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誰ソ彼レ

#UDCアース

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#UDCアース


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 ――とおりゃんせ、とおりゃんせ、ここはどこのほそみちじゃ。
 少女は口ずさみながら街を歩く。
 音楽の授業で歌を褒められた。そんな嬉しいことは久しぶりで、だからいつまでも帰りたくなかった。
 だって、お家に帰ったら。

 ――てんじんさまのほそみちじゃ。ちっととおしてくだしゃんせ。
 お家に帰っても、いいことなんて一つもない。
 難しいことは分からないし、分かりたくもない。ただ、ずいぶんと昔から、家にいるのがとても苦しかった。

 ――ごようのないもの、とおしゃせぬ。
 お父さんはいない。お母さんは……にばかり出かける。お金はあるから、ご飯はコンビニで買っていく。好きなものは、なんだっけ。

 ――このこのななつのおいわいに。
 ふと、とても悲しくなった。どうしてわたしはこんなにお家が寒いんだろう。他の子たちが話す家族というのは、何か別世界の生き物ではないのだろうか?

 ――おふだをおさめにまいります。
 かえりたくない。ずっとこの夕焼けを見ていたい。楽しい気持ちのままいたいのに。
 お空でカラスがかあと鳴いた。
「ねえ、いっしょにあそぼ?」
 ふと、声が聞こえる。家と家の隙間に、見たことのない女の子が立っていた。

 ――いきはよいよい。かえりはこわい。
 年の頃は同じくらい。見慣れた通学帽子は薄汚れていて、どうしたのだろうと心配になった。
「おとうさんとおかあさんがかえってくるまで、あそぼ?」
 ああ、つまりこの子もそうなのだと。猛烈な親近感を抱いて無邪気に頷く。差し出されたその手を取った。
 カチリ、と錠が落ちるような音がした。
 そういえば、家と家の隙間に、神社の鳥居なんてあっただろうかとふと疑問に思い。

 ――こわいながらもとおりゃんせ、とおりゃんせ。
 後には何も残らなかった。
 誰もいない黄昏時。夕焼けの朱が、べったりと住宅街に焼き付いている。


「……グリモアって寄せ木細工のようにも見えますよね」
 失礼、関係の無いことでした、と織戸・梨夜(ミズ・オルトロスの事件簿・f12976)は咳払いをする。彼女のグリモアはキューブ状だ。装飾された箱、という観点ならそう見えなくもない。
「とまれ。UDCアースの地方都市で神隠し事件が起こっています」
 言って、梨夜は自分のラップトップをスクリーンに投影する。そこにはオカルト系ブログ記事が映っていた。タイトルはこうだ。
 ――【洒落怖】ゆかりちゃんが再来した件について【神隠し】。
「怪談の正体はおそらくコレでしょう。神隠しに遭った子供が、戻ってきたら怪物になっていた。そういった都市伝説をベースにしたUDCです」
 チェンジリングめいていますよね――と付け足す。『ゆかりちゃん』は今までも何度か登場した事例があるが、今回は『自分と同じ目に遭わせる』という趣向らしい。
「ここの書き込みによると、現時点での行方不明者は七名。共通点は小学生であること、下校途中に失踪していること、それから……」
 梨夜は少し言いよどんだ。
「――ネグレクトを受けていること、ですね。親子関係がうまくいっておらず、それで通報が遅れたそうです」
 同じ地域に七件。世知辛いですよね、と梨夜はため息を吐いた。

「何はともあれ、これ以上の被害は食い止めなくてはなりません。該当地域の調査は終わっています。条件に合致しそうな小学生児童のリストです」
 リストになる程度には人数がいるのか――と思えば暗澹たる気持ちになる。それに、つまりこれは子供達に貼り付けと……。
「……大丈夫です。通報されても問題ないように話は通してあります。子供達のため、身体を張ると思っていただければ……」
 気の滅入る話ではあった。


「ゴホウ」
「またゆかりちゃんかよ草」
「ゆあきん!ゆ、ゆあー!!!」
「おまわりさんこいつです」
「ロッポウ」
「実際どうなん? ゆかりちゃんって人さらいの話あったっけ?」
「黄昏時だからよくあるシチュではある」
「↑↑↑お前それスレチやぞ」
「ちくわ大明神」
「誰だ今の」

 スレッドが更新されました。
「チッポウ」


むらさきぐりこ
 お疲れ様です。むらさきぐりこです。
 個人的にジンクスのあるネタですが、何もないといいなあ。好きだから使いたい……みたいな。なんかそんな感じです。
 全体的にじっとりしたホラーとなります。
 シリアスブレイカー系のプレイングをされる場合は頑張ってください(?)。

 第一章は探索。
 リストにあるという子供達に個別の名前は設定していません。いろんなアプローチをかけてみるとよいでしょう。
 二章・三章が戦闘となります。

 以上、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『黄昏時にひらく異界への扉の噂』

POW   :    連れ去られる条件を発生させないようにする、自分が囮になる等

SPD   :    速さを活かして効率的に聞き込みを行う等

WIZ   :    異変の情報を精査して原因を突き止める等

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

八坂・操
【SPD】

とーりゃんせーとーりゃんせー♪ っと、童歌はホラー映画の定番だよね☆
でも、操ちゃんは子供が犠牲になるタイプのヤツはあんまり好きじゃないなー?

という訳で、ネカフェ辺りでお手軽に『情報収集』しよっか♪ 小学児童の家族みたいな設定で適当にね♪
信憑性が低い情報も、共通している情報を繋ぎ合わせると形が見えてくるものだよ☆
「ゆかりちゃんの所為で集団登下校始まったってマ?」
「保護者誘導で駆り出された。姉なのに」
「妹が心配」
「攫われた場所とか分かる?」
……気になるのは「チッポウ」の書き込み。そして七件の行方不明。相手がアレを目的にしていると考えると、生存は絶望的か。



 とかく童謡にまつわる都市伝説は多い。
 かごめかごめ、はないちもんめ、赤い靴、その他諸々。古くからあるものには怪異譚が付随する。ホラーにおいては童心を逆手に取った演出として扱われることも多い。
「でも、操ちゃんは子供が犠牲になるタイプのやつはあんま好きじゃないなー?」
 エンターテイメントとしては露悪的に過ぎる。そしてこれは現実の脅威である。要するに胸糞だ。八坂・操(怪異・f04936)は鼻歌を口ずさみながら、キーボードを軽やかに叩いていく。

 オカルト系の掲示板、ブログ、SNSの書き込み。くるくると万華鏡のように画面を切り替えながら、操は情報の更新を待つ。
「ゆかりちゃんのせいで集団下校始まったってマ?」
 >マ。
 >クソめんどい。
 >小学生がこんなとこ見るんじゃありません。
「保護者枠として駆り出された件。姉なんだけど」
 >乙。
 >堂々とロリショタの楽園へ踏み出せるとか……最高かよ……。
 >ゆかりちゃんのサインください!

 一つ一つは眉唾物の与太話だ。だがつなぎ合わせれば自ずと点と線は見えてくる。
 ここにあるのはただの興味と暇つぶし。怪異は薄氷一つ踏み抜いた先に存在しているというのに、それを知らずに安穏と生きていけることのなんと幸福なことか。
「いや、妹が心配。ガチで」
 だが、それ故に、こういう手は有効に働くことがある。無作為な正義感に訴えかける。
「今までの子が攫われた場所とか情報plz」
 >今なんでもするって言ったよね?(言ってない)
 >草。
 >おっぱいうpマダー?
 >歳がばれるぞオッサン。

 ふと、一つのURLが貼られた。
『閲覧注意。監視カメラのアレ』
 操は躊躇せずにリンクを踏み抜く。たとえウィルスの類だろうと――まあ、ネカフェにはごめんなさいということで。

 果たして、そこにあった映像は。
 町内に設置された監視カメラの映像だった。時間は夕方。誰もいない住宅街の通りを、子供が一人歩いて行く。
 ――それが、家々の隙間を覗いたかと思うと、消えた。

 推定される条件。夕方、一人、隙間。
 ……七人の行方不明。「チッポウ」の書き込み。
「生存は絶望的か」
 独り言つ。ぞっとするような暗い音色だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮矢三・祇明
「ゴホウにロッポウにチッポウか...、大方、オカルトに詳しい奴が意味もなく書き込んだだけだろうな。」
ネットの情報は真実性と事実性がとれないと言い捨て、
学校近くの神社やお寺に足を運び、参拝しながら住職や年配の参拝客からめぼしい情報が無いか聞き出す。
あと、神社でおみくじが置いてあれば、おみくじを引いて今後の行く末を占う。

黄昏時が近づけば学校の近くの通学路に行きリストに載っている子供を探し見つければ、子供の衣服や表情を観察しながらゆっくりと後を付ける。
追跡中は【聞き耳10】で辺りを警戒する。
もしも、お巡りさんに通報されそうになったら【逃げ足5】で逃げる。



 ――嘘を嘘と見抜ける奴でないと、ネットを使うのは難しい。
 そう言ったのは誰だったか。宮矢三・祇明(多重人格者の探索者・f03726)は、該当区域を足で探ることにした。
 ネットの情報は真実味も現実味も薄い。書き込む人間のバイアスとコミュニティの性格によっていくらでも左右される。悪意を以て美辞麗句を並べ立てたり、善意を以て人を追い詰めたり。そういうのは引きこもり時代、嫌と言うほど味わった。
 要するに、信用できない。

 平日昼間の神社は人気が無かった。空はどんよりとした曇天で、なんとなく居心地の悪さを覚える。
「すみません、おみくじを引きたいんですけど」
 社務所に声をかけると、まだ年若い男性が対応した。神主だろう。
「最近子供の行方不明があるって聞いているんですが、何か知りませんか?」
 渡されたおみくじ筒をガラガラと回しながら、そっと切り出してみる。神主は痛ましそうな顔をした。
「いいえ、何も。ですが痛ましいことです。それに……」
「それに?」
「いえ、個人的な感想ですが。どうしても嫌な雰囲気がぬぐえないのです」
 霊感がある、と神主は言った。子供達の話を聞くと、背筋が寒くなるのだと。

 おみくじは――半吉だった。

 夕暮れ時、たまさか祇明はリストにあった少年を見つけることができた。はしゃいでいる子供達から一人はぐれて、とぼとぼと帰り道を歩いている。
 靴は汚れている。服も使い古した印象がある。何より歩く姿に覇気が無い。
 距離を取りながらもついていくと、少年が一人道を折れる。
 ――かちん、かちん。
 何か、錠前を外すような音が聞こえた気がした。

「――!」
 何か猛烈に嫌な予感がして、祇明は急いで角を曲がる。
 そこには、先ほどの少年が呆然と路地裏を見つめて立っていた。その視線の先には何もないコンクリートの隙間があるだけ、
「……ひっ」
 少年の小さな悲鳴。そしてピロピロとけたたましく鳴り響くブザー。どうやら血相を変えて走ってきた祇明に対して反射的に、らしい。
「ノー事案!」
 捕まっても大丈夫という話ではあったが、実際におまわりさんに捕まる心理的ダメージは計り知れない。祇明は逃げ出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

一一・一一
個人的にはかごめかごめのほうが好きな一一です

【WIZ】
さて、囮になるにもすでに自分は大人、おとなしく「コミュ力」で聞き込みをしまっすかね
原因がわかればなんとかなるかもしれないっすし
該当しそうな場所には隙間女さんに隙間で監視てもらうっす
これで何かがおこればすぐにわかるっすよ

それにしても書き込み「チッポウ」ってきになるっすけど「ロッポウ」も微妙に気になるっすね?
スレチっていってますけどほんとうっすかね?



 一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)は『かごめかごめ』を口ずさみながら街を歩いていた。
 たいした理由ではない。こっちの方が好きだからだ。
 この歌にも数多の都市伝説があるが、その中には『埋蔵金の隠し場所を暗示している』というものがある。夢があるのはいいことだ。

 それはともかく。
「ごめんなさい、お役に立てなくて」
「いえいえ、貴重なお時間ありがとうございましたっす」
 地元民への聞き込みは空振りに終わった。彼ら彼女らも事件には心を痛めているが、有益な新情報は得られなかった。せいぜい行方不明の子供が被虐待児童であることをくらいで、それは既知である。

 そうしているうちに黄昏時がやってくる。普段なら情緒有る夕焼けも、この状況では血の色と錯覚してしまう。
 どくん。
「――――」
 ふと、一一の背筋に薄ら寒いものが走った。次いで幻視が起こる。住宅街の暗がり、コンクリート塀の隙間の向こうから、何か得体の知れない気配が忍び寄ってくる。
 ――とおりゃんせ。とおりゃんせ。
 微かな歌声が一一の耳朶を擽る。その先に行かなければならないという猛烈な衝動が体中を駆け巡る。
 気づけば、目の前には真っ赤な鳥居が、

「…………っ」
 その場にしゃがみ込んで、はっ、はっ、と息を整えた。
「……これで、条件は、確定した、っすね……」
 ――隙間女。わずかな隙間からじいっと覗き込み続けるという都市伝説の一種。一一はそれを召喚し、『家と家の隙間』を監視させた。五感を共有しているから、何かあればすぐに感づける、と。

 一一は他の猟兵にこの情報を共有する。……ふと、思い出した。気になっていたことがあったので、ついでに質問をする。
「チッポウとロッポウって書き込み……スレチって書いてありましたけど、本当っすかね?」
 返信はすぐに来た。その都市伝説への解説がざっくりと書かれており――。
「……最悪っす」
 状況を察した――察してしまった一一は、苦々しげに独りごちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・咲凛
「こんにちは、私は咲凛です。あなたのお名前を聞いてもよいですか?」
エージェントさん達に協力してもらって、ターゲットの家の近くにある公園とかで、その辺の子供達と一緒に遊びながらターゲット達が他の子と一緒に遊べるように仕向けてみましょう。
攫われるのは夕暮れ時という事であれば、昼間たっぷり遊んだ後にまた夕方から遊びに出ようとは思わないでしょう。
第六感のささやきで(何かこの子、次に狙われそうだな)と感じたら、懐いたフリをして(懐きやすいのであんまりフリではないですが)家まで遊びに行く許可を求めてみます。
その子が攫われそうになったら武装ユニットを呼び寄せてその子を庇います。代わりに攫われるかもですね。



「こんにちは、私は咲凛です。あなたのお名前を聞いてもよいですか?」
 人好きのする笑みを浮かべながら、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は帰り道を歩く女子にそう名乗った。
 彼女は、一人だった。
 集団下校が始まっているという話だったが、うまく機能していないのか、それともこの子が極端に人見知りなのか。

「……いや。知らない人に、名前とか、教えたくない」
 どうやら後者のようだった。露骨に警戒されている。威嚇するようでいて、どこか怯えた瞳は、弱った犬を思わせる。
「私の名前は咲凛ですよ。何ならさくりおねえちゃん、と呼んでください」
「むり。あたしよりちびじゃん、おまえ」
「ひどいですっ!」
 幼いからこその容赦ないツッコミが咲凛を襲う。いや確かに武装を解いている咲凛は平均的な小学生女子よりも小さいかもしれない。まあ、事実、比較すると小さい、けれど。
 だが意識的には庇護する側なのだ。つまりおねえちゃんなのです!
「ついてくんなよ。へんしつしゃって通報されたくなかったらな」
「そんなこと言わないで、ね? そこの公園で、遊びましょう?」
 ――日が落ちる前に、遊び疲れてくれれば。

 咲凛はUDCエージェントの案内で、可能な限り対象の子供を見て回った。そしてこの子はとりわけ嫌な予感を覚えた。
 だから問題の黄昏時に、外出していないように仕向けたいわけだが――。
「そんなに遊びたいなら、めいれいしてやるよ。その足のおもちゃ、よこせよ」
 ……どこまでもつれない。人好きのする咲凛の笑顔をもってしても難敵――いや、だからこそ突き放したくなってしまうのか。

 そうして苦戦しているうちに、ふと鐘の音が聞こえた。
 山の上にあるカリヨン時計が、十七時を告げる。
 ふと。
 追いかけていたはずの少女が、いなかった。

「…………!」
 真っ赤な路地裏。うつろな目をした少女は、吸い寄せられるように塀の隙間に入ろうとしていく。
 その向こうには、顔の見えない、薄汚れた学童が彼女の腕を、
「いけない……!」
 咲凛は反射的に脚部のスラスターを起動する。突撃する勢いで少女を突き飛ばして腕を振り払い、

 ――あなた だぁれ?

 がちん。
 錠の落ちる音と共に、咲凛の意識が一瞬飛んだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

八尾・空子
…ふむ、チッポウが妾の知っておるアレなら次はハッカイじゃが、並の呪者なら扱えるシロモノでは無いがオブリビオンなら別ということかの。

先の調査で判明した監視カメラの場所に向かってみるとしようかの、何かの痕跡が見つかるかもしれんしな。
目的地への移動中は失踪者のリストをめくりつつ失踪者の共通点などの次のターゲットになりそうな者の当てをつけるとしようか。

失踪の現場に到着したら『第六感』を働かせつつ『人形艶舞』で呼び出した人形を駆使して周囲のオブリビオンの痕跡の探索を行うぞ。



 何の変哲も無い、住宅街の一角だった。

 八尾・空子(妖獣 五尾の空狐・f06432)は監視カメラが捉えた失踪現場を探索していた。
 ぱっと見、本当に何もない。ここにあるのは平和な住宅街だ。かつての好景気に浮かれて開発したはいいものの、それきり途絶えたベッドタウン。
 だが。
「……次はハッカイか。そうなれば手遅れ、じゃが」
 この街には『ある』のだ。空子の推測が正しければ、あの忌まわしき『箱』が、ここには存在する。
 嫌な話だ。怪談としての歴史こそ浅い(はずだ)が、アレは『本当に洒落にならないもの』という属性を以て膾炙してしまった。故に怪異として強力な部類に入り、生半可な術者では扱えない。
「オブリビオンなら……ということかの」
 『完成』する前に、なんとしても食い止めなければならぬ。

 今まで手に入れた情報を元に、被害者候補リストを精査すると以下のようになる。
 まず、何かしら『家に帰りたがらない』事情を持つ子供。まだまだ肌寒い季節にも関わらず、夕方まで帰宅を渋る児童だ。
 そして一人になりたがること。集団下校を意図的にボイコットしたり、途中で抜け出す、などだ。
 失踪した七人の目撃情報は不自然なまでにない。しかしカメラの映像には収められている。人避けの類が発動しているのだろう、と空子は推測する。
 あとは――。
「隙間、鳥居、か……。なら、実際に潜り込むのがよかろうな」
 空子は瞬く間にからくり人形をいくつも複製してみせた。そしてそれを家々の間に潜り込ませる。
 この先に『何か』があるという直感があった。果たして、鬼が出るか蛇が出るか。

成功 🔵​🔵​🔴​

空亡・柚希
【行動指針:SPD】
通学路沿いの図書館。司書さんの話や新聞記事などで情報収集を試みながら、
リストにある子が来れば、その子に注意喚起でもと。
コミュ力、目立たない技能を使って助けにする

お家に帰るのが苦しいのなら、こういう所にも時間潰しに寄る子もいると思う……根拠は、もしも僕ならそうした。それだけ。(帰れば楽器の練習と、勉強と。表向きは無視されなかったけれど、父はこの干渉に愛情を持っていたのだろうか。聞く術はもう無い)

……その本の続きは本棚にまだ無かったと思うけれど。返ってきてすぐの……カウンターの辺りかな。そこで見かけたよ。

ねぇ、ここを出た後はどうか『気をつけて』。最近は怖いことが多いから、ね。



 いつもの帰り道。風はぴいぷう寒いけれど、家に帰りたくなかった。
 だって、お父さんは僕を見てくれないから。お母さんは、ピアノを弾けとうるさいから。
 出来るだけお外にいたかったけれど、理由もない道草はやっぱり怒られる。どうしてかばれてしまうのだ。大人は嘘つきで、めざとい。
 だから――図書館に行くのが僕の習慣だった。
 これなら、勉強しているふりが出来るから。
 それに、本は、おもしろい。

「……ああ。この本の続きは、まだ棚になかったはずだよ。さっき返ってきたばかりだから、そこの返却棚を探してごらん」
 新しい人だろうか。見慣れないお兄さんは、そう言って丁寧に案内してくれた。
「このシリーズ、好きなのかい?」
 こくりと頷く。なぜだか、この人と話していると落ち着いた。親近感、というやつかもしれない。なんだか似ている……ような気がするのだ。

 そうして本を読んでいたら、気づくと外が暗くなっていた。
「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかな」
 お兄さんにそう声をかけられ、僕は帰ることにした。遅くなりすぎてもダメだからだ。親どころか、おまわりさんにも怒られかねない。
「――ねえ、ここを出た後は、どうか『気をつけて』ね。最近は、怖いことが多いから」
 なぜだろう。図書館を出るときに聞いた、お兄さんのその言葉が、妙に耳に残った。

「…………」
 そうして空亡・柚希(玩具修理者・f02700)は、リストにあった少年を見送った。
 日は落ちた。夕暮れは終わった。これで今晩に限っては、あの子は大丈夫だろう。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『ゆかりちゃん』

POW   :    「ただいま」「おかあさん、おとうさん」
戦闘用の、自身と同じ強さの【母親の様な物体 】と【父親の様な物体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    「どうしてそんなへんなかおでわたしをみるの?」
【炎上し始める捜索願いからの飛び火 】が命中した対象を燃やす。放たれた【無慈悲な】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    「ひどいよ、ひどいよ、ひどいよ」
【嗚咽を零した後、劈く様な叫声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 この辺りは元々、何の取り柄もない農村だったという。
 慎み深く信心深く、しかし日々を穏やかに過ごしていた。

 だが、近代化の波にはあらがえなかった。
 日本中を網羅せん勢いで広まっていく鉄道、車道、上がり続ける地価、マイホームを憧れとする国民達。
 この街もそれに抗わなかった。都心部に続くベッドタウンとして、過去にあった何もかもをコンクリートの下に埋め、生まれ変わったのだ。

 けれど、蓋をしただけだ。
 文明の下で、それらは必死に外に出ようと藻掻いていた。

『ねえ おうちはどっち?』
 血のような朱。
『わたしの なまえは ■■■ゆかり です』
 時計はとっくに午後十時を回っている。
『まいご に なりました』
 だのに、辺りは一面の夕焼け。人の気配は一切ない。コンクリートの家々が、真っ赤に真っ赤に色づいている。
『おとうさん と おかあさん は どこ?』
 薄汚れた洋服。ぼろぼろの通学帽。ノイズがかかってうまく見えない、顔。
『ねえ おしえてよ』
 その少女は、ぽつねんと、あなたたちの前に立っていた。

『どうして――そんなめで わたしを みるの?』
 音が飛ぶ。雑音が混じる。空気が湿る。

 かつてこの地面の下に閉じ込められた少女は、とても悲しげな声で、しかし確かな殺意を向けてきた。
月守・咲凛
あたまがふらふらします……。あの子は無事です……ね?良かった。
ゆかりちゃん、あなたはさらった子供達に何をしたのです!
質問してはいますけど、少々誤魔化されても何となく理解します。
あなたの帰るべき場所は骸の海、過去は過去に帰るのです!

会話が決裂した時点で、クルリと回りながら飛び上がって、武装ユニットを展開してミサイル発射。彼女が子供達にした事を思えば敵としか見なしません。
飛ばしてきた炎の動きを見切ってガトリングで撃ち落としながら、キャノン砲で本体を攻撃していきます。



 月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)は目を覚ました。ずき、と鋭い頭痛が襲ってくる。次いで腕に鈍痛を覚えた。
 見ると、腕にくっきりと手形のアザが残っていた。折れていなかったのは僥倖だっただろう。そのくらいの負荷をかけられた感覚がある。

 くらくらする頭を無理矢理切り換え、咲凛はすばやく状況を飲み込む。
 気絶していた間、他の猟兵が庇ってくれていたようだ。あの少女は――いない。新たな犠牲者が増えたというムードは……ない。
 なら、守れたということだ。
「良かった……」
 ほっと一息つく。そして眼前の『敵』に向き直った。

「ゆかりちゃん……あなたはさらった子供達に何をしたのです!」
 七人。既にそれだけの子供が拐かされた。
『どう して』
 返答は、カサカサとチラシの擦れる音だった。
「どうしてはこっちの台詞です! 質問に答えなさい!」
 顔が見えない。古ぼけた捜索願が、彼女の輪郭を曖昧にする。

『――そんな めで みる の?』
 ノイズ、音飛び、次いで風の音。ぶわあと一面に汚れた紙が舞い上がったかと思うと、それらは激しく炎上し始めた。
『どうして どうして』
「……っ」
 問答無用、会話は通じないらしい。
 何が起こっているのかはだいたい察している。いくら幼い子供の姿とはいえ、アレはれっきとした敵であり――恐らくは子供を……した怪物だ。
 ならばもう、戦争しかない。容赦はしない。

 燃え盛る炎を、咲凛は後ろに飛んで回避した。そのまま空中で武装を展開する。
 すぐさまスラスターを起動。空を舞い風を荒らして、捜索願を攪乱する。
 ――マルチロック開放。
 全身の武装が怪物を追尾する。オールグリーン。狙いは定まった。
「ここは、私の距離です! 過去は過去に還りなさい!」
 春の長雨の如く。数多の弾丸を怪物めがけて解き放った。

成功 🔵​🔵​🔴​

八坂・操
【SPD】

慎み深いが故に蓋をされても何も言わず、信心深いが故にそのツケは悪辣なものと化したってトコかなー?
駄目だよーそういうのは♪ 嫌な時は嫌ってちゃんと言わないと☆ だからこうして……また苦しむ事になるんだ。

とりあえず、【メリーさんの電話】でメリーちゃんを呼ぼっか♪
「迷子の迷子のゆかりちゃん♪ 貴方のおうちは此処ですよ♪」
メリーちゃんは遊撃、操ちゃんは『忍び足』で『目立たない』よう背後に回り込んで『だまし討ち』して回ろう!
……痛みを感じる暇も与えない。何も知らず安らかに眠れ。

ゆかりちゃんがアレの素材回収と廃棄を兼ねてるとすれば、全て辻褄が合う。子供を食い物にした罪は重い。
「許さないよ、私は」



 そも、神隠しの多い土地だったらしい。
 民話を紐解けば、その手の話がやたらと多い。子を攫う鬼、帰れない迷い家、人を誘う沼の神。
 故に、神の怒りを鎮めるべく、社や祠が多かったそうだ。地名にその名残がある。
「つまり、慎み深いから蓋をされても何も言わなかったと。でもでも、祟るタイプの神様だったから、信仰がねじれて悪辣な方向へエヴォルトしちゃった♪って感じかなー?」
 八坂・操(怪異・f04936)は今回の怪奇現象をそのように読み取った。
「あっ、もしもしメリーちゃん? 操ちゃんだよ。かくかくしかじかってことで一つよろよろ♪」
 そう操がスマホに向かって陽気に喋る。すると、その背後に得体の知れない少女が現れた。その手には、ぎらりと光るナイフが握られている。
「メリーちゃんもそう思わない? 嫌な時は嫌って言わなきゃ、ねー?」
 メリーと呼ばれた少女は何も反応せず、ただその白刃を構える。

「――だからこうして、また苦しむことになるんだ」
 操のぞっとするほど冷たい声と共に、メリーのナイフがオブリビオンめがけて繰り出される。

『そんな めで みないで』
 炎が舞う。白刃がそれを切り裂く。都市伝説の怪異同士、そんな映画も最近あったなと操のどこかが考えた。
 ――全て辻褄が合う。
 今回のゆかりちゃんに人格は必要ないのだろう。役割が素材回収と廃棄と推測されるのだから。シンプルな任務に、説得などの付けいる隙を残してはいけない。
 捜索願が舞う。名前が読み取れない。アレは単なる『そういう概念』だ。帰れなかった子供、それに形を与えただけ。
 ――ああ、なんて。
「迷子の迷子のゆかりちゃん。あなたのお家はここですよ」
 いつの間にか、操は怪異の背後に立っていた。使役しているメリーさんそのもののように、いつの間にか。その手に、何の飾り気もないドスを握って。
 ――吐き気がする。子供を食い物にするなど。
「許さないよ、私は」
 骸の海(あなたのおうち)に帰れるように、一切の容赦なくそれを首筋に突き立てた。

成功 🔵​🔵​🔴​

一一・一一
「迷子になったら携帯電話を使えばいいんすよ」

正直ゆかりちゃんとは戦いづらいっすけど、戦わないとダメっすからねぇ…
とりあえず「噂話から産まれし物語」で携帯電話を作ってゆかりちゃんたちにばらまきましょうかね
とってくれても取ってくれなくてもその携帯電話からメリーさんからの通話を無理やりきかせるっす
聞かせることができればUC発動条件は満たせるっすからメリーさんに後ろから刺してもらうっす
両親のような物体に対しては「スパイダー」で拘束して「専用シャベル」で「戦闘知識」のもと「二回攻撃」で戦うっす



 無慈悲な一撃により少女の首がもげる。ごろんと見えない顔が地面を転がり、
『ただいま『ただいま『おとうさん『おかあさん』
 ――その傷口からいくつもの声が反響し始めた。すると『ゆかりちゃん』の両隣に二つの人影が現れる。
 ぱっと見、印象に残らない。父親のような、母親のような。現代日本のスタンダードな『両親のイメージ』そのもの。……その顔は分からない。うまく認識できない。
 その両親のようなものは、転がった頭を拾い上げると、丁寧に首の上に乗せた。

「やりづらいっすね……」
 一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)は独りごちる。『ゆかりちゃん』は正直戦いづらい。子供の姿が抵抗感を生み、その来歴が憐憫を誘う。
 だが、紛れもなく敵なのだ。そも、霊を哀れんではならない。そうやって生者を誑かし、取り殺すのがやつらの常なのだから。
 倒さなければならない。
 一一はスピーカー通話にした携帯を『ゆかりちゃん』に向けた。回線が繋がる。ノイズの後、幼い少女の声が、
 その瞬間、母親らしきものが『ゆかりちゃん』の耳を塞いだ。
「流石に連続は通じないっすか……!」
 相手の背後に西洋人形が現れる気配はない。躱された。反撃として殴りかかってくる父親らしきものの拳を転がって回避する。
 ……『メリーさん』の声さえ届けば、もう一度その背を刺すことが出来たのだが。被ったのは偶然。間が悪かったとしか言いようがない。
 とはいえ、一一もネタがそれだけというわけでは無論ない。ならばオカルティストとしてではなく、元軍人としての戦い方に切り替える。
 即座に糸を取り出して両親のようなものを絡め取る。そしてシャベルを取り出し、何度もそれらに突き刺していく。
 とある戦争で最も人を殺したと言われる武器は、的確に相手の攻め手を削っていった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

空亡・柚希
……こんばんは、ゆかりちゃん
もう帰る時間だよ、と言いたいけれど
君は、帰れなかったんだね

助けられないのは分かっている、から。
僕は、これを早く終わらせる為にせめて最善を尽くす
迷ったきり帰ってこれないのは、寂しいだろうから

【重視する能力:SPD】
錆び付いた手で『Tinsoldat』を持ち、ユーベルコードでそれを短銃に組み替える(≪TinsoldatXXV≫ 使用)

(<視力3><スナイパー2><誘導弾2>)精度を出来る限り上げて、上げて。急所が分かればそこを狙って。(<第六感3><傷口をえぐる1>)
……急所、人体とは違うのかな。
できるだけ痛み少なく、この子達が逝けたら。エゴかもしれないけれど。



 永遠に終わらない黄昏時。帰りを促すカラスの声もここでは聞こえない。『ゆかりちゃん』は永遠にこの時間を彷徨っている。もう二度と『帰る』ことはない。
「……こんばんは。もう帰る時間だよ、ゆかりちゃん」
 それでも、空亡・柚希(玩具修理者・f02700)はそう告げた。
 たとえアレがオブリビオンだとしても、ここで倒したところで、染み出す限り何度でも現れるのだとしても。

 両親のようなものが肉塊に代わる。それらは『ゆかりちゃん』の影に吸い込まれるように消えた。
 そして再び捜索願が舞い上がる。果たされることのなかった願いの残滓。彼女の帰りを望んでいた人はたくさんいたはずなのに、無情にも果たされなかったそれ。
 ――ならば、せめて。
「借りるよ」
 柚希は錆びた手で、錆びた兵隊人形を取る。人形は兵隊の責務を果たすべく、無骨な銃へと姿を変える。

 あの子は帰れなかった。もう助けることは出来ない。ならば、なるべく早く『還し』てあげるのが、柚希に出来る救いだった。
 きっとエゴだろう。自分勝手な感傷かもしれない。でも、迷ったきり帰ってこられないのは、とても苦しいだろうから、とても見ていられない。
 ――柚希も、いくら待っても帰ってこなかった。その痛みは、きっと分かるのだ。

 舞い踊る炎の間隙を縫って、三発の銃弾が『ゆかりちゃん』を穿つ。
 眉間、心臓、肝臓。
 まともな人体ならどれも即死となり得る部位。せめてこれ以上痛みを知ることなく逝かせてあげたいという、柚希の願いだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮矢三・祇明
■■■ゆかりさんの『どうして――そんなめで わたしを みるの?』の問いに「悪いが、私の目は元からすさんでいるんだ。別にお嬢ちゃんだけを特別に哀れんだり軽蔑したりはしてない。」と本音で答える。

戦闘では、たとえオブリビオンでも見た目は小学生なので周りに人が居ないことを確認してから【ペンガデシネ】を発動、黒い衝撃波を後方に放ち推進力で一気にミサイルのように■■■ゆかりさんに近づき、衝撃波を放ちながらペン先を首筋などの急所に突き刺し1、2秒ほどの短時間で戦闘を終わらす。

寿命を削るユーベルコードゆえ本人は長期戦を好みません。
■■■ゆかりの反撃や抵抗は(捨て身の一撃1)で耐えて反撃の一撃を打ち込みます。



 ――どうして どうして どうして。
『そんな めで わたしを みるの?』
 捜索願が舞う。炎が燃え盛る。『ゆかりちゃん』はループ再生をしたプレイヤーのように、何度も同じことを繰り返す。

「悪いが、私の目は元から荒んでいるんだ」
 ぼそりと宮矢三・祇明(多重人格者の探索者・f03726)は独り言つ。
「別に、お嬢ちゃんだけを特別に哀れんでいるわけじゃない」
 そういうことではないと思う、と祇明の中にいる誰かが言う。だが今の祇明は感受性に薄い人格を表に出している。今回の戦闘において、細かな機微をくみ取ることは余分だと、祇明の誰かが判断したからだ。

 祇明は他の猟兵に紛れてその存在感を消していく。
 あの炎は何度も見た。だからタイミングは分かっている。アクションゲームで何度もやったように、タイミングを伺って――ここだ。
 付けペンの先端を後ろに向ける。瞬間、漆黒のインクが迸り、ジェット噴射の要領で祇明を『ゆかりちゃん』に向けて射出した。
 ――だるい。
 このユーベルコードは寿命を削る。祇明は身体の違和感を努めて無視しながら、『ゆかりちゃん』に向けて付けペンを突き立てた。
 狙うは首筋。たとえ先ほど回復したとしても、何度も攻撃されればダメージは蓄積されている。今度こそ短期決戦で決着を――

『ひどいよ』
 手応えはあった。確かに良いダメージを与えた実感があった。だが――まだ浅いというのか!
『ひどいよ 
  ひどいよ 
   ひどいよ』
 ぐわんぐわんと『ゆかりちゃん』の声が反響する。大音量の音波は衝撃波と化し、祇明を含む周囲一帯をなぎ払う。

「……半霊体化していなければ即死だった……」
 敢えて勢いに逆らわず、祇明は転がってひとまず距離を取る。
 即死は冗談にしろ、『ペンガデシネ』の効果で攻撃を軽減出来ていなければ浅からぬ傷を負っていたことは明白だ。

 ――まだ、終わらない。
 永遠の黄昏時は、まだ続きそうだ――。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

宮矢三・祇明
「攻撃が当たれば、あと1、2回って所か。」
「まぁ、一筋縄ではいかないよな。」
「耳を塞ぎたい...」
「腹を括るか。」
独り言をブツブツ呟きながら短期決戦を諦めて、
遠距離から黒い衝撃波を放ち何度も『ゆかりちゃん』の首筋を攻撃しながら、たまに『だまし討ち2』を使い別の無防備な部位を攻撃して『ゆかりちゃん』の体力や注意力を削ぐことに努める。
しかし、倒すチャンスがあれば近づき致命傷を与えに行く。

心情、若干焦りながらも自分に出来ることを考えて、致命的な一撃は与えられないにしろ次の人のアシストくらいは出来るだろうと思って割り切って戦う。



『ひどい ひどい ひどいよ』
 ぐわんぐわん。『ゆかりちゃん』の泣き声――のようなものに合わせて空気が軋む。『ゆかりちゃん』は頭部に両手をやって、溢れる涙をぬぐうような仕草をする。その度にその影がぐらつく気配がした。
「あと、一、二回ってところか」
 宮矢三・祇明(多重人格者の探索者・f03726)は体制を整えながらそう判断した。先の一撃でトドメを刺すには至らなかったが、それでもアレはそろそろ存在を保てなくなってきている。
 しくしく、しくしく。児童の形をしたものが泣く。捜索願が炎を纏って舞い上がり、両親のようなものは現れては消える。
「……まあ、一筋縄ではいかないよな」
 いっそ耳を塞いでしまいたい。あのオブリビオンは、ただ助けを求めているだけのはずだったのに。それらは全て、生者を引きずり込む怨嗟の声と化している。
「……腹を括るか」
 祇明は独りごちた。そしてもう一度、インクを模した衝撃波を放つペンを構え、突進した。

 ――現実はクソゲーだ。
 刺す。刺す。刺す。命が削れる感覚をどこかで感じながら、祇明は『ゆかりちゃん』の首筋を何度も刺す。オブリビオンは『ひどい ひどい』と悲鳴を上げる。
 酷い。あまりにも酷い。この『ゆかりちゃん』は特定の誰かという訳ではないのだろう。家に帰れなかった子供という概念が形になったもの。神隠し、拐かし、育児放棄。
 つまるところ、こんな形ができあがってしまう程度には、そういった現実があるということだ。
 なんて――クソなのだろう。世界はもっと優しくあるべきだ。一度ドロップアウトしてしまった祇明にとって、この敵は自分のあり得た末路を見ているかのようで。
 見ていられなかった。

 ざくり。
 ふと、突き刺したペン先から確かな手応えを覚えた。
『――――』
 ばさり、と『ゆかりちゃん』が崩れ落ちる。その身体が黒い染みのように地面に吸い込まれ、消える。

 カァ、とカラスの声が聞こえた。
 ――からすがなくからかーえろ。
 そうして、ようやく永遠の夕暮れは終わりを告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『都市伝説』コトリバコ』

POW   :    カゴメ、カゴメ
全身を【囲む様に子供の霊を召喚、内部を安全領域】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    そして皆いなくなった
【コトリバコから敵対者を追尾する無数の小鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    【常時発動型UC】子取りの箱
【自身から半径レベル三乗mの一般の女性、子】【供を対象に寿命を奪い衰弱させる状態異常を】【付与。また、奪った寿命でレベルを上げる事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 むかしむかしのおはなしです。
 貧困にあえぐ、とある村がありました。
 意地悪な庄屋がお金を巻き上げて、村の人々を苦しめ続けていたのです。

 そんなある時、旅の僧侶が村にやってきました。
 僧侶は村人たちを哀れに思い、一つのまじないを教えました。

 箱の中身を雌の獣の血で満たし、七日間染め上げます。
 次に、子供の身体の一部をその中に封じます。
 一人でイッポウ、二人でニホウ、三人でサンポウ、四人でヨンホウ、五人でゴホウ、六人でロッポウ、七人でチッポウ。
 ――八人でハッカイ。
 さあ、これで完成です。
 僧侶はこれを庄屋の家に送りつけるように言いました。

 効果は覿面。
 庄屋の家の女と子供は身体中から血を吹き出し、あっという間に家は絶えてしまったのです。

 それが『コトリバコ』。『子を取る箱』が転じてコトリバコ。
 ――近代に突如現れた怪異譚。出自は新しいながらも、『絶対に検索してはいけない』と、強力な呪いとしての属性を付与された都市伝説。

 『ゆかりちゃん』が消失すると、猟兵たちの目の前に鳥居が現れた。
 あなたたちはそれを潜る。
 すると、風景が一変した。荒れた土の道、並ぶ田畑、藁葺き屋根の家々。一昔前の農村の姿である。
 そして、一人の少女が立っていた。
 尋常の存在でないと一目で分かるそれは、血まみれの寄せ木細工を手に持ち、悠然と佇んでいた。
 ――とおりゃんせ とおりゃんせ。
 どこかからウタが聞こえる。

 ふと、気がついた。
 少女の周りに、数にして七つの、血まみれのランドセルが転がっていることに。
 少女の口元に、拭っても拭いきれない紅い染みが広がっていることに。

 ――ごようのないもの とおしゃせぬ。
 言いしれぬ悪寒が猟兵たちを襲う。底知れぬ悪意があなたたちを包む。

 負けるわけにはいかない……!
宮矢三・祇明
先手必勝、少女が持つている血まみれの寄せ木細工に向かって『黒い衝撃波を放つ』。
初手を外しても、(だまし討ち2)(捨て身の一撃2、)で少女に近づき近距離戦を仕掛ける。

出来るだけ少女に攻撃を仕掛けて、少女の攻撃手段や能力を引き出し仲間に情報を与えることに努める。

心情、もう余計なことを考えることを辞め、ただ早く仕事を終わらせて、ごく普通のゲーム三昧の引き篭もり生活に戻れることを願う。
「特別報酬が出なければ、こんな仕事辞めてやる。」

余裕があれば、少女が持つ血まみれの寄せ木細工『コトリバコ』を観察して、破壊もしくは封印、奪えないかを検討する。
(多少重症を負っても、狂気を纏いながら倒れるまで戦い続ける。)



 『それ』を認識した瞬間のことだった。
 ぐにゃりと視界が歪む。悪寒が背筋を走り抜け、全身の血液が逆流するような錯覚を覚える。腹部から身体を引き裂かれ、いとも容易くめくりあげられ、

「――っ」
 頭を振る。どうやら幻覚だったらしい。しかしあまりにも生々しい。
 宮矢三・祇明(多重人格者の探索者・f03726)は、身体中に脂汗が滲んでいることを自覚した。
 見れば周りの猟兵たちも似たような状態に陥っている。無事なのは大人の男性だけ――。

 ああ、嫌になる。
 ここに来るまでに『コトリバコ』の怪談は共有されていた。であれば、女子供に呪いを振りまくのは備わっていて当然の機能なのだろう。
 なんておぞましい、クソッタレな怪談。

 もう、考えるのも嫌だ。
「特別報酬が出なけりゃ――」
 女だからとか、子供だからとか、家庭環境がとか。
 そもそもこの事件ははじめから胸糞悪い。見たくもない闇を、これでもかと露悪的に見せつけてくる。
 確かに現実はクソゲーだ。だからといって、『そうだよ』と開き直るにも限度というものがあるだろう。
「こんな仕事、辞めてやる」
 容赦なく遠慮無く後先考えず、祇明はペン先から黒い衝撃波を放った。
 ――クソゲー未満の駄作など、一切合切塗りつぶしてやる。

 祇明はがむしゃらに攻撃を仕掛ける。少女は表情一つ変えずにそれを捌くが、元より祇明が自身に課した役割はアタッカーではない。
 子供の霊が少女を囲い、攻撃がそれに阻まれる。かと思えば小鳥の群れに変じ、猟兵の肉を啄もうと襲ってくる。そして呪いは常に降りかかっている。

 一刻も早く、まともで素敵なゲーム三昧引きこもり生活に戻るために。
 祇明は、敵の能力を味方に開示する鉄砲玉役を、進んで引き受けたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・咲凛
SPDで戦闘、苦戦や被弾描写OKです。
身体が重いです……。でも、コレはここで倒さなきゃいけないモノです……。
女性で子供という事でかなり不利な感じっぽいですが、コレが外に出て普通の子供達が狙われたらと思うと退く訳にはいきません。
身体に力が入らないので武装ユニットに振り回されるようにガクンガクンと飛び回りながら、火線砲と腰のビームキャノンをメインに戦います。
敵のユーベルコードにはこちらもユーベルコードで対抗、ガトリングとミサイルも使って撃ち落とします。手数なら負けません!

ユーベルコードを撃ち合いながらアジサイユニットを敵の背後に回らせて、攻撃します。
もう動けません……あとはおねがいします……。



 手足が萎える。意識が遠くなる。全身を異常なまでの倦怠感が襲って、立っているのがやっと。
 女性、しかも未だ六歳である月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)にとって、アレは最悪の相手と言って良かった。
 それでも――それでも。
「――ああああっ!」
 全身から気力を振り絞って咲凛は吼えた。あらゆる武装を展開し、呪いを振りまくオブリビオンに飛びかかる。

 この街に暮らす子供達の姿を思い出す。個々人の問題があったとしても、それでも平和に生きている。
 それを、アレは容赦なく食い殺すのだ。ただ『そういう存在だから』というだけで。
 見過ごせるはずがない。義を見てせざるは勇無きなり。ましてや月守咲凛は猟兵なのだ。ここで逃げ出すようなら、この力は何のためにあるというのか!

「――っ!」
 ガトリングで相手の小鳥を撃ち落とす。反動で身体ががくんと揺れるが、無視してスラスターで無理矢理体制を整える。
「くぅ、うあぁっ!」
 ビーム、ミサイル、火線砲。あらゆる武装の反動が咲凛を襲う。まったく自分の身体ではないようだ。使い慣れたはずの武装が、萎えきった咲凛の身体を痛めつける。
 それでも、それでも、まだだ。アレはまだ余裕を十分に残している。
「武装ユニット……全、開放っ……!」
 これ以上の戦闘継続は無理だと全身が悲鳴を上げる。ならばせめて、残る全力をぶつけなければ。
「――撃ちますッ……!」
 そうして放たれる、持ちうる全ての武装を展開した一斉掃射。驟雨の如きそれは、敵の攻撃を全て打ち砕く。

「きゃっ! うっ、くぅ……」
 だが、それが限界だった。相手の防御を崩すまでには至らない。
 反動で咲凛は吹き飛び、とうとうバランスを崩して地面を転がる。
 もう無理するなと仲間が駆け寄ってくる。
「は、はい……。後は、お願いします……」
 流石に限界だった。悔しいが、これ以上は戦えそうにない。

 ――でも、最後に、一つだけ。
 『コトリバコ』の背後で、光の渦が回転する。攻撃の隙に潜ませた最後の武装。紫陽花の名を冠するチェーンソーが、プログラム通りに敵を斬り付けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

一一・一一
さすが都市伝説…といえばよいのやらっすね…
『噂話から産まれし物語』で幽霊タクシーを作り出して盾にするっすよ
あとはスナイパーライフルで『スナイパー』しつつ味方の攻撃を『援護射撃』するっす
もしタクシーを作り出す前に小鳥に攻撃されそうならシャベルで『なぎ払う』っす

ホントなら都市伝説呼んだほうが良いかもしれないっすけど、コトリバコの対象になったらこまるっすからねぇ…



「さすがは最恐の都市伝説、と言えばよいのやらっすね……」
 対面するだけでこちらの戦力が半減させられている状況に、一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)は苦々しく呟いた。

 都市伝説は『いかに広く知られ、恐れられるか』が強さの側面として現れる。信仰の強さという考え方だ。少なくとも相対しているアレはそういう理屈を纏って顕現しているようだった。
 であれば、『コトリバコ』は最悪の部類だろう。
 そもそもの逸話が怪談として完成度が高く、恐怖の象徴として広く認知されてしまっている。解決方法も具体的に示されるわけではなく、故に『えげつない』『目立った弱点が分からない』という特性を備えている。

 ……だが、一つだけ、確実な安全圏がある。
 古くさい田園風景に、突如時代錯誤なタクシーが現れる。運転席に誰も座っていないのに、自由意志を持つかの如く田畑を踏み散らしていく。
「動けない人はアレに乗せてくださいっす!」
 女性的な見た目ではあるが、一一はれっきとした『成人男性』だ。呪いの対象外、万全のパフォーマンスを発揮できる。
 インターネットの普及より以前、雑誌などでよく噂された幽霊タクシーを、一一は作り上げた。盾によし、削がれた機動力の確保によしである。
 無事に機能していることを見届けると、一一はライフルでの攻撃を開始した。

「あ、一つ言い忘れたっす。助手席には乗せない方が……」
 ふと思い出すが、時既に遅し。タクシーに乗せた猟兵の驚いた悲鳴が聞こえた。
 ……車にまつわるよくある怪談。
 ――助手席から顔を出して、運悪く電柱にぶつかってね……。
 都市伝説である以上、『助手席に現れる首なし幽霊』のオプションを消すことが難しかったのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

八坂・操
【WIZ】

そう、コトリバコ。力のない村人が、より力なき幼子を代償に作った恨みの匣。
虐げられる者が武器を手にする事は間違っていない。感情でその矛先が狂うのもままある話。理不尽は怪異の専売特許だ。
だから私がアンタを殺すのは、何もおかしな話じゃあない。

「……ヒヒッ」
皮肉にも姿形は幼子のそれ。七つの命と遺恨を煮詰め、注いで出来た一つの幼子。
「ヒヒヒヒヒヒッ!」
ならば聞く。故に聴く。だから効く。意図の分からぬ哄笑は、殺意を含んだ視線は、怪異と呼ばれる存在は、明確な『恐怖を与える』。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!」
笑い哂い嗤い、【怪異】を放つ。

昨日怒らなかったから、今日怒って良いなんて道理はないんだ。



 ぐちゃ、ぐちゃ。
 八坂・操(怪異・f04936)のスタンスははじめから徹底していた。
 がちり、がちり。
 最初の捜査の時点で――あるいはグリモアベースで話を聞いた時点で、少なくとも『何』が潜んでいるのか、操には見当が付いていた。
 ぞぶ、ぞぶ。
 当たって欲しくない予測というものがある。そういうものほど、得てして当たってしまう。
 ごりっ、ぼとり。
 ――先ほどから止まない幻視。迷い子の怪異が、アレの口に子供達を乱雑に放り込む、その一部始終が見えている。頭が痛い。割れるように痛い。
 ならば、これが操に対しての呪いの効果なのだろう。『ずっと渦巻いていた悪感情』を増幅させる、そういう趣向のようだった。

「――ヒ」
 ああ、呪詛としてはきっと間違っていない。頭がおかしくなりそうだ。今にもおかしくなりそうだ。
 名推理おめでとう。答え合わせ、どうだった?
「ヒヒ――」
 大正解。潜んでいるのが『コトリバコ』で、起こっている事件が『神隠し』なら、子供たちの生存は絶望的だと、操は確かに言ったのだ。
 ああ、本当に――

 けれど、それは今更のことだった。その予測がついた時から、操の感情は一貫している。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒーヒヒヒヒヒ!」
 笑う、哂う、嗤う。
 ――ずっと、怒りで頭がおかしくなりそうだった。だから、遠慮なく容赦なくお構いなくおかしくなってみました☆

 ■■■(みさお)が顕れた瞬間、確実に『コトリバコ』の動きが止まった。表情は変わらない。けれども『未知のものに対する恐怖』という原始的感情を呼び起こすことには成功したようだった。
 黒い女性が少女に飛びかかる。一切の容赦なくその全身を切り刻み毟り噛み千切る。真っ黒い感情の化身はとどまる事を知らない。鳥も子供も呪いも知ったことか。

 理不尽に理不尽で対抗する。それは何もおかしなことじゃない。怪異譚とはつまるところ理不尽の応酬と、そのしっぺ返しでオチがつく。
 ――子供が巻き込まれる類の話は嫌いだと、何度も言ったろう。
 だから、こうして理不尽な感情に殺される。

 がぶ、ぶちり。
 お前は私に殺されろ。

成功 🔵​🔵​🔴​

三蔵・迅
子どもを七人も犠牲にしてでも晴らしたいほどの怨みの感情
それがどれほどのものなのかは、私には理解が及びません
ただ私は『私』として、誰かの祈りや願いを守ってきた『物』として
呪いの象徴であるあなたと戦わなければと思うのです

【戦闘】
呪いの対象外である事を活用
ブレイズフレイムの炎で少女を囲う子どもの霊を焼却し安全領域の破壊を狙いましょう
もし霊をすべて対処し終えたなら動くことの出来なかった少女の足元だけを燃やす炎で足止めを

たとえ本体への攻撃が通じなくとも私は仲間を信じています
あの寄木細工が壊されるまで、悪意の呪いが祓われるまで
流れる血のすべてを炎に変えて、弔いの送り火は燃え続けることでしょう。


空亡・柚希
これ、は……、えげつないね……
僕は呪いの対象から外れているけれど
周りが苦しんでいるのは、自分も辛い

でも、子取りの箱がこちらに来ないというのが、好機である事は確かだ
だから、それを逃すものか

【重視する能力:SPD】
この子の死角や隙を探り、(<目立たない6><忍び足1><視力3><第六感3>)不意打ちを試みる(<だまし討ち4><傷口をえぐる1>)
クランケヴァッフェを一瞬だけ雪の女王の人形に変え、直後鏡片、即席の鎖、錆色の吹雪へ変化
狙うは寄せ木細工の箱。出来れば子取りの箱を封じたいけれど、少しでも当てて力を削ぐことを重点に
『分解させてもらうよ』


アレクシア・アークライト
 相手の力が増大する魔空空間のようなところで戦うつもりはない。
 それに、あの少女を倒した後、ここから出られなくなるおそれもある。
 いや、ひょっとすると、あの少女も怪異を構成する一要素に過ぎず、この空間そのものが怪異なのかもしれない。

・何れにしろ、この空間から脱出すべく、【空間操作】で空間の破壊を試みる。
・現実世界に戻れたなら、物理で殴る。

 コトリバコ。
 強力な呪いとしての属性を“付与された”都市伝説。
 つまりは、ただの創作、ただの設定だ。
 暗闇や隙間に対して人が等しく抱く根源的な恐怖には全く及ばない。
 そんなものが現界し物理的な影響を及ぼすというのなら、こちらも物理で殴り返すまで。



 ある魔術師曰く、ホラーの怪物には、守るべき三原則があるという。

 一つ、怪物は言葉を話してはならない。
 これに関しては及第点だ。アレは一言も発していない。

 二つ、怪物の正体は不明でなければならない。
 これについては減点だ。アレの正体は調査の時点で当たりが付いており、逸話はとっくに共有されてしまっていた。心構え(ネタバレ)が出来てしまった時点で、いかにして倒すかという方向に話がシフトしてしまう。

 三つ、怪物は不死身でなければ意味が無い。
 ――そして、これが今まさに崩れようとしていた。
 相手がオブリビオンで、猟兵にはこれを倒す力がある。けれども『倒せると判断できるか』までが別問題だったのだ。
 戦力を半壊させてくる呪いと、攻撃の手応えのなさ。得体の知れなさで猟兵を翻弄してきた『コトリバコ』。
 しかし幾多もの攻撃を受けて、少女は無事ではいられなかった。顔色こそ変わっていないが、残った傷と髪の乱れはごまかせない。
 『無敵ではない』と証明された。

「――倒せるわ!」
 その隙を見逃さず、アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は吼えた。
「強力な呪いなんて、ただの『設定』よ!」
 そう、どれほど恐れられようと、所詮は『ただの創作に過ぎない』。闇や隙間に感じる根源的恐怖に、理屈を付けてしまった時点で『格落ち』なのだ。
 その認識が猟兵たちに浸透すると、呪いはとたんに薄れていく。
 アレは『コトリバコへの畏怖』を強さへ変換していた。逆しまに、それが『創作物』と強く認知されてしまえば、後の結果は明白である。

 少女の周りを七つの子供の亡霊が囲う。しかしその姿もどこか頼りない。
 三蔵・迅(遠き夕の灯・f04775)はそれを祓うべく、自身の傷から流れる血を振りまく。それはたちまち炎と化し、亡霊達を荼毘に付す。
 ――この肉体の血液全てを賭してでも、浄化しなければなりません。
 人々の祈り、願いを守ってきた『物』である迅にとって、あの箱は対極の存在だった。『人に呪いあれ』と作られた箱。どのような経緯があればその在り方に至るというのか。
 迅には決して理解できない。けれども近しい存在として戦うべきなのだ。肉体を流れる炎を以て、正しく地獄に送ってやらねばならない。

 存在を否定された。その上で清められた亡霊はすぐには復活できない。それでもまだ起き上がってくる気配がする。
 いったいどれだけの命と呪いを食らってきたのかと、空亡・柚希(玩具修理者・f02700)は悲しく思った。
 あまりにもえげつない『お話』は、悲しい子供を使役して、食らった。どこにも救いが無い、むごい物語。
 ならばせめて、終わらせてあげなければいけなかった。
 イメージは凍てつく世界の女王。ひび割れた鏡、手足を縛る鎖、まどろみへ誘う吹雪。錆び付いた人形はそのように姿を変え、金属の吹雪を少女へ浴びせる。
「――分解させてもらうよ」

 ぱきり、と。少女の手にした寄せ木細工がひび割れた。そのまま箱が壊れたかと思うと、少女の身体がばらばらと崩れていく。
 それと連動するように、ガラガラと音を立てて世界が崩れ始めた。
「撤退よ、ここから出られるわ!」
 アレクシアが空間に大きな裂け目を作る。その向こうにはとっぷり暗くなった、しかし確かに現実の住宅街があった。
 異界は底が抜けたように、全てが奈落へと落ちていく。地の底へと還っていく。
 猟兵たちが全員無事に逃げ出す頃には、ただの巨大な洞と化していた。

 こうして、児童の連続行方不明事件は幕を下ろした。
 七つの「行方不明者」のデータは、二度と更新されることはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月09日


挿絵イラスト