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ああ、残酷!可愛いハニワさんが盗まれるゥ~~!!

#サムライエンパイア

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 町は空前のハニワブームであった。
 事の始まりは数か月前。ある町人が宿屋へ出す山菜を採取する為に山へ出かけたところ、奇妙な人形が露出している事に気付いた。掘り返してみると、次から次へと人形が出てくる。試しにこれを持ち帰って専門家に見て貰うと、どうやら昔の人が作った人形、即ちハニワであるらしい事が分かった。
 この噂が町中に広まり、それを売ってくれ、という声が上がり始めた。初めは旅人の土産物として売られていたが、次第に、町人も購入を強く希望するものとなる。ある者は珍しい形をしたハニワを購入し、ある者は形の良いハニワを購入する。そして、特に質の良いハニワは高額で取引され、一種のステータスとされるようになった。
 そうして町はハニワで活気づき、一つの産業と化していったのである。
 ……だが、その平和を破る事態が発生した。
「は、ハニワが盗まれたあああああ!!!!」
 月の出ぬ夜、ハニワを所有していた人々の家へ盗人が侵入した。翌朝になり、ハニワが盗まれた事に気付いた時には手遅れとなっていた。
 ある者は子供の誕生日に購入したハニワを盗まれた。
 ある者は家宝として大切にしようと決めたハニワを盗まれた。
 ある者は、藩同士の取引として使う為のハニワを盗まれた。
 町から、次々とハニワが盗まれていく。盗まれなかった家も何件かあり、その家主は胸を撫で下ろす。だがその翌日には盗人の標的となり、ハニワを盗まれてしまった。
 もはや、ハニワを持っている人達に安息は無かった。次はいつ、自分の番になるのだろうか……。恐怖に震え、夜も眠れぬ日が続く。
 そして、とある場所。そこに盗人が終結し、盗んだハニワを持ち寄っていた。
「ふへへへへ。これで良いんですよねぇ?」
 下卑た笑いを浮かべながら、相手の顔色を伺う盗人達。彼らを見ていたのは、巨大な影である。首謀者であるその巨大な影は盗人達に声を掛ける。
「そうだ。この調子で、町中のハニワを盗むのだ。より多く盗んだ者には、私から更なる報酬を授けよう」
 その言葉を聞いた盗人達は更なる得物を求め、意気揚々と町へ掛けていく。月が黒い雲に覆われ、一寸先も見えない程に暗い。そうした闇の中を、足音を一切立てずに駆ける。音も姿も感じさせない彼らは、冴えない見た目に反し、油断ならない事を想わせる。
 盗人を雇った首謀者は呟いた。
「ふふふ、これで良いのです。これは救済なのですから……。こうしてハニワを盗む事で、私の”崇高なる目的”は、達成される事になるでしょう」
 そして今夜も、また一人、大切なハニワを盗まれて行ったのであった……。
 ああ、残酷!

 場所は変わってグリモアベース。ここに、和服を着た一人の女性が居た。名は、竹城・落葉(一般的な剣客……の筈だった・f00809)。グリモア猟兵である。
 彼女はハニワに興味を持って、山へ出かけて採掘作業を行った。その時、山菜取りに来ていた人々と遭遇したので会話を行った。「あんたも山菜を採りに来たんかえ?」「ハニワを取りに来たんです」。人々は、彼女を白い目で見つめた。
 だが、そんな事はどうでもいい。
 なんやかんやあって集まった猟兵達に、予知した内容を話していく。
「……というのが、我の見た予知だ。ハニワを盗むなんて、けしからん!」
 竹城は懐からハニワと取り出し、何を成すべきかを説明していく。
「諸君にやって貰うのは、この盗人をこらしめた上で、首謀者であるオブリビオンをやっつける事だ。それに加えて、盗まれたハニワを”無事な状態で”取り戻して貰う。その為に、まずは盗人達の居場所を探る必要がある」

 ここで竹城は、今回の舞台となる場所について説明する。
 場所は、サムライエンパイアに存在する小さな町。名前は『ハニワ町』という。
 今の季節は春である。この時期になると、暖かい陽気が町に訪れるという。
 町中には幾本もの街道が織物のように伸びており、それらに隣接するような形で、黒い瓦で出来た屋根の二階建て木造建築が数多く建つ。この街道は、町の外へ幾本も伸びており、他の主要な町や村へと続いている。こうした土地柄である為、主要産業は宿屋となっている。町の中心部には旅人が宿泊する為の旅館が数多く乱立いるが、それでも足りない程の繁盛ぶりだ。人口は千人程で、貴族から農民まで、幅広い人々が暮らしている。
 そんなハニワ町の北側には大きな山があり、緑の葉を付けた大木が乱立している。山道は整備されており、登り降りするのに苦労はしないらしい。この山の中腹にて、ハニワが大量に見つかったとの事だ。山には所有権は無く、町の管理下におかれている。
 この牧歌的な町だが、土地の気候が関係している為に、ちょっと変わった点がある。
 それは、夜になると、他の町に比べて暗くなりやすいという点だ。その時間帯になると、空には雲が現れ、月や星を覆い隠してしまうのだという。その為、夜中は町中は闇に包まれ、一寸先も見えなくなってしまう。こうした環境も重なって、ハニワ町は宿屋が栄えたのである……。

 その説明を終えた後、竹城はハニワに頬ずりしながら、更なる説明を加えていく。
「その町で、猟兵諸君には盗人を探して貰う事となる。方法は問わないので、猟兵達の自由な発想に期待しよう。そうした過程を経て盗人の居場所を見つたら、盗人共を懲らしめてやって欲しい。そうすれば自然と首謀者も姿を現す筈だから、そいつも倒して貰う」
 そうして語り終えた後で、竹城はハニワを懐にしまいながら、首を捻った。
「さて、この首謀者はどうやら、”崇高なる目的”の為に、ハニワを盗んでいるという。しかも、首謀者はそれを『救済』と呼んでいるようだ。しかし、その詳細までは分からなかった。なので、”崇高なる目的”の正体を掴むためにも、首謀者と対峙じて欲しい」
 全ての説明を終えた竹城はグリモアを取り出し、猟兵達に最後の言葉を投げかける。
「では、これよりグリモアで転移をする。たかがハニワと思うかもしれないが、盗まれた人達にとっては、大切な品物だ。それを奪われた苦しみは想像を絶するものだ。どうか、盗んだ奴らを徹底的に懲らしめてやって欲しい。宜しく頼むぞ!」


フライドポテト
 お目に留めて頂き、有難う御座います。
 どうも、MSのフライドポテトです。
 私も、ハニワには魅力を感じます。古代の人は、一体どうして、ハニワをあのような造形にしたのでしょうか。そうした謎も、ロマンを掻き立てるのかもしれません。

 さて、今回のシナリオは、やや難しめのシナリオとなっています。
 第一章では、宿場町である『ハニワ町』にて、盗人を探す必要があります。
 けれど、それは大変、困難である事をお伝えしておきます。
 調査は恐らく、昼間か夜間のどちらかで行われるでしょう。
 しかし、それぞれ、ある問題点があります。以下、その理由を記述します。

 【昼】の場合。
 当然、盗人はこの時間に活動はしていません。また、普段は一般人に成りすまして町中で暮らしている可能性もあります。鳴りを潜めている間に、身元不詳の盗人を探り当てるのは、極めて困難です。
 【夜】の場合。
 この時間帯は、一寸先も見えない闇に包まれます。更に、相手は窃盗のプロです。姿を隠したり、足音を消したりするのは朝飯前でしょう。その状況下で盗人を探し出すのは、極めて困難です。

 その為、参加されるPLの方は、『上記の内容への対策をプレイングに記して頂く』事となります。それが無い場合は、強制的に【苦戦】か【失敗】となります。また、しっかり対策をプレイングに記していたとしても、判定の結果、【苦戦】や【失敗】となる可能性もあります。ご了承下さい。
 また、第二章と第三章の戦闘においては、各章の冒頭にて、新しくルールを付け加える事と致します。それらの章へプレイングを送る際は、そのルールを確認してから送って頂くよう、お願い致します。

 今回の形式を伴ったシナリオは初めてなので、私も少しばかり緊張しております。けれども、皆さんから頂くプレイングを、素敵なリプレイにしたいと考えております。不束者ですが、何卒、宜しくお願い致します。
 それでは、皆さんの熱いプレイングを、お待ちしております。

 *このシナリオはフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。
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第1章 冒険 『街道を荒らす盗賊』

POW   :    裏社会に詳しそうな者に、力を見せつけるなどして情報を吐かせる。

SPD   :    足を生かし、街道をしょっちゅう往復していそうな旅人を見つけて聞き込み。

WIZ   :    宿場町の住人に芸を見せたり、話術などで親しくなって情報を聞き出す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 この町は、不穏な空気に包まれていた。
 先日より町中を跋扈する盗人集団。彼らは、町を活気づけていたハニワを、次から次へと盗んでいった。大切な物が盗まれるという苦痛と、成す術も無いという無力感から人々の心の中を黒く染め上げて行く。それは、夜中に空を覆う、黒く厚い雲のようにどんよりとしていた。
 町へ一歩踏み入れば、人々が口々に囁いているのを耳にする事だろう。
 ――あの家のご主人も、ハニワを盗まれたらしいんだってね。
 ――そうなのかい。このところ、どうにも物騒で眠れないよ。
 ――一体、この先どうなるんだろうねぇ……。
 陰気な声が町中に、蜘蛛のように蔓延っていた。ツヤツヤで笑顔に溢れていた町人の顔は、毒虫に侵されたかのように枯れ、呪詛を掛けられたかのように曇った表情をしている。それはまるで、飢餓に苦しむ人々のようにも見えた。子供達も、両親が離婚したかのような心細さを顔に表し、産まれたばかりの赤子の泣き声も、どこか弱々しく感じられた。
 たかがハニワと思うかもしれない。けれども、この町にとっては、無くてはならない象徴でもあったのだ。
 人々は、先の見えない不安を抱えながら、空を仰いだのであった……。
ティモシー・レンツ
なるほど、ハニワを流行らせて、失敗しても窃盗で邪神復活に持ち込むんだね。
オブリビオン、考えることが汚いね……(濡れ衣)

WIZで占い師として、街の人や旅の人から情報を聞き出そうかな。
筮竹とかいう竹の束越しに見ながら、声をかけてみるよ。
「そこのお嬢さん、あなたに素敵な出会いが待って……え、既婚?」
「そこの旅人さん、往路に困難が待って……え、帰り道?」
「そこの行商さん、水難の相が出て……あ、もう足が濡れてますか。」
……う、占いは口実だし。話すキッカケだし。(連敗記録を更新しつつ)

うまく話し合いに持ち込めれば、「占いで狙う相手」として街の状況を聞こうかな。
もしくは、占いに見せかけて当てるための情報か。



●Side【昼】:占い師は、相手から何を視るか……。
 その日は晴れていた。水色の空に、白く薄い雲が幾つか漂っている。
 『ハニワ町』の往来は、人で溢れかえっていた。黒や紺といった和服や、笠松や唐傘等の模様を施した袴を着た者が歩いている。その顔触れは様々で、老若男女、田舎者から主要な町の者まで、多種多様な顔ぶれであった。この町は旅人にとっては中間地点となっており、その為に別の町や村からやって来た人々が通りかかるのである。往来に面した店では、そうした旅人達にお土産を購入して貰おうと、呼びかけていた。通りには、夏祭りの屋台のように、横一列へズラリと店が並んでいる。そこに置かれた品物は、野菜や金物、人形や玩具など様々だ。
 けれど、そうした声に活気が無い。普段の声は、もっとハリがある。かつては、野菜や魚介類のセリを行っている市場のように、大きな声を出していたものだ。
 何故、活気が無いのか。その理由は、読者諸君ならお分かりだろう。
 そう、あのハニワの窃盗事件が原因である。この事件による不穏な空気は、町の活気すらも盗んでいったのだ。
 そんな空気を感じ取ったのか、この通りを歩いていた旅人は、意図して店を避けて通っていく。その目は、まるで汚いものを見るかのように細かった。
 そうした通りの片隅に、何やら怪しげなお店があった。
 その店は、建物の中にあるのではない。一言で表せば、露店と言えば良いだろうか。その露店は、黄土色をした古い木の塀を背後にして設置されていた。木製の古びた椅子と、紫色のビロードで覆われた直方体の台座を置いただけの、至って小さな店である。屋根も無い為、店員と客は、もろに太陽の光を浴びる事となる。幸いにして冬を抜けたばかりの春であった為、寧ろ、その日光が心地よく感じられる。
 そして、この椅子に座っている少年こそ、この事件を解決せんとする猟兵、ティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)である。彼は、目の前の通りを行き来する人々を黒い瞳で見つめながら、しきりに思うのだった。
(なるほど、ハニワを流行らせて、失敗しても窃盗で邪神復活に持ち込むんだね。
オブリビオン、考えることが汚いね……)
 と、そんな事を考え、少し浮足立っているところがあった。けれど、無理も無い。彼にとって、今回が猟兵として初めての任務となる。それはまるで、これから社会人の一員として希望に燃える、初々しい新入社員のようでもあった。
 と、何時までもそうして考えに耽る訳にもいかない。ティモシーは、紫色のビロードを捲り上げ、台の中に置いてあった道具を取り出そうとする。ガサゴソと音を立てるにつれ、周囲に居た人々は、怪訝そうに彼を見つめては歩き去って行く。
 そうとは知らず、ティモシーがやっとの事で取り出したのは、不思議な道具であった。一見すると、それは黒くて細い線香のように見える。それは何十本もあり、彼の手の中でまとめられていた。まるで、コンパ等で見かけるような、割り箸を用いた王様ゲームのようにも見える。
 けれど、これもれっきとして占いの道具である。正確には、筮竹と呼ばれるものだ。これは、易占というジャンルの占いにて用いられる道具であり、同時に易者を象徴するものでもある。
 そうして準備をしている内に、不意に立ち止まる町人も増えてきた。店の様子とティモシーの持つ道具から、彼が占いをする者だと察したのだ。この町の人は、ハニワに興味を持つ者である。好奇心旺盛な彼らにとってみれば、こうして露店で占いをやるというのも、興味を惹かれるものであった。
 そうした気持ちを敏感に察したティモシーは、早速彼らに声を掛けて行く。
 ティモシーは、この占いを通じて話をする事で、情報を引き出そうとしているのであった。この店へ訪れるのは、町の人や旅の者など、様々な人物であろう。そうして多種多様な人から話を聞けば、自然と情報の幅が広がる。そうして得た情報を通じて、今回の事件を引き起こした盗人に関する情報を得ようとしたのだった。
 すると、次から次へと人がやって来る。皆、性別や年齢、町に住んでいる者から別の町から来た者まで、実に様々だ。これは好機である。
 ……だが。

「そこのお嬢さん、あなたに素敵な出会いが待って……え、既婚?」
「そこの旅人さん、往路に困難が待って……え、帰り道?」
「そこの行商さん、水難の相が出て……あ、もう足が濡れてますか。」

 そう、この作戦を遂行するにあたって、ティモシーには一つ、大きな弱点のようなものがあった。それは、“占いがあまり当たらない”という事だ。
 ティモシーは、占いカードのヤドリガミである(最も、本人は水晶玉のヤドリガミだと主張している)。そうして占いを行い、日銭を稼いでいた。やり方は、ヤドリガミとして新しい生を受ける前、世話になっていた占い師の記憶を参考にしている。
 だが、その命中率は酷いものらしい。どうやら、勘に頼った方が、まだ当たるというレベルだそうだ。
 そのような訳で、当然のように、次から次へと占いを外していく。訪れた人々は溜息をつきながら、足早に去って行った。
 気付けば、空は茜色に染まり、黒いカラスが空を飛んで「カァー」と鳴いていた。
 往来の人通りは少なくなり、春風が吹くようになった。ティモシーは、周囲を見回す。通りには、二、三人しかおらず、どこか閑散とした印象を受けた。
 そんな寂しい状況で、ティモシーは口を尖らせながら思う。
(……う、占いは口実だし。話すキッカケだし)
 しかし、これまで57人もの客と会話し、一度も当たらなかった。そればかりか、得られた情報は殆ど無かった。唯一得られた情報といえば、「ハニワが盗まれて、町から活気が無くなった」といった事ぐらいだろうか。
 もしかしたら、今回の仕事は上手くいかないのかもしれない……。
 そう思っていた時、一人の男性が通りかかった。頭は剥げていて、剃り残した髭がある。目は虚ろで、生活態度の悪さを物語っている。
 ティモシーは、思い切って声を掛けてみた。
「あ、あの、すみません!」
「んあ?何だ、一体よぉ……」
「ちょっと、占いでもしていきませんか?」
「占いだぁ~?結婚運でも占ってくれるのか?」
「はい、勿論です。ささ、此方へどうぞ!」
 その勢いに押されるようにして、男性は対面の椅子へ腰かけた。夕暮れの光が降り注ぐ中、ティモシーは筮竹をシャラシャラと鳴らし、うーん、と唸って見せる。
「で、結婚運はどうなんだ?」
「……ええ、問題ありません!きっと、近い将来、良い女性と巡り合えます!」
「いつ頃だ?」
「え、えーと……、い、一年以内です!」
「……そっか、俺も捨てたもんじゃないな。有難うよ」
 そういう男性の目には、少しだけだが、光が灯ったように見えた。それを見たティモシーは、心が弾んだ。将来はどうなるか、という類の占いである為、真偽は分からない。しかし、それでも喜んでくれた人がいるのであれば、一体どうして、嬉しくない等と言えるだろうか。占いカードのヤドリガミ(本人は水晶玉のヤドリガミと主張しているが)として、これほど光栄な事はあるまい。
 ここで、ティモシーは改めて、猟兵達にとって必要な情報を入手すべく、質問を試みる事にした。相手は心を開いており、今なら、どんな質問にも答えてくれそうだ。
「ところで、ここ最近はハニワが盗まれているようですね」
「ん?ああ、そうだな。いやぁ、物騒な事だな」
「誰か、犯人に心当たりはありませんか?怪しい人物とか」
「怪しい人物?俺みたいな奴とかか?」
「いえ、そんな、とんでもありません」
「はっ、冗談だよ。残念ながら、心当たりはねえな」
「そうですか……」
「ただ、盗人はハニワを的確に盗んでいる。なら、土地勘のある奴じゃねえのか?」
「あっ……」
 そこで、ティモシーはハッとなった。言われてみれば、確かにその通りだ。ハニワを盗むとなれば、当然、下見などを行わなければならない。そうなると、盗人の正体は、この町の住人だろうか……。
 しかし、それだけでは絞り切れない。もしかしたら、何度も町を訪れている旅人の中に、盗人が居るかもしれない。この答は、あまり役には立たなさそうだった。
「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。あ、これは占いの代金だ。受け取ってくれ」
 そう言い、男性は小銭を幾らか、紫色のビロードが掛かった台の上に置いた。それは、占いの相場としては十分すぎるお金であった。
「有難う御座いました!」
 ティモシーは、笑顔で男性を見送った。
 そして、男性は彼の笑顔を背に受けながら、再び、陰鬱そうな表情に戻った。そして、恨みがましく、茜色の空を仰いだ。
「……あれが、猟兵という奴か。介入されたなら、気を付けねえといけねえな」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

刑部・理寿乃
ハニワがステータスですか。
こういうのってレトロ回帰って言うのかしら。

調査は【昼】に行います。

まず急に羽振りが良くなった人や夜よく出かける人、後、軽業師などがいないか聞き込みですね。
歌にはまあまあ自信があるのでそれで住人と仲良くなって情報を集めますか。
または蛇の道は蛇というように裏通りのガラが悪そうな人や明らかにカタギじゃない人に情報を得るのもありですね。怪力や恐怖をお口の潤滑油にして。

高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にいきましょうか。

目星がついたらユーベルコードでその人物を追跡させましょう。



●Side【昼】:大勢の中に、怪しい人物はいるか……?
 『ハニワ町』には、多種多様な人々が居る。
 今日も澄みわたった水色の空の下、ストローのように長く伸びる大通りにて、沢山の人が歩いていた。通りの端に立ち、反対側を眺めるようにして見るだけでも、実に百数十人は数えられるだろう。見渡してみると、チョンマゲを結った青い和服の男性、腰まで黒い髪を伸ばした赤い袴姿の女性、鼻水を垂らして水色の浴衣を着た少年、ベンチに腰かけた紺色のもんぺを着た老婆……、と、様々な人が居る。
 けれど、殆どの人が小麦色の地面を見つめながら歩いており、眉間にしわを寄せている。時折、目を瞑っては溜息をつき、誰かとぶつかっては謝り合っている。
 普段は、この往来を通る人々はみんな笑顔で、袖が触れ合う度に、「今日は良い天気ですね」だの、「そういえば、うちの孫がねぇ……」と言って井戸端会議を始めるのが常であった。だが、そんな事が今まで行われていたのが嘘のように、静まり返っている。針を一本落とせば、町中に響き渡りそうですらあった。
 みんな、最近騒がせているハニワ窃盗事件によって、心が暗澹たる思いに包まれていたのであった。
 そんな町の様子を見つめる少女の姿があった。彼女は邪魔にならないよう、通りの真ん中辺りにて、端へ体を寄せるようにして立っている。
(皆さん、とても辛そうな表情をしていますね……)
 そう思ったのは、刑部・理寿乃(ドラゴニアンのサウンドソルジャー・f05426)だ。彼女もまた、猟兵である。刑部は、目の前を右へ左へと通り過ぎる人々の、陰鬱そうな顔つきを見た。その度に、彼らの心に抱える苦しみが伝わってくる。
 だからこそ、早く解決しなければならない。
 刑部は目を閉じ、静かに口を開いた……。
 その頃、通りの一角にて、暗い面持ちで歩いている女性が居た。彼女は目を瞑り、大きくため息を吐いている。すると、目の前から歩いて来る男性に気付かず、そのまま肩をぶつけてしまう。
「あ、ごめんなさい……」
 目の前に居る男は巨体であり、日に焼けた四肢は筋肉に包まれていた。四角い顔はしかめ面で、左目には刀で斬られたような傷跡が残っている。見るだけで、息苦しくなりそうな圧迫感を持っている。けれど……。
「……ああ、嬢ちゃん。次からは、気を付けてくれよ」
 その体格に似会わず、彼は陰鬱そうな声で呟いた。
 二人は、互いの顔を下へ向けた……。
 その時、どこからか、澄んだ声が耳に入って来た。
 声には韻や強弱があり、聞くだけで心地よくなってくる。まるで、心の中に透明な水を注ぎこみ、溜まった黒い汚れを洗い流していくかのような気がしてくる。
 二人は顔を上げ、この声がどこから聞こえて来るのか、探してみようとする。
 しかして、そうして声の主を探そうとするのは、二人だけでは無かった。通りを歩いていた人々は、自然と足を止める。そして、小麦色の地面から視線を上げ、神の声を聞こうとするかのように、周囲をキョロキョロと見回していた。
 すると、見つけた。
 通りの隅にて、目を閉じ、優しく高らかに歌う少女の姿があった。綿のようにふんわりとしたウェーブヘアで、この地域では見かけない不思議な衣服に身を包み、獣のような柔らかい尻尾を生やした少女の姿が、そこにある。
刑部は歌い続ける。目を閉じて、町全体に響くように声を紡いでいく。そうして歌う彼女は、とても明るく、そして何より、楽しそうだった。
 今や、刑部の周囲には、無数の人々が集まって来ていた。扇状に囲むようにして、彼女の歌声を聴こうとしている。その表情は、茫然としつつも、一つの真剣さがあり、皆、夢中で聴き入っていた。
 やがて、刑部はサビを高らかに歌い、そして、声を止めた。
 暫しの静寂。
 そして。
 ……場は、拍手の渦に包まれた。
 それは波のように、徐々に、徐々に大きくなっていき、やがて、爆竹のように大きく轟くかのように響き渡った。そうして両の掌を痛くなる程に夢中で叩いていく。彼らの顔は、まだ陰りが残っているものの、先程よりも柔和になっており、心が晴れやかになった事が伝わってくる。
 刑部は、そうした町の人々の様子を見て、嬉しい気持ちになった。けれど、調査は、ここからが本番。彼女は、一番前に居た、屈強そな男性に声を掛けた。
「歌を聴いてくれて、有難う」
「いや、良いものを聴かせて貰った。此方こそ、有難うよ」
「ところで最近、羽振りが良くなった人や夜に出掛ける人、軽業師の方って、心当たりはありますか?」
「ん?そうだな……。もしかすると隣人の源五郎なら知っているかもしれない」
「本当ですか?」
「ああ。そいつは……。友人でもあるから詳しい事は言えないが、そうした町の人々の素行には詳しい。いわゆる、裏家業みたいなものだな。そうした事が気になるなら、源五郎という奴に聞いてみるのが一番だ。とはいえ、怒らせると怖いから、注意しろよ」
「そうなのですか……」
 拍手が響き渡る中、刑部は考えた。実は、先程の三つの質問をしたのには、理由がある。軽業師であれば、盗人として侵入や逃走を行うだけの身体能力があるだろう。そして活動時間が夜であるならば、その時間は不在になっているに違いない。また、そうして裏家業をやっているという事は、そこから多額の報酬を得ている筈だ。故に、そのお金で贅沢をしていると考えられる。
 そして、そうした条件に該当する者を知っているかもしれない人物が浮上した。源五郎。どうやら、その人物に会いに行く必要があるようだ。
 そう思索に耽っていた時、「お嬢ちゃん」という声が聞こえてきた。ハッと我に返り、相手を見る。先程、刑部が質問を投げかけた男性が、懐から何かを取り出そうとしている。そこから出てきたのは、ハニワであった。
「良かったら、このハニワをやるよ。このハニワは出土した中でも珍しい奴でな。持っているだけで、みんなから尊敬されるぜ」
「え、いいのですか……?」
「ああ。あんたの歌声で人々の心が明るくなった、これは、そのお礼だよ」
「では、有難く受け取りますね」
 そう言って、刑部はハニワを受け取った。それは、掌に納まる程の大きさで、楕円形の穴が三つ開いており、それが目と口を表している。そのハニワをまじまじと見ながら、彼女は思うのであった。
(ハニワがステータスですか。こういうのってレトロ回帰って言うのかしら)
 そんな事を想いつつ、改めて、刑部は歌声を聴いて頂いた方々へ、深く一礼をした。そして、数分経って拍手が鳴り終わった後、彼女はある場所へ向かった……。

 場所は変わって、とある長屋の一室。そこで、源五郎はだらしない恰好で酒を飲んでいた。顔は赤くなり、口からは酒臭い息を吐いている。薄暗い一室で飲んだくれている姿は、見ていて気持ちの良いものではないのかもしれない。けれど、引き戸は閉じており、誰もその姿を見る事は無い。彼は悠々自適に酒を煽っていた。
 そこへ、ガラァー、と、音を立てて引き戸を開いた者が居た。源五郎は、その相手を、蛇のように睨みつけた。
「ここが源五郎さんの自宅ですか」
 そう言いながら、部屋をグルリと見回す。空いた酒瓶が何本も転がっており、生活態度は良く無さそうだった。
「誰だてめえは!!」
「あ、申し遅れましたね。私は、刑部と言います」
「そんな事はどうだっていい!!さっさと帰りやがれ!!」
 刹那、源五郎は近くにあった空き瓶を大きい手で握りしめると、そのまま刑部に突進して振り下ろそうとする。
 だが、刑部は動じず、その手首を掴んで捻った。
「あいでででででで!!」
「実は、ちょっとお尋ねしたい事があるのですけれど、宜しいでしょうか?」
 刑部は、更に力を籠める。源五郎の手首に密集している筋肉や血管は、あと少し力を込めれば、千切れてしまいそうであった。
「わ、分かった。だから、手を放してくれっ!!」
 刑部はパッと手を離す。その反動で源五郎は態勢を崩し、無様にも湿気た畳の上へ顔をぶつける。
「では、早速。この辺りで、羽振りが良くなった人や、夜によく出かける人、または軽業師の方は、ご存じありませんか?」
「えっ?ああ、それならあいつだ」
 源五郎は指を外へ向けて突き出した。
 刑部は振り返る。そこには、この長屋の前を通り過ぎようとする男性の姿があり、チラッと見えた。冴えない顔をしており、頭が剥げている。表情は陰鬱そうで、目つきが悪い。その人物は、どこかへ向かっているようだ。

 ――オオカミさんお願いします。

 刑部はすぐさま、『魔女の白狼(ジェネルビステル)』を発動した。すると、彼女の足元に、黄金の瞳を持つ白狼が現れた。白狼は、長屋の前を通り過ぎようとする男性を見ると、そのまま長屋を飛び出した。このまま追跡していけば、彼がどこへ行くのかが分かるだろう。もしかすると、盗人のアジトかもしれない。
 そして、刑部は源五郎の方を振り返り……。
「どうも、有難う御座いました」
 そう言って一礼すると、刑部も白狼の後を追うべく、長屋を飛び出した。
 源五郎は、一体何だったんだ、と言わんばかりに、顔を少し呆けてさせていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィルジニア・ビアジャンティ
これがはにわ……気の抜けたような表情で愛嬌がありつつも神秘的な荘厳さを併せ持っていて奇跡的な可愛らしさを持った人形ですね……。こんな可愛らしいはにわを盗まれた方々の悲しみは察するに余りあります。一刻も早く取り返して差し上げましょう。
さて、賊達が一寸先も見えない暗闇で活動できているからには彼らは何らかの手段を用いて夜目を利かせているに違いありません。機械や薬、もしくは呪術の類ですかね。取り敢えずわたくしは心得のある機械で当たって見ましょうか。町の鍛冶場に今までに奇妙な部品の発注がなかったか聞き込んでみます。当てが外れていなければ賊の使っている装備や素性の見当を付けることが出来るやも知れません。



●Side【昼】:盗人が闇の中を動けるのは何故か?
 町の一角にある、小さな鍛冶屋。そこは一階建ての木造建築であり、広大な敷地を誇っていた。室内は、太陽の光も差さなければ、行灯のような明かりも無い。けれど、熱した鉄が発する、仄かな赤い光が、室内を淡く照らし出していた。そして、鉄を打つトテカンカンという甲高い金属音が鳴り響き、従業員が大声で指示を出し合っている為に、鍛冶屋は騒がしかった。その様子は、沈鬱な町中とは真逆であった。まるで、この鍛冶屋は別世界なのではないか、とさえ思われた。夏の蒸し暑い昼のような熱気に包まれながら、男達は汗水垂らしながら、必死に働いている。
 この鍛冶屋の奥に、従業員が休憩するスペースがあった。八畳程の湿った畳が敷かれており、そこには、煎餅や花札、酒瓶などが置かれている。そして今、ここに、二人の人物が相対して座っていた。
 一人は、頭に白髪の残った老翁であり、汚れた作業着を身に着けている。彼の名は、作蔵という。この鍛冶屋を取り仕切る代表者であるが、どう見ても一介の従業員にしか見えない。けれど、そうした身なりが逆に、相手を安心させるのであろう。彼は、目の前に居る来訪者を、細い目で見つめていた。その人物は、この世界では見慣れない道具、車椅子に乗っており、手に持ったハニワを眺めている。それは、掌サイズであり、レンガ色をしている。ポッカリと丸い穴が空いており、そこが真っ黒に見える。触る度に、焼いた土の感触が伝わってくる。
「これがはにわ……気の抜けたような表情で愛嬌がありつつも神秘的な荘厳さを併せ持っていて奇跡的な可愛らしさを持った人形ですね……」
 目を輝かせ、満面の笑みを浮かべながらハニワを凝視する彼女こそ、猟兵のヴィルジニア・ビアジャンティ(要塞椅子令嬢・f08243)だ。彼女はクリスマスやアルパカのモフモフなど、様々な事に対して興味関心を抱き、子供心さながらの楽しみを抱いていた。ならば、こうしてハニワに興味を持つのも、また道理と言える。しかし、見れば見る程、ハニワが微笑ましく思えてくる。古代の小さな人形を手に持って、クルクル回したり、顔の部分を緑色の瞳で見つめ続けたりしていた。
 そうした様子をジッと見つめている作蔵は、ヴィルジニアの様子を見て、釣られて自然と笑みをこぼした。
「どうじゃ。ハニワというのは、素敵じゃろう」
「ええ、とても素敵です!」
 ヴィルジニアは、笑顔で作蔵へ答えを返した。
 実は、ハニワが関わる事件というだけあって、彼女はこのハニワというものを見ておきたいと切望していたのであった……。
 遡る事、数十分前。
 太陽が照り付ける中、ヴィルジニアは、とある理由で、この鍛冶屋を訪れていた。中からは鉄を打つ音と怒号が響き渡っており、耳が痛くなりそうだった。世界によっては、騒音問題として見られるくらいに酷い音であった。しかし、ヴィルジニアは、その声に負けないよう、喉に力を籠め、精いっぱい呼びかけた。
「すみませ~~ん!!」
 しかし、返事は無い。代わりに、金属音と男共の猛々しい荒い声のみ。暫く待ってみたが、誰かがやってくる気配も無い。そうして待っている間も騒音が鼓膜を震わせ、眉を潜めてしまいそうになる。どうしたものか、と思っていた時であった……。
「おや、どうしたんじゃ」
 と、中から作業服を着た、一人の老人が現れた。その姿は、従業員に見える。彼女は、気の良さそうな顔をした相手に安心し、騒音に負けないよう大声で要件を言う。
「ちょっとすみませんが、お話を伺っても宜しいでしょうか?」
「ほう、お話と言いますと?」
「実は、ここで扱っているものや、ハニワについてです」
「成程の……。まぁ、外で話すのもあれじゃし、良ければ、中の休憩所でお話でもしようかの?どうするかね」
「では……、そうさせて頂きます」
「ところで、お主は見た所、足が不自由そうに見える。良ければ、若い衆に頼んで、それを運ばせようかの?ちょっと、大きな段差があるからの」
「いえ、その心配には及びません」
 そして、ヴィルジニアが車椅子に内蔵された装置を動かす。すると、その車椅子は、少し上へと持ち上がった。その様子に、作蔵は目を丸くした。
「こ、これは……」
「なので、段差は大丈夫です」
「……世界は、広いのお」
 こうして、喧騒に包まれた鍛冶場を通り抜け、休憩所へと案内されたのであった。若草色の畳に、煎餅や花札といったものが置かれた、小さな空間である。そこに漂う草の香りは、茶室のように心を静めるものであった。車椅子に乗ったまま周囲を見回すと、ハッと、目を光らせた。この空間には小麦色の桐ダンスがあったのだが、その上に、小さなハニワが飾られているではないか。その心情を察した作蔵は、「興味があるなら、触ってみるかえ?」と言った。
 こうして、話は冒頭へ繋がっていくのである。
 そうして暫くハニワを堪能していたヴィルジニアだったが、ここで本来の目的を思い出し、コホンと咳を付いてから、ハニワを作蔵へと返した。彼は、皺くちゃの手で、そのハニワを受け取り、桐ダンスの上へ戻した。そして、再び向き直る。
「さて……ヴィルジニアさん、といったかな。此方へいらしたのには、何か訳があるんじゃろう?」
「はい。実は……」
 と、ここでヴィルジニアは先程までのはしゃいでいた態度を一変させ、神妙な面持ちになる。そして彼女は、自身が猟兵である事を告げ、語り始めた。
 ここ最近、ハニワが盗まれる事件が多発している。そして、その盗人はプロである。闇に乗じて姿をくらまし、足音一つ立てずに、ターゲットの自宅へ潜入する。そして、目当てのハニワを気付かれる事無く盗み出し、再び闇に紛れて逃走する……。
「ですが、ここで一つ、気がかりな事があるのです」
「気がかりな事、かえ?」
「はい。……賊達は何故、闇の中でも活動する事ができるのでしょう?」
「それは、盗人だからじゃないのかね?」
「ですが、この暗闇は一寸先も見えない程に暗い。町の人達ですらそうならば、賊達も同じでしょう。……賊達は何故、そうした闇の中で、相手の自宅へ潜入し、ハニワを見つけ出す事が可能なのでしょうか?」
 そうして毅然として語られた推理に、作蔵は黙りこくった。刹那、この空間が、更に静寂を増したように思われた。隣にある鍛冶場の音が、ハニワを愛でていた時間に比べ、より大きく聞こえるような気がした。「おい、そこ気を付けろ!!」「失礼しました!!」といった、何気ない会話までも、耳に入ってくる……。
「恐らく、賊達は何らかの手段を用いて、夜目を利かせているに違いありません。例えば、薬や、呪術。それに……」
 ――機械。
 すると、遠くから金属を落とす音が響いてきた。怒号と謝罪の声が聞こえて来る。しかし、その言葉はヴィルジニアと作蔵の耳に入らなかった。ただ、この会話の中に漂う緊張が、外部のあらゆる音をシャットアウトしていたのであった。
「……すると、ヴィルジニアさんは」
「はい。失礼な物言いになると思いますが、此方で、今までに奇妙な部品の発注は無かったでしょうか」
 緑色の瞳が、作蔵の小さな瞳を射抜くように見つめる。作蔵は、ただ黙って、畳の染みを見つめていた。小豆色で、北海道のような形をしている染みだ。やがて、作蔵は弱々しく、口を開いた。
「……実は、そうした発注はあった」
「本当ですか」
「そうじゃ。本来なら顧客の情報を話してはいけないんじゃが、盗人かもしれないなら、話さねばなるまい……」
 そうして、作蔵が語ったのは、次のような内容であった。
 まず、発注したのは、町に住む金太郎という、中年男性であった。彼の職業は分からないが、生活に困っている様子は無いという。そして、彼の住んでいる家は、山の近くにあり、かなり大きいそうだ。そして、発注した部品については、紙に描いて説明してくれた。それは、摩訶不思議な構図であり、作蔵自身も、これが何の部品なのかは分からなかった。けれど、車椅子に様々な武装を施しているヴィルジニアが見ると、その部品の正体は見当がついた。いわゆる、暗視ゴーグルに似た道具に使われる部品だろう。彼女は合点がいった。これを使えば、一寸先が見えない闇の中でも活動ができる。
 ヴィルジニアの読みは当たった。心得のある機械で当たり、町でも有数の大きな鍛冶屋を訪れた結果、情報を入手する事ができた。
 そして、情報を提供してくれた作蔵の顔を、チラリと見た。彼の顔は、涙で濡れていた。それは恐らく、ハニワを盗み続けている極悪人へ、知らぬ内に手を貸していた事への悔悟だろう。
 そして、桐ダンスの上へ飾られたハニワへ目を向ける。そのハニワは汚れが全く無く、作蔵が毎日、丁寧に手入れをしている事が伺えた。
 ヴィルジニアは心の中で、決意を固めた。
(こんな可愛らしいはにわを盗まれた方々の悲しみは察するに余りあります。一刻も早く取り返して差し上げましょう)

成功 🔵​🔵​🔴​

エーカ・ライスフェルト
一寸先も見えない闇、ね
「ふふ。私の灰色の脳細胞にピンと来たわ」(失敗フラグ

夜間に見回りをすると、地域の顔役に一言言っておくわ
「真っ当な人間なら出歩かない時間と場所に、これを飛ばすの」
と言って、威力を最低限にして持続時間を高めた【自動追尾凝集光(ホーミングレーザー)】を円形にぐるぐる回す。人に当てないよう気をつけるわ

賊に私の情報が漏れると思っているわ
レーザー風の炎は囮で、本命は【属性攻撃】で地面を削って作る落とし穴よ
落とし穴を掘るのは深夜。炎を飛ばすのはその後ね。炎の光が届かない場所に、踝まで埋まる程度の浅い穴を複数開けておく

夜明前にはスコップを持って穴埋め作業ね。これが1番過酷かも
「汗まみれ…



●Side【夜】:レーザー風の炎と、落とし穴
『ハニワ町』は、まだ明るさに包まれていた。
 太陽が真っ赤に染まり、地平線の影へ隠れようとしている。水色だった空は茜色へと代わり、黒いカラスが飛び回っていた。そうして町は、橙色に染まって行った。昼間は通りに溢れかえっていた人々も、長い影法師を作りながら、木造建築や、豪勢な屋敷の中へ、いそいそと戻っていく。彼らの顔は、どこか怯えに似た表情であった。それもその筈。ここ最近騒がせているハニワの盗難事件で、心がざわついていたからだった。あと数十分で、日は完全に沈み、静寂の闇が訪れる。そのタイムリミットが一層、彼らの恐怖を駆り立てていたのであった。
 そうして、通りに人が居なくなり、寒い春風が吹きすさぶようになる。だが、その通りに、いかにもダルそうな足取りで歩く女性の姿があった。青いドレス風の服がたなびき、ピンク色の髪が春風で舞う。彼女の名は、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)。猟兵である。
 彼女はゆっくりと、無人のようにも思える町を歩き回りながら、一人思索に耽っていた。今回は、盗人の居場所を突き止めなければならない。しかし、盗人が活動するのは、夜間のみ。しかも、どうやら夜は、一寸先も見えない闇に包まれるのだという。その状況で、どうやって、相手を捕まえるか……。太陽の赤い光を背に受けながら、視線を宙にさまよわせ、考えを深めていく。
(一寸先も見えない闇、ね)
 その言葉が、エーカの中で引っ掛かった。それは一種の勘みたいなものであったが、何かを感じた。彼女はその場に立ち止まる。……そして、エーカは、ハッと顔を上げる。その表情は、良いアイデアを思い付いた発明家みたいに、良い笑顔だった。
「ふふ。私の灰色の脳細胞にピンと来たわ」
 無意識の内に、自信たっぷりに呟いてしまう。世間では、これをフラグという風に呼ぶ。しかし、そんな事はお構いなしにと、早速行動を開始した。
 エーカが足早に歩いて五分、とある屋敷の前へ辿り着いた。夕日の光によって橙色に染まった建築物は、とても広かった。白塗りの塀に囲まれており、正面玄関は立派な檜で作られている。彼女は、分厚い木の板でできた扉を、強く叩く。ゴン、ゴン。鈍く大きな音が、屋敷の中へ響く。そして、数十秒と経たぬ内に、中から足音が響いてきた。そして、ギイィィィ……、と、軋んだ音を立てつつ、ゆっくりと、扉が開いた。中から顔を出したのは、黒い和服を着た、しかめ面の中年男性であった。
「はい、どちら様でしょう?」
「すみません。こちらは、地域の顔役の方のお宅でしょうか?」
「ええ、そうですが?あんた、一体、何の用で?」
「実は私、夜間に見回りをしようと思うの」
「見回り……。ひょっとしてあんた、いわゆる、猟兵って奴なのかい?」
「ええ、そうよ」
 そこから話はトントン拍子に進んだ。顔を出した男性は、「少々お待ち下さい」と言い、奥へ姿を消した。やがて、小走りに戻ってくると、「どうぞ、お上がり下さい」と言い、エーカを中へ招き入れた。
 中は、豪華であった。松の木が植えられている庭は綺麗に手入れがされており、応接間となる部屋は、何十畳もの畳が敷き詰められていた。そして、待つ事数分、そこへ、チョンマゲを結った老人がやって来た。漆黒の和服を着ており、その態度からして、この地域の顔役である事が伺える。彼は礼儀正しく正座をすると、深々と頭を垂らし、そのまま顔を上げて告げる。
「この度は、事件解決に貢献して頂けると聞きまして、有難い限りです。何か、力になれる事や、お役に立てる事がありましたら、何なりとお申し付け下さい」
「いえ、大丈夫よ。私一人で問題無いわ」
「そうでしたか。では、何か私共が知っておくべき事などはありますか?」
「そうね。私は今夜、見回りをしようと思うの」
「見回り、ですか。それは有難い事です。何分、この町の夜は闇に包まれ、一寸先も見える有様。見回りをしようとも、成果を上げられないのです」
「その事なら、私も知っているわ。それで、真っ当な人間なら出歩かない時間と場所に、これを飛ばすの」

 ――誘導属性付与完了。照射開始。

 エーカは小さく呟き、『自動追尾凝集光(ホーミングレーザー)』を発動する。彼女は掌を胸の高さにまで上げて、天井へ向ける。すると、そこに摩訶不思議なものが現れた。一言で言えば、それはレーザー風の炎であった。それは円を描くように、その場でクルクルと回っている。それは、蛍ように美しかった。今回は攻撃が目的では無いので、威力を最小限にし、代わりに、持続時間を眺めに設定してある。光源として活用する分には、充分であろう。
「……と、このレーザー風の炎を、夜中に飛ばす予定よ。一応、声を掛けておいた方がいいと思ったの。勿論、人に当てないようには、気を付けるわ」
「ああ、お気遣い、誠に有難い限りです」
「それと、ちょっと許容して欲しい事があるのだけれど……」
「はい、何でしょう?何なりと、お申し付け下さい」
 エーカは、これから行う事の詳細を、男性に告げた。それを聞いた男性は一言。
「じゃあ、その後処理もやって貰えるのであれば、問題なかろう」
 男性は、精いっぱいの譲歩をして、エーカのお願いを聞き入れたのであった。
 そして、エーカは男性と大勢の部下達に見送られ、屋敷を出たのであった。不意に地平線の彼方へ目をやると、太陽が殆ど、隠れてしまっている事に気付いた。空は茜色から紺色へ変わっていき、やがて、墨色へと変色した……。
 こうして、町は闇に包まれた。太陽が沈んだ後、バトンタッチするかのように、白い月が夜空へ登った。しかし、それも束の間であった。山の奥から黒く厚い雲が漂ってきて、その光源を覆い隠してしまった。やがて、夜空一面を、絨毯のように覆った。町は、墨を塗りたくったように暗くなったのである。
 そして深夜。とある屋敷から、二人組の盗人が姿を現した。背中には唐草模様の風呂敷を背負っており、その中には、大量のハニワが詰まっている。
「へへへ、やりましたね兄貴」
「静かにしろ。恐らく、猟兵が介入している筈だ。見つかったら、事だ」
 彼らはそう言い、介入しているであろう猟兵達を警戒する。しかし、それはエーカが既に想定している事であった。そうとは知らず、二人は足音を立てずにその場を去ろうとした。その時である。
 突然、目の前に、細長い炎が現れたのである。それは、スッと、盗人の前を通り過ぎ、闇の中へ消えて行った。
「あ、兄貴、あれは一体……」
「声を出すんじゃねえ」
 すると、また別の方角から細長い炎が現れたかと思うと、それは、闇の奥へと消えて行った。
「でも、あの炎が通り過ぎる度、俺達の姿が見えちまう……」
「落ち着け。炎が通り過ぎるって事は、相手は俺らの姿を見つけた訳じゃないって事だ。見つかったなら、そのまま俺達に炎を近づけ続ける筈だ」
 そして、彼らは、その炎を避けるようにして、慎重に歩みを進めて行った。冴えない見た目をしているが、その腕は一流だった。足音もしなければ、姿も見えない。恐らく、炎の問題を抜きにすれば、誰も彼らを見つける事などできないだろう。
 しかし、炎に注意を向けていた盗人達は、足元に注意を払っていなかった……。
「うわぁ!!」
「おいどうし――ふぬぅ!?」
 二人は素っ頓狂な声を上げて、その場に倒れ込んだ。風呂敷を背負っている為に受け身が取れず、そのまま体の前面を固い地面へ叩きつけてしまう。くぐもった声を上げながら、何が起きたのか、足元を見る。すると、踝より下が、地面の中に埋もれていたのだった。
 どういう事だ。そう思った瞬間、突如、明るい光が二人を照らし出した。ハッとして顔を上げると、そこには、あの細長い炎が数十個も周囲を旋回していたのであった。それによって、彼らの姿が闇の中に露わとなった。
 そこへ、ピンク色の髪をたなびかせ、ゆっくりと歩いて来る女性の姿があった。エーカである。彼女は盗人を見下せる位置まで歩いて来ると、彼らに告げた。
「さて……、色々と情報を話して貰うわ」
 実は、これがエーカの狙いであった。この細長い炎は、あくまでも囮。本命は、踝が埋まる程度の浅い落とし穴を幾つか掘っておき、そこに盗人を追い込んで捕まえるというものであったのだ。本来なら、落とし穴を作るのは時間が掛かる。しかし、エーカは得意とする属性攻撃を使った掘り方をした事で、素早く沢山製作できたのだった。おまけに、属性攻撃で掘るので特殊な形に仕上げる事も可能であり、結果、彼らは未だに足が抜けずにいる。
 猟兵の力量に恐れおののいた盗人達は俯き、降参した。
 こうして、エーカは盗人を捕まえ、アジトの場所を吐かせる事に成功した。

 余談だが、アジトへ向かう前、エーカは落とし穴を元に戻す作業を行う事となった。これを放置しておく事は、町人にとって迷惑な上、誰かが嵌ってしまうという危険性もあった。なので、地域の顔役である男性は、許可を出す代わりに、その後始末も一人で行うよう、エーカに告げていたのであった。
 次の戦いへ赴く前、体力を消耗しつつ、エーカはスコップ片手に落とし穴を元に戻していた。この作業、案外大変である。彼女は苦い顔のまま呟いた。
 ――汗まみれ…。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
死人への副葬品などにも使われていた物だね。
呪術的な物らしいけど、
それが山から大量に、ね。
咎になる様な事じゃなければいいんだけど。

【WIZ】
昼間は情報採取、夜に窃盗かな。

昼間に大通りで埴輪売り。
山で掘ったこちらの物と、他の世界で売っていた類似品を売る。
興味深く聞いてくる人を覚える。
【UC六の同胞】にも記憶させる。

餌を撒いて夜の客(泥棒)を間違えない様に。


埴輪って空洞だから、内側に蝋燭をいれたりしたら面白そうだね。
円に並べて僕は中央に。
【UC六の同胞】は光の届かない所で待機

僕を狙うと埴輪も壊れるよ。
さて、目的を教えてもらおうかな。
それ次第では、君達の主に埴輪を渡していいかもしれないしね。と嘯く。



●Side【昼】&【夜】:部屋にて盗人を待つ者
 不穏な空気は、泥のように町中を漂っていた。それはまるで、深海のように暗く、そして陰鬱なように思われた。本来なら、プランクトンや発光する深海生物などの神秘があるものだが、そうした美しさも消えてしまっている。正に、死の世界。水色の空が海面より上を表現するならば、町は深海の底を表現するのだろう。
 長く一直線な小麦色の通りには、多くの人々が行き交っている。和服、袴、浴衣、もんぺ……。そうした衣類を着た者達は、肩の力を抜いたように歩いている。目に光の無い彼らは、まるでゾンビのようでもあった。今の彼らにとっては、燦々と輝く太陽ですら、重荷になるのだろう。
 そうした重苦しい空気の町中を、一人の女性が歩いていた。黒光りする巨大な車輪を体の横でゴロゴロと転がしながら、ニヒルな笑みを浮かべて、優雅に歩いている。彼女が通る度に、磯の臭いが漂い、周囲に居る人は顔をしかめた。
 その人物の名は、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)という。彼女もまた、この事件を解決せんとする猟兵である。
 夷洞は、町の風景を眺めながら散策する。今歩いている通りには、何十人もの人々が、暗い顔をして歩いている。通りの左側は黄土色をした木の塀になっており、古くなっているのかささくれができている。右側には黒い瓦屋根を被せた木造建築のお店が、屋台のようにズラリと並んでいる。その店頭に立って呼びかける店員の声は弱々しく、ハリが無い。
(ハニワと言えば、死人への副葬品などにも使われていた物だね。呪術的な物らしいけど、それが山から大量に、ね)
 そうして、車輪をゴロゴロと転がしながら、小さく息を吐く。
(咎になる様な事じゃなければいいんだけど)
 ハニワは、死人の副葬品でもある。それは、死と密接な関係があるという事だ。人によっては、そうした死というものについて、自分なりの考えや価値観というのを抱かず、毎日を送っているのかもしれない。けれど、夷洞は、そうした死について、考えや価値観を持っていた。それは、今まで行ってきた仕事にも表れている。だからこそ、こうして死者の副葬品たるハニワが大量に出てきた事について、独自の想いを馳せずにはいられなかったのであった。
 そうして、暫く進んで行くと、不意に立ち止まった。そこは、通りの左側であり、何も無い。いわば、露店を出す事のできる、フリースペースであった。
(さて、ここでいいかな)
 一言、心の中で呟くと、車輪を木の塀に立てかけ、腰をかがめる。そして、地面に座る為のシートを敷き、持参した荷物をそこに並べる。その荷物は、焼いた土でできており、褐色で、三つの穴が空いている。多くは人の形を模して造られているが、中には、動物の形を模した物もある。それが、優に数十個はあった。
 刹那、通りかかった人々が立ち止まり、その荷物に視線を向ける。そして、辺りはザワザワと、言葉の波で騒がしくなっていく。
「さあ、さあ、今ならハニワがお買い得だよ」
 シートに座り、夷洞は呼びかける。それを聞いた人々は、一体何事かと、足早に彼女の露店へ駆けて行く。周囲はあっという間に、人々の大群で包まれた。
「こ、このハニワ、ど、どこで手に入れたんだい?」
「あの山で採掘したよ」
 冴えない風貌の男性に聞かれた夷洞は、あっけらかんとした表情で告げる。しかし、半分は真実で、半分は嘘である。確かに、山で採掘したハニワも、幾つかある。けれど、その大半は、他の世界で売っていた類似品であった。
 けれど、ハニワと聞いただけで、周りに居た人々は気分が高揚した。何せ、一大産業と化しているハニワが、しかも、目の前へ大量に並べられているのだ。和服を着た男性から、浴衣を着た子供、果てはもんぺを着た老人まで、誰もが、目を星のように輝かせていたのであった。
「な、なぁ、これって、一体いくらで売っているんだい?」
 再び、冴えない風貌の男性が尋ねてくる。その男性の顔を金の瞳でジッと見つめた後、独特な形、色をした手を前に出す。そして、指を軽く折り曲げる。
 すると、歓声が上がった。
 ――そのハニワ、俺に売ってくれ!
 ――素敵なハニワ、お願い、それを私に売って頂戴!
 ――金なら幾らでも出す!だから、その変わった形のハニワを是非、私に!
 そうして、ちょっとした騒ぎが起こったものの、暫くすると、シートの上にあったハニワは消えうせていた。無事に購入できた人々は恍惚とした表情で去って行き、購入できなかった者達は、悔し涙を流しながら、トボトボと、重い足取りで帰って行ったのであった。
 そうして、夷洞が帰りの準備をしている時であった。また、あの冴えない風貌の男性が、目をぎらつかせて話しかけてきた、。
「な、なぁ、このハニワって、まだ、他にも在庫があったりするのか?」
「ん、そうだよ?宿にまだ残りがあるから、明日も売ろうかな」
「そ、そうか。ぐへへ、きっと、良い商売が、できるに違いないでっせ」
 そう怪しい笑みを浮かべたまま、その男性は通りの人混みへ紛れ込んでいった。
 その後ろ姿を、夷洞は、静かに見つめ続けていた。しかし、彼の姿を凝視していたのは、彼女だけでは無かった。反対側にある木造建築と木造建築との間にある隙間。そこに、誰にも気付かれないように隠れ、彼の姿を見つめる影があったのであった。夷洞が、その影にアイコンタクトを送ると、その影は静かに消えて行った。
 やがて、夷洞は、荷物を纏め、黒光りする車輪をゴロゴロと転がしながら、今晩に宿泊する宿屋へと向かうのであった……。

 そして、夜がやって来た。
 夷洞は、宿屋の窓から、外の様子を見る。しかし、何も見えない。それは、電源を切ったテレビの画面のように真っ暗で、何も見えない。もしくは、一切の光源が無い、深海のようでもあった。生命の息吹をも感じさせぬ闇は、不気味な雰囲気を醸し出す。
 夷洞は窓を閉め、室内の中央へ足を運んだ。
 しかして、その部屋は、呪術の儀式を行う場所の様相を示していた。室内の中央にて、夷洞は、厳かに座る。その彼女を取り囲むかのように、大小様々なハニワが置かれている。それらのハニワは、橙色の仄かな明かりを放っており、ロウソクのようであった。そうした摩訶不思議な空間にて、夷洞は、静かに詠唱を始める。

 ――澱んだ海の底より来たれ。身を裂け、魅よ咲け。我ら七人の聲を、呪いを、恨みを、羨望を示そう。忘却した者達に懇願の祈りを込めて。

 夷洞は、ユーベルコード『忘却祈願・我は我等なり(ボウキャクキガン・シチニンミサキ)』を発動する。……すると、仄かに橙色の明かりが灯る空間に、何かが現れた。それらの数は、六つ。その者達は、夷洞の、今は亡き、かつての同胞達の霊であった。そして、昼間にハニワを売った際、あの冴えない風貌の男性を、物陰から凝視していた影でもあった。夷洞は同胞達へアイコンタクトを送ると、その霊は、明かりの届かない暗がりへと姿を消した。
 そうして、再び静寂が訪れ、時が流れて行く。

 すると、夷洞の宿泊している部屋のドアが、静かに開いた。
 夷洞と、夜の客との目が、合った。
「えっ……」
 夜の客は、盗人であった。それは、昼間、夷洞へ執拗に尋ねてきた、あの冴えない風貌の男性であった。彼は、目を丸くして驚いていた。それもその筈。部屋の中央で夷洞は、彼が来る事を予期していたかのように、此方を向いて座っている。その周囲には、ハニワが不気味な光を灯して配置されている。
「こ、これは、一体……」
「ああ、ようこそ。そういえば、昼間に色々と聞いてくれた方だったよね。“僕達”は、ちゃんと覚えているよ」
「いや、そうじゃなくて、このハニワは一体……」
「これかい?埴輪って空洞だからさ、内側に蝋燭を入れてみたら面白そうだと思ってね」
 そう、あっけらかんと話す夷洞。しかし、目の前でそのように語る彼女に対し、盗人は、骨の髄が凍えるような何かを感じた。それは恐らく、盗人として活動してきた事による本能が、何かを察知したのであろう。
 すぐさま、隠し持っていた道具を投げつけようとする。……が。
「おっと、僕を狙うと埴輪も壊れるよ」
 その言葉を聞いて、盗人は動きを止める。どうやら、相手の言っている事は、嘘ではないようだ。それが確実に伝わってくる。
 盗人は、踵を返して逃げようとする。だが、彼は何者かに押さえつけられる。先程、夷洞が呼び出した、同胞達の霊だった。正体不明の存在に身動きが封じられた事で、盗人はとうとう堪り兼ねず、悲鳴を上げた。
 夷洞は立ち上がり、盗人の元へ歩み寄る。そして、耳元へ口を近づけて嘯く。
「さて、目的を教えてもらおうかな。それ次第では、君達の主に埴輪を渡していいかもしれないしね」
「お、俺達はハニワを盗んでくるよう言われただけなんだ!知りたいなら、アジトに居る雇い主に直接聞いてくれ!」
 そして、盗人はアジトの場所を暴露した。どうやら、山の近くにある、大きな家だという。夷洞は、その情報を得た事で、満足そうに頷いた。
 ちなみに、この盗人がどうなったかは、読者諸君の想像にお任せしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木目・一葉
ハニワよりクロコダイルのぬいぐるみのクロコンのほうが可愛いと思うn――か、かわいい!
くッ、許せん!
だがハニーちゃんが一箇所で見つかったのは気にかかる

【WIZ】
活動は夜

事前に僕は丁寧な【礼儀作法】と【コミュ力】で宿の人達と接し【情報収集】だ
次狙われる場所を予想したい
あと仲良くなる為の話題は、
僕のクロコンとハニワ、どちらが可愛いのか談義したいな、ふふ
まだ見ぬ僕のハニーちゃんのことを今からでも知りたいし

狙われる場所が予想できたら、そこで【目立たない】よう【忍び足】で待ち伏せ
改造型暗視ゴーグルの【暗視】と【視力】も活用し、怪しい人影あれば『影の追跡者達の召喚』で追跡させる
追跡した情報は仲間に知らせたい



●Side【夜】:クロコダイルのぬいぐるみの方が可愛いかも?
 夜が訪れた。それは、静寂を意味する。
 青空が広がっていた日中は、町中が人々で賑わっていた。小麦色の通りには、着物や浴衣を着た老若男女が大勢歩いており、木造建築や古びた木の塀が、サムライエンパイアという和の世界を明確に表現していた。けれど、辺り一面が深い闇に覆われる直前、人々は屋内へ避難するかのように駆け込んだ。そうして、外には誰一人居ない状態となった。今やこの町は、墨汁を空気に塗りたくったかのように真っ暗となり、一寸先も見えぬ有様となった。恐らく、提灯を持って出歩こうとしても、一間先の家へ行くのも困難であろう。それほどまでに、この闇は深く、暗く、陰鬱であった。
 その景色を、宿屋の玄関口から見つめる少女が居た。鼻のあたりにそばかすがあり、ボーイッシュな雰囲気を醸し出している。彼女は、小麦色の杉で作られた立派な横長の腰かけ椅子に座っていた。周囲は木でできた焦げ茶色の壁や天井に覆われており、とても広い。天井も高く、背伸びをしても解放感を感じられる。近くの囲炉裏で燃えている炎が、パチパチと音を立てながら、室内を赤く淡い炎で照らしている。そうした、木や墨の香りが、この空間へ心地よく漂っていた。
 外を見ていると、その闇が怪物のように思えてきてならない。まるで、怪物が口をポッカリと開けて、今にも呑み込んでしまいそうな……。そんな錯覚を覚える。けれど、彼女は首を横に振り、そんな不吉な考えを捨てるかのように、手元にあるぬいぐるみを見つめた。
(ハニワよりクロコダイルのぬいぐるみのクロコンのほうが可愛いと思うn――か、かわいい!)
 そう、心の中で嬉々として、年相応の反応を示しているのは、猟兵の木目・一葉(生真面目すぎる平凡な戦士・f04853)である。彼女は、『ハニワ町』に存在する宿屋の一つに宿泊していたのであった。そして、たまたま持ってきていたクロコダイルのぬいぐるみ、通称クロコンを愛でていたのであった。オブリビオンにくっついていたヒヨコを可愛いと思ってしまうのだから、このクロコンを可愛がるのも、また道理である。けれど、そうしてハニワやぬいぐるみについて想像を巡らせていると、不意に、そうした可愛らしい存在を盗む悪人達の姿が浮かんできた。
 ――くッ、許せん!
 そうして、素早く思考を猟兵としての使命へと切り替える。手を顎に当て、そのまま考えを巡らせる。盗人達をどうやって見つけるのか、何故人々からハニワを盗むのか。そして……。
(だがハニーちゃんが一箇所で見つかったのは気にかかる)
 そう、木目が気にしたのは、その点であった。事の発端は、山へ山菜取りに出掛けた町人が、出土していたハニワを見つけた事に由来する。しかし、そのハニワが出土したのは、一カ所からであった。こうした事例は、珍しい事では無いのかもしれない。しかし、木目としては、それが非常に気がかりであった。
 だが、いつまでも考えに耽っている訳にもいかない。恐らく、今夜も盗人はどこかでハニワを盗む事になるだろう。そうなる前に、何とかしなくては。
 そして、木目は一計を案じた。
(なら、そのハニワが盗まれそうな方を見つければ良いのではないだろうか?)
 彼女の考えはこうだ。
 まず、ハニワを持っている人達の中で、特に盗まれそうな人を推測する。そして、その方の家で盗人を待ち伏せする。それから更なる行動を起こす、というものだ。
 その為にも、まずは情報が必要だ。木目は周囲を見回した。すると、囲炉裏の近くで、何やら話をしている女性達の姿があった。二十代前半と思える彼女達は、桃色の着物を着ており、とても華やかであった。けれど、その顔はどこか曇っており、声も少し沈んでいた。その理由がハニワの盗難事件によるものだと、木目は察した。
 彼女は席を立つと、彼女達の方へ歩みを進めて行った。
「こんばんは、ちょっといいかな?」
 気さくに話しかけてくる少女に対し、女性達は沈んだ会話を止め、木目の方へ顔を向ける。一体、この方は誰なのかしら?そう言いたげな、キョトンとした顔だ。
「えっと、急に話しかけてすまない。実は、ハニワについて、ちょっとお話したいなと思っていたところだったんだ」
「ええ、ハニワ……ですか。別に、良いですけど」
「有難う。あ、隣に座ってもいいかな?」
「はい、構いませんよ。どうぞ、此方へ」
 木目は会釈して、彼女達の隣へ座る。囲炉裏の炎が赤々と燃え、パチリ、と、小さく音を立てた。じんわりと温かい熱が伝わってくる。
「それで、お話というのは……」
「そうだった。あなた方は……」
 そう言って、先程愛でていたクロコンを、女性達の前へ出す。
「ハニワとクロコン。どちらの方が可愛いと思うかな?」
 それを見た女性達は、突然の質問にキョトンとしていたが、やがて、クスリと笑った。そして一言。
「あらやだ。ハニワが一番に決まっているじゃない」
「えっ」
「そうよ、ハニワ程、愛くるしい姿をしたものは無いわよ。あのとぼけた表情、小さな体躯、それが母性をくすぐって仕方が無いのよ~」
「そ、そうなのか……」
 そう言われ、シュンとなる木目。しかし。
「ところで、貴方、ハニワについてご存じかしら?」
「いや、実はハニーちゃんについては、あまり知らない」
 それを聞いて、女性達はまた、クスリ、と笑った。
「ハニワをハニーちゃんと呼ぶなんて、貴方も可愛いわね」
「そ、そうか?」
「ふふ。その様子を見るに、ハニワについて詳しくないみたいね。いいわ、私達が、ハニワについて色々と教えてあげる」
 そうして、当初の予想とは外れたが、結果として、話題は盛り上がった。先程まで暗い表情をしていた女性達に笑顔が戻り、二十代前半というピチピチとした若さが、顔に現れていた。その様子を見ていた木目も、また、嬉しくなった。静寂の中、炎が墨を割る音が微かに鳴り、木目と女性達の楽しそうな声が響いた。暗い空間で笑いあう彼女達の姿は、まるで、キャンプをしている若者のようにすら感じられる。
 そうして、暫く話が弾んだ後、彼女達は立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ私達は行くわね。楽しい話を有難う」
「いえ、此方こそ。……あ、そうだった」
 そこで、木目は本題を思い出して、彼女達へ尋ねた。
「ところで、この辺りで、ハニワを持っている人は知らないか?」
「えっ。大勢の人が持っているわよ」
「では、そのハニワを持っている中で有名な方は存じないだろうか?」
「それなら、太郎さんじゃないかしら?」
 その言葉を聞いた時、木目は顔を険しくした。
「太郎さんと言うと?」
「その方、ハニワのコレクターなんだけど、まだ盗まれていないみたいなのよ。しかも、この間も珍しいハニワを購入したばかりなんですって。本人も、いつか盗まれるんじゃないかって、怖がっていたわね」
「そうですか……。有難う御座います」
 そうお礼を言われ、女性達は自室へ引き上げて行った。
 そして、囲炉裏の傍で一人取り残された木目は、真剣な顔つきになる。先程の話に出ていた、太郎という人物。その人物は、ハニワのコレクターであるばかりか、珍しいハニワを購入したばかりだという。もしかすると、次に狙われるのは、この人かもしれない……。
 木目は、外を見た。そこに広がっているのは、一寸先も見えない闇。下にある筈の、小麦色の通りも見えない。
 彼女は、懐からある物を取り出した。それは、改良型暗視ゴーグルである。それを頭に装着し、前方に広がる闇を見つめる。すると、そのゴーグル越しに見える景色は、まるで赤外線カメラのように、はっきりと見えた。下にある通りも、その奥にある気の塀も、克明に映し出されている。これなら、この暗澹たる闇の中を自由自在に動く事ができる。
 木目は、気付かれぬよう足音を消し、こっそりと、外へ体を滑らせたのであった。

 そして、忍び足で歩く事五分。とある屋敷の前へ辿り着く。ハニワのコレクターというだけあって、巨大な塀に囲まれており、敷地が広い事を伺わせる。正面には、立派な檜で作られた玄関がある。木目は身を隠すようにして立ち、息を殺した。
 瞬間、遠くの堀から飛び降りた影があった。木目は、その姿を二つの瞳に捉える。それは、二人組であった。しかも、背中に唐草模様の風呂敷を背負っている。その中には、大量のハニワが詰め込まれていた。悲鳴が聞こえないところを見ると、太郎という人物は、盗まれた事に気付いていないらしい。彼らは、足音を消しながら、素早く闇の中へ消えようとする。
 
 ――疾れ、影のトモダチよ。

 すぐさま、木目は『影の追跡者達の召喚(カゲノツイセキシャタチノショウカン)』を発動する。刹那、彼女の周囲に、影の追跡者が複数、召喚される。それらは、闇に消えて行こうとする盗人達の姿を捉えると、素早く、音を立てずに迫って行った。
 だが、木目は追いかけず、一旦引き返す事にした。影の追跡者達の五感は、木目自身とも共有している。故に、どこにいるのかも把握している。
 その為、木目はその情報伝えるべく、他の猟兵達の元へ向かうのであった。
 盗人、影の追跡者達、木目。三者はそれぞれ、闇の中へと姿を消していった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒・烏鵠
いっちゃん(f14324)と調査っ

埴輪て。またずいぶん懐かしーモンが流行ってんのナ。えーアレそんな値打ちモンになってんの?マジかーオレも一個くらいとっときゃよかったかねェ。

さておき調査だ。

オレは【昼】が担当だ。
まず、UC使ってカワイー娘さんに化ける。
埴輪がどーしても欲しくって家飛び出してきたおしゃまさんを演じる。いっちゃんは護衛役ナ。演技できねーから。
次。折り紙で折った埴輪をUCでホンモノに変え、周囲に自慢する。オレが埴輪持ってる事を喧伝するワケだ。で、そのまま宿屋に泊まる。

で【夜】になればトーゼン盗まれるだろ。ここで敢えて泳がせる。ニセモンだしな。集会場まで案内して貰いましょーか。


イリーツァ・ウーツェ
烏鵠(f14500)に同行

はにわ。見たところ、焼いた土人形だな。
UDCアースでも、庭に似たものを置いている家があった。
あちらはノームと言ったかな。

【昼】だが、正直こちらで私に出来る事はほとんど無いな。
せいぜい無力な娘を演じている烏鵠の後ろで、目を光らせる程度だろう。
私の出番は【夜】だ。
泥棒とて空を飛んで逃げはしまい。
UCを使い、土地の記憶を読みながら正確に後を追う。
暗闇だろうが関係ない。地面には踏まれた記憶が残るからな。
猟犬より正確に追ってやろう。


シン・ドレッドノート
アドリブOK。連携歓迎です。
同旅団の方が居たら優先で。
【SPD】

└|∵|┐
裕福そうな商人に扮して昼間のうちにハニワを数体購入、宿に部屋を取り、商人や宿の人と会話して、翌朝出立すると言う噂を流します。

夜になったら【世紀末の魔術師】で複製したハニワを部屋に置いて本物は見つからないように部屋の奥に隠しておき、布団で寝ている状態を偽装し待ち伏せします。

暗視(電脳ゴーグル『怪盗の単眼鏡』の機能)しながら警戒、盗人がやってきたら複製のハニワを盗ませます。

連携される方が追跡を希望しているなら、暗視したまま忍び足で追跡します。
ハニワに紅の影のカード(発信機付き)を付けて、怪盗の単眼鏡で場所を特定しましょう。


トリテレイア・ゼロナイン
【夜】
町の人々が愛するハニワ、それを盗むなど許しては置けません
騎士としてこの騒動を収め、町に平和を取り戻しましょう

まずは昼間に出来るだけ大きなハニワを町で購入し、「怪力」で運びつつ街中に見せびらかします。町の騒動を知らない間抜けな旅行者が「主が所望したハニワが見つかって助かった」と大げさに喜んでみせる体で演技しましょう。

そしてこっそり「破壊工作」でハニワの内部にUCの妖精ロボを仕込み、宿で寝たふりをして盗人が盗みに入ってくるのを待ちます。
盗まれたら妖精ロボの信号を頼りに「暗視」「スナイパー」技能を使いつつこっそり尾行、盗人の拠点を割り出します
拠点が分かれば「だまし討ち」をしかけて捕えましょう



●Side【昼】&【夜】:ハニワで釣って泳がせる
 青空が、広がっていた。白い雲が散り散りに漂っており、丸い太陽が光り輝いている。その燃え上がる惑星が見下ろしているのは、旅人がお世話になっている宿場町、『ハニワ町』。その中央を縦断する通りの左側には、黄土色の古びた木の塀がある。そして右側には、黒い瓦屋根をした木造建築が、夏祭りの屋台のように、ズラリと並んでいる。それらに挟まれるようにして伸びている通りには、着物や袴に浴衣ともんぺなど、様々な和服を着た老若男女が歩いている。下駄や草履が小麦色の地面にぶつかり、カランコロンと音を立てている。そうして歩いている彼らの顔は、どこか憂鬱にさえ見えた。顔に覇気が無く、落ち込んでいるようにさえ見える。その様子は、まるでコケシのようであった。そうした、大小様々なコケシが、背を丸めたまま、ゆっくりと前後左右に移動している。コケシには情緒というものが備わっているのだが、今の彼らには、そうした和の装いというものに欠けていた。
 全ては、ハニワの窃盗が原因である。その陰鬱たる事件が、町人の心へ、漬物石のように、重く圧し掛かっていたのであった。

 そんな町へ、二人の人物がやって来た。
 一人は、何とも可愛らしい小さな娘さんであった。赤い袴を身に纏い、艶やかな黒髪を結っている。目は黒真珠のように光り輝き、薄い唇は桜色をしていた。そんな娘さんは、ルンルンと上機嫌にスキップをしながら、通りを闊歩していた。
 もう一人は、文字通り、屈強な男であった。慎重190cmという体躯であり、炎のような赤い瞳をしている。そうして、娘さんの後ろについて、ズンズン歩いて行く姿は、正にお目付け役、または護衛という感じを如実に示していた。
 娘さんが笑顔で前を足早に歩き、その後ろを、大男がゆったりと歩るいていく。そうしたアンバランスな体格の二人に、町を行き交う人々は、自然と、彼らの方へ視線を向けた。元気のない顔をしていたが、その目にはまだ、好奇心に輝くだけの力が残っていたのである。
 そうして注目を浴びるこの二人、実は猟兵である。
 前者の明るく元気で活発な娘が荒・烏鵠(古い狐・f14500)であり、後者の無口で巨体の護衛がイリーツァ・ウーツェ(不死盾・f14324)である。
 ここで断っておかなければならないが、荒は娘では無い。更に言えば、女性でも無い。実際は、身長が178cm近くもある男性の妖狐なのであった。
 少し話は遡る。
 今から数十分前、『ハニワ町』の外にある人気の無い道沿いに、二人は居た。周囲は若草色の短い雑草が生えており、その中央を小麦色の道が走っている。春風が吹く度に、雑草が揺れ、道の土はフワッと巻き上がる。周囲に木々などの遮蔽物は無く、遥か先も見通せる程に開けていた。一見すると、ヨーロッパの田舎にさえ思える光景だろう。だが、この場所はれっきとしたサムライエンパイアの一地域である。こうした道だからこそ、多くの旅人が行き交い、その道中にある『ハニワ町』へと訪れるのだろう。空高く飛んでいた名の無い鳥が、ピヨヨッ、と軽快な鳴き声を上げる。
 荒とイリーツァは、周囲をくまなく素早く見回した。この辺りは往来が激しく、よく旅人が通りかかるのであった。しかし、今は旅人らしき人影が見当たらない。その事を確認し、荒は早速、詠唱を開始した。

 ――葉っぱをお札に、狐を人に。変化は妖狐のたしなみさァ。

 そうしてユーベルコード『十三術式:九羽狐(クワギツネ)』を発動した。すると、先程までの高身長な妖狐の姿は無く、代わりに、あの可愛い娘さんへと化けていたのであった。そうして荒は、自分の姿を確認する。赤い袴の袖を摘まんでみたり、クルリとその場で回転してみせたり、裾から伸びる白い足袋と黒い下駄をまじまじと眺めたりする。そして、うんうん、と頷いた。
 しかし、何故、可愛い娘さんへ化ける必要があったのか。実は、これも作戦の一つなのであるが、すぐに分かる事となるので、今は説明しないでおこう。
 そうした荒の変身を、イリーツァは無言で見つめていた。彼自身ですら、先程までの荒と同一人物とは思えない。それ程までに、その変身は完璧であった。そして変身が終わるのを見届け、そのまま二人は『ハニワ町』へ向けて、歩みを進めて行った。
 ザッ、ザッ。小麦色の地面を踏みしめる音が、春風の音と共に響き渡る。これから盗人のアジトを探し出す作戦を試みるので、心のどこかでは緊張していたかもしれない。けれど、そうした緊張があったとしても、春の温かい陽気が、それを緩和した事だろう。太陽の日差しを受けながら、町へと歩いてく。
 しかし、人に見つからないようにする為、ちょっと遠くへ来過ぎてしまったようだ。町へ戻るのに、少し時間が掛かる。あと、十数分くらいは必要だろうか。少し暇になったので、ちょっとばかり会話をする事にした。
「埴輪て。またずいぶん懐かしーモンが流行ってんのナ」
「はにわ。見たところ、焼いた土人形だな。確か、価値のあるものだったな」
「えーアレそんな値打ちモンになってんの?マジかーオレも一個くらいとっときゃよかったかねェ」
「まぁ、今となっては仕方ない。そういえば、UDCアースでも、庭に似たものを置いている家があった。あちらはノームと言ったかな」
 そんな何気ない会話を交わしつつ、二人は町の玄関口に到着した。そこから見える通りは、奥の方までズッと続いており、道中には、多くの人々が闊歩していた。
 さて、ここから作戦開始である。今までも幾つもの事件を協力して解決してきた。今回も、そのチームワークを活用し、盗人のアジトを暴く事としよう。早速、荒は手を頭の後ろで組み、後方に居るイルーツァの方へ顔を向ける。そして、わざとらしい程の大声で、彼へ話しかける。
「けれどサァ、親もハニワを買ってくれないなんて、酷いよネー!!」
「……そうだな」
「全く、家を飛び出してセイセイした!」
 憤る荒に、応対するイルーツァ。だが、これも演技である。彼らが行っているのは、『ハニワを買ってくれない親に反発して家出した娘と、そんな彼女を気遣って一緒についてきた護衛の者』というシチュエーションだ。一見すると、それが演技である事は見破れないだろう。そして、更に演技に拍車が掛かる。
「けど、家を飛び出して良かったワ。だって、こんなに素敵な埴輪をゲットできたんだもの!!」
 そう嬉々と話しつつ、懐から取り出したのは、ハニワであった。焼いた土でできた表面はザラザラとしており、歪な形をしている。しかし、見る人が見れば、そうしたアンバランスさに、食指が動かされてしまいそうな、そんな形をしていた。それを天高く掲げる。太陽の光に照らされ、キラリと輝いているようにさえ思われた。
 とはいえ、このハニワは、先程のユーベルコードで作った紛い物である。正確には、折り紙をハニワへ化かしたものであった。かつては、霊符を餡子に変化させた事もある。そんな彼にとって、折り紙をハニワへ変化させる事くらい、朝飯前であった。ちなみに、折り紙でハニワを折るというのは、飛行機を折るよりも少しばかり難しいので、少々手間取ってしまった。
 だが、そうとは知らない町の人々は、荒の自慢げな姿を見て、注目した。誰もかれもが、首を捻って荒へ顔を向け、その手に握られたハニワを見つめている。
 そうした最中、イリーツァは荒の後ろで、荒を見つめる町人達の姿を見つめていた。怪しい奴は居ないか、昼間から襲ってくるような輩は居ないか……。そうして、周囲に目を光らせていたのである。イルーツァは今のところ、演技の内容と同じく、護衛に徹しているのみであった。勿論、荒と同じく、何かしらの演技をして町人と交流する事も可能ではあった。しかし、彼は荒に言わせれば、そうした演技が苦手らしい。確かに、以前のある事件では、スリを見かけて問い詰めたところ、相手は恐怖に震えあがってしまった。それ程までに、対人系の情報収集は苦手らしい。なので、この時間帯は、荒に全て任せる事とした。
 そうした事もあって、荒はイルーツァの分も、昼の間に頑張ろうとした。笑顔を振り撒き、ハニワを手に持って高々と掲げ、大喜びする。そうして、ハニワを入手できた事を、文字通り喧伝しているのである。
 それは効果があったようで、すぐさま、人々の話題へと登って行った。
 ――まぁ、ハニワを入手できたみたいで、良かったわねぇ。
 ――けど、あんなに喧伝して良いのかしら?盗人に盗まれないかしら?
 ――そうねぇ。けど、あの護衛みたいな男性が、何とかしてくれるでしょ。
 そうして口々に噂が広がる中、荒とイルーツァはトドメの会話を大声でした。
「……しかし、家に帰らないといけないだろう」
「エー、やだやだ!それに、今からじゃ、日が暮れちまうよ!」
「……それもそうだな。では、どこかに泊るとしよう」
「あっ、じゃあサ、この宿に泊まろう、そうしよう!」
 そうして、荒はすぐ近くにあった適当な宿を指さし、急ぎ足で中へ入って行った。イルーツァは、やれやれ、と首を横に振り、その後に続いたのであった……。

 そうして荒とイルーツァが喧伝を終えた頃、別の猟兵も動き出していた。
 『ハニワ町』の一角に、巨大な市場がある。黒い瓦屋根の木造建築で、一階建て。壁は殆ど無く、焦げ茶色をした柱や天井によって、建築物の体を成している。敷地面積は、畳で言えば六十畳程と、かなり広い。そんな市場では、毎日、多くの商人と客で賑わっている。商人はそれぞれ、気に入った場所を見つけては、広げた風呂敷や籠などを置いて、商品を陳列していく。後は、お客さんが訪れるのを待ったり、声を張り上げて呼び込みを行うのである。連日の早朝から夕方にかけて、この場所には和服を着た客や商人達が、芋を洗うように押しかけ、ハリのある声が響いている。
 しかし、先述の通り、ハニワの盗難事件によって、些か活気が無くなっている。それでも、この町の人々はハニワを愛しているらしく、皆、ハニワを売る商人のところに詰め掛けていた。恐らく、それが最後の砦と言わんばかりに。
 緑色の風呂敷は、縦横4mといった大きさであった。そこには、レンガ色をした小さなハニワから、鹿の形を模した掌サイズのハニワまで、多種多様なものが揃っていた。訪れた十数人程の客は、その一つ一つを手に取ったり、目に近付けて凝視してみたりしていた。けれど、ハニワを盗まれるのではないか、という恐怖が、購買意欲を削いでいた。その事はチョンマゲ頭の商人も理解しており、渋い顔つきをしていた。
 しかし、それでも客達は、ハニワを触ったり眺めたりする事で、心が軽くなったように感じられた。そして、本日の目玉として用意されたハニワを見ると、沈んだ心はウキウキしてくるのであった。
 そのハニワは、巨大であった。高さは2mを超えており、バスケットボール選手やプロレスラーを凌駕する程の大きさであった。焼いた土で作られている為に当然重く、ここへ運ぶ為に、屈強な若者が四人掛かりで運んできた。そのハニワの顔には三つの穴が空いており、とぼけているような表情であると共に、厳かでもあった。ハニワは、客へ挑戦状を叩きつけているかのようであった。
 ――さぁ、我を購入できるものならやってみろ!
 商人も、自嘲気味に笑った。これほどまでにでかいハニワを購入する客が、居る筈も無い……。
「すみません。そのハニワを売って頂けませんか?」
 商人は、その声で我に返り、その客へ顔を向ける。周囲に居た客達も、この巨大なハニワを購入する客が居ると知って、その者の顔を見ようと、顔を向ける。だが、彼らは思わず、目を丸くした。
 そこに居たのは、白い騎士であった。その見慣れぬ姿に、人々はただただ、言葉を失うばかりであった。
 彼の名は、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。この事件を解決せんとすべく活動する、猟兵である。
 そして数秒の間を置いて、商人は再び我に返り、値段を告げる。そして、トリテレイアはすぐさま、その金額分のお金を渡す。商人は満面の笑みを浮かべ、「まいどあり~」と告げる。
 だが、ここでハタと気になる事があった。この客、一体どうやって、こんなバカでかいハニワを持ち帰るというのだろう?
 すると、信じられない事が起こった。何と、この白い騎士は、腰を屈め、ハニワを抱くようにして掴んだのだ。そのまま、唸るような声を上げ、力を籠め、それを持ち上げて行った……。
 その怪力に、周囲に居た人々は後ずさり、感嘆の声を漏らした。
 そして、トリテレイアは、ハニワを抱きながら、えっちらおっちらと、市場の外へと歩いて行ったのであった。
 残された商人と客は、ただ、ポカン、と、呆けた表情で唖然としていたそうだ。
 そうして通りを歩いていると、当然、その様子を見た人々はびっくり仰天、彼の姿をまじまじと見つめる。その視線を一身に受けている事を悟ったトリテレイアは、嬉々とした声を作って言葉を紡ぐ。
「主が所望したハニワが見つかって助かった」
 何歩か進む度に、安堵のため息と共に、そうした言葉を繰り返していく。勿論、これは演技である。つまり、町の騒動を知らない旅行者が、自身の仕える主人が望むハニワを入手できた事に喜び、思わず歓喜している様子を表現していたのである。その様子を見た人々は、唖然としながら、彼を見つめている。その様子を知ってか知らずか、今晩に宿泊する宿屋へと、そのハニワを運んで行ったのである。
 その光景は、強烈であった。見慣れぬ恰好をしている白い騎士が、2m以上もある巨大なハニワを抱くようにして持ち上げ、「主が所望したハニワが見つかって助かった」といった言葉を繰り返しながら宿屋へ入って行くのだ。人々の印象に残らぬ筈が無い。
(町の人々が愛するハニワ、それを盗むなど許しては置けません。騎士としてこの騒動を収め、町に平和を取り戻しましょう)
 今回の事件を解決するにあたって、騎士として凛とした決意を胸に抱いていた。そんな彼だが、かつての依頼にて、頭突きの力を示す為に、高層建築物から爆弾を詰め込んだ巨大トラックを自身へ落とすという事をやった事がある。もしかすると、天然なところがあるのかもしれない。

 そうして、トリテレイアが去って行った後の市場では……。
 ――い、一体、何だったんだ……。
 ――さ、さぁ……。
 ――と、とりあえず、ハニワを愛でよう、そうしよう!
 こうして、客達は再び、ハニワを堪能し始めたのである。彼らの表情は、そうした強烈な出来事を目の当たりにした事で、幾らか和らいでいる。けれど、ハニワを購入する気持ちにはなれなかったようだ。それは気持ちの問題ではなく、ハニワが盗まれるかもしれないというリスクを鑑みての事であった。本当は、このハニワを購入したいのである。そして、自宅に飾り、毎日のように眺め、愛したいのであった。
 口惜しい気持ちで、そのハニワを見つめる。
 └|∵|┐
 ハニワもまた、彼らを見つめ返す。その眼差しに、客達の心は絹のように引き裂かれんばかりであった。目に熱いものがこみ上げてくる……。
 その様子を見ていた商人も、少しばかり同情したが、しかし、金の事を頭から離す事ができなかった。彼もまた、家族を養う一人の男である。先程の巨大なハニワが売れた事で、幾らか儲けはできた。しかし、やっぱりこれらのハニワが売れない事には、在庫が溜まり、結果として損をしてしまう。唇を噛みながら、客とハニワを交互に見つめて行った。
 と、その時である。市場の外から、一人の男性が入って来た。柔和な笑みを浮かべ、優雅な足取りで此方へ向かって来る。商人は、やってきた人物を見る。服装は、朱色の着物である。長い事商売をやってきている商人は、彼の服装を見て、ピンと来た。あの人は、かなり裕福な商人に違いない、と。
 最も、その予想は外れていた。しかし、そうした誤解を与える事に成功したのだと察した彼は、ちょっとだけ微笑んだ。彼もまた、猟兵であり、名をシン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)という。彼はとある目的の為に、敢えて朱色の着物を用意して身を包む事で、裕福な商人に扮していたのであった。それが上手くいったので、内心、嬉しくなってしまったのである。しかし、そうした事を悟られないよう、平静を装う事を忘れない。
 そうして商人の方へ歩いて来ると、ゆったりとした動作で、風呂敷の上に置かれたハニワを一つずつ、丁寧に見て行く。時折、優しく包み込むように手にとっては、それをジッと眺め、ハニワのあらゆる部分を見つめて行く。その様子は、もはや、美術品を鑑定しているかのようにさえ思われた。
 その美しい所作に、周囲の人々は思わず、息を飲んだ。
 そうして、シンは一つ一つのハニワを見て行く。本来なら、ハニワを幾つか購入して市場を去る予定だったのだが、つい、手にとって眺めてみたくなってしまった。
 暫く時間を掛けて鑑賞した後、商人に顔を向ける。それに気付いた彼は、些か緊張した様子で、シンの出方を伺った。シンはにっこり微笑むと、一言。
「こちらのハニワを、頂けますか?」
 指を指した方向には、小さな可愛らしいハニワが三体、置かれていた。
「はっ、はい、有難う御座います!」
 そうしてお会計を済ませると、シンはそのまま、ハニワを丁寧に持って、市場を出た。シンを見送った商人は、商品であるハニワが売れた事に、内心、満足感を覚えていた。恐らく、これで子供達へ美味しいものを食べさせてやる事もできるだろう。一方、その様子を見ていた客達は、何だか、自分達だけ購入しないのがおかしく感じられてきた。そして数分後、風呂敷の上から、ハニワは無くなっていたのであった。
 そんな事になっているとは露知らず、太陽の光が燦々と差し込む中、シンは小麦色の通りを歩いていた。人が多く、紺色の和服を着た男性や、桃色の袴を着た女性等とすれ違う。そうして和服姿の老若男女を視界に入れつつ、彼はある場所へ向かった。
 不意に立ち止まり、その木造建築を見上げる。
 そこは、宿屋であった。焦げ茶色の外壁と黒い瓦屋根が立派だ。玄関は引き戸であり、横長である。白樺の木で作られた白っぽい看板には、達筆な文字で、この宿の名前が記されている。
 シンはそのまま、宿へと入って行った。
 中に入ると、応接間らしき畳の部屋にて、数人の男性が楽しそうに会話をしていた。「売上」や「在庫」といった単語が聞こえて来る。
(どうやら、商人の方のようですね)
 シンは彼らを見つめながら、そう推察した。そして、次なる行動へ移すべく、その商人らしき男性達の方へ歩みを進める。
 その気配に気づいた彼らは、振り返ってシンの方を見た。そして、腕に抱えられた三体のハニワが視界に入る。
「それは、ハニワかい?」
「はい。とても素敵なハニワでしょう?」
「そうだな。しかし、ここ最近はハニワの盗難事件が相次いでいるぜ。あんた、大丈夫なのかい?」
「その心配はありません。翌朝には、ここを出立する予定ですから」
「そうか……まぁ、気を付けろよ」
「ご忠告、有難う御座います」
 その会話をする最中、シンはこっそり、この場に居る他の人々の様子を盗み見ていた。宿の従業員であったり、他の宿泊客であったり……。皆、シンと商売人との間に交わされた会話を耳にしているようであった。
 これで、シンがハニワを購入した事が伝わった筈だ。恐らく、暫くすれば、それは噂となり、町中に広まるだろう……。
 その後、シンは、この宿へ泊る事を告げ、部屋を取ったのであった。

 こうして、それぞれの作戦は順調に進んで行った。
 しかし、まだ終わった訳では無い……。

 ――さぁ、ショーの始まりです!

 夜が訪れる前、宿泊部屋にて、シンはユーベルコード『世紀末の魔術師(ザ・ラスト・ウィザード・オブ・ザ・センチュリー)』を発動していた。畳の上に座り、ある作業を行っていた。目の前にあるのは、先程購入したハニワが三体。そして、ユーベルコードを発動し終えると、その隣に、全く同じハニワが三体、仲良く並んでいた。そう、これは、ハニワの複製である。精巧に作られており、一目見ただけでは、真贋の区別がつかない。恐らく、ただ盗んでいるだけの盗人に、それを見抜く才能は無いだろう。加え、その複製のハニワに、とある物を挿入した。
 そして、本物のハニワは、部屋の奥へ隠しておいた。そして、複製のハニワを、枕元に目立つよう置いておく。こうすれば、盗人は複製のハニワを盗み、本物のハニワをわざわざ探すような事もしないだろう。
 そして時刻は流れ、夜。シンは布団に入る前、怪盗の単眼鏡を手に取った。これはシンプルな形状をしているが、宇宙世界の技術によって、多様な機能が搭載されている。その内の一つに、暗視機能がある。これで、この暗い室内はおろか、墨を塗りたくったような闇でも、活動が可能になる。それを装着した後、敷いてある布団に深く潜り込み、そのまま狸寝入りを始めた。
 しかし、待つというのは苦痛である。相手はいつやって来るのか、分からない。それを、布団に入った状態で待ち構えるというのは、心臓に悪い。時間だけが、刻一刻と過ぎ去っていく。
 そうして、十分が経過した。しかし、シンにとって、それは一時間にも感じられる程の長さであった。突如、暗い室内へ、何者かが入って来る気配を感じた。しかし、その気配は十秒と経たなかった。その何者かは、枕元へ足音を立てずに素早く近寄ると、そのままハニワを手に取り、立ち去ってしまったのだ。しかし、シンが狸寝入りをしているとは気付かなかったようだ。
 シンは、その気配が完全に消えたのを確認した後、すぐに起き上がる。そして、怪盗の単眼鏡を起動させる。そこには、『ハニワ町』の地図と、小さなマークが表示されていた。
 実は、複製したハニワには、カード『紅の影』を挿入していたのであった。これには、発信機が付与されている。そのデータは位置情報として、怪盗の単眼鏡に送信される。彼はそれを、じっと目で追う。どうやら、山の方へ向かっているようだ。
 シンはすぐさま、準備を整え、部屋を飛び出し、宿の外へ出た。外は一寸先も見えぬ闇。しかし、怪盗の単眼鏡により、遠くまで見渡せる。そして、遠くに居るであろう盗人に気付かれぬよう、足音を消して、駆け足で追いかける。
 近すぎず離れ過ぎず。適当な距離を保ちながら、盗人を追いかける。気付くと、町を抜け、山の方へ向かっている事に気付いた。木々が生い茂っており、人が行き来しているであろう道が視界に入る。
 すると、怪盗の単眼鏡に映っていたマークが、止まった。どうやら、そこがアジトらしい。シンは、相手に気付かれないよう、そのアジトへ忍び足で向かう。整備された山道を進み、茂みをかき分け、闇の中を突き進んでいく。すると、足元に何かがぶつかった。ふと気になって、足元を見る。
 そこには、伸びていた盗人の一人が転がっていた。どうやら、気絶しているようであった。「うーん」と、呻き声を上げている。しかし、命に別状はないようなので、とりあえず大木の近くに横たわらせておく事にした。
 恐らく、他の猟兵が、見張りか何かをしていた盗人を気絶させたのであろう。そう判断し、彼は再び、歩みを進めて行った。
 そして、一分と経たぬ内に、目的のアジトが見えてきたのであった……。

 同じく、トリテレイアもまた、作戦を実行していた。
 夜が訪れる前、彼は宿泊部屋にて、巨大なハニワと対峙していた。その物体を見上げながら、彼は腕組みをした。そして、決意したように頷くと、ハニワの後ろへ廻った。もし、ハニワに意志があるのなら、「一体、何をする気なんだろう?」と思った事だろう。
 そして、ハニワのお尻にあたる部分へ歩むと、突然、トリテレイアは、どこからか、セレモニー用の儀式剣を取り出した。もし、観客が居たならば、一体何事かと騒ぎ立てる事だろう。そして、ハニワはその様子を見て、「え、ちょ、何が起きているの!?」と言っていた事だろう。
 そしてトリテレイアは、その剣をハニワのお尻に叩きつけた。
 バコオン!!
 大きな音が鳴り響く。
 ハニワに意志があったならば、「ぎゃあああ!!」と苦痛の叫び声を上げていたに違いない。事実、そのお尻には、ぽっかりと大きな穴が空いていたのだから。
 もし、ハニワの愛好家がその光景を見ていたなら、ショック死していただろう。
 それについて彼がどう思ったかは知らないが、ともかく、作業を続ける事にした。

 ――御伽噺の騎士に導き手の妖精はつきものです……これは偽物なのですが。

 そう詠唱して、ユーベルコード『自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット(スティールフェアリーズ・ネスト)』を発動した。すると、どこからともなく、妖精の姿をしたロボットが複数現れ、部屋の中をフワフワと飛び回っていた。ハニワは、虚ろな目で、その妖精型偵察ロボを見つめていた。
 そうして、トリテレイアは妖精型偵察ロボ達に指示を出し、ハニワに開けた穴から、中へ入れた。そして彼は、剣で叩いた時に生じた破片を持って、そのまま穴に嵌めた。これで、一目見ただけでは、中に何かを入れたとは思わないだろう。
 そして迎えた夜。トリテレイアはハニワを部屋の隅に寄せ、そのまま布団に入り、寝たフリをした。そして、静寂に包まれた中で、悪しき盗人達が訪れるのを待った。そうして待つというのは、苦痛である。それは、トリテレイアも同じであった。
 暫くすると、何者かが入ってくる気配を感じた。そして、気配が消えた。起き上がってみると、ハニワが無くなっていた。あれだけ大きなハニワを、物音立てず、スムーズに盗み出すとは……。
 そう思うのも束の間、すぐさま行動を開始した。盗まれた今、ハニワの中に居る妖精ロボが信号を送り続けている。それにより、どこにいるのかが、手に取るように分かる。
 トリテレイアは、町へ繰り出した。そこには一寸先も見えぬ闇が広がっており、正に、暗中模索といった有様である。だが、トリテレイアが兼ね備えている暗視の技術と、スナイパーとして培って来た視力をもってすれば、この悍ましい程の闇も、少しは日中のように見えるというものだ。
 彼は、すぐさま後を追った。遠くに居るであろう盗人達を、こっそりと尾行し、後を付けて行く。
 そうして突き進んでいくと、町の外にある、山へ辿り着いた。木々が乱立しており、より鬱蒼とした暗さとなっていた。そうして周囲を見回すと、遠くに、大きな蔵造りの屋敷が建っているのが見えた。そして、その入り口には、見張りと思われる盗人が一人、欠伸をしながら待機している。彼は、どうするか思案した。
 ……暫くして、近くにある茂みから、ガサッと音がした。
「ん、何だ?」
 見張りをしていた盗人が、その方向へ目を向ける。そして、正体を確かめようと、その茂みへ入り込む。
 刹那、茂みから騎士の手がグワッと伸び、盗人を捕らえる。ジタバタをもがこうとするが、口を押えられ、助けを呼ぶ事ができない。そのまま、トリテレイアの一撃により、盗人は気絶させられる。
 茂みから、盗人を始末したトリテレイアが立ち上がり、その屋敷を見据えた……。

 こうして、シンとトリテレイアの二人は、ハニワに細工をする事で、敵のアジトを見つけ出した。そして、荒とイルーツァのコンビも、それに続かんとばかりに行動を開始する。しかし、そのやり方は、前者二人とは違っていた。
 彼らは、夜が訪れる前、特に何かをするという事も無かった。宿泊部屋にてのんびりくつろぎ、美味しいものを食べ、英気を養っていた。その様子は、親友同士で気兼ねなく旅行を楽しんでいるようにさえ見える。しかし、夜になれば、慌ただしくなり、恐らくは、恐るべき敵と対峙する事となるだろう。それに備えて休息を取る事は、大切な事でもある。
 そうして楽しい一時を過ごしていると、あっという間に時間が経過した。太陽は地平線の彼方へ沈み、それと入れ替わりに、どんよりとした闇がやって来た。窓の外に映っていた風景は、電源を落としたパソコン画面のように真っ暗で、何も見えなかった。薄暗い部屋の中、二人はそのまま、布団に入って仰向けになった。勿論、実際に寝た訳では無い。耳を澄まし、盗人がやってくる気配を感じ取ろうと、神経を高ぶらせていた。枕元には、ユーベルコードによってハニワの姿となった折り紙が置かれている。この偽ハニワがサッと無くなる瞬間の事を想うと、緊張してくる。まるで、ハンカチゲームのようだ。
 そうして、わざとらしく寝息を立て続ける事、十分。何者かの気配を感じた。そして、気配が消えると同時、枕元に置いてあった偽ハニワの存在を感じなくなった。二人は起き上がり、枕元を確認する。ハニワは、無かった。
「どうやら、マンマと引っかかっちまったようだな」
「そうだな」
「じゃあ、後は宜しく頼むわ」
「ああ。猟犬より正確に追ってやろう」
 
 ――願い事がしたいのか。流星群でも降らせるか?

 イリーツァは、暗い宿泊部屋の中で、ユーベルコード『坤号自在・天支玄壌(コンゴウジザイ・テンシゲンジョウ)』を発動した。すると、彼の脳内に、ビジョンのような、勘のような、形容し難い不思議な感覚が流れ込んでくる。
 彼の頭に入り込んでくるのは、この町の土地そのものであった。その様子が、空高く舞い上がるコンドルが地上を見下ろすかのように、くっきりと浮かび上がってくる。どこに何があるのか、誰がいるのか、そうした情報が、次々に伝わってくる。
 このユーベルコードは元々、大地、およびそれに類する物を支配することで対象を攻撃するものだ。それを応用し、大地を支配するという特性を生かし、この土地の情報を脳内に流し込んでいるのであった。それはつまり、盗人が今、どこにいるのかを把握する事にも繋がる。
 ――泥棒とて空を飛んで逃げはしまい。
 その読みは当たった。幾ら神出鬼没の盗人とはいえ、翼が生えて空を飛ぶような真似はしない。彼らは、二つの脚を動かして、この大地を蹴って移動しているのだ。その為、イルーツァは探知できたのである。
 そうして、暫く様子を伺っていると、どうやら、町の外にある山の方へ向かったらしい。そして、とある場所で、その動きは止まった。
「どうダ、アジトは分かったか?」
「ああ、勿論だ。どうやら、山の方にあるようだな」
「よーし、じゃあ、とっとと行きますか」
 そうして、二人は宿泊部屋を勢いよく飛び出し、闇の中へ身を投じた。そこは、まるで深淵のよう。一寸先も見えず、一歩踏み出す度に方向感覚を失いそうだ。
 しかし、イルーツァの前で、そうした闇は無意味だった。ユーベルコードによって、盗人が走って行った道が、蟻のマーキングみたく分かる。それは非常時の誘導灯のように、はっきりと見えた。
 イルーツァは、その跡を辿って、アジトへ向かう。荒も、彼の気配を感じながら、その後へ続いていく。
 二人は、心音が高鳴っていた。それは、走っていたからではない。これから、敵と対峙する事になるという、緊張によるものだった。
 闇の中、二人はアジトへ向かって、駆けて行った……。

●Side【夜】:蔵造りの屋敷にて……。
 こうして、猟兵達は、それぞれが知恵を振り絞り、盗人のアジトを探ろうと試みた。そして遂に、敵の拠点を探る事に成功した。
 その場所は、町の外にある、山の中であった。一寸先も見えぬ闇の中には、幾千本もの大木が乱立しており、緑色の枝葉を縦横無尽に伸ばしているのだろう。突如、夜風が強く吹き、ザワザワと大きな音を立てる。何も見えない空間に響く騒音が、猟兵達の心をかき乱す。
 猟兵達は、盗人のアジトの前へ集合していた。
 その拠点たる建物は、巨大であった。それは、三階建てという高さをした蔵造りの建物であった。周りには立派な屋敷が幾つかあり、金持ちの家を思わせる。恐らく、盗人家業で蓄えた金で、建築したものだろう。
 目の前にある巨大な扉に、鍵は掛かっていない。しかし、自然物で作られている筈の扉は、コンクリートで作られているかのように、無機質な感じがして、背骨が凍えそうであった。
 この先に、盗人達が居るに違いない。彼らはもしかしたら、首謀者の言う“崇高な目的”について、何か知っているかもしれない……。
 猟兵達は、息を飲む。そして、誰かが、その扉へ手を掛ける。互いに顔を見合わせる。そして、頷く。刹那、扉を大きく開いた。
 そこに広がっていたのは、広大な部屋だった。倉庫のように広く、床は茶色い土間となっており、白い土壁が周囲を覆っている。その中央に、赤いロウソクが何本も建てられており、赤い光が、この建物の中を赤々と明るく照らしていた。
 そこに、盗人の集団は居た。彼らは、盗んだハニワを土間の上に置こうとしている最中であった。しかし、扉が大きく開かれた事で、彼らは此方側へ顔を向ける。刹那、 ギョッとした表情を浮かべ、猟兵達を凝視した。
 彼らはすぐさま、互いに目配せをする。
 ――猟兵だ!
 ――おい、どうする!?
 ――待て、今考えている……!!
 そして、猟兵達が、彼らに何かを言おうとしたり、捕らえようと前へ進もうとした時であった……。
 突如、盗人の一人が声高々に忠告した!
「動くんじゃねえ!!動いたら、“とんでも無い事になるぞ”!!」
 そして、盗人は悪あがきとばかりに、ある行動を行ったのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『名もなき盗人集団』

POW   :    これでもくらいな!
【盗んだ縄や紐状のものまたはパンツなど】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    これにて失礼!
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    ここはおいらに任せておくんな!
【なけなしの頭髪】が命中した対象を爆破し、更に互いを【今にも千切れそうな髪の毛】で繋ぐ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「動くんじゃねえ!!」
 盗人の猛々しい声に、猟兵達は動きを止めるだろう。
 目の前に居る相手は、目を剥いて、此方を睨みつけている。その下卑た顔つきは、正に醜悪な人間そのものであった。そしてその片腕に抱えられてるものを見た時、猟兵達は、思わず息を飲んでしまった。
 そこにあったのは、盗人達が町人から盗んできたハニワであった。まるで、立てこもり犯が幼い子供を人質にするかのように抱えている。更に、反対側の汚らしい手は、ハニワの頭に置かれており、半ば力んでいるように思われた。
 まさか……。
「おっと、それ以上近付くんじゃねえぞ。近付いたら最後、可愛いハニワちゃんの首が、枯れ枝のようにポッキリと折れちまうぜ!?」
 そうしてよだれを垂らしながら、手に力を込めて行く。もし、猟兵達が下手な真似をしてしまえば、ハニワの首は簡単に取れてしまうだろう。
 場は一気に、緊迫した状況と化した。ロウソクの炎が揺らめき、空気は一段と冷え込んでいる。そして、それを見た他の盗人も次々に真似をし、事態は混迷極まるものと化して行った。
「首謀者は、ハニワに対して“崇高な目的”があるとかなんとか言っていたが、その理由は知らねえ!知らないが、そんな事はどうでもいい!俺達が助ければよお~!」
 彼ら盗人達に、ハニワを愛する心など無いのだ。己が助かる為なら、他人の大切な物を傷つける事すらいとわない、下衆野郎だったのである。その目に光は無く、下卑た笑いを浮かべる彼らは、正に獣そのものであった。
 グリモア猟兵は言った。「ハニワを“無事な状態で”取り戻して貰う」……と。
 どうやら、単に倒して終わり、とう訳にはいかないようだ。
 猟兵達は、新たに策を練る必要に追われたのであった……。

※第二章について
 どうも、マスターのフライドポテトです。
 第一章では、どのように盗人を追い詰めるのか、思案された事だと思います。改めて、プレイングの執筆、お疲れ様でした。
 さて、第二章でも、皆さまに創意工夫を凝らして頂く事となります。
今回は、端的に言うと、『人質に取られたハニワを、いかに傷付けさせないようにして、盗人を倒すか』という事を考えて頂きます。
 現在、この建物の中央には、盗人達が集まっています。そして、彼らはハニワを腕に抱え、いつでも壊せるような態勢で構えています。猟兵達が何かしようとした事が伝わると、即座にハニワを壊してしまう事でしょう。そうした状況下で、いかにハニワを壊させず、かつ盗人を倒すかを考えて頂きます。
 この場合、様々な方法が考えられると思います。その為、プレイングには、『上記の内容への対策』を記して頂く事になります。それを記していない場合は、強制的に【苦戦】か【失敗】となります。また、その旨を明記していたとしても、判定の結果、【苦戦】や【失敗】になる可能性があります。ご了承下さい。
 なお仮に、【苦戦】や【失敗】となり、ハニワが壊されてしまったとしても、シナリオ自体が失敗になるとは限りません。最終的に、🔵が🔴よりも多く、一定数溜まれば、自動的に第三章のボス戦へと移行します。あくまでも、シナリオ上の演出やギミックの一種として考えて頂けると助かります。
 それでは、皆さんの熱いプレイングをお待ちしております!
エーカ・ライスフェルト
「馬鹿なことをしたわね」と本心から哀れむ目を向けるわ
「住人の熱狂ぶりを知っているでしょう。指を折れば指を、首を折れば首を折られることになるわよ」
多分ハニワが複数あると反論するでしょうけど……
「そうね。だから私達も複数いるの。1個壊すと1人の猟兵が依頼を失敗するわけだけど」
真実に嘘を少しだけ混ぜる
「救出に失敗して依頼に失敗したときどうするか、貴方にも分かるのでしょう?」
想像させ恐怖を煽る
「私の目的は貴方が持つハニワよ。貴方1人だけなら、街の外でハニワを引き渡すのを条件に逃がしてあげるわ」

建物から連れ出したら、散々歩き回らせ集中力を落としてから、不意打ちして奪還を目指す
「命までは取らないであげる」



●Missiom1:ハニワを壊したら最期……
 薄暗い建物の中は、緊迫した状態にあった。それは引き延ばされた弦の如く、少し力加減を間違えれば、プッツリと切れてしまいそうである。
 ロウソクの炎が仄かに灯っており、弱々しく揺れている。その赤い光が、盗人達の顔を下から照らし出している。冴えない男性の顔は、今や悪鬼のように思われる。
 彼らが腕に抱えているのは、小さなハニワ達。それは幼い子供のようにも見える。彼らは、小さな黒い瞳で、猟兵達へ助けを求めているかのようであった。盗人が腕に力を籠める度に、ミシミシと音が鳴ったかのように思えてくる。それは空耳のようでありながらも、ハニワ達の叫び声のように感じられた。
「ぐへへへ、猟兵共、さっさとここから出ていけ!!でないと……」
 盗人の一人が、これ見よがしに、腕に力こぶを作り、ハニワの胴体を締め付ける。ハニワを愛する者が見たら、目玉が飛び出すような光景である。きっと、泡を吐いて気絶してしまう事だろう。盗人達は、獣のような笑みを浮かべた。彼らは、このパフォーマンスによって、猟兵達を威圧できたものと勘違いしているに違いない。その自己満足は、見ていて痛々しく、哀れでもあった。
「馬鹿なことをしたわね」
 盗人の下卑た声色以外、静寂に包まれた空間にて、女性の凛とした声が響き渡る。その声色は、正に相手への哀れみに満ちていた。最も、それは慈愛という意味ではなく、軽蔑という意味合いにおいてであった。
「な、何だと……!」
 自分達の低俗なパフォーマンスが効かなかった事に驚きながら、声の主を探す。盗人達はロウソクという心もとない光源の最中に居る為に明るいが、猟兵達の方は、恐らく光源らしき物は持っていないかもしれない。その為、声の主が誰かを判別するのに、ちょっと時間が掛かってしまった。やがて、先程の発言が誰の者なのか、見当をつける事に成功する。
 その人物は、ピンクの髪をした女性であった。青っぽい色をしたドレスを着ている。エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)であった。彼女は、盗人達へ、アメジストのような濃い瞳を向けている。そこには、文字通り、哀れみが込められていた。それは正しく、本心なのだろう。けれど、他者が大切にしていたハニワを容赦なく人質にする奴らだ。そんな感情は、彼らにとってどうという事は無い。そんな様子を見て、更に凛とした声色で、言葉を投げかける。
「住人の熱狂ぶりを知っているでしょう。指を折れば指を、首を折れば首を折られることになるわよ」
 それは、古来から言われている事を応用したものだった。確か、「目には目を、歯には歯を」という言葉だったか。エーカが言わんとする事は、次の通りであろう。もし、ハニワを壊したりしたら、ハニワを愛する者から、それ相応の仕打ちを受ける事になるのだ……と。
 だが。
「だから何だって言うんだ!?」
 盗人達は怯まない。
「そもそも、ハニワなんて捨てる程あるだろうが!!一個や二個壊したところで、どうって事は無いだろ!!」
 唾を飛ばしながら、盗人達は怒号を浴びせる。けれど、そんな安っぽい挑発は、エーカには通用しない。彼女は更に、言葉を重ねて行く。
「そうね。だから私達も複数いるの。1個壊すと1人の猟兵が依頼を失敗するわけだけど」
 刹那、ロウソクが揺れた気がした。勿論、建物の中には扇風機など存在しない。クーラーも存在しなければ、団扇で夏の暑さを紛らわせようとする家族も居ない。けれども、正に炎が揺れ、そのまま消えてしまいそうな気配を感じた。それは氷のように冷たく、氷河のように強大な威圧感を与えた。盗人達は、春が訪れたばかりだというのに、背筋が震えてきたのである。
 気付けば、盗人達は、エーカの方を見ていた。それは、彼女の放つ言葉に、何らかの脅威を感じたからである。これは、ユーベルコードによるものではないし、技能によるものでもない。しかし、人間というのは、そうした特殊な訓練を積んでおらずとも、相手を捉えて離さないような言葉を投げかける事が可能なのである。
 盗人達が一人の女性に注目する中、エーカは、冷たい響きを伴わせ、こう言った。
「救出に失敗して依頼に失敗したときどうするか、貴方にも分かるのでしょう?」
 それが意味する事に、盗人達は震えあがった。
 目の前に居るのは、恐るべき力を持った猟兵達である。その姿や佇まいからは、自分達の想像を遥かに超える力を持っている事を想像させる。もし、彼らが依頼を達成できずに、ヤケクソになって飛び掛かってきたら、どうなるか……。最悪の場合、拷問を受けるよりも恐ろしい未来が待っているかもしれない。盗人達は、それぞれが、どのような悲劇に見舞われるかを勝手に想像しては、脇の下に汗を流した。
 勿論、彼女が言った事には、真実と共に嘘を織り込んである。しかし、他者に訴えかける時、こうした手法は効果がある。現に、小説や漫画などのエンターテイメント作品においても、真実と嘘を巧みに描写する事で、豊かな物語を構築できるのだ。それは、こうした交渉の場においても、役に立つ。
 エーカは、盗人達を見る。すると、彼らの顔が青ざめているのが一目で分かった。まるで、青いペンキを頭から被ったかのようである。そして、かき氷を食べ過ぎてお腹を壊したかのように歪んでいる。
「だ、だだだ、騙されるんじゃ、な、ないぞ!!」
 盗人の一人が、声を張り上げ、仲間を鼓舞しようと試みる。しかし、本人が一番怖がっているのは明白だ。そんな奴の言葉で、元気が出る筈も無いだろう。仲間は、更に震えあがってしまった。逆効果だ。
「んー、そうね……」
 ここで、どこか優しい声色で、盗人達に声を掛ける。その思わせぶりな言葉に、思わず盗人達は、彼女の方を見る。普通であれば、相手を恐怖に陥れる言葉を吐いた後で、そうした優しい言葉を投げかけるとなれば、疑うのが常だろう。しかし、恐怖に支配された彼らに、そんな思考力は残されていなかった。人間の本質だ。
 盗人達の慌ただしい声と所作に包まれた空間にて、エーカは優しく、それでいてハッキリとした声色で、彼らに言った……。
「私の目的は貴方が持つハニワよ。貴方1人だけなら、街の外でハニワを引き渡すのを条件に逃がしてあげるわ」
 それは、漫画やアニメなどで悪役が言うような、お決まりに台詞であった。恐らく、他の猟兵達も、その言葉には裏がある事を見抜いただろう。当然、盗人達の内、何人かは、その真意に気付いた。読者諸君も、この言葉を正直に飲み込む事は無いだろう。
 ……しかし。
「ほ、本当か……、渡せば、見逃してくれるのか?」
「お、おい、猟兵の言う事を信用するなっ!!」
「た、頼む、見逃してくれえええ!!」
「お、おい、行くな!!」
 恐怖に陥った者に、そうした言葉の裏を読み解こうという冷静さは残っていない。溺れる者は藁をも掴む、ということわざがあるが、あれとどこか似ているのかもしれない。
 先程、仲間を鼓舞しようと震え声を上げていた盗人が、真っ先に飛び出していった。彼のその姿は、見ていて悲しくなってくる。目には涙を溜めながらも、自分だけが助かるという利己心が見え透いているからだ。俯きながら走ってくる彼は、死角でベロを出し、ほくそ笑んでいたのであった。
(へへへ、こ、これで、俺は助かる!!)
 そうして、彼はエーカの元へ駆けつけた。エーカは、含みのある笑みを浮かべて、彼の肩を叩いた。
「じゃあ、早速外に行きましょう?」
 そうして、盗人達の声を背中に浴びつつ、エーカと盗人一人は、ハニワと共に、建物から出たのであった。
 
「なぁ、ところで、一体、いつ着くんだ……?」
「と、ごめんなさい。もうちょっと先で……」
 エーカは一寸先も見えない闇の中、夜目の効く盗人を先頭に、小麦色の道を歩いていた。町に着いたものの、エーカは「まだ先よ」と言って、どんどん進ませる。そして、遂には町の外へ出てしまった。けれど、これもエーカの作戦である。
「なぁ、一体、何時、着くん、だ……?」
 盗人は、歩き疲れて、ヘトヘトになっていた。恐らく、体力面のみならず、先程の緊迫した状況などもあって、参っているのであろう。
 そうして、集中力が限界になったのを後ろから察したエーカは、気付かれぬよう、戦闘の構えを取る。

 ――誘導属性付与完了。照射開始。

 エーカは『自動追尾凝集光(ホーミングレーザー)』を発動。すぐさま、レーザー風の炎が幾本も出現し、盗人の背中に迫る。盗人も、背後が急に明るくなった事に気付き、とぼけた表情で振り返ろうとする。
「ん、なん――」
 言い終わらない内に、レーザー風の炎が集中砲火を行う。盗人の背中は、炎で焼かれ、服は焦げ付いた。その攻撃をもろに背中で受けた為その衝撃と激痛に、意識が飛んだ。白目を剥き、力無く前方へ倒れ込む。そうして、腕から落ちそうになるハニワを、すかさずキャッチする。彼女は、悪しき盗人が倒れているであろう場所を見下ろしながら、冷静に呟いた。
「安心して。命までは取らないであげる」
 目をグルグル回す盗人を放置したまま、エーカは、取り返したハニワを腕の中で、優しく抱えたのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティモシー・レンツ
う、占いで連敗記録を久々に更新したから、戦いでは汚名挽回するよ!(汚名返上と言いたい)
泥棒に攻撃……の前に。
「ここに入ってから気になってたんだけどさ。その人が持ってるの、偽物じゃない?……いや、『俺か?』って顔で自分指してる、その後ろの人。」
「偽物で脅しても効果はないし、個人的には偽物か本物かハッキリさせたいし、ちょっと鑑定でハッキリさせない?」
実際に何人か、偽物を作ったり持ち込んでるし、本物でも偽物扱いして外に置くけどね?
よくできた偽物は「ほんも…いや、どうだろう?もう少し他を見てからでいい?」って後回しにする。
泥棒が列を作らないか心配だけど、そのときは最初の泥棒に列整理を手伝ってもらおう。



●Mission2:占い師、鑑定士になる
「くそっ、仕切り直しだ!!このハニワを壊されたくなければ、動くんじゃねえぞ!!」
 盗人達は再び叫び、ハニワを腕に抱えて力を籠める。その動作に、ハニワを大切にしようなどという心構えは微塵も無い。彼らにとって、古代の人が作った人形など、ガラクタ同然なのだろう。それよりも、金銀財宝の方が価値のあるものとして判断するのだろう、恐らく、ハニワを愛する者と盗人達との間には、絶対に埋まらない溝のようなものが存在するに違いない。
 薄暗い空間の中で、その様子を見つめながら、必死に思考を巡らす猟兵が居た。
 ――う、占いで連敗記録を久々に更新したから、戦いでは汚名挽回するよ!
 そんな初々しさのある決意を胸に秘めるのは、ティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)である。先程は、占いが失敗したばかりでなく、客が盗人だったのに取り逃がすという失態をしてしまった。その事に気付いているかどうかは定かではないが、今この場で起きている事態を打開する事で、先程の失敗を返上しようと意気込んでいたのであった。とはいえ、ちょっと意気込んでいる為か、本当は「汚名返上」というのが正しいところを、「汚名挽回」と言ってしまっている。そんな事は気にせず、彼は思いついた作戦を実行に移そうとした。しかし、ちょっぴり緊張する。
「へっへっへ……。このハニワって、価値のあるものらしいじゃねえか!?俺達にとっちゃあどうでもいいが、壊されたくなければ、動くんじゃあねえぞ!!」
 ティモシーは、悍ましい言葉を並べ立てる盗人達を攻撃しようかとも考えたが、それは止めておく事にした。今は。
 彼は前へ歩み出て、盗人達へ堂々と体を向ける。盗人達は、自然とティモシーに注目した。一体、どんな奴なんだ、と注目したが、初々しさが残っている為か、安堵のため息をつき、再び威圧的な態度を取る事にした。
 しかし、この初々しさが時として武器になる事を、誰が予想できただろうか。
 彼は、さりげなく盗人達へ、言葉を投げかけた。
「ここに入ってから気になってたんだけどさ。その人が持ってるの、偽物じゃない?」
 その言葉は、この建物内に響いた。
 ……。
 盗人達は、一瞬、呆けた表情をした。しかし、その顔つきは暫く続いた。そして、無言のまま、お互いの顔を見合わせ、腕に抱えているハニワに目をやった。それを何度も何度も、繰り返している。まるで、チンパンジーやオランウータンを使った実験を見ているかのようであった。そのように記すと、盗人達に大変失礼かもしれないが、実際のところ、そのような滑稽さがあったのである。やがて、盗人の一人がティモシーの方を見ると、自分の顔を指さした。多分、俺の事?という意志表明だろう。
「……いや、『俺か?』って顔で自分指してる、その後ろの人」
 すると、そうして顔を指している盗人の後ろに居た盗人が、「えっ、俺?」と言わんばかりに驚いた顔をする。目はリスのように丸くなり、口は鳩のようにすぼめている。そして、一体何なのだろう、といった風体で、ティモシーの方をジッと見つめている。その腕に抱えられていたのは、二体のハニワであった。男の子と女の子のような、可愛らしいハニワだ。恐らく、双子の兄妹なのだろう。
 そうして、全ての盗人が彼に注目する中、ティモシーは宣言した。
「偽物で脅しても効果はないし、個人的には偽物か本物かハッキリさせたいし、ちょっと鑑定でハッキリさせない?」
 すると、あれだけ猛々しく脅しを掛けていた盗人達が、小動物のように大人しくなった。そして、彼らは円を組むようにして、相談を始めた。
 ――おい、あいつはああ言っているけど、どうする?
 ――馬鹿言え、あれは嘘に決まっているだろう。
 ――けどよ、もし、俺達の持っているハニワが偽物だったら、どうする。
 ――そ、それは……。
 ――第一、俺達って、ハニワの真贋の区別、つくか?
 ――……無理だな。
 ――なぁ、もし偽物だったらさ、万事休すじゃね?
 ――……鑑定、して貰うか。
 暫く盗人は話し合っていたが、やがて組んでいた円を解放し、全員がティモシーへと向き直る。そして、代表者たる盗人が前に出て、宣言する。
「いいだろう。貴様に、俺達が盗んだハニワの鑑定をして貰おうじゃねえか。しかし、もし下手な事をしたら、即座にハニワは壊すからな?」
「うん、分かったよ」
 ティモシーは、そう請け合う事にした。
 すると、盗人達は、アイドル歌手の元へ群がるかのように、一斉にティモシーの方へ向かって来た。そうした群衆の波は威圧感たっぷりで、ティモシーは思わず慌ててしまった。これでは、順番に鑑定をする事ができない。そこで……。
「あ、そこの泥棒さん」
「ん、俺か?」
「悪いけど、列整理を手伝って貰えないかな」
「え、ああ、分かった」
 何とも奇妙な光景であった。敵である盗人達が猟兵と協力して、盗んだ物を鑑定して貰っているのだから。しかし、先程までの緊迫した空気に比べたら、平和な光景なのかもしれない。
 そうして、ティモシーは渡されたハニワを一つずつ、手にとって眺めた。しかし、見れば見る程、ハニワの素晴らしさを感じずにはいられない。こうした類の芸術品とは、実際に手にとって眺めて見なければ、その良さは伝わらないものかもしれない。薄暗い中、ロウソクの仄かな赤い光に照らされる事で、ハニワの表面に、陰影が浮かび上がる。それが、太古に作られたという人形の歴史を感じさせた。遥か昔、人類が作ったという人形。それが長い歳月を経て、現在という時にて出現する。まるで、その当時の風景や匂いが、脳裏に浮かぶ上がってくるかのようであった。この人形は、土を焼いて作られている。指先と掌で優しく触れる度、その固くも崩れてしまいそうな感触が、自分の肉体を通じて脳へ伝わってくる。レンガ色をした表面が、ロウソクの炎によって、様々な色を浮かび上がらせる。目と口を表すかのような、三つの穴が、自身を時間の渦、もしくは深淵へと引きずり込ませるかのように感じられた。
ティモシーは、鑑定をしている事を忘れ、それに見入ってしまう。しかし、それも無理はないだろう。
「……い、おい、鑑定するんじゃなかったのか」
 その言葉に、ハッと我に返る。そして、ぶんぶんと首を振り、再度、ハニワの鑑定を行う。どうやら、これは本物のように思われる。
 ……しかし。
「どうやら、偽物のようですね……」
「そ、そうか……」
 そのハニワを、隣に置いた。実際、盗人達が盗んだハニワの中には、猟兵が用意した偽物も存在する。そもそも、実際に本物か偽物かを鑑定し、盗人の役に立とうとは考えていない。あくまでも、本物を猟兵側で確保し、偽物を盗人達に持たせるのが、ティモシーの作戦であった。なので、本物でも偽物扱いし、一つでも多く、取り戻そうと試みる。
 そして、次に渡されたのは、ごく普通のハニワであった。ティモシーは、それをマジマジと見つめ、鑑定する。しかし、先程感じたような、古代のロマンを感じない。恐らく、偽物だろう。そう、直感した。……だが。
 ここで、ティモシーは、わざとらしく首を傾げながら、一言。
「ほんも…いや、どうだろう?もう少し他を見てからでいい?」
 そう言われた盗人は、「ああ、いいぜ」と言って、そのハニワを受け取る。そして、本物か偽物か分からない(実際は偽物である)ハニワを、大事そうに抱えたのであった。
 こうして、着々とハニワが仕分けされていく。本物のハニワはティモシーの隣に、偽物のハニワは、理由を付けて盗人達へ返していく。そして、計5体のハニワを鑑定した。
 ティモシーの行う占いは、勘よりも酷い的中率だ。しかし、偽物が彼にとって分かり易いものだったのか、それとも、ハニワの持つ魅力が、本物だと語っていたのか。それとも、ティモシーの技術が、今回の事件で向上したのか……。それは、定かではない。しかし、昼間とは打って変わって、作戦は功を奏していった。
 ……と、ここで。
「なぁ、まさか、本物を偽物と言っているんじゃないだろうな?」
 ティモシーは、盗人の顔を見た。彼の顔は、再び盗人の悪人魂を呼び起こしたらしく、疑心暗鬼の渦に包まれていた。
「やっぱり、そうなんだな、おい、返せ!!」
 盗人はすぐさま、盗んだ品を束ねる為の縄を取り出し、ティモシーへ投げつけようとする。そうして驚いている隙に、ハニワを手早く回収する算段なのだろう。
 刹那、ティモシーが盗人へ素早く体当たりをし、隣に置いてあったハニワを回収、すぐさま猟兵達の元へ戻った。
「なっ!?」
 盗人は、その一撃に腹を抑えながら、相手を見据えた。
ティモシーは、ユーベルコード『トリニティ・エンハンス』の効果で、炎の魔力、水の魔力、風の魔力を身に纏い、自身を強化し、そのまま逃げる為の力へと変化させたのだ!
 そうしてティモシーは、意気揚々と戻って来た。その上には、偽物と鑑定した本物のハニワが4体、抱えられている。そうして救助されたハニワさんは、どこか、ホッと一息、ついているように感じられたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木目・一葉
人質ならぬモノ質か
くっ、必ず助けるぞハニーちゃん

・戦闘
「わかった
わかったから、そのハニワを離してくれ」
まずは【コミュ力】で声をかける
「武器も手放す。だから何もしないでほしい」
まず手にしている斧をゆっくり床へ下ろそう
相手の視線が少しでもその斧に【おびき寄せ】られてる間に、こっそり『影の追跡者達の召喚』を行い複数人に1体ずつはりつける
斧から手を離せば、フェマーケンサアンケルの足輪(触媒道具)から【衝撃波】を放ってロウソクの火を消すと同時に『影人の罪過』を発動させて複数人の敵の動きを封じる
【暗視】で動けない敵にすぐ近づいてハニワを取り返そう
近づくのが間に合わない場合は武器を【投擲】して対応しよう



●Mission3:ハニーちゃんを救出せよ!
「ええい、貴様ら、いい加減にしろ!!こいつらがどうなってもいいのか!!」
 盗人達は、狂気に満ちた表情をしながら、ハニワを抱いた腕に、力を込めて行く。一見、貧相に見える腕だが、侮ってはいけない。その腕は、高い塀にしがみ付いて成人男性の体を引き上げたり、巨大な荷物を持ち上げた上で丁寧に動かせる程の力を持っている。恐らく、巨大なバーベルすらも軽々と持ち上げられるかもしれない。その筋肉は今や力こぶを作り、猟兵達に牙を剥くが如く威嚇している。その細くも力強い腕に押さえつけられたハニワ達は、今にも泣き出しそうな顔色をしていた。
 そうした悪逆非道な蛮行を目の当たりにし、キッと睨み、奥歯を噛み締める猟兵の姿が、そこにあった。
(人質ならぬモノ質か。くっ、必ず助けるぞハニーちゃん)
 木目・一葉(生真面目すぎる平凡な戦士・f04853)は赤茶色の瞳で、盗人達の方を睨みつけていた。その視界に写るハニーちゃん達が、早く助けてと叫んでいるように感じられる。早く手を打たないと、取返しの付かない事になってしまうだろう。
 木目はすぐさま前に出て、盗人と接触を試みる。
「ああ!?おい、動くんじゃねえぞ!!」
 ドスの効いた声である。それは、ハニワを壊そうと思えば、いつでも躊躇なく壊せるぞ、という事を示すかのような悪意を滲ませていた。
「わかった。わかったから、そのハニワを離してくれ」
 木目は、動揺したかのような声を出し、慌てたような表情をした上で、手をフルフルと振っている。だが、これは木目の演技であった。実際は、冷静に、相手からハニーちゃんを奪おうと、機会を伺っているのである。また、こうした演技によって、相手と円滑なコミュニケーションを抱こうとしているのである。
「なら、その手に持っている武器を下ろす事だな~!!」
 盗人達は、自分達が優位に立っていると思い込み、有頂天になった。この小娘、今なら俺達の要求を簡単に飲むだろう。これを活かして、俺達に有利な状況を作ってやるぜ。ぐへへへへ。……大体、そんな事を考えているに違いない。木目は心の中でキッと睨みつつも、その要求に応える。
「武器も手放す。だから何もしないでほしい」
 そうして、手に持っていた斧を、ゆっくりと土間へ下ろしていく。それは、この暗闇の中では、とても目立つ斧であった。その得物の名は、グリューアンクルという。名前は、とある英雄の象徴たる斧の名を冠しているという。柄の長い巨大戦斧であり、その大きさ故、刀身は盾としても活用できる。そうした斧は、一見すると、少女とは不釣り合いにも見える程の大きさである。しかし、戦士たる木目にとって、そうした大きさとの差異は気にしていない。
 木目は、その重たいであろう武器を、ゆっくりと、ゆっくりと、体を屈めつつ、荷物を床へ下ろすかのように置こうとする。しかし、巨大な斧である。それが地面にゆっくりと置かれて行くとなれば、殆どの人が注目するだろう。
「おう、早く置けってんだ!」
 今、木目の心臓はバクバクと高鳴っていた。今、相手は、自分の武器たる斧へと注目している。実際、斧へ注目させる為、こうして“わざと”ゆっくり、土間へ下ろしているのである。実は、既に行動を開始している。それは、一世一代の大仕事を思わせる程、大胆で、かつ重要な行動である。この行動の成否によって、自分と、そして、ハニーちゃんの将来が変わってくる。手が汗ばんでくる。
 
 ――(影は嘘を語らない。拘束せよ、かの者の罪を!)

 心の中で呟き、木目は『影人の罪過(カゲビトノザイカ)』を発動した。刹那、彼女の足元から、影の追跡者(シャドウチェイサー)が現れる。それらは、木目の意志を理解し、盗人達の元へと忍び寄る。この建物は、外程では無いが、とても暗い。光源がロウソクの明かりしか無いので、闇に覆われている部分も少なからずある。だからこそ、影の追跡者は余計に見つかりにくかった。それらは、素早く盗人達の背後へ回ると、気付かれないよう、ピトッと張り付いた。
 それを確認し終えた後、木目は、その斧を土間に置く。その顔は、人質ならぬモノ質を取られて慌てふためく少女の顔ではなく、一人の戦士たる勇敢な顔をしていた。
 そして、斧から手を離した瞬間、こっそりと足輪、フェマーケンサアンケルへ、ゆっくりと触れる。
 ――刹那、彼女の足元から衝撃波が放たれた!
「ぐうおぉっ!?」
 突然の事に、盗人達は成す術も無い。両腕はハニワを抱えている為、顔を覆う事もできない。その強風をもろに冴えない顔へと喰らい、たまらず目を閉じる。それと同時、ロウソクの炎が強風によって吹き消される。辺りは真の闇へと変貌した!
 刹那、影の追跡者も行動を開始する。すぐさま、影の追跡者は、その体から、影でできた鎖を勢いよく放つ。それは盗人達の影へ向かっていく。その影の周囲を素早く何回も旋回すると、勢いよく引っ張るかのようにして縮小、そのままグルグル巻きに縛り付けた。それと同時、盗人達はその影に合わせて、拘束されて動けなくなる。影の鎖はギリギリと音を立てながら、盗人達の体を締め上げていく。その不潔な体は、若干、鬱血し始めていた。
「な、何だ一体!?」
 突然、次々と訪れる事態に、盗人達は理解が追い付かない。強風、光源の消失、拘束……。それらの一つ一つが非常事態を示すものであると同時に、何もできない事への無力感を募らせていく。
 すぐさま、木目は駆けだした。チーターのように速く、憎き盗人達のところへと接敵する。暗視によって闇の中もうっすらとだが見える彼女にとって、相手の位置を把握する事はお手の物だ。相手を睨みつけながら、モノ質と化したハニーちゃんへ腕を伸ばす。
 だが、盗人達もプロだ。奴らは、好き勝手やられてたまるかとばかりに、根性を見せつける。
「くそっ、これでもくらいやがれ!!」
 刹那、何かが飛んでくる。
 縄か?
 クナイか?
 違う、あれは髪の毛だ!!
 ユーベルコード、『ここはおいらに任せておくんな!』だ!
モズクを束ねたかのようなおっさんの髪の毛がロープのようになり、木目へと迫って来る。それは毒蛇のようにしなやかであり、毒牙を剥くかのように突っ込んで来る。
 木目はそれを見極めると、懐から何かを取り出した。それは、小さな刀剣類であった。いわゆる小太刀であり、通称『無名』。闇の中、木目はその刃物を勢いよく、髪の毛に投擲する。シュンと音を立てて矢のように飛び、髪の毛をばっさりと切り伏せる。黒い髪の毛は、ごみ屑のように土間へ、パサリと落ちた。
 その音は、絶望の福音であった。
「お、俺の髪の毛がああああああ!!」
 暗闇の中に、盗人の悲鳴が響き渡る。それは慟哭のように切なく、悲しみに満ち溢れていた。それは、ハニワを盗まれた者達の、心の痛みと同じであった。だが、そんな事を、盗人達は気付く由も無い。
 木目は接敵を続ける中、思案する。恐らく、敵は第二、第三の髪の毛を飛ばしてくるだろう。それに当たれば最後、どうなるか分からない。それは、反撃を許す事を意味する。ならば……。
 木目は、すぐさま懐から別の道具と取り出して立ち止まる。それは、先端にフックの付いた頑丈かつ軽量な射出機構のワイヤーであった。木目は素早くハニーちゃんへ狙いを定め、灰色に染まったその機械を作動さえる。
 刹那、空を切る音が闇の中に響き渡る。そのフックはシュルシュルと音を立てながら空中を飛んでいく。やがてそれは、ある盗人の腕に抱えられていたハニーちゃんの口に引っ掛かった。
 そして、それを優しくかつ力強く巻き取る。ハニーちゃんは、鰹の一本釣りみたいに、勢いよく飛び上がったかと思うと、フックにくっついたまま、木目の元へ飛んで行った。それを優しくキャッチし、ハニワの無事を確認する。どうやら、怪我は無いようだ。しかし、そのとぼけたような表情、とても可愛い。クロコンとどっちが可愛いだろうか。
 しかし、すぐに我に返り、盗人の顔を見やる。
「き、貴様ぁ……!!」
 闇の中、盗人達は怒りの炎を濁った眼に灯していた。そして、全員が一斉に頭を振る。それは、髪の毛が射出される事を意味していた。
 これは不味いと思った木目は、すぐさま踵を返し、猟兵達の元へと戻っていく。その際、グリューアンクルを拾っておくのを忘れない。
 その様子を見た盗人は、木目へ攻撃するのを止めた。代わりに、自身を拘束している影の追跡者へ、その髪の毛で攻撃を仕掛ける。
 そして、その髪の毛が影の追跡者達へ当たった瞬間、爆発が起きた。煙が巻き起こり、土埃が舞い散る。盗人達は、その影の追跡者を髪の毛で縛り上げていた。そうして暫くすると、影の追跡者は、役目は一通り終えたといった風に、その場から姿を消した。 
 盗人は、土間に散らばったロウソクを拾い集め、持っていた火打石で火を点ける。再び、この空間が仄かに明るくなっていった。
 事態は緊迫した状況に戻る。だが、木目の活躍により、ハニワをまた一体、猟兵達の元へ回収する事ができたのであった……。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
その埴輪に関わる人の想いを盾にするなら人質とそう変わらないよね。
僕としては兎も角、お仕事だから壊さない様にね。

約束通り埴輪を持っていく。

風呂敷に入れて全部持ってきたから重くて大変なんだよね。
良ければ受け取ってくれないかな。
重くて渡す時にそちらにばら撒いてしまうかもしれないけれど。

相手の欲深さを信じて埴輪を使って視線を逸らさせる。

逸らした隙を狙ってUCを使用
【WIZ】
【恐怖】【呪詛】を含む冷気にて手足を凍えさせる
埴輪が落ちても大丈夫な程度の水深の水面を作る

爆発は腕一本犠牲で受け、繋がったら【ロープワーク】【敵を盾にする】で他の埴輪を守るために敵を使用。
片手であることはUCの強化で補う。



●Mission4:ハニワを持ってきたよ(渡すとは限らない)
「ぐぬぬ、おのれ猟兵共め……」
 盗人達の目には、怒りの炎が宿っていた。数度に渡るハニワの奪取に、彼らの怒りは徐々に上がって行った。あと少しで、その怒りは頂点に達する事だろう。現に、なけなしの髪の毛から蒸気が迸り、この薄暗い空間に、湿り気を帯びさせている。
 ロウソクの炎に照らされたハニワの顔には陰影がくっきりと浮かび、人間の顔に思えてくる。その表情は、これから自分達はどうなるのだろう、家族は心配しているのではないか、子供達ともっと遊んでやれば良かった、といった、不安が滲んでいるようにさえ感じられる。もはや、ハニワは物では無く、人のようであった。
(その埴輪に関わる人の想いを盾にするなら人質とそう変わらないよね)
 建物の外にて、一寸先も見えぬ闇の中に佇みながら、彼は思う。人質というのは、その者を助けたいという思いがあるからこそ、成立するものだ。ならば、ハニワを愛する心が町の人々にある限り、それは人質として十分効果を上げる。
 ――僕としては兎も角、お仕事だから壊さない様にね。
 そう、倦怠感のあるような声色で呟くと、彼は中に入って行った。
 その瞬間、盗人は、突然の来訪者の存在に気付き、そちらへ蛇のような視線を向けた。それにつられ、猟兵達も入口の方へ振り返る。
 そこに居たのは、大きな風呂敷包みを背負った夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)であった。その風呂敷包みは大きく、中には何かが入っているらしく、時折、カラカラと音が鳴る。彼は猟兵達をかき分けるようにして、ゆっくりと、盗人達の方へ歩み寄ろうとする。その際、建物に磯の臭いが充満していく。
「お、おい、止まれ」
 それに対して言葉を返す事もなく、立ち止まる。
「一体、何をしに来た!?お前も、猟兵か!?」
「実はさ、アジトを教えてもらう代わりに、埴輪を持って行く約束をしてね」
 そして、風呂敷包みを軽く揺する。カラカラと音が鳴る。それを聞いて、盗人達は思わずほくそ笑んだ。しめしめ、こいつはどうやら、状況を理解していないようだ。このままハニワを貰う事ができれば、人質の数は増える。これはチャンスだ!そんな事を考えているのだろう。しかし、アジトの場所を教えた仲間の姿が無いのに気付いていない。その様子を見て、夷洞は心の中で、哀れみのような笑みを浮かべた。
「風呂敷に入れて全部持ってきたから重くて大変なんだよね。良ければ受け取ってくれないかな。」
 そう言って、夷洞は再び、風呂敷包みを揺する。カラカラと音が鳴る。そして、ああ重たい、疲れたなぁ、と言わんばかりに、軽い演技をする。
 渡りに船。盗人達は、心の中で歓喜した。どうやらこいつは、本当にハニワを渡してくれるみたいだ。本当にラッキーだぜ!!
「ああ、いいぞ。さぁ、お、俺達にくれないか!?」
「いいよ。重くて渡す時にそちらにばら撒いてしまうかもしれないけれど」
 ……ん?
 この時になってやっと、盗人達は疑問を抱いた。え、渡す時にばら撒くって?おいおい、ちょっと待ってくれ!そんな事をしたら、ハニワが壊れちまうじゃねえか!
「さて、じゃあ荷物を……」
 そう、大きな声で呟きながら、風呂敷包みを外そうとする。
 ま、待て、ちょっと待て!!こいつ、ハニワを渡しに来たんじゃねえのか!?もっと大切に扱えって!?
 突然の出来事に、盗人達は慌ててしまい、言葉を出す余裕すら無くなる。その間にも、風呂敷包みは肩から外されていく。盗人達は、もう気が気でなかった。できるだけハニワという人質を多く確保しておきたい盗人は、壊すような真似をして欲しく無かったのだ。そして、彼らは自然と、その風呂敷包みに注目してしまう。
 それを盗み見た夷洞は、作戦が上手くいっている事を実感した。相手は、底抜けに欲深である。今いる人質だけでは物足りず、更なる人質を要求する。そうした行動をすると考えての事だったが、読みは当たった。
 夷洞は、彼ら全員の視線が風呂敷包みに移った事を確認した後、聞こえないよう、こっそりと呟く。

 ――彼方より響け、此方へと至れ、光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ。我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう。

 ユーベルコード『浸食領海・潮騒は鳴り響く(シンショクリョウカイ・ワタツミ)』を発動する。
 刹那、場の空気が変わった。
 まるで、陸地が深海へと変わったかのようであった。夷洞が訪れた際に漂った磯の臭いが、より一層、濃くなったかのように感じる。それは建物内を、冬山のように薄ら寒くしていく。
「お、おい、なんだ、なんなんだよこれはぁ……!?」
 その冷気に包まれた盗人達の顔が、恐怖で歪んだ。それを夷洞は、冷然と見据える。この冷気には、恐怖と呪詛が織り込まれている。それは彼らを、底の無い絶望へと誘っていく。彼らは歯をガタガタ言わせ、立っているのもやっとの状態であった。しかし、それは恐怖と呪詛によるものだけではない。この冷気は、零度以下という冷たさであり、彼らの体から熱を奪い去っているのである。手足は凍え、まともに動かす事もままならなかった。
 刹那、夷洞の足元から、水気が漂ってきた。それは波打つように広がって行き、盗人達の方へと向かっていく。そうして水気が通った場所には、澱んだ海水が溜まって行き、土間を染め上げて行く。それは、毒蛇の大群のようにおどろおどろしかった。
「な、なんだおい、これは!?」
 そうヒステリックに叫ぶものの、極度の冷気により体が冷やされたのと、恐怖と呪詛によって精神が侵されていた事によって、すぐに対処できなかった。だから、その水気が足に当たってしまう。……刹那。
「ひ、ひいいいいい!!!!」
 盗人達の顔が、苦悶の表情に歪んだ。この水気が原因であるという事は理解できたが、しかし、精神論だけでは、どうしようも無い。水気に籠められた呪詛が、悪しき盗人達に天罰を与えんとするかの如く、精神を蝕んでいく。
 そうして盗人達が何もできないまま、時間が経過した。その間も、水気は放出され続け、この建物は海水で一杯になっていく。そして気付けば、海水は膝の辺りまで溜まっていた。ロウソクの炎は消え、辺りは闇に包まれた。
「あ、あぁ……」
 盗人は、枯れた声を上げ、腕の力を弱める。すると、ハニワは海面に落下した。
 ポチャン。
 その音が、静寂の中に木霊する。それは、ハニワが土間に落ちて壊れなかった事を意味する。そのハニワは精霊流しのように、夷洞の方へ流れてきた。その感触を頼りに、夷洞は手に取り、持ってきた風呂敷包みの中へ入れて行く。そうして、二個、三個と漂って来ては、それを回収する。
「ぐ、や、やり、や、が、った、な……!」
 しかし、盗人達にも、負けっぱなしではいけないという意地があるのだろうか。ふと、何かが飛んでくるのを感じ取った。夷洞は、闇で見えなくなった空間の中、相手の方を見据える。
 一体、何が飛んでくるのだろうか。
 石か?
 鉛か?
 砲丸か?
 夷洞は、咄嗟に片腕を前に出し、自身の体を庇う。
 刹那、その腕が爆発した!
 夷洞は、少しばかり顔をしかめた。
 そして、その爆発による光源で、何が起きたのか把握する。
 すると、腕に巻き付いているモノを見た。
 それは、モズクを束ねたようなものである。それが、前方に居る一人の盗人の頭と繋がっている。彼は、してやったりという顔をしている。
 ユーベルコード『ここはおいらに任せておくんな!』だ。
 ――髪の毛か。
 夷洞は納得した。
 そして、再び闇に包まれた。
 夷洞は、今や片腕が封じられてしまった。しかし、彼は平然としていた。腕一本の犠牲で済んだのだから、まだ良い方だろう。
「さて、と……」
 そう呟くと、もう片方の手で、その髪の毛の束を、グイッと引っ張った。
「え、ちょ」
 その引きの強さに、盗人達は驚いたようであった。あの体躯に、これだけの力があるとは思えなかったのだ。しかし、これにはカラクリがある。夷洞の放ったユーベルコードにより、この澱んだ海水の上に立つ自身の腕力を強めていたのであった。
 そうとは知らない盗人の慌てふためく声を聞きながら、夷洞は巧みなロープワークで、盗人をブンブン振り回す。
「おい、やめろ!!」
「ぶつか、る、止まれ!!」
「このまま、じゃ、攻撃がで、きねえだろ!!」
 暗闇の中で、仲間の盗人が空中で振り回される事により、攻撃ができない。そうこうしている内に、突然、彼らの声が止んだ。どうやら、かなり疲弊してしまったものと思われる。夷洞の元へは、新しく、数個のハニワが流れ着いた。
 彼はそれを回収し、ユーベルコードを解除した。澱んだ海水も引いていく。
 暫くして、明かりが灯る。盗人が、ロウソクに火を点けたのである。
 彼らは、憔悴しきっていた。その腕には、まだハニワが残っている。けれど、その数は、当初の半分以上も減っている。そして、猟兵達へ向ける敵意の炎も、どこか小さくなっているように感じられた……。

成功 🔵​🔵​🔴​

刑部・理寿乃
人質ならぬハニワ質をとられてしまいましたね〜。
ここは穏便にお話してみましょう。

事前にユーベルコード使用。
物陰に隠れさせ、逃げ出した盗人がいたら攻撃するようにお願い。

不安にさせない為にも常時笑顔で。
ハニワを壊すぞ、と脅す盗人に壊すのも盾にして攻撃したり、逃げたりするのもやめておいた方がいいと言います。
壊されたら盗人生かす意味ないし、自分の命は大切だし、ここまで追い詰めてハニワごと逃がすなんて以ての外。
という訳で特例を設けましょう。ハニワを無事に渡してもらえるなら(私『は』)見逃すといいます。ハニワは代わりがありますが、命は一つだけですからね。

他の猟兵さんやオオカミさんから逃げられるといいですね。



●Mission5:私『は』見逃しますよ
 最初は猛々しかった盗人達も、今や弱々しい小動物のように見えてきた。彼らの目は疲れで澱んでおり、体中からは『憔悴』の二文字がくっきりと浮かんで来ていた。ハァハァと息を荒げる姿は、見ていて痛々しく思えてくる。
 けれど、小動物と形容したものの、彼らはまだ、猟兵達に対する敵意を捨てた訳では無い。最も、その敵意という炎は、マッチの炎みたく小さくか弱かったが。
「か、覚悟しておけよ……猟兵共め」
 そう吐き捨てるように呟くと、彼らはフラフラと立ち上がる。そして、何とか残っていたハニワを腕に抱え、そのまま猟兵達へ向かい直る。
 そろそろ佳境に入って来た事を、猟兵達は察していた。この場の空気は緊迫しているが、最初の緊迫感とは、また別の何かに感じられた。
 薄暗い空間に、ロウソクの仄かな赤い炎が揺らめく……。
 その最中、彼らの心情を読み取ろうとしている猟兵が居た。
(人質ならぬハニワ質をとられてしまいましたね〜)
 心の中でそう呟きながら、様子を見ているのは、刑部・理寿乃(ドラゴニアンのサウンドソルジャー・f05426)であった。彼女が見るに、彼らはとても疲れており、心が折れそうになっていると感じられた。ならば……。
(ここは穏便にお話してみましょう)
 そう考えた。
 刑部が取ったのは、武力では無く、話術である。そうした言葉による心理戦は、時として戦況を大きく揺るがす。そして、今が正に、そうした和術を最大限に発揮する好機として捉えたのだった。
 だが、その前に。刑部は、下準備をしておく必要があった。

 ――(オオカミさんお願いします)

 こころの中で呟き、ユーベルコード『魔女の白狼(ジェネルビステル)』を発動させる。すると、彼女の背後に、黄金の瞳を持つ白狼が現れた。しかし、盗人達は、かなり憔悴している為か、刑部の背後に出現した白狼に意識を向けていない。
 刑部は、白狼に対して目を向け、何をして欲しいかを伝える。すると、その意志を組んだ事を示すように、白狼は一回、大きく頷く。そして、建物の外へ駆けだし、夜の闇へと消えて行った。
 刑部の視界から消えた白狼は、周囲を見回した。一寸先も見えないが、その嗅覚が、周囲の地形を把握していく。そうして、白狼自身が隠れられそうな物陰を探そうと試みる。だが、それはすぐに成功した。ここは山であり、木々や茂みなどが沢山ある。そして、建物の入り口に近い、大きな茂みの影の、その身を隠した。
 一方の刑部は、盗人達へと向き直る。そして、彼らの方へ歩み寄った。その顔には、相手の不安を紛らわそうとするかのように、笑顔を作っている。その笑顔は、昼間に町の人々を安心させた、あの笑顔であった。
 そして盗人達は、刑部が此方へ向かって来る事に気付く。彼らは、やって来る彼女に対して、警戒心を露わにした。笑顔を向けているとはいえ、相手は猟兵だ。もしかすると、何か裏があるのではないか。盗人達も、いい加減、学習する事を覚え始めたようである。そして、性懲りもなく、ハニワを壊すだか何だかするだかの、いわゆるパフォーマンスを試みる。どうやら、パフォーマンスに効果が無い事までは学習できなかったようである。
「ち、近付くな。ハニワを壊されたくなければ、大人しくしろ!」
 それを聞き、刑部は足を止める。しかし、彼女はその意見に同意した訳では無い。そのまま、盗人達へ言葉を投げ掛ける。
「あの~……」
「な、何だ?」
「そうした、ハニワを壊すとか、ハニワと盾にするとかは、やめておいた方がいいと思いますよ?」
「何だと!?」
 盗人達は、息まいて彼女へ、血走った目を向ける。しかし、刑部は怯まず、淡々と、それでいて優しく、言葉を紡いでいく。
「それに、逃げたり、攻撃したりするのも、やめておいた方がいいと思います」
 盗人は、再び頭に血が上った。目の前の小娘は、年上であろう俺達に向かって、偉そうな事を言っていやがる。ならば、そうした生意気な態度がどんな悲劇を生むか、一つ、教えてやらなければならない。
 だが、そうした尊大な態度は、次の言葉で打ち砕かれる。
「だって、ハニワを壊されたら、盗人を生かす意味なんて無いじゃないですか」
 その言葉に、盗人は冷水を浴びせられたかのように、ブルッと震えた。そして、思い出す。今、目の前に居る小娘は、猟兵だと言う事を。そして、盗人達の想像もつかない、何か恐ろしい力を秘めている可能性だってある。
 その言葉は呪術のように、盗人の心へと入り込んできた。
 そうした言葉の演出が効果を上げている事を察し、更に言葉を重ねて行く。
「しかし、私達も、自分の命は大切だし、けれど、ここまで追い詰めてハニワごと逃がすなんて、以ての外です」
 ――そこで。
 刑部は、一旦口を閉じる。
 盗人達は、固唾を飲んだまま、刑部の方を見つめる。彼女は一体、何を言おうとしているのだろうか……。
 薄暗い空間は、更に、冷え込んだかのように思えた。ロウソクの炎は弱々しく燃え上がっており、両者を下から照らし出している。その光景はまるで、会談のような空気を生み出していた。
 演出効果が十分高まったところで、刑部は、告げた。
「という訳で、特例を設けましょう」
 ――特例。
 そのキーワードは、盗人達の心を掴んだ。それは、ポイントカードのような、お得感のあるキャッチコピーのようなものであったが、彼らにとっては、それが魔法の言葉にさえ感じられる。
「はい。あなた方がハニワを無事に返してもらえるのであれば、私『は』、見逃しましょう」
 その言葉は電流のように、空間内に迸った。
 盗人達の中には、精神が限界に近い者が居た。それは、目の前に居る猟兵達への、圧倒的な力と脅威に対しる、畏怖でもある。そうした者達は、ハニワによる保身で自分を守ろうとしながら、何とか助かる方法を探していたのであった。
 そんな者達に、刑部の言葉は、まるで、天からの啓示のように聞こえた。それは心地よく、疑わせる事を悪しきものとするかのような強制力を持っている。
 しかし、そんな彼らは気付かない。刑部が使った、言葉のトリックに。
「み、見逃してくれるのか!」
「はい。ハニワは代わりがありますが、命は一つだけですからね」
「そ、それじゃあ……」
「おい、騙されるんじゃねえ!!」
 そうして刑部に近付こうとする盗人達を、他の盗人が止めようとする。
 しかし。
「い、嫌だ、俺はもう限界だ!!こんな恐ろしいところ、俺は一刻も早くおさらばしちゃいたいのさ!!」
「お、おい、待て!!」
 制止の声も聞かず、堪え切れなくなった盗人達は、彼女の元へ駆け寄る。そして、ハニワを押し付けるように渡すと、そのまま建物の外へ出て行った。
 ドタドタという足音が暫く響いていたが、やがて、沈黙が訪れる。刑部の腕には、ちょっとバランスを崩せば落ちそうな程に、ハニワが抱えられている。このままではまずいと思い、えっちらおっちらと、猟兵達の元へ戻り、ソッと土間の上へ置いた。
「お、おのれ……」
 甘い誘惑に負けず、その場に残った盗人達は、憤りを隠せなかった。その腕にはハニワが抱かれているものの、その数はあと、何個かといった数しか残されていない。
 と、その時である。
 外から、悲鳴が聞こえてきた……。

 時は遡って、盗人達が建物から脱出した頃である。彼らは、山の中を駆けて行った。そして、暫く走った後、不意に立ち止まり、大きく深呼吸をする。
「な、何とかなったな……」
 木々の香りを体全体で感じながら、冷や汗を拭う。それだけ、猟兵達との対峙は、緊張感を伴うものであったのだ。これで、彼らも少しは反省するだろう。
 ……しかし。
「……くそっ、猟兵め、いい気になりやがって!」
「今度は、上手くやるしかねえな……」
 彼らは、反省していなかった。そればかりか、ほとぼりが冷めた頃に、また同じ事をしようと考えているようでもあった。その姿は、誠に救い難い。罪を犯した者の社会復帰を支援する人が見たら、心を痛めるかもしれない。それ程までに、彼らの中からは、良心という分別が欠如していたのであった。
 そうして、盗人達が休んでいると、何者かが後ろに居るような気配を感じた
「何だ……?」
 盗人の一人が、振り返ろうとする。しかし、首を捻った瞬間、地面に倒れ伏した。
「おい、どうし……」
 突然、声が途絶えた。
 この様相に、仲間の盗人達は、恐怖に包まれた。何かが、ここに居る……。
 そして、彼らは、闇の中に蠢く存在を見た。
 それは、黄金の瞳を持った白狼であった。その獣は、盗人に向かって飛び掛かる。
 成す術もなく、彼らは悲鳴を上げた……。

「な、何だ一体……」
 盗人が、その悲鳴を聞き、思わず刑部に聞き返す。しかし、彼女は意地悪く、こう返したのみであった。
「言いましたよね?私『は』見逃しましょう……って」
「く、くそっ!!」
 盗人の目が大きく開かれ、顔の筋肉が強張った。肩に力が入り、踏みしめる足は土間にヒビを入れてしまいそうであった。
 盗人には、ハニワは残されている。しかし、その数も、残り僅かとなっていた。それに、盗人の数も、最初の頃よりも減ってしまっている。
 事態は、いよいよクライマックスを迎えようとしていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
ハニワを盾にするとはなんと卑劣な……!
ハニワを壊すことで制裁を貴方達の親玉から受けるかもしれないというのに

そう言って動揺を誘いつつ、盾の陰に隠すように体の格納庫からUCの妖精ロボを大量にこっそり出します

他の猟兵に●目潰しの意図がジェスチャーで伝わるように妖精を●操縦しつつ、盗人と交渉
此方の武装を解除すると持ち掛け、盾と剣を床に捨て、「今です!」と合図
その直後に閃光弾を装填していた腕部格納銃器での●目潰しを行います

眩しさに目が眩み手を放してしまったハニワを急行させた妖精ロボにキャッチさせます。スラスターを吹かして●スライディングし私も●かばうようにキャッチ

ハニワを確保出来たら頭部銃器で片付けます


シン・ドレッドノート
アドリブ・連携OK
【SPD】
(心情)
人々の思いの籠ったハニワを傷つけるなんて、許せませんね。
絶対、守りますよ!└|∵|┐エイエイオー!

(行動)
物陰に隠れて狙撃を行います。怪盗の単眼鏡の暗視スコープ機能で様子を伺いつつ、味方の行動に合わせて行動します。

味方の行動が失敗し、盗人がハニワを壊そうとした瞬間に【真紅の狙撃手】を発動。右手の真紅銃から紅い光弾を3点バーストで発射して盗人を撃ち抜いて壊すのを妨害。同時に左手の精霊石の銃から属性攻撃:氷のエネルギー弾を発射してハニワの周囲を凍り付かせることで、ハニワを守ります。

味方の行動が成功した場合は、そのまま味方の援護射撃として真紅の狙撃手を継続します。



●Mission6:ハニワを奪還せよ!
 盗人達の目は、血走っていた。それは兎のように赤い目をしており、眼球の中を巡る血管が、ドクドクと、音を立てて血液を立てて流しているかのようであった。目を大きく見開いている為、その濁った瞳が前へのめり出るかのようである。
「てめえら、どうやらハニワを壊されたくて仕方ないみたいだなぁ!!」
 その怒号は、先程よりも濃く、どす黒くなっている。唾が猟兵達のすぐ近くにまで飛び散る程に叫び、鼓膜をビリビリと振るわしている。そして、腕に力を籠め始めようとしていた。恐らく、彼らは本気だ。
 ――俺達を怒らせた事を、後悔させてやる!
 そんな濁った感情が、猟兵達へテレパシーのように響いてくる。もはや、一刻の猶予すら感じさせない。今すぐ行動に移さなければ、幾体ものハニワが、粉みじんにされてしまうだろう。
「おっと、動くんじゃねえぞ!動いたら、このハニワを砕いてやるからな!と言っても、もう手遅れなんだがよぉ~。ぐへへへへ……」
 盗人は、頭に血が上っているようで、思考も回らなくなっているようだ。そうした相手程、厄介な敵は居ない。猟兵達は、息を飲んだ事だろう。

(ハニワを盾にするとはなんと卑劣な……!)
 盗人達の豹変ぶりと、その卑劣な行動に憤りを隠せない猟兵が居た。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)である。彼は紛い物の騎士である事を自覚しているものの、その騎士道精神を貫き続けている。そんなトリテレイアにとって、人質を取って盾にするなどいう蛮行を、許せる筈も無かった。そして、その屈強な腕に締め付けられているハニワ達は、「嫌だ、死にたくない!」といったような、悲痛な表情を浮かべているようにさえ思えてくる。その様子を見ると、彼の内なる心に、メラメラと青い炎が燃え上がってくるのであった。
(人々の思いの籠ったハニワを傷つけるなんて、許せませんね)
 同じく、盗人達の蛮行に、憤る猟兵が居た。シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)である。彼にとって一番大切なものは何かと訊かれたら、「愛」と答えるそうだ。そんな彼にとって、町の人々がハニワを愛する心を痛感している。そのハニワは、人々の心の糧となり、日々の疲れを癒すパートナーである。ハニワは、家族のような存在だ。そんなハニワ達を、暴言を吐き散らしながら傷付けるなど、シンにとって許せる筈が無い。静かな面持ちであるが、その内なる心に、メラメラと赤い炎が燃え上がっていくのであった。
(絶対、守りますよ!)
 その意気込みを胸に、恐ろしい盗人集団を見据える。
 すると……。
 └|∵|┐エイエイオー!
 怯えている筈のハニワ達が、猟兵達を鼓舞しているように見えたのであった……。

 この時、偶然にも、二人は互いの顔を見た。二人の視線、空中で交錯する。そして、互いの中に、ハニワを今すぐ奪還しなければならない、という意志が宿っている事に気付いた。内なる心に宿る炎が、共鳴し合うように燃え上がる。
 彼らに、言葉は必要無かった。ただ一回、頷くだけで良かった。
 そして、彼らは行動を開始する。

「ぐへへへ……!!そんじゃあ、ハニワを天国へご案内いいい!!!」
「待て!!」
 訳の分からぬ言葉を口走りながら腕に力を込めようとする盗人達へ、毅然とした声が届く。台風のように威圧感のある言葉に、思わずハッとなり、声の主を見る。
 暗い室内の中、鎧の金属音を響かせながら、盗人達の方へ歩いて来る影があった。トリテレイアだ。その緑色の瞳は輝いており、強靭な意志、そして、盗人達への怒りが伝わってくる。
 その姿を見た盗人達は、頭に血が上りつつも、一種の脅威を感じずにはいられなかった。それもその筈だ。彼の身長は、285cm程もあるのだ。思わず顔を上へ向けて見てしまう。しかも、彼は剣と盾を持っている。その威圧感は、半端では無い。思わず生唾を飲む。
「おい、止まれ!!」
 その言葉に素直に従うトリテレイア。兵隊の行進がピタッと止まるかのように、両足を揃えて立ち止まる。
「そ、それ以上近付くんじゃねえ!」
「……あなた方は思慮が足りませんね」
「何だと!?」
 どういう事だ。そう言わんばかりに、相手をまじまじと見つめる。そんな間抜けな顔に興味は無いとばかりに、言葉を紡いでいく。
「……ハニワを壊すことで制裁を貴方達の親玉から受けるかもしれないというのに」
 この、静かで厳かな言葉は、盗人達の心に入り込んでいく。その問いかけは、愚かな真似をする者を戒めるような、深みがあった。
 制裁。その一言が、盗人達に恐怖という感情を植え付ける。今、盗人達の頭には、その親玉の姿が浮かんでいた。巨大で、尊大なようにも見える、謎めいた存在。それは、ある一種の脅威とも受け取れた。彼らの中に、戸惑いが広がっていく。
 そうして動揺を誘う中、トリテレイアは時折、手に持っていた盾を盗み見る。その盾は縦長で、身の丈程の大きさをしている。また、殴打用としても活用できる程に、質量がある。その巨大な盾の影へ、次々に隠れるようにして張り付く影があった。

 ――(御伽噺の騎士に導き手の妖精はつきものです……これは偽物なのですが)

 そう、ハニワをわざと盗ませる際に活躍した、妖精ロボである。彼はユーベルコード『自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット(スティールフェアリーズ・ネスト)』を発動したのだ。妖精ロボ達は、まるで、ジャックされたバスに突入しようと、犯人の死角で待機する特殊部隊のようにさえ感じられる。
 そうしている間に、盗人達が動揺している隙を突き、猟兵達の背後から、ロウソクの炎で灯し切れていない闇へ駆けた影があった。シンだ。彼は蝿のように素早く、そして埃のように音を立てず、その暗闇へ移動した。それは正しく、目の前で相対している盗人達の技術でもあった。しかし、そうした盗人家業をしているのは、何も目の前にいる敵のみではない。猟兵であるシンもまた、盗人家業をしているのだ。その技術はもしかすると、ハニワを人質に取っている盗人集団よりも上かもしれない。盗人は誰一人として、シンに気付く事は無かった。
 シンはそのまま、暗がりに身を隠し、懐から音を立てず、二つ、何かを取り出す。それは、純白の銃身に紅のラインが入った粒子砲であった。別名、スカーレット・ブラスター。それを右手で握り、盗人達へ照準を合わせたまま待機する。もう一つは、純白に金の縁取りが入った、銃身の長い銃。そこに嵌め込まれた緑色の石には、精霊が宿っているという。この銃も、器用に左手で握り、同じく照準を合わせる。異なる二つの銃を両手で扱おうとする様は、卓越した技量の持ち主である事を伺わせた。そんなシンは、狙いを済ませると同時に、共に連携を行うトリテレイアと、それに対応する盗人の様子を観察する……。
 そうした布石を貼られているとは露とも思わず、盗人達はどうすべきか迷っていた。それを見たトリテレイアは、次なる行動へ移る。
「では、こうしましょう。私達は武装を解除する。そして、あなた方はハニワを地面へ置く。そうして、一先ずは場を納めましょう」
 その交渉に、盗人達は顔を見合わせる。そして。
「……いいだろう。ただし、先に猟兵、お前らが武装を解いて貰おうか」
 魂胆は見え透いている。恐らく、盗人達は人質を取ったまま、猟兵達の武装を解除させようというのだ。しかし、それも想定内である。
「分かりました。では、私は武装を解除しましょう」
 その時、盾の影に隠れていた妖精ロボ達が、暗がりに隠れているシンへ視線を向ける。一方のシンも、トリテレイアの様子を時折確認していた為、盾の影に隠れていた妖精ロボ達の視線に気付いた。妖精ロボ達は、何かを投げる動作をした後、頭部を両手で覆った。シンは、そのジェスチャーの意味を理解した。彼はそのまま、手で「グッド」の形を作り、意味が伝わった事を同じく、ジェスチャーで伝えた。シンは、瞼に力を籠め、目を閉じる。
 そして、トリテレイアは、持っていた盾と剣を、地面へ放り投げる。
 ――そして。
「今です!」
 彼がそう合図をするや否や、サッと腕を盗人達へ突き出す。刹那、腕部装甲に格納された銃器が勢いよく姿を現したかと思うと、盗人達へ火を噴いた。
 瞬間、辺りは眩い閃光に包まれた。
 突如として、薄暗い空間は白い光に包まれる。その事を全く想定していなかった盗人達は、もろに光を網膜に焼き付けてしまう。
「ま、眩しい!!」
 盗人達はジタバタと、動き回る。
 そして、光が止んだ時、そこには、目を瞑ってヒィヒィ言っている盗人達の姿があった。彼らは、腕にハニワを抱えたまま、頭を振っている。
 すると、盗人の内、数人が、その眩しさのあまりに腕の力を弱め、ポロリと、ハニワを腕から離してしまう。
 すぐさま、待機していた妖精ロボ達が飛び出した。妖精ロボ達は蜂のように素早く飛んでいき、ハニワが落ちるであろう場所にて待機、バスケットボールを受け取るかのようにキャッチした。ハニワ達は無事である。
 しかし、他の盗人もまた、ハニワを落とそうとする。しかし、今度のハニワは大きさが三十センチ近くある上、見るからに重そうな色合いをしていた。既に出した妖精ロボはそれぞれ、ハニワを一個ずつキャッチしている。人員が足りない。
 トリテレイアは駆けだした。スラスターを吹かし、速度を増していく。それはリニアモーターカーの如き速さを持ち、盗人達の呻き声が木霊する空間に風を巻き起こす。グングンと突き進んでいる間にも、その大きなハニワは、土間へ真っ逆さまに落ちて行く。
 彼は、土間を足で蹴った。そして、上体を前へ突き出すようにして滑り込む。スライディングだ。白い鎧が、土間に擦れて汚れて行く。土埃が巻き起こり、ザラザラと擦れる音が金属音のように響く。しかし、その勢いはとどまる事を知らない。トリテレイアは、腕を前に足、掌を上へ向け、そして……。
 その手に、大きなハニワが落ちてきた。そのずっしりとした感触を手に感じながら、彼は摩擦によって速度を落とし、やがて止まった。ホッと一息。ハニワも、安堵のため息をついているかのようだった。
 だが、まだ安心はできない。盗人の中には、その強烈な光に耐えきり、未だにハニワを腕から離そうとしない者もいるのだから。そんな彼らは、約束を裏切った猟兵達への怒りを、露わにしている。
「よ、よくも裏切りやがったな!!」
 初めから約束を破るつもりだった事を棚に上げ、怒気を孕ませ叫ぶ。そして、とうとう理性を失った彼らは、そのハニワを手で鷲掴みにすると、天高く腕を掲げ、そのまま地面に叩きつけようとしている。その姿は、ドメスティックバイオレンスを行う親のようでもあった。人間の凶暴さを、その一撃に籠めんとしている。

 ――貫け、真紅の衝撃!

 暗がりから、シンの声が響く。刹那、闇の中から、紅の光弾が3点バーストで放たれる。それらは夜空に浮かぶ花火のように美しく、空を切るようにして突き進む。その素早い突撃は、正にレーザーのようであった。そうして、今まさにハニワを壊さんと振り上げた盗人の腕を貫いた。そこに焼け焦げた穴が空き、盗人の体へ激痛が駆け巡る。
「ぐわあっ!?」
 あまりの痛みに、盗人は顔をしかめて膝をつく。目を瞑り、歯を食いしばる。そして、何が起きたのかを確認しようと、その紅の光弾が放たれた暗がりを見据える。
 すると、夜目の効く盗人は、一人の猟兵を見た。そこには、神社の神主を思わせる奇抜な服装を身に纏った人物が居た。長い金髪をしているところから見ると、どうやら女性のように思える。しかし、頭に生える獣の耳を見るに、どうやら妖狐のようだ。その妖狐は、見慣れぬ二種類の銃を構え、此方を見据えている。言わずもがな、そこに居たのは、シンである。その立ち振る舞いは、演舞を行う者のように優雅で、落ち着きがある。だが、その様子とは裏腹に、盗人は体が凍えそうな何かを感じ取っていた……。その瞳は、炎を宿しているかのように赤い。否、彼の瞳には、許せないという意志の炎が宿っている。それは、盗人に新たなる恐怖を与えた。
 そうして怯えていると、シンの左手に握られていた銃から弾が放たれる。それは、氷のエネルギー弾であり、いわゆる属性攻撃の一種であった。盗人はそれを目で捕らえていたが、先程の銃撃による激痛もあり、その銃弾を辛うじて交わすだけの余裕が無かった。それは神秘的な冷気を放ちながら飛んでいき、ハニワへと直撃する。刹那、ハニワはパチパチと音を立てながら水色の氷に覆われ、カチカチに凍り付いた。
「な、何だぁ!?」
 急に手が冷たくなって見てみると、ハニワが凍っている。盗人は、何が起きたのか分からず、戸惑いの声を上げる事しかできない。そして、あまりの冷たさに、思わず手を放す。掌からは皮が剥がれ落ち、凍傷の様相を示していた。その一方で、ハニワは土間へ落ちる。だが、分厚い氷で覆われている為、氷は勿論、中のハニワも割れる事が無かった。ゴツンと鈍い音がした後で、そのまま、表面がツルツルしている為に、氷はコロコロと転がって行き、シンの元へ向かっていく。彼は、足元へ転がって来たハニワ入りの氷に優しく微笑むと、それを大事そうに抱えた。凍傷を与える程の冷気があるものの、術者本人としては平気なようだ。
 そう、彼の発動した『真紅の狙撃手(スカーレット・スナイパー)』は、間一髪のところで、ハニワを助けたのであった。
 こうして、その場に居る盗人達は、手持ちのハニワが無くなった。
 すると、トリテレイアの頭部にある兜に変化が起きた。
 目が慣れてきた盗人達は目を開くのだが、彼の変化に気付き、視線向ける。
 その兜は、牙を剥くように開いていく。そして、そこから出てきたのは、細長い金属。いや、違う。それは、機銃であった。
 そう、機銃である。
「……え」
 その機銃は、盗人達の方へ向けられている。
「……う、うわああああ!!!!」
 刹那、銃撃音が鳴り響いた。硝煙の臭いが漂い、閃光が瞬く。彼とて、騎士とは言えど、模倣である。所詮はウォーマシン。敵を殲滅すべく、盗人達へ容赦なく、弾丸の雨嵐を浴びせて行く。
 それを避けようと、盗人達は空中へ飛び上がる。ユーベルコード『これにて失礼!』だ。彼らは四方八方へ素早く逃げ、照準を反らそうと試みる。
 しかし。
「ぐわあっ!?」
 突如鳴り響いた別の銃声と共に、盗人の一人が土間へ落ちる。それは、翼を失った鳥のようであり、土間に直撃した途端、「グエッ」と声を上げて、動かなくなる。
 その様子を、ジッと見つめていたのは、シンである。彼の持つ深紅銃の銃口は、若干熱くなっている。シンは赤い瞳で、この広い建物の空間内を飛び回る盗人達、一人一人へ、慎重に狙いを定める。ゆっくりとであったが、確実に一人ずつ、紅の光弾を当て、撃ち落としていく。それはクレー射撃に似ており。銃を構える姿は様になっていた。
 別の脅威に恐怖しつつも、盗人達は必至に逃げ回る。しかし、一人ずつ確実に撃ち落とすシンと、大量の銃弾を持って一気に撃ち落としていくトリテレイア。二人の銃撃による連携に、盗人達は、成す術も無かった。
 そして、銃撃が鳴り響き始めてから、十分後。
 銃声は、ピタリと止んだ。
 硝煙の臭いが漂う空間に立っていたのは、猟兵と、ハニワだけであった。
 悪の盗人達は、蜂の巣になったまま、土間の上で倒れ伏していたのであった……。

●Mission7:制裁
 盗人達は、土間に倒れたまま、呻いていた。しかし、彼らは虫の息であり、もはや戦うだけの余力は残されていない。顔を上げるものの、その濁った瞳には、もはや闘志の炎など無かった。その瞳は、敗北者の目であった。今の彼らは、卑劣な手を使いまくった挙句に敗れ去った、情けなく、愚かな者達と化していた。
 こうして、ハニワを盗んだ実行犯は懲らしめる事ができた。しかし、彼らに窃盗を依頼した首謀者が残っている。その首謀者を倒さない事には、この事件は解決しない。
 一体、どこに居るのか。そして、“崇高な目的”とは何か。
 猟兵達は、その情報を得る為に、行動しようとするだろう。
 ……その時だった。
 突如、建物の奥から、何かが飛んできた。それは、盗人のお尻に直撃する。
「ぎやあぁぁぁ!!」
 悲痛な叫び声を上げる盗人。そして、あまりの激痛に白目を剥き、泡を吐きながら気絶する。お尻の部分に当たる衣服は破れ、皮膚が擦り剝け、赤い血がドバドバと流れ出ている……。
 しかし、それらは次々に飛んでくる。猟兵達は、その正体を知った。
 ハニワだ。
 無数のハニワが宙を舞い、盗人達に襲い掛かっていたのである。
 満身創痍で動く事のできない盗人達は、成す術もなく、ただ、その攻撃を受け続けるしかなかった。しかして、その光景は陰惨であった。
 古代の処刑として、石打というものがある。それは、石を相手に向けて投げつけるという原始的でありながら、恐ろしい処刑である。
 今まさに、猟兵達の目の前で繰り広げられているのは、まさしく、石打ならぬ、ハニワ打であった。盗人達は、激痛に喘ぎながら、その体に罰を受けているのであった。ハニワによる殴打の鈍い音と、盗人達に命乞いにも似た悲鳴が、薄暗い建物に響き渡っていく……。
 そして、処刑は終わった。
 盗人達は、一言も発さなくなった。
 だが、息はあるようだった。
 一体、何が起きたのか、猟兵達は、確認しようとしたり、あるいは、身構えたりする事だろう。そうしていると、どこからか、声が響いてきた。
「……よくぞ来た、猟兵よ」
 すると、建物の奥から、ズズズ……、と、何かを引きずるような音が響いてきた。それは地響きのように大きく、音楽フェスティバルのように室内へ共鳴した。
 やがて、中央にあるロウソクの炎に照らされ、ソレは姿を現した。
 ソレは、高さが十メートルはあろうかという、巨大なハニワであった。惚けた表情の中に、古代の神と形容して差し支えない程の、神々しさがあった。そのハニワの口から発せられる言葉は福音のように厳かで、一挙一動は、あらゆる土地を自在に操れるかのようなエネルギーを感じさせる。
「この盗人共は、愚かにも、ハニワを人質にとるという、愚弄極まる事をしでかした。なので、天誅を与えてやったのだ」
 そうして、そのハニワは、猟兵達を見下ろしている。その瞳には、敵対する意志が感じられる。しかし、それと同時に、猟兵達を意志疎通をしたいという、人間らしい心というものも感じられた。
 ハニワは、厳粛な面持ちで、猟兵達へ告げる。
「我は今回、ある“崇高な目的”の為に、今回の事件を引き起こした。しかし、これは『救済』なのである。猟兵諸君には、それが分からぬか」
 そうして、暫しの静寂が訪れる。闇の中、ロウソクの炎が弱々しく揺れている。
 ハニワは、どこか悲し気な顔をしながら、猟兵達へ告げるのであった。
「では、語るとしよう。我の、“崇高な目的”を……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ハニワプリンス』

POW   :    ハニワビーム
【口からハニワビーム 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    ハニ馬召喚
自身の身長の2倍の【馬形のハニワ 】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    であえい、であえい!
レベル×1体の、【腹部 】に1と刻印された戦闘用【ミニハニワ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠蓮賀・蓮也です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 読者諸君は、化石や鉱石といったものに興味があるだろうか。
 博物館や銭湯へ行くと、こうしたものが売られている事が少なくない。そうしたものを手に取って眺めてみると、そうした考古学や地質学に対する興味が深まってくる。それらには、自然の神秘というものが凝縮されており、心を捉えて離さない。そうした傾向は、人類が文明を築き上げた初期の方から見て取れる。
 だが、そうして今や安易に入手できるようになった時代、ちょっとした危惧のようなものを感じる人も居る事だろう。
 化石や鉱石というものは、無限のものではなく、有限のものである。勿論、鉱石の方は、宇宙資源として入手できるようになるかもしれない(しかし、そうなるかは不明だし、この話はSFのように捉えられる事だろう)。だが、化石はどうだろうか。此方は、明らかに地球でしか取れず、有限である。
 そうした化石や鉱石が、次々に採掘され、市場で売り買いされている。すると、次第に採掘量が減って行き、やがては、保護しなければならぬようになるかもしれない。その間にも、元々の自然が荒されるかもしれない。
 勿論、私はそうした事業に対して、否定のみの立場を取るつもりは無い。そうした事業は、一般家庭に考古学や地質学をより親身に感じさせる環境を提供するという点では大変助かっている。
 しかし、こうした論点の中で、次のような問題が生じる恐れもある。
 それは、そうした貴重な資源を、ぞんざいに扱うのではないか、という事だ。
 例えば、素手でベタベタと触る、保存環境が悪い、紛失する……。
 そうした所作は、化石や鉱石を愛する者にとって、耐えがたい事であろう。分かりづらいのであれば、適当に有名な絵画を一つ、想像してみて欲しい。それを、素手で触ったり、シラミのいる場所に放置したり、引っ越し作業の合間に紛失したり、といった事を考えてほしい。そうしれば、彼らの苦痛がわ分かる筈だ。
 そして、この問題に苦しんだ者が居た。
 そう、ハニワプリンスである……。
 今回、山からハニワが大量に採掘され、人々の家庭へと行き渡った。
 しかし、その扱いは杜撰な事も、少なからずあった。
 ある者は、素手で触りまくって脂まみれにした。
 ある者は、高温多湿な場所に置いておいた。
 ある者は、家のどこかに置いたまま失くしてしまった。
 そうした行為は、人間からすると、大した事では無いのかもしれない。しかし、ハニワである自身としては、そうした行動を、許せなかった。
 だからこそ、同族であるハニワ達を、野蛮な人間どもから『救済』せねばならなかった。しかし、ハニワプリンス一人では、町中へ侵入する事はできない。その為、盗人を雇い、ハニワ達を救出したのであった。
 そして、この活動を続けようとしていた矢先……。
 猟兵が、現れたのであった。

「……これが、我の“崇高な目的”だ」
 ここまで一気に話し続けたハニワプリンスは、そのまま息継ぎを行った。そして、改めて、猟兵達の方へと向き直る。
「我は、ハニワ達を野蛮な人間の手から救出する為に、これからも活動を続けるつもりだ。しかし、猟兵達も、オビリビオンたる我を倒さねばならないのだろう?」
 そして、ハニワプリンスは大きく深呼吸して、告げた。
「ならば、こうしよう。今ここで、我は猟兵達に、決闘を申し込む。もし、猟兵達が我に勝つのであれば、我は大人しく、一旦は骸の海へ還るとしよう。しかし、もし我が猟兵達に勝ったならば、これからも、ハニワの救出を続ける。そして、この約束は、ハニワを愛する者の矜持に掛けて、破らない事を誓おう」
 すると、ハニワプリンスは、大きな声で叫ぶ。
「さぁ、猟兵達よ!これはお互いの意志と意志とを掛けた戦いだ!我は己の信念を貫き通すべく、全力を以てして戦おう!なれば猟兵達も、全力で掛かってきなさい!」
 ハニワプリンスは後ろへ下がった。刹那。
 ドゴオン!!
 壁を壊す音が響き渡った。すると、外からゴウゴウと燃える音が響き、外の闇に赤い光が灯って行く。
 猟兵達は、外へ出る。
 すると、屋敷の敷地内の一角に、巨大な焚火が用意されていた。そこには巨大な角材が幾つも投入されており、火災のような炎が煉獄のように燃え上がっていた。それは明々と周囲一帯の闇を照らし出し、黒い狼煙が天高く昇って行った。その近くには、ハニワプリンスの姿がある。どうやら、正々堂々と戦えるよう、光源を用意していたようだ。
 町の方からは、人々の声が響いてくる。どうやら、最後の決戦が行われる事を感じ取り、町の中から様子を伺っているようだった。
 そして、ハニワプリンスは轟くような声で、呼びかける。
「さぁ、どこからでも掛かってきなさい!」

※第三章について
 どうも、マスターのフライドポテトです。
 第二章では、どのように盗人からハニワと取り戻すか思案された事だと思います。改めて、プレイングの執筆、お疲れ様でした。
 さて、第三章でも、皆さまに創意工夫を凝らして頂く事となります。

 ハニワプリンスは、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 ハニワプリンスを攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。

 また、執筆の都合上、3月27日までにはプレイングを頂けると助かります。
 それでは、皆さんの熱いプレイングをお待ちしております!
夷洞・みさき
人が人の扱いに憤る様に、埴輪が埴輪の扱いを憤る…か。
まぁ、色気の無い話だけど、相いれないのは僕等の業だよね。

(蝋燭入れて提灯代わり、海水に落とす、異世界の土産物と混ぜて適当に風呂敷包み)
彼はどう思うかな。

【WIZ】
攻撃は首筋狙いだけは避けて後の部分は余裕があれば防ぐ。

どうせ、後で無くなるのだから。

攻撃を受けたら、そのまま【真の姿】を展開
ミニハニワは大怪魚化した【六の同胞】に任せ、自身は呪詛混じりの冷気と車輪を遠隔操作して埴輪割りを狙う。
高温は無理だが多湿狙いで土焼き物な体表の脆化目的。

所で埴輪君、僕は埴輪って物は死人への物と思っていたんだけど、
君は誰の為に作られたモノなんだい?

アドリブ絡み歓迎


ヴィルジニア・ビアジャンティ
あなたの話は確かに他人事では無いと思える所がありますが、ハニワにはハニワの事情があるように人間にも人間の事情があります。如何なる動機の元といえど窃盗という手段をとった以上、人間の側に立つものとしてあなたを断罪しなければなりません。

相手がハニワビームの発射体制に入ったらすかさず閃光弾を撃ち、発射を少しでも遅らせて断絶憂世を発動する時間を稼ぎます。
無事、相手の攻撃を凌ぎきれたならば、狼狩りを弾薬の続く限り叩き込みましょう。

次があればその時はもっと平和的な方法で、人間に歩み寄って同胞を救ってください。
家族を思う気持ちはハニワも人間もきっと変わりないのですから。


ティモシー・レンツ
ハニワキングの言いたいこともわかる、けどオブリビオンとして復活した以上は、僕ら猟兵が倒さないとダメなんだよね……。
倒しても遺志は引き継ぐよ……たぶん!(具体的な方法が思い浮かんでない)

攻撃は錬成カミヤドリ……じゃなかった、『たまたま持ってた』占いカードをトランプ手裏剣みたいに投げて攻撃するよ!
……えっと、カードは15枚?(自分のレベルを把握してない&数え漏れてる)

先制攻撃はビームだろうと騎馬戦だろうと、『見切り』で躱しつつカードを投げて、余裕があれば側転で体勢を戻すよ!
「言い忘れてたけど、魔力で誘導できるんだよ?」
『戻ってこい』みたいなジェスチャーで、ブーメランみたいにハニワキングを狙うよ!


エーカ・ライスフェルト
PLのやる気がMAXで私のやる気がMINよ(メタ発言

「私の信念は悪党を倒すことであって、ハニワは正直どうでも……」
予想外の展開に動揺して、プリンスを激怒させる発言をしてしまうわ
「外道に落ちず己の想いを貫くひとには好感を抱くのだけど、どうしてそういうのに限って面白オブリビオンなのよっ」(混乱中

敵UCを躱す方法は、【旧型宇宙バイク】に【騎乗】しての急加速よ
【見切り】も試みるけど、直撃を避けることができれば十分

「精霊がいつもより私の言うことを聞いてくれない。【属性攻撃】で補う形で…」
土属性を注入した【精霊幻想曲】で、プリンスにヒビをいれるための土の津波を発生させようとするわ
暴発して泥まみれになるかも


トリテレイア・ゼロナイン
その救済に掛ける覚悟、しかと受け取りました。ならば、この町の人々の笑顔を取り戻すため、騎士として全力でお相手しましょう

先制攻撃…私には先の戦争で銀河皇帝や幹部達と幾度も渡り合ってきた自負があります、これを防げぜすして何が騎士か!

ビーム発射を●見切り、直前に●防具改造で追加した投光器で●目潰し、同時に●怪力で口の前を塞ぐように大盾を投げ●盾受けで一瞬の間ビームを防ぎます

その稼いだ一瞬の隙にUCを発動、発振器を戦場に射出し強度重視の電磁障壁を展開、仲間を●かばいます

その後口を銃、●スナイパーで狙いつつ
大盾をワイヤーアンカーの●ロープワークで保持、●怪力で鉄球よろしくプリンスに叩きつけ●鎧砕き


シン・ドレッドノート
アドリブ・連携OK
【SPD】

「人々に大切にされ、愛されているハニワまで無差別に盗んでいる者が、独善的な愛を語るな!」
人に押し付ける愛は認められません。珍しく土器…もとい、怒気を込めて銃口を向けます。

【真紅の狙撃手】を使用する直前、閃光の魔盾のビームを全力で展開しつつ、真紅のマントを翻しフェイント&受け流し。

敵の行動の瞬間に発動する私のUCと敵の行動のどちらが早いか分かりませんが、マントを囮にして素早く回避した後でカウンターの【真紅の狙撃手】の弾丸を撃ち込みます。

焼き物なら、熱線と氷の属性攻撃の温度差攻撃には弱いでしょう。
両手の銃で攻撃を継続。

…私も先祖伝来の┌|∵|┘を大切にしているのですよ。


刑部・理寿乃
【ハニワビームの対策】
集まっていると被害が増えそうなので散開し、ビームなら直線に来ると思うので口の動きに注意し、回避や【武器受け】で凌ぎます。

それでも捌き切れなかったら、貰ったハニワがポケットとかから飛び出してビームを明後日の方向に変えて助けてくれたり(チラチラ

そうなったら、偶然かもしれないけどそこに意思を感じ「確かに酷い扱いをする人もいますが、この町の人が全てそうだとは思わない。ステータスの一つにしていましたが、奪われたら心が折れるほど大切にしてました。ハニワの事が好きなんです!」

ユーベルコードを発動。
「だから貴方を止めます。少なくともそれが私を助けたハニワの想いだと思うから!」


木目・一葉
これほどの好敵手、そうとはいないだろう
その熱い想い、さすがハニワだ!
一人の戦士として、その決闘に応じよう

・戦闘
真の姿を解放する
対応するUCはハニワビーム
聞くだけでその恐ろしさが伝わる
その範囲を考えると、防御する斧ごと僕の体が巻き込まれる危険がある
僕は【オーラ防御】をかけた斧をそのビーム攻撃に向って【投擲】させ【武器受け】させる
この斧を投擲すると同時に、召喚した影の追跡者を放ち『影の蹂躙舞踏』を仕掛ける
上記二つを【2回攻撃】の要領で同時に行う
後はすぐさまフック付ワイヤーで近くの建物へと移動し、ハニワビームの範囲外へと逃れる

仲間への想い、確かに受け取った
僕は貴方という一人のハニワを忘れはしない



●決戦前:それぞれの想い
 闇の中に、炎の明かりが灯る。その光は、暗澹たる夜を照らし出す。今や、鬱蒼と茂る木々の葉っぱ、一枚一枚までもが、くっきりと浮かび上がっている。かつて屋敷であった場所は、今や、猟兵達とオブリビオンが戦う為の決闘場と化した。ゴウゴウと燃え盛る音と、ビュウビュウと冷たく吹きすさぶ風の音が、歓声のように響いている。けれども、その音は、サッカーの試合や歌手のライブとは違って、どこか冷ややかで、場の緊張を高めている。
 その極限状態とも呼べる決闘場にて、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、戦うべき相手を対峙していた。目の前に居るのは、高さが10mもあろうかという、巨大なハニワ。トリテレイア自身も、身長が285cmと、一般人を凌駕する程に高い。けれど、相手の身長は、それを遥かに上回る。しかし、トリテレイアは、その体格差におののかない。
 目の前に居る相手は、騒動を引き起こし、町の人々から笑顔を奪っていった。しかし、その根底にあるのは、絶対に揺るがない、一筋の信念であった。その決意が固い事は、彼の顔色を窺えば分かる。それは、戦士の顔であった。
 トリテレイアは、彼の様子を見て、毅然と構える。相手が信念を持ったオブリビオンなら、此方は騎士道精神を貫く猟兵。相対する者同士であるが、互いに譲れぬものを抱えている以上、全力を尽くすというのが礼儀というものだ。
(その救済に掛ける覚悟、しかと受け取りました。ならば、この町の人々の笑顔を取り戻すため、騎士として全力でお相手しましょう)
 彼は、騎士の象徴でもある剣と盾を構える。その時、白い鎧が、燃え上がる炎の光で、赤く光った。闇の中、金属音が静かに響く。
 ハニワプリンスは、堂々と立っていた。それは、騎士たるトリテレイアの覚悟に応えるという、意志表明に他ならなかった。

 目の前に居る敵は、ハニワであった。だからこそ、同じ存在であるハニワがぞんざいに扱われている事に、耐えられなかった。
 脂ぎった手でベタベタと触られ、高温多湿な場所という過酷な環境下におかれ、忘れ去られて埃まみれになる……。そうした一つ一つの出来事は、ハニワプリンスにとって耐えがたい事である。自分と同じ存在が、人間によって酷い仕打ちを受けている。ならば、そうしたハニワを助けたくなるのは、人として、否、ハニワとして当然の事ではないだろうか。
 そのハニワプリンスを、車椅子に乗ったまま見つめる猟兵が居た。ヴィルジニア・ビアジャンティ(要塞椅子令嬢・f08243)である。彼女は、ジッと佇んでいる彼を見つめている内に、心が痛んできた。目の前に居るハニワプリンスの、厳かな表情の裏には、そうした苦悶と、ハニワとしての心が宿っているように見えたからだ。炎の赤い光に照らされた顔は、どこか寂し気にさえ思えてくる……。
 しかし、彼女は揺らいでいた決意を固めようと、車椅子のアームレストを強く握りしめる。
(あなたの話は確かに他人事では無いと思える所がありますが、ハニワにはハニワの事情があるように人間にも人間の事情があります)
 確かに、ハニワプリンスの言う事も一理ある。しかし、猟兵達は、そうしてハニワを盗まれた人々の想いを背負っている。
(如何なる動機の元といえど窃盗という手段をとった以上、人間の側に立つものとしてあなたを断罪しなければなりません)
 それは、過酷な決断だったのかもしれない。しかし、ヴィルジニアは毅然とした目つきで、目の前の相手を見据えていた。それは、敵への同情を捨て去ったという事では無い。猟兵として、相手を倒す事を遂行する決意を揺るぎないものにする、という事だ。
 その信念を表すかのように、炎はパチパチと、飛び散るような音を鳴らしていた。

 今回の騒動は、ハニワが人間の行いに憤った事が発端だ。ぞんざいにハニワを扱う人間が許せず、それならばと、ハニワを盗んだのであった。
 けれど、ハニワがハニワの扱いに憤るというのは、何もおかしな事では無い。自分の仲間が酷い仕打ちを受けているのを知ったら、その仕打ちを行った相手に怒りを覚えるのは、人情である。
 そして、それは人間も同じではないか。人間だって、仲間が酷い仕打ちに合えば、そうした行いを行った相手に対して、憤るだろう。一体そこに、ハニワと人間の垣根などあるのだろうか。
(人が人の扱いに憤る様に、埴輪が埴輪の扱いを憤る…か)
 扱いへの憤りについて思案を巡らせながら、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は、目の前に居るハニワプリンスを見つめた。闇の中に浮かび上がる彼の姿を見ていると、今まで抱いてきた恨みが察せられるような気がしてきた。
 けど、彼女は心の中で呟く。
(まぁ、色気の無い話だけど、相いれないのは僕等の業だよね)
 オブリビオンは世界を脅かす存在であり、猟兵達は、その世界を護る存在だ。その間には、相容れない一線が引かれている。
 そんな事を思いながら、夷洞は、自身が行ってきた事に、想いを巡らせていた。
(蝋燭入れて提灯代わり、海水に落とす、異世界の土産物と混ぜて適当に風呂敷包み……。彼はどう思うかな)
 チラリと、ハニワプリンスの顔を見る。その表情は、陰影が浮かび上がっており、厳かな怒りが込められているようにも感じられた。それは、夷洞にのみ向けられたものではないだろう。しかし、まるで自身が詰問されているかのような、そんな威圧感を感じずにはいられない。
 闇の中を、炎が照らしている。それは、深海生物の発光のように輝いており、噴出孔から出る熱湯のように熱かった。

 木目・一葉(生真面目すぎる平凡な戦士・f04853)は、立っていた。
 この場を支配している空間は、薄暗い。焚火の炎がゴウゴウと燃え、一寸先も見えない闇を、赤く照らし出している。その光によって、小麦色の地面へ、長い影法師が投影されている。パチパチという音が、静寂に彩りを加えている。
 そんなキャンプ場のような空気でありながらも、この場には緊張という二文字が漂っていた。その主な原因は、目の前に鎮座している、巨大なハニワであろう。
 彼の名は、ハニワプリンス。オブリビオンである。
 身長は10m程のハニワであり、木目の何倍も大きい。黒くポッカリと開いた目と口は、おどけているようで不気味であり、尊厳に満ち溢れると同時に神聖さを感じさせる。茶色い肌は焼いた土でできている為に硬質で、自身の持つ武器と同じくらいに堅そうだと察せられた。彼の吐く息の一呼吸、一呼吸が、神経を逆なでさせ、鼓動を高めて行く。
 ――これほどの好敵手、そうとはいないだろう。
 木目は、震えあがった。しかし、それは、相手に対する恐怖では無い。そして、体の皮膚が震えた訳でも無い。木目の内なる心が、相手の存在というものを感じ取り、震えあがっていたのであった。戦士である木目にとって、戦い甲斐のある敵である事を意味していた。そして、同時に、ハニワプリンスの言葉にもまた、心を震わされていた。
(その熱い想い、さすがハニワだ!)
 だからこそ、木目は、目の前に居るハニワプリンスに、得物を向ける。その構えには、相手を倒すという敵意のみならず、相手への尊敬が込められていた。
 彼女は、心の中で宣言する。
(一人の戦士として、その決闘に応じよう)
 その姿を見たハニワプリンスは、どこか厳かに、微笑んだような気がした。
 炎が散らした火の粉が、天高く舞い上がる。その熱気は、一人と一体の間に流れ込み、互いの熱意を更に燃やしていく……。

 ティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)は、目の前に居るオブリビオンを見つめていた。
 彼は、ハニワだ。そして、同じハニワが酷い目に合わされているのに、耐えられなかった。だから、盗人達を雇い、ハニワを人間から助けようとした。
 そうした想いは、間違っていないだろう。騒動を起こしたという罪はあるかもしれないが、その根底には、同族たるハニワを助けたいという、切実な想いがあった。その信念は、深い悲しみに包まれている。これが裁判であれば、執行猶予を獲得すべく、弁護士が働きかけるだろう。そうして世間では、彼に同情する声が上がるだろう。
 しかし、オブリビオンへの裁きに、法廷という概念は無いのかもしれない。大方、猟兵達が倒して、お終い。それは、シンプルであり、残酷でもある。
 だからこそ、ティモシーは心苦しかった。
(ハニワキングの言いたいこともわかる、けどオブリビオンとして復活した以上は、僕ら猟兵が倒さないとダメなんだよね……)
 けれど、それでも猟兵達にできる事はある。
 彼は、心の中で決意した。
(倒しても遺志は引き継ぐよ……たぶん!)
 とは言っても、具体的な方法が浮かんだ訳ではない。けれど、ティモシーのそうした想いは、無駄にはならないだろう。
 意志を継ぐというのは、人や猟兵を更に強くするものだから……。
 ふと、ハニワプリンスを見ると、その厳かな顔が、どこか微笑んでいるようにも見えた。そして、彼は告げた。
「……我の名前は、ハニワプリンスだ」
「あっ……ごめんなさい」
 思わず謝るティモシー。けれど、ハニワプリンスの言葉に、邪気は無かった。ただ、ティモシーの意志や人柄に対する温かみがあるばかりであった。
 すぐ近くでは、炎が煉獄のように燃え上がっている。けれど、この短い会話の間、炎は灯篭のように、どこか優しく、この場を照らし出していたのであった……。

 エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は、この展開の戸惑っていた。いつもなら、調査し、敵を蹴散らし、首謀者を倒す……、そうした流れになる筈だった。
 しかし突然、首謀者の崇高な目的が語られ、社会を風刺するような言葉が紡がれ、そして、お互いの信念を貫く戦いが行われようとしている。
 そうした状況に、エーカは動揺してしまっていた。その為、うっかり口を滑らせてしまう。
「私の信念は悪党を倒すことであって、ハニワは正直どうでも……」
「何だと、貴様、今何と言った!!」
 炎が闇を照らす空間に、ハニワプリンスの怒号が響き渡る。それは、少し離れた『ハニワ町』にまで轟き、日本家屋をビリビリと震わせた。
 ビクッとして、ハニワプリンスを見る。彼の体はゆでだこのように真っ赤になっており、ヤカンのように蒸気が迸っている。
 怒っている様子を見て、エーカは、汗を流した。
「確かに、貴様の信念は、悪党を倒す事なのだろう。その事を否定するつもりは無い。私もまた、盗人を雇って悪事を働かせたという意味では、貴様の言う通り、悪党なのだろう。しかし、私が悪党扱いされるのならともかく、酷い仕打ちを受けたハニワに対し、『正直どうでも』というのは、どういう了見か。恥を知れ!!」
 エーカは、頭の中がこんがらがって来た。これから、命を懸けた戦いを行うというのに、どうにも調子が狂わされてしまう。そして、思わず叫んでしまった。
「外道に落ちず己の想いを貫くひとには好感を抱くのだけど、どうしてそういうのに限って面白オブリビオンなのよっ」
 エーカは思わず、頭を抱えた。何故、これだけ想いを貫き通そうとする立派な相手が、ハニワなのか……。このまま戦闘に入って大丈夫なのか、ちょっぴり心配になってきたのであった。

 この戦場は、闇に包まれていた。炎で多少は明るくなったものの、暗いという本質は変わらない。それは、猟兵やハニワプリンスの心を象徴しているのかもしれなかった。
 炎の光に照らされたハニワプリンスは、どこか無表情のようにも見えた。それは、ハニワ独特の顔つきによるものかもしれないし、心の中で思案にふけっているからかもしれない。それは、ハニワを汚す人間への怒りかもしれないし、あるいは、これから決戦を行うに際して、精神を統一しているのかもしれない。けれども、その真偽は、彼の顔つきからは導き出せなかった。
 そうした静寂の中で、刑部・理寿乃(ドラゴニアンのサウンドソルジャー・f05426)はジッと、相手の顔を見つめていた。ハニワプリンスの茶色い肌は、赤い光源によって、黒い陰影を帯びている。それは神聖で厳かに見える一方、どこか悲し気にも見えたのである。その事を思う時、ハニワプリンスが言っていた、崇高な目的が思い起こされるのであった。それを語る彼の中に、憤りや苦しみ、悲しみや辛さといった、様々な感情がないまぜになっているように見えた。
 その最中、刑部の心の中に、一つの意見が生まれようとしていた。それは、ハニワプリンスの感情に対する、自分の想い。それは一滴の雫のように小さなものであったが、やがて、大きな粒となり、水のようにうねって行く。しかし、今、この場を支配している微妙な緊張が、その発言を許そうとはしない。
 だが、せめて戦いの最中にでも、その想いを伝えたいと思った。それは猟兵としてではなく、一人のドラゴニアンとして……。彼女は無意識のうちに、拳を握りしめていた。
 冷たい春風が時折吹き、木々の枝葉を揺らしていく。炎がパチパチと燃える音が響く。静寂の中、彼女はその音楽を耳にしながら、ハニワプリンスを見つめていたのであった……。

 猟兵達は、ハニワに対して、それぞれが想いを抱いていた。ある者は同情し、ある者は困惑し、ある者は決意する。
 炎が照らし出す闇の中、両者は固唾を飲んだまま、互いを見つめ合っていた。炎の燃える音と、風が吹く音以外は、何も聞こえない。とても静かだ。
 ……だが、それは、とある猟兵の叱責で破られる。
「人々に大切にされ、愛されているハニワまで無差別に盗んでいる者が、独善的な愛を語るな!」
 ビリビリと、太鼓のように轟く声が響き渡った。それは鼓膜を、脳を、皮膚を、体を震わせる。周囲の木々が震え、枝葉を揺らし、炎が大きく揺らめき、薪が崩れ落ちる。
 そして、炎も風も、猟兵もオブリビオンも、音を発さず、静まり返った。
 そして、声の主を見る。
 そこに居たのは、神主のような奇抜で白っぽい服を身に纏い、長い金髪を垂らし、獣の耳を生やした妖狐の猟兵であった。
 ――シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)である。
 しかし、彼の様子は、いつもと違っていた。赤い瞳は、隣で燃え上がっている炎よりもゴウゴウと沸き立っており、開いた口から除く歯は、砕けんばかりに噛み締められていた。もし、シンの知人がこの姿を見たら、その変貌ぶりに、驚きを隠せないだろう。
 そして、懐から勢いよく銃を取り出し、銃口をでかいハニワへ向ける。赤い光で銃身がギラギラと鈍く光っている。照準を合わせた先に居るハニワプリンスは、無表情であった。一体、何を考えているのか、分からない。シンの言葉に対する反感か、それとも懺悔か。しかし、そんな事はどうでもいい。
 ――人に押し付ける愛は認められません。
 怒りを瞳に籠め、オブリビオンを睨む。彼は珍しく土器…もとい怒気を込めて、銃口を向け続けた。
 絶対に、許す訳にはいかない。
 シンの胸に宿る決意は、揺るがない。

 それぞれが想いを抱える中、猟兵達とオブリビオンは対峙したまま、見つめあった。
 闇の中では、赤い炎がゴウゴウと燃え、周囲一帯を照らし出している。
 夜空には黒い雲が絨毯のように広がり、暗鬱な空気を作り出している。
 そして、薪が炎の熱によって、割れる。
 ――パキリ。
 それが、戦いの合図であった。

●決闘:古代からの使者との激戦
 突然、ハニワプリンスの口が大きく開いた。
 そのポッカリと開いた黒い穴は、掃除機のように周囲の空気を吸い込んでいく。近くでゴウゴウと燃えている炎から飛び出る火の粉、地面に転がっている土埃、木々の枝に付いている葉っぱ、それらを見境なく吸い込んでいく。
 一体、相手は何をしようというのか。猟兵達を吸い込もうと言うのだろうか。しかし、それらはハリケーンのように人や物を持ち上げる力を持っていない。ならば、その意図は何か。
 そう考えている間も、吸引は止まらない。その運動エネルギーは、風となって目に見えるようになる。ビュオオオオオと、風が空気を切りつける音が静寂に木霊する。
 しかし、それはただの吸引では無いようだ。
 トリテレイアは、緑色の瞳で相手の様子を冷静に観察した。冷静で冷徹なマシンとして、敵の行動を視覚で捕らえ、的確に分析していく……。
 すると、見えた。ハニワプリンスの口の周りには、光の粒子が集まっている事を。それは埃のように小さく見えづらいが、しかし、その数は無数にある。これが戦闘で無ければ、蛍の大群や街角のイルミネーションのように、幻想的で美しい。しかし、これは戦闘であり、互いの信念を掛けた決戦だ。猟兵達を和ませる為に生み出している訳では無い。
 その光の粒子は、エネルギーの塊だ。それらの一つ一つに破壊を生み出す力は無いが、それが集まり化学的な反応を起こす事で爆発的なエネルギーを生み出すという、危険極まりない代物だ。
 ならば、相手が取ろうとしている行動は一つしかない。
「まずいですっ!!」
 トリテレイアは叫ぶ。
 それらの危険極まりない粒子は、すぐさまハニワプリンスの口へ吸い込まれる。それらを全て飲み込んだ彼は、固い筈の体をタコのように柔らかくして後ろへ大きくのけぞる。攻撃の予備動作だ。しかも、その威力は強大である事を、トリテレイアは察していた。相手が行おうとしている攻撃、それは。
 ――ビーム。
 その三文字が、彼の脳裏によぎる。
 しかし、そのビームは懐中電灯の光みたく生易しいものでは無い。光が生み出す熱エネルギーは、鉄骨を切断し、大地をも溶かす威力を持っている。
 相手は、すぐにでも砲撃を開始するだろう。先制攻撃を行うつもりだ。
 その瞬間は秒読みで迫りつつあった。
 トリテレイアは無意識に、騎士としての固い信念をよぎらせる。
(先制攻撃…私には先の戦争で銀河皇帝や幹部達と幾度も渡り合ってきた自負があります、これを防げぜすして何が騎士か!)
 白騎士ディアブロ、黒騎士アンヘル、ドクターオロチ、『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザー……。スペースシップワールドで繰り広げた戦争で彼らと渡り合った騎士には、鋼の自負がある。ならば、ハニワプリンスの先制攻撃も防ぐのみ。
 行動を起こす。トリテレイアはその鎧から、何かを出現させた。それは防具改造を施す事で追加した投光器だ。彼はその機械をすぐさま作動させ、ハニワプリンスの黒い瞳へと向ける。
 瞬間、まばゆい白き光が、彼の瞳へ入り込む。その明るさは太陽の如き。人間であれば思わず目を閉じ、うずくまる程の威力だ。それはハニワプリンスも例外ではない。
「ぐぬぅ!?」
 人間であれば、反射的に瞼を閉じ、顔を背ける事で回避できるだろう。しかし、ハニワプリンスには瞼が無い。その為に目を閉じる事もできず、ただ、スポットライトを浴び続ける舞台俳優のように受け続けなければならない。更に、攻撃の予備動作を行っている為に、顔を背ける事すらできない。強力な白い光の光線により、ハニワプリンスの動きが鈍っていく。
 だが、ハニワプリンスも信念を貫き通そうとするオブリビオンだ。何と、その強烈な光を目に当てられ続けながらも、意志の力で攻撃の予備動作を続行する。
 そうして彼は少しずつ上体を起こそうとしている。あと20°傾ければ、その口から強烈なビームが猟兵達へ向かって炸裂するだろう。もはや、コンマ数秒という段階へと突入していた。
 すぐさま、トリテレイアは大きな盾を持っていた手に力を籠める。鉄筋コンクリートをもひしゃげさえせる程の怪力でブンと上へ大きく持ち上げたかと思うと、円盤投げの要領で勢いよく荒く投げ飛ばす。
 285cm程もある彼と同程度の大きさをした盾が、まるでプラスチックで作られたフリスビーのように空を切り飛んでいく。それはアイスホッケーのパックをゴールへ決めるかの如く、一直線にハニワプリンスの口目掛けて突っ込んでいく。
 ハニワプリンスは、上体を起こした。そして、口を大きく開けた瞬間。
 盾が口を塞ぐように衝突した。
「ぐふぅ!!」
 思わず体を捻って盾を地面へ叩き落す。金属が固い地面へぶつかる音が反響する。
 だが、コンマ1秒に満たない時間が、逆転への布石となる隙を生んだ。

 ――いわゆる壁というものです。

 そう呟くや否や、トリテレイアはユーベルコード『攻勢電磁障壁発振器射出ユニット(バリアジェネレーターランチャー)』を発動。彼は何かをハニワプリンスへ向けて射出する。
 それは、杭状の発信機であった。複数本のソレは、瞬く間に電磁障壁を生み出してく。
 同時、数々の妨害を潜り抜けたハニワプリンスが口を大きく開く。
 刹那、その口から、光の柱が放たれる。
 そのビームはギリシャ神殿の彫刻程の大きさであり、新幹線のように向かってくる。突き進む度に地面を抉り、アーチ状の痕を残していく。
 そして、ビームと電磁障壁、二つが接触し、激しい火花を散らした。その火花はオレンジ色の閃光となって飛び散り、溶接作業のように騒々しい音を立てる。
 辺り一帯は白い閃光に包まれた。それは閃光弾のように強力で、思わず目を閉じてしまいそうになる。
 やがて、爆風が巻き起こり、土埃が天高く舞い上がる。
 それはモウモウと立ち込め、遠く離れた『ハニワ町』からも見る事ができた。町人は、その閃光や轟音に固唾を飲み、目を離す事などできなかった。
 ハニワプリンスは、勝利を確信したこの『ハニワビーム』を受けて無事なものなどいないだろう。あっけない最後だった、そう呟き、猟兵達が居たところを見つめる。
 ……そして、土埃のスクリーンが徐々に晴れて行く。
 その幕が完全に消えた時、ハニワプリンスは目を疑った。
そこには、猟兵達の前には、トリテレイアが立っていた。
 鎧には、かすり傷一つは愚か、ビームで焼き焦げた跡すら付いていない。ゴウゴウと燃え上がる焚火の炎が、その艶やかな白い鎧の表面をキラリと光らせる。
「な、何だと……!!」
 その様子に驚くハニワプリンス。対するトリテレイアは冷然と佇み、緑色の瞳で、倒すべき標的を見据えている。
 ――ここからは、私の番です。
 刹那、腕部装甲に収納されていた銃火器が姿を現す。それをすぐさま構え、ハニワプリンスの口へ照準を合わせる。それは一秒とも満たない時間であり、ハニワプリンスに回避や反撃の準備を許さない。
 そして、銃火器が火を噴いた。
 けたたましい銃撃音が鳴り響き、薬莢が次々に地面へ落ちて行く。無数の鋭い弾丸が飛ぶ鳥を落とす勢いで相手の口へ突撃する。
 それらは一発も外す事無く、ハニワプリンスの口へ入って行った。
「うぐぐぐぐ……」
 苦悶の表情を浮かべて呻き声を上げるハニワプリンス。口から侵入してくる弾丸が、ハンワプリンスの内部からダメージを与えて行く。その振動で体が小刻みに揺れ、体全体に痛みが迸る。しかし、先程行った『ハニワビーム』の反動か、すぐに目立った行動を起こす事ができないようだ。回避も反撃もできない中、反動が収まるまで、ジッと堪え続ける。
 だが、ウォーマシンたるトリテレイアは容赦しない。
 すると、ハニワプリンスの足元に落ちていた盾が、ガゴッと動いた。
 その盾には、ワイヤーが引っかかっていた。それは小麦色の地面の上を這うように伸びており、トリテレイアの鎧に一端が結び付いている。内臓式装備にてワイヤーを射出して括り付けたのであった。
 ――刹那。
 アンカーのスラスターでワイヤーを操作。大盾は、魚が跳ねるように上へ飛び上がった。
 巨大な金属の板が、ハニワプリンスの頬を打つ!殴打用の質量武器ともなりうる大盾による一撃は、ボクサーの一撃KOにも匹敵する程の打撃だ。そのまま、ハニワプリンスは地面に倒れ伏す。鈍い音が鳴り響き、土埃が舞い上がる。
 更に、その大盾をワイヤーで上へと振り上げる。その様子は、鉄球を吊り下げたクレーン車のようだ。そのまま、一気のハニワプリンスの顔面へ叩き落す。
 凄まじい質量を誇る大盾が、顔面へ直撃する。重力の合わさった一撃は、鎧をも砕く破壊力を有する。ハニワプリンスの顔面にヒビが入り、口元が欠けた。
「ぐおおお!!」
 ハニワプリンスの怒号が静寂に木霊する。
 ここで、トリテレイアは攻撃を中断し、後ろへ下がった。

「どうやら、我は猟兵達を甘く見ていたようだ……」
 ハニワプリンスはフラフラとよろめきながら立ち上がった。一見すると満身創痍にも見えるようだが、その立ち上がる動作からは、まだ体力が残っている事を思わせた。盗人達を雇った首謀者だけあって、一筋縄ではいかないようだ。厳かな声は力強く、空気を震わせていく。
 そのまま、黒くポッカリ開いた瞳で猟兵達を見つめる。そこには、猟兵という存在を無意識の内に過小評価していた自分への戒めが籠っていた。それと同時に、猟兵達へ全力を尽くすという決意が滲み出ている。
 そして、ハニワプリンスは更に力強く、声高々に宣言する。
「ならば、我も全力を尽くすとしよう。出でよ、ハニ馬!!」
 刹那、大地が揺れる。ゴゴゴゴ、という鈍い轟音が、怪物のくぐもった声の如く木霊する。山に乱立する木々が震え、枝葉がザワザワと大きく音を立てる。枝に付いた葉っぱが何枚も地面へハラハラと落ち、一方で地面に落ちていた枝がカランカランと音を立てて跳ね上がる。それはマグニチュード6程の地震であり、地面が割れてしまうのではないかとすら錯覚しそうになる。
 『ハニワ町』にもその余波が伝わり、人々は慌てふためく。
 その振動の最中、猟兵達は何とか態勢を保ちながら、ハニワプリンスの方を見つめる。彼は冷静に佇んだまま、猟兵達の方を見据えている。
 すると、ハニワプリンスの足元から、ズズズ、と何かが現れていく。それは、水面下から潜水艦が浮かび上がるかのように、徐々に姿を現していく。
 ポッカリと黒い穴の開いた頭部は馬のようだ。そこから延びる太い棒は首のようである。そこに繋がる直方体は胴体だろう。そこにくっつく四つの太く短い円柱は脚と思われる。
 そうして出現したのは、巨大な馬型のハニワであった。高さは実に20mと高く、ハニワプリンスの二倍もの大きさだ。それにハニワプリンスが跨る事で、合計30mという巨体へと変貌した。その大きさは、ビル四階分に相当する。
 猟兵達は、馬型のハニワに跨るハニワプリンスの顔を見ようと、顔を上へ向ける。しかし、炎で照らせる範囲外にあり、顔が闇に包まれて見えない。相手の姿は、あまりにも巨大で、尊大だ。殆ど闇に包まれた体躯は、猟兵達へ脅威という名の威圧感を与えるだろう。
「どうだね、これが我のユーベルコード『ハニ馬召喚』だ」
 月の光が無い暗黒に、ハニワプリンスの厳かな声が響き渡る。
「では、行くぞ!!」
 大きく一声を発したかと思うと、瞬間、馬型のハニワがいななくような悲鳴を上げ、上体を反らして前足を持ち上げる。
 そうして前足をバタバタと動かしてから小麦色の固い地面に蹄を付けた瞬間、脱兎の如く駆けだした。
 蹄が地面を打つ音がダダダダダと響く。狙いは猟兵達。その固い蹄で踏みつけ粉々にせんと迫り来る。その距離、約100m。それを、高速道路を走行する大型バイクの如き速さで向かってくる。蹄が蹴る度に地面が揺れ、花火のように振動が猟兵達の体へ響き渡る。
 その巨大なる脅威の前へ颯爽と駆けて立ちふさがる影があった。ティモシーだ。
「ほう、貴様が相手か。なら、まずは貴様から始末してやろう」
 ハニワプリンスの厳粛たる声色が轟く。それは、死刑宣告のように体の髄を凍えさせる。ティモシーは一瞬、怖くなるが、しかし、勇気を沸き立たせ、自分を鼓舞する。震えそうになる脚を懸命に押しとどめ、仁王立ちする。そして、眼前の敵へ、その黒いまなざしを向ける。
 その間にも、馬型のハニワは凄まじい勢いで突進してくる。ティモシーの何倍も、何十倍も大きく見える相手に、怯みそうになる。だが、ティモシーは極力落ち着こうと努めながら、懐をがさごそと漁る。確か、どこにあったかな……。えっと、こっちじゃなくて……。ああ、あったあった。
 そこから現れたのは直方体の板であり、それを一枚ずつ取り出していく。その一枚一枚には様々な柄が描かれている。一見すると見慣れないカードであるが、占いで日銭を稼いでいるティモシーにとっては馴染みの深いものだった。それは、占いに用いるカードである。ティモシーのユーベルコード『錬成カミヤドリ』によって出現させたものだ。
 けれども、自身は水晶玉のヤドリガミだと思っているので、この占いカードは、たまたま持っていたと思っているようだ。その為、運よく持ち歩いていた事への驚きと喜びを顔に浮かべながら、枚数を確認する。一枚、二枚、三枚……。
「えーと、……カードは十五枚かな?」
 その間にも馬型のハニワはティモシーの目の前まで迫っていた!
 ハッとなり、前を向く。目の前に、馬型のハニワの脚が蹴り殺さんと迫っていた。
 バッ!!
 すぐさま避けようと、勢いよく横跳びする。それと同時、手に持っていた十七枚の占いカードを、ハニワプリンスが居るであろう闇へと投げ飛ばす。
 刹那、その隣を凄まじい勢いで馬型のハニワが駆け抜けて行く。大地が轟き、ティモシーの脳が揺さぶられる。視界がグワングワンと揺れるかのような錯覚を覚える。
 その間、占いカードは、ハニワプリンスへ向かって矢のように突き進む。
 しかし、ハニワプリンスは屈んで回避する。刹那、彼の頭上を十七枚もの占いカードが通り過ぎて行く。そうして占いカードは止まることなく、夜空を突き進んでいく。やがて、それは黒く厚い雲の中へ突っ込み、姿を消した。ハニワプリンスは屈んだまま上を向き、占いカードが雲の中へ消えて行った事を確認した。そして、再び顔を上げ、ティモシーが居たであろう場所を振り返る。
 ティモシーはそのまま、華麗に側転をし、そのまま着地。態勢を整えなおした。ふと、馬型のハニワが通った跡を見る。そこには、土木工事をしたのかと思わせるような深い穴が幾つも開いていた。もし、1秒でも避けるのが遅れていたら、彼の体はグシャグシャにされてしまったであろう。
 その様子に冷や汗をかきながら、馬型のハニワを見つめる。ハニワプリンスの騎乗したハニワは馬型であり、走っている間は急ターンができないように見えた。それは遠くまで走って行き、そして、弧を描いて此方へ向かって来ようとしている。
 騎乗しているハニワプリンスは、仕留め損ねた事に顔をしかめ、ティモシーの顔を凝視する。そして、次こそは仕留めてやるという意志を黒い瞳に籠めた。
 そうして此方へ向かってくるハニワプリンスに対し、ティモシーは余裕たっぷりに告げる。
「言い忘れてたけど、魔力で誘導できるんだよ?」
 そして、手を前に出して、マジシャンのように、指をクイッと曲げる。
 すると、黒く厚い雲に埋もれていた占いカードが、ブーメランのように勢いよく飛び出した。砲撃のように飛び出し、地上に居るハニワプリンス目掛けて突っ込んでいく。それはコンドルのような急降下を思わせ、弾道ミサイルのように勢いがあった。それは、ティモシーの有する魔力によって、精密に操作され、倒すべき相手へと適確に狙いを定めて向かっていく。
 ハニワプリンスが、頭上から迫り来る脅威に気付いた。ハッとして上を向く。そこには、十七枚もの占いカード。しかし、その時には既に遅し。
 それらは流星群のように、ハニワプリンスへ降り注ぐ。槍の雨のように彼へと降りかかり、一枚一枚が、茶色で硬質な筈の体を切り裂いていく。それらの占いカードは、その素早さも相まって、剃刀のような切れ味と化していた。無数の小さな亀裂が入り、空洞の体内から空気が風船のように漏れ出していく。
「ぐ、ぐぅ……」
 ハニワプリンスのミスであった。猟兵が用いる武器なのだから、何かしら仕掛けがあると疑うべきだった。そこへ注意を向けず、ただひたすらに、目の前の敵を倒す事しか考えていなかったのは、浅はかであった……。
 苦悶の呻き声を上げた後、そのまま落馬する。小麦色の地面に勢いよく体が叩きつけられ、その亀裂は更に大きくなる。Y字型の亀裂は深く、黒い溝を作っていた。そうして主を失った馬型のハニワは、暫く走り続けるものの、やがて、そのまま空中に溶けてしまうかのように姿を消してしまう。召喚や突撃による地響きは止み、再び、炎のパチパチと燃える音と、春風がビュウビュウ吹く音のみが支配する静寂へと戻った。
 そうして占いカードは、ティモシーの元へ飛んできて、手の中へ納まった。それらの占いカードを、大切に懐へ戻す。そうして攻撃を終えた後、一旦後ろへ下がっていく。
 ハニワプリンスは、体に土をまぶしたまま立ち上がる。傷を負っているが、まだ戦う事は十分に可能だ。それでも、着実にダメージを与えているのは確かなようだ。

 そうした様子を冷静に見つめ、前へ歩み出た猟兵が居る。夷洞だ。彼女はそのまま、一歩、一歩と、ハニワプリンスの方へ歩いていく。その間、何も言わず、ただ歩みを進めて行く。
 そして、それをハニワプリンスも見つめる。彼はその場でジッとしていた。
 やがて、夷洞は歩みを止める。
 両者との距離は、約10m。
 そして、ハニワプリンスは、目の前に居る夷洞の姿をまじまじと見つめる。刹那、その顔に怒りの感情が宿って行く。茶色の肌は、炎の赤い光に照らされる以上に、赤く、紅く染まっていく。リンゴよりも赤く、熱した鉄よりも赤く染まっていく。
「貴様は、我の同胞たるハニワに数多もの無礼を働いた……ッ!!我がユーベルコードで、その罪を償わせてやろう!!」
 怒気を孕ませながら、彼は口をポッカリと開ける、そこから、何かが飛び出して来た。
 蠅か?
 蜂か?
 蝶か?
 しかし、虫にしては、それはあまりにも大きすぎる。それは、直径1m程の大きさであった。そして、ドローンのように宙を彷徨い、勢いよく飛んでいる。それは茶色く、顔と思われる場所には三つの黒い穴が開いていた。
 そう、ハニワだ。
 腹部には『1』と刻印されたハニワが薄暗い空間の中、数十体も飛んでいるのである。それらは夷洞の周囲を取り囲み、威圧的な目を向けている。まるで、不良集団が敵対グループの首領へ攻撃しようと囲んでいるかのような光景であった。もし、普通の人であれば、そのテロにも似た異常事態に恐怖し、脚が震え、家族の事が脳裏によぎるだろう。
 しかし、夷洞は堂々としていた。脚が震える事も無ければ、命乞いをするような事もしない。ただ、冷然と構え、戦いへ挑むという決意の意志を表明するだけであった。
 そうした反応は、相手を屈服させたいと願う者を苛立たせる。ハニワプリンスは、怒号を飛ばす。
「ええい、やれい!!」
 そして、ハニワプリンスのユーベルコード『であえい、であえい!』が本領を発揮しようとする。本体よりは小さいが、人から見れば大きなミニハニワが、働きバチのように夷洞へと突撃していく。
 夷洞は、腕を前に出して組み、防御の姿勢を取る。
 そこからは、一方的な暴力であった。ミニハニワ達は夷洞へドカドカと体当たりをしていく。時速150kmという、野球でピッチャーが投げる豪速球の如き速さでぶつかっていく。それは、砲丸投げの弾がろっ骨にぶつかるような激痛と破壊力を伴うものだろう。
 夷洞は、そうした猛攻に耐えるよう、腕を組んでガードを続ける。上や胴体や脚などへ、次々に当たって行く。しかし、首だけは何とか守っていた。
 これには、ハニワプリンスもご満悦。天誅を下したと言わんばかりに、恍惚といた表情を浮かべる。
 しかし、そうした慢心が隙を生んだ。そして、彼は気付かなかった。彼女が防戦一方になっているのは、これから行う事の予備動作に過ぎないという事を。
 夷洞は、その猛攻を受けながら、静かに、厳かに呟く。

 ――澱んだ海の底より来たれ。身を裂け、魅よ咲け。我ら七人の聲を、呪いを、恨みを、羨望を示そう。忘却した者達に懇願の祈りを込めて。

 そして、夷洞は、大きく深呼吸をした。
 すると、夷洞の体に変化が起きる。
 刹那、春の陽気に包まれた空気は、冬のように凍えたものへと感じられた。
 まず、夷洞の独特な四肢が、ゆっくりと、無くなっていく。そして、頭と胸だけになり、風呂に長く浸かっていたかのようにふやけていく。それは、無傷な水死体を彷彿とさせた。その背中には車輪が背負われており、形容しがたい感情を湧き起こさせる。
 そして、彼女の周囲には、巨大な魚が回遊していた。その魚は、今まで確認されたどの魚類とも違う、怪魚であった。それが六匹も漂っており、夷洞の周囲を旋回している。
 夷洞が真の姿を現し、ユーベルコード『忘却祈願・我は我等なり(ボウキャクキガン・シチニンミサキ)』を発動した事で、ミニハニワの集団は、ビクッと体を震わせ、動きを止める。思わず、ハニワプリンスも、そうして攻撃の手を止めた事を叱責するのも忘れ、目の前に居る夷洞の変容した姿、そして、空中を泳ぐ大怪魚を、畏怖の目で見つめ続けていた。
 しかし、その緊張も長くは続かなかった。
 夷洞が、ゆっくりとハニワプリンスへ近寄ろうとすると同時、大怪魚と化した六人の同胞の霊も動き出した。
 ハニワプリンスはハッとする。
「か、かかれぇーー!!」
 刹那、ミニハニワの一体が、大怪魚の巨大な口に噛みつかれる。ギギギ、と金切り音にも似た鈍く軋む音を上げ、グググと震えて行く。やがて、怪力を籠められ続けたミニハニワは破裂し、その茶色い破片を周囲へ炸裂させる。それは、百獣の王たるライオンが、獲物となる草食動物の肉を噛みちぎり、命を奪う光景に似ていた。
 そこから、反撃が始まった。
 六体もの大怪魚は次々に空中を漂い、ミニハニワを一体ずつ噛みついては、口に力を込めて粉々にしていく。ミニハニワとはいえ、オブリビオンのユーベルコード。その強度は、鉄筋コンクリート以上であった。だが、相手の大怪魚達は、頭、手足、胴体、心臓を引きちぎる暴力を以てして、ミニハニワ達をオモチャのように壊していく。ミニハニワだったものは、手榴弾の破片みたく、次々に小麦色の地面へポロポロと落ちて行く。
 その圧倒的な暴力の前に、ハニワプリンスはただ、愕然とするしか無かった。あれだけ居たミニハニワ達が、今や数える程にしか居ない。
 しかし、目の前に夷洞が迫っている事に気付き、我に返る。
 ハニワプリンスは、ミニハニワ達を護衛として呼び寄せようとする。しかし、それは無理な試みだった。大怪魚達がミニハニワ達の相手をしている為、援軍として駆けつける事ができない。そうしている間にも、また一体、餌食と化した。
 そして、夷洞とハニワプリンスは、対峙した。
 すると、ハニワプリンスは異変を感じた。周囲の空気が、異様に冷たい。それは、ヒマラヤの山頂のような冷気でもあったし、北極や南極のような冷気でもあったし、はたまた、光の届かぬ深海のような冷気でもあった。しかも、その冷気が体にネットリと纏わりつき、離れる気配が無い。そして、体から、戦う気力、そして、生命の根幹たるエネルギーなるものが奪われていくのを感じた。
 ハニワプリンスは、呻いた。
 それを見た夷洞は、背中に背負っていた車輪を取り出すと、それを目の前に居るハニワプリンスへと投げつけた。
 漆黒の巨大な車輪は、ダンプカーに付いているような巨大なタイヤ等では無い。これは、咎人殺しが使う拷問具であり、夷洞が愛用しているものでもあった。言い換えれば、夷洞が得意とする攻撃方法と言えるのかもしれない。
 その車輪が、ハニワプリンスの元へグングンと迫って行く。
 しかし、ハニワプリンスにも矜持がある。ミニハニワ達はやられてしまっているが、しかし、本体である私が負ける訳にはいかない。あの程度の車輪であれば、私の強固な肉体が防いでやる。
 だが、車輪が迫り来る中、自身の体に異変が起きた事に気付いた。
「な、なんだ……!?」
 自分の腹部が、異様に冷たく、そして、どこか湿気を帯びている。
 湿気……。
「ま、まさか!?」
「ご名答」
 夷洞は、そっけなく言う。
 先程の冷気は、単に寒さで動きを封じる為の物では無かった。ハニワは、土を焼いて作られる。その為、耐熱性が強い為、その方面での攻撃では太刀打ちできないだろう。しかし、夷洞には、そうしたハニワの特性に対抗できる攻撃方法を有していた。 それは、多湿による土焼き物な体表の脆化である。
 そして、それは功を奏した。今、ハニワプリンスの腹部は、冷気による湿気によって、脆くなっている。
 ハニワプリンスは、顔が青ざめる。まずい、このままでは。車輪の攻撃を防ぎきる事はできない。一刻も早く、回避を試みなければ。
だが、呪詛の籠った冷気が、その運動を阻害する。その間にも、車輪が此方へ迫り来る。
 そうして、自分の命が刈り取られる瞬間を待つというのは、精神的にも苦痛であり、拷問そのものであった。
 そして、車輪がハニワプリンスの腹部に当たる。そのまま、車輪は回転を続け、ハニワプリンスの体表を鰹節のように削って行く。
「ぐ、ぐが、があああああ!!」
 激痛に体を捩るが、車輪は離れようとしない。そのまま、徐々に亀裂が入って行き、やがて、大きなヒビとなった。小さな破片が飛び散り、その内の一つが、焚火の中へ飛び込んだ。
ハニワプリンスは、息を荒げながら、その場に座り込む。
その様子を見つめながら、夷洞は、尋ねる。
 ――所で埴輪君、僕は埴輪って物は死人への物と思っていたんだけど、君は誰の為に作られたモノなんだい?
 その言葉に、ハニワプリンスは顔を上げ、そして、尊厳を崩さぬよう、静かに、答えを返す。
 ――それは、教える事はできない。想像に、任せる事としよう。
 その答えを聞き、夷洞は何も言わず、後ろへ下がって行った。
 大怪魚達も、彼女の元へ泳いでいく。後に残っていたのは、疲弊したハニワプリンスと、ミニハニワ達の残骸であった。

 そうした激戦が落ち着いた最中、ヴィルジニアは車椅子に乗ったまま、ハニワプリンスの元へ向かう。
今や、戦場と化した屋敷の敷地内は、静寂に包まれていた。それが例え一時の余暇に過ぎないとしても、その静かさは、猟兵達に心の安らぎを与える。炎がパチパチと赤く燃える様子は、神社で燃え上がる松明を思わせ、幻想的だ。
 ハニワプリンスは、全く身動きをしない。春風に打たれ続ける中、微動だにしない。勿論、警戒を怠ってはいけない。あれだけの激戦を繰り広げるオブリビオンだ。それに、相手の信念は、このくらいの事で潰えるような、ヤワなものでは無いだろう。だからこそ、全く反応の無い様子は、どこか不気味にすら見える。
 彼女は、そのまま息を飲みつつ、彼へと徐々に近付いていく。いつでも攻撃できるように心構えをしたまま、緑色の瞳で、動かなくなったハニワプリンスを見つめ続ける。その姿は、物言わぬ使者のようであった。それは、古代のロマンを感じさせる生命体ではなく、単なる骨董品に成り下がったかのようである。朽ちかけた大樹のようでもあった。
 彼女は、訝しむ。もしかすると、本当に死んでしまったのだろうか。思えば、あれだけの攻撃を受けて、無事な存在は殆ど居ないだろう。信念を曲げない意志の強さと、猛攻を受けてもなお無事な耐久力は、全くの別物なのかもしれない。そう考えると、ハニワプリンスが身動きをしないのも頷ける。ハニワプリンスは、敗北したのだろうか。
 そうして、車椅子に乗って前進しつつ、ハニワプリンスを見据える。思えば、相手はかなり大きい。身長が10m近くもあり、まるで、博物館に展示されているティラノサウルウスの化石のようである。もしくは、空港に離着陸している飛行機程の大きさをしている、と言えばよいだろうか。改めて眺めてみると、その大きさに、感嘆の声を漏らしそうになる……。
 だが、ここで、場の空気が変わった。
 突然、春風が台風のように強く吹き付け、鬱蒼と茂る木々が枝葉を大きく揺らし、ザワザワと騒音をかき鳴らす。そうした場の変化は一秒と満たぬ間に起きた。しかし、猟兵達に何らかの危機を予感させるには、十分過ぎる程であった。風が肌を叩きつけ、枝葉が揺れる音が鼓膜を刺激する、ほんの一瞬間が、脳に予感なるものを導かせた。
 ハニワプリンスは、俯いていた。しかし、ただ俯いていた訳ではない。その間に、ある行動を準備していた。亀裂の入りかけた黒い口を大きく開け、そこへ、少しずつ、空気を吸い込んでいっていた。近寄ってくるヴィルジニアに気付かれぬよう、ほんの少量、少量ずつ……。そして、その口元に、あの光の粒子が僅かに現れ、口の中へ、少しずつ、少しずつ入り込んでいく。それを、数十秒、数分と続けて行った。
 そして、時が満ちた。
 バッと、ハニワプリンスが顔を上げた。それは、カンガルーのように勢いがあり、ビックリ箱のように相手を驚かせるだろう。しかし、それらの形容詞は、この決戦という場においては不適切だ。ふさわしい形容詞があるならば、それは、肝を冷やす、とか、命の危機を感じさせた、という方が適切だろう。
 ヴィルジニアは、目を見開いた。緑色の瞳に映ったのは、急に変貌したハニワプリンスの姿であった。顔を上げた彼の顔には、相手を滅ぼさんとする意志が炎のように燃え上がっており、毒蛇のように陰湿さを兼ね備えていた。炎の陰影がくっきりと浮かび上がった顔は、地獄のデーモンさながらに恐ろしい存在にさえ感じられる。
 しかし、何より本能が危機を悟ったのは、彼の口であった。その口は閉じられているが、何かを含んでいるのが察せられる。それが何なのか、ヴィルジニアは先程見たばかりであった。それは、光のエネルギーを極限まで収束させた攻撃。そして、莫大な熱エネルギーを生み出し、衝撃波を発生させ、地面を抉り、地形の環境を破壊しかねない、恐るべき攻撃方法。それが、僅か10mと満たない距離に居るであろうヴィルジニアへと発射されようとしている。敵は、相手に対する慈悲は持ち合わせていない。決闘では、そうした慈悲は時として命取りになるから当然ではあるが。
 ヴィルジニアは、脳内にアドレナリンが放出されたかのように、あるいは命に危険が及んだ際に見る走馬燈のように、全てがゆっくりに見えた。特別な技能を使わぬとも見えるという事は、それは、彼女の命が今まさに、風前の灯と化した事を意味する。そして、心臓が風船のように破裂するかと思わんばかりにドクンドクンと高鳴り、体中の血管に冷水が流されたかのような冷たさが駆け巡る。
 彼女は、イチかバチか、すぐに行動を開始した。素早く懐からあるものを取り出し、ハニワプリンスの眼前へと勢いよく投げつける。それは野球ボールのパスみたく宙を舞い、相手の目の前へ到達した。
 ハニワプリンスは、一瞬、何が投げつけられたのか分からなかった。しかし、その物が強烈な閃光を発した瞬間、投げつけた物の正体を知った。閃光弾だ。人工の光とはいえ、そのエネルギーは相手の動きを阻害して余りある。それはハニワプリンスも例外では無い。くぐもった声を上げ、ほんの一瞬、動きが止まる。

 ――勇ある者はその天命を果たす時まで決して死ぬことはないのです!

 刹那、ハニワプリンスの口から、巨大な光の柱が放たれる。『ハニワビーム』だ。それは小麦色の地面をバターのようにと化し、闇を白熱灯で照らしたかのように白く染め上げる。視界は光の暗幕のよって見えなくなり、全てが白一色と化す。衝撃波による爆風が巻き起こり、周囲の木々の内、何本かはなぎ倒されていく。ミシミシという軋む音がした後で、ズゥンという鈍い音が鳴る。それが、二度、三度と続いた。
 そして、白い光が薄まって行き、エネルギーが収束していく。ハニワプリンスは、目の前に居た女性がどうなったか見ようとする。けれど、この熱量をその身に受けたのだ。きっと、跡形もなく消え去っているのだろう。
 だが、光が完全に消え去った時、ハニワプリンスは目を疑った。
 そこにあったのは、オブジェのようなものであった。それは装甲版のようであり、四角錐柱形であった。その板からは、プスプスと音を立てて、灰色の煙を上げている。しかし、傷が付いている様子はない。そのまま、焦げた匂いが漂い、静寂が再び包み込む中、ハニワプリンスは立ちすくんでいた。
 そして、その装甲版がバラリと外れ、地面へと落ちる。
 そこには、無傷のヴィルジニアが居た。『断絶憂世(ヒキコモリタイム)』によって、敵の強大なる攻撃を防ぎ切ったのであった。
 刹那、彼女の乗っていた車椅子が変形を始める。そこから様々な装備が出現し、やがて、四足歩行モードへと変化する。その様子は、まさしくロボットアニメのようであった。そして、それは戦闘形態になった事を意味する。
 その時、ハニワプリンスは理解した。彼女の乗っていた車椅子――要塞椅子(コンフォータブル・フォートレス)――は、ただの車椅子では無い事を。そして、それを用意する力を持っている猟兵であるという事を。
 そして、要塞椅子は、前方へ斜めに傾く。そして、乗っている主人たるヴィルジニアは、どこからか、一対の機関銃――狼狩り――を取り出した。そして、それをハニワプリンスへ向けて構える。
 刹那、銃撃が轟いた。
 無数の弾丸が、ハニワプリンスを蜂の巣にせんと襲い掛かる。UDCの血液から製造されており、その弾丸がハニワプリンスに命中する度、内部で炸裂する。銃撃音と破裂音、二つが爆竹のように鳴り響き、静寂をかき乱す。
「ぐうおおお!!!」
 ハニワプリンスは、先程のビームの反動によって、反撃ができぬまま、その銃撃を受け続ける。
 その最中、要塞椅子は主人が安定して打てる態勢を保ちながら、ハニワプリンスの周囲を、ゆっくり旋回する。それにより、銃弾はハニワプリンスの周囲にへと当たって行く。
 ハニワプリンスは、悲鳴を上げた。
 そして、銃弾を一通り放ち終えると、ヴィルジニアは、機関銃をしまい、ハニワプリンスを見た。彼は、体中に穴を開け、ところどころから煙を上げていた。声を上げて動けるところを見るに、まだ戦うだけの余力は残っているようだ。しかし、ダメージを負っている事は確実だ。
 ヴィルジニアは、次の猟兵へバトンタッチすべく、後ろへ下がった。

「まだだ、まだ我は負けぬぞ」
 ハニワプリンスは呻きながら、立ち上がる。そんな彼の前に、一人の女性が立ちはだかる。エーカだ。倦怠感を滲ませたまま立つ姿は、命を懸けた決戦という緊張感を緩和させるようでもあった。しかし、一人と一体の間に迸る火花は熾烈に輝いていた。
 エーカは、紫の瞳で、相手を見つめる。かなりの傷を負っているようだが、まだ戦えるようだ。その姿を見て、彼の中に、信念というものを感じ取らずにはいられない。段々と策を弄していく様を見るのは辛いが、しかし、その根底にあるものは失っていないようだ。ハニワを人間達の手から救い出すという、たった一筋の自負。それが、ハニワプリンスを立ち上がらせるのだろう。
 ならば、此方も全力を出さねばならないだろう。炎が暗闇に赤い光を灯し、青いドレス風の衣類を照らし出す。同様に、ハニワプリンスの傷だらけの体をも照らし出す。下方からの光源に照らされたまま、陰影を帯びつつ向き合う。
 すると、ハニワプリンスは、攻撃を仕掛けてきた。彼は大きく口を開ける。すると、そこから無数のミニハニワが飛び出してくる。『であえい、であえい!』だ。それらは1m程の大きさをしており、人間の子供程の大きさである。それらのハニワがとぼけた顔のまま、此方へブイーンと近付いてくる様は、シュールだ。真剣な戦いの場に、そうした思考がよぎる事で、いささか集中力がそがれてしまう。しかし、首を横に振り、意識を戦闘に集中させる。
 その間にも、ミニハニワの大群がエーカへと接近する。否、接近という言い方は適切ではない。それらは時速150kmという、高速道路を暴走する車の如き速さで突っ込んできていたのだ。風を切って突撃する事で、空気がビュゥオオオと静かで激しい音を鳴らしていく。
 刹那、エーカは直ぐに、用意してあった旧型宇宙バイクへと飛び移り騎乗する。そして、思いっきりエンジンを吹かせる。その間にも、ミニハニワの大群は、エーカを倒さんとばかりに突っ込んでくる。エーカは焦る。すぐに移動しなければ、ミニハニワがエーカにぶつかり、石打のような惨状と化してしまう。
 しかし、エンジンはすぐにかかり、すぐさま一気に上空へ飛び上がる。春の暖かい空気が頬へ打ち付け、髪をバラバラと振り乱す。その直後、エーカが居た場所へ、無数のミニハニワが水牛の群れの如く通り過ぎる。それを見て、エーカは上空から見下ろしながら、ホッと一息つく。
 しかし、それは束の間の平和であった。
 何と、そのミニハニワの大群が、通勤ラッシュ時に電車からあふれ出したサラリーマンの如く、列を成してエーカの方へ飛んで来たのであった。
「え、ちょっ!?」
 驚いている暇は無い。炎の光源が届かない遥か上空にて、エーカはそのまま旧型宇宙バイクを操り、逃亡を図る。しかし、ミニハニワの大群は、アイドルを追いかけるかのように、どこまでも付いてくる。これではキリが無いと、アクセルを踏んで加速していく。そうして徐々に距離を取って行く。だが、ミニハニワも負けてはいられない。相手も更にギアを上げ、どんどん追いつこうと速度を上げて行く。
 しかし、この場所は視界が悪い。現に、相手がどこにいるのかも判断がつきにくい。ここで、炎の光源に照らされる高度にまで急降下する。再び、空気がエーカの顔へ打ち付ける。風圧が彼女に襲い掛かるが、それをものともせず、一気に地上へたどり着く。
 そして上を見る。だが、ミニハニワは追いかけてきていた。そして、弾道ミサイルよろしくエーカへとぶつかろうと突っ込んできた。
 彼女は、ギリギリまで、その場に留まった。それを好機と捉えたミニハニワの大群が、エーカの乗る旧型宇宙バイクへと突撃する。その距離は徐々に縮まって行く。
100m、50m、20m、10m……。
 そして、衝突する瞬間、急加速し、そのまま横へ飛んで行った。直後、ミニハニワの大群は地面へ激突、そのままマントルへ到達するんじゃないかと言わんばかりに地面を掘り進んでいき、姿を消していった。その穴からは、土埃がもうもうと立ち込めて居た。
 恐らく、ミニハニワはすぐに現れるだろう。しかし、直撃を避ける事が目的だったので、今はこのままで良いだろう。
問題は、本体だ。エーカは相手へ向き直る。
 ハニワプリンスは、傷を負っているが、まだ動く事ができる。10mはあるだろう巨体は大きく、どう攻撃したものか、エーカを悩ませる。しかし、思考している時間が惜しい。すぐさま、行動を開始する。

 ――精霊よ、力を貸して。

 エーカは『精霊幻想曲(エレメンタル・ファンタジア)』を発動する。すると、彼女の呼びかけへ呼応するかのように、フワフワと精霊が姿を現した。それらは、空気がピリピリした薄暗い空間にて、癒しの象徴であるかのように漂っている。
 このユーベルコードは、「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動するものだ。相手はオブリビオンとはいえ、ハニワである。焼いた土で作られた体であるならば、そうした属性を組み合わせた自然現象を当てれば、有効打を与えられるのではないか、そう考えたのだった。
 だが、ここでエーカにとって、予想外の事態が発生する。
 普段なら、妖精達はエーカの意志に従い、協力する。けれども、今回はどういう訳か、エーカへ協力する気配が見られない。エーカは焦った。このままでは、攻撃する事はできないどころか、相手に反撃の隙を与えてしまう。
 炎はパチパチと音を立て、木々の枝葉がザワザワと揺れる。そうした音響の一つ一つが、一秒一秒と時間が経過した事を間接的に伝えて行く。そうして鼓膜が震える度に、彼女の中に焦りが生じてくる。心臓が再び、別の形でドクドクと高鳴り、汗が流れそうになり、口の中が乾く。そして、ハニワが潜って行った穴に意識が向いてしまって、気が散ってしまう。いつ、あの穴からミニハニワの大群が飛び出して、エーカの方へ突撃してくるか、予測できない。多少は見切れるものの、精霊を扱う以上、即座に旧型宇宙バイクを操縦できるかどうか、怪しい。だからこそ、ここで一気に有効打を撃ち込まねばならなかった。
 エーカは、必死に思案する。どうすれば、この苦境を脱する事ができるのか。
 そして、脳裏に電流が走った。それは、妙案かもしれないが、一種の掛けでもあった。これに失敗すれば、時間のロスは免れない。しかし、他に手は無い。
「精霊がいつもより私の言うことを聞いてくれない。【属性攻撃】で補う形で…」
 そう呟きながら、意識を集中させる。代替え案として、精霊の活躍を、属性攻撃に補うという荒業を用いたのである。イメージするのは、山が崩れ、川へ流れ込む、一種の濁流。それを形容する言葉があるなら、土の津波と言えば良いだろうか。
 土の津波。それは言い換えれば、津波という自然現象に、土という属性を足したものに他ならない。そして、そうした現象は自然災害の時にしか発生しないものだが、ユーベルコードなら、それを任意に作り出す事ができる。
 そして明確にイメージを固め、再度、言葉を紡ぐ。

 ――精霊よ、力を貸して。

 刹那、エーカの上方から、エーカの前方へと流れ出るものがあった。それはまさしく、土の津波であった。それはまさしく濁流そのものであり、飲み込んだものを滅ぼさんとする凶暴さを兼ね備えている。それはゴウゴウと音を立てながら、ハニワプリンスへ一直線に突き進んでいく。そして、ハニワプリンスは飲み込まれた。
「ぐぼぼぼぼぼ」
 ハニワプリンスは、水泳の訓練を積んだ事は無い、あっという間に土の津波に飲み込まれてしまう。開いた口からは土の津波が入り込み、体を土の津波によって濡らしていく。その体の作り故に上手く動けず、そのまま溺れてしまう。すると、その体に入っていたヒビに、更なる亀裂が走り、より深いものとなっていく。そして、大きな破片が一つ、ポカンと割れるようにして外れ、そのまま土の津波の餌食となった。そうして、彼は遥か彼方へと流されてしまった。
 その直後、穴からミニハニワの大群が出現する。
 エーカは、思わずその方向を見る。
 しかし、本体のハニワプリンスに多大なダメージがあったからなのか、ミニハニワ達は消失していく。
 それを見たエーカは、ホッとした。しかし、その気の緩みが、悲劇を生む。
 刹那、上方から前方へと流れ出ていた土の津波が、ポップコーンのように破裂する。
「えっ!?」
 すると、その土の津波が、真下に居たエーカへと降り注ぐ。バケツをひっくり返したかのように、土の津波がエーカを濡らしていく。
 そして、暫く立った後、土の津波は収まった。そこには、泥まみれになってしまったエーカが居たという。彼女は苦い顔つきをしながら、己の不運を心の中で嘆いたのであった……。

 遠くの木陰にて。ハニワプリンスの体は、疲弊していた。しかし、まだ立ち上がるだけの余力は残っている。体に反動をつけ、起き上がる。ドスン。木々が揺れ、枝から葉っぱが離れ、ハニワプリンスの頭へヒラリと落ちる。だが、そんな事は気にせず、先程戦っていた場所を見つめる。そこには、別の猟兵が立っている。彼女は、此方を見つめたまま、動かない。出方を伺っているのだろうか。それとも、待っていてくれているのだろうか。ならば、その真剣勝負に、本気という二文字を示さねばならない。そう、戦いはいつなんどき起こるか分からない、という事を。戦いの中で失われていく誠意に寂しさを覚えながら、しかし、自分の中にまっすぐ伸びる信念の為に、悪魔へ魂を売る事も辞さなかった。
 一方、屋敷の敷地内から、ハニワプリンスが流された方向を、ジッと見つめる猟兵が居た。彼女は、満身創痍である体に鞭打ち、立ち上がろうとするオビリビオンへ想いを馳せながら、相手が来るのを待っていた。凛として仁王立ちするその姿は、まさしく、戦士そのものであった。
 木目は、炎の明かりが届かない、闇の向こう側を見つめる。その先に、倒すべき敵、否、戦士が居る。たぎるような熱い想いを抱き、それを貫き通そうとする信念を持った戦士である。彼は、倒れるその時まで、戦う事を止めないだろう。倒れるという事は、同胞たるハニワを救えない事を意味する。だからこそ、倒れる訳にはいかない。そこに、自己保身のような計略は無い。ただ、大切なものを守りたい、そして、その為なら命を捨ててよい、という、決して揺るがない意志がある。それは、口先八寸で夢を語るだけの怠け者とは大違いだ。そんな奴らと比べれば、世界に仇成すオブリビオンたる彼、ハニワプリンスの方が、清らかで、高潔だ。
 だからこそ、木目は彼に対して、敬意を払う。もしかすると、彼の信念を貫こうとする姿は、自身が理想とする姿――映画やアニメの軍人やハードボイルドキャラ――と似ているのかもしれない。彼女は想う。彼は、戦士であると。ならば、例え満身創痍であろうとも、全力を以てして相手をするのが礼儀というものだ。彼女は、柄の長い巨大戦斧を、強く、強く握りしめる。手が白くなるほどに、握りしめる。その斧の名は、グリューアンクル。ある英雄の象徴たる斧の名を冠した武器だ。その名を持つ武器で刃を交える事は、戦士たるオブリビオンへの、最大の賛辞となるだろう。
 しかし、そうした事を、今は考えていない。木目の頭にあるのは、満身創痍の相手とはいえ、強敵には違いないという点だ。今まで使ってきたユーベルコード、全てを見てきた木目は、その実力を正当に評価していた。強い。その一言で説明して余りある程に、強力で、凄まじい。そのどれをも、猟兵達は創意工夫を凝らして回避し、そして、ハニワプリンスへダメージを与えてきた。そして、今度はそれを、自分が実践する番となった。緊張に、心臓がバクバクする。しかし、それだけだ。手が汗ばむとか、呼吸が乱れるといった事は無い。戦士として、好敵手と戦う事に精神が高ぶるが、それでコンデションが乱れるといった事は無い。それは、精神が異様に集中している為か、それとも、ハニワプリンスの意志に感化され、自身の中に勇気が沸き起こったからか、それは、定かでは無い。
 彼女は、避けなければならない攻撃がある事を察していた。それは、あの巨大な光の柱であった。『ハニワビーム』という名前のユーベルコードは、名前こそ面白いが、その破壊力は暴力の塊と言って差し支え無い。下手すれば、ハニワが出土したこの山すら、消し飛んでしまいかねない程のエネルギーを有している。それを見た際、思わず息を飲んだものだ。それに当たれば最後、例え猟兵でも生きてはいられまい。そして、その攻撃は、例え満身創痍の身でも、十分に行う事ができる。その恐ろしさに、一瞬、身震いした。
 木目は更に考える。その範囲は、あまりにも広い。斧を盾にして防御をしたとしても、自身が巻き込まれる事は十分に考えられる。ならば、あのビームをどのようにして防ぐか……。相手の出方を伺いながら、頭を回転させていく。
 そして、一つの結論を出した。
 木目は、深呼吸し、眼前の闇を見つめる。
 すると、彼女の体が、みるみる内に変化していった。
 木目の体の至るところに、文様が刻まれていく。それらからは炎が噴き出し、周囲をより赤く照らしていく。そして、額から、焼け焦げた色の角が生えてくる。そして、焚火によって照らし伸ばされた影防止は、より黒く、より鮮明となっていく。
 木目は、真の姿を開放した。そして、そのことを、遠くに居るハニワプリンスも理解した。彼は、相手が本気を出した事へ、静かに想いを馳せていた。そして、相手が本気で来るならば、此方も本気を出さなければ無礼に当たるだろうと、力を振り絞るのであった。
 そして、闇を挟んで、一人と一体は向かい合う。
 ……。
 …………。
 ………………。
 ――刹那。
 木目は闇の奥が、白く光るのを察知した。
 そして、白い奔流が木目の元へ迸る。
 その事を見て取った木目は、すぐさまグリューアンクルを握る手に力を籠める。そして、オーラ防御をその巨大戦斧へと籠めて行く。そして、すぐさま、その斧を力一杯にビームへと投げつける。
 ブゥン!!と大きな音を鳴らし、その巨大戦斧はビームへグルグル回転しながら突っ込んでいく。そして、ビームと巨大戦斧が、闇の中でぶつかり合う。激しく火花を散らし、その周辺が明るくなる。斧が空中で制止したまま、そのビームをせき止めるように立ち塞がる。一方のビームもまた、その鉄壁の防御を打ち破ろうと、力を込めて行く。
 そして、木目がグリューアンクルを投げた瞬間、木目の後方に長く伸びる、闇よりも濃い影から、何かが飛び出す。それは、シュルシュルと蛇のように木目の影から抜け出すように姿を現し、チーターのように素早く森の中を迂回するように入って行く。しかし、しかし、その姿はグリューアンクルとハニワビームの熾烈な衝突によって隠れてしまっている。ハニワプリンスは、木目から影の追跡者が放たれた事に気付かない。
 影の追跡者は、森の中を駆けて行く。忍者のように、音を立てず、闇に紛れ、標的へと着実に接近していく。木々の隙間を縫い、枝の上を飛び、空を切って突き進む。
その間にも、巨大戦斧は限界を迎えつつあった。徐々にハニワビームに押され、火花が大きくなっていく。空中で制止したまま、ガタガタと震え始めてきている。
 木目は眼前のハニワビームを見つめ続ける。もし影の追跡者が間に合わず、グリューアンクルの防壁が破られれば、光の奔流は余すことなく木目へと降り注ぐであろう。そうなったら、負け、即ち、デッドエンド。頬にツーッと、汗が垂れる。
 その時、感覚を共有している影の追跡者が何かを捉えた。その前方にあるは、ハニワプリンスの背中。しかし、ハニワプリンスは遥か前方に居る一人の戦士を打ち取らんと、必死にビームを放ち続けている。此方に気付いている気配は無い。チャンスだ。
 影の追跡者は、そのままハニワプリンスの背後にタックルを仕掛ける。
「!?」
 ハニワプリンスは、背後からの不意打ちに驚き、そのまま後ろを見ようとする。だが、できない。ハニワプリンスはビームを撃っている最中だ。
 
 ――影よ、踊れ!

 木目は力強く呟き、ユーベルコード『影の蹂躙舞踏(カゲノジュウリンブトウ)』を発動する。
 刹那、木目の影から、何かが現れた。それは鋭い切っ先を幾つも備えた塊のようである。剣山だ。それが幾つも、宇宙の闇よりも濃い影の中から浮かび上がって行く。
 それらが手榴弾の破片みたく勢いよくハニワプリンスの方へ飛来する。ビームの上を山なりに飛び越え、ハニワプリンスへと降り注ぐ。ビームを撃ち続けているハニワプリンスは、回避する事ができない。そのまま、彼の体へ次々と突き刺さる。
「ぐおおお!!!」
 そして、ハニワプリンスは思わずビームを放つ口を閉じた。光の束が収束していき、姿を消していく。それが収まると、その強烈な攻撃を受け続けていたグリューアンクルは役目を終えたかのように、地面へカランと落ちた。
 木目は攻撃を与えたのを確認した直後、グリューアンクルを素早く回収、フック付きワイヤーを近くにあった木造建築へ射出する。瞬間、彼女はそれに引っ張られ、戦場から姿を消した。
 ハニワプリンスは追撃する事もできず、あの戦士に敗北を喫したのであった。

 暗い空間に、春風が吹く。それは、寒空の木枯らしのように、どこか冷たく感じられる。それは、この戦いが佳境に近付いてきた事を意味するのか。それとも、猟兵達とオブリビオンとの意志と意志を戦わせ合った事による化学反応なのか。それは誰にも分からない。ただ一つ言えるのは、オブリビオンたるハニワプリンスは、体中がボロボロになりつつも、なお戦う意志を失っていないという事だった。
 彼は、フラフラとした足取りで、屋敷の敷地へと戻って来た。焚火が赤く灯り、春風の吹く空間は、静寂が訪れていた。しかし、それもすぐに騒乱たる音響に包まれるのだが。それはいわゆる、戦いの前座を意味していたのかもしれない。
 ハニワプリンスは、体を横に揺らしながら、目の前に居る相手を見つめる。奇抜な服装をし、金色の長い髪を垂らし、獣の耳を生やした猟兵だ。
 シンは、銃を構えたまま、目の前に居るオブリビオンを無言で見つめていた。相手は満身創痍そのものだが、まだ、戦う力が残されている。一体、どこにその力が残されているのだろうか。それが信念によって支えられているものだという事は分かっている。しかし、独善的な愛を語る相手を許す事は無い。
 左手に握られているのは、純白の銃身に紅いラインの入った粒子砲。右手に握られているのは、純白に金の縁取りの入った銃身の長い銃。二種類の銃を握りしめ、その銃口を倒すべき相手へ向ける。すぐ近くでパチパチと薪を割って燃え上がる炎が、紅く、二種類の銃とシンを染め上げて行く。瞳に、炎が映る。
 対し、ハニワプリンスも無言で、目の前に居るシンに向かい合い、そのまま立ち続ける。体には無数の亀裂が入っており、ところどころに穴が開いている。それらは黒々としており、中の空洞が露わとなってしまっていた。だが、それを思わせない意志の力が、その体中にオーラと伴うようにして表れている。
 すると、ハニワプリンスは足元に力を籠める。刹那、ドドドドドド、と、再び地響きが発生する。大地は縦に揺れ、大きくひび割れて行く。周囲の木々は、一本、また一本と、その振動によってミシミシと音を立てて倒れて行く。土埃の粉塵が、薄暗い戦場にスモークの如く立ち込める。
 それ程の衝撃が周囲に立ち込める為、上手く照準を合わせる事ができない。その赤い瞳には、目の前に居るオブリビオンの足元から、巨大な馬型のハニワが出現していく様子が映っていた。それは、頭、首、胴体、脚といった順番で出現した。焼いた土の体表は城壁のように堅そうであり、そして、なによりも大き過ぎる。
 そして、地震が止む。そこに、馬型のハニワに騎乗したハニワプリンスの姿があった。彼は今、『ハニ馬召喚』によって召喚した馬型のハニワと戦闘力と生命力を共有している為、いくらか活力が戻って来たようである。
 シンは、態勢を整え、銃を構える。
 土埃が吹き荒れる中、薄暗い空間に立つ者達。銃を構える者と、馬型ハニワに騎乗する者。その様子は、まさにガンマンの決闘のようでもあった。
 間に、緊張が漂う。互いの距離は、約100m。ハニワプリンスが死ぬ気で馬型のハニワを扱えば、すぐにでも到達できる距離である。もし、突進されれば、すぐにでも自分の元へ到達するだろう。もし到達されれば、馬側ハニワの太い脚が、シンを踏みつぶすだろう。恐らく、クルミをくるみ割り人形で割るように、いともたやすく。
 シンは、鼓動が高まるのを感じた。緊張で体が強張っていき、汗がタラリと垂れる。緊張した空気に包まれ、神経が鋭くなっていく。
 …………。
 突如、馬型のハニワが駆けた。
 だが、あまりにも速い。それは、チーターのように突進していき、周囲の空を切る音が轟いた。走ってくる度に、地響きが起こっていく。
 シンはすぐさま意識を、十字の星を重ねた形状の腕輪に向ける。刹那、彼の前方に、光のフィールドが形成された。全力を込めて、そのビームシールドの城壁のように強固なものへしていく。
 すぐさま、馬型のハニワが衝突した。しかし、馬型のハニワは、それを強引に突破しようと、脚に力を込めて行く。火花が散り、上に載っているハニワプリンスの顔もチカチカと照らしていく。ハニワプリンスもまた、このビームシールドを破らんと、必死の面持ちで、眼前の猟兵を見下ろしている。
 そして。
 ビームシールドが遂に破られた。全長30mという巨大な存在が、シンをその蹄で踏みつぶさんと迫ってくる。
 刹那、シンは持っていた真紅のマントを翻し、ハニワプリンスへ向けて飛ばした。バッと音を立てて飛んでいく真紅のマントはヒラヒラと空中を舞い、大きく広がった。
「何っ!?」
 瞬間、視界に真紅のマントが広がった。それは僅かなスペースであったが、ハニワプリンスに死角を生み出した。しかも、振り払おうにも、手の届かないところで漂っており、振り払う事ができない。かといって、馬型のハニワに突撃を中断させ、その真紅のマントを振り払う為に時間を割くのも愚の骨頂。
 仕方なく、そのまま突撃する事にした。
 しかし、シンは既に、馬型のハニワの軌道上から横にそれていた。
 それに気付かないハニワプリンスは、まだ前方にシンがいるものと思い込み、馬型のハニワを進出させる。ダダダダダ、と力強く大地を踏みしめ駆けて行く。そして、シンが居た場所を通り過ぎて振り返ると、その地点から少し逸れたところに、シンが居た。
「しまった!!」
 そして、シンは馬型のハニワに騎乗しているハニワプリンスへ銃口を向けて構える。

 ――貫け、真紅の衝撃!

 ユーベルコード『真紅の狙撃手(スカーレット・スナイパー)』を発動。銃から、3発の紅い光弾が発射された。それは隼のように速く、馬型のハニワに騎乗したハニワプリンスの元へ突撃する。あまりの速さに、ハニワプリンスは何かを言う暇すら与えられない。そのまま、彼のボロボロと化した体に、三つの穴が開き、腹部から3発の弾丸が飛び出して漆黒の夜空へ消えた。
 前方と後方にそれぞれ3つの大きな穴を開けた事で、思わず苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げる。しかし、まだ体は無事だ、といわんばかりに、その黒い瞳をシンへ力強く向ける。今は、この馬型のハニワと生命力を共有している。このユーベルコードを解除しなければ、まだ大丈夫だ。
 だが、直後、体への異変に気付いた。
 体に、マグマのような熱さと、ドライアイスのような冷たさを感じるのだ。二つの温度差に気付き、思わず自分の腹部を見つめる。すると、そこには、熱されて赤くなっている穴の周囲と、冷やされて青くなっている穴の周囲とがあった。それはどんどん広がって行き、やがて、二つは互いに交じり合う。
 ――まさか!
 ハニワプリンスは、顔を青くし、目を見開く。
「焼き物なら、熱線と氷の属性攻撃の温度差攻撃には弱いでしょう」
シンが呟いた、その瞬間。
 パリン!!
 ハニワプリンスの胴体が、その温度差に耐えきれず、大きく割れた。その破片はガラスのように宙を舞い、焦げた地面へドスンと落ちる。その苦痛に呻く。
 だが、シンは油断しない。そのまま銃口を倒すべき相手へ向けたまま、再び引き金を引き続ける。続けざまに、3発、3発と紅い光弾が発射され、ハニワプリンスの体を貫いていく。そして生じる温度差によって、彼の体は熱気と冷気の二重苦に苛まれ、体から破片がボロボロと落ちて行く。それによって、ハニワプリンスは、馬型のハニワを操る意識が削がれて行く。一方の馬型のハニワも、騎乗している主からの指示などが無いため、どうすれば良いのか分からず、その場をただ旋回するだけであった。それはまるで、血にまみれた演舞のようでもあった。
 そして。
 ハニワプリンスは、馬型のハニワから落ちた。地面へドスンと音を立てて衝突する。それと同時、馬型のハニワは、まるで幽霊のように消えてしまった。彼は呻きながら、何とか立ち上がろうと試みていた。もはや、ハニワプリンスに戦う力は残されていないだろう。しかし、それでも一矢報いる事ができるかもしれない。風前の灯火でありながらも、なお、相手を倒すという意志は覆らなかった。
 シンは攻撃を止めた。銃を下ろす。
 踵を返し、そのまま後ろへ下がる。最後は、他の猟兵に任せるとする、そうした意味を込めての事だった。
 
 ハニワプリンスは、満身創痍であった。本来なら、立ち上がる力すら、残されていない筈であった。しかし、彼は、立ち上がった。それは、自分の事などどうなってもよいという意志の元に行った動作である。そう、彼は負ける訳にはいかないのだ。ハニワ達が助けを求めている。あの、野蛮極まる人間の魔の手から、ハニワ達を救出しなければならない。その為にも、自分が負ける訳にはいかなかった。息も絶え絶えに、ボロボロの体に鞭を打ち、フラフラしながらも、相手が居るであろう方向を見つめる。
 そこに、刑部が居た。刑部は、苦しそうにしながらも、まだ立ち上がるハニワプリンスの姿を見て、心を痛めた。そこまでして立ち上がるという決意に、胸が痛くなりそうであった。
 しかし、ハニワプリンスは、刑部を見据える。その黒い瞳には、生気は籠っていなかった。ただ、信念という糸で動かされた人形のようであった。
 そして、ハニワプリンスは、その口をゆっくりと大きく開ける。そして、弱々しく、周囲のものを吸い込んでいく。土埃は彼の元へ吸い寄せられるだけであったし、木々から葉っぱがちぎれるような事も無かった。
 刑部は、彼を楽にさせる為に、剣を取り出す。それは赤錆びているが、切れ味と耐久性は確かなものであった。それが、焚火の炎で、赤くきらめいていた。
 そして、一歩ずつ、刑部は彼の元へ近付いていく。
 ……その時、ハニワプリンスの体が、ビクッと震えた気がした。
 刑部も、足を止める。一体、どうしたというのだろうか。
 だが、突然、ハニワプリンスの様子が変化した。
 口へ吸い込む空気の量が、みるみる内に増えて行き、やがてそれは周囲に土埃や木々の枝葉を吸い込んでいった。
 思わず、刑部は目を閉じそうになる。
 ギュオオオオオオ!!!
 凄まじい音を立てながら、周囲のものを吸い込まんとすべく、吸引を続ける。盗人達と戦った建物の瓦屋根から瓦がクラッカーのように軽々と宙を舞い、その口へと収まって行く。その風圧によって、乱立する木々の内の一本が、ミシミシと音を立てて、やがて、倒れてしまう。刑部もまた、足で踏ん張らないと、彼の口の中へ吸い込まれてしまいそうだった。その口は丸く、そして、闇のように濃い黒色をしていた。まるで、ブラックホールを思わせるような、そんな威圧感を放っていた。
 そして、その口元に、小さな光の粒子がフワフワと漂い始めた。それは蛍や夜光植物のように、美しく輝いていた。それらが、何十、何百と、現れては吸い込まれていく。それらはまるで、食事のように彼の体内へ入り込み、彼の中に力を与えているかのようにさえ感じられる。
 刑部は、他の猟兵達へ目配せし、散開するよう伝える。
 そして、振り返った際に、刑部が見たものは、ハニワプリンスが口を開いた瞬間であった。
 刹那、口から、巨大な光の奔流が放たれる。
 だが、それは、今までの『ハニワビーム』と、比べ物にならないものだった。
 柱程の太さだったそれは、巨大なクレーター程の直径であり、新幹線程の速度であったそれは、音速並みの速さであった。大地をバターのように溶かす熱量は急増し、周囲をボイラー室のように熱していた。
 刑部は直観した。相手は、自分の命を犠牲にする覚悟で、最後の一撃を繰り出しているのだ、と。そして、この一撃で、猟兵達との戦いに決着をつけようとしているのだという事を。
 その口が開いた瞬間、刑部は咄嗟に回避運動を取る。しかし、ハニワプリンスの放つビームは、あまりに太く、速い。避けきるには時間が無い。
 すぐさま、手に持っていた剣――スクレップ――を前方へ構える。刹那、その武器へ膨大な光のエネルギーが降り注ぐ。視界が真っ白に染まる。体中が、まるで熱した鉄を押し付けられたかのように暑くなる。刑部は、思わず目を閉じた。
 瞬間、脳裏によぎる記憶があった。それは、様々な記憶であった。近所の綺麗なお姉さんから、猟兵になったお祝いとして、丈夫で黄金色の糸を貰った記憶。依頼で訪れたキマイラフキューチャーの世界での出来事。多種多様な記憶が、涙のように流れ込む。それを、人は、走馬燈と呼ぶのかもしれない。
 刑部は、覚悟をした。
 ……。
 その時。

 信じられないような事が起こった!!

 突如、ポケットから何かが飛び出した。そして、ソレは巨大な光の奔流に対し、同じくビームを放出する。
 二つの光の奔流が互いにぶつかり合い、バチバチと火花が散り、轟音が山や『ハニワ町』へ響き渡る。
 そして。
 相手が放った光の奔流は、夜空へと軌道が逸れ、天高く向かっていく。そして、それは夜空の厚い雲に大きな穴を開け、やがて、束が収束するかのように消失した。
刑部は、何が起きたのか、分からなかった。ゆっくりと、目を開ける。
 遥か遠くでは、ハニワプリンスが、ワナワナを震えているのが見えた。だが、その近く、刑部のすぐ近く、その前方に、何かがあった。
 ……ハニワだ。
そう、町で歌を披露した際、とある町人がくれたハニワであった。
そのハニワは、刑部の方を振り向いたかと思うと、ゆっくりと小麦色の地面へ落ちて行き、コトリ、と音を立てて転がった。
刑部は、屈んで、そのハニワを拾う。ハニワの顔は、笑っているように見えた。
「な、何故だ……」
 ハニワプリンスは、震え声をあげ、信じられないようなものを見るかのような目つきで、刑部の手に収まっているハニワを見た。
「何故だ……。猟兵は、ハニワをぞんざいに扱う人間の味方をしているのだぞ……。何故だ、何故……、猟兵の味方をするのだ」
 そのうろたえた声を聴きながら、刑部は、手の中に納まったハニワを見つめ続けていた。その顔には、小さな、そして固い意思を感じ取った。
 刑部は、震えているハニワプリンスへと向き直る。その瞳は、眼前の相手を、しっかりと見据えている。
「それは違うと思います」
 毅然と、そう言った。
 ハニワプリンスは我に返り、刑部の方を見つめる。
 その声は歌声のようであり、山の中のみならず、『ハニワ町』にも届いていた。
「確かに酷い扱いをする人もいますが、この町の人が全てそうだとは思わない。ステータスの一つにしていましたが、奪われたら心が折れるほど大切にしてました。ハニワの事が好きなんです!」
 その声は、天高く、高らかに響き渡った。それは教会の鐘のように、音の波となって周囲に広がって行く。澄んだ声が、木々を、町を、人々を、震わせ、包み込んでいく。
 誰も、何も言わなかった。
 ハニワプリンスも、春風も、焚火も、木々も、『ハニワ町』に居る人々も、誰もが、しんと静まり返ったかのように口を紡ぎ、その言葉に想いを馳せていた。それは、真の意味での静寂であった。
「だから貴方を止めます。少なくともそれが私を助けたハニワの想いだと思うから!」
 高らかに宣言し、飛び上がる。そして、手に持った剣を天高く掲げる。

 ――これで……!

 ユーベルコード『嵐塵滅砕斬(ドゥーラオーラクラディアクオ)』を発動する。
 すると、赤錆びた剣から、一陣の風が巻き起こる。それはやがて暴風となり、この場を包み込む。次第に力を増していき、やがて、暴れ狂う嵐のように吹き荒れて行った。周囲の木々は次々にメキメキと音と立てて倒れ、焚火はジュボッと音を立てて消える。地面の土や葉っぱが舞い上がり、円を描くように宙を舞っていく。
 闇に包まれた中で紫の瞳は、一寸先も見えなくなった闇の中で佇むハニワプリンスの居場所を見据えていた。例え相手が見えなくとも、当てて見せる。その瞳は力強い。戦士の目だ。
 そして、刑部は、その剣を振るった。
 刹那、その剣に暴れ狂う嵐のような暴風が収束していき、それが衝撃波となってハニワプリンスへ突っ込んでいく。
 ハニワプリンスは、動かなかった。そして、その衝撃波を、その身に受け続けた。そして、ポロリ、ポロリ、と、破片がこぼれて行く。それらは周囲を旋回する暴風に巻き込まれ、宙を舞っていく。
 ハニワプリンスは、闇の中、実感した。ああ、自分は倒されるのだと。自分のボロボロな体は今、破片が一つ一つ、削り取られている。それは、命を終えようとしている大樹が、葉っぱを一枚一枚、地面へ落としているかのような感覚であった。ハニワプリンスは、瞼が無いために、目を閉じる事ができない。しかし、彼は、心の中で、目を閉じ、自身の敗北を認めた。
 闇の中で、破片が削り取られていく音を聞きながら、刑部は理解した。ハニワプリンスは、この攻撃を避ける事なく、全て受け止めているのだという事を。それが何を意味しているのかも、また、理解していた。そして、その衝撃波を与え続けた。
 ……そして、数分が経過した。
 破片が削れる音が、消えた。
 刑部は、『嵐塵滅砕斬(ドゥーラオーラクラディアクオ)』を解除した。そして、剣をしまい、ハニワプリンスが居たであろう場所を見る。
 しかして、そこに、ハニワプリンスの気配は無かった。
 ハニワプリンスは、猟兵達によって、倒されたのであった。

●決闘後:ハニワを愛するということ
 戦いは、終わった。
 辺りは、散々たる荒れ方だった。大地はバターのように溶け、木々は何本も倒れ、建物は壊れ、焚火は消えてしまっている。そんな惨状を慰めるかのように、春風は優しく吹き、残った木々の枝葉がサワサワと音を立てる。春の陽気が猟兵達を優しく温かく包み込み、その疲れた体を労わっていた。
 
 ――次があればその時はもっと平和的な方法で、人間に歩み寄って同胞を救ってください。家族を思う気持ちはハニワも人間もきっと変わりないのですから。
 ヴィルジニアは車椅子座ったまま、ハニワプリンスが最後に居た場所を見つめながら、人間と歩み寄れるその時へと想いを生えていた。

 ――仲間への想い、確かに受け取った。僕は貴方という一人のハニワを忘れはしない。
 木目もまた、ハニワプリンスが最後に居た場所を見ながら、仲間を強く想う好敵手を忘れないという決意を抱いた。

 ――…私も先祖伝来の┌|∵|┘を大切にしているのですよ。
 今はもういないハニワプリンスに対し、シンもまた、ハニワを愛するものであった事を呟くように伝えた。

 それぞれが、一寸先も見えぬ闇の中、想いを馳せていた。ハニワを愛し、その同胞を助けようとしたオブリビオン。彼の存在は印象深く、今でも、彼の息遣いが聞こえてきそうであった。
 と、その時である。
 不意に、視界が開けてきた。一寸先も見えない闇ではあったが、そこに、光が差し込んだのである。
 何が起きたのか、ふと、空を見上げる。
 すると、そこに見えた。
 巨大な、白くて丸い月。そして、無数に輝く星々が。
 黒く厚い雲は、春風に流され、遠くへ消えて行った。そこにあったのは、月と星が宇宙の海に漂う、幻想的な光景であった。悠久の時を思わせるかのような闇に、大自然の輝きが舞い降りたのである。
 『ハニワ町』に居た町人も、初めて見るであろう月と星々に、目を奪われ、口を開けて見入った。その夜空は、とても美しく、そして、神秘を感じさせた。それは、ハニワと同じように、ロマンに溢れ、美しかった。
 その時、夜空に浮かんでいた一等星が、キラリと光った。それらは幾つもあり、まるで、何かを象っているかのようであった。
 それが何なのか、皆、直観で分かった。
 ……ハニワだ。
 その星座は、猟兵や町の人々、そして、多くのハニワへ向けて、笑顔を向けているようでもあった……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年03月27日


挿絵イラスト