グラスホッパーは眠らない
●敵はどこだ?
――ああ、|また《・・》だ。|また《・・》失敗してしまった。
|次《・》の敵はどこから来るんだ?
街路樹の影? ビルの裏? それとももう、オレの後ろに立っているのか?
「ひいいぃ!」
「助けてくれぇ!」
「殺される……!」
「いやああああ!!」
|また《・・》人々の叫び声が聞こえる。どこかでヴィランが暴れているんだ。
助けなけりゃ。助けに行かなきゃ。オレは、オレはヒーローなんだから!
だけど足が動かない。|今度も《・・・》殺される恐怖に足が竦んで、動いてくれないんだ。
「……あの、そこのあなた、大丈夫ですか?」
オレの視界を覆う影。それに安心してしまったオレは、顔を、上げて。
突きつけられた銃口に、成すすべもなく。
――ああ、|また《・・》死んでしまった。
●|ハウルホッパー《共鳴キリギリス》はひそやかに
「まだや、あんさんにはまだまだ苦しんで貰わんとなあ……!」
繰り返す悪夢を観測する|過去より出でし怪物《オブリビオン》は、今度も訪れた悲劇に声を殺して笑うのだ。
●そして2022年のグリモアベース
「よく来てくれた、礼を言う」
フェイト・ブラッドレイ(DOUBLE-DEAL・f10872)は自らの呼びかけに応えて集まった猟兵たちにそう言うと、薄氷色の左目を厳しく光らせた。
「ヒーローズアースにて、オブリビオン残党が事件を起こしているとの予知を得た。……既に被害者が出ている、即刻救助に向かってもらいたい」
被害者の名は、クライド・アバネシー、37歳。現役ヒーロー「赤腕のクライド」。腕を赤熱させて、炎を操るスピリットヒーローである。
「彼は今病院にいる。オブリビオンによって、目覚めない夢を見させられているようだ」
遡る事23年前、1999年にヒーローズアースで起こった善悪の決戦『ジャスティス・ウォー』。クライドは当時14歳で、それに参戦していたという。その時に負ったトラウマを再現した悪夢の世界に捕らわれているのだと男は言う。
「かつてヒーローズアースにいた猟書家の幹部が起こしていた事件と同等のものだな。猟書家は炎を使っていたが、今事件を起こしているオブリビオン『ハウルホッパー』は音を操って、クライドを覚めない眠りの中に閉じ込めているらしい」
ハウルホッパー。それはほんの数年前に壊滅した『鋼の鷲』と呼ばれるヴィラン組織に所属していたヴィランであり、ヒーローたちがこの組織に突入した際に殺害されているという。
「だが、ハウルホッパーを殺したのはヒーローではない。ヒーローはヴィランとの戦闘になっても、ヴィランを殺すことはない。彼らが改心してヒーローとしてその力を使うことを願って、命まではとらないからだ」
ハウルホッパーというヴィランが殺害された際には、同じヴィラン組織に属していた殆どのヴィランが同様に命を落とした。彼らを捕縛ではなく殺害したのは、ヒーローの中に紛れ込んでいたオブリビオンであろうことは既に生存者からの調べでわかっている、と男は言った。
「だが、このハウルホッパーは恐らく、自分たちを殺したのが“ヒーロー”だと思ったまま死んでいる。音を操るヴィランだったこの男は、組織の中で通信士的な役割を担っていたがゆえに、死ぬまで通信室から出なかったらしいからな。……そして、「赤腕のクライド」はこの、組織が壊滅した際の突入作戦に参加していたヒーローだ」
おそらくはオブリビオンとして蘇ったあとにそれを知ったのであろうが、それゆえにハウルホッパーのヒーローに対する憎しみは強いのだろう。燃え落ちた組織のアジトを焼いたのがクライドであると睨んで犯行に及んだのかもしれない、と男は言う。それはどうやら、予知では明らかにはならなかったことのようだった。
「さて、現在のクライドの状態だが、彼の悪夢の中の世界は1999年の『ジャスティス・ウォー』の市街だ。当時十四歳でユーベルコードに目覚めたばかりだった彼はここで、『サラリーマン』という名のヴィランに奇襲をかけられ、大きな傷を負った。その傷は身体よりも心の方が深かっただろう。何せ、保護すべき一般市民だと思った所を攻撃されたのだからな」
サラリーマン、と呼ばれるそのヴィランは背広姿に身を包み、アタッシュケースに銃を仕込んだ悪の企業戦士である。オブリビオンとしては尖兵として使われる程度の強さだが、悪夢の中ではクライドのトラウマが作用して、非常に強大で神出鬼没、どこから現れるかわからない存在に強化されてしまっている。更に厄介なのは、クライドの精神がジャスティス・ウォー当時の十四歳に戻ってしまっているために、その能力もまたユーベルコードに覚醒したばかりの頃に戻ってしまっているということだ。
「現実の「赤腕のクライド」は炎を操るが、十四歳のクライドはまだ自分の拳を焼けた鉄程度に熱くすることしかできない。その程度の力しかなくとも、ヒーローとして戦わざるを得なかった、ジャスティス・ウォーとはそれだけ過酷な戦いだったということだ」
クライドを救うためには、こちらも悪夢の中に乗り込む必要がある。通常ならば難しい問題であるが、スピリットヒーローであるクライドが悪夢を見続けていることにより現在は悪夢と現実が繋がりかけている状態にあり、病院で眠り続けているクライドへ触れれば、そのまま悪夢の中に入れるらしい。悪夢の中で十四歳のクライドにトラウマを打破させれば、彼を目覚めさせることができるだろうと男は言う。
「そのためにはまず、悪夢の中に入り、十四歳のクライドとともに『サラリーマン』を倒すことだ。クライドの恐怖心によって『サラリーマン』は何度でも蘇る神出鬼没で強大、無敵の存在になっているが、クライドに対しトラウマを打ち破らせる言葉をかけ、あるいはともに戦うなどすることで、敵を弱体化し、倒すことができるようになるだろう」
逆に言えば、クライドを無視して猟兵だけで戦ったのではサラリーマンは神出鬼没、無敵、強大で「絶対に倒せない」と男は言う。この悪夢を打ち破るには、少年クライドが自身のトラウマを打破することが肝心なのだと。
「現場は市街だ。ヒーローとヴィランが戦っているような音、逃げる人々がいるが、それらはすべて悪夢の中の幻影であり、実際には触ることも出来ない。いや、人々を助けようとすれば「サラリーマン」はそれに乗じて襲ってくるだろう。これを利用するのも一つの手ではあるが……やりようは個々人に任せよう」
トラウマを打破し、『サラリーマン』を倒すことができたなら、クライドに悪夢を見せていたオブリビオン『ハウルホッパー』は焦れて邪魔な猟兵を排除するべく自ら悪夢の中に侵入してくる。『ハウルホッパー』を倒せば、悪夢は終わってクライドを目覚めさせることができるだろう。
「病院までの転移は私が引き受ける。病院で眠っているクライドに触れれば、すぐに彼の悪夢の中に入ることができるだろう」
では、準備が出来た者から、私に声をかけてくれ。
遊津
遊津です。ヒーローズアースの戦後シナリオをお届けします。
一章集団戦、二章ボス戦の二章構成となっています。
転送されるのは病院ですが、リプレイは悪夢の中に侵入したところから始まりますので特に悪夢の中に入るためのプレイングは必要ありません。
「一章・戦場について」
誰もいないオフィス街、1999年のジャスティス・ウォー当時の光景となっています。
ヒーローとヴィランが戦っている音が聞こえ、人々が逃げまどう幻影が見えますが、あくまでも幻影であり、本物ではありません。昼間の屋外であり、空中戦を行うことが可能ですが、オフィス街であるためかあまりそれぞれの道は広くはありません。道は舗装されており砂利などはなく、戦闘を邪魔するものは何もありませんが、特に利用できそうなものもありません。それでも何かを利用しようという場合、必ず「何を」「どうやって」使うか明記してください。
「悪夢の中のスピリットヒーロー・クライドについて」
十四歳の少年クライドはどこから現れるかわからない敵を恐れ、怯えて立ちすくんでいる状態です。
何度もサラリーマンに倒され続けており、『何度も繰り返している』ことを認識していますが、これが悪夢だとは思っておらず、ヴィランの攻撃であると考えているようです。
今が2022年であること、自分がもう37歳のベテランヒーローである事、「アースクライシス2019」のことはわからないため、猟兵や49ersの事もわからない状態です。いきなり教えても混乱するだけであり、今は伏せておいた方が得策でしょう。
猟兵の事は、助けに来てくれた「ヒーロー」であると考えます。
今の彼は両腕、拳を焼けた鉄板程度に熱くする程度の能力しか持ちませんが、猟兵がかける言葉やともに戦う方法次第ではベテランヒーロー「赤腕のクライド」の能力を思い出してくれるかもしれません。
「集団敵・サラリーマンについて」
集団敵ですが、この悪夢の世界では倒しても蘇る存在として扱われます。
クライドの恐怖心により、現実以上に強大で無敵の存在となっているため、クライドに励ましの言葉をかける、ともに戦うなどしないと弱体化せず、倒すことができません。(倒したように見えてもすぐに復活します)
指定されたユーベルコード以外にも、アタッシュケースに仕込んだ銃器やカラテの技で戦います。奇襲が得意なため、それを利用する戦法を取ると良いでしょう。
「ボス敵・『鋼の鷲』ハウルホッパーについて」
近年壊滅したヴィラン組織『鋼の鷲』の一員で、組織壊滅時に死亡しており、音を操るオブリビオンです。
クライドの悪夢をどこかから鑑賞しています。詳細は二章の追記にて行います。
当シナリオのプレイング受付開始は10/5(水)朝8:31~となっております。
シナリオ公開の時間によっては上記タグ・マスターページにプレイング受付中の文字が出ていないことがありますが、その状態でもプレイングを送ってくださってかまいません。
採用できないプレイングなどについて諸注意がございますので、必ずマスターページを一読の上、プレイングを送信してください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『サラリーマン』
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POW : シークレット・ガン
【手に持つアタッシュケースに内蔵された兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : エンシェント・マーシャルアーツ・カラテ
【カラテ】による素早い一撃を放つ。また、【武器を捨て、スーツとネクタイを脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 情報解析眼鏡
【スマート・グラスで敵の情報を解析し、】対象の攻撃を予想し、回避する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ローラント・ローゼンミュラー
あー、こりゃまた大変なことになっとるね。
確かに何処から現れるかわからん敵は怖いわなぁ。
彼との会話の隙、作らんとな。
彼を守るため、手甲で相手の兵器を受け止めるか。
生半可な装備やないんよ、俺の手甲はな。
相手には手刀による斬撃波。
どうせ倒れんやろ?
せやから、勇気づけよか。
なあクライド。怖いか?
俺も怖いで。めっちゃ怖い。銃弾とか当たったら死ぬもん。
でもな、ここで怖がってたらマジで死んでまうで。
ほんのちょっとでええから、勇気出して回避行動取ってくれ。
まぁこんなこと言うと俺の仲間は皆「心無いくせに何言ってん?」って言うんよなぁ。
敵さんの体勢が崩れたところでUC【挑戦者:全破壊】で一発ドカンとやっとくわ。
●幾度|天《・》が落ちるとも、そ|の《・》度に|声《・》を上げて立ち上がれ
(あー、こりゃまた大変なことになっとるね)
ローラント・ローゼンミュラー(|閃光の挑戦者《Herausforderer》・f36440)が悪夢の中に入りこみ、状況を見極めて思ったのはそんなことだった。
敵がどこから現れるかわからない状況というものはローラントが考えても恐ろしいものだ。それが、何度も繰り返されているのならば尚更。慣れる、などと言った強い心は、未だ十四歳、能力に目覚めたばかりでつい最近まで一般人だったこの悪夢の中のクライドには持ちようがない。壁に背をつけているだけ防御のための行動をした方だと褒めて良いだろう。いつどこから現れて自分を殺すのかわからない敵相手に、ついこの間まで何の脅威も知らずに暮らしていた十四歳の少年が出来ることなど、精々それしかない。
(でもなぁ、固まってもうとるのはアカンわな。……とにかく会話の隙、作らんと)
そう思った刹那、ローラントの勘が敵襲を感じ取る。来るのは――頭上。壁を背にしたクライドの上から、サラリーマンが落下してくる。手にしたアタッシュケースからは、日本刀の刃が見えていた。
「……っ、このぉッ!!」
『グワッ……!?』
ローラントの「天の手甲」が刃を受け止め、弾き返す。天使核を軸に作られたローラントの手甲は、生半な装備ではないとローラントも自負している。
「オラぁッ!!」
『グハーッ!!』
続いてローラントから繰り出された手刀によって衝撃波が起こり、サラリーマンは吹き飛んだ。そのスーツは斬撃波によってボロボロに千切れるが、如何せんこのままでは――
「……どうせ倒れんやろ?」
ローラントの言葉通り、サラリーマンは口元に不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。そう、猟兵だけではこの、恐怖心によって超超強化されたトラウマの化身を倒しきることは出来ない。だから、ローラントは少年クライドに駆け寄る。
「なあ、クライド」
ローラントの声を聞いて、その姿を見て、クライドはぱっと顔を輝かせる。
「あ……あ、来てくれたのか、ヒーロー……!」
それに、ローラントは否定も肯定もしなかった。ただ真摯な瞳で語り掛ける。口元を隠す面帯に書かれた顔文字が表情を変えた。
「怖いか」
「…………」
クライドはその問いに拳を握り、唇を、奥歯を噛みしめて、そうしてからようやく頷いた。
「……っ、怖い……!!」
「さよか。俺も怖いで」
「ヒーローでも……やっぱり怖いのか……?」
「めっちゃ怖いで。銃弾とか当たったら死ぬもん。……でもな」
――ここで怖がっとったら、あんさん、マジで死んでまうで。
何度も何度も殺された。でも生きているということが、此処が悪夢の中であるからということを少年は知らない。敵の攻撃故にだと思っている、そうグリモア猟兵は言った。それは、本当はすごいことだとローラントは知っていた。
――何度も何度も繰り返された死に、心が擦り切れていないだけ、この少年はずっと強いのだと。
少年にとってはいつかの未来、ローラントにとっては現実で、残りの20年以上をベテランヒーローとして活躍するクライド。「赤腕のクライド」の名を、今はまだ持たなくても。足が竦んで、動くことすらできなくても。
「ほんのちょっとでいいから、勇気出して回避行動取ってくれ」
(なぁんて、こんなこと言うと俺の仲間はみんなして「心無いくせに何言ってん?」って言うんよなぁ)
あるわ、心。
そう胸の中だけで仲間たちに勝手に憤って、ローラントの口元の顔布が「(# ゚Д゚)」の表情を取った。
そして――もう一度。サラリーマンは襲ってくる。今度はクライドの顔面を目掛けて、アタッシュケースから出る日本刀の刃がサラリーマンの体ごと大きく跳躍して降ってくる。ローラントのおかげで、今度の攻撃はクライドにも確実に見えている。
「………っぅうううううああああああああっ!!!!」
『何……だと……っ!?』
腹の奥底から絶叫して、少年は縫い留められたように竦んだ足を動かし、その体を90度回転させる。
たったそれだけ、右向け右のそれだけが、少年が己の恐怖心に打ち克つには大きな一歩。
「よっしゃ、よくやったでクライド!!」
少年が躱すと思っていなかったサラリーマンの身体が傾ぐ。体勢が崩れる。今こそ、ローラントの出番だ。
「こういう時は……|心《心カッコカリ》を込めた一撃がッ、全部を破壊していくんやでっ!!」
【|挑戦者:全破壊《ヘラオスフォルダラー・ツァシュテルーング》】。真っすぐに突き出された手甲から放たれた渾身の一撃が、サラリーマンの腹を突き破り、爆発四散させたのだった――
大成功
🔵🔵🔵
黒江・式子
群衆の足元へと影の茨を拡げ
潜伏する敵の炙り出しを試みます
茨に触れるのはマズいと解析される可能性はありますが
追い立てるならその方が好都合でしょう
今の内にクライドさんに手を差し伸べます
繋がった影に茨を絡ませ
彼の恐怖心を少しばかり奪いましょう
立てますか? ヒーローさん
大丈夫、私がバックアップします
貴方が成すべきは一つ
真っ直ぐ行ってブッ飛ばせ、です
一歩踏み出せたなら
最後にもう一つお膳立てを
手持ちのフラッシュグレネードを私の後ろに放ります
炸裂した閃光を受け
私の影は瞬時に引き伸ばされます
前方へ、敵の足元へ目掛けて
影の茨が届きさえすれば
攻撃を避けようとする意思もまた希釈されます
大人しく殴られて頂きますよ
●茨姫は無人の街で踊らない
「うわあああああ!!」
「助けて、誰かぁぁ!!」
「娘が、娘がまだ……!!」
悪夢の中へ侵入した黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)の耳に、恐慌の声が聞こえてくる。目の前には逃げ惑う群衆。けれどそれはすべて過去の記憶の焼き直しで、幻覚で、本当に助けるべき人はそこにはおらず、むしろ敵がそこから現れることすらあるとグリモア猟兵は言った。ならば、と式子は自らの足元の影に潜む茨のUDC「翳喰らい」を群衆の足元へと放った。この群衆の中に敵が紛れ込んでいるのならば、これで炙りだすことができるだろう。もし茨を警戒されても、敵を追い立てるならばその方が好都合であろうとの判断からだ。そしてかつかつと靴音を立てながら、式子はクライドへと近づいた。
「立てますか? ヒーローさん」
「あ、あ……手を、貸してくれ……!アンタも、ヒーローなのか……?」
「いいえ、私はただのエージェント。けれど貴方の味方です、ヒーロー」
手を差し伸べ、へたりこんだクライドを引き起こす式子。二人の影が一つに繋がる。そこに翳喰らいは入り込み、クライドの心から恐怖心を奪っていく。無論これだけで、かつての彼が深く負ったトラウマと、繰り返す悪夢の中で蓄積された恐怖心の全てを洗い流すことは出来はしないだろうが、ふらふらと立ったクライドの体からはこわばりが取れていた。
「あんた、何かしたのか?」
「ええ、少しばかりリラックスできるおまじないを」
「知ってるぞ、東洋のオンミョー・ジツか?」
そういって浮かべたクライドの笑みは空笑いだ。それでも恐怖心に動けなかった先ほどよりは、笑えただけマシであろうと式子は思った。
「大丈夫です、ヒーローさん。貴方は私がバックアップします」
「ああ、アンタがいてくれるなら百人力だ!何でもできる気がする……いや、何でもは、流石に無理だけど」
「問題ありません。貴方が成すべきはただ一つですから」
「一つ?」
「ええ」
そうして式子が次の言葉を告げたその数秒後、群衆の中からアタッシュケースを手にした男が飛び出してきた。翳喰らいによる索敵から逃れ続けるのに痺れを切らしたのであろうか、それはオブリビオンの尖兵――少年クライドの恐怖心の元凶、「サラリーマン」である。
『キィェエエエエエエ!!』
「あ、あいつは……!」
がくがくとクライドの体が震え出す。その背中を強く支えて、式子は少年から恐怖心を奪い取る。
「大丈夫です。大丈夫、ヒーローさん。私が貴方をバックアップします。私が、ここにいますから」
「……ああ、ああ、そう、そうだ、オレも、オレだって、ヒーローなんだから……!!」
うあああああ、と叫びながら、少年ヒーローは自身の恐怖心の根源に向かって駆けていく。その両拳を赤熱させて。
式子は自分に出来る最後のお膳立てに入る。手持ちのフラッシュグレネードを自身の後方に向かって放り投げ、炸裂させる。サラリーマンの目を灼く光は、それを背にした少年には何の害もないものだ。そして閃光は式子の影を瞬時に、長く長く、サラリーマンの方へと引き伸ばす。その影を伝って、サラリーマンの足元へ向かって影の茨が伸びてゆき……そして茨が喰らうのは、サラリーマンの「攻撃を避けようとする意思」。
「大人しく殴られて頂きますよ――」
サラリーマンはそのスマートグラスで少年ヒーロー・クライドの情報を解析していた。しかし回避行動をその意思そのものから邪魔される。
先ほど式子がクライドに告げた言葉、それは――
――真っ直ぐ行ってブッ飛ばせ、です。
「っぅぅぅぅうおおおおおおおおおッ!!!」
『ガアアアアッ!?』
熱された鉄板ほどに赤熱する拳がサラリーマンの顔面を殴り飛ばす。ボッとサラリーマンの頭部が燃えだし、その体は四散する。まだ少年の恐怖心が完全に払拭できたわけではないだろう、けれどそれは、少年にとっては非常に大きな一撃であった。
大成功
🔵🔵🔵
フォンテ・ベトリューガー
【XX】
チッ、面倒なことになってんな。
ノエル、クライドの方頼む。俺だと絶対変なこと言う。
自覚ぐらいあるわ。
2人が会話中は近づけないようにサムライブレイドで斬撃波を出して攻撃。
相手の攻撃は残像で回避して同士討ちを狙うか。兵器類はそれでやるのがいい。
近づいてくるやつにはUC【剣刃一閃】で叩き落とす。
とにかく、2人を徹底的に守る。
会話が終わったらノエルの戦闘鎧で盾になってもらいつつ、クライドと共闘だ。
だがクライドにもノエル、どちらも傷つけさせやしない。ヘイトは稼ぐ。
俺らがヒーロー、ねぇ。
俺達はただの請負人だ。むしろこの状況で立てるお前の方こそヒーローだろうよ。
小さいことだけど、それって凄く立派だぜ?
ノエル・ウィンターズ
【XX】
うーん、この状況はヤバい。
……えっ、フォンテ自覚あったんだ?
ああ、いや……確かにまあ、ね……。
フォンテが敵を見てくれてる間に、俺がクライドを元気づけよう。
危ないから、UC【アリスナイト・イマジネイション】で作った鎧を着て、と。
ええと、クライド。大丈夫かな?
怖いっていう気持ちは、俺達もあるけど……今はそう言ってられなくてね。
キミがいないと世界が大変なことになるからさ。ヒーローのお手伝いとして、戦ってくれないかな?
あ、俺を盾にしてもらっていいよ。俺、今は無敵だからね。
会話を終えたらフォンテと合流。俺が盾で、フォンテとクライドに戦ってもらうよ。
ヒーローってのは、行動で示してこそだからね。
●雷帝と騎士、白銀と朱
どこからか、ヒーローとヴィランの戦う音が聞こえる。けれどその姿は、どこにも見えはしない。
「うわああああ!!」
「助けて……助けてぇぇ!!」
「子供が!まだ子供が取り残されてるんだ!誰か!!」
そこから逃げ惑う人々がいる。けれどそれは、すべて幻覚。
「チッ、面倒なことになってんな……」
フォンテ・ベトリューガー(|白銀雷帝《Weiß Blitz》・f38529)はその光景を目にして、一つ舌打ちをする。
「うーん、この状況はヤバい」
精神が参りそうだ、とノエル・ウィンターズ(|朱色騎士《vermelho cavaleiro》・f38680)も首肯しながら言った。これが、ヒーローズアースで1999年に起きたという善悪の決戦、ジャスティス・ウォー。
二人の視線の先には、逃げ惑う人波の中で歩道に立っている少年ヒーロー、十四歳のクライド・アバネシーの姿がある。猟兵のサポートあって、ヴィランに一撃入れることには成功したようだ。だが、やはり恐怖は消えないのだろう、肩で息をしている。
「ノエル、クライドの方頼む。俺だと絶対変な事言うわ」
「……えっ、フォンテ自覚あったんだ?」
「自覚ぐらいあるわ」
「ああ……いや、うん、確かに……ね……」
フォンテはノエルにクライドを任せると、サムライブレイドを抜いて第六感を研ぎ澄ませる。来る、と思った時には、既に脚は動いていた。超高速の影が、背中から少年クライドを攻撃しようと近づいてきていた。ヴィラン・サラリーマン、その手にあるアタッシュケースから出ているのは、パイルバンカーの杭。
「させるかよォ!!」
サムライブレイドを一振り、斬撃波を繰り出して攻撃する。糊のきいたスーツがズタズタに吹き飛んだが、今の相手は少年クライドの恐怖心により無敵となっている。そのままアタッシュケースを振り回し、フォンテを貫こうとする。
――無敵だと? 構うものか。今のフォンテは、二人を徹底的に守るために戦っている。
ノエルは【アリスナイト・イマジネイション】によって無敵の戦闘鎧を作り、身に纏う。彼がその能力に疑念を感じない限り、その鎧は文字通りの無敵だ。
「ええと、クライド。大丈夫かな?」
「アンタは……アンタたちは、来てくれたのか、ヒーロー?」
その言葉に反応したのは、ノエルではなくフォンテだった。サムライブレイドでパイルバンカーをいなしながら、クライドへ向かって叫ぶ。
「……っ俺らがヒーロー、ねぇ!俺たちはただの、請負人だ!」
「請負人……?」
「ああそうだ!むしろこの状況で立てるお前の方こそ、ヒーローだろうよ!……小さいことだけど、それって凄く立派だぜ?」
ああ鬱陶しい、もうちょっと離れろってーの!!
フォンテはサラリーマンにそう叫ぶと、戦いながらクライドの側を離れていってしまった。残されたノエルは、クライドへ向かって微笑みかける。
「怖いっていう気持ちは、俺たちもあるよ。……だけど、今はそうも言ってられない」
「わかってる……こうしてる間にも、みんながヴィランたちと戦ってる……!」
「うん、キミが居ないと世界が大変なことになるからさ」
「オレが……? 世界が……?」
「ああ、今のキミにはわからないと思う、それでいい。今は、ヒーローのお手伝いとして戦ってくれないかな?」
今の十四歳のクライドには、37歳のベテランヒーロー「赤腕のクライド」のことも、このジャスティス・ウォーの結末すらもわからない。けれど、ヒーローの中には予言めいた能力を持つ者もいるのだろう、クライドはその言葉で納得してくれた。
「オレは……何を、すればいい……?」
「ヒーローってのは、行動で示してこそだ。あ、俺を盾にしていいよ、オレ、今は無敵だからね」
――それじゃあ、行こうか!
差し伸べられた手を、クライドは取る。そして二人はフォンテと合流した。
サラリーマンの繰り出してくるアタッシュケースのパイルバンカーを、ノエルの無敵の鎧が弾く。弾かれた杭の切っ先を、フォンテが【剣刃一閃】によって斬り落とした。
(クライドもノエルも、どちらも傷つけさせやしねえ……!)
武器を失ったサラリーマンの襟首を、サムライブレイドでもって壁に抜射止めるフォンテ。
「さあやれ、クライド!ヒーローの矜持って奴を、見せつけてやれ!」
「……っぅぅううおおおおおおおああああああっ!!!!」
裂帛の気合を込めて、赤熱した拳がサラリーマンの顔面を殴りつける。
『グッ……グワーッ!!』
サラリーマンの頭が赤い炎に包まれ、そして爆散する。同時に四肢も爆発四散した。
「オレは……オレだって……ヒーローなんだ……っ!!」
少年クライドはそう言って、大地を踏みしめたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『鋼の鷲』ハウルホッパー』
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POW : HOWLING
【あらゆる防壁を貫通する破壊音波】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : be affected
【肉体と繋がった切っても再生するコード】によって、自身の装備する【強い自殺衝動を齎す歌声を流すスピーカー】を遠隔操作(限界距離はレベルの二乗m)しながら、自身も行動できる。
WIZ : resonance
【切断不可能なコードで背後の巨大スピーカー】と合体し、攻撃力を増加する【魅惑的な歌声】と、レベルm以内の敵を自動追尾する【精神を錯乱させる歌声を放つスピーカー】が使用可能になる。
イラスト:十姉妹
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠シャオロン・リー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「はぁーおもんな。なにしてくれてんねん、あんさんら。まだまだそのガキには絶望してもらわなあかんのやけど?」
どこからか、スピーカー越しの声が聞こえてきた。
そしてその声が聞こえるなり、世界は一変する。
オフィス街は消えていた。逃げ惑う人々もどこにもいない。ヒーローとヴィランが戦う音も、すべては幻だったかのように消えている。足元にあるのは先ほどまでのアスファルトではなく、削れもしないような硬い材質の何か。それでも今までの事が夢だと思えないのは、そこに少年ヒーロー、十四歳のクライド・アバネシーがいるからだった。
「ほんま気ぃ悪いわぁ」
そして目の前に現れるのは、小柄な影――雑面で顔を隠し、色鮮やかな拘束具に身を包んだ黒髪の少年――いや、小柄ではあるが成人しているのだろうと思われる、男。
そして彼の後ろに浮かぶ幾つも幾つものスピーカー。
これがグリモア猟兵が言っていたオブリビオン・ヴィラン「ハウルホッパー」なのであろうと、猟兵たちは確信する。
「あんさんら、そのガキ置いて帰ってくれへんかな。そしたら今回は穏便に済ましたるから」
――そういうわけには行かない。
ヒーローに殺されたと思いながら死んだヴィラン、そのオブリビオン。
この男を倒さなければ、この悪夢は終わらないのだから!!
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第二章 「『鋼の鷲』ハウルホッパー」が現れました
おめでとうございます。猟兵たちの活躍により、少年の繰り返す悪夢は終わり、その元凶を引きずり出すことに成功しました。以下に詳細を記します。
「戦場について」
ただ地面に破壊不可能の謎の鉱石が広がっているだけの、何もない空間です。ヒーロークライドの夢の最深奥となります。
夢の中であるため、太陽も月も出ておらず光源もありませんが視界には不自由しません。
拓けており、空にも何もないため空中戦が可能です。戦闘を邪魔するものは何もありませんが、戦闘に利用できるものも何もありません。それでも何かを利用しようという場合は、「何を」「どうやって」使うか明記してください。
何処まで行っても終わりはなく、一定以上移動すると元の場所に戻ってきます。
リプレイ開始時点ですぐに戦闘が開始されるため、何かをあらかじめ準備しておくということは出来ません。何らかの準備行動は戦闘と並行して行うこととなります。
「ハウルホッパーについて」
自分はヒーローに殺されたと思ったまま死んだヴィランで、その考えを覆すことは難しいです。
その為、少年ヒーロー・クライドを逃がしたりするとそちらをユーベルコードで攻撃しようとします。苦しめることが目的なので殺害には至りませんが、精神に作用するものを主に使用して苦しめようとするため、注意が必要です。
彼の定義する「敵」には、猟兵だけでなくクライドも含まれています。
音を操るオブリビオンで、指定のユーベルコード以外にも人体を破壊する音で攻撃してきます。
猟兵がユーベルコードを選択しなかった場合も同様に、音での攻撃を行ってきます。
「少年ヒーロー・クライドについて」
ベテランヒーロー「赤腕のクライド」の記憶や能力こそ思い出せなかったものの、ヒーローとしての勇気を得ました。
相変わらず今は1999年、ジャスティス・ウォーの最中だと思っており、自分は14歳の新米ヒーローだと思っています。ハウルホッパーのことは敵対者=ヴィランだと単純に認識しています。
今の彼に現実(今が2022年であることや現実の自分がベテランヒーローであること、ジャスティス・ウォーが終わったことなど)を教えることは混乱を招く為推奨しません。
相変わらず使える能力は自身の拳と両腕を焼けた鉄板程度に赤熱させるのみです。
指示があればそれに従いますが、猟兵からの指示がなくとも出来る範囲で防御します。
ただし、ハウルホッパーのユーベルコードに対しては彼は対策手段を持ちません。自殺衝動を与えられれば自害しようとするかもしれませんし、精神も錯乱する可能性があります。
そうなった状態の彼を放ったまま戦い、ハウルホッパーを倒すことに注力することも可能ですが、目覚めた後のクライドの精神に傷が残るのは間違いないでしょう。
第二章では彼と共闘する必要はありません。戦いが終われば、無事に目覚めることができるでしょう。
第二章のプレイング受付は10/12(水)朝8:31から開始いたします。
時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
マスターページを確認したうえでプレイングを送信してください。
それでは、現在を生きるヒーローを現実世界に取り戻すため、元凶を斃すための戦いを始めてください。
フォンテ・ベトリューガー
【XX】
くそっ、音がメインはめんどくせぇタイプだな!!
ノエル、クライドにアレ渡しとけ!
まずはUC【雷帝降臨】。これで俺の雷に触れたスピーカーが勝手に壊れるだろ。多分。
俺が先陣を切り、スピーカーを足台に敵の本体に近づく。
その際ノエルとクライドの動きがバレないよう、悪目立ちで俺に釘付けになってもらうぜ。
どんな攻撃でも来いよ。その分、テメェの生命力を雷を通して奪ってやるからよ。
俺の目的は視界狩り。特大の一撃はクライドに叩き込んでもらう。
精神破壊は絶対にさせねぇさ。
なによりクライドには、ヒーローになってもらわなきゃぁ困る。
俺達は請負人。彼をヒーローにするためにここに来ただけなんでな。
ノエル・ウィンターズ
【XX】
即時、UC【複製カード】で俺の【アリスナイト・イマジネイション】をカード化。
無敵の鎧を作れるカードをクライドに渡しておくよ。
ヤバいと思ったらそれ使って! さっき俺が使ってたやつだから!
フォンテが先陣を切ってくれてる間、俺はクライドを誘導。
俺達を自動追尾してくるスピーカー……流石にこれからは逃げ切れないだろう。
だからスピーカーをアリスランスで叩いて向きを変えて、敵に音を向けるようにするよ。
自爆するかなぁ? しなくてもいいけど。
残念だったね、絶望に落とせなくて。
俺達がいる限りは彼は落とさせないし、何度でも引き上げるし。
ついでに、ヒーローの一撃ってのを教え込むさ。
さ、思いっきり殴っちゃって!
●言葉よりも強い響きを
ハウルホッパーの身体からコードが伸びる。それは彼の背後に聳える巨大なスピーカーに繋がり、そして一体化した。
「くそっ、音がメイン攻撃ってなぁめんどくせぇタイプだな!ノエル、クライドにアレ渡しとけ!」
「了解、わかったよ!」
フォンテの言葉を聞いたノエルはすぐさまユーベルコード【|複製カード《レプリカ・ユーベルコード》】を発動し、自らのユーベルコード【アリスナイト・イマジネイション】をカードにする。そして、それを自身の背後にいたクライドへと手渡した。
「ヤバいと思ったらそれ使って!これ、さっき俺が使ってたやつだから!無敵になれる!」
「あ、ああ……わかった!」
ハウルホッパーの周囲に浮かんでいたいくつものスピーカーたちがうねうねと動き出す。そのスピーカーから流れ出すのは、ハウルホッパーの魅惑的な歌声。それはハウルホッパーの攻撃力を増加させるもの、そして、スピーカーからは更に歌声が流れだす。くらり、眩暈がして。目の前が歪む。頭の中を直接かき回されるような不快感。これを続けられたならば、なるほど狂ってしまうだろうというような――
「うああ……っ……!!」
クライドはたまらずカードを使い、【アリスナイト・イマジネイション】の戦闘鎧に身を包んでいた。
それを確認したフォンテは自身のユーベルコード【|雷帝降臨《アドベント・レランパゴ》】を発動させる。
フォンテの全身が白銀の雷に覆われた。放電する雷がスピーカーをショートさせ、ばらばらと地に落としていく。それのみならず、フォンテは無数のスピーカーを足場にしてひょいひょいと飛び移りながら放電によって破壊してゆき、巨大なスピーカーと合体したハウルホッパーへと近づく。精神を狂わす歌声がハウルホッパーの背後の巨大なスピーカーから流された。
「は、どんな攻撃でも来いよ!その分、テメェの命を奪ってやるからよぉ!」
『こ、んのぉ……!』
ハウルホッパーが歯噛みする。フォンテの【|雷帝降臨《アドベント・レランパゴ》】は、自身が敵から受けたダメージと状態異常の数に比例して自身の戦闘力を増強させ、そして敵の生命力を奪うものだ。ハウルホッパーが攻撃の為に精神錯乱の効果のある歌声を流せば流すほど、それはフォンテの力になる!
だが、フォンテの目的はこのままハウルホッパーを叩くことではない。フォンテの役目はあくまで悪目立ち、視界狩りだ。その間にノエルはクライドを誘導する。
敵を自動追尾するスピーカーは精神錯乱の歌声を流しながら、ノエルたちを追ってくる。これを撒くことは非常に難しいと判断したノエルはアリスランスを構え、スピーカーをブッ叩く。向きを変えてハウルホッパーへと精神錯乱の歌を流させようと目論んだが、さすがにそれは高望みが過ぎたか、ハウルホッパーには何ら変わった様子はない。
『くっそ、邪魔すんなや……!』
苛立ち交じりに言うハウルホッパーに、フォンテとノエルはそれぞれ不敵に笑んで見せる。
「残念だったね、絶望に落とせなくて!」
「精神破壊は絶対にさせねぇさ……何よりクライドには、ヒーローになって貰わなきゃ困るからな」
「俺達がいる限りは彼は落とさせないし、何度でも引き上げる!」
『んのっ、ヒーロー……ヒーロー、ヒーロー!どいつもこいつも、ホンマ気ぃ悪いわぁ!!』
「――俺たちは請負人。こいつをヒーローにするためにここに来ただけだ……行けるか、クライド」
「さあ、ヒーローの一撃ってやつを教え込んであげるよ!」
ノエルの手がクライドの背を押す。それに解き放たれるように、少年ヒーローは飛んだ。無敵の戦闘鎧をまとって、自身の両拳を赤熱させて!
『く……っそぉぉぉ!!』
「ぅおおおおおああああああっ!!」
その赤熱した拳は、ハウルホッパーの顔面に思い切り叩き込まれたのであった――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ローラント・ローゼンミュラー
ハッ、なんやろな。
あんさん見てると、自分を投影しているようにも見えるな。
似た者同士なんかねぇ?
アンタは目を隠して口を出し、俺は目を出して口を隠しとるし。
クライド、アンタは向こうから。
俺はこっちから行くで。
自動追尾スピーカー邪魔やな。
手甲付けた拳で一発ぶん殴ってへこませたるわ。
精密機器は殴ったら一発で死ぬって、教わらんかったか?
教わってないなら今知っとけ!
クライドがヤバいと思ったら、UC【天声:操作】で彼を動かす。
俺との距離を付かず離れずにさせつつ、あとついでに錯乱させるやつの割り込みしとくで。
例え過ちが天を落としても、いつか運命に巡り会える。
クライド、その精神を忘れんようにな。
●際限のない再現、再见
「ハッ、なんやろな」
ローラントはハウルホッパーを見つめ、彼にだけ聞こえる声でそう言った。
「あんさん見てると、自分を投影しているようにも見えるな」
『奇遇やな、俺もそう思っとったとこや』
「似た者同士なんかねぇ? アンタは目を隠して口を出し、俺は目を出して口を隠しとるし」
『そうかもしれへんなあ。ちゅーかですね、そんなに親近感覚えてくれとるんやったら、帰ってくれてもええねんで?』
――そのガキさえ置いてってくれれば、俺はお前らの深追いはせんつもりやし。
「そういうわけにはいかへんな」
『それでは、交渉は決裂やんな?』
「そやねえ」
ローラントがそう言うなり、ハウルホッパーの全身からコードが伸びた。それは背後の巨大スピーカーに繋がり、彼らは一体化する。そして同じくコードで繋がったスピーカーが浮き上がり、ローラントとクライドを追い始めた。
『~~aaaaaaaaaaaa~~♪』
彼が現れた時から思っていたことだったが、ハウルホッパーは美声だ。そこから放たれる魅惑的な歌声は彼の攻撃力を増幅し、そして自動追尾するスピーカーから流れ出すのはくらくらと眩暈を催す、精神に悪影響を及ぼす歌声だ。
美しい歌声だ。いつまでも聞いていたくなる。好い声だ。全てを忘れて、この歌声に浸っていたくなる――
「――!」
ローラントはそこで目を見開いた。
「邪魔やな自分!」
天使核を主軸に作成された「天の手甲」でもって、己を追いかけてくるスピーカーをぶん殴る。べこん、と音を立ててスピーカーはへこんだ。へこんだついでにバチバチと放電を始めておしゃかになった。
『ああ゛!? 何してくれてんねん!』
「精密機械は殴ったら一発で死ぬって教わらんかったか? 教わってないなら今知っとけ!」
『昭和のオカンかお前ぇ!』
「…………と、クライド……!」
ローラントは気づく。自分でさえこれだけの効果を及ぼす歌声、クライドが聞けばどうなるか。
ローラントは急ぎ己のユーベルコード【|天声:操作《ナレーション・マニピュレート》】を発動させた。
「うぁ、あ、あああああ……」
目を虚ろにし、歌声に聴き入っていたクライドの頭に、ローラントの声が響いてくる。
「“はいはい、俺の声聞こえとる?”」
「う、あ……きこえ、てる……!」
「“りょーかい、お前の耳は塞いどいといてやるから、そのまんま気張っとき”」
クライドは自力で立つのが精いっぱいの状態だ。ローラントはクライドの腕を操作し、がっちりと耳を塞がせてやる。
「“お前はあっちから行く、俺は……あいつぶん殴る以外になんもでけへんけど、こっちから回るからな”」
自動追尾してくるスピーカーはまだまだ大量にある。そのいくつかをぶん殴ってぶっ壊し、クライドの両脚を操作して駆けさせながら、ローラントは【|天声:操作《ナレーション・マニピュレート》】でもってクライドだけに話しかける。
「“例え過ちが天を落としても、いつか運命に巡り会える”」
「“クライド、その精神を忘れんようにな”」
「……それは、どういう……?」
きょとんとしたクライドに目元だけで笑いかけて、(口元の面帯は(*´ω`*)の表情を作っていた)そしてローラントはクライドに告げる。いつの間にか彼らはハウルホッパーの眼前へと迫っていた。
「“今やで、ぶん殴る”」
「……ああ!」
『こ……っのォ……!!』
周囲のスピーカーを破壊しながら、ローラントの拳が巨大スピーカーをぶち壊し。
「うおおおおおおおっ!!」
赤熱したクライドの拳が、ハウルホッパーの頬を殴り飛ばしたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
黒江・式子
茨を壁のように噴き上げて
歌を受け止め吸収しましょう
とは言え
完全に遮断しきるのは難しいでしょうから
私自身とクライドさんの影を茨で繋ぎ
衝動が浮かび上がるそばから希釈します
理不尽極まりない絶望が立ちはだかっても
一歩を踏み出す勇気は
既に貴方の中にある
そうでしょう? ヒーローさん
あとは増強していく茨で取り囲んでいけば
いずれ復讐への執着心すら希釈され
歌声も萎んでいくことでしょう
私の拳銃も
クライドさんの拳も
容易く届くようになるでしょう
例え、とんだ的外れの逆恨みとしても
復讐自体を否定はしませんよ
しかし予知に引っかかった以上
これは私の仕事です
大人しく諦めて茨に身を委ねてください
そうすれば
穏便に済ませられますので
●茨姫は夢のその奥底で
『くっそ、お前らァ……黙って帰れば穏便に済ましたる言うとるのに、どいつもこいつも、ホンマ気ぃ悪いわぁ……!』
憎々しげなハウルホッパーの声が、スピーカー越しに聞こえる。その次に聞こえてきたのは、美しい歌声。
美声だ。一部の隙もなくよい声だ。歌詞も何もないその歌声は、けれど心を害する。今まさに、喉を突いてしまいたい狂おしいほどの衝動が式子を襲っていた。
彼の肉体とスピーカーを繋げるコードは切っても瞬時に再生する。故に歌を止めることはできない。だから式子は、影の茨「翳喰らい」を足元から壁のように噴き上げ、歌を受け止めて吸収させる。式子はクライドに飛びつくように彼の身体を抱きしめて両者の間を影で繋ぎ、自殺衝動が浮かび上がるそばから茨に喰らわせて希釈していく。
「ヒーローさん、大丈夫ですか? 私の声、聞こえていますか?」
耳元で何度も囁く。虚ろになっていたクライドの瞳が、式子の呼びかけで焦点を結んでいく。
「あ、あぁ、ごめん、大丈夫、大丈夫だ……!」
「理不尽極まりない絶望が立ちはだかっても、一歩を踏み出す勇気は既に貴方の中にある。そうでしょう? ヒーローさん」
「ああ……わかってる、大丈夫だ、ありがとう」
クライドの脚が力強く硬い地面を踏みしめた。雑面越しでもわかるほどに、ハウルホッパーの顔が苦々しいものに変わる。
『ほんま、どいつもこいつもォ!!』
「……例え、とんだ的外れの逆恨みだとしても。復讐自体を否定はしませんよ」
『だったらなんで邪魔すんねん!お前らみんな、みんなみんな|去《い》ねやァ!!』
「予知に引っかかってしまった以上は。これは、私の仕事です」
『く……そぉッ……!!』
翳喰らいが、茨のUDCが、式子のユーベルコード【袋小路の轍】によって増強され、ハウルホッパーを取り囲み、その感情を――復讐心さえも――吸収していく。吸収し、増幅され、また吸収し。
『……ぅぁ……あれ、俺は……いや、俺は……!俺はッ……!!』
「大人しく諦めて茨に身を委ねてください。……そうすれば、穏便に済ませられますので」
復讐心すらも奪い取られたハウルホッパーが声を上げる。自分の声、音そのものが彼にとっての力の源だ。既に彼のユーベルコードは【袋小路の轍】によって封じられている。自殺症状を促す歌声は、もはや聞こえない。
『――ボス、右腕、交渉人、教授……***、****……みんな、みんなあの時に死んだんや……俺たちは殺された……ヒーローが、俺たちを……殺した……せやから、俺は……俺は、ヒーローを、ヒーローを許さへん……!!俺らのアジトを焼いたかもしれへんヒーロー、赤腕のクライド……お前を許さへんぞ……!!俺はぁぁッ……!!』
歌声の代わりに、怨嗟の声を上げる。奪われる復讐心を奮い立たせるように、恨みの理由を連ねる。それでも彼の声は、美しかった。
(ああ――どうしても、執着心を抱いたままでいたいんですね)
式子は拳銃を構える。その前に、決意を固めた表情のクライドが立った。
「アイツの言ってることはよくわからない。だけど、恨まれてるのはオレなんだな」
「……はい」
「だったら、オレがケリをつける」
「……私もお手伝いします。それが私の仕事ですから」
「頼んだよ」
そう言って、クライドは駆けだした。その拳を赤熱させながら。
怨嗟の声を、恨みを連ねるハウルホッパーの腹に、クライドの赤熱した拳が叩き込まれる。彼はもう雄叫びを上げなかった。
『が……ッはッ……!!』
「これで――終わりです」
そして、式子の放った銃弾がハウルホッパーの心臓を貫いた。途端、浮遊していたスピーカー群が地に落ち、ガシャンガシャンと音を立てる。それを操っていたハウルホッパーが絶命したのだと、式子にはそう感じられた。
ハウルホッパーの骸が炎に包まれる。それはクライドの拳の熱によるものか、それとも彼の死を繰り返しているのかはわからない。
ただ、悪夢の奥底の中で、式子と少年ヒーローの目の前で、一体のオブリビオン・ヴィランは灰に還っていった。
霧が出てきた。それは悪夢の終わりを示すもの。
もうすぐクライド・アバネシーは目覚め、そしてベテランヒーロー「赤腕のクライド」がヒーローズアースに帰ってくるのだ。
猟兵たちは、ヒーローを救うことに成功したのだ――。
大成功
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