メガリス「大江山の首酒」回収作戦
●大江山の酒、口にし者みな鬼へと|変生《へんじょう》せしめる
「皆様、おいでいただき誠にありがとうございます。これより皆様には、メガリスの回収を行っていただきたく」
仮面吸血軍曹・エフ(謎の吸血軍曹F・f35467)は、自身の呼びかけに応じた猟兵に恭しく礼を述べると、そう話を切り出した。
「名は「大江山の首酒」。ちょうど人の頭部がまるまる入るほどの大きさをした、謎の鉱石で作られた美しい酒甕でございます」
この酒甕は酒呑童子が有していたものだとも、その首を斬り酒呑童子を打ち倒した源頼光に由来するものだとも言われているものであるらしい。長らくそのゆくえはわからなくなっていたのだが、今回予知によってとある好事家の手に渡ったことが判明したのだと仮面のグリモア猟兵は言う。
「この酒甕に酒を溜めておくと、そのうち内部に「人とも鬼ともつかない頭部」のようななにかが発生します。そして、その「首」が浸かった酒を飲んだ所有者は鬼の如き怪力を有するようになり、また所有者以外の人間が酒を飲んだ場合は自分の意思を有したまま所有者の思い通りになる忠実な配下に変わってしまうのだそうです」
所有者を鬼に変え、主の為ならば如何なる所業も行う|現人鬼《あらひとおに》の軍勢を作り出せるメガリス。
「そのような危険なメガリスでございます。現在の所有者である|金有《かねあり》氏は一般人であり、勿論これがメガリスであることも知らず、またメガリスなるものの存在すら知らずに美術品として入手しているのでございますが、このメガリスを求めて、ゴースト……オブリビオンが金有の|邸《やしき》に集まってきてしまっているのでございます」
そして、そのオブリビオンたちとの相乗効果によって、金有邸は現在特殊空間……迷宮の如き様相に変貌しつつあるのだとも。
「皆様におこなっていただきたいのは、先ずは特集空間と化した金有邸の突破。更に、集まったオブリビオンの掃討。そして最後に、金有氏との交渉、もしくはレプリカとこっそり入れ替えるなどしてのメガリスの回収をお願いいたします」
猟兵たちが現場に着くころには、金有邸は古い残留思念が渦を巻き、洋風建築と平安の武家屋敷、そして山野とがごちゃごちゃに切り貼りされたモザイクのような特殊空間に姿を変えている。先ずはそこを踏破してほしいと、仮面のグリモア猟兵は言った。
「ああ、それから。もし希望者がいらっしゃいましたら、その方の所属旅団に持ち帰っても問題ございません。誰も希望者がいらっしゃらなければ、銀誓館学園に寄贈させていただきますが……僕は皆様の意思を尊重いたします」
それでは僕は、現地への転送を行いますので、と、そう言って。
「準備が整いました方から、どうぞ僕にお声がけくださいませ」
仮面の少年は、にっこりと微笑んだ。
遊津
遊津です。戦争は終了いたしましたが、シルバーレインのシナリオをお届けします。
一章冒険、二章集団戦、三章日常の三章構成となります。
「第一章 特殊空間化した屋敷|金有邸《かねありてい》について」
広い館の中です。
元々の建造物である洋風建築、平安時代の武家屋敷のような空間、山の中の様な空間がつぎはぎ状態になっています。
残留思念が存在しており、それに触れるとメガリスに纏わる記憶を見ることが出来ます。
また、シルバーレインのアイテムである「詠唱銀(銀塊の形でもOKです)」を所持している場合、残留思念にそれを振りかけると何らかのシルバーレイン世界のアイテムが入手できます。マスターからプレゼントはできませんが、持ち帰ることも可能ですし、ご自分でアイテム化することも可能です。
特殊空間をどうやって抜け出すかをプレイングに書いてください。判定の為、どの能力値を用いるかわかりやすいように書いていただけるか、直接【POW】などのようにプレイングに書いていただけると助かります。
「第二章 集団敵について」
詳細は第二章の追記にて。
「第三章 メガリスの回収について」
詳細は第三章の追記にて。
「メガリスの所有者・|金有《かねあり》氏について」
五十代の独身男性です。一般人であり、能力者や超常の力のことなどは一切知りません。
メガリスを入手したことも勿論自覚はなく、ただ古美術品を買った認識です。
当シナリオのプレイング受付開始は2/1(水)朝8:31からとなります。
時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、プレイングを送ってくださって構いません。
諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページを一読の上、プレイングを送信してください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『屋敷の異変』
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POW : 当たって砕けろ!体当たりで解決する
SPD : ここは私の技術で!技能を総動員させる
WIZ : ここがこうなって…理性的にユーベルコードやアイテムを使う
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ミニョン・エルシェ
【散歩部】【SPD】
大江山の鬼退治に由来する…かもしれない品、ですか。
これは史跡散歩部で厳重に保管せねば、という野望はさておき。
まずは辿り着かねばお話になりませんね。
特殊空間となると、武家屋敷の建築様式の知識も然程役には立たなさそうです。【我勢招来】で死霊武将衆も動員し、慎重にマッピングしながら進みます。
残留思念は積極的に確認しましょう。
過去に何があったのか。何処まで遡れるかはわかりませんが、やはり手に入れたいからには素性は少しでも多く知りたいのですよ。
如何に酸鼻極まるものであろうと、大丈夫。慣れてますから。
…城の歴史だって、そう変わりませんので。
アドリブ歓迎、なのです!
●効力と代償
「大江山の鬼退治に由来する……かもしれない酒、ですか。これは史蹟散歩部で厳重に保管せねば」
……という、野望はさておき。
ミニョン・エルシェ(木菟の城普請・f03471)の前には、およそ彼女の知識で理解できる範囲で「平安時代の武家屋敷“めいた”」光景が広がっていた。そう、あくまでも“めいた”。平安時代、とそう言いきってしまうには壁の様子がその時代にはまだなかった筈の技巧を用いられていたり、そうかと思えば雑にベルベットのソファが置いてあったりで、とにかく雑につぎはぎにされていた。
(これはあるいは、メガリスの記憶なのでしょうか)
そう思考を遊ばせながら、特殊空間内を進んでいくミニョン。メガリスを回収して持ち帰ろうにも、まずはそのもとにたどり着かなければお話にならない、と、足取りに迷いはない。
(流石に特殊空間内となると、武家屋敷の建築様式の知識も然程役には立たなそうですね……ああもう、この壁紙なんて昭和の頃まではなかったはずですし……!)
雑な時代のつぎはぎキメラ状態に少々の頭の痛みを覚えながら、ミニョンはユーベルコードを発動させる。【|我勢招来《きずきしらしめよ》・|天下布武《われらがしろを》】。この環境下とミニョンの立てた作戦にもっとも適した知識を持つ死霊精鋭武将たちを召喚し、彼らの力を動員して慎重にマッピングしながら進んでいく。
やがて、ミニョンの目の前には記憶では二度目となるはずの光景が広がる場所に出た。
「ん……あれ、戻ってきましたか……? いえ、違うようですね、先ほどの場所と酷似していますが、僅かに違っていますか」
それは死霊武将衆がいなければ気づけなかった差異。その差異を手掛かりに進めば、その先にはどこか人の顔にも見える煙か靄のようなもの――残留思念が渦を巻いている。
ミニョンは戸惑いもためらいもなく、残留思念に触れた。過去に何があったのか。何処まで遡れるかはわからないが、やはり手に入れたいからにはメガリスの素性は少しでも多く知っておきたいと。
(如何に酸鼻極まるものであろうと、大丈夫。慣れてますから)
……城の記憶だって、そう変わりませんので。
そうミニョンが心の中で思ったとたん、視界が暗転した。そしてもう一度光が戻った時には、光景は全く違うものへと変化していた。
(え、ここは……これは、まるで……?)
戦国時代の城のような場所。そう口にしようとして、声が出ないことに気がつく。ミニョンは視界以外自由にならず、そして自分の肉体がどこにもないことに気付いた。今自分は残留思念と一体化しているのだろう、と冷静な思考がそう判断する。
ミニョンの前に立ったのは、まるで娘と見まごう華やかな着物に身を包んだ、細身の少年であった。
『これが、父様の言っていた』
『これがあったなら、家臣たちに心配を掛けずに初陣を飾ることが出来ようか』
『姫若子などと揶揄される、この身でも』
少年が唇を動かせば、そこから発せられたであろう声はミニョンの耳からではなく頭に直接聞こえてくる。
――姫若子。その異名を持った戦国時代の人間に、ミニョンには一人だけ心当たりがあった。しかし、なぜその人物が? まさか「彼」がこのメガリスを使用した人物であるとでも?
少年の手はミニョンの身体のあるべき場所をすり抜け、柄杓を手にして戻ってきた。その柄杓には、琥珀色の液体が溜められていて。これは酒なのだと、ミニョンは直感で理解する。恐らくミニョンのいる場所か、その背後辺りに酒甕があるのであろう。「大江山の首酒」と、そう呼ばれることになるメガリスが。
そこからの光景は、映画を早回しで見ているようであった。
少年は初陣にてまさに鬼神のごとき活躍を見せた。姫などと呼ばれていた身が、鬼若子と呼び変えられるように。
青年に、そして立派なもののふに成長した少年は家臣たちに酒をふるまう。ミニョンからでは見えないが、それは首酒の酒甕から注がれたものであろうと容易に想像がついた。
そして酒を飲んだ家臣たちは少年だった男に心酔する。一人残らず一騎当千の武者となる。その力を以て、男は勢力を拡大していく。
(……鳥なき島の蝙蝠と、そう言われるほどに。「彼」が「そう」ならば、大きな大きな島一つを、敵対者をすべて平らげて、平定する)
だが。その男の晩年を、ミニョンは知っている。そう、歴史に詳しいミニョンであるからこそ、知っている。
少年は男となり、男は壮年となり、そして老いていった。老年期の「その男」の評価は――暗愚、だ。
ひとりの息子が戦で死んだ。その頃から、男の人生はおかしくなっていった。ひとりの息子に跡を任せると言った時、思い通りになった筈の家臣たちが反対した、男は彼らに腹を切らせた。謀反を起こす者たちが現れた。男は許さなかった。家督を譲った筈の息子が大きな戦で賊軍となって死んだ。その頃には、男の前にはもはや心を許せるものなど誰も残ってはいなかった。
(待ってください、「違う」。「彼」が私の知っているそのひとなら、後継者があの戦いで戦死したときにはもう亡くなっているはずです)
だが、ここはシルバーレインの世界。世界結界の効果によって、人々の認識が書き換えられてしまう世界。ましてやこれは、ミニョンの認識が正しければ四百年以上前の出来事。ミニョンの知る史実と違っていても、おかしくはない。
どやどやと入ってきた侍たちが、老人となった男に刃を向けた。血飛沫が舞い、男の首から先は胴から離れた。そして。
侍の一人が、老人の首を抱え、ミニョンの後ろの何かの中へとおさめる動きを見せた。
(……首を、漬けたのですか? メガリスの、酒甕の中に?)
新たな首酒。そんな言葉が、ミニョンの脳裏に去来する。そして、侍はミニョンの背後に手を伸ばし――
そこで、ミニョンの視界は反転した。
「……っ!! 今、のはっ……?」
気づけばミニョンは、元のモザイクめいた武家屋敷に戻ってきていた。死霊武将衆たちが、ミニョンの様子を心配するように覗き込んでいる。体感にすれば長い時間。けれど、死霊武将衆たちの様子からすると、ミニョンが残留思念を見ていたのはほんの僅かな時間のようだった。
かこん、と音がする。そちらを見れば、それまで壁だと思っていた場所に、新たに扉が出来ていた。
「……先に、進みましょうか」
ミニョンは体を起こし、新たな通路へと足を進めていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
カスパル・シュライエン
【POW】
酒なあ……昔は兄貴が『飲むに値しない』って言ってたなぁ。
いやー、あれは兄貴が正しいわ、うん。
(※飲むとかなり酔っ払う家系)
んで、なんやったっけ。えーと……。
アカン何言われたか忘れたわ。とりあえず交換してこい言われたの覚えとるけど。
なんやったっけなあ……何山の何酒?
あーもうわからん。とりあえず進も。
うわ気持ち悪。なんやこの空間。
アレもしかして俺、飲んどらんけど酔うたんか??
いやいや、そんなことあらへん。
まさかそんな、なあ……?
とりあえず辺り構わず、鉄塊剣でぶん殴ってれば道出来るやろ。
体当たりで総当たり、う~ん、画期的やね。
他の連中がなんか言いそうな気もするけど、これはこれでありやん?
●それが失われた理由
「はあー、酒、酒なあー」
カスパル・シュライエン(|愛国の狩人《Patriot Jäger》・f37979)は、つぎはぎモザイクの特殊空間の中で盛大にため息をついた。
カスパルが今いるのは、明治の頃の様な洋風建築。しかし、戸板がやけに古めかしい江戸時代の様なつくりであったり、屋台蕎麦屋の提灯がランプの代わりに照明として飾られていたり、椅子と同じ高さにまで畳が重ねられていたりと、雑に、いい加減にキメラ化している。その様子にツッコミを入れるでもなく、カスパルはもう一度「酒かぁ」と零した。
「酒なあ……昔は兄貴が『飲むに値しない』って言うてたなぁ。いやー、あれは兄貴が正しいわ、うん」
シュライエンの家系は飲むとかなり酔っぱらう血筋である。遺伝子が酒に強くないのだろう、カスパルもまた強い酒を飲むとべろんべろんになる体質であった。
「あー、ほんで、なんやったっけ、えーと……」
――アカン何言われたか忘れたわ。
「とりあえず交換してこい言われたの覚えとるけど」
あのね、グリモア猟兵言ったよね、「準備が出来てから転送するから声かけて」って。キミ準備全然できてなくない?
「なんやったっけなあ……何山の何酒?」
大江山の首酒。おおえやまのくびざけ。リピートアフターミー、大江山の首酒。
「あーもーわからん。とりあえず進も」
聞けよ!地の文さんにツッコミさせておいて無視するなよ!もう!待てよ!待てったらぁ!!
カスパルは地の文さんを置いてきぼりにして特殊空間の中を歩き続けるのだった。
「ん? なんやこれ」
カスパルの目の前には、人の顔の様な模様の靄だか煙だかわからないものが浮かんでいる。これがいわゆる残留思念なのだが、そうとカスパルに理解できたかどうか。カスパルは触っちゃいけませんと言われているものに触る子供のように、あるいは回っている自転車の車輪に足を突っ込んだらどうなるのかなーと少し考えればわかるようなことを実行する小学生|男子《ダンスィ》のような気持ちで残留思念に触れた。
「うぉっ――……
最後まで言い切る事は叶わなかった。カスパルの意識が暗転する。
ぐら、ぐら、ぐらり、ぶら、ぶら、ぶらり。激しい振動の中でカスパルの意識が再浮上した。
(うわ気持ち悪。なんやこれ)
言葉にしようとした。けれど声は出ず、まるで口やのどが消え失せた、いや、カスパルの肉体自身が消え失せたようにただ視界と意識だけがある。
そこは山の中だった。カスパルは、あるいはカスパルの意識と同調している誰か、もしくは何かは、山の中の道なき道を誰かに抱えられて高速で移動していた。
(アレもしかして俺、飲んどらんけど酔うたんか??いやいや、そんなことあらへん。まさかそんな、なあ……?)
そんなカスパルの考えを断ち切るように、頭の中に聞こえてくるのは、女の怨嗟の声だった。
『おのれ、おのれ、おのれぇぇっ……!!』
怨嗟と呪詛を吐き散らしながら、女は山の中を疾走していた。カスパルは女に小脇に抱えられているのだ。女は派手な着物を纏ってはいたが、それは体に羽織っただけのように大きく着崩れていて。そして、体といい顔といい赤く刺青の様な紋様が入っていて――見れば、その額からは二本の湾曲した角が生えているのも確認できた。
『ああ、**めが!!あのひとを、あのひとを!!』
――よくも殺してくれた。
――修験者と偽って、うちらを騙して。
――あのひとを殺すために、人の肉まで喰いよって。
――酒飲ませて眠らせて。あのひともあいつらも、ぜんぶぜんぶ殺してくれた。
『許さへん、許さへん……この****、うちがあんたの仇、とったるさかいに……!』
――そのためにも今には、逃げなければ。
――己はただ一人、生きのこったのだから。
――ああ、どうしてくれようか。
――まずは*だ、***。あの気にくわぬ**の部下から殺してくれる。
『羅生門や、羅生門で殺す……あいつは、そこで……!』
――そのために、この甕だけは手放してはならぬ。これは自分に力を与えてくれる。そこらを探せば、生き残りとは言わずとも野良の鬼の一体や二体いるだろう。そいつらに酒を飲ませて、己の忠実な配下を作り直して。
『ころしてやる、“|頼光《・・》”ぅぅぅぅ!!』
女鬼の慙愧に満ちた絶叫が、夜の山野の中に響き渡った。
それがどういう意味を持つのかも、きっとなにも知らないままで――
「……んあ?」
カスパルの意識は、気づけば元の洋風の屋内に戻ってきていた。
ぐっぱーと手を握って開いて、体も自由になる。ここにある。
良く言えば和洋折衷、悪く言えば雑にモザイクにされて漢数字とアラビア数字とローマ数字の入り乱れた時計の文字盤。その針の進み方を信用するならば、意識が山の中に飛んでいた時間はそれほど長くない。変な顔みたいな靄だか煙だかも消えていた。
「よし、ほな行くか」
かたん、と音がしたのに、カスパルは気づかなかった。残留思念に触れたことで先に進む道が開いたのだが、それに気づかなかった。仕方ないね、《聞き耳》チェック失敗です。100ファンしたかな?
鉄塊剣を手にして、洋風建築の屋内を片っ端からぶん殴り薙ぎ払いぶち壊していく。
「体当たりで総当たり、う~ん、画期的やね」
――他の連中はなんや言いそうな気もするけど、これはこれでありやん?
ありなわけあるか。地の文さんはそう言いたかったが、カスパルは地の文を無視する。
そうしてカスパルは、すべてをぶち壊した結果、ほんとうに結果的にだが新たに出現した道へと進んでいったのだった……。
大成功
🔵🔵🔵
暗都・魎夜
【WIZ】
【心情】
酒呑童子と言えば伝承も有名だし、かつての戦い当時もその名を冠したゴーストが姿を見せてたっけか
関連があるのかはさておき、危険度の高いメガリスなのは間違いねえ
買ったおっさんが運悪く使ってしまうこともそうだが、何よりも目の前に現れたオブリビオンの方をどうにかしねえと
【行動】
・「偵察」100レベルのモーラットを召喚する
モーラット達に偵察を行わせて先へと進む
・道中で「浄化」「除霊」を用いて、特殊空間が正常化する時に向けて、危険を排除しておく
・残留思念に触れてメガリスの情報も入手
「狂気耐性」で飲まれないようにしておく
もし、戻れなそうだったらモーラットに呼び戻してもらう
●ひとつの物語、その結末
(大江山……酒呑童子と言えば伝承も有名だし、かつての戦い当時もその名を冠したゴーストが姿を見せてたっけか……)
暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)は乱雑に切り貼りされたモザイク状態の通路を進みながら考えていた。
武家屋敷にも見える只中に、乱雑にマホガニーの机が置いてある。そうかと思えばカチカチという音にふと仰ぎ見れば木製の壁掛け時計があって、文字盤は漢数字とアラビア数字とローマ数字がめちゃくちゃになっていた。もふもふ気持ちよさそうなスリッパから先は、草がぼうぼうに生い茂る山道だ。
魎夜はかつての戦いを思い出す。銀誓館学園の学生として戦っていたころ、そのゴーストが現れたのは「アリストライアングル」と名付けられた戦争でのこと。魎夜はかのゴーストの配下と戦い、そして彼が打ち倒された時には異なる戦場へ出撃していたので直接見てはいないが――眉目秀麗にして獣の如く野性的、あるいは暴力的な魅力を持つ、けれどそれを圧して漂う闇の気配の持ち主であったと、酒呑童子と直接交戦した能力者たちは言っていた。
「関連があるのかはさておき、危険度の高いメガリスなのは間違いねえ」
(買ったおっさんが運悪く使っちまうこともそうだが、何よりもメガリスを狙ってるオブリビオンの方をどうにかしねえと、だな……)
魎夜はユーベルコードを発動させる。【モラ使い】――魎夜が掲げたイグニッションカードから、9体のもふもふが飛び出してきた。
「もっきゅ!」
「もきゅう!」
「きゅぴきゅー!」
現れたのはモーラット。ただの愛くるしいもふもふではない。偵察技能を熟練の猟兵並みに有した、斥候部隊と呼んで遜色ない有能でかっこいい愛くるしいもっふもふたちである!
「頼んだぜ、モーラットたち!しっかり仕事をこなしてくれよ!」
魎夜の言葉に、モーラットたちはちいちゃなまゆげを凛々しく立てて鳴く。
「「「きゅっぴ!」」」
斥候モーラットたちを散らせ、きゅぴきゅぴという鳴き声に従って先へと進む。つぎはぎモザイクの中、浄化作用とと除霊作用のある技を用いて特殊空間が正常化したときに向けて危険を排除しておくことも忘れない。
山野が途切れて、また武家屋敷。それがとつぜん、洋風建築になって、また山野。それを幾度か繰り返したのちに、魎夜の前にはかつてゴーストタウンでよく見た、人の顔のようにも見える煙の様な靄の様なもの――残留思念が現れていた。
かつて銀誓館で能力者として戦っていたころは大量に詠唱銀を有していたから、残留思念に振りかけて詠唱兵器を手に入れることも可能であった。だが、今の魎夜は詠唱銀を持っていない。それに、持っていたとしてもメガリスの情報を入手することの方が重要だと考えた魎夜は、結局使わなかったであろう。残留思念の持つ狂気に飲まれぬよう対策を施し、もし自分が戻ってこれなかった時の為に対策としてモーラットを待機させ、魎夜は残留思念に触れる。
魎夜の意識が、視界が、暗転し、そして白くなって――
ふと気づけば、魎夜の前には軍服の男が立っていた。魎夜の知識にそれがあったかどうか、第二次大戦中の日本陸軍のものであった。まだくろぐろとした髭を蓄えた軍服の男は、魎夜に向かって手を伸ばす。口を開こうとして、今の魎夜には口も手も体もないことに気が付いた。今ここにある魎夜はただの意識。残留思念に同調した意識に過ぎなかった。
手を伸ばした男は、柄杓を手にしていた。そこになみなみとたたえられた液体が酒であると、魎夜は直感で理解する。
男は柄杓と漏斗を用いて、空の一升瓶に酒を注いでいく。何度も、何度も繰り返され、十数本の酒瓶に酒が満杯まで溜まった。
――この酒さえあれば。
――勝たせてもらうぞ、米兵ども!
男のものらしき陰鬱な声がして、視界が切り替わる。魎夜の前で、一升瓶の中の酒が何十人と並んだ軍服の兵士たちに配られていく。ここはどこか南国の、戦地のキャンプ地の中だった。一人一杯でも、上官からふるまわれた酒に喜んで口をつけ飲み干していく兵士たち。その酒が、ただのふるまいでないことに気づかずに。
そう。男はメガリスの――酒甕に貯えられた酒の効果を知っていた。その効果を、自分には用いなかった。自分が鬼の如き力を手に入れる必要はない。この酒を、男の地位を以て一兵卒の集団に与えれば、銃弾にも爆弾にも臆することなく男の命令に従う地獄の兵士たちが出来上がる!そう、男には自身を鬼とする力などいらなかったのだ。
――敵を殺せ。御国の為に死ね。死んで護国の鬼と成れ!
その命を果たすべく、酒を口にした兵士たちの瞳の色が変わっていった。
それを見届けた魎夜の視界がまた切り替わる。魎夜の前に立つ黒髭の男は、絶望に両手を震わせていた。
――なぜ、なぜ、なぜだ……!
――なぜ負けた!!なぜ皆死んだ!!全滅だと……有り得ぬ、有り得ぬ有り得ぬ、この酒を飲ませたのに、何故!!
落ちくぼんだ目で男は叫んだ。そう、男が死兵と変えた兵士たちは、皆南国の地で敵兵の銃弾の前に散っていった。
男は最後まで気づかなかったのだ。所有者以外の者が酒を飲めば、確かに従順な鬼のごとき配下が出来上がる。けれど、その配下たちは|鬼のような耐久力は持たない《・・・・・・・・・・・・・》。いかに狂った忠誠心を植え付けようとも、忠誠心だけでは銃弾と爆弾に勝てる道理もない。
男を呼ぶ声がした。その声は、男にとっての死神だった。
――ああ、わかっている。この責は命でもって償うとも。
男は軍服の前を開き、腹に軍刀を突き立てる。切腹だ。傍らにいた配下が軍刀を抜き、男を介錯し、首を落とした。
そしてその配下は、床に落ちた男の首を両手に掲げると――魎夜に向かってくる。自身の後ろに何があるのか、魎夜はもうわかっていた。酒甕だ。では、配下の男は落としたばかりの血の滴る生首を持って何をしようと言うのか――
配下の男は、酒甕の中に首を収めた。そしてそこに、新たな酒を注ぐ。
――わたしはもっと、うまくやってみせる。
そんな声が魎夜の頭の中に聞こえて、魎夜の意識が遠くなっていった――。
「……っ!!」
「もきゅ!きゅぴ、ぴきゅー!」
魎夜はふかふかとしたソファの上で目を覚ました。待機させていたモーラットたちが、心配そうに魎夜の顔を覗き込む。
ふと壁掛け時計に目をやれば、残留思念に触れる前とさして時間は経過していないようだった。
「メガリス……その、代償、なのか……?」
魎夜が銀誓館学園に所属していたころ、メガリスには「代償」がつきものだった。所有者が酒甕に注いだ酒を飲めば、鬼の如き力を得る。所有者以外が酒を飲めば、所有者に絶対の忠誠を誓う配下に変わる。それがメガリスの「効果」で。
「メガリスの力の代償は……“いずれ所有者の首が、酒甕の中に浸かる事”……だったりして、な」
魎夜は乾いた笑い声とともにひとりごちた。その耳に、かたんと言う音が聞こえてくる。残留思念に触れることが解除のカギだったのか、どこかで新しい通路が現れたようだと斥候モーラットがきゅぴきゅぴ鳴いて報告する。
「……じゃあ、先に進むとするか……」
魎夜はそう言って、ソファから起き上がると、モーラットたちを連れて新たな通路へと足を進めるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ディル・ウェッジウイッター
アドリブ連携可
SPD
メガリスの力と代償の危険性は承知の上ですが、叶うならもう少し穏便な物が欲しいですよねぇ。美味しい紅茶が淹れられるポットとか
(呼んだと言わんばかりに顔を出すドーマウスに呼んでいないと答えれば、ドーマウスはまた眠り始める)人の眠気を奪ってまで眠るんじゃないですよ、全く
地道に移動し迷宮の突破を図ります
とはいえ効率よく探すためにもUCでゴーストの皆さんのお力も借りて出口を探して参りましょう
一度通った場所にお菓子を置いて…ゴーストの皆さんには後で別の物を差し上げますので今は我慢してください
残留思念があったらば触れてメガリスの情報を集めます。今後のメガリスの扱いを考える際の一助になれば
●鬼退治の裏話
「おや、またこの部屋に出ましたか」
ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)はそう呟く。ディルの目の前には、もう何回か見た雑に半分くらい野生化した洋風建築の部屋が広がっていた。半分苔生したマホガニーのテーブルの上には、目印代わりに置いたクッキーが鎮座ましましている。
「……それにしても。メガリスの力と代償の危険性は承知の上ですが、叶うならもっと穏便なものが欲しいですよねぇ」
――美味しい紅茶が淹れられるポットとか。
そう呟けば、呼んだかと言わんばかりにディルの持つメガリス、古いティーポットの中からヤマネが顔を出した。
「いまはあなたの話をしたんじゃあないですよ」
なんだそうかと言った顔で、ヤマネ――ドーマウスはまた眠り始める。ポットのメガリスなんてこんなだ。人の眠気を奪ってまで眠り続けるだとか。あと、銀誓館学園にある紅茶を入れて飲んだら世界中の言語が理解出来て喋れるようになるけれどそのあと一週間あらゆる文字が読めなくなるカラスを模したティーポットだとか。
「はあ、もう。さて、総当たりで進むのもそろそろ疲れてきましたね」
ディルはユーベルコードを発動させる。【ゴースト・ティーパーティー】。ディルが即席で入れた紅茶を代償に、お茶が好きな友好的なゴーストを召喚するユーベルコード。現れたゴーストの一体が、テーブルに置かれたクッキーに寄っていくのをディルは慌てて止める。
「ダメです、それはダメです。目印なので。あとちょっと砂とかかぶっているので。私としてはお客様にそれをお出しするのは承服しかねます。お手伝いくださったゴーストの皆さんには、後で別のものを差し上げますので、今は我慢してください」
もー、今の言葉絶対だぞ!と言わんばかりにゴーストはぷくうとほっぺたらしき部分を膨らませてディルのもとに戻ってくる。
ゴーストたちの手を借りて、一度通った場所にお菓子を置いて、出口を見つけんとディルは特殊空間となったモザイク屋敷の中を歩き続ける。
小さな少女のすがたをしたゴーストが、こっちこっちとディルの手を引く。ちょっと顔とか帽子が血まみれだがかわいらしいものだ。少女に手を引かれて扉を開けると、そこには人の顔のようにも見えるモヤの様な煙の様な何か……残留思念が、雑にふわふわのソファとオーク樫の椅子が置かれた平安時代の武家屋敷の中に漂っていた。
「さて、ではメガリスの情報を集めるとしますか……今後のメガリスの扱いを考える際の一助にもなればよいですしね」
ディルは臆することなく残留思念に触れ――彼の意識は、白くホワイトアウトした。
――金時。綱。貞光、季武。
髭を生やした平安武者がディルの前に立っていた。その前には、それぞれ戦装束に身を包んだ若武者が四人膝をついている。
(その名を呼ぶという事は、彼が源頼光でしょうか……酒呑童子を討ち取った、という)
ディルはそう考えて、ふと気づく。今の自分には口がない。両手も両脚も、体もない。今ここにあるのは、ディルの意識のみであった。
――明日。大江山に入るぞ。
――大将、そいつはつまり。
――怖気づいたか金時。
――そんな事は、ただ……。
――もはや何も言うな。八幡大菩薩の加護はここに宿った。鬼をも酔わす神の酒、これさえあれば奴らに勝てよう。
あやつらを討てば、都もしばらくは安泰であろう。
髭の武者はディルの方へと手を伸ばす。腕がディルの意識を通り過ぎると、柄杓を手にして戻ってくる。そこにはなみなみと琥珀色の液体がたたえられていた。さすがにそれを紅茶と誤認するディルではない。酒である、と直感が告げていた。
髭の武者は柄杓の中の酒を五つの盃に注ぐと、自分の前に一つ。若武者たちにそれぞれ差し出した。
――神仏に誓い奉る、この四天王は今のみ我が配下にあらず、同胞である。
――飲め、おまえたち。おまえたちもともにこの酒甕の主となるのだ。
――さすれば、おまえたちもあやつらに決して負けはせぬ。
――おまえたちは我が大切な四天王である。故に、自分でものを考えよ。故に一時、儂はお前たちの主ではない、同胞としてこの酒を飲む。
武者の言ったことが理解できたかどうか。若武者たちはそれぞれに、盃の中の酒を飲み干した。
――異変はないか。よもや、儂の為に命を捨てようなどとは思っておらぬな。
――そのようなことは。
――我らが命を捨てるは、都の守護の為。
――ああ、安心したぞ。おまえたちは神仏に認められたのだ。
――明晩、修験者に扮して大江山に入る。必ずあやつら鬼どもめを一網打尽にしてくれようぞ……。
その声を最後に、ディルの意識は遠くなっていった。
身体を揺さぶられる感触がする。ふと目を開ければ――此処でディルは、自分が「目を開ける」ことができることに気付いた。ディルの意識は、ディルの身体の下に返ってきたのだ――血まみれの顔と帽子の少女が心配そうな表情でディルを覗き込んでいる。
「大丈夫です。見られるものは、見ましたので。私の身体、見ていてくれたんですね、ありがとうございます」
そう言ってジンジャークッキーをひとつ少女のゴーストに与えれば、喜んで少女ゴーストはクッキーを咀嚼する。
少女が言うところによれば、ディルが意識をどこかにやっている間にかたんと音がして、まだ通っていない新しい通路への道が開いたらしい。
「そうですか。それでは、進むとしましょう」
ディルはそう言って身を起こすと、少女に手を引かれて新たな道へと足を進めるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
龍臥崎・まきな
【SPD】
【アドリブ歓迎】
(ふむ、特殊空間…グリモア猟兵さんの言っていた通りですね…この肌がひりつく感覚、悪くありません。
さて、まずは定石通り空気の流れに従って進むとしますか)
周囲に予断なく警戒を払いつつ、手にした錫杖で床を突き、要所要所で目印となる傷を付けながら前へ進む
「六根清浄…六根清浄…」
石突を打ち付けた際の金属音に合わせて静かに呟きながら、全ての器官の感覚を全周囲に広げ、少しの違和感も取り溢さない様にする
かつて銀誓館の依頼で何度も潜ったゴーストタウンで積んだ経験を生かし、勘でそこまで行けるのか?という様な判断力で、視覚的カモフラージュもなんのその、ほぼ最短コースでの突破を狙う
「…良し」
●歴史の裏に花たちの戦
(ふむ、特殊空間……グリモア猟兵さんの言っていた通りですね……)
――この肌がひりつく感触、悪くありません。
龍臥崎・まきな(みづかがち・f39683)はほう、と息をつく。ここは金有邸内部、本来は落ち着いた洋風建築の館だったのであろうそこは、平安時代の武家屋敷やどこともしれぬ野山、たまに全く異なる光景も交えたつぎはぎモザイクとなっていた。
カチコチと言う音に、まきながふと見上げれば、囲炉裏のある傍らに掛け時計。その文字盤は漢数字とアラビア数字とローマ数字がごっちゃになっているが、いちおう1から12までの数字に間違いはない。
一度は一線を退いたものの、かつて銀誓館学園の生徒として青春を戦いと冒険に費やした熟練の能力者であったまきなは、またゴーストタウンに潜った経験も豊富であった。
(まずは定石通り、空気の流れに従って進むとしますか)
周囲に予断なく警戒を払いつつ、手にした錫杖で床を突く。板張りの床からふわふわとした長毛のカーペット、そして草に紛れた土。錫杖の石突はさまざまなものの上を通って行った。来たことがない光景にぶちあたるごとに目印となる傷をつけ、まきなは前へ、前へと進む。
「六根清浄……六根清浄……」
錫杖の石突を打ち付けた際の金属音に合わせて静かにそう呟きながら、まきなは自身の持つすべての器官の感覚を全周囲に広げる。少しの違和感も取りこぼさないように。
果たして、勘だけでそこまでいけるのか、そう問いたくなるような判断力で、巧妙な視覚的カモフラージュを掻い潜り、まきなが進んだ先。そう、きっとそれは最短コースであっただろう、まきなの前には銀誓館学園時代に幾度も赴いたゴーストタウンで何度も目にした、人の顔のようにも見える白い靄の様な煙の様なそれ――残留思念があった。
「……良し」
かつてであったならば詠唱銀を振りかけて詠唱兵器に変えていたであろう残留思念。しかし今のまきなには残念ながら詠唱銀の持ち合わせがない。ならば触れてみるしかないだろうと、まきなはその浅黒い指先を残留思念へと伸ばした。
――まきなの視界が暗転し、そしてまたホワイトアウトする。もう一度目を開けた時――否、開けるまなこはその時まきなには存在していなかった。口も、手も、体もない。意識だけが残留思念の中に取り込まれているのだと、直感で理解する。
まきなの視界の前には、戦国時代の姫と思しき豪奢な着物を着こんだ女が座っていた。
美しい女である。傾国、傾城の美姫と呼んでもよい。
女の後ろには、彼女によく似たやはり美しい姫がいた。姫は女に対して非難するような口調で言葉を紡ぐ。
『何故ですか姉様。なぜあのような男の|傍女《そばめ》になど!』
『もう何も言うでない、**』
『ですが姉様、あの男は**様を、わたくしたちの母様を自害に追い込んだ男!なぜ姉様がそのような男に、しかも性質ですらない側室として嫁がねばならぬのか!わたくしには、姉様が乱心したとしか思えませぬ!』
『乱心、乱心か。ほほ、言うがよいわ――母様は妾たちの母である事より、**様の妻であることを選んで死んだ。ならば妾もそれに倣うまで。それに、側室であっても世継ぎを産めばこちらのものよ――なに、人心を掴む術ならば、ある』
『姉様?』
姫の言葉に、女は笑うのみであった。やがて時間は早く早く、映画を早回しで見ているかのように経ち、姫が去り、いつの間にか女の胸には幼子が抱かれていた。
『――*。*は早うに死んだが、そなたはそうはさせぬ。伯父上からいただいたこの酒甕、たった今からはそなたのものです。そなたは鬼と成っても、長生きして殿下の跡を継ぐのです』
女はまきなの方へと手を伸ばす。腕がまきなの体のあるべき場所をすり抜け、戻ってきた時には柄杓に透明の液体がたたえられている。それが酒であるのだと、まきなは過たず理解することができた。
『お飲みなさい、*。そなたがこの酒の主となるのです。そなたのためならば、この母は苦労を惜しみませぬ』
幼子の口に酒を含ませる。こくりと幼子の喉が鳴った。女はその顔に喜色を浮かべる。
『ああ、これで*は*のようには死にはしない!必ずや殿下の後を継ぎ、天下人となる!妾が、この母がそうさせてみせる!』
――そして。まきなの前で、また時が経つ。幼子は大きくなり、女は多くの男たちに酒をふるまった。
『関ヶ原に参陣せよじゃと? ならぬ。**様をそのような場所に行かせることは出来ぬ!』
『ですが、**様!このままでは西軍は総倒れにございます!』
『知らぬ!**めがなんとかすればよいのじゃ!』
『その**殿が**様を関ヶ原へと!どうか、どうか諸将たちの士気のため、**様を関ヶ原に!』
『ええい、くどいわ!**様は参陣せぬ、そう**めに伝えよ!』
兵士らしき男の訴えを、女は怒りの剣幕で跳ね退ける。
――さらに時間が進む。いつの間にか、城の一部と思しき場所は炎に包まれていた。
『何故、何故じゃ、妾は……!!』
女は嘆き悲しみ、傍らの大きく育った子を抱きしめる。
『あの狸め、許さぬ、許さぬぞ……!!呪ってくれる、祟ってくれる……!』
『母様、母様も一緒に参りましょう』
『いいえ**。母は行きません。***へゆくのです。大丈夫、日ノ本一の兵がそなたを護ってくれまする……』
そうして子は燃える城から去った。母となった女は呪いながら、懐刀を首に当てる。
血飛沫が舞う。美しかった女から血が飛び散り、炎の海に黒髪が広がった。
そこへ飛び込んできたのは、一人の侍女であった。
『*の方様……!ああ、遅かった……』
嘆いた侍女は、しかし次の瞬間何かに操られるようにぎくしゃくと動いた。燃える城の中、どこかから刀を取り出して、自刃した女の首を落とし。そして、女の死してなお美しい首をまきなの方へと近づけ――
(酒甕に、首を、漬けた?)
まきなが理解できたのはそこまで。侍女がまるでまきなを抱えたように、まきなの視界は動く。侍女はそのまままきなを――否、酒甕を抱えて燃え落ちる城から逃げて行った――
「……はっ!!」
まきなは目を開いた。開くまぶたがあることを認識する。口も、手も、体もここにある。残留思念に触れたのち、意識を失っていたのだろう。かちこちという音にひかれて時計を見れば、それほど時間は経っていなかった。
(今のは、まさか豊臣の……いえ、はっきりとしたことは言えませんが……)
メガリスを使用した者の末路を垣間見た気がして、まきなは少しだけ思考を遊ばせ――かこん、という音に、また現実へと引き戻される。
「今の、音は。……きっと、新しい通路が開きましたね」
幾多の、幾度も、ゴーストタウンを踏破してきたまきなだからわかる感覚であった。進めなかった場所が、開いた感覚。
まきなは立ち上がり、音のした方へと歩いていく。錫杖の石突が、板張りの床を叩いた。
大成功
🔵🔵🔵
酒井森・興和
【SPD】
うーん…酒を溜めると首が涌く酒甕か
ふつう首の漬かった酒なんかあんまり呑みたくないけど
戦乱の世の猛者なら抵抗も無い…のかね
酒呑童子や四天王に縁のメガリスらしい事だ
ふむ
特殊空間らしいデタラメな様相
家主さんも趣味蒐集のつもりが厄介な物を買ったねえ
【暗視】と、ある程度【第六感】を信じて道を選ぶ
金有氏…おそらくこの空間で唯一の一般人の気配をUC糸の伝えを頼りにたぐり寄せ【追跡】彼に近付く経路を選択
その道の床が斜めとかいきなり山中等足場が【悪路でも走破】する
障害物は三砂で撃って破壊し通る
もともとメガリスは平和な代物じゃ無いがこの酒甕の謂れはより血腥そうだ
残留思念は【狂気耐性】の心構えで触れよう
●大江山の夜
その邸は、雑にめちゃくちゃだった。
平安の屋敷らしい板張りの床にワインクーラーが置いてあるし、ワインのボトルに書いてある文字は達筆すぎて読めない。そうかと思えば洋風の毛足の長いカーペットの真ん中に囲炉裏があって、そこから少し歩けば整備もされていない野っ原に出る。
「ふむ、特殊空間らしいデタラメな様相。家主さんも趣味蒐集のつもりが厄介なものを買ったねえ」
酒井森・興和(朱纏・f37018)はふう、と息を吐いた。鋏角衆である彼の眼は灯りのない中でも昼間と変わらぬ視界を保っている。
「それにしても、うーん。酒を溜めると首が涌く酒甕、か」
(ふつう首の浸かった酒なんかあんまり飲みたくないけど、戦乱の世の猛者なら抵抗もない……のかね)
興和はそう考えて、もう一度息を吐く。封印の眠りにつく前、七百余年前の時代を生きていた興和でも、生首の浸かった酒を飲むという行為には抵抗がある。
「酒呑童子や四天王に縁のメガリスらしいことだ」
さて、いい加減雑なつぎはぎモザイクの特殊空間をぐるぐる回り続けるのも飽きが来ていた。興和はユーベルコードを発動させる。
「八相八糸、目当てぞ何処」
ユーベルコード【糸の伝え】。恐らくはこの変わり果てた屋敷の中で唯一の一般人であろう、金有氏の気配を、ユーベルコードで作った糸の振動を頼りに手繰り寄せる。ユーベルコードの効力で熟練の腕前となった追跡技術をもってして、氏に近づく経路を選んでゆく。
「おや、これはノブスマ……いや、ヌリカベかな」
山野の真ん中に突然現れた大きな白い障害物を、ツルハシ状の愛用武器「三砂」で殴って叩き壊せば、いきなり急斜面に出る。しかし銀誓館学園を卒業した後も山奥に隠棲していた興和にとって、この程度の悪路は物の数にも入らない。急斜面の山道を舗装されたアスファルトのように歩いていけば、山の中にいきなり木製のドアが立っている。糸はその向こうを示していた。
「……ああ、これは」
ドアを開けて進めば、半分くらいが雑に武家屋敷と融合した洋風建築。何度も思うが、この特殊空間、特殊具合がどことなく雑だ。その半分積み重ねられた畳と融合したマホガニーの机の上に、銀誓館学園の学生時代に何度も潜ったゴーストタウンでよく見た人の顔のようにも見える白い靄だか煙だかにも見えるそれ……残留思念が待っていた。
「うん、これは鍵だと言っているね」
おそらくはこれをどうにかすることで先の道が開くのだろうと、そう興和の直感が告げていた。詠唱兵器に変えてしまおうかとも思ったが、学生時代ならいざ知らず今の興和はあいにく詠唱銀を持っていない。
(もともとメガリスは平和な代物じゃあないが……この酒甕の謂れはより血腥そうだ)
その一端を目にすることになるのなら、と。興和は自身に狂気に対する耐性をつけるように心を落ち着かせ、残留思念へとそっと触れた。
途端、興和の視界が明滅し――ふと気づけば、そこは。
『へぇ。こんな夜に山ん中で迷ったってぇ言うのかよ。そりゃあ難儀なこった』
獣の様な、暴力的な美貌の男が着物をはだけた美しい女を腕に抱きながら、修験者の格好をした五人の男の前で笑っていた。
美貌の男、美しい女、そのどちらの額にも、白く歪曲した角が生えている。「鬼」であるのだと一目で知れた。
そう認識したと同時に、興和は自身に口も手もなくなっていることに気づいた。手と口だけではない、体がない、今の興和は、残留思念の中の一つの意識であった。
興和の目の前で、修験者――恐らくはそれに扮した、鬼狩りの武者と名高き男が鬼に頭を下げて言う。
『一晩の宿をお貸しください。土産と言っては何ですが、酒がございます』
『へえ、そりゃあ嬉しいなァ。いいぜ、お前らも酒宴に参加していくなら、泊めてやってもいい』
『有難く』
美貌の男鬼は女鬼を下がらせ、そして何かを持ってこさせた。それは肉だ。生の肉が、豪華な黒い器に盛られている。まだ血も滴るように新鮮だ。
『これがニンゲンの肉だと言ったらお前たちは怖れるか? ははッ』
人肉だと言ったそれをぺろりと一枚口にして、男鬼は修験者たちを挑発するように嗤う。
『怖れませぬ。我ら修行中の身なれば、いかようなものも勧められれば口にしましょう』
『はっは!!聞いたか茨木!ニンゲンの肉を食うと言ったぜ、おもしれえ、やってみろ』
男鬼は興和の方へと手を伸ばす。白い腕が興和の身体のあるべき場所を通り、戻って来た時にはその手に柄杓が握られ、柄杓の中には液体がたたえられている。酒を汲んだのだと、興和は直感で理解した。
柄杓の酒を盃に注ぎ、男鬼は笑いながらそれを飲み干す。それなるは恐らく神鞭鬼毒酒、鬼をも酔わせる神仏が遣わした酒。
修験者の格好をした武者たちは一人残らず、ためらうことなく人肉だと言われたそれを口にした。それを笑いながら男鬼は観劇し、女鬼に酌をさせながら酒を飲む。周囲にいた、筋骨隆々、角を生やしたり牙を生やしたりしている鬼たちもまた酒を飲んだ。一杯、二杯、汲めども酒は一向に尽きぬ。
少しだけ時間が早回しされた感覚がして、気づけば男鬼をはじめとした鬼たちはみな寝入っていた。美しい女鬼のすがただけがそこに無い。修験者たちはここに来て、正体を現した。
『やるぞ、おまえたち』
配下のいらえを聞き遂げる間もなく、髭の修験者――武者は男鬼の首を落とした。どろりと赤い血が周囲に広がる。
武者たちはいっせいに鬼たちを駆逐していった。そのありさま、一方的。まるで鬼とヒトとが入れ替わったかのような惨劇の末、鬼たちは皆息絶えた……否。
『御館様、女鬼一人が見当たりませぬ。……我らの持参した、酒甕もいつの間にか』
『逃げられたか。うかつであった、あの女鬼め、一人だけ酌だけをして呑まなかったか』
『構うな。やがて戻ってこよう。我らに復讐するためにな。その時に返り討ちにしてやればよい――』
これで、都もしばらくは安泰であろう。
血まみれの修験者、否、鬼狩りの武者たちは血みどろの御殿を、粛々と後にしていった。
美貌の男鬼の首は、その手の中にも、御殿のどこにも、見当たらなかった――。
『……っ!今、のは……』
(今のはきっと大江山の鬼退治。ならばこのメガリスの誕生した瞬間か……? それにしては何か、おかしかった……)
興和は首を捻りながらも――この時ようやく、興和は自身の身体が自身の意識の下に戻ってきたことを理解した――目にしたものを理解しようと思考を働かせる。そんな興和の手繰る糸がクン、と引かれ、同時に彼の敏感な聴覚がかたんという小さな音を拾い上げた。
今、どこかで。新しい通路への扉が開いた。
ゴーストタウンでよくあった経験だ。恐らくは間違いない。手繰る糸の感触が、それを裏付けている。
「それじゃあ、行くとしようか」
そう言って、興和は体を起こし、新たな道を探して歩き出したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『サイコチェーンソー』
|
POW : 殺人チェーンソー
【チェーンソー】が命中した対象を切断する。
SPD : サイコスピン
【狂乱しながらの回転斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ノイズチェーンソー
自身の【チェーンソー】から【強烈な駆動音】を放出し、戦場内全ての【防御行為】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
イラスト:青柳アキラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
それぞれに特殊空間化した金有邸の中を進んでいく猟兵たち。
別々の道を行く彼らの前に、ひとつの扉が鎮座していた。その扉を開けた先――
そこは、雑に山野と合体した洋風建築。毛足の長いふわふわとしたカーペット、落ち着いたオーク樫のテーブル、そして苔生した野原が同時に存在し、そこに天井はなく夜に三日月が笑っている。細められた目のような月明りしかない夜の闇は、けれど視界を妨げはしなかった
別々の空間だ。しかし。猟兵たちの前に、チェーンソーを手にして腐った体を引きずった鉄仮面の男たちが立ちはだかる。
彼らの名はサイコチェーンソー。リビングデッド型オブリビオンだ。
彼ら自体がメガリスを欲しているのか、別のオブリビオンに命じられて動いているのかはわからない。
ただひとつ言えることは、彼らの存在こそが、金有邸を特殊空間に変えている元凶だということ。
彼らを倒さなければ、メガリスのもとにたどり着くことはできないだろうと猟兵たちは覚る。
電動鋸が耳障りな唸り声をあげる。戦いの火蓋は、今切って落とされようとしていた。
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第二章 「サイコチェーンソー」が現れました。
おめでとうございます。猟兵たちはそれぞれに進んだ先で、この邸宅を特殊空間に変貌させている元凶と遭遇することに成功しました。
以下に詳細を記します。
「戦場について」
それぞれに別戦場となります。
特殊空間の只中ですが、共通して天井のない洋風建築と山野が混じりあっており、どちらで戦うかを選択することができます。
特に指定がなければ、混在している状況下で戦うことになります。
月の夜であり、太陽は出ていませんが、暗闇ではありません。視界は問題なく昼間同然に利きます。
戦闘の邪魔になる、あるいは救助や守るべき一般人などはいません。存分に戦って下さい。
洋風建築側で戦っても天井が開いており屋外となるため、空中戦を行うことも可能です。家具などは邪魔になる事はありません。何か利用しようと思えば利用することも可能でしょう。その場合は、「何を」「どうやって」利用するかプレイングに明記してください。
接敵したところからリプレイが開始されるため、敵と出会う前に技能やアイテムによって何かをあらかじめ準備しておくという事は出来ません。何らかの準備行動を行う場合は、戦闘と並行して行う事となります。
「集団敵・サイコチェーンソーについて」
|電動鋸《チェーンソー》を手にしたリビングデッド型オブリビオンです。
肉体は腐敗していますが、素早く動くことが可能です。
集団で行動しており、一人の猟兵に対して三体のサイコチェーンソーと戦う事となります。
チームなどを汲んでいた場合は、一人につき三体となります。二人組なら六体との戦闘です。
指定のユーベルコードの他、単純なチェーンソーの攻撃を用いてくる可能性があります
猟兵がアイテムや技能のみでユーベルコードを用いない戦法を使用した場合でも、チェーンソーを用いて戦います。
第二章のプレイング受付開始は2/8(水)朝8:31から開始いたします。
時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
マスターページに一部追加箇所がありますので、必ずマスターページを確認したうえでプレイングを送信してください。
それでは、特殊空間を除去するために、その元凶たちとの戦闘を開始してください。
龍臥崎・まきな
【SPD】
アドリブ歓迎
(敵の気配…まだこちらには気づいていませんね)
屋内には足を踏み入れず、森の中で木に紛れながら戦う
囲まれない位置取りをしてから、錫杖で足元の小石を鋭く打ち飛ばして牽制
反応した所をUCの「自身の立体映像」を使い攪乱させることで数の不利を補う
(…いざ、参る)
ヒット&アウェイでマキリ錫杖に仕込まれた刃を居合の要領で振るう
「しゃっ!」
戦い方は決して驕らず侮らず。詰将棋のように、冷めた感情のまま確実に敵にダメージを与えて行き、
最後の一体になったら、すかさず立体映像を解除
103本の水流手裏剣を作り出すことに切替え、全方位からの集中砲火で倒し切る
「千変万化の水練が秘術、とくと見よッ!!」
●水龍の錬
(……っ、敵の気配!)
まきなは間一髪、サイコチェーンソーたちと顔を突き合わせる前に素早く身を退ける。
(まだ、こちらには気づいていませんね……)
山野の木の後ろにに身を隠したまま、まきなは敵の様子をうかがう。腐敗した肉体を引きずる鉄仮面のリビングデッド型オブリビオンたちは、洋風建築の館エリアから山野のエリアの方へと動きつつあった。
木々の後ろを飛び回って移動し、囲まれないよう自身とサイコチェーンソーとの位置を念入りに微調整して、それからまきなは錫杖で足元の小石を鋭く打ち飛ばす。そのいくつかがサイコチェーンソーの鉄仮面へと当たる、振り向いたところにはまきな――否。まきながユーベルコード【水練忍法「|霧影水刃漣猗《むえいすいじんれんい》」】にて呼び出した水流手裏剣がまきなの姿を取った立体映像が幾人も立っていた。
『ヴァアアアアアアッ!!』
腐った声帯から迸る濁った吠え声をあげながらチェーンソーをヴルンと起動させ、薙いだのは立体映像。どこ吹く風と立っている。それに意識がとられていることを確認して、まきなは手にしたマキリ錫杖を握りしめる。
(……いざ、参る)
まきなのまきり錫杖の内部に仕込まれているのは、ダマスカス鋼三十層本鍛造の刃。回転動力炉が唸りを上げる。
「しゃっ!!」
完全に不意を打った。まきなの刃は、錫杖から居合の如くに打ち放たれてサイコチェーンソーの頸に突き刺さり、そのままの勢いで首の骨を断ち切る。腐った血を撒き散らしながら胴と泣き別れになった鉄仮面の頭が野山にごろりと転がり、頭を失った胴がチェーンソーを唸らせたまま倒れ伏す。その首と胴とが消滅するのを見送る間もなく、まきなは次のサイコチェーンソーに刃を向ける。殺意を向けられたサイコチェーンソーは、まだまきなの立体映像を切り刻んでいる。
決して侮らず、驕らず。詰将棋の如く確実に着々と、頭の中は冷えたまま。まきなは地を蹴り、サイコチェーンソーの後ろを取る。立体映像もまた刃を取り出してサイコチェーンソーに襲い掛かる。立体映像の刃はサイコチェーンソーを斬り裂くことこそないが、それでも抑止には十分だ。敵の意識が立体映像の方へ向けられているのを冷徹に確認して、まきなは握った刃をサイコチェーンソーの首の後ろに勢いよく、切先が喉元から突き出るほどに深々と刺した。
『ヴォゥッ……!?』
濁った声が腐った喉からこぼれ落ちる、その途中でまきなは刃を強く薙ぎ、再び頸を切り離す。少しだけつながった皮膚は蹴り飛ばすことで分断された。その時にはすでに、最後に残ったサイコチェーンソーは立体映像に取り囲まれている。
「千変万化の水練が秘術、とくと見よッ!!」
立体映像たちが、百三本の水流手裏剣へと切り替わる。全方位からの集中砲火を浴びたサイコチェーンソーは命を刈り取る|四方手裏剣《かざぐるま》によって全身を貫かれ、ハリネズミの如き姿となった。もはやチェーンソーはその手から離れ、地上でドルンとうなりを上げるだけ。ボロボロのその腐った体を蹴り折ってやれば、最後のサイコチェーンソーもまた地面に倒れて消滅した。
敵を全て倒しきった後、山野は消滅をはじめ、洋風建築の館に吸収されていく。特殊空間は消滅を始めていた。
まきなは急ぎエリアを移動し、特殊空間の正常化に備えるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
酒井森・興和
僕の知る屍人は情愛の血を求めたが
お前達は単に血肉に飢えて?
歪な特殊空間もその腐った脳の産物かね
…月明かりの野山
メガリスの記憶か残留思念の影響か…昔に近しい気がして郷愁を誘うねえ
ヒトに討たれた鬼と生き残った鬼女にも同情しそうだ
あの首酒…
生半可な気では酌めない代物なのだね
あの武器、多勢に一度に攻められると厄介だ
逆鱗を【威嚇射撃】
囲まれたら蹴って【吹き飛ばし】なるべく単体ずつ戦う
まずは機動力を奪う
近い敵は三砂で【怪力でなぎ払い】足を潰し、【追撃の重量攻撃】でチェーンソーを破壊するか抑えつけUCで【急所突き】を
遠いなら飛斬帽を投げ足を【切断】し【早業と集中力】で三砂の石突きで地に張り付けUCで仕留める
●なり損ないの郷愁
「僕の知る屍人は情愛の血を求めたが……お前たちは単に血肉に飢えて?」
『ヴォオオオオッ!』
サイコチェーンソーの電動鋸の一振りを飛び退って避けながら、興和は語り掛ける。腐り果てた体を引きずる鉄仮面から答えが返ってこないことなど百も承知。ただ興和が、吐き出したいだけのことだった。
「この歪な特殊空間も、その腐った脳の産物かね」
(あの武器、多勢に一度に攻められると厄介だ)
逆鱗「朱纏」を威嚇として撃ち出し、迫りくるサイコチェーンソーを蹴り倒して距離を取りながら、興和は眇めた猫の目のような月明かりが照らす野山に束の間思いを馳せる。
(メガリスの記憶か、残留思念の影響か。……昔に近しい気がして郷愁を誘うねえ)
戦いながらも興和の脳裏をよぎるのは、先ほど見た光景。残留思念が見せた映像。
(ヒトに討たれた鬼と生きのこった鬼女にも、同情しそうだ)
もとより興和は鋏角衆。ニンゲンではない、土蜘蛛の一族の「なり損ない」。だからか、人の側よりも討たれたまつろわぬものに思いを馳せてしまうのは。
「あの首酒……生半可な気では酌めない代物なのだね」
そう思うがこそ。目の前の腐り果てたオブリビオンたちに渡す気には微塵もなれない。興和は近寄ってきたサイコチェーンソーに対して三砂を手にし、怪力でもって薙ぎ払って足を潰す。
『グァォオオオオオオ!!!』
激痛か、そもそも痛覚が残っているのかしらないが、鉄仮面が絶叫を上げる。そのまま三砂を振るう興和は、迫撃を込めて三砂に全体重を預け、重量を込めた打撃でチェーンソーを破壊し、ユーベルコードを発動させた。
【白虎絶命拳】。その指先が触れるや否や、呼気により練り上げられた「気」によって電動鋸を失ったサイコチェーンソーは内部から破裂して果てた。そのまま三砂を振り回し、近くにいたサイコチェーンソーの電動鋸の要を叩き壊して駆動不可能にする。相手のユーベルコードは単純明解、チェーンソーによって対象を切断するもの。ならばチェーンソーを破壊するという興和の行動は大変理にかなったものだった。そして再び白虎絶命拳によって内部から気を流し込まれて腹を膨らませ、腐った肉と血を撒き散らして四散するサイコチェーンソー。
最後の敵は少し遠かった。故に興和は飛斬帽を投げつけ腐りきった足を切断する。早業で距離を詰め、その恐るべき集中力でもって三砂を振るい、地に縫い留める。こうなってはもはやサイコチェーンソーになすすべはなかった。そのまま指先で触れたところから流れ込んだ気が腐った体内を巡り、全身をぼこぼこと沸騰させながら爆ぜて消えていく。
三体のサイコチェーンソーを屠ったと確認した側から、山野の領域が薄れて消えていく。それは、この特殊空間が正常化する兆しであった。
興和は急ぎ洋風建築の領域の方へと移動して、そこでようやく一息吐くのであった。
大成功
🔵🔵🔵
暗都・魎夜
【心情】
さっきのを見た感じ、忘却期にも少なからず力を発揮していたみたいだな
こんだけの力だ
伝承を知っていれば、代償を知ってなおすがりたい奴はいくらでもいるだろうよ
ただ、これ以上、悲劇を起こさせるわけにはいかねえ
「ってわけだ。できれば素直に引き下がってもらえると嬉しいんだけどよ」
【戦闘】
返事を期待したわけじゃないが、知性の低いリビングデッド型
誰かの命で来たのか、メガリスに呼ばれたか
どうあれシンプルに物理戦闘に強いタイプだな
「行くぜ、イグニッション!」
UCを発動し回転斬撃には物理無効の肉体で耐える
「空中機動」を生かした「武器落とし」「グラップル」で攻撃
「酒が飲みたきゃその物騒なものはしまいな!」
●覚悟はあるか
(さっきのを見た感じ……忘却期にも少なからず力を発揮していたみたいだな、件のメガリスは)
忘却期。太古の人々が神秘と代償に、世界結界を張り巡らせることによって神秘から隔絶された筈の時代。魎夜が見たのは、その時代の人間がメガリスを利用しようとする光景だった。
(まあ、あんだけの力だ。伝承を知っていれば、代償を知ってなおすがりたい奴はいくらでもいるだろうよ)
――だが。
(これ以上、悲劇を起こさせるわけにはいかねえ……)
「ってわけだ。できれば素直に引き下がってもらえると嬉しいんだけどよ」
『グギイイアアアアアア!!!』
魎夜の提案に応えたのは、腐り果てた声帯から迸る殺意に満ちた咆哮。
返事を期待したわけではない。もとより知性の低いリビングデッド型オブリビオンであると、目で見てわかる相手だ。
何者かの命で来たのか、それとも彼ら自身がメガリスに呼ばれたのか、それはわからないが――
(シンプルに物理戦闘に強いタイプだな……なら!)
「行くぜ――|起動《イグニッション》!!」
魎夜はイグニッションカードを掲げる。刹那、魎夜の姿が武装に覆われた。すかさずユーベルコード【ライトニングスピリット】を発動し、自身の肉体を稲妻のスピリットバードに変える魎夜。サイコチェーンソーたちは狂乱しながら電動鋸の回転斬撃でもって攻撃してくるが、今の魎夜はスピリットバードの肉体、すなわち稲妻そのものだ、雷に物理攻撃が効く由もない。その肉体でもってチェーンソーの攻撃をことごとくすり抜け、空へと舞い上がり――そして高速で落下する。
「酒が飲みたきゃあ、その物騒なものはしまいな!」
雷鳴と電撃がサイコチェーンソーたちを強かに焼き焦がし、打ち据えていく。電動鋸を取り落とさせ、組み付いて「震鎧刀・月魎斬式」でもって次々に首を落としていく。腐りきった黒ずんだ血が、山野の緑を汚した。
首を落とされたサイコチェーンソーたちは、腐った血に塗れてしゅうしゅうと黒い煙を上げながら消滅していく。すべてのサイコチェーンソーが消滅するのを見届けるや否や、すこしの揺れが特殊空間内を襲った。
「おっと、こいつは……」
特殊空間が正常化していく。ならば、洋風建築の館の領域はともかくも、少なくとも山野の領域はほどなく消え去るだろう。慌てて洋風建築の領域の方へ移動し、魎夜は変身を解いて額のバンダナで手の甲に浮いた汗を拭った。
大成功
🔵🔵🔵
ミニョン・エルシェ
【散歩部】【SPD】
酒甕の中に、常に首を欲する性質…?
公が舞台とした土地柄か、常に7人目を求める7人ミサキを彷彿とさせますね
闘争の果ての、栄光と、緩やかで確かな破滅
実に、歴史の流れを感じさせる力
力のみしか理解しないあなた方には勿体無い。ご退場願うのです
チェーンソーは痛そうですが…懐に入られたら、振るう事も、押し当てる事も…スピンも、出来ないでしょう?
敵の一体に入り身して密着し、盾に。
盾にしながら誘導弾で残る敵を攻撃し、盾にした敵は重心を崩して引き胴。
それでも敵を捌けない場合は…ええ、計算通りですよ。
常に敵の正面を取る、捨て身の騙し打ちでしたので。
UCを発動、叩き斬ります。
アドリブ歓迎なのです!
●手にするもののその重さを、確りと
(闘争の果ての、栄光と、緩やかで確かな破滅……)
先ほど残留思念に触れて垣間見た光景に、ミニョンは戦いながらも思いを馳せる。
(件のメガリス、酒甕の中に、常に首を欲する性質があるのでしょうか。公が舞台とした土地柄か、常に七人目を求める七人ミサキを彷彿とさせますね)
ミニョンが見た光景の中に出て来た男。彼が「そう」であるのならば。七人ミサキたる怪異の由来は、「彼」にかかわり深いものだとも言われている。
「実に、歴史の流れを感じさせる力」
『ギィィィィィガァァァァァッ!!!!』
腐り果てた声帯から咆哮を迸らせて電動鋸を振るうサイコチェーンソーの一撃をくるりと舞うように避けながら、ミニョンは続く言葉を紡ぐ。
「……力のみしか理解しないあなた方には勿体無い。ご退場願うのです」
狂乱の声を上げチェーンソーを振るおうとする鉄仮面の、ミニョンはその腐った吐息が――リビングデッド型オブリビオンが呼吸などというものをしていたらの話だが――嗅ぎ取れそうなほどに肉薄する。
「チェーンソーは確かに痛そうですが。……懐に入られたら、振るうことも、押し当てることも、……スピンも。出来ないでしょう?」
ドルン、と電動鋸は唸り声をあげるが、ミニョンの指摘通り、密着しすぎたこの距離では刃を当てることがままならない。さりとて得物を投げ捨てるなどと言う発想さえ腐った頭では出来そうにない、サイコチェーンソーは束の間完全な無防備をミニョンの前に晒した。そうしている間にも、別のサイコチェーンソーはミニョンの身体をばらばらに引き裂かんと電動鋸を唸らせる。ミニョンの判断は一瞬だった。肉薄したサイコチェーンソーの体をひっ掴み、迫りくる電動鋸の盾にする。味方を斬ったという感覚が果たして腐り果てた脳髄にあったかどうか。
『ギァァァァァァァァ!!』
『ヴゥォォオオオオオオ!!』
一体のサイコチェーンソーがその身を味方の電動鋸で引き裂かれ、黒ずんだ腐った血を撒き散らす。その体がまだびくびくとい動いている間に、襲い掛かってきた鉄仮面に対して「城対龍高速誘導弾システム」――高速で飛翔する誘導弾を放つ対龍・対神想定の多弾頭ミサイルランチャーをぶっ放し、そのまま重心を崩して盾にしていたサイコチェーンソーの身体を引き倒す。胴を引き裂かれ、蜂の巣にされた鉄仮面どもはしばし痙攣していたが、やがて黒い煙に包まれて消滅していった。
それでもまだ、サイコチェーンソーは残っている、迫る電動鋸に、ミニョンはしかし口角を上げて美しい微笑みを見せた。
「……ここまで、すべて計算通りですよ」
――常に敵の正面を取る、捨て身の騙し討ちでしたので。
「簪宗信」――「神刺し」の意を持つ馬手差を、ミニョンは爆焔の蜘蛛のオーラを纏いながら構える。
『ヴヴォオオアアアアアア!!!』
狂乱の声を上げながら身を回転させて電動鋸を振り回すサイコチェーンソーの一撃を、燃えあがる蜘蛛の糸で絡めとって防ぎ。そして――【|骨喰《ほねばみ》・|偽写《うつし》】。直接触れずとも骨まで切れると謳われたかの名刀の銘をつけたその剣技でもって、次元を超えて骨を砕く斬撃によって切り伏せる!
刃に触れることないまま頸椎を、そして首の骨を断ち切られたサイコチェーンソーの頭部は、骨を失った己の自重によってぶちぶちと千切れて絨毯の上に転がった。そのまま黒い煙を上げ、腐った血ごとしゅうしゅうと音を立てて消えていく。
三体をすべて撃退したと認識するや否や、ずんと音がして、山野の領域の光景がぶれ始めた。特殊空間化の元凶を倒したことによって、この場所が正常化しようとしているのだろう。そう感づいたミニョンは慎重に残される領域、カーペット敷きの洋風建築の方へと移動する。
あとは、メガリスを確保するのみでしょうか。
ミニョンは刀を鞘におさめながら、心中で胸を撫でおろすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
カスパル・シュライエン
あーめんどくさ、なんでこんなことになるんや。
多人数で来るとかめんどくさいわ。
……まあ、それ用の呪物はあるんやけどな。
UC【鏡に映る蒼炎の園】。
鏡は姿を映し、蒼炎の園を呼び起こす。
俺の家系が扱う鏡は呪われた炎の印を付ける呪物。
お前らにもその呪いの炎を刻み込んだるわ。
ま、反射光が当たらずとも鏡は一瞬の盾にも出来るしな。
相手のチェーンソーが来たらすかさず鏡を盾にして回避するで。
ちょいヒビ入るけど、しゃーなし。チェーンソーには勝てへん。
どうせ後で勝手に直っとるやろうしな。俺の知らんところで。
一瞬の目眩ましにはなるから、それで体勢立て直して蒼炎ぶつけたろ。
特級呪物をナメたらアカンで?
割とヤバいで、これ。
●蒼き炎で心を燃やせ。燃やしとるかぁ?
「あ゛~、めんどっくさぁ……」
心底ダルそうなウザそうな声で、カスパルは自身に迫る三体のチェーンソーを半眼になって眺める。
「なんでこんなことになるんや。多人数で来るとかマジめんどくさいわ」
『ヴォオオオアアアアアア!!!』
ダルダルなカスパルにはお構いなしに腐った声帯で雄たけびを上げるサイコチェーンソー。なんだてめえこらマジメにやれよこれ貴重な戦闘パートやぞとその声は語っていたかもしれない。ないかもしれない。
「まあまあ焦らんときや。……ちゃあんと、それ用の呪物はあるんやからな?」
カスパルはおもむろに自身のユーベルコードを発動させる。
「炎の使い方なんか、適当でええねん。勝手に燃えるんやから」
【|鏡に映る蒼炎の園《シュピーゲル・フラム》】――その場に召喚される大鏡その反射光が、サイコチェーンソーたちの腐り果てた体を映し出し、そして蒼炎の園を呼び起こす。
シュライエンの血筋が扱う鏡は呪われた炎の印をつける呪物。
「お前らにもその呪いの炎、刻み込んだるわ」
『ギィィィガアアアアアッ!!』
蒼い炎に焼かれて――焼かれる苦しみが、痛覚が、その腐った体に存在するのかどうかは定かではないが、サイコチェーンソーたちは絶叫を上げながら電動鋸をヴルルンと唸らせてカスパルに襲い掛かってくる。
「はあ、素直に焼かれて死んどったらええのに。ほんまめんどくさっ!!」
電動鋸を鏡で受け止める。パキン、と軽く高い音が鳴って鏡にヒビが入るが、カスパルがそれを気にする様子はない。
しゃーなし、チェーンソーには勝てへん。どうせ後で勝手に直っとるやろうしな。俺の知らんところで。
そんな風にドライに心なく割り切って、むしろヒビ入った鏡から飛び散る破片をを一瞬の目くらましに使ってサイコチェーンソーたちを怯ませる。
「特級呪物をナメたらアカンで? ……割とヤバいで、これ」
シュライエンの血統が扱う呪物、その鏡は蒼き炎の園を呼び起こし。炎はサイコチェーンソーを蒼色の叫喚地獄へと叩き込む。燃え盛る青い炎の中で、サイコチェーンソーたちは腐りきった喉から絶叫を迸らせ。鉄仮面も、電動鋸も残らずぐずぐずに熔けて。腐った体はしゅうしゅうと黒い煙を上げながら焼き尽くされていった。
「はあ、終わり終わり。……っと、なんやねん!」
サイコチェーンソーが全て絶命――リビングデッド型オブリビオンに命などと言うものがあったならばだが――した後、ごごごご、と音が鳴ってその場が揺れる。カスパルが焦った声を上げる中、特殊空間の山野のエリアが急速に消滅を始めていった。特殊空間の元凶を倒したことにより正常化が始まっているのだと、カスパルがそれに気づけたか。
「うわ、なんやねんこっち消えとるやん、こっち消えとるやん!あっぶなあ!」
甲高くデカい声を上げながら、カスパルは急いで残された洋風建築のエリアへと移動するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ディル・ウェッジウイッター
お茶会をするにはぴったりの場所ですが、そうはいっていられませんか
ふむ、リビングデッドの目的がメガリスであるというのならば|ドーマウス《メガリス》は出すべきではないですね
お茶を淹れる時間も無いですし、たまには違う方法で戦いましょうか。リビングデッドの皆様にはしばしの間お付き合い願います
基本一体づつ対処
攻撃は見切り、もしくはモートスプーンで受け流しつつ彼らの死角や背後に回ったらば敵にカトラリーを投擲。そのままUC発動をします
宝を前に気が昂る気持ちは分かりますが少々賑やかなようで。恐れ入りますがご静粛に願います
戦闘が終わったら一つため息
はぁ、やはり慣れない事はやらない物ですね
●月高くして紅茶空間
「うぅん。お茶会をするにはぴったりの場所ですが、そうはいっていられませんか」
そうディルがのんびりと言う。重厚な机、どっしりとしたソファ、毛足の長いふわふわとしたカーペットの洋風建築空間。上空には月が猫の目のように照り、風光明媚。見える山野は少し草が生い茂り過ぎてちょっとお手入れが必要かな? とは思うものの、おおむねお茶会スポットとしては合格である。
『ヴヴォォォォアアアアアア!!』
もっともそれは全てこの、電動鋸を振り回す腐った体を引きずった鉄仮面さえいなければの話だが。
(……ふむ。リビングデッドの目的がメガリスだというのならば、|ドーマウス《メガリス》は出すべきではないですね)
ヤマネが眠る古いティーポットを懐の奥深くに仕舞い込み、ディルは代わりにモートスプーンを取り出して巨大化させる。
「お茶を淹れる時間もないですし、たまには違う方法で戦いましょうか。リビングデッドの皆様方には、しばしの間お付き合い願います」
恭しく一礼をして、振り回されるチェーンソーを見切って躱してサイコチェーンソーの背後に回り、カトラリーを投擲する。ティースプーンや菓子を切り分けるためのナイフ、そして菓子を口に運ぶためのフォークがばらばらとサイコチェーンソーたちに降り注ぐ。勿論、それだけでは鉄仮面たちにとってさしたるダメージにはならないだろうが。これでいい。カトラリーが当たれば、それでディルのユーベルコードの発動条件は満たされる!
『グォゥゥゥッ……!?』
『ヴゥゥアアアア!!』
サイコチェーンソーたちが鈍い叫び声をあげる。その腐った喉からは鋭い棘が生え、鉄仮面たちを責め苛む。果たしてこの腐り果てた舌が紅茶やお茶会を軽んじる発言をしたかどうかは定かではないが、しっかりと棘はサイコチェーンソーたちを苦しめていた。
「宝を前に気が昂る気持ちは分かりますが、少々賑やかすぎるようで」
――恐れ入りますが、ご静粛に願います。
喉と、鉄仮面の中の舌にも生えているだろう鋭い棘に苛まれるサイコチェーンソーたちは電動鋸を振るうのも忘れて苦しみ悶える。そのままディルの振るうモートスプーンが、ひとつまたひとつとその腐った首をプディングの上のチェリーを掬う様に胴体から抉りだしていく。首を失った胴体はどうと倒れ、しゅうしゅうと黒い煙を上げながら消滅していった。
「……ふう」
三体のサイコチェーンソーがすべて消滅したことを確認して、ディルは一つ深いため息を吐く。
「はぁ、やはり慣れないことはやらない物ですね」
そうディルが口にしたとき。
……ごごごごご、と音を立てて、特殊空間全体が揺れる。元凶を倒したことによって特殊空間の正常化が始まっているのだろう、山野エリアに当たる部分が消滅を始めていた。ふと上を見上げれば、天井が張りなおされるように現れ、綺麗な猫の目のような月が隠れつつある。
「ああ、すこうし勿体ないですねぇ」
ディルはそう言って、無事な洋風建築エリアの方へ避難を始めるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『大決戦のあとしまつ』
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POW : パッションで片付ける
SPD : テクニカルに事をおさめる
WIZ : クレバーになんとかする
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
果たして、この邸に押し寄せてきていたオブリビオンはすべて猟兵の手により倒された。
それにより急速に特殊空間化した金有邸は正常化し、猟兵たちは洋風の建物の奥に飾られた正体不明の鉱石で出来た酒甕――メガリスに対面した。
グリモア猟兵から依頼されたのは、このメガリスの回収。
しかし、ただ強奪するのであれば、後々問題が生じてしまう。
メガリスを購入したこの邸宅の主・金有と交渉して、穏便に手に入れるか。
それとも、金有に気づかれぬようにこっそり偽物とすり替えるか。
その一切のやり方は、猟兵たちに任されていた。
ただひとつ、もし交渉をするなら念頭に置かなければならないことがある。
ここはシルバーレイン、世界結界の効果によってすべての神秘は常識へと書き換えられてしまう世界。
金有氏は一般人であり、先ほどの特殊空間化の事件は、既に「常識的な出来事」に認識を書き換えられているということ。
既に壮年の金有氏に真実を教えることは、彼に常識を見失わせて発狂させてしまいかねないとても危険なことであるということだ。
グッドラック、イェーガー!
=====================================================
第三章 あとしまつ の時間になりました
おめでとうございます。
猟兵たちの活躍によりメガリスを狙ったオブリビオンたちはすべて倒され、それにより特殊空間も正常化されて金有邸はもとの静穏な洋風建築の姿を取り戻しました。
残りは、メガリスの回収を残すのみです。いかに詳細を記します。
「回収手段」
金有氏と交渉を行ってメガリスを引き取るか、こっそりと偽物とすり替えるか、やり方は猟兵に一任されています。
それぞれ異なる行為であるため、猟兵ごとに(近しい時期に同じ手段を取るプレイングが来た場合は一纏めとして)それぞれ別の世界線の出来事として描写いたします。
・こっそり偽物とすり替える場合
これが一番簡単なルートかと思われます。金有邸には警備員もいますが、猟兵の力をもってすれば無力化や目を掻い潜る事は難しくはないでしょう。
偽物の調達は、銀誓館学園に頼れば学園で都合することも可能です。(たくさんの卒業生が世界各地に散っている状態なので、数日あれば精巧な偽物を調達することが可能でしょう)
・金有氏と交渉する
正当なルートになりますが、金有氏を納得させる必要があります。
上でも描写いたしましたが、金有氏は五十代の大人であり、既に常識を覆せるほどの想像力を持ちません。
その為、世界結界の効果により、オブリビオンの徘徊や屋敷の特殊空間化は金有氏の中で「常識的な出来事」に認識を書き換えられています。メガリスの危険性を説いても、納得してもらえるかどうかは猟兵の話術、技能ではなくその内容次第になります。
金有氏に邸で実際に起きていたこと、真実を教えることは、彼を発狂させてしまう可能性が非常に高く、おすすめできません。
第三章のプレイング受付開始は2/15(水)朝8:31からとなります。
時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
必ずマスターページを確認したうえでプレイングを送信してください。
第三章の必要成功数は5と少ないので、ご注意ください。
目安としましては2/17(金)夜22時までに送られてきたプレイングは取りこぼすことなく採用することが可能ですが、
それ以降になるとシステムの都合上必要成功数の上限に引っかかって採用できなくなる可能性がございます。ご注意ください。
それでは、メガリスを無事回収し、この事件を落ち着ける場所に落ち着けてください。
ミニョン・エルシェ
【散歩部】【SPD】
元親公をはじめとする、深い歴史を持つ品。
初めから交渉を通さぬのは、歴史への誠意に欠けますね。
購入時の経緯、素性の認識を確認。
お金で解決の可否、壺以外の蒐集はあるか。
人物像を探り、交渉の方向性を探ります。
レプリカクラフトでそっくりに偽造した壺を用意。細部の違いは許容。
『夫婦壺』の触れ込みですから。
揃っていないと価値が下がる品。
私は買い取ってでも夫婦を揃えたい。氏は如何?
購入が駄目ならば、半年毎に夫婦を引き合わせるというのは如何?
半年は私の元に。それから先の半年は、氏の元に。
一度、手元に…史跡散歩部に置けば、すり替えも容易。
ダメなら力不足!今すり替えます!
アドリブ歓迎なのです!
カスパル・シュライエン
【POW】
ぇあー……どないしよーかなあ……。
あんまり事を大きくしたらめんどいやろなぁ……。
――そんなら買収したほうが早ないか??
(突如閃きを得る)(財布を見る)(くっそ分厚い)
交渉やけどとにかく相手をドンドン言いくるめ、なんとかのなんとかは国宝級だとかこれを俺に売ってくれたらどんな高い言い値でも出すとかで、売りつけさせる。
俺よりも高い金額出せるやつなんかそうそうおらんで?
俺が買い取ったほうがめっちゃ高なるで?
最高額ほしいやろ? 遊んで暮らせる金欲しいやろ?
それやったら今が売りどきやんか。なあ?
購入できん勝ったら武力も辞さないが、まあそれは最終手段やな。うん。
●世界線A-1 夫婦壺
「よくいらっしゃいました。私、|金有《かねあり》|真来《まくる》と申します」
ミニョンと、そしてカスパルの前に姿を現した金有氏は、柔和で落ち着いた雰囲気を持つ壮年の男性であった。
ミニョンの見た残留思念を元に推測するならば、このメガリス――酒甕は名高き戦国武将をはじめとする、深い歴史を持つ品。はじめから交渉を通さぬのは、歴史への誠意に欠けるとミニョンは考えていた。カスパルはさて何を考えていたものか、彼女の隣で一見阿呆のような面を晒している。いや、カスパルは美形だ。ただ何にも考えていないように見えるその様相が阿呆のようであった。
既にミニョンは金有氏の素性を調べつくしている。金有がメガリスの酒甕を入手するに至った経緯は、馴染とする古美術商からの売り込み。もともと壺や甕――もっとも、この二種類は深く調べ始めていくと違いがなくなってしまうのだが――、古い陶器の類の収集家であった金有氏に、古美術商が酒甕を売り込んだらしい。古美術商の方にも後ろ暗い面はなく、ただ由来の方はわからずじまいであったようだ。すなわち、金有氏は由来も何もないに等しい古美術品を買い取ったということになる。
「金有さん。この壺、『夫婦壺』であることはご存知だったでしょうか」
「そうなのですか? いや、私は何も聞いておりません、お恥ずかしい話ですが」
「その壺とつがいになる物が、こちらになります」
ミニョンは壺を取り出した。これは「大江山の首酒」をユーベルコード【レプリカクラフト】によってそっくりに偽造した品。ユーベルコードの特性上作りは粗いが、細部の違いは「夫婦壺」という触れ込みで持ってきている。許容範囲だ。
「これは、揃っていないと価値が下がる品なのです。どうでしょう、私にそちらの品を買い取らせてはいただけませんか? 私はそうしてでも、夫婦を揃えたいのです」
「そうですか」
金有氏は考え込むような様子を見せた。あるいは、揃っていないと価値が下がると聞いて、ミニョンの持つ品をも手にしたいという欲が出て来たのか。
「買い取らせていただけないのならば、こういうのは如何でしょう。半年ごとに夫婦を引き合わせる、というのは。――半年は私の元に、それから先の半年は、そちらの元に、と言ったように」
「……ふむ」
一度、ミニョンの手元に。ミニョンの管理する旅団「史蹟散歩部」に置けば、すり替えも可能だ。
「少々、考えさせてはいただけませんか」
――金有氏の口ぶりからすると少々芳しくない手応えだ。駄目ならば、今すり替えるかとミニョンが思い始めたとき。カスパルが「ぇあー」と奇声を上げた。
「めんどいなあ、金で解決せぇへんか、えーっと? 誰やったっけ?」
「わ、私ですか? 金有真来と申しまして」
「そう、その金有サン。売ってくれたら、どんだけ高い額でも出すで」
夫婦壺? なんやろ。そのナントカのナントカ。
――大江山の首酒である。もっとも、金有氏はこの正式名称を知らないのでミニョンはひとまず黙っていた。
「これにはなあ、国宝級の価値がある!」
「は? そうなのですか?」
「ようわからんけどそうや!」
カスパルとて突然何の考えもなしに言ったわけではない。ミニョンが根気強く交渉を続ける中、カスパルの中にあったのは「めんどいなぁ、どないしよーかなぁ、あんまり事大きくしてもなあ」という感情であった。その時カスパルに天啓が降りて来たのである、そう、自分は金持ちであるという。カスパルの財布はくっそ分厚かった。無論、財布に収まるような額で古美術品が手に入る訳もない。しかし、カスパルはその分厚い財布の中から一枚の紙きれを取り出す。――そう、無記名の小切手である。
「俺よりも高い額出せるやつなんかそうそうおらんで? 俺が買い取った方がめっちゃ高なるで? 最高額欲しいやろ? 遊んで暮らせる金欲しいやろ? それやったら今が売り時やんか、なあ?」
「ちょ、ちょっと待ってください、カスパルさん……」
ミニョンは当然慌てた。何せ金有氏は既に高額の古美術品の蒐集を趣味として行える、すなわちもはや遊んで暮らせる金の持ち主なのである。プライドを逆撫でして手放さないと言われては困る。
「…………」
金有氏は黙り込んだ。カスパルはこれで買い取れないなら武力行使も辞さないと考え始めていた。それを察したミニョンの頭痛は天元突破した。
しかし、次に金有氏の口から出てきた言葉はミニョンの心労を労うものであった。
「私があなたに売るという事は、そちらのエルシェさんにお売りしたのと同じことになるのですよね?」
「ん? ああそうやで?」
「ならば、お売りしましょう」
「金有さん……ありがとうございます!」
ミニョンは頭を下げる。カスパルは下げない。
金有氏が小切手に書き込んだ金額は、彼の資産総額からしてみれば実にささやかなものであった。
メガリスを手にして金有邸を後にする際、カスパルはミニョンに言った。
「おう、俺がいて良かったやろ」
「最終的には助かったかもしれませんが、あなたが突然まくし立て始めた時にはどうしようかと思いましたよ」
「えぇー?」
ミニョンはメガリスを手に、再び込み上げる頭痛を振り払う。
斯くしてメガリスは、ミニョンの「史蹟散歩部」へと持ち帰れることになったのであるから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
龍臥崎・まきな
【WIZ】
メガリス回収希望
アドリブ歓迎
単独で金有氏にアポを取り真正面から霊能力者として訪問(偽名刺)
「真実」ではなく、「在りがちなオカルト」として実しやかに脅しを掛け、入手時の同額を提示して手放して貰える様交渉
私は良くなき物を祓う事を生業としている僧籍の者。
かの悪名高き酒呑童子所縁の品をお持ちと聞いて、お話をさせて頂きたく。
ほう…これは確かに、真作…かつ、美術的価値の高い逸品かと。
ですが…これはいけない。
酒甕全体にべっとりと、その、酒呑童子の呪いが。
本来これは、霊的に安定した場所に、人知れず安置されるべきもの。
この品を持ち続ければ確実に死の災いが…貴方に降り懸かるでしょう。
此処までの呪物、祓う事は難しいですが、あるべき場所に運ぶことは出来ます。
金有さんがこの品を手に入れた際と同額のお金を用意させて頂きますが…私に引き取らせては頂けないでしょうか。
決して無理にとは申しません。これは、あくまでも貴方の為を思った…善意です。
うまくメガリス回収に成功したら、昔馴染みが運営する旅団に持ち込む予定
●世界線A-2 霊障成すもの
「どうぞ、遠州からはるばるおいでくださいました。私、|金有《かねあり》|真来《まくる》と申します」
「……|竜ケ崎《・・・》と申します」
まきなはひとり、金有邸にアポイントメントを取って訪れた。偽の名刺を作り、遠野の霊能力者「竜ケ崎」の偽名を名乗る。
「それで、霊能力者の方がうちにご用事とは、どのようなご用件でしょう」
「私は良くなき物を祓う事を生業としている僧籍の者。金有さまが、かの悪名高き酒呑童子所縁の品をお持ちと聞いて、お話をさせて頂きたく」
「酒呑童子……ですか。はて、どれのことやら」
金有はまきなに対して若干の警戒を見せてはいるが、とぼけている素振りはない。恐らく、「大江山の首酒」の名前も知らずに購入したのであろう。
「いえ、おっしゃらずともわかります。そちらの甕。恐らくごく最近になって購入なされたのでは?」
「……はい、あの甕がですか? 酒呑童子所縁の物だと?」
「ええ。少し側に寄って見せていただいても?」
「はい、それは構いませんが……」
まきなはメガリスに近づく。謎の鉱石で出来ているらしきそれはつるりとしていて、確かに好事家に好かれる立派な代物であった。
「ほう……これは確かに、真作。……かつ、美術的価値の高い逸品かと。……ですが……これはいけない」
「いけない? なにかありましたか?」
「……酒甕全体にびっしりと、その、酒呑童子の呪いが」
金有氏は恐れる顔こそ見せない。まきなが霊能力者を名乗って訪れたこともある。そのような話題を切り出されることは予想のうちだったのだろう。しかしまきなの雰囲気に、飲まれ始めている様子もあった。
「呪い……ですか。酒呑童子の? 千年以上も前のものが、残っているものなのでしょうか」
「ただの霊であれば、いかに強大でも三百年も保てば十分なものと言われています。ですが、これに|ついて《・・・》いるのは霊ではありません。|呪い《・・》です。いわば、思念。霊そのものと違い、思念は何百年、千年が経とうとも残る物。そして、その思念を残したのはただの人間ではありませんので」
「伝説の、鬼……ですか」
「はい。この品を持ち続ければ、確実に死の災いが……貴方に降り懸かるでしょう」
「死の災いとは……」
「……そうですね、これはほんの一例としてお聞きいただけるとよいのですが」
そしてまきなは語る。あくまでも「この世界の真実」ではなく、金有氏が真実を知って「見えざる狂気」に陥らぬよう、「ありがちなオカルト話」として。しかし、確実に脅しをかけていく語り口で。
まきなの話がひと段落つく頃には、金有氏は大分まきなの話に飲まれていたようだった。とはいえ、それでも恐れている素振りは見せない。威厳を保っているのであろう。
「本来これは、霊的に安定した場所に、人知れず安置されるべきもの。此処までの呪物であれば、祓うことは難しく」
「祓えないのですか」
「ええ。ですが、あるべき場所に運ぶことはできます。金有さんがこの品を手に入れた際と同額のお金を用意させていただきますが……私に引き取らせては頂けないでしょうか」
「…………」
「決して、無理にとは申しません。これは、あくまでも貴方の為を思った……善意での申し出でございますので」
金有氏は、しばしの間沈黙した。無理もない。彼の信じて来た常識で言えば、呪いや霊など有り得ない。だが、シルバーレインの世界にも霊能力者は周知されている。オカルト案件はすべてが眉唾物ではないという考えもあるだろう。
ながい、ながい時間の後、金有氏は酒甕を――メガリスをまきなに売ることに同意した。
恭しくメガリスを梱包し、金有邸を出たまきなは、霊能力者「竜ケ崎」から龍臥崎まきなの顔に戻って歩き出した。
無論、呪物を安置するべきあるべき場所、というのは虚偽だ。
メガリスは、彼女の昔馴染みが運営する旅団に持ち込まれることになるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
酒井森・興和
うーん
騙しや強奪は学園時代にも忘却期前にも度々やった…様な気もするが
きちんと交渉して貰い受けるのは却って難儀だねえ
僕は古物や骨董の目利きも出来ないし
真実を晒せば気味悪いと手放す前に通報か見えざる狂気か
……
金有氏には悪いがすり替えで行こう
本物より本物らしい偽物を予め銀誓館で見繕って貰い【目立たないように運搬】
金有氏、酒甕の位置は最初の特殊空間のとき糸の伝えで目星を付けてある
警備員に勘付かれず事を運びたいが…
結界を逆手に取り
UC効果を
→漏電による停電で気を失った、痺れた、怪我をした、倒れたと解釈して貰おう
警備員を無力化したら音を立て金有を【おびき寄せ】動揺させ【時間稼ぎ】
その隙にすり替え素早く撤収
暗都・魎夜
メガリス持ち帰り
【心情】
他の世界だとメガリスの扱いも違うようだが、まだまだうちの世界には過ぎた力だよな
金有のおっさんも単純にものとしての美しさに惹かれただけだとは思うが
それがきっかけで何かしらの不幸に巻き込まれる可能性もある(オブリビオンに襲われるとか)
【行動】
UCを用いて「闇に紛れる」ことで隠密を行い、「ジャンプ」「ダッシュ」で潜入する
「世界結界のこともあるけど、まだうちの世界はこういう地道な作業が必要だな」
違いに気づかれないことを祈りつつ、事前に用意したレプリカと交換
「(酒甕に)お前さんも大変だな、酒瓶だったら美味く酒飲むのに使われた方が楽しくないか?」
●世界線B-1 シークレットミッション
興和は忘却期――すなわち、人々が神秘を手放し、世界結界を張るより以前を生きたことのある鋏角衆である。
ものを手に入れるのに人を騙し、あるいは強奪するという手段は学園時代にも忘却期以前にも度々やった様な気がしている。しかし、きちんと交渉して貰い受けるのは却って難儀だねえ、というのが彼の感想である。
興和には古物や骨董の目利きの腕はない。されど真実を晒せば、金有氏はメガリスたる酒甕を気味が悪いと手放す前に興和の事を通報するか、あるいは見えざる狂気――年を取ってしまったものが自身の信じて来た常識とは違いすぎる世界の真実を受け入れられないが故に発症してしまう狂気の事を銀誓館学園ではそう呼んでいた――を発症してしまうだろう。
そう考えた興和が、金有氏には悪いが、と交渉よりも「すり替え」を選んだのは自然なことであった。
また、そう考えたのは興和だけではない。魎夜も同じ。
他の世界――例えばグリードオーシャンであるとか、そこから繋がるサムライエンパイアにも渡来人のものとしてではあるがメガリスが持ち込まれている――であればまたメガリスの扱いも違うようだが、まだまだシルバーレインにはメガリスは過ぎた力だ。
(金有のおっさんも単純に|もの《・・》としての美しさに惹かれただけだとは思うが)
それがきっかけで何かしらの――オブリビオンに襲われる、だとか――不幸に巻き込まれる可能性もある、と。
そうして二人は深夜の金有邸に潜入するはこびとなったのであった。
興和があらかじめ銀誓館学園に頼んで本物よりも本物らしい偽物を見繕って貰い、魎夜は【黒影剣】を用いて自身と手にするものを闇のオーラで覆って視覚嗅覚での探知を不可能にする。銀誓館学園の能力者であれば、魔剣士が持っていたアビリティ「闇纏い」の要領だ。銀誓館学園に入学してから幾度か屋上でのジョブチェンジを経験しているであろう魎夜が、魔剣士になったことがあったかはさて、今は語るべきことではないが。
「世界結界のこともあるけど、まだうちの世界はこういう地道な作業が必要だな」
その間に、興和は【幻術・|黒纏《こくてん》】でもって警備員全員に「一瞬だけ、目を閉じさせる」。世界結界の効果は、警備員たちにその瞬間を「漏電による一瞬の気絶、痺れ」それによる「怪我や転倒」として認識させてくれるだろうと踏んでのことだ。
警備員を無力化した興和は、先に特殊空間が発生していた時に糸の伝えでもって位置に目星をつけていた金有氏を音を立てておびき寄せる。
警備員が出てこないことに動揺している金有氏。興和がそうやって時間を稼いでいる間に、魎夜はメガリスの納められた場所へ入り込み、酒甕を偽物とすり替えて邸を出る。ぴゅう、という口笛の音を聞き届けて、興和も早々に金有邸を後にした。
「よう」
「上手くいったかい」
「ばっちりだ」
そう興和に言って、魎夜は手にした酒甕に語り掛ける。
「お前さんも大変だな。酒甕だったら美味く酒飲むのに使われた方が楽しくないか?」
――勿論のことだが、メガリスは答えない。
メガリスは魎夜の希望により、魎夜の所属する旅団へと持ち帰られることになるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディル・ウェッジウイッター
アドリブ連携可
偽物とすり替え
酒甕を見せてもらった後自分が持つティーポットと交換を提案します
あちらが食いついてきたらドーマウスが入っているポットを取り出します
瞬く間に眠たくなるお茶を淹れられる―そんな不思議なティーポットですとお茶を淹れ、飲んだタイミングでUCを発動
金有氏と周囲の人を眠らせ、その間にメガリスを偽物と交換
金有氏が起きるまでポットからドーマウスを回収
起きたら酒甕とポットの交換を提案
本当にポットと酒甕を交換することになっても、この効果を持つのはドーマウスの方なので私は困りません
そんな目で見るのはおやめなさい。後で別のポットを紹介しますから
回収したメガリスは銀誓館学園に寄贈します
●世界線B-2 オペレーション・ドーマウス
「よくぞお越しくださいました。私、|金有《かねあり》|真来《まくる》と申します」
「ディル・ウェッジウイッターです」
金有氏は柔和な微笑みをたたえてディルを迎えた。
「本日は、私が先日購入した酒甕を見たいとか」
「はい、私は各地に伝わる謂れつきの器物に興味がありまして」
「謂れ、ですか。さて、あの酒甕にそんな逸話がありましたかね」
どうやら金有氏は自身が購入した酒甕についてほとんど何も聞かされていないようだった。酒呑童子や源頼光四天王に纏わる品物だという話をしても、そうなのですかと目を瞬かせるだけである。
そんな調子であったからか、メガリスたる酒甕にはディルが予想していたよりも呆気なく対面が叶った。如何なるものか材質不明の好物で作られた、つるりとした酒甕。確かにひとの頭一つ分が入りそうな大きさをしている。
「さて、金有さん。実は私も本日謂れのある古物を持参してまいりまして。金有さんさえよければ、そちらの酒甕と交換いたしませんか?」
「交換……ですか?」
金有氏は再び目をぱちぱちと瞬かせた。
「ふふ。実は私、「瞬く間に眠たくなるお茶を淹れられる」そんな不思議なティーポットを持っているのですよ」
そう言ってディルはドーマウスが入っているポットを取り出す。さあご確認くださいと手品めいた仕草でポットからドーマウスだけ抜き出して、薬の類が仕込まれていないかどうかを確認させる。精密な確認をさせたうえで紅茶を淹れさせ――茶葉や湯に何か仕込まれていると疑われてはいけないと、それらも金有氏側で用意させられることになったのはほんの少しだけティーソムリエとしては不満であったが(だって自分の方が、何倍も美味しいお茶を淹れられる!)、ポットに睡眠薬でも仕込まれていると思われて飲まれずに終わったのでは「辻褄が合わなくなる」。さて、すべて金有氏側で用意された、紅茶をディルの持参したポットで注ぎ、金有氏がそれを口にした瞬間に、ディルはユーベルコード【|眠りヤマネは夢を見る《ドーマウス・ランニング》】を発動させる。ちぃ、と寝床を取られたヤマネの不満げな鳴き声と共に、瞬く間に金有氏と、そして邸宅内のほとんどの人間が眠りに落ちた。
「……ちぃ」
「そんな目で見るのはおやめなさい。もしポットと交換という話になったら、あとで別のポットを紹介しますから」
そう、本当に効果のあるメガリスなのは、ポットではない、それに住んでいるこのドーマウスの方だ。もしも金有氏がポットを所望しても、ポットはメガリスでもなんでもない、ただの古いポットなのでディルは何も困らない。
そうして邸宅中の人間が眠っている間に、ディルはメガリスたる酒甕を偽物とすり替える。もしも金有氏が交換に応じなかったとしても、これで本物のメガリスはこちらの手の内だ。
目覚めた金有氏に、ディルはもう一度言った。
「いかがでしたか? 不思議なポットの効果は。どうですか、酒甕と交換いたしませんか」
――結局のところ。金有氏は眠りを齎すポットの存在に驚きはしたものの、酒甕と交換とまではいかなかった。
金有氏がポットそのものの不思議さには興味を持たず、ただ酒甕と交換するまでの美術的な価値をポットには見出さなかったからかもしれない。氏の心を読んだわけではないので、詳細は不明である。
しかし、既にすり替えは完了している。ディルはそれは残念ですと言って笑い、素直に金有邸を後にした。
「ちぃ」
「良かったですねえ、寝床がなくならなくて」
「……ちちぃ」
ディルの懐の中で、ポットに入ったドーマウスはもう一度不満げな鳴き声を漏らして、そうしてからまた眠りについた。
メガリスは銀誓館学園に寄贈するつもりだ。学園への道を歩きながら、ディルは思うのであった――
……ああ、落ち着ける場所についたら、自分で淹れた紅茶を一杯飲もう、と。
斯くして。メガリス「大江山の首酒」は、一般人である金有氏の手元を離れ、落ち着くべき場所へと落ち着いた。
それがどこに行ったとしても、それは別々の世界線の|結末《はなし》である。
大成功
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