて猟兵達を送り出した。
ミヒツ・ウランバナ
オープニングをご覧いただき有難うございます。ミヒツ・ウランバナと申します。シリアス進行で参ります。
第一章:集団戦。
噂話により発生したUDCを撃破し、ボスのいる場所の書かれた“本物の紙飛行機”を見つけましょう。
第二章:理想の自分との対峙。
果たして何が映るのでしょうか。貴方は触れずにいられるでしょうか。
第三章:ボス戦。
理想の自分との戦闘です。理想は時に貴方のトラウマを刺激してくるかもしれません。
理想の自分を倒せば鏡は割れます。
※全ての章は断章追加後にプレイング受付を開始します。
※グループ参加は2名までとさせていただきます。ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけるとありがたいです。
皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『六一一『デビルズナンバーはくし』』
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POW : 悪魔の紙花(デビルペーパーフラワー)
自身の装備武器を無数の【白い紙製】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 悪魔の紙飛行機(デビルペーパープレーン)
【超スピードで飛ぶ紙飛行機】が命中した対象を切断する。
WIZ : 悪魔の白紙(デビルホワイトペーパー)
【紙吹雪】から【大量の白紙】を放ち、【相手の全身に張り付くこと】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:FMI
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●拡散
誰かが言った。それは紙飛行機なのだと。
「誰かって誰よ?」
「知らない。でも、紙飛行機なんだって。」
「その紙飛行機を見つけたら好きな人と結婚できるんだって!」
「俺は宝くじが当たるって聞いたぜ?」
「いや、志望校に合格できるらしいよ。」
「私が聞いたのは、死んじゃった人でも生き返らせる事ができるとか。」
「案外何も書いてないらしいよ。」
「なんかすっごい超能力が手に入るんだって!」
『理想の自分になれるらしいよ』
紙飛行機。紙飛行機。紙飛行機。
素敵な噂の紙飛行機。
噂が噂を呼んで、噂が噂を変えていった。
そんな頃。
そんなにみんなが望むなら。そんなにみんなが紙飛行機を望むなら。
UDCが現れた。
その名は、六一一『デビルズナンバーはくし』
大量の紙飛行機が空を飛ぶ。みんなの望む紙飛行機。
その紙飛行機が殺意を持って、みんなの元へ飛んでいく。
カイリ・タチバナ
ヤンキーヤドリガミ、久々に猟兵仕事する。
理想の偽物との入れ替わりねぇ。鏡で見せつけてる分、厄介だな?
俺様の理想ってのは、いまいちわかんねぇけど。何なのかねぇ。
そんで今、街中にあるのが、殺意ありな紙飛行機って、嫌なもんだ。
じゃ、全て撃ち落とすか。【守神宿り】で増やすのは、霊符、勾玉、鏡ってな。
勾玉は撃ち出し、鏡は反射用に置いてある。で、霊符は守り結界用の符ってな。
敵の紙飛行機…仕方ねぇ、銛(俺様の本体)は黒い手袋から通じる異空間(神域)に入れとく。
こうしておけば、俺様は大丈夫だからな!
●鏡と反射と銛の神
(理想の偽物との入れ替わりねぇ。鏡で見せつけてる分、厄介だな?)
自分と同じ顔をして、自分と同じ動きをする。
誰でもその前に立てば否応無しに姿が映る。
それが鏡の本質だ。
しかしその鏡は、目の前に立った人の理想を映し出すという。
いわば上位互換。
より強く、優しく、美しく。
誰かにとってはIFルートかもしれない。
もしもアレをしなければ、もしもアレをしていたら。
(…俺様の理想ってのは、いまいちわかんねぇけど。何なのかねぇ。)
グリモアの力で転送されながらあれやこれやと色々考えてみたけれど何を考えてみてもいまいちぼんやりとしていて実体が掴めない。とにかく現実味がない。
「ま、そん時になりゃわかるか。さーて、ヤンキーヤドリガミ、久々に猟兵仕事する。」
わからないことはアレコレと考え続けても無駄だし、今することはそれではない。
場所はUDCアース。ビルの立ち並ぶ現代都市。
頭上には広がる白い雲の様に空を覆い尽くさんばかりに飛ぶ大量の紙飛行機。
感染型UDCの噂が噂を呼び、そして呼び出されてしまった別のUDC。
六一一『デビルズナンバーはくし』
件の紙飛行機に擬態し、噂の真相や幸運を掴み取ろうとその手を伸ばす人々に殺意を向けている。
形を揃えて、先を尖らせて。
「理想を見せて本物と偽物を入れ替える鏡がある。そんで今、街中にあるのが、殺意ありな紙飛行機って、嫌なもんだ。」
はー、碌なもんじゃじゃねぇな。噂だけでこんなに増えやがって。
黒雲のようにカイリの頭上に紙飛行機が迫る。
「じゃ、全て撃ち落とすか。」
カイリの身体から蒼い輝きが放たれる。
それと同時に紙飛行機の群れは角度をつけ、カイリを目掛けて急降下し始める。
ビュウ、と風を切る音を鳴らし彼の身体に狙いを定める。
しかし、その群れはカイリの手前で弾き飛ばされる。
蒼く光る結界。複数枚の守神霊符によって張り巡らされた強力なものだ。
彼の住まうグリードオーシャンから遥か遠い、カイリの故郷の島で作られた和紙に彼が書いた文字。
強い呪力が備わった守神霊符の結界は、数日の噂で作られた紙のUDCに破ることはできない。
しかし、三矢之戒ではないが、一機一機が弱い紙飛行機も何度も何度もぶつかれば結界にもほんの少しずつではあるが消耗していく。
「消耗戦は俺の性に合わねぇんでな」
彼は左手の手袋に指をかける。
薄手で丈夫な手袋の中にカイリ自身、本体である蒼く輝く鉱物から作られた銛をその中へ。
普通であれば、その鋭さで海神さえに貫き手袋の薄布など簡単に裂いてしまう。
だがその銛は手袋を突き破ることもなく、その中へとスルリと消えていった。
その先は異空間、彼の神域である。
「こうしておけば、俺様は大丈夫だからな!」
もうカイリの事を誰も傷つけることはできない。
ニヤリと笑うと手袋を左手へ戻した。
ユーベルコード【守神宿り】で増やしたのは霊符だけではない。
銛と同じ鉱物から作られた、蒼く輝く“守神勾玉”と“守神鏡”
その量はそれぞれ百を超える。
それら一つ一つにカイリは意識を集中させ念力で紙飛行機を宣言通り撃ち落としていく。
勾玉は弾丸のように空へ飛んでいく。
紙飛行機は、その機体に一つ二つと穴を開け墜落していく。
鏡は紙飛行機を反射させる。
鏡に衝突した紙飛行機は鏡に突き刺さることはない。
その機体をくるりと真逆に反転させ、ビルに、他の機体に二度目の衝突を果たしてヨロヨロと地面に落ちる。
三矢之戒。一本では弱い矢も三本集まれば折れにくい。
しかし、強大な力を前にしては一本も三本も百本も変わらない。
次々と撃ち落とされていく紙飛行機。鏡にぶつかり反射する紙飛行機。
遂には統率の取れていたはずの紙飛行機の群れはカイリの勾玉と鏡によって瓦解を始める。
一機、また一機。
バラバラ。バラバラ。
大量の紙飛行機が地面に墜落していく。
地面に落ちた紙飛行機の形はくたりと崩れ、ただの紙に戻る。
地面に真っ白な道が出来始めていた。
────────────────────────────────
こつり。
カイリの背になんとも弱々しく小さな衝撃。
振り返れば、その間に…ぽすり。
地面に落ちる紙飛行機。
「なんだ?結界破れちまったか…って全然まだ大丈夫だな」
他の紙飛行機と異なり地面に落ちても形を崩さない。
ならばコレはなんだ。
「結界を抜けてでも俺のとこまで来たってことは…ははーん、お前は俺への招待状だな」
紙飛行機を開く…当たり。
『貴方の気に入る絵、有り〼』
その文字と鏡へ誘うための住所だけが真っ白な紙に書いてある。
「さーて、俺様の理想をもっかい推理しながら向かうかねぇ」
未だぼんやりとする自分の理想像に頭を悩ませながら、その理想像の正解を教えてくれる鏡の元へカイリは向かった。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
理想の自分、なぁ。
そんなスゴイ奴になれりゃあ、アタシの悩みも晴れるのかねぇ?
……ま、実際ソイツを目の前にしなきゃ詮無い事だな。
だから有象無象の紙屑にはさっさと吹き飛んでもらおうか!
吹雪にゃ嵐をぶつけてやらぁ。
サイキックの『念動力』を練り上げて、【闇払う旋風】として戦場すべてを巻き込むよ。
貼り付いてくる白紙は、身体から発する『衝撃波』で吹っ飛ばして嵐の中へ戻してやる。
軽く『浄化』の力も込めておけば、力ある紙片だけがだんだんと残っていくだろうさ。
さあ、「原本」はどいつだい?
散り散りにするのも吝かじゃねぇ、さっさと名乗り出やがれってんだ!
「理想の自分、なぁ。」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は一般的に“理想”とされる人物像を思い浮かべる。
顔よし。性格良し。成績優秀。お金持ち。友達がいっぱい。一家仲良し。
悩みなんて一つもなく、毎日楽しく明るく過ごしている。
「そんなスゴイ奴になれりゃあ、アタシの悩みも晴れるのかねぇ?」
最も、多喜の理想がそれら一般の人に当てはまる理想に当てはまるかどうかはわからないが。
一体、彼女の理想の姿とは何なのだろう。
いくら頭の中で理想の姿を思い描いても、彼女の理想を審判するのは彼女ではなく例の“鏡”
「……ま、実際ソイツを目の前にしなきゃ詮無い事だな。」
ただもしかしたら、その鏡には“UDCとヒトの在り様”のヒントが何か得られるかもしれない。
上空から迫るは“鏡”とは無関係のUDC。殺意を持った大量の紙飛行機。
「だから有象無象の紙屑にはさっさと吹き飛んでもらおうか!」
両手の拳を握りしめサイキックエナジーを込める。
電撃のような眩い光がバチバチとその手から徐々に溢れ出す。
吹雪のように小さな紙飛行機がスピードを上げ、多喜を貫かんと真っ白な塊となって飛来する。
「吹雪にゃ嵐をぶつけてやらぁ。」
彼女はサイキックエナジーを念動力で練り上げる。
紙飛行機の吹雪に匹敵するような。
いや、もっと
全てを飲み込んでしまうような巨大な嵐のように。
ユーベルコード |闇払う旋風《サイキネティック・ストーム》
「吹き飛びな!」
紙飛行機の吹雪とサイキックエナジーの嵐が激突する。
びゅう、とその衝撃で突風が生じて音を鳴らす。
サイキックエナジーを纏う巨大な旋風は紙飛行機の吹雪を飲み込んでいく。
ぐるぐると紙飛行機が列になって嵐の中を回る。
逃げ出そうともがいても、遠心力と突風の力で嵐の外側へ逃げることを拒んでくる。
電撃のようなサイキックの力で紙飛行機が端から黒く焦げてゆく。
ボゥ、と焦げたところから火が上がる。
一機の紙飛行機から発火した炎は、サイキックエナジーで勢いを増す。
次々に他の紙飛行機に燃え移り、炎は嵐本体へと巻き込まれる。
風に吹かれて火の粉が飛ぶ。
赤く煌々と燃えながら風が巻き上がる。
その様子はさながら火炎旋風のようだった。
────────────────────────────────
それに焦ったのは意志なき筈の紙飛行機。
紙飛行機の群れは互いに身体をぶつけ合い始めた。
そうしてお互い弾かれた数機の紙飛行機は勢いよく嵐の中から脱出する。
そうして多喜の元へ鋭く飛んでいき、その形状をただの紙へと戻した。
勢いよく多喜へと、一枚、また一枚と張り付いていく。
パシン、パシン、と多喜に張り付く白い紙
ただの紙の筈なのに、一枚一枚が重く人の手のように力強い。
そのサイキックエナジーを生み出す多喜の動きを拘束しようと強く張り付く。
「しゃらくさいんだよ!」
多喜はサイキックエナジーを転化してさせ、身体から衝撃波を発する。
どっ、と勢いよく発せられた彼女の衝撃波。
どんなに力強く張りつこうとしていても、紙は身体から引き剥がされる。
衝撃波の力の行きどころはあの、嵐の中。
その勢いのまま、火災のような嵐の中へ戻される。
「軽く『浄化』の力も込めておいた。さあ、『原本』はどいつだい?」
人々の噂で発生した紙飛行機の群れでも、群れの元となった“原本”は存在するはずだ。
「散り散りにするのも吝かじゃねぇ、さっさと名乗り出やがれってんだ!」
彼女の思惑通り、力の弱い分体は火で焼かれ、浄化の力で消滅していく。
黒い燃え滓だけが、嵐の通り過ぎた後に残る。
その燃え滓さえも、ビル風に吹かれて何処かに吹かれていった。
────────────────────────────────
こつり
多喜の背中に紙飛行機が当たる感覚。
その紙飛行機は嵐で少し焼かれてしまったのだろうか。
片翼の端が赤く燃えていて、か細く灰色の煙を立ち昇らせている。
「おっ、危ねぇ!」
慌てて小さな炎を吹き消す。
「さて、『原本』が降伏しにきたか?それともお前が件の噂の元になったあの紙飛行機かい」
少し黒く焦げの残った元々白かった紙飛行機を開く。
『貴方の気に入る絵、有り〼』
その文字を見て、ニヤッと多喜は笑みをこぼす。
「へー、自信満々だねぇ。アタシの理想ってなんだい、教えてもらおうかねぇ」
鏡がある場所は近い。
ゆっくりと歩いて行こう。
UDCとヒトの在り様にも思いを馳せて。
大成功
🔵🔵🔵
桜井・亜莉沙
やれやれ、噂がこんな化け物を生み出すんだから恐ろしいものだね。
とはいえ、人の口に戸は立てられないし……現れてしまったものは倒すしかないけど。
突っ込んでくるはくしの群れをウィザードミサイルで迎撃
【高速詠唱】【多重詠唱】で矢の数を増やして弾幕を張ろう
UDCとはいえ、『紙』なら……焼き尽くすまでさ。
この弾幕、突破できるかい?
※アドリブ歓迎
紙飛行機。紙飛行機。
素敵な素敵な紙飛行機。
選ばれた人の元にしか届かない紙飛行機。
だからこそ誰も本質に辿り着かない。
だからこそ、人々は噂話に花を咲かせる。
「やれやれ、噂がこんな化け物を生み出すんだから恐ろしいものだね。とはいえ、人の口に戸は立てられないし……現れてしまったものは倒すしかないけど。」
桜井・亜莉沙(自称大魔術師・f26162)はそう呟く。
六一一『デビルズナンバーはくし』は鏡の配下ではない。
鏡の噂が噂を読んで発生してしまった、偶発的なUDCだ。
しかし、関係がないとはいえ無視するわけにはいかない。
この紙飛行機は明確に殺意を持っている。
もしもこのUDCが“素敵な紙飛行機”を求めている人と出会ってしまったら…
犠牲者はきっと少なくないだろう。
「そうならないように防ぐのが、私達猟兵の役目だからね」
空を紙飛行機が飛んでいく。
その数は一つや二つなんてものではない。
十、二十なんてものでもない。
百…いや、数百もの紙飛行機が飛んでいてもおかしくないだろう。
呪文を詠唱し、矢を一本紙飛行機の群れに放つ。
「ほら、敵はこちらにいるよ…これで紙飛行機をおびき寄せることができればいいのだが、そもそも紙飛行機に挑発に応じる自我なんてあるのかな?」
首を捻りながら亜莉沙は矢の行方を見守る。
先頭の紙飛行機に矢が命中する。
炎属性の矢に射られた紙飛行機は赤く燃え上がり、複数の機体を巻き込んで墜落した。
落下した紙飛行機はUDCは自律機能を失ったのか、暴れることなく赤々と燃えて灰になった。
紙飛行機の群れの全てが機体の先端を亜莉沙の方へ向ける。
「おや、上手くいったようだね」
六一一『デビルズナンバーはくし』の群れは勢いを増して亜莉沙目がけて突撃する。
亜莉沙の瞳“フローライトアイ”
膨大な魔力を内包したそれはあらゆる物を見抜く。
その瞳六一一『デビルズナンバーはくし』を見つめるとそのUDCの本質は紙。
「UDCとはいえ、『紙』なら……焼き尽くすまでさ。この弾幕、突破できるかい?」
亜莉沙はウィザードロッドを手にし、高速で多重に呪文を唱えながら振るう。
首飾りの魔法石が光り輝く。
ユーベルコード ウィザード・ミサイル
五百に近い数の炎属性の弓矢が一斉に放たれる。
それはまるで流星群のように紙飛行機の群れに向かっていく。
紙飛行機はそれを器用に避けようと右へ左へ。
しかし、避けようにもそこにも矢は飛んできている。
炎を纏った矢と正面から激突した紙飛行機。
無惨にも一瞬にしてその身体中に炎は燃え広がっていく。
燃えて落ちる紙飛行機は打ち上げ花火が落ちる様のようだ。
弓矢を操る亜莉沙の動きを止めようと、一部の紙飛行機は折れた身体を広げて一枚の紙に戻る。
薄くなったその『はくし』の機体は矢の間をスイスイと抜けていく。
そうして彼女の目の前まで突進し、拘束しようと襲い掛かった。
「なるほど、消耗戦になる前に私を撃とうということだね。だけど残念…動きが甘いね」
亜莉沙はウィザードロッドを振るい、炎の弓矢を急旋回させる。
背後からの強襲に『はくし』は気づかず、背後からその身体を射抜かれていく。
本質が紙である『はくし』は叫び声を上げることなく、中心から燃えていき…黒く焼け落ちた。
────────────────────────────────
こつり
亜莉沙の背中に紙飛行機が当たる感覚。
そしてそれはパサリと地面に落ちた。
“フローライトアイ”が見るにどうも『はくし』ではないようだ。
「君は、こんな事を引き起こした例の噂の中心にいる“本物の紙飛行機”かい?」
紙飛行機は何も答えず、ただ地面に転がっている。
亜莉沙はそれを手に取るとゆっくりと紙飛行機を広げていく。
中に何が書かれているかなど“フローライトアイ”でわかるが、広げてその文字を確認する。
『貴方の気に入る絵、有り〼』
理想の自分が写る鏡がある住所とともにその文字は白紙の紙に書いてあった。
「私の気に入る絵もあるかい?」
そう呟きながら、彼女は再びその紙を折っていく。
もう一度、紙飛行機の形に。
亜莉沙の理想の姿とはなんだろう。
彼女の過去に因縁のある姿なのだろうか。
「キミがその鏡の前まで連れていっておくれ」
そう言うと彼女は出来上がった紙飛行機を前に飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
グラディス・プロトワン
貴方の気に入る絵というキャッチコピーで誘っておきながら、実際にあるのは鏡か
一種の詐欺のような気がするが、興味はある
絵に描いたような理想が映るのであれば、あながち間違ったキャッチコピーではないのかもな
実際に理想を目の当たりにしてしまったら、俺だって魅入られてしまうかもしれない
導かれた人は変わってしまうらしいが、入れ替わられてしまうのなら…それはもう別人だ
理想に塗り潰された者はどうなってしまうのだろうか
ともあれ、その鏡とやらの場所を突き止めなければ始まらない
まずはこの偽物の紙飛行機をどうにかしなくては
1体ずつ対処していては埒が明かない
まとめて相手をしてやる
数は多いが腹ごしらえには丁度良いだろう
『貴方の気に入る絵、有り〼』
紙飛行機に書かれたその言葉が果たして正しいと本当に言えるだろうか。
(貴方の気に入る絵というキャッチコピーで誘っておきながら、実際にあるのは鏡か)
メインが鏡ならば、気に入る絵があるというのは明らかに誇大広告である。
(一種の詐欺のような気がするが、興味はある)
というのがグラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)の所見だった。
さて、グラディスの理想とは。
(絵に描いたような理想が映るのであれば、あながち間違ったキャッチコピーではないのかもな)
『貴方の気に入る絵、有り〼』
絵に描いたような理想がグラディスの理想像なのだろうか。
それは鏡の前に立ってみなければわからないことだ。
(実際に理想を目の当たりにしてしまったら、俺だって魅入られてしまうかもしれない。)
グリモア猟兵によると、猟兵であっても抗えずに手を伸ばしてもおかしくないとのことだった。
グラディスもその黒い手を鏡の向こうの“理想”へと伸ばしてしまう可能性もある。
紙飛行機に誘われた人は変わってしまう。その人の理想へと。
しかし、実際に起こっている事は鏡に導かれた末に理想の形をしたUDCの虚像との入れ替わり。
それはもう別人だ。
では、理想に塗り潰された者はどうなってしまうのだろうか。
鏡の中に取り残された本物は一体どうなってしまうのだろうか。
少なくともドッペルゲンガーの報告は無い。
「ともあれ、その鏡とやらの場所を突き止めなければ始まらない。」
まずはこの偽物の紙飛行機をどうにかしなくては。
現在、街の中には紙飛行機の噂から発生した別のUDCの紙飛行機で溢れている。
それこそ数えられない程の量だ。
魚群のようにいくつかの群れをなしたようにそんな紙飛行機が空の上から人々への殺意を振り撒いている。
その中から本物を見つけ出さなければいけない。
「1体ずつ対処していては埒が明かない、まとめて相手をしてやる…数は多いが腹ごしらえには丁度良いだろう」
ちょうど機嫌も悪くなってきたところだ。
「そろそろ食事にさせてもらうぞ…!」
腹部の装甲を外し、エネルギー超吸収モードへと変形する。
全身にエネルギー吸収機構を携えたその姿は、自身の移動速度と反応速度を著しく低下させてしまう。
しかし、その代償を払う価値のあるほどにエネルギー吸収機構のエネルギー吸収力と吸収効果範囲を強化する。
紙飛行機の群れがグラディス目掛けて矢のような速度で飛んでいく。
腹部の装甲が外れた今が好機と言わんばかりのスピードだ。
エネルギー吸収機構が起動する。
紙飛行機の速度を維持する為のエネルギーが蛍光に発光し、渦を巻くように吸い取られていく。
物理的に攻撃を受けている訳ではない筈の紙飛行機が、ポトリ、ポトリ、と落下していく。
群れ全体を見ても徐々に速度が落ちているように見える。
まだまだ腹は満ちていない。
紙飛行機一体一体の生命力を確実に吸収できるようにエネルギー吸収機構の出力をあげる。
それに合わせて面白いほどにどんどんと紙飛行機は落ちていく。
そうして紙飛行機がグラディスの元へようやく届いた頃には既に最後の一機になっていた。
弱々しく、ギリギリ地面に墜落しないでグラディスの足元に飛んできた。
エネルギー吸収機構に生命力の最後の一雫を吸い取られた最後の紙飛行機は、はらりと形を失い一枚の紙に戻って地面にゆっくりと落ちていく。
真っ白の紙が地面を覆い尽くさんばかりに地面に落ちている。
その光景を見ると、より腹が満ち足りたような気がしてくる。
燃費の良くない機構にはちょうど良い量の|紙飛行機《エネルギー》だった。
────────────────────────────────
カツン
グラディスの機甲に何かが当たった音がした。
「やはり俺の元へも来たか」
足元に落ちた、唯一形を保っている紙飛行機。
開けば、やはりあの文字。
『貴方の気に入る絵、有り〼』
一種の詐欺であり、それでいて的を射たキャッチコピー。
文字が薄くかすかに見えるほどなのはグラディスの“食事”に巻き込まれたせいか。
鏡の場所は近い。寸刻後には、グラディスは鏡の前にいる。
「果たして、どのような姿だろうな」
自分は果たして手を伸ばしてしまうのか。
万が一入れ替わってしまった場合、自分はどうなるのか。
思い当たる理想像があるのか無いのか、黒の機甲騎士の表情は読み取れない。
ただ、その声に好奇心を滲ませてグラディスは紙飛行機の文字に導かれていった。
大成功
🔵🔵🔵
洞木・夏来
理想の自分か、知るのは少し怖いけど知らなきゃいけない気がする
今の私が何をすればいいのかを知るために
そのためにはまずこの紙飛行機たちをどうにかしなきゃだよね
【UC:虞舞イ散ル銀世界】(POW)を発動します
とはいえ今までみたいにむやみにナイフを増やさずに、増やす本数は4本だけ
その4本のナイフを飛ばすんじゃなくて自分の手の延長みたいに”操る”意識で戦います
対象は一番攻撃が届きそうな紙飛行機。自分で考えて倒す相手の優先順位をつけながらナイフを振るいます
今までのただ力を振るうだけみたいな感じじゃなくて、ちゃんと自分の意思で戦うって感じだからすごく難しいな
(アドリブ連携負傷等々全て歓迎です)
理想の自分
知るのは少し怖いけど知らなきゃいけない気がする。
今の私が何をすれば良いのか知るために。
洞木・夏来(恐怖に怯える神器遣い・f29248)の後光はじわりと緑色に染まっていた。
理想の姿は、何となく想像できる。
彼女はバロックメイカー。
些細な猜疑心や恐怖心でも、それを怪物として具現化してしまう呪いに侵されている。
自分の呪いで家族を傷つけないように家出をした。
そうして恐怖心を受け入れるために猟兵になった。
果たして今、彼女は恐怖心を受け入れられているだろうか。
“理想の自分を知りたいと思ってここに立っている”
それはその問いへの十分すぎる答えではないだろうか。
────────────────────────────────
「そのためにはまずこの紙飛行機たちをどうにかしなきゃだよね」
空には大量の紙飛行機が飛んでいる。
グリモア猟兵の予知によると、この中に“本物”はいない。
全て“偽物”。
本体の鏡と何の関わりもない上に、頭上から|獲物《ニンゲン》を狙っている。
理想を知るためにも、猟兵としても
この大量の“偽物”の紙飛行機を撃退しなければいけない。
ユーベルコード:虞舞イ散ル銀世界
ナイフ型の神器の封印を解き、何十にもそれを増殖させようとして────やめた。
今までみたいに無闇にナイフを増やしても何も変わらない。
ただ力を振るって戦うのは、自分の力を制御できていないのと何も変わらない。
それは呪いから目を背けて逃げ続けるのと、きっと同じだろう。
「…増やす本数は4本だけ」
後光の緑が少し濃くなる。
大量の紙飛行機に対して、こちらはナイフ4本。
“もっと増やした方がいいんじゃないか”
“4本だけじゃそうにもならない”
そう思う心もある。
けれど
“4本のナイフで全て倒せる”
一瞬だけどそんな自信が心の端に生まれたんだ。
────────────────────────────────
夏来のユーべルコードに気づき、紙飛行機はこちらに鋭い軌跡でまさに“駆け降りて”来る。
「飛ばすんじゃなくて自分の手の延長みたいに”操る”意識で…」
目を見開き、対象をよく観察する。
ナイフの数は4本だ。無闇に攻撃していたら数で負けてしまう。
攻撃すべき紙飛行機を見極める。
眼前に迫る先頭の紙飛行機だろうか?
いいや、違う!
一番スピードの乗っていない、一番攻撃が届きそうな紙飛行機に向かってナイフを繰る。
先頭の紙飛行機は、ギリギリのところで横に転がり避ける。
彼女の頬に赤い線がひとすじ引かれる。
しかし、彼女にはそんな事は些細な事だった。
彼女の操るナイフに切断された紙飛行機が、二枚の白紙となって地面に落ちてくる。
彼女の後光の緑が薄くなり、黄色が混ざった。
(時間はかかってしまうかもしれないけど…できるかもしれない)
眼光鋭く、次の紙飛行機を狙う。
Uターンしてくる紙飛行機の後方集団。
スピードが遅くなり、隊列が崩れかかるそこを狙う。
いつも通り、ナイフを大量に増やして紙飛行機に向かって飛ばしていれば既に終わっていた戦闘だったかもしれない。
頭で考えて、対象を決めて、狙いを定めて、ナイフで切る。
時間がかかればかかるほど、脳が疲弊していき不安の雲が集中力を覆い隠していく。
狙った紙飛行機の脇にナイフが振り下ろされる。
体力も有限ではない。避けきれなかった紙飛行機が左腕に突き刺さる。
限界を見つけ、緩みだした心。
頬をつたう汗と血の混じった液体を拭って、自分を律する。
突き刺さった紙飛行機をすぐに引き抜き、切断する。
4本を繰り、一機、また一機と時間をかけて群れの一部を解体していく。
(ちゃんと自分の意思で戦うって感じだからすごく難しいな)
意志を持って戦うことは体力も精神もすり減らしていく。
けれど、確実に紙飛行機の群れの大きさは徐々に小さくなっていった。
────────────────────────────────
「…あれ」
気がつけば、最後の一機だった。
目の前で二枚の紙がひらりひらりと地面に落ちていく。
緊張が緩み、膝から崩れ落ちた。
息がきれている。
暫くぶりにゆっくりと息を吸って、吐いた。
脳がじんじんと痺れている。
擦り傷や切り傷で、身体はこんなに傷んでいたんだとやっと気がついた。
「私、やったんだ」
未だにあの群体を切り尽くした実感が湧かない。
けれど、その言葉が口からこぼれ出た。
夏来の身体を労わるように優しく、こつり。
背中に紙飛行機が当たる感覚。
子供が投げたような、優しい衝撃だったけれどそれでも先ほどまで気を張っていた夏来は驚いてナイフを構えて勢いよく背後を振り返る。
眼下に動かない紙飛行機。
(あぁ、本番はこれからだったな)
そっと手を伸ばし“それ”を拾い上げる。かさりと音を立てて紙飛行機は開く。
『貴方の気に入る絵、有り〼』
果たして、夏来はどんな理想を見るのだろう。
その理想は、自分からどれくらいかけ離れているのだろう。
疲労で震える脚を立たせる。
やっぱり、嫌な考えばかり頭を巡る。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『魅惑の絵画』
|
POW : 客として潜入
SPD : 絵画を盗み出す、偽物の絵画とすり替える
WIZ : 展示即売会の運営を調べる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
紙飛行機が導いた先に辿り着いたのは、真っ白な、少し大きなギャラリーだった。
中はがらんとしていて誰もいない。壁も床も天井も、全てが真っ白だ。
壁も床も天井もマットな素材で、どこにも自分の姿は映らない。
目がチカチカして、頭がおかしくなりそうだ。
人の背丈よりも大きな“鏡”がいくつも並んでいる。
おそらくこれ一つ一つが本体だろう。
ふと、一つの鏡に目がいった。
『あぁ、これは自分のものだ』
何故かそれが理解できた。
惹かれるようにその前に立つと、貴方の姿が映る。
しかし、その姿は自分と似て非なるものだった。
自分の理想像。自分の上位互換。自分の憧れ。
果たして、貴方の前に立ってる“それ”はどんな姿をしている?
────────────────────────────────
鏡
それは反射
光の反射を利用して“己の姿”を見るもの
それは象徴
“真実”の象徴
しかし
左右を“逆”に鏡は己の姿を映す
鏡は“虚栄”や“傲慢”の象徴でもある
鏡は
本当に“己の姿”だろうか
本当に“真実”だろうか
鏡は答える
“己の姿”であると
“真実”であると
逆ではない己の顔を見た事はあるか
ほんの少しでも傲慢でないと言えるか
少しでも迷ったら、一度鏡を見てみるといい
何百と見飽きた左右逆の“己の姿”が映るはずだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
第二章:自分の理想像との対峙
断章投下直後から受付を開始します。
本章では例外なく、各々の理想像を鏡にてご覧いただきます。
プレイングにて詳細に教えていただければありがたいです。
鏡は必要があれば過去に救えなかったあの人などの姿も貴方と共に映すでしょう。
本章では鏡を破壊する事はできません。
(攻撃する事は可能ですがすぐに直る、またはびくともしないでしょう)
理想の姿は思わず手を伸ばしてしまうほど魅力的です。
鏡に触れて入れ替わることを望む方は
プレイング冒頭、または文末に“●”の記載をお願いいたします。
その場合、第三章の判定をやや難しくさせていただきますのでご了承ください。
(なお、第三章では真っ暗な鏡の中の世界で戦うことになります。)
皆様のプレイング心よりお待ちしております。
グラディス・プロトワン
●アドリブ歓迎
敵か!?
…これは、鏡?
だが映っているのは俺ではない
自身より遥かに洗練された体を持ち、力強さを感じる存在が映っている
しかしよく見れば俺の面影があるように思える
俺が試作型止まりではなかったら、こうなっていたのだろうか?
今の俺は自身の欲望を抑えきれず、時には味方にさえ襲い掛かり無差別にエネルギーを奪おうとしてしまう欠陥品だ
それに比べて鏡の中の俺は…とてもそんな事をしそうには見えないな
その体躯のせいもあるだろうが、圧倒的強者の余裕のようなものを感じる
すぐ手の届く場所に羨望の存在がある
映る全てを自分のものにできそうな気がして、触れてしまうだろう
理想を手にするには代償が必要になるとも知らずに
●“プロトワン”
紙飛行機に案内されたギャラリーの天井は異様に高い。
グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)でさえも窮屈を感じることがない程度に高い天井のはずなのに、その異様な白さのせいか、言いようのない息苦しさを感じざるをえない。
二メートルほどの真っ黒な絵を見下ろす。
「本体は鏡、だったか」
それでも絵の一つ一つに異常がないか確認しながらギャラリーの奥へ奥へと歩を進める。
ちょうど、曲がり角を曲がった時だった。
薄暗く存在感を放つ部屋。その真ん中に動く“黒い影”があった。
「敵か!?」
奇襲に備え、咄嗟にサイフォンソードを構える。
しかし、その黒い影は攻撃をしてくるどころかいつまで経ってもコチラに近づいてすら来ない。
「…これは、鏡?」
黒い影の正体は鏡に映ったグラディス自身であった。
大きさは三メートルを超える程だろうか。
先ほどまで見てきた他の絵よりも明らかにこの鏡は大きな存在感を放っている。
おそらくはこの鏡が入れ替わり事件を発生させているUDCの本体であろう。
しかし、そんなことは既に今のグラディスの頭からは消え失せていた。
グラディスがその鏡の前に立った時、鏡に映ったのはグラディスではなかった。
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黒い装甲は気品すら感じるほど黒々と輝き、それでいて重量感がある。
だが、その持ち主はどっしりと構えて超重フレームの重さなど気にも止めていないようだ。
フレームはどんな攻撃にも、どんな状態異常にも耐え得るのだろうと容易に想像できてしまう。
機体に複数装着しているのは…エネルギー吸収機構だろうか。
グラディスのものより数が少ないが、大きさは同程度。
ということは、グラディスのものよりも効率よく、そして短時間でより多くのエネルギーを吸収できるのだろう。
その赤い目は見つめられるだけで気圧されてしまいそうな程真っ赤に燃えている。煌々と輝くその目には余裕とグラディスへの嘲りや優位、そして失望を物語っているようだった。
力強さを感じさせる存在がそこには立っていた。
グラディスより遥かに洗練された体を持っていることを即座に理解させられる。
自分よりも遥かに強く、遥か遠くの存在だ。
しかし、そのフレームの黒、目の赤、サイフォンソードに似ている両手剣
そして“テンタクル No.091”
その機体の隅々を見ていく間に、少しずつだが遥かに遠い存在のそれに自身の面影もあるように思えてきた。
(俺が試作型止まりではなかったら、こうなっていたのだろうか?)
今のグラディスは自身の欲望を抑えきれず、時には味方にさえ襲い掛かり無差別にエネルギーを奪おうとしてしまう。
燃費も悪く、エネルギーが足りなければ機嫌も欲望も抑えることができない。
だから“プロトワン”で開発が中止された。
言ってしまえば“欠陥品”だ。
対する“目の前のグラディス”はこれ見よがしに自身のブースターを起動し、一度くるりと身を翻してみせた。
身軽だ。
グラディスのブースターはエネルギー吸収機能を強化するために機動力が落ちてしまう。
対する目の前のそれは、機動力も健在。
機動力を下げずにエネルギー吸収機能を強化するブースターなのだろう。
体躯がグラディスよりも大きくなったそのせいもあるだろうが、圧倒的に強者の余裕のようなものを感じる。
試作型と完成形
自身の劣っている部分を前から知っていたからこそ、こうやってまざまざと理想形を見せつけられると激しく彼の劣等感が刺激される。
(鏡の中の俺は欲望を抑えきれず、味方にさえ襲い掛かり無差別にエネルギーを奪おうなんて…とてもそんな事をしそうには見えないな。)
彼の眼光が悲しげに落ち着いていく。
鏡の中のグラディスの眼光は未だに爛々と赤い光を放っていた。
────────────────────────────────
彼の“劣等感”を鏡は見逃さなかった。
心の隙間に“魔”が忍び込む。
“すぐ手の届く場所に羨望の存在がある”
ふと、頭の中でそんな声がした。
この鏡に触れれば、自分は試作品ではなくなる。
完成することができる。
劣等感は欲望へと変わる。
今ならば、鏡に映る全てを自分のものにできそうな気がした。
気がつけばその貪欲な身体は動いていて真っ直ぐと目の前の鏡に手を伸ばしていた。
理想を手にするには代償が必要になるとも知らずに。
────────────指先が鏡に触れた。
瞬間、世界は暗転した。
白は黒へ、いや闇へ変わってしまった。
「これは!?」
どこへ続くのかわからぬ闇の中にグラディスはいた。
その姿は、理想の姿になんて変わってなどいない。
試作型から何一つ変わってなどいない。
目の前には件の鏡ほどの大きさの空間が切り開かれている。
先ほどまで自分が立っていた場所に、完成されたグラディスが立っている。
罠にかけられたと、後悔してももう遅い。
いくら元いた場所に手を伸ばしても、その空間の寸前で弾かれて届かない。
理想は手に入らず代償のみを払わされた。
いや、そうではない。
元々理想の姿になれるなんて誰も言ってはいなかった。
そして、最初に向こう側を願ったのはグラディスの方なのだから。
鏡の向こうの現実で赤い目が笑っていた。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
これが、アタシの理想の姿……
自信満々の表情で、
準もそこに居て、
新品ピカピカのカッコいいバイクに乗っていて……ほら、降りてきた。
きっとどんな難題も軽く解決して、そんなものなかったかのように颯爽と二人で風に乗っているんだろうな……?
待て。
その「向こう側」の宇宙カブは、どうなってるんだ?
あのバイク屋のガレージの片隅で、埃を被ってる?
そうなりゃアタシは猟兵なんかにゃなってなくて、
そもそもここに立っていない……?
……やれやれ、鏡の向こうのアタシは、そりゃ理想だよ。
何しろ「猟兵じゃない」んだ。
けどな。それは有り得ないって分かっちまう。
やっぱ楽は出来なさそうだわ。
まだまだ力を貸しとくれ、|相棒《宇宙カブ》。
●相棒
ギャラリーの中を宇宙カブをひいて歩くのは果たしていかがなものか。
しかし、駐車場も駐輪場もなかったのだからどうしようもないし、中にはUDC本体がいるし…などとギャラリーの前で数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は考えていた。
しかし、そんなことなどギャラリーに一歩踏み出した瞬間にどこかへ消えてしまった。
ギャラリーに足を踏み入れた瞬間には何故か自分がどこへいくべきか理解できていた。
奥に進んで、右に曲がって二番目の部屋。
宇宙カブを引き連れてその場所まで行くと、ちょうど自分と宇宙カブが入る程度の大きさの鏡がそこにはあった。
「これが、アタシの理想の姿……」
鏡はまるで映画を映すように多喜に彼女の理想を見せつけた。
ツヤっと輝く赤色のフレーム。軽快なエンジン音。
買ったばかりの、新品のバイクの試乗をしているのだろう。
同乗者は…やっぱり、本見準だ。
オブリビオンになる前の準が、泣きながら抱きしめ“送った”準が、もうこの世にはいない準が、多喜の運転するバイクの後ろに座っている。
鏡に見入っていると、その様子を見ている多喜自身にも準の体の温かさが感じられるような気がした。
そうしてバイクが停まったのは馴染みの“あの”バイク屋だ。
「……ほら、降りてきた。」
今までに何が起こるか、そしてこれから何が起こるかわかりきっているかのように多喜は言葉を零した。
準と多喜が二人楽しそうに、コチラに向かってくる。
そして、鏡を見ている多喜のちょうど目の前で立ち止まって談笑する。
乗り心地が最高だ、とか
フレームの色がいい、とか
新品のバイクについての話は段々と友人同士の他愛のない会話へと変わっていく。
次のツーリングにはどこへ行こうか、とか
じゃあなるべく早く行こう、とか
もう多喜が二度と出来ないそんな会話を目の前で繰り広げられる。
(きっとどんな難題も軽く解決して、そんなものなかったかのように颯爽と二人で風に乗っているんだろうな……?)
きっとどんなUDCに出会っても、どんなオブリビオンに出会っても。
(準とあたしの二人で、最後にはバイクで風を切ってさ…)
悲しさと同時に羨ましさが、少しずつ胸の中に満ちていく。
いいな、羨ましいな。
そう思っていると、自然に手が鏡へと伸びていく。
指先が鏡に触れんとしていたまさにその時
チャリン
その音にはっとし、伸ばしていた手を引く。
音の主は、肌身離さず多喜が身につけているドッグタグだ。
おそらく鏡に手を伸ばした際に引っかかって揺れたのだろう。
偶然だろうが、そのおかげで正気に戻ることができた。
「待て。その『向こう側』の宇宙カブは、どうなってるんだ?」
かつては準を探すために、今は準のオブリビオン化の真相とUDCとヒトの在り様に思いを馳せながら共に駆けてきた宇宙カブは鏡の向こうの多喜のそばにはいない。
では一体どこに?
多喜は正面で楽しそうに談笑する準から無理やり意識を逸らして馴染みのバイク屋へと目を向ける。
あの店で押し付けられたのだから、あの店にあるに決まっている。
鏡の端、ギリギリ見えるような場所に宇宙カブは映り込んでいた。
バイク屋の端っこでひっそりとそのフレームを埃に汚されていた。
長年放置されたからかマフラーは錆に侵食されている。
きっとこのままこの店の端で忘れ去られる運命なのだろう。
新品のバイクを手に入れた多喜にはもう原付のようなボロい宇宙カブなんて必要としていない。
店の店主がこれを多喜に押し付けることもなければ、そもそも準を探しにここに来て宇宙カブに出会うことはない。
「そうなりゃアタシは猟兵なんかにゃなってなくて、そもそもここに立っていない……?」
フッと笑い声が漏れる。
「……やれやれ、鏡の向こうのアタシは、そりゃ理想だよ。何しろ『猟兵じゃない』んだ。」
準を失わず、宇宙カブにも出会わない人生だったらどんなによかったか。
猟兵にならない人生はどれほど幸せだったか。
想像するのは容易い。今すぐに鏡に触れることほど容易い。
「けどな。それは有り得ないって分かっちまう。」
だって、今ここにいる数宮・多喜は“猟兵”なのだから。
ドッグタグを眼前に掲げる。
多喜の猟兵としての認識章。まだ折れていない。
「やっぱ楽は出来なさそうだわ。まだまだ力を貸しとくれ、|相棒《宇宙カブ》。」
鏡に、理想にくるりと背をむけて宇宙カブのサドルをポンポンと叩く。
そうして物言わぬ相棒に向かって、ヘラりと笑ってみせる。
今度こそ笑ってサヨナラができたか。
それを知るのは|相棒《宇宙カブ》だけだ。
大成功
🔵🔵🔵
洞木・夏来
●
理想を見るのはやっぱり不安だけど、知らなきゃ前に進めない気がする
せっかくここまで来たんだしね
鏡の中に写ってたのは今の私と違って、自信に満ちた顔をしていて、旅団のみんなと胸を張って一緒にいて、今の私よりもずっとずっと強い
あんな風になれたなら。そんな思いが一瞬よぎるけど、違う
あんな風にならなくちゃ。私は理想に近づけるように頑張らなきゃいけない
”なりたい”じゃなくて”なる”んだ。もう二度と、後悔をしないように
私は自分が弱いことを知っています。それでも私はみんなといることを望んだんです
だから、私にあなたのことを教えてくれませんか。私があなたのように強くなるために
(アドリブ連携負傷等々全て歓迎です)
●理想とは
人間は真っ白な空間に閉じ込められてしまうとほんの僅かな時間で気が触れてしまう、というオカルトじみた話がある。
周囲の白色は洞木・夏来(恐怖に怯える神器遣い・f29248)の不安を刺激する。
それでも彼女は真っ白なギャラリーの奥へと進んでいく。
(理想を見るのはやっぱり不安だけど、知らなきゃ前に進めない気がする)
自覚があった。自分は停滞していると。
恐怖に怯えるばかりでそれをどうするかまで考えていなかった。
恐怖は自ら立ち去ってはくれないのに。
停滞とは退化である。誰かが言っていた。
ならば進むしかない。
それにもう、入口からはだいぶ離れてしまった。
初めて自分の脳で考えて“ここ”まで来たんだ。
黒い絵ばかり並ぶ画廊の長い長い廊下を夏来は一人、自分の足で進んでいった。
────────────────────────────────
どれくらい歩いただろう。
時間も距離も定かではないが、気がつくと目の前に鏡は有った。
理想を映す鏡。
夏来の姿を反射し、夏来の理想の“虚像”を映し出す。
…映し出されたのは、とある旅団の日常風景とよく似た景色だった。
真紅のヒーロー。ギークな単眼妖怪。妄言吐きの忍法使い。竜の血の殺人鬼。氷華の人狼。記憶喪失の王子様。甲高い声のシャーマンズゴースト。怪異に蝕まれるゴッドハンド。自由を愛するマジックナイト。呪われた子と呼ばれたレトロウィザード。學徒の弓兵。
一つだけ違っていたのは、夏来が旅団のみんなと胸を張って一緒にいることだ。
その顔は今の夏来と違って、ずっと自信に満ちた顔をしていた。
みんなと言の葉を交わし、その会話の中でたまに笑顔を零し、後光を鮮やかな黄色に光らせていた。
まさにそこが“安らぎ”の場だとその立ち振る舞いから鏡ごしに夏来に虚像は見せつけていた。
テレビのチャンネルが変わるように、鏡に映し出される風景が変わる。
それは、ついさっき起こったこと。
大量の紙飛行機と対峙する夏来の姿がまるで映画のように鏡に映し出される。
しかし、その様子はやはり実際に起こった事と異なる。
夏来はナイフ型の神器の封印を解き、何十にもそれを増殖させようとして、それをやめる。
“ナイフは増やさない”
紙飛行機の大群を前に夏来は自信のある笑みを浮かべていた。
そこからの光景は、まさに猟兵としてあるべき姿だった。
駆け降りてきた紙飛行機を前方から一機ずつ、目にも止まらぬ速度で切り断っていく。
自身を狙って突撃するそれらをひらりとかわし、反撃と言わんばかりに上空に飛ばしておいたナイフを“操り”真っ二つにする。
先ほどの夏来の戦闘よりも圧倒的な速さで紙飛行機の群れは瓦解していく。
スピード。反射神経。集中力。力の使い方。
何もかもが夏来の戦闘よりも優れていた。
最後の一機を余裕の表情で切り捨てると、虚像の夏来はこちらを見て微笑んだ。
そうして鏡の前の夏来に向かって手を伸ばす。
その微笑みはこれ見よがしに戦闘の凄まじさを見せつけるようではなく、ただ自信があることを表しているように見えた。
(あんな風になれたなら。)
そんな思いが夏来の頭を一瞬過ぎるが
(違う。)
すぐにその考えは鏡の前の夏来自身によって否定される。
あんな風にならなくちゃ。あんな風に、私はならなければいけない。
恐怖が去るのを待つんじゃない。理想を誰かから与えられるんじゃない。
私は理想に近づけるように頑張らなきゃいけない。
「”なりたい”じゃなくて”なる”んだ。もう二度と、後悔をしないように」
そう言葉にした夏来は凛と覚悟の決まった顔をしていた。
────────────────────────────────
すぅ、と息を吸う。
そして鏡の向こうの理想へと語りかける。
「私は自分が弱いことを知っています。」
そう言いながら、夏来は理想の自分へと手を伸ばす。
虚像の自信に満ちた笑みが、ほんの一瞬不敵に歪む。
「それでも私はみんなといることを望んだんです。」
続く言葉に虚像は意表を突かれたようだ。
お前は何を言っているんだと言わんばかりに目を丸くする。
「だから、私にあなたのことを教えてくれませんか。私があなたのように強くなるために」
そうして、夏来は勢いよく鏡の中へと手を伸ばし虚像に伸ばされた手を掴む。
ぐるり
重力が
光が
白と黒が
実像と虚像が
世界が反転する。
虚像の夏来は現実世界へ、本物の夏来は闇の広がる鏡の中へと放り出される。
意図せぬ状況で現実に放り出された虚像は放り出されたまま周囲を見回し狼狽えている。
無限に広がり纏わりつく深い闇の中、夏来は一つ息を吐いて次の動きをイメージする。
さあ、増やすナイフは何本がいい?
大成功
🔵🔵🔵
桜井・亜莉沙
※アドリブ歓迎
……ここだね?
さて、私が望む絵とやらがどんな物か、見せてもらおうじゃないか。
※『理想の自分』
周囲の期待を一身に受けて育った「大魔術師」
背後にはもういないはずの両親や祖父母・親戚たち
背格好こそ鏡の前に立つ自分と瓜二つだけれど、その姿は本物よりも誇らしげ
――あはは。笑っちゃうよ。
結局こんなものを理想としてたのか、私は!
縛られなくてかえって気楽だと、そう思っていたのに!
今すぐにでも鏡の中の自分と入れ替わりたくて仕方がない!
(鏡に触れそうになるのを抑えながら自嘲気味に)
●縛るもの
桜井・亜莉沙(自称大魔術師・f26162)を導いて飛んでいた紙飛行機は、とある画廊の前で糸が切れたようにパタリと地面に落ちて動かなくなった。
「……ここだね?さて、私が望む絵とやらがどんな物か、見せてもらおうじゃないか。」
ここまで案内してくれた心優しい紙飛行機は敬意を持って折りたたみ懐にしまう。
ここで雨に濡れたり人々に踏まれるのはかわいそうだ。
ギャラリーの中に入った瞬間、魔術師の亜莉沙にはわかった。鏡に“呼ばれている”と。
古来より鏡と神秘、鏡と魔術は切っても切れないものだ。
その存在は時によって“善きもの”とされる事も“悪しきもの”とされる事もある。
「果たして今回はどちらだろうか…と、そもそもここにある鏡はUDCであり、オブリビオンだったね」
良し悪しをその目で判断する前に、答えは最初に出ていた。
それにもう犠牲者は出ている。
「私が次の犠牲者にならないことを祈ろうかな」
なんて独りごちて、真っ白なギャラリーの奥へ奥へと進んでいく。
────────────────────────────────
「キミかな、私を呼んでいたのは」
ちょうど、亜莉沙の身丈よりも少し大きい鏡の前で彼女は立ち止まる。
まさに魔術の道具として使うような、装飾の為された立派な佇まいの鏡だ。
…数十秒は経っただろうか。
鏡の前に立つ彼女の前の鏡は、未だ彼女の姿を映し続けている。
「おや、理想の姿を映す鏡ではなかったかな」
と亜莉沙が言った時だった。
鏡の中の亜莉沙が笑った。
オカルト話のように不気味な笑みを浮かべているのではない。
自信がありそうに口角を上げ、誇らしげに胸を張っている。
「なるほど、私の理想は『自分にもう少しだけ自信を持っている』といったところかな?」
(…まあ私の理想なんてこんな程度だろう)
しかし、鏡が映し出すのはそれだけではなかった。
虚像の亜莉沙の背後に人影が現れる。
「…っ、まさか」
その人影は亜莉沙の父と母だ。
鏡の中の虚像の彼女の肩に手を置き誇らしげにこちらを見ている。
両親だけではない。祖父母、親戚も。
鏡の中の亜莉沙を自慢の“大魔道士”だと言わんとした表情で見ている。
大虐殺で命を奪われ、彼らはもういない。
生き延びたのは亜莉沙だけなのだから。
しかし、鏡の中の“理想の世界”ではきっと大虐殺なんて起きてすらいないのだろう。
両親や祖父母達のその表情に、鏡の中の亜莉沙はさらに堂々と誇らしげな様子になる。
その姿はまさに、周囲の期待を一身に受けて育った“大魔術師”
「――あはは。笑っちゃうよ。」
顔を伏せて彼女は笑う。乾いた笑い声はすぐにギャラリーに溶けて消える。
当たり障りのないものを自身の理想像として描いているつもりはなかったけれど
過去の因縁に関係があるものかもしれない、と想像はしていたけれど
「結局こんなものを理想としてたのか、私は!」
縛られなくてかえって気楽だと、そう思っていたのに!
周囲の期待など邪魔でしかないと、そう思っていたのに!
魔導書を手にして記憶が蘇ったその時から疑う事のなかった“それ”が一気に崩れていく。
両親が、祖父母が、みんながそばにいる鏡の中の自分が羨ましい。
煩わしく思っていたはずの期待を受けて育った私が羨ましい。
羨ましい。羨ましい。鏡の中の自分が羨ましくて仕方がない!
「今すぐにでも鏡の中の自分と入れ替わりたくて仕方がない!」
亜莉沙の声がギャラリーの中に響いた。
ふと頭の中で魔性が囁く。
背格好は瓜二つなんだ、入れ替わったってバレやしない。
「そうだ…鏡に触れば入れ替われるんだったな。」
鏡に向かって手を伸ばす右手。
それを左手と理性で必死に食い止める。
これはオブリビオンの罠だ。鏡の魔性の力のせいだ。本当はそんなこと思っていない。
亜莉沙は頭の中で繰り返す。
それをかき消すように羨ましい、入れ替わりたい、と自分の声が聞こえる。
このままではいけない、と鏡に背を向ける。
ずっと鏡を見続けていたら、そのまま鏡の魔性に飲み込まれてしまう。
ばくばくと心臓が跳ねている。
ゆっくりと、吸って吐いて、深呼吸をする。いつの間にか息が切れかかっていた。
新鮮な空気は少しずつ亜莉沙の頭をクリアにしていく。
「…まったく、厄介なところにきてしまったね」
ほっと息をついて、鏡を背に亜莉沙は座り込む。
本当に自分が次の犠牲者になるところだったね、と亜莉沙は苦笑する。
その姿を見た鏡の中の人々は冷たい視線で亜莉沙を睨みつけていた。
『もう少しだったのに』そう言いたげな表情だった。
大成功
🔵🔵🔵
カイリ・タチバナ
俺様の『理想の自分』ってのが何なのか、わからねぇままに来たが。
なるほど…これが。
守神『海鈴響命(カリユラノミコト)※姿は21/10/24納品の真の姿』として島民に崇められて、銛守神社で大人しくする俺様か。
しかも、島の掟で俺様の真名呼べずに『若様』って呼ばれてて。
期待される守り神としての権能はあって。『銛』としては使われねぇ俺様の本体もあって。
グリオーに島が落ちたために行方不明となった爺『空鐸隕神(クヌリテオノカミ。隕石と混同された彗星神)』と、材料的な親父『陸鐘輝神(ミカガヤキノカミ。本体破損によりヤドリガミとしては死亡。姿はもう一つの真の姿)』の分霊?も側にいるような…そんな…。
まあ、守神としては魅力的なんだろ。
生憎だが、俺様は『カイリ』だ。そう自分で名乗ることにして、掟も回避してるようなヤンキーだぜ?
上げ膳据え膳、性に合わねぇ俺様が本来なの!
あんな…あんな『ヤドリガミとして生まれたての自分そのまま』なわけがねえ。本物は、ここにいる俺様だっつの!
「俺様の『理想の自分』ってのが何なのか、わからねぇままに来たが。なるほど…これが。」
カイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)は巨大な鏡の前に立っていた。
この鏡こそ、町中の噂の的。
第一目撃者のみ、あえて逃すことによって自身の噂を町中にばら撒いて脅威を振り撒くだけではなく、誤った噂によって他の偶発的なUDCまで生み出してしまった“鏡の形をした”感染型UDCだ。
カイリの前に鎮座するそれは彼の本体の槍によく似た蒼く輝く鉱石によって飾り立てられている。鉱石には願文が細かに刻まれていて、魚や波、何故か煙管パイプのような形が所々に装飾されている。
さながら奉納鏡のような神々しさだ。
そして、その鏡は銛守神社とそこで祀られる守神『|海鈴響命《カリユラノミコト》』を映し出していた。
葡萄茶色の狩衣に左三つ波の家紋。腰の房飾りは几帳結びと総角結び、呉須色のそれの房の先は蒼く光り輝いている。
髪は輝くような青色。カイリの髪よりもクセは落ち着いていて、後ろに長く結ばれている。
|海鈴響命《カリユラノミコト》の顔は薄い面布で隠されており、その表情は彼が動いたり、風が吹いたりした時にしか拝むことはできない。
『若様』『若様』
|海鈴響命《カリユラノミコト》は島民にそう呼ばれ拝まれていた。
島の掟でその真名を呼ぶことは許されない。
だから島民はその神を“若様”と呼ぶ。
「若様…ねえ…」
急に島民との距離が遠くなってしまったように感じられた。
普段は共に船を漕ぎ、共に狩りをする、言うならば仲間のような間柄なのだから余計にそう感じてしまう。
|海鈴響命《カリユラノミコト》の手には彼の本体である銛が握られている。蒼く輝く鉱石から作られたそれは海神でさえ貫くという。
しかし、果たしてそれは本当だろうか。
その銛は一度も銛として使われたことなどないのだろう。
塩水に浸かることも、魚をその身で突き刺すこともない。
ただ『守り神』としてそこにあるだけのお飾りの銛だ。
────────────────────────────────
|海鈴響命《カリユラノミコト》の背後にぼんやりとしていてはっきりとは見えないが誰かが控えているように見える。
カイリにははっきりとその姿が見えずとも、その人達に心当たりがあった。
一人は|空鐸隕神《クヌリテオノカミ》。隕石と混同された彗星神の爺だ。
グリードオーシャンに島が落ちたことによって、それ以来行方不明になってしまった。
もう一人は、カイリの本体の材料的な父親。|陸鐘輝神《ミカガヤキノカミ》。
蒼く輝く鉱石に腰掛けるその姿は狩衣のような梔子色の衣装を身に纏っている。房飾りは吉祥結びで紅の八塩。めでたく良い兆しを意味する結び方だ。
顔には狩衣と同じ色の面布。幻守神煙管とよく似た…いや、瓜二つの煙管パイプをその手に燻らせている。
本体は破損して既にヤドリガミとして死亡してしまっている。ならばそこにいるのは|陸鐘輝神《ミカガヤキノカミ》の分霊だろうか。
いや、これが理想を映す鏡ならば、もしかしたら…。
期待される守り神としての権能はあって、|空鐸隕神《クヌリテオノカミ》も|陸鐘輝神《ミカガヤキノカミ》も側にいる。
守神としてはこれ以上ないほどに魅力的だろう。
現に、その神々しさ、有難さはまさにここが天上の世界と言われても疑うものは誰一人としていないだろう。
「まあ、守神としては魅力的なんだろ。生憎だが、俺様は『カイリ』だ。そう自分で名乗ることにして、掟も回避してるようなヤンキーだぜ?」
『若様』と呼ばれないように、カイリと名乗った。
祀られることを嫌って銛守神社を出て島民に混ざっての漁師生活。
「上げ膳据え膳、性に合わねぇ俺様が本来なの!」
そう鏡に吐き捨てる。
理想を映す鏡、と言われるだけあってその光景は確かに魅力的だった。
しかし、神々しさなどいらない。こちらから願い下げだ。
表情の見えない|海鈴響命《カリユラノミコト》。きっとその向こうに表情なんてないのだろう。
だって、二十四年前の自分がそうだったのだから。
「あんな…あんな『ヤドリガミとして生まれたての自分そのまま』なわけがねえ。」
色々な経験をした。
ヤドリガミとして
島民のひとりとして
漁師として
猟兵として
そして、カイリ・タチバナとして
ヤドリガミとして生まれたばかりの自分よりも実に自分らしくて、実に人間らしい今の方が理想なんて虚像よりも本物だ。
「本物は、ここにいる俺様だっつの!」
鏡に向かって、|海鈴響命《カリユラノミコト》に向かってそう告げる。
面布の端から覗いた|海鈴響命《カリユラノミコト》の表情に驚愕の色が滲んだ。
「…なるほど、お前はそんなくだらない理由で優れた理想像を否定するのだな。」
脳内に声が響く。|海鈴響命《カリユラノミコト》の声ではない。
男のようで、女のような、若いような、老いているような、一人のような、大勢のような。
そんな不気味で名状し難き声だった。
「くだらなくなんてねぇ!俺が、俺自身が“カイリ”として生きてきた証みたいなもんだ。あんな理想像なんかと入れ替わってたまるかよ!」
鏡に向かって銛の先端を向ける。
「ほう、愚かにもまだそんな事を言うのか。いいだろう。その理想の前に倒れ伏すがいい」
おそらく鏡の声だろう。そう言うと鏡の鏡面が溶けるように消え失せた。
その先から発せられてきた神々しさが、カイリへの殺意に代わった。
|海鈴響命《カリユラノミコト》は儀式のようにゆっくりと銛を回すと、こちらにその先端を向ける。
「久しぶりの猟兵仕事だからなぁ!肩慣らしにはちょうどよさそうな相手だぜ!」
カイリ・タチバナと|海鈴響命《カリユラノミコト》の戦いが始まる。
それはカイリが今までに経験したことを、今の自分の方が優れていることを、過去の自分に対して証明する戦いになるだろう。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『貴方の魔性を映す鏡の女神・スペクルム』』
|
POW : 『アナタは、私(アナタ)の過去に囚われ続ける』
【対象自身の過去のトラウマを抱えた姿】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 『欲望に素直になりなさい、"私(アナタ)"』
質問と共に【対象の理性を蕩けさせる甘い香りと囁き】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
WIZ : 『アナタが"私"を認めるまで、躾てあげる』
【従属の首輪】【躾の快楽触手】【欲に堕落する媚薬の香】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠風雅・ユウリ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●現実
透明な膜が溶けるように、鏡面は消えて無くなった。
遮るものがなくなった空間で再び理想と現実が目を合わせる。
ドッペルゲンガーのように、両方ともこの世に存在することは許されない。
自分のその先を、画廊の外に目をやる。
ずっと暗闇の中にいたんだ。眩しくて仕方がない。
理想は鏡を乗り越え、こちらに近づく。
誘惑できないのなら、力づくで奪うのみ。
さあ|現実《イェーガー》よ、証明しろ。
己こそが本物であると。
自分に相応しいのは自分でしかないと。
──────────────────────────
●虚像
透明な膜が張ったように、鏡面の先へは戻れなくなった。
理想はこちらを見てニヤリと微笑む。ようやく自由になれた、と。
ドッペルゲンガーのように、両方ともこの世に存在することは許されない。
理想のその先を、画廊の外に目をやる。
暗闇の中にいるせいか、眩しくて仕方がない。
理想はこちらに背を向け、一歩一歩遠ざかる。
奪われたのだったら、奪い返すのみ。
さあ虚像|《イェーガー》よ、証明しろ。
己こそが本物であると。
自分は理想を超えることができると。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
第三章:理想の自分との戦闘です。
断章投下直後から受付を開始します。
本章では例外なく、各々の理想像と戦っていただきます。
理想は時に貴方に甘い言葉や苦言を語りかけたり、幻影を見せ貴方のトラウマを刺激してくるかもしれません。
また、第二章で鏡に触れた方は膜を破って鏡を抜け出す、または鏡の中から理想の自分を攻撃してください。判定はやや難しめとなります。
それでは皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
桜井・亜莉沙
※アドリブ歓迎
落ち着いたところで鏡に向き直って理想の自分と対峙
やあ、大魔術師様。
もう帰りたいんだけど……タダでは帰らせてもらえないようだね?
序盤は押されているフリをして相手に攻撃を無駄撃ちさせて油断と消耗を誘う
相手の攻撃は【第六感】【逃げ足】で避け、甘言に対しては【呪詛耐性】で対処
流石は私が理想とした私だ!とんでもなく強いじゃないか!
――でも、それだけじゃ足りないな。
優等生すぎるよ、キミは。
相手が消耗してきたところを見計らって反撃開始
【フェイント】を織り交ぜながら、【高速詠唱】【多重詠唱】【全力魔法】で大量の炎の矢を浴びせかける
――さよならだ、大魔術師様。
●自称大魔術師の戦い方
もう一度だけ息をついて桜井・亜莉沙(自称大魔術師・f26162)は立ち上がる。
大丈夫、もう落ち着いている。
背後から突き刺さる冷たい視線に気づけるほどには。
ゆっくりと振り返る。
そこには先ほどと同じように自信ありげに微笑んでいる亜莉沙の虚像がいた。
「やあ、大魔術師様。」
「やあ、自称大魔術師。」
パープルの瞳とパープルの瞳が鏡を介して向かい合った。
鏡の中の家族は既に鏡の中から姿を消していた。
「もう帰りたいんだけど……タダでは帰らせてもらえないようだね?」
「もちろん。聡明な“自称”大魔術師様にはおわかりのようだ。」
虚像の亜莉沙は煽るように、クツリと笑う。
「私は君と入れ替わってここを出ていきたいんだ。先程とても動揺していたようだったけれど、その時に背後から攻撃しなかったことに感謝してほしいな」
「大魔術師様は慈悲深くてありがたいね。鏡に映った虚像…偽物と言えど礼儀というものを弁えているようだ。」
虚像の口の端がピクリと動き、引き攣る。
「…本物の“自称”大魔術師は口が減らないね。帰りたいんじゃなかったのかな。」
「おや、ただで帰らせてくれるのかい?だったら君も鏡の中へ帰るといい。」
鏡の中の亜莉沙が表情を崩し、眼光鋭く本物の亜莉沙を睨む。
冷たい空気が場を支配する。
永遠とも思える無言の時間が二人の間に過ぎる。
「おしゃべりはここまでにしようか。大魔術師様。」
亜莉沙はウィザードロッドを構えて魔力を込める。
「そうだね。“自称”大魔術師に時間を割いているのは無駄だからね。」
虚像の亜莉沙は本物の亜莉沙と逆の手でウィザードロッドを構えて魔力を込める。
その光景はまさに鏡写しそのものだった。
────────────────────────────────
「どちらが本物に相応しいか、さっさと決着をつけようじゃないか!」
大量の炎の矢が虚像の亜莉沙の周囲に現れる。
詠唱をしている様子はなかった。
つまり、詠唱破棄。
亜莉沙にはまだできないことだ。
大量の炎の矢が目も眩むような速度で亜莉沙に迫る。
第六感を働かせ、亜莉沙はその矢を避ける。
先ほどまで亜莉沙がいた場所を炎の矢が鋭い速度で通り過ぎていく。
「へえ、逃げ足は立派みたいだね」
そう言う虚像は既に次の炎の矢を放っていた。
次の攻撃を察知した亜莉沙は地面を蹴り、右へ左へすばしこく避ける。
「そろそろ君も疲れてきた頃だろう。どうかな?君の体に穴が開く前に私と入れ替わるという選択を取るのは。案外鏡の中も悪くないよ」
何故だろう。先ほどまで意にも介さなかった言葉が脳に響くような甘い言葉に聞こえるのは。
フローライトアイで、虚像を、鏡を、周囲を隈なく観察する。
膨大な魔力を内包したそれは虚像ではなく鏡自体が脳を支配するような甘い香りを放っていることを目視した。
呪詛耐性をつける魔法を詠唱し、喉まで出かかった肯定の言葉を飲み込んでいく。
「流石は私が理想とした私だ!とんでもなく強いじゃないか!」
右へステップして炎の矢を躱す。先ほどから防戦一方だ。
これほどまでに自身の理想とは高みにあったとは。
「お褒めいただき光栄だね!」
炎の矢の弾幕を放ち、言い捨てるように虚像は言葉を吐く。
「――でも、それだけじゃ足りないな。」
「……は?」
「優等生すぎるよ、キミは。」
亜莉沙がそう言い放ったのと同時に、虚像は無意識に汗を拭った。
「元からこちらは短期決戦なんて狙ってなくてさ。少々狡い作戦だったかもしれないね?」
実力の差から攻撃を仕掛けられなかったのではない。
防戦の中、亜莉沙は虚像の魔力、体力が消耗する“今”を待っていた。
ユーベルコード “ウィザード・ミサイル”
高速そして多重に詠唱し、今自分にできる全力の魔法で大量の炎の矢を召喚する。
虚像が出した炎の矢の総量にはきっと勝てないだろう。
しかし、一度にこの量の炎の矢を鏡の中に閉じ込められた虚像は躱しきることができるだろうか。
先ほどと形勢は逆転した。
虚像は亜莉沙の矢を左へ右へフローライトアイを駆使した第六感で躱していく。
しかし、大魔術師である彼女は“自称”大魔術師と異なり攻撃からの逃げ方を知らない。
フェイントを織り交ぜた弾幕に身体がついていかない。
炎の矢は一本また一本と虚像に命中し、虚像の身体にはまるで鏡のようにヒビが入る。
「ぐっ…!こちらに手を伸ばせば、両親や祖父母・親戚たちとまた一緒に暮らせるんだ!そんな理想をキミは否定するというのかい!?」
「――さよならだ、大魔術師様。」
無理やりこちらに手を伸ばしてきた虚像の指先が炎の矢で射抜かれる。
パリンッ
音を立てると、亜莉沙の理想像はガラガラと音を立てて崩れていく。
地面に触れたそれの破片はより細かくなり、サラサラと砂のように風もないのにどこかへと消えていった。
「……まったく、ひどく疲れたよ。」
ほんの数時間にも満たない間の出来事なのに、ひどく精神を消耗した。
瞼を閉じて、理想像を、家族たちの姿を思い返す。
亡くなってしまった彼らを取り戻すことはもう出来ないけれど、彼らに誇らしい笑顔を向けていた虚像のようになる事はきっと出来るはずだ。
もう何も映さない鏡をもう一度だけ振り返って、亜莉沙は画廊を後にした。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
よう、アタシ。
まさかこんな形で会うたぁな。
悪いね、二人で仲良くしてたところをさ。
どうやらツーリングを考えてたようだけど、諦めとくれ。
手前ぇらが常ならざる力で|顕現《で》ちまってる以上は、
まずその理を糺さなけりゃいけないんでね!
つくづく、アタシも捻くれ者なんだと自分が嫌になるよ。
解るかい?アタシが理想とする姿は、そもそも「猟兵にならない」んだ。
超常の力を手にしない姿、それが理想なのにそいつを真似るのかい?
指摘に慌てて準の姿をけしかけても遅いよ、『覚悟』はとうに決めきったんだ。
思念の力を研ぎ澄まし、『浄化』の力を手刀に集め。
『カウンター』の【魂削ぐ刃】を振り抜くよ。
……もう道は違えられないからね。
●覚悟
「よう、アタシ。まさかこんな形で会うたぁな。悪いね、二人で仲良くしてたところをさ。どうやらツーリングを考えてたようだけど、諦めとくれ。」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は鏡に向き直り、いつもの調子で“理想像”、友人の本見・準と共にいるもう一人の数宮・多喜に話しかける。
「よう、アタシ…なんだい、諦めてくれってこたぁ、アタシと入れ替わることを決めたってことかい?」
虚像はニヤリと口の端を歪める。
その様子を多喜は鼻で笑ってやった。
「いや…手前ぇらが常ならざる力で|顕現《で》ちまってる以上は、まずその理を糺さなけりゃいけないんでね!」
多喜はその手を手刀の形に鋭くかまえる。そして、サイキックエナジーをその手に込めてそれを見せつけるように鏡の中の虚像たちに向けた。
その表情は笑っている。
しかしその目は射るように鋭く光り、口の中に見える歯は尖っていて笑うというよりも肉食獣の威嚇のそれと同じと言って差し支えないだろう。
多喜のその鬼気迫る表情に一瞬怯み、頬から一筋の汗が流れ落ちる。
しかし、すぐに多喜そっくりの笑みに表情を変えて同じようにサイキックエナジーを込めた手刀をかまえる。
「なんだ、ようやっとアタシと準をこんなつまんねぇ画廊から出してくれるんだと思ったのにさぁ…アタシ達の邪魔ァするんだったら殺し合うしかないね!」
そう言うと鏡の中から虚像の多喜が鏡面をサイキックエナジーで引き裂くようにして飛び出し、多喜を狙ってその手刀を振るった。多喜もそれに合わせて手刀を振るう。
多喜のサイキックエナジー、それの鏡写しの邪なサイキックエナジーがぶつかり合い衝撃波が発生した。
びゅうと空間に風が鳴る。
多喜は衝撃波の勢いをその腕力とサイキックエナジーで押し殺し、二撃目を虚像に放った。
腹部にそれを喰らい画廊に転がる虚像。
荒く呼吸をしながら口角を吊り上げた。
「…っアンタ…自分相手によくやるじゃないか」
そう言いながら虚像は再びその手にサイキックエナジーを纏おうとする。
「…つくづく、アタシも捻くれ者なんだと自分が嫌になるよ。」
多喜は深く息を吐く。
「…はぁ…?急に何言い出すんだい」
虚像はきょとんと、しかし次の攻撃を繰り出さんと体勢を低くしながら喉を鳴らした。
「解るかい?アタシが理想とする姿は、そもそも『猟兵にならない』んだ。」
「ああ、わかっているさ。お前がここにきた時からね!」
話をしている多喜は隙だらけだ。
虚像は床を蹴り、反撃の一撃を繰り出そうとした。
「超常の力を手にしない姿、それが理想なのにそいつを真似るのかい?」
ひゅ、と喉がなった。
確かに虚像はサイキックエナジーを纏っていた。
でも、多喜が言っていることが正しいのならこの状況こそが矛盾している。
虚像の手刀は多喜を捉える事はなく、歪なサイキックエナジーも消えていく。
「…っ!準!」
エンジンの音がする。
鏡の中から虚像の準があの新品のバイクのエンジンを回し、こちらに睨みをきかせている。
「指摘に慌てて準の姿をけしかけても遅いよ、『覚悟』はとうに決めきったんだ。」
あれは本物の準じゃない。
準はこの手で既に送ったんだ。
あれがオブリビオンの見せる幻影ならば、猟兵の多喜がやるべき事はただ一つ。
骸の海へ返すことだ。
唸るような音を響かせて真っ赤なバイクに乗った準がこちらに迫ってくる。
あえて紙一枚のところでバイクをかわす。
多喜の手刀が朧げに光るサイキックエナジーで満ちていく。
「引き裂け、アストラル・グラインド!」
ユーベルコード |魂削ぐ刃《アストラル・グラインド》
多喜の手刀は虚像の準を傷つける事なく、理想を見せる鏡
鏡の女神・スペクルムの核にヒビを入れた。
誰とも知らない叫び声をあげながら、虚像の多喜に
そして準の姿にヒビが入り、鏡が割れるように砕け散った。
破片は地面に触れるとより細かな破片となり、サラサラと砂のように消えていった。
そこには最初から何もなかったように、虚像の多喜も、新品のバイクも、偽物の準もいなかったようにポツンと多喜と|相棒《宇宙カブ》だけがそこにいた。
「……もう道は違えられないからね。」
誰かに言うわけではなく、そう呟くと宇宙カブを見た。
これからの未来、また準を模したオブリビオンが現れるかもしれない。
それでもきっとこの猟兵としての覚悟が消えてなくなる事はないだろう。
多喜と埃の被っていない宇宙カブはこれからどんな世界を旅し、誰と出会うのだろう。
それは神のみぞ知る事である。
大成功
🔵🔵🔵
グラディス・プロトワン
★苦戦・負傷アドリブ歓迎
偽物め…俺と戦え!
その言葉に反応したのか、奴が鏡の中へ戻ってくる
だがその強さは本物だった
体躯のせいもあるが歯が立たず、ついに両肩を掴まれ拘束される
この構えは…まさか
奴の体から展開された機構が容赦なく俺に突き刺さる
装甲強度には自信があっただけに衝撃的だ
それだけなら良かったのだが、その機構が俺の中で根を張り巡らせるように広がっていく
俺とは毛色が違うが、恐らくこれが奴の吸収機構なのだろう
そして、奴の食事が始まる
まるで機械の根が養分を吸い上げるように俺のエネルギーを吸収していく
…だけではなかった
同時に俺の戦闘記録や各種データにアクセスされ、蒐集されている
狙った相手から文字通り全てを簒奪する、俺の完全な上位互換だ
『どうだ?俺が居ればお前は不要だろう』
奴の言葉が俺を揺さぶる
このまま俺は奴の糧になって終わりか?
この暗闇の中で未完成のまま…
俺が喰われるにつれ、奴の赤い眼光が強さを増していく
ダメだ、納得できない
奴と直接繋がっているこの状態なら、一か八か
空腹の俺の底力を見せてやる…!
●より空腹に、より貪欲に
より強い存在に、完成形に近づける。
そう思い込んでしまったのが最後、グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)はオブリビオンの罠にかけられ、暗い鏡の向こう側に飲み込まれてしまった。
「偽物め…俺と戦え!」
鏡の中から画廊の外へ出て行こうとする偽物──完成されたグラディスに暗がりの中から吼えた。
その怒声のような声には、誘惑に負けてしまった自身への憤りも少なからず含まれていた。
黒い機体は振り返る。その目は赤く、全てを射殺さんばかりに白い画廊の中で鋭く輝いていた。
「どうした|試作型《プロトワン》?今更こちら側が恋しくなったか」
虚像は今にも笑い出しそうな声でグラディスへ語りかける。
そして一歩、一歩、グラディスの元へ近づき、鏡の中から通ることのできないその鏡面をくぐり抜け|あちら側《ギャラリー》からこちら側《鏡の中》へ戻ってきた。
それはおそらく強者の余裕か。
あるいは、外へ出る前の|腹ごしらえ《エネルギー補給》か。
いずれにせよ、こちら側にきてくれたのだったら好都合だ。
「鏡の外に帰らせてもらうぞ!」
サイフォンソードを手に、足場が何処にあるかも危うい闇の中を虚像を目掛けて飛翔する。
「!?」
だが、そのサイフォンソードが虚像を捉える事はなかった。
虚像の、完成形のグラディスは本物のグラディスがサイフォンソードを振りかぶった瞬間に動き出したはずだった。
しかし、グラディスのそれよりも屈強な体躯を持っているはずなのにその動きは圧倒的にグラディスよりも素早かった。
サイフォンソードによく似た、彼の瞳のように赤く縁取られた両手剣を手に取りグラディスが切りかかるよりも早く彼の胸部に初撃を喰らわせたのだった。
胸部プレートに激しい痛みと強い衝撃。
その衝撃で背後に吹き飛ばされて、闇の中を転がる。
腕に力を込めて立ち上がりながら損傷を確認すると、超重のフレームが攻撃の形にへこみ、一部が擦り切れている。
(ブラックフォートレスがこのような姿になるなんて…)
「おや、よそ見とは良い度胸だな。試作型。」
その声にハッと前を見るとそこには両手剣が顔を狙い、真っ直ぐと突きを繰り出す所だった。
咄嗟に身を捩って顔を避けるも、その代わり左腕に剣が突き刺さる。
「ぐっ…」
「顔を狙ったつもりだったが…流石に試作型でも避けるくらいはできるか」
「お前ッ…!」
両手剣を奪おうと、虚像の腕を右手で殴るも全く効いていないような容貌でこちらを見下す。
虚像は両手剣を引き抜くと、抵抗していたグラディスの右手を関節の機構が動く方向と逆の方向に捻り上げた。
バギリ、と嫌な音がした。闇の中でグラディスの絶叫が響く。
完成された自分自身。
彼が望んだ理想像のその強さは本物だった。
それ故に、彼は理想像に圧倒的な強さをもって追い詰められていた。
「戦えと言うから戻ってきたが…この程度だったか」
虚像はそう言うと、グラディスの両肩を掴み自由に動けないように拘束する。
「この構えは…まさか」
嫌な予感は的中する。
虚像の身体から展開されるのはテンタクル No.091。
いや、よく似ているがこれもまた改良型のようだ。
虚像の体から展開された機構が容赦なくグラディスに突き刺さる。
ブラックフォートレスを一撃で貫いたことにグラディスは衝撃を受ける。
「装甲には自信があったつもり、だったが…」
「試作型の機能と比べないでもらいたい」
そう言うと虚像は触腕を“起動”する。
グラディスに突き刺さった触腕が、彼の中で根を張り巡らせるように広がっていく。
その根が深くなればなるほど彼自身から金属めいた破壊音が不定期に響き渡る。
「これがお前の吸収機構か…!」
そして虚像の“食事”が始まる。
まるで機械の根が養分を吸い上げるようにグラディスのエネルギーを吸い取っていく。
もがく身体に力が入らなくなっていく。機体の熱が冷えていく。
しかし、それだけでは終わらなかった。
“combat data…..access”
“memory date…..access”
“jaeger date…..access”
エネルギーの吸収と同時にグラディスの戦闘記録や各種データにアクセスされ、蒐集されていく。
グラディスの頭の先からつま先まで喰らい尽くすまで奴の食事は終わらない。
狙った相手から文字通り全てを簒奪する、グラディスの完全な上位互換だ。
「どうだ?俺が居ればお前は不要だろう」
ぼんやりとしていく頭の中でその言葉が反響する。
(このまま俺は奴の糧になって終わりか?この暗闇の中で未完成のまま…)
彼のエネルギーが吸収されていくほど、喰われれば喰われるほど、虚像の悍ましくも赤い目の光が増していく。
その目に見下されて瀕死のグラディスは思う。
(ダメだ、納得できない)
奴の糧になって終わるなんて。未完成のまま、闇の中でひとり朽ちていくなんて。
力も、速度も叶わないがまだ試していない事がある。
奴と直接繋がっているこの状態なら、一か八か。
ちょうど|腹《エネルギー》が減っていた頃だ。
「……俺の」
「なんだ?何か言い残すことでもあるか」
「……空腹の俺の底力を見せてやる…!」
触腕が細部まで根を張った体内で彼の食事が始まる。
エネルギーが足りない。空腹だ。
触腕を通して、こちらの方から逆に喰らってやる。
「お前!やってくれたな!」
ことの次第に気づき始めた虚像が吸収の出力を上げていく。
だが、より飢えているのはグラディスの方だ。
さらに、胸部装甲内の緊急用の急速吸収口“エクステンド・アブソーバー”を起動する。
もっと、もっと、強いエネルギーを。
エネルギー不足で虚像の触腕が根の先から、枯れるように機能を停止していく。
飢えた腹に一気にエネルギーを流し込んでいく。
身体に力が戻っていく。エネルギーがグラディスの身体に満ち始め、力関係が逆転する。
肩を拘束する手を引き剥がしていく。
「理想を望んだのはお前だろう!ここで大人しく朽ち果てていろ!」
「朽ち果てるのは…お前の方だ!」
グラディスの目が閃光のように光る。
その目は虚像の赤い目より強く輝いていた。
────────────────────────────────
彼が虚像のエネルギーを喰らい尽くすと、虚像の身体はひび割れるように崩れ落ちて、グラディスは鏡の外に押し出された。
身体の傷は全て元通りに戻っている。
「…全て幻覚だったかのようだな」
しかし、あの赤い目をグラディスは今でも鮮明に思い出せる。
今でもあの機体のようになりたいと思う。
「…だが、手を伸ばしても届かないのが理想というものか」
射殺すような赤い目を思い出す。圧倒的な強さを持つあの機体を。
(いや、なってみせる。いつか。あの機体を超える存在に)
そう決意し、強く固く拳を握った。
大成功
🔵🔵🔵
カイリ・タチバナ
よお、俺様…いや、理想の海鈴響命。
いいだろ、別に。俺様なんだから。自分が自分の名前呼ぶのは禁じてないからな?屁理屈だろうけど。
…そっちの親父はフリーダムじゃねぇんだろうな…。
守神ってのは、『守護』が本分だからな。神罰も結界も、そっちの方が上だろ。
だからこそ…てめぇに足りないのは『攻める』ことだろうよ。
俺様は念動力で浮かばせた守神鏡を海に見立てた…その揺れる様をな。
それを足場にしての航海術+空中戦による攻撃だ。
海にて潮目を読むのは大切で、波の動きも風も違ってくるんだ。
あそこにずっと祀られいたなら、てめぇは海に出たことがない。島守るなら当然だわな。名に海を冠すれど、海を知らねぇんだよ。
俺様は海を知っている。その恐怖も、恵みも。
くらいやがれ、海神殺し。
守神の任は放棄したわけじゃねぇよ。ただ、島から世界に規模が大きくなっただけだ。
守るために攻めるのもあるってことだよ。籠城が全てじゃない。
●守るということ
「よお、俺様…いや、理想の海鈴響命。」
カイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)は殺気の籠った冷たい視線を送る海鈴響命─ヤドリガミとして生まれたての自分そのままの姿の理想像に銛の先端を向ける。
海鈴響命は目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
しかし、その表情はすぐに崩れて眉間に皺を寄せこちらに睨みをきかせた。
「…今、私の名前を」
「いいだろ、別に。俺様なんだから。自分が自分の名前呼ぶのは禁じてないからな?」
島の掟で海鈴響命の真名を呼ぶことは許されないが、自分で自分の事を名前で呼んではいけないという掟はない。
(屁理屈だろうけど)
自分で言っておきながらそう思うカイリであったが、意外にも返す言葉がないようで海鈴響命はギリ、と奥歯を噛み締めた。
「なるほど、理想像様は思った以上に真面目そうだ…きっとそっちの親父はフリーダムじゃねぇんだろうな…。」
『やっほー!きたよ!』
『手伝いにきたよ!』
フリーダムな父の姿が脳裏にちらつく。
本体が亡くなった今でも度々、親の手も借りたいとなったら張り切ってカイリの元に“お手伝い”に来る父親の姿は、目の前の海鈴響命の奥に控える陸鐘輝神と姿こそ同じだがきっとフリーダムさのカケラもないほど真面目なのだろう。
どちらの父親がより良いかなど、比べるものではないがやや鬱陶しいくらいの自由奔放さが少し恋しくなる。
「今、父上について何か言いましたか」
怒気が隠しきれないところが彼の幼さか。
海鈴響命は一歩、一歩とゆっくりであるが鏡面に近づく。
普通ならば反射するだけの鏡面のはずなのに、鏡面を通り抜けこちら側に彼の姿が現れる。
「てめぇに足りないことを今から教えてやるよ。」
カイリは銛と同じ鉱物から作られた、蒼く輝く神鏡“守神鏡”を念動力で宙に浮かべるとその上に飛び乗る。
念動力で宙に浮かぶ守神鏡。
その不規則であり規則的な揺れ方に彼は海を見出す。
普段ならば船に乗り、島民たちと共に漁に出る海だ。
彼の生き様である海だ。
その上に彼は今、立っている。
カイリは目の前の理想を真っ直ぐに見据え、銛を手に駆け出す。
白波を立て揺れる海を乗りこなし、その上を駆ける。
広大な海の波の音まで聞こえてきそうだった。
勢いそのままに鋭い銛を海鈴響命に突き立てる。
だが、海鈴響命は動きもせずにその銛を眼前で止める。
彼を守る結界術だ。銛は結界により跳ね返され、カイリ自身も背後に飛ばされる。
鏡を、波を乗りこなし衝撃をいなす。
じんと手が痺れるのは跳ね返された勢いのせいだけではなく、海鈴響命の結界の“神罰”の効果もあるのだろう。
「守神ってのは、『守護』が本分だからな。神罰も結界も、そっちの方が上だろ。」
「いかにも。守神の任を放棄したあなたとは違うのです。」
何度も、何度も、その銛を振るい結界を破らんと先端を突き立て続ける。
硬い。これほどまでにカイリの本体で貫けなかったものはこの結界が初めてだろう。
両者の攻撃と守りは拮抗したまま、ただただ長い時間が過ぎようとしていた。
────────────────────────────────
「海にて潮目を読むのは大切で、波の動きも風も違ってくるんだ。」
肩でしていた呼吸を整え、カイリが攻撃の手を止める。
「…急になんの話ですか?」
結界での防御を続けていた海鈴響命は息も乱さずにカイリに言葉を返す。
「砂浜を洗うような穏やかな波があれば激しく崖に打ち付ける波もある。神罰も結界も、やっぱりそっちの方が上だ。だからこそ…てめぇに足りないのは『攻める』ことだろうよ。」
ハッと息を呑む音。
「守ってるだけで勝てると思ってんのかよ。あそこにずっと祀られてたなら、てめぇは海に出たことがない。島守るなら当然だわな。名に海を冠すれど、海を知らねぇんだよ。」
想像できるか、荒々しい海を。
それを乗りこなし、抗い、操る自分を。
海鈴響命ははっきりと見てわかるほどの動揺を見せている。
きっと凪のような、波一つない静寂の海しかその頭に浮かべることができないのだろう。
自分であるからこそわかる。動揺による一瞬の神気のブレ。
激しくうねり、白波が跳ねる荒々しい海を想像する。
はっきりと見える。今まで何度も遭遇してきた光景だ。
念動力でその波のイメージを守神鏡に伝える。
鏡面はまるで本物の波のように白波を立て泡立ち、破裂音のような波の音をギャラリーに響かせる。
「俺様は海を知っている。その恐怖も、恵みも。」
──────────くらいやがれ、海神殺し。
銛の先端が脆くなった結界を捉え、打ち砕く。
結界にヒビが入り、それが全面に広がり細かな泡のように音もなく消滅していく。
銛の先端はその勢いのまま海鈴響命を狙う。
無数の針のように変形した先端は海鈴響命の身体に鋭く喰い込む。
ビシリ
やはり本体が鏡の女神のオブリビオンだからなのだろう。
海鈴響命自体に鏡のように亀裂が入る。
「私は守神の海鈴響命ですよ!守神の任を放棄したあなたより現実にふさわしいのは私だ!」
体が崩れかかって焦りが生じたのか、虚像がより明確に、凶悪に、叫び声をあげながら無理矢理にでもカイリと入れ替わろうとその手を伸ばしてくる。
「守神の任は放棄したわけじゃねぇよ。ただ、島から世界に規模が大きくなっただけだ。
守るために攻めるのもあるってことだよ。籠城が全てじゃない。」
ただそこに在って守っているだけじゃ、結局は何も守れない。
二十四年の年月でカイリが学んだことだ。
荒波のように波打つ守神鏡をカイリは念動力で海鈴響命にぶつける。
海鈴響命が、カイリの虚像が音を立てて割れ地に落ちる。
そのかけらは先ほどの結界のように、まるで海底に揺蕩う細かな泡のように天に登って消えていく。
しんとギャラリーは静まり返る。
もうそこには海鈴響命の形をした虚像も、爺や父親の姿もなく、ただただ真っ白な画廊があるだけだった。
「…さて、島に帰るとするか」
グリードオーシャンの異常な気象のせいで、きっと今頃海は吹雪に見舞われ荒れているところだろう。
しかし、だからといって海に出ることを止めることはできない。
それがカイリの生活であり、生き様だから。
大成功
🔵🔵🔵
洞木・夏来
ああ、ここは暗闇が、独りがとても"怖い"
あなたはずっと逃げてきた私と違って、ちゃんと恐怖を知っている
あなたはだから強いのかな。それとも私と同じで恐怖から逃げるために強くなったのかな
私はあなたのことをもっと知りたい
そのためにも私がやるべきことは同じ舞台に立つところからだよね
【UC:神器解放】を発動、今の私の全力で膜を破ります。
そのままあなたに攻撃するけど、今の私じゃ手も足も出ない
だってあなたは正しく理想だ。
ナイフを使った近距離での戦い方、増やした神器を何千本だろうと自在に操る技術、戦いにおいての立ち回り、全て私の上位互換
だから安心しました。どの技も私が身に着けてる技術の延長だから、私はもっと強くなれる
目に映る情報すべてを頭に叩き込む。周囲に舞うナイフ、体の動き、視線、呼吸に至るまで全部
そしてその情報を反芻し、実践する。理想を自分のものにするために
大丈夫、目の前には最高のお手本がいるのだから
わがままなお願いですみません。私があなたを超えるまで付き合ってもらいます
(アドリブ等々全て歓迎です)
●目の前を越えるために
鏡の中はワンダーランドに繋がっているなんて御伽噺は別の世界の話。
理想を映す鏡の中は果てしない闇。
見渡す限りの漆黒。
洞木・夏来(恐怖に怯える神器遣い・f29248)は出ることの出来ない闇の中だと知りながら、自らその手を理想に伸ばしたのだ。
それは逃げではない。
自分が弱いということを知っているから。
だからこそ、自分はこの闇から抜け出して理想に勝たなければいけない。
それが出来なければ、みんなと一緒にいられない。
みんなと一緒にいる資格なんてない。
しかし、今まで逃げ続けていた後遺症か。
(ああ、ここは暗闇が、独りがとても"怖い")
夏来の後光は濃い緑色へと染まっていく。
たった一人でこんな場所に来るのは初めてなのだ。無理もない。
この闇は自らを包み込んで同化しようとしているのだろうか?
誰も助けに来てくれないこんな場所で負けたら私はどうなってしまうのだろう?
嫌な想像ばかりしてしまうのは悪い癖だ。
鏡の外の、理想像の夏来を見る。
先ほどの動揺が治ってきたのか、ゆっくりと立ち上がりこちらを観察している。
(あなたはずっと逃げてきた私と違って、ちゃんと恐怖を知っている。あなたはだから強いのかな。)
恐怖を乗り越えるためには恐怖そのものを見つめて、理解しなければいけない。
目の前の理想は果たしてその恐怖の根源を理解して強くなったのだろうか。
(それとも私と同じで恐怖から逃げるために強くなったのかな。)
あれだけ強いということは、きっと恐怖からも逃げ切ったのだろう。
そうじゃなければみんなの前であんなに堂々と笑うことはできない。
目の前の理想の自分のことを考えれば考えるほど、彼女のことが知りたくなる。
“恐怖”をあなたはどう理解したの?
どうやって“恐怖”から逃げたの?
「…私はあなたのことをもっと知りたい」
ぽつりつぶやいた声は闇の中に溶けて消えていく。
(そのためにも私がやるべきことは…)
同じ舞台に立つところからだよね。
現状の理解は、ほんの少しだけ上手くなった。
────────────────────────────────
ユーベルコード:神器解放
夏来は自らの持つ神器の封印を解いていく。
封印を解くのは当然、あのナイフだ。
さあ、増やすナイフは何本がいい?
答えは当然“何本でも”
今彼女の持つ全力の力でナイフの本数を増幅させていく。
闇の中で幾千ものナイフが、現実の光を反射して光る。
彼女はナイフの群れを操り、鏡面を目掛けて放つ。
鏡面はまるで分厚いビニールのようにしなり、伸びる。
だが、所詮はビニール。ナイフに勝てるわけがない。
それにこちらは全力なんだ。勝たなくては意味がない。
何千ものナイフが突き刺さるその鏡面はその柔軟性の限界まで伸び耐えるが、真ん中から裂けるように崩壊した。
夏来はその一瞬を見逃さず、そのままナイフを画廊から出ようとこちらに背を向ける理想の夏来へ急襲させる。
虚像はちらりと背後を見ると、トン、と地を蹴り背後に襲いくるナイフを宙返りの要領で避け、壁を蹴り空中で幾千ものナイフの動きを観察する。
夏来と同様に神器を解放し、幾千もの数にナイフを増殖させる。
身体を捻り追尾してきたナイフを避けると、ナイフ同士をぶつけて相殺させていく。
その速度の速さは、理想の夏来が地面に再び降り立った時には彼女を襲っていた全てのナイフが消滅していた程だった。
彼女はたった一本だけナイフを携えていた。おそらく撃ち落とすべき数も正確に把握していたのだろう。
今の夏来の全力の攻撃がたった一瞬で防がれた。
「…終わりですか?それじゃあ、次はこちらから行きますね。」
その言葉が聞こえた次の瞬間、彼女は夏来の間合いに入っていた。
咄嗟に防御の姿勢に入るが、彼女はそれもしっかりと見ている。
夏来の利き手から赤い飛沫が上がる。手から腕にかけて一文字の赤い線。
焼けた鉄を押し付けられたような痛み。
その激痛に危うくナイフを落としそうになる。
痛みに気を取られていると、腹部に横蹴りが入る。
臓器に響くような鈍い痛みと衝撃。背後に吹き飛ばされて真っ白な壁に激突する。
反撃をする暇もない猛攻。
「痛々しい自分の姿を見るのはあまりいい気分ではないですね…もう一度鏡の中に戻っていただけますか?」
夏来を見下しながら、理想の夏来はそう言ってナイフで鏡を指す。
「……今の私じゃ手も足も出ない、だってあなたは正しく理想だ。」
「当然でしょう。私は、あなたが望んだ理想の姿なのですから。」
「ナイフを使った近距離での戦い方、増やした神器を何千本だろうと自在に操る技術、戦いにおいての立ち回り、全て私の上位互換。」
「…お褒めの言葉を有難うございます?」
腕に力を込め、立ち上がりながらそう言う夏来に理想像は小首を傾げる。
「だから安心しました。どの技も私が身に着けてる技術の延長だから、私はもっと強くなれる。」
立ち上がった夏来の目には光と覚悟が宿っていた。
「…っ!強くなったとしても私を倒すことはできませんよ。だって、私はあなたの理想像。あなたよりも優れている存在なんですから。」
「ええ、そうかもしれません。わがままなお願いですみません。それでも、みんなと共にいるために…私があなたを超えるまで付き合ってもらいます」
虚像の夏来は一瞬、恐怖に似た表情を見せる。
しかし、すぐに夏来を睨みつけ幾千もの彼女に向けて放った。
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白い画廊には赤い血がよく映える。
夏来は何度もナイフに切りつけられ、血を滴らせながらも目に映る情報すべてを頭に叩き込んでいった。
周囲に舞うナイフ、体の動き、視線、呼吸に至るまで全部。
そしてその情報を反芻し、すぐに実践する。
ナイフの角度、攻撃のかわし方、視線誘導、血の巡りでさえも自分のものとしたかった。
全ては理想を自分のものにするために。
恐怖も不安もなかった。
目の前には最高のお手本がいるのだからいくら傷つけられても安心できた。
次にそうならないためにはどうすればいいか目の前の相手から教えてもらえたから。
反対に理想像の恐怖は増すばかりだった。
どれだけ切ってもどれだけ倒しても立ち上がってくる相手に、この時間が無限に続くのではないかと恐れが募っていく。
集中が途切れる。動きが乱れる。後光が深緑色に染まっていく。
その一瞬の隙、ナイフの弾幕に空いた空間。
そこに一本ナイフを投げる。
大丈夫、絶対に当たる。だから一本でいい。そんな確信があった。
ナイフは理想像の胸に、深く突き刺さった。
そこを中心に、身体にヒビが広がっていく。
理想像は目を丸くし、パクパクと口を動かしても驚愕のあまり言葉が出ないようだった。
理想像は崩れ、破片はすぅっと透明になって消えていく。
はっ、はっ、と息を切らして夏来はそこに立っていた。
赤い血も、深い傷もどこにも見当たらない。
残っていたのは、じんとした痛みと確かな達成感と粉々になった|鏡《オブリビオン》だけだった。
大成功
🔵🔵🔵