シャル・ユー・ダンス
●楽園のような場所
『魂人』の青年は、ひとり佇んでいた。
生前はたしかに地獄そのものであった。常闇の世界。結局己は青空というものを知らずに死んでしまった。
けれど、何故か心にあるのは、あの焦がれるような想いと共に脳裏に浮かぶ見知らぬ色であった。
蒼穹。
どうしても己の眼でみたいと願ったそれは、結局の所叶わなかった。
「……生きている。俺は、まだ生きている」
死したがゆえに『魂人』として転生した青年は、あの禁獣と呼ばれる怪物より救われた。それは幸いであったし、同時にこれからも長く続く苦しみと痛みに向き合わねばならないということでもあった。
「苦しい。苦しい。苦しい。生きていることが苦しい。けれど、それ以上に……俺は」
生きることをやめられない。
死して転生した身であっても、苦しみばかりが苛む現実ばかりが襲いかかってくるのだとしても、それでも生きることをやめられないのだ。
そんな彼の目の前にあるのは『花々と建造物で彩られた美しい村』だった。
生前でも見たことのない美しい花々。
咲き誇る花々はあまりにも常闇の世界とはかけ離れた光景を彼の目に焼き付けた。呆然としてしまうのも無理なからぬことであった。
「……どういうことだ、これは」
「あ、キミも此処にたどり着いたみたいだね。歓迎するよ」
遠巻きに村を見ていた青年の下に村人であろう『魂人』が駆け寄ってくる。彼は屈託のない顔をしていた。
笑顔すら見せるようでもあった。
それがどうにも違和感を覚えさせる。どうしようもなく違和感を青年に覚えさせた。
「あんたは……」
「ああ、僕はこの村の住人だよ。さ、早く村に戻ろう。あの村の中ならば、僕らの衣食住は保証されているし、迫害なんかもない。この場所は、この世界にあって稀有な楽園なんだよ」
青年の手を引いて村人が歩いていく。
透き通る体であるが、これまでダークセイヴァーでみてきたような人間の肌ではなかった。血色がよい。栄養状態がいい、とさえいえるだろう。
それに生傷が一つもない。
困惑が青年の中に広がっていく。
「闇の種族、というやつは……奴らの襲撃の心配はないのか」
「ああ、使いのものはやってくるけれどね。彼等の求めにさえ従っていれば、脅かされることなんてない。僕らは漸くにして楽園にたどり着いたんだ。あれだけ惨たらしく殺されるだけの人生に追われて、漸く転生という手段でもって救われたんだよ!」
「……救われ、た……」
青年は苦しみを未だに抱えている。それだけは手放してはならないと本能が叫んでいる。
『戦いに際しては、心に平和を』というのならば、今は戦いではないのか。
『己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力』と、今も心が叫んでいるような気がしたのだ。
だから、青年は苦々し顔をしている。けれど、村人はそんな青年の表情に気が付かぬまま、ただ笑顔のまま、この『箱庭』たる『楽園』しか見ていないのだった――。
●しなければならない
「ねぇ、いつも思うのだけれど、一度も踊らない人生なんてあるのかしら?」
『赤い靴のカーレン』は誰に言うわけでもなく呟いていた。
彼女のが見下ろすのは『箱庭』。無論、そう思っているのは彼女だけであった。何故ならば、その『箱庭』に住まう『魂人』たちは皆、この『箱庭』以外のダークセイヴァー上層を知らぬ。
彼女は深く傷つきながらも転生した『魂人』たちを手厚く『箱庭』に集め、世話をしていた。まるでアクアリウムの美麗さをうっとりと眺めるようでも在った。
「幸せそうよねぇ。誰にも害されることなく。誰とも食を争うことなく腹を満たして。でも、あの子ら、一度も踊らないのよね。人の生み出した叡智の一つでしょう? 踊ることって」
花が咲き誇り、きらびやかな光景がひろがる村。
それは言うまでもなく無論、仮初であり虚構である。『赤い靴のカーレン』が能力で生み出した水槽のようなもの。誰も逃さない。誰も逃げようとはしない。
環境を整え、時折手助けをする。
それだけで彼等は幸せそうに生きている。苦しみと痛みばかりであった下層の世界のことを彼等はもう忘れようとしている。
「異なる生命がわかりあうのに言語は要らない。必要なのは意志を伝えること。それって、一番近いのが踊ることだって思うのだけれど……やっぱりダメなのね。渇望無き安寧には、何も生まれるものがない。飽きたわ」
彼女と『魂人』は根本的に異なる存在だ。
言葉や姿形が似通っているだけで、本質的なものは別物だ。だから、わかりあうためには踊らねばならない。
なのに、『魂人』たちは安寧に沈むばかりで踊ろうとはしない。
『赤い靴のカーレン』に何も伝えようとしない。
それは彼女にとってあまりにも退屈なものであった。
「だから、踊りましょう。シャル・ウィ・ダンス? なんてわざわざ言う必要はないわよね。だって、あいつらまるっきり私と違うのだもの」
今や幸福の絶頂。
意図したわけではないけれど。けれど、結果としてそうなってしまう。天頂にあるときにこそ、堕ちた時の痛みは計り知れないもの。
彼女にとって、それは別段とりとめのないことであった。踊ることに比べれば――。
●愛玩の庭
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回私が予知したのは、ダークセイヴァー上層……そこに存在する『花々と建築物で彩られた美しい村』……なのですが」
ナイアルテが口ごもる。
何故なら、それはさながら楽園のような様子であったからだ。けれど、その楽園が『闇の種族』によってなされ、気まぐれで幸福の絶頂から叩き落とすように踏みにじられることを意味していたからだ。
「ダークセイヴァー上層に存在する闇の種族。彼等は気まぐれに造成している『箱庭』に未だ、この新たな地獄を知らぬ『魂人』たちを匿い、安寧に過ごせる村を管理しているのです」
額面通りに言葉を受け取っても、それが本来人が持っているような優しさや慈悲から来るものではないことを猟兵達は知っているだろう。
「『赤い靴のカーレン』……そう呼ばれる闇の種族が造成する村は、突如として来訪した彼女によって破壊されるのです」
どうしてそのような真似を、と彼女に問うた所で納得のいく答えは返ってこないだろう。
だが、確実に言えることがある。
彼女は己の欲求を満たすためだけに『魂人』たちを匿い、そして生命を奪い、ささやかな幸福、それすらも踏みにじろうとしているのだ。
「皆さんには、この村を訪れ訪れる『赤い靴のカーレン』を迎撃する準備を整えてください。例え、彼等に現状を伝えたとしても村人たちは皆さんを信じてはくれません。戦いの巻き添えを食う可能性だってあるやもしれません」
どうにか彼等を守らねばならない。
それが難しいことは百も承知である。
ナイアルテは猟兵たちを転移させる準備をはじめながら、頭を下げる。
どうしたって苦しみからは逃れられない。彼等は今、僅かにえた安寧に浸っている。それが壊れる。
猟兵たちの到来はその先駆けでしかないのかもしれない。
けれど、それでも理不尽に奪われないためには――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
ダークセイヴァー上層に存在する闇の種族の造成した『魂人』囚える『箱庭』の罠。
彼等を救うことは困難を極めるでしょう。
けれど、彼等を救うことを諦めぬ皆さんの戦いのシナリオになります。
●第一章
日常です。
皆さんは『箱庭』の村を訪れ『魂人』たちと交流しながら、迫る闇の種族である『赤い靴のカーレン』を迎え撃つ準備を整えます。
けれど、この『箱庭』の『魂人』たちは皆、外界を知らず純粋に『ダークセイヴァーで死んだ後、ようやく死後の世界で安寧を得られた』と思い込んでいます。
そのため、外界の状況を伝えても、信じませんし、受け入れない者がほとんどです。
ただ、この『箱庭』に一人の『魂人』の青年がごく最近迷い込んだため、すべての人が皆さんの言葉に耳を貸さないというわけではありません。
時には方便も必要かもしれません。
彼等をつつがなく戦いから遠ざけるために方策を考えましょう。
●第二章
ボス戦です。
『赤い靴のカーレン』と呼ばれる闇の種族が到来します。
彼女が到来した瞬間、楽園とも言えた村は、即座に炎に包まれます。熱が襲い、村はたちまちに危険な状態に堕ちいいるでしょう。
突然の炎に村人たちはパニックになり、逃げ惑っています。
彼等を一人でもおおく助け出し、『赤い靴のカーレン』からの猛攻をかいくぐって、この地を脱出しなければなりません。
ですが、『赤い靴のカーレン』は超強敵です。
村が崩壊するまでの時間制限もあるため、無理に撃破をしようとすれば皆さんが逆に打倒される可能性もありますし、『魂人』が犠牲になる可能性もあります。
撃破よりは、攻撃を掻い潜るなりしつつ、撤退戦を行うほうが現実的です。
『魂人』たちを全く考慮しない場合は、撃破も可能かもしれません。
●第三章
『赤い靴のカーレン』を撃破したにせよ、撤退戦が成功したにせよ、もはや『魂人』たちはこの場所にはいられません。
近隣の集落が幸いに存在しています。そこに彼等を避難させなければなりません。
ですが、最寄りの集落への移動であっても、隔絶された場所にあった『楽園』ゆえに、猛毒や食肉花が咲き誇る花園を突っ切らねばなりません。
それでは、仮初の楽園を追われる『魂人』たちの決死行を助ける皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『束の間の安息』
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POW : 食事や休養で英気を養う
SPD : 周辺状況を確認する
WIZ : 現地の魂人などと交流する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
確かに村は『楽園』そのものであった。
美しい花々が咲き誇っているし、食料も十分に存在している。外敵の存在も感じられず、牧歌的な雰囲気すら漂っている。
この常闇の世界ダークセイヴァーにおいて、だ。驚くべきことに。
だからこそ、『魂人』の青年は訝しむ。
おかしいと思うのだ。苦しいとも感じる。ここには喜びと楽しさしかない。苦しみも怒りもない。だからこそ、彼は言うのだ。
「あんたたちはおかしいとは思わないのか。こんな場所があるということが」
「僕たちは死んだんだ。紛れもなくね。あの暗闇だけが続く世界で。死した後に転生した此処は、本当に良いところなんだ。あの世界とは全く違う。ここには何の苦痛も存在していない。だから、喜ばないと!」
青年は村人の言葉に、喉が支えるような思いであった。
彼は見てきた。
あの禁獣と呼ばれた異形なる存在を。あのような存在が跋扈する世界が、あの常闇の世界以上の悲しみと苦しみに満ちていないわけがない。
「もうすぐこの『楽園』で僕らを守ってくれている方が来てくれる。あの方を見れば、きみだってもう疑いようがないはずだよ。ここが『楽園』だってね」
村人の言葉に青年は否定しきれない。
何故ならば、彼等は信じ切っているからだ。
人は信じたいものを信じる。
見たいものを見て、聞きたいものだけを聞くように。
喜びと楽しさしかない世界は、ただ怠惰なだけだ。何もしなくていい。何も喪わなくていい。何も得られなくていい。何も欲しなくていい。
「――俺は」
青年は途方にくれる。
苦しみを得て生きる彼にとって、村人たちの安寧を否定することはできない。
己の言葉はどれもが彼等には届かないだろう。
たとえ、脅威が訪れたとしても脅威とは認識できないままに、徒に……踏みにじられるだけだとしても――。
リーベ・ヴァンパイア
……悪趣味、ここに極めりだな。ここまで趣味が悪いのはヴィランでも早々居ないぞ(己の世界の悪を思い出して、男はため息を吐く)(ダークセイヴァー、己と同じ吸血鬼が世界を支配していたとされる世界。しかし、その上には更なる上位の存在がいて、それらが民を玩具として弄ぶ、邪悪な世界)
…今はまだ全てを救えないが、それでも救える命はある。
必ず助けなればな
(それがせめての、かつて吸血鬼に苦しまされた者達への償いになるなら)
方針
村に行ったら、まずは彼等とこの村での生活について話ながら、村の案内をして貰おう。そして、その中で村の出入り口、襲撃の際に身を潜められそうな場所を確認する【戦闘知識】
さて、上手くいくといいが
「……悪趣味、ここに極めりだな」
リーベ・ヴァンパイア(Notwendigkeit・f37208)はダークセイヴァー上層にある花々咲き誇る楽園の如き村を見やり、そう呟いた。
見た目だけを言うのならば、たしかに『楽園』そのものであったことだろう。
ダークセイヴァーという常闇の世界に生きる者にとって、そうとしか感じられないものであった。
オブリビオンであるヴァンパイアに虐げられ続けてきた人生。
その苦難と苦痛にまみれた生の後で、このようなまばゆい平穏に慣れきってしまえば、村人たちのように考えるのもしかたのないことであったのかもしれない。
「ここまで趣味が悪いのはヴィランでも早々居ないぞ」
リーべは己の世界のことを思い出す。
此処まで劣悪な世界ではないけれど、誰もが強く非ねばならない世界。その世界と同列に語ることはできないが、それでも彼にとってこの世界はいびつそのものであった。
さらに言えば、この世界にあって『楽園』の如き村は『闇の種族』による『箱庭』である。ただ、幸福の絶頂にある『魂人』たちの心を踏みにじるためだけの舞台装置。
彼にとって、それは許しがたいことであった。
自身もまた貴種ヴァンパイアである。
しかし、この世界のオブリビオンとはことなれど、同じく吸血鬼であるということが共通している
ゆえに、歯噛みするものであったことだろう。
「……今はまだ全てを救えないが、それでも救える生命はある。必ず助けなければな」
これはきっと償いだ。
リーベが何かをしたわけではない。どちらかと言えば、己は奪われた側である。けれど、どうしても己と同じ種族の名を持つ存在が虐げてきた者たちが、さらに上位の存在に寄って玩具とされるのは、どうしようもなく許せないことであったのかもしれない。
邪悪で、いびつな世界。
それがダークセイヴァー上層であるというのならば、リーベはこれを償いと呼ぶだろう。
村に足を踏み入れれば、『魂人』たちは誰もが安寧に浸りきった顔をしている。笑顔だ。明るい顔をしている。
リーベを見ても、歓迎するような雰囲気さえあるのだ。
「ようこそ、君は……『魂人』ではないようだけれど、どこからか迷い込んだのかな?」
「なに、心配することはない。此処は『楽園』そのものだ。誰も君を迫害しようなどとは思わない。さあ、おいで、食べ物も十分にあるんだ」
彼等は助け合い、そして他者を虐げることをしない。
それは嘗て自分たちがされてきたことであるからだ。その悲しみも苦しみも痛みも理解しているからこそ、他者に優しくなれる。
たとえ、今ここでリーベが己もまた吸血鬼だと発言したとしても、それすらも寛容に受け入れ、この『楽園』での暮らしをすすめるだろう。
おぞましいほどの優しさ。
人のもつ本来の優しさであったとしても、ここはおかしいと感じるだろう。
「ありがとう。できれば、村の出入り口を教えて欲しい」
「でていかなくたって大丈夫だよ。君は何も、もう奪われることはないのだから」
「君が入ってきたところが出入り口さ。そこだけなんだ。この『楽園』をもって僕らを守ってくださっている方の使いの人の言いつけでね」
出入り口は一つ。
リーベは礼を告げながら、出入り口を見やる。
もしも、『闇の種族』――村人たちが言うところの『楽園』を生み出した張本人がやってくるのならば、あの出入り口だけということになる。
身を潜めることはできそうである。
うまく行くかはわからない。言うまでもなく『闇の種族』は強大な存在だ。猟兵をしてもなお、超強敵と言わしめる存在。
戦って倒せないかもしれない。
けれど、リーベは己の為すべきことを、償いをすることをやめないだろう。
そういう彼だからこそ、猟兵として目覚めたのかも知れない。
救われなかった生命が数多ある。
ならば、救われた己は、生きている己は、何をなさねばならないのか。
それをリーベはよく理解しているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
以前にこの世界来た事あるけど
確かにそこと比べてこの村は住みやすそうに設えてあるな…
安穏な暮らしを与えて観察に飽きたら村ごと潰す、か
やっと得た楽園…ね
貧しいけど過酷な生活をしてないオレには村人をどうこう言えない
不安を煽っても「ここは楽園」って意固地にさせそーだし
…ただ村人は警戒心も無いみたいだから入り込むのも村を調べるのも簡単そ。
村の地形、「あの方」について
あと村人たちが「生前」どんな暮しだったかを聞いたり【情報収集】
なんでそんな生前を憶えてんのかね
「天災」はあるかもよ?と危険を予告【催眠術】
青年にも接触
どしたのさ?
独り浮かない顔だねにーさん
危険に備えるのは正しいぜ
もしもの為に脱出路とか考えよ?
オブリビオン支配盤石たる世界、それがダークセイヴァーである。
常闇の世界にあるのは隷属と支配のみ。
人はヴァンパイアにとって虐げる存在であり、家畜以上の意味は持たない。けれど、ここダークセイヴァー上層は『闇の種族』によって、さらなる悲哀に満ちてい
る。
だが、『楽園』の如き『箱庭』……花々が咲き誇る村にある『魂人』たちはまだ知らない。ここがさらなる地獄であることを。己たちが家畜よりも劣る玩具でしか
ないということを。
誰も彼等を責められないだろう。
何故なら、彼等の生前は苦痛にまみれていたからだ。
力なき者は淘汰されるのではない。ただ力あるものに利用されるだけなのだ。
「……確か下層……第四層とくらべて、この村は住みやすそうに設えてあるな……」
鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は、村の中に踏み込み、周りを見回す。
特に変わった場所はない。
いや、ダークセイヴァーにおいてはあまりにも平穏そのものである。こんなこと、第四層ではありえなかった。
誰もが怯えていないといけなかった。
いつ生命が奪われるかわからぬ状況の中で人々は生きていなければならなかったのだ。
「安穏な暮らしを与えて観察に飽きたら村ごと潰す、か」
それが『闇の種族』のやり口である。
『魂人』たちにとって、ここは楽園。
トーゴは彼等ほど過酷な環境に身を置いたことはなかったのかもしれない。だから、彼等が騙されていたのだとしても、それをとやかくいう事はできなかった。言
えそうにないというのが正しいところであっただろうか。
かといって、真実を告げても意固地にさせてしまうだろうということは簡単に想像できた。
けれど、彼等に警戒心はない。
もしも、転生する前の彼等であったのならば、違和感を感じさせぬ猟兵であれど警戒はしただろう。
「どうしたんだい? 何か不安なことでもあるのかい?」
「大丈夫だよ、何も心配することはない。ここは『あの方』が守ってくださっているのだから」
そんなふうに村人たちがトーゴに言う。
彼がこの村に足を踏み入れても、村人たちは歓迎してくれた。人が良いから、というだけではないだろう。本当に此処が『楽園』だと信じていなければでてこない
言葉であった。
「あの方っていうのは、結局どんなやつなんだい?」
「女性の方ですよ。きれいな赤いドレスをまとった金髪の女性。とても美しい方ですよ」
その言葉にトーゴはうなずく。
頻繁にではないが、此処に姿を現している『闇の種族』。外見が人間と変わらないということは、『魂人』たちにとっても幸いであったのかあもしれない。
「本当に此処は良い場所だよ。俺たちが前に生きていた所有は……ひどかった。誰も彼もがヴァンパイアの影に怯えなければならなかった。それを考えれば、今の暮
らしは……」
本当に天国に来たかのような思いなのだろう。
「飢餓の心配もない、争う必要もない、外敵が来ることもない。ありがたいことだよ……」
そんな彼等にトーゴは告げる。
これが真実であるが、彼等はきっと受け入れてくれないだろう。
予告しても予知しても、どんな言葉であっても、彼等は心の片隅にそれを残しても、大したことにはならないと思うだろう。
「それでも『天災』はあるかもよ?」
トーゴの言葉に村人たちは一笑に付すのだ。わからないでもないとトーゴは思うだろう。
彼等は安心しきっている。だからこそ、『闇の種族』は彼等の幸福を今、踏みにじるのだろう。
「……」
「どうしたのさ? 独り浮かない顔だね、にーさん」
トーゴはそんな彼等を見ている青年の『魂人』に近づく。
「俺はどうしても彼等のようには思えない。どうしたって……」
「ま、わからないでもねーぜ。危険に備えるのは正しい。もしものために脱出路とか考えよ?」
トーゴの提案に『魂人』の青年はうなずく。
今はそれだけしかできないのだとしても、トーゴが予告したように『天災』の如き『闇の種族』はやってくるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
本当に悪趣味で理解しがたい。いえ、理解したくないやつですねー。
(中でも三人が首肯している)
救える命があるのならば、いくのが私たち四悪霊。『魂人』と近しいですからねー。
さて、村についたら他愛のない話をしつつ。おや、何か苦々しい顔をしている青年がいますねー?
…その表情からして、怪しんでます?今の状況。
ええまあ、ここの種族が黙ってるはずがないんですよー、と話しますね。ここね、上層なんです。
そして、水場を確認しますかー。気休め、といった感じですが…あるのとないのとでは違いますのでー。
『闇の種族』はダークセイヴァー上層にありて、下層にて支配を続けるヴァンパイアたちよりもさらに狂気に満ちた存在であるといえるだろう。
人の幸福の絶頂を狙って踏みにじる。
それで誰が得をするわけではない。
ただ、『魂人』たちにさらなる苦痛を与えるだけだ。彼等は第四層たる世界で苦しみ、痛みに耐え、そして死した存在だ。
確かに暖かな記憶もあるのだろう。だからこそ、永劫回帰たるユーベルコードに寄って死を否定し続けることができる。
けれど、その暖かな記憶もまた僅かなものだ。
その記憶がなくなった時、『魂人』は耐えられず、発狂する。
生きていても地獄。死んでも地獄。
「本当に悪趣味で理解しがたい。いえ、理解したくないやつですねー」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中にある四柱全てが、同じ思いであった。
『疾き者』が今は表にでている人格である。
例え、束ねられた魂が異なる者たちであっても、その思いは同じだ。
救える生命があるのならば、何処へでも征くのが四悪霊である。
「なにしろ『魂人』と近しいですからねー」
すでに死した存在。
転生したか、そのまま留まったかの違いでしかない。
彼等がまたオブリビオンによって虐げられるのならば、『疾き者』たちは即座に駆けつけるだろう。
こうして予知によって駆けつけられたことこそ僥倖であると思うべきであろう。
「……おや?」
そこで『疾き者』は気がつくだろう。
『楽園』の如き村に独り佇む青年。
あれなる『魂人』の青年は、数日前に禁獣と呼ばれるオブリビオンより救った者である。彼が此処に流れ着いたことを知った『疾き者』は近づいていく。
けれど、彼の表情は他の村人のように明るくはない。
「……あんたは」
「ええ、どうもその説は。おや、苦々しい顔をしていますね?」
「……ああ、あんたは、そう感じないのか?」
青年の言葉に『疾き者』はうなずく。
この状況は確かに『魂人』たちにとって歓迎すべきものであった。
外敵から襲われることもなければ、身内で争うことも、悲しみにくれることもない。飢餓を恐れる必要もない。
何もかもが満ち足りている。
ここが死後の世界であるというのならば、こんなに素晴らしいことはないだろう。
「……その表情からして、怪しんでます? 今の状況」
「俺はただ苦しいと感じるだけだ。みなのようにはできない。おかしいと思う。どう考えても」
「ええまあ、ここの種族が黙っているはずがないんですよー」
『疾き者』は青年に告げる。
彼が感じていることが正しいのだと。確かに流されたいと思うだろう。この平穏に浸かり続けていたいと思うだろう。
誰だってそう思うはずだ。明日も同じように平穏無事な日が訪れるのだと信じたいだろう。
「ゆえに『闇の種族』は踏みにじる。ここが上層という場所なのです」
『疾き者』はそう告げて、水場を確認する。
青年はあちらに水飲み場もあれば、下水を流す場所もあると告げてくれる。何かをしなくては、と思うこともあるだろう。
だが、できることは少ない。
何もかもが気休めにしかならないだろう。
けれど、『疾き者』も青年も死して尚あがくものであるのならば。
「……あるのとないのとでは違いますのでー」
そのひとみにあるのはユーベルコードの輝き。
四悪霊・『改』(シアクリョウ・アラタメ)は此処に在る。ただオブリビオンの為すことを止め、滅ぼすために。
そのためにこそ彼等は束ねられ、一つになったのだ。蘇るでもなく、転生するでもなく。
ただ、現世に留まり、身の内側より溢れる呪詛を持ってオブリビオンを滅ぼす。ただそのためだけに彼等はこうしてまだ存在し続けているのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
果実変性・ウィッシーズブレイカーを発動。
自律機動させずに全て精密操作しつつ、126機……いえ、126隻全ての上にアマービレで呼んだねこさんを数匹乗せます。
皆さん注目ー!わたし達は旅のねこねこサーカス団!
本日お見せするのは世にも不思議な空飛ぶお手々に乗るねこさん!
うまく乗れたら拍手!なのですよ!
更に今ならねこさんと一緒にお手々に乗るチャンス!
お代は10分間でお花1輪!それだけでって?この村以外ではお花は貴重ですからね。お代としては十分なのですよ。さぁ、乗りたい人は順番に!
これで慣れてもらえば本番でも逃しやすいでしょうね。
また会いましたね。貴方も折角ですしどうですか?気晴らしにはなるかもですよ?
『楽園』の如き村。
それは花が咲き乱れ、清浄なる空気に満ちた『箱庭』であった。いや、七那原・望(封印されし果実・f04836)にはそうとしか見えなかった。
『楽園』とは表層のみ。
その表層の内側にあるのは『闇の種族』のドロドロとした欲望の謀だけであった。
この村にたどり着き、囲われている『魂人』たちは全てがダークセイヴァー上層の現状を知らない。
いや、知り得ていない。
何故ならば、この『箱庭』を作り出した『闇の種族』によって外の状況は隔絶され、隠匿されているからだ。だが、村人たちにとって、それは重要ではない。
己たちが今、幸福であるということだけが重要であったからだ。
それも無理なからぬことであっただろう。
彼等はダークセイヴァーにおいて虐げられてきた。死ぬまでそれは止むことはなかったし、抗うことをしたとしても、待っているのは死ばかりであった。
誰も彼等の無知を、そして現実から目を背けたいと思う心を責めることはできないだろう。
だから、望はやり方を変える。『闇の種族』が絶望を齎すのならば。彼女は希望を見せる。
「皆さん注目ー! わたしたちは旅のねこねこサーカス団!」
望の声が村の中に響き渡る。
なんだなんだと村人たちの視線が望に向かうだろう。彼等は見た。そこにあるのは無数の手甲。さらにその上に乗る小さな猫たち。
あまりにも珍しい光景。
宙に浮かぶ手甲もそうであるが、猫たちのなんとも愛らしいこと。
それは、望のユーベルコード、果実変性・ウィッシーズブレイカー(トランス・ウィッシーズブレイカー)によってもたらされた光景であった。
「本日お見せするのは世にも不思議な空飛ぶお手々に乗るねこさん! うまく乗れているでしょう? 拍手! なのですよ!」
望の言葉に人々は湧き上がる。
珍しい、ということもあるだろうし、それ以上に猫の愛らしさに村人たちの表情が緩む。
心をつかむことには成功した。
ならば、次は、と望は段階を引き上げる。これはただの慰問でもなんでもないのだ。これは慰問に見せかけた訓練だ。訓練を訓練と感じさせない。それが望のとっ
た手段である。
「更に今ならねこさんと一緒にお手々に乗るチャンス! お代は10分間でお花一輪!」
「それだけでいいのかい? 食料とかもあるんだよ?」
「いえいえ、この村以外ではお花は貴重ですからね。お題としては十分なのですよ」
望の言葉に村人たちは納得したようであった。
『闇の種族』は意図的に外の状況を彼等に伝えていない。ならば、今の望の言葉に簡単に納得するのだ。
それに珍しい催しとあれば、惹かれてしまうのも無理なからぬこと。次々と集まり花。そして、手甲と猫と共に宙に飛ぶ村人たち。
甲高い声や、喜びの声が聞こえてくる。
例え、ここが偽りの楽園だったのだとしても今だけは本物のであった。
こうしておけば、有事の際に手甲で彼等を逃すことも無理なく行えるだろう。『闇の種族』は強大である。ならばこそ、こうした段取りを事前に体に覚えてもらえ
るというのは、大きなアドバンテージとなる。
けれど、望は気がつく。
そんな彼等の様子を苦々しい面持ちで見る青年の姿を。あれは禁獣と呼ばれたオブリビオンに追われ、望たちによって救われた『魂人』の青年であると。
「また会いましたね」
「ああ、あんたも……無事で良かった」
「貴方もせっかくですしどうですか? 気晴らしにはなるかもですよ?」
望の提案に青年は苦笑いを浮かべる。
苦々しいだけの表情が崩れたことを望は喜ぶかもしれない。というよりも、彼は猫が苦手のようであった。
「触れれば壊れてしまいそうだからな……あんなに柔っこいと。だから、今はいい」
頭を振る青年。
望は彼の苦々しい表情が僅かにも安らいだのを見ただろう。今もまだ苦しいままなのだろう。けれど、それは悲しむべきことではない。彼は望んでそうしている。
そして、ささやかな安らぎにこそ彼は喜びを見いだせる人間なのかもしれない。
「もしもがありましたら、遠慮しないでくださいね」
望は、そう言って村人たちを見やる。
そこにあったのは偽りではない喜びの光景。彼等が今はまだ夢の中なのだとしても、必ずやってくる悪夢がある。
僅かな幸せすら踏みにじる足がやってくる。だからこそ、望は備えるのだ。悪意には備えなくば、徒に傷つけられるだけなのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
フィア・フルミネ
魂人の笑顔を見ると私も勇気が湧いてくる。そのあたたかな気持ちが、私の明日の命になる。
だからこそ悲しい。彼らの浮かべる、今浮かべるこの表情はかりそめだと知っているから。
同じ魂人なら話を聞いてくれるかもしれない。自分は他の集落を知っていて案内できる、いつでも移り住めるように覚悟をしてほしい。
ダメね。私も、同じ、今を捨てるなんてとてもでないけど耐えられないかも。それでも前に進む決心がつくまで、私は説得を続けるよ。幸せな夢に逃げないでほしい。私と希望の見えない明日へ踏み出してほしい。
私の姿は他の魂人から見れば滑稽に見えるの? 狂い果てた末路に感じるのかな。それでも……それでもああ、笑顔っていいものね。
『魂人』にとって永劫回帰の力は決して万能ではない事は言うまでもない。
暖かな記憶をトラウマに変えて、死を否定し続ける。
それは己の心を擦り減らして生きることと同義であるからだ。だからこそ、危うい。死を否定する力があったとしても、その力の源泉には限りが在る。
そして、この常闇の世界、ダークセイヴァーに置いては、その源泉こそが既に枯れ果てていると言ってもいいからだ。
『楽園』と呼べるであろう『闇の種族』が造成した『箱庭』。
そこに住まう『魂人』たちの笑顔は本物で在ったように思えただろう。誰もが喜びを分かち合っている。生前の苦しみしかなかった人生が漸く報われたのだと喜んでいる。
だからこそ、フィア・フルミネ(痺れ姫・f37659)は己の心に暖かなものが湧き上がることを感じて、余計に悲しくなった。
「『魂人』の笑顔を見ると私も勇気が湧いてくる。そのあたたかな気持ちが、私の明日の生命になる」
彼女にとって、誰かの笑顔こそが暖かな記憶となる。
生前もそうであったように、死した後でも彼女は戦い続けている。闘争の中でしか生きられないのかも知れないとさえ思えたかも知れない。
けれど、それでも彼女はいいと思ったのだ。
誰かのために戦うこと。
それがどんなに尊いことかを彼女は知っている。だからこそ、彼女は悲しい。今、彼女の心の中にある暖かな記憶は、彼女にとっては本物であっても、彼等にとっては仮初であると事知っているからだ。
『闇の種族』が齎したのは安寧。
されど、それは彼等の幸福を踏みにじるために準備された階段にしかすぎない。天頂に至る時、それは遥かな高さから背を押されることと同義であったからだ。
高ければ高いほどに人の心は傷つく。
「やあ、どうしたんだい。ああ、こんなに傷ばかりで……余程生前にひどい扱いを受けたと見える」
「こっちにおいで。さあ、温かい食べ物だって此処にはあるんだから。安心してお食べ」
そうやって村人たちがフィアを囲み、あれこれと世話をしてくれる。
元・闘士であった彼女の傷のきざまれた体を気遣ってくれる。
「私は他の集落を知っていて案内できる。いつでも移り住めるように覚悟して欲しい」
その言葉に村人たちはキョトンとした顔をするだろう。
此処以上に素晴らしい場所があるわけがないと思っている顔であった。それに何故映らなければならないのか。
此処にいれば、外敵から襲われる恐れを抱かなくていい。飢餓に怯えなくてもいい。争いに参加しなくてもいいはずだ。
だから、彼等の仮初の笑顔は崩せない。
ダメだ、とフィアは思った。
理解できることであった。今を捨てることなんてとてもではないけれど、耐えられないと思ってしまう。
この暖かな記憶の中に沈んでしまいたいとさえ思うだろう。
けれど、ダメなのだ。
此処にいては『闇の種族』に弄ばれるだけだ。擦り切れて狂気に触れるまで、いじめ倒されるだけだ。
それがわかっているからこそ、フィアは言う。
「幸せな夢に逃げないで欲しい。私と希望の見えない明日へ踏み出して欲しい」
「何を馬鹿なことを」
「此処以上に素晴らしい場所なんて無いよ。あなたはとても今疲れているんだわ」
「そうそう。少し休めばいい。いや、少しなんて言わないでぐっすり眠ったっていいんだから」
村人達は口々に言う。
フィアは自分が滑稽に見えるようにも思えただろう。とてもつらい前世の記憶ゆえに、彼女が狂い果てた末路をたどったようにも彼等には思えたのだろう。
彼等の笑顔が。
どうしても、失いたくないとフィアは思うだろう。
そんなフィアを見かねた『魂人』の青年が手を取る。
「無理をしなくていい。あんたが……そこまで気に病む必要はない。いずれにせよ、いつまでも、ということなんて何一つないのだから」
彼は苦々しい表情をしていた。フィアにとって、それは苦しいものであった。村人たちの笑顔は偽りでも、仮初であっても良いものであると思えたのだ。
だから、どれだけ自分が滑稽に見えてもいいと思った。
「変わっているな、あんた。だが、その方がいい。あんたは思ったのだろう、彼等の笑顔を。偽りであっても。仮初であっても」
「ええ、それでも……それでもああ、笑顔っていいものね」
フィアは、その笑顔の記憶だけで明日を紡ぐことができる。例え果て無い希望のない暗闇の中だって、あの眩い笑顔の記憶があれば、フィアは立ち止まることはないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
この偽りの楽園を満たすリズム
間違いありません
私と同じ踊ることしか頭にない存在が此処の支配者ですね
忌々しい…!
はぁ…落ち着け、私
まずは魂人の皆さんに避難の準備をさせないと
({メトロノーム・コイン}でコインロールしながら心を落ち着かせる)
嘘をつく必要がありますね
住民総出で力仕事をするよう
闇の種族の使いからの命令があったから
怪我しないよう丈夫で動きやすい服を着て
水もたくさん用意するように
と伝えましょうか
確か御一人、真実を信じてくださる方が居るとのことでしたね
その方に私の嘘に同調していただくよう根回ししましょうか
この救助作戦が終わるまでは踊れませんね
此処の支配者に私の踊りを見せたくありませんから
全てのものに律と動があるのだとして、『楽園』の如き村に流れるそれは、播州・クロリア(踊る蟲・f23522)に取って如何なるものであったのかなど言うまでもない。
確かに見目には楽園そのもの。
これ以上のものがダークセイヴァーにあるとは思えなかっただろう。
微睡むような空気。
弛緩したかのような時間。
誰もが穏やかであり、誰も争わない。
それは停滞しているかのような雰囲気さえ感じさせたことだろう。
「……間違いありません」
クロリアはつぶやく。
目の前に広がる光景。それは退廃にも似つかぬ偽り。リズムが告げている。此処にあるのは悪辣な罠でしかないと。
「私と同じ踊ることしか頭にない存在が此処の支配者ですね。忌々しい……!」
踊る事は生きること。
ゆえに彼女にとって、それは不可分たるものであった。だからこそ、オブリビオンたる『闇の種族』もまたそうであるとうことが忌々しいと思ってしまうのだろう。
激昂する。
血が体中を駆け巡って沸騰するかのような衝動にクロリアは己の胸に手を当てて律するのだ。
「はぁ……落ち着け、私……」
やらなければならないことがある。
それはこの村の『魂人』たちを避難させる準備を始めなければならないということだ。これより対峙する『闇の種族』は今の猟兵をして犠牲無く倒せる相手ではない。そこに『魂人』たちを逃すという目的が加われば、さらに難易度が跳ね上がる。
心を落ち着かせながら、嘘を付く必要があることを再認識する。
彼等はどんなに言葉を尽くした所で、今の状況に頭まで浸かっている状態だ。ならば、その弛緩した頭を再び動かすためにはどうするか。
「よく聞いてくださいね。『あの方』の使いからの命令がありました。住民総出で力仕事をするようにと。ケガをしないよう丈夫で動きやすい服を着て……それと水を沢山用意するように」
「どうしてそんなことを? 今更水の確保なんて……」
「でも、『あの方』がそういうのなら、やらないとな。守ってくださっているのだし、なにか理由があるのだろう」
クロリアは村人たちが好意的に解釈してくれていることに安堵する。
それにすでに根回していた『魂人』の青年の言葉に助けられた。彼はこの村で新参であり、またこの状況をおかしいと思っている唯一の人物でもあった。
クロリアは彼に予め接触し、自身の言葉を補強してくれるように頼んだのだ。
「俺達には理由はわからない。けれど、こうした平穏の日々を維持するためには、時として労働も必要だということだ」
「そうか……そういうものかもな」
「じゃあ、水を用意しましょう。水場に行って、後は……」
村人たちは散漫な動きで動き出す。彼等にとって、これは非常時ではない。平穏な日々の中のひとときでしかないのだ。
何も知らない彼等。
それを誰が責められるだろうか。陰惨な前世を送ってきた彼等が漸くに得た安寧の地。それがこの村だ。
「……この救助作戦が終わるまでは踊れませんね」
クロリアは己の中にある律と動でもって自制する。
此処の支配者『赤い靴のカーレン』に己の踊りを見せたくはないと思っただろう。共に踊ることばかりを考えている存在。
けれど、相互理解など出来ないことを既に理解している。
オブリビオンと猟兵とはどんなに言葉を弄してもわかりあうことはできない。そして、どうあっても理解しあえないことがわかっているからこそ、クロリアは戦うという選択肢を選ぶ。
例え、それが踊りという一つの芸術の粋を集めた結晶を互いに持つのだとしても、それは決して違えることのない真理なのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ギヨーム・エペー
この楽園に、灯りはあるのかな。焚火とかそういった照明だ。なければ以前作った事もある氷のランプを。器になる氷の守りを強くして壊れないように火を入れて、何処につるそうかなー……
あ、きみコレ要らない? 装飾にもなると思うよ
あの方ってのはきみにとってはこわくない人なのかな。どんな事を今までやってくれたんだ? 気になるんだ、きみの幸せについて
おれの幸せはこの村の外で探し物をしている時かな。信じられない? そりゃそうだ、おれだってこんな村があるとは知らなかった
でも知れてよかったよ、きみたちが幸せを感じられる事を
外は暗くて冷たくて寂しい所だが、この村みたいに明るい所があるとしたら。見つけたくて仕方がないんだ
常闇の世界ダークセイヴァーにおいて光とは灯すものである。
空に浮かぶ太陽はない。
何故ならば、その空は空ではなく天井であったからだ。あの浮かぶ月ですら偽りの月。
ほのかな光以外であれば炎だけが灯りであったことだろう。
ここダークセイヴァー上層であってもそれは変わらない。常闇。そして、月光。ただそれだけを頼りに人々は生きている。
月明かりに照らされて花々が咲き誇っている。異様なる光景であったことだろう。地獄のような世界にありて、花が咲く。
「この楽園に氷のランプを」
ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)はここが偽りの楽園であることを知っている。
住まう人々の誰一人として理解していなくても、彼は理解している。
こんな仮初があっていいわけがないのだと。『闇の種族』の機嫌一つで足元から崩れ去る生活。村人たちは自分たちが薄氷の上に立っていることを理解していない。
いや、理解できるわけがない。
彼等は外界と隔絶されている。誰もこのダークセイヴァー上層の真実を知らない。たとえ、真実を告げたのだとしても彼等は信じようとはしないだろう。
あまりにも過酷な人生を送ってきたから。
戦いと苦痛と悲しみと恐怖。
そればかりが渦巻く中にあって漸く手に入れた安寧。それが偽りでると告げられて、誰が信じられるだろうか。そして、それを誰が責められるだろうか。
「あ、きみコレ要らない?」
ギヨームは幼い『魂人』の村人の前に屈んで氷のランプをゆらゆらと揺らす。
その灯った炎は明るく、そして仄かに温かいと思わせるものであったことだろう。
幼い『魂人』は、こくんと頷いてからギヨームに礼を言う。
「ありがとう。こんなにきれいなものを」
「いいさ。それよりちょっと教えてほしいんだ」
「?」
幼い『魂人』を呼び止めてギヨームは言う。教えてほしいと。
「『あの方』ってのはきみにとっては怖くない人なのかな。どんな事を今までやってくれたんだ?」
「えっと……守ってくれるって教えてもらったよ。それに食べ物も。襲われる心配もないって言ってくれたし……」
「そうか。もう一ついいかな。きみの幸せってなんだろう?」
その言葉に『魂人』は言うだろう。
奪われないこと。理不尽に襲われないこと。恐怖にさらされないこと。
どれもが前世で幼い『魂人』が与えられてきたものだろう。
温かい記憶は僅かでも、それは闇の中で強烈に輝く。
「お兄さんの幸せは?」
ギヨームは逆に問いかけられる。彼等はこの『楽園』の如き『箱庭』にありて、他者を思いやっている。偽りがないのだとすれば、ただその一点においてのみが真実であったことだろう。
「おれの幸せはこの村の外で探しものをしている時かな。信じられない?」
「うん、だってここはとても良いところだから。何も心配しなくていいし……此処の外に出るのは、怖い」
「そりゃそうだ、おれだってこんな村があるとは知らなかった」
そうだよな、とギヨームは頷いて立ち上がる。
聞きたいことは聞けた。
彼等はこの村に頭まで浸かっている。平穏という暖かさに。仕方のないことだ。これまで凍えるような人生を送ってきたのだから。
仕方がない。
「でも知れてよかったよ、きみたちが幸せを感じられることを」
ギヨームは本当にそうかと思うかも知れない。これは仕方のないことなのかと。死した後でも、幸せの絶頂から叩き落とすためだけに幸せを与えるという行いが許されてもいいのかと。
否である。
それはどうあっても仕方ないの一言で許されていいものではない。
「外は暗くて冷たくて寂しいところだが、この村みたいに明るいところがあるとしたら」
拳を握りしめる。
此処の足元には凍えるような冷たさしかない。暖かにみえるものであっても、一枚隔てた其処には人の心を凍てつかせるものがある。
だからこそ、ギヨームは笑っていうのだ。
「見つけたくて仕方ないんだ」
此処以外にもそんな場所があるってことを。偽りだけがこの世界に満ちているのではないということを――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
これまで以上の悪意に満ちた危険な場所。
魂人さん達を助けないと…。
女神「誠意をもって説得すれば判ってくれます。」
邪神「ここはカーレンの使いを装って襲撃し、村人に判らせましょう。」
気が付いたら女神と邪神が囁いて。
邪神「ナイアルテさんも『方便も必要』と言ってますし♪」
成程、そういう意味なのですね…
邪神様なりきりセットに着替え、天候操作で黒い雷雲を呼び出し、被害が出ない所に落雷を何発か落として、悪のカリスマ・威厳を伴って登場!
「私はカーレン様の使い。汝らは幸福の絶頂を迎えた。故にこれより”収穫”を行う。死ぬのが嫌ならば精々抗うがよい!」と演技&UC効果で村人を脅し、天候操作で起こした霧と共に去ります。
ダークセイヴァー上層にたどり着いた猟兵達は見ただろう。
この悪意に満ちた地獄を。
第四層で死んだ定命の者は、第三層に転生する。『魂人』として。彼等は永劫回帰のちからに寄って死を否定し続ける。
その力が備わっているからこそ、『闇の種族』たちは彼等を迫害する。いや、玩具にする。
目の前に広がるダークセイヴァーらしからぬ村もその一つだ。
『楽園』と呼んで差し支えのない村。
花々が咲き誇り、清浄なる空気が満ちている。住まう人々もまた平穏を享受している。何に怯えることなく安穏と生きている。
これまでのダークセイヴァーでは考えられない光景だ。
だが、これこそが『闇の種族』の作り出した『箱庭』であり、罠である。
彼等は『魂人』の幸福の絶頂を踏みにじる。その絶頂が高ければ高いほどに彼等は喜ぶだろう。一気に奈落に叩き落される『魂人』たちの悲鳴をこそ彼等は聞きたいと願うのだから。
「これまで以上の悪意に満ちた危険な場所。『魂人』さん達を助けないと……」
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は、彼等の境遇に胸が締め付けられる思いだっただろう。
人が人らしく生きれぬ世界。
これがダークセイヴァーである。だからこそ、彼等に伝えなければならない。
此処が仮初の平穏であり、また外界は変わらぬ地獄が続いているのだと。
けれど、それはあまりにも酷というものであった。何故ならば、彼等は死して転生した者たちである。
死すら救いでなかったというのならば、彼等の心は折れるかもしれない。
けれど、詩乃は告げねばならないと理解している。
心の中で女神と邪神が葛藤する。
『誠意を持って説得すればわかってくれます』
『ここは『赤い靴のカーレン』の使いを装って襲撃し、村人にわからせましょう』
気がついたら、彼女の中で女神と邪神が喧嘩している。
どちらも尤もであった。
理解してもらえるということを信じたいという願い。そして、それでは彼等には通じないという事実。
どちらも彼女の神性があるからこそ生じたものであろう。
『グリモア猟兵さんも『方便も必要』と言ってますし♪』
邪神の詩乃がささやく。
なるほど、そういう意味なのですねと詩乃と女神も納得してしまう。案外早い葛藤の終わりであった。もしかして邪神なりきりセットを使いたいだけでは? と訝しむ者もいるかもしれない。
けれど、そんなことはいいのである。
詩乃は邪神様なりきりセットに着替え、この楽園の如き村に降り立つ。いや、違う。黒い雷雲を伴って詩乃は落雷と共に宣言するのだ。
「な、なんだいきなり……!?」
「急に空が……ひゃあ!?」
「……なんだ、アレは……」
村人たちは突然の落雷に身を寄せ合う。当たり前と言えば当たり前である。あまりにも唐突。
しかし、落雷は未だ続いている。
それも村人たちに影響のない場所に落ち着受けている。まるで、それは演出であった。己に悪のカリスマ、威厳があるように見せるようでも在ったのだ。
村人たちの視線を一身に集めながら詩乃が落雷の輝きに照らされる。
「私はカーレン様の使い。汝らは幸福の絶頂を迎えた。ゆえにこれより“収穫”を行う。死ぬのが嫌なら精々抗うがよい!」
善と悪(?)の狭間にて(ゼントアクノハザマニテ)、揺れ動く詩乃。いや、もう思いっきり傾いている。
彼女の演説は村人たちに恐怖を思い出させたことだろう。
またなのかと彼等は思い出した。
恐怖と隷属。
それだけが彼等の人生であった。暖かな記憶もあったけれど、それは暗闇で見る光のようなものであった。
僅かであったからこそ、まばゆく美しく感じるのだ。
「……そうだ、そのとおりだ。抗わなくてはならない」
『魂人』の青年がつぶやく。
どんなに苦しくとも、どんなに辛酸を嘗めることになろうとも、抗うからこそ人であるのだ。
「そのとおりです。人は殺されてしまうかも知れませんが、決して負けるようにはできてないのです」
詩乃は邪神様なりきりセットを脱ぎ去って、安穏に冷水を浴びせられたかのような『魂人』たちを見るだろう。
彼等は確かに殺されてしまった。
けれど、その心は玩具にされていいものではない。ただ一つ彼等が有することのできる大切なもの。それを守り切るためには、時として恐怖と向き合わなければならないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
んもー
ダークセイヴァー暮らしも長いのにちょっと転生したからってそんな簡単に騙されちゃダメだよ!
●信ずるものは
まーでも言ってもなかなか聞いてくれないよね~
人は目で見て触れられる奇蹟を、その証しをこそ信じちゃうってところあるから
UC『歪神』使用
なら見せてあげよう、どうなるかを
何度でも
(本物のカーレンちゃんは時間をループさせてる間のことが記憶が残らないように消しておく)
●Take1(猟兵が来なかった場合の未来)
●Take2(猟兵は来たが自分たちが信じず協力しなかった場合の未来)
●Take3(
●Ta
●
絶望したって?よかった!ならあとは立ち上がって立ち向かって戦うだけだね!
この『楽園』の如き村には、誰もが猟兵たちの言葉を信じるものがいなかった。
いや、一人だけいた。
新参の村人。猟兵たちが先日、禁獣より助けた『魂人』の青年。
彼だけが心に苦しみを宿しているからこそ、この異常なる楽園の偽りを看破することができた。
けれど、それだけでは足りない。
彼等は頭まで平穏という湯に浸かっている。仕方のないことだ。
誰だって凍えるような風が荒ぶ中を進もうとは思わないだろう。自分のいる場所が暖かであるのならば、なおさらのことだ。
それには強靭な意志が伴わなければならない。
極寒の風の中を進ませるのは足ではない。その人が宿す意志だ。
だからこそ、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)はため息のような声を漏らす。
それは不満を感じさせるものであったことだろう。
「んもー。ダークセイヴァー暮らしが長いのにちょっと転生したからってそんな簡単に騙されちゃダメだよ!」
そんな言葉もきっと届かないであろうことをロニはわかっていただろう。
どれだけ真実を述べても、並べても、彼等には届かない。
口で言っても届かない。
彼等はみたいものだけを見て、聞きたいものだけを聞く。人とは信じたいものを信じる生き物であるから。
それを責めることもまたお門違いだろう。
だからこそ、ロニは他の猟兵が見えた雷雲と共に村人たちの前に降り立つ。
死ぬのが嫌ならば抗えという言葉を、未だ彼等は飲み込めていないだろう。喉に支えている。
ならばとロニはそのひとみをユーベルコードに輝かせる。
「まだ信じられないっていうのなら、見せてあげよう。君たちがあらがわなければどうなるのかを。何度でもね」
歪神(ゴッド)たる神性が発露する。
全知全能の力が復活し、見せるのは未来。
猟兵がいなかった未来。
猟兵が来たが村人達が信じず協力しなかった未来。
未来。
未来。
未来。
どれもが破滅の未来であった。どうあっても彼等が信じなかった場合の未来。どうしようもない未来が広がっていることだろう。
しかし、これは紛れもない現実のように村人たちは感じただろう。
「言っても中々聞いてくれないよね~だから、人は目で見て触れられる軌跡を、その証をこそ信じちゃうってところあるから」
見せる未来は、どれもがなかったことになされる。
けれど、未来を見たという記憶は残り続けるのだ。
どうしようもないほどの陰惨な未来。
「……どうしてこんなものを見せる。ただ徒に人を絶望させるだけだ、こんなものは」
『魂人』の青年が言う。
ただ打ちひしがれただけだ。心を傷つけられただけだと彼は言うだろう。
絶望こそが人の心を殺す。
「絶望したっていいたいのかな?」
「そのとおりだ。誰も彼もが、それに耐えられるわけじゃない」
「よかった! ならあとは立ち上がって立ち向かって戦うだけだね!」
ロニは微笑む。
神性であるからこそ言えた言葉であるのかも知れない。人ならざる身であり、人とは違う高次から見下ろす目がなければ、そんなことは言えなかったかもしれない。
村人たちのひとみには確かに絶望が映っていただろう。
打ちひしがれただろう。
けれど、いつだってそうだ。
心に闇が在るからこそ、その暖かな記憶は強烈であり、鮮明な記憶として光を放つ。その暖かさは誰かが与えることができるものであるが、それを輝かせることができるのは、与えられた者だけだ。
「人は愚かかもしれないし、傷つきやすいかもしれない。けれど、自分の足で踏みしめていくことができる。平和なんてものは、いつだって仮初さ。だから、自分の手で確かなものにしなくちゃならないんだろう?」
ロニはその言葉を持って鞭を打つ。
立ち上がれと。打ちひしがれている暇など、生きている間には多くを許されるものではない。
今尚迫りくる脅威。
それを彼等に認識させるためには、時として神なる鞭を振るうことも必要なのだ。見上げた先に例え闇が待っているのだとしても、己の心にある輝きを寄る辺として歩まねばならない。それが人生というものであるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…外界の様子を知らないならば、闇の種族よりこの姿の方が"受け"は良いでしょう
…思えば久しぶりね。こうして吸血鬼の振りをして、村人達を誘導する自作自演も…。
UCを発動して生命力吸収(弱)の月光を放つ真紅の月を背景に、
村の上空から村人達を見下ろして威圧する闇の種族配下の吸血鬼を装うわ
…聞きなさい、豚のような安寧に身を委ね無駄に時間を浪費するだけの愚かな者共
…これより我らの主カーレン様のお言葉を伝えます。心して聞くように
…私は貴方達を保護し、慈悲を与え、安らかに過ごせる楽園を用意しました
…全ては貴方達の魂を幸福で満たし、私が羽化をする際のより良き贄とするため
…時は来ました。貴方達には皆、私の贄となる栄誉を与えます
…皆様にはどうか希望を棄てずこの村から逃げ延びて下さい
…最後まで諦めずに抵抗を続ける魂をこそ、私は欲するので
…以上よ。もうすぐ来られる我が主に決して粗相の無いように、今から準備をしなさい
…ああ、無抵抗でいたいと宣う輩は名乗りでなさい?
この私が直々に玩具として大切に扱ってあげるわ
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は真の姿である吸血鬼の姿を晒して、他の猟兵の放つ暗雲と悪夢と共に降り立つ。
人々は見上げることしかできないだろう。
そこにある紅の月を。
己たちを睥睨する紅い瞳を。
知っているはずだ。思い出したはずだ。
その色が何を意味するのかを。どんな存在であるのかを。ここが例え天国のような場所であったのだとしても、その恐怖は彼等の魂にこびりついている。
どれだけ安寧の日々を送るのだとしても、彼等に刻み込まれてたそれまでは注ぎ落とすことなどできようはずもないのだ。
思えば、リーヴァルディにとってこれは久方ぶりの行いであった。
吸血鬼のふりをして村人たちを誘導するという自作自演。幾度かの危険であれば、それはより確実性を増していくだろう。
「……ああ……!」
「なんてことだ……! こんな、こんなところにまで……!」
村人たちは恐怖を思い出す。
この地に囲われて以来、感じることのなかった感情に魂が揺さぶられている。彼等は猟兵に寄って未来を見せつけられていた。
陰惨な未来。
滅びるしか無い未来。
玩具とされる未来。
どれもが彼等にとって、前世と同じ扱いであった。己たちが何をしたというのだろう。己たちが一体なんの咎でもって此処までの仕打ちを受けなければならないのかと、彼等は嘆いた。
リーヴァルディの真の姿から発せられる威容は、村人たちにとって十分過ぎるものであった。
そんな中、ただ一人、新参たる『魂人』の青年だけがリーヴァルディを真っ向から見据えていた。禁獣に追われていた『魂人』だ。
その瞳は理解しているようであった。
「……聞きなさい、豚のような安寧に身を委ね、無駄に時間を浪費するだけの愚か共」
その言葉は空より投げ放たれるようでも在った。
響く声は恐ろしく冷たい。暖かな安寧に在った者たちにとって、それは身も心も凍る声であったことだろう。
「……これより我等の主カーレン様のお言葉を伝えます。心して聞くように」
その言葉を遮る者は誰もない。
いや、恐怖にかじかむ唇が言葉を紡ぐことすら赦されない。
「……私は貴方達を保護し、慈悲を与え、安らかに過ごせる楽園を用意しました……全てはあなた達の魂を降伏で満たし、私が羽化する際のより良き贄とするため」
その言葉は『楽園』を造成した『闇の種族』の目論見の全てであった。
『闇の種族』たちにとって『楽園』を作り上げることは、ただの辞儀に過ぎない。飽きたのならば、踏みにじるだけだ。
生まれる狂気は、全て糧となる。
理由などただそれだけのものだ。慈悲も、温情もありはしない。須らく滅ぼす。ただそれだけのことなのだ。
「……時は来ました。あなた達には皆、私の贄となる栄誉を与えます……皆様にはどうか希望を捨てずこの村から逃げ延びてください……最期まで諦めずに抵抗を続ける魂をこそ、私は欲するので……以上よ」
リーヴァルディはそう言葉を締めくくる。
あまりにも身勝手。
抵抗も何もかもが『闇の種族』たる存在に捧げられる贄。
それ以外の意義など存在しないという乱暴なもの。何もかもが偽りであったことを村人たちは理解しただろう。
安寧の地など何処にもない。
偽りばかりが広がっている。彼等の瞳には絶望が宿っている。
「もうすぐ来られる我が主に決して粗相のないように、今から準備をしなさい」
その言葉に人々は我に返るだろう。
逃げなければ。
例え、殺されてしまうのかもしれなくても、逃げなければならない。希望を棄てるなと、と言われたからではない。
彼等はまだ生きている。
『魂人』は永劫回帰の力を宿す。暖かな記憶をトラウマに変えて、死を否定し続ける。そうやって生きることを宿命付けられた存在だ。
ならば、走らなければならないだろう。
「……ああ、無抵抗でいたいと宣う輩は名乗り出なさい? この私が直々に……」
いや、とリーヴァルディは言葉を切る。
彼女の言葉を聞く者はもう誰もいなかった。誰もが彼女を恐れただろう。そして、その背後にあるであろう『闇の種族』の存在を。
時として恐怖ほど希望を駆り立てるものはない。
彼等にとって、それは当たり前のことであった。いくら安寧の地にありながらも、それだけは心に刻まれていたのだ。
辛いこと、恐ろしいこと、苦しいこと。
そればかりの人生であったけれど、闇の中で光が強く輝くように。
偽りであったとしても、仮初でしかなかったのだとしても、それでも此処で記憶した安寧は、彼等の中で輝いている。
「……本当にこれでよかったんだな……俺は、俺の選択を悔やんでいるのかもしれない」
『魂人』の青年は苦々しい表情のままリーヴァルディを見上げている。
彼女の演技は確かに迫真のものであった。
青年であっても知らなければ、絶望に打ちのめされていたかも知れない。
けれど。
「……それでも進みなさい。食い物にされないためには、いつだって抵抗しなければならない。運命という怪物が、貴方達の生命を否定するのなら」
その永劫回帰たる力でもって死を否定し続けなければならない。
生きるとはそういうことだと告げるように、リーヴァルディは己の背後より迫る強烈な重圧を感じ振り返るだろう。
背筋が凍りつき、冷や汗が一瞬にして溢れるかのような、感覚。
突き刺すかのような殺気。
もしも、リーヴァルディが真の姿を晒していなかったのならば、それに気がつく前に終わっていたかも知れない。
それほどまでの殺気の主を、彼女は見ただろう。
真紅のドレスを身にまとい、凄惨たる笑顔を浮かべた女性。
『赤い靴のカーレン』。この楽園の如き『箱庭』の主の姿を――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『赤い靴のカーレン』
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POW : レッド・シューズ
【踵による踏みつけ 】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : シャル・ウィ・ダンス
指定した対象を【ダンスの伴侶 】にする。対象が[ダンスの伴侶 ]でないならば、死角から【脚を狙い続ける斧】を召喚して対象に粘着させる。
WIZ : ダンス・フィーバー
【踵を打ち鳴らす 】事で【熱狂的なダンサー】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ミツキ・ヨモツ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
楽園の如き『箱庭』を包み込む炎。
村の外周をぐるりと囲い、燃え盛る。いつから、と思う暇もない。
猟兵達は感じるだろう。これまでの比較にならぬほどの重圧を。それを発しているのは、真紅のドレスを身にまとった女性であった。
凄惨たる笑顔を浮かべ、『箱庭』の主であることを示すように彼女は言うのだ。
「理解できないわね、猟兵。どうしてそこまでして、彼等を救おうと思うのかしら? 彼等は私の玩具。ダンスパートナーと言ってもいいかもしれないけれど、きっと脆弱すぎて片時も持たない」
だから、育てたのだと彼女は言う。
永劫回帰の力。
『魂人』全てに宿るユーベルコード。
暖かな記憶を糧に死を否定し続ける力。それを彼女は育てるために『箱庭』たる村を造り上げたのだ。
彼女の言うところの玩具、という言葉も納得できる。
一歩踏み出すたびに凄まじい重圧が猟兵たちを襲う。何かを犠牲にしなければ、目の前の『赤い靴のカーレン』を打倒することはできないと瞬時に理解しただろう。
そして、猟兵たちが犠牲にできるものは、そう多くはなく。
「それとも貴方達が私と踊ってくださる? それもいいわねって思うのだけれど、きっと貴方達は理解してはくださらないでしょうね。私の思いも、私の考えも、相互理解には至らない。決して理解出来ない存在があるってことを理解することしかできないでしょう」
ほほえみながら炎の中を進む『赤い靴のカーレン』。
選択を迫られている。
『魂人』たちを犠牲にしてでも、此処で危険極まりない『闇の種族』たる『赤い靴のカーレン』を打倒するのか……いや、それすらも難しいかもしれない。
もう一つの選択肢は、撤退戦である。
己たちの生命を危険にさらし、『魂人』たちを逃がすのか。
そのどちらも猟兵たちが選ばなければならないことである。いつだって人生は選択の連続だ。
「さあ、踊りましょう。踊らない人生なんてあってはならないわ。踊って、踊って、踊って、それで滅びるのならば本望でしょう?」
強いられ、拒むことなどできはしない。
何一つ自由にできることはないのかもしれない。
けれど、それでも戦わなければならない。理不尽に抗うためには、いつだってそうしなければ、生命すらも弄ばれてしまうのだから――。
リーベ・ヴァンパイア
ーーー(……成る程、これが闇の種族。確かにこれはーー今の俺では勝てないな)
ああ、彼等の代わりに俺がお相手させて貰おう。いいかな、レディ?貴女のような美しい人と踊れたなら、きっと一生の思い出になるのだが
(ーーだが、戦う事は出来る。ならば、俺のすべき事、今この場で必要なのは)
では、踊ろう。……ああ、だが一つだけ言っておかねばならない事がある
俺は踊るのが下手だ。ゆえに
ーー足を踏んでしまうかもしれない
作戦
奴を少しでも村の出入り口から離す。右腕の【シールドガントレット】を構え、【ダッシュ、先制攻撃】で奴に突撃する
そしてswordpartyで俺と奴を囲む。……これで少しは時間を稼げる筈だ
その間に逃げてくれ
対峙するだけでわかる。
『闇の種族』――これまで相対してきたであろうダークセイヴァーにはびこるオブリビオンとは遥かに異なる強敵である。
ただ、その事実だけで他者を圧倒するかのような存在。
それが彼女である。見目麗しいレディ。
真紅のドレスを風になびかせながら、ゆっくりと確実に迫る姿は恐ろしさしかないだろう。凄絶なる笑みを浮かべながら、彼女はリーベ・ヴァンパイア(Notwendigkeit・f37208)に迫る。
「あら、竦んで足が動かせないのかしら、坊や」
「――……」
リーベはゆっくりと息を吐き出す。
これが『闇の種族』。
一言で言えば圧倒的。今の己では勝てないと瞬時に悟ることができる。けれど、勝てぬからと言って退くことはできない。
今の彼の背後にあるのは恐怖に身をすくませている『魂人』たちしかいない。
燃え盛る炎は時間制限付き。この村が崩壊すれば、それに巻き込まれて全員の生命はないだろう。
「ああ、彼等の代わりに俺がお相手させてもらおう。いいかなレディ? 貴女のような美しい人と踊れたなら、きっと一生の思い出になるのだが」
「お上手。けれど、減点ね。レディを踊りに誘うのならば、一礼の一つでもしなさいな。いいこと。踊ることについて、女が男に支えてもらっているのではないのよ。支えさせてあげているのだということを理解しなさい」
迫るは死角より放たれる、足を狙う斧。
彼女はリーベをダンスの伴侶として認めていない。
「確かに可愛い顔をしているけれどね、それだけなのよ」
瞬時にリーベは己の体を宙に舞い上げるように飛ぶ。跳躍。瞬時に判断していなければ、今頃は足は失っていただろう。
足を踏んでしまうかも知れない、などといえる暇すらない。
「――……!」
「ああ、言わなくてもわかるわ。踊るのが下手くそね、坊や」
『赤い靴のカーレン』が微笑む。
幼さがありながら、何処か妖艶ささえもある顔。たしかに美しい。けれど、それでもリーベは跳躍の内に考える。
どうすれば彼女を村の出入り口から引き剥がす事ができるか。
構えた右腕の手甲から展開されるシールドをもって、着地と同時に『赤い靴のカーレン』へと突撃する。
「情熱的。そういうのは好きよ」
「悪いが、数で押させてもらう――!」
瞳がユーベルコードに輝く。
それは瞬時に赤い剣を召喚させる。その数は百を超え、『赤い靴のカーレン』をt取り囲む。
時間を稼がなければならない。
『魂人』の村人たちが村より脱出するための時間を。
だが、できるのだろうか。いや、できるできないではない。やらなければならない。
己のみを犠牲にしてでも救う。
それがリーベのヒーローとしての矜持だ。これがなければ今の己はない。誰かを救うこと。それに生命を掛けるからこそ、彼はこうして此処に要る。
「逃げてくれ」
短く言う時間しか赦されない。斧の猛攻は赤い剣を蹴散らす。圧倒的な戦闘力。
死角より放たれる斧の斬撃を剣を犠牲にしながら躱す。
そうでもしなければ、到底時間を稼ぐことなどできはしない。
「逃げる? 何処に? 私は何処まででも彼等を追いかけるわよ? だってもしかしたのならば、私とずっと踊ってくれるかも知れないじゃない?」
「目移りしてもらっては困る。今のダンスパートナーは俺だろう、レディ!」
激しい剣戟の音が撒き散らされる。
斧に蹴散らされる剣。
時間稼ぎしかできない。
打倒できない。けれど、それでもリーベは死力を尽くすだろう。展開した盾で『赤い靴のカーレン』を押し込む。
村の出入り口より引き離すべく、全力で持って彼女を押すのだ。
大地に刻まれる『赤い靴のカーレン』の電車道。ガリガリと嫌な音を立てるハイヒール。けれど、彼女はたおやかに笑うのだ。
「いいわね。こうしたものも! 踊りには程遠いけれど!」
「俺は踊るのが下手だ。ゆえに」
リーベは押し込む。これはもう踊りでもなんでも無い。ただ、己の力を持って敵を遠ざけるための時間稼ぎ。
一直線に村の外れまでリーベは押し込み、不敵に笑っていうのだ。
「――足を踏んでしまうかもしれない」
凄まじい音を立てて打ち込まれる紅の剣。
それは『赤い靴のカーレン』の足の甲に釘を打ち込むように突き立てられ、彼女をこの地に縫い付けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
みんなスパルタですね。
果実変性・ウィッシーズブレイカーは継続。
村人達に呼び掛けます。
早くこの巨大な手に乗ってください!さっき見せた通り空に逃げられます!数も十分にありますから!
ほら、貴方も今は猫の事も我慢して!
先と同様に全て精密操作状態にしたプレストの手をパーの状態にしてより多くの人が乗れるように面積を確保。
十分に人が乗ったプレストは炎や敵の攻撃が届かない高度まで上昇させます。
更に一緒に乗っているねこさん達の全力魔法多重詠唱水属性結界術で遠距離攻撃や熱気等を防ぎつつ転落も防止します。
わたしは囮として第六感で敵の行動を見切り、回避を重視しながら地上で魔法やセプテットの乱れ撃ちで敵の気を引きます。
かかとを打ち鳴らす音が響き渡る。
それは情熱のスタッカート。『赤い靴のカーレン』は、その足の甲を剣で縫い留められながらも、意に介した様子もなく刀身を砕きながら足を跳ね上げる。
真紅のドレスが翻り、すらりと伸びた足が大地に叩きつけられた。
「いいわ、踊ってあげましょう。私は追いすがる女ではないけれど、それでも貴方達がそうするのならば、踏み潰してあげる」
『赤い靴のカーレン』が微笑みながら、猟兵に寄って押し込められた村の郊外から逃げ惑う『魂人』の村人を襲わんとする。
村は炎に包まれている。
見える場所は何処も炎の紅に包まれ、逃げ場などないかのように思われた。
けれど、七那原・望(封印されし果実・f04836)は己の瞳をユーベルコードに輝かせながら、果実変性・ウィッシーズブレイカー(トランス・ウィッシーズブレイカー)――即ち、空を飛ぶ機械手甲と共に『魂人』たちを乗せて、精密に挙動をコントロールする。
「みんなスパルタですね」
望は猟兵たちが『魂人』たちの目を覚まさせるために、あのようなことをしたのだと理解している。
いつだって平穏のままに過ごしたいと思うのは当然のことだ。誰に責められたことでもない。
けれど、今は違う。
明確に偽りの楽園を滅ぼし、『魂人』たちすら玩具にしようとする恐るべき『闇の種族』が迫っている。
猟兵に寄って村の外れまで押し込められたのはいいが、それでも即座に戻ってくるだろう。
それは謂わば、自分の玩具を取り戻さんとしているかのようでもあった。
「早くこの巨大な手に乗ってください! さっき見せた通り空に逃げられます! 数も十分にありますから!」
望は叫ぶ。
時間は多くはない。村を取り囲む炎もそうであったし、何より『闇の種族』たる『赤い靴のカーレン』が迫っている。
時間稼ぎをしてくれたおかげで村人たちを機械手甲に乗せる時間はまだある。迫る重圧が焦りを誘発するだろう。
「ほら、貴方も今は猫の事も我慢して!」
『魂人』の青年が猫が若干苦手であることを思い出して、望はそう言う。けれど『魂人』の青年は頭を振る。
「女子供を優先してくれ。俺は後でもいい。最悪、この力があれば、死は回避できる」
青年の言葉を望は理解する。
彼は永劫回帰の力でもって死を否定するのだという。けれど、それは己の暖かな記憶を代償とするものであった。
それ以上に彼の提案を飲まざるを得ない。
村人全てを手甲の上に乗せることはできない。手のひらを広げた状態でも、十数人が限度であろう。
「頼む。わかっていることだ。あんたが考えていることも、きっとそうなんだろう」
「囮になるつもりですか」
望は自分がそうしようと思っていたことを『魂人』の青年もまたしようと考えていることに気がつく。
自殺行為だ。
戦い慣れた猟兵でなければ、『赤い靴のカーレン』を引きつけることはできない。例え、永劫回帰の力があっても、暖かな記憶が全てなくなれば、狂気に陥るしかないのだ。
「それは最後の手段にしてください」
「相談はもう終わり?」
ぞわりと背筋が泡立つ。その声は『赤い靴のカーレン』。
先行した猟兵の足止めした時間もコレで終わりだった。望は即座に精密に操作した手甲に乗せた村人たちを空に対比させ、炎の及ばぬ場所まで移動させる。
しかし、そこに迫るのは『赤い靴のカーレン』。
凄まじい速度を得た彼女の足から繰り出される一撃は、ただ足を振り下ろしただけだというのに、圧倒的な衝撃波となって望を襲う。
「――っ! お行儀が悪いですね」
展開する七つの合体銃。
乱れ打たれる弾丸が『赤い靴のカーレン』に打ち込まれるも、その尽くが蹴撃によって撃ち落とされる。
これが『闇の種族』。
圧倒的な存在。力の強大さは言うまでもなく、そのおぞけ走るかのような力をおごることなく的確にこちらを追い詰めてくる。
躱していると感じていたとしても、それは望の退路を断つかのような攻撃であった。
「踊るにはまだ少し背丈が足りないかしら、お嬢ちゃん?」
「そう言っていられるのも今のうちです」
望の放つ魔法や弾丸が『赤い靴のカーレン』に打ち込まれ続ける。彼女を行かせはしない。
ここで彼女をひきつけ、囮になることが望の戦いであった。
救える生命は多くはないのかもしれない。彼女がたった一人ならば、だ。彼女が囮になり、青年が逃げ遅れた村人たちを連れて『赤い靴のカーレン』の攻撃範囲から逃れていく。
凄まじいかかとを打ち鳴らす音が響く中、望は『赤い靴のカーレン』と魔弾飛び交い、衝撃波が大地を穿つ戦場を舞い飛ぶのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
本当に嫌な相手ですねー。
さてまあ…私がするのは時間稼ぎでしてー。UC使用。
ええ…お相手いたしましょう?
撹乱するかのように四天流星を投擲し、錯誤呪詛で位置を間違えさせて結界で少しでも押し返して。
攻撃を受けてもなお、私は立ちふさがりましょう。私から、気をそらせないためにもねー。
救助は、こっそり影から出ていた陰海月と霹靂ですねー。任せましたよ、二匹とも。
※
陰海月と霹靂、確認した水場でずぶ濡れになってから魂人たちを乗せる。無理矢理にでも乗せる…陰海月(怪力)が。
二匹は友だち!今は逃げなきゃ!ぷきゅぷきゅクエクエ!
戦いに在って悪辣なる者との戦いというのは、心を削られるものである。
『赤い靴のカーレン』はそういう意味では、あまりにも直情的過ぎる存在であったことだろう。
言うこと為す事全てが尊大不遜。
己が世界の中心であり、己以上に己を理解している者などいないというかのような振る舞い。
そして、それが許されるほどに持ち得た力は強大無比であった。
ダークセイヴァー世界において『闇の種族』とは、こういう存在のことを言うのだと知らしめるように彼女は迫りくる猟兵たちを障害としか感じていないようであった。
対する猟兵達は守るべきものが多い。
『魂人』の村人たちは、突如として崩壊した『楽園』――否、『箱庭』を包む炎によって茫然自失としている者たちのほうが多いだろう。
巨大な手甲でもって村人を逃す猟兵や、『赤い靴のカーレン』を村人たちから引き剥がし、距離を稼ぐ猟兵があったからこそ、未だ犠牲はない。
けれど、時間が経てば必ず犠牲者が出る。
「本当に嫌な相手ですねー」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱、『疾き者』は己たちの敵が時間と『赤い靴カーレン』であることを理解する。
時間すらも己たちの敵だ。
自分たちは守らねばならず、そして全てを守りきれるほど『赤い靴カーレン』は容易ならざる相手であったからだ。
「さてまあ……私がするのは時間稼ぎでしてー」
四悪霊・『回』(シアクリョウ・マワル)によって彼の体が四悪霊の呪詛によって覆われ、迫る『赤い靴のカーレン』の認識を阻害する。
「お相手していただける?」
「ええ……お相手致しましょう?」
打ち込まれる流星の呪詛。
それが錯誤の呪詛であり、己の位置を間違えさせる。しかし、そんなものなど意に介さないかのような超スピードで『赤い靴のカーレン』は突っ込んでくる。
放たれる蹴撃の衝撃波は凄まじい攻撃範囲を誇る。
結界がもう少しでも広がらなければ、その衝撃波で『魂人』の村人たちは巻き添えを食うところであった。
「あら、そうやって守ってばかりでいいのかしら? 私のお相手をしてくださるのでしょう? なのに――」
『赤い靴のカーレン』が笑う。
微笑んでいると言ってもいいだろう。彼女が見ているのは『疾き者』だけだ。それ以外は意味がないというように、今目の前のダンスパートナーにこそ視線を注がねばならぬと彼女は凄まじ襲撃を持って『疾き者』の結界ごと吹き飛ばす。
「――私以外を気にしていたらダメじゃない」
吹き飛ばされた体が花々をちらしながら、建造物を瓦礫と化す。砕け散った破片に埋もれながらも、そこに打ち込まれるは『赤い靴のカーレン』の一撃。
五体が砕けるのではと思うほどの衝撃を受けながら、『疾き者』は立て直す。
強大に膨れ上がっていく呪詛。
それでもってしても未だ『赤い靴のカーレン』には届かない。
「……因果は巡りて回る。どこまでも」
『疾き者』の瞳はユーベルコードに輝いている。
なおも立ち上がる。
瓦礫を押しのけ、立ち上がった彼に打ち込まれる衝撃波は加減も何もあったものではなかった。
放たれる衝撃波を受け止めながら、なおも『疾き者』は己に『赤い靴のカーレン』の意識を縫い止めさせつづける。
悪霊であるからこそ為せる業。
「ええ、何度でも踊りましょうとも」
「良いわ、踊りましょう。貴方が死す時まで!」
その激闘をよそに、『陰海月』と『霹靂』が水場で全身を濡らして、炎の中に飛び込んで行く。
未だ取り残された『魂人』を救うためだ。
「ぷきゅぷきゅ!」
「クエクエ!」
見た目に気圧される『魂人』たちであったが、二匹は構うこと無く無理矢理にでも彼等を背に乗せて村より退避していく。
『疾き者』がしていたのは時間稼ぎ。
彼等を救出し、余すこと無く拾い上げることのみに注力していたのだ。己に意識を向けさせ、『赤い靴のカーレン』を『魂人』から引き剥がす。
「任せましたよ、二匹とも」
『疾き者』は己が受ける衝撃波の凄まじさに体が揺れるのを感じただろう。
呪詛で覆う体であってさえも、魂の核にすら届き得る衝撃波。凄まじい力というほかない。
けれど、『疾き者』は己が何のために戦うのかを知る。
ならば、彼は倒れないだろう。『魂人』の全てを救うまで、何度でも彼は立ち上がり、『赤い靴のカーレン』をその場に押し留め続けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
始まりましたね…!
皆さん落ち着いて!
用意した水で炎を切り抜けて村の外へ避難してください!
貴方!皆さんを誘導して!
私はあの女の足止めをしてきます!
(魂人の青年に指示後、カーレンの前に立ちふさがる)
純粋無垢な無辜の民が災厄の炎に焼かれ死んでいく様から人の儚さとこの世の無常さを表現したダンスですか?
はいそうです
貴女と同類の踊ることしか頭にない化け物ですよ
でも私は踊りません
貴女に捧げるダンスが無いので
(1週間分の踊る時間を捧げてUC【蠱の犠牲】を発動すると『呪詛』の塊がカーレンに向かう)
その代わり貴女のせいで踊れなくなった私の恨みの塊を用意したので
これと遊んでください
私は彼らと逃げます
ではさようなら
戦いが始まる。
その音を播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は聞いただろう。
其処にもリズムがある。どんなものにも、必ず存在する。だからこそ、その戦いが『魂人』の悲鳴を奏でるものであることを彼女は知る。
「皆さん落ち着いて! 用意した水で炎を切り抜けて村の外へ退避してください!」
炎が『楽園』の如き『箱庭』を包み込んでいく。
戦いですら無い。
『闇の種族』である『赤い靴のカーレン』にとって、これは戦いというものでもないのだ。ただ、踏みにじるだけの行い。
彼女の鋭く尖った踵、ヒールがあらゆるものを壊すだろう。
幸せを壊す。
安寧を壊す。
平和を壊す。
彼女にとって、それはあたり前のことであった。何も特別ではない。これまでそうしてきたように、これからもそうするだけのこと。
「貴方! 皆さんを誘導して!」
「あんたはどうする!」
『魂人』の青年にクロリアは叫ぶ。人々の戸惑う声ばかりが響いている。それもそのはずだ。
これまで甘受していた平穏は仮初であり偽りであったのだから。
そうなるのが当然であった。けれど、その青年だけは違った。ただ一人だけ、この状況を訝しんでいた。苦しんでいた。
だからこそ、クロリアは彼に声をかけるのだ。彼ならば、混乱し続ける村人たちを導いてくれると思ったのだろう。
「私はあの女の足止めをしてきます!」
「あら、あの女とは私のことかしら?」
その声にクロリアは振り返る。そこにあったのは、真紅のドレスをはためかせる女性。『赤い靴のカーレン』。
凄まじい重圧。
これまで先行した猟兵達の時間稼ぎは無駄ではなかった。けれど、ここで己が退いては、全てが水泡に帰す。
彼女は自分たちを突破した後に村人たちを余さず残さず、全て踏みにじるだろう。
「いいわね、あなた。私と同じ気がするわ」
「はい、そうです。貴女と同類の踊ることしか頭にない化け物ですよ」
心にあるのは純粋無垢な無辜の民が災厄の炎に焼かれ死んでいく様から人の儚さと、この世の無情さ。
それを表現した踊りを、とクロリアの中で衝動が猛る。
けれど、彼女は被りを振る。
「でも私は踊りません」
「あらどうして? 踊らない理由なんて何一つないと思うのだけれど」
「貴女に捧げるダンスが無いので」
ああ、と思う。クロリアは思う。もったいないと思う。自身のこれから一週間に渡る踊りに対する情動全てを捧げる。
それはユーベルコードの輝き。
蠱の犠牲(コノギセイ)。それは彼女のダンスに捧げた想いそのものであり、踊れぬ自分への怨念そのものであった。
その塊が『赤い靴のカーレン』にほとばしる。
代償に比例した戦闘力。
その凄まじさたるや言うまでもない。けれど、その呪詛全てを持ってしても『赤い靴のカーレン』は凄絶に笑いながら、その塊を蹴り飛ばすのだ。
衝撃波がクロリアの頬を撫でる。
「私は彼等と逃げます」
「逃さないわよ。理解したいわ。理解できないということをね、理解したいの。だから踊りましょうよ。そんな代償で私を煙に巻こうなんてずるいわ! ねえ!」
迫る『赤い靴のカーレン』。
しかし、その追撃を阻むのは、やはり踊れぬ時間の呪詛の塊。
不定形の怪物の如き姿が『赤い靴のカーレン』に迫る。どれだけ衝撃波で破壊されても、ピンヒールで穿たれても、彼女を取り囲む。
「鬱陶しいわね……! 私とあの子の時間を無駄にしてくれちゃって!」
「では、さようなら」
クロリアはまた、とは思わないだろう。
けれど、クロリアは思ったのだ。彼女とは踊らないと。今もそうだ。彼女の踊りはひどく利己的なものだ。
誰に見せるでもない。
ただ己の感情の発露だけのために、踊る。そんな破滅的な未来しか見せぬ踊りにクロリアはどう思っただろうか。
その思いを胸にクロリアは走る。
今は優先する想いがある。どれだけもったいないと思い続けても、それでもなお、『魂人』たちを生き延びさせなければならない――。
大成功
🔵🔵🔵
フィア・フルミネ
無理をしなくていい、か。無理をしてるように見せてしまったのは私の落ち度。敵うかどうかはともかくとして、その踊りお受けするよ。いい足ね。私の顎を蹴り上げて笑っていた領主を思い出す。
魂人が逃げる時を稼がなくては、サンダーピラーで足を踏み出したり踏み鳴らしたところを狙い撃とう。調和の取れた美しい動き、リズムが命取りだと知るがいい。
反撃で蹴り殺されたり流れ弾が味方を襲うならば《永劫回帰》を。キミがくれた優しい、かりそめの世界も生命となったよ。今はおぞましさしか覚えてないけれど、それでも。
いけない。逃すのが最優先だ。深追いはしない。どれほど深手を負わされても、笑って退いてみせるよ
「無理をしなくていい、か」
フィア・フルミネ(痺れ姫・f37659)は楽園の如き村、『箱庭』にて『魂人』の青年に告げられた言葉を考えていた。
確かに己の落ち度であるだろう。
自分がそう思っていなくても、無理をしているように彼に見えてしまったのならば、それはやはり自分の落ち度なのだ。
安心させたいと思ったのだろうし、彼等の笑顔が曇らぬことを願っただろう。
偽りであり、仮初の笑顔。
けれど、そこにあった笑顔はフィアの胸に暖かな記憶として宿った。誰かの笑顔は、いつだってフィアの歩みを一歩前身させる。
『赤い靴のカーレン』を足止めする猟兵たちの戦いは一進一退であった。
彼女の力は『闇の種族』の中でも規格外であった。
あまりにも強敵過ぎる。
今の猟兵たちをしても、犠牲無く倒せる相手ではない。敵わないかもしれないとフィアは思った。
「けれど、敵うかどうかは兎も角として――」
「私の踊りの相手を努めてくださるとでも? 思い上がりも甚だしいわね、『魂人』。あなた達は私に踏みにじられるためだけに存在しているの。謂わば、ただの赤いカーペットのようなものよ」
『赤い靴のカーレン』が踵を打ち鳴らす。
真紅のドレスがはためき、フィアへと迫る。
放たれる蹴撃は鋭く、触れ得ずとも放たれる衝撃波がフィアの体を打ちのめす。
けれど、その一撃はフィアにとって引き換えの一撃であった。己の肉体が打ちのめされても、彼女が放った雷宿る長槍の一撃が『赤い靴のカーレン』の太ももを貫き、大地に縫い止める。
「いい足ね。私の顎を蹴り上げて笑っていた領主を思い出す」
フィアの心に在るのはトラウマであった。
己が元闘士であることを『赤い靴のカーレン』は知らないだろう。知る良しもないだろう。
けれど、そんなことはどうでもよかった。
あの調和の取れた美しい動き、リズム。
それが『赤い靴のカーレン』にとって致命的であった。洗練されているからこそ、その動きは読みやすい。
打ち込まれた槍を引き抜きながら『赤い靴のカーレン』は笑う。
「それはどうも。でも、こんなもので私をこの場に縫い止めたつもりなら――」
打ち鳴らされる踵。
凄まじい速度で踏み込んでくる『赤い靴のカーレン』。ふとももの傷など動きを鈍らせるには値しないとでも言うかのような速度。
けれど、その蹴撃の一撃はフィアを捉えることはなかった。
彼女の心の中で一つの暖かな笑顔の記憶が砕ける。
「永劫回帰――」
「……キミがくれた優しい、かりそめの世界も生命となったよ」
フィアの瞳がユーベルコードに輝いている。
永劫回帰。『魂人』ならば誰もが持つ力。死に至る一撃を否定するユーベルコード。彼女の中で一つの笑顔はトラウマに改ざんされる。
悍ましき記憶。
あの笑顔すらも、その裏には『赤い靴のカーレン』の欲望が在ることを知る。偽り、仮初。何もかもが本物ではない。笑顔すらも今は絶望に歪んでいる。
思い出せない。
あの暖かな笑顔をフィアは永遠に失ってしまっている。
「それでどうするつもり? 私と死ぬまで踊り続けてくれるわけ?」
「そうだよ。今はおぞましさしか覚えていないけれど、それでも」
「なら、そのまま全て失って死になさいな。そうすることがあなたの望みならね!」
超スピードで迫る『赤い靴のカーレン』の一撃一撃が致命傷。
死が迫っている。
それも圧倒的な速度で。
けれど、フィアは退かない。砕けていく笑顔。この村に着て数多見た笑顔の数々が裏返るおぞましさに変わっていく。
「しつこいわね、あなた……!」
フィアはそれでも深追いをしない。
ただ躱し続ける。深手を追う一撃を見ては、死を回避する。否定する。そうすることで『魂人』の村人たちが逃げる時間が稼げる。
これは大いなる時間稼ぎだ。
ファイアは自分でも気が付かぬ内に笑っていただろう。失う笑顔は数多。
「無理をしなくていい」
その言葉が頭に反響する。それすらも今はトラウマに変わっていく。砕けていく。あの優しさも、あの笑みも、あの苦しみを持つからこそ、喜びを知る顔さえも。
今はフィアの心の傷へと変わっていく。
「けれど、それでも私の中には今も生命となって息づいている」
フィアは『赤い靴のカーレン』とタイトロープを渡るかのような戦いを続ける。ただ時間を稼ぐために、多くを失い、そして多くの傷を得ながら――。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
村人に避難策を提案できなかったしオレはその為の時間稼ぎをしよう
領主様は強くて華麗で案外と好戦的だねェ
村人達と反対方向へ誘導狙い全力で仕掛け気を引く
常時【激痛耐性/野生の勘/武器受け】極力躱し弾き被弾抑え
UCの速さで敵に対応
七分割した七葉隠を各個【念動力で投擲】攻撃
追随し敵へ接近
UC足場には地面・七葉隠・相対した敵の体も使い、敵と接する際は速度も威力に乗せ攻撃や相殺に利用
UC毒針はすれ違い・敵背後・被弾時など接近チャンス時随時
接近し七葉隠を念動で上下左右で挟み撃ち【追跡、串刺し】大振りなそれを囮に【だまし討ち】も決行
手に隠し持ったクナイでUC傷口あれば狙い斬り付け【傷口をえぐる/暗殺】
アドリブ可
「ちょろちょろとやってくれるわね、猟兵。あなたたちは私を知らない。私もあなたたちを知らない。なら、踊るしか無いわよね!」
『赤い靴のカーレン』は笑っていた。
戦いに際して笑っていた。
彼女にとって、戦いとは踊ることと同義である。彼女は踊れればいい。踵を打ち鳴らし、その速度を上げていく。凄まじき速度。
あれだけ華奢であり、そして手傷を負いながらも速度はますます上がっていくのだ。
「領主様は強くて華麗で案外と好戦的だねぇ」
鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は単身、『赤い靴のカーレン』に挑む。
これは時間稼ぎだ。
村人たちを避難させるのはトーゴには難しい。彼等が生きのびようとする意志に掛けるしかない。だからこそ、そのための時間をトーゴは稼ぐ。
どんな時にだって即座に決断しなければならないだろう。
けれど、人はどんな時でも決めることができるわけではない。迷う時もあれば、うつむく時もある。
立ち上がる時間だって必要になるだろう。
ならば、トーゴはその時間を稼ぐのだ。
『赤い靴のカーレン』の蹴撃より放たれる衝撃波がトーゴの体を撃つ。
あまりにも重たい衝撃。
遠く放たれた場所からでも届く攻撃はトーゴにとって耐え難いものであったかもしれない。極力躱し、被弾を避ける。
そのことによって時間を稼ごうとしていたが、今の自身ではダメだと理解できる。
「もっと速度をあげなくちゃあね、レディに着いてこれないようでは!」
「なら、使える全部を使うまでだよ……!」
トーゴの瞳がユーベルコードに輝く。
速度を上げる。炎に包まれた村に在った建造物。瓦礫と化していくそれらを利用し、三角跳びによってトーゴは『赤い靴のカーレン』の攻撃を交わしながら飛ぶ。
目にも留まらぬ高速移動。
跳ねる、飛ぶ。その繰り返し。けれど、直線的であったことだろう。『赤い靴のカーレン』が笑う。
「そんな曲芸じみたもので、私の周りを飛んだとしてもね」
蹴撃とトーゴのクナイが激突する。速度を乗せた一撃でっても相殺される。
更に飛ぶ。
最初に受けた一撃が体をきしませる。
けれど、トーゴはそれでも飛ぶのだ。
「――遅いって言っているのよ」
ぞわりとトーゴは背筋が凍る思いであったことだろう。己のユーベルコードの速度に着いてきている。
至近距離で見る『赤い靴のカーレン』の顔はおぞましいほどに美しく微笑んでいた。まるでダンス未経験者をリードするかのような熟練。
遊ばれている。
踊らされている。
そう感じるほどの圧倒的な実力差。けれど、トーゴはだからどうしたと思うだろう。己より強大な敵など嫌というほど見てきた。
蹴撃をクナイで受け止めながら後ろに衝撃を殺し、反転する。
今己がしなければならないことは時間を稼ぐことだ。ならば、勝てなくていい。負けなければいいのだ。
自分に彼女の意識を惹きつけ続ける。
「さあ、もう終わりでしょ」
「ああ、終わりだな」
その言葉と共に『赤い靴のカーレン』がガクリと膝を衝く。
「――?」
足が動かない。確かに彼女は足に猟兵達によって手傷を負っていた。けれど、動けなくなるほどの傷ではなかったはずだ。
けれど、今彼女は膝をついた。
「透ける珪砂の刺すところイラクサの葉毒賦活せよ──その傷口は痛む。躰のあるうちは、ずっとな」
刺硝子(シリカ)。
それは透明な毒針の一撃。
交錯した際に打ち込んだ一撃。トーゴはたしかに『勝てない』。けれど『負けない』のだ。
彼が打ち込んだ毒針は傷口を焼き、筋肉を溶解させる毒を持つ。
その毒性すらも『赤い靴のカーレン』は解毒するだろう。けれど、即座に、ではない。
「時間がかかるだろう。如何に『闇の種族』だってさ!」
トーゴは『赤い靴のカーレン』を念動力で制御した忍者刀でもって取り囲む。不可避なる斬撃。
それは『赤い靴のカーレン』を貫くだろう。
これまで積み重ねてきた猟兵たちの意地が、矜持が、今此処に『赤い靴のカーレン』に膝をつかせたのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
…あー、うん。知ってたけど無理だわこれ。現状倒すとかそういう領域じゃないわねぇ。
ま、できるだけのことはしましょうか。
エオロー(結界)を基点に韋駄天印(迅速)・ラグ(幻影)・摩利支天印(陽炎)、洗い浚いのバフ乗せた○オーラ防御を展開。ボウ・アンド・スクレープで一礼するわぁ。一差しお付き合いいただくわよぉ、ミ・レディ?
●鏖殺・殲舞起動…ただでさえ一発頭は軽いんだし、豆鉄砲レベルにすら効くか怪しいわよねぇ。…まあ、本命はそこじゃないんだけど。
重要なのは手数そのもの、攻撃全てに魔術文字乗せるわぁ。イサ(停滞)・ソーン(阻害)・ニイド(束縛)に帝釈天印(雷)、全力でイヤガラセして○時間稼ぎするわよぉ。
足を止める一撃が、足を穿つ一撃を導く。
一撃一撃はたしかに再生されてしまうだろう。『闇の種族』の強大さがあれば、何もおかしいことではない。出来て当たり前だとさえ思えるだろう。
けれど、猟兵たちの一撃は、それを遅延させる。
速度に勝る『赤い靴のカーレン』を打倒するのではなく、『魂人』の村人たちを救うためにこそ果敢に時間稼ぎに挑んだ彼等が毒を穿ち、『赤い靴のカーレン』に傷を見舞う。
「――侮っていたわけじゃあないけれど」
『赤い靴のカーレン』は真紅のドレスを鮮血で汚しながら笑っていた。まだ笑っていた。
楽しいというように。
何処まで理解を深めても、全てを理解できない相互理解には程遠い滅ぼすだけの存在を前にして彼女は愉快そうに笑っていたのだ。
吹き荒れる重圧。
突き立てられた忍者刀の全てが彼女の体より吹き飛ばされる。
「……あー、うん。知ってたけど無理だわこれ。現状倒すとかそういう領域じゃないわねぇ」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、その光景を見やりつぶやく。
勝てないわけではない。あらゆるものを犠牲にすれば確かに勝てるかもしれない。けれど、そのために多大な犠牲を払うということは即ち猟兵の敗北である。
だからといってティオレンシアはやらないという選択肢がないことを知っていただろう。
彼女を捨て置けば、どのみち多くの『魂人』が踏みにじられる。
この村と同じようなことが必ず起こるだろう。そうなった時、真っ先に犠牲に為るのは弱い者たちだ。
だからこそ、彼女は己が持てる魔術文字による能力の底上げをしていく。
コレでも足りないと思うのだから、『闇の種族』の強大さが伺い知れるだろう。
「お付き合いいただくわよぉ、ミ・レディ?」
ティオレンシアを包み込んでいくオーラ。
それは底上げされた防御。されど、優雅さえ感じさせるお辞儀でもってティオレンシアは『赤い靴のカーレン』に対峙する。
仰々しいと言われればそれまでだろう。
けれど、相手が踊ることに執着するというのならば、こうでもしなければ敵の注意を退くことはできなかっただろう。
「あら、お行儀の良いこと。けれど、私がほしいのは情熱的な踊りだけなのよね。その所作、何処まで持つかしら」
それに、と『赤い靴のカーレン』が微笑む。
どうせ踊るのならば男の子の方がいいと。同じ女性でも、強かさを感じさせるティオレンシアとは合わないと彼女は笑っていた。
お辞儀より顔を上げた瞬間、そこにはすでに『赤い靴のカーレン』が迫っていた。さらにはティオレンシアの足を狙う斧。
ダンスの相手とは認めぬが故に放たれた斧は、低い軌道を描いている。
けれど、ティオレンシアの薄めの奥にユーベルコードが煌めく。
「エオロー、韋駄天印、ラグ、摩利支天印、洗い浚い全部乗っけてるのよぉ? 一撃くらいなら受け止められる」
オーラの激突する斧が火花をちらしている。衝撃がオーラすら突き抜けてくるようであった。
それをティオレンシアは見やることもせず、そのユーベルコードに輝く瞳を『赤い靴のカーレン』に向ける。
魔術文字によって底上げされた魔術。そこにハッタリを加える。手練手管の全てを乗せても尚届かない領域に『赤い靴のカーレン』があることは百も承知である。
「あたしが一番得意なこと、教えてあげる」
「あら、何かしら? どちらにしたってあなたが死ぬことには代わりはないのだけれど」
振り下ろされる蹴撃の一撃がオーラを砕く。
ありったけの魔術文字でもって強化していても、たやすく砕く一撃。
けれど、それは大振りだ。わかっていたことだ。彼女の性格を考えれば、最も強固な部分を撃ち抜いて、相対する者の自信を奪おうとするだろうことも。
「雑魚散らし、よぉ?」
ティオレンシアもまた笑むだろう。
乗せやすい相手であると。蹴撃の一撃を既で躱す。だが、衝撃波が彼女の体を撃つだろう。
吹き飛ばされる体。
けれど、ティオレンシアは打ち込む。停滞に阻害、束縛に雷。
「イサ、ソーン、ニイド、オマケに帝釈天印!」
全力で持って放たれるは、鏖殺・殲舞(アサルト・ファランドール)。手数は多い。けれど一発一発が軽い。
ならば、その手数を活かすためにはどうするか。
圧倒的物量ではない。
敵を阻害すること。それのみに重点をおいた嫌がらせ。時間を稼ぐためには、この程度のことなどやってのけなければならない。
走る魔術文字が『赤い靴のカーレン』を捉え、その動きを止める。これまで積み重ねられてきた猟兵たちの時間稼ぎがあればこそ、通用する手であった。
ティオレンシアは打ち込んだ魔術文字の効力が切れるその時まで、『赤い靴のカーレン』をその場に縫い止め続けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ギヨーム・エペー
よし! 前進する為にも撤退戦といこうか。この村を失うのは嫌だろう。でも、それでも外へと続く出口に行くんだ。現状を否定していい。あの方もおれの事も拒絶していい。だが死ぬな。生きるんだよ。もう一度を生きるんだ。這ってでも火の先に向かうんだ
太陽は道を作ってあげて。熱くも冷たくもない燃えているだけの炎を消せずして水を象るなら意地を見せろ!
おれは嫌がらせをしてくるよ。実力差は判っている。手のひらに上がらせてすらくれないかもしれない。だが乱入者ってのは階段がなくとも壁をよじ登るんだ
もう魂人は代償を払っただろ? ついでにおれの寿命も押しつけてやるよ。代わりに暇潰しになってやるからさ、此処でずっと踊り続けなよ
『楽園』だと思っていた村は夢うつつの仮初であった。
『箱庭』でしかなかったことを知った時、『魂人』たちの心は散り散りになったことだろう。
此処で得た暖かなもの全てが偽りであると知ったのだから。
冷たい水が体の中に入り込んで、凍りつかせていく。
心に罅を入れ、割る。
それが『赤い靴のカーレン』の望んだことであった。踏みにじること。ただそれだけのために、こうして『箱庭』を生み出し、なにも知らぬ『魂人』たちを囲う。
謂わば、純正培養であった。
悪意がなければできないこと。好意も何もない。ただ利己的な思いだけで生み出された偽りの『楽園』。
そこに生きた人々はただ踏みにじられるだけでしかない。
「よし!」
ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)は力強く頷いた。
村人たちは茫然自失のまま彼を見上げただろう。何を、と思ったはずだ。簡単だ。これからやることは前進のための撤退戦である。
彼等を守り、次なる村へと送り届けなければならない。
まだ彼等は生きているのだ。
「この村を失うのは嫌だろう。でも、それでも外へと続く出口に行くんだ。現状を否定してもいい。あの方もおれのことも拒絶していい」
ギヨームは『魂人』たちに手を差し伸ばす。
今はまだ何も考えられないし、決められないだろうということはわかっている。
「だが死ぬな」
その言葉は思いの外、力強いものであった。
有無を言わせぬ言葉であった。今は死ぬほどに辛いであろうというこはをギヨームは理解していた。
けれど。
「何を……」
「生きるんだよ。もう一度生きるんだ。這ってでも、火の先に向かうんだ」
ギヨームは『魂人』たちにつげる。
村は炎に包まれ、もはや何処にも行き場がないように思えただろう。けれど、今も尚猟兵たちが戦っている。
『赤い靴のカーレン』の悪意に『魂人』たちが踏みにじられぬようにと。死力を尽くして戦っている。
あれが生きるということだとギヨームは示すだろう。
「わかるだろう」
「……」
『魂人』たちの瞳にあるのは絶望であった。拭うこともままならない絶望だ。『赤い靴のカーレン』のしたことは、たしかに効果的であった。
けれど、それでもとギヨームは己の契約精霊にに告げる。
「『太陽』、道を作ってあげてくれ。熱くも冷たくもない燃えているだけの炎を消せずして、水を象るのなら」
意地を見せろとギヨームの言葉に『太陽』より放たれる力が炎の囲いを吹き飛ばす。
道は開けた。
ならば、後は彼等が進むだけである。そう、ただ進むだけでいい。難しいことを考えなくたっていいのだ。
「おれは嫌がらせをしてくるよ」
実力差は嫌というほどわかっている。手のひらにすら上がらせてもらえないかもしれない。
けれど、いつだってそうだ。
乱入者というものは階段がなくとも壁を登る。よじ登る。とっかかりがなくとも、うがって刻み込んで足をかけ、手をかけて登るのだ。
「もうキミらは代償を払っただろ?」
ならば、これからは己がそうする番だと言うようにギヨームは瞳をユーベルコードに輝かせる。
あるのは血脈。
自身の血液に交じる氷魔すらも焼べる冷炎が吹きすさぶ。紫の瞳が狂気を発露し、歌う。
Sang Vampire(ヴァンパイア・ブラッド)。
「La nuit du coucher du soleil arriva.」
夕焼けはやってくる。どんなに拒絶しても時が巡るように。
「あら、色男。私の相手をしてくださるおつもり?」
「ああ、暇つぶしになってやるからさ、此処でずっと踊り続けなよ」
ギヨームの覚醒した姿は能力を爆発的に増大させる。漲る力。迫るヒールの一撃も、何もかも押しのけてギヨームは征くだろう。
例え、之が時間稼ぎに過ぎないのだとしても、それでも彼は己の姿で、背中でもって絶望に凍える『魂人』たちの心を溶かす――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
もーえろもえろー♪
そんな民謡があったね!
●踊り踊って踊り得
UC『神知』で【ダンス】パワー等を引き上げる!
うわーい踊るのすきー!
キミは強い!でもそう、踊りを楽しまないといけないってルールがある!いや趣味?がある!
ボクのダンスに着いて来れるかな!と【挑発】しダンスの伴侶になってあげよう!
やっぱり火を囲んで回るダンスってアガるよね~!
これが源流ってものだよ!
あははははっ!
あ、デスダンス系攻撃だったら【第六感】等でくるくる【ダンス】回避!
●うぉおおお!ここはボクに任せて先に行け~!
あ[ミレニアムドラゴン号]くんは脚斧されたくなかったらがんばってこっそり魂人くんたちを運んでね!
村が燃えている。
『楽園』の如き村が。それは『楽園』ではなく『箱庭』であったけれど、それを訂正する気力のあるものはいなかっただろう。
炎が取り囲み、あらゆるものが崩れていく。
『魂人』たちは再び己の心を傷つけられた。
どうしようもないことであったのかもしれない。ここダークセイヴァー上層において『魂人』とは『闇の種族』の玩具でしかない。
徒に生かされ、徒に殺される。
死を否定することのできる永劫回帰の力があったとしても、死を否定する心がなければ意味をなさない。
そのためにこそ幸せの絶頂から『赤い靴のカーレン』は叩きと落としたのだ。
「もーえろもえろー♪」
そんな民謡があったよね、とロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は笑う。
その背後で飛空艇が次々と『魂人』たちを収容していく。
逃げる。それを知覚した『赤い靴のカーレン』が即座にうごいていた。これまで数多の猟兵たちの攻勢によって時間稼ぎをされていた彼女はこのままでは己の目的そのものが阻まれると理解したのだ。
「逃しはしないわよ。誰もね。どれだけ猟兵が来ようとも、他人のために戦うような奴らに私が負けるわけないもの」
ロニは瞳をユーベルコードに輝かせながら、己の中にある舞踏のスキルを底上げしていく。
「うわーい踊るの好きー!」
「そう、私も好きよ。でもね、もっと好きなこともあるのよ。それは踏みにじること。理解できないことを理解してもらうのって、たまらなく素敵なことでしょう!」
迫る重圧は手傷を負っていながら衰えることはなかった。
踏み出す速度は圧倒的。
かといって、速度一辺倒であるかと言えば、そうではない。凄まじい膂力すら持ちえて、あらゆる猟兵たちの攻勢を弾き返してきたのだ。
「キミは強い! でもそう、踊りを楽しまないといけないってルールがある! いや趣味? がある!」
ロニは挑発するように『赤い靴のカーレン』に並走するようにして踊る。
触れ得ず、支えず。
ダンスを共にするのにパートナーは必要ない。ただ己の表現したいことを発露させる。その動きこそが人に伝わり、理解を有無。
炎が巻き起こる村。
もはや村の崩壊は免れないだろう。ロニはけれど、心が高揚するのを抑えられな在った。
蹴撃の衝撃をいなし、身に受け止めながらロニは言う。
「あははははっ! これが源流ってものだよ!」
火を囲んで回るダンス。
それは最も原始的なものであったことだろう。火は恐ろしいものだ。忌避すべきものであっただろう。けれど、それを乗り越えた先にあるものこそ文明というものである。
人と動物を分かつのは、その恐怖を乗り越えることができるか否かである。火はあらゆる文明文化の源である。
「情熱の赤というものよね。けれど、あなた――人じゃないわよね? 人の真似事をして、人を知った気になって、愛したつもりでるのでしょう?」
全てを壊すことしかできないくせにと『赤い靴のカーレン』は微笑みから嘲笑へと変えていうのだ。
「だから? すべての水たまりがよどんでたり、腐ってたりするとはかぎらないさ。たとえ、流れにとり残されていようとも。そこに何かを見出すのが人でしょ? ならさ!」
そんなことは些細なことであるというようにロニと『赤い靴のカーレン』の拳と蹴撃が激突する。
暴風が吹き荒れるように衝撃波が荒び、炎を打ち消していく。
その背後で『ミレニアムドラゴン号』が残った『魂人』たちの全てを収容し、燃え盛る村から飛び立っていく。
炎に巻かれた『魂人』たちはいなかった。
ロニの時間を稼ぐという目的は果たされたであろうし、これ以上は付き合う必要もない。
衝撃波と共に物別れとなるようにロニは『ミレニアムドラゴン号』より垂らされたロープを掴んで退避する。
理解できないことを理解する。
それが言葉無くとも伝えることのできる手段、ダンスであったのならば、たしかにロニと『赤い靴のカーレン』は互いに相互理解できぬことを今まさに理解したのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…布告した直後に来るだなんて、随分と堪え性の無い主様だこと
…このままでは、あまりにも一方的過ぎて魂人達が抵抗する余地も無いですし、
今しばらく私が舞踏の相手を務めさせていただきますわ、カーレン様
…ああ、気にしないで。彼らを逃すのに貴女の名前を借りただけだから
「精霊石の耳飾り」に幸運の精霊を降霊して吉凶の流れを暗視し、
肉体改造術式により強化した第六感が捉えた殺気を残像として見切り、
収集した戦闘知識から敵の未来位置を予測する早業で攻撃の回避を試みつつUCを発動
…闇の種族。死力を尽くせば倒せない敵では無い、とはいえ…。
…この状況で犠牲を無視できるのなら、最初からこんな芝居はしていないわ
三次元的な空中機動を行う1270本の血糸による集団戦術で敵を包囲して乱れ撃ち、
血糸から流し込んだ呪詛のオーラが防御を無視して敵の生命力を吸収し、
宙吊りで捕縛した敵の怪力を封印する闇属性攻撃でダンスを踊れなくして時間を稼ぐ
…踊るなら後で好きなだけ踊るが良いわ、カーレン
誰もいなくなった1人きりの舞台で好きなだけ、ね
動きがついに止まる。
『闇の種族』である『赤い靴のカーレン』は速度に勝る相手であった。猟兵たちの最高速度を軽く超える動き。これを止めなければ『魂人』たちを踏みにじろうとする彼女を押し止めることはできなかっただろう。
時間稼ぎのために果敢に挑んだ猟兵たちの攻撃が、彼女の動きを鈍らせ、ついに足を止める。
「……嫌がらせは上々ってところね。女性の扱いがなっていないと怒るところではあるのだろうけれど」
『赤い靴のカーレン』は己の足に刻まれた傷をなど気にした様子もなく踵を打ち鳴らした。
打ち込まれた毒は既に解毒されている。
己に付与された阻害の印もまた解除されている。いや、解除しきってはいないのだろうが、己のユーベルコードに寄って強引にこれを打ち破っているというのが正解であった。
「……布告した直後に来るだなんて、随分と堪え性のない主様だこと」
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、その重圧を前にしても尚、不敵に笑む。
「あなたのような従者を持ったつもりはないのだけれどね。それにしたって、猟兵ってば理解不能だわ。どうしてこんなことをするのかしら。先延ばししたっていいことなんて何一つないでしょう?」
その言葉にリーヴァルディは答えるだろう。
いや、本心からではないけれど。それでも敵の注意を引くための方便であると言えば、そう聞こえるかもしれない。
「……このままでは、あまりにも一方的すぎて『魂人』達が抵抗する余地もないですし、今暫く私が舞踏の相手を務めさせていただきますわ、カーレン様」
打ち鳴らされる踵。
その音を置き去りにするかのように眼前に現れる『赤い靴のカーレン』の顔。微笑んでいる。
こんな時にでさえ、彼女は微笑んでいた。
「意味のないこと、心にもないことを言うのね。あなたがそんなこと思っていないことだけは、はっきりとわかってしまうわよ!」
振るわれる蹴撃をリーヴァルディは躱す。
吉兆の流れを暗視する耳飾りと肉体改造術式、そして第六感が捉えた殺気を残像で持って漸く躱すことのできる攻撃。
これまで収集してきた戦闘知識を総動員して導き出される『赤い靴のカーレン』の挙動。
けれど、振るわれる蹴撃の一撃は想像以上であった。
空を切る蹴撃は、衝撃波を放つ。その範囲が広すぎるのだ。既の所で躱せたとしても、その衝撃波がリーヴァルディを強かに撃つだろう。
「……闇の種族。死力を尽くせば倒せない敵では無い、とはいえ……」
痛みが走る。
けれど、今はそれは捨て置く。きしむ体。あらゆるものを犠牲にすれば確かに勝利することもできなくはない。
けれど、それが選べるのならば、犠牲を無視することができるのならば、リーヴァルディは最初からこんな芝居を打つことなどなかったのだ。
煌めくユーベルコードが吸血鬼狩りの業・血葬の型(カーライル)となる。
漲る力。
「……対吸血鬼用拘束封印術式……B・B・B発動」
彼女の手のひらから放たれるは黒血糸。
複雑に飛翔し、幾何学模様を描くそれが、『赤い靴のカーレン』を追う。凄まじい速度を誇る彼女が走るたびに衝撃波が生まれ、黒血糸を寄せ付けない。
だが、それ以上に真の姿を晒したリーヴァルディの力は底上げされていく。包囲し、乱れ打たれ、それでもなお『赤い靴のカーレン』は凄まじい速度を更にあげるのだ。
「この程度……―――ッ!」
だが、ガクン、と彼女の体がきしむように速度を落とす。
これまで積み重ねられてきた猟兵の攻撃が、彼女の機動力を支える足に着たのだ。千を超える血黒糸が一斉に『赤い靴のカーレン』を取り囲む。
どれだけの速度を持っていたとしても躱すことのできない絶対たる囲い。
その織り重ねられた檻の如き封印術式。
それが今完成した瞬間であった。
「……踊るなら後で好きなだけ踊るが良いわ、カーレン」
リーヴァルディは睥睨する。
赤い月を照らすかのような『楽園』を包み込む炎。
『魂人』たちにとっては滅びの赤。
されど、『赤い靴のカーレン』にとっては、愉悦の色。その全てをリーヴァルディは否定するだろう。
「私をこれで、止めたと――!」
黒血糸が撚り合わさるようにして『赤い靴のカーレン』の動きを封じる。
宙吊りにするようにしてダンスの起点となる大地を踏みしめる動きも、怪力も封じ込めるのだ。
これが長く続かないことはわかっている。
けれど、それでもいいのだ。この戦いは勝つことが目的でもなければ、打倒することでもない。
多くの『魂人』を逃すこと。ただそれだけのために行われていることなのだから。
燃え盛る『箱庭』にリーヴァルディは降り立ち、黒き繭となった『赤い靴のカーレン』を見上げる。
「誰もいなくなった一人きりの舞台で好きなだけ、ね――」
大成功
🔵🔵🔵
第3章 冒険
『愚滅の花園』
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POW : 花を炎で燃やす、刈り取るなど、物理的に罠を排除して進む
SPD : 空を飛ぶ、花の敵意を逸らすなど、知略を尽くして罠を回避し進む
WIZ : 幻を打ち破る、毒を浄化するなど、魔法的な手段で罠を解除して進む
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
炎が『楽園』を飲み込んでいく。
猟兵たちが果敢に時間稼ぎに挑んだおかげで、不幸中の幸いとも言うべきことに『魂人』たちは誰ひとりとして欠けることがなかった。
けれど、もはや彼等は『楽園』にはいられない。
荒野に彼等は突き放されたかのようでもあった。
「これからどうすれば……」
「あんな、あんなことがあっていいのか? 俺たちは、何も、何もしていないだろう!」
「ああ……こんな世界だったなんて……全部、偽りだったなんて……」
彼等は悲嘆にくれる。
けれど、猟兵達はここまで彼等を捨て置くことなどできないだろう。近隣に『魂人』たちの集落が存在していることは確認されている。
けれど、『楽園』であった『箱庭』は隔絶された場所にあった。炎は今も煌々と立ち上っているし、その炎に追われるようにして、目の前の荒野に存在する花園を突っ切らなければならない。
猛毒や食肉花が咲き誇る花園。
これを『魂人』たちだけで抜けるのは無理があるだろう。どうにかして、ここを猟兵達は導かねばならない。
難しいことであることは百も承知である。
この戦いを始めたときから、簡単なことなど何一つないことを猟兵達は知っているだろう。
だからこそ、悲嘆に暮れる『魂人』たちの生きる意志が必要なのだ。悲嘆に暮れることは誰にもできる。けれど、その悲嘆を乗り越えることこそが人間の戦いなのだと今一度、彼等に伝えなければならない――。
リーベ・ヴァンパイア
(ーー希望と祝福を失うのは何度だって慣れずに、耐えられないものだ。……俺もそうだった。親を、そして守ると誓った彼女をーー何度も希望と祝福を目の前で失い、絶望し崩れ落ちた。死のうと思った事もあった)
……だが、それでも日は昇り、明日はやってくる。……生きねばならない。生きて、生きて、生き抜き、戦わなければならない。それが奪われた者の、生き残った者の定めだ。
今は嘆き、絶望してもいい。いや、それを抱えて生きていかねばならない。だが
ーー新たな希望を手に入れるのを、あるのを忘れないでくれ。
方針
【戦闘知識】で、咲く花が害があるか、ないかを見極める。そして害がある花は【swordparty】で切って、道を作る
人は生まれながらにして祝福されているものである。
祝福無き誕生はなく。また希望無き展望も存在はしない。故に人の心は傷つきやすいものであることをリーベ・ヴァンパイア(Notwendigkeit・f37208)は知っていただろう。
己がそうであったように。
リーベの心にあるのは祝福と希望を失う耐え難い痛みであった。
どれだけ経験しても慣れるものではなかった。耐えられないものだった。親を、そして守ると誓った彼女を。
何度も何度も目の前で失ってきたのだ。
絶望に打ちひしがれただろう。
崩れ去りそうな体を引きずって歩く道のりは、あまりにも辛く険しいものであった。
死にたいと願うことだってあったはずだ。
どうしようもない己の人生に、幕を下ろす。それができるのもまた己自身だけであることをリーベは知っていただろう。
「……だが」
そう、だが、と己の心が吐露する。
どれだけの艱難辛苦が己の目の前に立ち塞がるのだとしても、己の心は未だ玉である。磨き抜かれた輝きを放っている。
「それでも日は昇り、明日はやってくる」
「……それでも」
『魂人』たちはリーベの言葉にうなだれた頭を持ち上げる。膝をついたままなのは仕方のないことだ。誰もが即座に立ち上がれるわけではない。
「それでも、どうしろというんだ!」
「……生きねばならない。生きて、生きて、生き抜き、戦わなければならない。それが奪われた者の、生き残った者の定めだ」
リーベは背中を向ける。
彼等に伝えられることはそう多くはない。
いや、多くがあったのだとしても、彼等がそれを飲み込めるとは未だ思えない。
傷を負った者は、いつだって己の傷ばかりを見てしまう。
痛みは、他の全てを否定するものであるから。リーベの瞳がユーベルコードに輝く。
「今は嘆き、絶望してもいい。いや、それを抱えて生きていかねばならない」
現れた赤い剣の群れが、隔絶した地にあった『楽園』と他の集落を阻む花園に乱舞する。
ここには猛毒を放つ花や、食肉花、そして幻惑を見せる花が自生している。
これを突破するためには、それらを切り裂き無効化しなければならない。一時も休まるときはない。
けれど、生きるということはそういうことだ。
どんなに嘆いてもときは待ってくれはしない。
「だが――」
リーベは剣でもって、それらの障害を取り払いながら道を作り出していく。未だ希望に続くとは分からない暗澹たる道。
何も見えない道。
照らすものすら何一つ無い『魂人』たちにとって、それは恐れるべき闇だったことだろう。
眩い『楽園』の日々が彼等の目に闇を未だ慣らしてはくれないだろう。
けれど、それでもリーベはい言うのだ。
「――新たな希望を手に入れるのを、あるのを忘れないでくれ」
希望はいつだって与えられるものではない。
輝きはいつだって降り注ぐものではない。
常闇の世界、ダークセイヴァーにおいて天にあるのは輝きではない。その地にありて生きる人々の心の内側より発するものであるからだ。
だからこそ、リーベは赤い剣を振るい、彼等に背を向けたまま、その胸に宿るものをこそ大切にしてほしいと願う。
「……希望」
呆然と彼等はつぶやくだろう。理解できないかもしれない。あるのかないのか、形がないものを信じるのはいつだって困難に満ちている。
それでもリーベは信じるしかない。
己が自身で立ち上がったように。人の足は屈すれど、再び立ち上がることができることを己自身が証明しているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
七那原・望
そうですね。こんな世界はあってはならない。
でも、嘆いていても始まりません。わたし達が護るから、少しでも安全な場所を目指して歩きましょう。
例え一度死んでいるとしても、あなた達はまだ『あなた達』なのです。
心と意識が生きているなら、足掻き続けるのです。
いつかわたし達がこの間違った世界を滅ぼすその日まで、本物の楽園に辿り着けると信じて、心を生かし続けるのです。
癒竜の大聖炎と浄化属性結界術で自身とみんなを護り、浄化と炎属性の魔法で食肉花を燃やします。
己の闇を恐れよ、されど恐れるなその力。
その言葉は祈りでもあり、希望でもあり、絶望です。
あなたはその力をちゃんと恐れるべきです。
でないと、いつか堕ちますよ。
人の心は傷つけば、容易に傷は塞がらぬものである。
どうやって癒やせばいいのかもわからない。万病に通じる薬がないのと同じように、人の心は千差万別であるからこそ、何が彼等の心を癒やすのかわからない。
ただ、時だけが解決してくれる。
けれど、その時すらも今は待ってはくれない。
此処に絶望のままに立ち止まっていては、『赤い靴のカーレン』は微笑みながら彼等を踏みにじるだろう。
どんなに逃げても無駄だと笑うように。
ただ、そこに在るというだけで踏みにじり、己の欲望を満たすためだけに玩具とするだろう。
その悪辣さを知るからこそ、七那原・望(封印されし果実・f04836)は『魂人』たちの元に言う。
「そうですね。こんな世界はあってはならない。でも、嘆いていても始まりません。わたし達が護るから、少しでも安全な場所を目指して歩きましょう」
望の言葉は多くの『魂人』たちにはまだ届かないだろう。
歯がゆいと思う。
守れるのならば、『楽園』ごと守りたかっただろう。
けれど、あの場に在る限り『赤い靴のカーレン』は踏みにじる。彼女だけではない、『闇の種族』のいずれかに目をつけられてしまえば、また同じことが起こるだけだ。
「……安全な場所などあるものか。こんな世界のどこに安全な場所があるというのか!」
その激高した言葉が響き渡る。
彼等もわかっているのだ。望に当たり散らした所でなにも解決しないと。時はまってくれない。どんな事情も、どんな心の傷も、何もかも彼等を責め立てる。
「……例え一度死んでいるとしても、あなた達はまだ『あなた達』なのです。心と意識が生きているなら、足掻き続けるのです」
望の言葉は、彼等にとって傷口に塩を塗るようなものだった。
そう、あの辛く苦しい前世。
死する時すら嘆いていたあの人生。それはまだ続いているという現実。
望が悪いわけではない。『魂人』はただ、目の前の望むに当たり散らしただけだった。叫ぶ声に息を切らして、『魂人』は頭を垂れるだろう。
小さな声で、すまない、と漏らすことが精一杯であった。
「いつかわたし達がこの間違った世界を滅ぼすその日まで、本物の『楽園』にたどり着けると信じて、心を活かし続けるのです」
それしか今はできない。
死を否定する永劫回帰の力。それに必要なのは暖かな記憶だ。
力の起点が記憶であるというのならば、それは積み重ねることができる。辛く苦しいからこそ、喜びと楽しみを得られる。
それが人の感情というものだ。
望のユーベルコードが煌めく。
癒やしを齎し、邪悪を払う炎がみちていく。花園に在りし悪意ある花々を燃やしていく。
「『己の闇を恐れよ、されど恐れるなその力』……」
癒竜の大聖炎(ユリュウノダイセイエン)が花園に広がっていく。
その様子を一人の『魂人』の青年が見ていた。
ぼんやりとしているようでもあったけれど、決定的に違ったのは他の『魂人』たちと違って瞳が絶望に塗れていないことだ。
「その言葉は祈りでもあり、希望でもあり、絶望です」
望は青年に近づき言葉を告げる。
それは予告でもあったし、宣告でもあったことだろう。
心に光があるのならば闇もある。また逆も然りである。心の闇が色濃くなるのならば、また光も輝きを増す。
今の青年の心にあるのは、どちらとも言えぬ渾然一体となったものであった。振り返る青年が困ったように苦笑いをしたのを見ただろう。
「あなたはその力をちゃんと恐れるべきです。でないと」
望は理解していただろう。
己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力。
その言葉はいつだって彼等の傍らにあるものである。ともすれば、望の根底にもあるものかもしれない。
「でないと、いつか堕ちますよ」
闇に堕ちること。永劫回帰は暖かな記憶でもって死を否定する。今は傷つき疲れ果てた心であるかもしれない。
その心にあらたなる傷を作っていくことこそが、生きることなのかもしれない。
けれど、望は封印の目隠しに覆われた顔を向ける。
闇に在るからこそ光の煌きを見ることができるように、望は悪意ある花々を燃やす炎を見つめる。
彼等を滅ぼそうとした炎ではなく、癒やし齎す炎が今、明日という未来につながる道を照らしている。
たった一つの希望。
されど、飛び火するように膨れ上がっていく希望。
それを望む者は、手を伸ばすだろう。いつかきっと、と望自身が望むように――。
大成功
🔵🔵🔵
フィア・フルミネ
約束は果たさなければならないね。他の集落へ行こう。安全とは言えないけど、戻ることもできないから。キミたちが進む気を持つまで責任を果たそう。猟兵としてのね。
魂人のできることといえば『永劫回帰』だけど、割ともうトラウマしか残りそうにないから別の手を打とう。まだ私には満足に動く手も足もある。四肢が動かなくなるまで存分に花園を荒そう。足の踏み場くらいは作ってあげたい。
動けなくなっても逃げ切った魂人たちを見送られれば、安堵でもなんでも思い出になるようなことがあれば、いくらでも楽しい思い出は作れるからね。私が死ぬときは永劫回帰すればいい。四肢が壊れる寸前くらいには戻れるだろうし。
ああトラウマになりそう。
「約束は果たさなければならないね。他の集落に行こう」
その言葉は絶望に打ちひしがれる『魂人』たちの耳に届いたことだろう。けれど、彼等は顔を上げることができなかった。
確かに彼等は安寧の中にいた。
幸福の絶頂であったと言ってもいいだろう。けれど、それは失ってしまえば、遥かな高さから突き落とされたのと同じであった。
心は形を持たない不定形。
けれど、傷つくのだ。肉体のように癒えることは長い時間を必要とするし、戻ることはないのかも知れない。
けれど、フィア・フルミネ(痺れ姫・f37659)は彼等の誰一人として動こうとしない姿を見て小さくつぶやく。
「安全とは言えないけど、戻ることもできないから。キミたちが進む気を持つまで責任を果たそう」
猟兵として。
一人の『魂人』としてできることは限られている。
死を否定し続ける永劫回帰。
その力によって『魂人』は地獄の如きダークセイヴァー上層を生き抜く。心を犠牲にして生き延びるための力は、必ず暖かな記憶をトラウマに変えてしまう。
だから、フィアはその瞳をユーベルコードに輝かせる。
まだ彼女には満足に動く手も足もある。目の前に広がるのは花園。いっそ趣味が悪いとさえ思えるだろう。
楽園に続く花の葬列のようでもあった。
隔絶された場所にあるからこそ、こんな花園が広がっているのかも知れない。
知らせる必要はなく。
そして、『魂人』たちを外界から切り離す。毒花もあれば、食肉花もある。幻惑を見せる花もあるだろう。
どれもが道を阻んでいる。
「どうして……」
その言葉がフィアの耳を叩く。どうして。どうしてだろうとフィアも考える。
自分たちを虐げる者はどうしてそんな事をする必要があるのかわからないことばかりを自分たちに強いてきた。
痛めつけ、己の嗜虐心を満たすためだけに暴力を振るう。
彼女の身に刻まれた傷跡が証明している。
フィアは構わず踏み荒らす。
花園の全てを踏み潰さんとするかのようであった。
磁雷矢(ジライヤ)は苛烈なるユーベルコードであった。踏み潰す花々の棘が己の体を蝕むだろう。
痛みが走る。
熱が走る。
これはどうしようもない。花を踏みつける行為は楽しいものではない。けれど、この踏み荒らした道が『魂人』たちの道となるのならば、己の体がどうなろうとフィアは構わなかった。
「どうして、あんたがそこまでする」
『魂人』の青年が尋ねる。
何故だろう、と考えるまでもない。誰かのためになりたいと思うからだ。例え、己の魂が暖かな記憶を摩耗したトラウマへと変わり果てるのだとしても、きっと『魂人』たちが逃げ切ってくれた背中を見れば、安堵でもなんでも思い出に為るはずだ。
それはフィアにとって暖かな記憶だ。
「いくらでも楽しい思い出は作れるからね」
死するのならば、死を否定すればいい。そのための永劫回帰。四肢が壊れても構わない。元に戻るから。
村人たちの生きる道はこれからも続いている。
自分が踏み均した道を彼等が歩いてくれればいい。痛みも何もかも自分が引き受けるから。
これはきっと自分にしかできないことであったからだ。
「……あんたが傷つくのは、いや、他の誰もが傷つくのを俺は」
心苦しいと青年は言っただろう。
その苦しみに満ちた顔。
「ああ、トラウマになりそう」
思わずつぶやく。
そんな顔をさせたかったわけじゃないのだけれど。それでも、フィアは己ができることの多くは無いことを知っている。
生きるためにはなんでも使わなければならない。死なないのならば、暖かな記憶すらもかなぐり捨てる。
そうして誰かの生命が救われるのならば、フィアはきっと、微笑みながら言うのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
さてー、まあ…いきなり現実突きつけられて混乱、悲嘆するのはわかりますねー。
でもね、今は生きているんですよー。なれば、生きなければね?
人は何かしら、傷をもって生きているものですからー。
…あなた方と『私たち』は、近しい存在。放っておけるわけがないんですよー。
漆黒風を投擲してUCを使いましょう。ええ、この鬼蓮こそはあなた方を守るもの…。
さらに天候操作による風で、近づけさせないようにしましょう。内部から、炎の援護もありますしねー。
いつかきっと、ここにも本当の平和が来るはずですからねー。
『魂人』たちは現実を突きつけられたことだろう。
全てが偽り。
仮初ですらなかった。『赤い靴のカーレン』が狙っていたのは、そんな彼等の絶望であったことだろう。
死を否定する永劫回帰の力。
それがあれど、全てを踏みにじれば『魂人』は発狂し、死を否定できなくなる。
村人たちが浮かべる表情はそれに近しいものであった。
悲嘆、混乱、絶望。
それらばかりが彼等の中を渦巻き、その身をさいなんでいる。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は理解している。このような現実を突きつけられて、どうしようもなくなっていることぐらい。
けれど、それでも時は待ってはくれない。
「わかりますよー」
いつもの口調で『疾き者』は『魂人』たちに告げる。
わかるのだ。
全てを失うことの痛みも、苦しみも。何もかも。己たちもまた全てを失ってしまった者であるから。
だから、と『疾き者』は言葉を紡ぐだろう。
「でもね、今は生きているんですよー。なれば、生きなければね?」
その言葉にうなずける者たちは多くはなかっただろう。
生きている。死した後にも続く生。
踏みにじられるだけの生が、これからも続くことを彼等はもう理解しているだろう。抗わなければ、ただ徒に傷つけられるだけだ。
未来永劫、自分たちには救いは無いのかと思うだろう。
「人は何かしら傷を持って生きているものですからー」
「そう簡単には割り切れない。どうしたって、あの平穏が忘れられない。どうしようもなく」
「正直に言えば、捨て鉢になっている。放おっておいて欲しいとすら思っているよ……」
彼等の言葉は空虚そのものだった。
色もなければ、生気もない。ただうつろ。
「……あなた方と『私たち』は、近しい存在。放っておけるわけがないんですよー」
彼等は確かに傷ついているだろう。
手にした棒手裏剣が鬼蓮の花びらに変わっていく。
それがユーベルコードであることを『魂人』たちは理解できただろうか。それすらも考えたくなかったかもしれない。
四天境地・風(シテンキョウチ・カゼ)は鬼蓮の花びらと共に『魂人』たちを護る結界となるだろう。
風が花びらを運んでいく。
どんなに打ちひしがれても、立ち上がらなければならない。自分の足で歩まねばならない。
目の前に広がる花園は猟兵達によって障害となりえないだろう。
「……このままでいいはずがない。誰かに寄りかかり続けて言い訳がない」
『魂人』の青年が告げる。
彼の言葉は正しい。どんなに打ちのめされても、道が目の前にあるのならば歩まぬ理由などない。
その姿を『疾き者』、そして内部にある他の三柱も見ていただろう。
あれが人の姿である。
例え殺されてしまったのだとしても、負けぬ存在の在り方。
『闇の種族』たちのやることは、全てが悪意に満ちていることだろう。欲望のままに振る舞うことこそが、彼等の本懐。
「いつかきっと」
『疾き者』はうなずく。
そう、いつかきっと。
「ここにも本当の平和が来るはずですからねー」
保証もなにもない。
できるかどうかもわからない。
けれど、確信を持って言わなければならない。諦めこそが人の歩みを止めるというのならば、背中を押すのはいつだって希望なのだから。
例え、仮初であったとしても、それを本当に変える力がある。それを抱く限り、人は決して屈しないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
魂人さん達の脱出を助けるのであれば、植物の排除が近道ですね。
とはいえ植物の女神としては、生きる為に行動している植物達を一方的に殲滅するのは避けたいものです。
なのでUC:慈眼乃光を使いつつ植物と話す事で植物達が魂人さん達を襲わないように押しとどめる。
また、薬の属性攻撃・浄化・全力魔法・結界術・範囲攻撃によって周囲一帯の毒を消し去ります。
どうしても排除しないと魂人さん達が危険な時だけ煌月で植物をなぎ払って道を切り開きますよ。
魂人さん達には、「貴方達が悲しむのは尤もです。
ですが生きて此処にいます。
喪われた物を悲しむより、今残っているものを大切に前に進みましょう。
私達もお助けしますよ。」と鼓舞します。
『アシカビヒメ』という名の神性は、植物と活力を司る。
大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)の瞳から輝くユーベルコードは、暖かく慈しむものであった。
ダークセイヴァー上層、『楽園』の如き『箱庭』と他の集落を隔絶したものとしていた花園に咲く花々はどれもが『魂人』たちにとって危険極まりないものであった。
毒を持つもの、人を惑わすもの、人の肉を喰らうもの。
どれもが花として存在するために、己たちの生存本能に従ったまでのことだろう。
しかし、『魂人』たちを助けるためであるのならば、花々の排除が近道であることは言うまでもない。
けれど、詩乃は植物の女神としては、彼等を一方的に刈り取るということは避けたいものであった。彼女にとってどちらかが優先されるべき存在ではなく、どちらも大切なものであったからだ。
「どうかお願い致します。彼等が通る僅かな時だけでいいのです。その間だけ、彼等を襲わないでほしいのです」
詩乃の言葉は無意識に訴えかける慈眼乃光(ジガンノヒカリ)そのもの。言葉無くとも、慈しむような視線が当たるだけで植物たちは道を開けるように、その茎を曲げるだろう。
毒在るものは浄化される。
己が食まれぬために身より生み出した毒。生物を寄せ付けぬためにこそ生み出されたものであった。だが、植物は自ら歩むことができない。根を張り、その場に在るだけなのだ。
「さあ、みなさん……」
詩乃は準備が整ったことを『魂人』たちに告げる。
けれど、彼等の多くは動き出せない。動き出せたとしてもひどく緩慢な動きであったことだろう。
誰もが打ちひしがれている。
仮初の楽園どころか、全てが偽りであったのだ。
世界は未だ地獄そのもの。
誰も救われていない。誰もが打ちのめされている。仕方のないことであったのかも知れない。
その苦しみは幸福が代えがたいものであればあるほどに深いものであったことだろう。理解できる。
「貴方達が悲しむのは尤もです。ですが生きて此処にいます」
詩乃は告げる。
己の神性としての言葉ではない。
人に寄り添う者としての言葉だ。
悲しみに寄り添う。
憂いに寄り添うからこそ優しさだ。ならば、詩乃は彼等の手をを取るだろう。
「喪われたものを悲しむより、今残っているものを大切に前に進みましょう」
「残っているもの……?」
「何を、頼りにすればいいんです……こんな地獄で」
彼等の言葉に詩乃はうなずく。
透き通るかのような『魂人』たちの体。
それは確かに死後転生した姿であろう。けれど、まだ心には暖かな記憶があるだろう。それが永劫回帰という力の源。
死を否定し、生を掴むための力。
まだ彼等にはそれが残っている。全てを失っても、生命がまだ残っているのだ。
「これが貴方達に残っているもの。生命です」
詩乃は微笑む。
辛くとも、苦しくとも、恐れと痛みが襲うのだとしても。
それでも生きていかねばならない。
彼等に今必要なのは慰撫ではなく鼓舞だ。
「私達もお助けしますよ」
今は一人で立ち上がれなくても、人は己の足で立ち上がることができるし、誰かに手を差し伸べることもできる。
その営みを詩乃は神性として見てきたからこそ、彼等のこれからにもまた期待を向ける。彼らならばできるはずだと。
その慈しむ瞳は、いつだって彼らのことを見守っていると告げるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
はぁ…あーしんどかった。あーいうの相手に耐久戦とか、ホントガラじゃないんだけどなぁ…
気を抜くにはちょっと早いけれど、なんとでもなる分さっきと比べれば気分的にだいぶ楽ねぇ。…まあ、比較対象が悪い気はするけれど。ゴールドシーン、お願いねぇ?
描くのは孔雀明王印(退魔災祓)・烏枢沙摩明王印(汚穢焼滅)に迦楼羅天印(悪鬼覆滅)、さらにラグ(浄化)とソーン(破魔)で補助してエオロー(結界)とアンサズ(聖言)で固定。●酖殺起動、一帯纏めて祓っちゃいましょ。
希望、かぁ…
あたし元スラムドッグが状況に流されてこうなったクチだから、あんまり楽観的なこと言えないのよねぇ…
それっぽいこと言うのもなんか違うし。
戦いというのはいつだって苦しく辛いものである。
楽しさを見出す者だっているであろうが、大半の者にとって戦いとは痛みを伴い、苦しみを増大させるものであった。
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)にとっても、そうであっただろうか。
「はぁ……あーしんどかった」
思わず彼女は呟いていた。
『赤い靴のカーレン』――間違いなく強敵であったといえる相手。
全てをかなぐり捨てることができたのならば、彼女を打倒することはできただろう。けれど、守るべきものが多かった猟兵たちにとって、その選択肢は無いに等しいものだった。
それゆえに彼女を足止めすることに注力し、『魂人』たちを『楽園』の如き『箱庭』から連れ出すことしかできなかった。
「あーいうの相手に耐久戦とか、ホントガラじゃないんだけどなぁ……」
とは言え、猟兵達にも犠牲なく。
『魂人』たちにも犠牲者がいなかったことが幸いであるといえるだろう。
「気を抜くにはちょっと早いけれど」
そう、まだ『魂人』たちの安全が確立されたわけではない。
彼らを近くの集落まで送り届けなければならない。けれど、『箱庭』は周囲の世界と隔絶された場所にある。
ティオレンシアの目の前にひろがる花園だってそうだ。
毒もあれば食肉花もある。人を惑わす花だってある。謂わば、彼らにとって決死行。
「なんとでもなるぶんさっきと比べれば気分的にだいぶ楽ねぇ」
比較対象が悪い気がするけれど、とティオレンシアは黄色い水晶の付いたペンを取り出す。
「『ゴールドシーン』、お願いねぇ?」
祈りを力に変え、願いを叶える鉱物生命体が応えるように、宙に魔術文字を刻んでいく。
どれもが浄化、破魔の類であった。
補助する力が結界となって周囲にありし、悪意を祓う。
「『採算ブン投げた大盤振る舞いだもの――酖殺(リージョン)起動」
その言葉とともにティオレンシアの瞳がユーベルコードに輝き、黄色い水晶の煌めきが描いた宙の魔術文字が一層煌めく。
花園に降り注ぐは聖水の雨。
降りしきる音は『魂人』たちの耳朶を打つだろう。穏やかな音色のようでもあったけれど、彼らの凍てついた心を溶かす程度には暖かなものであったことだろう。
彼等は裏切られたのだ。
己たちの世界全てに。ここが天国だと思って疑わぬものだっていただろう。
「……」
ティオレンシアは何も言えない。
楽観的な事を言う事もできない。それっぽいことを言うこともできない。
ただ慈雨でもって彼等の心にこびりついたものを流すだけだ。後悔もあるだろう。悲哀もあるだろう。
ならば、それらを流した後に残るのはなんであろうか。
喜怒哀楽があるのならば。
喜楽のみ。
けれど、人の感情は簡単に四つに割り切れるものではないだろう。
「希望なんて、どこにもない……こんな世界の何処にそんなものがあるというのだ」
『魂人』の一人の言葉にティオレンシアはうなずくだろう。
自分だってそう褒められたものではないと彼女は思うだろう。状況に流されるままに生きてきた自分が、彼等に何を告げることができるだろうか。
彼等に何ができるだろうか。
「希望、かぁ……」
何一つない。
それがどんなに人の心に光と影を落とすのかをティオレンシアは嫌というほど知っているだろう。
希望があるから絶望がある。
『赤い靴のカーレン』もまた、それがわかっていた。人と同じ形をしながら、決定的に相互理解から程遠い存在。
彼女は『魂人』たちを傷つけるやり方を、よく知っていた。即ち、絶頂からどん底に叩き落とすというやり方だ。
「……」
雨だけがティオレンシアを濡らす。
状況が自分を押し流したのだとしても、彼女は今も生きている。生きているのだ。雨の冷たさが己の生を実感させるように。
全てを水に流すことなどできようはずもない。
だからこそ、生きていく。流され、流され、行き着く先が何処であろうとも、其処に立つことを選ぶことができるのは自分だけなのだ。
それをティオレンシアは己の心に秘するだろう。
何も言わないということが、今の彼等に必要なひとかけらなのだとしたら彼女はきっと、そうすることを選ぶだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
領主を振り切ったみたいだねェ…
一応後方への警戒【聞き耳/野生の勘】
怪我を外套で隠し淡々と地形や方角確認【情報収集/地形の利用】
この世界はオレから見たら囚人の墜ちる地獄みたい
違うのはアンタらに何の落ち度もないって事…そーだね理不尽極まりない
でもオレに出来るのはアンタらを別の集落に送る手伝いだけで…
…正直言うとねえ
オレ生業柄、期待するって事忘れちゃってなー
アンタ方を励ます言葉を見つけらんない、ごめんよ
代わりに送り届ける任は全うするよ
羅刹は馬鹿力が自慢でね、離れて
UCで威力を上げて七葉隠で食肉花や毒草を刈り道を作る
毒植物被害は【激痛耐性】堪え村人には痛がる表情は見せない
(そこは忍び矜持でね
アドリブ可
「領主を振り切ったみたいだねぇ……」
『赤い靴のカーレン』は猟兵達によって退けられた。
とは言え、まだ警戒を解くことができるわけでもないことを鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)はよく理解していた。
戦いの傷跡は痛々しいものであった。
『闇の種族』との戦いは苛烈を極めるものだ。これまで戦ってきたヴァンパイアたちとは一線を画する存在。
その力は強大であり、トーゴもまた手傷を負っていた。だが、その傷跡は『箱庭』の住人であった『魂人』達に不安を掻き立て得るものであるだろうと彼は思い、外套でそれらを隠す。
「この世界はオレから見たら囚人の堕ちる地獄みたい。違うのはアンタらに何の落ち度もないって事……」
「そんなの理不尽が過ぎる……俺達が何をしたというのだ」
「ただ、生きていたかっただけなのに。奪うでもなく、奪われるでもなく。ただ心穏やかに……」
もうあんな地獄は散々だと彼等は思っただろう。
だからこそ、『箱庭』での生活は心地よかったのだ。誰もが奪わなくていい。奪われる心配もない。
傷つけることも傷つけられることもない。
理不尽など何もなかった。
だからこそ、世界はこんなにも残酷であるということを見せつけられて『魂人』たちはうなだれるしかなかったのだ。
ここでもそうなのかと。
「……そーだね、理不尽極まりない」
トーゴは周囲を警戒する。
『赤い靴のカーレン』が猟兵たちの施した封印を振りほどくには時間がかかるはずだった。
けれど、それでも不測の事態というのはいつだって起こりうる。だから、トーゴは周囲を見回す。
未だ近隣の集落にはたどり着いていない。
毒や食肉花、幻惑の香りを放つ花園から抜けられていないからだ。
「でもオレにできるのはアンタらを別の集落に送る手伝いだけで……正直に言うとねぇ」
トーゴは『魂人』たちに言う。
確かに今できることは進むことだけだ。その瞳にあるのは、うなだれる『魂人』たちに対する不満でもなければ、侮蔑でもなかった。
「オレ生業柄、期待するってことを忘れちゃってなー」
その瞳にあったのは悲哀でもなく。
笑うわけでもなく。
ただ、淡々とした色であったことだろう。物事を全てフラットに見ているからこその色。
ともすれば、もっとも揺らぎから程遠い。
揺らぐことのない感情。
今こうして悲嘆にくれる彼等の姿を見てすら、トーゴの心は凪いでいたのかもしれない。
現状ですら、トーゴにとっては『在り得たこと』なのかもしれないし、『これからもっと悪くなるかも知れない』とさえ思えたことだろう。
だから、悲嘆している時間はない。
けれど、彼等を奮い立たえることはできない。
「アンタ方を励ます言葉を見つけらんない。ごめんよ」
トーゴは頭を下げる。
その姿に『魂人』たちは何も言えなかっただろう。貴方が悪いわけではないと誰もが思ったかも知れない。
「お兄ちゃんのせいじゃないよ。だから謝らないで」
幼子の『魂人』が言う。
外套を引いて、涙目になっている。トーゴは幼子を見下ろすだろう。励ましたいとは思っている。
けれど、それを為し得る言葉が彼の心にはない。
くしゃくしゃになった幼子の顔を見やり、トーゴは頭を振る。
「ありがとな。代わりに送り届ける任は全うするよ」
離れて、とトーゴは『魂人』たちを遠ざける。痛みもある。苦しみもまる。けれど、それは見せてはならぬものだ。
彼等の心にある打ちひしがれたものに、さらに追い打ちを掛けることはできない。
忍びの矜持があるのだとすれば、それこそがトーゴを今支えるものであったからだ。
振り回した忍刀が悪意ある花園を切り裂いてい道をひらく。
痛む素振りは見せない。
ただそれだけがトーゴの今にできることであったからだ。不安を取り除くことはできなくても、不安を抱かせないようにはできる。
トーゴの瞳に煌めくのはユーベルコード。
『魂人』たちの暖かな記憶の一つになる輝き――。
大成功
🔵🔵🔵
ギヨーム・エペー
悲嘆しても、足は動いているな? 一度振り向いて、辿った道を確認してみようか。きみたちはここまで自分の足で歩いてこれている
あの村自体は偽りだった。しかし幸福は本物だった。外は受け入れ難い程に闇が広がっているけれども、きみたちはどこに行きたい? どんなところに行ってみたい。求めようよ、きみたちの望みを
満たして、また欲しがらなきゃ。飢えに慣れたら、賑やかば食卓は遠ざかってしまう
毒の特性を理解すれば薬として共生できるんだろうけど、今は先を急ぎたい。毒花は燃やさずに、そっとやさしく凍りつかせていこうか
襲ってくる食肉花の口には火傷するような氷をいれてやる。生きようと食うのはいいけど、魂人は食っちゃだめだ!
『魂人』たちに心は今、散り散りに引き裂かれるかのような様相であったことだろう。
傷つかぬ者が存在しないように。
誰もが等しく。
深々とした傷を心に刻み込まれていた。
彼等にとって、此処は確かに『楽園』であったのだ。仮初であっても、偽りであったとのだとしても、たしかに此処には幸福があった。
凄惨たる前世を忘れることはできない。
けれど、それでも彼等には癒やしとなるべき時間があったのだ。
皮肉なことに、その時間がながければ長いほどに叩き落された時の傷跡は深いものとなる。
ギヨーム・エペーはわかっていた。
その悲しみがどれほどのものであるのかを。人の歩みを止めてしまうほどの諦観を齎すことも。
「悲嘆しても、足は動いているな?」
一度振り向いてたどった道を確認してみようかとギヨームは『魂人』たちに告げる。
遠くに在るのは炎に崩れる『楽園』であった。
あまりにも無残な光景だ。花園にありて、あの煌々と燃え盛る光景は『魂人』たちの心を散々に痛めつける。
「きみたちはここまで自分の足で歩いてこれる」
ギヨームは言う。
あの村事態は偽りだったと。けれど、その胸に今ある暖かな記憶は偽物であるだろうかと。
答えは否である。
「幸福は本物だった。外は受け入れがたいほどに闇が広がっているけれども、きみたちはどこに行きたい? どんなところに行ってみたい? 求めようよ、きみたちの望みを」
『魂人』たちは応えられないだろう。
今しがたすべてを失ったのだ。簡単に答えられるものではないだろう。そこまで人は強くはない。
幸福の絶頂にあったのならば、なおさらだ。
どんな生き物だって高いところから叩き落されれば、傷つく。死ぬことだってある。心を殺す。それが『闇の種族』たちの業であった。
「満たして、また欲しがらなきゃ。飢えに慣れたら、賑やかな食卓は遠ざかってしまう」
「欲しがっても、欲しがっても、それでも……」
「また失うだけなのだとしても?」
その言葉にギヨームはうなずくだろう。
そのとおりだと告げる。人の生きる道というのは、得るばかりではない。失うこともまた表裏である。
失うのならば得ることもあるだろう。
すべてを拾って歩くことはできない。
けれど、全てを願うことはできるのだ。ギヨームは花園をゆく先頭に立って悪意ある花々を凍りつかせていく。
毒も、食肉にもたげる口のような花々も、全て凍りつかせていく。
「生きようとしている。この花々も同じだ」
ギヨームは告げるだろう。
生きることに貪欲なる存在とは、ただ単一の目的のためにこそ、その力のすべてを使うものであると。
ならば、『魂人』たちはどうであろうか。
己だけではない、他の誰かのことを気遣うことができる。人が人たる所以はそこだ。
欲しがればいい。
「生きよう。生きて、生きて、生き抜く。生命にできることは、きっとそれだけだ」
ギヨームは、それ以上を語れないかもしれない。
『魂人』たちの心の傷は他の誰でもない、彼等自身で癒やさなければならない。
前を向いて、足を踏みしめ、手を伸ばさなければ生はつかみ取ることはできない。
だから、ギヨームはせめて道を作るのだ。
彼等が手を伸ばせるようになるように。
望みを知ることができるその時まで、きっとギヨームは彼等を導くだろう。己の欲するところを知れ。
その言葉こそが、ギヨームの心から発せられた言葉。
慰撫でもない。鼓舞でもない。
己の心に従った結果、人の営みは続くし、完結するのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…そうですか。闇の種族と吸血鬼に襲われて…。それはさぞ恐ろしかったでしょう
…ですが、もう大丈夫です。私が護衛に付くので、もう少しだけ頑張りましょう?
事前にUCを発動し自身に水の精霊を降霊して驚かせ力を強化し、
前章までと存在感を変化させる精霊化の肉体改造を施し、
薄く展開した霧のオーラ防御を応用した結界で周囲の索敵を行い、
毒の類は洗い流して浄化し食肉植物は氷属性攻撃で凍らせて安全を確保する
…傷付いて、裏切られて、絶望して…それでも貴方達は今、生きています
…一度死んだ貴方達ならばこそ、良く分かっているはず
…生きている以上、貴方達は前に進む事ができる
それこそが、生命ある者だけが持つ特権である、と…。
「……そうですか。『闇の種族』と吸血鬼に襲われて……それはさぞ恐ろしかったでしょう」
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、吸血鬼狩りの業・変幻の型(カーライル)によって真の姿から精霊の加護を得て、先程まで戦っていた気配を打ち消していく。
薄く展開したきりのオーラは、まるで彼女を聖女のように思わせたことだろう。
そこには、仕方ないとは言え『魂人』たちを脅かしていた吸血鬼としての姿は微塵も感じさせるものではなかった。
花園に現れた聖女の姿に『魂人』たちは、うなだれるしかなかった。
誰もが暗い顔をしていた。
打ちひしがれていた。
当たり前だろうと、リーヴァルディは思うだろう。幸福の絶頂から絶望の底に叩き落されたのだ。
誰もがそうなるだろう。
意志強く者であったとしても、その心はおられてしまうかもしれない。
けれど、今は進まねばならないことをリーヴァルディは知っている。『赤い靴のカーレン』は封印した。
それも時間の問題である。
強大な『闇の種族』である『赤い靴のカーレン』は打倒しきれていない。犠牲無く『魂人』たちを救おうとするのならば、ああする他なかったというのが正しい。
「……ですが、もう大丈夫です。私が護衛につくので。もう少しだけ頑張りましょう?」
リーヴァルディは微笑むだろう。
聖女の如き微笑みも、彼等の絶望を払拭することはできない。わかっていたことだ。
前に進む。
たった一つのことだけを彼等に強いなければならない。
「……頑張る……これ以上?」
「もういやだ……どうしてわたし達がこんな目にあわなければならないの……」
口をついてでてくるのは、そんな言葉ばかりであった。
「……傷ついて、裏切られて、絶望して……それでも貴方達は今、生きています」
悲しみがすべてを覆っても。
苦しみがすべてを覆しても。
それでも生きている。『魂人』たちはまだ、生きている。死を否定する永劫回帰の力によってではない。
彼等が此処にあるという証明を持って生きているといえるだろう。
「……一度死んだ貴方達ならばこそ、よくわかっているはず」
リーヴァルディは静かに言う。
どれだけの激情を込めたとしても、足りない。
奪われ、理不尽に苛まれ、それでも生きていなければならない。死は救済たり得ず。ならば、人はどうするかを知っている。
運命に抗う。
ただその一言に尽きるのだ。
「……生きている以上、貴方立ちは前に進むことができる。それこそが、生命ある者だけが持つ特権である、と……」
誰もが願っている。
幸福な未来を。奪われたままであってはならない。
人は殺されてしまうかも知れない。けれど、負けるようにはできていない。リーヴァルディはそれを信じる。
彼等の心に宿るのは永劫回帰の力だけではないことを。
きっと彼等ならば前を向いてくれると信じている。今はまだ、打ちのめされて顔を上げることができないかもしれない。
けれど、凍てつく風は暖かな風を呼び込むものである。
花園を凍りつかせながら、リーヴァルディは前を進む。己の後ろを歩く『魂人』たちの未来に向かって進む。
いつか暖かな風が傷ついた彼等の頬を撫でるその時まで。
きっと、いつかと言える今がある。
それをリーヴァルディは証明するために、今はただ先頭に立って歩み続けるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
―――意志持つ飛空艇、自称”世界一の高速船”ミレニアムドラゴン号の供述
なんだぁ?ここは… 地獄か?
陸は大変だねえ…
俺は飛空艇に生まれてよかったぜ!
―――――そう思ってました
●逃げ場無し!襲い来る凶悪な生態系!自然現象!
に備えつつ魂人くんを[ドラゴン号]くんに乗せて運ぶ!
そのときは【第六感】で察知し[スニーカー]で空を駆けUC『神撃』でドーーーンッ!!
そうだよね~ぬか喜びはいやだよね~
エデンの園も、蓬莱の山も…
そんなものはどこにもないんだよ
でも…そんなの承知の上でも、いまよりはおだやかな新天地を作ろうと、探そうと、諦めらずにキミたちががんばってたのをボクは覚えてるよ!
意志を持つ飛空艇、自称“世界一の高速船”こと『ミレニアムドラゴン号』は後に語る。
ダークセイヴァー上層は地獄そのものであった。
陸はこんなにも苦しみが広がっているのかと思ったものであると。
大変なことだと。
空をゆく自分にはあまり関わり合いのないことであると思っていた時期があったと語っている。
『俺は飛空艇に生まれて良かったぜ!』
本当にそう思う。
それほどまでにダークセイヴァー上層は地獄めいた環境であったのだ。
誰もが苦しんでいる。
苦しめられている。苛まれている。すべてが頂点にたつ『闇の種族』による欲望の発露のためだ。
『魂人』は玩具にされる。生命尽きるとは、即ち、彼等の心にある暖かな記憶が擦り切れるまで、だ。
『――そう思ってました』
『ミレニアムドラゴン号』がそういうのも無理なからぬことであった。
何故なら、今彼が運んでいるのは『魂人』たちであり、彼等を追うように花園の植物たちが大地より己に伸びてくるのだ。
なんともいい難き光景である。
こうやって『赤い靴のカーレン』は『魂人』たちを囲い込み、外界との接触を阻んできたのだろう。
外を知らせず、ただ安寧の中に沈ませる。十分に幸福を得たのならば突き落とす。そうしてこれまでも踏みにじってきたのだ。
「ド――ンッ!!」
威勢のよい声と共にロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)が宙を蹴って飛び出し、迫りくる植物を神撃(ゴッドブロー)の一撃で吹き飛ばす。
盛大に吹き飛ばすものだから、破壊された大地の破片が『ミレニアムドラゴン号』を襲い、甲板や船体を傷つける。
ロニと共にいるということは、『ミレニアムドラゴン号』にとって空も陸も関係ないということでもあったのだ。
故に彼は叫ぶしか無い。
傷がつく、へこむ、折れる! と。けれどロニはそんなこと気にした様子もなく近隣の集落まで『魂人』たちを送り届けるために瞳を輝かせながら、迫りくる障害の尽くを吹き飛ばしていくのだ。
けれど、そんな大騒ぎも『魂人』たちには届かないかもしれない。悲嘆に暮れる彼等にとって、今置かれている状況すらも流されていくものでしかなかったからだ。
どんなに哀しんでもときは戻らない。
失ったものが大きければ大きいほどに胸の内に開いた虚は埋めがたきものとなる。
「そうだよね~ぬか喜びはいやだよね~」
エデンの園も、蓬莱の山も。
けれど、そんなものはどこにもないのだとロニは『魂人』たちに説く。
待つばかりで得られるものなど何一つ無い。
与えられたものは、偽りとなるだろう。例え、それが本物であってもだ。自らの手を伸ばし、掴み取ったもの以外はすべてが偽物。
「でも……そんなの承知の上で、いまよりは穏やかな新天地を作ろうと、探そうと、諦めずにキミたちががんばってたのをボクは覚えてるよ!」
それは彼等のことではなかったのかもしれない。
ロニがこれまで見てきた人間の営みであったのかもしれない。
未だ『魂人』たちは立ち直れていないだろう。
けれど、生きてさえいれば、人間は必ず立ち上がる。逆境に立ち向かうであろうし、それに生涯を掛けるだろう。
その時生み出されるものすべてがロニは愛おしいと思える。
彼等の残した文化は素晴らしいものばかりだ。
芸術だってそうであったのだ。ならばこそ、ロニはあっけらかんと笑う。悲嘆にくれる彼等の悲しみも苦しみも、そのままでいい。
「何も捨てなくっていいんだよ。悲しい事苦しいこと、全部ひっくるめてキミたちなんだからね――!」
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
踊れない私でも皆さんの道を切り拓くことはできるはず…
(UC【蠱の腕】を発動し{錆色の腕}を大鎌に変形させると肉食や猛毒の花を『念動力』で抑え込んで刈り取っていく)
皆さん!この花園の先に集落があります!ひとまずそこへ行きましょう!
私が先導しますのでついてきてください!
(呼びかけるも項垂れたままの魂人たちに話しかける)
私では想像できないくらい
絶望と悲しみに苛まれていると思います
ですが今は立ち上がり前に進むことだけを考えませんか?
我々はこの世界を皆さんを救いに来ました
今は逃げるお手伝いしかできてませんが
必ず近い未来に反抗できる
どうかその時まで前を見て歩き続けてくれませんか?
どうか、お願いします
ユーベルコードの代償によって播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は踊ることを封じされている。
これより一週間。
彼女はきっと心の内側から溢れるような衝動に翻弄されるのかもしれない。
「踊れない私でも皆さんの道を切り拓くことはできるはず……」
だが、絶望はない。
悲嘆に暮れる『魂人』たちを前にしクロリアは声を張り上げる。
「皆さん! この花園の先に集落があります! ひとまずそこへ行きましょう! 私が先導しますのでついてきてください!」
だが、その言葉に反応する者たちは少なかった。
誰もが頭を垂れている。
失意に満ちた空気だけが、彼等の体を弛緩させているようでもあった。もしも、ここでクロリアが踊ることができたのならば、まだ事態は好転したのかもしれない。
けれど、その手段をクロリア自身が彼等を救うために封じている。
ならば、クロリアができることは唯一つであった。
自らの思いを、情動をダンスという旋律に込める。
それが彼女の猟兵としての在り方であった。ならば、それを封じられたのならば、他に彼女にできることは何一つないのか。
答えは否である。
「私では想像できないくらい、絶望と悲しみに苛まれていると思います」
想像したとしても足りないくらいだろう。
彼等は皆、幸福の絶頂に在ったのだ。ダークセイヴァーという人が生きるにはあまりにも過酷すぎる世界にあって、死という救済により訪れた幸福。
それは今までの耐え難き人生を帳消しにするには十分なものであったことだろう。
それを目の前で奪われたのだ。
偽りであったと燃やし尽くされたのだ。『楽園』はもうない。あるのは虚の如き胸に開いた苦しみだけだ。
「ですが、今は立ち上がり前に進むことだけを考えませんか?」
クロリアは、その言葉が『魂人』たちに届かないことがわかってしまう。前に進め。それは辛く険しい道に己から足を踏み入れろということでもあったのだ。
確かにそれが正しい道なのだろう。
いつだって正しいのは難しく険しい道だ。
「我々は、この世界の皆さんを救いに来ました。今は逃げるお手伝いしかできませんが……」
クロリアは構わなかった。
届かなくてもいい。届かないからなんだと彼女は声を張り上げる。心の内側から奏でられる旋律が在った。
情熱のようなものがあったし、渇望のようなものがあった。
声は振動。
空気を震わせ、人の肌に触れる。触れた振動は確実に人の肌を走って、その心にまで到達するだろう。
「必ず近い未来に反抗できる」
ダークセイヴァーでの人生は、全てが抗うものであった。
此処、上層でも同じなのだ。生きるということは戦うということ。進むということ。ならば、今の『魂人』たちはどうだろうか。
「死んでいるように生きていたくはない」
誰かの言葉がぽつりと湧き上がってくる。
クロリアの言葉の振動が、熱量が、『魂人』たちの心に火を灯す。
「どうかその時まで前を見て歩き続けてくれませんか?」
どうか、とクロリアは頭を下げる。
行動を封じられ、言葉でもってクロリアは人の心を震わせるだろう。『魂人』たち全てに伝播したわけではない。
けれど、それでいい。
己は篝火。
希望というものが見えぬ闇の中において、その篝火から移された火が、いつの日か大火へと変わることを信じる。
クロリアは、蠱の腕(コノウデ)でもって、前に進む。
『魂人』たちは、彼女たち猟兵の背中を目指すだろう。
例え、今が暗中にありて惑うばかりであったのだとしても。その篝火の如き輝きを見失わないのならば、生きる意味を見失わないですむはずであろう。
故に、『魂人』たちは癒えぬ心のままに道行きを踏破する。
力強くともいかず。
されど漫然ともなく。
生きるという意志でもって、険しくも困難な道を選び取るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵