小学生碎輝と夏休み~宿題なんてぶっ飛ばせ!
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「夏!! 夏だ! 今日は何しよっかな~!」
――青々とした稲田が広がる、どこか懐かしい田園風景の中で。黄金の竜の角持つ少年が、思いきり両腕を伸ばしていた。辺りにはのどかな蝉の声が響いている。伸ばした腕を下ろし、少年――小学生形態となった碎輝はふぅ、と息をついた。自身が大祓百鬼夜行で封印を解かれて二年目の夏。夏は肝試しにスイカ割り、虫取り、夏祭り、花火大会と楽しいイベントが盛り沢山だ。無限に成長してしまうという特性から、カクリヨを滅ぼさないため眠りにつかざるを得なかった彼だが、この姿ならしばらく成長しない。ゆえに、気兼ねなく夏を満喫することができる。これも猟兵達のおかげだな、と笑みをこぼし、駈け出そうとした彼の背後から、声をかけてくる者があった。
「――そこの小学生よ」
「……うん?」
俺のことか? と振り向く碎輝。果たして、そこには銀髪の、眼鏡をかけた少女が立っていた。フリルのついた、可愛らしいノースリーブの白いシャツに、ふわりと広がる二段重ねの黒いスカート。柊のような花の飾りのついた黒いベレー帽に、同じ飾りのついた編み上げのヒールサンダルと、涼しげでなかなか小洒落た服装の。小学生よ、と呼びかけた彼女の方も小学生ぐらいに見えるほど幼い。何か用か? と首を傾げる碎輝の前で、少女はツンと腕を組んで口を開く。
「夏休みだからと遊んでばかりは感心しないな。この悪茄子様の作品でも読んで、読書感想文のひとつでも書いたらどうだ」
突然言われた、可愛らしい見た目とは裏腹に辛辣な一言に、碎輝は戸惑う。
「えっ……いや、そんな急に言われても」
「いいから読め。そして感想文を書け!」
「は、はあ……」
構わず本を押し付けて詰め寄ってくる少女の迫力に気圧され、碎輝は分かったよ、と渋々受け取る。そして本を開き、ページを捲り……やがて頭から煙を出した。
「わ……分かんね~!!」
●
「夏休み……宿題……読書感想文……ウッ!」
グリモアベースの片隅で、雨月・雨莉(は何もしない・f03581)が頭を抱えてうずくまっていた。毎日が夏休みなヒキニートのくせに、一体どうしたというのか。訝しがる猟兵達の前で、彼女は顔を上げた。
「あの、碎輝がピンチっす……」
どっちかというと言ってる本人がピンチに見えるほど弱々しい声だった。よろよろと力なく立ち上がり、雨莉は続ける。
「……無限に成長してしまう竜神親分碎輝は、その力でカタストロフを起こしてしまわないために、定期的に猟兵達の手で倒される事で、しばらく成長しない小学生形態になってるってことは、皆さんもご存知だと思うんすけど」
しばらく成長しないという隙を狙ってか、骸魂と合体してオブリビオン化した妖怪が、小学生になった碎輝を殺そうと襲いかかってくる事件が度々起こるようになった。此度の事件もそうだという。
「なんで、皆さんにはこのオブリビオンを倒して、碎輝を守って欲しいんすよ」
雨莉の言葉に、猟兵達は力強く頷いた。竜神親分たる彼が殺されるのは避けたい。頷いた猟兵達を見、では、と雨莉は口を開く。
「今回皆さんに倒して欲しいのは、悪茄子。何でも書ける天才作家という妖怪です」
ホラーからミステリ、コメディから恋愛、はたまた純文学に至るまで、なんでも書けるというのは確かにものすごい才能だ。だが、彼女の作品にはひとつ、大きな問題があって。
「……分かりづらいんすよ」
雨莉がポツリ呟いた。そう、内容が高尚過ぎて読み手の理解が追いつかないのか、それとも実のところなんでも書ける才能に文章力が追いついてないのか、あるいは内容、もしくは文章が独りよがり過ぎるのか……分からないがともかく、分かりづらい。
「その超分かりづらい小説を、碎輝に読ませて……感想文を、書かせようとしてウッ」
雨莉がまたも頭を抱えた。
「そんな、分かりづらい小説の読書感想文なんて……! 俺が昔、ロシア文学なら登場人物の名前が長いから原稿用紙のマスが早く埋まると小耳に挟んで、手を出して案の定よく分かんなくて結局感想文一行も書けなかったトラウマが!」
青い顔でどうでもいい思い出をぶつぶつ呟いている雨莉。……なるほど、冒頭妙に弱っていたのは、今回の敵に昔のトラウマを刺激されたからか。呆れつつ、話を聞いていた猟兵が手を挙げる。
「でも、最初の話だと確か、碎輝を殺そうと狙ってくるんじゃなかったっけ? 自分の小説読ませて、感想文書かせようとしてくるだけなら、迷惑ではあるけどそんな……」
「いや、結局分からんって言われて激昂して殺そうとするんで」
「……なるほど」
なかなか過激派の作家のようだ。尤も、と雨莉は付け加える。
「そんな、殺そうとするほど激昂するのは、骸魂と合体してオブリビオンと化しちゃってるからで。本来は、いたずら大好きなだけの無害な妖怪です。あるいは、碎輝に自分の作品を読ませて感想文を書かせようとしたのも、彼女なりのいたずらだったのかもしれません」
そうなのか。であれば、碎輝はもちろんのこと、悪茄子のことも救わねばなるまいと猟兵達は拳を握った。カクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」。飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できるはずだから。
やるべきことが分かったところで、再び猟兵が質問する。
「それじゃ、その悪茄子とはどうしたら接触できるんだ?」
碎輝を守るにしてもオブリビオンを倒すにしても、とにかくその本人と接触できなければどうしようもない。猟兵の疑問に、雨莉はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに腕を組んでうんうんと頷いた。
「簡単っす。碎輝と、夏休みを満喫してください」
……はい?
オブリビオン退治とはあまり関係なさそうな雨莉の一言に、猟兵達はポカンとした。
「碎輝と……夏休みを満喫する?? それで出てくんの? オブリビオンが?」
「はい。っつーのも、俺が見た予知だと、碎輝が夏を楽しもうと駈け出したところで、『夏休みだからと遊んでばかりは感心しない』ってしゃりしゃり悪茄子が出てきたんすよ。ってことはつまり、悪茄子が呆れかえるほど碎輝が夏休みを満喫していれば、同じ説教するために出てくるはずっす」
せやろか。まあ、雨莉は腐ってもグリモア猟兵。言うことに間違いはないはずだ。それに、と雨莉はどこか寂しげな顔をした。
「……碎輝って、大祓百鬼夜行で封印を解かれるまでずっと、カクリヨの最深部で眠ってたじゃないっすか? たぶん、夏を楽しんだこと、あんまりないと思うんすよね」
確かに、そうかもしれない。だから、と雨莉は続けた。
「小学生形態でしばらく成長しない今ぐらい、思いっきり遊ばせてあげたいんすよ。小学生の夏休みなんて遊ぶもんです」
……まあ俺の小学校時代なんて、ゲームで遊び過ぎて宿題がピンチだったっすけどね、と明後日の方を見、雨莉は咳払いをする。
「と、ともかく。大事なことを言い忘れてました。いくらしばらく成長しないといっても、さすがにオブリビオンに襲われれば、立ち向かうために強く成長しちゃうことが予想されます。なんでここは、うまく出番を譲ってもらって戦ってください」
それじゃ、と雨莉はグリモアを煌めかせる。
「碎輝と夏休みを楽しんで、宿題(オブリビオン)なんてぶっ飛ばしましょう!」
そう言って、雨莉は猟兵達を送り出した。
夏を待つ、碎輝の元へと。
ライ麦
ライ麦です。夏休みの宿題は毎年今年こそは7月中に終わらせよう! と意気込み、結局果たせず終わり頃に泣きながらやるタイプでした。
以下詳細です。
●第1章
小学生形態の碎輝と夏休みを満喫します。ここは一旦宿題(オブリビオン)のことは忘れて死ぬほど遊んでください。
キャンプ、海水浴、スイカ割り、流しそうめん、花火、夏祭り等、夏休みならでは! ということならなんでもやっていただいて構いません。会場への移動手段など、細かいことは気にしないで大丈夫です。ここはカクリヨなんで、なんでもありです。
●第2章
碎輝に読書感想文を書かせるべく、ボス敵が出現します。碎輝はすぐ成長してやっつけようとするので、「ここは俺にまかせて先にいけ」とか「ここは俺に譲ってくれないか?」みたいな、ヒーロー大好き小学生が燃えるシチュエーションで出番を譲ってもらい、かわりに戦いましょう。
以上です。
それでは、小学生碎輝と最高の夏休みを!
第1章 日常
『妖怪たちの夏休み』
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POW : 全力で遊ぶ!
SPD : マニアックに遊ぶ
WIZ : 静かに遊ぶ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
亞東・霧亥
「一々倒すのが面倒になって、最初から小さい方を選択したとしか思えんのだが・・・。」
本性と本能が剥き出しの天の声に向けて溜め息を吐く。
【UC】
過(略)、ショタの王(定着)。
おい、出たとか言うな。
今回はメイド服など着ていない。
上から麦わら帽子、半袖半ズボン、虫あみ、虫かご、サンダル、そして背中にタモ網。
背格好もショタ歴もコチラが勝ってるからショタの王が兄貴分だ。
さあ、文字数には限りがあるんだ、取り敢えず俺に付いてこい。
長閑な田園の遊びをしよう。
蝉(の羽)を獲ったり、小川や田畑の用水路で獲れたメダカやゲンゴロウを(同じ)かごに入れたり、蟻の巣を水攻めにしたりな。
楽しい?才能あるな。
*()内は参考程度
(「一々倒すのが面倒になって、最初から小さい方を選択したとしか思えんのだが……」)
天に向けて溜め息を吐く亞東・霧亥(峻刻・f05789)に、天の声(作者)は言い返す。違います~! 純粋に小学生碎輝と夏休み満喫するシナリオがやりたかっただけです~!!
というのはさておき。まあいいかと首を振り、霧亥は時を遡る力に覚醒する。次の瞬間、そこには既に見慣れた感のあるショタの王……もとい書架の王が立っていた。ユーベルコード【屍山血河(シザンケツガ)】の力でもはや定着した変身を終えた霧亥は、手短に着替えを済ませ、田園風景の中で伸びをしている碎輝の前に登場する。
「よう。ちょっと前に戦った時ぶりだな。元気か?」
突然目の前に現れた書架の王の姿に驚き、碎輝は尻もちをついた。
「で……出た~!!」
まるでお化けでも出たように指差す彼に、霧亥はやや憮然として言い返す。
「おい、出たとか言うな。今回はメイド服など着ていない」
そう、彼の言う通り。今回ばかりは見慣れた()メイド服姿ではなく、上から麦わら帽子、半袖半ズボン、虫あみ、虫かご、サンダル、そして背中にタモ網と、完璧な一昔前の夏休みの小学生スタイルだった。書架の王、の名が示すように、どちらかというと書架に籠って本など読んでいそうなかの敵が、こんなアウトドア全開の格好してるのは、正直違和感が拭えなかった(作者が脳内で着替えさせた感想)。
碎輝も同じ違和感を抱いたのかそうでないのか。「いやたしかにそうだけど」などと呟きながら、起き上がってう~んと口元に手を当て、じろじろと変身&着替えた霧亥の姿を頭からつま先まで眺めている。そんな彼に、霧亥は腕を組んで言い放った。
「背格好もショタ歴もコチラが勝ってるからショタの王が兄貴分だ」
「そうか? 今は小学生になってるけど、俺だって竜神親分だぞ。最弱だけど」
負けじと腰に手を当てて胸を反らす碎輝。どっちが格上かという仁義なきバトルが勃発する前に、霧亥はくるりと背を向けた。
「まあいい、時間(文字数)には限りがあるんだ、取り敢えず俺に付いてこい」
「付いてこいって、何するんだ?」
これまでのアレコレがあるので()、若干警戒している碎輝に、霧亥は振り向いて言う。
「長閑な田園の遊びをしよう」
「遊び? 遊ぶのか! いいぞ!」
なんだかんだで今小学生の碎輝は、遊びの誘いに目を輝かせた。喜んで跳ねるように後をついていくる彼と一緒に、霧亥は蝉取りに興じたり、小川や田畑の用水路でメダカを獲ったり。一昔前の小学生らしい田園の遊びを満喫する。
「ゲンゴロウは水底の泥ごとすくって」
「泥ごとすくって……捕れた~!」
タモ網を確認し、中でゲンゴロウが動いているのを見た碎輝が歓声を上げる。
「いや~、楽しいな!」
満面の笑みを向ける碎輝に、霧亥も微笑んで。
「楽しい? 才能あるな」
「才能ある? 照れるな~」
頭を搔きつつ、なんの気もなしに捕ったゲンゴロウを先ほど捕まえたメダカと同じかごに入れようとして……。
「……ちなみにゲンゴロウはメダカを食べる」
「……やめよう」
そっと別のかごに入れ直した。そんなハプニング(?)もありつつ、二人は長閑な田舎の遊びを楽しんだのだった。
成功
🔵🔵🔴
ジゼル・サンドル
碎輝先輩…先輩?(一瞬首傾げ、親分だから先輩だな、と自己完結)碎輝先輩も夏休みか、わたしも夏休みなんだ。生まれて初めての夏休みだ。
義母にこき使われてた頃は休みなんてなかったから、シルバーレインの世界で銀誓館に入学して、夏休みというものを初めて知った。
おっと、自己紹介がまだだったな。『はじめまして こんにちは わたしはジゼル♪』(歌い出す)
『夏休みは嬉しいな~たくさん遊べるよ、何をしよう?』
日本の夏休みといえば虫取りだと聞いたな。セミやクワガタを網で捕まえるんだろう?(網ぶんぶん)
ここからは歌は封印して、そ~っと近づいて…
碎輝先輩見てくれ、セミには逃げられたがセミの抜け殻を発見したぞ!(ドヤ顔)
エスクルール・ラカーユ
アドリブ・連携可
碎輝さんにはいつもお世話になっているし、僕もいつか遊びたいなって思ってたんだ。良かったら一緒に遊ぼ!何して遊ぶ!?
僕?僕はね…あれやりたい
虫取り!ヘラクレスオオカブトやノコギリクワガタみたいなでっかいカブトムシかクワガタ捕まえてスイカ食べさせたり戦わせたりしたいんだぞ!
という事であらかじめ木に特製のミツ塗っておいたから碎輝さん競争だぞ!
ついてこれる回、僕の足の速さ!…えっ、場所?あの山の頂上にある神社の裏っ側の木!という事でレッツゴーだ!
(以降休憩と称して川でちょっと遊んだり寄り道しながら山に登って虫を捕まえます)
「初めまして碎輝先輩……先輩?」
明らかに小学生な碎輝の姿に、初対面のジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)は思わず首を傾げた。背こそ(それこそ小学生ばりに)低いが彼女は14歳、中学生だ。小学生形態の碎輝を見て先輩と言い淀むのも無理はない。しかし、彼は竜神の親分だと聞いている。親分ということは先輩でいいのだろうと自己完結し、ジゼルは手を差し出した。
「碎輝先輩も夏休みか、わたしも夏休みなんだ」
「おっ、そうなのか。夏休み楽しいよな!」
笑って差し出し返す彼の手を握り、ジゼルは力強く頷いた。
「ああ、生まれて初めての夏休みだ。義母にこき使われてた頃は休みなんてなかったから、シルバーレインの世界で銀誓館に入学して、夏休みというものを初めて知った」
「……そうなのか。なんか……色々、大変だったんだな……」
ジゼルの言葉の端々から見えるこれまでの苦労に、碎輝も同情するように目を伏せた。それから面を上げ、笑ってみせる。
「なら、なおのことこれまでの分も夏休み、楽しまないとな!」
「……ああ!」
ジゼルの顔からも笑みが零れた。これまでの灰色の日々とは打って変わって、青く煌めく夏の予感。熱くなる胸と昂る気持ちは、歌となって溢れ出す。
『はじめまして こんにちは わたしはジゼル♪ 夏休みは嬉しいな~たくさん遊べるよ、何をしよう?』
いつもの癖で突然歌い出したジゼルにも、碎輝はちょっと目を見開いただけで、
「ジゼルって歌上手いんだな!」
と感心している。不思議だらけのカクリヨの親分のこと、これぐらいで動揺したりしない。そこに、「あっ、いたいた! 碎輝さ~ん!」と元気よくエスクルール・ラカーユ(奇跡の迷子・f12324)も駆け寄ってきた。
「碎輝さんにはいつもお世話になっているし、僕もいつか遊びたいなって思ってたんだ。良かったら一緒に遊ぼ! 何して遊ぶ!?」
息を弾ませながら言うエスクルールに、碎輝も相好を崩した。
「エスクルールか! こっちこそ、いつもありがとな!」
グリモア猟兵である彼には、何度か自身の成長を止めるための依頼を持っていってもらっている。直接戦ったことはないが、知らぬ仲ではない。ジゼルも交えての挨拶が終わったところで、さて何をして遊ぶか。碎輝は腕を組んで考え込んだ。
「何して遊ぼうか……う~ん……二人は何したい?」
碎輝の問いかけに、エスクルールは、
「僕? 僕はね……あれやりたい。虫取り!」
と手を挙げた。
「ヘラクレスオオカブトやノコギリクワガタみたいなでっかいカブトムシかクワガタ捕まえてスイカ食べさせたり戦わせたりしたいんだぞ!」
「おお! それすっげーワクワクするやつ!」
夏の男の子のロマンに、小学生碎輝も瞳を煌かせて両拳を握った。ジゼルもまた、
「虫取りか。日本の夏休みといえば虫取りだと聞いたな。セミやクワガタを網で捕まえるんだろう?」
と持ってきた網をぶんぶん振っている。
「ジゼルもやる気満々だな! じゃあ虫取りでけってーい!」
勢いよく拳を天に突き上げる碎輝に続いて、二人もおー! と拳を上げる。エスクルールが早速その場で足踏みし出した。
「という事であらかじめ木に特製のミツ塗っておいたから碎輝さん競争だぞ! ついてこれるかい、僕の足の速さ!」
「なんの、かけっこなら負けないぞ!」
勢いよく、弾丸のように走り出そうとする二人に、ジゼルが慌てて
「ああっ、待ってくれ二人共! そもそもゴールはどこなんだ!?」
と手を伸ばす。ゴールさえ知っていれば、たとえ引き離されても追いつくことができるはず。ジゼルの問いに、エスクルールが振り向いた。
「えっ、場所? あの山の頂上にある神社の裏っ側の木! という事でレッツゴーだ!」
眼前に広がる山の頂を指差し、エスクルールは駆け出す。待て待て~、と楽しそうにその後を追う碎輝にやや遅れて、ジゼルも走り出した。緑豊かな田園風景を駆ける少年二人に後追う少女、長閑に響く蝉の声。まるで青春モノの映画のワンシーンのようだ。橋に差し掛かった時、陽の光を受けてきらきらと輝く川面に目を引かれ、エスクルールは立ち止った。
「あっ、待って。ちょっと休憩……」
そのまま橋を降りて、川辺に向かう彼の後に続いて碎輝も、
「確かに、ちょっとのど渇いたよな~」
と川に入っていく。川は浅く、流れも穏やかで、小学生が入っても大丈夫そうだった。川遊びにはもってこいだ。ジゼルも川を覗き込み、
『見て見て、魚がいるよ♪ お魚さん、こんにちは♪』
と心のままに歌い出す。清らかな流れをたたえた川は底まで透き通り、数匹の泳ぐ魚も見える。現代日本ではなかなか見られなくなった美しい小川だ。その水を両手ですくい、口をつけて飲んでいる碎輝に、エスクルールはちょっと悪戯心を起こして、
「碎輝さん、そ~れっ♪」
と水をかけてみる。
「わぷっ!? ……やったな~、お返しだ!」
碎輝も楽しそうに水かけで応戦。
「こらこら、二人共……」
声をかけたジゼルにも水がかかった。競争はどこへやら。あっという間に3人での水かけ遊びに発展し、きゃっきゃとはしゃぐ声が辺りに響き渡る。ひとしきり遊んだら、しばし川辺で休憩して濡れた服を乾かし、また山の頂上に向かって駆け出した。その道中も、ヤマモモの実がなっていたともいで食べたり、良さげな木の枝が落ちていたと拾っては遊んだり。もう競争とか忘れてる。そうして寄り道しながら、一行はやがて頂上に辿り着いた。
「ヘラクレスオオカブト! ノコギリクワガタ! いるかな~」
虫たちを驚かせないように、そ~っと息を潜めて、エスクルールはミツを仕掛けた木を見る。果たして、そこには大小様々なカブトムシやクワガタ、蝶などが群がっていた。
(「おっやったじゃん!」)
一緒に覗き込んだ碎輝が、小声で囁いてガッツポーズする。うん、と頷き、エスクルールは早速虫取りにかかった。
「ジゼルはセミ狙いか?」
歌は封印し、息を殺して網を構えているジゼルに、碎輝は声をかける。ああ、と短く答え、彼女は近くの木にとまって鳴いている蝉に狙いを定めた。そっと近づき、勢いよく網を振りかぶって……
「ああっ!」
声を上げたジゼルに、碎輝とエスクルールが駆け寄った。
「どうした!?」
「セミ、とれた?」
二人の問いに、ジゼルはいや、と短く首を振り、しかし堂々とドヤ顔をして何かを天に掲げた。
「碎輝先輩、エスクルール見てくれ、セミには逃げられたがセミの抜け殻を発見したぞ!」
日の光に透けて輝く抜け殻に、二人も歓声を上げる。蝉に比べたら蝉の抜け殻など、見つけるのも取るのも容易いが、虫取りにテンションが上がっている二人は特に気にしなかった。
互いの健闘を称えながら、彼らは思う存分虫取りを楽しんだのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『悪茄子』
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POW : 龍行龘龘
【瞬間的頭の中で敵の死に方を構想する事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【具現化した構想を従う群竜】で攻撃する。
SPD : 奇文共賞
【悪茄子が執筆した超わかり辛い小説】を給仕している間、戦場にいる悪茄子が執筆した超わかり辛い小説を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 呶呶不休
自身が装備する【誰も説得できる口】から【説得の台詞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【ワルナスビの作品を読む事をしかしたくない】の状態異常を与える。
イラスト:九尾みか
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「神代・セシル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
虫取りで互いの獲物を見せあい、キャッキャとはしゃぐ猟兵達と碎輝。楽しい……! この時間がずっと続けばいいのに、という思いがよぎったその時。不意に木陰から、射るような鋭い視線を感じた。
「誰だ!」
碎輝もその視線を感じたらしい。バッと彼が振り向くと、やれやれというように丸眼鏡を押し上げながら、銀髪の少女が出てきた。
「まったく……夏休みだからと遊んでばかり、感心しないな。ここはひとつ、この天才作家悪茄子様の作品でも読んで、読書感想文のひとつでも書くがいい」
「はあ? いきなり出てきてなんだよ、お前」
今いいところなのに、と碎輝が突っかかる。勢いで『成長』してしまわないか。ハラハラしながら見守る猟兵達の前で、少女はどこからか分厚い本を取り出した。それも人数分。
「まあそう言うな。読めばきっと、私の作品の素晴らしさが分かるはずだ。感想文1000枚くらい書けるかもな」
「……は、はあ……」
自信たっぷりに本を押し付けてくる彼女に気圧され、さすがの碎輝も渋々受け取った。ほら君達も、と猟兵達にも押し付けてくる。有無を言わさぬ迫力に、猟兵達も受け取らざるを得なかった。まあせっかくだし……と本を開いた猟兵達は、数ページ読んで目を見張った。
「こ、これは……!」
……分かりづらい!! たぶんなんか高尚なことが書いてあるんだろうなとは思うものの、やけにもったいぶった回りくどい言い回しに、冗長な場面説明、紙面に踊る難読漢字、どうも首尾一貫してないように見える登場人物の行動……。二、三回読み返してようやく意味が掴めることもあれば、かえって謎が深まることもあった。とにかく読書感想文のマス目を早く埋めようと、うっかりロシア文学に手を出しちゃったグリモア猟兵ってこんな気分だったのかな、と初めて彼女の気持ちが理解できた気がした。
これは碎輝にも分からないだろう、とチラリ彼の方を見ると、案の定。
「わ……分かんね~!!」
と頭から煙を出している。それを聞いた少女は激怒した。
「分からないだと!? この天才作家悪茄子様の作品が!? 失礼千万だ、ならば力づくで私の作品の素晴らしさをその身に叩き込んでやる!」
鋭く尖ったペンを片手に、こちらに突っ込んでくる彼女を前に、碎輝も拳を握った。
「失礼なのはどっちだよ、せっかく人が夏休み楽しんでるところを邪魔しやがって……! もう許さねぇ!」
バチバチと光る電流をその身に纏おうとする彼の前に、スッと猟兵達は進み出る。気持ちは正直すっごくよく分かる、でもここで成長させるわけにはいかない。どう言って出番を譲ってもらうか。考えながら、猟兵達は口を開いた。
※マスターより
お待たせしました、二章ボス戦開始です!
OP、マスコメにも記載あります通り、このままだと碎輝がオブリビオンに立ち向かおうと強く成長してしまうので、「ここは俺にまかせて先にいけ」とか「ここは俺に譲ってくれないか?」みたいな、ヒーロー大好き小学生が燃えるシチュエーションで出番を譲ってもらい、代わりに戦ってください。
また、ボス『悪茄子』は記載のユーベルコード以外にも、鋭く尖ったペンや紙の束、分厚い本等で攻撃してきます。ご注意ください。
一章参加していなかった方でも、二章からの飛び入り歓迎致します! どうぞお気軽に!
皆さんのプレイング、心よりお待ちしております!
亞東・霧亥
「碎輝、こういう事に強い助っ人を喚ぶから、向こうで待っていてくれないか?」
悪茄子のよくわからない原稿を前に、スマホを構える。
【UC】
『我は喚ぶ。修正せよ、修正せよ。時に優しく、時に厳しく。赤の軌跡で悉くを正せ。此処とは異なる世界より来たれ彷徨う者よ。汝の名は赤ペン先生也!』
手に十種の赤ペンを持ち、悠然と佇む先生をやる気にさせるべく、悪茄子の原稿を渡す。
原稿に目を走らせた先生は気付くと悪茄子を正座させて、簡潔に書く事の大切さについて檄を飛ばしていた。
安心しきった俺と碎輝の肩に先生の手が置かれる。
「感想を書く側も指導は必要だろう?」
えっ・・・あっ、ちょっ!?
*赤ペン先生の説明は天の声がします。
「碎輝、こういう事に強い助っ人を喚ぶから、向こうで待っていてくれないか?」
夏全開の初夏の王(※誤変換ではない)から元の姿に戻った亞東・霧亥(峻刻・f05789)がスマホを片手に言う。強い助っ人、の響きに碎輝は目を輝かせた。
「強い助っ人!? どんなやつだ!?」
ヒーロー大好き小学生にとって、ピンチに颯爽と現れる謎の助っ人というのは燃えるシチュエーションだ。ワクワクが抑えきれない様子の彼を後ろに下がらせ、霧亥はスマホを掲げた。
「我は喚ぶ。修正せよ、修正せよ。時に優しく、時に厳しく。赤の軌跡で悉くを正せ。此処とは異なる世界より来たれ彷徨う者よ。汝の名は赤ペン先生也!」
タップしたスマホの画面から、バシュウゥウ! と音を立てて煙が迸る。瞬刻、煙の中から人型のシルエットが立ち上がった。
「誰だ? 私を喚ぶのは……」
両手に十種の赤ペンを持ち、悠然と佇む、如何にも先生といった風貌の悪魔『彷徨う者』。その名は赤ペン先生……あくまで赤ペン持ってる先生だから赤ペン先生というだけであって、某通信教育とは何の関係もない。ともあれ、先生をやる気にさせるべく、霧亥は先ほど受け取った悪茄子の著作を手渡した。
「よく来てくれた、赤ペン先生。さっそくだが、この小説を添削して欲しい」
「ふむ。添削か」
よかろう、と頷いた先生は受け取った本をパラパラとめくり、唸る。
「なるほど、これは……ひどいな」
「ひどい!? ひどいだと!?」
書評を聞いた悪茄子はたちまち激昂した。
「このなんでも書ける天才作家、悪茄子様の作品が『ひどい』とは! どこがどう『ひどい』のか……私の著作を『とくと読み』説明したまえ!」
なんでも書けると豪語するのと同様、誰でも説得できるという彼女の口から、「自身の作品を読むように」説得する台詞が放たれる。同時に、紙の束も飛んできた。まだ書籍化していない原稿だろうか。先生はそれらを片手で受け止めると、十種の赤ペンを駆使して何やら書き込みながら次々に読破していく。いくら『悪茄子の作品を読む事しかしたくない』という状態異常を与えられていようと、そもそもこの場における先生の仕事は「悪茄子の作品を読む事(そして添削すること)」だ。痛くも痒くもない。涼しい顔をして全て読み終えた先生は、キュッと赤ペンの蓋を閉めて言った。
「添削……完了だ。君、ちょっとそこに直りなさい」
「はいぃ!?」
赤ペンで真っ赤に染まった原稿、それに先生の有無を言わさぬ迫力にビビった彼女は、存外素直にそこに正座した。そんな彼女に、添削済みの原稿を見せながら先生は説教する。
「まず一文が長い」
「はぅう!?」
実のところ自覚はあったのか。先生の端的かつ的確な指摘に、悪茄子は胸を押さえた。先生は淡々と続ける。
「それに、描写がいちいちくどい。例えばここ、『昼と夜を分かつ者が、黄金の大地を赤き血潮という光で真っ赤に染め、次第に辺りは黒き帳で覆われていく』なんて、ただ夕日が沈んだだけのことをいうのに格好つけすぎだし回りくどい。しかもこんな表現が延々と続くから読みづらい」
「うっ!」
悪茄子が首を垂れる。その後も先生は容赦なく、「格好つけようと難読漢字を使いすぎ」「シンプルに書けばいいものを、わざわざ文章をこねくり回して難解にしている」「要するに、自分の文章に酔っている」などと辛辣な批評を続けた。さしもの悪茄子も、次第に縮こまっていく。先ほどまでの尊大な態度を取り続けられないのは、先生の批判が耳に痛くとも当たっているからだろう。
「――と、いうことで。あまりに読み手を無視しすぎだ。どれだけ高尚なことを書こうと、伝わらなければ意味がない。分かったね?」
「はひ……」
全ての原稿の|批評《ダメ出し》を聞いた彼女は、色んな意味で大ダメージをくらって、「ま、参りました……」と土下座している。その様子を見ていた碎輝は興奮に拳を握った。
「すっげー! あの助っ人、つえーな!」
「ああ、上手くいってよかった……」
安心しきった碎輝と霧亥の肩に、いつの間にか近づいてきていた赤ペン先生の手がポンと置かれる。
「さて、今度は君達の番だ。感想を書く側にも指導は必要だろう?」
「えっ、俺達はその、別に……」
「問答無用」
「えっ……あっ、ちょっ!?」
――その後、木陰から碎輝と霧亥の阿鼻叫喚の声が響いたのは、たぶん言うまでもない。
大成功
🔵🔵🔵
ジゼル・サンドル
八坂先生(f37720)と。
さっきの助っ人(赤ペン先生)すごいな!
わたしも頼りになりそうな助っ人を呼んでおいたんだ。そろそろ来ると思うのだが…
来た来た、先生~!(手を振り)
わたしの担任で、シルバーレイン世界での保護者代わりでもあるんだ。
先生、碎輝先輩にもアレを見せてあげてくれないか?
うむ、ここは変身した先生とわたしにまかせて碎輝先輩は先に行ってくれ(何処に)
悪茄子先輩の小説には【呪詛耐性】で耐えつつ、先生をシンフォニック・キュアでサポートしよう。歌うのはもちろん銀誓館学園の校歌。
先生に合わせて「わたしにはこんな小説は絶対書けないな」と褒めてみたり。
…わたしも、帰ったら宿題やらないといけないな…
八坂・詩織
ジゼルさん(f34967)と。
こんにちは。銀誓館中等部教師の八坂・詩織です。専門は理科ですけど。
では、今からカッコいい変身をお見せしますね。
|起 動!《イグニッション》
白い着物を纏い、瞳は青く変化。
せっかく変身したことですし、ここは私に譲ってもらえませんか?
小説を読めと?
…なるほど、分かりにくくてページが進みませんね…
【呪詛耐性】で耐えつつ、添削…はもう十分そうなので褒めて伸ばす方向で。
これだけ書けるのはすごいと思いますよ。分かりやすく書ければもっと伸びるはずです。
無駄な部分は削ぎ落しましょうね、ということで指定UCで攻撃です。
まあ、悪茄子さんの言う通り、夏休みの宿題は計画的にやりましょうね。
「さっきの助っ人(赤ペン先生のこと)すごいな!」
よれよれになって木陰から出てきた碎輝に、ジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)は興奮気味に話しかけた。
「ああ、すごかった……指導もすごかった……」
相当熱のこもった指導をされたのだろう、疲れ切った顔で答える碎輝に小首を傾げつつ、ジゼルは言う。
「実は、わたしも頼りになりそうな助っ人を呼んでおいたんだ。そろそろ来ると思うのだが……」
「助っ人? ジゼルも呼んだのか?」
助っ人多いな、と呟きつつ、でもカッコいい助っ人は彼としても歓迎だ。次はどんなやつなんだろう、とワクワクした面持ちで待つ碎輝の前で、かの人物を見つけたジゼルは大きく手を振った。
「来た来た、先生~!」
緑の和傘を差し、淑やかにこちらに向かって歩いてくる黒髪の女性。八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)その人だ。ジゼルと碎輝に気付くと、軽く会釈をする。
「こんにちは。銀誓館中等部教師の八坂・詩織です」
「詩織か、よろしくな! 詩織も先生なんだな……」
「ええ。専門は理科ですけど」
微笑む詩織の隣で、ジゼルは胸を張る。
「八坂先生はわたしの担任で、シルバーレイン世界での保護者代わりでもあるんだ」
「そうなのか」
「ああ。というわけで、先生、碎輝先輩にもアレを見せてあげてくれないか?」
アレ? と首を傾げている碎輝の前で、詩織は懐からカードを取り出した。
「では、今からカッコいい変身をお見せしますね。|起 動!《イグニッション》」
その言葉を唱えた瞬間、詩織の服は白き着物へと変化し、茶色がかった瞳も青く染まる。風に舞う花を思わせる、薄紅色の結晶輪を構える詩織に、碎輝は息を呑んだ。
「すっっげー……カッコいい! あれか、銀誓館学園で開発された技術ってやつか!」
碎輝は以前にも、別の猟兵が|起 動《イグニッション》する様を見たことがある。ゆえに知ってはいるのだが、何度見てもカッコいいとはしゃいでいた。そんな彼を守るように、詩織は前に立つ。
「せっかく変身したことですし、ここは私に譲ってもらえませんか?」
「うむ、ここは変身した先生とわたしにまかせて碎輝先輩は先に行ってくれ」
ジゼルも腕組み頷いた。
「そうだな、せっかく変身したんだしな! じゃあ俺は……先にヘラクレスオオカブトみたいな大物探してくる!」
手を挙げて駆けていく彼の背に向かって、ようやく厳しい講評から立ち直ったらしい悪茄子が手を伸ばす。
「ああ、待て! まだお前の感想文読んでな」
「貴方の相手は私達です!」
その前に詩織とジゼルが立ちはだかった。悪茄子は胡乱な表情を見せる。
「なんだ、新手か? なら……私の小説を読むがいい」
さっき赤ペン先生にボロクソに批判されたのに懲りず、悪茄子は詩織にも自身の著作を手渡した。ついでにジゼルにも。さっき(一応)読んだよ。
「小説を読めと? ……これは……」
言われた通り、本をペラペラと捲った詩織は頭痛をこらえるようにこめかみを押さえた。
「………なるほど、分かりにくくてページが進みませんね……」
あまりに分かりづらすぎ、何度も読み返したりしてるせいで、ページを捲る手の動きは止まりがちだ。いや、ページを捲るという動作のみならず、全ての行動が緩慢になっている気がする。これも相手のユーベルコードなのか。詩織とジゼルは呪詛耐性でそれに耐えつつ、次の一手を探した。
「負けるな、先生!」
まずはジゼルが口火を切った。鼓舞する言葉に続いて、澄んだ歌声が溢れ出す。歌うのは、もちろん銀誓館学園の校歌。昔から馴染んだ歌は詩織に共感と癒しをもたらす。その効果で悪茄子のユーベルコードを振り払った詩織は、今度はこちらの番とまっすぐに悪茄子を見据えた。
「添削……はもう十分そうですね」
いまだ彼女の周囲に散乱する、書き込みで真っ赤に染まった原稿を見やり、詩織は呟く。ならばこちらは褒めて伸ばす方向で、と口を開いた。飴とムチ、ではないが、叱る先生がいるなら褒める先生もいるべきだ。
「でも、これだけ書けるのはすごいと思いますよ。分かりやすく書ければもっと伸びるはずです」
思いがけない褒め言葉に、悪茄子は目を見開く。
「ほ……本当か!?」
さっき散々絞られたこともあり、その言葉はオアシスのように悪茄子の心に響く。ジゼルも頷いた。
「ああ、わたしにはこんな小説は絶対書けないな」
「そ、そうか……照れるな……まあ、私はなんでも書ける天才作家だからな!」
おだてられて気を良くした悪茄子は一転、腕を組んでふんぞり返る。その隙に詩織は全身から月光の魔力を放出し、全ての能力を倍増させた。能力者から猟兵として覚醒した後に獲得した術だ。
「ええ、でも無駄な部分は削ぎ落しましょうね」
こんな風に、とにこり微笑んだ詩織に合わせるように、月光の刃が四方八方から悪茄子に襲い掛かる。斬り裂かれ悲鳴を上げる彼女を尻目に、ジゼルはポツリ呟いた。
「……読書感想文、か……わたしも、帰ったら宿題やらないといけないな……」
「まあ、悪茄子さんの言う通り、夏休みの宿題は計画的にやりましょうね」
担任として、詩織はジゼルにそうアドバイスしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エスクルール・ラカーユ
任せてよ、賢者の影を使って悪茄子がこの小説に隠している|きょこー《虚構》を暴いてダメージを与えるんだぞ!いざ!
(数分後)
わ、分かんないよ~!
これ僕たち読む人のこと考えて書いてないだろ
だって習ったことない漢字いっぱいあるし言ってる事もさっぱりだ!自分が書いて自分だけが楽しい小説だよ!
人に読んでもらって面白いって言ってほしいならもうちょっと考えて書いてほしいんだぞ~!あとえーっとバカー!
うっ、うっ。賢者の影発動すれば御の字だけどどうだろ
発動しなくてもダメージ入ってる気がするけど気付かないふりだ
そういえば碎輝さん僕大事なこと思い出しちゃった
今日やれって言われてたこくごドリルやってない…
たすけてー!
「見てくれ! ヘラクレスか分かんねーけどデカいカブトムシ見つけた!」
ジゼルと詩織が華麗な連携で敵にダメージを与えている間、先に行って大物探してた碎輝が得意満面の笑みで、大きなカブトムシを掲げて戻ってきた。それを見逃す悪茄子ではない。丸眼鏡を光らせ、彼の前に立ちはだかった。
「来たな! 今度こそお前に感想文を」
「任せてよ、賢者の影を使って悪茄子がこの小説に隠している|きょこー《虚構》を暴いてダメージを与えるんだぞ! いざ!」
エスクルール・ラカーユ(奇跡の迷子・f12324)がさらにその前に立ちはだかり、碎輝に押しつけようとした小説を奪う。意気揚々とそれを開いたエスクルールは数分後、
「わ、分かんないよ~!」
と嘆いていた。どうもその小説はミステリっぽかったが、犯人はおろか、話すら分からなかった。わずか9歳の彼には余計に難しい。エスクルールは素を垣間見せるような泣き顔で叫んだ。
「うっ、うっ。これ僕たち読む人のこと考えて書いてないだろ!」
「うっ!」
叫びとともに伸びたエスクルールの影が、悪茄子に絡みつく。その影を振り払おうとしながら、悪茄子は真っ赤になって怒鳴った。
「な、ななな何を言う! 私はきちんと、読み手が楽しめるように伏線モリモリにして書いてうっ!!」
『嘘だ』というように、影が悪茄子の体を締め付けた。【賢者の影】は命中した対象が真実を言えば解除されるユーベルコード。ということは彼女の言うことは『真実ではない』。おそらく、本当はそんなこと考えて書いてなかったのだろう。エスクルールはさらに畳みかけた。
「だって習ったことない漢字いっぱいあるし言ってる事もさっぱりだ! 自分が書いて自分だけが楽しい小説だよ!」
「だ、だからそれは難しい漢字にも親しんでもらおうという私の親心ではぐぅ!?」
影がさらに悪茄子を強く締め付けた。傍から聞いてても苦しい言い訳だ。自分と自分の小説を正当化しようとすればするほど、ダメージは蓄積されていく。というか、賢者の影関係なくダメージ入ってる気がする。それには気付かないふりで、エスクルールは声を張り上げた。
「人に読んでもらって面白いって言ってほしいならもうちょっと考えて書いてほしいんだぞ~! あとえーっとバカー!」
精一杯の悪態をつき、肩で息しながら悪茄子を見る。彼女はさっきまでの尊大な態度はどこへやら。両手で顔を覆い、しゃがんで縮こまっていた。
「す……すいませんでした~!!」
ついに謝罪の言葉が飛び出した、その瞬間彼女の体からも何かが飛び出した。白く輝く霊魂、あれが骸魂だろうか。それがスーッと空に立ち上り、消えていく。がっくりと膝をつく悪茄子。後方からそれを見ていた碎輝がおそるおそる声をかけた。
「……やったのか?」
「……みたいだね。うまく骸魂だけ倒せたみたい」
「そっか……そっか……やった~!! これでもうわけわかんない本読まされた挙句感想文書けとか言われなくなるー!!」
パァッと顔を輝かせ、バンザイする碎輝。勢いでハイタッチしながら、エスクルールも笑った。
「うん! これで宿題も終わり……あ」
華やいだ彼の表情が、何かに気付いた瞬間みるみる曇って絶望の顔になる。碎輝は慌てふためいた。
「ど……どうした!?」
せっかくオブリビオン倒せたのに、まだ何かあるのかと心配そうな彼に、エスクルールは半泣きで訴えた。
「そういえば碎輝さん、僕大事なこと思い出しちゃった……今日やれって言われてたこくごドリル、やってない……たすけてー!」
「あー……」
そういうことか、と碎輝は明後日の方を向いて頬を掻いた。ややあって言う。
「……その……後で一緒にやるか?」
「いいの!?」
「ああ、今日助けてもらったし……宿題は、大事だからな」
「それなら……その……私も混ぜてもらっていいだろうか?」
いつの間にか起きていた悪茄子(もうオブリビオンではないからただの茄子なんだろうか?)が、おずおずと手を挙げた。目を剥く碎輝とエスクルールに、かの少女妖怪はポツポツと語る。
「その……散々批評されて分かったんだ、私には国語力が足りないと……いつか、皆に本当に面白いって思ってもらえる小説が書けるように、まずは国語ドリルからやり直したい。いいか?」
その言葉に、驚いていた二人も笑顔で答えた。
「もちろん!」
――こうして、たくさん遊んで、たくさん学んで。小学生碎輝の夏休みは更けていく。もっと大きく、成長するために。
成功
🔵🔵🔴