●夏に負けない熱!
夏が近づくキマイラフューチャー。年中騒がしいこの世界が、より一層騒がしくきらめく季節がスキップしながらやってくる。
アイスや冷たい飲み物が特に美味しい季節。新作だってより楽しみになる。
「けれども忘れてはいけない。熱いものだって美味しいのだ!!!!!」
公園に突如作り出された屋台村。あちあちのおでん、激辛の鍋、ぐつぐつ沸騰するラーメンなどなど、もうもうと湯気が立つもの、もしくは真っ赤なものばかりだ。
何故かサウナまで設置されている。
ここが追い求めるのは「熱」。
暑い季節であろうが熱を求めるキマイラフューチャー民が開催したプチフェスティバル――その名も『限界ねつまつり』。
「覚悟は出来てるかテメーらァ! 食って! 叫んで! 食レポして! そして滝のような汗を流すんだぜェ!? 夏に負けねえ己を作れオラァ!」
「「「おおおおおおお!!!!!」」」
テンションが既に熱い開会式。
通りがかった青年が会場を眺めていた。
「――なるほど、楽しそうだ。記録しておかないとね」
●翼は熱を識りたい!!
「と、いうわけでね。君たちに同行して貰いたい」
仄暗い図書館が先程の青年の居場所である。
そこへ戻った青年――猟書家『リブロ・テイカー』は呼び集めた配下達に笑いかける。
首を傾げるのは調味料頭の怪人達『食卓の友同盟』。
「えーと、リブロ・テイカー様、どういうわけで……?」
キマイラ達の無謀なチャレンジ。見た事のないほどの赤い食事や、温泉でも湧いているのかと勘違いしそうなくらいの湯気。火を噴いて倒れる者すらいる騒がしさ。それらは、楽しさに溢れていた。
プラスの感情を奪い、書に変える己にとって、会場は興味深い書物候補だったとリブロ・テイカーは語った。
「それに食べ物自体にも少し興味があるんだ」
あの会場の物はどれくらい熱く、辛いのだろうか。リブロ・テイカーの興味は尽きぬ。
「ええと、つまり?」
「キマイラ達の感情を集めつつ、食事も少ししてみたいからついて来てくれないかな」
にっこりと笑うリブロ・テイカー。その指先に光が宿る。
食卓の友同盟が頷くよりも先に光が奔り――光が止んだ時には、調味料の絵がデカデカと描かれた、絵本頭の怪人達が爆誕していた。
「さあ、食べに行こうか、激熱激辛ってやつを! 美味しく頂く為に君たちの力を借りるよ。嗚呼でも。流石に全ては食べきれないだろうから……どれが美味しそうなのか、調査をしてきて欲しい。僕は少し散歩をしてからお腹を空かせていくとしよう」
リブロ・テイカーがぱん、と手を叩けば絵本頭の怪人達に指令が書き込まれる。命を受けた怪人達は図書館から飛び出して行った。一人だけ遅れたのはマヨネーズ怪人。
「……マヨを入れたら激辛じゃなくなりそうなんだけど、リブロ・テイカー様それでいいのかなあ……」
●熱を楽しめ!!!
「暑い時に辛いもの……って、余計暑くなって大変なのに。なのに……美味しいよな……」
やって来た猟兵に尾花・ニイヅキは真剣な顔をしてどうしてだと思う? なんて問う。
沈黙。数秒して、ニイヅキははっとした表情になり「ごめん、忘れて」と首を振った。
「……任務の説明を始めよう。向かうのはキマイラフューチャー。敵は『リブロ・テイカー』。楽しい感情を奪い取ってくる猟書家だ。絵本頭に改造された『食卓の友同盟』っていう怪人集団を連れてキマフュ民主催の『限界ねつまつり』という祭を襲うようだ」
「限界ねつまつり」
聞き慣れない名前を呟いた猟兵にニイヅキは「熱さ・辛さを推すイベントらしい」とさっくりとまとめた。
「食事やサウナ、フェス……辛い、もしくは熱けりゃ良し! みたいな色々アリなお祭りらしい。今回は敵も祭りにも興味があるのか派手に襲うつもりはなさそうなんだ」
先にどの料理を食べるかを厳選する為に食卓の友同盟が会場をうろついているようだ。料理を選びつつ、ついでにキマフュ民たちのプラスの会場を吸い上げている。
「プラスの感情を奪い取られた者は動けなくなってしまう……のだけど。実はアーカイブ怪人の特性としてプラスの感情を集めると強くなる代わりに、集め過ぎると本の部分が爆発するみたいなんだ」
つまり、永遠に尽きないプラスの感情があれば彼らはパワーアップを続け――いつか自滅する、ということ。なんとも詰めが甘い特性だが、これを利用すればイベントを楽しみながらオブリビオン成敗も出来てしまうかもしれない。
「猟兵がいる、ってだけでも大体の住民達はテンション上がるだろうけれど……一気に会場に働きかけるなら、イベント司会をしているロックな感じのサウンドソルジャーに頼めばいいと思う」
猟兵の熱い気持ちがあれば、ノリノリで協力してくれるだろう。
「ある程度したらリブロ・テイカーが現れるはずだ。今回のリブロ・テイカーは少し変わってるのか……プラスの感情の他にも、食レポも力に変えてるらしい」
楽しい感情が混ざっているからかもしれない、と推測を交えつつ、ニイヅキが説明を続ける。
「食レポをしているキマイラ達もじわじわ力を吸い上げられてしまっているんだ。プラスの感情を奪うよりもずっと緩やかなものだけれど……放っておいていいものではない」
運の悪いことに丁度彼が訪れるタイミングでイベントステージで食レポ大会も行われる。
そこで。
「キマイラ達から力を吸われなければ良いということは。猟兵が代わりに食レポ大会に参加するのもアリだと思うんだ。ここで出る食事、食べると力が湧く! なんて触れ込みだし」
あつあつぐつぐつ激辛ファイアーを食えってか。激辛が苦手な猟兵が引きつった表情をした。
「辛いだけだとか、ぐつぐつなだけだとかもあるみたいだから……もし食レポ大会に参加するなら、無理のない範囲のもので出場して欲しい。熱いのも辛いのも苦手ならいつも通りリブロ・テイカーに殴りかかってもどうにかなる。たぶん」
結局、食レポだけでは倒せないのも確かだからな、とニイヅキは苦笑いしてグリモアを手にする。
「住民達と祭りを楽しみつつ、猟書家を退ける……少しバタバタするかもしれないが、皆なら大丈夫だと思う」
グリモアが強く輝き、世界を繋ぐ。その先には既に熱気に包まれた会場が見えていた。
春海らんぷ
とってもお久しぶりです。春海です。ほどよく辛い食べ物がすきです。
皆さんにあつあつぐつぐつの食レポして欲しい! という気持ちが暴れた結果、激辛まで入りました。
●シナリオについて
このシナリオは猟書家幹部シナリオで、二章構成です。
●プレイングボーナス
サウンドソルジャーに応援される(賑やかですが戦力はゼロです)。
ロックなサウンドソルジャーさんがイベント司会をしています。実は素は小心者。
猟兵の大ファンなのでホットなソウルで協力要請すれば秒でOKしてくれます。
【+プレボ!】上記に加え2章に限り「ねつまつりの食品で食レポをする」が入ります。
実はキマフュの謎パワーフードが含まれており、猟兵は食べると一定時間パワーアップ出来る……かも?(しなくても構いません)
●ねつまつり
とにかく熱い・辛い! を推すお祭りです。
メインは激熱・激辛料理。ぐつぐつ煮えたぎっている、または辛ければ大体なんでもあります。
サウナ体験所で対決を楽しむキマイラ達もいるようです。
イベントステージがあり、タイムスケジュールに沿ってロックバンドの演奏や食レポ大会、じゃんけん大会などが行われます。
●第一章
『食卓の友同盟』さんとの戦いになります。
アーカイブ怪人化したことにより、頭が本型になり、調味料を語る絵本となっているようです。
猟兵を見つけると危険排除の為攻撃してきます。
周囲のキマフュ民や猟兵の皆さんのプラスの感情エネルギーを吸収し強化されていきますが、許容量を超えると爆発し、大ダメージを喰らうそうです。
なお、対応する調味料を貸してくれます。敵ですけど「かーして!」って言えば素直に貸してくれます。
●第二章
『リブロ・テイカー』さんとの戦いになります。
賑やか熱気に誘われてやってきた猟書家さんです。
いつも通りプラスの感情を回収しようとしておりますが、今回はちょっとグルメも楽しみたい気持ちがある、らしい……? 食レポにも興味があるようです。
面白い食レポを聞くと笑ってしまったり興味深かったりして攻撃の手が止まります。
食レポも何もしないで普通に攻撃してもダメージはしっかり入ります。
●注意事項
・ゆるふわネタシナリオです。
・アドリブが入りやすいのでアドリブがNGの場合、お手数ですがプレイングの最初に「×」を入れていただけますと幸いです。
以上、よろしくお願いいたします。
第1章 集団戦
『食卓の友同盟』
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POW : マヨネーズ怪人・ウェポン
【マヨネーズ兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : コショウ怪人・ジェノサイド
【コショウ攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : しょうゆ怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【しょうゆ】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:まめのきなこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
神明・桐伍
はは、これはこれは面白い仕事もあったものだ、辛い物を元気に食べればよいとは。よい、我は担担麺が好物ゆえこちらを所望いたそう。
そこな主持人囃子を頼む、賑やかにな。
ラー油と唐辛子と花椒をお借りする
では勝負とゆこう、参るぞ!
オークション方式で対戦、辛さを3倍、7倍、20倍と相互に吊り上げて観客を盛り上げよう。住民はこういった遊戯を好むであろうからな。
是非にと勧められたマヨは容器を箸で止め覇気を込めた視線で制す。
胡椒は入れぬ、花椒の風味が死んでしまうのでな。其方こそ花椒を味わってみられよ、癖になるぞ。
と、UCで花椒を投入する。
ははは、どうだ美味いだろう。そうか泣くほどか、勧めた甲斐があるというものだ!
「これはこれは面白い仕事もあったものだ、辛い物を元気に食べればよいとは」
確かに赤い物ばかりだと神明・桐伍(神将の宿星武侠・f36912)は楽し気だ。
好物の担々麺もあるだろうと屋台を探せば、お目当ての物はすぐに見つかった。ついでに倒すべき怪人も。
「猟兵発見、覚悟!」
攻撃しようと構える怪人達に桐伍は待ったをかける。
「ここは普段と違う戦い方をせんか?」
これを食べようじゃないか、と担々麺屋を指さす。辛さ調節可! 限界に挑め! というポップが掛けられている。
たじろいだ怪人が答えるよりも先に会場を仕切るロックな風貌のサウンドソルジャーに声を掛ける桐伍。逃がす気はない。
「そこな主持人! 囃子を頼む、賑やかにな!」
騒がしい中でもしっかりと通る桐伍の声はサウンドソルジャーの耳に届き、突然の勝負を会場中に知らせる。
「突然の猟兵と怪人の辛さBattle! 見逃すなこのHotな一戦!」
掻き鳴らされるギター。飛ばされたドローンが桐伍達を撮影し、大型モニターに映し出される。
「店主よ、辛さはどこまで調整できるのだろうか」
「五十辛!」
ドヤ顔で答える店主。桐伍は頷いて、一辛を頼んだ。
「少しずつ辛さを増していく方が面白い。次の辛さの指定は観客に聞こう」
小さな器に入った担々麺。一辛の割に赤すぎる気がするのは気のせいか。器を手にしたコショウ怪人が身震いした。
「では、いただこう」
店主からラー油と唐辛子、花椒を借りる桐伍。躊躇わず、辛さを足していく。
ちゅるりといただけば、辛さと胡麻の味わいが口に広がる。だが。
「まだ辛さが足りん」
次は何辛が良いか、と観客に聞き始める桐伍の横でゲホゲホと噎せるコショウ怪人。
「これの辛さが足りない……!? どこが!?」
それに構わず観客から明るく三辛! 七辛! 十辛! などと聞こえれば怪人達の血の気が引いた。
そこから先は、増え続ける辛さ。
顔色一つ変えず食べ続ける桐伍に盛り上がる会場。
撃沈したコショウ怪人の代わりに戦うしょうゆ怪人も二十辛を一口食べただけで朦朧としている。
「辛すぎるのは身体に悪いよお!」
仲間の器にマヨネーズを盛ったマヨネーズ怪人が桐伍の担々麺にもマヨネーズを入れようと容器を投げつける――が、ビィン、と箸で止められた。
「胡椒も醤油も入れぬ。マヨネーズなぞ論外。担々麺に合うのは花椒。味わってみられよ、癖になるぞ」
マヨを転がし、ずず、とスープまで完食した桐伍が構え――
「哈!」
渾身の錬気に乗せ、花椒をしょうゆ怪人の担々麺に放てば、一粒残らず綺麗に着地。
「こ、これで美味しく食べれるのか……?」
見慣れぬ食材に恐る恐るしょうゆ怪人が口を付ける。
びゃっ。本頭から水が噴き出す。位置からして恐らく涙だろう。
「美味いだろう。それにしても泣くほどか……勧めた甲斐があるというものだ!」
倒れ伏すしょうゆ怪人。器をキャッチしたマヨネーズ怪人が一口だけ、と口にした直後、膝から崩れ落ちる。
そんな怪人達を一瞥してから、桐伍は次の観客のリクエストである三十辛に挑むのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ミフェット・マザーグース
友達のアテナ(f16989)を誘ってやってきたよ!限界ねつまつり!
アテナといっしょに挑戦するのは激辛ブルダックチキン
でも、これだけじゃないよ! コショウ怪人さんにひと声かけて
追加でコショウをかけちゃいます!
わっわっ、そんなにかけちゃうの?よーし、ミフェットも受けて立つよ!
お箸で一つ口にしたら、みるみる顔がまっかっか
だけど負けじと食べながら歌っちゃおう!
♪からい、からい まっかなコチュジャン トウガラシもビリビリと効いて
お皿の上でジュージュー焼けた お肉プリプリのチキンがジューシー
コショウたっぷりアツアツブルダック くちの中で弾けるゲキアツ!
アテナが伴奏くれたら、合わせてみんなと歌っちゃうよ!
アテナ・アイリス
ミフェット(f09867)と一緒にお出かけ、、じゃなかった依頼だったわね。
さあ、思いっきり楽しみましょうか。
激熱・激辛料理かあ、まあわたしの店の参考になるかもしれないからどんどん食べていくわよ。
むっ、なかなか手ごわいわね。マヨネーズを頂戴よ、お・ね・が・い。
よし、こうなったら奥の手、冷たいエールを左手に持ちながら、むしゃむしゃごくごくで行くわよ。
さあ、どんどんもってきなさーい!
気分がよくなってきたら、ミフェットの歌に合わせて、「オルフェウスの竪琴」をつかって楽しくなる曲で伴奏を行う。
よし、サウンドソルジャーに頼んでみんなで大合唱よ!
あら、なんか爆発したみたいだけど、そんなことどうでもいいか。
「わあ、凄い……! 赤い食べ物ばっかり、湯気ももくもく……!」
金色の瞳を輝かせてきょろきょろと周りを見回すのはミフェット・マザーグース(造り物の歌声・f09867)。
そんな友人を見てアテナ・アイリス(才色兼備な勇者見届け人・f16989)は口元を緩める。今日は彼女に誘われて限界ねつまつりにやってきたのだ。
(今日はお出かけ……)
そこでアテナははたと気づく。これは依頼だった、と。仕事の内容が内容だったので失念していた。
だが、敵はプラス感情のエネルギーが溢れれば勝手に爆発すると聞いているし、思いっきり楽しめば良いか、と思い直した。
ぐつぐつ煮えたぎるミネストローネ、一目見ただけでは何か分からない程に香辛料塗れの串焼き。最初の一つは何を食べるか迷う二人。
そんな時、アテナの目に飛び込んできたものがあった。
「あれ、気になるわ」
ポップなフォントで書かれた『激辛☆ブルダック』。ミフェットも「それ、ミフェットも気になってた!」と笑う。
そうと決まれば、と元気にミフェットが駆けていく。アテナが追い付いた時には既に少女の手にはパックに詰めに詰め込まれた赤い赤いブルダックチキンがあった。
「二人で食べるって言ったらいっぱい入れてくれたよ!」
その赤さにアテナは少しだけ怯むが――
(何事も挑戦と勉強、よね)
宿の主人としての向上心が上回り、チャレンジ精神がめらめら燃え上がった。
こっちにテーブルがあるみたい、と先導するミフェット。人の波が急に歪み、どん、と通行人にぶつかる。
「あっ、ごめんなさ――あ」
「こちらこ……猟兵!?」
ミフェットとアテナに気づいた通行人、それは怪人達。先手必勝とコショウ怪人が攻撃を放とうとしたその時――
「待って!」
制止の声。待てと言われて待ってしまうのがキマフュの怪人ソウル。訝し気にぺらぺらと頭の絵本が揺れる。
「胡椒をかけるなら、こっちに!」
掲げるは手に入れたばかりのブルダックチキン。思わぬ依頼にコショウ怪人は一瞬フリーズしたが、素直に胡椒をブルダックチキンに振りかける。
だが、やはり相手は猟兵なので少しばかり攻撃をしたくなったコショウ怪人。バッサバッサと胡椒を振りかけていく。
「わっわっ、そんなにかけちゃうの?」
「折角の味が分からなくなりそうね……」
「ふーはははは! めっちゃくちゃ辛そうなチキンをもーっと辛くしてやったぞ! 泣いて喜べ猟兵、その辛さで倒れるがいい!」
勝ち誇ったように笑うコショウ怪人。いいぞーいいぞー、としょうゆ怪人とマヨネーズ怪人が拍手。
だが、そこで怯むミフェットではない。きりり、表情を引き締めて宣言。
「ミフェットも受けて立つよ!」
「正気か!?」
「どうしてかけた本人が驚くのよ……。勿論、わたしもいただくわね」
アテナも挑戦的な笑みを浮かべ、コショウ怪人の妨害に堂々と立ち向かう。
二人はいただきます、と手を合わせ、箸で一つずつつまんで、口に入れる。
――口の中に炎が入ったのかと錯覚する程に、顔が熱い。身体も熱い。汗が噴き出す。
「か、かっらーい……!」
「これは……なかなか……手強いわね」
元々の辛さでも二人の口は灼かれているだろうが、そこに胡椒がびりりと刺激をしてくる。熱と痛みにぎゅ、と目を瞑った二人。
「でも……負けないっ」
辛さ故に涙目になってしまったが、ミフェットはどうにか二つ目を口に入れる。
「マヨネーズを頂戴よ」
アテナは素直にまろやかさを要求、マヨネーズ怪人をつんつん。
折角胡椒で猟兵を苦しめているのに良いのだろうかと思うマヨネーズ怪人だったが、要求されれば渡したくなってしまう。どうにかぐっと耐えていた、が。
「ね? お・ね・が・い」
ぱちん、とアテナがウインクすればマヨネーズ怪人の葛藤など一瞬で崩壊。どうぞどうぞとマヨネーズを器に盛りつけ贈呈。
お礼を言ってからミフェットにもマヨネーズをお裾分けするアテナ。礼を言われたマヨネーズ怪人はぽやっとアテナに見とれていた。
「味変もいいわね……」
「まだ辛いけど、少しマイルドでこれも美味しい!」
激辛に合わさった胡椒のパンチ、味変のマヨネーズ。味変までセットで楽しめるものがお店にあってもいいかも。
店のことを考えていたせいか、それとも口も身体も熱くなったせいか。冷えた飲み物が欲しくなってくる。
そう、お茶や珈琲やジュースではなくて――
「冷えたエールが飲みたいっ!」
ナイスタイミングで通りがかったドリンク売りのテレビウムが呼びましたか! と顔を出す。
「冷えたエールを頂戴。あるかしら?」
そうアテナが問えばミフェットも真似をしたくなる。まだエールは飲めないけれど、気分だけは。
「ミフェットはコーラ!」
「ありますとも! どんどんどうぞ!」
注がれたエールとコーラを飲めば、激辛チキンもいいおつまみだ。
辛さとコーラの組み合わせに慣れてきたミフェットの心はるんるんと踊り、自然に歌が生まれる。
「――からい、からい まっかなコチュジャン トウガラシもビリビリと効いて♪」
友の歌にアテナは微笑む。気分も良くなってきたし、ミフェットに合わせて音楽会を開いてしまおう。
透き通った水のような色の竪琴を手にし、楽しいメロディを奏でる。ミフェットの歌もよりのびやかに広がっていく。
「お皿の上でジュージュー焼けた お肉プリプリのチキンがジューシー♪ コショウたっぷりアツアツブルダック くちの中で弾けるゲキアツ!」
拍手喝采。気が付けば二人の周りには人だかりが出来ていた。
自分のことに触れて貰えたコショウ怪人がアンコール、アンコール! と声を出せば観客もアンコールを期待する。
「それじゃあ、皆で歌おうよ!」
ミフェットの提案に、アテナはステージに向かう。サウンドソルジャーに頼めばギターの音色は収まり、マイクが貸し出される。
「お待たせ、ミフェット。もう一度いきましょうか!」
ミフェットにマイクを渡せば、満面の笑みで頷いた。
アテナの竪琴が美しい音を生み出し、ミフェットの歌声が会場に響く。その明るい歌は観客にもするりと覚えられていたのだろう、歌声が重なった。
「ブラボー! ブラボー!!」
歌い終わればコショウ怪人が全力の拍手。
――ボン。
コショウ怪人の頭が爆発した。どうやら上限ギリギリだったプラスエネルギーの最後の一押しを自ら押した模様。連鎖的にしょうゆ怪人、マヨネーズ怪人の頭も爆発する。
「なんか爆発したみたいだけど」
気にする必要はないか。再びのアンコールに応える為、ミフェットはマイクを握り直し、アテナは竪琴に指を添えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
怪人達はプラスの感情を集め過ぎると爆発する…ということは
上手くやれば戦わずして倒せるってことだよね
周りにはキマイラ達も居るしなるべく平和的に倒したいね
というわけで、俺にいい作戦があるよ
まずは司会者に協力してもらう
こういう感じの内容を会場の皆に伝えてくれる?
本日のスペシャルゲストは猟兵の乱獅子・梓さん!
なんと彼は超級料理人!料理の腕前は猟兵ナンバーワン!
そんな彼の激熱・激辛料理が食べられる!これは激胸熱!
さぁ皆!ブースに急げ!
俺もしれっとキマイラ達に混ざって梓の手料理を頂く
うんうん、相変わらず美味しいなぁ
でももう少し辛くてもいいかも
近くのコショウ怪人からコショウを借りてドバドバかける
乱獅子・梓
【不死蝶】
まぁ、近くで戦っててもキマイラ達なら
適当にショーか何かだと思ってくれそうだが…
だが、昔は戦い一辺倒だった綾が戦わずして倒すなんて言い出すとは
それだけで俺は感慨深い気持ちに…!
感動のあまり、綾のいい作戦とやらに何も聞かずに従ってしまうことに
綾は司会に交渉しているようだが一体何を……
!!!!??
何言わせてんだあいつー!!?
確かに俺は料理が得意だと自負しているが
流石に話を盛り過ぎだろう!色んな方面から怒られかねない!
しかしこの盛り上がりの中、今更全部嘘ですと言うのも忍びない…
仕方ない!とUC発動し
手持ちの食材で様々な激辛・熱々料理を生み出す
ええい好きなだけ食っていけ!
「美味しそうな料理がいっぱいだねー」
見るからに辛そうな料理に密やかにテンションが上がる灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。どんな店があるかなと見ているうちに、本頭達を見つけた。綾の横に立つ獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もほぼ同時に見つけたようだった。
「まだこちらには気づいていないようだな……キマイラ達なら普通に戦ってもショーだと捉えるだろう」
先手を打とうと竜達を呼ぼうとする梓を制する綾。
「怪人達はプラスの感情を集め過ぎると頭がボンッと行くんだよね」
「そうだな」
「上手くやれば戦わずして倒せるってことだよね」
それなら平和的に倒せた方がいいよね、と綾が穏やかに笑う。
梓に衝撃が走る。
(昔は戦い一辺倒だった綾が戦わずして倒すなんて言い出すとは……!)
じーんと心が温まる。ちょっと涙が出そうな気がしないでもない。
「良い作戦があるんだけ」
「いいぞ、やろう!」
感動のあまり食い気味で同意してしまう。詳細、微塵も聞いてない。きっと今の綾ならほのぼのとした作戦で敵を沈黙させてくれるはずだと勝手に信じている。
「ここで待ってて」
「ああ」
指定された場所は『熱辛飯店』の屋台前。綾が何か店主に話しかけていたが、感動に包まれた梓の耳に入りはしない。
「ステージ行ってくるね」
何をするつもりなのやら。綾を見送って、熱辛飯店の料理を眺めていた。どれもぐつぐつ煮えて、真っ赤だ。味が濃くならないのだろうか、と梓はぼんやり考えていた。
人の波をするする避けて目的地に辿り着いた綾は軽やかにステージに登る。演奏の合間を狙って近づいたのでサウンドソルジャーに話しかけるのも容易い。
「ね、アナウンスをお願いしたいんだけど」
「アナウンス?」
耳貸して。サウンドソルジャーの耳にこしょこしょと何かを囁く綾。不思議な光景に観客が「なになに?」「猟兵さんだ、なんだろー」と話している。熱辛飯店の店主から差し入れられたエビチリを食べていた梓もその光景に首を傾げる。
(何の交渉をしているんだ)
こくりとサウンドソルジャーが頷いた。綾がひらひらと手を振ってからステージを飛び降りるのが見えた、その時。
「本日のスペシャルゲストを紹介するぜーッ!」
ぎゃーんとギターを鳴らしながらサウンドソルジャーがシャウト。
「今日は多くの猟兵が来てくれてるようだが……今注目したいのは乱獅子・梓!」
「俺ぇ!!!???」
梓、突然の名指しに大混乱。エビチリのソースが喉に入って噎せた。噎せつつ、綾が何か吹き込んだなと察する。
「今入った情報によるとなんと超級料理人らしいぜ! 料理の腕前は猟兵ナンバーワン!」
「待て待て待て待て、流石に話を盛り過ぎだろう! 色んな方面から怒られかねない!」
司会に聞こえちゃいないのが分かっていてもツッコまざるを得ない。梓のツッコミ空しく、更なるトンデモ情報がアナウンスされる。
「今日は限界ねつまつりに合わせて激熱・激辛料理を振る舞ってくれるらしい! こりゃあテンション爆上げ、激胸アツだなぁ!」
「いやどこで作れと」
「ここだよ」
いつの間にか隣に帰って来ていた主犯がにこりと笑って店を指さす。それに重ねるようにアナウンスが流れる。
「ブースは熱辛飯店! こりゃあ行くっきゃねえな!」
綾が店主に話していたのは店を借りる交渉か――理解した梓は眩暈を覚えた。
確かに綾の考えは怪人を平和的に倒す方法ではあるだろう。あるだろうが、自身が全く平和じゃない。
「お前、司会に何言わせてるんだ!!」
「だって料理得意でしょ?」
「得意だが!!!」
そういう事を言ってるんじゃない! と頭を抱えるも、期待の眼差しに囲まれている気配はビシビシ伝わってくる。
(今更全部嘘ですというのも忍びない……)
律義な梓は屋台に入る。準備は万端だったようで、先程まで並んでいた店の料理は器に詰められ、綺麗に片づけられていた。ここまでされては仕方ない。
「ええい、好きなだけ食っていけ!」
しゅばばばばば、超スピードで激熱激辛料理が作り出されていく。
持ってきていた食材は決して多くは無いが、彼の料理スキルと創意工夫で客を満足させる熱く辛い料理を実現する。あっという間に長蛇の列が出来た。
「はーい、ちゃんと並んでねー」
綾が手際よく器に入れて客に渡す。受け取った住民達は皆嬉しそうだ。
食べ損ねる者がいないよう懸命に料理を生み出し続ける梓。綾は配りながらちゃっかり取り分けていた自分用をもぐもぐ。
(もう少し辛くてもいいかな)
そんなことを考えながら次の客に手渡す。今までの客と違う手に気づき、視線を上げれば。
「怪人が猟兵の料理食べに来たの?」
「……興味があって悪いか!」
怪人達だった。その頭は既に光を帯びていて――多分もうちょっとで爆発するんだろうな、と綾は思ったが、指摘はしないでおいてあげた。
「丁度良かった、コショウ怪人に用があったんだよね」
「えっ」
戦いか、と身構える怪人達に違うよと笑い、胡椒貸してーと手を伸ばす。
「辛さ増したくて」
梓に余裕があれば元の味を楽しめと怒ったかもしれない。だが次々来る客のために料理を作るのに集中している梓が綾の暴挙に気づくはずもなく。
胡椒を借りた綾はばっばっ、と胡椒を振り続ける。延々続くその行為に、流石のコショウ怪人もストップをかける。
「いや、やりすぎなんじゃ……」
「やりすぎなくらいが辛くて美味しいんだよ?」
はぐっ。先程までの味とは比べ物にならない辛さ。これが求めてた辛さだと綾が笑みを深くすればバァンとマヨネーズ怪人が爆発した。
「……ん? なんだ、怪人か」
漸く怪人の来訪に気づいた梓だが、作る手は止めない。
「怪人だろうと関係ない、食べたいのなら食べろ!」
サービス精神溢れる梓。その優しさを見ていたキマイラが素敵、と目を輝かせる。ボン、とコショウ怪人が爆発。
残ったしょうゆ怪人だけが無事に梓の手料理をゲット。器越しでも熱く、見ただけで辛いと分かる。けれど、とても心惹かれて、迷わず口に含む。
「あつ、からうま……!」
辛さが熱さでブーストされ、一瞬何が何だか分からなくなる。だが、後味はコクがあり、辛いのに次から次へと口にしたくなる美味さ。しょうゆ怪人は仲間が爆発したことも忘れ夢中で料理を食べ続けた。
梓の手持ちの食材も店の食材も使い切ったが、どうにか梓の料理を求めた人々全てに何かしらは渡せたようだ。
熱い辛いと言いながら食べる住民や怪人、やっぱり梓の料理は美味しいねと笑う綾。梓は作って良かったと満ち足りた思いで周りを見回す。
その視界の端で、しょうゆ怪人の頭が爆発した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御形・菘
はーっはっはっは! 特に呼ばれていなくても、妾、推っ参!
キマフュでお祭りがあるならば、どこへでも駆け付けるぞ!
さて、妾が今回挑むのは麻婆豆腐だ
この手のジャンルでは真っ先に挙がる料理でもないっぽいであろう?
それはとても悲しい! ゆえに妾は応援をして皆を呼び込みたいと思う!
はー! イイ辛さ! 今の妾は火が吐けるかもしれん!
怪人どもは、とりあえず一発ボコって説教だな
いかんだろう…? バトルは後でいくらでもしてやろう
だが! 食事中にドタバタ騒いでどうする! 調味料怪人のくせに!
さあ一緒に食べるぞ! 今この瞬間だけは、同じ卓を囲む仲間だ!
はっはっは、バトルさせずに行動封殺自爆待ちという作戦でもあるがな!
「はーっはっはっは!」
突如、会場に邪神の笑い声。
「特に呼ばれていないが、妾、推っ参!」
キマフュでお祭りがあるならば、と御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は限界ねつまつりに駆けつけたのだ。高性能AI内蔵の撮影用ドローン、『天地通眼』もばっちり起動済み。
「菘様だー!」
動画配信者である彼女のことを知っていたらしい人々がきゃあきゃあと喜ぶ。
それに手を振りながら菘はある物を探して歩きまわる。怪人を探すのも大事だが、それよりも求めていたものがあった。
どの店も混みあっているが、それでも多少の差はある。ほんの少しだけ列が短いところに求めるものがあるだろうと踏んでいた。そしてその読みは当たっていた。
「あった! 妾はこれに挑むとしよう!」
『マグマトーフ』と書かれたその店は麻婆豆腐専門店。辛さによって色が全く違う。どれも気になる菘はほほうと見てからカメラ目線で視聴者に語り掛ける。
「皆の衆は辛い物と言えば何が思い浮かぶ? 麻婆豆腐が真っ先にあがる者はなかなかいないのではないか?」
コメントは皆「確かになー」「どっちかというと甘めなイメージ」「たまに凄い辛いのあるよね」など菘に同意する言葉が流れていく。
「それはとても悲しい! ゆえに妾は応援をして皆を呼び込みたいと思う!」
麻婆豆腐の良さに気づいて欲しいと菘は力強く語る。
店主に頼み、最高の辛さの一つ下を受け取った菘はカメラに麻婆豆腐をしっかり写してから美味しそうに一口食べてみせた。食べ方が物凄く綺麗。
「っはー! イイ辛さ! 今の妾は火が吐けるかもしれん!」
ボウッとな! と笑っているとカメラの前を横切った三つの影。怪人達だった。
「撮影中なんだが」
「あっすまん……って猟兵! 食事中なら倒せる、悪いが襲わせてもら――」
ゴチンという音が三連発。流れるように怪人達に拳骨をかました菘は麻婆豆腐を食べながら「そこに直れ」と告げた。怪人は何故か従ってしまう。
「祭りを襲うのはいかんだろう……? 更にいかんのは食事中にドタバタ騒ぐこと。調味料怪人のくせにわからんのか!」
ご尤もです、としょうゆ怪人が呟いた。ずずっと麻婆豆腐を食べきった菘がうんうんと頷く。
「反省したか? ならば共に最高の辛さに挑戦だ」
今この瞬間だけは、同じ卓を囲む仲間だと豪快に笑ってみせる。怪人達は「猟兵の仲間……」となんだか嬉しそうだった。
「ねえ、菘様と怪人が一緒にご飯食べてるー!」
「いいなー、俺も麻婆豆腐食べたくなってきた」
配信を見ていた客もいたようで、自然と周りには人が集まっていた。
マグマトーフの行列も先程とは比べ物にならない程のレベル。店主の表情も明るくなっている。
猟兵と怪人の和やかな風景に心癒される者、麻婆豆腐の良さに気づき夢中で食べる者、麻婆豆腐を食べてくれる人が増えて嬉しい店主、仲間と呼ばれテンションの上がる怪人達、そしてその光景が理想だと笑う菘。
一人でも多くの人に麻婆豆腐の美味しさとこの場の楽しさを知って欲しいと願いながらも、もう一つの願いが菘にはあった。
(このままならバトルをせんでも周りのプラスエネルギーで爆発するだろうからな!)
邪神的策略。
やはり邪神的にも食事中に暴れるのはいただけない。共に食事をすることで行動を封じ、爆発させるのが狙いだった。
――数分後、最高の辛さを食べきった菘と怪人達を祝い、盛り上がる観客達。歓声と共に、会場に爆発音が響いた。
大成功
🔵🔵🔵
二本木・アロ
夏バテ気味だから黒胡椒鍋食いに来たぜ!
ちょっとお酢入ってるトコがイイよな。夏は辛くてすっぱいヤツ。
すげー、うっかり胡椒のフタ取れてどばってかかっちゃったラーメンみてえ。
ウケるんだけど。すげー、黒いつぶつぶ浮いてるー。カエルの卵よりつぶつぶー。
え? まずそうな食レポすんなって? おカタいコト言ってんじゃねーよ。
んなコトより中華麺の替え玉入れてイイ?
あ、そこのコショウ怪人さ、ちょっとぱぱっと追加してよ。
そーそー、思いっきりぱぱっと……ふえ……
……っくしょーーーーーーいっ!!!!!
(ユベコ「みんな吹っ飛ぶすごいやつ」発動)
あー、鼻水噴いた。ティッシュちょーだい……あれ、怪人どこいった?
「赤いのばっかじゃん」
顔を手でぱたぱた扇ぐのは二本木・アロ(ガードカツィナの娘・f02301)。少しばかり暑さにバテている。
「黒いのもありますよー!」
そんなアロの呟きが聞こえたのかぶんぶんと手を振るバーチャルキャラクターの店主。
「黒胡椒鍋とか食いてーんだけど、近くにある?」
「ウチ胡椒推しなんで!!」
並べられたメニューを見れば、アロの目当ての品も書かれていた。
「これ! これ食いたかったんだよ!」
しゅびっと指させば店主が早速準備開始。ちょっと酢が入ってるのがイイとアロは黒胡椒鍋に思いを馳せる。その後ろで新たな客の気配。
「唐辛子系じゃないのも少し見ておくか」
アロの隣に入って来たのは怪人達。アロの事にはまだ気づいていないらしい。
飯食ってから殴ればいっか。アロは敢えて怪人達には触れず、自身の前に置かれた鍋を覗き込んだ。
胡椒の蓋がすっぽ抜けて大事故を起こしたのかと思う程の無数の黒。アロは興味深そうにそれを見た。
「すげー、黒いつぶつぶ浮いてるー。カエルの卵よりつぶつぶー、ウケるんだけど」
けらけら笑いながら純粋な感想を述べる。ちょっと店主が苦笑い。アロから少し離れた場所でバンッ、と机を強く叩く音がした。
「お前っ、胡椒をカエルの卵だと……!?」
コショウ怪人がキレていた。胡椒繋がりで思うところはあったのだろう。
「だってマジでそう見えるし」
一ミリも悪いと思っていないアロはいただきまーすと鍋を食べ始める。
見た目は確かにカエルの卵に似ているが味は黒胡椒。びりりとする味とぐつぐつ煮えたスープがアロの口の中で炸裂する。唐辛子系の辛さとは違う辛さと暴力的な熱さ。酢も入っているのだろうが、黒胡椒と熱のパンチに押され気味。
「あっぢぃ……! んでもって辛っ! あ、中華麺の替え玉入れてイイ?」
「どうぞー」
「話を聞けェ!!」
マイペースなアロとアロのペースに乗る店主。唯一ペースについていけてないコショウ怪人が声を荒げるが、ずぞぞという音と「なんだよ」と言いたげな視線だけが返って来た。
「胡椒をカエルの卵と言ったこと後悔させてやる……! 喰らえコショウ・ジェノサイ――」
「あ、ちょっとこっちにぱぱっと追加してよ」
アロの勝手すぎる発言に、流石にコショウ怪人がフリーズした。
「それでお前は黒胡椒の良さを理解できるのか?」
「カエルの卵よりつぶつぶとは言ったけどディスった気はねーよ?」
「……確かに」
コショウ怪人は若干冷静さを取り戻し、アロの要求を呑んだ。
直後、ふわりと屋台に熱気が吹き込む。当然コショウ怪人が絶賛振りかけ中の胡椒も風に流され、アロの鼻をくすぐった。
「ふ、ふぇ……」
むずむず。アロが口を抑えるよりも先に――
「ふぇっくしょーーーーーーいっ!!!!!」
屋台が、揺れた。
気が付けば、そこにはアロしかいなかった。至近距離にいたコショウ怪人は勿論、大人しく座っていたしょうゆ怪人とマヨネーズ怪人、店主もいない。屋台も何もない。
「あー、鼻水噴いた。そこの怪人ティッシュとっ……あれ、怪人どこいった?」
辺りを見回したアロは全てが吹き飛んでることを理解し、黒胡椒鍋をもっと食べたかったなと少しだけしょんぼりした。
余談だが、店主は数分後に無事発見されたそうな。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『リブロ・テイカー』
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POW : 君もこういうものに感動するのかな?
【本に記録していた“プラス感情を生んだ物”】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 君のものも記録しよう。それじゃあ貰うね?
自身が装備する【プラス感情を奪う羽ペン】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : これが僕の力、僕のコレクション
見えない【記録済みのプラス感情】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ルル・ミール」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「盛り上がってるかー!? 今から食レポTimeと行こうじゃねーか! 会場にドローンを飛ばすから選ばれたヤツはナイスな食レポを頼むぜ! 勿論、ステージに来てもOKだ!」
司会がステージから叫ぶ。若干音割れしつつも、その声は会場中に届く。
早速一人がステージに登って来た。その人物はステージの袖から机と椅子を引っ張って来て、すとんと座る。
「おっとまさかの最初から立候補か!? ……いや違うな? なんだあ?」
食レポの挑戦者ではなさそうだ。司会は謎の人物の登場にきょとんとした。
「ああ、続けて? 僕はただ、君たちの『楽しい』を記録しに来たんだ。勿論、食レポもね?」
柔らかく笑む青年。駆け寄ってくるは怪人達。恭しく運ばれてくる赤い料理。
突然の怪人の乱入とそれに動じない存在に観客達もざわめく。
「煮え立っている上に赤いとは。辛そうだけれど……こういう物に喜ぶ人もいるのかな」
ふふ、と笑う青年の手には羽ペンが握られる。
さらり。空間に何かを書けば突如本が現れた。
その本は人々のプラスの感情を蒐集したもの。
不思議そうに見ていた数人がその場に座り込む。プラスの感情を削られた故に体調を崩したのだ。幸いプラス感情に溢れた会場内だった為、大事には至らなかった。
熱中症擬きを起こした彼らを心配する事もなく、青年はぱたりと本を閉じ、目の前の食事を口にする。
「……これは……」
熱いとか辛いじゃなくて、痛い、じゃないかな。どうにか笑みを張り付けたまま青年――猟書家『リブロ・テイカー』は小さく呟いた。
「けれど、これを美味しく食べるんだろう? どんな感想なのか、どんなプラス感情を抱くのか興味深い。記録して、奪わせて貰うよ」
その発言にようやく住民達も彼がオブリビオンと気づく。だが、誰一人逃げずに彼の次の言葉を待つ。
「……何かな?」
妙な視線にリブロ・テイカーは首を傾げる。困惑しつつ、司会は彼に問うた。
「……食レポ、してくれねーのか?」
「食レポ」
まさか僕もやるのかい、と聞けば司会はこくりと頷いた。リブロ・テイカーはゆっくりと会場を見回して。
「手本を見てからでいいかな」
綺麗に笑ってみせたが、言った言葉は逃げの一言であった。
御形・菘
いや~、この口から胃袋まで燃え上がるような感覚! 汗もヤバい!
辛いが美味い! 豆腐の中にまで、花椒や豆板醤の味が染みこんで丁寧に作られている!
はっはっは、お主も麻婆豆腐に興味があるのか
ならば一緒に食べようではないか! さあ一気に搔きこめ!
唐辛子とかを追加で爆盛して、食べられん辛さにしてダメージ…というのは、美味い料理に対する冒涜なので好かん手口だのう
ちょっと強引に早食いさせて、気管に入れるとかな? その方が外道か?
なんにせよ、妾の食レポに釣られ、眼前で隙を晒したお主が悪いということだ
スマートに、介抱するフリをして背中をトントンっと
実際には指を深くブチ込むわけだがな!
ほら、無理をしてはいかんぞ~
「いや〜、口から胃袋まで燃え上がるような感覚!」
片手にマイクを握り、麻婆豆腐を運んできたのは御形・菘。
「ああ猟兵か。物凄く汗をかいていないかい?」
この場の熱気に呑まれぬ涼しい顔のリブロ・テイカー。彼の指摘に菘は明るく笑った。
「確かに汗はヤバい! だがそうなっても良いと思えるほど、辛く、熱く……そして美味い!! それがこの麻婆豆腐だ!」
くわっ。邪神の勢いに「そ、そう」と押されたリブロ・テイカーだったがすぐに表情を元に戻す。
「豆腐の中にまで花椒や豆板醤の味が染み込んでおり、とても丁寧な作りで妾は感激したぞ?」
この少し冷めた猟書家にも麻婆豆腐を味わってもらいたい菘は、丁寧な作りの麻婆豆腐に負けぬ丁寧な食レポを披露。
感謝と応援の想いを込めた食レポは輝かしいプラス感情そのもの。プラス感情の蒐集家がその根源に惹かれないはずがない。
「ふうん? きっとこれもとても辛いんだろうね」
そう言いつつもリブロ・テイカーの視線はすっかり麻婆豆腐に釘付けだ。
――かかった。
「その視線……お主も麻婆豆腐に興味があるな? ならば一緒に食べようではないか!」
「いや、興味はあるけれど食べなくても良いかな。君の言葉を聞けば充分だ」
「よい、遠慮するな!」
「遠慮じゃなくて、また痛みを食べたくはないのさ」
余程先程の料理が辛かったらしい。渋るリブロ・テイカーに「プラス感情に色々あるように辛さも色々あるのだぞ?」とそれっぽいことを言う菘。
その一言でなるほどと丸め込まれたリブロ・テイカーはスプーンを握らされ、菘が持ってきた麻婆豆腐を分けてもらった。
「さあ一気に掻きこめ! 速度で痛みを上回れば麻婆豆腐の辛く美味い部分だけを得られるであろう!」
少しだけ、少しだけ菘も迷ったのだ。
リブロ・テイカーに手っ取り早く打撃を与えるなら唐辛子や花椒を爆盛して食べられない辛さにしてしまえば良い。
けれど、それは美味しい料理に対する冒涜であって、邪神的にもNG行為だった。
だから選んだ手段は早食い。
ただでさえ気管に食品や水分が入ったら苦しくなる。麻婆豆腐の熱と粘度――そして辛さが気管に入ったら?
猟書家といえども、平然としてはいられまい。
「げほっ、あっ、喉に、っ辛いのがっ、入っ……、辛っ、熱、痛っ……!」
菘の計画通り、リブロ・テイカーは盛大に噎せた。苦しげにもがく。
(……もしかしなくとも……こちらの方が外道だったか?)
なんにせよ、妾の食レポに魅了され、隙を生んだうえに丸め込まれた方が悪い。
ちょっと内心で言い訳しつつ、菘は右手でリブロ・テイカーの背を軽く叩く。
「おお、すまんすまん。早く食べれば辛さも程よいかと思ったのだが……急かしすぎたか」
「っ……」
未だ咳き込むリブロ・テイカー。しかし猟書家故か冷静さは失ってはいない。キマフュでプラス感情を生んだ、そこそこ人気のミルクセーキを本から呼び出そうとしていた。
それに気づいた菘は彼の背を優しくトントンした後、ほんの少しだけ距離をとって――トン、と貫手で一押し。
それは、菘のファンでも知らぬ者もいるであろう奥義。
「かはっ……!」
【命門穿孔】――妾の右手に貫けぬものなし。
リブロ・テイカーに重き一撃を与えた菘は、倒れ伏す敵の近くに水を置いてあげた。
(辛いものを食べた後、水を飲むと悪化するらしいがな!)
どこまでも邪神である。
大成功
🔵🔵🔵
ミフェット・マザーグース
アテナ(f16989)といっしょに食レポで猟書家をやっつけよう!
ズラリ並んだ激辛料理のメニューに、どれにしようかとアテナに聞いたら、まさかの「ぜんぶ」にびっくり仰天!
大丈夫!?って言葉を飲み込んで、エールを片手に挑むアテナを応援するよ!
応援の歌で勇気を出せば、食べるパワーもアップする、かも?
♪ナンといっしょに激辛カレーに 本場の鉄鍋・四川風麻婆豆腐!
辛さに舌が痺れるハバネロチキン! タバスコたっぷりタコスもいかが?
トドメは唐辛子味の湯気に涙が出ちゃう アツアツ・ゲキアツの台湾ラーメン!
エプロンつけてウェイトレス衣装にチェンジ!アテナにお料理を持っていくね!
いざとなったらUCも応援するよ!
アテナ・アイリス
あらー、そうやって逃げられると思ってるのかしら、あまいわね。
UC『傾国の女神』を使って、リブロ・テイカーに食レポ勝負を挑む(司会はサウンドソルジャー)
ねえ、聞いてばっかりじゃなくて自分で体感しないと楽しさはわからないわよ。
さあ、この店から順番に食べつくしていくわよ。ついてらっしゃい!あ、ミフェット、料理持ってきてくれたの。ありがとうね。
辛くなってきたら、必殺のエールを飲んで回復よ。プハー、これはいいわ、あなたも飲みなさいよ。
・・・なによ、私のお酒が飲めないっていうの、いうこと聞けないなら攻撃しちゃおっと。それ、ボトルで攻撃よ!
あら、どっか行っちゃったわね、まあいいわ。さあ、どんどん行くわよ。
「一回でダウンなんて絶対ないわよね?」
机に伏せているリブロ・テイカーがステージの巨大モニターに映し出されるのを見ていたアテナ・アイリスはくすりと笑う。
「猟書家でも、辛い物で噎せるのは大変そうだね……」
ミフェット・マザーグースはほんのちょっとだけ猟書家に同情。それでも倒す相手には変わらない。
二人は頷き合い、ステージに向かった。
そこにいるのはリブロ・テイカーにどう接したら良いか分からず立ち尽くすサウンドソルジャーと、げほげほと咳込みながら机に突っ伏しているリブロ・テイカー。
アテナは司会に微笑み会釈してからリブロ・テイカーの隣に座り、じっと観察。
(……ああ、嘘ね)
リブロ・テイカーは既に咳込んでなどいない。辛い物をこれ以上食べさせられないようにと突っ伏して、咳込むふりをしている。
それを見切ったアテナはぽん、とリブロ・テイカーの肩を叩き、にっこりと笑む。
「……猟兵」
気づかれたことを察したか、顔を上げるリブロ・テイカー。その顔には『いやなよかんがする』と書かれていた。
「そうやって逃げられると思ってたのかしら? 甘いわね」
先程あなたが飲もうとしていたミルクセーキレベルよ、と笑う。そのまま視線をサウンドソルジャーに向ければ彼はギターを鳴らしシャウト――否、バトルの開催を宣言する。
「突然だがここで猟兵とオブリビオンとの食レポBattleの開催だァ――!」
「え? 僕はやるなんて」
「聞いてばっかりじゃなくて自分で体感しないと本当の楽しさは分からないわよ?」
リブロ・テイカーの意見などそっちのけで全てが彼女の願う通りに動いていく。
――【傾国の女神】。その笑みと柔らかな視線に射抜かれたものは女神に協力してしまう。
ミフェットは半ば強引に開催された食レポバトルに少しだけ「わわ……」と動揺。
しかしアテナを応援するという気持ちに揺らぎはない。むん、と気合を入れて声を掛ける。
「どれにしよう?」
「そうねえ……」
ステージから見える屋台村。すっと指を指し、すいーっと横に動いていく。ミフェットの視線もそれを辿る。
(迷ってるのかな?)
「……決めたわ。ねえ司会さん、ちょっとこの人借りるわね。それとドローンをよろしく。……ついてらっしゃい!」
「オッケェーーーイ!」
細腕に見合わぬ力でリブロ・テイカーを無理矢理立たせて引っ張っていく。ミフェットも連行をお手伝い。
暫くして、ブルダックチキンの店の近くのテーブルスペースに到着。リブロ・テイカーを無理矢理座らせた。
「……何をする気なのかな」
「話を聞いてなかったの? これから食レポ勝負よ?」
笑うアテナにミフェットはもう一度問いかけた。
「アテナ、何食べるの?」
「全部よ」
「えっ」
ぜんぶ。
一瞬、ミフェットの思考が止まった。
「ぜんぶって、えええっ!? だ、」
大丈夫!? という叫びが出かかったが、ミフェットは自分の口を手で押さえて耐えた。
全てを食べると言ったアテナが怯んでいないのに自分が怯んではいけない。
ミフェットは押さえた手を離して、一度深呼吸。
「わかった! ミフェットはアテナを全力で応援するねっ!」
「まずはこれからだよねっ」
スタートの店を選んできて欲しいと頼まれたミフェットは迷わずブルダックチキンを二人に持って行く。
「ありがとうミフェット。そういえばさっきはコショウ怪人の胡椒塗れ版だったからね。ある意味プレーン版ってところかしら」
「……既に赤いのにここに胡椒を?」
信じられない、と言いたげな顔をするリブロ・テイカー。
「コショウ怪人に頼んだらかけてくれたんだよ」
太陽の如き明るい笑顔で答えるミフェットにリブロ・テイカーは今度こそ信じられない、と小さく声に出し、そのまま固まっている。
いつまでたっても箸を持とうともしない彼に気づいたミフェットは、あっ、と声を上げた。
「……もしかしてお箸持つの苦手?」
ちょっとズレた優しさを発揮したミフェット、ばびゅんと店にフォークを貰いに行って戻って来た。
ミフェットは気づいていないがさりげなくリブロ・テイカーの退路を潰している。
「いただきます」
「いただき、ます」
逃げ場を失ったリブロ・テイカーは、これが自分に耐えられる辛さであるように、と願いながらブルダックチキンを口にした。
(おや)
辛い。熱いし辛いが、旨味も確かにある。
「辛い、けれど……やみつきになるというのは、こういう事なのかな?」
慣れてくればもっとちゃんとした食レポもする余裕が出来そう……そう思いながらリブロ・テイカーが視線を横にずらすと。
「さっきは食べるのに必死で気づかなかったけれど……肉が大き目だからかしら? 辛さがガツンと来るけれど肉の旨味もしっかり感じられるわね」
「次持ってきたよー! 激辛カレー、キャロライナ・リーパー入りのナン!」
平然としているアテナとにっこにこで次を運んで来たミフェット。激辛パレードはまだ始まったばかりだ。
「これ、カレーよりナンのが強敵ね! 単体でも激辛だけど、ナンと一緒ならもう炎の魔法みたい! こんな感じの夏野菜カレー、店で作ってみようかしら」
辛さにだいぶ耐性が付いたらしいアテナはエール片手に自分の店に出す激辛メニューを考え始めていた。その横で震えながらどうにか一口一口食べていくリブロ・テイカー。
(これは辛すぎる……)
ブルダックチキンはまだどうにか食べられた。だが、今のカレーは既に旨味を感じる余裕を通り越している。痛い。
「本場の鉄鍋・四川風麻婆豆腐! 辛さに舌が痺れるハバネロチキン! タバスコたっぷりタコスもいかが♪」
いつの間にかエプロンを着けたミフェットは歌いながらどんどん料理を運んでいく。
エプロンと歌でノってきたのか時折くるりと回転。しっかりお店の宣伝にもなるように、中継ドローンにも料理を見えるように掲げる。
可愛らしい歌姫ウェイトレスは現場だけでなく、画面越しに食レポを見る人々の心も盛り上げていた。
「あっつ……! 辛さの蓄積もくるわね……」
一気に三種類も運ばれてくれば、自然と口に含むペースも上がる。アテナはここぞとばかりにエールをごくごく。
――ぷはーっ。
良い飲みっぷり。そのうちCMの依頼来るかもしれないレベル。
「最っ高! あら、全然食べ進めていないじゃない」
「……よくハイペースでこれが食べられるね」
アテナの声かけにリブロ・テイカーが震え声で返す。彼の前に置かれたカレーは半分も食べ進んでいない。
「じゃああなたも飲みなさいよ」
「いや、まだ僕は目的を達成していないから」
「仕事が終わるまで飲まないっていうスタイルは嫌いじゃないわ。でも、私のお酒が飲めないっていうの?」
「飲めない」
――ガンッ!
リブロ・テイカーの回答から一秒もしないうちにボトルが振り下ろされた。
謎強度の瓶は割れずには済んだが、殴られたリブロ・テイカーの視界はぐらぐら揺れる。
それにお構いなしに、再び歌声が聞こえて来た。
「トドメは唐辛子味の湯気に涙が出ちゃう アツアツ・ゲキアツの台湾ラーメン♪」
ミフェットが運んで来たのはぼこぼこ物凄い音を立てている台湾ラーメン。
――これを食べたら本当にトドメを刺される。
そう感じたリブロ・テイカーはどうにか机から離れ、走って逃げた。
「あ、あれ?」
「どっか行っちゃったわね。まあいいわ、どんどん行くわよ。ミフェットも食べる?」
「うん!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神明・桐伍
ふむ、これは佳き担々麺だ。何となれば(カメラ目線で)「辣味」即ち唐辛子の辛さのみに頼らず、華やかな「麻味」つまり痺れる辛さとの妙なるバランスを実現している。
このたれに弾力のある麺、自家製の肉そぼろ葱、菜、そして胡麻味噌が程良きアクセントとなり、また飽きさせぬ食感となり、食欲を否応なくかき立てる。
そして何より『魂に焔灯す如き』爽やかな後味!!これは寧ろ・・・涼やかというべきやも知れぬ。
皆も一度は食してみるべきであろう!貴殿も食してみられよ
食べぬとあらば、ステージを降りられるが良かろう。
羽ペンを「鳳凰翻」で受け流し
ずずず。神明・桐伍は担々麺のスープを飲み干した。
今食べていたのは三十五辛。それでも熱さや辛さに動揺するそぶりは一切ない。
機械音が聞こえ見上げれば、いつの間にか桐伍の近くには中継ドローンが来ていた。
ちらり、桐伍はステージを見やる。何か大変な目に遭ったらしい猟書家がよろよろとステージの席に座ったのが見えた。そこに戻ってくるから巻き込まれるのでは?
(そういえば、猟書家は食レポを欲しておったな……)
であれば。
「佳き担々麺の紹介をしよう」
――桐伍、カメラ目線をキメた!
「これまでに我が食べた担々麺の中でも屈指の美味さ。是非食べてみて欲しい」
流れるように次の四十辛を頼む。すっかり桐伍のペースを把握したのであろう店主は、待たせることなく赤い赤い担々麺を提供。
「会場の皆に見えているだろうか。まずは『辣味』――即ち唐辛子の辛さ。これはこの店の四十辛の担々麺。唐辛子がふんだんに使われているのが分かるであろう? しかしそれだけではない、これだ」
指さすのは散りばめられた花椒。赤に添えられた茶色の星屑は担々麺の奥深い辛さを作り上げる『麻味』であると説明。
「この二つの要素が混じり合い妙なるバランスを実現している。そこに弾力のある麺、自家製の肉そぼろ葱、菜、そして胡麻味噌が程よきアクセントとなっている」
静かに、それでも熱意を持って語る。
「それらが合わさることで飽きさせず、食欲を否応なく掻き立ててくる……!」
桐伍の真摯なレポートが聞く者の心を掴み、何人もの喉がごくりと鳴った。リブロ・テイカーも例外ではない。
「辛く熱くもすっきりとした後味――魂に焔灯す如き!! これは寧ろ、涼やかというべきやも知れぬ! 皆も一度は食してみるべきであろう! では四十辛も頂こう」
手を合わせ、口に含む。
初めの一杯とは比べ物にならない辛さ。だが、旨味もそれと共に強まっているようにも思える。
桐伍の手は止まらず、その食べっぷりは見ている者を魅了する。
「やはり美味!」
もはや演説レベルの桐伍の熱き食レポは人々の食欲に火をつけた!
歓声。担々麺を求め人の波が一気に迫ってくる。
そこで桐伍はハッとする。無理な辛さに挑戦し、身体を壊す者や担々麺を残す者が出るのはいただけない。急いでカメラに真剣な眼差しを向けアナウンス。
「ここの担々麺は一辛から五十辛まで選べる。一杯も少な目で少しずつ挑戦することも可能だ。無理のない範囲で辛さと旨味を楽しんで欲しい」
既に店に並び始めていた住民達の元気な返事に安心し――そこでようやくリブロ・テイカーが未だステージに居ることに気づいた。
「貴殿も食してみられよ。一辛を食べてみると良い。辛さが控えめでも旨さは十分だぞ」
カメラ越しに声を掛ければ、リブロ・テイカーがしぶしぶ立ち上がった。
逃げられないと思ったのか、それとも無理に激辛を食べさせようとしてこない猟兵だからちょっと安心したのか。
数分後、桐伍に勧められた担々麺の一辛を前に、リブロ・テイカーは固まっていた。
「どうした、伸びてしまうぞ?」
「……辛さが控えめと、言っていたよね?」
「一辛だからな」
「真っ赤じゃないか」
恨みがましい目で見るリブロ・テイカーに桐伍は目を瞬かせる。
頭を抱えたリブロ・テイカーだったが、もう一度じとりと桐伍を見た後、己の武器を呼び出した。
「……僕自身が食べなくとも、プラス感情が得られれば良いだけなんだ。君はとても美味しそうに食べていたよね? 僕にプラス感情『だけ』を頂戴?」
弾丸の如く放たれた羽ペン。だが、羽ペンは三日月型の衝撃波宿す鴛鴦鉞に切り落とされた。鴛鴦鉞はペンより強し。
「食わず嫌いは良くない。さあ、食べてみよ」
有無を言わせぬ笑みを浮かべた桐伍を前に、恐る恐る一口担々麺を食べたリブロ・テイカー。
その表情は、みるみる明るくなっていく。
「辛い……けど、わかるよ、君のプラス感情が生まれる理由。これは……美味しい!」
どうやら一辛なら辛うじて食べられたらしい。はしゃぐ猟書家からはすっかり戦意は消えている。
桐伍はリブロ・テイカーが食べ終わるまで、担々麺を食べる人々を見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
お楽しみの食レポタイムだね
ひたすら夢中で食べるのもいいけど
ここが良いって考えながら食べる時間も楽しいよね
何がいいかな~と悩んで注文したのは激辛担々麺
選べる辛さレベルはもちろんMAX
机の上に置かれた担々麺はなんかもう色がすごい
サングラスをかけて見ても外して見てもまっかっか
まるで溶岩のようにドロドロぐつぐつしている
これは食べごたえがありそうだ
躊躇なく担々麺を一口すする
口に入れた瞬間にガツンと来る辛さ、
食べた後もずっと口の中に残り続けるビリビリとした辛さ
そうそう、これぞ激辛料理って感じ
まるで料理に攻撃されているようなこの刺激がたまらないんだよね
(垣間見える戦闘狂の性質
辛さに極振りして他は微妙かと言うと全くそんなことはなく
辛さの中にある豊かなゴマの風味や、コシのある麺もイイ
総じて、すっごく美味しい、大好き
梓と一緒に俺もこっそりUC発動
紅い蝶をリブロ・テイカーと怪人達のもとへ向かわせる
俺のUCも梓のもパッと見は攻撃だと気付かないだろう
彼らも熱中症でやられたように見えるんじゃないかな
乱獅子・梓
【不死蝶】
俺なんてさっきは作るのに一生懸命で
差し入れのエビチリぐらいしか食べてないからな
ようやく腰を据えて料理を楽しめる
激辛料理は綾に任せて、俺は辛さは控えめで激熱寄りの料理を頼もう
あんな真っ赤な料理食べたら噎せて食レポどころじゃなさそうだし
綾の頼んだ赤々しい担々麺をウワァ…な横目で見つつ
俺が注文したのはキムチ煮込みうどん
元気良くぐつぐつと煮立っている様が食欲をそそる
火傷しないようにフーフーしながらいただく
…うむ、美味い!!
旨味やコクがしっかりとうどんや野菜に染み込んでいるな
時間をかけて丁寧に煮込んだのが伝わってくる
それでいてうどんも伸びすぎず絶妙な柔らかさ
熱々の白菜や豆腐をはふはふしながら食べるのもたまらん
キンキンに冷えたビールと一緒に食べたら最高だろうな…!
汗かいてきたら零に弱めのブレスを浴びせてもらって体温調節
また、食べながらこっそりとUC発動し、零の咆哮を会場内に響かせる
無害なキマイラ達にとってはただの綺麗なBGM
だが敵には強烈な眠気とダメージを与えるだろう
漸く美味しいと思える料理に出会えたリブロ・テイカーは先程までのげっそりとした表情が嘘のように超ご機嫌でステージに舞い戻って来た。
「今の僕ならもう少し辛い物も行けそうだし熱い物も行けるはずだ。さあ、次の料理と食レポはどうかな?」
リブロ・テイカーが優雅に待つそこへ、影が二つ。
「お楽しみの食レポタイムだね」
折角だからステージに来たよ、と笑うのは灰神楽・綾。
「ひたすら夢中で食べるのも良いけど、ここが良いって考えながら食べる時間も楽しいよね」
「わかる、とてもわかるよ。美味しさはただ食べるだけではない。語ることで共有することも出来るんだ」
ご機嫌がよろしいリブロ・テイカーが綾の意見に目をきらきらと輝かせている。それを眺めていた乱獅子・梓は小さく溜息を吐いた。
「綾はさっきも食べていただろう。俺なんて作るのに一生懸命で差し入れのエビチリぐらいしか食べてないからな?」
「そうなのかい? でもほら、良く言うじゃないか。空腹は最大のスパイスって。それに君は料理が作れるということは……きっと食レポも上手なんだろうね」
尊敬の眼差しにすら見える目の輝かせ方でじっと梓を見るリブロ・テイカー。相手が敵対する猟兵ということを忘れていないだろうか。
(まあ、腹も減ったし……食レポで満足するなら、それでいいか)
梓は司会をちらりと見る。
「ここで食べても大丈夫か?」
「勿論問題Nothing!」
ずーるずーると引っ張り出された長机と椅子。そこにはパンフレットが置かれていた。メニューの代わりなのだろう。
着席した二人は早速パンフレットを開く。既に他の猟兵が挑んだもの以外にもまだまだ触れられていない食べ物も多そうだ。
「うーん……」
「色々あるんだな……」
悩む二人を楽し気に見るリブロ・テイカー。無理矢理激辛を食べさせられないことで安心しているのか余裕がありすぎる。
「そういえば、さっき何か食べてなかったっけ」
なかなか決められない綾が顔を上げ、リブロ・テイカーに問う。
先程猟兵と何かを食べていた時、彼が美味しいと笑っていたことを思い出したのだ。
「担々麺だよ。一辛でも十分辛かったけれど、あの味は好きだな」
「じゃあ担々麺にしようかな。一辛ってことはもっと辛く出来るの?」
綾の質問に担々麺の先輩ぶったリブロ・テイカーが胸を張って答える。
「そうだよ、あの担々麺は一辛から五十辛ま」
「じゃあ五十辛にしよっと」
リブロ・テイカーが答え終わるよりも先に決定、司会に「担々麺、五十辛~」と注文。
いきなりの最凶辛さの注文に言葉を失うリブロ・テイカー。その横で梓も固まっていた。
(いや知ってるが。アイツが激辛好きなのは良く知ってるが)
だからと言っていきなり五十に挑むヤツがいるか。
口に出して突っ込むのも野暮だし無駄なことも分かっている梓は、激辛は綾に任せようと決意、熱に全力の食べ物を選ぼうとパンフレットのリストに指を滑らせる。
「ん、キムチ煮込みうどんか」
程よく赤く、程よく辛い。しかし熱だけは容赦がない――想像に難くない、激熱ピリ辛料理だ。
「夏は冷房にあたりすぎて身体が冷えることもある。そういう時にこういう温かい料理は良いものだ」
ちょっと保護者的な独り言をぽつり、その後大きな声で「キムチ煮込みうどんを頼む!」とコール。
司会が頷き、オーダー発信。
近づいてくる二人の食事と食レポの時間に、リブロ・テイカーも、梓も綾も静かな期待を抱いていた。
「おっまちどーうさァーん!! まずは担々麺、五十辛からだ!」
「わぁ赤……なんかもう色がすごい」
それまでにこにこしていた綾の表情が珍しく崩れた。きょとりと不思議そうな表情でしげしげと担々麺を見ている。
「サングラスの所為かな」
赤みを帯びたレンズのサングラスの影響を疑って、ちょっとずらす。赤い。
サングラスをかけ直す。やっぱり赤い。
「……変わらないね。しかもドロドロぐつぐつしてる」
器は何の変哲もない器なのに何故こんなに熱々ぐつぐつなのか。不思議な現象に綾は目を瞬かせるばかりだ。
そんな彼の器の中身をウワァという顔して見ているのは梓、そしてリブロ・テイカー。
「あんな真っ赤な料理を食べたら噎せるに決まってる」
「それより先に口が焼けるね」
猟兵と猟書家の意見が一致。梓とリブロ・テイカーは「食べられる気がしない」と思いながらも綾をじっと見ていた。
何故なら、綾がそれを暫く眺めてから――食べ応えがありそうだ、とにっこり笑ったから。
いただきまーす、と手を合わせてから口に含むまでがとにかく早かった。
ずるるる、と激辛麺を食べるペースとは思えない勢いで啜る。それでも噎せたりはしない。もう一口、もう一口と次々啜っていく。
「口に入れた瞬間にガツンと来る辛さ、食べた後もずっと口の中に残るビリビリ感。これはそれが長続きするね。これぞ激辛料理だよね」
この世には激辛を称しておきながらピリ辛止まりの料理も多々ある。
だがこの担々麺はそんな嘘は言わない。一撃で思い知れと爆発的な辛さを投げつけてくる。
容赦ないその辛さに綾の気分も上がってきた。
良く食えるなって顔をする二人に構わず、軽くうっとりとしながら綾は語りを続ける。
「そう……まるで料理に攻撃されているようなこの刺激がたまらないんだよね」
「そっち?」
突然の戦闘狂的感想にリブロ・テイカーは動揺するも梓はなるほど、と頷く。
平和的解決も出来るようになってきた綾でも、やはり戦闘狂の性質は完全には消え去ることはない。
――平和を謳歌しながらも戦闘に似た痛みを負うのなら、一番良いのは激辛グルメとの戦いなのかもしれない。
(いや、考え過ぎか)
「これだけ赤いと辛さだけかな、とかちょっと思ってはいたんだけど。でも、辛さの中にある豊かな胡麻の風味や、コシのある麺もイイ。――総じて、すっごく美味しい、大好き」
あ、でも量がちょっと足りないかな、もっと食べれるなー、と笑う綾。
それを見てふ、と笑った梓の耳にぐつぐつと音が聞こえてくる。担々麺の時よりも細かくあぶくの音がする。
「キムチ煮込みうどんお待たせェーイ!」
どん、と置かれたのは黒い鍋に入れられたキムチうどん。
赤さは控えめだが、煮立つ音は異常。ぐつぐつ煮えすぎて盛り付けられた野菜がずり落ちつつある。
「お、おお……! 思ってた以上に煮立っているな」
想像以上のぐつぐつ具合にちょっとだけ身を引くも、そのあぶくの動きと音は確実に梓の食欲を湧かせてくる。
なにせ、先程はエビチリを少し食べただけ。中途半端な量が一番お腹を空かせてしまう。
そこにこの食欲そそる見た目と音は――
「煮込みうどんなら熱々で食べるのが礼儀だ」
食べたくなるに決まっている!
いただきます、と手を合わせ箸で麺を掴む。湯気を纏い現れた麺はつやつやしていた。ごくり、梓の喉が鳴る。
ふー、ふー、と息を吹きかけ湯気を飛ばし――隣で絶賛担々麺を啜る綾に負けじとうどんを啜った。
「……うむ、美味い!! これは時間を掛けて丁寧に煮込んでいるな」
料理上手な梓は一口食べただけで理解した。
この激辛ばかりの会場に怖気づくことなくただただ「熱い」を貫いたこのうどん、見た目以上に丁寧に、こだわりを持って作られている。
「うどんが伸びすぎず絶妙な柔らかさ。なのに旨味やコクがうどんに絡んでいる。これは意外と難しいことなんだが……見事だ。野菜から出てくる味まで計算した上で出汁を作っているだろう。邪魔し合うものが何一つない。全部が合わさって強すぎず、でも弱すぎない丁度いい『優しいピリ辛』を作り上げているな」
当然、野菜にもその旨味は染みていて。白菜を噛めば少しだけ柔らかくなったしゃっきり感の後、旨味が濃縮されたピリ辛の汁が梓の口に流れ込んでくる。
ぷるぷる豆腐は熱されてひたすら熱い。熱いけれど、汁と共に口に含めばまた絶妙な美味さを放ちアピールしてくる。
熱い。熱いが、手は止まらない。
はふはふ、ぐつぐつ。
夏でも冬でも食べたいと思わせるこの熱量とお味。梓は夢中になって食べた。
「……ねえ梓ー、そっちも食べたい」
「僕も気になるな。五十辛は僕には無理だけれど、その赤さなら食べられそうだ」
「ん゛ッ!!?」
エビチリに続き、またも噎せそうになったが今度は耐えた。急なお願いに梓は視線を上げる。
横からは綾の視線、前からはリブロ・テイカーからの視線。二人の視線は、思いっきりうどんに向いていた。
「いやお前達これは俺が食べてる」
「知ってるよ、だからちょっと分けてって」
「君の食レポが上手すぎるのがいけないんだよ。それに料理上手の猟兵が絶賛するというのならとても美味しいのだろうね」
「そんなに気になるなら自分で頼んで食えばいいだろう!」
「いやあ、そこまで量はいらないかな」
「俺もー」
梓のご尤もな指摘にもどこ吹く風の二人。貰う気、満々である。
「まず綾は自分の食べてからにしろ」
「あ、梓も担々麺食べる?」
「いい!!! うどんだけで充分だ!!!!」
布教活動と言わんばかりに担々麺を分けようとしてくる綾を回避し、梓はうどんを啜る。
無視してうどんを啜っていたのだが、未だ二人の視線は、痛い。
「……ああもう分かった! 少しだけだぞ!?」
何で俺の分を、とぶつぶつ呟きつつもどこからともなく取り分け用の小さな器を二つ取り出した梓はその中にうどんを分けていく。ちゃんと汁も入れてあげている。優しい。
「ありがとう、ではいただくよ」
「ありがとー。担々麺本当に食べないの?」
「お気遣いなく!!!!」
他人行儀だなあ、とくすくす笑いながら綾は分けて貰ったうどんをちゅるるん。
「これも美味しい。まろやかー」
その一言にリブロ・テイカーも頷く。
「熱い……熱いけど食べやすい味だね。味が染みているというのはこういう事か。これは冬の方が合いそうなものだけれど、夏にも合うんだね……不思議だ……」
「夏はキンキンに冷えたビールが美味い。そのビールと合わせて食べたい味だよな」
「ふむふむ、それは良さそうだ」
とはいえ、今はビールでもこの熱に勝てるかどうか。
汗もたらりと垂れ始め、少しだけ鬱陶しい。拭っても拭ってもじわりじわりと汗をかく。
身体が温まっている証拠だ。けれど、この状態で完食するのはちょっとだけ、つらい。
「零」
相棒の小竜を呼べばぴょん、と机の上に降りてきた。「もしかしてうどん、食べていいの?」という目をしていたのでもう一匹の相棒小竜の『焔』も呼んで少しずつ食べさせてやる。
(かわいい)
うちの子、最高。
「……っと、体温調節をしたいんだ。手伝ってくれるな?」
二匹の食事に和み危うく零を呼んだ理由を忘れそうだった。
零はこくんと頷くも暫くうどんをちゅるちゅるかじかじ。食べ終わってから冷風を吐き出した。
「あー……涼しい……」
夏場、空調の効いた部屋で食べる熱い食べ物は何故こんなに美味いのか。
綾の方にも冷たいそよ風が届いたようで気持ちいいねー、と嬉しそうだ。
リブロ・テイカーはその景色を初めて見る。初めて見るはずなのに、どこか懐かしく幸せな情景に思えた。記録をせねば。
羽ペンを握る。それを飾るように何かの歌声が聞こえた。食レポに引き寄せられたのだろうか、美しい紅き蝶もひらひらとステージに飛んでいる。
(嗚呼、素晴らしい夏のプラス感情が残せるだろう――)
現れた本に、羽ペンを走らせようと、したはずなのに。
「あ」
するり、羽ペンが手から落ちる。そのまま視界が歪む。
痛みは無い。苦しくもない。心地よい、気だるさ。
傍でこっそり控えていた怪人達が崩れ落ちた。ぐうぐう寝息がする。彼らも眠くなってしまったのだろうか。
(この猟兵達なら危害を加えてこなそうだし……)
リブロ・テイカーは机に腕を置き、そっと頭を乗せる。
(記録は後にしよう。今はただ、穏やかな夏の昼の睡魔に溺れてしまおう。その方が、きっとより良いプラス感情が――)
「……寝た?」
「寝た」
綾と梓は頷き合う。オブリビオン達の急激な眠気は何かの歌声――零の神秘的な咆哮によるもの。風景を彩る紅の蝶は綾のユーベルコード。
どちらも敵に痛みを与えず、少しずつ生命力を奪う力。次に目が覚めた時、リブロ・テイカー達はふらふらだろう。
眠っているが段々と顔色が悪くなってくるリブロ・テイカー。だが、夢は悪くないようで、幸せそうにふふ、と笑っていた。
「今回はこれくらいにしておいてあげよっか」
担々麺のおかわりもあるしね、と綾は新たに届いた五十辛担々麺に花椒を振りかけながら笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
二本木・アロ
「胡椒がな、びりびりってする」
「辛い。あと酸っぱい。んできゅーってすんだよ」
「ベロがな、しばらくびゃーってするんだよな。びゃーって」
……え? 何も伝わってねえ……だと……?
んだよゴルァ! 食レポってんじゃん! 伝われよ!!
は? ごい? ごいって何? ボキャブラリー……いやそんなん人に求めんじゃなくてさー、てめーの方でちったぁ理解する努力しろよマジで。
なんかこの猟書家クソ面倒だからもうココペリ様にバトンタッチ。
ココペリ様に黒胡椒鍋(おかわり)を食べさせてレポってもらうわ。
(がしょん)(ざばー)
はーいココペリ様もぐもぐしてなー。
おわああああああ聞いたコトねえ音し始めたあああああああ!!!
うえっへっへ、ぶっふぉ(品性ゼロの笑い)
ココペリ様マジごめん意味わかんねえクッソ草生えるわこんなん。
マジか止まんねえー、うぇっひえー、ひゃははははーもうダメ無理ぽ。
プラスマイナス感情関係なく何があっても笑うゲラなんだよ勘弁してくれ。
猟書家放置してて居た堪れなくなったら適当に誤魔化すしかねえな。
( ᐛ👐)パァ
「おーい。おーいってば。もしかして死んでる?」
お休み中のリブロ・テイカーを容赦なくゆっさゆっさ揺らしまくってるのは二本木・アロ。黒胡椒鍋持参でステージへやって来た。
「……ああ、新しい猟兵か。すまないね、すっかり寝入ってしまって」
怠そうに顔を上げるリブロ・テイカー。先程よりも顔色は悪い。熱中症のようにも見える。
「もっかい寝るならあたしの食レポ聞いてからにしろよ。すっげー食レポ見せてやっから」
ドヤァ……と効果音が聞こえてきそうな表情。
リブロ・テイカーは重くなった身体を起こして笑みを作ってみせる。
そんなに自信があるのなら、きっと食レポどころから感動した住人から得られるプラス感情だって素晴らしいものなのだろうから。
「では、聞かせて貰おうかな」
「任せろ、あたしが最高の飯テロしてやんよ」
いただきますと手を合わせ、ダイナミックに白菜を喰らう!
麺を啜るような音を立てつつ、あちあち野菜を頬張る!
慣れたからかちょっと酸味も強く感じられるようになってきた!
「これ黒胡椒鍋って言ってさー。唐辛子系の辛さじゃないからあんたも多分食えると思う。美味いんだよ、これが」
「へえ、どう美味しいのかな」
教えて? と笑うリブロ・テイカー。
今こそアロの食レポ力が唸る――!
「胡椒がな、びりびりってする」
「え」
「辛い。あと酸っぱい。んできゅーってすんだよ」
「きゅー……?」
「ベロがな、しばらくびゃーってするんだよな。びゃーって」
「びゃー……?」
どうよ、完璧じゃん? と態度がめちゃ語ってくるがリブロ・テイカーは何一つ理解できていなかった。
「……つまり?」
「つまりって、なんだよ?」
リブロ・テイカー、思わずこめかみをぐりぐり。頭痛がしてきたらしい。物凄く眉間に皺を寄せ、吐き捨てるようにアロに正直な感想を突き付けた。
「君の言っていることが何一つ分からない」
「……え?」
――何も伝わってねえ……だと……?
アロはわなわなと震え、机を叩き立ち上がる。
「んだよゴルァ! 食レポってんじゃん! 伝われよ!!」
「あれのどこが食レポなんだい。殆ど擬音じゃないか。もう少し豊かな語彙で語ってくれないと理解ができないかな」
「は? ごい? ごいって何?」
怪訝な顔をするアロにリブロ・テイカーは深い深い溜息を一つ。
どう言えば目の前の女性に言葉が伝わるのだろうか――散々考えて、伝わるかもしれない言葉を絞り出す。
「ボキャブラリー、ってわかるかい」
わかるわかる。頷くアロ。わかっているのかなあという顔をしながらもリブロ・テイカーは続ける。
「君の食レポにはボキャブラリーが足りてないんだよ。食レポは情熱だけでは伝わらない。『美味しい』だけでは伝わらないのは君だってわかるだろう?」
「いや美味いもんは美味いじゃん。ていうかさー、そんなん人に求めんじゃなくてさー、てめーの方でちったぁ理解する努力しろよマジで」
だめだこの猟兵話通じない。リブロ・テイカーは顔を両手で覆い、天を仰いだ。
「……君にはもう期待できないかな」
先程までの猟兵達が素晴らしい食レポを見せてくれていただけに、リブロ・テイカーは大変がっかりした。疲労感がどっと来ている。
一方で、折角食レポをしたのにあまりの言い草にアロも溜息を吐く。
「もう付き合ってらんねー。ココペリ様、この猟書家クソ面倒だからバトンタッチ」
アロの隣の空席にぽすんと座らされたのは戦闘用人形『ココペリ様』。それまで笛を吹くように持っていたのだが、状況を理解したのか机に笛を置いた。
「おかわり持ってきてー」
ぶんぶん、元気よく手を振れば司会がぴぴっと再注文。すぐさまあちあち黒胡椒鍋が運ばれて来た。
「まだ食べるのかい?」
アロはリブロ・テイカーを完全無視、ココペリ様に紙エプロンを結んであげる。
「ココペリ様、あーん」
がしょん。
「え?」
なんか今変な音しませんでした?
リブロ・テイカーだけでなく住民達もざわざわ。ココペリ様とは一体?
そんな混乱を気にせず、アロは容赦なくココペリ様の口に黒胡椒鍋を流し込んだ!
人間相手にそんなことをしようものなら火傷必至。でも大丈夫。そう、ココペリ様ならね。
「はーいココペリ様もぐもぐしてなー」
柔らかそうな素材に見えた人形からメカメカしい音は聞こえたし咀嚼はしているし、一体何なんだろうか。
「その人形に食レポはできるのかい?」
「できんじゃね? 知らんけど」
「知らないで食べさせたと……!?」
遂にプチパニックを起こしてしまったリブロ・テイカーの目の前で、ココペリ様がす、と笛を持った。
どうやらココペリ様は笛の音で食レポをする気らしい。
ピポパポパピピポピポ。
「……お?」
アロですら聞き慣れない音がした後、ココペリ様の笛から更なる音が流れ出す。
ピービョ。ピーピーヒョロロロ、ピーピョピビョロロロピョーピーブロロロピービョビョロロロロロピビョ、ビヨンビョン、ピビョッビビーーーガーーー……。
本当に笛から鳴ってるんですか? というような音色が爆音で流れ出す。
過去より呼び起こされた電子音は混沌に変わり、会場を支配する。しかもまだ「ガー」って鳴り続けている。
「聞いたコトねえ音し始めたああああああああああああ!! え、ココペリ様どしたん、ちょストップストップ、うぇっひぇ、マジか止まんねえじゃん!!!」
「君も聞いたことないって壊れたんじゃないのか!?」
この混沌にゲラゲラ笑うアロにツッコミを入れるリブロ・テイカー。
しかしアロにそのツッコミが聞こえている訳もなく、うえっへっへ、ぶっほ、などと噴き出して笑い転げてしまっている。
ちょっと女性らしくない笑い方ではあるが、楽しそうなので問題はない。
「ココペリ様、マジごめ、意味わかんね、クッソ、草生えるわこんなん、っひゃはははははは、もうダメ無理ぽ」
笑いすぎて息が上がりつつあるアロ、どうにか理解不能なことをココペリ様に伝えるとココペリ様はブツッという音を立てて何も音を発さなくなった。
漸く笑い終わったアロは、あ、と未だ耳を塞ぎげっそりとした猟書家を見つけた。今ならどつけば飛んでいきそうなくらいやつれている。
「……何で君はそんなもので笑えるんだい」
ただの不協和音だと心底嫌そうに言う猟書家にアロは返す。
「プラスマイナス感情関係なく何があっても笑うゲラなんだよ」
それでも不満げなリブロ・テイカーに困ったアロはすっと手を顔の前に持ってくる。
そっと開き、明るい顔と明るい声で、見せてやれ笑顔の魔法。
「パァ」
「ハァ?」
リブロ・テイカーには効果がないようだ。否、更に疲れた顔をしたのでダメージを与えることには成功している。
プツッ。僅かな音がし、再びココペリ様の笛が騒ぐ。
その強烈な音圧は心身ともに疲れ果てたリブロ・テイカーの耳と心をぶち壊し、彼の立ち上がる力を叩き潰した。
「……もういい、もういい、もういい。ここでこれ以上のプラス感情は得ないから。その音はやめてくれないかな……」
微かな言葉を吐くと、限界を迎えたリブロ・テイカーからさらさらと墨色の粉が零れ落ちる。プラス感情どころか哀しみを抱いた猟書家は、風と爆音に流されて――キマフュの空へ溶けた。
大成功
🔵🔵🔵